【ラブラブ】マヤたん&リツコたん2【はぁと】

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596名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/07(月) 02:49:35 ID:???
うひゃあ…乙です><
597名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/07(月) 08:44:26 ID:???
乙かれー!途中で寝てしまったw
598名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/07(月) 18:08:56 ID:???
乙です!
ツライ
ミサトカッコ良かったw
599名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/08(火) 00:54:25 ID:???
忙しいのに乙です!
いいですよーこちらは気長に待ちますw
600名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/08(火) 08:30:08 ID:???
乙ですー!

つらい…つらすぎる…
601名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/11(金) 19:55:33 ID:???
マヤとリツコって家でどんな格好してんのかな?
まさかどてらとか羽織ってたりしないよねw

マヤ「先輩!珈琲入りました」
リツコ「ありがとう。そこ置いといて」
とか言ってどてら、しかもナイトウェアの上に着てたりw
力抜けるな;
なんて空調効いてるからそんなの着ないよねw
マヤはジャージなイメージ
602名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/11(金) 20:01:53 ID:???
↑あ、投下間違えました
すいません
603名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/12(土) 17:29:20 ID:???
もう600か・・・乙です。
いつも楽しみにしてます!
604名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/13(日) 11:33:42 ID:???
>>601
逆にどてらイメージストライクなんですが
605名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/14(月) 15:58:28 ID:???
どてら、コタツ、お鍋、日本酒
微妙な距離の二人がコタツで脚が触れてしまうのも良いですねw
606リツコ:2009/12/16(水) 23:10:15 ID:???



ミサトに相談してから数週間が経過していた。
マヤのことがよくわからないままそれだけの日数を経過することとなってしまったが、別にその間を私は何もせずにいたわけではなかった。
ミサトの助言通り注意深く観察することは怠ってはいなかったし、なるべくコミュニケーションを取る努力に邁進することで距離を少しずつ埋め戻すといった地道な作業で私は日々を積み重ねていた。
その効もあってか、当初に感じていたマヤの異変や対する違和感等は今は成りを潜めるまでに至り、私への接し具合も以前とそう変わらないまでに戻ってくれていたことでホッと安堵する日々でもあった。
結局、あの異変が何であったのかはわからないままであったが、今はまた前と同じように……いえ、更に天然さをパワーアップさせて私や周囲の者を爆笑と混乱の渦に溺れさせてくれていたため私は深く追求することはしなかった。
「そろそろ時間ですから行ってきますね。…あっ、お菓子の賞味期限は切れてませんから大丈夫ですよ?だから適当につまんでください!」
私の隣の席で黙々とキーを叩いていたマヤは、忙しなく動かしていた指を止めると顔を向けてきた。
あの異変以降、共にネルフに出勤することも少なくなっていたが、この努力の積み重ねの賜か近頃はまた共に行動をする頻度が戻りつつあってもいた。
マヤはこうしてデータ集計作業を手伝ってくれるかたわら、また以前と同じく私の身の回りをあれやこれやと焼いてくれてもいた。
自分のノートパソコンの蓋を閉じるや元気良く立ち上がり、例の如く引き出しの中からお菓子を取り出してはポケットに捩じ込んでいくことに私は晴れ晴れとした印象を抱いてさえいた。
「あぁ、もうこんな時間?いつもの定期チェックとはいえ大変ね。そのオヤツ……あまり食べ過ぎてお腹壊さないでよ?」
「いざという時は別腹がありますから…なんちゃって!それじゃ、また夕方に参上しますね。今夜は肉の特売ですからまたスーパーに寄って下さい!」
そんな茶化しにニッコリ笑うマヤは、今はちゃんと私の目を見て答えてくれていた。
607リツコ:2009/12/16(水) 23:16:24 ID:???
やっと距離がまた近付いてきた……私はそんな思いに包まれながら目を細めることしきりである。
マヤがいつものメンタルヘルスケアの為に医療部に行ってしまったことで、私は掛けていた眼鏡を外して一息つくためのコーヒーを淹れることにした。

―ブシュッ―

ドアが開いて入ってきたのは、案の定ミサトである。
案の定と言ったのは、この時間に息抜きという名目でサボりにくることがほぼ日常化していたことがわかっていたからである。
やはりミサトの手にはマグが握られていた。
「あら、いつもタイミングがいいわね?…フフッ、淹れ立てのコーヒーを飲みにわざわざ狙ってくるのはあなたぐらいなものよ?ちゃっかりしてるものね。」
「ねぇねぇ、これ見てよ。今そこでマヤちゃんとすれ違ったんだけど、こんなに貰っちゃったわ!」
持参してきたそのマグにコーヒーを注いであげていると、ミサトは両手を広げて中の物を見せてきた。
「葛城さんも、お一つどうぞって言ってドサッとくれたの。いやはや、あれだけ食べてよく太らないもんだわぁ〜。」
その手の中には、キャンディーやらクッキーやら煎餅などが山と積まれていた。
その山をミサトは感心するように……半ば驚き呆れたように眺めている。
「フフッ、マヤの食欲をあなただって知らないわけじゃないでしょ?」
「いや、そうだけどさ……何か前にも増してパワーアップしてない?マヤちゃん、その内にレスラーみたいな体形になるんじゃない?ゴングの音がそこまで聞こえてきそうだわ。」
私は思わずプッと噴いてしまった。
女子プロレスラーになって活躍するマヤを想像してしまうだなんて、私もかなり気持ちに余裕が出来たのだろう。
笑いを噛み殺しながらそんなことを思っていると、ミサトも眉を上げて同じく笑いを噛み殺していた。
「もぅ〜、いきなりやって来て何を言うかと思えば……笑わせないで頂戴。……ほら、コーヒーを溢しちゃったじゃないのよ。」
気が付けば、コーヒーはマグの縁を満杯以上に越えて机上にまで拡がっている始末であった。
608リツコ:2009/12/16(水) 23:20:33 ID:???
