95ページ 〜 96ページ
「すり込み」と「母性本能」
エヴァには動物の本能を利用したいくつかのテクノロジーがある。
それは、「すり込み」と「母性本能」だ。
すり込みとは動物学用語で、動物の赤ちゃんは最初に接したものを自分の親だと
思い込む習性(本能といっていい)がある。ライオンの仔でも、生まれてすぐに人間の手で
育てられると、その人間を親と思い込んでしまうのだ。それと同じで、エヴァンゲリオンの
場合でも幼い素体が最初に乗ったパイロットを自分の親だと考える特性がある。
それゆえ、親の命令を素直に聞くように動く。
したがってパイロットは、親と認知できるようなある程度の年齢に達していなければならない。
つまり大人でなければならない。
同時に母性本能の方は、パイロットが危機に陥った場合、または素体が体内に
異物を認知した場合、それらを自分の子供だと思い込む特性だ。この時のパイロットは
子供でなければならない。
この相反する「大人でもあり子供でもある」という年齢を考えると、十四歳しかない。
ちなみに、パイロットが子供ではないと認知した場合、パイロットはエヴァに
食べられてしまう危険性がある。あるいはパイロットを守ろうとする力が、時として
暴走として現われてしまうのかもしれない。逆にいえば、その時にしか力を解放しないのかも
しれない。見方を変えれば、一種のプロテクターの役目を果たしているともいえる。
つまり、子供であるパイロットが乗っている時には、親としてそれを守る力が働き、
本来の力を抑えているのだ。
子供であるパイロットが乗っていれば、常に暴走してしまう可能性がある。ということは、
暴走させないために子供のパイロットを乗せているのである。
エヴァにパイロットとして乗れるのは「十四歳」だけであり、成長し大人になった者は
自然にパイロットでなくなり、エヴァは動かなくなる。「十四歳の精神」を持った者しか
エヴァのパイロットにはなれないのである。
96ページ 〜 97ページ
アスカがなぜ動かなくなったかということで種々な推論がある。その一つに、
アスカが大人になったからという説がある。シンジはいつまでも子供であるために
パイロットでいられるのだ。
〔注〕
アスカのシンクロ率が最後にゼロになったのは、リツコ、ミサト、加持に対する
信頼関係がなくなってしまったからと思われる。
パイロットには、いくつかの条件がある。まず第一に、強い意志を持つこと。
プライドとアイデンティティである。第二には、三つの方向を見渡せる広い視野を
持っていること。これには三人、三種類という意味がある。素体・コンピュータ・MAGIとか、
三人の連係プレーといったものである。常に三者が調和していなければうまくいかないのだ。
そして最後に、強い母子愛。
母を愛する、自分の子を愛せるという意味である。エヴァの持つ特権である母であり子でもある
ということに適合できなければ、エヴァは動かないのだ。以上の三つを総合すると、
「まごころのある人」ということになる。
映画のタイトルが「まごころを君に」。
エヴァンゲリオンを操縦するには、「まごころ」が必要なのだ。この場合のまごころは、
温かい心というよりは、自分の心をストレートに伝えられる嘘いつわりのない真実の心
という意味である。それがプライドやアイデンティティにつながるのだ。自分自身が
こういう人間であると、自分で認めるという心である。同時に相手の心をストレートに
受け取れるということだ。愛や友情や調和ということである。
97ページ 〜 98ページ
自動書記――人格代理プログラム
成長したエヴァンゲリオンのコンピュータは三つの機能を追加する。一つめは「読み取り」、
二つめが「コピー」、三つめが「書き込み」である。
これらは順に進化していった形であり、初期の段階では人の手で入力し、次の段階に
なると、メモリーしてある物をコピーできるようになり、さらに追加すると自動書記機能が
可能になった。
自動書記では、パイロットの性格・人格でデータを処理できる。データバンクの中から
必要なものを読み取り、それを組み合わせて、自分にもっとも適した形で書き込む作業である。
自動書記機能が使えれば、書き込み作業を省略したり、技の伝授といったことも可能となる。
具体的には、アスカとレイのデータが入ってくる。また、アスカのたくさんの行動でデータを
シンジに移植する作業ができる。さらにそれは、シンジのデータバンクに移植するのみではなく、
