★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★3.5

このエントリーをはてなブックマークに追加
130シイ
IDカードを取り出して、アイスキャンを彼がせわしなく行う。
アスカはその様子を一瞥し、この奥に隠されているものの重要さを推し量った。

やがて重々しい扉が、縦とも横とも言えない、亀裂を走らせたような開き方をした。
口頭一発、彼女は、
「なによ、これ…!」
とりあえず自分の眼を疑った。思わず眼帯も外し、両の眼を見開く。
「ダミープラグの源、今は残骸だけど、」
そんなのでは説明がつかない。
オブラートに包んだような回りくどい言い方は止めろ、と彼女は喉元まで出掛けたが、

「同時に、一つの魂を護る為の器、だったもの。」

水槽に浮かんでいる、数多の「綾波レイ」という器だったもの、現在では全てが破壊されており、それを見つめるシンジは苦虫を噛み潰したような表情で下唇を噛み締めた。
呆然とするアスカは、その中心に隔離された、一体の「綾波レイ」を見つけた。

「あの、綾波だよ。」

これが、自分たちが接して居た、二人目の綾波レイ、ということをシンジは暗に指し示した。
その裸体の腹部には、妊娠線らしきものが、ほのかに浮かび上がっている。
「うそよ、だってこの子は、」
アスカは声音を震わせるが、
「死んでるよ?、でもこの一つだけ、器が完璧な状態なんだ。これなら、サルベージして魂を宿らせるのも可能。どうしてだと思う…?」
131名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/05(土) 22:23:51 ID:???
GJすぎる!綾波復活マジで希望
132名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/06(日) 12:20:42 ID:???
GJ レイジの母との対面なるか?

ところでプラグスーツの数字はエヴァのナンバリングなので適格者の番号とは別ですよ。
四号機が消滅したのでシンジ以降の番号がズレている。
133シイ:2009/09/06(日) 14:18:20 ID:???
そうですよね…適当過ぎてごめんなさい。
綾波にはマリをどうしても名前で呼んでほしくなかったのでw
134シイ:2009/09/06(日) 14:20:09 ID:???
アスカは一息吐き平常心を装い、愚問ね、ともらす。

「そんなの、意図的に抜き取られたとしか、考えられないわよ。」
魂をね、と付け足すシンジは、少女のままの綾波レイが入れられている棒状の水槽に、指輪が嵌った手のひらを置き、アスカを見やる。
「そう、だから綾波を連れ戻す、迎えに行くんだ。」

――それが、僕の計画。

そう続けるシンジに頷き、アスカは自分の身体を抱き締めるように腕を組み、水中で浮遊しているレイを見上げる。
「そう、」
アスカは何か言いかけたが、その先はずっと何も語らなかった。もう薬指の指輪には一瞥もくれなかった。
彼女は、自分は利用されたのであったと、本当は愛されて居ないのだと、思うことによって、なんとか仏頂面を保って居た。
被害者意識を持たないと、やっていけないほどに、アスカは彼の言葉に激しく打ちのめされ、心にレイに対する醜い嫉妬がどろどろと渦巻いて居た。
力を抜いて、ぶらりと垂れ下がった左手から、先程真実を見つめる為に、ひっぺがした眼帯が滑り落ちてしまったことに気付かない程でもあった。
135シイ:2009/09/06(日) 14:21:19 ID:???
「ワンコくん達、戻って来ないねぇ。」
良い加減、痺れを切らしたのか、マリがレイジを横目で見て言うが、レイジはマリに一瞥もくれずに先程の写真立てをずっと飽きずに凝視していた。
やがて、少年は写真の左端に点在している、赤インクの存在に気付いた。
思わず手首を返し、後ろに向けた時、

