乙!
乙です
乙です
おいらもシンジとアスカと一緒に暮らしたいでヤンス
前スレ落ちたのか
乙です
1乙
これは乙じゃなくてポニーテイルうんたらかんたら
おおお乙
ほしゅあげ
このスレは神田川的な同棲生活もありなんだろうか?
>>11 ありあり
つか俺書こうとして絶賛挫折中のネタだ
13 :
kou:2009/08/17(月) 01:32:31 ID:???
>>11です。書き溜めてるとこですが、取り合えず投下させてもらいます。
シリアスなのかほのぼのなのかよくわからん展開になりそうですが、温かい目でお願いしますm(__)m
14 :
kou:2009/08/17(月) 01:38:23 ID:???
『LOVERS ON BACKSTREET』
最初にここに越してきた時は、かろうじて藺草の青々しい香りが残っているほど綺麗なアパートだった。襖や窓は少し汚れていたけれど、それも風情かと、軽く流せた。
今となっては流れるように綺麗だった畳の表面もささくれ立ち、主に彼女が投げた鈍器のような物の餌食になった襖や窓にはガムテープがしっかりと貼られている始末。
かといって、冷蔵庫の中は腐りもので溢れかえってるとか、洗い物が山のように残ってるとか、そんな状況ではない。
ここは改めて僕の家事スキルの高さと、それを手伝ってくれる彼女の変貌ぶりに驚嘆する。
ここに住み始めてから三年が経つ。
初めて大家さんと話した時は14、5やそこらの男女がアザだらけ(主に僕だけど)で、しかも泣きながら「部屋ありますか?」なんて聞かれたものだから、ひどく驚いて目を丸くしていた。
幸運にも部屋は空いていて、まだ誰も入ったことがなかったそうだ。それでも、築何十年たったアパートだったので「古風な作りで御免ね」と大家さんが笑いながら言った時も、何故か二人とも泣いてしまった。
それより少し前、その時の世間は海から帰ってきた人達が点々と集落を作りはじめて、やがて拡大して『社会』と呼べるシステムが出来上がって来た頃だった。
幸か不幸か文明のほとんどは現存していたので、動物を捕まえて丸焼きにして食べる、みたいなはじめ人間的生活は免れたけど、それでも電気水道ガスみたいな生活エネルギー施設は動いていなかったから不便といえば不便だった。
15 :
kou:2009/08/17(月) 01:41:01 ID:???
そこから一年間、僕たち二人は怯えるように生活した。
どこの場所でも「あれは何だったんだ?」とか「あのネルフの生き残りはいるのか?」とか犯人探し、みたいな会話が聞こえた。
そんな中、人気の無い郊外にあったアパートを見つけたのは幸いだったと思う。
二年も過ぎると、人の眼は後ろよりも前を見据え始めていた。水道を新しく引く人や、施設の修理を始める人。商売とか取引を始める人。
おかげでこんな短期間に、以前と遜色無いほどの文明が蘇った。
僕らも、そんな先導してくれる人達の中に混じって仕事をした。
「つっかれたぁ。シンジ、今日のご飯なに?」
「ん?カレー」
「えぇ。また具無しの、あれ?」
「我が儘言わないの」
「まだ何も言ってないわよ」
こういう他愛ない会話をするのにも、紆余曲折あった。
最初は彼女が僕を罵るだけ。その内僕も反論し始めて、罵りあい。殴ってくる蹴ってくる。僕は泣きながら罵声を浴びせる。そしてバカらしくなる。
そんな日々が続いた。
アパートを見つけてから、少し柔らかくなった。
たまに料理をしてくれる彼女。料理を教える僕。
これまで何となくとっていた距離感が少し近づく。
そんな久しぶりの空気に安堵したものだから、僕はあんな事を言ってしまったんだと思う。
「アスカ。僕はどうすればいいのかな…」
すると、彼女は殆ど間を置かずに言ったと思う。
「自分と他人を好きになる努力をしなさい」
自分もだろ?と言いかけたけど、その時見た瞳が潤んでいたので何も言えなかった。
「じゃあ、私はどうすればいいと思う?」
彼女がその言葉を発するときにはすっかり鼻声になっていた。
「…少しでいいから、僕を好きになって」
「あんたバカ?…もうとっくに実行してるわよ」
16 :
kou:2009/08/17(月) 01:43:27 ID:???
その時僕らは16歳だった。まだ子供だし、もう大人。
どっちつかずのシーソーの上で、僕らは抱き合った。
「ちょっと!痛いってば!」
「我慢しなよ。ちゃんとしないと跡が残るよ」
「悪かったわね、傷物で」
「もう、悪かったって言ってるじゃないかそれは」
「ジョーダンよ。ごめん、シンジ」
そして現在。
買い出しの途中で盛大にずっこけた彼女の膝の表面には、我が家の畳を上回るほどのかすり傷が乗っかっていた。ただ今消毒中…。
「なんで急に走り出したのさ?」
「早く家に帰りたいな、なんて」
「荷物持ちの僕を置いて?」
「うっ」
「先に着いても鍵持ってるの僕だし」
「はぁ」
「揚句、こけるし」
「でぇもぉ」
「デモもストも無いよ。心配する身にもなってよ」
時たま上げる「いっ」とか「ひぃ」みたいな声が堪らなく面白いので、余分にポンポンと液を染み込ませた綿を当てた。
彼女の顔が赤くなっているのでそろそろ止しておこう。この間みたいにやかんの口が額に刺さるのは嫌だし。
「はい終わり。あんまり傷口触らないように」
「はいはい」
そして言った傍から傷口をグチグチし始めた。子供だ。
17 :
kou:2009/08/17(月) 01:45:42 ID:???
突然だけどこのアパートに風呂はない。
この地区には、必要最低限の水道しか引かれていないため生活に必要な分しか使ってはならないという決まりがある。
それを知った時、お風呂好きな彼女はさぞ怒るだろうと思ったけど案外素直に納得した。
「あれ、嫌じゃないの?」
「はぁ?仕方ないじゃん、決まりなんだし」
「お風呂好きだと思ってたんだけど」
「そりゃアレよアレ。どっかのバカの気を引くための口実よ。ま、鈍感朴念仁のおかげで玉のような肌を保てたわ」
「そ、そうだったの?」
「だぁ〜れが好きでも無いやつの目の前にタオル一丁で『あッつーい』なんかするか」
「ご、ごめん」
と貴重な御言葉を頂けたりもしたんだけど、理由はもう一つある。二十分ほど歩けば公共浴場、いわゆる風呂屋があるからさほどその点は気にならなかったようだ。
でも毎日通うほどの贅沢は出来ないので、三日に一回、もしくは【warning!!】の後に行くだけだ。普段は濡らしたタオルで体を拭いて済ませることになっている。
その時も「こっちみんな!」とか「スケベ!」etc言ってくる。今更なんだよと言うと 「乙女の恥じらいを知れ!」、とスリータイムスチャンピオンも真っ青のハイキックが飛んできたこともある。よく生きてるな僕。
で、今日はその日。風呂屋に行く日だ。
彼女はいつもの真っ赤なタオルと桶を持って玄関先で待っている。
「まだぁ?」
「ちょっと待って。えーと、ガス閉めた。窓閉めた。服畳んだ」
「はーやーくー」
「はいはい」
と、最後に鍵を閉めてジーパンのポッケに突っ込む。
さて行こうかと彼女を見ると、既に数歩先をすたすたと歩き始めていた。
18 :
kou:2009/08/17(月) 01:49:22 ID:???
ここから風呂屋まではちょっとした散歩になる。川があったり野道があったり公園があったり。
風のある日なんかは夕暮れどきもあいまって、地熱の残りと吹く風が気持ちいい。
「ねえシンジ。チェロって難しい?」
「どうかなぁ?小さい頃に習ってた分すんなり出来たけど」
「的を射ない回答ねぇ」
「でも、どうして?」
「ん。なんか、私も楽器の一つや二つしたいなと思って」
「いいじゃない。そしたら僕も改めて練習して、アンサンブルしようかな」
「良いわね。」
「あ、でも音がうるさいから近所迷惑になるかな」
「バァーカ。今更遅いわよ。とっくに近所迷惑になっとるわ」
「いや、あれはアスカが…」
「ひっどー。私のせいにするの?あれだけ泣かせておいて…」
演技ったらしく大袈裟に顔を手に当ててイヤイヤする。夕暮れ時の野道にはまだ人もポツポツいるわけで。
こんな下らなくも大切な時間はあっという間に過ぎ、風呂屋は目と鼻の先にまで来た。
大きな瓦屋根のこれもまた古風な建物の前には、温泉マークの横に『いらっしゃいませ』と書かれた看板が置いてある。これを境に男湯、女湯と分かれている。
「じゃ、あとでねアスカ」
「うん。…あ」
「何?」
「一緒に出ましょ。湯冷めするから」
「うん、分かった」
失念、ここまで来る間ずっと手を繋いでいたのを忘れてた。いつもここでこうやって足踏みをしてしまう。当たり前に繋がれた手を離すときほど、侘しい気分になるものはない。感じていた温もりが消えるのだから。
「バカね。ほら」
彼女がパッと手を離す。思わず顔をしかめてしまったんだろうか。優しい笑顔でこう言う。
「さっさと行きなさい、バカシンジ」
本当に好きになってよかったと、こんなときに思う。
きゅんとする!きゅんとするよぅ!
20 :
kou:2009/08/17(月) 02:10:01 ID:???
神田川的とかいいながら結局赤いタオル(手ぬぐい)しか出せなかったorz
明日の内に最後まで投下したいと思います。
オチ、も有るような無いような感じになりそうなんでどうかそこはm(__)m
買い物自体は楽しい。
やっぱり久々だったのもあるけれど、今迄誰かと一緒にという事が少なかったからかも知れない。
「うーん……シンジにはやっぱりこっちの色かな?」
「どっちでもいいよ。アスカに任せるから」
「じゃあ、こっち! アンタも偶には明るい色の服着た方が良いと思うし」
僕は余り服装に気を使う方じゃないから、全部アスカに選んで貰った。
買ったのは洗い替えの分を含めてTシャツが三枚、パジャマ代わりのスウェットとジーンズが二枚と下着と靴下を少々。
少し肌寒くなってきたので、薄めの生地だが長袖の物を選んだ。
僕の分はアスカが手早く選んだので時間が掛かる様な事は無かった。
アスカも前は一日掛けて買い物に出掛けたりしていたけど、今日はあっさりと決めたみたいだ。
僕の分や雑貨も買う事になっていたから、後がつかえているというのもあるけれど。
Tシャツが二枚、ブラウスが一枚、ジーンズとスカートを一枚ずつ、後は下着と靴下とパジャマというのは僕と同じ位の枚数。
下着を買う時は流石に後ろには付いて行かなかったけど、服を買う時はカート持ちで後ろを付いて行った。
アスカはまだ、気にしているのかな?
Tシャツもブラウスもスカートも、何故か丈が若干長いサイズが大き目の物が多かった気がする。
上手く力が入らない時があると言っていたから、腕に傷がある気がしていて見せたくないのだろうか。
確かに極偶にアスカが怪我をしている風に感じる時がある。
スプーンやフォークは持てるけど、箸は少し使い辛いと病院でも零していた。
「アスカ、持つよ」
「ん、有難う」
レジで支払いを終えて、店員から袋を僕が受け取った。
「っと……この階はこれで全部かい?」
「はい。お待たせして済みません」
「よし、じゃあ上の階に行こうか」
売り場の隅にある休憩用の椅子の所で待っていてくれた青葉さんと合流して、三人で三階に向かう。
今度はエレベーターよりも売り場に近かったので、エスカレーターで上の階に上がった。
……あれ?
今度は何か引っ張られる感じだ。
「やっぱり、第三から離れている所はそれ程混乱は無かったのね……全然普通だもの」
「そうだね。ニュースでも行方不明の人の話って、余り聞かないし」
「場所柄、ネルフ職員や戦自が殆どだからね。偶に居る事は居るよ……民間人の中にもね。でも、割合は少ないんだ。
国連の報告に拠ると、一千万に一人か二人といった位らしい。それでも後でひょっこり帰って来た報告があったよ」
「そう……なんですか……?」
「……じゃあサードインパクトって、集団催眠で時計だけが進んでたっていうミステリーでおしまいって事になりそうね」
アスカが周囲の買い物客の多さを見て、溜息を吐きながら結論付けた。
「その辺は正式発表が国連からされると思うよ。ただ、調べてみたらそれだけじゃないっぽいって事は解ったみたいだね」
「結局、時間が掛かるって事ですか?」
「そうなるね」
青葉さんが父さんの所に入って来た情報を教えてくれた。
別に隠す事でもないんだろう。
僕達に教えてくれるって事は、多分職員全員が知ってるって事だ。
「でも……もう、アタシ達には関係無いのよね?」
アスカが少し沈んだ声で青葉さんに問い掛けた。
「今迄に発見された量産機は、既に塩の塊と化していたからね……。もう乗る事は無いと思うよ。後は大人の仕事さ」
青葉さんがアスカの頭を軽く撫でる。
「これから君達がすべき事は、体を休める事だよ。職員みんなが、早く良くなれば良いなって言ってるんだからね」
幾ら退院出来たからって、完全に体の具合が良くなったと言える訳ではない。
あくまで、検査をしても今の所は異常が見付からなかっただけって事だ。
青葉さんも、他の職員の人も、それを知っているって事だよね。
だから、僕達の事を心配してくれているんだ……。
「……はい」
嬉しかったけど、言葉にならなくて、僕はその一言しか言えなかった。
僕もアスカも、誰にも見てなんて貰えないと思ってたから。
でもそうじゃなかった……それが、本当に嬉しかった。
タオルは普通のサイズの物を五枚で一組になった物があったので、それを二つ買う事にした。
バスタオルは僕とアスカで二枚ずつの合計四枚。
それだけあれば、暫くは持つだろう。
ただアスカは赤い色のタオルが無かった事が残念だった様だ。
黄色やピンクはあるのに赤が無いのはおかしい、とぼやいていた。
大量生産の物だから仕方ないよと宥めたら、じゃあ仕方ないか、とピンクのタオルを手に取る。
僕は普通に白を。
贅沢を言えば切がないから、無難な色で良いと思ったからだ。
青葉さんは僕達がタオルを選んでいる間に、部屋に置けて持ち運びが簡単そうなチェストを見繕ってくれていた。
どうせ、地上に官舎が出来ればそっちに移る事になるからだそうだ。
本部内の居住区画は仮の住まいって事。
住むには少し手狭な部屋が多いから、今は仮眠スペースとして利用しているらしい。
僕とアスカが入る部屋もその内の一つ。
だから、持ち運びがし易い物が良いって事みたいだ。
「あ、軽い」
「二段あるから、着替えもタオルも入るね」
「安物だけど、軽い方が引っ越すには楽だからな」
ポリエチレンの一抱えあるかどうかの小さなケースだけど、大して荷物のない僕達には充分な大きさ。
「透明じゃないのが良いわ。この手の奴って中が透けて見える物が多いもの」
「引っ越してからキチンとした奴、探しても間に合うね」
「そうね」
「じゃあ、これで良いかい?」
チェスト選びはあっさりと終わったので支払いを済ませる。
カートに乗せる前に、僕が持っている服やタオルの袋をチェストの中に入れた。
これでかなり身軽に動ける様になる。
後は日用品だけだ。
今度はエレベーター……何だ、また粘ついた気配がする。
気になるが気にしない事にして、一階の日用品売り場に向かった。
新スレ乙です
落とそうと書いてたら落ちててどうしようかとorz
新しく建てて下さった方に感謝!
「迎え火」が終わったので暫くはこっちに集中していきたいと思っとります。
話はちまちままったりペースの同棲準備中ですがよろしゅうに。
>>20 GJ!
職人さんが増えて嬉しいです
乙
続きが気になる
何か神2人もキテタ!
GJGJです!
27 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/18(火) 04:46:14 ID:6iuunJ+W
kou氏
待ってるよ
28 :
kou:2009/08/18(火) 05:33:52 ID:???
遅くなりました。
>>18続きです。
風呂屋の中に入るとそこそこに長い棚に申し訳なさそうにざる籠がいくつか置いてあって、その横に小さなタオルが備え付けてある。
昔の癖で、誰もいないのに一番端の籠に衣服を投げ込んでいく。自分以外使うことのなかったネルフの男子更衣室を思い出す。血の通っていない、印刷された文字で『碇シンジ』と貼られたロッカー。何十個もある中で使われているのは僕のだけ。
少し早い時間に来てしまって誰もいないせいか、そんな事を思い出してしまう。こういう風に内側に入り込んでしまう癖も、その頃についたように感じる。
「おぉシンジくん。今日は早いのぉ」
「こんばんわ、ケンタさん」
いわゆる番頭さんで、ここの経営者。
50歳手前だというのに浅黒くて、がっちりした体格の男の人だ。いつも笑っていて、この風呂屋がいつも繁盛してるのは立地条件が良いだけじゃないんだなと思う。
「一番風呂だぞ。…あ、いや厳密にはさっきアスカちゃんがはしゃいで入っていたけど」
「はぁ、すいません騒がしくて」
「いやいや元気があるのはいいことだぞ。最初の頃みたいに、一緒に入るーなんて事はなくなったけどな。ははは!」
「すいません、ほんと…」
そんな訳でこの人には頭が上がらない。おおらかで、何事も笑い飛ばしてしまいそうな人。今までこんな人に出会ったことがなかった。
浴場の中はがらりとしていて、零れ出るお湯の水音が心地よく響いている。隣の方からカポーンとお決まりの音が聞こえるのは彼女が体を洗っているのだろう。僕も軽く流して、早速一番風呂に肖った。
そうして十分も湯舟に浸かっていると、ちらほらと馴染みの人達が入ってきた。電気屋さんのお父さんとその子供達とか、同い年くらいの坊主頭の少年。
久しく顔を合わせていなかった人達とも会って、近況を話したり技術屋的な会話を横で聞いたり、ぽかぽかと体を暖めながらそんな時間を過ごした。
29 :
kou:2009/08/18(火) 05:36:50 ID:???
そうしていると隣の浴場から黄色い声がガヤガヤと聞こえている事に気付いた。彼女も向こうで会話が弾んでいるようだ。と、蚊帳の外だと安心していたのだけど。
「碇さーん?」
誰だろう?聞いたことのない声なので、きっと彼女の友達だろう。
「アスカさんとはどこまでススんでるんですかぁ?」
「はぁ!?」
思わず大きな声で叫んでしまった。何を言ってるんだ。たちまち、こっちもあっちもケラケラと笑い声が起こる。よく聞けば彼女の声も混じっているじゃないか。
きっと彼女の差し金で僕を困らせようと画策したしたんだろう。
「お、それは興味があるなシンジくん」
電気屋のお父さんがニヤリと近づいてくる。
「おい、マジでどうなんだ」
坊主頭の彼まで。
いけないことなんだと分かってるけど、今の僕には湯舟に頭まで浸かることしか出来なかった。
散々の冷やかし攻撃をなんとかくぐり抜けながらしっかり身体を洗って、火照った顔周りをぬるいシャワーで冷ます。先程までの喧騒もなんとか落ち着いて、やっと一息つけた頃。
「シンジー。そろそろ上がるわ」
「あ、うん。わかったー」
ヒューとか、チキショーとかの声には苦笑いでしか対応出来ずに、タオルで体の水を拭き取りながらガラスで出来たチープな扉を開けるとケンタさんが神妙な面持ちでこちらを一瞥する。
「若いっていいなぁ」
なんてしみじみ言うものだから、浴場から出ても僕は萎縮してしまった。
すっかり布の山になった脱衣所で代えの服に着替えて、ふぅと一息つく。そういえば今日は「あの日」も兼ねていた。
彼女は牛乳がとても好きなのだけれど、昨今の事情からとても高級品になってしまった。にも関わらず、これがないと風呂屋の意味が無い、と無理してケンタさんに取って貰っている始末だ。そして今日は月いちのその日。
30 :
kou:2009/08/18(火) 05:39:03 ID:???
「あの」
「わかってるよ。というかもうアスカちゃんが持ってったよ」
「え、お代のほうは?」
「シンジよろしくね、だってさ」
そりゃそうだ。財布持ってるの僕だもの。
にしても、同じタイミングで出たというのにこの状況。彼女はいつも着替えるのが早い。昔はダラダラとあんな恰好でうろついていたのに…。あ、そういうことか。
お代を払いどうも、と会釈してのれんをくぐると、看板に寄り掛かった彼女がいた。
髪止めを解いて肩下まで伸びた髪。汗で張り付いたうなじの産毛。Tシャツから滲むソープの香り。
あぁこんなに綺麗だったんだと、濡れタオルでは気付かない感情。
「おそーい。一緒に出るっていったのに」
「ごめん。でもアスカが早いのもあるよ」
「っさいわね。おっちゃんに長いこと私の裸体を見られてもいいってぇの?」
そうか。初めてわかったこの感情。これが『独占欲』というものだろうか。
「…よくないね」
「ん、分かればよし。ホレ」
ひんやりとした瓶に詰められた純白の牛乳。
「先に飲んでいいの?」
「日頃の労をねぎらう意味でよ」
一本で回し飲みしようと最初に提案(経済的理由)したのは僕のはずなのに、今は僕のほうが恥ずかしい。
こう、腰に手をあてて
「おぉ、良い飲みっぷりじゃない」
この動作も彼女に教えてもらった。礼儀作法なのだそうだ。
「ふぅ、ご馳走様。はい」
「ありがと」
例のフォームで残り半分を一気に煽る。僕はまだまだそこに追いつけそうにないな。
「おっちゃーん。ここに置いとくぅ」
外に備え付けられた籠に瓶を落として、番台の方を覗き込んで言う。僕も男湯の方からお礼をしようと覗き込むと、ケンタさんが奇妙なジェスチャーを送ってきた。口の周りを指差しているようだ。
よくわからないまま、帰路につこうと彼女の方を見るとそのメッセージの意味がわかった。
31 :
kou:2009/08/18(火) 05:42:01 ID:???
「アスカ」
「ん?」
「白いひげ」
くっきりと白い輪が口に鎮座している。少し考え込む様子で前を歩きだした彼女に着いていくと、二十メートルほど行ったところでふと立ち止まってこっちを向いた。
「理由なんかないわよ」
と言うと、可笑しいくらい僕の顔に唇を尖らせて僕を抱き寄せた。
「さっさとしろバカシンジ」
恥ずかしいのは僕だけじゃないみたいだ。
遠目にそれを見られていた後のヤイノヤイノの騒動から数分経って、小さな公園を過ぎる。今日の夜は特に風が強い。タオルで拭いただけの濡れた髪がなびいて気持ちいい。
行きの道で語らった、野道の草々も一心不乱に頭を振り乱している。
「ね、今日の放送なにかな?」
放送、というのはラジオ放送の事だ。有志で集まった人達が慈善的に電波を飛ばしている…らしい。主にどこ地区の修繕状況とか、テレビで言うところのバラエティ番組みたいなのもある。
その中で目下の僕らのお気に入りは、様々なDJによる音楽放送だった。DJによってかなり趣味の偏向があって、この前なんかおどろおどろしい民族音楽をノンストップで流してたこともあった。
「確か今日は、『DJ南ヨウスイのオールナイト』がメインだったよ」
「やた!今日はミュージックの日なのね」
足取り軽く、すっかり暗くなった空の下を行く。
もう少しで我が家につく。気付けばすっかり髪は乾いていた。
32 :
kou:2009/08/18(火) 05:46:43 ID:???
「ただぁいま」
「はい、おかえり」
鍵を回し、扉を開くと手が届く裸電球から垂れた紐を引けば、出る前と変わらない部屋の風景。
そそくさと彼女はラジオの電源を入れに行き、僕は布団を出そうと手垢で汚れた押し入れを開ける。
すっかり綿の寄った敷布団は妙に重くて、毎度ながら出し入れに苦労する。そんな事を知ってか知らずか「ジャイアントストロングエントリー」と奇声を発しながら彼女が布団にダイブする。
(正確にはストロングじゃなくストレートらしいんだけど、彼女の名誉のために黙っておこう)
「もう。そんな事するから綿が寄っちゃうんだよ」
「いやいや、この程度で寄らないわよ」
「だって現にこんなに…」
「あぁ〜、昨日のシンジ様は激しかったわね〜」
「…すいません」
「解ればいいの。ほら、さっさと来なさいよ。冷えちゃうわよ」
ほんと、敵わないな。
彼女にめくり上げて頂いている掛け布団の隙間に入る前に、我が家の太陽のスイッチを切った。
月明かりだけが頼りの部屋で、隣り合っていつもの会話をする。今日はどんなだったとか、実は内緒で服を買ったとか、風呂屋での悪巧みの後に墓穴を掘って根掘り葉掘り聞かれたとか、明日朝ごはん何がいい?とか。
『さて、今夜お聞き頂くのは南ヨウスイのオールナイト70s!』
お目当ての番組が始まったみたいだ。ルンルンと目を輝かせるのが暗闇でも分かる。
『邦洋問わず、いつも通り独断と偏見で素敵なひとときをお贈りします』
70年代の曲なんて殆ど知らないだろうと思っていたら意外とそうでもなく、いくつか知っているものもあった。ビートルズなんかはもちろん、プレスリーとか吉田拓郎とか。
彼女がジミヘンとかヤードバーズではしゃいだ時はびっくりしたけど(ちなみにツェッペリンが好きなんだとか。理由は教えてくれなかったけど)。
33 :
kou:2009/08/18(火) 05:52:43 ID:???
