【ラブラブ】マヤたん&リツコたん【はぁと】

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1名無しが氏んでも代わりはいるもの
先輩と後輩を越えた二人の関係を語れ!
2マヤ:2008/06/06(金) 19:43:32 ID:9vpsce4P
今、先輩とコーヒー飲みながらこのスレを見てます。
あぁ〜ん♪なんてイイ感じなの〜♪

わたしの先輩…わたしだけの先輩……髭男なんかに渡すもんですか!


あっ、先輩がこれから食事に行きましょうだって。
はいはい!先輩、今行きますからネ(はぁと)。


みんな、私達のこと応援してね♪
3名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/06(金) 19:47:30 ID:5WpVShsF
おえっww
4リツコ:2008/06/06(金) 19:58:07 ID:9vpsce4P
マヤったら、こんなスレ立てちゃって。
しょうがないコね。

本音を言えばマヤは気になる存在ね。
いくら設定とはいえ、司令の相手をするのはウンザリよ…。
今度の新劇場版はどうなるのかしらね?



なぁ〜に、マヤ?
まだ食べ足りないの?えっ、デザートが欲しいって…えぇっ!?
ちょっ……私はデザートじゃ…マヤ、マヤっ……まだ早いわよ!
5ミサト:2008/06/06(金) 20:39:25 ID:9vpsce4P
ヤッホ〜、5ゲットww
マヤちゃんにね、『盛り上げてください!』ってお願いされちゃったからカキコしに来ちゃったわよー!
で、再度「5ゲトー」!!
にゃははぁ〜、一度こういうの言ってみたかったのよw
ま、アンタ達も気長に頑張んなさいよね!
6リツコ:2008/06/06(金) 20:47:27 ID:9vpsce4P
ミサト!あなた、ただの野次馬根性で見てるでしょ…。
まぁ、いいわ(こめかみに指)。

私もまんざらじゃないし…って、(ハッ)自分でナニ言ってるのかしら!?

マヤとの間もロジックじゃないってことになるのかしら(遠い目)。
7名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/06(金) 21:12:21 ID:rkFxvUmr
ここまでひどい自作自演はひさびさに見た
8名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 01:34:26 ID:Efkg2FjK
ID確認のスレですか?
9名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 01:48:23 ID:???
確かに自演は酷いが方向性としては悪くない
この2人、いいよな
10名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 07:35:49 ID:ssWubcOt
おえっwwwwww
11マヤ:2008/06/07(土) 18:58:51 ID:4TW4Ma7p
今日は休みだったので先輩とパチンコしに行っちゃいました(はぁと)。
実はわたしギャンブルするのって初めてなんです。
なんか不潔なイメージしかないから、行くことないと思ってたんだけどね(*^o^*)
でも先輩がパチンコが趣味だったなんて意外だったなぁ〜。
結果を言うと、わたしは3万勝てました。
機種はモチロンわたし達が出演するアレです!
でも隣で打っていた先輩が怖かった…。
眉間に指、こめかみに青筋、煙草モクモクで……えぇ、そう負けてたの。


帰り道に先輩こんなことブツブツ言ってたわ。

『7万使ってわかったわ。ミサトには友達はいない。私はコーヒーは嫌い。ついでに、バアさんじゃない。』

なんのことかしら?
とにかく今回は残念でしたね先輩。
でも、また連れて行ってくださいね(はぁと)。
12リツコ:2008/06/07(土) 19:45:20 ID:4TW4Ma7p
今日の私は全くもって無様だったわ…。
冷徹でお堅いだけの私ではない一面をマヤに知ってもらえたのは良かったけど、我を忘れてあんな醜態を晒してしまったなんて…。
不覚よリツコ。恥よ恥。
とりあえずマヤは楽しんでくれたようだからいいわ。

ちょっと失礼して…(コポコポ…グビッ)……ハァー、私やはりコーヒーは好きよ。
きっとあれは墨汁かイカ墨だかなんかだったから警戒して飲まなかったのよ。
ミサトのことだもの。
ウン、きっとそうよ。
なんだか疲れたわ。
明日はいい日でありますように。
ちょっと早いけどオヤスミ、マヤ。
13名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 09:08:15 ID:???
なんなの?書いてて虚しくないの?
14マヤ:2008/06/08(日) 16:51:19 ID:qwvwjSiU
虚しくないですっ!
先輩とわたしの絆を語るスレがないから作ったの。
あなたも手伝ってよ。
15リツコ:2008/06/08(日) 16:56:02 ID:qwvwjSiU
MAGIで試算するまでもなく、予想通りに過疎っているわね。
このままマヤとの交換日記になりそうな案配だわ。
だれか良い職人さんが降臨して、更にストーリーを繰り広げてくれると嬉しいわね。
16名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 23:05:02 ID:???
17マヤ:2008/06/09(月) 09:49:23 ID:aGvNayOT
>>16
あっ、恥ずかしい(*^.^*)
これは思い出の写真です(はぁと)
ミサトさんの写真を狙ってた日向くんに、たまたま激写されちゃってネルフで噂になったんですよ〜(*^o^*)
そっかぁ、ネットに流されちゃってたの恥ずかしいな。
でも嬉しいデス(はぁと)
そうね…この時のことについて話をしようと思います。
……(ポカリ)…ぐはっ!今、先輩にど突かれてしまいました…。
こっち睨んでいる…仕事に戻ります(涙)。
また夜にでもきますね。
18名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/09(月) 09:50:27 ID:???
保存した
19マヤ:2008/06/09(月) 21:00:21 ID:aGvNayOT
話の続きします。
あの写真なんだけど、先輩が貧血を起こしてわたしの方にフラ〜っと倒れこみそうになったことがあるの。
それでわたしが支えようとしたんだけど、うまく支えきれずであぁなっちゃったってワケ。
先輩の説明では、あの時は意識なかったとかでよく覚えてないと仰ってました…。
わたしはただビックリしちゃってただけだっけど…神様のプレゼントだったのかな(顔真っ赤)。

あのね、先に言うとわたしは先輩が大好き…キャッ!先輩も見てるのに言っちゃった(はぁと)
でも、先輩はわたしのことどう思ってるのかよくわからないの……なんか曖昧で…じれったいな。

でも、このスレが終る頃までには進展したいなぁって思ってます。
それもスレ立てした主旨の一つなんですよ(*^_^*)
20マコト:2008/06/09(月) 21:10:34 ID:aGvNayOT
あのさマヤちゃん、君の想いはよくわかるよ。
僕も片想いしてる身分だからね(苦笑)。
今の君の話を聞いて改めて感じたんだけど、赤木博士はまるっきり気を失ってたとは思えないんだよなぁって…。
写真をよくご覧。
君の顎に添えられた博士の左手が意味しているのは何か、考えるまでもないだろ(笑顔)。
恋は焦らず!僕も頑張るかな(笑)。
21レイ:2008/06/09(月) 21:25:39 ID:aGvNayOT
あの……発言させてください。
今しがた赤木博士から伝言を預かりました。
命令なので伝えます。

『マ、マヤ…あ、あの時のことがネットに流出してたのにまず驚きました。で、そ、それで、私は…えぇと…そ、そのよく…よく覚えてないの。マママ、マヤのこと…その……う〜んと、今は追求しないでくれるかしら(赤面)。』

……以上、そのままの言葉で伝えました(ニヤリ)。
22アスカ:2008/06/09(月) 21:39:56 ID:aGvNayOT
ちょっとぉー!いつの間にこんな楽しいネタが出来てたのよぉ!
ネルフ内にも2ちゃんねら〜っているもんなのね。
真面目一徹なマヤがそうだとは意外だったわ。
ま、ちゃねら〜暦はアタシの方が長いけど♪
それにしてもレイ、アンタってばキャラクター変わったんじゃない?
それにリツコもリツコよねぇ。
人に伝言なんて、結構ウブなとこあるじゃない。
ま、でもあれね、この伝言じゃかえってバレバレってもんになるんじゃな〜い?(含み笑い)
まぁ、今後が面白そうだわ。
じゃね!
23ミサト:2008/06/09(月) 21:49:05 ID:aGvNayOT
あっら〜マヤちゃん、こりゃまた大胆な告白をしたものねぇ(イヒヒヒ)。
あたしはリツコのことよぉ〜く知ってるから、なんでも相談していいわよ〜ん?
リツコってさぁ、いつも論理的すぎるから、こういうのは不得手なのよねぇ。
あたしの爪の垢でも煎じて飲ませてやろうかしら(カカカ)。
24リツコ:2008/06/09(月) 23:15:01 ID:aGvNayOT
皆、一斉に姿を消したと思ってたら、マサカここに集ってたとわ…ね(-_-#)

ところで日向君!
…流出の件であなたに話があるわ。
これから私の「実験室」まで来ること。
念のため保安部員に迎えに行かせたわ。
既にあなたは監視下に置かれているから、逃亡しようとしても無駄よ。

それとレイ。
あなたに伝言を頼んだ私が馬鹿だったわ…。こういう時だけ、昔みたく人形になるのね。今のあなたがどんなだか、アヤナミストが知ったら卒倒ものよ。


ミサトとアスカ!
マヤをヘンに炊きつけないでちょうだい。
「可愛い後輩と敬愛される上司」なだけよ。
そうそうミサトの机上に書類が山になってて副司令がカンカンだったわ。
家でビール片手に2ちゃんねるしてる場合ではないのでは?
アスカには明日特別メニューを用意しとくから、学校終ったら真っ直ぐネルフに来ること!
わかったわね?
25名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/09(月) 23:18:42 ID:???
可哀想なやつ
26マヤ:2008/06/09(月) 23:56:55 ID:aGvNayOT
>>25
このスレ覗いてカキコするんだから、多少なりとも興味あるんじゃない?
あなたも仲間に入って。
大歓迎よへ(^-^)乂(^o^)ノ
今なら入会金+年会費は無料の上、わたしの生写真が特典につくわよ(はぁと)
さらに匂いつき…

――ドグワシャ!!――

ぐはっ!…また先輩にド突かれてしまった…(涙目)
あぁ〜ん、そんな冷たい目で見ないでくださ〜い(´Д`)
27名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/10(火) 00:07:36 ID:???
な、お前面白いから雑スレに来てくれ
そのスレ上がってるからわかるだろ?
28マヤ:2008/06/11(水) 09:40:23 ID:yq95p2+S
あれからずっと日向君の顔色が悪いけどどうしたのかしら?
気になるわ。
先輩が異様にルンルンしてるだけに、あの後なにがあったのか聞くのが怖いな(-_-;)

よぉ〜し、夜にでも先輩を飲みに誘ってみようかな(はぁと)。
面白い話が聞けそうなヨ・カ・ン。
29名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/11(水) 10:49:07 ID:???
マヤはそんなこと言わない
30マヤ:2008/06/11(水) 20:37:38 ID:???
あらら?ここのマヤは、オフィシャルなマヤと異なりマス。
というか、本当は普段こうなんですヨ(^-^)。
ここんとこ、「破」の撮影で忙しいです。
暑くなってきた今日この頃、撮影現場での休憩時はみんな凄いんですよ。
日中の陽気に加えて照明がギラギラと出演者を照らすため、現場はウダルような暑さです。
休憩時は、先輩はあぐらかいてヘビースモーカーしてるのはいつものことなんだけど、レイなんか上半身裸でその辺ウロついてるんですよ。
なんですか…羞恥心のなさはオフィシャルのまんまですネ(^0^)

あと、ミサトさんは役者魂が熱くて、台本片手に鏡の前でひとり百面相したりしてます。
意外と几帳面な方なんですよ。


…あっ、先輩の視線が……ド突かれたくないのでお喋りはここまでにしときます(^_^;)


あ、わたし達はオフィシャルでも素でも、ネルフの職員であることは事実ですからね(はぁと)
31マヤ:2008/06/11(水) 21:06:55 ID:???
さて、話を切り替えて…今は先輩と一緒に提灯酒場で飲んでいるとこなんですよ。
二人で酌み交すお酒はおいしいですね(*^o^*)
先輩を酔わせて聞いてみたら、日向君には「今度なんかしでかしたらダミープラグの材料にする」と脅しをかけてみたのだそうです。
いやん、先輩ったら極道の女みたいでカッコイイですよネ(はぁ〜と)

先輩、ちょっと酔いつぶれてきちゃったかな?
これからシッポリしたいなぁって気分なのに、こうして先輩の寝顔を見つめて飲むお酒もいいモンだなって感じたり…。
先輩の睫毛って綺麗…触れてみたいけど触れられない……ちょっと切ない気持ち…かな。
先輩、お酒が弱いんだから、他の人にそんな無防備な顔をしちゃダメですよ。
今夜は先輩をちゃんと家まで送り届けますね。
32名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/11(水) 23:27:48 ID:4yMpLAt5

33マヤ(酒場での一コマ):2008/06/12(木) 01:51:16 ID:cbq8s97R
今夜のマヤは上機嫌だった。大好きな先輩と二人でお酒を飲みに来たことに、天にも昇る気持ちでいる。
「先輩!今日は沢山飲んで食べましょう。ごちそうさまデス(^o^)」
シレッと恐ろしいことを言うマヤ。
満面の笑みを浮かべる彼女の顔を見てしまうと、リツコは何も言えなくなるのだということを両者共にまだ自覚していない。
「……そ、そうね(^^;」
リツコは苦笑しつつ頷いた。

仕事の話をする二人……途中、何杯目かのグラスを空けるとマヤはフッとタメ息を吐いた。
そしてリツコの目を見つめて言った。
「たしかにシンジ君のATフィールドを駆使する力は凄いです。でも…でも、それに負けない位に今夜のわたしはAWT(OS)フィールドが出てるのがわかります…。」
思わずポカンとしてマヤの顔を見るリツコ。
固まったまま深刻な表情をしているマヤに、科学者としてのリツコの心がざわめいた。
「マヤ、そのAWT(OS)フィールドっていうのはなに?……!?…まさか私の研究補佐をしていることで、あなたの人体に予期せぬ未知の変化が起きてしまったというの!?」
34マヤ(酒場での一コマ):2008/06/12(木) 02:02:40 ID:cbq8s97R
驚愕するリツコに、マヤは困惑顔で答えた。
「…はい、先輩の研究をお手伝いするようになってから……およそ半径1m以内が…。」
うなだれて話すマヤを見てリツコは可愛い後輩の身を案じた。
「(なんてこと…今まで様々な薬品や機器を扱ってきたわ。それにOSって人格移植OSのことよね……MAGIを介する作用なの!?私の研究とMAGIがマヤに突然変異をもたらせてしまったなんて…一体どうすれば……)」
リツコの目から涙が溢れだす。
そしてマヤの両手を握り締めると、真摯な目で訴えかけた。
「それでマヤ、そのAWT(OS)フィールドというのはどんな症状なの?私に心配をかけまいと苦痛を我慢してたのね。…悪いのは私なのよ。さぁ話して!」
すると、マヤはパッと顔を上げ、目をキラキラさせるとこう言った。
「はいっ!AWT(OS)フィールドというのは、『あぁ〜ん、わたしトキめいてます(オンリー先輩)』フィールドの略称デス(*^o^*)」


――ピシッ…ビシ、ビシッ!――


辺りに鈍い重低音が響くと、リツコのこめかみに何本もの青筋が浮かぶ。
自分が握っているのはマヤの両手……それごと壁に叩き付けたくなる衝動をなんとか抑えることに成功した。
「そ、そう……問題はあるようなないような……ま、いいわね(^^;」
その後、リツコの飲むピッチが上がったのは言うまでもない。
リツコの酔い潰れ……決して酒に弱いのではない。
マヤは、そんなリツコの寝顔を幸せそうにいつまでも見ているのであった。


―完―
35マヤ:2008/06/14(土) 18:34:35 ID:???
赤木リツコの研究室。
休日とはいえ、出勤して実験データの検証やまとめを行うのも日常茶飯事のこと。
本日の業務を、慣れた手つきで忙しくこなしていくリツコとマヤである。
キーボードを叩いていたマヤの手が止まる。
「先輩、終りましたっ!」
日頃の言動にアレレなところはあるが、リツコが見込んだ後輩だけある。
優秀な頭脳の持ち主であるマヤは、仕事が確実で早い。
普通なら、まだこの倍は時間がかかる仕事量。
リツコは、それをなんなくこなし成長していく彼女を頼もしく思っている。
「あら、いつも早いわねマヤ。それじゃ今日はもうあがっていいわよ。」
リツコはそう言うと、傍らに立っているマヤを見やった。
と、笑顔のマヤが何かを大事そうに持っていることに気が付いた。
「(ん?)マヤ、それはなんなの?」
見なれない物体を指差し、リツコは不思議そうに聞いてみた。
「あ、これですか?オカリナです。わたし、ここの吹奏楽部に所属していて、これから練習しに行くんですよ。」
ニコニコと答えるマヤ。
「(…吹奏楽部?ネルフに部活動なんてあったかしら?そもそもオカリナって当てはまらないわよね…?)」
リツコは思案にふけった。
「わたし、やっと最近になって『パピプペポ』の音色が出せるようになったんですヨ(*^o^*)先輩も一緒にどぉぉでぇ〜すかぁぁ〜?(はぁ〜と)」
気分は上々、得意気に語るマヤの鼻息が心なしか荒くなってきたのは気のせいか。
「…パピプペポ……そ、そう…スゴイわねマヤ。でも私は楽器は得意じゃないから、え、遠慮しとくわ(^-^;)」
マヤには悪いがやんわり逃げることにした。
「それにしても、吹奏楽に興味あるなんてね。あなたはオカリナというよりは、むしろフルートのイメージよ。きっかけはなんだったの?」
36マヤ:2008/06/14(土) 18:41:16 ID:???
ジト目で見ているマヤに冷や汗をかきながら、なんとか話の矛先をかわす努力をするリツコ。
よくある光景だが、マヤは気にしない。
「きっかけですか?えっと、シイちゃんとルイちゃんに誘われたのが始まりです(^o^)」
嬉しそうにそう答えるマヤの顔を眺めながら、リツコは考えた。
「(シイちゃんとルイちゃん?技術部にそんな名前のコはいないわよねぇ。)」
そんなリツコの考えを悟ってかマヤは続けた。
「目月賀妖シイちゃんと、手癖川ルイちゃんです。二人共に今年入った新人で、すごくイイ子達なんですよ(^-^)」
嬉々として話すマヤ。
あっけらかんと話すマヤの言葉に、リツコの頭の中でタイトルの如く文字がスパークした。




、転換汁!


名は体を表すと言うではないか。
仕事に対しても同じではないか?
どちらも【いかにも】な名前なのに、所属先がそれでネルフは問題ないのだろうか?
「…人事部の考えていることはわからないわね(-_-#)」
そう一人ごちてみた。
37マヤ:2008/06/14(土) 18:45:55 ID:???
そんな風にリツコが思っていることも知らず、マヤの話はエスカレートする。
「二人とも、いつもわたしのことを『お姉さま』と呼んで慕ってくれるんです。家に遊びに行くと必ず引き留められて、泊まってくよう言われるんです。」
楽しく話すマヤ。
「で、お風呂に入ってると背中まで流そうと申し出てくれて…寝る前にマッサージとかも申し出てくれたりするんですよ。」
さらに楽しく話すマヤ。
「ま、さすがに後輩にそこまで気を遣わせるのは悪いからいつも断っているんですけど。でも可愛いですよね(^o^)」
そして、サラッと言い終る。
あくまで後輩に慕われている自分の話をしているつもりでも、リツコにはそうは聞こえなかったようだ。


―ムッカァーーーッ!!!―


リツコは腹立たしい感情に包まれた。
楽しげに話すマヤにも苛立ちが募ってくる。
なんだかよくわからないが、聞いていて面白くない話なのは確かだ。
どうして?
それがよくわからない自分自身にも苛立ちが募ってくる。
とりあえず、今はマヤに意地悪したい気分になっていることだけは自分でわかった。
「マヤ、話の途中で悪いけど、まだ残っている仕事があったのを思い出したわ。明日までに仕上げないとならなくて…悪いけど今から急ぎでやってくれないかしら?」
表情は懇願するように、内心は舌を出していることを悟られないようお願いする。
38マヤ:2008/06/14(土) 18:48:40 ID:g2ARIRHc
「あ、そうなんですかぁ〜。でも、先輩の頼みならオカリナより大事ですよ(^-^)練習はまた今度でいいですしね。」
マヤがそう答えることはリツコもわかっていた。
ちょっと申し訳なく思ったが言えないので、ソッと心の中で『ゴメンね、マヤ』と謝る。
「急な頼みで悪いわね。今度なにかお礼をするから。」
表情を仕事中のソレに戻し、再びキーボードを叩き出す。
「お仕事〜、おっ仕事ぉ〜♪先輩と一緒におっ仕事ぉ〜♪」
鼻唄交じりで陽気に仕事を再開するマヤに苦笑する。
「あ、マヤ。今度あなたのオカリナ練習に付き合わせてくれる?」
悪戯っぽく言うリツコ。
「え?先輩、やっぱり本当は興味あるんじゃないですか〜(^o^)もう〜、いくら楽器オンチだからって恥ずかしいことないですよ!わたしがシッカリ教えますから大丈夫デス(*^o^*)」
ドンと胸を叩き自信満々で答えるマヤ。
「(別にオカリナを習いたいワケじゃないんだけど…それに楽器オンチって……(T^T))」
苦笑しながらも、リツコの口元はなぜか綻んでいた。
「(あ、先輩喜んでいる。この仕事が終ったら、先輩に特訓を開始しなきゃ。まずは『ラリルレロ』の音色を習得してもらお(*^o^*))」


……リツコとマヤの平行線はまだまだ続く。



―完―
39マヤ:2008/06/14(土) 18:59:32 ID:g2ARIRHc
>>36
※「嬉々として〜」と「あっけらかん〜」の間が抜けてました。
↓の文が入ります。
ゴメンね(はぁと)





リツコは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「あの…その子達の名字は難しいのね…。念のためもう一回聞くけど、今なんて言ったの?」
マヤと親しい交友関係にある子達だ。
『その名前はおかしいんじゃね?』とは、さすがのリツコも思っても言えなかった。
「ですからぁ〜、めつきがあやシイちゃんと、てぐせがわルイちゃんデスよ先輩(^o^)」
顔に縦線が入ったリツコに構わずさらに続けた。
「目月賀妖シイちゃんは受付に、手癖川ルイちゃんは経理に所属してるんです。なんて言うか、わたしもいっぱしの先輩気分デス(^0^)」
40ミサト:2008/06/15(日) 17:06:19 ID:???
ちょい、マヤ〜♪
序盤から随分とトバしてるけど大丈夫〜?
まぁ、アンタ達のことだからネタは尽きないみたいだからいっか(^ー^)

そうそう、リツコがボヤいてたわ〜。
『あのコ、私が目を離したすきに色々と書きこんでくれて……おかげで私のイメージが崩れちゃったわよっ(T^T)』
な〜んて言ってサ。
でも、アタシに言わせりゃ「ソレ事実じゃんか〜」よね。
それ言ったら、さっきリツコにグーパンされちゃったんだけど。
あとね、『マヤに書かれてばかりで悔しいわ。ちょっとお仕置きしないとならないわね。私はなに書こうかしら?』って言ってたわ〜。
そうねぇ〜、あの女の書くことじゃ、きっとドSな視点になりそうね。
だいいちリツコって理系だし、そもそも作文なんてできるのかしら?
41マヤ:2008/06/15(日) 17:15:52 ID:H2eDgyh3
葛城さん、先輩ホントにそう言ってたんですか〜?
どうしよう…わたし危ない注射とか打たれるんじゃないかと、少し心配なんて全然しませんよ(^o^)
だって先輩は、名高い三賢者の一人である赤木ナオコ博士の一人娘であり、且つ、同じくネルフの重鎮を担う天才科学者なんですよ!
いくら頭がまっキンキンでも、きっと素晴らしいお話をされるに決まってますヨ(*^o^*)
42リツコ:2008/06/15(日) 17:20:10 ID:???
どうしてあなた達は…(-_-メ)
鋭意練り上げ中とだけ言っとくわ……。
43リツコ:2008/06/18(水) 19:06:34 ID:???
―朝6時―
目覚まし時計から、昔の戦時中を連想させるかのような音が奏でられる。

――パッパ、パッパ、パッパラッパラッパ♪パッパ、パッパ、パッパラッパラッパ♪「先輩バンザァァイ!」ドゴゴォォー(爆発音)――

私は低血圧で目覚めが悪い故、見かねたマヤが「突撃ラッパ時計(はぁと)」という名のコレを自作してくれたのだ。
ちなみに何故か100dbという大音量。
『近い将来、先輩の耳が遠くなった時のことまで考慮しました!』
そんな彼女の弁には正直、頭を抱えさせられたくはなるが、素直で優しいコであるのはよく知っている。
鳴り響く目覚まし時計を止めると、ベッドの中で軽く伸びをして起き上がった。
シャワーを浴びてから朝食をとり、素早く身支度を済ますと車に乗り込む。
これが私のいつもの出勤風景である。

発令所に到着すると、いつもの面々と軽く挨拶を…それから、私に笑顔を向けてくれるマヤと挨拶を交わす。
彼女の笑顔はいつ見ても可愛らしく、真っ直ぐな瞳の視線が眩しい。
時々そんな視線に耐えきれなくなる時がある。
こんな時、誰とでも分け隔てなく接し談笑することができる彼女のことを羨ましく思う瞬間でもある。
44リツコ:2008/06/18(水) 19:08:45 ID:???
そう思うのも、生来、私は人付き合いというものが苦手であるからだ。
私にないものを持つ彼女を羨ましく感じるのは、いたしかたないのかも。
彼女と接していると、自分まで人に優しくなれるような錯覚を時に起こしてしまうことがあるのだから…。
いつも突拍子もない発言で私をあたふたさせたりするが、部下として、また他愛ない話相手として一緒に過ごす時間は心地よいものだ。
とにもかくにも、不思議な存在なのである。
彼女がいれてくれたコーヒーを飲みながら、そんなことについてボンヤリと物思いに耽るのが最近の習慣となってきている。

―昼12時―
ランチは大抵いつも一人で済ましがちだ。
私の場合、昼休みはあってないようなもので、仕事に入り込むと食事がおざなりになってしまいがちだ。
マヤには小言を言われてしまうが、これが性分なのだろうか仕方がない。
今日はミサトが誘いに来たので、椅子の上で固まっている腰をあげることにした。
食堂に向かいがてら、ミサトが話を振ってきた。
「あんた、お昼はマヤちゃんと食べたりしないの?」
ミサトが興味ありげに問いかけた。
どうやら、彼女が同期のオぺ仲間のコ達と一緒に食べていることを知らないようだ。
45リツコ:2008/06/18(水) 19:11:28 ID:???
彼女には昼食を一緒に誘われたこともあるが、私が行っては彼女の友人達がヘンに恐縮してしまうだろうことはわかっていた。
彼女と友人達の交流に水をさすわけにもいかないのだし遠慮している。
なんといっても、ここでの私は「E計画担当責任者 赤木リツコ博士」という肩書きなのだから……。
故に、必然的にランチは別行動になるのだと答えた。
「ふ〜ん…まぁ、四六時中一緒じゃ新鮮味もなくなるってか♪」
ミサトがからかい口調で言う。
「なによソレ」と返す間もなく、にやついた笑いを浮かべたミサトが腕をとって食堂への歩を早めた。
腕を引っ張られながらそう言ってみたとこで、もはや『食欲大魔人』と化しているミサトには聞こえないだろう。
やれやれ…ミサトの、自分が言いたいことだけ言うとサッサと切り上げてしまうという癖は、学生時代からそう変わっていない。
これが今では一丁前に作戦部長であり、昔からの悪友であるのだから面白い話である。
腐れ縁な関係かくもよく続くものだ。

食堂に入りメニューを選ぶ。
今日は日替わりランチAにした。
ミサトはというと…お気に入りの……またアレだ。
私の眉間にいつもの皺が浮かんでくる。
46リツコ:2008/06/18(水) 19:15:46 ID:???
案の定、カレーのルーをブチ撒けて、その上にマヨネーズやら調味料やらをトッピングしまくった『元はナニかの料理』を食すミサト。
それをなるべく視界に入れないよう注意しつつ、毎度の談笑をしながら食事を終える。
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ると、私はいまだ『ナニか』を食べ続けているミサトに呆れ顔を向け、仕事場へと戻った。

―夕方5時―
定時退社時間ではあるが、まだまだ帰れない。
課せられた業務を遂行するのに時間は足りないほどだ。
マヤが居残って付き合ってくれるからこそ、どうにか毎日が終れるといった具合いだ。
部下に頼りすぎる上司というのも情けない話だが、私の右腕として果たす役割が大きいのは事実だ。
彼女も疲れているだろうに、軽くスネながらも付き合ってくれることにはいつも感謝している。

―夜11時―
仕事が終った。
この時間は終電も過ぎているため、電車通勤しているマヤを自宅まで送る。
遅くなる時はいつもこうで、彼女の自宅までの約20分程をドライブするのである。
疲労してることがかえってハイな気分にさせるのか、この深夜ドライブは互いに饒舌になる。
もちろん、頓珍漢な会話になるのは毎度のお約束ではあるのだが(苦笑)。
47リツコ:2008/06/18(水) 19:18:53 ID:???
他愛いない会話をすることに、ささやかな幸せを感じる一時だ。
やがて彼女の自宅が見えてくると、このお喋りタイムも終りに近付く。
寂しがり屋ではない筈なのに、こんな時はどことなくもの悲しい気分になってしまいがちになる。
随分と子供っぽい部分が私に残されているものだ。
「…じゃ、おやすみ」
軽く微笑むと彼女を降ろし家路につく。

自宅に到着する。
こうして一日がまた終った。
「…明日はどんな一日になるだろうか…」
ベッドに入り、眠りに落ちるまでの間そんなことに思いを巡らせる。
以前は、明日の作業内容とその工程を考えるだけであったのに、マヤという右腕が出来て心に余裕が生まれたのかも知れない。
まるで日常に何か楽しみを見い出すかのような思考をするとは、私も変わったものだ。
自分のささいな変化にちょっと驚く…。
さぁ、明日もまた仕事。
寝不足な顔で行ってはマヤが心配するだろうから早く寝ないと。
楽しい夢を見れることを少し期待して。



―完―
48ミサト:2008/06/18(水) 19:32:21 ID:???
ちょっと読んだわよ〜。
なによ、全然笑いがないじゃない!
それにマヤちゃんばっか持ち上げた内容でサ、あたしの扱いはヒドイんじゃな〜い〜?
あんた、お仕置きするって言ってたけど、あたしに対してだったの〜!?
ズ〜ル〜イ〜!!
49マヤ:2008/06/18(水) 19:43:44 ID:???
先輩が何を書かれるのか内心ドキドキしてました。
でも、先輩に頼りにされてるのを知って嬉しかったです(*^o^*)
わたし、先輩がいるから頑張れてます。

先輩のこともっと知りたいです!
また色々書いてくださいネ(はぁと)

50リツコ:2008/06/18(水) 20:01:12 ID:II3OwhKp
こういった自分の日常を文にして書いたり、また人に読んでもらうことも初めてだったけど、なかなか面白いものね。
書きながら自分でも楽しんでいたわ(^-^)
マヤにお仕置きするつもりが違っちゃったけどね(苦笑)。

ミサトに笑いがないって言われたけど、ランチをしている時の描写は笑いありのつもりで書いたのよ?
ミサトには笑えなかったことかもね(苦笑)。
51アスカ:2008/06/18(水) 21:04:00 ID:???
結構このスレもすすんだわね。
リツコの文を読んだけど、いい感じに書けてるじゃない。
マヤみたいな感じで突き進むのかと思ってたわ。
例えるならマヤが「動」で、リツコは「静」ってトコね。
アタシって、てっつがく〜!!
52名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/21(土) 16:48:11 ID:???
良スレ
53シゲル:2008/06/22(日) 06:53:01 ID:???
「先輩が悪いですっ!」
「いいえ、マヤが悪いわ!」



それは夕暮れ時のことだ。
これから行われる零号機の起動試験に備え、俺はコンソールに向かって慌ただしく手順内容を復唱確認していた。
すると突如、空気を引き裂かんばかりに争う大声が響きわたったのだ。
俺はしこたま驚き、何事なのかと声のする方へ顔を向けてみると…

マヤちゃんの席に悠然と座る赤木博士と、それを見下ろす形で立ちすくむマヤちゃんの姿が目に入った。
それも怒りに肩を震わせているマヤちゃんが、あろうことか赤木博士に喰ってかかっているではないか。
「(ウっソだろ……おい…)」
いつもにこやかな笑みで俺を…い、いや、職場全体を和ませるマヤちゃんが激怒しているなんて信じられねぇよ。
対する赤木博士も、かなり気色ばんだ顔をしてマヤちゃんを睨みつけているじゃないか。
「おい、一体なにがどうしたんだ?」
俺はわけがわからず隣の席にいたマコトに目を向けたが、奴もビックリした顔で固まっている。
「(ここにきて、プログラミングに問題でも起きたのか?…)」
俺はそう思った。
それも怒りに肩を震わせているマヤちゃんが、あろうことか赤木博士に喰ってかかっているではないか。
「(ウっソだろ……おい…)」
いつもにこやかな笑みで俺を…い、いや、職場全体を和ませるマヤちゃんが激怒しているなんて信じられねぇよ。
対する赤木博士も、かなり気色ばんだ顔をしてマヤちゃんを睨みつけているじゃないか。
「おい、一体なにがどうしたんだ?」
俺はわけがわからず隣の席にいたマコトに目を向けたが、奴もビックリした顔で固まっている。
「(ここにきて、プログラミングかなんかに問題でも起きたのかよ?)」
マイッタナと俺はそう思った。
54シゲル:2008/06/22(日) 07:04:22 ID:???
当事者の二人以外、この場にいる誰一人も事態が掴めてないようだ。
俺も含め、皆この異様に張りつめた空気に臆してしまったかの如く身じろぎ出来ずにいた。
…そして睨み合って対峙したまま、いつまでも微動だにしない二人。
「(なんかノド渇いた…)」
俺が困り始めた矢先だ。
異様に張りつめた空気を最初に壊したのは、続くマヤちゃんの叫び声だった。



「どうして先輩がっ!これはわたしの仕事です!」
責めるマヤちゃん。
「だから、あなたは徹夜続きでフラフラでしょ!いいから寝てなさい!」
返す赤木博士。


「私は大丈夫です!先輩こそ休みが必要なんです!いつも見ているからわかります!」
「私だって、あなたを気にかけているからこそわかるのよ!私を心配させないで!」


「先輩っ…」
「(!?……あっ)」
55シゲル:2008/06/22(日) 07:09:35 ID:???
「わたし、先輩の体が心配で…大事だから……でも、自分まで倒れることになったら本末転倒ですね…」
「…それは私も同じね……」


「わたし、ついムキになっちゃって…わたしが悪いです。」
「…いいえ、私が悪いわ。言葉足らずだったわね。」


「ゴメンなさい、せんぱぁ〜い(涙目)」
「もう、マヤったら(微笑)」


「エヘヘ…それじゃ、私の仕事ぶりを見てくれますか?」
「いいわよ、一緒にやりましょ。フフフッ」


なんだこりゃ!
56シゲル:2008/06/22(日) 07:12:26 ID:???
“ズコッ”というコケたような音が周囲で一斉にしたような…。
俺は舌打ちしたくなった。
なんだアレか…要するに痴話喧嘩っていうヤツかよ!



……あぁ〜これ以上、これを書くのがアホらしくなってきたよママン(涙)。
なんだよなんだよ、マヤちゃん、やっぱそうなのかよ。
なぁマコト、俺も髪の毛を金色に染めたら気に入ってもらえるかなぁ?
…なんでバカ笑いするんだよ!
俺、真面目に言ったんだぜ?
だから笑うなよ、もぅ〜(涙)。
そうボやく俺の目前で、より一層仲睦まじくなった二人のジャレあいがいつまでも続いていた。





―終り―
57マヤ:2008/06/22(日) 17:57:58 ID:???
青葉くん、そんなこともあったわね(o^-^o)
たまには先輩と喧嘩する時もあるけど、いつのまにか仲直りしてるから離れられない運命ね(*^o^*)

青葉くん!わたしには先輩がいるから他をあたって。
青葉くんなら金髪にしなくても、きっと素敵なギターが見つかるから(はぁと)
58マコト:2008/06/22(日) 18:08:32 ID:???
シゲル、泣くなよ。
マヤちゃんの言う通りだ。
おまえなら素敵なギターとめぐり逢えるさ。

もし、俺がギターならおまえを選ぶよ!
でも俺はギターじゃない。人なんだ。
だから、俺は〇城さんを選ぶ。
だから笑おうぜ!
アハハハハハ(笑)
59ミサト:2008/06/22(日) 18:22:46 ID:???
アハハハハハ!
一部ひっかかる箇所があったけど、日向君たら面白いわね〜♪
マヤちゃんに影響されちゃったみたいじゃな〜い。
青葉君にはトドメに聞こえたと思うから、きちんと成仏させてあげるのよ〜。


リツコに青葉君という思わぬライバルが出現したことを言ったら、またグーパンされたわ。
っとに、素直じゃないわね(-_-メ)
60ミサト:2008/06/25(水) 08:39:44 ID:???
あたしも小ネタを暴露するわ!

先日、食事会を我が家でやったんだわ。
シンちゃんの料理目当てに群がった…じゃなくて集まったのが、わたし、アスカ、レイ、リツコ、マヤちゃんのメンバー。
あ、日向君と青葉君にも声をモチロンかけたんだけど、どうしても残業があって抜け出せないとかで来れなかったのよね。
もっともその残業の原因になったのは、あたしが仕事サボってたからなんだけどぉ〜…ま、いっかぁ〜\(^O^)/
で、なんだっけ?
そうそう、その食事会でのことよ。
最初は穏やかな雰囲気で始まったのに、やはり酒が入るとダメよねぇ〜。
べ、別に、あたしがビールが飲みたいけど金欠だから、食事会という名目でリツコ達に酒を持参させたなんて魂胆はないわよ?
と、当然じゃない。
アハハはは…は……(^o^;
で、なんだっけ?
え〜っと、未成年共も飲むわ、マヤちゃんはどこ吹く風だわ、リツコは青筋浮かべて暴走するわでサー。
みんな酔っぱらって好き勝手にするんだもの。
あたしが抑え役に回って大変だったのよ。
61ミサト:2008/06/25(水) 08:46:00 ID:???
『ドイツじゃビールはお茶なのよ!』
まずは、既に酔っぱらってるアスカがこう言って一気飲みしたから驚いたわ。
だぁ〜って、そう言って飲んだのは「剣菱」よぉ!?
いくらなんでも日本酒は無謀っしょー。
あたし一応は保護者じゃん、アスカの脈をとば……消えてる!?
し、知ぃらな〜い…。
怖くて確認すんのヤメたわ(/--)/
んでサ、マヤちゃんは大丈夫だろと油断してたらやってくれました。
家の外で鳴いてた猫達と『ニャ〜ニャ〜』会話してやんの。
で、勝手に猫を家に招き入れるその数…いち、にぃ…8匹ぃ!?
あの、ここはあたしの家なの……って人の話は無視かオイ(-_-#)
このあと更に場の荒れ具合いが加速したのは、とっくにデキあがってるレイの何気無い一言がきっかけね。
マヤちゃんと会話する猫の鳴き声が気になったのか、『…ニャー…鳴き声……媚る…』ってボソッと呟いたからサァ大変。
いきなりリツコが、『失礼ね!マヤは私のネコなんかじゃないわっ!』なんて反応するじゃない。
あったし絶句よ。
「アンタさぁ〜、レイが言ったのはネコじゃなくて猫なのよ(呆)」って訂正してやったのに聞きゃ〜しない。
もう完璧、舞い上がってるし。
っつーか、失礼なのはアンタよリツコ(-_-;)
62ミサト:2008/06/25(水) 08:51:49 ID:???
それにおかまいなく、レイは自分の世界に入っちゃっててサ。
空気も読まずに『…猫…噛みつく……痛い…』なんてさらに言っちゃうじゃない。
レイも察してやれ察して………ムリか。
案の定、またリツコが『マヤが噛みつくわけないでしょ!噛みつくと言いはるなら……そう、“甘噛み”に違いないわ!』なんて律儀に返答してるじゃない。
もうアホかと…。
んなこと誰も聞いてないっつーの、言うなバカ!
ほんで、リツコが陽電子砲並のメンチ切りでレイを攻撃すると、殺気感じたレイはATフィールドを展開して応戦するからヒドいのなんのって…。
お願い落ち着いて、ここはあたしの家なのよ(T_T)
ちょっとレイ、床にやたらに唾を吐かないでちょうだ…(ぺッ)
だから挑発すんなっ!
リツコもメスを投げるなっつーの!!
今あたしの頬をかすめただろがっ(`□´)
って、なんでそんなもんを持ち歩くかな。
…ほとほと困りましたわ。
マヤちゃんに救いを求めようとしたら、猫共と一緒にテレビ見て楽しそうにしてやんのorz
「ちょっとぉー、あんたの先輩が暴走してんのよ」と言ったら、今度はこっち見て指差してウケてるし(-_-#)
って、指差すな指っ!しまえっ!
猫も笑うなっ(`□´)
みんなヒドイわ、あたし可哀想だったわよ。
63ミサト:2008/06/25(水) 08:54:26 ID:???
結局は部屋がグチャグチャになっちゃった(ToT)
シンちゃんのおかげで片付いてんのに、勝手に戦いの場にしないでよね。
で、そのシンちゃんはというと…彼はこの光景を目にして完璧に現実逃避してたわ。
定番の『逃げちゃダメだ!…』の呪文を唱えながら。
んで、あたしも逃げたかったから、あたしは迷わず自室に避難してそのまま寝たのね。
シンちゃんには済まないことしたわ。
朝起きたら、みんな雑魚寝状態でシンちゃん下敷になってるし。
お詫びに、シンちゃんにあたしの巨乳を揉ま…ドカッ!!(打撃音)
グハ〜ッ、い、痛い!
あ…アスカ生きてたの、ヨカッタ嬉しい。
だって、あたしの首がつながったもの。
グハッ!……悪かった悪かったから、もう殴らないで。

宴の後の惨状はこんな有り様でした。
それからみんなを叩き起こして後片付けよ。
このメンバーで集まると危険だという教訓を得た一コマだったわ。
今度はリツコかマヤちゃんちにしてね♪
64リツコ:2008/06/26(木) 20:33:12 ID:???
あら、ミサトも随分な暴露話をするものね?
私がそんな乱暴なことをするわけないでしょ。
たしかにお酒が入ると記憶が飛ぶことがあるけど……ま、まさか(-_-;
あとでマヤにでも聞いてみようかしらね…f(^^;
65ミサト:2008/06/26(木) 20:42:45 ID:???
……あんた、都合が悪いことは全て“記憶にございません”なのね。
きっと長生きするわよ(-_-#)
部屋のクリーニング代、あんたの給料からさっぴいとくようお願いしといたから。

それにしても、あんたの痴態はなかなかの見物だったわ〜。
マヤちゃんどう思ったかしら〜ん♪
66リツコ:2008/06/26(木) 20:47:41 ID:???
変なこと言わないでよっ!
マヤも酔っぱらってたし覚えてないわよ…たぶん。
ミサトの話が事実なら、お酒で思考が麻痺しておかしくなっただけよ。
第一、私がそんなこと思うわけないじゃない。
あなた、マヤをなんだと思ってるの?
もう失礼ね!
67マヤ:2008/06/26(木) 20:57:44 ID:???
せぇ〜んぱい(はぁと)
わたし、先輩のネコになります!
ネコと猫の違いがわからないけど、可愛がってくれるってことですよね(*^o^*)
ウレシイです(はぁと)
68レイ:2008/06/26(木) 21:08:19 ID:???
…ネコ…猫とは違う………猫は愛玩動物……ネコは何?
何を可愛がる?……可愛がる……何をするの?
…わからない……赤木博士が伊吹二尉に何かをする…………!?!
……そう…そうなのね。
赤木博士、逮捕される前に自首してください。
69リツコ:2008/06/26(木) 21:18:23 ID:???
ちょっとレイ、あなたまで何を言っているの!
勝手に何を想像しているのよ(-_-メ)

マヤ、ネコと猫の違いは知らなくても良いことなのよ。
私が酔って口走ったということは忘れなさい。
まったく…私、どうしちゃったのかしらね……。
記憶にないって恐ろしいわ。
70マヤ:2008/06/27(金) 21:37:04 ID:3JO46hWH
先輩!数少ない読者のために、ここらで上げますか(^0^)
わたし達ネルフの職員でやりとりしちゃってますが、リク/感想が欲しいですね。
何か要望あれば教えてくださいネ(^o^)
71マヤ:2008/07/05(土) 18:06:42 ID:???
セ〜ンパイ(はぁと)
七夕祭りをやる話は聞いてます?
先輩の家で開催することが決定したそうですよ。
さっき、葛城さんから聞きました。
今度はどんな面白いモンが見れるのか楽しみです。
わたし、カメラを持って行きます(*^o^*)
先輩のショーゲキ的な姿をしっかり激写するのは部下の努めですし、バッチリ任せて下さいネ(^O^)v
72ミサト:2008/07/05(土) 18:07:27 ID:???
そ〜いうコトよん(^-^)
リツコにはまだ話してなかったけど、もう決定事項だからヨロシクね〜ん♪
言っとくけど、場所の候補地についてはちゃあ〜んとMAGIで審議したのよん♪
まっ、準備とか支度は手伝うからサ。
じゃ、ヨロシク〜(^_-)
73リツコ:2008/07/05(土) 18:11:22 ID:???
な、なんですって!?
なにがどうなって、いきなりそんな話になるのよ(-_-メ)
それより、勝手にMAGIをそんなことに使わないで頂戴っ!
どうしていつもこうなるのかしら……(-_-###)
まったく…母さんまで裏切るのね(T^T)
いいわよ、わかったわよ(T^T)ウウッ
74リツコ:2008/07/08(火) 07:19:01 ID:???

―7月7日―

予定通り1800より七夕祭りを私の家で行う運びとなった。
事前に準備は済ませてあるため、あとは皆の到着を待つのみ。
リビングのテーブルには、シンジ君には及ばずとも私お手製の料理が所狭しと並べられている。
私も人並みに料理はできるため、今日のために腕を奮ったのだ。
どこかの誰かのカレーとは違うのだとだけは、言っておきたい。
そして、部屋の中央にはマヤが手配した笹と短冊が用意され……そして、その隣にはなぜか鉢植えに入った小ぶりの松の木が鎮座している。
マヤが一緒に持ってきたものだ。
いつものことだが、マヤが何を考えているのかわからない……。
七夕と松の間にどんな繋がりがあると言うのよ……。
『先輩、この松を立派に育てて下さい!何十年もしたらかなりイイ値がつきますよ(はぁと)』
そう言われて手渡された松の木。
心遣いは嬉しいが、何十年って…だいいち私の家はマンションなのよ、マヤ……。
「(松よりも先に私が枯れてしまいそうな気分だわ……)」。
松の木を眺めながらそんなことを考えていると、呼び鈴が鳴った。
皆、定時通りに集まって来たのだろう。
モニターで来訪者をチェックする。
75リツコ:2008/07/08(火) 07:21:29 ID:???
確認してみると、先日のメンバーに加えて今回は日向君と青葉君の姿がある。
ドアロックを解除すると、皆一斉に部屋になだれ込んできて口々に叫びだした。
「大変よリツコ、ビールを3ダースしか用意出来なかったぁ!」
「ちょ、ちょっとアスカ!痛いよ押さないでっ!」
「ファースト、アタシの早く返しなさいよ!」
「………クッチャ、クッチャ(ガムを噛む音)……」
「あぁ〜ん、センパァ〜イ(はぁと)」
傍らでは、日向君と青葉君の二人が青い顔色をして固まっている。
メンバーは揃った。
が、この有り様では早くもこの先の展開に暗雲が立ち込めている予感がしてならない。
眉間に皺が寄るのを感じながら、こめかみに人指し指をやる。
私のいつものお約束のポーズ。
「(私の寿命は加速度的に縮む運命なのね…母さん……)」
天を仰ぎ、そうごちると彼女達をリビングに招き入れた。
すると、リビングから歓声が沸き上がった。
「わぁ、リツコさん凄い品数ですね!どれも美味しそうです!」
興奮したシンジ君の賛辞の言葉に思わず照れてしまう私。
どうやら私の料理に一同感激している様子。
76リツコ:2008/07/08(火) 07:23:25 ID:???
私も単純なもので、それで気をとり直すと皆に席に座るよう促した。
「リツコぉ〜、あんたこの“だし巻き卵”も作ったの?凄いわねぇ〜オ・イ・シ。」
乾杯もそこそこに、ビールで次々と勢い良く食べ物を流し込んでいくミサト。
まったく…そんな食べ方をされる料理が可哀想でならない。
「(あなたには、賞味期限切れのコンビニ弁当でも用意すれば良かったわ…)」と心の中で呟いて、こう答えた。
「そう、ちゃんと作ったのよ。マヤは卵好きだしね。」
すると、ミサトが片眉を釣り上げて顔を突きだしてきた。
「へぇ〜、マヤちゃんねぇ〜。」
近頃、私がマヤの名を口に出すとミサトはすぐ飛び付いてくるようになり、始末におえない。
困ったものだ。
「あなた、絡むタイプだったわね。」
私は呆れてそう言うと、冷蔵庫へビールを取りに立った。
日向君と青葉君にビールのお代わりを渡し、これ幸いとばかりに席を移動することにした。
彼らの隣に座りこうして見ていると、オペ3人組は仲が良いのがよくわかる。
日向君は青葉君と肩を組んで馬鹿笑いだし、マヤも弾けんばかりの笑顔満開。
こんな兄弟姉妹がいたらいいわね…と、微笑ましく思っていたら、どこかから来る視線を感じた。
77リツコ:2008/07/08(火) 07:27:46 ID:???
ミサトがニヤニヤして私を見ているではないか。
まったくもう…。
思わず眉間に皺が寄ってしまったのを指で揉みほぐしていると、マヤが話かけてきた。
「セ〜ンパイ、ホント美味しいですよ!特にこの卵は最高です!」
とびっきりの笑顔でそう言うと、私の半分になったグラスにビールを注ぐ彼女。
ミサトの視線が気になるのも忘れ、ついそのまま見つめてしまった。
ほろ酔いで注意散漫もあったのであろう、グラスを持つ私の手が震えてしまい、注がれるビールが手にかかってしまった。
我にかえりハッとする。
いけない、いけない…今ミサトの顔を絶対に見てはいけない。
恐らくは形容し難い顔で、今この状況にある私を見ているのが容易に想像つくのだから…。
マヤが慌てて布巾を取りに席を立った。
それを見届けると、私はミサトを軽く睨んでやった。
ミサトは、そ知らぬ顔で受け流すと今度は矛先を変え、シンジ君とアスカを相手にからかい始めだす始末。
「(…っと、調子いいわね)」
私はため息を吐くと、ビールをグイッと飲み干した。
マヤが戻って来て申し訳無さそうに私におしぼりを渡すと、あたふたとテーブルに溢れたビールを拭き始めた。
78リツコ:2008/07/08(火) 07:29:29 ID:???
もう、マヤが済まない顔をすることないのに…。
それにしても、マヤって普段は頓珍漢な言動で困らせてくれるのに、こういう突差な状況ではまともに動くのだから調子が狂ってしまう。
こんなアンバランスさも彼女の持ち味ね…などと言えば、またミサトにからかわれるのは言うまでもないのであろう。
とりとめもなくそう思いながら手を拭いていると、アスカの大声がいきなり部屋の空気を裂いてくれた。
「(…やはり予感的中ね)」
顔に斜が入るのが自分でもわかった。
そして顔を向けてみると…あぁ、やっぱりまたレイがかかわっているようだ。
今度は何の騒動なのかと、こめかみを押す指にも力が入ってしまうというものだ。
そういえば、ここに来た時には既にアスカはご機嫌ななめだったわね。
「ファースト!アタシが大事に取っていた“梅ガム”よ。返しなさいよ!」
怒り心頭なアスカに対し、レイは涼しい顔のままで言った。
「返すわ、後で。」
まったく……なんだと思えば、要するにアスカのガムをレイが取ったということのようだ。
「3078、3077、3076…」
顎の動きに合わせてカウントをとり始めるレイ。
79リツコ:2008/07/08(火) 07:32:28 ID:???
「……0になったら返すわ…」
レイが無表情でガムを噛みながら一言付け加えると、アスカの髪が逆立った。
「いらないわよ!0になったら自爆でもするといいわ!」
レイに掴みかかろうとするところをシンジ君が間に割って入り、修羅場を封じ込めたのは幸いだった。
ミサトの部屋の二の舞いになるのはゴメンだもの……。
それにしても、レイも性格が変わったというかなんというべきか。
ガムを噛む回数は個人の自由だが、これはこれで頭痛の種が増えてしまう。
更に両手でこめかみを押し続けていると、シンジ君がガムから話題を遠ざけるべく話を振ってきた。
「あ、あの、リツコさん、そろそろ笹の葉に短冊でも飾りませんか?」
ナイスフォローよシンジ君。
私は短冊とペンを手にとると、皆に回して書くのを促した。
『えびちゅ風呂につかりたい♪』
『世界が平和でありますように』
『将来はエリートパイロット!』
『私は私、代わりはいない…』
『センパイが元気で長生きしますように(はぁと)』
『いいバンドメンバーが見つかりますように』
『残業の日々からもう解放させて下さい、○○さん!』
めいめいの願いが込められた短冊を見て、クスッと笑ってしまった。
80リツコ:2008/07/08(火) 07:36:03 ID:???
私も自分の短冊を飾ると、一服するためベランダに出て煙草に火をつけた。
紫煙を吐き出して空を見上げれば、そこには儚げに延びる天の川が…。
それを眺めていると、後ろから足音が近付いてきた。
見なくてもわかる、マヤだ。
「先輩は何をお願いしたんですか?短冊には何も書いてないじゃないですか。」
隣に来ると、少しむくれた顔で尋ねてきた。
「ナイショよ。」
悪戯っぽく言ったら、案の定マヤは不満気な顔をしてスネている。
「(フフッ…子供みたいなんだから)」
マヤが歳の割に幼く見えるのは、こんな部分があるからだろう。
でも、それがマヤの可愛いとこでもある。
口元に浮かんだ笑みを抑えていると、今度はドタドタと足音が近付いてきた。
これはミサト…ね。
「なによ〜アンタ達ぃ〜、二人で仲がよろしいわねぇ。」
ミサトのからかい口調に付き合うのは避け、私は黙って空を指差した。
ミサトがつられて見上げると驚嘆の声を上げた。
「わっ、キレイ〜!!!」
マヤも目を輝かせて見入ってる。
まばゆく煌めきを放つ天の川は美しく、しばし時間を忘れて見とれていた。
81リツコ:2008/07/08(火) 07:37:34 ID:???
いつの間にか他の皆もベランダに出てきて、全員で飽きることなくジッと見続けていた。
「織姫と彦星は年に一度しか会えないなんて可哀想ですね…。」
ふと、マヤが哀しげに呟いた。
「それを思えば、わたしはいつも一緒にいれてかなりの幸せ者です(*^o^*)」
パッと笑顔になると、私を見てそう言った。
本当にめまぐるしく表情が変わるコだこと。
「(その笑顔、むやみやたらに振り回さないほうがいいわよ…)」
再び空を見上げたマヤの横顔を眺めてそう思っていると、誰かにそっと横腹をつっ突かれた。
ミサトが何か言いたげな顔で近くに寄ってきている。
「ねっ、もうすぐアレよねぇ…。何か考えてるの?」
声をひそめて聞いてきた。
「アレって?」
なんのことかは予想はついたが、敢えて聞き返してみた。
「…ま、アタシが口出すことじゃないっか〜。」
そう言ってミサトはポリポリと頭を掻くと、部屋に戻って行った。なんの心配をしているのやら…思わず苦笑してしまう私。
「クシュン!」
唐突にマヤがくしゃみをした。
夏とはいえ、ここは高層マンションの上階にある。
82リツコ:2008/07/08(火) 07:42:08 ID:???
いつまでも夜風に長くあたっていては、全員が風邪をひいてしまうだろう。
そう判断すると、皆を部屋に戻した。
あらかた食事も片付きビールも残り僅か…えっ、僅か!?
誰がそんなに飲んだというのかは考えるまでもないわね。
七夕行事も一通り済んで夜も更けたところで、お開きの時間がきたようだ。
ネルフから車を2台呼び、皆が帰るのを見送った。
去り際に、ミサトがデジカメをヒラヒラさせながらニンマリ顔で言った。
「あとで送るわね〜♪」
たしかそれはマヤのデジカメ。
持参するとは言ってたが、本当に持って来ていたとは。
なぜミサトが持っているのだろう。
何を撮ったのかは知らないが、嫌な汗が流れてきそう…。
とは言っても、今日の私はミサトが言っていた暴走なんてしていないのだから大丈夫……なハズ。
…一抹の不安を抱えて車を見送る私。
部屋に帰って窓の外を見ると、まだ天の川がかかっていた。
「(織姫と彦星の年に一度だけの逢瀬ね…)」
ロマンティストのつもりはないけど、私も少女っぽいことを思うものだ。
「マヤの影響かしら?」
苦笑して呟くと、私はいつまでも空を見上げていた。



―完―
83マヤ:2008/07/09(水) 22:52:35 ID:???
先輩、デジカメで激写したのはもう見ました?
天の川を見る先輩とのツーショットの場面だったなんて、わたし嬉しかったです(はぁと)
葛城さん、ありがとうございました!


しかし、先輩は鼻の穴から煙草の煙を出しちゃったりするんですネ。
そんなお茶目なとこがあるなんて、可愛いですね先輩(*^o^*)
これは家宝にしたいと思います!
84リツコ:2008/07/09(水) 22:59:48 ID:???
それなら見たわ…(-_-#)
よりによって、そんなところを撮るなんてミサトも意地が悪いわ…。

マヤ、それは破棄しなさい。
他にも、普通に写ってるのがあったでしょ?
上司命令よ。
85ミサト:2008/07/09(水) 23:13:50 ID:???
なによリツコ〜、マヤちゃんが気に入ってるならいいじゃない?
職権乱用すんじゃな〜い〜の!

天の川を見上げているシーンのはいくつか撮ったけどサ、どれも我ながら良く撮れてたと思うわ。
あ、鼻から煙を出してるやつのはモチロン別よ〜?
あれがイイなんて言ってくれるのは、マヤちゃんぐらいよ♪
良かったわねぇ〜リツコ(^-^)
86リツコ:2008/07/09(水) 23:36:02 ID:???
良くないわよっ(T^T)
ミサトのバカ!
87マコト:2008/07/11(金) 09:08:40 ID:???
マヤちゃん、今日は休みなんだね。
誕生日おめでとう!

88シゲル:2008/07/11(金) 09:13:58 ID:itCWfvQB
マヤちゃん、誕生日おめでとさん!
おいおいマコト、赤木博士まで休みだぜ…。
ネルフって平和だよな。
89マヤ:2008/07/13(日) 17:19:05 ID:???
日向君、青葉君ありがとう。
その他の人達からもお祝いの言葉もらいました。
みんなありがとう(^o^)
11日は先輩がお祝いすると仰られ、一緒にお出かけしてました(*^o^*)
90ミサト:2008/07/13(日) 17:23:35 ID:???
リツコも休んでたからそうだと思ったわ。
やっぱり誕生日祝いを考えてたのね。
やるわね〜(^ー^)
リツコ、どんなだったか報告しなさいよ♪
91リツコ:2008/07/13(日) 17:38:44 ID:???
別に普通にお祝いしただけよ。
前にクジで、温泉招待券のペアチケットが当たったことがあったのよ。
まだ使ってなかったし、いい機会だからとマヤを誘って1泊してきたのよ。
このスレの主旨に沿って、絆をより深めることができたってとこね。
私も久しぶりにリフレッシュ出来たし良かったわ。
…ちょっとしたハプニングもあったけど、これは秘密にしとくわね。
92ミサト:2008/07/13(日) 17:43:20 ID:???
な〜にそれ〜!
詳細を教えてくれないんじゃ意味ないじゃない。
……なら、マヤちゃんに聞くわ。
マヤちゃん、後で教えてね♪
93マヤ:2008/07/13(日) 18:24:51 ID:???
実は、七夕の日に先輩に温泉に誘われたんです(^o^)
あの日、葛城さんが先輩に何か言われたそうですが、先輩は前から考えていたのだそうです。

二人で温泉に入った後は電気椅子に座りマッサージ、夜は刺身テンコ盛りを食し、カラオケをした後はバーに行って大人の雰囲気を味わってきました。
サイコーですね、温泉は(*^o^*)
それと、誕生日プレゼントに首輪を貰いました。
きっと先輩は、わたしにリードをつけてお散歩したいのでしょうね。


――グワシャ、ドガッボコッ!!――


グハァ!せ、先輩なにを!?
94リツコ:2008/07/13(日) 18:55:42 ID:???
………今、マヤにお仕置きしたわ(-_-#)
まったくマヤが話すとおかしなことになるわね。
仕方ないから私が話すわ。

先に訂正すると、電気椅子は電動マッサージ椅子のこと。
首輪というのは、革製のチョーカー。
マヤに似合うと思ったから選んだのよ。
……まったく、私がどうしてそんなSMみたいなことをするっていうのかしら(-_-メ)

ちょっとしたハプニングっていうのは、朝、起きた時に私がマヤの布団に入り込んでたのよ……べ、別に何もないわよ!
…覚えてないけど、マヤが言うには夜中に私が悪夢にうなされてたんだそうよ。
それで、『怖いから一緒に寝て欲しい』と私が泣いていたのでそうしたんだと言ってたわ。
ただそれだけのことよ。
それにしても、私がそんなこと言ったなんて調子狂うわ…。
95ミサト:2008/07/13(日) 19:05:30 ID:???
マヤちゃんの布団にって…あんた、そんなことしたの?(呆)。
しかも、また覚えてないとは。
ま、アレね…そうしちゃったのも、そんだけマヤちゃんに心を許しているって「証」なんじゃないの?
あんたとは親友だけど、ちょっと妬けるわねぇ〜。
96マヤ:2008/07/13(日) 19:13:31 ID:???
先輩、ひどいですぅ〜…タコ殴りされたとこがズキズキします〜(´Д`)

………先輩、胸の大きさはわたしの勝ちでしたね(^o^)


――ドガシャッ、ズベバキッ!!――


ぐ、グハッ!!あぁ〜んセンパ〜イ(ノД`)
97名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/14(月) 14:11:29 ID:???
リ「PC88マークUTRね。SR, TRとくれば次はURかしら、なんてね、うふふ…」
マ「せんぱーい、電話回線を利用したゲームですよーっ!!」
リ「なんですって」
マ「TR専用のいかしたアクションゲームですーっ!!」
リ「で、何ていうゲームなの」
マ「ティーアールカンフー」
リ「すてらのびこーん」
98マヤ:2008/07/14(月) 20:30:04 ID:???
カキコしてくれてありがとう!
でも、誤爆?

ゲームに詳しくなくてゴメンね(はぁと)
99ソリッドスネーク:2008/07/15(火) 20:27:18 ID:KAU9AvQO
こちらスネーク
100ウインビー:2008/07/17(木) 08:47:58 ID:???
なーに、スネーク?
101ソリッドスネーク:2008/07/17(木) 23:24:50 ID:7FA53Yzt
性欲をもてあます
102名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/20(日) 08:08:43 ID:???
スネーク!!
103オセロット:2008/07/22(火) 23:47:37 ID:???
いいセンスだ
104マヤ:2008/07/24(木) 21:05:08 ID:???
しばらくご無沙汰してました(^o^)
毎日、暑くてイヤになりますね!
先輩もいい歳だし、金髪じゃ暑いですよ(^o^)
レイみたく水色にして、涼しくしてみたらどうですか?


