「わかっているとは思うけど」と疲れた声でミサトさんは言った。
「ネルフの登録を抹消されても監視は続くし、行動にはかなりの制限がつくから」
僕は何も言わなかった。何も言う必要はないと思っていたからだ。
「忘れ物」とミサトさんはギプスをしていない左手で僕の携帯電話を差し出した。
「鈴原君と相原君から何度も留守電が入ってる。心配してるのよ」
「別にいりませんよ。もともと置いていく気でしたから」と僕は言った。
「レイやアスカのことも聞かないのね」とミサトさんは言った。
「本当はね、私だって人類や世界のことだってどうでもいいのかもしれない。
結果としてこんな立場にいるけれど……。
でも最初は父に少しでも近付きたくてネルフに志願しただけなのよ。
あなたが碇司令に必要とされたくてエヴァに乗ったのと同じように。
だから私はあなたに自分の思いを重ねてしまったの。
あなたが重荷に感じていたのも知っていたのに。
そして今あなたがエヴァに乗る目的に失望してしまったのも知っている。
それでもね、私はあなたに……」
そう言ったミサトさんの声は若干震えていた。もしかしたら彼女は泣いていたのかもしれない。
でもミサトさんは決定的なミスを犯していた。本当に決定的なミスだった。
恐らくミサトさん自身もそれには気付いていなかったと思う。
あるいはこんなことの後でなければ、僕だって聞き流していたかもしれない。
でもね、ミサトさん。僕の友達に相原なんて人はいないんだよ。
あなたは僕の友人の名前を間違えたんだ。それも数少ない友達のね。
ねえ、ミサトさん。結局あなたは僕のことなんてどうでもよかったんじゃないかな。
あなたが欲しかったのは僕じゃなくて、使徒を倒せる誰かだったんじゃないかな。