「なかなか良いわね、今日のラインナップ」
「すごいね、アスカ。こんなに昔の曲知ってるなんて」
「パパがね、良く聞いてたのよ。今にも壊れそうなアナログプレイヤーで」
「そうなんだ」
「その時はうるさい音楽だなぐらいしか思ってなかったんだけど、パイロット訓練が始まるくらいから聞き出したのよ」
「なんで?」
「さぁ?……ごめん、うそ。本当は、そうやってうるさい音楽で耳を塞いでいればいろんな重圧から逃げれると思ってたのかな」
僕と同じだ。
「嫌な事とか、周りの目とか、エヴァの事とか。…ママの事とか」
「同じだね。僕たち」
ふと、思った。こうやって居心地の良い空間の中で、居心地の良い相手と心地良い時間を過ごすことも『逃げ』なんだろうか?罪な事なんだろうか。あの時には全てが摩耗し切っていて、こんな風に思うことすら出来なかったけど、本当は逃げてもよかったんじゃないだろうか。
父さんも僕と同じ、見えない重圧のせいで心に壁を作ってしまったんだろうか。逃げ道まで塞いで。
「そっか」
「シンジ?」
「わかった気がする。今まで僕がしてきた事」
「うん?」
「アスカも僕も、そして父さん。もしかするとアスカの両親も。きっと必死に生きようとしていたんだ。でも余りにも一生懸命過ぎて、力の抜き処みたいなものが分からなくなったんだ。だから…」
君を汚してしまった。僕を傷つけた。母を失った。娘を見失った。他人を好きになれなかった。
その内二人とも黙ってしまう。静かな歌声だけが鳴る部屋。寝てしまったのかと思ったけど、小刻みに震える指先が僕のシャツを掴んで離さなかった。
「シャツが伸びちゃうよ。アスカ」
「あっそ」
強がって素っ気ない。
「アスカのおかげだよ。今までモヤモヤしてたものが、全部落ちたみたい」
「…明日、ちゃんとこのシャツ洗濯しなさいよ」
「うん」
僕の背中に回された腕が小さく戦慄くと、シャツの胸の辺りが少し湿っぽくなった。
ずっとこんな時間が続いてほしい。この世界が続くかぎり、ずっと僕を好きでいてほしい。この世界が終わっても、君を好きでいられるから。
『夜も更けてまいりました。最後の曲になります。また明日も幸多い日であるように。フォーク・クルセダーズから、あの素晴らしい愛をもう一度』
終劇
34 :
kou:2009/08/18(火) 06:01:20 ID:???
出来たー!
改行が多すぎwエラーwwうっせえw表現の自由だバカヤロウww
みなさん、ありがとうございました。初めての長編投下だったので至らぬ箇所もあったと思いますが、山無し谷無しな作品のご支援どうもです。
>>24さんからこんなお言葉頂けるとは…!ありがたき幸せであります!
僕も続き楽しみにしております。
では寝ます(-_-)
GJ!
良かったよ!
GJです!
切ないけどあたたかい><
乙 ぽかぽかした。
二人に幸あれ”
38 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/19(水) 04:53:35 ID:17m4Q9kI
ほっしゅっしゅ
とても心が暖まりました。風情や感情の機微が、文面によく出ていて素敵です!
私は、長い沈黙を震える声で破った。
「……それで、私は何を?」
「簡単な事さ。書類一枚で済んじまう、ね」
書類一枚で済む……?
「冗談は止して。そんな簡単な話で済む訳無いじゃないの」
「冗談なんかじゃないさ。サードの坊主にとっちゃ、かなり重要な事だよ……赤木、お前が鍵になる。
無論、セカンドのお嬢にとっても重要だろうね。それは司令も同じ事なんだけどさ」
溜息を吐いて彼女はカルテを手に取った。
「ま、その前に司令と一戦交えないとダメかも知れないけど」
一戦交える……?
何を言っているのか解らない。
しかもシンジ君にとっても、アスカにとっても重要な事になるなんて。
私に何をさせる気なんだろう……頭の中がグチャグチャだ。
「貴女、とんでもない事を考えているんじゃないでしょうね?」
私の考えに及ばない事をしようとしているのは確かだ。
「うん、そうかも知れない」
「いい加減はぐらかすのは止めて頂戴!」
怖い。
彼女の、医療部の指針の、最終的な結論を聞く事が。
「……はぐらかしてなんかいないさ。まず、書類が本当に必要なんだよ。それがスタートの合図になる。
でないとあの二人、特にサードは取り返しの付かない事になるよ」
「何ですって……?!」
眼鏡の奥の彼女の瞳に蔭りが射した。
「……サードも、セカンドも、良い子だよね。それでいて、とても聡い。だから解り難い。でもそれが危険なんだよね」
目を伏せ、彼女は一筋の涙を流した。
「貴女……何か知っているの……?」
「偶然……ね。でも、知ったら後戻り出来ないよ。それでも良いなら、アタシの独断で赤木には先に話す。どうする?」
口の中が渇いて上手く言葉が出そうにないので、私は頷く事で彼女に返事を返した。
「解った……じゃあ、話す」
静かな声で彼女が話した内容は、想像を遥かに超えていた。
まさか、まさか、そこ迄私達は子供達に苦痛を与えていたなんて――!
「あれは……診察で聞き忘れた事があって、セカンドの病室に戻った時だったかな」
そう前置きして彼女は話してくれた。
アスカの病室から啜り泣く声が聞こえてきたと言うのだ。
彼女は慌てて病室に飛び込んだらしい。
すると、アスカは膝を抱えてベッドの中で蹲り泣いていた様だった。
何かあったのかと聞くと、ただ一言、怖いと零したとか。
「まだ面会謝絶中だったからね。慌てて彼女を寝かせて話を聞いたんだ。するとね、涙を流してこう言うんだ。
一人で居るのは怖い、サードに会いたい、一人だと約束を守れないってね。一人にしない、とサードと約束したんだと。
どうしてそんな事を言うのか聞いてみた。そしたら、サードは他人が怖くなってサードインパクトを起こしたって言うんだ。
これは一応司令には報告してある。問題はこの先さ」
アスカが言うには、シンジ君がアスカを他人だと認識し始めたのは、保護される少し前の頃からだったそうだ。
だが今は離れている、約束を守れないから自分の事をもう認識してくれないんじゃないかと思うと怖くて仕方がない、と。
「それで、司令に上申してカウンセリング要員を増やす許可を貰ったんだよね。私一人じゃ、手に負えない気がしてさ。
アンタは司令の補佐だけじゃなくて、全体を実質的に統括する立場になっちまっただろ? 頼めないじゃないか」
「そうね……司令が折衝中は私がどうしても出ないと動かなかったものね。そう……アスカが……」
私は、シンジ君が話したのだとばかり思っていた。
少しずつ、カウンセリングで聞き出したのだと思っていた。
でもアスカが話し始めたのだとは知らなかった。
「で、カウンセリングは先に安静が解けたサードから始めたんだけどさ。これがもう喋らないのなんのって。
結局セカンドの話を裏付けた形になっちまってね。ぽつぽつと話し始めたのはセカンドの面会謝絶が解けてからさ」
「じゃあ、二人にとって問題になるというのはどういう事になるの? 今の話が関係してくるの?」
「大有りさ」
彼女は大きな溜息を吐いて、頭を抱え込んでしまった。
「人間にとって、最初の他人は誰だい?」
最初の他人……?
「最初……母親、よね……?」
「正解。でも、アンタだって知っての通り……あの子達には精神的には母親のファクターが薄いだろう?」
「ええ、そうね。シンジ君は母親の記憶を失くしていたし、アスカは結果的に女性というファクターを嫌悪していたわね」
シンジ君はユイさんの事故の騒ぎに拠って司令と離れて暮らした事から、父親のファクターですら薄い。
アスカもまた、幼い身で体験した母親の死と父親の再婚で、子供という立場を捨てようとしていた。
尤も、アスカの場合は護衛に就いていた加持君のお陰で、若干父親のファクターを認識していた様だけれど。
でも……それは当初から解っていた事だ。
「今更の話じゃなくて? コアとのシンクロには近親者を求める心が必要不可欠だったのよ。資料は貴女も見たでしょ?」
「そういう事じゃなかったんだ。自分とそれ以外の人間という意味で、サードはセカンドに全てを依存しているに過ぎない。
物分りの良い子だから、卒の無い対応を取る。それで見ただけでは判り難かったんだよ。
セカンドはまだマシだが……サード以外の人間の認識を拒否しようとしてもおかしくない位、サードに依存している。
これがどういう意味だか、解るだろう?」
「まさか……再構成……?」
「二人共、他人を認識しようと足掻いてはいるけどね……どうしても、互い以外の存在を認識し辛い様でさ……」
それが事実だとしたら……いけない、それだけは何としても防がなくては……!
話してくれた彼女の顔も青褪めている。
「カウンセリングだけでは……治療は出来ない、という事なのね?」
確かに、聞いてしまえば戻れない。
彼女の言う通り、これは大きな賭けだ。
しかし、私に出来るだろうか……?
「でも、贖罪で何とかしたいなんて気持ちは捨てないとダメ」
「贖罪……」
「そう。そんな気持ち抜きで、あの子達を愛せる?」
自分には最も懸け離れた感情だと思っていた……けれど。
胸の奥に燻り始めたこの感情は――確かに、私の中にもあるという事だ。
もう、私は、自らの心を今迄の様に誤魔化す為の否定など出来なかった。
インターミッション、其の弐。
続きは今週中にでも。
いつもいつも良作ありがとう!
ゴッドジョブ!
一階での買い物は簡単だった。
歯ブラシセットとコップに洗剤、シャンプーにリンスにボディーソープにボディタオルにヘアブラシ。
アスカはボディブラシやスポンジに整髪料も買っていたけれど。
僕は余り癖の無い髪だから必要無い。
カートの籠にポイと入れて、レジを済ませた。
「これで全部かい?」
「はい。当座の物はこれで充分だと思います」
「じゃあ駐車場から車回して来るから、二人共ここで待っていてくれるかい?」
「解ったわ、ここで待ってれば良いのね?」
一階の出入り口前で、青葉さんを待つ事になった。
待っている間気になったのは、人が多過ぎて何だか息が詰まったって事。
勿論、空気が粘つく感覚は残ってる。
それに加えてだから、少し苦しい。
ふと、アスカが気になり顔を覗き込むと、案の定少し顔が赤くなっていた。
「アスカ……大丈夫?」
「ん、平気。久々に人気の多い所に出たからよ、きっと。アンタこそ、大丈夫なの?」
今迄買い物を済ませて来た階よりは、食料品売り場が併設されている為か格段に人の数が多い。
これは仕方ない事だ。
「多分、ね。確かにこう人が多いと、人の多さで酔い易いけど……大丈夫だよ、うん」
アスカには、心配はさせたくない。
僕は自分に言い聞かせる様に、違和感を振り払い返事を返した。
「でも……疲れてるんじゃない? 少し顔色悪いわよ?」
アスカが少し眉を顰めて僕の顔を覗き込む。
「久々の買い物だったから、ちょっとびっくりしただけだよ。大丈夫だって」
「ホントに?」
――そんな目で見ないで、アスカ。
「うん。大丈夫だから、心配しなくてもいいよ」
僕はアスカの不安を取り除ける様彼女の手を取り、ひんやりとした手を温めた。
青葉さんを待つ間、車が見えないか周囲を見渡してみる。
空の色が以前と違う気がした。
携帯の時計を確認すると、時刻は夕方に差し掛かっている。
地軸が元に戻っている影響だろうか、以前に比べると赤味が増す時間が早い。
その分やっぱり、緩やかに吹く風も幾分か冷たかった。
「……綺麗ね、夕焼け」
「うん、こんなにじっくり見るのも久し振りだ」
入院中は昼間に屋上へ行く位。
太陽と空をまともに見るのはその時だけ。
中庭は建物に囲まれていて息が詰まりそうだ、と一度行ったきり。
今居る場所から建物が赤く染まっていく建物の群れが見えた事で、そんな事を思い出した。
夕方に近づくに連れ、車の量も客の人の流れも増えていく……。
「色んな物が少しずつ、動いてるのね……」
「これからはこれが普通になるんだよ、きっと」
そう、世界は常に回っていて、前に進んでる。
あの赤い海の中で僕が選んだ事だ。
みんなに会いたい、僕は僕で居たい、と。
その結果が目で見える形、それが空の色なのかも知れない。
「僕達、二人なら大丈夫だよね?」
さっきまでひんやりとしていたアスカの手に、僕の手から体温が移る。
「勿論よ。アタシ達二人一緒なら」
アスカが手に力を込めたので、僕も彼女の手を握り返す。
手を繋ぐって、温かいんだなと思った。
風は冷たくなってきたけれど、それだけで僕の心は温かかった。
だって彼女の手は、何も出来ない事で全て諦めていた僕を、前に進む為に引き上げてくれた手。
身勝手に他人を拒否したのに、再び身勝手に他人を望んでしまった僕の我侭を赦してくれた手だから
「寒く、ない?」
繋ぐ手は温かいけれど、体は冷えて来そうな位風が冷たくなってきた。
夏の生温い風とは違い、地軸が元に戻った影響で気温が少しずつ元の季節に近付いてる為だ。
「平気よ。アンタこそ寒くない?」
「僕も平気だよ」
痩せ我慢している訳じゃない。
久々の外出で緊張気味なのもあるけど、アスカと手を繋いでいると体も何だか温かいんだ。
その時、クラクションを鳴らしながら目の前に車が止まった。
ガチャリとドアのロックが外れる音が聞こえる。
「悪い悪い、時間が時間だから混んでてさ。待たせて済まなかったね」
青葉さんが後部のトランクのロックを外して、エンジンを掛けたまま車から降りてきた。
「そんな事無いですよ。有難うございます」
慌てて手を解いて足元の荷物を持ち上げる。
「あ、アタシも手伝う」
「いいよ、アスカは先に車に乗ってて」
「そうそう、力仕事は男の仕事みたいなもんだ」
僕と青葉さんで買った物をトランクスペースに積み込む。
軽自動車だからチェスト二個でスペースは一杯だ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。余り遅くなると寒くなるからね」
青葉さんがトランクの鍵を掛けた。
先に乗り込んでいたアスカの隣に座り、シートベルトを掛ける。
「よし、出すよ」
ゆっくりと車が走り出し、来た道を戻って街中を抜け高速に乗る。
カタン、とトランクの中のチェストが、道の段差の衝撃で跳ねた音がした。
その音に気を取られ、後ろを振り向いた。
既に町が遠い。
けれど、ガラス窓の向こうに見えたキラキラと輝くネオンと電灯の灯りで輝く町の距離は、何だかとても近く感じた。
これも、世界が動き始めたって事の証拠なんだろうな。
買い物篇終了。
これからネルフへ帰ります。
続きは週明け迄に。
お疲れ様です
続きを待ってます
情景を描くのが相変わらず上手いですね…見習いたいです本当にw
52 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/23(日) 16:03:05 ID:dweKsNbi
保守上げ
高速に沿って点いている電灯の灯りが、流れ星の様に流れていく。
比較的空いていた為か、車の量の割りには流れはスムーズ。
でも第三方面へのI.C.迄来ると、一気に車が減った。
殆どが新小田原方面で下りる車ばかり。
「やけにトラックが多くない?」
「昼間はこんなに通ってたっけ?」
I.C.ですれ違う第三から新小田原方面へと向かう車に、何故かトラックが多い事に気付いた。
土砂を載せた物や、空っぽの荷台の物にパイプや鉄骨を載せた物に他にも色々。
「ああ、市街地の再開発工事を請け負ってる業者だよ。第二から来るのもあるけど、新小田原が一番近いからね。
今の時間帯はちょっとしたラッシュになってるんだ。昼間の工事を終えて戻る車と、夜間工事に向かう車でね」
「……地上、吹き飛んでしまったからですか?」
「戦自が派手にN2落としてくれやがったからなぁ……」
僕達が最初にジオフロントに辿り着いた時、真上の市街地は跡形も無く吹き飛んでいた。
ぽっかりと地面に開いた大きな穴が残されていただけ。
勿論、その時の爆風が凄まじかったんだろう。
市街地から少し離れている筈のコンフォートも、吹き飛ばされて瓦礫の山に。
何となくそんな予感はしていたけれど、実際に見てしまった時のショックはやはり大きかった。
そして周囲に散らばっていたのは、戦自のヘリや戦闘機に戦車の残骸……。
市街地と言えば、僕達の記憶はその時の記憶の方がまだ強い。
「工事……進んでるの?」
追い越していくトラックを目で追っていたアスカが、ポツリと呟く。
「中心部以外は新しい建物も立ち始めてるよ。と言っても、急拵えだから殆どプレカットで組み立て式の仮住居だけどね」
「そうなの?」
「住居は早急に確保しないとダメだからな。何時までも仮眠用の部屋を使っていられないし、避難民も戻って来る」
言われて見ればそうだ、と僕とアスカは顔を見合わせた。
確かに何時までも地下で暮らすのは不健康だよね。
太陽って凄く重要だよ、健康にも精神的にも。
「MAGIが無事だったから、再開発計画は今の所順調だよ。でなきゃ、何処に何を建てるかで今頃揉めに揉めてる筈だしな!
先日発表された暫定版のサードインパクトの公式発表のお陰か、世界中から救援の手が差し伸べられたらしい。
物資は勿論、再開発の為の技術者の提供もあった為、再開発は順調だと言える。
MAGIによる再開発計画は、全てが終わった事が判った日から十日もしない内に開始された。
MAGIの中に遷都計画書の図面が残されていたから出来た芸当だ。
でも僕達はそういう事があったという事しか知らされていない。
多分、内容はネルフに戻ってから知らされるんだろう。
「ま、一般に発表された内容と内部資料の内容は別物だ。そこら辺は大人の事情って奴だよ」
「僕達には……教えて貰えるんですか?」
「司令の判断次第だと思うよ……俺はある程度は知ってるけど、俺から話す訳にもいかないしね」
「そりゃそうよね。まぁ……運が良ければ教えて貰えるんでしょうけど、普通に考えればアタシ達が成人してからかしら?」
「やっぱりそうか……」
僕が入院中に話したのは、起こした時に思った事と、起こった時に感じた事、戻って来てからの事を少しだけ。
どうしてサードインパクトが起きたかとか、それがどういう事を表していたのかは判らないし、そもそも知らない。
「結局、全てはネルフに戻ってから……なのかな」
夜間工事の為の電灯で明るくなった旧市街地を車が走り抜ける。
重機が動く大きな音が聞こえた。
工事を指示する人の声に混ざり、金属がぶつかる音が幾重にも響いている。
トラックの荷台には、廃材が積まれていく……。
新しく作られる物に取り壊される物。
それと同じで、この町の様にネルフも変わっていくという事なんだろう。
「今更気にしても仕方ないわ。まず、受け入れろ……って事よね」
市街地の廃材を運んでいくトラックの列を横目に、アスカが呟いた。
「そうだね……」
更地になった市街地に、また再び人が戻ってくる。
それは間違いのない事だから、こうして新しい町を作ろうとしている。
その流れに取り残されない様に、流れを見失わない様に、目に焼き付けた。
カートレインの市街地にあった入り口はやっぱり吹き飛んでた。
僕達は旧市街から市街地には入らず、旧市街の外れの入り口からジオフロントに入った。
懐かしい。
確か、僕が一番最初にジオフロントに来た時、ミサトさんの車で使った所だ。
戦自の侵攻の際に山の陰になっていた為、爆風から逸れて無事に残っていたという事らしい。
「この景色も久々だわ……何だかんだ言って、懐かしいわね」
「うん。歩いて下りるのとまた違うからね……」
二人で辿り付いた時は、市街地の外れに残っていたゲートから入ったからだ。
何時かの使徒の侵攻の時も、非常口から入った事を思い出す。
でも、車で下りていくのはやはり一番最初の事を思い出して、何だか感慨深い。
「地上が落ち着く迄は、この中で過ごして貰う事になるよ。工事中の現場は危ないからね」
「解りました」
ジオフロント内も復旧工事が進んでいた。
下を見ると、何台かのトラックが更地のエリアと本部の駐車場を行き来している。
荷台にはキラキラと光る赤味を帯びたガラスの様な物が積み込まれていた。
「あれ……何なの? 一杯積み上げてるけれど……」
アスカが不思議そうに青葉さんに尋ねた。
「あぁ、本部内に流したベークライトの欠片だよ。閉鎖したブロックを一つ一つ開放するのに邪魔だからね。
削って出た廃棄物を一時的に積み上げてるんだ」
「そうなんだ……」
灯りに照らされてキラキラと光るそれは、復旧作業には不釣合いな程綺麗だった。
積み上げられたベークライトの山の横を通って、駐車場への出入り口から本部内に入る。
「あぁ、そっちのルートは封鎖中だから、遠回りのこっちしか通れないよ」
普段使っていたルートはベークライトで封鎖されているみたいだ。
作業をしている人が手押し車に欠片を乗せて出入りしていた。
「あ、はい」
警備員の詰め所でカートを借りて、車へと戻り荷物を載せる。
「じゃあ、行こうか」
ネルフ到着。
町もネルフ本部も復旧作業が進んでおります。
続きはまた近い内に。
おっつ
来てた〜
GJです!書くの早いですねw
歩を進める度、ドクドクと血液が血管を流れる音が聞こえてくる気がする。
胸が少し痛い。
父さんと久々に会うから、緊張しているんだとは思う。
でも、何を話せば良いんだろう……病室で顔を合わせた時だって、碌に会話も無かったと言うのに。
――逃げちゃダメだ。
いつもの様に自分に言い聞かせてみる。
するとアスカが、手を取ってくれた。
顔を見ると、大丈夫とでも言う様に笑みを浮かべていた。
その様子に気付いた青葉さんも、ポンと頭に触れる。
青葉さんも、笑みを浮かべてくれた。
エレベーターの階数はどんどん上がっていく、司令室に近付いていく。
鈴の様な音が、目的の階に着いた事を告げた。
「…………やっぱり、緊張するな」
「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ」
「リラックスしろとは言わないけど、もう少し何とかしなさいよ。別に死刑宣告聞く訳じゃないのよ?」
部屋の前に着いたのは良いけれど、インターホンを押す気にはならなかった。
何度も押そうと手を伸ばすが、どうしても躊躇ってしまう。
そんな事をしている内に僕は相当変な顔になっていたんだろう。
アスカが僕の頬に触れ、その肉を引っ張った。
「痛っ!」
「そんな事言ったって、そんな強張った顔で司令に会う気なの? 取って喰われる訳じゃないのに、緊張し過ぎよ?」
「痛いよ、アスカ……止めてよ……ねぇ……」
アスカは僕の頬を何度も縦横に引っ張った。
そして気の済むまで一頻り頬を引っ張ると、最後に軽く頬を叩く。
「はい、これで終わり。ちょっとはマシになったわよ」
「うぅ……酷いよ、もう……」
「でも、さっきより強張りが取れたぞ。うん、今の方が良いな」
青葉さんはそう言ってくれたけど、アスカの方法がちょっと乱暴過ぎると思うのは僕の気の所為?
「どうする、シンジ君? 自分で押し難いなら、それはそれで構わないよ?」
何度も躊躇する僕を見兼ねて、青葉さんが助け舟を出してくれた。
どうしよう……押したくない訳じゃない。
もう一度手をボタンに近づけたが、指が震えて上手くボタンに触れる事が出来ない。
「ふぅ……無理そうね?」
アスカが呆れた声で僕に問う。
「うん……何か緊張する……。やっぱり父さんは苦手みたいだ、僕」
「そんなに急に平気になる事なんて無いわよ。少しずつで良いのよ、きっと」
意外だった。
アスカがそんな事を言うなんて。
以前なら、僕の事を馬鹿呼ばわりしてもおかしくなかったのに。
「……何よ。アタシ、何か変な事言った?」
「……いや、何でもないよ」
どうやら意外な事を口にしたアスカに驚いて、彼女の顔を凝視してしまったみたいだ。
僕の中のイメージのアスカと余りにも違ったからだろう。
確かにサードインパクトの前後で、僕の中のアスカの印象はガラリと変わった。
でも、どちらもアスカだ。
という事は、父さんにしても少しは変わった印象を持つかも知れない事に気付いた。
補完中に少しだけ視えた父さんの記憶、心。
蟠りが無いとは言えない。
けれど、僕達親子が乗り越えなければならない壁があるのは確かだ。
深呼吸をして、もう一度自分に言い聞かせる。
――逃げちゃ、ダメだ。
「……自分で、押します。有難うございます、青葉さん。アスカもありがと」
「そうか……解った」
アスカの口元に笑みが浮かぶのを確認した僕は、インターホンのボタンに手を掛けた。
カチリ、とスピーカーが切り替わる音がする。
ザーザーと無音の時に入るマイクの雑音だけが暫く流れた後に、父さんの声が流れてきた。
『……誰だ?』
意を決してと言うのは大袈裟だけど、緊張して震える声のまま、僕は自分の名を告げた。
「あの……シンジです。さっき……青葉さんのお迎えで戻りました。アスカも一緒です」
またカチリとスピーカーが切り替わり、雑音が流れた後、父さんの声が聞こえて来た。
『入れ……開いている』
ドアの前に歩を進めるとドアが開いたので、僕達はそのまま部屋に入った。
「青葉二尉、只今戻りました」
「うむ、ご苦労だった」
青葉さんが父さんに敬礼をしている。
そう言えば、今は父さんの直属だって言ってたな……忘れてた。
「じゃあ二人共、俺は外で待ってるから」
「あ……はい」
青葉さんは僕達にそう言い残すと、部屋から出て行ってしまった。
その後、何も話せなくて部屋の中は、父さんが手にしていた書類を捲る音しかしなかった。
「あ、あの……」
沈黙に耐え切れなくなった僕が、見舞いに来た時の事を訊ねようとしたその時、父さんが僕の声に被る様に口を開いた。
「二人共……報告は、聞いている。あれが……全てか?」
「ぁ……はい、そうです……けど……」
アスカが僕に目配せをしたので、僕が答えた。
その後また、部屋の中は書類を捲る音だけになった。
「ふむ……解った。下がっていい」
「え?」
別に何か特別声を掛けて欲しかった訳じゃないが、下がっていいと言われたら下がるしかない。
僕とアスカが大人しく部屋から出て行こうとした時、後ろから掛けられた声に一瞬耳を疑った。
「今日は……ゆっくり休め」
それだけの事だけど、嬉しいと思った僕は多分……単純に違いない。
ゲンドウと対面。
逃げちゃダメだ逃げちゃ(ry
続きはまた週明け迄位に。
乙!
続き楽しみにしてます。
イイですね〜!GJ!