「過去よりも大事なことは、ないの?」

思わず、声の主に振り返る。
彼女は珍しく、無愛想な天井と向かい合って居た。
眼鏡の奥の表情は未だ読み取れないままで彼は疑問符を並べ、首を傾げた。
「今、二人が何してるか気にならないんだ?」
皮肉とも取れる彼女の言葉に、口を噤んだレイジは、下唇の薄い皮を、ぎりり、と噛み切るような勢いで噛み締める。
深く眉根を寄せる彼は、おもむろに写真立ての中から写真を取り出す。
まだ幼い彼と、あおい彼女が写っている裏には、紅い文字がびっしりと陳列していた。予想以上の赤に、ごくり、と唾を呑み込んだ。
136シイ:2009/09/06(日) 14:22:49 ID:???
『レイジへ。きっとあなたがこれを読んでいる時には、私はここには居ないでしょう。』
マリが後ろから、ちらりと覗いて居るのが判ったが、そのまま気にせずに、シンジのデスクの前にある、パイプ椅子に腰掛けた。
『私はもうすぐ人為的に殺されます。成長していくあなたを見れないのが心残りです。』
きっと彼女は、生と死の概念への執着心は薄く、ただ純粋な思いだけがここに在る、そんな思いをレイジは垣間見た気がした。
『だから、あなたに託します。碇くんを、』
碇くんを、のところには、横線一本入っていて訂正されていた。
『あなたのお父さんを助けてあげて下さい。私は遠い地であなたを待って居ます。きっとあなたが見る私は抜け殻だと思いますけど。』
最後の文は彼女に似つかわしくない言葉だとレイジは感じた。
『レイジ。頑張って。――綾波レイ』
レイジが立ち上がると、マリは出口を顎でしゃくった。
「ここへの経路はあのエレベーターだけだから。追うも帰るも好きにしなよ。」
例の写真を持ったまま、少年は走り出した。
137シイ:2009/09/06(日) 14:23:38 ID:???
先程からレイジが乗っている、寂れたエレベーターが、がくん、と上下に激しく揺れた。
「着けるのかな、これ…。」
不安げな少年の呟きは、空気中に散らばり、足許に転がった。


一方、マリはひとり、ぽつりと研究室に佇んで居た。
「行っちゃったか…、でもワンコくんも無茶するもんだ、」
誰かに教え込むように、やさしく諭すように、コンクリートが剥き出しの床にマリの声音が染み渡った。
「あの子を甦らせるなんて。」
――アスカも、綾波も幸せにするんだ。
そう言い切った彼の面影をレイジの残像と瞼の裏で重ね合わせる。
何が彼女達にとって幸せなのか、彼にそれが実践出来るのか、疑問ばかりが浮き彫りになり、マリは何回もしきりに首を捻ったのだった。
「所詮、君は独善的なんだよ、甘いね。」
皮肉気味に嘲笑った、天井を見つめて居た瞳の灯りは、研究室の片隅に在る、丁度彼女から死角になる場所へ、監視カメラに向けられていた。
138名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/06(日) 17:50:07 ID:???
マリがシンジをワンコ君って呼び続けるかなのが少し、不自然だな
139名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/06(日) 19:55:02 ID:???
つづきが気になって仕方ないわ〜
140シイ:2009/09/06(日) 21:19:13 ID:???
佳境に入って参りました。

>>138
まだマリを観てから日が浅いので、「ワンコくん」呼ばわり以外が想像できなくて…。

141シイ:2009/09/06(日) 21:20:42 ID:???
随分と下降したところで、エレベーターから降り立ったレイジは、入り口が縦横無尽に裂けた世界の中に居る二人を見つけた。
「父さん、アスカさん。」
思わず呼び掛けると、中の暗がりに居たアスカは、ぎょっとして振り向き、眼帯をしていた筈の蒼い眼で彼の姿を見つけた。
「レイジ!?来ちゃ駄目!」
しかしアスカの懸命な叫びも虚しく、レイジは水槽を捉えた眼を大きく見開いた。
「な、」
音もなく土に塗れたスニーカーの上に、写真が舞い降る。
膝から、がくん、と力が抜け、レイジは崩れた。
「どうして…、父さん。」
「僕は、父さんみたいにはならない。誰にも綾波を殺させない。」
誰の為に言っているのか、シンジはレイジの肩越しにはるか遠くに在る何かを見つめて言う。
アスカはより一層厳しく眼を細める。墓参りのときのような、哀愁じみた表情は見当たらない。
どちらにしても破壊されたレイの群像を見るのは彼はまだ、青過ぎるのであった。
142シイ:2009/09/06(日) 21:22:38 ID:???
エレベーターで上昇し、再び研究室に戻ってきた三人は暫く、通夜のような重苦しい空気の中、黙ったままであった。
意を決したのか、アスカが水分が涸渇して、ざらつく唇を一舐めし、彼に訊く。
「レイジ、今日は遅いし、ここに泊まる?」
レイジは、項垂れたまま首を振り、ゆっくりと踵を返す。
「いえ…、帰ります。」
掠れた返答を聞き、アスカは消え入りそうな彼の手のひらを掴んだ。
地下で先程落とした写真、それに彼女の眼帯を渡した。
それからアスカはレイジを抱き寄せ、赤子をあやすように、背中をぽんぽん、と軽く叩いて、肩越しに耳元でこう囁く。

