★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★3.5

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45シイ
暫くして、急にアスカが顔を赤らめ、シンジの胸から身体を離したのは言うまでもない。

「…アスカだって行方を眩ませたじゃないか。」
「う…。」

先程の問いに答える余裕がようやく出来たシンジは、改めて不自然な程に、自分に似た少年に振り返る。

「君は、」
「…はじめまして、父さん。」

実質、「はじめまして」ではないことくらい、彼は判って居た。
しかし、それは彼の記憶に無い程の過去だった。

アスカの肩をそっとすり抜け、ゆっくりと、シンジは歩を進める。
レイジの目の前に来て、すっ、と手を持ち上げた。
少年は身を固くし、ぐっと瞼を閉じた。
眼をおそるおそる開いた時には、頭上に暖かな温もりがあった。

「ありがとう、生まれてきてくれて。」

レイジは、生まれ落ちた時以来の涙を静かに流した。
これが、涙。
嬉しいときにも流れるものなのかと、レイジは不思議に思った。
ありがとう、なんて言われたことなんて、この頼りない両手の指で数え切れてしまうほどだ。
ましてや、自分が生まれて来たことに感謝されるなど、かつてなかった出来事であった。
この人が、父親で良かったと心から実感したのも同時であった。

黒髪の上にある手のひらの温もり、暫くの間は取り払われたくなかった。
46シイ:2009/08/28(金) 01:57:32 ID:???
「やっぱ、あんただったのね。」

この父子の在るべき姿をあたたかく見守って居たアスカは、もう一人、同じようにして見守る存在に気付き、ふっと呟いた。
取り払われる手のひらを名残惜しそうに見つめ、レイジは、今は墓標を優しげに撫でる手のひらの持ち主の声に耳を傾けた。

「綾波はね、君を産んですぐに亡くなったんだ。」

レイジは思わず表情を曇らす。
シンジは雰囲気を和らげるように微笑みをもらした。

「そんな顔しないで。元からサードインパクトの影響もあったんだ。」

墓標から手を離し、立ち上がる。
風が強くなり、ひとかけの花びらがレイジの黒髪に彩りを持たせた。

「君を産むことに懸念する声もあったけど、綾波は君が無事に生まれたことを喜んでたよ。」

それは、彼女は全く知らない話でもあり、アスカは薄く自嘲気味に鼻から息をふん、ともらした。
彼は再び手を伸ばし、レイジの髪に捕らわれている花びらを、憐れむように指で掬い取った。
その時アスカは気付いた、シンジの左手の薬指に、くすんだ色の灯りがあることを。
そのことに気付いた途端、ひどく彼女は動揺して居た。
うそよ、でも…。

声にならない呟きは、あたたかな日差しの中に吸い込まれていった。

「僕は父さんの代わりにネルフに常駐してて、久し振りに外に出たよ。丁度十五年振りかな。」

十五年、あまりに長い年月にアスカは目を見張った。

「だから、代わりに彼女に君を引き取りに行ってもらったんだ。」

そう言って、金髪の女性が居る位置とは真逆の方角に首を向けた。
47名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/29(土) 17:26:35 ID:???
GJ!
48名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/29(土) 22:25:24 ID:???
>>47さん
ありがとうございます!

続き投下しても大丈夫ですかね?
49名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/29(土) 22:37:01 ID:???
GJです。
気後れせずどんどん投下しましょう。
レスがなくても読んでいる人がいると信じて。
50名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/29(土) 23:08:01 ID:???
続きを速く!!!もう気になって気になってしょうがないねん
51名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/29(土) 23:31:08 ID:???
>>49さん、>>50さん
ありがとうございます!

わああ、嬉しいです!頑張ります!(課題も)
52シイ:2009/08/29(土) 23:37:08 ID:???
「やっほー、ワンコくんたち。」

彼が気がつくと、もう目前にセミロングの茶色の髪に赤ぶち眼鏡の彼女が立って居た。
ちなみに、施設から彼女の部屋への引っ越しの際に、サードインパクトによって自慢の髪が肩の上まで焼切られてしまったために、なかなか伸びないと、軽々と小さな段ボールを担ぎながら、そんなことを言って居た。

「マリさん!」
「この度は、息子をどうも。」
ぶらぶらと陽気に手を振る様は、この場に最も似つかわしくないと感じたアスカだが、彼女も礼服を着こなして居て、皮肉の言葉を呑み込み、甘んじて眉をひそめるだけであった。
「ううーん、仕事ないしさー。」
とは言っても、膨大な金額の賠償金が各々のパイロットに支払われている筈だ、アスカは実際それで生計を立てて居る。
マリは口許に意味有りげな微笑みをたたえながら、シンジの襟を掴み、肩にその端正な顔を埋めた。

「え!」
「あ、あんた!」
アスカとシンジが驚嘆の声を響かせる中、レイジは心中のみで、溜め息を吐いた。ちなみに彼は初対面で、その異常なる行動をされて卒倒しそうになったものだった。
「相変わらず、L.C.L.の匂いがする。良い匂い。」
その間もアスカは、わなわなと肩を震わせていた。
「あんたねぇっ!いい加減に、…!」
つかつかと歩み寄ったアスカにもマリは同じ行動を取った。
「…もしかして花でも抱いてた?L.C.L.の匂いも混ざってるにゃー。」

