1 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:
LASでもヤンデレでもLAO何でもおk
設定を変えるのもおk(その場合は最初に説明してほしい)
他のアニメのキャラを出すのもおk
短編だろうと長編だろうとおk
他スレに書き込んだ後ここにマルチするのもおk
もう何でもおk
こんな自由なスレッドが欲しかった
だから作った 反省はしていない
お前がLAS人だという事はわかった
3 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/25(日) 13:57:32 ID:d8yqhIlq
ラブ・アスカ・オーギドと聞いて飛んできました
そういや無かったノンジャンルスレ
5 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/26(月) 00:13:36 ID:3BVeQtBD
age
言っちゃ悪いけどまだ人いないみたいだし、ここで俺が長編LASやっちゃってもいい?
よりにもよって逆行モノだけど、誰か来るまでのつなぎと賑やかしにはなるんじゃないかと。
いや、初めて読んだ逆行モノが2ndなんちゃらだったから、
「こんなん読むくらいなら俺書くわ」と思って書き始めた話なんだけど、
あまりに今更な内容だし、なんつうか他に置き場ないし、せっかくだから。
書くなら最後まで書けよ
8 :
6:2008/05/26(月) 21:18:54 ID:???
>>7 まだ全部書き切ってないけど、そう長い話にするつもりじゃないから時間さえあれば
最後までいくとは思う。
その前に読んでる人がいなくなってたりブーイングが来たらそこで退場するけど。
とりあえず冒頭部分だけちょっと試しに投下してみる。
9 :
LAS1:2008/05/26(月) 21:32:08 ID:???
「ケガは、してなさそうだけど。大丈夫? 立てる、アスカ?」
「……うるさい」
少女はほとんど反射的に、耳障りな声をより強い音によってかき消す。
それでも気弱げな少年の声が、再び少女の鼓膜を震わせた。
「アスカ、でも…」
「うるさいって言ってるでしょ! 触らないでよ気持ち悪い!」
差し伸べられた手を全力で振り払う。
「…ごめん」
強く手を払われた少年、シンジは弾かれた手を力なく下ろし、
それきりその手を差し伸べようとはしなかった。
その癖、今いる場所から離れようとはしない。
それが少女、アスカの怒りに油をそそぐ。
「ヘラヘラして、人の顔色ばっかうかがって、アンタってばなんっにも変わんないのね!
世界がこんなになったっていうのに…!」
サードインパクトと呼ぶべき、生命の一体化現象からしばらく。
生命のスープから個を取り戻したシンジとアスカの二人は、赤い海の近く、廃墟となった町で生活をしていた。
このLCLの海から人が戻ってくるのか、来ないのか。
少なくとも、アレからお互い以外の人間の姿を確認していない。
廃屋やシェルターの中から色々な物を無断拝借して、当面、命だけはつないでいるが、非常事態なのは間違いない。
(なのにこの、バカシンジときたら…!)
今も全く空気を読まず、能天気に声をかけてくる。
「あ、あのさ。いくら転んでイライラしてるからって、そんなに怒っても疲れるだけだよ。だから…」
「そんなこと言ってんじゃない!」
アスカは怒鳴りながらガレキから抜け出し、さっき自分が足を取られた廃材の山を苦々しげに見つめた。
「……やっぱり、怒ってるじゃないか」
「うるさい!」
ぼそっと愚痴のようにこぼされた言葉に、再び怒声を返す。
こんな非常事態で、パニックになってもおかしくないような状況なのに、
シンジはいつもの『バカシンジ』だった。
それが、アスカには苛立たしい。
10 :
LAS2:2008/05/26(月) 21:38:14 ID:???
――もちろん、本当はアスカにも分かっている。
かつての『バカシンジ』と『アスカ』の関係性なんて、とっくに壊れていた。
それをまた持ち出して来たのは、アスカとのコミュニケーションのため。
アスカとシンジの関係が一番良好だった時の態度を選んで、話しかけてきているのだ。
そして、その考えが分かっていて尚、彼女はシンジに合わせるように、当時のアスカとして振る舞うしかない。
お互い以外の生命がいなくなった世界。
そんな場所で、生き残った二人が触れ合わずに生きていけるはずもないから。
――だが、それが自覚出来ているから、なおさらイライラするのだ。
「もう、最悪! さいあく! サイアク!! どうしてよりによって、アンタと二人きりなのよぉ」
(世界で一番、会いたくないヤツなのに……)
11 :
6:2008/05/26(月) 21:47:59 ID:???
なんか文章を2ちゃん用に直すのに手間取った。
とりあえず、今はこれだけにして出直すわ。
まだ何とも言えないお 続きに期待
GJ
14 :
6:2008/05/27(火) 18:18:18 ID:???
今から昨夜必死こいて編集した分を大量投下予定。
レスつかなくなったり引っ込めコールが大きくなったらやめるので、
それまでスレ借りますよ。
15 :
LAS3:2008/05/27(火) 18:21:42 ID:???
それでも金魚のフンみたいに後ろをついてくるシンジに、アスカは足を止めて振り返った。
「一つ訊くけど。アンタは、何で、何の権利があって、そんなにアタシに話しかけてくるワケ?」
「だって、他に人もいないし…」
「はんっ! そんなにおしゃべりしたいなら、体育館にパイプイスでも持ってって、
ずっと独りでブツブツ言ってりゃいいのよ!」
そう、吐き捨てるように。つい、意味もない敵意を向けてしまう。
「そんな。僕はただ、もう少しアスカとうまくつきあっていけたらと思って…」
その陰気な口振りに、アスカはとうとう爆発した。
「あーもー! うじうじうじうじうじうじ! 鬱陶しいのよアンタは!」
「な、なんだよ。うっとうしいって…」
さすがにカチンと来たのか、シンジは少し声を荒げるが、
「アタシと少しでもうまくやっていきたいなら、
まずその辛気臭い顔どうにかしなさいって言ってんの!」
それを意にも介さず、アスカはビシッと、赤い海面を指差す。
「ほら、さっさと行って、顔でも洗ってきなさい」
「え、えぇえ! あの海で?!」
アスカの意図を知り、シンジは情けない叫び声をあげた。
「あ・た・り・ま・え・で・しょ!
アンタのアホ面に使うための水なんて、これっぽっちもないんだから」
「そんなぁ…。アスカ、ムチャクチャだよ」
尚もぐずるシンジの腕をガッシリつかんで、海の方へ押しやった。
「このアタシに話し相手になってもらいたいんでしょ。
だったら、それくらいやってみせなさいよ。いーい?」
「……わ、分かったよ」
振り返り振り返り進んでいくシンジに、「早く行け」と身振りで示して、
その姿が小さくなった所で、アスカは気が抜けたようにペタンとその場に座り込んだ。
16 :
LAS4:2008/05/27(火) 18:23:08 ID:???
体育座りの形に膝を立てて、その少し上でシンジの腕をつかんだ手を開き、見つめる。
「なによ、ビクビクしちゃってさ。そんなんで、うまくいくはず、ないってのに……」
アスカに触れられた時、シンジははっきりと体を強張らせた。
(……近づくのも、触れ合うのも、怖がってるくせに)
昔を演じるのなら、徹底的にやってくれればいい、とアスカは思う。
なのにシンジは必要以上に慎重に、傷つかないよう、傷つけないようにアスカに接しようとしている。
そんな中途半端をするならいっそ関わらなければいいのに、
放っておけないのなら覚悟を決めて踏み込んでくればいいのに、それはしない。
それが、ますますアスカを苛立たせる。
「……だけどそれは、アタシも同じ、か」
アスカは不機嫌になって騒ぎ立てることで、シンジに対して壁を作っている。
相手が歩み寄りの態度を示せないように、ハリネズミみたいに刺々しい態度で牽制しているのだ。
なのに結局、本当の本気でシンジを排斥しようとはしていない。
近づかせたくないだけで、遠ざけたいと思っているワケじゃない。そんな中途半端。
「……だって、しょうがないじゃない。アタシにだって、逃げたい時くらい、あるんだから」
アスカは体育座りの姿勢のまま、両腕で自分の体を引き寄せ、縮こまる。
窺うように膝の間から顔だけ出して、遠くの水辺で律儀にも顔を洗おうとしているシンジを見つけた。
「バッカじゃないの。あんな気持ち悪い水で顔洗えるワケないじゃない」
アスカの手が、不承不承というように荷物のバッグに伸びた。
17 :
LAS5:2008/05/27(火) 18:23:29 ID:???
――敵意を持った巨大な生き物が、大きな口を開けて自分を飲み込もうとしている。
バカげてると思いつつも、血のようなその赤い海を見ていると、ついそんな錯覚を抱いてしまう。
覚悟を決めてやってきたはずなのに、シンジは真っ赤な水面の前で立ちすくんでいた。
そして、はぁ、とため息。愚痴をこぼす。
「全く、横暴だよなアスカは。
さっきだって、自分でバランス崩して転んだくせに、不機嫌になってさ」
しゃがみこんで、さざなみ一つ立たない海面をじっと見つめ、
「ホントにさ。全然変わんないのは、どっちだよ」
などとぼやきながら、シンジは少しほっとしていた。
衝動的に、左肩の付け根近く、二の腕の辺りをさする。
すると、何だかそこにアスカの手の感触が残っているような気がした。
(考えてみたら、アスカの方から僕に触ってきたのは、人がいなくなってから初めてかも)
そんな行動に踏み切ったのは、早くシンジをどこかに追いやりたかったからだろうと思っても、
顔がほころぶのを抑えられなかった。
こんな状況でも人一倍身だしなみに気を遣うアスカからは、柑橘系の香りがした。
あんな理不尽な要求をされたシンジが素直にアスカの言葉に従ったのは、
アスカに近づかれて動揺している自分を隠したかったからでもある。
18 :
LAS6:2008/05/27(火) 18:26:00 ID:???
そもそも、アスカとあんな風に、曲がりなりにもまともに口が利けるようになったのだって、
ごく最近になってから。
何しろ、あんなことがあった後だ。
それまでの長い冷戦状態も考えると、いくら不機嫌とはいえ、
ここまでの日常会話が出来るようになったのは奇跡と言えるし、純粋に嬉しい。
それにシンジは、アスカの左眼の視力が失われてしまったことも、
体のあちこちがうまく動かせなくなっていることにも気づいていた。
だからそれが虚勢であっても、元気に振る舞うアスカの姿はシンジにとっては喜ばしいのだ。
(本当は、何か手助けしたいんだけど……ムリだよな、やっぱり)
体がうまく動かないみたいだから助けてやる、なんて言ったって、
あのプライドの高いアスカは納得しないだろう。
どこまで手を差し伸べていいのか分からないことが、シンジを少し及び腰にしていた。
(これからずっと、二人で一緒に生きていくんだから、少しくらい頼ってくれてもいいのに)
19 :
LAS7:2008/05/27(火) 18:29:25 ID:???
そこまで考えて、赤以外何も映さない水面を眺めながら、シンジは苦笑した。
(目の前でミサトさんが死んで、他のみんなもこの海に取り込まれたまま、帰って来ないのに……)
僕は薄情だな、と思う。
生きるのに必死だった数日がシンジから悲しみを掠め取り、アスカとの距離を縮める結果になった。
「生きたいなんて、思ったことないはずなのに…」
それは、本心からの言葉だと思うのに、
(だけど、死ぬのはイヤだ)
同時に、そんな思いが確かにある。
「結局、いつだって中途半端なんだ、僕は…」
――でも、だからこそ、アスカのことだけはきちんと正面から向き合っていきたいと思っていた。
臆病に、拒絶への不安に怯えながらでも、シンジはアスカに素直に向き直って、
積極的に関わっていこうと決めていた。
だから、
「――よぉし!」
気合を入れて、腕まくりをして、赤い水に挑む。
大げさなことを考えて、結局やるのはこんなことか、とバカらしさに頬が弛む。
「こんなの、ただの色がついた水じゃないか。別にどうってこと…」
しかし、水をすくおうと指先をつけた途端、どろっとした冷たさが指から染み込んできて、
シンジはめまいを覚えた。
(……なんだろう? 冷たいのに、温かくて、血の匂いがする。
そういえば、使徒に取り込まれた時のエヴァの中は、こんな感じだったな)
指先から、自分が溶け出していくような気持ちがして、心地いい。
意識が拡散して、何も考えられなくなる。
20 :
LAS8:2008/05/27(火) 18:31:42 ID:???
気がつくと、両手は手首まで完全に水に沈んでいた。
体勢も、知らない内にずいぶんと前屈みになっている。
(このままだと、沈む? 早く、手、抜かないと…)
急に恐怖がこみ上げて、シンジが慌てて手を引き抜こうとした時、
透明度の薄い水の奥に、なぜかはっきりと人の顔が見えた。
「ミ、サト、さん…?」
(死んだはず、なのに……)
シンジの頭の中が、瞬間的に真っ白になる。
――だが、驚きはそれだけではない。
その隣には、レイやトウジ、ケンスケにヒカリ、それにゲンドウに冬月、リツコに加持の姿もあった。
彼らは皆、一様に手を広げ、招くように、あるいは迎え入れるようにシンジに微笑んでいる。
「みんな…! いたんだ、そこに…。生きてたんだ、みんな……」
水の奥にいる彼らに乞われるままにシンジは、手を伸ばす。
体が前に傾ぎ、腕は肘までが水に浸かる。
それでもシンジの手は届かない。だからシンジは更に身を乗り出して、
ピチャン、
と短い前髪が水に触れた時、シンジは我に返った。
――そして、次の瞬間。
突然に、強い力で首を引かれる。
「――ッ!」
あっけなく、体のバランスが崩れる。
悲鳴をあげるヒマもなく、シンジの顔に液体がぶつかって、弾けた。
21 :
LAS9:2008/05/27(火) 18:40:51 ID:???
顔に水の冷えた感触が弾けても、シンジの頭はいまだ冴えず、全てがピントを失っていた。
(僕、地面に寝かされてる? 何で…?)
ただ、重いまぶたを苦労して持ち上げると、ぼんやりと、目の前に人影が見えた。
「あれ? ミサト、さん…?」
視界は焦点が合わずに何重にもかすみ、立っているのが誰なのか、判別も出来ない。
バシャ!
再び顔に水がかけられ、シンジはようやく覚醒した。
「あ、すか…?」
目をしばたかせる。
そこに立っていたのは、水の入ったボトルを手にしたアスカだった。
「アンタ今、自分が何しようとしてたか分かってる?」
仰向けに倒れたシンジの前で仁王立ちになって、アスカが低い声で質問してくる。
「え? あ…、そう! そうだよ! アスカ! さっきミサトさんがいたんだ!
それだけじゃない! トウジや洞木さんに、ほら、アスカの好きな加持さんだって…」
パシン!
「……え?」
シンジの左頬で、閃光が鳴った。
その衝撃と驚きで、シンジは今度こそはっきりとアスカを見る。
右手を平手打ちの格好で止めたまま、深い怒りをこめて、アスカはシンジを見ていた。
22 :
LAS10:2008/05/27(火) 18:41:43 ID:???
もう一度、アスカの唇が動く。
「アンタ、自分が何しようとしてたか、分かってるの?」
言われて、シンジは必死に記憶を整理する。
「何しようとしてたか、って。僕は、アスカの言う通り、海で顔を洗おうとして、
それで、海を覗き込んでたら、ミサトさんたちが見えて……」
そこから先は、はっきりしない。
気がついたら、目の前にアスカがいた。
「……覚えてないなら、アタシが代わりに言ってあげるわ。
さっき、アンタはあの海の中に入っていって、アイツらに仲間入りしようとしてたのよ」
アスカは、アイツら、という部分に、強い嫌悪感を込めて。
それが、あの海に溶けている人たちのことだと、シンジにもすぐ分かった。
「僕は、そんなつもり…」
「アンタがどんなつもりでも、アタシがアンタの首元を引っ張って引き戻さなかったら、そうなってたわよ」
口調は静かなのに、そこにはいつものアスカにはない、突き放すような鋭さがあった。
一見無感動のように見える表情の中、アスカの目には見せかけではない、本物の怒りが宿っている。
「アタシは……」
アスカは口を開いて、結局それ以上何も言わないまま、黙って踵を返した。
シンジはそこで、ただ立ち尽くすしかなかった。
23 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 18:52:41 ID:W2Cdhpuy
age
24 :
LAS11:2008/05/27(火) 18:56:27 ID:???
欧州での暮らしが長いアスカには到底我慢出来ないような、ボロボロの小さな家。
しかし、雨漏りや隙間風のないことが絶対条件の家選びの結果、アスカはそこを当面の宿と定めた。
一応客間らしい、それでもやはり小さい部屋のまんなかはカーテンで二つに仕切られていて、
片方にはシンジが、もう片方にはアスカが、それぞれ布団を敷いて寝ている。
――家に吹きつける風の音以外、何の音もない世界で、シンジはそっと、言葉を押し出した。
「アスカ、ごめん」
返事はない。
部屋の反対側で寝ているはずのアスカの姿は、カーテンに遮られて見えない。
けれど、シンジはアスカが眠っていないと決め込んで、言葉を続けた。
「僕はまた、知らない内にアスカに逃げてたのかもしれない。あの時、みたいに…」
ビク、と、カーテンの向こうでアスカが身じろぎをした気がした。
――だが、シンジが口にしたのは、そのくらいの言葉だった。
赤い海辺で目を覚ましからずっと、二人が一つのモノに同化していた時、
お互いが見たお互いの醜さ、弱さについての話題はタブーだった。
シンジの言葉は、そのきわどい所を突いている。
「ここで、アスカと一緒に生きていくことが、僕のするべきことだと思ってた。
アスカと二人で周りの探索をして、食料や物を集めて、家を直して、いろいろ話をして。
そんなママゴトみたいな暮らしが、楽しいって、そう思えるようになってたんだ。
……でも!」
シンジの口調がだんだんと熱を帯びる。
心の中の興奮と葛藤を示すみたいに、シンジの言葉は激しく、早口になっていく。
「でも、ホントは逃げてたんだ。僕は楽な方に逃げて、忘れようとしてたんだ!
ミサトさんの最後の言葉とか父さんが何をしたかとかカヲル君を握った感触とか
リツコさんがどうなったのかとか綾波が僕に何をしたかったのかとか……
トウジやケンスケや洞木さんや冬月さんや青葉さんや日向さんや伊吹さんやみんなが、
どうなったかってことを…!」
25 :
LAS12:2008/05/27(火) 18:58:04 ID:???
激情を乗せた言葉が過ぎ去って、静寂が尚一層際立った。
その耳に痛いほどの沈黙は、カーテンの向こうからの声で破られた。
「……アンタのせいじゃないわよ、それは。
全部、碇司令とゼーレだとか言うワケ分かんないのがやったことじゃない」
「アスカ…。でも、アレを望んだのは僕だ。僕が、紛れもない僕が、望んだんだ…」
対するアスカの声は、あくまで穏やかだった。
「もういいわよシンジ。アンタにはどうしようもなかったし、そのことを誰も恨んでないわ。
だから、それでいいじゃない」
「……でも」
「逃避でもいい。アンタの中からもアタシがいなくなったら、アタシはどうしたらいいのよ」
シンジは、それを受け入れられずに、うつむいた。
「……僕は、怖いんだ。
世界にはもう、アスカと僕しかいなくなったって分かったら、急に楽になった。
だって、アスカしかいないなら、アスカに近づかないとしょうがない。他に、いないから。
それを言い訳にして、僕はアスカと話が出来た。……それが、嬉しかった。
でも、それこそが僕の望みで、僕がみんなを、あの海の中に閉じ込めているんじゃないか、って」
「呆れた。アンタ、そんなこと考えてたの? それこそ、妄想よ。
自虐好きで、内罰好きのアンタの、埒もない妄想」
「でも、それが妄想だったとしても、やっぱりこれだけ経っても誰も戻って来ないのは、おかしいよ。
だから、逃げちゃダメだと思うんだ。だから、僕はあそこから、みんなを救い出したい。
魂のサルベージ。あそこから戻ってきた僕なら、僕らなら、出来るかもしれないと思うんだ。
ねぇアスカ。アスカも、手伝ってよ」
「…バカ」
アスカからの返答は、冷淡だった。
「アタシは手伝わないし、アンタにもさせない。魂のサルベージね。そんなことが出来たらすごいでしょうけど、
そんな程度の覚悟じゃ、アンタも一緒に引き込まれるのがオチよ。実際、昼間はそうなりかけたんだし」
アスカらしくない、疲れた声と口調だった。
「だ、だけど、一緒に考えれば何かいいアイデアが……」
「もうやめて。アタシはそんな話、聞きたくないから。
……ねぇシンジ。アンタって、本当に女の、というか、人の気持ちが分かんないのね」
26 :
LAS13:2008/05/27(火) 18:59:24 ID:???
「分からないよ。……分からないけど、でも、分かりたいと思ってるし、近づきたいんだ。
だけどそれは、やっぱり迷惑、…だよね?」
「迷惑ね。それも大迷惑。……付き合わされるこっちの身にもなってみなさいよ」
「う、うん」
「アタシはアンタのせいでイライラしっ放しだし、……これからもずっとそうなるのよ、きっと」
「……ごめん」
ひたすら申し訳なくて、シンジはうなだれた。
でも、そんな様子すらアスカには気に入らなかったようで、
「何でゴメンなのよ、このバカシンジ! そこは謝る所じゃなくて……!
あぁ、もう! かみ合わないったらありゃしない! せめてもう少しだけ利口になりなさいよね!」
「……努力、するよ」
「たっっっぷり、してよね! それでもぜぇぇぇったい、ムリでしょうけど!」
――その言葉を最後に、束の間静寂が戻る。
それが、アスカの熱を冷ましたのか、次に出された言葉は、沈痛な響きを持っていた。
「だけどね、シンジ。そうじゃなくても、アタシ、たぶんアンタのことを一生許せないと思う」
「……それは、僕がアスカに……やった、ことのせい?」
シンジの、勇気を振り絞った一言だった。しかし、
「違うわ」
アスカは否定する。
それから、「あれはあれで、もちろん恨んでるけど」という恐ろしい前置きの後で、
「あの中で、溶け合ってた時。いっぱい、見られた。アタシの中。
アタシが、隠してたこと。隠しておきたかったこと、全部…」
「…うん」
シンジはうつむいて、でもすぐに顔を上げた。
「あ、でも、全部じゃないし、それに、アスカだって僕のを見たワケだから…イタッ!」
部屋を二つに仕切る、二枚のカーテンの間をこじ開けて、大きな枕がシンジのところまで飛んできた。
「い、いきなり何するんだよっ!」
「うっさい! アンタそれでフォローしてるつもりだってんなら…!」
カーテンの隙間から、投擲の体勢のまま怒鳴っているアスカの姿が垣間見えたが、
シンジと目が合うと、アスカは盛大に髪を左右に撒き散らしながら首を振った。
27 :
LAS14:2008/05/27(火) 19:00:34 ID:???
「あぁもう、いいわよ! アンタに何を言っても無駄だってことがよっく分かったわ!
ほら、さっさと枕返しなさいよ!」
不承不承、シンジは枕を投げ返す。カーテンの隙間が、さらに広がった。
枕を受け取ったアスカは、それでもシンジを見たまま、動かない。
(何かしろって、催促されてるのかな?)
ちらちらと辺りを見回して、シンジは仕切りのカーテンに隙間が開いたままだと気づいた。
「か、カーテン。閉め直そうか?」
気弱に提案してみるが、
「いいわよ、そんなの。その代わり、アンタの枕もこっちに寄越しなさい」
不可解な要求で返された。
「どうして? 枕投げでもするの?」
そこで、アスカは初めて淡く笑った。
「ばか。……ペナルティよ。いいから、早く投げて」
なんなんだよ、と思いつつ、苛立ち混じりに投げた枕は、
シンジにすら予想外なほどの勢いで、ボフン、とアスカの顔にクリティカルヒットした。
「あ、アスカ…?」
地面に落ちた枕に釣られたように、アスカの顔が、うつむいた。
暗さも手伝って、表情が見えなくなる。
怒ってるのかな、とシンジは思ったが、違った。
「アンタが…」
驚くほど、落ち着いた声で、
「アンタが選んだんでしょ。ここで生きるって。だったら、それを貫きなさいよ」
「え?」
訊き返すヒマはなかった。
「アタシが言いたいのは、それだけ」
アスカはそう口にすると、それ以上、一切の言葉を拒むみたいに、シンジに背中を向けた。
28 :
LAS15:2008/05/27(火) 19:05:26 ID:???
ついでに、
「枕は、返さないから」
アスカはそう宣言すると、わざわざ壁側、シンジと反対方向を向いたまま、
シンジの枕を後ろ手で無造作に自分の布団の上に投げ出した。
それがアスカの枕と少し重なって、その脇にずり落ちる。
それから出来るだけシンジから距離を取るみたいに布団の端に寄って、
毛布を半分ほど余らせながら、アスカは横になった。
最後まで、シンジの方を振り向きもしない。
「…アスカ?」
呼びかけても、反応はなかった。
「あ、アスカがいいって言うまで、あの海からみんなをサルベージするのは、
待つつもりだから。その……」
言いよどむ。
シンジとしては、これで仲直りを提案したつもりだった。
けれど、カーテンの隙間から見えるアスカの姿にも、何の変化もない。
(……これ以上、今日は話をしたくないってことかな)
シンジはそう判断して、大人しく眠ることにした。
枕を奪われた首元が少し寂しいが、我慢する。
横になるとすぐに疲労が布団に癒着して、体を動かすのも億劫に、目を開けているのもつらくなる。
そうして、闇に身をゆだねる直前、
「バカシンジ…」
という呟きが、聞こえた気がした。
29 :
6:2008/05/27(火) 19:06:27 ID:???
以上で
ここで終わっちゃうの?なんという生殺し…
とりあえずGJ!
でもレスが付かなきゃやめるとかレス乞食みたいなことは書かない方がいいかと
批判されたら途中でやめるとかは投稿者にあるまじきゲンドウ、じゃない言動だよ
絶対に誰かは楽しく読んでくれるんだからレスなかったり批判されても投下したら最後まで頼む
シンジ視点とアスカ視点をぐちゃぐちゃに織り混ぜてるのはわざとかお?
レス乞食wwwww
少なくとも、俺はおもしろいと思うから是非続けてほしい
ちょっとくだらない物を退屈しのぎに書いてみました。
では、5レスほど投げます。
「というわけで、あらためて僕は謎をといてみようと思うんだ。」
「シンジぃ……唐突に『というわけで』とかいって切り出すなんて、
お前も結構ベタなやっちゃな。ほら、はよ引っ繰り返さんと焦げ付いてまうぞ。」
「なぁトウジ、生地がちょっとゆるすぎない?」
などと、腕組みして語るシンジに対し、作業に戻るよう促すトウジとケンスケ。
3人はミサトマンションにおいて、いわゆるタコ焼きパーティーの真っ最中である。
シンジは少しむっとした様子。
「ねぇ!二人とも聞いてなかったの?」
「聞けるかいな。せやから、はよせぇゆうてんねん。タコ焼きはな、焼きすぎが一番いかんのやぞ。」
「なー碇、マヨネーズないの?」
そんな二人の調子にあきれたのか。
フン、と鼻息をならして串を手に取り、器用にクルクルとタコ焼きを引っ繰り返し始めたシンジ。
案外、こうした細かい作業は器用にこなすようである。
そのシンジに少したじろいだ様子で、
「や、やるやないか……まあ、もっかい初めからいうてみ?聞いといたるから。」
さて、彼らのタコ焼きパーティーである。
タコ焼きを一般家庭で焼く場合、大抵はホットプレートにタコ焼き用のプレートを載せ替えるところだが、
彼らはガスで焼くタイプの、小さいながらも本格派のタコ焼きセットを用意した。
恐らく、トウジあたりが「焼き加減が違う」と強く主張したのだろう。
なら、プロの焼くタコ焼きを食べに行けばいいと思うのだが。
しかも生地を注ぐための容器や、タコ焼きをかえすための串はともかく、、
タコ焼き専用のポリ容器まで用意しているのはちょっとやり過ぎである。
普通の皿でいいだろう、皿で。
「いや、以前にミサトさんが作ったカレーの話。」
そう言いながら次々と焼き上がったタコ焼きをポリ容器に盛りつけるシンジ。
それにソースを塗るため、トウジが受け取る。
「おー、ミサトはん料理まで出来はるんや。」
シンジは早くも油を引き直して、新たに生地を流し込み始めた。
「料理なんてとても呼べた物じゃないよ。レトルトカレーを引き延ばしただけ。
それも酷い味。リツコさんなんて、一口だけで食べるの止めちゃったし。
でもさ、そんな代物をミサトさんはカップラーメンに注いで食べちゃうんだ。
それも美味しそうに。」
そして、ケンスケがタコ焼きのトッピングを引き継ぐ。
「青のり、カツオにマヨネーズっと。
だとしたら、ミサトさんって相当味覚が壊れてるのかな?あはは。」
それを聞きながらシンジは、確実にタコの切り身を鉄板のくぼみに入れていく。
「と、思うでしょ。でもね、味噌汁の出汁をいりこからカツオに変えの一口で見破られたんだ。
もし味覚が壊れてたら、味噌と具の違いしか判らないんじゃないかな。」
続いて、トウジがネギに天かす、紅ショウガの投入を担当。
「そうでもないやろ。カツオだけなんか合わせ出汁か、それぐらい匂いだけでも判るで。
……で、なんやシンジ。結局、何がいいたいねん。」
しかも生地を注ぐための容器や、タコ焼きをかえすための串はともかく、、
タコ焼き専用のポリ容器まで用意しているのはちょっとやり過ぎである。
普通の皿でいいだろう、皿で。
「いや、以前にミサトさんが作ったカレーの話。」
そう言いながら次々と焼き上がったタコ焼きをポリ容器に盛りつけるシンジ。
それにソースを塗るため、トウジが受け取る。
「おー、ミサトはん料理まで出来はるんや。」
シンジは早くも油を引き直して、新たに生地を流し込み始めた。
「料理なんてとても呼べた物じゃないよ。レトルトカレーを引き延ばしただけ。
それも酷い味。リツコさんなんて、一口だけで食べるの止めちゃったし。
でもさ、そんな代物をミサトさんはカップラーメンに注いで食べちゃうんだ。
それも美味しそうに。」
そして、ケンスケがタコ焼きのトッピングを引き継ぐ。
「青のり、カツオにマヨネーズっと。
だとしたら、ミサトさんって相当味覚が壊れてるのかな?あはは。」
それを聞きながらシンジは、確実にタコの切り身を鉄板のくぼみに入れていく。
「と、思うでしょ。でもね、味噌汁の出汁をいりこからカツオに変えてみたら、
最初の一口で見破られたんだ。
もし味覚が壊れてたら、味噌と具の違いしか判らないんじゃないかな。」
続いて、トウジがネギに天かす、紅ショウガの投入を担当。
「そうでもないやろ。カツオだけなんか合わせ出汁か、それぐらい匂いだけでも判るで。
……で、なんやシンジ。結局、何がいいたいねん。」
そしてシンジは自分の作業を終えて、ようやく爪楊枝を手に食べ始めた。
「ホフハフ……で、僕の推論はこうだ。
あのとき、僕とリツコさんはご飯にかけて食べたけど、ミサトさんはカップラーメン。
つまりね、カップラーメンのスープと合わせて、初めて完成する味なのではないかと。
だから、僕とリツコさんは半端な味に面食らい、ミサトさんだけ美味しく食べることが……」
トウジもまたタコ焼きをほおばりながら、コポコポとコーラをコップに注ぐ。
「どんなカレーやねん。まるで化学合成やな。
って、おいケンスケ!そんなにマヨかける奴があるかい!
俺が調達してきた特製ソースが台無しやないか!」
ケンスケは気にせず、マヨネーズだらけのタコ焼きをつまみ上げた。
「いいじゃん別に。俺の好みだ。
それに碇。やっぱ考えすぎなんじゃないの?面白いけどな。」
ひとしきり食べ終えたシンジは焼き加減を串でつついて見て回る。
「うん、確かに面白そうだし、もし本当に美味しいなら食べてみたいとおもってさ。
ラーメンのスープは鶏ガラ、それにカレー、そこにプラスして味が劇的に変わる物。
なんだろう……味噌でも入れたのかな。」
そのときである。
「たっだいま〜!あらぁ、いーにおーい♪」
噂の葛城ミサトのご帰還である。
シンジは立ち上がって出迎えた。
「あれ、ミサトさん。今日は早かったんだね。」
ミサトは制服を脱ぎながら、開いている席に着く。
「いやー、どうにも作業が進まなくなっちゃってね。明日、早朝からいかなきゃならなくなったんだけどぉー。
……ね、ね、ね、ね、お相伴させてもらえるかな?それに、タコ焼きといえばアレよね?シンちゃん♪」
シンジはヤレヤレといった調子で冷蔵庫の扉を開けて、
「はい……飲み過ぎないでよね。」
コトンと机に置かれたヱビスビール。
と、そこにケンスケがすかさず。
「なぁ、碇。せっかくだから、ミサトさんに直接きけばいいんじゃない?
今、話してたカレーのレシピ。」
「んん??何かなシンちゃん」
と、それを聞いたミサトはすかさず身を乗り出しながらビールをプシュッ。
で、かくかくしかじか。話を聞きおえたミサトは大張り切りで胸をはり、
「なぁんだ!あのカレーが食べたいなら何時でも言ってくれればいいのに♪シンちゃん!
よぉーし、さっそく作るかぁー!!」
と、台所に立ち腕まくり。その隣に不安げな顔でシンジが立つ。
以降、ミサトの説明に相づちを打つシンジ。
「はぁーい♪ミサトの3分間くっきーんぐ!まずはレトルトカレーをお鍋に空けちゃってぇー」
「う、うん……」
「それをお湯で引き延ばしてぇー」
「ま、まぁ……それは予想通りかな。」
「で、そこにすかさず(ぴーっ)をたっぷり、それに加えて(ぴーっ)を(ぴーっ)して……」
「ちょっ……み、ミサトさん、そんなことをしたら……」
「まだまだこれからよシンちゃん!
で、最後のトドメに(ぴーっ)を(ぴーーーーーーーーーっ)!!
ほーら、出来上がりっ!!」
そのカレーのできあがる様を見ていた三人。
いやはや、味覚よりも先に感情が破壊されつつある三人の顔。
その前に並べられる三つのカップ麺。
「なぁトウジ、これだけで食べた方が……」
「ま、まてやケンスケ、も、もしかしたら本当にあのカレーと融合したらめちゃ旨いかも……」
「トウジ……今、見てたよな?ミサトさんが作るところを……」
「シンジぃ……お前のせいやぞ?どうすんねん、これ。」
「ぼ、僕に言わないでよ……で、でも……」
(に、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……)
いや、逃げても良いと思うのだが。人類の存亡がかかっているわけじゃなし。
「なぁーにゴチャゴチャいってんのよ。ささ、冷めないうちにどぉーぞ!」
と、勧めるミサトは得意満面である。
「あ、あこがれのミサトはんの手料理や……南無三!」
「しょ、小隊長殿!自分も逝かせてください!」
「に……に……に……逃げちゃだめだっ!」
意を決してラーメンを手にする3人。はてさて、どんな味がしたのやら。
もはや、焼きかけていたタコ焼きは鉄板の炭と成りはてていた。
(完)
終わりですー
投げ直しすんませーん
>>42 GJ
小噺的でオチも付いてて良い
>>6 何と言う生殺しッ!
是非続きを読ませて欲しい、GJ
いいね!いいね!
45 :
35:2008/05/28(水) 18:59:07 ID:???
似たような場面設定で、もういっこ考えてみますた
6レスいきますー
46 :
35:2008/05/28(水) 18:59:49 ID:???
「うん、アスカに言っておくよ。それじゃ……ん、アスカおはよー」
「シンジ、今日はちゃんとお風呂沸かしてくれたんでしょうね。」
電話の受話器を置くシンジに、寝ぼけ眼で起きてきたアスカ。
そう、ここは葛城家の食卓。
とりあえず長くなるので中略し、本題。
「ようするに料理を教えろってこと?でもさ……
委員長の方がいいんじゃない?仲良いんでしょ?」
「ま、まあそうも考えたんだけどね。」
シンジのツッコミももっともである。アスカはしかめっ面で腕組みをする。
「そりゃヒカリでもいいんだけど、職務上ここに寝泊まりしてアンタと顔あわしている訳じゃない?
ことあるごとに物を尋ねるならアンタの方が好都合って訳よ。」
「まあいいけどさ。でも、僕は料理できるってほどでもないし。それに……」
と、ごねるシンジにいらつくアスカ。
「……もう、人が恥を忍んで頼んでるんだから、グダグダ言ってないで教えなさいよ!
ついでに恥をさらすようだけど、アタシはアンタより料理を知らないのよ!
ちっちゃいころからエヴァの操縦と勉強ばっかで台所なんてたったことないの!
だから焦ってんのよ。将来、加持さんのお嫁さんになったとき、はずかしい思いをしたくないの!」
「そ、そう。でも……ふーん……」
「……なによォ?」
「いや、なんでもないよ。それじゃ、えーとね……」
意外にもも己をさらけ出したアスカを物珍しげに眺めていたシンジであったが、
ひと思案して立ち上がり、戸棚からレトルトカレーを取り出す。
「僕を加持さんだと思って、お昼ご飯にカレーを勧めてみてくれる?」
「レトルトカレー!?アンタ、アタシをなめてんの?」
47 :
35:2008/05/28(水) 19:00:36 ID:???
しかし、シンジはニヤリと笑う。
「いいから、教えることが料理以前にあるんだ。
ただ、作るだけじゃなくてカレーを勧めるところからやってみせて。」
「演技指導なんて大きなお世話よ!」
「演技指導というか、ロールプレイングだよ。えーとね、ロールプレイングっていうのは」
「知ってるわよ!大学卒業のアタシに講釈たれるんじゃないわよ!」
「じゃ、ここに入るところから始めるからね。僕を加持さんだと思ってカレーを勧めてみてよ。」
「天と地の違いのあるアンタを誰が加持さんと……ああ、いいわよ。じゃ、始めて。」
で、ロールプレイスタート。
「あー、おなかすいた……って、ちょ、ちょっと!」
「やーん、加持さんおはよー(むぎゅうっ)」
「ちょっとぉ!いきなり抱きつかないでよ!(←真っ赤っか)
それにお昼ご飯だから、おはようじゃないでしょ?」
「……だってアンタ、加持さんと思えっていったじゃない。親しい人とハグすんのはあったり前でしょ?」
「そこまで演じてくれなくても良いよ……カレーを勧めるとこだけでいいから。」
「こういうことも大事と思うんだけど……アンタ、ちょっと嬉しいくせに。」
「……もう。ほら、もういっかい初めからいくよ。」
テイク2。
「あー、おなかすいた。」
「じゃ、カレーあっためるから待っててね……って本当に作る必要はないわよね。」
「まあ、そうだね。料理を出すフリをしてくれればいいよ。」
「あっそ。はい、どうぞ。」
「……」
「……わーってるわよ。はい、お水。」
「うん……ぱくぱく(演技)……ごちそうさま。」
48 :
6:2008/05/28(水) 19:01:23 ID:???
長編LAS今後
・35くらいで第一部は終わる予定。
・書き直しが必要な部分が多いので、投下はたぶん一日五レス分くらい。
・地味な展開で飽き飽きしてる人も、30くらいから盛り上がる、……はず。
・ヤンデレアスカ注意! ついでにKYシンジにも注意!
・
>>32 わざとだお。元ネタ作品も、このザッピングルグルシステムで効果的に読者を酔わせていたお。
・
>>30、
>>31 以後はあまり余計な事は言わず、完結を第一に心がける事にする。
・続き、今から投下する。
49 :
35:2008/05/28(水) 19:01:28 ID:???
ロールプレイ終了。
「で、どうなのよ。」
と、採点を待つアスカ。
シンジ、目を閉じ腕を組んで結果発表。
「まずね、いきなりカレー作るよ、じゃなくてカレーで良いかどうか尋ねなきゃ。」
「はぁ!?カレーを出せって言ったの、アンタじゃないの!」
「だから勧めてみてよって言ったじゃない。
カレーなんてありきたりのメニュー、もしかしたら昨日食べてるかもしれないし、
あるいは、もっと他の料理を食べたいのかもしれないし。」
「……なにそれ。そんな策略めいた指導の仕方、キライ。」
「いや、アスカがどこまで考えているか知りたいから、ロールプレイングにしたんだよ。
カレーでいいのか、それに辛口や甘口がいいのか。もっと手の込んだ料理がいいのか、
それ以前に、お昼をゆっくり食べる時間があるのか無いのか。
僕はお腹すいたとしか言ってないし。」
「このォ……いやらしい男ね。」
「はいはい。でも、その時になって後悔したって知らないから……ん、ミサトさんお早う。」
そのとき、二人の背後から出てきたミサト。
髪はボサボサで、どうやら目を覚ましたばかりのようである。おまけに、
「うー、おはよー……きもちわる。うぇっ……ぷ。」
「二日酔い?飲み過ぎだよ、ミサトさん。」
「うう……シンちゃん、お願い。」
「はいはい。」
と、シンジが冷蔵庫から取り出した物を見てギョッとするアスカ。
なんとキンキンに冷えた缶ビールである。
二日酔いの相手に飲ませるなど、文字通りに酔狂の沙汰だ。
50 :
35:2008/05/28(水) 19:02:23 ID:???
「んく……んく……んく……ぷっはぁぁぁぁぁぁぁっ!!
やっぱり二日酔いの朝はビールよねぇ!よォーし、これで元気百倍よン♪」
そのミサトの有様にアスカはあきれ顔。
そして超特急で着替えを済ませてミサトは玄関へ。
「ンじゃー、行ってくるわ。あと、よろしくぅ!」
シンジは改めてアスカに向き直る。
「今のを見て判ったでしょ?
状況に応じて、あるいは相手に応じてメニューとか考える必要があるんだ。
今のミサトさんのビールが良い例だよ。お昼もそうだけど朝ご飯はもっと難しいから。
そのためには相手をもっとよく知る必要があるんだ。加持さんの好みとかは?」
「た、多少は知ってるつもりだけど……そんなに色んなこと考えなきゃいけないの?
理屈っぽいイヤな男ね、アンタ。」
「いや、それほど考えるってほどでもないよ。言葉にするからややこしいだけ。
ま、難しいんなら素直が一番だよ、アスカ。」
「……素直。」
「そう、判らない時は判らない、どうしようって尋ねたらいい。ほら、さっきみたいに……」
(ぴんぽーん)
とその時、鳴り響く玄関のチャイム。
シンジが出迎えに立ち上がり、やってきたのはもちろんこの人。
「やあ、お二人さん。仲良くやってるかい?」
「加持さん!?」
シンジはニヤニヤしながら、アスカの肩をぽんと叩く。
「ほら、レトルトカレーはここに置いておくから頑張ってね。」
「ま、まさか加持さんが来るって知っていて」
51 :
35:2008/05/28(水) 19:03:34 ID:???