苦笑しながらそれを布巾で拭き取っていく私をミサトは可笑しそうに見やり、視線が合うとニッコリ笑いかけてきた。
「マヤちゃんもだけどさ、あんたにもようやく心の平穏が戻ったって感じよね。……いい笑顔してるじゃない?」
「なぁに、それっておだててるつもり?そんなこと言っても何も出やしないわよ?」
マヤの席に座ってコーヒーに口をつけるミサトも私同様に晴れ晴れとした様子を見せているのは見ての通りで、茶色に染まってしまった布巾を洗う私にウインクまで投げて寄越す。
「ったく、ウインクを手で振り払うかね!?……まぁ、思っていたほどに杞憂することもなかったわね。」
「何たって今は16歳のままでしょ?そういう気難しい年頃のコにありがちな行動…かしら?あなたには色々相談してしまったけど、私はそれに帰結して納得することにしたわ。」
口の中に拡がる芳ばしい香りを味わいつつ一字一句を噛み締めながらそう答えてみせたのは、あれはきっとそうだったのだ…と、改めて自分にも言い聞かせるためだったのかも知れない。
ここしばらくの私にとってあの異変が最大の懸念事項であったのは言うまでもなく、それが何であったのかはやはり今でも気になってはいることであった。
だが、それに悩み苦しんでいたのはここ一月足らずの間のことであったし、今はマヤとの仲もまた以前のように戻ってきたこともあって私は敢えて気にはしないようにしていた。
勿論、そのことをマヤ本人に問い質して触れるつもりもなかったのは、変な気遣いから蒸し返すような真似をして仲をまたギクシャクしたものにしてしまいたくなかったからである。
まだ誤解までは完全に解けるに至っていないことからもあるが、人は誰でも大なり小なりの悩み事を抱えているわけなのだし、そのプライベートな領域に他者がズカズカと土足で踏み入ってはならないのは人生経験を積んできた者であればわかるというもの…。
609リツコ:2009/12/16(水) 23:25:43 ID:???
マヤが何の問題を抱えていたのかは今となっては知る由もないことであるが、もし他者からの救いを必要とする程のものであったならば私でなくとも他の誰かに相談をしていた筈である。
だが、マヤの親しい友人達ですらも理由もわからずただ戸惑うばかりであったし、私が密かに警戒することとなった青山主任も私達同様にただ手をこまねいているだけの様子であったことはミサトからの報告で知っていた。
なので、マヤが抱えていた問題はそれほど困難なものではなかったのだと……つまり、マヤは自分自身で問題を解決することが出来た……私はそう結論づけていた。
「そうよねぇ〜、今のマヤちゃんは16歳のままで時が止まってるんだものね。……確かに難しい年頃なのよ…。ほら、アタシは身近にアスカがいるでしょ?だから染々感じ入っちゃうんだわ。」
「フフッ、大人への階段を上り始める年代よね。悩んで苦しんで……酸いも甘いも知り尽くすまでには時間はあり余る程あるわ。青春ね……過去に戻りたいわけではないけど、ちょっと羨ましいわね。」
私は口にしていたマグを机上に置くと、代わりに煙草を手に取った。
こうして穏やかな気分で会話をするのも久方ぶり……胸のつかえが取れただけのこともあって深々と吸い込んで吐き出した紫煙にミサトは眉をしかめる。
「ったく、蒸気機関車じゃないんだから……まぁ〜た吸ってるって言いつけちゃうわよ?」
そんな軽口を叩くミサトはマグをあっという間に空にしてしまい、今はマヤから貰ったばかりのお菓子をつまんでは食べていた。
いつもなら、ここでサボって長居を決め込もうとする悪友をそろそろ追い払う頃合いなのだが、そうせずにいたのはそれだけ今の喜びの心境を共に分かち合いたかったからなのだろう。
私は早々と煙草を吸い終えてマヤの机の引き出しの中からキャンディーを一つ取り出した。
610リツコ:2009/12/16(水) 23:29:27 ID:???
「告げ口は卑怯だわ。止・め・て・よ・ね?」
軽快な口調でそれをポンと口に放り込んで見せたのは、やはりマヤの小言が耳に痛いから……というより、むしろそれを待ち望んでいたりする……私はクスリと笑った。
「ヤバッ…ちょぉ〜っち食べ過ぎちゃった。ね、コーヒーもう一杯もらうわよ?口の中が甘ったるくてしゃあ〜ないわ。」
マグにおかわりを注ぐミサトの頬が目一杯にまで膨らんでいるのは貰ったばかりのお菓子を一気食いしてしまったからに違いなかった。
さっきまであったちょっとした小山も、今は残すところ数個になっているのだからミサトもマヤの食欲をとやかく言えないだろうに…。
「うんうん、やっぱリツコんとこのコーヒーも美味しいわ。」
私がそんなことを思っているとは知らず、ミサトはマグに口をつけては頷いている。
サボりを黙認している私へのお世辞なのだろうが、味覚音痴なミサトにそんなありがたいことを言われても右から左に素通りしてしまう。
「一応はそれなりの豆を使用しているんですもの……どこと比較してるつもり?」
「リカの研究室にもコーヒーメーカーがあるの知ってるでしょ?あそこのも美味しいわ。アンタだって飲んだことあるでしょ?……ま、ここじゃアンタらのコーヒーが一、二ね。他のとこはインスタントばっかだし。」
私が目を丸くして首を横に振ったのは、それを飲んだことがないだけではなく青山主任の研究室にもコーヒーメーカーがあったことを今、初めて知ったからであった。
青山主任の研究室へはこちらから訪れることがほとんどなかったのは当初の頃の一悶着と、それに続くマヤとの絡みの件もあったのは確かに理由の一つではある。
が、私とは基本的に専任分野が異なっているし、また特段の用事でもない限りは向こうから出向いてもらっていたためそのことを知ることもなかった。
611リツコ:2009/12/16(水) 23:34:31 ID:???
「やだ、ないのォ?リカの所のも美味いんだってば!騙されたと思って今度飲んでみなさいよ、いやマジで。」
ミサトも目を丸くしていた。
「……だから、マグを持参してはあちこち飲み歩いてたと……そういうことなのね…。それもエビチュのため…でしょ?」
いつの頃からか、休憩に誘ってもミサトは決して自販機でドリンクを買おうとはしなかった。
そのことを思い出した私がこめかみに指を圧しあててしまったのは必定で、ミサトは今度は苦笑いを始めだす。
つまり、こうやってあちらこちらでコーヒーを貰っては浮いたお金をエビチュに回していたということなのだろう。
そんな倹約家なミサト……というよりは、むしろそこまでアルコールが第一主義なミサトにある意味感心してしまいそうになってはいけなかった。
「あなたって、そこまで必死なのね……呆れた。」
「別にいいでしょォ?ここんとこ、リツコにお金を借りに来てないんだからさぁ〜。」
ミサトが頬を膨らます。
確かにそうではある……そうではあるが、今の言い方だと逆にエビチュを買うお金もないイザな時は私にまた頼ればいいのだとも聞こえてくる…。
「さっきさぁ〜、リカんとこに寄って来たんだけど邪険にされてすぐ追い出されちゃったわ。まぁ、忙しいのよね……最近は付き合いが悪いわピリピリしてるわで何度か喧嘩しちゃったし…。」
ミサトは頭の後ろで組んでいた両手を解き、ダルそうに机に頬杖をつく。
そのまま組んだ足をプラプラさせてるのはコーヒーを貰えずに追い払われたことへの不満の表れだろう……しかめっ面をしていた。
「あなた達の喧嘩は毎度のことじゃない。それもつまらない事で大きい声で怒鳴り合って…私のとこにまで他部門から文句が来るぐらいなのよ?そして、頭を下げるのはいつも私………ちょっと、聞いてるの?」
二人の日常茶飯事な喧嘩に辟易していたただけに、つい愚痴が溢れてしまう。
612リツコ:2009/12/16(水) 23:45:11 ID:???
