落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15

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797名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/03(土) 02:26:58 ID:MvxBjZ2z
wkwk
798名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/03(土) 03:28:18 ID:MvxBjZ2z
>>796の時刻を見ると。。。
ひょっとして規制に巻き込まれた?
799名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/09(金) 00:09:56 ID:???
wktk
800名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/10(土) 01:04:18 ID:???
801名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/04/22(木) 16:55:56 ID:???
保守
802名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/01(土) 17:37:02 ID:???
死守
803名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/11(火) 23:39:44 ID:???
保守
804名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/05/22(土) 20:36:37 ID:???
>>796
ふらりと立ち寄りましたが、面白そう
ゲーム好きということで式波設定なのかな(惣流さんも隠れ設定でゲーム好きらしいですが)
ぜひ続き希望
805名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/03(木) 06:22:57 ID:EWJvUjfj
 
806名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/06(日) 04:59:07 ID:???
ほっしゅほしゅ
807名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/07(月) 17:40:50 ID:???
投下こねー
808名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/18(金) 00:44:59 ID:???
しかたがないな
やるか
809名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/18(金) 01:53:23 ID:???
来い来い
810 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/19(土) 04:14:01 ID:???
###できたぶんだけ。けっこう長引きそうだから長い目でみてください。

0.
未来という言葉がある。
私にとって、未来とは私がこれから生きていく際限のない時間の流れ、そのすべてを表すものだとなんとなく思っていた。
だから、未来というのはつかみどころのない、あまりに漠然とした言葉だった。
明日の自分や一か月後の自分が何をしているかだって分からないのに、十年後や二十年後の自分の姿なんて想像もつかない。
……仕事は何をしているのだろう、恋人はいるのだろうか。ひょっとしたら子供がいたりするのかな。元気にしているのかな。未来のあたしは笑っている?それとも泣いている?
気付けば十四年というけして短くない年月を消費してきた私でも、これから生きていくであろう何十年は永遠とさしてかわらない。とてもじゃないけれど、私の想像の及ぶものではなかった。
だから、私と、私をふくむ全ての人たちの「未来」に消費期限がついたあの日。私は人並みに驚き、悲しみながらも同時にかすかな安堵を覚えもしたのだ。
だって、とっくに過去の出来事になってしまったかつての「未来」はことごとく私を裏切り続けてきたのだ。もう自身の「未来」を想像して、期待して、苦しむことは二度とない。
面白くもなんともない学校は今日で終わり。明日からは楽しい夏休みだ。
最後の夏休みがはじまる。
811名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 04:14:59 ID:???
1.
冷房のがんがんに効いたアパートメントの部屋から一歩でると、むっとした初夏の朝の空気が私をつつんだ。
家の中で肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んだつもりだったのに、身体からみるみる冷気が抜けていくのがわかる。
私が住んでいるのは高層アパートメントの十二階なのに、どこからか、みんみん、しゃわしゃわとセミの鳴き声が聞こえてくる。日本の夏はうるさい。
電気はまだきているけれど、整備会社の人が来なくなって久しいから、エレベーターは止まっている。だから、建物の外壁に取り付けられた非常階段で一階まで降りる。
むしあつい空気を振り払うように二段飛ばし、三段飛ばしで階段を駆け降りる。かんかんかん、と、けたたましい金属音が響き渡るけれど、構いはしない。もうこのアパートメントには私のほかには誰も住んでいないのだから。

今日も、階段の出口でバカシンジが待っていた。耳にはイヤホン。年代物のカセットで音楽か何かを聴いている。傍らには黒のママチャリ。
まったく懲りないヤツ。変なところで真面目なんだから。
「おはよう、惣流……さん?」シンジは私の姿をみつけると、イヤホンをとって、おどおどとした口調で私に話しかけてきた。
「ふん、あんたまだ待ってたの」おはようバカシンジ、とか、今日も待っていてくれてありがとうね、とか、そんな可愛らしい言葉は私の口からはまず出てこない。
「私なんか待たないで、さっさと学校に行っちゃえばいいのに」
「え、でも先生が怒……」
「もう、わかってるわよそれくらい……それじゃ自転車とってくるからあんたはここで待っていなさい!」
私はシンジをその場に待たせて駐輪場に自転車を取りに走る。

やっぱり、以前とくらべると治安が悪化している、ような気がする。
担任の思いつきで、数か月まえからは生徒は保護者と一緒に、保護者のいない生徒は他の生徒と一緒に登下校しなければいけないことになった。
『女の子を守るのは男の仕事よん、はりきれ男子ども』と集団登下校の組み分けが発表された。何かしらの意図を感じざるを得ないそのカップリングはクラス内の論議を呼んだが、大半の生徒はしぶしぶとそれに従うことになった。一部、喜んでいた奴もいたようだが。
812名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 04:16:32 ID:???
筋肉バカの鈴原とヒカリ、相田と霧島、そしてバカシンジとこの私だ。他数組。鈴原は自身に与えられた大役を完遂しようと、竹刀片手に周囲に目を光らせながらヒカリを護送していると聞く。軍事オタクの相田もモデルガンを懐に忍ばせて以下同様のことをしているようだ。
霧島はともかく、ヒカリはあんな暑苦しい男とひっつけられてかわいそう。鈴原め、ヒカリに手えだしたらどうなるかわかってるでしょうね。
まあ、そんなことはわりとどうでもいい。問題はバカシンジと私だ。バカシンジに私を守らせる?ナンセンスだわ。私がアイツを守れの間違いじゃないかしら。
もっと気に食わないことがある。シンジと一緒に帰れと言われた時、私はぼろくそにシンジをけなしたけれど、それでも、すこし、ほんのすこしだけ嬉しかったことだ。
私は一人でも大丈夫、なはずなのに。