私の中に燻るこの感情は……贖罪の気持ちが無いとは言い切れない。
この仕事をしている限り、縁が無いと思っていた節もある。
けれど、子供達を何とかしなければという思いもまた、事実である。
「それで……私は何を、すれば良いの……?」
「本当に、良いんだね……?」
彼女の眼鏡の奥の瞳の光が増した。
「良いも何も、後戻り出来ないと言ったのは貴女よ。贖罪の気持ちが無いとは言えない。
でも、私の中にそうじゃない気持ちがあるのも確かなの。ダメね……こんなあやふやな気持ちじゃ……」
「それが、人間だよ。ったく、耄碌爺共も馬鹿な事を考えたもんだ。迷い悩みながら前に進むのが人の特権だってのに。
それを全部無くしちまえば完全になれるなんて、何処の誰が決めたってのさ。傍迷惑極まれりとはこの事だよ」
彼女は私の気持ちを肯定すると、補完計画のレポートをその一言で片付けた。
「ゼーレも貴女に言わせれば形無しね」
「それが事実ってもんさね。じゃ、善は急げだ。立った立った!」
私の手を取り、力任せに引き上げて、彼女は私を立たせた。
そして机の上の試案の束を手にすると、足早に診察室を出て行こうとする。
「ちょっと、貴女何処に行くつもりなの?」
私が慌てて訊ねると、さも当たり前の様に彼女は言った。
「何処って……髭親父の所に決まってるじゃないか。他に何処があるんだい?」
気付いたら、私は彼女の言葉に乗せられるままに、本部へと続くカートレインの上に居た。
助手席には勿論彼女が居る。
「あーあ、相変わらずヘビーだねぇ……」
ジャケットのポケットからキャンディを取り出し口に放り込むと、包み紙を吸殻で一杯になり掛けた吸殻入れに突っ込んだ。
「貴女こそ、甘党は変わらないのね」
「脳にエネルギーを補給しておかないとね。動く物も動かなくなっちまう」
包み紙を捨てた手で、彼女はラジオのスイッチを入れた。
放送は全てが終わった当初こそ混乱していた様だが、二、三日もするとまた元通りに放送が始まっていた。
尤も、気が付けば目の前に現れていた、沈んだ筈の土地に関しての放送が多かったけれど。
今はそれも落ち着いたのか、ラジオから流れてくる放送は音楽番組だった。
「……結局、何だったのかしらね」
「さぁ? ただ言える事は、犠牲は大きかったけど補完は無駄じゃなかったって事かな」
「どういう事?」
「失われた季節も土地も戻って来る、何処と無く漂ってた閉塞感も消えた。それにみんな、前向きになってると思わないか?」
ラジオのチャンネルボタンを弄りながら、彼女は私に笑い掛けた。
あれからの職員の言動を思い返してみる……。
戦自の侵攻でのショックを受けて、カウンセリングが必要な職員も少なくなかった。
しかし、自主的に施設の復旧に動き始めた職員もかなりの数だった。
「そうね……そう言われてみれば。少しずつ、みんな変化しているわね」
私の口元にも自然と笑みが浮かんだ。
「でも……それが子供達の犠牲の上に成り立っていたとしたら、とてもじゃないけど遣り切れないわ」
その代償があの子達の今の状態だとしたら……胸が痛む。
「その気持ちがあるのなら大丈夫さ。きっとね」
彼女は私を励ます様に、もう一つポケットからキャンディを取り出すと私へと差し出した。
カタン、カタンとベルトコンベアを鳴らしながら、カートレインがジオフロントに近付いていく。
何時の間にかラジオからは天気予報が流れていた。
私は彼女の手からキャンディを受け取り、口の中に放り込んだ。
「キャンディなんて、久し振りに口にしたわ」
「偶には良いだろ。頭に栄養与えなきゃ、良い考えも浮かばないさ」
「そうかしら?」
「そうだよ。お前さんは何でも抱え込み過ぎてる。もっと周囲を頼る事も必要だって、さっきも言ったじゃないか」
彼女の前向きな考えとキャンディの甘さが優しくて、胸が一杯になった。
私は、何も出来ない事に無力感すら覚えていたというのに。
そんな私に、彼女も彼女の同僚も、私にはまだ出来る事があると言ってくれる。
私に手を差し伸べてくれる。
「……そうだったわね。弱気になっちゃ、ダメって事よね」
ラジオの番組は再び音楽番組に戻っていた。
カートレインも止まった。
「さてと……そろそろ着くわよ」
「了解。覚悟は良い?」
「……吹っ切ってみるわ」
アクセルをゆっくりと踏み、再び車は走り出す。
ベークライトの山の合間を抜け、駐車場に車を止める。
……らしくない。
滅多な事では緊張する事なんて無かったのに、今の私は緊張している。
奇妙な高揚感と、締め付ける様な胃の痛みがそれを証明している。
「変な気分ね。緊張しているのに、何故かそれが嫌じゃないの」
「良い傾向じゃないか」
ゲート前で警備員のチェックを済ませて、エレベーターのボタンを押す。
クルクルと回る階の表示が、時間が迫っている事を示し、私を更に緊張させる。
私がこれからしなければならない事は、医療部が出した試案を司令に了承させる事。
出来るかどうかは判らないが、しなければいけない。
もし司令の許可が得られなかったら……その時は一人で何とかしなければならない。
――本当に、人間ってロジックじゃないわね。
耳通りが良い音を発ててエレベーターが止まる。
緊張し過ぎたのか、軽い眩暈を覚えた。
司令室の前迄来ると、彼女は私にこう言った。
「試案に関しては全て了承している、という事にしてくれないかな?」
「良いけれど……どうしてまた?」
「その方が司令にインパクトを与えやすいし、後々話も早くなるんだ。良い?」
私は頷く事で返事を返した。
どちらにしろ、既に賽は投げられたのだ。
彼女はインターホンに手を掛ける。
「医療部E計画担当、芳沢アヤメです。チルドレンの診断書について報告に参りました。入室許可をお願いします」
インターミッション、其の参。
リっちゃん、出陣。
続きはまた数日中に。
GJ!
続きが気になる…描写がうまい!
捕手
シンジとアスカって結婚するより
もたもたと同棲やってそうだな。
シンジは自発的にはプロポーズできないだろうからな。
アスカが痺れを切らすのを待つしかなかろう。
むしろ、出来ちゃった婚で10代で結婚しそうでもある
出来ちゃったというか当初の計画通りっぽい
全てはゼーレのシナリオ通り
>>74 二人とも避妊とかちゃんとしそうだし、
本当にできちゃったとすれば、事故ではなさそうだなぁ。
「……ふぅ。緊張したなぁ」
司令室から出て来た僕の第一声。
「アンタねぇ……緊張し過ぎて声、震えてたわよ?」
「仕方ないじゃないか。顔、一月は合わせてないんだから。それでなくても元々数える程しか会ってないんだよ?」
アスカに笑われた。
「でも……良かったわね。声、掛けてくれて」
「うん……そう、かな?」
「そうよ」
「そう……だね……」
アスカが僕の手を握る。
逃げないで良かったと、初めて思った。
今迄の僕は、逃げちゃダメだと思いながらも、心の何処かでは逃げていた気がする。
でも、今日は逃げないで自分で一歩踏み出した、そんな実感があった。
「今日の予定はこれで全部終わったな」
「あ、そう言えばそうね。買い物も済んだし、司令にも退院の報告も済んだし」
「じゃあ、二人の部屋に案内しなきゃな。狭い所で悪いとしか言えないんだけど」
「そんな、用意して貰えるだけで有難いです。青葉さんだって忙しいのに」
「いやいや、これが仕事さ。いつもは再開発の資料と睨めっこだから、良い気分転換になったよ」
「ホントに?」
「ああ。他の職員だって、君達の退院を待ってたからね。これでやっと、ミーティングで良い知らせを報告出来る」
僕達を……待ってた……?
他の職員の人達が?
「本当に、待っててくれたんですか?」
俄かには信じられなかった。
だって、本部が戦自に攻められた時って……僕がぐずぐずして……何もしなかったからなのに……。
「僕……あの時、何もしなかったのに。あの時、僕が動いていたら職員の人達も……アスカも……ミサトさんも……」
青葉さんが僕とアスカの肩を掴み、目を僕達の高さに合わせて言った。
「シンジ君、それは違うよ」
青葉さんの目は真剣だった。
「初号機は、ベークライトで凍結処分されてた。君が何もしなかった訳じゃないのは周知の事だよ。
あの時は全員、自分の手で出来る事をやったんだ。みんな、それを解っているからね。今だってそうさ。
自分の手で出来る事から始めて、前に進もうとしているんだ。その力を奮い立たせてくれたのは、君達だよ」
「そんな、僕はただ……」
――逃げてただけなのに。
「まだ今は解らないかも知れないけど、な。だから、そんなに自分を卑下する様な事は言っちゃいけない」
アスカが握る手に力を入れた。
アスカの顔を見ると、唇を噛み締めて涙ぐんでた。
「っ……でも、アタシ……っ……一杯人を……っ……」
泣きそうになっているアスカの頭を、青葉さんは撫でて、こう言った。
「……確かに人を殺すって事は悪い事だけど、子供の君達を矢面に立たせてしまった大人が一番悪いんだよ。
それは司令や俺を含めて、職員全員の責任だ。アスカちゃんは、命令に従っただけさ。悪い事はしていない」
僕も、握る手に力を入れた。
アスカの手が震えてたから。
でも、視線は青葉さんに合わせる事が出来なかった。
後ろめたさの方が、明らかに比重が大きかったから。
でも青葉さんはそんな僕達に、こうも言ってくれたんだ。
「だから、後ろを振り返るだけじゃなくて……前を向いて欲しい。俺達職員だけじゃない、司令だってそう思ってる筈だよ」
「父さん……が……?」
瞬時には青葉さんの言葉が理解出来なかった。
無口で、僕の事なんて興味が無さそうに見える父さんが、僕達に責任を感じているなんて。
「ああ。司令はね、文字通り寝食を削って迄国連と政府と戦自との折衝に当たっているんだよ。それも戻って来てから直ぐね」
知らなかった。
ニュースでの報道を見る限り、何らかの形で動いているとは思っていたけれど、寝食を削ってるだなんて信じられなかった。
使徒戦での指揮を見ている限り、そんな事をする人だったとは思えなかったから。
「……入院中、必要最低限の人払いを命じたのも司令だよ。検査に時間を掛けて、休息させる事を優先にしろ、ってね。
大丈夫、司令はシンジ君の事をずっと気に掛けてくれてる。アスカちゃんの事だって同じ様に気に掛けてくれてるよ。
だから心配は要らない。今は甘えておけば良いんだ、判るね?」
そんな事を聞かされても、僕には戸惑いの方が大きかった。
――甘えるって、何? どうすればいいの?
アスカも言葉を失っている……ただ、手を握る力だけが強くなる。
「そんなに身構えなくてもいいよ。とにかく、何か言われる迄は自由にしてれば良いって事。体を休める事を第一に、ね。
じゃあ部屋、案内するから。行こうか」
「……は、はい。行こう、アスカ」
「ぅ、うん……」
エレベーターで下層の居住ブロック迄下り、案内された部屋は隣同士の一人部屋だった。
形だけのシンクにユニットバス……部屋の広さは多分六畳位。
「仮設住宅が地上に出来る迄の辛抱だ。長く居ても一月は掛からないと思うよ」
「もう、殆ど出来ているんですか?」
「一人暮らし用は完成してるよ。今建設中なのは、家族用の広めの奴になるんだ。二人共一人暮らしって訳にいかないだろ?
出来れば一緒に行動して貰うと、こちらとしても安心だしね。それに多分、二人共保護者が付く事になると思うよ」
「保護者……ですか」
誰が付くんだろう……ミサトさんはまだ戻って来てないし……他に保護者になりそうな心当たりのある人は居ないし。
「誰だって良いわ。シンジと離れる事は無いんでしょう?」
ユニットバスを確認しながらアスカが質問する。
「まぁね。でも、一応二人共身元引受人は司令になってるんだよ」
「そうなんですか? 初耳ですよ、そんな事」
「あれ……おかしいな? 以前から司令の筈なんだけど。葛城さんはあくまで代理って事じゃなかったかな」
それも初耳だった。
色々と初めて聞く事があり過ぎて、僕もアスカも呆然とするしかなかった。
「後、食事は食堂が二十四時間開いてるから。他に何か解らない事はあるかい? 無ければ俺はシフトに戻るけど」
「いえ……無いです。有難うございました、青葉さん」
それだけ返すのがやっとだった。
ゲンドウとの面会終了。
準備期間はもうちょっと続きます。
続きは週明け位に。
ごくろさまです。
青葉さんたくさんしゃべったね
いつもGJです!
ちょっと上げますね
イイヨイイヨー
いいね〜いいよ〜
仕事に戻る青葉さんを見送り、荷物を取り敢えず部屋に置く。
溜息が自然と溢れてくる……溜息を付く度に幸せが一つずつ逃げるとは言うけれど、出る物は仕方が無い。
さてどうしようかと考えた時、お腹の音が鳴った。
そう言えばお昼を食べてから随分と経っている。
アスカもそろそろ部屋に荷物を置いて落ち着いている頃だろう。
一緒に食堂に向かうのも良いし、食堂で簡単な物を包んで貰って、二人で部屋で食べても良いなと思った。
そうと決まればじっとしている理由は無い、アスカを呼びに行く事にした。
隣の部屋のインターホンを押す。
……返事が無い。
「アスカ? 居るんだろ、アスカ?」
呼び掛けて一呼吸の後、雑音が入る事無くドアが開いた。
「シンジ……」
「どうしたの?」
目が赤い。
「アタシ、どうしていいか判んない……」
涙を滲ませた目、泳ぐ視線……何かを訴えたいって事だよね。
「中、入って」
アスカを部屋に戻らせて、ベッドの上に座らせた。
僕も隣に腰を下ろし、肩を抱き落ち着かせる事に専念する。
「何が、判らないの?」
「……さっき、青葉さんが甘えてれば良いって言ったでしょ? でも、甘えるって言っても何をどうすれば良いのか……」
ああ、あの事か。
「僕も……余り判らないや」
「シンジも?」
「うん。だって、あの父さんにだよ? 判る筈ないじゃない。碌に会話した事すら無いのに」
しかしアスカは首を横に振った。
「そうじゃないの……そういう事じゃないのよ……」
「アタシ、ママが亡くなってからはずっと一人で生きるんだって思い込んでたから、誰かに甘えた事なんて無いの……」
「誰にも、無いの?」
「うん……無いわ……」
僕の肩に頭を乗せ、凭れたままポツポツと言葉を漏らす。
服に滲んでいた涙が滲み込み、僕の肩を濡らした。
「アタシね、Childrenに選ばれてから暫くしてからはもう、ずっとネルフの寮に入ってたの。訓練訓練で、毎日が終わってた。
教官は……厳しかった。厳しいだけじゃなかったのも確かよ。でもアタシは、素直にその手を取れなかった……」
「うん……それで?」
多分、話を聞いて欲しいんだろうと思って、僕はただアスカの話を聞く事に専念した。
もう、生半可な受け答えで後悔するのは嫌だったから。
「アタシは、子供で居る事を捨てちゃったの。早く大人になりたくて仕方なくて、何でも一人で出来なければって思ったの。
大学だって、子ども扱いされるのが嫌だったから、半分意地だわ。そうすれば、必要とされる人間になれるって思ってた。
誰かに頼るなんて、シンジが初めてだったの、アタシ。だから……何も判らない……」
「そっか……」
肩を抱き直した。
そして、言葉を選びながら、彼女に問う。
「その事は、後悔してる?」
「……後悔……は、してない。うん、後悔はしていないわ。だって、今のアタシを構成してる物だもの」
「だったら、それで……そのままで良いんじゃないかな? 僕だって判らないのは同じだから」
「ホント?」
アスカは顔を上げて、目を丸くしていた。
「うん……少しだけ、話したっけね。僕がこの町に呼び出される前の事……」
いつかの砂浜で、途方に暮れながら。
そして、初めてお互いが手を取り合える事を知ったホテルの一室で。
生きる為に、と互いの知りうる事を話した時の事を思い出す。
「……覚えてるわ。アタシ達、正反対だけど……よく似てた」
少しだけ、アスカに笑みが戻った。
「そうなの?」
初めて聞いた……僕とアスカは似てるなんて。
「うん……ママは、亡くなる前は人形をアタシだと思い込んでたでしょ。アタシ、ママにまたアタシの事見て欲しかったの。
だから良い子にならなきゃ、って必死になって勉強したわ。訓練や大学の事って、その延長だと思ってる……」
「あぁ……僕がパイロットとして町に残った理由と一緒なのか……」
父さんに必要とされてると思い込んで、思い込みたくて……パイロットを続けた。
でも結局僕を含めたパイロットは、母さんを取り戻す為の道具だった……。
今はどうなのか判らない……特に、父さんにとっての僕という存在は。
だから、僕は今足元がぐら付いてる。
アスカは甘える事を排除してきたから、甘えて良いと言われて、僕と同じ様に足元がぐら付いてるのか。
「なのかな? だから……似てるでしょ?」
「そうだね……うん、僕達は似てる。それに僕の母さんも、アスカのお母さんも、実験が原因だったもんね」
「ママが居た時は、アタシも普通に甘えてたと思うのよ。でも、そんな事すら忘れちゃった……」
そう言ったアスカの笑みは、とても淋しそうだった。
「大丈夫、また思い出せるよ」
僕はアスカを抱き締めた。
そうする事で、少しでもアスカが泣かずに居てくれたら、と思ったから。
「僕も覚えてないけど、きっとアスカと同じ様にそういう事はあったと思う。だから、二人で少しずつ思い出していけばいいよ」
「思い出せるかしら……?」
「きっと、ね。僕達を大事に思ってたから、母さん達はエヴァの実験をしたんだと思うし。アスカは嘘だと思う?
コアの中から僕達を守ってくれたのは、事実だよ」
「そう、ね……ママはコアの中からアタシを守ってくれてたものね。昔の様にずっと……」
「そうだよ。二人でなら――」
ぐぅ。
「……お腹の音?」
そうだ……元々食事に行かないか誘いに来たのを忘れてた。
「あははははは! お腹が空いてたのならお腹空いたって先に言えばいいのに。良いわ、一緒に行きましょ」
何も……こんな所で鳴らなくても良いじゃないか。
一日の予定も終わりホッと一息。
二人共ちょっとだけ前進。
続きはまた週の半ば位に。
「・・・アスカ」
「なに?シンジ?」
「今月の水道料金、2万円超えてるんだけど・・・」
「だから、なに?」
「アスカ、お風呂で水使いすぎなんじゃないの?」
「アタシのせい?!」
アスカの導火線に火がついたようだ。
「シンジ!アタシがお風呂に入るのが気にいらないっていうの?!」
やばい、やばい、やばい、起爆までカウントダウンが始まった。
ボクの思考回路がアスカ爆弾の解除のためにフル回転する。
「アンタがアタシの隅々まで愛してくれるように、念入りにキレイにしてるのがわからないの!」
ピキーン!ボクは閃いた。
「じゃあさ、アスカ。ボクと一緒にお風呂は入ろうよ」
「へっ!」
「ボクがアスカの体を隅々まで洗ってあげるよ」
な、なにを言ってるんだオレ?!
アスカの顔が赤くなるとデレーととろけ始める。
「ほんとに!」
「・・・うん」たぶんボクの顔は引きつった笑顔になっていたに違いない。
「水、使っちゃいけなんいんだよね」
いや、そんなこと言ってないし。
「石鹸も使えないないのに、シンジったらどんな洗い方してくれるのかしら・・・」
アスカの妄想が暴走している。
「早速、入りましょう!!」
ボクは浴室に引きづられていった。
おしまい
おしまいにするのか!
ならん
時間的には少し遅めの時間だった所為か、食堂はかなり空いていた。
遅番の職員と日勤の職員の交代時間を過ぎていたからだと思う。
「何にする?」
「そうねぇ……お昼は割りとこってりだったから、あっさりで良いかな? でも一人前はキツイわね」
「なら僕が定食頼むから、一緒に付いて来るミニサイズのうどんでも食べる? あれなら半分だから」
「そうね、それなら大丈夫かも」
「じゃあ、僕はこれにしよう」
少し腹持ちの良い奴が食べたかったので、親子丼定食の食券を買った。
定食にすると、うどんか蕎麦の半玉が付いて来る。
「すいません、これお願いします」
「はい、親子丼定食のうどんねー……って、二人でこれ?」
受付の女性職員に訝しがられた。
「まだ、アタシ一人前は食べられないから。だからシンジのミニうどんを貰うのよ」
「それで持つの?」
アスカに女性職員が問うけれど、アスカはこくりと頷いた。
「何かね、直ぐお腹一杯になっちゃうの」
やっぱり、アスカは食が細くなっている……もう少し、何とかならないかなと思う。
部屋で炊事が出来ると良いなと考えてはいたけれど、形ばかりのシンクじゃ無理っぽい。
だって、小さな薬缶を沸かせるかどうか位の大きさのI.H.しか付いてない。
あの大きさじゃあ炊事は無理だ。
「うーん……ま、それじゃ仕方ないか。早く良くなって頂戴ね」
「有難う」
「じゃ、これ番号札」
番号を確認すると、五番だった。
若い番号札という事はラッシュが過ぎているから、ゆっくりと食べられそうだ。
受け渡しカウンターに近い席に座り、積み上げられたコップを二つ取って、冷たい水をポットから入れる。
アスカに手渡すと、彼女は舐める様に一口飲み込んだ。
水分も随分と時間が空いて取っていなかった所為か、一気に飲むと喉に滲みて生き返った心地がした。
「どうしたの?」
きょろきょろと辺りを見回していたので、アスカが顔を覗き込んで来た。
「ん……ホントに前と変わらないんだなって」
確かに幾つかのブロックはベークライトで封鎖されてたし、今も復旧工事中だ。
でも封鎖されていないブロックでは、侵攻前と変わらない生活が戻ってる……。
「そうね……でも、廊下は弾痕が残ってたわ」
「やっぱり、人だけが一度融けて……また戻って来たって事なんだろうね」
僕達二人が最初にジオフロントに辿り着いた時、建物の中は戦闘の爪痕が残されていたままだった。
L.C.L.の液溜まりがあちらこちらにあって、衣服と銃器が散らばっていた。
でも、MAGIは通常通り動いていた。
ターミナルドグマから戻って来た時、人の気配がしている事に驚いた位だ。
僕達がターミナルドグマに居た間に、何かが起きたという事だろう。
「こう、普段と変わらないのを見たら、やっと納得出来た感じだよ。ホントに集団催眠みたいだ」
「……エヴァが無いだけ、なのよね」
「これで、良かったんだよ……多分。エヴァが残ってたら、また戦いが起きても不思議じゃないもの」
窓の外を覗くと、ライトに照らされたベークライトの破片の山が見える。
復旧作業は昼夜休み無く続いているって事なんだろう。
もし、エヴァが残っていたら……復旧も儘ならなかったかも知れない。
「でも、それってとても大きな変化だわ。何も変わってないけれど、よく考えてみれば変わってる」
「そうだね。そういうのが、今日は多すぎたかも」
僕達が当たり前だと思ってた事が、本当は当たり前じゃなかったって事だろうな。
だって、地軸がサードインパクトでセカンドインパクト前の位置に戻ってるだなんて、誰も思いもしなかったもの。
本当に、全てが逆戻りになってた事を目にすると、如何に今迄が異常だったのかが解ったし。
「でもきっと、それが当たり前になっていくんだ」
「……そっか。じゃあ、早く慣れなくちゃいけないかしらね?」
「慌てなくても大丈夫だよ。少しずつ、慣れていけば良いと思うよ」
ポーン、と電光掲示板の表示が変わった音が鳴った。
「差し当たって僕達がしなきゃいけない事は、ご飯を食べる事じゃないかな」
番号札を持ってカウンターにトレイを引き換えに行く。
電光掲示板には丁度八番迄の注文が出来上がった表示が出ていた。
カウンターでトレイを引き取り、アスカの座る席迄戻る。
「はい」
「ありがと。温かぁい……」
「冷めない内に食べちゃおうよ」
「うん」
トレイからうどんの入った丼だけを手渡す。
アスカは無造作に筒に突っ込まれた箸の束から箸を二本抜き出すと、一本を僕に手渡してくれた。
――アスカって……こんなに気が付いたっけ?
余り、記憶が無い。
使徒と戦っていた頃の最後の方は、特にはっきりとしていない。
覚えていないんじゃなくて、整理仕切れなくて頭の中が混乱している感じ。
それでも少しずつ整理して、話せる事は全てカウンセリングで話した筈だ。
「……どうしたの? 食べないの?」
「あ、うん、食べるよ」
慌てて口にご飯粒を入れた。
味は……判らないのかな、多分。
美味しくない訳じゃないんだけど、味よりもアスカが気になって仕方が無い。
一緒に暮らしてた筈なのに、僕は本当にアスカの事を見ていなかった事に愕然とした。
その事には気付いてたけど、改めて自覚すると……僕って酷い奴だ。
アスカが何も言わないから解らないんじゃない、何も聞かないから知らないんじゃない。
僕が何も言わなかったし、何も聞かなかったし、何も見ていなかったんだ。
知りたいと思うなら、解りたいと思うなら、自分から動かないとダメだったのに。
だから、これはきっと第一歩。
「アスカ、美味しい?」
ホッと一息。
誰かと一緒の食事は良いものです。
続きはまた週明け迄に。
>>90 閃いた側のシンジが最終的に引きづられちゃうのがイイですねw
強いアスカだなぁ。
>>95 そしてこちらは今にも折れちゃいそうなアスカで、これもまたイイ!
またシンジとの優しいやり取りが素敵です…。
両者GJです!
なんてことない日常の一コマ 「水道料金」
の続きをエロパロ板にうpしました。
アスカさん取り扱いマニュアル 上手な洗い方
興味がある方覗いてみてください。
では。
>>95 おつっした
てか、最近サイトの方がおとなしいですけど、大丈夫ですか?
>>98 読んできました。あなたはイイ馬鹿だw
>>99 一応溜まってから更新するんじゃないですかね?
