アスカは続けた。
「ちょっとした冗談だった。ドイツから、後でシンジに手紙でも出すつもりだっ
た。『私は今ドイツに居るのよ? 驚いた?』ってね。でも出せなかった。この
家を見付けたからよ。私は、ママが生まれ育ったこの家を見付けたの。私が帰国
したのは、元々は冗談プラス、ドイツに残してきた諸々のがらくたを片付けるの
が目的だった。だから日向二尉――今は三佐だっけ?」
僕は頷いた。
「そう、日向三佐にも来てもらったのよ。こんなに長い間、引き留めるつもりは
なかったケド。」
申し訳なさそうに、アスカは目を伏せた。
「それで、アスカはこの家にとどまった。」
「そう。」
アスカは頷いた。
「でも……解らないよ……。なんで死んだなんて言ったんだよ。僕はドイツだっ
てなんだって、君のところに行くのに……。」
「それよ。」と短く言うアスカ。
「あんたは私のとこに来るでしょうね。でもそれは出来なかった。私は、あんた
に来て欲しくなかった。何故だかわかる? それは、シンジが来たら、私の中の
ママの居場所が無くなっちゃうと思ったからよ。ねぇ? シンジの事は、一番好
きよ。でも、ママは違う。特別だったのよ。だから、私は死んだ事にした。あん
たが、日本から離れる事が出来るようになっても、ここに来ないように。シンジ
と会ったら、ママがどうでも良くなって、心地よさに飲み込まれて、日本に行っ
てしまう。あんたはドイツ語出来なかったし、日本にはあんたの『家族』がいた
から……。出来る訳ないじゃない。でしょ?」
僕は頷くしかなかった。だって、それ以外になにが出来ると言うんだろう。綾波、
父さん、ミサトさん……。
僕も、母さんがいない。アスカもお母さんがいない。だから、気持を分かち合え
るのだ。
もし母さんの生きていた証が見付かって、もしそれが動かせないものなら、僕は
そこに行くだろう。価値を無くされたり、それ以上に価値があるものがあったら、
それを僕も退けただろう。そしてアスカが『家族』を持っていたら……。
アスカにはそうすべき理由があったのだ。
「でも……。」とアスカは言った。「もう会っちゃった。……どうすりゃいいっ
てのよ。私はさ……。」
「僕は……。」
僕はその為に、ここに来たんだ。
「僕はアスカと暮らしたい。例えアスカのお母さんのいた証があっても、僕は一
緒にいたい。死ぬまで、ずっとだ。」
僕は謝らなかった。アスカは穏やかに笑う。
「ありがと……。」
('A`)オワラネ
次完結だな、よす頑張ろ
おお続き来てたのね!いつもGJです
うーむ、今までにないラストだな。すごくいいぞ。
透明感がありますな
195 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/07(木) 21:22:28 ID:pxzB7tjh
ほす
196 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/12(火) 20:50:38 ID:VLqrLF+0
198 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/14(木) 04:34:05 ID:PS7Of8KK
ジの字が足りないってか?wwww
こりゃ一本・・・って取られないよっ!!!!
199 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/17(日) 01:02:36 ID:5A1DuUxZ
エウ゛ァ初心者より質問
“LAS”とはなんですか? なんかアスカが絡んでそうですが。
レイ・アスカ・シンジの略?(レイは“R”ではない?)
