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「スキューバダイビングを初めて体験しました。沖縄の海はたいへん美しく
別世界のようです。沖縄は前のセカンドインパクトで最大の被害を受けた処で、
そのほとんどが失われてしまったのだそうです。いまは政府が管理していて、
許可がなければ立入りができなくなっているので、自然が手つかずの状態のまま
残されているのだそうです」 (右同)
「今日、アスカさんから家事さんを紹介されました。かっこよく素敵な人だと
聞かされていたのですが、私はどうもなじめませんでした。歳が離れすぎているし、
女性にだらしなく不潔そうな感じがしました。それに加持さんと連れの女性は
いい関係なのではないでしょうか。アスカさんは適当に子供扱いされているような
気がしてなりませんでした。
アスカさんは同い歳の男が苦手のようですが、鈴原もいいとこあるんだなあと
思いました。鈴原は、修学旅行に行けなかったシンジたちのために、パーティを
開いたんだと思います。だから葛城さんがシンジの代わりに、アリガトウっていったんです。
それを相田君が葛城さんのためにやったように装っているのです。本当にやさしさと
思いやりの気持ちがなければできないことだと思いました」 (右同)
「ヒカリから男の子を紹介されました。このあいだ加持さんを紹介したお返し
のつもりなのかな、年上の美形が好みだと思いこんでいるようだけど、男はみんな
嫌いなだけなのに。たぶんその男はヒカリのことが目的で、ヒカリはそれを断わり
たいのね。まあ、これも人助けだと思って引き受けたんだけど。本当はヒカリは三バカ
の鈴原が好きで、それで私とカチ合うのがいやなのよね。これも私が加持さんと
うまくいってくれればこんな面倒なことにならなかったのに」 (byアスカ)
「ヒカリが鈴原のことで悩んでいるようだけど、自分の気持ちをストレートに伝えれば
いいのに。日本人は相手に気持ちを伝えるのがほんとにヘタね。でも鈴原のことを
<やさしい>」って思う感覚がわかんないわ。シンジのことをナイーブって思ったり、
鈴原と優等生が仲いいって考えたり。……鈴原もチルドレンに選ばれちゃうし、なんか
先ゆき不安よね」 (Byアスカ)
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リーダーとしての自覚
「委員等は何かというと、規則を守れとか、プリントを届けろとか、掃除を
まじめにやれとか日誌をつけろ、机を並べろとか、うるさいことばかり言うので、
絶対に嫁にはしたくないタイプやで」
「それにアイツのいい方には愛情ちゅうもんが足りないんや。この中にはそいつなりの
理由で規則を守れんかったり、みんなに追いついて行かれへん奴もおるんや。それを
頭越しに叱っても、そいつを否定するだけで何も生まれへんのや。そいつの立場に立って、
そいつにとって必要なことを、認めてやらなあかんのや」
「シンジはいま、綾波を必要としとるんや。心の支えが必要なんや。自分から綾波に
何かしてやらなあかんのた。それに阿多波も支えたい人を捜しているんとちゃうやろか。
綾波はこれまで独りでエヴァを支えてきたのに、いまはそうでなくなっとる。綾波は
他人のために何ができるかを模索しとるんや。だから独りでいる綾波の所に男女で仲良く
押しかけて行ったら、綾波が傷ついてしまうやろ」
「わしにとってメシ食うことは、机や日誌よりも大切なことなんや。これはわしの
新年なんや。委員長は、わしが昼メシを食いそこねたことを、心配してくれてないんや。
けど委員長の厚意を無にすることはでけへん。これも、わしの信念や。けど委員長の弁当は
わしのために作ったものではないかもしれんのや。
そなまごころのこもってない弁当は、わしにとっては残飯みたいなもんや。なんで、
わしのために作るといえんのや。せやないと弁当を学校に持ってこれにわしがみじめやないか」
「委員長は人に命令するけど、一緒に手伝うということをしたことない。委員長は
クラスの代表であって、管理者でも支配者でもないんやで。代表は他人の立場になって、
みんなの声を代弁せなあかんのや。せやないと、みんなからリーダーとは認められんのや」
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「わしらが委員長のことを名前で呼ばないのは、委員長が公務のことから頭が
離れへんからや。学校からわしらのこと監視するようにいわれてるのやろけど、
わしのために見舞いにきたというてくれたら、どんなに嬉しかったことか。
最後まで委員長のこと、洞木ヒカリって呼ぶことあらへんかったなあ」 (鈴原トウジの手記より)
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ヒカリとアスカ
「私はEVAに乗って勝ち続けることによって、自分の未来を見つけられると思っていた。
EVAに乗ることで自分の将来が約束されると思い込んでいた。
でも現実は違っていた。
EVAに乗っている私は、このTVゲームのようなもの。いくら勝ち続けてもTVの外に