だが、ミサトはそれを殊勝に受け止めることはなく、頬杖をついたままどこかボンヤリした表情で遠くを見ていた。
「ミサトっ!」
私は机上に拡げておいた図面を丸く筒にして、それでもって目の前にある頭をぺシッと叩こうとした。
「ねぇ、リカってどっか体の具合でも悪いのかな…。」
が、そうする前にハッとしたような顔つきで振り向くミサトにやおらそんなことを口にされ、私はポカンと呆気にとられてしまった。
「何よ、いきなり……具合が悪いって何がよ?」
拍子抜けする間もなく私まで真顔になって聞き返してしまったのは、ミサトが物憂げに呟いたからであった。
今の呟きが真面目なものであることは、その表情に陰りまでをも帯びていることからわかる。
いつもオチャラケて笑っているか戦闘中の時のようなキリリとした真剣な顔つきのどちらかでしかないミサトが、こんなアンニュイな表情をすることは珍しいことである。
前回にこんな表情を私にして見せたのは、加持君と別れてしまったという報告を受けた時以来なだけに滅多にない事でもあった。
「どうしたのよ?」
「……リカさ、ここんとこ医療部に足繁く通っているみたいなのよ。で、思ったんだけど近頃、元気がないっていうか覇気がないっていうか……一人で考え込んでることが多いのよ。そう感じることが度々あったから病気でも抱えてるのかな…って。」
ミサトはマグに口をつける。
喧嘩相手の気落ちした様子を心配していることは口振りだけでなく態度にも表れていた。
ミサトは顎の下で組んでいた両手を持て余すようにしきりに組み替える。
613リツコ:2009/12/16(水) 23:49:01 ID:???
「直接、聞いてみればいいことじゃない?……私は具合が悪いようには見えなかったけど…。」
「うん、だから聞いてみたのよ。そんなことないって笑われちゃったけどね。……でも、だったら医療部に頻繁に行くこともないでしょ?……おかしいな…って。もしかして、隠すような病気なのかな…って。」
またマグに口をつけるミサトの顔は曇ったままであった。
「病気って……医療部に通っていることは本人から聞いたの?」
「ううん、あそこの看護士の人達から小耳に挟んだの。よく来てるわよ…って。それで問い詰めてやったら、風邪をひいたから診てもらってただけって言ってたわ。……あそこってさ、コーヒーはなくて日本茶しか置いてないの知ってた?」
私は眉をしかめてしまった。
それは青山主任からいきなり話が反れたからというよりは、ミサトが離れた建屋の医療部にまでわざわざマグを持参していたことを知ることになったからである。
「……あなたね…少しは遠慮という言葉を……いえ、もういいわ…。青山主任には私からもそれとなく聞いてみるから。一応、私は上司だし……それに友人の一人でもあるし…ね。」
「わかってんじゃない!そうよ、今じゃ私達は仲間なんですからね。……まぁ、大した病気でないならいいのよ。」
ミサトは続け様にマグの中身を飲み干すと立ち上がった。
「ご馳走さま、すっかり長居しちゃったわね。じゃあ、イヤイヤ仕事に戻るとするかな?」
「えぇ、是非ともそうして頂戴。日向君から呼び出しがかかる前にね。」
コーヒーをたらふく飲んで満足したミサトが部屋を後にすると、私は椅子の背に凭れてまた煙草に火をつけた。
今、聞いたばかりの青山主任の話が頭の中をグルグル廻ってならないのは仕事への影響を考えただけではなく、やはり友人の一人として案じてしまっていたからである。
マヤのことを……そう、マヤのことを抜きにして考えれば、ミサトに言われるまでもなく彼女とは上手く付き合えていることに間違いはなかった。
気さくで実直な人柄の良さは付き合いを重ねる内にわかってきたことだし、気遣いにかけては人一倍の持ち主である。
614リツコ:2009/12/16(水) 23:59:07 ID:???
その青山主任が何か病気を患っているかも知れない……それも、もしかしたら隠すような病気を…。
ミサトの口振りにそんなニュアンスが込められていただけに、私は口にくわえていた煙草がいつの間にか短くなっていたことに気付くのが遅れてしまい灰を床に撒き散らしてしまった。
「いっけない!また言われちゃうわ。」
慌てて床にしゃがんで落ちた灰を掃除しようとしたのは当然の行為であるが、そうやって慌ててしまったのは、どちらかというと小言を言われ続けていた身の条件反射によることが大きかったからなのかも知れない。
思わず出た言葉がそのことを物語っていることに否応もなく気付かされ、私は苦笑してしまった。
いつも何かと世話を焼いてくれるマヤ……ここネルフにおいては今は直接の戦力に数えることは出来ない状態ではあるが、マヤは紛れもなく私の右腕である。
勿論、仕事面だけを指して言うのではなく、いずれはプライベートにおいてもそうなる……筈。
「これで良し…っと。今のを見られてたら大変ね。」
私は塵取りで取った灰を片すと再び椅子に座った。
そのマヤが右腕なら青山主任は左腕となる存在である。
右腕が使えない今、もし左腕までもが使えなくなってしまったら……一人の友人として案じる気持ちはあっても仕事上の関係からで考える方を優先してしまいがちになるのは、やはりマヤのことがあるからに違いなかった。
「薄情よね……私って…。」
ミサトに何度も言われたことなのに……マイナス思考をするなと嫌というほど言われたことなのに、どうしても疑念を拭うことが出来ないのは彼女に一度も問い質したことがないからなのは自分でも嫌という程によくわかっていること…。
でも、未だにそれが出来ないのは自分に自信が持てていないからであった。
仮に、問い質す勇気が持てたとしても余計にそう出来るわけがないのは、マヤとの間に出来ている微妙な距離感を完全に埋めきれていないからである。
615名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 00:09:22 ID:???
乙!
616リツコ:2009/12/17(木) 00:12:40 ID:???