ここに定期的に投下してくれてるから大丈夫ですよ多分。
薄明かりに絞られた部屋の灯りに溜息が絡み付く。
「診断書の……これは事実か?」
「あくまで推測ですが、可能性は高いと思われます。カウンセリングでの二人の態度を見ましても、まず間違いは無いかと」
彼女がすらすらと澱みの無い調子で、診断書に付いて報告していく。
だが私には、司令がすんなりと報告を受け入れるとは思えなかった。
「セカンドとサードの面会が可能になる迄、サードへのこちらからのアプローチは余り意味を成しませんでした。
食事にしても看護婦が辞してから随分経った後、数口だけ口にする程度でしたので、当初は殆ど点滴に頼りましたから。
話しかけても、返答が戻って来る迄随分と時間が掛かりました。まともな受け答えが可能になったのは、やはり……」
「ふむ……共依存という訳か」
「普通ならば、そう言えるのですが。サードの場合は病的な物ではなく、人間なら誰もが一度辿る道だというのが問題かと」
「……赤木博士、君の見解はどうなのだ?」
「はい……サードインパクトでの負荷が予想以上であったとすれば、可能性は無きにしも非ず、でしょうか。
カウンセリングの報告に拠れば、他人への恐怖と拒絶がサードインパクトの直接的な原因です。
今回の場合、セカンドが一緒に行動していた事に拠って、完全な白紙状態を免れたと言っても過言では無いと思います」
……私達は、どう思われているのだろう?
人間にとっての最初の他人は母親……とは言え、シンジ君にとって母親と言える人は居ないに等しい。
今、シンジ君にとって母親、隣人、友人、兄妹、恋人……全ての他人の要素を持つ人間はアスカだけだ。
今現在はアスカとの距離を基準にして、他の人との距離を身に付け直していると言える。
このままでは、アスカ以外の人間を受け入れる事は難しくなる……。
アスカにしても、今はシンジ君に依存し切っている部分が多い。
シンジ君に頼られている事を存在意義としてしまっているのだろう。
しかし今後を考えると、二人共社会での生活が困難になってしまう可能性が高い。
要するに私達大人は、子供達から未来の可能性を奪ってしまったのかも知れない。
それが、医療部の医師全員が出した結論。
司令は意見書から目を外す事は無かった。
一枚一枚を穴が開く様に見つめ、大きな溜息を付いた。
「芳沢一尉、医療部の見解は解った。治療としては今後予定している事はあるのかね?」
司令が意見書を受け入れた事が判ると、私は大きく、そして静かに息を吐き出した。
私と彼女は一瞬だけ視線を合わせる。
「入念なカウンセリング以外、する事が無いと言った方が正確でしょう。保護監督する人間が別に必要にはなりますが」
「……治療方針は?」
「人間関係の再構築、これに尽きます」
「どの様に進めるつもりだ?」
「はっきり言っても宜しいのでしょうか?」
司令が意見書から目を外し、椅子から身を乗り出した。
「それは、どういう意味かね?」
彼女は一息呼吸を置き、引鉄を引いた。
「人様の家庭に首を突っ込む事になりますので」
「何が言いたい?」
部屋の温度が明らかに急激に下がった。
しかし、彼女は一歩も引かなかった。
「文字通り、人間関係の再構築をしなければならない、という事です。司令、貴方にはその責任がある」
「責任?」
「手っ取り早く言えば、この際親父らしい事をしたらどうかという事です」
内心、言い過ぎだと思う私の手は、強く握り締められ爪が掌に食い込んでいた。
そして横槍を出し場を納めようと思っても、私にはその言葉が無かった。
私を取り残して司令と彼女の間で話が進んでいく。
「ここに居る赤木博士と再婚して下さい。それが、一番全て丸く収まる方法です」
「正気かね、芳沢一尉?」
「勿論です。擬似的な家庭でも良いんです、とにかく父親、母親といった役目を負う人間が必要なんですよ」
――やられた!
「都合良く別居中の父親が居ますからね。これを利用しない手はありません。貴方の主義である合理的、って奴です。
そして、チルドレンの事を一番理解している赤木博士は保護責任者として適任です。偽装結婚の相手としては申し分無い
「貴女、言い過ぎよ! それに、私はそんな事了承した覚えは無いわ! 私が了承したのは――」
「赤木、アンタは黙ってて。 どうです、司令? これ以上合理的なプランはありませんが?」
火花が散った。
二枚の硝子板の間に、冷たく、それでいて激しい火花が。
「……合理的、か。ふむ……言い得て妙、だな」
「最低限でも赤木博士を保護責任者として認めて頂きたい。でなければ何も出来ないですから」
沈黙を通り越し、無音と言ってもいい程静かな時間。
それを破ったのは司令の溜息だった。
「…………方法は、それ以外無いのだな?」
「合理的且つ手っ取り早い方法を申し上げた迄です。こちらとしても、一番方針が立て易い」
よりにもよって何を言い出すかと思えば、こんな事を考えていたなんて!
私の想像を遥かに超えていた上に、下手をすれば不敬罪で処分を下されても文句は言えない。
「追って……沙汰は入れよう」
「有難うございます」
目の前で進む話に、私は何も出来なかった。
私は、そんな事、望んではいない……望んではいないのに、何故……?
「では、私はここで失礼します」
呆然としている私に向かい、振り向き様に口元を少し緩めた彼女は足早に司令室を後にした。
再び、司令室に静かな時間が戻る。
司令が大きな溜息を付き、片時も外さなかったサングラスを外したのが見えた。
そして椅子に深く腰掛け、天井を見上げたまま呟いたのが聞こえた。
「……済まないが、何か淹れて貰えないか?」
「あ……はい、只今」
部屋の隅に置かれた戸棚からティーセットを取り出し、ポットへと湯を注ぐ。
「どうぞ。お口に合えば宜しいのですが」
ソーサーの上のスプーンに角砂糖を載せ、カップに紅茶を注がずにポットのまま机の上に置いた。
しかし、司令は目の前の机の上に置いたにも関わらず、カップには見向きもしなかった。
ただ、疲労の色が濃い声で、私に問い掛けた。
「君は……まだ、私があれに出来る事があると思うかね?」
インターミッション、其の肆。
ゲンドウとガチバトル。
リッちゃん、試練です。
続きはまた週の半ば位に。
>>99 ブログで触れているのですが、只今治験の副作用でややダウン気味orz
ご心配お掛けいたしますた(*- -)(*_ _)ペコリ
>>100 上記の理由で取り敢えず投下だけに集中しておりますた。
近々html化しますので時間のある時にでも覗いてやってくださいまし。
ごくろさまです。
しかしなんか…すごいことになりましたな。
このお二人なら平凡に収まらないだろうなあ
まして同棲したりしてたら
GJです!
わくわくしてまってますー
ああ…俺もこういうの書きてぇ…
GJ!
「何よ、急に……まぁまぁよ? それがどうかした?」
きょとんとした表情でアスカが僕を見つめ返す。
「ぁ、うん……何となく。ほら、随分と食べる量が少ないから、美味しくないのかなって」
「そんな事無いわ。ただ、入らないだけよ」
「なら良いんだけど。もう少し、食べられる様になれれば良いね」
「……変なシンジ。大丈夫よ、その内食べる量も増えるわ」
不思議そうな顔をしていたけど、再びうどんに箸を付け始めた。
少しずつ、少しずつ、ゆっくりと口に運んでいる。
「……温かいのは良いけど、ちょっと熱いわね」
汁の熱さにやられたのか、舌先を僅かに出した表情が何とも言えなくて。
「猫舌なのに慌てて食べるからだよ」
誤魔化す様にご飯粒を口の中に頬張った。
途中、一気に頬張り過ぎた所為か喉に詰まらせ掛ける事もあったが、それ以外は何事も無く食べ終えた。
ただ、アスカは猫舌が枷になって僕よりも食べ終わるのが遅かった。
半玉の丼は正解だった様で、昼とは違い残す事は無かったのは幸いか。
少しでも栄養を取って、やつれた姿が元に戻ると良いなと思う。
笑ってくれるのは嬉しいけど、何処と無く力が無いのはやっぱり心配だ。
「やっぱりお腹に物を入れると落ち着くわね」
――食べる事を拒否している訳じゃないのか……。
食べ終えてニコニコとしている姿。
そんな所を見て、僕は少しずつアスカの笑顔が増えれば良いな、と思った。
もう、苦しそうな泣き顔は見たくない。
理由は判らないけど、何故かそう思う。
泣き顔よりも笑顔が増えれば、僕も嬉しいかも。
いつも一緒に居るのなら、悲しい事よりも嬉しい事や楽しい事が多い方が良い。
「うん、そうだね」
だから僕も自然に笑顔になれた。
やっぱり、アスカは凄いや。
食べ終えたトレイをカウンターに戻す。
「ご馳走様でした」
「美味しかったわ」
カウンターの向こうに居る職員の人に一声掛けた。
作業をしていて返事は無かったけど、後ろを向いたままで手を上げてくれた。
「部屋に戻る?」
「まだ早くない? アタシ、そんなに眠くないわ」
「うーん……じゃあ、どうする?」
そんな他愛も無い事を話しながら通り掛ったのは休憩室の前。
置かれているTVからはニュースが流れていた。
シフトの関係で休憩に入っている職員が数人、TVをジッと見ていた。
ニュースの内容は、国連のサードインパクトの公式発表についての特集。
幾人ものパネラーが討論しあっていた。
ゼーレという組織は架空の組織ではないのかだとか、本当に戦闘はあったのかだとかだけが取り沙汰されている。
疑問視するパネラーと、事実だと主張するパネラーが入り乱れていた。
しかし提出された資料には、MAGIに残されていた各支部のMAGIクローンのクラッキング記録が混じっていたのは確か。
僕達チルドレンの記録は削られていたけれど、エヴァの映像もあった。
勿論、戦自がネルフ本部へと侵攻した記録もあった筈なのに。
それを見ていた職員の一人が呟いていた。
「このままだと、あの侵攻の国連関与はうやむやだな。ユーロに首謀者の大半が居たのもユーロにとっちゃ災難だろうし」
どういう事だろう?
父さんが、ゼーレに関与していたのは間違いないのに……。
アスカに聞いてみた。
呆れて物が言えないといった口振りだった。
「ゼーレ=アメリカ・中国・ユーロの一部=反ネルフ本部=反日本主義って事にしておきたいのよ。
そうすれば、ゼーレ=国連という事は隠せるから。MAGIクローンのクラッキング記録からでっち上げたんだわ」
どうして……隠さないといけないんだろう……?
「隠して何か良い事でもあるの?」
「セカンドインパクト以降、世界の経済や政治は日本のテクノロジーを中心としたアジアが殆ど動かしてきた。
ユーロ衰退は、地軸の移動の所為で殆どが北極圏に近くなってしまった事が原因だけれど。前後の勢力図としては真逆ね。
その事実を利用して、情報戦で反日本主義の勢力がネルフ本部を国内から潰そうとした、って事にしておきたいのよ。
そうすれば、ゼーレが起こしたセカンドインパクトも、国連の関与は無いって事で収まるもの」
「そうか……セカンドインパクトは国連が起こしたって事になりかねないから……」
「極めて高度な政治的取引、ね。多分、アタシの国際裁判への召喚も無くなるわ……」
「国際裁判? どうして? どうしてアスカが裁判に出なきゃいけないの?」
「あの時の戦闘で、アタシは戦自の兵士を一人で大量に殺したからよ……」
「でも、あの時は僕達……」
戦自の兵士に殺されかけた、それが事実だ。
「確かに、殺されかけたわよ。でもアタシの中に、殺される前に殺してやるって殺意が無かったとは言えないもの」
「そんな……それを言ったら僕はどうなるのさ……」
サードインパクトを起こして、世界中の人をL.C.L.に変えてしまったのは僕なのに。
しかもまだ全員戻ってきては居ない……。
「アタシの場合は戦闘記録が残ってしまっているもの。その戦闘で死亡した筈の人が生きて戻って来ていても、ね。
戦闘で人を大量に殺した事実は変わらないわ。この事に目を瞑る代わりに、侵攻は無かった事にしろ、って事なのよ。
被害は全て使徒の攻撃だ、ってね。司令も、かなり悩んだ末の判断だと思う……。シンジのパパには感謝しなきゃ」
明るく努めた声でアスカはそう言ったけれど……その声は僅かに震えていた。
――ずっと、悩んでたんだ。馬鹿だな、僕。
ただ、甘える事が判らないだけじゃなくて、きっとこの事がアスカの頭にはあったんだろうと思った。
ずっと頭にあったから、喉に食事が通らなかったのかも知れない。
僕がアスカの傍に居て出来る事って何だろうって思ってたけど、何だか少し、解った気がした。
出来るかな……いや、してあげたいんだ、きっと。
誰かの力に、手助けになりたいだなんて、考えた事も無かったな……。
サードインパクト、公表記録と提出資料と事実との差。
二人共悩んでます。
ゲンドウが二人に打ち明けるのは何時でしょう?
続きはまた週明け位に。
GJ!
GJですー!
無理なさらずにゆっくりマイペースでどうぞー。
…と言いつつ続き、楽しみに待っています。
アスカの手は握り締められて、血の気が少し引いていた。
僕は、その手を取った。
「御免ね。僕、何も気付いてあげられなかった」
「そんな、アタシが何も言わなかったんだもの。シンジが気付かなかったからって、謝る事なんて無いのよ?」
「でも、何か悩んでるって事位は、ね。だから、御免。僕、アスカの事見てる様で、本当に何も見てなかったから……」
静かに休憩室を出た後、手を繋いで、歩いた。
そのまま部屋に戻るのは躊躇われたから、レクリエーションブロックの中庭へと続く通路に向かった。
案の定、辿り着いてみるとそこは、戦闘で滅茶苦茶になっていた。
それでも構わずに歩を進めて、水が涸れたまま放置されている噴水の残骸の上に、僕らは腰を下ろした。
「約束したでしょ? ホテルを出る少し前」
「約束……そうね」
もっと肩の力を抜いて、二人で力を合わせて、いつかのユニゾンの様に手を取り合っていこう、と。
そんな、小さいけど強く、二人で誓った約束。
「だから、何か悩みがあるなら、相談して欲しいんだ。一緒に考える事位なら、僕にも出来るでしょ?」
大学卒業しているアスカには敵わないけど、僕程度の頭でも、一緒に悩む事位は出来る。
「シンジ……」
「僕が傍に居て君にしてあげられる事って、何があるのかって考えたら、これ位しか無いと思うんだ」
「……アタシ、シンジの傍に居られるだけで、充分過ぎる位なのに」
「それは……僕だって同じだよ。それにあの時約束してくれた様に、アスカが傍に居てくれるだけで僕、嬉しいもの」
何があっても、傍に居るって、アスカは約束してくれた。
それは、誰も居なくなっていった恐怖から、僕が僕を自覚出来なくなっていく恐怖から、僕を救ってくれた。
「だから、僕もアスカの力になりたいって思うんだ。いけないかな?」
アスカの目が泳ぐ。
そして、俯いたその目から繋いだ手に、ポタリ、と涙が零れ落ちた。
「どうしたの? 僕、何かいけない事でも言った?」
何故肩を震わせて涙を零すのか、僕には理由が解らなかった。
ただ、何か拙い事を言ったのではないかという、恐怖の方が大きい。
また、アスカを泣かせたという罪悪感で、僕の心は一杯だった。
「……そんな事ないわ。ただ、嬉しくて……びっくりさせて御免なさい、もう大丈夫」
アスカは涙を拭いながら顔を上げた。
頬を赤らめて、口元には笑みが浮かんでいる。
「ホント……?」
僕がおどおどと確認をすると、何度もアスカは頷いてくれた。
「嬉しい時にも涙が出るって、本当ね……。アタシ、もう出来ないって思ってた」
「えっ?」
嬉しくても涙が出る……いつかの月の夜の事を思い出した。
第五使徒の攻撃を身を挺して庇ってくれた綾波が助かった時、僕が嬉しくて泣いた事を綾波は不思議がっていたっけ。
アスカは、出来ないって思ってたんだ……。
「どうして、そんな事言うの?」
「アタシ、よく考えてみたら今迄、嬉しい事ってそんなに無かった気がするの」
そう言ったアスカの顔は、何だか寂しそうに見えた。
昔の事を思い出して懐かしんでいるけれど、それが寂しい感じ。
「アタシ、ママが亡くなってからはずっと、一人で生きるって思い込んでた。だから寂しくても平気にならなきゃ、って思ってた。
アタシにとって嬉しい事って、Childrenに選ばれた事が全てだったから」
「本当に、何も無かったの……? 嬉しい事って……」
「うん、無かったと思う。本当に心から笑う事も、日本に来る迄忘れてたかもね」
そんなの……悲しすぎるよ……。
嬉しい事も無い、笑う事も無い毎日って……淋しいよ。
僕がそうだったから、それがどんなにおかしい事か、今ならよく解る。
「やだ、今はそんな事無いのよ? アンタがそんな、顔を顰める様な事じゃないわよ」
「でもさ……僕も、先生の所に居た時は同じ感じだったから……それがおかしい事だっていう事位は解るよ」
繋いだ手の上に、もう片方の手を重ねた。
アスカの手を包む様に、労わる様に、暖める様に、手を重ねた。
アスカの手は僕が思っていたより、いつかのマグマの中から引き上げた時の記憶よりも細く、小さい。
「……馬鹿ね。もう、今は平気よ」
「ホントに?」
アスカは繋いでいない方の手を、僕の顔に向けて伸ばしてきた。
そして僕の眉間に触れると、人差し指で軽く突いた。
「ホントにもう……そんな怖い顔しなくてもいいの」
そう言って見せた笑顔は、憑き物が落ちた様な、安心した感じの柔らかい笑み。
「アタシが傍に居て嬉しいって言ってくれた事、凄く嬉しいんだから……」
「そんな……僕はホントの事言っただけだよ……。だって、僕の我侭みたいなものだし」
そう、嬉しい。
今迄誰かが隣に居るなんて事、本当に無かったもの。
僕は本当に、一人になる事も、捨てられる事も、怖くて仕方が無い。
――あ……これって、自分勝手な理由だ……。
馬鹿だなぁ。
一人になるのが、淋しくなるのが嫌だから、アスカが傍に居てくれるのが嬉しいって事に気付いた。
「それでも良いの。アタシを必要としてくれる、それが嬉しいのよ。多分、今迄で一番嬉しい事だわ」
「そうなの?」
僕がアスカを必要としている事、アスカはそれが嬉しいって……どうして?
「でも僕は……一人になりたくないから、一緒に居たいって思ってるだけなのかも知れないよ」
「誰でも良いって訳じゃないんでしょ?」
「ぁ……」
確かに、アスカ以外の人って言われると、ピンと来ない。
僕の中で隣に居るのは誰かと言えば、いつもアスカだ。
「だから嬉しいのよ。誰でも良いんじゃなくて、アタシをちゃんと必要としてくれているから。それだけじゃないわ。
シンジがアタシと一緒に居たいって言ってくれたから、アタシはアタシを認める事が出来たの」
アスカが僕の手に、もう片方の手を重ねてくれた。
「二人で力を合わせてやっていこう、って言ってくれた事で、アタシは一人じゃないって思える様になったの。
やっと、自分の弱い部分を認められる様になったのよ」
重ねた手は、とても温かかった。
どんな事も二人で。
そうする事で自分も認める事が出来る。
それはきっと良い事の筈。
続きは連休明けにでも。
乙です!
乙ですー!
読ませて頂いているうちに涙が出てきてしまうのは何故なのでしょう。
このシンジとアスカのように、決して依存しきっている訳ではないけれど、
互いになくてはならない存在としてそれを糧に自分達が更なるステップアップをしていく様を見ていると、
はるか昔に自分も同じような恋愛を経験した記憶がある身には、ある種の気恥ずかしさとか当時の情景が思い浮かんできて良い意味で居たたまれなくなってしまうと言いますか…
うまく表現できませんが、この二人には絶対に幸せになって欲しいという感情移入が激しすぎるのかもしれないです…
感想というより独り言、申し訳ありません。
…つまりは、GJ!ってことです!
GJ!
もう連休が明ける……wktk
「二人……で……うん、そうだね」
僕は、逃げないって決めたんだ。
どんな事があっても、逃げずに頑張ろうって、アスカと二人で頑張るんだって決めたんだ。
「もう、忘れちゃ嫌よ。あの事があったから、リハビリだって頑張れたんだから。だから、何もしてないなんて事無いのよ?」
「御免。そういう事って、余りよく判らないんだ……。それにこれからだって、何していいかサッパリだしね」
地上の仮設住宅へ引っ越すのはまだまだ先だ。
一応僕達も職員だろうけど、僕達に手伝える様な事なんて今は無さそうだし。
「うふふ……シンジらしいわ、判らないだなんて。でも、これから何をすればいいのか判らないのには同感ね。
明日にでも出来る事が何か無いか、リツコにでも聞いてみる? 司令に聞く訳にはいかないでしょ?」
父さんに聞く……?
アスカが父さんに教えて貰う所なんて……ダメだ、想像が付かないよ。
「それ以前に父さんが答えてくれるとは思えないよ。父さんって、無愛想だし人見知りが激しいもの」
父さんが誰かに愛想良く答えるなんて事自体、ありえない気がする。
「やだ、そうだったの? てっきり組織の責任者だからお堅い人なんだと思ってたわ」
「息子の僕にさえ人見知りしてるんだよ?」
アスカの表情が、何故か一層柔らかくなった。
そして、口にした言葉は思いも拠らない事だった。
「良かったじゃないの……。嫌われてるって、ずっと思ってたんじゃない?」
「そっか……そうだね。嫌ってたから僕を捨てた訳じゃなかったんだよね……。
あの時僕、父さんの記憶と心が視えたんだったっけ。父さんは、僕を傷付けるのが怖かったんだよね」
忘れてた。
「少しずつ、話が出来ると良いわね」
「うん。……まだ、僕にとって父さんは解らない人だけど、あの時視えた事が嘘じゃないのなら、少しでも解り合える筈だしね」
母さんが全てで、母さんに好かれていた事でさえ半信半疑だった人だもの。
僕が父さんの事を好きだった事が信じられなかったから、僕を第二の駅に置き去りにしたんだろうな……。
その時に僕と父さんの縁は一度、殆ど切れてしまったけれど、縁は繋ぎ直そうとしたら繋ぎ直せる筈。
だから僕はもう一度、父さんと正面から向き合わないとダメなんだ。
「ねえ、アスカ?」
「なぁに、シンジ?」
僕を見つめるアスカの瞳は、何処までも優しい。
あんなに一杯傷付けたのに、アスカは優しい。
僕はアスカの様に、優しくなれるんだろうか?
……父さんに、優しく出来るんだろうか?
「僕、出来るかな?」
「ばぁか。出来ないって決め付けたりしなけなきゃ、何だって出来るわよ」
「そう?」
「そうよ。やってもいない内にあれこれ言ったって、何も始まらないわ。アタシも、シンジもこれからなのよ」
そうか……僕、まだ何もしてないんだ。
だからまだ、スタートラインに立った所なのか。
「解った。僕、やってみる。父さんと、話してみるよ」
「うん。頑張って、シンジ」
「でも……アスカも何かあったら、さっき言った様に僕に話して欲しい。僕も、アスカには何でも話せる様になりたいから」
自分でも、今迄の僕とは随分と懸け離れた事を言ったと思う。
だって、決めたんだから。
アスカの事をもっと知りたいから、もっと解りたいから、アスカと沢山話をするんだ。
そしたらきっと、何時かは僕の気持ちが判る気がするから。
それだけアスカは、僕にとって特別なんだと思う。
どういう特別なのかはまだ判らないけど、それも何時かは判るかな?
そう上手くはいかないか……。
それに、他の人には話せなくてもアスカになら話せる事も、見付けたいと思う。
アスカには出来るだけ隠し事はしたくないから。
だから、直ぐ後に彼女が言った言葉は凄く嬉しかった。
「アタシ、シンジに何でも話せる様に、頑張る。前みたいに、隠したりしない様にするわ。有難う……」
頬を赤らめて笑顔でそう言ったアスカは、凄く可愛いと思った。
完全に季節が戻っていない分、幾らかまだ多少は暖かいとは言え、コンクリートの上だと夜は冷える。
「そろそろ部屋……戻ろうか。体、冷えちゃうし」
「……風邪、引いちゃうものね」
僕は先に立ち上がって、アスカの手を引いた。
そしてそのまま、手を繋いで居住ブロックへと歩き出した。
夜間のシフトの所為か、途中で職員の人と会う事は無かった。
ただ、別のフロアでのベークライトの削り出している音が、壁と天井に響いて聞こえて来る。
それは、居住ブロックに着く迄聞こえて来た。
部屋の前に着いたら、アスカと別れる……つもりだった。
夜も遅いのもあるけれど、一応二人共病み上がりだし、今日は買い物もしたので疲れている筈だから休まなくちゃいけない。
けれど部屋が近づくにつれて、アスカの歩む速度が遅くなる。
少しだけれど、繋ぐ手にアスカは力を入れた。
「どうしたの?」
「やっぱり、まだ眠くないわ……」
「でも、休まないと。そんな事じゃ体が持たないよ?」
僕がそう言った途端、アスカは眉を顰める。
「……馬鹿。馬鹿シンジ」
「何? いきなり」
「折角……夜も一緒に居られるのに……」
口を尖らせて目を逸らし、部屋の手前で足を止めた。
「直ぐ隣じゃないか。別に離れ離れになる訳じゃないんだからさ……」
少しだけ俯き、繋いでいない方の手で僕のシャツの裾を掴む。
そしてジッと睨むんだ、上目遣いで少しだけ頬を膨らませて。
その癖、僕が目を合わせると目を逸らす。
多分数分だと思うけど、何度かそんな事を繰り返した。
「……判ったよ」
仕方ないなと思いながらも、僕は彼女に手を差し出す。
「部屋においで、アスカ」
理解したいなら、理解しようとする努力が必要。
自らのこれからと、家族とのこれから。
まずは始めようとする事が大切。
続きは週明け位に。
>>120 基本的に投下物は続き物なので、保管庫の年表辿ると良い事があるかも。
PとSSSの区分以外の話を参照下さい。
依存の境目でいちゃいちゃらぶらぶしてる話が好きなのです(・∀・)
基本的に幸せになる為に色々するお話しか書けない人なので、生暖かい目で見守って頂けると幸い。
感想有難う、すげー嬉しい(*´Д`)
GJ!
