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時に西暦二〇一五年、第3新東京市にある第壱中は平和な時を過ごしていた。
将来日本の首都となるこの街には、優秀な人材が集まり画期があふれていた。
壱中にもこれからの日本を背負って立つ若者が集まっていたが、中でも
トウジ、ケンスケ、ヒカリの三人は「末は博士か大臣か」と期待されていた。
彼らは希望の光で満ちていた。
そんな彼らの元に、謎の転校生がやって来る。転校生は自らのことを、
世界を救うエリートパイロットだという。トウジだちは秩序を乱す転校生と
初めは衝突するが、やがてうち解け合い、あこがれや孫圭を持つようになった。
しかし転校生は、町に戦いを持ち込み、街を壊し、学校を壊し、友人を
傷付けていった。
ケンスケとヒカリのあこがれと孫圭は現実へと変わっていった。そして
二人は、自分たちには、エリートパイロットも戦闘ロボットも必要ないことに
気がつく。
二人は自分達の未来は、自分達で築いていこうと誓ったのだ。
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洞木ヒカリ
ヒカリの父は都市計画と仕事をしていて、第壱中の設計にも大きく関わっている。
政府とのつながりもあるらしく、「未来を担う人材を育てる」という目的で、日本中
から優秀な人材を集めるプロジェクトの責任者もしているそうだ。もっとも、
ヒカリの父にいわせると、
「自分たちの子供にハクをつけるためのプロジェクト」
なのだそうで、子供のために多額の寄附をして子供を入学させる親も
少なくないのだという。傑出した人材がこの中から排出すれば、
このプロジェクトは成功といえるわけで、そのための環境を
ヒカリの父が設計しているのだ。
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ヒカリの父にいわせると、人間を育てるためには「自然が不可欠」で、
壱中が郊外に位置して、建物の造りも近代的からはほど遠くレトロな造り
なのも、その考えが反映されたものだ。
壱中の校風「独創」や「自由」をうたっていて、校則なども少ない。
詰込みの記憶方式の勉強は役に立たないとして、人間教育や道徳教育
を中心に個性的な活動を推奨している。
しかし、立場上委員長を強制させられている洞木ヒカリにとっては迷惑な
話で、ジャージ姿で授業を受ける少年や授業を休んで戦艦を見に行く少年が
いたりし頭が痛いのだった。
父からは、「才能のある人と友人になるのは、ヒカリの将来にとって大きな財産」
になるはずだから、できるだけ友だちになるようにしなさい」といわれていたが、
いまのヒカリには「規則を守らない変な人たち」としか思えなかった。
校長先生からも、「才能のある生徒は大切にして、よく面倒を見てあげてください。
そして彼らの行動や態度は先生に報告するようにしなさい」と指示されていた。
ヒカリは「いやな仕事だな」と思いつつ、「公務だから仕方ないか」と割り切る
ことにしていた。
ヒカリ姉妹は幼い頃から、「これからの時代は君たちが作っていくんだよ」と
父にいわれ続けていたし、常に学校や子供会の代表を務めさせられていた。
そのせいか自分でも気がつかないうちに、大人の顔色をうかがうような子供に
なってしまっていた。大人が作った規則を守ろうとするのは、大人のプレッシャー
を受けてしまっているからなのかもしれない。ヒカリは、自分たちが次の時代
を担うという実感を持てなくなっていた。