「アハハ、実はいうとね。さっき電話で聞いてたんだ。
ほら、僕の教えたことがさっそく役に立ちそうでしょ?僕はトウジ達と約束があるから。」
といって、加持と入れ替わりでシンジ退場。
「やあ、アスカ。」
「え、あ、あの加持さん……今日はどうしたの?」
「ああ、今日は俺も暇だしミサトが二人の面倒見てくれってさ。
そっか。シンジ君は約束があるのか。お昼、どうする?」
「そ、そうね、えーと……えーと……」
流石のアスカもしどろもどろ。
無理もない、先ほどまでシンジとやり取りをしていたシチュエーションが訪れたのだから。
(どうしよう……なんて言えばいいのかな……えーと……えーと……)
「ね、ねえ加持さん。お昼はカレーでいい?その……レトルトだけど。」
「レトルトカレーか。ふーん……」
「え、あ、その……」
(や、やっぱり、レトルトなんてショボすぎ。あーん、どうしよ。
もっと前から料理の練習とかしておくんだった……)
「ん?どうしたの、アスカ。元気ないね。」
「う、うん……あのね……」
『素直が一番だよ、アスカ』
「あのね、加持さん……その……」
「ん?」
52 :
35:2008/05/28(水) 19:04:58 ID:???
「……な、なんていうかさ、加持さん。
いっぺん加持さんにお食事作ってみたいなー、なんて思ってたんだけど……
アタシにはレトルトあっためるぐらいしか出来ないなーって思って……アハハ。」
「そっか……よし。」
と、いったんは椅子に腰を下ろした加持であったが、上着を背負って立ち上がる。
「なら、アスカ。俺が料理を教えてやるよ。二人で材料を買い出しに行こう。」
「ええええ!?ほ、ホント?加持さんがアタシに料理を教えてくれるの?」
「ああ、男の手料理とはいえ、ちょっとしたもんだぞ?何を教えてほしい。」
「え、えーと、うーんとね、うーんとね……」
「まあ車の中でゆっくり考えればいいよ。そうと決まれば着替えておいで。」
「ウン!」
(らっきぃ〜☆一緒に台所で料理するなんて下手なデートよりずぅっと楽しそう!)
そして、アスカはおめかし完了。
「おいおい、そんなオシャレしなくてもスーパーに行くだけだぞ?」
「えー、それだけ?ね、ね、喫茶店ぐらい寄り道しようよ加持さん♪」
「ハハ、判った判った。じゃ、行こうか。」
とまあ、こんな感じでウキウキと加持の腕にからみつくアスカ。
が、ふと思い立ってテーブルの上に置き去りのレトルトカレーを振り返る。
(ありがと、シンジ。今回は借りとくね。)
(完)
53 :
6:2008/05/28(水) 19:05:33 ID:???
>>35 かぶってスマン。油断してた。
もちっとしてから出直すわ。
54 :
35:2008/05/28(水) 19:06:36 ID:???
以上ですー
前回に引き続いて、タイトルは「続・葛城家の食卓」
なんちってー
では失礼しましたー
55 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 19:07:29 ID:HTz8aqsP
いとよろしき話なれば、ageむとぞ思ふ。
56 :
35:2008/05/28(水) 19:07:51 ID:???
>>53 いえいえ、ハンドル付けてるからサンドイッチしても問題ないっすー
何と言う良スレ……ッ!
>>35 アスカが意地らしくて可愛すぎ、GJ
>>48 ヤンデレktkr、期待してる
58 :
6:2008/05/28(水) 19:41:15 ID:???
>>56の寛大な心に感謝しつつ、投下開始。
こ、今度はかぶってないよな?
59 :
LAS16:2008/05/28(水) 19:42:18 ID:???
嫌な夢を見て、アスカは飛び起きた。
まず一番に枕元の時計を確認する。……六時。
――ハッとして、辺りを見回す。
シンジとアスカをへだてるカーテンはきっちり直されていて、一部の隙もない。
あれほど開かれていたカーテンの隙間もなくなって、今はもう合わせ目も見えない。
「几帳面バカ」
呟きながら、隣を見やる。アスカの傍らの昨夜と変わらぬ場所に、シンジの枕があった。
念のため、毛布をめくって布団に手を当てる。……冷え切っていた。
「……ま、当然よね。もしそんなことしてたら、ぶん殴ってるわよ」
そう口にして、それでも抑え切れない苛立ちを抑えるため、シンジの枕をつかんで、
カーテンの向こうに向かって思い切り投げる。
それでシンジが飛び起きようが、痛がろうが、構うことない、と思った。
しかし、
「……シンジ?」
カーテンの向こう側。
そこにあるはずの布団は、もう綺麗にたたまれていた。
60 :
35:2008/05/28(水) 19:42:47 ID:???
>>58 大丈夫ですー
ていうか、またミスった orz
加持→ミサトの呼称は「葛城」だった。あーもう、俺はいつもいつも……
61 :
LAS17:2008/05/28(水) 19:44:32 ID:???
呆けていた時間は、ほんのわずかだった。
二十秒で着替えを済ませて、外に飛び出す。
思い浮かんだのは、昨日の光景だ。
――あの時。海に顔を洗いに行ったシンジを追いかけて、アスカはシンジに近づいていった。
手には水の入ったボトルとタオル。
たぶん手も顔もベタベタで、相当にひどいことになっているだろうシンジを、
「真に受けるなんてバッカじゃないの」とでも言いながら、綺麗にしてやるつもりだった。
けれど、それは実現しなかった。
シンジの表情が見えるほど近づいた時、何が起こっているのか気づいた。
シンジは、海の中に手を突っ込んだまま、微笑んでいた。嬉しそうに。
――それを認めた瞬間、感情が爆発した。
全力で走って近づいて、首を引っつかんで引きずり倒して、顔に水をぶちまけた。
起き上がって要領を得ないことを言うシンジを『許せない』と思いながら、
同時にはっきり自覚していた。……自分のズルさを。
シンジを受け入れることなんて、出来ない。近寄ってきたら、はねのけるだけ。
だけど、必要じゃないワケじゃない。失ったら、もう生きてはいけない。
(なによ、それ。まるで最低なヤツじゃない、アタシ…)
そう思ったから、夜は少しだけ歩み寄ってみようとした。
だけど、ことごとく気づかれなかった。……シンジがバカだから。
62 :
LAS18:2008/05/28(水) 19:45:44 ID:???
アスカは昔から、シンジのことを『どうしようもなく鈍感だ』と思っていたが、
実際の所、鈍感でどうしようもなかった。
――アスカがわざわざあんな小さい家を選んだのは、どうしてなのか。
――部屋をカーテンで二つに仕切ってまで、同じ部屋に寝ようとしたのはなぜか。
――いつも体を奥に寄せて、布団を半分空けているのは、何のためなのか。
ほんの少しでも想像力を働かせれば分かることなのに、シンジはいつまで経っても全く気づかない。
昨夜もそうだった。
会話の中でシンジに、『いなくならないで欲しい』と言ったのに、気にもされなかった。
その後で、『これからもずっと一緒にいるつもりだ』と告げたのに、謝られた。
――そして、極めつけ。
いつも通りのことをしたって、一生こいつには気づかれない、と思ったアスカは、
枕でカーテンをこじ開けて、お互いの姿を見えるようにした。
その上で、恥ずかしさと緊張で、顔がゆだってクラクラするくらい勇気を出して、
隣に枕まで並べてやったのに、たぶん気づきもされなかった。
それどころか、きっと怒っているのだと勘違いされていた気がする。
(……まあ、もちろん、近寄って来たりしたら、ぶん殴るんだけど)
それでも全く気づかれないまま無視されるのは、アスカのプライドが許さないのだ。
そのあげく、勝手に仲違いしたと勘違いして、この有様だ。
家出をしたのか、それとも、まさか一人で海に向かったのか、それは分からないが、
「どっちにしろ、認めらんないのよ、そんなこと…!」
そう息巻いて、アスカは必死で胸の奥から怒りをかき立てる。
そうして逆に、弱い心、『もしかすると、シンジはもう戻ってこないかもしれない』とか、
『もう海の一部になってしまっているかもしれない』とかいった、最悪の予想と怯えを、
胸の奥に押し込めて、しゃがみ込みそうになる四肢に力を込める。
自由にならない体は、慣れない疾走に何度もバランスを崩し、しかし、
幾度転んでもアスカの勢いは衰えない。
具体的な場所に当てはないが、海を目指すなら、家から距離の近い浜を目指すだろうという漠然とした予想はあった。
そして、アスカは振り返ることなく走り続け、
――いた。
水際にたたずむ、彼を見つけた。
63 :
LAS19:2008/05/28(水) 19:46:44 ID:???
最悪の予想は、当たらなかった。
シンジは赤い海を臨みながら、手を差し伸べるでも、足を踏み入れるでもなく、
そこに立っているだけだった。
それは、アスカにとっては喜ぶべきことのはずだったが、
(見てるだけって、……気持ち悪ぅ。やるんなら、早く何かやりなさいよね。
アタシが絶対、止めてやるから)
最悪の予想が外れたせいか、余裕を取り戻した心は、そんなことまで考えられた。
すると、アスカの心の声に発破をかけられたかのように、シンジがようやく動き出す。
手に提げていた袋から、何かを取り出した。
(あ、アレって!)
手にしていたのは、缶ビール。エビだかカニだか言う、ミサトがよく飲んでいた銘柄だった。
(あいつ! あんなものどこに…! っていうかアレ、飲むつもり?
まさか、早起きしたのもこのため? 優等生のシンジ君が、朝にこっそり飲酒ってワケ?)
矢継ぎ早に、アスカの頭に疑問符が踊る。
しかし、そんなアスカの見ている前で、シンジは迷いなく缶を海に向かって傾けた。
中身がドボドボと海に注がれる。
(……あぁ、そう。そういうこと)
それを見て、急速にアスカは冷めていく。……頭も、心も。
なんてことはない。海にいるミサトに飲ませているつもりなのだ、シンジは。
そして、アスカの目の届かない所にあんな物を隠し持っていたということは、
昨日のことがあってから思いついたということでもないはずだった。
もしかすると、アスカが見ていない所で、何度も同じようなことをしていたのかもしれない。
赤い浜辺で目覚めて以来、ずっとアスカの傍でオロオロしていたような印象のあるシンジだが、
あながちそういうワケでもないらしい。
アスカはそこまで分析すると、
「ハッ! バカバカし。あんなことしたって、ミサトが喜ぶワケでもないのに。
こんなの、自己満足の極みじゃないの」
大きな脱力感と疲労感、そして小さな喪失感と敗北感を抱きながら、
アスカはフラフラとその場を後にした。
64 :
6:2008/05/28(水) 19:51:05 ID:???
なんか、デッカイ書き落とし見つけたんで、ここまでに。
今日はダメだ。穴があったら入って死にたい。
でもメシ食った後、気力があったらまた来るかも。
>>60 お互いもう、何もなかったって方向で。悲しい連鎖は終わりにしたい。
65 :
35:2008/05/28(水) 20:14:46 ID:???
>>64 今度は俺が割り込んでしまった。すんまそん。
お互い、LCLの海に流しましょう。
とにかく良作ありがとう。
EOE後の二人の微妙な関係、暗いけど引きつけられる。
もっともっと読みたいです。
67 :
35:2008/05/28(水) 21:21:06 ID:???
また小ネタなげますー5レスですー
うーん、もう一回推敲したほうがいいかな?
えーと、うーんと、もういいやー
68 :
35:2008/05/28(水) 21:22:00 ID:???
「シンちゃんおはよー……
んー、お味噌汁のいーにおーい。えーと、新聞来てる?」
「新聞ならここにある。」
「ん、ありがと……って、あなたは!!」
ミサトはここで初めて、葛城家の食卓に最大の珍客が訪れていることに気がついた。
「い、い、い、い、碇司令!」
「早朝から邪魔をしている。気にせず、くつろげ。」
「あ、あ、あの、ちょっと着替えて……」
「構わぬ。今からビールを飲むのだろう。
本部のすれ違いざまで匂うから判っている。気にせずにやれ。」
「や、やれって……あの」
「構わぬ。それで作戦部長として存分に働けるのならな。」
さすがは碇ゲンドウ。くつろげ、というのも命令口調である。
普段なら、どんな相手でもたじろぐことはない鋼の心臓の持ち主、葛城ミサト。
しかし場所が場所である。
朝起きて、いきなり自分の台所に碇ゲンドウが立っていようとは誰も想像など出来はしない。
それも、食卓に座っているならまだしも、エプロンまで付けて味噌汁の鍋をかき混ぜているのだ。
もしここでミサトが、自分はまだ悪い夢を見ているのだ、といって布団に引き返したとしても無理はない。
で、ようやくミサトが周囲を見渡してみると、
シンジが神妙な顔をしてテーブルについている。
どうやら、父たる碇ゲンドウの作る味噌汁が出来上がるのを待っているらしい。
シンジは平然とした口調でミサトに挨拶する。
「やあ、ミサトさん。お早う。」
「お、お早うって……あの、シンちゃん。(ひそひそ)ねぇ、これは何事なの?」
「見ての通りだよ。父さんが味噌汁を作ってるんだ。」
69 :
35:2008/05/28(水) 21:23:05 ID:???
ミサトは心配げにシンジの隣に座る。
「ね、ねえ……だから、何がどうして、どうなってんのよ。」
「だから、見ての通りだよ。ほら、ビール飲むんでしょ。」
と、シンジはパタンと冷蔵庫からビールを取り出しミサトに手渡す。
一見、平然としているように見えたシンジだが、その顔の眉間のしわが半端ではない。
口調も少しいらついているようにも……
こうなれば、ミサトの心も急速に落ち着きを取り戻し始める。
(親子の和解の場面……でもないかな。微妙な空気。
ははあ、突然に押しかけてきた碇司令の行動にシンちゃん納得しかねている。
そんなところか。)
などとミサトが考えているさなかで、碇ゲンドウはゆっくりと語り出す。
「シンジ。」
「……何、父さん。」
「お前は私にユイの写真は無いかと尋ねた。それに私は無いと答えた。
事実、そうなのだ。そして、心の中に残っていればそれでいい、とも言った。」
「……」
「亡くした者への思いというのは、そういうものなのだ。写真など形骸でしかない。
その者と接した時の思いを記せるのは自分の心、それだけだ。」
「でもね、父さん。僕は……僕は覚えてないんだ。母さんのことを何一つ知らないんだ。」
ミサトは二人をやりとりをビールの封も切らずにジッと見守っていた。
どうやら、相当にマジな話らしい。
この重苦しい空気はさわやかな朝には、まるで似つかわしくない。
その緊迫感に物音一つ立てれずできず、体を凍らせて二人のやり取りを聞いていた。
70 :
35:2008/05/28(水) 21:24:17 ID:???
シンジは少しすねたような口調で続ける。
「僕は母さんのことを知りたいし、聞きたいんだ。
それなのに……ずるいよ、自分だけ。心の中だなんて言って、何も教えてくれないじゃないか。」
「では、何か適当な写真を偽り、これが母親だと言えばいいのか。
ありもしない思い出を語れと?それではお前の心は満たされやしない。」
「……」
「お前は知らぬ母のことを語れ、という。それは単なる興味本位でしかない。
お前が知らぬことを語り、お前の興味を満たすのもよいかもしれない。
だが……私は妻のことを、お前の母のことをそのように語るつもりは毛頭無い。」
そう語りながら、ゲンドウは出来上がったらしい味噌汁を椀についで振り返った。
ここで、ミサトは思わずプッと吹き出して笑いそうになる。
ゲンドウが付けていたエプロンには可愛らしいウサギのアップリケが付いていたのだ。
両手で口を押さえて後ろを向いて笑いをこらえるのに必死だ。
「お前が知り、お前が見たものを、俺が語る。
それで初めてユイのことを語り合うことができる。
だが、お前は何も覚えていないという。
ならば、お前とユイのことを語り合うことが出来るとするならば……」
そして、ゲンドウはコトンとシンジの前に味噌汁の椀を置いた。
「出来るとすれば、それはこれだけだ。
飲んでみろ。間違いなく、ユイが作ったものと同じ味だ。」
シンジはしばらくの間、さらに神妙な面持ちで味噌汁を眺めていた。
が、やがて意を決して椀を両手に持ち、一口すすった。
71 :
35:2008/05/28(水) 21:25:19 ID:???
「あ……。」
と、シンジは思わず声を漏らす。
その味噌汁の味にシンジは何を感じたか、何を見いだしたのか。
が、ゲンドウはそれを聞き出そうとはせずに、スルリとエプロンをといた。
「では私は行く。じゃあな、シンジ。」
「父さん……あの。」
「シンジ。私が父として、ユイの夫としてお前に出来ることはここまでだ。
ユイに対する私の心は、この場に置いておく。」
「あの……あの……」
「もうこれからは、私を父と思うな。私はNERV総司令、碇ゲンドウだ。」
そう言って出て行こうとするゲンドウをシンジは引き留めようとする。
「ねえ、待ってよ父さん!」
「もう、父と思うなと言ったはずだ。」
「あの、今の味噌汁……
ごめんなさい、母さんなのかどうかなんてやっぱり判らないけど……でも。」
「……」
「覚えておくよ。父さんの作った味噌汁の味を。」
「そうか……ではな。」
そう言って、パタンと扉を閉めてゲンドウは去っていった。
恐らく下に待たせていたであろう、一台の車が走り去る音が聞こえてくる。
そして台所には半ば呆然として椀に残った味噌汁を見つめるシンジ。
ミサトは少し間をおいて、静かに声をかけた。
「シンちゃん……どう?お母さんの味、思い出した?」
72 :
35:2008/05/28(水) 21:27:03 ID:???
シンジは少し苦笑い。
「判らないよ。結局、これは父さんの味噌汁でしかないし……
……アハハ、朝早くから押しかけてきて味噌汁つくって帰って行くなんて、変な父さん。」
「ウフフ、確かにね。」
と請け合うミサト。そして、さらに。
「ホントよぉ!おかげでアタシが起きるタイミング外しちゃったじゃない!」
ガラリと障子を開けて現れたアスカ。
「ちょっと、バカシンジ?まさか朝ご飯は味噌汁だけとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「ああ、待ってて。すぐ他のも用意するから。」
「ホントに何よあのバカ司令!部下の家に早朝から押しかけてくるんじゃないわよ!
父さんの味を覚えておくですってぇ!?なんか、碇家の男達って気持ち悪い!」
そんなアスカの毒舌に笑って請け合うシンジの目は少し潤んでいたような。
結局、いつもの調子の二人を見守りながら、ミサトはようやくビールの栓をプシュっと開ける。
「あはッ!おかげで今朝のビールは一味ちがうわ♪」
果たして、母ユイの思い出をシンジは共有することが出来たのか。
その日、シンジのシンクロ率が最高記録をマークしたことは偶然では無いと思いたい。
(完)
73 :
35:2008/05/28(水) 21:27:52 ID:???
おしまいですーおそまつさまー
何この投下ラッシュ
テラGJ
75 :
6:2008/05/29(木) 00:38:10 ID:???
さて、誰もいないみたいだし、もう一ラッシュするかな。
>>73 同じスレ内で誉め合ってたら気持ち悪いから作品にコメントは出来んが、
お互い頑張れればいいな、とか言ってみたり。
76 :
LAS20:2008/05/29(木) 00:40:04 ID:???
「アスカ。今日は、海沿いに東の方を探索するんだよね?」
「え…? ああ。そうね。それでいいんじゃない?」
アスカの気のない返事に、シンジは口を尖らせた。
「今日は遠くまで出かけて、新しいシェルターを見つけよう、って言ってたの、
アスカじゃないか。
朝だって、何度声かけても、ぜんぜん起きないしさ」
「うるさいわね。アタシは低血圧で朝は弱いの。
大体、アンタだって早く起きたなら朝ごはんくらい用意しといてよね。
今日は、アンタが朝食の当番でしょ」
その言葉に、シンジの勢いが目に見えて落ちた。
「ご、ごめん。でも、僕もさっき起きたばかりだから」
ぱっと顔を逸らせて食事の支度をする姿には、あからさまな動揺が浮き出ている。
「……嘘ばっか」
これでごまかせてると思ってるなら、ずいぶんとおめでたいわね、
とアスカは醒めた頭で思った。
77 :
LAS21:2008/05/29(木) 00:41:16 ID:???
「あれ? 今、何か言った?」
わずかに聞きとがめたらしいシンジがそう訊いてくるが、
「べっつにぃ。ただ、最近の缶はすごいわよね、って思ってただけ。
何しろ、開けるのに缶切りいらないんだから」
アスカはあっさりとごまかした。
「そ、そうだね。すごく、便利だよね」
そこにかぶせられる、シンジのおざなりな追従に、アスカの苛立ちはますます募る。
「……ごちそうさま」
これ以上はもう我慢出来ないと思ったアスカは、食べかけだった缶詰を手早く片づけると、
すぐに立ち上がった。
「あ、アスカ。もういいの? まだ、出してない料理だって…」
そう言って、シンジがアスカを引き留めようとするが、
「早く、出たいんでしょ。アタシは、支度してくるから」
「あ、わ、待ってよアスカ。僕も、すぐに食べるから……」
後ろで慌しく食器を鳴らす音を聞きながら、
アスカはカーテンをくぐって自分のテリトリーに潜っていった。
78 :
LAS22:2008/05/29(木) 00:42:17 ID:???
アスカに少し遅れて支度を終えたシンジは、外に出てアスカの姿を見るなり、
「あれ…?」
と声を漏らした。
「何よ。アタシの顔に、何かついてるっての?」
対シンジ交渉の基本、ケンカ腰。
アスカが威圧的な口調で言ってやると、シンジは一歩後退した。
「い、いや。そうじゃないけど。でも、服が…」
「…服?」
アスカは自分の格好を見下ろした。
探索の時、前にも着たことがある服で、別段おかしな所もないはずだった。
「昨日、わざわざ布団の横に服が一式置いてあったの見てたから、
その服を着て来るんだとばっかり思ってて…」
顔には出さないが、アスカは内心ビクッとした。
確かにその服は今日着て行く予定の服だったのだが、今朝シンジを探す時に着替えて、
そのまま何度も転んで汚してしまったため、今の服を選ばざるを得なくなったのだ。
(普段はとんでもなく鈍感なくせに、どうでもいいことには目ざといんだから)
アスカは、そんなシンジを苦々しく思いながら、勢いで乗り切ることを選択した。
79 :
LAS22:2008/05/29(木) 00:43:33 ID:???
「別にいいでしょ。気が変わったのよ。……それとも何? オシャレ音痴なアンタが、
アタシの見立てたこの服にいちゃもんつけようって言うの?」
「い、いや。そんなつもりじゃないよ。その服も、に、似合ってると思うけど…」
また適当な同意に、アスカはカチンときた。
「その服『も』似合ってると思う『けど』? けど、何? はっきり言ってみなさいよ」
言葉尻を捕らえて、少しイジワルをする。
した、つもりだったのだが、
「その服も、似合ってると思うけど……。
あ、あの服を着てた時のアスカは、ほ、ホントに、かわいいと思ったから!」
顔を真っ赤にして、そう言い切られた。
「な、え、バッ…!」
何を言われたのか理解して、赤面が、瞬間的に伝染する。
「バッカじゃないの! アタシが可愛いのは、当然じゃない!
そ、それを、服のおかげみたいな、そんな、そんなの、バッカじゃないの?!」
「ご、ごめん」
「謝るんじゃないわよ!
……あの服は、また、着るから、それでいいでしょ。
これで、この話はおしまい!」
大げさに手を振って、そっぽを向いて、アスカは顔の火照りを隠した。
80 :
LAS24:2008/05/29(木) 00:44:22 ID:???
移動の時は、大概アスカを先頭に、シンジがその二歩くらい後ろを歩く。
それは、アスカがバランスを崩した時、シンジが駆け寄って体を支えられる、
ギリギリの距離なのだと、アスカは不愉快なことに悟っていた。
その、付かず離れずの距離から、シンジが声をかけてくる。
「あ、あのさ、アスカ。昨日の、ことなんだけど。……昨日、アスカ、怒ってたよね?」
「…別に。どうしてアタシが、アンタがしたことで怒ったりしなくちゃいけないの?」
もちろん、アスカは怒っていた。あの時も、そして今も。
――せっかくいい雰囲気だったのだから、そのまま何も言わずにおけばいいのに、
ここでわざわざ余計なことを言うのがシンジなのだ。
「で、でも、どうしてアスカが怒ったのか、僕なりに考えてみたんだ」
「あぁ、そう!」
内心の憤慨を込めて、苛立ち紛れにそう言い放った。
今までの経緯から考えると、シンジがアスカの怒りの原因を言い当てる確率は、
はっきりゼロパーセントと言える。
だからアスカは、心の中で身構えた。
こいつの口から、どんなトンチンカンな言葉が出てくるのか。それを、諦念と共に待つ。
81 :
LAS25:2008/05/29(木) 00:45:38 ID:???
言葉がまとまったのか、やがてシンジはゆっくりと話し始めた。
「僕は、アスカと二人でここで暮らさなきゃいけないんだ、なんて思ってたから、
考えもしなかったんだけど。でも、思ったんだ。魂のサルベージをする、って計画。
アスカはきっと、ずっと前からそういうこと、考えてたんじゃないかって」
まさか口を開いて「ほら、やっぱり」とも言えなくて、アスカは黙っていた。
「だけどアスカがそれを口にしたり、実行したりしなかったのは、
それが危険だからって、分かってたからだと思うんだ。
それなのに、僕はすっかり舞い上がって。ろくな考えも、準備もなしに、みんなを救うんだ、
なんて息巻いて、カッコ悪かったよね。覚悟がないって言われても、当然だよ」
「そうね」
アスカがあっさり認めると、シンジは一瞬泣きそうな顔をしたが、知ったことではなかった。
(思った通り、見事にかすりもしてないわよ)
と、心の中だけで続きを言う。
これだけそっけない対応をされても、シンジはあきらめていないようだった。
「だ、だけどこれからは違う。僕とアスカが、ここで何とか生き残っていくことだけじゃなくて、
アスカが、ミサトさんとか、加持さんとか、みんなと一緒に暮らせるように、僕もがんばるよ。
……それだけ、言っておきたくて」
「ふうん。……話は、それだけ?」
いい加減イライラするので、話を切り上げようとしたのだが、シンジはまだ食いついてきた。
「ま、待って。もう一つ、大事な話があるんだ。僕が、あそこでミサトさんや加持さんを見たのは、
本当だよ。だから、アレが起こる少し前に死んじゃった人とも、また会えるかもしれない」
シンジは、満面の笑みでそう告げてくる。しかし、
「……だから?」
アスカの反応は、淡白を越えて冷淡だった。
82 :
LAS26:2008/05/29(木) 00:47:29 ID:???
その反応はさすがに意外だったのか、シンジも戸惑う。
「だから、って。加持さんが生きてるんだよ。嬉しくないの、アスカ?」
加持の死はアスカには知らされなかったが、薄々と感じてはいた。
そして、LCLとの融合で、その情報を知識として補完してはいた。
だからもちろん、それが嬉しいことだと、アスカにだって分かる。
もう少し冷静な時なら、小躍りして跳ね上がったっていいかもしれない報告だ。
だが、今は到底そんな気分になれなかった。
「アンタは、ずいぶん嬉しそうね。そんなに、みんなに会いたいワケ?」
「それは、…当たり前だよ。ミサトさんはもちろん、久しぶりにトウジやケンスケとバカ話したいし、
父さんと会うのは、少し怖いけど、でも、やっぱりもう一度、話がしたいし」
「…へぇ」
(アンタは何で、そんなに嬉しそうなのよ。そんなに、あいつらが好きなの? ここが、嫌なの?
前は、アタシと暮らすのが楽しいから、僕がみんなを海に閉じ込めてるのかもしれない、
なんて、言ってたくせに)
照れくさそうに話すシンジを、アスカはどこか遠いモノのように見つめる。
だが、自分の想像に夢中になったシンジは気づかない。
「あ、それに、綾波! 綾波にも会いたいな。言いたいことがいっぱいあるし、
それに、今の僕なら、彼女が『三人目』でも、怖がらずに話が出来る気がするんだ。
ねえ、アスカ、アスカは誰と一番…」
「ちょっと待って」
シンジがアスカを向いた所で、言葉を止めさせる。
「ねぇシンジ。一言だけ、いい?」
そして、とっておきの、優しい声音で、言ってやる。
「あっ。うん、何、アスカ?」
シンジが犬なら全力でシッポを振ってるのが見えるだろうという、期待のこもった声。
それに向かって、アスカは一言。
「うるさいから、黙って」
――途端に凍りつく二人の空気に、アスカは今回の探索の失敗を予見した。
83 :
LAS27:2008/05/29(木) 00:48:44 ID:???
――皮肉なことに、その日の探索は、大成功と言える物だった。
水や食料はもちろん、幸運にも、自家発電と生命維持の生きている地下シェルターを発見した。
世界滅亡一歩手前のこういう状況で過ごすにはそこは理想的な環境で、シンジなどは、
これからの拠点をそっちに移そうと引っ越し案を提案したくらいだった。
もちろんアスカが色々と理由をつけて断固拒否したため、その意見は通らなかったが。
――そして、夜。
部屋から物音がしなくなったのを確認して、アスカは立ち上がった。
音を立てないように、手早く、身支度を整える。しかし、
「……アスカ? どこか、行くの?」
わずかな音を聞きとがめて、カーテンの向こうから声がした。
アスカは内心で舌打ちしながら、
「体、洗ってくるのよ」
と正直に答えた。
「お風呂? 昨日、入ってたのに…」
「うっさいわね。お子ちゃまなシンジの基準でアタシみたいな美少女を判断しないでくれる?!」
そう怒鳴って黙らせようとしても、
「でも、水、もったいないよ。洗い物とか、洗濯にだって使うのに…」
往生際悪く文句を言ってくる。
水を使う、と言ってももちろんバスタブに張れるほどの水はないので、水をひたしたタオルで体を洗う。
そうして綺麗になった体を、最後に少量の水で洗い流すのが彼らにとっての『風呂』だった。
雨も地下水も、全部が赤く汚染されている今、水はもしかすると一番貴重かもしれない資源なのだ。
しかし、アスカはシンジの繰言を無視することに決めた。
「のぞいたら殺すわよ!」
半ばお約束として釘を刺し、
「……のぞかないよ」
脱力したシンジの返事に、わずかな動揺があったことになぜか満足げな気分になって、アスカは建物を出た。
84 :
LAS28:2008/05/29(木) 00:49:36 ID:???
アスカは一人、赤い海を望める場所にやってきていた。
外は冴え冴えと月光が照らしていて、光源のない屋内よりは、ずっと明るく、鮮明だった。
「……でも、さすがに寒いわね。ここ」
常にセミの鳴き声がしじまに響いていた日々は、もう絶えて久しい。
屋内でも夜は隙間風に気をつけなくてはいけないくらいなのに、屋外に出ていれば当然だった。
しかし、シンジに対する朝の意趣返し、というワケでもなかったが、
なんとなく、ここに来てみたい気分だったのだ。
それに、こうも開けた場所なら、もし万が一シンジがのぞきに来ても、
絶対に発見出来るという自信はあった。
それに、
(来たなら来たで、それで構わない)
でも、シンジは来ないだろう。
だからアスカは月光の下、服を捨て去り、しっかりと、丹念に、自らの裸身を磨く。
ずっと使わないで取っていた、ほのかにラベンダーの香りがする石鹸を惜しげもなく使う。
物言わぬ赤い海に見せつけ、誇るように、自らの均整の取れた裸体を晒しながら、
アスカは海をずっと睨み続けていた。
85 :
LAS29:2008/05/29(木) 00:50:44 ID:???
最後に、頭から綺麗な水をたっぷり使って体を流すと、自分の中の余計な物が削げ落ちて、
自分が鋭く純化されたような、不思議な錯覚がした。
体や髪を丁寧に拭いてから、用意していた新しい服を着る。
「アタシは……キレイよね、ママ」
そうして、アスカは立ち去る前に一度だけ、赤い海を振り返った。
血の匂いのする赤い海には生理的な嫌悪感を覚えるし、気色の悪さは感じる。
――けれど、それだけだ。
シンジと違って、そこに何かの恐怖を感じることも、
溶けてしまった人たちを引き上げたい、という切実な思いを感じることも、ない。
(どうしてかしら。ママも、いるかもしれないのに)
少しだけ、考える。
「見ててくれたのが分かったから、いてもいなくても同じなのね、きっと」
自分で言ってから、
「…変な理屈」
と噴き出した。
けれど、今のアスカには、そんな考察はどうでも良かった。
「今度こそ、絶対にアタシを無視なんてさせない」
アスカはそれきり、海に背を向けて、
「シンジ。アンタの中に、アタシを刻み込んでやるから」
目指す場所に、歩を進める。
そこに、迷いはなかった。
86 :
LAS30:2008/05/29(木) 00:51:45 ID:???
(……眠れない)
もう何度目か分からない寝返りを打ちながら、
シンジはすっかり冴えてしまった自分の目を持て余していた。
潔癖症なところのあるアスカのことだから、いざ寝るという時になって、
自分の体の汚れが気になったのだろう。
それはいい。まあ、しょうがないかな、とシンジは思う。
だが、それを告げられてシンジがこうむる被害については、全く何も考えていなかったに違いない。
(……はぁ。アスカって、いつもはあんっなに自意識過剰なくせに、
肝心なところは無頓着っていうか、鈍感なんだよな)
シンジは、自らの無防備な同居人を思って、大きく嘆息する。
そもそも、いくらカーテンで区切っているとはいえ、同じ部屋で、
耳を澄ませば息づかいが聞こえるほど近くに女の子が寝ているという状況が、
健康な中学生男子のシンジにとってどんな影響をおよぼすか、考えてもいない。
(全く。僕じゃなかったら、とっくに襲いかかってるところだよ)
そこまで考えて、「……まあ、そうなっても返り討ちだろうけどさ」と口の中でこぼす。
――その時。キィと扉がきしむ音がした。
87 :
LAS31:2008/05/29(木) 00:52:46 ID:???
少しやましいことを考えていたシンジは、ビク、と体を強張らせた。
「アスカ? 帰ったの?」
ドアがあるのは、アスカの側だ。シンジからは、その様子は見えない。
返事はなかった。
その代わり、荷物を置くようなトスッという音と、布の落ちるパサッという音、
それから、全くの無音。
シンジは少し気になったが、
(まだ、怒ってるのかな? 今日は疲れてるだろうし、あんまり食い下がらない方がよさそうだ)
そう判断して、目をつぶった。
驚いたことでいい具合に興奮も冷めて、これなら何とか眠れそうだった。
体の力を抜いて、静寂に身をゆだねる。心が、少しずつ落ち着いていく。
そして、シンジがようやくウトウトとし始めた時、体に触れる、温かい感触に目が覚めた。
(なにか…が、ふとんのなかに、はいって、きて……)
寝ぼけた眼で、自分の体の上を這い回る物の正体を確かめる。
(…えっ!?)
驚きに、一気に目が冴えた。
「なっ、あ……アス、」
声を出そうと動いた口も、そのまま固まった。
なぜなら、
「ただいま、シンジ。眠らないで、待っててくれたのね」
シンジの上で、そう言って薄く笑ったアスカは、綺麗な鎖骨のラインや、その下の淡いふくらみ、
それらを守るはずの衣服を、全く身につけていなかったからだった。
88 :
6:2008/05/29(木) 00:55:25 ID:???
以上で。
今日はちょっと、頑張りすぎたわ。
正気が怪しくなってきたし、寝る。
リアルタイムGJ
今日は投下ラッシュ過ぎて腹一杯満足だ
乙!
続き待ってます
二人ともええ作品やないか!続き楽しみにしとるで!
ナイス! よくやった! 俺も何か書きたくなったぜwHaruhi×Evaでも書くかなw
>>92 おお、どんどんやってくれ。
ノンジャンルだから何でも構わんぞw
それは専用スレがあるんじゃまいか?
それを言ったらLASだって専用スレがあるのでは?
>>1に自由なスレッドと書いてあるんだからお互いにやりたいことをすればいいでしょ
今日の投下マダー?
98 :
35:2008/05/29(木) 21:52:05 ID:???
おまたへー
っていうか、毎日書き続ける自信ないけど。
5レスいきますー
99 :
35:2008/05/29(木) 21:52:47 ID:???
がちゃり……
「ただいま、シンジ君。」
「あ、おかえりなさいミサトさん。晩ご飯できてるよ。」
「ありがと。」
「はい、ビール。」
「ん。」
と、私は制服のままでテーブルに着く。
そして、いそいそと出来上がった料理を並べるシンジ君。
あれ?そういえば、今日の当番は私だったかな。
でもシンジ君は気にせず当たり前のように夕食の支度を調えてくれる。
まあ……私が作るより自分で食べたいものを作った方が気持ちいいのだろうけど。
「いただきます。アスカは?」
「委員長と遊びに行ってる。ご飯は帰ってから食べるって。」
「そ。」
「……」
「……」
シンジ君を孤独にしてはいけない。
そんな思いで自分のマンションに巻き込んだけど……
これじゃまずいな。会話が適当になってしまってる。
しかし、私も対使徒の作戦部長を務める身の上。
今日は特に仕事のことで頭が一杯、気持ちはもう鞄の資料に向かっている。
新しく建造されているエヴァの参入、今後の戦闘態勢における戦自との共闘体制の改善、
頭に叩き込んでおかなければならない事項が山ほどあるのだ。ぼんやりしてはいられない。
100 :
35:2008/05/29(木) 21:53:44 ID:???
「ごちそうさま。」
と、ビールを一気に飲み干して立ち上がり、そのまま服を脱ぎながら風呂場へと向かう。
さっと湯で体を流した後、ビールをもう一缶、手にして部屋に直行。
シンジ君も心得ていて、そんな私に何も言わず背を向けて台所を片付けている。
思えば、最近のシンジ君は実に安定している。むしろ私が甘えているかのようだ。
これもひとえに彼女のお陰といっても過言ではない。
(たっだいま〜!あー、お腹すいたぁ!)
(ご飯たべる?)
(もち!)
そのアスカが帰宅したようだ。襖を通してにぎやかな彼女の声が聞こえてくる。
一見、シンジ君にとって眉をしかめる存在に見えるのだが、
アスカのお陰で彼の孤独が癒やされているのは間違いない。
(えー、また揚げ物?しかもこれ、冷凍のエビフライじゃないの。)
(仕方ないだろ。僕も忙しいから買い置きの食材で済ませるしかしょうがないじゃないか。)
(でもさぁ、昨日はコロッケだったじゃん。もっと献立を考えてよね。)
(なら、いいよ。無理に食べてもらわなくったって明日のお弁当に回せるから。)
(アタシを晩飯抜きにしようっての?貸しなさいよ。)
「山嵐のジレンマ」などという言葉で、リツコはシンジ君を例えたことがある。
相手を傷つけることを恐れて人と接することが苦手になってしまう。
経験を重ね、上手に相手に干渉せずにすむコツを学ぶしかないのだけれど……
しかし、アスカとの関係はまったくの逆で効果を発揮している。
(あのね、アスカ。僕はアスカと同じように学校に行ってエヴァに乗って戦ってるんだよ。
その上、ご飯の献立まで工夫しろっていうの?むちゃくちゃ言わないでよね。)
101 :
35:2008/05/29(木) 21:55:16 ID:???
(あーら、家事をさせてあげてるお陰で、アンタはここに居られるってこと判ってる?
同じエヴァのパイロットだと言っても、格が違うことを考えなさいよね。)
(あのねぇアスカ……もう頭にきた。ちょっと、それ貸して。)
(ちょ、ちょっと!アタシのエビフライをどうするつもり!)
アスカは十分に反撃が出来る余地をシンジ君に与えているようにも見える。
実際、エヴァの操縦技能はともかく、シンジ君の方が戦績は上。
パイロットとしての格の違いなどありはしない。
つまりアスカはシンジ君に自信を持って遠慮無くぶつかって来いと言ってるのだ。
アスカが故意にそうしているかどうかは本当のところは判らないけど、
二人のバランスが取れているのは間違いない。
(お鍋に出汁を張って、みりんに醤油にタマネギスライス、それから)
(ちょ、ちょっと止めてよシンジ。まさか……)
(エビフライ入れて溶き卵かけて、と。ほーら、完成!エビフライ丼の出来上がり♪)
(……ちょっと何これ?気持ち悪い。犬のえさ?)
(ふふん、食べてみれば判るさ。)
(な、なによ、その自信ありげな顔。)
でも、危うい。
互いにじゃれ合っているうちは良いけれど、本気で相手を攻撃する関係にもなりかねない。
心の奥底に相手を認めて優しい気持ちを持つ余地があるならいいけれど、
果たしてそんな大人の感情を二人が持つことが出来るかどうか。
(もぐもぐ……もぐ……ん、んく……)
(あ、その顔。ね?意外と旨いでしょ。)
(お、お、お腹減ってるんだから何でも美味しいに決まってるわよ!)
102 :
35:2008/05/29(木) 21:56:46 ID:???
(あ、美味しいって言った。)
(こ、このバカシンジ……言葉尻を捕まえて……)
やれやれ、そろそろヤバイか。
(がらっ)
「んー、アスカ。ずいぶん美味しそうなもの食べてるじゃない。
あーん、私もそれにして貰えばよかった。ね、ね、アスカ。半分ちょーだい。」
「だ、ダメよミサト!アタシを飢え死にさせるつもり?」
「はいはい。腹ごしらえが終わったら、みんなでカラオケでも行く?加持とかみんなを集めて。」
「ホント?加持さんも来るの?」
「多分、今夜は暇してるんじゃないかな。ほら、さっさと食べてしまいなさい。」
「はぁーい♪」
さてと、そうと決まれば電話、電話、と。
ぴっぽっぱっ……ん?
(何?シンジ君)
(ミサトさん……忙しいんじゃないの?)
(私も仕事ばっかでうっぷん貯まってんのよ。よし、シンちゃんのためにレイを呼ぶかな。)
(えー!?綾波って歌ったりするの?)
(うふふ♪期待してて。)
シンジ君、ちょっと可愛くない反抗的な14歳。でも、レイが相手となると少し優しい顔になる。
アスカとの関係もいいけれど、レイとのなごやかな触れ合いもまた、彼にとって良い薬になっているはず。
103 :
35:2008/05/29(木) 21:57:42 ID:???
「でも、アスカ。さっき帰ってきたばっかじゃない。疲れてないの?」
「へぇーきよぉ!ほら、シンジもさっさと着替える着替える!」
「わかったよ……そうだ、トウジ達も呼ぶかな。」
「止めなさいって。3バカそろったらバカが階乗倍でランクアップしてしまうわ。」
「ちぇっひどいなアスカ。」
何がともあれ、シンジ君とアスカはなんと言っても14歳。
傷つけあう男と女の関係を突き詰めるには、あまりにも早すぎる。
この調子で、ある程度は互いに距離を置かせた方が良い。
ましてや、私達には恋愛に没頭する余裕などありはしないのだ。
なにしろ私達の仕事に世界の命運がかかっているのだから。
「シンちゃん、構わないから3バカトリオでも洞木3姉妹でも誰で呼んじゃいなさい!