――グワシャ、ドガガッ、バキィィィッ!!――


ぐ…グハァッ!!……せ、先輩、痛いですよぉ〜(´Д`)
105リツコ:2008/07/24(木) 21:11:36 ID:???
まったく…(-_-メ)
それにしても上は暑いわねぇ…。
ネルフで缶詰になっている分には涼しいものだけど、さすがに外はキツイわ。
夏休みはどこか避暑地に行きたいわね。
106アスカ:2008/07/24(木) 21:14:53 ID:???
はい、はい、はぁ〜い!!
その案、ノッたわ!
ミサト、みんなでどっか行くわよ!
107ミサト:2008/07/24(木) 21:20:05 ID:???
いいわねソレ\(^O^)/
使徒が来なきゃ、ここも暇だもんねぇ〜。
じゃあ、あたしがなんかテキトーに計画すっから。
アスカ達は夏休みだし、リツコ、あんたもマヤちゃんもどーせ暇でしょ?
決まったら連絡するわ(^_-)
108リツコ:2008/07/24(木) 21:29:26 ID:???
ちょっと(-_-#)
相変わらずいきなりな展開なのね…。
私が暇って……あなたと一緒にしないで頂戴(T^T)

ううっ……マヤまでハリきってるし…。
もう好きにして頂戴っ(T^T)
109マヤ:2008/07/28(月) 00:08:02 ID:???
(о^∀^о)
110リツコ:2008/08/04(月) 20:52:55 ID:???
「フンフンフ〜ン♪鹿のフ〜ン♪」
鼻唄混じりにゴキゲンで運転するミサト。
先日のやりとりであった通り、私はミサトが立案した旅行に参加してしまった。
そしてこうして今、みんなと一緒に車中に揺られている。
「(…ウウッ、それにしてもミサトの運転は荒いわね)」
タイヤが嫌な音をたてながら爆走している。
心なしか、みな一様に顔色が青いのは恐怖心だけではないようだ。
隣に座るマヤが、さっきからソワソワしているのも酔っているからかも知れない。
万一を考え、私はエチケット袋になるものを探していたら、マヤが切羽つまった様子で言ってきた。
「先輩、もう我慢できそうにありません!」
そう言ってマヤは立ち上がった。
「ちょっと待って…!」
私は慌てふためき適当な袋を渡そうとしたら……

――ピンポ〜ン♪――
車内に軽やかな音色が鳴りわたった。
「キャハ(*^o^*)押しちゃったっ(はぁと)」
嬉しそうにハシャぐマヤ。
それを尻目にアスカが文句を言う。
「ミサト!小人数なのに、よりによってなんでバスに乗らなきゃならないのよ!」
111リツコ:2008/08/04(月) 20:54:05 ID:???
私達が乗っている車はバス。
それも、なぜか第三新東京市でよく目にする普通の市営バス…。
マヤはこのバスの停車ボタンを押したのだ。
「しょうがないのよ〜。愛車は車検中だし荷物もあるしさ、これしか用意できなかったんだってば。…それにしてもマヤちゃん、今の大ウケね。でも、このバスはノンストップよ〜ん♪」
笑いながら答えるミサト。
私は眉間に浮かんだ皺を揉むと、席に座り直してマヤを軽く小突いた。
「(んもぅ、やってくれるわね…)」
いい加減、マヤの天然ぶりには慣れなければと私は苦笑した。
バスはひたすら爆走する。
走り出してどれくらいだろうか、シンジ君が声をあげた。
「ミサトさん、そろそろ目的地を教えてはもらえませんか?」
シンジ君が気にするのも当たり前で、ミサト以外は誰も目的地がどこなのか知らない。
『行き先不明な方が面白いんじゃな〜い?』というミサトの言葉により、みな興味をもちながらも尋ねることなくこの日を迎えたわけである。
予定では1泊2日の小旅行。
ましてや、このバスなのだからそう遠くではないだろう。
使徒襲来時のことも考えれば、わりと近場の筈。
そんなことを考えているところでミサトが答えた。
112リツコ:2008/08/04(月) 20:55:19 ID:???
「ふっふっふ〜♪隠すほどじゃなかったけど、第二熱海よ〜ん♪」
おもむろにアスカがコケた。
「えーっ、もっといいトコに行くかと思ってたのにぃ〜!」
アスカが期待するのも仕方ない。
修学旅行で沖縄に行くつもりが、パイロットゆえに行けなかったのだから。
「なにリツコ、あんた熱海に行きたかったのっ?今時レトロなものね。」
私を睨んで文句を吐いた。
「ちょっと!私は別にそんなこと言ってないわ。ミサトが勝手に…」
言い終わらない内に口を挟まれた。
「なに言ってんのよ〜。リツコが涼みたいって言うから、こうしてお膳立てしてあげたんじゃないの。ね、マヤちん?」
恩きせがましい態度で迫るミサトに、勢いで頷くマヤ。
「ま、いいわ。水着を用意するよう言われてたし海だとは思ってたわ。付き合ってあげるわよリツコ。」
これまた恩きせがましくアスカが言う。
「(…どうしてそうなるのよ)」
こめかみに、また指が動いてしまう。
シンジ君が、まぁまぁと苦笑しながら場をなだめてくれた。
「んじゃ、今日の予定は宿に着いたらすぐ海に行くわよん♪で、夜は花火で楽しみましょ!」
113リツコ:2008/08/04(月) 20:56:36 ID:???
そう言ってニッコリ笑うと、ミサトはアクセルを思いきりフかした。
――それからほどなくしてバスは無事に第二熱海に到着した。
私達は宿で荷物をおろすと、海へ誘われるかのように水着姿でビーチに向かった。
「…いくらなんでも、この姿で歩き回るのは少し恥ずかしいわね。」
思わず呟いた言葉をマヤに聞かれてしまった。
「セ〜ンパイ、白衣もいいですけど水着姿もステキです(o^-^o)」
はにかんだ様子でマヤが褒めてくれた。
「もう、おだてて…!」
まじまじと見られては、更に恥ずかしさが増してしまう。
そんなマヤは純白の水着姿で、雰囲気に合っている。
「マヤだって可愛らしいわよ。」
互いに褒め合う姿は、はたから見るとかゆくなるようだ。
ミサトがニヤニヤした視線を送ってくる。
私は軽く咳払いをすると、マヤを促して歩を進めた。
ビーチでは既にシンジ君とアスカが海で泳いでいた。
二人とも泳ぎが達者で夢中になって競争している。
「若いっていいわねぇ〜♪」
彼らを眺めるミサトが羨ましげに言った。
そんなミサトの足元には、どこから持ってきたのか大量のスイカが山と積まれている。
私は驚いた。
「!!…これって……」
114リツコ:2008/08/04(月) 20:58:21 ID:???
「あぁコレね、ネルフの裏で偶然見つけたのよ。たっくさん自生してたもんだから根こそぎ持ってきたわ。」
カカカと笑い、自慢気にミサトは答えた。
そして適当にスイカを並べると、シンジ君達を呼び戻しに行ってしまった。
「(……自生なもんですか…加持君が知ったらヤバいわね…)」
額に嫌な汗が浮かび上がったが、知らぬ存ぜぬを決めこもうと心に誓ったのは言うまでもない。
泳ぎ疲れた様子のシンジ君達があがってくると、ミサトは手にした木刀を掲げて宣言した。
「スイカ割りするわよん!」
私達は順番に目隠しをされて木刀を持たされた。
シンジ君とアスカはめったやたらに振り回すものの、スイカにかすりもしない。
簡単そうに見えるが結構難しい。
ミサトもかけ声は一丁前だが、同じく空振りの連続。
私は木刀を握るとここぞとばかりに振りおろした。

――ドグワシャッ!!――

確な手応えで命中したことがわかり、私は喜び勇んで目隠しをはずした。
そして足元を見てみた。
「痛いですぅ〜せんぱい(ToT)」
見ると、マヤが目を回して倒れ伏していた。
そして軽くうめくと、気を失ったように動かなくなってしまった。
115リツコ:2008/08/04(月) 20:59:41 ID:???
「あっマヤっ!?……ご、ごめんなさい…しっかりして!!大丈夫!?」
私はマヤを抱えると揺り動かし、頭に触れてみた。
幸い傷は見当たらないが、呼び掛けに反応しない。
意識が戻らないことに私はパニックを起こした。
「リツコなにやってんの!?頭を打ったんだから不用意に動かしちゃ駄目でしょ!」
ミサトが間に割って入り、マヤを寝かすと容態を確認した。
「……大丈夫。呼吸も脈拍も安定しているわ。…出血もない…っと。…気を失っているだけだから。」
的確に判断すると、私を落ち着かせるべくポンポンと肩を軽く叩いた。
そして、少し先に浜茶屋が見えることに気付くとシンジ君達に言った。
「シンちゃん、アスカ、あそこの浜茶屋で氷をもらってきてくれる?」
言わんとすることがわかった二人はすぐさま駆け出した。
マヤの額にはたんこぶが出来ていた。
少し赤く腫れててみるからに痛そう。
私はしょげてしまった。
「そんな顔すんじゃないっつーの。あんたがいつもやる“お仕置き”みたいなもんでしょが。」
私の様子を察して言うミサト。
「何よそれ…」
ムッとする私。
「……それにしても、リツコも取り乱すことあんのね〜。私はそっちに驚いたわ。」
116リツコ:2008/08/04(月) 21:01:09 ID:???
「えっ?」
意外そうに言うミサトに聞き返した。
「使徒降下時も、MAGIが乗っとられて危機一髪の時もそう……リツコはいつも動じなかった…。」
続く言葉。
「なのに、あんたがそんなに慌てるなんて……」
ミサトが言い終らない内に下から声が聞こえてきた。
「…っ…あつつっ……」
マヤが目を覚ました。
少し涙目なマヤは額に手をやり、たんこぶをさすっている。
「マヤ、起き上がっても平気なの?」
痛々しい様子のマヤに声をかけた。
マヤはキョトンとした顔をしている。
「はい、平気です。いつものに比べれば序の口です。」
マヤは明るく答えた。
「……いつもの?」
私がいぶかしむと、後ろでミサトが含み笑いした。
「ねっ、言ったでしょリツコ?」
ほら見ろ〜な口調。
「(…………)」
何も言えない夏…ではなく、私。
「とにかくあなたが無事で良かったわ。マヤ、本当にごめんなさいね。」
私は手を合わせて謝った。
「そんな、いいんです!不可効力です。慣れてますから(^o^)」
マヤは言った。
「(…………)」
黙る私。
「氷持ってきました!」
シンジ君達が走って戻って来た。
117リツコ:2008/08/04(月) 21:02:54 ID:???
「二人ともありがとう。」
私は袋に入った氷を受けとると、マヤの額にあてた。
気持ち良さげにするマヤ。
「(…良かった)」
私はホッとした。
「じゃあさ、浜茶屋に移動してスイカ食べちゃおっか。」
ミサトはスイカが気になって仕方ないようだ。
皆でスイカを運びこんだ。
とにかく沢山あるスイカ。
店の人達にも振る舞っても食べきれないほどだ。
「腹も膨れたとこだし、最後に一泳ぎといきますか♪」
口の周りにスイカの種をつけたまま、ミサトは海へ走って行った。
シンジ君達も向かって行った。
マヤがジッと私を見ている。
「わかったわ。じゃ、マヤは泳いでももう大丈夫ね?それならいいわよ。」
視線に根負けして言うと、マヤは嬉しそうに頷いて私の手を引き海に連れ出した。

―夜―

「みんな〜、晩ご飯の時間よ〜♪」
ミサトの集合を促す声がかかった。
「あれだけスイカを食べたのに、もうお腹が空いたんですか?」
シンジ君が呆れて言った。
「泳げば腹も空くってもんよ?ここで海の幸を食べないでどうすんのよ〜♪」
朗らかに言ってのけるミサトに、そりゃそうだとアスカは相槌を打つ。
日頃、スタイルを気にする二人だが、珍しく意見が合っている。
118リツコ:2008/08/04(月) 21:04:26 ID:???
私達は宴会場に移動した。
海が地元だけあって、海の幸は豊富。
新鮮魚介がつまった舟盛りをめぐり、早速、ミサトとアスカがやり合っている。
「(刺身は逃げないわよ……)」
こめかみに指をあてて思う私。
「(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……)」
間に挟まれてオロオロと落ち着かないシンジ君。
「幸せ〜(*^o^*)」
マイペースにパクパクと箸を動かすマヤ。
いつもの光景、いつもの仲間達。
「そういや、ミサトはファーストその他には声かけなかったの?」
アスカがパクつきながら尋ねた。
「あぁ、それならかけたわよ。でも、レイにはアルバイトがあるって断られちゃったわ。」
ミサトが答えた。
「中学生がバイトしていいんですか?」
生真面目なマヤが口を挟んだ。
「それもそうねぇ〜。」
呑気に答えるミサト。
刺身の捕獲に忙しくて頭が回らないようだ。
「(あの子がバイトなんて冗談よね…?)」
私はそう思った。
「それじゃ、日向さんや青葉さんは?」
シンジ君が聞いた。
「仕事してるわよ。私の。」
カニの足をほじくりながら、サラッと言いのけるミサト。
シンジ君が引き攣った顔をしたことには、誰も気が付かなかった。
119リツコ:2008/08/04(月) 21:05:49 ID:???
「(日向君、あなた早く目を覚ますべきよ…)」
私はこめかみを揉みほぐすと、お猪口の日本酒をクイッと空けた。
小1時間ほどで食事は済んでしまった。
なんだかんだ言って、みな食べるだけ食べてしまうのは早い。
続けと言わんばかりにミサトが口を開いた。
「んじゃ、一旦、部屋で休憩したら花火する〜?」
まったく、はしゃぐ姿はマヤ同様に子供みたいだ。
ゾロゾロと部屋に戻り、めいめい横になって膨れた腹をさすっている。
「まるで牛の群れ…ね。」
私も人のことは言えないかと苦笑した。
シンジ君とアスカはトランプに興じ始めた。
どうやらお小遣いを賭けて白熱している。
きっと、これもミサトの教育の賜ね。
そんなミサトはえびちゅを飲んで、ご機嫌でマヤに絡んでいる。
なにをコソコソ話してるのか知らないけど、私の名前が漏れ聞こえてくるから気になって仕方ない。
私は頭を軽く振ると、テレビに視線を向け集中することに努めた。
その時、部屋の外から声がした。
「お布団を敷きにあがりました。宜しいでしょうか?」
えっ?この声って……。
「どうぞどうぞ、入っていいわよん♪」
ミサトが返答した。
120リツコ:2008/08/04(月) 21:07:44 ID:???
「…失礼します。」
そう言って、着物姿のその人は中に入ってきた。
「!?…フ、ファースト!あんた何やってんの〜!?」
アスカが素っ頓狂な声をあげた。
声が裏返っている。
「………布団を敷きにきたわ。」
いつもの口調なレイ。
「へぇー、綾波のバイトってここだったんだぁ。」
シンジ君が感心しながら言った。
「アルバイトしてるのは本当なの?あなた第一、まだ中学生じゃない。」
私は詰問した。
側でマヤがウンウンと頷いている。
「はい…社会勉強というものに興味があったから…。」
そうレイは答えた。
「まぁまぁいいじゃない?レイも将来とか考えてみたくなる年頃なのよ。ね?」
前にしゃしゃり出てきた酔っぱらいがのたまった。
「(あなたは早いとこ考えた方がいいわよ…)」
心からそう思った。
「わぁ〜レイちゃんも日々、成長してるのね。」
さっきまで、レイが中学生であるのを問題にしていたのはどこかに消えてしまったのか。
あろうことかマヤまで感心している。
「みんな感心してる場合じゃないでしょ。司令が知ったら大変よ。」
たしなめる私にレイはポツリと言った。
「…碇司令の了解は取ってあります。」
目が点になる一同。
121リツコ:2008/08/04(月) 21:10:04 ID:???
「な、なんですとぉ〜!?」
驚くミサト。
「碇司令に相談したらここを紹介されました。ここは、ネルフが副業で経営する宿だそうです。」
レイはそう説明した。
「ふ〜ん、ネルフも財政難だったわね。なりふり構ってられないってことか。」
ミサトはしたり顔で頷いた。
「ま、司令のお墨つきなら問題ないじゃない。…ところでさ、これから花火やるんだけどレイも来なさいよ♪」
ニッコリ笑顔でレイを誘うミサト。
「まだ勤務中ですので…」
レイはやんわりと固辞をすると、布団を敷いて部屋を後にした。
「レイにはビックリね。」
後ろ姿を見送りながら私は言った。
「これまで何かに興味を持つことなんてなかったのに。」
レイの変化が不思議だった。
「そうですね。そう言えば以前、レイに私の学生時代のバイト話をしたことがあって、熱心に耳を傾けられたことを思い出しました。」
マヤの言葉に私は振り返った。
「…思えば、あれは印象的な姿でした。」
マヤは感慨深げに頷いている。
「あなた、そんな話をしたことあるの?」
意外な思いでマヤに問掛けた。
「えぇ…まぁ、面白い経験談みたいなもんです。」
マヤはそう言うと、ペロッと舌をだした。
122リツコ:2008/08/04(月) 21:12:27 ID:???
「そっか〜、だからレイの内面に変化があったと。それって、マヤちゃんの影響力よね。」
横からミサトが口を挟んだ。
「マヤちゃんはさ、他者に良い影響を与えることの出来るタイプの人よ。リツコを見てても思ったもの。」
いきなり話題に出されて私はたじろいだ。
「ななな…なに言ってんのミサト。」
言葉がつかえてしまった。
「あ〜ら?嘘じゃないわよ。リツコは昔は仕事の鬼でさぁ〜、ピリピリと近寄り難い雰囲気を纏っていたのよ?大体、親友のあたしにすら笑顔なんてまず見せなかったもの。」
真面目な顔をしてミサトはマヤに話し出した。
「マヤちゃんがネルフに来てからよ。リツコが人並みに喜怒哀楽を他人に見せるようになったのは。」
何かを暗示するかのように続けるミサト。
「……そんな…私なんて…」
どんな表情をしていいかわからないマヤは、恐縮した様子だ。
ミサトはそんなマヤの様子を微笑ましく見ている。
「だからね、これからもリツコのことヨロシク見てあげてね。」
そう言ってウインクした。
「は…はいっ!」
マヤは力いっぱい返事した。
妙な気分になる私。
「…ミサト、昔話なんてしなくていいわよ。」
私は早々に話を切り上げるべく、違う話題を振った。
123リツコ:2008/08/04(月) 21:15:31 ID:???
「それよりアスカが花火したいって騒いでるわよ。そろそろ始めた方がいいわね。」
これ以上、ミサトに突っ込まれては何を言われるかわからない。
逃げの一手を打った。
ミサトはそんな私に意味ありげな視線を寄越すと肩をすくめ、花火の支度にとりかかり始めた。
「じゃ、みんな外に行こっか。花火やるわよ〜♪」
アスカはその言葉に、がぜん張り切りだした。
「さっさと行くわよ、シンジ!」
首根っこをふんづかまえられて引きずられて行くシンジ君。
「ほら、ボケッとしてないで行くわよ。」
ミサトに背中を押されて外に連れ出された。
どこで買ったのか、これまた凄い量の花火が山積みされている。
「どこかに攻撃でも仕掛けるつもり?作・戦・部・長・さん。」
私は呆れて言った。
「あんたも冗談を言えるようになったじゃない。」
ミサトはマヤに目配せしながら楽しそうに答えた。
アスカは全てのロケット花火を地面に並べ、一斉点火している。
あらあら、シンジ君に向けたら危ないでしょうに。
シンジ君はネズミ花火から逃げ惑うのに精一杯みたいよ。
「(性格がかいま見えてくるものだわね)」
知らず知らずに口元に笑みが浮かぶ。
124リツコ:2008/08/07(木) 21:23:45 ID:???
「で、あんた達にはこういうのはどう?」
そう言われて渡されたのは線香花火。
しゃがんで火をつけると、チリチリと可憐な火花を散らす。
その様子はまるで儚げに咲く可愛らしい花のようだ。
そんな花を挟んだ向かい側で、マヤも同じく花を咲かせている。
「線香花火ってホント綺麗ですよね。」
マヤが顔を上げて私を見た。
マヤの顔に花が重なる。
「…あなたって癒し系よね。」
フトそんなことを思い、口にした。
「へっ?わたしがですか?」
キョトンとするマヤ。
「なんとなく…ね。」
花火を見つめながら私は答えた。
私はそのまま黙って花火を見続ける。
「切なげで儚いですよね…線香花火って。……なんだか先輩みたい。」
「えっ…どうして?」
思わず顔を上げてマヤを見た。
「繊細さが見え隠れしながら揺らぐ感じが…です。熱がある分、危なっかしいですよ?」
マヤが諭すように言う。
「あら、危なっかしいのはあなたの方よ?私、いつもヒヤヒヤだもの。」
私は悪戯っぽく言い返した。
「エェーッ!?ひどぉ〜いセンパ〜イ!」
「フフッ」
頬を膨らませるマヤを見てたら、自然に笑いがこぼれでてしまった。
「(それにしても、私ってそう見えるのかしら?)」
125リツコ:2008/08/07(木) 21:27:22 ID:???
やがて花火の芯は玉になると、最後にとうとう地面に落ちた。
「…終ると寂しいですね。でもわたし、昔から花火は線香花火が一番好きなんです。」
燃えつきた花火の芯を見つめながらマヤは言った。
「パッと輝いて、アッという間にパッと散ってしまう…控え目なだけにまさに夢って感じです。」
「…………」
私は黙って2本目に火をつけてマヤに渡した。
マヤは惹きつけられたかのように花火に見入っている。
「…少なくとも、私はパッと散ったりなんてしないわよ?」
そう私が言うと、マヤは視線を移してきた。
「ですねっ。先輩は手強いですから!」
そう言ってマヤは笑った。
「なぁに、それってどういう意味かしら?」
眉を上げる私に、マヤはケラケラ笑い続けている。
「(…和むわね)」
そう言えば花火をするなんて、いつ以来だろうか。
記憶を遡っても、子供時代に祖父母の家でやったことぐらいしか思い出せない。
…スイカ割りや、海水浴はいつだっただろうか?
花火ひとつをとってみても、人並みな体験の積み重ねというものに乏しい自分にここで気が付いた。
ちょっと悲しくなる…。
それが表情に表れていたのだろう、マヤが私を見て言う。
126リツコ:2008/08/07(木) 21:30:59 ID:???
「先輩とこうして花火ができて嬉しいです!これから、もっともっと色んなことしたいですね。」
心の中に暖かいものが流れ込んでくる。
「ありがと…。私もよ。」

(ジジジ…チリチリ)
そのまま二人で煌めく花火を見続けていた。
「ちょっと二人とも〜、なにシンミリしてんのよ!お通夜じゃないんだからっ。」
ミサトが後ろから背中をバシッと叩いてきた。
「これのどこがお通夜になるのよ…。」
えびちゅを手にしたミサトの視線は定まってないようだ。
「そうですよ葛城さん、今この花火にウットリしてたんですからね。」
マヤも言う。
「どれどれ、あたしにも見せてよ。……うっわ、これってホント可愛らしいのよね〜。」
ミサトが覗きこんできた。
「あれっ?リツコったら随分と穏やかな表情するもんね〜。」
私の顔を、まじまじと見るようにしている。
「ふ〜ん…あんたもそういう顔したりすんだ…。仏様みたいよ。」
一言、余計に付け加えた。
「なぁに、そのヘンな例えは……あなた飲み過ぎよ。」
私はたしなめた。
「だいじょぶだいじょぶ♪でもさ、こうして花火を見てると癒されるわねぇ〜。…ま、あんたにはこういうのが必要ってことよ。」
また背中を叩かれた。
127リツコ:2008/08/07(木) 21:32:37 ID:???
そしてミサトはグビグビとえびちゅを飲み干すと、ウズウズとした顔でこちらを見て言った。
「ねぇ、花火もやり終えちゃったしさ、せっかくだからこのまま夜景を見に行かない?」
そんな提案をしてきた。
「先輩?葛城さんが提訴してますよぉ〜。決議して下さぁ〜い。」
マヤがジャレたように聞いてきた。
「そうね…その提訴……可決よ。」
私も調子を合わせ、おどけてみた。
ミサトもマヤも笑い転げている。
「(…こういうのを楽しいっていうんだったわね)」
遠くで、花火を振り回してシンジ君を追い掛けるアスカの姿が見える。
「あっちゃー、しょうがないわねアスカ達は。じゃ、あたし声かけて来るから。」
ミサトは二人を呼びに行った。
ヘロヘロなシンジ君と、喜色満面なアスカが戻ってきたとこで、私達は夜景を見に歩き出した。
「ねぇミサト、夜景ってどこら辺なのよ?」
歩きながらアスカが尋ねる。
「あぁ、アスカは初めてよね。この先に見えてくる湾よ。」
顎をしゃくりながらミサトは答えた。
「そうそう、熱海の夜景って昔は有名な観光名所の一つでしたよね。」
シンジ君が言った。
そして目の前の林を抜けたところで、それはいきなり私達の眼前に現れた。
128リツコ:2008/08/07(木) 21:36:56 ID:???
「キレ〜イ!!」
アスカが喜声をあげた。
湾は、色とりどりのネオンで包まれたように瞬いている。
「昭和の中頃まではね、新婚さんが旅行に来る定番スポットだったのよココ。」
ミサトが説明した。
「へぇ〜、ミサトって物知りね。そんな昔から生きてたの。」
アスカの突っ込みにヒクつくミサト。
「だぁーっほ!!あたしはまだまだ若いわよっ!」
アスカの頭を抱え、握り拳をグリグリする。
「いたたっ、冗談だってば!ゴメン〜ミサト〜!」
じたばたするアスカに嬉しそうなシンジ君。
花火の仇はとれたようね。
私達は思い思いに夜景に見とれた。
「昔の新婚さん達は、この素敵な夜景を思い出にすることから始まったんですね…。」
マヤが呟いた。
「フフッ…マヤにしては深い表現をするものね。」
からかうように言うと、マヤはまた頬を膨らました。
「んもぅ〜、わたしだってそういうこと思ったりしますよっ?」
すねた調子のマヤに、また笑みがこぼれる。
「(…わかってるわ)」
マヤの頭をポンポンとした。
「この夜景は私にも思い出になるわ。…またいつか見たいわね。」
そんなことを口にしたら、マヤが下から覗きこんできた。
129リツコ:2008/08/07(木) 21:42:11 ID:???
「また来ましょうよ。ね、先輩?」
おねだりされてるみたい。
「そうね。」
私はクスッと笑って答えた。

宿に戻ると、布団に倒れこむ子供達。
泳いで、あれだけ走り回れば疲れるものだ。
アスカのイビキが早々に大きくなってくる。
「お風呂、行く?」
ミサトの誘いに私は頷いた。
マヤは突発的事情により内風呂にするとのこと。
『私の分まで堪能して下さいっ!』
いつもの調子なマヤに敬礼で見送られると、ミサトと大浴場に向かった。
幸運なことに入浴客は私達だけ。
広々とした洗い場で悠々と体を洗っていると、横でミサトが鼻唄を唄いだした。
「風呂は下着の洗濯よ〜ん♪」
見ると、言葉の通りにミサトの下着が泡に包まれている。
それを丁寧に洗っていくミサト。
「ちょ…何やってるの!ここは公衆の浴場なのよ?」
怒ってみたがミサトは意に介さない。
「ヘ?だって替えを持ってくるの忘れちゃったし。」
開き直っている。
「……今夜は下着なしのつもり?浴衣なのに、あなた寝相悪いって話じゃない。…シンジ君もいるのよ?」
ミサトはそこまで考えてなかったようだ。
一瞬、しまったという顔をしたが、何を思ったかニンマリ顔になるとこう言った。
130リツコ:2008/08/07(木) 21:48:06 ID:???
「サ〜ビス、サ〜ビスゥ〜♪」
……笑えない。
「そんなサービスいらないわ…。」
呆れを通り越す。
私は湯船につかると、肩と腕を揉みほぐしすことにした。
日々、運動らしいことは何一つしてこなかったため、明日の筋肉痛に少し不安がある。
一通りマッサージをすると、目を瞑り温泉の効能に浸るかのように身を任せリラックスした。
「(ちょっとのぼせてきたかしら)」
少しして目を開けてみると、いつの間にかミサトも湯船につかっていた。
でも、真っ赤な顔をして縁にもたれている。
「馬鹿ね、摂取したアルコール量を考えなかったの?」
風呂場で倒れられてはかなわない。
ミサトを抱えて引っ張り起こすと、脱衣場まで連れて行った。
「ごめ〜んリツコぉ〜…急に酔いが回っちゃった…ハハハ」
醜態を晒すミサトに扇風機をまわして風をあててあげた。
そうこう介抱してる内に、せっかく暖まった私の体がまた冷えてきてしまった。
ミサトが大丈夫そうなのを見届けると、私はまた湯船につかり直すことにした。
「やれやれだわ…。」
ひとりごちる。
一通り暖まると満足して私はあがることにした。
脱衣場では、アルコールが抜けてラクになった様子のミサトがドライヤーと扇風機を使って下着を乾かしている。
131リツコ:2008/08/07(木) 21:49:49 ID:???
「困るのはあなたなんだから、頑張って乾かしなさいよ?私、先に部屋に戻っているから。」
そう釘を刺して後にしようとしたら、ミサトは両手で顔を隠して情けない声をあげた。
「ウッ…グスッ……リツコも手伝ってよ〜!」
おまけに肩まで震わせている。
「……素晴らしい嘘泣きね。」
長年付き合っていれば思考パターンも読めてくるものだ。
ミサトは横を向いてチェッと舌打ちした。
「リツコのケチ〜。マヤちゃんだったら手伝うんでしょー。」
どうしてここでその名が出てくるのか。
「あのコは、そんなおバカな真似したりしないわ。」
私は肩をすくめると部屋へ戻った。
部屋では既に風呂を終えたマヤが、浴衣に着替えてテレビを見ていた。
襖で隔てた向こう側の部屋からは、アスカ達のいびきをかく音が聞こえてくる。
余程、疲れたみたいだ。
「お風呂、良かったみたいですね。葛城さんは?」
マヤが聞いてきた。
「ミサトなら乾かしているわ。…ドライヤーで。」
返事に困る。
「あれだけ長いと大変ですよね。量も多そうですし時間もかかりますしね。」
何も知らないマヤはミサトの髪を思い浮かべているのだろう、ウンウンと頷いた。
132リツコ:2008/08/07(木) 22:46:48 ID:???
万事物事に潔癖なのがマヤである。
そんなマヤに対し、『乾かしているのは風呂で洗っちゃった下着なのよ』とは、まさか言えない。
その後に、なんと言われれるであろうか容易に想像がつくのだから…。
私は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、一口飲んで喉を湿らせた。
そういえば今日はコーヒーを飲んでいない。火照った体には、冷たいものの方が今はむしろ心地酔い。
マヤは布団に入ってトーク番組に夢中になり始めている。
「(怪しまれない内に戻って来なさいよ、ミサト…)」
私はバッグから煙草を取り出すと、窓を開けてベランダに出た。
風が肌の上を通りすぎて心地よい。
紫煙をくゆらせて一息ついた。
昼間、まったく吸わなかったため、続けざまに3本、4本と吸ってしまった。
5本目に火をつけようとしたとこで、横から手が伸びてきた。
そして、そのまま煙草を取り上げられた。
マヤだ。
「駄目です。吸いすぎですよ?」
見ていた番組が終ったのでベランダに出てきたのだろう。
指の間で取り上げた煙草を振りながら、小言をたれてくる。
「小姑みたいよ。」
意地悪っぽく抵抗してみた。
「先輩の健康のためなら小姑にだってなります!」
そのまま、問答無用
133リツコ:2008/08/07(木) 23:04:31 ID:???
とばかりに、箱ごと取り上げられてしまった。
煙草を取り上げられてしまってはここにいても仕方ない。
素直にマヤの後をついて私は部屋に戻った。
「葛城さん遅いですね…。」
マヤは時計を見ながら未だ戻らないミサトを気にし始めた。
私が戻ってから、かれこれ20分は経過している。
「もしかして湯あたりで気分が悪くなって動けないとかじゃ…。」
悪い方向に心配しだした。
「わたし、ちょっと見てきます。」
そう言って、マヤは部屋を出ようとした。
「マヤ!」
私は慌てて止めようとした。

――ガラッ――

その時、勢い良く襖が開いた。
「あ、ごみ〜ん。もしかして待ってた?」
髪をタオルで巻き上げ、怪しい着方をした浴衣姿のミサトが立っていた。
「遅かったですね。わたし心配で、今、見に行こうとしたんですよ?」
マヤが小言を言う。
「タハハ…乾かすのにちょっと手間どっちゃってね。」
ミサトは申し訳なさそうに言いながら、頭に巻いたタオルを取った。
髪の毛が固まってドスンと落ちる。
「(やだミサト、濡れたままじゃない…)」
ミサトはそのままブラシでとかし始めた。
肩にいくつもの滴がこぼれ落ちていく。
134リツコ:2008/08/07(木) 23:11:24 ID:???
マヤは不思議そうな顔をしてそれを見ていた。
「あまり乾かなかったですか?」
そんなことを聞いている。
「まぁねぇ〜、生乾きだからチョッチ気持ち悪いわ。」
バツの悪い顔をしてミサトは答えた。
「あの…わたし、このまま乾かすのを手伝いましょうか?」
マヤが言うと、ミサトは赤くなった。
「マ…!…ちゃってんのよ?それ…リツコが怒…るわよ。」
口の中でごにょごにょと何事か言っている。
「(…………)」
今日、何度目になるのか、こめかみに指が動く。
噛み合っているようで、噛み合っていない会話を早く終らせないと……。

――『葛城さん、不潔ですっ!』――

そんな言葉が頭をよぎりだす。
「…マヤ、ミサトのことは放っときなさい。自業自得よ。」
ミサトをポカンとした様子で見ているマヤに寝るように言うと、構わず私は布団に入った。
ミサトがまだ身繕いをしているため、部屋の照明は落とせない。
おまけに目が冴えてるから眠れそうにもない。
隣の布団で横になったマヤは、もうトロンとした表情になっている。
「(先に眠られてしまうと寂しいわね…)」
静まり返った部屋の中で、ミサトのゴソゴソした音が続く。
135リツコ:2008/08/07(木) 23:19:43 ID:???
やがてその音が止むと、電気を消して奥の布団にミサトは入っていった。
静寂が部屋を包んで少し経つと、今度はいびきが聞こえてきた。
「(たいしたものね……)」
そんな状態でも、平気で眠ることができる神経が羨ましい。
私は、体を右に左にしてみたりしたが、眠気は一向に襲ってきそうにない。
諦めて仰向けになった。
そのまま、なんとなく今日一日の出来事を思い返してみた。
スイカ割りでのハプニング…思いもかけずマヤの頭を叩いてしまったこと。
そしてミサトにお仕置きを指摘されたこと。
「(お仕置き…ね。たしかに言われると身も蓋もないわ…。でも、普段は力加減しているのよ…普段は…。)」
そこまで考えたところでハタと気が付き、頭に手をやった。
私はマヤを見た。
マヤはこちらを向くようにして眠っている。
暗闇で見えにくいが、たんこぶはまだ腫れて痛々しそう。
「(……無理に平気なフリしちゃって…)」
私は近寄るとソッと額に触れ、たんこぶを優しく撫でた。
「ゴメンね、マヤ…。」
スヤスヤと寝息を立てるその耳元で囁いた。
それからミサトやマヤとの会話を思い起こすと、しばらく物思いに耽った。
136リツコ:2008/08/17(日) 22:05:47 ID:???
色々と考えている内に頭が疲れてきたようだ。
ところどころ思考が寸断しがちになる。
軽く眠気もやってきた。
「(今なら眠れそう…)」
私は小さく欠伸を一つすると、横を向いて眠る体勢をとった。
今にも閉じそうな目の視界にマヤの顔がうつりこむ。
「(…エ?)」
一瞬、マヤと目が合った気がした。
身じろぎしていることで起こしてしまったのだろうか。
もう一度、確認した。
先程と変わらずマヤは眠っている。
「(気のせい…ね)」
断続的に襲ってくる眠気には勝てない。
だんだんと意識が薄れて行く。

それが引き返せないとこまで来た時、かすかに声が聞こえたような気がした。
「おやすみなさい、先輩…」
そのまま私は深い眠りに落ちていった。


―翌朝―

(カアー、カアァー、アァー)

カラスの鳴き声で目が覚めた。
耳につくその鳴き声は嫌なものだ。
外から射しこんだ光が部屋の中を薄暗く照らしている。
今は何時なのだろうかと、そのまま枕元の時計に手を伸ばしてみたがない。
「(あぁ、そうだったわね)」
旅行に来ていたことを思い出した。
137リツコ:2008/08/17(日) 22:08:17 ID:???
私以外、まだ誰も起きてない部屋の中は静かなままだ。
とりあえず起き上がろうとすると、胸に息苦しい重みを感じた
見ると、ミサトの両足が私の上半身の上に投げ出されている。
「ちょ、ちょっと!」
迷惑千万なその足をどけても、ミサトは口を開けて眠ったまま。
浴衣はあられもなくはだけ、裾が捲れ上がって下着を晒している有り様だ。
「(………)」
私は起き上がるとタオルを手に取り、洗面に立とうとした。
「せ…おあ…う…ござ…ます」
その気配でマヤも目が覚めたようだ。
目をこするも寝惚けている。
「おはよ。顔洗いなさい。」
身支度を済ませているとアスカ達も起きだし、ドタバタと朝風呂へ直行した。
着替えも終ったマヤは布団を畳んでいる。
「葛城さんは起きないですね…。」
ミサト以外の所は片付けが済み、マヤは途方に暮れている。
揺すっても一向に目が覚める気配はない。
私はタメ息を一つ吐くと、寝ているソレに向かって言った。
「えびちゅ…飲む?」
途端にガバッと起き上がるミサトに、たじろぐマヤ。
「なになに、えびちゅ?どこどこ!」
ミサトは充血した目で辺りを見回している。
138リツコ:2008/08/17(日) 22:10:22 ID:???
「いつまで寝てるつもりなの?早く起きなさい。」
ここで騙されたとわかったのか、ミサトは無言で横になろうとする。
「ちょ…ミサト!…」
怒ろうとしたとこで、後ろから言葉が重なる。
「葛城三佐は朝食ナシ…と。」
再び、むくりと起き上がるミサト。
「や、やぁ〜ねぇ〜…今、起きようとしてたとこよ♪」
そそくさと起き出してて、手早く身支度をし始めた。
「先輩の直伝ですから。」
振り向いてニンマリするマヤ。
ミサトを操る手管のコツを早くも掴んでいる。
「マヤも言うものね。」
苦笑する。
アスカ達が戻ると、私達は朝食をとるために1階のレストランに向かった。
近付くにつれ、芳しい匂いがそこはかとなく漂いだす。
朝食は和洋折衷なバイキング形式だった。
ミサトは、無駄のない立ち回りでアッという間に皿を山盛りにすると席に戻って待っている。
マヤは悩みながらもフルーツ中心なメニュー。
シンジ君は和食スタイルで、アスカは典型的なコンチネンタルブレックファースト。
私はクロワッサンとサラダにヨーグルト、そしてコーヒーをチョイスした。
周りを確認するまでもなく、朝からバクバク食べる客はミサトだけだった。
139リツコ:2008/08/17(日) 22:12:07 ID:???
全員が席に着いたとこで、ミサトが皆の顔を見渡しながら口を開いた。
「これ食べたらさ、も1回泳ぎ行く?」
ジュースを飲んでたアスカが聞いた。
「チェックアウトは何時なの?」
「フフ〜♪1500迄よ。遅めでOKなのは確認済み。」
即答するミサト。
海に来たのに日焼けしないのはソンといった口ぶり。
「わたしはOKよ。シンジ、逃げんじゃないわよ!」
アスカの言葉にうなだれるシンジ君。
「わ…わかったよ!」
渋々と頷くその姿は、まんまと罠にかかった獲物のようで哀愁を誘う。
「あんた達はどうする?」
納豆をかき混ぜながらミサトが尋ねてきた。
「そうね…疲れたし部屋でくつろぐことにするわ。マヤは調子が…だし。」
マヤを残すのは出来ない。
私がそう答えると、シンジ君が心配そうに聞いてきた。
「マヤさん、どこか具合い悪いん…」
「アンタが気にすることじゃないのっ!!」

――ドガッ!!――

シンジ君の言葉が終らない内に、すかさず鉄拳制裁をくわえるアスカ。
つい私は余計なことを言ってしまったようだ。
どのみちシンジ君への説明は憚れることだけど、気の毒な目に合わせてしまった。
140リツコ:2008/08/17(日) 22:14:09 ID:???
「あ、あの…体調は平気なの。昨日ので筋肉痛になったから…。」
怖張った顔でマヤがそう説明すると、シンジ君は一応納得した様子。
私を見るマヤの目が鋭い…。
そのまま食事が終ると、ミサト達はさっさと海へ泳ぎに行った。
私とマヤは部屋で適当に時間を潰すことにしたが、なにをしてよいのやら。
今までノンビリと過ごすことなどなかったため、時間を持て余してしまう。
先ほどから何か考えた様子で外を眺めているマヤとは対象に、私はどこか所在なさげに落ち着かない。
畳に「の」の字を書くとは、こういうことをいうのかも知れない。
外を眺めることに飽きたのか、マヤがこちらを向いた。
「さっきはヒドイですよ〜。シンジ君は思春期なんですよ?」
「ごめんね、うっかりしてたわ…。」
恐縮する私の姿がおかしかったのか、マヤはクスッと笑った。
「ところで…先輩も泳ぎに行かなくていいんですか?…その……気を遣わなくてもいいです…よ?」
「さっきから何か思案してたようだけど、そんなこと気にしてたの?」
如何にも他人を思いやるマヤの考えそうなことだ。
そのまま私の様子を窺っている。
「私は好きでこうしたいだけ。…それとも、私と一緒じゃ嫌なのかしら?」
141リツコ:2008/08/17(日) 22:16:48 ID:???
冗談めかして怒ってみせると、マヤはブンブンと頭を大きく横に振った。
「そんなことありません!あるワケがないじゃないですか!」
真顔で否定するマヤ。
そのあまりに必死な様子がおかしくて笑いそうになってしまったら、マヤも同じく笑いそうになっていた。
そのまま私達は吹き出してしまった。
「…こうして先輩と一緒にボーッと過ごせるのは嬉しいです。」
素直一直線なマヤだからこそ口に出来る言葉だろう。
こちらは照れてしまう。
「あら、光栄ね?でも、ボーッとはないんじゃない?」
照れた自分を隠すように軽口を叩いてみた。
「優しいですよね…先輩。」
うつむいて、そう呟くマヤの顔は見えない。

『あんたって、マヤちゃんに優しいわよねぇ〜。』

最近、ミサトによく言われる言葉が思い起こされる。
それは置き、マヤ本人に優しいと言われてしまうとは。
「どうして?」
首を傾げてしまった。
「(たしかにマヤ一人にさせたくはなかったけど…でも、私って人を思いやる気持ちとかは薄いわよね…)」
ふとボンヤリそんなことを思うと、マヤが答えた。
「…優しいです。まだあまり話すこともなかった最初の頃は怖かったですけど。」
苦笑いしてマヤが答えた。
142リツコ:2008/08/17(日) 22:18:53 ID:???
「でも、接していく内に…例えば仕事を離れて飲食を共にしたり、こうして旅行に出かけたりすることで見えてくるものはありますよ?」
淡々と話すマヤ。
「昨日、葛城さんが言ってましたね。昔の先輩は仕事の鬼って…。」
少し言い淀んだ口調。

『マヤちゃんが来てからよ、リツコ変わったもの。』

たしかそんなことをミサトに言われた。
「(マヤが私の人柄を変えたってこと?優しく?)」
「昔はそうでも、特に近頃の先輩はよく笑うし…フワッと優しい感じですよ?」
マヤが微笑んだ。
「そうかしら?自分ではよくわからないものだけど…。」
指摘されるまでもなく、たしかに笑うことが多くなったのは自覚している。
「そうですって!尊敬している先輩なんですからね。」
そう言うと、マヤはテヘッと舌をだした。
「フフッ…ありがたいわね。」
お世辞ではないその言葉が耳に心地良い。
「(不思議ね…どうしてこう和むのかしら?)」
正直なとこ、未だわかりかねる部分はある。
でも、マヤに優しいと思われていることが単純に嬉しかった。
なにより、そのことに安堵を感じている自分に驚きを覚えた。
143リツコ:2008/08/17(日) 22:21:39 ID:???
「(…私、なにをホッとしてるのかしら?)」
そんな自分がなんだかよくわからなくなる。
考え込んでいると、マヤは私の後ろに来て両手を私の両肩に置いた。
「肩が凝ってますね。これは絶対に仕事からきてますよ。」
そう言うと、私の肩を揉み始めた。
「あ、いいわよ。そんな…平気だから。」
私が止めようとしても、マヤの手は休まらない。
「いいんです。いつもお世話になってますから。」
せっせと肩揉みに専念しだす。
その実直な姿からマヤの性格が忍ばれるというものだ。
「(もし、ここにミサトが居たら『またマヤちゃんをコキ使ってぇー』とか文句言われそうね…)」
そう思ったら冷や汗が流れ落ちてしまう。
いつの間にか、マヤが怪訝な顔をして覗きこんでいた。
「あの…痛かったですか?」
眉根を寄せて私を見ているところは、不安気げな迷子のよう。
「フフッ、そうじゃないの。マヤはマッサージが上手ねって思ってたのよ。」
「あ、わかります〜?これも先輩のために勉強したんですよ。」
得意気なマヤ。
「そう?エラい、エラい。」
気をよくして誉めた。
144リツコ:2008/08/17(日) 22:24:56 ID:???
「だって、わたしは一番弟子ですから!葛城さんには『物好きねぇ〜』って言われちゃいましたけど。」
さらに胸をはって得意気なマヤ。
「(………)」
ミサトのことだ、マッサージの習得について言及したわけではない。
言いたかったのは、要するに『リツコなんかのために、そんなことまでよくやれるわね〜。物好きねぇ〜。あたしムリ。』ってことだったのだろう。
その含みが通じなかったのは、マヤが天然であるからに違いない。
「(相手はミサトなんだから…マヤも少しは気が付きなさい…)」
ミサトのへらず口に反応して閉口するのはいつも私。
こういう時は天然なマヤが羨ましい。
普段は少し…いえ、かなり大変だけど。
でも、私はそんな天然さを結構気に入っている自分に最近気が付いている。
「マヤ、もういいわよ。そろそろ手が疲れたでしょ?肩がポカポカして軽くなったし交代するわ。」
今度は私がマヤの肩をマッサージしようとした。
遠慮しているマヤの肩を掴むと、私はマッサージを開始した。
「先輩、けっこ〜強引ですっ。」
抗議の声が飛んできたが意に介さない。
その声の持ち主は笑っているのだから。
145名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/22(金) 02:51:36 ID:???
いつもおつかれ
楽しみにしている
146リツコ:2008/08/25(月) 23:24:15 ID:???
マヤの肩は見た目よりも細く、割りと華奢であるのが触れてみて初めてわかった。
丹念に揉みほぐしていく内にマヤが身をよじらせた。
「あの…先輩、少し…痛いかな…です」
か細い肩に、つい力を入れすぎてしまったようだ。
マヤが困った顔で見上げていた。
「いけない、強すぎたわね。」
今度は少し力を抜いてみた。
しばらく、そうして揉んでいるとマヤの頭が前後にコックリ揺れだし始めた。
「(もしかして眠ってしまったの?)」
後ろから覗き込むと、マヤはトロンとあどけない表情を浮かべて夢見心地の様。
部屋の中は空調が効いてるとはいえ、私達は外からの陽光に照らされて“ひなたぼっこ”状態でいる。
「(私まで眠くなってくるわ…)」
マヤの顔を見ながらそう思った。
いつしか肩を揉む手も止まりウトウトと。
マヤの方は、私にすっかり体を預けた状態で眠ってしまっている。
細い肩とはいえ、マヤも成人女性。
それなりに体重はある……と、本人に言ったら怒られてしまう。
しかし、後ろに寄りかかられたままでは私も体が痺れてくる。
でも、動いたらマヤが起きてしまう。
そんな、ちょっとした葛藤で悩む。
「(どうしよう…)」
147リツコ:2008/08/25(月) 23:26:22 ID:???
その状態でどうしたものかと思案していると、突如、昔の懐かしい記憶が呼び覚まされた。
まだ私が子供の頃のこと、祖父母の家で飼われていた猫がいた。
名前はモモで雌の雑種。
遊びに行くと、いつも嬉しそうに出迎えてくれた。
私によくなつき、優しい性格で、抱っこされるのが大好きな猫だった。
「(そういえば、こうしてモモをよく抱っこしてたわね…)」
大好きな今は亡き猫を抱っこしていた時、私はいつも幸せな気持ちになっていたという記憶が鮮やかに蘇る。
「(フフッ、あの頃と同じよね…これって」
私はそのままマヤの髪を撫でた。
マヤはモモではないけど、いつも嬉しげに私の後をついてくるところが似ている。
だからといって、マヤは愛玩ペットではないし一人の確固とした人間である。
とはいえ、こうしてマヤを抱えていると、あの頃みたく幸福な気持ちが湧き上がってくるのもまた事実。
「(ヘンなものね…)」
このままこうしてたいといった気持ちを持て余し始め、我ながら不可解な面持ちになった。
「これじゃ、まるで私がマヤに甘えてるみたいよね。」
苦笑混じりにひとりごちた。
148リツコ:2008/08/25(月) 23:28:27 ID:???
そのまま穏やかな時間が流れていく内、私もいつしか転寝してしまっていた。
…が、えてして、優しい時間は唐突に破られてしまうのが世の常というものか…。
「おやまぁ〜仲がいいわね!」
頭上から大声がしてハッと目を開けると、アスカが私を見下ろしていた。
泳ぎから帰ってきてこれから風呂に行くのだろう。
小脇にタオルと服を抱えている。
「…アスカ?いきなり驚かせないで。」
私が言うと、声に気がついたマヤが腕の中で身じろぎした。
「あ…れ?なに…」
マヤは今の自分の状態を把握すると、頬を赤くして慌てて起き上がった。
「ダメよアスカ〜、起こしちゃったじゃな〜い。」
いつの間に部屋に戻ってきたのか、ミサトが化粧をしながら鏡越しにこちらを見ていた。
アスカにそう言いながらも、ミサト自身が欲しかったオモチャを手に入れた時の子供のような顔をしているのは気のせい…ではないようだ。
何を思っているのやら。
「…交代で肩を揉んでマッサージしていたのよ。リラックス出来て、そのまま眠ってしまったみたいね。」
私が説明っぽい口調で言うと、ミサトは片眉を上げた。
「ふ〜ん、別に聞いてないけど?」
「………」
149リツコ:2008/08/25(月) 23:31:21 ID:???
マヤがあたふたして私の様子を窺っている。
「…すみません…つい…わたし眠ってしまって…」
「いいのよ、私も転寝して寄りかかってしまったし。」
そんな私達をミサトは楽しそうに見ているものだから、必然的に眉間に指が動いてしまう。
以前にも述べたが、近頃ミサトにことあるごとにからかわれるのだから気が休まらない。
ミサトがマヤを気にしだしてどれ位経つか…全くもって理解不能だ。
「なぁ〜にリツコ?苦虫を噛み潰したような顔しちゃって。」
今度は探るような視線を投げてきた。
いつまでもヘラヘラした態度でまとわりついてくることに、いささか私もムッとしてきた。
「早く化粧を済ませて荷物をまとめなさいよ。チェックアウトの時間に遅れるわよ?」
声に隠しようのない棘が表れてしまう。
私は時計に目をやり、ミサトを促した。
つられて時計に目をやるミサト…直後、その動きがドタバタと変化したのはお約束。
「(フッ…無様ね)」
そして、今日、何度目かのタメ息を吐いた。
さっきまで揺り篭で眠る赤ん坊のように安らいでいた感覚が、このお陰で消え去ってしまった。
なにか腹立だしい気分。
150リツコ:2008/08/25(月) 23:34:25 ID:???
気を落ち着けるために煙草を吸おうとバッグの中を探していると、それを察したマヤがソッと横から差し出してくれた。
昨夜、取り上げられたままだったことを思い出し苦笑する。
私の機嫌が良くないことを敏感に感じとっているのか、マヤは居心地悪そうだ。
「先輩、あの…さっきはもたれかかって眠ったりして本当にスミマセンでした…」
どうやら、マヤはそれが私の機嫌が悪い理由と思っているようだ。
「だから気にしなくていいって言ってるでしょ?
151リツコ:2008/08/25(月) 23:37:43 ID:???
気を落ち着けるために煙草を吸おうとバッグの中を探していると、それを察したマヤがソッと横から差し出してくれた。
昨夜、取り上げられたままだったことを思い出し苦笑する。
私の機嫌が良くないことを敏感に感じとっているのか、マヤは居心地悪そうだ。
「先輩、あの…さっきはもたれかかって眠ったりして本当にスミマセンでした…」
どうやら、マヤはそれが私の機嫌が悪い理由と思っているようだ。
「だから気にしなくていいって言ってるでしょ?別に謝られることではないわ。」
即答で返した言葉にも棘を含めてしまった。
顔を上げたマヤが一瞬泣きそうな顔をした。
胸に痛みが走る。
ミサトにいいようにからかわれていることで、ついマヤにつっけんどんな態度をとってしまうとは…。
我ながら大人げない態度をとったことに自己嫌悪を感じた。
「違うのよマヤ。ミサトが煩いから…ちょっと…ね。あなたが気にしなくていいのよ…ね?煙草でも吸って反省してくるわ。」
マヤの頭をポンポンとしながら、私は笑ってみせた。
そんな私にミサトも援護をくれた。
「マヤちゃん、リツコはあたしにご機嫌ナナメなだけなのよ。」
152リツコ:2008/08/25(月) 23:41:33 ID:???
ミサトが申し訳なさそうにマヤと私を見た。
「ん〜…あたしが悪かったってことなの、ゴメンね。ついでにリツコにも謝るわ。メンゴ!」
なんて略した言われ方だろう。
マヤはホケッとした様子でいるが、自分に理由があったことではないとわかりホッとしていた。
「…え〜と、あまり吸いすぎないでくださいね!わたし、お茶でも煎れます。」
そう言うと、マヤはテーブルの上を片付け始めた。
私はベランダに出て煙草を取り出すと、早速、火をつけて深く吸い込んだ。
肺に煙が染み渡るのを感じながら空を見上げている内に、気分も落ち着きを取り戻してきた。
そんな私が気になっているようで、ミサトが隣に来た。
「さっきは悪かったわ。マヤちゃんにあんな顔されちゃうなんてさ…。」
ミサトは頭をかいて申し訳なさそうにしている。
「まったく…あなた最近おかしいわよ?私は別に構わないけど、マヤはああ見えて結構、繊細なんだから…」
ここぞとばかりに説教した。
「…あのコ、私の機微に敏感なのよ。だから、何かトラブルが発生したりすると自分に問題があるとすぐ思ってしまうのよね。」
153リツコ:2008/08/25(月) 23:43:08 ID:???
ミサトは神妙な顔をして聞いている。
「もっとも、マヤに責がある問題が発生したことなんて今までなかったわ。天然さで困るのは別だけど…」
私は苦笑して、吸い終えた煙草を灰皿で揉み消した。
「いうなれば大事な片腕…ね。私にはすぎた部下よ。優秀だもの。」
噛み締めるように続けて言った。
「…そうね。リツコの片腕なのはわかっているわ。…でも、それだけ?」
2本目の煙草に火をつけようとして手が止まる。
「…それだけって?」
思わず聞き返した。
「ううん、なんでもないわ。」
ミサトは視線をそらすと私の煙草を1本取りだし口にくわえた。
私がライターで火をつけると、そのまま思いきり吸い込んだ。
「くぅ〜っ!リツコのキツイわね〜。メンソールってもっと軽いと思ってたのに。」
眉をしかめるミサト。
「…言っとくけど、それ1mgよ。前のより全然軽いし空気みたいなものよ。」
正直なとこ、ミサトには煙草を吸う姿が似合わないと思った。
「そうなの?変えたってことは、リツコも一応は健康に気を遣いだしたんだ?そういうの無頓着なイメージなのにねぇ〜。」
さも意外だと言わんばかりの口調。
154リツコ:2008/08/26(火) 21:31:49 ID:???
「あら、ミサトに言われたくないわね。私が気にするのではなくて小言がくるのよ。もうチェックが厳しくて困るわ。」
饒舌になる私。
「小言って…それマヤちゃん?」
「………」
またミサトに何か言われるのかと思い、黙ってしまった。
「マヤちゃんらしいわね…。」
ミサトは先程の件で反省したのか絡んでくることもなく、何かを思うように呟くだけだった。
そのままミサトも黙っている。
「あの〜…お茶が冷めちゃいますよ?葛城さんの好きそうな茶菓子も用意できてますけど。」
タイミングよく部屋の中からマヤに呼ばれた。
私達の話が一区切りつくのを待っていたのだろう。
「わっ、茶菓子ぃ〜!?いいわねソレ♪」
ミサトはいつものおちゃらけた顔になると、そそくさと部屋に戻って行った。
「先輩?」
マヤが手招きしている。
「今行くわ。」
灰皿にはミサトのと併せて吸い殻が二つ。
数本は吸いたかったけど、結局吸ったのは1本だけだった。
「(あまり多いと、また言われちゃうわね。)」
苦笑して部屋に戻った。
部屋では、既に出発の準備が整ったアスカとシンジ君がお茶を飲んで待っていた。
155リツコ:2008/08/26(火) 21:33:58 ID:???
テーブルの上には菓子折の箱が置いてあり、マヤが開けている。
「中身はなぁにっかな〜?」
ミサトが首を伸ばしてそれを覗きこんでいた。
取り出されたものに全員の視線が集中する。
“NERV”と表面に刻印のある、おまんじゅうだった。
「なんっか、ダッサイ意匠ねぇ…。これどうしたの?」
アスカが率直な感想を述べた。
「さっき部屋に戻る途中で綾波に会ったんだよ。で、『これ食べて』って貰ったんだ。」
シンジ君が答えた。
「なんでも、ここの名物な土産みたいだよ?年間100万個売れてるんだって。」
「100万個おぉ〜!?そんなに需要あんのコレ!?」
目を見開いて驚くアスカ。
「う…うん、綾波が言ってたから嘘じゃない…と思うよ。」
驚く剣幕に圧されてシンジ君がしどろもどろになっている。
「ネルフが財政難なのは知ってるでしょ?」
ミサトが口を挟んで、まんじゅうを一つ掴み上げた。
「この売り上げが、エヴァや支援施設の修復費やら開発研究費なんかにまわっているってことよ。」
そう言うと、ミサトは口を大きく開けてかぶりついた。
「まさに…これに私達の命運がかかっていると言っても過言じゃないですね…。」
156リツコ:2008/08/26(火) 21:38:07 ID:???
ミサトの言葉を物々しく聞いていたマヤが続けて言った。
「(……それは過言だと思う…けど)」
戸惑う私。
いつになく真剣な顔つきのマヤは大事そうにおまんじゅうを取り出すと、両手で目線より高く掲げ上げた。
「…そう思うと神々しいですね。」
おまんじゅうを見つめるマヤ。
ちょっと目が逝ってるように見えるのは気のせいだと思いたい。
「と、とりあえず有り難く食べましょうよ。」
「そ、そうね…食べましょ!」
そんなマヤの様子に、あからさまにヒいているシンジ君とアスカがおまんじゅうを食べだした。
「(やはり、天然マヤ…ね)」
私は顔に入っていた斜線を気力で消すと、口元に笑みを浮かべた。
おまんじゅうを一つ取り、一口食べてみた。
「美味しいわね。」
ありきたりな普通の味を予想していたが、それは良い意味で裏切られた。
思いがけず言葉が口に出る。
「おまんじゅうは美味しいものよ♪」
味覚音痴なミサトには、口に入るものはなんでも美味しく感じられるのだろう。
ろくすっぽ味わうこともなく、無造作に口に投げ入れていた。
「この後、出発でしょ?」
口をもぐもぐさせながらアスカが尋ねた。
157リツコ:2008/09/04(木) 00:05:42 ID:???
それを受けて、口の中が一杯なミサトが頷いて言う。
「そうね、(モグモグ)いい時間だし。(モグモグ)このおまんじゅうをネルフの土産に買ってくわ(モグモグ)」
「でないと、眼鏡ロン毛のコンビに恨まれちゃうし?」
すかさずアスカにチャカされると、ミサトは口の中に入ってるものを吹き出しそうになった。
「(既に手遅れでしょうけど…)」
そんな二人のやり取りを、頬づえをついて眺める私。
時計を見ると、時刻はもう1430。
「葛城さん、そろそろ下に降りないとですよ?」
几帳面なマヤも時間が気になるようだ。
マヤは自分の荷物を持つと移動を始めたので、私達もつられて開始することにした。
こういう仕切りの指揮官は、やはりマヤなのだろう。
作戦部長は最後まで食べることに執着していて、シンジ君に諭されていた。
私達はそれぞれ荷物を持って下に降りると、ミサトの清算が終るのを待った。
玄関口では退出する私達を見送るために、女将を筆頭に仲居/板前衆に混じってレイまでが勢揃いして並んでいる。
「ずいぶんと仰々しいですね…」
そんな整然とした様子に気後れした様子のシンジ君が呟く。
「いい宿は最後までおもてなしするものよ♪」
158リツコ:2008/09/04(木) 00:07:46 ID:???
戻ってきたミサトがそちらに視線を向けて言う。
見送る宿の人達に礼を述べ、退出する私達。「またお会いできる日を心よりお待ち申し上げております…。」
そういう台詞を教わったのだろう、頭を深々と下げてレイが言う。
「バッカねぇ〜、ファースト!いつだって顔合わせてるじゃない。じゃ、まったねぇ〜!」
「バカって…ちょ、アスカ…こういうのは一般的な…アスカ!…」
レイに手をヒラヒラと振って出ていくアスカの後を追いながら、注意しようとするシンジ君。
そんな二人の姿を見てクスッと微笑むレイ。
「(レイが……笑った?)」
目を疑ってしまった。
いつも無表情、無感動なレイが微笑むなんて想像できない光景だった。
信じられない思いで目をしばたたかせる私。
「色々大変だろうけど、バイトでの経験は人生勉強の一つよ?頑張ってね(はぁと)」
レイに向かい合って励ますマヤ。
「…ありがとうございます、伊吹二尉。」
それに嬉しそうに答えるレイ。
その、はにかんだ様子はまるで普通の中学生だった。
「どうしたんですか先輩?」
ただ立ちすくむ私を不審気に思ったようだ。
マヤが顔を覗きこんできた。
159リツコ:2008/09/04(木) 00:09:46 ID:???
「…なんでもないわ……じゃあね、レイ。」
私はそう言うのがやっとだった。
「んじゃまた来るわね〜♪…ほらリツコっ!ボーッと立ってないで歩く!」
後ろからミサトに押されるようにして、私は外に出た。
「レイの着物姿は可愛かったですね。」
「……ほんとね。」
帰りのバスの中でマヤとそんな話をした。
「でも、本当に驚いたわ…。マヤはレイの表情に気が付いた?あなたと話してた時の初々しさったら、ビックリだったわよ?」
先程の光景が脳裏を横切り、思っていたことがそのまま口をついて出た。
「そうですね。普通の女の子って感じで…なんだか嬉しくなっちゃいます。」
あのレイのはにかむ姿を思い浮かべているのだろう。
マヤはしきりに頷いている。
「それがマヤちゃんのお陰ってことなのよね♪」
私達の会話を聞いていたミサトが口を挟んできた。
「そんなことないですよ〜。わたし、何もしてませんから。」
そう言って謙遜するマヤ。
「そんなことないことないのよ〜。マヤちゃんに影響された人は他にもいるじゃない。ね、リツコ♪」
ミサトは私を見てニッコリした。
160リツコ:2008/09/04(木) 00:18:25 ID:???
「…前を向いて運転しなさいよ。危ないじゃない。」
私が注意すると、ミサトは首をすくめて前を向いた。
「へい、へい、リツコさんは怖いわ〜♪」
おどけた調子は相変わらずだ。
「(…調子いいわね)」
でも、なぜか口元が綻ぶ私。
「(マヤの影響……ね…)」
横に座るマヤに視線を向けると、マヤは旅の疲れがここにきて出たのかコックリと舟を濃ぎだしていた。
「あら眠くなったの?…寝ちゃっていいわよ。ついたら起こすから。」
眠気と格闘しているのが傍目で見てもわかる。
「平…気で…す…」
マヤは瞼が閉じていくのを堪えようと頑張っている。
さっきまで元気に起きていたのが、ちょっとすると眠たそうになっているなんて。
「フフッ…赤ちゃんみたい。」
眠気に負けて、ついに私の肩に頭を預けてしまったマヤを見てひとりごちた。
「(今のマヤが赤ちゃんなら、私は保護者かしら?)」
そんなことを思ったら、また口元が綻んだ。
規則正しい寝息が耳に優しく響いて、私まで落ち着いた気分になる。
癒しを求める赤ちゃんに、逆に癒されているとは。
「(………)」
161リツコ:2008/09/04(木) 00:21:32 ID:???
「…前を向いて運転しなさいよ。危ないじゃない。」
私が注意すると、ミサトは首をすくめて前を向いた。
「へい、へい、リツコさんは怖いわ〜♪」
おどけた調子は相変わらずだ。
「(…調子いいわね)」
でも、なぜか口元が綻ぶ私。
「(マヤの影響……ね…)」
横に座るマヤに視線を向けると、マヤは旅の疲れがここにきて出たのかコックリと舟を濃ぎだしていた。
「あら眠くなったの?…寝ちゃっていいわよ。ついたら起こすから。」
眠気と格闘しているのが傍目で見てもわかる。
「平…気で…す…」
マヤは瞼が閉じていくのを堪えようと頑張っている。
さっきまで元気に起きていたのが、ちょっとすると眠たそうになっているなんて。
「フフッ…赤ちゃんみたい。」
眠気に負けて、ついに私の肩に頭を預けてしまったマヤを見てひとりごちた。
「(今のマヤが赤ちゃんなら、私は保護者かしら?)」
そんなことを思ったら、また口元が綻んだ。
規則正しい寝息が耳に優しく響いて、私まで落ち着いた気分になる。
癒しを求める赤ちゃんに、逆に癒されているとは。
「(………)」
162リツコ:2008/09/04(木) 09:52:20 ID:???
私は目を閉じるとマヤの頭に頬を寄せてみた。
穏やかさ、安らぎ、暖かみ…そういった気持ちが湧き上がるのが感じられてくる。
「(ホント…不思議だわ……)」
今までにないような感覚に少しとまどう。
でも、とても心地良い。
バスから伝わる適度な揺れも手伝って、私も眠くなってきた。
「(こうして眠くなるのもマヤの影響かしら…ね)」
至福な気分に包まれているのを味わうかのような私。
そんな自分に苦笑する。
マヤはどんな表情で眠っているのだろう。
「(同じよね…きっと)」
心の片隅でそんなことを思いながら、私は眠りに落ちた…。

結局、バスが着くまで頭を寄せ合って眠っていた私達。
それをミサト達は生暖かい目で見守っていたことを、後で知ることになったというのはオマケの話。
『リツコは甘えん坊さんみたい』
翌日、そんな話がネルフで噂になったのもオマケの話。
自分では、まだまだ気が付かない一面が沢山あることを知った旅行であった。



―完―
163リツコ:2008/09/04(木) 20:11:34 ID:???

みんな、やっと書き終えたわよ。

途中で応援カキコをされた方、ありがとうございます。
この旅行から帰ってきて以降、忙しい日々で合間をぬって書き溜めしておりました。

あと、この旅行を計画してくれたミサトにも感謝しないとだわね。
これからの自分にも楽しみだわ。
164マヤ:2008/09/04(木) 20:16:29 ID:???
先輩、お疲れ様です。
こんなに長文を書くことができるなんて流石です!
伊達に私よりも長く生きているわけじゃ…


――ドンガラガシャ、ボガッ、ズベバキ!――


グ、グハァッ!…この痛みはお約束なんですねぇ〜(ノД`)
165アスカ:2008/09/04(木) 20:24:26 ID:???
旅行はなかなか楽しかったわ!
またこのメンバーでどっか行きましょ☆

P.S
今回のリツコは、まともだったわね。
本当はもっとバイオレンスな展開になると思ってたから。
実はわたし、スタンガンを用意してたのは今だから言うわ。
だって、リツコはいつもメスを持ち歩いているって話だからさ〜。
ま、気にしないでよ!
166リツコ:2008/09/04(木) 20:29:08 ID:???
アスカ、あなたが何を言っているのかわからないわ(-_-#)
167ミサト:2008/09/04(木) 20:45:42 ID:???

ね、旅行に行って良かったでしょ?
あたしにもっと感謝してチョーダイ♪


―次回予告(のBGMをバックに)―

自分の知らない一面に気付かされたリツコ。ミサトの牽制を避けつつ新たな葛藤が生まれる。
天然マヤに戸惑いながら事態はどう動くのか?
次回もサービス、サービスゥ〜♪
168リツコ:2008/09/04(木) 20:49:16 ID:???

わけわからない次回予告ね…(-_-メ)
あなたの頭に、私の脳みそでも分け与えたくなるわね。

いずれにせよ、また何かあったら書くわ。
169リツコ:2008/09/20(土) 02:32:58 ID:???
…悪いけど愚痴らせて。
今日は午後に大事な会議で出かけるというのに、名刺がきれていたことを私は忘れていたのよ。
それで総務部に至急で名刺を用意してもらうべく、マヤに伝達を頼んだわけね。
マヤの『名刺作成ですね?任せて下さい!』に安心していた私が愚かだったわ。
私は正規の名刺の手配を頼んだだけで、あなたの自作を期待したワケじゃないのよ…。
おまけに自分とミサトのまで用意して。

http://o.pic.to/wtyb7

マヤ、おかげで死ぬほど恥をかいたわ(-_-#)
170マヤ:2008/09/20(土) 02:35:36 ID:???
先輩ごめんなさ〜い(´Д`)
それはチョットした手違いなんですぅ〜。
ホントはもっとヒネりたかったんですけど、時間が足りなくて(*^o^*)
次は頑張りますから!

