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(とにかく今日はあたしがしっかりしなくちゃ。しんじ君いないんだし…)
「あ、あの…もう帰ってもいいかな…」
まなは精一杯平静を装って合田達に言った。
「へっ、なんだよ泣きそうな声出しちゃって!」「お前、碇がいないと全然ダメだな」
「……」
「おい、もうこん位にしとくか」
合田が言った。
「そうだな」「碇、キレたら怖いしな」
「そうそう。こいつどうせ…」
合田はまなにグイッと顔を近づけ、嫌味な口調でこう続けた。
「すぐ碇に告げ口するしなあ」
「……」
さんざん言われっぱなしだったが、この時のまなには悔しさを感じる余裕もなく、どうやらもうすぐ解放されそうだという安堵感だけで一杯だった。
合田をにらみ返すこともできず、黙ってうつむいていた。
ゾロゾロとまなたちから離れていく男子達。が…
「あ、そうだ、おい霧島」
「えっ」
合田に名前を呼びかけられ、まなは思わず顔を上げた。
「お前はお母さんのことをなんて呼んでる?」
「あの、ママって…痛っ!」
合田がまなのおでこを指で強く弾いたのだ。たった指一本とは思えないほどの痛みで、まなは頭の中が真っ白になったような感覚に襲われた。
りえが体にしがみついていなかったら、しゃがみ込んでいただろう。にじんできた涙を、まなは片手でそっとぬぐった。
「じゃあな」「バイバーイ!」「おい、あんなことして大丈夫かよ?」「デコピン一発だけなら碇にばれてもマジにならねえだろ」
などと言いながら合田達は行ってしまった。