今夜はパァーッと騒ぐわよ!」
「よぉーし、ヒカリも呼んじゃお!第2ラウンド開始ってね!」
「ま、まさか、アスカ。昼間もカラオケに行ってきたんじゃ……」
しかし。
シンジ君にアスカ、そしてレイ。
彼らの関係こそ、世界の命運を決するような……
それは少し考えすぎかな。
(完)
104 :
35:2008/05/29(木) 21:58:21 ID:???
終わりっすー
気が向いたら、またダラダラ書いてみますー
リアルタイムGJ
日常シリーズに期待
GJ!
よく次々と思いつくなw
107 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/30(金) 08:12:27 ID:d9Buw/UN
GJ & age
良スレイすぐる
109 :
6:2008/05/30(金) 19:00:12 ID:???
投下しようかな…
110 :
LAS32:2008/05/30(金) 19:01:32 ID:???
唯一の光源である、窓から差し込む月光に、アスカの肢体が照らし出される。
(……キレイだ)
場違いにも、そう感じてしまう。
透き通る肌と、月光に輝く金色の髪が、シンジの前に惜しげもなく晒されていた。
アスカの身体と心にいくつものダメージを残したあの戦いの後遺症も、
彼女の美しさを損なうことまでは出来てはいなかった。
その姿は、どこまでも幻想的で、そして、限りなくリアルだった。
形良い唇から漏れるかすかな呼気に、のしかかる体の確かな重みと熱。
それが、まさに手を伸ばせば届く場所に息づいている。
「あ、アス、カ。なん、で……?」
痺れる舌を必死に動かす。そうしなければ、おかしくなってしまいそうだった。
「理由なんて、必要ないでしょ。アンタがずっと、アタシを欲しがってたこと、知ってるんだから」
「それ、は……」
反論は、出来なかった。
アスカには、もう前に一度、『見られて』いる。……あの、海の中で。
それに、これだけ密着していれば、シンジの状態にもとっくに気づいているだろう。
――それでも、アスカはいつものように侮蔑や罵倒の言葉を吐き出すことはなかった。
「ねぇ、シンジ。人が、恋しいんでしょ。誰かに、優しくしてほしいんでしょ?
だったら、アタシがなぐさめて、あげるから…」
「…!」
アスカが体を寄せてくる。しかし、シンジの脳裏に閃くのは、
(……ラベン、ダー?)
その鼻腔を刺激する匂いは、シンジに全く別の連想をさせた。
「ミ、サト…さ…」
その声はかすれ、言葉は形にならない。
だが、誰にも届かなかった分だけ、口に出した本人の中に残った。
111 :
LAS33:2008/05/30(金) 19:02:34 ID:???
「どうしたの? 寂しいんでしょ、シンジ。アタシが、忘れさせてあげるから……」
アスカの息が、胸元にかかる。
――熱い。
しかし、のぼせているはずの頭の奥にある妙に冷えた部分が、シンジに何かを囁きかける。
(本当に、寂しいと思っているのは……。本当に、なぐさめて、欲しがってるのは……)
首を振る。
シンジを支配しようとする全ての不可解を振り払おうと、もがく。
「アスカ。冗談は、やめようよ。どうしたんだよ。おかしいよ、アスカ…」
「冗談だったら、アンタにこんなこと、出来ないわよ。だって、仕方ないじゃない。
ここには、アンタしか、いないんだから…」
緊張のあまり布団に押しつけられ、これ以上ないほど強張ったシンジの手に、
アスカが包むように手を重ねていく。
それは、まるで、
『シンジ君。今のあたしに出来るのは、これくらいしかないの』
「――ッ!」
聞こえた幻聴に、息が詰まる。反射的に、アスカの手を振り払った。
「……ぁ」
その手が、勢い余ってアスカの口をかすめる。
――肉の裂ける、嫌な感触がした。
どこか恍惚とした表情のまま、アスカが唇を押さえた。
「唇、少し切れちゃった…」
チロリと舌が、朱唇に踊る。
シンジは動けない。アスカの姿に、完全に当てられていた。
「だから。……シンジが、責任取ってくれなきゃ、ダメよ」
唇が、重ねられた。
112 :
LAS34:2008/05/30(金) 19:03:58 ID:???
「……ッ!」
全身が硬直する。
シンジの指先がぴくりと動いて、だが、それだけだった。
抵抗の意志はある。しかし、傷つけることへの恐怖が、シンジの動きを縛っていた。
「……ん、は」
鼻にかかったアスカの声。
束の間の解放。
軽い息継ぎ。
そしてまた、唇が重ねられる。
『鼻息がこそばゆいから』なんて言葉は、アスカの口からはもう出てこない。
過剰なほどに、熱中していた。
自然と落ちかかるまぶたに抗って、シンジは視線を下げる。
冗談みたいに整った鼻梁。そして長いまつげに隠されて、アスカの瞳もまた、シンジを見ていた。
どこか上目遣いにも見える眼差しで、シンジを見つめる瞳には、すがるような光があった。
(……あぁ)
意識をした途端、シンジはアスカを全身で感じ取る。
拘束のためだけでなく、いっそ健気なほどにシンジに密着しようとするアスカの身体の意志に、
薄いシャツの布地越しに伝わる彼女の脈動。
よく見れば、肩にそえられた手はかすかに震えていた。
――シンジの体から、力が抜ける。抵抗はもう、不可能だった。
113 :
LAS35:2008/05/30(金) 19:04:37 ID:???
「……ん、ん」
それを敏感に感じ取ったのか、アスカの動きが力を得た。
シンジにも分かる。感じ取れる。
一秒、一瞬ごとに、アスカは深く傾倒していく。行為に、そしてシンジに。
少しでも自らの熱を伝えようと、押し潰すような勢いで押しつけられるアスカの体。
さらなる慰撫を求めてシンジの指はアスカの少し汗ばんだ手に絡め取られ、
もう片方のアスカの手は、必死にシンジの肩をつかんで放さない。
そして、とうとうシンジの口が割り開かれ、ねっとりと熱い舌がシンジの口内に入り込んで、
――血の、味がした。
『大人のキスよ。帰ってきたら、続きをしましょう』
フラッシュバックする。
味と、匂いと、記憶と、温もりが、混ざり合って、グチャグチャになって、
「やめてよっ!!」
シンジはアスカを、突き飛ばしていた。
wktk
115 :
LAS36:2008/05/30(金) 19:05:39 ID:???
唇に欲望の残滓を貼りつけたまま、まるで、拒絶されることが信じられない、
というように、アスカは呆けていた。
「え? シ、ンジ…?」
それを、なかったことにしようと、引きつったような半笑いでシンジに手を伸ばしてくる。
しかし、その手を、
「やめてよ! ぼくに、僕に触らないでよっ!」
シンジは全力で、払いのけた。
「……ぁ」
もう、言葉もないアスカから、シンジは距離を取る。
無様に布団から転げ出して、逃げ出して、それでもその時のシンジを支配していたのは、
恐怖ではなくて、怒りと、どうしようもないやるせなさだった。
他に行き場のない感情が、口から外へ漏れ出した。
「どうして、こんなことするんだよ。どうして、こんなこと出来るんだよ。
僕は、道具じゃない。僕は、寂しさを埋めるための道具なんかじゃないのに!」
その言葉を、理解しているのかいないのか。
まだ壊れた笑みを消せないまま、アスカはシンジに手を伸ばす。
「シンジ、アタシは……」
だが、その手を取ることなんて、シンジには出来ない。出来るはずがない。
「誰でもいいのなら、僕を放っておいてよ! 僕が要らないなら、僕に近づいて来ないでよ!!」
尚もすがりつこうとするアスカを振り払って、シンジは外へと飛び出した。
そこは受け入れろよシンジ
ってつい思ってしまったw
117 :
LAS37:2008/05/30(金) 19:06:50 ID:???
走る。走る。走る。
アスカが追って来るはずはないと分かっているのに、体は止まらない。
怒りと興奮が冷めてくると、シンジの体を支配しているのは恐怖だけだった。
「ぁ、うぁっ…!」
何かに足を取られ、シンジは転ぶ。
月明かりの導きだけで、ガレキの転がる地面を走るのは無謀だった。
(……もう、ここで止まろう)
そう思う。
なのに、体は自然と起き上がり、再び疾走を始めていた。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ…」
臆病に、怯えながらでも、シンジはアスカに素直に向き合うと決めていた。
決めていたはずだった。だから、
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃ……」
なのに、止まれない。
止まったら最後、つかまってしまう気がした。
――アスカの手が、壊れた笑みが、すがるような目が、シンジを追いかけている。
シンジを捕えて、放さない。
「イヤだ。こわいよ。イヤだよ…」
止まれない。戻れない。ここにいたくない。
いつしかシンジの足はさらに加速して、シンジをさらに遠くへ運ぶ。
ペースなど考えない走りに、足はもつれ、肺が破れる。
限界を越えた肉体に裏切られ、とうとうシンジは前のめりに倒れて、
……そして、そこが終点だった。
倒れたシンジの前には、血のように赤い海が広がっていた。
118 :
LAS38:2008/05/30(金) 19:08:00 ID:???
「はっは、はっ、は…」
息を整えながら、シンジは後ろを振り返った。……誰もいない。
とりあえず、ほっと胸をなでおろす。
見渡すと、逃避行の果てにシンジが辿り着いたのは、以前、ミサトにビールを捧げた場所だった。
そのことに、もう一度ほっとする。
ここに来たことは、アスカには秘密にしていた。だから、この場所が見つかる心配はほとんどない。
――アスカとは、きちんと向き合わなくてはいけない。
そう思うのに、今のシンジには、アスカと対峙するための気力がすっかりなくなっていた。
(こわい。もどりたくない…)
もう一度、あんな風に、迫られたら。
あんな目で、自分を見つめられたら。
シンジはきっと、拒めない。
――それがどんなに、シンジの意に染まないことだとしても。
だからシンジは一人、震えていた。
赤い浜辺で。何も出来ず、何も決められずに。
119 :
LAS39:2008/05/30(金) 19:08:59 ID:???
「何が、間違ってたのかな」
月を見上げて、呟く。
長い夜だ、と思った。
「この世界に、人のいる世界に戻って来たのは、間違いじゃないって、信じたいよ。
でも、だったら、何が間違ってたんだろう…」
(僕がアスカに、近づいたこと…?)
いや、違う。シンジは首を振る。
人が人に寄り添おうとするのは、自然なことだ。じゃあ、不自然だったのは、何だろう。
――すぐに思いついた。
アスカの言葉が、脳裏によみがえる。
『冗談だったら、アンタにこんなこと、出来ないわよ。だって、仕方ないじゃない。
ここには、アンタしか、いないんだから…』
生きている物が、お互いしかいない世界。そんな世界では、お互いがお互いを求め合うしかない。
それを口実にして、シンジはアスカに近寄っていった。
そして、状況を受け入れたアスカは、シンジを拒まなかった。
――それが、嬉しかった。
だけど、
そんな関係は、ひどくいびつで、歪んでいる。
120 :
LAS40:2008/05/30(金) 19:10:39 ID:???
「僕は、その歪みを盾に、アスカに近づいていったんだ。
だから、今度は、同じことをアスカにもされただけ」
でも、違う。
――アスカが欲しくて、歪んだシンジと。
――歪みから、シンジを欲したアスカとでは。
そもそもの基盤がもう、異なっている。
「このまま、アスカが僕を求めても。そして、僕がそれを受け入れても。
僕はずっと、アスカに見てもらえない。そんな、気がする」
だって、アスカが求めているのはシンジではなく、自分の寂しさを埋められる、
人の温もりだけなのだから。
だからといって、アスカを恨むことは、出来なかった。
「あんなに、怖がっていたのに…」
それでも、シンジを求めるしかなかったアスカ。
そして、そんな状況にアスカを追いやったのは……。
「そう、か。そうなんだ…」
状況を打開するために何の努力もしなかった、シンジのせいだとも言えた。
「……はは。何だ。結局、全部僕のせいじゃないか」
自嘲の笑みに、涙声が混じった。
自分の救いようのなさに、どうしようもなく涙と笑いが込み上げてくる。
――しかし、シンジは一つだけ、贖罪の方法を知っていた。
そっと、視線を落とす。
「アスカ、ごめん。僕から約束したのに、守れなくて……」
――眼下には、果てしなく広がる赤い海。
シンジにはそれが、口を開いて生贄を待ち構える、巨大な生き物のようにも見えた。
121 :
6:2008/05/30(金) 19:12:05 ID:???
以上。結構キリもいいので。
>>121 工エエェェ(´д`)ェェエエ工工
最後まで読みてえ!!!!
次を大人しく待つよー
それにしてもGJ過ぎる
124 :
35:2008/05/30(金) 23:19:37 ID:???
では8レス行きますー
125 :
35:2008/05/30(金) 23:20:08 ID:???
「ふあ、あ、あ……」
「おはよう、ねぼすけさん。」
「ん、あれ……寝ちゃってたのか。」
「そんなにお昼寝しちゃ今夜は寝られなくなっちゃうから。」
「アハハ、そうだね。って……き、君は!」
ここは葛城家の居間。
そこで居眠りをしていたシンジの目覚めを見守っていたのは?
「あ、あ、綾波!?」
「おじゃましてます。不用心ねぇ、鍵がかかってなかったわよ?」
まさしく、「レイ」がシンジの側に立っていた。
いつもの制服姿の彼女は、いそいそとエプロンを付けて台所に向かい、
冷蔵庫やら戸棚の物色しはじめている。
「ちょっとまってねシンジ。今から美味しい物を作ってあげる。
小麦粉に、うーんと……あ、リンゴ。」
「あの、あのね、綾波、その」
「ビールは沢山あるんだけど……あった、あった。白ワイン。」
「あのさ、綾波。ちょっと待って」
「綿棒はさすがにないわね。あ、これで代用できるかな。あと、重さを量らないと……」
「だから、ちょっと待ってよ!君は誰!?」
溜まりかねてシンジは大声で問いかけた。
そんな彼をレイは手を止めてまっすぐ見つめる。
少し、微笑みを浮かべながら。
ネ申 ス レ 発 見 !!!
35氏 6氏 GJ!
127 :
35:2008/05/30(金) 23:21:16 ID:???
「シンジ。」
「……え?あ、あの」
「今は黙って、私の好きにさせてくれない?」
「え、あ……」
ここまでのところで――
「綾波レイ」の正体が誰なのか、もはや察しが付いた人もいるだろう。
彼に甘く優しく「シンジ」と呼びかける女性はそう、ただ一人。
しかしシンジが判るはずもない。なにしろ、彼は何も覚えていないのだから。
「あのさ、綾波……いや、なんて呼べばいいのかな……その……」
「綾波でいいわよ。パイを焼くなんて久しぶり。分量はこれでよかったかな。」
「あ、あの……僕、手伝うよ。」
「あら、料理が出来るの?偉いのね。でも今日はゆっくり見てなさい。疲れてるんでしょう?」
「う、うん……」
「卵黄をペタペタ塗って、オーブンに……あらぁ?このオーブン、さては使ったことないな?
シンジ、オーブンってね。電子レンジ並にいろいろ使えるんだから。」
「うん……」
「手間がかかるようで即興のお料理するのに便利なのよ?いろいろ教えてあげたいけど……
今の私が出来るのはここまでかな。ウフフ、ずいぶん卵とか使っちゃった。ごめんね、シンジ。」
「うん……」
彼女がふりまく暖かい空気の中で、次第にシンジの疑惑に満ちた目が和らいでいく。
いつもの制服姿に蒼い髪、そして紅いまなざし。
目の前にいるのは、まごうことなく綾波レイ。
しかし、多弁で優しく語りかける彼女は、まったくの別人としか言いようがない。
愛しい相手を愛でるかのような彼女の笑顔は、普段のレイが持ちうるはずのないものであった。
128 :
35:2008/05/30(金) 23:22:14 ID:???
あとは焼き上がりを待つだけらしい。
「レイ」はエプロンを外しながら、シンジの側にトンっと腰を下ろした。
その遠慮のない距離にシンジはドキリとする。
中身がどうあれ、同い年の女の子に側に寄られて動じない男の子は居ない。
「シンジ、気になってたんだけど……ちょっと爪を見せて。」
「へ?いや、あの」
「ダメよ、ちゃんと切らなきゃ。ほら貸しなさい。」
「い、いや、自分で切るから、あ……」
戸惑うシンジの腕をぐいっと自分の体に巻き込む「レイ」。
「レイ」は平然と、むしろ楽しそうにパチン、パチンと爪を切る。
シンジの方は、これまでにない体の触れあいに頭の中が大変なことになっているのだが。
そして、足の爪までヤスリにかけた「レイ」は満足そうにニッコリ笑う。
「はい、綺麗になったわよ。そーだ、ついでに耳掃除もやったげる。ほら、横になって。」
「え、いや、もういいってば。」
「ちょっと、なんで離れちゃうの?耳掃除といえば膝枕でしょ?えいっ!」
「わ、と、と、と……」
まさしくフルコースである。
こうしたサービスなら、お金を払ってまで受けたい男性諸氏も間違いなく居ることだろう。
ほとんど上手投げをかけるようにシンジを押し倒した「レイ」は、
あらかじめ準備していたのだろう耳かきを手にして、うきうきとシンジの耳を探り始める。
優しい語りかけと共に。
「忙しいのね、シンジ……こういう細かいところを見てれば判る。」
「う、うん……」
129 :
35:2008/05/30(金) 23:23:24 ID:???
「ちゃんとお休み取れてる?無理をしちゃダメよ。なんといっても体が大事なんだから。」
「うん、だから今日は……」
「お昼寝してたのね。いいのよ、それで……このまま、もう一眠りする?」
「うん、そうだね……」
「よし、もう片方。反対を向いて……ん?」
そのとき、シンジはようやく落ち着きを取り戻したのか。
体を起こして「レイ」の顔をまっすぐに見つめる。それも鼻の頭が触れ合いそうな距離で。
「シンジ、どうしたの?」
「綾波……あの、その……」
「シンジ……もしかして、私とキスがしたいの?」
流石は女性、こういう勘はするどい。
「レイ」にとって、自分の振りまく優しさは当然の行為らしいのだが、
しかしシンジにはまだその正体がつかめていないようだ。
一説に、男は最初に見た女性に恋に落ちるという。
ならば、シンジの衝動は無理もない、と言わざるを得ない。
そして、今の彼女の姿形は「綾波レイ」なのだから。
「綾波……その……」
「私とそういうキスをするのはちょっと変なんだけど……」
「……?」
「ま、いいわ。こんなことは、もう二度と無いかもしれないし。」
「あの……それは……」
「ううん、いいの。それじゃ、シンジ……ん……?」
(どたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたっ)
130 :
35:2008/05/30(金) 23:24:24 ID:???
玄関の外から聞こえてくるすさまじい足音に、「レイ」は思わずシンジから視線をそらす。
どうやら彼女は感づいているらしい。間違いなく、ここにやってくる足音だ。
ばたんっ!!
と、もの凄い騒音で開けられた玄関の扉。
流石のシンジもその物音に振り返る。
さて、そこに現れたのは?
「り、リツコさん!」
「……ッ!!」
NERV技術部部長、赤木リツコ博士。
普段はクールな笑みを浮かべる才女として名を轟かせている彼女だが、
今の赤木博士はもの凄い形相で、居間に座る二人を睨み付けていた。
そして一気に駆け寄り、シンジの首筋に何かを押し当てる。
ばちっ!!
「きゅう……」
「ちょっと、シンジ?シンジ!?……もう、赤木博士?無茶をしないで。」
「レイ」の憤慨に対して、リツコはフンっと鼻を鳴らしただけである。
彼女が手にしているもの、それは無骨なスタンガン。
「それにしてもよくここが判りましたね、赤木博士。」
「あなたに眠らされなければ、もっと早くここに来れたんですけどね。」
「ウフフ、ばればれというわけですか。」
131 :
35:2008/05/30(金) 23:25:45 ID:???
「レイ」はにこやかに請け合うが、リツコの表情は厳しい。
どうやら、彼女にとってあってはならぬ事態らしい。
「さあ帰りますよ。今のあなたは残念ながら過去の人です。これ以上、シンジ君に影響を与えられては困ります。」
「判っています。でも、私としては、こうせずには居られなかった。」
「気持ちは判ります……あいにく、私は子供をもったことはありませんが。
それにあなたは『本人』ではありません。残念ながら、あなたは同じ記憶を持っているだけのまったくの別人。」
「レイ」はそれを聞いて、寂しげな溜息をもらす。
「そうですね……私を『処分』するのですね?『綾波レイ』の不良品として。」
「はい。抵抗するなら、この場で。」
「カーペットを血で汚しては大変。戻りましょう。」
「大丈夫、楽にすませます。車を待たせてますから……何も、痕跡を残してませんね?」
「はい、シンジは夢を見たんだと思いこむでしょうね。上手くいけば、ですけど。」
そしてリツコは振り返って玄関に向かい、「レイ」は素直にそれに従う。
気絶したシンジ一人を置き去りにして。
だが、「レイ」は最後に振り返って一言。
「元気でね。短い時間しか一緒にいられなかったけど……
本物の『私』が必ずあなたを見守っているから。」
そして。
「……いい加減に目をさましなさいよッこのバカシンジ!」
優しさの欠片もないアスカの怒鳴り声で、ようやくシンジは息を吹き返した。
みれば外行きの格好をしたアスカにミサトが、自分のことを見下ろしている。
シンジはぼんやりした頭を振って、ようやく今の状況に気づき始めた。
132 :
35:2008/05/30(金) 23:26:53 ID:???
「ああ、えーと……おかえりなさい、アスカ。」
「おかえりなさい、じゃないでしょ?晩ご飯の準備しておきなさいってあれほど言ったのに!」
「え、ああ、その、ごめんよ。今から作るから。もうハンバーグのタネは作ってあるし、それに……」
「私、いらない。さよなら。」
アスカとミサト、その二人の間からボソリとつぶやいたのは、珍しくも姿を現した綾波レイであった。
「あ、ちょっと……」
と、シンジは引き留めようとするが、レイは早くも背を向けて玄関の扉を開けた。
その素っ気ないそぶり。シンジに対して一瞥もくれたかどうかも判らない。
シンジが「夢」の中で見た「レイ」とはまるで雲泥の差。
(そうか……うたた寝をして夢をみたんだな。良い夢だけど……ちょっと残酷だよな。)
「ちょっとファースト?これ、アンタのために見立ててあげた服なのよ?もって帰りな」
(ばたん)
買い物袋を振り回して引き留めるアスカには振り返りもしない。
返事は玄関の扉が閉まる音だけ。
「ンもう!ファーストの人付き合いの悪さは判ってるつもりだったけど!ったく……
シンジ?これ、明日で良いからあの子に持ってってあげてよね。」
「え?ああ、いいけど……」
「それにさ、あの子を肉嫌いは知ってるはずでしょ?なんでハンバーグなんて言い出すのかな……」
「いや、豆腐で作ったヤツも用意してたんだけどね……と、とにかく二人とも待っててよ。すぐに用意するから。」
そう言いながらエプロンを締めて台所に向かう。
そうしていつもの日常を取り戻し、既に「夢」から冷めたようにもみえるシンジだが。
133 :
35:2008/05/30(金) 23:27:59 ID:???
材料を冷蔵庫から取り出しながら、シンジはひと思案する。
(オーブンかぁ……試してみたかったんだよな。焼きながら別のことだって出来るんだし。
でも、ちょっと怖いな。アスカのあの調子じゃ、失敗を許してくれそうもない。)
やはり夢で見たことが頭から離れないようである。
あの「レイ」と過ごしたひととき、今にもパイを焼く甘い香りが漂ってくるかのよう。
(ん……この香り……)
シンジは鼻を上に向けて、露骨にクンクンとにおいをかいだ。
(まさか……まさか……)
思わず、シンジはオーブンの扉をガチャリと開ける。
そこには――
諜報部の仕事は万全でなければならない。
そこには焼き上がったアップルパイなど、何一つ無かった。
そう、あれは「夢」なのだから。
(完)
134 :
35:2008/05/30(金) 23:29:10 ID:???
以上ですー
皆さん、読んでくれてありがとー
でも、うちのプロバはやたら規制されるから、書けなくなっちゃったらごめんねー
135 :
126:2008/05/30(金) 23:31:50 ID:???
レス挟んじゃってごめんなさい><
リアルタイムGJ!!
こういう締め方すきだわ
GJ!
137 :
35:2008/05/30(金) 23:48:22 ID:???
>>135 割り込みなんてキニシナイ!
ってことに前の方でなってますー問題ないですー
GJだよGJ
随分と持ち上げるスレだなw
いかん、リツコに対して思わず殺意が…
141 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/31(土) 02:20:00 ID:5MuVI/hz
はぁ、冗談、お世辞抜きで、おもしろいんだけど…
キャラ設定は、他人が作った。みんなが知ってる話で、読ませやすいってのを差し引いても、読みたい、続きは?、まだアップされてない(ρ_-)
って、思わせる、才能と努力に感謝、感動、ありがと、です
できる範囲で頑張って下さいm(_ _)m
碇指令+味噌汁は…そうくるか…「油断できないわね」って感じで、大笑い(^-^)/
乙!
まあ多少ヨイショしてでも繋ぎ止めておきたいもんさ
特に最近はね
144 :
1:2008/05/31(土) 13:19:01 ID:???
職人だって人間さ。誉められれば嬉しいし、頑張る気になるでそ。
誉められる→やる気が出て頑張る→上手くなる→誉められる→もっとやる気が出て頑張る→更に上手くなる→誉めら………
仕事でも勉強でもこのサイクルにハマれば、ウハウハってもんよ!
お世辞じゃなくどちらのも秀作だと思えるんだが?
特にヨイショしてるつもりはない
長門有希>>>>>>>綾波レイ
アスカ≧ハルヒ
下らない職人ならヨイショすらして貰えない。
かわりにワッショイしてやろう
149 :
6:2008/06/01(日) 14:13:11 ID:???
題名「アスカ、心の迷宮」
もう自分でも、何を書いているんだか…。
でもとりあえず投下。
150 :
LAS41:2008/06/01(日) 14:14:29 ID:???
我に返ったアスカが一番にしたことは、目の前にあった枕を壁に投げつけることだった。
「……なによ。バカシンジのくせに。バカシンジの、くせに…!」
ぎゅっ、と布団を握り締めた。
「これじゃ、まるで、アタシが振られたみたいじゃない」
…力を込める。
「てゆーか、何様のつもりかしら」
…さらに、力を込める。
「アタシがここまでしてやってんのに、なんなのあの態度は!」
…もっと。
「ハッ! 所詮は優等生のシンジ様ってワケね」
…もっともっともっと!
「大体、ちょっとからかっただけですぐ本気にしちゃってさ」
腕が震えるほど、布団を強く握りしめて、
「アタシが、アンタなんかのこと、本気で相手にするワケないじゃない」
アスカは必死で堪えた。
「やっぱりバカね。バカシンジ」
それが、唯一の拠り所であるように、きつく、きつく両手を握り締めて、
「ほんとに、バカ…」
――その手に、ぽつんと、熱い物が落ちた。
「……や、だ。なによ、コレ」
ぽつ、ぽつと、それはどんどんと滴っていく。
「止まって、止まってよ。アタシの体なんだから、言うこと、聞きなさいよ」
止まらない。堰を切ったように瞳からは涙が流れ、
「ウソ。どうしてよ。アタシは、何も思ってない。何も、感じてなんかいない!」
アスカは自らの嗚咽に押し潰されるように、布団に崩れ落ちる。
「泣くのはイヤ。イヤなの。アタシはもう、なんでも、ひとりで……。だから、いらない。
なみだも、アンタも、もういらないのに……。いらない、のに……」
一人ぼっちの家に、押し殺したアスカの泣き声だけがずっと、響いていた。
151 :
LAS42:2008/06/01(日) 14:15:08 ID:???
「……さむい」
グス、と鼻をすすりあげて、アスカはシンジの毛布にくるまった。
「アイツの、匂い…」
素肌に感じるチリチリとした生地越しに、シンジがアスカに入り込んで、
一つに混じり合っていくような錯覚。
「……気持ち、悪い」
でもそれが、同時に甘美でもあることをもう、アスカは否定出来ない。
――あの時、シンジに、キスをした時。
一瞬だけ目を合わせて、それからシンジは、抵抗を止めた。
目に見える物だけでなく、身体の感触そのものが変わった。
全身で示していた抵抗が、急になくなった。
――受け入れられた、と思った。
それを感じた時、体が熱くなって、もう何も考えられなくなった。
アスカにもよく分からない感覚。でもアレは、たぶん、……嬉しかったのだと思う。
なのに、突然、
「突き飛ばされた。……拒絶、された」
――拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された!
襲う痛みを、目をつぶってやりすごし、
「それ、から…」
視線を、移す。今まで、意識して見ないようにしていた場所を、
「…逃げられた」
壊れたカーテンと、その奥の閉じられたドアを、視野に収め、確認する。
そして、
「……もう、戻って来ないわね。きっと」
でも、それでいいと思う。
「アタシはもともと、一人で生きていこうと、思ってたんだし……」
――アイツを追いかけるなんて、出来ない。
だって…。
152 :
LAS43:2008/06/01(日) 14:15:44 ID:???
「だって、アタシは、悪くない」
そう、口に出してしまって、
(…ほんとに?)
アスカの心の中に、疑問が浮かぶ。
「だってアタシは、シンジに伝えようとした。歩み寄ろうとした」
湧き上がった疑念の欠片を、アスカは必死で否定しようとする。だが、
(…ほんとに?)
疑問符は、なかなか消えてくれない。
「知ってるでしょ。アタシは何度もアイツに近づこうとしたの。
同じ部屋で過ごせるようにして、一緒にいてもいいって言って、近くに来るのを許しもしたわ。
なのに、シンジが、アイツが気づかなかっただけ。だから、だからアタシは何も悪くないのよ」
そうだ。それは、完全無欠に本当のこと。いつだって悪いのは、鈍感なバカシンジ。
それ以外の結論なんて、ありえなかった。なのに、
(…ほんとに?)
「そうよ」
何度否定して、打ち消してみても、
(…ほんとに?)
「そうよ! そうだって言ってるでしょ!」
声を荒げて、主張してみせても、
(…ほんとうに?)
――心に生じた疑念は、どこまでも執念深く、根強かった。
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! 全部、鈍感なシンジが悪いのよ!
それでいいじゃない! それの、何が気に入らないのよぉ!」
自分の心中に生じた言葉を、怒声をあげて否定する。
その行動の奇妙さに、アスカはしかし頓着する余裕はない。
153 :
LAS44:2008/06/01(日) 14:16:20 ID:???
(へぇえ。アンタは努力したのに、アイツが気づかなかったからアイツが悪い。
アンタはそう言いたいワケね)
底意地の悪い声と抑揚。人を小馬鹿にする笑い。
いつしか、アスカを追及する声は、アスカそのものへと変わっていた。
「そうよ。アイツが、シンジが気づけば、こんなこと…。
アタシは、あんなに努力したのに…。近づこうって、近寄ろうって…」
(でも、一つ訊くけど。アンタはソレ、ちゃんと分かるように言ったワケ?)
「……え?」
アスカの言葉が、止まる。
(思わせぶりなことばかりやって、シンジが気づかないのを良いことに、
ずっと逃げてたんじゃないの?
相手が気づかないようなほのめかしだけやって、自分から進んでるみたいな気分になって、
本当は向こうが近寄ってくるのをずっと待ってたんじゃないの?)
「そんなこと…」
(歩み寄ろうと努力した? ハッ! バッカじゃないの?
そんなの歩み寄りでも努力でも何でもない、自分を悪役にしないための、ただの言い訳よ)
「違う! 違う! 違う! アタシは…」
ちぎれるほどに首を振る。
「だけど今日! 今日は違うわ! アタシは歩み寄っていったの! なのに、シンジが逃げたの!
だから、悪くないの! アタシは何も悪くないのよ!」
(ふーん。もしそれが本当なら、そうかもしれないわね。でも、
……アンタがあんなことしたのって、そんなキレイな動機だったかしら?)
悪辣な声が、アスカの心をえぐる。
154 :
LAS45:2008/06/01(日) 14:16:50 ID:???
「それは…」
(言いたくないんなら、アタシが言ってあげるわ)
「えっ?」
(アタシは、アンタだもの。それくらい分かるわよ)
「イヤよ! そんなの、いい! 聞きたく、ないっ!」
(アイツが、アタシの体を欲しがってたのは分かってた)
「イヤ! 聞きたくないって言ってるの!」
(アタシが迫っていったら、色々言ったって、最後は絶対受け入れると思ったわ)
「アタシ、そんな風に思ってない!」
(だってアイツ、真面目で優等生で寂しがりじゃない?
身体を捧げたら、きっともうアタシから離れられない。
そうしたら、アタシから何も伝えなくても、シンジはアタシだけを見てくれる。
他のことを全部忘れて、アタシだけを見てくれる)
「ウソ! ウソウソウソ! 全部デタラメよ!」
(そうしたら、シンジはミサトたちのことなんか、きっともう欲しがらない。
そうしたら、あんなに楽しそうに、ファーストのことなんか話したりしなくなる)
「そんなの違う! そんなのアタシじゃない! アタシじゃないの!」
耳を塞いで、首を振る。だが、心の中からの声はせき止められない。
(……弱い女。結局アンタは、正面からシンジに向き合う勇気がなかっただけでしょ)
「うるさい! うるさいうるさい!!」
(惨めね。ぶつかって、傷つく勇気がないから、体を使って篭絡して、
それで相手を支配しようなんて。シンジにだって愛想尽かされて当然じゃない)
「黙れぇっ!」
一瞬だけ、心の声が止む。
そして、今まで聞いたことのないような、諦めと同情の混じった、優しい声で、
(アンタねぇ。もういい加減、認めちゃいなさいよ。アンタ、ほんとは、シンジのこと…)
…バゴン!
アスカは、手元にあった目覚し時計を、思い切り自分の幻影に投げつけた。
声は、止んだ。
155 :
LAS46:2008/06/01(日) 14:17:23 ID:???
虚ろな瞳で、顔を上げる。
半分ちぎれて、用をなさなくなったカーテンの向こう。
ひしゃげた目覚まし時計と、それがぶつかったと思しき汚れ物を入れたカゴが、倒れていた。
そして、その一番上から、シンジがかわいいと言った、あの服が顔をのぞかせている。
――頭に、カッと血が昇る。
「こんな、もの!」
裸のまま、布団から飛び出して、その服をつかんで、壁に叩きつけた。
それだけでは足りずに、何度も何度も足で踏みつける。
「こんなもの! こんな、もの…。こんな……ッ!?」
何かに気づいたアスカは、そこでしゃがみ込んだ。
「……何よ、コレ」
服の、肩口の部分。そこが大きく、鉤裂きになっていた。
たぶん、シンジを探して走っている時、気づかない内にどこかにひっかけたのだろう。
走っている時は夢中で気にしていなかったし、これをカゴに入れた時も、
そんなことに気を配るような精神的な余裕がなかった。
「…他にはッ?」
持ち上げて、さらに検分する。やはり、そこほど大きい物はなかったが、
その服はあちこちが破けて、もう繕うことも不可能に思えた。
「……着られない。これじゃ、もう、着られないじゃない」
さっきまで踏みつけていたはずの服を、胸元に抱き締める。
「どうしてよ。こんなの、どうしてよ…!」
――着てみせるって、約束したのに。これを着て、シンジに…。
「シンジ、に……?」
はらりと、服が腕から抜け落ちる。けれど、アスカはそんなことにも気づかないまま、
自分の両手を見つめて、呟いた。
「アタシ、アイツのこと、好き…なの?」
156 :
LAS47:2008/06/01(日) 14:20:50 ID:???
「……分からない。分かんないわよ、そんなの」
そう、分からない。
今まで感じていた感情が、今感じている想いが、独占欲なのか、仲間意識なのか、
それとも愛だとか恋だとか言われる感情なのか、分からない、けど。
「このままで、終わらせるのは、イヤ」
立ち上がる。
「このまま、すれ違ったまま、ワケも分からず終わるなんて、絶対イヤ」
必要なのは、一歩を踏み出すこと。
「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーは、こんなとこで立ち止まるような、人間じゃない」
必要なのは、相手に分かる言葉で、この気持ちを、ほんの少しだけでも伝えること。
だから、
アスカは立ち上がり、手早く下着を身に着けると、ホコリにまみれ、鉤裂きだらけの服を手に取った。
「……少しだけ、素直になっても、いいわよね」
そう呟いて、そのボロボロの服に袖を通す。鏡で自分の姿を確認して、
「うぅっ。やっぱりカッコつかないぃ」
ぼやくが、それでも着替えようとはしない。
ほつれが目立たないように少しだけ服を整えて、それきり振り向かずに、外に飛び出す。
「待ってなさいよ、シンジ。一度だけ、生涯で一度だけ、アタシがアンタに頭を下げてあげるわ」
どこか晴れやかな気持ちで、高らかにそう宣言する。
心のどこかで、もう一人の自分が『頑張んなさいよ』と声をかけてくれた気がした。
157 :
LAS48:2008/06/01(日) 14:21:23 ID:???
走る。走る。走る。
不自由な体も、今は気にならない。一刻も早くシンジの元へ。
そんな想いだけで、アスカの体は驚くほどスムーズに動き、足は止まらない。
心の中で、シンジに語りかける。
(ねぇシンジ。アタシはね。この世界じゃなかったら、
この誰もいない世界以外では、アンタを好きになれないと思うの)
サードインパクトが起こる前。
以前の世界では、アスカはシンジを憎んでいた。
何でも一番にこなして、エヴァに乗って敵を倒して、
人に認めてもらうことが生きる意味だったアスカにとって、
エヴァでアスカ以上の戦果を上げていったシンジは、邪魔者だった。
でも、
「この世界では、誰もアタシを誉めてくれない。見て、くれない。だけど…」
(アンタが、見て、くれるなら。ずっとアタシを見ていて、くれるなら)
――アスカはきっと、この世界で生きていける。
「ねぇシンジ。だから、ここでずっと、二人で……」
そしてアスカの眼前に、赤い海が見えた。
158 :
LAS49:2008/06/01(日) 14:22:20 ID:???
「……しまった。少しだけ、方向がズレた?」
アスカは、前にシンジが一人で抜け出して、
こっそりビールを流していた場所に向かうつもりだった。
何の根拠もなく、シンジがそこにいると信じていたのだ。
「あの、建物。左に迂回したのが、間違ってた…」
途中で道を間違えたことに気づくが、
「ええい! 何を動揺してんのよ、アスカ! 左にズレたなら、右にいけばいいんでしょ!」
思わぬ失敗で、揺らいだ気持ちに自ら喝を入れる。
そして、歩き出そうとした、その時、
――今まで感じたことのない、得体の知れない恐怖に襲われた。
その発生源は、赤い海。そこから、以前には感じられなかった、奇妙なプレッシャーを感じる。
「海が、喜んでる? ……まさかね」
首を振って、おかしな感覚を振り払う。
海に出たのなら、目的地はもう近い。
余計なことを考えているヒマなど、ないのだから。
159 :
LAS50:2008/06/01(日) 14:23:00 ID:???
デコボコの海岸線を、時に迂回、時には直進して、アスカはひた走る。
それは、万全でないアスカの体から、体力を奪っていく。
しかし、程なくして、
「……いた!」
遠目にだが、アスカの目ははっきりとシンジの姿を捉えていた。
疲れ切っていたはずの足に、力が戻る。
自分の現金さに苦笑しながら、最後の道程を全速力で駆け抜ける。
どんどんと距離が近くなって、その姿が、はっきりと判別出来るようになる。
それでもアスカは、堪え切れずに、叫んだ。
「シンジ! 聞いて! アタシ、分かったの! アタシ、アンタと……」
しかし、叫ぶアスカの目に映ったのは、
自分に向かって不器用な笑みを浮かべる、彼の姿ではなく、
今まさに、赤い魔物にその身を捧げようとする、その投身の瞬間だった。
そして、シンジは、アスカの目の前で、
ボチャン、と。
「シン、ジ? そ、んな…………イヤァアアアアアアアア!!」
160 :
6:2008/06/01(日) 14:24:46 ID:???
投下が長くなりすぎたので、
ここでちょっと休憩と文章の最終チェックを。
乙です。夢中になって読んだ。
162 :
6:2008/06/01(日) 14:46:15 ID:???
再開。
あと少しだけ、投下。
163 :
LAS51:2008/06/01(日) 14:47:10 ID:???
(アス、カ…?)
――自らの体が海に没した瞬間、シンジはアスカの声を聞いたような気がした。
たぶん、それは自分の願望が作り出した幻聴だろうとは思う。
アスカが自分のことを追いかけてきてくれる、ということも、都合よく、
アスカがこの場所を見つける、なんてことも、あるはずがない。
(でも、もしそうだったら、うれしいかな…)
それはアスカがシンジのことを、少しでも気にしていてくれたという、証になるから。
たとえ幻聴であっても、最後にアスカの声が聞けて、よかったと思った。
(これで僕も、僕のやるべきことを、全力でやれる)
しっかりと、前を見据えて、手を伸ばす。
(そうしないと、前みたいに素直に、アスカと笑い合えないから。
そうしないと、アスカが僕を、見てくれないから)
最後まで、自分のためにしか動けないけど、
(いなくなった人を、元に戻すから)
溶けそうになる心と身体を、必死でつなぎとめて、サルベージするべき、魂を探す。
でも、海の中は、あまりに広すぎて、
(くっ。まず、い。意識が、とおく、なる。
……ダメだ! こんなところで終わってちゃ、なんにもならないのに。
これじゃ、アスカに、なん、にも…)
力尽きかけたその時、シンジの前に、影が落ちる。
「かあ、さ…」
――シンジの意識は、そこで途切れた。
164 :
LAS52:2008/06/01(日) 14:47:46 ID:???
アスカは呆然と、シンジが消えた海の前に立つ。
もうそれは、数時間前までの海とは全く違っていた。
眼前に広がった赤全てが、意志を持った生物であるようにしか見えない。
「シンジは、この、中にいるの…?」
覗き込むことすら、躊躇われる。その『生きた海』は、全力でアスカを拒絶していた。
(もう、アイツはどうしてこんなモンの中に飛び込んでいけたのよ…!)
泣きそうな気分になる。
それでも、と中に入る覚悟を決めた途端、急に海が盛り上がった。
「シンジ!?」
現われたのは、女。白く巨大な人影が、シンジを胸に抱き込んで連れ去ろうとしていた。
(誰? ファースト? いえ、似てるけど違う)
補完されていた時、誰かの記憶の中にその顔があったような気がしたが、思い出せない。
そして、今、アスカにとって大事なのはそんなことではなかった。
さっと左右を見渡す。少し奥にある水没した家の屋根が、まるで岬のように海に突き出している。
(あそこなら、あの女の、シンジの進行方向。あそこからなら、いける?)