出ることはできないもの。そしていつかは、ゲームと一緒に捨てられるの。その時が来るのが怖いの。
シンジにEVAで勝っても、何にもならないの。私の望んでいたモノはもう手に入らないの。
でもシンジに負けたらシンジにも捨てられるの」 (アスカの手記より)
[解説] 残酷な天使
ヒカリは傷心のアスカをなぐさめてしまう。今のアスカに必要なモノは希望なのだ。なぐさめの
言葉が、その優しさが、アスカを絶望へと追いやる。
EVAにしか乗ったことのないアスカは他のことが何もできないし、その自信がないのだ。
そしてEVAに乗ってるかぎりだれもがそのことを気にも留めてくれない。人とのつき合い方が
わからなくても、料理ができなくても、おフロの沸かし方すら知らなくても、だれも何も言わない。
ヒカリでさえも気がついてくれないのだ。他人とわかり合えることができないアスカに
希望など持てるはずもなかった。優しさは時として残酷な結果をもたらすことがある。それは、
ヒカリが、本当の辛さを知らないからなのかもしれない。
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碇シンジに絶望したアスカ残された最後の希望は、フォースチルドレン鈴原トウジ
だけになってしまった。
トウジは女であるアスカに対していろいろと注文を付けてばかりいた。アスカは、
トウジがいやなヤツだとばかり思っていた。
しかし、トウジはアスカをEVAのパイロットとしてではなく一人の女の子として
扱ってくれていたのだ。そしてアスカにとってもトウジははじめて出会った等身大の
男の子だったのだ。アスカは男の子がみんな嫌いだっただけなのだ。だから男である
トウジを蔑視していたのだ。それに自分のほうが優れているといううぬぼれもあったのかも
しれない。
トウジがフォースチルドレンに選ばれた時、アスカは加持さんがパイロットとしても
アスカよりシンジやトウジのほうに興味があると分かった時、どうしてこんなヤツらと
比べられなければいけないのかと、イラついてしまった。しかし現実にはアスカはトウジ
にも負けてしまった。そしてシンジはそんなアスカを見捨てて、EVAを放棄してしまった。
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人間のクズみたいなシンジにすらアスカは及ばないのだった。
アスカはシンジにばかり気を取られ、トウジの存在に気がつかなかった自分に、
後悔していた。「トウジが自分のことが好きで、チョッカイ出しているってことに
何で気がつかなかったんだろう。人とのつき合い方知らなかったのは私のほうね。
でももう遅いの」アスカにはヒカリからトウジを奪い取ることなどできるはずがなかった。
アスカにとって加持さんは、すでに現実の人ではなかった。加持さんはアスカの
心の中にいた。アスカは加持さんが「自分は人を殺してまで生き延びようとは思わない。
それが僕の生き方なんだ」と言っていたことを憶えていた。
アスカは自分が加持さんを汚してしまう前に、きれいなままで死にたいと考えていた。
でもいくら洗っても心の汚れは落ちないのだった。「加持さん、私の心が汚れてしまったのよ」
心の汚れが落ちないアスカは死ぬこともできないのだった。
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日本の未来を担う少年・少女の育成に関するプログラム
(ヒカリの父が作成した人類補完計画・日本政府素案)
セカンドインパクトとその後の状況については、あらかじめほとんど予想
されていたことである。その原因は生き残ったわれわれが、この問題を解決
していくのはむずかしいであろう。間違いを犯した老人を排し、新しく生まれて
くる老人に希望を託そうではないか。
セカンドインパクトを体験した者にはトラウマがあり、前向きに生きられなかったり、
他人を信じることができないからだ。他人に疑惑を抱きながら、どうして明るい未来を
創造できるだろうか。原因を作ってしまった老人たちは退きさがり、
新しく生まれた人間が、これからの世界を構築していけるように、われわれは
準備しよう。
これからの日本は、新しい若人の手で作られるべきだ。第3新東京市を
新首都とし、新しく生まれた人たちが、新しい町を作っていくことを望む。
セカンドインパクト後に生まれた少年少女に、日本の未来を託す。そこに
優秀な人材を集めて、その中からこれからの日本を背負って立つ人間が
生まれてくるのだ。第3新東京市は君たちの町だ。未来を作っていくのは
君たちで、それは確実に君たち自身の手でやれるのだ。それをすべて、
そっくり君たちにあげよう
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実はこのことから、あの話が始まるのである。当然、その若者たちの中から
総理大臣が誕生し、政治家も建築家もエンジニアも生まれるし、彼らが国家の
基盤になってゆくのである。
土岐に二〇一五年、十四歳に成長した子供たちは、古き良き日本の伝統を
守りつつ、新しい未来を築いていけるのだろうか?