「私は真実から逃げないから。レイジも逃げなかったら、また会えるわ。」

彼女から離れ、揺れ動く、今にも溢れんばかりの水分を孕んだ、彼女の蒼い両の眼を見てから、眼下に在る痛々しい傷を見て、また彼女の眼に視線を戻し、こくり、と頷いた。
去ってゆくレイジを黙って、母のように優しいまなざしで見送るアスカの後方で、シンジは沈黙を守って居た。
143名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/07(月) 20:44:52 ID:???
GJ レイジかわいすぎるw
144シイ:2009/09/07(月) 22:04:39 ID:???

夜遅い時間に帰ってきたレイジを、マリは咎めはしなかった。

ただリビングの机で俯く彼と向き合って座って居た。

机の上を見ると、写真が一枚と、眼帯が乗っかって居た。
それを不思議そうにマリが指先で拾いあげた。

「…アスカさんは、真実がら逃げないって、」

「そっか。」

眼帯を摘み上げたままマリの返事は、案外に素っ気無いものだった。
呼応するかのように、ようやく緊張が解けたのか、レイジの肩が震える。

「母さんが、生き返ったら、うれしいけど、…母さんは、」

しゃくり上げるレイジはたどたどしく、しかし言葉を紡ぐ。

「母さんは、それで幸せなのか、分からない…。」

「ワンコくんは幸せ、というのを履き違えてるかもね。」

ぴっ、と指先を瞬発的に離すと、黒い眼帯は、ぐにゃりと机の上に沈んだ。
レイジの手前側にある写真の上には、既に水滴が幾つか弾んでいた。


「君は、どうしたい。」
145シイ:2009/09/07(月) 22:06:33 ID:???
レイジは、思わず赤ぶち眼鏡の彼女を勢い良く顔を上げて見上げた。
深夜のリビングには、マリの真っ直ぐに凜と張った声音と、レイジの鼻をすする音、それに嗚咽しか響かない。

