落ち着いてLRS小説を投下するスレ8

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1名無しが氏んでも代わりはいるもの
このスレはLRS(レイ×シンジ)小説を投稿するスレです。
他のキャラとの恋愛を絡めた話を書きたいのなら、相応しいスレに投下しましょう。

前スレ
落ち着いてLRS小説を投下するスレ7
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/eva/1246759416/

過去ログ

落ち着いてLRS小説を投下するスレ
http://comic5.2ch.net/test/read.cgi/eva/1083495097/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ2
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1110013621/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ3
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1146477583/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ4
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1155597854
落ち着いてLRS小説を投下するスレ5
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/eva/1164097545/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ6
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/eva/1192894823/

関連スレ

【恋愛投下】世界の中心で愛を叫んだけもの 第三章
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/eva/1167408006/
2名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/10(火) 23:43:09 ID:???
前スレ500KB近いので立てました
3名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/11(水) 21:09:08 ID:???
乙乙乙
4名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 01:02:28 ID:???
前スレ724から

13.

公園まで来ると、レイは腕の中の仔犬を放して自由にさせた。仔犬は嬉しそうに尻尾を振りながら、全速力で走り出した。
時刻は夜の八時を少し回ったあたりで、公園には誰もいない。ここに来るまで人影ひとつ見なかった。
相次ぐ使徒の襲撃で第3新東京市の人口が減っている上に、街の修繕が間に合わず、道路などもアスファルトがめくれあがったままの部分がある。
街灯は点灯しているのと壊れているのが半々で、放置されている瓦礫も目についた。
いくら犯罪が皆無に等しいとはいえ、このような荒廃した夜の街を歩く者はほとんどいないのが現状だった。
もっとも、人に見られたくないレイにはうってつけだったが。
「好きに遊んでおいで」
犬は少し離れた場所からレイの顔を何かを期待するかのように見つめている。
しょうがないわね、とレイは呟いて仔犬の方へ歩き出した。それを見て、ワン、と犬が鳴いた。

「ほら、星が見える?」公園から帰る途中、レイは空に向かって指差した。「綺麗でしょう」
犬は不思議そうにレイを見上げるだけだった。
「犬に言ったって仕方ないか」レイは鼻をならして、自嘲気味に少し笑った。最近どうも犬に話しかけることが多くなったような気がする。我ながら滑稽だった。
ふとレイは疑問を感じて小首を傾げた。仔犬もそれに倣って同じ動作をする。
――私はおかしなことを言った。何だろう?
少し考えて、疑問は解決した。
そうか。
星が綺麗だなんて感じたのは、初めてのことだった。
5 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:04:27 ID:???

 □

使徒の攻撃によって、第3新東京市の特殊装甲は18番まで一気に貫通された。
「今度の使徒はど真ん中ストレートって感じだわね。地上からここまで一気にやられたわ」
ミサトの声と共にモニターがパッと変わって、破壊された第3新東京市の街並みが映った。
レイは眉をひそめた。使徒の攻撃の威力ではなく、見覚えのある光景のような気がしたのである。気付いたのはふた呼吸ほど後だ。
「さあ、おいでなすったわよ。三体で包囲、一斉射撃から――」
「ちょっと待って!」レイは声を上げた。
「何、レイ? 説明の途中よ」
「使徒が侵入してきた経路を映して」
「何のために?」
「いいから!」レイの声は苛立ちのあまり上ずっていた。
ミサトはここで言い争うよりレイの要求に応えたほうが早く済むと判断したらしい。一瞬ののち、地図が出た。赤い丸で囲まれた場所から使徒が侵入してきたのだろう。
やはりそうだ。そこは、レイの思った通り、マンションがある――いや、あった場所だった。
「どうしたの、レイ?」
「私のマンションがなくなった」
しかし、レイは肩をすくめただけだった。特別に愛着があった家ではない。また別のところに住めばいいだけの話だった。
次の瞬間、あることに気がついて、まるで頭を殴られたような衝撃を感じた。
いや、違う。家が無くなっただけの話ではない。
「あ……」
犬。シンジを置きっぱなしにしていた。
そうか、と、レイは頭の片隅でぼんやりと思う。最近、出撃の前に感じていた違和感の正体はこれだったのか。犬を家に置いたままでいいのかと無意識のうちに考えていたのだ。
しかし、無意識に留まり、意識にのぼることはなかった。
構うものか、とレイは思った。ただの犬だ。犬コロが死のうがどうなろうが……。
構うものか構うものか構うものか。
差し出した指先に鼻をすりつけるシンジの光景が浮かんだ。
くーん。情けない顔で鳴くシンジ。
ボールを投げると、飽きずに何度も持ってくるシンジ。
こんなのが、面白いの? 
「ああ……」
6 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:06:11 ID:???
おいしい? そう。
私はあなたに首輪をつけない。どこに行くのも自由。去りたくなったらどこにでも行きなさい。
でも。
でも、できることなら――。
大人しくしなさい。綺麗にならないと一緒に寝てあげない。
名前? 名前なんてつけてどうするの? 犬は犬。
どこにいってたの? 家出? すぐに逃げ出すのね。あなたも碇君と同じ。
名前、そうね。似てるから――シンジ。シンジでいいわ。碇君も犬みたいなものだからちょうどいい。
「あああ……」
そう。
あなたもひとりなのね。
わたしもひとり。
――また、ひとりになった。
「ああああああああああああああああ!」
レイは、細い身体を折れんばかりに仰け反らせ、絶叫した。
それから前のめりになると、使徒に向かって突進した。
「レイ!? 止まりなさい!」というミサトの叫び声に、シンジの「綾波!?」、アスカの「ちょっと、何やってんのよ!」という驚きの声が重なった。
レイは止まらなかった。
歯を剥き出して疾走した。
頭の中が真っ白になっていた。
世界が真っ白になっていた。
使徒の身体から伸びてきた腕を上に飛んでかわし、宙に浮いている間にプログナイフを抜くと、使徒のコアに思い切り突き立てた。
が、ATフィールドに弾かれ、反動で後方に吹っ飛ばされる。
瞬時に体勢を立て直し、再び走りはじめた。
誰かが何かを叫んでいた。自分かも知れないし、他人かも知れなかった。
どうでもいいことだ、とレイは思った。
私じゃなかったら、犬のことをきちんと考えて、死なせずに済んだのだろうか?
例えば碇君は絶対に本部に移していただろう。赤毛猿だってきっとそうしてる。気にしないのは私だけだ。
ひょっとして、私はどこかおかしいのだろうか?
そんなことは、今まで気にしたことがなかった。
私は特別だと思ってた。ふつうの人間はATフィールドを生身で使えたりはしないし、シンクロ率を自由に操作できたりしない。
7 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:09:07 ID:???
おかしいのと特別なのはどう違う?
左腕に灼熱感。
付け根から先が無くなったような、異様に冷たい感覚。
零号機の左腕が切り飛ばされたのだ。
構うものか。
私はおかしいから、痛みなんて感じない。
――お前さ、碇の気持ちも考えてみろよ。
誰だっけ、言ったのは? 
そう、メガネだ。前にそんなことを言われた。
私には、誰の気持ちも分からない。
私はセカンドのことを猿と言って馬鹿にしてるけど、あの女だって人の気持ちは分かる。
だから碇君と仲良くやっていけるのだ。碇君もおかしくないのだから。
他人が分からないのは私だけだ。
分かろうとしないのは私だけだ。
おかしいのは私だけ。
オカシイノ ハ ワタシダケ。
痛い。
痛い。
おかしい。
何でこんなに痛いのだろう。
痛いのは左腕じゃない。
もっと、別のところ。
別のところが痛い。
だめだ。今は無視しないと。
違うことを考えよう。
普通の人は、こういうときに何て言うんだろう。
自分のせいでひどい目に遭った人に、かける言葉。
人じゃない。犬だ。
でも、同じことだ。
だって一人だから。私も一人だから。
私はシンジだ。シンジは私。
8 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:11:47 ID:???
そうだ。思い出した。
ごめんなさい、だ。
ごめんなさい、シンジ。
やっぱり私はおかしい。
ごめんなさいなんて、ふつうは考えなくても出てくる言葉だ。
おかしな飼い主で、ごめん。
今、仇をとるから。
絶対に、とるから。
あれ。
強い、こいつ。
肉弾戦で、私が遅れをとるなんて。
急に視界が狭くなる。
なぜ?
あ、目もやられたんだ。右目をやられた。
痛いもんか。私はおかしいから痛みなんて感じない。
ATフィールド全開。
ありったけの力を、解放する。リツコには後でうるさく言われるだろうけど、知ったことか。
碇君、私の叫び声を聞いて、喜んでる?
喜んでるわけないか。
私は喜んでた。
私はおかしいから。
止めなさい?
誰、そんなことを言ってるのは。
リツコか。
今さら何を言ってるの?
そもそも私は  
……。
今、私、何を言ったの?
いいか。
今はそれどころじゃない。
今は、こいつだ。
9 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:12:36 ID:???
全力でやっているのにこいつのATフィールドが突破できない。
おかしい。私の力はこんなものじゃないはずなのに。
そんなに強いのだろうか?
いや、そんなことはいい。
こいつは殺す。
こいつだけは殺してやる。
おまえだけは、
絶対に。
絶対に、

「零号機、活動停止!」
マヤの全身からどっと汗が吹き出てきた。
神経接続カットがギリギリで間に合ったのだ。
画面には首を吹っ飛ばされた零号機の姿が映っていた。
ほとんど同時に、初号機が使徒に向かって突っ込んでいった。

 □

「ちょっと待ちなさいよ、ファースト!」
アスカに声をかけられても、レイは駆け出す一歩手前の速さの歩みを止めなかった。声をかけられ、危うく走り出しそうになったのを必死で抑える。
「待てってば!」
走ってきたアスカに肩を掴まれ、レイはようやく立ち止まった。歯を食いしばって振り返る。
頭が爆発しそうだった。体が震えている。
どういう感情によるものか、レイには分からない。
私を責めるつもりなのだろうとレイは思った。当然だった。この事態はレイが引き起こしたと言ってもいいのだから。
しかしアスカの口から出た言葉は全く予想だにしないものだった。
「あんた、犬飼ってるんだって?」
「……え?」
何が言いたいのだ、この猿は? この状況で犬が何の関係がある?
10 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:15:07 ID:???
「シンジのやつ、保安部に頼んであんたの犬を本部に移しておいたってさ。時間がなくてあんたには言えなかったみたいだけど」
レイの全身が硬直した。
そのとき、背後から犬の鳴き声が聞こえてきた。
「シンジ!?」
「シンジ……? それって、まさか……犬の名前?」
アスカがびっくりした顔で訊いた。
「ち……違うわ。し……そう、しんじられない、って言おうとしたのよ」
レイは床を見ながら弁解した。レイの視線を受けたい仔犬がそこに割り込んでくる。
アスカは疑いの目でレイを見ていたが、「ふーん。まぁ、いいけど。シンジが帰ってきたら礼の一つも言いなさいよ」と言ってくるりと後ろを向いて、去っていった。
レイは何も答えなかった。アスカがいなくなった後も、黙ったままそこに立ち尽くしていた。

 □

レイはキャットウォークの上に膝を抱えて座り、拘束具が外れ、剥き出しになった初号機を見下ろしていた。
作業員が修復作業を行うのがアリ――とは言わないが、猫か仔犬のように小さく見える。
本部にいるほとんどの時間、レイはこうして黙ったまま初号機を見ている。
シンジが初号機に取り込まれて一週間が経っていた。

マンションが破壊され、新しい住居の代わりにネルフ本部に住みこむことにした。
リツコはあまりいい顔はしなかった。使徒との戦いという観点から言うと、本部に近ければ近いほど都合がいい。すぐに出撃できる態勢がとれるからだ。
しかし、パイロットの精神衛生にとってはよくない。いつまで続くか分からない、いつ襲ってくるか分からない状況ならなおさらのことだった。
渋るリツコをいつものように説得して、仔犬と一緒に適当な空き部屋に引っ越した。引越しといっても、荷物などほとんど無かったが。
学校は行っていなかった。疎開で転出する生徒が多すぎて、もはや授業の態をなさなくなったからだ。トウジやケンスケも、シンジのことを心配そうにしながら転校していった。
学校がないため、必然的にレイはネルフ本部で一日を過ごすことが多くなった。
もっともやることはと言えば、初号機をこうやって見ているだけだった。
リツコは人が変わったように大人しくなったレイを気にかけてつつも、シンジのサルベージ計画にエネルギーを注がざるを得なかった。
11 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:22:45 ID:???

 □

二週間が経った。
今日もレイは初号機を見つめている。

 □

三週間が過ぎてもシンジは戻ってこない。
さすがに本部の空気も重い。職員の中には諦めの声を上げるものもちらほら出はじめた。
「なぁ、知ってるか。過去にも同じようなことがあったんだとよ。これに取り込まれちまって」
作業員の一人が傍らで作業をしている同僚に話しかけた。同僚は油まみれの手袋の、かろうじて油がついてない部分で額の汗を拭った。
「結果はどうだったんだ?」
「失敗さ」
同僚はうなり声を上げる。
「そいつは心配だな。偉い人の機嫌も悪いわけだ……。おっと」
レイが通りがかったのに気がついて、慌てて口を噤む。レイは関心が無い様子で、目も遣らずにそのまま歩いていく。
レイは口をきかなくなった。もともと無口で余計な事を言うタイプではなかったが、今では必要最小限の言葉すら発することも稀になった。頷くか、首を横に振るかに二通りの仕草しか示さない。
当初は作業員もレイの姿が気になるようであったが、別段邪魔になるわけでもなく、今では風景の一部になっていた。
「まったく、あんな可愛い子を待たせて何やってんのかねぇ」
作業員は初号機を見上げて呟いた。
「さっさと帰ってこいよ」

 □

三十一日目。
レイの眼下には、初号機のコアからまるで産まれるように出てきたシンジが、生まれたままの姿で横たわっていた。
ミサトがシンジに抱きつくのを見て、レイは立ち上がった。
12 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:24:03 ID:???

 □

レイが病室に入ったときも、シンジはまだ眠っていた。いったん目を覚ましたというから、また眠ったのだろう。
身体については心配することはないという話だった。精神についてはこれからの様子を見るしかない。何しろLCLに溶けて再び実体化するなど、初めてのケースなのだ。
レイはベッドの脇に立ち、シンジが目を覚ますまで待っていた。壁掛け時計のかすかで規則的な音と、二人の呼吸音だけが世界を支配していた。
このまま永遠に時が過ぎるのかと思ったとき、シンジの目が開いた。
シンジはレイに顔を向けて「綾波……」と呟いた。まだ夢を見ているような表情だった。
「ずいぶん長い間、中にいたのね」と、レイは言った。
「……うん」
シンジは目を瞬かせた。だんだん現実感が出てきたらしい。目の焦点が合ってくる。
「そんなに居心地が良かったの」
「そういう、訳じゃない……かな。自信が無いけど。みんなに会いたかったんだ」
「そう」
二人は黙り込んだ。沈黙を破ったのはレイだった。
「犬の、ことだけど」
「え? ……ああ、ごめん。言う機会がなくて。電話しておいたんだ。使徒が攻めてきたら犬を本部に移しておいてくださいって。ひょっとしたら余計なことしちゃったかも知れないと思ったけど……」
「……」
レイの脳裏にアスカの言葉が甦った。しかし、何を言えばいいのか分からない。舌が張り付いたように動かなかった。
レイはシンジの顔から病室のリノリウムの床に視線を移した。もちろん、そこには何も書かれていない。答えは自分で出さねばならなかった。
「……良かったね、綾波」
13 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:26:08 ID:???
シンジがとても優しい声で言った。おそらくそれは、レイが今まで聞いた中でも、一番優しい声だったろう。
レイは下を向いたまま、こくんとうなずいた。
また、長い沈黙が続いた。
シンジも何も言わずにレイに付き合っている。まだシンジの役目は終わっていなかった。シンジはそれをよく分かっていた。
レイの身体が少し震えた。
「い……今までのこと、色々と……ご……ごめ……ごめんなさい」
シンジは驚きのあまり、上半身を起こしてしまった。前のときと違って、今度はパジャマを着ていたから、上半身を見せても慌てる必要はなかった。
「いや、別に謝る必要なんかないよ、全然」
レイにはシンジの言葉は聞こえていないようだった。
「そっ、それから……」と言うと、顔を上げて、シンジの目をじっと見つめた。顔が紅潮していた。
最近長い時間喋る機会がなかったため、レイの喉は掠れていた。
「……とう」
レイはか細い声を絞り出した。
「ありがとう、碇君」

 □

「ええーーーーっっっ!?」
食事中にもかかわらず、アスカは思い切り仰け反って絶句した。自分の十四年の人生でかつてこれほど驚いた事があっただろうか。アスカはそう思ってしまったほど驚愕した。
「そんなに驚くことないじゃない、アスカ……」
シンジはアスカのあまりの驚きぶりに若干引く。退院して久しぶりのミサト家である。ひょっとして二人が……と思ったが、やはりというか、食事はシンジが用意することになった。
もっともそれは二人の優しさなのかも知れなかった。ミサトが作った料理など食べた日には、また病院に戻らなくてはならないからだ。
「だってファーストが、よ? あの冷血人間のファースト・チルドレン、綾波レイが!」
アスカは手を思い切り広げて、目を裂けんばかりに大きく見開いた。
「私たちを食事に誘うなんて! これに驚かずに何に驚くって言うのよ!」
「まぁ、そりゃ僕もびっくりしたけど……。いいじゃない、悪いことじゃないし」
「そうよ、アスカ。シンジ君の退院祝いよ。一ヶ月ぶりに娑婆に戻ってきたんだし、美味しいものをご馳走してくれるって」と、ミサトが笑顔を浮かべて言う。
――娑婆って……。その言い方はどうだろう。
14 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:30:44 ID:???
シンジは苦笑しつつミサトに新しいビールを手渡した。アスカがおかわり!と皿を差し出す。
「今回のこともそうだけど、レイ、最近変わってきたわね」
「そうですね。すごくいいことだと思います」
病院での出来事をシンジは思い出して、思わず微笑んでいた。綾波から感謝の言葉を聞くとは思ってもみなかったのだ。
「シンジ、ファーストにあの犬を連れて来いって言ってよ。毒見させるから」
シンジはシチューのおかわりをアスカの皿によそいながら、アスカも変わって欲しいものだ、と、思った。

「高そうなお店ね……」
三人は約束の時間に約束の場所に来ていた。目の前にはレイのお気に入りのステーキ専門店がある。
「お金はあいつが出すんでしょ? いいじゃない、別に。高くたって」
「そういうわけにはいかないわよ、アスカ」ミサトが苦笑した。「私の分は私が払うわ。大人が子供に奢られるわけにはいかないもの」
しかしこのあと、コース料理が最低一万五千円からと知って、顔を引きつらせつつレイの支払いを受けることになるミサトだった。

「ちょっと、これ本当にあんたが払うの?」と、アスカがメニューを見て目を丸くして言った。
「ええ、そうよ」
「何でそんなにお金持ってるのよ? そんなにお小遣い貰ってるわけ?」
「カードだから」
「カード!? 中学生で!? ……ちょっとミサト、何でファーストばっかり! 私も同じコトしてるんだから不公平じゃないの!」
「そう言われてもねぇ……。司令の判断だから私には何とも……」
ミサトは困り顔で答える。私だって欲しいわよ……と内心思うが、これは口に出せない。
「あ、料理がきたよ」
シンジがのんびりと口をはさむ。
「シンジ、あんたは何にも思わないの?」
「うーん。綾波は一人暮らしだし、何かと入り用なんじゃないかな……」
「ったく、人が好いわね、あんたも」
15 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/13(金) 01:33:11 ID:???
二人の会話を何となく聞きながら、レイは切った肉を口に入れた。
その途端、「うっ」と呻き、入れたばかりの肉を吐き出しそうになる。それでも我慢して二口、三口噛むが、そこで我慢できなくなり、
三人に気付かれないようにテーブルナプキンに吐き出した。
「どうしたの? 綾波」
シンジがレイの様子を窺う。
「碇君、これ食べてみて」
レイは一切れ取って、シンジの皿に移した。
「え……うん」
不思議そうな顔をしつつもシンジは口に運び、食べた。レイはその様子をじっと見つめている。
「どう?」
「うん、おいしいよ」
「……そう。碇君のも一切れくれる?」
「いいよ」
レイはシンジがくれたのを食べる。口にした瞬間に嘔吐しそうになった。
やはり、駄目だ。それでも何とか必死に飲み込んだ。
「どうしたの? 顔色悪いけど」
「味覚が変わったみたい。おいしくない」
あれほど好きだった肉が、まずく感じられて仕方ない。いや、まずいなんてものではなかった。味以前に、身体全体が拒否してるような感触だった。
仕方がないので、パンと野菜サラダを注文した。こちらは普通の味――というより、美味しかった。
レイは、何あんた、菜食主義者にでもなったの、というアスカの言葉を無視して考え込んだ。
――風邪を引いたせい?
レイは首を傾げた。そんなことがあるのか、今度リツコに訊いてみようと思った。

これが、レイが肉類を口にした、最後の日になった。

(続く)
16名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 01:39:51 ID:???
乙!
17名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 01:54:30 ID:???
乙乙!!
18名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 05:17:34 ID:???
乙です。もっとみたいけどもう少しで終わりなのか
19名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 09:21:40 ID:???
乙乙乙
20名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 12:05:15 ID:???
初めての時はあんなに拒否したのに…。
いつの間にかこんなに会いたくなってる…。

これは何?この気持ちは何?

私は待ち続ければいいの?
こんな私でも待っていていいの?

早くあなたを見せて。
お願い、次のあなたを見せて…。







黒レイの続きを早く見せて!!!
◆IE6Fz3VBJU 超乙!
21名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 14:06:09 ID:???
◆IE6Fz3VBJU氏 乙です!
いやー 上手いっすなぁ
いつの間にか引き込まれるようになった…
>>20
気持ちわかる
最初レイが黒すぎたものねw
22名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/13(金) 16:17:36 ID:???
GJGJGJGJGJ
23名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/14(土) 02:32:10 ID:???
そうだよな 性格悪いよな 一人目は
24名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/14(土) 02:39:12 ID:???
改めて乙です!

ありがとうって言葉が、こんなに難しくてこんなに身体が震えてこんなにポカポカするなんて…
25名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/14(土) 15:31:05 ID:???
次はアスカの回か
26名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/15(日) 03:28:39 ID:???
前スレは放置でいいのか?
27名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/15(日) 09:54:53 ID:???
埋まるまで最近の名作を懐かしむとかすれ
28名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/15(日) 22:34:35 ID:???
グレイ超乙!!!!!!
切なさ爆発だな
続きが気になる
でも終わらないでほしい…
29名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/17(火) 00:28:39 ID:???
いいっすなー。
30名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/18(水) 00:49:15 ID:Bp/Ahb37
マイナーなギャルゲーSS祭り!変更事項!

1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品 一話完結型の短編 10本)

EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 一話完結型の短編 10本
エーベルージュ 一話完結型の短編 10本
センチメンタルグラフティ2 一話完結型の短編 10本
canvas 百合奈・瑠璃子 一話完結型の短編 10本

BL、GL、ダーク、18禁、バトル、クロスオーバー、オリキャラ禁止
一話完結型の短編 1本 プレーンテキストで15KB以下禁止
大文字、太字、台本形式禁止

2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07〜2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/12/07

3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀TOP3SSサイト管理人に賞金を授与します。

1位 10万円
2位 5万円
3位 3万円
31名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/19(木) 02:07:58 ID:???
黒レイ可愛くなってきたじゃないの
32名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/23(月) 06:06:04 ID:???
しまった…前スレが収納されてしまった…
まとめサイトないんだったよな?
33名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/23(月) 20:09:04 ID:???
15日の分までは7スレ目持っているよ。
それでいいならあげるよ。
ただ、jane doeからどうやって保存して、あぷするのか教えてくれるなら、になるけど。
34名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/23(月) 23:07:16 ID:???
前スレログ
ttp://mimizun.com/log/2ch/eva/changi.2ch.net/eva/kako/1246/12467/1246759416.html

http://www.geocities.jp/mirrorhenkan/
↑このサイトにURL入れて検索すれば結構出てくるよ

35名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/24(火) 12:00:48 ID:???
>>33
>>34
超トンクス!!!!また見れた
本当にありがとう
36名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/24(火) 22:12:23 ID:???
次の黒レイは何日発売ですか?
37 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:09:40 ID:???
>>15

14.

「そんな辛気臭い顔すんなや、碇」
トウジがシンジの肩をばしんと叩いた。シンジは痛みにちょっと顔をしかめたが、すぐに寂しそうな表情に取って代わられた。
転校――とは第2新東京市のことだ。シンジのクラスメートたちの大部分は首都である第2新東京市の中学校へ転校していく。トウジやケンスケ、ヒカリも例外ではなかった。
人影もまばらな、駅のホーム。
シンジとアスカ、レイはトウジたちの見送りに来ていた。レイは来るつもりはなかったのだが、せっかくだからと言うシンジに引っ張られるように連れて来られた。後ろで劇でも見ているように様子を見ている。
同じ日に第2新東京市へ向かうのは、たまたまなのか親同士で話し合いでもしたのか。シンジはわざわざ訊いたりはしなかった。
「使徒をぶっ倒したらお前らも転校してくるんやろ?」
でも、いつになるか分からないし――シンジは思わず言いかけて、思いとどまった。ただでさえ湿っぽい空気が余計に重くなる。かたわらでは、アスカが涙ぐむヒカリを慰めていた。
「何か、お前たちばっかり戦わせて悪いな」と、ケンスケが真面目な顔で言った。
「んなこといいよって、お前エヴァに乗ってみたいだけちゃうんか?」
トウジが陽気にけらけらと笑った。
「何だよ、人がせっかくカッコイイこと言ったのにさ」
ケンスケの苦笑にシンジもつられて笑う。
「ま、俺ならいつでも参号機のテストパイロットにしてくれて構わないことは確かだけど」
「参号機?」シンジは不思議そうな顔をした。
「そう。アメリカで建造中だったヤツさ。今度松代の第2実験場で起動実験やるって噂、知らないのか?」
「知らないなぁ」
「ったく、あんたそんなことも知らないの?」アスカが呆れたように口を出してくる。「アメリカに押し付けられたのよ。第2支部ごと四号機が吹っ飛んだからビビったの」
「え……そうだったんだ」
「そうだったんだ、じゃないわよ。ちなみにファーストが乗ることに決まったから、ミサトに頼み込んだって無駄よ。四人目がなかなか見つからないんだってさ」
「綾波が? ……危険じゃないの?」シンジが後ろを振り返った。心配そうな表情だった。
突然自分が話題に出てきたのでレイは少し驚き、反応するのが遅れた。「……別に、大丈夫だから」
38 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:10:45 ID:???
「もしかして、父さんに命令されたの? それだったら……」
「違う。私から頼んだの。零号機の修復にはまだ時間がかかるし、使徒が襲ってきたときに私だけ見てるなんて嫌だから」
そう言われるとこれ以上は何も言えなかった。
「そろそろ時間だな」ケンスケが腕時計を見た。
ヒカリがアスカの手を握る。「気をつけてね、アスカ」
「大丈夫よ、心配しなくたって。私は無敵なんだから」アスカは親指を立てた。
「ほな! 別れの言葉はいわんで。どうせすぐにそのツラ見る羽目になるんやからな」
「じゃあな、碇。また会おうぜ。そっちの美人コンビも」
「またね、アスカ、碇君、綾波さん。身体に気をつけて」
ドアが閉まり、電車が動き出した。窓の向こうで手を振る三人に、シンジとアスカは手を振り返す。
視界から電車の姿が消えるまで見送っていた。

帰り道、しばらくの間誰も口をきかなかった。
「行っちゃったね……」シンジがぽつりと呟く。誰かに向けた言葉ではなかった。「こんなにいい天気の日にお別れなんて、何か虚しいな」
「雪でも降ってれば気分がでたってわけ?」
「別に、そういうわけじゃないけどさ……」
「じゃあゴチャゴチャ言うんじゃないの。ジャージの言うとおり、使徒を残らず倒せばそれで解決なんだからさ」
「そう……だね」
シンジのその言葉を最後に、またしばらくの間、沈黙がその場を支配した。
「アイスでも食べよっか」アスカが空を見ながら言った。目のさめるような空の青と巨大な入道雲の白が鮮やかなコントラストを描いていた。

「あれ? 綾波、当たってるよ」シンジがレイのアイスの棒を見て言った。
「当たり?」レイは首を傾げた。当たりつきのアイスがあるということを、レイは知らなかった。
「当たりが出ると、もう一本もらえるんだ」
「そうなの」レイは曖昧に頷いた。
「何かおかしいわよねー。こういうのって普段の行いと関係ないのかしら。っていうか、むしろ逆相関?」
アスカは頭の後ろで手を組み、空中にある見えない何かを蹴るようにして歩いている。
「何かいいこと、あるかも知れないね」シンジが微笑んだ。
レイは別段嬉しくも何ともなかったが、シンジが喜んでいるならいいことなのだろうと思った。
39 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:12:14 ID:???
「そういやさ、あんたいつまで本部に住むつもりなの?」アスカがくるりと振り返って訊いてくる。
「引越しは面倒だから、多分ずっといると思う」
「あんなところに住んでてイヤになんない? 殺風景だし、だいたい地下なんて不便じゃない」
「別に。学校もなくなったから」
「あっそ。あーイヤぁねー日本人て。職場と住居が同じなんて信じらんないんだけど」
レイはふとビデオのことを思い出した。部屋にシンジを呼び込んでケンスケに撮影させたビデオのことだ。思い出したのは久しぶりにケンスケの顔を見たせいだろう。
マンションがなくなっていいことが一つあるとすれば、ビデオカメラが跡形もなくなったことだった。
よくもあんなことができたものだと思う。あのころの自分はどうかしてたのだ。
ひょっとして、あの時のことをシンジも思い出したりするのだろうか? 
レイは首まで赤くなった。まともにシンジの顔を見られない。
「どうしたの、綾波? 何か赤くなってない?」
「……なんでもない」
レイは蚊の鳴くような小さな声で言った。

 □

作業員用のエレベーターの中で、レイはプラグスーツへの着替えを済ませた。備え付けの無線からはリツコの声が流れている。
「レイ。今からでも遅くはないのよ。別に無理にテストする必要はないんだから」
レイは眉を顰めた。レイの搭乗に強硬に反対したのはリツコだとは漏れ聞いていたが、実際にこうして聞いてみても、やはりリツコらしくない行動だった。
「なぜ、そんなことを言うの?」
数瞬、沈黙が流れる。
「心配しているからよ」
「心配? あなたが、私を?」
レイの声に含まれる皮肉を感じとったのか、リツコは彼女にしては珍しくムキになったような口調で、「もちろん。あなたのような優秀なパイロットに
何かあったら大変な損失ですもの。エヴァはパイロットなしでは動かないのよ」
「パイロットなしでの実験も進んでいるようだけど?」
40 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:13:09 ID:???
またしても沈黙。
「あれは……私はあんまり賛成してないのよ、レイ。司令の意向だから強くは反対できないのは確かだけど……」
「とにかく、私は別に無理なんてしてない。零号機も修復までにまだ時間がかかるし、今参号機に乗っておくのは悪いことではないわ。
使徒が襲ってきてるのに私だけ見てるなんて冗談じゃないし。それより四人目が見つからなかったら、この機体、私がもらうから」
「それはいいけど、ひょっとして、この間迷惑をかけたから、なんて思ってるとしたら……」
レイは黙って無線を切った。

目を閉じ、足元からせり上がってくるLCLの生温い感触を味わう。久しぶりの実機だった。やはりテスト用とは違うような気がする。
「チェック完了。異常なし」
オペレーターの声を聞いてゆっくり目を開けると、目の前に思いがけない人物が立っていた。
目の覚めるような青い髪に赤い目をした中学生くらいの女の子。つまり、綾波レイが冷たい笑みを浮かべてレイの目の前に立っていた。
もちろん人ひとりが立つスペースなどないし、何より馬鹿げている。答えは一つしかなかった。
レイは呟いた。「……幻覚?」
これは――おそらく使徒だ。今度は物理的な攻撃ではなく精神が目標か。
レイは慌てず、瞬時にATフィールドを展開した。臍を中心に、自分を包む円を思いえがく。
今ごろ下では大騒ぎだろうが、そんなことに構ってる場合ではない。
ふん、とレイは鼻を鳴らした。普通の人間ならともかく、私には通用しない。
――どう? 勝手が違って残念だったわね。
笑みを浮かべたレイの頬が、ふいに引き攣った。加減しているつもりはないのに、ATフィールドが弱い。
前回の使徒戦の敗北が脳裏に蘇った。あの時の戦いぶりに、納得できるものがある。
――そうか。相手が強かっただけではない。私も弱くなっていたのだ。
なぜ弱くなったかを考える時間はなかった。
41 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:14:51 ID:???
――大丈夫。
目の前に立つ幻覚バージョンの綾波レイの唇がパクパクと魚のように動いている。意志の疎通をはかろうとして、それができないように見えた。
言葉を知らないか、あるいはATフィールドを突破できないかだ。後者だろうとレイは考える。希望的観測かも知れないが、そもそも言葉を知らなかったら口をああいう風に動かす必要はない。
しかしレイのほうもここからどうすればいいのか分からない。外部へ連絡を取って――いや、取れるのだろうか? 何もせず、じっとリツコたちの救出を待てばいいのだろうか?
迷うレイが顔を上げると、まるで最初からそこにずっといたかのような自然な風で、綾波レイの隣に見知った人物が出現していた。
――碇君!?
幻覚と分かっていてもレイは動揺した。
「ようやく開けてくれたわね」綾波レイは唇の両端を吊り上げた。
しまった――。臍を噛むレイの脳裏をかすめたのは、恐怖や後悔よりも、この女はなんて嫌な笑い方するのだろう――ということだった。

「ひどいな、綾波は。僕を締め出そうなんて」
レイは強張った表情を崩さない。これはシンジの言葉ではない、使徒が見せる幻覚なのだ、と自分に言い聞かせる。
「やっぱり僕のことが嫌いなんだね」シンジは悲しげな顔で言う。「前に、はっきりそう言ったよね、綾波は。僕のことが大嫌いだって。あれは悲しかったな……」
――違う。あれは……。
思わずそう言いかけて、唇をぎゅっと噤む。答えてはいけない。
「でもね、いいんだ」シンジは悲しげな表情を嬉しそうなそれに変えた。「僕も綾波のことが嫌いだって分かったんだ」
――え!?
息を呑んでシンジの顔を見つめた。シンジの言葉ではないと思っていても、衝撃は大きかった。
「綾波……。何でそんな顔するのかな」シンジは苦笑した。「これ、本当の僕じゃないと思ってるでしょう?」
シンジが息がかかるほどの距離まで接近してきて、レイの顔を両手で挟み込んだ。レイは目をつむるが、シンジの姿は消えない。目で見ているのではないのだった。
「綾波が今まで僕にしたことや言ったことを考えてごらんよ。いちいち挙げなくてもいいよね、君がしたことなんだから。僕が綾波のことを嫌いにならないはずがないよ」
レイの顔から血の気が引いていく。
――碇君に、嫌われる?
42 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:16:04 ID:???
正直なところ、今までその可能性を考えたことがなかった。自分が誰かに嫌われるなどどうでもいいことだったからだ。
――碇君がそんなことを言うはずがない。
何度も自分に言い聞かせる。惑わされるな、本物ではない。幻覚だ。
「本当にそうかな?」
ハッと顔を上げた。言葉にはしていないはずだ。
――思考を読まれてる?
「まぁ、君がどう思っても僕には関係ないけどね。だって僕にはアスカがいるから。じゃ、綾波。さよなら」
シンジは手を振ってすうっと消えていった。代わりにゆらゆらと陽炎のようにゆれながら、綾波レイが胸が悪くなるような笑みを浮かべて現れた。
レイは待って――と言いかけて唇を噛みしめた。
「嫌われてしまったわね」同情するような口ぶり。「仮にあなたを嫌いになってないとしても、あなたよりセカンドパイロットを選んだのは事実よ」
――事実? 何を言ってるの?
「馬鹿ね。若い男と女がひとつ屋根の下に暮らして、何もないと思ってるの?」
すぐに反論した。
――あの二人はいつも喧嘩ばかりしてる。
綾波は哀れみのまなざしでレイを見つめた。たっぷり沈黙を溜めて、
「……あなたは本当に人間の機微が分からないのね。喧嘩するほど仲がいいっていう言葉、知らない? 本当に仲が悪いなら、お互いに無視するはず。
そういえば鈴原君も二人のことを夫婦喧嘩とか言って、からかってたわね」
今度は反論できなかった。自分にある種の感情が読み取れないことは、薄々とではあるが分かりつつあった。
「それにね」綾波がことさら嫌な笑い方をする。人を傷つけることが楽しくて仕方がないという笑い。
レイは認めざるを得ない。これは、自分の笑いなのだと。
「それにね」綾波はくすくす笑いながらもう一度繰り返した。「あの二人、キスしたことがあるのよ」
それが何? レイはそう言おうとした。私には関係のないことだ、と。
しかし、実際口に出てきた言葉は、「嘘!」というものだった。
――そんなこと、するはずがない。
「嘘じゃないわよ。見せてあげましょうか?」
43 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:18:03 ID:???
綾波が消えて、見覚えのある場所がぽっかりと浮かび上がってきた。ミサトの家だ。
そこで、シンジとアスカがお互いに向き合い、見つめあっている。アスカが近づいてシンジの鼻をつまみ、唇を重ねた。二人の姿は登場したときと同じように溶けるように消えていった。
――これは、幻覚。
呆然とレイは呟く。これは嘘だから。こんなことしてるわけないんだから。
「残念だけど、違うわ」再び綾波が現れ、レイに向かって冷酷に告げた。
レイは耳を手で塞いだ。無駄だと分かっていてもそうせざるを得なかった。何も聞きたくないし、見たくなかった。ふるふると、唇が震えている。
「これは幻覚なんかじゃないの。碇君があなたなんかよりセカンドを選ぶのは当然のことなのよ。ああ見えて意外と他人を気遣える子だから、セカンドは。
それに対してあなたときたら……。他人の気持ちがまるで分からないお人形さんだもの」
――消えろ。
「いえ、人形は他人を傷つけたりしないから違うか。あなたは化け物よ。あなたみたいな化け物よりセカンドみたいな立派な人間のほうが碇君にふさわしいわ」
――消えろ!
「消えないわよ。だって私はあなただもの」
――違う! あなたは私じゃない。私はあなたみたいな……。
レイは続きを口にしようとして、絶句した。
「何? まさか、あなたみたいな平気で人の気持ちを踏みにじるような人間じゃない……と言おうとしたんじゃないでしょうね?」
綾波はまるで最高のジョークを聞いたようにくすくすと笑い出した。
「そう。分かったでしょう? 私はあなた。あなたは私」
――……。
否定したかったが、できなかった。そうだ、と思った。この嫌な嫌な女は私だ。私の言っていることは正しい。碇君はセカンドとキスをしたし、私のことも嫌いなのだ。
そのことを考えると、頭が割れるように痛くなった。苦しくなった。
「安心して。助けてあげるわ。なんたって、私はあなたなんですもの」
――……どうすればいいの?
どうすればいいんだろう、とレイは思った。本当に、どうすればいいんだろう。
「苦しいでしょう?」
レイは黙って頷いた。
「楽になりたいでしょう?」
また頷く。
「簡単な話よ。昔のあなたに戻ればいいの」
44 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:20:37 ID:???
――昔の……私?
「そうよ。碇君に会う前のあなたはそんな苦しい思いをしたことがない。だったらその時のあなたに戻ればいいのよ」
――で、でも……。
思考が鈍り、何が自分の考えで何がそうでないのか、だんだんはっきりしなくなる。本当にそれでいいのだろうか。
「放って置いたらもっと苦しくなるわよ」
――もっと?
「それでいいの? 昔のあなたみたいに、何も感じなくなれば楽になるのに」
――なりたい。なりたいわ。昔の私に戻りたい。どうすれば昔の私に戻れるの?
「憎めばいいの」
――憎む? 誰を?
「碇君を」
――どうして? 別に碇君は憎くなんてないわ。
「嘘。あなたを裏切ったのに?」
――裏切った?
「そう。裏切ったのよ。あんな風に笑っておいて、今は惣流さんと一緒に登校したり、キスをしたり。あなたのことを馬鹿にしてるのよ」
――馬鹿にしてる……。
「そのうちキスなんかより、もっと気持ちのいいことをするのよ。そうなったらもうお仕舞い。そうなるのももう時間の問題」
レイは喘いだ。頭の中が灼熱している。苦しいなんてものではなかった。胸が潰れそうだ。
「憎いわよね」
――……。
「憎いわよね?」
――……ええ、憎いわ。
いったん口に出すと、その感情は風船のように膨らんでいった。そう。私は憎悪する。あの二人を。碇シンジを。

 「許さないわよね?」と、綾波レイは問うた。
 「ええ、許さないわ」と、レイは答えた。

「それでは行きましょう」綾波レイは、獲物を目の前にした肉食動物のような笑みを浮かべた。
――ええ。いきましょう。
レイは頷いて、笑った。こんな簡単なことに悩んでいた自分が馬鹿みたいだった。
――いかりくんを、ころしに。
二人の笑みは、まるで鏡で映したようにそっくりだった。
45 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:22:12 ID:???
途中までは何の問題もなかった。フェイズ1からフェイズ2への移行もスムーズで、ハーモニクスも正常位置にあった。
絶対境界線にさしかかったときにそれは起こった。
オペレーターが自分が目にしていることを信じられないように、「エントリープラグ内にATフィールド発生……!?」
「何ですって? ……使徒?」ミサトが顔色を変えて身を乗り出した。
「いえ、違うわ……何をやってるの、レイ?」
「レイが? どういうこと、リツコ?」
詰め寄るミサトの声をオペレーターの切迫した声がかき消した。「体内に高エネルギー反応!」
「レイ!?」リツコが叫ぶと同時に、爆風が襲い掛かってきた。ガラスが割れ、中のネルフ職員たちを薙ぎ倒す。
 
 □

アスカは歯噛みして「それ」を見た。
使徒と戦うのは望むところだったが、今回ばかりは勝手が違う。
「まったくもう、何やってんのよ」
血に染まったような夕日を背景に、黒い機体がまるで不幸そのもののようにゆっくりと近づいてくる。
「あのバカ!」
急にスピードを上げた「それ」――参号機を本気で迎え撃つのか、目の前まで接近してきてもアスカには決心がつかなかった。

なんだ。よわい。
レイはがっかりしていた。あっという間の出来事だった。戦闘に入ってから呼吸をいくらもしていないうちに倒してしまったのだ。
はごたえがなさすぎる。
もっとていこうしてくれないと、おもしろくない。
まぁいい。おまえはあとでころしてやるからそこでねていろ。
いかりくんはどこ?
わたしはいかりくんをころしたい。
このてで、ひきさきたい。
わたしは、いかりくんがにくいのだから。
ゆるせないのだから。
46 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:23:21 ID:???

「アスカ!?」
悲鳴とともに、モニターからアスカの姿が消えた。シンジは呆然とする。まるで悪夢を見ているようだった。三人で仲良くアイスを食べたのはこの間のことではないか。
激しく後悔する。あの時レイを止めておけばよかったのだ。いつもそうだ。何かをやって後悔するよりも、やらなくて後悔する。綾波に何かあったら……。
落ち込むシンジを現実に引き戻したのは、いつものように揺らぎがない、鋼のようなゲンドウの声だった。
「よく聞け、シンジ。レイが参号機の中に取り込まれている。まずエントリープラグを本体から切り離せ」
「わかった」
シンジは唾を飲み込んで、僕にできるだろうか――と思った。
今まで感じたことのない恐怖がシンジの心臓を鷲掴みにしていた。今までのような、戦うことへの、あるいは自分が傷つくことへの恐怖ではなかった。
しかし、やらなければレイがどうなるか分からないのだ。選択の余地はなかった。

――駄目だ。
シンジの瞳は目の前の参号機の機体の色に――絶望の色に染まりつつあった。
もともとパイロットとしての技量はレイの方が優れている上に、今のレイにはシンジを攻撃することに何のためらいもない。本気で殺すつもりで攻撃してくる。
一方のシンジにはレイに攻撃を加えることはできない。参号機を無傷で押さえ込むことしか考えていないのだ。
それでは勝負にならず、結果、シンジの防戦一方になった。それでも何とかしのげているのは、曲がりなりにも今まで積んだ経験のおかげだった。
――このままでは……。
シンジはレイの攻撃を受け止めながら、唇を噛む。ジリ貧だ。
戦闘はすでに十分以上続いていた。シンジにとっては三十分にも一時間にも感じられる時間だった。
参号機の内部電源が切れることに一縷の望みを託していたのだが、S2機関を取り込んだ初号機と同じように、参号機のほうも活動限界はないようだった。
やるしかない。シンジは覚悟を決めた。
参号機は四つん這いになり、今にも飛びかかりそうに上体を揺らしている。まるで獣のようだった。
シンジは怖気づいたようにじりじりと後ずさった。それを見た参号機は好機と考えたか、突然跳躍して襲い掛かった――と同時にシンジは前に踏み込んだ。
下がったのはシンジの誘いだった。
47 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:24:35 ID:???
両手を組み合わせ、参号機の肩に――とてもではないが、頭は狙えなかった――思い切り打ち付ける。これまで全く攻撃してこなかったシンジに油断していたのか、参号機はモロに食らって地面に叩きつけられた。
――綾波、ごめん!
心の中で謝ると、シンジは参号機の背中に馬乗りになった。左手で頭を地面に押さえつけ、右手はプログナイフを取ろうと肩口に伸び――途中で止まった。
――え?
シンジは驚きと苦痛に目を見開いていた。
ゴムのように伸びた参号機の両手が初号機の喉を掴んで、後ろ向きのまま締め上げはじめたのだ。普通では考えられない動きだった。
シンジは自分が罠にかけられたことを知った。やろうと思えば、最初から出来たのだろう。多分、遊んでいたのだ。
参号機は足を蹴り上げると同時に、喉を掴んだままの両手を前に回転させた。
脳天から地面に叩きつけられ、シンジは衝撃に呻く。衝撃から立ち直ったときには攻守は所を変えていた。今度は参号機が初号機に馬乗りになり、再び喉を締め上げはじめた。
苦痛にうなり声を上げるシンジの耳に、ゲンドウの声が聞こえてきた。
「もういい、シンジ。よくやった。もはやそれはレイ……参号機ではない。使徒だ」
「ち……違うよ、父さん……」
「違わない。それを倒せ、シンジ」
「で……できないよ、そんなこと……!」

「いかん、シンクロ率を60%にカットだ!」
ゲンドウは指示を飛ばす冬月を手で制した。
「しかし碇。このままではパイロットが死ぬぞ」
冬月を無視してゲンドウはシンジに話しかける。
「シンジ、なぜ戦わない?」
「だって、綾波が乗ってるんだよ、父さん!」
「それはもうレイではないと言っただろう。使徒だ。お前が死ぬぞ」
「綾波を殺すくらいなら……僕が死んだほうがいい」
ゲンドウはシンジとの会話を打ち切り、マヤに告げた。
「回路をダミープラグに切り替えろ」
48 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:27:30 ID:???

ばかなやつだ。レイは笑った。やっぱりひっかかった。わなにかけたのはわたしのほうだ。
両手に力を込める。
このまま、にぎりつぶしてやる。
もうすぐだ。
レイは歯を剥き出して笑う。目の前のレイも同じ笑みを洩らす。
「早く殺すのよ」
うるさい。いわれなくてもわかってる。
もうすぐ、わたしはもとのわたしにもどれる。
もとのわたしに――。
いやなわらいをわらうだけで、なにもない、からっぽなわたしに。
――え?
レイは首を傾げた。
あれ? なにかが、おかしい。なんだろう?
改めて初号機を見る。もう少し力を込めれば首を折ることができそうだった。
「何をしているの? 早く!」綾波レイが苛々したように催促する。
それを無視して、初号機をじっと見つめるレイの頭の中に、シンジとの思い出が奔流のように流れ込んできた。
最初の出会い。搭乗を拒否するシンジがエヴァに乗ったのは、傷ついたフリをしたレイを見たからだ。
無事だったレイを見て涙を流すシンジの姿。
レイの家に料理を作りにきたシンジ。シンジがそんなことをした理由も、レイに料理を勧めた理由も、その時は意図が分からなかったが、
今思えば簡単なことだ。レイの健康を心配したのだ。弁当を持ってきたのもそのためだった。
仔犬を助けてくれたシンジ。
シンジは言った。分かってた。綾波は、本当は優しい子なんだってこと。
49 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:28:16 ID:???
ちがう。やさしいのは――
やさしいのは、わたしではなく、いかりくんではないか。
いかりくんは、いつもわたしにやさしかった。
いかりくんだけが、いつもわたしにやさしかった。
そのいかりくんを、ころす? 
そんなことが、やれるわけがなかった。
やってはいけないことだった。
レイは舌の一部を奥歯で挟み、思い切り噛み合わせた。ぶつりという肉厚のものを断ち切る鈍い音とともに、鋭く強烈な痛みがレイを襲った。
「がはっ」
口のあたりのLCLが血の色と混じって毒々しい赤に染まっていく。鉄の味がした。
痛みにより、ほんの少しだがレイの意識は覚醒した。その少しを足がかりにする。
レイの全身が震えた。肌がみるみるうちに紅潮していく。
今のレイの姿を見れば、レイの中で、何か激烈な戦いが行われているのが分かっただろう。
「何をしてるの?」綾波が眉を顰めてレイを見る。「馬鹿ね、あなたは。もう止まらないわよ」
「憎くないの?」
「殺したくないの?」
レイは何も考えず、ただ、手を喉から引き剥がすことだけに集中した。

「し、しかし……」ダミーシステムを起動しろというゲンドウの命令に、マヤは青ざめた顔で答えた。「ダミーシステムはまだ問題も多く、赤木博士の許可もなく……」
「今のパイロットよりは役に立つ。やれ」
マヤに拒否することはできない。はい、と力なく頷いて操作に取り掛かる。
「いいのか、碇?」
「初号機が優先だ」
冬月はゲンドウの声に抑えようもない苦さを感じ取り、それ以上言うのを止めた。
あと数分――いや、数十秒もあれば、あるいは二人には違った運命が待っていたかも知れない。
しかし、必要な時に、必要な何かがほんの少しだけ足りないのが悲劇というものであり、それはこの場合も例外ではなかった。
50 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:32:08 ID:???

シンジは手の力が緩むのを感じ、目を開けた。
「あ……綾波……?」
目の前の参号機には凶暴な雰囲気がなくなりつつあるように思えた。やっぱり正気に戻ってくれたんだね――そう言おうとした時だった。
プラグ内の明かりが消えて、同時に喉への圧迫感も消失する。エヴァとの神経接続が解除されたのだ。
明かりがついたが、普段よりも暗い。普段どおり、外も見えた。見えないほうがシンジにはよかっただろう。
初号機の両手がじりじりと上がっていき、参号機の喉を掴んだ。
シンジの全身に鳥肌が立った。呼吸もままならないほどの不吉な予感に圧倒された。
「な……何?」自分は何もやっていない。勝手に動いている。「……何だよこれ! 止めてよ、父さん! 止めろ!」
初号機が吼え、蹂躙がはじまった。

レイは全身を切り裂かれるような痛みに耐えていた。普通ならとっくの昔に気絶しているところだ。それができないのは多分使徒に侵食されてるからだろう。
しかし、不幸だとも不運だとも思わなかった。むしろ意識が戻ってよかったと思っている。
操られたような状態のまま死ぬほうが嫌だった。
苦痛に呻き、反り返りながら、参号機の体液に染まった初号機から夕焼け空に目を移した。
参号機に乗り込む時にはまだ優勢だった青は、今は茜色に追い立てられ、雲の上の方にほんの少し残るだけになっていた。
レイは空を見ながら考える。

おいしいりょうりをたべて、しあわせなきぶんになること。
おいしくないりょうりをたべて、はらがたつこと。
まんてんのほしをみて、おもわずてをのばしてみること。
あめあがりのじめんのにおいをかぐこと。
あそこにさいているはなのなまえは、なんだろうとおもうこと。
こいぬのあたまをなでること。
いかりくんのほかのおんなのこにむけたえがおをみて、むねがいたくなること。
いかりくんのわたしにむけたえがおをみて、むねがあたたかくなること。
だれかにこころをうごかされること。
だれかのこころをうごかすこと。
それが――。
それが、いきるということ。
いきているということ。
51 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:33:22 ID:???
わたしは、いままでいきていなかった。
しんでいた。
しにんのようなわらいをうかべて、しんでいるようにいきていた。
わたしは、いま、それがわかる。
いかりくんにあえたから、それがわかる。
いかりくんにあっていなかったら、わたしはいまもしんだようにいきていただろう。
ほんとうは、もっとまえにわかっていればよかった。
けれど、それはしょうがない。
わからないまましぬより、ずっといい。
よかった。
いかりくんにあえて、よかった。
いかりくんはわたしがしんだらきっとかなしむだろう。
いかりくんはやさしいからきっとかなしんでくれる。
いかりくんはやさしいからそのかなしみはながく、ながくつづくだろう。
でも、いかりくんのまわりには、にごうきパイロットもいるし、カツラギさんもいるしともだちもいる。
だからときがたてばわたしのことをわすれて、もとのいかりくんにもどるだろう。かんぜんにはもどらないかもしれないけれど、それでも、いつかはいえるだろう。
でもわたしはひとり、わたしにはだれもいないからいかりくんがしんだら、いかりくんをころしてしまったらきっとわたしはいまいじょうにおかしなわたしになる。
もとのわたしにもどってしまうから、もとのからっぽでなにもないわたしにはもどりたくない。
わたしはこれいじょうおかしくなりたくないからわたしはここでしんでいい。
これでよかった、なぜならわたしはいかりくんにありがとうがいえたのだから。ごめんなさいもいえたのだから。
ありがとうがいえたということはわたしはにんげんだということ。
ありがとうはかんしゃのことば。
はじめてのことば。
ありがとういかりくん。
いかりくんが、ずっとえがおでいられますように。
いかりくんのえがおは、わたしのとちがって、ほんとうのえがおなのだから。
さようなら。
さようならいかりくん。
さようなら。
さようなら……
52 ◆IE6Fz3VBJU :2009/11/27(金) 01:36:15 ID:???

レイは意識を閉じようとした。これからの短い時間に意味はなかった。
そのときだった。
胸の奥の何かが灯った。
かすかではあるが、あたたかい、ともしびのような何か。
その部分がまだだと告げていた。
まだ言うことがあると叫んでいた。
そうだ。
レイは目を開けた。
まだ。
まだ、わたしには。
わたしには、まだ、いかりくんに、いうことがある。
なんだろう。
レイは考えた。
必死に考えた。
こんなに考えたことはないというほど考えた。
しかし、胸のあたりに何かつかえているようで、どうしても思いつかなかった。手の届くところにあるはずなのに、何かが邪魔している。
レイは唸った。もどかしさで頭がどうにかなってしまいそうだ。
大事な言葉のはずだった。
言葉では完全には伝わらないが、しかし、同時に、言葉でなければ伝わらないもの。
これを言えさえすれば、何も思い残すことなく死んでいけるのに。
レイは、顔をくしゃくしゃに歪めた。おそらく、レイ以外の人間だったら泣いていただろう。だが、今まで泣いたことが一度もないレイは、今度も泣かなかった。あるいは、泣けなかった。
歯を食い縛って集中しているレイの耳に、みしり、という音が届いた。
エントリープラグが音を立てて軋んだのだ。ほんの僅かではあるが、亀裂が走り、それは徐々に大きくなっていく。LCLがその隙間から迸り出た。白い何かが見えた。
「待って! まだ……」
レイは身を起こし、叫ぼうとした。
その叫び声は、初号機がエントリープラグを噛み破った音でかき消された。
レイは、自らの両足がすりつぶされていくさなかでも、まだ、シンジに言うべき言葉を考えていた。

(続く)
53名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 01:38:15 ID:???
乙っ!!
54名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 01:39:26 ID:???
………えっ……いや、てか…その…えっ……
55名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 02:26:37 ID:???
キター!これからどうなんのか気になるぜ!脚がなくなってしまうようだが、ここから二人の関係がどうなるのか・・・
神事はすっげー自分を責めそう。
56名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 03:00:37 ID:???
乙。残り1話か…悲しい
57名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 03:31:12 ID:???
来てた!乙です!
58名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 13:12:56 ID:???
頼む、殺さないでくれ!
59名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 13:27:28 ID:???
ちょ、とんでもない所で続くですか…
お、乙です……
殺さないでくれると嬉しい…
60名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/27(金) 14:29:01 ID:???
乙です!!!!
すみません、ひらがなモノローグにより目から汁が止まらないのだが
61名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/28(土) 10:10:28 ID:???
当たりですか…
62名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/28(土) 19:01:34 ID:???
新劇演出をさりげなく入れてるのがいいね
63名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/28(土) 20:36:46 ID:???
乙です!レイの言葉が届くといいな…
シンジとレイの結末はもちろんだがリツコの真意も気になる
レイを気遣う優しい発言もあるけど、犬を隠したりしてレイの変化を観察してることもあるし
64名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/29(日) 00:40:15 ID:???
レイが感情を覚えていくことはレイが消える予兆だ、ということと同義ってのをどっかで見たな。
まさにそう思います。
65名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/29(日) 09:02:14 ID:???
乙です
死亡エンドじゃ無いよね…
66名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/11/29(日) 10:14:21 ID:???
やだやだやだ
幸せになっておくれ
67名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/02(水) 12:15:36 ID:???
黒エンドは正月明け?
続黒はないの?
68 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/05(土) 00:55:18 ID:???
今年中に完結させる予定です・・・が最終話が長すぎなので分割して1話増やすことになると思います

続黒ってのは続編ってことですよね? 違うのかな?
残念ながら予定はないです・・・きれいに終わりますので(自分的には)
6967:2009/12/05(土) 06:01:10 ID:???
丁寧に返事してくれてありがとう
そっか、続はないのか
最終2話、楽しみにしてますよ
がんばってください!
70名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/05(土) 12:22:08 ID:???
>>68
楽しみに待ってる
頑張れ
71名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/05(土) 12:57:54 ID:???
>>68
年内中に完結か
怖くて楽しみで死ぬほど寂しいな
超応援してる!がんばってくれ!
72名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/05(土) 13:22:51 ID:???
黒レイ見終わったら俺はどうしたらいいんだ・・・・
73名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/05(土) 13:28:16 ID:???
君が新しい物語を作るんだよ
74名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/07(月) 18:39:16 ID:???
俺もがんばって書いてみよう
75名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/07(月) 20:28:06 ID:???
頑張れ!
76名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/08(火) 09:58:21 ID:???
>>74
超頑張れ
77名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/09(水) 13:26:05 ID:???
>>74
超応援してる

俺も頑張ってみようかな・・・
78名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/09(水) 16:15:28 ID:???
>>74>>77
期待してるぜ!
79名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/10(木) 08:53:34 ID:???
>>77もガンバレ!
80 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:08:09 ID:???
>>52

15.

夢を見ていた。
それはシンジとアスカが楽しげに喋っている横で、黙って俯いて座っているものだったり、逆に自分とシンジが公園のベンチに座って
ぽつりぽつりとお互いに呟くように語り合っているものだったりした。昔のことや最近のこと、楽しかったことや悲しかったこと――さまざまな夢を見た。
例の、赤木ナオコに首を絞められている夢も見た。
シンジとアスカが手をつないで、どこかに去っていく夢が一番悲しいものだった。レイも追いかけようとするのだが、全く前に進まず、下を見ると脚がなくなっていて、焦ってもがいているうちに二人はどんどん遠ざかっていく……。
あまりにおかしな状況のため、今は夢を見ているに違いないと思うときもあれば、次の夢を見て、ああ、前のは夢だったんだなと分かるときもあった。
だから、目をあけたとき、そこが現実なのかまだ夢の中なのか、レイには判断がつかなかった。
天井を見つめながら静かに呼吸を繰り返しているうちに、これは夢ではなく現実だろうという推測がゆっくりと確信に変わっていった。
注射針が腕にささっていたり、管が体中についている夢など見ないだろう。
横を見ると、いかにも大げさな機械がいくつも配置されていた。
うっすらとではあるが、明かりがついてる。
いや――やはりこれも夢なのだろうか? 確信は手のひらに落ちた雪のように急速に溶けていく。
レイは反射的に起き上がろうとして、自分にそれもままならない程度の力しかないことを思い知らされ、愕然とした。
起き上がるのはひとまず諦め、こうなった原因を探る。
――いったい、どうなって……。
現実での最後の記憶をたぐろうとするが、その瞬間、針で貫かれるような激しい頭痛に見舞われた。
「つっ……」
目をつむり、呻く。
身動きもできず、ものを考えることもできないとならば、できることは一つしかなかった。
レイはまどろみの沼の中に引きずり込まれていった。
81 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:13:54 ID:???

 □

リツコは不機嫌そうな顔で一向に鳴らない電話を睨みつけていた。右手にはタバコ、机の上にはコーヒーカップ。
やはりあのとき、徹底的に反対するべきだったのだ……。
何度目かの激しい後悔がリツコを苛んだ。レイが死んでも代わりはいる――いくらでもつくれる。その意味では別に死んでもよかった。
だが、彼女にとってはあのレイでなくては意味が無い。新しいレイではなく、今のレイでなくてはならないのだ。
さんざんレイを庇ってきたのが無駄になってしまう。
リツコは自分を落ち着かせるようにコーヒーカップに手を伸ばし、口をつけた。
口に含んでも、すっかりぬるくなっていることにしばらく気がつかなかった。

レイが即死状態でなかったのは奇跡に近いと医師は告げた。肌の浅黒い五十代の男で、これから行われるレイの手術の責任者だった。
医師の目にはプロに特有の、知識と経験に裏打ちされた諦めが色濃く表れている。
両脚が大腿のあたりまで完全に潰れ、腹部に破片が突き刺さって腎臓の片方が駄目になっていた。
右腕の上腕骨と右の鎖骨、および五番から七番までの肋骨が骨折していて、他にも無数の切り傷や打撲があり、大量の出血によるショック死まであと一歩というところまできていた。
実際、ショック死しなかったのが不思議なくらいだった、と医師は不思議そうな顔で言った。
それから咳払いすると、最善は尽くすがあまり希望は持てないだろうということを、婉曲に述べた。
「それでは困るわ」と、リツコは無表情を崩さずに言った。
ミサトと違い軽症で済んだリツコは、手当てもそこそこに駆けつけたのだった。痛みはあるはずだがそれはおくびにも出さない。
いつも通りの平静な態度――と彼女を深くは知らない人は思うだろうが、ミサトだったら実は苛立っていることに気がついただろう。
「彼女は、たぶん大丈夫。普通の人間より……そう、頑丈だから。まだ」
まだ? 医師はリツコの言葉に戸惑うが、取りあえずはうなずいて見せた。
「ドナーももうじき来ます」
ずいぶん手際がいいんですね、と医師は言おうとしてやめた。パイロットの重要性を考えれば、普段からドナーを「準備」しているのは当然かも知れない。それがなにを意味するのかは深く考えたくなかったが。
82 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:15:11 ID:???
「脚も元通りにしてもらいます」
リツコの言葉に医師は数瞬、沈黙した。ドナーとは腎臓のことだと思っていたのだが、脚も含まれているらしい。素人にどうやって説明しようかと考え考え、
「……それは難しいですね。移植に関しては免疫拒絶の問題があります。確かに近年、免疫抑制剤の進歩により、臓器に関してはHLA――これは白血球の血液型みたいなものです――の
厳格なマッチングは必ずしも必要ではありません。しかし手足は特に拒絶反応が大きいのです」
「他人の脚を移植するのではありません。彼女自身の脚です」
「彼女自身の脚……? 何を言ってるのですか?」医師は不可解な台詞に眉をしかめる。頭でも打ったのだろうか?
「スペアのパーツがいくらでもあると言ってるの」
医師の口がぽかんと開いた。スペア? 不可解どころか理解不能の言葉だった。
「し、しかし、たとえ拒絶がおきないと仮定しても、神経や血管を縫合しなければなりません。接着剤でくっつけるわけじゃないんですから。とてもじゃありませんが、医師の数が足りませんし、残念ながらその技量もありません」
「神経の縫合なんてしなくて結構。くっつけるだけでいいわ」
今度は医師は絶句した。
「そ、そんなことができるわけがない。患者をわざわざ殺すようなものです」
「あら、希望は持てないといったのはそちらじゃないかしら? どうせ死ぬのならちゃんと四肢がついた状態で死なせてあげたいのよ。念のために言っておきますが、あなたには拒否権はありません。
これは命令です。ご存知のように我々は通常の組織ではないのですから、あなたが罪に問われることはありません。ご安心を」
「何を言われても、できないものは……」
医師の言葉はリツコの手に魔法のように出現したものに遮られた。病院に一番似つかわしくないもの――黒光りする拳銃の銃口が医師を睨んでいる。
「あまり手間をかけさせないで下さいな」
医師には「……分かりました」と答えるほかは無かった。
83 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:16:45 ID:???

手術は成功したとの連絡はすでに入っている。そのときの医師の呆然とした声を思い出してリツコは含み笑いを洩らした。
「信じられない……。縫合したらみるみるうちに接合したんですよ。まるで強力なボンドでプラモデルを作ったみたいに。看護婦は失神しかけましたよ。いったい彼女は何なんですか……?」
「あなたは知らなくていいことです」
「それより……彼女はまだ生きてました。いや、彼女というのは、移植のために用意された、患者と瓜二つの"彼女"のことです。あれは患者の双子の姉妹では……?」
「いえ、違います。あれは人間ではありません。まだ、ね。そう……クローンと言えば分かりやすいでしょう。ですから先生は殺人の罪に問われることはありませんわ」
「クローン……」
「お話したように、意識はなかったはずです。言わば人形と同じ。それと、このことは内密に。外部に洩らしたら漏洩罪に問われますから」
「……話しても誰も信じませんよ。私からも一言……。あなたたちは一体何をしようとしてるんです?」
「もう一度言います。あなたは知らなくていいことです」
喋る心配はないだろう。レイの素体を切り刻むのはさすがに抵抗があったようだが……。
回想は電話の呼び出し音によって中断された。リツコには、取る前から待ち望んでいたものだと分かっていた。
やはり、レイが目覚めたという連絡だった。
84 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:21:42 ID:???