あ、ところで…先程、お詫びにお渡ししたものは気に入っていただけましたか?
私の手作りチョコです!
食べてくださいね(*^o^*)
171リツコ:2008/09/20(土) 02:39:55 ID:???
マヤ、人の話はよく聞きなさい……そして、ヒネりはいらないわ(-_-#)
まぁ、名刺の件はもういいわ。
相手が冗談の通じる人で幸いだったし。


で、さっき、あなたがくれたコレのことなんだけど。

http://t.pic.to/ttv56

なんというか、複雑な気分にさせられたわ…ね(-_-##)
マヤ、あなたが何を考えているのか本当にわからないわ…(T_T)
172ミサト:2008/09/20(土) 02:44:54 ID:???
マヤちゃん?
リツコならね、泣きながらチョコ食べてたわよ〜ん。
色々と胸にこみ上がってくるものがあるみたい。
時々、青筋浮かべてたりもしてた…から(^^;
あ、でもね、1個だけはなんともいえない表情で味わうように食べてたのが印象深かったわね。

いいわねぇ〜、仲良くて(^_-)
173マヤ:2008/09/20(土) 02:47:58 ID:???
葛城さん、そうだったんですかぁ〜(^o^)
先輩に喜んでいただいてわたしも嬉しいです!
では、このスレ活性のためにも一旦アゲますね(はぁと)
174名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/15(水) 06:09:44 ID:???
おもしろかったwwwこのコンビの小説(?)は貴重なのでもっと書いて欲しいデス(´Д`*)ハァハァ
175マヤ:2008/10/16(木) 20:41:59 ID:???
うわぁ〜感想をありがとうございます!!
先輩も忙しく、なかなか執筆する時間がとれなくてすみません。
また近い内に続きをお話しますので、しばらくお待ちくださいね(はぁと)
176リツコ:2008/10/18(土) 23:32:43 ID:???
外は既に漆黒の闇に閉ざされている中、私は一心不乱にPCの画面を覗き込みプログラムチェックを行っていた。
時刻はもう真夜中をとうに過ぎているというのに、いつものように仕事が終る気配は見えてこない。
静まりかえった自室の中には、私が叩くキーの音だけが響く。
長時間、同じ姿勢で椅子に座り続けているため腰の痛みも増してきた。
私は軽く伸びをすると、一旦休憩をとろうと空になったマグカップを手にとってコーヒーメーカーに向かった。
注ぎ終ったコーヒーをジッと見つめると、今日何杯目になるのかもはやわからなくなっているそれを口に運んだ。
「……はぁ」
知らず知らずにタメ息がもれる。
口の中に拡がる味はコーヒーの苦味なのか煙草の渋味なのか…。
灰皿には、オブジェと見間違うかのような吸い殻が山のように積まれている。
その山から吸い殻が数本ばかり転がり崩れると、灰を撒き散らしながら机の上に落ちた。
「……はぁ」
それを見届けると私はまたタメ息をついた。
いつもきちんと整理整頓された自室の中も、ここ2週間ほどで散らかりつつある。
177リツコ:2008/10/18(土) 23:35:26 ID:???
傍らの机と椅子に目を向けてみる。
そこには本来マヤの姿があるはずで、いつもなら同様に作業をしているのだが今は居ない。
なぜなら、2週間前に中国支部へ出張に出掛けてしまったからだ。
そこにあるMAGIのバックアップに不具合が発生したため、手腕を買われたマヤが出向くことになったというのが経緯だ。
「はかどらないわね……」
マグカップを放り出すと、凝り固まった目の緊張をほぐすため目頭を揉んだ。
そのままボンヤリと頬杖をつく。
徹夜の連続で疲労が蓄積されているのか、部屋の雰囲気にマッチして気分が優れない。
こんな有り様では責任者失格といえよう。
「……駄目ね、こんなでは。」
小さく頭を振ると、仕事を再開させるべくキーに指を走らせようとしたその時…。


――ブシュッ――


圧縮空気の抜ける重厚な音が響くと、ドアが開いて誰かが部屋の中に入ってきた。
「居るぅ〜?……んがぁ!?」
場の重たい雰囲気を打ち破るかのように、ミサトの脳天気な声がこだました。
振り返って見ると、マグカップを手にしたミサトは鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔で入り口に立ちすくんでいた。
178リツコ:2008/10/18(土) 23:38:22 ID:???
「コーヒーを飲みにでも来たの?…作戦部は暇ね。」
ミサトが手に持つマグカップを目にすると、軽口を叩いてみた。
「ちょ…ちょっとなんなのよコレ〜!」
ミサトは部屋を見渡すと、目を白黒させて驚いたかのようにのたまった。
「あぁ…ちょっと散らかってるわね…」
そんな反応になんの感慨もなく答えると、私はPCに向き直った。
「ちょっと!?ちょっとじゃないわよぉ〜、まるで男の部屋かと思ったわよ?どうしたのよコレ。」
ミサトはそんな私の様子に顔をしかめた。
「あら、あなたの部屋よりは綺麗よ?」
そんなことを言われるとは心外だとばかりに答えたが、ミサトの変わらぬ尋常でない様子にそんな自信もぐらついてくる。
再度、部屋を舐め回すミサトの視線を追い、あらためて部屋を見渡してみることにした。
山積みの灰皿と机上の灰混じりの吸い殻はさっき書いた通り。
それに加えてコーヒーメーカーの回りに溢れている液体、いつからあったか不明な各種栄養ドリンクの空き瓶までもが転がっている。
そして、床には脱ぎ捨てられた白衣が落ちていて、書類の束が乱雑に散らばっている有り様だった。
179リツコ:2008/10/18(土) 23:40:50 ID:???
極めつけは、部屋中に白い靄が立ち込めていることだ。
構造上、窓に面した部屋の造りでないため自動換気システムがついているが、その能力は私が消費する煙草のペースにはまるで追い付けてはいなかった。
「久しぶりにリツコのコーヒー飲もうと思って来てみりゃ……ゴホッ…ゲホ、ゴホッ…」
袖口で鼻と口を抑えてミサトはしかめっ面をしている。
「……そうね…まさか、あなたに言われるとはね。」
他人に指摘されて初めて気付く。
自分一人では何も感じなかったが、こうして観察するといつもの部屋とは雲泥の差の異常事態に見えた。
「几帳面なリツコらしくないわね……よくぞここまで汚したって感じよ?どうしたの?」
眉をしかめるミサトを一瞥すると、煙草を取り出して口にくわえてみた。
が、そのままで火はつけなかった。
「ここのところ作業の進捗状況が芳しくなくて……身の回りを片付ける余裕もないって感じよ。」
答えにしては、子供じみた言い訳の返答をしたことに我ながら苦笑する。
いつになく冴えない表情をしている私にミサトは呆れた顔をした。
「あんたねぇ〜、こんな部屋をマヤちゃんが見たら怒るわよ〜?」
180リツコ:2008/10/18(土) 23:43:55 ID:???
ミサトはそう言うと、部屋の中にズカズカと入ってきて落ちている白衣を拾いあげて側の椅子にかけた。
そして散らばっている書類をまとめて整頓しだした。
「ミサトが片付けてくれるの?」
普段ずぼらなミサトが片付ける作業を珍しい思いで見守る。
「なに言ってんの。あんたの部屋なんだからあんたもやるのよ。」
ミサトは、さっさと片付けろと言わんばかりの視線を投げて寄越した。
二人で部屋の中を片付けて掃除を始めることしばし、灰皿の山に目をやったミサトが唸り声をあげた。
「…あんたどんだけ吸ってんのよ。」
腰に手をあてて仁王立ちで私を睨む姿…それはまるでアスカのようだ。
「…あぁ…いつもよりは本数……多いかしら?」
普段とさほど変わらない本数の筈なのに、白い靄は自己主張するかの如く立ちこめている。
それを不思議な思いで見上げた。
そんなのらりくらりとした私の様子にミサトは肩を怒らせた。
「も、しっかりしなさいよね!こんな山を見たらマヤちゃんまた心配するわよ?」
ミサトの鼻息が荒くなる。
「あら、マヤなら今は居ないわよ?」
さらっと受け流す私に対し、ミサトの眉間に皺が寄る。
181リツコ:2008/10/18(土) 23:46:07 ID:???
「んなの、あたしも知ってるわよ。中国出張中でしょ〜が!」
口の中でぶつぶつ文句を言いながら灰皿を片付けるミサト。
吸いすぎに小言を言うそんな様子がマヤの姿にダブって見えた。
「…まるでマヤみたい。」
書類を整理していた手をフト止めて、思わずそう呟く。
黙々と片付けるミサトにはそれは聞こえなかったようだ。
「それにしても、こんなんじゃ道理で仕事もはかどらないわけよ。ま、アタシの家も似たようなもんだけどサ。」
部屋の中があらかた片付け終るとミサトは両手をパンパンと叩き、カカカとばかりに笑った。
「じゃあ、少しは日頃のシンジ君の気持ちがわかったってことかしら?」
からかい混じりな私の言葉にミサトが頬を膨らます。
「なによ、リツコも意地が悪いわねぇー。シンちゃんは掃除が好きなのよ。文句は…そりゃ言われるケドさ…」
そう言って頭をかく様子にクスッと笑ってしまった。
「ま、あなたが来てくれて助かったわ。これで少しは作業もはかどりそうよ。」
ミサトのおかげでいつもの整頓された部屋に戻ったのは事実。
ここは素直に謝辞を述べることにした。
182リツコ:2008/10/18(土) 23:50:53 ID:???
「そりゃどうも。……しっかし、この煙は凄いわねぇ。いつもはここまで酷くないでしょ?」
依然、白い靄はどんよりと漂い続けたままで、ミサトはそれをウンザリ顔で眺めている。
どう控え目に見ても、空気が悪いのは言うまでもなかった。
「えぇ、いつもは…。マヤが不在だからといって、普段より大っぴらに吸っていたわけではない筈なんだけど。」
釈然としない思い。
そんな思いをよそに、ミサトは部屋の片隅でごそごそと何かをしだした。
「馬鹿ねリツコ〜。ちょっとこれは何なのよ?」
何かを引っ張り出してきたミサトは、それに向けて顎をしゃくりあげて示す。
よく見るまでもなくわかるそれは空気清浄器。
かなりのサイズだ。
そのスイッチを入れると低い唸りを上げて作動し始めた。
ミサトはまだごそごそと何かをいじっている。
取り出したのは、今度は脱臭器。
同じくスイッチを入れる。
「あんた、ボケちゃったの?まさか知らなかったなんて言わないでよね。」
ミサトはほとほと呆れている。
「あっ、そうそう!たしかマヤが使ってたのよ。」
手をポンと叩いてみせた。
183リツコ:2008/10/18(土) 23:55:40 ID:???
煙草の煙や匂いに慣れ過ぎてしまった自分には、それらは特に必要がなかった。
だから、すっかり忘れていたのだ。
「ったくぅ…この部屋の管理はいつもマヤちゃん任せなわけぇ〜?」
そう言って私に近付いてくると、クンクンと匂いをかいできた。
「ちょ…!ミサト……なんなのよ。」
体の匂いをかごうとするミサトを押し退けようとする。
「うっ…くっさぁ〜…リツコ、あんたもの凄くヤニ臭いわ。まるでオヤジね。」
そう言って、鼻をつまんでみせた。
「な、ちょっと!どういう意味よ。」
そんな抗議もミサトは意に介さず、私の前に脱臭器を引っ張ってきて“どうだ!”とばかりに置いてみせた。
「………」
失礼にもオヤジ呼ばわりされてこんな仕打ちを受けるとは…思わず下唇を噛んだ。
「これだからやっぱ女房役がいないとダメね〜。……あんた、そのうち嫌われちゃうわよ?」
そう言ってミサトはウインクをした。
「…なによソレ。」
へらず口を叩く悪友の視線を避けるように顔を背けてみせる。
こんな無駄話をしている間にも清浄/脱臭効果は表れ始め、みるみる内に部屋の空気が澄んで匂いも薄れてきたのがわかり始めた。
184リツコ:2008/10/18(土) 23:58:12 ID:???
「ふぅ〜…やれやれね。これで元通りになって良かったじゃない?」
ミサトは椅子に座ると足をぶらぶらさせだした。
「リツコの部屋に来てまさか“仕事”するとは思わなかったわ。あぁ疲れた…コーヒー貰うわよ?」
持参してきたマグカップにコーヒーを注ぐと、ミサトはぐびりと一口飲んだ。
「で、本業の仕事の方は?そんなに手こずってんの?」
そのままコーヒーをすすりながら歩み寄ってきた。
「そうね…それほどのわけでもないんだけど…。」
そう答え、数字の羅列でびっしりと占められているPCの画面をミサトに見せる。
「あっちゃ〜…生憎あたしじゃ手伝をうとしても無理ね。まるで、ちんぷんかんぷんだもの。」
見てすぐ、頭を横に振っている。
「マヤちゃんのようなら役立てたんだろうケドさ。…じゃ、代わりに肩でも揉みましょうか?センパ〜イ♪」
依然、冴えない表情を浮かべ続ける私が気になるのか、ミサトは探るように首に飛び付いてきた。
「…あなたにそう呼ばれても嬉しくないわよ。」
ついポロリと出た言葉にミサトは目を丸くした。
「あっら〜、マヤちゃんじゃなくて悪いわね。」
首にしがみついたままそんなことを言ってくる。
185リツコ:2008/10/19(日) 00:01:07 ID:???
「……馬鹿言ってんじゃないわよ…。」
そう言うと、私は首の戒めを解き放った。
そのまま襟元を直してみるが、妙に緊張して動きがぎこちなくなる。
「……それで?…何か用があったんでしょ?コーヒーを飲むためだけに、こんな時間に来たわけじゃないわよね?」
居ずまいを正すとミサトに向き合って尋ねた。
こんな深夜に、居るか居ないかわからない自分のもとを訪れて来るぐらいだ。
またぞろトラブル発生か…。
そう思うと顔も自然と引き締まる。
「な、なによリツコ〜…そんな怖い顔しちゃって。」
急に雰囲気が変わった私にミサトはまごついている。
「べ、別に…給料日前で金欠だから少し…借りれないかな……って相談しようと思ってたわけではないの…」
「………」
黙って聞いている私を、上目遣いで見てくる。
「…で、いざ来てみれば…リツコが辛気臭い顔してて言い出せなくて困ったわ……って話がしたいわけじゃないのよ…」
「………」
表情が更に固くなって目を細める私に、ミサトは更に動揺し始めた。
「もぅ………仕方ないわね。」
私はフッと息をついた。
186リツコ:2008/10/19(日) 00:04:04 ID:???
財布を取り出すと、ミサトに1万円札をスッと差し出す。
「わっ♪リツコ、恩にきるわ〜。ちゃんと返すからね。」
一転、今度はホクホク顔で喜んでいる。
「まったく、何の用かと思えば…。掃除を手伝ってくれたからいいわよ。でも、お小遣い帳でもつけた方がいいんじゃない?」
もっと面倒な話を持ち込まれるかと予想したのは肩すかし。
あまりにお粗末な内容に気勢を削がれてしまった。
「…で、本題はそれ?悪いけど、そろそろ仕事に戻らせて貰うわよ。」
PCに向き直りシステムチェックの作業を再開しようとした。
「わ、ちょっと待ちぃ〜なって。」
ミサトはまだ何か話そうとしている。
「実はね、さっきマヤちゃんから副司令のとこに連絡があったのよ。」
「マヤから?」
思わず振り返り、身を乗り出した。
「向こうでのメンテナンスも終りに入り、早ければ明後日あたりに帰国できそうだって話よ。」
良かったわねとばかりに肩を叩かれた。
「そう…知らなかった。」
予想もしなかった話に思わず頬が緩む。
「リツコのことだから既に知ってたかなぁ〜って思ったんだけどさ。ついさっきの連絡だったし、居たら話そううと思って。」
187リツコ:2008/10/19(日) 00:07:23 ID:???
そう言って、ミサトは美味しそうにコーヒーを飲み干した。
「だから初耳よ。伝達ありがとう。」
微笑んでみせた。
「じゃあ、本当に知らなかったんだ?」
意外な顔で聞き返された。
「私が忙しいのはマヤもわかってるのよ。」
そう言って煙草を取り出し口にくわえてみる。
今度は火をつけた。
「あのコはね、どっかの誰かさんみたく、無料コーヒーを飲みに来て自分の仕事をサボったりなんてしないわよ?」
そして紫煙を吐いた。
ワケがわからないといった風情で聞くミサトに続けて言う。
「だって、そんなことしてたら仕事が先延ばしになるだけでしょ?そんな暇がある位なら、サッサと自分の仕事を終らせて帰りたいってもんじゃない?」
そして、空になった灰皿に煙草を置くと、ミサトを見やった。
「それって、つまりリツコの元へってこと?」
なにを考えてるのやら…そんなことを聞き返してきた。
「あのねっ…!」
突っ込みをいれようとするも、ミサトの問いは続く。
「でもさ、メールで連絡のやりとりぐらいはしてたんじゃないの?」
真顔で聞いてきた。
188リツコ:2008/10/19(日) 00:11:59 ID:???
「それは余程の事態を迎えた時ね。今のところはないけど。メンテナンスといっても煩雑な作業なのよ?マヤだって、それは忙しい筈よ。」
私は冷めたコーヒーに口をつけた。
「…それに、そういう連絡は私の仕事のペースを乱す妨げになると思うようなコだし。」
マグカップの縁を指でなぞってみせる。
「…ふ〜ん。じゃあ、あんたも一緒に行ってたらもっと早くに終ったんじゃないの?」
そんなことを言ってきた。
「なに言ってるの。二人して出払ってる間にオリジナルMAGIに問題が発生したらどうするのよ。ここは本丸なのよ?」
そう諭した。
「あ、そっか〜。」
今、気が付きましたとばかりにミサトは頷いた。
一応、作戦部長なのに…。
「まぁ、いいわ。話ってのはそういうことよ。コーヒーごちそうさま♪じゃ、あたし戻るわね。」
ミサトはそう言って部屋を出て行こうとしたが、何を思ったかすぐ引き返してきた。
「あのさ、この部屋また汚すんじゃないわよ?明後日が怖いんだからね〜♪」
そんなことを言ってくる。
「フフッ…わかってるわよ。ありがとね、ミサト。」
口元を綻ばせて答えた。
ミサトが退出すると、PCに向き直り仕事を再開する。
189リツコ:2008/10/19(日) 17:06:44 ID:???
画面に目をやると、気を引き締めて数字の羅列との格闘を始めた。
丹念に行を追って視線を隅に移動させた時だ、メール着信のお知らせがあることに気が付いた。
それを起動させてみると数十件もの新件メールが届いている。
「んもぅ…またなの!?」
ミサトが来る前まではなかったのに、こんなに山のように一挙に来るだなんて。
全てに対応していては、今やってる作業が更にまた遅れてしまう。
とはいえ、司令や副司令からの最優先事項な命令のものが来ていれば、どのみち今の作業も後回しにさせざるをおえない。
とりあえず、それらに該当するものがないかを先に確認することにした。
画面をスクロールさせて読んでいく。
「ふぅ…こんな用件にまで、いちいちCCで送ってくれなくてもいいのに。」
蓋を開けてみれば、大した内容でないものが結構送られてきていることに文句が出てしまう。
「これを読むのにかけた時間で、さっきのチェックをどれだけ進めることが出来たかしら?」
自室であるのをいいことに、声の大きさを気にする必要は全くなかった。
今のとこ見た感じでは、特に緊急を要する重要なものはない。
190リツコ:2008/10/19(日) 17:09:07 ID:???
更に画面を下にスクロールさせた。
すると、1件のメールが目に飛込んできた。
差出人はマヤからだっだ。
丁度、ミサトが訪れに来た頃に送信されていて、内容は簡潔明瞭にこうまとめられていた。
『件名:(本文なし)10/15午前帰国→午後、通常シフト勤務戻り』
わざわざ本文を開いて見る手間が省けられる。
件名のみで、一目で内容が伝わるといった配慮がなされていた。
「そこまで気を回さなくてもいいのに…ね。」
他のメールに文句を垂れても、要点のみのこのメールを逆に物足りなくも感じるのは矛盾も甚だしいのだが。
そして最後まで画面をスクロールさせるとメール閲覧を終えた。
幸いにも至急を迫られるものはなかったが、これで時間をいくばくかロスしてしまったのは辛い。
「結局、今夜も徹夜よね…。」
時計を見上げて独りごちる。
でも、不思議と気分は高揚していると言っていいほどに上々だった。
先程までのタメ息をついて冴えなかった面持ちはどこへやら…。
その後の作業も順調過ぎるほど順調にこなし、これまでの倍以上のペースでサクサク進めることができた。
キーの上を走らす指も、まるで疲れを知らない一流のピアニストのように軽やかに舞う。
191リツコ:2008/10/19(日) 17:11:33 ID:???
「フフッ、空気が澄んだことで頭の中も明瞭になったのかしら?この分なら明後日と言わず、明日には片付いてしまえるわね。」
そうであれば、帰国後に今度は事後報告に時間を取られるだろうマヤの手を煩わせることもない。
なにより、久しぶりに顔を見るマヤの土産話を聞きたいものだ。
一緒に美味しいものを食べにも行きたい。
それには、そのための時間を捻出しなければならない。
あれこれ色々と考えてほくそ笑んでしまった。
「早く帰って来なさいよね。」
既に子供のようなワクワク感で一杯になっている。
そこで唐突に気が付く。
「(……あ、そうなの…)」
ここのとこ調子が出ずにタメ息ばかりついてたこと、仕事がはかどらなかったこと、散らかったままの部屋でも平気だったことに…。
それらの理由に思い当たってしまった。
全てはマヤが出張に行ってしまってからの変化だった。
いつも側に居た人がいなくなっただけで、かくも気力が奪われてしまっていたとは…。
そして、今度はその人が戻ってくると知ったらそれが単純に復活するだなんて…。
「そうよね…いつも一緒に居て当前と思ってたんだわ。」
192リツコ:2008/10/19(日) 17:15:02 ID:???
キーを打つ手を止めてクスッと笑ってしまった。
安易にもそんな風に思っていたのは、それだけ近しい存在にほかならないことに今更ながら気付く。
「さっきまでの私って、要するに翼を失い飛べなくなった鳥だったってことになるわね。」
視線を手元のキーから、マヤの席に移す。
「その翼がマヤ…ね。」
格好をつけるような例えをしたが、マヤと二人三脚で一通り業務を遂行してきているからこそパートナーとも呼べる。
「でもねぇ…」
椅子の背にゆっくり体を預けると、マヤの天然ボケぶりを思い起こした。
重要な作業に携わっている時はわりと普通なのに、一旦、ボケを発揮した時の落差ぶりといったら目も当てられない。
これまで、何度、緊張を強いられ冷や汗をかかされたことか。
もし放っといたら翼だけに、し明後日の方向へどこまでも勝手に飛んでいってしまうかも知れない…私を残して。
「…まだまだ見てないとだわね。」
そして少し考え、マヤに楽しみに待っていると返信した。
その返信の途中で、メールが1件受信された。
「今度は何?」
確認すると、それはミサトからのメールだった。
193リツコ:2008/10/19(日) 17:23:04 ID:???
見ると、そのメールは以下の具合いだった。
『件名:【超重要】■□■入浴と白衣の洗濯も忘れずに■□■』
思いもよらない言葉に、飲みかけていたコーヒーを危うく吹き出しそうになってしまった。
「ミサトったら…」
苦笑して本文を開くと一言こう記されていた。
『でないと、嫌われちゃうんだからね?』
「それはイヤよ。」
本文を見て、すぐに即答した自分の声の大きさに驚く。
そして、また苦笑してしまう。
すかさずこう返信をした。
『有り得ないわ。』
これに絶対の自信と…願いを込めて。
返信が終ると、ここらで仮眠をとるために先にシャワーを浴びることにした。
別にミサトのメールを気にしたわけではない…筈。
いつもの本調子を取り戻せたからといって時間に余裕があるほどではないが、眠らなくては明日の作業に響いてしまう。
自分の体調をケアしてコンディションを整えておかねばならない。
「マヤが帰ってくるもの…ね。」
そう呟くと、口元を綻ばせたまま私は部屋を後にした。



―完―
194ミサト:2008/10/19(日) 17:43:10 ID:???
リツコ、よく書いたわねぇ〜。
今回のあんたはやけに素直に見えたわ。
いつもこうならいいのにサ。

ところでマヤちゃん、お土産にくれたヤツなんだけど今までになく凄い刺激的な味で気に入っちゃったわ。
あたしは平気だったけど、シンちゃんもアスカも痺れを感じたぐらいだったもの。
またどっかに出張した時にはヨロシクね〜♪
195マヤ:2008/10/19(日) 17:57:41 ID:???
あぁっ、葛城さんは無事で良かったです!
早くお知らせしなければと探してたんですが、間に合いませんでしたね。

先輩…あのお土産ですが、今、話題の食材ということで選んだものでした。
でも、知らなかった……帰国してから知ったんです!
あれが、違う意味で話題になっていたってことに…。
まさかあの「冷凍インゲン」に、そんなパワーがあっただなんて!
……お加減、大丈夫ですか…?
196リツコ:2008/10/19(日) 18:03:48 ID:P2CRiWxi
ちょっとマヤ……「間に合いませんでしたね」ってあなた…(-_-#)
……まだ口の中が痺れているわよっ(T^T)

晒し上げものね(-_-メ)
197名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/21(火) 00:56:47 ID:???
乙です!いつも読んでますよ〜!
リっちゃん吸いすぎだ・・・肺ガンにならんか心配
198名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/22(水) 04:59:14 ID:???

楽しませてもらった
199名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/22(水) 16:14:34 ID:lykJs0LV
乙!続き読みて
200シゲル:2008/10/26(日) 16:08:54 ID:???
今日もいつものように無事一日が終った。
使徒さえ来なければ、起動試験や模擬訓練をする以外では俺の出番はこれといってない。
直属の上司である副司令から言いつけられた雑多な用事も、さっき終えてしまった。
先程までの発令所の中の喧騒もすっかり陰をひそめ、今は人影もまばらだ。
「(帰りにいつもの楽器屋に寄って、新しい楽譜でも探してみるかなぁ…)」
鼻と上唇の間でペンを挟みこみながら、そんなことを考えていた時のことだ。
「この先はかなり絶望的だわ…。」
そばで、ひそめくような声がした。
顔を向けて見ると、そこにはマヤちゃんに話しかける赤木博士がいた。
いつものように無造作に両手を白衣のポケットに入れ、それはそれは威風堂々な立ち姿。
だが、気を緩めてしまえば今にも泣き出しそうな表情をしている。
「(ひっ!?)…ヌグフッ!」
見てはいけない、自分の目を疑うものを見てしまった時の人の反応。
鉄面皮と正直に言えば殺されてしまうかも知れない、あの赤木博士の有り得ない表情を見てしまい、変な声が出てしまった。
「(…やべぇ〜、聞こえたか?)」
頭を抱えながら恐る恐る様子を伺ってみた…気付かれてない。
201シゲル:2008/10/26(日) 16:10:42 ID:???
赤木博士は何事かをマヤちゃんに耳打ちしている。
すると、マヤちゃんのいつもの笑顔がみるみる内に堅くこわばっていくではないか。
それは、使徒襲来時の時に見せる“焦り”の表情とまるっきり同じだった。
「どうしても……が…状況…悪化す……トライアル…」
「膠着状態……手遅れ…報告に…万が一……打つ手…」
耳をダンボにして二人の会話に聞耳をたててみるが、途切れ途切れにしか聞こえてこない。
それでも言葉の切端から理解できた。
なにか不測の事態が起こりヤバい状況に陥っているということに…。
「(な、なんだよ!?)」
二人の今だかつてない深刻な様子を、俺は信じられない思いで見ていた。
「わたし諦めません!どんなに困難でもきっと道は見つかります!だから…先輩っ!」
張り裂けんばかりの声で励ますマヤちゃんの手は、血が出るぐらいにきつく握りしめられている。
「……今ここで諦めたら…死んだ後に後悔するわね、きっと…」
蒼白な顔を歪ませてた赤木博士の瞳に光が宿る。
“死”……今、赤木博士はその言葉を口にした。
「(っ!…そんな危機に瀕しているというのか!?)」
心臓は早鐘のように鳴りだし、顔から血の気が引いていくのを感じた。
202シゲル:2008/10/26(日) 16:12:55 ID:???
「匙を投げずに最後まで私に付き合ってくれると……その覚悟がある…というのね?」
「いいんです…先輩と一緒なら……」
「マヤ……」
そんな俺の様子には全く気付かず、見つめ合いながらどこかで聞いたようなやり取りをする二人。
悲壮が漂う雰囲気の中、この時、二人の周囲の空間が甘く変化したように感じたのは気のせいだろうか。
「先輩、事態は一刻を争います。すぐにでもとりかかりましょう。」
「わかったわ…今から私の部屋に来て頂戴。」
マヤちゃんは頷くと、自席の机の引き出しから何かを取り出しポケットに入れた。
「(…な、マヤちゃん、それって!)」
俺は叫び上げそうになった。
マヤちゃんが隠すように取り出したのは銃だ。
俺達のような非戦闘員にも配布されており、いざという時に手にしなければならない最終手段の武器。
小ぶりなサイズとはいえ、その殺傷能力は十分にある。
それをマヤちゃんは取り出して持って行こうとしていた。
「…念のため……これを使う時は…最後の最後に…」
ポケットを抑えながら赤木博士を見上げるマヤちゃんの瞳には、涙が浮かんでいる。
それはスーッと頬を伝り、そのまま床に流れ落ちた。
203シゲル:2008/10/26(日) 16:14:53 ID:???
「…マヤっ!」
無理に泣き笑いをするマヤちゃんに居てもたってもいられなくなったのか、赤木博士はマヤちゃんの肩を抱き締めた。
「あなたの心…しっかり受け取ったもの…」
またもやどこかで聞いたような言葉…それが赤木博士の口からつむがれる。
そして、再び展開される甘い空間。

それにしても……
『わたし、鉄砲なんて撃てません!』
嫌悪も露にして銃を手にすることすら良しとしなかったマヤちゃんが、ここまで追い詰められているなんて…。
この事態の深刻さはそれほどまでのことなのかと、俺の歯の根はガチガチと震えだした。
そのまま二人は連れだって発令所を走り去って行こうとする。
俺は後を尾けようと椅子から立ち上がったが、不覚にも足がもつれてしまう。
そのまま後ろへもんどり打って転がってしまった。
恐怖で膝がガクガクしていることに気付く。
「(…しっかりしろ、俺!)」
考えたくはないが今の状況を何も知ることなく、もし死んでしまうことになったなら絶対に嫌だ。
真実を追い求めるのは何も加持さんだけの特権じゃない。
俺は両頬を叩いて喝を入れると、あらためて二人の後を追った。
204シゲル:2008/10/26(日) 16:16:59 ID:???
カツカツ…パタパタ……
足の速さに自信のある俺なのに、二人の走る足音はどんどん遠ざかっていく。
「クッ…引き離されていく!」
………そりゃそうか。
二人に気付かれぬようにと意識し過ぎたあまり、思わず“欽ちゃん走り”をしていたのだから。
今しがたスレ違った職員の突き刺さる視線が…かなり……痛い…。
10mほど先を走る二人は角を曲がって行く。
あの角を曲がれば赤木博士の部屋はすぐそこだ。
俺はそこまで来ると足をピタリと止め、顔を少しだして先の様子を伺った。
部屋に通じるドアの前に二人はいた。
が、そこにはもう一人の人影があった。
「(おや?副司令じゃないか。)」
なにやら三人で話し込んでいる様子。
「マズイぞ…」
顎に手をやり厳しい表情をする副司令の声が通路に響く。
そして三人で部屋の中へと入っていった。
「ま、待っ…!」
呼び止めようと俺は慌てて飛びだしたが、無情にも鼻先でドアは閉まる。
そのまま内側からロックされてしまい、外からでは開かなくなってしまった。
……フッ…仕方ない。
205シゲル:2008/10/26(日) 16:19:05 ID:???
こんなこともあろうかと、高性能盗聴器を用意しておいたのは僥幸。
加持さんを見習って、これで中の様子を探ることにした。
ドアにその盗聴器“コップ”を押し付けて耳をあててみる…………ぜんっぜんっ聞こえねぇ〜…。
いかんせん、このブ厚い鋼鉄ドアの前では、このハイテク製品も形無しだった。
「どうする?…ここは実力行使か……押すか…ダメだ…引いてみるか……あそっか、これはスライド式だっけ…」
ドアを開けようと七転八倒する俺の背後で、人の気配がした。
「そこで何しているの!」
続けざまに後頭部に何かが押し付けられる。
「(こっ、この声は…葛城さんっ!?)」
後頭部に押し付けられるこの堅い感触は銃口だ。
「(どうして?こんな!ナゼ!?)」
いきなり、銃を突きつけられるといったワケわからぬ事態に襲われて体が震え上がった。
「…ぁ……ぅ…」
なにか喋ろうとしても口の中がカラカラに渇いてしまい、声がかすれて言葉にならない。そんな俺に苛立つかのように、更に銃口を強く押し付けてくる。
「何をしているのかと聞いているのよ……青葉二等兵。」
カチリ…撃鉄を起こす音がした。
「んナっ、なんですか二等兵って!?」
206シゲル:2008/10/26(日) 16:21:09 ID:???
自分が今置かれている状況も忘れ、裏返った声を挙げて振り返る。
そこには、微動だにせず俺を睨みつける葛城さんの顔があった。
「(っ…この人マジっ!)」
両手を挙げて無抵抗の意を示すと、葛城さんは銃を納めてくれた。
俺はホッと息をつくと、促されるままに経緯を説明し始めた。
発令所でのマヤちゃんと赤木博士の意味深な会話と緊迫した様子、それが気になって尾けてきたこと、すると副司令が居て皆で部屋に入っていったこと…をだ。
葛城さんは黙って聞いている。
「ところで、さっきの二等…」
「あなたも真実を知りたいのね?」
言葉を遮られて逆に問い返された。
葛城さんは真剣な顔で俺を見ている。
それは真実を追い求め、掴んだ者だけができる表情だ。
「(…そうか…葛城さんはもう真実を…)」
ゴクリ……息を飲む俺の喉仏が大きく動く。
俺はゆっくりと、そして確実な動きで小さく頷いてみせた。
「……なら…真実を見せてあげるわ…」
葛城さんはカードを取り出した。
それはこの部屋の入出キーなのだろう。
そのまま無言で俺に差し出す。
「…自分の目で確かめなさい。」
俺は震える手でそれを受けとると、意を決してドア横のスリットに通した。
207シゲル:2008/10/29(水) 23:47:55 ID:???
スッ……スッ……スッ…ス…ス…ス、ス、ス……
「あれ?あれあれっ?」
何度、通してみてもドアロックが解除されない。
緊張のあまり、カードを逆にしてたのかなと確認してみた。
「マ…ツモト…キ…ヨ…シ…?…なんだこりゃ!?」
そう文字が記されるこのカードは、ドラッグストアのポイントカードだった。
「葛城さん、これ違いますよっ!」
張りつめていた緊張の糸がここでプツリと切れ、俺は床に片膝をついた。
「アハハはは…ごみ〜ん…間違えたわ。ハイ、こっち。」
バツの悪い顔をする葛城さんから正しいカードをひったくるように受けとると、俺は一度大きく深呼吸をしてからスリットに通した。
「(…鬼が出るか…蛇が出るか……なんであれ、俺は見届ける!)」
ブシュッ……ロックが解除されドアが開く……。




「……何…やってるんスか?」
部屋の中の光景を見て、開口一番に出た言葉はこれだった。
俺はただただ呆気にとられていた。
部屋の中で、マヤちゃんと赤木博士が楽しげに楽器を奏でていたからだ。
「あれ?青葉君、どうしたの?」
俺を見て無邪気な様子でマヤちゃんが尋ねる。
208シゲル:2008/10/29(水) 23:49:51 ID:???
「どうしたのって…」
俺はポカンとした顔で、目の前で繰り広げられる光景を眺めるのみだった。
「マヤ、この角度で口にあてる方が、より音が鮮明になるのね?」
「そうです……あぁ、さっきより断然クリアです。さっすが先輩!」
俺に構わず二人は楽器を吹いている。
そうだ、たしかこの楽器の名は……オカリナ!
「先輩、それでは次のステップに移りますよ?わたしの後に続いてやってみて下さいね。」
「待ってマヤ、これは難易度高そうね。私にはまだ早くないかしら?」
二人共、俺のことは全く眼中にないようだ。
まるっきりスルー。
「先輩、今からそんな弱気でどうするんですか!きっと間に合います。さぁ早く。」
マヤちゃんが吹いてみせると、赤木博士もそれに倣って吹いてみる。
「ほら〜、出来た!格段に上達していってますよ?この分ならイケます!」
「ありがとうマヤ…あなたの教えでどうにか自信を取り戻せたわ。」
それは、なんとも珍妙な光景であった。
「あの、一体これは…」
おずおずと口を挟む俺に、『今ようやく気付いたわ…でいいわね?』とばかりに赤木博士が顔を向けた。
「あら青葉君、何か用?」
209シゲル:2008/10/29(水) 23:51:44 ID:???
案の定、その口調はいつも期待を裏切らないでくれる(涙)。
「何か用って……今、非常事態じゃないですか!…その…さっきの発令所での会話が耳に入ったものですから…」
「あぁ…あなたにも聞こえてたの。えぇ、確かに今は非常事態よ。」
そう尋ねる俺に、赤木博士は力強く頷いた。
「一体、何が起きてるんですか?敵襲でもあったと言うんですか?」
「…敵襲?……何の話?」
重ねて問いかける俺に、赤木博士は眉をひそめた。
その様子に俺はいぶかしむ。
「まだわからないの!?青葉二等兵っ!!」
後ろから厳しい声が飛ぶ。
「か、葛城さんっ…その二等…」
「どうやら、はっきり言わないと駄目のようね…マヤちゃん?」
葛城さんはまたもや俺の言葉を遮ると、マヤちゃんを見やった。
「青葉君、見ての通り先輩(はぁと)はオカリナの試験に向けて練習に忙しいの。」
それを受けて、マヤちゃんは話しだす。
「この試験が終るまで、先輩(はぁと)もお手伝いするわたしも“非常事態”よ?遊んであげられなくてゴメンね(はぁと)」
締めにテヘッとばかりに舌を出した。
「ん…なっ…!」
俺は、体中が脱力すると頭から床に突っ伏して倒れた。
210シゲル:2008/10/29(水) 23:53:49 ID:???
脳裏に、ついさっきまでの発令所での二人の会話が思い返される。

『どうしても……が…状況…悪化す……トライアル…』
『膠着状態……手遅れ…報告に…万が一……打つ手…』

「そ、それじゃ…あの一連の会話って……」
頭がクラクラする。
「あなたが何を勘違いしてたかは知らないけど、全ては今マヤが言った通りよ。」
そんな俺に、赤木博士がトドメを刺す。
「んなバカな……」
もう放心状態だ。
目から滝のように涙を流す俺…死ぬハメにならなくて嬉しいのか……いや、色んな意味で悲しいのだろう…。
でも俺にはまだ引っ掛かるものがあった。
そうだ、あの時マヤちゃんは机の引き出しから銃を取り出してポケットに入れていた。
「それじゃ銃は?ここに来る時にポケットに入れたろ?」
俺はマヤちゃんのポケットをビシッと指差す。
「銃ぅ?」
マヤちゃんは不思議そうな顔で自分のポケットを触ると、中身を取り出して俺に見せた。
「…お、カリナ……」
絶句する俺。
「これは副司令のよ。万が一、先輩が挫折しそうになった時には、副司令の助力を仰ぐつもりだったの。言わば最後の切札よ。」
211シゲル:2008/10/29(水) 23:55:42 ID:???
そう語るマヤちゃんは誇らしげだった。
赤木博士がマヤちゃんの影響を受けてオカリナを習っているのは噂に聞いていたが、まさか副司令までとは…。
「あら、あなた知らなかったの?副司令はネルフ吹奏楽部の顧問を勤めるオカリナマスターよ。」
怪訝な顔をしている俺に向かって、赤木博士が口を開いた。
「えぇっ!そうなんですか!?って…なんスか、そのオカリナマスターって?」
だんだん、話についていけなくなってくる。
「オカリナマスターというのは、全ての音階を奏でられる者のみに与えられる称号だ……」
部屋の隅から声がした。
「こ、これは副司令!」
影が薄いから存在を忘れていた…なんて言えない。
俺は、だらけた顔を引き締めて直立不動になると敬礼した。
「わしは昔から好きでやっていてな、伊吹君も同好の士だと知った時は嬉しかったもんだよ。」
そんな俺に、まぁまぁといった感じで苦笑した。
「はぁ…そうでしたか。」
なんとか返答をする。
「わしのを伊吹君にずっと預けたままだったんだが…ま、どのみち手伝うまでもなかったよ。なぁ、赤木博士?」
そう言って、副司令は自分のオカリナをプーと吹いてみせた。
212シゲル:2008/10/29(水) 23:57:33 ID:???
「先輩はね、“ド”の音階の習得に長いこと苦しまれてて、今やっと克服できたのよ。あと少しで全ての音階を制覇できるから、そしたらいよいよマスターの試験なの。」
自分のことのように嬉しそうに話すマヤちゃん。
「ド?…それって一番最初じゃないか。」
楽器は違えど、俺だってギターを弾く男。
ドレミが弾けなくてどうするんだとばかりに言った。
「何を言うの?ドは最上級者レベルのクラスの者にしか出せないのよ。」
マヤちゃんはチッチッと指を振ってみせた。
傍らの赤木博士は、困惑顔でそんな俺達を見ている。
「だって、ドだろ?最初の音色じゃないか…。」
「違うわよ、そのドじゃないの。ド…なの。」
俺は頭を抱えた…マヤちゃんのボケがまた始まったかと。
「だから、ドはドじゃないか。」
「……青葉君、違うのよ。マヤの言っているドとは、ドレミのことではないの…。」
俺達の会話を見かねて赤木博士が口を挟んだ。
「それは…“ダヂヅデド”のド……なの。」
少し照れ臭そうに言う。
「はぁぁぁ?」
……モシモシ赤木博士?
イマ、ナントイワレマシタカ?
おいお〜い、今、何か空耳が聞こえたぞ〜。
213シゲル:2008/10/29(水) 23:59:04 ID:???
ただ目を白黒させているだけの俺に、赤木博士は説明してくれた。
要するに、オカリナとは他の楽器同様にドレミを奏でる楽器。
だが、“ある一定の境地”に達した者には特殊な音階も奏でられるようになるというものなのだそうだ。
その音階はアイウエオのア行から始まりワ行のンまで順に進む。
そこまで到達すると、今度はパピプペポのパ行に進む。
それを攻略すると最後にガギグゲゴのガ行に進んでから、ラストはバ行バビブベボのボで完全制覇なのだそうだ。
これを読むそこの君、ワケわからんだろ?
あぁ、俺もだよ…。
そして、これらの音階を全て制覇できた者のみが“オカリナマスター”の名誉に与かられるそうだ。
現在、ネルフでその称号を有する者は副司令とマヤちゃんの二人だけ。
だから赤木博士も習っている以上はそれに挑戦したい……つまり、話はこういうことだった。
「最初はね、オカリナ自体まさか自分がやるなんて思ってなかったのよ。」
少しはにかむ赤木博士。
「でもね、マヤの練習風景を何度か見学していたら楽しそうで…気が付いたらマヤより夢中になってしまってたわ。」
そう話す赤木博士は、まるでそこらのOLさんのようだった。
214シゲル:2008/10/30(木) 00:00:42 ID:???
「(ヘェ〜…赤木博士って結構、気さくなとこあんだなぁ…)」
そこには、普段のお堅く孤高な人の印象はまるで無かった。
「マヤがいなかったら、こんな哀愁誘う文化的な趣味をたしなむこともなかったわね。」
そう言って、マヤちゃんを慈愛の篭った目で見つめる。
見返すマヤちゃんの頬が、うっすらとピンク色に染まっていく。
そして甘い雰囲気………は、もぉ〜えぇっちゅぅのっ!
「あーコホン…わかりました。それで、お三方は集まっていたと…。で、葛城さんは何を?」
ひとり佇む葛城さんに振り返ると、俺は聞いた。
依然、厳しい表情をしている葛城さんは、全員の注視を受けていることに気が付くと口元をキリリと引き締める。
そして、更に表情を厳しくすると口を開いた。
「私はただの野次馬よ!」
ズルッ…
赤木博士が足を滑らせてズルッ…マヤちゃんが椅子からズルッ…副司令の髪がズルッ…
みんな一斉に、これでもかと派手にコケる。
「も、何やってるんスか葛城さんは…」
今日はやたら脱力感に襲われる日みたいだ。
俺はズルッと出た鼻水をすすり上げた。
あ〜…ホント、この人に関わるとややこしい。
215シゲル:2008/10/30(木) 00:02:42 ID:???
「だって、リツコの部屋の前を通りかかったら、青葉君が死にそうな顔でドアにしがみついてるじゃない?何だろなぁ〜って興味が沸くわよ♪」
「ヒ、ヒドイっス!そんなんで、いちいち銃を突きつけたりしないで下さい!」
俺の文句に葛城さんは腹を抱えて笑う始末。
あ〜もう!あ〜もう!
「(クスクス)面白かったわ♪…ところでリツコ、さっき“ある一定の境地に達した者”って言ってたけど、あれどういう意味なの?」
半笑いしている葛城さんが思い出したかのように聞いた。
「……それはね、心を開くということよ。」
赤木博士は穏やかな口調でそう答えると、マヤちゃんの隣に座った。
「つまり何て言えばいいかしら…常に素直な気持ちであれ…と。その心がけを尊重する…そういった感じかしら?」
一口で説明するのは難しいみたいで、赤木博士は自身を振り返るかのように考えながら答えた。
「ふ〜ん…心を開くってか……まるでエヴァみたいな話ね。抽象的で理解するのが難しいわ。」
葛城さんの頭上には、?マークが飛び交っている。
「簡単そうですが難しいものです。わたしもまだまだ勉強中ですから。」
マヤちゃんが言う。
216シゲル:2008/10/30(木) 00:28:37 ID:???
「それって、自分を偽らず正直になれってことなのかなぁ…。」
なんとなく理解できたような気がしたのでそう俺が呟くと、マヤちゃんはパッと顔を輝かせた。
「うむ。我々は、たまたまオカリナを通じてそういう機会を得ることができた…とも言えるな。」
副司令が厳かに付け加えた。
「(なるほどな…)」マヤちゃんと副司令の人柄や気質を思えば、二人がオカリナマスターとやらになれたのもわかる。
そして赤木博士はその途上にあるということか。
それにしても、心を開くとあんな聴いたことない音が自在に出せるようになるなんて…。
最初、あの特殊な音階のくだりを説明された時には、さすがに俺は眉唾ものだと思った。
が、しかし、その音を実際に耳にしたし、目から鱗だったのが赤木博士のこんな意外な一面を目のあたりにしたことで、その気持ちも霧消していった。
三者三様、今まで目にしたことのない表情や物腰の変化には、満ち足りた幸せをかもし出しているかの様に感じさせられる。
「(それも、あの赤木博士がねぇ〜…でも、なんかイイ感じじゃないか?)」
マヤちゃんと副司令の指導に熱心に耳を傾けている赤木博士を見て、俺はそう思った。
217シゲル:2008/10/30(木) 00:30:49 ID:???
「ハハハ、青葉君と葛城君には我々の秘密を知られてしまったな。」
そう言って、副司令は口にオカリナをあてて吹き始めた。
メロディーが流れ始める。
「あ、これって…残テよね?」
葛城さんが驚いたように呟く。
俺達の社歌とも言えるこの曲が、こんなせつなげな音色で聴けるとは…俺はちょっと感動した。
次に、今度はタナトスのメロディーが流れた。
皆、陶酔したかのように聴き惚れている。
「副司令、素晴らしいっス!」
「そうか?気に入ってもらえたかね。」
副司令は相好を崩して喜んだ。
「なら、今度はみんなでどうだね?」
すっかり好々爺だ。
それを受けて、マヤちゃんと赤木博士が恥ずかしそうに頷く。
「俺、ギター取ってきます!」
俺は叫ぶや否や脱兎の如く部屋を飛び出すと、ロッカーに隠し置いてあるそれを取りに向かった。
風を切るように走る。
もう、欽ちゃん走りなんてしない。
部屋に戻ると、ルフランのメロディーが流れ始めていた。
俺は慌ててギターを構えると、リズムに合わせて弦をかき鳴らした。
楽器のない葛城さんが歌を担当するが、最初の出だしで既に音程をハズしている。
218シゲル:2008/10/30(木) 00:37:57 ID:???
その妙ちくりんな歌声に、笑いだすのを我慢して一生懸命に吹く“オカリナ師弟”。
その様子を満足気に見守りながらリードしている副司令。
「(なんだよ…みんなイイ感じじゃん?)」
曲が進むにつれ、絶唱する葛城さんの音程はいよいよ更に怪しくなってきた。
すると、マヤちゃんは吹くのを止めて今度は一緒に歌い始め出す。
「「わた〜しぃに、か〜え〜りなさ〜い〜♪」」
そのサビの部分で、マヤちゃんは赤木博士の方を向いた。
そんな全開バリバリなすると、赤木博士は困ったような…苦笑するような…ちょっと顔赤いような…おやおや?
これも心を開くという効果の副産物なのか。
様子に気付いた副司令と葛城さんが、顔を見合わせて苦笑いしている。
クククッ、なんだか面白いものを見てしまったな。

……そ〜いや、俺達って常に死と隣り合わせの日々だ。
戦時下状態の発令所では、悲鳴のような叫び声ばかりをあげている。
いつも緊張していて、気を休めようとすら考えもしなかった。
時間に追われるかのように、ただ毎日が過ぎているだけ。
そんなことに気付かなかった。
そう、この今の今の瞬間まで…。
219シゲル:2008/10/30(木) 00:46:27 ID:???
俺は皆の顔を見回した。
目が合うと、副司令が微笑んだ。
赤木博士が照れた。
マヤちゃんがVサインをした。
葛城さんがウインクを寄越した。
思い思いに楽器を奏で、また歌っている誰もが生き生きと輝いている。
「(ウン…こういうのってイイよな!)」
俺は一際ギターを大きくかき鳴らすと、ニッコリ微笑んだ。



―終り―
220マヤ:2008/10/30(木) 00:57:02 ID:???
そうそう、あの時の演奏は楽しかった(^o^)
青葉二等兵、カキコありがとう(^O^)/
221リツコ:2008/10/30(木) 01:06:35 ID:???
マヤ、あなたワザと言ってるわね…(-_-#)
しょうがないコね。

私からも礼を言うわ。投下してくれてありがとう、若葉君。
222シゲル:2008/10/30(木) 01:08:11 ID:???
ウゥッ…赤木博士まで……(T_T)
223名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/12(水) 00:24:49 ID:???
おお!更新してる!GJ!!
224名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/14(金) 06:16:12 ID:???
乙!!
225リツコ:2008/11/19(水) 00:22:55 ID:???
今日も忙しく過ぎてしまった。
一日中かけていた眼鏡をはずすとマグカップを片付ける。
そのまま帰り支度をしていたら、後ろから呼びとめられた。
「先輩っ!今度の金曜の夜は空いていますか?」
いきなりの声に驚いて振り返ってみると、マヤが何かウズウズした様子で私を見ている。
「なぁに、どうしたの?」
両手で大事そうにバッグを胸に抱えるマヤは、餌を持つ小動物のよう。
丸い瞳がキラキラとしていて…そう、まるでハムスターみたい。
とっさにそれが浮かぶと、つい笑みが溢れてしまった。
「だって、だって、金曜は先輩のお誕生日なんですよ?」
私にそう思われたことを知らないマヤは、身を乗りだして私を覗きこんでくる。
「あぁ、もうそんな時期…。」
我ながら失念していたことに苦笑する。
そんな私の様子をマヤは窺っている。
「その…都合が悪いなら別の日でもいいんですけど……一緒にお祝いしたいなぁ〜って…。」
照れた様子で話すマヤは、私の返事を少し不安気に待っている。
「フフッ、何かと思えば…。それじゃ、その日に喜んでお付き合いさせてもらうわよ?」
そう答えると、マヤの顔がパッと輝いた。
226リツコ:2008/11/19(水) 00:24:32 ID:???
「うわ〜!」
嬉しそうにはしゃぐマヤは今度は子犬みたい。
なんだか可愛く思える。
「あ〜!今、何を考えてたんですか〜?もう、笑わないで下さい!」
クスクス笑う私に、マヤはスネて頬を膨らました。
「あのね、マヤって表情豊かでいいなぁって思ってたのよ。」
そう言われてキョトンとするマヤ。
本当にめまぐるしいコだこと。
「で、私の誕生日はどうするの?」
クスリ笑いを噛み殺して尋ねた。
「エートですね、私の家でお祝いを…と考え…」
「それは楽しみね。」
モジモジと恥ずかしそうに話しているマヤに、つい即答してしまった。
ちょっと、はしたなかったかしら…。
マヤの自宅に招待されたことで、こんなに気分が高揚するだなんて…。
「……なら、先日の実験データの解析は金曜までには仕上げておきたいわね。じゃあ…このパートをマヤにお願いできるかしら?残りは私がやるわ。」
それを誤魔化すように資料を拡げて見せた。
マヤはそれを食いいるように見て確認している。
「了解です!任せて下さい。」
少しおどけて敬礼をしてみせるマヤ。
227リツコ:2008/11/19(水) 00:27:00 ID:???
見透かされたわけではないのに、なんだか恥ずかしくなる。

「金曜は定時になったらこちらに伺いますね。では、失礼します。」
マヤはそう言うと、ペコリとお辞儀をして部屋を出ていこうとした。
「あ、マヤ…」
その後ろ姿を呼びとめた。
振り向くマヤはさっきのキョトン顔をしている。
「あの…ありがとう。」
嬉しさと照れ臭さが混じった感情で伝える。
「いいんです。…えっと、待ち遠しいですね。」
マヤは頬を少し染めると、パタパタと部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送る。
マヤが部屋を退出した後もしばらくドアを見続けていた。
「(……またね。この気持ち。)」
ドアを見つめながら、沸き上がってくるワクワクした感情に身を任す。
自分の誕生日のことで、こんなに心踊らすなんて子供時代でもそう記憶にない。
とまどうように苦笑すると、私は帰り支度を終えて部屋を後にした。



―完―
228リツコ:2008/11/19(水) 00:33:40 ID:???
どんな誕生日になるのかしら?
続きは、また後日にでも。
229ミサト:2008/11/19(水) 00:41:12 ID:???
良かったわね〜リツコ。
天然マヤ……忘れてないわね?
230リツコ:2008/11/19(水) 00:45:25 ID:lBRC25o/
……忘れてたわ(^^;
でも、楽しみよ…不安になったけど…。
いえ、大丈夫よ……たぶん(^-^;)
231名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/08(月) 00:31:56 ID:???
おもしろい!
続きが楽しみだ
232名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/12(金) 12:28:00 ID:???
Ktkr
233名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/12(金) 18:17:42 ID:???
やがて下痢状の便は浣腸の液が主成分の液体に変わり、事態は収まった。

「マヤ、最高だわ。何時にもまして、凄いウンチだったわ。」

興奮ぎみのリツコをぼんやりとシンジ見つめたそのとき、おまけの下痢便がシンジを襲う。
ブチャブチャブチャブチャチャ・・
さすがにこれにはリツコも引いてしまい、しばらくの沈黙が醸し出された。

「ごめんなさい。シンジくん。実は私便秘で、一週間ぶりのウンチなの。」
「い、いえ。僕は今とても幸せです。」

言葉を放った直後、シンジは今まで嗅いだことのない悪臭を感じた。

「うっ」

シンジは予想外の「お好み焼きの素」をウンチの上に大量生産してしまった。
黒と白の異様な世界は、臭いもこの世のものではなくなっていた。

「ダメです。もうこれ以上は・・・」

マヤもエヴァがゼルエル食べた時以来の、豪快なゲロを撒き散らした。
「ここはもうだめね。焼却処分しましょ。」

口をハンカチで押さえたリツコは足早に立ち去った。
残された裸のマヤと放心状態のシンジは出すものがなくなるまで吐きつづけた。
234名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/26(金) 16:57:54 ID:BfKpoy2j
しえん
235リツコ:2008/12/30(火) 16:03:50 ID:???
しばらくご無沙汰しておりました。
ここのとこ、色々と所用がたてこんでいたため執筆する時間がとれずでありました。
先日の私の誕生日祝いがどうであったか、以下にて続きを書いていきます。
236リツコ:2008/12/30(火) 16:05:00 ID:???
11月21日の誕生日の日、幸運にも懸念していた残業もなく私は幾分早く仕事を切り上げることが出来た。
先程から私の机上の猫の置物をいじりながら隣で待つマヤは、なにやら一人で楽しそうにしている。
そんなマヤの様子にクスリと笑うと声をかけた。
「お待たせマヤ。いいわよ?」
着ていた白衣を脱ぐと、マヤに押されるようにして私達は部屋を出た。
「誕生日祝いって、今更ながらなんだか照れ臭いわ…。」
駐車場に向かいながら、なんとなくひとりごちてみる。
誰かに祝ってもらうなんて、私の柄ではないような気がした。
そんな様子の私にマヤは気付いているのかいないのか。
「さっ、先輩急ぎましょう!」
マヤは私の腕をとるとスタスタと歩みを速めた。
車に乗り込むとマヤの家に向かって走らす。
車中でのマヤはいつになくテンションが高い。
「今日は先輩が主役ですからね。ドーンとしてて下さい。」
そんなことを言われた。
「フフッ、随分と張り切ってるのね。」
「当ったり前です!」
マヤの弾けんばかりの様子にみとれてしまう。
「(若いっていいわねぇ)」
つい、そんなことを思ってしまう私は年寄りのようだ。
237リツコ:2008/12/30(火) 16:06:34 ID:???
「何か買って行った方が良いわよね。」
やがて前方に見えてきたコンビニの看板を認めると、そう呟いた。
いくら自分の誕生日祝いとはいえ、これからお邪魔するマヤの部屋にまるっきり手ぶらで行くのはちょっと…。
子供同士ではないのだし、一応、分別はわきまえている。
「あ、大丈夫です。必要なものはもう揃ってますから。」
やんわり断られた。
「気遣い無用ですよ?主役は先輩!ドーンです♪」
そのまま店の前を素通りさせられると、私を覗き込みニッコリした。
天然マヤとはいえ、こういう部分にはよく気が付くコだ。
やはり、考えていたことを見透かされていた。
「えぇと…じゃあ、何か手伝うわ。マヤの天然が極まったら大変だし。ねっ?」
苦笑する。
「んもう〜っ、それはわたしの地なんです!」
そんな弁解にならない答えに更にクスクスと笑いが溢れる。
「ほらほらマヤ、もうすぐ着くわよ?」
マヤが住むマンションのシルエットが浮かび上がってきた。
信号を曲がり、しばらく車を直進させると目の前にそびえ立つそれが現れた。
近場な来客用スペースに車を停めると、私達は車から降りた。
238リツコ:2008/12/30(火) 16:09:18 ID:???
「運転お疲れ様でした。あとはリラックスして下さいね。」
歩き出すマヤの後をついてエントランスに向かった。
このマンションはネルフに勤務する一般単身者向けのものである。
その特殊な組織の管理下にあるだけのこともあり、設備は一般の会社の寮などとは比較にならないほど充実している。
しかし、その実体は機密性の統治下にある。
まさに、この町ならではあろうものだ。
監視カメラが至る所に設置され、幾重にもセキュリティーが厳重になっている。
マヤの生体認証でエントランスに通じる扉のロックが解除されると、私も後に続いた。
「ふぅ〜、四方八方から見られている感覚はいつまでたっても慣れないものです。」
「…ネルフに所属する身とはいってもね。」
ボヤくマヤに私も本音がこぼれてしまう。
なぜなら、私が住む上級職員向けのマンションもここと同様な案配なのだから。
私達はエレベーターに乗り込むと、マヤの部屋がある15階のフロアを目指した。
「…そういえば、先輩をお招きするのは初めてでしたね。」
ゆっくり上昇していくエレベーターの中、沈黙する空気に耐えられなくなったかのようにマヤは言った。
239リツコ:2008/12/30(火) 16:10:39 ID:???
「そうね。交友関係の広いマヤのことだし、青葉君や日向君あたりはしょっちゅう出入りしてるんじゃない?」
からかうように答える。
すると、マヤは心外とばかりな顔をした。
「わたし、男の人を部屋に入れたりなんてしませんっ。お友達は女の子ばっかですし…。」
ちょっと怒ってる。
「それに、お気に入りの人だけしか招きませんっ。」
「ゴメン、ゴメン…ほら怒らないの。」
謝りつつも、単純にお気に入りという言葉に私は気を良くしてしまった。
そして、今にも地団駄を踏みそうなマヤの頭をポンポンと軽く叩くと、その嬉しさを誤魔化すように苦笑してみせた。
マヤはまだ何か言いたげにしていたが、丁度15階に到着したので自然と会話を終えて私達はおりた。
マヤの先導に続く。
突き当たりまで歩くとそこがマヤの部屋がある場所だった。
「先輩、ようこそおいでくださいました!どうぞお入り下さい。」
オートロックを開錠するとドアを開き、一歩下がって私が入るのを待っている。
「お邪魔するわね。」
そう言って玄関に入りこんだ。
240リツコ:2008/12/30(火) 16:13:25 ID:???
上がり口に目をやると、真新しいスリッパが用意されてきちんと揃えて置かれている。
「?…猫柄?」
「…あ、それは先輩専用のです。」
はにかむようにマヤが答えた。
「ねぇ、この猫って研究室にあるあの猫の置物によく似てるわよね?」
スリッパの猫を、ついマジマジと見てそんな感想を漏らした。
「ヘヘッ、気付かれちゃいましたか。…こういう猫がお好きかな…と思って。」
マヤはテヘッと舌を出してみせた。
「フフッ、マヤの観察力は鋭いわね。ビンゴ。」
まさか、ここまで気をまわすとは。
そんな細やかな心遣いが嬉しい。
そのスリッパにそっと足を通すと私は上がり込んだ。
そのままリビングに通される。
「すぐ用意しますから、先輩はそれまでテレビでも見て寛いで下さい。あ、その前に今、コーヒーをお持ちしますね。」
私をソファーに座らせるやいなや、マヤは慌ただしく動き始める。
「そんな慌てなくていいわよ。あなたもゆっくりして。」
キッチンになだれ込むマヤの背に声をかけたが届いてないようだ。
キッチンの奥から水音や食器の触れ合う音が聞こえてくる。

ガチャーン!!

何かが割れる音と共にマヤの悲鳴がした。
241リツコ:2008/12/30(火) 16:15:29 ID:???
驚いてキッチンに行くと、床にグラスの破片が散らばる中、マヤは涙目で立ちすくんでいた。
「せんぱぁ〜い…」
急ぐあまり手を滑らせて落としてしまったのだろう。
情けない声をあげて私を見ている。
「怪我はない?…あなた慌てん坊さんね。」
怪我をしてないことを確認すると、私は床にしゃがんで大きな破片を一つ一つ拾い上げていった。
「…っ!」
指先に鋭い痛みが走る。
拾い上げた破片でうっかり切ってしまった。
指先に血が滲み出すとポタリと床に流れ落ちた。
「いけません!」
マヤが駆け寄ってくるや、血が滲む私の指先をとっさに口に含んだ。
「あっ…」
いきなりそうされたことに驚き私は声をあげて固まってしまった。
その声で、マヤも自分のとった行動に我を取り戻したようで、目を丸くしている。
が、その頬はみるみる内に紅潮していく。
「す、すみません…つい。あの…薬箱を取ってきます!」
マヤは私の視線を避けるようにうつむいたままキッチンを出ていく。
私はそのまま切った指先を眺めて放心していたようだ。
「先輩…先輩?」
マヤに揺すられて気が付く。
242リツコ:2008/12/30(火) 16:18:42 ID:???
消毒液と絆創膏を手にしたマヤが心配げに私を見ていた。
「大丈夫ですか?…痛みますよね。」
マヤは睫毛を震わせている。
「…先輩、怒ってますよね……私がドジだから…」
マヤは傷を消毒して絆創膏を貼り終えると、うなだれた。
「バカねぇ…なんで怒るのよ?食器を割ることなんて、よくある日常の一コマよ。この傷もたいしたことないわ。」
丁寧に絆創膏が巻かれたその指で、マヤの頬をチョンと突いた。
「だって先輩の顔、赤いし…。本当は…怒ってるんじゃないかって…」
まだ気にするマヤにそう言われ、私は空いた片手で自分の頬に触れてみた。
少し熱を帯ているのか、不思議となんとなく上気した感じがする。
そばに鏡がないのでわからないが、それがマヤには怒っているように見えているのだろう。
「心配性ね…そう大袈裟に考えないの。さっ、気を付けて片付けましょう。マヤの地が本領を発揮し出す前にね。」
そう言って悪戯っぽくウインクした。
「もぅ〜、意地悪です先輩。」
冗談で言ったつもりがかえって毒だったのか、マヤは更にシュンとしてしまった。
243リツコ:2008/12/30(火) 16:23:35 ID:???
「今のマヤには酷だったわね…冗談よ。」
背を向けるマヤの両肩に手を置き、軽くぎゅっと抱き締めてあやす。
耳を紅くするマヤは小動物みたいで、もっとあやしたくなってしまう。
最近マヤを見ていると、どういうわけかついからかいたくなる衝動にかられてしまう私だった。
「(ふう…これじゃ私もミサトのこと言えない…か。)」
マヤの心が人一倍繊細なのはよくわかっていることなのに。
だからこそ、不?
244リツコ:2008/12/30(火) 16:25:52 ID:???
だからこそ、不用意な言葉は自重しなくては。
「…じゃあ、ここは私が片付けるわ。あなたはそのまま続きをしてくれていいから。」
ようやく気をとり直してくれたマヤに有無を言わせず、私は細かい破片を集める作業に移った。
それが片付くと、マヤが慣れた手付きでコーヒーを差し出してくれた。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。いただくわ。」
キッチンのテーブルに移動して椅子に座ると、その芳潤な香りごと味わうように口をつけた。
マヤはキッチンで忙しげに働く。
「ねぇ、手伝うわよ?」
「もうすぐ終りますから大丈夫です。」
いいから座っているよう押しとどめられる。
仕方なくそのままマヤの姿を眺めていた。
「お腹空きましたよね?食べましょう。」
245リツコ:2008/12/30(火) 18:08:23 ID:???
しばらくして、土鍋を持つマヤがそろそろとした足取りでこちらに来て、テーブルの上にある鍋敷きの上にそれを置いた。
「寄せ鍋にしました。一人だとこういうのって機会もないですし。」
「へぇ〜、私も一人暮らしが長いから久しくやってないわ。フフッ、それにしても粋なことしてくれるのね?」
グツグツと煮えたその中を覗くと、鱈や豆腐や白滝やら沢山の具材が所狭しと詰まっていた。
みるからに食欲をそそられるそれに、お腹の虫がキュゥと鳴ってしまう。
「良かった!先輩に喜んでもらえて。」
綻ぶマヤの顔。
「こんなに早く作り終えたということは、昨日から準備してたの?」
「えぇ、昨夜の内に下ごしらえしてたので、あとは鍋に火をかけて待つだけでした。」
エッヘンと言わんばかりのマヤ。
「それに、こうして部屋で一緒にゆっくりと鍋をつついてみたいなぁというのもあって。」
そして少し照れた表情をした。
「…そうだったの。」
先程のエレベーターの中でのマヤの言葉を思い返す。
「(お気に入り…)」
「先輩?見てるだけじゃお腹は膨れませんよ?さぁ、いっぱい食べて下さい。」
246リツコ:2008/12/30(火) 18:12:33 ID:???
マヤは什器を並べると私の分をよそってくれた。
「はい、どうぞ。…あ、いっけない!あれも出さないと!」
そう言って、冷蔵庫からなにやら取り出してきた。
「ジャジャ〜ン♪やっぱり鍋にはこれですね。」
冷酒を取り出すと、陽気に笑いながら私にグラスを渡す。
「あら、嬉しい。」
私が好きな銘柄をマヤは良く知っている。
マヤの酌を受けながら口元が綻んでしまった。
「フフッ、あなたもイケる口でしょ?ここは自分の部屋だし明日は公休なのだから、安心して飲めるわよ?」
マヤに酌を返す。
「では遠慮なく…今夜は飲ませていただきます♪」
つられて笑う私。
「お誕生日、おめでとうございます!」
そして、マヤの声と同時に勢い良くグラスを合わせて乾杯をした。
「…先輩、これプレゼントです。気に入っていただけるといいんですけど…。」
マヤが大事そうにギフト袋を差し出す。
「ありがとう。…開けていい?」
いくつになっても、プレゼントというものは嬉しいものだとしみじみ思った。
マヤの促す視線を受け、袋の中をあらためてみる。
その中にはカードと一緒に小箱が入っていた。
247リツコ:2008/12/30(火) 20:57:28 ID:???
『ココに居るニャ〜ン♪』
そう書かれたカードには、可愛らしく甘える仕草の猫のイラストが描かれていた。
「クスクス…この可愛い猫さんの絵、上手ね。それに…よく似てるわ。」
カードを見ながらクスリ笑いしてしまった。
「え?似てるって?」
キョトンとするマヤ。
「フフッ、マヤの自画像ね。折角の記念だもの、飾らないと。」
「えぇっ!わたし?」
すっとんきょうな声をあげるマヤ。
「こっちの小箱も楽しみね。」
私はカードを飾るように立ててテーブルに置くと、今度はその小箱を袋から取り出した。
そっと箱の蓋を開けてみる。
「これって…」
箱の中身を見つめ、ほぅと溜め息を漏らした。
「えっと…手芸とかわりと好きなもので、自製キットで作ったんです。」
箱の中には、シルバーに輝く凛とした猫のブローチがあった。
細かい造形もさることながら、そのデザインの素晴らしさに一目で気に入ってしまった。
「あの…先輩のイメージに合わせてみました。使っていただければなって……カードはその願いを込めたメッセージです。」
おずおずと話すマヤの声で、見とれていたブローチから顔をあげた。
248リツコ:2008/12/30(火) 20:59:40 ID:???
「…マヤにこんな才能もあるなんて驚いたわ。それにこれ…とても素敵よ。嬉しいわ。」
箱から取り出したブローチを早速着け、見せてみる。
「すっごくお似合いです。あぁー良かったぁー。」
私の反応が気になっていたのだろう、マヤは嬉しそうに安堵した。
「…いけない、マヤのお鍋が冷めちゃうわよ?いただきましょ。」
乾杯後はプレゼントに気をとられ、まだ何も口をつけていなかった。
「いっただっきまっす!」
号令のようなマヤの合図でささやかな宴が始まった。
「…フフッ、今日は凄く嬉しいわ。美味しい家庭料理にお手製のカードと素敵なブローチだもの。…手作りって、温もりというか暖かみがあっていいものね。もっとも、これもマヤの人柄の良さだからこそなせれることよね。」
食事が進む中、杯を重ねていくと饒舌になるもので、グラスをまた口にすると私は言った。
「そんな…人柄の良さだなんて…。先輩にはいつもお世話になってますし…。それに、誰にでもってわけではありません…。」
謙遜するようにマヤが答えた。
「……誰にでも…なの?」
「…えぇ、そうですけど…?」
249リツコ:2008/12/30(火) 21:02:08 ID:???
今夜の私はいつもと違うみたい。
マヤの言葉の一つ一つを何故か気にし過ぎている。
「ううん、別になんでもないわ。」 静かな部屋の中で二人して鍋を囲み、他愛ない話をする。
ゆっくり流れていく穏やかな時間をこうして過ごすことに安らぎを覚える。
マヤの話す声が耳に心地良く響き、まどろみに誘われてしまう。
「(マヤに負けじとちょっと飲み過ぎたかしら…。)」
テーブルに片肘をついてボンヤリ思う。
ふと、何時か気になって腕時計を見てみると時刻は10時をまわろうとしていた。
随分と長居してしまった。
そろそろ帰らないと。
「今日はどうもありがとう。すっかり長居してしまったわね。皿洗いぐらいはしてくから。」
まだまだこうしていたいという後ろ髪をひかれているのに、そんな言葉を口にする。
「えっ、帰るつもりですか?駄目です!飲酒運転になりますよ!」
マヤが呆れた顔をする。
「わたし、先輩が明日の公休は予定はないって言われたのを覚えてますよ?時間も遅いし、お酒も飲んでますから今夜は泊まって下さい。」
「あ…車だっけ。」
飲酒してしまったウッカリさに苦笑する。
250リツコ:2009/01/02(金) 12:52:03 ID:???
「それに、まだケーキだって食べてないんですからねぇ〜。もぅ、大体いつも先輩は…」
「ハイハイ、わかったわ…マヤの言う通りよねぇ。」
長い小言が始まろうとしているので、観念して先に白旗をあげた。
「でも、泊まる支度はして来なかったわよ?」
「あ…えっと、下着以外の物ならここに揃ってますから。で、そちらの方については、1階のフロアの売店がまだ開いてますからそこで…。」
困り果てるまでにはいたらなかった。
「なら、これから売店に行ってくるわ。悪いけど泊まらせてね。」
何故かホッとして微笑む私。
「喜んで!わたし、ケーキの用意をしてますね。」
ニコニコ顔のマヤは、テーブルの上を片し始める。
「(…あぁ見えて結構食べるコなのよねぇ…それにしても胃はどうなってるのかしら?)」
そんなことをヘンに感心してしまう。
買い物を終えて売店から出ようとすると、マヤが向こうから走って来るのが見えた。
「どうしたの?」
「はいっ、先輩が迷ってもし行き倒れに…などと想像してしまったら急に怖くなりました…。」
酔っているのか、マヤはとんでもないことを口走る。
251リツコ:2009/01/02(金) 12:53:55 ID:???
「……私のことなんだと思ってるのおぉ〜!」
「い、いひゃいですっ!しぇんぱぁ〜い…」
マヤの両頬をとらえて横に引っ張ると、マヤは逃げようともがきだす。
ご存じ、いつものお約束というやつだ。
『天然マヤ、忘れてないわね?』
ここで悪友の言葉が脳裏をよぎる…が、なにも今に始まったことではないのは言うまでもない…か。
それにしても…どこをどうすればそんなイマジネーションが沸きあがるというの、マヤ。
そんなことを思ってしまうあなたの方が怖いわ……とばかりに、ここでいつもの脱力感にガックリとらわれる。
「…さて…と、早く部屋に戻りましょ。ケーキが待ってるわよ?」
気力で復活してそう言えば、マヤは今度は犬のように尻尾を振り出しそうな反応を示す。
やれやれ、これではどちらがゲストなのかわからない。
つい、たまらずに忍び笑いをしてしまう。
そんなこんなの“犬の散歩”から戻って来ると、先程のテーブルには何種類かのケーキと供にお皿とフォークが並べて置かれ、芳しいコーヒーの香りが室内を満たしていた。
「どれにします?好きなの選んで下さい。」
早速、マヤは目をキョロキョロさせてケーキを吟味している。
252リツコ:2009/01/02(金) 12:57:43 ID:???
「私はどれでもいいわよ。マヤが好きなの選びなさい。」
ケーキを前に子供みたくなってるマヤを見て、母親の気持ちになってそんなことを言ってみる。
「(う〜ん…やはり親子は無理かしら?そんな感じでもない…か。)」
そう思い苦笑する。
マヤは散々迷った末に、ブランデー風味のシックな装いといった感じのモンブランを選んだ。
「あら?マヤのことだから、こっちの可愛いクマさんプリンが乗ってるのを選ぶかと思ってたわよ?」
「…それって、わたしが子供っぽいってことですかぁ〜?」
日頃なにかと子供扱いされることを気にしているのか、敏感に返される。
「なっ、違うわよ…。ただマヤは可愛いものが好きだろうなって…思ったから…」
「まぁたしかにそうですね。でも、こういう大人っぽい雰囲気のに憧れちゃいます。」
しどろもどろな怪しいフォローに、マヤは舌をペロッと出した。
「じゃあ、私はこのプリンが乗ってるのにするわ。」
私はそのクマさんプリンのケーキを取った。
「…クククッ、先輩こそ意外と可愛いのがお好きなんですね?」
「こらっ、意外ってどういう意味よ?」
253リツコ:2009/01/02(金) 13:00:13 ID:???
「だって先輩の雰囲気と真逆じゃないですか。先輩こそ、こういったモンブランを好みそうなのに〜。」
マヤは、モンブランが乗ったケーキ皿をクルリと回転させて見せる。
「フフッ、マヤに比べればね。でも、人って自分と対極に位置するものにはひかれるものよ。良くも悪くもね。」
スプーンの先でプリンを突っいて揺らしてみせると、クマの顔が笑ってるように見える。
「見てマヤ、私にはこんな可愛く笑えないわよ?」
「う〜ん…先輩の笑顔は可愛いというよりも、艶があって綺麗って感じですよねぇ。」
マヤは考え込むように答えた。
「もぅ…そういう時はお世辞でもそんなことありませんって言うものよ。」
「し、失礼しました!先輩は綺麗で可愛いです。ホントです!えっと、例えば…」
ふざけて言ってみたのにマヤが本気で焦っている。
「フフッいいわよ、冗談。…可愛さは私よりマヤの方が担当よね。あなたには負けちゃうわ。」
「本当ですか?わたしの方が歳が若いからですかね?先輩にそう言われると嬉しいです!」
まんざらでもない様子。
「(こ、このコったら……)」
ブタもおだてりゃ木に登ると言うが、かなりの舞い上がりようだ。
254リツコ:2009/01/02(金) 13:05:28 ID:???
「……ケーキ食べるわよ。」
そのまま夢の世界へとひとり入って行くマヤを放置し、私はケーキを食べだした。
私が半分ほど食べ終えるとこで、ようやくマヤはこちらの世界に戻ってきた。
「マヤ、食べないなら上にあるその栗を食べちゃうわよ?」
「だっ、ダメです!これは最後に食べようととっといているんですから。」
モンブランを隠そうとする。
「…プッ…何事も一生懸命なのね。心配しなくても取ったりしないわよ。」
マヤはいつだって全力投球で必死だ。
そんなマヤを、またいじりたくなる気持ちにとらわれて苦笑する。
「ふぅ…ご馳走様。今夜は沢山食べすぎちゃったわね。」
コーヒーに口をつけると口の中に漂う甘さが消えた。
「もういいんですか?まだケーキがありますよ?」
「(…まだって……まだ食べるの?)」
マヤにとってケーキは別腹なのか、まだまだこれからと言った顔をしている。
「私はもう充分よ。ところで…ちょっと外で一服してきていいかしら?」
食後に煙草が吸いたくなるのは喫煙者の悲しい性だ。
携帯灰皿を手に、この部屋の主に許可を申し出てみる。
255リツコ:2009/01/02(金) 13:09:09 ID:???
「あ、そこのベランダでどうぞ。…但し、チェーンスモーカーは駄目ですからね?」
「フフッ、全くかなわないわ。」
案の定、予想通りに耳の痛い忠告を飛ばされた。
「じゃあわたし、お風呂の用意してま〜す。」
マヤは掴みかけていた2個目のケーキをそそくさと戻すと、また慌ただしくテーブルを片付けだした。
「ねぇマヤ、自分の部屋なんだからもっとノンビリしなさいよ。」
「そんな悠長なことしてられませんっ。」
マヤはそう言って、てきぱきと動き出す。
「(普段、部屋でひとりの時もこうなのかしら?)」
背筋を伸ばして正座してテレビを観るマヤの姿を想像してみる。
ダメね、おかしくて吸ってた煙でむせてしまう。
「あ〜、また笑う〜!こうして先輩が居てくれるからこそなんですよ?当然です!」
「フフッ、じゃあ私のためにいっぱい頑張ってね?」
私をもてなそうとしてくれるマヤの気持ちが嬉しい。
マヤが洗面所に消えると紫煙を深く吐き、着けていたブローチにそっと触れてみた。
「マヤったら…」
じんと心に染み入る暖かい何かに身を任せると、口元が綻んだ。
256名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/03(土) 22:07:16 ID:???
しえn
257名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/04(日) 00:30:27 ID:???