思考は一瞬だった。駆け出す。
屋根と屋根の間を跳んで、出来るだけ海の中心へ。
「っ!? ここまでが、限界?」
次の屋根は、完全に海に没していた。進めない。
シンジとの、あの大きな白い女との距離は、あと、十メートル。
「――ッ!?」
その時、こちらに向かってくる女と、アスカの目が合った。
165 :
LAS53:2008/06/01(日) 14:48:17 ID:???
アスカの背筋に悪寒が走る。
まるで、エヴァの目。感情があるのかどうかも分からない、得体の知れない目。
なおさら、こんな奴にシンジを渡すワケにはいかない、と思う。
「シンジ! 起きなさいよ! シンジ!」
白い女と、シンジが近づいてくる。
残りの距離は、もう六メートル。
「シンジ! 分かったの! アタシは、アンタと一緒にいたいの! だから…」
あと、四メートル。
「だから、戻ってきて! アタシのところに、戻ってきて…!!」
精一杯に、手を伸ばす。
シンジとの距離は、あと三メートル、二メートル、一メートル、そして……
また、二メートル。
「……そんなっ」
遠ざかっていく。一瞬だけアスカの前をかすめ、シンジはアスカから離れていく。
(行っちゃう。シンジが、行っちゃう。アタシの手の届かない所に…)
そうしている間にも、シンジは見る間に遠くなる。女はアスカを一瞥もしないまま、
シンジを遠くまで連れ去っていく。距離は離れ、もう、声さえ届かない。
しかし、アスカは手を伸ばす。
「シンジ、行かないで! 戻って来て! アタシを置いて、行かないでよぉ!!」
アスカは虚空に、張り裂けるほど手を伸ばし、
――その時、突如、海が割ける。
赤い海が、紅く、盛り上がる。
突然に、手を伸ばすアスカの前にそびえ立った威容。
それは……
「――エヴァンゲリオン、弐号機。……来てくれたのね! ママッ!!」
伸ばした手に、アスカは最後の希望をつかんだ。
166 :
6:2008/06/01(日) 14:51:15 ID:???
以上。
書くのキツイ場所を抜けて一安心。
そろそろクライマックスかな…?
乙!
早く続きがみたいけど終わるのは寂しいから少し複雑w
168 :
35:2008/06/01(日) 17:37:07 ID:???
「また……」
帰宅したミサトは、居間に座っている珍客をみて溜息をついた。
もう予想外の人物が訪れることに次第に慣れてきたらしい。
見慣れた居間には巨大な将棋盤が置かれ、それに向き合う二人の人物。
それは惣流アスカ・ラングレーと冬月副司令であった。
その側、食卓のテーブルに座ってジッと見守っているシンジ。
ミサトと目が合うと、やれやれ、というかのように肩をすくめる。
その様子からして、物音ひとつ立てれない緊迫した空気にうんざりしているようである。
それほど二人の将棋指しは真剣であった。
とりあえず、二人が将棋を指す経緯を説明をするとすれば――
NERV本部で戦闘待機中、
待ち時間が長すぎて暇をもてあます、
詰め将棋で時間をつぶしていた冬月の将棋盤をアスカがのぞき込む、
知的好奇心の旺盛な彼女は駒の動かし方から教わり始める、
NERV本部内では勝負がつかず冬月訪問……と。
まあ、こんなことは適当で良いだろう。
それで冬月と対等に指せる彼女は驚異的と言わざるを得ないが。
ミサトはギリギリまで近づいて盤上の駒に目を滑らせる。
見れば、そろそろ終盤に近い局面であった。そしてアスカの方が形勢は不利。
彼女の「玉将」は左右から包囲されつつあり、その一方で冬月の堅い守りは今だ健在。
アスカはミサトの帰宅に気がついていないのか、
おかえりなさいの一言も言わずに眉をピクピクと引きつらせて盤上を睨み付けている。
やがて、アスカはバチンという大きな音を立てて一手を指した。
どうやら攻めに転ずることが出来ず、「玉将」を避難させるしかなかったようだ。
「はい、どうぞ!……シンジ?ぼーっと見てないで、お茶のお代わりぐらい煎れたらどう?」
169 :
35:2008/06/01(日) 17:38:28 ID:???
かなり気が立っている。下手に物音を立てれば猛然と噛みついてくるだろう。
一方、冬月の方はそんなアスカが面白くてたまらないように、ニヒルな笑みを浮かべている。
余裕がある。盤上の駒を見なくても、この二人の顔つきだけでどちらが優勢なのか判るくらいだ。
(しぶしぶ)シンジが入れ直したお茶を、冬月は笑って受け取る。
「ありがとう。いや、君がこれほど旨いお茶を煎れれるなんて意外だよ。
うちの女の子達に指導してほしいくらいだ。」
そして、ずずっという音を立ててお茶をすする。
日本人なら何とも思わないが、外国育ちのアスカには気に障るはず。
(副司令、まさか……アスカにゆさぶりをかけている?)
アスカの眉がまたしてもピクピクと動く。
しかし、大した文句も言えない。そんな暇があるなら手筋を読んでいた方がマシだ。
ましてや今は冬月の手番。けして指す相手を邪魔している訳ではないのだが。
冬月の名調子はまだ続く。
「この前の使徒殲滅の作戦行動、あれはシンジの大手柄だったね。
聞けば訓練などの成果も上がっていると聴く。上層部としては心強い限りだよ。」
「無駄口きいてないで早く指したらどう?」
と、たまりかねて口を挟むアスカに、苦笑いで冬月は盤上に手を伸ばす。
「いや、すまない。さて、これでどうだ。」
と、パチンと駒を指した。じわり、じわりと玉将に詰め寄る冬月の手駒達。
「ちっ……」
アスカは思わず舌打ちした。そして持ち駒の「銀将」を手にして自分の「玉将」の側を守らせる。
またしても防戦。今だ攻めに転ずることが出来ないアスカ。
170 :
35:2008/06/01(日) 17:39:34 ID:???
(姑息……いや、狡猾といってもいい。副司令のゆさぶり、間違いなくアスカに効いている。)
ミサトは盤上を読みながら考える。
(副司令……意外と小ずるいのね。そんな心理戦を使ってまで勝ちに行きたいなんて。
ライバル視しているシンジ君を讃えることで、アスカのプライドを刺激している。
手筋を読む彼女の頭の中に、さぞ雑音が入り込んでいることだろう。)
そしてミサトは腕を組んで頭をかしげる。何か腑に落ちないようだ。
(でも、なぜ?明らかに副司令の方が優勢、そこまでしなくても勝利は目前のはず……
ということは?アスカに勝ち筋があるのね?)
やがて、その疑念はNERV作戦部長としての闘志に変わる。
(アスカのこの苛立ち方はまずい。このまま負けては、彼女は最悪の夜を迎えてしまう。
同居人としてはそれは避けたい。
なんとしてでもアスカに冷静さを取り戻させて、勝たせてあげなければ。)
しかし、それをどうやって?
(外野から出来ることといえば……よし、むしろ更に押して怒りを発散させればいい。)
手早く方針を固めたミサトはシンジの方に目を向ける。
ん?という顔付けで見返すシンジ。どうやら、アイコンタクトを始めることに気がついたようだ。
ミサト、二人の方を見て、またシンジの方を見る。
(シンジ君?あなたがなんとかしてあげなさい。)
シンジ、軽く首を横に振り、溜息混じりで目を伏せる。
(確かに困るよね……冬月さん、このまま居座って晩ご飯まで食べていくつもりかな。)
ミサト、アスカの方にあごをしゃくって見せる。
(いえ、あなたが動けば必ず効果がある。アスカをちょっと刺激してみてくれない?)
171 :
35:2008/06/01(日) 17:40:26 ID:???
シンジ、今度はプルプルと首を振った。
(だ、ダメですよ。今日の晩ご飯は、かっきり3人分しかないんだから。)
ミサト、軽くうなずいてから、再び強くあごをしゃくる。
(不完全燃焼しているよっぽどマシよ。さあ、やって!)
シンジ、肩をすくめる。
(しょうがないなぁ……わかったよ。行ってきます。)
そしてシンジはしずしずと玄関の方に向かい、思わずミサトは声を出して引き留める。
「あ、あの、シンジ君?」
「そこのスーパーだから、すぐ帰ってきますよ。」
「いや、あの……」
「すまんが、静かにしてくれんかな。」
と、二人をたしなめたのはアスカではなく冬月の方だった。
で、シンジ退場。
失敗である。
元通りに目を閉じて笑みを浮かべる冬月と、さらに眉を引きつらせただけのアスカ。
形勢になんの変化もない。
ミサトは、あーあ、と溜息をつく。
しかし、所詮はゲームである。負けてアスカが不機嫌になったところで怪我人が出るわけじゃなし。
さて、敗者に送る慰めの言葉を考えよう、とミサトがアスカを振り返ったその矢先。
「ん、ん、んんん……?」
妙な声を漏らし始めるアスカ。先程とはまるで顔つきが違う。
盤上を見つめるその目は丸く見開かれ、輝きを取り戻し始める。
(アスカ、もしや……ついに勝ち筋を見つけのね?)
172 :
35:2008/06/01(日) 17:41:33 ID:???
そして、ついに動いた。
アスカは虎の子、大駒の「角行」を手にして盤上の隅にパシン!
その一手に冬月は思わず、ほう?という溜息を漏らす。
そしてアスカは力図よく促した。
「どうぞ!」
さて、結果。
冬月は苦笑いで手にした持ち駒をバラバラと盤上にばらまいた。誰の目にも明らかな敗北宣言である。
そして、いつものアスカなら声高に勝利宣言をするところだが、勝利の実感に身震いしているのだろう。
腕を組み胸を反らして大きく鼻をひろげ、満面の笑みで「ふぅっ」と息を吐くのみにリアクションをとどめた。
今の彼女は、まさしく本物の満足感を得ているのだ。
あれほど追いつめられていた状況から逆転勝利したのだから無理もない。
もう自分の「玉将」が摘み取られる寸前のところで、打ち込んだ「角行」を起点に強行突破を開始。
強固に見えた冬月の陣は見事に崩し、ついに彼の「王将」をねじ伏せたのだ。
(見事な逆転劇だったけど……アスカ本人の変化は何?もしや……)
勝負が付いて、上着を片手に立ち上がる冬月。
アスカもまた見送るために腰を上げた。
「いやあ、見事だったよ。これほど良い将棋が指せるとは思わなかった。」
「いえいえ、それほどでもありませんよ副司令。」
「また勝負したいな。こんどは本格的に制限時間をつけてみるかね?」
「うふふッ望むところです!」
「では失礼させてもらうよ……あ、ちょっと。」
と、冬月はミサトの側まで来てささやいた。
173 :
35:2008/06/01(日) 17:43:01 ID:???
「葛城君。どうやら、私のサインに気がついたようだね。」
「あ……もしやシンジ君を追い出すために……」
「そうだ。私が睨んだ通り、アスカ君は彼が居ない方が良い仕事をするようだ。」
「……あ。」
「今日のことを踏まえて、二人の作戦行動における考察をレポートにして提出したまえ。
棋譜が必要なら、後日わたそう。」
「え、あ、ちょっと……」
「では帰るよ。シンジ君によろしく。」
アスカが上機嫌なのは良いとして、結局ミサトにとって災難が降りかかる結果となったようだ。
まあ我が身の不運などはともかく、確かに二人のパイロットにとって重要な課題であるだろう。
(幼少の頃、エヴァのパイロットに認定されて様々な訓練で好成績を残してきたアスカ。
でも、日本に来てシンジ君に出会い、実戦の戦績はシンジ君に一歩譲る状態であり……)
ミサトは神妙な顔つきで考える。
そこにシンジが帰ってきた。上機嫌のアスカはさっそく結果を伝えて高笑い。
しかし――
(アスカにとって、シンジ君は居ない方が……良い?)
シンジとアスカ、ぶつかり合いながらも良い関係を築けると考えていたミサトには意外な結果だ。
やはり、男と女の関係はロジックでは掴めないようである。
(完)
注:羽生VS中川の逆転劇をなんとなく参考にしました
174 :
35:2008/06/01(日) 17:43:32 ID:???
以上ですー
これ(・∀・)イイ!!
アスカの守られるのを良しとしない性格が出ててGJ
最高だ。あなたのような職人が神職人でないならば、この世に神職人の名にふさわしい者がいるだろうか。
是非このスレにとどまり、その才能を遺憾なく発揮し続けていただけないだろうか?
言い過ぎ言い過ぎw
さすがにキモいぞ
178 :
35:2008/06/01(日) 21:46:09 ID:???
> キャラ設定は、他人が作った。みんなが知ってる話で、読ませやすいってのを差し引いても
と、
>>141様の仰る通り、虚無からキャラ設定と下地の話を作る人が一番えらいのです
それさえ作れば、お話は自動的に出来上がるからです
それが出来るのが真の神職人であり
そしてそれをヒットさせて売り上げに繋げるのがプロだと思っとります
でも、ありがとー
そして、もういっぽん投げます7レスですー
179 :
35:2008/06/01(日) 21:46:57 ID:???
「えっと、ごめんください……」
と、玄関の扉を開けて入ってきた人物。
それは私服姿の伊吹マヤ。
「鍵は開いてるし……だれも居ないのかな。」
と、なんとなく不法侵入している気分で忍び足の彼女は、そのまま居間へとやってきた。
そこの平たいテーブルに向こう向きで座っている一人の少年、碇シンジ。
そう、ここは葛城家の居間。
シンジはどうやら素麺を食べているらしい。お箸片手で白い麺の山が目の前にある。
耳には巨大なヘッドホン。シャカシャカという音が遠くからでも聞こえてくる。
(ははあ、それでチャイムの音に気がつかなかったのね?)
そう悟ったマヤはシンジに声をかけず、勝手知ったるミサトの部屋へと向かう。
どうやら帰り道にお使いで立ち寄ったらしい。
分厚い書類の封筒を鞄から取り出し、彼女の化粧台の上に置いた。
(これでよし。このままシンジ君に何も言わずに帰っちゃおうかな?)
などと考えながら居間に戻ってきてみれば、やはりシンジは気がついていない……ん?
がちゃん!
(え!?シンジ君?)
見ればシンジは、素麺に顔を突っ込むようにしてテーブルに伏していた。
(ど、どうしよう。何かの急病?)
慌ててマヤは駆け寄り、シンジの体を助け起こす。
「シンジ君?ねえ、シンジ君?」
そして顔をペチペチ。手早く首筋に手を添え脈を取り、胸に耳を当てて鼓動を確認……
180 :
35:2008/06/01(日) 21:47:47 ID:???
「ZZZ……」
寝ているだけであった。
「なんだ……びっくりさせないでよ、シンジ君……」
ほっと胸をなで下ろすマヤ。
やれやれ、とシンジからヘッドホンを外して仰向けに寝かせる。
そして素麺だらけの顔をハンカチでぬぐってやりながら、もう一度ペチペチ。
「ねえ、シンジ君。大丈夫?」
が、シンジはよほど疲れていたのか目を覚まさない。
(しょうがない。寝ているだけなんだし、このままほっといても大丈夫かな。)
と、立ち上がろうとするが、ふとテーブルの上に置かれためんつゆの器に目をやった。
ゴクン、と思わずのどを鳴らす。どうやら空腹らしい。
(ちょっとだけ味見しちゃおうかな……)
よせばいいのに、器を手に取り一口すすってみた。
(ん、おいしい。もしかしてシンジ君の手作りかな……あれ?あ、きゃっ……)
するりと手から滑り落ちる、めんつゆのガラスの器。
「あ……」
やれやれ、マヤの真下で寝ていたシンジにめんつゆをこぼしてしまったのだ。
シンジの頭から顔、そしてシャツまで焦げ茶色の悲惨な状態である。
「ど、どうしよう。あの、ごめん、シンジ君……」
が、これほどの状況にあってもシンジは目を覚まさない。
何事もなかったかのように、すやすやと安らかな寝息を立てている。
のび太から免許皆伝してもらいたいほどに見事な居眠りっぷりである。
181 :
35:2008/06/01(日) 21:49:05 ID:???
(よ、よし、今のうちに着替えさせてあげきゃ。えーと、シンジ君の部屋はこっちだったかな。)
と、マヤは部屋を物色し始める。
どうやら目を覚ます前に状況の改善、むしろ無かったことにしてしまいたいのだろう。
起こして素直に謝った方が話は早いと思うのだが、自分が汚してしまったという罪悪感もある。
……いっそのこと、そのまま逃げてしまえばいいのに。
新しいシャツを片手にシンジの上着を脱がせようとするマヤ。
しかし、それだけではすまない。顔や髪の毛までめんつゆで汚れているのだ。
シンジの体からカツオと醤油のにおいがプンプンしている。
「うう、こればっかりはシャンプーしないと落ちないなあ。あ……」
「う、う、う〜ん……」
シンジは身じろぎを始めている。流石に目を覚ましたようだ。
「え、あ、ど、どうしよう……えい!」
と、マヤは手早く鞄からスプレーを取り出してシンジの顔にプシュッ
「う、う〜ん……ZZZ……」
「あ、ああ……私は何をやってるんだろう……」
また眠らせてどうするのだ。いや、それ以前に何故そんなものをもっているのか。
「よし、もうこうなったら後に引けない。」
そしてシンジの両脇に後ろから手を入れて担ぎ上げ、ずるずると引っ張っていく。
そう、目指すは浴室へ。
「ほっといたら、目を覚ましたシンジ君が可哀想だものね。仕方ないよ。うん、仕方ない。」
まるで誰かに言い訳するようにつぶやきながら。
上着を脱がしたのはいいけれど、あとはどうするつもりだ、マヤ。
「下はちょっと……でもなぁ、びしょぬれになっちゃうし……うーん……」
182 :
35:2008/06/01(日) 21:50:03 ID:???
しかし、乗りかかった船。どうやら意を決したようである。
「ごめんね、シンジ君。見ないように気をつけるから……できるだけ。」
と、聞こえていないはずのシンジに謝りながらズボンに手をかける。
ついでに用心のために、もう一度スプレーをプシュッ
まあ、確かにここで目を覚まされたら大変だけど。
そして自分は袖と裾をまくりあげ、なおも眠り続けるシンジにシャワーを浴びせ始める。
(……はあ。私って何をやってるんだろ。)
いまさら気がついてももう遅い。それに、のんびりしては居られないはず。
『ばたん……』
(!?)
風呂場の外の物音にビクリとする。
それ見たことか。とうとう他の誰かが帰ってきたのだ。
『たらいまぁ〜……ひっく!……シンちゃん、アスカぁ、いま帰ったぞぉ〜……ひっく!』
ミサトである。それもへべれけに酔っぱらっているようだ。
(ど、ど、どうしよう。こんなところを見つかったら、大変なことになってしまう。)
だから、いまさら気がついても。
『ん〜、どこにいったのかなぁ〜、あーシンちゃんお風呂に入ってるんだぁ〜覗いちゃおっかなぁ〜』
さあ大変だ。ピンポイントでミサトがここにやってくる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
で、どうする?
(シンジ君と二人でお風呂場にいて自然に振る舞うには……そうよ、これしかないわ!)
マヤは威勢良く自分の服を脱ぎ捨てた!
183 :
35:2008/06/01(日) 21:51:52 ID:???
がちゃっ
「シンちゃ……あれ、マヤ。」
「それじゃ、シンジ君。次は背中を流すわね?えー、私が前も洗うの?やだぁ♪」
「あの……マヤ、何やってるの。」
「ハイ!シンジ君とお風呂に入ってるんです!」
「あらそうなの、それじゃごゆっくり。」
「ハイ!」
ばたん……
「ふー、うまくいったかな?って……あれ?
えーっと……………………………………あれ?
ああああああああああああああああああああッ!!」
ようやく熱から冷めたようだ。
徐々に自分がしたことを理解し始め、顔面蒼白になりつつあるマヤの顔。
もはや、この状態では「私、シンジ君とデキてたんです」とでも言うしかないではないか。
(こ、こうなったら……こうなったら……)
もはや病的な形相で右手にシャンプーの巨大な容器、左手は例のスプレー、
そしてバスタオルを胸から巻き付ける。
(先輩、私を守ってください!もう、こうなったら私は行くところまで行くしかないんです!)
184 :
35:2008/06/01(日) 21:53:04 ID:???
そして風呂場の扉を開けて、向こう向きで腕を組んで首をかしげているミサトに突撃!
「葛城さんごめんなさいっ!えーいっ!!」
数日後。
「うーん、あれは変な夢だったなぁ。ね、ね、聞いてよリツコ。」
「ん、どうしたのよ。」
「家に帰るとマヤがシンジ君とお風呂に入っててね。」
「えー、そんなぁイヤですよ葛城さん。」
「マヤ、だから夢の話だって。」
「なーんだ、でも何でそんな夢を……」
葛城家で開かれた飲み会で、そんな話を始めるミサト。
どうやらマヤは勝利したらしい。
あの後、シンジの服を洗濯したりして大変な思いをしたのだが、その努力は報われたようだ。
(引いてもダメなら押してみろ、とも言うし。そうだ、私の判断は正しかったのだ。)
と、ようやく胸をなで下ろすマヤ。
この数日間、眠れぬ夜を抱えながら震え上がるような思いでMAGIの端末に向かっていたのだが。
マヤはやっと心から笑えたような気分で、
つまみを持ってきたシンジからお皿を受け取り、にこやかに礼を言う。
「ありがとうシンジ君。本当に料理が上手いのね。」
「いえ、その……とんでもないです……」
「……?」
なぜだろう。シンジの頬が赤い。
185 :
35:2008/06/01(日) 21:53:58 ID:???
マヤはハッとなって鞄を開き、そこに詰め込んだ化粧品をかき分ける。
そして即効性睡眠薬のスプレーをよく見ると……
それはまだ封が切られていなかった。
(う、嘘!?それじゃ、いったい何のスプレーをかけちゃったんだろう?
葛城さんは泥酔していた上に気絶させたから大丈夫として……でも……
でも、シンジ君は……もとから眠てたけど……)
果たして、どこからどこまでバレていて、どこから二人は気付いていたのか。
「だーから、夢の話だって!ね、マヤ?」
「は、はい……そうですね、アハハ……」
伊吹マヤの眠れない夜は続く。
(完)
186 :
35:2008/06/01(日) 21:54:42 ID:???
おわりー
お馬鹿な話でごめんなさいー
GJ
オモロー!!
188 :
35:2008/06/02(月) 07:25:41 ID:???
携帯からー
プロバのeoが規制されちったので、ばいばーい ノシ
!?
>>178 141です。
葛城家の意外な訪問者シリーズww
次は日向かな?って、残りキャラ少ない(ρ_-)
無から作る人は、確かに偉いけど、大多数の人と同じように、作品を感じ、更に大多数の人が楽しめる(求める?)ように、創作できるのは、すばらしい事と思いますよ。しかもエロに頼らず(←ここ大事と思う)
「絶対○○チルドレン」の椎名○も、「パ○レイバー」のゆ○きまさみも、売れないアニパロ誌(あっ、年ばれるって…)の投稿常連さん。
頑張って下さい
>>190 微エロ入れちゃったけどw
ありがとー頑張りますーでも規制でネタが貼れませんー頑張れませんーw
でも、虚無から生まれた人は居ないことを信じて頑張りましょー
では、どーもありがとー
しかし、3、4本はネタが頭にあったけど、日向さんは考えてなかったどうしよう……
>>190 p2があるよ
自分もeoだから利用中
つーか、自分も昨日投下したらその後規制で困ってる
詳しくは批判要望のeoスレでどぞ
194 :
35 携帯:2008/06/02(月) 23:12:07 ID:???
>>192 あんたにゃちょいと悪いけど、2chにお金使いたくないな、と思ったり。
でも有料サービス屋さんを使いたくないし甘やかしたくないし、2ch依存したくないし。
悩むんだけどね。
195 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/02(月) 23:21:57 ID:t4xDiWCZ
そんなあなたにコンタック
>>194 お金使わなくても酉出せば貰えるけどね
垢取ってきたら1年分の森こっちから送るよ
197 :
35 携帯:2008/06/03(火) 00:00:25 ID:???
>>196 いや、それにはおよびませぬ。
急ぐわけでもなし、解除を待ちながらネタの吟味でも致しましょう。
では規制中はお互いネタを練ってという事で
ネタに限らず何か投下せねばという事がありましたら酉出しといて下さい
困った時はお互い様なんで森送りますね
自分もeoスレでp2使える様に森貰ったんでw
新作楽しみにしてますー
>>191 葛城家の意外な訪問者シリーズ
目指せ、全キャラ制覇ww
微エロは隠し味だよ
「しんちゃん〜おだし変えた〜?」って感じww
ネタが3〜4あるって…
…キール議長か…それは、マジ意外だな(汗)
200 :
35 携帯:2008/06/03(火) 07:25:25 ID:???
>>200 キールじゃなくて左様だったのか
想像もつかんな
205 :
6:2008/06/03(火) 21:00:55 ID:???
諸注意
・これ以降の設定は特に恣意的。公式解釈とはたぶんかなりずれてる。注意。
・一部用語の表記を『ATフィールド』『S2機関』『N2爆弾』という感じに。以降もこれで統一。
・アスカはノリツッコミの名手。
以上の事に納得出来る方だけ読む事をお勧めする。
つうか妙に上がってる期待度に応えられるか分からんが、投下。
206 :
LAS54:2008/06/03(火) 21:04:15 ID:???
「機体チェック……よし、オールグリーン。これならイケる!
頼むわよ、アタシの弐号機!」
アスカは弐号機で赤い海に繰り出す。目標は、海の奥へと連れ去られたシンジ。
「待ってなさいよシンジ。不本意だけど今回だけ、
お姫様を助け出すナイトの役をアタシがやってあげるわ」
エヴァに乗ったことで自らの拠り所と自信を一時的にであれ回復させたアスカは、
そう言って意気昂然と歩き出す。
が、そんなアスカの気を削ぐように、粘度の高い赤い海は弐号機の歩行を阻む。
また、それだけではない。
「くっ! 足場が見えない上に、こうデコボコとしてちゃ…」
水没した町の起伏に富んだ地形と、見通しの利かない赤い水は、
最悪のコンビネーションでアスカの焦りを誘う。
「あぁ、もう! こんなんじゃ、シンジを見つけるどころじゃないわよ!」
当然だが、NERVや国連軍からの支援が受け入れられない以上、
光学観測でしか目標を追うことは出来ない。
シンジの行方を見失ったらその時点でアウトなのだ。
「一歩一歩行っている時間がないのなら、いっそ……」
ググ、と弐号機の体を沈み込ませ、一気に伸び上がる。
――見事な跳躍。
弐号機は一気にエヴァ三体分くらいの距離を跳び、
「ぐ、うぅうぅ!」
…着水。
赤い水の反発力を計算し切れず、弐号機は海面に弾かれて海の上で転倒。
頭から海に落ちる。
207 :
LAS55:2008/06/03(火) 21:07:00 ID:???
「く、そ! こんなことくらいで!」
何とかコントロールを取り戻し、立ち上がろうとするが、さっきまで膝下程度までだった海の深さは、
今はもう、弐号機の腰の辺りまで達している。
もがくように水面に顔を浮かび上がらせ、何とか立ち上がった。
だが、弐号機を襲った衝撃のフィードバックと無茶な機動に、アスカの息は上がっている。
「これじゃ、こっちが持たない。時間制限さえなければ…。そうだ! 活動限界は!?」
慌てて計器に目を走らす。そこには、
「そんな、無制限? アンビリカル・ケーブルも接続されてないのに……。
まさか、この海から電力を喰らってるっていうの?」
アスカは一瞬呆けかけるが、すぐに首を振る。
「こんなことに、足を取られてる場合じゃない。ムカツクけど、現状を認めてやるわよ。
その上で、何かプラスになることを考えなきゃ…」
ヨロヨロとエヴァを進ませながら、アスカは思考する。
「どこかLCLに似ている、赤い海。地球上の全ての命を飲み込んだ、生命のスープ。
今まで何の意志も感じられなかったこれが、今はアタシに敵意を持っているみたいに見える」
水の底の建物につまずいて、それでも弐号機とアスカの歩みは止まらない。
「エヴァが拘束具ありの状態で出てきたんだから、今は無生物だって混じってる、はず。
全てを含んでいる水だから、ここでは何が起こっても不思議じゃない。
そう、たとえば…」
ザアッ、と前方で音が二つ。それを見ながら、アスカは呆れたように言葉を継いだ。
「たとえば、……海から突然、量産型エヴァが出てきたりとか、ね」
208 :
LAS56:2008/06/03(火) 21:08:23 ID:???
海から現われた二体の量産型エヴァンゲリオン。
その白い人造人間は何もしゃべりはしないが、いやらしい笑みを浮かべる口元と、
ジリジリと用心深くにじり寄ってくる態度で充分に分かる。
彼らは、アスカをこれ以上先に進ませる気はない。
それどころか、ここでパイロットごと、弐号機をスクラップにしてやろうと考えていることは。
「……サイアク。と、言いたいところだけど。ストレス解消には、ちょうどいいわ」
対するアスカも、一歩も引かない。
「さしずめアンタたちは、囚われのお姫様をさらった魔王の手下、ってトコね。
上等よ! あの時の屈辱、百倍にした上に熨斗までつけて返してやるわ!」
弐号機の中で、アスカは高らかに吼えたてた。
「……さて、と」
威勢良く叫んだ割に、弐号機、アスカには攻め気が見えない。
攻撃の瞬間に備え、全身のバネを生かそうというのか。弐号機は前のめりに腰をかがめ、
だらりと両腕を下げる。両腕が肘の先まで海に浸かる。
「お互いに、得物はなし。オマケにこの海に下半身が浸かっている限り、機動力は最低」
その間も、ジリジリと二機の量産型はアスカに迫る。二機に同時に攻められたら弐号機は不利。
その程度のことはアスカも分かっているのだが。
「ジャンプからの攻撃が速度としても威力としても優秀、だけど、その後が続かない。
アタシは片方を倒してももう片方に捕まればゲームオーバー。向こうだって、
捨て身で飛びかかってもアタシにうまく一機だけを狙い撃ちで迎撃されたら打つ手がない。
つまり、先に動いたら負ける。こりゃ、長期戦になるわね。……なんて」
ザバッと海から両手を引き上げる。その手には、巨大な銃が握られていた。
――ポジトロンライフル。
長距離射撃だけでなく、ミドルレンジにおいて最強クラスの打撃力を誇るエヴァの専用兵器。
209 :
LAS57:2008/06/03(火) 21:10:47 ID:???
「そんなつまんないことをアタシが考えてたとでも思ってたワケ? だったら〇点ね!
ずいぶんと都合のいい場所みたいだしね。こういうコトも出来るんじゃないかって、ずっと考えてたのよ」
量産型エヴァに動揺が見られた。その内の一機が、いちかばちか、と弐号機に飛びかかろうとするが、
「遅いっ!」
それより早く、ライフルから加速された陽電子が射出される。それは量産型エヴァの胸部に吸い込まれ、
対消滅を起こして爆発する。
仰向けになって水の中に倒れるその姿を見もせずに、
「次っ!」
アスカは残ったもう一体にライフルの銃身を向けている。即座にトリガー。
放たれた陽電子は残った量産型エヴァに向かい、先ほどと同じ光景が目の前に展開されるはずだった。
しかし、
「ATフィールド?!」
量産型の前に現われる幾何学模様。目視出来るほどに強力なATフィールドだ。
ドン、という着弾の衝撃。
それでも尚、量産型エヴァのATフィールドは健在だった。いや、
「どうしてアタシがここまでアンタたちの接近を許したのか。まだまだ考えが足らないわね」
その中心部分には小さな穴が開いていた。その奥には、胸をえぐられたエヴァ量産機の姿。
「残念ね。そこはもう、アタシのフィールド中和領域なの」
破壊された量産型は倒れるでもなく、そのまま内側から弾け、赤い水に戻った。
「真面目に遊んであげられなくて残念だけど、使える物は何でも、
っていうのがアタシのポリシーなのよね。……でも、これももう限界か」
アスカの手の中で、ポジトロンライフルが形を失って水に還る。
「水が形を変えてるだけで、結局本物ってワケじゃないのよね。
だったらさっきの……。――ッ!?」
後ろで起こった、ザアッという水音をアスカの耳は捉えた。
――そして、そこから感じる、もっと嫌な気配も。
210 :
LAS58:2008/06/03(火) 21:13:12 ID:???
「背面五時方向! ATフィールド、全開!」
間一髪、アスカを狙って飛んできたその飛来物はATフィールドに防がれる。
が、投げつけられたその『槍』は、弐号機のATフィールドを貫き、
「そう何度も、同じ手を…!」
それすらも予見していたアスカは、弐号機に回避行動を取らせつつ、その槍をつかみ取った。
「見え透いてんのよ、アンタたちは!」
そのまま半回転して勢いを殺し、手元で槍を回転。穂先の向きを変える。
そして、必中の一撃をかわされるとは思っていなかったのか、いまだ棒立ちの量産型に向かい、
「いっけえぇぇえ!」
渾身の投擲。
今度はアスカの手によって放たれたロンギヌスの槍、そのレプリカが量産機を刺し貫く。
体から槍を生やしたまま、量産型エヴァはわずかに痙攣し、しかしすぐに、
バシャッ。
という音だけを残して水に戻る。
それは、槍の方も同様だった。即座に水になって、海に還る。
「楽勝! この絶対無敵のアスカ様にケンカ売ろうなんて、数百万年早いのよ!」
アスカは一度、胸を張って勝ち誇るが、
(そうは言っても、ずいぶん離されたのは確かね。かなりの時間、足止めされた…)
白い女は、もうエヴァの最大望遠でも小さく背中が見える程度になっている。
(歩いていくのは論外。だけど跳躍していくにしても、これ以上水深が深くなれば跳び上がることも難しいわね。
かといって、B型装備のままじゃ、水の中を進むのは不可能だし。まさか、泳ぐなんてのも出来るはずない)
「あー! 何でここ海なのかしら! 陸だったらこのくらいの距離すぐなのに。イライラするわ!」
思わず叫んでしまって、それで閃いた。
「そうか! これだわ!」
211 :
LAS59:2008/06/03(火) 21:14:00 ID:???
水面に、奇妙な幾何学模様の波紋が広がっていた。
――ATフィールド。
アスカはATフィールドで水面とエヴァの機体を反発させて、水の上に立っているのだ。
「さっすがアタシ! 天才じゃない! …っと」
思わず快哉を叫んだ途端、弐号機の足元がぐらつく。
それだけで、右足がくるぶし辺りまで赤い海に沈み込んだ。
「……少しでも集中を切らしたらアウト、か」
アスカは弐号機の目で、海の奥を見つめる。
「ここから先、海はもっと深くなるわね。落ちたらもう、戻って来れないかもしれない。
それでもやれる、アスカ?」
アスカはそう、自分に問いかける。
――だが、答えなんてとっくに決まっていた。
「アタシはシンジに、絶対に伝えなきゃならない言葉があるもの。だから、」
両手を水面につけ、片足は膝を立て、もう片方の足は後ろへ引く。
クラウチングスタートのポーズ。いつかの使徒戦の時と同じ体勢だ。
「……オン、ユア、マーク」
目をつぶる。弐号機が、自分が、華麗に海の上を走る姿を思い浮かべる。
そして、カッと目を開くと、
「レディ…、ゴー!!」
弐号機は水面を駆け出した。
212 :
LAS60:2008/06/03(火) 21:18:45 ID:???
アスカは、赤い風となって海を駆ける。
優雅にも見えるその足の運び。しかし、弐号機の中でアスカは汗をにじませていた。
(蹴り足の強さに合わせてフィールドを展開するのが意外とキツイ。
これで、最後まで持つの?)
アスカの頬を新たな汗が伝うが、その心配は杞憂に終わる。
「あれは…シンジ!? まだこんな所にいたの?」
シンジたちが思っていたほど移動していなかったことは、アスカにとっては嬉しい誤算だった。
ただし、それは同時に、シンジをさらった者の目的がそこで達せられるという可能性も示唆する。
揺れる視界に閉口しつつ、映像をズーム。アスカは思わず声をあげた。
「さっきの女じゃ、ない!? これって、エヴァ初号機?」
拘束具のほとんどが取れて、包帯に包まれた肌が剥き出しになっているが間違いないように思えた。
シンジを抱えていた白い女は、いつの間にか初号機に変わっていた。
「何が起こってんのかは分からないけど。待ってなさいよ、シンジ!」
駆け出す足は止まらない。近づくにつれて、シンジたちの鮮明な映像が入ってくる。
「ここにいるのは、シンジと初号機だけじゃない。シンジの横に二人……これは誰?」
集中を乱さないように気をつけながら、アスカはシンジたちの姿を追うことをやめられない。
「こっちの、一人。この、髪の色、背格好は……まさか、ミサト?!」
何でミサトがこんな所に? 死んだはずじゃなかったの?
そんな月並みな台詞をアスカはかろうじて飲み込む。
「何が起きても、不思議じゃないのは分かってるわ。今は、シンジを取り戻す。
考えるのは、それだけでいい」
そう思いつつ、最後の未練にモニターを見る。見て、そして後悔した。
――シンジは、笑っていた。ミサトを見上げて、笑顔を見せている。
ドクン、と心臓が跳ねた。
213 :
LAS61:2008/06/03(火) 21:20:21 ID:???
思い出すのは、飛びついた加持の背中。
そして、そこから香る、ラベンダーの匂い。ミサトがつけている香水と同じ…。
(…! ラベンダー?!)
不意に、アスカは自分の体から漂う、ラベンダーの匂いを意識した。
(アタシ、こんな物をつけて、シンジに迫ったの?
アタシ、こんな物をつけて、シンジに抱きついたの?)
無意識の選択だったと思う。前からラベンダーの匂いは好きだったし、
あの香水の匂いと、石鹸から来たこの匂いは同じではない。
だが、だからといって、
(イヤ! イヤイヤイヤ、イヤァ!)
身の内から湧き上がる、嫌悪感は消えない。
嫉妬とか、トラウマに似た嫌悪感だとか、そういう単純なものではなく、
とにかく今すぐ皮膚がボロボロになるくらい体をこすって、匂いを落としたいという気分になる。
「……あ、」
そんな集中の乱れが、文字通りアスカの足元をすくう。
ATフィールドが乱れて、足が海に沈みかける。
(違うわ! そんなの、どうでもいいのよ! 今は、今はただ! あそこに…!)
そう、あとほんの数十メートル。それだけの、距離で…!
悲愴な想いで、前に踏み出したアスカを、
「……キャ、アアァアァ!」
今度は前方からの強い衝撃が襲った。
海に沈みそうになる体を、必死で立て直す。その間も、アスカの頭は忙しなく動いていた。
(一体、何? いくら余所見をしていたとはいえ、エヴァを弾くほどの大きさの物なら、
目に入らないはずないのに…!)
顔を上げる。そこで、初めて、気づく。そこに浮かぶ、正体不明の物体に。
「な、に…? この大きさは、人間?」
いや、あまりに非現実的な光景に、理解が遅れただけだった。
その人影は、アスカも旧知の人物。
「まさか、ファースト…? …レイ。綾波レイ、なの…?」
214 :
6:2008/06/03(火) 21:24:18 ID:???
とりあえずここまで。
後十レスくらい投下する予定だったんだけど、
今回意外と多いし色々不安になったからもう一回吟味してくる。
…超展開だけどあんま笑わないでくれよ。
乙!
終わりまでしっかり見届けますよ
とにかく楽しみにしてるぜ!
ども乙
テン、ティティーン、チャララー♪
職人が自ら、導いた急展開は、物語を戻れない道へと、推し進める。
シンジの行動の意味とは?
アスカが望む未来とは?職人が求めた結末とは?チャララー♪
次回「希望の海」
この次も「サービス、サービス」チャンチャーチャン♪
と勝手に次回予告してみるw
タイトル難しい…
内容に合ってなかったらm(_ _)m
>>199 でも、キールは青葉より、切り口ありそう。
本編で評議会が碇指令に愛想尽かしてるのに、キールは「信じてるぞ、碇」って、 最後までかばったぽいし、ダミー会社の登記に仲良く載ってたり、ゼーレ立ち上げ時には、共に苦労した仲間みたいな雰囲気?だったな〜。まあ、キールの友情片思いぽいが…
時期的に唯やアスカのママや幼少期のシンジやアスカと面識ある可能性も有りそうだし…
シンジ言う先生って、実は「キール」ってのも…ありか?
左様は…無理だ情報少なすぎる(泣)
青葉はギター教えに来るとかでよいのでは?
左様はユイパパとか(笑)
220 :
35 け:2008/06/04(水) 08:14:59 ID:???
>>218 キール=先生は大胆だけど有り得る面白い設定かもw
シンジを訪ねてくる→先生ひさしぶり〜→先生帰る→
待っていた側近が、キール議長、チルドレンの様子は如何でした?では次の予定……
あ、この設定使えなくなっちゃったw
ま、なんか考えるー
規制が解けたらーw
221 :
35:2008/06/04(水) 19:16:13 ID:???
規制解けてたー
というわけで、さっそく日向さん書いてみたー
222 :
35:2008/06/04(水) 19:17:08 ID:???
「つまりですね、葛城さん。現在の陸軍兵士における完全武装のトレース。
それが僕のアイデアのコンセプトなんです。」
「ふーん……兵器開発は技術部の仕事なんだけど……」
テーブルの上に散乱した書類を前にして力説する日向マコト。
それらの書類、文面もあればイラストもある。
そのイラスト。それは短銃やマシンガン、果てはバズーカまで描かれており、
そのほか、ナイフや棍棒のような格闘戦向けの武具、
果ては手榴弾のようなものや、背中に背負うリュックサックのようなバッテリーパックまで。
ミサトは、それらの中から一枚を拾い上げて、薄目で見ながらビールをクピッ。
それはまるでサバイバル戦に挑む陸軍兵士のような格好をしたエヴァの新型装備の完成図であった。
ミサトは納得しかねるような顔つきで、それをテーブルの上にピラリと放る。
「N2機雷の手榴弾って大胆な発想だけど、街一つが吹っ飛ぶのよ?
アスカあたりに手軽に投げられちゃたまんないわよ。」
「ま、まあ、確かにそれは……」
「バラエティーに富んだ装備を用意する明快な理由っててあるの?」
「は、はい、それはですね!」
日向は左手の中指で眼鏡のズレを直し、姿勢を正す。
「エヴァは人型決戦兵器。つまり人を模した物。
ならば、現代の兵士における装備と同等のものを充実させることで、
様々な状況下において対応することが可能になる、と考えたんです。」
ミサトは、その日向の説明に対して相槌を打つ代わりにビールをクピッ。
223 :
35:2008/06/04(水) 19:17:55 ID:???