一瞬、何を言われたのか解らなかった。
だが言われた事を頭の中で反芻し、自分なりに整理をした上で返答した。
「……勿論、ある、と私は思います。そう簡単には上手くは行かないでしょうけど、時間が全てを解決すると思いますわ。
それより、もっとご自分のお体を労わって下さいませんと。戻って来てからは満足にお食事も取っていないではないですか」
司令の顔は、明らかに疲労の色が濃く滲み出ている。
「しかし……ユイの言葉が離れん。これから歩み寄れば良い、間に合わないという事は無い……とな。
だが、何をすれば良いのか判らぬよ。一度突き放した者に、歩み寄る事があるとは思えんだろう……」
一言で言えば、不器用な人なのだ。
本当は、自分でも気付かぬ内に、一番気に掛けていたのに。
息子であるシンジ君も、そんな父親の血を濃く受け継いでいるのだろう。
報告書通りならば、自分の気持ちが余り上手く自覚出来ないと言っているが、アスカの事を何よりも気に掛けている。
アスカが隣に居なければ、言葉を失ってしまう程に。
「きっと、大丈夫ですわ。何もお嫌いで遠ざけられた訳ではないのですから」
私の言葉は、所詮気休めに過ぎない。
それでも、私は声を掛けずには居られなかった。
「ふん……たとえ私がそうでも、あれがどう思っているかは判らん。だが、出来る事はしてやらねば、ユイに顔向け出来ん。
それが贖罪という自己満足に過ぎぬとしても、だ」
深く腰を下ろしていた椅子から司令は体を起こし、再びサングラスを掛けると書類を手にしていた。
これから医療部の要望を検討するのだろう。
それにしても、彼女はとんでもない爆弾を落として行ってくれた。
――私に、どうしろと言うのだろう……。でも、彼女のプランは……私が嘗て望んでいた事……。
司令が一枚の書類に目を留めた。
既に机の上の紅茶は、ポットからカップに注がれる事無く、冷たくなってしまっている。
熟考している頭を落ち着かせる為、私はポットを下げ、もう一度紅茶を淹れ直した。
「少し、休んで下さい。浮かぶ考えも浮かばなくなってしまいます」
そして、カップに琥珀色の液体を注ぐ。
書類に目を注ぐ司令の表情は、完全に父親のそれだった。
「……済まん。気だけが走ってしまった様だ」
「解っております。でも、私にはお気遣い等不要ですわ……。今は貴方をサポートするのが私の務めです。
ですから、先にお食事だけでも」
「…………判った。手配してくれ」
やっと、司令は書類から手を離して紅茶に口を付けた。
それを確認すると、内線で青葉君に食堂へ消化の良い物と何か甘い物を手配する様に連絡した。
疲れの溜まっている今、普通の食事よりも胃腸に負担の掛からない物の方が良いだろう。
甘い物は脳へのエネルギーを早く吸収させる為だ。
彼女が車の中で言っていた冗談だが、今の司令には必要だろうと思う。
交渉、折衝、機密性の高い書類の処理……どれもこれも脳を酷使せざるを得ないからだ。
MAGIの支援を得ていても、最終的な判断は司令の匙加減一つで全て結果が変わる。
チルドレンの情報は、何としても漏らす訳にいかない。
それだけではなく、今でも毎日ポツリポツリと戻って来る職員や戦自隊員への情報規制もある。
ネルフと言う組織が今後も維持出来るかどうかは、司令の肩に掛かっていると言っても過言では無いだろう。
副司令が未だに戻って来ない現状では、物事を把握している度合いが高い私が、司令の補佐をするしかない。
とは言え……私は、形ばかりの補佐しか出来ないのが歯痒い。
今、司令を駆り立てているのは、補完の最中でのユイさんとの遣り取りだからだ。
シンジ君を何よりも気に掛けている事からも、それは行動の端々に伺える。
――それでも、良いのかしら、ね? 母さん……。子供達を何とかしてやりたいと思うのは、私も一緒だから……。
マスコミへの情報規制の報告を、司令室に運ばせた簡易端末でMAGIから受け取った。
今の所、規制の効果は上々だろうと思う。
TVでの報道を見ても、ゼーレの実在について内容は終始している事の方が多い。
使徒との戦闘記録が幾らか公開されているとは言え、そちらの方は局地的な戦闘という事で扱いは小さい。
それよりも世界的に影響を及ぼしたセカンドインパクトに関する事の方が遥かに重要と見える。
その扱いの差が、ネルフ関係者の心理的な負担を軽くしてくれたのは確かだと思う。
だが、どれもこれも結局の所司令の言う通り、贖罪と言う自己満足が齎した結果に過ぎない。
何時かは子供達も、それに気付く事になると思うと気が重い。
司令は紅茶に手を付け終えて直ぐ、椅子に深く腰掛けたまま眠ってしまっていた。
食事を摂る前迄の数十分だけでも、休んでくれた事にホッとした。
時計を確認すると、食事の手配をしてから既に一時間近く。
そろそろ運んで来てもおかしくない頃合か。
そんな事を考えていたら、司令が目を覚ましていた。
「……どれ位、眠っていた?」
「まだ一時間も経っていませんわ。三十分は経っていますけれど。お食事が来たらお知らせします」
「いや、いい。それよりも時間が惜しい。どれだけ動いているか判らんが、ドイツ支部の医療部に連絡を取ってくれ」
「……セカンドの、カルテですか?」
アスカのドイツ時代の物と、今の両親と、亡くなった生母のカルテが必要だと彼女が言っていたからだろうか。
「治療に必要であれば形振り構う場合では無かろう。MAGIクローンが通常稼動であれば問題無い」
「直ぐに手配を致します」
MAGIでドイツ支部へのホットラインを開き、手短に担当者へ用件を伝えた。
理由を尋ねられたので、ホームシックで少し不安定だと答えておく。
アスカを返還しろと突かれたらと思うと答えるのは嫌だったが、幸い一両日中には送るとの返答を得る事が出来た。
「……赤木博士。医療部からの意見書の件だが、君も目を通しているのか?」
「はい。昼間に診断書を受取に行った際に拝見致しましたが……それが、何か?」
「治療に必要な事……なのは、間違い無いのか?」
どうやらドイツ支部とのホットライン中に、司令は全ての意見書に目を通した様だった。
多分、彼女の言った事……の事を言っているのだと思った。
「少なくとも……保護責任者が必要なのは確かだと思います。この件は特に第三者の意見が重要ですので。
もし司令のお許しが頂けるのでしたら、子供達に近しい立場だった私が努めたいと思っておりますが……」
「それは……贖罪故、か?」
「勿論それもあります。ですが疵付いたあの子達と会って、それだけではないという気持ちがある事に気付きました」
「ふむ……」
司令は私の意見を聞いて、何か考えている様だった。
その時、熟考に入ろうとしている司令と私の耳に、インターフォンのスピーカーが食事の到着を告げた。
インターミッション、其の伍。
贖罪か、それとも前進か。
抱えた物は余りにも大きい。
リっちゃん、勝負です。
取り敢えず書き溜めた分は全部投下したので、続きはまた来月中にでも。
また折を見てhtml化してうpっときますー。
ではまたその内に
GJ&乙ですー!
まったりと続きをお待ちしております。
Gj!
本当に定期的にありがとうございます!
GJ!
カモーン!
続きお待ちしております。
捕手
職人町
職人がいなくなっても代わりは……いない!
十日町
星ゅ
まったり十日町
ほ
し
ゅ
一度ageます
織月氏マダー?
>>146 10月末からつい数分前迄規制ですたorz
続きは今書いてるからもうちょっと待って欲しいぞなもし
待ってますね!
暇だから久々にSS書いてしまったぜ…せっかくだから投下するんだぜ。
僕とアスカが一緒に暮らし始めてしばらく経つ。
保護者もなしに二人だけで生活するようになるまで、結構いろいろな事があった
その結構いろいろな事はまあここでは割愛するとして
僕とアスカ、ふたりで元気に暮らしています。
パトリシア
2016年、サードインパクトは発生したものの、被害は最小に収められた。
人類の敵である使徒を退け、世界は平和になったはずであったが裏社会を牛耳っていた秘密結社ゼーレが動いたのだ。
彼らは独自に作りだしたエヴァンゲリオンを用い、傘下にあったネルフを制圧、エヴァと封じられていた使徒の力を使い、自分たちにとって都合の良い世界を作ろうとした。
しかしネルフはこれに反逆、ネルフとゼーレ配下の戦略自衛隊、その両方に多数の犠牲者を出しながらの凄惨な戦闘が始まったのだ。
戦いの終盤にはエヴァ量産機も投入されるが、エヴァ初号機、弐号機の活躍によりそれを撃退する。しかし使徒の力を有していた量産機は復活。その力に弐号機は敗れてしまう。
弐号機パイロットの死亡、これにより初号機パイロットの自我は崩壊しサードインパクトは始まってしまう。
しかしその途中で初号機パイロットの意識は復活、弐号機パイロットとの間にあった愛が彼を繋ぎ止めたのだった。覚醒した初号機はその力のすべてを解放する。
地球全土を覆うはずであったサードインパクトは初号機によって第三新東京を覆うまでに止まった、その力は全てのエヴァ量産機を停止させるだけでなく、光となって廃墟となった第三新東京を、世界を照らす。
その光は奇跡の光であった。先の戦闘で失われていた筈の命が蘇っていたのだ。それだけではなかった、世界の傷ついた人々もまた癒されていたのだ。
その奇跡に戦略自衛隊は戦意を消失、戦闘はネルフの勝利に終わる。そして力を使い果たしたエヴァ初号機は弐号機の横に寄り添うようにして機能を停止させた。
パイロットは既に息を引き取っていた、エヴァ同士、しっかりと手を繋いだまま
初号機の光は弐号機のコックピットまで届かなかった、そしてサードインパクトは被害者を二名出しただけで終わったのだ、私たちはその犠牲を忘れてはならない…
「…っていうのがサードインパクトの実態なの、わかった?」
「もーそれ聞きあきたよ長いよー、あすかー、もっと違う話しろよー」
「そーだそーだ」
「ったく生意気なガキね、いいわ!じゃあこのアスカお姉ちゃんがとっておきの話したげる!ケンジ、マモル、サクラ!ちゃんと聞きなさいよ!」
「だから聞いてるってば…」
「実はね、この死んだとされてるパイロット二人…生きてるの」
「ええー!?マジで?」
「マジよマジ、しかもね、そのパイロットはね、今アンタたちの目の前にいるのよ!」
「ふーん」
「んなっ!なによアンタたち!驚きなさいよ!驚いてもっと褒め称えなさいよ!信じてないの!?」
「だって…ねえ?」
「うん、アスカはともかくあのシンジがパイロットなんて…」
「それに本当ならなんでこんなボロアパートに住んでるのさ、ここアスカ達以外住んでないくらいだよ」
「そっ!それはぁ…ジジョウってもんがあってぇ…」
アパートの階段に座ってなにか話しているのが見える、アスカと話しているのは近所の子どもたちだろう、最近アスカは人気者だ。
その理由の一つに、『何時行ってもいる』というのがあると思う、何時行ってもいて面白い話をしてくれるお姉ちゃんは自身の大人げなさもあって直ぐ子どもたちが懐いた。
そう、つまりアスカは絶賛引きこもり中だ、正確には半引きこもり、随分良くはなったが一人でアパートから離れられないみたいだ。
少し重くなってきたので買い物袋を持ち直す、商店街の人のサービスが重かった、感謝。
ああ、アスカが周りの子どもに一斉に話しかけられてなんか怒ってる、これはまずいな、下手したら僕にその怒りが向かってくる。それはとても面倒なので、僕は早歩きで向かうのだった。
「ただいまー」
「あーっ!シンジおっそーい!ったくアンタが遅いせいでアタシが嘘つき呼ばわりされたじゃない!」
「シンジ兄ちゃんおかえりなさーい」
「シンジさん、おかえりなさい」
「…アスカ、子どもたちがちゃんと出来てるんだから、ハイ」
「…むーっ…わかってるわよう…おかえり、シンジ」
もう遅くなってきたので子ども達を帰して僕たちは家に入る、6畳一間、キッチントイレ付き、大分ボロくてちっちゃいけどちゃんとお風呂も付いている。
そんな小さい部屋が今の僕たちの全てだ。
「ね、シンジ、今日のご飯なに?」
「今日はね、八百屋さんがキャベツサービスしてくれたから、ロールキャベツ」
「良いわねー。…で、何をロールするの?」
「…そこは、ほら、創意工夫で」
今の僕たちには、エヴァのパイロット、人類の救世主としての富も栄誉も何もない
全部捨ててしまったのだ、もうネルフとは連絡も取っていない、まああの人たちの事だからこっそり監視はしているかもしれないけれど。
でもその代わり僕たちは自由だ、今では二人とも心から笑えるようになった。アスカが笑っているだけで僕は幸せだと思う。
残念ながら収入は僕のバイト代だけだから、ちょっと貧乏なんだけど。
「あ、おからあるじゃない、どうしたのよコレ」
「これも貰ったんだ、捨てるからだってさ」
「うう、人の優しさってあったかいわね、感謝しなきゃ」
「はは、僕もお礼したら『今度二人で言いに来てくれや』だってさ」
「…ん、そうね。がんばる」
ミサトさんは別れ際にこう言ってくれた
「…貴方達はこれまで、凄く頑張ってくれた。だから今は、いっぱい、いっぱい休みなさい。誰も文句なんて言わないから…」
そう、これは余暇みたいなものなんだ、リハビリも兼ねての。
アスカはまだ回復していない、外に出るのは怖いし、人と話すのも嫌だと言っていた。
でも大分良くなっているんだ、笑顔も無く、殻に籠るだけの空っぽだった彼女は、今こんなにも笑っているじゃないか。
「ところでさぁ、アスカ髪切ったよね?」
「あ、分かる?あの鈍感シンジ様も変わったわねぇ〜」
「いや、だって…なんかちょっと左側変だよ?自分で切ったの?」
「…う、うるさいわねえ!パトリシア・ガーネットみたいでおしゃれでしょ!?」
「……誰それ?」
「知らない、今作った」
「ああ、やっぱり」
「や、やっぱりって何よやっぱりって!」
「はいはい、あとでちゃんと直すからねー」
「その余裕ムッカつくわね…だいたいアンタはデリカシーってもんが無いのよ!女の子に対してはねえ…」
これからどうなるか分からないけれど、二人で笑っていけるように頑張ろう。
つまずく事もあるだろうけど、それも笑ってしまえばいい、笑っていればきっと幸せになれるだろうから。
>>154 これでおしまい?
もっと続き読みたいよぅ!
途端にアスカは目を輝かせた。
そして間髪入れずに僕に抱き付き、頬にキスをすると自分の部屋に入ってしまった。
「……アスカ?」
でも直ぐに部屋から出て来た。
その手には洗面用具と着替え。
「……ねぇ、早く開けてよ」
瞬間アスカが何をしたのか判らなくて、僕は廊下のドアの前でぼーっと突っ立ってた。
アスカがドアを開けるのを強請る声で我に帰る。
「……えっ……あぁ、うん、解った。ちょっと待って」
IDカードをロックに通してドアを開けた。
「ふぅん……配置は左右対称なのね……」
「そうなんだ? 僕、アスカの部屋は見なかったからなぁ」
部屋に入り後手に部屋のロックを掛ける。
アスカは早速ベッドの上に腰掛けて、部屋をきょろきょろと見回してた。
「まぁ、仮眠用の部屋だからこんなもんでしょ。ベッドが各自使える状態なだけでもマシよ」
「確かにそうかも。雑魚寝はちょっと落ち着かないもんね」
「当ったり前じゃない! 入れ替わり立ち代り状態じゃオチオチ寝ていられないわよ」
ポン、と弾みを付けてアスカはスプリングを跳ねさせると、座ったそのままに後ろに倒れてマットレスの上に転がった。
「んー……広さがシングルなのは仕方ないか」
「あくまで仮眠スペースだからね。忙しくて家に帰れない人用の物だもの」
アスカの隣に座り、軽くスプリングを軋ませた。
うん、悪くない。
硬過ぎず、柔らか過ぎず、適度な硬さで体の疲れを取ってくれそうだ。
僕もポン、とスプリングに弾みを付けて後ろに転がってみた。
見上げた天井にはスプリンクラーと電灯カバー。
ぼんやりとそれを見ていると、言葉が続かなくなった。
ただ、腕に隣に居るアスカの体温を感じる。
僕は少しだけ手を伸ばし、アスカの手を握った。
「眠れそう?」
「判んない。何か、まだ現実味が沸かないの。もうエヴァは無いのにね」
ケージや発令所に続くルートが工事で立ち入り禁止になっていた事で、現実だという事を目にした筈だけれど。
アスカにとってエヴァに関わっていた時間というのは、それこそ半生以上な訳で。
「何だかアタシが半分になったみたいに感じるわ。ママとはキチンと区切を付けたのに、何故かそう感じるの」
「仕方ないよ。たった一年乗るか乗らないかの僕でも、何かが欠けた気がするもの」
「……アタシ達、エヴァに頼り切ってたのね」
「うん。でも……だからと言って僕達は一人じゃないよ」
「そう、ね。アタシの隣にはシンジが居るもの」
「僕の隣にもアスカが居るしね」
自然と繋いだ手に力が入る。
横を向くとアスカと目が合った。
「差し当たってアタシ達、明日から何をすれば良いのか考えなくちゃね?」
「そうだね。でも何が出来るんだろう?」
「青葉さんのお手伝いなんて無理よね」
「じゃあベークライト削るの手伝う?」
「機械使えないわよ」
「他に何か出来そうな事探す?」
「……邪魔になってお終いな気がするわ」
「結局何も無いって事かな?」
「そうかも」
二人で考え付く事を並べてみたけれど、気付いた事は一つ。
今の僕達には何もする事が無い。
いや、何も出来ない。
そして、それがとても歯痒い。
思わず声も沈んでしまう。
「……ホントに僕達、子供として保護されてるんだね」
何もする事が無くて、甘えれば良いって言われて。
逆にそれが胸を詰まらせた。
「アタシ、子供だって事余り感じた事無かった。もう大人だって、そう思ってた。でも違うのね」
呟くアスカの声が弱々しい。
「多分、今迄が変だったんだよ。確かに僕達にしか出来ない事だったけど」
体をアスカの方に向け、両手でアスカの手を包む。
「でも、エヴァが無くても出来る事もきっとある筈なんだ。僕もアスカも、やっとそれに気付いた所なんだと思う」
「エヴァがあるから何でも出来るんじゃなくて、エヴァが無くても何でも出来るって事?」
アスカが不思議そうに僕に問う。
その声は弱々しいまま……そうか、そういう事なんだ。
「大丈夫だよ」
「え……っ……?」
アスカの目が、声が、手が震えた。
僕は今度こそ間違えない様に、彼女の手を包む両手に力を込めた。
「えっと、元々何でも出来るって事だよ。でも僕達は、エヴァがなきゃ何も出来ないって思い込んじゃっただけ」
僕もアスカも、シンクロ率に縛られていたからだと思う。
シンクロ率さえ高ければ優秀だって、周囲に構って貰えるって、必要とされるって思い込んだのは。
けれど、エヴァが無くたって僕達を見てくれる人は居たって事に気付けた。
それが一番重要なんだ。
「アタシ……出来る……?」
「うん。僕よりはずっと、ね。だってアスカは大学卒業しちゃう位頑張ったんでしょ? だったら出来るよ、きっと」
「そう……かな……? アタシに出来る事……あるのかな……?」
アスカが体を僕の方に向け、もう片方の手を僕の手に重ねた。
「僕に出来る事があるかどうかだって判らないよ? でも無いって事は無いと思う。少しずつでいいから、探せば良いんだよ」
二人で、という言葉はお互いに目を見れば、何も言わなくてもアスカの口元に笑みが戻った事でも解った。
僕達に出来る事がどんな事なのかは判らないけれど、今この手の中にある可能性が僕達に未来がある事を教えてくれる筈。
だから今はただ、アスカと手を取り合って、二人一緒に歩いて行ければ良いと思った。
>>154 GJ
自分も続き読みたいですー
また規制されてますた('A`)
とりあえずプロバが西の規制王なので、規制されてたら基本的に間が空くと思っといて下さいましorz
ペースはちまちまと言う感じでw
お嬢さんの誕生日SSも書かなきゃなぁと思いつつまだ何も準備してねーや(;つД`)
職人さんお待ちしてました!GJです!
職人さん待ってました!
いいですね〜GJです!
163 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:06:36 ID:???
無人駅に電車が着き、降りるのはアタシ1人。
車内のたわいもないお喋りをする女子高生の声は自動ドアに遮断され、広いホームを包むのは無機質な発車のベル。
「・・・暑い」
冷房が凍らせた乗車前の汗が再び溶け出しそうな気温。
向かいのホームのガラスにうつる白いワンピースのアタシ
白いビニール袋を左手に、お気に入りの白い日傘を広げる。
誰もいない…誰もいないホームにいる白いアタシは、生きてるのか疑いたくなるほど透明だった。
『ポカンとした世界と記念日』
屋根付きのホームを静かに歩きだすアタシ。
こんな場所で日傘をさして歩く女がいても、誰も見ない。
だって誰もいないもん。
改札に切符を通し、階段を降りる。
二年ほど前まではエスカレーターと呼んでいたモノ・・・今は役目を終えたように動かない。
階段と呼ぼうとだいぶ前に決めたのだ。
アイツは未だにエスカレーターって呼びそうだけどね。
外に出て、ゆっくり車道の真ん中を歩くアタシ。
ミンミン蝉の声も遠く、少し視線を上げれば前方にはユラユラ揺れる蜃気楼。
コンクリートで人が作りだした砂漠。
役目を終えたこの街は、そう呼んでほしそうなほど静かだった。
164 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:07:35 ID:???
4年前の12月4日
アタシの誕生日パーティーという名の『ミサトの好きなだけ飲んでいい会』が開催された。
参加者3名と1匹のうちの少年1人が、周りの女2人に無理やりチェロを弾かされることに。
ソイツのチェロを弾く姿なんか、初めて見たわけでは無かったが、正面からアタシのために奏でられた音楽に、心臓が縮んだのを覚えている。
多分・・・自覚したのはその日が初めて。
でも、もっと前からアタシは胸を射抜かれていたのかもしれない。
でも・・・自覚してしまったのはその日が初めて。
アイツを好きになった日
165 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:09:20 ID:???
第三新東京商店街と書かれた何の色気もない看板を通ると、そこにはズラッとシャッターの壁。
屋根付きで電飾があしらわれた天井も電気が通っていないので、今は内部を薄暗い世界にしているだけ。
はげ上がりつつある、色とりどりだった床のタイルを踏みしめながら歩を進める。
静か…すぎる。
たまに風がシャッターを叩く音が聞こえるだけ。
もともと活気がある場所では無かったが、こんなお化けが出そうな雰囲気では無かった。
この街は死んでいる。
ここを通ると、強くそのことが感じられる。
今でもホラ…アタシを取り囲む薄汚れたシャッター達が珍しそうにコチラを見てる気がする。
少し涼しくなる胸…。誤魔化すように足早になるのは仕方ないこと。
あそこ夜通るとちょっと怖いよね。と夕飯の時に言ったアイツ。
そんな男らしくないこと言うなんて、女の子みたいだから唐揚げ1つ没収ね!と言ったアタシ。
「あの唐揚げ、ピリッとしてて美味しかったわね…」
とか言って、思い出と早歩きで誤魔化そうとしてみたり…。
それでもいまだ耳に触れる音は、自分の足音と風がシャッターを叩く音だけだった。
ここは早く抜け出したい…
166 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:10:34 ID:???
3年前の12月4日
アイツからのプレゼントは、リンゴの形をした赤い髪飾りと『好きです』の言葉。
ちょうど貰ったプレゼントを装着しようとした瞬間に放たれた言葉だった。
驚きで変な場所を挟んで、更に思い切り引っ張ってしまい…自慢の髪が5本くらい抜けたのを覚えてる。
その後、10回くらい本当か確認して・・・その後思いっ切り、アイツのこと抱きしめたっけ。
暴力の時以外でアイツに飛びついたのって、あの時が初めてだったかな。
あの時は2人とも恥ずかしさと嬉しさで、もの凄くマヌケな顔してたと思う。
何より傑作なのは、その日の最後にマヌケ顔同士の口が、ピッタリくっついたことじゃないかな?
鼻息のこそばゆさが…無性に嬉しかったっけ。
アタシ達が付き合った日
アタシの髪からエヴァの名残が消えた日
初めて心からのキスが出来た日
167 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:12:26 ID:???
第3新お化けロードを抜け、再びお日様の下に。
ふぅ、と軽く息を吐きながら再びマイペースに前進前進。
暑い日差しを日傘でガードしながらも流れでる汗は、少し気持ち悪い。
駅から少し遠い我が家に今日も毎日のようにウンザリする。
「・・・にー」
「おっと…」
街角で微かな鳴き声も聞き逃さずにキャッチ出来るのも、この街の特徴かしら。
いつもより少しお早い登場にも敏感に察知したアタシは、足を止めて一言。
「今日はツナ缶よー!」
「「にーっ」」
コンクリートの道とコンクリートの建物。
そんな灰色の狭間からひょっこり顔をだした茶色と黒の猫。
返事だけは元気に返したけど、まだアタシから10メートルくらい距離をおいて様子を伺っている。
「にーっ」「みゃーぅ」
いつもの急かすような生意気な鳴き声に思わず笑みがこぼれてしまう。
ビニール袋から缶詰めを取り出し、ソッと地面に。
「にーにー」「…みゅー」
トテトテとまずは茶色がやって来て、その後ろから茶色を心配そうに見ながらゆっくり黒がついて来る。
これは、この二匹にエサをやった時のいつもの光景。
どことなく誰かさんとアタシの行動にそっくりかもしれないね。
168 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:15:08 ID:???