シンジが使えるようにアレンジもしてくれる。このアレンジする機能が自動書記なのだ。
これまでの機能では、アスカのデータを丸ごと移すかピックアップするかしかできなかったが、
人格コンピュータでは瞬時にピックアップし、それまでのシンジの技と組み合わせることまで
可能になる。そこで合成された技は、新たにシンジのデータバンクに書き込まれていく。
これをくり返していけば、複雑な技をどんどん自主的に開発し、生み出していくことができる。
要するに、コンビネーションである。
余談になるが、このシステムはAとB二者の相性診断をやることもできる。
たとえばA(シンジ)の行動をB(アスカ)のバンクに移した時、Aの行動を見たBが、
「アンタバカ」「フケツ」「スケベ」と書き込むこともある。これこそ、人格コンピュータ
ならではの技といえる。
トウジがフォースチルドレンに選ばれたというのも、MAGIがトウジとアスカの相性が良いと
判断したためだ。つまり二人ともお互いを好きだということさ。
98ページ 〜 99ページ
さらにシステムが進化すると、AとBとの未来のビジョンとして見ることも
可能になるのかもしれない。
自動書記の利点は、戦闘中に書き込みができ、それを新たな作戦・戦術として
展開することが可能な点にある。戦闘中に新しい技を開発できないのであれば、
恐らく無意味で無価値なもので終わってしまう。開発できない場合、一度帰って
データを打ち直す必要がある。これは第参話の中であったことだが、これでは
現実的とはいえない。
第参話の中で、ミサトが「出直しだから一度帰れ」といったのは、恐らく
この初期の時点では、自動書記機能が使えなかったためだ。使徒と戦うのが目的であり、
その戦いの最中にも関わらず、「帰れ」といわしめたかという疑問は、
このように考えれば解けるのである。
第参話のあの時点で、敵の動きに合わせてデータを書き換えなければ書けない、と
ミサトは考えたのだ。ところがシンジは戦いを続け勝ってしまう。つまりこの時点で、
初号機に自動書記機能が働いたとも考えられるのである。必要だから、進化したのである。
99ページ 〜 100ページ
認識について
人格コンピュータによるパイロットの思考パターン分析能力を応用していけば、
エヴァには誰が搭乗しているかを、外部から認識できるのではないだろうか。
パイロットのクセ、動き、考えなどは外に表出しているし、さらにパイロットには
固有の音や匂いがあり、それらを嗅ぎ取って、誰が乗っているかを判断できると思われる。
第18話では、綾波が参号機を見ただけで、トウジが乗っていることを直感できた。
という事は、綾波がトウジの固有運動を認識している証拠である。認知を可能にしたのは、
エヴァ自体の応用力と、綾波がトウジのことをよく知っていたからだ。よく知っていた――つまりは、
綾波がトウジを好きだったという事にほかならない。
これに対してシンジは、最後までトウジが乗っていたことに気づかない。演出上のことで
あると考えた上でのことだが、シンジはトウジをよく知らないし、トウジの思考パターンや
性格を理解していないのである。だからシンジは、トウジを傷つけてしまった――という結果をまねく。
この時、実際にはダミープラグが働く。今までのデータから推測すると、ダミープラグには
シンジの思考パターンが入っている可能性が高い。シンジの思考パターンがエヴァを通じて綾波の所に
バンクされているので、シンジの人形(ダミー)を作ることはそれほど難しいことではない。
そして初号機が人形をシンジと認識して作動したと解釈すれば、まったく不自然ではないだろう。
では、あの狂暴性は何なのだろう。
あれこそが碇シンジの本性である、というよりほかに適当な表現が見つからない。これまでは
初号機の中にバンクされていたシンジのデータを、OS機能を使って取り出していた。ところが
システムを完全に開放した状態になった時、OS機能が働かず、碇シンジその物が全て曝け出された
といえる。シンジの性格その物が解放されたのだ。
100ページ
シンジは、実は残忍で冷酷な少年であった。シンジはトウジを友人だと思い込んでいたが、
彼の本体内部では、トウジを真の友人とは認識していなかった。シンジ自身に対して、
「トウジはどんな男か?」「トウジの事をどれほど知っているか?」と問い掛けてみると、
恐らく何一つ答えられないだろう。こうなると、コンピュータシステム上では到底、
仲間とは認知できないのである。