行動に移すには明らかに今の私は分が悪過ぎていた。
「マヤ…。」
マヤの気持ちはどうなのだろうか……あれで見切りをつけてしまったのだろうか…。
元気と共に明るさを取り戻してくれた今、そのことを考えるとついその名を呟いてしまうのは私には当然のことであった。
微妙な距離と共に不安定な状態に追いやられ、定まらぬままの関係……そして、そこに失われたままの記憶が加わり……唇から溢れる溜め息は毎度のことであった。
このことを考える度に吐息をつくのはいつものこと……私は壁時計を見上げてみた。
そうしてみたのは、いつの間にかマヤのことについて考える方向へと思考が流れていたからで、今、そのマヤは何をしているのかとふと思ってしまったからである。
定期受診となっているメンタルケアの診察はもう終わった頃だろう……何となくそう思った瞬間、続けざまに目を見開いてしまったのはひょっとして…という想像をしてしまったからであった。
それは、ミサトの話にあった医療部という言葉が引っかかったからこそ思いついた想像である。
体調が思わしくないらしいという青山主任が医療部に通っていることを、実はマヤは知っていたのではないかと…。
私は気付かなかったが、ミサトの話だと近頃の青山主任は普段と異なる元気のなさのようだし、マヤも著しく様子がおかしかった。
つまり、マヤの異変は青山主任の思わしくない容態に起因して始まったことではないのかと…。
そんな想像をしてしまったのは、あの昼下がりに潜め歩く二人の様子からでも浮かんでしまえることだからでもあった。
まるでコソコソと落ち合う素振りな様子であった二人……それにマヤの異変と時を同じくしたタイミングでの青山主任の病気話である。
異変の元はここにあるのではないか…。
617リツコ:2009/12/17(木) 00:26:35 ID:???
何か共通する秘密らしきものがあるのではないかと薄々感じてはいたが、それは青山主任がマヤに病気の相談をしていたからではないのか…。
心優しいマヤが自分のことのように親身に相談にのるのはわかりきったことだけに、マヤが気落ちして上の空になってしまってもおかしくはなかった。
ということは、それだけ青山主任の抱える病気は重大なものであるということになってしまうだろう…。
「じゃあ、青山主任は…………でも…。」
命に関わる病気だからこそ隠してしまうのではないのかと思ったのも束の間で、だとしても辻褄の合わないことがあると考え直してしまったのは、やはりあの異変時のマヤの様子をまた思い返したからである。
たしかに、涙を溢したりと感情に起伏が見られていたことは青山主任の病気を思ってのことだからだと解釈することは出来る。
旧くからの親しい付き合いにあるのだから、マヤが我が身のように心配するのは当然のことである。
だが、深夜の度重なる悲鳴や私に対する一転した態度の変わりようについてまでをそれで説明することはどう考えても出来ない…。
それに、マヤはあの異変を脱して今はまた元気さと明るさを取り戻してくれているのだから、合点がいかないことである。

もし、本当に青山主任が病気を抱えているならば何故マヤにしか告げないのか……私までにとは言わないが、かなり親しいミサトにも相談して当然のことだろうに…。
合点がいきそうになるも、矛盾が浮かび上がったことで私は首を捻ってしまった。
まぁ……マヤの私に対する態度に関してはあの一件が重なってしまったからなのだろうが……とにかくこれはあくまでも仮定の話である。
一応、あの異変を説明するための後付けの理由に成り得たるものではあるが、勿論、この推論が外れていて欲しいのは青山主任の友人の一人として当然の思い。
618リツコ:2009/12/17(木) 00:34:58 ID:???
「念のため様子を聞いてみる必要があるわね。……えぇっと……まだ研究室ね。」
私は青山主任の所在を確認すると、すっかり根が張ってしまった椅子から重たい腰を上げた。
向かうは青山主任の研究室。
日頃、行きつけない場所にこれから訪れるからなのだろうが、これから青山主任の研究室でどのような会話がなされるのか……私は手に少し汗をかいていた。
619リツコ:2009/12/17(木) 00:36:15 ID:???
本日の投下は以上です。
では、また…。
620名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 00:41:24 ID:???
乙です
ついにモヤモヤが明らかになるんでしょうか…(;°д°)
621名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 00:41:57 ID:???
乙です!
622名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 00:44:16 ID:???
乙です!
ついに青山主任かぁ
623名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 02:54:30 ID:???
乙ですー
青山主任との話し合い。どんなエピソードになるか楽しみです
624名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 04:13:02 ID:???
乙です!
625名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 10:19:34 ID:???
乙です
リカたん・・・
626名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/17(木) 12:43:52 ID:???
乙!
627名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/12/20(日) 03:35:23 ID:???
乙です!
リカたん心配
628名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/01/06(水) 20:40:16 ID:6yVGA2e1
明けましてオメデトウございます!
今年もヨロシクです!
629リツコ:2010/01/18(月) 09:43:25 ID:???
こちらから青山主任の研究室に赴くのは、まだ数えるぐらいの回数しかなかった。
ミサトのように仕事をサボってちょっと来てみたのだ…という理由は私のガラではないだけに、敢えて自分のマグを持参して向かうことにしたのは息抜きの誘いがてらにコーヒーのご馳走にあずかろうとしてのことであった。
コーヒー党を自認する私としてはそれが如何ほどばかりな味なのか気になる所ではあるが、今は青山主任の調子をしっかり確認しなければならない。
たとえ病気を患っているとしても大したものでなければ……そう祈るように足早に歩いて研究室の前まで来れば、来訪を告げるブザーを鳴らす手間を省くかのようにドアは大きく開け放たれた状態のままであった。
私はそのまま室内に足を踏み入れてみた。
「さっきは私が悪かったです。その……少し色々と考えることがあって、カリカリして大人気なかったなと…。あぁ、コーヒーはもう出来てますから勝手に淹れて下さい。」
私を誰と間違えたのか、青山主任はPCに向かったまま振り返ることなくキーを一心不乱に叩いては話す。
その画面には幾何学式な神経配列が表示されており、叩く指はひっきりなく忙しげに動かされていた。
研究に没頭する若きサイエンティストは画面にかぶりつき、ブツブツ呟いてはくわえ煙草をふかしている。
私は黙ってコーヒーメーカーに近付くとマグにコーヒーを注いだ。
「ついでに私の分も…あっ、あの変なスペシャルとかはヤメてくださいよね。あれ、メチャ不味かったですわ。いらんことしなくていいですからね。」
煙をモクモクさせながら私にそんなリクエストを寄越す。
私は青山主任のマグにもコーヒーを注ぐとそれを背後から机上に置いた。
630リツコ:2010/01/18(月) 09:45:02 ID:???