 □

レイは驚異的な回復力を示した。集中治療室から一週間ほどで一般病棟に移り、そのときにはもう立って歩けるようになっていた。
骨折も身体についた無数の傷も、ほとんど治癒している。
担当の看護婦は風邪で入院したときと同じ女性だったが、あのときとは違い、滅多に話しかけてこないし、話しかけるときも表情は硬く強張り、
目にはある種の薄気味悪い生き物を見るような感じがあった。もっとも、当のレイは全く気にかけなかったが。
レイが再び意識を回復して、はじめて会った病院関係者以外の人間はリツコだった。
「心配したわよ、レイ」
「いったい何があったの? 私、記憶が途中で途絶えてる」
「そうなの」リツコは軽くうなずくと、経緯を語った。
「それで……碇君は無事なの?」
リツコはレイの瞳に隠しようも無い恐怖の色が浮かんでいるのを認め、満足そうに微笑んだ。すぐにその笑みを引っ込めると、
「怪我は一切無いわ。そういう意味では無事ね」
レイの全身から力が抜けるのが手に取るように分かる。
「……そういう意味では?」
「ええ。シンジ君は、……精神的なショックが大きくて……。今レイに会うのは彼のメンタルに良くないの。寂しいかも知れないけど、分かってちょうだい」
普段のレイならば、あるいはリツコの口調に隠された嘘を感じ取れたかも知れない。しかし、今の弱り果てたレイには無理な相談だった。
レイはそっとため息をついた。怪我がないというだけで十分だった。
「赤木博士、そろそろお時間です」
看護婦が顔を覗かせた。面会謝絶のところを無理を押しているのだ。長居はできない。
「では、またね、レイ。今は身体を治すことだけ考えるのよ」
リツコが去っていったあと、レイは天井をじっと見つめていた。
85 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:25:40 ID:???

 □

一週間ほど経ち、新たな面会者が訪れた。そこに予想しなかった顔を見て、レイは少し驚いた。
「あなたは……」
レイは記憶を探る。不精髭を生やした一見軽薄そうな男。
「加持リョウジ、だ。忘れられちゃったか。女の子には覚えていてもらう自信はあるんだけどね」加持は口とは裏腹に、傷ついた様子もなく名乗った。
「何しに来たの」レイはそっけなく言う。その目には加持に対する興味のかけらもない。
「何しに来たのって、こりゃひどいな」加持は苦笑した。「もちろんお見舞いさ。病人に会いに来るのに他の理由があるかい?」
レイは黙ったまま返答しない。
「葛城もアスカも心配してたぞ。ずっと面会謝絶だったからな。葛城も今日あたり来るんじゃないか?」
「そう」またしてもそっけなく答える。
「つれないね。それとも葛城や俺だから、かな? シンジ君と会いたくないかい?」
レイの頬がかすかに動いた。おかしな言い方だった。わざわざ会いたくないかと訊くということは、普通では会えない状況にあることを意味するのではないか?
そう言えばリツコの口ぶりも奇妙だった。
「碇君に何かあったの?」
加持は病室の隅にあった椅子をもってくると、椅子の背を前にして座った。
「別に怪我をしたわけじゃないから、安心してくれ。シンジ君は今特殊な場所にいる。昔風に言うと、営倉だな。……と言っても分からないか。軟禁ってやつだ」
「……どうして?」
「君との戦闘のあと、ちょっと暴れたからさ。まぁ、生身の身体で暴れたんなら良かったんだがね。初号機で暴れちまった」
「……」
「司令もだいぶお怒りでね。シンジ君も謝らないから、ぶち込まれたって訳だ。いや、ぶち込まれたというか、半分自分から入ったようなものだな。まぁ、ある種の親子喧嘩だな、あれは」
リツコが言葉を濁していた理由が分かった。レイは掛け布団を跳ね上げた。
「行く」
「おいおい、無理するなよ。まずは身体を治してから……」
「身体はもう大丈夫」
レイは身体を起こすと、ベッドから降りた。ふらつく身体を必死にまっすぐにする。
「今すぐ連れていって」
86 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:26:41 ID:???
「いやいや、今日は無理だ。軟禁されてる人間に突然会いにいってはいそうですか、というわけにはいかない。今回ばかりは司令もお怒りだしな」
「……」
「なに、別に生命の危険がさらされてるわけじゃないし、シンジ君も逃げやしないさ。そうだな……じゃあ、明日でどうだ? そう言うと思って、
実は先生のほうには外出許可を取ってある。長時間でなければ外出しても大丈夫だとさ」
レイは口を開きかけたが、結局黙ってうなずいた。妙に手際がいいが、シンジに会わせてくれるなら意図はどうでもよかった。
加持は明日来る時間を告げると、それじゃ、といって出て行った。
ミサトが心配そうな顔を見せたのは、それから一時間後だった。

 □ 

予想に反して、シンジが軟禁されている部屋はそれほど下の階ではなかった。
もっとも、特別な許可がないと使用できないエレベーターに乗る必要はあったが。
看守は、何かの間違いで自分はここにいるのだという顔をしている、白髪が目立つ初老の男だった。
加持は看守と一言二言話し合い、身分証明書を見せ、次に書類を取り出して渡した。看守はテストを採点する教師のような熱心さで書類をチェックすると、深々とうなずいて鍵を取り出した。
久しぶりに人間と話すことができてほっとしているような感じもなくはなかった。
看守を先頭に、独房から連想される陰惨な雰囲気というものがまったくない、チリ一つ落ちていない明るい廊下をしばらく歩き、奥から三番目の部屋で立ち止まった。
看守は扉を拳でトントンと叩いた。
「碇君。君に会いにきた人がいるよ」
「え……」ベッドに寝そべっていたシンジは、億劫そうに立ち上がると、ベッドの縁に腰をかけた。「誰ですか……? 僕は今誰にも会う気はありません」
「やあ、俺だよ、シンジ君。綾波も来てる」
「綾波!?」シンジはまるで電流を流されたように立ち上がった。
レイは看守に顔を向けて、「開けて」と冷たい口調で言い放つ。
「残念だけど、規則でね」看守は首を振った。
「まぁまぁ」何か言い募ろうとするレイを手で押さえるフリをして、口を挟んだのは加持だった。看守の肩に手を回して、少し離れたところまで誘導する。
「別に殺人を犯した凶悪犯ってわけじゃないんだし、大目に見てもいいんじゃないですかねぇ?」
「いや、しかし……」看守は渋い顔をする。
87 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:27:30 ID:???
「そもそも使徒と体を張って戦ってるのはあの子たちですぜ。簡単な話、もしあの子たちが戦うのはもう嫌だって言えば俺たちは死ぬってわけだ」
年のわりに皺が目立つ看守の顔が不安げなものに変わっていく。
「おたく、子供は?」
「ああ、いるが」
「いくつ?」
「高校生の息子がいるよ。来年受験だ。このご時世じゃどうなるか分からんがね」
「なら碇司令の息子とそれほど歳は変わらないな」独房にいる中学生が司令の子息であることをさりげなく思い出させる。「自分の子供がこんな部屋に閉じ込められている様を想像して欲しい」
看守の顔はため息をついた。妙に似合う仕草だった。
「何かあれば俺の名前を出していいから、頼みますよ」
少しの間考えている風だったが、腕時計を見て、唐突に、「そうだ。この時間は独房の中の検査をする時間だった」と言い出した。
それから扉の前まで行くとカードキーで電気ロックを解除し、「いかん。トイレに行きたくなった。歳を取るとどうも近くなっていけない。少し時間がかかるかも知れないな」とぶつぶつ呟きながら扉を開けたままにして立ち去ってしまった。
「……ということだ」加持は肩をすくめると、レイにうなずいてみせた。
レイは「ありがとう」と言うと、中に入っていった。
「ありがとう、ね。こりゃ驚いたな。そんなことを真面目な顔で言う子には見えなかったがね」
加持は中を覗き込み、レイとシンジが話しているのを見届けると、その場から離れ、廊下のはじまで行って携帯を取り出した。
「ああ。俺だ。首尾よくいったよ。……なぁに、キューピッド役もたまにはいいものさ。じゃあまた今度、飲みにでもいこう。できれば二人きりで」
連絡を終えると、加持は壁に背をもたせかけて呟いた。
「さてさて、彼女もどういうつもりなのかな。まさか本気でキューピッドになるつもりでもないだろう」
88 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:29:45 ID:???
「あ……綾波」シンジはレイが部屋に入ってくると、はじかれたように後ろに下がった。目は大きく見開かれ、過呼吸になったように激しく肩を上下させて息を吸っていた。
それから糸の切れた人形のように床に膝と手をついて、泣き出した。
「綾波……ごめん……僕は……」
レイはショックを受けていた。窓越しでもそのやつれぶりは分かったが、こうやって改めて対面してみると、その消耗ぶりは痛々しいほどだった。
頬はげっそりとこけ、ただでさえ繊細な顔立ちを一層弱々しいものに変えていた。黒目がちな目に差す翳は、精神のバランスが崩れる一歩手前を示しているように思われた。
レイの胸がきりきりと刺すように痛む。泣きじゃくるシンジの前に膝を着いて、茫然とシンジの白いうなじを見つめた。
何を言えばいいのか分からなかった。ただシンジが泣くのは見たくなかった。
「もう泣かないで。私は大丈夫だから」
シンジは顔を上げた。
「怪我……したって聞いたけど……」
「ちょっと。もう大丈夫」
シンジは涙を拭うとレイの姿を上から下まで何回も見つめた。まるでレイが幻で、目を離すと消えてしまうとでもいうように。
「よかった……」そこでシンジは笑おうとしたが、表情は強張ったままだった。「綾波に……会わせる顔がないよ」
「どうして?」
「だって、綾波に怪我をさせたのは僕なんだよ」
「それなら、おあいこ」
「え?」シンジはきょとんとした。
「だって私も碇君を殺そうとしたんだから」
「それは……違うよ。綾波は使徒に操られていたんだ。だから綾波のせいじゃない」
「それなら碇君も同じことじゃない。ダミーシステムが動いていたのだから」
シンジは納得のいかない様子だった。「で、でも……」
「あまり、自分を責めないで。碇君は悪くない」
レイの言葉を聞くと、シンジは俯いて、そうだ、と言った。
「父さんが……。悪いのは父さんだ。僕には綾波が正気に戻るのが分かってたんだ。もう少し待ってくれれば良かったのに。なのに……」
レイはかぶりを振った。「司令の判断は正しかった。もしかしたら私はぎりぎりのところで元に戻れたのかも知れない。だけど、もしそうじゃなかったら……私が碇君を殺していた」
「いいよ、その方が! 綾波を殺すより僕が死んだ方がいい」シンジは悲鳴に近い声を上げた。
89 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:31:32 ID:???
「それは違う。碇君が死んだら私を止める手段はなくなっていた。人類が滅んでいたわ」
「それは……」シンジは何を言えば伝わるのか必死に言葉を探している。「それは理屈だよ。いくら正しくても感情は違う。僕は……僕はどうしても父さんが許せないんだ」
俯いたシンジの目から、また涙がぽたぽたと垂れてくる。
レイはシンジの手を取って強く握りしめた。シンジははっとして顔を上げた。
「碇君」レイはシンジの目を覗き込む。「碇君は、誰かを憎んだり恨んだりしては、だめ。私は……」
そう言うと、まるで落ちている言葉を拾うようにいったん下を向いた。それからまたシンジの目を見て、断固とした口調で言った。
「私は碇君にいつも笑っていて欲しい。私には碇君みたいに笑えないから。それっておかしい?」
シンジは目を瞬かせてまじまじとレイを見つめた。
「綾波……。僕が言ったこと、覚えてる? 本当は綾波は優しい性格なんだってこと。やっぱり僕は間違っていなかった」
「いえ、違う。人は他人の中に自分の姿を見るの。まるで鏡を見るように。碇君が私のことを優しいと思うのは、碇君が優しいから」
司令のことを許せないというのは、本当は自分が許せないということなのよ――とは言わなかった。
「そう……かな。難しいこと言うね、綾波は」
ちょっと困った顔をするシンジの顔を見ているうちに、ふと何かを思い出しそうになった。
「どうしたの?」
「いえ……。何か、碇君に言うことがあったような気がする」
「何かな?」
「それが……分からないの。でも、大事な……とても大事なことということだけは分かってる」
「色々あったから、しょうがないよ。ゆっくりでいいと思う」
「そうね」と、レイは言った。
沈黙の天使が二人の間をゆっくりと通り過ぎた。
シンジが咳払いをして、言い辛そうに、
「……綾波」
「え?」
「その……手が……」
「あ」
レイは慌てて手を放す。顔が少し赤くなっていた。
90 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:32:32 ID:???
「どうだ。積もる話は済んだかい?」
ちょうどいいタイミングでひょっこりと加持が顔を出した。
「ええ」レイが立ち上がった。「行きましょう、碇君。こんなところにこれ以上いる必要はないわ」
「いや、さすがにそういうわけにはいかないな」加持は苦笑した。
「うん。加持さんの言うとおりだよ。強引に出たら看守のおじさんにも迷惑かけちゃうし。結構僕によくしてくれたんだ」
レイは少しの間黙って考えていたが、「じゃあ、司令にかけあってくる」と言った。「司令の許可があればいいんでしょう?」
「まぁ、そうだな。あとはシンジ君の意志だ。どうだい、シンジ君」
「ええ、僕は……僕も、大丈夫です」
「少し待ってて、碇君」レイは静かに言った。

ゲンドウは書類から顔を上げ、驚きを示す、眉毛を数ミリ程度動かす仕草をしてみせた。
扉の前には、いかつい警備員の横にいるせいで普段よりも小柄に見えるレイの姿があった。いつものように背筋をぴんと伸ばし、滑るような足取りでデスクの前まで来る。
「レイ。もういいのか」
「はい。私は大丈夫です」
「そうか。無理はするな」
レイはそれには答えず、単刀直入に切り出した。「司令。碇君を出してください」
「シンジ……初号機パイロットは罪を償っている最中だ。あれのやったことは……」
「碇君も反省しています。お願いします」
レイは頭を下げた。
ゲンドウはレイを黙って見つめていた。ゲンドウが驚愕していることが分かるのは、冬月くらいのものだろう。次の言葉が発せられるまでいくばくかの時間がかかった。
「分かった。手続きはとっておく」
ありがとうございます、とレイは答えた。
レイが出て行くと、ゲンドウは椅子の背もたれに背中を預け、臍のあたりで手を組んで目を閉じた。
91 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:34:27 ID:???

本部から出て病院に帰る途中、アスカとばったり会った。加持に仔犬のようにまとわりついている。
レイを見ると、加持は露骨に助かったという顔で、「お、用事は済んだか? その様子だと司令の許可は下りたらしいな。じゃ、病院に戻るか」
アスカは加持の腕から手を放し、目を丸くする。「ファースト! あんた……もういいの? 酷い怪我だったって聞いたけど……」
頭から爪先までレイを眺め回し、「その様子だとそんなに大した怪我じゃなかったみたいね」
ほっとした雰囲気だった――と他人が指摘したらアスカは烈火のごとく怒りだしただろう。加持はもちろん何も言わず、無言でニヤニヤするだけだった。
「ええ」
レイはそう言ったものの、実際自分の怪我がどんな程度だったのか知らなかったし、興味もなかった。今こうして歩ければそれでいいのだ。
「そ。……あー」アスカは言いづらそうに口ごもる。「まぁ、何ていうか……色々あって落ち込んでると思うけど――あ、いや、落ち込んでるってのは
あんたじゃなくてシンジのほうよ。あんたは落ち込むってタマじゃないし――」
アスカはそこで一旦言葉を切ると、咳払いをして、「あーもう! 私が言いたいのは、要するにあいつを元気付けてやりなさいってこと! あんたしか出来ないことなんだからさ!」
レイは小首をかしげた。「私だけしか出来ない?」
「そうよ! 分かる?」
目をぱちぱちと瞬かせてレイは「……分かったわ、惣流さん」
「そっ……惣流さん……?」
目が点になって立ち尽くすアスカを後に残し、レイは少々ふらつく足取りで加持と一緒に病院に戻っていった。
92 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/15(火) 00:35:23 ID:???

 □

こうしてシンジは復帰した。学校はなくなり、子供たちは家庭教師をつけられて勉強することになったり――アスカとレイは拒否したため、シンジだけだったが――、
シンジの心には傷跡が残り、悪夢を見て夜中に跳ね起きたりすることはあるもの、おおむねいつもの日常に戻ったように思われた。
起こったことを考えれば、誰にとってもまずまず文句のない展開と言えた。
特に、赤木リツコにとっては理想的とさえ表現してもいいくらいだった。

リツコはタバコを口に銜えたままモニターをチェックしていた。タバコの煙越しのため、目を細めて見ている。
レイのシンクロ率を見る。案の定、以前よりかなり低く、何回テストしても低いままだった。
部屋に誰もいないときを見計らって、もっと上げるように指示すると、レイは戸惑った様子で、自分でも分からないがもう自由にシンクロ率を操作できなくなった、と告げた。
嘘をついてるようには見えなかったし、その理由もない。
つまり――。
「さて、と。いよいよね」タバコを灰皿に押し付けた。手に力が入っていることに気がついて、苦笑した。やっとこの日が来たのだ。力が入って当然かも知れなかった。
「お姫様は王子様と末永く仲良く暮らしました――。そんなことが通ると思ってるの、レイ? そうはいかないわよ。あなたにはハッピーエンドは似合わないし、私が許さないわ」
リツコは受話器を取り上げた。
さあ、いよいよ――
復讐の時間が、はじまるのだ。

(続く)
93名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 03:11:43 ID:???
おおGJです!
94名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 04:02:42 ID:???
乙でやんす!

リッちゃん(((((;゚Д゚)))))ガクブル
95名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 07:54:07 ID:???
ぎぃやああああ

96名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 09:56:51 ID:???
きたー!おつ!
97名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 10:53:12 ID:???
本当に乙
心から感謝
いよいよ最終話だな
がんばってくだしあ
98名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 11:14:05 ID:???
ゲンドウよりおっそろしいリっちゃんを見てしまうのか!
こりゃたまらんでゲス
99名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 18:45:43 ID:???
使徒より恐いリツコたん
100名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 22:53:59 ID:???
すげえ良い内容だ乙
101名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/15(火) 23:41:53 ID:???
と、糖分が足りない…
102名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/16(水) 13:24:26 ID:???
やっと読めたー乙です!
あと一話で終わるのかぁ…(´・ω・`)
103名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/16(水) 14:12:10 ID:???
おおおおおおおお乙です!!!!!
こんなすげえ話が読めて幸せすぐる

しかし…

リツコォオオオオオオやーめーてー

あと一話って!?
104名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/16(水) 14:30:07 ID:???
>>103
最後は長いから分割するって言ってたよ。つい最近
105名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/18(金) 15:03:31 ID:???
>>104
あ そうだったな
ありがとう

それにしてもあと2回で終了か・・・うう
106名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/18(金) 22:32:23 ID:???
この黒レイがみんなに反感買ってた去年から
俺はタダモノではないと思っていたぜ…

なんてなー

最終話楽しみにまっています作者様
107名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/18(金) 22:33:44 ID:???
あれ…去年って何
108名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/19(土) 22:22:55 ID:???
これだけのものを自サイトではなくここで公開してくれる神に感謝だよ
109名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/19(土) 23:18:10 ID:???
乙です。律子の復讐が怖すぎる。死にかけていたのを無理やり生き返らせてまでしたい復讐とはいったい何なのか。
引きが強くていいですね
110名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/26(土) 22:32:48 ID:???
まだかなまだかな
111名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/29(火) 01:05:58 ID:???
もうしばらくの辛抱だ
112名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 14:44:39 ID:???
投下マダー? 今年が終わっちゃうよー(泣)
113名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 15:17:27 ID:???
まさかのお年玉!?
114 ◆IE6Fz3VBJU :2009/12/31(木) 15:24:54 ID:???
いや……その……
115名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 15:28:40 ID:???
いいっすよ。気長に待ってますから。
116名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 18:35:49 ID:???
あせるこたぁない
単行本に比べたら全然早いくらいw
いつまででも待てるからがんばってね〜
117名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 19:04:19 ID:???
>>116

そうそう。世の中には三州公の突撃の結末を十年以上も明かさない佐藤大輔という作家もいることだしね
118名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/31(木) 19:31:13 ID:???
レス数が伸びてるから投下キタ━━━(゜∀゜)━━━!!とwktkした俺orz
119名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/04(月) 07:31:55 ID:???
お年玉投下もなかったかorz
120名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/07(木) 11:52:41 ID:???
投下待ち(´・ω・`)
121名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/09(土) 19:34:25 ID:???
そんなに急かさなくったって
122 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:19:56 ID:???
>>92

16.

――何だろう? 
シンジは不安げな面持ちで、カチカチと音を立てて数字が増えていく風変わりな階数表示盤を見つめていた。エレベーターの中は、どこか息が詰まるような感じがする。
つい先ほどリツコから電話があり、何でも用件はレイのことだという。何故僕なんですか、というシンジの問いかけに、リツコは、デリケートなことだから――と口を濁すだけだった。
それから――と、リツコはとっておきの秘密を告げるような口調で、誰にも言わないように、と付け加えた。
シンジには用件の内容は全く推測できなかったが、レイのことと聞いては行かないわけにはいかなかった。
「ようこそ、シンジ君」
ネルフ本部にあるリツコの私室は、持ち主の性格を表してか、整然としていた。おびただしい本が――ほとんどはシンジにはその内容すら類推できないような
専門書だった――きちんとラベリングされ、書架にずらりと並んでいる。
ミサトさんも少しは見習えばいいのに……と、シンジは頭の片隅で考える。もっとも整理整頓できるミサトは、もはやミサトではない気もしたが。
シンジは挨拶もそこそこに、本題に入った。
「いったいどうしたんですか、リツコさん。綾波のことだって言ってましたけど……」
「ここに来ることは誰にも言ってないわね?」リツコはシンジの質問に答えず、シンジに確認する。
「ええ……」シンジの顔に不安が徐々に浮かび上がってくる。
「そう」リツコは満足そうにうなずくと、机の引き出しから一枚の写真を取り出して立ち上がった。
「これを見て欲しいの」
「はい……」
シンジはリツコの顔から写真へと視線を移し――悲鳴を上げた。
「な……何ですか、これ!?」
写真にはエントリープラグ内のレイの姿が鮮明に映し出されていた。両脚は潰れていて、全身が血まみれの無残な姿がある。
「何って……この間の戦闘のあとのレイの写真よ」
シンジは写真から目を逸らそうとしたが、磁石のように吸い付いて離れない。
123 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:23:02 ID:???
「う、嘘だ……」
「なぜ?」
「だって……綾波は元気にしてる。参号機と戦ってから三週間も経ってないのに、こんなに酷い怪我が治るわけがない!」
「私が嘘をつく必要はあるかしら?」リツコは黒い眉を上品にしかめてみせた。言葉に詰まるシンジに、「これは本当のことなのよ、シンジ君。現実なの」
嘘だ、と再び呆然と呟くシンジ。突然吐き気を催したように腰を折り、口に手を当てた。
「シンジ君」
リツコはシンジに合わせて腰をかがめ、シンジの耳に囁いた。
「レイの秘密を知りたくない? いえ、違うわね。レイがこんな目に遭ったのはあなたの責任でもあるから、知る義務と責任があるわ」
シンジは限界まで目を見開いて、リツコの妖しく光る瞳を見つめた。

 □

呼び止められて振り向いたとき、レイは相も変わらぬ無表情だったが、リツコは以前とは違うものを見出していた。それはある種の穏やかさだった。
群雲のように湧き上がってきた嫌悪感をリツコは必死に抑える。
もう少し。もう少しで、この顔が絶望に歪むのを見られるのだ。
レイは、発音するために必要な最小限度分だけ口を動かした。「なに?」
リツコは腕時計に目を走らせた。「あなたさえ良ければ、今から一緒に来て欲しい場所があるのだけど」
「……何の用で?」
なぜ私が、という顔をするレイ。
「シンジ君のことで」
「碇君?」
レイの声にリツコでなくても分かるほどの感情がこもった。
「碇君の、どんなこと?」
「シンジ君が黒い球体から出てきたときのことを覚えてる?」
「ええ」
「それから本部まで侵入してきた使徒を迎撃するさいに、シンクロ率400%を超えたことも覚えてるわね」
「当たり前よ」
そんなに前のことではないのだから、忘れるわけがない。
「分析の結果、シンジ君があなたと同じということが判明したの」
「私と同じ!?」レイが目を大きく見開いて叫んだ。「どういうこと?」
124 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:24:20 ID:???
リツコは周囲を見渡すと、声をひそめた。「複雑な話なの。ここで立ち話をするわけにはいかないわ。何より、機密事項なのよ。……一緒に来てくれるわよね」
レイは少し躊躇ったが、結局はうなずいた。
リツコは内心ほくそえむ。こんなに簡単にいっていいのかと思うほど見事に引っかかってくれた。これもシンジのお陰だ。
「じゃあ、行きましょうか」リツコは、囁くように言った。

「どうしたの、レイ?」
エレベーターホールを出たところで突然立ち止まったレイを、リツコは、だだをこねる子供を見守る母親のような、少し困った笑顔を浮かべて振り返った。
レイは端正な白い顔を引き攣らせると、一歩後ずさった。
長い廊下の先にあるドアの向こうで、何かが待っていると本能的に分かったのだ。
何か、良くないものが。
「どうしたの? いったい」と、リツコは繰り返す。今度は笑いは浮かんでいない。目を細め、無表情になっていた。
レイはゆっくりと首を振った。「加持リョウジを病院に来させたのは、あなたね?」
「あら」リツコは目を丸くした。わざとらしい仕草だった。「よく分かったわね。正解よ」
「いったい、何が目的?」
「勿論、あなたのためよ。碇君に会いたいだろうと思って。私だと、立場上差し障りがあるから」
「嘘」
「嘘? なぜ私が嘘を?」心外な、という表情。これもわざとらしく、芝居がかっていた。
「あなたが私のために何かするわけがないもの」
リツコはレイの顔を穴の開くほど見つめると、急に笑い声を上げた。
「酷いわね。少しは他人を信じるものよ。……さ、もう行きましょう」
リツコはレイのほうに一歩進んだ。レイはかぶりを振った。「行きたくない」
ため息をつくと、「我儘は困るわ、レイ」
素早く手を伸ばすと、レイの左手首を掴んだ。
「放……せ」
レイは腕を引っ張り、びくともしないことが分かると、右手でリツコの身体を叩きはじめた。片手であり、また大人と子供ということもあって、何の効果もなかった。
「あらあら。そんなまどろっこしいことをしないでも、ATフィールドを展開したら済むんじゃないかしら?」
「そんなことをしたら、あなたが死ぬわ」
「別にいいわよ。やってご覧なさい」
「脅しと思ってるの?」
125 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:26:09 ID:???
「だからやってみなさい」
レイの頬が引き攣った。沈黙が分厚い壁のように二人の間に立ちはだかった。
「やっぱり、思った通りね。もうできないのね、レイ」リツコは唇の端を吊り上げる。「おめでとう、レイ。あなたは……人間になれたのよ。喜びなさい」
「何……言ってるの」
「まぁ、それは置いといて。どうしても行きたくないというなら、一つ教えて貰おうかしら」
「何を?」
「首を絞められる前に、あなたが母に言ったこと」
「……何も言ってないわ」
「言いたくないのならいいわ。シンジ君に話してしまうわよ? あなたが怪我したフリをして、シンジ君をエヴァに乗せたこと」
レイはねめつけるようにリツコを見る。
「好きにすれば?」平然と言い放つ。少なくとも、本人はそのつもりだった。
「本当にいいの?」と、リツコは、叱られてご飯なんかいらないとダダをこねる子供を諭すように優しく言う。
レイは黙りこんだ。シンジに謝ればいいだけの話だった。確かにバツが悪いが、取り返しのつかないようなことではないだろうと思う。何なら、リツコがばらす前にこちらから告白してしまえばいい。
「じゃあ、あなたがシンジ君に押し倒された場面を相田君に撮らせていたことは?」
予想外の言葉にレイは硬直した。「な、何で……」
「ふふ。実はね、あなたの部屋に盗聴器を仕掛けておいたのよ」恐るべき内容とは裏腹に、笑顔を浮かべて、「あなたは部屋に鍵もかけないし、こっそりコピーをとるのは楽なものだったわ」
レイはリツコの異常とも言える執念に絶句する。
「で、どうなの、レイ? 考え直してくれた? シンジ君、どう思うかしら。どうせあなたのことだから、あれをネタに言うことを聞かせようとするつもりだったんでしょう」
レイは一言もない。その通りだったからだ。
「さすがにこれは、ねぇ? シンジ君、あなたのこと――嫌いになっちゃうんじゃないかしら」
「……」
「さ、シンジ君に黙っていて欲しければ話しなさい」
レイは俯いて唇を噛みしめた。
リツコはレイの表情の変化を見逃さなかった。携帯を取り出して、「嫌ならいいのよ。今シンジ君に電話して教えるから」
「待って!」レイは白い顔をさらに白くして叫んだ。
「なぁに?」
「……やめて。言うから」
「やめてください、じゃないのかしら? 人に物事を頼むときは」
126 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:27:30 ID:???
レイは顔をゆがめる。「……やめて、下さい」
「よく出来ました」リツコはにっこり笑って、「それじゃあ言いなさい。あのとき、母に何と言ったの? 本当のことを言うのよ、レイ」
「……ばあさんは用済み」
「何ですって?」
「"所長がそう言ってるのよ、あなたの事。ばあさんはしつこいとか、ばあさんは用済みだとか"」
レイは目を閉じて、あのとき言った台詞を忠実に繰り返した。
「それ、本当に司令が言ったの?」リツコの顔はいつの間にか能面のように無表情になっていた。
「……」
「レイ!?」
リツコはレイの手首を握った手に力を込めた。くっ、とレイがうめき声を上げる。
「言いなさい。言わないとシンジ君に全てを話すわよ」
レイとリツコの視線が絡み合う。しかし、この勝負の決着はすでに着いていた。
「……でたらめよ。たまたま見ていたテレビドラマか何かの台詞を適当に変えて言っただけ。あのときはあなたの母と司令が付き合ってることも知らなかったし」
「そのでたらめで母さんを殺したのね」
「殺してないわ。あなたの母親は事故で死んだのよ」
「殺したも同然よ」
「だいたい、あの女が余計なコンプレックスを持っていたのが悪いのよ。そうじゃなければ……」
途中でレイは沈黙した。リツコがレイの頬を平手打ちしたからだった。
「それ以上何も言わないで。言うと殺すわよ。あなたじゃない、シンジ君を、ね。……さぁ、それじゃあ行きましょうか、レイ。楽しいパーティのはじまりよ」
「なっ。本当のことを言ったら行かないって……」
「あら。私はシンジ君にビデオのことを言わないって言っただけで、あの部屋に行くことは何も言ってないけど?」
「だ……騙したわね」
「あっはっは! あなたからそんな台詞を聞くなんてね。さ、もういいでしょう。パーティに相応しい特別ゲストも用意してるのよ。楽しみにしててね、レイ」
リツコはレイを引きずるようにして歩き出した。
レイはリツコの手に血が出るほど強く爪を立てて抵抗したが、リツコは全く意に介さなかった。
特別ゲスト。
レイの肌が粟立った。何が待ち構えているのか分からないが、レイの全身の細胞が、魂がこの先を拒否していた。
127 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:31:44 ID:???
「あ……あ……」
レイは生まれて初めての恐怖に遭遇していた。あまりの恐怖に言葉が出ず、ただ首を振って哀願するだけだ。
リツコはその表情をご馳走を目の前にした美食家のように見つめると、一見すると全く邪気のないような笑顔を浮かべた。
手を伸ばしてレイの顔を優しく撫でる。
「私はね、あなたのその顔が見たかったのよ。その顔さえ見られればよかったの。これで許してあげるから、もうおいたは無しよ」
レイの全身から力が抜けた。助かった、と思った。安堵のあまり膝を地面に着きそうだった。
「なんて、ね」
リツコはレイを引き寄せると、力いっぱい抱きしめて、愛しい我が子に子守唄を唄うような調子でそっと囁いた。
「冗・談・よ。あなたは、絶対に、許さない」
レイは、悲鳴をあげた。

「私はね、レイ」
「あなたが人間になるのをずっと待ってたのよ。この日が来ることをどんなに待ち焦がれたか、あなたには分からないでしょうね」
「多分、シンジ君に会う前のあなたなら、何の衝撃も受けなかったでしょう。だけど今は違う。あなたはシンジ君を知って人間になった」
「人間になったあなたが、あれを見てどんな風に思うか」
「いえ、違うわね。あれを見たシンジ君を見て、あなたがどう思うか、ね」
「楽しみだわ」
「私はこの日を何年も待ち続けてきたのよ」
「本当に、楽しみだわ、レイ」
「そう、何年も何年もね」
「これは報いよ」
「これは報いなのよ、レイ」
リツコはレイに向かってというよりも、独り言のように呟きながら廊下を歩いていく。
レイも、リツコに引きずられるように――いや、実際に引きずられていく。その顔から一切の表情が失われ、生気のなさはまるで人形のようだった。
すぐに扉の前まで来た。
「まずはあなたに見てもらわなければね」
128 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:32:57 ID:???

レイはリツコの足元にぺたんと座り込んで「それ」を待っていた。
それ――すなわち、破滅を。
巨大な獣がぱっくりと口を開けて、レイをその黒々とした洞の中に飲み込もうとしているのだ。
逃れる術はないことは、レイには分かっていた。
部屋の明かりは最低限度まで落とされている。傍から見ると、床に座り込んだレイの姿は暗闇に溶け、同化しているように見えるだろう。
リツコはずっと楽しげで、上機嫌だった。鼻歌すら歌っていた。
どれくらいの時間が経ったのか。レイには永遠にも思われたし、一瞬のようにも感じられた。
扉が開く、シュッという小さく擦れるような音は、レイにとって、世界の終わりを告げるラッパの音に等しかった。
そこにあらわれたのは――
当然、シンジだった。困惑した様子でおずおずと部屋に入ってくる。「リツコさん――?」
「あら。意外と早かったわね」時間通りと知りながらも、腕時計に目を走らせてリツコが言った。「もう少し気をもたせてよかったのに」
レイを見下ろしながら、ふふ、とリツコは含み笑いを洩らす。その笑みがシンジの後に続いて入ってきた人物を見て固まった。
「ここは一体……何なの?」
「ミサト……!?」リツコの驚きは、しかし、一瞬だった。「あなた、昨日夜勤だったでしょう? 寝不足はお肌に悪いわよ。お互い若くないんだから気をつけないと」
リツコのふざけた調子の台詞にも、ミサトは険しい顔つきを崩さなかった。
「俺もそう言ったんだがね」ひょっこり顔を出したのは加持だった。
「加持君!? そう……。シンジ君の様子に気がついたのはミサトじゃなくてあなただったのね」
加持は返答の代わりに肩をすくめた。
「私が夜勤のときを狙うなんてね。あなたらしいわ、リツコ。……で、あなたは何をしようとしているの?」
リツコは肩をすくめた。「まぁ、いいわ。せっかくの舞台だもの、観客が多いほうがやる気が出るわ。……私が何をするのか、ですって? これよ」
華やかな開会式の開幕を告げるように言うと、手に持ったリモコンのスイッチを入れた。
部屋の明かりがついた。
129 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:35:45 ID:???
「うっ!?」
「これは……!?」
三人は眩しさのあまり手をかざし――次の瞬間、それぞれの顔に驚愕を貼り付けていた。
水槽が部屋の周囲を半円状に取り囲んでいた。
そして、その中には――
「……綾……波……?」シンジが呆然と呟いた。
何人もの綾波レイが、おそらくはLCLと思われる液体の中に裸のままで浮かんでいた。
「人形?」と、本能的に違うと分かったものの、ミサトは掠れた声で訊いた。人形にしては生々し過ぎた。
「違うわ、ミサト。これは……レイのクローン。いえ、クローンという言い方はおかしいわね。別にレイのオリジナルがある訳じゃないのだから。
これは、レイのパーツ。そうとしか言いようがないわ。このレイが死んだらこの中のレイのどれかに意識が宿り、それがレイになるのよ」
このレイ――というリツコの言葉で、三人はリツコの足元に呆然と座り込むレイの姿にやっと気がついた。
「分かった? シンジ君。この子は人工的に作られた生き物なのよ」
「止めなさい、リツコ!」ミサトの鋭い声が飛ぶ。
「どうして? 私はシンジ君に約束したのよ。レイの秘密を教えるって」
「レイの秘密を教える……? 何でそんなことを……?」
リツコはため息をついた。
「親切心で……と言っても信じてもらえないでしょうね。……分かったわ。本当の目的は――復讐よ」
「復讐!?」
「そう。私の母は、レイに殺されたのよ。その復讐」
「何を言ってるの? あなたの母は八年前、交通事故で――」
「直接的な死因はね。間接的には、アルコールに溺れたからよ。そしてアルコールに溺れたのは、レイのせい」
「レイのせいですって?」
「そうよ。この子が母に酷いことをしたから」
「そんな……」ミサトは言葉を失った。「八年以上も前って……レイはまだ子供もいいところじゃない」
「子供かどうかは関係ないわ」リツコの顔が急に憎々しげなものに変わった。「それに、子供とか大人とか、そういう尺度では量れないのよ、この子は。なにせ人間ではないのだから」
リツコは何か言おうとするミサトを手で制して、「レイはリリスと、とある人物から造られたの」
「リリス?」
「第二の使徒」
「使徒!?」
130 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:36:27 ID:???
「そう。だけど、私たちの思惑とは違って、リリスの性質が強すぎた。コントロールがきかない存在になってしまったの。それはあなたもよく知ってることよね」
リツコはシンジの方を向く。「シンジ君?」
突然名前を呼ばれ、シンジはびくりと身を震わせる。
「あなたがネルフに招かれたのは、レイを抑えるためもあったのよ。結果、見事に――いえ、期待以上にレイは人間らしくなったわ。あなたには本当に感謝している」
どう答えていいか分からず、シンジは固まっている。
「あなたに会う前のレイだったら、出生の秘密を暴露しても鼻で笑うだけだったでしょうね。人並みになれたからこうやってショックを受けることができる。皮肉なものね」
「シンジ君を……利用したのね」
「その通りよ」
「何てことを――!」
「あら、あなたに私を責める道理があって? あなただって自分の復讐のためにシンジ君たちを利用してるんじゃないの? 復讐の道具じゃないと胸を張って言えるのかしら?」
ミサトは鋭い痛みに襲われたように顔をゆがませた。「それは……」
「いいや、そいつは違うな、りっちゃん」それまで黙っていた加持が口を挟んだ。「使徒と戦うことは止むを得ないことだ。それに少なくとも葛城はシンジ君たちの境遇に胸を痛めているよ。君はどうだい?」
リツコは降参するように両手を上げた。「そうね。私はあなたたちと違って、冷酷な人間だもの」
「それも違うな」加持は首を振った。「自分でそう思ってるだけさ」
「……分かったようなフリをするのは止めてくれる? あなたの悪い癖よ、加持君」リツコは内面の激情を無理に押さえつけているような、不自然なほど平坦な口調で言った。それから波立った自分の心を落ち着かせるように目を閉じ、
深呼吸をひとつする。目を開いたときにはリツコの心を波立たせたものは拭い去ったように消えていた。
「なぜシンジ君を呼んだのか、分かる、ミサト? それはシンジ君とレイには特別な関係があるからなの」
「特別な関係?」
「特別な関係と言えばね、母も私も、司令の愛人だったの」
軽い調子とは裏腹の内容に、その場の空気が凍りついた。
ミサトはシンジに素早く目を走らせた。「止めなさい、リツコ。事実かどうか知らないけど、そんなことを言う必要はないわ」



131 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:37:15 ID:???
「馬鹿な話よね。あの人の心には彼女がいつだっていたのに」リツコの唇が吊り上がった。「彼女って分かる、シンジ君?」
シンジは名指しされて、怯えるように一歩後ずさる。
「彼女というのは、さっき言った、レイの肉体のもとになったある人物のこと。つまり……」
「リツコ!」青ざめたミサトの叫び声も、リツコの囁くような声を止めることは出来なかった。
「碇ユイ。シンジ君の母親よ」
加持が素早く動いて、ふらりと倒れかかるシンジを支えた。
「本当は母の死が理由じゃないのかも知れない。あの人が私のほうを振り向いてくれないからなのかもね。いえ、もうどうだっていいわ。私はレイが憎い。理屈じゃないわ。憎くて憎くて仕方ないのよ」
リツコの目は炎を映しているように爛々と光り輝いていた。その目が下を向く。
「どう、レイ、分かった?」喉を仰け反らせて、狂ったようにリツコは笑った。「あなたなんかいくらでも代わりがいるのよ。でもね、レイ。あなたは絶対死なせないわよ。この光景を刻み付けなさい。心に焼き付けて一生、生きていくのよ」
「リツコ……」
ミサトは理解し、そして慄然とした。リツコの精神の暗さ、その深さに。
なぜリツコがことあるごとにレイ危険な任務を避けるような言動をとっていたのか。
最初の出撃のときからそうだった。リツコはなかなか出撃しようとしないレイを擁護した。
第五使徒戦のときもそうだ。より危険な防御役をシンジに、レイを砲撃手役に推薦したのはリツコだ。
参号機の実験でもレイを搭乗させるのにリツコは最後まで抵抗していた。
すべて、レイを死なせないようにとの意図だったのだ。
復讐のために。
「このバカ!」
ミサトはなおも笑い続けるリツコの元に歩み寄ると、頬を張り飛ばした。ぴしゃりという高い音が静まり返る部屋に響く。
「そう、私は馬鹿よ」打たれた方の頬に手をあて、リツコは俯いた。「どうしようもない馬鹿だわ」
それから、静かに涙を流しはじめた。
何か言おうと口を開いたミサトがよろめいた。突然跳ね上がるように立ち上がったレイとぶつかったのだ。レイはミサトに構わず、出口に向かって走り出した。
「レイ!」
その叫び声も、レイに追いつくことはなかった。そのまま長い廊下を駆け抜け、エレベーターホールに辿り着くとすぐに上ボタンを押した。
132 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:40:58 ID:???
幸いにも、ミサトたちが使ったままだったので、すぐに乗り込むことができた。
背中を壁に預けると、ずるずると床にへたり込む。
――見られた。
真っ白になった頭の中を、その想いだけが嵐のように渦巻いていた。
碇君にあれを。あの姿を。
私を。たくさんの私を。
恥ずかしいとか、みっともないとか、そういう感情を超え、ただ衝撃があった。
――知られてしまった。
ナオコが首を絞めるときに言った台詞が、唐突に蘇った。
……あんたなんか、いくらでも代わりはいるのよ。
いざ思い出してみると、なぜ忘れたのか不思議なほどはっきりと耳に残る言葉だった。
長年の疑問が解けた。なぜ、子供の言うことに本気で怒って殺そうとしたのか。
いくらでも代わりがいるからだ。あんなにいるんだから、一人二人殺したってどうってことはない。
レイは笑い出した。
自分でも止めることができない、ヒステリックな笑いがエレベータの中で反響する。
エレベーターを出て、自分の部屋にどうやって帰ったのか、記憶になかった。
気がつくと、バスルームで鏡を見つめていた。
赤い目をした綾波レイが鏡の向こうで冷笑を浮かべている。
そこで我慢ができなくなった。思い切り胃の中身をぶちまけていた。すべて吐いても吐き足らず、胃液まで吐き出した。苦痛のために目尻に涙がたまる。
饐えた匂いが立ちこめる中、喉から笛が鳴くような音を立てながら、蛇口をひねって汚物を始末する。
――とうとう見られたわね。碇君に。
鏡の中のレイがレイに向かって語りかける。
……あなた、知ってたわね。
――もちろん。あなたも知ってたでしょ?
……そう。私も知っていた。けど、忘れていた。いや、忘れさせられていた。
――あなたは、人間じゃない。
……私は、人間。
――人間にスペアはないわ。碇君にも葛城さんにも、セカンドパイロットにも代わりはいない。代わりはいるのはあなただけ。
……。
133 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:44:17 ID:???

レイは、こつん、と額を鏡に打ちつけた。
また、打ちつける。
こつん。
代わりがいるのは私だけ。
さらに、打ちつける。
人間じゃない。人間じゃない。私は人間じゃない。
こつん。
碇君に知られてしまった。私が人間ではないことを。
化け物だということを。
化け物だということを。
化け物。
化け物。
「ひっ」
レイは、叫び声を上げ、今度は思い切り打ちつけた。鈍い音とともに鏡が割れた。
額から血が流れ出て、レイの顔をまだらに染める。
赤い血。血? 人間じゃない化物の血。何故赤いの?
頭が割れるように痛かった。
胸がつぶれるように苦しかった。
「痛い……」
レイは呟いた。
「痛い……」
痛いのは傷ついた額ではなかった。痛いのは肉体ではなかった。
「痛い痛い痛い痛い」
痛くてたまらなかった。
苦しくてたまらなかった。
この痛みから、苦しみから逃れるにはどうしたらいいのか。
どうしたらいいのか。
下を見ると、鏡の破片に映る大量の顔がレイを見返していた。
心が決まった。
どうしたら――
レイは自然と破片を手にとっていた。その瞬間からレイの心を占めるものは、右手に握った鏡の破片と、自分の手首だけになった。
134 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:47:16 ID:???
「は……」
大きく息を吸った。
大きく息を吐いた。
破片を思い切り握り締めたせいで、手のひらが切れ、血が流れ出してきたが、痛みは感じなかった。これから自分がすることに比べたら、どうでもいいことだからだ。
大きく息を吸った。
大きく息を吐いた。
繰り返すうちに、呼吸は徐々に浅く、速くなっていく。
そしてその呼吸が止まると同時に、手首に押し当てた破片を思い切り――。
チャイムが鳴った。

綾波は肩を大きく波立たせながらドアのほうを見た。
破片を持った手が激しく震えている。
もう一度チャイムが鳴った。
「ひっ」
震えが激しいために、破片を落としてしまった。あわてて拾おうとするがうまく掴めない。
「誰……」
いや、分かっていた。訊くまでもないことだった。
がくがくと笑う膝を叱咤しつつ、幽鬼のように立ち上がる。
どうしよう。これからどうすればいいのだろう。
「綾波」シンジの声が聞こえてくる。「綾波。話をしよう」
いったん切れた気力は容易に取り戻せそうになかった。
特に、シンジの声を聞いてしまったあとでは。
話をする?
いったいどんな顔をして会えばいいのだろう。
このままやり過ごそうか……と考えたそのとき、ドアに鍵をかけてないことに気がついた。
「駄目!」
鍵をかけようとふらつく脚でバスルームから出ると、すでにドアが開きつつあるのが目に入った。
レイは悲鳴を上げて後ずさる。もう間に合わない。
「どうしたの、綾波!?」
悲鳴を耳にして飛び込むように入ってきたシンジだが、血に染まったレイの顔を見て立ちすくみ、息を呑んだ。「綾波! 怪我して……」
「どうして来たの?」レイの悲鳴にも似た問いかけの言葉がシンジのそれを遮る。
「どうしてって……綾波が心配だからだよ。それよりも、手当てしないと……」
135 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:50:57 ID:???
「嘘!」
レイはキッチンに放り出すようにして置いてあった包丁を手に取ると、シンジに刃先を向けた。
「こっ……来ないで!」
喉からひっ、ひっとしゃっくりのような音を立て、レイは包丁をシンジに向けたまま後ずさっていく。
「綾波……。その包丁……どうしたの?」
「……?」レイが何を言うのかと不審気な顔をする。少しだけ気持ちが落ち着いたが、そのことには気がついていない。「自分で……買ったのよ」
「そう。じゃあ、料理、作ってるんだね」
「……」
「食べたいな。綾波の手料理」シンジは言いながらじりじりと亀の歩みでレイに近づいていく。「包丁は……そういうことに使うものじゃないよ」
「来るな!」
シンジはぴたりと止まった。
「あなたも心の中で私を笑ってるんでしょう?」
「綾波……」
「人間じゃないって。私が人間じゃないから私の言うことを大人しく聞いてたんでしょう?」
「……」
「偉そうに言ってるけどあいつは人間じゃないって。何人でも代わりがいる化け物だって」
「……」
「化け物だって化け物だって化け物だって」
シンジは首を横に振って、レイを真正面から見つめた。長い時間をかけて結晶化した鉱物のような、澄んだ目線だった。
「そんな目で見ないで!」
レイはなおも後退しようとして、壁に突き当たったことを知った。
「綾波は人間だよ。そんなこと……言うまでもないよ」
「口だけの台詞を吐かないで。あなたの代わりがいる? いないわ。でも私の代わりはいる。これで人間と言えるの?」
「人間だよ」
「人間じゃないわ」
「じゃあ、いいよ。綾波はそう思っていればいい」
「!?」
「僕は勝手に綾波を人間だと思うから」
レイはまるで殴られたように仰け反り、喘いだ。「何それ……」
「本当だよ。僕は本当にそう思ってる。嘘だと思うなら――僕を殺してもいい」
136 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:55:40 ID:???
「出来ないと思ってるの?」
シンジは無言でレイを見る。
挑発――レイはそう、受け取った。
「馬鹿にして……!」
頭と、包丁を握り締めた手が真っ白になった。
そしてシンジに向かって突進する――とシンジは思うだろう。
矛先を自分に向けるつもりなのだ。
――その手には乗らない。
レイは高々と両手を振り上げ、切っ先を自分の胸に向けた。
「綾波っ!」
シンジの言葉とともに衝撃がレイを襲い、視界が天井から床に、左右にぶれた。
気がつくとレイは床に座り込んでいた。かすかな呻き声に目をやると、シンジが左手で右手を押さえている。右手からは血が流れていた。
「あ」レイは口を開けて言葉を発しようとしたが、それは形にならない。「ああ」
「うん。大丈夫。大した怪我じゃないから。ちょっと切っただけ。ほら」シンジが右手を見せると、手のひらをやや斜めに横断する形で傷がついていたが、
深くはなく、流れている血の量はそれほどでもなかった。「綾波の額のほうが心配だよ」
レイの全身から緊張が抜け出していった。
「い……碇君……」
レイは必死に口を動かす。
シンジに言う、大事な言葉。
今がそれを言う最後の機会だった。
しかし、やはりまだ何か大きな塊が胸につかえているようで、どうしても出てこない。
今、この一言を言わなければ、自分は多分壊れてしまうだろう。
壊れたくなかった。
レイの、血がまだらに絡みついた顔が大きく歪む。
「わ、わ、わた……わたし……」
極度の緊張から解放されたせいで、まるで雪山で遭難したみたいにガチガチと歯が鳴って言葉が出てこない。
「大丈夫だよ、綾波。さぁ、医務室へ行こう」シンジは立ち上がると、座り込むレイに促すように左手を差し出した。
「なぜ……」レイは、シンジを見上げる。
「え?」
137 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:57:08 ID:???
「なぜ、あなたは、私を……私のことを、そんなに……気にかけてくれるの?」
「それは……同じエヴァのパイロット同士だし……」シンジはそこまで言うと急に黙り込み、俯いた。すぐに顔を上げると、大きく息を吸い込んだ。両手をぎゅっと握り締めている。
「いや、それは違う。そんなことが理由じゃない。本当の理由は……僕は、綾波のことが、好きだから」
シンジは膝を床に着き、レイの手を取った。
それから、レイの目をまっすぐ見つめてもう一度言った。
「僕は綾波を、好きだから」
その瞬間、レイの胸につかえていた大きな塊は溶けて、消え去った。
「碇君……私も……」

私も、
私も、
私も――

大粒の涙がぽろぽろとレイの目から零れ落ちていった。
「私も、碇君のことが、好き」
たどたどしく言い終えると、シンジの胸に飛び込んで、子供のように声を上げて泣きじゃくりはじめた。
「大好き」
138 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 01:59:27 ID:???
Epilogue.

レイはATフィールドを反転させた。これでシンジがこれ以上侵蝕されるのは防げる。
――ありがとう、碇君。あなたに会えてよかった。
この間、あれだけ泣いたのに、また涙が零れ落ちてくる。
これが、最後の涙だった。
目を閉じ、決心すると、自爆装置に手をかけた。
「レイ、自爆する気!?」ミサトの叫び声が聞こえてくる。
そう。その通り。これから私は自爆するのだ。
レイは唇に血がにじむほど歯を食い縛った。死にたくはなかった。こんなことを思うは初めてだ。本当は死にたくない。
まだ、シンジと話したいことが山ほどあった。一緒に学校まで歩いていきたいし、料理も教えてもらいたい。
しかし、こうするしか方法はなかった。
シンジが死ぬよりはいい。それに――代わりはいるのだ。
「碇君、さよなら」
――次の私を、よろしくね。
シンジは叫んだ。「さよならなんて言うな、綾波! 絶対ダメだ!」 
「でも、これしかないの」
「そんなことないよ……なんとかなる。いや、僕がなんとかする。だから死んじゃダメだ、綾波!」
なんとかするって、一体どうするのだろう。絶望にレイは首を振る。
「綾波、君の代わりはいないんだから!」
その瞬間、天啓が雷光のようにレイの背骨を貫いた。
これは、何とかなることなのだ。
碇君と、私とで、きっと何とかするのだ。
根拠は何もないが、それは確信を超えて、自明のことのように思えた。
今日の次は必ず明日が来るように。
今日は雨でも、明日も明後日も雨でも、たとえ永遠に降り続くように思えても、晴れの日がいつかは来るように。
「……わかった。待ってるわ、碇君」
レイは手を元に戻して、モニターのシンジに向かって微笑んだ。

それは、綾波レイが生まれて初めて浮かべた、心からの――本当の、笑顔だった。

(了)
139 ◆IE6Fz3VBJU :2010/01/10(日) 02:05:26 ID:???
ということで半年近く続いたこのFFもこれで完結と相成りました。
ところでこのFFを書くに当たって2つほどの明確なきっかけがありまして、1つ目は
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/eva/1194401792/27 の

>リツコとシンジをつけた為に自分にはいくらでも替わりがいることを知ってしまって精神崩壊。
>お見舞い弁当(シンジ作)を食べて始めは嗚咽だったのが終いには号泣になって復活&デレ化か。

これを見たときに「何という自分好みのシチュエーション……。これは書くしかない」と、2ヶ月くらいかけてラストシーンと最初の部分を中心に1000行程度書いたものの、
全部で4000行以上は書かないといけないと分かって(実際は4800行ぐらいでした)、「長すぎ。そんなの完結できるわけがない」とやる気をなくし、
書きたいシーンを大雑把ではあるものの書いたという満足感もあり、そのままお蔵入りでした。
それを引っ張り出したのは、2つ目の理由、破を見てテンション上がったため+長いものを書く自信がついたためです。
それにしても、上のスレッドのレス書いた方が読んでてくれたりしたら面白いんですけど、まぁないかなー。

最後まで読んでいただき、感謝の念に堪えません。
お陰さまでというか、内容についてはほとんど後悔がありません。つたない部分、上手くいかなかった部分を含め、100%出し切ったと思います。
一つだけ、エピローグを本編に組み込んで、10年後加持と結婚して子供も出来たミサトのところに結婚式の招待状が届いて……というのをエピローグにしようか、
迷いに迷いました。上のエピローグだと、レイが助かるのか断定してないのがちょっと気になったというか。
まぁ蛇足に過ぎるかと思ったので削りましたが、今でも迷ってます。ってもう遅いけど。

正直こんなに読んでくれる人がいるなんて思いませんでした。(2、3人くらいかと思ってた)
みなさまの応援カキコがなかったら、とてもじゃないですけど終わりまで書けなかったでしょう。

それでは、またどこかで。

作者敬白
140名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 02:39:26 ID:???
乙すぎて死ねる
141名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 05:59:31 ID:???
UP A REI!(訳:レイがかわいいぜ!)
142名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 14:08:48 ID:???
>>139
GJ!!ハラハラしつつすごい楽しませてもらいました

も一つのエピローグも見たかった…
143名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 14:12:07 ID:???
144名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 15:06:53 ID:???
終わってしまった…
145名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 16:16:59 ID:???
半年間お疲れ様です
レイが生存するのかのあやふやな感じが好きだなあ
今年の目標は”なんとかんなる”で過ごしていこう
146タン塩 ◆349p5oDd5g :2010/01/10(日) 18:13:48 ID:???
素晴らしい作品を投下ありがとうございました。長いラストも一気に読んで
しまいました。実にいい。

ところで相談なのですが、この作品を『綾波レイの幸せ』に投稿しませんか?
管理人のtambさんが「2ちゃんに自分が直接書き込むのはまずいが、いい作品で
ぜひうちに欲しい」とおっしゃっていたので私が独断で書き込みました。もし
その気がありましたら一度綾幸のページからtambさんにメールしてみて下さいませ。
最後に住人の皆様、余計な書き込みをしたことをお許し下さい。
147タン塩 ◆WA.gERG/No :2010/01/10(日) 18:16:34 ID:???
トリップ間違えました。こちらでした。申し訳ない。
148名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 18:54:09 ID:???
また読み返す日も来るから、どこかに置いてあると嬉しい
余計な書き込みとは思わない
149名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 20:30:51 ID:???
タン塩さん久しぶりに見た
150名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 20:44:05 ID:???
綾幸の皆さんには頑張って頂きたい
151名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/10(日) 21:53:38 ID:???
>>139
完結お疲れ様です。

とても楽しませてもらいました。ありがとうございました。
152名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/11(月) 01:31:45 ID:???
こんな素晴らしい話をありがとう
一人目のレイとか数あるLRS-SSの中でも新鮮すぎた
最初はどうなることかと思ったけどレイの心の変化がとても丁寧で
ラストシーンまで違和感なく読めた
感動した 泣いた 乙すぎて何言ったらいいのかわからない
遅くなんてないので気が向いたらエピローグも見せてくれ
ほんと乙でした
153名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/11(月) 10:46:51 ID:???
どうせならもう一つのエピローグを綾幸でやればいいんでね?
このスレの住人なら綾幸にも行ってるだろうし、綾幸へのお土産にもなるだろ。
154名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/11(月) 23:19:49 ID:???
乙でした!!!!
黒レイに押され気味のシンジが最後ものっそい漢前でよかった!
幸せになってくれるんだな?
155名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/16(土) 05:02:39 ID:???
乙でした〜
156名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/19(火) 16:06:22 ID:???
hos
157名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/19(火) 21:28:10 ID:???
半年間お疲れ様でした。
とても面白かったです。
私は長いもの書けないから憧れるなぁ……。
158名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/19(火) 23:06:16 ID:???
短いのなら書けるんだね?じっくり話し合おうじゃないか
159157:2010/01/20(水) 02:38:30 ID:???
>>158
前スレでポカ波さん劇場っていうのを書いてましたので、大した話ではありませんがよろしかったらご覧下さいw
あまりの書き込み規制にこの度●を取得しましたので、書き上がったらそのうち投稿します。
……書き込み規制と年度末の忙しさに書き掛けのまま放置プレイしていたら脳内のネタが飛んでしまい、さっぱり指とシンジさんが動きませんが……。
160名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/21(木) 12:22:43 ID:???
シンレイ結婚生活5の初心者772ですけど、こっちにも別物書いても良いのかな?
161名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/22(金) 02:12:10 ID:???
反対する理由はない。存分にやりたまえ。
162160:2010/01/24(日) 12:47:50 ID:???
今書いてますので、第1話、今月中になんとか…
163つなぎ:2010/01/31(日) 11:35:54 ID:???
>>162さんが書き上げるまでの繋ぎに投下↓↓
※なお、私の発想と文章力の関係で所々不可解な描写があるので注意が必要です
164つなぎ:2010/01/31(日) 11:48:41 ID:???
>>163すいません、行が長過ぎて書き込めませんでした……orz

うう……修正してきます

お目汚しをしてしまってすいません
165つなぎ:2010/01/31(日) 13:13:14 ID:???
書き込めるかな?

1.

今夜は妙に明るい。午前2時を回ったというのに、月明かりで部屋は薄明かりが点いたように照らされていた。どういうわけか、虫も犬も猫も大人しい。静かな夜。
私は見慣れた白い天井を眺めていた。いや、私は天井など見ていなかった。少し大きめなスクリーンとして、脳内に残るあの日の映像をそこに投影していた。

ヤシマ作戦。私が碇君を守った日。碇君が私のために涙を流した日。それに戸惑う私に笑えば良いと碇君が教えてくれた日。

思えば、私は碇司令以外に笑顔を見せたことがなかった。そもそもネルフの職員とは必要最低限の業務会話ぐらいしかしていない。
勿論、碇君も例外ではなかった。同じ学校、クラス、パイロットであろうと、私は彼に必要以上に接触しようとしなかった。必要だから緊急招集を伝えに学校の屋上に
行ったし、ヤシマ作戦概要を伝えに病室まで足を運んだ。
碇君は積極的とまでは行かないが、どうにか私に接触しようとしていたように思える。教室ではチラチラ私の様子をうかがっていたし、ネルフで一緒になったときも
何かしら話しかけてきた。

どうして彼は私にかまうのだろう。私が同じパイロットだから?

何にせよ、私は人と上手に接する方法を知らない。いくら碇君が私に近付こうと試みても、彼が望む反応を返すことができない。
それにもかかわらず、彼は私に接触してくる。無愛想で事務的な反応しか返してこない私に。他のクラスメイトは二、三度私に話しかけると、その反応の薄さから
諦める者が大半だった。ネルフの中ではオペレーター三人はクラスメイトと同様で必要最低限の接触に留まり、赤木博士は研究や実験の話ばかりで、これも必要だから話
しているに過ぎない。葛城二佐は他に比べたら話かけてくる方だが、あの人は誰に対しても積極的な人だから私を受け入れる器量があるのだろう。

だけど、碇君と碇司令は違う。あの二人は社交的と言える性格とは思えない。不器用で人付きあい苦手な人間に見える。得意でもないのに、どうして私にかまったりするのだろう。

・・・・・・わからない・・・・・・
166つなぎ:2010/01/31(日) 13:55:18 ID:???
2.

小鳥がさえずっている声が聞こえる。仮説を立ててはその可能性を否定し、また新しい仮説を立てる行程を繰り返しているうちに、何時の間にか眠っていたようだ。
携帯電話を手に取り、時刻を確認すると午前7時になったばかりなのが分かった。睡眠時間が足りないのは明らかだったが、起きることにした。簡単にシャワーを浴び、
制服に着替えると、私は鞄の中を探った。手帳を探し当てると、開いて今日の予定を確認する。

今日は学校で授業を受けた後、ネルフ本部へ登庁。定期検診を受ける。確認が済むと私は手帳を閉じて鞄に仕舞い、アパートを出て駅へ向かった。
今日は朝日が随分眩しく感じる。睡眠不足のせいだろうか。目をこすり、瞬きをする。余計なことは考えずにさっさと眠るべきだったのだ。歩みを進めながら昨日の自分の
愚行を戒める。

今日は定期検診。そのことを考えると、少し気分が重くなった。あれは疲れる。そもそも何故、二人いるパイロットの内、私だけが頻繁に検査を受けなければならないのだろうか。
赤木博士は私が「特別だから」と言っていたけど、「特別」とはどういうことなのだろう。電車に揺られながら、回らない頭で考える。答えは出そうにない。

3.

授業は4限目に入った。根府川先生は例によってセカンドインパクトの講義を始める。生徒は惰眠を貪ったり、メールで他の生徒と雑談していたりして思い思いの時間を過ごしていた。
私はというと、窓から見える風景を眺めていた。別に他のクラスがやっているドッヂボールに興味があったわけではない。

碇君の視線を感じたのだ。

以前なら彼の視線に気を留めることなどしなかった。自分の容姿が人目を引くのは経験で分かっていたし、放っておけば相手も飽きて視線を逸らすことも知っていた。でも、あの日以来、
彼の視線が妙に気になる。他の人からの視線と違って、嫌な気はしない。でも、どうしてあげれば彼が喜んでくれるのか分からないから、いつも私は窓の外を見て気付かないフリをしていた。

今日もそれは変わらない。
167つなぎ:2010/01/31(日) 14:26:12 ID:???
4.

「レイ・・・・・・」
碇司令が私の目の前に立っていた。
「お前は大切な鍵だ」

私が鍵・・・・・・?よく分かりません。

「使徒を倒し、契約を満たすのだ。お前はそのためにスペアまで用意して生かされている」

その通り。私は契約を満たすために生まれ、使徒と戦うために生かされているのですもの・・・・・・。

戦えなくなったら私はどうなるのだろう・・・・・・怖い・・・・・・。

少なくともあの人は私は必要としなくなるだろう。私には存在理由が必要だ。

だって私には・・・・・・


・・・唐突に私は現実世界に引き戻された。筋肉の収縮による衝撃が私を目覚めさせたようだ。教卓に目をやると、根府川先生は既に居なかった。教室の掛け時計によると、
今は授業とホームルームの合間らしい。

あまり良い夢ではなかった。首筋に汗が浮かんでいる。私は肩の辺りで首を拭い、渇いた喉を潤そうと、廊下の冷水機に向かった。磨き上げられたスチール製のシンクに私
の顔が映る。

・・・・・・あなたには・・・・・・

シンクの中の私が何か言おうとしたので、私はペダルを踏んで水で流した。自分でも分かっていることなのに、はっきりと言葉にしてしまうのが怖い。
私は覚束ない足取りで自分の席へ戻り、ホームルームが始まるのを待った。
168つなぎ:2010/01/31(日) 15:14:27 ID:???
5.