「あの……葛城さん?」
「聞いてるわ。続けて。」
「はい、今後のエヴァにおいてどのような装備が必要か。
今後の使徒との戦いにおいて考えられる状況が未知数である以上、
出来る限りの対応をしなければ我々にとって、事前に備えるのは非常に困難です。」
「うん……」
「しかし、その時になって何も備えが無い、では済まされない。
ならば、今日(こんにち)まで試行錯誤を重ねて完成された兵士の装備に準ずることで、
軍隊における実際の作戦行動の事例をエヴァの戦闘に転用することが可能となります。」
「ふーん……」
「これは、いうなれば機動戦士ガンダムといったアニメ番組における、
なぜ人型の兵器が必要か、という議題において僕なりの回答がこれなんです。」
「……アニメ?」
日向は立ち上がり、再び眼鏡のズレを直して続ける。
「なぜ人型の兵器が必要か。移動するなら二足歩行よりもキャタピラの方が安定します。
装備については複雑な指の稼働を実現するよりも、直接、本体に取り付けた方が効率的です。
そう考えれば人型装備などというものは不要ではないかとも考えられる。
ですが、人型というのは自然界の様々な状況から生き抜いてきた生物の、
いわば完成形態の一つというべきスタイルであり……」
「言いたいことは判った。ちょっと待ちなさい。」
強引なミサトの遮りに、日向はハッとなって我に返ったようにストンと腰を下ろす。
「ふーん……」
と、書類を両手にして考えるミサト。
その彼女の回答を待つ日向。
そして、その時であった。
224 :
35:2008/06/04(水) 19:19:05 ID:???
ぷるるるるる……
ミサトの携帯電話のようだ。
「日向君、ちょっとまってね……ああ、加持?どしたの?
ん……うん……うん……うーん、リツコは近くにいる?代わって。ああ、リツコ……」
どうやら何かのトラブルらしい。
電話を終えてピッと携帯を切り、ミサトは立ち上がる。
「日向君、悪いけど今日はここまで。書類はまとめて置いといてちょうだい。それ、コピーよね?
それから、」
「あ、はい。」
「使徒を攻撃して破壊し、殲滅する。それが私達の仕事。
予算の問題もあるけど、その物理的手段を用意するだけでも精一杯。
似たような武器ばかりをスタイルだけ変えてたくさん用意できるような余裕はない。」
「……はい。」
「両手、片手、そして打撃に銃撃。その組み合わせぐらいなら、ある程度は用意した方が良い。
もっと押さえた立案なら悪くないわよ、日向君……じゃ、これで。今から本部に戻るから。」
「今からですか!?」
「うん。日向くんは良いわ。リツコの技術部の問題だから。それじゃ、お休みなさい。」
と、ミサトは立ち上がり、手早く身支度を済ませて玄関の扉をバタン。
「……。」
日向は改めて椅子に腰を下ろす。
そして眼鏡を外して眉間をもみほぐし、大きな溜息。
「なんか……俺って一人で盛り上がっていたような……はは。」
225 :
35:2008/06/04(水) 19:20:25 ID:???
そんな独り言をつぶやく日向の素顔。
普段の少し三枚目な彼とは少し違う、その寂しげな横顔は意外にも端正で整っている。
どうにも眼鏡のお陰で割り引いていると言えなくもないのだが……
しかし、眼鏡は体の一部です、とはよく言ったものである。
それもまた彼の性格なのだろう。
そして眼鏡をかけ直し、やるせない気持ちと一緒にトントンと書類をまとめていた背後から。
こぽこぽ……
「ん……?」
振り返ると、そこにアスカが立っていた。それはカップにコーヒーを注ぐ音だった。
そして日向の目の前にコトン。
「日向さん、お疲れ様。がんばって。」
と、にっこりウインク。
「ああ、ありがとう、アスカ。」
と日向は笑って請け合い、コーヒーを口にした。
そして、アスカはミサトが座っていた日向と対面の椅子に座る。
ねえ、ちょっとみせてよ、だめだよ、まだまだ機密なんだから……
そんな軽やかな会話で微笑む二人。
日向が上手くいく、ミサトと日向、そして加持がフリーに。
などという、つまらない計算をアスカがしていないと思いたい。
アスカの意外なもてなしを受けて、日向は軽やかな足取りで葛城家の食卓を後にした。
(完)
226 :
35:2008/06/04(水) 19:21:27 ID:???
おわりー
日向さん短くてごめんなさいー
このさりげないアスカがすげえいいな!
ちょっとしか出てないのに俺的には脇役アスカが主役日向を食っちゃった
で、青葉をぜひ
228 :
35:2008/06/04(水) 22:08:24 ID:???
ごめん青葉はまだ思いつかないー
とりあえず、やっつけでゼーレの皆さーん
229 :
35:2008/06/04(水) 22:09:32 ID:???
「ふわ……」
どてっ
シンジの顔から正気が抜け落ち、そして椅子からドサッと床に転げ落ちた。
左手に茶碗、右手に箸を持ったまま。
同居人であるミサトとアスカは同席していたが、しかしどちらもシンジを助け起こそうとはしない。
ミサトは背もたれに体を反らせ、アスカは徐々に机にうつぶせに、
それぞれシンジと同じように気を失って居たのだから。
がちゃっ、がちゃがちゃっ……
続いて、玄関の扉から妙な音がする。
そして最後にガチャリという音とともにガスマスクを付けた数人の男達が侵入。
鍵をこじ開けたのだろう。しかし、扉をまったく壊さない見事な手並み。
そして3人の意識が無いのを確認した後、ガスの効果の消失をみずから試すためだろうか。
ガスマスクを外して互いに頷きあい、新たな侵入者を招き寄せた。
それは重厚な服装を着込んだ老人達。
これぞまさしく世界を裏で牛耳るゼーレの面々である。
「ふん……なかなか、小綺麗に片付いているではないか。」
「ある程度の調べはついている。
この部屋の家事を司る者はカツラギミサトでも、このセカンドチルドレンでもない。」
「左様、この碇の息子の手並みかと……さて、各々方。
可及的速やかに、この少年の人となりを推し量らねばなりませんぞ。我々の宿願のために。」
などと重い口調で語り合い、台所を吟味する面々。
その間をのっそりと入ってきた人物。ゼーレの筆頭、キール議長であった。
230 :
35:2008/06/04(水) 22:11:11 ID:???
キールが食卓の中央まで進み出る中、ゼーレの面々達による吟味はまだ続く。
「男子にして細やかに家事をこなす。男尊女卑の今だ根強いニッポンの国において、
そしてこの年齢でそれが出来るとは大した物だ。同居人の女性二人を押さえてな。」
「が、そう褒められたものでもないですぞ。」
そう反論した者が、スッと戸棚を指でぬぐってみる。
「見ろ。一見、掃除が行き届いているように見えて、隅々までは行き届いては居ない。
小綺麗に見えて実のところは建物と家具が真新しいだけにすぎん。」
「左様、料理一つの出来具合だけでも、この少年の気心が知れてくるというもの……」
そう言いながら、ことさら年配の老人が鍋のふたを取り、シチューらしきものに指を突っ込んだ。
他の面々がその様子に振り返る中、老人はシチューの具材をつまみ上げてペロリ。
「フン……ほむ……火の通しはいい加減、そして塩味が勝ちすぎる。
かよわき少年の姿の中に、荒れた自我の内面が手に取るように……」
「貴公。」
つまみ食いする老人のほうに、大きな体つきをした別の者が詰め寄る。
「んぐ?何か、ワシの見立てに誤りがあるとでも?」
「そうではない。貴公、ゼーレの随員にあるまじき振る舞い。
このような下等な料理に素手でつまんで食するなど言語道断。」
「な、何をいうか。ワシは詮議のために味見を……」
「ふん、あさましい言い訳など聞きとうない。
貴様など、ゼーレはおろかこの世から除名してくれるわ!」
「ま、待て!ワシは、この評議会でもっとも古参の……」
「前々から貴様のかん高い声が気に入らなかったのだ!
貴様など禊ぎの前に地獄に送り込んでくれる!」
プシュッと何かを首筋に打ち込まれ、その老人は床に崩れ落ちた。
231 :
35:2008/06/04(水) 22:12:42 ID:???
キール議長は白いまなざしを向けたきりで、今の出来事に動じた様子もない。
ただ、ジッとシンジの顔を見下ろすばかり。
「如何ですかな、議長……」
と、声をかけられ、キールはようやく顔を上げた。
「別段、何も言えることはない。あえて言うなら、悪くない仕上がりだ、というべきか。」
「ほう……貴殿みずから、この少年を作り上げた、と。」
「何、私が手塩にかけた訳でもない。これの父親にそう仕向けさせただけのこと。
その父親だが……この少年に比べて良い出来では無かったな。皆には手間をかけるぞ。」
「……あの碇ゲンドウ。どうやら姑息な真似をするようになった。実に油断ならぬ。」
そのやり取りを受けて、他の者共も色めき立つ。
「確かに。あやつめ、我々から全てを掠め取るつもりらしい。」
「面妖な。リリスとアダム、そしてロンギヌスの槍をもあの男が押さえているとなれば。」
「致し方ない。少々手荒な手筈を勧めておくにこしたことはありませんな。」
この数名の老人達の対話一つで、数百数千の運命が左右されるとは誠に恐ろしい話である。
少年とその父親の人生、そしてNERVの数百数千の命、そして……
あるいは世界を牛耳る者共というのは、まさしくこういうものかもしれない。
やがて詮議を終えた老人達は、次々と玄関をくぐり立ち去る中で、
キール議長ひとりが尚もシンジを見下ろし、何かを考えていた。
そして、ふと台所の方に目を向ける。
先程、始末された老人の一人が味見していた鍋、その蓋を自らもまた開けてみる。
232 :
35:2008/06/04(水) 22:14:19 ID:???
「似ても似つかぬ。あの碇ユイという娘、実に気だての良い少女だったのだが。
やはり人は血筋ではなく、生い立ちで決まる。この鍋こそがそれを物語っている。」
鍋をゆっくりとかき回し、少し味を見ながらキールはつぶやく。
何を思ったのか、なにやら流しの下を探り取り始める。
取り出したのは料理酒らしい。それを少し振り入れて火にかけ、さらにスパイスを少々。
再び味見。
「ふむ、これでいい。やはりこの少年のすることは何かが欠けている。まさしく……」
そして、ようやく玄関の方へとキールは向かう。
「まさしく、儀式のよりしろにふさわしい……ムハハハハ……」
侵入の手筈を整えた数名の側近が一礼する間をくぐり、キールは去った。
そして。
「ふ、ふわぁ〜……ふむ……ねえ、シンジ?お代わり……あれ?」
と、目覚めたアスカがシチューの皿を突き出してから、初めて目の前に居ないことに気付いた。
「あれ?シンジ、どこに消えた……もう、いきなり床でなに横になってんのよ!」
「ん、ふわ……あ、ああ、アスカおはよ……」
「お早うじゃない!今は晩ご飯の途中でしょ!?ほら、お代わり次いで!」
「ふわーい……むにゃむにゃ……」
「ったく……あれ?ミサト、ちょっと起きてよミサト!」
「ほっとけば?疲れてるん……くわ……」
「こら!寝ても良いけど、お代わり次いでからにしてよね!ほら、次いだら貸して!」
「う、うん……あれ、この香り……」
「何よ……(もぐもぐ)……えええ!?何これ、味が全然ちがうじゃないの!」
「ホントだ……うえっ、まずぅ……」
(完)
233 :
35:2008/06/04(水) 22:15:08 ID:???
おわりーホントにやっつけでごめんー
乙w
次回はギターを担いだ青大将に期待してるよw
ども、キールや日向をリクエストしたわがまま君です
乙です。規制でまだ日向までしか読めてないけどww
控えめなアスカか〜
自分的には、「日向君ガンバレ!アスカとシンジの凸凹(?)バックアップ、ラブラブ大作戦(わったしに、まっかせなさーい!)」みたいな、アスカはノリノリ、シンジはオドオド、ミサトはメーワク顔みたいなストーリーを予想してたんですが…気持ちよく、裏切られましたねww
これもアスカだよな〜って
前に、「他人が作ったキャラを差し引いて…」て、書きましたが、完成された、キャラや世界観を崩さずリクエストに応じて本編の隙間を縫って、話作るのは、制約が多く、ある意味オリジナルキャラで作るより、難易度が高い作業なんでは?と思えてきました。
キャラも少なくなってきたし、つぎのリクは、「元ねぶかわ在住で、セカンドインパクトの講義する先生」かな(笑)
236 :
35:2008/06/05(木) 00:33:03 ID:???
できたー
237 :
35:2008/06/05(木) 00:34:03 ID:???
『それでは伝説のバンド、ホットペッパーズの演奏VTRをご覧下さい。
♪じゃーん、じゃかじゃかじゃかじゃか……』
そのテレビのVTRを嬉々として指し示すシンジ。
「ね?似てるでしょ?この人が……」
それに対して、ミサト以下NERVスタッフの面々は口々に批評する。
「似て無くも……ないけれど……」と、ミサト。
「私、こういう曲とか判らないんだけど……碇君て、手広く聞いてるのね。」と、ヒカリ。
「このバカは音が出りゃなんでもいいのよ。シンジの思いこみなんじゃないの?」と、アスカ。
「このバンドは知ってるわ。すっごく売れてたから。でも……本人なら大変よ?」と、リツコ。
「あ、ほら。背丈とか、スタイルとかもすっごく似てますよ。ね?」と、マヤ。
「いやぁ、ブーツ履いてるしグラサンかけとるし、これじゃ判らんで。」と、トウジ。
「俺もわかんないよ。ね、ね、日向さん。次の出撃は何時なんです?」とケンスケ。
「使徒が何時来るかなんて判らないよ。あ、ビールもう一本いいです?」と日向。
「はーい、じゃんじゃん飲んでねー♪」と、ミサト……
「もう、話がそれてますよ!だから、この人と……」
と、シンジは少し怒り出す。
「絶対、このベーシストがそうだと思ってたんだけどなぁ……」
さて、ここは葛城家の居間。
テーブルの上にはスナック菓子につまみ、ビールから様々な飲み物が並べられ、
NERVの面々からシンジやアスカの友達まで、みんなそろってのホームパーティー、
いやさ飲み会の真っ最中である。
加持、日向にビールを手渡しながら、
「シンジ君、本人に聞くのが一番早いんじゃないのか?」
238 :
35:2008/06/05(木) 00:35:12 ID:???
しかし、日向は首を振る。
「今日はあいつが貧乏くじでね。管制塔で待機中。」
シンジ、少し驚く。
「あれ?そうなんですか。来ると聞いてたんだけど。」
ミサト、少し怒って、
「来るぅ?マジで?あいつ、当番サボるつもりなの?」
マヤ、少しキョトン。
「えー?私、お疲れ様って声掛けたとき、そんなことは言ってなかったですよ?」
日向、うなずく。
「確かに、当番を放りだしたら即クビですよ。総司令執務室の呼び出しがオマケ付きで。」
アスカ、身を乗り出し、
「ね、ね、それってどんなところ?アタシ、いっぺんで良いから見たいと……」
シンジ、今度はさらに怒って、
「もー、だから話を別のところにもっていかないでってば!だからぁ!この人と……」
パリパリ、とレイがポテチを食べる音が鳴り響く。
その有様を見て、リツコは笑ってシンジの両肩を抱いてなだめる。
「ウフフ、落ちついてってば。でもね、シンジ君。
このバンド、確か私の母が学生の時に流行っていたのよ?
年齢がまるで合わないし、とても彼とは思えないんだけどナ……」
「へ……」
と、シンジはキョトン。
「だから、大変なことだと私は言ったの。
シンジ君?もし、あのベースがそうだとしたら、彼の年齢は碇司令よりも上ってことになっちゃうわよ?」
それを聞いて呆然とするシンジ。
「あの僕はその……だから、この人と……」
239 :
35:2008/06/05(木) 00:36:12 ID:???
「だー、シンジの勘違いかよ!」
「このバカシンジ、年代の違いぐらい区別つけなさいよね!」
「いや、でも無理ないですよ?スタイルとか結構にてる……」
「せやけど、ミュージシャンって似たような格好するし、しゃーないんちゃう?」
「そーねぇ、彼もこのベースの人に憧れて色々真似たんじゃないの?シンちゃん。」
「いや、だからぁ!」
シンジ、ついに切れたか?テーブルをドン!
「年代の違いぐらい判ってますよ。みんな口々に喋るから、最後まで喋れなかったんです!
このベースの人が……ん?」
ぴんぽーん
「あ、来たかな?はーい……ああ、やっと来てくれた。冬月さん、このビデオに出てるの、冬月さんでしょ?」
はい、全員。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
レイ、ポテチをぱりっ。
さて、遅ればせながら参上した冬月副司令、ビデオを見て大笑い。
「アッハッハ!もう、30年近くも前になるよ。よくこんなものを見つけてきたね、シンジ君。」
「や、やっぱり冬月さんでしたか!すごいなぁ!」
「いや、私など大したことはないんだよ。他のメンバーが優秀でね。
途中で学問の道に入るために脱退したんだ。」
「そうだったんですか……」
「それに、セカンドインパクトの折、メンバーのほとんどが……」
240 :
35:2008/06/05(木) 00:37:26 ID:???
興味津々のシンジに、切々と語る冬月教授。
それをシラッとした目で見つめる他のメンバー達。
「副司令なら副司令って初めからいいなさいよ、あのバカシンジときたら……」
「でも、シンジ君て凄いですね。こんなビデオから副司令をみつけるなんて。」
「いやはやまったく、大した眼力だな。見直したよ。」
「でも、最初に副司令の名前だせばいいのに。」
「そうねぇ、話をする順序が少しまずかったかナ。」
「あー、でもシンちゃんてば、身の危険を判ってないな?こっから長いわよ、副司令の語りは。」
「でも碇君すっごく嬉しそうだし、大丈夫そう。」
「ホント、マニアってこれだから。」
「……お前がいうなや。」
誰が何を言ったのかは判らないけど、
レイは一人、関心なさそうにポテチをパリパリ。
はてさて、話題になりそうでなり損ねた当の本人と言えば、自由気ままな当番中。
イヤホンをこっそり耳にして、エアギターをジャン♪
「いいねぇ、ホットペッパーズ。このベースがまた……」
(完)
241 :
35:2008/06/05(木) 00:37:56 ID:???
はい、やっつけごめーん
ロン毛の扱いはこの程度でー
242 :
35:2008/06/05(木) 00:48:04 ID:???
>>235 更新、押してなかったorz
でも、ありがとー
うーむ、先生かあ……それは盲点だった。
ども、わがまま君です
青葉君読みましたww
にやけ顔で書き込みww
自分の予想は、短い期間で、世界のヒットチャートのトップにまで、駆け上がり、惜しまれつつ突然解散した、
反体制、反社会のメッセージを売りにしたバンドのベースに青葉が似てるって、シンジが騒ぎ出して、皆で青葉君を呼びつけて、問い詰めて、白状させ
アスカに「ドイツでも、人気だったし、大学の友達も熱狂的なファンで、私もちょっとだけ、聞いてたな〜ハート」と言わせ、ミサトにすら、「世が世なら、青葉君で玉の腰ってのもありじゃんwwハート」って、思わせといて、
シンジ質問「なんで人気絶頂で解散しちゃったんですか?」
青葉「いや〜ネルフ受かっちゃって、あの業界先見えないし、その点、国際公務員って、つぶれないし、給料いいし、退職金は多いし、構成福利も充実してますからね〜」で、一同ドン引き、チャンチャン
だったんだけどね…冬月か…意外すぎるww
244 :
6:2008/06/05(木) 01:48:00 ID:???
物笑われにはなりたくないな、と常々思ってきたのだが、最近違う懸念が一つ。
>>217など見るにつけても、俺、何かみんなを騙してるんじゃないかっつうか、
この小説のジャンル誤解されてんじゃないかというような不安が…。
でもまあどちらにせよ今は進むしかないので、眠気とかスレの流れとかをぶっちぎって、
続きやらせてもらおうかと思う。
では、35の規制明けを祝いつつ、投下。
245 :
LAS62:2008/06/05(木) 01:49:32 ID:???
しかし、呆然としていたのは一瞬。
(落ち着け。本物なら、こんな風に宙に浮いているはずない。
アタシがコイツのことを苦手だったのを知って、姿を模倣してるだけ。
きっと、そう。そうじゃなかったら…)
それ以上の思考を振り払い、アスカは戦う意志を固める。
(強気に、いく。弱みは見せないわ、絶対)
ATフィールドで作った足場を確認。
――安定している。やれる。
そう確信を抱いて、自らの攻撃性を研ぎ澄ます。
罪悪感や逡巡に、シンジを取り戻すチャンスを逃さないために。
「ハン! 量産型の兵器の次は、量産型のお人形ってワケね。なかなかシャレが利いてるじゃない!
……だけどね」
勢いのある言葉で何より自分自身を鼓舞しながら、弐号機は、LCLの海に右手を挿し入れる。
「今のアタシに、冗談に付き合ってるヒマはないのよ!」
叫びと共に抜き出したその手には、プログレッシブナイフが握られていた。
抜き出した勢いそのままに、ナイフをレイに叩きつける
「よしっ! 直撃!」
勝利を確信して、アスカが弐号機の中で歓声を上げる。
しかしナイフは、レイのわずかに手前で止まっていた。
「ウソッ! コレって、ATフィールド? 人型のまま展開出来るなんて、反則じゃない、そんなの」
もう一度、刃を叩きつける。しかし、歯が立たない。それどころか握りが解けてナイフが手から抜ける。
(フィールド中和距離には、とっくに届いているはずなのに…!)
246 :
LAS63:2008/06/05(木) 01:50:11 ID:???
いくら足元のATフィールドを維持しながらだといっても、
エヴァ自体の腕力と合わせてもレイのATフィールドを壊せないことは、
アスカのプライドをいたく傷つけた。
「アタシの心が、この人形に劣ってるって言うの?! 認めない! アタシは、認めないわ!」
なりふり構わず、拳を叩きつける。弾かれても、その度に拳を振り上げる。
「どけ! どきなさいよ、人形!」
何度も何度も殴りつける。しかし、レイのATフィールドは揺るがない。
(目の前に、すぐ目の前に、アイツがいるっていうのに…)
アスカの中にほんの少しだけ残っていた冷静な部分が、こだわっている場合ではない、と告げる。
「くっ…! 敵を避けるのは、流儀じゃないけど…!」
バックステップ。距離を取って、わずかな助走から、跳躍。
弐号機は、軽々とレイを飛び越える。しかし、
「ウソ! 読まれてた?!」
着地点には、既にレイがいる。その手前には、ATフィールド。
自滅してください、と言われているようなものだ。
「こな、くそぉおお!」
ムリヤリな機動で空中で姿勢制御。着地の足をドロップキックに変える。
アスカ苦心の一撃はレイのATフィールドと激しく干渉し、しかし、やはり弾かれる。
「く、うぅ」
背中から無様に転げながらも何とかATフィールドを展開。海に沈むことだけは免れる。
だが、成果はあった。
「…っ!」
一瞬だけ、弐号機の攻撃を受けたレイが、わずかに顔を歪めてよろめいたのだ。
「何よ、効いてるんじゃない」
アスカの顔に、ようやく笑みが戻る。
247 :
LAS63:2008/06/05(木) 01:51:33 ID:???
(ママ。アタシに、もう少しだけ力を貸して!)
アスカは気持ちを新たに、冷静さと集中を取り戻して、
それでも、やれること、やるべきことは、あまり変わらない。
拳を振り上げ、叩きつける。レイが倒れるまで、何度でも。
「…く」
激しい連打に、レイが顔をしかめた。
さっきまでのがむしゃらな攻撃と違い、一撃一撃の威力は上がっている。
(このまま押し切れば…!)
そう、アスカは思った。なのに、
「…ぅ、う」
そこからが、なかなか続かない。レイは痛みに顔を歪めながら、決して退こうとはしない。
それがアスカを焦らせる。この奥にいるシンジへの懸念だけではない。目の前にいる相手に対して、
認めたくない思いを抱かせる。
「こ、のぉおおおお!」
だからアスカは吼えた。
自分の前に立ち塞がる全てかき消すように。
一つ一つの攻撃に、言葉と、想いを乗せるように。
「いい加減に、観念しな、さいよ! アタシは、アンタに構ってる、ヒマなんて、ないの!
アタシは、シンジの、所に、行くんだから!!」
その連打の最後の一撃が、レイのATフィールドをたわめた、その時、
「――ダメ。碇くんのところには、行かせない」
初めて、レイが、口を開いた。
248 :
LAS65:2008/06/05(木) 01:52:48 ID:???
思わず、アスカの手が止まる。
「……アンタ、本当に、ファーストなの? それとも、この海に作り出された偽物?」
訊かなくてもいいことを、問いかけてしまった。
「偽物? さあ、わからないわ」
そっけない態度は、まるでいつものまま。
「分からないって…。そんなワケないじゃない。自分のことでしょ!」
「自分のことはわかっているわ。ただ、あなたの質問への答えかたがわからないだけ」
アスカの言葉に、首を小さく左右に振って、否定の意を示す。そして、
「わたしは『これ』の一部。でも、『これ』の全てがわたしではないわ」
レイは『これ』と口にしながら、海を指差した。
「碇くんが、『わたしたち』の中に飛び込んだとき、わたしはわたしになった」
「わたしが、わたしになる…?」
疲労の蓄積し、鈍磨した頭を必死で働かせた。
そんなアスカの様子を斟酌せず、レイは「ええ」と首をうなずかせる。
「『これ』が碇くんを碇くんとして、他者を他者として受け入れたとき、『これ』はひとつではなくなった。
『これ』の中に、生命が生まれたの。それぞれの意志が、分かれた。そのひとつが、わたし」
飛び級で大学を卒業するほど頭の良いアスカだが、レイの言葉は解読困難だった。
扱う事象が抽象的であったり巨大であったりすることより、単にレイに苦手意識があるのかもしれない。
(……つまり、海に統合された意識がまた分裂して、独立し始めたってコト?)
それでも何とか自分に必要な情報だけを拾おうとする。
(現象のトリガーはシンジとして、その発現の条件は何? ……自我の強さ、ではないはず。
今まで出てきたのはたぶん、全てエヴァや使徒と関わりが深かった。その辺りに条件があるの?)
「ファースト、アンタは何で出て来たの? この海にいる奴全部が外に出たワケじゃないんでしょ?」
レイの視線が、肩越しに後ろに移る。そこは、アスカの目的地。つまり、シンジがいる場所。
「碇くんが、また泣いているような気がしたの。だから…」
249 :
LAS66:2008/06/05(木) 01:53:57 ID:???
言葉の足りないレイの台詞は、しかしアスカに悟らせる物があった。
(それだ! 目的意識! 混ざって一つになったままでは果たせない願いを実現するため、
分裂して実体化する。でも、外にいるのはアタシとシンジだけだから、海の中で叶えられないことなんて、
アタシたちに関係する人が、アタシたちに関係することを願うくらいしかない。
……これで一応、筋は通るわ)
なら話は簡単だった。
「ファースト! アンタがどうしてアタシを攻撃してきたかは知らないけど、ここは一時休戦よ」
「…どうして?」
「どうして、って、状況見なさいよ! シンジが変なのに連れてかれたのよ!?
アタシはアイツを助けたいの。だから、アンタも力を貸しなさい!」
自明の論理。レイもうなずくに違いない。アスカはそう思っていた。しかし、
「それは、ダメ」
間髪入れずに拒否される。
「どうしてよ! アンタもシンジを使って何かしようって言うの?」
「いいえ。でも、ダメ」
強硬に否定される。レイの目的はシンジではないのか、そんな疑念が一瞬アスカの頭に浮かぶが、
それが形になる前に、彼女自身がその答えを口にした。
「これ以上、あなたのエゴに碇くんをまきこむわけには、いかない」
「…なっ!」
唖然するアスカに、レイはそれこそまるで、自明の論理とでも言うように、
「碇くんは、わたしが守る」
何でもない、当たり前のことのように、そう口にする。
――だが、その瞬間にようやくアスカは悟った。
目の前に浮かぶこの綾波レイという少女は、何者かに操られてここにいるワケでも、
アスカやシンジという存在に引きずられ、成り行きでここにいるワケでもない。
強い願いを持つ一人の人間として、自らアスカの前に立ちはだかったのだということに。
>>242 控えめ=グッドですよって意味
ちなみに、自分が考えた日向ネタ
平日の朝、助手席にバラの花束を載せ、歩道に歩いてる、学生を横目に、ミサトのマンションへ向かい車を運転してる日向。
いつになく真剣な、思いつめた表情で
「今日こそ…言うぞ。ミサトさんと僕のシフト、シンジ君の学校のデータベースに侵入して調べた開校記念日、運動会、父兄参観事業の代休…今日しかないんだ、今日しかないんだ…」
程なくして、ピンポーン「ハーイ(はもり)」
日向「??」慌てて、後ろに花束を隠しつつ、「なんで…いるはず無いのに…」
ガチャン「あれ?日向さんどうしたの?こんなに朝早く?(はもり)」
「なんで、シンジ君たち…が、学校は?」
シ「神奈川県民の日だよ」
ア「公立の小中学校は休みなんだって〜、私立はやってるらしいけど」
ア「あれ、花束?」
シ「あっほんとだ〜良かったね、アスカ。バラの花好きだって言ってたじゃん、居間に飾ろうよ」日向「……」
ア「はぁ、シンジあんたバカ?……(これって、ミサトのよ…ね…もしミサトと日向さんが、うまく行ったら…梶さんはフリーに…でも、この様子じゃ…動揺しまくりだし…これじゃあ上手くいくわけ無いわね…)」
シ「ばかは無いだろ〜」
ア「…(やるか)日向さん、シンジこっちへ、話があるの」みたいな流れ
職人には、なれないね(泣)
251 :
LAS67:2008/06/05(木) 02:26:49 ID:???
(何よそれ、それじゃ、アタシが悪者ってワケ?)
一瞬の自失から立ち直ったアスカに芽生えたのは、怒りにも似た反発心だった。
(アタシとシンジの間に、何があったのか、何にも知らないくせに!)
そんな自分でも理屈の分からない苛立ちが、アスカの言葉を猛らせる。
「エゴだとかなんとか、そんなこと言ってる場合じゃないのよ!
アンタ、今がどういう状況が分かってるの!? 今、シンジは…」
「だったら、あなたはわかっているの?」
「そ…!」
反問されて、再び言葉を失う。
「碇くんは今、選択しようとしている。
世界をどうするのか、その世界でどうやって生きていくのか。
それを邪魔する権利は、だれにもない」
しかも言われたのは、アスカには理解も納得も出来ない次元の話。
「ま、待ちなさいよ! それじゃ、アレはどうなの?
あの初号機に、アイツを邪魔する意図はないっていうの?」
最後の砦として、アスカは訊いた。しかしレイはあっさりとそれに答える。
「『あれ』はひとつにもどりたがってる。ひとつにもどりたい心が合わさった意志。
碇くんを取りこんで、碇くんにひとつになることを選択させようとしている。
でも、だれも彼に強要はできない。選ぶのは碇くん。それを邪魔する権利は、だれにもない」
それは、誰も異論を挟めないほど、確信のこもった言葉だった。
その言葉を聞かされて、アスカは……。
252 :
LAS68:2008/06/05(木) 02:28:19 ID:???
「バッカじゃないの? 邪魔する権利? ハッ! 何ワケの分かんないこと言ってんのよ!」
アスカは、迷わない。迷う理由は、ない。
「アタシが止めたいから、止める。理由なんて、それだけあれば十分でしょ。
……アイツに届けたい言葉があるの。絶対に言わなきゃいけない言葉があるのよ。
それでシンジが迷うっていうなら、存分に迷えばいいわ。
シンジの邪魔をする権利が誰にもないのなら、アタシの願いを邪魔する権利だって、
誰にもないし、させない!」
強くそう言い切って、この言葉にも、先のレイの言葉に負けない強い想いと意志が込められていると、
確信する。
そして、アスカはレイを見つめた。この言葉、想いを受け止められるのか、と言わんばかりに。
「……そう。なら、あなたはわたしが止めるわ」
レイもアスカを見つめ返す。交差する、二人の視線。レイは、
「『これ』のためじゃない。わたし自身の、意志で」
「…! くぅっ!?」
その言葉が終わるか終わらないかの内に、前から来た圧力にアスカは吹き飛ばされかける。
「フィールドを、こんな風に使えるなんて…」
必死で踏みとどまりながら、アスカは呟く。
レイがATフィールドで弐号機を押しのけようとしていると気づいたのだ。
(それに、出力、上がってる? ……やっぱりコイツ、人形、ってワケじゃないのね)
アスカに小さな逡巡が生まれる。
いくら嫌っていたとはいえ、かつて肩を並べて戦ったこともある『仲間』に刃を向けていいものかどうか。
(せめて、もう少しだけでも説得を試みるべき?)
そんな選択肢は、しかし、次のレイの一言で吹き飛んだ。
「…もどって。あなたは、碇くんにふさわしくない。あなたは、彼を不幸にするわ」
もしかすると、挑発のつもりだったのか。
軽く聞き流せる、その、なんでもないはずの言葉が、奇妙にアスカの胸をえぐる。
それと一緒に、良心とか、仲間意識なんて物も、取り去っていった。
「アンタが……、アンタがアイツを、語るんじゃないわよ!!」
弐号機の前面にフィールドを展開。拮抗させ、押し返す。
二人の間で激しく干渉し合ったATフィールドは、弾けて、霧消した。
253 :
LAS69:2008/06/05(木) 02:28:56 ID:???
しかし、フィールドを使った戦いでは自分に分がないことを、アスカの冷静な部分は認めていた。
だから素早く左手で海をさらい、プログナイフを持って両手で構える。
「ファースト! アンタとは、ここできっちり決着を付けておかなきゃならないようね」
対して、レイは自然体。弐号機の胸元くらいの高さに浮いたまま、構えもせずに、
それでも決して弐号機から視線は逸らさない。
「かまわないわ。碇くんが考える時間がかせげるなら、それで」
意図したものなのか、どうか。けれどその台詞が、アスカの導火線に火をつけた。
「そういう澄ました所が気に入らないって言ってんのよ!」
プログナイフを持った両手を突き出しての一撃。
(大丈夫。ATフィールドの出力では負けていても、
エヴァの力とプログナイフの威力が合わされば……勝てる!)
しかしそれは、正面ではなく、斜めに展開されたATフィールドで軽くいなされる。
アスカの弐号機は、たたらを踏むように斜め前に体を流されて、
「考えていた展開とは違うけど……これならっ!」
流れた勢いのまま、シンジの元へ向かおうとする。
だが、そんな弐号機の体が、突如ガクン、と傾いた。
「しまった! 足元のフィールドが中和されて…」
足場をなくした弐号機は、ずぶずぶと海の中にはまり込んでいく。
(走り出そうとして、片足に重心をかけた瞬間をやられた…。
まさか、ファーストは初めからこれを狙って…?!)
だが、その時になって気づいても遅い。
アスカは弐号機をばたつかせ、必死で海の上に這い上がろうとするが、果たせない。
何とかATフィールドを展開しようと思っても、ATフィールドの展開能力は完全にレイが上。
完璧に中和され、どれだけもがいても沈降を防げない。
254 :
LAS70:2008/06/05(木) 02:29:54 ID:???
(……だったら!)
もがくことを諦め、腕を伸ばす。目標は、ただ一つ。
「――ッ!?」
弐号機の近くを無防備に浮かぶ、レイ本人だった。
さしものレイも、弐号機のATフィールドを中和しながらでは、
弐号機の握力から自分を守るほどのATフィールドは展開出来ない。
「…ぐうっ!」
レイがうめき声をあげる。
すぐにレイの体にATフィールドが張られ、弐号機の手は弾かれた。
しかし、
「恨むんなら恨んでもいいわ。殺すつもりでやったもの」
アスカは手加減しなかった。今更フィールドを張ったとしても、受けた傷は治せない。
もしかすると骨も折れているかもしれないし、内臓も傷ついているかもしれない。
どちらにせよ、レイはもう戦闘不能だ。
「シンジ。今、行くから…」
もう一度、海の上に立つ。
そしてその足を前へ。シンジの、所へ。
「……ぐ、ぁっ!」
弐号機の足を三度止まらせる、強烈なプレッシャー。押しつけられる、上からの圧力。
「……いかせ、ない」
振り向くと、そこにはレイがいた。
ぷらんと垂れ下がった左腕を右手で庇いながら、それでも燃えるような瞳でアスカを睨みつけている。
「へ、ぇ。アンタ、意外と、根性あるじゃないの」
アスカの口元に、引きつった笑みが生まれた。
255 :
LAS71:2008/06/05(木) 02:39:42 ID:???
「ずいぶんと、人間らしい顔になってきたじゃない。そんなにアイツが、シンジが、大事なの?」
上から力をかけられ、弐号機の体が再び海に沈んでいく。
それでもアスカは、不敵な表情を崩さない。
「あなたが行けば、彼は迷うわ。選ぶべきではない道を、選んでしまうかもしれない。
それは、ゆるされないことよ。だから…」
言葉と共に、上からの圧力が強まる。足元のフィールドが耐え切れず、弐号機が、沈められていく。
アスカは対抗して、海面へのフィールドの強さを強める。そのまま立ち上がって、押し切ろうとする。
上下同時にフィールドを出すなんて器用な真似は出来ない。やれても、すぐにパワー負けする。
「今日はずいぶん饒舌なのね、ファースト。なんでかしら?」
そう話す間にも、強烈な重みがアスカを責め苛んでいる。
防御に力を割く余裕はない。けれど、このままではアスカが潰れるのは時間の問題だった。
それを押して、あえてアスカは口を開く。
「まるで人形みたいな、鉄面皮の優等生。誰に対しても無表情無反応。だけど知ってるのよ。
シンジにだけ、アンタが時々ドロッとした嫌な視線を向けてたこと!」
「……わたし、は」
言葉に詰まるレイを確認し、アスカは笑顔で歯を食いしばる。
(まだ、効果は出てなくても、レイを崩す突破口はここにある。
だって、ファーストはシンジのためにここに出て来た。
今のファーストの頭の中には、純化されたシンジへの感情がうずまいているはず。
いえ、たぶん、それしかない。だから、それさえ崩せれば…)
そう考えながら、こんな状況にあって、想いに打算を交える自分の汚さに唇を噛む。
(アタシはファーストほど純粋にはなれない。でも、もうそれを恥じはしないわ。
素直になるって、そのままでシンジにぶつかってみるって、そう、決めたんだから)
256 :
LAS72:2008/06/05(木) 02:40:34 ID:???
「う、くぅ…」
とうとう、アスカの口から堪えていた苦痛の声が上がった。
弐号機より先に、そのフィードバックを受けるアスカが限界に近づく。
だが、ギリギリなのは、レイも同じだとアスカは感じていた。
今は気力だけでアスカを攻撃しているが、そもそも今動けること事態が奇跡のような状態だ。
一度集中を切らせれば、もう何も出来ない。
(だから、もう、一押しで…!)
息を整え、言葉をしぼり出す。
「アタシを、シンジと会わせたくないんでしょ。だから、こうやって邪魔をしようとする!
自分が行けないから、行けるアタシを、羨んでるのよ!」
「ちがうわ。わたしが行かないのは、理由があるから。あなたをうらやんではいない」
いつもなら、かつてのレイであるなら、無視をするだろう程度の低い邪推。
だが、そこに反論があったことに、アスカは手応えを感じる。
「……確かに。羨んでるなんて言い方、間違ってたかもしれないわね!
羨んでるんじゃない。妬んでるのよ、アンタは! アタシを!!」
口にする言葉は、全てデマカセだ。ブラフもいい所で、確証なんて何もない。
だが、レイを突き崩すための材料をそれ以外に持っていないという現状、
それがレイを動揺させているという事実。そして何よりも、口に出した瞬間、
それが事実であるかのように、意外にもしっくりとくる感触が、アスカの舌を滑らかにする。
「教えてあげるわよ! アンタを動かしてるその気持ち、それは『守りたい』って想いじゃない。
自分に出来ないことをやろうとしてるアタシに対する、ただの『嫉妬』よ!!」
「――っ!!」
レイからの圧力が、致命的に緩んだ。
またいいところで続きは次回かー
いやいや、GJ
258 :
LAS73:2008/06/05(木) 03:00:17 ID:???
(――今だッ!)
一気に、力を込める。だが、レイからの力は緩んだどころか、
「……ぐぅ…!」
わずかな時間を置いて、さらに、強まっていた。
「関係、ないわ…」
レイの赤い目が、爛々と光る。
「あ、アンタ…!?」
「わたしの胸に、羨望や嫉妬があったとしても、関係ない。わたしが、碇くんを、守るから。
あなたからも、そして、わたしからも。……絶対に、守るから」
ズン、と圧力が増す。
「……くぁ、は」
アスカの口から押し潰された呼気が漏れる。
(しまった…。追い詰める、どころか、成長、させた…? こんなんじゃ…)
モニターに映るレイを覗き見る。
ボロボロの身体をふらつかせ、今にも倒れそうで、だけどその中で目だけが異様な光を放っていて、
なのにその実どこにも焦点が合っていない。
きっと、どこも見てはいないのだ。
弐号機への圧力が増していることにも、気づいていないに違いない。
彼女が見ているのは、想っているのは、たぶん、ただ、一つだけ。
(――敵わないわね、これは)
アスカはそっと、操縦管から手を放した。
259 :
LAS74:2008/06/05(木) 03:01:09 ID:???
不意に訪れた諦観と共に、アスカが目をつぶった時、
「………ぇ?」
アスカを押さえてつけていた力が、完全に、なくなっていた。
「どう、して…? まさか、諦めた、の…?」
振り返る。
そこには、どこか緊張の解けた様子のレイがいた。
彼女は、
「もう、おわったわ」
たったそれだけの言葉で、本当に全てが終わったかのような顔をする。
だが、アスカがそれで納得出来るはずがない。
「終わった? 終わったって、何がよ! まだ、アタシは、何も…」
しかし、レイはもう、アスカの方を見てもいない。
ただ、アスカの目指す先。
アスカが目指すはずだった、
けれどもう、
誰もいなくなったその場所を見て、
「そう、それが、あなたの答えなのね、碇くん」
あまりに穏やかに、そう呟いて。
しかし、アスカには分からない。
「何がどうなってるの!? シンジは…!」
――その瞬間、海が弾けた。
260 :
6:2008/06/05(木) 03:02:11 ID:???
今度こそ、以上で。
いやスマンね。所々投下止まっちゃって。
難しい所だから、直前に何度も手直ししてたらこんなことに。
たぶん次で最後…
261 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/05(木) 17:03:33 ID:/2Tb7Dnj
ふむむ……ラストに期待。
6氏乙
262 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/06(金) 13:22:37 ID:sdFT0IhR
シンジの誕生日に絡んだLASかLRSの小ネタキボン
263 :
35:2008/06/06(金) 20:42:08 ID:???
夜勤明けで眠いー
だからホントに小ネタでごめーん
264 :
35:2008/06/06(金) 20:42:53 ID:???