「はい、お待たせ。かなり忙しいみたいだけど取り込み中だったかしら?」
「は…っ!?はは博士っ!」
青山主任は椅子の背に仰け反るようにして振り返り、私を仰ぎ見ると素っ頓狂な声をあげた。
「フフッ、誰と間違えていたの?まさかミサトかしら?」
私はクスリと笑ってしまった。
「はぁぁ〜そうだとばかり…。葛城さんがまた戻って来たんだとてっきり…失礼しました。」
頭を掻くようにバツの悪い表情を浮かべられ、またクスリとしてしまう。
「あの…博士がここへいらっしゃるだなんて何か込み入ったトラブルでも発生ですか?」
私の来訪はかなり意外だったのだろう…バツの悪さもそこそこに、姿勢を正すと今度は神妙な表情を浮かべだす。
「ううん、そうじゃないのよ。ちょっと近くまで来る用事があったから…。ミサトがね、あなたのとこのコーヒーが美味しいって言うからご馳走にあずかりたいな…ってね。」
「そうでしたか。何かあったのかとばかり……どうぞ、こちらへお座り下さい。」
マグを手に、立ったままな私に椅子を勧めてくる。
本当に何もなければ良いのだが……指し示すその意味は違えど腰かけながらそう思ってしまったのは掌にまた汗が滲んでしまっていたからであった。
話をどう切り出そう……頭の中を目まぐるしく回転させる。
「……うん、かなり美味しいわね。これはキリマンジャロ?」
「えぇ、現地の知り合いから特別に良い豆を融通してもらってまして…。通な博士に誉めて頂けるとは嬉しい限りですね。」
ホクホク顔でマグに口をつける青山主任を然り気無く観察したのは体調を探る為であったが、その様子には特におかしさを見受けることもなかった。
私が訪れるまでの間、ずっとここに籠って黙々と仕事をしていたのだろう……休憩に寄ったと言う私を歓迎するようにしてくれているのは話相手が欲しかったからなのかも知れない。
631リツコ:2010/01/18(月) 09:46:21 ID:???
「博士のコーヒーも美味しいですよね。葛城さんもよく言ってました。」
「そうなの?さっき、私の所にも来て飲み逃げして行ったわ。すっかり常習犯よね。」
そう言うと、青山主任はアチャーとばかりにフいてみせる。
ミサトがあちこちでコーヒーを飲み歩いていることは、自分もよく承知しているといった風情だ。
「なんでも小銭を貯金してるそうですよ?ある程度貯まったら、それを抱えて酒のディスカウントストアに駆け込むのが毎度の楽しみなんですって。……ミサトさんらしいですよね…。」
小首を傾げ、どこか微笑むようにして呟くそれに片眉が上がってしまったのはファーストネームを口にされたからであった。
いつの間にか下の名で呼び合うほどまでになっていたとは、ミサトに新たな親友が誕生したことを知った瞬間と言える。
青山主任は今の自分の何気ない言葉に気付くこともなく、頬杖をついてひとり何かを思い出すように微笑んだままでいた。
「フフッ、それがミサトよね。私のことをニコチン中毒って悪態つくけど、自分はビールが主食みたいなものなんだからとんだアル中よね?人のこと言えないでしょ…ってね。」
「フフッ、まったく…ヤニ臭いだの煙草吸うなだのと耳が痛いですよ。……でも、これ見て下さい。」
青山主任は傍らの机上を指差す。
その指先には、私にもよくお馴染みである空気清浄器が置かれてあった。
「葛城さんがここの換気能力じゃ追いつかないって言って、わざわざこれをプレゼントしてくれて…。」
また片眉を上げてしまったのは、あのミサトがそんなことをするとはという意外さをおぼえたからであった。
「ビール代の為に妙な倹約家になったミサトがそんなことするだなんて……ちょっと驚きね。」
「フフッ、それは言い過ぎですよ。葛城さん曰く、年長者の心遣いなんだから無下にせずありがたく使うように…ですって。」
そう言って、青山主任は目下フル稼働中なその空気清浄器をちょんと指で突っつく。
632リツコ:2010/01/18(月) 09:47:20 ID:???
「とは言っても私はヘビー過ぎのようで、実は自分でもケムたくて今こうしてドアを開放してた所なんです。でも、通路にダダ漏れさせては周囲の健康にも良くないですよね。」
椅子から立ち上がった青山主任がドアを閉めに行く。
「ねぇ、ちょっと確認したいことがあるのだけど…。」
私がここぞとばかりに口を開いたのは、青山主任から健康という言葉が出たからである。
話の流れに都合のいいタイミングがきたことで本題の用件に入ることにした。
「はい、何でしょうか?」
ドアを閉めて戻ってきた青山主任がまた椅子に座る。
「ミサトから聞いたのだけど、今あなたどこか体調が良くないの?その…何か病気でも患っていたりするの?」
「は?」
鳩が豆鉄砲をくらったといった所か、青山主任は予期せぬ質問に意味がわからないといった感じである。
「病気?私がですか?まったくどこも悪い所はないですが…あ、治療中の虫歯はありますけど。本当にそんなこと言ってたんですか?」
「えぇ、かなり心配してたわ。近頃のあなたは頻繁に医療部に足を運んでいるし、思い詰めたように考え込んでいるからって聞いたものだから…。病気ではないのならいいのよ。」
が、青山主任は念を押す私の声が聞こえてないのか顔を反らすように机上に視線を落とす。
「どうしたの?」
「……博士……博士は今の同居生活で………いえ…いえ、何でもありません…。」
先程までの朗らかな様子から一転して一字一句を考えるようにされたことに眉をひそめてしまったのも、いきなりマヤとの生活に話を振られて胸をざわつかされたからである。
「ねぇ…それって、あなたもマヤの様子がおかしい…いえ、ごく最近までおかしかったことに気付いていたから私に聞くのよね?」
青山主任は明らかに先程までとはうって変わった様子でハッとしたように私を見返す。
黙って小さく頷くようなその瞳が狼狽するように揺れ動いており、私は直感で青山主任はあの異変について何かを知っているのだと感じた。
633リツコ:2010/01/18(月) 09:48:23 ID:???