惣流・アスカ・ラングレーの略ならばSARだし…。
糞スレあげんなキモい
もう前投下で完結にした方が良い気がする('A`)
ずっと自然だし
でも投下
◆
アスカは庭の納屋に案内してくれた。
「ここがママの遊び場だったのよ。」
アスカは、手にもっていた小さな鍵で南京錠を開錠した。
床に板が張られた納屋の中には、背表紙が変色した古い専門書や勉強机などの家
具、服やスカート、玩具などが雑多に散らかっていた。だが棚、服、全てにいた
るまで、埃ひとつ落ちていなかった。
「これは、みんなママの物みたい。」
アスカは、勉強机の上に乗っていた熊のぬいぐるみを手に取り、愛しそうに撫で
た。
「この家を見付けた時、住んでたのはママの従姉妹だったの。でも、どうしても
この家が欲しかった私は、相場以上のお金を出して買い取ろうとした。けど、そ
の従姉妹の人はタダ同然で譲ってくれた。『キョウコは本当に幸せよ?』と言っ
てね。ホントにいい人だったわよ、その人は。」
そう言って、アスカは一枚の写真を見せてくれた。ブラウン色の髪をした妙齢の
女性が写っていた。
そう言って、アスカは一枚の写真を見せてくれた。ブラウン色の髪をした妙齢の
女性が写っていた。
「その上、この納屋やママの写真までとっておいてくれたのよ。信じられる?
このちっぽけな納屋をよ?」
僕は頭を振った。
「信じられない。10年以上前だし。」
アスカは頷き、写真を僕から受けとると、元の立掛けてあった棚に戻した。
そして、アスカは一転して真剣な眼差しに変わり、言った。
「あんたは“アタシ”を連れて帰りたいのね?」
「僕はここだっていいよ。」
「連れて帰りたいのね?」
僕は頷いた。
「アスカと一緒に居たい。例えどんな試練があっても。」
アスカは口許を緩めた。
「ねぇシンジ? ここにはね、ママが居るの。」
そう言ってアスカは納屋の柱を撫でた。そこには西暦の下二桁と、横線が何本も
入っていた。
「ここにも。」
アスカは洋服を手にとる。
「ここにも。」
アスカは机の棚に飾ってある、弐号機の雛形を見る。
「ここにも。」
アスカは机に積まれたノートを繰った。
「この納屋にはママが詰まってるのよ。」
そう言って、アスカは僕の30センチ先まで歩み寄り、僕の瞳を真っ直ぐと見た。
アスカより、僕の方が背が高いから見下ろす形になったけれど、僕は真摯にアス
カのブルーの瞳を見つめかえした。
「でも、もう意味無い。」
◆
「黙って見ててね。」
そう言って母屋の方へ行ったアスカは、僕のライターと新聞紙とガソリンのポリ
タンクを手に戻ってきた。
「な、何をしようっていうのさ?」
「まあ見てなさいって。」と得意気に言うと、アスカはポリタンクを持ち上げ、ガソリンを納屋に振り撒い
た。そしてライターで新聞紙に火を付け、ガソリンで濡れた納屋に火を放った。
「アスカ……。」と僕がようやく声を上げた時には、ガソリンで濡れた場所から
炎が勢い良く燃え広がり、そしてゆっくりと納屋を焼いていった。やがて納屋は
すっかりと炎に包まれ、周りの地面に積もった雪は丸く溶けて土の地面を晒した。
煙火が月明かりに照らされ、目を凝らすと青みがかった暗夜の空に一筋の煙が立
ち上るのが見えた。それは天空へ昇るにつれて少しずつ見えなくなっていった。
「そんな……。」と僕は言った。「焼いて、いいの?」
僕は火炎の中に消えた納屋の前で立ち尽くすアスカに訊いた。アスカは頷き、目
元を拭った。
「もう意味無いもん……。」
僕は彼女の肩に、まったく力を入れずに手を置いた。その肩は、徐々に小刻に揺
れはじめた。
「ごめんね……。」
それがきっかけだった。アスカは振り向き、炎の赤い光に金色の髪を映しながら、
僕の胸にしがみついた。そして何度も何度も声を上げて謝った。
僕が、気にすることはないよ、と言ってもアスカはやめる事が出来なかった。ま