この時間の止まった街で生きるアタシ達の数少ないご近所さん。
この街から人が消えてしばらくの時、アイツと一緒に歩いてる時に見つけたのだ。
その日からなんとなく気になって、時々今日みたいにエサをあげたりしてる(多分アイツも)
名前なんて決めてないよ。
だって飼ってるわけじゃないし、特別好きなわけじゃないし…。
ただ何となく放っておけない感じかな?
ムシャムシャ美味しそうに食べる茶色をただジッと見てる黒。
アンタも食べなよ、ともう1つ缶詰めをあけてやるけど、それも無視してジッと茶色を見てる。
こういう姿は可愛いんだけどね…。アタシが飼うなら絶対黒。
ただアイツは茶色の方が好きって言ってたなぁ。
自分があげた物にすぐ反応してくれるのが嬉しいんだって。
必死でガツガツしてる姿勢の奴が好きなんて、どうかしてると思わない?
全部食べ終えた茶色は、その油まみれの舌で黒の顔をペロペロ舐めだす。
もうこうなったら完全に2人の時間なので、邪魔者は速やかに退散しようかな。
アタシは立ち上がる。
我が家はすぐそこ。
空き缶はまた今度回収しなきゃね…
にーにーという甘えた声を背に、アタシは再び歩きだした。
169 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:16:30 ID:???
2年前の12月4日
なんでそうなったかなんて、ハッキリは覚えてないけど…
気がついたら、見せたこともない部分までアイツが触ってた。
甘えたりするのなんて日常になってた時期だった。
でもその日が誕生日だったりとか…
デート中に見たマフラー姿のアイツにドキドキしてたりとか…
いいアスカ?って言うアイツの言葉が、お腹の底から胸の奥までキューッと締め付けてきたりとか…
痛くて…でも嬉しくて…もうわけ分かんない状態だった。
色んな感情が混じったあの時の顔は、絶対綺麗じゃなかったと断言できる。
最後のアイツの顔は可愛かったんだけどね…
ま、まあとにかく!
初めてアイツと一つになった日
やっぱりアイツもスケベなんだと確信した日
アイツに初めて泣かされた日
170 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:18:28 ID:???
『あいらぶゆ〜なんて〜言えな〜い♪あなたから〜ぷり〜ずあいらぶゆ〜♪』
「うるさいわね…あのバカ」
コンフォート17という建物の周辺は、ちょうど4階の開け放たれた窓から流れるJ-POPが響き渡っていた。
こんなことするバカは1人しかいないし、この曲もアタシはよく知ってる。
電車の中で隣に座った時、アイツのイヤホンを一本分捕ってよく聴いてたから。
付き合う前から行っていたその行動。
今ではアイツがどういう順番で曲を聴くかなんかもよく知ってる。
「チェロが好きなんなら、もっと静かな曲聴きなさいよね…まったく」
性格や見た目の割に、意外と大音量で音楽を聴きたいタイプなアイツ。
ここでの生活は、ご近所迷惑などまったく気にしなくていいから、最近更に大きなスピーカーを欲しがったりしてる。
そんなことより免許をとれと怒鳴ってやったけどね。
でもやっと寂しくない場所に辿り着けて、少しホッとしてる自分もいる。
日傘をたたみ、マンションのロビーに入ると、涼しげな風と人工の光がアタシを包んでくれる。
砂漠のようなこの街の中、唯一生きているこの建物。
アイツが待ってる家に帰ってきた。
171 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:20:16 ID:???
エレベーターに乗り込み、腕時計を見やる。
まだまだ夕方にもさしかからない時間。
休日は…そして誕生日はまだまだ楽しめそうね、と1人で「にゅふふ」と笑ってしまう。
大学生活にもだいぶ慣れ、友達も出来たけどいまだに誕生日は2人きり。
そもそも、みんなこの辺には気味悪がって来ないし。
使徒と人間の戦争が終わり、この街は捨てられたのだ。
戦うために生まれた街…。それが存在理由だったんだもん。
ほら、なんか昔のアタシみたいじゃない?
エレベーターから降り、廊下から見える景色を少し眺めてみる。
存在理由なんかもう無いかもしれないけど…それでも求めてくれる人はいるんだよ。
「まぁ、そんなこと言う奴なんか、たいがい変な奴だけどね」
クスッと笑い、うるさく響くJ-POPのメロディーの中心部に少しずつ足を運ぶ。
お家に帰れば、大好きなアイツがいるんだもん。
ドアに手をかけ、思いっ切り開く。
甘い香りが鼻をくすぐり、それを胸いっぱいに吸い込んで言葉にして吐き出す。
「ただいまシンジ!」
「おかえりなさいアスカ!」
172 :
パッチン:2009/12/04(金) 20:23:27 ID:???
去年の12月4日
厄年の未婚女という物に触れることを、極度に拒絶した迷惑なミサトの結婚式。
幸せそうにバージンロードを歩くミサトと加持さんはお似合いで綺麗だったけど…
式の当日と誕生日が被ってしまったアタシは少し不機嫌。
でもそんなアタシを気遣ってか、突然ウェディングケーキに不自然にささったロウソクにキャンドルサービスをしてくれたミサト。
恥ずかしい演出に苦笑い浮かべながら、18本の火を消して拍手を浴びたのは少し良い思い出かもね。
そして夜、引き出物を手に2人で家に帰るが、当然ミサトは今日からいない。
結婚式を終えた後という状態での「これから2人きりだね」というワザとらしいシンジの言葉。
なんか死んじゃいそうなくらい胸が高鳴った。
その日から…シンジの部屋からベッドが消えて…
あ、アタシの部屋のベッドをちょっと大きいのに買い換えたの…
ミサトと加持さんの新しい門出を祝う日
アタシとシンジの新しい門出を祝う日
ワーオ
GJ、良かったよ
「ただいまシンジ!」
家に帰ってきたアタシ。
ドアを開けて玄関先では元気よく。キッチンに着いて、もう一度ハッキリと挨拶!
うん、気持ちいい。
「おかえり、暑くなかった?」
「暑いわよぉ〜!クーラーいれるわね」
ベランダに続く窓を閉めて、クーラーをON!ついでにコンポはOFF!
先ほどまで無音だった街を歩いてきたせいか、今はシンジとお喋りしたくて仕方ない。
「ったく。本日の主役にケーキの材料買いに行かすなんて考えられないわね!ドイツなら極刑モンよ本当」
「べ、別に国は関係ないだろ。イチゴ買ってきてくれた?」
パタパタとせわしなく動き回るアタシを笑顔で見つめるシンジ。
作りかけのケーキの前に立つエプロン姿のコイツは、何というか…似合う。
こんなにエプロン姿が可愛い男子大学生と一緒に住んでるんだから、アタシが料理上達しないのも仕方ないことよね。
「あぁ!またこんなにいっぱい買ってきてるし!」
「イチゴ安かったのよ!いいじゃない、余ってもアタシが全部食べるんだから」
「だから怒ってるんだよ!毎年イチゴ余ったら、自分一人で食べちゃうんだから…」
「な、なによその言い方!だったらアンタも食べたいって言えばいいでしょ!」
「言えないんだよ!・・・い、イチゴ食べてる時のアスカ幸せそうで可愛いんだもん…」
「んな゛っ!!」
176 :
パッチン:2009/12/08(火) 19:58:29 ID:???
付き合う前からよくあった言い争い(1バカいわく夫婦喧嘩)
あの頃はアタシがビンタするか、怒ったシンジが夕飯にタバスコを仕込むこと等で終了してきたのだが、
最近はどちらかがデレっと甘えて終わることが増えた。
今のシンジみたいに…
こういう仲直りは平和的でいいかな…とも思う。
まあ両者の顔は、殴られた時や辛い物を食べた時よりも、真っ赤になるんだけどね。
「・・・ちょ、ちょっと外の風でも当たってくるわ!」
「ご、ごめん!僕もケーキ作るね!」
ああもう、せっかくクーラーの冷気が室内を染め出した途端にこれだわ。
今更恥ずかしがるのも変なんだろうけど、アタシは窓を開けてそそくさとベランダに出て行った。
外の方が気温は高いのに、部屋にいるより涼しいわ…。
「ああもう不意打ちに弱いわホント…」
ひなたぼっこ用チェアーに腰掛けて、両手で顔を抑えこむようにして隠す。
気分が盛り上がった時なんかに聞いたら、嬉しくてキスの1つでもしてやるんだけどさぁ…。
熱い頬を両手でペチペチ叩き、溜め息。
まだまだ誕生日はこれからよ!こんなことでデレデレしてたら、絶対ダメ!
177 :
パッチン:2009/12/08(火) 19:59:59 ID:???
「うしっ!」と気合いを入れ直して立ち上がる。
そしてチラッと自らの左手…それも4本目の指を確認してみたり。
毎年アタシの誕生日は必ず何か起こってきた・・・だから、多分今年は・・・。
「アスカ」
「ひゃぃあっ!?」
突然来た背後からのシンジの声に肩がビクンチョする。
そして無意識のうちに右手で撫でていた左薬指を、グギュッとつねってしまったアタシ。
「びびび、びっくりさせないでよ!」
「え…でも窓越しに開けるよ〜って言ったじゃないか」
「聞こえてない!どうせ蚊の鳴くような声で言ってたんでしょ!」
「で、でもちゃんと『うしっ』っていう返事もかえってきたしさ」
「そんな声を返事と捉えるなバカ!」
あ、それもそうだねぇ、と呑気に笑いながらシンジは手に持ったお盆をチェアーの上に置く。
「オレンジジュース入れたから飲もっ。喉渇いてるでしょ?」
「あ、そっか…」
帰ってきて早々ずっとバタバタしていたので、自分が今まで炎天下を歩いてきたことを忘れていた。
ブタの尻尾みたいにクルリとした可愛いストローのささったグラス。
柑橘系の甘酸っぱい香りと氷の音に満たされたそれを手に取ると、それだけでも気持ちよくなれちゃうわね。
178 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:01:31 ID:???
「ケーキもう出来たの?」
「うん、買ってきてくれたイチゴ乗せるだけだったしね。今は冷蔵庫で冷やしてる」
「そっか・・・ふふふじゃああとはプレゼントの指輪だけね♪」
笑顔満天でストローを吸いながら、再び薬指を見やる。
そんなアタシをキョトンとした目で見つめるシンジ。
「え…指輪?」
「ぶぁっ!!」
心の声が表に出てしまった!
アタシはジュースを吹き出して、頭をパニクらせる。
「ご、ごめん!指輪はサプライズプレゼントだったのよね!先に言っちゃってごめん!」
「え、え?」
「だ、だってシンジがいよいよ決意してくれたのかなーとか、碇アスカになるのかなーとか想像するとついさ!」
「・・・ふむ」
「た、たしかに毎年パワーアップしてるじゃない!?アタシ達の関係ってさ!だから今年もかなぁって事前に察知しちゃったみたいな!?」
「ぷっ…」
「あ、アンタが結婚指輪プレゼントしてアタシを驚かせたかったんなら、それはごめん!で、でも喜ぶ気持ちは変わらないから…」
「ぷっ…ふふふっ」
「ん…?」
必死で言い訳するアタシの目の前で、必死に笑いをこらえてる様子のシンジ。
「な、なに笑ってんのよ」
179 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:03:18 ID:???
「いや、ちょっと嬉しくてさ…アスカが僕と同じこと考えてたんだって分かったから」
「だ、だから謝ってんのよ!プレゼントの中身当てちゃったから…」
「うん分かってる。でもね、プレゼントは指輪じゃないよ」
その最後の一言に、え…という声も出ず呆然とするアタシ。
指輪じゃ・・・ないの?
「本当はね、僕も迷ったんだ。毎年アスカの誕生日には僕らの関係って少しずつ変化してるしさ…。
僕だけの気持ちで言えば、アスカとずっと一緒にいたいし結婚もしたいよ。
だから…そういうプレゼントもいいかな…って」
ちょっと顔をうつむかせながら、恥ずかしそうに喋るシンジ。
そのまま飲み終えたグラスの中に残った氷をストローでクルクル回しながら、ゆっくりとチェアーに腰掛ける。
「でもまだこういう関係もいいかなって…」
「シンジ…」
「大学卒業して就職して…キチンとアスカを幸せに出来る自分になりたいんだ」
「・・・・・」
「僕がそうなれるまで、大好きな人に近くで見守っていてほしいんだ。
お願い。あともう少しだけ…僕を惣流アスカの恋人でいさせて」
「・・・ばか」
少し日が傾いた街。
少しだけ赤く染まった景色が潤んで見えなくなった。
180 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:05:55 ID:???
「な、泣かないでよアスカ」
「うるさい!なんか知らないけど、涙が勝手にボロボロ出てくんのよ!」
立ち上がり、アタシの様子を心配そうに眺めるシンジ。
まだ飲みかけのグラスを足元に置いて、アタシは両の手で一生懸命溢れる涙を拭い続ける。
「な、泣かせたのを悪かったと思うんなら、部屋からティッシュかなんか取ってきなさいよ!」
「・・・アスカっ!」
と、シンジは突如アタシの肩に両手を置いて顔を覗き込んでくる。
「ちょ、ちょっと泣き顔なんて見ないでよ変態!」
「ねぇ今年はさ!」
「え?」
「2人暮らししてから初めての誕生日だし、頑張るね僕」
「う、うん…」
真っ直ぐなコイツの瞳が、潤んだ視界にもハッキリうつる。
「それでさ…いっぱいキスしようね」
「ふぇ…ぅみゅっ!」
キス・・・された。
「あ、あぅぁ…」
涙が更に溢れて、流れたそれを蒸発させるくらい熱くなる頬。
「い、い、今のはワザとでしょバカああああ!!」
「あはは、だって泣いてるアスカ可愛いんだもん」
「うぅっ…」
やられっぱなしで悔しいのに、何も仕返し出来ない…。
悔しい!
アタシはまだ流れる涙を振り払うように身を翻し、ベランダのフェンスに両手をつく。
叫ぶ!!
181 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:07:50 ID:???
「わあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
溜まった涙をギュッと絞るように目を瞑り、お腹から喉をぶっ潰すように大声を出す!
音を無くした街いっぱいにコダマするアタシの叫び。
街中に染み込んでいくように・・・アタシの想いが。
「ちょ、ちょっとアスカぁ…」
後ろから、おっかなびっくりな震える声。アタシを愛してくれる大好きな声。
「あはっ、気持ち良かったぁ♪」
「…ふふ、ウルサくしたら、また大家さんに怒られちゃうよ」
スッキリした笑顔で振り向いたアタシに、シンジもニコッとしてくれる。
そして、彼もゆっくりとアタシの隣に立ち、手すりを掴んで音の無い街を眺め…
「わああああああああああああああああああああああああ!!!!」
と叫ぶ
少年少女の頃、エヴァで駆け抜けた街に大人になった2人の声が響き渡っていく。
そしてお互いを見合ってバカみたいに笑いあっちゃう。
幸せ…なんだと思う。
「アタシはシンジが好きだーーーーー!!!!」
全力で、誤魔化しなく叫ぶ。
「僕はアスカが好きだーーーーー!!!!」
悲しみばかりのこの街に幸せを叫ぶ。
「「好きだーーーーーー!!!!!」」
一緒に。2人が生きた街に叫ぶ。
182 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:09:12 ID:???
・
・
それからアタシとシンジは、同棲してから初めてアタシの誕生日パーティーを開催した。
2人きりでハッピーバースデーを歌って、2人きりで喜んだ。
彼からのプレゼントは指輪ではなく黒猫の置物。
スラッとした黒い身体をいっぱいに伸ばして、空を見上げるようにしている綺麗な姿。
少し豪勢な夕飯を食べてケーキを食べて…それからはいつも通りかな?
ソファーに座る彼の膝の上にお尻を乗せる。
後ろから抱きしめてくれる。
コロンと後ろの彼に体を任せてアタシは目を閉じる。
それからもずっと幸せ。
温かい彼に抱かれながら窓を見ても、街は光無く夜の闇の中に消えている。
でも寂しくない。
もしも世界に2人きりだとしても、彼といれば大丈夫。
その数分後…この部屋からも光が消え、この街を照らすのはお月様だけになったとさ。
・
・
・
もとい、一階からも漏れる光が
183 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:11:33 ID:???
「わあわあ好きだ好きだ叫んだと思ったら、急に静かになっちゃってさぁ…」
ムスッとした様子でキッチンのテーブルに肘をついて愚痴る女性。
拗ねたように唇を尖らせた彼女、今はコンフォート17の大家を勤めている。
名前は加持ミサト。
そしてそんな彼女の向かいに座り、苦笑いを浮かべる長髪の男性。
名前は加持リョウジ。
「まぁまぁ…お熱い時期だし、2人きりでパーティーしたっていいじゃないか」
「むぅぅ!誰があんな格安の家賃で良い部屋住ませてやってると思ってんのよ!
しかも元保護者よ!ちょっとくらい参加させてくれたっていいじゃないのよぉ!」
「はは…」
昨日丁重にお断りされた彼女主催のアスカ誕生日パーティー。
今もパーティー帽子を被りながらプゥっと膨れるミサトは、納得いかない様子でいる。
「小さい頃は何だかんだあたしの言うこときいてくれたのにさ…」
「まぁいいじゃないか…。あ、もうすぐお前の誕生日じゃないか。
その日は一緒にお祝いしてくれるんじゃないか?」
「・・・何の話?あたしの年は29歳で止まるように出来てるから誕生日なんか来ないわよ」
「・・・あ、あぁそうだったな」
一階の窓から漏れる光はまだまだ消えそうになかった。
おわり
184 :
パッチン:2009/12/08(火) 20:13:19 ID:???
以上で終わりです。
最近になって迎え火を読んで感動してしまい、応援の意味も込めてこちらに失礼しました。
夫婦とも同居とも違う同棲って難しいですね。
夫婦関係よりももっと熱い物があるのかと思ったので、叫ばせてみましたw
しかし自分の書くアスカはよく泣くなぁ…
>>169 年中夏の設定なのにマフラー巻かせてしまった…ごめんなさい
すげーおもしろかったす
またつくってほしです
186 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/09(水) 06:02:52 ID:U8Sruj0o
ほんとにパッチン氏か?
GJ
もっと早く気付ければ良かった、とは思わない。
沢山傷付いたけれど、沢山泣いたりもしたけれど、積み重ねがあったからこそ気付けたのだと思う。
二人で手を取り合えると、とても温かいものが心を満たしてくれるって事に。
「取り敢えず明日から、ネルフの中を歩いてみよう? 何かを始めるにしても、知らない事が多すぎるもの」
「……そうね、そうよね。アタシ達、今の状況なんて殆ど知らないものね。うん……明日からMAGIで調べるのも手、よね」
「そうだよ。入院してた間の新聞記事とか、ね。もう、何も知らないままで居たくないし、居ちゃいけないと思うんだ」
「一緒に居る為に、ね?」
「うん。一緒に居るには、子供のままじゃダメだと思うから」
二人で一緒に前を向くには、多分それが一番必要な事。
そうしなければ多分、僕もアスカも自分の親と向き合う事が出来ないと思う。
その為には、まず自分を、周囲を知る事から始めなければ。
僕と父さんの関係は、そこから始まる筈だ。
それはアスカだって同じなんだと思う。
だから、無力な子供として保護されている状況に、僕達は違和感を覚えるんだろう。
「ちょっとずつ、ね?」
「うん、ちょっとずつ」
重ねた手に力を込め、アスカの手を握る。
アスカも手に力を込め、僕の手を握り返す。
少しばかりの沈黙の後、本来の目的を思い出した。
「……シャワー、先使っていいよ」
「ん、ありがと。じゃあ先に使うわね」
アスカは手を離すと体を起こし、持って来た着替えを手にバスルームへと姿を消した。
アスカがシャワーを浴びている間、僕は天井を見上げ今日の事を思い返してみた。
一番印象に残ったのは、色が鮮やか過ぎて目がチカチカした事。
そして、何事も無かったかの様に生活が戻っていた事。
初号機から見下ろした地球の、不気味に光るそれとは違って何と言うか、息遣いと言う物があった気がする。
流されるまま目で追うのがやっとだったけれど、その分目に焼き付いた。
シャワーの水音を音楽にして、僕はそんな事を考えていた。
そのまま明日はまず何から調べようかと考えている内に、アスカがシャワーから戻って来た。
「あー、気持ち良かった。やっぱりお風呂は最高ね。バスタブに浸かれないのは残念だけど」
狭い一人用のユニットバスだから仕方ない、とアスカは最後に付け加えていた。
それには僕も同感だ。
やっぱり日本人だし。
それに、ミサトさんも初めて会った日に言っていた。
風呂は命の洗濯だ、と。
「一応レクリエーション設備で大浴場もあるんだよ」
「そうなの?」
「まぁ、今使えるかどうかは判らないけどね。明日調べてみようよ」
「楽しみね。使えると良いな」
明日調べる事が一つ増えた。
それはただ無機質で退屈な日々を過ごしていた僕達にとって、少し楽しみを覚える事だ。
そういう事が増えていけば良いなと思うけれど、多分今のままでは難しいだろう。
「じゃあ、僕シャワー浴びてくるよ」
「ん、いってらっしゃい」
ユニットバスの中はまだ熱気が残っていた。
そう言えば、と病院での風呂を思い出した。
それなりの広さはあったけれど、換気扇がしっかり回っていたから、どんなに湯が湯船に溜まっていても浴室は寒かった。
シャワーを使って浴室を暖めようとしても、暖める側から熱気が逃げるんだ。
もし冬だったとしたら、多分風邪を引きそうな気がする。
ここならそんな事は無いだろう、と僕はシャワーのコックを開いた。
頭から湯を被り、髪と体を洗う。
シャンプーと石鹸の泡を洗い流した後、打たせ湯の要領で背にシャワーを掛け全身を温めた。
息苦しい位に熱気が溜まる。
体が充分温まったのを感じると、熱気を一息胸一杯に吸い込みコックの栓を閉めた。
シャワーから戻ると、アスカはベッドの上に座り込んで舟を漕いでいた。
今日は随分と動き回ったからだろう。
疲れが出て眠くなってもおかしくない。
僕だって少し眠気がする。
「アスカ、寝よっか?」
「ぅ……ん……平気……」
ベッドサイドに置いた携帯の時計を確認すると、既に十一時に近い。
「でも、もう十一時だよ?」
「……や。まだ寝たくないの」
アスカは僕がベッドに座った途端、僕のスウェットの上着の裾を掴んで離そうとしなかった。
「僕なら何処にも行かないってば」
「そんなんじゃ、なぃわ、よぉ……」
もう目が半分閉じてるし。
眠いのに変に我慢すると目が赤くなっちゃうし、明日に疲れを残しちゃう。
「ほら、もう寝ようよ。僕も一緒だからさ」
幾ら退院しても良いとは言え、単に日常生活には支障が無いだけで体力が元に戻った訳じゃないんだから。
今日だって食も細かったし。
無理して疲れを溜めて倒れちゃったら、元の木阿弥で病室に逆戻りだ。
「一緒……?」
「うん、一緒」
アスカのぼんやりとした視線が定まったかと思うと、これ以上無い位の笑顔になった。
そして倒れる様に僕に抱き付いた。
「アスカ……?」
顔を覗き込むと、アスカは既に寝息を立てていた。
勿論、手は僕のスウェットの上着の裾を握り締めたまま。
その時僕は思った。
もしかしたら、アスカは僕と同じ様に一人が寂しいのかも知れない。
だってアスカの寝顔はいつか見た様な悲しそうな顔じゃない、本当に安らかな笑みが浮んでいたんだから。
>>184 拙作に目を通して頂いていたとは……有難うございます(*- -)(*_ _)ペコリ
確かに夫婦とも同居とも違う同棲は難しいです。
しかしそこを料理するのが書き手の妙ではないかなとも思います。
自分の書く話はメリハリが余り無いので、何処まで表現出来ているかは甚だ疑問ではありますが。
次作楽しみにしています!
二人共少し前向きになりますた。
お嬢さんは少し素直になりましたよっと。
今度は規制中にスムーズに書けたから、投下に手間取らなかったぜ☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
お嬢さんの誕生日は間に合ったけど、クリスマスはどうすっかなー……
短い話でも何か1本書きたいなっと☆
久しぶり!!
GJ!!
GJ
GJ!楽しみに読ませていただいてます
来てた〜!GJ
あ〜年の瀬にいい思い出ができたよ
保守
ほしゅ
どこかへ投稿しなはれ!応援するぞ
幸せをありがとう
とくん。
とくん、とくん。
何故だろう、いつも一緒なのに。
心臓の音が頭の中で響くなんて事、今迄無かった。
胸も痛い。
心なしか全身が強張って、手が震えてる気がする。
こんなの、初めて!
アタシがその日の事を知ったのは、その月の頭の事。
クラスメートに、知らないのは女の子として損している、と指摘されたのが最初。
何の事だかさっぱりだったアタシは、リツコに聞いてみた。
「欧米と日本じゃ内容が違うのよ。欧米は基本的に恋人同士の記念日みたいね。日本は製菓会社が広めた行事なの」
「どういう事?」
「ドイツではどうなのかは知らないけれど、欧米では恋人同士がプレゼントを贈り合うらしいの。
でも日本は製菓会社が売上を伸ばそうとして、意中の男性に告白と一緒にチョコを渡しましょう、って宣伝したのよ。
元々女性が男性に告白するのがタブーとされていた時代だからこその宣伝ね」
「へぇ……変った事してるのね、日本って」
「まぁ、今では時代もすっかり変わって、お世話になっている人に感謝の気持ちを込めて渡す義理チョコが大半よ。
他にも友達に渡す友チョコや、一時期は男性から女性に渡す逆チョコなんてのもあったりしたの。
良くも悪くも日本人はお祭好きな民族の証拠ね」
苦笑しながらリツコはチョコレートが特集されている通販サイトを見せてくれた。
「う……わぁ……これ、全部なの?」
有名ブランドなのか、一日先着100名と書かれている高級そうなチョコレート。
反対に義理チョコ用なのか、投売り覚悟と書かれている物も。
はたまた本命用に、と銘打たれた製菓用の手作りキットなんて物もあった。
「ふふっ、迷うでしょ? デパートのセール会場なんか、戦争並の騒々しさよ」
――戦争並? 一体日本ってどんな国なのよ?