ホームルームが終わり、クラスメイトは各々自分のグループに分かれて談笑を始めた。私は早々と荷物をまとめ、席を立った。元々、話をするような相手もいないし、
今日は用事がある。いつもより少し速いテンポで私は教室を横切り、廊下へ出た。

まだ放課後になったばかりのせいか、校庭の人通りはまばらだった。真面目な野球部は既に着替えを済ませ、ランニングを始めていた。疎開のせいで部員が3人に
なってしまったのに、彼らの情熱は一向に冷めない。あれでは試合はおろか、練習もままならないだろうに。

彼らのそんな姿を立ち止まって見ていると、背後から走ってくる足音が聞こえてきた。4人目の野球部員が現れたのだろうかと思って振り返ると、
走ってきたのは碇君だった。もう少し来るのを早くすれば野球部でもやっていけそうだ。

「碇君、野球部に入ってみたら・・・・・・」
私はふと、思ったことをそのまま口に出してしまった。
「野球部?えっと・・・・・・なんのこと?」
案の定、碇君は首を傾げた。
「いいの、何でもないから・・・・・・」
これ以上突き詰められると困る。中身などない発言だったのだから。
「そっか、それなら良いんだけど」
碇君は追及しないでくれた。やっぱり彼は優しい。
169つなぎ:2010/01/31(日) 15:16:23 ID:???
6.

「綾波、今日はもう帰るの?」
碇君が歩き始めた私にためらいがちに訊ねてきた。
「いいえ、本部に行かないと」
嫌な検査が私を待っている。
「そうなんだ」
私の答えを聞いた碇君は嬉しそうな顔をした。
「僕もミサトさんの着替えを届けに行くんだ」
「そう・・・・・・」
「うん、ミサトさん、最近忙しくて家に帰ってこれないんだ」
「そう・・・・・・」
「・・・・・・え〜っと・・・・・・」

校門を出る前に私たちの会話は途切れてしまった。お互い無言のまま駅まで歩いた。碇君は気を揉んでいたようだったけど、私は心地好かった。碇君の隣は暖かくて
居心地が好い。そうか、こうすれば良かったのね。もっと前から知っていれば良かった。もっと素直に彼に接触すれば良かったのだ。常に理想的な対応をする必要
なんて無かった。失敗ばかりでも、とにかくぶつかっていけば良かったのだ。
私は今、素直にこのままもっと碇君と一緒に居たいと思える。
170つなぎ:2010/01/31(日) 15:48:09 ID:???
7.

ネルフ本部行きの電車には殆ど乗客が乗っていなかった。まあ、ネルフ職員以外が本部に行くことは緊急時を除いてあまり無いだろうし、夕方から出勤する人も多く
ないから当然と言える。私たちは手近な席に座り、電車が動き出すのを待った。

「ねえ、綾波。ミサトさんが昇格したの知ってる?」
電車が動き出すと、碇君は不意に話を振ってきた。
「葛城二佐が?」
「一佐になったんだって。きっとヤシマ作戦の功績が認められたんだね」
碇君は嬉しそうだ。まるで自分のことのように。
「碇君の、おかげね」
「そ、そんなことないよ・・・・・・」
碇君は顔を赤くした。
「綾波が・・・・・・守ってくれたから・・・・・・」
碇君は顔を赤くしたまま俯いた。
「それが、私の役目だったから」
「でも、綾波のおかげだよ。綾波が零号機で守ってくれたから僕らは生きてる」
碇君は顔を上げて私を見た。
「私はエヴァに乗って戦わなければならないから・・・・・・」
私は目を伏せた。エヴァに乗らないと私は存在価値を失ってしまう。

だって・・・・・・

「だって私は・・・・・・」
その先を言おうとして、私の思考は立ち止まった。

・・・・・・自分はエヴァに乗るしかないって、そんなこと言うなよ・・・・・・

蘇るあの日の碇君の言葉、涙、暖かさ。やっと思い出した。もうこんな考え方をしてはいけないのだ。エヴァに乗ること以外で私を規定する何か・・・・・・まだ
見つけてはいないけど、きっと見つける。碇君にも手伝ってもらおう。

171つなぎ:2010/01/31(日) 15:56:42 ID:???

「綾波?」
顔を上げると碇君が私を見つめていた。
「着いたよ」
何時の間にか電車はネルフ本部に着いていた。ドアが開くと、碇君が先に立った。私も後に続こうと、立ち上がろうとした。が、疲労のせいか私はバランスを崩した。
「綾波、大丈夫?」
とっさに私の手を取った碇君が心配そうに私の顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫」

あなたがいるから

この手があるから

私はきっと大丈夫

その時、私は自然に笑えた気がした。





とりあえず着地 うわあ、えげつないくらいにレス連投してしまった・・・orz すいません・・・
172名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/31(日) 18:11:35 ID:???
投下乙
悪くない作品だから、言い訳などせず堂々とうpしたまえ
173160:2010/02/02(火) 09:57:17 ID:???
つなぎさんありがとう&乙です
感動したっ!

身内に不幸があって1週間家を空けてました
もうちょっと掛かりますのでよろしくおねがいします
174名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/03(水) 10:28:33 ID:???
エヴァ板良スレ保守党


175名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/03(水) 12:21:35 ID:WtdT5XOP
1~23番の二次創作小説SS(Side Story)のコミケや通販予定はないでしょうか?

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。) SS
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Dies irae
9. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒 SS
10. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世 SS
176名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/03(水) 12:22:22 ID:WtdT5XOP
11. TYPE-MOON
(1) 逆行最強化断罪スーパー慎二がペルセウスを召還する SS
(2) 凛がイスカンダルを召還するSS
(3) 逆行最強化慎二 OR 四季が 秋葉,琥珀 OR 凛を断罪する SS
(4) 憑依最強化慎二 OR 四季が 秋葉,琥珀 OR 凛を断罪する SS
12. ゼロの使い魔
(1) 原作知識有 助演 憑依転生最強化SS
(ウェールズ、ワルド、ジョゼフ、ビダーシャル)
(2) 原作知識有 オリキャラ 憑依転生最強化 SS
(タバサ OR イザベラの 双子のお兄さん)
13. とある魔術の禁書目録
(1) 垣根 帝督が活躍する OR 垣根帝督×麦野沈利 SS
(2) 原作知識有 垣根帝督 憑依転生最強化 SS
(3)一方通行が上条当麻に敗北後もし垣根帝督がレベル6実験を受け継いだら IF SS
14. GS美神
(1) 逆行最強化断罪 横島×ダーク小竜姫のSS(非ハーレム 単独カップリング ルシオラ も除外)
177名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/03(水) 12:23:46 ID:WtdT5XOP
15. EVA
(1) 逆行断罪スーパーシンジ×2番レイ(貞本版+新劇場版)のSS
(2) 一人目のレイが死なないで生存そのまま成長した一人目のレイが登場する(二人目のレイは登場しない)
P.S
エヴァンゲリオンのLRSファンフィクションで、レイの性格は大体二つに分かれます。
1.白痴幼児タイプのレイ
LRSファンフィクションで大体のレイはこの性格のように思えます。
白痴美を取り越して白痴に近いレイであり、
他人に裸や下着姿を見せてはいけないという基本的な常識も知らず、
キスや性交等、性に関する知識も全然無いか、それともほとんどありません。
このタイプの場合、逆行物では、シンジがレイに常識や人間の感情等を一つ一つ教えていくという「レイ育成計画」になってしまいがちです。
このタイプは、アニメのレイに近いと言えるでしょう。
2.精神年齢が高く、大人っぽいレイ
1番の白痴幼児タイプとは違って、他人に裸や下着姿を見せてはいけないという
基本的な常識くらいはあり(見られたとしても恥ずかしく思ったりはしないが)、
キスや性交等、性に関する知識は理論的に知っており、自分の自我が確立している、
(命令には絶対服従だが)感情表現がより豊富です。
このタイプの場合、 コミックスのレイに近いと言えるでしょう。
178名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/03(水) 12:24:42 ID:WtdT5XOP
16. BlackCat
イヴ×リオンのSS
17. 鬼切丸
鬼切丸×鈴鹿のSS
18. MURDER PRINCESS
カイト×ファリスのSS
19. 式神の城
玖珂光太郎×結城小夜 OR 玖珂光太郎×城島月子のSS
20. 大竹たかし DELTACITY 全2巻
21. ヴァンパイア十字界
蓮火×花雪 OR 蓮火×ブリジット
22. 地獄少女
(1) 不合理な 地獄少女の被害者(e× 看護婦,1期の看護婦、2期の 拓真を助けに来てくれた若い刑事,秋恵) 家族・恋人が 地獄通信に 地獄少女と仲間たちの名前を書くSS
(2) 極楽浄土の天使 OR 退魔師が 地獄少女と仲間たちを断罪するSS
(3) 拓真の 地獄少年化SS
二籠の最終回で拓真が地獄少年になるのかと思ってたんですが・・
地獄少年 ジル : 所詮この世は弱肉強食。 強ければ生き弱ければ死ぬ。
拓真 : あの時誰も僕を守ってくれなかった。
守ってくれたのはジルさんが教えてくれた真実とただ一振りの超能力
・・・だから 正しいのはジルさんの方なんだ。
23. 真・女神転生CG戦記ダンテの門
ダンテ× ユーカのSS
179名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/16(火) 19:14:47 ID:???
180名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/25(木) 19:34:50 ID:???
しゅ
181夏厨:2010/02/27(土) 06:32:04 ID:???
>>160 です、遅くなりました
始まりがイタモノっぽいし、微妙に長くなりそうですがよろしくです
182夏厨:2010/02/27(土) 06:37:16 ID:???
「敵シールド、ジオフロントへ侵入!」
「第2射、急いで!」
「ヒューズ交換、再充填開始」
「銃身冷却開始」
「目標に再び高エネルギー反応!」
「マズいっ!」
「ああぁ!」
「シンジ君!」
「綾波!」
「盾がもたない!?」
「まだなの!?」
「後10秒っ」
「早く…、早く…、早くっ!!!」
「いよっしゃあっ!」

「ミサトさん、綾波が…」

-----【零章・喪失】-----
183夏厨:2010/02/27(土) 06:39:32 ID:???

熱に耐えきれずに融解した零号機が横たわっている。
無理矢理引き抜かれたエントリープラグは焼け焦げて拉げ、ハッチの隙間からLCLが漏れ出している。
「綾波っ!うああああああっ!」
初号機から転がり出るシンジ。
目の前の絶望的な光景に我を忘れ、零号機のエントリープラグにとりつく。
「ウゥ…ウゥゥ…」
ハッチの開閉レバーを握ると、猛烈な熱さがシンジの両腕を襲う。
それでも強引にプラグを抉じ開ける。
ハッチが開くと同時に溢れ出す煮え立ったLCL。

「綾波!大丈夫か!綾波!」
暗いプラグを覗き込むシンジ。
咽るような匂いの湯気に霞んで中がよく見えない。
「綾波…」
身動きひとつしない白いプラグスーツが横たわっている。
シンジは急いでプラグから彼女を引き摺り出そうとする。

後ろからヘリのエンジン音。
次々と降りてきた救護隊や保安部、諜報部の何人もの男達が、引き剥がすようにシンジをレイと零号機のエントリープラグから遠ざける。
「あぁぁぁ…」
声にならないシンジの嗚咽。
今、肩と腰を抱き寄せながら少しだけ触れたその綾波の身体は、もう綾波ではなくなっている事を告げていた。
「僕を守るなんて…」
「僕が死なないなんて…」
やっと吐き出した言葉は、シンジの慟哭。
「自分には他に何も無いなんて、そんなこと言うなよ…」
「別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ…」
そのまま気を失うシンジ。
184夏厨:2010/02/27(土) 06:41:08 ID:???

作業する男達の無線。
力のない声で指示を出すリツコ。
「赤木博士…」
「プラグは回収、関係部品は処分して。」
「了解、作業、急げ!」

「…レイ、…シンちゃん」
電波障害から復帰したモニターでその詳細を見ていたミサトがつぶやく。

「碇…」
「…」
静まり返った発令所の広い空間を、冬月コウゾウの声が微かに木霊した。


病室のベッドの上で意識を失って、もう7日間眠り続けるシンジ。
傍らの硬いパイプ椅子に座るミサトは苦悩していた。
自らが指揮した「ヤシマ作戦」は事実上成功。
多くの被害と犠牲の中、第5使徒を殲滅。
零号機・初号機とも大きく損壊はしているが、1週間もすれば80%以上は修復されるという。
「問題はファーストチルドレン…」
そう、シンジがここに眠り続けている理由も「綾波レイ」に依る処だ。
あれだけの戦いの後そんな事実を知らされたら、シンジでなくても精神に絶望的なダメージがないはずがない。
今、ファーストチルドレン・綾波レイは…。
185夏厨:2010/02/27(土) 06:42:20 ID:???

プシュッ
ミサトが思考のループに陥っている背後で病室のドアが開く。
「葛城一尉、赤木博士がお呼びです」
「あぁ、マヤちゃん、リツコ戻ったの?」
「はい、研究室までお越しくださいとのことです」
「そう…、マヤちゃん、またシンちゃんの事お願いしていい?」
「はい、博士からもそう言われて来ました」
「シンちゃんの容態は良好よ、問題は意識がいつ戻るかだけだから」
「わかりました、何かあったらすぐにお知らせします」
「悪いけどお願いね、なるべく早く戻るから」
「少しゆっくりしてください、一尉」
「ありがとう、寝てるからってシンちゃんを襲っちゃダメよ?」
「そんな…一尉…」
「冗談よ、ジョーダン、ヨロシクねん♪」
「は、はい…」
床に投げ出したままだったジャケットを無造作に着て、つとめて明るく振舞いながらミサトはシンジの病室を出ていった。
マヤは「ふぅっ」と溜息をついた後、シンジの身体を拭くために用意された小さめのたらいにお湯を作る為に給湯室に向かう。

シンジが倒れてからの一週間、マヤは冬月副司令の命でミサトと交代にシンジの世話をしていた。
栄養剤の投与で食事の心配はなく、糞便の処理などは看護師が行っている。
特別何かをしてあげる必要は何もないのだが、マヤの性格上何もしないという事に堪えられない。
それをミサトに相談すると、「横にいて、シンジ君が起きたら私に報告すればいいだけよ?でも…そうね、お風呂に入れてあげられないから身体でも拭いてあげてくれるかな?」と言われた。
当初当惑したが、元来律儀すぎるマヤは2日目にはそれを任務として過ごす事に矛盾は感じなくなっていた。
発令所に戻ると、シンジの世話を焼くその自分の姿を思い出して苦笑もするのだが。
186夏厨:2010/02/27(土) 06:43:52 ID:???

「今日もここで寝なくちゃダメかな?」
ミサトが出て行った今は、碇司令かリツコの指示が出ない限りマヤはシンジのそばを離れることが出来ない。
使徒の襲来の際はその限りではないだろうが。
固く絞ったタオルでシンジの華奢な身体をなぞる。
病衣の下の筋肉が昨日よりまた落ちてしまっている。

「こんなに細い身体であんなものに乗って…」
目の前の少年に使徒という得体の知れぬ敵の殲滅を任せなくてはならない自分達の許しを請うように、マヤは優しくシンジの身体をなぞる。
「シンジ君…このまま…目を覚まさないなんて事ないわよね…」
心の奥にある不安を口にしてみる。
「レイちゃんもICUから出られないみたいだし…、さあシンジ君綺麗になったわよ、早く目を覚ましてね」
言って自分の心のざわめきを感じる。
それはつかみどころのない不安。

病室の照明を落とすと、それはマヤの心を孤独にする。
疲労しているのはマヤも同じなのだろう。
自分の孤独を埋めるように横たわるシンジの手に優しく触れながら、マヤはいつの間にか眠りに落ちた。


つづく
187名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/27(土) 14:55:59 ID:???
投下キター
期待してます!
188名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/27(土) 23:07:46 ID:???
投下キター
ってまさかいきなり二人目お亡くなりですかorz
続きに期待。
189名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/28(日) 22:18:02 ID:???
規制すごくてなかなか書き込めなかったけどつなぎの方
超乙でした!!新劇っぽい雰囲気に身悶えた

それからぽか波さん!!超ファンです
がんばってください!

夏厨さん連載乙!

破の発売に向けてまた賑わっていくことに期待
190名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/01(月) 03:37:29 ID:???
テスト
191名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/04(木) 14:11:27 ID:???
規制解除かな?長かったー。皆さん乙です。
192名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/04(木) 18:11:45 ID:???
綾幸に投下来てるね
193 ◆IE6Fz3VBJU :2010/03/05(金) 02:20:58 ID:???
えーお久しぶりです。
タン塩さんのお勧めの通り、「綾波レイの幸せ」に投稿することにしました。
つきましてはもう一つのエピローグと(まぁ大したことないんですが)、シンジ視点のコメディっぽい、いや「ぽい」というより完全コメディの後日談を付け加えました。
掲載されるのは来週頭ぐらいになるだろうとのことです。よろしければ見てやって下さい。
ではでは。
194名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/05(金) 05:39:52 ID:???
黒レイ楽しみだ
夏厨氏も引き続き頑張って頂きたい
195名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/05(金) 09:32:27 ID:???
まさかの黒波さんキターーーーーーーー
196名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/05(金) 09:41:14 ID:???
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
197名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/05(金) 11:00:46 ID:???
グレイきたのかwwwwwwグレイ待ってるよグレイwwwww
198名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/05(金) 20:41:36 ID:kY6Sdyho
乙です!
199名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/06(土) 12:05:04 ID:???
おお、いいね、ここもいいところだけど、ちゃんとしたサイト持ってるところにアップした方がss作家としては今後が良いと思います。
新作楽しみにして待ってます。
200名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/06(土) 19:58:08 ID:???
綾幸のぞいて来たが、分量が多いから来週頭は厳しいってさ
201名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/07(日) 02:04:51 ID:???
グレイ超乙!!!!!!
またグレイに会えてうれしい

夏厨氏もポカ波氏も楽しみにしてます
202名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/09(火) 07:00:56 ID:???
綾幸にグレイキター
203名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/10(水) 17:46:29 ID:???
綾幸でグレイ(一人目は笑わない)を最初から読み返したがやはりいいな。
最初の頃のドSなレイがどんどん可愛くなっていくのが無理なく読める。
おまけのラブコメは吹いたww
204名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 06:58:45 ID:???
「一人目は笑わない」を通して読んだ。
ここに掲載された時より少し推敲されてる?
リアルタイムで読んだ時も良かったが、
まとめて読むと二度目でも結構緊張する。
205名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 18:38:18 ID:???
通りすがりだが投下しておk? 短いが…
206名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 18:39:28 ID:???
改めて読んでも最初の頃のレイのエグさはハンパないもんな
207名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 18:40:21 ID:???
>>205
構わん、やりたまえ。
208名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 19:00:54 ID:???
稚拙でもおk?
209名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 19:32:55 ID:???
誰でも最初は素人さ
210名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:10:20 ID:???
じゃぁ遠慮なく
211名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:15:17 ID:???
真夏の常夏。気温が下がることのない日々。セカンドインパクトの名残は今も残り続けている証に、強い陽射しは照ること以外知らないかのようにその自身の存在を映し出している。
紅く染まりあげた海面にも惜し気もなく爛々と照りつける様は不思議と威風堂々しているようにも感じられた。

「こんなに暑いのに季節は12月か。本当にセカンドインパクト前は寒かったのかな……」

納得いかない、と愚痴を零しながら点々とアスファルトに黒い染みを残していく。流れ落ちる汗が邪魔で仕方ない。
ハンカチを出せばいい。確かにそうかもしれない。だが残念なことに、買い物袋で両手は塞がっている現実。今は為す術もなくただ歩いていくだけであった。

「にしても酷いよなアスカもミサトさんも。材料ぐらい買ってきてよ……いや無理か」

たとえ買ってきたとしても要らないものが沢山増えること間違いない。生活費を握ってる身としては不安が募るばかりだ。
きっとビールにお菓子などキリがない。下手をすれば新商品だからと言って、なんでもかんでも買う可能性もあるだろう。

「なんか損な役回りだなぁ……」

いまさら何を言ってるんだ、と苦笑いしながら兄のように慕ってる彼を思い出す。

「ホント、いまさらですね」

自分でも苦笑しながら角を曲がる。ふと先に、見慣れた蒼髪を見かけた気がした。

「綾波……?」

見慣れた制服姿、そして蒼髪に白磁器のような肌。間違いない綾波だ。
212名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:17:11 ID:???
「綾波ー!」

「……碇くん」

振り向いた彼女は、目をパチクリさせながら何でもないように零す。

「どうしたのさ? こんなとこで会うなんて珍しいね」

普段外で見かけない分こんなことを漏らす。
ふと、日傘いらないのかなぁと考えてしまう。

「散歩」

「……へっ?」

「散歩してるの」

いきなりだったもので素っ頓狂な返事をしてしまった。恥ずかしいと顔に朱を差す頬を掻く。

「そ、そうなんだ。僕は買い物。重いのにアスカもミサトさんも手伝ってくれなくてさ」
213名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:17:52 ID:???
ははは、と乾いた笑いをしながらつい愚痴を零す。
すると目の前に差し出された手。
目を白黒させついつい手を凝視してしまう。

「荷物……」

「……? 碇くん?」

なんのことかと合点するのに数秒を要した。

「あぁっ! もしかして持ってくれるの?」

コクンと頷く彼女。

「じゃぁ片方お願いできるかな?」

差し出す荷物、軽く触れた手にドキリとしながら荷物を渡す。
じわりと熱を持つかのように触れた部分が熱くなる。

「綾波、手が赤いけどやっぱり重かったかな?」

「そう……大丈夫だから」

イマイチ掴めない返事をしながら共に歩く。

暑さはかわらず、夏の面影を残したまま今年の冬が続いていく。騒がしく蝉もただ、いまはそれに身を任せていく。会話もなく、けど不快でない。ただ家に着くための帰路、一緒に歩いているだけ。

日常の一ページ。

アスファルトに二つの黒い染みを点々と跡を付けながら。
214名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:19:40 ID:???
以上で終わりです。
ただ終わり方がイマイチなのは即興なのであしからず。
215名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/15(月) 20:45:25 ID:???
なかなかいい作品だから言い訳せずに堂々と投下したまえ
216名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/16(火) 18:59:02 ID:???
短編としてはかなり良かったと思うよ。二人の何気ない距離感とかが良く出てたと思う。
これからも書いてくれたらうれしいな。
217名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/26(金) 05:32:03 ID:???
ほす
218名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/05(月) 17:36:05 ID:???
ひたすら投下待ち
219名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/12(月) 15:58:44 ID:???
綾幸って掲示板にも短編投下来てるのな
気づかなかったわ
220名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/12(月) 18:14:24 ID:???
なんてもったいない…
221夏厨:2010/04/13(火) 01:27:59 ID:???
規制長いな、やっとイケそうかな?
もうちょっとで続きできますが、既に需要がないかも?
よろしければがんばります
222名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/13(火) 02:19:40 ID:???
>>221
見てるぞ、頑張れー!
223名無しが死んでも代わりはいるもの:2010/04/14(水) 19:15:10 ID:???
待ってる、頑張れ!!
224夏厨:2010/04/22(木) 01:51:37 ID:???
そろそろいきます
推敲してないし、まだ主役がマヤちゃんですがw
ちゃんとLRSにしますんで許してください
225夏厨:2010/04/22(木) 01:53:41 ID:???
(・・・この娘をここにもう一度戻しても司令を喜ばせるだけ)
(・・・私がここで全てを壊せばそれでお終い)
(・・・私に出来ることは何だろう、私は何をしているのだろう)

-----【壱話・人がつくりしもの】-----

「レイ、私がわかる?」
「赤木・・・博士・・・」
「さあ、そこにある服を着て、碇司令のところまで行くわよ」
「・・・はい」
リツコは目を覚ましたレイにそう言うと、手にしていたコーヒーカップをデスクの上に置いて立ち上がる。
既にレイを再生して3日目。
シンジが昏睡のまま戻らない事から、いつ来るとも知れない使徒の襲撃に備えて碇ゲンドウの指示は「とにかく急げ」と言うものだった。
(まだ早すぎるかもしれない、体力も・・・精神の構築もまだ・・・)
リツコの心に不安が過ぎるが、あの第三使徒の襲撃の際にもゲンドウは手負いのレイを出撃させようとした事を思えば当然の事なのだろう。
226夏厨:2010/04/22(木) 01:55:14 ID:???
古びたエレベーターの中、レイはリツコの後ろに朦朧と立っている。
見覚えのある光景、聞き覚えのある音。
「碇・・・くん・・・」
エレベーターの音にかき消され誰にも聞こえない声で、レイはそう呟いた。

「着いたわよ、早くいらっしゃい」
エレベーターが止まりドアが開くと、薄暗いロビーに脚をなげたリツコはそう言ってさらに真っ暗な廊下を進む。
「司令、ファーストチルドレンをお連れしました」
ゲンドウの執務室のドアの前に立ちリツコは言う。レイは無表情でその後ろにいた。
「入れ」
冷たい金属質の扉の奥から聞こえる声。同時にその扉が「プシュッ」と音を立てて開く。
「失礼します」
何歩か踏み出してゲンドウの姿を確かめるリツコ。
デスクに肘を突き両手を口の前で組む姿勢で、ゲンドウはこちらを睨みつけているように見える。
「何をしてるの、レイ?入りなさい」
入り口で立ち止まっているレイをリツコが急かす。レイはゆっくりとその部屋に入った。
227夏厨:2010/04/22(木) 01:57:34 ID:???
「司令、今のところファーストチルドレンは・・・」
言いかけたリツコを無視するように言動が眉を上げる。
「レイの状態に異常はないか?」
少し躊躇してからリツコは事務的に応える。
「…問題ありません」
眼鏡の奥のゲンドウの瞳が微笑むように見えたのはリツコの思い過ごしだろうか?


「そうか…、すぐに戻って現在のレイの記憶データを明日までに報告しろ」
「判りました」
「明日の旧東京の鉄くずの件は赤木博士は行かなくていい、葛城君に行かせろ、以上だ」
「はい」
リツコはゲンドウの安堵したような表情に少し苛立ちを覚え、あえて問いかける
「…司令」
「どうした」
「サードチルドレンの回復、思わしくないようですが」
「問題ない、使えなければ取り替えればいい、代わりの予定は繰り上げた、来るまでレイを戦闘待機できるようにしておけ」
「はい」
そんな言葉でゲンドウを動揺させる事など出来ない自分に苦笑するように、リツコは返事をして執務室から出る。
228夏厨:2010/04/22(木) 01:58:54 ID:???
「行くわよ、レイ」
「…」
何も言わずリツコの後を歩くレイ。
「赤木博士・・・」
思いの堰を切ったかのように、レイが問いかける。
「どうしたの、レイ?」
「…教えてください」
「…」
「サードチルドレンはどうなったのですか?」
「あなた、シンジ君に興味があるの?面白いわね、シンジ君は身体はもう大丈夫よ」
「何処にいるのですか?」
「今は眠っているわ、昏睡状態、いつ意識が戻るかは彼の気力次第ね」
「…」
「どうしたの?会いたいの?」
「…判りません」
「今は会わせるわけにはいかないわ」
「…」
暗い廊下での会話は、冷たく無意味に二人の足音にかき消されていった。
229夏厨:2010/04/22(木) 02:01:40 ID:???
早朝、シンジの病室。
似合わない軍帽をつけたミサトと、交代に来たマヤ。
「レイちゃん、無事だったんですね」
「…あの状態で、信じられないわね」
「でも良かったです、シンジ君が目覚めたらきっと喜ぶと思う」
「そうね、そうだといいわね」
「シンジ君があの時プラグから引き出したおかげですね」
「ほんと、そのせいでこんなになっちゃったんだけど…」

途切れる会話。
重い空気を切るようにミサトは襟を正す。
「じゃあマヤちゃん、今日は丸一日シンジ君の事任せるわよ?」
「葛城一尉、いつ戻られるのですか?」
「日付が変る前までには来るから、あんなところに長くいたってつまらないものね」
「お気をつけて、シンジ君の事は大丈夫ですから」
「ふふふ、すっかり板についたって感じね?いっそのことシンジ君の保護者の件、マヤちゃんに押し付けちゃおうかしら」
「そ、そんな事無理ですよっ!」
「いや〜ね、冗談よ、んじゃちょっくら行って来ますか〜♪」
230夏厨:2010/04/22(木) 02:03:06 ID:???
病室を出るミサト。廊下に誰かいる。

「レイ?何してるの?」
「…」
「シンジ君の事が心配で来たの?」
「…」
「もう、何か言いなさいよ、シンジ君なら今は面会謝絶よ?リツコか司令に許可を貰いなさい」
「…わかりました」
踵を返して去るレイ。

「何よあの子、でも心配するなんて気持ちがあの子にもあったんだわね」
独りごちるミサト。
「リツコを問いたださなきゃ、レイの事も、それになんだか知らないけど今日のお披露目だかもドタキャンするし」
不満げにしながらも、軍帽を直す仕草で旧東京へ向かうミサトだった。
231夏厨:2010/04/22(木) 02:04:32 ID:???
「レイ、あまり歩き回らないでちょうだい」
リツコの研究室。ミサトからの報告でレイがシンジの病室の前にいたことを知り少しイラつく。
「多少の記憶は残っているようね、でもそれはあなたの記憶じゃないの」
「・・・」
「あなたが今しなきゃいけないことはセカンドチルドレンが来る前にエヴァとのシンクロ率を上げておくことよ、サードチルドレンがあの状態なんだからセカンド一人で使徒と戦わせる訳にはいかないんだから」
「・・・」
レイが少し眉を顰めた気がした。
「どうしたの?何か言いたい事でもあるの?」
レイの様子がおかしい。
「サードチルドレン・・・碇君・・・初号機パイロット」
「?」
「・・・碇司令の息子」
レイの瞳から涙が溢れ出す。
「あなた、泣いてるの?」
「・・・わからない」

(どうしたのかしら?データとしての記憶以外この子には何もないはずなのに・・・)
「今日は送ってあげるわ、自分の部屋に戻りなさい」
「・・・はい」
リツコの研究室を出る二人だった。


つづく
232名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/22(木) 07:49:58 ID:???
otu
233名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/22(木) 20:25:34 ID:???
乙。
第五使徒でレイが死んじゃった分岐かな?シリアスっぽいのでこれからシンジがどうなるのかワクテカしてます。
234名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/29(木) 22:56:28 ID:???
ヾ(*'-'*)
235名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/30(金) 18:12:14 ID:???
わくわく
236名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/11(火) 22:48:19 ID:???
237名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/24(月) 07:53:01 ID:???
238名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/30(日) 16:43:25 ID:???
hosyu
239名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/01(火) 22:14:04 ID:???
エヴァ板良スレ保守党


240夏厨:2010/06/03(木) 09:43:09 ID:???
解除?
241夏厨:2010/06/03(木) 09:44:21 ID:???
じゃ、がんばってみる
月中旬には続きを…
242名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/03(木) 15:17:47 ID:???
待ってる
243落ち着いて:2010/06/06(日) 06:52:16 ID:???
LRS小説
244名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/07(月) 17:49:15 ID:???
まだ?
245名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/08(火) 13:11:39 ID:???
まだ上旬だろう
246JUN:2010/06/08(火) 20:54:17 ID:???
保守だと思ってください。綾幸のJUNです。

「綾波、綾波、起きてよ」
「ん……」
 レイが気だるい声を上げる。ころんと寝返りを打ち、また眠ろうとする。
「ちょっとちょっと綾波、起きなきゃ遅刻だよ」
「後五分……」
「綾波、もう九時なんだってば」
「え!?」
 急にレイが起き上がり、きょろきょろと辺りを見回す。
「何ですぐ起こしてくれなかったの……」
「起こしたよ。そのたびに綾波、あとちょっと、後五分ってさ」
「……いいわ、最初の講義は休む」
「綾波い……」
 ぽとんとベッドに横たわってしまったレイに、シンジは情けない声を上げた。
「揃って講義休んだら、またからかわれるよ」
「問題ないわ。あなたとの噂なら」
「綾波、大体眠りすぎだよ。いっつも僕の部屋に来るたび……」
「それは碇くんが悪いわ。いつまでも眠らせてくれないんだもの」
「い、いやその、だって綾波が悪いんじゃないか。裸の上にワイシャツだけで僕のベッドに潜り込むなんてさ、卑怯だよ。そんなの」
「だって、碇くんがパジャマを買ってくれないから」
「い、いやそれは」
「それに、裸シャツを可愛いって言ったのは碇くんだわ。“かわいいよ、綾波……”って」
「う……」
 言葉に詰まってしまったシンジに、レイはさらに続ける。
「私はいつも講義に遅刻するって言ってるのに、碇くんは毎回構わないって、最初の講義は休めばいいって」
 
247JUN:2010/06/08(火) 20:54:58 ID:???
 言うとすぐにシーツを被り、眠りにつこうとする。しかしシンジはつかつかとベッドに歩み寄り、
「……綾波、さっきから聞いてれば随分言いたいこと言ってくれたね」
 言ってレイに覆い被さる。
「え、ちょっと、碇くん……」
「大体綾波が誘惑するからいけないんだ。綾波がいつも、好きよ、なんてベッドの中で言うからだめなんだ。分かってるでしょ?」
「そ、それは――」
「自分のことを棚にあげるような悪い子には、お仕置きだよ」
「え、いかりく――んっ…………」
 シンジがレイの唇を奪う。甘く、深いキス。
「だめ、碇くん、二コマ目は、必修……」
「綾波がきちんと反省するまで、離さないよ……」
「もう、留年しても、知らないから……」
「なら、綾波も道連れだ。一緒に留年しよう」
「私はしないわ。大学へ――」
「だったら、綾波をその気にさせれば、いいんだね……?」
「え……ちょっとちょっと、いかりく、あ、だめ……」
 なおも抵抗の兆しを見せたレイに、シンジは耳元でとどめの一言を囁いた。

「愛してるよ」

「あ……」


「………………レイ」


 結局、講義には遅刻してしまった二人だった。
248名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/08(火) 22:15:04 ID:???
いきなりすぎて驚きより笑いが先にきた
249名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/08(火) 22:36:35 ID:???
この人の良さはゲロ甘だからいいじゃない

JUNさんと同い年で女やってる私にゃ直ぐ性的な方に飛んでくのはあんまり頂けないんだけどww

個人的にゲロ甘はたまに読むのとちょうどいい。乙でした〜*^ω^*
250名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/08(火) 23:20:47 ID:???
乙です!
251名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/09(水) 00:04:17 ID:???
乙!
感謝感謝!
252JUN:2010/06/11(金) 23:36:37 ID:???
どもです
えと、もう一本。多分今まで書いた中じゃ最速です

「腕、組んでいい」
「いいよ」
 嬉しそうに微笑んで、レイはシンジの腕にしがみついた。
「今日は、どこに行きたい?」
「……デパート」
「了解」
 相変わらず制服のレイである。私服でも買うのだろうか。それなら自分に役目はないようなものだ。センスのよさそうな店員に任せ、自分はかわいいと言ってあげるだけでよい。それだけでもきっと彼女は喜んでくれる。

 デパートに入ると、レイはインフォメーションボードを確認して、ずんずんとシンジを引っ張るようにして歩いていく。
「綾波?婦人服売り場、そっちじゃないと思うんだけど」
「こっち」
「そう、なの?」
 言ううちにもレイは歩を進める。明らかに服ではない。周りにピンクや水色といった色彩が目立ち始め、女性客が増え、男性客がいなくなってきた。鈍いシンジも流石に危機感を覚え始めた。ここはどう考えても、男が来る場所ではない。
「あ、綾波……?」
「……何?」
「ここって、下着売り場だよね?」
「そう」
「僕が来る場所じゃないと思うんだけど……」
「問題ないわ」
 レイに無くともシンジにはある。周りの女性客の視線がそろそろ痛い。どんな想像をされているのか知らないが、よくないことだけは確かである。腕を組んだ男女が、しかも中学生が、二人で下着売り場へ。どう考えても絶望的な状況だった。
「その、綾波。僕、イアホン見てきちゃだめかな」
「駄目」
「いや、あの」
「碇くん」
「は、はい」
「選んで」
「はい?」
 
253JUN:2010/06/11(金) 23:38:03 ID:???
シンジは混乱の境地にあった。恋人に下着売り場に連れてこられ、選んで、である。
 荷が重過ぎる。シンジは思った。
「いや、僕、そういうセンスないし……」
 そういうセンスってどういうセンスだ、とシンジは自分の中に突っ込みを入れた。
「じゃあ、せめて色だけでも選んで」
 自分は神様に失礼なことでもしたのだろうか。何が気に食わなくてこんな試練を自分に。色を選ぶのも荷が重い。というか、どんな色だろうが、言えるはずが無い。
「そ、その……」
「選んで」
 言うレイからは覇気に近いものを感じる。そしてシンジの中での理性VS欲望も、いよいよ限界を迎えようとしていた。い、色くらいなら……
「え、じゃあ、そ、その……ぴ、ピンク……」
 顔が真っ赤になった。自分は何を言っているのだろう。お約束の自己嫌悪が舞い上がってくる。しかし目の前のレイはとても嬉しそうで、それだけでも得した気分にならなくも無い。
「分かった」
 言って奥へと駆けてゆく。シンジは安堵のため息をつき、素早くコーナーを出た、もとい、逃げた。

 シンジが音楽コーナーを物色していると、レイは帰ってきた。紙袋の中にはつまりモノが入っているのだろう。先ほどの自分の台詞を思い出し、シンジは少し紅くなって目をそらした。
「終わった?」
「終わった」
「じゃ、帰ろう」
「ええ」
 レイの含み笑いに、シンジは猛烈に嫌な予感がする。
「綾波。人に見せたりしないだろうね?」
「しないわ」
「なら、いいんだけど……」
 レイのことだ。油断してはいけない。シンジは心に刻んだ。
254JUN:2010/06/11(金) 23:39:06 ID:???
 次の日、いつものようにシンジはレイを迎えに行った。
「綾波、おはよう」
「おはよう、碇くん」
「綾波、数学の課題できた?分かんなくてさ……」
「教えてあげるわ。私の家で」
「あ、ありがと」
 ちゃっかり“家で”と言うあたりが綾波レイの綾波レイたる所以だろう。シンジもそこは理解している。
「腕、組んでいい?」
「いいよ」
 半ば苦笑しながら、シンジは言った。この問いに対して駄目、とシンジが言ったことは無いのに、レイはまるで初めてそれを頼むかのように訊いてくる。レイ曰く、『いいよって言ってくれると碇くんも私が好きなことがわかって嬉しい』のだそうだ。
 嬉しそうに微笑んでレイがその華奢な腕を抱き寄せると、シンジは軽くその頭を撫でた。
「ね、碇くん」
「ん?」
「私、昨日鮭のムニエル作ったの」
「へえ、うまくできた?」
「焦がしちゃったわ」
「綾波、まだ慣れてないからね。火加減とか。今度教えてあげるよ」
「うん、お願い。それでね、碇くん」
「うんうん」
「私今日、ぴんくのぱんつなの」
255JUN:2010/06/11(金) 23:41:30 ID:???
ごほっ、げほげほっ、ごふっ、ごほっ、げふっ

 ――死ぬかと思った
 
 シンジは荒い息を吐きながら思った。あまりに唐突である。読みが甘かった。

 我に返ったシンジは、慌てて辺りを見回した。洒落になっていない。誰かに見られでもしたら悶絶ものである。幸い辺りには誰もいないようで、シンジはほっと安堵の息を吐いた。
 レイは状況が飲み込めていないのか、きょとんとしている。シンジは眩暈がした。
「見て」
 見る?ではない。見て、である。シンジがまたも眩暈を覚えているうちにレイは早くもスカートをたくし上げ始めていた。

 眩いばかりに輝く白いふくらはぎ、扇情的を超えて神秘的ですらある脚線美を備えたふともも、そしてその根元にあるレースをあしらった薄い桃色の―――――

「すとおおおおおお――――――――っぷ!」

 シンジは声の限りに絶叫した。レイの手が止まる。はだけかけたスカートはそのままに。
 見てない、見えてない。さっきのは幻影だ。僕の邪な妄想が生み出した幻だ。僕は何も見ていない。
 レイは膝上十センチほどのところまでスカートを捲り上げたまま固まっている。かなりイケナイ画である。
「あ、綾波。とりあえずその手を放そう。」
 ぱっ、とレイがスカートの裾を放した。シンジはほっと息を吐く。
「そ、その、なんだって?」
「ぱんつ」
 何を訊くの?とばかりにレイが言った。
「あのさ、綾波……」
「ぴんくのぱんつ。碇くんのリクエスト」
256JUN:2010/06/11(金) 23:42:50 ID:???
幸せと言うのだろうか、こういうのは。大好きな女の子が自分のリクエストした下着を穿いて来てくれるのは。
 ……違うよな、多分。
 シンジはそこまで割り切っていないのである。正直嬉しくないと言えば嘘になる。が、レイには人並みの恥じらいを持って欲しいのである。少なくとも朝っぱらから恋人に下着を見せようとしない程度には。
「あのさあ、綾波」
「……何」
 レイは上目遣いでシンジを見る。その表情は心なしか寂しそうで、どうにも勢いよく怒れない。
「年頃の女の子がさ、朝っぱら男の子にその、下着を見せるのはどうかと思うんだ。それに綾波、昨日見せないって言ってたよね?」
「言った。けど、恋人にはぱんつを見せるものだと聞いたわ」
「そういうのはさ、もうちょっと大人になってからなんだ。僕らにはまだ早いの、いい?」
「…………」
 レイは黙ってしまった。よし、勝った。こうして一つずつ一般常識を身につけてくれればいい。ゆっくりでいいのだから。巡り巡って彼女のためだ。
「それじゃ、行こう?」
 レイは頷かなかった。けれど、細い肩を抱き寄せて強引に歩き出す。
「……碇くん、見て、くれないの?」
 レイの声は震えを含んでいた。しかしシンジは答える。
「う、うん。ごめんね」
「……私は、見て欲しい。碇くんに」
「い、いや、綾波。あのね――」
「私、頑張って選んだのに……」
257名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/12(土) 00:02:01 ID:???
シンジの良心がぐらつき始めた。甘いと言わば言え。大好きな女の子が傷ついているのである。シンジにとって一番の懸案は、レイの心である。
「あ、あの、綾波……」
「……」
「ごめん、僕だって見たいのは山々なんだけど、心の準備がいるんだ。僕も恥ずかしくて……」
 自分が中学生ということを忘れそうになる。我ながら何を言っているのだろう。
「だから、その……二人きりの、誰もいないときに……ね?」
「本当?」
 れいがぱっと顔を上げる。真紅の双眸は煌々と輝いていて、期待の色が見て取れた。
「う、うん」
「かわいいって、言ってくれる?」
「も、もちろんだよ」
「嬉しい……」
 目尻に涙を浮かべて、レイはシンジの腕に頬擦りした。結局折れてしまった自分を情けなく思いながら、シンジはまた歩き出した。
 ――苦労が多いな……
 けれど、仕方ない。恋愛感情は本人の意志ではないのだ。自制心をきちんと固めて、覚悟を決めよう。

 ――綾波の下着、どんなのかな……

 少年の淡い期待はもう少しだけ、お預けである。

                  FIN
258夏厨:2010/06/12(土) 02:18:33 ID:???
>>231

-----【弐話・帰還】-----

シンジの病室。
マヤがシンジの背中を濡れたタオルで拭いている。
「シンジ君、か・・・本当に保護者になっちゃおうかな・・・」
独り言を言って自分に照れ笑いするマヤだった。

「早く元に戻れればいいのにね、でも元に戻ればまたエヴァに乗らなきゃならないんだもんね」
発令所で何度も聞いたシンジの悲鳴や絶叫を思い出し顔を顰める。
「このまま眠ってても誰も責めないよ」
呟いたマヤの頬に涙が落ちる。

「・・・ぅぅ」
「?」
マヤの涙に急かされたかのように、シンジの様子が変わる。
「・・・ぅ、ぁぁ」
「シンジ君?」
呼びかけるマヤ。
「気がついたのね?シンジ君、シンジ君っ」
急ぎナースコールを押し(病室はモニターされているのでその必要などないのだが)、シンジに呼びかける。
「シンジ君っ!」
「ぅぅ・・・ぅぅ・・・」
思わず抱きかかえて呼びかけるマヤ。
259夏厨:2010/06/12(土) 02:19:40 ID:???
医師や看護師が駆けつけ、シンジの容態を確認する。
いくつかの投薬を行い、計器の動向を看護師がメモに書き込む頃にはシンジの瞼が開いた。
「碇シンジ君、わかるかね?」
医師が問いかける。
「・・・はい、ここは・・・」
か細い声で応えるシンジ。
そのやり取りをつっ立ったまま見ていたマヤが嗚咽する。
「ぇっ・・・よかった・・・シンジ君・・・よかった」
横でマヤの肩を押さえていた看護師が呟く。
「伊吹二尉のおかげですよ、本当におつかれさまでした」
「ぅっ、ぅっ、ありがとうございます」
「さ、碇さんに声を掛けてあげてください」
「は、はい・・・シンジ君・・・おはよう・・・」
少し場違いな言葉に、その場にいる医師や看護師は優しく微笑んだ。
260夏厨:2010/06/12(土) 02:20:58 ID:???
一応の処置が終わり、病室にはマヤと、計器と点滴に繋がれたシンジ。
「マヤ・・・さん・・・僕は・・・」
「もう大丈夫よ、安心して」
「ここは・・・病院・・・」
「そう、あれから何日も経ったの、ずっと眠ってたのよ」
「マヤさん・・・」
「まだあまり喋らない方がいいわ、ゆっくり休んでね」
「・・・ありがとうございます」
「なっ・・・えっ・・・あっ・・・」
シンジの優しい瞳と言葉に取り乱すマヤ。慌てて言葉を返す。
「あ、あ、レイちゃんも無事だったのよ?」
「?」
一瞬表情が曇るシンジ。
「あの時シンジ君が早く助け出してくれたから、レイちゃんはもう元気になったのよ?」
「綾波・・・?綾波が?」
「うん、今先輩がケアしてる、もう心配ないわ」
261夏厨:2010/06/12(土) 02:21:48 ID:???
「・・・」
「ご、ごめんね、まだ混乱してるよね、もう独りで心配ないって先生が言ってたからお薬をもらって休んでね」
「マヤさん・・・」
「か、葛城一尉も夜には戻るから・・・きっと大喜びよ」
シンジの琴線に触れてしまったのが怖くなり、言葉を失い話題を変えるマヤ。
「一尉が戻るまで独りで大丈夫よね?私は先輩に報告しなくちゃだから・・・」
「は、はい、もう大丈夫です、お仕事忙しいのにすみません」

ベッドサイドのパイプ椅子を立つマヤ。名残惜しくなり、瞳に涙をウルウル滲ませて呟く。
「じゃ、行くわね、何かあったらナースコール、ね?」
「はい・・・ありがとうございます、マヤさん」
「・・・シンジ君・・・本当に良かったね」
「マヤさん・・・」
「また後で来るからね、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「・・・握手」
一方的にシンジの手を取るマヤ。
「じゃ、本当におやすみなさい」
弱々しくその手を握り返すシンジ。
「はい、おやすみなさい」
「また目を覚まさないなんて絶対ナシだからね?」
「だ、大丈夫ですよ」
「えへへ、冗談よ」
「はい」
「えっと、それじゃ・・・」
262夏厨:2010/06/12(土) 02:23:00 ID:???
「あなたたち何してるの?」
突然病室に響くリツコの尖った声。その後ろにレイ。
「せ、先輩っ!レイちゃん!」
少しニヤリとリツコが微笑む。
「報告が遅いから『怪しい』と思って来てみたら・・・」
「あ、や、違うんです、シンジ君に少し眠ってもらおうと思って睡眠薬を・・・」
「ま、いいわ、カエデ達に職場を取られたくなかったら早く戻りなさい」
「は、はいっ!申し訳ありませんっ!」
慌ててその場を逃げ出そうとするマヤ。そこにリツコが追い討ちを掛ける。
「マヤ、シンジ君が気に入ったの?」
「せ、先輩っ!違います、え、そういうんじゃなくて、」
「保護者の事、何か言ってたわよね?モニターで確認したわ」
「せ・・・」
「それと、今最初の『また後で来るからね、おやすみなさい』からシンジ君の手を握って私が来るまで7分22秒」
「い、いつから見てたんですか・・・」
「ずっとよ」
「ずっとって・・・先輩・・・」
そこにレイが口を挟む。
「たぶん・・・碇君が私を助けてくれたという話題の時から『ずっと』です」
「れ、レイちゃんまで・・・ひどい・・・」

病室から逃げ出すマヤ。さっきとは別の意味の涙が彼女の頬を濡らしてゆくのを三人ははっきりと目撃する。
「無様ね、でもおもしろいわ」
新しい遊びを覚えた子供のように、リツコの瞳が一段と怪しく光る。
263夏厨:2010/06/12(土) 02:23:59 ID:???
「リ、リツコさん・・・」
その様子を固唾を呑んでその冴えないコントを見守っていたシンジがようやく口を開く。
「あら、シンジ君、良かったわね、目が覚めて」
「は、はい・・・」
「早速だけど司令がお呼びよ、と言っても目が覚めたばかりで筋力が戻ってるとは思えないからこの車椅子に乗りなさい」
「え?…あ…リツコさん、よくわからないんですけど」
シンジの目線はレイの周りで泳ぐ。
そののあやふやさに眉を顰めながらリツコが返す。
「何の事?司令がお呼びだと言う事が?」
「いえ………いや、いいです」
シンジは何か腑に落ちない表情で俯く。
「変な子ね、まぁいいわ、レイ、車椅子にシンジを乗せてあげて」
「はい」
レイが少し上気した表情でシンジに近づく。
「ちょっ、いいよ綾波、自分で出来るから」
あからさまにレイを拒否するシンジ。というより少し怯えているのだろうか。
「・・・命令だから」
半ば強引にシンジの肩を抱えて、そのレイの紅い瞳が少し曇る。
「あ、ありがと・・・」
レイを盗み見ながら、けれどもレイと目をあわせようとしないシンジだった。
264夏厨:2010/06/12(土) 02:26:09 ID:???
「レイが自分でシンジくんを運ぶって付いてきたのよ」
リツコがシンジとレイの少し前を歩きながら言う。
「レイが誰かに興味を持つなんてね、そんな事今まであったからかしら?」
「………そうですか」
それ以上シンジはどう答えていいか判らず無言になる。
ふと、レイの表情は見えないが、シンジには車椅子のスピードが少し上がったように感じられた。

「さあ、着いたわ」
ゲンドウの執務室のドアが開き、3人はおずおずと部屋に入る。
「と、父さん・・・」
声にならないシンジの呟き。
「赤木博士、ご苦労だったね、だが綾波レイを呼んだ覚えはないぞ」
ゲンドウの横に立っている冬月が言う。
「副司令、申し訳ありません、シンジくんが歩けないので補助のために一緒にお連れしました、レイ、帰っていいわ」
冷静にリツコが促す。
「…はい」
聴こえないくらい小さな声でレイが応える。
「君もまだ万全と言える状態ではない、早く部屋に戻って体調を整えなさい」
冬月が追い打つように続けた。

レイは俯いたまま今来たドアに向かって歩き出す。
「あ…綾波?」
シンジが声を掛ける。
レイが立ち止まる。
「あの…綾波、送ってくれてありがとう」
レイの肩が揺れ、今にも振り返りそうな仕草。
「レイ、早く行け、休養も大切な仕事だ」
ゲンドウの冷たい声がその空気を遮り、レイは無言のまま執務室を出た。
刹那、リツコの眉が動いた気がするが、レイが出たドアが閉まるまで誰も声を発することはなかった。
265夏厨:2010/06/12(土) 02:27:01 ID:???
「赤木博士、シンジの状態はどうだ?」
「いくらかの筋力の低下と血圧が不安定なのを除けば何の問題もないと医療チームから報告が出ています」
「エヴァに乗れるまでどのくらい掛かるか?」
「今日一晩安静にした後、一週間のリハビリと少量の安定剤投与で元通りになると思われます」
「精神汚染や記憶障害の報告はあるか?」
「現在経過観察中です」
「二日後にセカンドチルドレンが着任予定だ、それまではレイを戦闘配備できるように、セカンド到着後はシンジが回復するまで2名を常時待機できるようにしておいてくれ」
「承知しました」

暫しの沈黙。

「シンジ」
ゲンドウがシンジの名を呼んだ。
「ぇ、…」
蚊の鳴くようなシンジの声。
「ヤシマ作戦から倒れるまでの事は覚えているのか?」
思いがけずゲンドウの質問。慌ててシンジが答える。
「と…あ、綾波をエントリープラグから出すまでは覚えて…」
その時の手の感触と光景がぶり返して言葉を切るシンジ。
「…そうか」
「と、父さん・・・綾波は・・・」
嫌な時間を断ち切るためにシンジがゲンドウに問い返そうとする。
「シンジ、ご苦労だったな」
「え!?と、父さん?」
266夏厨:2010/06/12(土) 02:28:32 ID:???
考えもしなかったゲンドウの一言にシンジは何も言えなくなり、だがネルフに来て初めて心が満たされるようで嬉しくなった。
リツコに目を向けると、無表情だがゆっくり頷いてくれた。
「父さん…」
「シンジ、司令と呼べ」
「あ、ご、すいません…」
せっかく膨らんだ風船が一気に萎んだような気分だった、が、それでもシンジの心に明るさが差し込んでいるようだ。

一拍の無言の時、その後ゲンドウが続ける。

「シンジ、これから赤木博士がお前に大切な話をする」

さっきまでの空気が一変するのを感じて、シンジは息を呑むのさえ忘れて唇を噛んだ。



つづく
267夏厨:2010/06/12(土) 02:29:16 ID:???
JUNさん乙です
268名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/12(土) 10:46:35 ID:???
2人とも乙です!

個人的な意見だけどもJUNさんは毎回律儀に『綾幸のJUNです』って言わないでいいんじゃない?

どんな人が書いたか初めからしってると偏見が生まれそうだから^^;
本当に個人的な意見スマソ
作品は好きだよ
269名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/16(水) 08:16:09 ID:???
>>268
同意
このスレには名の知れた作家さんも投稿してるけど、皆匿名だよね
270名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/16(水) 15:03:56 ID:???
ていうか「綾幸の」って自ら名乗って良いのは普通tambさんだけだと思う。共同管理者でもなんでもないんだから

名乗った上で投下するかどうかは他の人がどうあれ一職人さんの自由だと思うけど
ただ「○○の」と名乗りたいならせめて自分のサイトを持たれてはどうか
271名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/16(水) 17:40:40 ID:???
すみません、次から気をつけます。
また何かしら投下はさせてもらうと思いますが、その時は匿名でやらせていただきたいと思います。
272名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/16(水) 20:07:58 ID:???
しかしJUN氏は綾幸組組員と言えるのでは。

まあ組長tamb氏の許可がないと組の看板は晒せないかな。
273名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/16(水) 21:11:23 ID:???
JUNさんがちゃんと書きたいと思ってる職人さんなのはわかる
でもここでは知られたサイトだけに綾幸ブランドの先入観なく勝負してほしいとは思うかな
274名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 08:03:30 ID:???
JUNさんはそれなりの実力をおもちだから、
まあサイトの名を汚すことはないだろうけど
他人様のサイトの看板を掲げるのはいかがなものかと思う。

JUNさんの作品は好きですので、投稿は楽しみにしています。
275名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 17:13:56 ID:???
まあ次は匿名でって言ってるからこれに懲りずに次の投下があることを期待したい

JUNさんも夏厨さんもGJ!
276名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 17:16:47 ID:???
夏厨さん投稿乙です
続きを早くupしてください。
続きが気になって眠れんw
277夏厨:2010/06/20(日) 09:21:01 ID:???
続きは惣流さん登場バージョンで書いてたんですが、破を見て手直し中です
待っていてくれる人がいて嬉しいです
278名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/23(水) 20:38:01 ID:???
1レスだけ投下してみます。
--
「え、あ、あれ……!」
 慌ててシンジは跳ね起きる。
気がつくと、レイの膝枕で寝ていたことに気がついたからだ。

とりあえず、シンジは謝る。
「あ、その、ごめんね」
「なにが?」
「あ、ああ……その」

(ううう、ウトウトして綾波の肩に寄りかかりそうになったのは覚えてるけど)
 シンジは悶々と考える。そして、その相手の方をチラリ。
何事かに動じた様子もなく、ジッと前方を見据える綾波レイ。

(僕なら膝枕ぐらいオッケー? いや……たぶんどうでもいいんだろうな。はは……)
 結局、ネガティブに片付けてしまい、立ち上がる。
さて、接続試験はまだかな? もう待ちくたびれてしまった。

「……クスクス」
 誰かが少し離れたところで笑っている。それは携帯電話片手の葛城ミサト。
「ね、ね、見て? シンちゃん……レイってば」
 と、シンジに携帯の画面を見せようとしたその瞬間。

 (がばっ)

 と、レイの両手が覆い被さる。あまりの素早さに、シンジには訳がわからない。
「わーった、わーった。そんなに怒んないでよ、レイ」
と、取りなすミサト。そして、閉じられた携帯に写っていたものは?
 それは、携帯のカメラで隠し撮りしたものだろう。
なんとなく頬を染めながら、居眠るシンジの髪をなでるレイの姿が…… (完
279名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/24(木) 05:17:15 ID:???
イイヨーイイヨー
280名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/26(土) 07:54:48 ID:???
短いけど凄くイイ!
またお願いします!
281名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/26(土) 13:06:21 ID:???
>>278
1レス以内なのにこんなに萌えられるとは…凄くいい!ありがとう
282名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/26(土) 23:21:58 ID:???
ありがとです。では、調子に乗って。
---
ついっ……と、シンジは机に指を滑らせる。
そこは綾波レイの机。彼は何かを見つけて、指で摘み上げた。
それは綾波レイから抜け落ちた、1本の髪の毛。

シンジは思わず声を漏らす。
「へえ……根本まで青いんだ」
「バカッ」
と、絞り声で咎めたのはアスカ。
(このバカシンジ、本人が気にしてたらどうするのよ!)
「え、そういうものなの? ねえ、綾波。これ貰って良いかな?」

ギクリ、と振り返るレイ。
「い、いいけど」
「本当? ありがと。うわあ……」
と、シンジは無邪気な様子で、窓の光で透かして青い髪にみとれている。

「綺麗だね。ね、アスカ?」
「知らないわよ」
「ねえねえ、なんか上手く保存する方法って知らないかな? 水晶に納めるとか」
「……北欧に行って、ドワーフでも訪ねてきたら?」
そんな二人を尻目に、そっとレイは教室を出る。

いや、レイは確かに気にしていた。
散らかった自室の、散らかった洗面台に置いてあった物。
それを手にしてジッと眺める。それは、髪染めのセットだった。
日本人らしい黒髪があなたのものに――。

そして、それをゴトンとゴミ箱に投げ捨てる。
つまらない自分の悩みが、ゆるやかに溶けていくのを感じながら。 (完
283名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/27(日) 12:33:19 ID:???
また書いてくれてありがとう
シンジの何気ない言葉にレイが救われているんですね!
284名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/27(日) 12:48:09 ID:???
285名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/06(火) 07:53:58 ID:???
286名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/06(火) 09:24:00 ID:???
楽しみでげす
287名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/07(水) 19:30:07 ID:???
FanFiction.NetでエヴァFFを漁っててけっこう衝撃的なLRS小説を見つけたので
紹介を兼ねて適当に日本語訳してぶん投げてみるよ
一度しかやらないから今回だけ大目にみてね

もとの作品
ttp://www.fanfiction.net/s/269698/1/Impulse
288Impulse:2010/07/07(水) 19:31:12 ID:???
衝動
By Random1377

シンジにとって、その瞬間は時が止まったように思えた。レイの赤い瞳が静かに見返して
くる。彼女の上に乗って見下ろしているシンジの瞳を。――なんだこれなんだこれなんだ
これ。なんなんだ。――シンジの思考はぐるぐると空転し、そして突然ある衝動が襲って
くる。シンジはレイの体に覆いかぶさって、その唇にキスをした。レイのまぶたが少しだ
け開いたが、抵抗はしなかった。――綾波の唇、すごくやわらかいや――シンジは考える
、――綾波のからだも。――そこではっと目を見開き、飛び起きる。ようやく左手がレイ
の胸を触りっぱなしなことに気がついたのだ。後ずさりをはじめるシンジ。レイは立ち上
がり、そんなシンジを物珍しそうに見る。「なぜ……」「ごめん!ほ、ほんとうに、ごめ
んなさい!じ、自分でも何考えてたのかわかんないよ、ぼ、僕は……」「なぜ、途中でや
めるの?」先にレイのほうが言い終えた。シンジの後ずさりが止まる。ぽかんと口を開け
る。「…今、何て言ったの?」レイは冷静沈着にシンジに歩み寄り、平手打ちを浴びせる
。「ねえ、何でこんなこと……」レイは自分の唇をシンジの唇に押し付けて黙らせた。「
…………違うわ、さっきのとはぜんぜん違う感じがする。二度目のほうが、間違いなく楽
しい」シンジはただ突っ立ってレイを見つめている。「何か問題があるの、碇くん?」レ
イは首をかしげる。
289Impulse:2010/07/07(水) 19:32:38 ID:???
「ななななななにか?」考えがうまくまとまらない。というよりレイが未だに目の前で素
っ裸な時点でもうどうしようもない。科学の実験かなんかみたいな目で見られてるし。「
興味深い状況だわ、碇くん。交尾の手順は教科書で読んだことがある(必修科目だからね
ぇ、読者のみんな)。だけどわたしはキスをしたことがいままでなかった。もう一度やっ
てもらえないかしら」目を見開きすぎて目玉を落っことすことが仮にありうるとしたら、
とっくにシンジの両目は床の上に転がってるだろう。「なななな何て言ったの?」レイは
どこまでもどこまでも落ち着き払っているようだ。「聴力に問題があるのかしら、碇くん
。あなたはもう一度聴覚検査を受けなおしたほうがいいと思う。『もう一度やってもらえ
ないかしら』、そう言ったの。さっきやったみたいに、もう一度、わたしにキスするよう
に。そういう意味で言ったのよ」
290Impulse:2010/07/07(水) 19:36:07 ID:???
シンジが真っ先に思いついたのは逃げ出すことだった――はるか遠くへ――決して後ろを
振り向かず。だがしかし今のシンジは、後方には壁を背負い前方にはとってもナイスプロ
ポーションな裸体が立ち塞がっているという状況下にある。この選択肢は取れない、従っ
て次善の案を採用する。つまり説得によって道を切り開くのだ。「ねえ、綾波。まさか本
気でもう一度キスしてって言ってるんじゃないよね……よ、要するにさ、さっきのことは
謝るから……んで、えっと、えーと……」「碇くん、わたしは間違いなくもう一度キスし
てって言ったの。わたしはとてもとても気持ちがよかった。あと、怒らせても怪我させて
もないのに謝る必要はないと思う。わたしは怒ってもいないし、怪我もしてない」片眉を
つりあげたレイの顔はなんだかちょっと不吉な雰囲気を漂わせている。「それに私のほう
が階級は上。碇くん、あなたはキスしろって命令されるほうがいいの?」
291Impulse:2010/07/07(水) 19:38:02 ID:???
シンジは自分という人間に腰抜けだの弱虫だの負け犬だのと――まあ呼び方はいろいろあ
るが基本的によろしくない方向のレッテルを貼っていた。しかしながらシンジは自分のこ
とを愚かだとは思わない。要するに素っ裸の若い女の子(しかも上官)がキスするように
求めてきたときに断るほど愚かではなかった。いちばん最初の時とは違って、レイはキス
をやり返してきた――それも激しく。レイは自分のからだをシンジに押し付けて両腕をま
きつけてくる。「んー…………」レイが体を引き離した。「とても素晴らしいわ、碇くん
。もう一度お願い」「なー…」もう一回。シンジには一言しゃべり終えることすら許され
ない(哀れな少年だよね? まあ、何はともあれ…)レイはシンジの脇腹を下から上へと
さすり上げていき、しまいには彼の短い髪を指でくるくると巻き上げる。レイが体を引き
離す。シンジの呼吸はすでに相当荒くなっていて、あともう気持ち悪いくらいに硬くなっ
ていた(何が硬くなったって首がだよ。レイのほうが背が低いから首が凝ったんだ。あー
もう、どぶにはまったような顔するのやめれ)「さて」レイはシンジの瞳を覗き込みなが
ら粛然と言った。「衣服を脱いでベッドに乗りなさい」
292Impulse:2010/07/07(水) 19:41:07 ID:???
シンジの目玉が飛び出した。「な、なんだってー!」レイがかわいそうな子を見る目つき
になる。「うん、やっぱりあなた、聴覚検査の必要があるわ。衣 服 を 脱 い で 
ベ ッ ド に 乗 り な さ い」目の前で大声を出されたせいでシンジは後ろに飛
びのくハメになり、自分のシャツのボタンを外しはじめた。が、途中で手を止める。「待
てよ…なんで僕、服を脱いでるんだ?」レイは腕組みをしながら冷静に説明する。「理由
は二つよ、碇くん。一つ、上官の命令だから。二つ、あなたは一糸まとわぬわたしの姿を
見た、そしてわたしは一糸まとわぬあなたの姿を見たい。これで質問の答えは十分でしょ
う?」シンジは無言でうなずいた。「よろしい、じゃあ早くして。何も心配はいらない、
ぐずぐずしないで早くするの、碇くん」そう言いながらレイは手を伸ばしてシンジのシャ
ツの襟をつかみ左右に引っ張った。ボタンがちぎれてあちこちに吹き飛び、シンジは驚い
てきゃあああと悲鳴を上げる。
293Impulse:2010/07/07(水) 19:43:15 ID:???
5秒後、シンジは裸になってレイのベッドに横たわっていた。レイはシンジを監視してい
る、というか体中をなめまわすように見ている。「興味深いわ、」レイは静かに言った。
「男性の裸を直に見るのははじめて。服を着ていないあなたのことを考えたり、眺めたり
するのは……とても……刺激的だと……言わざるをえないわ」シンジはごくりとつばを飲
みこんでレイの裸の姿を見つめる。レイがその視線に気づく。「わたしは魅力的に見える、
碇くん?」シンジはただうなずく。レイはにっこりと笑ったのだが、なぜだかシンジはそ
の笑顔に不安を覚えた。「碇くん、もう一つだけ、あなたにやってもらうことがあるの。
それが終わったら帰ってもいいわ……理由はわからないけど、あなた居心地が良くなさそ
うに見えるから」シンジはほっとして溜息をついた。実際、居心地が悪かったからだ。
(なんでかって?知らんよ。だけどこの子原作でも人間関係に腰がひけてるしさ、そんな
もんじゃねーの)
294Impulse:2010/07/07(水) 19:44:11 ID:???
安心したのもつかの間だった、レイが微笑みながらこう続けたから。「さあ、あなたはわ
たしと性交するの」シンジという人間はめちゃくちゃ簡単にびびってしまうタイプなもん
で、あわててベッドから飛び出した。しかしレイは(シンジの行動なんてお見通しだった
ので)彼の手首をひっつかんでまたベッドに投げ倒し戻す。「碇くん、そんなに慌ててど
こに行くつもりなの」レイの声は冷静だったが、その瞳はいやーんな感じに燃え盛ってい
た(太陽みたいに輝いてたんじゃないかな、たぶんだけど)「わたしのこと魅力的ってあ
なたは言ってくれた、そうよね? あなたのこと魅力的ってわたしは言った、そうよね?
今までいろんな本を読んで学んできた知識からすると、ここはもうセックスするところよ」
シンジがどもりながら言う、「だけど、だっだけど、まずででデートするとか、仲良くな
るとか、けけけ結婚するとか、あああとそれと、あああ、愛し合うとかそそそういうのを
先に…」おそらくその場しのぎをしてるだけだとレイは思った。「そんなことやってる暇
はないわ」そう言い放ってベッドによじ登ると、シンジの両腕をその頭の上のほうで押さ
えつける。「たくさん本を読んで性技の勉強をしてきたのよ、碇くん。試してみたいの、
あなたといっしょに。だからもう抵抗するのはやめて」レイは体を折り曲げてシンジにキ
スをした。「……あー、……レイ?」レイが静かに息を吐き出した。「何、碇くん?」シ
ンジがそっとつぶやいた。「シンジって呼んでもらってもいいかな」レイは微笑んで。
「もちろん構わないわ、シンジくん」レイは覆いかぶさって、シンジに激しくキスを浴び
せる……

おしまい
(続きが読みたければ想像力をかきたてるんだ、なぜならこの先は書く気ないから :P)
295名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/07(水) 19:45:15 ID:???
以上、投下終わり
書き忘れてたが本編第5話の例のシーンの分岐ものです

FanFiction.Netには他にも良さげな小説がいくつもあるんで
きっちり原著者のみなさんに許可取ってからサイトを自分で立ち上げるなり
既存のサイト様に委託するなりして日本語訳をあげていこうかと考えています
296名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/07(水) 19:47:56 ID:???
ほほぉ
297名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/07(水) 20:01:12 ID:???
なんか新鮮な綾波だな
298名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 02:38:51 ID:???
>>295
おつ
英文をスラスラ読めるなら海外サイトもおもろいだろうなぁ(´;ω;`)
サイト期待してるんで出来たら教えてくれ
299名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:12:00 ID:???
☆ゅ☆ゅ

「ただいまあ」
 シンジが玄関を開けると。何ともいえない臭いが部屋に漂っていた。変だな、今は誰もいない筈だけど。
 シンジはしばし考え、その臭いが何なのかに気づいた。酒だ、アルコールだ。ミサトのビールだ。
「そんな筈はないんだけど……」
 シンジは誰ともなく言った。ミサトが帰宅するのは夜である。この時間から酒をあおっているとは考えづらい。仕事で何かあれば別かもしれないが、使徒がいない今、そんなことがあるのかも甚だ疑問である。
 だが、鍵が開いているのである。NERVのセキュリティーカードが鍵代わりなので、ミサトやシンジやアスカ以外でも開錠は可能だ。
 
父さん、じゃないよな……

もしそうであれば、シンジはすぐさまトウジ宅へでも避難する。アルコールが入ったゲンドウなど、想像するだけで恐ろしい。

リツコさんかな?マヤさんかな?