「あなた、マヤのあの変化について何か知っているのよね?」
「私は…」
青山主任は食い入るように見据える私から顔を反らして歪める。
さっきのは如何にも失言であった…と、ばかりな後悔を湛えたそれに、私は妙に落ち着かないものを感じ始め出していた。
空気清浄器の微かな稼働音のみが室内に響く中、場の空気が重いものへと変わり出したことに知らず知らずまた掌にじんわりと汗が滲み始める。
私からの注視を一身に受け、唇を噛み締めるようにして注意深く考える素振りを見せる青山主任は押し黙ったまま微動だにしない。
いつだって毅然としているのに、こうも動揺するだなんて……困惑する間もなく机上の電話が大きく鳴り響いた。
「はい、青山…あぁカエデ……そう……それは困ったわね。……わかったわ、今すぐ行くから。」
青山主任が飛びつくようにコールに出たのは、この重苦しい場から逃れようとしてのことなのかも知れない。
何故なら、困ったという口振りにも関わらずホッとした表情で通話を終えるや否やすかさず立ち上がったからである。
「折角のコーヒータイムですが、今からカエデの教育がありますのでこれで…」
れいの、マヤの代理を務める技術部職員からの呼び出しが何であるかは会話を一々確認せずとも私にはおおよそわかっていた。
マヤの代理として彼女に白羽の矢が立って以来、青山主任は少しでもマヤの実力に近付くものを…と、彼女の指導に時間を割いていたことは上司である私も把握していたからだ。
二人が発令所で積極的に模擬訓練を重ねていたのは何度も目にしていただけに、今もまた自主訓練中に何か至急の用が発生したに違いないのだろう。
「青山主任…。」
私から逃げ出そうとするのを引き留めるように思わずそう呟いてしまったのは、まだ問いの答えを貰っていなかったからだ。
足早に部屋を後にしようとしていた青山主任は一旦足を止め、床に視線を落とすと私に振り返る。
634リツコ:2010/01/18(月) 09:55:30 ID:???
「博士は何も聞いてないのですよね?伊吹さんから一切何も…。」
とても慎重な様子で口を開かれたことに、一瞬ミサトみたいだと思ってしまったのは私に向けられるその目がこれ以上になく真剣なものであったからである。
「えぇ、何も話そうとしてくれなくて…。だから、なんであったのか今でも気にはなっているのよ。一体どうしたと…」
あまりにも真剣な表情に虚をつかれそうになったのは束の間で、息苦しさに酸素を求めるようにして大きく息を吸ったのは続く答えがあまり良いものではないのだと察して構えようとしたからだ。
「申し訳ありませんが私からお話することは出来ません。」
それは私の再度の問いかけに対する強い拒絶であった。
「今の伊吹さんは16歳のままなんです。見守ってあげて下さい。……私からはそれぐらいしか……すみません…。」
一礼して部屋を後にする青山主任のヒールの音が遠去かっていくのを耳にしながら、私は何とも形容し難い思いでただその場に残されたままであった。
635リツコ:2010/01/18(月) 10:06:10 ID:???
やはり青山主任はマヤの異変について何かを知っていたのだ。
帰宅して以降、私はあのやり取りを何度も何度も回想し返していた。
あんなにも真剣な目をされるだなんて……自分から話すことは出来ないと言われたが、それだけあの異変の源には重大性が隠されているということになる。
その源とは一体……もし、マヤから多少は話を聞いていると嘘をついたなら、何を話し聞かせてくれただろうか。
「今度はウイスキーどうですか?」
私の傍らでチーズをつまみにワインを空けていたマヤが水割りを作ってくれる。
「それとも、やはり冷酒にしましょうか?」
「ううん、その水割りを貰うわ。」
私はグラスを受け取って口をつけた。
今夜は…いえ、ここ何日かは夜はこうしてリビングで共に酒を飲み交わしながら他愛ないお喋りで過ごす日が続いていた。
その日一日にあったことを、おもしろ可笑しく陽気に話すマヤにいつもなら笑みが溢れていくのに、それを塞き止めてしまうのは今日の青山主任とのやり取りが心に引っかかったままだからである。
636リツコ:2010/01/18(月) 10:07:50 ID:???
あの口振りと様子では、かなり深刻なことに違いないのに私には話せないと言われた。
私に……いえ、他の誰にも知られたくない事柄がある…。
ミサトやマヤの友人らですら知らされない何かを二人は隠している事実。
マヤは私ではなく青山主任を頼っていた事実。
私はマヤに一線を引かれたままなのだという現実をまた改めて認識させられていた。
「もぅ〜、わたしの話をちゃんと聞いてます〜?」
「えっ…あ、ゴメン。え〜っと何だったっけ?」
話に耳を傾けるのもそこそこに考え込んでしまっていたら、マヤは頬をプーッと膨らませてスネる。
「フフッ、今日はデスクワークが長かったからついボーッとしちゃったわ。」
「お疲れですか?そろそろ休まれます?」
私は可愛くムクれるマヤに目を奪われたまま、グラスに口をつけて首を横に振った。
床に就くにはまだ少し早いし、別に体が疲れているわけではない。
なにより、屈託ない明るさを取り戻してくれたマヤとこうして過ごす時間をまた持てたのだから、このささやかな幸せの一時をみすみすフイにすることなんて私がする筈もなかった。
マヤはクスッと笑うと今度はナッツが盛られた皿に手を伸ばして口に放り込んでいく。
明るい笑顔、楽しいお喋り、陽気な笑い……その裏に何が秘められているのかわからないままだが、もう問題は解決したことなのだ。
もう過ぎたことで終わったことなのだ。
隠されたままであってもマヤが明るさを取り戻してくれたのだからそれでいい……だから詮索する必要もないのだ。
夢中になってまたお喋りをし出すマヤに見とれながらそう強く思ったのは、何も元気になった様を見せつけられているからだけでなく、あの時に青山主任に言われた言葉を胸にしっかり刻み込んでいたからであった。


『見守ってあげて下さい。』


あの時、青山主任は私にたしかにそう言った。
637リツコ:2010/01/18(月) 10:09:12 ID:???
何を意図してのことなのか、あの時の青山主任の胸中に何が去来していたのかはわからないが、マヤを支えてやって欲しいという願いが強く込められていたのは言葉だけでなく態度からもはっきり窺えていた。
あの事故からかなりの時が経ったものの記憶は依然として失われたままでいる。
まだ16歳なままのマヤは多感に揺れ動いて当たり前な年頃なのだから、こうして同居する身近な私が精神面においてもしっかり支えてやらねばならない。
「……なんですよねぇ〜。ほんっと笑っちゃいましたから!」
「フフッ、もぅマヤったら…。」
勿論、それは上司兼保護者の枠を超えた意味でである。
一線を引かれているからこそ今は枠内に留め置かれてしまっているが、青山主任がマヤにどのような感情を抱いていようと想う気持ちに負けているつもりはない。
たとえ、このまま記憶が失われたままであったとしても、マヤの傍で支え続けていく気持ちに揺るぎはないのだから…。
その時は……その時は、また一から出直していけばいい。
たとえ今のマヤが青山主任に特別な気持ちを寄せていようと、いつか必ず振り向いて貰える日が来ることを信じて…。
私は口にしていたグラスを置いた。
少し飲み過ぎたかなと思ったのは、ここのとこ続く連夜のプチ酒盛りが祟りだしていたからなのだろう。
いくらマヤからの誘いとはいえ、ここらで控えねば勤務に支障をきたしてしまう。
「次は何がいいですか?何でも作りますよ?」
「もう胃が警報を発してイッパイだわ。つい進み過ぎちゃったわね。」
酒瓶を手にするマヤにもう充分だからというジェスチャーをして見せると、マヤはわざとらしい残念な素振りで自分のグラスに冷酒を並々と注ぐ。
638リツコ:2010/01/18(月) 10:10:18 ID:???