その日は家に帰ってベッドに横になっても、訳が解らない日本の風習に悩んでしまい、翌日は寝不足で起きる羽目に。
何だかぼんやりしてたみたいで、シンジには「大丈夫? 何かあったの?」と気遣われてしまった位。
「あれ? 今日は何だか目が赤くない?」
「気の所為よっ。シャワーの時にちょっとシャンプーが目に入っちゃったから、その所為かもね?」
「またまたぁ……そんな事言いながら考えてたんでしょぉ? バ・レ・ン・タ・イ・ン♪」
「う……」
「図星、ね?」
移動教室の時、目敏いカナとミハルに見咎められたのはお約束かしら。
「だって……戦争みたいだなんて思わなかったんだもの……」
その日にしか告白しちゃダメだとばかりに、煽る宣伝文句のオンパレード。
昨日見せて貰ったサイトは正しく文字の洪水。
目がチカチカしちゃった事を思い出す。
「調べたの?」
「あの後ね、シンジのママに教えて貰ったの。バレンタインの事」
「わ! もうそんな関係なんだ?」
「何がよ?」
「えー……だって、碇君のお母さんって事は嫁姑の関係じゃないのぉ?」
「ちっ、違うったら! アタシはシンジの家にホームステイしてるだけ。大体アタシとシンジはまだそんなのじゃないもの……」
アタシの声は言葉尻に近付くにつれて段々小さくなっていく。
だって、ねぇ?
幾らアタシが好きだって言っても、シンジはそうじゃないんだもの。
「嘘ぉ……あんなに仲良いのにぃ? あれで違うってなら、他のカプなんて付き合ってないのと一緒じゃん」
「うんうん。カナの言う通りだよ。それに、まだ、って事はこの先はそうなるって事だよね?」
「……それは、どうかしら? ずっとこのままだって事もありえるし、離れちゃうかも知れないわよ?
先の事なんて判んないわ」
アタシはシンジの答を待つ事しか出来ない。
アタシを本当の意味で受け入れてくれるのか、ただ静かに待つだけしか。
「ふーん……そんなものかしらねぇ?」
「アスカらしくないなぁ。前からそんなに弱気だったっけ?」
「別に、弱気って訳じゃないわよ」
自然と溜息が出る。
本当の事なんて言えない。
考えるだけで、不安になる。
「でもまぁ、アスカも乙女だった、って事よねぇ……」
「だね」
「え?」
――乙女?
カナの言葉はアタシの胸を突き刺した。
女の子らしい事が何一つ満足に出来ないアタシが乙女な訳がない。
「前はさ、凄ーく自信があるみたいな感じでさ、出来ない事なんて無いって感じに見えたのよねぇ」
「でもって見た目だって普通じゃ太刀打ち出来ない位スタイル良いもんね。ああ、私達とは違うなぁって思ってたもん」
「そんな事言うの、日本人だけよ……」
日本人の中じゃ平均的な身長に近いアタシだけど、ドイツじゃてんで子供だ。
スタイルだって骨ガラに近い。
確かにアタシの容姿は白人の血が濃いけれど、サイズは日本人の血が色濃く出てしまっている。
「アタシ、ドイツじゃ子供サイズよ」
「嘘ッ?! そんなに背低く無いじゃない!」
「向こうはアタシと同じ年で背が低めでも、頭半分は違うわよ」
「意外ねぇ。どう見てもモデルみたいなのに」
――何処が?!
手も足も筋肉質だし、幸い顔には無いものの体は傷跡だらけなのに。
「でもそういうアスカだからこそ、今のアスカは乙女だと私は思うんだな」
料理が得意な訳でもなく、家事だって上手く出来ない。
得意なのは格闘技。
乙女とは程遠いアタシなのに?
「だってさ、毎日碇君と一緒に登校してくる時とかさ、手繋いだりしてないのに一緒に居るだけで耳迄真っ赤だもん。
それに教室入る時なんか凄い可愛いよ。碇君のシャツ掴んでさ、離れたくないーってバレバレじゃない」
ニヤニヤとアリスのチェシャ猫の様な表情で、ミハルが肘でアタシの腕を突っ突いた。
カナが妙に神妙な顔で頷いている。
――アタシ、そんな事してたの?
頬が熱い。
ポン、と音を発てて顔が赤くなった気がした。
「……なんて事があったのよ。アタシ、そんなにバレバレかしら?」
カップを受け取り、中に入っている琥珀色の液体を睨み付ける。
「もう、そんな顔しちゃ駄目よ。貴女がシンジ君を好きなのは事実なのでしょう?」
「そりゃそうだけど……でも……でも、あんな風に見られてるなんて思わなかったの!」
帰宅したリツコを捕まえてのティータイム。
シンジは部屋のキッチンで夕食の準備をしている。
だから、この内緒話が聞かれる心配は無い……と思う。
と言うか、聞かれたくなんかない。
「嫌なの、アスカ?」
「嫌って言うか、恥ずかしいじゃない……。そんな風に言われた事なんて無かったんだもの」
「あらあら、ホントに耳迄真っ赤ね」
くすくすとリツコが笑う。
「でも、それが貴女達の年頃なら普通の会話なのよ」
「うん……それは、何となく解ってきたけど……言ってない事がバレてるなんて思わなかった。
アタシ、学校じゃ誰にもシンジの事言ってないのよ?」
ホントの事なんて言える訳無い。
どんなに追求されてもこれだけは言えない。
多分、その時のアタシは顔を変に顰めていたんだろう。
リツコが優しく眉間を突いた。
「ほら、またそんな顔しちゃって……。いい、アスカ? 何も悪い事じゃないの。確かに恥ずかしいかも知れないけれど。
好きだという気持ちを素直に表せるって事は、とても素敵な事なのよ」
「そうなの?」
「勿論」
「……アタシ、素直なの?」
「昨日も言ったでしょう? 誰の為に努力しているのかしらね?」
どうしよう、どうしよう。
シンジと一緒に居ると、胸がどんどん痛くなってきちゃった。
リツコったら、一体何を言い出すのかしら?
「アスカ?」
「な、何?」
「箸が進んでないみたいだけど……口に合わなかったかな?」
「そんな事ないわよ? 気の所為じゃない?」
慌てて口にご飯を詰め込んだけれど、中々喉を通ってくれない。
ドキドキし過ぎて胸もお腹も一杯になってきた。
いざ寝ようと思っても、胸がきゅーっと締め付けられたみたいになって、全然眠くならないのは何故?
こんな事じゃ、学校に行けないじゃない!
「あっれぇ……? アスカぁ、今日は何だか目の下黒いよぉ?」
「……言わないで。自分でも判ってるから」
朝起きて鏡を見て愕然としちゃったもの!
シャワー浴びて血行が良くなっても、目の下には薄らと存在を主張する隈が居る。
慌ててコンシーラーとファンデーションを塗ったけれど、それでも中々隠れてくれない憎い奴。
「もしかして夕べも寝れなかったとか?」
「……言わないで」
「へぇ……ますます乙女って感じだねぇ」
カナ迄ニヤニヤとチェシャ猫の笑みを浮かべてる。
もしかして、アタシの周りってこういう人ばっかりなのかしら?
うかうか寝不足にもなれないって事?
「もう、茶化さないでよ」
「茶化してなんてないってば。ただ羨ましいなぁ、って」
「羨ましい? 何処がよ。二人共ニヤニヤしてアタシの事からかうだけじゃない」
「そんな事ないわよぉ。ホントに羨ましいだけだってば」
「だって私、まだ好きな人なんて居ないもの。だから好きな人が居るアスカが羨ましいな、って」
「うんうん。誰だってあんなに好きって事態度に出ちゃってるのって良いなぁって思うんだよ?」
「……アタシ、そんなに出ちゃってる?」
「「うん!」」
きゅーっと胸が締め付けられるみたいに痛い。
ドキドキするのが止まらない。
どうしよう、どうしよう。
アタシ、もしかして壊れちゃったとか?
グルグルと頭の中でシンジの事ばかり思い浮かぶ。
「あはは、また碇君の事考えてるんでしょ?」
「顔真っ赤だよぉ、アスカってば可愛い!」
そんな事言われたら、何も言い返せない。
アタシって、そんなに顔にも考えてる事が出ちゃうのかしら。
「う……アンタ達、アタシで遊んでるでしょ?」
思わぬ伏兵じゃないだろうか。
二人共、ミサトに勝るとも劣らぬ位人をからかって楽しんでる気がする。
「無い無い。気の所為だってば」
「そうそう。で? どうするの?」
「どうするって?」
「決まってるじゃない。告るんでしょ?」
「え?」
「アスカ……碇君に好きって言わないのぉ?」
瞬時に頭から血の気が引いた。
「あれ……っ、何か変な事言った?」
「……そんな事、ないわ。うん、気の所為、気の所為よ」
心の動揺を取り繕う様に、平常心を装ってみたけれど……やっぱり判るのかな。
アタシの顔を覗き込む二人の顔色も何だか悪く見える。
「でもアスカ……何だか顔色悪い気がするんだけどぉ……」
ぐさり、と胸を刺す痛み。
あれだけドキドキしてたのが嘘みたい。
何故そんな風に感じるのか。
それはアタシ自身が一番よく解ってるつもりだ。
だって……シンジは……。
「アスカ、何か悩み事でもあるの?」
「どうしてそんな事?」
「だって、碇君に告らないのかどうか聞いたら、すぐ顔色変わったもん……」
「気の所為だってば」
「でもそんな青い顔してちゃ、説得力無いよ?」
そうだった。
アタシ、考えてる事が直ぐ顔に出やすいんだっけ。
これは……観念しなきゃいけないのかな。
アタシが言葉に詰まっていると、授業の開始を知らせる予鈴が鳴った。
結局アタシは昼休みに、シンジとの事を明かす事にした。
ネルフの機密に関係無い、話しても差障りの無い所を選って。
勿論、本当の事なんて言えやしないし、主治医も良い顔はしないだろう。
だから、アタシが話すのはほんの少しだけ。
「えっと、もう、シンジにはちゃんと伝えてあるの」
「でも……返事は保留中、って事?」
「それって何かズルーい」
「ネルフの機密に関わるから詳しくは話せないけど……アタシ達、本当に色々あったの、本当に色々。だから……」
「今の関係を壊したくない、って事なのね?」
「うん。アタシはシンジが好き。少なくとも、シンジはアタシの事が嫌いじゃない。それで今は満足なの。側に居られるから」
今でも昨日の事の様に思い出す約束。
どんな事があっても、シンジがアタシを必要としなくなる迄は、アタシはシンジの側から離れない。
そして今は、シンジはアタシを必要としてくれる。
だから、今はそれだけで良い。
「アスカ、それってやっぱりおかしいと思うよ……。碇君は真面目だから、アスカの事蔑ろにはしないと思う。
幾ら返事を保留にしてても、凄くアスカの事大事にしてる風に見えるけど、アスカの気持ちはどうなるの?」
――アタシの、気持ち?
「一緒に居られて嬉しいのは解るけどさぁ……でも、両思いじゃないんでしょ? それって、何時かは不安になっちゃうよ。
アタシならそんなの堪えらんない! 苦しくなるだけだよぅ……」
青天の霹靂。
アタシは側に居られるというだけで、充分過ぎる程満足していた。
両親の理解が無ければ、どんなにシンジの側に居る事を望んでいても、アタシはドイツに戻されていた筈だから。
苦しいなんて、思いもしなかった。
もし苦しいと感じる事があったとしたら、それはシンジの事を考えてドキドキして、胸が痛くなった時だけだと思う。
それ位、アタシはシンジと一緒に居られるという事に満足していた。
「アタシ……そんな事、考えた事も無かった」
「あー……あの子も一緒に居られるだけで満足とか言うタイプだもんね。こういう話、あんまりしなかったんでしょ?」
「何だ、アンタ達知ってたの?」
「ヒカリもバレバレだったよぉ。アスカとヒカリって、正反対の様で似てるよねぇ」
「そう、かな?」
「私もカナの意見に賛成。アンタ達二人共、凄く一途って感じだもん」
「まぁ、そういう所が乙女だなぁ、って思う訳なんだけどねぇ」
そう言って苦笑する二人の言葉が胸に刺さる。
「それはそれとして、よ。問題は山積みな訳よ」
ミハルが今迄の雰囲気を壊す様に表情を引き締めた。
「あぁ! アレがあったっけ。確かにアレは問題よねぇ……」
カナの表情も何だか困った感じ。
何か困る事でもあるんだろうか?
アタシには皆目見当も付かない。
「何よ、問題って」
「ほら、一昨日の体育の時。見たでしょ? 隣のクラスの奴が相田の事追っかけてたじゃない」
「あれ? アタシには関係無いって言ってたじゃない」
「まぁ、アスカには関係ないけどさぁ……他の子には関係ある、って言うかぁ……」
「どういう事?」
「相田の盗撮写真、女の子達向けに碇君の物も出回ってたの、知ってた?」
初耳だ。
ルックスが良い生徒の写真を撮っては売り捌いてたのは知っていたけれど。
その中にシンジが混じってたなんて事は知らない。
「ウチのクラスとか最後迄残ってた連中はアスカと碇君の関係知ってるけどさぁ……」
「ほら、再開発で転入して来た子達はそんなの知らないじゃない。碇君って優しいから、最近一部で人気出てきたらしくてね」
何故だろう……。
レイに感じたのと別の感覚だけれど、とても苦しい。
――シンジは優しいから、他の女の子に告白されちゃったら……きっとその子の事も優しくしちゃうかも知れない……。
アタシは、必要とされなくなるかも知れないって事?
下半身の力が抜けていく。
カタカタと歯の根が合わない。
思わず膝の上に乗せていた空の弁当箱を取り落としてしまう。
「アタシ、シンジの側に居られなくなるなんて……思った事も無かった…・・・!」
「ほら、やっぱり。アスカ、今のままで良いなんて無理だよ。苦しくなるだけじゃない」
「ちゃんと言おうよぅ……。一杯好きって伝えたら、絶対碇君だって解ってくれるよぅ」
「いっ、ぱい……?」
「そう。何度も何度も好き、って伝えなきゃ」
「言わないままで居て、他の女の子に取られちゃったら嫌でしょぉ?」
他の誰かと一緒に歩くシンジを思い浮かべてしまう。
そんな事、考えるだけで背筋が凍りそう。
そう感じたアタシの返事は即答だった。
「……嫌!」
「だったら! チョコ、渡さないと!」
ミハルがアタシの両肩を掴み、ぐっ、っとアタシの目を覗き込む。
「やっぱ手作りだよねぇ」
またニヤニヤとチェシャ猫みたいにカナが笑ってる。
もう、その笑い方は止めて欲しい。
――心臓に悪いじゃないの。
と、思った所で気付いた。
「あの……二人共盛り上がってる所悪いんだけどさ……アタシ、まだ簡単な料理しか作れなくて、お菓子は無理なのよね」
「「えーっ?!」」
こればっかりはどうしようもない。
だって、アタシはまだまだ修行中みたいなものなんだもの。
一人で全部作れる料理は、精々簡単に煮込むだけの物位だ。
例えば、カレーとかシチューとか。
「折角手作りチョコで盛り上がると思ったのに!」
「……ちょっと、アタシで遊んでたとか言うんじゃないでしょうね?」
「言わない言わない。真面目に考えてるってばぁ」
「ホントに?」
「……うっ」
「御免なさーい。半分遊んでましたぁ」
「もう、アタシは玩具じゃないのよ?」
それでもアタシを気遣っての事なんだろう。
その心遣いが嬉しかった。
「でも手作りが駄目となると……どうすれば良いんだろ? 既製品にしたとして、インパクトが無いと思わない?」
「そうなの?」
「皆と一緒なんてつまんないって」
「インパクトねぇ? 何かプレゼントと一緒に渡すとか?」
「プレゼント……。欧米みたいね。あっちはプレゼントを贈り合うらしいのよ」
「それ、良いんじゃない?」
「アタシもそう思うなぁ」
「じゃ、あ……そうしよう、かな?」
とは言え、何をプレゼントしたら良いんだろう?
シンジの喜びそうな物なんて中々思い付かない。
あーでもない、こーでもない、と昼休みギリギリ迄三人で悩んだけれど、全く解決はしなかった。
帰り道もアタシはプレゼントの事で頭が一杯。
シンジに呼ばれても生返事しか出来なくて、とうとうアタシは帰宅した途端にベッドに放り込まれてしまった。
どうやら体調を崩したと思われたみたい。
「平気だってば、熱だって無いじゃない」
「でも食も細いし、ぼーっとしてるし、顔色も熱ってるみたいで赤いし。熱が無くてもきっと疲れてるんだよ……。
もう今日は大人しく寝ててよね?」
――アタシって、シンジから見てもおかしく思われる位動揺してたのね。
仕方が無いので、ベッドの中で大人しくして居る事にした。
勿論、プレゼントは何にしようかと考えながら。
でも碌にプレゼントなんて贈った事なんてないアタシに、そうそう簡単に思い付く訳が無い。
結局アタシは連日の寝不足もあったのか、ウトウトと眠りに落ちてしまった。
そして目が覚めた時はもう夜もそこそこな時間。
起きてリビング迄行くと、シンジに聞いて様子を見に来たのか、リツコが座ってお茶を飲んでいた。
「あら、大丈夫?」
「うん……」
「何だか元気無いわね?」
「そんな事……ある、のかな?」
「ふぅん……もしかして、この間の続きかしら?」
「まぁ、そんなとこ」
「ここじゃあ話すにも……そうね、後一時間経ったら携帯に連絡して頂戴。――シンジ君、そろそろ帰るわね」
リツコはキッチンでアタシの夕食を用意しているシンジに一声掛けて、足早に部屋に戻っていった。
アタシはシンジが用意してくれた消化の良い食事を摂ると、シンジが横になれと五月蝿く言うので、直ぐにベッドに戻った。
とは言え、夕方から少し眠ったので眠くは無い。
それでもベッドへ大人しく横になり、リツコが指定した時間を静かに待った。
そして指定の時間が来たのを確認すると、リツコの携帯へと連絡を入れた。
「もしもし? うん、アタシ」
『で、今日は何があったのかしら?』
「うん、えっとね――」
アタシは少しだけ、カナとミハルにシンジとの事を話した事を話した。
ネルフの機密と差障りの無い、シンジへと気持ちを伝えた事だけを。
そして、シンジが転入組の女子の間で少し人気がある様だという事も話した。
その事はアタシにとって不安になる事だという事も、包み隠さずに。
シンジの優しさは、アタシだけに向けられている訳ではない。
だから、他の女の子にも優しくするかも知れない。
そうなったら、アタシはシンジの側に居られなくなるんじゃないだろうかと思うと、不安で仕方が無いのだと。
そんなアタシの様子を見て、二人はシンジにバレンタインのチョコを贈るべきだと言う事も話した。
二人はこんな時こそ手作りのチョコが良いと言うが、アタシにはその腕が無い。
料理が得意なヒカリはまだ疎開先から戻っていないから、この手の相談相手は居ないも同然。
それならば既製品と一緒にプレゼントをすれば良いと提案してはくれたが、何を贈って良いのか判らないのだと。
『そう……。沢山、初めての事があったのね』
「うん。ねぇ、リツコ? シンジが一番喜んでくれる物って何かな?」
『貴女の気持ちが込められている物なら、何だって喜んでくれると思うけれど?』
「でもアタシ、今迄禄にプレゼントなんてした事無いのよ。自分で選ぶのは初めてなの……。普通、どういう物を贈るの?」
『そうね、身に付ける物や普段使いのアイテムとかかしら。他にも趣味に関係する物もあるわ』
「趣味……」
『アスカ、シンジ君の趣味は知らないの?』
「うーん……そう言われても直ぐには……」
一緒に居る時は……二人で夕食の準備を兼ねて料理を教えて貰ったりしてる。
他に何かあるかと言われても、シンジが家でしている事で印象深いのは、やっぱり家事だ。
でも家事に関する物と言っても、精々エプロン位だ。
そのエプロンだって、この部屋に引っ越してから買い求めた物だから、それ程使い込んではいない。
寧ろ真新しい。
『好きな音楽とかは知らないの?』
「音楽ねぇ……。そう言えば、よくクラシックの音楽番組を観てる気がする……」
『シンジ君、クラシックが趣味なの?』
「うーん……何か忘れてる様な……あ!」
どうしてあんな大切な事忘れてたんだろう……。
まだアタシ達の仲もそれ程悪化していなかった頃。
アタシがヒカリに頼まれて出掛けた日、帰って来た時に部屋の中を満たしていた優しい音――。
そうよ、アレがあったじゃない!
「リツコ、趣味……かどうかは判らないけど、シンジ、チェロが弾けるのよ」
『まぁ……』
「誰も止めろなんて言わなかったから続けてた、なーんて言ってたけど、結構な腕前だったと思うわ。
あの時の音楽、とても素敵だったもの」
『じゃあ、チェロに関する何かが良いのかしら?』
「そうね、そうかも。でも……チェロはコンフォートと一緒に吹き飛んじゃったし……」
『ねぇ、アスカ? よくクラシック番組を観てるのよね?』
「うん」
『それって貴女も一緒に楽しめるわよね?』
「うん、そうね。大抵アタシも一緒に観てるわ」
『だったら、CDかDVDなら一緒に楽しめるんじゃない?』
そこから先の行動は早かった。
けれど第三市内はまだ復興の為の再開発の途中で、商業施設がそれ程普及している訳ではない。
基本的に日用品を扱う店が優先的に営業を再開させていて、嗜好品を扱う店は市内を離れないと店が無い。
ならば、とリツコがこの間見せてくれた通販サイトでチョコを手配してくれる事になった。
休みに第二や新小田原に出掛けて買うのも良いけれど、やっぱりアタシは予備役とは言えチルドレン。
ガードが付くだけでなく地理にも疎いので何かあったら大変だからだ。
勿論、チェロのCDも一緒に手配してくれた。
後、日本に残るアタシを引き受けてくれた司令と、いつもアタシ達を気に掛けてくれる青葉さん。
それから、どんなに頼まれても頑として写真を売らなかった相田。
この三人には感謝の気持ちを込めて義理チョコを渡す事にした。
注文して二日位でチョコとCDは届いたので、一つ一つに小さなカードを添えた。
メッセージは考えたけれど、結局有難うの言葉しか出てこなかった。
まぁ、感謝の気持ちを表すんだから、これでも大丈夫だと自分を納得させる。
シンジ宛のカードには、ちゃんと別の言葉を書いた。
何を書いたかだけは内緒!
「リツコ……シンジ、受け取ってくれるかなぁ?」
『大丈夫よ。もっと自信持ちなさい。貴女が素直な気持ちを贈れば、シンジ君だって受け止めてくれる筈よ』
「アタシ、頑張ってみるね。リツコ、有難う」
後は、当日を待つだけだ。
「アスカ、用意したぁ?」
「うん! 他の女のチョコなんて、受け取らせないわよ」
「その意気よ!」
バレンタイン当日。
学校に着いてから、アタシ達はタイミングを計り始めた。
どうせなら、他の女の子が渡そうとしてもぐうの音も出ない位完璧なタイミングが良いと考えたからだ。
昼休み、カナとミハルが教室の前後の出入り口近くに陣取る。
他のクラスの子が来たりしないか様子を探っているのだ。
案の定、誰かが来たみたい。
後ろの扉前に居るカナが目配せをしているという事は、B組かC組の女の子なんだろう。
――アスカ、行くわよ……ッ!
アタシは意を決して相田とお弁当を食べているシンジの所へと近付く。
とくん。
とくん、とくん。
胸が張り裂けそう!
でもこれは止められないの。
アタシの一世一代の勝負みたいなもの。
後ろの扉前には通りがかったクラスメートに呼び出しを頼んでいる子の姿が見える。
クラスメートがこっちに向かってくる。
でも、駄目。
アタシが先よ。
クラスメートが声を掛けようとした絶妙なタイミングで、アタシはシンジの後ろに立って声を掛けた。
「ねぇ、シンジぃ」
「ん? 何、アスカ?」
「あのね、アタシね――」
タイミング?
上出来!
アスカ、初バレンタイン完結編。
昨年のお話の続きだったり。
思ったよりも長くなったよーな希ガス。
今回も何とか間に合ってホッとしますた。
皆様、良いバレンタインをお過ごし下さいまし
おお、今気づいて一気に読みますた
GJです。ホノボノしたよ
乙です。とてもおもしろかったです。
223 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/02/17(水) 15:21:58 ID:5jgisGBy
会話主体がいいなー。携帯からだと読む気にならない。
携帯からだけど楽しく読めたよ
GJですた
「ねぇ、シンジぃ」
「ん? 何、アスカ?」
「あのね、アタシね――」
多分、僕の世界が変わったとしたら、この時なんだと思う。
「これって、やっぱり難しい?」
小さく首を傾げてアスカは僕の顔を覗き込む。
「うーん……弾けない事はないけど……」
「じゃあ、弾けるのね?」
「今は無理だよ」
「そう……無茶言って悪かったわ」
しょぼん、と肩を落としてスカートを握り締める姿は、何だか子供の様に見える。
アスカはそういう姿を余り他の人に見せない。
どちらかと言えば、実年齢よりもずっと大人びた印象の方が強い。
そんなアスカだったから、きっと僕は気になったんだと思う。
「聴きたいの?」
「……うん」
思わず聞き返していた。
するとアスカは恥ずかしそうに顔を赤くして、下を向いたまま小さく頷いた。
その時は気付かなかったんだけど……アスカは自分の中で自分を変えようとしてた。
いや、僕達を変えようとしてたんだよね。
「このCDの事じゃないんだよね?」
「当ったり前じゃない……それは一緒に聴きたいけど、それとこれとはまた別よッ!」
顔を一層赤くしたアスカは、他にも小さな紙袋を手にしていた。
それを僕に押し付けて、アスカは声を上擦らせた。
「あっ、アタシっ、まだ作れないからっ、CDはその代わりなのっ!」
紙袋を開けて中を覗くと、リボンが掛けられた小さな包みが入っている。
それと一緒に、袋の中からは何処となくアルコールの様で甘い匂い。
「ああ! 成程なぁ」
「何が?」
横で一緒に弁当を食べていたケンスケが、袋の中を覗き込んで唐突に手を打った。
「ほら、カレンダー。今日は何の日だ?」
ケンスケが黒板の横の壁を指す。
掛けられたカレンダーの日付を確認すると、今日は二月十四日。
――二月……十四……って、何かあったかな?
