★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★3.5

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292シイ ◆VxEYsTkAC6
僕は元々、人の心に敏感な方だった。

最近は敏感などころか――



コ コ ロ の 唄


293シイ ◆VxEYsTkAC6 :2010/01/11(月) 16:16:38 ID:???
初めて『声』を聴いたのは、使徒に取り込まれた後の病院だった。
「目、醒めた?」
「あ、」
ぼんやりとした視界に覗き込んできたのは、蒼い眼差しだった。
「まぁったく、また無敵のシンジ様に助けられてしまいましたねぇ!」
悪態をつき、皮肉るアスカを、僕はぼうっと見上げた。
きっと間の抜けた表情をしていたんだと思う。
アスカは、なによ、と横目で僕を一瞥し、顔つきを歪めた。
「元気ないじゃないの。」
「わ、わ、」
初めて髪をくしゃくしゃと掻き混ぜるように撫で回されて、いつしかアスカは白いベットの端っこにちょこん、と座り込んで呟いた。
「あたしだってさ…ちょっとくらい、心配したのよ?」
そう言って僕の頬に触れた。刹那、目まぐるしい『声』が稲妻のように僕の身体を貫き、駆け巡る。

『あたしだって、シンジさえ居なければ…出来るってところを見せつけられるのに!』
『でも…シンジが居なかったら、誰にそれを見せつけるの。』
『結局、あたしにはシンジが必要ってわけ!?』
『くやしい…くやしい…くやしいくやしいくやしいくやしい!ちくしょう!』

「…っ、」
僕は苦痛な叫びに耐えることなく自然と呻いた。
アスカは不思議そうに首を傾げ、伸ばした白い腕をそっと彼女の膝の上に戻した。
僕の異変には気付かずに、アスカは照れくさそうに、そっとはにかんだ。そっと音もなく病室から立ち去る。
僕は何が起こったのかさっぱり理解が出来ずに、呆然とアスカの姿が消えてゆく廊下を眺めるしかなかった。
294シイ ◆VxEYsTkAC6 :2010/01/11(月) 16:17:24 ID:???
退院してすぐはその『声』は幻聴だと、僕は自分に思い込ませていた。
表面だけでも周りの人たちがやさしくしてくれているのを、その『声』によって壊されたくなかったから。
でも、本当は分かってるんだ。
それは他人の心の『声』だって。本当の気持ちなんだって。
それから、僕はアスカに関わるのが苦手になってしまった。
アスカはあまりにも心の中では正直過ぎて、人の心を覗いているということに対しての罪悪感に苛まれるのが嫌だから。

「…くん…碇くん…」

誰かが呼んでる気がする。

「碇くん。」
「え、あっ、」
綾波だ。また授業が終わったのにぼうっとしてしちゃった。
気付かれないようにしなければならないのに。人の『声』なんかが聴こえるなんて分かってしまったら、次はきっと誰にだって嫌われちゃう。

気付かれないように、気付かれないようにしなきゃ……。
295シイ ◆VxEYsTkAC6 :2010/01/11(月) 16:18:25 ID:???
綾波は一緒に居てとても心地よかった。
なぜか綾波からだけは『声』が聴こえなかったから。
「どうしたの。」
綾波が覗き込んでくる。僕の顔は咄嗟に熱を帯びる。
顔がち、近くて…。

「なっ、なんにもないよ!帰ろう!」
「?…ええ。」
綾波は不思議そうに首を傾げて、もし漫画なら頭の上に疑問符を浮かべていそうな表情をしたけど、すぐに歩き出す僕の隣に小走りで追いついた。

「最近、調子悪いの?」

帰り道、夕方に照らされたコンクリートの上を並んで歩いていたら、それまで僕の話に頷いていただけの綾波が口を開いた。
「へ?、…ああ、シンクロ率は上々だよ。」
間の抜けた声を投げた僕に、綾波はすっぱりと返した。

「ちがうの。」
…え?