一瞬考えた。それなら別によい。むしろ歓迎だ。バスタオルでウロウロするような女性でなく、恥じらいを身に着けた大人の女性。たまにはそういうのも悪くない。目の保養だ。
そう思ったが、やはりないと思った。人の家で勝手に酒を呑むような人間ではない。なら……?

「おかえりなさい……」

 どこかで聞いたような、けれどそうであって欲しくないような、うわついた声がシンジを迎えた。あの声は、いや、まさか……

「おかえりなさい、いかりくん……」

 頬を桜色に染めたレイが、シンジを迎えた。
300名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:13:26 ID:???
「お邪魔します……」
 持っていたセキュリティカードで、レイは扉を開いた。シンジがS-DATをNERVに忘れていたのだ。リツコにことづけられ、レイは少しだけ暖かい気持ちになりながら、届けにきた。
 当然、誰もいない。シンジは買い物だと、リツコに聞いた。アスカもいない。ミサトは仕事だ。
 ここに置いておけば分かるだろう、と思い、居間のテーブルに持ってきたそれを置いた。メモに『NERVに忘れていました、レイより』と書き残し、立ち去ろうとした時、レイの目にあるものが映った。
「ビール……」
 テーブルの上に無造作に置かれたそれは、まだ少し残っているようだった。ぬるい。
 興味などはなかった。大人が飲むものだ。飲めなくとも困らない。しかし、レイの中で何かが動いた。つい、先程。


 レイには今、切実な悩みがあった。その悩みを解決する、一つの突破口に思えたのである。その悩みとは――

「これを飲めばおっぱい、大きくなるかしら……」

 ――おっぱ、もとい、胸のサイズである。
301名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:14:45 ID:???
シンジがトウジやケンスケと話している時よく、乳の大きなおなごがええよなあ、などと言ったりする。シンジはそれに紅くなりつつも、そ、そうだねと賛同の声を上げるのだ。
 大きな胸は男性としては魅力的らしい。何故だろう、邪魔なだけなのに。レイには不可解でならなかったが、他でもないシンジの好みである。最重要事項であろう。

 自分の胸はどうなのだろう。大きいのだろうか。シンジとしては自分の胸は小さいのか、大きいのか。前に触られた時訊いておけばよかったと後悔する。今や彼とは恋人同士でであるが、訊いてよいことといけないことの境が、レイにはまだ分からない。

 それからというもの、レイは胸を大きくする方法を考えた。同性に訊くのは何故か憚られた。それが嫉妬だと気づくには、彼女の心はまだ幼すぎた。
 ネット上で調べたことは全て実践した。牛乳を飲み、腕立てもした。寝る時は仰向けで寝た。しかし、レイの胸囲は増えなかった。異性に――特に想い人に――揉んでもらえば大きくなるという非常に耳寄りな情報も得たが、それはやめた。はしたない女の子だと思われたくない。


 そして袋小路に迷い込んだレイは、次に周りの胸の大きい人を参考にし始めた。ミサトやアスカは肉をよく食べる。ならば、と最近ひき肉からチャレンジしているが、芳しくない。


 そして今、ふと思ってみる。恐らく自分の周りで最も胸が大きいのはミサトだ。次点でリツコである。あくまでレイの目測ではあったが、恐らく正しい筈だ。
 そしてミサトと他の人間の相違点として最も大きいのは、恐らく飲酒量だ。特にビールの。

 ならば、とレイの行き着いた結論は当然、手段の一つとしてビールを飲んでみるということだ。もしかしたらアスカも飲んでいるかもしれない。ドイツではそれが当たり前なのかもしれない。自分だけ呑んでいないというのは不公平だ。
 突破口が見えた気がした。これで胸が大きくなる。シンジに気に入ってもらえるかもしれない。
302名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:16:47 ID:???
 決意したレイは早かった。冷蔵庫の中からビールを取り出し、コップに注ぐ。
 しゅわしゅわと音を立てながら、泡が膨れ上がり、小さくなる。その光景が珍しくて、ついつい見入ってしまった。
 泡のなくなったビールは、麦茶によく似ていた。そう思った瞬間、レイは一種の悟りを開いた。
 そうだ、麦茶だ。ビールの原料は大麦とホップだ。要は発酵した麦茶だ。どうということはない。
 そう考えると、今までどこか躊躇っていた自分の心に踏ん切りがついた。グラスを掴み、一気に流し込む。これは――

「にがい……」

 少なくとも美味な代物ではない、と思ったが、ミサトはこれを飲んでいるのだ。大きな胸になるための第一歩だ。
 身体がぽかぽかと火照ってくる。これは彼と一緒にいる時のぽかぽかとは別種だ。快か不快か悩ましいが、今のところ許容範囲だ。もう一杯呑んでみる。
 
 ――こうして、レイは堕ちていった。
303名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:17:27 ID:???
 シンジの目の前でレイはふらふらとこちらへ寄ってくる。危なっかしいことこの上ない。
「いかりくん、はいらないの……」
「え、あ、うん、いや、入るけど……」
 しどろもどろになりながら靴を脱ぐ。酒を呑んだことは一目瞭然だ。どうしてそんなことをしたのか謎だが。
「綾波、酔ってる?」
 レイはふるふるとかぶりをふった。
「いいえ、よってなんていないわ。わたしはわたしだもの。いかりくん、ぽかぽかする……」
 言っていることが支離滅裂だ。寝かしつけるべきだな、と思ったシンジはレイの手を取り、アスカの寝室へ向かう。
「いかりくん、どこへいくの……」
「アスカの部屋だよ。綾波、ベッドに横になってれば治るから、大人しくしててね」
「ベッド……いかりくん、わたしにえっちなこと、するの……?」
「し、しないよ」
「そう……ざんねん…………」
 このままではシンジの身が持たない。どうにかなってしまう。
304名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:18:34 ID:???
 必死の思いでレイをつれてきたシンジは、ベッドにレイを横たえるとその側に腰を下ろした。
「綾波、どうしてお酒なんて呑んだのさ」
「のんでなんていないわ」
「嘘つかなくていいよ。綾波、酒臭いもの」
「くさい……わたし、くさいの……?」
 レイが見る見るうちに涙ぐみ始める。シンジは焦った。
「い、いや、そうじゃなくて、お酒の臭いがするからさ」
 正直、悪臭にカテゴライズされる匂いではない。アルコール臭に混じって、果実のような甘い匂いがする。ほんのり桜色に染まった頬と、うっすら汗を浮かべた素肌とがあいまって、扇情的なものを感じさせた。
「で、でさ、なんでお酒なんて呑んだの」
「お……」
「お?」
「おっぱいを、おおきくしようとおもって……」
「はい?」
 シンジは素っ頓狂な声を上げた。
「いかりくんが、おっぱいはおおきいほうがいいって……」
「誰が言ったのさ、そんなこと」
「わたしのおっぱいがおおきくなったら、いかりくんがよろこんでくれるから……」
「べ、べ、べつにそんな……」
 思春期の悲しさか、レイの胸元に目が行ってしまう。制服を押し上げているそれはそんなに小さいとは思わない。一度触った時は、なかなか質量があったように――
305名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:19:52 ID:???
 ――ば、馬鹿!

 こんな時にそんなことを考えていると、いよいよ歯止めが利かなくなる。酔いつぶれたレイが目の前で寝ているのだ。取りようによっては据え膳である。
「いかりくんは、おっぱいがおおきいほうが、いい……?」
「い、いや、べつにそんなに気にならないっていうか、なんというか……」
「いかりくんによろこんでもらえるなら、わたし、がんばる……」
 真剣に悩んでいたのだ。傍から見ればくだらないだろうが、彼女の中では一大事だったのだろう。気にするように自分の胸に視線を落とす彼女に、シンジは愛しい気持ちになった。
「あの、さ、綾波……」
 シンジはレイの細い手をそっと握った。
「別に僕は、綾波の胸の大きさなんて、気にしないよ」
「でも……」
「大事なのはさ、その、大きさなんかじゃなくて……」
 シンジは軽く息を吸った。
「……誰の胸か、ってことだと、思うんだ」
「それ、って……」
「どんな大きさでも、それが綾波の胸なら、僕は好きだよ」
「いかりくん……」
 その声に後押しされてレイはそっと、シンジの手を引いた。はしたない女の子と思われてもいい。それが自分の望みだから。自らの胸と、彼の手を重ねる。
「あ、綾波……」
「さわって、ほしい。わたしのぜんぶは、いかりくんのためにあるから……」
 もう片方の手で、シンジの頭を抱き寄せ、口付ける。
「……いいの?僕、止まらなくなっちゃうよ、これ以上行くと」
「かまわない。わたし、こうなるのを、ずっとまってた…………!」
「あやなみ……」


 ――あなたと、ひとつになりたい……
306名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/13(火) 21:20:47 ID:???
〜エピローグ〜

「でもさあ、どうしてお酒で胸が大きくなるなんて思ったの」
「葛城三佐が、いつもビールを呑んでるから」
「あれは胸が大きいっていうより、ビール腹なだけだよ。綾波はああなっちゃだめだ」
「そうなの……」
「そうだよ。人間ああなったら、終わりだしねえ」
「そうねえ、勉強になるわ」
「でしょう?ミサトさんもちょっとは綾波を見習って…………え?」
「シンちゃんが私のことそんな風に思ってたなんて、知らなかったわ。じっっっくり、お話を聞こうかしら」
「い、いや、ミサトさん。今のは違うんです。そうじゃなくて、その……」
「言い訳は後で聞くわ。レイ、シンちゃんを借りるわね」
「どうするんですか?」
「女の子の扱いを教えてあげるのよ。レイとのデート必勝法とか。楽しみにしててね♪レイ」
「は、はい……!」
「綾波、騙されちゃ駄目だ!これは――むぐっ」
「さぁ〜て、行きましょう、シンちゃん♪」
「ん〜、ん〜、ん〜!」
「頑張って、碇くん」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


  おしまい
307名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/14(水) 19:44:16 ID:???
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
GJGJGJ
308名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/14(水) 20:23:49 ID:???
ナイス
309夏厨:2010/07/17(土) 05:57:01 ID:???
-----【参話・再会】-----

病室、ベッドの上。深く溜息をつくシンジ。
(僕に出来るわけないじゃないか…)(だいたい僕はさっき気がついたばかりなのに…)(やっぱり父さんも誰も僕の事なんて…)
シンジのマイナスのループは病室の空気を重くする。

「…あの、シンジ君、入るわよ…」
「あ、マヤさん、どうぞ」
「先輩が心配だから行ってあげなさいって…」
「リツコさんが?そうですか…」

(今になって父さんがあんな風に言い出すなんて・・・リツコさんも、あれじゃ僕は・・・)
深い思考の迷路に俯くシンジ。それを知らずにマヤはニコニコしながらシンジの肩に手をやる。

「疲れちゃったのかな?少し横になってね」
「・・・はい」
310夏厨:2010/07/17(土) 05:58:12 ID:???
(え?あ?私なんかまずい事言ったのかな・・・どうしよう・・・わ、笑ってよシンジ君・・・)
「・・・え、えっと・・・あ!そうだ!葛城一尉、もうすぐ戻ってくるわよ!しかもね、シンジ君の大喜びする人を連れてね!」
「・・・」
「き、聴こえてる?シンジ君・・・」
「あ、聴こえてますよマヤさん、ミサトさんですね?」
「そうそう、ちょっとトラブルがあったんだけどね、でもなんとか明け方までに戻るってさっき連絡が来たの」
「トラブル?何かあったんですか?」
「うん、ちょっと機密事項があるから言えないんだけど・・・」
「・・・そうですか、でも無事で戻ってくるって事ですよね?」
「そう、全然いつもどおりの声だったから大丈夫よ?」
「良かった・・・」
「葛城一尉が戻るまで少し眠る?その方がいいわよね?わ、私はあっちに戻って・・・」
「マヤさん、せめてミサトさんが戻るまでいてくれますか?」
「え?」
「なんだか心細くて・・・誰かの声を・・・その・・・」
「わ、わかったわ、せん・・・赤木先輩に報告してくるね?」
「・・・ありがとうございます」
インターホンでリツコに付き添いをする旨の報告をするマヤ。何故か顔が真っ赤になっている。
311夏厨:2010/07/17(土) 05:59:06 ID:???
暗転、ゲンドウの執務室。モニターでシンジの病室を見ているゲンドウと冬月。
「・・・君の息子は・・・親子揃ってマダムキラーなのかね?」
「・・・」
「ふっ、葛城君が怒るだろうな」
「・・・」
「シンジ君がその気なら保護者の変更の件、作戦に支障はないが、どうする?」
「・・・シナリオの書き換えは許されない」
「・・・碇」
「・・・」
「・・・とにかく・・・羨ましいな・・・」
「ああ・・・」


「それでね、青葉さんが言うのよ、面白いでしょ?」
「あはは、そんな人だったんですか?」
「絶対内緒よ?」
他愛のないマヤのおしゃべりが、リツコとゲンドウが伝えた事の重みを少しだけ忘れさせてくれる。
シンジはなんだか久しぶりに自然に笑えたような気がして、マヤのマイペース(能天気?)に合わせている。
(マヤさんは優しいんだな、こんな僕に自然に話しかけてくれる…ミサトさんみたいにガサツな人じゃなくてマヤさんが保護者ならいいのに…)
「し、シンジ君…そんな事…」
また顔を真っ赤にするマヤ。シンジは今思ったことを、どうやら口に出してつぶやいてしまったらしい。
「っえ?っあ?いや、あの…」
モジモジする二人。その背後で病室の扉が開く。
「へー、シンちゃん、言うようになったわね」
怒気のこもった声、ミサトである。
「か、か、葛城一尉!」「ミサトさん!!!」
「保護者の変更の件、司令に報告する?お姉さんさびしいわ〜〜、ついこないだまではあんなに激しく求めたくせに!」
「葛城一尉!シンジ君!そんな…」
驚愕のマヤ。凍りつくシンジ。
「シンちゃん、浮気はダメよ?マヤちゃんも寝取ったらタダじゃ置かないんだからっ」
瞳を光らせてニヤリと笑うミサト。その横を「いや〜〜〜!」と叫びながらマヤが飛び出していく。
312夏厨:2010/07/17(土) 05:59:59 ID:???
「ミサトさん…」
「あはは、やりすぎたかな?…シンちゃん、久しぶりね…良かったわね、戻ってこれて」
真剣な表情に変わるミサト。
そしてグッとシンジを抱きしめる。瞳にうっすら涙。
「眠ったままだったらどうしようかと思っちゃった…ホントに良かった」
照れるシンジ。でもその表情が柔らかく揺れている。
「ありがとうございます…」
しばらくの間、病室は優しい空間に満たされていた。

「明日、退院しましょう、ここにいるとマヤやリツコやレイがシンジ君を狙ってるから」
「って!やめて下さいよミサトさん!」
「あら、本当よ?」
「もう、僕は病人なんですから…」
「へへへ、ジョークよ、でももうそんなに元気なんだから明日の午後には家で静養しましょうね?」
もう一度抱きしめるミサト。
「く、く、苦しいですよ、ミサトさん…」
「嬉しいでしょ?」
「…」

戦わせて傷つけた者と戦って傷ついた者の束の間のやすらぎに、その不自由な重みにミサトの胸が熱くなる。
涙が止まらなくなるミサト。
「悪いけどもう少しこのままいさせてね?」
シンジに返せる言葉はなかった…。
313夏厨:2010/07/17(土) 06:00:53 ID:???
「さてと・・・そろそろかな?」
シンジとの再会の儀式が終わると、ミサトは思い出したように呟く。
「先に話しておくわね、今日ドイツからセカンドチルドレンが赴任になったの」
「セカンド?チルドレン?」
まだ目覚めて数時間のシンジにはその成り行きが何を意味するのか判らない、というか急な展開に着いていけない表情。
「そ、ヤシマ作戦の後司令が緊急召集したわ、シンジ君は眠ったままだし、レイも無事だったのが奇跡だし」
「奇跡・・・」
「あなたのおかげの奇跡よ?シンちゃんがプラグから出してくれるのがもう少し遅かったらレイは今頃ダメだったでしょうね」
「・・・」
「シンちゃん、どしたの?」
「い、いえ」
「何よ、変なの、ま、いいわ、そのセカンドチルドレンだけど、これが凄いわよ〜〜♪」
「・・・」

悪戯っぽい瞳で捲し立てるミサト。
「ここに来るまでのエヴァ弐号機海上輸送中に第六使徒と遭遇、国連軍太平洋艦隊との共同戦線で殲滅、って言ってもほとんど弐号機の先攻でだけどね」
「独りで・・・殲滅・・・」
「凄いでしょ?でね、今日私が旧東京でちょっとした事故に遭ってね、そこでも大活躍♪」
「ミ、ミサトさん、事故に?!」
「あはは、心配しないで、弐号機が緊急対応で駆けつけてくれてこのとおり、ぜ〜んぜん無傷だし」
「でも・・・無事で良かったです」
「ありがと、でね、そのセカンドチルドレン、私がドイツにいた頃に何度も話した事あるんだけどシンちゃんの知り合いらしいわよ?」
「へ?」
「っていうか、たぶんシンちゃん大興奮の生唾モノっ!憎いね、この幸せ者〜♪」
全く話の展開に着いて行けず困惑のシンジ。そしてミサトから重大な名前が。
「セカンドチルドレン、その人の名は!!」
「あ、あの・・・」
「ナント!!」
「え、えっと」
<ガッターーーン!>
その時病室の前の廊下から物凄い音が響く。驚くミサトとシンジ。その廊下から悲鳴にも似た叫び声が聴こえた。
『あんたバカァ!?』
314夏厨:2010/07/17(土) 06:01:46 ID:???
数分前、シンジの病室前の廊下。金髪碧眼の少女が迷いイラつきながら辿り着く。
彼女の名は惣流・アスカ・ラングレー。4歳からセカンドチルドレンとして英才教育を受けたエヴァ弐号機専属パイロット。
「シンジは何処にいるのよ!まったくミサトもあたしを置いてどっか行っちゃうんだから」
薄暗い廊下を誰に問いかけるでもなく愚痴る。その視界の先に・・・誰かいる。
「あのー」
さっきまでの剣幕は何処へやら、猫をかぶったような声でその『誰か』に声を掛ける。
「302号室はこの辺ですか?」
そこまで口に出してふと気づく。その『誰か』が誰なのか。
「アンタがファーストチルドレンね」
来日直前に見たデータの写真の蒼髪紅瞳。そんな風貌の人間などそうはいない。しかもここはNERV施設内の病棟。
間違いない。そうであるならここは同じエヴァのパイロットとしてコミュニケーションを図るべきとアスカは思い立つ。
「あたし、アスカ、惣流・アスカ・ラングレー、エヴァ弐号機の専属パイロット、仲良くやりましょ」
「・・・」
一瞥した後、何も見なかったかのように視線を逸らすレイ。
「聴こえてるの?あたしは惣流・アスカ・ラングレー・・・」
「・・・聴こえてるわ」
(この女、ムカつく、何よこの態度)
「ま、まあいいわ、サードチルドレンのいる病室は何処?」
「・・・」
「って、ここじゃない、302号室、アンタここで何してるのよ」
「・・・わからない」
(わっ、わからないって、どう見てもシンジを心配してここにいる風情じゃない!なんなのよこの女!)
315夏厨:2010/07/17(土) 06:02:33 ID:???
実際レイは何故ここに自分がいるのか理解していなかった。
ただ先刻の執務室での出来事の後自分の部屋に戻るのが何故か躊躇われ、地上のバス停で3台ほどバスをやり過ごした後シンジの病室の前に来てしまっていた。
「シンジはこの中なのね?」
「・・・あなたはサードチルドレンの・・・何?」
その一言でアスカは激怒する。
(コイツ何様?あたしがシンジの何?コイツこそシンジの何なのよ?)
反面、レイ自身その言葉を吐いた後、何故自分がそんな事を言うのか理解できず困惑した。
(この気持ちは何?何故この人はこんなに怒るの?何故この人が碇君の名前を言う度に嫌な気持ちになるの?)
「そ、そんな事アンタに関係ないでしょ?そこどきなさいよ!」
思いがけず力が入ったアスカ。レイを病室の前から掃うような仕草をしたつもりが、レイの肩にアスカの腕が触れ、レイを押し倒すようになる。
「・・・っ」
二人、もんどりうって倒れこむ。レイがアスカの下で苦悶し、拒絶するような紅い瞳でアスカを射抜く。
「アンタがモタモタしてるからっ!」
アスカの苦い叫びの後、体勢をずらして膝まづいたまま離れる二人。レイは込み上げてくるワケのわからない違和感に迷い、アスカへの視線がさらに強くなる。
「な、何よ?やるっての?」
「・・・」
「何か言いなさいよ、何なのよアンタ!」
「・・・ここは病院、静かにするべきだわ」
冷淡に言い放つレイ。
316夏厨:2010/07/17(土) 06:03:46 ID:???
この一言で、アスカの全身の血液は蒸発するほどの沸点をむかえる。
『あんたバカァ!?』
やり場のない、豆腐に針を刺すような問答にプラス上から見下すような紅い瞳。そしてシンジへの献身にも似た、さっき見えた思いつめたような表情。そしてこの物言い。
アスカにとってこれを『宣戦布告』と取る以外の選択肢は持ち合わせていなかった。
「あたしはね、シンジの幼馴染にしてフィアンセ!ま、まぁ3歳の時の約束だけど、それにエヴァのパイロットになったのだって・・・」
そこまで言った時に病室のドアが開き、ミサトが赤鬼のような顔をして立っていた。

『アンタ達!面会謝絶の重病人の部屋の前で何してるの!喧嘩ならドグマででもやってなさい!』

病室の中、ベッドの上で半身を起こしてこちらの様子を心配そうに見るシンジがいた。
ミサトに怒鳴られて一瞬怯んだアスカだが、そのシンジを見つけて顔が見る見る紅葉する。
そしてレイは・・・。

(〔男〕one's fiance; 〔女〕one's fiancee[<((フランス語))]結婚を約束した相手。婚約者。いいなずけ。 )

先程のアスカの言葉を脳内で反芻して迷走していた。




つづく
317夏厨:2010/07/17(土) 06:05:58 ID:???
レス番付け忘れた
>>266 のつづきです
318名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/17(土) 14:03:02 ID:???
アスカと婚約設定は珍しいな
今後に期待してます
319名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/20(火) 13:29:52 ID:???
夏厨氏乙!続き待ってます
320名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/20(火) 20:30:26 ID:???
GJ!続き楽しみにしてます!
321夏厨:2010/07/22(木) 23:48:22 ID:???
みなさんアリガトです
まだまだ淡い繋がりのレイちゃんとシンジ君を幸せに出来るようにがんばります
無論アスカ嬢も隅には置いては置かないつもりです

リアル、月末引越し⇒祖母初盆で北海道行きが続くので、次回はもしかして9月かもしれません
忘れられてしまわないようにがんばります
322名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/02(月) 11:51:13 ID:???
夫婦生活スレ落ちた…
323名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/11(水) 00:13:07 ID:???
赤ちゃんからスレも落ちた…
324名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/13(金) 21:05:14 ID:???
てす
325名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/18(水) 20:24:07 ID:???
このスレは死なないわ
私が保守るもの
326名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/19(木) 21:44:28 ID:???
ほしゅ
手土産に何か書けばよかったな
327名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/21(土) 08:48:21 ID:???
次回の御訪問の際は手土産期待してます o(^o^)o
328名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/08/31(火) 07:31:17 ID:???
このスレは死なないわ。私が守るもの。
329名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/08(水) 07:22:55 ID:???
捕手募集
330名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/13(月) 20:51:46 ID:???
hohoho
331名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/22(水) 05:34:18 ID:???
332名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/25(土) 15:16:29 ID:???
誰か破の没案分岐もの書いてくれないかな
333名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/25(土) 16:39:39 ID:???
夏厨さんこないなぁ
334名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/26(日) 09:58:25 ID:???
文章力ある人ウラヤマシイ
335名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/27(月) 17:45:36 ID:???
infoseek無料ホームページサービス終了だそうです
336名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/29(水) 05:33:17 ID:???
もう秋だからなぁ。
337 ◆IE6Fz3VBJU :2010/09/29(水) 23:42:29 ID:???
破の没案分岐って記録全集に載ってるのかな?
って尼見たら12600円!
た、高い……。
338名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/30(木) 00:06:01 ID:???
12600円捨てたと思って買っちゃいなよ
339名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/04(月) 12:42:59 ID:???
捨てる金額じゃないだろww
340名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/10(日) 08:50:08 ID:???
341名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/10(日) 12:51:51 ID:???
夏厨さんこないなぁ・・・。
342名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/16(土) 09:43:05 ID:???
343名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/17(日) 11:01:14 ID:???
夏厨さん冷めちゃったのだろうか・・・。
超楽しみにしているんだが
344名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/22(金) 19:43:56 ID:???
このスレは死なないわ
345名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/23(土) 18:45:51 ID:???
そう 良かったわね
346名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/10/28(木) 13:52:40 ID:???
ありがとう 感謝の言葉
347 ◆IE6Fz3VBJU :2010/11/01(月) 23:49:39 ID:???
上にあるfanficnetのやつを勝手に翻訳してここに載せてもいいもんですかねぇ。
私は自分のSSを誰かが翻訳しても全然気にしないんで、他の人もそうだろうと思ってしまいますが
道義的にどうなのだろうと。
348名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/03(水) 00:36:43 ID:???
いいんじゃね?とりあえずここの熱上げてくれよ
349名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/03(水) 12:21:49 ID:???
こまけー事は良いんだよwと言うかもしれないが一応参考までに

インターネット上の海外の文を無断で翻訳して自分のホームページなどに載せると翻訳権の侵害になるそうだ。


作者に許可取って翻訳するのが一番いいってことだな。

350名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/10(水) 22:09:52 ID:???
というか双子座さんの新作期待
351名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:00:56 ID:???
「綾波、僕、帰るね」
 そう言ったシンジの声は、悪魔の声のようにしか聞こえなかった。
「まだ」
「いや、遅くなっちゃうから。晩御飯作んなきゃ。ね?」
「……葛城三佐や惣流さんの方が、大事なの?」
「そ、そうじゃなくて」
「じゃあ、もっと――いて」
 シンジは困ったように笑ったが、やがて躊躇いがちにレイの頭を肩に抱き寄せた。レイは満足げに
微笑み、頭をこすりつけた。

 レイが満足したのは、それから一時間も後だった。


 真っ暗になった夜道を、シンジは走って帰っていった。帰り際のキスだけは、譲らなかった。


 満足感は一瞬だった。暖房をつけているにも関わらず、身を切るように寒いのは何故だろうか。そ
の寒さを少しでも和らげようと、レイは布団をかぶる。木製のラックの上、昔は眼鏡ケースがあった
場所にあるのは、小さく簡素な写真たてだった。初めて買った、家具以外のものだった。その中に収
められた写真は、シンジと行った初めてのデート、ハイキングの写真だった。
 昔からは想像もつかない笑顔を湛えた自分と、朗らかに笑うシンジ。自分の幸せの象徴だった。付
きあいはじめて間もない頃の、自分の姿だった。
 先ほどのシンジの温もり、匂い。そういったものが思い出される。まただ、とレイは思った。
「いかり、くん……」
 下腹部の、さらに下。シンジのことを思い浮かべるとそこにわだかまる熱。今までは耐えられてい
た。自制心を奮い起こし、眠りで誤魔化してきた。
 しかし今日は、どうにも限界だった。シンジの笑顔を思い浮かべ、シンジに触れられる感触を想う。
写真の中にいるシンジの優しさを想う。――シンジを想う。


理性が壊れるのに、さして時間はかからなかった。
352名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:02:38 ID:???
 快感など一瞬だった。言いようのない後悔の念。決して犯すまいと思っていた境界を、自分は越
えてしまった。乱れた呼吸と、だらしなく濡れたショーツ。シンジが好きだといってくれた綾波レイ
の面影はなかった。

 どうして、こんな女になってしまったのだろう――

 昔は違った。自分はもっと、足ることを知っていた。そういった対象で男性を見る同級生を軽蔑す
らし、内心で優越感に浸っていたものだった。猥談に花を咲かせる女子を蔑んでいた。愛する人をそ
んな目線でしか見られないのか。自分は違う。自分とシンジは、心で繋がっている。互いに慈しみあ
う関係であり続けるのだと――

 だが、今はどうだ。果たして彼女達を笑えるのか。その問いに、レイは答えられなかった。今の自
分の姿を見たら、シンジは何を思うだろうか。軽蔑するだろう。幻滅するだろう。もう笑いかけてく
れなくなってしまうかもしれない。やっと手に入れた幸せを、安い快楽に身を任せたせいで失うかも
しれないのだ。少なくとも、自分はその程度の女に成り下がったのだ。
 
 二人目が恨めしい、そうレイは思った。健気にシンジのことを想い、シンジを守るために自爆し、
永遠にシンジの中で生き続けていられる二人目が妬ましかった。その健気さが、今の自分にあるとは
到底思えなかった。そんなことを思っても、詮無きことなのに。そしてそんなことを考えても、自己
嫌悪を重ねるだけなのに。
 自分がこんなに醜いと思わなかった。シンジに会わなかったら、こうはならなかったのだろうか、
と思ってしまう自分にまた呆れる。シンジのせいにしてしまおうとする卑怯な自分に呆れる。
353名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:04:05 ID:???
 ハイキングの写真を見て、レイはますます惨めになった。この頃の自分に戻りたい。手を触れ合わ
せているだけで、側にいられるだけで幸せだった。何も要らないと思った。山道がつらくなってくる
と、シンジはひょいとレイの荷物を持ってくれる。頂上で食べるお弁当は、疲れも手伝っていつもよ
り更に美味しかった。その時交わした初めてのキスは、今もレイの心の奥で輝く、かけがえのない宝
石だった。
 なのに、どうして人は、自分は、それだけで満足できないのだろう。手を繋ぐだけでは飽き足らな
くなってしまうのだろう。昔のことを考えれば、それは信じられないほど幸せなことなのに。どうし
てその宝石を、自ら汚してしまうのだろう。
 手を繋ぐのが当然になり、逢うたびにキスを要求するようになった。シンジが優しいのをいいこと
に、シンジを振り回すようになった。どんなに忙しくとも、レイが望めば、シンジはいつでも駆けつ
けてくれた。いつでも抱き締めてくれた。シンジを独占できるのが嬉しくて、歯止めが利かなくなっ
てしまった。
あの世界一笑顔が綺麗な優しい少年を、下劣な性欲の解消のために穢してしまったことは、レイの
心を、そして自尊心を大きく傷つけた。
 自分の頭の中にあるシンジなど、ただの幻なのに。逢うたびに笑顔をくれる彼こそが、本物のシン
ジなのに。その幻のシンジを相手に欲情したことは、本物のシンジに対する、紛れもない裏切りだっ
た。こんなことに使われるために、シンジはこの写真を撮ってくれたのではないのに。二人のかけが
えのない思い出のために――
354名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:04:53 ID:???
 シンジと一つになりたいから、シンジと溶け合いたいから。寂しいから。それらしい言い訳はいく
らでも付いた。しかしそれはあくまで言い訳に過ぎなかった。何を言ったところで、自分のしたこと
は変わらない。
 一人きりのベッドが広く、冷たい。このベッドで、シンジとしたい。初めてをもらってほしい。誰
にも邪魔されず、全てを脱ぎ捨てて、キスをして、抱きあって――。それを想い、また熱くなる自分
の身体が、どうしようもなく情けなかった。いっそ舌を噛み切ってしまいたいと思った。そんな物が
欲しくて、シンジの側にいるのではないのに。シンジを支え、支えられたいから、自分はシンジの側
にいるはずなのに。これでは自分の写真を買っている下品な男子と変わらない。

「碇くん、ごめんなさい、ごめんなさい…………」

 せめてもの懺悔も、シンジに届くことは、決してない。
355名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:05:54 ID:???
 翌日も、シンジはレイを送ってくれた。隣同士でベッドに腰掛け、当然手を握っている。時折思い
出したように、頭を撫でてくれる。いつもならレイもそれに応えて、腕を絡めるだろう。しかし、今
日はとてもそんな気分になれなかった。それを隠すように、レイは言う。
「碇くん、何か飲む?」
「あ、じゃあ紅茶をもらおうかな」
「お砂糖は?」
「いや、いいよ」
「わかった」
 紅茶を淹れることは、練習の甲斐あって、唯一レイがシンジより優れていることだった。美味しい、
と褒められればそれが一番嬉しかった。シンジ以外に淹れる気もなかった。
 出来た紅茶をカップに入れ、運ぶ。慣れた作業だった。しかし、
「碇くん、こう――――きゃっ」
 シンジが置いていた鞄につまずき、バランスを崩す。咄嗟にシンジが支えようとしたが、間に合わ
なかった。
紅茶は地面にこぼれ落ち、レイはベッドに座るシンジを押し倒す形になってしまった。かしゃん、
とカップが砕け散る。
「い、碇くん。ごめんなさい」
「あ、いや、構わないよ。怪我ない?綾波」
「うん、平気」
「よかった。その、紅茶かかっちゃったから、シャワー浴びてもいいかな」
「うん。ごめんなさい」
 シンジは優しく微笑んで、構わないよ、ともう一回言った。
「何か、着替えるもの、あるかな。ジャージとか」
「スウェットが」
「じゃあ、それでいいや。出しといてくれる?」
「うん」
 シャワー室にシンジが入ると、レイは溜息を吐いた。やってしまった。シンジの微笑が救いだったと思う。いつまでも落ち込んではいられない、気持ちを切り替えよう。

356名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:07:41 ID:???
 ベッドに腰かけて待つうち、シンジが自分のスウェットを来て出てくる。
「やっぱり、ちょっと小さいや」
 ちょっと、ではないだろう。袖がひたすら短い。体格の差を、ふと感じた。
「寒くない?」
「ちょっとね。でも、大丈夫だよ」
 照れくさそうに笑うシンジは、やはりシンジだった。ふと外を見ると、もう幾分暗い。食事を作ら
なければならない時間だ。普段ならもっといてほしいと頼むところだが、昨日の今日でそんな気分に
は到底なれなかった。
「帰らなくても、大丈夫?」
「あ、うん……」
 どこか歯切れの悪いものを残しながら、シンジは再びレイの横に腰かけた。
「どうか、した?」
「……綾波」
 その声に顔を向けると、刹那、シンジはレイの唇を奪い、そのまま押し倒した。レイは全く反応できない。
「んっ……」
 いつになく乱暴な仕草。しかしその乱暴さが、レイの脳髄を白く焼いた。だめ、そんなことしないで。また止まらなくなってしまう。
「今日は……帰りたくない」
 シンジの決意に満ちた視線に射止められ、レイは目が離せなくなる。その決意の奥にある優しさが、
レイには見えた。
「もちろん、綾波がいやだったら、僕は――」
 レイは、激しくかぶりを振った。
「嫌じゃない。でも――」
「なに?」
357名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:08:23 ID:???
「私に、そんな権利……ない」
「どういう、こと」
 シンジの問いに、レイは、
「わたし、碇くんが思ってるような女の子じゃない……」
「綾波」
「わたし、碇くんのこと考えながら、この部屋で、独りで……碇くんは、わたしのこと、大事にして
くれてるのに、わたし、それを裏切って――」
「裏切りじゃないよ」
 レイの言葉を遮って、シンジは言った。優しい笑顔を湛えて。
「僕のこと考えてくれてたなら、それは裏切りじゃないよ。それに、ごめん。僕も、してたんだ。そ
の、綾波のこと、考えながら……」
「……ほんとう?」
「うん……ごめん」
「ううん」
 レイはまた、かぶりを振った。
「碇くんなら、構わない……。でも、碇くんが我慢するくらいなら、わたしが――」
「綾波……」
 先ほどとは違い、いたわるように優しくレイに口付ける。シンジの首に腕を回して、レイもそれに応えた。
「乱暴に、しちゃうと思うけど……」
「平気。好きに……したらいい。痛くたって、乱暴だって、碇くんなら……」
「出来るだけ、優しくするから」
「お願い……」
 シンジの手が、ブラウスに伸びる。喜びと期待で、身体が震えた。

 本物のシンジは独りのそれよりずっと心地よく、そしてずっと、暖かかった。乱暴とは、程遠かった。


 ――碇くん、大好き……

おしまい
358名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 00:09:45 ID:???
勢いだけで書いたから、誤字脱字あるかも。未熟ですまない。夏厨さんこないかな
359名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 16:02:02 ID:???
……なんかJUNさんっぽい
360名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 18:16:17 ID:???
あ〜やっぱLRS最高だわ。
お疲れさま!
投下してくれてありがとう。
361名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/12(金) 18:25:56 ID:???
362名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/13(土) 21:27:34 ID:???
GJGJGJ
363名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/20(土) 11:16:45 ID:???
保守
たしかにJUNさんぽい気がしなくもなくもない
364名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/20(土) 20:50:27 ID:???
エヴァ板良スレ保守党
365名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 03:25:19 ID:???
「いかりくん」
あのひとは前触れなしにやってきた。
あのひとは蒼い眼に赤い髪。

「いかりくん」
なぜあのひとは、あなたの隣にいるの。
なぜあのひとは、あなたと一緒に住むの。

「いかりくん」
なぜあのひとは、あなたと同じお弁当を食べてるの。

「いかりくん」
なぜなの?
あのひとといっしょのあなたを見ていると胸が痛むの。

「いかりくん」
赤木博士に相談した。
葛城一尉に相談した。
碇司令に相談した。
でも誰も答えてはくれなかった。

誰か教えて。
366名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 07:50:45 ID:???
「いかりくん」
わたしの部屋に来てくれた。
プリントをいっぱい持って。
わたしの代わりに紅茶をいれてくれた。
きれいな色。
すこしにがいけど、暖かい。

「いかりくん」
わたしの白い手が、シャツの背中を掴む。
わたしの口が動く。
「帰らないで、、、ずっと、、ここにいて、、、。」

「いかりくん」
月の明かりが入ってくる。
わたしの部屋にひとつしかないベッド。
一枚の毛布。ひとつだけのまくら。
あたたかい。さっきの紅茶と同じ。
わたしは眠る。
はじめてのぬくもりの中で。

「いかりくん」
来なければいい朝が来た。
初めて見る寝顔。かわいい。

「いかりくん」
おおきな声。
聞き覚えのある声。
そう、あのひとの声。
赤い髪の蒼い眼の。
わたしの口が動く。

「あなたはなぜ怒っているの?」
367名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 19:34:08 ID:???
まだ続きがあるの?
368名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 21:30:33 ID:???
「いかりくん」
赤い髪のあのひと。
弐号機パイロット。怒鳴ってる。
眼は今はわたしより赤い。
『うわきもの!』『どろぼうねこ!』
初めての言葉。意味は知らない。

「いかりくん」
いつの間に来たのだろう。
赤木博士が疲れた様に言う。『ぶざまね。』
葛城一尉が嬉しそうに言う。『しゅらばね。』
これも初めての言葉。わからない。

「いかりくん」
わたしはあなたを見る。
顔色が変。初号機と一緒。
どうしたの。言っている意味がわからない。
教えて。教えて。

何が起こっているの。
369名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 21:51:00 ID:???
こ、これは…もしかして…あれと同じ…
370名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/21(日) 23:09:32 ID:???
ざわ…ざわ…
371名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/25(木) 15:37:29 ID:???
ここのLRS小説はいいな。
ポカポカしてくる。
372名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/11/30(火) 04:38:32 ID:???
僕は、彼女に出会った。
苦手な父さんの前で。
乗りたくなかった「初号機」の前で。
そう、「綾波レイ」に。


包帯だらけの彼女が床に投げ出される。
付いていたはずの看護師さんもいない。
僕は思わず抱き起した。
手が彼女の血で濡れる。

僕は、、ぼくは、守りたい、、、
この子を、名前も知らないこの子を。
僕は叫んでいた。
「僕が乗ります!」
それが父さんの「シナリオ通り」とも知らずに。

でも、後悔は無い。
あれから何度も死ぬような目にあったけれど、
彼女、綾波レイ、僕は「綾波」って呼ぶけど、
綾波は、僕にだけ、誰も見たことのない
笑顔を見せてくれるんだ。
それだけでいい。

僕は君を守る。
君の笑顔は僕が守る。
373名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/03(金) 14:49:52 ID:???
良いね
374名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/04(土) 07:08:14 ID:???
「主婦」
結婚し一家の家事を取り仕切る女性
「結婚」
おとことおんながひとつになること

「いかりくん」
あなたはわたしに「主婦」が似合うと言った
それはわたしとあなたが「結婚」するということ
「いかりくん」
あなたはおとこ、わたしはおんな
あなたとわたしはひとつになるの
それはとてもきもちのよいこと
赤木博士が教えてくれた
葛城一尉も教えてくれた
「いかりくん」
さあ、はやく
わたしとひとつになりましょう
375名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/05(日) 02:40:37 ID:???
綾波が「いかりくん」連呼しすぎ
俺の方が良い男なのに…
376名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/05(日) 13:55:33 ID:???
>>375
お前は好きな子のために未知の化け物に特攻して
尚且つ化け物に食われたその子を救い出したこのがあるか?
これ以上のことができなきゃシンジよりいい男とはいえないな
377名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/05(日) 23:34:16 ID:???
「いかりくん」

わたしとあなたには絆があるの。
そう、あのときから。
エントリープラグの中で泣きながら
あなたはわたしに手を握ってくれた、あのときから

「いかりくん」
だから、あなたはわたしとひとつになるの
だれにも邪魔はさせない
赤い髪の二号機パイロットも
どこかのスパイも
眼鏡の子も

たとえ碇司令でも
378名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/27(月) 11:05:27 ID:???
シンジ「綾波、味噌汁はどう?」
レイ「おいしい……」
379名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/12/29(水) 00:58:02 ID:???
ポカポカしました
380 【大吉】 【1881円】 :2011/01/01(土) 22:06:35 ID:???
あけおめ!
381名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:05:18 ID:???


「私…泣いてる…」

何故私は…泣いているの?


涙…
初めてみたはずなのに初めてじゃない気がする

私の中に何かを感じる
大切な何か…
わからない…
でも、わからないままではいたくない…
無へと還る、それが私の願い
でもその前に…答えを知りたい…。
382名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:06:01 ID:???

本部施設の出入り全面禁止により本部に箱詰めになって数日。
休養をとる時以外、ほぼずっとこの男の後ろに付いて回っている。
必要のないとき以外はそうしろと命令されたからというのもあったが、この男、特務機関ネルフ総司令のこの碇ゲンドウといれば答えが見つかるような気がしたというのが最大の理由だった。
しかし結果は芳しくなかった。毎日付き従ってもその繰り返しで何の収穫もなかった…。約束の時だけが迫ってくるばかり。
今日も変わらず
レイは司令の傍についている。この日は副司令と司令室にいた。
自分は2人の会話に参加したりといったことは基本的にしない。
ただ黙ってその場にいるだけだ。

「老人たちは焦りすぎたな」
「―無理もないエヴァ、アダム、リリス、すべてが我々の手の中に揃っているのだからな」
「初号機パイロットはよくやったと思わんかね?」
「………」
「………」
しばしの沈黙がその場を包む。

トクン…

静寂したその空間の中で、水面を揺らす程度の小さな鼓動…

(初号機パイロット…?)
(サードチルドレン…)
(碇司令の息子…)
(………………)
(…碇君……)
383名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:08:06 ID:???

トクン…

その名前に再び先ほどの反応が蘇る。
胸が締め付けられるような感覚…。
涙を流した時と同じ…。
初めてのはずなのに初めてじゃない気がする。
自分がわからない…。

(これは私じゃない?)
(「あなた」の気持ちなの?)

自分の前に「綾波レイ」として生きていいた者.
初号機パイロットを助ける為に自爆したと彼自身から教えられた。
自分の中の「彼女」の存在に気づいた。
涙を流したり、胸を締め付けたりしたのは自分ではなく「彼女」。
「彼女」は自分の中で確かに生きている。
自分の中の何かは「彼女」の存在だった。
だが、満たされない感覚はもうひとつあった。
自分の中に穴が空いている感覚…。かつてそこにあった何か…。
どうすればそこは埋まるのか…。

「欠けた…リリスの心…か…」

この場を締めくくった副司令の言葉に探すべきものをやっと理解した。
(…心…)
(今の自分の中がぽっかりと空いてしまってる感じ…私の心が欠けているからなの…?)
(どうすれば心は埋まるの…?)
(誰が答えを持っているの…?)
いくら思案しても答えは見つからなかった。
384名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:09:18 ID:???

体の健康状態を診てもらうために午後に司令と病院に行った。約束の時までにこの体に何かあっては「代わり」のいなくなった今となってはゲンドウの計画の破綻を意味する。ゲンドウからしてみれば注意してもしすぎることはない状況だ。
何事もなく健診も終わり帰る途中、病室の前で踞っている少年がいた。
何気なく視線を送り、一瞬目が合う。
この体になって彼と会うのは二度目だった。「彼女」から受け継いだ記憶から彼と親しかったのを知っている、しかし今の自分は彼の知っている「彼女」とは違う。どう接したらよいのかわからなかった。
だから、すがるような視線を送ってきた彼に何もせずそのままに立ち去った…。

後ろから彼のすすり泣きが聞こえる。
また胸が締め付けられる感覚に襲われた。しかし、今度のはさっきの何処と無く安心した感じとは違い、とても冷たかった…。

頬に一筋の涙が伝った…。

(また、私泣いてる…。)
(…いえ…泣いてるのは私の中の「彼女」…)
(碇君…どうしてあなたは「彼女」を掻き乱すの…)
(………)
(あなたが答えを持ってるの?)
385名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:10:32 ID:???
翌日、レイは本部の中庭に来ていた。
池の淵にしゃがみ込み手を入れてみる…。

(…冷たい…。)
「彼女」の記憶によるとここはあの少年と関わった場所…。
彼がここにいるような気がした。
来る途中もいそうな所に訪れてみたが、彼も移動しているのか、見つかることはなく
ここを最後の望みとして来てみたが、望み叶わず。
約束の日が訪れ、残された時間も少なくなったこの時にもう一度、彼と会ってみたかった。
答えを…この虚無の部分を埋めて消えたかった…。

ドォン!!
静寂を破るように本部の方で爆発音がした。
時間切れ…。
とうとう時は来た。
あの男の元へ行き無へと還る。
ゆっくりと腰を上げた。

386名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:12:07 ID:???

レイは養殖プラントの前で今はもう崩れさった
自分の代わりたちを眺めている。


「やはりここにいたのかレイ。」
後ろから声がかけられる。
「………」
ゆっくり振り向き、その男の姿を認める。
「約束の時だ…さぁ行こう。」
「………」
返事は、しない。ただ黙ってついて行く。

387名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:15:03 ID:???

(加持さんを失った…)
(ミサトさんを失った…)
(トウジを失った…)
(そして…綾波を失った…)
(ここでまたアスカを失うわけにはいかないんだ!)
(ミサトさんと約束したんだ)
(だから…だから…)
「動いてよ!母さん!!」

轟音―。
ベークライトが突き破られていく…。
目の前に何度も共に戦ったよく知る紫の機体が現れる…。

「母さん…」
388名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 13:16:34 ID:???
活動限界まで1分を切った。
「うおぉぉぉ!!負けてらんないのよぉ!ママが見てるのにぃ!!」
8体目のエヴァの喉を潰しもう1体の方へ投げる。
うまい具合に激突し体勢を崩した。
(殺れる!)
体勢を立て直す前に9体目に飛びかかる。
「これでラストォォォォォ!!!」
最後のエヴァシリーズの胸に拳をぶちこみ、コアを握り潰そうと力を籠める。
コアにヒビが入り9体目は苦しむ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
(潰せる!)
(!?)
が後方から殺気。
背後からエヴァシリーズの武器が飛んでくる。
咄嗟に腕を引き抜き、A.T.フィールドを張り押し留める。
押し戻しかけたその時、
突如槍は形を変えた。
「ロンギヌスの槍!?」
ロンギヌスの槍はアスカのフィールドを容易く破った。
(殺られる!!)

ズキュ!!
389名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:29:44 ID:???

「………」
痛みがこない…。確実にやられたと思ったが槍の刺さる感覚は一向に訪れない…。
高シンクロしたため槍が刺さったときに即死してしまったのだろうか…?
(ちきしょう…)
(ごめんなさい…ママ)
(ママが見てるのに…護ってくれてたのに私、また負けちゃった…。)
(温かい…死んじゃった後もママは私を包んでくれるのね。)
「アスカ…」
「何?ママ…?」
「目を開けなさい…」
「何言ってるのママ…目はずっと開けてるわ。でも死んじゃったんだもの。暗闇しか見えないの。」
「アスカ…」
「何…」
「アスカ…」
「何よ…?」
だんだん自分の名前を呼ぶ口調が自分の母親のそれとは違ってきいてることに気づき、
同時に何故かこの口調にイライラしてきた。
「アスカ!」
「何よ!うっさいわね!!」目は開かれ暗闇は消えていた。
390名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:40:32 ID:???
「普段よりずっと母さんを感じる…。ありがとう。母さん…応えてくれて」
シンジが初号機に乗り込むと初号機は一瞬の咆哮の後、十字の光と共にケイジを突き破る。
光は羽ばたくようにゆっくり先端から2つに割れ、初号機の背中で羽根のようになった。
その様子を戦自指揮所で見ていた隊長たち…。
「エヴァンゲリオン初号機?」
「まさに悪魔か…」

S2機関全開。シンジは駆け出す。
「待ってろ…アスカ」
南西の方でエヴァ弐号機がエヴァシリーズにアッパーをくらわしているのが見えた。
アンビリカルケーブルは断線している。急がないと!弐号機の後方で瀕死のエヴァシリーズの1体が槍を投げるのが見えた…。
(危ない!)
弐号機はA.T.フィールドを展開してこれを防ぐ。
が、槍は突如形を変えた。「あれは…確かロンギヌスの槍…。」
第11使徒戦で零号機が投擲し、遥か彼方にいた使徒のA.T.フィールドをいとも容易く破り、殲滅したのを覚えている。
「ヤバい!!」
シンジの記憶通りロンギヌスの槍は弐号機のA.T.フィールドをみるみる侵食していく。
初号機は更に加速する。

ズキュ!!

「うぐっ…!」
391名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:45:07 ID:???
間一髪弐号機に刺さる寸前に槍の矛を受け止めることができた…。
初号機の胸の装甲を少し貫いたがたいしたことはない。
「アスカ、遅くなってごめん…。僕はもう大丈夫だから…」
シンジが間に割って入る際に軽く突き飛ばしため
尻餅をついたような体勢になっている弐号機に…弐号機パイロットに呼び掛ける。
しかし反応がない。活動限界もまだ僅かに残っている筈だった。中で気絶してしまったのだろうか…?
「アスカ?」
未だ反応はない。
「…アスカ!」
「アスカ!」
「何よ!うっさいわね!!」
久しぶりに聞いた少女の声は少女らしい言葉、変わってない…。
「彼女らしい…」シンジは思った。
さっき程の推進力のなくなったロンギヌスの槍を地面に叩きつけると
切っ先を踏み潰し武器としての機能をなくす。

392名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:47:05 ID:???
「シンジ…?」
自分の名前を呼ぶ声に反応して目を開けるとそこには初号機が背を向けて立ち塞がっていた。
場の状況が整理できなかったが徐々に頭もはっきりしてきて飲み込めてきた。
と同時にある気持ちがふつふつと沸き上がってきた。
「こんのバカシンジ!!私一人に戦わせて!活動時間も限られてるなかで9体も相手にさせられたのよ!
ったく……はぁ…でも今のは完全に殺られたと思った…助けてくれてありがと。
そのことだけには礼を言うわ。アタシがダメになってた間迷惑をかけたような気もするし」
「はは…久しぶりの会話なのに容赦ないな、アスカは」
「うっさいわね…にしてもエヴァシリーズはもう私がほとんど全部1人で倒しちゃったから、
アンタはせっかく来た…の…に……。そんな!?」
アスカは今見ている光景に我が目を疑った。
「倒したはずのエヴァシリーズが…」
自分がさっき倒し完全に沈黙していたはずのエヴァシリーズが再び立ち上がっている。
「S2機関ね…せっかく倒したのに…」
「倒しても復活するなんて…どう戦えばいいんだよ!?」
動揺を隠せないシンジ。
がアスカはエヴァシリーズの中の1体が他のに比べて完全に再生してないのを認めた。
さっき自分がコアを握り潰しかけた奴だ。そいつだけ若干千鳥足気味だった。
「シンジ!聞きなさい!おそらくアイツらの弱点は今までの使徒と同じようにコアよ!
コアを確実に潰せばS2機関は完全に停止するはずよ!」
「なるほど。少し大変だけど今度はこっちも2人だし、
僕らはユニゾン訓練もしたからかなり有利に進められるはずだ」
「あぅ…あの訓練は思い出したくないけど…アンタの言う通りね。
戦い慣れてると言う意味でも、さっき戦った感じからこっちがかなり有利よ」
「よし!行こうアスカ!」
「ええ!…ってアンタが仕切んじゃないわよ!!バカシンジのクセに!!」
士気が高まったところで、起き上がろうとレバーをつかんだ瞬間、プラグ内の明かりが消えた。
「ウソ!?活動限界!?」
393名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:51:43 ID:???

「どうしたの?アスカ?」
初号機の背後にいる弐号機は突然うなだれてしまった。
「活動限界みたいね…」
内蔵電源が切れた後も暫く生きている通信回線でアスカが話しかける。
ケイジで初号機に乗り込むときオペレーターの通信で弐号機の活動限界が近いことを
確かに聞いていたが、復活したアスカとの再開でシンジはすっかり忘れていた。
「そうか…わかった。アスカはそこで休んでいるといいよ。僕が1人で殲滅するから!」
「調子に乗ってんじゃないわよ…バカシンジ…頑張んなさいよね…」
言葉とは裏腹にシンジの意思の籠った言葉にアスカは安心したようにレバーから手を離した。
「マヤさん!聞こえますか?アスカと弐号機のシンクロ率を全面カットしてください」
「わ、わかったわ…」
震えた声が返ってきた。あちらも大変な状況のようだ。
だがこれでアスカが怪我をする確率は大幅に減った。
こちらも戦いに集中しよう。
「行くよ、母さん!」
シンジの言葉に応えるように初号機は再び咆哮した。
草木が揺れ強風が沸き起こる。
394名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:55:22 ID:???
戦自指揮所にて観測員が叫ぶ。
「大気圏外より高速接近中の物体あり!」
「何だと!?」

シンジは上空より何かが接近しているのを感じ見上げる。やがてそれは目に見える距離になり、一瞬でその距離を縮め初号機の喉元で急停止した。
「うわっ!?」
「これはロンギヌスの槍!?月の軌道に乗ってたはずなのに…母さんがやったのか…?」
しばし困惑したが、すぐにこの槍の高い能力を思い出し手にとった。
この重量ならば充分自分でも扱える。
そう直感したシンジはすぐに攻撃に移った。
エヴァシリーズもロンギヌスの槍の飛来に気づいた頃から初号機に襲いかかっていた。
シンジはすぐそばまで近づいてきたエヴァシリーズの1体に肘鉄をくらわせ、
後ろにのけぞっている間にコアを貫いた。
全身から大量に血を流し、痙攣しながらそいつは倒れた。
「あと、8体」
395名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 14:57:42 ID:???
(すごい…いつもよりもずっと速く、鋭く動ける!)
高シンクロ状態に加えオリジナルのロンギヌスの槍を手にしたシンジにエヴァシリーズは敵うこともなく、
確実にコアを潰されその数を減らしていく。
8体目のコアを潰し、最後の9体目を探すと空に逃げていくところだった。
シンジは槍を投擲すると、意思を持ったように槍はエヴァシリーズを補足しそのコアを確実に貫いた。
終わった。


「エヴァシリーズが殲滅された」
「これでもう我らの手による計画発動は叶わなくなった…」
「初号機パイロットの自我がここに来て持ち直されるとはな…」
「人の心は予測不能…と言うわけか」
「だから不完全な生き物なのだ我々人類は」
「だが今回はその不完全さに敗北した」
「左様。もはやこうなってしまってはここにいる意味はない。我らの計画は失敗した」
「碇の息子…親子揃って…」
モノリスは静かに消え、暗闇だけが残った。
396名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 15:03:16 ID:???

落下してきた最後のエヴァシリーズから槍を引き抜くとアスカから通信がきた。
「お疲れさま。アンタにしては上出来ね」
「君からお誉めの言葉を貰うのはこれで2度目だね。やっぱり寒気がするよ。」
「アンタねぇ…まぁいいわ。
ところでアタシたちが戦ってる間とうとう来なかったあの女は何してんのよ!」

ドクン…

胸が締め付けられる。
「綾波は…機体が無いんだ。使徒を倒すために自爆してしまったから…
だから来られなかった。」
スピーカー越しにアスカが息を飲むのを感じた。
「それって……。ファーストは無事なの?まさか零号機と一緒に…?」
普段は快く思ってなかったアスカだがこういう時はちゃんとレイを心配してくれるのがシンジには嬉しかった。
アスカに自分が知り得たレイのことを伝えた。同時に今のこの状況を伝えた。
「そんな…ミサトが死んだなんて…。」
さすがにショックだったらしい。
「綾波は…今の綾波は…僕の知らない綾波だ…向こうも僕を知らない。
僕の知ってる綾波は死んだんだ…。僕を助けるために…」
途中から涙声になっていた。
「ファーストは今何処にいるの?」
突然の質問
397名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 15:05:33 ID:???
「…?知らないよ、でも多分あそこだと思う…」
たくさんのレイが泳ぎそして崩れ落ちたあの場所。もしくは渚カヲルを殲滅したリリスが安置されている場所。
いずれにしてもネルフの最深部の可能性が高い。
「なぜそんなことを聞くの?」
「アンタファーストのとこ行って来なさいよ。
そして一度ちゃんとファーストがアンタの知ってるファーストかどうか見極めてきなさいよ」
予想していなかった答えにシンジは驚く。
「な、何言ってんだよ!?今言っただろ!!今の綾波は僕の知ってる綾波じゃないんだ!!行ったって無駄さ!
また僕の知ってる綾波と違うことを思い知らされるだけさ!」
「アンタの話を聞いた限りじゃアタシはまだファーストが完全に別人とは思えないわ。
アンタの方も今言った理由でロクに確かめてもいないみたいだしね」
「違うあれは綾波じゃない。昨日はっきりとわかったんだ!!」
シンジの脳裏に昨日の病院での出来事が蘇る。
(クソォ…)
「そうやってアンタは、ファーストは自分を守って死んだって決めつけて
自分の中に綺麗に残しておきたいだけじゃない」
「よくもそんなことを…綾波が吹っ飛んだ時どんなに無事を願ってたか、アスカにはわかりっこないよ!!
そして、綾波が生きてるって聞いた時どんなに嬉しかったか…
病院にいた『別人』をみた時どんなに辛かったか…わかりっこない……」
「まだ『別人』って決まったわけじゃないでしょ!!もう一度だけ確かめるだけじゃない!!」
「やめてくれ!これ以上綾波のことで僕に希望を持たせようとしないで!!」
「アンタはミサトの言葉をもう忘れたの!?」
398名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 15:07:37 ID:???
「!?」
「アンタ、ミサトに言われたんでしょ?希望を捨てるなって…。
ミサトが…ミサトがアンタの為に残した最期の言葉くらい…最期の命令くらい聞いてやんなさいよ!」
気づいたらアスカも涙声だった。シンジの頭でミサトの言葉が思い出される。

「あなたはまだ生きてるんだもの。生きていて…まだできることがあるんだもの」
「私はあなたに…まだ希望を捨ててほしくないのよ…」
「誰のためでもなくあなた自身のためにエヴァに乗ってほしいの」
「怖がらないでもう一度自分の遺志で一歩を踏み出しなさい」
「誰の力も借りずに答えを探しなさい」
「あなた自身これからどうしたいのか」
「そして答えを見つけられたら、必ず…戻って来るのよ…」

「…約束よ……」
399名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/05(水) 15:11:10 ID:???
守られることのない約束…。でも僕はまたエヴァに乗った。大切な人を守れた。
ミサトさんの言うようにこれまでがそうだったからと言ってもこれからもそうだとは限らない。
綾波のことも…。もう一度希望を持っていいのかもしれない。

「アスカ…」
「何よ…?」
まだ少し涙声のアスカ。
「ありがとう。綾波の所へ行ってくる」
「そうこなくっちゃ。ファーストも待ってるわよ…」
「うん…じゃあ、行ってくる。」
「ちょっと待って。行く前にして欲しいことがあるんだけど?」
「?」
「アンビリカルケーブル引っ張ってきて。」
「…………う、うん。本当にありがとうアスカ。」
(そしてありがとう…ミサトさん…)
400名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/06(木) 19:08:08 ID:???

ターミナルドグマ

LCLプラントに浮かぶ死体…。
自らと共にここを爆破しようとしたが、女として実の母親に阻まれ失敗し、碇ゲンドウによって殺された。
結局この男の後ろに付いてきてしまった。答えはまだ見つかっていないのに…。
(もう、諦めるしかないのね…)

ゲンドウの後ろで浮かんでいる赤木リツコの骸が不意にレイの目にはいった。

「アダムはすでに私と共にある。ユイと再び逢うにはこれしかない。
アダムとリリスの禁じられた融合だけだ。そしてユイの許へ行こう」
ゲンドウがアダムのいる手でレイの頬に触れる。
401名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/06(木) 19:09:39 ID:???
パシッ

「!?」
レイはゲンドウの手を弾いていた。
ゲンドウは突然のことに驚いている様子だった。
「どういうつもりだ?レイ」
「まだ還るわけにはいかないの…」
先ほど、偶然目に入ったリツコの骸…。そう彼女は自分の望みのために動き、ゲンドウの計画に背いた。そして死んだ…。
自分も自分の望みのために動きたい…。
その結果消されても構わない。どうせ消える運命なのだから…だから…
(このまま消えてしまいたくない…)
(答えを見つけたい…)
その為にもう一度…

(碇くんに…会いたい…)
402名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/06(木) 19:11:18 ID:???
「あなたの為に消えるわけにはいかないの…私はあなたの人形じゃない」
「何故だ?」
「私はあなたじゃないもの。自分の望みの為に動く…」
「葛城ミサトに…赤木リツコ…そしてお前まで私の邪魔をするのか……。
ん!?
もう一人邪魔者が増えるかもしれんな…」
何かの落下音。音の重みからしてかなりの質量だ。

ドオォン!!