昼食で満腹になって眠気を訴えている脳細胞から記憶を引っ張り出す。
特に今迄記憶に残る様な事なんて無かった筈だ。
もし何かあったのなら、多分覚えているだろう。
それでも何も思い出さないという事は、何も無かったという事だ。
「特に何も無いと思うけど? 今迄だって何かあった事って無いし」
「……あのなぁ」
「もうっ! 今日はバレンタインデーだってば! シンジぃ……受け取ってくれないの?」
耳迄真っ赤にして上目遣いでスカートを掴んで……そんな状態で聞かれちゃ、受け取らないなんて出来ないよね?
それからのアスカは凄かった。
何が凄いかって言えば、学校ではどちらかと言うと表情が固めだったんだけど、別人みたいに柔らかいんだ。
登下校の時だって、手を繋いでくる。
それだけじゃないよ?
お弁当だって作り始めた。
尤も、全部アスカがする訳じゃない。
けれどこう言うんだ。
今迄簡単な食事しか作れなかったけど、これからはもっと作れる様になりたい。
だからお弁当の作り方も教えて欲しい。
こんな事言われちゃ断れないよ。
でも、僕は内心気が気じゃなかった。
僕達は見た目よりもずっと、不安定だから。
だから、アスカに何か起こる前触れじゃないかってずっと思ってたんだ。
アスカが少しずつ周囲との繋がりを増やしていく事は僕も嬉しい。
僕もアスカもサードインパクトの時の影響で、慣れている人以外には一歩引いてしまう所がある。
それが改善されていくって事は、良い事だと思っていた。
けどその分、バレンタインを境にしてアスカが急激に変わった風に感じる事が心配だった。
嬉しい反面、不安がどんどん増していくんだから、正直な話僕は生きた心地がしなかった。
「ねぇ、シンジ? お味噌の分量はこれで良いの?」
それ迄どちらかと言えば洋風料理を覚える事が主だったのが、和風料理も覚えたいと今迄よりも台所に立つ回数が増えた。
それも勿論良い事なんだと思うし、実際アスカのレパートリーが増える事で僕の負担も減っている。
けど、僕は釈然としなかった。
「アスカ、別に無理に覚えなくても良いんだよ?」
「無理なんてしてないわよ。和食を覚えるのも良いかな、って思っただけよ」
「それなら良いんだけどさ……うん、それ位かな」
鍋に味噌を乗せたお玉を浸し、アスカは菜箸で少しずつ丁寧に溶かした。
ここ数ヶ月で一気に箸の使い方に慣れたのか、ぎこちない手付きながらも味噌汁を作り上げていく。
――その内僕の出番、無くなっちゃうのかな……。
ふと頭に浮かんだ事。
何故だろう、何かおかしい気がする。
少しずつ周囲との繋がりが増えていく事は、お互いに良い事の筈なのに。
それなのにどうして僕は、そんな事を考えてしまったんだろう?
それに何だか胸の奥にもやもやとした物が増えていく様な。
幾ら考えても、そのもやもやとした物の正体は解らなかった。
そして数日経っても、もやもやとした物は僕の胸から無くなる所か増えていった。
「シンジぃ、くっ付いても良い?」
「ん? あ、うん、良いよ。おいで」
アスカは相変わらずだ。
宿題や家事を終らせた後の自由時間になると、やたらと僕に引っ付きたがる様にもなった。
そして僕にそれを拒む理由も無い。
「それ、セカンドインパクト前の奴?」
「そうみたいだね。こういうのは今じゃ貴重だから、こうして聴けるのは運が良いよ」
学校配給の端末のディスクドライブにCDを入れ、再生ソフトを起動させる。
内臓スピーカーだからそんなに良い音質ではない。
けど、聴くだけなら充分だ。
「……良い曲ね」
「そうだね」
一言二言交わすだけで、会話が弾む様な事も無い。
それでも僕は充分満足していたと思う。
たとえそれが薄氷の上を歩く様な不安定さを持っていたとしても。
けど、それがただの独り善がりだとは僕は気付いていなかった。
結局僕は身勝手で、自分の事しか考えていなかったって事だ。
「ねぇ、シンジ。今日の味付けはどうだった?」
「ん、悪くなかったよ」
「そう。良かった」
あれから一月近く。
アスカの料理の腕は少しずつ上がっている。
週に一日位はお弁当だって僕が手伝う事は無くなった。
多分、それは良い事なんだろうけど……。
やっぱり釈然としない思いが積もっていく。
でも、僕は何も言えない。
何がそんなに不満なのかも解らない。
そんな事を繰り返し考えている内に、ケンスケに釘を刺された。
ちゃんと話せよ、って言われても……何を話せば良いのか判んないよ。
僕だって……チョコレートの意味位は気付いてる。
でも僕は何でも割り切れるほど器用じゃない。
自分の気持ちだって解らない。
ただ目の前の日常を追っていくだけで精一杯。
そりゃあアスカと一緒に居る事に不満は無いけど……けど……。
今こうしていられるのは沢山犠牲にしてきた物だってある訳で。
つまるところ、僕が抱えてしまった物に自分で気付くには、もう少し時間が必要なのかも知れないって事。
そんな時だったと思う。
僕とアスカの関係迄不安定になっている事に気付いたのは。
とりあえず出来ている切りの良い所迄投下。
残り、必死に書いてくる。
GJっ
ツヅキ気になる。GJ
いつもの様に家事と宿題を済ませた自由時間。
僕は端末でCDを聴きながらぼんやりとしていたし、アスカはアスカで僕の横に座って雑誌を読んでいた。
「ねぇ、明日のお弁当何にしよっか?」
「別に、無理して作らなくてもいいよ?」
「無理なんてしてないわよ」
「……適当でいいよ。シャワー浴びる事考えたら、作ってる暇なんて無いでしょ?」
少し頬を膨らませ、アスカは口を尖らして拗ねる。
「いいから。明日は僕が作るよ」
みしみしと何かがひび割れる音がしたのは気の所為だろうか。
「むー……無理しなくていい、無理しなくていい、って、アタシ無理なんてしてない!」
「っ、そんなつもりで言ったんじゃ――」
「じゃあ、どんなつもりよ?」
アスカが凄く拗ねてるのが判った。
軽く下唇を噛んでいる。
「別に……他意は無いよ」
「ホントに?」
真っ直ぐな目でアスカは僕の顔を覗き込む。
何の曇りも無い瞳。
僕は胸の奥に溜め込んでいたドロドロとした物迄見透かされそうな気がして、思わず目を逸らしてしまった。
「もう! こっち見てよ!」
アスカは僕の頬を掴んで、無理矢理自分の方へ僕の顔を向けさせた。
「――っ、何?」
目を合わせた瞬間、やっぱり僕は側に居ちゃいけないんだと思った。
アスカの顔からは表情が抜け落ちていたから。
表情が抜け落ちたアスカの瞳には、ただ僕だけが映っていた。
その他の物は何も無かった。
僕だけを真っ直ぐ見つめて、僕の心を射抜く視線だけがある。
「……ねえ、アタシが居たら、迷惑?」
耳を疑った。
僕はそんな事ちっとも思っていない。
「何で、そんな事言うのさ?」
僕は頬を掴むアスカの手を解いた。
「だって……アンタ、最近溜息ばっかりじゃない。気付いてなかったの?」
「何それ」
「何かボーっとしてる事多いし、あんまり笑ったりしないし……顰めっ面してる時だってあるわ」
アスカは僕から視線を逸らして目を伏せた。
軽く噛まれていた唇は、噛む力が増したのか赤みを増している。
「そんな……気のせいだよ……」
僕は視線を下に外した。
解いた手が震えているのが伝わる。
そのまま視線を下に向けていると、アスカの膝上にぽつぽつと何かが落ちたのが見えた。
「シンジの馬鹿ぁ……何でアタシに話してくれないのよぉ……」
か細い声に涙が混じる。
「何でも話せる様になろうね、って言ったのにぃ……」
詰る声の中の涙が増えていく。
「言ったけど……別に何も隠してなんかないよ」
「嘘。じゃあ何でちゃんとアタシの目を見て話してくれないの? ここんとこずっとそうじゃない!」
「それは……」
――言える訳ないじゃないか。
僕は口を噤むしかなかった。
幾ら何でもこれは話せない。
「そんなに、アタシが一緒だと嫌なの?」
「嫌だなんて、そんな事無いよ!」
「だったら!」
「だったら何なのさ! 別にアスカが嫌だとか、迷惑だとか、そういう事じゃないよ! 寧ろ、心配なんだよ!
無茶してるんじゃないかとか、僕の方が邪魔になるんじゃないかとか、って、あ――」
売り言葉に買い言葉。
「――御免」
勢いに任せて後ろ暗い物を吐いてしまった。
出来る事ならずっと隠しておきたかったのに、隠し切れなかった。
情けない。
「はぁ……アンタ、馬鹿ぁ? そんな事考えてたの?」
「そんな事って……ホントに心配だったんだよ……。僕達、まだ完治した訳じゃないんだから」
「そりゃそうだけど……だからって、普通そんな事考える?」
「だって、急に変わり過ぎだよ! そりゃ、僕の事を考えてくれるのは嬉しいよ? でも……でも……」
一度吐き出した途端、次から次へとどろりとした物は頭の中を駆け巡る。
けれど言葉にしようとすると、上手く吐き出せなくて胸の中に溜まっていく。
もやもやとした物と結び付いて、胸を圧迫して息苦しい。
「シンジ」
「何?」
「アタシの目を見て」
「何で?」
「いいから! アタシの目を見なさい!」
アスカは再び僕の頬を掴み、今度は額と額をくっ付けた。
そしてアスカは僕の瞳を覗き込んだ。
深く、深く。
その視線は、胸の奥底迄覗き込まれている気がした。
「ねぇ、シンジ?」
「うん?」
「アンタ、ホントに馬鹿ね?」
「……何?」
アスカは僕の頬から手を離すと、そのまま僕の首筋にしがみ付いてきた。
「あのね、アンタは多分怖かったのよ」
「怖い……? どうして……?」
怖いなんて、僕は思ってない。
エヴァに乗って戦った時は使徒を怖いと思ったけど、アスカを怖いなんて思わない。
「えっとね、きっとアンタはまだ、自分の事が許せないんだと思うの。だから、物事が良い方向に回っていくのが怖かった。
自分は幸せになっちゃいけないって、心の何処かで思ってるのよ」
「僕、そんな事思ってなんて……」
「無い、って言い切れる?」
「――言い切れ、ない」
だって僕はまだ、過去を過去に出来ていない。
アスカの指摘は言い得て妙だった。
まるで図星を指された様で、胸に溜まったどす黒い物が凝り固まるのを感じる。
アスカは腕の力を強めて、僕の髪に手を埋めた。
そして少し熱くなった頬を僕の頬にくっ付けた。
もう涙は流れていないのか、濡れた感覚はしない。
「心配しなくったって、アンタは幸せになって良いのよ。あの事は……アンタの所為なんかじゃないわ。
きっと誰もが被害者で、加害者だったのよ。冷静になって考えてみれば、皆何処かおかしかったって事。
だから、アンタは怖がる必要なんて全然無いの」
「ぁ……れ……?」
不意に目が霞む。
「あれ……僕、どうして……」
頬の上を熱い物が転げ落ちる。
腕を解いたアスカが頬に触れた。
「そんなに怖かったの?」
「え?」
「アンタ、体震えてるわよ。それに、泣いてる」
「あ……」
アスカが頬に触れた手で目から流れ落ちる涙を拭う。
「いーい? アンタは幸せになってもいいの。なんなきゃ駄目なの。だから、泣く必要なんて何処にも無いのよ」
アスカが僕の手を取って、腕ごと両手で抱き込んだ。
「でも……幸せなんて、解んないよ……?」
自分の気持ちだって解らないのに、自分が幸せかどうかなんて解る筈がない。
でも僕の言葉に対して言い切ったアスカの言葉は、この数週間で一番凄かった。
凄いって言うより、強引?
とにかくぶっ飛んでたのは間違いない。
「そんなの考えなくたって判り切ってるわよ。 アタシが幸せなんだから、アンタだって幸せに決まってるじゃない!」
そう言って胸を張るアスカの姿に、何故か笑いが込み上げてきた。
得意そうに顔は澄ましているのに、そのくせ頬は赤いんだ。
「っ……ぁは、ははは……っ、何だよそれ……っ」
「あーっ、笑ったわね?」
「だってっ、そんな、顔真っ赤にしてっ、恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」
「うー……シンジの癖に生意気!」
アスカは抱き込んでいた僕の手を離すと、手を伸ばして僕の頬を抓り上げた。
「――ぃたっ! 痛い! 痛いって、アスカ!」
「お仕置きっ!」
拗ねた時の様に口を僅かに尖らせるその仕草が妙におかしくて、頬を抓られているのに僕の口元からは笑みが零れていた。
あんなに胸の中に溜まっていたどす黒い物は何処に行ったんだろう?
そう思う位、二人でじゃれ合っている間にこの数週間僕の頭の中を支配していた不安感は消え去っていた。
綺麗サッパリと。
一頻り僕の頬を抓り上げた後、アスカはこう言った。
「アタシね、シンジが好きだって気持ち、全然変わってない。だから一緒にこうして居られるのって幸せなの。
一緒に幸せになりたいの。けど、シンジって自分の気持ちが判んないって言うし、アタシの事だって半信半疑じゃない。
だからアタシ決めたの。アタシの好きって気持ちをシンジが信じてくれる迄、一杯シンジに好きだって事伝えよう、って。
それでアタシ、料理を覚えたかっただけなの。シンジに美味しい、って言って欲しかっただけなのよ。
なのに最近ずっと顔顰めてるんだもの……失礼しちゃうわ!」
アスカはずっと、僕を見てたんだ。
一生懸命僕へ手を差し伸べてくれてた。
それなのに僕は、アスカを見ている様でアスカの事が見えてなかった。
馬鹿だな、僕。
「御免……何か、勘違いしてたのかな? うん、多分勘違いだ」
「何よ、それ?」
どうして胸にもやもやしていく物が溜まっていくのか、何となく理由が解った気がした。
多分、僕はアスカに必要とされなくなる事が怖かったんだ。
けど、頭の何処かでは必要とされなくても当たり前だという意識があった。
アスカは僕と一緒に居るよりも、もっとアスカを必要としてくれる人と一緒に居る方が良い、って思ってた部分もあった。
結局、僕なんか、って意識が強かったって事だと思う。
アスカの言う様に物事が良い方向に回る事が怖かったというのも、強ち間違いじゃないだろう。
「ありがと、アスカ」
「訳解んない事言ってんじゃないわよ! 説明しなさい!」
「大した事じゃないよ。ホントに、大した事じゃない」
アスカは僕から理由を聞き出したかったみたいだけど、僕は何となく言わない方がいい気がしたのでだんまりを決め込んだ。
随分の間アスカは僕をジッと睨んでいたけれど、やがて諦めたのか僕に抱き付いて、ぽつりと呟いた。
「仕方ないわね……今回はそういう事にしといてあげる」
「うん、そういう事にしといて」
時計を見ると結構時間が過ぎていて、何時の間にかCDの演奏は止まっていた。
僕は再生ソフトを再起動させ、CDを一曲目から再生させた。
柔らかく深みのある弦楽器の音が端末の内臓スピーカーから流れる。
ソフトを操作して演奏をエンドレスにして、スクリーンセーバーを起動させた後、僕はアスカを抱き締めた。
そしてその日はそのまま、二人一緒にCDを子守唄にしてしまった。
翌日の朝も特に変わり無く、ここ最近の朝と同じ様に二人で朝食とお弁当を作って家を出る。
授業も一通り、いつもと同じ様に受けて、アスカが僕の手を取って家に帰る。
それが一日の流れ。
ただ一つ違う事があるとしたら、アスカに引っ張られてる様だった僕の歩く早さがアスカと同じになった事。
それだけの事だけど、アスカは凄く嬉しそうにしてた。
「ねぇ、アスカ? 今日は何の日だか覚えてる?」
「んー……そりゃ、ねぇ?」
「何か欲しい物とか、ある?」
「別に……そんなのいいわよ」
「そういう訳にもいかないよ」
「いいったらいいの! それより急がないと遅刻しちゃうわよ?」
「あ、うん。そうだね、急ごうか」
結局、その日はそれ以上の事は無かった。
普段通りの事を普段通りに済ませて終わり。
けれどこの一月の事があってからの僕達は、随分と会話が増えた気がする。
確かにそれ迄も話はしていたんだろうけど、相手の事を考えるって事が少し欠けていたんじゃないかな。
自分の事ばかり考えていたから、一方通行か言葉のぶつけ合いに近かったのかもと思う。
自分の思っている事を相手に伝えるって、難しい。
でも伝わった時は凄く嬉しい。
これって、キャッチボールと同じだよね。
「アスカ、今度の週末は連休だよね?」
「うん」
「晴れてたら、お弁当持って何処かに出掛けようか?」
「良いわね、それ」
「何処が良いかな?」
「あら、やだ。こういう時はシンジがエスコートしてくれなきゃ」
「……あんまり期待しないでね」
「じゃあ思いっ切り期待しちゃう!」
平凡かも知れない。
でもこういう日常が、僕があの時望んだ事の一つなのは間違いの無い事。
だから毎日嬉しい事や楽しい事を見つけながら、僕は生きていこうと思う。
後ろばかり見ずに、前を向いて。
「えー? しょうがないな、クレームは受け付けないからね?」
2年越しVD&WD連作完結。
アスカが欲しがってシンジがあげたものは何でしょう?
気付いた方には……何も出ません(ヲイ
微妙に投下が遅れてすいませんですたorz
初動が遅かった('A`)
とりあえず続き物の方の投下はまたその内に。
GJ、ほのぼのしたお
GJ
248 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/28(水) 20:00:53 ID:camUH8y3
保守
「……しょうがないな」
座り込んだまま眠ってしまったアスカの体をベッドの奥へと寝かせた。
けれど、僕のスウェットの上着の裾を掴んだままだから、そのままだと僕の腹が見えてしまう。
と言って、脱いでしまうと風邪を引くのが落ちだ。
裾を掴まれたままアスカの真横に横になり、備え付けの薄い毛布を体に掛けた。
やっぱり、夜は冷える。
それ程地軸が戻った影響が出ていないとは言え、だ。
適温に調整されている空調も風邪を引かない程度の物。
二人分の体温で暖められていく毛布は、冷えを感じる時間の室温には実に快適に感じる。
結局その暖かさのお陰か、昼間の疲れが出てしまった僕は横になって幾許もしない間に眠ってしまった。
側にアスカが居るだけで、病室での一人寝の緊張感が解けてしまったんだと思う。
次に意識が戻った時に携帯の時計を確認すると、時計は最後に確認した時間からはそれ程時間は経っていなかった。
でもあくまで意識が戻ったというだけであって、体の疲れは微妙に残っている感じだ。
アスカはまだ眠っている。
寝る前はスウェットの裾を掴んでいただけだったのが、何時の間にか僕の腕にしがみ付いていた。
僕の方はシングルの狭いマットの上に二人で寝ている為か、小さく体を折りたたんだツケで全身の筋肉が強張っている。
アスカを起こさない様にベッドから抜け出し筋肉を解そうかと思ったけど、結局止めてしまった。
腕にしがみ付いたアスカが幸せそうな顔で眠っているから、何となく動いて起こしてしまうのが忍びなくなったからだ。
それに比べれば少々筋肉が強張ってるのなんて、どうって事無い。
どう考えても後になって体が痛くなって後悔するのは判ってるんだけど、この時の僕はアスカとの睡眠を取った。
知らない天井でも病室じゃない場所というのもある。
でも一番の理由は、一人じゃないって事を実感したからじゃないかな。
腕にしがみ付いているアスカを見ていると、僕を必要としてくれている感じがするから。
だからアスカとの睡眠を取った僕にしても、アスカが必要だって事だと思う。
だって、アスカが居る事で僕は僕で居られるという事は、ホントはとても凄い事だよ。
僕は……自分の事が一番嫌いで、自分の事を一番消したかったし、消えたいって思ってる部分がある。
でもアスカは、そんな僕だとしても一緒に居たいし僕の事が好きだ、って言ってくれる。
そんな彼女を邪険になんて、出来ないよ。
すうすう、と寝息を立てる彼女と携帯の時計を見比べている内に、僕はまたウトウトとし始めた。
とは言え、完全に眠った訳じゃない。
アスカの体温と僕の体温が混ざって全身を包み込んでいく心地好さにまどろむ感じが一番近い。
ただ眠るよりもずっと好かった。
時計が気になってはいたけれど、その内気にならなくなったのは多分、無防備なアスカの所為だと思う。
戻って来てからのアスカは、何となくだけど棘が小さくなった気がする。
僕以外の他に誰も居ない時は、前みたいに力が入った感じじゃない。
僕もアスカもエヴァを通してしか他の人と触れ合う事が出来なかった。
もう、エヴァは無い。
僕達はそれに慣れなくちゃいけないし、実際慣れ始めてはいる……少しだけど。
だから上手く言えないけれど、今はエヴァを通さないアスカを僕に見せてくれてるんじゃないかな、って。
それが嬉しくて、ずっとアスカの寝顔を見てたのかも知れない。
すると、時間が経つのはとても早かった。
「何時……?」
時間を確認すると、朝には遅くて昼には早い時間。
あれからすっかり眠り込んでしまったみたいだ。
アスカはあれからも僕の腕を抱え込んでいたみたいで、何だか片腕の感覚が鈍い。
「起きなきゃ……アスカ、アスカ? もう朝だよ?」
案の定、手を動かそうとすると痺れている。
ピリピリとした痛みを無視して腕を動かし、眠っているアスカの目を覚ます作業に移った。
「……ぅん……っ……もう朝ぁ……?」
「うん。ほら、起きよ――」
「ん……」
アスカの腕の中から腕を抜こうとすると、アスカは更に僕の腕にしがみ付いてきた。
力の配分が変わって、力を込められている部分のピリつきが強くなって腕が痛い。
「ねぇ、起きようよ?」
しがみ付かれちゃ体は起こせないから、僕は体をアスカの方へと向けた。
するとアスカは全身をしがみ付く僕の腕に摺り寄せた。
そのまま僕の胸の中にすっぽりと収まってしまう。
「アスカぁ……」
「んー…」
僕は自由になっている片手でアスカの肩をやんわりと揺さぶった。
何度か呼びかけながら揺さぶると、アスカは眠そうな目を薄く開けてくれた。
「……おはよ……シンジ」
ぽつぽつといった感じでたどたどしい挨拶だ。
「おはよ、アスカ」
まだ意識がはっきりしないのか、ぼーっとした顔でアスカは僕の顔を見ている。
「まだ眠い?」
返事が無いので聞いてみた。
「……ぁ……っ!」
急に顔を赤くして、アスカは俯いた顔を僕の胸に伏せてしまった。
「どうしたの?」
「あ……その、あの――」
耳迄赤くした消え入りそうなアスカの声に、僕迄顔が赤くなってしまったみたい。
ちょっとだけ胸が痛くて、ドキドキして、何だか体が熱い。
「な、何?」
アスカは僕のスウェットにしがみ付いて、辛うじて聞き取れる声で呟いた。
「……嬉しく、って……夢みたい、って。だって、好きな人と一緒なんだもの……」
ぎゅっ、とアスカは僕のスウェットの胸の部分を掴み、額を僕の胸に擦り付けた。
髪の毛の隙間から見える首筋迄真っ赤になってる。
――何か……可愛い、かも。
ドクドクと全身を血が大量に流れる音が耳の中で反響している気がしてきた。
胸の痛みが治まらないどころか、どんどん強くなる。
気付いたら、痛みと痺れが残る腕で僕はアスカを抱き締めてた。
最新話でございます。
えーと、少し思う所がありまして今後暫くは短編の投下は控える事にしました。
理由はブログを参照して下さい。
自分としてはとても不本意なのですが、どうしようもないです。
読んで下さっている方には本当に申し訳ないです。
その分、続き物に関しては投下を頑張ろうと思います。
了解しますた
復帰いつでもまってますよ!
ほ
新たな職人はまだか・・・?
これもナグナブロの弊害なんだろうか・・・
あれの被害は広範囲に及んでいるからな
おいらもシンジとアスカと一緒に暮らしたいでヤンス
邪魔はしちゃいけない
書きたいけど書けない
仕事がつらい('A`)
がんばれ 応援してるぞ!
織月氏大丈夫ですか?
保守っといたほうがいいのかなぁ?
たうのhidden lecrifurは迎え火の劣化コピーの魂のこもっていない最低FF
たうは盗作電波自演荒らしの四重苦の高CQ、これ豆ね
みんな気をつけてね
265 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/02(木) 01:50:36 ID:MWF53/EA
保守age
>>251の続き、直接うpしましたー
夏はずっと内職やってたから続き遅れてスマソ
寸止め寸止め(ryの声が多かったので中身は背後注意でヨロ
リッちゃんは次のターンで
267 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/04(土) 21:52:43 ID:fFJfyDAu
シンジの楽しみ『うっかり』アスカの入っているお風呂にはいってしまうこと 「ゴメン 気づかなかったよ」
268 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/09/08(水) 01:32:33 ID:KtzxVtz3
あげ
うおー!キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!マジ乙です!
待ってましたよー!
つ、続きは何処に飛べば読めるんでしょうか!?
って、ここでブログのアドレスとか聞くのはマナー違反?
初心者で申し訳無いです・・・
>>270 DB2やLASスレまとめにリンクがあるよ
良スレsage
271様に教えて頂いたのに分かんない馬鹿な自分(ToT)
275 :
273:2010/09/19(日) 02:49:41 ID:???
274様ありがとうございます!!
夜明けまで目を充血させながら読んできますw