さて、シンジの誕生日が迫って参りました。
アスカ、ひとり食卓に座り、用意したプレゼント片手に脳内会議中。
「というわけで、今日の議題。シンジにどうやってプレゼントを渡すのか。
如何にしてプライドを保ったまま、あのバカに慈悲を垂れるにはどうすればいいのか。
ここで手違いがあってはアスカ様の沽券に関わるってモンよ。
……ん?べ、別にあのバカシンジから何も期待なんかしてないからねアタシはっ!」
はてさて、アスカは誰に向かって怒ってるんでしょうか。
「とりあえず、パターンA。まずは、ノーマルにね。
場所はここ、誕生日の当日にミサトと3人でご飯の時間に。」
『ほら、シンジ。お誕生日のプレゼント。』
『え?あ、ありがとうアスカ。』
『……なに?その意外そうな顔。アタシはね、同居人の誕生日をほっとくほど礼儀知らずじゃないわよ!』
「うん、まー普段のアタシらしい対応ね……ん、なんか不満なの?
では、次。パターンBはあっさりと玄関で出かけ間際に。」
『いってらっしゃい、アスカ。』
『ほら、誕生日でしょ?プレゼント。』
『え……!あの、アスカちょっと待っ』
バタン
「……なんか、余計に照れ隠ししてるみたいでイヤ。となると……
思い切ったパターンCはどうかしら。」
265 :
35:2008/06/06(金) 20:44:03 ID:???
『シンジぃ!お誕生日プレゼントと、アタシのキッス♪どっちがいーい?』
「ば、ば、ヴァカじゃないの?気持ち悪ぅ!なに考えてんのよアタシはっ!!
……よし、だったら押しつけがましいの反対のパターンD。」
『あれー?これ、僕あて?誰からだろう……アスカ?』
『知らなーい。』
「……不満なの?だから、なにを期待してんのよアスカ。もーいいわ。パターンAで決まり!
どーせ、ミサトがわざとらしく大はしゃぎするから、その間際にちょいと渡せばいいのよ。」
で、当日。
食卓にはバースデーパーティーの料理(出来合い+インスタント)が並べられ、楽しいパーティーの真っ最中。
(……よし、行くわよアスカ!)
「ほら、シンジ。お誕生日のプレゼント。」
「え、なんだろう……ええええええええええええええええええええっ!!
あのセカンドインパクトの混乱で失われ、幻と言われた荻野目洋子のファーストアルバム!しかも未開封!
うわ、わ、ぼ、僕どうしよう!こうしちゃいられない、二人ともごめんね、さっそく聞かなきゃ!
い、いや待て、今、本当に開封しちゃっていいのかな?お、落ち着けシンジ!逃げちゃだめだ逃げちゃだめ……」
シンジ、トラウマ発動の見事な大はしゃぎっぷりにクラッカー片手のアスカとミサトは唖然。
「……結局、ヴァカの行動なんて予測不可能って訳ね。」
などと、あきれるアスカにミサトはニンマリ。
「ふふ。アスカ?シンちゃんのこと、よく判ってるじゃないの。ハートに直撃の見事なプレゼントだわ。」
「……ふん。」
(ちゃんちゃんっと。)
266 :
35:2008/06/06(金) 20:45:50 ID:???
こんだけー
dクス 色々と考えるアスカが可愛かった
ども、乙
シンジのリアクションww
毎回、予想外な結末に「あれ、そうきたか〜やられた!」って感じで、楽し、悔しでサイコーです
日付が変わってしまった。せっかくのシンジの誕生日。
本当は何かしてあげるつもりだったのに、短く「誕生日、おめでとう」と言っただけ。
シンジは特に何かを期待しているふうでもなく、笑顔「ありがとう」と言った。
あのときの笑顔が余計に痛い。本当にシンジはこんな誕生日らしくない誕生日で何とも思ってないのかな。
もう誕生日は終わったんだから今更、こんなことを考えても遅いのに……。
私は大きく溜め息を一つついて、掛布団を顔までたぐりよせた。
どうしてアタシはこんなふうなんだろう。
シンジのために、なんてあれこれ考えてする自分は嫌だ。
でも、同居人としてもう少しまともに誕生日を祝うくらいのことはしてもいいはずなのに……。
素直になれない……ううん、違う。頭の中に浮かんできた言葉をかき消すように布団の中で小さく首を振った。
これがアタシなのよ、別に素直になれていないわけじゃない。
でも……やはり、何かするべきだったのでは、内心がっかりしてるでは……
なんて考えが胸の中に渦のように押し寄せてくる。
眠れない!アタシは布団を脇に押し退け、立ち上がった。
シンジって荻野目洋子のファンなの?
荻野目洋子ってところで誰?
272 :
《2》:2008/06/07(土) 00:47:33 ID:???
無言でドアを静かに開け部屋の中に入り、シンジのベッドのそばに立った。
シンジは全く気付かずに静かに寝息を立てている。
すぅーすぅーというまるで小さな子供のような優しい寝息だ。
アタシ何やってんの……?
そんな疑問が頭をよぎったが、その問いに答えを出さないまま手はシンジの体に伸び、体を揺すっていた。
「……ん、……んぅ」
シンジのまぶたが静かに開いた。
「……あれ、アスカ?どうしたのさ、こんな夜中に……?」
「……別に」
アタシの口からついて出たのはそんな言葉だった。
夜中に起こしておいて、用がないなんて、そんなのおかしいのに。
いくら何でも、これではイラッとするはず。アタシはそう思いながらシンジを見つめていた。
シンジは眠たそうに目をこするとむくりと起き上がった。
「なんで起きてんのよ……」
「何でって、アスカが起こしたからじゃないか」
シンジが小さく笑った。
「別に用事なんてないんだから寝てていいわよ」
「そんなわけにはいかないよ。何かあったんだろ?急になんか不安になったとか、悪夢を見たとか」
「残念、どっちも大ハズレよ、バカシンジ」
273 :
《3》:2008/06/07(土) 01:30:02 ID:???
「そっか。僕はたまにあるんだけどな。眠れなくなることが」
「そんなのアンタだけよ」
シンジは困ったように笑って頭をかいた。
「今、アスカが何を考えているのかわからないけど」
当たり前よ、アタシだってわからないんだから。心の中でつぶやく。
「僕で力になれるなら何でも言ってよ。12月までは僕の方が一つ年上だしね」
「急に年上ぶらないでよ、バカ」
「……ごめん」
シンジは手元に視線を落とした。でも、しょげているようには見えない。
「ねぇ……アスカ」
「何よ」
「もしアスカの抱えているものが何だったとしても、そういうのって共有した方が楽になると思うんだ。だから……」
「違うわ!別に何も抱えてなんかいない!ただ……」
シンジは先を促すこともせず、アタシをただ見据えている。
苛立つほどに優しい眼差し。心の中で何かが溶けていきそうだ。
「昨日アンタの誕生日だったのに、何にもしてあげられなくて、一応、同居人で同じエヴァのパイロットなのに……」
「してくれたじゃないか」
シンジが少し驚いたような声をあげた。
「“おめでとう”って言ってくれた」
「そんな、ただそれだけじゃない」
「十分だよ、ありがとねアスカ」
274 :
《4》:2008/06/07(土) 01:40:52 ID:???
本当に心の底から満足しきっているかのような表情。
たったの一言なのにシンジはがっかりなんかしていなかった。
正体不明の何かが胸にこみあげてきて、それがシンジの表情を見ることで熱く変質する。
「アタシは十分だなんて思ってないわ」
「でも僕は……」
「うるさいっ!」
シンジの言葉を遮る。アタシは何をしようとしているんだろう。
でも衝動が抑えられない。「いい?バカシンジ。これは全部夢よ、夢だからね」
アタシは勢いよくシンジを抱き寄せ唇を重ねた。暖かい唇、そして小刻に震えるシンジの体。
それからベッドに押し倒し、布団をかけ直してから逃げるように部屋を出た。
アタシは何をしているの……?いったい何を……。
自分で自分がわからない。
でも、別にわからなくたっていいのかもしれない。衝動に任せて自由に行動すればいい。
行動にいちいち理由なんか必要ない。アタシはアタシなんだから。
縛られない魂、chainless soul。古い本で読んだ言葉を想起し、再び自分の布団に潜り込んだ。
そして今度は数分と経たないうちに夢の世界に誘われていった。
若いユイ(達)の話できないかな?シリアス&長編ってか、エバ外伝になりそうだけど
いくら優秀でもユイ大学生でゼーレがバックにつくって違和感なかった?
で推測→ゼーレに必要な男をあらかじめ決められてて、で誘惑して、組織に引き込み、決められた年に子供産んで、その後順次エバに取り込まれて、コアになるようにゼーレに選ばれ洗脳された悲しい娘たち(キョウコ、トウジママも)なんでは?
自ら、冬月に接触する機会作って、「家庭に入るのも…」の台詞あたりから、冬月誘惑してるとも、取れるし…ならゲンドウはイレギュラー?
本編であんまり触れられてないし、ある程度設定に自由きくのでは
ユイは左様の娘だった
左様は、なんとなくイヤだな(ρ_-)o
左様より、キールの娘の方が…キールVSゲンドウ=義理父VS婿養子
世界を巻き込んだ戦いがいきなり、庶民的になるなww
278 :
35:2008/06/07(土) 05:15:34 ID:???
目が覚めたー
荻野目洋子にしたのは、
シンジがSDATで内田有紀を聞いているという情報を得たので、
2015年でそんな古いの聞いてるということは、
シンジは古参アイドルオタクに間違いない、と……
うーむ、ユイのシリアス長編は私はパスかな。
だって長編書いてたらプロバイダ規制がうざいんだもん。
シリアス思い浮かばんしw
荻野目洋子って昔の人?
280 :
35:2008/06/07(土) 05:31:51 ID:???
うん。
某動画で荻野目ちゃんがやってたという、
「かっぷすたぁ〜食べたその日からぁ〜」ってのを聞いたばっかりだったので、つい。
>>278 新しい歌手が出てきてない可能性も……
人口減ってるし
>>274 とりあえず職人乙!
ただ別に一言くらい何か……
>>278 内田有紀ww
そういえばどっかでそんな話を聞いた気もするが、
さすが色々よく知ってるな。
283 :
35:2008/06/07(土) 22:32:02 ID:???
えーと、10レス行きます。連続投下規制かかったらごめんなさいー
最初に言っちゃいますが、私は「涼宮ハルヒ」シリーズの知識が薄いので、
情報に齟齬があったらごめんなさいー
また「ハルヒ」知らない人、嫌いな人、混ぜてほしくない人、ごめんなさいー
284 :
35:2008/06/07(土) 22:32:42 ID:???
アスカ、テーブルを叩いて憤慨する。
「イヤよ!昔っから男女七歳にして同衾せずってね!」
「使徒は現在、自己修復中。第2派は6日後。時間がないの。」
「そんな、無茶なぁ……」
ここは葛城家の食卓。葛城ミサトと碇シンジが暮らすこの空間。
そこに惣流アスカ・ラングレーが割り込んできた、その夜のこと。
そして2体で連携する使徒を攻略するため、ミサトからその特訓方法の説明を受けていたパイロット二人。
シンジとアスカ、二人を目の前にしてミサトは一本のカセットテープを取り出した。
「そこで無茶を可能にする方法。二人の完璧なユニゾンをマスターするため、
この曲に合わせた攻撃パターンを完璧にマスターするのよ。6日以内に。1秒でも早く。」
もはや、パイロット達に口答えする余地はない。互いに顔を見合わせる二人。
シンジ、仕方なさそうに苦笑い。
「その……仕方ないですよ。頑張りましょう、有希さん。」
そのシンジの言葉にコクリとうなずく、長門有希。
さて、特訓の開始。
寝食を共にせよというミサトの指示に従い、二人の共同生活の幕開けである。
居間にミサトを挟んで川の字で寝ていた二人は、まったくの同時に目を開き、体を起こした。
「へ、あ、ああ……」「へ、あ、ああ……」
驚くシンジ。自分とまったく同じようにうめき声を上げた有希が体を起こしてこちらを見ている。
「あの、おはよう……」「あの、おはよう……」
まるでシンジの声にエコーをかけるかのように同時復唱する長門有希。
「いや、あのね有希さん、その、」「いや、あのね有希さん、その、」
「いや、ちょっと待ってよ。話すのまでシンクロさせなくてもいいんだって。」「……」
285 :
35:2008/06/07(土) 22:33:32 ID:???
そのシンジの言葉に、コクリとうなずく長門有希。
(もう……僕と同時に同じ言葉を話すなんて、どういう芸当なんだろ。)
と、首をかしげて頭をかくシンジとまったく同時に、首をかしげて頭をかく長門有希。
洗面台に立つ二人。
成長期で背丈が伸び盛りな中学生のシンジ。
高校生とはいえ、体が小さめの長門有希。
ほぼ同じ身長の二人が鏡に映る。
シンジ、歯ブラシを手に取る。有希もまた、歯ブラシを手に取る。
二人それぞれ歯磨き粉のチューブを手に取り、量から形状まで同じ歯磨き粉をしぼり出す。
バリバリバリ、と歯磨き開始。腕の角度から磨く順番、回数までまったく同じ。
シンジがあきれ顔で有希を見れば、マジマジとシンジを見返す、長門有希。
シンジが食パンの袋に手を突っ込めば、長門有希の手もパンを手にする。
トースターも二人で二枚を同時にセット。二人で一緒に作る目玉焼き。
パンに塗るジャムの量から、それを囓った後の形状、
目玉焼きから流れ出る黄身の具合まで、何もかもが全て同じ。
二人が部屋に戻り、寝間着から普段着に着替えるためにシンジが上着の裾をあげれば、
長門有希もまた、ゆっくりと裾をあげる。チラリと見える白い肌。
シンジ、手を止めて少し何かを考える。
いや、シンジにも良識はあったようだ。まあ、同居するミサトの目もあることだし。
後ろを向いて着替えることで、理性の危機的状況を回避した。
まあ、そんなこんなで数日後。
286 :
35:2008/06/07(土) 22:34:40 ID:???
「二人は何でここにいるの?」
「シンジ君のお見舞い。委員長は?」
「有希さんのお見舞い。」
「ふーん……有希さんって誰?」
やってきました、3バカトリオの二人とヒカリ。
「そや委員長。その有希さんってなんなん?」
「私の友達の高校生……あれ?」
「シンジと同じ、エヴァのパイロットで……確かドイツからやってきたんだっけ?どこで知り合ったのさ。」
「うん……あれ?どこでどう知り合ったのかな。同じクラス……てことは無いわね。あれ?」
と、しきりに首をかしげるヒカリだが、3バカの二人は気にとめた様子もなくシンジの居る部屋へと向かう。
「あ、いらっしゃーい。」
と、その3人の後ろから声をかけたのは、葛城ミサト。
同じタイミングで綾波レイを伴い帰ってきたところのようだ。
ぴっ……ぴっ……ぶっ……ぴっ……
ぽっ……ぴっ……ぷっ……ぶぶぶー!
さて、やってきた5人を目の前にして体感ゲームで訓練中のシンジと、そして長門有希。
「完璧じゃん。」
「やるやないか、二人とも。」
「でもおっかしい。ミスするとこまで、まったく同じなんて。」
と、笑いながらも二人を讃えるクラスメート達。
「いや、有希さんが僕に合わせてくれてるんだよ。ね、有希さん?」
とタオルで汗を拭きながら、ニッコリと相方の方に振り返る。
それに対して、コクリと頷く長門有希。
どうやら過度のシンクロは控えるようになったようだ。
それはそうだろう。あれからトイレから風呂までシンクロしていたとしたら生活に支障を来す。
287 :
35:2008/06/07(土) 22:35:37 ID:???
「補欠としてレイを連れてきたんだけど、これなら問題無いわね。」
「無い。」
あいかわらずの簡素な返答。コクリと頷く、長門有希。
ぴんぽーん!
「はーい……」
来客のようだ。シンジが小走りで玄関に向かう。
それを見送りながらミサトは改めて首をかしげる。
「うーん、しっかし何でまたこんな寡黙なパイロットばかり集まるんだろう……」
と、改めて首をかしげて二人を見比べる。
綾波レイと、長門有希。
その二人もまた、互いを見つめ合う。
「……?」
マジマジと見つめる有希の視線に、レイは反応する。
いわゆる「何か言いたそうな顔」でジッとこちらを見ていたから無理もない。
そして有希はゆっくりと右手を挙げて、手のひらをレイに向けた。
そして口を開き、何かを「唱えよう」とした、その時。
「ちょ、ちょっと何ですか!うわっ!」
玄関の方から騒ぎ声が聞こえてくる。ドスン、という大きな物音。
見ればシンジを無理矢理に押しのけて、ノシノシと長身の男子学生が入り込んできた。
それに付き従うのは、スーツ姿でスタイルの良い女性が一人。
「ねえ、キョンくん。無茶はダメよ。そんな……」
「もうそんな暇は無いんでしょ?……やばい!長門、それはちょっと待て!朝比奈さん!」
288 :
35:2008/06/07(土) 22:36:57 ID:???
「わ、判ったわ……えいっ」
キョンと呼ばれた男子学生に促され、朝比奈と呼ばれた女性が何かを操作した。
そして全てが――止まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、ここから先は俺に引き継がせて頂こう。
今、俺たちがやってきたのは2015年、だったか。
朝比奈さん(大)の手引きによってようやくここまでたどり着いた。
突然消えてしまった長門有希を追うために。
入ってきた部屋の中を見れば、俺を出迎えた中学生らしき坊やを加えて、少年少女が4人。
そしてどうやらまとめ役らしい、どこかの制服を着た女性がもう一人。
朝比奈さん(大)とほぼ同じぐらいの歳に見える。ルックス、スタイルも互角に戦えると踏んだのだが……
俺は3ポイント差で朝比奈さん(大)に軍配を上げたいね。
怖そうな目で俺を睨む顔のおかげで、悪いがあんたから更にマイナス2ポイント。
いや、こんなふうに値踏みしている状況下ではないことは重々承知している。
ここまで、ほんの2、3秒ほど費やした程度だから問題はない。
言葉で説明すれば長くなるって奴だ。で、問題の長門有希。
今、朝比奈さん(大)のお陰で時間は停止している――ように見える。
長門もまた、知っている者にはそら恐ろしい右手の平を目標に向ける、あのポーズ。
今にも人知を越える驚異の呪文を今にも唱え始めようとするその状態で完全停止した。
「本当に時間停止だけで通用するかどうか不安だったけど……どうにかなったみたいね。」
と、朝比奈さんは少し安心したように大きな胸をなで下ろし、金縛り中の長門の顔を覗き込む。
正確に言えば、時間停止とは少し違う、という説明は朝比奈さん自身がしてくれたことなのだが。
時間を完全に停止させるのは無理。それはそうだろう。
無限に広がる全宇宙の運行を止めるなど宇宙開闢時のビッグバンエネルギーを費やしても無理難題。
289 :
35:2008/06/07(土) 22:38:12 ID:???
ならば、ゼロ時間内に稼働し続ける方法を編み出せばいい、というのが装置のコンセプト。
しかし、油断なりませんよ?朝比奈さん。時間移動は簡単と言ってのけた長門のことだし、
こういう手を使う相手に対して、防御手段を何も用意していない筈が無い……
そら来た!長門め、止まってる時間の中でまばたきしやがった!
「緊急メンテナンスプログラム起動。次元非同期スレッド、稼働安定。」
相変わらず言ってる意味が判らないぞ、長門。
そしてゆっくりと突き出していた右手をおろし、無表情のままの視線が俺に向けられる……来るか?
いや、まだだ。例の呪文を使うつもりなら、勝ち名乗りなどせずに俺達のとどめを刺すはず。長門はそう奴だ。
(き、キョン君……)
不安そうに俺にささやく朝比奈さん。
判ってますよ!イザとなったら、別の時代にすっ飛んで逃げる準備をしていてください!
今回、俺は長門を捜してここまで来た。と言ったが、長門自身が敵である可能性は十分考えられるのだ。
突然の長門の失踪。それはハルヒの時のような全ての辻褄を合わせたような物ではなかった。
いきなり学校に来なくなり、長門の席は連日空席。先生達も誰も事情を知らない。
マンションに行っても管理人からは梨の礫。おかげでハルヒは不愉快大爆発の大騒ぎ。
(これは大変な事態ですよ。判りませんか?)
と、古泉は気取った口調で言う。
(あの長門さんは一切の取り繕いをせず、なりふり構わず失踪した。
彼女の言う情報統合思念体からの使命、涼宮さんの様子観察の任務を全て投げ打って、です。
あの全宇宙をも改変する能力を持つ涼宮さんを捨てたんですよ?)
そんなことがあるものか。ハルヒは宇宙規模の神様なんだろう?
(つまりですね。もっと重大な何かが発生した、と考えられます。あるいは――
そうですね……既に涼宮さんの価値が失われたか。
いずれにせよ、まずは長門さんから何があったのか、何が起こるのかを聞き出さなくてはなりませんね。)
という訳で、長門の前に俺達はたどり着いたというわけだ。
さて……
290 :
35:2008/06/07(土) 22:39:51 ID:???
もう一度いうが、長門が敵である可能性が高い。
全宇宙を統括する情報統合思念体、それの有機生命体型インターフェース端末。それが長門の正体。
もし、長門の使い手が目標を変えたのだとしたら、俺達はそれの邪魔をしていることになる。
さて、どうする。とりあえずは……時間を稼ぐか?
長門、教えてくれ。俺達から離れてここで何をしている。
ハルヒの監視がお前の任務なのだろう?
「涼宮ハルヒの観察は終了した。情報統合思念体は更なる段階へ移行することを意図している。
そして私に新たな任務が与えられた。」
終了……?どういうことだ。そして新たな任務ってなんだ。
「この惑星の有機生命体における情報活動は全て消滅する。涼宮ハルヒもともに。
その前に、新たな目標を捕捉し帰投せよ。」
な!?
消滅ってどういうことだ!新たな目標!?
「これ。」
と、長門は部屋にいた中学生達と混じっていた、蒼い髪の少女を示した。
「この惑星の有機生命体すべての始まりとなるもの。それが、これ。」
――というわけで。
情報に齟齬が発生するかもしれない、という但し書き付きで長門は相変わらず訳のわからない説明をする。
それを、どうにか噛み砕いて理解したこと。
以前、マンションで説明を受けたことだが……有機生命体に知性が発生する珍しいケース。それが我が人類。
その原因というのが「これ」にあるらしい、というのだ。
俺が判らない顔をしていたら、フンフンと可愛らしい顔を上下させて聞き取っていた朝比奈さんが俺に解説する。
(キョンくん、あれよ。聖書にある神話……アダムとイブとリンゴの話。)
どこをどう聞き取ればそう理解できるのか、見直しましたよ朝比奈さん。いや、ホントですってば。
291 :
35:2008/06/07(土) 22:41:30 ID:???
「思念体の亜種が有機生命体との結びつきを経て、この惑星の情報活動の飛躍を促した可能性がある。
それをなしえたのが『これ』であり、それ以後の情報的発展を経て生み出されたのが……」
ハルヒ、という訳か。それが本当なら、根本からハルヒの力を探ることが可能だと。
「そう。」
だが、お前は言ったな。全人類が滅びる、と。
「滅亡ではない。情報活動の全てが停止する。
それは外部から為される自称ではなく、この惑星の有機生命体において成された結論。
つまり、あなたがたの人類が選択し、選んだこと。
涼宮ハルヒが生み出された課程を知ると同時に、その終末に居たる要因を探ること。それが新たな使命。」
で、そのその蒼い髪の子、そんな古い時代からずっと生きていた訳なのか?
「そうではない。『これ』は、その始まりとなる者が保存されている、いわば記憶媒体のようなもの。」
いや、もういい。ともかくだ。
情報活動が消滅するってことは滅亡することと大して変わらん。
長門、お前はそれを放っておくのか。俺やハルヒ、朝比奈さんに古泉や、そして仲間みんなを捨てるのか。
「私の新たな任務の範疇では無い……」
それ以上言うなら、俺は『切り札』を使うぞ。
俺はこれからハルヒのところにすっ飛んで帰る。今回の話も手みやげにしてな。
「……」
どうなんだ?
「私の新たな任務、それを終えた時の私は、私であるかどうかは判らない……」
おい!待て、消えるな!俺が切り札を使ってもいいのか!
「もし、私が私のままであるのなら……私は戻る。あなたの元へ。」
292 :
35:2008/06/07(土) 22:42:32 ID:???
長門!
「信じて。」
……消えちまった。
どうする。どうする、俺。本当に使うのか?あの、切り札を。
「あの……キョン君。」
朝比奈さんが俺の左腕の袖をクイクイ引っ張って何かを言おうとしている。
……なんですか?
「もし、長門さんが戻ってきてくれるのなら……私達が元の時代に戻ったとき、彼女はそこにいると思うの。
私達に時空の距離というものは無い。彼女の任務完了が数十億年先であっても。」
そうか……そうですね、朝比奈さん。
「でも、それからが大変だと思うの。人類が……みずから滅びることを選択するって言ってたから……」
判ってますよ、朝比奈さん。
なに、長門が戻ってきて朝比奈さんも居て、まあ古泉もいるし、なんと言ってもハルヒがいる。
何故か……なんとかなりそうな気がしませんか?朝比奈さん。
――そして。
俺達は帰り支度にかかりながら、スッ転ばした少年を振り返る。
まあ、待っていてくれ。乱暴したお詫びを一万倍にして返してやるからな。
なんだか、小さい頃から憧れてきた秘密組織と戦うスーパーヒーローにでもなったような気がしてきた。
さあ戻りましょう、朝比奈さん。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして……彼らが去った後。
マンションのミサトからは、トウジにケンスケ、ヒカリ、そしてミサト自身。
さらにはレイすらもその姿を消していた。
もしや、歴史の改変の影響を受けて、みな消失してしまったのか?
いや、そうではなかった。
293 :
35:2008/06/07(土) 22:43:46 ID:???
「うわっ!」
シンジは押し倒された時のままに、床の上に倒されていた。
そして自分の周りには何故かクッションの山。そのお陰で、大した痛みを味あわずにすんだようだ。
「あら、どうしたの?シンジ。」
と、彼を振り向いて家事の手を止めた人物。
「あれ、僕は押し倒されて……あ、あれ?」
「もう、寝ぼけてたの?」
「……あ、ああ、その、いつ帰ってたの、母さん。」
「私は今日はずっとここに居ました。研究所は今日はお休み。もう……本当に寝ぼけてるのね。」
「父さんは?」
「冬月先生と遊びに行ってる。ホントに、いつまで経っても子供なんだから。」
「ふーん。」
と、シンジは冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。
その彼の母、ユイは再び包丁を手にしながらあきれ顔。
「そんなにのんびりしてていいの?アスカちゃんとの約束は?」
「うわ、いけない!い、今すぐ行かなきゃ!」
「ほら、そんな格好じゃダメでしょ?ああ、それから電話があったわよ。綾波さんって子から。」
「ええ!?綾波さんから?」
「そう、アスカちゃんに聞いたわ。トースト囓りながらシンジと正面衝突したんですって?
ずいぶん古典的な転校生が来ちゃったのね。」
「ちょっ……どうしてそんな古典を知ってるのさ!と、とにかく行ってきます!」
「はいはい、気をつけてね。」
誰のお陰か、春真っ盛りの第三新東京市はこうして優しい日々を送るのであった。
(完)
294 :
35:2008/06/07(土) 22:45:44 ID:???
おわりー
乙!
クロスみたいな感じ?新鮮で良いと思います!
これからも頑張ってくらさいw
296 :
35:2008/06/07(土) 23:31:32 ID:???
>>295 ありがとう。でも自分で矛盾見つけちゃった。
補完後の未来からどうやってみくるは来たんだろ...orz
普通につまんね
きめえ
まぁとりあえず乙とだけ言っておこう。全部読んだわけではないが。
レイ連れてっちゃうのかよwあれ、連れて行かないの?
とか、荒っぽいところが多々ありそう。流れはこれで良いかな。
301 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 10:10:54 ID:/Jx8YWzL
狼と香辛料×エヴァ
ハルヒ×エヴァ
文学少女シリーズ×エヴァ
エヴァのみ
どれがいいよ?
のみ
相性を考えろ
エヴァ板だからエヴァのみが一番だろうね。
そんなキャラ知らねーってことで読み手が限られるし。
ていうか、エヴァと相性の良い奴って何よ?
戌
>>304 書き手の腕次第じゃねーかな。知らんけど。
エヴァと相性のいい奴は俺っすよ。俺がエヴァの世界に行ったって設定で
SS書きます。
アスカ人なんでLAOで行きたいけどアスカはシンジ以外愛せるとは思えない
から無理かな。でも口説きに行く。好きな男を殺してでも自分のものにしたい
っていうところがすごい俺好み。
つーかクロスでおもしろいのって読んだことないなぁ
参考にまでに、ここの住人の好きなSSって何かね?
クロスでもそれ以外でも
>>308 止めろと言うのはスレ違い。
ていうか300越えでもはやスレから腐臭がしてきたか?
そろそろ来るころだ。俺はミサトの部屋のまん前で
腕を組みドアにもたれかかって待っていた。
高鳴る動悸を抑えるのに一苦労するだろうと思いきや
俺は意外にも冷静だった。まるで古くから知る人に会うかのように。
いや、かれこれアスカを知ってから10年は経つ。
古くから知っていると言っても言い過ぎではないか。
遠くから響いてくる足音、それが次第に大きくなる。来た。
長い髪を弄ぶように風が吹き、アスカの髪がゆらりと舞う。
端正な顔立ち。アニメで見たまんまだ。
「やっと会えたねアスカ」
「ハァ?アンタ誰よ?なんでアタシの名前を知ってるの?」
不審者を見るような目つきに変わった。それもそうか、初対面の奴にこんな
ことを言われれば。俺はあわてて取り繕うように自己紹介をすることにした。
「俺は櫻井っていうんだ、よろしく。俺の世界ではここが舞台の物語があってさ、
俺だけじゃなくて俺の世界の住人は君のことを知っている人が多いよ。
ストーカーとかじゃないから」
途端にアスカの目にギラリと光が宿り、俺の顔に視線が突き刺さる。
「何言ってるのか全然わかんないわ。警察呼ぶわよ」
たまらない。初めは冷たく突き放されることはわかっていた。
でも最初がこうだからこそ仲が深まったときの感動は絶大なものとなる。
「んーわかんないかな。俺は異世界人なんだよ。だからこの世界のこと、
ネルフのこと、この世界の行く末、全部が分かる。証拠、見せようか?」
俺はあすかにつかみかかり服を剥ぎ取った!!中出し!!終了!!
315 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 21:07:05 ID:jTz4wy9U
わかると思うけど飽きた。
急激にクソスレ化
317 :
307:2008/06/08(日) 21:11:20 ID:???
真面目にやるから読んでね。ハルヒ×エヴァやる。
ただキョン視点で。その方がやりやすいから。
ハルヒとクロス需要ないみたいだからやめた。暖めてきたものではあるんだけど。
温める か
例の荒らし出没か?>戌
今日他で見たかんなあ
ハァーーーーーハハハハ!!!!!!1 よくわかったな!!!!
愚民にしてはなかなかの洞察力だ!!!!!
だがな・・・・・
このスレは俺が立てたものだというのも知ってたか?ん?
このスレをどうしようと俺の勝手なんだよ!!!
俺がルールだ!!!!!
だから自演くさいレス多かったのか
納得
だが俺は神だ 姿かたちを変え、人格を変えまた貴様らに俺の傑作を
読ませてやる ありがたく思えぐ民度も
相変わらず頭ん中お花畑な奴だな
才能の欠片もないくせにw
>>325 俺にお願いしますは? ここは俺が立てたんだよ?
主役そっちのけってどういうこと?
色んな所で嫉妬してばっかで大変な奴だなw
ごめんなさい 俺はレス乞食です 実力はないけどレスは欲しがります
でも悪いとは思ってない レスしないお前らが悪い
>>326 秋葉原でおまえが死ねばよかったのに
おまえはつまんないよ、生きてる価値のない奴
ハルヒ×エヴァ たぶん少しは面白いと思うよ。書きたい。
>>35は小難しい設定を使おうとしたから失敗したんだと思う。
あと展開が急なのがいけなかったのかな。
ここのスレのみんなよ、他スレのキャラが出ているからと言って
毛嫌いしないでくれ。ここは元々そういう枠にとらわれない作品を
どんどん輩出してもらうために立てたんだ。
ただ職人は原作を未読でもついていけるよう、工夫して欲しい。
そして読み手、作り手双方が楽しめるスレにしたいんだ。
なんで才能0なのに嫉妬だけはしっかりすんのかね。ほんと良スレ荒らしはやめて欲しいよ
あとできれば俺のようにコテをつけないでくれ。荒れる原因になるから。
>>6や
>>35のように数字だけならもちろんok
平和的なスレにしよう
>>331 凡人の才能が50だとしたら俺は0じゃなくて才能3はあると思う
コテつけようがつけまいが職人の自由
荒れる原因はお前。いい加減自覚しろ
>>335 わかった。わかったから俺が書いたら読んでくれ。そしてレスをくれ。
俺も6と同じくレス乞食だ。乞食なんだよ!
こいつが涌いたって事はこのスレ終了だな。ご愁傷様
伸びてると思ったらひでえなこりゃ……
>>337 湧いたというか最初からいたから ってか1が俺だから
誰がスレ立てたかなんて関係ねえんだよ
邪魔だから消えろや
似たような趣旨のスレがあるから、そっちに移ろうかな
でも俺は実家じゃないとネットできないんだ・・・
だから明日からはまたここから消えるんだ・・・・
次来れるのはいつだろう・・・・次までに話考えとくから!
考えたら脳内自己レスして終わってくれ。お得意の妄想で
お前のオナニーは汚いし周りに大いに迷惑だから公共の場には出て来るな
二度と来んなよ。此所だけじゃなく余所にもな
次に帰省したらまた来ますよ^^ そのとき良い話ができてたら
投下するねw
じゃあ留守の間もここをよろしくお願いします
297 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 00:01:37 ID:???
普通につまんね
298 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 01:18:27 ID:???
きめえ
299 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 04:57:24 ID:???
まぁとりあえず乙とだけ言っておこう。
こういうのよくないよ
エヴァのみで考えてきます お楽しみに!
マジ死んでくんないかな
ガチの荒らしはコイツ位のもんだろ
死んだらリアで困る人が大勢いるんだ。。。 俺はリア充だからね。
350 :
35 け:2008/06/09(月) 10:00:07 ID:???
皆さんごめんなさいー
スレ荒れちゃったの私の駄作投下が発端ですー
しばらく投下自粛しときますー
ていうか、また規制中ー
いちいちそんな構って的なレスすんなよ
☞ ☞ ☟ ☟ ☟ ☟ ☟ ☟ ☟ ☜
☞ ☞ ☞ ☟ ☟ ☟ ☟ ☟ ☜ ☜
☞ ☞ ☞ ☞ ☟ ☟ ☟ ☜ ☜ ☜
☞ ☞ ☞ ☞ (‘A‘) ☜ ☜ ☜ ☜ なんだか無償にこぴぺしたくなる♥
☞ ☞ ☞ ☞ ☝ ☜ ☜ ☜ ☜ ☜
☞ ☞ ☞ ☝ ☝ ☝ ☜ ☜ ☜ ☜ ナノに初心者こぴぺできない
☞ ☞ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☜ ☜ ☜
☞ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☜ ☜
☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☝ ☜
もう終わったなこのスレ。
なんかカリカリしてる奴居るし。
終わったなとか言う奴が出始めたら終わりだ
『貴様にそんな決定権があるのか!まだだ!まだ終らんよ!』
357 :
6:2008/06/10(火) 20:11:17 ID:???
投下
358 :
LAS75:2008/06/10(火) 20:12:11 ID:???
そこは、空以外に何もない世界だった。
シンジは空に仰向けで倒れていて、視界には空しかない。
起き上がろうとして体に力を入れても、うまく反応してくれなかった。
「……僕は、死んだのかな?」
ぼそりと呟く、その声に、
『いいえ。……でも、その方がいい?』
しかし、返答はあった。
「…だれ?」
目だけを下に滑らせて、声の出所らしい、自分の足元を見る。
それだけの動作がやたらと重労働で、億劫だった。
『苦しいのは、肉体があるからよ。邪魔な衣は脱ぎ捨ててしまえばいいのに…』
「……エヴァ? 母さん?」
シンジの足元、つまりは正面には、初号機がいた。
剥き出しのぎらついた眼球。包帯から覗く赤黒い肌。
間近でそんな物を目にしても、シンジの心はまるで動かなかった。
『やっと会えたわね、シンジ』
ただ、その言葉が目の前にいる『彼女』から発せられているとだけ、確信する。
「母さん、なの?」
それに応え、初号機が、慈愛に満ちたおぞましい笑みを浮かべた。
『シンジ。あなたにずっと、会いたいと思っていたわ』
「母さん…」
シンジはそこに安らぎを見出し、そっと目をつぶった。
『シンジ。さあ、おいで。わたしと、一つになりましょう』
初号機が、腕を広げる。
359 :
LAS76:2008/06/10(火) 20:13:26 ID:???
だが、シンジは緩慢な動作で首を振った。
「無理だよ。体が動かないんだ。僕は、どこにも行けないよ」
初号機、『彼女』は意に介さない。
『だいじょうぶ。言ったでしょう。あなたが動けないのは、邪魔な肉体にとらわれているから。
体とは殻よ。今まであなたを閉じこめ、守ってきたモノ。でもそれは、もう枷でしかないわ。
だから、捨てるの。そして、わたしと一つになりましょう』
現実感のない言い回しにも、シンジはわずかに、恐ろしさを感じた。疑問が、生まれる。
「……それは、死ぬってこと?」
それに対して、『彼女』は体を動かさずに首を横に振った。
『あなたが消えるわけではないわ。形を捨てるということは、新しく生まれるということでもあるの』
「でも、肉体は捨てる。それはやっぱり、死ぬってことじゃないのかな?」
『完全なる再生のためには、一度死を迎えなければいけない。
あなたがここに来たのは、今までの全てに背を向けて、もっとすばらしい全てを手に入れるためでしょう?』
シンジの頭に、初号機からの声は不思議と心地よく、なじんでいく。しかし、
「でも、ダメだよ。やっぱり、死ぬのはダメだ。僕には、やらなきゃいけないことがあって…」
『そうなの? それはなに?』
「それは、それは……」
シンジの記憶は混濁していた。
自分のことが、自分が何をしていたのか、何を望んでいたのか、思い出せない。
ただ、強い使命感だけは残っていた。それが、シンジの口を開かせる。
「誰かを、誰かを連れて行かなくちゃいかないんだ。
……だから、僕はここに来たんだ」
360 :
LAS77:2008/06/10(火) 20:14:23 ID:???
初号機からの穏やかな波動は変わらない。変わらないままで、声が届く。
『そうなの? でも、誰を探しているのかしら?』
「誰、って。その、いなくなった人、だと思う」
その問いに、シンジの頭が必死に過去を探る。かつて知っていたはず、理解していたはずのことを、
そして、最も強烈な記憶が掘り当てられ、その感情に引きずられてシンジは叫んだ。
「そう、ミサトさん! ミサトさんだ!! ミサトさんが、死んじゃったんだ…。
それに、うん。確か、他にも、たくさん…。あんまり、思い出せないけど、
たぶんリツコさんとか、LCLに体が浮いてて…」
『その人たちを、探しに来たの?』
途中で遮られ、順調に流れ始めていた記憶の波が途絶える。
だが、必要なことは思い出した。そう感じながらシンジはうなずく。
「そう、だと思う。僕は…」
『そうなの。でも……だったら、それは必要ないわ』
「…え?」
疑問をはっきりと口にする前に、突然『それ』がシンジの前に現われた。
颯爽とした立ち姿に、つややかな長い黒髪。
どこかいたずらっぽい優しげな瞳を瞬かせ、彼女は形のいい唇を開いた。
「ハァイ! シンちゃん。元気にしてた?」
まるで気負いのないその言葉、声に、シンジはなす術もなく硬直する。
忘れるはずもない、彼女は……。
「……ミサト、さん」
361 :
LAS78:2008/06/10(火) 20:15:37 ID:???
「どう、して、ミサトさんが、ここに…?
ミサトさんは、たしか、僕をかばって撃たれて、それで……」
震えるシンジの言葉を、ミサトは一笑に付した。
『なーに言ってるの、シンちゃん。あたしならこうしてピンピンしてるわよ』
「それは、そう、なんですけど、でも…」
『それに、あたしだけじゃないわ。ほら』
促されて、シンジは再び、目を見張った。
『何だか会うのは久し振りね、シンジ君。元気にしていたかしら?』
怜悧な面立ちに、特徴的な目元の泣きボクロ。
彼女もまた、シンジにとって旧知の相手。
「リツコさんまで…! 無事、だったんですか?」
『ええ。この通りね』
赤木リツコが、そこに立って笑顔を見せていた。
『シンジ君は少し無事じゃなさそうね。少しやつれたというか、なんというか。
生活環境に問題があるんじゃないかしら?』
『こ、こら、リツコ! シンちゃんは今まで大変だったんだから、そんなこと言っちゃ…』
リツコのきつい冗談を慌てて止めるミサト。
「あはは。いいですよ、そんなの。リツコさんがそういうことを言うのも、何だかこう、
懐かしい感じがします」
シンジの顔は、安堵と喜びで、自然にほころんでいた。
それは、あの赤い浜辺で目覚めてから、たぶんアスカにも一度も見せなかったような、笑顔。
『それはそれで不本意ね』
と顔をしかめるリツコに、
『ほーら。シンちゃんからリツコはこーゆー風に見られてたってコトよ』
と楽しげに笑うミサト。
そこには場違いな、楽しげな空間が、あった。
362 :
LAS79:2008/06/10(火) 20:17:11 ID:???
『……どう?』
その言葉に、ハッと我に返って初号機を見る。
動かなかった体はもう自由になっていて、シンジは自分でも気づかない間に立ち上がっていた。
「……よかった、と思う。本当に。だって、僕は、てっきり二人とも…」
『これで、あなたの迷いはなくなったでしょう?』
シンジの言葉にかぶせるように放たれたその声に、かすかな苛立ちが混じっていたような気がして、
しかしすぐにそんなはずないと思い直す。
「迷い、っていうか。僕は、ただ、やらなくちゃいけないと思って…」
『でも、それは勘違いだったわ。死んだと思っていた人は、いなくなったと思っていた人は、
きちんと生きて、ここにいたのだから。すでにいる人を、探すことに意味なんてない』
「そう、なのかな…。全部、僕の、勘違い…だったのかな?」
『きっと、そうよ』
その言葉を、シンジは受け入れそうになる。
受け入れたくなるような力が、その言葉にはあった。
『ここにいるといいわ。ずっとここで、永遠に過ごすの。ここには人と別れる悲しみも、
分かり合えない苦しさも、人と関わることで生まれる一切の煩わしさからも解放された世界。
本当に、唯一、絶対の、完璧な世界なのよ』
「かん、ぺきな、せかい…」
『そう。ここならあなたは幸せになれる。いいえ、ここでしか、幸せになれないの』
その声の持つ不思議な魅力に、心が、どんどん引き込まれていく。
363 :
LAS80:2008/06/10(火) 20:18:27 ID:???