駐輪場で、私が愛用している真っ赤な自転車を引き出そうとしたところで、手がとまった。
普段だったら、私が先頭で自転車をかっとばし、バカシンジは必死に私を追いかける。学校までの20分とすこしくらいは、ふたりっきりだ。
でも、そのあいだ彼と会話することはほとんどない。
学校での彼の席は私の右前。やっぱり、話はしない。彼が普段どんな音楽を聴いているかも知らない、彼の趣味も、特技も、何も知らないままだ。
まいにちまいにち今日こそは彼と話をしよう、彼のことを聞こうと決心して家を出ても、言い出せなくて、それを明日にのばして家に帰ってきてしまう。
認めたくないけれど、私はぶきっちょだだ。そのうえ素直じゃない。
そういえば、彼と一緒に学校に行くのは今日で最後か。あしたから夏休みなんだものね。
彼と仲良くなるための時間は何カ月もあったのに、結局、私は一歩を踏み出すことはできなかったな。
……
813名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 04:18:26 ID:???
「あれ、どうしたの?」手ぶらでもどってきた私をみて、シンジが不思議そうな顔でたずねてきた。
「パンクしてたのよ、きのうまではちゃんと走っていたのに。ほんっと、困っちゃうわ」
「どうしよう、今から歩いてたら学校に間に合わない」
シンジは困った顔をした。まったく鈍感なやつ…あんたの自転車があるじゃない。
「そうか、惣流さんが乗っていけばいい。僕は後から歩いて行くよ」
なんでそうなるのよ、と叫びそうになった。この男はどこかズレている。
「あんたばか?私が先に行っちゃったら意味がないじゃない。……あんたも乗るの!私が後ろに乗るから」
「あ、そうか」その手があったか、というふうにバカシンジはぽんと手を叩いた。私がこの一言を言うのにどれだけ勇気を出したか、こいつには全然伝わっていない。
「でも僕、人を後ろに乗せてこいだことなくて……」「うるっさいわねえ、やりゃできるわよ、ほら自転車!」
荷台をまたぐように座って、後ろからシンジの腰に手をまわす。抱きつくような格好になった。痩せていて、ところどころ骨ばっているけれど、私と同世代の男の子の身体だ。
「そ、そそ、惣流さん?」シンジが締め付けられたような声を出す。このバカ、なに緊張してるのよ。
でも、私の胸もどうしようもなくどきどきしていて、その事実がどうしようもなく悔しかった。
「転んだら承知しないからね」

……がっしゃん。
でも、やっぱりバカシンジはバカシンジだった。走り出したはいいけれど、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
期待を全く裏切らず、アパートメントの門をくぐったあたりで、電柱と正面衝突してくれた。
シンジは電柱に、私はシンジの後頭部に頭をぶつけて痛い思いをする羽目になった。いたた、やっぱり強引にやるとろくなことない。
冷静に考えてこの軟弱男にレディを後ろに乗せてこぐだけの力があるわけないわよね。
彼のあまりのふがいなさに憤慨しながら、地面にノビているシンジを無理やりひきおこしてやった。
「このバカ、もういいわよ、歩きでいい!」「いてて……うん、でも学校に遅刻しちゃう……」
「じゃあ、遅刻したらいいじゃない。別に学校をサボろうってわけじゃないんだし。このご時世に学校に行こうとしてるだけ偉いわよ。さ、いきましょ」
814 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/19(土) 04:21:10 ID:???
結局は、こっちのほうがよかったのかもしれない。私たちははじめてお互いにじっくりお話をする機会を得ることができたのだから。
私はいままで無駄にしてしまったチャンスを取りかえすように、彼を質問攻めにしてやった。学校のこと、友達のこと、そして夏休みの予定のこと。
バカシンジは今日の私のあまりの変わり具合に驚いていたようだけれど、それでも、私の質問にはなんでも答えてくれた。
今のところは夏休みの予定はまだ何も決まっていないよ、だけど仲のいい友達とどこかに遊びにでもいけたらいいなあ。シンジはそう言って、はにかみながら笑った。
仲のいい友達というのは、鈴原や相田のことだろう。人づきあいはあまり得意じゃないらしいシンジも、あの二人とは心の底から打ち解けているみたい。
鈴原も相田も救いようがないくらいバカだけど、私が知らないシンジの姿をいくつも知っているという点では、本当にうらやましい。私なんて、そんな人は一人もいないのに。
シンジと一緒に過ごすことができたら、楽しいだろうな。
もし、私がずかずかとシンジの中に入り込んでいったら、彼はどんな顔をするだろう。迷惑に感じて、私を追い出したりしないかな。それが、臆病な私にとってはどうしようもなく怖い。