「公式発表や見せかけの情報にだまされてはいけない。信用できるのは、正確な
情報収集と自分の分析能力だ」
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相田ケンスケ
ケンスケの父は特務機関ネルフに勤務していて、情報関係の仕事をしている
らしい。表向きは総務ということになっているのだが、幅広い交友関係や豊富な
知識は、ケンスケの推理を確信するに至らしめていた。
セカンドインパクト前は在日米軍に勤務していて、現在も旧友との交流を温めて
いる。園管圭でケンスケは、幼い時から米軍の戦艦や戦闘機に乗りこむという特権に
あずかっていた。当然、ケンスケの軍事知識はハンパなものではなく、父もケンスケに
惜しみなく必要な物を買い与えていた。
しかしケンスケの特技はなんといってもコンピュータである。ケンスケのプログラミング
能力は天才的として知られており、ハードウェアの技術も相当なものである。彼の名を
世界中に知らしめたのは十二歳の時。侵入不可能とされていた米国国防総省のメインコンピュータ
のハッキングに、やすやすと成功してしまった大事件である。これによりケンスケは、
UN関係者の目にとまることになる。
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ケンスケは人見知りする性格ではなかったが、思ったことをストレートにいう
ところがあり、また彼の明晰な頭脳と大胆な行動に追いていける友人も少なく、
ケンスケは孤独になりがちだった。
そんなケンスケにとって、トウジの存在は特別なものだった。トウジは当初、
自己中心的で、仕事や授業をサボリがちなケンスケに敵意を持っていたが、ケンスケ
の事が少しずつわかってくると、ケンスケに好意的になった。
「ケンスケにとっていいと思うことは、思い切りやればいいんや。わしが応援したるから
安心せい」といって、トウジはケンスケを励ましてくれた。そのトウジも恐そうな外見と、
間違いを許せない性格から、近寄りがたい奴と思われていたが、人見知りしないケンスケとの
接触によって、実は他人思いのいい男だということがみんなに知られるようになり、
クラスの人望を集めていった。
しかしケンスケにとって、トウジは必ずしも親友というわけでもなく、他に適当な友人が
いないので仕方なくつき合っている、という感じだった。
ケンスケは委員長にいわれて、プリントをトウジに届けていないことを思い出した。
トウジがずっと留守なのは知っていたので、届けに行ってなかったのだ。トウジの家族のことは
興味がないのでよく知らないし、こないだのロボット事件で怪我したのだと思ったが、
心配したところで怪我が治るわけでもないので、気にも止めていなかったのだ。
それよりもケンスケは、ロボットのパイロットがだれなのか。それが気が気ではなかった。
国連が密かに戦闘用ロボットを作っているらしい、ということは父のデータから予測できて
いたから、そのパイロットになりたいと考えていたからだ。
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父が勤務するネルフは非公開組織で、活動内容は最高機密だが、そのことはケンスケ
に「ここで戦闘用ロボットを作っているに違いない」と確信させる材料になっていた。
また、壱中は優秀な子供が集められていると委員長から聞いていたので、「自分には
その資格がある。いや自分こそ適任者だ」と、勝手に思いこんでいた。
謎の転校生は二週間、だれとも会話をしないようとしなかった。そのことはかえって、
転校生が例のロボットの関係者であり、秘密を外に漏らさないようにしているのだ、
とみんなに思わせていた。
ケンスケは明らかに転校生に対して嫉妬していたが、それよりも問題なことがあった。
前の事件で、軍の信用はガタ落ちになっていたのだ。三沢(青森県)や九州の部隊まで
出動したということは、UN軍が大苦戦をしたことを意味している。軍関係の友人も
みな疎開してしまい、ケンスケは理解者を失ってしまっていた。
軍が当てにならなとわかると、現金なものである。昨日まで人気者だったケンスケに対する