「君が嫌だって言っても、ワンコくんは彼女を甦らせるだろうね。」

きっぱりと、残酷という言葉に近い意見を彼女は告げた。
そしてまた、彼は俯いた。

幾分か時間が過ぎ、マリが眠気で意識が朦朧として来た頃、レイジは涙で光る頬を見せた。

「…なら僕は見たい、」

そう言うレイジは物心付いて、初めて人と会話した、施設に居た時を朧気に思い出した。

「母さんが生き返る瞬間を、…見届けたい、です。」

たどたどしくそう言うと、マリはにっこり、と口角を上げ、珍しく晴れやかな笑いを見せた。

「そう。じゃあ明日から送り迎えしないとなー。」

学習塾の送迎のような手軽さで、片道一時間の切符を軽々とレイジに手渡したようなマリの言いように、レイジは未だ濡れて居る頬の筋を、ふっ、と弛緩させた。


第四章・終
146シイ:2009/09/08(火) 15:57:44 ID:???
それから数ヶ月経ったある日、ネルフの化粧室の中で、苦戦している姿が在った。

「うぇ、こんなにきついんだ…はぁ。」

洗面台に手をつき、金髪がだらしなく下がり、鏡に映る額にはじんわりと汗が光って居た。

「駄目よ、アスカ。このくらい、なんてこと無いわ。」

そう鏡の奥の自分に言い聞かせるが、眉間の皺はまだ消える気配は皆無であった。

「辛そうだね。」

鏡の端に映る彼女が、壁にもたれ、腕を組んで居る。

「…もう暫くの、辛抱だから。研究に切りが着く迄よ。」

「それはいつ、かな?」

返答に窮して居るアスカに、まだマリは続ける。

「この数ヶ月、一緒に、子犬くんとネルフに通ってたけど、数時間しか寝てない状況じゃん?」

「黙ってなさいよ!」

アスカが、洗面台についた手を、拳にして鏡の中のマリを殴り付けると、入り口に居た、当の本人を押し退けるようにして、化粧室をあとにした。

「ワンコくんが気付いてるとは、思えないけどねー?」

当然、その言葉にアスカが化粧室の外で、立ち止まり、身を固くしたのは言うまでもなかった。
147シイ:2009/09/08(火) 16:02:18 ID:???
それは、ネルフ内の廊下を二人で歩いて居るときだった。

「…うん、もしかしたら甦った綾波は僕たちのことを知らないかも。」

他愛ない会話の途中、束ねた書類を抱えたシンジが言った。
ファイルとノートをぎゅっと、両手で肩を抱くようにして抱き締めるアスカが眼を丸くする。

「そうなの?」

「奇跡に近い、パーセントが出てるからね、」

シンジは靴先を覗き込むようにしてから、息を吐き、アスカを見やった。
彼女の顔色が悪いことにも、漸く気付いた。

「どうしたの?、調子悪そうだね。」

心配する指先がアスカの頬を掠めるが、彼女がそれを冷たく払い除け、大股でシンジより幾歩か前に抜きん出た。

「全然平気!」

そう強がったのも束の間、彼女の視界が歪み、足元はぐらつき、シンジが思っていたよりも、随分と華奢な身体が大きく右側に傾いだ。
そして、床に倒れ込む。

「…アスカ!」

シンジが書類を放り出して駆け寄ったのは、倒れた彼女を見て、暫く呆然とした後であった。
148名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/08(火) 16:38:00 ID:???
GJ
うーん毎度続きが気になる
149シイ:2009/09/08(火) 20:43:21 ID:???
「アスカ!しっかりしてアスカ!」

シンジはアスカを胸に抱えて気が狂ったかのように名を連呼した。

「アスカさん!?」

声を聞き付けて、レイジがぎょっとした顔で駆け寄る。
その後方で、マリは少し困ったように苦笑していた。

「アスカを…助けて、」

掠れた声でシンジがマリに告げる。

マリは溜め息を一度だけ吐くと、狼狽しているレイジに携帯を半ば放り投げるように手渡す。

「救急車は後始末が面倒だから、タクシー呼んで。」

レイジは震える指先で、携帯の発信履歴のページを開いた。

「ば、場所は、」

漆黒の眼だけこちらに向け、いたたまれない気持ちでレイジは携帯を耳に当てがう。
それを見てマリは暫し首を傾げてから、倒れてままのアスカを抱き締め、焦躁感に駆られて居るシンジを横目で一瞥し、レイジに向き直る。

「旧第三新東京市総合病院、別棟の産婦人科。」
150シイ:2009/09/08(火) 20:44:20 ID:???
「産、婦人科…?」

シンジは焦躁感が未だ浮かんで居る顔に、またきょとんとした表情を塗り付けた。

「もうすぐで来るそうです、」

「了解、運ぶよ。」

アスカの運搬をしながら、シンジは浮わついた視線で周りを見渡して居た。
動揺している父を見て、余程アスカのことを心配して居るんだ、と産婦人科の意味も知らぬまま、レイジはシンジとは逆に、妙に安心していた。