でも、ここに確かなことがひとつ。
私たちに残された時間は、あと五十日とすこし。これから、どういう風に生きたとしても私たちは九月の始業式を迎えることはできない。
どういう道をたどっても、その先には不可避の終わりしかないという事実は、私に前向きに生きるすこしだけの勇気を与えてくれた。
私が残る時間をどういう風に生きればいいのか、どの選択が正解で、どの選択が不正解なのか、それは私にもわからない。
でも、いまの私が何を望んでいるのか、それを問われたら答えは一つだ。
学校が見えてきた。



#俺に短編の才能はないようだ。でも落ち着いてスレが過疎るのをみてはいられなかった
#時間はかかるかもしれんががんばって完結させます
815名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 06:07:37 ID:???
頑張れ!続き期待
816名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 07:33:44 ID:???
読んでるよ〜。
このアスカの一人称、凄く好きだわ。続き待ってるよ。
舞台設定を適度に伏せた導入もいいね。引き込まれます。
817名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/19(土) 21:41:04 ID:???
>>814
ちょっと変わった設定のようで、引き込まれます。
続き期待です。
818名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/21(月) 04:03:43 ID:???
wktk!
819 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:01:09 ID:???
2.
私たちの第一中学校は第三新東京市の南東の住宅街の中にある。
いや、正確にいえば第一中学校だった建物、というべきか。第一中学校は今年のはじめに閉校になっていた。
今は、一人の教師だけが学校に残ってわずかに残った生徒たちを相手に勉強を教えている。
だから、学校に行きたくなければ行かなくてもいいのだ。学校なんか行かずに、好きなことをして遊べばいい。
なのに、どうして私は以前とおなじようにその場所を学校と呼び、制服姿でそこに通っているのだろう。学校なんて面白くもなんともないんじゃなかったっけ。
そこにバカシンジとヒカリが通っているからなのか、それとも学校に行かないとどこか落ち着かないのか。
……実のところ、自分でもよくわからない。

学校についたのは、一時間目がはじまってしばらくたったくらいの時間だった。昇降口でうわばきをはきかえて、シンジと一緒に人気のない廊下を抜ける。
校内は恐ろしいくらいに静まり返っていた。私とバカシンジの足音だけがリノリウムの床に恐ろしいくらい反響している。
通り過ぎる教室はどれもからっぽで、椅子と机だけがものも言わずに整然と並んでいた。
まるで学校中が死に絶えて、私と隣にいる彼だけが世界に残った最後の人間になってしまったみたいな錯覚を覚える。
今学期だけでも数えきれないくらい目にした光景だけれど、やっぱりいい気分はしない。

階段を一段、もう一段と昇っていくと、静寂を破って、遠くから生徒たちの明るいざわめきが聞こえてきた。それはこの世界ではとっくの昔に失われてしまったはずのものなのに。
私たちの2年A組。第一中学校に残った最後のひとクラス。
いつもこの瞬間だけはなぜかほっとする。どうしてだろう、ひょっとして、バカシンジも同じ気持ちなのかな。
「いいわねバカシンジ、私たちは遅刻しそうになって全力で走ってきたのよ。けしてゆっくり歩いてきました、なんて雰囲気だしちゃだめよ」
「あ、うん」シンジはうなずいた。「じゃあいくわよ、せーの」
私とシンジは廊下を全力でダッシュして、後ろのドアから教室に飛び込んだ。私が先、バカシンジが後。
「すみません先生。おくれてしまって……惣流の自転車がパンクしてて、歩いてきて……」
820 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:03:15 ID:???
「おお、きたわねお二人さん!待っていたわよー」
ミサト先生は、私たちふたりを見てにいっと笑った。「自転車がパンクう?怪しいなあー。いちゃいちゃしてたら遅れちゃったのね、まあ許してあげるわ」
その言葉につられてクラスのみんながどうっと笑った。「まさか碇と惣流がくっつくなんて世も末やな!」鈴原が的確なチャチャを入れたせいで笑いが大きくなった。たぶんいま、私は真っ赤になっていると思う。
「とっトウジ、何いってんだよ。違うったら!」シンジが必死に否定する。「だいたい惣流はただの友達だって……」
「ほんとにかい?毎日皆勤で遅刻もしたことがなかったお前が今日だけは遅刻したんだぞ?これは何かあると勘繰るのは当然じゃないか」と相田が口を挟んだ。
「違うっていってんでしょこの馬鹿!あんたらあとで顔貸しなさい!」「こっわい女、こんなんとつきあえるシンジはきっと聖人やな」
「ちょっと、馬鹿鈴原!いいかげん静かにしなさい!」委員長のヒカリががたんと席を立って鈴原を一喝した。クラスが急に静かになる。「もう、ミサト先生も変なことで二人をからかわないでください!」
「ごめーん洞木さん、私こういう話題大好きでついつい……」ミサト先生はえへへと苦笑いしながら私たちにぺこんと頭をさげた。
ナイスよ、ヒカリ。私は心の中でガッツポーズをしながら自分の席に向かった。まったく、どちらが先生なのかわからない。
クラスを束ねる才能はヒカリのほうが断然上だ。ヒカリのほうが先生の才能あるんじゃないかしら。

