84ページ 〜 85ページ
この場合は、パイロットは武道の達人でなければならない。ほとんどの人が、パイロットと
エヴァが直接シンクロしていると考えているようだが、それは違う。子供であるシンジが、
母であるエヴァを動かせうと思うのだろうが違うのである。
パイロットとエヴァが直接シンクロするためには、武道の達人であること・コンピュータに
精通していること・思考能力が秀でていることの三大条件が不可欠だ。コンピュータプログラム
を自在に打ち込み、人間関係に秀れ、頭脳明瞭、そのうえに武道の達人という
スーパーマンのような人間が、現実にそれほどいるわけではない。
少なくとも十四歳の少年に、これらすべてが備わっていることは、あり得ない。
仮にこれらの条件を持った人間がいたとしてもそれは大人であり、大人はパイロットに
なれないのである。シンジやトウジのような普通の少年が乗れなくてはならないというのが、
物語の大前提である。これらがあるから、物語は複雑多岐にスリリングな展開を見せる。
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84ページ 〜 85ページ
思考のずれとヒステリー
ここで、コンピュータが優秀であるために起こる「思考のずれ」について考えよう。
プログラミングするリツコと、データであるミサト。この二人のあいだで、思考のずれ
が現実的に起きてくるのだ。二人の思考が葛藤すると、MAGIの中で暴走する事態も
起こり得る。実際、二人が作戦をめぐって対立するシーンは何度もある。エヴァの中でも
それは起こっている。
これを解決するにはどうするか。パイロットが双方の思考を理解し把握して、調和させる
ことである。この兆話能力があれば、コンピュータの力を借りずに処理できる。しかし多分、
シンジにはそこまでできない。すると調和という部分は、コンピュータが負担することになる。
ここでまた、ミサト・リツコ・コンピュータという三者の関係図式が出てくる。
ミサトが感情的な行動を起こすのに対して、リツコはパイロットの心身の負担、エヴァの活動容量、
ファクターなどを考慮に入れて理論的な行動を起こす。この時、エヴァはこの二つの行動のどちらかを
選択したり、調和したりしなくてはならない。これは必要なモードである。調和するコンピュータが
なければ、エヴァは恐らく暴走するだろう。
第七話に面白いエピソードがある。
時田という民間のロボット業者が、「エヴァがヒステリーを起こして暴走する」といっているのだ。
事実、そのとおりにエヴァはヒステリーを起こして暴走する。時田は加持からシステム上の秘密に
ついて聞いていた。ミサトとリツコの関係を知ったうえで、リツコがヒステリーを起こしたのだ、
と皮肉っているのだ。
リツコは、加持が時田に秘密をぶちまけたことを知っているが、ミサトはそのことを知らず、
「作った人間に似て失礼なやつね」と気がつかない。加持はすべてを承知のうえで言動したのだ。
大人の人間関係がわかる人には、非常に楽しいエピソードである。これは作り手の巧みさに
カブトを脱がざるを得ない。
85ページ 〜 86ページ
エヴァの実戦
それでは、エヴァの実戦上の動きを検証してみよう。
実戦では、相手の動きを予測したり、それに対応する作業が必要となる。それにはカンや
経験も必要だ。さらにインターフェイスは素体を動かすうえで、素体のクセ――つまり
エヴァの運動性能をリアルタイムで把握していなければならない。この時、素体自体が
不可能無命令も発生する。スピードやパワーなど素体の運動能力上の問題だ。
この際、拘束具は動くが素体自体が動かない状態が起こる。これが暴走のきっかけともなる。
このことは物語にはあまり出てこないが一応、前提として存在する。これは、
「エヴァの暴走はどうして起こるのですか」との質問に対する回答である。
思考型のインターフェイスはプログラミングした人間の人格に似てくるようだ。
前の時田のコメントにも、「インターフェイスに負担をかけすぎると(思考が
パンクしてしまって)ヒステリーを起こしてしまうんですね、(作った人によく似て)
手に負えなくなるんですね」というもんがある。
インターフェイスがプログラムした人間の人格に似てくるのであれば、パイロットが
プログラムするのが一番いいと考えられる。アスカの性能がずば抜けていいのは、
アスカ自身がプログラムしているからだ。ベーシックなプログラムは加持がやって
いるだろうから、加持とアスカの相性は非常によいので、ほぼ完璧に動かせるのだ。