「お父さん、こちらへ。」

アスカが運び込まれて暫く経った後、シンジが呼ばれる。

のそり、と立ち上がり、脱力感漂うシンジを、薄いソファに座っているレイジとマリは見つめて居た。

看護師の言葉に少々違和感を感じたレイジは、思ったことをそのまま、マリにぶつけてみることにした。

「お父さん、って…、」

マリを見上げると、口許に意味在りげに、含んだ笑いを浮かべて居た。
マリがそう言う笑い方をするときはきっと嫌なことを隠して居る。
経験上により、言葉を唐突に切り、口を噤んだ。
151名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/08(火) 21:14:32 ID:???
GJ! ついに来た!
152シイ:2009/09/12(土) 00:10:14 ID:???
こんばんは、まずは放置すいませんでした。
文化祭やら何やらでずっと書いてませんでした><
もう少しで完結です、
最後着いて来てくれる神々しい方は
少ないかもしれませんが
投下した以上完結させます。
ので、結末に於いてはまた様々な意見が生じるかもしれませんが
正直なご感想を下さると嬉しいです。
長々と失礼致しました、では。
153シイ:2009/09/12(土) 00:12:44 ID:???
「胎児に問題は見られません、よって流産の心配は無いでしょう。」

淡々と説明する医師のもと、シンジは冴えない表情をしていた。

よりによって、数ヶ月ネルフに籠り、異性なんて自分にしか顔さえ合わせないような相手。
確信と責任感、そして依然として正体不明の興奮によって、未だ目覚めぬアスカの傍ら、押し潰されてしまいそうなシンジが居た。

「ん…、」

横のベッドから小さく呻き声が聞こえた。

「アスカ!」

「なに…、ここは…。」

シンジが思わず声を荒げた為、驚いたアスカが起き上がろうとするが、看護師に制され、そのまま寝かされる。

「過労と、睡眠不足ですね。前回もそうでしたけど、式波さんはもう少し、妊婦としての自覚を持ちましょうね。」

「ひとりの身体じゃないんですよ?」

医師と看護師に苦笑混じりに諭されて、アスカは、はっとしてシンジを見上げた。

「良かった…、アスカが無事で。」

降って来た言葉が、予想外にあたたかな言葉ということに、自然とアスカは目頭を熱くさせ、薄い枕に頬を埋めた。
154シイ:2009/09/12(土) 00:16:05 ID:???
歩いて帰りたい、アスカがそう言うと、レイジとマリが黙って頷き、病院からタクシーで帰って行った。

「もう、クリスマスか。全然気付かなかった。」

大通りの中心に立っているツリーを見て、アスカが白い息を吐いた。
シンジはと言うと、地下に籠って居て今まで地上に上がることが無かった為、ネルフが出て行く際に、マリからコートを渡された時は流石に戸惑ったが、初めて感じる寒さに身を震わせ、静かに彼女に感謝した。

「あの、ちゃんと一人で育てるから、シンジは心配しないでね。」

急にもごもごとアスカが呟き、 シンジは少し驚いた顔をした。

「何言ってるの、僕たちの子供でしょ?、…二人で育てよう。」

「…ありがと。」

そうアスカが微笑むと、シンジも微笑った。

しかし、そんな優しい世界はやはり脆弱で、アスカの一言により、あまりにも簡単に崩れ落ちた。

「…シンジは、何も言ってくれないもの、」

華美な装飾でさんざんと煌めくツリーの前で、不意に立ち止まったアスカの言葉にシンジは思わず目を見張った。
155名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 10:10:21 ID:???
あげ
156名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 10:17:14 ID:???
最後まで応援するぜ
157名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 14:58:19 ID:???
夏しか来なかった第三新東京市にも冬が来るようになったか…
よかったよかった。
作者がんばって
158名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 16:54:21 ID:???
 公衆電話からテレホンカードがはきだされる。
「……なにっ」

 第三新東京市
中年はセカンドバックから手紙を取り出す。

『来て。 シンジ』


「父さん、久しぶり」
「……シンジ」
「よし、出撃」
「ま、待て……シンジ」
「乗らないなら、帰ってよ」




五分で書いたけど、小説って難しいね。続きは無いッス。
159名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 19:16:21 ID:???
ちょっとおもしろいwww
160名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/12(土) 23:09:27 ID:???
投稿者語り過ぎなんじゃね?
語るなとは言わないけど全レスしかねない勢いはどうなの?
161名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/13(日) 00:44:22 ID:???
>>158ワロタwゲンドウ乙ww
162名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/09/13(日) 01:01:35 ID:???
>>160 そんなに語ってるかな?
163シイ:2009/09/13(日) 13:37:48 ID:???
「アスカだって、何も言ってくれないじゃないか…。」