良いね、良いね。
個人的に大好きだ。

このまま多少のエロシーン求む
258リツコ:2009/01/06(火) 18:34:49 ID:???
マヤがしばらく戻ってきそうにないのをいいことに、次々と灰にする。
高揚とした気分がその消費に拍車をかけていく。
更にもう1本…というところで、後方からの視線が…。
一抹の不安を感じて振り向くと、マヤが射抜くようにこちらを凝視していた。
「(あ…っと…)」
「さっきから見てました。…少しは言うこと聞いてください。」
そう…いつも忘れたように吸ってしまい、結局は見つかって怒られてしまうのだ。
そんな時、マヤはいつも心配そうな瞳をしている。
その度に私は罪悪感を感じ、同時に満ち足りた感覚にとらわれるのだった。
これまで、度々そんな充足感を感じることはあったが、この日この時までは何によるものかは皆目わからなかった。
でも、今、マヤの瞳に映っているのが私自身であるのだということを認めた瞬間、唐突に気付いてしまった。
「(…私…こうして気にかけてもらいたいんだわ……)」
いつも何かと世話を焼き、心配してくれていることに心地良さを感じていたのだ。
これでは、かまって欲しくて悪戯を繰り返す子供と同じレベルだ。
先輩として上司として、これでは情けない。
「…仕方ない先輩ですね。お風呂沸いてますからお先にどうぞ。」
259リツコ:2009/01/06(火) 18:37:02 ID:???
マヤの口調がそっけなく、機嫌を損ねたのは明らかだった。
「…あなたにはまた言われてしまったわね。でも、今度こそわかったわ。」
「いいえ、わかってませんっ。」
これまでの努力が水泡に帰してばかりなだけに、マヤは私の言葉を打ち消した。
その瞳がそうだと物語っている。
「私ね、節煙することをこの場でマヤに誓うわ。」
「へ?」
突然の宣誓に、意表をつかれたマヤはポカンとする。
「ど、どうしたんですか急に?」
「…それは私が大人だから。フフッ、まぁ子供からの卒業ってことね。」
そして悪戯っぽくウインクしてみせた。
「えぇっ、なんですかそれは?卒業と言うなら禁煙してくださいっ!」
「そ…それはっ……」
私の中の小さな気付き、それを知る由のないマヤはいきなり難題を要求してくる。
「クスッ、冗談です。それが無理なのはわかってますから。…やっぱり煙草を吸う先輩の方が先輩らしいですしね。」
私の節煙宣言に一転して気をよくしたマヤは、すぐにニコニコ顔になった。
「それに、煙をくゆらせている時の先輩を見ているのって…結構、わたし好きですから。」
はにかむようにマヤは言う。
260リツコ:2009/01/06(火) 18:39:58 ID:???
「でも、約束ですよ?もし誓いを破った暁には覚悟してくださいね。」
「…どうするつもり?」
ここでマヤはミサトのような表情になる。
何か企んでいるのがありありと窺える。
「じゃあ…その日一日は、先輩がわたしの部下になることっ!どうです?」
「フフッ、それはお安いご用ね。いいわよ。」
どんな罰を与えてくるつもりか内心ひやひやしていたが、なんのことはない。
「では、先輩はお風呂入ってください。バスタオルとパジャマは脱衣場に置いてありますから。」
「ありがとう。お先にいただくわね。」
マヤは満足気な顔をすると、音符マークを頭上に掲げながらキッチンに戻って行く。
そのまま鼻唄が聞こえてきそうな案配だ。
それだけ節煙を誓ったことを喜んでくれたということか。
それとも、私が誓いを守れないとでも思っているのだろうか。
「先輩?節煙ですからとりあえず一日1箱までですよ!」
キッチンで水仕事をしなからそう叫んでる。
「とりあえずって…」
「お風呂冷めちゃいますよ?さぁ、早く入ってください。」
「わ…わかったわ。今、入るから。」
忙しげなマヤの背にそう返すと、尻を叩かれたように私は支度を始めた。
261リツコ:2009/01/06(火) 18:42:06 ID:???
「(フフッ、なんだか調子が狂うわね。)」
いつもネルフでは私の指示の下にマヤは動くのだが、今は立場が逆転している。
支度を終えると頭をかきながら浴室へと赴いた。
洗面所と一つになっている脱衣場には、各種アロマの類が置かれている。
しかも、おまけに花まで飾られている。
マヤの女の子ぶりなとこは兼ねてから知っているものの、花まで置かれているのには少し驚いてしまった。
また、言うまでもなくマヤは清潔好きなだけあって、どこもかしこもピカピカに磨きこまれている。
「…さすがね。」
感嘆の声の一つも漏れてしまうというものだ。
着衣を脱ぐと浴室内に足を踏み入れる。
決して広くはないが、内部は淡いグリーンの色彩に統一され、照明の効果も手伝ってかなりゆったりさを感じる。
リラックスした面持ちで体を洗い終えると湯につかることにした。
バスタブには何か温泉の素が入っているのだろうか、スカイブルー色の湯で満たされている。
「…ふぅ、極楽だわ。」
適度な熱さにゆったりと身を任せて一息つく。
そして先程までの会話を思い返してみた。
「(そういえば、さっき『とりあえず』って言ってたわよね…。)」
262リツコ:2009/01/06(火) 18:45:33 ID:???
その言葉に嫌な予感が頭をもたげてくる。
「(…少しずつ本数を減らしていくつもりかしら?)
きっとそうなんだろう。
ゆくゆくは禁煙を願っているに違いない。
「(でも、禁煙は無理だとわかってると言ってたわよねぇ…。)」
額に手をあて、あれこれとさっきの会話をまた思い起こす。
「(そう…禁煙は無理。だって、煙をくゆらす私を見ているのが好きって言って…。)」
と、ここまで思案に耽っていたら急に顔が熱くなってきた。
触れてみれば、かなり熱い。
おまけに胸の鼓動まで速くなりだしたような気がする。
湯につかっている内に、のぼせてきたのだろうか。
早く出ないと、次に入るマヤが待っている。
と、曇りガラスの向こうに人影が動いた。
「お湯加減はいかがですか?」
長いから心配して様子を見に来たのだろう。
「あ、ちょうどいいわよ?長湯しちゃったわね。今、出るわ。」
「いつもお疲れなんですからゆっくりと癒してください。わたし、まだ洗いものありますから。」
そう言うと、マヤは立ち去って行った。
「(ふぅ…あのコには頭が上がらないわね。)」
洗いものにそんな時間がかかるはずないのに、いつも気を遣われてばかり。
263リツコ:2009/01/06(火) 18:47:45 ID:???
再びバスタブに身を横たえてそう思う。
顔のほてりと動悸はどうやら治まったようだ。
「…さっきのなんだったのかしら?」
思わず呟く。
そして、もう一度ひと暖まりすると私はあがることにした。
用意された真新しいバスタオルで体を拭くと、これまた真新しいパジャマを手にとってみた。
「……猫。」
スリッパと同じく猫柄のパジャマだった。
いくら私が猫好きとはいえ、ここまで統一してくるとは。
「…これ、私が着るのよね?」
そうだ、と心の中で声がする。
自分の歳を考えると少し…いや、かなり恥ずかしい。
でも、マヤが用意してくれたのだから、と意を決して袖に腕を通した。
「着てしまったわ…。」
自分で着ておきながらこう言うのもヘンだが、やはり恥ずかしさは拭えない。
が、備え付けの鏡に姿を映してみると思ったほど違和感はなかった。
「フフッ、私もまだまだ若いわよね。」
身支度を整えて浴室を出ると、マヤはリビングで寝そべってテレビを見ていた。
「(やはり、待ちくたびれてたみたいね。)」
どことなく退屈そうにしている様子がありありだ。
「いいお湯だったわよ。待たせて悪かったわ。」
264リツコ:2009/01/06(火) 18:50:27 ID:???
マヤは私に気付くと慌てて飛び起きた。
そして私をしげしげと見てくる。
「うんうん、やっぱり思った通り。先輩、よくお似合いです。」
手をポンポン叩いている。
「…そう?」
未だ恥ずかしさを払拭しきれない私に、マヤは大きく頷いてみせた。
「あなた、今日は張り切ってたんだから疲れたでしょ?ゆっくりお風呂に入ってきなさい。」
「じゃあ、先輩は先に休まれて下さい。こちらですから。」
マヤに案内された先は自室だった。
「先輩はこのベッドを使って下さい。」
「あなたはどうするの?」
ベッドを私に譲って、一体、自分はどこで寝るつもりなのだろう。
「わたしはソファーがありますから。」
殊勝な答えだった。
「それは駄目よ。それなら私がソファーで寝るわ。ここはあなたの部屋な…」
「駄目です。わたしがソファーで…」
そんな押し問答をしていると、私の視線はふとベッドにとまった。
「ねぇ、このベッドは…少しサイズあるわよね?」
「はい…そうです…が?」
なにも押し問答をするまでもないことに気付いて私は苦笑した。
「これなら二人で横になれるわよ?」
「は…はぁ。たしかに幅は少し広めですが。でも…」
265名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/06(火) 18:51:35 ID:???
連投支援
266リツコ:2009/01/06(火) 18:53:17 ID:???
尚も言い募ろうとするマヤ。
「い・い・の。あなたに気を遣われてばかりでは困るわ。少しは先輩の顔を立てて頂戴?」
「えっ…あの…では、ご一緒させてもらいます。」
私が強く出たとこで、ようやく引いてくれた。
「もぅ、これはマヤのベッドでしょうに。」
そんなマヤの様子に、たまらず吹く私。
「じゃ、じゃあ、わたしお風呂入ってきます。お休みなさいっ!」
「あなたが戻るまで起きてるわよ。」
あたふたと浴室に向かうその背に声をかけた。
「クスッ…ホント、いいコよね…。」
こんな心細やかな後輩がいることに感謝する。
マヤが行ってしまい一人残された私は特にすることもなかった。
日常、テレビはあまり見ることはなく、この時間に放送される番組で興味をひくものはない。
「さて…と、何してようかしら?」
誰に言うでもなく呟く。
今いるマヤの部屋を見渡してみる。
本棚には学術書関連とコミックが、シンプルな机の上にはこれまた花が飾られてあり、ノートパソコンが置かれている。
ベッドの側には作り付けのウォークインクローゼットがある。
壁のコルクには友人らしき人達との写真や葉書が貼られ、窓には優しげなイエロー色のカーテンが吊されている。
267リツコ:2009/01/06(火) 18:56:17 ID:???
「落ち着く感じね。」
ベッドにある子犬の抱き枕を手に取りそう思った。
このマンションは、どの部屋も1LDKだ。
単身者向けゆえに手狭とはいえ、この整理が行き届いた部屋ではそんな狭さは感じない。
「今度、整頓の仕方を教えてもらおうかしら?」
書類の山が積み重ねられた自分の悲しい部屋を思う。
ふと、机の上に置かれた写真立てに目がとまった。
そこには、私の家でいつぞや開催した七夕パーティーでの写真が飾られている。
ビール瓶を誇らしげに持つミサト、ピースサインをするアスカ、その他いつもの顔ぶれとの集合写真だ。
そして、中央に煙草を持つ私の腕にしがみつくマヤがいて、カメラに向かって微笑んでいる。
「フフッ、しっかりカメラ目線しちゃって。…たしかこれって吸い過ぎを注意されてる時に撮られたわね。」
隣で写る自分は、怒られてるのに嬉しそうにマヤに笑みを向けている。
「…やれやれ、もうこの頃は既に子供だったのよねぇ、私。」
写真立てを戻そうとした時、下に何かが隠すように挟まれてあるのが見えた。
なんとはなしに、それを抜いてみる。
「…何?…こ、これは!?」
脳が拒絶したくなるものを見た時、瞬間、人は頭の中が真っ白になる。
268リツコ:2009/01/06(火) 18:59:22 ID:???
今の私がまさしくそう。
“ムンクの叫び”は私の叫び……。
「破棄するよう言ったのに…。」
それは私とマヤのツーショット写真。
だが、私の鼻から煙草の煙が出ているといういわくつきだ。
私のだらしのない姿。
「あのコ、たしか家宝にするとか言ってたわね…。」
ガクリとばかりに床に膝をつく。
私はその写真を抜き取ると胸のポッケに入れ、あとでマヤをとっちめることに決めた。
こうなると、他に何が隠されているのか怪しいものだ。
引き出しを開けて中を探りたくなるが、そこはプライバシー。
その一線は踏みとどまらないと。
そして、マヤが戻るのを今や遅しと待っていると、どこからか聞き慣れた着メロの音が流れてきた。
「あらやだ、ミサトだわ。」
バッグの中から携帯を取り出すと、まだダースベイダーのテーマ曲が流れていた。
ミサトのイメージにマッチする着メロで…と、設定した曲だが本人は知らない。
「こんな時間に何?」
見ると、こんなメールが送られてきていた。
『三十路オメデト〜♪んで、今もマヤちゃんとこかな?あ〜んま我儘を言って困らせちゃいけないわよ〜。PS.急いではダメよん♪オッケ〜?』
一応、お祝い文のようだ。
269リツコ:2009/01/06(火) 19:03:53 ID:???
「フフッ、私が我儘言ってると思ってるのね。それにしても追伸は何のことよ?意味がわからないわ。」
首を傾げつつも返信を打っていると、マヤが部屋に戻ってきた。
「まだお休みにならないんですか?」
「ちゃんと起きて待ってたわよ。それより……ちょっとこっちにいらっしゃい。」
ベッドに腰かける私はマヤを呼び寄せると、隣に座らせた。
「…ねぇマヤ、これは何かしら?」
さっき抜き取った写真を胸のポッケから取り出すと、マヤの鼻先につきつけた。
「あっ…それは!」
「そこの写真立てから偶然見つけてしまったわ。」
マヤは悪事がバレた者のように途端に落ち着きをなくす。
「破棄するようにお願いしたじゃない…。これは没収するわよ。いいわね?」
「えっ、勘弁して下さい。お願いです!」
マヤは私の手から写真を取り返そうとする。
そうさせまいと腕を真上に挙げると、マヤは立ち上がって手を伸ばしてくる。
写真に手が届きそうになり、私もたまらず立ち上がった。
こうすれば身長差でマヤにはどうしたって届かない。
それでもマヤは諦めずにピョンピョン飛び跳ねながら取り返そうとする。
270リツコ:2009/01/06(火) 19:07:00 ID:???
「往生際が悪いわよ?他にも写真はあるじゃない。」
どこにそこまでこだわる理由があるというのだろう。
よりによって、私の醜態が晒された瞬間を激写したこの写真に。
「駄目です〜!返して下さい〜!」
尚も、取り返そうと躍起になっている。
そうこう攻防していると、つまさき立ちするマヤが体のバランスを崩し、私をベッドに押しつけるようにして上から倒れ込んできた。
「きゃっ…」
「あっ…」
ゴツンと鈍い音がして互いの頭がぶつかる音がした。
その思いがけない痛みに目を瞑る。
次に目を開けると、息も届く近さにマヤの顔があった。
涙目のマヤは、おでこを赤くしている。
そこをぶつけたのだろう、痛々しそうで私はそこに触れた。
「…ほら泣かないの。そんなに痛む?」
マヤは首をゆっくりと横に振る。
「…お願いです……返して…。」
懇願するマヤの瞳は、今にも溢れ落ちそうな涙をたたえていた。
その涙が私の頬を一滴二滴、濡らしていく。
「(あ…泣かせちゃった…)」
意地悪するつもりではなかったのに、その涙を見て私は物凄い自己嫌悪にかられた。
271リツコ:2009/01/06(火) 19:09:18 ID:???
理由を先に聞けばいいのに、話も聞かずに取り上げようとするだなんて。
「マヤ、あのね…」
「わたし…特別……ものな…で…。」
涙をたたえるマヤは何かを言おうとするが、しゃくりあげているため上手く話せない。
私はマヤの体を起こすと並んで座らせ、しゃくりあげるマヤの背を優しく撫でた。
しばらくそうしていると、ようやく泣き止んでくれた。
マヤの肩に腕を回して落ち着かせると、マヤは口を開いた。
「…先輩、先輩がその写真を嫌がっていたのは知ってます。…でも、わたしは処分できませんでした。」
「どうしてなの?」
私はマヤの顔を覗きこんだ。
「…先輩はいつもキリッとしてます。それがたとえ笑っている時でも。…でも、あんな表情をされる時もあるんだって、あの写真で知ることができました。」
「それで?」
私は先を促した。
「先輩は、無防備に自分を見せたりしない人です。だから、素の先輩を知りたいって…。」
マヤは私を見上げた。「先輩は高名な天才科学者です。わたしの憧れで雲上人…とても距離があります。…少しでも近付きたくて、いつも見ていました。」
マヤはうつむく。
272リツコ:2009/01/06(火) 19:12:19 ID:???
「…でも、それだけでなく一個人としての先輩も知りたかったんだって…あの写真を見た時に自覚したんです。」
「マヤ……」
そう話すマヤの目に、また涙が浮かび上がってきた。
「わたしには特別な記念写真です。先輩、だから…」
「あなたの気持ちも知らずに酷いことしたわね…許して。」
肩に回す腕で優しく抱き寄せると呟いた。
マヤが私を慕ってくれていたのは知っていた。
先輩、先輩…といつも嬉しそうに私の後をついてくる。
でも、それは科学者としての表面上の私に対する尊敬の念からだけだと思っていた。
だから自分に懐いてくれている…そうだと思っていた。
「ほら、もう泣かないで。写真はこの通り返すわ。ねっ?」
マヤの手に写真を握らすと私は微笑みかけた。
「あなたが持ってなさい。…いえ、持ってて欲しいわ。」
心からそう思った。
「でも、他の人には見せないでね。…結構、恥ずかしいから。」
「先輩…ありがとうございます。」
目尻に涙をたたえたままマヤは微笑む。
「フフッ、せっかくの顔が台無しね。顔、洗ってらっしゃい。」
私がそう言うと、マヤは慌てて洗面所に駆け込んで行く。
273名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/06(火) 19:22:32 ID:???
gj
274名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/07(水) 16:51:40 ID:???

敢えて言おう、GOODJOBであると!
275リツコ:2009/01/10(土) 21:40:12 ID:???
今しがたのマヤの独白が胸に去来する。
「(…素の私…一個人の私…)」
これまで常に科学者である自分が当然で、周囲もそういう期待で私を見ていた。
そのことに疑問も不満もない。
でも、マヤはその垣根を打ち払って接したいと願ってくれていた。
「(…そこまで親近感を持ってくれてたのね…)」
その気持ちがただただ嬉しかった。
私はベッドに仰向けになると、年甲斐もなくそのまま右に左にとゴロゴロする。
その感情をどう表現してよいかわからぬ子供のように。
どうしてこんなに嬉しいのかゴロゴロしながら考える。
「(…あぁ、そうなのね…)」
ピタッと動きが止まる。
私もマヤに対して同じ気持ちを持っているからなんだ…と。
それがいつからなのかはわからないが、かなり前からそうだったように思う。
仕事上からだけの付き合いではなく、もっと親密に関わっていきたいと望んでいる。
互いに同じ気持ちを持っていたことがわかったから嬉しいんだ…と気付いた。
「(私、マヤのことをどれだけ知っているつもりかしら?)」
互いに深い部分まで話を交えたことはない。
だからまだまだ知らないことは沢山あるだろう。
276リツコ:2009/01/10(土) 21:42:19 ID:???
「(フフッ、これから知っていけばいいのよね。)」
目を瞑ると、先輩、先輩と呼ぶ人懐っこいマヤの顔が浮かんでは消える。
そうやって幸せな面持ちに浸っていると、胸の奥底から大きな波のようなうねりが押し寄せてくる。
それは出口を求めるかのように激しく暴れだし、胸をぎゅうっと締め付ける。
「(な、なんなの?)」
あまりに突然の事で、私は動揺した。
その大きなうねりの波から逃げるように、思わず姿勢を横にしてみる。
しかし、その感覚は大きくなる一方だ。
息が詰まるような苦しさを味わい、たまらず私はうつ伏せになった。
そのまま高ぶる波に追い立てられそうになっていく。
「(…どうなってるのよ)」
溢れ出そうとする何かを阻止するかのように、警報が頭の中で大きく鳴り響きだす。
怖くなって胎児のように丸く体を抱えジッと耐えていると、その波が徐々にひいていく。
酸素を求めるように息が荒く弾むのを感じながら、しばらくそのまま身動き出来ずにいた。
「(……やはり、煙草を吸いすぎね…)」
1週間前に定期健康診断を受けたが、肺にもどこにも異常は見当たらなかった。
277リツコ:2009/01/10(土) 21:43:51 ID:???
少し貧血気味である点を除けば何も問題はない。
「(これからは自重しないとだわ…)」
強く握り締めていたシーツを手から解放し、溜め息をつく。
額にはうっすら汗をかいていた。
「やだ、ベッドが乱れてる…。」
七転八倒していたため、それは見るも無惨な皺くちゃ状態。
慌てて起き上がりベッドを一生懸命に直していると、部屋の戸口にマヤがいるのが見えた。
「あ、…これはね……」
「車を呼びますから、これから病院にっ!」
マヤは顔をこわばらせている。
「え?…」
「先輩が笑いながらのた打ち回って…。ピタッと動きが止んだら、今度は辛そうに丸まって…。それが、いきなり真顔に戻って…。ヘンです、先輩っ!」
怯えたようにマヤは震えている。
「い、今の…み……」
「見てました、先輩っ。」
大きく首を縦に振る。
「□&×○※@△!!!」
言葉にならない叫びを上げ、私の顔が真っ赤な炎に包まれ炎上する。
「(マヤに見られてた…全部見られてた…見られてた…見られてた……)
呪文のように、ただひたすらそれが頭を駆け巡る。
278リツコ:2009/01/10(土) 21:47:05 ID:???
あられもない姿を目撃されていただけではなく、それをあらためて言葉で指摘されたことが恥のボルテージを急上昇させる。
鼻から煙の写真の方がどれだけマシか。
「ヘ…ヘンって違うのよ。ちょっと、か…考え事してただけで…それで…」
この場から逃げ出したい心境をなんとか耐える。
「何かあるなら言って下さい。わたし、力になります。」
さっきの痴態を“悩みを抱えた者の成れの果て”と結論づけたのか、マヤはまた心配そうな瞳で私を見つめた。
「だ、大丈夫よ。……ところでさっきのマヤの話だけど…。あのね、凄く嬉しかった…。」
「えっ…」
マヤをまたベッドに座らせると私は続きを始めた。
「私もね、同じ気持ちでいるのよ。マヤともっと仲良くなっていきたいんだって…あなたに言われて私も自覚したわ。」
言葉を一旦区切り、マヤに微笑む。
「知りたいのはお互い様よ?」
マヤに手を差し出す。
「宜しくね、マヤ。」
「は、はい先輩!」
握り返すマヤの手は、とても暖かいものだった。
「…今夜はだいぶ夜更かししちゃったわね。目が冴えて眠れそうにないわ。」
「わたしもです。今、とてもハッピーだから…」
照れているのがよくわかる。
279リツコ:2009/01/10(土) 21:48:50 ID:???
「フフッ、とりあえずベッドに入りましょうか。あなた、湯冷めしちゃうものね。」
私が先にベッドに足を入れると、マヤは隣におずおずと潜り込んできた。
「きつくないですか?わたし、もっと端に寄りますから。」
「私は大丈夫。ほら落ちちゃうわよ?もっとこっちに寄って。」
二人してもぞもぞしながら定位置を探す。
ようやく体が納まると、私はおもむろに口を開いた。
「……さっき、私のこと天才科学者って言ったわよね。」
「…はい。」
安らぐ雰囲気に包まれていくのを感じながら、私は何を話そうとしているのだろうか…。
「…私、マヤが思っているほど大したもんではないのよ。全ては母さんの偉業の下に…」
「葛藤されていることあると思います。」
遮るように呟かれ、私はハッとしてマヤを見た。
こちらを向くマヤの視線とぶつかる。
「あ…すみません。何かわかった風なことを言って…」
「いいのよ。あまりに的を射ていて少し驚いただけ。」
心を読まれていると思った。
でも、悪い気はしない。
「…先輩はかの三賢者の一人、ナオコ博士の一人娘。これまで色々あったことと…側で見てきたからわかっている…つもりです。」
280リツコ:2009/01/10(土) 21:51:03 ID:???
真っ直ぐに私を見てくるその瞳に吸い込まれそうになり、私は天井を見上げた。
「…物心がついた頃には母さんは既に科学者としての名をはせていたわ。母さんの仕事仲間ともいえる人達を見ながら私は育ったの。」
フッと溜め息をつく。
「子供の頃からそういった大人達ばかりに囲まれていた環境よね…。同じ年頃の子との付き合い方など知ることもなかった。だから、私、浮いてたの。」
一つ一つ記憶を掘り起こしていく。
「中学、高校と進むと私も見よう見まねで対人スキルを身につけたわ。その頃には私の周りにも人が集まりだしたから…。」
マヤは黙って聞いている。
「でもね、それは偉大な科学者である母さんの娘だったから…ということに気付くまでそう時間はかからなかった…。」
教師、同級生だけではない。
己のステータスのため、利用するため…媚へつらうために近付いてきた沢山の人達を思い出す。
「今なら中にはそうでない人もいたとは思う…思いたい。でもね、それですっかり人が嫌いになってしまった。」
黙って耳を澄ますマヤは、悲しげに私を見る。
281リツコ:2009/01/10(土) 21:53:22 ID:???
「以降、私は学業に専念することのみに明け暮れたわ…誰にも近付いて欲しくなかったから。」
「先輩が人を寄せ付けないような空気を身に纏っていた理由…よくわかります。」
マヤがポツリと呟く。
「…でも、今は違いますよね。今の先輩は違うと思います。」
「…そうね…そうだわね。」
すがるような瞳で見るマヤに微笑んでみせる。
たしかに、以前とは趣きが異なってきていると自覚している。
私は更に話を続けた。
「その後、大学に進んでから少し変化というものが…」
「葛城さん…ですね。」
「フフッ、見てるだけのことあるわね。」
また先に言われたことに苦笑しつつ頷く。
「そう…ミサトと出会って生活に変化が出たわ。」
大学時代のことが懐かしく思い出される。
「ことあるごとにベラベラと話しかけて来てね…最初は苦手だったわ。あぁ、ここでもまた始まった…って思ったの。」
当時のミサトを思いだし苦笑する。
「…でも、ミサトにはそんなの関係なかったのよね。話を重ねていくうちにそれがわかったの。」
「先輩個人に興味があったから友達になろうとした…ですね。」
私は頷いた。
282リツコ:2009/01/10(土) 21:56:17 ID:???
「私とは対照的な性格でしょ?いろんなとこへ連れ出してくれて行動を共にしたわ。加持君を紹介されたのも、その頃ね。」
三人とも若かったなと思う。
「…葛城さんは先輩のキーパーソンですね。羨ましいです。」
「あら、どうして?」
マヤの呟きに思わず問い返す。
「先輩との付き合いが長い分、わたしよりも沢山わかってることが多いはずです。」
少し寂しげに言う。
私はその言葉に少し首を傾げた。
たしかにミサトとの付き合いは長いが、互いにどこまで自分を晒けだしているかは不明だ。
少なくとも私はミサトの少女時代の頃は知らない。
ミサトも話さないし、私も尋ねたことはない。
私にとって、二人の存在には何か相違があるのだろうか。
今のマヤの言葉でそう思う。
「マヤだってそう変わりはないわよ?……なぁに、それ…ヤキモチ?」
そうからかうと、マヤは耳まで真っ赤にして赤面する。
「フフッ、先輩思いで健気な精神ね。可愛いわよ、マヤ。」
「もぅ意地悪ですっ、先輩!」
怒った顔をしてみせるマヤを横目に、高揚していく気分を感じとっていく。
283リツコ:2009/01/10(土) 21:58:39 ID:???
「マヤだって私のキーパーソンよ。あなたがいるから今現在の私がある…と言っても過言じゃないわ。」
そっぽを向くマヤに、そう優しく話す。
「あなたにも影響を受けていい方向に変わってきてるって、これでも自覚はあるのよ?」
すると、マヤの顔がまた少し赤くなった。
「…わたし、もう少し早く産まれたかったです。そうすればもっと早く会えてたのになって。」
そう呟く。
マヤは同じく第二東京大学の出身。
だが、入学時には私はもういない。
「6歳の差って大きいですよね、先輩。」
まるで教授に質問してくる学生のように言うマヤ。
「…どうせなら6年って言ってくれる?私、今日で三十路なのを思い出しちゃったわ。」
三十路が思い起こされて文句を言ってみる。
「クスッ…駄目ですよ先輩、自分で話を振っては。気にしている証拠です。」
そんな私の様子に笑いを噛み殺している。
「でも…そんなスネてる先輩も可愛いですね。」
いきなりそんなことを言われ、思わず顔が熱くなる。
そんな私をマヤは楽しげに見ている。
「さっきのお返しです!」
ジト目で睨んでみせるものの、私を笑って見ているマヤ。
284リツコ:2009/01/10(土) 22:01:42 ID:???
「こらっ、マヤも言うようになったわね。でも、もし同学年だったらどんな感じだったかしらねぇ?」
マヤがミサトのポジションになってたのだろうか。
『リツコ〜、ね、リツコったらぁ〜』
そう呼ぶミサトの姿にマヤを重ねてみた。
「(全然、想像つかないわね。)」
考えるだけでおかしくなってしまう。
逆に、マヤは何て私を呼んでただろうか。
「(リツコさん?リッちゃん?…まさか、いくらなんでも先輩とは呼ばないわよねぇ。)」
それでも私をそう呼んで、ついて来る気がしてならない。
笑いがこみあげてくるのを必死で抑える。
逆にミサトがマヤだったらどうなってただろう。
私の部下としてオペレーターに従事するミサトを想像してみる…。
隙のない、好戦的なオペレーター。
「(『リツコ博士、その命令は承服しかねます!』とか言ってきそうね…。)」
血気盛んなだけに、ついでに銃を向けてきてもおかしくない。
「(……かなり、やりにくいわね。…想像したくないわ。)」
そんな光景がありありと浮かび、眉間に指をあてて苦笑する。
「ひとりで何を笑ってるんですか?また変な想像してたんですね!」
勘のいいマヤはムッとしている。
285リツコ:2009/01/10(土) 22:03:34 ID:???
「ま、またって違うわよ。…同学年なマヤじゃ困るって思ったの。」
マヤの方に向き直り、あらためてその顔を見て思う。
やはりマヤは年下の後輩でないとと。
「どうしてですか?」
不思議そうに問掛けてくる。
「それはね…マヤに先輩って呼ばれてたいからよ。」
「えっ?」
そんなマヤに続けて悪戯っぽく言う。
「先輩って呼んでくれるなら同学年でも良かったなってこと。」
「えぇ〜、何ですかそれはぁ〜!?」
予期せぬ答えだったようで、マヤは目を白黒させている。
そんなマヤを見ながら私はつくづく思った。
自分はマヤにそう呼ばれるのが好きなんだと。
「(フフッ、また一つ気付くことが増えたわね。)」
綻んでいく口元に手をあてる。
「さてと…だいぶ、お喋りしちゃったわね。…あら、もう2時過ぎよ。寝ましょうか。」
「あ、ホントに!時間が経つの早いですね。」
目覚まし時計を見ると、マヤは部屋の電気を消しに起き上がった。
「あの…先輩の話を聞けて良かったです。」
再び隣に滑りこむと、穏やかな声でマヤは言う。
「つまらない話を聞いてくれてありがと。」
286リツコ:2009/01/10(土) 22:20:26 ID:???
「…わたし、先輩の心の支えになりたいと思いました。おやすみなさいっ。」
掛布団で顔を隠すようにして言うと、頭まですっぽり中に入れた。
「(マヤったら…)」
触れ合う肩の温もりを通じてマヤの心の暖かさが感じとれる。
「おやすみ、マヤ…。」
もう一度マヤの方を見てから、私は目を閉じた。

眠りに落ちてからどれ位経っただろうか。
フト寒気を感じて目が覚めた。
いつの間にか、私はベッドの端で縮こまるように丸まっている。
掛布団が上にかかってないことに寒さを感じた。
今にも床に落ちそうな端で丸まっている私とは逆に、マヤはベッドの真ん中で掛布団を全部自分の上に乗せていた。
そして、私の背中にしがみつくようにピッタリ身を寄せている。
「(…やれやれ、道理で背中だけは暖かいと思ったわ。)」
マヤにしっかり抱えられている状態だった。
「(フフッ、ミサト並に寝相が悪いとこあるみたいね。)」
背後から回されるマヤの手の甲に、自分の手を重ねる。
「(でも、これじゃ私がその内に落ちてしまうわね。)」
287リツコ:2009/01/10(土) 22:22:07 ID:???
体勢を変えようとマヤの方に向き直ろうとした時、床に子犬の抱き枕が落ちているのが目に飛込んできた。
「(あぁ、これは…。)」
寝る時にいつも一緒なのだろう、子犬が不服そうに私を見ている…そんな感じに映って見えた。
ご主人様を返してとばかりに、クゥ〜ンという鳴き声をあげてるようにすら見える。
「(フフッ、ゴメンね。今夜は私が取っちゃって。)」
体を反転させ体勢を直すと、マヤの顔が私の胸にすっぽり納まった状態になった。
「(やはり、私よりも甘えん坊よね。)」
掛布団をたぐり寄せて忍び笑いをする。
マヤはスゥスゥと寝息をたててよく眠っている。
「(気持ち良さそうに眠ってるわねぇ…私、寒かったのよ?)」
人の気も知らないでとばかりに頬をチョンと突く。
「(………)」
マヤの体温が伝わってくるのを感じながら、その幸せそうな寝顔を眺める。
「(でも…今は暖かいわ。)」
マヤの体に手を回すと私は再び眠りに落ちた。





―完―
288名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/12(月) 03:37:34 ID:???
乙!
289名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/12(月) 16:44:19 ID:???
イイ!
290リツコ:2009/01/12(月) 23:59:23 ID:???
思うことあって、また来てしまいました。
以下に、また記していきます。
291リツコ:2009/01/13(火) 00:01:14 ID:???
その日も遅くまで研究室でPCと向き合っていた時のことだ。
圧縮空気が抜けると共に、部屋のドアが開かれる音がした。
「あら、もう帰ったかと思ったわよ?」
この時間に私の部屋を訪れる者は決まっている。
私は振り向くと、マヤに…
「……なんだ、ミサト。」
マヤではなく、訪問者はミサトだった。
「なんだってなによ〜、誰ならいいワケぇ?」
後手になにやら隠すようにして持つミサトは少々ムクれた様子。
「…フフッ、またお小遣いでも足りなくなってここに来たの?」
近付いてくるミサトにそう問掛けた。
「……やぁねぇ〜違うわよ。その件は後で相談させてもらうとして、アンタに渡したいものがあって来ったっのっ♪」
挙動不審になりかけたミサトはそれを訂正すると、ニンマリ顔をした。
「結局そうじゃない。困った人ね…シンジ君達が気の毒だわ。」
「そ、それよりも…あ〜っと今日はアンタ一人なのね。マヤちゃんはぁ?」
ウンザリした顔をしている私の機嫌を、それで回復できるつもりでいるのだろうか。
話題をそらそうとしているのがよくわかる。
「それなら“今日は”でなく“今日も”よ。ここしばらくは定時で帰っているわ。」
292リツコ:2009/01/13(火) 00:04:51 ID:???
「へぇー、喧嘩でもしちゃったのォ?」
好奇心丸出しで聞いてくる。
「残念で・し・た。私達、仲良いのよ?………でも、ここんとこマヤったら何か一人で考えこんでることが多くて…。」
「気になるんだ?フ〜ン、まぁそれが勤務状態と関係あるのかもね。まっ、何かあればアンタに相談しに来るでしょ。」
別に気にすることもなくミサトはカカカと笑った。
そんなミサトを横に、私は内心密かに溜め息をついた。
ここのとこ、マヤは早めに出勤すると定時であがることが続いていた。
何か思いつめた表情で考えていることが多い。
そのふさぎこむような様子が気の毒で見ていられず、何度か尋ねてみたこともある。
でも、返ってくる答えはいつもこう。
『…それは…先輩には言えません…。』
悩みがあるなら、なぜ私を頼ってくれないのだろうと思った。
あの夜マヤと固い握手を交した時のことを思い出し、やるせない気持ちにかられた。
「ねぇねぇ〜、そんな暗い顔しないでサ、早くこのプレゼント受け取ってよリツコぉ〜ん♪」
そんな私の心情には構わず、ミサトはニヤニヤしながら手にする箱を差し出してくる。
なかば押し付けられるように渡されて思わず眉をひそめた。
293リツコ:2009/01/13(火) 00:07:00 ID:???
「なによ、誕生日ならもうとっくに過ぎたわよ?」
ムッとしながらその箱を見る。
某高級百貨店の包装紙で丁寧にラッピングされるそれは、サイズ的に道具箱ぐらいだろうか。
ゴージャスなリボンで結わえられていた。
「ちょっと…あなた金欠なんでしょ?ミサトにしては奮発したものね。」
「ヒドイ言い草するわねぇー。これは有志一同からのプレゼントよ?代表で渡しに来たんだから。」
ミサトが膨れっ面をする。
「(有志一同?)」
その意外な言葉に片眉があがる。
「この前、リツコが2ちゃんに投下した書き込みあったじゃない?あれ、ネルフ中で話題になったのよねぇ。」
「この前って誕生日祝いの話のこと?」
ネルフの人間でこのスレを見てる者が多いことは知っている。
だからなんだとばかりに聞き返すと、ミサトはニヤリと笑った。
「そよ〜ん♪それで、頑張ってるリツコさんを一息ここで称えようじゃないかって話になってね。それでこのプレゼント贈呈になったってワケ。」
「…そうだったの。フフッ、光栄よね。有志一同には誰がいるの?」
思いがけない贈り物に心が暖かくなる。
294リツコ:2009/01/13(火) 00:09:32 ID:???
後で、一人一人にお礼に参上しなければと思った。
「エ〜ト、上は司令から下は…二等兵ね。ま、アンタが知ってる人達全員だから。勿論、MAGIも協力してるわよ。」
「えっ、母さんも?」
その言葉に心底驚いた。
「MAGIだって、暇な時にはネットサーフィンしてみたくなるんじゃないのオ?金があれば、飲む、打つ、買うみたいなノリでサ♪」
「なにバカ言ってんの!MAGIがそんなことするわけないでしょっ!」
ミサトの言う通り、MAGIがネットを検索するのは容易い。
だが、誰かが指示しない限りは自発的になんて有り得ない。
「MAGIはね、この贈呈における役割でだいぶ貢献してるって話よォ〜?娘のために一肌脱いだのね、きっと。」
含みを持たせる視線を寄越す。
「…まぁいいわ。開けるわよ?」
私は包装を解くと、蓋を開けて中を覗いた。
「…ねぇ…………コレはなんの真似かしら?」
箱に入ってたものを取り出して机に置くと、ミサトを見やった。
「…へぇ〜…なるほどねぇ。フ〜ン…考えたものねぇ〜。」
「だから、コレは何かって聞いてんでしょっ!?」
私にお構いなく、それを見てひたすら感心した様子でいるミサトに詰問する。
295名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/13(火) 00:10:52 ID:???
ちょwwリアルタイムキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
296リツコ:2009/01/13(火) 00:12:48 ID:???
箱の中に入っていたものは、なんと“焼き網の上に置かれる1枚のスルメイカ”。
と言っても、そのイカに機械質なメタリックさが見てとれることから、本物のイカではないことがわかる。
そして焼き網の周りには各種のボタンがあり、一見して何かオモチャのようなものと推測できた。
「一体なんの冗談のつもり?…これがプレゼントなの?」
私はかなり拍子抜けしてしまった。
「や〜ね冗談って、こちとらマジもマジ、大本気よ?…ね、このボタンを押して見てよ。」
待ちきれない風に急かされ、私はスタートボタンを押してみた。
ブーンと音がすると焼き網の所々の色が火がついたように赤くなってくる。
それに併せて、何本かのイカの足がうねうねと動き始めだした。
宙を向く足の先端が四方八方に広がると、イソギンチャクのようにゆっくり運動している。
まさにイカを焼いているといった光景だ。
「ブフゥッ…ヌ、ヌルイ阿波踊りを見てるみたいでオカひくない、コリぇ?」
今にも笑いだしそうな様子のミサト。
「だからこれがなんだって言うの?意味がわからないわ。」
これを眺めて嬉しそうに喜ぶミサトにも困惑する。
「あ、大事なもん忘れてた!これ見て。」
297リツコ:2009/01/13(火) 00:15:57 ID:???
そんな私を無視するかのように、ミサトは1枚の紙を寄越した。
そこにはこんなことが記されていた。



■■■みんなが萌えたぁ結果発表■■■


★第1位:「やだ、ベッドが乱れてる…」 / 405票

★第2位:「気持ちよさそうに眠ってるわねぇ…私、寒かったのよ?」 / 137票

★第3位:「ゴメンね、今夜は私が取っちゃって。」 / 129票


―以下、順不動―

●指先を口に含んだシーン
●「…誰にでも…なの?」
●「煙をくゆらす姿が好きって言って…」
●「…お願いです……返して」
●「お気に入り…」

「…な、なななななな、なんなのよコレはっ!?」
「ヤダ、わかってんでしょ〜?アンタが投下した書き込みじゃないのサ〜♪」
目を見開いて叫ぶ私に澄ました顔を向ける。
「これはどういうことなのよ!?からかってるつもり?酷いじゃない!」
「や〜ね、からかってなんかないわよォ?ぶっちぎりで獲得した1位を称えたいだけよん♪」
激しく動揺している私にニッコリする。
「それがぁ〜、こ・の・イ・カ・よ(はぁと)」
そして、妖しくうごめき続けているイカを指差した。
298リツコ:2009/01/13(火) 00:18:25 ID:???
「ま、まままさかっ……!?」
「おんや?この猫マークのボタンは何かしらね?」
更に動揺が著しくなる私に全く構わず、ミサトはそのボタンを押してみる。
すると、イカの動きが激しいものへと変化を始めた。
一斉に10本の足全てをピンと空中に突きだすと、てんでバラバラにソイヤァーソイヤサァとばかりに伸び縮みを始めた。
加えて、頭部というか胴体部は腰をツイストするかのような捻り運動をし始めだす。
「あらやっだリツコ…こんなことしちゃったワケねぇ?ギャハハハハハ!!」
目を半月にして爆笑するミサト。
「◎◆£※☆●%〒@…!!!!!」
そのミサトの一言であの夜の恥ずかしさが一気に蘇り、またもやムンクの叫びになる私。
爆笑するミサトと固まる私を尻目に、イカはひたすら激しく身をくねらせ続ける。
そして一際震えるように大きく身をくねらせてから停止すると、何か音を発した。
『ハァ…ハァ…ハァ…………やだ、ベッドが乱れてる…』
それを耳にした瞬間、私は身を焦がすほど真っ赤に燃え上がる羞恥心に包まれ、ミサトは涙を流しながら腹を抱えて大爆笑をした。
299リツコ:2009/01/13(火) 00:20:52 ID:???
「ギャハハハ!今の聞いた?ねっ、聞いた?網なのにベッドだって…イカが、イカのリツコがギャハハハハ!」
顎も外れんばかりに大口を開けてミサトは笑う。
「ウプッ…ね、グフフ…今の動きってまるでアレよね?ププッ…アレ…アレみたい…」
「やめてミサト、その先は言わないで……。」
ひたすら真っ赤になって耐える私を更に辱めたいのだろうか。
ミサトは吹き出すのを堪えながら、私を探るように見てくる。
「(…もうイヤ……最低……)」
心の中でひたすら涙を流す。
こんなのがプレゼントだったとは。
「……百貨店もよくこんな特注を承ったものね…呆れたわ。」
ミサトの笑いが一段落すると、私は某高級百貨店の包装紙を忌々しげに手に取って呟いた。
「へ?違うわよ。それは、あたしが適当に見付けてきた包装紙。その方が見た目で満足感があるでしょ?」
「(あぁ、頭が痛くなるわ……)」
無性に腹が立つ。
「……それなら誰が製作したのよ?」
イカの動きはあまりにも精巧過ぎるほどのものだった。
かなりの技術と時間をかけて造られたものであることがわかる。
それなりの機材も必要だったはず。
300リツコ:2009/01/13(火) 00:27:05 ID:???
「う〜ん…最初はイカじゃなくて、ちゃんとリツコの人形で作ったそうよ。」
楽しそうに話し始める。
「でも、制作者自身が途中でヤメちゃったの。いくらなんでも無理って。あたしも今日始めて完成品を見たからわかるわ。たしかにあの動きじゃねぇ〜。」
ミサトはさっきのを思い出したのか、またニヤニヤする。
「それで苦心してイカに変えたようね。ナイスアイデアだと思わない?」
「どこがナイスアイデアなのよ…」
私は溜め息をついた。
「凝るタイプよねぇ〜。恥ずかしそうにしてた割りには、リアルさを追求してたわ。試作品を何個も作ったって。」
ミサトはクスッと笑った。
「でも、動き方にどうしても納得がいかないとかで…」
その時、ドアの開く音と共に部屋にマヤが入ってきた。
「マヤ、忘れ物でもした…」
「もぅ〜探したんですよ、葛城さん!どうでした?」
目を輝かせるマヤ。
「それならバッチシだったわよ〜♪」
そんなマヤにウインクするミサト。
「先輩はどうでしたか?」
「え、何が…?」
ご褒美を期待するワンちゃんのように私を見ている。
301リツコ:2009/01/13(火) 00:30:03 ID:???
「まだご覧になってないんですか?イカですよ、先輩!…あ、これです。ご覧になったんですね?」
マヤは机の上のイカを指した。
「そ…そそそそれじゃ、このイカの制作者っていうのは……」
椅子を倒す勢いで立ち上がる私。
「はいっ、わたしです!製作は難航したものの、MAGIの協力で見事完成できました!」
ハキハキと答える。
「モーションキャプチャーで先輩の動きを取り入れた後にトレースし、MAGIで何度もシミュレートして走らせたんです!」
さらに爽やかさも加わる。
「でも、製作中は試行錯誤の連続でとても考えさせられました。どうしたら良いものが出来るんだろう…って。製作時間の捻出にも苦慮しましたし。」
その過程を思い起こしているように、うんうんと頷いている。
「何度もくじけそうになるたびに、みんなに励まされました。『頑張れ!』って。なによりも、先輩のために頑張らなくちゃって!」
何かを達成した後の者がよくする表情で、マヤは一気に話しを終えた。
「……それじゃ、ここのとこ一人で悩むように考えこんでいたのは…」
うつ向いて震える私。
302名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/13(火) 00:44:24 ID:???
マヤ天然に鬼だな
303リツコ:2009/01/13(火) 01:54:50 ID:???
「はいっ、全ての力をこの製作のために注いでいました!」
ガクッ…体の力が抜けて床に膝をつく。
「……なぜ…隠そうとしたの?」
そのまま倒れそうになる体を手で支える。
「だって、プレゼントは最後の楽しみにとっとくものですよ?」
頭から床に突っ伏しそうになる。
「……最後に一つ聞くわ…どうして、これを…作った…の?」
体全体が赤いのは、激怒しているのか屈辱を感じているのか…もはやわからない。
「先輩はシャレの通じる方ですから(はぁと)」
マヤはテヘッと舌を出してみせた。
それに耐えきれず、マグロのように床に伸びてしまう私。
もう、お仕置きをする気力もすっかり奪われている。
そんな様子の私に慌てふためいて呼び掛けるマヤとミサト。
二人の声を耳にしながら一人誓う。
「(お礼ではなく、お礼参りしないとだわ……。)」
が、そんな私の覚悟を嘲笑うかのように、イカが勝手に再起動。
またもや妖しい動きを始めだす。
「(んもぅ、マヤのバカー!)」
声にならない絶叫と共に、意識は奈落の底へとどこまでも落ちて行くのであった。





―完―
304リツコ:2009/01/13(火) 02:06:16 ID:???
途中で、さるさん規制が入って書き込めなかったわ。
たしかにマヤの天然は鬼だけど、不思議と憎めないものです。
フフッ、まぁこういう出来事があったということを報告したまで。
また何かあれば来ますわね。
305名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/13(火) 13:46:00 ID:???
イカww
306名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/13(火) 16:03:06 ID:???
アンケート参加しすぎwwww
307リツコ:2009/02/08(日) 16:36:51 ID:???
とある昼下がりのネルフ本部にてのこと。
食堂でいつものように一人遅めのランチをしていると、スーツに身を包んだ集団がガヤガヤと談笑しながら入ってきた。
数にしておよそ10名程ばかりのその集団は、手にしたトレイを持ったまま勝手わからずといった感じで物珍しげに周囲を見渡している。
「(何かしら?)」
サンドウィッチを食べる手を止めてそちらを窺っていると、その中に見慣れた赤いジャケットの人物が見え隠れしている。
よく見るまでもなく、それはミサトであった。
同じくトレイを手にするミサトはキョロキョロして空席を探しているようだ。
そのまま様子を見ていると、そんなミサトの視線と合ってしまった。
「あっリツコ〜、そこ相席していいかな?」
私が座る長テーブルの一角を指すと、返事も待たずにミサトは集団を案内しながらこちらに向かって来る。
仕方なく私は席を立つと、ミサト達が来るのを迎え待った。
「葛城三佐、そちらの方達は?」
ミサトが引き連れてきた集団に視線を向け問いた。
「こちらはドイツ支部の方達よ。移送された弐号機の経過チェックとここの視察も兼ねていらしてるの。」
308リツコ:2009/02/08(日) 16:38:35 ID:???
ミサトは数歩下がると振り返り、後ろの集団を紹介するように返答をした。
てっきり、どこぞの部外者達かとばかり思っていたがそうではなかった。

「お食事中のところ、失礼。私はドイツ支部副支部長のステファン・ハインツです。」
流暢な日本語でそう名乗る男性は、名刺を取り出すと私に渡してきた。
「お初にお目にかかります。私は技術部長の赤木…」 「いやいや、博士のお噂は兼ねてより聞いております。エヴァ3機に加えてMAGIの統括管理をされていらっしゃいますからな。」
年の頃50位のハインツ氏は私が言い終えない内にそう遮ると、自前の太鼓腹を揺するようにハハハと快活に笑った。
「まぁ堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。せっかくの昼食が冷めてしまいますしな。」
そう言って氏は席に着いた。
その流れのまま私は各人と目で会釈を交すと再び席に着き食事を再開した。
「午後はこれから皆さんに施設を案内して、夜は懇親会があるの。リツコも来なさいよ。」
隣で食事をするミサトにそう誘われ、私は思案する。
今夜は特に残るほどの予定はないが、早くあがれるならたまには自宅で寛ぎたいもの。
309リツコ:2009/02/08(日) 16:40:15 ID:???
ミサトには悪いが断ろうと口を開きかけたところで、向かいに座る女性から声がかかった。
「葛城三佐、技術部の伊吹さんを懇親会に誘っていただけませんか?」
その年若い女性は、知的で利発そうな雰囲気をたたえてそう話す。
いきなりマヤの名が出できて面食らったのか、それにミサトが驚いた。
「青山主任はマ……えっと、伊吹二尉とはお知り合いかしら?」
「えぇ、彼女とは学生時代からのよしみです。会ったらきっと驚くでしょうね。」
その女性は視線を私に向けると、フッと口元を綻ばせた。
その様子をミサトはポカンとして見ている。
「もしかして、こちらの方はあちらの技術部の青山主任かしら?」
私はマヤを知るというその女性を意外な思いで見ると、ミサトにそう尋ねた。
ミサトがその女性を青山主任と呼んだことから思いあたることが一つあった。
名前だけなら聞いたことはある。
ドイツ支部技術部の若きホープ、青山リカ主任。
類まれな才能を持つ人物と、ドイツ支部で一目置かれている人だ。
「そうよ、同じ技術部だけによく知ってるじゃない?」
肩をすくめるミサトと対照に、青山主任は私を観察するようにジッと見ている。
310リツコ:2009/02/08(日) 16:42:05 ID:???
「伊吹さんからは赤木博士のことよく伺ってますわ。なんでも、大変お世話になっているとか…。」
そう話す青山主任。
和らいだ表情の中に、何かが隠されているように見えるのは気のせいだろうか。
私から決してそらそうとしないその視線に、棘のような鋭さを感じさせられる。
「……そうですか。彼女には私も大変助けられてますわ。良き部下を持てて全く幸せ冥利です。」
視線を跳ね返すように私はそう答えた。
そんな私の横腹をミサトはそっと肘で突っついている。
「あ…ねぇリツコ、懇親会どうするの?来るわよね?…ねっ?」
ミサトは居心地悪そうな雰囲気で顔を向けてくる。
「あんたからマヤちゃんに話して一緒に来てよ。ね?」
「…えぇ、わかったわ。」
私は、こもるような溜め息を吐くと残りのコーヒーを一気に飲み干して食事を終えた。
席を立つと、青山主任を見返す。
「では、後ほど…。」
未だまとわりつく視線から逃れるように、そのまま私は自室へと向かった。
「(あまり気乗りしないわね…。)」
今しがたのやりとりが気に障る。
青山主任から向けられた視線には、正直なとこ良い印象を持つことは出来なかった。
311リツコ:2009/02/08(日) 16:44:15 ID:???
自室まで戻ってくると扉の前で一旦立ちどまり、気分転換するように頭を振る。
部屋に入ると、マヤが自席に座ってモニターとにらめっこしながら忙しげに指をキーに走らせていた。
「マヤ、この辺で少し休憩とりなさい。私みたいに目を悪くするわよ?」
モニターにかぶりつくその背に声をかけると、マヤのマグカップにコーヒーを注いで机に置いた。
「あ、すみません。…もうちょっとで終りますから。」
マヤは顔をそらすことなく作業を続行している。
そんな没頭するマヤをぼんやりと眺めると、フッと息を吐くように私は口を開いた。
「ねぇ…あなた、ドイツ支部の青山主任とは知り合いなんですってね。」
「へっ?」
マヤは素っ頓狂な声をあげると驚いたかのように顔をあげ、慌ててこちらを振り向いた。
唐突な話を振られたかのように、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をしている。
「今、ドイツ支部の人達が視察に来てて、ミサトが案内してるわ。さっき、食堂で青山主任を紹介されたところよ。」
「えっ、本当ですか!?リカさん来てるんだ!」
私の言葉に、マヤは跳ねるかのように椅子から立ち上がった。
まるで、今にも会いに行こうとするかのように見える。
312リツコ:2009/02/08(日) 16:46:34 ID:???
「…それで今夜、懇親会があるそうでマヤに来て欲しいって…」
「行きます行きます!リカさんが来てるだなんてビックリですよ〜。」
あからさまに嬉しそうなマヤの様子に何故か気分が重くなる。
私は椅子に座って机に頬杖をつくと、誰にともなくまた溜め息を吐いてみた。
「先輩も、もちろん出席しますよね?」
「え?……えぇ…まぁ…」
問われて歯切れの悪い答えをするも、マヤは私の様子に気付くことはなかった。
マヤは上機嫌で再び椅子に座ると、引き続き作業にとりかかり始めだした。
「リカさんは高校時代の2つ上の先輩なんです。大学は別々でしたが、とっても優しくていい人なんですよ。」
マヤは高速でタイピングしながら弾んだ声で話す。
「……そう。」
さっきの青山主任の視線をまた思い起こし、私は気のない返事をした。
学生時代の話とやらを聞いてみたいと一瞬は思ったが、夜の懇親会を思うと気分が沈んでくるのが自分でもわかる。
「(私は欠席しようかしら…)」
初対面の相手から向けられた視線が決して好ましいものではなかったことが、どうにも気に障って仕方がない。
313リツコ:2009/02/08(日) 16:49:22 ID:???
そんな相手と、懇親会とはいえ同席するのは出来れば避けたいものだ。
なぜ、あの時あそこではっきり断らなかったのかと少し後悔した。
「よしっ…と、データ集計終りっ。プリントアウトしたものはここに置いておきますね。……先輩?」
ぼんやり頬杖をついたままの私をマヤは覗き込んでいる。
「どうしたんですか?体調でも悪いんですか?」
マヤの瞳に心配の色が浮かんでいるのが見てとれた。
「(フフッ…またそんな瞳をして。)」
常日頃からマヤに気にかけてもらっていることに私はすっかり甘えている。
もっと自立した心持ちにならなければとわかっていても、どうしても心地良いものを感じてしまうため脱却出来そうにない。
マヤのそんな瞳を見てつくづく思う。
「ちょっと考え事してただけよ。集計ありがと。……さっ、これ飲んで一服しなさい。」
マヤのマグカップにコーヒーを注いで渡すと、私は椅子の背に寄りかかった。
そんな私にマヤは納得したようで、コクンと頷くとコーヒーに口をつける。
「今日は残業はないから定時であがれるわ。時間になったら一緒に行きましょう。」
フーフーと美味しそうにコーヒーを飲むマヤにそう告げた。
314リツコ:2009/02/08(日) 16:52:20 ID:???
「はい、先輩。で、場所はどこなんでしょう?」
そう尋ねられ、ミサトにそれを聞いてなかったことに気付く。
「いっけない、聞くの忘れて…」
その時、扉が開いてミサトが部屋に入ってきた。
「…あ…っと……マヤちゃん、リツコからもう話は聞いたわよね?」
「はい、リカさんがみえてるそうですね。わたしも先輩も今から夜が楽しみですよ。」
ミサトに問われ、ニコニコと笑顔で答えるマヤに私は思わず眉をあげた。
「(楽しみなのはマヤだけよ…)」
フッと息を吐く。
ミサトはそんなマヤにニッコリ微笑むと口を開いた。
「今夜はね、いつものクラブで時間は1800スタートよ。あたしの名前で予約してるから。…んじゃ、遅れないでねぇ〜。」
そう言い終わると、さっさと部屋を出ていこうとした。
「ねぇ、他に用があったんじゃないの?」
歩き去ろうとするその背に私が声をかけると、振り返ったミサトはバツの悪そうな顔をしている。
「……ん〜、いいの。じゃあ後でね〜。」
そのまま手をヒラヒラさせて出て行く。
後ろ姿を見送り扉が閉まると、マヤが何事かを思いついたように手をポンと叩いた。
315リツコ:2009/02/08(日) 18:31:18 ID:???
「またお小遣いが足りなくなったんですね、きっと。先輩?あまり優しい顔をしては葛城さんのためにならないですよ?」
マヤがいつもの小姑モードになる。
「……甘え…ね。私も人のことは言えそうにない…か。」
「え?何がですか?」
つい何気無く呟いてしまった言葉にキョトンとするマヤ。
「フフッ…なんでもないわよ。」
緩む口元を引き締めると、私は自分のPCを起動させた。
「わたし、まだやりかけの仕事がありますから一度発令所に戻りますね。定時になったらお迎えに来ます。」
マヤはそう言って急いでコーヒーを飲み終えると、慌ただしく部屋を退出して行った。
一人になった私は時計を見上げると、ひとりごちた。
「今日は長い一日になりそうね……まぁ、いっか。」
今夜は欠席をしたいと思っていたのに、結局、流れに身を任せてしまったことに苦笑する。
座ったまま軽く伸びをすると、私は指をキーに走らせて仕事に戻った。
これが、じきに訪れる嵐の前の束の間の静けさであったことを、その時の私は知る由もなかった。
316リツコ:2009/02/08(日) 18:34:13 ID:mtLzw5iY







一度ここで上げます。
続きは後日に。
317名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/10(火) 16:28:10 ID:???

続きが気になるお
318リツコ:2009/02/12(木) 01:47:06 ID:???
時刻は1730になろうとしている。
マヤが来るのを待って、揃って部屋を後にした。
ミサトが言っていた今夜の場所となるクラブとは、ネルフ職員の慰安に設けられた施設のことだ。
簡単に言えば、居酒屋のような場所である。
接待向きとは言えない場所を選ぶところは、やはりミサトだ。
自分の趣味で店を決めたのがよくわかる。
「先輩、リカさんとはもう何か話されましたか?」
歩く道すがらマヤの質問を受けた。
「挨拶しただけよ。そうね…マヤから私の話をよく聞いてるって言われたわ。」
そう答えると、マヤの頬が少し赤くなった。
「フフッ…一体どんな話をしているのかしらね?あぁ〜心配だわ。」
今のようなマヤを見るたびに、ついからかいたくなってしまうのがすっかり癖になってしまった。
我ながら悪い癖が身についたものだと思いながらも少し大袈裟に言ってみせると、案の定マヤは慌てふためいている。
それを、口元を綻ばせて眺め楽しむ私はわりと意地が悪いものだ。
そんなことを思っていると、クラブの入り口が見えてきた。
ドアを開けて一歩中に入ると店内は早くも人で混み合い始めだしている。
319リツコ:2009/02/12(木) 01:49:36 ID:???
奥の一角からドッと歓声が聞こえたので顔を向けると、昼間に会ったドイツ支部の人達と一緒にミサトや副司令の姿が見えた。
「早くも宴たけなわって感じね。」
既に心が弾んだ様子でいるマヤを引き連れ、そちらにそろそろと向かって行った。
「あら、早かったわね〜。とりあえず駆け付け一杯しなさいよ♪」
私達に気付いたミサトがグラスを渡してきた。
彼女達が陣どっている席はカウンターと長テーブルという組み合わせ。
ミサトらしい大ざっぱな采配の席に苦笑しつつ、私はマヤと共にカウンター席に腰かけた。
幹事役のミサトから、並々とビールを注がれる。
「ちょ、ちょっと…そんな勢いよく注いだら……ほら、泡で溢れてるじゃないの!」
そう文句を言ってみたが、ミサトは既に何杯か飲んでいるのだろう。
かまわず手にドボドボと注いでくる。
先程から周囲をキョロキョロするマヤが慌てておしぼりを取ると、流れ落ちるそれを丁寧に拭き取っていくといういつもの見慣れた展開が始まった。
「(今夜は無事に終って欲しい…)」
一抹の不安が頭をもたげてくる。
「んじゃ、揃ったとこで乾杯しなくちゃよね♪……ハ〜イ、皆さん注目お願いしま〜す♪」
320リツコ:2009/02/12(木) 01:53:32 ID:???
ミサトはやおら手をパンパンと叩いて周囲の注意をひくと、口を開いた。
「皆さん、本日はようこそ日本支部へお越し下さいました♪ここで乾杯の音頭をとらせていただきたいと思います。…ハイそこ、グラス持つっ!……持った?じゃ、カンパァ〜イ♪」
遠慮のない強制音頭に副司令が苦笑している。
そんなミサトの勇姿には、見てるこちらまで恥ずかしくなってしまう。
横に座るマヤが私のグラスに軽くぶつけて微笑んだ。
「相変わらずですよね、葛城さん。でも酒席には欠かせませんね。」
マヤはそう言って、ビールをゴクゴク一気飲みした。
「今からそのペースで飲むとミサトみたいになるわよ?」
軽くたしなめる。
「大丈夫です!もし潰れても先輩がいますから。」
「ちょ、ちょっと…あのねぇ…」
マヤのテンションはすっかり高くなっていた。
そんな焦る私の気も知らずマヤは人を探すように辺りをキョロキョロ見渡すと、一点を注視した。
「あ、リカさ〜ん!」
マヤの視線の先にいたのは予想するまでもなく青山主任。
彼女は呼ぶ声に気付くとマヤに手を振った。
「マヤ、久しぶりね。来てくれて嬉しいわ。こちらにいらっしゃいよ。」
321リツコ:2009/02/12(木) 01:56:18 ID:???
その手招きにマヤは元気に頷くと、自分のグラスとビール瓶を持ってテーブル席に移動を始めた。
「先輩、わたしちょっと行ってきますね。」
言葉もそぞろに浮足だっているのがわかる。
「ええ、積もる話もあるでしょうからゆっくりしてらっしゃい。」
そう微笑むと、私は煙草を取り出して火をつけた。
紫煙をフッと吐いてビールに口をつける。
後方のテーブル席からは青山主任と一緒にマヤの笑い声が聞こえてくる。
それをBGMに、チビりチビりとビールを飲む。
「オッサンくさいわね、リツコ。」
一人静かに飲んでいると、やおらミサトが隣に座ってきた。
「……失礼ね。」
再び煙を吐くと悪友の軽口に相手をする。
「ねぇ、もう一人になっちゃったの?マヤちゃんは?」
黙って後ろに顔を向けて指し示すと、ミサトはアーという顔をした。
「ありゃりゃ…早速、持っていかれちゃったわねぇ〜ん。」
「何、言ってんのよ。」
乾杯後に何杯グラスを空けたのか、ミサトの顔はかなり赤かった。
酔っぱらったミサトはいつも以上に絡みやすくなるのが経験上わかっている。
「あなた幹事なんだから、今日ぐらいは酒量を抑えなさいよ。」
322リツコ:2009/02/12(木) 01:59:06 ID:???
酒に飲まれつつある悪友をいさめる。
「へいへい、わかってるわよリツコさ〜ん♪」
ミサトは空になった自分のグラスにビールをドボドボ注ぐと一気にあおった。
「もう…」
悪友の痴態を見せつけられ眉間に皺が寄ってくる。
「ところでさ、あたしあの後は大変だったのよ〜?」
ミサトはカウンターに顎を乗せると、とぐろを巻くように愚痴りだした。
「何の話?」
煙草を揉み消してミサトを見る。
「食堂で会ったでしょ、青山主任と。リツコが行った後に根掘り葉掘り聞かれて困ったわよ。」
「何を聞かれたの?」
昼間の視線が蘇り、思わず私は眉根を寄せた。
「ん〜、あんたの仕事の状況とかさ。…あと、あんたの人柄みたいなこととか。」
「まるで身辺調査ね…。」
私は再び煙草に火をつけた。
「あたしは技術屋じゃないから仕事について聞かれたって答えようないわよ〜。」
ミサトはカウンターに頬を預けてぼやく。
「それで何を話したの?」
「ん〜、リツコは間違いなくできた人だってことは太鼓判押してきたわ。なんたって、あたしの親友なんだから当然よ。」
ミサトは鼻を掻くとそう答えた。
「フフッ、嬉しいこと言ってくれるわね。」
323リツコ:2009/02/12(木) 02:02:31 ID:???
私にとってもミサトはかけがえのない親友だ。
なんのてらいもなく、そう言ってくれる友の存在が心に染み入る。
「…そう言えば昼間に部屋に来た時、あなた言いだせなかったでしょ?今のお礼にってわけじゃないけど、今回は特別に貸すわよ。」
財布から1万円札を抜くとミサトに渡した。
「何コレ?」
ミサトはそれに不思議そうな顔をした。
「何って、お小遣い足りないんでしょ?」
「違う〜!そんな毎回あたしだって金欠じゃないわよ!…でも、くれるってなら貰うわよん?」
ミサトはムクれたかと思ったらニヤニヤしだした。
「あげるわけないでしょ。…なんだ、マヤの勘違いだったのね。」
抜いたお札を財布にしまった。
「なぁに?マヤちゃん、そんなこと言ってたの?ヒドイわ〜。」
「あなた、日頃が日頃でしょ?そう思われても仕方ないわよ。」
私がそう言うと、ミサトは両腕を胸の前で組み不満そうにブーッとして見せた。
「マヤちゃんもあどけない顔して言うことキツイわね〜。今度、あたしもお仕置きしなきゃだわ!」
ミサトはまたグラスにビールを注ぐとグイッとあおった。
「ちょっと勝手に決めないでくれる?それは私以外の人には認められないわ。」
324リツコ:2009/02/12(木) 02:06:27 ID:???
「……リツコ、あんたもしかして酔っぱらってる?」
ミサトはまじまじと私を覗き込むように見てきた。
その口元はニヤついている。
「…酔ってないわよ。」
「ふ〜ん…ま、いいわ。それにしても、マヤちゃん戻って来そうにないわねぇ。リツコが一人、こうして手酌で寂しく飲んでるってのにさ。」
そう言うと、後ろを振り返って様子を窺っている。
「別に寂しくないわよ。ミサトがいて煩いぐらいなのに。」
私は煙を吐くと、また煙草を揉み消した。
「あら、痩せ我慢は駄目よォ?顔に書いてあるわよ。」
「…馬鹿言ってんじゃないわよ。」
そんなミサトを一瞥すると、私は冷酒をオーダーした。
「…それにさ、食堂でのあんたは見物だったわ。青山主任と水面下でバトルしてたように見えたもの。」
つまみのチーズを口に放り込み興味深げに私を見る。
「意味がわからないわね。なんのこと?」
「なんだっけ…あぁそうそう、『良き部下を持てて全く幸せ冥利です』とかなんとか言ったじゃない。なにアレ、変な日本語だったわよ?」
「…さっきの乾杯の音頭の方が余程ヘンよ。」
呆れて答えると、冷酒をグラスに注いだ。
一口飲むと、冷たい酒が喉を伝って流れ落ちていき胃に焼けるような熱さを感じた。
325リツコ:2009/02/12(木) 02:13:05 ID:???
『もぅ、わたし恥ずかしいですよ〜。』
『フフッ、相変わらず可愛いわねマヤは。』

後ろのテーブルからマヤ達の弾む声が聞こえてくる。
ミサトは片眉をあげてそちらを見ている。
「すっかり忘れられちゃってるわね。あたしらもあっちのテーブルに行く?一応、顔出ししとかないとさ。」
「私はもう少し飲んでから後で行くわ。」
断るようにそう答えた。
今はこうして静かに飲んでいたい気分だ。
「わかるわ、リツコ。あんな様子じゃ飲まないとやってらんないわよね。」
「あのね…」
ミサトは後ろの様子を観察するように眺めている。

『マヤ、こうするともっと美味しいわよ。ほら飲んで。』
『ほんと美味しいですね。さっすが、リカさん!』

静かに飲みたいとこを、後ろの会話がどうも耳について気に障る。
それを冷酒で洗い流すかのように私は杯を重ねた。
「ねぇ、ちょっとピッチが早いわよ?つまみも食べずに飲んでさ。…ね、リツコ聞いてんの?」
そんな私にミサトは少し驚いているようだ。
「…聞いてるわよ。少し黙っててくれる?聞こえないじゃない。」
「はぁ?」
ミサトがポカンとして私を見つめた。
私は無意識の内に背中に神経を集中させていた。
326リツコ:2009/02/12(木) 02:22:03 ID:???
その意味に気付いたミサトは何とも言えない表情を浮かべたが、私は構わなかった。