るで泣くことをやめることを忘れたようになきじゃくり、謝る事をやめることを
忘れたように謝り続けた。
何度もアスカは母を呼び、僕の名を叫んだ。その声は天空に立ち上るその煙のよ
うに漆黒の暗闇に吸い込まれていった。
僕は彼女の髪を撫で、幼いころに忘れた涙をようやく思い出し、過去を捨てたこ
とを讃えるように――好きだ、好きだ、好きだ――と言い続けた。
「辛かったんだよね……。」
僕は責めない。
僕は君だから。
君は僕だから。
「約束するよ……。」
その自信の欠けた言葉に、アスカは期待と不安が満ちた眼差しを僕に投げ掛けた。
「何年か……何十年か……。それは解らないけど……約束は出来ないけど……。
僕はきっと君に想い出をあげる。君のお母さんが君に遺した想い出よりも暖かい
想い出を……僕は努力して、頑張って……。これまでこんなに頑張った事が無い
くらい……。だけど、きっと君にあげる。」
しかし、僕の告白に、アスカは、頭を振った。
「……なんで……。」
アスカは真摯で真っ直ぐで、一点の曇りもない眼差しで僕を見た。蒼い瞳の中に
僕がいた。
「私だけじゃ物足りないわ……。」とアスカは言った。「シンジも一緒。」
「……僕、も?」
「そう……。私だけじゃ駄目よ。シンジも、想い出を作って……。シンジのお母
さんにも負けない想い出を、私もあんたにあげるから……。」
僕は顔を赤くした。顔が上気した。こんな気分になったのは久し振りだ。
「二人で作っていくの……?」
「……そうよ。」
◆
僕たちは、夜の闇が白むまで体を寄せあっていた。
「綾波に言わないといけないね。」と僕は言った。「父さんや、ミサトさんや、
みんなにも……。」
「うん。」
僕は納屋を見た。納屋は黒い炭となり所々焼け落ちた柱を露にしていた。立ち上
った煙は白いものに変わり、青みが強くなった空に映えていた。
真っ白な雪の上を、僕たちは肩を寄せあって歩いていった。
終
与太話オワタ('A`)
なんか他に書きたいやw
つか、書きながら「母親の思い出」って何だよって思った
苦しい思い出云々って感じにすりゃよかったかな……orz
いやGJです!シンジに泣きつくアスカが切ない…
今度はシンジ誕生日なんか期待してますw
ぐじょーぶ!新作楽しみにしてます
オマイラ、寛大だな
完結してもらえるだけで感謝
213 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:10:16 ID:???
『あいたい気持ち』
シンとした部屋の中、周りが微かに見える程度の明かりが浮かんでいる。
見慣れすぎた天井を見上げる僕は、自分が今どんな形なのかもよくわからない。
窓のない部屋には1日3回食事が運ばれ、それが僕の時計になっている。
・・・寿命が尽きて死ぬまでのカウントだ。
この部屋に入って3年ほどになる。
僕は僕自身の意思でここに来て、ここで暮らしている。
何故なら僕はここでしか生きれないから・・・誰もいないここでしか。
・・・『もしもし、碇シンジさん?』
「・・・はい」
部屋に取り付けられたスピーカーが僕に話しかけた。
一週間に一回ほどのペースで、このスピーカーは僕を呼びつける。
理由はいつも同じだ。
『惣流アスカラングレーさんが面会に参りました』
「・・・寝てるって言って下さい」
『少々お待ち下さい』
ぷつっ・・・
『伝えます「起きてんでしょバカシンジ、さっさと来なさい」…とのことです』
「・・・体調が良くないから無理です」
『少々お待ち下さい』
ぷつっ・・・
『伝えます「アンタたまには違う言い訳考えなさいよ。早く出ないと、この場所弐号機で踏み潰すわよ」…とのことです』
「・・・行きます」
214 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:13:30 ID:???