少なくとも、プログラムしたものは、ほぼ100パーセント出せるはずである。しかも
ズレなしに。
さらにアスカは相当な戦闘訓練をしているはずだから、運動能力や武道経験も達人に
近い域にあると思われる。
付言すると、ケンスケがパイロットとして選ばれなかったのは、リツコとの相性が
悪かったからだと思われる。ゲンドウがリツコと関係を結んでいたのは、リツコとシンジとの
相性のためだとすれば、そこに司令官としてのゲンドウの思慮遠謀を見ることができる。
87ページ
レバーについて
「エントリープラグにレバーがついているが、あれはなんのためについているのか」
という質問があった。その回答で一番いい例が射撃シーンだ。射撃には静止と先進の集中
が必要である。しかし、子供にとっては、それはもっとも苦手で苦痛な状況だ。そもそも
子供に射撃させること自体が不自然だ。
そこで登場したのが、オートモードだ。これには射撃のプログラムが入れてあり、パイロットは
撃つ瞬間だけを伝えればOKだ。それを命じるのが、あのスイッチである。その瞬間、
動いたり精神の動揺があっても支障がないように、パイロットの思考はエヴァに伝わらないように
なっている。スイッチを押すと、「ファイア!」というシステムだ。
シンクロ率波タイミングにかかわってくる。スイッチを押すことと、ファイアのタイム差の
問題である。シンクロ率が悪いと、「ファイア!」といってから発射されるまでに時間がかかりすぎる
ことになりかねない。
また、インターフェイスがパイロットの動作を記憶したあとは、攻撃のタイミングを測るトリガーの
役目をしている。
たとえばパイロットがキックを命じた時、トリガーが押された瞬間にキックがヒットするといった
ことである。この場合のシンクロ率の問題は、レバーを押してからキックがでるまでの時間差だ。
シンクロ率がいいと、瞬時にキックは炸裂する。が、悪いと時間がかかり、
敵に逃げられることになる。
88ページ 〜 89ページ
エヴァの反応速度
エヴァのテクノロジーで絶対に無視できないのが「反応速度」だ。エヴァは巨大な構造
のために、命令されてから動くまでには時間がかかる。時間を短縮するには、きちんと
予測して、作動しなければならない。予測どおりの有効な命令がなかった場合には、
逆にパイロットに信号を送る。フィードバックである。パイロットをコントロールする
必要があるのだ。コントロールされている時、パイロットは操られている状態になるが、
パイロット自体は惰性で動いているような感覚になる。
ゲームセンターで格闘ゲームをやったことのある人ならばわかる感覚だ。その感覚は
「慣れた」といった感覚である。慣れたので、バーチャルキックが素早くできるようになった。
そんな感覚だ。素早く動くのだ。この時、パイロットの思考をインターフェイス側から逆ハック
してコントロールする必要がある。なぜか。インターフェイスからパイロットに命令がくるからだ。
これが神経接続である。
パイロットは命令を受けているのだが、あたかも自分が動かしているような錯覚を起こす。
僕の経験から、ピアノを早弾きするとき、いちいち指先の動きを認識しているわけではない。
訓練を重ねていると、指のほうが勝手に動くようになるのだ。脳のほうも命令を出して
いないのに、指が勝手に動いているといった感じで、指自体が動きを憶えてしまうのである。
この時、脳が認識していないと考えると、別になんらかの形でモニターしなくては
ならない。視覚では追いつけないこの場合、それは五感神経を使うことになる。たとえば、
ドレミファという音階のパターンを聴覚で認識するのである。
89ページ 90ページ
スピードや調和を必要とする場合、聴覚によるフィードバックのテクノロジーは重要だ。
そのテクノロジーを、エアの場合について考えてみる。
エヴァの場合、確かに神経接続はしているのだが、何で接続されているかは説明されていない。
TV画面上では、手が折れた時、命令や運動が素体の能力を超えて危険な状態になった時、
痛みの感覚がフィードバックされていることが見られ、危険を避けるために神経接続されて
いることがわかる。
楽器の演奏の場合は聴覚でフィードバックし、動物では嗅覚で行われている。視覚では
とうてい追いついかない敵までの距離を測るのに、この「聴覚」と「嗅覚」がもっとも
有効ではないか。聴覚と嗅覚は、近づいてくるものが敵か味方かを判断する時にも
非常に重要なキーポイントとなる、といった認識のうえに立つと、初号機、弐号機、零号機