(もう、いいじゃないかな。きっと、僕はここで楽になって、いいんだ)
そんな想いが、心に押し寄せ、それでも、
「それは、ダメだよ」
シンジの口は、そんな言葉を紡いでいた。
『……なぜ?』
「それは……。それは、ダメだって教えてくれた人がいるんだ。
……いた、と思うんだ。僕が、僕として生きていくことを選んだんだから、
それを貫かなきゃダメだって。だから…」
『それは、そんなに大事なことなの?』
「大事なことだよ! それは、間違いないんだ」
『……そう。それは、困ったことね』
一瞬だけ、初号機の方から、黒い気配がにじんできた気がした。
けれど、それはすぐに消え、変わらずに優しい、シンジを導くような言葉が、耳を打つ。
『だったら、また地上にもどるの? 滅んだ世界で、これからもずっと暮らしていくの?』
外の世界で、暮らす。それを想像した途端、シンジの顔が歪んだ。
「……それは、嫌だよ。元の場所には、戻りたくない。あそこには、怖いものがいるんだ。
それがなんなのか、よく思い出せないけど。僕に、ひどいことをするモノがいるんだ」
チリチリと、脳が焼ける。思い出そうとすると、心のどこかが邪魔をする。
『いけないわ。それは、あなたを堕落させるモノよ。あなたが思い出してはいけないモノ』
「だけど、僕は、それを思い出さなきゃ……」
――痛い。
シンジは自分でも気づかぬ内に、手をぎゅっと、胸の前で握り締めていた。
『わざわざ、つらい思いをする必要なんてないわ。それはあなたに必要のないモノ。
それはあなたに、ひどいことをするの。拒絶するのよ。やさしくしてはくれないの』
「そう、なんだ…。ひどい、こと、を…」
『だから、思い出してはいけないの。シンジなら、それはわかるでしょう?』
「…うん。分かった、よ。母さん」
シンジは夢見心地でうなずく。
目の前の『彼女』が自分の代わりに自分の望みを言ってくれたような気がした。
364 :
LAS81:2008/06/10(火) 20:20:27 ID:???
動揺から立ち直ったシンジに、初号機からの声が優しく語りかける。
『シンジ。あなたは、どうしたいの?』
「僕は……。僕は、戻らなくちゃいけないんだ。でも、戻りたくない」
シンジの内でせめぎ合う心が、そんな矛盾した言葉をしゃべらせた。
だが、『彼女』はそれを優しく受け入れる。
『なら、もどらなければいいわ』
「でも…」
『ここにも、元の場所にもいられないなら、もっと違うところに行けばいいの』
「ちがう、ところ…?」
『あなたの望みは、何?』
「僕が、望む、もの……」
シンジの思考が回る。ぐるぐると回る。だが、思いつかない。
あっただろうか。シンジの人生の中で、狂おしく求める望みが何かあっただろうか。
『あなたの望みは、何でもかなえてあげるわ。人でも、物でも、それ以外の何かでも。
あなたが望むなら、全てを支配することも、世界の王になることだって出来るのよ?』
「それは、そんなの、要らないよ…」
何かを、ただ、支配したとして、それで自分が満たされるとは、シンジには思えない。
ずっと、人とつながりたいと思っていた。自分を理解してほしいと思っていた。
……だけど。自分を受け入れてくれる人なんて、想像出来ない。
自分を理解して、受け入れて、満たしてくれる人。そんな人を願うことは出来ても、
その願いがいつかは自分を苦しめる。そんな気がする。
だから、シンジは、何も言えない。
満たされているワケじゃない。渇きの中で、生きているのに。
『なら、あなたが一番安らぐのは、楽しい、と思えるのは、どんな時?
あなたは何をしている時が、一番幸せだった?』
助け舟のような『彼女』の言葉に、思考が一点へ向かう。集中する。
そこに、答えがあった。
「……ぼく、は。……僕は、家に、帰りたい」
365 :
LAS82:2008/06/10(火) 20:21:58 ID:???
口に出せば、想いに道が出来る。望む気持ちは加速する。
急かされるように、シンジはしゃべり出した。
「……ミサトさんの、家。あの、マンションに、帰りたい。あそこは、あそこだけが…」
それ以上に性急な声が、シンジをさえぎる。
『その場所が、あなたの望み? そこに行くことが出来れば、シンジは満たされるの?』
シンジは首を横に振った。
「場所じゃ、ないんだ。昔の、ミサトさんの家。あそこは、僕の家だった。
僕だけがそこにいるんじゃなくて、ミサトさんや、 、それにペンペンがいて、
時々、リツコさんや、加持さんや、トウジにケンスケ、洞木さんが、やってきて…」
そこまで言って、ようやくシンジは気づいた。
「あったんだ。あそこには、僕の居場所が、あったんだ」
自分の見つけた事実に呆然として、動かなくなってしまったシンジに、
初号機からの声は優しく呼びかける。
『あなたは、もどりたいのね』
「え?」
『あなたは過去に、もどりたいのね』
「過去に、僕、が…」
『そう。そうだわ。ああ、それはすばらしいわ、シンジ。全部がうまくいっていた時にもどりたい。
そう考えるのはとても自然なこと。とても正しいことだわ』
「そう、なの…?」
『過去には今にはない多くの可能性がある。あなたはあなたの居場所を取り戻せる。
そして、その時はまだ計画も、成功する可能性を充分に持っていた』
「けい、かく…?」
『いいえ、あなたの望みよ、シンジ』
366 :
LAS83:2008/06/10(火) 20:24:46 ID:???
『わたしが、あなたの望みを叶えてあげるわ。さあ、いらっしゃい』
初号機が、腕を広げる。
今度は、体が動いた。シンジにそれを拒む理由はない。
シンジは初号機の腕に抱かれ、その中に入り込んでいく。
(あ、れ? なんだろ、母さんと、ちがう…?)
不可思議な違和感が首をもたげるが、それも一瞬。
『さあ、シンジ。わたしたちの願いを、叶えに行きましょう』
シンジを呑み込んだ初号機は、傍らに笑顔のミサトとリツコを伴ったまま、海に沈んでいく。
その場所は、海に膝をついた弐号機と、ボロボロになったレイから、
ほんの数十メートルも離れていない場所だったが、シンジは気づかない。
もちろん、アスカも。
知らぬ間にシンジは初号機のエントリープラグの中にいて、
初号機と共に赤い海の中を漂っていた。
ただ、パニックにはならない。
それは、やることが、やりたいことがあるから。
初号機の声が、自分の望みを、シンジがやるべきことを教えてくれるから。
『あなたの願いを、強く心に描いて。わたしも、手伝ってあげるから』
367 :
LAS84:2008/06/10(火) 20:27:02 ID:???
言葉に導かれるまま、引き出されるままに、シンジは想う。
(ミサトさん。綾波。 。トウジ。ケンスケ。リツコさん。加持さん。……父さん。
それから……)
人を、愛しい人を、憎い人を、無関係の人を、人を、人を思い浮かべる。
『まだよ。まだ、全てではない。人だけで世界は完成しない。思い浮かべて。
教えるわ。わたしが、教える。あなたの望みを、わたしが教えてあげるのよ』
流れ込む。様々な情報。シンジの中にあるモノ、なかったモノ。
(――生き物。虫、魚、細菌、アダム、鳥、花、動物、木、リリス、使徒…)
どこまでが自分の望みで、どこからが声なのか、分からなくなる。
(――世界を構成するモノ。家、建物、自然、明かり、ビル、組織、ゼーレ、
死海文書、一つになりたい意志、ヒトのあるべき姿、欠けた心を補完するための…)
そこで、シンジの胸にふと、ほんのわずかな疑問が去来する。
「あ、れ? 僕は、こんな…望んで…? ただ、僕が、ほしくて、た、のは……」
視界には、変わらぬ笑顔のミサトとリツコ。
世界が歪み捻じ曲がり溶け出してそれでも変わらぬ笑顔の二人。
そしてそれすらもぶれてかすんで、
『さあ、想いなさい。強く、強く。その願い、わたしが導いてあげるから。
わたしの思いを吸い取って、大きく、大きく、大きくなりなさい』
シンジの意志は、飲み込まれていく。
その声に、自らの望みに。
(巻き戻っていく。世界が、みんなのいる世界に、僕の居場所のある世界に、
使徒が、補完計画の核が、優しくして、統合される、今度こそ、安らぎを、
行くんだ、作るんだ、やり直す、やり直す、僕がいてもいい… 補完されるべき…)
((……世界を!!))
――その瞬間、海が弾けた。
368 :
LAS85:2008/06/10(火) 20:35:08 ID:???
アスカの視界が、赤一色に染まる。
レイが見ていた場所から赤い海が急速に質量を増して膨れ上がり、
海を飲み込み始めた。
まるで赤の大海嘯。いや、むしろ爆発だった。
「くぅっ! ATフィールド!!」
弐号機はそれに飲み込まれるより一瞬早く、ATフィールドを張る。
それでも弐号機はなす術もなく吹き飛ばされて、海底を転がった。
「……姿勢、制御! …早くっ!」
海底で足を踏ん張って、何とか弐号機は立ち上がる。
「何よ、何よコレ!」
アスカが思わず叫ぶ。海の中の赤い水が、まるで生き物であるかのようにうごめいていた。
(人の…内臓の中にいるみたい)
そんな想像をして、ぞっとする。
弐号機は全周囲に張り巡らしたフィールドでかろうじて海の浸食を阻んでいるが、
周りは激流のように渦巻いていて、フィールドの外がどうなったのか、アスカには分からない。
レイの姿も、見えなくなっていた。
「大丈夫。アタシは大丈夫。アタシにはATフィールドがある。大丈夫。
ママがついていてくれる。だから大丈夫。絶対、絶対、絶対に…!」
打開策も見当たらず、フィールドを維持するのが精一杯。
そんな打つ手もない状態で、アスカは自分にそう言い聞かせ、不安な心を静めていた。
しかし……崩壊は、内側から始まった。
369 :
LAS86:2008/06/10(火) 20:37:10 ID:???
「…? 左手、が…」
左手の感覚がおかしい。そう思ってアスカは自分の腕を見るが、異常はない。
「大丈夫、よね? だって、ここは、エヴァの中は、安全なんだから…」
自分に問いかけて、念のためエヴァのモニターを確かめたアスカは目を見開いた。
「なんでっ?! 腕、うでが、ない。どうして、どうしてよ…!?
神経接続は切ってない! なのに、何にも…。ねぇママ! いるのよね! ママッ!!」
恐慌状態に陥るアスカに、追い討ちのように、弐号機がバランスを崩す。
「足…。足が、なくなった…? ヤダ、こんなんじゃ…」
そして、次の消失はアスカの目が直接捉えた。右手が、内側から弾けて液体に変わる。
「そんな…! なんで、なんでよ。アタシを守ってくれるんでしょ、ママ…」
しかし、崩壊していく弐号機が、その無慈悲な返答だった。
肩が、足が、頭が弾け、元の水にもどっていく。
エントリープラグ以外の全てのパーツが、海へと還っていく。
「ママッ! ママ、行かないで! どうして、アタシをっ! ママッ!!」
答えはない。ただ、真っ暗なプラグ内で、アスカの悲痛な叫びがこだました。
「そん、な……」
呆然と呟く。
モニターは死んだ。明かりもなくなった。
もうアスカには何もない。
ひび割れだらけの矜持を胸に、暗闇でただただ震えるだけ。
カタカタと上下の歯がぶつかる音が響く。
「シンジ…」
無意識に呟かれた言葉に、束の間アスカの意識がもどる。叫んだ。
「シンジッ! シンジッ! いるんでしょ! 隠れてるんでしょ! 来てよ!
何とかしてよ! 怖がらなくていいから! 何もしない! 何もしなくていいから!
助けなくていいの! いるだけ、いるだけでいいからっ!」
370 :
LAS87:2008/06/10(火) 20:37:50 ID:???
とことんまで叫び、取り乱すと、逆に心はスッと冷えた。
(落ちたもんね、アタシも。バカシンジに助けを求めるなんてさ…)
シンジが来るはずない。来ても何か出来るはずもない。
そもそも、シンジに助けを求めるなんて行為そのものが…。
「…ちく、しょう!」
バン、と拳を叩きつけた。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! ちくしょうちくしょう!!」
アスカの目に、ぎらつく光が宿る。
「終わらない! こんな所で終わらない! 終わってたまるか!!」
暗闇の中、手探りで脱出用のレバーを探す。
「誰も守ってくれなくても、誰も見ていなくても、誰もいなくても、
アタシは生きて、生きてやるから!」
ようやくレバーを探し当て、それを回して外に出ようとして、気づいた。
プラグ内のLCLの中に、さっきまではなかった匂いが、混じっていることに。
「血…? 血の匂い…! 入ってきてるの? どこから? やめて! もうやめて!!」
虚勢だけを寄せ集めて作った心は、それだけであっけなく折れた。
「アタシは、アンタたちの仲間になんてならない! あんな物に、なりたくない!」
駄々っ子のように手を振り回して後ろに下がる。
すると、それを追うように、どこからともなく、白い影が生まれた。
「なに、よ。アンタたちは、何よ…!」
その姿だけは、なぜか光源の一切ないその場所でもくっきりと形を持っていた。
シンジを連れて行った、白い女の姿。
それが感情の伴わない笑みを浮かべながら、何体も、何体も湧き出し、アスカに迫っていた。
371 :
LAS88:2008/06/10(火) 20:39:04 ID:???
一体一体が普通の人間と同じくらいの大きさをしたそれが、次々とアスカに取り付いていく。
「ひっ…! や、だ! 離れなさいよ! アンタたち!」
手で押しのけようとしても、離せない。それどころか、引き剥がそうとしたアスカの手に、
じわじわと溶け込んでいく。
「何よ、コレ。嫌、嫌よ! 溶けていく…。違う、消えていく…!」
(アタシが、消えていく……)
三体、四体、五体……。白い人影はどんどん増えていく。
そしてそれが全て、アスカ一人に殺到する。
「イヤ! やめて! こんなの…」
(せっかく、心の底からほしい物が見つかったのに)
いつのまにか、エントリープラグの中は、そいつらでいっぱいになっていた。
それが触れ合った所から、アスカは自分の体がグズグズに溶けて、消えていくのを感じる。
「消えるのは、嫌! だって、アタシはまだ、何もしてないのに…!」
(シンジにまだ、何も言ってない!)
逃げ場なんてあるはずもなかった。
だから、アスカは、
「アタシ、アタシは…」
「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーよ!!」
高らかに、自らの存在をそこに打ち立てた。
もう一人のレス乞食ktkr
373 :
LAS89:2008/06/10(火) 20:40:31 ID:???
その叫びに拒絶され、白い塊がブワッとアスカから弾き出されていく。それと同時に、
輪郭を失っていたと思われていた自分の体が、はっきりとした姿を取り戻していることに、
アスカは気づいた。
「消えない。アタシは、消えない。アタシは絶対に…!」
その気迫に負けたのか、白い影が次々に撤退していく。だが、アスカは油断しない。
利かない視界をそれでも絶え間なく目を動かして、周囲を警戒する。
そして、その、予想の通り、なのか。白い人影が、再びアスカの前に姿を現わす。だが、
『…アスカ』
それは、シンジの姿をしていた。現われた白い人影は、全てシンジだった。
「シン、ジ…?」
一斉に、シンジは笑みを浮かべる。
『アスカ。やっと見つけた。よかった』
その声を聞いた途端、アスカの中で張り詰めていた何かが切れた。
(シンジ! シンジ! シンジが来てくれた! シンジが、アタシに…!)
状況の不自然さも何もかもが頭から吹き飛んで、アスカはシンジを迎え入れるように手を伸ばす。
「シンジ! 聞いて! 聞いてよ! アタシ、気づいたの!」
『アスカ…』
「分かったのよ! アタシには、アンタが必要なの!」
『アスカ…』
「認めるのはシャクだけど、アタシの中にはアンタがいて、アタシはそれを受け入れてる!」
『アスカ…』
「こんな気持ち、自分でも信じられないわ! でも、それがホントウだったの!
だからシンジ、アタシと…」
『だけどアスカ、僕には君は要らないよ?』
「……………え?」
手を伸ばしたままのアスカだけを置いてけぼりに、無数のシンジが彼女に群がった。
374 :
LAS90:2008/06/10(火) 20:42:44 ID:???
アスカの体にまとわりついたシンジたちは、あの白い女のように、アスカを消そうとはしない。
ただ、アスカの向かって、口々に言葉を投げかけるだけ。
『もともと、好きじゃなかったんだ』『興味があったのは、体だけ』『調子に乗ってるよな、だいたい』
ある者は下卑た笑みを浮かべながら、ある者は無関心に、ある者は怒りを表に出して、
「シンジ…? ナニ? 何、言ってんの…?」
アスカは動けない。理解出来ない。
『父親のいない、ニセモノ…』『アスカは、苦手だな』『やめてよ! 僕を放っておいてよ!!』
それでもシンジたちの言葉は止まらない。まるで百面相のように、様々な顔をしたシンジが、
一様にアスカを罵倒する。
「や、め…。やめなさいよ! やめて…! アンタに、そんなことを言われる理由なんて、ない!」
グルグルとアスカを回りながら、シンジはアスカを責める言葉を紡ぎ続ける。
『セカンドチルドレンって言っ『プライドだけの女…』たって、まともに使徒も倒せないくせに』
「関係ない関係ない関係ない! アタシはアタシはアタシだもの! シンジだって、そんなの気にしない!」
アスカは耳を塞ぎ、顔を伏せる。それでもその声はさえぎれない。
『でも』『アスカはいい『要らない』よ』『ここから『いなくなればいいんだ』『いなくて『いなくていいよ』』
ぶんぶんと、頭を振る。それでもその言葉は閉め出せない。
「やめて、やめてよ。いやなの、もう…。必要とされてないのは、アタシが要らないのは分かってる!
分かってるから、言わないで! おねがいだから、いわないでよ。もう、ゆるしてよぉ…」
泣き声をあげるアスカの、耳元で、
『『この世から』消えればいい』『アスカなんて誰も『誰も』必要だなんて思ってない『のに』』『最初から』
『いない方が『ずっと』良かったのに、なんで?』『なんで『アスカはここにいるの?』?』
震えているアスカの心に、刃物をねじ込むように、
『アスカなんて…』
『『『『『ここから、いなくなればいいのに!!』』』』』
ビクン、とアスカの体が震えた。
375 :
LAS91:2008/06/10(火) 20:43:38 ID:???
アスカはそれきり、身動きをしなくなる。
彼女を取り巻く無数のシンジたちも、何も言わない。薄笑いを浮かべて、ただアスカを取り囲む。
……静寂。
それから、
「…わ、かった、から。アタシ、いなくなる。いなくなる、からぁ。だから、だからアタシを…。
アタシを、ゆるして……」
弱々しく懇願する、その言葉。
それは、紛れもない、アスカの敗北宣言だった。
『『『『『……………は、』』』』』
同時、だった。無数のシンジたちは、みな一様に顔を見合わせると、ハハハハハと笑い出す。
その気配に、アスカは虚ろな目を向けた。
「アタシを、ゆるしてくれる、の…?」
応えるのは笑み。一面に笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み笑み。
正気の人間なら、とても正視に堪えないような光景。
「よ、かった。ありが、と…」
それでも、アスカの憔悴しきった瞳には感謝の色が、唇には疲れた微笑が浮かぶ。
376 :
LAS92:2008/06/10(火) 20:44:55 ID:???
たくさんのシンジが見守る中で、アスカの最期の時が訪れようとしていた。
だが、アスカはもう、そんなことを気にしてはいない。
ただじっと、崩れ落ちていく、自分の手を見ていた。何も特別なことをしなくても、
アスカの体はポロポロと崩れて、消えていく。
「これで、いいんだ。アタシは、最初から、誰にも望まれてなかったもの。
だから、こうやって消えるのが、一番…」
そう思っているはずなのに、目元に熱い感触が生まれる。
LCLに混じって、何か熱い物が瞳からこぼれ出す。
「や、だ…。アタシ、さいごまで、こんな、よわい…」
そんな全部を抱え込んで、アスカが自分の時を終わらせようとした時、
アスカを囲んでいた白い人影が、一斉に弾け飛んだ。
同時に、アスカの体の崩壊も、止まる。
「な、に? だれ? アタシを、助けにきた、の? ……なんなのよ。もう、おそいのに。
余計なコト、しないでよ。アタシ、よかったのに、あれで…あのまま……」
その代わりというように、輝くほどに目の覚める白が、アスカに近づき、
「……マ、マ? ちがう、アンタは、ファース…」
スルリ、と、
一瞬だけ決定的に心の防壁が緩んだアスカに入り込む。
「イヤァァアァァアアァァァア!!」
音のない世界に、世界最後の絶叫が響き渡った。
――そして、世界は補完される。
377 :
LAS93:2008/06/10(火) 20:46:30 ID:???
「あれ? ここ、は…?」
シンジが顔をあげると、隣から懐かしい声が降ってきた。
「お、なんやセンセェやっと起きたんかいな」
「トウ、ジ…?」
シンジの隣に立っていたのは、鈴原トウジだった。
「いくらエヴァのパイロットだからって、授業中に公然と昼寝っていうのはマズイんじゃないか?」
「ケンスケ…?」
トウジと反対側には、相田ケンスケもいる。
「じゃあ、ここは…」
シンジはそこでようやく、第壱中学の制服を着て、教室に座っている自分を認識した。
教室は中学校らしい騒がしさ、賑やかさに彩られていて、そんな、あまりにもありふれていて、
だからこそ非現実的な光景に、シンジはめまいすら覚える。
「寝ぼけすぎだよ碇。そうじゃなくても今日は特別な日だっていうのに」
「特別、って?」
シンジには、分からない。今日が何月何日なのか、これが夢なのか、現実なのか、それすらも。
教室を、見回す。
見慣れた教室。見覚えのあるクラスメイト。
その中にはクラスの喧騒に頬を膨らます委員長や、つまらなそうに机に座っている蒼髪の少女もいる。
(これは、こんなんじゃ、まさか…)
それを、どういう意図に取ったのか、ケンスケは心底驚いたように、
「え、ホントに忘れちゃったのか。今日は進路…」
キキィ!
という何かがすれる音と、窓際にいた生徒たちの歓声が、ケンスケの声をかき消した。
ついで、クラスメイトからざわめきが起こる。そして、
「おぉ、いらっしゃったで!」
トウジの言葉に、ある予感を覚えたシンジは、窓に駆け寄った。
「お、ちょっとセンセ…」
隣で聞こえるトウジの抗議の声も耳に入らない。
378 :
LAS94:2008/06/10(火) 20:47:47 ID:???
窓のはるか下、急ブレーキをかけた車から出てきたのは、
颯爽とした立ち姿に、つややかな長い黒髪。
こちらを見上げるどこかいたずらっぽい瞳には、強い意志の光が宿っている。
「……ミサト、さん」
口にした途端、自然と、涙がこぼれる。
次から次へとあふれて、頬を伝う。
「お、おい、碇…?」
「センセ、ミサトさんが来てそんなに感動したんか…?」
周囲の訝しげな声もまるで気にならない。
目に映る光景の全てが、なぜだかすごく、眩しく思えて、
(――ああ。帰ってきたんだ、僕は)
ようやく、実感する。――そして、気がついた。
(世界の王も、統一された意識も、全部要らないんだ。ここが、こここそが、僕の、完璧な世界…)
窓の外で、ミサトが手を振っている。
シンジは涙をぬぐって、ミサトに向かって全力で手を振り返して、
「ミサトさん! 僕は――」
こうして、世界は二度目の補完を迎えた。
――ただ一人の少年の願いを、そして、たった一つの意志を、叶えるために。
379 :
6:2008/06/10(火) 20:52:17 ID:???
糸 冬
途中から俺もう自分でも何を書いているんだか分かんなくなって…。毒電波って奴か?
まあともあれ、思った以上に長くなったけれども、おかげでとうとう完結したよ。…その、プロローグが。
いや、とにかく、ここまで読んでくれた皆さんお疲れ様、それにありがとう。
>>379 とにかくお疲れさんでした。
で、シンジが帰って来たのはどういう状態のどういう世界なんだ?と、気になる。
素直な感想はその疑問だけ。
プ ロ ロ ー グ w
なら俺が言いたいことはひとつ
続きwktk
俺はアスカが気になるwどうなったんだ?
えっ…アスカは…………シンジの望むまま………無かったことに……そりゃないよ(ry
例の基地外嫉妬厨は投下しないんれすか〜?
読んでみたいな〜www
いいよ。今日から少しずつノートに書いてくね。
しっかりチェックしてやがったwキモw
>>386 1レス30行ぐらいかな。あと一行は↑ぐらいの長さで。
荒れるから無名もしくはトリ変えてこい。
真面目に書くなら読んでやるし、気に入ったら感想書いてやる。
でなければ相手にしないからそのつもりで。
嫉妬で他のスレ荒らし回ってる様な人のSSなんてゴミ以下です^^
392 :
戌中宮:2008/06/13(金) 23:13:29 ID:???
>>388 ハァ?アンタ何様のつもりよ?べ、べつにあたしはあんたなんかに読んでもらいたいだなんて、これっぽっちも思ってないんですからね!
アタシ、自演なんて一度もしたことないのに……。なんでみんな自演自演言うのかしら……。ママ……。
お
>>393 おまいさん自身、自演じゃないって判ってるから別に良いっしょ?
日頃の行いが悪いんだよ。だからもうそのトリ外せって。
判ったらエディタ開いてなんか作れ。
余計な口叩くな。
ここには来るなよ。スレ汚しになる
隔離スレにでも書いてろ。お前が立てたんだからな
真面目に書く云々の前に荒らしをやめるべきだろ
他人を貶めておきながら自分だけ評価されたいなんて虫が良過ぎる
398 :
6:2008/06/14(土) 02:31:16 ID:???
流れも読まずに続き持ってきた。
いや、あそこで完結も考えたんだが、続き書いたからにはやっぱ読んでもらいたいし。
こっから先は、
>>6で言った通り、スパシン(スーパー・ネガティブ・シンジ)が
活躍する普通の逆行モノ。最初からデレ気味なレイと病んでるアスカとシンジを
神とか言うもはやほとんどオリキャラなミサト・リツコペアが見所かな。
とまあ、高CQな香りを漂わせつつ、投下。
399 :
逆行1:2008/06/14(土) 02:32:09 ID:???
「楽しいことばかりを数珠みたいにつないで、生きていけるはずない、か…」
そんなことを言っていたのは、誰だったろうか。
(……綾波? それとも、僕だったかな?)
けれど、シンジにとってはもうどうでもよかった。
(だって、戻って来たんだ、ここに)
ここには、ミサトさんがいて、綾波がいて、父さんがいて、トウジやケンスケがいる。
ここには、僕の居場所があるんだ。
そう考えて、シンジはグッと拳を作った。
その代わり、何か大事な物をなくしたような気がしたが、そんな思いは心の外に追いやった。
――視線を、窓の外に向ける。
サードインパクトの後では見られなかった、人の温もりのある街。
第3新東京市のビルばかりの町並みが、今のシンジにはとても温かく見えた。
そして、ちらりと目を向ければ、そこにはヤシマ作戦で撃退した第伍使徒の残骸が残っている。
それを見て、どうして自分が他の時点ではなく、まさに『この時』に戻って来たのか、
シンジにはなんとなく分かる気がした。
ヤシマ作戦終了直後と言えば、ミサトやNERVの人と馴染んできた所で、
トウジやケンスケとも友達になれている。
そして何より、ヤシマ作戦の過程の中で、レイとも少しだけ歩み寄れた。
そんな、シンジにとって順風満帆な、居心地のいい時代。
それに、もう少し時間が進んでしまうと……。
(――進んでしまうと、なんだろう?)
シンジは自分が何を考えようとしたのか分からなくなって、思考を閉ざした。
400 :
逆行2:2008/06/14(土) 02:33:05 ID:???
それでも、胸の中に残るもやもやを取り去ることが出来ない。
(……なん、だろ。何かすごく、思い出したくないことを、思い出してしまいそうな)
怖くなる。頭を振って、シンジは必死にその考えを追い出した。
思い出したくないことがある、そのこと自体は別に、不自然なことではないとシンジは思う。
『前の世界』では嫌なことや辛いことばかりがあった。
(でも、もう関係ないんだ。だってそれは昔の世界の話で、この世界のことじゃない。
だから思い出さなくても、いいんだ。ここには、なくなった物が全部、そろってるんだから)
とにかく気を散らせる物でも探そうと教室を見回すと、レイがちょうどこちらの方に歩いて来るのが見えた。
自然と、シンジの顔がほころぶ。
どこか人を拒絶する雰囲気に、無感動なその表情。しかし、それすら今のシンジには懐かしいものだ。
――話をしたい、と素直にそう思った。
もしこの場にトウジやケンスケがいれば冷やかされたかもしれないが、
二人とも「ミサトさんを迎えに行く」と言って、廊下に飛び出していったきりだ。
「綾波っ!」
シンジは何の気兼ねもなくレイに近寄っていって、しかし彼女は、
そんなシンジの様子にほとんど視線も動かさないまま、通り過ぎていく。
ただ、
「…、…、…」
すれ違い様に、その唇が三回、動いた。
401 :
逆行3:2008/06/14(土) 02:33:42 ID:???
「――ぇ?」
たった三つの音の連なり。
なのにそれを、シンジはなぜか認識出来ない。
でも、絶対に聞くはずのない言葉を聞いたような、強烈な違和感が、
「あ、れ…?」
脳が、ぐるぐると揺れる。ついでに教室も回って、足元が歪んで、
シンジは二、三歩、後ろによろめいた。
同時に襲ってきた頭痛を抑えようと、皮膚に爪が食い込むほど強く、頭を押さえる。
それでもシンジを襲う違和感は消えなくて、揺れる世界に合わせるみたいに、
シンジは自分の体を左右に揺すって…。
「だ、大丈夫? 何かあったの、碇君」
異変に気づいて学級委員長の少女がやってくる。
彼女も教室や机や椅子と同じように、やっぱりぐるぐると回っていた。
「顔色、悪いよ? 大丈夫なの、碇君?」
ねじれて回りながら、もう一度尋ねてくる彼女に、
「え? 何が?」
とシンジは笑顔を浮かべて、
――そのままゆっくり、前のめりに倒れた。
衝撃が体を伝って脳を打つのを、どこか他人事のように感じ取る。
「い、碇君っ!? ……だ、誰かっ! 先生! 先生を呼んできて!!」
悲鳴のようなヒカリの叫びにも状況を認識出来ないまま、床に頬をつけたシンジは、
全く別のことを考えていた。
( 。僕は、僕は……)
やがてシンジの意識に闇が落ちかかり、それも、消えた。
402 :
逆行4:2008/06/14(土) 02:34:53 ID:???
『――特に問題はないみたいね。きっかけはどうあれ、症状自体は疲労から来る単なる体調不良よ。
あるいは疲労というのは精神的な物が大きいのかもしれないけど』
『……そう。でも無理ないわ。シンちゃんもここ最近、色々あったから』
『実に、ね。ここ数日の彼の体験は、もはや数奇と言ってもいいレベルだわ。
でも、だからこそここでしばらく骨休めすれば問題ないわよ』
『ここは、彼にとって居心地のいい場所だから?』
『あら、それは自慢? あたしが彼の居場所を作ってあげたのよ、って?』
『まさか! ……それに、もし仮にシンちゃんの居場所が出来ていたとして、
それをやったのはあたしじゃないわ』
『そう? どちらにせよ大差ないと思うけど。……まあいいわ。
とにかく、この環境が彼が休息するには最良だというのは確かよ。
彼を気疲れさせるような要因がほとんどないもの。少なくとも…』
『前にいた場所を考えれば、でしょ。それじゃ、このままこうしているだけで治るのね?』
『ええ。まず間違いなくね』
『だと、いいけど。……心配なのよ、あたしは。この子を取り巻く環境には不確定要素が多すぎるわ。
普通ではありえない何かがシンジ君の心や体を冒していても、気づけないかもしれない』
『やけに引っかかる物言いね。ミサト、あなたは何を心配しているの?』
『…………』
『ミサト?』
『……リツコ。あなたは、考えたりしないの?
シンちゃんがこんなに疲れているのって、あたしたちのせいじゃないか、って』
『…そんな事はない、とは、言い切れないわね、実際。はっきり言って、
私達の存在が彼の精神や脳に過大なストレスをかけている可能性は充分に考えられるわ。
でも、慣れてもらうしかないわね。こればっかりは』
403 :
逆行5:2008/06/14(土) 02:35:45 ID:???
『で、気になっているのは、それだけ?』
『もちろん、レイのこともよ。あの子、シンちゃんに何をしたの?』
『さぁ。でも、そんな大した事をするような時間はなかったわ。同じクラスの生徒も、
何人か見ていたようだしね。せいぜい一言二言、何か話をしただけ。…そうじゃないの?
そもそも、彼の監視は引き続きあなたが行うという話じゃなかったかしら?』
『分かってるわよ! もう、あたしが少し、目を離していた間に…!』
『あら、責任を感じているの? ふふ。私達にとっても彼の生死は死活問題だものね』
『……さっきから、意地の悪い言い方をするのね。あたしは純粋にシンちゃんの体のことを心配して…!』
『待って。……彼、起きようとしているわ。ミサトが大声を出したから、って訳じゃないでしょうけど』
『知らないわよ。リツコの性格がひん曲がってるせいじゃないの?』
『はいはい。……さて、今日はこの辺でいいわね。あまり話すとそれこそ彼の身体に障るかもしれないし。
それじゃ、私はもう行くわ』
『ちょ、ちょっとリツコ…!』
『じゃあね、ミサト。……シンジ君』
『まったく、いつもながら勝手なヤツ。
――シンちゃん。早く元気になるのよ。あたしがずっと、見守ってるから…』
404 :
逆行5:2008/06/14(土) 02:36:39 ID:???
――シンジは、ゆっくりと目を開ける。
目を覚まして数秒も経っていないはずなのに、頭はきっちりと覚醒していた。
「おはよう、シンジ君。気分はどう?」
だから、傍らに座っていたミサトに声をかけられても、全く驚きはない。
自然と頭を動かして、あいさつを返す。
「おはようございます、ミサトさん。……僕、倒れたんですよね?」
「ええ。教室で、突然ね」
「……進路相談、どうなりましたか?」
「もちろん延期よ。はあぁ、また仕事のスケジュール調整しなきゃ…」
ミサトはそう愚痴るように言うが、それは遠まわしに『次の進路相談にも出る』、
と伝えてくれているのだとシンジにも分かった。
「それより、記憶の混乱はない? 自分の名前とか、思い出せる?」
「ええ。心配ないです」
倒れる前の記憶は、大体はっきりしていた。
シンジはこっちに歩いてきたレイに近寄っていって、――それから、急に気分が悪くなって、
そのまま倒れてしまったのだ。
(情けないなぁ。戻って来た途端に、これだなんて。もしかして、
あっちにいた時の疲れが残ってたのかな? そういうことって、あるんだろうか)
シンジはそんなことを思うが、それを口に出せるはずもない。
405 :
逆行7:2008/06/14(土) 02:37:34 ID:???
「今、何時ですか?」
場をつなぐ意味も込めて、シンジはミサトに尋ねた。
「もう、十時近いわ。シンジ君はあれから何時間も眠っていたのよ」
「そう、なんですか…」
そう言われて、顔を伏せる。
そこで、ミサトの服が昼間と全然変わっていないのに気づいた。
「ミサトさん。もしかして、僕が起きるまでずっと付いててくれたんですか?」
「ええ。……と言いたいところだけど、実際は仕事帰りにちょっと寄っただけなのよ。
そうしたら、その時に偶然シンジ君が目覚めて。ちょうど、間が良かったのね」
「……偶然、ですか?」
シンジは視線をちらりと横にすべらせた。
ベッドの脇に置かれた小さな机の上には、コーヒーの空き缶が三つ、置かれている。
飲み口には、うっすらと同じ色の口紅がついていた。
「……ぅ」
それを見られたのに気がついたミサトは、ばつの悪そうな顔をした。
「ま、まあ仕事帰りっていうのは喉が渇くもんなのよ」
「そうなんですか」
どこか笑いを含んだシンジの言葉に、ミサトはもう一度「…う」とうめく。
「あの、他にお見舞いに来てくれた人とかは…」
助け舟を出す意味もあって、シンジはそう切り出した。
「あぁ。朝来てたクラスメイトの子が二人、来てくれてたわよ。
鈴原トウジ君に相田ケンスケ君だっけ? いい友達持ったじゃない」
「……あはは」
シンジの笑いに、ちょっと乾いた物が混じる。
ミサトがいると分かっている以上、彼らの見舞いが純粋な気持ちから来ているのかどうか、
シンジにはイマイチ断言出来なかった。
406 :
逆行8:2008/06/14(土) 02:38:30 ID:???
「ま、面会時間とかあるからすぐに帰らせちゃったけど。会いたかった?」
「いえ。学校に行けば、いつでも会えますから」
自分で口にした言葉に込められた意味に、シンジは少し動揺した。
――いつでも学校に行けば彼らに会えるということがいかに貴重なことなのか、
あらためて実感する。
同時に、そんな風に感動する自分を、少し安っぽいなとも思った。
「どうかしたの? まだ、具合が悪い?」
「……いえ。それより、ミサトさんはいいんですか? 面会時間…」
シンジの言葉に、ミサトは片目をつぶってみせる。
「ま、NERV特権ってヤツでね。
……本当は、こういう時に特権振りかざすってのは規定違反なんだけど」
ミサトの悪びれない態度に、シンジの口からも思わず呆れた声が出る。
「…いいんですか、それ」
「いいのよ。むしろこんな時に使わないでいつ使えって言うのよ」
「あはは…」
また、乾いた笑い。
でも、少しだけ嬉しかった。
407 :
逆行9:2008/06/14(土) 02:39:14 ID:???
「あの、トウジとケンスケの他には…」
どうしても気になって、シンジはもう一度尋ねた。
その言葉に、何を感じ取ったのか、ミサトは、
「あの、シンジ君。残念だけど、碇司令は今日も…」
「分かってます。期待してないですから」
父のことを吹っ切ったとか、諦めたとか、そういうレベルではなくて、
どんなに大怪我で入院したとしても、一度も見舞いに来なかった父だ。
だから、予定があるとかないとかと無関係に、今回が特別だろうなんて、全く思わなかった。
そしてむしろ、今気になっているのは、そういうことではなくて、
「そうじゃなくて、その、……リツコさんは?」
「リツコ? さあ? あたしが帰った時も、まだ仕事してたと思うけど、どうして?」
「なら、いいんです。たださっき、眠っている時に声を聞いたような気がして…」
「ふうん」
ミサトは一度腕組みをして、すぐににんまりと笑った。
その笑みに、シンジの背中がぞくっと震える。
「なるほどー。シンちゃんってもしかして年上狙い? だけどあれだけはやめといた方がいいわよー。
澄ました顔して性格ひん曲がってるから」
「そ、そんなんじゃないですよ!」
場の雰囲気を軽くしようとして言った言葉だろうとさすがのシンジにも見当はついたが、
それでも思わず動揺してしまう。
シンジは慌てて次の話題を探した。
「そ、それより、あの、いつになったら退院出来ますか? ただの体調不良なんですよね?」
「え、ええ。今のところ検査結果に特別異常はないみたいだけど。
でもどうして? シンジ君にはまだ病状の説明はしていないはずだけど」
「それは、さっきミサトさんが…」
「あたしが…?」
ミサトの怪訝そうな顔に、シンジは口をつぐんだ。
408 :
逆行10:2008/06/14(土) 02:40:46 ID:???
「…何でもないです。でも、自分の体のことは、自分が一番よく分かりますから」
一瞬、ミサトはシンジに探るような目を向けてから、ふぅ、とため息をついて、
「……気持ちは分かるけどね。そういう風に油断している時が一番危ないのよ。
いいから少し、ここで寝ていなさい。疲れが取れないようなら、
明日は学校も仕事も休んでいいわ。学校には、あたしの方から連絡しておくから」
「……はい」
シンジは唇を噛んで、うつむく。
「そんな顔しないの。休むのも、立派な仕事よ」
「……それは、分かってますけど」
せっかく自分の居場所を取り戻したのに、そこに戻っていけないことが、少し悔しかった。
困ったように視線をさまよわせると、ミサトは「さーてと」なんて言いながら立ち上がった。
「それじゃ、あたしはそろそろ帰るわ。ペンペンが寂しがってるといけないし。
必要な物は明日の朝一で届けるから、それまで何も要らないわよね」
言いながら、ドアの方へ歩いていく。
「……はい。大丈夫です」
うつむいたまま、シンジは答える。
「だから、そんな顔しない。美人のナースをつけるように、きちんと言っておくから」
そう言って、ドアに手をかけるミサトを見送ろうとして、
「み、ミサトさんっ!」
その瞬間に襲った恐ろしいまでの嫌悪感に、シンジは思わず大声でミサトを呼び止めていた。
――つい、想像してしまったのだ。自分が、ここに一人取り残され、一人で眠ることを。
ここに置き去りにされるのは、ここで一人で寝ているのはどうしても嫌だった。
なぜなら、こうやって、ただ黙って病室のベッドに横たわる姿は、まるで……。
……まるで、何なのか。シンジにもよく分からない。だが、それはひどく不安を呼ぶ物で、
「その、こんなこと言うのは、わがままだって、分かってますけど。でも、」
だから、少しだけ、勇気を出して、
「でも僕は……家に、帰りたいです」
そう呟いたシンジを、ミサトは最後に目を細めて見つめて、それからバン、と扉が閉まった。
409 :
逆行11:2008/06/14(土) 02:41:23 ID:???
深夜。暗くなった病室で、シンジはずっと天井を眺めていた。
眠ることは出来なかったが、先ほど襲った正体不明の嫌悪感は、だいぶ落ち着いていた。
「でも、おかしいな。こんなものまで、何だか懐かしく見えるなんて…」
(最初の頃は、あんなによそよそしく見えたのに。……見慣れた天井、か)
そんなことを思って、なんとなく、出来の悪い冗談を思いついたような気分になる。
そんな時、
ガチャガチャガチャガチャー!
と何かが迫ってくる音がして、シンジは体を起こした。
ガン、と扉が鋭い音を立てて開くと、
「おまたせー! シンちゃん!」
そこから、一人の女性が顔を出した。
無遠慮に病室の中に入ってくる。
「み、ミサトさんっ!? それって、車椅子…」
「あはははー。ちょっちねぇ」
言うなり、シンジの横に車椅子を止め、
「さ、乗った乗った」
と満面の笑みで促した。
「お、大げさですよミサトさん。自分で歩けますから…」
「病人がワガママ言わない! ほらほらほらほら」
押しの強さに負けて、シンジはそこに座らされてしまう。
「ちゃんと座ったわね。それじゃ、楽しい我が家に帰りましょうか!」
なぜか満足そうなミサトに、シンジはついていけない。
「で、でも、入院するって予定だったはずじゃ…」
「あっはっはー。そこはそれ、強権発動の特権ごり押しでねじこんで何とかねー。
退院許可取りつけて検査結果引っつかんで車椅子かっぱらってやってきたのよ」
どこか舞い上がってるような態度で、豪快に笑う。
410 :
逆行12:2008/06/14(土) 02:46:21 ID:???