多大な音共にそれは着地した。
403名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/06(木) 19:14:37 ID:???

シンジはロンギヌスの槍を片手にセントラルドグマまで一気に降りていった。
いや、落下しているという方が正しいか。ゲンドウを最後にみた時彼は間違いなくA.T.フィールドを張っていた。
レイと話しをする時、万が一父親と戦うことになれば彼は使徒並みの力を手にした存在ということだから、
この槍はあっても損にはならない。
父親と戦う覚悟はできている。
間もなくターミナルドグマ、ヘブンズゲートの前に降りる。

ドオォン!!

荒い着地をした。案の定ヘブンズゲートは開いており、
そしてそこに肌に何も身に付けずに彼女はいた…。
(父さん…)

(…綾波……)
404名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/07(金) 10:52:16 ID:???
うわ長い
後で読むがとりあえず投下乙
405名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/07(金) 23:04:12 ID:???
2人の前まで来るとゲンドウが徐に口を開いた。

「何故ここにいる?」
「父さんに用はない…。用があるのは綾波の方だ。」
「レイをどうするつもりだ?」
「話がしたい…。父さんを退けてでもそうする。その覚悟はできてるよ」
槍を持っている手で構えをとる。

ゲンドウは口元をつり上げたように笑うと横にどき初号機越しにレイとシンジは向かい合う形となった。

戦うことになると思っていたのにあっさり退いたのでシンジは若干拍子抜けした。
が目の前にレイが現れすぐに引き締まる。
もう一度希望を持って今シンジはレイの前に立っている。
「綾波…君に話があるんだ…」
「私も…碇くんと話がしたかった…」
(え!?)
彼女の方も自分に話があるとは思わなかった…。
しかしまずは確かめたい。それでまた傷ついても構わない。
希望を捨てない限り…
406名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/07(金) 23:48:30 ID:???
「僕の方から話してもいいかな…?」
「ええ…」
「君のことについて聞きたいんだ…君は僕と病院で会った時3人目だといったよね?2人目の君とは何が違うの?」
「基本的には同じ…。肉体や記憶も同じものを使ってるから…ただ、決定的に違うのは私は『彼女』の感情まで受け継がない。そこが私という3人目と『彼女』という2人目を分ける境界…」
「…………」
頭の中が真っ暗になる…
やはりこの綾波は違う人だった。結局希望は呆気なく崩れ落ちる。
「でも、この頃はそう思わない。『彼女』が私の中にいるの…受け継がないはずの『彼女』が…」
「…!?」
レイの言ったことには一筋の光が含まれていた。
407名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/08(土) 00:22:41 ID:???
「『彼女』が自分の中にいるって…つまりどういうこと?」
核心はまだシンジには衝けない…。ゆっくり外から聞いていく…。
「『彼女』が持ってた受け継がないはずの感情が私に流れ込んでくるの…
私を通して『彼女』が涙を流すの…胸を締め付けるの…。」
「君のいう『彼女』…つまり2人目の君の感情が君を通して出てくるってことは
つまりその感情は君のものなんじゃないの?もともと、2人目とか3人目だとか、そういう概念事態なかったんじゃないの?
つまり君は2人目って言われてた綾波と何一つ変わらない存在なんじゃないの?」
「…私にはまだわからない…
ただ、そうだとしても私の中にある感情を私のもののように思えないわ…。」
「それはきっと…まだ何かが欠けてるんじゃないかな?
そのせいで君はまだ元の君になれずにいるのかもしれない…」
「…!?…欠け…てる……そうかもしれない…。
私の中に穴のようなものを感じるの…。
碇くんが言ってるのはそれのことかもしれない…。
私もそれがどうすれば埋まるのか碇くんと話したかったの…」
408名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/08(土) 01:18:17 ID:???
(よかった…)
(…やっぱり綾波は綾波しかいなかった…)
(もしこのまま話さずにいたらずっと綾波を苦しめていたところだった…)
問題はどうすればその欠けた部分を補えるか…。
何か以前の彼女にとって大事なことや物がここで思いつけば…。
(父さんの眼鏡…?)
しかしそれはここにはない。他に彼女が大事にしていたもの…。
(日記とか…?その日感じたことが書かれるだろう日記ならば…)
しかしそんなものはここにはないし、第一彼女がつけているとも思わない。
(感じたこと…?)
不意にこの言葉に引っ掛かる。彼女が何かをした時に何を感じたかよく自分に言ってくれてた…。

そしてシンジはそこに思い至った。正直自信はない。
だが彼女と自分の絆も確かにここにあった。だからこれに賭けてみたい。


「綾波…もう一度君に触れてもいい?」

409名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/10(月) 15:34:21 ID:???
続きマダー?
410名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/10(月) 16:04:57 ID:???
2人の絆…レイと自分との絆は互いに触れ合った時に確かに深まった。
今、その絆を試すときだ。

「…私も碇くんに触れたら何かわかる気がする…」

そう言うとレイの体は浮かび上がり初号機の前まで来た。
人が浮かぶのを見るのは二度目。一度目は渚カヲルの時…
ちょうどここで見た。レイの秘密とカヲルの正体を知ってからは
レイも同じことができるのではと思っていたので何ら驚かなかった。
「綾波、初号機越しからでも伝わるの?」
「ええ。多分平気」
レイは手を伸ばした。
その顔は自分の知るレイにとてもよく似ていた。
しかし微妙に違う。それを今から2人で補う。
シンジも手を伸ばしレイの手に…触れた…。


411名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/10(月) 16:05:57 ID:???
初号機越しにシンジが伝わってくる…。

これが碇くんの感じ…?

懐かしいような気がする…
でも…

何も…感じない…

…違う……

気持ち悪い…?

…違う……

温かい……

…これも違う…

…嬉しい……

…違…う……
412名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/10(月) 16:06:56 ID:???
そう…この感じ…


離れていたくなかった…


ずっといっしょにいてほしかった…


…私だけを見ててほしかった……


なぜそう思ったのか自分でもわからなかった…


…あの瞬間まで……


碇くんを守ったあの時…


…でもその時に気づけた……
413名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/10(月) 16:08:29 ID:???
そう…

……私…は…







……私は………













「碇くんが好きなの…本当に…本当に……大好きなの…」
414名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/14(金) 05:51:22 ID:???
これで終わり?オチはないの?
415名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/14(金) 18:32:33 ID:???
目の前の少女はそう言うと手は触れ合ったまま微笑んだ…。
あの月の下で見せてくれた笑顔と同じ笑顔…。
「碇くん…。碇くんの教えてくれたとおり…嬉しい時にも涙が出るのね…」
少女の頬に一筋の涙が溢れた目の前の少年には笑顔を依然向けている。
「ずっと…会いたかったよ……綾波…」
「…碇くん……」
少年からも涙が溢れる。
416名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/14(金) 18:35:09 ID:???
パチパチパチパチ

横で拍手の音がする。
「素晴らしい。よくやったな、シンジ。」
「父さん…」
ゲンドウは不敵な笑みを浮かべていた。
「欠けたリリスの心の補完。諦めかけていたがお前のお陰で…これで確実に…」
「ユイに逢える」
「!?」
さっきまでいたところからゲンドウは消え一瞬にしてレイの横に現れた。
ゲンドウもまた宙を浮いている。
417名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/14(金) 18:41:49 ID:???
レイの前頭部を掴み引き離す。
「碇く…」
「綾波…!!」
再びゲンドウは瞬間的に移動しリリスの前に姿を移していた。
シンジには背を向け、レイの前頭部を掴み続けている。
ゲンドウの手で顔は隠れているがぐったりしているようだった。
「お前にはまだ感謝すべきことがある。エヴァシリーズを殲滅しゼーレの補完計画を破綻させた。
更に、初号機に乗ったままここに現れ、オリジナルのロンギヌスの槍まで持ってきてくれるとは…
アダム、リリス、エヴァ、ロンギヌスの槍、
そしてリリスの心…補完計画に必要なものはすべてここに揃った。」
「やめろ父さん…綾波に何するつもりだ…。」
ゲンドウはシンジの問いには答えずレイをリリスの中へと押し込んだ。
レイの体は徐々にリリスの中へと溶け込みそして見えなくなった…。
「綾波!!」
418名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/14(金) 18:47:14 ID:???
2月中旬頃まで休みがないです。冬休み中にストックした分を少しずつ投下します。
419名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/19(水) 06:10:13 ID:???
投下乙
420名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/26(水) 00:37:38 ID:???
まとめサイトとログ保管庫作ったので、
まとめ参加できる人いたら宜しく

エヴァ板小説投下スレ @WIKI
http://www44.atwiki.jp/eva-ss/
エヴァ板小説投下スレログ保管庫
http://www17.atpages.jp/evass/
421名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/01/26(水) 10:41:03 ID:???
おお、まとめ乙
422名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/02/12(土) 07:45:28 ID:???
干す
423名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/02/24(木) 00:16:03.02 ID:???
ボトム
424名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/05(土) 18:08:04.84 ID:???
このスレは死なないわ
425名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/09(水) 09:10:55.96 ID:???
前スレのポカ波さんのssはすごかった。
あの人の書いたのがまた見たい。
黒レイも凄かった。
426名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/09(水) 16:50:56.49 ID:???
黒レイ好きだ
427名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/11(金) 09:47:20.88 ID:???
黒レイより黒夢がみたい
428名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/14(月) 00:16:35.75 ID:???
http://lrs.s282.xrea.com/

これはここのまとめ?
429名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/16(水) 05:47:18.16 ID:???
だね
更新止まってるけど
430名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/25(金) 20:50:41.92 ID:???
ホシノルリ
431名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/27(日) 23:37:23.10 ID:???
3姉妹乙
432名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/28(月) 13:11:41.05 ID:???
同じく黒レイ好きだった

また降臨してくれないかなぁ
433名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/28(月) 20:58:40.42 ID:???
>>432
あれは良かったね
俺も最初「これ大丈夫?本当にLRSになるの?」ってレスしたけど
作者さんが「なります」と言って本当に最高のLRSになった
あの人は凄い
434名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/29(火) 21:31:22.72 ID:???
なら次は黒シンジで
435名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/29(火) 22:20:33.24 ID:???
シンジが黒いか。
最初はゲンドウと仲がよく見える綾波さんにツンツンだが、実は綾波さんは最初からシンジに一目惚れしてて、何度か綾波さんから話しかけるが、シンジは相手せず。
しかしヤシマ後に逆に綾波さんに笑えばいいと思うよっ、て言われてから徐々に綾波さんにデレると。
ありか?
436名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/30(水) 20:55:44.65 ID:???
あんまり黒くはないなぁ
ただのツンデレってイメージ
むしろシンジを黒くする意義があるかもわからん
437名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/31(木) 10:50:52.11 ID:???
シンジを黒くすると途端にファビョる人って何なんだろうなぁ
438名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/31(木) 11:55:05.83 ID:???
黒さが足りないってのと
シナリオ的に黒くする意味も意外性も足りないって指摘ですよ?
439名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/31(木) 12:13:57.20 ID:???
そりゃ…黒レイと比べちゃダメだよ
440名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/03/31(木) 20:23:10.09 ID:???
綾波さんが一目惚れするとは考えにくいが…
ツンツンなシンジになつくのも自分から喋る事も考えにくい

でもそのへんは何かきっかけあって綾波さんにだんだん心を開いていくシンジとかいいかもな
そんなシンジを見て心を開いていく綾波さんとか
441名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/02(土) 23:07:33.88 ID:???
黒シンジに期待
442名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/04(月) 22:43:38.79 ID:???
なんや、センセがワイとお揃いのジャージ着るんか?
443名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/10(日) 17:55:53.60 ID:???
まだFFにマリが出てくるのないよなほとんど
444名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/18(月) 16:13:04.35 ID:???
黒シンジみてえ
445名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/20(水) 06:24:40.59 ID:???
> まだFFにマリが出てくるのないよなほとんど

そもそもどういう人間なのかいまひとつ不明だしな。
「にゃ♪」とか言う巨乳メガネっ娘というだけでは書きづらい。
446名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/20(水) 20:04:59.87 ID:???
擬人化イロウルという設定で出てるのは見たことある
エヴァの世界観が仏教だったらスレだったかな
447名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/20(水) 20:16:23.60 ID:???
マリが出てくるSSは最近だと多い印象がある
無駄に「にゃ」を語尾につけるのだけはやめてほしい
448名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/21(木) 22:51:18.22 ID:???
「にゃ」も状況によっては俺はイケる
ただあらゆる語尾がそうなってるとうえってなるね
449名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/04/22(金) 06:22:51.79 ID:???
匂いフェチで何か企んでるらしいということしか分からんしな。
日常生活がイメージできないからなぁ。とりあえず料理がうまいのか
下手なのかだけでも知りたい。
450名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/02(月) 18:02:06.12 ID:???
保守
451名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/06(金) 22:17:34.79 ID:PPw0q5tE
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/
452同人:2011/05/09(月) 23:54:14.32 ID:9gG8DjJ3
SS職人募集中スレ

エーベルージュを語るスレ 3年目
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1248267409/
センチメンタルグラフティ総合35代目
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1299264100/
Canvasシリーズ総合 Part21
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1302172024/
◆◇◆TGL総合スレPart 1◆◇◆
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/game/1172644654/
◆◆◆★★マイナーなギャルゲーのスレ★★★◆◆
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1190795664/
非18禁PCギャルゲー総合スレ(一応3)
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1143920343/
MinDeaD BlooD 4
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1206403697/
Dies irae Part117
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1304511307/
【銀色】銀糸総合スレ Part5【朱】
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1190283503/
【城平京】ヴァンパイア十字界 【木村有里】 10夜目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1177334874/
【上条明峰】CODE:BREAKERコード:ブレイカーcode:14
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1300421162/
矢吹健太朗のBLACK CAT★黒猫No.368
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/rcomic/1304295746/
地獄少女総合 人を呪わばスレ 百十六鼎
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1290001593/
453夏厨:2011/05/20(金) 11:32:36.37 ID:???
やっと書けるようになった...
皆さん御元気ですか?
454名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/20(金) 18:21:00.67 ID:???
書く奴が書かないことには意味の無いスレだからな
時間見つけて短編でも書きたいんだけどね
455名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/20(金) 23:30:50.09 ID:???
LRSのFF、SSが大好きな自分としては、職人さんの投下をいつでもお待ちしてます。。
456名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/21(土) 16:33:20.92 ID:???
>>453
ずぅっと待ってました!
楽しみにしてます
457名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/22(日) 21:23:25.60 ID:???
あの意味不明な法術バトルは健在なんだろうか…

あと、昭和編とかほとんど幕末編とは別物なんだからキャラデザも一新すればいいのに
458名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/05/22(日) 21:23:54.68 ID:???
誤爆しましたスンマセン
459名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/06/12(日) 01:03:31.07 ID:???
>>453 久しぶりだな。そちらは元気か?
460夏厨:2011/06/12(日) 18:47:48.94 ID:???
がんばってますねん。ありがとです。
続き書いてるけど文字規制?厳しいらしくどうなることやら。
461名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/06/12(日) 20:07:10.21 ID:???
続き楽しみにしてます!
462名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/06/12(日) 20:30:02.98 ID:???
がんがれ
463名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/06/12(日) 21:33:28.71 ID:???
待ってます
464ぽか波:2011/07/08(金) 00:52:12.83 ID:???
「そう言えば今日さ、他所のクラスの子が何人か訪ねて来てたよね。なんか僕の方見て話してたけど……なんかあったの?」
「……綾波さんて碇くんと付き合ってるの?って訊かれたの……」
「……へ、へぇ……」
「……」
「そ、それで綾波はなんて……」
「……内緒」
「……そ、そっか……」
「碇くん」
「な、何?」
「次にまた同じ事訊かれたら……なんて答えればいい?」
465ぽか波:2011/07/08(金) 00:58:06.64 ID:???
前スレでぽか波を書いていた者です。
大分前にPC逝きました…
スマホから適当に小ネタをテスト。テキストエディタ書き辛いなぁ。

頑張ってアップしたら、誰か読んでくれる方はスレにいらっしゃいますか?w
466名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/08(金) 07:03:57.95 ID:???
ここにいるぜ
最近書き手がいなかったから過疎だがSSあれば人くるよ
467名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/08(金) 13:13:04.86 ID:???
ここにもいるぜ。
ぽか波氏の前スレ3部作はとてもよかったです。
新作があったら、全裸正座待機しますんで、お待ちしてます。
468名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/11(月) 00:42:46.26 ID:???
おお、更新されてた
たまの投稿にちゃんとその日のうちにレスってのは、いいね
過疎ってる間もちゃんとチェックしてるってことだからな
469名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/20(水) 20:05:44.63 ID:???
>>465
ここにもいるぜ
470名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/24(日) 19:08:29.18 ID:???
>>465
日が経ってしまったので
無理かもしれんが
ここにもおります
471名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/07/25(月) 20:11:22.92 ID:???
取り敢えず金ローの最後にくるQ情報と貞エヴァを待とうか?
472名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:27:11.99 ID:???
夕日の差し込む電車の中
線路を渡る音だけが鳴り響く
気が付くとシンジはそこにいた

「ここは……?確か僕は……綾波がやられるのを見て……ネルフに戻って…
使徒と戦って…………
そうだ…!綾波ッ!どこだ!?綾波ッ!!」

咄嗟に駆け出し、車両を渡ろうとするシンジ
扉をスライドして開くと、目の前には教室が広がっていた
平和そうに昼食を広げて談笑する見慣れた生徒達
シンジ達が過ごした学校の教室だった

「え……なんで……一体何が………?」

頭の中が混乱する
まさか今自分は夢を見ているのか?
では、一体どこからが?
ネルフが破壊され、綾波が捕食されたのも夢?
いっそのことそうであればどんなにいいか…
そんな考えが頭をよぎるシンジの耳に、聞きなれた声が入り込んできた

「えー!?お昼作ってないのぉ!?」
「だって…仕方なかったんだよ今朝は……」
「だからって、このアタシにお昼無しで過ごせってーのアンタはぁ!?」

声の方に咄嗟に視線を向けると、そこには赤毛の見慣れた少女の姿があった
そして彼女の目の前には、気弱そうに当惑するいつもの自分自身の姿があった

(なんで…どうして僕とアスカが……!?)
473名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:28:13.59 ID:???
更に困惑を極めるシンジ
答えを求めるように、近くを通るクラスメイトに声をかけてみるが、誰も反応しない
それどころか、触れる事さえできない
まさか自分はあの戦いで死んでしまい、あの世の類の世界に潜り込んでしまったのか
そんな考えが頭をよぎる

「なんやぁ、まーた夫婦喧嘩かいなぁ?」
クスクスクス…
「「ち…違う(わ)よっ!!」」

途方に暮れているシンジを、またも教室の聞きなれた喧騒が呼び戻す
このひどく既視感を覚える光景……
これはそうだ、自分の過去の経験を垣間見てるのだとシンジはようやく自覚する

(じゃあ…綾波は!?綾波もいるはず!)

咄嗟に窓辺に視線を向けると、そこにはシンジの求める少女の姿があった
すぐにそばに駆け寄るが、他の生徒と同様にシンジに一瞥もしない
いつもと違い、窓の外を見ているのでもない
その視線は、シンジを…正確にはこの世界のシンジとアスカの二人を見ていた
その表情には、どこか悲しそうな、辛そうな、そんな感情が見て取れる気がした
思わずレイへと手を伸ばすシンジ

『ダメ………』

どこからともなく、直接脳内に響くように、その声は突如聞こえてきた
シンジが今一番求めてやまなかった声だ

「綾波ッ!?どこにいるの!?綾波!!」
474名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:29:02.68 ID:???
あたりを見回すと、見慣れた教室は消え去り、元いた電車の中にシンジは佇んでいた

『ダメなの…お願い……それ以上は……来ないで………』

頭に響くその声は、しかしながら車両の奥から聞こえてくるような、不思議な感覚がした

「綾波…そっちにいるの?」

拒絶の言葉でありながら、どこか怯えるようなレイの声を聴いて
レイの下へと行かない訳にはいかなかった
シンジは扉をスライドさせ、更に奥の車両へと進む
そしてまた次の車両の扉を開け、更に奥へ
そのまた更に奥へ、奥へ…
もう何度もそれを繰り返した頃
扉を開けると、そこには一人の幼女が佇んでいた
青い髪に、赤い瞳…
きっと綾波の小さい頃はこんな感じなのだろうと直観的に感じたシンジだが
目の前のその子供とレイはなぜかシンジの中で結びつかなかった

「ねぇ、碇君…知ってる?あの子がどれだけ狡くて、醜いのか…」

開口一番そう呟いた幼女は、どこか不気味に微笑んでいた
自分に垣間見せてくれた綾波の笑顔とは、似ても似つかなかった
その幼女の問いに、シンジは答えない

『やめて…』

二種類の同じ声が、車両の中に響き渡る

「あの子が、碇君と二号機パイロットをどんな目で見てたと思う?
二号機パイロットがいなくなればいい……
そんな事を、考えてたの」
475名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:30:08.18 ID:???
『やめて………』

「二人で一緒の家に帰るのを見て、いつも碇君と一緒にいる彼女が許せなかったの
彼女は何も悪くないのに……醜い嫉妬」

『やめて……………』

「それだけじゃない
碇指令との食事会だって、本当は碇君に自分を見てほしかったからじゃないの?
そうすれば、自分を好いてくれると思ったんでしょ?
そうすれば、碇君のそばに居てもいいんだと思ったんでしょ?」

『やめてっ……』

「二号機パイロットが使徒に操られた時
初号機が殲滅するのを見て
どう思った………?」

『もう…やめて……お願いっ……!』

「喜ぶ自分がいたでしょう?
二号機パイロットがいなくなったら
もっと碇君に近づける
碇君を奪う人はいなくなる
そんな風に、ほんの少しも思わなかったと言えるの?
言えないでしょう
彼女はむしろ良くしてくれたのに……
本当に狡くて、醜いのね」

『ダメ……いや………聞かないで………お願い…………』
476名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:31:00.09 ID:???
「そして、そんな自分の醜さを、こんな姿になってもまだ必死に隠そうとしてる……
碇君に自分の都合の良いところだけを見てもらおうとしてる……
こんな子、碇君はどう思う?」

シンジは、答えない
代わりに、幼女の隣をすり抜け、奥の扉へと進む
そこだけ車両のスライド式ではなく、レイのマンションの扉だった
シンジはその扉を開けると、中へと歩む
そこには、ベッドの上で膝をかかえて顔を埋めて座るレイの姿があった
そして怯えるように、震えていた
そんなレイの元へシンジは静かに歩み寄り
優しく抱き締めた
慈しむように
愛おしむように
全てを包み込むように

「碇……君………?」
477名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 05:31:17.24 ID:???
レイの中の、純粋さ
健気さ
優しさ
美しさ
想い
苦しみ
成長
葛藤
ありとあらゆる感情
そして、醜さを
シンジはこの世界で垣間見てきた
それは紛れもなく、レイが「人間」である証だった

「綾波………一緒に帰ろう……みんなのところへ
一緒に…
これからも、ずっと……」

立ち上がり、レイに手を差し伸べるシンジ

「……………………うん」

その手に、自分の手を重ねるレイ
二人は微笑みを浮かべ、その手を握り合う
そして扉を開けて、シンジとレイは共に歩み出した
478名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 13:36:49.71 ID:???
GJ!
よかったよ!
479名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 19:36:20.22 ID:???
なんだただのQのサルベージシーンのネタバレかよ…

お疲れ様。乙です
480名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/02(火) 20:47:10.22 ID:???
イイハナシダナー(>_<。)

GJ
481名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/03(水) 17:16:37.51 ID:???
ここで終わりはなんかもったいない
シンジの気持ちとか続きが気になりますね

乙!
482名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/05(金) 05:07:24.99 ID:???

こういう短編好き
483名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/05(金) 10:26:57.70 ID:???

雰囲気がよかった
484名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 05:40:00.02 ID:???
「最低だ…………僕って………」

碇シンジは自分の犯した過ちに激しく苦悩していた

(綾波……怒ってるだろうな………)

事は数日前に遡る
最近では、レイは葛城宅に泊まりに来ることがしばしばあった
ミサトのレイの私生活への配慮と、レイ本人の希望を考慮した結果だった
そんなある日の晩
ミサトはいつもの如く酔いつぶれて自室で爆睡し
アスカは先日終えた期末テストの勉強で寝不足のためか早々に部屋で横になり
シンジも自室でちょっとベッドで休憩するつもりが、
目を開けて時計を見ると時間が二時間弱進んでいたことで
自分がうたた寝をしてしまった事に気付いた

(あぁ……しまった……まだ夕飯の片付けが残ってたのに…)

心の中で小さくため息を漏らしながら寝ぼけ眼で居間にいくと
机も台所も綺麗に片付けられていた

(あれ?どうして…………アスカやミサトさんがこんなことするハズないし…まさか)

あたりを見回すと、ソファーで横になって眠るレイの姿があった

(綾波がやってくれたのか……テスト勉強で寝不足だったみたいなのに)

申し訳なさで再びため息をつくも、シンジはレイの甲斐甲斐しさに頬を緩めもした

(でもソファーで眠らせるのも悪いし……どうしよう……しょうがないか)
485名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 05:43:17.56 ID:???
シンジはレイの傍に寄ると、起こさないようにそっと、お姫様抱っこの形でレイを抱き上げた
そのまま慎重に、大事に、レイをミサトの部屋まで運ぶ
部屋数から言って、これはレイが泊まりに来る時の決定事項だった
ちなみに、ミサトが冗談半分でシンジの部屋に泊まれと言ったが、
アスカは猛反対し、シンジは慌てふためき、レイはそれが良いと言って一騒動あったのはまた別の話
シンジはゆっくりとミサトの部屋にレイを寝かせると、夕飯の片付けより遥かに重大な一仕事を終えた用にまた息を漏らした

(綾波の体……凄く軽くて、華奢だったな……それになんだか、良い匂いもしたし…)

静かに寝息を立てるレイの寝顔を見つめながら、五感に訴えるレイの女の子らしさに妙に胸が高鳴るシンジ
そんなか弱い女の子が、あんなにも勇ましく、健気に、儚く、戦っている
それも、シンジのために……
そう思うと、シンジはレイに愛おしさを感じずにはいられなかった
そこからは、殆ど衝動だった
いつの間にかシンジは、レイの寝顔に顔を近づけ、その唇に自分の唇を重ねた
そしてゆっくりと離し、次の瞬間、レイと目が合った

「碇君………いま……私に何したの?」

「あ……綾波ッ!?!?ごめっ…ちが、今のは…その………!!」

急速に頭が覚醒する
自責、後悔、謝罪、弁明、理解……瞬時に色んな思考が頭を駆け巡る

「今の……………キス?」

追い打ちをかけるように、レイの言葉がシンジの脳裏を貫く
何と言葉をかければいいのかわからず、シンジは人形のように頷くしかなかった
寝ぼけ眼だったレイの表情には微かに驚きが現れ、、次に顔を伏せ、今度は布団に倒れこむように枕に顔を埋めてしまった
もはや居たたまれなくなったシンジは、逃げるように部屋を出て、自室のベッドに飛び込むように倒れこんだ
486名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 05:44:57.38 ID:???
(綾波は疲れてる中、片付けまでしてくれて…
普段からあんなに気を使ってもらったのに……
そのお返しが、寝てる間に綾波の唇を奪う事だなんて………
綾波……泣いてても……おかしくないよな………


最低だ…………僕って……………)

深い後悔の中、そのまま眠りこんだシンジは、翌朝起きると既にレイが先に登校していたことを知り更に自責が強まる
登校中も、授業中も、シンジはずっとレイにどう接するかのみを考えていた
そして迎えた昼休み、シンジは意を決して本を読んでるレイの席へ歩み寄る

「綾波…………昨夜は本当にごめん!!
言い訳なんてしようがないけど……
でもお詫びになるなら、なんでも言うこと聞くから……」

「………………………なんでも?」

ここでやっと顔をシンジの方へと向けたレイから、シンジは明らかに怒りに近い感情を読み取った
命をかけた濃く深い時間を共有してきた二人だからこそわかる違いである
他の者からは、レイはいつも通りの無表情にしか見えないだろう

「じゃあ、ついてきて」
487名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 05:46:10.55 ID:???
レイは本を閉じて席を立つと、スタスタと歩いて教室を出ていく
その後を慌てて追うシンジ
ある意味、今までの窮地に匹敵する恐怖を感じていた
そうしてたどり着いたのは、誰もいない屋上だった
レイはくるりと振り返り、スッとシンジに歩み寄る
いつかこのままビンタされたことを思い出したシンジは、反射的に体を強張らせて目をつむる
しかし次の瞬間感じたのは、痛烈なビンタの衝撃ではなく、
柔らかい唇の感触だった
驚きに目を見開くと、目の前の目をつむったレイの顔がある
時間差で、シンジはレイにキスされていることに気付いた
呆けているシンジをよそに、レイは唇を離すと、また顔を伏せてしまった

「これで、いい」

ポツリと呟くレイ
表情は見えないが、おそらくレイが赤面しているであろうことはシンジにはわかっていた
そして自分も今顔が真っ赤になっているであろうことも
488名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 05:46:52.33 ID:???
「え…今ので…?綾波、怒ってたんじゃないの?」

「うん、少し…



初めては、ちゃんと起きてる時にして欲しかったから…………

碇君に」

「あの……それは………ごめん」

「ううん、もういいの。それでも、嬉しかったから」

そう言って顔を上げたレイの表情は、微かに頬に朱がさし、微笑んでいた
それを見て、シンジも同じく微笑む
そしてもう一度、今度はシンジから、レイに口付けをする

昼休みを境に
方や凹み、方や不機嫌だった二人が
打って変わって上機嫌になっていたことに
周りの人間は困惑するばかりだった
489名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 06:19:57.53 ID:???
久し振りに読み応えのあるSSだった 乙
続編希望
490名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/08(月) 16:12:24.16 ID:???
このバカップルめ!
491名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/09(火) 10:41:59.36 ID:???
凄いいいお話じゃないですか。
乙ー




あの続編は?
492名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/10(水) 21:38:17.68 ID:???
遅レスですが投下乙です
初々しいけどバカップル的な甘い感じが良いですねw
また投下期待してます
493名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/12(金) 23:46:21.06 ID:???
乙です。
494永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:10:12.57 ID:???

映画を観た帰りに立ち寄ったファストフード店の店内は、昼食には遅く、夕食には早い中途半端な時間帯にもかかわらず、それなりに混雑していた。
客の八割ほどを中高生が占めていて、平日で長期休みにも当てはまらない時期なのに学校はどうしたのだろうかと思わざるを得なかった。中間テストか何かで学校が早く終わったのだろうか。
この先悪いことは何も起こらないとでもいう様な、エネルギーに満ち溢れた姿をぼんやり見ていると、かつては僕も彼ら・彼女らと同じ歳であったことが信じられない気持ちになってくる。
……いや、そこまで言うほどの歳の差はないんだけど、年齢に敏感にならざるを得ない事情が僕には――いや、僕たちにはあるのだ。
混雑ぶりだけでなく、年齢層も予想に反していたのもあって、入ったのを後悔したけど、戸惑っているうちに順番が来てしまった。
僕は肩をすくめた。
まぁいいか。そんなに神経質になることもない。
注文をして品物を受け取ると、テーブル席……は空いてなかったのでカウンターに腰を下ろし、綾波が来るのを待つ。
人の気配に顔を向けると、綾波ではない女性だった。
「あ、すいません」と、僕は隣に座ろうとした女性に声をかけた。「連れが来るので……」
僕と大して歳は変わらない、いかにも社会人になりたてといった感じのその女の人は、あ、という顔をして、身体を少し横に傾かせる若い女性特有の動作をした。
「すいませーん」
「いえ、いいんですよ。こちらこそすいません」
綾波がこちらに歩いてくるのを視界の隅にとらえて、軽く手を振って声をかけた。
「綾波、こっちだよ」
綾波に視線を向けた女の人が、最初は訝しげな、数瞬後には唖然とした表情に変わった。
もう慣れているものの、ある種の気まずさを感じるのは否めない。
なぜ女の人が妙な顔をしたのか。
それは――
きっと僕の連れの見た目が中学生くらいだったからだろう。
この十年間、綾波は十四歳のまま年を取っていない。
495永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:11:37.71 ID:???

「ちょっと混んでるね。やっぱりやめればよかったかな」と、僕は綾波に声をかけた。
綾波は黙って首を振る。
「そう? よかった」
僕たちはそれきり黙りこんで食事に専念した。
蜂の羽音に似た店内のざわめきが繭のように僕たちを包む。繭の中で、僕と綾波は世界で二人だけの存在になる。
無言だけど、別に仲が悪いとか、喧嘩をしてるわけではない。単に人前ではなるべく綾波と喋らないようにしているだけの話だ。
人目があるところで綾波と親しげに会話をすると、周囲から奇妙な目で見られるからだ。
二十歳を超えた成人の男と中学生くらいの女の子が親しげに会話を交わしていたらどんな目で見られるか、さすがに鈍い僕にも分かる。
兄と妹の微笑ましい会話と思ってくれる人も中にはいるんだろうけど、大方は怪しいと考えるだろう。残念ながら、そういうご時世なのだ。
実際、たまに綾波と喋ると、不審げにこちらをちらちらと窺う人がいる。
だから外ではあまり会話をしない。僕のほうはそれで特別に困ることはないし、綾波も同じはずだ。
僕と綾波の関係は会話があるとかないとか、そんな表層的なものではかれるものではないと思っている。
「そろそろ出ようか、綾波」
食事を終えると、僕と綾波は静かに立ち上がった。
496永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:12:34.12 ID:???
 ――

最初の一年はまったく分からなかった。
それはそうだ。いくら成長期とはいえ、ほとんど毎日顔を合わせているのだから、一年で気づくわけがない。
だけど、二年経ったところで僕は首を傾げ、三年が過ぎて疑問に思い――綾波がまったく成長していないことが明らかになった。
少なくとも、僕には。
身長や体重をきちんとはかったわけじゃないけど、誰の目にも分かることだ、とそのとき僕は思っていた。
詳しいことは知らないけれど、成長が中学生くらいで止まってしまうのはそんなに珍しいことではないのかもしれない。
しかし、顔つきや雰囲気が何年経ってもまったく変わらないのはおかしい。
僕が最初に相談したのはマヤさんだった。僕の知る中でマヤさんが一番相談しやすい人だったからだ。
「前から思ってたんですけど、綾波が成長してないのはおかしくないですか?」
「そんなことないわよ、シンジ君」と、マヤさんがなだめるように、「私にはちゃんと歳を取っているように見えるわ」
僕は呆れ返って口をきくことが出来なかった。
ネルフの資料用の、綾波が十四歳のときのビデオを見返してみて、僕やアスカと違い、綾波が今と全く同じであることをちゃんと確認していたのだ。
「身体の異常はあるの?」と、僕の目を見ずにマヤさんは言った。
「いえ……それらしい様子は特に……。綾波も、別に何も言ってませんけど……」
「じゃあ問題ないんじゃないかしら」
マヤさんの困ったような笑顔を見て、それ以上訴えるのを諦め、他の人にあたることにした。
当時ネルフは後続組織へ移行する猶予期間中だったため、僕たちを知る職員がまだいたのだ。
しかし、無駄だった。
みなマヤさんと似たりよったりの曖昧で心がこもってない態度だった。
――シンジ君、俺にはちゃんとした二十台の女性に見えるぜ。なぁ? ああ。そう、そうだとも。気にすることはない。まぁ、多少背は低いかも知れないけど、中学生には見えないさ。それじゃ仕事があるからこれで。
何というか、僕だけジョークのオチが分からなくて、でもはっきり言うのも馬鹿にするようで気が引けるし、どうしようか――とお互いに顔を見合わせている感じだった。
僕は怒りのあまり目がくらむ思いだった。
なぜだ?
なぜこんな明らかなことに誰も気がつかないんだ?
497永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:13:19.84 ID:???
いや、ひょっとすると……。
僕の脳裏を恐ろしい考えがかすめた。
――綾波のことなんてどうでもいいんじゃないか?
僕はその考えにショックを受けた。しかし、同時に納得する部分もあった。
そうか。
僕たちは用済みというわけだ。用済みの厄介者が面倒な相談事を持ちかけてくる――そういうことなのだろう。
口の中に苦い唾がわいてくる。さんざん死にそうな目に遭わせた挙句、この扱いか。
もういい。ネルフには頼らない。こうなれば最後の手段だ、とその時の僕は決意した。
綾波を医者に診せる。
最初にやるべきことだったのかも知れない。綾波が嫌がるだろうと勝手に思い込んで避けていた選択肢だった。
「医者に診てもらおう、綾波」
僕は意を決して綾波に相談した。
「現状、具合の悪いところはないみたいだから、今のままで別にいいのかも知れない。だけどやっぱり成長してないのはおかしいよ。どう、綾波……?」
綾波は首を少し斜めに傾けて、それからいつもと同じようにかすかに頷いた。
正直言って、本当は嫌なのかどうか、綾波の無表情に慣れてる僕にも彼女の胸の内は量りかねたけど、そんなことを言ってる場合ではない。拒否しなかったという事実を採ることにする。
「僕もついていくから安心してよ、綾波」
僕の言葉に、綾波はやはりかすかに頷いてみせた。微笑んでくれたことが救いだった。
それからすぐに病院に連れて行き、検査することになった。
過去のことなので少し記憶が曖昧なんだけど、原因は肉体ではなく精神のほうにあるという話だった。
そんな馬鹿なことがあるか。僕は黒縁眼鏡をかけた痩身の医者を睨みつけた。
僕は呆れ果て、二度と病院には来ないことを誓って綾波を連れて帰った。結局分かったのは、彼らには打つ手がないということだった。
498永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:14:44.40 ID:???
――それが六年前、十八歳のときのことだ。
十四のころはほとんど同じ身長だったのが、今では僕は175センチに少し足りないくらいになり、綾波とは頭ひとつ分以上差がついてしまった。
見かけとは違い、身長のほうはこれ以上差は広がらない。
だからといって、それが救いになるわけではないけれど。
僕は今、ネルフの後続組織で仕事をしている。まだ新米だから、主に資料の整理や雑用とか、そんなところだ。
いや、僕だけじゃなくて綾波も、だ。見た目は十四歳かもしれないけど、実年齢は二十代の半ばなのだ。仕事をするのが当たり前で、同じ職場になれたのは幸運のお陰……ではなく諸々の方面の取り計らいだった。ネルフという組織には不満も多かったけど、これには感謝している。
仕事自体は正直面白いものとは言えないけど、綾波と一緒なのが救いだった。
そう。
僕は綾波と一緒ならそれだけで幸せだ。

 ――

食事を終えた僕と綾波は家に帰ることにした。まだ明るいけど、特にすることもない。
今日は有給休暇をとって、二人で映画を観てきたところだ。公開から一ヶ月近く経っているのに加えて平日だからガラガラだった。
空いているのはいい。僕も綾波も人が大勢いるところはあまり好きではない。
映画は全米で大ヒットという、おおかたの洋画に共通の枕詞がついているサスペンスもので、まぁまぁの出来だった。綾波は熱心に観ていて、それだけでも僕にとっては満足のいくことだった。
道すがら、映画の感想をぽつぽつ綾波と語り合う。語り合うというか、まぁ、僕が一方的に感想を述べるだけだけど。
やがて感想も尽き(もともと大した映画じゃないのだ)、お互い無言になったけど、肩を並べて道を歩くだけで穏やかな気分になれた。
何を気にすることのない、こういう時間の大切さを僕は心から実感する。
僕と綾波は、駅から十分ほど歩いたところにあるマンションを借りて、二人で住んでいる。
二人で住んでいるといっても同棲してるわけでなく、同じマンションに別々に部屋を借りている。
綾波が他の人と同じく普通に成長していたら、何の言い訳もなく一緒に住めるのに。
……いや、こんな繰言を言ってもしょうがない。
499永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:15:30.45 ID:???
少し遅れて歩く綾波の、初めて出会った時から変わらない、消え入りそうな華奢な姿をちらりと見る。
こういう考えをすること自体、良くないことだ。
角を曲がった時だった。下らないことを考えていたのが悪かったのだろう、直進してた人とぶつかりそうになってしまった。
謝ろうとした僕の口は、謝罪とは違う言葉を発することに――いや、僕より先に、彼女のほうから声をかけてきた。
何事においても僕よりも彼女のほうが早かったし、速かった。それは今でも変わらないということなんだろう。
「シンジ!?」
彼女は目を丸くしている。
「アスカ」僕はゆっくりと口を開いた。「いつ日本に帰ってきてたの?」
言葉にしてから「日本に帰ってくる」というのはおかしいことに気がつく。アスカにとって日本は帰ってくる場所ではない。
しかしアスカは気にする風もなく、「今日の午前よ」と返答した。
僕は「じゃあ、まだみんなには会ってないよね」と言いかけて口を濁した。
数年振り――正確に言えば五年振りに見るアスカの姿にちょっとした衝撃を受けたからだ。
腰まで伸ばした豊かな金髪は昔よりもボリュームが増し、まるで光り輝く滝のようだ。
身長は前と会った時からほとんど変わってないはずだけど、ハイヒールのせいだろう、僕とほとんど目線が変わらない。昔はハイヒールなんて履いてなかった。
それと、何と言うか……そう、大人っぽくなった。幼さの代わりに落ち着きが、厳しさの代わりに優しさがその座を占めている。
まぁ、当然の話だ。人は誰でも成長するものなのだから。
しかし――
アスカの伸びやかな肢体を見ると、十四歳のままで成長が止まった綾波とどうしても比べてしまい、胸が締めつけられる。
綾波も病気がなければアスカみたいに歳相応の美しさを身に纏っていたのに……。
可哀想な綾波。
アスカは彼女にしては珍しく言葉を選んでいるように、遠慮がちに言葉を紡ぐ。
「久しぶりね、シンジ。五年振りだっけ?」
「うん」
アスカは綾波に声をかけないどころか、目もくれようとしない。僕は少し憤慨する。
会話が途切れ、気まずい雰囲気が流れた。
500永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:16:29.79 ID:???
アスカは咳払いをして、「で、どうなの? 具合は」
僕はほっとため息をついた。やはり綾波のことを気にかけていた。多少ソリが合わないところがあるにしても、一緒に戦った仲間なのだ。
とはいえ、その問いへの答えは かんばしいものではない。
「見ての通り、相変わらずだよ」
綾波が僅かに表情を曇らせる。僕だけに分かる微妙な変化。
アスカの表情も曇る。「医者には……診てもらってるの?」
僕はかぶりを振った。「どうにも出来ないって……」
「そう」アスカは複雑な表情をつくり、下を向いた。
使徒と戦っていたころはこんな表情は見なかったように思う。やはり成長したということなのだろうか。
あるいは僕が幼すぎて、気がつかなかっただけかも知れない。いや――きっとそうなのだろう。
僕は重苦しくなった雰囲気を変えようと、明るい調子で言った。「アスカ、この後の予定は?」
「取り立てて無いけど」
「そう。じゃあ、綾波と一緒にご飯でも食べようよ。せっかく久しぶりに会ったんだし。そうだ、日本食でも……」
僕の提案を聞くと、アスカは顔色を変えた。
「いつまでそんなこと言ってるのよ!」
僕はアスカの突然の爆発に驚いた。まるで昔に戻ったみたいだ――頭の片隅にそんな下らない考えがよぎる。
「ど、どうしたの……? 日本食、苦手だったっけ?」
「そんなことじゃない! ファーストは……」
次の台詞を言うまでに、アスカは何回か大きく息を吸わなければならなかった。
「綾波レイは、―――に―――!」
何を言い出すのかと身構えた僕だけど、アスカの言葉に思わず苦笑してしまった。
「そう言えば、この前も――ずいぶん前だけど――そんなこと言ってたね、アスカは。タチの悪い冗談は止めてよ」僕は右手にいる綾波を見て、「ね、綾波」と言った。
綾波はいつもの無表情を崩さない。内心むっとしているのだろうか? だとしても顔に出さないのは立派だ。僕やアスカよりよほど大人の対応だと言える。
「ね、綾波、じゃない!」      
アスカは激昂して僕の右手の空間を――誰もいないその場所に向かって拳を振り回し、蹴りを入れた。
「シンジ、分かる? あいつはもう――――よ! もう、―――の!」
子供じみたアスカの振る舞いに苦笑していたけど、その言葉で自分でも分かるほど顔がこわばった。
501永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:19:53.70 ID:???
「いい加減にしてよ、アスカ。悪ふざけも度が過ぎてるよ」
僕は左にいる綾波に顔を向けた。「ほら、綾波も気分を悪くしてるよ」
アスカは荒い息を吐きながら、一歩、二歩と下がった。
何も言わない。緊張に満ちた時間が一秒、二秒と過ぎる。
僕の方から何か言おうとした時だった。アスカの怒りの表情が一転して、平坦なものになった。それから僕の顔を見つめながらそっと呟いた。
「じゃあね、シンジ。もう会うこともないでしょうけど、元気でね」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ、アスカ……」
呼び止める僕に目もくれず、アスカは歩き去ってしまった。
「参ったな……どうしたんだろう、アスカ」
独り言を呟いた僕の顔を見て、綾波が慰めるように腕を絡めてきた。綾波が積極的な行動をとるのは珍しいことだ。よほど僕が途方にくれた顔をしていたのだろう。
「まったく何なんだろうね」
僕はアスカが去ったあと、綾波にとりなすように話しかけた。
「久しぶりに会ったっていうのにあの態度はないよ。身体は成長してるけど、心のほうは全く変わらないね! むしろ退化してる」
そこで綾波への配慮に欠けた言葉に気がついて、あわてて「ごめん、綾波……」と謝った。
綾波は黙って首を振った。
人のことは言えない。どうやら僕もあまり成長してないようだ。
「帰ったらおいしいシチューでも作るよ」と、僕は言った。もちろん、牛肉も豚肉も入れないシチューを。
その日は意図的に明るく振舞ったけど、綾波には僕の陰鬱な気分がバレていたかも知れない。綾波が僕を気遣っているのが分かった。
しばらくの間、アスカの去り際の表情を僕は忘れることができなかったのだ。
彼女の、なぜかとても悲しそうな顔を。
502永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:22:41.85 ID:???

僕は綾波にシチューを振る舞いながら、あれこれと話題を振って綾波を退屈させないように努力した。
アスカの言ったことを思い出して欲しくなかったからだ。突拍子もないこととは言え、やはり愉快な気分ではないだろう。
話題は自然とかつての同級生たちの近況のことになった。アスカに会った影響があるのかも知れない。
トウジやケンスケ、委員長の近況。ずいぶん長い間彼らにも会っていないから、又聞きになるけれど。
ぽつぽつと口を動かしながらも、僕の頭の隅っこにはアスカの言葉がじんわりと反響していた。
――医者には診てもらっているの?
アスカに「どうにも出来ない」と言ったのは、半分は嘘だった。
医者に診せる? とんでもない。
医者なんて真っ平ごめんだ。
なぜか僕が入院する羽目になったのだった。
医者は僕が治れば綾波は元の姿に戻ると言い張った。もちろん僕は僕には悪いところはないと言った。診てもらいたいのは僕ではなく、綾波だと。
しかし、僕は医師のしつこさに負けてしまった。医者があまりのも突拍子もないことを言うものだから、呆然としているうちに流されてしまったのだ。状況に流されるのは僕の悪い癖だった。
結局、綾波の病気は治らなかった。
当たり前だ。こんな馬鹿な話は聞いたことがない。
僕は激しく後悔した。もうあんな理不尽なことを繰り返す気はなかった。
ふと気がつくと綾波の視線を感じて動揺した。いつの間にか黙り込んでしまっていたのだ。
「ううん、大丈夫」僕は綾波の機先を制して、「つまらない、昔のことをちょっと思い出していただけだよ。何でもないさ」
本当なら僕が綾波に気を配らなければならないのに、まったく自分の情けなさが嫌になる。
目が合うと、綾波は僕を安心させるように微笑んだ。
503永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:24:23.17 ID:???

 ――

アスカとばったり会ってから二年が過ぎた。
いや、三年かも知れない。最近時の流れが曖昧になっているような感じがする。仕事もたまにしか行っていない。それでも給料はきちんと支払われている。多分、僕たちへの罪滅ぼしのつもりなのだろう。あるいは口封じのつもりなのか。
まぁ、どうでもいいことだった。お金が無ければ生活できないし、ありがたく頂戴することにしている。
どういうわけか、最近アスカが言ったことが気になるようになった。
――あいつはもう……
「何だっけ」
思わず独り言が洩れる。
そう言えば昔、医者や周りの人たちも同じようなことを言っていたような気がする。
過去のことはなるべく忘れるようにしているから、いざ思い出そうとしても思い出せないことが多い。
僕の言葉が綾波の耳に届いたらしい。こちらを向いて何かを問いかける目つきをする。
「ああ、いや、何でもないよ」
そう、と綾波は軽く頷く。つまらないことで綾波を心配させてはいけない。
僕たちにはもっと根源的な問題があるのだから。
それは、僕と綾波の歳の差は、このまま永久に――永遠に開いていくということだ。
今はまだ奇異の目で見られるだけだけど、もうそろそろ誤魔化しきれないところまできていることも確かだ。
それを止める方法が、たった一つだけ、ある。
しかし、それを綾波に言う訳にはいかない。僕が今から綾波に言うのは、まったく関係のないことだ。
「綾波」
綾波は、小首をかしげて僕の顔を不思議そうに見る。
「今日は、君の誕生日だよ。気づいていた?」
504永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:25:11.40 ID:???
綾波は自分の誕生日には無関心だったし、成長のことがあってからは、特にそうだ。僕も綾波の歳のことに触れるのが苦痛で、ここ数年は綾波の誕生日を祝ったりすることはなかった。
「その様子だと気づいてなかったね。プレゼントがあるんだ。そう、誕生日プレゼント」僕は言葉を切った。これから言うことに綾波がどんな反応を示すのか、不安だからだ。「笑わないでくれるかな……」
綾波は真剣な顔をしている。僕もこの上なく真剣だ。僕が真面目に話しているのに、綾波が笑うわけがない。馬鹿な質問をしたものだ。
「えーっと、ね」
とは言え、やはり言い出すのは躊躇われる。僕は咳払いをして、やや早口で言った。
「星をプレゼントするよ」
まぁ、本当のことを言うと、星でも太陽でも月でもよかった。単に今は夜で、新月だから星と言っただけだ。
綾波は笑わなかった。その代わりに、そんなことできるの、と言いたげな綾波の目。
「できるさ。今からやってみるよ」
本当? 綾波は微笑んだ。
可能なら、僕はその微笑を永遠に見続けていられるだろう。
名残惜しさを感じながらも、僕は立ち上がった。
綾波の視線を背中に感じつつ、僕はベランダに出て空を見上げた。雲ひとつ無い漆黒の夜空に、星が光り輝いてる。
ここは、地上二十二階。視線を下げると、ベランダ越しに家や道路、木々がちょっとしたミニチュアのように見える。
風が頬に心地よい。
しばらくの間、僕はその風に身をさらしていた。
だけど、永久にこうしていることは――できない。
今この瞬間も、僕と綾波の距離は広がり続けている。
老人になった僕に寄り添う少女のままの姿の綾波なんて、滑稽な悪夢としか言いようがない。
505永遠の停止法:2011/08/16(火) 01:26:05.58 ID:???
悪い夢は、もういい。十分に見た。
本当は、もっと前にこうするべきだったのかも知れない。
僕は臆病だから、今まで見たくないことから目を逸らして、漫然と立ちすくんで過ごしてしまった。
でも、もう。
もう、綾波に寂しい想いはさせない。
手すりに手をかけ、身体を引き上げた。外側に背を向けて、手すりに腰を掛ける。
強い風が僕の髪をなぶっている。木の葉の揺れる音がここまで聞こえてくる気がした。
部屋に身体を向けたのは、綾波の姿を見たかったからだ。
僕は「綾波……」と、呟いた。
部屋の中に綾波はいなかった。
綾波がいない部屋/世界は、ぞっとするような空虚な空間でしかなかった。
そうか。
僕はゆっくりと頷いた。
そうだったんだ。
綾波は、別の場所にいるんだ。
気づいてみると、当たり前過ぎて苦笑が洩れるほどだった。
綾波は、ずいぶん前から、別の場所にいる。
綾波のいるところに行かなくては。
きっと――僕のことを待っているだろうから。
そう。
僕のことを、ずっと待っている。
僕はゆっくりと身体を後ろに倒した。
視界に入るもの全てが、最初はゆっくりと――すぐに物凄いスピードで上に流れていく。
僕は空に手を伸ばした。
その一瞬。
一瞬かも知れないけれど。
僕は、確かに。
確かに僕は――

星を、つかんだ。

(終わり)
506名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/16(火) 01:41:28.83 ID:???
乙です
自分が見たとき、アスカにレイのことを言われたところで切れていたので
え、これで終わり? と思ってしまったw
ちょうどオチもだいたい分かるような場面だったし

読み返すと最初のファストフード店や医者のところで伏線張ってるのね
こういうのって悲恋系というかダーク入ってるのかな
でも透明感があるしシンジが一途っぽいのがいいですね
次回作も期待してます
507名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/16(火) 07:42:00.74 ID:???
シックスセンスの逆パターンですかね

乙です
508名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/16(火) 12:23:10.96 ID:???
乙です
何かすごかった
509名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/22(月) 20:04:47.98 ID:???
ハッピーエンドでないのが哀しいけど
これほどのSSは久し振りに読んだ
510名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/23(火) 13:01:38.18 ID:???
乙です
事実に気付いた瞬間ぞわっとしたよ
511名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/23(火) 17:12:49.81 ID:???
乙!
良SSでした。
512名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/27(土) 00:12:47.45 ID:???
GJ
最近良質なLRSSSが上げられて嬉しい。
513名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/27(土) 13:11:15.91 ID:???
良質じゃないLRSSSも歓迎ダヨ!
514千の波 水の月:2011/08/27(土) 18:38:02.36 ID:???
僕は浜辺に寝そべっていた。
僕の他には誰もいない、紅い世界。
ここには時間が存在しない。星が見え始めたら夜、消え始めたら朝。その程度しか分からない。

最初に目を覚ましたとき隣にいた赤い少女は、いつの間にかいなくなっていた。
以来ずっとひとりでここに横たわっている。

波の音と自分の呼吸音、それ以外には何も聞こえない世界で、ただひたすらにその時を待っていた。


波の音が大きく響いた。
僕は身体を起こし、紅い海を見つめた。
水面に映る月の中に、蒼い髪の少女が悲しそうな顔で立っている。

二人の間に会話はない。
僕は彼女を見つめる。彼女も僕を見つめる。ただそれだけ。


やがて彼女の姿は消えていった。
僕はまた、浜辺に寝転んだ。

何時からだろう? 彼女がああして現れるようになったのは……

気付いたことは、月がちょうど真上に来た時に現れるということ。真上を過ぎると消えてしまうということ。

一日一回、彼女の姿を確認する。それだけが、僕の心を繋ぎ止めていた。

終わりがくるまで、永遠に続くと思っていた。


だけど、終わりは呆気なくやって来た。
515千の波 水の月:2011/08/27(土) 18:41:29.45 ID:???
いつものように波の音が大きく響いた。
僕は身体を起こし、紅い海を見つめた。
彼女は現れなかった。

それから幾日も幾日も彼女を待ち続けた。
だけど彼女は現れなかった。
この紅い世界に来て、初めて声を上げて泣いた。僕の心には、絶望しか残っていなかった。

僕は紅い海に飛び込んだ。
水面に映る月の中に行けば、彼女の元に行けると思った。

泳げないことも忘れて、必死に手足を動かした。だけど水面の月は、追いかければ追いかけるほど、遠ざかっていった。
それはそのまま僕と彼女の関係に思えた。

全てがどうでも良くなって、手足を動かすのを止めた。
目を閉じて、波に身体を預ける。


眩しさに目を開けると、目の前に満月が浮かんでいた。
傍らに、蒼い髪の少女が立っている。
「綾波、僕も一緒に連れて行ってよ」
「……もういいの?」
「うん……もういいんだ」
「そう……」
僕は波の上に立ち上がり、彼女の手を取った。
そして、二人で月に向かって飛び立った。


516名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/27(土) 20:14:17.98 ID:???
乙乙
いい感じ
517名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/28(日) 08:49:07.11 ID:???

イイヨーイイヨー!
次のQまでの一年間LRS小説で乗り切らなきゃ。
518名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/28(日) 20:27:46.20 ID:???
乙です
しんみりだけど良い
519名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/28(日) 23:48:00.08 ID:???
童話っぽい感じでいいですね
520名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/29(月) 00:03:52.74 ID:???
乙です
521名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/30(火) 17:28:15.73 ID:???
でもやっぱりなんか物悲しさが残るな

今度は明るいのを頼みます
522名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/30(火) 19:22:27.09 ID:???
ごめん
悲しいのしか書けないんだ
523名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/30(火) 22:58:02.23 ID:???
悲しいのもイイヨイイヨー
524名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/30(火) 23:06:04.48 ID:???
悲恋ものもおいしくいただけます
525名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/31(水) 15:19:57.09 ID:???
もう一本書き上がったので、夜には投下します
526名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/31(水) 21:28:34.48 ID:???
wktk
527名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/08/31(水) 23:15:51.26 ID:???
悲しすぎる
528Loser:2011/08/31(水) 23:49:26.87 ID:???

L.C.Lの海の中、僕の身体が浮き上がっていく。僕は慌てて振り返った。
「綾波も一緒に帰ろう?」
「ダメなの。私はもうすぐ消えてしまうから」
「綾波!」
「いいの、碇くん。最初から分かっていた事だから」
そう言うと、彼女は悲しそうに微笑んだ。
僕は食い下がった。
「じゃあせめて、綾波の最後の一日を僕にくれないか?」
彼女は少し驚いた顔をしたけど、また微笑んだ。
「……わかったわ」
529Loser:2011/08/31(水) 23:50:24.32 ID:???
サードインパクトの中心となった筈の第三新東京市は、僕がここへ来た時と寸分違わぬ姿を取り戻していた。僕は心の底から安堵した。何事もなかったように生活する人々の姿に。

僕は彼女の家に向けて歩き始めた。きっと彼女はそこにいるハズだから。

予想通り彼女はそこにいた。
彼女は悲しそうな顔をしていたけど、僕は気付かないフリをして、笑って話し掛けた。
「行こう、綾波」
彼女は黙って頷いた。
530Loser:2011/08/31(水) 23:51:21.69 ID:???
街へ出て、まず始めにしたことは銀行に行くことだった。僕の財布には、僅かな額しか入ってなかった。これでは心許ない。
中学生と言えど、戦場の第一線にいた僕たちには、毎月かなりの額の給料が振り込まれていた。エヴァのパイロットになってからの一年弱で、僕の口座にはそれなりの貯金があった。
予定金額より少し多めに引き出し、銀行を後にした。
「まずはどこへ行くの?」
「デパートに行こうと思って」
「何故?」
「僕たちの服を買うのと、あとちょっと……」
「そう」
そうして僕たちは、一番近いデパートに足を向けた。
531Loser:2011/08/31(水) 23:52:14.38 ID:???
まず最初に彼女の服を選ぶ。何にするかは、もう決めてあった。白いサマードレス。これしかないと思っていた。
いくつかの店を見て回った。ある店で一着のそれが目に留まる。
長めの丈は彼女の足首くらいまでくるだろうか。裾がふんわりしていて、まさに僕のイメージ通りだった。
僕はそれを手に取った。
「綾波、これ着てみてくれる?」
頷いて服を受け取ると、彼女は試着室に消えて行った。
数分後、試着室から出て来た彼女は、僕の想像以上だった。
どうしよう……胸が高鳴って、痛い……
「碇くん、どう?」
「すごく、似合うよ」
はにかみながら答えると、彼女が微笑んだ。
店員さんを呼び、このまま着て行く旨を告げると、タグを取ってくれた。
今まで着ていた制服を紙袋に入れて貰って会計を済ませた。
あとは靴。手頃な店で、白いローヒールのパンプスを購入した。ついでに自分の革靴も。
それから自分の服。僕は何を着ても同じだろうと思い、それらしく見える服を選んだ。
532Loser:2011/08/31(水) 23:53:00.53 ID:???
買う物はあとひとつ。案内板で目当ての店を探し、移動した。
「ちょっと待っててくれる?」
そう言い残して僕が向かったのは、アクセサリーショップだった。
こんなところにひとりで入るのは恥ずかしかったけど、これは僕ひとりでやらなきゃ意味がなかった。
ショーケースの前で散々悩んだ挙げ句選んだのは、一番シンプルなモノだった。彼女に派手なモノは似合わない気がした。
受け取ったそれを、ズボンのポケットに大事に仕舞ってから、彼女のところへ戻った。
彼女はベンチに座り、俯いて考え込んでいた。横顔からは何も読み取れなかった。だけど僕には、何を考えているか分かる気がした。きっと僕の気持ちと同じだと思った。
「ごめん、お待たせ」
なるべく明るい声を出した。今日だけは、ダメな自分を封印していたかった。
彼女は顔を上げると、微笑んで首を横に振った。
連れ立って歩きだす。
「次はどこへ行くの?」
そう聞いた彼女に、イタズラっぽい瞳で答える。
「ナイショ」
「何故?」
「言ったらつまらないよ」
僕がそう言うと、彼女はキョトンとしていた。
533Loser:2011/08/31(水) 23:54:35.48 ID:???
駅で電車に乗ると、彼女はすぐに思い当たった。
「本部に行くの?」
僕は苦笑した。
「バレバレだよね」
当たり前だろう。この電車はネルフ本部直通だ。
「本部で何をするの?」
「だからナイショだって」
またキョトンとした彼女を見て、僕は笑った。


本部に着くと、ある場所へ向かった。
僕と彼女の想い出の場所へ。
「ここは……」
「覚えてる?」
本部の庭にある噴水広場。僕の目的地はここだった。
「……覚えてるわ」
彼女はそっと僕の手を握った。
「どうしてここへ来たの?」
「この場所で、綾波に伝えたい事があるんだ」
「私……に?」
僕は彼女の両手を握って、紅い瞳を見つめた。彼女の瞳が揺れている。
「僕、碇シンジは、綾波レイを永遠に愛することを誓います」
彼女は目を見開いた。
「碇くん……私は……」
「今は何も考えないで。綾波の素直な気持ちが聞きたいんだ」
彼女は唇を噛んで俯いた。
僕はそれを祈るような思いで見ていた。
やがて彼女は意思の篭った瞳で僕を見つめた。
「私、綾波レイは、碇シンジを永遠に愛することを誓います」
僕は肩の力を抜いて微笑んだ。
「ありがとう、綾波」
534Loser:2011/08/31(水) 23:55:22.21 ID:???
そう言うと僕は繋いだ手を離して、さっき買ったモノを取り出した。
「綾波、左手出して」
首を傾げながら、彼女は素直に左手を差し出す。
僕は彼女の左手に、箱から取り出したシンプルな銀の指輪を薬指にはめた。
「安物だけど……」
彼女はその手を目の高さに掲げた。
「これ……」
「僕にも、はめてくれる?」
僕は自分の指輪を取り出すと、彼女に手渡した。
「……うん」
彼女は僕の左手を取ると、同じようにはめた。何とも言えない想いが込み上げてくる。
「実はこれ、結婚式のつもりだったんだ」
「……結婚式?」
「そう。僕と綾波、二人だけの結婚式」
「二人だけの……」
「僕と綾波は、今日から夫婦になるんだ」
「私と碇くんが……?」
「嫌だった?」
彼女は首を振った。
「……嬉しい」
僕は彼女の頬に触れた。
「神父さんも介添人もいないけど……僕の気持ちは永遠に変わらないって伝えたかったんだ」
「私の気持ちも永遠に変わらない。ただひとり、碇くんだけを愛してる」
紅い瞳が僕の心を射抜く。
誘われるように、顔を近付けていく。
そして僕たちは、永い永い口づけを交わした。
535Loser:2011/09/01(木) 00:00:12.50 ID:???
夕陽がその姿を消す頃、僕たちは彼女の部屋に帰った。
僕はすぐに夕飯の支度に取り掛かる。メニューは彼女のリクエストでカレーになった。
「ごめんなさい。私、料理出来なくて……」
僕は笑った。
「いいんだよ、気にしなくて」
「でも、料理は妻がするものでしょう?」
「じゃあこれから−−」
言いかけて、口を噤む。
そうだ……僕たちに『これから』はないんだ。
二人の間に微妙な空気が流れる。
僕は黙って彼女を抱き寄せた。彼女は今ここにいる。それだけが、僕の真実だった。
「……カレー、出来たかな」
そっと腕を解くと、鍋の方に向き、息を止めて涙を堪えた。『泣いちゃダメだ』自分にそう言い聞かせていた。
536Loser:2011/09/01(木) 00:00:53.67 ID:???
夕飯が済むと、僕たちは手を繋いでベッドに並んで座っていた。二人の間に沈黙が降りる。
やがて僕は口を開いた。
「僕たちの間に、あとどれくらい時間が残ってるのかな……」
彼女が僕を見る。
「僕は、ずっと綾波が好きだった。だけど怖くて何も出来なかった。嫌われたらどうしよう。そればっかり考えてた」
彼女は黙って僕の話を聞いている。
「だけどもう恥ずかしいとか、怖いなんて言ってられないんだ。僕たちには時間がないんだから」
「碇くん……」
繋いだ手に力を込める。
「僕は綾波が好きだ! 綾波じゃなきゃダメなんだ! 代わりの誰かなんていないんだ!」
彼女が泣いている……そう気付いた時、僕の涙腺はついに決壊した。止めようとしても、止まらなかった。
「ごめん……今日だけは泣かないでいようと思ってたのに……」
「……」
「自分で決めたことさえ守れない、弱い僕を笑ってよ……」
「笑えないわ。私も同じだから……」
彼女を抱き寄せ、二度目のキスをした。それは涙の味がした。
537Loser:2011/09/01(木) 00:02:01.35 ID:???
唇を離すと、どうしようもない悲しみが襲ってきた。
「こんな……こんなのってないよ……。せっかく気持ちが届いたのに……」
最初から分かりきっていた。あのまま別れた方が、傷は浅くて済んだのだろう。
だけどあのまま別れたら、僕は一生後悔したと思う。残りの人生を後悔して過ごすくらいなら、たったひとつでも彼女との幸せな想い出が欲しかった。それがあれば、一生独りでも生きて行けると思った。だけど……
「みっともなくてもいい。僕はどうしても綾波と離れたくない」
僕は唇を噛んだ。
彼女は震える声で言った。
「碇くん……私のお願い、聞いてくれる?」
「……いいよ」
「私は……碇くんとひとつになりたい……」
僕は狼狽えた。
「綾波、でもそれは……」
僕にもそうしたい気持ちがないと言ったら嘘になる。でも……
迷う僕に、彼女が畳み掛ける。
「私の、最後のお願いだから……」
「……わかった」
僕は立ち上がって部屋の明かりを消した。窓から月の光が差し込んで、ほのかに明るい。
ベッドに戻ると、彼女の隣に腰掛けた。
「本当に、いいの……?」
最後の確認をすると、彼女は小さく頷いた。
僕は彼女を抱き寄せると、深く口づけた。そしてそのままベッドに横たえる。
唐突に彼女が言った。
「待って。私、シャワー浴びたい」
「そんなのいいよ」
「でも……」
「綾波の匂いを感じていたいんだ」
そう言うと、彼女は朱くなって小さく「……バカ」と呟いた。
538Loser:2011/09/01(木) 00:03:02.61 ID:???
僕は彼女とひとつになる。それはとても気持ちのいいことだった。このままひとつに溶け合って、二度と離れなければいいと思った。
心地好い疲労感の中、そのままベッドに横たわる。僕は彼女に腕枕をした。
「ありがとう……私のわがまま聞いてくれて……」
「わがままなんかじゃないよ」
「私……ずっとこうしたかった。でも、望んじゃいけないと思った。だって私は−−」
「綾波」
「人じゃないもの……」
「綾波が人かどうかなんて、どうでもいいよ」
彼女がぴくりと震える。
「綾波は綾波だ。それ以上でもそれ以下でもない。人かどうかなんて、大した問題じゃない」
彼女の頭の下にある僕の胸に、涙が落ちる。
「僕は綾波だから大切なんだ」
彼女が嗚咽し始める。
「碇くん、私……」
僕は黙って彼女の髪を梳いた。
「私、消えたくない。無へは還りたくない。ずっと碇くんの傍にいたいの……」
彼女の悲痛な叫びを、黙って聞いていた。いつしか僕の瞳からも涙がこぼれていた。自分たちの運命が悲しかった。離れ離れになるのが運命なら、何故出逢ってしまったのか……。こんな時に、父の気持ちが分かるなんて皮肉だと思った。
539Loser:2011/09/01(木) 00:08:30.31 ID:???
不意に、窓から差し込む月の光が一際明るくなった。同時に、彼女の身体も輝き始める。咄嗟に身を起した。
「綾波……」
夢の終わり。そんな言葉が頭をよぎった。
「嫌だ!」
僕は彼女をきつく抱きしめた。
「綾波行かないで!」
月の光は益々強くなる。彼女の姿が消えて行く。
「嫌っ! 行きたくない! ずっとここにいたいの!」
部屋中が月の光に包まれる。
「綾波ぃっ!」
「碇くんっ!」
その時、声が直接頭の中に響いた。
『生きなさい……』
反射的に顔を上げる。
「えっ……?」
『私ひとりで行くわ……』
彼女の身体から光が飛び出し、窓に消えて行った。それと共に、部屋の中も元に戻る。
540Loser:2011/09/01(木) 00:08:58.23 ID:???
僕は呆然と呟いた。
「今の、何……?」
「リリス……」
「リリス? あれが……」
僕たちはしばらく窓を見つめていた。やがて彼女がぽつりと言った。
「私……消えなくていいの? ここにいても……いいの?」
もう一度、彼女を抱きしめた。彼女は今ここにいる。それだけが、僕たちの真実だった。
「綾波。ずっと僕と一緒に生きて欲しい」
「うん……ずっと碇くんと生きて行く」
彼女が僕の背中に腕を回す。
「ごめん。順番が逆になっちゃったね」
「……何が?」
「結婚式とプロポーズ」
彼女が笑った。
「いいの。結果は同じだから」
僕も笑った。
そっと身体を離して、彼女の紅い瞳を見つめる。
「綾波、愛してるよ」
「私も……愛してる」
そして僕たちは、今までで一番幸せなキスをした。
541Loser:2011/09/01(木) 00:09:28.07 ID:???
−− Epilogue −−

あれから八年。大学を卒業した僕は、なし崩し的にネルフに就職した。
あの時彼女と交換した指輪は、成長した僕の指には入らなくなった。今は、チェーンに通して首から下げている。
その代わり僕の指には、新しい指輪がはめてある。

彼女と交換した、本物の結婚指輪が……


(終わり)
542名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 00:13:34.88 ID:???