「じゃ、洞木さん。お願いね」「はい、先生」
「きりーつ!」ヒカリが大声を出した。クラスの全員がすっくと席を立つ。
朝礼なんて私たちがいないうちにとっくに終わってるものと思っていたから、びっくりした。
「え、僕たちが来るのを待っていたんですか?」と、シンジが不思議そうにたずねた。
「そうやぞ碇、いつまでも待たせよって」と鈴原。
「あら、だって一学期のおしまいくらいみんな揃ってから一日をはじめたいじゃない?」ミサトはそんなの当たり前のことじゃない、とでもいうふうな顔だ。
クラスのみんなも、そうだそうだ、というふうに首を降る。
最後くらいみんな揃って……か。
なんてしらじらしい言葉。まあ、悪くはない響きだとは思うけれど。
「礼!……着席!」
821 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:06:02 ID:???
3.
葛城ミサトは私たちの担任だ。容姿はまあ、そこそこ。でも性格はずぼらでいいかげんだ。でもなぜか男子には大人気だから、私たち女子はあまりおもしろくない。
男子ってなんであんなに馬鹿なんだろう。あんたのことを言っているの、わかってるんでしょうね……バカシンジ。
ともかく、男子に人気があることだけが取り柄でずぼらでいいかげんな葛城ミサトは、第一中学校に残った最後の教師のひとりだ。
彼女は私たち勉強を教えている。学校という場所じたいが存在意義をなくしたこの世界で。自分のやっていることには意味がないと知りながら。
私は彼女が嫌いだ。

「おはよう!2年A組のみなさん」ミサト先生はクラスじゅうをみまわしてにこりとわらった「空席なし、出席確認の必要はないわね」
「さて、いきなりだけど……今日はみなさんに重大なお知らせがあります。
嬉しいお知らせと悲しいお知らせがひとつずつ。さあ、どちらを先に聞きたい?じゃあ、惣流さん!起立!」
いきなり自分の名前を呼ばれた私は、びくっとして立ち上がった。
嬉しいお知らせと悲しいお知らせ?いまの私たちに嬉しいお知らせなんてものがあることのほうが驚きだけれど。
「え、あ、じゃあ嬉しいほうを」
「嬉しいお知らせは……明日から楽しい夏休みです。学校は今日でおしまい、みんな好きなことをして遊んでいいのよ。パーっと!」
クラスの中はしいんと静まり返ったままだった。私も、バカシンジも、ヒカリも鈴原も相田も、うつむいたまま、一言もしゃべらない。
誰も口には出さないけれど、みんなこのことには気づいている。再び、私たちが全員そろってこの教室に集まることはおそらくない。
この教室にいるうちの何人かとは、もう顔を合わせることすらないかもしれない。
「そうよね……そりゃそうよね」ミサト先生はバツの悪そうな顔をした。
「だから……いくつかイベントを企画してみたわ。遠足でしょう、臨海学校でしょう、ほかにもいっぱい考えているわ
この夏休みは思い出に残るわよ!サービス、サービス!」
  この言葉を待っていたように、みんながわあっと歓声をあげた。バカシンジも笑った。私もつられてちょっと笑った。
822 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:10:39 ID:???
「さすがミサトセンセや!」鈴原が叫ぶ。「わしらのことをようわかっとる!」
「もちろん補習もあるわよ。鈴原、あんた期末テストの数学を空白で出したでしょう。強制参加!」
「そんなあー」といって頭をかかえた鈴原はなぜか笑っていた。気持ち悪い。どーせミサトセンセとの個別授業やとかそんなやーらしいこと考えてるんでしょう。
あ、ヒカリが面白くなさそうに鈴原を睨んでる。
「ちなみに補習は鈴原以外は自由参加よ。来たい人は来ていいわ」
また、みんなが歓声をあげる。ひょっとして、みんな行くんじゃないかと思う。
823 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:12:43 ID:???
「で、次は悲しいほうのお知らせ……ま、これはもうお約束ね」
ミサト先生は教壇の上に大量の紙の束をどすんと置いた。「宿題があります。提出は新学期の九月一日!」
宿題、という言葉にみんながざわめいた。私も、えっ、という声が口から出かかった。
なぜなら、私たちが新学期を迎えることは絶対にないはずだからだ。
「あら、みんなどうしたの?」ミサト先生は、私なにかおかしなことをいったかしらという風な顔をした。
「ひょっとして、八月三十一日に太陽がバクハツするから宿題なんて意味がないなんて思っているんじゃないでしょうね」
「笑止千万!」ミサト先生は教壇をばん、と叩いた。クラスが静まり返る。ミサト先生は諭すように話し出した。

「今から十五年前、突然の太陽の異常活動と、それにともなう気候の激変で人類の半分が死に絶えたわ。
 みんなも知っていると思うけれど、今度はもっともっと大きなものが来るそうです。それで、今度こそ地球は完全に焼け野原になって、地上にいる人は一人残らず死んでしまう」

そうなのだ。八月三十一日に太陽が新星になるのはほぼ確実だ。運が悪いと地球は粉々になるし、運が良くても強力な熱線と放射線で地上は完全に消毒されてしまうと聞いている。
人類の絶滅を防ぐため、ここ第三新東京を含む世界数か所に巨大な地底都市が建設されたけれど、それでも人類が生き延びられるかどうかはかなり微妙らしい。
ちなみに、その地底都市に避難する数万人に、私たちは含まれてはいない。
それらの都市はすでに地上と断絶しているため、行くこともできない。