『マヤ、マヤは……ほっぺが…ね…』
『……照れちゃいま…リカさ…今度…』

店内の喧騒が増してきたことで声は聞取りにくいが、親密な感じの様子が声根でよくわかる。
だからなんだというのか。
ミサトが言うように私は酔っているのだろうか。
何をやっているんだろう…自分が馬鹿みたく思える。
「なんかさ、あの青山主任ってリツコに似てない?顔とかじゃなくて雰囲気が。」
「やめてよね…。」
冷酒を飲み干すと煙草に火をつけ煙を深く吸い込む。
そして上方に思いきり吐き出した。
「ううん、似てるわ…知的な雰囲気と物腰がね。嫌って思うのは同族嫌悪ってやつよ。」
「…ミサト、怒るわよ?」
私は冷酒をもう一本追加オーダーするとミサトを睨んだ。
「ご、ごめんってば!そうマジになんないでよ…」
ミサトは手をバタバタさせると謝った。
「……でも、マヤ…って呼んでるわね。」
私はポツリと呟く。
「はぁ?そりゃ名前なんだから呼ぶじゃない。」
ミサトはまたポカンとして私を見た。
「違うわよ。マヤって呼び捨てにしてるわ…。」
やはり私は酔っているのだろうか。
何が言いたいのかわからず、それが自分で子供っぽい駄々のように聞こえる。
327リツコ:2009/02/12(木) 02:28:58 ID:???
「なぁ〜に、どうしたってのよ?」
杯をひとり重ねていく私をミサトは穏やかな表情で見る。
そして、ぐいぐいと飲む私の肩に手を置くと柔らかく微笑んだ。
「ま、あんたが言いたいことはわかるわ。取られたような気分よね。リツコも酔うと本音が出るじゃない?」
「……な!…」
ミサトはクスッと笑うと悪戯っぽくウインクを投げて寄越した。
そして私の背後に視線を移すとスツールから立ち上がった。
「マヤちゃん、待ってたわよぉ〜。悪いけどさ、この酔っぱらいの相手してやってくれる?」
ミサトは私を指さした。
「私は酔ってなんて…」
立ち上がるミサトを急に見上げたら頭がクラクラして、ついカウンターに頬杖をついてしまった。
そんな私にミサトはしてやったりな顔をする。
「じゃ、あとは頼んだわよ。」
「はい、任せて下さい!」
二人の会話が遠くに聞こえるようだ。
早速マヤは隣に座ると、空になったビール瓶や冷酒の数々、そして未だ手つかずのつまみを呆れたように見て小言をたれた。
「ふぅ〜…飲むだけで食べてないですよね?もぅ〜、あの葛城さんに言われてはオシマイですよ?」
「(フフッ、ミサトの言う通りね。マヤもキツイわ…)」
突っ伏しそうになる頭を肘で支えながらクスリと笑う。
328リツコ:2009/02/12(木) 02:39:38 ID:???
「まずは水を飲んで少し酔いを醒まして下さい。あと何か食べないと…」
冷水のグラスを寄越すと、飲む私を見守るようにしている。
「(また甘えちゃった…か)」
駄目な自分だとつくづく思う。
酒で思考が麻痺していてもそれを痛烈に感じる。
マヤは手早くメニューを開くと雑炊を頼んでいる。
「雑炊は胃に優しいですからね、ちゃんと食べて下さいよ?」
そして、マヤはつまみのチーズが乗った皿を手元に引き寄せると一つ摘みあげた。
頭が依然クラクラする私はその何気無い仕草が美味に見え、なんとなく口を開けてみた。
「え?…あっ……はい、先輩…」
マヤは口を開ける私に気付くと頬を染め、口の中にそのチーズをそっと入れてくれた。
329リツコ:2009/02/12(木) 02:45:20 ID:???
口の中に入ったチーズを食べ終ると、また自然と口を開けた。
「(……私、何してるの…かしら?)」
酔いで思考がまとまらない。
今、自分が何をしているのか定かではなかった。
マヤはまたチーズをそっと口に入れてくれた。
そうしながら目を伏せるマヤの頬は、ほんのりピンク色に染まっている。
「…美味しいですか?」
「ええ、とっても…ね。」
そのまま正直に答えると、瞬間、マヤの頬の色が紅葉のように赤く染まった。
「(フフッ…)」
そんなマヤの様子に悪戯心が沸き上がる。
今度は、枝豆が盛られた皿に視線を移して口を開けてみた。
330リツコ:2009/02/12(木) 03:02:22 ID:???
マヤは枝豆を手に取ると、口元に持ってきてゆっくりと鞘から豆を一つ二つ口の中に押し出す。
唇にマヤの指がそっと触れた時、私達は弾かれたようにハッと我にかえった。
「あ、…ごめんなさい…。ひとりで食べれるから。」
マヤは、触れた指先を胸で抱えるようにしてうつ向いている。
その全身が真っ赤に染まっているかのように見え、つられて私も顔が熱くなってくる。
「(私ったら何してんのよ…)」
自分が今とった行為が急に恥ずかしく思えて、気持ちを落ち着かせるように冷水のグラスを手にしてみた。
持つ手が微かに震えているのがわかる。
そんな私を、いつの間にかマヤは伏し目がちに見つめている。
その瞳を受けとめた途端、吸い込まれるかのように私達の時は停止した。
「雑炊お待たせしましたぁー。」
どれほどの時間、そのまま静止していたのだろう。
威勢の良い掛け声と共に目の前に雑炊が差し出され、またハッと我にかえった。
「わ、わたし…ちょっと副司令の所に挨拶してきます。」
マヤは弾かれたかのように立ち上がると、あたふたとそちらに行ってしまった。
また一人になった私は苦笑すると、あつあつの湯気をたてている雑炊を口に運ぶ。
「(フフッ、酒に飲まれて悪ふざけが過ぎたわね。)」
雑炊が胃に優しく染み渡っていくのを感じながらそんなことを思う。
331リツコ:2009/02/12(木) 03:12:13 ID:???
食べ終ると、なんとなく酔いもひいてきたような気がした。
煙草を手にとり食後の一服とばかりに火をつける。
スーッとした感覚に飲み込まれて落ち着いた気分になるのがわかる。
喫煙者にはこの瞬間が正になんとも言えないものだ。
「ご一緒して宜しいですか?」
隣に誰かが座ろうとする気配を感じて振り向くと、そこには青山主任が立っていた。
「……ええ、どうぞ。」
胃がキリッと痛くなるような感覚にとらわれるのを感じながら了承すると、彼女はゆっくりと隣に座った。
青山主任は煙草に火をつけるとフゥーッと煙を吐く。
「思ってた以上に仲が宜しいですのね。」
「何がです?」
私を見据えてそう話す彼女に尋ねた。
「伊吹さんのことですわ。…とても美味しそうに召し上がられてましたもの。」
彼女は意味ありげに口元を緩ませると、静かに笑った。
その言葉に頬が一瞬、熱くなる。
「それは…」
「本当に親しい仲ですのね。羨ましいですわ。」
口調は穏やかながらも射抜くような瞳に気圧され、思わず私はカウンターに視線を落とした。
「…伊吹二尉は私の片腕となる部下です。仲が良いことに越したことはないと思いますが?」
332リツコ:2009/02/12(木) 03:22:10 ID:???
私は何をムキになっているのだろうか。
視線を合わせたくないばかりに正面を向いたまま答える口調が、ついきつくなってしまった。
そんな私を彼女はクスリと笑う。
「……部下…ですか。失礼ですが赤木博士、伊吹さんの才能はまだ眠ったままだと思いますわ。例え良い環境に恵まれても、羅針盤が確かなものでなければ宝の持ち腐れになるとは思いませんか?」
「何を仰りたいのですか?私では役不足だとでも?」
私は冷酒をまたグラスに注ぐと口にした。
この人はどういうつもりでこんなことを言ってくるのだろう。
含みのある遠回しな言い方がしゃくに障る。
「そう聞こえたなら謝りますわ。ただ、私の方が伊吹さんとの付き合いも長いだけに互いを良く知っていますし…。」
彼女は手に持つワイングラスを優雅にゆるりと回すと微笑んだ。
「伊吹さんを一介のオペレーター職に留めておくのはもったいなく思うのです。」
「一介ですって?…青山主任、はっきり言わせていただくけどオペレーターがどんなに重要且つハードな職であるのか、あなたわかってないようね?」
私はグラスを叩き付けるように置くと、ひとり悦に入るような彼女をキッと見据えた。
333名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/12(木) 13:52:46 ID:???
続きwktk
334リツコ:2009/02/15(日) 19:41:27 ID:???
カウンター越しで皿を洗っていた店員が、何事かとばかりに手を休めてこちらを見た。
「お声が少し大きいのでは…」
口元に悠然と笑みをたたえる彼女はワインを口にすると足を優雅に組みかえ、肩越しに顔をそっと後ろに向けた。
追うように私も振り返ると、真後ろに座る何人かが怪訝そうな顔をこちらに向けている。
ミサトまでもが、いつになく真剣な表情でこちらを窺っている。
そして、両指で小さく×印を作ると顔を左右に振りながら私に合図を寄越してきた。
マヤは……一番遠くの位置で副司令と談笑中でこちらには気付いていなかった。
「私も馬鹿ではありませんわ。オペの存在が使徒戦にどれだけ貢献しているかはわかっているつもりです。」
私同様に正面を向くと、彼女は口を開いた。
「彼らの働きなくして、私は生きて今こうして博士と直接お話することもなかったでしょう。」
彼女はワイングラスを置くと、今度は煙草に持ちかえた。
私は片肘をついて斜に構えると、そんな彼女をうさん気に見やった。
「そう…。回りくどい言い方をされるのは好きではないわ。あなた、要するに何を言いたいのかしら?」
そう問うと、彼女は一旦カウンターに視線を落とし、またクスリと笑う。
335リツコ:2009/02/15(日) 19:43:24 ID:???
そして、おもむろに体をこちらに向けた。
「伊吹さんを、私の下に預けていただけませんか?我がドイツ支部へ…」
突拍子もないその言葉に、私はしばし声を失った。
続け様に冷酒をなんとはなしに口にしてみたのは、驚きを禁じえなかったからだろう。
喉を伝い落ちる酒が再び胃を熱くさせる。
「……あなた、何を言っているのかわかってるの?オペの存在意義について、今、自分で…」
「私は伊吹さんの秘めた能力を、同じ技術部の一研究員として開花させたいのです。」
彼女は悠然とまた私を見据える。
「その昔に…伊吹さんの大学時代の研究テーマに関する論文をいくつか読んだ時から思っていました。実に将来が楽しみな逸材だと…」
彼女は煙草をゆったりと吹かしながら、何かを思い出すようにクスッと笑った。
「そんな逸材を現職のままに置くのは、伊吹さんにとっても、ひいてはネルフにとってもかえってロスに繋がることとは思いませんか?」
そして、小首を傾げて私を見やる。
「勝手な言い草ね。伊吹二尉のオペは必要不可欠なのよ?仮に、もし仮に彼女が動いたとして、誰がその抜けた穴を埋めれると?彼女に匹敵する者はいないわ。」
336リツコ:2009/02/15(日) 19:47:13 ID:???
また声が大きくなりそうになるのをなんとか堪える。
その分、手にするグラスに力が入っていくのを感じ、それを誤魔化すように口につけて飲んでみた。
「フフッ、そう仰ると思いましたわ。そこが博士の…」
彼女はそこで言葉を一旦区切るとフゥーッと一際長く煙を吐き、面白そうに私を見た。
「赤木博士の見識が甘いとこですわね。」
「っ…なんですって!?」
抑えていた声のトーンが上がる。
その声に、今度はカウンター奥の厨房にいる店員までもがこちらを振り向く。
ガヤガヤとした後ろのテーブルも、一瞬、水を打ったように静まり返った。
「フフッ、お声が大きいですのね。他の皆さんのご迷惑になりますわよ?」
そんな私の様子を更に嘲笑うかのように…いえ、馬鹿にするように言った。
完全に今のこの状況を楽しむ彼女に頭にカッと血が上りそうになる。
「リツコ…」
私達の不穏な空気を察してか、ミサトが側に来て私の肩に手を置いた。
「……大丈夫よ、なんでもないわ。少し話に夢中になっていただけだから。」
ミサトの気遣わし気な表情と肩に置かれる手で、なんとか自分を取り戻す。
337リツコ:2009/02/15(日) 19:55:41 ID:???
尚も気遣おうとする様子の友に心配ないからとアイコンタクトすると、ミサトは無言で頷いた。
そして青山主任に一瞥を寄越すと、そのまま席に戻って行ってくれた。
遠くに座るマヤが心配そうにこちらを窺っているのが見える。
無理に微笑んでみせるとマヤは今にも駆け寄って来そうになったため、手で押し止めるように合図を送った。
傍らの副司令も困惑顔でいる。
「(始末書ものね…)」
彼女の挑発する姿勢に易々と応じてしまったとは。
自分の立場を考えれば、むしろ減給処分が下ってもおかしくはない。
それ位、ネルフの服務規程は厳しい。
場の空気がぎこちないながらも元に戻ると、彼女は口を開いた。
「博士、簡単な質問をしますわ。もし万一、伊吹さんが倒れた時に事態が発生した場合、誰が彼女の職務を遂行するのでしょうか?」
「決まってるわ。私が兼務するだけよ。」
私は灰皿に目をやると、新しく煙草に火をつけた。
灰皿には、まともに吸い終らないでそのままの形で灰になった残骸が何本もある。
「では、あなたも居ない場合には誰が?」
「……………。」
即座に答えることが出来なかった。
338リツコ:2009/02/15(日) 20:01:42 ID:???
技術部のメンバーを一人一人思い起こしても、現時点で私やマヤの代わりを勤められる者はいない。
私かマヤのどちらかが居さえすれば、という綱渡りな状況を改めて思い知らされる。
「フフッ、後継者不足ですか?」
黙りこむ私を彼女は満足そうな表情で見ている。
「私は直接で2人、間接では5人の部下を持っております。私ほどに能力があるとは言えませんが、彼らは日々、着実に成長しておりますわ。私も指導のしがいがあるものです。」
「……あなたがドイツ支部技術部のホープだという噂は耳にしたことはあるわ。でも、だから、それがなんだと?」
再び苛々が募りだす。
「フフッ、博士もご存知とは光栄ですわ。でも、それは噂ではなく事実と訂正させていただきますわね。」
そう艶やかに笑ってワインを飲み干す彼女に、募る苛々も呆れにとって変わった。
これほどまでに自分に自信を持つ者には、久しくお目にかかったことはない。
あの、JAを建造した時田とかいう男の姿が思い出され苦笑が溢れた。
「何がおかしいのでしょうか?」
私が苦笑したことに彼女は気色ばむ。
何のことはない、彼女は私に妙なライバル心でもって接しているだけのことだとここにきて理解できた。
339リツコ:2009/02/15(日) 20:04:09 ID:???
「……大した自信ね。あなたがどれほどの技術と指導力を持っていたとしても、伊吹二尉をあなたに預けなければならない必要性はないわ。これが私の答えよ。」
私は火をつけたばかりの煙草を灰皿で揉み消すと、これで会話は終りだとばかりに席を立った。
立ち去ろうとする私の背に、彼女の鋭い声が飛ぶ。
「たとえ本人が望んだとしても、あなたはその機会を奪うつもりですか?」
一瞬、歩みが止まる。
が、無視するように振り返らず私はそのままカウンターを後にした。
そのまま副司令の側まで行き隣に腰を降ろす。
「一体、何があったんだね?」
困った顔で迎える副司令に私は頭を下げた。
「ちょっとした見解の相違ですわ。お騒がせして申し訳ございません。明日、始末書を提…」
「あぁ…それには及ばんよ。しかし、君があんなに感情を露にするとは…。いや珍しく新鮮に見えたよ。」
副司令は苦笑した。
「お恥ずかしいかぎりですわ…。」
お咎めのないことにホッとし、熱燗の日本酒を副司令に注いだ。
「なぁに、そう気にするな。腹に据えかねることは時にある。…わしは何も言わんよ。」
340リツコ:2009/02/15(日) 20:09:57 ID:???
副司令は熱燗をすすると私に酌を返そうとする。
返杯を受けて私も熱燗を口にすると、一息ついた。
「……マヤは?」
「あぁ、さっきまでここに居たが…」
姿を探して周囲を見渡すと、マヤはカウンターに青山主任と一緒に座っていた。
青山主任が一方的に話しているのを神妙な顔で聞いている。
「(まさか、今の話を…)」
胸がざわつきだすが、この距離からでは二人の会話は全く聞こえない。
ただ二人の姿をじっと見るだけしかなかった。
何を言われているのだろうか、しきりに頷いているマヤの姿を見て胸に痛みが走った。
「Dr.赤木、飲んでますか?」
そんな私の視界を遮るように、一人の大男が前に座った。
ドイツ支部副支部長のハインツ氏だ。
彼が前に座ったことで、二人の姿が完全に視界から消えてしまった。
「……ハインツ氏はやはりビールがお好きかしら?」
目の前の彼のグラスにビールを注ぐ。
「勿論っ、いかなる時でも欠かせませんな。それにこのソーセージも!」
そう言って、フランクフルトをオーバーアクションで美味しそうに食べてウインクしてみせた。
「フフッ、面白い方ですのね。」
「ハハハ、それならDr.赤木はお美しい方ですな。」
341名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/15(日) 20:12:32 ID:???
wktkwktk
342リツコ:2009/02/15(日) 20:14:19 ID:???
昼間も見た、彼の太鼓腹がまた大きく揺れる。
「サシツ…ササレツ……でしたか?こういうのは。」
彼はビール瓶を手にすると、私のグラスに注ごうとした。
「えぇ、日本語がお上手ですわね。」
返杯を受けながら私は微笑んでみせた。
「まぁ10年間ばかり住んだことがありますから。……時に、うちの青山が何か失礼なことを言いましたか?」
「えっ?」
彼は頭を掻きながら苦笑した。
「さっき青山と話してたのが聞こえたんですよ。失礼があったならきちんと謝らせます。」
ハインツ氏は申し訳なさそうに言う。
私は話をぶり返すことで変にこじらせたくはなかったため、無難にやり過ごす模範回答で応じた。
「いいえ、それには及びませんわ。ただお互いに意見交換をしていただけですから。」
そう私が答えると、探るような視線を向けられた。
彼の日本語の読解力の高さから、さっきの会話をどこまで聞かれていたのだろうか不安に思う。
「…あなたはこちらの技術部の者からすれば尊敬の対象ですからな。青山も舞い上がったのでしょう。どうか非礼をお許し願いたい。」
「お気になさらずに…私は何とも思っておりませんわ。」
343リツコ:2009/02/15(日) 20:18:10 ID:???
あくまでも律儀なハインツ氏に私はそう答えると微笑んでみせ、注がれたビールを口にした。
ここに来てから休むことなく飲み続けていたせいか、ビールを口にした際にまた頭がクラクラするのを感じた。
この状態で、入れ替わり立ち替わりドイツ支部の人達と英語で会話をすることにも少し難儀を感じる。
油断すると思考がまたバラバラになってしまいそうだ。
これまで飲んだ酒やビールが私の限界値を越えようとしている。
今は何時なのか気になって腕時計を見ると、早くも時刻は2100になろうとしていた。
お開きの時間とまではいかないが、幹事のミサトはよもや酒に飲まれていないだろうか。
マヤはあれからどうしているのだろう。
未だ目の前に大岩のように立ち塞がるハインツ氏を見下ろすように私は立ち上がると、二人を探しに歩を進めだした。
が、急に立ち上がったことといきなり視界が開けたことで貧血を起こしたのか、歩く足元のバランスが崩れて倒れそうになる。
「(あっ…)」
視界が暗くなった。
間一髪、体が傾いて倒れようとする寸前に後ろから誰かに抱き止められた。
「そんな真っ赤な顔でいきなり歩いたら、フラついて危ないですよ?」
344マヤ:2009/02/15(日) 20:23:48 ID:???
私より小柄な体のどこにそんな力があるのだろう。
マヤが私を支えるように後ろからしっかり抱き抱えてくれていた。
「マヤ…」
口を開いて話すのもだるそうに言う。
変に動いたことで、酔いが急激に進んだのは間違いない。
頭痛と少し吐気を感じ始めだしているのがわかる。
マヤは私を近くの椅子に座らせて様子を確認すると、店の厨房へと走って行った。
そして戻ってきた時には、おしぼり、氷、冷水ポット、グラス、そしてビニール袋が被されたバケツを手にしていた。
そんな私達に周囲の人達が手伝いを申し出ようとしてくれるが、マヤがテキパキと動くため特に出番はなかった。
私も、今にも酔い潰れそうな姿を他人から注目されたくはなかった。
「大丈夫です。わたしが見てますから。」
そんな私の気持ちを察してか、マヤが人払いをしてくれた。
「先輩、少しだけ歩けますか?あそこのソファー席まで…」
頭を下に向けたまま座る私の様子をマヤは再度確認する。
私が無言で微かに頷くと、マヤは私を下から持ち上げるようにして立たせてくれた。
そのまま、マヤに寄りかかるようにしてソファー席まで移動する。
345リツコ:2009/02/15(日) 20:26:52 ID:???
この時間になると、店内の客もまばらになりだしている。
幸いこの一角には他の客はいなかった。
マヤは私をソファーに座らせると、側の窓を次々に開けていき外気を取り入れる。
店内の篭った熱をけ散らすように外の冷たい空気がひんやりと入ってきて、火照った体の熱を冷ますかのようだ。
喧騒から遠ざかった席に移動したこともあって、幾分、気分がラクになってきたような気がする。
マヤは、あらためて私をソファーの背に寄りかからせるように座らせると、私の頭を軽く上に向けて冷たいおしぼりを額に乗せてくれた。
そして、氷の入ったビニール袋を首筋にあてる。
氷の冷たさがひんやりして気持ち良く、思わず私は目を閉じた。
「気分はどうですか?」
「…少しラクになってきたわ…ありがとう。」
目を開ければ、またマヤが心配そうな瞳で見ているに違いない。
それが恥ずかしくもあって私は目を閉じたまま答えた。
だが、頭痛と吐気は依然ひきそうにない。
特に吐気は最悪だった。
「無理しないで先に一度吐いた方が良いですよ。わたし、二日酔い用の薬を持ってますから。」
私の顔色が優れないのを見てとったのか、マヤはバケツを足元に置いてきた。
346リツコ:2009/02/15(日) 20:30:14 ID:???
「もし、間に合いそうになかったらこれを…」
「大丈…夫………っつ!」
そう言って体を起こした瞬間、急に吐気がこみあがり下を向いて口を押さえた。
マヤが素早い動作で私の手を払い除けると、口元にバケツを押しあててきた。
私はそのままバケツを抱えこむようにしてもどしてしまう。
マヤに背中を優しくさすられる中、もどすことで気分は一転してラクになっていくのを感じる。
落ち着くと、マヤがティッシュを何枚か渡してくれたので口を拭いた。
「…大丈夫ですか?」私が頷くと、マヤはバケツを処理しようと席を立つ。
347リツコ:2009/02/15(日) 20:32:31 ID:???
「マヤ、いいのよ…それは私が…」
「いいですから。」
そのまま、さっさと処理しに行ってしまった。
マヤに処理をさせてしまったことがかなり恥ずかしく、何とも言えない気持ちになる。
とりあえず、口をゆすぐためトイレに向かうことにした。
フラつく体で洗面台と向き合ったところ再び吐気を感じ、慌ててトイレに駆け込むとまたもどしてしまった。
もどすだけもどし終ると、胃のシクシク感はあるものの吐気はすっかり消え去ってくれた。
「(これでもう平気だわ)」
口をゆすぎ、身繕いをして席に戻ると、マヤが薬を用意して待っていた。
念の為か、新しいビニール袋が被せられたバケツがまた置いてある。
「顔色が大分戻って良かったです。」
「恥ずかしいとこを見られちゃったわね…。」
私は視線を下にしてうつ向いた。
「気にしないで下さい。わたしだって初号機の食事姿を見てやりましたよ?あれは不意打ちの反則でしたね。」
「食事姿……フフッ、そうだったわね…」
そう言われて、いつぞやのマヤを思い出す。
確かにあれは反則技だ。
マヤの奇妙な慰め方におかしくなり、頭痛も忘れて笑ってしまった。
「さぁ、この薬を飲んで下さい。」
薬と水を渡されて飲む。
348リツコ:2009/02/15(日) 20:37:31 ID:???
顆粒の苦い味を舌に感じて思わず顔をしかめると、マヤが愉快そうに微笑んだ。
「良薬は口に苦しですよ?直に良くなりますから。」
「フフッ、かなわないわね。」
薬の効果が表れるまでには、まだ少し時間がかかるに違いない。
私はソファーに深々とだるそうに体を預けた。
「横になりますか?その方がラクですよ。」
「……えぇ、悪いけど少しだけそうさせてもらおうかしら。」
私は靴を脱ぐとソファーに横になろうとした。
私が横になることで、隣に座るマヤは枕代わりにクッションを頭の下に置こうとした。
その手を私は止める。
「立つことないわよ。」
立ち上がろうとするマヤを、別にこれといった理由もなく止めたのは何故なのかわからなかった。
ただ、隣に座っていて欲しかっただけかも知れない。
再び腰を降ろすマヤの側で体を横にしたら、自然と頭をマヤの膝の上に乗せてしまった。
「借りるわね…。」
そう言いながら、自分で何を言っているのだろうと思った。
多分、まだ酔っているからなのだろうか。
あまりに自然にそうしてしまったことを、我知らず不思議に思う。
マヤは膝に頭を乗せられた瞬間、息を飲むように体を硬直させた。
349名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/15(日) 21:01:54 ID:???
紫苑
350名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/19(木) 00:17:22 ID:???
続きwktk
351リツコ:2009/02/21(土) 07:29:17 ID:???
それが衣服越しに伝わってきた。
でも私の頭をどかそうとはせず、冷たいおしぼりを袋から取り出すと私の額にまたそっと乗せてくれた。
「…頭痛の方は大丈夫ですか?」
今度は目まで隠すようにおしぼりを置かれてしまったため様子はわからないが、窺うその声が少し震えているように聞こえた。
恐らく勝手に膝に乗せられた頭をくすぐったく、また重たくも思っているのだろう。
「まだ少し痛むわ。………ごめんね、やはり邪魔よね。」
起き上がろうとする私の肩を、今度はマヤの手が止めた。
「あの…平気ですから。このままラクに……。」
そう言って押し止めると、私の頭を大事そうに再び膝の上に乗せた。
そして、膝の上でもつれる私の髪を指でそっと優しく静かにすいていく。
私にはそれがまるでシルクで撫でられているかのように心地良く感じられ、自然と身を任すように目を閉じた。
時折、頬に触れるそれは羽毛のように繊細で柔らかい。
触れられた箇所が徐々に熱を帯ていくのを、不思議な思いでじっと感じとっていく。
このまま温もりに包み込まれていくようで、ひたすらその感覚に身をたゆたせた。
「こんなになるまで飲むなんて、先輩らしくないですよ…。」
352リツコ:2009/02/21(土) 07:31:06 ID:???
少し咎めた口調の声が上から降り注いだ。
「みっともないわよね…。」
マヤのお説教が始まりそうで語尾が尻すぼみに小さくなっていく。
ふと、髪をすくマヤの指が止まった。
暫くそのままに、身じろぎもなく静止している。
その状態をいぶかしく思い始めると、また声が降り注いだ。
「さっき、何を話されてたんですか?リカさんと…」
マヤのその問いで、いきなり切りつけられてしまったかの如く私は言葉に詰まった。
「先輩?」
黙る私をいぶかしく思ったようだ。
額の上のおしぼりをずらして私を直接見てくる。
マヤは何を思っているのだろう…その瞳は小刻に揺れ動いていた。
「別に大したことは…。ただの仕事上の話よ。」
「そう……ですか。」
戸惑いながらもそう答えると、マヤは一瞬、間を置いてぎこちなく頷いた。
何か様子がおかしい。
「マヤ?」
「…わたし、リカさんから一緒に仕事したいって…考えてみて欲しいって……」
やはり、あの時に青山主任はマヤに話をしていたのだと私は悟った。
「…嘘よ。本当はその話をしていたわ……誘われたのね?」
マヤはコクリと頷く。
「何て、何て答えたの?」
そう問いながら、私は頭を横にした。
353リツコ:2009/02/21(土) 07:33:37 ID:???
なんとはなしに背を向けて、床に視線をやった。
「わたしはオペレーターに従事する身ですから…と、返答しました。」
マヤは口ごもりながらそう答える。
それがどことなく受け身的なものに聞こえ、私は言い知れぬ思いに駆られた。
もしオペレーターでなかったら、マヤはチャレンジしてみたい…と答えたのではなかったのだろうか…。
そう思った。


『たとえ本人が望んだとしても、あなたはその機会を奪うつもりですか?』


ふと、青山主任に投げつけられた言葉が胸の中を去来した。
ネルフの職員は皆、自分の仕事に誇りを持っている。
その誇り故に、キャリアのステップアップを積極的にはからせようと導く者が現れれば、その手を借りようとしてもおかしくはない。
マヤもそれを望んでいて当然だろう。
青山主任に言われるまでもなく、マヤの能力の高さは私も十分わかっている。
オペとしてだけでなく、技術者としてもかなり上に属する。
細菌型使徒にMAGIを乗っ取られそうになった時が良い例だ。
あの時、私一人だったら間違いなく間に合わずに本部は自爆しただろう…マヤのサポートがなかったら……。
「(サポート…か)」
354リツコ:2009/02/21(土) 07:35:38 ID:???
突如、苦いものがこみ上がってくる思いにとらわれた。
マヤは私の部下である。
いつも陰日向なく私のアシスタントをしてくれているからこそ、私は自分の仕事に思う存分打ち込むことが出来ている。
だが、私はマヤに何をしてやれているだろうか?
上司として部下の面倒を見るのは当然のことだが、私はマヤの成長を促してやれているのだろうか?
ただ助手として手元に置いているだけではないのか?
ふと、そう思った。


『後継者不足ですか?』


青山主任の言葉がまた胸の中を寄切る。
マヤが誘いを断ったのは、マヤ自身も今のこの状況をよくわかっているからだ。
自分の代わりが居ないということに。
でも、今後マヤに匹敵する能力を有する者が順次、育ってくれば憂いることはなくなる。
そうすれば、マヤは更なる飛躍を目指して気兼なく己の希望する道へと進めることが出来る。
その道筋を作ってあげのも、また上司の努め。
自分の仕事に余念がないばかりに、私はそれをおろそかにしているのでは……。
青山主任が指摘してきたことは悔しいが事実だ。
「先輩…」
独り塞ぎこむように考え続ける私をマヤはそっと呼ぶ。
355リツコ:2009/02/21(土) 07:38:35 ID:???
私は再び上に仰向くと、マヤの顔を捉えた。
「先輩はわたしを他所にやったりなんてしないですよね?わたしは先輩と…」
瞳が悲しみに沈むかのような色を湛えている。
「馬鹿ね、今あなたが居なくては皆が困るのよ?安心なさい。」
マヤの頬に手をあてるとそっと撫で、微笑んでみせた。
……でも、いつまでも私のサポートに回すことでマヤの成長を妨げてはいけない。
マヤが進みたい道を安心して歩めるよう、私は尽力を尽さねばならない。
それが上司としての私の義務なのだから。
いえ、なによりも今以上に成長していくマヤの姿を私は見たい。
それ故に、必要とあらばマヤが私の下を去って行く日がいつか来るのかも知れないが……。
そこまで考えたら、急に胸に穴が空くような痛みを感じた。
身を裂かれるかのようで、思わず体を縮こませたくなる。
これはなんだろうか……寂しさ?
確かに、もし居なくなったら寂しい。
いつも一緒に二人三脚でやってきたのだから当然だろう。
でも、それとは別に違うものを感じる。
苦しい痛みのような何かを…。
そんな私を、マヤは何か思うようにじっと見ている。
356リツコ:2009/02/21(土) 07:41:13 ID:???
「…フフッ、何をそう考えてるのよ。さっき言ったでしょ?もう、あなた心配性ね。」
そんなマヤの頬を私は慈しむようにまた撫でた。
「(いつまでも初々しいわね…)」
マヤが身動きしないのをいいことに、私は撫で続ける。
そうしていたら、頬はとうとうピンク色に染まってしまった。
「わたし……恥ずかしいです先輩っ。」
まるでオモチャにされてしまったことに抗議するかのように、マヤは声を上げた。
「あらあら、ごめんなさい?」
そんなマヤにクスリと笑うと、名残惜しむようにもうひと撫でして腕時計を見た。
時刻は2200になろうとしている。
「もうこんな時間…。懇親会の方はお開きしたのかしら?」
「はい、流れ解散で皆さんお帰りになられてます。残っているのは何人もいません。」
桜色の頬をそのままに、オペでの報告をするかのようにマヤは答えた。
私は額に手をあててみた。
良かった、薬が効いて頭痛は消えている。
「ミサトが潰れてないといいんだけど…。」少し心配気に言うと、マヤが困った顔をした。
「それが…潰れてしまったのはリカさんで…。今、リカさんを介抱されてます。」
「えっ?」
思わず声を上げてしまった。
357リツコ:2009/02/21(土) 07:44:55 ID:???
驚いてしまったのは、ミサトが潰れていなかったからか。
青山主任がまだ残っていることだからなのか。
潰れた青山主任を、よりによってミサトが介抱してるからなのか。
多分、どれもからなのだろう。
私は苦虫を噛み潰したような顔をしていたのかも知れない。
マヤは困った顔のままで私の様子を窺っていた。
「あの…リカさんのこと、あまり悪く思わないであげていただけませんか?」
そう言ってマヤは目を伏せる。
「あ…あぁ、私は別に何とも思ってないわよ?ただ向こうは知らないけど。」
「先輩っ!」
ちょっと引っ掛かる言い方をしたばかりに、すがるような声を上げられた。
「今の悪かったわ…。意地悪よね。」
そうは言ったものの、正直な話、カウンターで挑発されたことがまだ後をひいていた。
青山主任に対する印象はハッキリ言って悪い。
擁護しようとするマヤにバツが悪くなり、たまらず私は下を向いてしまった。
「リカさんは、ああ見えて先輩のことを目標にしてるんです。追い付け追い越せって感じに…。よく質問をされましたからわかります…。素直ではないし口はキツイし、とても無器用な人なんですけどね。」
苦笑するマヤに、私は眉を上げた。
358リツコ:2009/02/21(土) 07:47:17 ID:???
確かに、私にライバル心のようなものを剥き出しにしてきていた。
素直ではないという部分も、回りくどいアプローチの仕方でわかる。
口がキツイというのも、容赦ない物言いで十分に腹立たしさを味わさせられた。
それでも私を目標にしているというのか。
無器用というにも程がある。
マヤといいミサトといい、ネルフには個性派から天邪鬼な者までよくもまぁ揃っているものだ。
なんだか笑えてくる。
そう思ったら心が広くなったかのように、とがっていた感情がほぐれてきた。
「…わかったわ。水に流すから心配しなくていいわよ。ねっ?」
私がそう言うと、マヤはようやくその言葉を聞くことが出来たという具合いにホッとした顔をした。
まだ少し申し訳なさそうな表情を浮かべているのは、マヤも私の気持ちを汲んでくれているからなのがわかる。
他者の心に敏感なマヤのことだ。
カウンターでの一件でどんなやり取りがあったのか、おおよそ察しはついているに違いない。
そんなマヤのことを思えば、それだけでも私は水に流せるだろう。
まったく、私といい青山主任といい、こんな先輩二人に挟まれているマヤも気苦労が絶えないものだ。
359リツコ:2009/02/21(土) 07:51:53 ID:???
こんな自分のことは棚に置き、マヤに同情してしまう。
それにしても、マヤの人物寸評は深いとこを捉えているものだ。
青山主任がマヤとは付き合いが長い…と、言っていたが、それだけ通じ合っているからこそ知り得ることができるのだろう。
「(私の場合はどうなのかしらね?)」
なんとはなしにジリつくような思いにとらわれ、そんなことを考えてみた。
実質、マヤがネルフに来てからになるから付き合いもまだ浅い。
マヤは私をどういう風に評するだろうか?
目の前に居るのだから単純に聞けば済む話しだが、なんだか聞くのが怖い。
マヤも割りとストレートに物を言うタイプで、そこに天然さが付加されると毒舌に聞こえなくもない時があるからだ。
だからなんとなく怖くて聞けない。
でも、その時はマヤにいつものお仕置きをすればいいことだ。
私達にすれば恒例の行事みたいなものだし、マヤもそれがわかっている。
だって、痛いです〜とか言いながら喜んでいるんだから確信犯に決まっている。
私もそれについつい和んでしまうのだから、おかしいものだ。
……というか、私は何を考えているのだろう。
いささか、脱線気味な方向に思考を巡らせ始めているようだ。
360リツコ:2009/02/21(土) 07:55:09 ID:???
「先輩こそ、さっきから何を考えてニヤついてるのですか?わたしのこと、また変に笑ってるんじゃ…」
「ニヤついてるって…。やーね、それ被害妄想よ?困ったコね。」
今度は頬をプニプニと触りだすと、くすぐったいのかマヤはそれから逃げるようにジタバタした。
「キャハ…もう〜止めてキャハ…くださいって先輩…」
「ちょ…ちょっと、マヤ…」
マヤの膝がガクガク動くものだから、私の頭まで一緒に動いて髪がどんどん乱れていく。
顔の上に髪が覆い被さってしまい、前が見えなくなってしまった。
「プッ…ワカメみたいですよ?」
そんな私を見下ろしているのだろう。
今にも吹き出しそうな調子でいる。
「ニヤついていた罰ですね。クスッ、仕方ない先輩…。」
そう言いながら、マヤはまた髪を指で優しくすいていった。
そっと丁寧に動いていく指に眠気を誘われそうになってしまう。
「…ねぇ、マヤは私のことどう思ってるの?」
何故、そんなことを口にしたのかはわからない。
眠らないよう何か喋ろうとしたら、ついこんなことを質問してしまった。
「えっ…?」
滑らかに動いていた指がピタリと止まる。
唐突に質問されたことにマヤはビックリしているようだ。
361リツコ:2009/02/21(土) 08:00:20 ID:???
私を見下ろしたまま、目を見開いている。
「青山主任はああなんでしょ?私については?ほら、ハッキリ言ってごらんなさいって。」
「あ、あぁ〜……えっと…それは…」
せっつくように促してみたが、マヤは困った顔のままで何も言わない。
「お仕置きしちゃうわよ?」
冗談っぽく凄んでみせると、マヤは目をパチパチさせて慌てて口を開いた。
「ええっと…先輩は冷静沈着、頭脳明晰、容姿淡麗の眉目秀麗で、ええとそれから…それから…」
「なぁにソレ、褒め殺しのつもり?」
慌てふためくマヤが面白くてからかってしまう。
「ち、違いますって…つまり大切な先輩ってことを言いた……って、あ…」
マヤはしまったという表情で両手で顔を隠した。
「フフッ、わかってるわ。そう思ってもらえてることは私も誇りに思っているのよ?」
何度言われても嬉しい言葉だなと思う。
いつだって、先輩思いでいてくれることは十分わかっている。
その健気さを良くわかっているのに、それを確認するかのように言わせてみる私はかなりヒネくれている。
ホント、悪い癖が身についてしまったものだ。
「もぅ…意地悪です先輩はっ。」
「フフッ、そう言われると思った。」
気分が高揚していく。
362リツコ:2009/02/21(土) 08:05:48 ID:???
少し前まではかなり酔って酷い有り様を晒していたのが、今は完全復活している。
さっきのマヤの言葉が抜群の薬になったのかも知れない。
「(フフッ、私も単純よね。)」
口元を綻ばせたまま、その薬の余韻に浸った。
それにしても、聞くのが怖い云々であったのが、よく質問してみたものだ。
マヤが青山主任を評したことで、対抗してみたくなったのだろうか。
やれやれ、これじゃ私からもライバル視をしているみたいではないか。
変な気分になってくる。
「クスッ…すっかり具合いが良くなったみたいですね。ホッとしました。」
私がいつもの調子に戻ったことをマヤは見てとると、安心したように微笑んだ。
…が、すぐハッとした顔に変わった。
「そう言えば、葛城さん達のこと…」
「いっけない、忘れてたわ…」
私は慌てて身を起こして立ち上がった。
大丈夫、足元はもうフラつかない。
マヤは私のおかげで足がすっかり痺れてしまっている。
なかなか思うように立ち上がれずにいるので、私はマヤを引っ張り上げた。
「もぅ膝が笑ってるみたいで…足がくすぐったくて苦しいです。」
マヤは、なんとも苦しそうにおかしそうに笑うのを堪えている。
363リツコ:2009/02/21(土) 08:14:42 ID:???
「フフッ、あなたの膝は居心地良かったから長居し過ぎちゃったわ。ほら、掴まって…」
私に腕を絡め、もたれるように寄り添うマヤをゆっくり誘導して歩いた。
戻ってくると既に店内は閉店の後片付けにおわれていて、ミサトひとりがテーブルでまだしこたま飲んでいる。
ミサトは私達の姿に気付くと、飲んでいたビールをむせたようにしてブーッと派手に吹いた。
「な、なんなのよ…あんた達それ……」
ミサトは目を丸くして私達を凝視している。
何のことやらだが、いきなり現れたことにビックリしたようだ。
私達は互いに顔を見合わせた。
「葛城さん、リカさんはどうしたんですか?」
今のビールが鼻にきたのか、涙目でむせるミサトにマヤは尋ねた。
「だいぶ前に帰ってったわ。ってか、あんた達んとこに来なかった?」
「来なかったわよ。」
胸をトントンさせるミサトに私は答えた。
「ふ〜ん……まぁ、そうだわよねぇ。」
ミサトは何を思ったのか、したり顔で頷いている。
「あなた、ここでひとりでずっと飲んでたの?こっちに来れば良かったのに。」
「や〜ね、何度かそっちに覗きに行ったのよォ?でも、お取り込み中だったし……邪魔しちゃ悪いかなぁ〜って…」
364リツコ:2009/02/21(土) 08:22:18 ID:???
ミサトは頭を掻きながら私達に苦笑いをした。
「取り込んでたのも最初の内よ。そんな気にしなくたって…」
「えぇっ!?嘘よー、ず〜っとじゃない。気にすんなったって、あんたそりゃ気になるってば。いくらあたしだって、そんぐらい気をまわすはよ〜。」
私がそう言うと、ミサトは口の中でゴニョゴニョとなんか呟いている。
「先輩の言う通りですよ?わたしが付いてましたし、葛城さんの手をお借りするまではなかったんですから。」
「んなっ、あたしの手って…。そ〜んな邪魔するつもりはないって!もう、お腹イッパイでご馳走様ねぇ〜。」
ミサトが何を言ってるのか私達にはサッパリだったが、それなりに気を遣って陰で見守ってくれていたということなのだろう。
さすが親友と言うべきか。
「…もうすぐ閉店するわよ?いつまでも飲んでないで帰りましょ。ここにきて、あなたが潰れたら困るじゃない。」
ミサトはまだ飲み足りなさ気にしていたが、マヤにグラスを取り上げられたので渋々と立ち上がった。
そして、その場で両手を上に挙げてウ〜ンとばかりに伸びをする。
「ねぇ、お腹空かな〜い?」
なにかと思えば、そんなことを言ってくる。
365リツコ:2009/02/21(土) 21:14:51 ID:???
「今、お腹イッパイって言ったじゃない。」
「いや、そっちじゃないってば。胃袋の方の話よ。」
突っ込みに、ミサトは何やら反論をする。


ぐぅ〜きゅるる…


突如、鳴り渡る腹の音。
「…お腹空いてますよね?空っぽでしょうから。」
お腹に手をあてて焦る私にマヤが聞く。
「え…えぇ、そうみたい…。」
音が思いも寄らず大きかったことに、私は恥ずかしくなった。
「そんなあんたにオススメの店があるわ。マヤちゃんもいいわよね?」
「はい、三佐殿!喜んでお供します。」
飲んだくれミサトの誘いに、見掛けに寄らず食べるマヤがホクホク顔で頷く。
この二人は食道楽に違いない。
一人は味覚がかなり怪しいのだが…。
そんなこんなのミサトの案内で、私達一行はとある店の暖簾をくぐることとなった。
「へらっしゃい!…おっ、ネエちゃんかい?今日は別嬪さん揃いだなぁ〜。」
行き先はラーメン屋だった。
冷水を差し出す店主がミサトに親しげに話しかけている。
「そよ〜ん♪びっくりして腰抜かしちゃった?あたし、いつものヤツね〜。」
ミサトはサッサひとり注文を済ますと、早くも割箸を握り締めている。
366リツコ:2009/02/21(土) 21:17:48 ID:???
マヤが真剣な顔でメニューと睨めっこする横で、私は醤油ラーメンを注文した。
「お嬢ちゃんは悩む年頃かい?しっかり食べて大きくなんな。」
メニューに首っぴきなマヤは、店主にそう言われるやいなや顔を紅潮させた。
「わたし、大人ですけど。いちおう…」
「おっと、こりゃ失礼!まだ未成年かと思ったよ、ガハハハハ!」
日頃から童顔を気にしているだけに、マヤは口をへの字にして店主を恨めしそうに見ている。
そんなジト目のマヤだが、味噌バターコーンと餃子に半ライスはシッカリ注文してたりする。
「(毎度ながらどこに入るのよ…)」
それでも太らないマヤが不思議で、こめかみに指をやった。
「お兄さんも最近は物覚えが悪くなってまいっちまうよ。え〜っと、そちらの奥さんは醤油だっけかな?」
「はっ?」
いきなり奥さんと呼ばれ、私は思わずフヌケた声を挙げてしまった。
ミサトとマヤが声もなく笑っている。
どう見ても副司令の年代な自称お兄さんは、そんな私にお構いなく注文を確認すると鼻唄混じりで店の奥に消えて行った。
「ね、聞いたぁ〜?奥さんだってぇ!リツコが奥さんっ…ギャハハハハ!」
367リツコ:2009/02/21(土) 21:21:48 ID:???
「プッ、笑い過ぎですよ〜。ククッ…でもククク…ウケちゃいまアッハハハハ!」
そんな二人に、眉間に皺が浮かんでいきそうになる。
そんな大切な親友と、かけがえのない後輩が自分に存在することはとてもありがたいものだ。
ありがたすぎて、タメ息の一つも出てくるというもの。
「(この二人がタッグを組むと困るわ…)」
私は冷水に口をつけた。
まだ笑い合う二人を放っといて、煙草に火をつけ一服する。
空腹感を煙草で紛らわすように煙をくゆらせていると、店主が早々とラーメンを運んできた。
「はいよ、お待っとさん!」
そう言って、手際良くテーブルに置いていく。
と、傍らで煙をくゆらす私に店主は目をとめた。
「おや、うまそうに吸うねぇ〜。奥さんは煙草が好きなのかい?」
「…えぇ。」
聞かれて思わずそう答えると、マヤが下を向いて肩を震わせた。
「葉巻きやキセルも似合うよ?雰囲気がマダムだ。奥さんはマダムだろ?」
「…えぇ。」
あまりに威勢の良い店主に押されるままつい頷いてしまったら、麺をすすっていたミサトが口から勢い良く麺を戻した。
忍び笑いで堪えていたマヤも、これに身をよじらせる。
「ちょwオヤっさwリツコもwwヒヒヒ笑わせないwヒーッヒ腹が捻れヒヒヒwww…」
368リツコ:2009/02/21(土) 21:25:07 ID:???
ミサトはテーブルをバンバン叩いて振り子のように体を揺らしている。
「ん?面白いこと言っちまったかな?ま、ゆっくりして行きな。」
そう言うと、店主は店の奥にまた引っ込んでいった。
「クククッwせんぱ…笑ってスミマセン。………でも、でも今のは敢えてウケを狙ったのでしょうか?」
ようやく笑いを納めてくれたマヤは、真顔に戻るとよりによってそんなことを聞いてきた。
「……違うわよ。」
そんなマヤの天然ボケに脱力してしまう。
私は頭を抱えた。
そんな私達を、ミサトはおもしろオカシそうに眺めている。
「なに見てんのよ。ほら、早く食べないと麺が伸びちゃうわよ?」
私はラーメンに箸をつけると食べ始めた。
結構、美味しい。
「イケるでしょ?安くて美味いのよココ。隠れた名店なのよねぇ。」
麺を味わって食べる私にミサトは誇らしげに言う。
「そうね、珍しく味覚が合うこともあるのね。」
「奥さん、なんか言ったぁ〜?」
おとなしく食べていたマヤがまた吹いた。
私もそうだが、まったくミサトも口が減らないものだ。
でも、こんな風に過ごせる仲間が居ることは幸せなこと。
ラーメンをすすりながらそんなことを思った。
369名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/21(土) 21:51:58 ID:???
支援
370リツコ:2009/02/24(火) 19:55:14 ID:???
それにしてもだ、マヤがお嬢ちゃんと言われるのはわかる。
ミサトは29とはいえルックスは若いから、おネエちゃんなのもまだわかる。
でも、どうして私だけ奥さんなのだろう。
一体、幾つに見られたのかと思うと眉間にまた皺が寄ってきそうになる。
「うん、美味しいしボリューム満点ですね。見て下さい!餃子の中身がはちきれそうにこ〜んなギッシリ。」
独り物思いに耽っていると、マヤはご機嫌な様子で餃子を見せびらかしてきた。
すると、ミサトが鳥の雛のように口を開けた。
「あたしにも1つチョーダイ♪早く早く〜♪」
早くもとんこつラーメンを食べ終えたミサトは、口を開けたままマヤに催促している。
「横着しないで自分で取ればいいじゃない。」
マヤが餃子をミサトの口に持っていこうとする横で、私は突っ込みをいれた。
「なによ、リツコだってア〜ンってやってた癖に。」
その一言に、マヤが餃子を危うく落としかけそうになる。
「知らないとでも思ったァ?あたし、すぐ近くにいたのよ?」
ミサトはすかさず口で餃子をキャッチすると、モグモグさせながら得意満面でそう言った。
「誰かに食べさせてもらうのって別格ね〜。美味しいわよ、マヤちゃん♪」
371リツコ:2009/02/24(火) 20:01:04 ID:???
そして、私の顔色が七色に変化していく様を楽しそうに観察した。
「もぅからかわないでください、葛城さんっ!」
「そうそう、ドイツ支部の男連中がマヤちゃんのこと可愛いって言ってたわよ?あの青山主任だってガン見してたもんね。」
ミサトは文句をさらりと交わすと、どさくさ紛れに餃子をもう一つくすねた。
「……あなた、青山主任を介抱してたそうね。その前に何か話はしたの?」
青山主任の名が出たことで、私は思い出したように聞く。
「何か…っても、あたしとは畑違いじゃない。リツコ達のバカ話とかしたりぐらいよ。なんで?」
「……それが、マヤをドイツ支部に欲しいって言われたのよ。あの場で…」
私はまた苦虫を噛んだような表情を浮かべてしまったようだ。
マヤが落ち着かなげに私を見ている。
「あぁ!あの険悪な雰囲気の時ね。あんたそんなこと言われたんだ?まさか、いいですわねなんて…」
「私が言うわけないでしょっ。」
私は言下に否定した。
「わたし、リカさんにきちんとお断りしましたから…。」
マヤは、私とミサトをオロオロした様子で交互に見ている。
「ふ〜ん、目にかけているのは間違いなかったってことか。」
372リツコ:2009/02/24(火) 20:04:27 ID:???
ミサトはお冷やのグラスに口をつけ、何か考えている。
「間違いなかったって?」
ひとりわかった風なミサトに私は聞いてみた。
「なんとなく…ね。会話しててそう思ったのよ。マヤちゃんを物凄く気にかけているなって。言葉だけでなく雰囲気でも見てとれたから。」
「わたしを?なんでたろ?」
マヤは不思議そうに呟く。
が、ミサトはそれには答えずニヤリと笑うと私を見た。
「ま、相手が悪すぎたわね。上には上が居るってことよ。」
そして爪楊枝を取って口にくわえ、納得したような顔でひとり頷いた。
「なんにせよ、これまで通り何も変わることはないわ。ね、マヤ?」
黙々と頼もしく食べ続けるマヤを見やると、マヤはスープを飲み干しながらウンウン頷いている。
「おっちょこちょいでお笑いな葛城さんや、とんでもハップンな先輩のお世話をするのもわたしの役目ですし!」
見事に完食して顔を上げるとマヤはそう言った。
「「あのねぇ……」」
私とミサトの声がハモる。
この後、ミサトがお仕置きよとのたまるのを断り、小突かれたマヤが大袈裟にキャーキャー騒ぐのに耳を塞ぎ、最後に互いに微笑みを交わすという恒例行事が終了したのは言うまでもない。
373リツコ:2009/02/24(火) 20:07:41 ID:???
「あんた達、いつもこんななの?バッカみた〜い。」
「バ…バカとは何よ。」
ミサトは私達を呆れたように見ている。
冷静な目で見られていることに急に恥ずかしくなってしまった。
全く私も年甲斐もないものだ。
「ホントにあんた達は仲良しなのがわかるってもんだわ。さて、そろそろ帰ろっか?」
席を立つミサトの後に続いて私達も腰を上げた。
「いいわ、私がご馳走するわ。今夜は迷惑かけちゃったしね。」
「やりぃ〜♪」
会計で私が支払うと言ったらミサトは大喜びした。
マヤにはご馳走様ですと言われたが、その後にそれならチャーハンも食べたかったなとも言われて軽く脱力したのは余談だ。
遠慮のない胃の持ち主がますます頼もしくて、明日はいっぱい仕事を与えてあげようと思ったのは胸の内に留めた。
「オヤっさん、またねぇ〜♪」
「美味しかったです!また食べに来ますね!」
そんな二人の言葉に店主は嬉しそうに応答している。
「奥さん、今度はご近所のマダム達も誘って来てよ。葉巻きを用意しとくから。な?」
「…え…えぇ、そうね。ご馳走様でした。」
そんなメマイのする挨拶を交して店を出た。
374リツコ:2009/02/24(火) 20:10:44 ID:???
最後まで、どこかのマダムと思われていたことにヤレヤレとばかりに苦笑する。
今度からもう少しカジュアルな服でも着てみようかと思った。
似合うかはわからないけど。
それから私達はそれぞれ家路についた。


―翌日―

私は出勤すると、すぐ副司令に呼び出された。
副司令室に向かいながら、何か問題が発生したのだと予想した。
ただでさえ技術部は多忙なだけに、面倒な事態ではない事を願う。
「赤木です。お呼びでしょうか?」
「あぁ、入りたまえ。」
副司令室のインターフォンを鳴らしてそう告げると、扉のロックが解除された。
私は扉の前で一度深呼吸すると、中に足を踏み入れた。
副司令は壁に目をやり、背を向けるように机の側に立っていた。
「副司令、ご用件は何でしょうか?」
今現在で、仕事に遅延もないし作業は万事が順調な進み具合いだ。
もっとも、何か緊急の事態が発生すれば別だが…。
両手を後ろに組んだまま背を向けて黙って立つ副司令に、さっきの予想があながち的はずれではなかったことを感じた。
「…副司令?」
再度、声をかけると副司令はおもむろに振り返った。
机上の用紙を手にとると黙って私を手招く。
私は側に近寄って行った。
375名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/24(火) 21:13:41 ID:???
wktk
376名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/01(日) 10:09:00 ID:???
支援
377リツコ:2009/03/01(日) 21:06:07 ID:???
側に行くと、副司令は何も言わずに用紙を見せてきたので目を通してみた。
「……そんな!」
私は叫ぶように声をあげた。
そこには、マヤをドイツ支部へ異動させて欲しいという旨の要望が記載されていたからだ。
正式な書面として、末尾には副支部長のハインツ氏のサインがある。
「これはどういうことですか?マヤを異動させるというのですか!?私は断固…」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着きたまえ…。」
副司令は肘掛け椅子に座ると、声を荒げて迫る私を困った風に見上げた。
「昨夜、これを連中が渡してきよってな。」
副司令はその用紙に目をやると、厄介なことを要求してきたものだとばかりに言う。
「わしも君と同じ意見だ。伊吹君を向こうに差し出すつもりはないし異動なんて認めんよ。君が出るまでもなく、さっき、わしから連中にそう伝えたさ。」
「そうですか、それなら…」
良かった…と呟き、私はホッと胸を撫で下ろした。
副司令も今のこちらの状況を良く理解していてくれている。
私は安堵した。
「このことを、直属の上司である君に黙っているわけにはいかんだろ?それに、君達は半身一体のコンビなのだしな。」
「半身一体…ですか?」
378リツコ:2009/03/01(日) 21:07:54 ID:???
そう言われてオウム返しに問うと、副司令は当たり前の表情で頷いた。
何をわかりきったことをという風にだ。
「どちらかが欠けても支障がでるぐらいにな。見てればわかるさ。」
「そうですわね。マヤ…いえ、伊吹二尉がいないと技術部は回りませんし、つい私も頼りにしてしまうものですから。」
そう答えると、副司令の眉がオヤという具合いに上がった。
「公私に亘るパートナーと言えるよ。ハハハ、伊吹君に逃げられないよう大事にしないとな。」
「フフッ、ご冗談が過ぎますわ。その時は追いかけて捕まえるのみです。」
思わず私がクスリと笑うと副司令は何か思うように笑みを浮かべ、用紙をクシャリと丸めてゴミ箱に捨てた。
私はその動作を目で追いながら、これで一件落着したのだとあらためて安堵した。
「ご用件は以上でしょうか?それでは私はこれで…」
「あぁ、待ちたまえ。まだ続きがあるんだ。」
退室しようとする私を引き留めると副司令は顎に手をやり、打って変わって気難しげな表情を浮かべた。
「いやな、断ったのはいいんだが今度は………」
「今度は……何でしょう?」
言い淀むばかりなその口調に、後に続く言葉が気になる。
379リツコ:2009/03/01(日) 21:10:18 ID:???
決して良い言葉が聞けそうにない予感を抱きながら、私は急かすように先を促した。
「それが、伊吹君が駄目なら青山主任がこちらに異動して来たいと言ってな。」
「青山主任がうちの技術部へというのですか!?」
一体、どういうつもりでそんなことを言ってきたのかと私は心底驚いた。

眉間に皺が寄ってしまったのだろう、無意識に指をあててしまう。
「そうだ。是非、うちに協力したいと言われてな。…まぁ、ここは一つ面倒を見てはくれないか?」
「つまり、今仰られたたことは既に決定事項ということですか?」
そう問うと、副司令は苦笑を浮かべて頷いた。
「あぁ、来月正式に辞令がおりる。…碇の奴、わしに何の相談もなく勝手に決めよったわい。」
「司令が……そうですか、承知いたしました。人手が足りないだけにありがたい話しですわ。」
昨夜のことは水に流すと言っておきながら、まだ私はわだかまりを抱えているのだろうか。
頭に重石を乗せられたような気分でそう答えた。
「まぁ、君が今何を思っているかはわかってるよ。話せばなにかと見えてくるだろう。…おいおい、そう落ち込まないでくれ。」
私はそんな沈んだ表情をしていたのだろうか。
380リツコ:2009/03/01(日) 21:12:05 ID:???
副司令は困ったように私を見ている。
「いえ、私は別に…。あの…では、今から受け入れ準備をしないといけないですわね。」
「それは君に一任する。本人に確認して必要な手配を段取りしてくれたまえ。具体的なスケジュールが決まり次第、また追って連絡をしよう。話しは以上だ。」
「はい、承知いたしました。それでは失礼いたします。」
私は一礼すると退室した。
そのまますぐ仕事に戻る気分にもなれず、ひとまず休憩コーナーに向かった。
意味もなく口の中が渇いていたこともあるが、これからのことを頭の中で整理したかったからだ。
青山主任の担当業務をどうするかも含め、まずは彼女と直接話しをしないといけない。
それを考えると、胃が砂袋のように重くなるのを感じた。
「(やだ、今からこんなでは先が思い遣られるじゃない…)」
自分では思ってもみなかったが、どうやら苦手意識がスッカリ刷りこまれているようだ。
彼女が私の下につくというのに、こんな腰がひけていては面目もない。
そんな苦手意識を払うように頭を左右に振ると、私はドリンクの自販機前で足を止めた。
「(そうね、ホットミルクにしようかしら。)」
硬貨を投入すると自販機のボタンを押した。
381リツコ:2009/03/01(日) 21:15:50 ID:???
たまにはコーヒー以外のものでも飲んでみようかと思ったのは、日頃からカフェインを摂取し過ぎていると注意を受けているからだ。
勿論、そんなことを私に言ってくる人物は決まっている。
「(やれやれ、とうとうコーヒーまで言われるなんてね。)」
ニコチンとカフェインの多量摂取が如何に有害かを私に説く後輩のことが思い起こされ、フッと口元に笑みが浮かんだ。
私の健康を自分のことのように心配してくれているだけに、言われてしまうとグウの音もなく頭が上がらない。
言われるがまま、素直に従っている自分をおかしくも思うが。
自販機からホットミルクが入った紙コップを取り出すと、フゥフゥしながら口につけた。
遅くまで残業して疲れた時などに、マヤはこのホットミルクをよく飲んだりしている。
そんな時、子供っぽいものをまた飲んでいるものだとばかりに私はからかったりする。
が、こうして飲んでみると、たしかにホッとするものを感じて落ち着きをおぼえる。
少し砂糖が入って甘さがあるからだろう。
ミルクは胃の粘膜を保護してくれるという話のようだが、今の私には丁度お誂え向きな飲み物だ。
ベンチに座り、胃を守るように手をあてながら少しずつ口につけて飲む。
382リツコ:2009/03/01(日) 21:19:00 ID:???
それにしても、今しがたの副司令室での話しの急展開さには驚きを禁じえないばかりだ。
何故、急に青山主任はうちに異動を願いでたのだろうかといぶかしむ思いにとらわれる。
彼女の優秀さは人づてには聞いていたし、私自身も昨夜の内に彼女が発表した幾つかの論文や研究成果に目を通してみたことでその確認はできている。
おそらく、彼女は技術屋としての腕をここで試したいのかも知れない。
彼女の己への絶対的な自信ぶりからそれが妥当な線だと推測できた。
「(私もうかうかしてられないわ…)」
そう胸の内で呟くと、紙コップを握り締めて一気に最後まで飲み干した。
白衣のポケットから煙草を取り出し一本抜いて口にくわえる。
火をつけて紫煙を吐きながら、今日これからの予定を頭に思い描いてみた。
実験データの解析と検証は今は急がなくても良い。
まずは青山主任とこれからの話しをしなければならない。
得意分野や希望業務の意向を確認すると同時に、こちらの状況を説明しなければならない。
それに住居の確保も手配しないとならないが、これは後で総務に相談すればいいだろう。
「(……では、早速とりかかるとしますか。)」
383名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/03(火) 06:46:10 ID:???
wktk支援
384名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/17(火) 21:53:41 ID:XT4pbTpP


Ineedyou.
385名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 17:46:49 ID:???
>330
386名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 17:55:42 ID:???
>367
387名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 21:24:36 ID:???
>275
388名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/22(水) 03:28:10 ID:???
このスレでのミサトのキャラが好きw
389リツコ:2009/04/26(日) 18:02:40 ID:???
保守をしていただきありがとうございます。
また、更新が遅れて申し訳ありません。
私の知己である中の人という者が入院をしていたため執筆ができませんでした。
GW中には続きを始めたい所存でおりますので、またお付き合いをいただければと思います。
390マヤ:2009/04/26(日) 18:24:32 ID:???
先輩っ、知己であるってどういうことですかっ!?
中の人って…一体どういう関係なのですかっ!?
どうして先輩が世話を!?
そんな…そんなっ!
先輩が…先輩が…不潔になっちゃっただなんてぇぇーーーっ!!(ノД⊂)





―――――ドンガラガッシャズベバキボカッ!!―――――



……あぁ〜ん痛いですぅ〜(ToT)

391リツコ:2009/04/26(日) 18:34:27 ID:???
マヤ……あなた何か勘違いしているようね…。
中の人はミサトみたいなもの…いえ、ある意味ミサトよりタチが悪い友人なのよ。
身寄りがないから私が色々と面倒を見てあげていただけ。
いい?
392マヤ:2009/04/26(日) 18:43:15 ID:???
そうだったんですか!
さっすが先輩、お優しいです(はぁと)
わたし、明日はお友達と同人誌の即売会に行くというのに、ショックで危うく精神汚染の末に活動限界になるとこでしたヨ(*^o^*)
393リツコ:2009/04/26(日) 18:47:53 ID:???
なっ………(-"-;)
活動限界してて頂戴っ(-_-#)
394名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/27(月) 07:13:21 ID:???
支援
395名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/27(月) 18:17:04 ID:???
中の人心配だけど頑張れ支援
396名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/30(木) 01:10:04 ID:???
駆け足で読みましたが良かったです。
良い感じのリツマヤが読めて最高!
これからも是非書き続けていただきたいです。
397名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 14:46:52 ID:???
リツコの誕生日にマヤはパジャマを用意してたけどリツコが帰った翌日とか
マヤは自分で着てそうなw(「先輩の匂い」とか何とか言って)
幸せになれることを祈る
398名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 17:55:24 ID:???
>>397
萌えた
399リツコ:2009/05/01(金) 19:34:55 ID:???
最後に深く一服をキメてから煙草を灰皿で揉み消すと、私は自室へと向かった。
戻るとすぐに青山主任の居場所を確認すべく、ミサトにコールをいれてみた。
「私よ。あのね、ドイツ支部の人達の本日のスケジュー……えぇそう、青山主任に用よ。…えっ?あなた知ってたの?……そう、今一緒に第7ケイジに……なら、そっちにコールするわ。…えぇ、ありがとう。」
手短に要点だけ聞くと話を終えて、再びまたコールボタンを押した。
その呼び出し音を聞きながら、青山主任の異動の話を既にミサトが知っていたことにあらためて驚いた。
諜報部顔負けな情報収集の素早さは、ミサトの野次馬魂ならではのものだ。
何でも首を突っ込んでみようとするその性格を考慮すると、間違いなく後で何か言ってくるだろう。
その予想に思わずかぶりを振ると、コール音が止んで呼び出しが繋がった。
「技術部の赤……あぁマヤ?私よ。今そこに青山主任が居るわよね?…えぇ、用があるの。後で私の部屋に一緒に来て欲しいのよ。……えぇ、午後イチで構わないわ。……えっ?や…やぁね、今日はまだ3本……はいはい、わかったわ。じゃあ切るわよ。」
また手短に話して通話を終えると、今度は苦笑した。
400リツコ:2009/05/01(金) 19:39:54 ID:???
話しの途中で、いきなりマヤに本日の喫煙本数を確認されたからだ。
小姑道を極める一方なマヤの今後を想像すると、なにやら背筋に冷たいものが流れ落ちてくる。
「フフッ、本当は倍の6本だけど…ね。でも1日1箱の約束は破ってないからいいでしょ?」
つい過小申告をしてしまったことに後ろめたさを感じながら、机上の黒い猫の置物をなんとはなしに手にとりあげてそんな言い訳をしてみた。
私の掌にちょこんと座る黒い猫は、キョトンとした様子で私を見返すようにしている。
その猫をジッと見ていると、マヤの黒髪がダブって映るように思えてくる。
「フフッ、このコにマヤを投影してしまうとはね。」
そう呟きながら掌の中の猫を机上に戻した。
再び定位置に置かれたその猫の隣には、色違いで白い猫の置物がある。
ふと視線がそちらに動くと私は一瞬たじろいだ。
私の一挙手一投足を観察していたかのようなその猫の視線と合った気がしたからだ。
「…やぁね、別にあなたの相方を取るつもりなんてないわよ。そんな怖い目で見ないでくれる?ね、…えっと……リツコ?」
私を睨むようなその白い猫に苦笑が浮かび、私は諭すようにそう話しかけた。
あれはいつのことだろうか、マヤがこの白い猫が私に似ていると言ったのは。
仕事が長引いて夜遅くなった時などに帰りを共にするマヤは、私の支度が終わるのを待つ間、この猫の置物をよく楽しげにいじっている。
そんなある日に、マヤが言ってきたのだ。
『ねぇ先輩?このコに金のウィッグをしたら完璧ですよね。』
最初はなんのことやらわからなかった。
いつもの天然がまた始まったかと目が点になったまま黙る私に、マヤはこの猫が白衣姿の私にとてもよく似ているのだと力説してきたのだ。
401リツコ:2009/05/01(金) 19:45:18 ID:???
それからのマヤは、時折、私をからかうように『セ〜ンパイ♪』とこの白い猫に呼びかけたりしている。
「まったく、あのコったら…」
変なことを思い出したものだとばかりに苦笑する。
でも悪い気はしない。
むしろ、どことなく楽しいような嬉しいような気持ちになってくる。
そのまま仲良く並ぶ二匹の猫を満足気に眺めていると、腕時計のアラーム音が鳴って我に返った。
「いっけない、もうこんな時間なの?」
猫に気をとられてる内にかなりの時間が経ってしまっていた。
予算会議の時間が始まろうとしている。
技術部はただでさえ金食い虫と言われて肩身が狭い。
そんな肩身が狭い部から、これから予算折衝の場に代表で赴かねばならないのは立場とはいえ気が重くなるものだ。
「さってと…」
慌ただしく会議資料の準備を済まし、再び猫の置物に目を向けた。
「あなた達、しばらくお留守番頼むわよ?」
白い猫は凛と澄まし顔でこちらを見返すように、そして黒い猫はキョトンとしながらもウズウズとした表情でいるように見えた。
「…それと、あなたは悪戯しちゃダメよ。いい?」
黒い猫の頭を撫でてそう言い聞かせると、『そんなことしないですぅ〜!』とばかりな地団駄を踏むような声が聞こえた気がした。
このコはまるで……やはり、似ている。
「フフッ、ちゃんと見張っててね。」
そして白い猫にそう告げると、『えぇ、任せなさい。』と今度は自分の声が聞こえた気がした。
私はクスリと笑うと名残惜しむように部屋を一旦後にした。
会議は思っていたほど長引かず、財政難な状況の中とはいえすんなり希望する予算枠を確保することができた。
これも使徒戦における技術部の役割の比重が特大であるのは、今更、言うまでもないことなのだが。
そのため私は小1時間ほどでまた部屋に戻ってこれた。
部屋に入ると自然と二匹の猫に目がいく。
402リツコ:2009/05/01(金) 19:50:18 ID:???
「ご苦労様。いいコにしててくれた?」
その問いに、私の分身は当然といった態度で、もう一方はシュンと項垂れているような様子に見えた。
「あら?あなた怒られちゃったの?フフッ、言うこと聞かなかったみたいね。」
そのもう一方は、私の分身の様子を上目遣いに伺うかの如く、耳まで項垂れさせているかに思えた。
そんなシュンとした様子に、私自身をついつい投影してしまう。
なんといっても現実では私の方が小言を言われまくりなのだから。
「フフッ、お互いに辛いわね。私もいつも怒られているもの…。」
その黒い頭を撫でながら、なんとはなしに呟いてみせた。
「怒られているって何が?」
「タバコでしょコーヒーでしょ、それから食生活に美容に睡眠…とにかく生活全般に及ぶのよね……って、えぇっアスカっ!?」
私は小さく飛び上がった。
いつの間にかアスカが背後に近づいていたことに驚く。
アスカはそんな私をいつもの仁王立ちポーズで呆れたように見ている。
「えぇっ、アスカじゃないわよ。何をブツブツ言ってんの?ちょっとぉ〜…ね、早くもボケが始まっちゃったんじゃないでしょうね?」
「ご挨拶ね……。どうしたの?今日はシンクロテストはないわよ?」
アスカを椅子に座らせると、ポータブル冷蔵庫からジュースを取り出して渡した。
「リツコの部屋って何でもあるのね〜。おまけに綺麗だし。ミサトも見習って欲しいわ。」
そう言って室内をひとしきり見渡すアスカ。
そんな彼女もミサトのことは言えそうにはないのだが、勢いよくジュースのプルトップを開けるとゴクゴクと飲み始めだした。
「それで今日はどうしたの?アスカがここに来るなんて珍しいわね。」
私も椅子に座ると自分のマグにコーヒーを注いだ。
403リツコ:2009/05/01(金) 19:54:45 ID:???
「ミサとから聞いたわよ。リカがこっちに異動するんでしょ?だから、わざわざ来てあげたのよオ?」
「…あぁ、アスカはドイツ支部に居たから青山主任は知ってるわよね。そうよ、これから受け入れ準備で忙しいわ。暇潰ししたいならシンジ君に相手してもらいなさい。ここは遊び場じゃないのよ。」
コーヒーを口にしながらそう答えた。
「別に遊びに来たんじゃないわよ?リツコに知恵を授けに来たあたしを邪険にするつもりィ?」
「……知恵?…アスカが?私に?」
危うくコーヒーを吹き出しそうになり軽くむせた。
そんな私にアスカはむくれる。
「折角リカのこと教えようと思ったのに……。フンッ、邪魔したわね。帰るわ。」
アスカは飲み終わったばかりのジュースの缶をドンと机上に置くと、椅子から立ち上がり部屋から出ていこうとした。
「ちょ…!アスカ待って…待ちなさいって!」
その肩を掴もうとすると、アスカがゆっくりこちらを振り返った。

ニヤリ( ̄ー ̄)