どういう設定なのはかよく分からなかったけどいい雰囲気だったよ
543名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 00:21:11.58 ID:???
乙です
悲恋物か…読むのつらいな…と思ってたら
ハッピーエンドでホッと一安心
544名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 00:45:26.13 ID:???
ごめん
思いつきから書き上げるまで一日でやったから、かなり粗いと思う
ラストも、最初は別れる予定だったから…
545名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 01:11:54.40 ID:???
補足
この話は、EOEのONE MORE FINALの前から始まります
シンジの別れる相手がユイではなく、レイだったら…と言う話です
紅い海からでは不都合だったので、何も被害がなかった事にしました
546名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 13:06:27.89 ID:???

ハッピーエンドでよかったよ
547名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 16:02:28.84 ID:???
思いもよらず泣いてしまったw
最後が幸せな未来のある終わり方で良かった

投下乙です!
548名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/01(木) 19:28:10.68 ID:???
まだ読んでない
時間ある時に読ませてもらいます
549名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/04(日) 04:18:13.53 ID:???
この度はわたくしの拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます
皆様の乙がとても励みになります
また何か書き上がりましたら、投下させていただきます
550名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/04(日) 08:13:28.44 ID:???
宜しく
551名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/04(日) 11:23:46.34 ID:???
楽しみにしてるよ!
552名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/04(日) 18:53:54.97 ID:???
また悲しい話かと思ったが、二人とも幸せになれて良かった。
次の作品を楽しみにしている。
553名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/04(日) 19:32:46.70 ID:???
悲恋ものもバッチこいだぜ!
554名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/05(月) 03:15:52.83 ID:???
次のはまだ時間がかかりそうなので、とりあえず初めて書き上げたものを投下します
555冬物語:2011/09/05(月) 03:19:42.26 ID:???
サードインパクトから二年……

あの悪夢のような出来事から人々は立ち直りつつあった。
街も元通りとはいかないまでも、復興していた。
爆発で吹き飛んだジオフロントの天井だけは、直しようがなかったが……。
人には再生力がある。その通りだと思った。

僕は高校二年生になっていた。
アスカやトウジ、ケンスケ、委員長と未だに同じクラスだ。
そして……僕は父さんや母さんと暮らしていた。
最初こそぎこちなかったけど、今では当たり前の日常。
変わらない日々。
そんな、何でもない日々が心から幸せだと思える。

たった一つの事を除いて……
556冬物語:2011/09/05(月) 03:21:57.95 ID:???
玄関で靴を履こうとしていると、後ろから声を掛けられた。
「あらシンジ、出掛けるの?」
座ったまま振り返ると、母さんが立っていた。
「うん……」
短く答えると、思い当たった様な顔をした。
「そっか、今日は……」
僕は何も言わず、黙って靴を履いた。
「気をつけて行くのよ。今日は雪が降ってるから」
立ち上がって母さんを見る。
「わかった」
そう言って微笑むと、母さんも微笑んだ。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
僕は傘を掴むと、玄関の扉を開けた。
557冬物語:2011/09/05(月) 03:22:26.84 ID:???
僕は雪の中を歩く。
サードインパクトの影響なのか、日本には四季が戻っていた。
(積もるかもしれない)
そんな事を考えていた。

目的地まではかなり距離がある。
いつもは自転車で行っているけど、さすがに今日は諦めた。
傘を持つ手がかじかんでくる。吐く息も白い。
途中でカイロがわりにホットコーヒーを買った。

小一時間ほど歩いて、ようやく目的地に着いた。
そこは僕が初めて使徒を倒した後、ミサトさんに連れて来てもらった展望台。
柵にうっすら積もった雪を払い、傘を閉じて寄り掛かる。
段々と白の世界に沈み行く街を眺めていると、不意に胸が傷んだ。
目を閉じて自分の心の声に耳を澄ます。
(どうして君はいないんだ……)
唇を噛み締める。
(僕は君に傍にいて欲しいのに……)
558冬物語:2011/09/05(月) 03:22:51.32 ID:???
二年前……
僕は混乱の中、あてもなく彷徨った。
ただひとりの人を探して……

僕は路上に倒れていた所を保護された。
病院で目を覚ました時、僕は唐突に悟った。
(もう彼女はいないんだ……)

それから暫く泣いて過ごした。
何もしたくない。ただ彼女との想い出だけを抱きしめていた。
そんな僕を見兼ねた母さんは、僕を叱った。
『今のシンジを見たら、何て言うかしらね』と……

それから僕は精一杯生きる事にした。
次に彼女に逢った時、恥ずかしくない様に。
ようやく日々の生活に慣れ始めた頃、僕は惹かれるようにこの場所を訪れた。
ここには、誰も来ない。人目を気にせず泣く事が出来る。そう気付いた。
そして僕は月一回、ここで彼女を想う事にした。
そうやってこの二年を過ごした。
559冬物語:2011/09/05(月) 03:23:17.65 ID:???
降りしきる雪の中、彼女の事を想う。
彼女の姿。
彼女の声。
彼女の微笑み。
彼女の全てを、二年経った今でも鮮明に思い出せる。
僕の心に感情の波が押し寄せる。
僕は溢れ出す涙を堪えることはしなかった。
それが僕なりの、彼女への贖罪だったから。
それでも抑えきれない感情を、僕は口から吐き出した。
「ごめん……僕が馬鹿だったから……気付くのが遅すぎたから………」
失ってから自分の気持ちに気付くなんて……

今なら言えるのに……
『君が好きだ』と言えるのに………

「逢いたい……君に逢いたいよ………」
560冬物語:2011/09/05(月) 03:23:41.69 ID:???
ひとしきり泣いて顔を上げると、街はすっかり白の世界に覆われていた。
「もう帰るね。また来月来るから」
そう言って踵を返そうとした。

その時、突風が吹いた。
僕は思わず目を瞑る。

ようやく収まった頃、目を開いた。
ふと誰かの気配を感じて振り返る。
そこに立っていたのは、二年前に卒業した中学の制服に身を包んだ女の子だった。

その髪は夏の空の様に蒼く、その瞳は紅葉の様に紅く、その肌は雪の様に白く、そしてその唇は桜色。
(ああ、彼女は四季だったんだな……)
そう思った。

彼女はそこに立ったまま微笑み、小さな声で言った。
「……ただいま」
僕の目から、新しい涙がこぼれ落ちる。
「おかえり、綾波……」
僕はそう言って微笑んだ。




(終わり)
561名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/05(月) 11:20:52.03 ID:???

しんみりしたよ
562名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/06(火) 20:17:17.70 ID:???
乙…乙だ…投下してくれることは紛れもなくありがたいことっ…でも、だからこそ言いたい
もうちょっと推敲してほしかったかなぁ…と
563名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/06(火) 21:33:33.34 ID:???
>>562
そうか?
特に気にならなかったが
564名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/11(日) 14:15:13.96 ID:???
まあ確かにもう少し文章を練った方が良いな、とは俺も思った。
が、作品がどうしようもないもんだったら、そんなことすら思わない。
565名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/12(月) 13:16:42.99 ID:???
皆様の有り難いお言葉、真摯に受け止めたいと思います。
私自身、こういう物を書き始めたばかりなので、文章力のなさは痛感しております。
それに関しては、沢山の文章を書くことでしか向上出来ないと思っています。
もし皆様のお許しが頂けるならば、書き上がり次第ここに投下させて頂きたいと思います。
今日はこれで失礼いたします。
566名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/12(月) 13:56:38.68 ID:???
>>565
sageてるやつらのことは気にせずに
肩の力を抜いて投下すればいいよ
次も待ってます
567562:2011/09/12(月) 19:36:37.39 ID:???
勿論お願いします
さげたつもりはなかったんですが、気に障ってたらすみません
あまり長く書いてない方だなぁってのは何となくわかったんですが
期待してるんで甘口評価して芽を摘み取りたくなかったもので(汗)
568名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/18(日) 23:19:04.90 ID:???
あまり気にしてないので大丈夫です
今も一生懸命書いてますが、当初の予定よりも長くなりそうなので、まだしばらくは投下出来そうにありません
569名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/20(火) 00:00:35.00 ID:???
頑張れ。期待している。
しっかりストーリー作って投稿してね。
途中で投げ出すのだけは止めて欲しい。
570名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/20(火) 00:19:29.03 ID:???
期待に応えられるように頑張ります
それと、誕生日に応援のレスを頂けて嬉しかったです
571名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/09/20(火) 13:08:09.18 ID:???
待ってます!
572sage:2011/10/01(土) 22:41:09.49 ID:???
保守
573名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/04(火) 11:32:49.66 ID:???
______________________________________
|                                   /_______ \        |
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| 以下                             .} ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ノ        .|
| 人類の戦犯にして終身名誉死刑囚           .{      ノ =≡=-、 ,r=≡=i      ..|
| 巨人小笠原内野手容疑者(37)からの           |     / `ー=・-、 (r=・-'(        .|
| メッセージをお読みください               ..ノ {ヽ ノ    /   | ヽ  l        .|
|                                 ノ  ノヽ/       ,、_)   ノ      ..|
|                                .フ  |  ゙i  「 ト      /       |
|                                 )  |   ヽ   \二=- ノ          |
|                                 `ゝ.|    ヾ      /         .|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
574570:2011/10/04(火) 22:20:40.65 ID:???
今日から少しずつ投下させていただきます
まだ半分しか出来ていないのでいつ終わるか分かりませんが、なるべく間を空けないようにします
575名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/04(火) 22:35:13.67 ID:???
楽しみにしてます〜
576逃飛行 1−1:2011/10/05(水) 00:17:21.63 ID:???
ターミナルドグマ。ネルフ本部で働く人間にも極秘とされる場所に、碇シンジ、葛城ミサト、赤木リツコの三人は立っていた。
「何よ、ここ……」
ミサトが茫然と呟く。
円筒形のカプセルが中央に据えられた部屋。リツコが最後に連れて来たのがここだった。
「ダミープラグの元となるプラントよ」
「ダミー……」
シンジの脳裏にあの時の惨劇が蘇る。
「そしてこれがコアとなる部分」
リツコが手元の端末を操作すると、周囲に光が溢れた。
「これが真実よ」
壁一面を巨大な水槽が取り囲んでいる。その中には無数の綾波レイが漂っていた。
「綾波……レイ?」
「いいえ。ここにあるのはダミープラグ、そしてレイのためのスペアパーツにすぎないわ」
「そん……な……」
シンジの足元がふらついた。ミサトが慌ててシンジを支える。
「しっかりしなさい」
シンジが辛うじて頷いた。
そんな二人の様子を見ていたリツコは、冷酷な笑みを浮かべた。
577逃飛行 1−2:2011/10/05(水) 00:17:56.11 ID:???
「人は神様を拾った。だから喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった。それが十五年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ。でも今度は自分達の手で神様を復活させようとした。それがアダム。そしてそこから神様に似せて人を造った。それがエヴァ」
シンジは愕然とした。
「人……? 人間だって言うんですか?」
「そう、人間なのよ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるの。レイ一人にしか魂は生まれなかったのよ」
シンジとミサトはただ沈黙するしかなかった。
「ここにあるレイと同じモノに魂はない。たったひとつの魂を護るための容れ物。人形なのよ。だから壊すの。憎いから」
リツコが端末すると水槽のLCLが朱く変化して、レイの形をしたモノが崩れ去っていく。
「うわぁぁぁぁっ!」
シンジは恐怖に慄いた。咄嗟にミサトが銃口を向ける。
「アンタ、何やってるかわかってんの!?」
「ええ、わかってるわ。破壊よ。人じゃないもの。でもあの人にとって私は人形以下だった。バカなのよ、私は。
最初からわかっていたのに……親子揃って大バカ者だわ……」
リツコが嗚咽し始めた。
「私を殺したいなら殺して。いえ、むしろそうしてくれると嬉しい」
ミサトが銃を下ろしながら言う。
「それこそバカよ、アンタは……」
リツコは床に伏して号泣した。シンジは何も言えず、ただそれを見ているしかなかった。
578逃飛行 1−3:2011/10/05(水) 00:18:19.88 ID:???
家に帰ってきたシンジは自室のベッドに横たわり、物思いに耽っていた。
リツコが言った言葉が木霊する。
『レイのためのスペアパーツ』
『レイ一人にしか魂は生まれなかった』
『たったひとつの魂を護る容れ物』
(じゃあ、あの綾波は……)
レイの声が聞こえる。
『多分、私は三人目だと思うから』
(三人目。つまり僕の知っていた綾波は二人目だったってことか……)
シンジは二人目のレイとの間に絆を感じていた。二人目のレイが消えた時点で、その絆は切れてしまったのだろうと思う。
今のシンジには、新しく絆を結ぶだけの気力はなかった。だけど――
『たったひとつの魂』
その言葉がどうしても引っ掛かる。つまり身体がいくら替わっても、魂は同じということ。
(もしかしたら……でも……)
シンジは苦悩していた。自分の考えが当たっていれば、彼女との絆はまだ切れてしまったわけじゃない。だけどもし違ったら、自分はまた彼女を失うことになる。
シンジは瞼を閉じた。
(僕は、どうしたらいい?)
不意に数ヶ月前のレイの言葉を思い出した。
『私には他に何もないもの』
それはヤシマ作戦の前、レイにエヴァに乗る理由を尋ねた時に返って来た言葉。
彼女の真実を知った今、改めて思う。彼女はあの時、どんな気持ちでそう言ったのだろう?
『自分には他に何もないなんて、そんなこと言うなよ』
自分はあの時彼女にそう言った。だからこそ少しずつ、でも着実に絆を深めてきた。
その絆の強さを信じたかった。
(そうだ。まだ可能性は……ある)
シンジはゆっくり起き上がり、そのまま部屋を後にした。
579570:2011/10/05(水) 00:21:04.43 ID:???
今日はここまでです
続きはまた明日以降に投下します
580名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/05(水) 11:43:09.32 ID:???
乙です、待ってます
581名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/05(水) 13:15:23.12 ID:???
>>579
乙です
タイトルからしてシンジとレイの逃避行ものかな
続きが楽しみ
582逃飛行 1−4:2011/10/05(水) 22:45:45.68 ID:???
シンジはレイの部屋の前で立ち尽くしていた。
自らの意志でここまで来た。だけどほんの少しだけ勇気が出ない。
帰ってしまおうか――そんな思いがよぎる。でも今帰ったら、自分は何のためにここに来たのかわからない。
(そう……逃げちゃダメだ)
意志の篭った瞳でドアを睨む。そしてゆっくり拳を振り上げた。
「何してるの?」
その声に、シンジは心臓が止まるほど驚いた。振り返るとレイが買い物袋をぶら下げて立っている。
「あっ……綾波!」
レイはまっすぐ近づいて来ると、シンジを見つめた。
「……何?」
未だ静まらない動揺に、頭が真っ白になる。
「あ、あの……えっと、なんだっけ……話……話があるんだ」
「あなたが、私に……?」
「う、うん……」
レイは視線を逸らし、ドアを開けた。
「……上がれば」
「あ……うん」
シンジは大人しくレイの後に続いた。
レイは冷蔵庫に向かうと、買ってきたミネラルウォーターを入れた。
「話って、何?」
「うん……」
シンジは俯いて逡巡した。ここまできて、まだ迷っている弱い自分が情けなかった。
そんなシンジの背中を押したのは、『逃げたくない』という強い気持ちだった。
(僕は、逃げたくない。自分から……なによりも綾波から)
シンジは顔を上げて、レイを真っ正面から見据えた。その瞳に、もう迷いはない。
「綾波。僕は昨日、ターミナルドグマに行ってきたよ」
レイの顔が強張る。だがシンジは構わず続けた。
「リツコさんに、綾波のこと聞いた。それでようやく分かった。君が言った『三人目』の意味が」
「……そう」
レイはやっとの思いで一言だけ発した。
頭の中は混乱していた。リツコは何故秘密を暴露したのか。シンジは何故自分を尋ねて来たのか。レイには何一つ理解出来なかった。
583逃飛行 1−4:2011/10/05(水) 22:48:06.82 ID:???
「今の身体は、三つ目なんだよね?」
「そうよ」
シンジは少しだけ目線を外すと、またすぐに戻した。
「綾波にいくつか質問があるんだけど……いい?」
「……構わないわ」
以前と同じように素っ気なく答えるレイにシンジは苦笑した。
「とりあえず座らない?」
シンジがそう提案すると、レイはコクンと頷いた。二人は身体半分の距離を置いて、ベッドに腰掛けた。
「僕のことは分かる?」
「碇シンジ。サードチルドレン。初号機パイロット。碇司令の子供」
「二人目の時の記憶はあるの?」
「記憶……」
レイは思い返した。自分のではない、誰かの記憶。
「記憶はあるわ。定期的にバックアップを取っていたから」
「じゃあどうして知らないなんて……」
「あなたを守ったことは知らない。記憶にないもの」
「バックアップを取ってないから?」
「そう」
「そっか……」
シンジは合点がいった。彼女の記憶は最後にバックアップを取ったところまでしかない。自爆したことを知らないのは当たり前だ。
「それに記憶以外のものは受け継がない。だから私は、二人目の私があなたをどう想っていたか、知らないの」
「そうなんだ……」
シンジは落胆した。やっぱり絆は切れてしまったと感じた。
「だけど不思議なの。あなたと話していると、私の中から知らない感情が湧いてくる」
シンジは顔を上げてレイを見た。
「それって……」
「これは多分、二人目の私が残した感情。あなたを想う強い気持ち」
「綾波……」
「今はまだ、自分の感情として捉えられない。私は目覚めたばかりだから」
「綾波。それでも僕は――」
584逃飛行 1−4:2011/10/05(水) 22:49:37.77 ID:???
「だけど、こんな感情、私には必要なかった」
「何で、そんな……」
シンジの顔が悲しく歪む。
「私、もうすぐ消えるの」
「……え?」
「あなたのお父さんが進めていた計画。そのために私は生まれたの」
「計画?」
レイはシンジを見ずに、淡々と言葉を紡ぐ。
「人類補完計画。その計画に私が必要だった」
「そ……んな……」
「もうすぐ約束の時が来る。そしたら私は要らなくなるの」
「そんなの嘘だろ?」
「嘘じゃない。私は消えるのよ」
シンジはレイの横顔を見つめた。
「綾波は、それでいいの?」
「……そう、いいの」
「本当に?」
「……本当に」
シンジはレイの肩を掴んで、乱暴に押し倒した。
「それなら何でそんな悲しい顔してるんだよ!」
二人の視線が交錯する。
「僕は、綾波の素直な気持ちが、聞きたいんだ……」
シンジの瞳から涙がこぼれる。それはレイの頬に落ちた。
「私は、その日を待ち望んでいたの。だけど……」
「だけど?」
585逃飛行 1−4:2011/10/05(水) 22:50:41.32 ID:???
「今は……怖いの……」
シンジはレイを引き起こすと、静かに言った。
「綾波。もしも君がこのまま消えるのが嫌だと思っているなら、僕と一緒に逃げよう」
レイは目を見開いた。
「何……言ってるの?」
「僕は君に消えてほしくない。だから……」
「そんなこと出来るはずないわ」
「そんなの分かってるよ! だけどこのまま綾波が消えるのを黙って見ているなんて、僕には出来ないよ!」
シンジはレイを抱き寄せた。
「お願いだ、綾波。僕と一緒に逃げてよ。僕が君を守るから……絶対に守るから……お願い。僕を信じて……」
レイは逡巡した。ネルフから逃げるきることは不可能だと彼女は知っていた。だがシンジの気持ちを痛いほど感じる。その気持ちを嬉しいと感じているのも、また事実だった。
「……分かった。あなたを信じる」
シンジは泣き顔のまま微笑んだ。
「ありがとう、綾波」
586逃飛行 1−4:2011/10/05(水) 22:52:04.97 ID:???
今日はここまでです
続きはまた明日にでも
587名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/06(木) 13:00:52.60 ID:???
乙です
待ってます
588逃飛行 1−5:2011/10/08(土) 21:03:51.78 ID:???
それから二人でこの先のことを話し合った。最初の行き先はとりあえず第二東京に決めて、その先はまた考えることにした。それ以外の細かい打ち合わせをして、ようやく話し合いが終わったのは、陽が暮れかけた頃だった。
玄関で靴を履くと、見送りに出て来たレイを振り返る。
「じゃあ予定通り」
レイは小さく頷く。
シンジはレイに少しだけ微笑んでから、扉を開けた。
部屋を出たシンジがしたことは、当面の資金の調達だった。先立つ物が無ければ、何も出来ない。
有り難いことに、シンジ達パイロットには、それなりの報酬が出ている。シンジの貯金は中学生のそれを遥かに超えていた。
いくつかの銀行を廻って、全部で二百万を下ろした。行く先々で下ろしていたら、その瞬間に足がつくと考えたからだ。今頃レイも同じことをしているはずだった。
二人で四百万。それでも足りないことは分かっている。だがこれ以上引き出すと、自動的にロックがかかってしまう。
以前、アスカが一目惚れしたベッドを買おうとカードを使った。しかしロックがかかってしまい、買えなかったということがあった。
アスカが買おうとしたベッドは、二百五十万円もした。
それからシンジがしたことは、いつも通りに夕飯の買い物をして帰路に着くことだった。
いつもはしない多額の現金の引き出し。それだけでも怪しまれてしまう。だからそれ以外は普通にしていた。
家に帰ると、シンジはすぐに夕飯の支度を始めた。
アスカはずっと入院したままだ。ここ数日は見舞いにも行っていない。心配する気持ちはあるが、シンジには何も出来なかった。
ミサトも最近は帰らない日々が続いている。家には着替えに帰ってくるだけだ。
シンジはそれでもミサトのために夕飯を作った。世話になったミサトへの、せめてもの償いだった。
589逃飛行 1−5:2011/10/08(土) 21:04:10.96 ID:???
シンジがひとりで夕飯を食べていると、家の電話が鳴った。相手は案の定ミサトだった。
『もしもし、シンジ君? ごめんね、今日も帰れないのよ』
「分かりました。じゃあ夕飯はラップをかけて冷蔵庫に入れておきます」
『悪いわね。明日の朝には帰るから』
「はい」
受話器を置くと、シンジはぽつりと呟いた。
「ごめんなさい、ミサトさん。僕は明日の朝には……」
胸が少しだけ痛んだ。段々視界が滲んでいく。
この街に来て最初に言葉を交わしたのがミサトだった。それ以来、ミサトはずっと見守っていてくれた。初めて出来た家族だった。
すっかり冷めてしまった夕飯を流し込み、後片付けを済ませると、部屋に戻った。
それから散々悩んで、ミサト宛に一通の手紙を書いた。
自分達の無謀な行動。だけどミサトなら理解してくれると思った。大切な人を失うことがどんなに辛いことか、ミサトは知っているはずだから。
ペンを動かすシンジの耳に、あの時のミサトの泣き声が聞こえた気がした。
手紙を書き終えると、小さめのボストンバッグに荷物を詰め始めた。持って行く物など何もない。下着と少量の着替えだけだ。
ふとある物が目に留まる。それは愛用していたSDATだった。暫くそれを見つめたあと、イヤホンを耳に入れ、再生ボタンを押して目を閉じた。聞き慣れた旋律が流れ始める。
一曲終わったところでイヤホンを外し、机の上に置いた。自分の殻に閉じこもるのはこれで最後。もう必要無い。
荷物を詰め終わって時計を見ると、もう午前一時近かった。約束の時間まではあと少し。
シンジは私服に着替えると、ボストンバッグとさっき書いた手紙を持ってダイニングに移動した。
テーブルに手紙と携帯電話、それからネルフのIDを置いた。
ネルフ支給の携帯電話には、GPSと発信機が内蔵されている。電源を入れれば一瞬で位置が分かってしまう。使えないのなら、持って行く理由はない。
玄関に向かおうとした足を止め、部屋を振り返った。ここであった様々な思い出が脳裏をよぎる。
「さよなら……」
鞄を持つ手に力を込めると、瞳に涙を溜めたまま振り切るように部屋を後にした。
590名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/09(日) 10:10:33.16 ID:???
まだ続くのかな?
591名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/09(日) 12:04:46.24 ID:???
≫590
すいません。まだまだ続きます
592名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/09(日) 18:36:11.83 ID:???
反対する理由は無い。存分にやりたまえ。
593名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/10(月) 17:41:43.89 ID:???
乙です。
594名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/10(月) 18:58:19.47 ID:???
愛の逃避行だな
595逃飛行 2−1:2011/10/11(火) 21:32:30.27 ID:???

地下駐車場から外に出ると、物陰に隠れて辺りをそっと見回した。監視の目は見当たらない。
(よし、予定通り)
シンジは歩道に出ると、深呼吸をひとつして駆け出した。
決行を夜中にした理由。それは、この時間から十五分だけ監視の人間がいないことを、レイが知っていたからだ。
待ち合わせの公園に着くと、レイは既に着いていた。打ち合わせ通り、彼女は私服姿だった。
「ごめん、待った?」
シンジが息を切らしながら言う。
「大丈夫。私も今来たところだから」
「よかった……」
シンジは大きく息を吸うと、呼吸を整えた。
「じゃ、行きましょう」
そう言って歩き出そうとしたレイの腕を掴む。
「ちょっと待って」
「……何?」
「最後の確認をしたいんだ」
「確認?」
レイが怪訝な顔をする。
「綾波は、本当にこれでいいの?」
「え……?」
シンジはレイの肩に手を乗せて、瞳の奥を覗くように見つめた。
「ここまできて言うのは卑怯かもしれない。でも、ちゃんと考えて欲しいんだ。今から僕たちがしようとしてることは、父さんを裏切る行為なんだよ」
「私……」
レイの身体が震えている。それは肩に置いた手の平から、シンジに伝わってきた。
「綾波は、父さんを裏切れるの?」
「これは、私が初めて自分で決めたことだから」
「……いいんだね?」
レイはシンジの視線から逃れるように俯いた。
596逃飛行 2−1:2011/10/11(火) 21:34:46.32 ID:???
「私は今まで命令通りに動いてきた。そのことに何の疑問も持たなかった。だけど」
そう言ってレイは顔を上げると、意志の篭った瞳でシンジを見つめた。
「私は人形じゃない。ちゃんと心があるの」
「綾波……」
「私は消えるのが怖い。だからあなたと一緒に行く。たとえ碇司令を裏切ることになっても構わない」
シンジはレイを優しく抱きしめた。
「ありがとう、綾波」
シンジは腕をほどいて、レイの手をしっかりと握った。
「行こう」
レイは大きく頷く。
二人は手を繋いだまま走り出した。
裏道を抜けて駅前まで来ると、客待ちをしていたタクシーに飛び乗った。
「すいません。第二東京の駅まで」
「はぁ?」
タクシーの運転手が驚いた顔をする。それを無視して畳み掛けた。
「急いでください。父が事故に遭ったんです」
これは予め考えていた嘘だった。中学生二人がこんな時間にタクシーに乗って遠出をする理由として、最もらしいものを選んだ。
「そうか。分かった」
そう言うと運転手は、アクセルを踏み込んだ。
車窓を流れる見慣れた景色を眺めながら、シンジはレイの言葉を思い返していた。
『私は人形じゃない。ちゃんと心があるの』
今まで誰も彼女の心を見ようとしなかった。みんな彼女を命令通りに動く人形だと思っていた。そのことがシンジは悲しかった。
(僕が綾波を守る。父さん達の好きにはさせない)
そう決意を新たにした時、シートに置いた手にレイの手が触れた。ハッとして横を見ると、レイが目顔で語りかけてくる。
(大丈夫?)
恐らく自分は酷い顔をしていたのだろう。
シンジは微笑んで、レイの手を握った。解け合う体温が、お互いの緊張をほぐしていく。
(大丈夫。きっとうまくいくさ)
自分達の絆は堅く結ばれている。このときシンジは、素直にそう思えた。

597逃飛行 2−1:2011/10/11(火) 21:36:26.68 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日以降に
598名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/11(火) 22:17:17.86 ID:???
乙です。続きを楽しみにしてます。
599名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/11(火) 22:43:26.14 ID:???
おつおつ
待ってるよー
600逃飛行 2−2:2011/10/13(木) 19:51:36.22 ID:???
車が山梨県に入った頃、運転手がバックミラー越しに遠慮がちな視線を投げ掛けていることに気付いて、シンジはわざと視線を合わせてみた。
「あの、二人は兄弟なのかい?」
「ああ、はい」
シンジがしれっと答える。実はこれも打ち合わせしていた。自分達の雰囲気が似ているのは自覚している。それを逆手に取ったわけだ。
「あぁ、やっぱりそうかぁ」
運転手が人の良さそうな笑顔を向ける。
シンジは隣で寝息を立てているレイを見遣った。レイは車が走り始めてすぐに眠ってしまっていた。
「妹さん、綺麗な子だねぇ」
話し掛けられて、慌てて視線を戻す。
「え? あー、そうですかね?」
「いやぁ、綺麗だよ。おじさんの見た中でも、五本の指に入るね」
シンジはどう答えていいか分からず、曖昧に笑った。
「こんな綺麗な妹がいたら、悪い虫がつかないか心配だろ?」
「まぁ、心配ですね……」
そう言ってシンジは、もう一度レイの方を見た。穏やかな寝顔に、ついつい顔が綻んでしまう。
「妹が可愛くてしょうがないんだな、お兄ちゃんは」
「えっ!? いや、あの……」
自分の顔が朱くなるのを、シンジは感じた。
「隠したって無駄だよ。顔に書いてあるからね」
そう言われて、シンジはつい顔に手をやった。もちろん何も書いてあるわけがない。
そんなシンジを見て、運転手は大笑いしている。
「からかわないで下さいよ」
「ごめんごめん。お兄ちゃんは素直なんだな」
なおも笑い続ける運転手に聞こえるように溜め息をついて、窓の外を見た。
601逃飛行 2−2:2011/10/13(木) 19:52:10.18 ID:???
「ところで……」
笑いを引っ込めた運転手が、少し声のトーンを落として話し掛ける。
「お父さんは、何でまた第二東京なんかに行ったんだ?」
シンジは運転手に視線を向けると、用意してあった台詞を言った。
「疎開先を見つけるためです」
「あぁ、そうか……」
運転手は言葉を濁すと、複雑な笑みを向けた。
「お父さん、無事だといいな」
「そうですね……」
それきり、運転手は何も言ってこなかった。
不意に、レイがもたれ掛かってきた。起きたのかと思って顔を覗き込むと、レイはまだ穏やかな寝顔のままだった。
起こすのは可哀相なので、そのままにしておいた。だけど心臓は爆発しそうだった。
(これからずっと一緒にいるのに、これじゃダメだよな……)
シンジは運転手に気付かれないように、小さく溜め息をついた。

602逃飛行 2−2:2011/10/13(木) 19:52:58.05 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日以降に
603名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/13(木) 20:28:10.22 ID:???
楽しく読んでるよん
604名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/14(金) 10:13:31.86 ID:???
待ってますうう
605逃飛行 2−3:2011/10/14(金) 20:33:25.34 ID:???
第二東京の駅に着くと、シンジとレイは運転手に礼を言ってタクシーを降りた。
運転手は「病院まで乗せて行く」と言ってくれたのだが、「叔母が迎えに来るから」と言って丁重に断った。
走り去るタクシーを見送ってから、シンジはレイを見遣った。
「じゃ、行こうか」
「そうね」
最初の目的地を第二東京にした理由。それは、必要な物を買い揃えるためだ。
第三新東京市で買わなかったのは、監視の人間に買うところを見られたくないからだった。
とは言え、まだ朝の五時。店が開くまではだいぶ時間がある。それまでは、ネットカフェで過ごすことにした。
二人用の個室に通されて、一息つく。
「綾波。もし眠たかったら、寝ててもいいよ」
シンジが小声で言うと、レイは首を振った。
「私はさっき寝たから。それよりあなたは平気なの?」
「後で少し寝かせて貰うよ」
「そう」
それからシンジはネットで必要な情報を調べた。その間レイはどうしていいのか分からないようで、シンジのしていることをじっと見ていた。
(うーん、困ったな……)
シンジは手を止めて、頭を掻いた。調べていたのは、これからの宿泊先についてだった。
自分一人なら野宿でもいいが、レイと一緒じゃそんなこと出来ない。しかし、普通のホテルだと誰かに顔を覚えられてしまうかもしれない。できれば、それは避けたかった。
それに、宿泊名簿に名前を書かなくてはいけないこともネックだった。偽名を使うことも考えたが、逃亡中の身としては自分の筆跡を残すのも嫌だった。
(やっぱり、あそこしかないのかな……)
シンジの調べた中で、匿名性が高くて誰にも会わずに済む宿泊先は、いわゆるラブホテルと呼ばれるところだけだった。
(だけどなぁ……)
はっきり言って、そこだけは泊まりたくない。中学生二人で泊まるような所ではないし、第一そんな所にレイを連れて行きたくなかった。
それに自分だって一応男だ。二人きりで狭い部屋にいたら、理性が持つかどうか分からない。
チラッとレイを見ると目が合ってしまい、慌てて視線を逸らした。不思議そうに首を傾げているのが視界の端に映る。
(ホント、どうしよう……)
シンジは思わず、頭を抱えた。

606逃飛行 2−3:2011/10/14(金) 20:34:33.59 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日以降に
607名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/14(金) 20:43:06.41 ID:???
イイヨイイヨー
次も待ってます
608名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/14(金) 21:37:52.05 ID:???
ラブホw
チェリーボーイシンジにはハードル高いな
609名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/14(金) 23:37:47.83 ID:???
なんかワクワクさせられる
いいね
610名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/15(土) 12:43:53.18 ID:???
山あり谷ありなハッピーエンドを期待してる
611逃飛行 2−4:2011/10/15(土) 20:14:20.35 ID:???
十時より前にネットカフェを出た二人は、ファーストフード店で朝食を取った。
食欲はあまりなかったけど、これからのことを考えて無理矢理詰め込んだ。
朝食を済ませた二人は、駅前のファッションビルに向かった。ここで着替えやその他の必要な物を揃えるつもりだった。
まずは二人分の着替えを買う。動き易いように、ジーンズにした。彼女には一着だけワンピースを選択した。
それからレイのスニーカーを買った。彼女はいつもの白いスリッポンを履いていた。
「どれにする?」と聞くと、「あなたと同じのにする」と答えたので、生成り色のハイカットスニーカーを選んだ。
あとは変装用のウィッグを購入した。
レイの蒼い髪を、シンジは綺麗だと思っていた。だけどやはり目立ってしまう。そのための処置だった。
シンジ用に、ライトブラウンのウィッグ。今よりも大人に見えれば何でも良かった。
レイのは明るい栗色のロングヘア。緩いウェーブがかかったそれは、彼女のイメージをがらりと変えた。
「綾波……だよね?」
「そうよ」
「ごめん。何か別人に見えたから」
「それが狙いでしょう?」
レイが呆れたように言う。
シンジは軽い衝撃とともに、確信を持った。
(大丈夫。これならバレる訳ない)
最後に紅い瞳を隠すためのサングラスを買って昼前にはビルを出た。
目についたファミレスで昼食を取り、駅へ向かう。ここから電車で富山の方へ行く予定になっていた。
切符を買って改札を入ったところで、黒服の二人組を見つけた。直感的に悟った。あれは、自分達を追ってきた諜報部の人間だ。
(マズい、早過ぎる……)
もうここまで手が回っているとは予想外だった。
知らず知らずの内に、レイの手を握った。心臓が早鐘を打ち始める。
なるべくそっちの方を見ないように進んで、少し離れたところで振り返る。こちらには気付いてないようだ。
シンジはホッと胸を撫で下ろした。
「予想よりも早かったね」
「そうね。急ぎましょう」
二人は階段を駆け上がり、来ていた電車に飛び乗った。

612逃飛行 2−4:2011/10/15(土) 20:15:15.45 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日に
613名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/15(土) 21:16:19.41 ID:???
ドキドキするのぅ…
二人が幸せになって終わりますように…

構わん、続けたまえ
614名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/16(日) 10:02:24.10 ID:???
期待
615逃飛行 3−1:2011/10/16(日) 20:22:47.82 ID:???
富山駅に降り立った時、時刻は夜七時半を過ぎていた。鈍行で来たのだから当たり前だ。
二人は駅の周辺を少し散策した後、夕食を食べるためにファミレスに入った。
レイが食べ終わるのを見計らって、シンジは恐る恐る切り出した。
「あの、綾波……」
「なに?」
紙ナプキンで口を拭きながらレイが真っすぐに見つめる。
「この後のことなんだけど……」
「この後って、泊まる所?」
「うん……」
シンジはこの期に及んでまだ迷っていた。
「あの……綾波は、ちゃんとしたところに泊まりたいよね?」
「別にどこでも構わないわ」
特別気にするわけでもなく、レイはさらりと答える。
「そっか……」
シンジが視線を落としたのを見て、レイが言葉を紡ぐ。
「普通の所に泊まる訳にはいかないんでしょう?」
ハッとして顔を上げると、優しい眼差しと視線がぶつかった。
「ちゃんと分かってる。私たち、普通の状況じゃないもの」
「綾波……」
「だから、あなたが考えてる所でいいわ」
「ごめん、綾波。ごめん……」
泣きそうなシンジに、レイが優しく声を掛ける。
「謝らないで。これは私が選んだことだから。あなたの責任じゃない」
「うん。ごめん、綾波」
なおも謝るシンジに、レイは肩を竦めた。
ファミレスで暫く時間を潰した後、二人は宿泊先を見つけるために移動した。
ここに来てすぐに駅周辺を散策したので、どの辺にあるか大体の見当はついていた。
表通りから一本入ったそこは、街灯の数が少なく薄暗い。それも場所を考えたら当然のことだろう。
ここまで来ても未だ決心のつかないシンジは、同じ道を何度も往復していた。そんなシンジに、レイは何も言わずに付き合った。
616逃飛行 3−1:2011/10/16(日) 20:23:19.00 ID:???
やがて意を決したようにレイの手を握ると、比較的新しめな建物に入った。
フロントと思われるところに写真パネルが設置してあって、恐らく明かりの点いている部屋が空室なのだろうと想像できた。
空いていた四部屋の中からなるべく広そうな部屋を選んだ。すると、受取口から部屋番号の書かれたプレートが出てきたので、それを持ってエレベーターに乗った。
自分達が選択した部屋は三階。エレベーターが目的の階に到着すると、薄暗い廊下に出た。
少し進んだところで、番号の書かれたパネルが点滅しているのが見えた。そこが自分達の部屋なのだろう。
重たい鉄のドアを開けると、すぐ脇に自動精算機があった。目の前にはガラスの扉がある。
鉄のドアを施錠して、ガラスの扉を開く。その視界に広がる光景は、ある意味予想通りだった。
まず目に飛び込んできたのは大きなダブルベッド。これだけで部屋の半分を占めている。
その手前に二人掛けのソファーとテーブル。その前にはテレビが置いてあった。
それから右側に大きな風呂場。だけど脱衣所がない。これには頭を抱えそうになった。まあ、風呂場がガラス張りじゃなかっただけまだましだろう。
その他に、小さい冷蔵庫、電子レンジ、ポットもあり、居心地は悪くなさそうだと思った。
シンジが設備を確かめている間、レイも物珍しそうに辺りを見回していた。
ここに来てシンジは、ふとあることが気になった。
「綾波。ここ、何するところだか知ってるよね?」
レイは一瞬シンジ見ると、恥ずかしそうに俯いてぽつりと言った。
「……知ってるわ」
当たり前だ。彼女は世間知らずなわけじゃない。だがシンジは、知らないでいてくれた方が気が楽だと思った。
「あの……そんなつもりないから大丈夫だよ」
真っ赤な顔で言ったシンジにつられるように、レイの顔も朱くなる。
「……分かってるわ」
「そうだよね……。あはは……」
シンジの乾いた笑いが、部屋に消えていった。
617逃飛行 3−1:2011/10/16(日) 20:24:06.74 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日に
618名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 00:01:44.35 ID:???
>「綾波。ここ、何するところだか知ってるよね?」
シンジさんぐう畜w
次も待ってます!
619名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 00:26:14.50 ID:???
わくわくする展開になってきた〜
620名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 14:59:02.69 ID:???
ワッフルワッフル
621名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 15:34:09.12 ID:???
あえて聞くシンジさん
下心ありありだなw
622逃飛行 3−2:2011/10/17(月) 21:09:26.32 ID:???
荷物を下ろしウィッグを取った二人は、明日の行動について地図と時刻表を見ながら話し合った。とりあえず明日は敦賀まで行くことにした。
ベッドにあった時計を確認すると、もう十一時を過ぎている。
「綾波、僕お風呂沸かしてくるね」
レイに声をかけて、シンジは風呂場に行った。
浴槽についている蛇口を捻り、お湯に変わるのを待ってから栓をする。どうやらお湯が一杯になると自動的に止まるようだ。
部屋に戻ったシンジの目に映ったのは、ベッドに腰掛けて何やら考え込んでいるレイの姿だった。
「後悔してる?」
そう言ってシンジはレイの隣に座った。
レイは顔を上げて、首を横に振る。
「……してないわ」
「それならいいけど……」
「あなたは、どうなの?」
「僕?」
レイが頷く。
「僕は後悔なんかしてない。綾波を守りたい。ただそれだけだよ」
シンジがキッパリと言う。そんなシンジを、レイは不思議そうに見つめた。
「あなたはどうして私を守ってくれるの?」
「綾波……」
「ねえ、どうして?」
レイの真摯な顔を見ながら、シンジはぎこちなく笑った。
623逃飛行 3−2:2011/10/17(月) 21:09:57.16 ID:???
「僕は、今まで何も行動しなくて後悔してばかりだった。僕が何もしなかったからトウジを傷付けてしまった。アスカも助けられなかった。それに……」
シンジは言葉を切って、レイを見つめた。
「二人目の君が消えていく時も、僕はただ見ているだけだった」
「……」
「もう嫌なんだ。僕が行動していれば助けられたかもしれない。そんな後悔、もうしたくないんだ」
シンジが悲しそうに笑う。レイはそっとシンジの手を取って、自分の頬に当てた。
「あ、綾波?」
シンジが戸惑っている。だけど気にせずに瞳を閉じた。
自分のそれとは違うシンジの手。華奢なタイプのシンジだが、もう既に男らしさを感じる。
この手で、ずっと皆のために戦ってきた。人一倍傷付きやすい心を持ったまま。
レイの胸に鈍い痛みが走る。それと同時に、曖昧だった自分の心が形を成していく感じがした。
「綾波……」
気が付くと、閉じた瞳から涙がこぼれていた。
「私……泣いてるのね……」
シンジは何も言えなかった。レイが泣いているのを見るのはこれが初めてだったから。
「この手に触れていると、自分の心が分かる気がするの」
「あや……なみ……」
「ありがとう、碇くん」
シンジの瞳からも、涙が溢れ出す。
「ようやく……呼んでくれた……」
「……え?」
「碇くんって……」
「あ……」
シンジが微笑む。それは、月明かりの下で見たあの時の微笑みと同じだった。
『笑えばいいと思うよ』
シンジが言った言葉を思い出す。
レイは、あの時と同じ微笑みを返した。

624逃飛行 3−2:2011/10/17(月) 21:11:46.95 ID:???
今日はこの辺で
続きはまた明日に
625名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 21:44:58.64 ID:???
いいよいいよ〜
毎日楽しみです
626名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 22:07:32.31 ID:???
このSSが毎日の楽しみだ
次も待ってます
627名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/17(月) 22:15:28.10 ID:???
シンジの名前を呼ばないことに違和感を感じていたけど、伏線だったか
GJ
628逃飛行 3−3:2011/10/18(火) 20:17:41.37 ID:???
風呂場の様子を見に行ったシンジが、手を拭きながら戻ってきた。
「綾波、お風呂沸いてるから先に入りなよ」
「ええ」
「あ、でも、どうしよう……」
この部屋には脱衣所がない。
「えーっと……じゃあ、お風呂場に入ったら声かけてよ。それまで目つぶってるから」
「分かったわ」
シンジは目を閉じた。レイがカバンを開ける音がする。それから、ゴソゴソと音がしたあと、風呂場のドアが開く音がした。
「もういいわ」
「あ、綾波。出るときも同じように声掛けてね」
「ええ」
ドアの閉まる音がしてから、シンジは目を開いた。ついつい視線が風呂場の方へ向かってしまう。
洗面所に脱ぎ散らかしてある服が目に留まり、シンジは苦笑した。
(僕って、男だと思われてないのかな?)
何もすることがないので、テレビをつけた。この時間は確かニュースをやっているはずだ。見慣れたアナウンサーが真面目な顔つきで、原稿を読み上げる。
特に変わったニュースは何もなかった。自分達のことも報道されていない。当たり前のことだが、チルドレンに関してはトップシークレットだ。
バラエティ番組が始まったので、テレビを消した。そんな心境じゃなかった。
629逃飛行 3−3:2011/10/18(火) 20:20:50.11 ID:???
風呂場のドアが開き、レイが顔だけを覗かせる。
「もう上がるから」
「うん、分かった」
シンジはまた目を閉じた。ゴソゴソと音がする。
「碇くん、もういいわ」
声を掛けられて目を開けると、部屋に置かれていたピンクのローブに身を包んだレイが立っていた。
シンジは慌てて目を逸らした。鼓動が倍の速さで打っている。
(これは……刺激が強すぎる……)
ローブの長さは膝上十センチ。おまけに胸元も開いている。シンジは、パジャマを買わなかったことを後悔した。
「碇くんも入って」
「う、うん……」
レイはベッドに腰掛けて目を閉じた。頬がほんのり朱く染まっていて、まるで口づけを待っているかのように見える。
シンジは自分の理性がぐらつくのを感じた。
(早くお風呂に入ろう……)
カバンの中から下着と着替えを出すと、急いで服を脱いで風呂場に入った。
「綾波、入るね」
声を掛けてからドアを閉めると、ホッと息を吐く。だが自分の下半身を見て、涙が出そうになった。
(何考えてるんだ、僕は……)
掛け湯をしてから湯舟に沈んだ。深い溜め息が漏れる。
「恋愛感情か……」
レイに対する感情。それは彼女の真実を知った今も変わらない。むしろ真実を知った今の方が、前より明確になった気がする。
だけどこれが世間一般で言う恋愛感情と同じものなのか分からなかった。だけどそれ以外にこの感情を表す言葉が見つからないのもまた事実だ。
彼女を愛しく想う。その気持ちに嘘や偽りはない。
(やっぱりそうだよな……)
シンジはまた深い溜め息をついた。

630逃飛行 3−3:2011/10/18(火) 20:21:36.19 ID:???
今日はこの辺で
それではまた明日
631名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/18(火) 20:41:22.04 ID:???
毎日乙です、次も待ってます!
632名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/19(水) 02:08:26.33 ID:UxE1s8qq
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世

SS予定は無いのでしょうか?
633名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/19(水) 02:09:46.33 ID:UxE1s8qq
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/101-200
634逃飛行 3−4:2011/10/19(水) 20:20:17.18 ID:???
手早く頭と身体を洗って、湯舟の栓を抜いた。ドアを少し開けて、レイに声を掛ける。
「綾波ー、出るよー」
彼女からの返事がない。仕方なく、タオルを腰に巻いて風呂場を出た。
部屋を覗いたシンジの目に、ベッドの上で丸くなって寝ているレイの姿が映った。
溜め息をつくと、バスタオルで身体を拭いてから持ってきたTシャツと短パンに着替える。
首にバスタオルを掛けたままベッドに近付いた。レイの白い太股が露わになっている。シンジは目のやり場に困って、天井を見上げた。
(どうしよう……。このままじゃ、風邪引いちゃうよな……)
シンジはまた溜め息をつくと、掛け布団を少しめくった。
それからベッドの上に膝立ちになり、レイをお姫様抱っこの形で抱き上げた。彼女は想像していたよりも軽かった。
そのままベッドの上に立ち上がり、めくった掛け布団を蹴飛ばしてレイをベッドの真ん中に寝かせた。その上に布団を掛ける。
シンジは息を吐いて、気持ち良さそうに寝息を立てているレイの顔をまじまじと見つめた。
(ホントに綺麗だよな……)
髪と同じ色の長い睫毛。鼻梁の通った鼻。そして小さな桜色の口唇。彼女を形作る全てが綺麗だった。
「ん……」
レイが吐息を漏らす。その姿が妙に艶めかしい。
彼女の顔が徐々に視界を埋め尽くしていく。お互いの吐息が顔にかかってこそばゆい。
そこでシンジは我に返った。後ろに飛び退いた反動で、ベッドから転げ落ちた。自分の心臓が暴れ狂っている。
(なっ、何をしようとしてたんだ、僕は……)
自分の理性がこんなに役立たずだとは思わなかった。情けなくて涙も出ない。
シンジは何度目かも分からない、今日一番の深い溜め息をついた。
(もう寝よう……)
シンジは立ち上がると、ベッドの上にある照明のスイッチをいじった。部屋の明かりが仄暗くなる。
ソファーに身体を横たえて瞼を閉じた。暗闇に先程見た、レイの姿が浮かぶ。
シンジは邪念を落とすかのように、頭を強く振った。
(こんなんで、僕大丈夫なのかな……)
シンジは今日最後の溜め息をつくと、眠りに落ちて行った。
635逃飛行 3−4:2011/10/19(水) 20:21:02.09 ID:???
今日はこの辺で
それではまた明日
636名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/19(水) 22:00:06.15 ID:???
乙乙ー
毎日楽しみだよ
637名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/19(水) 23:40:28.24 ID:???
シンジの青少年っぷりがいい
638名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/20(木) 01:35:40.74 ID:???
シンジかわいいな〜
もっと役立たずの理性でもよかったのに…
639逃飛行 4−1:2011/10/20(木) 20:22:54.47 ID:???
シンジが目を覚ました時、部屋は薄暗くまだ夜なのかと勘違いした。寝ぼけ半分の目に映るのは、見慣れぬ部屋。
(僕……どこにいるんだっけ?)
身体を起こして周りを見渡す。薄暗い部屋で自己主張する蒼い髪を見つけて、一気に脳が覚醒した。
(そうだ。僕は綾波と一緒に、ネルフから逃げて来たんだ)
跳ね起きてベッドにある時計を確認する。時刻は朝の七時過ぎだった。シンジは、長年染み付いた習慣に感謝した。
顔を洗って歯を磨くと、まだ眠っているレイを起こした。
「綾波、起きて」
声を掛けてみたものの、反応がない。シンジは一瞬躊躇ってから、身体を揺すった。
「綾波、朝だよ。ねぇ、起きて」
突然ムクッと起きたレイは、何故自分がこんなところにいるのか分からない様子で、辺りを見回している。
「綾波、起きた?」
レイはコックリ頷くと、シンジの顔を見つめた。
「碇くん……?」
「おはよう。顔洗っておいでよ」
またコックリ頷いて、ふらふらと洗面所に向かった。
(そういえば綾波って、朝弱かったっけ)
ふと、以前プリントを届けに行った時のことを思い出した。
シンジがレイの家に行くと、彼女はきっちり制服を着ていた。休んだ理由を聞いたら、朝起きれなかったからだと言っていた。
(綾波が奥さんになったら大変なんだろうな……って、何考えてるんだろ)
シンジは照れ臭くなって、頬を掻いた。
640逃飛行 4−1:2011/10/20(木) 20:23:43.52 ID:???
「おはよう、碇くん」
顔を洗って少しはすっきりしたのか、さっきよりも幾分はっきりした声で言った。
「おっ、おはよう、綾波。支度が済んだら、すぐ行こうか」
レイは頷いてローブの紐に手を掛けた。
「ちょっと待ったあ!」
シンジが慌てて声を上げる。
レイは手を止めると、シンジを見た。まるで「何か問題でもあるのか」という顔で。
「あの……着替えるなら一声掛けてよ。一応、僕も男だしさ」
「今度から気をつけるわ」
レイはそう言ってローブの紐を引っ張る。シンジは慌てて後ろを向いた。
(早く慣れなきゃ、僕が持たないよ)
室内に響く衣擦れの音。顔が段々熱くなっていくのを感じながら、シンジは自分の理性と戦っていた。
「碇くん、もう終わったわ」
振り返ってみると、昨日買った服とウィッグを着けたレイが立っている。
「あ、じゃあ僕も着替えるね」
シンジは着替えを持ってトイレに移動した。急いで着替えを済ませる。
部屋に戻ってウィッグを着けた。脱いだTシャツと短パンをバッグに仕舞ってレイを振り返る。
「じゃ、行こう」
レイが頷いてバッグを持った。
まずフロントに電話して退室の旨を伝えてから入口にある精算機で料金を払った。
「忘れ物ない?」
「大丈夫」
ざっと部屋を見回してから部屋を出た。
フロントでプレートを返し外に出ると、雨が降っていた。二人は思わず顔を見合わせる。
「駅まで走る?」
「それしかないわね」
二人はバッグを抱え直すと駅に向かって駆け出した。
641逃飛行 4−1:2011/10/20(木) 20:30:12.17 ID:???
今日はここまでです
皆さんのレスにやる気を貰ってます
楽しんで頂ければ幸いです
それではまた明日
642名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/20(木) 21:06:05.47 ID:???
今夜も乙です。
逃避行モノは「生きる」と「記憶のノート」くらいしか記憶にないので、三人目というのは新鮮です。(自分が浅いのかもしれませんが)
643名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/20(木) 21:36:48.41 ID:???
>>642
私もその二作品は読みました。
逃避行モノにした理由は、単純に同名タイトルの曲を聴いている時に思いついたからです。
三人目にした理由は、二作品が二人目だったのと、自分の中で二人目、三人目の区別をしていないからですね。
644名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/20(木) 23:20:05.83 ID:???
乙乙、これからどうなるのか
645名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/20(木) 23:32:41.22 ID:???
毎日乙です!
このスレ読むの既になったw
646逃飛行 4−2:2011/10/21(金) 20:06:51.16 ID:???
駅に着いて時刻表を確認すると、次の電車まで四十分くらいあった。
「とりあえず朝ごはんでも買おうか」
「そうね」
駅前のコンビニに行って、電車の中で食べられるようにパンとおにぎりを購入する。それでも時間があるので、ホームのベンチで待つことにした。周りにネルフ関係者の姿はない。
ベンチに座る二人に、風が吹き付ける。雨に濡れたせいで肌寒く感じる。
「綾波、大丈夫? 寒くない?」
「少しだけ。でも平気」
「ダメだよ! ちょっと待って」
シンジはバッグの中から長袖のパーカーを取り出してレイに掛けた。
「それ着てなよ。僕のだからちょっと大きいかもしれないけど」
「あ……ありがとう」
レイは袖を通すと、顔に近づけた。
(碇くんの、匂いがする……)
胸が締め付けられるような感覚。息苦しいのに心地好い。この感覚を自分は知っている。
隣に座るシンジの顔を見た。真面目な表情で空を見上げる横顔。
「碇くん……」
「ん?」
シンジがレイを見た。また胸が締め付けられる。
「碇くんは、どうして私に優しくしてくれるの?」
「どうしてって……」
レイは黙ってシンジを見つめた。心臓が早鐘を打っている。少し緊張しているのかもしれない。緊張? 何故?
647逃飛行 4−2:2011/10/21(金) 20:07:35.02 ID:???
「それは……つまり……」
シンジの頬が朱く染まっていく。明らかに狼狽えている。レイはそれを祈るような気持ちで見ていた。
『四番線に電車がまいります。白線の内側までお下がり下さい』
「あっ! 綾波、電車来たよ」
シンジは素早い動きで立ち上がると、レイを見ずに言った。
レイはシンジにも分かるくらいの盛大な溜め息をついて、ノロノロと立ち上がった。
富山から敦賀までは乗り換えを二回挟んで約四時間半。昼過ぎには着く予定だ。
とりあえず先程買った朝食を食べることにした。袋からおにぎりを出してレイに手渡す。
「はい、綾波」
レイは無言でそれを受け取った。
(まいったなぁ。怒らせちゃったかな……)
電車が来てうやむやにした答え。あの時自分が言おうとしたこと。
『どうして私に優しくしてくれるの?』
(どうしてって言われてもな……)
言葉にしなきゃ何も伝えられない。彼女が相手じゃ尚更だ。ごまかさずに、はっきり言えば良かった。でもまだ言えない。自分に自信がないから。
手に持ったままのおにぎりを囓って、溜め息と一緒に飲み込んだ。何だか苦い味がした。
648逃飛行 4−2:2011/10/21(金) 20:09:05.24 ID:???
今日はここまでです
のんびりとしたペースで進みます
それではまた明日
649名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/21(金) 21:53:56.06 ID:???
青春18切符な感じ
各駅停車の二人の逃避行だな

乙です!
続けたまえ
650名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/22(土) 10:32:40.35 ID:???
乙乙ー
完全に毎日の楽しみになってるんだけど、あとどれくらい続くのかな?
651名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/22(土) 12:34:54.96 ID:???
>>650
今まで投下した分で、約三分の一くらいだと思います。
自分自身でも分かりません
(まだ全部書き上がってないので…)
652名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/22(土) 19:24:45.82 ID:???
>>651
おお、この楽しみがまだまだ続くと思うと楽しみです
頑張ってください><
653逃飛行 4−3:2011/10/22(土) 20:21:41.12 ID:???
敦賀駅には予定通りの時刻に着いた。二人は昨日同様に駅周辺の散策をした。その時案内板を見て、シンジはあることに気づいた。
「綾波、海が近いみたいだよ」
さっきより幾分機嫌の直ったレイが聞き返す。
「海?」
「綾波は行ったことない?」
レイが悲しそうに頷く。
「ネルフ本部以外の所に、あまり行ったことないから……」
「そっか。後で行ってみる?」
「……行く」
「じゃあまずは腹拵えからだね」
そう言って微笑むと、釣られてレイも微笑んだ。
二人は目についたハンバーガー屋でお昼を食べた。肉無しのメニューも結構あって、レイは甚く気に入ったようだ。
店を出て、「早く行こう」と急かすレイに、シンジは苦笑しながら言った。
「その前に、買いたいものがあるんだけど」
首を傾げるレイを連れて、近くの衣料品店に行った。
シンジの買いたいもの。それは水着――ではなく、パジャマだった。昨夜のような失敗は二度と御免だ。
「女の子らしい」との理由で彼女が選んだのは、桜色のパジャマ。パフスリーブで、ズボンは七分丈だった。確かにかわいいけど、それを着た彼女を見たら自分はどうなるんだろうと考えたら、少し恐ろしかった。
パジャマを買って、ようやく海へ向かうことにした。ただ一つ問題がある。
「綾波。海まで結構距離があるけど、タクシーで行く?」
「歩いて行かない? 別に急いでるわけでもないんだし」
レイの提案に、シンジは頷いた。
「そうだね。歩こうか」
654逃飛行 4−3:2011/10/22(土) 20:22:18.58 ID:???
二人はゆっくりと景色を見ながら歩く。暫く行くと、松原が見えて来た。この向こうが海らしい。
散策路を進んで行くと、目の前に海が広がっていた。どうやらここは海水浴場らしく、水着姿の人で溢れ返っている。
「これが、海?」
呆然と呟くレイに笑いかけながら、シンジは答えた。
「そう。これが海」
「何だか、変な匂いがする」
「ああ、潮の香りだよ」
「そう」
シンジはレイの手を取って歩き出した。
「せっかくだから、海に入ろうよ。着替えもあるから、少しぐらい濡れても平気だしね」
シンジが屈託のない笑顔を向ける。
「……うん」
レイの頬が朱くなる。そのことにシンジは気付かなかった。
適当な場所に荷物を降ろした二人は、靴を脱ぎ、ズボンの裾をめくって波打際に行った。水がひんやりして気持ちいい。
「きゃっ」
水の感触を楽しんでいたレイに、突然水が浴びせ掛けられた。シンジが楽しそうに笑っている。
「碇くんひどい」
レイがやり返した。
「うわっ!」
頭からずぶ濡れになったシンジが可笑しくて、レイは声を上げて笑った。
「くっそー、やったな」
シンジが水を掛ける。レイもやり返す。そんな単純なことが楽しかった。二人とも、こんなふうに遊んだことがなかったから。それから砂山を作ったりして、時が経つのも忘れて遊んだ。
655逃飛行 4−3:2011/10/22(土) 20:23:52.96 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
656名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/22(土) 21:44:36.19 ID:???
いちゃつきやがって……乙です
657名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/22(土) 23:52:32.28 ID:???
くぅー、いいねー。青春って感じだ。
乙です。
658名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 01:07:28.51 ID:???
乙です
ラブラブカップルみたい
幸せそうでぽかぽかするわ〜
そうか二人はずぶ濡れか…
659名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 18:17:26.88 ID:Bt4K1Ceh
いいね〜
続き期待してます!!
660名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 20:03:30.91 ID:???
さて20時を回りましたな
待機・・・・・・・・・・・・
661逃飛行 4−4:2011/10/23(日) 20:26:24.65 ID:???
着替えを済ませた二人は、膝を抱えて海に沈む夕陽を眺めていた。
「綺麗だね……」
何の気も無しに言ったシンジに、レイは硬い声で言った。
「私、夕陽は好きじゃない」
シンジは思わずレイを見つめた。
「どうして?」
「消えていく命みたいだから……」
「……そっか」
不自然な沈黙が降りる。波の音が、二人を包んでいく。
不意にシンジが口を開いた。その視線は海を見据えたままで。
「綾波は、今まで自分のことをどう思っていたの?」
「……自分のこと?」
「そう。父さんの計画のためだけに生きてきて、それで良かったの?」
シンジはレイを見ない。だからレイもシンジを見なかった。
「私は何も思ってなかった。計画と共にに生まれて、計画と共に消える。そういう運命だと思っていたの」
「それが、父さんとの絆?」
レイは小さく、でもハッキリと頷いた。
「あの人が私を通して違う誰かを見ていたことも知ってる。それでも私はあの人との絆に縋るしかなかった。そうしないと、私の存在理由がなくなってしまうから」
レイの身体が震えている。寒いわけじゃないと、シンジは分かっていた。だけど抱きしめられなかった。心に渦巻く複雑な感情が、それを躊躇わせた。
父親への嫉妬? 違う。そんな生易しいものじゃない。
662逃飛行 4−4:2011/10/23(日) 20:26:54.00 ID:???
「だけど」
震える声で言葉を紡ぐレイを、シンジは優しく見つめた。まるで、自分の黒い感情を悟られまいとするように。
「碇くんと出逢って私は気づいたの。あの人との絆は、見せ掛けだけのものだったことに」
「……えっ?」
「偽りの絆に縋っていた私に、本物の絆をくれた。碇くんが私を変えたの」
「僕が、綾波を変えた……?」
レイは身体ごとシンジの方へ向き直った。
「碇くんが、私に心をくれた。今、私の心の真ん中に、碇くんがいるの」
レイの瞳が潤んでいる。それに気づいた時、躊躇っていた腕が勝手に動いた。
「綾波……」
レイの華奢な身体を抱きしめながら、先程までとは違う、切ない痛みを感じていた。
「正直に言うと、綾波が母さんの代わりに生まれたって知って、複雑な気持ちになったんだ」
レイの身体が強張るのを、直に感じる。
「でも綾波は母さんとは違う。僕にとって綾波は、たったひとりの大切な存在だ。誰かの代わりなんかじゃない」
「碇くん……」
レイの腕がシンジの背中に回される。シンジは腕に力を込めて、一層強く抱きしめた。
「綾波を守るためならどんなことでもする。父さんとだって戦うよ」
「ありがとう、碇くん」
お互いの存在を確かめるように、二人は固く抱きしめ合っていた。

663名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 20:27:40.27 ID:???
キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!!
664逃飛行 4−4:2011/10/23(日) 20:27:39.81 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
665名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 20:31:24.28 ID:???
乙でした
明日も楽しみに待ってます
666名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 20:48:37.08 ID:???
本日も大変、ポカポカさせて頂きました。
乙です。
667名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 21:13:49.69 ID:???
乙です
ってかさどうでもいいことなんだけど
>>663>>664
時空が歪んどるwww
668名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 21:45:48.92 ID:???
乙乙
今日は最高だったね、次も待ってます!
669名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/23(日) 21:52:05.05 ID:???
乙です
ようやく心が通じ合ったね
まだまだ続くみたいで楽しみ〜
670名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 15:11:52.99 ID:???
めっちゃ乙です!
今日も楽しみ〜だ
671名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 18:24:35.74 ID:???
本日の投下予定時刻は、20時30分過ぎの予定です。
672名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 20:17:52.22 ID:???
乙です!いい雰囲気でてますね。
もうwktkが止まらない!
673名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 20:25:56.15 ID:???
全裸待機
674名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 20:28:33.19 ID:???
さてそろそろか・・・・・・待機
675逃飛行 4−5:2011/10/24(月) 20:33:49.11 ID:???
駅前に戻り定食屋で夕食を済ませた二人は、宿泊先へ行った。さすがに一度経験しただけに、昨日ほど躊躇わなかった。ホテルのシステムも設備も概ね変わらない。部屋が若干狭いぐらいだ。
部屋に落ち着いた二人は、明日の行き先について話し合った。
ここから日本海に沿って移動するか、内陸へ移動するかで悩んだが、最終的に明日の目的地は滋賀県守山市に決まった。
「明日の目的地も決まったし、お風呂入ろうか」
話をする前に、お湯を入れてある。もう一杯になっているはずだ。
「そうね」
「綾波、先入っていいよ」
「ええ、分かったわ」
シンジは目を閉じて、レイの合図を待つ。
「じゃあ入るから」
「うん」
ゆっくり目を開いて軽く伸びをした。バッグの上に置かれたウィッグが目に留まる。
(そうだ。あれ、洗わなきゃ)
海に入った時に濡れてしまった。そのままにしておいたら、大変なことになる。
シンジは腰を上げると、バッグの中から買った時に貰った説明書を取り出して読み始めた。どうやら水にシャンプーを溶かして押し洗いすれば良さそうだ。
風呂から上がったらやることにして、ベッドに腰掛けた。風呂場からシャワーの音が聞こえる。
シンジは目を伏せて、心の声に耳を傾けた。
「大切だ」とは言った。「守りたい」とも言った。だけど一番肝心なこと、「好きだ」とはまだ言ってない。
一体自分は彼女とどうなりたいんだろう? 好きだと言う勇気もないくせに。
そう、一番問題なのは勇気がないことだ。あともう少し勇気があれば、あともう少し上手く話せたら、彼女に想いの丈を伝えられるのに。
「逃げちゃダメだ」ずっとそう思ってきたのに、自分はまた逃げている。彼女から――何よりも自分の気持ちから。
でも今はネルフから逃げるのが先決だ。自分の誓いとは矛盾しているけど、彼女が消えてしまったら何にもならない。逃げきってしまえば、それからでも自分の気持ちは伝えられる。
(そうだよな。まずは逃げなきゃ)
いつまで逃げたらいいのかも分からない。だけど捕まってしまえば一巻の終わりだ。ただひたすらに逃げるしかない。たとえそこが地の果てだとしても。

676逃飛行 4−6:2011/10/24(月) 20:35:06.46 ID:???
風呂から上がったシンジは、先程決めた通りウィッグを洗う作業に取り掛かった。
洗面台に栓をして水を張り、そこにシャンプーを入れて溶かす。そして毛先の方から優しく揉み洗いをする。
シンジが洗面所で作業をしていると、レイが顔を覗かせた。
「何してるの?」
「ああ、カツラを洗ってるんだよ」
「何故?」
「海で汚れちゃったからね」
「そう」
レイは自分のウィッグを手に取ると、シンジを見つめた。
「どうやって洗うの?」
「綾波も、やってくれるの?」
「自分のくらい自分でやるわ」
シンジは優しく微笑んだ。ミサトの家にいる時は、こういう面倒臭い作業は全てシンジの役割だった。それだけに、レイの言葉にシンジは感動した。
「毛先の方から揉み洗いすればいいんだ」
言いながら手本を見せてやると、レイも見よう見真似で洗い始めた。
「これでいい?」
「うん。大丈夫」
全体を洗い終えたら、水ですすいでタオルで水気を取る。あとは寝かせて自然乾燥させればいい。
一仕事を終えた二人は、部屋に置いてあった紅茶を淹れた。一口飲んだレイが渋い顔をする。
「あんまり美味しくない」
「そうだね。まあしょうがないよ」
「そういえば前にも碇くんに紅茶を淹れて貰ったことがあったわね」
レイの言葉に、シンジは目を見張った。
「……覚えてたんだ」
「覚えてるわ。だって、大切な想い出だもの」
677逃飛行 4−6:2011/10/24(月) 20:36:02.44 ID:???
朱くなって俯いたレイが愛おしくて、シンジは無意識の内にレイを抱き寄せていた。
「碇……くん……?」
レイの声で我に返ったシンジは、慌てて腕をほどき、顔を朱らめた。
「あ、あの……、ごめん……」
レイが切なそうな顔をして首を振った。
「別に……、嫌じゃないわ……」
二人の間に、微妙な空気が流れる。その空気を断ち切るように、シンジはわざと明るい声を出した。
「もうそろそろ寝よっか」
「……そうね」
恨みがましい目を向けたレイに、シンジはぎこちない笑みを返すしかなかった。
(ああ……また怒らせちゃったよ……)
自分の不甲斐ない態度が原因なのは分かっている。だけどこれ以上どうすればいいのか分からない。
(ここは男らしく一発バシッと――言えるわけないよな……)
ガックリと肩を落としてソファーに座ったシンジに、レイは不思議そうに声を掛けた。
「寝ないの?」
「あ、僕はここで寝るから……」
「もしかして、昨日もそこで寝たの?」
「うん。そうだけど……」
「ダメ。そんなとこで寝たら、風邪を引くわ」
「大丈夫だよ」
有無を言わせないような無言の圧力に、シンジは観念した。
「……分かったよ」
渋々といった感じでベッドに入ったシンジを見ながら、レイはベッドに潜り込んだ。
広いベッドの端と端。それでもやはり緊張する。
「じゃあ、電気消すね」
「ええ」
ベッドの上のスイッチをいじって部屋を暗くする。
「おやすみ、綾波」
「おやすみなさい」
とは言ってみたものの、シンジにはなかなか眠りの精は訪れなかった。
678逃飛行 4−6:2011/10/24(月) 20:36:49.17 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
679名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 20:45:07.26 ID:???
乙でした。 <○>
680名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 21:32:42.36 ID:???
おつおつ
次も待ってる〜
681名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/24(月) 23:20:34.75 ID:???
今日も乙です
葛藤するシンジかわいいなー
682名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/25(火) 17:44:18.56 ID:???
乙です。今日も楽しみ!
683逃飛行 5−1:2011/10/25(火) 20:07:59.49 ID:???