「少なくとも、そう大人たちは信じている。あと数十日しか生きられない、それまでにやることをやっておこう、後悔のないように生きようって。
 でも、あなたがたはまだ子供よ。子供には未来を夢見る権利がある。あなたがたに、後先短い老人みたいな考えは、まだ似合わないわ。
 最後の最後まで前向きに生きるのよ。どんなに苦しくても。未来が来ると信じて
 奇跡が起こって、もし九月一日が来たら、またこの教室で会いましょう。
 そのとき、もし宿題をやってきてない人が一人でもいたら、私、許さないからね。」

私は悟った。ああ、やっぱり、私は彼女が好きにはなれない。

「宿題は大サービスしてひとつだけ。作文よ。テーマは『未来のわたし』」
824 ◆Fv2.a53w1k :2010/06/21(月) 07:13:37 ID:???
#とりあえず書けたぶんだけ。
#次は一週間後?くらいです
825名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/21(月) 07:56:31 ID:???
>>823誤字訂正。ごめん眠くてボケてた。
教壇→教卓
826名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/21(月) 21:17:29 ID:???
正直俺が書いてるのかと思った
827名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/22(火) 03:35:03 ID:???
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
828名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/24(木) 02:54:52 ID:???
イイ!設定は全然違うんだけど、厳しい現実と切ない雰囲気の中にある、子供たちの賑やかな雰囲気がエヴァっぽさ引き立たせてるなぁ。
幼なじみとも違うアスカとシンジがどう絡んでいくかも期待です。
829名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/27(日) 19:07:09 ID:???
1レスだけ、お邪魔します。
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 土砂降りの雨の中、アスカが帰宅。
「あーもう、ずぶ濡れよ。ただい……ま!?」

 何故か、シンジが全裸で寝ている。絨毯の上にうつぶせで。

 アスカは思わず凍り付く――いや、呆けている場合ではない。これは事故かもしれないのだ。
「ねえ、シンジ? ……シンジ!?」
「すやすやすや」
 本当に寝ているだけである。アスカは、思わずほっと息をつく。
そして状況も理解し始める。自分と同じように、シンジもずぶ濡れで帰ってきたのだ。
シャワーを浴びて、一人きりの開放感を味わいながら全裸でリビングをうろうろ。
疲れ切った全裸の体を絨毯の上に横たえてみると、これまた肌触りが心地よい。そして――。
 それはともかくこの状況、ほうって置くわけにも行かない。まあ、いつものように蹴り飛ばせばいいのだが、
まじめにシンジを心配してしまったお陰で、ツッコミを入れるタイミングを完全に失ってしまったのだ。
「もう、世話の焼ける……」
 仕方なく、アスカはシンジの部屋着や下着を取り出して、かいがいしく着せ始める。
もう無かったことにしてしまいたいのだ。これ以上、シンジなんぞのために、煩わしい思いはしたくない。
「今、目ぇ覚ましたら承知しないわよ? まったく――あ、あれ?」
 おかしい。何故、この状況が理解できたのだろう。そういえば以前に、自分もずぶ濡れで帰ってきて、
シャワーを浴びて、裸でうろうろしたことがある。そして、気がつくと――。

「ふあああ……あ、あれ? アスカ、帰ってたの」
「……うん」
 思えば自分の時、後で気付かれないように、よくもまあ上手く片付けてくれたものだ。
自分が目を覚ましたその時、シンジもまた、真横で何事もなく暖かいコーヒーを注いでくれていた。
その何事もなかったかのような素振りにも、まったくもって隙はなかった。
 仕方ない、許してやろう――あんなことや、こんなことも。
ここで怒って、このコーヒーの味を損なうのは、もったいないにも程がある。
こうして、いずれは肌も許してしまうのかと、浮かべた苦笑いにも似たコーヒーの味を。(完
830名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/27(日) 23:30:33 ID:???
>>829
不覚にもふいたーーw
ぜひ、アスカを見つけたシンジの話を!
GJ!
831名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/28(月) 19:56:17 ID:???
>>830 ありがとです。しかし、うーむ……シンジ版、まったく心づもりがなかったんだけど。
---
 シンジ、大雨の中をやっとの思いで帰宅。
「うひゃあ、ずぶ濡れになっちゃった。ただい……ま゛!?」

 アスカが、全裸で寝ている。しかも、丸出しのあお向け大の字という、男前な寝姿で。

「ぶ、ぶふっ」
 シンジは弾丸のような鼻血を吹き出し、立ちくらんで卒倒する……いや、なんとか持ちこたえた。
そして、シンジは改めてパニック状態に陥り始める。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうし……」
 いやいや、素直にじっくり鑑賞した上で、その肌触りと感触でも楽しめばよろしいだ。男らしく。
しかし、どうにもシンジは生真面目である。このまま放置してはいけないと思ったらしい。

「あ、アスカの服は……えーっと……」
 実に無謀である。寝ている間に服を着せてしまおうというらしい。
もし目を覚ましてしまえばタダでは済まないというのに、シンジは夢中でアスカの部屋に潜入する。
「えーと、下着は――あ、あった……ぐはぁ!」
 手にしたブラジャーのあまりの可愛らしさに、シンジはまたしても失神寸前。
いや、ブラジャーは止めておこう。装着は困難を極めるし、室内ならノーブラでも問題はない。
しかし、下半身はそう言うわけにはいかない。そして、シンジは新たな下着を手に、再び悶絶。
「ぱ、ぱんてぃー……う、うう……」
 落ち着け、シンジ。鼻血だけで出血多量で倒れてしまうぞ。なにより、大事な着替えを汚しちゃ大変。
しかも、これから手を取り足を取り、着付けをしなくてはならないのだ。出来るのか、シンジ?
「くっ……もうダメだ! 我慢できない!」