結局、レイジはその光景に、深い深い溜め息をもらしてしまった。
しかしレイジは知らない。L.C.L.は血の匂いにあまりにも似ているということを。
53シイ:2009/08/30(日) 00:03:46 ID:???
「と、とりあえず、墓参りに来たんだから…ほら。」

シンジが花びらが幾分か散ってしまった、不格好な花束の先端をアスカにもたげた。
未だ不機嫌そうに、つんと横を向いたアスカの姿は、彼らの当時築かれていた人間関係が窺えて、レイジはシンジの後ろで思わず噴き出してしまった。

「あらら、まだ拗ねてるのー。」
「うっさいわね!」

マリを睨めつけるように横目で一瞥し、ちっ、と短く舌打ちすると、シンジから半ば奪い取るようにして受け取り、そのまま本来最初に向かい合う筈だった、彼女へと捧げた。

「…今年は賑やかでしょ、良かったわね。」

花束と共に、静かな黙祷も捧げた後に、アスカは口角を少し和らげて言った。
それは、ささやかながら、親愛なる者に向ける弔いだと、初めて墓参りと言うものを目の当たりにして少年は感じた。

「さてとー、帰ろっか。」
「え、」

レイジはマリの突然の言葉に驚きを隠せない。

「パイロット同士、お互いつもる話があるのよ。」
「でも、」

不満の声音が口をつく。が、

「大丈夫、また会えるから、ね?」

そうやって、彼の応答を待たずして鼻歌混じりにレイジの手を引く。
振り返った時には、アスカとシンジは寄り添って、花束が手向けられた彼女に、既に背を向けて居た。
54名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/30(日) 00:16:20 ID:???
綾波が死んでるあたりでなんかもう泣きそうだわ…続きを速攻希望!
作者GJ!
55名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/30(日) 01:55:34 ID:???
>>54さんだけでなく綾波派さん方、ゴメンなさいっ!
だいぶアスカを贔屓した展開なのでw
回想シーンとかありますので、暫くお待ちを…。
レスもらえると意欲湧きます、ありがとうございます!本当に課題やばいのに今日だけで三章まで書き溜めしてしまったのは何故…w
56シイ:2009/08/30(日) 03:59:46 ID:???
「なんで、父さんが生きてるって教えてくれなかったんですか。」

寂れた交差点での、ほぼ意味を成していない信号待ち、歩行者側のシグナルが点滅する中、マリが運転する停止した車内で、レイジは柄にもなく紅潮した頬を膨らませて居た。
小さな手は、ちょこんと、拳を膝の上で二つほど形づくっていた。

その行動が、あまりにも年相応に思え、普段のませた態度と無意識のうちに比較し、マリは噴き出すのをこらえるために頬を引きつらせ、口角だけを上げている不自然な笑いになった。

「だって、知るも知らないも君の自由でしょ?、教えることは教えたつもり、最低限はね。」

彼女のどこか食えない物言いに、ますますレイジは、眉を上げ気味に、はち切れんばかりにフグの如く膨れ上がった。

やれやれ…これは懐かれたってことかな?

マリは僅か半月で懐柔された子犬を尻目に、青信号になった道路へと満足気にアクセルを踏み鳴らした。
57名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 04:09:39 ID:kAQWraHu
リアルタイムGJ!
58名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 04:10:45 ID:???
sage忘れた…
許して
59シイ:2009/08/30(日) 09:06:40 ID:???
「十五年間、ネルフで何してたの。」

ベランダに、寄り添いながら腰掛ける男女が居た。
庭の樹々が囁きあうように揺れる様子を眺め、十五回目の秋の訪れを待たずして、一枚の紅葉が彼の膝に舞い散る。

「始末書とか、書いてたかな。あと、ちょっと研究。アスカは?」

「何にも、ただ彼女のところに毎日おしゃべりに行ってただけよ。」

そのために、此処に住んで居るようなものだから。

その一言は喉元にまで込み上げたが、再び心の隙間に棄て置いた。
勿論、彼女とは何も語らずに静かに立って居るだけの墓標のことだが。

「レイジや、あんたのことは、どうして黙ってたのよ。」

深呼吸をひとつ、ふたつ、繰り返し、彼は紡ぐ。

「綾波は僕の気持ちを知ってた、だから自ら残酷な道を選んだ。」

アスカは俯いた、返す言葉が模索しても見つからないと嫌という程、判っていたからだ。

「サードインパクトが起きて、…いや、起きかけてエヴァは全機消滅したね、」

ふと古い映像が脳裏に鮮明に甦る。
紅い雨が降り注ぐ中、遥か天上に近いところに在る、虹を見上げて、『さよなら、母さん。』、呟いた、傷だらけで微笑む少年を、彼女は追憶の対象とした。