風当たりも一変して強くなってきた。例のロボットが<正義のヒーロー>なのか、反対に
事件の張本人なのか判断しかねていた。いずれにしても、ケンスケの存在価値に
関わる重要な問題だった。いま、転校生の正体を明かすことは得策ではないと思えたし、
それにそんなことはリーダーであるトウジに任せたほうがよいと考えていた。
E事件の生き証人であるトウジが久しぶりに学校に出てきた。相田ケンスケの手記は、
彼とトウジとの関係やケンスケ自身の性格や情報分析能力を知るうえで貴重だから、
しばらくその手記を眺めてみよう。
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『例の事件で妹が大怪我し、ずっと看病していたのだという。二週間も放ったらかしておいて、
すまないと反省している。しかしロボットのパイロットがヘボで大暴れしたというのはビッグニュース
だ。これなら自分がパイロットになるチャンスが十分にあるということだ。それに奴もみんなの前では、
大きな顔はできないだろう。願わくば自分にだけこっそりとロボットの秘密を教えてくれないだろうか』
『今朝、クラス編成があった。人数が減ったため、ABCの三クラスを合わせたのだ』
こういう場合はえてして縄張り争いが起きるものだが、トウジの存在がそれを許さなかった。
トウジは学校中に認められていた。先生もトウジには一目置いていて、服装のことも注意しようと
しなかった。それどころか、「末は親文か総理大臣」と妙なほめかたをする始末であった。
今朝のクラス編成も、トウジが登校するのを待って行われたと見るべきだろう。事実、トウジは
喧嘩やいじめを許さなかった。
「みんなで仲良くすればいいんや」とトウジにいわれたら、だれも逆らうことはできなかった。
しかもトウジは常に弱い者の味方をするのでみんなから愛され、そして信頼されていた。
そんなトウジだけに、妹の怪我は辛いのだろうが、転校生がトウジに詫びを入れれば
「おまえも辛いだろうけど、今度から頑張りや」と、許すだろうとケンスケは思っていた。
「トウジが学校に出てきてから一週間たったが、転校生は相変わらず沈黙を守っている。
女子生徒の話題はロボットのことばかりだが、話しには尾ひれがついてヒーローあつかい
してしまっている。情報を公開しないから、こんなことになってしまうのだろう。もっとも現在、
戦争をしているのだという認識にとぼしいから、この街に止まっているわけなんだけども」
今度は、みんな死んでしまうかもしれない。トウジもそのことはわかっているから、我慢している
のだと思う。しかし、あいつがヘボな操縦をしてみんなが死んでしまうのは、どうしても納得がいかない。
せめて自分の手で、あのロボットを自由に操って、それから死にたいものだ」
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転校生は授業中、みんなにロボットの秘密をバラしてしまう。
「どうして、俺だけにこっそりと教えてくれないのか」
ケンスケは不満だった。軍事マニアの自分が知らないことがある、ということが
許せなかった。自分の密かなプライドを大きく傷つけられた思いだ。操縦が未熟で
大きな被害を出した奴が、無意味にホメられているのも納得がいかなかった。
「みんな本当のことを知らないんだ。これも全部、報道管制がいけないんだ。ああ、
俺は本当のことを知りたいんだ」
ケンスケはいらいらしていた。
「それにしても、最高軍事機密を簡単にもらしてしまうとは、まったく信用のおけない奴
だなぁ。場合によっては、極刑もあれることではないか」
ケンスケは、トウジに転校生をなぐってほしいと思っていた。
「トウジはよく我慢しているよな。パイロットがヘボだということをだれにもいわないで
いたし、転校生を吊し上げるなんてこともしない。むしろ、かばってやっていると思える
ほどだ。悪いのは大人のほうで、アイツに罪はないということなのか? それをアイツは
トウジの恩を仇で返すような真似をしやがった。これは万死に値するということだ」
そしてケンスケの思いが通じたように、トウジは転校生をなぐってくれた。