のそれぞれ固有の『におい』をエヴァは認識していると考えられる。
(物語ではあまり語られることはなかったが)。
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聴覚と嗅覚の二つの感覚は、実際的立体的な戦闘で不可欠なもののはずだ。僕は専門家
ではないが、聴覚と嗅覚は平衡感覚にかなりの部分で影響している説がある。
エヴァ初号機は音波や電波を角に見える部分から発信して、それが相手からはねかえってくる
のキャッチして、相手を認識する。このようなシステムがあるのではないか、とも考えられる。
このシステムは、現在の科学では認知されていない超科学の世界だが、――動物も人間も
ある種の電波を発信して、相手との距離を測っているのではないか、という考え方もある。
これはコウモリやある種の鳥の世界では科学的に実証されているが、人間の世界ではこれは
「超能力」という抽象的な用語で表現されている。
人体も微量のデンパを放出してことはわかっている(ただし、感覚としては認知されていないが)。
恐らくエヴァにも進化した形でこれと同様の発信器官(装置)があるのではないだろうか。
MAGIでは認知できないが、エヴァにはそれがあるのではないか。
このように考えてくると、パイロットには聴覚と嗅覚が必然的に要求されることが納得いく。
この感覚の秀れている者がパイロットのパイロットの適性があるのだ。物語の中にも、シンジが
「パイロットになるために生まれてきた子供だね」といわれるシーンがある。表面的には、
シンジに秀れた点は見られないが、目がよく耳がよく鼻が利くという特性があり、それがシンジを
理解するうえで重要だと思われる。
綾波のにおいを感じたり、アスカとの実戦の時、飛行で目を回しながらも、すぐに使徒を
発見することから、シンジの特性をうかがい知れることができる。F1レーサーの中島が自衛隊の
飛行機に乗せてもらった時の逸話がある。普通の人が初めて乗る時には大抵、目を回してひっくり返って
しまうのだが、中島は宙返りした直後に、「9時方向に機体発見!」といって周囲をびっくりさせた。
シンジのエピソードは、この話と共通している。エヴァに限らずF1や飛行機のパイロットにも、
動体視力や平衡感覚が不可欠なのだ。
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エヴァの音楽才能
聴覚についていえば、シンジはチェロを弾いており、かなりの訓練もされているはずである。
シンジは幼い頃からチェロを習っている。幼い頃に「習った」というのがとても重要だ。
幼児期に訓練された秀れた聴覚を持つということは、それだけで人間が変わり得るということでもある。
シンジが持つ特性である視覚・聴覚・嗅覚の三つの感覚は、エヴァのパイロットとして大変に重要な
器官である。もちろん、エア事態にとっても重要だ。
楽器の演奏の一つにセッションがある。ジャズ演奏でよくみられるが、初めて出会った二人の奏者が、
どんな演奏をして、どんな動きをするのかまったくわからない状態で、即興演奏プラスアドリブ演奏を
始める。プロのミュージシャンはインスピレーション(想像力)と技を駆使して、見事に各々の
音を合わせて演奏してしまうのだ。
これと同じようなテクニックが、エヴァの操縦にも応用されているはずである。そしてこれが、
「反応速度」につながってくるのだ。相手の動きを予測し、あらかじめあるパターンを組み込んむ
ことができる(たとえば相手がドを弾けば自分はここを弾く。相手が2/4といえば自分は8/16とったように)。
そのような魔術師のようなことが、聴覚によって可能になってくるのだ。
これは思考ではない。
エヴァのシステムには「ハーモニクス・ユニゾン」といった言葉がある。これは音楽に関係する
用語だ。これから推察しても、エヴァの場合は聴覚的な感覚が、複数の人間を調和していくために
なってくる――このような論理が自ずとクローズアップされてくるのだ。
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恐らくそれを狙ってのことだろう。エンディングのジャズの名曲「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」
もここからきているのかもしれない。思考という形が全編を貫いているが、思考できない