アスカはそんな表情を浮かべていた。
「フフ〜ン、絶対にそうくると思った!単純よね、リツコも。」
ミサトがよくするニヤついた笑いをしている。
いくらミサトと生活を共にしているからって、こうも似通ってくるだなんて。
まるでミサトを相手にしているみたいで、なんだか腹立たしくなってくる。
「…大人をおちょくるものじゃないわよ。で、何を教えてくれるつもり?」
眉間に浮かび上がってきた皺を揉みほぐして改めて聞く。
「昨夜のこと聞いたわよ。早速、リカと派手にやり合ったっていうじゃない?あたしも見たかったなぁ〜。」
「なっ…馬鹿言わないの。ミサトったらお喋りね。でも、そのことならもう過ぎたことよ。頭の切り替えはとうに済ませたのだから。」
私はそう返すと、またコーヒーに口をつけた。
そんな私をアスカは何か思うように見ている。
404リツコ:2009/05/01(金) 19:58:47 ID:???
「リツコのことだから、リカの身上書はもう見たわよね?だからそれ以外のことをアドバイスするわ。まず、リカと接する時はリツコ自身に接すると思うことを常に念頭に置くべきね。…わかる?」
またもや眉間に皺を浮かべだす私。
アスカが何を言いたいのか意味を掴みかねる。
「わかんない?じゃあ、ハッキリ言うわ。リツコとリカはね、ソォ〜ックリなのよ。あたしが日本に来て初めてリツコに会った時は既視感を感じたわ。」
「…冗談はヤメてくれる?。私は好戦的ではないし自信家でもないわ。ましてや他人を挑発する真似なんてしないわよ?アスカが私をそう見ていただなんて悲しいものね…。」
私は眉をわざとらしくひそめてみせた。
「そのことはひとまず横に置いて最後まで聞きなさいよ。あたしがソックリと言ったのは、雰囲気とか口調とかの立ち居振舞いについてのことよ。頭脳明晰で仕事熱心、おまけに弁が立つとこまで一緒なのよ?」
「それならミサトにも似てると言われたわ…。私は同意しかねたけど。さすがに顔まで似ていると言われなかったのは幸いかしら。」
私はモヤモヤした気分を誤魔化すように自分の頬に両手をあてた。
「まぁ、あたしには負けるけど、リツコもリカもなかなか美形よね。二人にこれだけ共通する部分があれば、好みまで似ちゃうのも当然か。」
「言うわね。でも、好みって何のこと?」
話の筋が見えなくなったのでそう問うと、アスカは咳払いをして視線を宙にさ迷わさせた。
「…とにかく、職場で無用な波風立たせないためにもリツコはもう一人の自分に接する心構えでいなさいよね。ベストとは言えなくともベターな状況を保てるわ、当面の間は。」
「あら、親切な助言をありがと。でも、当面っていうのはどういう意味?」
405名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 19:58:52 ID:???
支援
406リツコ:2009/05/01(金) 20:03:22 ID:???
ミサトだけでなく、アスカにまで似ていると言われたことは、少なからぬ衝撃だった。
加えて思わせ振りなアスカの言葉も引っかかる。
「ねぇ、どういう意味よ?」
私が椅子から身を乗り出すと、アスカは困った顔で黙って私を見上げる。
「……賢い癖にドン感で鈍いわよねぇ。まるでシンジだわ。じれったく思う時もあるけど、それがリツコなのよね。まぁ、あたしはそういうとこ嫌いじゃないわよ。」
「なぁに?黙って聞いてれば、独り達観した口調でなにやら語ってくれるわね。ちゃんと言いなさい。」
腕組みをして睨む私に対し、アスカは今度は苦笑の色を浮かべる。
「そういうのは自分で気付くべきことよ。…いいこと?あたしはリカともリツコとも親しいけど、どっちかの味方をするとかいうつもりはないですからね。」
「私は青山主任と敵対するつもりはないわよ?同じ技術部の仲間であるし、ましてや私の下で働いてもらうことになるのだから。」
眉をあげてそう返すと、手持ちぶさたにマグの縁を指でなぞった。
「それならいいのよ。二人が荒れたら、困るのはマヤを始めその他技術部の人達になるんだから。」
「……アスカも随分と成長したわね。あなたの口から、まさかそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ。」
得意満面に話すアスカを意外な面持ちで見つめてしまった。
ドイツでは既に大学を出ているほどの優秀な頭脳の持ち主である。
そんな大人顔負けな経歴を持つアスカも、精神面ではまだまだ未熟な一人の少女に過ぎない。
そんな勝ち気で生意気でしかなかった少女から、まさかの気遣いを受けたことは目から鱗に値する程な出来事であった。
「な、なによ…ジロジロ見ちゃって。あたしの顔に何かついてるとでも言うの?」
ジッと見られていることに居心地が悪くなったのか、不審そうな声をあげる。
407リツコ:2009/05/01(金) 20:08:05 ID:???
「フフッ、違うわよ。アスカが成人だったら技術部に欲しかったなって思ってたとこよ。あなたは頭脳明晰だし、私も鍛えがいがあるわ。」
「ふ〜ん、将来考えてあげてもいいわよ?物理は専攻していたしね。でも、その頃にはリツコは定年退職じゃない。」
聞き捨てならぬ最後の一言に、私は椅子から落ちそうになった。
顔の上でズレまくるメガネを直すと、こめかみに指をあてる。
「あのね、今、幾つと思って…」
「いぃぃっけないっ!あたし、ヒカリと遊ぶ約束してたんだっけ!じゃリツコ、そういうことだから。」
私の言葉を遮るようにアスカは叫ぶと慌てて立ち上がり、茫然自失な私を尻目に部屋を出て行こうとする。
「さっきも言ったけど、あたしはどちらの味方もしないわ。でも、個人的にはあんたを応援したいわね。……頑張んのよ。」
扉口で振り返ってそう言うと、竜巻のような早さで部屋から去って行った。
「な、なんなのよ……一体…。」
そのままアスカが去って行った扉口を見ているだけだった。
結局、アスカが何を言わんとしていたのかはいま一つ要領を得ることは出来なかった。
が、昨夜の一件を耳にしたことでアスカなりに心配をしてくれだろう。
そう解釈した。
「人って成長していくものなのね…。フフッ、私の心配より自分のことを考えなさいな。」
ジュースの空き缶を片付けると、また猫の置物に目を向けた。
アスカが缶を置いた時に、二匹共、揃って仲良く倒れてしまっていた。
それを起こし直す。
「私はどう?成長してるのかしらね?」
誰にともなく呟くと、部屋付けのスピーカーから軽やかなチャイムの音が流れた。
壁時計に目をやると時刻は正午を告げていた。
「…やれやれね。午前中はまともに仕事をしなかったわ。」
午後はこのあと青山主任に会う予定になっている。
408リツコ:2009/05/01(金) 20:11:01 ID:???
その予定が控えているのだと思うと、やはり溜め息の一つも溢れ落ちてしまうものだ。
「フゥ〜…ねぇ、私の代わりをしてくれないかしら?」
分身の猫にそう話しかけてみた。
『断るわ。』
そんな返事が聞こえてきた気がして苦笑する。
つい今しがたアスカに頑張るように言われたばかりなのに、逃げの一手を打ちたい心境でいるだなんて。
「……なんてね。今の冗談よ。」
分身の猫にそう告げると、昼食をとるため食堂へ向かうことに決めた。
腹が減っては戦は出来ない。
これはマヤの口癖だ。
「フフッ、仲良くしてるのよ。」
そう二匹に告げて、部屋を後にした。
409名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 20:33:37 ID:???
wktk
410名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 20:45:47 ID:???
支援
411名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/01(金) 22:13:54 ID:???
wktk支援
412リツコ:2009/05/04(月) 13:48:49 ID:???
空腹を感じるまでではなかったので軽めに蕎麦を食し、部屋へと舞い戻った。
アスカが言った通り青山主任の身上書は既に見てはいたが、斜め読みであったため机の引き出しからそれを取り出すともう一度目を通すことにした。
「えぇと…出身は京大で階級は一尉…と。家族構成は……セカンドインパクトで…そう……頼れる身内は無し…か。」
私はかけていたメガネを外して机に置き、椅子の背もたれに寄りかかった。
身内が誰一人いないということは私達の世代では珍しくはなく、自分自身のみが頼りな境遇では自ずと個性も強くなるものだ。
ふと、ミサトのことを思い返す。
普段はおちゃらけて誰彼となく自分をさらけ出しているように見えてはいるが、彼女は決してそう安易な人物ではない。
実態は冷たい程にシビアだ。
何かを抱えているのに、決して他人に悟られまいとする。
私に対してでさえ己の領域に踏み込ませまいと頑なだし、また自らも一線を引いて相手の中には踏み入ろうとはしない。
ミサトを引き合いに出したが、肩肘張るような青山主任の姿の原点は、そんな境遇から始まったのではないか…何故かそう思った。
勿論、かつての私もそうであったことは既に自覚済みである。
というよりも、私の場合は未知の引力に惹き付けられたのがそもそもの自覚の発端の始まりであった…が、正しい言い方であろうか。
殊更、引力という言葉に例えたのも、そんな私達とはまるで対照な存在がごく身近にいたことによる影響からである。
言うまでもなく、それはマヤの存在に他ならない。
マヤも同様な境遇であるにもかかわらず、まるで人を疑うことを知らぬ裏表のない天真爛漫な人物である。
素直一直線とでも言えばいいのだろうか。
そんなマヤのおかげで私もだいぶ柔軟さを身につけ、また、まともな感情表現の仕方が出来る人間になりつつある。
「身上書を見てただけなのに、勝手に洞察までするだなんてね…。二人に失礼だったかしら?」
頭の後ろで両手を組むと、ストレッチするように軽く伸びをした。
413リツコ:2009/05/04(月) 13:53:45 ID:???
他者に思いを巡らしてみる自分に意外さを憶え、なんだかおかしくなってしまった。
「…これって、少しは心に余裕が出来てきた証よね。」
再び身上書を手にしてみると、そんなミサトと青山主任…そしてかつての自分が滲むように重なる。
かつての自分などという言い方をするとまるで過去完了な表現に聞こえてしまうが、私はまだ変化の途上にある。
私は掌をジッと見つめながら、あの日、マヤの部屋で堅い握手を交わすまでの一連の出来事を思い返した。
「暖かい手だった…。」
回想に耽っていると、扉口から人の気配を感じた。
「先輩、リカさんをお連れしました。……あのぉ…先輩?」
「…あぁ…ごめんなさい、ちょっと考え事してたわ。」
回想から引き戻されて振り返ると、扉口にマヤと青山主任の姿があった。
いつの間にか午後の始業時刻が過ぎていたことに気付く。
「マヤ、あなたは下がっていいわ。ありがとう。……青山主任、こちらへ…。」
マヤが一礼して去ると、青山主任を手招いて座るように促した。
「赤木博士、昨夜は大変失礼をいたしました。数々の暴言をお許し下さい。」
青山主任はそばに近付いて来るやそう口を開くと、深々と頭を下げてきた。
「酒席とはいえ、立場も弁えず軽率な振る舞いをしたことを深く反省しており…」
「ちょ、ちょっと…青山主任、頭を上げなさい。」
昨夜とは打って変わってあまりに謙虚な態度に私は面食らってしまった。
頭を上げる青山主任は申し訳なさの一言につきる表情をしている。
これが昨夜と同一人物とは…私は狐につままれる思いにとらわれた。
「……酒席での過ちは誰にでもあることよ。あなたが謝罪してくれたことを嬉しく思うわ。…さっ、まずは座りなさい。」
その言葉にようやく腰かけようとする青山主任を横目で確認すると、コーヒーを二つのマグに注ぎ一つを渡した。
「さて…何でここへ呼ばれたかは察しがついているわよね?」
「えぇ、私の異動の件のことかと…。」
共に同時にコーヒーに口をつける。
「あなたもブラックで飲むの?」
「…えぇ…。」
用意したミルクと砂糖に目もくれなかったことで、なんとなくそんな質問を振ってしまった。
414名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/04(月) 13:57:56 ID:???
支援
415リツコ:2009/05/04(月) 14:00:11 ID:???
予想しない質問をいきなりされたことで戸惑っているような返事に聞こえる。
「…早速、本題に入らせて貰うけど、あなたがこちらへ異動願いをした理由を聞かせて貰えないかしら。」
「こちらの技術部の力になりたいからですわ。要である日本支部で働きたい……では、駄目でしょうか?」
背筋をピンと伸ばす青山主任。
その質問を予期していたかのように模範回答が返される。
私は膝を組んだ。
「駄目も何も…あなたの異動は既に決定済みよ。正直な所、今朝の話に私はまだ驚いているわ。……あなた、最初はマヤをドイツへ欲しいと言ったそうね?」
「……………」
私は模範回答に感じた違和感を指摘したが、青山主任は黙ったまま答えようとしない。
「……あなた、ここでのマヤの重要性がわかっている筈なのに、随分とマヤに拘るのね。別に改めてそのことに文句を言うわけではないのよ。マヤの異動が駄目とわかったら、あなたがこちらに来たいという話になったのが解せない…」
「こちらで自分の持てる能力を生かしたいのは確かな理由ですわ。でも…博士が仰る通り、一番の理由は伊吹さんなのかも知れません……と答えたら、博士はどうなさいますか?」
青山主任は私の瞳を射抜くかのように視線を合わすとそう答えた。

昨日、初めて会った時に向けられたあの視線が再び私を貫こうとする。
「……どうするもないわよ。今言った通り、あなたの異動は決定済みなのだから。…で、ドイツにいるあなたの部下達については大丈夫なの?異動するまでの間、支障がないようにしておいて欲しいわ。」
「彼らなら、もう私が居なくても充分にやっていける力がありますからご心配はありませんわ。」
青山主任は涼しげにそう答えるとコーヒーに口をつけた。
「そう…ならいいわ。それで、あなたのこちらでの担当業務について相談させてもらうけど、特に希望はあるかしら?」
416リツコ:2009/05/04(月) 14:05:00 ID:???
「私は神経生理に関する研究を主としています。こちらでも同様に、エヴァとパイロットを繋ぐ神経接続に関する分野を専門にしたいのですが宜しいでしょうか?」
青山主任は膝の上に置いてあるファイルから何枚か資料を取り出すと、こちらへ拡げて見せてきた。
随分と用意がいい。
資料を受け取りメガネをかけると目を通して読んでみる。
「………わかりました。こちらでも引き続き研究を頼むわ。それと、住居に…」
「あの、博士…もう一つお願いしたいことがあるのですが…。」
青山主任は返された資料をしまうと口を開いた。
「何かしら?」
「…伊吹さんの指導を任せていただけないでしょうか?勿論、彼女の本業を妨げない範囲で…。彼女、私の研究分野に興味があるみたいで……嬉しくなりますわ。」
マグを持つ私の手が微かに震えた。
コーヒーの表面が緩やかに波立つ。
「………マヤが、そうしたい……と?」
波打つ表面を見つめるように問う。
「…いえ。…ただ、彼女の知識と発想の豊かさは博士もご存知でしょう?彼女が私の下についてくれるならば私も研究がスムーズに進めやくなりますし、彼女も能力をブラッシュアップできると思いまして……技術部にとっても良い事かと…。」
青山主任の口元が軽やかに綻ぶ。
「どうでしょう?それとも、何か…博士に不都合な問題が生じますか?……伊吹さんをすぐ傍に置いておかねばならないとかのような…。」
「………いいでしょう…マヤの指導を認めます。ただ、これからの成長が楽しみな者は他にも沢山いるわ。マヤ個人だけでなく、あなたの力を必要とする者全体に目を配るようにしてあげて。」
私はマグを置き、手の震えを解くように揉みほぐした。
自分の手とは思えないぐらいに強張っている。
「…私は自分が能力を見込んだ者か、若しくは見込めそうな者にしか興味はありません。お言葉ですが、こちらの技術部では、博士、あなたと伊吹さんぐらいなものですわ。」
「っ……そういう言い方は止しなさい…。うちのメンバーは皆、それなりの才能を有しているのよ?何も知らない内から勝手に評さないで頂戴。」
417リツコ:2009/05/04(月) 14:17:38 ID:???
昨夜のように、ウッカリまた声が大きくなりそうになる。
これからを共にしていく仲間を掴まえ、無能とばかりな烙印をサッサ押して切り捨てるような姿勢を見せるだなんてどういう了見なのか。
表情の読めない青山主任の顔を見つめながら、やはり鼻持ちならない相手だと私は思った。
「…フフッ、たしかに仰る通りですわね。失礼しました。では、私なりに全体を見させてから善処することにいたしますわ…伊吹さんも含めて。」
「…あなたは研究畑できているし個人プレーが当然なのかも知れないわね。でも、こちらではチームワークも考えるようにして。逸脱されると全体の士気の乱れを招くわ。いい?」
「えぇ、承知いたしました。」
私はコーヒーに口をつけると、膝を組み替えた。
「それともう一つ……マヤは私直属の部下よ。いかなる場合でも私の指事が優先されることは覚えていて頂戴。」
「………仰せのままに、博士。」
少しの間を置き返事が返される。
どこかくぐもったようなその声音に、私は不服の色を感じとった。
そのまま互いに相手の様子を探るかのように、私達はしばらく押し黙っていた。
「……結構。次に、あなたの住居について…」
重い空気に耐えられず先に口を開いたのは、結局、私だ。
その後は住居の手配など必要な事柄の確認を全て終え、受け入れ準備を滞りなく済ませた。
「では青山主任、期待しているわ。」
「…宜しくお願いします。」
私が握手を求めようと手を差し出す前に、先に青山主任が手を差し出してきた。

『左手はね、別れの握手……』

いつかどこかで、そんなフレーズを耳にしたことがある。
目の前に差し出された左手に、そんな記憶を呼び覚まされた。
「宜しく…。」
それに応えて私は自分の左手を差し出すと握手を交わした。
「博士、私は明日にドイツに戻りますので、次にお目にかかるのは来月の配属当日となります。楽しみにしておりますわね。…では、私はこれで…。」
「わかったわ…。ご苦労様。」
青山主任は静かに立ち上がると一礼し、部屋から出ていくのを私は見送った。
418リツコ:2009/05/04(月) 14:24:32 ID:???
扉が閉まると自分の左手に視線を移す。
「冷たい手…。」
握手をした時、あまりの冷たさに痛みを感じてしまった。
すぐにでも手をほどきたいぐらいだったのに、青山主任は私の手をしっかり握って離そうとはしかった。
芯からくるような冷たさでもって、傷つけてくるような痛み。
実際に手に傷がついたわけではないのに、血が流れてないかを確認するように私はいつまでもずっと自分の手を見つめていた。
419名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/05(火) 10:19:42 ID:RQr842RZ
ここのリツマヤ良いですね。
この時期にこれだけのモノが読めるのは幸運。
しかも長編だし、支援アゲ。
420名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/05(火) 23:04:41 ID:???
支援
421リツコ:2009/05/06(水) 15:14:49 ID:???
夜、早目に帰り支度をしていると案の定というか、やはりミサトが部屋へ訪れて来た。
「今日はもう帰るんだ?」
「えぇ、少し疲れてるの…。熱いお風呂に入って早く横になりたくて。」
手を止めることなく私は答えた。
「ねっ、青山主任と話したんでしょ?どうだった?」
「…別に……受け入れに必要な事柄を確認しただけよ。それより、アスカに昨夜の話をしたわね?」
隣に立ち、そっと囁くように小さい声で聞いてくるミサトを睨む。
「あぁ、何か言われちゃった?」
「あぁじゃないわよ、あぁじゃ……。どうせ面白おかしく吹聴したんでしょ?思いもよらぬ心配を受けたわ。」
私は脱いだ白衣をハンガーにかけた。
「んなことしてないって!ありのままを話しただけよォ?アスカは青山主任を知ってるし、そりゃ心配ぐらいするでしょよ。なんたって、目を輝かせて話に食いついてきた位なんだから。」
「……いいわよ、もぅ…。」
疲れている所に更に疲れが加わり、私はこめかみに指をあてた。
「それにしても急な話だったわよね。まさか青山主任がリツコんとこに来るとわねぇ…。ね、聞いてんの?」
「…えぇ、聞いてるわ…。うちの部は忙しいのが商売よ。司令なりの配慮と思うことにするわ。」
溜め息をついている私の横腹を突っついてきたので、また大きく溜め息をつくとそう答えた。
「そんな浮かない顔しなくてもいいじゃない。だって、青山主任って向こうのホープなんでしょ?役立つ人材が来んだから願ったり叶ったりよね。あんたんとこ、かなりラクになるってもんでしょが。違う?」
「それはそうだけど……。でも、ああいうタイプはちょっと苦手よ。個の特色が強過ぎて、うちの中で上手く連携をとろうとしてくれるか不安を感じたわ。」
422リツコ:2009/05/06(水) 15:19:42 ID:???
昼間、部屋で会った時のことを思い出しながら、その時の様子をミサトに話して聞かせた。
黙って耳を傾けてくれるミサトだが、尚もかぶりを振っている私に徐々に肩を怒らせ始める。
「泣き言みたいなことを言ってんじゃないわよ。あんた、今からそんなんでどうすんの?郷に入らば郷に従えって精神を教えればいいじゃない。」
「……ミサトにも、知ってることわざってあったのね。」
私を励まそうとしてくれるのがよくわかるのに、そんな減らず口をたたく私。
普段、ダメ出しをする相手から逆にダメ出しを受けたことが恥ずかしくもあり、ついそう切り返してしまった。
「ホ〜ント…あんたって素直じゃないわ。」
「フフッ、ごめん。」
ホント、私って素直じゃないみたい。
ミサトもそんな私をよくわかっていて苦笑している。
「でもさ、今の話からマヤちゃんをかなり気に入ってることは決定的だわね。」
「えぇ、そうね。マヤを見込んでくれるのは結構なんだけど、私への対抗心みたいなものは改めて欲しく思うわ。なんていうか、態度や言葉一つ一つが引っかかるのよね…。」
そんな私の言葉になにやら瞑想するかの如くになるミサトだが、独り頷くと顔を私に向けてきた。
「あら、それはある意味どうしようもないわよ?だって、そんなマヤちゃんをあんたが一番弟子にしてるんだもの。嫉妬の一つもして当然じゃない?」
「…嫉妬?嫉妬って私に?これはまたオーバーなことを言うわね。…たしかに一番弟子にしていると言われればそうだけど、直属の部下なんだし当然でしょ?嫉妬だなんて…馬鹿馬鹿しい。」
冗談じゃないとばかりに私は眉を上げた。
「そうね…リツコにはまだわからないでしょうね。でも、いずれ嫌ってぐらいにわかるわよ。する側される側の両方共に……その意味も含めて…ね。」
423リツコ:2009/05/06(水) 15:24:49 ID:???
「あなた、私が青山主任に嫉妬するとでも言いたいわけ?そんな理由はないわ。今までもこれからも有り得ないことよ。」
尚も食い下がるようなミサトを少ししつこく感じ、つい剣呑とした口調で返してしまった。
そんな私にミサトはわざとらしく怖がる表情をする。
「んなさぁ、ムキになんなくたっていいじゃない。まぁあれね、何かあれば遠慮なくアタシに相談して頂戴って。こう見えても口は堅いんだから。ん?ん?」
ミサトは、真一文字に閉じた口にチャックをかける仕草をしきりにして見せる。
「……目が笑ってるのは何よ。…さぁさぁ、もう出て頂戴。私、帰るのよ?」
私はバッグを手に持つと、ミサトを押しながら一緒に部屋を出ようとする。
部屋の電気を落として通路に出ようとしたところで、走ってくる誰かがミサトとぶつかった。
「っ…つ、イッタタ〜……ちょっと誰よっ!どこ見てん走ってんのよ!危ないじゃない!」
如何にも、さぁこれから悪態をつきまくるぞなミサトは、足元で転がっている者にそう喚く。
「…ん…なっ……リツコがアタシを押しまくるからいけないんじゃないの!あんた、人のことグイグイと押してんじゃないわよ!」
が、足元の人物を認めると、その怒りの矛先が何故か私に向けられた。
「ア…イタタ…葛城さん、すみません。大丈夫ですか?」
「もぅっ…駄目じゃない、マヤ。」
なにやらギャーギャーと騒々しいミサトを無視し、マヤを引っ張り起こし上げた。
起き上がってスカートをパタパタと叩いてくマヤの手には、何かの袋がしっかりと握られている。
「通路を走ってたら怪我しちゃうわよ。気を付けないと…。」
「…すみません、先輩。」
その項垂れる姿はあの黒い猫のようで、つい頭を撫でそうになった。
「あの…今日はもうお帰りなんですか?」
「…えぇ、たまにはそうしてみようかな…って思ってね。」
マヤはその答えにガッカリするような表情を浮かべた。
「どうしたの?何かあるならいいのよ?」
424リツコ:2009/05/06(水) 15:29:26 ID:???
「これ、ドイツ支部の人達にお土産でもらったバウムクーヘンなんです。一緒に食べようと思って…。」
手にする袋を胸の前で持ち、残念な顔をしている。
「ねぇねぇ、アタシ付き合うわよ?食べよ食べよ♪」
いきなり横から顔をヌッと突き出したミサトにマヤはヒく。
「フフッ、いいわよ。丁度、甘い物が欲しいと思ってたから。じゃあ、オヤツにしましょうか。」
私がそう答えるとマヤの顔がパーッと輝いていくのがわかり、それが眩しくて目をしばたたかせてしまった。
「…あんた疲れてんでしょオ?早く帰って寝たらア〜?」
蚊帳の外に置かれた感じのミサトがいじけたように愚痴る。
「脳はね、疲れてる時に甘い物を欲するの。糖分を大量に消費するから補給が必要なのよ?どう、少しは勉強になった?」
「ヘイヘイそうですか。…どの道、断らないクセに…。」
私はクスリと笑った。
「先輩も葛城さんも何してるんですか?食べましょうよ〜。」
先に部屋に入ったマヤから急かされ、慌てて部屋に飛び込む私達。
ほんわかな湯気と共に香しいコーヒーが鼻をくすぐってくる。
マヤはバウムクーヘンを切り分けて皿に乗せると、それぞれに渡してきた。
「はい、三等分です。…これは葛城さん……はい、こっちは先輩……いっただっきま〜…」
「ちょっと待ったぁ〜!」
幸せそうに口を開けて今にも頬張ろうとするマヤに、突如、ストップの声がかかる。
「ねぇ、マヤちゅわん!三等分って、こりはだういうことかしら!?」
ミサトは自分の皿と私の皿を見比べるように凝視している。
興奮してるのか呂律がまわってない。
「明らかにリツコのだけ一番多くない?ね、三等分よね?これって三等分なのよね?」
「先輩のは当社比1.72倍にしてみました。だから、気にしないで下さい。」
テへっと笑うマヤ。
425リツコ:2009/05/06(水) 15:34:31 ID:???
そんなマヤに脱力する私。
こめかみに指をあてたくて仕方ない。
ミサトは脳がショートでもしたのか固まったまま活動停止している。
時に、マヤの何気ない意味不明な言葉は驚異のダメージをもたらす。
「だって、いっぱい食べて元気復活してもらわないと…先輩、きっとお疲れですよね?」
「…えっ、そんな風に見えた?」
マヤはそれに無言で頷く。
疲れの原因が何であるかは自分でわかっていた。
それが表情に出ていたのだろう。
マヤはいつも私のことを気にかけてくれているからこそ、気付いてしまったに違いない。
「…わたしも異動の話を聞かされた時は驚きましたから…。」
やはりマヤはわかっていた。
「フフッ、大したことないわよ。上手くやれるよう頑張るから心配しないで。ね?」
私を気遣わしげに見るマヤに微笑むと、マヤもほんわかな笑みを返してくれる。
「(また、この笑顔……不思議ね…。)」
向けられた笑みに和む。
そんな魔法の癒しの薬に見とれてしまっていると、マヤの頬がほんのりピンク色に染まった。
「なんなのよ当社比って…。それに1.72って…せめてキリよく1.5とか2にすれば……ダメよ、2じゃもっと量が多くなるわ…。」
ミサトが活動停止から自力解除したようだ。
立ち直ったばかりの後の後遺症からか、なにやらブツブツ呟いている。
「ねぇ、食べないの?あなたのをマヤが食べちゃうって。」
あっちだかどっちだか、見知らぬ世界に行こうとするミサトに発破をかける。
「冗談じゃないっつ〜の!マヤちゃん、メよっ!メッ!」
手にしたフォークをそっと伸ばそうとするマヤを牽制している。
この二人もだいぶ仲が良いもので、今ではノリが良い姉妹になっている。
そんな二人を見守るような自分は、さしずめシッカリ者な長姉といったところだろうか。
426名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/06(水) 16:04:57 ID:???
支援
427リツコ:2009/05/06(水) 16:14:52 ID:???
バウムクーヘンの上品な甘さを舌に感じながらクスリと笑った。
美味しさが口に合って、未だじゃれ合いながら食べる二人よりも早く先に食べきってしまった。
「ふぅ〜美味しかったわ…。これで明日も元気に働けるってものね。マヤ、ご馳走様。」
私はコーヒーに口をつけた。
「あら早いのね、1.72倍。さすがリツコは1.72倍ぐらい余裕なのね。」
「…そんな……恨みがましいわね。」


♪恨みま〜す、恨みま〜す…あなたの〜こと……恨みまぁ〜すぅ〜♪


昔そんな歌詞の曲があった。
たしか、中島みゆきとかいう人の曲。
今のミサトの心情は、その歌詞の部分の通りなのだろう。
食べ物の恨みって怖い……と、思った。
「じゃあ、アタシも帰ろっかな。たまには早く家に帰って二人を喜ばせてあげないとね。一応、これでも保護者だし。」
「フフッ、そうしてあげなさい。待ってくれている人がいるっていいことよ。」
私がそう言うと、ミサトは柔らかい笑みを浮かべた。
「リツコだって……ううん、何でもないわ。次回はアタシを2倍で頼むからね?」
ミサトはコーヒーを飲み干すと、じゃあねとばかりに帰って行った。
「葛城さんって、あぁ見えて頑張り屋さんですよね。シンジ君とアスカのことちゃんと考えてますもんね。たまに尊敬しちゃいます。」
「フフッ、たまにはないんじゃない?」
一緒に後片付けしながらそんな会話をする。
「そういうの羨ましいです。わたしも先輩の面倒をシッカリ見ないといけませんね。……で、今日は何本吸いました?」
マヤは灰皿を見ている。
「……18本。」
「はい、宜しいです。」
ほら、油断しているとこうなんだから。
「フフッ、参るわ。」
私はそんな満足そうなマヤにウインクをした。
428名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/06(水) 17:19:08 ID:???
思いの他続きが早く読めて幸せでつ
黒・白猫エピはマヤが白猫のクッションを持っていたことからなのでしょうか
前はマヤも猫好きなのか、位にしか思ってなかったですが
支援アゲ
429名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/06(水) 23:16:20 ID:???
リツコそんな古い歌知ってるのかww
430名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/07(木) 08:13:38 ID:???
>>429
そう言えば古いねw
赤城ナオコ博士は多分昭和30年代くらいでそ
当時ゲンドウに冷たくされて中島みゆきに浸っていたんでは?と
んで、リツコも「(母さん、なんて唄を・・・)」と印象に残っていたのではないかと推測
久々母と会って、恨みます♪聞いたら悲しいが
431リツコ:2009/05/10(日) 15:42:57 ID:???
二人で後片付けをしていく中、てきぱきと立ち働くマヤの後ろ姿を見ていてふと考える。
私は帰るところだったし、マヤだってこの後片付けが終わればもう帰るに違いない。
別に今でなくても良いことなのにそうしようと思ったのは、やはり昼間の事が気になっているからだった。
食器洗いが終わって濡れた手をタオルで拭いているマヤに、私はここぞとばかりに声をかけてみた。
「ねっ、一緒に帰らない?…その…ちょっと飲みにでもどうかなって…。」
別にお酒でなくても食事や単純にお茶をするでも良かった。
だが、自分を素の状態のまま普通に留め置いておくことは難儀なのではないかという気がした。
お酒の力を少しでも借りられたら舌も滑らかになるのではないか…と単純に期待してのことだった。
そうしないとならないぐらい、これからしようとすることは勇気が必要なことであったため、私は馬鹿みたく緊張をしていた。
「えっ?……でも、昨日の今日だし先輩には毒ですよ。第一、疲れている時は睡眠をよくとるべきです。…嬉しいですけど。」
マヤの返事は案の定なもので、私の疲れの原因を察しているからこその労いの言葉なのがよくわかる。
どうしよう…困った。
「…疲れって言っても大したことじゃないわよ。今、甘いオヤツを食べたんだもの。…ね、駄目?」
今ここで引き下がったら、次はいつ勇気を出せるかわからない。
だから私はもう一度お願いするように聞いてみた。
声が少し掠れてしまうのも構わずに。
「…それじゃ、先輩はお酒は控えめにしてちゃんと食べること!それならいいですよ?」
手を拭き終わったマヤは小首を傾げる様子でいる。
今のマヤの目に、上目遣いで再度頼み込む私の姿はどう映っているのだろうか。
不思議そうな表情をしているマヤに己の緊張を悟られそうで、それにまた緊張しそうになる。
432リツコ:2009/05/10(日) 15:48:01 ID:???
「…良かった。なんとなくマヤと飲みたいなって思ってね…。知っている小料理屋さんがあるんだけど、そこ、どうかしら?食事も出来るし。」
「……あ、いいですね!連れてって下さい。わたしも丁度お腹が減ってきましたから。」
やはりマヤだな…と思う。
食べ物に釣られてるような言葉に聞こえるが、何かあると感じたみたいだ。
いつもと違う感じの私に何か考えている様子でいる。
勿論、マヤのことだからしっかり食べることにも関心がある筈。
私はクスリと笑った。
マヤを連れてその小料理屋に着いたのは、それからおよそ30分後のことだ。
この第三新東京市の中でも閑静な一角にあるそれは料亭のような佇まいで、ネルフの幹部職員がよく出入りしている。
私も付き合いで何度か来たことがあったため、店の女将と目が合うやすぐさま席へと案内をされた。
私がネルフ職員であることは女将も承知済みで、それが証拠に、案内された先はネルフ関係者専用の個室である。
「(ここなら静かだし、丁度良かったわ。)」
周りに人が居るよりは居ない方が喧騒もなくていい。
そんなことを思いながら、テーブルを挟んで座布団の上に座ると腰を落ち着かせた。
マヤはこういった場所に来るのは慣れていないようで、少し落ち着かない様子でいる。
目がキョロキョロと忙しく動いていて、堅苦しい雰囲気な場所が苦手なのがよくわかる。
「そんなに鯱張らなくていいわよ。どうせ私とマヤだけなんだし…フフッ、足を投げちゃってもいいのよ?」
私に倣って正座をするマヤだが、そう言われても崩そうとしない。
どうして今夜、急に改まった場所に誘い出されたのかを考えているかのようで、少し堅い雰囲気に見受けられた。
適当にいくつかの料理とお酒の注文を受けた女将が部屋から去るまでの間、マヤは様子を窺うように黙っていたがやがて口を開いた。
「こういう雰囲気って慣れてなくて…。でも、落ち着いた感じのお店ですね。」
「フフッ、きっとそうなんだろうなって思ってたわ。仕事中の時よりも緊張してるみたいよ?」
433リツコ:2009/05/10(日) 15:53:11 ID:???
私がそう笑うとマヤは目を丸くして拗ねたように頬を膨らました。
「ほらほら、イジケないでって。ゴメン、ゴメン。」
自分まで緊張しないようにと、こんな時にまでからかってしまう私はまだ少し余裕があるのかも知れない。
しばらくして仲居さんがお酒といくつか料理を運んできたのを受け取ると、早速マヤは私に酌をしてくれる。
マヤに返杯して軽く杯を合わせると、私は待ってましたとばかりに杯に口をつけた。
少しでも早くほろ酔いたくて…と。
「マヤって、何でもイケる口よね。嫌いなものってないんじゃない?」
いきなり飲みっぷりの良さを見せつけられ、ついそんなことを口にする。
「う〜ん、そうですね。食べるのも飲むのも大好きですし。…あっ、でも駄目なのあります!」
「なぁに?」
マヤに嫌いなものがあるなんてちょっと意外。
純粋な興味から聞き返す。
「昆虫系は嫌です。思い出しただけで…うぅ〜…」
「……昆…虫…。」
目が点になる私に、マヤは唸るように聞かせてくれた。
友人に面白い料理が食べれるからと騙されて連れて行かれたとこが、アンダーグラウンドなゲテモノ専門店であったこと。
原形を留めていなかったばかりに知らずに口にしてしまったこと。
使われるそれら食材は、普段いかに人に嫌われているものばかりであったかということ。
そして、マヤはその料理内容と食感がどんなものであったかについて、微に入り細に入り身振り手振りを加えながら詳細に説明をしてくれた。
「でも、美味しかったですよ。」
「……………。」
マヤは締めに一言こう感想を述べると、目の前に並ぶ料理にパクつき始めだす。
この時、テーブルを挟むマヤとの間にヒュルルルル〜…と、つむじ風が吹いたのは気のせいだろうか。
事細かに聞かされた私には、眼前の料理が遥か彼方の遠くに見えてならない。
手にしていた箸を置くとこめかみに指をあて、やはりマヤは不思議ちゃんだとつくづく思う。
「…それは…貴重な体験だったわね…。」
せわしなく箸を動かしているマヤに、こう返すので精一杯であった。
434名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/10(日) 15:56:31 ID:???
支援
435リツコ:2009/05/10(日) 15:59:27 ID:???
その後も他愛ない話をしながら何杯目の杯を口にしている時だっただろうか。
いつの間にか体がポカポカしていい気分になっていることに気付くと、そろそろ頃合いとばかりに口を開いた。
「あのね、マヤに聞きたいことがあるん…」
「リカさん…ですよね?」
忙しく箸を動かしながらも即座にそう返されたことに、私は驚いてしまった。
言わんとすることを見抜かれていたことに沈黙が流れる。
箸を動かすのをやめ、そんな私を見つめるようにしているマヤはそんな沈黙の意味をわかっていた。
「…あの…先輩がいつ切り出されるかなって思ってました…。昼間、何があったんですか?」
本題に入ったことで遠慮もなくなったのか、マヤは心配そうな口調で身を乗り出すように聞いてくる。
「…マヤには隠し事って出来そうにないわね。フフッ、そんな心配そうにしないで。」
私はミサトに話した時と同じく、青山主任との昼間のやり取りをマヤに話して聞かせた。
不安を感じたことと、それでミサトに励まされたことも併せて含め。
でも、嫉妬云々のくだりについては伏せた。
敢えて触れなかった…というか、なんとなく言いたくなかったから。
私がポツリポツリと話していくことを全て受け止めようとしてくれるかのように、マヤは一生懸命に聞いてくれている。
そんな姿がいじらしくて、ふと愛しい気持ちがこみあがってくるのを感じた。
なんとなく杯に口をつける。
「…たしかに個人プレー派かもですが、TPOはわきまえている人です。対抗心っていうのは目標としているからだと思いますよ?それに、もし万が一の時はわたしが潤滑の役目になりますから。」
ウンウンと相槌を打っていたマヤも、一通り話を聞き終えると私を安心させるように強く頷いてみせてくれた。
「…いい人ですよ。わたし、高校時代に勉強をよく見てもらってたんです。でも厳しくてよく泣かされました。融通が利かないワンマン指導ぶりで…って、これ、リカさんには内緒ですよ?」
どこか懐かしむようにそう話すとペロッと舌を出す。
436リツコ:2009/05/10(日) 16:04:08 ID:???
私の知らない学生時代…。
そんなマヤに胸がジリついていく思いに駆られるのを不思議に思いながら、また杯に口をつける。
「じゃあ、私もマヤに厳しく指導しようかしら?ミサトにね、マヤだけいつも甘やかしてズル〜いって言われたのよね。」
「えぇっ!葛城さん、そんなこと言ってたんですか!?」
悪戯っぽくそう言うと、マヤは悲哀のこもった叫びをあげた。
「フフッ、冗談よ?」
「んもぅ〜、わたしは今の先輩のままが好きなんですからねっ!」
急に頬に熱を感じてくる。
好かれているのはわかっているのに、あらためて口にされると恥ずかしくなる。
マヤもうっかり口にしたことに恥ずかしい様子で、頬がうっすら色付いてしまっている。
おかげで、私の頬も余計に熱くなってくる。
「もぅ…からかって…!」
誤魔化すように怒ってみせると何度も何度も杯に口をつけた。
ちょっと飲み過ぎたかも…フワフワといい気分に浸っていくのに身を任してしまう。
でも、それがいい。
「ところで先輩?さっきから飲んでばかりじゃないですか。駄目ですよ〜、ちゃんと食べて下さいっ。」
そんないい気分に浸っていると、強引に箸を持たされてしまった。
マヤは料理にパクつきながらもちゃんと観察している。
でも、私が食が進まなくなった理由にまでは気付いてくれていなかった。
気付いて欲しい…。
「あ、この味加減って似てます。さっき話をしたお店もね、こんな風に淡白だったんですよ〜。」
……マヤは容赦なかった。
結局、マヤの注視に降参してボソボソと箸を動かす私である。
「…あのね、まだ聞きたいことがあるんだけど…。」
そんな責め苦からマヤの意識を逸らすつもりではなかったが、これ以上、酔いが回って今夜の目的をふいにしたくはなかった。
本題に入ったとはいえ、核心となる部分についてはまだ触れていない。
一番気になっていたことを話さないと…と、私は口を開いた。
437リツコ:2009/05/10(日) 16:11:39 ID:???
「…マヤは今の仕事をどう思ってる?その…オペレーターが嫌とか…」
「えっ?」
せわしなく動いていた箸が止まり、キョトンとした顔で私を見ている。
いきなり話を振られてわけがわからないといった様子だ。
「正直に言って欲しいの…。マヤは青山主任の研究分野に興味があるんでしょ?」
そう、今夜マヤを誘った一番の目的はこのことについて聞いてみたかったからだ。
昨夜、カウンターで青山主任に指摘されたことが胸の中にしこりとなって渦巻いていたから…。
そのことを聞くためだけに、お酒の力を必要とするほど私は勇気を必要としていた。
何を恐れているのかと言われればそれまでのことだが、何故かまでは私にはわからない。
このことについてマヤと話すのが…マヤが何と言うかを聞くのがただ怖くてならなかった。
マヤは箸を止めたまま私をジッと見ていたが、やがて悲しげな表情を浮かべる。
「…わたしは自分の仕事に誇りを持ってます。たしかにリカさんの研究に興味を持っていますが、オペレーターを嫌と思ったことはありません。…どうしてですか…先輩?」
毅然と断言をするマヤの瞳が揺れ動き出す。
私は思い切って自分が思っていることを話してみた。
昨夜、マヤに膝枕をされている時に胸の内で自問自答したことも付け加え、ゆっくり説明するように話した。
先程と同じく、マヤはまた一生懸命に聞いてくれている。
少しつかえてどもりながら話しをする私を真剣な表情で聞いてくれる。
どうしてマヤはこうもいつも一生懸命なのだろう。
またさっきの気持ちがこみあがってくるような感覚をおぼえ、用意するかのように杯に手を添えた。
「…わたし、戦闘時のパイロットへのフィードバックをいつも辛く思ってました。人は痛覚があることが生きている証の一つではありますが、エヴァに乗って戦っている時までそれを強制されるのが不憫で仕方なくて…。」
マヤは言葉を噛み締めながら、思っていることを吐露し始めた。
私はそれに引き込まれるように耳を傾ける。
438リツコ:2009/05/10(日) 16:16:57 ID:???
「…少しでもその痛みを和らげてあげられたらどんなにいいだろう…っていつも思ってました。だって…だって、あの子達はまだ子供なんですよ?」
マヤは杯を手に取ると、やおらグイッと一気に煽った。
「あの子達の絶叫と悲鳴の上に、私達大人が当たり前の顔をして胡座をかいていてはいけないと思うんです。前線で戦うのは、いつだってあの子達なんですから…。」
空になった杯に自分で手酌をすると、マヤはまた続けて一気に煽った。
話している内に興奮してしまったのか、顔が紅潮している。
「だからリカさんから研究の話を聞いた時は嬉しかったです。フィードバックを完全に無くすことは出来なくても、かなり軽減できるかも知れないって言われて…。わたしが興味を持ったのはそれが理由です。」
苦渋の表情を浮かべるマヤはそのまま杯を握りしめて離さず、また手酌をしようとしている。
「そうだったの…マヤ…。」
どこまでも心根の優しいコだ…と、心の底から思った。
チルドレンを想う気持ちで一杯なのがよくわかる。
その一方で、マヤは己自身に憤りを感じているかのようだ。
何もしてあげられない自分を情けなく思い、そんな不甲斐なさを酒で洗い流そうとしているように見える。
私はそんな様子のマヤに突き動かされるような衝動に駆られ、ぎゅっと抱き締めたくなってしまった。
それは言葉でうまく表せないほどの気持ちであった。
マヤの手酌は止まらない。
だから私は抱き締める代わりにその手をソッと止めた。
マヤの手を優しく包み込むようにして。
「ゴメンね、変な聞き方しちゃって。…あなたがそこまで思ってくれていたなんて知らなかったから。……マヤのそういう所、好きよ。」
「先輩…。」
潤む瞳で見上げるマヤに微笑む。
439リツコ:2009/05/10(日) 16:21:56 ID:???
「私ね、マヤには技術者としてもっと成長して欲しいと本当に思っているの。だから、いつまでもオペレーターに留めていてはいけないんだって、ただ単純に…単純にそう考えていたのよねぇ…。」
自嘲気味に苦笑する。
胸の内で、ひとり自問自答して不安をおぼえていたことにも苦笑してしまう。
「わたしのことをそんな風に考えてくれてたなんて…嬉しいです。」
このことでマヤと話すのを怖がっていたけれど、思い切って話してみて良かった…と、思った。
包み込んだマヤの手を労るように握る。
「まだ話してなかったけど、マヤに朗報よ?来月からあなたは青山主任の下でその研究を兼務してもらうことになったわ。メインのオペレーター以外に仕事が増えるけど、どう、頑張ってくれる?」
「…それ、ホントですか?……でも、わたしなんかじゃ…」
一転してその表情が輝いていくも、声が尻すぼみに小さくなっていく。
如何にも、自分なんかじゃダメだと言っているのがありありとわかる。
「もぅ…自信を持ちなさい。あなたの才能は折り紙つきなんだから。それに、私の一番弟子なのよ?」
握る手に力を込めて励ますと、マヤは照れ臭そうな表情を浮かべながら嬉しそうに微笑んでくれた。
やっぱりマヤには笑顔が一番似合う。
「…はいっ!不肖、伊吹マヤ、頑張らさせていただきます!」
「フフッ…。」
茶目っ気たっぷりに敬礼をするマヤに、私も笑みが溢れる。
「じゃあ、先輩も頑張って食べて下さいね。はいっ!」
手付かずの料理の皿をこれでもか、とばかりにこちらへズズッと押してくる。
そして、司令のポーズで私を見張る。
う〜ん……やはり、マヤには油断ならない。
頭をかきながら箸を動かす私を、いつまでも楽しそうに見ていた。

この一件を乗り越えた私は、その後もいつもの調子で日々を過ごした。
天然に頭を抱え、仕事を邪魔しに来る酒乱と丁々発止をし、取り巻く上と下の者達に冷や汗を流し、賑やかなチルドレン達に手を焼く…といったいつもの平和(?)な日常をだ。
そして月日は流れ、青山主任がついに着任する日を迎えることとなった。
440名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/10(日) 16:30:20 ID:???
wktkwktk
441名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/10(日) 19:37:39 ID:???
支援
442名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/10(日) 23:59:06 ID:???
支援
443名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/12(火) 03:09:06 ID:???
支援
444名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/12(火) 03:38:46 ID:???
wktk支援
445リツコ:2009/05/19(火) 20:49:33 ID:???
それは発令所でMAGIの定期検診を行なっている時のことだった。
呼ばれる声と共にこちらへ近付いてくる足音を耳にし、私はそれまで睨めっこしていたモニターから顔を上げた。
今日この日を忘れていたわけではないが、副司令と共に青山主任が近付いてくる姿を目にしたら、これから一緒に働く者が増えるのだなということを改めて感じさせられる。
「赤木博士、青山主任が着任した。手続きを済ませ、本部施設の説明も受けてきたそうだ。後は頼む。」
「はい、承知いたしました。」
副司令は目礼する私に任せたとばかりに微笑むと、そのまま発令所から立ち去って行く。
「…只今、着任いたしました。本日から宜しくお願いいたします。」
「宜しく。それじゃ、まずは技術部のみんなを紹介するわ。ついて来て頂戴。」
挨拶もそこそこに、私は今いる技術部全員に招集をかけると青山主任をミーティングルームへと案内した。
「来たばかりで疲れてるでしょうけど早速やって貰いたいことが沢山あるわ。マヤも張り切っているし頑張って頂戴。」
「フフッ、ご期待に添えるようにいたしますわ。」
皆が来るのを部屋で二人で待つ間、少し堅い雰囲気を打破しようとそんな話を振ってみる。
すると、それまで雰囲気に飲み込まれていたように堅い表情をしていた青山主任はリラックスしたかのように笑みを浮かべた。
「リカさん待ってましたよ〜!」
招集をかけてから、いの一番で部屋に飛び込んで来たのはマヤだった。
満面の笑顔を見せている。
「フフッ…宜しくね、マヤ。」
そんなマヤにまた笑顔で返す青山主任。
そのまま二人で四方山話しに花を咲かせだすのを横で聞きながら、私は全員が揃うのを今や遅しと待っていた。
やがて全員が部屋に集まると、私は青山主任を前に呼び自己紹介をしてもらうことにした。
446リツコ:2009/05/19(火) 20:54:54 ID:???
「ドイツ支部技術開発部から本日付で異動しました青山です…」
そんな出だしで始まった自己紹介は、全員から盛大な拍手でもって迎えられた。
青山主任の名は皆もよく知っていたようで、拍手には今後の能率がどれぐらい向上するだろうかといった期待が込められたものに窺えて見える。
技術部メンバーからの紹介も終わり、周りの雰囲気と溶け込む感じで各人と談笑を始める青山主任に私が胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
前回に私の部屋で話しをした時とは違い、青山主任の物腰は低く、また柔らかいものだった。
「(これなら大丈夫そうね。)」
先日の気性の荒さを目の当たりにした私としては今日の日をどことなく恐れていたが、その様子になんとかやっていけそうに思えてまずは安堵した。
一緒に肩の力が抜けていくのを気持ちよく感じる。
しばらく歓談した後にマヤと青山主任を残して解散をすると、私は二人に担当業務の再確認をした。
青山主任の下でマヤが神経接続の研究を兼務することや、設備と備品について等の必要な説明を行なった。
「それで、あなたの研究室はD区画になるわ。…ここね。すぐにでもとりかかれるようになってるから始めて頂戴。」
転入者に渡される本部見取図のマップを受け取り、ペンで指し示す。
「マヤ、案内してあげて。それと、今やっているデータ解析が終わったら青山主任と一緒にそちらにとりかかってくれていいから。」
「はい先輩、それじゃ早速そうさせていただきます!」
私がそう言うと、マヤは待ってましたとばかりに嬉々とした返事をする。
研究に直接携われることを喜んでいるのがよくわかる。
「リカさん、案内しますから行きましょう。」
マヤは青山主任の資料が入ったケースを持つと、促すように腕を引く。
「では博士、私は失礼します。」
マヤと青山主任がミーティングルームから出て行き、私はまた発令所へと戻った。
447リツコ:2009/05/19(火) 21:00:40 ID:???
MAGIの定期検診はまだ始まったばかりで序盤に過ぎない。
その工程は複雑なため本当はマヤに手伝って欲しかったのだが、マヤのチルドレンへの想いがわかるだけに口にするのが忍びなかった。
私も今ではシンジ君、アスカ、レイを弟妹のように思っているし、彼らを苦痛から少しでも解き放すことが出来るなら一日も早く研究成果を上げて欲しい。
だから、マヤには頼めなかった。
「私も頑張りますか。」
そう呟いて、私はまたモニターと格闘を始めた。



それから二週間ばかりが過ぎた頃のことだ。
いつものように遅くまで自室でひとり仕事をしていると、ミサトが部屋を訪れて来た。
「あんたさぁ、部下の管理をちゃんとしなさいよ。」
「いきなりどうしたのよ?」
険しい顔つきで言われ、私は片眉をあげた。
「青山主任ね、帰宅後も毎晩のようにマヤちゃんと一緒にまた仕事してるって話よ。それも遅くまで。」
「えっ…何の話?……あなた、何を知っているの?」
いきなりそんなことを言われ、訳がわからずのんびりと聞き返したのが悪かったのだろうか。
ミサトがムッとした。
「うちの部にいるマヤちゃんの友達を知ってるわよね?その子の部屋が青山主任の隣なのよ。毎晩のようにマヤちゃんの姿を見かけるんで聞いてみたら、大事な研究があるからって言われたそうよ。…良くないわね。」
咎めた口調が向けられる。
「凄く疲れた様子で心配だって。アタシからも忠告して欲しいって言われたわ。」
「…気付かなかったわ。」
自宅に仕事を持ち帰っているだなんて寝耳に水の話。
まさかの思いにとらわれた。
時計を見ると今は2130を過ぎようとしている。
私は電話を手にすると、すぐさまマヤの自宅へコールをしてみた。
出ない。
携帯にコールした。
電源が切れているのか留守電に繋がる。
なら、青山主任の所なのか……。
私は溜め息をついた。
448リツコ:2009/05/19(火) 21:06:29 ID:???
住所録を取り出して番号を確認すると、今度は青山主任の自宅へコールをしてみた。
「はい、青山です。」
しばらく呼び出し音が鳴ってから繋がる。
「…もしもし、赤木です。夜分遅くにすまないけど、今そこにマヤは居るかしら?」
「………いえ、来てませんが…何か?」
妙な間が空いた後、返事が返る。
「…そう。それならあなたに聞きたいのだけど、自宅に仕事を持ち帰って…」
「申し訳ありませんが、今、鍋に火をかけておりますため電話を切らせていただきます。」

―ブツッ―

いきなり電話を切られる。
アッと言う間もなくで、私は呆気にとられた。
「居ないって?それ、きっと嘘ね。今も一緒よ、絶対に。」
唖然としたまま受話器を握る私にミサトは一瞥を寄越す。
「青山主任の住むマンションってアタシんちの近所よ?マヤちゃんとは別の棟なのに、朝、二人がマンションから一緒に出てくるのをアタシも見かけてるの。…きっと連泊してるんだわ。」
ミサトはまた一瞥を寄越す。
「いくら大事な研究だからってそこまですることないじゃない。…ね、あんた聞いてる!?」
私が黙ったままでいることに、苛立っているみたいだ。
「……えぇ、聞いてるわ。」
この時、私は胸の中にモヤモヤとしたものが沸いてくるのを感じた。
それは不快な感情。
「何考えてるのかしら?マヤちゃんだって服務規程を知らないわけないのにさ。あんた、監督不行き届けね。」
八つ当たりするかのように、ミサトは壁を蹴る。
ミサトの言い分はもっともである。
449リツコ:2009/05/19(火) 21:11:01 ID:???
自宅で仕事をすることが服務規程に反するのは、機密漏洩の可能性があるからだ。
私としても、このまま二人が勝手に行動するのを黙認することは出来ない。

「明日、二人に注意するわ。……ちょっと!壁がへこむでしょ、いい加減やめて頂戴!」
「こんな風にガツンと言ってやんのよ。」
何をそこまで怒っているのだろうか。
ミサトは言うだけ言うと帰って行った。
私はコーヒーをマグに注ぐと口をつけた。
いつもより苦味を感じて顔をしかめる。
「嫌だわ…。」
コーヒーの味に対してなのか、まだ感じている胸の中のモヤモヤに対してなのか、呟きの言葉がつい溢れ落ちてしまった。



翌日、私は出勤するとすぐ二人を自室に呼びつけた。
二人が揃って部屋に入って来るのを見た途端に昨日のモヤモヤがぶり返してしまい、眉間に皺が寄る。
「早速、聞きたいことがあるわ。…あなた達は帰宅後も二人で仕事をしているそうね。どうなの?」
気分の悪さを隠して尋ねる。
「はい博士、ですが…」
「自宅に仕事を持ち帰ることは服務規程に反するのよ?やめなさい。」
青山主任に最後まで言わせずに私は遮った。
なんであれ言い訳は聞きたくない。
「たしかに仰る通りですが、職員の住居もここ同様にMAGIの管理下にあり、機密情報の漏洩を危惧される恐れはありません。たとえMAGIがハッキングを受けたとしても、36…」
「3682種の防壁があるから大丈夫と言いたいのでしょ?…物事に絶対というものはないわ。MAGIもそう。服務規程は服務規程なのよ?金輪際やめて頂戴。」
先を読んでそう言うと、青山主任の口元が薄く歪んだ。
「……はい、承知しました。」
「先輩、すみません。わかってはいましたが、つい…」
青山主任に続いてマヤも頭を下げる。
私は溜め息をついた。
450リツコ:2009/05/19(火) 21:14:05 ID:???
「これからは気を付けて頂戴。それじゃ戻ってくれていいわ。……あ、マヤは残って。」
どうにもやりにくい相手だ。
部屋から出ていく青山主任の後ろ姿を見て思う。
残されたマヤは注意されたことにすっかりしょげてしまった様子で、下を向いたまま項垂れている。
「どうしたの?別に怒ってないわよ。ほら、座って。」
いつものマヤの席に座らせる。
そういえば青山主任が来て以来、マヤがこの部屋に来る回数は以前より減ってしまった。
席に座ろうとするマヤを見てそんなことを思う。
「先輩、わたし…」
「早く研究を完成させたかったんでしょ?わかっているわよ。」
マヤはすまなそうにコクリと頷いた。
マヤのマグにコーヒーを注いで渡す。
「青山主任の部屋にはいつから出入りしてたの?…連泊していたそうね。ミサトから聞いたわ。」
「一週間位前から何度か泊めて貰いました。つい、好意に甘えてしまって…。」
申し訳なさそうに話すマヤ。
私はまた胸の中がモヤモヤしだし、それを紛らすようにコーヒーに口をつけた。
「で、昨夜はどこに居たの?自宅には居なかったわよね?携帯も繋がらなかったし…。」
昨夜の件を確認したくてマヤをここに残したが、どう答えるだろうか。
何となく下を向く。
「あの…コールされたんですか?…すみません、リカさんの自宅にいました。何か急用が…」
「……………。」
やはりそうかと思った。
今の話の様子からだと、昨夜、私が青山主任へ電話したことを知らないみたいだ。
全く…すぐばれる嘘をよくつけたものだ。
感心する。
「あの…先輩?」
「ちょっとマヤの声が聞いてみたくなっただけよ。ほら、最近は顔を合わす機会が減ったでしょ?」
努めて明るくそう言うと、マヤは恥ずかしそうに照れた。
451名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/19(火) 21:17:51 ID:???
いいよいいよ〜
452リツコ:2009/05/19(火) 21:18:00 ID:???
誤魔化した返答ではあるが、これはこれで本心である。
青山主任が来て以来、マヤと接する機会が減ってしまった。
いつも一緒に仕事をしていたマヤが傍に居ないことに、どことなく寂しさを感じていたのは事実なのだから。
「わたしも…あの…先輩と一緒に居る時間が少なくなってしまって…気になってました…。研究は大事ですけど…。」
マヤは俯く。
…トクン…
胸が鳴る。
そんなマヤに、私の胸は急に鼓動を打ってしまった。
「フフッ、今こうして一緒に居るわよ?マヤは寂しがり屋さんね。それとも甘えん坊さんかしら?」
寂しがり屋も甘えん坊も私の方なのに、そんな風にからかってしまう悪い癖がまた出てしまう。
「ところで、研究の方はどう?どんな調子?」
俯いたままのマヤに胸がつまっていくようで、それから気をそらすようにそんなことを聞いてみる。
「あ…えっと…痛覚へのフィードバックをまずは3割軽減させることを目標にしてます。もう少ししたら何らかの成果をご報告できると思います。だから頑張らないと。」
顔を上げて微笑むマヤ。
「連日のように遅くまで仕事してたんでしょ?ちゃんと睡眠をとらないと……夜はどうしてたの?」
ついそんなことを質問してしまい、我ながら変な違和感をおぼえた。
根掘り葉掘り何を聞いているのだろうか…と、ふと思う。
まるで尋問しているみたいだ。
「夢中になってしまうと、いつも寝るのは夜中過ぎでした。わたしは予備の布団をお借りしていたんですけど、お布団もいいものですね。和の精神を感じます。」
そう話すマヤに私は何かホッとするような安心さをおぼえ、緊張が緩んでいくのを感じた。
何を緊張することがあるのかと戸惑う。
453リツコ:2009/05/19(火) 21:23:58 ID:???
「仕事熱心なのは結構だけど、体を壊しては元も子もないわよ?……あなた、疲れた顔してるわね。体調は?熱はない?」
マヤはいつもとそう変わらないように見えるが、なんとなく疲労の色が濃いように見える。
私は無意識にマヤの額に自分のを押しあててみた。
瞬間、マヤの体が硬直したように跳ねる。
「だっ…大丈夫ですから!」
「駄目よっ。ちょっと動かないで。」
逃げようともがくマヤを上から押さえ込むようにしたら、マヤの頬が紅潮し始めた。
同時に、クリッとした目が視線をさ迷わすように上下左右に忙しく動き、睫毛が細かく震え出す。
「フフッ、なんだか私が苛めてるみたいじゃない?……やっぱり少し熱があるわね。頬っぺも赤いし…」
合わせた額をそのままにしていると、避けるかのようにマヤは俯こうとする。
マヤの潤む瞳がふいに私をとらえた。
「(あ…可愛い。)」
…トクン…
瞬間、また胸が鼓動を打つ。
マヤは金縛りに合ったように私を見つめたままでいる。
私はそのまま動けなくなった。


―ブシュツ―


その時、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。
「ヤッホ〜、お茶しに来ちゃっ……!!」
ミサトの出現に私達は我に返ったようにハッとする。
「わっ…わたし仕事に戻りますから!」
マヤは慌てて私から離れると、俯いたままミサトの横をすり抜けて逃げるように部屋から出て行ってしまった。
454リツコ:2009/05/19(火) 21:29:43 ID:???
ミサトは口をポカンと開けたまま突っ立っている。
私はコーヒーをマグに注ぎ机に置いた。
「……ほら、コーヒーよ。」
頬が熱くて仕方ない。
煙草をくわえてみる。
「あ、あのさ…え〜と……」
「昨日の件を二人に注意したわ。あなたが言ってた通りね。疲れているみたいだったから、熱がないか測っていたの、今。」
煙草に火をつけた。
「あっ…そうなんだ。ハハハ…。」
ミサトがぎこちなく笑う。
私は視線を逸らすように背を向けると、机上のPCを起動させた。
「…葛城三佐、今は仕事中よ?」
「あ、うん…別に用があったわけじゃないの。喉渇いちゃって。…じゃ、コーヒーもらってくわね〜ん♪」
ミサトはマグを手にしたまま出ていった。
ドアが閉まる。
私は机に突っ伏すように顔を埋めた。
頬がまだ熱を帯びているのがわかる。
「……………。」
灰皿に置かれた火をつけたばかりの煙草が吸われないまま灰になっていく。
全て灰になって燃え尽きた後も、私は何も考えないようにひたすらジッとしていた。
455名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 00:52:38 ID:???
支援
456名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 01:56:56 ID:???
マヤサイドでもお願いしたいシーンですね
今晩は眠れないねw
支援
457名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 10:59:18 ID:???
支援!!!
458名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 20:24:24 ID:???
>400
>415
459マヤ(心の迷宮):2009/05/20(水) 21:52:06 ID:???
恥ずかしかった。
先輩の額が触れた時、体に電流が流れたようなショックを受けたのは静電気…なわけないじゃない。
そうよ、自分でよくわかっているじゃない。
だって、だって……。
先輩…わたし、恥ずかしかったんですよ?
すぐ近くに先輩の顔があって、ビックリして…大丈夫って言ったのに強引なんだもん。
頬っぺが赤かったのは熱があったんじゃないのに…先輩、いつもからかうんだもん。
……目が合った時、わたしのことをジッと見ていましたよね?
何を思ってたんですか?
わたし、視線を外せなかったです。
あの時、心臓がバクバクしちゃって……聞こえちゃってないですよね?
…ううん、聞こえてないわよ。
先輩、あまりからかわないで下さいね。
もっと苦しくなるから…。
460リツコ:2009/05/20(水) 21:55:07 ID:???
まだまだ先は長いですが、続きはまた後日に…。
461名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 21:56:45 ID:???
おつおつ。首を長くして待ってるよ。
462名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 23:16:22 ID:???
dd!!
マヤサイド乙でつ
ミサトが入って来なかったらwそれでもまだまだの二人ですね。
何も考えないようにジッとするリツコええですwいよいよか!?
これからも目が離せないですねw
463名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/20(水) 23:28:03 ID:???
>447
464名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/21(木) 10:51:43 ID:???
恋って良いな
465名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/21(木) 14:05:38 ID:???
研究、ってことはマヤも白衣?
リツコにもらってくらはいw
466名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/22(金) 00:41:00 ID:???
待ってる。
支援
467名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/22(金) 11:28:51 ID:???
次回添い寝したらただでは済むまい・・・
などと夢を膨らませてみた
468リツコ:2009/05/24(日) 21:40:21 ID:???
私はいつの間にか眠ってしまっていたようで、気が付くとあれから1時間が経っていた。
目を閉じていたばかりに眠ってしまっただなんて、あってはならないことだ。
痺れた腕をさすり頭を振る。
顔には白衣の皺の後がついてしまっているため、化粧ポーチを取り出すとトイレへ赴むくことにした。
急いで化粧を直して自室へと戻る途中、自販機が置かれる休憩コーナーから複数が雑談する声が漏れ聞こえてきた。
その聞き慣れた声に私は足を止めた。


「……だろ?怪しいと思わないか?」
「うん、わたしもそう思ってた。かなりベッタリよね。」
「俺さ、この前、街中で肩抱いて歩いてるの見かけたよ。」
「嘘っホントにぃ〜!?ヤバくないソレ?だって…」
「シィーッ!!馬鹿、声がデカイって!」
「…じゃ、青山主任はマジ?」
「それは本人のみぞ知る…だな。俺らは傍観者に過ぎないし。」
「んなこと言って〜、昼ドラみたいな展開を期待してんじゃないのオ?」
「おいおい、期待してんのはオマエの方なんじゃないのォオ?」
「ちょ〜っとヤメなさいよ。わたし達は事の成り行きを暖かく見守るんでしょ?」
「そうだけどさぁ、肝心の博…」


「あなた達、井戸端会議するにはまだ少し時間が早くないかしら?」
「「「博士っ!」」」
雑談は尽きそうになかった。
私が登場すると、それまで話しに夢中になっていた彼ら…もとい技術部の若い子達が声を合わせて驚きの声をあげた。
「何の話で盛り上がっていたか知らないけど、勤務時間中は慎みなさい。」
「も、申し訳ありません!」
私がそう諌めると、顔を青くしている彼らは慌てて戻って行った。
溜め息を漏らす。
偉そうに注意したものの、その本人は今しがたまで机で居眠りをしていたのだから…。
上が弛んでいると下まで弛むものだ。
469リツコ:2009/05/24(日) 21:44:06 ID:???
自分を戒めるためにも仕事に集中しないと…と、頭を振ったが、先程まで彼らが話していたことがなんとはなしに頭に残ってしまっている。
たしか青山主任の名前が出ていたが何のことだろうか。
私はまた頭を振ると、今度こそ真っ直ぐ自室へと戻った。



夕方、精を出してプログラムのチェックをしていると部屋の電話が鳴った。
波に乗って仕事をしているところを寸断されてしまい眉を潜める。
「はい、赤木です…」
「ねぇ〜今からそっち行っていい?マグを持って来ちゃってたし返そうと思って。」
電話の主はミサトからだった。
「は?…そんなことでいちいち電話しないでよ。あなた、いつも勝手に入って来てるじゃないの。」
「う、うん…ほんじゃ、これから行くからね〜。」
電話が切れる。
折角、集中してたところを邪魔されてしまい私は眉間に手をあてた。


―ブシュッ―


いきなりドアが開く。
「葛城ミサト入りま〜す。」
ミサトが様子を窺うように部屋の中に入って来た。
「……あなた、どこから電話してたの?」
さっきの今で驚いていると、ミサトが携帯を見せながらドアのすぐ外を指した。
全く何のつもりだろうか。
おふざけは止めて欲しいものだとばかりに眉間を揉んでしまった。
「ねぇ、あんた今夜は暇?シンちゃんは鈴原くんちだし、アスカは洞木さんちに泊まりなのよぉ〜。一緒に晩ごはん食べない?ねっ、ねっ?」
「いいけど…でも、いい加減に自炊することも学んだ方がいいんじゃない?」
ミサトのおねだり口調な誘いは日向君あたりなら喜んで飛びつきそう。
まさか、たかるつもりではないかと勘ぐってしまう。
470リツコ:2009/05/24(日) 21:47:27 ID:???
「じゃ、家に来てリツコが作る?それもいいわねぇ〜そうしよっか?」
私はこめかみに指をあてた。
何にせよ、ロクでもないことを考えつくものだ。
「あなた、自宅に招くゲストをもてなすって発想はないみたいね……あるわけないっか。」
「あんら失礼ねぇ。前にカレーをご馳走したじゃない。忘れたの?」
その言葉に忘れたくても忘れられない記憶が甦り、私は思わず身震いをした。
食中毒の三文字が脳裡を過る。
「じゃあさ、食べ行こ♪新しく出来たばかりのパスタ専門店があるのよ。雑誌で取り上げられるぐらいに人気店なんだって。」
「…ふ〜ん、じゃあそこにしましょうか。」
たまにはミサトと外食するのもいいかなと思った。
どうせ自宅に帰ったとこで誰かが待っているわけでもないし、どちらかというと料理をするのは面倒くさく思っていた。
ここ本部の食堂にも退屈さを感じていたこともあり、私はその提案に乗った。
「オッケー♪それじゃ1時間後にロビーで待ち合わせでどう?」
「わかったわ。」
上機嫌で戻っていくミサトを横目に私はキーを叩く速度を速めた。



ミサトの案内で向かった先は、第三新東京市を見渡すことが出来る高層ビルの最上階だった。
ここにお目当てのパスタ専門店が入っている。
「やっぱ雑誌で紹介されただけあるわねぇ。こんなに混んでるとは思わなかったわ。」
ミサトがそう溢す。
私達は順番待ちの客が並ぶ行列の最後尾にいた。
店の入口まではまだ遠い位置にいる。
「いいじゃない。別に急ぐこともないわよ。」
店はかなりの客席数を擁しているようで、こうして話している間にも数組ずつ店内に案内されている。
471名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/24(日) 21:49:36 ID:???
支援
472リツコ:2009/05/24(日) 21:53:51 ID:???
「そうね。…じゃ、待ってる間に“しりとり”しない?」
「しりとり?」
私が片眉を上げると、早速、一つ目が振られた。
「じゃあ〜…パスタ!」
「タ…タヌキ。」

キツネ…ネコ……子持ちバツイチ……!?…チューリップ……ぷよぷよ……!?…ヨーグルト……賭博……!?…クジラ……らっぱ飲み…

「…ミルク。それにしても、常日頃あなたが何を考えているのかがわかるってものね。」
しりとりにしては、甚だ怪しい言葉が返されてくることに苦笑してしまう。
「ク……車!」
「ま…マヤ。」
そう返したら、ミサトがプッとフいた。
「やっだ〜ん♪……あんたに今の言葉をそっくり返すわ♪」
ミサトは、さもしてやったりな顔をしている。
「…言ってなさい。今のであなたの負けよ?やっだ〜んで最後に“ん”がついたんだから…。」
頬にまた熱を感じそうになり、はぐらかすように切り返す。
私はミサトから顔をそらすように横を向いた。
そんな遊びをしていると、店の従業員が近付いてきた。
「2名様ですね?お席が用意出来ましたのでご案内します。」
案内された席は壁一面が窓ガラスになっている窓際だった。
そこからのパノラマビューな外の眺めは高層ビル最上階ならではのものである。
眼下に拡がる市内の様子は色とりどりのネオンに包まれ、幻想的な光景を見る者に印象付けてくる。
注文を済ますと、私達はしばし外の景色に心を奪われることとなった。
「なるほどねぇ…この景色を眺めながら食事できるんじゃ、デートにはもってこいってもんよね。」
ミサトは周囲の客を見渡した。
店内の客は主に若い層が中心で、一見した限りでは家族連れのファミリー層は皆無だった。
カップルの姿もそこらかしこに見える。
473リツコ:2009/05/24(日) 21:57:39 ID:???
「ほら、あそこもカップルよ?癪よねぇ〜…アタシらも即席カップルになる?ねぇリツコぉ〜ん♪」
ミサトは何を思ったか、やおら唇を突き出すとムニュムニュと蠢かしてきた。
そんなものを見せられると、眉間に皺が寄り出す…。
「そのタコの吸盤みたいなのを引っ込めなさいよ。…ちょっと離れて…恥ずかしい人ね。」
「なっ、リツコだってイカやってたじゃない。…ほら、イカとタコのチューよぉ〜ん♪」
……私は頭を抱えた。
忘却の彼方へと消したつもりの恥ずかしい過去が、ミサトの言葉で鮮やかに甦ってきたからだ。
あの時にしでかしたことを再び思い出して赤面する。
「またイカだなんて言って…。」
その時、注文したパスタが運ばれてきて私は声を落とした。
第三者に聞かれたとこで何のことかわかるはずもないのだが、それだけ私にはトラウマな事である。
傷口を拡げるのは最少にしたかった。
「そういえば、あのイカはどうしたの?」
ミサトはガーリックたっぷりなペペロンチーノにフォークを突き刺している。
「……自宅にあるわよ、ちゃんとね。でも、誤作動があってあの後は大変だったわ。」
「ヘェ〜、どう大変だったの?」
スープに口をつける私を興味津々な顔で見ている。
「操作に関係なく起動したのよ…。夜中にソイヤソイヤが始まった時はビックリして飛び起きたわ。それで調べてみたら…」
「みたら…何?」
さもありなん、なことを今更あらためて口にするのはためらわれたが、ミサトは先を促してくる。
「トラック無線を傍受すると起動しちゃってたのよね…。」
ミサトがブッと勢いよくフいた。
パスタがフォークから滑り落ちていく。
「ククッ…想定の範囲内ね。でも、また何でそうなっちゃうのかしら?」
「それはこっちが聞きたいぐらいだわ。マヤらしいと言えばそれまでだけど…。で、少し弄って今はボタン操作しか受け付けないようにしたわ。」
眉を上げてそう答えると、ミサトはニヤリと笑った。
474リツコ:2009/05/24(日) 22:02:00 ID:???
「……何よ。」
「なんだかんだ言って気に入ってるのね、あのイカを。」
その言葉に、カルボナーラをフォークでクルクルと巻き取るスピードが上がってしまう。
「私はね、洒落が通じる先輩なのよ?」
どこまでも人のことをからかって…まったくと思った。
もっとも、私もミサトのことは言えないのだけれど。
そんな風な調子で日常会話をし続けていると、ミサトが食べるのを止めて急に一点を凝視し始めた。
「ねっ、あれって青山主任よね?」
ミサトが顎で私の後方を指し示す。
振り返ってみると、入口で従業員と二言、三言、会話を交わす青山主任の姿が見えた。
これから席に案内されようとしているとこのようで、青山主任は従業員の後に続いて歩いて行く…マヤと共に。
「ねぇ、マヤちゃんが一緒に居るわよ?噂をしていりゃなんとやらね。……ふ〜ん、青山主任と食事なんだ。」
ミサトの何気ない言葉に、またもや胸の中がモヤモヤしだすのを感じた。
席に向かう青山主任はマヤの肩を抱いてエスコートするかのようだ。
そのまま寄り添うように二人は歩いて行く。
胸の中のモヤモヤが渦を巻くように膨れ上がっていくことに戸惑いを感じ、私は二人から視線を外した。
瞬間、休憩コーナーで耳にしたことが脳裡にフラッシュバックされる。