ところで、ダミープラグは綾波レイの人格である可能性も少しは考えられる。となると
初号機には綾波レイの人格(性格)が入っていいるという事になる。相互互換テストの時に
データを入れ替えているので、綾波にも初号機は取り敢えず動かす事ができると思われる。
しかし書き替えはしていないはずだから、綾波がシンジのバンクを動かす事になる。だがやはり、
シンジのデータでシンジの本性が出てきたと考えた方が、演出的にはよいのではないか。
101ページ 〜 102ページ
想像の脳と記憶の脳
エヴァの素体からユイのイメージがシンジに送られてくるが、だからといって、
ユイの魂がエヴァの素体の中に入っていると考えるのは短絡的すぎる。
素体は、初め幼く、脳も体もできていない状態からスタートした。その状態で
仮に母親の脳がそこにあったとしても、人格まで母親の物になっているとは考えられない。
歩けるようになり、脳が脳として機能するようになるまで、半年ぐらいかかっている事を
考えたとき、それが出来上がった時点で、ユイの魂がそこに入っているとは考えられない。
むしろ、シンジの中にある母のイメージがバンクの中に入り込んでいる――つまり、シンジが
勝手に作り上げた母親像ではないか。これは、すり込みに極めて近い物だ。
母親像は、シンジが創り上げた物だが、ここにはミサトやレイやアスカの存在もちらちらする。
三人を合成したような母親のイメージではないか。もしも、母親のイメージがシンジの内に
伝わって来たのだとすれば、それはシンジ本人の脳細胞や記憶の中に入っているイメージだ。
エヴァのインターフェイスが、シンジの脳の内に入り込んで、そのデータを引き出していると
推測される。忘れていた母親のイメージをシンジの記憶の底から引っ張り出して来たのではないか。
概念的には、シンジの中にもう一人のシンジがいると考えられる。
つまり、想像脳と記憶脳という二つの脳が存在するという事だ。想像の脳は、ミサトやアスカから
実在しない母親を作り出し、記憶の脳からは実の母親を抽出して来るのだ。そしてもう一つ。
このどちらの母親像が正しいのかを考えるシンジ自身の脳が存在する。シンジの脳は、
想像の脳・記憶の脳・思考の脳の三つに分かれているのである。これもまた、MAGIシステムの
テクノロジーの応用の一つと言えるだろう。
ここで一つの疑問が浮かび上がってくる。エヴァの中には、果たして本当に「母」が
いるのだろうか。パイロットを騙して育てさせ、成長した後はパイロットを食べてしまう、
なんて事はないだろうか。
103ページ 〜 104ページ
魂について
インターフェイスは、父のデータと母のデータ、そして適性があると判断
されると、インターフェイス内で心を象ってゆく。と同時に、体を動かすための技を
自動プログラムしてゆく。一方、ボディを管理するコンピュータはボディを成長させつつ、
心・技・体という形で、より成長発達させていく。こうして心・技・体の三位一体のコアが
形成されるのである。
コアをパイロットが育てると魂が出来上がる。ゲンドウとユイとは血のつながりが無いので、
育てる事は出来ないのだ。ユイを育てることが出来るのはシンジだけなのだ。
魂のデジタル化を考えるとき、やはり父母両方の魂は不可欠なのではないだろうか。
綾波レイだけになぜ魂が存在するのかを考えると、ユイとゲンドウの両方の魂が介在して
初めてできる物で、ユイだけでは恐らく魂は形成されない。ゲンドウの魂を入れる事によって
初めてコアが形成されるのだ。
綾波レイのボディを器にしたユイとゲンドウの合同体(のような物)、それがレイなのだ。
最終段階に近くになったエヴァは、インターフェイスが心・技・体という形に変化(成長)してくる。
アスカの技、レイの体、シンジの心――この三者が一つになれば、一体のコアとして完成することになる。
しかし残念ながら現実には、この三人は仲がよくなく、なかなか上手くいかない。そこで三人を纏め上げる人物が
必要となる。その人物が、他ならぬトウジである。アスカ、レイ、シンジの人格を模した疑似人格コンピュータの三体を、
トウジ一人で完全コントロールする事ができるのだ。
トウジはシンジとは友好関係、アスカとは恋愛関係にあり、またアスカとレイにも恋愛信頼関係があることから、
相性は非常にいい。今までのプロトタイプであり、エヴァを作るために様々な鬩ぎ合いや事件もあったが、
最終的に出来上がったエヴァを動かすのがトウジなのだ。