部分・感覚も決しておろそかにはしていない。
フィードバックという形で、パイロット同士の感覚器官を刺激しているのではないかと
考えられるのだ。フィードバックは数字では表しにくい部分があるが、これは相性――相手の性格
を読み切る、自分がどんなことをするのか、相手にわかりやすく伝える――この要素が大事に
なってくる。
簡単にいえば、パイロットの感覚(センス)の問題だ。
シンジがチェロを習い、S・DATを持っていたということは、感覚・センスを磨く情操教育に
他ならない。その教育をゲンドウが“指令”したと考えると俄然、興味が湧いてくる。
シンジを教えていた先生も、勉強も音楽も教えられるかなり優秀な人物だった。全人教育の
故人家庭教師だったのだ。シンジがいかに恵まれた環境でのびのびと育てられたかをうかがい知る
ことができる。チェロを弾くシンジを羨ましがるアスカの姿を見ることができるが、
情操教育を受けていないと思われるアスカは、その点で不利である。
このようにシンジのキャラクターを創り上げたのは、詰め込みの英才教育よりは自然な情操教育
のほうがベターだ、という考え方によるところが大きいと思われる。
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エヴァの三つのタイプ
さて、エヴァん素体は使徒の能力に合わせて何タイプかに分かれていると考えられる。
初号機は、機能増殖型。これは相手の能力を移し取って自分の能力にするというもの。
零号機は、融合型と思われる。相手と同化するのだ。これは零号機が二度にわたって
使徒に侵蝕されたことから、もともと零号機に相手を侵蝕する能力があったと考えられるのである。
弐号機は接触型と考えられる。第15使徒の場合は精神を侵蝕したと考えられる。弐号機には
相手の思考を移し取る能力があるのではないか。相手の考えを読み取ったり、自分の考えを
相手に伝える能力だ。
第九話で、初号機と弐号機が完全にシンクロした状態になり、かなり高度な動きを同時にする
展開ができたのは、弐号機空初号機に思考(電波)を送り込んでいるのではないかと
思われる。このように考えると、説明しやすくなる。
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アスカが来日したとき、アスカとシンジが一週間くらしただけで、シンジの宇野銅能力が
飛躍的に上昇したのは、なぜか?
アスカはドイツで戦闘訓練を行い、自分でプログラムお編成したがゆえに、完璧ともいえる
戦闘技術を身につけている。本来、シンジにはそのアスカの動きを行うことは不可能である。
ただし、人格コンピュータの処理を使えば可能になってくる。
初号機に弐号機のデータプログラムを書き込むが、これはアスカの思考パターンでしか
動かない。逆にいうと、アスカの思考パターンを真似できれば動かせるのだ。したがって
シンジは、一週間ののうちにアスカの思考パターンを真似する訓練していたと考えられ、
訓練によってアスカのクセや動きなどを予測できるようになった。ただしこの場合、
アスカがシンジに合わせたのでは効果がない。
これに関して、シンジの五感能力が弐号機から出ている。アスカの波長を読み取り、
これに対してユニゾンしていることに注目したい。シンジがチェロで培った感覚が大いに
生かされた、といえるのではないか。
また15使徒と精神的会話をすることも行われているから、その能力があったと考えられるのだ。
昔の記憶で正確なことはわからないが、アスカの母キョウコが使徒と精神的な接触があったと思われるが、
そのことからも弐号機はキョウコと精神的に接触したと思われる。こtれはのちにストーリー展開上で
大きな意味をもってくる。レイ本人も同化型であると考えられ、弐号機、初号機がそれぞれ相応していると
解釈すると大変に興味深い。
カヲルは相手の思考を読み取り、自分の思考を相手に伝える能力がある。そのように理解すると、ゆえにカヲルが
シンジに接触して、「君が好きだ」といったのは「君の心がほしい」ということではないか。
カヲルがシンジの心を狙うと、シンジは心を盗られた状態になって死に至るのではないか。
カヲルはシンジに対して、どちらかしか生き残れないという意味のことをいったのではないか。
ただしカヲルは、直前に自分の意思をレイに移植している。だからカヲル自身の体は死んだのだが、
その意志はレイの心の中に残っている。さらに同化型のレイはカヲルの意思を自分の中に
同化させてしまっている。