・
・
「おっ、きたきた!相変わらず汚い格好してるわねぇバカシンジ」
面会部屋の明かりは眩しくて僕は軽く目を細める。
刑事ドラマに出てくるようなこの部屋は、一枚のガラスで真っ二つに隔てられている。
そしてガラス越しに見えるのは今の僕にとって唯一の『会う他人』アスカだ。
「・・・・・」
僕は無言のまま席につき、早くこの時間が過ぎるのを待つ。
「ほほぉ〜相変わらず無視する姿勢を変えないわね!」
「・・・・・別に」
「声ちっちゃーい!!ただでさえ邪魔なガラスで聞こえにくいんだからハッキリ喋んなさいよ!!」
ビリビリと間にある強化ガラスを揺らすアスカの怒声。
「ったく!今日が何の日かわかってんの?アンタは」
「・・・・・」
僕は首を横にふる。
「あ!アンタ部屋にカレンダー付けろって言ったのに、してないんでしょさては!」
「・・・・・ごめん」
「はぁっ、本当にこのバカだけはどうしょうもないバカなんだから…」
1人文句をブツブツ言いながら、アスカは持ってきていた紙袋から紙製の箱を取り出した。
「じゃ〜ん、今日はアンタの誕生日だからケーキ買ってきたわよ!」
「・・・・・うん」
「ふふ〜ん、有名店の一番人気なんだから♪」
アスカがガサガサと包みを開け、出てきたのは綺麗にデコレーションされたショートケーキ。
215 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:14:55 ID:???
「きゃはっ、美味しそうね♪」
「・・・・・そうだね」
「うふふ、食べたいでしょ?」
「・・・・・」
「どうしよっかなぁ〜これ1個しかないのよね。
まあ、そこから出たら食べさせてあげてもいいんだけど♪」
「・・・・・アスカ食べていいよ全部」
「むっ・・・。本当にいいの!?全部食べちゃうわよ!!」
言いながらアスカは、イチゴの隣に乗ったクリームを指ですくってペロンと舐めとる。
「きゃー!美味しい美味しい美味しい♪
・・・こんな美味しいの食べれなくっていいの!?」
「・・・・・」
「ずっとそこから出ないつもり!?」
「・・・・・」
「なによバカ!!バカシンジ!!」
「・・・・・」
顔を真っ赤にしたアスカは手に持ったケーキにかぶりつきながら、僕をキッと睨みつける。
「アスカもう帰りなよ…僕なんかかまわないでさ」
「・・・アンタが出るまで帰らない」
「僕はずっと出ないよ。僕が生きられるのはこの中だけなんだから…」
「いい加減にしなさいよ!!それはアンタが自分で勝手に決め付けて…」
ビギィッ!!
アスカが声を荒げた瞬間、2人の間にある強化ガラスに大きな亀裂が走る。
…いや、僕が走らせた。
216 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:17:05 ID:???
「シンジ…」
「ほら、早く帰ってよ。こんな化け物と関わったりして、どうなってもしらないよ」
「…呆れたわ。アンタどこまでもバカよ!!」
「・・・ごめん」
その後もひとしきり僕へ罵声を浴びせたアスカは、ケーキを1人で食べきり、更に面会時間ギリギリまで延々と僕に罵声を浴びせた。
・
・
・
アスカが帰った後、面会室から出た僕は無言のまま自分の部屋にむかう。
その間の廊下でも人とすれ違うことはなく、いつも通りに僕は目的地に辿り着いた。
そしていつもの暗い部屋で、僕はいつものようにベッドに座り込む。
じっと時間が過ぎるのを待つ。
出来れば何も考えたくない、脳みそなんかいらない。
僕もいらない。必要じゃない。
そんなことがボンヤリと頭を駆け巡る時間。
いつもと同じ、何も変わらない時間だ。
ただ、唯一のイレギュラーがあった。
しばらくして運ばれた夕飯に、いつもとは違う物が添えられていたこと。
それは『誕生日おめでとう。ばぁかシンジ』と書かれたカードと先程のショートケーキだった。
久しぶりに食べたケーキはただただ甘く、食べ終えた僕はいつもより早めに眠りの世界に墜ちた。
217 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:18:40 ID:???