「あれ、シンジ。帰ってたの?」
「うん、コーヒー飲む?」
「ありがと。ふわああああ」
男は瞬時に賢者となれる魔法を持っている。いったいそれはそれが何なのか、知らない人は知る必要は無い。
何もかもスッキリしたようなシンジの腑抜けた顔つき、それこそが、アスカの見慣れたシンジなのである(完
832名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/28(月) 19:58:26 ID:???
う、ミスった。
>>831 下から2行目、2文目。
× それはそれが
○ それは
833名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/28(月) 20:06:50 ID:???
>>831
830じゃないけどありがとう!ニヤニヤしたw
834名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/06/29(火) 02:20:47 ID:???
>>831
GJ!
アスカ、シンジのうろたえぶりが和むね
835名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/01(木) 07:38:22 ID:???
こういう単発物大好きだwww

二人とも苦労してるんだな……
836名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/01(木) 14:09:17 ID:???
では、調子に乗らせて頂いて……。
--
「ふむ、今日はシンジの誕生日なのね」
「い、いや、気をつかわなくてもいいよアスカ」

アスカ、ひと思案の末、形の良い自慢の胸をグイッとシンジに突き出した。
「よし、アタシのおっぱいあげる」
「ちょっ……あ、あの」

思わず顔が引きつるシンジ。真に受けられる筈がない。
「あ、え、えーと、ボクCDが欲しいな。パッヘンベルの三千円くらいで……」
「アタシの胸が三千円にも劣ると言いたいのかしら」

シンジ、仕方ない。アスカのジョークにつきあってやれ。
どうなるか判っているとしても。

「ほら、シンジ? あんたのおっぱいなんだから、もむなり、はさまるなり、お好きにドーゾ」
「……じゃ、じゃあ触るよ」
「ご遠慮なく」

と、シンジはおそるおそる手を伸ばす。
シンジの心境、熱せられたアイロンを試しに触れようとするかのごとく、あるいは、
もしかしたらこのリーチアクションは当たるかもしれない、という淡い期待感というところだろうか。
思わず、ゴクリと生唾を飲み込み、あと少しでその右手が触れる、その刹那。

ばきっ!

はい、アスカのハイキックがシンジの顔面にクリーンヒット。
シンジ、お疲れ様でした。
「あっはっは、ゴメンねシンジ。この右足はアタシのだから」
「ですよねぇ……あはは」 (続く?)
837名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/01(木) 14:25:15 ID:???
で、続き。
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で、1年後。
「よし、今年はアタシの好きな部位を選ばせてあげよう。どこが欲しい」
「……」

思わず、うんざり顔になるシンジ。結果はわかっているのだ。
さて、なんと答えよう。

「じ、じゃあ、右下肢」
「成る程、まるまる1本ね。足といったら膝蹴り喰わせようと思ったのに」
「あ、あはは……」
「さあどうぞ。去年のおっぱいでも、この太ももでも、お好きなだけスリスリしてみれば?」
と、ドンとテーブルの上に右足を投げ出すアスカ。

さて、どうなるだろう。
いや、そうなるだろう。

ばきっ!

今度は華麗な右フックがシンジの頬を直撃。
「アハハ、この右手ちゃんってば焼き餅焼きだから」
「ぐ、ぐう……やっぱりこうなるのですか、アスカさん」
「コンプリート目指して頑張ってね」
「……え?」
そう、全身全て完成すれば良い訳である。

「それまで、良いコにしてれば……ね?」
「は、は、あはは」
ガンバレ、シンジ。そして、油断するなよ、シンジ。
上下肢全て揃っても、最後にはヘッドバットが待ってるぞ。(完)
838保守&七夕記念予告:2010/07/04(日) 06:21:46 ID:???
(こちらアスカこちらアスカ聞こえる?私はあなたを取り戻しにきた。月は遥か遠く、地球も見えない。こちらアスカ。私に出来ることは‥)
『spece oditiy』

〜十七年前〜

おそらく今後こんなに目覚めの悪い朝は来ないとアスカは確信した。
汚泥に浸かりながら眠ってしまったような倦怠感。虚ろに開けた目は重いし、手足の先に微電流が流れているような痺れ。寝違えてもいないのにバキバキと音を立てる関節群。
凝り固まった筋肉をほぐしながら目覚まし時計を凝視する。
「えっ?」
短針は左向きへ水平になり、アスカをベッドから飛び立たせた。
乱れた寝巻も整えぬまま居間へと入ると、こおばしい香りと音をフライパンから漂わせながらシンジが言った。
「あ、おはよう」
「あ、おはよう、じゃないわよ!何で起こしてくれないの!?」
露出した下半身を気にする暇もなくまくし立てるアスカ。
「え、なんで?」
「なんでって、学校は‥」
「学校は休みじゃないか。いつも休みの日に用事があるから起こしたら寝かせろって怒るくせになんなんだよもう」
フライパンの上の卵を器用にターンオーバーさせながらぶつくさと呟く。
不可思議に思うも自分の勘違いだったのかと納得し、卓上に並べられた専用の皿の前に座るアスカ。そのうち太陽のように鮮やかな卵が食卓を彩った。