「あなたも飲み過ぎよ?この辺でもう止めた方が…」
「赤木さんの一日はどうでしたか?わたしばっかお喋りしちゃいましたけど、何か笑える出来事とかありましたぁ〜?」
マヤはまだ飲み足りないのか、注いだばかりのそれを身体に取り込むようにして口にしていく。
ミサトまでとは言わないが、いくら酒に強いはいえこれはいささか度が過ぎると思ったのは酩酊に近いような真っ赤な顔をしていたからであった。
マヤはグラスを取り上げようとする私をからかうようにしてそれをひょいと胸に抱え込んで見せる。
「マァ〜ヤァ〜っ、本当に飲み過ぎなのよ?酔い潰れてからじゃ遅いんだから…」
ケラケラと笑いだすマヤに冗談混じりに本気で注意すれば、れいのテヘッな誤魔化し笑いで鼻の頭を掻かれる始末である。
「わっかりましたっ!赤木さんがオモシロ話を聞かせてくれたら今夜はこれでオシマ〜イっ!」
そして、今度は甚だ怪しい敬礼をしてくる。
「オモシロ話って…あのねぇ〜…」
「アー、もう一杯いっちゃおっかなぁ〜?」
あられもない弾けっぷりに毒気をあてられ躊躇していると、マヤはまたグラスに酒を注ごうとして見せる。
「わかったわ。わかったからもう飲んじゃ駄目っ、と言っても……オモシロ話ねぇ…。」
私は笑い話となるものがあったか今日一日を振り返ってみた。
終日デスクワークで終わってしまっただけに笑いとはおよそ無縁な一日であったが、あえて挙げるならミサトのコーヒー飲み逃げの真相についてぐらいだろう。
私はその裏話をマヤに語って聞かせた。
「クククッ…じゃ、じゃあ葛城さんがいつもマグを持ってさ迷い歩いていたのはそれが理由だったと……ククッ、アハハハハハ!」
「ちょ、ちょっとマヤ……もう困ったわねぇ。」
果たして今の話にここまでウケてしまえる要素があったのだろうか……マヤは聞くや否やひっくり返る勢いで爆笑する。
639リツコ:2010/01/18(月) 10:11:32 ID:???
もっとも、笑いに拍車がかかっているのはアルコールのせいに違いないのは真っ赤な顔でわかるといったもので、今なら箸が転がる様を見ても爆笑するに違いないだろう。
「ククッ、他には?他には何があります?」
「他にってねぇ…。」
ひとしきり笑うマヤは、更なるリクエストを寄越してくる。
ミサトならまだしも、そんなに笑い話等のストックを持ち合わせていない私に目を輝かせて難題を突き付けてくる。
そんなマヤの期待に応えようと頭を巡らせたところで何も浮かばずなのは私らしいと言えばそうなのであろう。
だから、代わりにマヤのように一日の出来事を話すことにしたのは自分のことに少しでも多く関心を持って欲しくてでのことであった。
「これは笑い話とは全然関係なくなっちゃうけど、今日、青山主任の研究室で一緒にコーヒーブレイクしたの。いい豆を使っているだけに私も負けてられないわ…ってね。」
青山主任の話に触れたのは、あのやり取りを心の底では引き摺ってしまっていたからである。
気にはしまいと決意しても心はやはり正直なもの…。
「たしか原産地直送なんですよね?じゃあ、今日はリカさんとずっとお仕事されてたんですかぁ。お疲れさまですっ!」
もう充分と言ったのに、マヤは聞いていたのかいないのか相変わらずの陽気さでもって私のグラスに酒を注いでくる。
「ミサトがね、青山主任は病気を患ってるんじゃないかって言うものだから確認したのよ。でも、そんなことなかったしバリバリと精力的に仕事していたから安心したわ。」
「リカさんなら、昨日は昼休みにジョギングしてたぐらいですよ?葛城さんたら、またどうしてそう思われたんですかね?」
意外そうに目を丸くするマヤは、どさくさに紛れて自分のグラスにもまた酒を注ごうとする。
640リツコ:2010/01/18(月) 10:13:03 ID:???
「マヤっ、ダァ〜メェ〜でぇ〜しょ?」
その手をピシャリと叩いて止めるとマヤはまた誤魔化し笑いする。
口調はしっかりしているも、目は座りつつなトンだ酔っ払いである。
これ以上、飲ませてはならないのだから奪ったそのグラスを私がクイッと空けて飲み干したのは当然であった。
「で、葛城さんはどうして?」
私に酒を奪われても知らんぷりしてみせるのはバツがそれだけ悪かったのか、何もなかった風を装っている。
「それがね、青山主任は医療部に頻繁に足を運んでるだとか、近頃は独り考え込んでいておかしいって騒ぐもんだから……でも、とんだ取り越し苦労だったわ。」
私はマヤのすぐ脇に置いてあった酒瓶を自分の方に引き寄せながら、あの研究室での一コマを思い返していた。
病気じゃないかと問いかけた時のキョトンとしたあの様子……あれが嘘でも芝居でもないことは見てとれていた。
大体、病気を患っているぐらいなら室内に煙が充満する勢いで煙草は吸わないものだし、そんな気力も湧かないだろう。
ミサトに振り回されただけであったが、それも友を心配すればこそのこと。
明日にでも今日のことを報告してあげないと……私はそう思いながら今度は自分のグラスをクイッと空けた。
「ほらぁ〜、飲み過ぎたのよ…大丈夫?マヤ?」
空けたグラスを置くテーブルを前に、マヤは深く項垂れていた。
注意したのにこんなに飲むのだから言わんことないのだが、とにもかくにも今はマヤを介抱しないと……私は座っていたソファーから腰を上げた。
「リカさん、何か言われてました?何か言われたりしてませんでしたか?……わたし…」
「んっ?何も言ってなかったわよ?……水を飲んだ方がいいわね。待ってて。」
マヤは足元にしゃがみこむ私を拒むかのようにして自分の体を両腕で抱え抱き締める。
そんなマヤが何を指し示してそう聞くのかはすぐに悟れてしまった。
641リツコ:2010/01/18(月) 10:14:12 ID:???