・
・
「気持ちわるい…」
赤い海のほとり。
馬乗りになった僕にアスカがつぶやいた一言。
僕はゆっくりと首にかけた手を引く。
「あ…すか…」
「・・・・・けほっ、いつまでそうしてんのよ」
少しむせこんだアスカは苦しそうに顔を歪ませる。
ハッとなり、その場から跳ねるように立ち上がる僕。そのまま砂浜の上で何歩か後退る。
ざばっ…
瞬間、赤い海から聞こえる音。
そこには波にうちあげられた『誰か』の姿。
「ひっ…!」
ざばっ…ざばっざばっ…
小さく息を飲んだ僕の目に飛び込むのは続々と現れる『誰か』の姿。
「あ…あ…あ…!」
「なによコレ・・・シンジ!?」
アスカの呼ぶ声が微かに聞こえたが、僕は振り払うように走った。
いや…逃げ出した。
218 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:20:30 ID:???
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
誰かが怖かった。他人が怖かった。
だから逃げたんだ。
どこまで走ったかわからないぐらい走って、心臓が信じられないほどのスピードで鳴る。
苦しい…。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!…うぁっ!!」
何度も転びそうになりながら走った。
そして結局転ぶ。
周りにはビルが建ち並んでいる。誰もいないスクランブル交差点のど真ん中だった。
「はぁ…!はぁ…!・・・うぅぅ」
止まった瞬間から汗が吹き出して、ブルブルと全身が震える。
どんなに逃げても、怖くて怖くてたまらなくって、僕は地面で縮こまる。
「うあ…うあ…ああああああああああああああああ!!!!」
ィィンッ!!
叫んだ瞬間、音にならない音が響き、僕の周りの景色が…変わった。
顔を上げた僕は、一瞬何が起こったかわからなかった。
けど、周りに並んでいたビルの一部であろうコンクリートが遠くにとんでいく様子が小さく見えた時、何となくわかったんだ。
周辺の建物が全て紙屑のように吹き飛ばされた。
僕が叫んだ瞬間、周りの物全てが僕によって消された。
そして僕は一気に見通しのよくなった都会の真ん中で、呆然とするしかなかった。
219 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:23:05 ID:???
・
・
「やだな…最近この夢ばかり見てる」
目が覚めた僕は暗い部屋の中、体を起こして布団の上で膝を抱える。
さっき見た夢は、夢だけど現実の話。
3年ほど前の確かな現実だ。
サードインパクトが起きた日、赤い海から戻った僕の体には『いらない力』が宿ったらしい。
膝を抱えていた両手を前にかざし、軽く心で念じる。
ーィンッ!
すると僕の目の前に現れる六角形の心の壁。
そう、あの時周りのビル群を吹き飛ばした力は、僕が発した強力な『ATフィールド』
そしてそれは、僕の体に宿ったいらない力の正体でもあった。
あの後、動けなくなっていた僕はネルフ職員の人に保護され、ネルフの施設で検査を受けた。
色々な科学者の人が、とっかえひっかえに僕を調べたけどもATフィールドについての明確な結論は出なかった。
でも僕は…あの時感情が爆発して、暴発するように現れた巨大なATフィールドが怖くてたまらなかった。
僕が誰かを傷つけることにも繋がるそれが怖くてたまらなかったんだ。
誰かを傷つけるのは嫌だ。
でも僕はいつか誰かを憎んでしまう。
だからきっと僕はいつか誰かを殺してしまいそうで…
だから…誰にも会うことがとてつもなく怖くなる。
220 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:26:12 ID:???
嫌な気分を流したくて、僕はシャワー室にむかう。
この部屋は過去に命令違反をした時入った、ネルフ内の拘留所を少し改装した場所でシャワー室は設置されている。
体を綺麗にするこの時間は嫌いじゃない。
「命の洗濯か…」
ミサトさんは還ってこれたのかな。
結局僕が知ってる帰還者はアスカしかいない。
・・・アスカはよく来てくれる。
僕がこの部屋に入って2年ほどの時、急にひょっこり面会に来た。
『久しぶりねバカシンジ。色々あったけど、そんなのも踏まえて来てやったわよ』
よく意味のわからないセリフと共に現れたアスカは、それからは周1ペースでここに足を運でくる。ノリはいつも軽めだ。
最も僕を憎んいた人間だったアスカが、僕の前で昔の頃のように振る舞ったのがあまりに意外だった。
もちろん何故かという理由なんてきかないし、誰が赤い海から還ってきたかもきけない。
いつもアスカに一方的に喋ってもらうばかりだ。
「ふぅ…」
タオルで体を拭いながらシャワー室から出た僕は、着なれたジャージに袖を通して、いつものようにベッドのよこになる。
ああもういっそ自殺してしまおうか…。
何千回考えたその言葉は、結局言葉の域を越えずに終わっている。
今日も明日も僕は…何事もなく生きていく…。
221 :
パッチン:2009/06/06(土) 20:27:20 ID:???