シンジはハッと目を覚ました。よく覚えていないけど、とても悲しい夢を見ていた気がする。
寝返りをうったシンジの瞳に、すやすやと眠るレイの顔が映った。その寝顔に、強張っていた気持ちがほぐれていく。
そろそろとベッドを抜け出し、洗面所に行った。歯磨きと洗顔を済ませると、レイを起こす前に着替えをすることにした。
バッグの中から服を取り出そうとして、あることに気が付いた。着替えの服が今日の分しかない。
(そろそろ洗濯しなきゃいけないかな)
そんなことを考えながら着替えた。
「さてと」
眠り姫を起こさなきゃいけない。シンジはゆっくりベッドに近づいた。
「綾波、朝だよ。起きて」
軽く身体を揺すってみると、今日は反応した。
「……ん」
「おはよう、綾波」
レイは二、三度瞬きをしてから身体を起こした。
「……おはよ」
覚束ない足取りで洗面所に向かったレイは、案の定バランスを崩した。
「危ない!」
シンジが咄嗟に手を出して抱き留める。
「大丈夫?」
至近距離で視線がぶつかる。シンジは慌ててレイを離し、上擦った声を出した。
「あっ、あのっ。き、気をつけてね」
「えっ、ええ……ありがとう」
固い動きで洗面所に辿り着いたレイは、蛇口を捻って顔を洗った。ひんやりした水が火照った顔を冷やしていく。
歯を磨いて振り返かえったレイの目に、ベッドに座って考え込んでいるシンジが映った。
684逃飛行 5−1:2011/10/25(火) 20:08:54.23 ID:???
「どうかしたの?」
シンジはハッとして顔を上げると、小さく笑った。
「ううん、何でもないよ」
「そう? じゃあ私も着替えるわ」
「わかった」
シンジが目を閉じるのを確認して、レイは着替え始めた。バッグの中からTシャツを取り出そうとした時、違う服が目に留まった。それはシンジがレイのために買ったワンピースだった。
レイはそれを見つめたあと、頭から被った。ウィッグを着けて鏡で身形を整えると、少しだけ微笑んでみた。清楚な感じのワンピースは、いつもより大人っぽく見える。
(碇くん、何か言ってくれるかしら?)
昨夜パジャマを着た時は、朱い顔をしたまま慌ててお風呂場に行ってしまった。でもこのワンピースなら何か言ってくれるかもしれない。
「もういいわ」
祈るような気持ちで見つめてみた。でもシンジは朱くなるだけで、何も言ってこない。
何だか遣る瀬無い気持ちになって溜め息をついた。そんなレイを見ながらシンジが口を開く。
「綾波」
「な、何……?」
「えっと……そろそろ行こうか」
「……そうね」
溜め息をもう一つ吐いて、レイはバッグを持ち上げた。

685逃飛行 5−1:2011/10/25(火) 20:09:53.38 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
686名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/25(火) 20:15:15.89 ID:???
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
乙でした <○>
687名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/25(火) 20:36:05.45 ID:ET0UiAbn
乙です
こういうの見てると明日もがんばろうって思えます
次回期待してます
688名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/25(火) 21:02:47.41 ID:???
乙です
2人とも初々しいな
がっかりする綾波かわええ
689名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/26(水) 00:52:04.94 ID:???
乙です〜
悲しい夢ってのが気になるな
690逃飛行 5−2:2011/10/26(水) 20:21:04.46 ID:???
駅へ向かう道を並んで歩くシンジとレイに、真夏の太陽が容赦なく照り付けている。
「今日も暑くなりそうだね」
「……」
「駅に着いたら朝ごはん食べよっか」
「……」
レイが恨めしそうに睨んでいる。シンジは引き攣り笑いをするしかなかった。
(はぁ……やっぱり怒ってるよな……)
レイが怒ってる理由は、シンジにも何となく分かっている。葛城家で生活している時は、このことで散々アスカにどやされてきた。
『女の子っていうのはね、たった一言でもいいから褒めて貰いたいものなのよ』
アスカを怒らせてしまった時にミサトに言われた言葉が思い浮かぶ。
恐らくレイが望んでいるのは、たった一言なのだろう。でもシンジはその一言をさらりと言えるような性格の持ち主ではない。好きな子が相手じゃ尚更だ。
横を歩くレイの顔を盗み見た。口を尖らせて怒っているように見えるのに、どこか寂しげだ。自分のせいでこんな顔をさせていると思うと、居た堪れない気持ちになる。
彼女が笑ってくれるなら、自分の羞恥心など大した問題じゃないのかもしれない。
澄み切った夏空を仰ぎ見て、深呼吸を一つしてから声を掛けた。
「あの、綾波……」
「……何?」
いつもと同じ素っ気ない返事に聞こえる。だけど今はその中にトゲが混じっていた。
シンジは思い切ってレイの手を取ると、なるべくそっちを見ないようにしながら一息に言った。
「えっと……かっ、かわいいね! すごく似合ってるよ!」
恥ずかしくて顔から火が出そうだった。まだそんなに気温も高くないというのに、身体中から汗が吹き出している。
「……碇くんの、バカ」
恥ずかしそうに呟いたレイは、朱くなった顔を隠すように俯いた。
それきり何も話さずに、手を繋いで歩いていた。お互いに朱い顔をしたままで。

691逃飛行 5−2:2011/10/26(水) 20:21:50.82 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
692名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/26(水) 20:26:55.01 ID:???
ふんぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
乙でした <○>
693名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/26(水) 22:04:40.68 ID:???
今日も乙です

よくやったなシンジ
694名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/26(水) 22:32:26.91 ID:???
乙です。シンジ頑張った
695名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/27(木) 20:20:18.96 ID:???
・・・・・・・・・・・待機
696逃飛行 5−3:2011/10/27(木) 20:35:40.74 ID:???
敦賀から守山までは電車で約二時間。いつもより移動距離は短い。
守山駅に着いた二人は昨日同様、駅の周辺をゆっくり探索することにした。その時、困った問題が起きた。駅前には自分達が泊まれるホテルが見当たらなかったのだ。
「困ったわね……」
「うん……どうしようか?」
普通のホテルに泊まるか、別の場所に移動するか……。
シンジが思案していると、レイが恥ずかしそうに声を掛けた。
「碇くん、あの……」
「ん?」
「とりあえずお昼にしない?」
「そうだね。そうしよっか」
朝食は駅に行く途中の出来事が尾を引いていて、落ち着いて食べられなかった。
「どこに行く?」
「昨日と同じところがいい」
昨日のハンバーガー店は駅前にあった。レイは着いてすぐにチェックしていたのだ。
「そんなに気に入ったんだ?」
「ああいうもの、今まで食べたことなかったから」
「そっか。いいよ、行こうか」
レイが嬉しそうに顔を輝かせる。
「その前に一つやりたいことがあるんだけど」
「やりたいこと?」
「そう。僕たちがしなきゃいけないこと」
レイは良く分からないという顔をした。
シンジのしたいこと、それは洗濯だった。今日洗濯をしないと着る服が無くなってしまう。
コインランドリーは、さっき散策したときに見つけてある。洗濯をしている間に昼食を食べるつもりでいた。
697逃飛行 5−3:2011/10/27(木) 20:36:42.68 ID:???
洗濯機に二人分の洗濯物を放り込んでお金を入れる。どうやら乾燥までしてくれるようだ。
「一時間くらいかな」
「そうね」
コインランドリーをあとにして、ハンバーガー店に向かう。昼時を過ぎているというのに店内はそこそこ混雑していた。
列の最後尾に並び、レイに問い掛ける。
「何にする?」
「昨日と同じの」
「了解。じゃあ席で待っててよ」
「うん、わかった」
レジで注文を済ませて品物を受け取る。客席に行くとレイは窓際の席に座っていた。
「お待たせ」
レイはシンジを見上げて微笑んだ。
「冷めない内に食べよ」
「そうね」
シンジとレイはそれぞれ自分のハンバーガーを手に取った。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
二人ともハンバーガーに噛り付く。向かいに座るレイの顔が綻んでいる。
「綾波、おいしい?」
「ええ、とっても」
レイの幸せそうな顔を見ていると、自分の顔もつい綻んでしまう。
幸せな気分のまま食事を終えて、またコインランドリーに戻った。残り時間を見ると、あと十分くらいあった。
「座って待とうか」
シンジの提案に、レイは頷いた。ベンチに腰掛けると、シンジはずっと考えていることを口にした。
698逃飛行 5−3:2011/10/27(木) 20:37:23.61 ID:???
「あのさ、今日泊まるとこどうする?」
「そのことなんだけど……」
「何かある?」
「私、考えたんだけど、電話帳を調べてみたらどうかしら」
「あ、そっか。電話帳……」
なるほど電話帳なら住所も載っている。
「確か、出てすぐのところに公衆電話があったわ」
「じゃあ、早速調べてみよう」
レイの言った通り、公衆電話はすぐ近くにあった。調べてみると、同じ住所にいくつかのホテルを見つけた。しかし、土地勘のないシンジには、そこが遠いのか皆目見当もつかない。とりあえず住所を控えておいて、地図で調べることにした。
コインランドリーに戻ると洗濯は終わっていた。一枚ずつ畳んでバッグにしまう。その手が、白い小さな布切れを掴んだところで止まった。
「あっ……」
シンジが掴んだもの。それはレイの下着だった。
「ごっ、ごめん!」
シンジが朱くなりながら差し出す。
「……何が?」
レイは不思議そうに首を傾げて受け取った。
「いや、だって……」
シンジが口ごもっていると、レイは訝しげな顔をした。
「何でもないよ……」
「そう。じゃあ行きましょう」
「うん……」
シンジは何となく落ち着かない気分のままコインランドリーを後にした。

699逃飛行 5−3:2011/10/27(木) 20:40:33.36 ID:???
今日はここまでです。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
それではまた明日。
700名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/27(木) 21:00:48.18 ID:???
なんだか二人と一緒にのんびりポカポカな旅をしているみたいな気がするね
まぁいつまでものんびりしていられるはずもなく、緊迫した状況もやって来るのだろうけど…
二人の幸せを祈りつつ乙
701名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/27(木) 21:42:54.12 ID:???
今日も乙でした
702名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/28(金) 10:50:52.68 ID:???
今日も待ってます!
703逃飛行 5−4:2011/10/28(金) 20:39:38.12 ID:???
駅前まで戻って調べた住所を探すと、琵琶湖のすぐそばらしいということがわかった。残る問題は交通手段。それも、駅前ロータリーで解決した。
「どうやらバスで行けるみたいだね」
二人はちょうど待機していたバスに乗り込んで目的地へ向かった。
バスが揺れる度に、二人の肩が触れ合う。意識しているのを悟られたくなくて、シンジはずっと窓の外を見ていた。
停留所に着き、バスを降りた二人の目の前に広がるのは、まさに壮観としか言いようのない景色だった。
「すごい……」
普段から芦ノ湖を見慣れている二人でも圧倒されてしまう。
「少し散歩でもしよっか」
「そうしましょ」
歩き出した二人に、湖から涼しい風が吹き付ける。
「気持ちいいね」
「ええ、ホントに」
その時、シンジの手にレイの手が触れた。思い切ってその手を握ってみる。レイは一瞬驚いてシンジの顔を見ると、そっと握り返した。
シンジが照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑う。そんなシンジの笑みを見て、レイはずっと心の蟠りになっていたことを口にした。
「碇くんは、私が怖くないの?」
その瞬間シンジの顔から笑みが消えて、泣きそうな表情に変わる。その表情を見て、レイは心が重くなった気がした。
704逃飛行 5−4:2011/10/28(金) 20:40:08.56 ID:???
「確かに、怖いと思った。今の綾波に最初に逢った時」
シンジの言葉に、重くなった心がさらに重たくなる。
「でもそれは綾波が怖かったんじゃなくて、綾波が僕の知らない人になったみたいで怖かったんだ」
「それはあながち間違いとは言えないわ」
「違うよ。言っただろ? 僕にとって綾波はたったひとりしかいないって」
シンジは握った手に力を込めた。
「いくら身体が替わっても、綾波は綾波だよ。それに、綾波にもう代わりはいないんだ」
「どうして?」
「他の身体は、リツコさんが壊しちゃったから」
シンジの言葉に、レイは目を丸くした。
「赤木博士が? 何故?」
「僕には大人同士のことは良く分からない。でもリツコさんは、父さんに大事にされている綾波に嫉妬してたんだ」
「嫉妬?」
「うん……」
「それって、誰かを自分だけのものにしたいと思う気持ち?」
「うーん……。まあ、それもそうかな」
「そう……」
俯いてしまったレイに、シンジは優しく声を掛けた。
「どうかしたの?」
「私、赤木博士の気持ちが何となくわかるわ」
「綾波……?」
悲しげに顔を歪めたレイが、ポツリと呟く。
「私も、そういう気持ちになったことがあるから……」
「そっか……」
それきり何も話さずに、ゆっくりと歩いた。お互いの温もりで、傷付いた心を癒すように。

705逃飛行 5−4:2011/10/28(金) 20:40:58.10 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
706名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/28(金) 20:48:40.11 ID:???
乙です、明日も待ってますー
707名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/28(金) 22:33:08.83 ID:???
乙ですねー
ラブラブになりそうでならない描写がイイ!でも本人は気付いてないけど二人の気持ちはつながっているみたいなね!
708名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/29(土) 00:49:53.79 ID:???
乙です。可愛いなーふたりとも。
709名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/29(土) 01:10:22.11 ID:???
今日も乙です
シンジ積極的になってきてるね
いいよ〜
710逃飛行 6−1:2011/10/29(土) 20:32:07.43 ID:???
シンジとレイは散歩の途中で見つけたショッピングモールで夕飯を取ったあと、今日の宿泊先へ向かった。
そこで二人を出迎えたのは、いかにもというような外観のホテルだった。
「これは……。すごいね……」
「そ、そうね……」
今まで泊まった所は、かなり地味なホテルばかりだった。
「えっと……、入ろうか」
「えっ、ええ」
部屋に入った二人は、さらに唖然としてしまった。アジアンリゾート風の内装に、天蓋付きのベッド。女の子が好きそうな部屋だ。
「中も、すごいね……」
「うん……」
ボーッとしていても仕方ないので、明日の予定を立てることにした。地図と時刻表を見ながら話し合った結果、明日の目的地は兵庫県の姫路に決まった。
地図と時刻表をバッグに仕舞いつつレイに声をかける。
「僕、お風呂入れてくる」
「わかったわ」
風呂場に行き浴槽にお湯を溜める。この作業も今日で三日目。ということは、こういうホテルに泊まるのも三日目。
最初は散々迷っていたのに、今日は外観の派手さには戸惑ったものの、入ること自体に抵抗はなかった。
(人って、慣れるものなんだな……)
少しずつ溜まっていくお湯を見ながら、シンジはそんなことを考えていた。

711逃飛行 6−1:2011/10/29(土) 20:33:27.03 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
712名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/29(土) 21:21:27.98 ID:???
今日も乙でした
713名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/29(土) 23:33:30.03 ID:???
毎日投下する努力、すごいと思います
明日も期待!
714名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/30(日) 00:21:52.15 ID:???
乙です
三日目の夜は何がおこるのかな〜
わくわく
715名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/30(日) 14:53:28.31 ID:???
乙です。
姫路はらめぇ!治安悪すぎ、悪影響出ちゃう。
と姫路市民が言ってみる。でも、舞台にされちゃうなんて、嬉しい。
ビクンビクン
716逃飛行 6−2:2011/10/30(日) 20:12:42.16 ID:???
部屋に戻ったシンジの目に、ベッドで横になっているレイの姿が映った。
「綾波?」
シンジの声に、レイは軽く伸びをして起き上がる。
「ごめんなさい。少しうとうとしてたみたい」
「大丈夫? やっぱり疲れてるよね」
実際、シンジとレイの疲労はかなりのものだった。肉体的にも、精神的にも。
幸いなことに第二東京で見かけて以来、諜報部の人間とは遭遇していない。だからといって気を抜くわけにはいかなかった。
「今日はお風呂入ったら早目に寝ようか」
「そうね」
シンジがソファーに腰掛けると、レイもベッドから降りてシンジの左隣に寄り添うように座った。
「なっ……何だかこの部屋暑いね」
「そう? 少し涼し過ぎるくらいだと思うけど」
「そ、そうかな?」
今やシンジの意識は左側に集中していた。音のないこの部屋で、自分の心臓の音だけがうるさく聞こえる。この音が彼女にも聞こえているんじゃないかと思うと、心臓の鼓動は益々早くなっていった。
「……碇くん」
「なっ……何?」
思わず声が裏返った。そんな自分が情けなくなる。
「やっぱりこの部屋、ちょっと暑い気がする」
チラッと横を見ると、レイは頬を染めて俯いていた。
「そっ、そうだよね!」
「うん……」
恥じらうレイの姿が、シンジの緊張感を弥が上にも煽る。
「あのっ、僕、お風呂見てくる!」
ぎこちない動きで風呂場に入ると、シンジは深呼吸をした。何とか気持ちを落ち着けてから風呂場を出る。
717逃飛行 6−2:2011/10/30(日) 20:13:02.94 ID:???
「綾波、お風呂沸いてるから先に入りなよ」
なるべく顔を見ないようにしながら話し掛けた。
「……うん」
シンジはベッドに腰掛けて、いつものように目を瞑る。
「じゃあ、入るから」
風呂場のドアが閉まる音を確認すると、そのままベッドに寝転んだ。その脳裏に、さっき目を閉じる瞬間に見えたレイの悲しげな顔がよぎる。
彼女にあんな顔をさせているのは自分のせいだと分かっていた。それなのに意識すると何も出来ない自分がもどかしい。
好きになってはいけないと、ずっと思ってた。自分にそんな資格はないと。だけど気がつけばいつの間にか目で追っている自分がいた。
人を好きになることは、もっと楽しいことだと思っていた。でもそれは違ってた。実際には苦しくて、切ないことだと知った。
思い切って一歩踏み出してしまえばいいのかもしれない。簡単な一言を言うだけでいいのだから。だがその一言がどうしても言えない。
シンジは寝返りをうって溜め息を吐いた。
彼女が僕をどう思っているか、いくら鈍い僕でも分かっている。そして、多分彼女も僕の気持ちに気付いてる。今さら言葉にする必要はないのかもしれない。
だけど態度だけじゃ気持ちを伝えるにも限界がある。もしかしたら自分の勘違いかもしれない。そう思うと怖くて勇気がでない。それが二の足を踏んでいる原因だった。
もう一度寝返りをうって、仰向けになる。
もうこれ以上自分の気持ちを抑え付けている自信がない。今にも爆発しそうだ。そして爆発した気持ちがきっと彼女を傷つける。それは自分が最も恐れてることだった。
彼女と過ごすようになってから、自分の欲望が大きく膨らんでいくのを感じていた。そして彼女に触れる度、澄んだ紅い瞳に見つめられる度に、自分の醜い歪んだ欲望を思い知らされる。
どうしてもっと純粋に彼女を愛せないんだろう? もっと素直に愛せたら、こんなに苦しまなくて済むのに。それとも人を好きになるとみんなこんな想いをするんだろうか?
不意に浴室のドアが開いた。水を滴らせたレイが顔を覗かせる。
「碇くん。もう上がるわ」
「了解」
身体を起こしながら答える。レイの顔は真っすぐ見れなかった。

718逃飛行 6−2:2011/10/30(日) 20:14:08.78 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
719名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/30(日) 20:22:56.48 ID:???
いいところでひっぱりますなぁw
乙です
720名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/30(日) 22:24:24.12 ID:???
今日も乙です
シンジかわいい
爆発しちゃってもいいのよ

>>715
大丈夫
シンジはレイが守るし
レイはシンジが守ってくれるよ
721名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/30(日) 23:25:27.62 ID:???
ドキドキするw
乙です
722逃飛行 6−3:2011/10/31(月) 20:12:42.59 ID:???
レイはひとりベッドに座っていた。シンジは逃げるように風呂場に入って行った。そのことが、レイを傷つけていた。
レイは自分が恋をしていると自覚していた。その気持ちはシンジと過ごすようになってから、急速に膨らんでいった。
彼が自分をどう思っているのか分からない。確かに大切な存在だと言われた。でもそれだけだ。もしかしたら彼は同情しているだけなのかもしれない。
今まで誰にどう思われようと平気だった。どうせ自分はその日が来れば消えてしまうのだから。
だけど今は、彼に嫌われるのが怖くて仕方なかった。自分の中に不安と言う名の大きな氷の塊があって、それが心を少しずつ圧迫していた。
だんだん涙が込み上げてくる。いつから自分はこんなに涙脆くなったのだろう。この間まで、涙なんか流したこともなかったのに。
「綾波ー、もう上がるよ」
シンジの声に、慌てて涙を拭いた。
「えっ……ええ、わかった」
いつものように目を閉じる。何だか不安がどんどん広がっていく。
これ以上目を閉じていたくなくて、合図を待たずに開いた。上半身裸のまま髪を拭いているシンジが目に映る。
思わず身体が動いた。パジャマが濡れるのも構わず背中からシンジにしがみつく。
「あっ、綾波!?」
シンジが戸惑っている。だけど無視した。
723逃飛行 6−3:2011/10/31(月) 20:13:13.72 ID:???
「ダメだよ……」
レイはイヤイヤをして、さらに力を込めた。
レイの態度に何かを感じたのか、シンジはレイの腕に手を添えると、出来るだけ優しい声で尋ねた。
「どうかしたの?」
「よく、わからない。だけど怖いの……」
止めたはずの涙が、また溢れ出す。しかしレイはこの涙をどうやって止めればいいのか分からなかった。
「綾波……腕、離してくれる?」
シンジの静かな声に、身体が強張る。だけど黙って言う通りにした。心の中で、不安と恐怖が綯い交ぜになっていく。
次の瞬間、レイは抱き竦められていた。驚きで軽いパニックになる。
「ごめん……」
「……どうして謝るの?」
「僕が悪いんだ。僕がはっきりしないから……」
レイは首を振った。
「違うわ。碇くんのせいじゃない。私が勝手に不安になっただけなの」
「それは違う。僕に勇気がないからいけないんだ」
「そんな……」
「ごめん。だけど、もう少しだけ待って欲しいんだ。もう少し、自分に自信が持てるまで」
シンジの優しい声に、不安の氷が解けていく。
「そしたら、ちゃんと言うから……」
レイは腕をそっとシンジの背中に回した。
「……うん、待ってる」
レイの瞳から、最後の不安の欠片がこぼれていった。

724逃飛行 6−3:2011/10/31(月) 20:13:47.30 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
725名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 20:17:55.60 ID:???
今日も乙でした
726名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 20:46:41.06 ID:???
いいね〜
明日も待ってます!
727名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 21:22:01.80 ID:???
乙です
少しづつ進展してるのがもどかしくていいね
728名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 21:58:38.72 ID:???
何やってんだコラ!シンジ
大好きな娘を早くぎゅっと抱きしめるんだ
全く困ったもんだ
729名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 22:13:15.83 ID:???
>>728
野暮ですなー。
ただまったく同意見ですが。
730名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/10/31(月) 22:59:31.30 ID:???
え?
抱きしめてるよ
告白はしてないけど
731逃飛行 6−4:2011/11/01(火) 20:17:19.15 ID:???
明かりの消えた部屋で二人は昨日同様ひとつのベッドに入っていた。
シンジはやっぱり眠れずにいた。それは緊張のせいではなく、鬱屈した気分のせいだった。
自分の煮え切らない態度が、彼女にあんな行動を取らせるまで追い詰めてしまった。そう思うと、遣る方無い気持ちでいっぱいだった。
シンジはすっかり癖になってしまった溜め息を吐いて寝返りをうった。
「どうかしたの?」
こちらを向いて心配そうに見つめている彼女と目が合う。
「ううん、何でもないよ」
そう言ってシンジは無理に笑った。何も言えないなら、余計な心配はかけるべきではない。
「それならいいけど……」
レイはなおも心配そうな顔をしている。見透かされている。そう感じた。
「碇くん……」
「ん?」
「手、繋いでも……いい?」
レイが不安げな瞳で見つめる。
「……いいよ」
身体をベッドの真ん中に移動すると、レイのひんやりとした手が触れた。その手をそっと握る。
レイが幸せそうに笑うのを見て、シンジの胸にある疑問が浮かんだ。
「綾波……。ひとつだけ、聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
732逃飛行 6−4:2011/11/01(火) 20:18:02.17 ID:???
「五度目は、どう思った?」
それはシンジがどうしても聞きたくて、でも聞けなかったことだった。
「五度目……?」
その時、レイが心の中に大切に仕舞っておいた想い出が蘇った。
『初めて触れたときは、何も感じなかった』
『二度目は、少し気持ち悪かった』
『三度目は、暖かかった』
『四度目は、嬉しかった』
「五度目は……」
「うん」
「……秘密」
そう言ってレイは恥ずかしそうに微笑む。
「秘密? どうして?」
「だって……」
レイはほんのり染まった頬を隠すように布団を掛けて、小さな声で呟いた。
「……恥ずかしいんだもの」
「そっか」
シンジは繋いだ手を握り直した。
「そのうち、教えてくれる?」
「そうね。そのうち」
瞳を合わせて笑い合う。それが二人にとって、幸せのカタチだった。

733逃飛行 6−4:2011/11/01(火) 20:18:41.16 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
734名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/01(火) 20:34:28.00 ID:???
今日も乙でした
735名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/01(火) 21:00:40.86 ID:???
乙です
両片思いのイチャイチャいいわ〜
736名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/01(火) 21:44:41.75 ID:???
乙です。今日もこれでニヤニヤできる
737逃飛行 6−5:2011/11/02(水) 20:17:03.30 ID:???
シンジは満ち足りた気分で目を覚ました。こんなに安心して眠れたのは久しぶりかもしれない。
顔を少し横に向けると、目の前にレイの顔があった。寝る前に繋いだ手は、やっぱりほどけていた。だけどすぐ隣で彼女が眠っている。それだけで幸せな気持ちになる。
安らかなレイの寝顔を見ながら、初めてレイと逢った時のことを思い出した。
あのとき、エヴァに乗った理由。それは彼女を守りたかったからだ。詰まるところ自分の行動理由は、全て彼女を守りたいという気持ちからきている。
(そっか……。僕はあの時すでに、綾波に惹かれていたんだな……)
彼女さえいてくれれば、他には何も要らない。もしも彼女が消えてしまったら、誰かを好きになることなんて、もう二度と出来ないかもしれない。
手を伸ばしてそっと触れてみた。その存在を確かめるように。
レイが身じろぎしてゆっくりと目を開いた。シンジの姿を認めて優しく微笑む。
「おはよう」
「おはよう、綾波」
シンジも、とびきりの笑顔を返した。

738逃飛行 6−5:2011/11/02(水) 20:17:46.32 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
739名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/02(水) 20:23:57.54 ID:???
今日も乙でした
740名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/02(水) 21:13:01.50 ID:???
乙です。
741名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/03(木) 02:09:25.19 ID:???
ラブラブじゃないか
毎日ありがとうございますー
742名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/03(木) 19:59:04.77 ID:???
まだかなまだかなー
743逃飛行 6−6:2011/11/03(木) 20:04:43.94 ID:???
のんびりと支度をして、ホテルを出たのは十時前だった。ここからバスに乗って駅へ向かう。
「今日もいい天気だね」
「ええ、ホントに」
バス停に向かって歩く二人は、どちらからともなく手を繋いだ。指を絡ませてしっかりと握る。
バス停で時間を確認すると、バスが来るまであと十五分くらいある。仕方ないのでベンチで待つことにした。
二人の間に会話はない。だけど二人でいればそれで良かった。
レイが幸せそうに微笑んでいる。その顔を見たシンジの心に、レイへの想いが込み上げていく。
「綾波、あの……」
「え?」
レイが微笑んだまま振り向く。
「僕は……」
その瞬間レイの顔から微笑みが消えた。
「……いか……りく……」
レイの視線はシンジを通り越し、シンジの背後に注がれていた。
レイの視線を辿る。そこには黒服にサングラスの男が、携帯電話を片手に立っていた。背中を冷たいものが流れ落ちていく。
(まさか……)
744逃飛行 6−6:2011/11/03(木) 20:05:17.26 ID:???
「ファースト及びサードを発見。これより拘束する」
電話を切った男が、一歩近づく。それが合図のように、勢いよく立ち上がった。
「綾波、逃げよう!」
二人は手を繋いだまま反対方向へ向かって走り出した。
(ちくしょう。どうして……)
逸る心とは裏腹に、身体が追い付かない。それでも必死に走る。捕まったらどうなるか――考えただけでもゾッとする。
(早く……もっと早く!)
しかしそれは虚しい努力に過ぎなかった。
「きゃあっ!」
繋いだ手がほどけていく。シンジは慌てて振り返った。その目に捕われたレイが映る。
「嫌っ! 放して!」
レイが掴まれた腕を振り払おうと、身を捩っている。
「綾波っ!」
レイを助けようと駆け出す。だが背後から忍び寄っていたもう一人の男に捕まってしまった。
「碇くんっ!
「放せ! 放せよっ!」
腕から逃れようと足掻く。しかし男の力は強く、びくともしない。
「ちくしょう……」
悔し涙に視界が歪んでいく。
「ちくしょぉぉぉっ!」
辺りに、シンジの絶叫が虚しく響き渡った。
745逃飛行 6−6:2011/11/03(木) 20:09:03.25 ID:???
今日はここまでです。
お詫びなのですが、投下分が書いてる分に追いついてきそうなので、次回から二日に一回にさせて頂きます。
何卒ご了承ください。
それではまた明後日。
746名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/03(木) 20:49:31.87 ID:???
ついに追っ手が!どうなるんだこれから!
747名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/03(木) 22:13:42.37 ID:???
乙です
捕まっちゃった…
748名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/04(金) 00:20:48.88 ID:???
うわああああああああああああ
またいい所で・・・
749名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/04(金) 12:40:54.19 ID:???
乙です
続き待ってます
750745:2011/11/04(金) 14:27:12.64 ID:???
昨日投下分で約半分です。
ラストまで書き上がりましたら、また毎日投下に戻すつもりです。
残り半分、皆さんに楽しんで頂けたら幸いです。
それではまた明日の20時以降に投下します。
751名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/04(金) 18:12:03.71 ID:???
乙です。まったり待ってるよー
752名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 02:17:44.32 ID:ocxiEjIV
はじめて来たんだが俺は神を見つけたのかもしれん!!
753web漫画:2011/11/05(土) 11:33:07.65 ID:2Zo/EytG
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
10. Dies irae

SS予定は無いのでしょうか?
754名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 20:10:23.09 ID:???
全裸待機
755逃飛行 7−1:2011/11/05(土) 20:17:59.50 ID:???
ネルフに連れ戻されたシンジは、ひとり独房に入れられていた。どのくらい時間が経ったのかも分からない。真っ暗な独房では、時間を知る由もなかった。
シンジはただ膝を抱えてうずくまっていた。その胸に去来するのは、レイへの想いだった。
絶対に守ると約束した。それなのに結局はこのザマだ。
ふと自分達を捕らえた諜報部の男の顔が浮かんだ。あれは第二東京の駅で見掛けた男だった。あの時からずっと尾行されていたのかもしれない。
自分達はネルフから逃げ切れていなかった。ただ泳がされていただけだと、シンジは悟った。
(結局僕は、何も出来ないただの子供なんだ……)
どうしてこうなるんだろう? もう少しで掴み取れたはずなのに。あと少しのところで指を擦り抜けていく。
自分はただ大切な人と一緒にいたいだけだ。それがそんなに悪いことなのか?
二人きりの甘い幸せな時間は終わりを告げ、今はただ空虚な時間が支配していた。
この先にどんな未来が待ち受けているのか分からない。だけど、ここに連れ戻された以上、レイが消えてしまう運命から逃れることは出来ない。
(もう終わりだ……。何もかも……)
不意にドアが開き、黒服の男が入って来る。
「出ろ、碇シンジ。碇司令がお呼びだ」
シンジの肩が、僅かに震えた。

756逃飛行 7−1:2011/11/05(土) 20:18:40.95 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明後日に。
757名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 21:05:52.48 ID:???
乙です
これからどうなるのかな?
758名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 21:25:58.52 ID:???
今日も乙でした
759名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 22:49:31.66 ID:???
これからドキドキものですね…
乙でした!
760名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/05(土) 23:03:06.53 ID:???
もうちょっと旅をしていたかった…

いやいや
なんだかんだあって認められた二人が
何の気兼ねもなく
のんびりと全国を旅するようになってほしい
いやそうじゃなきゃダメだ
ダメだ…
761逃飛行 7−2:2011/11/07(月) 20:15:57.69 ID:???
司令室に通されたシンジは、ネルフ総司令――そして実の父親である碇ゲンドウと対峙していた。シンジの腕には重い鉄の手錠がはめられている。
彼ら二人の他には誰もいない。常にゲンドウの隣にいるはずの冬月コウゾウさえいなかった。
シンジはここに入ってから、ずっと押し黙ったままゲンドウを睨みつけていた。ゲンドウもまた、組んだ両手を口元に当てシンジを見据えている。
ただならぬ緊張感の中、口火を切ったのはやはりゲンドウだった。
「レイから何を聞いた」
言外の圧力を感じる。それでもシンジは視線を逸らさなかった。
「別に……。何も聞いてないよ」
「では、何故レイを連れて逃げた」
「それは――」
シンジは口唇を噛んだ。言いたいことは山程ある。だけど、胸の内に渦巻く感情が邪魔をして、上手く言葉が出てこない。
「今一度聞く。何故レイを連れて逃げた」
「綾波のことが、好きだから」
「レイは、純粋な人間ではない」
ゲンドウの冷酷とも言える物言いに、揺れていた感情が傾く。
「知ってるさ。だけど、そんな事どうだっていい!」
冷静でいようと思っていた。なのに感情が勝手に高ぶって、言うことを聞いてくれない。
「僕は綾波に絶対守るって約束した。父さんが綾波を利用するって言うなら、僕は父さんと戦う! 父さんの好きにはさせない!」
762逃飛行 7−2:2011/11/07(月) 20:16:26.06 ID:???
殆ど絶叫に近い声で言い放つ。だがゲンドウは眉一つ動かすことはなかった。
シンジの荒い息が広い室内に響く。やがてゲンドウは感情の篭らない、冷たい声で言った。
「そんなにレイが大切か」
「大切だよ。世界中の誰よりも」
「それならばこちらも都合がいい」
「は? 何言って……」
ゲンドウが何を言おうとしているのか分からず、シンジは困惑した。
「間もなく最後の使徒が現れる。お前はそれを初号機で殲滅しろ」
「まだ僕に、エヴァに乗れって言うの?」
「これは命令だ」
「もし、命令に従わなかったら?」
「その場合、レイは消える事になる」
シンジの身体が硬直する。
「それは……脅迫……?」
「どう取って貰っても構わん」
自分の決断がレイの運命を決める。そう思うと、シンジの心は恐怖に飲み込まれそうだった。
「……僕が、素直に命令を聞けば、綾波に手出ししない……?」
「……ああ」
「本当だね?」
「二言はない」
どんなことをしても、彼女を守ると誓った。使徒を倒す。それだけでレイが助かるなら、迷う理由なんてない。
「……わかった。やるよ」
シンジの答えに、ゲンドウがニヤリと笑う。そのことに、シンジは気付かなかった。

763逃飛行 7−2:2011/11/07(月) 20:16:58.39 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明後日。
764名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/07(月) 20:46:54.22 ID:???
まさか・・・・・・・・・・
いえ、なんでもございません
今日も乙でした
765名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/07(月) 21:45:13.25 ID:???
乙です
シンジかっこよかった
でも何させられるのかな
怖い…
766名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/09(水) 17:25:43.09 ID:???
今から全裸で正座して待つお
767名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/09(水) 19:54:35.79 ID:???
全裸待機
768逃飛行 7−3:2011/11/09(水) 20:09:32.74 ID:???
司令室を出たシンジは拘束を解かれた。逃げ出すことはないと判断されたのだろう。
シンジ自身、もう逃げ出すつもりなどなかった。レイ一人を置いて逃げることなんて出来るわけない。
ゲンドウから申し付けられた通り、シンクロテストを受けた。ネルフを離れていたのはたった四日。シンクロ率に大きな変化はなかった。
シンクロテストを終えたシンジは、本部内の居住ブロックに向かった。ネルフ本部から外に出ることは許されていない。つまり軟禁状態ということだ。
当てがわれた部屋は、六畳一間。トイレと洗面台。それと据え付けのベッドがあるだけだった。窓が無いせいか、全体的に陰鬱な印象を受ける。
(まるで綾波の部屋だ……)
剥き出しのコンクリートが、そう感じさせるのかもしれない。いや、窓があるだけ彼女の部屋の方がまだマシだと思った。
どのみち、この部屋には寝に帰るだけだ。問題は無い。
ベッドに座り視線を脇に向けると、逃走中に持っていたバッグが置いてあった。その中身を確認していたシンジの手に、細長い包みが触れた。
それはレイにプレゼントしようと思っていたムーンストーンのペンダントだった。夕飯を食べるために立ち寄ったショッピングモールで、トイレに行くフリをしてこっそり買ったのだ。
シンジはこれを、告白する時に渡そうと思っていた。だがその時が来る前に引き離されてしまった。
769逃飛行 7−3:2011/11/09(水) 20:10:00.24 ID:???
もしもあの時躊躇わなければ、もしもあの時ホンの少しの勇気があれば、何も伝えられないまま別れることはなかったのに。そんな後悔ばかりが先に立つ。
後悔したくなくて逃げたはずなのに、どうして自分はまた後悔しているのだろう?
突然、部屋のチャイムが鳴った。シンジは目の端に浮かんでいた涙を拭いてからドアを開けた。そこに立っていたのは、項垂れたミサトだった。
「ミサトさん……」
「シンジ君、あの……」
ミサトが珍しく言い淀む。
「ミサトさん、迷惑かけてごめんなさい」
「そんな! 迷惑なんて……」
ミサトは髪を掻き上げて、苦しげに顔を歪めた。
「私の方こそごめんなさい。シンジ君の気持ちは痛いほど分かってたのに、何も出来なかったわ」
「いいんです。別に、何かして欲しかったわけじゃないですから」
そう言ってシンジは悲しそうに微笑んだ。
「シンジ君……」
「父さんと、約束したんです。最後の使徒を倒せば、綾波を助けてくれるって」
「シンジ君は、それを信じるの?」
「素直には信じられないです。でも僕に選択肢はないんです。命令に従わないと、綾波が消されてしまうから」
シンジの言葉に、ミサトは目を見張った。
「もういいですか? 今日は休みたいんです……」
「えっ、ええ……」
「それじゃ」
「おやすみなさい」
部屋に戻るシンジを、ミサトは何も言えずに見つめていた。

770逃飛行 7−3:2011/11/09(水) 20:10:31.26 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明後日。
771名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/09(水) 20:28:49.35 ID:???
今日も乙でした
772名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/09(水) 21:28:42.48 ID:???
今日も乙です
レイとは会わせてもらえないのか
どうしてるんだろ
773名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/09(水) 23:07:51.35 ID:???
悲恋にならない事を祈る
774770:2011/11/10(木) 20:17:14.17 ID:???
いつも私の駄文を読んで下さり、ありがとうございます。
現在投下させて頂いている「逃飛行」が一応の完成をしましたので、明日からまた毎日投下にさせて頂きます。
どうぞ最後までお付き合い下さい。
775名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/10(木) 20:24:48.75 ID:???
完成ですか、おめでとうございます
楽しみに待ってます
776名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/11(金) 14:12:21.35 ID:???
とりあえずお疲れ!
楽しみにしてるよ
777逃飛行 7−4:2011/11/11(金) 20:02:08.37 ID:???
レイは独り、真っ暗な部屋でベッドに寝転んでいた。
ここがどこなのか、おおよその見当はついていた。恐らくここは、ターミナルドグマの一室だと、息の詰まりそうな空気が告げている。
固いベッドが一つあるだけの、何もない部屋。ネルフに連れ戻されてからずっとここにいる。
少し前の自分なら何も感じなかったかもしれない。だけど今はこの部屋を寂しいと感じる。何より、ここにはシンジがいない。それが余計に寂しく感じさせる要因だった。
「碇くん……」
レイは消え入りそうな声で、シンジの名を呼んだ。
あのままずっと幸せに浸っていたかった。彼の傍で笑っていたかった。
ここに戻れば嫌でも思い知らされる。自分が人ではないことを。
どうして自分は人じゃないんだろう。人として生まれてくれば、彼の傍にいられたのに。
「……碇くん……碇くんっ……」
いつしかレイは咽び泣いていた。止めようとも思わなかった。苦しくて苦しくて、心が粉々に砕け散りそうだった。
今すぐ彼の傍に行きたい。抱きしめて、この涙を受け止めて欲しい。でもそれは見果てぬ夢に過ぎない。
ネルフに戻されてすぐ、ゲンドウが会いに来た。その時ゲンドウはレイにこう告げた。
「シンジに逢うことは許さん。万が一、命令に従わぬ場合、シンジには永遠に消えてもらう事になる」
そう言われて、レイの心は凍った。シンジが死ぬ。それはレイにとって、自分の身体が引き裂かれるよりも辛いことだった。
彼に逢うことはもう二度とない。それでも彼が生きていてくれればいい。例え自分がどうなろうと。
レイはシンジへの想いと、微笑みを抱いて眠った。その瞳に、涙を浮かべたままで……。

778逃飛行 7−4:2011/11/11(金) 20:02:39.49 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
779名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/11(金) 20:36:11.56 ID:???

ゲンドウまじで外道だ…
780名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/11(金) 20:51:13.72 ID:???
ゲンドウマジキチ
781名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/11(金) 21:21:13.39 ID:???
今日も乙でした
782名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/11(金) 21:24:10.30 ID:???
乙です…
心が痛いよ…
783逃飛行 7−5:2011/11/12(土) 20:07:57.41 ID:???
その夜、シンジは夢を見た。それはレイと引き離される直前、ベンチに並んで座っている時の夢だった。
彼女が幸せそうに微笑む。それだけで、泣きたくなるほどの幸福感が身を包んでいく。
そこでハッと目を覚ました。その瞳に映るのは見知らぬ天井。
「夢……か……」
ふと横を向いた。もちろんそこには誰もいるわけがない。
昨日起きた時は隣に彼女がいた。なのに今は独りきり。もしも彼女が消えてしまったら、ずっとこんな孤独感に苛まれると思うと、背筋がゾッとした。
今まで独りが当たり前だと思ってた。だから独りが寂しいなんて感じなかった。
だけど自分は知ってしまった。二人で寄り添う温もりを。知ってしまったら、もう昔の自分には戻れない。
ふと、喉の渇きを覚えて、シンジは部屋を出て自販コーナーに向かった。
Tシャツに短パンという、本部内を歩くにはおよそ似つかわしくない格好だが、あいにく制服はミサトの家に置きっぱなしだった。
自販コーナーに近づくシンジの耳に、誰かの鼻唄が聴こえてきた。今のネルフに、鼻唄を唄えるほど余裕のある人間がいたとは驚きだった。しかも唄っているのはベートーベンの第九。
(一体、誰なんだろう……?)
自販コーナーを覗いたシンジの目に映ったのは、銀髪に中学の制服を着た少年だった。
「歌はいいねぇ」
「へっ?」
「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか、碇シンジ君」
そう言って少年はシンジの方を振り返り不敵に笑った。

784逃飛行 7−5:2011/11/12(土) 20:08:27.29 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
785名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/12(土) 21:35:32.86 ID:???
今日も乙でした
786名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/12(土) 23:06:20.98 ID:???
乙です。遂に奴が来たか
787名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/13(日) 07:50:21.58 ID:???
逃避行じゃなくて逃飛行…飛ぶのか?
788名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/13(日) 19:59:39.80 ID:???
全裸待機
789逃飛行 8−1:2011/11/13(日) 20:07:27.72 ID:???
シンジはシンクロテストの後、自販コーナーのベンチで缶ジュースを飲んでいた。
先程のテストの結果を、ミサトは教えてくれなかった。言わないということは、然したる問題もないということなのだろう。
シンジの意識は、それとは別のところにあった。
渚カヲル。突然やって来たフィフスチルドレン。
シンジは彼に会った時、妙な既視感を覚えた。「綾波に似ている」そう感じた。
特徴的な紅い瞳がそう感じさせるのかもしれない。でもそれだけではない。彼の持つ雰囲気が、彼女のそれとよく似ているのだ。
会って間もないカヲルに親近感を感じるのは、そういう理由だろう。
「やあ、ここにいたのかい?」
声を掛けられて視線を上げると、にこやかな笑みを浮かべたカヲルが立っていた。
「カヲル君」
「こんな所で何をしているんだい?」
「あ、いや……別に、何も……」
「隣に座ってもいいかな?」
「あ……うん」
シンジが身体を移動すると、カヲルは隣に腰掛けた。
何か話があるのかと思ったが、カヲルは目を閉じて微笑んでいるだけで、一向に話し出す気配は無い。
790逃飛行 8−1:2011/11/13(日) 20:08:03.69 ID:???
シンジは沈黙に耐え兼ねて口を開いた。
「あの、カヲル君が来てくれて助かったよ」
「どうしてだい?」
「正直、僕一人で使徒を倒す自信がなかったんだ」
カヲルは不思議そうに見つめている。
「僕は、どうしても使徒を倒さなきゃいけないから……」
シンジの言い方に何かを察したのか、カヲルは穏やかな口調で話し掛けた。
「何か、事情がありそうだね」
「うん……」
「良かったら、僕に話してくれないかな?」
シンジは手元に視線を落として話し始めた。
「大切な人がいるんだ。今は、逢えないけど……。僕が使徒を倒さないと、彼女が消されてしまうんだ。だから……」
シンジは口唇を噛み締めて、感情の波を遣り過ごそうとした。こんなことで泣きたくない。
知らず知らずの内に握ったシンジの手に、カヲルの手が添えられる。
「本当に彼女のことが大切なんだね。羨ましいよ。シンジ君にそこまで想われている彼女が」
「カヲル君……?」
シンジが顔を上げると、優しく微笑むカヲルと目が合った。
「分かったよ、シンジ君。君に協力する」
「……ありがとう、カヲル君」
この時シンジは、ネルフに戻って初めて笑うことが出来た。

791逃飛行 8−1:2011/11/13(日) 20:08:30.18 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
792名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/13(日) 21:33:37.50 ID:???
今日も乙でした
793名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/13(日) 21:58:44.37 ID:???
ついにガチ〇モが…
794名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/13(日) 22:10:47.79 ID:???
今日も乙です
協力ってどうするんだ
795逃飛行 8−2:2011/11/14(月) 20:04:49.82 ID:???
その晩、シンジはカヲルの部屋に泊めて貰った。塞ぎ込んでしまいそうなシンジを気遣かって、カヲルが誘ってくれたのだ。
「やっぱり僕が下で寝るよ」
「いいよ。僕が泊めて貰ってるんだし」
「シンジ君は優しいね」
「そ、そうかな?」
シンジが照れ笑いをすると、カヲルもフッと笑う。
「それで? まだ何か言いたいことがあるんだろう?」
「え……?」
驚いてカヲルの方を見ると、微笑んでこちらを見つめているカヲルと目が合った。
「心の痛みは、誰かに話した方が軽くなるんだよ」
カヲルの言葉が、シンジの隙間の開いた心に染み込んでいく。彼女が傍にいないことが、自分の想像以上に堪えているのかもしれない。
若干逡巡した後、シンジはポツリポツリと語り始めた。
「この街に来て、色々あったんだ。いい事も、悪い事も。楽しい事も、辛い事も」
「……」
「ずっと逃げ出したいって思ってた。実際に逃げ出した事もあった。でも今は、ここに来て良かったと思ってる」
「彼女と出逢えたから?」
シンジは小さく頷いた。
「初めて人を好きになったんだ。彼女と出逢わなかったら、僕は人を愛する喜びを知らないままだった。彼女と出逢って、僕の世界は変わったんだ」
黙ってシンジの言葉を聞いていたカヲルは、やがて静かな声で話し始めた。
「人は常に孤独を感じている。他人を愛する事で、その孤独を埋めている。人は独りでは生きていけないからね」
「カヲル君……」
「どうして人は男と女がいるんだと思う?」
「えっ? どうしてかな……?」
「男と女は本来一人の人間なんだよ。だけど神がそれを二つに分けた。だから人は失った半身を探しているのさ」
「失った半身……」
「シンジ君は失った半身を見つけたんだね」
カヲルはシンジの心を包み込むように微笑んだ。

796逃飛行 8−2:2011/11/14(月) 20:05:19.08 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
797名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/14(月) 20:07:51.60 ID:???
今日も乙でした
798名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/14(月) 23:35:14.74 ID:???
乙乙乙
799名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/15(火) 11:04:00.93 ID:???
カヲル君がどう動くのか…
乙でした
800逃飛行 8−3:2011/11/15(火) 20:04:40.20 ID:???
シンジが目を覚ました時、カヲルはいなかった。シンジはそのことに、何の疑問も抱かなかった。
彼は自分と違い、行動に制限はされていない。だから買い物にでも行っているのだろうと思った。
部屋に「泊めてくれてありがとう」と書き置きを残して、シンジは自室に戻った。
自室に戻ってもやる事のないシンジの意識は、やはりレイへと向かって行った。
今、彼女がどこにいるのか、シンジに知る術はない。恐らく、ゲンドウの庇護下にいるのだろう。
彼女に逢いたくて仕方ない。離れていても心は通じ合ってる。そう信じていても、不安が募る。
もしかしたらあの四日間は夢だったんじゃないかと思う。ホントの自分は、とっくに壊れてしまっていて、弱い心が見せた、束の間の夢だったのではないかという気がしてくる。
だけど、あれは夢なんかじゃない。身体がまだ覚えてる。彼女を抱きしめた時の温もりを。
「綾波……」
シンジの心が暗闇に堕ちかけたその刹那、ネルフ本部内に警報が鳴り響き、シンジはバッと顔を上げた。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返す。総員、第一種戦闘配置』
「まさか、使徒……?」
『初号機パイロットは緊急配置』
シンジは慌てて部屋を飛び出した。頭の中にゲンドウの言葉が響く。
『お前はそれを初号機で殲滅しろ』
(やってやるさ。綾波を守るためなら)
シンジの胸には、希望が溢れていた。この使徒を倒せば、もう一度レイに逢えると信じていた。
だから気付かなかった。呼び出された名前の中に、カヲルの名前がないことを。

801逃飛行 8−3:2011/11/15(火) 20:05:04.68 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
802名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/15(火) 20:21:02.85 ID:???
一体どうなるんだ
おう、早くしろよ
803名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/15(火) 23:45:46.68 ID:???
どうなるんだああああ
明日も待ってます!
804名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/16(水) 00:22:23.12 ID:???
ほんと乙です。
気がつけば会社帰りにここを覗くのがIKIGAIです。
完結まで頑張ってください!
それにしてもシンジとレイの気持ちが健気でもう(;´д`)
805名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/16(水) 02:02:52.24 ID:???
乙です
とうとう来たか…
806逃飛行 8−4:2011/11/16(水) 19:59:41.53 ID:???
プラグスーツに着替えたシンジは、初号機のエントリープラグの中でミサトの指示を聞いていた。
「いい? 現在、目標は弐号機を伴ってメインシャフトを降下中よ。どんな方法を使っても、目標の最下層侵入は絶対に阻止して」
「目標って……弐号機が使徒なんですか?」
「違うわ。あなたが本当に阻止しなきゃいけないのは、弐号機を操っている方よ」
シンジの胸を、言い知れぬ不安が襲う。
「渚カヲルという、人の形をした使徒を、殲滅するの」
ミサトの言葉が、胸に突き刺さる。
「ウソだ! ウソだ! ウソだ! カヲル君が使徒だなんて、そんなのウソだ!」
シンジはインダクションレバーに拳を叩きつけた。
「事実よ。受け止めなさい」
カヲルが向けてくれた暖かな微笑みが、脳裏をよぎる。その瞬間、ゲンドウの冷たい声が、プラグ内に響いた。
「シンジ。分かっているな?」
ゲンドウの言葉に、シンジの身体は恐怖に強張った。
(そうだ。僕がやらなきゃ綾波は……)
「出撃。いいわね?」
シンジはゆっくりと顔を上げると、レバーを掴んだ。
『初号機、ルート2を降下。目標を追撃中』
プラグ内にアナウンスが響く。
(どうして……。何でだよ……)
「ちくしょう……」
『初号機、第四層に到達。目標と接触します』
アナウンスに反応して顔を上げると、弐号機に護られるように浮いている丸い光が見えた。
「カヲル君!」
807逃飛行 8−4:2011/11/16(水) 20:00:20.83 ID:???
シンジの声にこちらを見上げたカヲルは、昨日と同じように微笑んだ。
「やあ、待ってたよ」
「やめてよ、カヲル君っ!」
初号機がカヲルに向かって腕を伸ばす。その腕を、弐号機が阻んだ。
「くそっ! アスカ、ゴメンっ!」
初号機が肩からプログナイフを取り出すと、同じタイミングで、弐号機もナイフを構えた。
「エヴァシリーズ。アダムより生まれし人間にとって忌むべき存在。それを利用してまで生き延びようとするリリン。僕には分からないよ」
弐号機に向かってナイフを振り下ろす。弐号機はそれを容易く受け止めた。ナイフの刃がぶつかり合い、周囲に火花を散らす。
「カヲル君! どうしてなんだよ!」
「エヴァは僕と同じ身体で出来ている。僕もアダムより生まれし者だからね。魂さえなければ、同化出来るさ。今、この弐号機の魂は、自ら閉じ籠もっているから」
不意にナイフが逸れて、カヲルに真っすぐ向かう。しかしその切っ先は、オレンジ色に光り輝く壁に受け止められた。
「A.T.フィールド!?」
驚くシンジの声に、薄ら笑いを浮かべたカヲルが淡々と言葉を紡ぐ。
「そう、君達リリンはそう呼んでいるね。何人にも侵されない、聖なる領域。心の光。リリンだって気付いてるんだろう? A.T.フィールドは、誰もが持っている心の壁だと言うことを」
何の感情も抱かないカヲルの言葉に、シンジは胸がザワザワするような感覚を覚えた。
「そんなの分かんないよ、カヲル君っ!」
シンジの声に反応するかのように、弐号機が初号機の胸にナイフを突き刺す。
「あぅっ……。くっそぉぉっ!」
808逃飛行 8−4:2011/11/16(水) 20:01:26.90 ID:???
激痛を堪えて弐号機の首にナイフを突き立てた。
『目標、ターミナルドグマまであと20』
刺さったナイフが、シンジの胸を深く抉っていく。それでもシンジは攻撃の手を休めることはなかった。
突如、広い空間に出た。空中に投げ出され、そのまま下へ叩き付けられる。背中をしたたかに打ち、シンジの意識が一瞬混濁した。
「くっ……」
頭を振って意識をハッキリさせる。その目に、悲しげに振り返るカヲルの姿が映った。
「カヲル君っ!」
まるで迷いを断ち切るかのように顔を背けたカヲルは、宙に浮いたままゆっくりと進んで行く。
「待って!」
慌てて追い掛けようとした初号機の足を、弐号機が引き止める。
「ちくしょぉぉ!」
再び弐号機と掴み合う。弐号機の首に刺さったナイフを頭に突き立て、渾身の力で深く沈めていく。そしてそのまま弐号機を壁際に追い詰める。
二体のエヴァがぶつかった衝撃で、壁が崩れる。弐号機は壁ごと後ろに倒れ込んだ。
弐号機の後を追って壁の穴に飛び込む。その先には、カヲルがいた。
「カヲル君……」
「悪かったね、シンジ君。こうでもしないと、君と二人きりになれないと思ったんだ」
「二人きり……?」
「言っただろう? 君に協力するって」
カヲルが無邪気に笑う。
「あ……」
809逃飛行 8−4:2011/11/16(水) 20:02:04.07 ID:???
シンジはカヲルの真意を掴んだ。カヲルはあの時から、こうするつもりだったのだ。
「君の心は痛がりだ。だけどその痛がりな心で一生懸命に大切な人を守ろうとしている。それは好意に値するよ」
「好意……?」
「好きってことさ」
シンジは顔を伏せた。申し訳なさで一杯だった。
「さあ、僕を消してくれ」
「……ごめん、カヲル君。ごめん……」
「気にしなくてもいいさ。生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。それに僕は嬉しいんだ。シンジ君のために、何か役に立てることが」
カヲルが優しく笑う。それでもシンジは顔を上げることが出来なかった。
「それに、君に選択肢はないはずだ。僕の命と彼女の命、どちらがより大切か。迷う理由なんてないだろう?」
シンジの脳裏に、レイの微笑みがよぎる。それと同時に、自分自身に誓った約束を思い出す。
シンジは震える手で、レバーを握り締めた。
初号機が両手でカヲルを掴む。
「一つだけお願いがあるんだ。時々でいいから、僕のことを思い出して欲しい。そうすれば、僕はずっと君の心の中で生きていけるから」
「……うん、わかった。約束するよ、カヲル君」
カヲルが嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、シンジ君。君の幸せを、願ってるよ」
長い長い静寂の後、何かが水の中に落ちる音がドグマに響き渡った。