それは、私があのやり取りを何度も思い返していたからこそわかってしまったことである。
マヤはあの異変について隠している事柄が知られていないかを間違いなく心配している…。
「水、飲めそう?ここに横になって少し酔い醒まししなさい。」
「すみません、つい羽目をはずしちゃって…」
水が入ったグラスに口をつけるマヤは相変わらず項垂れたままで、横になるどころか顔をあげようとさえしない。
口調はハッキリしているのだから酔い潰れる程までには酔っていないのはわかるが、そう決めつけて接することにしたのはマヤの今の心中を思ってのことであった。
それが余程の秘密なのだと強く感じてしまったのは、何もマヤが自分自身を守るかのようにして己の体をきつく抱き締めていたからだけではない。
まわされるその両腕には驚く位に指が深く、また刻むようにきつく食い込まれていたからであった。
今、その心には何が占めているというのだろう…。
「酔いが醒めてくると寒くなるのよね。……どう?ちょっとは暖かいでしょ?」
「赤木さん…。」
隣に座って肩に腕をまわす私を見上げるマヤは、病魔に冒されたかのように青白く変わり果ててた顔色をしていた。
その瞳が揺れ動く…。
「フフッ、同居していて正解ね。でないと、あなたもミサトみたいに飲んだくれになっちゃうもの。それに……私もマヤが一緒に居てくれるから嬉しいし…ね。」
打ち震えたようにするマヤを何とか労りたくて、そう語りかけながらこう念じもしていた。
安心して、青山主任は私に何も喋りはしなかった。
秘密は保たれたままなのだから、だからそんなに思い詰めないで欲しい……と。
マヤはジッと目を閉じている。
「あったかい……なんだか暖かくなってきました。」
マヤは緊張したようにしていたのが徐々に力を解き、暫くすると安心したように私の肩に頭を預けだす。
支えるから頼って欲しい……この私があなたを支えるから……。
642リツコ:2010/01/18(月) 10:15:18 ID:???
「少し眠ってもいいのよ?」
そのまま、自分の体温を分け与えるようにして包み込むことどれくらいの時だろう……耳元にスースーと寝息の音が聞こえてくる。
本当に眠ってしまうだなんて……無防備なその寝顔は安心しきった表情を浮かべている。
マヤをソファーに横たえさせようとしたが、立ち上がれなかったのは服に引っ張りを感じたからである。
引っ張られるその先にはマヤの手があり、私の服の端を握り締めたままでいた。
いつかの手首を握られた日のことが脳裏を過ってしまったのは、これと状況が似通っていたから重なってしまったのだろう。
あの日、出勤する私を見送るマヤは作り笑顔の空元気さしかなかった。
見ていて痛々しく、私はどうにか力になりたくてたしか……そう、たしか困ったことがあったら言って欲しい……と、伝えようとして伝えきれずの時にいきなり手首を握られたのだ。
私は服をしっかり握り締めるマヤの手に自分のを重ねた。
もしかしたら……もしかしたら、マヤは本当は私に頼りたかったのかも知れない。
でも、そうしなかったのは肩透かしの件か……青山主任にしか秘密を打ち明けていない理由まではわからないが、きっと私に頼りたかったのかも知れない。
ギュッと握り締めるその手にそんなことを思ったのは、そう思えばこそあの異変時のマヤの様子に納得出来る部分がもてたからである。
肩透かしがあったから頼れなかった、頼りにしなかった……全部をそれで解釈することは出来ないがそれも十分な理由の一つに成り得る。
「ごめんね、マヤ…。マヤ、ごめん…。」
囁きと共に寄せた頬にマヤの柔らかい髪の毛が触れる。
また少し伸びた髪に触れるのは、あの肩透かしを与えた日以来のことであった。
643リツコ:2010/01/18(月) 10:18:55 ID:???
マヤを起こさないように髪に触れながら、私はあの異変が起きてからの一連を思い返していた。
肩透かしを与え、距離をとられて態度までよそよそしくされ、はからずも青山主任に疑念を抱き……いえ、それはまだ払拭しきれてはいない……だが、それでミサトに怒鳴られさえもして…。
でも、ようやくマヤはまた明るさを取り戻してくれたし、また前のように接してくれもする。
マヤが胸の奥底に抱える秘密はベークライトで封印されたも同然で、何れは忘却の彼方へと…。
もう回復の途上で、残される問題はマヤとの間の埋めきれない微妙な距離を考えるだけで……私は一つ一つを思い返しながらそう解釈を試みた。
が、何か釈然としないものをまた感じてもいたのはまだ何かを見落としているのか…。
それは何だろうか……何だろう…何だろう…。
うっかり声を漏らしそうになったのは、あの様子のおかしさについてを思い出して注意深く熟慮していた時のことであった。
それはマヤのことについてだけでなく、青山主任についても考えを巡らせていた時のことだ。
あの研究室でのやり取りの際、なぜ病気と思ったかの説明をしたくだりで青山主任はいきなりマヤの話に触れ、それに問い重ねる私にあからさまに狼狽していた。
そして先程まで陽気にはしゃいでいたマヤがいきなり動揺を見せたのも、青山主任が病気ではないかと思った理由を同じく説明してからのことである。
二つに共通するキーワード……それは医療部である。
もしかしたら……もしかしたら、何か病気を患っているのはマヤの方ではないのだろうか……そう思ってしまったのは、足繁く医療部に通っているのはマヤの方だからである。
644リツコ:2010/01/18(月) 11:18:23 ID:???
かかる分野は記憶を失って以降に伴うメンタル面のケアが目的ではあるが、それとは別に違う科目の受診も受けているのではないかと推論してしまったからである。
だから……だから、マヤに口止めをされているからこそ話せないと言ったのではないかと…。
あの時に垣間見せられた青山主任のとても辛そうな様子は筆舌に尽くし難いものであった。
だが、それであの異変の謎を全て解釈することは出来ない。
「ぅ…んっ…」
あどけない寝顔で熟睡するマヤが甘えたように擦り寄る。
こんな推論が的外れであって欲しいのは当然であるが、明日、いの一番に医療部に確認しないと…。
「……………。」
これ以上のマイナス思考には陥らないよう、今はマヤを引き寄せてただその温もりを感じる。
華奢な体でモリモリと食欲旺盛、いつも元気溌剌で健康オタクでもあるのがマヤなのだ。
だから、そんな活発なマヤが病気な筈はない……あるわけがない…。
私が真相の一端に触れるのはそれから後の予期せぬ形でのこと……この時も私はまだ何も知ることはなかった…。
645リツコ
一月ぶりの更新になりましたが本日の投下は以上です。
では、また後日に…。