しかし、彼女は知っている、彼は自身の手で母なるエヴァを、破壊したことを。
60名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/30(日) 11:51:25 ID:???
朝4時投下とか作者がんばるねww良いよこういう展開。すごいおもろス
61名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 12:02:16 ID:???
面白い分、小出し投下がもどかしいw
けどGJ!アスカ好きなんで>>55で期待がより高まった
続き楽しみにしてます
62名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 12:40:21 ID:???
>>61さん
宿題を溜めていた者のさだめですw
学校では大人しい女の子を保つ為に頑張りますw(既に大人しくない)

>>62さん
一回一回最終チェックしながらなのでどうしても小出しになってしまうんですよね…。
奇遇ですね、私もアスカ好きですよ!
63名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 12:42:00 ID:???
>>62
レス番が一つずつずれてます(また)
申し訳ございません!
64シイ:2009/08/30(日) 13:07:56 ID:???
「エヴァに乗る義務がなくなった、ということは、レイジは要らない存在になってしまったんだ。」

少年の酷な運命に、彼女は唇を噛み締めた。感情的になったせいか、自ずと彼の独壇場に仕立てあげた筈なのに、横から口を出してしまった。

「だから、田舎に預けたのね。」
「うん。そこが一番命を狙われにくかったから。」

用の無くなった者は、抹消。
どの道、組織内で匿って育てるには不可能に近かった。

「でもね、一緒に暮らせる方法が見つかったんだ、」

しかし、声音とは逆に苦悶の表情を浮かべる彼。
その表情を見て、彼女は気付く。
否、聡い彼女は、気付かずには居られなかった。
以前、赤木リツコ博士が責任者を務めて居た、「E計画」を継ぐ形になったのだった。

「また、エヴァをつくるの、」
「いや、つくらせないよ、そのためにアスカの力が必要なんだ。」

彼の瞳には決意が強く滲み出ていた。
アスカは、その眼に射抜かれ、久々にぞくぞくするような、無邪気な少女時代に感じた、心が昂揚する浮き足だった気持ちに見舞われた。

「バカシンジに頼まれたなら、仕方ないわね。」
「…ありがとう。」

シンジが礼を告げ、微笑むのを見て、アスカは誇らしげに声なきまま笑った。
65シイ:2009/08/30(日) 13:09:12 ID:???
「それと、」

彼女は悪戯っぽい笑みを滲ませて、彼の左手の薬指をつついた。

「まだ付けてたんだ。」

最後の夏祭りの夜店、お揃いで買った、安っぽいシルバーリング。
それは過去、中学生だった頼りない彼ら二人が誓えない未来への慰め、即ち愛のかたちとしてお互いの左手の薬指に嵌めた指輪だった。
愛のかたち、小癪な響きに当時は苦笑したものだが、今は安らかに枷の如く、固くなった彼の指に嵌っているのだった。

十五年もの長い歳月の間もありながら、彼が外さずに付けていたことに先程は目を疑った。

「アスカは…、」

不安そうにシンジは、蒼い眼を見つめる。

「バカね、そんな顔しないでよ、…ほら。」

胸元から、ネックレスに仕立てられた指輪を取り出した。
シンジはそれを見て、曇って居た頬に、満面の笑みをたたえた。

「嵌んなくなっちゃったのよ。」

よっぽど悔しいのか、ぎりりと歯を鳴らす彼女に、まあまあと苦笑し諫める。
指輪を持って居るということ、それは即ち今でも気持ちは変わらないという、意思表示でもあった。

だからシンジは告げる、

「新しいの、欲しくないの?」
66名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 13:41:30 ID:???
ごめん情報がたくさんありすぎるけど一つだけ言わして
作者女だったのか…!
67名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 14:09:03 ID:???
すまんもう待てへん!続きをはやく…もう限界。なんかもうムズムズするww
68名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 14:11:39 ID:???
>>66
女の端くれですよw

>>67
わかりました、今日で第二章完結させますw
69シイ:2009/08/30(日) 14:14:44 ID:???
彼女は意味が理解出来ずに唖然とし、否、判っていたが、信じられない心情の中、ぼうっとしてシンジを見上げた。
風が疾走った、彼女の長い金髪がなびく。
目にかからないくらいの短さを保つ、前髪がふわりと浮いた。

「どういう…、」

言葉を紡ごうとした唇は、彼によって封じられた。

十五年振りに合わせた唇は、微かにほろ苦い、でもあたたかな紅茶の味がした。
かつて、レイジの産みの母の部屋で飲んだ味に似ていることが、彼の脳裏によぎり、この愛は尊い犠牲の上に成り立って居ることを改めて自覚した。

暫くして、唇を離した彼は、頬に添えた手のひらで彼女の黒い眼帯を外し、親指でそっと、眼下の生々しい傷跡を撫でた。

「…傷、残っちゃったね。」
「あんたが貰ってくれるなら苦にならないわ、そうでしょ?」

未だ一枚の紅葉が乗った、彼の膝には、白い薬指に新しい灯りがある、彼女の手のひらがあった。


第二章・終