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「君はルールを破ったのだ。君はなぐられて当然のことをしたんだよ。まあ、トウジの名誉
のため、妹の怪我のせいだってことにしとくけど、これは君のためでもあるんだよ。トウジは
さっぱりした奴だから、君があやまりさえすれば許してくれるはずさ。もしトウジがシカトする
ようなことにでもなったら、君は学校のだれからも相手されなくなることになっていたんだよ」
だが転校生は、トウジに悪態をついてしまう。これは、信じられないことだった。
「なんということだ。せっかくトウジがうまく収めようとしているのに、トウジを本当に悪者に
してしまうなんて。これでは、トウジがあまりにもかわいそうだ。トウジはあえて汚れ役を買っている
というのが、わからないというのか? なぐるほうだって辛いはずなんだぜ。なぜ、トウジの心を
わかってやろうとしないんだ」
転校生はトウジを完全に怒らせてしまったようだ。それにしても転校生は、みかけによらず強情なようだ。
たぶん、他人のいうことは聞かないだろうし、自分の間違いも認めないだろう。トウジと転校生の関係修復は、
容易ではないように思える。
トウジは転校生のことを気にしているようだった。というよりも、奴に理解されなかったことと、転校生が
トウジに心を開いてくれなかったことが大きいようだ。トウジはああ見えても、本当は転校生を温かく迎え入れて
あげたいのではないだろうか。
その理由は、綾波レイだ。彼女が一年の時、転向してからずっと友だちができずに独りで
いるのを、トウジは気にかけていたに違いない。だから今度は、うまくやろいうと思っていたのだろう。
転校生はすべてを独りで抱え込んでいるようであった。
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――本日、謎の敵、再び襲来するも、われわれ民間人はまたしてもその姿を見ることは
許されない。
トウジは、謎の敵と転校生のロボットの戦いを見たいと思っているようだった。いや、トウジは
真実を見なくてはならない。誘いをかけるとトウジは、あうんの呼吸で受けてくれた。さすが
親友というべきか。「しゃあないなあ」などといいながらも、本当は誘われるのを待っていたはずなのに、
見かけによらずシャイな奴なんだよ、トウジってさ。
それに意外なことに、トウジはネルフのことを信用しているみたいだった。妹の怪我とは
別のことだ、と割り切ることができるということか。
かくして、相田ケンスケとトウジはこの機を逃がすことなく、決死の冒険に旅立ったのだ。
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[解説]
VTOLの模型
第壱話で、ジオフロントでUNが直接指揮をとっていたことになるから、UNの幹部(五十歳前後)
は、第3新東京市に住んでいたはずである。そしてその子供は中学生くらいだから、第壱中学で
ケンスケと友達だったはずである。
ケンスケが第参話でUNのVTOLのプラモを持っていたことからケンスケはUN派の
リーダーであり、学校のネルフ派とは対立していたことが、うかがえた。
そしてロボット事件によりケンスケはすべての友人と自分の立場を失ってしまう。
「まあね」 その一
生のドンパチが見られるのはいいが、UN軍がやられたのではシャレにならない。実は
あまりうれしくないのだった。
シンジの方を向いてない四人
第参話。シンジがパイロットの秘密をバラした時、ケンスケ、トウジ、ヒカリ、レイの四人だけが、
シンジの方を向いていない。
このとき四人の気持ちは一つにまとまっていたのだろう。後にこの四人が恋愛の感情を持つように
なることの伏線になっている重要な場面の一つだ。
「二度もどったりして」
トウジに殴られたシンジに「悪いね…」と言いながら片目だけつぶるのは、本音は「ザマーみろ」
と思っているからなのだ。そのあと自分が悪いわけじゃないと言い訳しているのである。
一発殴られるのは当然と考えていたケンスケだが、二発目は余計だと考えるあたりが
ケンスケの憎めないところなのだろう。