『肩抱いて歩いてるの見かけたよ。』


…と、胸にジリつく痛みを感じた。
それはチリチリとした火で炙られたかのような痛み。
あの時、彼らは何を話していたのだろう…。
外した視線をまた二人に戻す。
「……あそこって一等の予約席なのよね。一番見晴らしのいい場所なの。ふ〜ん…気合い入っているわね。」
ミサトはそんな二人をしげしげと眺めている。
475リツコ:2009/05/24(日) 22:14:14 ID:???
青山主任は先にマヤの椅子をひいて座らせている。
メニューを開き、顔を突き合わすように楽しげに話しているのがここからもよくわかる。
ワインボトルを何種類か持って来させ、マヤに試飲をさせている。
「ありゃ本格的ね。本格的にご執心だわ。」
ミサトは食事もそっちのけに二人にかぶりついている。
「見てないで食べなさいよ。そろそろデザートが来るわよ。」
そう言ってみたも、私も二人から視線を外すことが出来なかった。
一方、頭の中ではあの休憩コーナーでの会話を思い起こそうとしていた。
何か気になってならなかったからだ。
さっきフラッシュバックした言葉の前後に、彼らは何と言っていただろうか……たしか……たしか…たしか…
考えながらも視線は二人に釘付けになっている。
仲良さげに顔をくっつけるようにしている二人。
青山主任はテーブルに置かれたマヤの手を握りながら楽しそうに話をしている。
マヤもそれに嬉しそうに微笑んでいる。
……そう…たしかこんなことを言っていたはず。


『かなりベッタリよね。』
『じゃ、青山主任はマジ?』


そんな親密な雰囲気にある二人を見て、突如その言葉を思い出した。
と、同時に胸のジリつく痛みが一際大きくなり、私は顔を伏せた。
「……マヤちゃんも愛想いいわよね。」
ぼやくようにミサトが呟く。
私は無言で食事を続けることに専念した。
そんな二人を見ていると、どんどん胸が苦しくなるような気がしたからだ。
476リツコ:2009/05/24(日) 22:22:18 ID:???
その痛みが何に起因するのか、もはや考えるまでもなかった。
青山主任と会って以来、度々、味わうことになったこの感覚、感情、気持ちをようやく自覚した。
これは嫉妬だ。
私は青山主任に嫉妬している。
人懐っこいマヤの笑顔はいつも自分に向けられていたのに、青山主任はそれを横からかっさらおうとしている。
それを強く意識した。
青山主任が来て以来、マヤと過ごす時間が減ってしまった。
話したい時に傍に居ない。
今まで自室で一緒に仕事をよくしていたから、横を向けばそこにマヤは居てくれた。
でも、今は顔を合わさないまま一日が終わることもある。
私にはマヤの存在はあって当然のものなのに、それを青山主任に割って入られてしまっている。
そう思った。
でも、これは筋違いな嫉妬であることなのは頭ではよくわかっている。
そもそも青山主任はマヤの能力を高く買い、引き出そうとしてくれている。
それに研究内容はマヤの…いえ、チルドレンにとっても希望の星だ。
元々、二人は学生時代からの付き合いでこれまできているし、仕事上からも接することが多いのは当然と言えば当然である。
故に、私がマヤといる時間が減ってしまったのも当然である。
でも…でも、頭ではわかっていても嫌だった。
嫌悪感で一杯であった。
私は二人にまた視線を向けた。
マヤを遠くに感じてしまう。
あの人懐っこい笑顔が自分以外に向けられているのを見てそう思った。
「顔色悪いわよ…大丈夫?……アタシ、つい変なこと口走っちゃったわね。ゴメン…。」
ミサトは運ばれてきたデザートのケーキを突っつくようにしている。
「えっ?…何が?」
思わず顔を上げると、ミサトが伏し目がちに困った顔でこちらを見ていた。
477リツコ:2009/05/24(日) 22:33:32 ID:???
「……ううん。ただそう思ったの。」
「私、日頃から働きすぎているのよ?顔色が悪いこともあるわ。…これ食べたら帰りましょ。」
先にデザートを終えた私はコーヒーに口をつけた。
ミサトは黙ってケーキを食べている。
ちょっと前まで賑やかだった私達の席は、一転して重い空気に支配されたかのように沈黙に包まれた。
互いに下を向くようにしている重さに堪えきれず、何か喋ろうとしたら横から声をかけられた。
「あら、これは博士に葛城三佐…。ここでお会いするとは奇遇ですわね。」
「青山主任!」
ミサトがビックリした声を上げる。
青山主任は化粧室に行こうとするのか、手にポーチを持っている。
「あ…あなたもここで食事してたんだ?」
とってつけたようにミサトが言う。
「えぇ、ここのお店が評判なのはご存じかしら?景色の眺めの良さがカップルに人気だそうで…。」
青山主任は広い店内のそこらかしこに点在するカップル達を振り返るようにグルリと見渡してみせた。
「あ、あぁ〜…それで青山主任もここに来てみたというわけね。」
「えぇ…今夜、伊吹さんに指名されまして……私。」
ミサトに視線を向けて話していた青山主任が、この時チラリと私の方を見た。
「あ…マヤちゃんと…。あぁ、そうなんだ。」
「お食事中のところを失礼しましたわ。では、これで…」
青山主任は会釈すると、化粧室へと歩き去って行った。
ミサトがまた困った顔を向けてきたが、私は意に介さなかった。
「(……指名…)」
今しがたの言葉が頭の中を占めだす。
ケーキを食べ終えたミサトはコーヒーに口をつけている。
「……ミサト、帰りましょ。」
「え…あっ…マヤちゃんには声かけていかないの?」
私がいきなり口を開いたことに驚いたかのようでいる。
478リツコ:2009/05/24(日) 22:41:26 ID:???
私は早く店から出たかった。
青山主任が席に戻ったら、私達がここにいたことをマヤに話すだろう。
そうしたら顔を合わすことになる。
私はどんな顔でマヤを見ることになるのだろうか。
青山主任に嫉妬を感じた私が、その青山主任を指名したマヤを………。
「…えぇ、何か疲れたわ。出ましょ。」
そう言って椅子から立ち上がると、ミサトも慌てて立ち上がった。
会計を済まして店から出る。
外まで出てくると気温の下がった夜気に包まれ、体がヒンヤリとしてくる。
ミサトは黙って私の後をついてくる。
私は足を止めると満天の星空を見上げた。
空には無数の星々が瞬くように煌めきを放っている。
見ていると、まるで意固地な心を洗ってくれるかのようだ。
私はそのまま黙って星々を見つめていた。
「あなたが言ってた通りになったわ。フフッ…私、醜いかしら……ね。」
「リツコ……じゃあ、あんた…」
私は肩で大きく一つ溜め息をつくと笑顔を作った。
そのままクルリとミサトに振り向く。
「また明日ね。オヤスミ…。」
私は軽く手を挙げると歩き出した。
視線を背中に感じたまま振り返らずに歩き続けた。
今はただ、そうするしか出来なかった。
479名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/24(日) 23:03:24 ID:???
うぉをおおおお気になる
480名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/25(月) 00:38:05 ID:???
しえん
481名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/25(月) 15:49:14 ID:???
支援
482名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 08:05:58 ID:5WHKIAWN
リツコさぁぁん(ノД⊂)
483名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 13:56:38 ID:???
うわぁぁぁぁぁ支援
484名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/30(土) 04:25:04 ID:???
支援
485リツコ:2009/05/31(日) 18:15:01 ID:???
翌朝、いつも通り出勤をすると自室に直行した。
昨夜はあまりよく寝つけなかったため頭がボンヤリと重く、朝から他人と顔を合わすのも億劫に感じていたからだ。
部屋に入ると濃い目のコーヒーをマグに注ぎがてら、まずは一服することにした。
PCを起動させながら紫煙を吐く。
立ち上がりを待つ間、昨夜のパスタ店でのことをまた思い出してしまい私はかぶりを振った。
あれから何度、思い返してしまっただろうか。
おかげで今朝は睡眠不足だ。
気が付くとPCは既に立ち上がっており、モニターには自嘲気味な表情を浮かべる自分の顔が映り込んでいた。
「馬鹿みたい…。」
煙草を勢いよく揉み消すと、キーに指を走らせ仕事を始める。
余計な雑念がわかないよう、今は無心になって仕事をしたい気分だった。
しばらくそのまま仕事に集中していると、部屋のドアが開き誰かが入って来た。
「おはようございます!今日もいいお天気ですね。」
「……おはよう…。」
清々しい挨拶と共に参上したのはマヤだった。
その声の持ち主がマヤとわかった途端に舌が上手く動かなくなったかのようで、どこか掠れたような声になる。
私は振り向くことが出来なかった。
背中で様子を探るかのように息を潜める。
「リカさんに聞きましたよ?先輩と葛城さんが同じお店で食事されてたなんて知りませんでしたよ〜。声をかけてくだされば良かったのに。」
どことなく拗ねた調子の声音で話しかけてくる。
「…丁度、帰る所だったから。」
私はマヤに顔を向けることなく、モニターに視線を固定したままそう答えた。
「あっ、そうでしたか〜。あそこから眺める夜景は素敵ですよね?昨夜はロマンチックな気分になっちゃいましたよ。リカさんったら…」
「マヤ、悪いけど今忙しいの。」
486リツコ:2009/05/31(日) 18:18:54 ID:???
マヤが青山主任の名前を口にしたとこで苛々が募り、私はわざとらしく忙しくキーに指を走らせ音を大きく叩いてみせた。
これ以上、会話に付き合えないというサインの証としてだ。
「あっ…すみません、つい…。わたし、仕事に戻りますね!」
マヤは慌てたように部屋から出ていく。
人の気配が消えてドアが閉ざされると私は溜め息をつき、椅子の背に凭れた。
「馬鹿みたい…。」
呟きが溢れる。
マヤに素っ気ない態度をとってしまったことを少し後悔したが、昨夜の二人の親密な様子が心に強く焼き付いてしまっている。
それが、しこりとなってしまっているためどうしようもなかった。
まさか自分が嫉妬するだなんて思いもよらなかっただけに、己の変容ぶりにも戸惑いをおぼえてしまっている。
私はいつだって論理的に物事をとらえ、いつだって冷静な思考が出来るタイプの人間であった筈。
周囲もそういう風に私を見ているし、自分でもそうだと思っていた。
それが、こんな強い感情の波に容易くさらわれてしまうのだから人とは面白いものだ。
ミサトが指摘した通りとなってしまったことに自嘲気味な苦笑が溢れてしまう。
それだけ、私は日頃からマヤに…マヤに……そう…依存…依存していたことをミサトはとっくに悟っていたのだろう。
そう思うと、何で嫉妬する羽目になったのかが理解できる気になった。
自分では自覚もなく気付いていなかったことを他人に見透かされていただなんて…。
頬杖をつきながら、そんなことを思う。
嫉妬は醜いものだ。
この先、そんな感情に左右されていては仕事にならない。
第一、マヤが他の誰かにあの人懐っこい笑顔を向けたとして、だからなんだというのだろう。
マヤは私の部下であり、可愛い後輩であることに何ら変わりはないのだから。
487リツコ:2009/05/31(日) 18:22:33 ID:???
私はマヤの上司であり頼れる先輩なのだから、マヤに依存する気持ちを持ち合わせたり、またそれで感情的に振り回されるようなことであってはいけない。
青山主任から向けられる挑発的な対抗心のようなものは、この際、捨ておけばいい。
私は私だ。
たとえ青山主任がどれだけマヤに気をかけたとして、私とマヤの間の友好にヒビが入るわけではない。
前にマヤの部屋で握手をした時に築けた絆は深いものなのだから。
子供の世界でよくある、友達をとったとられたみたいな真似で悩むのは馬鹿げている。
大体、私達は皆が大人なのだから、そんなことに一々嫉妬をするだなんておかしいし、そもそも苛々を感じることなどなかったのだ。
「フフッ…ホント馬鹿みたい。」
私はそういう考えに至ると気をとりなおし、コーヒーに口をつけた。
コーヒーを啜りながら、気分が解れていくのを感じる。
ついさっき、マヤが青山主任の名を口にした時に不覚にも苛々を感じてしまったが、それもこんな理由からだったとは苦笑を禁じ得ないものだ。
座ったまま伸びをして肩の力を抜いた。
そして、もうこのことを考えるのはやめようと決めた。
コーヒーを飲み干すと、また仕事に戻り集中することにした。



午後になってミサトが部屋にやってきた。
「また何か用?」
朝からの仕事も一段落つき、私は悠々と一服していた。
「あれから、あんたのこと心配だったのよ。その…どう?」
「それならもう自己解決したわ。要するに子供っぽいのよね、私は。…フフッ、マヤをとられるだなんて思ったりしたもの。」
椅子を引っ張ってそばに座ろうとするミサトにクルリと振り向く。
「じゃ、あの時やっぱり…」
ミサトは神妙な顔をしている。
488リツコ:2009/05/31(日) 18:27:09 ID:???
「えぇ、そう…嫉妬したわ。でも、それはおかしな話でしょ?子供じゃあるまいし、大の大人がそんなことを思うなんて。私、マヤに依存してたみたい。駄目ね。」
「依存?」
私がそう答えると、ミサトは片眉を上げて怪訝な表情を浮かべた。
「えぇ、私はマヤといつも一緒に居たでしょ?そこへ青山主任が急に現れてマヤと組むようになったんだもの。…例えるなら、子離れ出来ない親がそれにヤキモチを妬いてしまっただけのことよ。浅はかだったわ。」
私はマグにコーヒーを注ぐと渡した。
ミサトは何か考えるように黙ってコーヒーに口をつけている。
「だから心配はいらないわよ?安心して頂戴。」
「……そう。ところで今日はマヤちゃんと会ったの?」
ミサトはまだ何か思うような表情を浮かべているが、私が普段とそう変わらないと見てとってくれたようでニッコリ笑った。
「午前中に来たけど少し邪険な態度をとってしまって…悪いことしたわ。それで考えたの。考えて、私はマヤに依存してるからあんな嫉妬をしたんだって思ったのよ。これからは気を付けるわ。」
宙を仰ぐように答える。
「そう…変にギクシャクしてないかと気になってたのよ。でも、あんたがそう思っているなら今はそれでいいわ。」
「なぁに、違うとでも?…まだ何かあるとでも言うの?」
ミサトは滅多にない真顔で私を見据えている。
何を思っているのだろうか、私の心の深部をほじくり起こそうとするかのような視線を向けてくる。
私はなんとなく顔をそらした。
「……何かあったらマジで相談しに来なさいよ?今の言葉を覚えていて。…じゃ、コーヒーご馳走さま。」
質問に答える代わりにそう言うと、ミサトは部屋を出て行った。
ミサトは何を言いたかったのだろうか。
閉まるドアを見つめながら首を傾げたが、考えたとこでわからない。
私は気持ちを入れ替えると再びキーに指を走らせた。
489名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/31(日) 18:28:33 ID:???
支援
490リツコ:2009/05/31(日) 18:30:49 ID:???



夜になり、少し空腹を感じたため食堂へ向かおうと部屋から出た。
今日は終日、自室に籠りきりだったため腰が悲鳴を挙げている。
腰を叩きながら通路を歩いて角を曲がると10m程前方にマヤが佇んでいるのが見えた。
あそこで立ち止まって何をしているのだろうか。
声をかけようと歩を速めたら、マヤのすぐそばの脇の通路から青山主任が走り出てきた。
「ごめんマヤ、お待たせ!」
「もぅ、おっそぉ〜い!急ぎますよ!」
済まなそうな顔をしている青山主任にマヤが腕を絡めると、瞬間、青山主任がとても嬉しそうな表情を浮かべた。
マヤはそのまま青山主任を引っ張るようにして歩き出す。
歩きながら満面の笑顔を青山主任に向けるマヤ、そしてそれを優しげに見つめ返すような二人の横顔が目に入る。
私はその場に立ち止まると、歩き去って行く二人の後ろ姿を見送るように見つめていた。
「……………。」
まただ。
また、あの感情が胸の内から沸々とこみ上がってくるのがわかった。
マヤに依存していては駄目だと自覚した筈なのに、また嫉妬を感じてしまった。
理屈と感情は別物なのだろうかと頭を振ってみる。
食堂へ向かう足取りが重いものに変わり食欲が消え失せてしまった。
結局、私はそのまま自室へと引き返してしまった。
部屋に戻ると立て続けに煙草を消費してしまった。
苛つく気分を抑えたくて、濃い目のコーヒーもいれて飲んでみたが何の役にも立たなかった。
仕事を再開しようにも、さっきの二人の姿が目に焼き付いて気が散ってしまっている。
それでも、キーに指を走らせてみたがすぐ指が止まってしまう。
二人は一緒にどこに行ったのか、何をしているのかが気になってならなかった。
「つくづく馬鹿ね、私は…。」
今日はもう仕事にならないと判断した私は帰ることにした。
電源を落とし、部屋の灯を消して退室する。
491リツコ:2009/05/31(日) 18:37:16 ID:???
通路を歩き外に出ると冷たい風が吹きすさんでいた。
今の私の心象を顕すかのように髪が散り散りに乱れていく。
私はそのまま家路に着いた。



場所はどこだかわからないが、山の中を私とマヤと青山主任が並んで歩いていた。
歩きながら、私はこれが現実ではないと朧気にわかっていた。
マヤが私と青山主任に人懐っこい笑顔を向けて、追いかけっこをしようと誘ってきた。
マヤが逃げて行くのを私と青山主任で追いかけ始める。
あと少しでマヤに手が届きそうになるところで、私と青山主任の足元の地面が崩れ落ちた。
「「助けて、マヤっ!」」
崖にしがみつきながら、私と青山主任が同時に叫び手を伸ばす。
驚いたマヤが崖の上から両手を差し出して私達の手をそれぞれ掴んだ。
そのまま上に引っ張り上げようとしているが上がらない。
こうしている間にも、崖は崩れ落ちていこうとしている。
「「私を助けて!」」
また叫ぶ。
マヤの足元の崖が崩れ始めてくる。
このままでは3人共、崖の底に落ちてしまう。
マヤは迷わず手を離した。
私の手を…。
崖の上に引っ張り上げた青山主任を抱き抱えながら、落ちていく私を悲しそうに見ている。
その口元がこう動いていた。
「ゴメンナサイ…」
スピードを上げて底へと落ちていく中、マヤの姿がだんだん小さくなり見えなくなっていく。

492リツコ:2009/05/31(日) 18:40:49 ID:???



私は跳ね起きた。
心臓が激しく鼓動している。
額に手をあてると汗が滲んでいた。
部屋の中は常に適温に保たれているのに、身体中に酷い寝汗をかいてしまっていた。
時計を見ると、時刻はまだ2600の真夜中だった。
嫌な夢を見てしまったと思った。
夢で良かったとも思った。
でも、手を離された時の衝撃が現実のことのように感じられて残っている。
胸が苦しくてたまらなかった。
「マヤ………」
私は両膝を抱えると顔を埋めた。
そのまま、まんじりともせず朝までずっとそうしていた。
493名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/31(日) 22:39:47 ID:???
待ってた!
494名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/01(月) 06:54:13 ID:???
待ってマスタ!
マヤは前回の落差とあいまって、もうリツコに必要とされなくなったのか?とか
今頃悩んでそうだなw
495名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/02(火) 00:25:06 ID:???
やっと追い付いた。そしてやっとアク禁解除された。
この展開ヤバいな。支援支援
496リツコ:2009/06/02(火) 18:51:27 ID:???
翌朝も重い気分で出勤することとなってしまった。
二日連続で寝不足なため、目の下にはクマがある。
ファンデーションで隠すことを試みてみたが、どうしても見えてしまう。
私は諦めてポーチをバッグにしまうとトイレから出て自室へと向かった。
道すがら、そこらかしこで朝の挨拶が交わされているのが聞こえてくるのを疎ましく思いながら歩く。
目の下にクマもあることから、私は誰とも会話せずに早く自室へと入って仕事にとりかかりたかった。
と、言っても、ここのところはこれといった動きもない。
実験データの解析と検証、プログラムチェック等の地道な作業の繰り返しの日々だった。
幸い、使徒も現れていないし、次のシンクロテストはまだ当分先だ。
ある意味、平和な日常が繰り広げられているのは幸せなことである。
職員達の間に流れる穏やかな空気がそれを物語っていた。
本日の予定を頭の中で組み立てながら通路を歩いていると、急に後ろから声をかけられた。
「先輩っ、おはようございます!」
その声に、つい足が止まりそうになる。
「……おはよう。」
顔を向けるまでもなく誰なのかがすぐわかる。
ここまで走ってきたのだろう、マヤの息は上がっていた。
いつもならそこで何らかの会話が始まるのだが、一昨日以来、私の気分は重苦しいものに変わってしまっていた。
ましてや昨夜に見た夢は私にはショッキングなもので、それに拍車がかかってしまっている。
歩くスピードを落とさずにいると、マヤが横に並んで私の様子を窺うようにしてきた。
「顔色が良くないですよ?睡眠を充…」
「大したことないわ。急いでいるからまたね。」
振りきるように歩いて自室までくると中へ逃げるように滑り込み、すぐさまドアを閉めた。
497リツコ:2009/06/02(火) 18:54:02 ID:???
閉まっていくドアの向こうでマヤが立ち竦むようにしているのが視界の隅に入る。
が、最後まで目を合わさなかったため、その表情まではわからなかった。
私はそのまま内側からドアを静かにロックした。
あのまま会話をしていたら互いに……いえ、私が傷つきそうな予感がしたからだ。
昨夜の夢が脳裡にこびりついてしまっている。
それに、こうして感情をコントロール出来ない自分にも混乱する思いでいた。
それが証拠に、昨日同様に今もまたマヤに冷たい態度をとってしまったのだから。
青山主任を喜んで受け入れているマヤに腹を立ててしまっていること…それを痛いほど痛感しているのが自分でよくわかっていた。
「どうしてこうなるのよ…。」
ドアに凭れて呟く。
それほどまでに、どうしても感情にかられてしまう自分が不可解でならなかった。



それから何日もの間、私は自室に引きこもるかのように一人で仕事をした。
マヤとはあれから直接会話はしていない。
時折メールで指示を飛ばすぐらいで、内容も簡素な文面に留めていた。
今までマヤに頼んでいたデータ集計等の作業は別の者に振っていたため、特別、顔を合わすような用もない。
私は意識してマヤを避けてしまっていたし、マヤの方からも接触して来るようなことはない状況にあった。
通路を歩いている時に姿を見かけたりもしたが、大抵いつも隣には青山主任がいる。
その日も通路を歩いていると二人の姿が目に入ってしまった。
「相変わらずね…。」
マヤの肩を抱いて歩いて行く青山主任から視線をそらす。
煙草でも買おうかと自販機に向かったところ、休憩コーナーから談笑する声が漏れ聞こえてきて足を止めた。
いつぞやの技術部のメンバーと同じ声が聞こえてくる。
それに私は舌打ちした。
注意をしようと彼らの前に出かけたとこで足が止まり、代わりにその会話の内容に自然と耳をすませてしまった。
498リツコ:2009/06/02(火) 18:59:19 ID:???



「目のやり場に困るよ。なんであんなにベッタリくっついてんだか……なぁ?」
「そりゃあ好きだからに決まってるだろ?誰が見てもわかるじゃないか。」
「そう、まるでカップルみたいよねぇ〜。見てるこっちが変にドキドキしちゃうわ。」
「うんうん、わかるわかる!」
「肩を抱くぐらいだからな……あれだ、要するに仕事以外でもやり手だったってことさ。」
「おい…俺、今何か物凄いことを想像したぞ?」
「「あはははははは」」



「……………。」
馬鹿笑いしている彼らをそのままに、私はその場を静かに離れた。
部屋に戻って仕事を再開するも、先程の会話を思い返してしまう。
彼らが話していた人物は、青山主任のことではないだろうかと感じていたからだ。
肩を抱くという言葉でそう連想してしまった。
なら、相手は……。
キーを叩く指が止まる。
「馬鹿馬鹿しい…。」
私は頭を振った。
再びキーに指を走らすが、またすぐに指が止まってしまう。
考えようとすると喉につかえるものを感じ、混沌とした気持ちになってきてしまう。
それはマーブル模様のように複雑に絡み合いながら、私の意識に何かを浮かび上がらせようとしてくるかのようだった。
また頭を振る。
私はまた仕事が手につかなくなってきていた。
椅子から立ち上がり、気分転換にでもとかなり薄目なコーヒーをいれてみたのも昨日の内に胃をやられてしまっていたからだ。
濃い目のを何杯も口にしたことがすっかり祟っている。
499リツコ:2009/06/02(火) 19:02:54 ID:???
もしマヤがこれを目にしていたらきっとまた怒られていたに違いない。
以前のマヤだったなら…。
「……………。」
コーヒーに口をつけようとして動きが止まる。
あれ以来、マヤはどうして私の所に訪れに来ないのだろうかと思った。
いつもなら特別用がなくとも、時間さえ作れれば折りを見て顔を出しにきていた。
でも今は全く来ていない。
そんなに青山主任の傍にいたいのだろうか。
青山主任がいいのだろうかと思った。
今しがた立ち聞きした会話が蘇ってくる。
「……………。」
部屋の中を見回すように視線を巡らす。
何となく薄汚れているように見えた。
実際、汚れているのは一目瞭然で、いつかマヤが出張で不在だった時の光景が再現されつつあった。
灰皿の吸い殻の山に、コーヒーの染みの跡、流しには置かれたままのマグの数々がある。
机上にはうっすらホコリが見え始めていた。
マヤが使うPC上にもホコリがはっきり見える。
黒い筐体だけに、嫌が応にも目立ってしまっていた。
青山主任と組んで仕事をするようになってから、このPCは使われていない。
それは、そのままマヤとの間の距離を物語っていることに他ならなかった。
見ていると物悲しくなりそうで、私は視線をそらした。
頭ではわかっていることなのに、どうしてもマヤに依存して拘ってしまうことに葛藤する思いでいた。

―ブシュッ―

いきなりドアが開く。
「ちょっと話があるんだけど、今いいわよね?」
一瞬、期待してしまったが来たのはミサトだった。
そのままズカズカと近付いてくる。
500リツコ:2009/06/02(火) 19:07:19 ID:???
何の話をしたいのか知らないが、私は今それに付き合う気分ではなかった。
ましてや、もう自分は大丈夫だからとミサトに断言してしまっただけに、今の状態がどうであるかを気付かれたくもなかった。
「悪いけど忙しいの。また後に…」
「マヤちゃんのことよ?」
背を向けたまま返答しかけたとこでそう遮られ、瞬間、体がピクリと震えた。
ミサトは乱暴に椅子を引っ張ってくるとドカッと座る。
その行動から、怒っているのが容易にわかってしまう。
私は予感めいたものを感じて振り返らなかった。
「あのねぇ、単刀直入に言うけど何もマヤちゃんを避けることないんじゃない?」
「…あなたには関係ないでしょ。」
思った通りだ。
私は煙草を取り出すと火をつけた。
「マヤちゃんに相談されたの。あんたに避けられてることちゃんとわかってるし、傷ついてもいるのよ?」
私は眉を上げた。
これまで嫌になるほど目にした青山主任との仲睦まじい様子を思い返し、私は苦笑してしまった。
「マヤには青山主任が一緒にいるのよ?昨日も一昨日もその前もいつだって…。いつだってとても嬉しそうに楽しそうにしてるじゃない。傷つくとか馬鹿を言わ…」
「泣いてても?アタシ、目の前で泣かれたのよ?」
煙草を吸おうとした手が止まる。
「…なら、後で謝っとくわよ。私の態度で気に障ることがあったんでしょ。気にしないでいいからと伝えるわ。」
「リツコっ!!」
ミサトが立ち上がると椅子が倒れた。
「ねぇ、そんなにもマヤちゃんに腹が立つ?こうしている今も、あんたが青山主任に嫉妬を感じていることはアタシにはとっくにわかって…」
「黙って頂戴!!」

―ダンッ!―

私は机を叩いた。
501リツコ:2009/06/02(火) 19:12:19 ID:???
「……あんた間違ってるわ。頭を冷やしてよく考えなさい。」

―ブシュッ―

ドアが開き閉まる。
ミサトが出て行った後も、私は頭を抱えたままでいた。
言われるまでもなく、大人気ない態度をとっていることは自分でよくわかっていた。
「でも、どうしようもないのよ……。」
モニターに映る自分の顔は、さながら幽鬼のようだった。
やつれて生気のない色をしている。
まるで死人だ。
そう言えば前回に食事をしたのはいつだっただろうか。
ここ何日もまともに睡眠がとれず、食事もろくにしていない有り様だった。
食欲は全くなかったが、何か栄養のあるものを少しでも食べた方がいいだろう。
食べて、ミサトの言う通り頭の中をきちんと整理すべきだ。
そう思った。
食堂にでも行こうかと立ち上がったとこで、急に視界が暗くなる。
「(あ…っ……)」
黒一色に塗り潰される深い闇の中へと墜ちていくように意識が薄れていく。
そのまま私は床に倒れこんでしまった。
502名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/02(火) 19:27:53 ID:???
支援
503名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/02(火) 23:40:49 ID:???
もう、dとしか言えない
支援
504名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/03(水) 12:36:18 ID:???
来てた!期待支援!
505リツコ:2009/06/05(金) 21:54:34 ID:???
とても気持ちが良かった。
誰かが私の髪を指ですいている。
静かにゆっくりと滑らかに、そっと優しく髪をすいている。
なにより、頬に触れてくる指の感触がたまらなく心地好かった。
私はその指を追い求めるように頬を寄せていく。
この感触……ボンヤリとした意識の中、目を開けてみようとするが体にしっかり力が入らない。
「(誰…触れているのは……これは……マヤ…)」



ハッとして目を開ける。
「ようやくお目覚め?あんた、かなり疲れていたのね…。」
横から声がして顔を向けると、そこには安堵の表情を浮かべるミサトがいた。
「あ…えっ、ここは?私、たしか…。」
私はいつの間にかベッドの上に横たわっていた。
何がどうなっているのか状況が掴めず混乱する。
「あんたはね、床にブッ倒れてて意識がなかったのよ?…あんたに借りてたお金を返すの忘れてたから戻ってみればブッ倒れてるじゃない…驚いたわよ。」
ミサトはベッドの上で体を起こそうとする私を支える。
「…じゃあ、あなたがここへ?」
「うん、超ビックリしたわよオ?すぐ人を呼びに行って、てんやわんやだったわ…。ここが病室なのはわかるわよね?」
私は室内を見渡した。
言われた通り、見覚えのある場所だった。
ここはチルドレンが負傷した際に運ばれてくる病室の一つである。
よもや自分がこの場所に寝ることになるとは思いもよらず、私は額に手をあてた。
「あぁ、頭は打ってないから大丈夫よ。貧血だって…あと、疲れね。その点滴は栄養剤だから…でも大事にならず良かったわ。」
私は手の甲に刺さる針に目をやった。
「そう…迷惑かけてすまなかったわ。ありがとう。」
するとミサトは首を横に振る。
「それならマヤちゃんに言いなさい。あんたのこと物凄く心配してずぅ〜っと付きっきりだったのよ?…ほら。」
506リツコ:2009/06/05(金) 21:56:47 ID:???
ミサトに促されて向くと、丁度マヤが部屋に入ってくるところだった。
手には処方薬とタオルを持っている。
「せ…っ!」
マヤは私が起きたことに気が付くと、真っ直ぐ私の胸に飛び込んできて泣き出した。
「ちょっ、…マ…」
「良…った……わた…心……凄く…配で……輩が……」
泣きながら強くしがみついてくる。
「ねっ?……じゃあ、アタシは戻るわ。ちゃんと養生しなさい。」
「な、待って…」
ミサトはウインクして出て行こうとする。
それを引き留めようとすると、何を思ったかいきなり私にデコピンをした。
「痛っ!…なにするのよ…」
「あんたが与えた痛みの方が遥かに上よ?……意地張らずにちゃんと向き合うことね。」
私にそう言うと、泣いているマヤを切なげに見やっている。
私は何も言えなかった。
「…あ、借りてたお金はマヤちゃんに預けてあるから。じゃあね。」
そして、これで役目は済んだとばかりにさっさと出て行く。
ドアが閉まり、病室には私とマヤの二人だけになってしまった。
マヤはまだ泣いている。
私にしがみついたまま肩を震わして泣いている。
嗚咽は止まらず、次から次へと溢れる涙が私の病衣を濡らしていた。
「マヤ…マヤ…もう泣かないで…大丈夫だから……ねっ?…」
私はどうすれば良いのかわからず、あやすように声をかけた。
「大丈夫よ…もう大丈夫……」
そのまま優しく背を撫でていると、しがみつくマヤから温もりが段々と伝わってくるのを感じだす。
とても暖かく、安らぎをおぼえてしまうような温もりを。
しばらくそのままに、包み込むように抱き締めていた。
マヤはすがるように身を寄せている。
「……………。」
黒髪にそっと…そっと優しくキスをした。
それはあまりに自然な行動で、一瞬、自分でも何をしたのかわからなかった。
507名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/05(金) 22:00:23 ID:???
支援
508リツコ:2009/06/05(金) 22:02:27 ID:???
今の無意識な行為に、頬が微かに熱くなってしまったのが自分でよくわかる。
マヤはまだ泣いているものの嗚咽は止み、徐々に落ち着きを取り戻してきているようだった。
肩の震えも小さくなっきているが、何かを言おうとしてそのままジッと考えているようにも見える。
しばらくすると意を決したようにマヤは口を開いた。
「わたし…」
「聞いて、マヤ…。」
マヤを胸に抱き締めながら、私はきちんと謝ろうと決めていた。
こんなにも泣くほどまでに私を心配してくれている。
それなのに、そんなマヤの心を踏みにじるように避けてしまっていたことを私は激しく後悔していた。
謝るには今がその良いタイミングに違いない。
「あなたを傷つけてしまっていたことを謝らせて…。ごめんなさい…あなたを避けたりして…。私が馬鹿だったのよ…。」
「どうして…なぜ避けて…なぜ…先輩、なぜ…なぜ…」
私の言葉で堰を切ったように顔を上げたマヤは、すがる瞳で私を食い入るように見つめてくる。
その瞳にまた涙が浮かび上がると一筋の流れが頬をつたっていく。
私はそれを指でそっと拭った。
「わたし、どうすれば…どうすれば……先輩に…嫌…れた…な…です…」
「待って!…待って、今ちゃんと説明するから。泣かないで…。」
あまりに酷く悲しむその様子に胸を締め付けられる思いにかられ、咄嗟に強く抱き寄せてしまった。
「……マヤ、こんなこと言うのは正直とても恥ずかしいの…。もし軽蔑されたら嫌だわ……。」
「え…っ?」
潔癖なマヤに正直に話したら何て思われてしまうだろう…。
胸に顔を埋めるマヤは、訝しむように顔を上げようとする。
私は見られたくなくて抱く腕に力をこめてしまった。
509リツコ:2009/06/05(金) 22:05:59 ID:???
「うっ…」
マヤが苦しそうな声をあげたが力を緩めなかった。
「…あのね、…私…私は…その…」
「わたし、軽蔑なんてしませんから!」
言い淀んでいると、私の胸の中で身じろぎするマヤが叫んだ。
それに覚悟を決める。
「…あまりに仲が良いから……その…嫉妬したの。…私は青山主任に嫉妬していたの。その…マヤを遠くに連れて行かれたように感じて…。つい、腹を立ててしまって…」
自分の頬がどんどん熱を帯びていく。
身じろぎを止めたマヤは静かに黙っている。
「子供っぽいことしたわ…。お願いだから軽蔑しないで…。」
ずっと黙られていることに徐々に不安を感じてくる。
今、マヤは何を思っているだろうか。
どんな表情をしているだろうか。
やはり、馬鹿みたいと軽蔑されてしまったのだろうか……。
腕の力を緩めた。
マヤは沈黙したまま胸に顔を埋めている。
「マヤ…」
声に不安の色が表れてしまう。
それに反応するようにマヤの肩がまた震えだす。
マヤは静かに泣いていた。
声を圧し殺すようにして胸の中で静かに泣いていた。
「マヤ…」
そう呟くようにまた呼ぶと、マヤは頭をブンブン左右に振ってしがみついてきた。
「わたし……わたし…嬉しいです…。わたし…嫌われていなかった…先輩…」
マヤは安心したように涙を溢れさせている。
次から次へとポロポロ溢れ落ちていく涙を、私はまた指でそっと拭っていった。
「そうよ、私が勝手に腹を立てていただけなの…。私が馬鹿だから…」
「いいんです。…先輩に必要とされていれば…わたし、それでいいんです…。」
510リツコ:2009/06/05(金) 22:09:24 ID:???
マヤはまた頭を振ると強くしがみついてきた。

―トクン―

ふいに胸が鳴る。
今のマヤの言葉に胸が鼓動を打った。
私を見上げ、嬉しそうに泣き笑いしているマヤ。
急に愛しい感情が込み上がってくるのを感じ、そのままマヤをまた抱き締めてしまった。
「あっ…」
私の耳元でマヤが小さく声をあげるのも構わず、また黒髪にキスをする。
「先輩…」
マヤの頬が色づいてく。
「あなたがあまりに愛らしくて、つい…。その…今のはお詫びよ。許して貰える?」
胸の鼓動がどんどん速くなるのを感じながら、私は自分で何を許せと言っているのだろうかと思った。
マヤは恥ずかしそうに頷くと、私の肩口に顔を伏せて俯く。
その首筋が紅く色づいているのを目にした途端、私は抑えようのない衝動に突き動かされた。
何も考えず強く抱き締める。
同時に胸の鼓動が激しく乱れていく。
耳元にマヤの吐息を感じて頭の中が真っ白になり、自然とマヤに顔を近付けていく。
ハッとしたまま動けないでいるマヤに…。

―ビィーッ―

いきなりブザー音が鳴る。
それは点滴の終わりを告げるブザー音だった。
それを合図に、マヤは逃げるように私から体を離した。
「せ…先輩っ……て…点滴が終わったみたいです…。」
慌てて立ち上がり中身を確認しようとしている。
その声に私も我に返る。
511名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/05(金) 22:11:26 ID:???
ちょwww
512リツコ:2009/06/05(金) 22:16:24 ID:???
今、私は何をしていたのだろうか…。
何も考えずに無意識にとってしまった行動…。
何をしようとしたのだろうか…。
「(私、今……)」
胸が波打つようにまだ鼓動していた。
放心したように視線を巡らすと、誰かの姿を捕らえたような感じを受けた。
「(えっ…?)」
瞬間、気配が消える。
コツコツという甲高いヒール音と共に…。
翻った白衣の裾が目に入ったような気がする。
今のは…あれは……。
心臓を鷲掴みにするような目で私を見てくる、その人物の名が浮かぶ。
「(青山主任……)」
見間違いではないだろう。
僅かに開いたままのドアを見つめる。
「せ…先輩っ、針…抜きますよ?」
まだ頬の赤いマヤが、手の甲から針を抜こうとしている。
甲斐甲斐しく動くマヤはまるで看護師のようだ。
ナース姿もさぞや似合うのだろうなと想像したら、クスッと笑ってしまった。
「…また妄想してますね?」
それに気付いたマヤが膨れる。
「も…妄想じゃないわよ?ちょっと楽しい想像をしただけよ?」
「もぅ〜、仕方ないですね。」
文句を言うも、その顔は笑っていた。
いつものマヤに戻ってくれている。
私はホッとする思いでベッドから降りた。
「ふぅ、まるで本当の病人みたいね…。でも助かったわ。マヤ、ありがとう。」
「いいえ…。お薬が出されましたからちゃんと飲んで下さいね。…あと、これなんですけど……」
私に処方薬を手渡すと、ポケットから何かを取り出そうとする。
「葛城さんにいただいたものです。先輩の目が覚めたら、これで一緒に食事にでも行きなさいって……。」
513リツコ:2009/06/05(金) 22:24:48 ID:???
マヤの手に握られているのは三枚の一万円札だった。
「こんなの駄目ですって断ったんですけど、いいからパーッと使っちゃって欲しいのって無理矢理これを……。」
マヤが困った顔をする。
私はポカンとした。
そのお金は、私がこれまでミサトに貸していたものだ。
「フフッ、いいじゃない?気にすることないわ、使っちゃいましょ。…そうね、今夜はどうかしら?」
ミサトも味な真似をしてくれるものだ。
マヤに預けたというのはこういう意味だったとは。
仲が上手く戻ることがわかっていたのだろうか。
「う〜ん…先輩が言われるなら…。でも全部は駄目です!残ったお金はちゃんと葛城さんにお返しして、お礼もきちんと言わないとですね。」
「そっ…そうよね。マヤの言う通りだわ。」
元は私のお金なの…とは言えず、冷や汗を流すように答える。
マヤは時計を見ている。
「今は1600ですから、2時間後はどうでしょう?…あ、葛城さんも一緒の方がいいですよね。」
「…マヤは私と二人じゃ…嫌?」
つい、そう聞いてしまった。
どうしてそう聞いてしまったのか…聞いた後に私は我に返った。
慌てて首を思いきり横に振るマヤの頬がまた色づく。
514リツコ:2009/06/05(金) 22:30:22 ID:???
「久しぶりにマヤと一緒に居たいな…って思ったのよ。」
私は照れを隠せず下を向いた。
「わたしも先輩と……その…しばらく離れてたから…。」
恥ずかしそうにマヤが答える。

―トクン―

また鼓動を打つ。
「…えぇと、あなたはもう仕事に戻った方がいいわ。私は大丈夫だから。」
「はい…。では、後で先輩の部屋に伺いますね。」
マヤは私が回復したとわかったようで、そう頷くと部屋を出て行った。
頬を紅く染めたまま。
ドアが閉まる。
「……………。」
私は確認するように胸に手をあててみた。
胸の鼓動はまだ鳴り止んでいなかった。
515名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/05(金) 22:35:31 ID:???
ぐおおおおーブザーの馬ぁ鹿ぁw
支援!
516名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/05(金) 23:50:27 ID:???
ここでおあずけはきついwww
517名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 08:14:19 ID:???
まぁ、いいじゃまいかw
リツコに自覚があるのか無いのか(知りたいw)ともかく今晩のデートは
妙に意識してしまうとかか?
518名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 10:41:45 ID:???
今日か明日には来るかな、待ち遠しい
支援
519名無しが氏んでも代わりはいもの:2009/06/06(土) 12:06:06 ID:???
続きが気になる
期待支援
520名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 20:20:49 ID:???
後で先輩の部屋って、仕事場じゃなくプライベートの部屋に逝け!どうせ伺うなら
521名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 20:46:54 ID:???
2時間あったら速攻仕事片付けてネルフ大浴場で念入りに洗って出撃準備だな漏れはw
リツマヤステージから浴場のカットインでプレミアムリーチに昇格…
と、言うのは妄想で
初々しい二人もええな。
余計なお世話だがマヤが初めてなのか気になってきたw
何はともあれ流れに任せ支援

522リツコ:2009/06/07(日) 17:18:48 ID:???
私はいつもの白衣姿に着替えると病室を出た。
通路を歩いていると、前から二等兵…ではなく、青葉君が歩いてきた。
「倒れたって聞いた時は驚きましたよ〜。今、マヤちゃんに何事もなかったと聞いたところです。良かったですね。」
「えぇ、マヤが看病してくれたお陰ね。回復が早かったわ。」
私がそう答えると、青葉君はニヤリと笑った。
「そうでしょうそうでしょう。それに勝る特効薬はないでしょうから。……あ、青山主任が博士を探してましたよ?見かけたら、研究の件で話があるので伺いたい…と、伝言を頼まれました。」
「…そう、ありがとう。わかったわ。」
フィードバックの軽減の件で、何かあったのだろうか。
そう言えば前に、近い内に何らかの成果を報告出来るだろうとマヤが話していたことを思い出す。
私は急いで自室に戻ると、すぐ青山主任の研究室にコールした。
「技術開発部、青山です。」
コールはすぐ繋がった。
「赤木です。青葉君から研究の件で話しがあると聞いたわ。部屋に居るから、あなたの都合がついたら来て頂戴。」
「では、今から伺っても宜しいでしょうか?」
私が了承すると通話が終わった。
しばらくすると、青山主任が部屋に現れた。
資料を携えた青山主任の後ろに続き、マヤが部屋に入ってくる。
室内を見渡しているマヤの目が丸くなっていることに気付き、しまったと思った。
マヤと疎遠になって以来、私の部屋は荒れに荒れていたままだったのだから。
後で、絶対に叱責されるに違いないことを想像して首をすくめた。
「博士、フィードバックの軽減の件についてご報告にあがりました。目標値である三割カットを上回る五割達成の目処がつきそうです。」
523リツコ:2009/06/07(日) 17:23:14 ID:???
青山主任は手に携える資料をこちらに拡げて見せた。
「と言っても、理論上はですが…。証明するには実際にパイロットの実戦が必要になります。」
「リカさんの指示の下、この理論に基づいて一緒にプログラミング開発を行いました。それがこちらになります。」
マヤは資料の中から何かを取り出すと、私に渡してきた。
「痛覚として感じられる感覚のみを遮断出来るようにしてあります。」
私の掌には小さなチップが置かれている。
「…それは素晴らしい成果だわ。」
私はそのチップを手に取ると眺めた。
そんな私を青山主任は誇らしげに、マヤは満足そうな顔で見ている。
「わかったわ。…念のため、このプログラムにバグがないかをMAGIに検証させましょう。」
「では早速、今夜それを始めることにします。…マヤ、いいわね?」
青山主任がそう言うと、マヤは一瞬頷きかけるも即座に躊躇する表情を浮かべた。
そう…今夜は食事に行く約束をしている。
困った顔を私に向けるマヤ。
そんなマヤを青山主任はジッと観察するように見ている。
「それは明日でいいわ。何も遅くまで無理することないわよ。」
私は助け船を出した。
「でも、博士…」
「明日にしなさい。」
私がそう言うと、青山主任は黙って引き下がった。
「検証が無事に終わったら、次は模擬体で実験することを許可します。チルドレンの為にも早い方がいいわね。…来週早々を予定に考えておいて頂戴。」
「承知しました。」
スケジュール帳を開いて確認する私に青山主任が頷く。
「その資料は後でゆっくり目を通させて貰うから置いて行って頂戴。…二人共ご苦労様。」
「では、失礼します。」
二人が退室する。
青山主任の後に続いて部屋を出ようとするマヤは、チラッとこちらを振り返った。
視線を室内全体に向けてから私を見るその顔は、やはり小言を言う時の表情をしていた。
私は苦笑した。
ドアが閉まる。
私は急いで部屋を片して掃除をした。
524リツコ:2009/06/07(日) 17:27:23 ID:???
少しでも綺麗にしておかないと、また怒られてしまうのが目に見えている。
私は時計を見た。
あと30分もしない内にマヤがまた戻って来る。
心は既に今夜のことで一杯であった。



マヤは5分前に来た。
部屋に入るなり、耳にタコな言葉を飛ばしてくる。
「もぅ、駄目じゃないですか〜。さっきはビックリしましたよ?あんなに荒れてるなんて思いもよりませんでした。」
自席に座ったマヤは、目を三角にしている。
「フフッ、だから急いで片したのよ?どう…今は綺麗でしょ?」
「後から言われても自慢になりません!」
マヤは腕を組んで頬を脹らます。
「だって、マヤが部屋に来てくれないんだもの…。寂しかったわ。」
本音がポロリと出てしまった。
口にしてしまった言葉にハッとする。
「わ、わたしも気になってたんです。…でも、先輩がああだったから……ここには来づらくて…。……わたし、やっぱり先輩をシッカリ見ていないと駄目です。」
顔を紅くしたマヤが呟くように答える。

―トクン―

また鼓動を打つ。
マヤの言葉に反応したように始まってしまう鼓動。
これでもう何度目だろうかと思った。
「あの…先輩、今夜はどこに行きましょうか?………先輩?」
胸の鼓動に気をとられていて、マヤの呼びかけに気付くのが遅れてしまった。
「あ…えっと…そうね、マヤは何が食べたい?」
「う〜ん、わたしは何でもOKですね。先輩は?」
逆に聞き返される。
525リツコ:2009/06/07(日) 17:30:12 ID:???
何でもという答えは一番困るものだけど、マヤからは特にリクエストするものはないようだ。
私は考えた。
「…じゃあ、家に来ない?」
「えっ?先輩のお宅にですか?」
何の気なしにそう誘ってみた。
元々、食が細い私は外食では残すことも多く、食事は自宅で簡単に済ます方が向くタイプであったのも理由の一つではあった。
本当の所、私にとって食事は二の次で、一番の理由は静かな場所でマヤの顔を見て会話をしたかったから……ただ一緒に居たかったからである。
「でも、食事はどうしましょうか?」
「そうね…何か出前でも取りましょうか。フフッ、何でも頼みなさい?」
私がそう思っていることを知らないマヤの関心は、あくまでも食事にあるようだ。
脱力するように苦笑する私にキョトンとしていた。



私達は部屋を出た。
通路を歩き外に出ると外は冷たい風が吹いていて、あの時のことを思い出してしまった。
青山主任とマヤが一緒に帰って行く後ろ姿を見送った時のことを。
あの日、帰る時にも外はこんな冷たい風が吹いていた。
「……………。」
こうして冷たい風に吹かれて歩きながら、あの日、青山主任とどこに行ったのかと思わず聞きそうになってしまい唇を噛んだ。
突風が吹く。
「きゃっ…」
マヤがいきなり腕を絡めてきた。
「寒い?」
「少し…。先輩は平気ですか?」
マヤは絡めた腕に力を入れた。
「っ…!」
「あっ、すみません!」
マヤが慌てて腕を離す。
私の腕には、床に倒れた時に出来てしまった青痣があった。
「痛々しいですね。早く消えるといいのに…。」
526リツコ:2009/06/07(日) 17:35:06 ID:???
マヤがその箇所を指でなぞった瞬間、背筋にゾクッとする感覚をおぼえた。
うっかり声をあげそうになってしまい、また唇を噛んだ。
風が吹くたびにマヤは寒そうにする。
「車までもう少しよ。……ほら、こうすれば多少はマシじゃない?」
私はマヤの肩に腕を回した。
瞬間、マヤの体がビクッとして頬が紅くなっていく。
それを満ち足りた面持ちで見てしまう私は何だろうか。
「……………。」
マヤは肩に回された私の腕をそっと見ている。
また突風が吹く。
その度にマヤは体を縮こませる。
その体を抱き寄せてしまったら、マヤは何かを確認するように私を見上げてきた。
マヤの潤む瞳が私を捕らえる。

―トクン―

わかったように鼓動が打たれた。
私の頬が熱くなっていくことに気付いているのだろうか、マヤの紅い頬が更に紅くなる。
マヤは無言で私の肩にコトンと頭を乗せた。
胸の鼓動が速くなっていく中、私達はそのまま黙って歩いた。
車に辿り着くと無言で乗り込み、無言で発進した。
普段ならおちゃらけた会話をしてくるマヤは、流れて行く車外の景色に目を向けている。
何かを考えているようなマヤに意識が移りそうになる中、私は運転に集中した。
527リツコ:2009/06/07(日) 17:37:46 ID:???
やがて車は駐車場に滑り込む。
自分の駐車スペースに停めると車から降りてマヤを振り返った。
「あの七夕以来よね、あなたが来るのも。」
「あっ…そうでしたね。先輩のお宅は広いから羨ましいですよ〜。」
多少ぎこちないものの、マヤは普段の表情に戻っている。
ニッコリ笑うマヤを従えて、私は家に向かった。
家の中は真っ暗だった。
当たり前と言えば当たり前で、この部屋の住人は私しかいない。
玄関口で灯りを点けると、マヤをリビングに通した。
「適当に座ってて頂戴。今、着替えてくるわ。」
マヤがソファーに座る。
私は寝室に行きクローゼットを開けた。
普段から深夜帰宅なため、いつもならすぐ入浴してパジャマに着替え、後はさっさと寝てしまうことが殆どである。
今日はまだ時間も早いし、それにマヤが来ている。
いくらなんでもパジャマで現れるわけにはいかない。
部屋着のシンプルな白いシャツと黒いパンツを取り出して着替えると、急いでリビングに戻る。
「先輩、カッコイイです…。」
この格好で戻ると、マヤが即座に反応して呟いた。
いつもとは異なったスタイルなだけに、嫌が上にも目立つようだ。
マヤが一生懸命な様子で私を見てくる。
「もぅ、恥ずかしいじゃない…。え〜っと出前は……。ねぇ、マヤは出前だと何が好き?」
電話を手にした私はマヤに振り返って聞いた。
「…う〜ん、麺類ですね。あとはピザとか。」
「じゃあ、お寿司にするわね。」
そう答えると、マヤがソファーの上でコケたようにした。
何ですかソレはと言いたげな顔で見ている。
いつもマヤの天然に脱力しているのだから、たまには逆があってもいいのではないかという出来心だ。
私はクスリと笑った。
寿司の注文を済ますとキッチンに行き冷蔵庫を開けた。
528リツコ:2009/06/07(日) 17:42:39 ID:???
きちんと料理をする時間を取れない日々もあり、その外見の大きさに比べて中身は侘しいものである。
日本酒をきらしたことがないのが唯一、誇れることなのかも知れない。
ある意味、ミサトと同類か…いや、あの家の冷蔵庫の方が遥かにまともに違いない。
なにせ名コックがいるのだし、食材はそれなりに確保されているのだから。
お盆に酒とビール、それにグラスを二つ乗せた。
簡単なつまみを適当に皿にあけ、それも乗せるとまたリビングに戻った。
マヤはおとなしく座って待っている。
マヤの隣に座る。
「お寿司が来るまで適当につまんでましょ?」
「あぁっ!ナッツは好きなんです。ビールに良く合うんですよね〜。」
マヤのグラスにビールを注ぎ、マヤは私のグラスに日本酒を注いだ。
「フフッ、なんだか新鮮よ?こうしてマヤと一緒に居るのが…。」
「わたしも…。先輩とこんな風に話すのも久し振りですよね…。」
しんみりと答えるマヤの顔を、私はまじまじと見つめてしまった。
「…あの…わたしの顔に何かついてます?」
あまりに私が見てくるのを気にしたのか恥ずかしそうにする。
「まともに顔を見るのが久し振りだったから…嬉しくて、ついね…。」
私がそう答えたら、マヤの頬がほんのりピンクに染まる。
「もぅ、先輩は…。」
「あなただってさっき私を見ていたじゃない。フフッ、何を思っていたのかしらね?」
マヤの頬が更にピンク色になっていく。
グラスに口をつける。
529リツコ:2009/06/07(日) 17:45:21 ID:???
「……先輩、今日はいつもと違いますね…。」
「いつもと?」
隣に座るマヤが恥ずかしそうに俯くと、何か言葉を選ぶように考えている。
「なんていうか…ワイルドで……素敵です。」
いきなりそんなことを言われてしまい、私は飲んでいた酒にむせてしまった。
ゴホゴホと咳き込む。
「だっ、大丈夫ですか?」
「…何を言うのよ。」
ティッシュで口を拭う私にマヤは苦笑している。
またグラスを口にした。
もう少し会話が弾みそうなものなのに、少しぎこちない気がしないでもない。
しばらくブランクが空いてしまったせいだろうか…。
今日の私がいつもと違うのは自分でも感じてはいる。
何故という理由を今、求めているわけではない。
私はマヤの横顔を見た。
今はただマヤをこうして見ていたかった。
マヤは先程からしきりに口をつけていたグラスを置くと、ソファーに手をやった。
マヤの指が私の指に触れ、私はハッとする。
マヤは酔いが回っているのか指が触れていることに気付いておらず、もう片方の空いた手でナッツを無邪気に口に放り込んでいる。
「……………。」
指がジンジンと熱くなるが、私はそのままでいた。
「先輩、食べないんですか?おつまみなくなっちゃいますよ?」
「あっ、いつの間に!」
気が付けば皿の8割方が片付けられようとしている。
驚く私にテへッと誤魔化し笑いしてみせるマヤ。
その顔が可愛いくて、私は病室で見舞われたあの強い衝動に駆られてしまいそうになった。
「そんなに一気に食べて…。お寿司が食べられ……るんだったわね。」
相手が食の王者マヤであることに脱力し、これから配達されてくるお寿司が足りるといいなと苦笑した。
530リツコ:2009/06/07(日) 17:49:28 ID:???
「だって、先輩ったらさっきから黙っているし…。」
キュッ…。
指先を握られたような気がした。
「テレビとか見ないんですか?」
マヤはリビングに設置される消えたままのテレビに顔を向けた。
このテレビは実に勿体無いものなのだろう。
朝食時ぐらいにしか使われておらず、消えている状態の方が多い。
「見たい?」
「…いいえ。先輩とお喋りしてたいです。」
キュッ…。
また指先を握られたような気がした。
妙な感覚に襲われそうになり、私はグラスに口をつけた。
「フフッ、顔が赤いわね。ゆっくり飲まないとミサトみたいになるわよ?」
「…先輩もかなり赤いじゃないですか〜。」
ピッチを遅くして飲んでいるからそう赤くはないはずなのに…と、手をあててみる。
まぁ一旦、飲み始めてしまえば同じことなのだろう。
グラスに口をつけた。
会話が途切れがちになる分、私達はグラスに口をつける回数が増えていく。
マヤはビールを飲み終わると日本酒に口をつけ始めた。
「……ねぇ、この前の帰りに通路で青山主任を待ってたわよね?急いでいる様子だったわ。……どこに行ったの?」
ほろ酔いが手伝って口が開くのも滑らかになり、気になっていたことをつい聞いてしまった。
「えっ?…あ、その日は映画を見に行きましたけど?」
なんでそんなことを聞いてくるのだろうかと不思議そうに私を見る。
「ふ〜ん…。マヤが青山主任の腕を引っ張って仲良く歩いて行ったから……ちょっと…ムッとね。」
「……それって、あの…先輩が病室で言われた…その…」
マヤが言おうとする言葉に気が付き、私は頬が一気に熱くなってしまった。
531リツコ:2009/06/07(日) 17:55:04 ID:???
うっかり自分から話しを振って口を滑らせてしまっただなんて。
「…え〜っと、それは……まぁ、そうなるわ…ね…。」
声が尻すぼみに小さくなっていく。
「先輩って可愛いですね。……そっかぁ…。」
キュッ…。
三度、指先が握られる。
今度はハッキリと握られたことがわかった。
そっと指先を握り返してみたら、マヤの頬が色鮮やかになったのは気のせいだろうか…。
マヤはそのままでいる。
「もぅ、からかって…!でも、青山主任はいつもあなたにベッタリだわ。あなたを気に入っているのがよくわかるもの…。」
「えっ、どうしてそう思われるんですか?」
マヤはまた不思議そうな顔をする。
「それはね……こうしているからよ?」
握っていた指先を離すと、そのままマヤの肩に腕を回した。
ほろ酔いなため何の遠慮もせずに強く抱く。
マヤの体がまた跳ねたように見えたのは気のせいだろうか…。
「青山主任はいつもこうしてあなたと歩いているじゃない…。」
ついその姿を思い出してしまい、ムッとした口調になってしまった。
「へっ?わたし、全然気にしてなかったです。いつもお友達ともそんな感じだし、腕組むのもしょっちゅうですし。」
マヤはキョトンとした顔をする。
「…マヤだって嬉しそうな顔をしてたし、まるで……」
まるでカップルみたいだわ…と言いそうになり、そこで口を閉じた。
何となく、この言葉を口にするのがためらわれたから。
「…まるで仲良すぎよ。」
代わりにそう口にすると、マヤは視線を下に落として何か考えるような様子になった。
「…わたしは先輩の一番弟子です。………心配ですか?」
しばらくして顔を上げると、その表情は真剣なものになっていた。
532リツコ:2009/06/07(日) 18:03:00 ID:???
潤みを帯びた瞳で私を見上げている。
何かを訴えるように…何かを言いたそうに…潤む瞳で私を見ていた。

―トクン……トクン……トク…トク…トク…―

胸が高鳴っていく。
何かが伝わってきそうな予感と、何かを伝えそうな予感に囚われる。
「私は……」
マヤは肩に回された腕にそっと凭れるように頭を寄せると視線を落とし、その先にある私の手を両手で包むようにしている。
そして、私が何か言うのを待つようにそのまま動かない。
「私は……」
聞かれた通り、心配だと言えばいいのだろう。
だから、つまらぬ嫉妬をしてしまったのだ…と、そう言えばいいのだろう。
でも、その問いには違うニュアンスが含まれているのを直感した。
その問いに返す言葉があるのに、意識の奥底に封じ込めているかのようにそれが浮かび上がらない。
胸の鼓動が強まっていく中、何とかしようと頭を回転させるも上手く回らなかった。
だから…だから、言葉を紡ぐ代わりに私は空いた手でマヤの頬に触れた。
私にゆっくり向けてくるマヤの紅潮した顔。
その頬に触れた手を、顎に添えた。
何も言わずに私を見つめるマヤに、そのまま私は…
533リツコ:2009/06/07(日) 18:05:46 ID:???


―ピ〜ンポ〜ン―


突如、軽やかなチャイムの音が鳴り響く。
使徒襲来時の警報ではないのに、私は焦って咄嗟に立ち上がってしまった。
心臓がバクバクしている中をモニターで確認すると、注文したお寿司の配達人がピースサインと共にニッコリ笑顔でモニターのカメラを覗き込んでいた。
思わず苦笑する。
「あっ、わたしが受け取ります!」
マヤはドアにぶつかりながら、慌てたように玄関に走って行く。
そんな自分達に、ホッとするような残念なような…何ともいえない心持ちで私はただ苦笑するしかなかった。
534名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 19:13:03 ID:???
ちょwwwwwwwww
535名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 20:12:18 ID:???
あぁwww
更新はやっ dd
支援!
536名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 20:47:42 ID:???
寸止め王だなホント…支援!

読んでて動悸があまりにも激しくなったんで
自分の靴下の匂いで落ち着こうとしたが、
それでも落ち着かないレベル
537名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 21:39:26 ID:???
>>536

> 読んでて動悸があまりにも激しくなったんで
> 自分の靴下の匂いで落ち着こうとしたが、
> それでも落ち着かないレベル


536タンにも支援w
538名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:05:45 ID:???
おお!本当にセンパイの部屋に行く事になっていたwラッキー!

寿司屋襲来は予測の範疇ですよw
それにしてもリツコ素直w無自覚の賜物か?
マヤ今夜はお泊りかなぁ〜
家に帰って「センパイのことを想って・・・」の方が当面スッキリしそうだがw
>>536
ワロタw
539名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:30:55 ID:???
dd!
今夜はどうなるのだろう…気になるw
この流れからすると
泊まってけと言うのは、良い?と言うのと同義で
はい、と言ったらOKですよ。と、これまた同義かと?
積極的に見えるリツコよりマヤの方が心(身体もか?)の準備オッケーかも?w
と、妄想してみた
540名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:42:04 ID:???
マヤタン、リツコとなると早そうだもんな
541名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:46:17 ID:???
いやいや、リッちゃんは3回くらいお泊まりがあっても
手は出せないタイプと見た!
542名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:52:50 ID:???
見えます。見えます。
再来週あたりこのスレでヘタレ扱いされるリツコがw
543名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 22:57:16 ID:???
540でつが
早いとは身体的反応って事で行動の事ではありますぇん
念のために
544名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:00:53 ID:???
>>541
じゃ、4回目にはどういうキッカケで手を出すんでしょうかぁ?
教えてエロイ人
545名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:07:15 ID:???
酒飲みだからスムーズにイクよw
546名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:12:43 ID:???
リツコとマヤはできちゃあかんだろwwww
547名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:14:15 ID:???
>>546
なんでやねん?
548名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:19:37 ID:???
>>544
ヒント:先にしびれを切らすのはマヤ
549名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:24:57 ID:???
>>548
萌えるなw
550名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:32:25 ID:???
先攻はマヤか
やり方解るのか解るのか・・・などと余計な心配をw
551名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/07(日) 23:38:17 ID:???
>>548
楽しみ!!楽しみ!!
552名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 00:37:27 ID:???
>>550
誘い受けなら大丈夫

あ、っていうか今のこの状態が誘い受けなのか?すでに
だったらリッちゃん頑張れとしか言えないな…
553名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 06:58:45 ID:???
やり方は、センパイのことを思って毎晩シュミレーションしてるから大丈夫でしょ?
554名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 09:56:56 ID:???
暫くマヤにはリツコの家にでも通い妻してもらいたいですなw
555名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 13:02:59 ID:???