くしゃり、と顔を歪めたのは、あの日の少年さながらである。
シンジがそう言うと、アスカは涙混じりに声を荒げた。

「だってそうでしょ!好きとも言ってくれない、手も繋いでくれない、ただ身体を求めるだけじゃ、」

言い終わる前にシンジはアスカを抱き締めた。
路上、行き交う人々がちらちらと眺める中、アスカは火を噴くように、思わず顔を赤らめた。

「ちょっと…、」

シンジは彼女の華奢な身体が壊れてしまうという程に強く抱き締めて、息を大きく吸い込み、

「好きだ!好きだ!好きだ!好きだ!、どれだけ言ったらアスカに伝わるの!?」

肩越しの声は、どちらかともなく、心なしか震えている。

「シンジ…、」

「僕はどうせ偽善者だよ!、綾波を甦らせるのだって、罪の意識からだよ!、本当はレイジにアスカを出会わせたくなかったよ!」

シンジの中で何かが外れたかのように、思いの丈を腕の中のアスカに告げる。

アスカはただ、シンジの見たことも無い姿に呆然としつつ、初めて聞いた本音に素直に涙を流して居た。
164シイ:2009/09/13(日) 13:38:54 ID:???
「…分かったわ、シンジ。私も言ってなかったわね、」

と、アスカはシンジの先程よりも、だいぶ緩まった腕をそっと振りほどき、少女のように悪戯っぽく、笑みをたたえる赤くなった目尻をもう一度拭いて、

「好きよ、シンジ。」

シンジはきょとん、としてから、頬を緩ませ、先に言われちゃったなぁ、なんて小さくぼやいてから、しっかりと頷いて、

「オレも、アスカのことが好きだよ。」

そう言った途端、ツリーの周りに居た人々の歓声が際立った。

「…はじめて、見たよ。」

「私も。」

思わず見上げた、昏い色合いの空から真っ白な雪が頭上から舞い降りる。初雪だった。

顔を見合わせ微笑む二人に、白い天使が次々と祝福を告げ、地面に染みをつくる。

「今日くらい、休もうか。」

「そうね。」

まるで学校をさぼるような軽い言い様に、二人は一度噴き出してから、冷たくなった指先を絡めて、帰るべき場所へと歩み出した。


第五章・終
165シイ:2009/09/13(日) 13:40:48 ID:???
「お兄ちゃんは、なんでママのこと、アスカさんって呼ぶの?」

数年後の紅い海が打ち返す砂浜に、ふたつの足跡があった。
手を繋ぐ兄妹の、市内の高校の制服である紺色のブレザーと、薄桃色の短い丈のワンピースが風になびく。

「シイちゃんは、レイさんのこと、レイさんって呼ぶよね?」

シイちゃんと呼ばれた、黒髪に蒼い眼の女の子はぷくっ、と頬を膨らませた。その表情は、よく兄に似ている。

「だから、お兄ちゃんもレイさんのこと、母さんって呼ぶんだよ。」
「…むー。りふじん!ぎぜんしゃ!」
「ママの真似しないの、」

苦笑混じりに頬をつつく彼の指をぎゅっと掴んだ。

「食べちゃうのー!」
「あぁっ、よだれよだれ!」

口を大きく開いた女の子と、指を捕食されそうになるレイジの少し遠くで、少女と同じ色の眼をした女性が呼んでいる。

「レイジ、シイカ!ごはんよ!」
「ママッ!」

その声に過敏に反応し、両手をぱっと離したシイカが駆けて行く。

その後ろ側を、やれやれと呆れた声を出し、後頭部を掻きながら、澄み切った青い空を見つめているレイジ。
彼が目線を戻し眼を凝らすと、砂浜の外側から手を振る夫婦と、そのすぐ側で車椅子に乗った彼の若過ぎる母が見えた。
彼らに微笑みながら、砂浜にまた新たな足跡を付け、歩み寄って行った。