久しぶりに書きまして、続きます。
シンジ君の大切な日に暗い話でごめんなさいw
いえいえGJ
続き期待してまっせ。
おお、パッチン氏こっちに来てたか。いつも乙
乙かれです。
続き超期待しております。
GJ!
アスカの内面も気になる
投下キテタ!乙乙
なんで2chのLAS作家は、大した分量でもないのに、間を開けるの?
ストーリーを最後まで考えてないの?
住人の反応見て、方向性を変えるの?
>227
作家さんそれぞれ色んな理由があると
思いますが、パッチンさんはきちんと書いて
くれます。続き期待してます。
>>227 投下自体が面倒臭くなって……という不届き者も居るよ
俺の事だが
230 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:02:46 ID:???
『もしもし、碇シンジさん?』
「・・・はい」
『惣流アスカラングレーさんが面会に参りました』
「・・・寝てるって言って下さい」
『少々お待ち下さい』
ぷつっ・・・
『伝えます「だから起きてんでしょバカシンジ、さっさと来なさい」…とのことです』
「・・・体調が良くないから無理です」
『少々お待ち下さい』
ぷつっ・・・
『伝えます「アンタたまには違う言い訳考えなさいよ。早く出ないと、この場所バズーカで…』
「・・・もういいです、行きます」
・
・
・
「あのさ、結婚すんのよねアタシ…」
面会室にやって来た僕を待っていたアスカは、いつもとは違う俯き加減な姿勢で、そう話を切り出した。
「結婚…?」
「うん、結婚するの。悪い?」
キョトンとする僕にむかってアスカは更に続ける。
「アンタには言ってなかったけどさぁ、前からずっと同棲してる奴がいてね。
もうそろそろ一緒になろうかな〜って…」
確かに僕は面会室の外のアスカのことなんて、これっぽっちも知らなかった。
「同棲なんかしてたんだ…」
「まあね、けっこう前からよ。初めてアンタの面会に来た日より、ずっと前から」
僕の中にいた今までのアスカが別人に変化していく気がした。
231 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:03:57 ID:???
「いつ…?」
「一週間後に式あげるわ。ホテルとかじゃなくて教会であげんのよ」
少し笑みをこぼしてそう言ったアスカは一枚の手紙を鞄から取り出す。
「これに式あげる場所書いてあるわ。職員の人に渡すよう言っとくから後で読んでよ」
「・・・僕行かないよ?」
「はぁ…。わかってるわよ、ただ万が一来たくなった時のため」
先日割ったガラス越しに見えるアスカは、いつものような押しがなく、どこか落ち着いた感じに見える。
「でさぁ、アタシもうここに来れなくなると思うのよ」
「・・・・・」
「シンジの所に行こうとすると、『あんな奴になんか会うな』っていつも言われて喧嘩になんのよ」
「・・・相手の人って僕のこと知ってるの?」
「んーまあね。で、結婚もするし喧嘩のタネになるようなことアタシもしたくないしさ…」
俯き加減で申し訳なさそうに喋るアスカ。
僕のことなんか気にしなくてもいいのに。
「最初はね、アンタがここから出るまで粘ってやろうって決めてたんだけど、アンタも頑固だし。
何よりアタシがアタシの幸せ見つけて、その幸せを逃がしたくなくってね♪」
232 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:06:02 ID:???