マ『もう、先輩早く起きないと遅刻しちゃいますよっ!』

リ『うう・・もうちょっと・・・』

ごめんなさい誰かうまくかいてくださいorz
556名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 13:44:47 ID:???
>>555
それでも十分ですw
557名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 15:16:46 ID:???
>>555
良いねぇwんじゃ、自分も。

リ「ただいま」
マ「お帰りなさ〜い♪ご飯にします?お風呂にしますぅ?それとも・・・」
リ「・・・お、お風呂にするわ」

これじゃどっかのギャグだが
558名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 15:24:09 ID:???
最初布団が別々だった場合

リツコ「こっち、来れば?」
なのか
マヤ「そっちに、行ってもいいですか?」
またはその逆か?
どっちなんだろう?
559名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 15:29:03 ID:???
>>558
それを考えるだけで相当楽しいのは確かだ。
560名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 16:19:07 ID:???
リツマヤ新婚物語
561名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 18:29:19 ID:???
新婚!?
夜のお勤め・・・
今週も「さーびす、さーびすぅ♪」

ところで、どっちがどっちにサービスするのだ?
ここスレ的には誘い受けなマヤからすると・・・w
562名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 19:10:30 ID:???
>>555
昨夜はマヤがリツコを寝かさなかったと
563名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 19:37:36 ID:???
>>561
流れ的にマヤが潤んだ瞳で見つめ続けて
リツコが辛抱たまらんという感じでおっぱじめる感じを考えてる。
でもさーびす中にマヤがいきなり逆さーびすをし始めたら
リツコはビックリしてものすごく恥ずかしがりそうで
それもまたよし
564名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 20:43:33 ID:???
>>563
うおおおおおお!異議無し
前回からものごっつ誘い受けなマヤ
しかし、そんな予告リーチしちゃってええんでしょうか?
激熱なんですがw
565リツコ:2009/06/08(月) 21:16:28 ID:???
何やらレスの流れが早いので来てみれば、盛り上がってますわね……。
結末に至るまでどのような過程を辿るのか……まだ伏線もあり、先は長いと申し上げるのみです。

―追伸―
次の書き込みは今週末を目処にしておりますが、少し遅れるかも知れません。
566名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 21:24:42 ID:???
先は長いって嬉しい♪
まだまだ続いて欲しいので。
溜がある方が気持ち良いでつよねw
続きまで待ち遠しいので最近妄想雑談に走ってまつ。

昨日は人大杉が出てますた。ここスレ。
結構観てる人多いのかな?リツマヤフリークとして嬉しい限りでつ。
567名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 22:18:55 ID:???
>先は長い

前途多難ということですねw
頑張れリツコ!
568名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 22:22:57 ID:???
なんだか前回から恋愛の力関係が変わったような希ガスw
がんがれ
569名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/08(月) 22:53:45 ID:???
逆サービス・・・マヤならやりそうな
案外リツコの方が先に、なんて
マヤは「嬉しいですぅ」とか言いそうだけど
リツコ的にはとっても恥ずかしいかも・・・
期待してますw
570名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/09(火) 17:38:00 ID:???
無理せずに。
気長に何より楽しみにしてます。
571名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 14:23:04 ID:???
ここのリツマヤ

私はあなたが思ってるような人ではないかも知れない
でもあなたを見ていると
とっても優しい気持ちになるのよ

と言う歌詞を思い出します。
572名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 15:28:35 ID:???
間違えた
正しくはこっちです


私はあなたが思ってるような人ではないかも知れない
でも不思議なんだけど あなたの声を聞いてると
とっても優しい気持ちになるのよ
573名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 19:39:35 ID:???
飲み過ぎると抱けなくなるので
程ほどに
リッちゃん

574名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/11(木) 20:56:46 ID:???
この静けさ…みんな週末に向けて英気を養ってるんだな
575名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/11(木) 21:39:48 ID:???
どうそのエネルギーを向けて良いのかと
誘い受けのマヤは新鮮だったけど、これからの展開を楽しみにしてる
576名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/12(金) 22:30:01 ID:???
>心配ですか?
なんて究極の誘い受けだよな〜
もういただくしかないよ!
いただかなきゃ失礼w
577リツコ:2009/06/13(土) 22:36:50 ID:???
お寿司を受け取ったマヤがリビングに戻って来るのを、私は苦笑交じりで迎えた。
「メインディッシュが来ましたね!」
先程の謎かけな出来事はどこへやら、マヤはメチャクチャ嬉しそうに寿司桶をテーブルに置く。
「凄い、凄すぎますっ!!」
蓋を開けた桶の中が各種寿司ネタの粒揃いなことに興奮覚めやらぬ様子でいる。
久し振りにマヤと過ごせる時間が持てたことで今夜はかなり奮発してしまった。
喜ぶマヤを見て自分も喜びたかったから…という理由だ。
私も実に単純なものである。
「さっ、召し上が…」
まだ言い終わらない内に、投擲されたロンギヌスの槍みたいなマヤの箸が宇宙速度ばりな速さで私の眼前を通過した。
「すぅっごく美味しいぃ♪」
脂ののった大トロをパクリと口に頬張って大層ご満悦な様子。
「そ…そう、それは良かったわ…。」
マヤの無駄のない素早い動き。
かなり大振りなネタを一瞬で口におさめたことに、目が点になる。
マヤはその後も、いくら、数の子と続け様にパクパク食べていく。
「…はいっ、先輩も食べて下さい。」
食べっぷりの良さに見とれていると、口元にイカが迫ってくるではないか。
イカだけにこれは如何なものか。
ソイヤソイヤを思い出して遺憾の意を表明するのはイカンのだろうか。
ここで駄洒落るなんてマヤみたいだけど、私はつられるがままに口を開けた
マヤの箸が唇に触れて恥ずかしくなる。
いつかの、カウンターでマヤに食べさせて貰った日のことが浮かんで頬に熱を帯びてしまいそう。
そんなマヤも私が食べるのを恥ずかしげに見ているから、また変に緊張もしてしまう。
雲丹を頬張ったマヤは頬も落ちんばかりに実に美味しそうに口を動かしている。
「はいっ、これも。」
今度はタコを差し出してきた。
578リツコ:2009/06/13(土) 22:39:50 ID:???
また口を開ける。
何だか、食べるネタに格差を感じてしまうのは気のせいだろうか……。
「美味しいですか?」
「え、えぇ…」
私は次に、何となくアワビを自分で取った。
何となく…だ。
「葛城さんにお礼をしないとですね。高かったですし。」
「フフッ、心配性ね。気にしなくても大丈夫よ。」
私はグラスに口をつけた。
「今、とぉ〜っても幸せな気分です。先輩とこうしてお寿司を食べれるのもリカさんのお陰です。」
「お陰って…なぁにそれ?」
いきなり青山主任の名前が出て意表を衝かれる。
しかも、お陰という言葉…その意味が解らない。
「先輩の部屋から戻った後に聞かれたんです。今夜は何か用があるみたいね…って。それで先輩と食事に行く約束をしているんですって答えたんです。」
マヤは言わない方が良かったのかな…といった感じで苦笑した。
「…そう………何か言われでもした?」
「いえ、何も…。ただ、それなら早く行きなさいって…。わたし、まだ仕事が少し残ってたんですけど、それは自分がやるからって…。」
私は眉を上げた。
マヤにベッタリな青山主任のことだから、きっと引き留めたのではないだろうかと思っていたからだ。
ましてや、その相手が妙な敵対心でもって接する私であるなら尚のことそうだろうと思ってもいた。
そんな青山主任が送り出す言葉を言うだなんて、どうにも腑に落ちない。
「……そう…。」
意外に思いながらグラスに口をつけた。
マヤはそんな私を見ている。
「どうしたの?」
「いえ…何でもないです!」
マヤは慌てたようにカニに箸を伸ばす。
沈黙を交えつつ、何だかんだと雑談しながらも寿司桶は空になっていく。
「やっぱり好きな物は一番最後に食べる主義ね?」
マヤが最後に残っている玉子を取ったところでそう言ってみた。
579リツコ:2009/06/13(土) 22:42:42 ID:???
「あ〜っ、わかります?」
「フフッ、あなたが好きな物ぐらい知ってるわよ。なんだってね。」
テヘッと照れ笑いをするマヤにそう答えた。
「…まだ先輩がご存知ないものもありますよ?」
「そう?じゃあ教えて。」
私がそう言うと、マヤははにかむように困った顔をする。
「それは内緒です!」
「あら、ケチね。自分で調べるからいいわよ?MAGI使って…あ、いっそ諜報部に頼もうかしらね?」
私がそうからかうと、マヤは真顔で慌てて手を振った。
そんなに隠したいことなのだろうか、必死で止めて欲しいと訴えてくる。
「フフッ、冗談よ?……今はまだね。」
そう言ってみたら、今度は目を白黒させている。
何度もからかってしまうという私の悪い癖が本領を発揮してしまった。
気分良くグラスに口をつける。
今日一日だけで、マヤは色んな表情を私に見せてくれた。
泣き顔、心配顔、笑顔、照れた顔、困り顔、驚いた顔エトセトラ…エトセトラ…。
今は膨れっ面で私をジト目で見ている。
「(フフッ、可愛い…)」
そんなマヤが可愛くてならず、そんな想いで見つめてしまう。

―トクン―

まただ……。
どうしようもなく打たれてしまう。
どうしてなんだろうと思ってしまう。
それが起こる時はいつもマヤが関係している……何故なんだろう。
「……………。」
浮かび上がりそうな何かに思いを馳せようとすると、考えるのではなく感覚で捉えろと脳が命令を出してくる。
私は溢れ出そうな何かに胸を押さえた。
580リツコ:2009/06/13(土) 22:46:43 ID:???
「ふぅ〜、美味しかった♪」
ふいに現実に戻される。
マヤのことだからと4、5人前にしてみたが、見事完食しているのは流石と言おう。
マヤは満ち足りた笑顔を私に向ける。
今、この人懐っこい笑顔が自分に向けられていることに多幸感をどうしようもなくおぼえてしまう。
私もマヤにニッコリと微笑む。
「でも、前に先輩が作った玉子はもっと美味しかったですね。食べてて思い出しました。」
ウンウンとしきりに頷くマヤ。
それをコラっとばかりに小突いてみた。
前にと言うのはここで七夕祭りをした時のことで、あの時、私が作った料理の中に“だし巻き玉子”があった。
マヤが玉子好きなのを知っていたから敢えて作ったのだ。
「でも本当に、本当に美味しかったんですよ?わたし、大好きです。」
「フフッ、嬉しいわね。また作ってあげるわ。」
たとえヨイショであったとしても、大好きと言われたことに私は単純にも喜んでしまった。
あれで良いなら、いくらだって作ってあげる。
そう思った。
「そう言ってくれるマヤが大好きよ?」
そう付け加えたら、マヤは恥ずかしそうに照れ笑いで俯く。
その姿に何とも言えない気持ちが沸き上がり、私は無意識にマヤの手を握ってしまった。
マヤがハッとする。
「…あ……えっと、デザートに果物でも食べない?たしか何かあったわ。うん、そうそう…。」
何気なく握った手を離し、また冷蔵庫を開けに行く。
自分はまったく何をしているのか…頭を振って冷蔵庫の中を覗くと葡萄があったのでそれを取り出してリビングに戻った。
「まだ大丈夫でしょ?」
「はい、イケます!」
早速、指が伸びてくる。
食べている時のマヤは本当に幸せそうだ。
無邪気に葡萄を頬張っていくその顔は天真爛漫そのもので、実に愛らしい。
581リツコ:2009/06/13(土) 22:50:49 ID:???
そんなマヤを見ていたら、ちょっと悪戯心が沸き上がってきた。
「フフッ…」
私は葡萄を一つ取るとマヤの口元に近付けた。
一瞬、キョトンとするマヤ。
私が何をしようとしてるのかわからない様子だったが、それを唇にあてたら頬を紅らめさせた。
恐る恐る口を開けたところを、中の実だけゆっくり押し入れていく。
マヤが飲み込むと私はまた口元に葡萄を持っていった。
一つ、二つ、三つと食べさせていく。
その間、私はずっとマヤの顔を見ていた。
マヤがどんな表情をしているのか確認するように視線をはずさなかった。
葡萄を次々に口に受け入れていくマヤの頬はどんどん紅潮していく。
吸い込まれたように私を見つめ返すマヤ。
ここでも可愛い反応が見てとれたことに、私は嬉しくなってしまった。
何粒目の時だろうか…中の実を押し入れようとした時に、指先がマヤの唇に触れてしまった。
ハッとする間もなく、マヤの舌先までをも感じた。
「……ぁ…っ…」
瞬間、背筋に電流が走ったような痺れを感じて我慢できずに声を出してしまった。
微かに開く唇の間から覗かれるマヤの舌先。
私はその舌先に目を奪われてしまい、体の中心部がじわじわと熱くなってくるのを感じた。
それはとても甘美な熱を帯びていて狂おしい気持ちにさせられてしまいそうになる。
そんな私の様子に気付いているのかいないのか、マヤは耳まで紅くしてしまっている。
声を聞かれて恥ずかしくなり唇を噛むも、私はまだ舌先から目が離せなかった。
「……そんな表情もされるんですね…。」
マヤが恥ずかしそうに呟く。
私はどんな表情を浮かべていたのだろう…マヤにどう見られていたのだろうか。
582リツコ:2009/06/13(土) 22:53:55 ID:???
葡萄の皮をつまんだままの指先に視線を移した。
濡れている指先は果汁なのか、それともマヤの……。
そう思ったら、また体の中心部に甘美なものをジュンと感じてしまった。
私は組んでいた足を組み替えてみた。
「……妖しいです…先輩って…。」
マヤは俯いたまま、私を伏し目がちに見ている。
「怪しいって…胡散臭いってこと?」
「ち、違います!その怪しいではなくて、その…妖艶というか……セクシーです…とても…。」
マヤの目には、今のがそんな風に映って見えてしまったようだ。
私は頬がカーッと一気に熱くなってしまった。
「…もぅ…何を言うのよ…。」
胸の鼓動が速くなり、顔を隠すように手をあてた。
そう言われたことを恥ずかしく思う一方で、喜びも感じてしまう自分がわからなくなる。
「本当にそうですよ?色っぽいです、先輩は…。」
さらに追い打ちをかけてくる。
今日の私がいつもと違うのは自分でもわかっているが、マヤもいつもと違うように思える。
今までマヤにこんなことを言われたことはなかった。
これまで艶っぽい話題はマヤとの間でしたことはない。
むしろ、タブーのように避けてきただけに、マヤの口からセクシーという単語が出たことは少なからず驚きであった。
一体どうしてしまったのだろう…私もマヤも今日はいつもと違う人間のようだ。
「…先輩みたいな人って憧れなんです。」
何かを思うようにマヤがグラスに口をつけた。
もう何杯目になるのかマヤの顔は真っ赤になっている。
「そう?私はあなたが思うほどのものではないわよ?ましてやセクシーだなんて…」
「いいえ、先輩はセクシーです!いつも見てますからわかります!先輩はご自分の魅力に気付いてないだけです!」
否定する私にマヤはムキになってそれを打ち消す。
583リツコ:2009/06/13(土) 22:56:47 ID:???
やっぱり今夜のマヤはいつもと違う…酒に呑まれてしまったのだろうかと私は思った。
「フフッ、ありがと。なら、マヤのためにもっとセクシーになって驚かすわ。」
自分でそんなことを言いながら、何を口にしているのだろうかと思った。
マヤから向けられる視線に再び何かが浮かび上がりそうになり、また胸を押さえる。

―ゴーン、ゴーン、ゴーン―

さっきから鳴りっぱなしの胸の鼓動を消すように壁時計が鳴った。
マヤが時計を見上げる。
「ちょっと一服してくるわね。」
私は煙草を手にとると逃げるようにベランダに出ようとした。
「先輩、わたしそろそろ…」
時計を見ていたマヤが口を開く。
「えっ、帰るの?」
「まだバスが走ってますからそれで…。大丈夫です。」
マヤはテーブルの上を片し始める。
泊まっていけばと言おうとしたが、マヤは帰り支度を始めている。
私はそれを寂しく、また残念な思いで見ていた。
でも一方で、漠然とした何かが泊まれと誘ってはいけないと頭の片隅で警鐘を鳴らしてもいた。
反発する気持ちに駆られもしたが、それが駄目だと告げてくる。
今夜の私達はいつもと違うからなのだろうか…ふと、そう思った。
その理由に気付かないようでは駄目だからだ、と心の声が聞こえたような気がする。
584リツコ:2009/06/13(土) 23:00:53 ID:???
マヤはテーブルの上を拭き終えた。
「今日は先輩と過ごせて良かったです♪ご馳走さまでした。わたし、帰りますね。」
「…この時間じゃ夜道は危ないわ。車を呼ぶからちょっと待って。」
私は帰ろうとするマヤを引き留めてネルフに車の手配をした。
「何だか寂しいわね…。」
「また明日があるじゃないですか。…甘えん坊さんですね。」
再びソファーに座ったマヤがクスッと笑う。
「…じゃあ、マヤはどうなの?」
いつも何だかんだとマヤに甘えてしまう自分を自覚しているだけに、甘えん坊と言う言葉は図星だった。
拗ねてしまった私は、悪戯っぽく笑うマヤの手を咄嗟に握った。
「そ、それは…」
いきなり手を握られてマヤは慌てている。
「ふ〜ん、冷たいのね。」
私はツンと横を向いて見せた。
こんな真似をするだなんて自分でも可笑しく思う。
幼児に退行してしまったかのような振る舞いは、いつもの私ではなかった。
今になって酔いが回ってしまったのだろうか…。
「……寂しいですよ…わたしも…。」
ぎゅっ…。
手を握り返される。
マヤはそのまま潤む瞳で顔を向けてきた。
どちらからともなくそっと指が絡む…。


―RRRRRRR―


部屋の電話が鳴った。
それは手配した車が到着を告げるものだった。
585リツコ:2009/06/13(土) 23:06:48 ID:???
「そ、それじゃ…わたし、行きますね。」
マヤがソファーから慌てて立ち上がる。
玄関口で靴を履き、ドアの外に出ようとするマヤの腕を私は咄嗟に掴んだ。
それに驚いたようにマヤが振り向く。
「…その…気をつけて帰って。」
「あ…はい、お休みなさい。」
ドアが閉まる。
私はその足でベランダに出た。
下まで付き合わなかったのは、さっきみたいに腕を掴んでしまいそうだったから。
また引き留めてしまいそうだったからだ。
だから、ここでマヤを見送ることにした。
私は煙草に火をつけた。
しばらくして、マヤがエントランスからトコトコと出てきた。
飲み過ぎて酔いが回っているのか、顔を両手でパンパンと叩いている。
よもや、私に上から覗かれてるとは露ほどにも思っていないだろう。
しきりに顔を叩くマヤは、自分に気合いを入れているかのようだ。
「フフッ…」
そんなマヤの姿に笑みが溢れる。
横付けされた車にマヤが乗り込むと車は動き出す。
車はどんどん小さくなって、やがて視界から消えた。
車が消えた後も、私はしばらくその方向を見つめていた。
「……帰っちゃった…か。」
呟く声に寂しさが表れてしまう。
無理を言ってでも引き留めれば良かったと思った。
「はぁ…」
疲れたように溜め息をつく。
今日は実に色んなことがあり過ぎた一日であった。
一番の出来事は、やはり倒れた時のことだろう。
私にしがみついて泣くマヤの姿が今でも胸に突き刺さっている。
心配するマヤを宥めたくて思わず強く抱き締めてしまったし、黒髪にキスまでしてしまった。
586リツコ:2009/06/13(土) 23:09:38 ID:???
感情に駆られて行動することは今まで私には有り得ないことだった。
「あの時はどうしちゃったのかしら…。」
紫煙を吐く。
それに、あの時、私はマヤに顔を近付けて何をしようとしたのだろうか。
頭の中が真っ白になってわけもわからずな行為ではあったが、そうしたいという強い衝動は今でもハッキリと覚えている。
あの時、私は無性にマヤに触れていたくてならなかった。
抱き締めたのも黒髪にキスしたのも、とにかくマヤを感じていたかったが故のことだ。
「……………。」
煙草のフィルターが焦げついていくのも構わず、私は俯くと額に手をあてた。
そのまま前髪をクシャッと掴む。
まさかの思いに駆られる。
今夜、ここにマヤを招いたのもその延長にあったことに気付く。
二人っきりになりたかったのも、肩を抱いたのも、見つめてしまうのも、手を握ったのも全てそうだ。
マヤを感じたいからに他ならなかった。
「じゃあ、私は……」

―トクン―

鼓動が打たれた。
今ここにマヤは居ないのに、考えただけで胸が高鳴ってしまう。
それが、その意味を告げてくる。
「私はマヤのことを…」
愕然とした思いに囚われた。
マヤは私の後輩で部下だ。
ミサトとは違う意味で大切な存在である。
大切というのは……ミサトは親友として大切な存在だが、マヤは…それとはまた違う。
友達という在り来たりなものでもない。
587リツコ:2009/06/13(土) 23:17:14 ID:???
親友以上にもっと……むしろ、一つになってしまいたいぐらいなものだ。
常に傍に感じていたいほどに…いっそ、一つに溶け合ってしまいたいほどに……。
つまり、それは……。
それを象徴する言葉が意識の奥底から浮上してくる。
今、ようやく自分の気持ちに気が付いてしまったとは…。
私はベランダの手摺に置く腕に崩れるように顔を埋めた。
「マヤは女よ……」
絞るような声で呟く。
そのことに胸が苦しくてならない。
「マヤは女なのよ……」
自分に言い聞かせるように何度も何度も呟いた。
遠くから虫の鳴き声が聞こえてくる。
静寂した夜の闇の中、その呟きを聞く者は他に誰も居なかった。
588名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/13(土) 23:18:21 ID:???
wwwwwwwwwwwww
589名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/13(土) 23:27:42 ID:???
いよいよ葛藤ですか
支援!
590名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/13(土) 23:53:05 ID:???
支援!
591名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 02:01:07 ID:???
これまでは前哨戦に過ぎん
リツマヤは、今日始まったんだ…!支援!
592名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 07:52:09 ID:???
マヤ部屋に帰ってから一人で・・・・・・
いかん、淫らな想像をw
支援!
593名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 13:15:47 ID:???
アワビ…w
594名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 18:34:49 ID:???
うわぁぁぁぁぁぁ支援
595名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 20:20:24 ID:???
マヤはどうなのだ?気になるよん
やぱ身体の芯を意識することになってるんだろうか?
エントランスでパンパン顔叩いてるマヤの心情気になります!
センセイ頼んますわ!マヤもw
596マヤ(心の迷宮):2009/06/14(日) 21:39:06 ID:???
先輩…今日はどうされたんですか?
抱き締めたり、肩を抱いたり…わたし、驚くことばかりでしたよ?
髪にキスされた時は泣きそうなぐらいに嬉しかった……。
もし、先輩が……ううん、そんな訳ないわ!
病室でのことは、ただの感謝の意でされたことよ?
それにさっきのだって、酔ってらしたからに決まってるわ。
ダメよ、自分に都合良く考えちゃダメ!!
そんな訳ないじゃない。
…でも…でも、顔を近付けるのって………違うわ!自分の思い込みよ!!
先輩がそんな風に思うわけないじゃない。
グスッ…
やだ、涙が出てきちゃった…。
グスッ…バカね、シッカリして!
気合い入れなさい、マヤ!
597リツコ:2009/06/14(日) 21:44:31 ID:???

その時のマヤの代弁です。
恥ずかしいから書かないで欲しいと言われましたが…。

えっ、なぁに?
マヤが向こうで叫んでます。
なんだか怒っているみたい……行きたくないけど、行きます。
トホホ…。
598名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 21:51:47 ID:???
ぐおおおおおおおお
早速dです!!
自分が思い詰めてると判断力が訳分からなくなるからマヤのブレーキも妥当なのか
現実的になってくれば来る程悩むもんかも
もう少し!あと少し!!
599名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 21:59:15 ID:???
今夜は夢でお互いに足りないモノを補完しあってほすぃw
600名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:06:28 ID:???
お互いに足りないモノって、やっぱ願望なんだよね。
リツコとマヤ、現時点での願望とは…。
601名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:12:27 ID:???
一言では欲しいってこと?
そんなこと言えなひwッキャ
602名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:23:18 ID:???
今夜辺りは二人とも悶々とした夜を一人で過ごすのか。
そんでも明日には内に秘めた熱さはおくびにも出さずクールに登庁する赤木博士な訳ですね。
萌え!
いやいや、意識してギコチナイのも萌える!
どっちでも良いわ!www

でも我慢してると好き度が増すんだよね。これだけは言える。
603名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:36:01 ID:???
もし次泊まるとして、マヤの家ならともかく、リツコの家だと確実に布団がもう一組あるはず。
ならば決戦はマヤの家か・・・。
604名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:38:09 ID:???
りっちゃんはベッド派だと思う
605名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 22:43:59 ID:???
>>604
いや、リツコ専用ベッドの他にお客様用布団を装備しているだろうと。
布団があれば当然、別の部屋に敷くか、よくてリツコの部屋にマヤ用布団でそ?
リツコが「一緒に(私のベッドで)寝る?」と言えば話しは別だけど。そこまで言えるかい?
今なんか赤くなるマヤがよぎった。
606名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 23:18:07 ID:???
前回泊まった時は一緒のベッドでも普通に眠れたけど、
もう今となっては絶対出来ないだろうなこりゃw
っていうか、リッちゃんがマヤの代弁書き込むって、余裕だなおいw
607名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 23:28:56 ID:???
遠い昔し、後輩を押し倒してしまいまつた
いえね、最初はなんてことなかったんでつが、気が付いたら好きになっていて…
寝顔にキ○から始まって(だって我慢出来なかったんだもん!)
ほんでも「先輩なら良い」って言ってくれたんで良かったでつ 完

リツコも、のう我慢出来ない!ってことになるんだろうなぁ
がんがれ!
608名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 23:33:12 ID:???
>>606
マヤが案外早く寝てたけど、よく眠れたなとw
609名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/14(日) 23:38:16 ID:???
>>606
っじゃ、普通に眠るためにはもう一緒に寝ないの?!残念だなw
610名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 01:12:04 ID:???
>>608
あの頃のマヤはリツコに全くその気がない(というか自覚がない)のが分かってたから
最初っから期待せずに平常心でいることができたんだろうな。
でもリツコがドギマギし始めちゃったら、もうマヤも誤摩化せないねw

しかし、このまま一夜明けてしまうとなると
このリツコ、またこれからが長そうだ。
611名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 07:02:18 ID:???
一夜明けたリツコやマヤも今までとは少しは違う日常かもしれないし、それも楽しみに
気長に待ちますわw
612名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 12:08:36 ID:???
>>610
成る程。
これからマヤ的にはリツコの真意が気になって来る訳ですかね。
お互い意識しちゃうのかな。
リツコはともかくマヤは分かり易いから、カラカイ甲斐があるけど、これからはイジリ杉るとリツコ自身が深みにハマってヤバイ事になりそうですなw
ぎこちない二人を見られるの(?)も醍醐味って事で。
実際どうなるか解りませんけど、何にしても楽しみ♪楽しみ♪
613名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 12:53:25 ID:???
しかし、後輩(しかも同性)を好きになる(認める)のはかなり抵抗がある
自分の気持ちに抗っていたら益々深みにハマったケドww
今考えるとダメと思う気持ちが余計にアレだったのかな・・・
イケナイは、萌える
614名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 14:12:24 ID:???
「心を開かなければ、マヤには乗れないわ」
615名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 21:51:50 ID:???
>>610
マヤは最初からリツコに想いを寄せていたよ。
海に行った時の話の回で、布団に入ったリツコが眠ろうとした時、それをマヤが見ていた場面で感じられる。
このスレを上から読んでいくと、段々と近付いていく二人の気持ちの変遷が見てとれる。
616名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 22:11:06 ID:???
>>615
え、じゃあ何でマヤは速攻眠れたの?という話しになるけど
もしかして、実はリツコが速攻寝ただけで、マヤはギンギンに眠れなかったけど、
ようやくマヤが寝たところで今度はリツコが起きたとか?
なら解るけど
617名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 22:49:23 ID:???


マヤ:眠っても隣のリツコを意識して起きる。リツコの様子伺う。
リツコ:特にマヤを意識まではせず。


マヤ自宅
マヤ:リツコ意識しながら眠る。抱き枕にしたのは願望の表れかも。
リツコ:なんとなくマヤ気になりだしている。

618名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 22:56:59 ID:???
察するにマヤはリツコに気持ちがあるの前提になっているのかと
リツコの語りになっているということは、それに向けて気持ちがどう変化していくのかがこのスレの要なんじゃないかと解釈
619610:2009/06/15(月) 23:11:49 ID:???
なんか言い方間違えたな。すまない。

>あの頃のマヤはリツコに全くその気がない(というか自覚がない)のが分かってたから
↑っていうのは
リツコが自分(マヤ)にその気がないのが分かってたから…
という意味。

なので
>>615>>618と同意見です。
リツコがなんとなく自分のこと意識してるッポイというのが分かってきてしまった今は、もう平常心じゃいられないねと。
620名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 23:12:53 ID:???
616ですが
>>286読んでやっぱリツコが先にポックリ寝てしまったんだなと
>>136の話からしてもそう思いました
おかげさまで解決しますたwありがとうございます
621名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 23:33:39 ID:???
ギンギンで眠れなかったマヤ、リツコの背中にしがみ着くのがやっと?(つぅか、先輩!先輩!!先輩!!!)だったのかと思うと
いじらしさに泣けると言うか、萌えると言うか、解ると言うかw
ジリジリとリツコに近づいて結果ベッドのど真ん中になってしまったのねw

先に爆睡するリツコ、当時表層意識に自覚無しw
622名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/15(月) 23:50:43 ID:???
補足と言うか
自分は海の頃は既にマヤはリツコが好きだと自覚があり(でもリツコには自分と同じ気持ちが無いと思っていた)
それでも、好きな人が隣に居るんで君が眠るまでもったいないから起きてる状態で

自宅にリツコが泊まった時、二人きりでしかも同じベッドに寝て、マヤは抑えきれないモノがあったと思いましす
リツコ目線なので書かれていませんが、その辺りのマヤの葛藤はリツコが起きた時の
寝ているポジションで描写されたのではないかと推測
623名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 00:03:56 ID:???
ベッドでのマヤの寝相の描写は
マヤのコミカルさを描いてシリアスになりすぎるのを回避してるとしか受け止めてなかったけど、
みんな結構読み解くねぇ…

そして今さらだけど一言いいかな…

このスレ熱いな!w
624名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 00:16:39 ID:???
>>623

>ベッドでのマヤの寝相の描写は
>マヤのコミカルさを描いてシリアスになりすぎるのを回避してるとしか受け止めてなかったけど、

最初そんな感じ?とも思ってたんだけど、寝顔を見届ける程のマヤがリツコより先に寝ちゃうってのもなぁ?ってw

夜中、時間差を置いてリツコがマヤに向き直るけど、二人にはまだ温度差(と言うと語弊がるけど)があります
でも、リツコがマヤに向き直って抱きしめたことには意味があるのかな・・・って
ここまでは自分でも深読みし過ぎだと思うけどw
625名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 00:22:48 ID:???
寝相の悪さは、リツコがマヤを振り返って考えるきっかけのためのシーンの一つだと自分は思ってた。
全てを詳細に著さないほうが、読み手に色んな解釈を与えることができるね。


ほんとこのスレ熱いな
626名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 01:40:57 ID:???
マヤは眠ってるリツコの背中を強く(起こさないように)抱きしめたり、顔を埋めて背中にキスくらいはしたんでは・・・と
もしかしたら寝ているリツコの唇にも・・・

リツコを起こさないように自己処理を・・・まではどうかと思うけどw
色々してからやっと寝たんですよ♪
627名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 03:39:09 ID:???
まじでこのスレ熱いなww
大好きだぞ!!
628名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 08:14:03 ID:???
>>286
マヤが可愛く見えるところなのにスマンw
629名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 14:13:05 ID:???
>>286
マヤは少年風味(特に貞元先生の絵)なんでシンプルなパジャマ似合いそう
リツコに抱きついて寝てる所なんて少年をリツコがたらし込んでいるようで
かなり萌えるんだけどw
ゆっくり読み返すと萌えどころ新たに発見出来る感じ
630名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 22:19:10 ID:???
もうすぐ夏だけど、また旅行とかないのかな?
皆とお泊まりだからお預けだけどw
631名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/16(火) 23:04:11 ID:???
次、旅行とかするとしたら青山主任とかも来ちゃってごたごたになっちゃうんじゃないか?
主任とのことどうなるのかちょっと心配。
632名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/17(水) 02:59:00 ID:???
>>631
確かにそうなんだけど、どうせ避けては通れないし^^;
ミサトが発起人ならうまいことリカちゃんのいない時にとか・・・
633リツコ:2009/06/17(水) 21:16:45 ID:???
翌朝、私は急いで出勤する羽目になってしまった。
昨夜はベッドに入った後も寝付けず、何度も寝返りをうっていた。
渦巻く気持ちをどう処理すれば良いのかと、ひたすら考えてしまっていたからだ。
明け方近くになってウトウトしかけたものの、気が付いた時には時刻はもう0900。
寝坊して遅刻するだなんて、とんだ大失態である。



「おはようございます!今日は遅かったですね。……目をどうかされましたか?」
私の出勤を待っていたように部屋を訪れてきたマヤは、どうしたのかという顔で私を見ている。
「目…?あ、夜更かししちゃって…そんなに目立つ?」
中途半端な睡眠のせいで私の目は赤く充血していた。
少し気にはなったが別に痛くも痒くもなかったし、直に治るとわかっていたからそのまま放っておいていた。
「いえ、目立つというほどでは。でも充血してますから目薬を点眼した方がいいですよ?ちょっと待って下さい…。」
マヤがポケットを探る。
「これ、結構効きますよ。わたしもよく使ってるんです。」
ポケットの中から目薬を取り出すと、椅子に座る私にそのまま近付いて来る。
目薬をさされようとしているのがわかり、私は自分の体が強張っていくのを感じた。
至近距離に近付いて来るマヤの顔。
そのことにまた胸が鼓動を打とうとするのを感じ、私は下を向いてしまう。
「駄目ですっ!ちゃんと顔を上げて下さい。」
マヤの手が頬に伸びてきて強引に顔を上に向けられてしまった。
触れられている箇所に熱を感じてならない。
頬がどんどん熱くなってしまい、私は固まったまま瞬きを何度もしてしまった。
「もぅ〜、瞬きしてちゃさせないじゃないですか。ジッとして下さい。」
「だ、だって…」
狙いをすますマヤの顔が更に近付く。
634名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/17(水) 21:19:03 ID:???
目薬共用したらアカンってww
635リツコ:2009/06/17(水) 21:19:20 ID:???
その目は真剣そのもので、普段の天然な可愛らしさと異なり凛々しいものである。
私はマヤのサクランボのような唇を見つめてしまう…。
固く閉じられた唇……今は見えないが、昨夜はその中にある舌先に触れてしまった。
手を伸ばすまでもなく届く距離にあるそれに、どうにもならない気持ちを持て余してしまう。
私は何を考えているのだろうか…。
只、ひたすらそれを見つめていた。
ポタポタ……ポタポタ……。
油断していたら、両目に目薬をさされていた。
「はい、終わりです。直に充血はとれますから安心して下さい。」
「あ、ありがとう…。」
私は何度も瞬きして目をパチクリさせた。
マヤは頬に溢れ伝う目薬をティッシュで拭ってくれている。
「刺激が強かったですか?……でも、先輩が涙を流すとこんな感じなんですね。いいもの見れちゃいました。」
マヤがクスッと笑う。
「んもぅ…刺激なら平気よ。目薬の方ならね。」
そう言ったらマヤがキョトンとした。
うっかり口を滑らせてしまったことにハッとしたが、マヤはその意味に気付かなかったようだ。
「えっと…今日は例のプログラムの検証作業をするのよね?終わり次第、報告して。」
「了解です!」
マヤは私のマグにコーヒーを注ぐとキーボードの横に置く。
そして、キーを叩いている私をそのまま見ている。
「…どうしたの?」
「いつもの先輩に戻ってくれて良かったなぁ…って。……やっぱり先輩はこうでなくっちゃ。」
マヤはテヘッと照れ笑いすると部屋を後にした。
ドアが閉まる。
私は頬杖をついた。
「いつもの私…か…。」
昨日、私が倒れたことをきっかけに疎遠な関係からまた元に戻れたことをマヤは指して言ったのだろう。
でも、私はそれを違う意味で捉えて考えてしまう。
636リツコ:2009/06/17(水) 21:21:48 ID:???
私には昨日をきっかけに、それとは別なものになってしまっている。
気付いてしまった自分の気持ち…それをどう処理すれば良いのか悩んでしまってならなかったからだ。
気付かなければどんなに良かったかと思うほど苦しくてならない。
頬杖をつく箇所はマヤに触れられた場所…そこが疼くようにまだ熱をもっている。
私はそのまま俯いてしまった。


―バシュッ―


「昨日は良かったみたいね〜。マヤちゃんにも笑顔が戻ったし万々歳ね。」
ドアが開くと共にミサトが部屋に入って来た。
「はい、これ昨日の残りよ。マヤちゃんがわざわざ返してくれたから持ってきたわ。……ん…どうかした?」
俯いたままの私をミサトは不審気に見やる。
「…何でもないわ。ちょっと考え事してただけよ。お金はそこにでも置いといて頂戴。」
私は机上を指差した。
「お寿司食べたんだってね?あの後じゃ奮発もしたくなるわよね〜。マヤちゃん喜んでたもの。アタシに何度もお礼を言うし、ちょっとくすぐったかったわ。」
「フフッ、私も嬉しかったわ。久し振りにあのコと話しが出来たんだもの。」
ミサトは座った椅子をクルクル回転させている。
「……で、昨夜はあんたんちに泊めたのよねェ?」
そのまま探る視線を向けてくる。
「帰ったわよ。…なんで?」
好奇心剥き出しな表情でいるミサトに私はハッとする思いになった。
いつの頃からだろうか…ミサトがマヤの話題で私をからかうようになったのは…。
意味ありげにニヤニヤした表情を向けてくることがこれまで多々あった。
私が自分の気持ちに気付く以前に、かなり前からミサトは私のことを見透かしていたのではないのか……私の今の心情を既に気付いているのではないのだろうか…そう思った。
637リツコ:2009/06/17(水) 21:24:53 ID:???
「何をニヤついてるのよ。…今日は忙しいんだから出てってくれる?」
私は手でシッシッと追い払う仕草をした。
「口を開けばそればっかねぇ〜。忙しいって言う割にはボケッとしてたクセに。何を考えてたのよ?」
「ボケッとって、それは…」
ふいの突っ込みに言葉が詰まる。
仮にミサトに気付かれたとしても、いくらなんでも話せるわけがない。
異性間のそれではないのだから……。
ましてや、私は昨夜に気付いたばかりだ。
本当にそうなのか自分でだってよくわからない。
ありがちな浮わついた一時的な感情で、たまたまそう思えてしまったという可能性だってある。
私はそういう方面については疎いし、この気持ちがどうなのか実際よくわからない。
正直なとこ、一時の気の迷いであって欲しいと思う。
でなければ、私は今後どうすればいいというのか……話せるわけがない。
尚のこと、マヤに気付かれて嫌われたくもない。
それは絶対に嫌だ。
それだけは絶対に…。
今の良好な関係を壊したくはない……絶対に…。
「別に何でもないわよ?仕事の進捗具合とか、今後の見通しについて物思いに耽ってただけよ。」
「あらそう、つまんないわね。」
どんな返答を期待していたのか知らないが、ミサトが残念そうな顔をする。
とにかく、考えてみても仕方がないことであるのは昨夜にベッドで無駄に寝返りを打ちながら思ったことだ。
今のこの気持ちを再確認しつつ、時の流れるまま自然に流れに任す…それが今は最良な選択だと私は結論づけている。
でも……もし…もし、それでもまだ悩んで苦しむ羽目に陥ってしまっているのであれば、それはその時にまた考えればいい。
「ところでさ、フィードバック軽減の件って近い内に実験段階に入るんでしょ?その時はアタシも立ち合わさせて。」
「やだ、あなた知ってたの?…別にいいけど…。」
638リツコ:2009/06/17(水) 21:28:25 ID:???
一応、建前上ではまだ部外秘の事項なのに、教えてしまったのは誰なのだろうか。
私は眉を寄せた。
「実戦投入ともなれば作戦部にも関わってくるじゃない?言っとくけど、上からの指示で青山主任から聞いたのよ?……話してみたけど思ってたよりも結構いい人みたいね。」
眉を寄せている私に察したのかミサトがそう付け加える。
「あら、そう。……ところで、あなたも青山主任には良いイメージを持ってなかったわよね?」
「うん、まぁたしかにそうだったんだけど…。でも、実際に直接話してみた感想は実にざっくばらんな人柄…ね。あっけらかんな感じには意外だったわ。」
私は眉を上げた。
どういう風の吹き回しだろう、ミサトがそう思ってしまうだなんて。
最もそれも解らないことではない。
実際、部の中で青山主任の評判はどういうわけか良かった。
能力ある者にしか興味はないと言ってはいたが、スパルタ式指導でも面倒見が良く、また気さくな人柄であるということで皆に慕われている。
ただ一つ、私への態度が好戦的であることを除けば…だ。
「今更また蒸し返すようなこと言うけどさ、あんたが…その…あのことで悪いイメージを持って…」
「もぅ、その話しなら止めて。自分でもわかっていたけど、あの時は感情をコントロール出来なかったのよ。改心したわ…本当に。」
私はミサトの言葉を遮った。
あの顛末を思い出しただけで恥ずかしくなる。
むしろ今はもっと重大な悩みを個人的に抱えてしまっている身……青山主任のことはどうでもよかった。
青山主任のことは…。
「(…まっ………!?)」
ふいに胸がざわつく。
「ふっふ〜、あんたにしちゃ言われて欲しくないことよね?んじゃそういうことだから、またね。」
からかいながら部屋を出て行くミサトの言葉が耳を素通りしていく。
ドアが閉まる。
「まさか青山主任は……」
突拍子もない考えをしたことで、嫌な予感と共に胸がざわついてしまった。
639リツコ:2009/06/17(水) 21:31:20 ID:???
これまで、青山主任がマヤに常にベッタリと寄り添うようにする姿は散々目にしている。
まるで私に対抗するかのようにだ。
そうするのも、私同様にマヤに対して同じ気持ちを抱えているからなのではないか…と、ふとそう思ってしまった。


『リカとリツコはソォ〜ックリなのよ。』


そういえば以前、アスカにそのようなことを言われたことを思い出す。
たしか、私と初めて会った時に既視感を感じたとも言っていた。
他にも何か色々と言われた気がするが……たしか…たしか…そう、たしかこうも言っていた。


『それだけ共通点があれば好みも…』


思い出した途端、声を挙げそうになってしまい口に手をあてた。
あの時、アスカは何か思わせ振りな口調で話していた。
もしかしてこのことを言いたかったのではなかったのだろうか…。
あの時点で既にどうなるのか、アスカにはわかっていたというのだろうか…。
ミサトだけでなく、まさかアスカにまで見透かされていたかも知れないだなんて…。
私は頭を抱えてしまった。
この推測が合っているのか定かではないが、もし青山主任がそうであれば私を敵対視してくる態度の説明もスンナリつく。
もしかしたら、私のことを青山主任は既に予想までしていたのかも知れない。
仮に青山主任がそうであった場合、その時、私はどうするのだろうか…。
頭の中が混乱してしまう。
私はマグにコーヒーを注いで煙草をくわえた。
火を点ける。
今はこの推測が外れていて欲しいと願うしかなかった。
640リツコ:2009/06/17(水) 21:32:40 ID:???



夕方近くになって、マヤからコールを受けた。
例のプログラムの検証が無事に済み、問題がないことが確認されたという。
いよいよ、次のステップである模擬体での実験に移行することになった。
これから打ち合わせを行なうことが決まったため、私は椅子の上ですっかり重くなってしまった腰を上げると部屋を後にした。
641名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/17(水) 21:40:11 ID:???
wktk
642名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/17(水) 22:43:46 ID:???
リツコ、色々と、やっと気付いたかw
支援!
643名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 01:13:22 ID:???
wktk
支援!
644名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 01:48:11 ID:???
つか週末じゃないのに乙です。ありがとう。
645名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 08:26:04 ID:???
おー☆
来てた!トン、トン!
そういう思考が無かったのかリツコw
やっぱりどっかそっちの回路は蓋をしていたのかな・・・
646名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 19:46:46 ID:???
>>634
目薬の共用なんて、これから二人が共用してイクであろうモノからすればほんの
序だよw
647名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 20:17:26 ID:???
リツコと青山主任が似てるってことは、マヤの好みでもあるってことだよねぇ
648名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 20:42:57 ID:???
>>647
そこ自分もすごく気になった
リツコがの考え方に行き当たったら不安の無限回廊から出られなくなりそう
649名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 21:14:20 ID:???
>>631
技術部で赤木博士とマヤの出張があったりして
サプライズが、きっといつかあるさ
650名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 21:25:59 ID:???
>>648

好意は抱いているくれるだろうな?と思うくらいで、まさか自分に対して恋愛でとは
リツコ自身が思う余裕なさそうだからハマリ込まないとは思うけど
ある程度は心配するだろうねぇ
第三者(周りからは当人間の気持ちバレバレ、みたいなw)の助言?が影響する場合もあるし
予測不可能だわw

651名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 21:42:58 ID:???
>「いつもの私…か…。」

これだな、今までの二人の関係と剥離していく自分?マヤからのギャップ?
を感じるリツコだな

リツコは実力があるから良いけど、一般人は先輩を演じるのは辛いよね
652名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/18(木) 21:55:48 ID:???
マヤってばやたらサバサバしてるけど一足先に色々と葛藤した来たから今じゃさばけてるのか?
それとも一発処理してぐっすり寝て起きた?
(ハイハイあたしは同性の先輩を好きになりました!それがどうした!みたいな)
あースッキリ!!みたな、か?(思い込みを欲求の処理で折り合いをつける)

んま、リツコ視点だからなんとも言えんがw
653名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 02:20:29 ID:???
>>652
そもそもマヤってオナニーできんのかな。
いや、潔癖性だからさ、そういう自分許せるのかなと。
そんなこんなで下手にオナニー我慢してて、もう爆発寸前になっててもらいたいという気持ちもあるw
654名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 09:12:29 ID:???
>>653
PSPのエヴァ2以来どうもマヤは自家発電キャラで
(ゲーム作った人なんであんな台詞を入れたのかw)
現在に直すとマヤは今18歳だけど、ソレに関しての考え方って世代的にどうなんだろね?
マヤのキャラを考えると、どうなんだろね・・・
心と身体のバランスをどうとるのか、やっぱ葛藤するのか?!
汚れたとか感じたりすんのかな、潔癖症は本に辛いねw
655名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 13:17:21 ID:???
>>653
そんな潔癖マヤがリツコおかずは尚さら萌える
656名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 16:17:03 ID:???
ごめんなさい先輩…ごめんなさい先輩…先輩、先輩、先輩先輩…あっ…

ですね。わかります。
657名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 17:28:50 ID:???
>>656
自責の念で次の日リツコと目が合わせられなくなりそうだwうw
前ならまだしも今、目を逸らしたりしたらリツコのダメージ大きいぞ
658名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 19:02:30 ID:???
身体的にスッキリしても精神的には自責の念じゃ我慢にガマンして三回に一回だな
659名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 19:30:27 ID:???
3日に1回ってこと?
いや、それ我慢してねぇだw
660名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 19:45:56 ID:???
三回したいと思って一回ってこと、
どれくらいの周期かは不明
多分リツコと特別な接触があった日を一回とカウントするのが妥当ではないかとオモワレ
661名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 20:02:30 ID:???
リツコ
ある朝マヤに目をそらされ、昨日私、ナニかした?!と思い悩むリツコ

マヤ
昨日の先輩はいつにも増して素敵でドキドキ!ハート
その結果、つい、何度も

ナニかしたのはマヤの方だよ、迷走する二人ミタイナ
662名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 20:58:02 ID:???
週7回したいと思うことにしようか。

>>661
両思いの2人が、お互いにもじもじしてなかなかくっつかないの見てるのって最高です。
663名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 21:29:07 ID:???
>>662
毎日かいw
一月に10日、食事したりした晩は確実ってか
ゲームじゃ毎晩だから、まだまだカワイイもんだよね
マヤのおかずになるなんてリツコも女冥利だねw

※この妄想はフィクションであり、当該スレのSSとはなんら関係ありませんタブン
664名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 22:49:12 ID:???
ここまで来ると、マヤが最初どういう成り行きで実行してしまったのか気になる。
マヤのことだから目を逸らすどころか遠ざけていたのでは。
マヤ「最低だわ、私って…」とかか
シンジとは状況違うけどw
665名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 23:04:45 ID:???
なんだか中学生並みなマヤw
666名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/20(土) 11:07:21 ID:???
リツコバージョン
忘れた頃にでもマヤとのエロっぽい夢でも見てもらってですね
混乱するリツコはマヤの顔を直視出来ない、と
667名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/20(土) 11:46:34 ID:???
ガーンなリツコ
「あんな夢見るなんて」
しかも…反応したり
頭抱える罠
668名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/23(火) 17:04:16 ID:???
静だね
669名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 08:26:57 ID:???
支援
670名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 12:01:04 ID:???
先攻、赤木リツコ。後攻、伊吹マヤ。

リツコ「流石マヤ(飲み込みが)早いわね。」
マヤ「そりゃあもう!(初めてでも)先輩直伝ですから(はぁと)」

このスレに来るとマギをハッキングされた話しも、こんな風に聞こえます。
支援。
671名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 19:29:56 ID:???
アク禁解除〜

あの先輩直伝の台詞は俺も好きだw

672名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 19:40:33 ID:???
色々直伝されて欲しい、リツコからは…。
673リツコ:2009/06/24(水) 20:13:33 ID:???
長時間座り続けていただけに腰が痛くなっていた。
腰をトントン叩きながら通路を歩いて行く自分はなんだか年寄りみたい。
今しがたすれ違った職員にクスッと笑われたような気がしただけに、尚更そう思えてしまうのは失われつつある若さを気にしているからなのかも知れない。
エレベーターに乗り込むと会議室のあるフロアの階を押した。
「歳はとりたくないわね…。」
誰も居ないことに遠慮もなくボヤいてしまう。
やがてエレベーターがフロアに着くと私は降りた。
そんなことを思いながら通路の角を曲がると、前方に青山主任とマヤが歩いているのが見えた。
案の定というか、青山主任がマヤにくっつくように歩いていることに眉が上がってしまう。
「先輩っ!」
後ろから人が来る気配を察したのか、こちらを振り返ったマヤが私に気付くと驚いたように声をあげた。
「会議室を確保するの大変だったみたいね。予約もなく急だったとはいえ、場所を取れて良かったわ。」
そう声を掛けたら、マヤは慌てて…いえ、さりげなく青山主任から体を離すようにした。
この時、そう見えたのは気のせいだろうか…。
マヤが私の隣に並んで歩く。
「ダメ元で無理を言ったら取れたんです。」
そう話すマヤを見ている青山主任は何だか観察者のようだ。
何を思っているのか、マヤと私を交互に窺うようにしている。
黙ったままの青山主任を先頭に、マヤと並んで歩く私達。
会議室に着くと、早速、打ち合わせを行なった。
プロジェクターを操作するマヤに、青山主任が説明を行っていく。
「………つまり、痛覚に至るまでの刺激からこのように神経を守るようにブロックすることで痛みを軽減できるようにしました。それが理論値5割カットのあらましになります。」
スクリーンに照らし出されていく幾多のグラフやデータ表示。
674リツコ:2009/06/24(水) 20:16:52 ID:???
それらを見ながら一通り説明を行っていく青山主任は説明を終えると私に振り向いた。
「そう…あなたの資料は読ませて貰ったわ。必然的に痛みの恐怖と闘うリスクが低くなることでエヴァの機敏性や駆動力もアップ出来るわね。貢献度はかなり高いわよ。」
私はかけていた眼鏡を外した。
「では、模擬体での実験を…」
「えぇ、許可します。予定通りチルドレンの招集をかけましょう。」
マヤが顔を輝かせた。
「先輩、チルドレンにはわたしが連絡します!日時はいつにしましょうか?」
「フフッ、そうね…一番早くて3日後の夕方かしらね。ミサトも立ち会いたいそうだから伝えて頂戴。」
そう答えるとマヤが大きく頷いた。
念願の研究が実を結ぼうとしていることにいてもたってもいられないようで、急いで携帯を取り出してどこかへ電話をし始めている。
「あ〜、葛城さんたらまた話し中ですよ。…わたし、今から葛城さんの執務室に行ってきます!すぐ戻りますから!」
マヤはそう言って立ち上がると急いで会議室を飛び出して行く。
私も青山主任も目が点になってしまった。
「フフッ、伊吹さんはこれに全力投球してましたから張り切り具合も見ての通りですわね。…いいコですわ。」
マヤが飛び出して行ったドアを見つめるようにする青山主任の表情は慈愛のこもったもので、私に向けてくるいつもの鋭さは今は影を潜めている。
「念願達成までもう間近だわ。実験が成功すれば、あなたも苦労が報われるわね。」
「えぇ、そうですわね。」
手持ちぶさたに手元の資料をパラパラする私に青山主任が頷いた。

「伊吹さんは音を上げずによく頑張ってくれましたわ。素直で実直で……好きですわ。」

―ズキッ―

唐突に心臓が握られたかのような痛みをおぼえた。
675リツコ:2009/06/24(水) 20:22:32 ID:???
先程の推測が脳裏を過る。
「おまけに可愛いですし、愛されるべき存在ですわ。……博士もそうお思いになりませんか?」
そう言って探るような視線を向けてくる青山主任の目には、いつもの鋭さが見え隠れしているように感じられる。
今の問いにどういう意味が込められているのだろうか…しきりに過ってしまう推測に私は黙っていた。
「………博士も伊吹さんを…お好きでしょ?」

―ドクッ―

心臓が大きく一つ打つ。
いきなり核心に触れてくるような問いに胸が悲鳴をあげてしまう。
どういう意味で聞いてくるのだろうか…やはり、見透かされているのだろうか…。
青山主任は黙り続ける私を不審気に見やる。
「……私、伊吹さんが可愛くてなりませんわ。いつかドイツに連れて帰りたいと思っています。」
「なっ…青山主任っ!」
いきなりの言葉に私は声を荒げてしまった。
そんな私を青山主任は可笑しそうにクスッと笑う。
「博士はどうしても反対みたいですわね。……伊吹さんのことを…」

―バシュッ―

何かを言いかけた青山主任だが、ドアが開いてマヤが戻って来たため口を閉じた。
「葛城さんに伝えてOKを貰いました!チルドレンも放課後に来て貰うことで了解済みです!」
また一気に走って来たのだろう、マヤの息は上がっていた。
「ありがとう。それでは3日後の1700から実験を行なうこととします。二人共、宜しく頼むわ。」
「承知しました。」
「了解です!」
打ち合わせが終わった私達は会議室から出た。
上機嫌でニコニコしているマヤを間に挟み、私達3人は通路を引き返している。
676リツコ:2009/06/24(水) 20:25:50 ID:???
歩きながら私はさっきの青山主任の言葉を反芻していた。
あれはどういう意味で聞いてきたのだろうか…推測は憶測ではなかったということなのだろうか…。
「(青山主任はやはりマヤを…)」
いきなり唇に痛みが走る。
私は知らず知らずに唇を噛んでしまっていた。
エレベーターに乗り込んだ私達は目指すフロアをそれぞれ押した。
「マヤ、更に忙しくなるわよ。実験に備えて今日は残業になるわ。いいわね?」
「はい、そのつもりです!」
気合いが入ったような二人は息の合ったコンビに見えて、胸がチクリとする。
エレベーターは次のフロアで停止すると大人数が乗ってきた。
人波に押されて後ろに下がるも、重量オーバーの音が鳴る程の大人数に息苦しさをおぼえてしまう。
ふと、指先に何かが触れているのを感じた。
視線を下に向けるまでもなくわかるそれはマヤの指先…。

―トクン―

胸が鳴ってしまう。
触れ合う指先がジンジンするように熱くなっていくのも構わず、私はそのまま動けなかった。
マヤも気が付いているはずなのに、そのまま動かないようでいる。
またエレベーターが停止すると人数は今度は半分に減った。
適度な空間ができたにも関わらず、私達はそのままでいた。
マヤは何故、指を払い除けないのだろうと思う間もなくエレベーターはまた停止する。
「博士、それでは私達は実験に備えて失敗のないよう準備を整えることにいたします。」
きゅっ…。
一瞬、握られたような感じを受けたのは気のせいだろうか…。
降りる青山主任の後にマヤも続く。
閉まっていくドアの隙間から、マヤがこちらを振り返ったように見えた。
エレベーターはまた動き出す。
私は指先から消えていく熱の余韻を名残惜しむように手を握りしめていた。
677リツコ:2009/06/24(水) 20:30:36 ID:???



あれから自室に戻った私はエレベーターでの出来事を思い返していた。
マヤが指先を握ってきたのは錯覚だったのだろうか…。
そして、青山主任の問いかけもまた思い返していた。

―バシュッ―

ドアが開く。
「聞いたわよ〜。実験が楽しみね。」
マグを持参したミサトは入ってくるなり、たっぷりのコーヒーを注いでいる。
「…あなた、本当に休憩が多いわね。」
「まぁ、まぁ、いいじゃない。ここのコーヒーは美味しいんだもの。……ねぇ、どうしたの?何か悩み事?」
呆れている私にそんなことを言ってくる。
「そう?別に何もないけど?」
努めて明るく答えてみたものの、上手い言葉も浮かばずそう言うだけしかなかった。
そんなに苦しそうな顔でもしていたのだろうか…ミサトは私の様子を注意深く見ているようだ。
「…ふ〜ん、まぁいいけどサ。」
そう言って、ミサトは少しぎこちなく笑う。
「暇なら肩でも揉んで頂戴。一日中ここで仕事してたから肩も腰も痛くてならないわ。」
「そ〜んなことアタシがやるもんですか。頼む相手が違うわよ。」
ミサトはベーッとばかりに舌を出す。
「なら、誰に頼めって言うのよ?」
「決まってんでしょ?マヤちゃん以外に誰がいるってのよ。」
ミサトはカラカラと笑う。
どういうつもりでそう言うのだろうか…気付いてしまった今となってはそんなことを頼めるわけがない。
困るのは私なのだから。
ちょっとした息抜きの相手には私がうってつけだったようで、ミサトは追加のコーヒーをマグに注ぐと部屋を出て行った。
また部屋に一人になった私は思考の海に静かに沈み込んでしまう。
678名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 20:34:31 ID:???
支援
679リツコ:2009/06/24(水) 20:35:25 ID:???
指先を見つめる。
エレベーターの中で握られたのは気のせいだったのだろうか…。
閉まりかけるエレベーターのドアの隙間から私を振り返ったように見えたのも気のせいだったのだろうか…。
もし…もし、あえて握ってきたとしたら、その意味は何だろうか…。
「もし、マヤも………。」
私は頭を振った。
苦笑を浮かべる今の顔をミサトが見たら、どうしたのかと間違いなくしつこく聞いてくるだろう。
自分に都合の良い解釈をしようとしているだなんて図々しいにもほどがある。
いくらなんでもそれは有り得ないことだ。
私は煙草をくわえた。
昨夜、マヤは友達と肩や腕を組むことはしょっちゅうあるようなことを言っていた。
さっきの指先の件にしてもマヤにしてみれば何の意識もなく、ただのスキンシップに違いない。
昨夜、私の家で指先を握ったことも同じことだ。
そう、あれもマヤの無意識の行為だ。
煙草に火をつけて紫煙を深々と吸い込むと溜め息をつくように吐いた。
今後、マヤからのスキンシップにどう対応すればいいのだろう…やはり、その度にこうして悩むことになってしまうのだろうか…。
煙草が吸われないまま灰になっていくのをボンヤリ見つめる。
青山主任も私と同様なのだろうか…。
仮にそうであれば、青山主任はどうするのだろう…マヤに自分の気持ちを告げるのだろうか…。
「……………。」
私はまた頭を振った。
私達はみな同性だ。
青山主任がそうであったとしても、告げたところでマヤが受け入れるわけがない。
潔癖症の普通の女のコなのだから、告げたら最後、どれだけ嫌悪されてしまうかが目に見えている。
勿論、私だってそんなことをするつもりはない。
マヤとの関係を自ら壊すことは絶対にしてはならないことだ。
「はぁ……。」
溜め息が溢れる。
どれだけ考えたところで仕方がないのはわかっている。
これ以上、自分を苦しめても何にもならない。
680リツコ:2009/06/24(水) 20:36:26 ID:a86y107C
私はすっかり灰になってしまった煙草を灰皿に押し付けると、仕事に取りかかることにした。
たとえ没頭出来なくても今はそうしなければならない。
仕事をすることで、少しでもこの葛藤する気持ちから逃れられるなら……私はキーに指を走らせた。
681名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 21:16:26 ID:???
リツコの鈍感いい加減にしなさいw

支援!
682名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 21:17:21 ID:???
いいねーいいねーーー!
待ってた
新劇よりもこのスレに期待している
支援
683名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 21:31:19 ID:???
待ってました!
乙です
684名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 21:44:26 ID:???
恋してる時って考え過ぎて判断能力無いし。周りからバレバレでも当事者って暗中模索なもんだろうし。
リツコも女子同士だし後輩だし、心のどこかで認めたくない一面もあるだろうすぃ〜。
なによか恋してる相手からは傷つきたくないし。
リツコの思考回路はデジタ式、確立的に考えればマヤ→リツコ恋愛は、心の中で否決でしょう。
アナログじゃないリツコ。でも、女と女もロジックじゃない、ってことをこれからマヤとのことで痛いほど思い知ることになるのでは?
(いや、そうであって欲しい!)それこそが醍醐味!と期待してしまうw
支援。
685名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 21:56:07 ID:???
マヤタン…きっと今夜…
686名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/24(水) 23:08:48 ID:???
自分もマヤがエレベータで手を握ってきた意味気になるわw
握らずにはいられなかった。名残惜しかったんでしょうかね。
若い分衝動的?
687名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/25(木) 08:27:02 ID:???
そういえばマヤって普通の女の子だった。
そんな普通の女の子が何でリツコ(同性)を好きになるに至ったんだか猛烈に気になり出したよw
どなたか教えていただけませんか。
688名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/25(木) 09:42:29 ID:???
マヤは今のリツコより悩んだかもね。
今じゃ年貢を納めた感があるけど。
689名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/25(木) 15:39:54 ID:???
しかしマヤもなかなか罪な奴だな、天然なのかもだけど
リツコが寝不足でまたクマでも作らないか心配だw
690名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/28(日) 11:27:01 ID:???
支援
新劇ポシャってもこのスレがあれば生きていける
691名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/30(火) 23:04:25 ID:???
690だね
支援!
692名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/07/01(水) 07:24:17 ID:BquDMUa1
保守
693名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/07/01(水) 22:14:05 ID:5M+1CLRE
保守
694名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/07/05(日) 00:21:55 ID:???
保守
695リツコ:2009/07/05(日) 19:01:04 ID:???
日数は経ち、私は表面上は何事もないことを装ったまま実験の日を迎えることとなった。
模擬体が設置される実験棟で、私達技術部メンバーは開始に備えて最終調整を行っていた。
「博士、スタンバイ完了しました。」
マヤと一緒にチェックを行っていた青山主任が振り返る。
その傍らで、少し緊張した様子で腕組みをしながら我々の作業を見守っていたミサトの表情が引き締まる。
「子供達はリラックスしてるみたいね。」
ミサトが模擬体の内部を映し出すモニターを見て呟く。
実験を行なう我々と隔てられる一面大きなガラスの向こう側には三体の模擬体が設置されており、それらにはシンジ君、アスカ、レイがそれぞれ搭乗している。
「痛みが半減する実験ってわかってますからね。」
ミサトの隣からマヤがモニターを覗き込んで頷く。
その言葉通り、チルドレン達は一様にリラックスした感じに窺えられるのがモニターを通してわかる。
「ちょっといつまで待たせんのよ!早く始めてよね!」
先程からコックピットに座り続けたままでいることに業を煮やしたのか、アスカが辛抱たまらない様子で吼えた。
それに青山主任は可笑しそうにクスリと笑う。
「そんなに急かさないでくれる?今やっと準備が整ったとこなのよ?」
普段の表情の読めない顔つきの青山主任が面白そうに言葉を返したことで、私は意外な気分にさせられた。
私に対しては冷たい仮面を被る青山主任だが、アスカに対しては実に人間味ある表情を浮かべている。
言うなれば親愛の表情とでもいうのだろう…青山主任も笑うとそれなりに優しい人柄に見えてしまうことに私は珍しいものでも見てしまったかのような面持ちにさせられてしまった。
「先輩、実験を開始しても宜しいですか?」
「えぇ、いいわ。始めて頂戴。」
696リツコ:2009/07/05(日) 19:05:49 ID:???
私が了承するとマヤが青山主任に頷く。
「それではこれよりフィードバック軽減の実験を執り行います。まず最初は従来のままでの痛覚から……マヤ、始めて。」
マイクを通して開始の合図を告げる青山主任の指示で、マヤが手元のキーを忙しく叩き始めた。
「あなた達、よく聞いて。今から模擬体の各部にそれぞれ繋るコードから刺激が伝わります。この刺激はこれまでの使徒戦からデータを採取した平均値に合わせているわ。かなり痛むと思うけど、少しの間だけ我慢して感覚を覚えていて頂戴。」
再びマイクを通して青山主任がチルドレン達に話す。
キーに指を走らすマヤの動きに合わせて模擬体に繋がる幾重ものコードに刺激が伝えられていく。
「ッツ…イッタァァァーイタイわねっ!!これ、マジでクルじゃないのっ!!」
アスカが悶えながら睨むように噛みついた。
対するシンジ君とレイも、唇を噛み締めて痛みに堪えている。
刺激を受けてからまだわずかな間とはいえ、既に額に血管を浮かばせて苦悶するチルドレン達が痛々しくてならない。
マヤは、必死の形相で苦痛と闘っている子供達の姿を我が身に受けたかのようにして苦渋の表情で見守っている。
「3人とも呼吸、心拍数共に尚も上昇中。脳波も乱れています。…これ以上は危険領域に入ります!」
チルドレンの様子をモニタリングしている職員が画面に表示されていく数値を見て声を張り上げると、ミサトが心配そうな顔で青山主任を見やった。
「葛城三佐、ご心配ありません。…マヤ、もういいわ。停止信号を送って回路を切断して。」
ミサトと同じく心配そうに青山主任を仰ぎ見るマヤは、待っていたかのように即座に反応するとキーに指を走らせた。
せわしなく動くマヤの指。
その動きが止まると同時に、チルドレン達はプラグ内で凭れるように肩で息をついた。
「みんな、今のが実戦時でのリアルなままでの痛みよ。手加減なしでね。…どう?今のをしっかり体に刻みこんでくれたかしら?」
青山主任がマイクでモニターに映し出されるチルドレン達に問いかける。
697リツコ:2009/07/05(日) 19:11:20 ID:???
「リカって、ドSよね。嫌なぐらいに刻みこめたわよ!」
アスカが威勢よく返す。
シンジ君はそんなアスカに苦笑を浮かべて頷き、レイも小さくハイと頷いた。
「あら、アスカはこのままでも余裕があるみたいね。」
青山主任がまたクスリと笑う。
「リカさん、一旦ここで休憩を置きましょうか?シンジ君達、辛そうです…。」
「大丈夫ですよ、マヤさん。」
「問題ありません…伊吹二尉。」
おずおずとそう意見するマヤは実験とはいえ、チルドレン達の様子が心配でならないようだ。
すかさずシンジ君とレイがそう答えても気遣わしげな表情を崩さない。
「そうよ!あたし達ならまだまだ平気だし、間を空けたら今の感覚が鈍るわ。さっさとフィードバックを半減するプログラムとやらを使いなさいよ!へっぽこなもんだったら許さないわよ!」
元気よくアスカが吼える。
「フフッ、元気あるわねアスカは。あなたは逆に痛みを増した方がいいかしら?しおらしいアスカが見てみたいわね。」
青山主任が面白そうに返すと、ミサトがプッと吹いた。
「そうね、口の減らないアスカには痛み増しで丁度いいのかもね。……1.72倍ぐらいでね。」
「…1.72倍?」
ミサトは不思議そうにする青山主任を尻目に、オモシロ可笑しそうな顔で私とマヤを見ている。
「そうよオ〜?食べ物の恨みはなかなか忘れ難いのよね〜。」
ミサトは得意気に言う。
私はこめかみに指をあててしまった。
ミサトが言う1.72倍とは、いつぞやのバウムクーヘンの件のことだろう。
どうやら、私だけ量が多かったことを未だに根にもっているようだ。
だからといって、この実験とは何の関係もない。
「…あなたねぇ……」
「もぅ!ごちゃごちゃ話してないでサッサとやんなさいよ!」
大人気ないミサトを諌めようとする言葉は、アスカの焦れったげな叫びで言えずじまいだった。
「悪いわね。…なら、リクエストに応えて次は痛みを半減させるテストを行なうわ。…マヤ、いよいよ本番よ。始めて頂戴。」
キョトンとしているマヤに青山主任が指示を出す。
せわしなくキーを叩くマヤは、先程よりも若干緊張をしているようだ。
698リツコ:2009/07/05(日) 19:15:20 ID:???
この日のためにマヤがどれだけ心血を注いできたことかを思えば、今のその心中がどうであるかは容易に察することが出来る。
「…プログラム導入切り替え完了。これより痛覚への刺激を開始します。」
手際よくキーを操ったマヤは、モニター内のチルドレン達の様子を祈るように見守りだす。
そのまま1分が経過する。
「…今度はどう?ささいな変化でもいいから何か感じたことを教えて。」
マイクを通して話す青山主任もマヤの緊張が移ったのか、声が少し上擦っている。
「これってさっきと同程度の痛みなんですよね?…かなり違います。叫ぶ程でもないですよ。」
「…そうね、蚊に刺されたもんって感じよ。リカにしては上出来だわ。ふんっ、誉めてあげるわよ!」
「……全く問題ありません。」
アレっと意表をつかれたかのような声で、チルドレン達からそれぞれ答えが返される。
「マヤ、指先への刺激を強めてみて。」
青山主任からまた指示が飛ぶと、マヤはまた素早くキーを操る。
「みんな、聞いて頂戴。今、指先への刺激を強めてみたのはここの神経が一番集中しているからよ。麻酔ナシで釘を打たれたと思っていいわ。…どう?辛い?」
マヤは、マイクを通して話す青山主任とチルドレン達を交互に心配げに見ている。
私は、今の青山主任の言葉に思わず自分の指先を見つめてしまった。
マヤに何度か握られた指先を…。
ここに神経が集中しているが故に、触感が敏感なものであることは私も知っている。
「さっきよりは多少…いや、かなり痛いですけどまだ許容範囲です。」
「……碇君と同じです。問題ありません。」
シンジ君とレイが答える。
「まぁまぁ痛いってとこかしら。……ちょっとリツコ!あんた、何ボーッと顔を赤らめてんのよ!まさかミサトみたいに酒でもひっかけてきてんじゃないわよね?」
いきなりアスカが私に指をつきつけると、ミサトがブッと吹いた。
699リツコ:2009/07/05(日) 19:18:53 ID:???
「ちょっとぉ、聞き捨てならないわね〜。いくらアタシでも勤務中に飲酒するわけないでしょ。ねっ、リツコ?」
「……えっ?えぇ…。」
マヤに指先を握られた時のことを回想していたばかりに、ミサトに急に振られて我に返るもしどろもどろになってしまった。
「…そうよ、お酒を飲んでくる訳ないじゃない。私もミサトも素面よ?」
私は澄まして答えてみせた。
全く…顔を赤らめてしまっていたなんて不覚にも程がある。
ミサトだけでなくアスカも勘が良いだけに、これ以上変に突っ込まれては背筋に冷や汗をかくだけでは終わらなくなる。
心臓にも良くない。
「青山主任、見事に成功ね。今日の実験結果に基づき、このプログラムを正式に導入することを上層部に進言するわ。実験データのレポートを後で提出して頂戴。」
「承知しました。博士、ありがとうございます。」
私が青山主任にそう告げると、和らいだ表情で頷いてくれた。
安堵しているのがわかる。
「ふぅ…成功よ、マヤ。あなたが頑張ってくれたお陰でここまでこれたわ。良くやってくれたわね。」
青山主任は張りつめていた肩の力が抜けたようだ。
リラックスした雰囲気でマヤの傍に来ると肩に手を置き、これまでの作業を労っている。
マヤが青山主任に嬉しそうに微笑む。
「リカさん、ありがとうございます!………先輩っ!」
満面笑顔のマヤが私を振り返る。
「二人共、ここまで頑張ってくれたことを心から感謝するわ。…マヤ、良く頑張ったわね。」
ご褒美を待つ子犬に対してではないけれど、喜ぶマヤを見ていたら無意識に頭を撫でてしまっていた。
「フフッ…」
「せ、先輩っ…!」
頭を撫でられるマヤは恥ずかしそうにしている。
青山主任は、頭を撫で続ける私と身を捩るように恥じらうマヤを興味深げな視線で見ている。
700リツコ:2009/07/05(日) 19:21:24 ID:???
まるで観察するようなそれに私はどことなく違和感を感じたが、撫でる手は止まらなかった。
というよりも、そうすることに気持ちが集中してしまって手を離せなくなってしまっていたからだ。
こんな時にまでそうしてしまうだなんて、本当にどうかしているのかも知れない。
私はやり場のない気持ちを持て余していた。
「ゲフン、ゲフン!」
ミサトが急に咳払いをした。
「あ、あのさぁ…成功おめでとう。これでアタシも作戦立案し易くなって手の内が広がったってもんよ。子供達にとっても良かったわ。」
わざとらしい咳払いに続けてミサトがそう言う。
「……えぇ、二人のお陰ね。技術部としても誇りに思うわ。」
わざとらしいその態度に気まずい思いにさせられてしまう。
やはり、気付かれているのかも知れない。
「ねぇ〜、もうこっから出てもいいでしょ?見たいテレビがあるから早く帰りたいわね。」
大人達に放って置かれるのはつまらないわよとばかりに、アスカが口を挟む。
「いいわよ?今日はお疲れさま。ゆっくり休んで頂戴。」
私がそう告げたことで、今回の実験は滞りなく終了した。
やれやれといった具合で子供達が模擬体から出てくると、ミサトが3人に手でタッチをしていく。
私と一緒に撤収作業をしているマヤは、それを嬉しそうに見ていた。
「フフッ、すごく嬉しそうね。不安材料が少なくなってまずは一安心ね。」
「はい、でもまだまだ改良の余地は沢山あります。エヴァの武器と装備を充実させることも課題ですし、技術部としても子供達の身の安全を考慮しないといけませんから。」
マヤはハキハキと答える。
どこまでも思いやりの精神を忘れないマヤの澄んだ瞳が眩しくてならない。
「どこまでも優しいわね、あなたは…。」
「わ、わたしは…」
つい吸い込まれるように見つめてしまったら、マヤはどぎまぎと頬を染めてしまった。
可愛らしいその様子にまた胸が鼓動を打ちそうになってしまい、私はさりげなく視線を外した。
701リツコ
「こっちは終わったわ。マヤの方は片付けは済んだ?」
青山主任が傍に来る。
「はい、もう終わります。」
「早速、今日の実験データをまとめるわよ?私は先に部屋に戻っているから後で来て頂戴。…では博士、お先に失礼します。」
青山主任が実験棟から出て行くと、ミサトもチルドレン達を伴って出て行く。
「後は私がやるからあなたは戻って青山主任とレポートをまとめなさい。…今、ウズウズしてるでしょ?」
私がそう言うと、マヤは機材を片付ける手を止めた。
今のマヤの状態がどうであるかは私にはよくわかっている。
努力が実を結んだ今となっては、後は一分一秒でも早くレポートをまとめて正式に運用させることに気持ちが急いている筈だ。
それでやっと花を咲かせることが出来る。
例えるなら、今の気持ちはそうであろう。
「フフッ、早く行きなさい。青山主任もきっとあなたと同じ筈よ。」
「えっ?あ…それではお言葉に甘えてそうさせていただきます!」
案の定、マヤが照れたように肯定する。
「先輩、後で報告に参上しますね!」
「フフッ、楽しみに待っているわ。」
マヤが転びそうな勢いで出て行く。
「走ったら危…」
マヤの姿はもう消えていた。
走ったら危ないといつも注意しているのに、聞く耳持たぬその慌てぶりに私はやれやれとばかりにクスリと笑ってしまった。



翌朝、私達は徹夜で青山主任とマヤがまとめあげたレポートを持って上に報告を行った。
結果、無事に正式導入されることが決定した。
その時のマヤの笑顔が最高に輝いていたことは言うまでもなかった。