「ねえ、今日って何曜日だっけ」
向いに座ったシンジに話しかける。
「忘れっぽいなぁ、アスカは。月曜だよ」
「月曜?振替休日だったっけ?」
「‥具合でも悪いのアスカ」
「は?何でよ」
「だって‥」
急にシンジの歯切れが悪くなる。途端に伏し目がちになり、疑うような目線をアスカに向けた。
「戦争中なんだよ。この"国"‥」


七夕までに終わるかな‥
839名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/07/04(日) 13:40:43 ID:???
イイヨイイヨー
840kou:2010/07/06(火) 15:54:10 ID:???
>>838
『ーーー‥依然、日本政府は遺憾の意を示し、第三新東京行政府に対して対話の提案を試みています。しかし行政府はこれを拒否。認めないなら武力行使も厭わないと発言。この発言に対して防衛庁はーーー‥』

映像の途切れたテレビをアスカは呆然と見つめる。
「嘘‥」
「嘘じゃないよ。この街は独立しようとしてる」
言葉を失った背中を見つめるシンジは事実を述べた。
「僕もよくは知らないけど、ネルフが中心になって独立の表明を出したんだって」
どうやら初号機に関係あるらしい、と続けた。しかしアスカの耳には無秩序なノイズが発する音のように聞こえた。混乱のレベルがあるなら間違いなく最大に位置するだろう。
「大丈夫アスカ?」
「そんな訳無いじゃない‥訳わかんない」
「仕方ないよ。昨日の今日起こったことだし、みんな混乱してる。アスカも落ち着いて‥」
慰めの手を背にかけようとするが振り払われる。
「違う!そうじゃない!そうじゃなくて‥」
言葉にしようとすると絡まった糸のようにうまく解けず言葉が出ない。
「ごめん、ちょっと一人にさせて」
竦み上がった体を何とか立ち上がらせ、よろけそうになりながら再度自室へと戻る。襖の滑りが悪くてがたりと音を立てた。
十分ほど熟考した頃だろうか。アスカは根本的な疑問にたどり着く。
「私の知ってる世界じゃない」
ここはどこだろう。今はいつだろう。私は誰だろう。何が起こっているのだろう。張り巡らせた思考の輪を収束すべく、PCを起動させて情報を集めはじめた。

某大型掲示板:
1 第三新オワタwww(618) 2 第三新「いついかなる挑戦も受ける キリッ」(213) 3 【速報】衝撃!突然の独立宣言!?part8(18) 4 どうやらこの国に終わりが来たようだ(500) 5 さて、そろそろ仕事をはじめ‥え?(980) 6 リアルゲバラが日本にいた件について(774)
7 第三新「こいつを見てくれ。どう思う?」日本「すごく‥面倒です」(4) 8 特務機関関係者だけど質問ある?(63) 9 ニュー速民で特務機関のサーバー攻撃しようずwww(1) 10 【速報】衝撃!突然の独立宣言!?part7(1001)‥‥‥
841kou:2010/07/06(火) 15:56:02 ID:???
様々なニュースサイトで情報を集めていくに連れて、アスカの中で少しずつだが確実に現実感が募ってきた。
改めて疑問と情報を整理してみる。
・知っている世界と違う 主にネルフを中心に日本政府に対して宣戦布告とも取れる独立宣言をしている
・アスカ以外異変に気づいている様子がない ネット中心の主観だが、少なくともメディアに異変が発露するほど大人数が違和感を感じていない
・ネルフと初号機が違和感のキーかもしれない 推測だが、シンジの話によるとそうらしい