はにかんで言ったアスカはとても満足そうな表情を浮かべる。
「うん、それでいいと思う。僕のことなんか心配しないでいいから」
「ふふ、おあいにく様。もうアンタの顔なんか思い出したりしないから!」
小さく舌を出したアスカは席を立ち、帰り支度を始める。
「・・・相手の人って誰なの?」
「来たら教えたげるわ」
「その人のこと…好き?」
「世界で二番目かしらね」
「一番は加持さん…?」
「さぁ?誰かしら」
支度を終えたアスカは背をむけて、部屋の扉に手をかける。
『これで最後…』そう思った瞬間、僕は無意識のうちに声を上げていた。
「あ、アスカ…!」
「…なに?」
「・・・あ…。幸せに…ね?」
「・・・・・ばか」
とっさに呼びかけた僕にアスカは、そう言い残し部屋から出ていった。
一人取り残された僕はその扉をボーっと見つめている。
・・・もう二度と会うこともないんだろうか。
さよなら。幸せにねアスカ。
その後、なんだかグルグルと締め付けられるような胸を押さえ、僕はフラフラと部屋に戻っていった。
・
・
233 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:07:42 ID:???
「はぁ…」
夕食と共に届けられた手紙を指で弄びながら、小さくため息。
急に聞いたアスカが誰かと結婚するということ。
そしてアスカがもう僕と会わないと言ったこと。
色々な気持ちが駆け巡るけど、この気持ちはどういう名前で呼ぶものなんだろう。
とにかく、ただただキモチワルイ。
「ふぅ…」
ベッドに仰向けに寝転び、再び小さくため息。
アスカは誰と結婚するんだろう?僕のことを知ってる人で、僕のことを嫌ってる…。
・・・思い当たるふしなんて山ほどある。
だってみんな僕のことなんか嫌いなはずだ。
結局トウジには謝れなかったし、ケンスケとは喧嘩別れしたようなもの。
カヲル君は…手の感触が未だに覚えている。ごめんよカヲル君…。
気付くと僕は泣いていた。
何年かぶりの涙だった。
色んなことで頭が破裂しそうだ。
もうアスカに会えないと思うと…
アスカが誰かと結ばれると思うと…
僕が今まで傷つけた人達のことを思い出すと…
そんな思いで胸が締め付けられるたびに、目の前の『勝手に現れたATフィールド』が、より生き生きと僕を照らす。
この心の壁は、僕を何から守ろうとしているのだろう。
234 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:09:36 ID:???
「でも・・・本当は僕が一番望んだことなんだよね」
ポツリとそう呟く。
もともと僕は誰にも会わない人生を送るためにこの部屋に入って、
アスカがここに来るようになったことは僕にとって完全にイレギュラーなことだ。
いつも僕なんかのせいでアスカに迷惑かけていた。
でもそんなアスカがもう会いにこなくなる。
僕なんかに気を使わないと言ってくれた。
しかもアスカは結婚して幸せになる。
・・・全て素晴らしいことなのに、再び思い返せば更に胸が痛いのは何でだろう。
ふと僕はもう一度手紙に目を移す。
・・・行けばこの気持ちの正体がわかるのかな…。
この部屋を出て、招待された結婚式に出向くことが頭をよぎる。
・・・誰かに会うのは怖いけど。遠くから見るだけなら大丈夫かな…
何より今までわざわざ来てくれたアスカに出来ることといえばこれくらいしかない。
「・・・うん、行こう。これを最後に」
でもどうやって教会まで行こう。車も電車も使えな…!
思った瞬間、目の前でぼんやり揺れていたATフィールドが僕を包んで…
「うわっ…!」
そのまま僕はフワリと宙に浮いてしまった。
「・・・・・はぁ…。空まで飛べちゃうなんて…本当に化け物だね」
235 :
パッチン:2009/06/13(土) 23:13:07 ID:???
今回ここまでです
>>227 すいません書くの遅いんです。1日1レス分を目安にやってますw
前回投下分も誕生日ギリギリに書き上げたんで、書きためも出来なくて…(言い訳ばっかり)
破の公開までには終わると思います
乙かれです。
この先の展開マジで楽しみにしております。
>235
乙乙
アホはスルーでOKよ