810逃飛行 8−4:2011/11/16(水) 20:02:40.50 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
811名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/16(水) 21:34:27.60 ID:???
今日も乙でした
812名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/16(水) 23:40:31.53 ID:???
乙乙乙
813名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/17(木) 15:54:34.31 ID:???
乙でした。
カヲルはやっぱりこうなっちゃうのか
814逃飛行 9−1:2011/11/17(木) 19:52:28.92 ID:???
執務室でシンジは再びゲンドウと向かい合っていた。シンジの用件はただ一つ。レイを解放してもらうこと。それだけだった。
「父さん、綾波を解放してもらうよ」
サングラスのせいで表情が見えない。そんなゲンドウを、シンジは胸に湧き上がる感情を隠そうともせずに睨みつけていた。
「何の事だ?」
「何の事って……。約束したじゃないか! 最後の使徒を倒せば、綾波を利用しないって!」
シンジの剣幕に臆することもなく、ゲンドウは淡々と言い放つ。
「確かに、最後の使徒を倒せばレイを利用しないと言った。だが、レイを解放すると言った覚えはない」
「そ……んな……」
シンジは項垂れた。もう一度レイに逢える。そう信じていたからこそ、あんな辛い思いをしてまで、カヲルを殺した。それなのに……。
(僕は……一体何のために……)
「最初からお前の勘違いだ」
シンジは歯噛みした。悔しくて涙も出ない。浮上しかけていた心が、支えを失ってさらに深い闇に堕ちていく。
項垂れたままシンジは執務室を後にした。
扉が完全に閉まる音を聞いてから、窓の外を見ていたコウゾウが口を開いた。
「碇。本当に、これでいいんだな?」
コウゾウの問い掛けに、ゲンドウは殊更に冷たい声で答えた。
「ああ、勿論だ。後悔はない」
コウゾウはもう一度、窓の外を見つめた。
「……そうか」
ゲンドウは静かに目を伏せて、深い思考の海に沈んで行った。

815逃飛行 9−1:2011/11/17(木) 19:53:59.02 ID:???
レイはゲンドウに連れられ、検査のために本部内の病院を訪れていた。
今まではリツコがしていた。だがリツコは独房に入れられている。それ故に、通常の健康診断しか受けられなかった。
だけどこんなこと何の意味があるのだろう。どうせもうすぐこの肉体は消えてしまうというのに。
検査の結果は概ね良好だった。ただ精神的に不安定になっていると言われた。
精神的な不安。それはシンジが傍にいないことが原因だと分かっていた。今更他人に言われるまでもない。
暗い部屋に独りでいると、シンジと過ごした日々がキラキラと宝石みたいに輝いて、一層胸を焦がす。
(碇くんに……逢いたい……)
もう二度と逢えないかもしれない大切な人を、強く心に思い描く。
私よりも少し高い目線。華奢な見た目からは想像出来ない力強い腕。私の名前を呼ぶ甘い響き。
「綾波……!」
あまりに強く思い過ぎて、いるはずも無い彼の声が聞こえる。自分は可笑しくなり始めているのだろうか。
「綾波っ!」
再び自分を呼ぶ彼の声。今度はハッキリと聞こえた。
(幻聴じゃ……ない……?)
ハッとして声のする方へ顔を向けると、曲がり角の先にシンジが立っていた。
(碇くん!)
身体がシンジの許へ駆け寄ろうと勝手に動く。
「レイ」
ゲンドウの冷たい声に、心と足が竦む。
816逃飛行 9−1:2011/11/17(木) 19:54:58.45 ID:???
レイはスカートの裾をギュッと握り締め、駆け出そうとする衝動を押さえ付けた。
(私が近付けば、碇くんは……)
「行くぞ」
「……はい」
レイは歩き出したゲンドウの後に従った。その耳に、シンジの悲痛な叫びが届く。
「綾波、待って! 行かないでよぉっ!」
ちらりと振り返ると、諜報部の男に取り押さえられているシンジが目に映った。
「綾波ぃぃぃっ!」
シンジの声に、心が酷く痛む。それを口唇を噛んで堪える。
部屋に戻ったレイは、その場にへたり込んだ。心が痛くてもう一歩も動けない。
心の痛みを少しでも軽くしようと深呼吸をしてみたが、ただ酷くなっただけだった。
いつしかレイの瞳からは、とめどなく涙が流れ落ちていた。
狂おしい程に求めたシンジが目の前にいたのに、ゲンドウの命令に従うしかない自分。そんな自分に嫌悪した。
いつからだろう。自分の心と身体はバラバラになりつつあった。心は彼を抱きしめているのに、身体はあの人に鎖で繋がれている。
「……うっ……うう……っく……」
レイの脳裏に、最後に見たシンジの顔が浮かぶ。
シンジはあの時、傷付いた顔をしていた。傷つけたのは自分。ゲンドウを振り切れなかった弱い自分。
彼を傷つけた自分には、もう彼の隣にいる資格なんてない。
「……碇くん……ごめんなさい……」
心が苦しくて呼吸すらままならない。こんなに苦しいなら、心なんていらなかった。人形のまま消えてしまえば良かった。
レイは自らの存在を呪った。大切な人を傷つける事しか出来ない愚かな自分なんて消えてしまえばいいと思う。
でも、もうすぐこの苦しみから解放される。あと少しで約束の時が来るから。
その時が来れば、きっと……。

817逃飛行 9−1:2011/11/17(木) 19:55:25.56 ID:???
シンジは呆然としたままベッドに腰掛けていた。どうして自分がここにいるのか考えても、上手く頭が働かない。
ゲンドウの執務室を出た後、ネルフ本部内をあてもなく彷徨っていた。部屋に戻るのは嫌だった。独りで眠るのが怖かったから。だからせめて彼女の気配が、匂いがする所に行きたかった。
それは突然のことだった。
何気なく訪れた本部内の病院で、レイを見つけた。
シンジは声を嗄らして叫んだ。だけど彼女は一瞬足を止めた後、すぐに行ってしまった。
シンジは追い掛けようとした。しかしそれは諜報部の男に妨害されてしまった。それでもシンジは叫び続けた。一分の望みを賭けて。
その後のことは記憶にない。気がついたらここにいた。
ずっと信じていた。逢いさえすれば、彼女はきっと自分の腕の中に戻って来ると。
だけど違った。レイは結局、シンジじゃなくゲンドウを選んだ。自分は彼女に捨てられた。思い上がっていただけだと感じた。
『最初からお前の勘違いだ』
ゲンドウに言われた言葉が心を締め付ける。
あの四日間は、都合のいい夢を見ていただけ。全ては幻だった。
その一方で、冷静なシンジが叫ぶ。
本当にレイはゲンドウを選んだのか? そう思い込んでいるだけじゃないのか? と。
シンジは思い出す。去り行くレイの姿を。
あの時レイは、何かを我慢しているように見えた。そしてその後見せた、切なげな表情。
彼女も、ゲンドウから何か言われているのかもしれない。だがそれも、彼女を信じたいという希望的観測に過ぎない。
シンジは良く分からなくなっていた。自分の気持ちも、彼女の気持ちも。
あの時、あんなにも強く結ばれていると感じた二人の絆が揺らいでいた。

818逃飛行 9−3:2011/11/17(木) 19:56:11.07 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
819名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/17(木) 20:38:00.19 ID:???
今日も乙でした
820名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/17(木) 21:23:34.01 ID:???
乙〜
切ないな…
ラブラブ二人旅が懐かしい…
821逃飛行 9−4:2011/11/18(金) 20:27:50.27 ID:???
シンジは正面ゲートへ向かって歩いていた。どこでもいいから逃げ出したかった。ここにいたくなかった。
レイがゲンドウの許に戻った今、自分がここに留まる意味はない。だから人知れず姿を消そうと思った。
正面ゲートに着いたところで、シンジは愕然とした。
いくらカードを通しても、ゲートが開かない。恐らく、第一種警戒態勢のままなのだと悟った。
ここから逃げることも叶わず、進むべき道も今はもう見えない。
シンジは途方に暮れながら、来た道を戻った。
その道すがら、何人かの職員とすれ違った。皆一様に慌てている。だがシンジは気にも留めなかった。
最早シンジの疲労は極限まで達していた。全てがどうでもよくなっていた。
レイはシンジにとって、掛け替えのない存在だった。だけどそれももう失ってしまった。守るべき人はもういない。
シンジは重い身体と、空っぽな心を引き摺りながら歩いていた。その瞳に、カヲルと出会った自販コーナーが見えてきた。
惹かれるようにそこへ入りベンチに腰を下ろすと、両手で顔を覆った。
不意にカヲルが最後にくれた言葉が、微笑みと共に蘇る。
『君の幸せを、願ってるよ』
彼が願ってくれた幸せは、もう手の届かないところへ行ってしまった。自分には何も残っていない。ただ、自分の身勝手な願いのために、カヲルを犠牲にしたという事実が残っただけだ。
「……ふ……うっ……ううっ……」
シンジは嗚咽した。それがカヲルへの、せめてもの弔いのように。
その時、本部内に警報が鳴り渡った。しかしそれも、シンジには遠い世界のことのように思えた。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返す。総員、第一種戦闘配置』
また外で何かが起こっている。もう使徒はいないというのに。
「戦闘配置。エヴァに乗る準備をしなきゃ……」
頭では理解している。だけど身体に力が入らない。意志が働いてないみたいに。
それに、自分が今更エヴァに乗って何になるというのだろう。運命すら変えられない、ちっぽけな存在でしかないのに。
シンジは動かない。全てを諦めたフリをして。

822逃飛行 9−5:2011/11/18(金) 20:28:21.48 ID:???
レイは硬い床の上で目を覚ました。どうやら泣き疲れて、そのまま眠ってしまったようだ。
身体を起こしたレイは、自分の中の不可思議な部分が大きくなっていることに気付いた。
それで即座に悟った。とうとうその日が来たことを。
ずっと怖かった。早く自分の使命を全うして無へ還りたいと思う一方で、その日が来ることに漠然とした不安があった。それはシンジへの気持ちに気付いてから、益々膨らんで行った。
だけどもう終わり。自分は今日、無へと還る。
レイは立ち上がり、部屋の片隅に近づいた。そこには、逃亡中に持っていたバッグが置いてあった。
ネルフに連れ戻されてすぐ、第壱中学校の制服に着替えさせられた。服なんてどうでもよかった。どうせ消えてしまうのだから。
ただ一つレイが決めていたことは、その日が来たらシンジが買ってくれた服に着替えようと思っていた。
最後の瞬間を、彼がかわいいと言ってくれた服を着て、彼への想いを抱いて迎えたかった。
レイは制服を脱ぎ捨て、ワンピースに袖を通した。
『かっ、かわいいね! すごく似合ってるよ!』
朱い顔でそう言った彼の姿を思い出す。
レイは自分の身体を抱きしめた。シンジがくれた言葉を、想いを、温もりをその身に刻み付けるように。
人の気配を感じて振り返る。そこには予想通りゲンドウが立っていた。
「レイ」
ゲンドウがゆっくりと近づいて来る。
「さあ、行こう」
「……はい」

823逃飛行 9−5:2011/11/18(金) 20:31:16.46 ID:???
今日はここまでです。
あと七日くらいで終わります。
それではまた明日。
824名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/18(金) 20:36:08.57 ID:???
今日も乙でした
825名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/18(金) 21:51:21.03 ID:???
来るのかサードインパクト!
826名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/19(土) 00:12:10.29 ID:???
乙です。佳境に入ってきたね。
827逃飛行 10−1:2011/11/19(土) 20:22:23.72 ID:???
シンジはベンチに腰を下ろしたままずっと項垂れていた。
ネルフ本部に異変が起こっているのは、時折聞こえる銃声や爆発音で察知していた。
それでも、シンジの心には少しの細波も起こさなかった。それも当たり前だ。シンジの心はすでに干上がっていて、一滴の水すらないのだから。
(もういいや……。どうだって……)
たとえ死んだとしても、何も思い残すことはない。シンジは今自分を取り巻く現実から目を逸らし続けていた。
「何やってんのよ! こんなとこで!」
良く知った声に、ノロノロと顔を上げる。
「ミサトさん……」
「非常召集が聞こえなかったの!?」
ミサトはシンジの手を掴み引っ張った。
「さっ、行くわよ。初号機へ」
だがシンジは力無く崩れ落ちる。
「立ちなさい!」
「ダメなんです……。身体に力が入らないんですよ……」
ボソボソと呟くシンジの顔を、ミサトは覗き込んだ。
「今やらなきゃ、今までしてきた事が全て水の泡になるのよ!」
「もう、いいんです……。僕にはもう、エヴァに乗る理由がないんです……」
「アンタ、レイを守るんじゃなかったの?」
「僕は、綾波に捨てられた……。綾波は結局父さんを選んだんだ」
「何よ、それ……」
胸の中から何か不快なモノが迫り上がってくる。それを吐き出したくて、シンジは大声を上げた。
828逃飛行 10−1:2011/11/19(土) 20:22:59.89 ID:???
「僕には何も残ってない。カヲル君を殺してしまっただけだ! 僕に出来る事なんて何もない。大人の言うことに従うしかない、ただの子供なんだ!」
ミサトはシンジの胸倉を掴んで無理矢理立たせると、自動販売機に押し付けた。
「何甘ったれたこと言ってんのよ! 何の為にレイを連れて逃げたの? レイに消えて欲しくなかったからでしょ? アンタの気持ちってその程度のものだったの!?」
「違う! 僕はっ!」
「このままじゃサードインパクトが起きるの! レイが消えちゃうのよ! アンタそれを黙って眺めているつもり?」
「綾波が……消える……?」
その一言は、堅い殻に覆われた心に小さな亀裂を入れた。
「今ならまだ間に合うわ。あなたにはまだ諦めて欲しくないの。お願いシンジ君。希望の光を消さないで」
「でも……サードインパクトが起きるのが運命なら、僕が何をしても結局は変わらないんだ……」
「違うわ、シンジ君。運命は人から与えられるものじゃない。自分の手で掴み取るものなのよ」
心の亀裂が少しずつ大きくなって行く。
「どんなにカッコ悪くたっていいじゃない。最後の最後まで足掻きなさい。誰かのためじゃなく、自分自身のために」
ミサトはシンジの手を取った。
「あなた達の間に何があったかは知らない。聞くつもりもないわ。だけどね、シンジ君。人の気持ちは言葉にしなきゃ伝わらないのよ」
ミサトが言った言葉。それは短い旅の途中でシンジが辿り着いた答えだった。
829逃飛行 10−1:2011/11/19(土) 20:23:31.33 ID:???
レイが不器用に、それでも一生懸命伝えてくれた言葉を思い出す。
『あなたと話していると、私の中から知らない感情が湧いてくる』
『私は消えるのが怖い。だからあなたと一緒に行く』
『この手に触れていると、自分の心が分かる気がするの』
『私の心の真ん中に、碇くんがいるの』
『……うん、待ってる』
心に入った亀裂から水が湧きだし、渇きが急速に癒されて行く。
(そうだ。僕はまだ、綾波に何も伝えてない……)
シンジは顔を上げて、ミサトを見据えた。
「ミサトさん!」
シンジの瞳に光が灯ったのを感じ、ミサトが柔らかく微笑む。
その瞬間、本部全体に強烈な揺れが襲った。
「うわっ!」
ミサトはバッと上を見上げて呟く。
「奴らも無茶するわねぇ。加減ってものを知らないのかしら……」
それからシンジに向き直ると、一段と険しい顔で言った。
「シンジ君、迷ってる時間はないわ!」
「はいっ!」
二人は休憩所を飛び出して、ケイジに向かって走り出した。
途中で会った諜報部員にシンジを任せ、ミサトは発令所に戻って行った。
施設が揺れる度に転びそうになる。戦自隊員から銃撃も受けた。それでもシンジは必死に走った。あの時言えなかった一言を、想いを告げるために。
830逃飛行 10−1:2011/11/19(土) 20:24:02.59 ID:???
そんなシンジを待ち受けていたのは、ベークライトに固められた初号機の姿だった。
「……そ……んな……」
異様とも言えるその姿に、シンジはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……こんなの……ないよ……」
エヴァに乗れなかったら、何も意味がないのに。
『アンタそれを黙って眺めているつもりなの!?』
「……嫌だ」
頭を強く振ってキッと前を睨むと、柵に駆け寄り大声を上げた。
「動いてよ! 綾波に伝えたい事があるんだ! 今言わなきゃダメなんだ! もう流されてばかりは嫌なんだよ!」
柵を持つ手が震える。それでもシンジは声の限り叫んだ。自分の幸せを、その手で掴むために。
「もしかしたら彼女は本当に僕より父さんを選んだのかもしれない。でも、それでもいい! 今度こそ綾波を自分の手で守りたいんだ! だから……」
段々と視界がぼやけてくる。だがシンジは初号機から目を離さなかった。
「お願いだから動いてよ、母さんっ!」
地響きと共にケイジが揺れ始めた。固まったベークライトを割るように、初号機の腕がシンジの許へ伸びる。
シンジはそれを、ただジッと見上げていた。

831逃飛行 10−1:2011/11/19(土) 20:24:28.63 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
832名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/19(土) 20:42:46.28 ID:???
乙ですー
シンジの想いに涙が出たよ
833名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/19(土) 20:50:10.99 ID:???
今日も乙でした
834逃飛行 10−2:2011/11/20(日) 20:04:06.06 ID:???
レイはゲンドウと共に、白い巨人の前に立っていた。
二つに分けられた、もう一人の自分。還るべき場所。レイはそれを、見るともなく無感動に見上げていた。
「初号機が動き出したな」
ゲンドウの言うとおり、微細な震動を感じた。彼がもう一度エヴァに乗っている? 彼にはもうエヴァに乗る理由なんて無いはずなのに。
(……どうして?)
思案の波に飲まれそうになり視線を下げると、金髪に白衣姿の女性がゆっくりと立ち上がるのが目に映った。
(赤木博士……?)
「お待ちしておりましたわ」
リツコはこちらを振り返ると、ポケットから小型の拳銃を取り出して、ゲンドウに向けた。
「ごめんなさい。あなたに黙って先程マギのプログラムを変えさせて頂きました」
リツコは静かに目を閉じ、天を仰いだ。
「娘からの最後の頼みよ。母さん、一緒に死んでちょうだい」
ポケットに入れたままの手が微かに動く。レイはその様子を、悲しげに見ていた。
「作動しない? 何故!?」
端末を取り出し、画面を見たリツコの顔が驚愕に歪む。
「あっ……カスパーが裏切った!? 母さんは娘より自分の男を選ぶのね……」
カチリという音に横を向くと、ゲンドウが銃口をリツコに向けていた。
835逃飛行 10−2:2011/11/20(日) 20:05:05.70 ID:???
「赤木リツコ君。本当に……」
「ダメっ!」
レイは反射的に飛び出していた。何故そうしたのか分からない。気がついたら身体が勝手に動いていた。
「やめてください。碇司令」
「レイ、退け」
「嫌です」
背中越しにリツコが息を呑むのが分かる。
「どうして私を庇うのっ!?」
「分かりません。でも、赤木博士には死んで欲しくないんです」
「私に同情しているとでも言うつもり?」
「違います。ただ、私も赤木博士と同じ気持ちになった事があるからかもしれません」
嫉妬という感情は黒く醜い。そんなこと身をもって知っている。だけど自分と違い相手に感情をぶつけるだけ潔いと思う。
「お願いです、赤木博士。死なないでください」
「あなたは、私が憎いんじゃないの……?」
836逃飛行 10−2:2011/11/20(日) 20:07:16.31 ID:???
リツコがぽつりと呟く。その声は、今までレイが聞いた事がない弱々しい声だった。
「いいえ。私は、赤木博士を同じ女性として尊敬しています」
「……バカね……あなたって子は……。本当に……」
背後でリツコが泣き崩れたのを感じる。ふと気づくと、ゲンドウの手から拳銃が無くなっていた。
「碇司令……?」
「私に殺す理由はない」
「ありがとうございます」
レイはゲンドウに頭を下げてからリツコに近づいて行った。
「赤木博士……」
床に伏して身体を震わせているリツコの背中に、レイは一瞬躊躇ってから手を置いた。
「レイ……」
次の瞬間レイは抱き竦められていた。興奮のせいか、若干体温が高い。レイはそれを心地好いと感じていた。
「ごめんなさい……レイ……」
レイはリツコの腕の中でかぶりを振った。
「いいんです。もう、気にしてませんから」
「……うぅっ……」
リツコの背中に手を回すと優しく撫でた。その痛みを少しでも癒せるように。

837逃飛行 10−2:2011/11/20(日) 20:07:54.07 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
838名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/20(日) 21:21:41.22 ID:???
今日も乙でした
839名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/20(日) 21:24:20.24 ID:???
レイ優しいなあ
いい娘だべ
シンジ早くゲッツ!(意味不明)
840名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/20(日) 23:05:15.91 ID:???
ヤバいね、乙です。
あともう少しかあ。
もっと続いてほしいような、結末を早く見たいような、
841逃飛行 11−1:2011/11/21(月) 20:00:03.06 ID:???
通常の手順を一足飛びにして起動した初号機は、ジオフロントに向けて移動していた。その中でシンジは、ケイジへ向かって走っている途中で聞いたミサトの言葉を反芻した。
『私達もリリスと呼ばれる生命体から産まれた十八番目の使徒なのよ』
『エヴァを使ってサードインパクトを起こすつもりなんだわ』
『エヴァシリーズを全て消滅させるのよ。それしか生き残る手段はないわ』
(サードインパクトは絶対に僕が止める!)
シンジが決意を新たにした時、ジオフロントに出た。その瞳に映ったのは、佇む弐号機と、それを嘲笑うかのように上空を旋回する九体の白いエヴァの姿だった。
「あれが、エヴァシリーズ……」
弐号機と合流するため、ジオフロント内を駆ける。その途中、弐号機に向かって呼び掛けた。
「アスカ、大丈夫?」
『おっそいわよ、バカシンジ!』
「ごめん……」
以前と変わらぬ物言いに、シンジは苦笑した。その時突然、発令所から通信が入った。
『二人共、良く聞いて』
声の主はさっき別れたミサトだった。
「ミサトさん、無事だったんですね!」
『あったり前でしょ! 戦自ごときにやられるわけないじゃない!』
後ろに銃声が響いている。恐らく発令所も戦場となっているのだろう。
842逃飛行 11−1:2011/11/21(月) 20:00:48.32 ID:???
焦れたアスカが割って入る。
『それで? 命令は?』
『エヴァシリーズを必ず殲滅して』
アスカは大袈裟に溜め息を吐いた。
『ったく、ミサトも病み上がりに軽く言ってくれるわね』
『二人共、信じてるわよ』
『リョーカイ』
背中合わせに立つ初号機と弐号機を取り囲むエヴァシリーズ。そのフォルムに、生理的嫌悪を感じる。
『いい? シンジ。アタシが五匹。アンタはそっちの四匹を頼むわ』
「でも、アスカはまだ本調子じゃないんじゃ……」
『ガタガタ言わない! じゃ、行くわよ』
弐号機が駆け出す。それに合わせて、シンジも目の前の一体に狙いを付けた。
「うおおおおおっ!」
飛び上がって膝蹴りを噛ます。意表を突かれたのか、顔面にモロに決まった。そのまま地面に倒れ込み、頭部を潰す。
「あと三体!」
気配を感じて上を見上げると、一体のエヴァが剣を振りかざして襲ってくる所だった。
横にかわして体勢を立て直してからプログナイフを取り出す。
予想よりも相手の動きが鈍い。これなら何とかなるかもしれない。
ナイフを持ったままもう一体に突進する。それを首に突き立て、横に薙ぎ払う。
「ぐっ……!」
その瞬間、背中に衝撃が走った。一瞬呼吸が止まりそうになる。それを堪えて振り返った。
843逃飛行 11−1:2011/11/21(月) 20:02:08.41 ID:???
腕を振り上げて頭にナイフを突き刺そうとした。だがそれは相手の剣に当たり、根元から折れた。
「くそっ!」
一旦後ろに飛び退いて、間合いを取る。
「……はぁっ……はぁっ……」
近くにあった剣を掴んで突っ込む。
「うわああああっ!」
剣を振り下ろし、袈裟懸けに斬り付ける。白いエヴァがその身を深紅に染めながら、ゆっくりと崩れて行く。
「あと一つ!」
さながらダンスのようにターンして剣を振るう。それは残りの一体の脇腹にヒットして、アッサリと二つに千切れた。
その途端、ミサトから通信が入る。
『シンジ君、弐号機の活動限界が近いわ! 救援に向かって!』
「はいっ!」
弐号機の方へ目を向けると、最後の一体と対峙していた。
急いで弐号機の所に向かう。あと少しの所で、背後から何かが近づいている気配を感じ、振り向きざまにA.T.フィールドを展開する。
エヴァシリーズの持っていた剣が、A.T.フィールドに阻まれ空中で静止している。ホッと息を吐いた刹那、剣は二股の槍に姿を変えた。
「ロンギヌスの槍!?」
驚愕に目を見開いた。槍は瞬く間にA.T.フィールドを侵蝕していく。そして呆気ない程簡単にA.T.フィールドを突き破った槍は、真っすぐに初号機の左手に刺さった。
「うあああああああああああっ!」
左手を襲う強烈な痛みに、意識が飛びそうになる。
『シンジ君っ、大丈夫っ!?』
取り乱すミサトの声が聞こえる。だがシンジに返事をする余裕はなかった。
ミサトとは別の震える声が、最悪な状況を告げる。
844逃飛行 11−1:2011/11/21(月) 20:02:46.25 ID:???
『弐号機、活動限界……。何……これ……。倒したはずのエヴァシリーズが……』
マヤの言葉に、痛みを堪えながら顔を上げる。その眼前では、殲滅したはずのエヴァシリーズが、初号機を取り囲んでいた。
「なっ……んで……」
目の無いエヴァシリーズが、口元だけでニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。
「ちきしょう……」
シンジは歯噛みした。心の奥底から激情が湧き上がってくる。
「お前らなんかにっ……負けて……たまるかああああっ!」
シンジの叫びに呼応するかのように、初号機も雄叫びを上げる。それと同時に、背中の装甲を破って、四枚の金色に光る翼が生えた。
覚醒した初号機に引き寄せられ、遥か彼方から何かが近づいて来る。
『いかんっ! ロンギヌスの槍か!』
いつもの冷静さを欠いたコウゾウの声が聞こえた。
血の色をしたロンギヌスの槍は、初号機の喉元にピタリと止まる。初号機はまるで戦意を喪失したように、一切の活動を停止した。
それが合図だった。九体のエヴァシリーズは白い翼を広げ、初号機のもう一方の手に槍を突き刺した。そして、初号機の翼を口に啣えると、空高く舞い上がった。
シンジはプラグの中で、必死にレバーを動かし続けていた。だが初号機は全く反応しない。
「何で動かないんだよっ!」
レバーに拳を叩き付け、口唇を噛み締めた。あまりに強く噛んだため、口唇が切れて一筋の血が流れ落ちる。
「ちくしょう……」
シンジの心に、少しずつ絶望が忍び寄って来る。
「ちくしょおおおおおおっ!」

845逃飛行 11−1:2011/11/21(月) 20:03:57.16 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
846名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/21(月) 20:35:32.54 ID:???
今日も乙でした
847名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/21(月) 23:31:19.46 ID:???
来るのか来るのか!?
848名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/22(火) 00:40:20.83 ID:???
いつもながら乙です。
849逃飛行 11−2:2011/11/22(火) 20:17:14.55 ID:???
抱きしめられたまま、レイはずっとリツコの涙を受け止めていた。
気丈に見えたリツコがこんなに脆い人だったことを、レイは初めて知った。
ずっと傍にいたのに、知らない事が沢山ある。いかに自分が周りを顧みてこなかったかが良く分かる。
「レイ」
ゲンドウが静かにレイを呼んだ。
「……はい」
立ち上がろうとしたレイを、リツコは引き寄せゲンドウから隠すようにした。それはさながら我が子を護る母親の姿に見える。
「赤木博士……?」
「碇司令。レイをどうなさるおつもりですか?」
リツコが掠れた声で問い掛けた。
「何かする気は毛頭ない」
ゲンドウの意外な答えに、レイの方が面食らった。
「……どうして?」
ゲンドウの願いは、自らの補完だったのではないのか?
レイの問い掛けにゲンドウは、今までたった一人にしか見せたことが無いであろう、穏やかな表情を浮かべた。
「それがシンジとの約束だからだ」
いつも通りの素っ気ない言葉。だがその中には、我が子への愛情が満ち溢れていた。
それはレイが初めて見た父親としての姿だった。
レイは唐突に悟った。ゲンドウが本当に求めていたのが誰だったのか。
(そう……。碇司令が私を通して見ていたのは、碇くんだったのね……)
850逃飛行 11−2:2011/11/22(火) 20:18:31.16 ID:???
その瞬間シンジの絶叫が耳に届き、ハッとして顔を上げた。
(碇くん……!)
ジオフロントにいるはずのシンジの声が聞こえるわけがない。だけど自分の本能が告げている。彼の身に、何か悪い事が起こっていると。
それと同時に、シンジの心も感じた。自分を求める彼の心。
あんなに傷つけた自分を、彼は必要としてくれている。それだけで、空っぽだった心が急速に満たされていく。
(……行かなきゃ)
おもむろに立ち上がり、後ろを振り返る。そしてずっと目を逸らし続けていたもう一人の自分と向き合った。
「……行くのか?」
ゲンドウの問い掛けに、レイはゆっくりと頷いた。
「お前は、それでいいんだな?」
「サードインパクトが発動しかけている以上、そこに介入出来るのは、リリスである私だけですから」
「そうか……」
ゲンドウはレイに近づいて来ると、白い手袋を外した。そこには痛々しい火傷の跡があるだけだった。
「シンジを、頼む」
レイは今までシンジにしか見せたことのない笑顔でしっかりと頷いた。
「はい」
もう一度リリスに向き直り、身体の力を抜いた。引き寄せられるように、身体が浮き上がって行く。
頭の中にリリスの声が響いた。
『オカエリナサイ』
しかしレイは何も答えず、目を閉じてシンジの姿を思い浮かべた。
(待ってて、碇くん。今行くから……)
身体が消えて失くなるその瞬間まで、レイはずっとシンジの事を想っていた。

851逃飛行 11−2:2011/11/22(火) 20:19:08.28 ID:???
今日はここまでです。
それではまた明日。
852名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/22(火) 20:41:08.32 ID:???
今日も乙でした
853名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/22(火) 21:52:32.12 ID:???
乙です
やっぱりリリスにかえるのか
でもようやく再会できるな
ドキドキ
854名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/22(火) 22:21:07.79 ID:???
良いところで切るなー。楽しみ。
855名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/22(火) 23:30:11.19 ID:???
SSでゲンドウがいい人に書かれるとは珍しいですな

乙です
856名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/23(水) 19:44:18.90 ID:???
まだかなまだかな
857逃飛行 11−3:2011/11/23(水) 20:27:20.59 ID:???
シンジは肩で息をしながら、目の前の現実を直視出来ずにいた。
サードインパクトが既に起こっている事。そして、その中心に自分がいるという耐え難い事実を受け止める事など、到底不可能だった。
槍で刺されたままの手は黒ずみ、痛みはとっくに限界を超えていた。最早、感覚すら無い。
不意にズボンのポケットに何か入っている事に気付いた。覚束ない手つきで取り出してみると、それはムーンストーンのペンダントだった。
いつポケットに入れたのか記憶に無い。そういえば部屋に包み紙が散らばっていた気がする。
シンジは入らない力を無理矢理込めて、ペンダントを両手で握り締めた。
「……綾波……ゴメン……」
シンジは恨んだ。ちっぽけな願いさえ叶わないこの世界と、何も出来ない自分を。
今やシンジの心は、絶望で埋め尽くされそうになっていた。これが彼女を信じられなかった罰なら、自分は何て取り返しのつかないことをしてしまったんだろう。
それでもシンジは願っていた。この世界が終わる前に、もう一度だけ彼女に逢いたいと。それがシンジに残された最後の希望だった。
そう心に強く思った時、地上からとても異質なモノが近づいて来る気配がした。怖いと感じる一方、どこか安らぎを感じた。自分はこの感覚を良く知っている。
(まさか……)
思い当たって顔を上げた途端、シンジの視界が白一色に染まる。一見すると分からないが、それは人のカタチをしていた。
良く見知った顔立ちは、シンジが最も逢いたい人と同じだった。シンジはそれを期待と不安の入り混じった眼差しで見つめた。
「綾波……?」
シンジの呟きに反応して、閉じていた瞳を開いて微笑む。その顔は夢にまで見た微笑みと一緒だった。
「綾波……そこに、いたんだね……」
微笑みながら手を伸ばすシンジとシンクロするように、リリスが両手で初号機を包み込む。
彼女とひとつになるような暖かい感覚に、シンジは目を閉じて自分の全てを委ねていった。

858逃飛行 11−3:2011/11/23(水) 20:28:39.00 ID:???
今日はここまでです。
あと二回で終わります。
それではまた明日。
859名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/23(水) 23:23:00.71 ID:???
いよいよ佳境ですね!
860名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/24(木) 01:36:22.61 ID:???
今日も乙です
もうすぐ終わっちゃうなんて寂しい
861名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/24(木) 01:49:10.51 ID:???
乙です。あと二回か、幸せになってほしいね。
862逃飛行 12−1:2011/11/24(木) 20:03:01.63 ID:???
水滴の落ちる音に気づいて、シンジは目を覚ました。立ち上がって周りを見渡す。
「ここは……」
何もない真っ白な空間。なのに不思議と落ち着く。
「リリスの中よ」
突然掛けられた声に驚いて振り返ると、あのワンピースを着たレイが立っていた。
「綾波……」
込み上げる嬉しさを抑えられずに、レイは顔を綻ばせた。
「やっと……逢えたね……」
シンジはレイを、万感の想いで見つめた。
「これが、補完計画だよね?」
「そう。サードインパクト、そして人類補完計画。まだ始まりに過ぎないけど……」
「やっぱり父さんは、約束を守ってくれなかったの?」
シンジの問い掛けに、レイは首を振った。
「碇司令は何もしなかった。それが碇くんとの約束だからって」
「それじゃ、どうして……」
「私は自分の意志でリリスに還ったの」
「何で……そんな……」
レイの意外な言葉に、シンジは愕然とするほかなかった。
「私は碇くんを守りたかった。でも人の身体では、それが叶わないと思ったの」
「ごめん……。僕のせいで……」
シンジの頬に涙が伝う。
「いいの、碇くん。私、嬉しかったから」
そう言ってレイが微笑む。
「碇くんが守るって言ってくれたこと。私を連れて逃げてくれたこと。全部、嬉しかった」
「綾波……」
「碇くんと過ごした四日間、私は幸せだった。今までの人生の中で、一番幸せな時間だったの」
レイの瞳から涙がこぼれる。シンジは優しく抱きしめた。
「僕もだよ……」
たった十四年の人生。だけど今までの人生であの日々が一番幸せだったと、心から言える。
誰よりも大事な人と、お互いの事だけを想っていられた大切な時間だった。
863逃飛行 12−1:2011/11/24(木) 20:03:53.41 ID:???
「綾波……」
「なに?」
「僕、綾波に言ってないことがひとつだけあるんだ」
シンジは少しだけ身体を離し、レイの紅い瞳を見つめた。
「僕は……綾波が好きだ」
レイの瞳から新しい涙が溢れ出す。
「ようやく……言ってくれた……」
「待たせて、ゴメン……」
レイがかぶりを振って微笑む。
「私も、碇くんが大好き」
ふと握り締めていたある物に気付き、シンジはそっと手を開いた。
「綾波、これ……」
それはレイにプレゼントするつもりだった、ムーンストーンのペンダント。
「私……に……?」
シンジが頷くと、恐る恐る手に取ったレイはそれを首から下げた。そしてそのままシンジをじっと見つめる。
照れ臭そうに鼻を掻いたシンジは、はにかんで言った。
「かわいいね。すごく、似合ってるよ」
あの時、散々悩んだ挙げ句言った一言を、こんなにあっさり言えた自分を、褒めてあげたい気分だった。
幸せそうに笑っている彼女の頬に手を添えて、瞳の中を覗き込む。
シンジの意図に気付いたレイが、静かに瞳を閉じた。その睫毛が微かに震えている。いや、震えているのは自分の方かもしれない。
シンジがゆっくりと顔を近付けていく。そして二人は口づけを交わした。
彼女との最初で最後のキス。もう一生、こんなに幸せで、こんなに悲しいキスはきっと出来ない。
864逃飛行 12−1:2011/11/24(木) 20:04:27.73 ID:???
口唇を離すと彼女は笑った。涙に濡れていたけど、今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「私も、碇くんに秘密にしてることがあるの」
すぐに思い当たった。「秘密」そう言った彼女の恥ずかしそうな微笑みが脳裏に浮かぶ。
シンジはあの時と同じ台詞を口にした。
「綾波、五度目はどう思ったの?」
「五度目は、愛しいと感じた。この手に、もっと触れていたいと思った」
レイの答えにシンジは、今出来る一番の笑顔で応えた。
「……ありがとう」
手を差し出すと、レイはそっと握り返した。その瞬間、シンジの身体が離れていく。
「もう……逢えないのかな……?」
レイは首を横に振った。
「あのね、碇くん。私は希望なの」
「希望……?」
レイの姿が段々遠くなっていく。
「そう、希望。人は『好き』という一言で分かり合えるかもしれないってこと」
「うん……。わかった」
「碇くん、忘れないで。私はずっと碇くんと一緒にいるから」
「ずっと忘れないよ。綾波のこと」
遥か彼方に見えるレイが、笑った気がした。
「さよなら、碇くん……」

865逃飛行 12−1:2011/11/24(木) 20:06:00.74 ID:???
今日はここまでです。
明日は最終回です。
それではまた明日。
866名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/24(木) 20:46:47.39 ID:???
明日の最終回、心してお待ちしております
867名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/24(木) 21:54:56.48 ID:???
乙です〜
いよいよ最終回か…
二人の幸せを祈ってるよ
868逃飛行 最終回:2011/11/25(金) 20:01:03.98 ID:???
シンジが目を覚ますと、そこには見慣れた病室の天井があった。
(帰ってきたんだ……。現実に)
独りでここにいること。それが自分の現実。
「シンジ」
声のする方へ顔を向けると、ゲンドウがすぐ傍に座っていた。
「父さん……」
シンジは少しだけ身体を起こした。
「……すまなかったな、シンジ」
ゲンドウはそれだけ言うと、立ち上がって歩き出した。
「父さん!」
ゲンドウが足を止める。だが、シンジの方を見ようとはしなかった。
「何だ」
「僕、父さんのこと好きだよ」
「……そうか」
ゲンドウはそのまま振り返らずに病室を出て行った。
シンジはベッドに身体を横たえると、目を閉じた。
『人は『好き』っていう一言で分かり合えるかもしれない』
(これでいいんだよね? 綾波)
胸が鈍く痛んだ。それを、口唇を噛んで堪える。
初めて愛した人との別れ。それはシンジの心を深く傷つけた。だけどこの痛みも、いつかは癒えると素直に思えた。
869逃飛行 最終回:2011/11/25(金) 20:01:50.49 ID:???
不意に扉が開いて、ミサトが入ってきた。その顔いっぱいに笑みを浮かべて。
「シンちゃん、具合はどう?」
慌てて涙を拭くと、身体を起こした。
「特に問題ないです」
「そう。それなら良かった」
「ミサトさん、何かいい事あったんですか?」
ミサトはベッドの脇にある丸椅子に座ると、更に顔を綻ばせた。
「そりゃあ、サードインパクトは回避されたし、シンちゃんは無事に戻ってきたしね」
ミサトの言葉に、シンジは驚きを隠せなかった。
「サードインパクト、回避されたんですか?」
「え、ええ……。シンジ君、知らなかったの?」
「はい……」
ミサトが眉根を寄せる。
「おっかしいわね〜。司令が伝えるって言ってたのに……」
「父さんからは、何も聞いてません」
「ふ〜ん。司令もわかんない人ねぇ」
「あの……、あれから何があったんですか?」
ミサトは真面目な顔をすると、穏やかな声で尋ねた。
「シンジ君は、どこまで覚えてるの?」
シンジはシーツを握り締めて、苦しそうに言った。
「巨大な綾波が目の前に来たところまでしか覚えてないです」
「そっか……」
870逃飛行 最終回:2011/11/25(金) 20:02:26.39 ID:???
ミサトは静かに目を伏せた。
「あの後、リリスは初号機を取り込んでしまったわ。それから暫くは何も起きなかった。でも急にリリスの胸から初号機が出てきたの」
「リリスは、どうなったんですか?」
「同化を始めていた量産機と共に、光になって消えていったわ」
「光に……」
あまりに彼女らしいと思った。彼女は、まさに希望の光となったわけだ。
「シンジ君。あの、レイは」
「僕は綾波に約束しました。絶対に守るって。なのに守られていたのは、最後まで僕の方だったんです」
「シンジ君……」
「ミサトさん、僕は綾波のために何か出来たんでしょうか? 綾波は命を懸けてまで、僕を守ってくれたのに……」
シンジの瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出す。
ミサトは両手で、シーツを握り締めているシンジの手を包んだ。
「ねぇ、シンジ君。私はレイじゃないから本当の事は分からない。だけど、レイが望んでいるのはシンジ君の涙じゃなく、シンジ君の笑顔だと思うの」
「ミサトさん……」
「大丈夫。シンジ君の気持ちは、きっとレイに届いているわ」
ミサトが労るように微笑む。シンジは病院着の袖で涙を拭ってから、ぎこちなく笑った。
「綾波は自分のことを希望だって言ってました。だから、僕が希望を失わないかぎり、ずっと僕の中で生きてます」
「そうね……」
ミサトは立ち上がって、優しく微笑んだ。
871逃飛行 最終回:2011/11/25(金) 20:02:55.38 ID:???
「じゃあ、私からシンジ君に、もうひとつ希望をプレゼントするわね」
シンジが訝しんで首を傾げると、ミサトは扉を開けた。
「ホラ、入りなさい」
ミサトに促されて、恥ずかしそうに微笑んだレイが姿を見せた。
「あっ、綾波! なっ……」
シンジは絶句するしかなかった。そんなシンジを、ミサトがニヤニヤしながら見ている。
「それは私が説明するわ」
レイの後ろからリツコが現れた。その顔は、どこかすっきりとしたように見える。
「恐らくレイは自我を持ったままリリスに還った。そしてリリスに取り込まれた後も、自我を失わなかったのよ」
シンジはリリスの中でレイと逢ったことを思い出した。
「だからリリスが光になった後、レイの自我だけが残った」
「でも、綾波の身体は?」
シンジは、もじもじしているレイを横目に見ながら問い掛けた。
「リリスが再構成したものだと思うわ」
「リリスが……?」
「まあ、これは私の仮説よ。本当のことは誰にも分からないもの」
リツコはミサトに目配せした。ミサトもそれに気付き、扉の方へ歩いて行く。
「そうそう、シンジ君。ひとつだけ言い忘れていたわ」
リツコが振り返って、柔らかな表情を向ける。
「二人とも、幸せになるのよ」
そう言うと、リツコはミサトと一緒に病室を出て行った。
扉が完全に閉まるのを見届けてからベッドを降りて、レイに近づいた。
「碇くん……」
レイがまっすぐにシンジを見つめる。
「綾波。もう二度と、別れ際にさよならなんて悲しいこと言うなよ」
「……うん。約束するわ」
レイが幸せそうに微笑む。その笑顔を永遠に守っていくと、シンジは誓った。


(終わり)

872逃飛行 最終回:2011/11/25(金) 20:14:01.63 ID:???
今日で終わりです。
ここまで読んで下さった皆様に感謝します。私がこの話を完成出来たのも、皆様の暖かい励ましのおかげだと思っています。
ありがとうございました。

裏話を少々。
この話を書くにあたり、まず初めにラストから書き始めました。その時に書いたラストは、実は悲恋だったんです。
シンジがミサトに言った言葉「僕が希望を失わないかぎりずっと僕の中で生きてます」これがラストになる予定でした。
それを無理矢理ハッピーエンドに変えた理由は、書いている自分自身が悲しくなったからです。
どんなに二人の距離が近づいても、最後は離れ離れになってしまう。そう思うと、悲しくて何も書けなくなりました。
それを解消するために、違う可能性を模索したのが今のラストです。無理にハッピーエンドにしたので、かなり唐突な上ご都合主義のような終わり方になってしまいました。
でも私自身はこのラストに満足しています。どうしても二人には幸せになって欲しかったので。

それと二人が行った場所で、実際に自分が行ったことのある所は、第二東京である松本市だけです。その他の場所は、ネットで得た情報と自分の想像です。

最後にもう一度読んで下さった皆様に御礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
873名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/25(金) 20:24:01.93 ID:???
今までどうも乙でした
そして楽しませてくださいまして
本当にありがとうございました
874名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/25(金) 20:38:03.32 ID:???
乙乙乙乙乙
よかったよー
875名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 00:41:23.76 ID:???
乙です!
良かったですよ。
楽しませてもらいました!
ありがとう。
気が向いたら後日談とか見たいな、、、
876名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 00:48:11.99 ID:???
>>875
一応おまけを書いたので、明日にでも投下します。
877名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 06:50:34.52 ID:???
乙です
いゃあよかった
878名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 15:08:41.49 ID:???
乙です。ハッピーエンドでよかった良かった。
後日談お待ちしております
879逃飛行 オマケ:2011/11/26(土) 19:55:08.06 ID:???
シンジとレイは、琵琶湖沿いに延びる県道に立っていた。もうする必要の無い変装をして、同じバッグを持って。
ここは二人にとって最初の悲劇が起きた場所。二人は敢えてそこへやって来た。ここから新たなスタートを切るために。
二人は悲劇が起きる直前と同じようにしっかりと手を繋ぎ、あの日乗り損ねたバスを待っていた。
「向こうには何時くらいに着くかな?」
シンジはレイの胸元で揺れるペンダントを見つめながら言った。二人が目指すのは、兵庫県姫路市。あの時行くはずで、辿り着けなかった場所。
「何時でもいいじゃない。あてがあるわけでもないし」
「うん、そうだね」
レイが幸せそうに笑うのを見て、シンジも微笑みを返す。
「ところで碇くん。泊まる所はどうするの?」
「えっと、綾波はちゃんとした所に泊まりたいよね?」
「別にどこでも構わないわ。碇くんと一緒なら」
前に聞いた台詞とは少し違う言葉。あの時とは自分達の関係も状況も全く違っている。
途中で終わってしまった旅を再開したいという我が儘を、ネルフの面々は慌ただしい時期だというのに快く許してくれた。自分達に対するせめてもの罪滅ぼしのつもりなのかもしれないけど、シンジは深く感謝した。
「碇くんは、普通の所に泊まりたいの?」
「えっ! あ、いや……僕は……その……」
しどろもどろになるシンジを、レイは上目遣いで見つめる。
「どうなの?」
880逃飛行 オマケ:2011/11/26(土) 19:55:34.07 ID:???
シンジは内心焦っていた。前の時は仕方なくああいう所に泊まっていただけで、進んで入りたい場所ではない。今回は別に追われているわけじゃないから、普通のホテルに泊まる事も出来る。
それにあんな狭い部屋で二人きりになったら、今度こそ自分の理性を保つ自信が無い。もちろん彼女とそうなりたい気持ちはある。晴れて恋人同士と呼ばれる関係になったのだから、誰に気兼ねする必要も無い。
だけど自分達はまだ中学生。そういうことをするのはまだ早い気がする。
シンジが泡を食っていると、ちょうどバスがやって来るのが遠くに見えた。
「あっ、綾波。バス来たよ」
レイはシンジに分かるくらいの盛大な溜め息をつくと、ジト目でシンジを睨んだ。
そんなレイにシンジは引き攣り笑いをするしかなかった。
(はぁ……またやっちゃったよ……)
自分の態度が原因で彼女を怒らせるのは前にもあった。自分は同じ事を繰り返している。
(結局、僕って成長してないんだな……)
あんなことを経験しても成長しない自分が情けない。だけど自分も変わりたいと思うし、変われると思う。生きるっていうことは、変わることだから。
「あの、綾波……」
「……何?」
やっぱり素っ気ない返事。彼女もあの時と全く変わらない。でも二人で一緒に少しずつ変わっていけばいい。時間はたくさんあるのだから。
シンジは繋いだ手を引っ張りレイの身体を引き寄せると、耳元で囁いた。
「好きだよ」
見る見る内に朱くなったレイがポツリと呟く。
「……碇くんの、バカ」
シンジは朱くなった顔のまま笑った。
「行こう、綾波」
レイが大きく頷く。
そして二人は新しい一歩を踏み出した。

(終わり)

881逃飛行 オマケ:2011/11/26(土) 20:02:51.78 ID:???
二人の後日談です。
その後二人がどうなったのか…私も知りません(笑)
万が一質問等ありましたら、聞いて下さい。
それではまたいつか。
882名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 20:48:50.67 ID:???
終わり方が唐突でもう少し伸ばしてほしい気もしたが…
でもいい
とにかく乙!

あと「奥の細道」みたいに
日本全国をこのカップルで旅させてほしい!
とか言ってみる

とにかく大変楽しませてもらいました。
ありがとうございます。お疲れ様でした!
883名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 21:42:11.36 ID:???
今日も乙でした
これで最後なんですね
淋しい気もしますが、今までありがとうございました
884名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 22:20:06.93 ID:???
後日談が!
乙です!良かったですよ。
二人に幸あれ。
また暇あったら書いてください。
885名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/26(土) 22:20:20.41 ID:???
乙でした
ハッピーエンドでよかった
楽しませてくれてありがとうございます
二人の旅のつづきも見てみたいな〜
886名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/27(日) 01:31:43.79 ID:???
完結までお疲れ様でした。マジで乙です。
二人は無事に結ばれ、よかったです。本当に良い物語でした。
887名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/28(月) 00:04:12.55 ID:???
完結まで書き切ったってのが何より素晴らしいことだと思う
888名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/28(月) 00:49:16.02 ID:???
皆様有り難いお言葉ありがとうございます。
これからも精進して参りますので、また投下した際はどうぞよろしくお願いいたします。
889名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/28(月) 20:52:20.12 ID:???
とても良かったです。
まとめてどっかに投稿とかしないんですか?
890名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/28(月) 21:33:00.82 ID:???
>>889
どこかのサイトに投稿というのはあまり考えてなかったです。
この先もあるかどうか微妙です。
891名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/29(火) 08:18:57.81 ID:???
というか今機能しているLRSサイトって綾幸か綾展か…
892名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/11/29(火) 23:51:54.54 ID:???
ド素人の私には綾幸も綾展も恐れ多くて…
893名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/04(日) 21:24:41.34 ID:???
これだけのクオリティーなら拒絶はされないと思うよ
894名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/06(火) 11:48:13.18 ID:???
同意
895名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/09(金) 19:15:22.71 ID:???
逃飛行を投稿していた者です。
この話をどこかのサイトに投稿する勇気がなかったので、自分のサイトを立ち上げる事にしました。
色々書き込みして頂いた皆様、ありがとうございました。
896名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/10(土) 04:04:12.36 ID:???
アドレスは?
897名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/10(土) 08:05:08.30 ID:???
>>896
アドレスは取得済みですが、まだ制作途中なのでオープンしたらお知らせします。
とは言ってもそっちの方も初心者なので、まだもう少しかかります。
898897:2011/12/11(日) 21:09:56.57 ID:???
まだ暫定的でありますが、サイトをオープンしました。
アドレスは
ttp://www1.ocn.ne.jp/~namitsuki
です。
よろしければ遊びに来て下さい。
899898:2011/12/11(日) 22:19:16.96 ID:???
アドレスに間違いがありました。
正しくは
ttp://www1.ocn.ne.jp/~namituki/
でした。
900名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/11(日) 23:35:02.73 ID:???
サイト開設乙&おめでとう。
これからも頑張ってくださいね。
901名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/12(月) 13:59:12.18 ID:???
>>899
乙です。作品楽しみにしてます( ̄^ ̄)ゞ
902名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/18(日) 18:36:58.62 ID:???
ブックマークした
今後の活躍に期待する
903名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/26(月) 07:46:54.74 ID:???
良スレあげ
904名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/27(火) 23:17:03.08 ID:???
また新しいLRSサイトが出きるのは良いことだ
905名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/31(土) 12:57:22.55 ID:???
新しい人が入ってくることは大切だしね
906名無しが氏んでも代わりはいるもの:2011/12/31(土) 21:26:05.58 ID:???
綾幸にも新人さんが入ってきてるし、盛り上がっていくかもね
907名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/01/09(月) 22:25:48.40 ID:???
投下まち(;´д`)
908名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/01/16(月) 22:47:53.18 ID:???
イタモノの定義って何だと思う?
909名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/01/17(火) 23:32:27.03 ID:???
心が痛くなるものではだめか
910名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/01/19(木) 04:39:34.65 ID:h+bQzsP6
キチガイ朝鮮猿小手川竜郎ブチ殺すぞ
911名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/04(土) 07:58:20.61 ID:???
誰か投下して〜(´Д`)
912夏厨:2012/02/09(木) 00:54:18.98 ID:???
てs
913名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/10(金) 06:10:26.05 ID:???
来たね
914夏厨:2012/02/11(土) 01:52:14.56 ID:???
>>316 -----【四話・瞬間】-----

近日予定です。
1年半休んでしまいました。
915名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/11(土) 06:21:15.59 ID:???
楽しみに待ってます!
916夏厨:2012/02/15(水) 15:10:03.83 ID:???
-----【四話・瞬間】-----

シンジはまだ体力が完全には戻りきっていないが、なんとか無事に退院する。

ミサトとシンジは車のある駐車スペースまでの廊下を歩いている。
その後ろを黙り込んだ少女が二人。

「シ、シンジ…」
「え?」
アスカが泣き出しそうな顔で、堪らず声を掛けた。
足を止めた4人。シンジがゆっくり振り返る。
アスカは続ける。
「あたしの事、忘れてないよね?」
「…あ…えっと…」
「小さい頃、シンジが3歳であたしはまだ2歳だったけど、隣に住んでた『アスカ』よ」
「…」
「…やっぱり覚えてないのか」
「…ごめん」
シンジの口癖。それを聞いてアスカは俯く。
「アスカ?シンジ君はさっきまで昏睡してたんだし、この何ヶ月か一緒にいるけど小さい頃の記憶が少し曖昧みたいだし、だからたぶんもう少し時間がたてば思い出すわよ」
苦笑いでミサトがアスカの頭を撫でる。
917夏厨:2012/02/15(水) 15:13:36.68 ID:???
まだ少し俯いて、でもアスカは青い瞳を大きく開いて頭を上げる。
そして肩から提げたポシェットから何かをシンジに差し出す。
「…いいわ、確かにそんな小さい時の記憶なんてあたしだってはっきり覚えてないもん。でもこの写真、これだけは覚えておいて。この写真シンジにあげるから、何か思い出したらあたしにだけ教えてくれればいいわ」

大切にラミネートフィルムに密封されていたらしい1枚のカラー写真。
多分生前の碇ユイの手にひかれて、少し涙目になって口を真一文字に結んだ幼い頃のシンジ。
そのシンジの空いたもう片方の手を繋いでニッコリ微笑んでいる、黄金色の髪と蒼眼の幼女。
「この写真がアスカの心の全てだもんね?いいの?ドイツにいたときもあんなに大事にしてた写真なのに」
「いいのよミサト、写真に縋らなくたって目の前にシンジがいるんだもん」
優しく微笑んで問うミサトに、少しだけ寂しそうにアスカが応える。
「あ、あの、アスカさん…これ…確かに僕だけど…」
「ちょっと待った。覚えてないのは五百万歩下がって許すけどね、『アスカサン』って呼ぶのはぜぇぇぇったい許さないから。ドイツでもアメリカでも恋人はファーストネームで呼ぶもの。シンジもあたしの事はアスカって呼ぶの、わかった?」
「…わかったよ…ア、アスカ」
「いいわね〜〜青春ね〜〜〜、12年の時と海を越えた想いと言う時計の針が今ここでまた刻みを始める。映画にしたいくらいよね〜〜〜」
満足そうな微笑みになるアスカ。真っ赤になって俯くシンジ。
918夏厨:2012/02/15(水) 15:17:39.42 ID:???
そしてもう一人。
(なんだかわからない。どうしてセカンドチルドレンが笑うだけで気持ちが騒ぐの?)
(碇君とセカンドチルドレンの過去を聞いただけでどうして耳鳴りみたいな感覚になるの?)
自分では気づいていないだろうが、明らかに憂鬱な顔で俯いているレイ。
「あらら、レイごめん、あんたもシンジ君にこないだ助けてもらってからゾッコンなのよね?アスカ〜〜、ライバルは手ごわいぞ〜〜〜」
楽しそうに、いや本当に意地悪そうにアスカをつつくミサト。
「ぃあっ、ちょっ、違いますよミサトさん、僕は、あれで、あの」
シンジが焦る。
「そ、そんなの関係ないわ!シンジはあたしの事すぐに思い出してくれるし」
ミサトの指を払い除ける仕草でアスカが吐き捨て、レイを小突いて小さな冷たい声で囁く。
「ファースト、シンジはあたしのモノだからね。あんたは大人しくしてなさいよ?」
そんなアスカを紅い瞳で見据えて、レイは一言だけ口にする。
「碇君はモノじゃない」
919夏厨:2012/02/15(水) 15:21:13.46 ID:???
四章は前後編に分かれます。ご了承ください。
近日、イスラフェル戦へ。
920名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/15(水) 21:32:19.18 ID:???
乙です。続きを楽しみにしてます。
921夏厨:2012/02/21(火) 14:40:43.14 ID:???
>>919

『ただいま、東海地方を中心とした、関東、中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。
速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返しお伝えいたします・・・』
和んだ(?)空気を割くように、警報がジオフロントの天井から響く。


ミサトと3人の子供達の携帯も一斉にアラームを発している。
「使徒ね。アスカ、レイ、本部に戻るわよ。シンジ君もまだ平気じゃないと思うけどとりあえず一緒に来なさい。」
ミサトの言葉に呼応するように、レイとアスカの瞳が戦闘色に変わる。
シンジはまだ少し戸惑うが、4人は本部へと踵を返して走り出す。





作戦会議室のモニターに映し出される第七使徒とエヴァの戦闘。
【本日午前10時58分15秒、2体に分離した目標甲の攻撃を受けた零号機は、駿河湾沖合い2キロの海上に水没。
同20秒、弐号機は目標乙の攻撃により活動停止。この状況に対するE計画責任者のコメント。】
---リツコ---「無様ね」
【午前11時3分をもって、ネルフは作戦の遂行を断念。国連第2方面軍に指揮権を譲渡。】
---冬月---「まったく恥をかかせおって!」
【同05分、N2爆雷により目標を攻撃。】
---冬月---「また地図を書き直さなきゃならんな」
【構成物質の28%を焼却に成功。】
922夏厨:2012/02/21(火) 14:53:37.71 ID:???
ふてくされた表情でレイを睨みつけているアスカ。視線を合わせようとせず無表情のレイ。諦め顔のミサト。
「第七使徒戦での零号機の破損状況からして、ましてファーストチルドレンとのシンクロ値からみてもこの結果は致し方ないが・・・」
冬月が重い空気の中切り出す。
「弐号機の先行策は裏目に出たな、葛城一尉」
「はい、申し訳ありません」
ミサトは額に汗を浮かべて平謝り。

駿河湾に上陸した使徒を水際で迎え撃つ作戦に出たミサト。
シンジの回復を考慮して初号機を出さず、零号機を後方支援に回し弐号機のみによる強攻策をとるもアスカの「日本デビュー戦!しかもシンジの前では負けられないわ!」という張り切りすぎの結果、無残に返り討ちにある有様。
マヤが告げる。「使徒は自己修復中、第2波は7日後と思われます」
「N2爆雷でなんとか時間稼ぎを『していただいた』訳か」冬月が追い討ちをかける。
アスカが紅潮して口を出す。「あんなインチキ!一撃目は完璧に決まってたじゃない!」
苦しいアスカの悲鳴に冬月の非情な言葉が覆いかぶさる。
「使徒の殲滅。君たちに課せられている目的はそれだけだ」
立ち去る冬月。その背中に舌を出してしかめっ面のアスカ。

「ごめんアスカ。完全に私の作戦ミスだわ。総司令と副司令には私からきちんと弁明しておくから許して?」
いたたまれなくなったミサトがアスカに頭を下げる。
アスカはそんなミサトを遮る。
「いいのよ、わかってる。アタシがここに呼ばれたのは使徒の殲滅のため。これで終わるワケには行かないわ」
会議室を立ち去るアスカ。
「アスカ・・・ホントにごめん」
ミサトはアスカに連れ添うように出て行った。
923夏厨:2012/02/21(火) 14:57:37.63 ID:???
「・・・僕が戦えば良かったのかな。でもどうしていいのか判らなかった・・・」
皆の席の場外に追いやられ、作戦に参加しなかったシンジがつぶやく。
「シンジ君の今の身体ではまだ無理なのよ。使徒が止まっている1週間、その間にきちんと身体を元に戻して」
マヤがシンジに優しく微笑む。
「はぅ・・・ありがとう、マヤさん・・・」


ずっと黙っていたもう一人、レイは心の中で先程の画面を思い返し自問自答していた。
(・・・分裂した使徒。・・・分体。・・・!?)
「赤木博士、教えてください」
「何?レイ?」
席を立つのも億劫でその場にいたリツコに、レイが問いかけた。

ひそひそと話す二人。しばらくしてリツコは眉を上げる。
「マヤ、準備よ、葛城一尉とセカンドチルドレンを呼んですぐに研究室に来て」
立ち上がるリツコ。

振り返ると・・・真っ赤な顔で見つめあったまま(?)固まっているシンジとマヤがいた・・・。
924夏厨:2012/02/21(火) 15:03:26.94 ID:???
青葉>>「目標は、強羅絶対防衛線を突破」
「来たわね、今度は抜かりないわよ。音楽スタートと同時に、A.T.フィールドを展開。後は作戦通りに。2人とも、いいわね?」
「「了解!」」レイとアスカは同時に応える。
青葉>>「目標は、山間部に侵入」
「いいわね、最初からフル稼動、最大戦速で行くわよ!」アスカが零号機に言う。
「ええ、62秒で。」レイが弐号機を見て短く応える。

この1週間、レイとアスカは同じ部屋で寝起きを共にし、お互いの身技体をシンクロさせる事に費やした。
使徒のコア、二点同時攻撃。レイが戦闘中に見た分裂時のコアの変化。リツコとマヤがMAGIで計算した記録を元に構成した作戦。
だがその「同居」は最初からずっと全くうまくいかなかった。ほとんど何も語らないレイにヒステリックになるアスカ。
アスカの「・・・んじぃ〜」という寝言を聞いて何故か眠れないレイ。
だがアスカが1週間の最後の日に言った「シンジにもう怖い思いはさせたくないのよ」の一言が、疲れきったレイとアスカの心を繋いだ。


青葉>>「目標、ゼロ地点に到達します!」
「外電源、パージ。発進!」


作戦本部から流れる雄大な音楽にのせて、使徒の攻撃をかわしながら華麗に舞う零号機と弐号機を見ながら後方で待機するシンジ。
最後の飛越と思われる、白い太陽を浴びて逆光の影に溶けた2体のエヴァの踵が分裂した使徒のコアにかかるその瞬間。
使徒が強烈な光を放つ。


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。

アスカとレイの悲鳴に近いうめきが確かに初号機のエントリープラグの中に響いた。

「ミスった、両機ともさがりなさい、早くっ!」ミサトが叫ぶ。
925名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/21(火) 15:06:08.15 ID:hwYz/uv7
「うゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夢中で走り出す初号機のシンジ。
アンビリカルケーブルがちぎれ飛ぶ。
地鳴りをあげて猛然と走る。
そして活動停止してしまった2体のエヴァをかばうように使徒の前に立つ。
分裂した使徒は初号機に矛先を変え、閃光と鋭い爪が初号機をかすめる。
にじり寄る赤と銀の影。
シンジの漆黒の瞳に使徒が映る。
「あぅぁぁぁぁぁ!」
シンジの叫びとともに放たれた、今までに見たことのないようなA.T.フィールドの光がすべてを覆い隠す。
そして・・・。

恐怖で突き出したシンジの(初号機の)両掌が分裂した使徒のコアに同時に突き刺さる。



十字架の爆風。

暗転。


ノイズがおさまり、作戦本部のモニタの視界が開ける。
青葉>>「エヴァ3機確認」
マコト>>「目標は、完全に沈黙しました」

「「「「ったーーー!!!」」」」
ハイッタチやハグをしながら歓喜に沸く本部。
926夏厨:2012/02/21(火) 15:08:21.65 ID:???
プラグの中ではそれぞれが独りごちていた。
アスカ>>「作戦・・・失敗?・・・シンジ・・・」
シンジ>>「あれ?え?あれ?あ・・・っつ!」
レイ>>「最後のジャンプの途中で初号機が視界に・・・。私のミス・・・」


そして・・・「「碇君が(シンジが)助けてくれた・・・」」と、勝手に頬を染めるレイとアスカ。(怖い思いはさせたくなかったはずだが、そんな事はもう忘れている)

当のシンジは、フィードバックした使徒の爆裂の衝撃で火傷のように赤く爛れた両腕を見て一言。
「また入院だ・・・」



本部でもコソコソと・・・。
「リツコ、これってアンタの作戦・・・しっぱぃ・・・」
「第7使徒殲滅。結果が全てよ、ミサト、それに・・・」
「何よ?」
「あの作戦はレイと私で考えたの。あの子なりにアスカをフォローしようとがんばったのね。レイの事も少しだけフォローしてあげてね」
立ち去るリツコ。
「あんたが自分でしてあげなさいよ、バカ」
リツコの背中を見送るミサトの瞳はもう優しくなっていた。



つづく
927名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/27(月) 00:22:56.54 ID:???
お帰りなさい&乙
いろいろ忙しいとは思うけど最後まで書ききってね
楽しみにしてるからさ
928名無しが氏んでも代わりはいるもの:2012/02/29(水) 00:51:31.18 ID:EOlelpFW
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
929名無しが氏んでも代わりはいるもの
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