「ファーストやミサトはどうなのかしら」
携帯を取り出しミサトへコールをする。が、留守電サービスに繋がってしまう。レイにも連絡しようとしたがアドレスを知らない。
仕方ないのでシンジの携帯を借りるために自室を出て、カタカタと勤勉そうに洗い物を進める後ろ姿に声をかける。
「シンジ、携帯貸して」
「いいけど何に使うの?」
「ファーストに電話するのよ。私番号知らないし」
そしてまた、先に見せた訝しむ目をアスカに向けた。
「‥ファースト?何それ」
「何ってファーストはファー、スト‥」
これはいよいよおかしい。シンジがファーストを知らない。せっかく活性化し始めたアスカの脳がまたもや固まりはじめた。
不思議な物で焦りはなく、ただただ違和感だけが体の芯に浸透していく。
「シンジ何かおかしいとは思わない?」
「おかしいよ。アスカは変な事言うし、ネルフも何だかおかしいし」
「それよそれ!ネルフ!エヴァは?使徒は?」
まくし立てるも、ここで一つまた疑問が増える。
「‥なんで私は何も覚えていないの?」
この"世界"のことはもちろん、今までの事も良く覚えていない。
842kou:2010/07/06(火) 15:56:54 ID:???
頭の中に霧がかかったように釈然としていない。断片的にではあるが、深い後悔の念と憎悪の渦のような物がアスカの胸中を掻き乱しはじめた。
それらを押し殺していると、シンジがふと言った。
「使徒?なにそれ?」
思ったよりも自体は深刻だと悟った。
「じゃあ何でエヴァに乗ってるのよ」
「父さんに来いって急に呼び出されたからだよ。それに‥」
「‥それに?」
「僕、初号機の写真を見たことがあるだけで実際には乗ったことない」
「え」
「それでいつもアスカは馬鹿にしてたじゃないか。乗ったことないのにパイロットだなんて〜って」
「‥変に思わないでね。ていうかもう変だろうけど‥」
「なに?」
「今日までの私って、どんな風だった?」
シンジの表情は訝しみなどという表現を越え、むしろ哀れみの色さえ浮かびはじめた。
「どんなって言われても‥。いつも通りだったよ」
「だからそれがどんな風?」
「例えば、シンクロテストの結果を自慢したり、合同演習でエヴァで予定にない動きをして戦自の人を困らせたり、僕の料理にケチつけたりだよ」
そこまで言うと、しまったという顔を浮かべて反射的に頭部を守る体勢を取る。しかしいつまで経っても予定の衝撃が来ないので恐る恐る顔を上げてみる。
そこには呆けた目を潤ませながら、おぞましいものを見たような表情でわななくアスカがいた。
「エヴァに乗ってる‥戦自‥シンクロ率‥」
アスカの体に戦慄が走った。
「アスカ!?アスカ!」
気丈に振る舞う精神とは裏腹な華奢な体が、唐突に床へと崩れ落ちた。
843kou:2010/07/06(火) 15:58:33 ID:???
数時間後、正常を示す規則正しい点灯と音が鳴る部屋でアスカは目覚めた。白い壁紙と天井の染みがやけに目立っていて、綿の空気が抜けた固いベッドには自分の汗がじっとりと染み込んでいるのがわかった。
肌寒さを感じて掛け布団を手繰り寄せたあたりで、何故こんな場所にいるのかを考えた。
記憶を反芻すると悪寒が脊髄を駆け登ってきた。
二号機、戦自、ロンギヌスの槍、白いエヴァ、痛み、碇シンジ、赤い海。忘却していたというよりもとてつもなく大きな石蓋を記憶に被せられ続けていたような気分だった。ひび割れた部分から漏れ出ていたのが違和感の正体なのだろうか。
ここが病室だと気付いたのと同時に、パイプ椅子でくたびれて眠るシンジの姿を確認した。
「シンジ」
「あ。良かった目が覚めたんだね」
起きぬけに安堵の表情を浮かべると備品の小型冷蔵庫の中から小振りなナイフと果物を取り出した。
「びっくりしたよ。急に倒れるんだもん。気分は悪くない?」
カットしたフルーツを差し出されるがあまり食欲が進まないアスカはそれには手をつけず、シンジの目を直視した。
「どうしたの?」
「綾波レイ。聞き覚えない?ううん、ファーストだけじゃなくて使徒や赤い海の事も」
「レイ?なんでアスカがレイを知ってるの?」
綾波レイは親戚の子で最近父親が第三新東京に呼び寄せた。父の所で生活しているためあまり会わない、とシンジは述べる。
「シト、だっけ?聞いたことないなぁ。赤い海もわからない」
「ミサトは今どこにるの」
844kou:2010/07/06(火) 15:59:29 ID:???
「ずっと連絡が取れないんだ。何度か連絡してるんだけど繋がらなくて」
いくつかの質疑を交わして幾時間か経った頃ふとした事にアスカは気付いた。
「ここ病院よね?他の患者や医者とか看護師は?」
「ここはネルフ関係の病院だから個室を取れたんだ。お医者さんも検査だけして引き上げていったよ」
だとしても、いささか人の気配がしなさすぎる。窓は無く、今がいつかを知らせるのは備え付けのデジタル時計だけだ。また違和感。
思い返してみれば、外の風景を目覚めてから見ていない。確信はないが"何か"が自分を阻害しているような、大事な事だけ見えなくなる目隠しをされているような妙な気分に陥った。
閉塞感漂うこの状況になにか打開策は無いかとアスカは思案を巡らせる。
「ねぇ、レイに連絡してみてよ。番号知ってるんでしょ」
「知ってるけど、どうして」
ファースト、という通称では通じなかったのは"この世界"ではアスカが彼女を呼んでいなかったか、呼ぶ必要がなかっただけで綾波レイという人物は存在する。
「いいから。出来れば会いたいって伝えて」
突然の提案に戸惑いながらも電話を取り出し綾波レイの番号をコールするシンジ。
着信を待つ呼出し音が静かな部屋に小さく聞こえている間、シンジがレイを"レイ"と呼んだ事に少しばかりの嫉妬を覚えた事に気付いたアスカは布団の舌で自分の太ももを小さく抓った。
そして呼出し音が途切れた。
「あ、レイ?こんにちは。突然なんだけどいいかな」
たどたどしいやり取りをいくつか交わした直後、またもシンジが困惑した顔をした。
「え、そうなの?うん。うん‥わかった」
相手側から切られたようで、何度か液晶画面を確認するシンジに問うた。
「どうしたの?」
「下のロビーにいるから降りてきてって‥」
理由ははっきりとしないが、綾波レイが一連の違和感の鍵を握っているキーパーソンだとアスカは確信した。
845kou:2010/07/06(火) 16:03:13 ID:???
申し訳ないですが続きは夜に投下します。
長々と失礼します。
846名無しが氏んでも代わりはいるもの
鼻穴に靴下つっこんでまってるぜ支援。