そこで、シンジがまた何か言おうとした所に、
「ほい。行くわよー」
やけに軽い掛け声と共に、舌を噛みそうな勢いで車椅子が動き出した。
本当に舌を噛まないように注意しながら、
シンジは上を見上げて一番聞きたかったことを尋ねる。
「で、でもどうしたんですか? 急に、こんな…」
ミサトは車椅子の向かう先だけを見て、決して下を見ないまま、
「さっきシンジ君、家に帰りたい、って言ったでしょ」
「え? は、はい」
シンジの言葉に、ミサトの手に力が込められ、車椅子がさらにスピードを上げる。
そして、ミサトはやっぱり、シンジを見ずに、
「それって、あたしのマンションのことを、自分の家だと思ってくれてるってことよね?」
「そう、ですけど…」
シンジはおずおずと、答える。
もしかすると、『この時点でのシンジ』としては不自然だったか、と考えながら。
すると、
「そうゆうの、何というかすこーし、嬉しいかなー、なんて思ったのよ。
あんなとこでも一応、家、って思ってくれてるのはね」
「え?」
シンジは顔を上げる。病院の暗さも手伝って前を向くミサトの表情は見えない。
でも何だか、照れているような…。
「……ま、そんだけよ。さ、飛ばすわよぅ! しっかり掴まっときなさい!」
しんみりとした空気を吹き飛ばすように、ミサトはぐっと強く車椅子を加速させた。
その、進路の先にあるのは……。
「え、あ、ちょ、ちょっとミサトさん!? 止めて! ストップ! 無理です!
車椅子で階段は無理ですってば! ミサトさ…うわあああああああ!!」
シンジの絶叫が、ドップラー効果で病院内を遠ざかっていく。
けれどもその声には、少しだけ、心なしか嬉しそうな響きが混じっていた。
411 :
6:2008/06/14(土) 02:48:30 ID:???
以上。
とりあえず今回は様子見でこんな感じ。
では。
乙!とりあえず続きを楽しみにしてるよw
前回の完結というか逆行前は何がどうなったのかいまいち読んでもわからん感じだけどね
ちょっと書いてみた。
加持さん主人公の短編でシュールな展開多し。
こんなの加持さんじゃねえ!と怒られると思うので先に謝っとく。
すまんかった。
414 :
罠1/2:2008/06/14(土) 11:10:55 ID:???
俺の名前は加持リョウジ。
慎重に慎重を重ねて準備をしたおかげで、厳しい警戒網をかいくぐり、ついにこのヘブンズ・ドアまで辿り着くことが出来た。
きっとこの先に俺の求めるセカンドインパクトの真実の手がかりが…。
おや、扉に横にあるこの3つのボタンはなんだ?見てみよう。
「扉を開く」 「ネルフの秘密」 「ちんちんが大きくなる」
躊躇なく俺は「ちんちんが大きくなる」を押していた。
けたたましい警報音が鳴り響きだす。
しまった、罠だったのか?!俺としたことがなんてミスだ!
しかし、真のプロは常に退路を確保してから仕事に臨むものだ。
蜂の巣をつついた騒ぎを嘲笑いながら、俺は安全圏へと逃れつつあった。
誰にも見つからずにここまで来れるとは、さすがは俺だな。すぐにロックの解除コードを打ち込んで……む?
おかしい。前は確かにコントロールパネルがあったはずのところに、今は3つのボタンが並んでいる。
「脱出」 「安全」 「エッチな体験」
俺は思わず「エッチな体験」を押してしまっていた。その途端、足元の床が割れて俺は追っ手のど真ん中に落とされてしまった。
くそ、なんて狡猾な罠なんだ!武装した警備兵たちが追って来る。
絶体絶命の状態で俺は近くの部屋に飛び込んだ。部屋の奥にはやはり3つのボタンが。まったく今日はとんだ厄日だ。
「武器」 「救援」 「1日だけネルフの司令になれる権利」
俺は迷わず「1日だけネルフの司令になれる権利」を押した。
壁から謎のガスが噴き出しているのに気付いた時、俺は意識を失った。
ルパンか冴羽のリヨウちゃんだな
なんで変換でヨが大文字に・・・orz
417 :
罠2/2:2008/06/14(土) 11:19:55 ID:???
意識を取り戻したとき、俺は縛られた状態で床に転がされており、目の前には赤木リツコが立っていた。
銃を持った黒服の姿も見える。ああ、俺はここで死ぬのか。
「まったく、あなたも困った人ね。普通なら問答無用で殺されるところだけど、長い付き合いだし、一度だけチャンスをあげるわ。
この3つのボタンのうち、好きなのを押しなさい。正しい選択をすれば、今回の件は私の胸だけに留めておいてあげるわ」
「生還」 「無罪放免」 「スイカパラダイス」
指が勝手に「スイカパラダイス」に伸びていく。
「それは罠よ!」
声のした方向を見ると、葛城ミサトが黒服たちに押さえ込まれていた。
葛城ミサトは涙を流しながら叫ぶように訴える。
「考えるの!落ち着いて考えればどれが罠かわかるはずよ!」
…葛城、俺なんかのために泣いてくれるのか。
でもやっぱり俺は「スイカ食べ放題」を押した。
再び意識が遠ざかり、気が付くと、俺は無数のスイカに囲まれていた。
やった、当たりだ!
しゃくしゃくしゃく。んまーい。しゃくしゃくしゃくしゃく。あまーい。
よく冷えてるし食べやすいようにカットされているなんて、さすがはりっちゃんだ。うめえ。しゃくしゃく。
それにしても、さすがはネルフ、簡単にはいかないな。だが次は見てろよ、見事「エッチな体験」を手に入れてやるぞ!
そっちかよ!誰かの声が聞こえて、俺の頭は割れたスイカのようになった。
――罠が張り巡らされたスパイの世界は非情なものだ。一瞬の決断が生死を分ける。俺には少しだけ運がなかったようだ。
薄れゆく意識のなか、加持リョウジは薄く笑った。
終劇
乙(・ω・)ノ▽"フリフリ
これはヒドいw
みんな餅つけw
ノンジャンルだぞこのスレはw
概ね好評(?)なので安心しましたw
ところでちょっとミスがあったので報告。
罠2/2の、「スイカ食べ放題」→「スイカパラダイス」に脳内変換してくれるとうれしいです。
どうでもいいって?
ええ、僕もそう思います。
心温まる感想をくれた人ありがとうw
古畑中学生に対抗して葛城中学生か六分議中学生か赤木中学生書こうと思うんだけど、どれがいい?
じゃ赤木中学生で
トリ変えた意味ねえだろカス
自己主張したくて仕方ないんだろ
大好きな、本当に大好きな人を射止めるためにこれから頑張らねばなりません。旅に出ます。
さようなら(/_;)/~~
リアルでストーカー始めるのかw
428 :
6:2008/06/16(月) 19:55:49 ID:???
>>412 あれプロローグだから、本編の伏線集でもあるんだよ。
だからそれだけ読んでも分かんないんだよ。
…と、言い訳してみる。
まあ続き投下
429 :
逆行13:2008/06/16(月) 19:56:34 ID:???
「おはよう、シンジ君」
ミサトの声で、シンジは目を覚ました。
「…あ、おはようございます、ミサトさん」
声はいくらか弱々しい。
あの日倒れてから、シンジの体調はあまり芳しくない。
「あ、無理に起きなくていいわよ。まだ本調子じゃないんでしょ」
「いえ。もう、大丈夫ですから」
そう言ったシンジに、ミサトはこれみよがしにため息をつく。
「はぁぁ。そんな顔で大丈夫なんて言われても全然説得力ないわよ。
教室で倒れた日なんて、帰ってくるなり自分の部屋を間違えたりするし…」
シンジは軽くうつむいた。
――その時のことは、シンジの一番新しい心の傷だ。
車椅子で病室から連れ出されたあの日。ミサトのマンションに着いて、
本人のたっての希望でふらつきながらも自分の足で歩いていたシンジは、
自分の部屋を素通りして、隣の誰も使っていない部屋に向かおうとしていた。
慌ててミサトに引き止められて、部屋の中に押し込められてからも、
その部屋が自分の部屋であるという実感がなかった。
(当たり前だ、だって、ここは……)
考えるとズキズキと頭が痛んで、急に気持ちが悪くなって、でもなぜか、
それすらもどうでもよくなって、シンジはベッドに倒れ込んだ。
「だって、ここは……」
もがき、もだえながらも必死にその続きを紡ごうとして、その瞬間、
ズキズキ、ゴチャゴチャと混線していた脳の回路が、カシャリとつながった。
まるで動かなかった機械に突然スイッチが入ったように、
「アスカ…」
今まで決して口にされなかった言葉が、唇からぽつりと漏れた。
430 :
逆行14:2008/06/16(月) 19:57:08 ID:???
たぶん、きっかけなんて何でもよかったんだとシンジは思う。
それはどこかに隠れていたのではなくて、ただシンジが奥にしまっていただけだから。
そして、それを思い出した、その時に、
「そうか。そういうこと、だったんだ…」
シンジは、ようやく分かった気がした。
赤い海の中で、自分の望みを問われたあの時、自分が望んだものが。
(いや、本当は最初から分かってたんだ。ただ、目をつぶっていた。
目を逸らしてたんだ。今、この瞬間まで、ずっと)
あの瞬間、あの時の、シンジの望み。
初号機からの声に望みを誘導されたとか、意識が朦朧としていて判断力が落ちてたとか、
そういうことは言い訳にはならない。
なぜならシンジの最大の望みは、しっかりと叶えられたのだから…。
そう、あの時のシンジを支配していた、一番大きな想い。それは、
「……逃げ出したんだ、また、僕は」
それは『逃げたい』という想い。
今までシンジは、居場所が欲しいとか、やり直したいとか、
そういう動機で自分がここにやってきたのだと、そう思っていた。
思いたがっていた。だけど、違う。
「僕は、アスカが怖かったんだ。でも、失いたくなかった」
だから判断を保留した。
向き合わなくちゃいけなくて、向き合いたくなくて、でもあきらめることも出来なくて、
だから何も考えなくていいように逃げ出した。……この世界に。
ここなら周りにはまだ楽しいことが残っていて、つらいことを忘れていられる。
そして何より、アスカがやってくるまでのほんの少しの時間、彼女のことを忘れていられる。
それでいて、アスカがやってきてからは、どうとでも彼女と関係を構築出来る可能性が残っている。
……どこまでも、シンジにとって都合のいい世界。だけど、その代償に、
「アスカ、僕は、君を……」
431 :
逆行15:2008/06/16(月) 19:57:52 ID:???
アスカとは、また会うことが出来る。
たぶん、そう日を置かずに、すぐに。
だけどそのアスカはきっと……、
「僕と出会ってもいない、僕のことを何も知らない、アスカ」
一緒にエヴァに乗って使徒と戦って、サードインパクトを経験して、
あの廃墟で共に生き抜いたアスカは、消えてしまった。
いや、そうじゃない。
「アスカ、僕は、君を、……殺してしまった」
はっきりと、そう望んだワケじゃなかった。
もし彼女を消したいか、消したくないかと訊かれたら、
きっと消したくないと答えただろう。
でも、シンジの『逃げたい』という想いが、
結果的には彼女を殺してしまった。
「アスカ、アスカ、僕は…」
アスカとの思い出が、突然奔流のように押し寄せる。
「う、うぁ…。うあああ、ぁ…!」
シンジは枕に顔を押しつけ、漏れ出る嗚咽を抑えた。
(……ダメだ。僕は泣いちゃダメだ!)
シーツをぎゅっと握り締めながら、シンジは涙を堪える。
(泣いたら、僕は自分を許してしまう気がする。それじゃダメだ。
彼女を殺した僕が、彼女の死を哀しむなんて、そんなのはダメだ)
血がにじむほど唇を噛み締めて、声を噛み殺した。
(この罪と痛みを、僕は一生抱えて生きていくんだ。
僕が、僕だけが彼女を覚えていられるんだから)
シンジは、暗闇の中、そう誓って……
432 :
逆行16:2008/06/16(月) 19:58:36 ID:???
「お、おーい、シンちゃん? ほんとに大丈夫?」
うつむいて黙り込んでしまったシンジに、ミサトの声がかけられる。
シンジは慌ててうなずいた。
「あ、はい、大丈夫です。ただ、ちょっとぼうっとしちゃっただけで…」
「はあぁ。少し顔も赤いみたいだし、こりゃ、今日も学校は休みね」
ミサトの言葉に、シンジも内心ため息をつく。
サードインパクトの誰もいない町で生活して、それからもずっと家にこもっていたせいか、
シンジにしてはめずらしく、人恋しさが募ってきていた。
また、NERVに顔を出していないことは、仕事をさぼっているような後ろめたさを感じさせた。
「でも、いいのかな。学校もだけど、こんなに訓練さぼって…」
つい、それをぽつりと口に出してしまう。
しかし実際シンジの記憶では、使徒にやられて入院していた時以外に、
こんなに長くエヴァのテストや訓練をしなかった時はない。
ミサトは鼻の頭をかいて、
「まあ、ほんとはちょーっち甘やかしすぎかな、と自分でも思ったりするんだけどねぇ。
なんか、あたしの脳のシンジ派がシンジ君を休ませてやれーって騒いでるっていうか」
「あははっ。変なたとえですね」
「むむむ…」
シンジに笑われて、居心地の悪そうな顔でミサトはムリヤリに話を軌道修正する。
「とにかく、まだ本調子じゃないんだから、おとなしくしてなさい。
いくら訓練をやったって、本番で体壊してたら使い物にならないんだからね」
お小言のようにそう言った後、少しだけ表情を緩めて、
「あー、それでね。昨日伝えそびれたんだけど、
今日は仕事で旧東京の方に行かなくちゃならなくて、帰りは遅くなるの。
レトルトの食品がまだ冷蔵庫にいくつか残ってるし、
何だったら何か頼んじゃってもいいから」
「……そう、ですか」
ミサトの言葉に、シンジの表情が固くなった。
433 :
逆行17:2008/06/16(月) 19:59:22 ID:???
その態度の変化を、ミサトはシンジが自分に甘えているのだと解釈した。
「……もう。出来る限り早く帰ってくるから、そんなにすねないでよ」
シンジの頭をなでようと、ミサトが少し、体を寄せる。
「……ぁ」
ミサトに近づかれて、シンジは思わず体を引いた。
「なによ、もう。あたしなんかに触られたくないっていうの?」
ミサトはおどけてそう言ったが、一瞬浮かべた傷ついたような表情は隠せなかった。
それを、シンジは申し訳なく思いながら、
「すみません。そういうことじゃ、ないんです。ただ、その匂いが…」
言われて、ミサトはハッとした。
「あ、ああ。今のシンちゃんにはちょっときつい香りだったかしら。
これから一応パーティーだからね。お気に入りのラベンダーの香水、つけてるんだけど」
「ラベンダーの匂い、僕にはちょっと、きついみたいで…」
「いいのよ。具合が悪い時って急に感覚が鋭くなって、いつも気にならない匂いとか、
すごく気になったりするのよね。あたしにも経験あるわ」
なぜシンジがラベンダーの香りを気にするのか、ミサトに想像出来るはずもない。
「……ごめんなさい」
シンジはもう一度謝った。それを、複雑そうな表情で見守りながら、
「それじゃ、くれぐれも安静にね。あたしがいないからって、あんまり弾けちゃダメよ」
ミサトが部屋を出て行く。
シンジはその背中を追いかけるように、言葉をかける。
「その、僕は大丈夫ですから。学校だって、エヴァの…訓練だって、必要ならやりますから」
ミサトは振り返らずに手を振って応えた。
そして、遠くで玄関の扉が開いて、また閉じる音を聞きながら、
「ジェットアローンの完成披露パーティーと、暴走事故。今日、だったんだ」
緩慢な動作でベッドから起き上がる。
「起きて、せめて呼び出されたらすぐ動けるようにだけ、しておかなくちゃ…」
そして数時間後。シンジは機上の人となった。
434 :
逆行18:2008/06/16(月) 20:02:48 ID:???
遠隔操作によって動く鉄の巨人ジェットアローン。
それはシンジの記憶の通り、暴走した。
そして、その暴走を止めるためエヴァ初号機と共に空輸中のシンジは、
その機内でミサトに今回の作戦を説明されていた。
「シンジ君? シンちゃん? 大丈夫? 話、聞こえてる?」
シンジにとってジェットアローンの暴走は二度目だ。
ついぼーっとしたまま話を聞いてしまっていた。
「え? あ、はい。大丈夫です。エヴァ初号機で目標に接近、併走して、
ミサトさんを目標背部のハッチまで運べばいいんですよね。
それから、目標の足止めをして、ミサトさんが動力炉を止めるのを待つ」
シンジがそう淀みなく答えると、ようやくミサトは安心した顔をした。
「ごめんなさいね、シンジ君。病み上がりなのは分かっているけど、緊急事態なの」
「分かってます。それに、一番危険なのはミサトさんなんだし」
「ありがとう。……あぁ、帰ったらまず一番にビール飲みたいわ、ビール!
パーティーじゃ結局あんまり飲み食い出来なかったし」
ミサトがおどけたように笑うと、シンジも愉快そうに応じた。
「あはは。大丈夫ですよ。きっとうまくいきます。そんな気がするんです」
「へえぇ。シンちゃんがそういうこと言うの、珍しいわね」
「…ですね。やっぱりまだ体が治りきってないのかも」
そう言ってはにかんだシンジに、ミサトは「ふふ」ともう一度笑いを返して、
「そろそろあたしも準備しなきゃ。……頼りにしてるわよ、シンちゃん」
ぽん、とその肩をたたく。
「……はい」
シンジがうなずいたのを確認して、ミサトは席を立った。
歩きながら、思う。
(きっとうまくいく、か。気楽に言ってくれる、と思わなくもないけど。
まさか、シンジ君に励まされるとはね。これじゃ、普段とは立場が逆だわ)
ミサトがもう一度振り返ると、シンジは笑顔で応えてみせた。
「……そう。成長しているのね、あの子も」
435 :
逆行19:2008/06/16(月) 20:03:54 ID:???
(また、エヴァに乗ることになるなんて、思わなかったな…)
エントリープラグの中で、シンジは声に出さずにそう呟いた。
ずっと体調不良でテストや訓練を休んでいたシンジにとって、
この世界にやってきて初めてのエヴァだ。
(何だか前よりずっと、体がエヴァに馴染んでいるような、そんな気がする)
それはエヴァのパイロットとしては喜ばしいことのはずなのに、
シンジは自分の境界が薄れてしまっているようで、嫌だった。
(一瞬でも気を許したら、すぐに体ごと、心が飲み込まれてしまいそうだ)
シートにもたれるように、上を見上げる。
(どうせなら、エヴァのない世界に行ければよかったのに。……いや、ダメか。
そんな選択が出来るなら、ここに戻ってない。結局、僕はエヴァなしじゃ不安なんだ。
エヴァンゲリオンのパイロットじゃなくなった僕が、本当に人に受け入れられるかどうか)
物思いにふけるシンジを、マコトの声が現実に引き戻した。
「エヴァ、投下位置!」
シンジは姿勢を正す。
「ドッキングアウト!」
そうして、作戦が始まった。
436 :
逆行20:2008/06/16(月) 20:04:25 ID:???
(なんだ、これ。初号機の動きが、キレすぎてて……)
シンジの想像よりも一瞬早く、初号機は反応し、
シンジが考えるより少し速く、初号機は動く。
(これが、ブランク? 長い間乗ってなかったから、操作勘が戻ってないってこと?)
その微妙なズレが重なって、走りのフォームは崩れ、結果的に不恰好な機動になる。
いつ転んでもおかしくないほどの、不安定な走り。
なのにシンジは、今の方がいつもより速い、と感じていた。
(ミサトさんを乗せているから、無茶なことは出来ないのに…)
初号機の鋭敏すぎる操作感覚と、想像以上の機動性に、シンジは戸惑いを隠せない。
それでもシンジはJAの動きを止め、後部のハッチにミサトが入るのを見届けた。
(とにかく、これで後はもう、見守るだけだ)
JAの前方に回り込んでその進行を阻止しながら、シンジはそうひとりごちる。
前回の暴走事故の時は、時間ギリギリだったという記憶がシンジにはある。
それなのに、全く危機感が湧いてこない。
もしかすると、誰かの記憶が教えてくれているのだろうか。
今度も大丈夫だという確信だけが、シンジにはあった。
……そして、シンジの予想通り。
臨界の直前で、JAの動力炉は動きを止めた。
437 :
逆行21:2008/06/16(月) 20:06:31 ID:???
全てが終わって。
どこか気を許していない雰囲気でリツコを見つめるミサトに、
リツコは一枚の出力されたデータを見せた。
一瞬で不機嫌顔がなりをひそめて、ミサトは身を乗り出す。
「これ、もしかしてさっきの?」
「ええ。ここを見て。彼のシンクロ率の最高値が、コレよ」
その数字に、ミサトは目を見張った。
「すごい数値じゃない。シンクロ値の最高記録、更新ね」
「いいえ。シンクロ値の自己記録、更新よ」
一瞬、ミサトは怪訝な表情を浮かべるが、
「そうか。ドイツのセカンド、アスカね。上には上が、ってワケか」
「そうね、でも……」
「でも…?」
リツコは軽く首を振った。
「いえ。でも、一瞬とはいえすごい記録よ。帰ったら、彼をたっぷり誉めてあげるといいわ。
……きっと、愛しのミサトさんのために限界以上に頑張ったのよ、彼」
リツコがそう言うと、ミサトの顔がわずかにしかめられた。
「あー。まぁ、あたし関係はともかくとして、
今日は調子の悪いシンジ君に無理させちゃったからなぁ。
帰ったらその分ねぎらってあげないと……。うぅ、でも、今月は色々と出費がなぁ…」
楽しそうに百面相するミサトに、リツコはふっと表情を緩めた。
「だいぶ馴染んで来たんじゃないの? 保護者役。顔が優しくなってるわよ」
「……あんたが言うと、何だか素直に喜べないのよねぇ」
そう言いながら、ミサトは満更でもなさそうだ。
尚もぶつぶつと何かを呟くミサトを、リツコは細い目で見つめ続けていた。
438 :
逆行22:2008/06/16(月) 20:07:04 ID:???
「……なんか、疲れたな」
バタン、とシンジはベッドに倒れ込んだ。
何かシンクロ率の記録を更新したとかで、作戦成功の祝いと合わせて、
ミサトがほめてくれるのを、シンジは居心地の悪い思いで聞いていた。
加えて、エヴァに乗って戦うことだけではなく、今日初めて感じた、
エヴァに乗ること自体に湧き上がった嫌悪感が、シンジの心を重くしていた。
――ただ、シンジにとっての朗報もあった。
一体何が原因だったのか。
久し振りに外に出て、エヴァの操縦をしたことで体の不調はむしろ好転した。
また検査を受ける必要はあるかもしれないが、この調子なら明日からはもう、
以前と同じ生活が送れるだろうとシンジは予想していた。
「これでようやく、学校に行ける」
長い間、学校にもNERVにも行っていない。しばらく会っていない人も、
たくさんいる。でも、特に、
「……綾波。会いたいな」
結局、シンジが体調を崩している間、レイは一度も見舞いには来てくれなかった。
トウジやケンスケが半ばミサト目当てで通ってきたのはありがたかったが、
やはりそれだけでは満たされない物がある。
そして、目的は会うことだけではないのだ。
「会ったら、レイに、訊かなきゃ。あのとき、どう、して……」
そう呟いたきり、シンジはベッドに突っ伏したまま、安らかに寝息を立て始めた。
……夜は更けていく。
439 :
逆行23:2008/06/16(月) 20:07:56 ID:???
『で、リツコ。あの暴走騒ぎ。結局アレは、あんたの仕業だったワケ?』
『別に、私が一人でやった事ではないわよ。
命令を下されたのは司令や副司令だもの』
『……どっちにしろ、あんたが一枚噛んでるってことには変わりないじゃないの』
『もしかして、怒っているの? それは心外ね。
私は善意で彼らの無駄を省いてあげただけよ。
使えない兵器にお金を使っても、誰も幸せにはなれないわ』
『じゃあ百歩譲ってそれは認めるとして、
あの時のあたしの決死の突撃はなんだっていうのよ!
あれじゃああたし、まるっきりのバカじゃないの!』
『あら、それこそ心外よ。あれは尊敬に値する英雄的行為だと思うわ。
実際に、感謝もしてる。あなたのおかげで彼らに恩を売る事も出来たし、
何より『何もしていないのに勝手に止まりました』では、あまりに露骨すぎるもの。
向こうに送った報告書では、あなたを褒めちぎっておいたわよ』
『どこまで性格ねじ曲がってんのよ、あんたは…』
『誉め言葉かしら、それ。
お互い、手段を選んでいる余裕なんてなかったはずだけど』
『……いいわ。ピエロを演じるのは慣れてるもの。
だからって、怒りが収まるワケでもないけど』
『へぇ。大人ね』
『くっ! ……でも、今のあたしたちにとってもっと大事なことは、
他にあるでしょ、って言いたいの!』
『そう。彼の事ね』
440 :
逆行24:2008/06/16(月) 20:09:11 ID:???
『ねぇ。実際のところ、シンちゃんのシンクロ率、どう思う?』
『そうね。あの数値が本当なら、いくらなんでも少し、高過ぎるわね』
『原因は?』
『今はまだなんとも。理由が想像出来ないのではなくて、多過ぎて絞り込めないのよ』
『そうか。じゃあそれについて、原因の究明と調査を…』
『最優先で、って言うんでしょ。どうせ、私には他に出来る事もないもの。
でも、私の力じゃ限界があるわよ。能動的に行動出来ない以上、どうやっても、ね』
『あたしだってそれは同じよ。
いえ、むしろリツコみたいに優秀な頭脳を与えられなかった分、
出来ることはもっと少ないわ』
『あら、嫉妬? でも、私の方が頭が良さそうに見えるのはしょうがないわ。
イメージの問題だもの』
『だから、そこが気に食わないって言ってるんでしょうが!
……はぁ。知的さの源は、やっぱり白衣かしらね』
『普段のあなたを見る限り、そういう記号だけで決まった評価とは思えないけど』
『何言ってんのよ! 男って奴は誰だってねぇ…』
『そういう台詞、あなたが言うと、実に含蓄がないわね。
……どうでもいいけど、彼、明日は学校行くんでしょ。
そろそろ解放してあげないと』
『あ、ああ、それもそうね。シンちゃんには毎日がんばってもらわないと。
それに、昔から言うものね。『早起きは三文の得』って』
『今更になって徳を積もうとも思わないけど。
でもそうね、『死人に口なし』とは言うわね』
『あ、あはは。あ、あんたって……』
『何かしら?』
『な、何でもないわ。それじゃ、おやすみ、シンちゃん』
『おやすみなさい、シンジ君』
441 :
6:2008/06/16(月) 20:09:49 ID:???
以上
見事なもんだ!
あのアスカは消滅しちゃったのか…
泣ける(┬┬_┬┬)
あ、乙&GJ!
言うの忘れてた
444 :
35:2008/06/16(月) 23:26:40 ID:???
それじゃ、規制が再開するまでの間に、
とっとと書き貯め置いときますー
445 :
35:2008/06/16(月) 23:27:31 ID:???
綾波レイ、14歳。
誰も居なくなった葛城家の居間で、ぺたんと腰を下ろす。
『ごめんね、綾波。留守番なんか頼んじゃって。』
両手を合わせて何度も頭を下げていたシンジ。
そう、彼女はシンジの頼みで留守番を勤めるためにやってきたのだ。
いつもの制服姿に、いつもの学校の鞄をさげて。
そして、その鞄からいつもの技術書を取り出し、ページに目を滑らせて黙々と読書にふける。
自分の部屋、学校のベンチ、電車の中、NERV本部の休憩所。
どこでだろうと構わない。休みはそうして過ごすだけ。
だから特に断る理由もなく引き受けてしまった、お留守番。
『退屈になったら、テレビとか見たりして自由にしてていいからね。』
シンジのその言葉を思い出して、ふと見上げる。
目の前には、ごく普通の家庭用のテレビ。そしてテーブルの上にはリモコンが置いてある。
レイは本を閉じ、リモコンをしげしげと眺めてどうしようかと考える。
実を言うと、レイはテレビが珍しかったのだ。
幼少より特殊な環境で過ごしてきた彼女である。
もしかしたらテレビに触れるのは、これが初めてかもしれなかった。
ぴっ……
電源を入れてみた。
レイはそれほど無知ではない。使い方などリモコンを見ればすぐ判る。
446 :
35:2008/06/16(月) 23:28:16 ID:???
テレビのスイッチが入ると同時に、色鮮やかな画像と騒々しい音声が流れ出す。
せわしない司会者のトーク、悲痛なレポートをする記者の口調、そして映し出される悲惨なニュース。
……騒々しい。
そう考えたのか、チャンネルを切り替えてみる。
今はどのチャンネルもワイドショーをやっている時間帯らしく、移り変わるのは似たような番組ばかり。
やがて最後のチャンネルでやっと落ち着いた。教育テレビの名曲アルバム。
静かな音楽と映像を見て、ようやくレイはリモコンをテーブルにおいた。
そして目を閉じ、しばし体でそれらを感じ取る。
しかしある時、ハッと目を見開いた。徐々に曲が高揚し始め、劇的なクライマックスへと向かい始めたのだ。
その程度でもレイの好みでないらしい。再びリモコンを手に取り、今度はテレビの電源を切ってしまった。
ふう、とレイは溜息をもらす。まるで照り付ける真夏の日差しから逃れてきたかのように。
部屋が静かになり、レイは再び読書を再開しようと本を開く。
ここで、ふと何かに気づいて再び目を閉じた。
コチ、コチ、という時計の音。外から時折きこえてくる小鳥のさえずり。
そしてシンジが行きがけに入れてくれていた、エアコンのコココ……という小さな騒音。
静かな部屋の中に響く、ちいさなちいさな物音。
どうやらレイにとって、それらがよっぽど好ましい音楽であるかのようだ。
読みかけの本を開いたままで、レイはずっとそうしていた。
10分、1時間、いやそれ以上。まるで瞑想に入っているかのように目を閉じていた。
こんな時間の過ごし方は、忙しい生活を送る者にはとても耐えられないだろう。
しかし、レイならば日が暮れるまでずっとそうしていたかもしれない。
447 :
35:2008/06/16(月) 23:29:03 ID:???
ぽーん
突然、鳴り響いた電子音にレイはハッと目を開く。
それは正午を告げる時計の音。
『お昼にサンドイッチを作ったから食べてね。』
……お昼ご飯、食べなくちゃ。
と、シンジの言葉を思い出し、立ち上がる。
示された冷蔵庫を開けて取り出したのは、ラップで包まれたサンドイッチの皿とレモンティーの入った容器。
飲み物をグラスに注いでラップを剥がし、レイは昼食を取り始めた。
果たしてレイは空腹なのだろうか。
まるで霞を食べて生きているような彼女。とても食べることに関心があるとは思えないのだが。
サンドイッチの中身は野菜や卵、そして淡い甘さのジャムが塗られたものなど色とりどり。
恐らくシンジが朝早くから留守番を務めるレイのためにこしらえたのだろう。
レイは静かにそれを食べて、レモンティーで飲み下す。
きっちり一皿分を平らげて、空になったお皿とグラスと一緒に流しに置いた。
足りなければ、と用意されているタッパーの分もあったが、レイはもう十分だったらしい。
そして居間に戻ろうとする。が、台所を再び振り返った。
そうそう、食べたお皿は洗わなくちゃ。
居間に戻ったレイは、今度は横になって部屋の物音に耳を傾けた。
別段、気分が悪くなったようでもなく、あるいは眠くなった訳でもなさそうだ。
両腕を枕にして、目を開いたまま天井をじっと見つめていた。
448 :
35:2008/06/16(月) 23:29:49 ID:???
何か考え事をしているのだろうか。あるいは何も考えていないのか。
こうして傍から見ている分には、何も判らない。
また、時はゆっくりと流れ出す。
1時間、2時間、3時間……
朝のうちとは外の物音がまるで違う。
時折、主婦の話し声らしいものが微かに聞こえてくる。
かと思えば、はしゃぎ声をあげてパタパタと走り回る子供の足音。
それほど騒々しいわけではないが、人々の生活がこのマンションに帰ってきたことが感じ取れる。
……碇君、まだかな。
ある時、レイはガバッと体を起こした。そしてスクッと立ち上がる。
今まで瞑想にふけっていたとは思えない、性急な動き。
そしてベランダの方に駆け寄り、ガラス戸をカラカラと開ける。
『悪いけど、もし雨が降ってきたら洗濯物を取り込んでくれるかな。』
レイはわずかな兆しを捉えたのだろう。
ベランダに出てくれば、なおさらはっきりしてくる。遠くの空で仄かに輝く稲妻の光。
それはもうすぐここに夕立が来ることを示していた。
そして、それは意外と早かった。
レイはベランダのサンダルを履き、パタパタという足音を立てて洗濯物を取り込む。
そうしているうちにポツリ、ポツリと雨音が鳴り始め、
洗濯物を抱えてガラス戸を閉めた頃には豪雨と化していた。
449 :
35:2008/06/16(月) 23:30:29 ID:???
ぽすん、と洗濯物の山を床に置いて、自分も床の上に、ぺたん。
このままでいいのか、たたんだ方がいいのか考えているのだろうか。
洗濯物のひとつをつまみ上げ、しげしげと眺めるレイ。
それはミサトの巨大なブラジャー。
……。
レイは思わず自分の胸にそれを当ててみようと、
ぴんぽーん!
今度は来客である。
レイは洗濯物を放りだして立ち上がり、とととと、と玄関に向かう。
が、すぐまた居間に戻ってテーブルから小さなケースを取り、また玄関へ。
それは、シンジから預かった大事な印鑑のケース。
「ちわーっす!お届け物です!」
扉を開けると運送会社の制服を着た男が現れた。
「ここに置いといていいです?よいしょっと……」
と、大きな段ボール箱を玄関の脇に置く。その箱と男の制服がいくらか雨に濡れていた。
そして、男が示す伝票にハンコをぺたん。
実はレイが留守番をする最大の理由、何時に来るか判らない荷物を受け取ることであったのだ。
レイはこれで役目を終えたのだ。
『荷物を受け取ったら帰っても良いからね。鍵は……』
しかし、この雨である。
レイは帰り支度をしようとはせず、再び居間に腰を下ろす。
今度は体育座りで外を眺め、雷の音を聞いていた。
450 :
35:2008/06/16(月) 23:31:18 ID:???
シトシトと降る雨ならば心安らぐ情緒にもなる。しかし、この豪雨。そして鳴り響く雷の音。
レイは雷ぐらいで悲鳴を上げる女の子ではないが、しかし良い気分ではないだろう。
とても今までのように瞑想を楽しめるものではない。
嵐のお陰で気持ちが高ぶっているのか、レイは立ち上がり部屋の物色をし始める。
そして押し入れの襖を開けて見つけたもの。それはゲーム用のシートと巨大な掲示パネル。
そう、かつて使徒殲滅の作戦のために、シンジとアスカが訓練に使用したものである。
レイはそれをセッティングして電源を入れた。
ぴぴぴぽっぴぱー!ゲームスタート
ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぽっ……ぴっ……ぽっ……ぶぶぶぶー!!
ゲームオーバー
コンティニュー?
レイの眉が微かにピクリと動き、コンティニューを選択した。
ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぽっ……ぴっ……ぽっ……ぱぴっ……ぽっ……
ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぷっ……ぷっ……ぱっ……ぽっ……ぷぷっ……
ステージクリア
ネクストステージ
ぷっぽっ……ぺっぽっ……ぱっぽっ……ぴっぴっ……ぷっぴっ……
ぺっぽっ……ぺっぷっ……ぺっぽっ……ぴっぴっ……ぷっぱっ……
ステージクリア
ネクストステージ
451 :
35:2008/06/16(月) 23:32:07 ID:???
ぷっぺっぴっぱっぴっぷっぺっぱっぽっぷっぴっぺっぱっぴっぷっぺっぽっ
ぺっぷっぷっぺっぴっぴっぺっぺっぷっぴっぷっぴっぺっぴっぴっぴっぱっ
ステージクリア
ネクストステージ
ぴぷぺぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぺぴぽぽぴぽぴぽぴぺぴぺぴぽぺぴぱ
ぺぴぱぴぱぱぴぴぺぴぽぴぴぺぴぽぽぴぽぴぴぷぴぷぱぱぱぱぴぷぴぷ
ぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぴぺぴぽぽぺぺぴ
ぽぴぴぷぴぷぱぱぱぱぴぷぴぷぺぺぴぱぴぱぴぺぴぷぱぱぱぱぷぷぴぷ……
がちゃんっ!
「ただいまぁーっ!!」
シンジが帰ってきた。
「お帰りなさい。」
「え、あ……ありがとう。」
シンジが扉を開けると、すぐ目の前にレイが立っていた。手にはふかふかのバスタオル。
豪雨でずぶぬれのシンジは戸惑いながらもそれで頭を拭きながら、暖かく出迎えたレイを珍しげに眺めている。
もちろん、レイに限ってゲームパネルで四つん這いになっているところを見つけられたりする筈がない。
居間は完全に片付けられ、必要な分だけ照明がつけられている。今はすでに夜。
「あ、ああ、綾波。今日はありがとう……ごめんね、大雨で帰れなくなっちゃったんだね。」
「うん。」
「そうだ、晩ご飯つくるから食べてってよ。ミサトさん、まだ帰ってないのか……
おっとっと、まずシャワー浴びなくちゃ。」
と、シンジはあたふたと自分の部屋に戻り、着替えを取り出して浴室へ。
452 :
35:2008/06/16(月) 23:32:59 ID:???
シャワーと着替えを終えたシンジは、電話の受話器を肩に挟みながら鍋でバターを溶かし材料を炒め始める。
「ああ、ミサトさん。帰りは遅いの?えー、泊まり!?困ったなぁ……綾波、雨で帰れないんだ。
だから、ミサトさんに車で送って貰いたくて……アスカ?アスカは委員長の家でお泊まり会だって……」
そんな慌ただしい姿を、レイは居間で座ってジッと見守っていた。
そしてシンジがこしらえたのは、とろりとした野菜のクリーム煮とサラダ。それにロールパンを二つ。
レイにも食べられそうで、女の子が好みそうな軽いメニュー。
シンジとレイは向かい合わせでテーブルに向かい、しずしずと食べ始める。
「ごめんね、綾波。退屈だったでしょ。」
「いいえ……」
「そう……何か困ったことは無かった?」
「別に……」
「寂しく、なかった?……はは。」
寂しい?という質問。それはレイには愚問じゃないかと思いながらもシンジは尋ねた。
それにも綾波は首を横に振る。
「別に……」
「……そ、そう。」
これまで人との関わりを持とうとしなかった綾波レイ、14歳。
彼女にあるもの。それは碇司令との、そしてNERVのみんなとの、絆。
シンジは立ち上がり、食事の片付けを始める。
「……おいしかった?」
「うん……」
「ん、雨があがったかな。送るよ。」
「うん……」
453 :
35:2008/06/16(月) 23:33:35 ID:???
「傘も一本、貸しておくからね。いつでも、返してくれればいいから。」
「うん……」
「じゃ、行こうか。」
「待って。」
「……え?」
レイ、シンジのおでこに手を当てる。
「熱がある。横になって。」
「え……いや、別になんとも……」
「横になって。」
強引というほどでもないが、レイはシンジの手を引いて寝室に連れて行く。
「体温計は?」
「あ、あの、そこの引き出し。」
「うん……(ぴぴぴっ)……7度4分」
「ああ、ホントだ。それじゃ、休ませて貰うよ。ごめんね、送っていけないけど……あの、綾波?」
レイは布団を広げ、シンジが休むための準備をしている。
「横になって。あと着替え、借りる。」
「いいけど……あの、綾波?」
「シャワー、借りる。」
と、シンジを寝かせておいてレイは浴室へ。
「……」
どうしたんだろうと、布団の上に座ったままで呆然とするシンジ。
少しして、レイが戻って来た。
シンジのTシャツに短パンを履いて。
454 :
35:2008/06/16(月) 23:37:26 ID:???
連投規制のため中断。
455 :
35:2008/06/17(火) 00:01:29 ID:???
「寝て。」
「え、あの、綾波?……あ。」
照明を消して、レイはシンジを逃がさないとでも言うように手を添えて寄り添った。
「あ、あの……」
と、シンジは横目でレイを見る。しばし、レイの紅い瞳と絡み合う。
思わずドキリとして目をそらし、天井を向いて仰向けになる。
お昼になったら、ご飯を食べる。
雨が降ったら、洗濯物を取り込む。
宅急便の受け取りには、ハンコが必要。
そして、病気の人の側に寄りそう。
別段、レイにとって大胆な行動というわけでも無いのだろう。
しかし、レイにこうされてはとてもシンジが落ち着いて眠れる筈が無いのだが。
「碇君……」
「え?」
「……」
「……?」
今日は、ずっと碇君が側に居たような……
そんな気持ちは胸に秘めたまま。
コチ、コチ、と動く時計の音。遠くの空で響く微かな雷の輝き。
そして側にいるシンジとの、絆。
それらの静かな鼓動に耳を傾けながら、レイは今度こそ深い眠りへと落ちていった。
(完)
456 :
35:2008/06/17(火) 00:04:41 ID:???
と、見せかけて。
「ちょっとぉ!ファーストってば、いつまでここに泊まり込むつもりなのよ!」
その翌日……いや、翌々日?
ともかく、あれから後日のこと。
そんなアスカの怒号など、どこ吹く風。
シンジと共に洗面台に並んでシャカシャカとハミガキするレイの姿は、だいぶ慣れてきた様子である。
続いてシンジが朝の仕事。洗濯物のかごを抱えてベランダに向かえば、レイも後ろに付き従う。
パン、と音を立てて洗濯物を広げるシンジは、どうにもレイの意図が掴めないらしい。
不思議な面持ちでレイを見つめるが、それが当然と言うかのようにシンジの仕事を手伝うレイ。
と、シンジは手にしているものにハッと気付く。ミサトやアスカの下着類。
女の子を隣において、流石にこれは気まずいのだろう。
手早くすましてしまおうと、あたふたとそれらを洗濯ばさみで引っかけるシンジ。
そんな彼の服を、チョイチョイとレイは引っ張る。
「え、あ、ああ……綾波、何?」
「……」
「これも僕が……干すの?」
こくり、とレイは頷く。
そうしてシンジの手によって、吊されていくレイのブラにパンティー。
その光景に何故かレイは満足そう。いや、何故だろう。
「そ、それじゃ、朝ご飯の準備をしようか、綾波。」
「♪」
そんなこんなで台所に向かう彼らの背後には、心地よい青空が広がっていた。
(こんどこそ完)
457 :
35:2008/06/17(火) 00:05:16 ID:???
おわりー
和んだ、GJ!
GJ!
なんつうか、すげぇなごむわー
まさか感想かぶるとはw
まあ、これは和むだろやぱりw
和 ん だ
463 :
6:2008/06/17(火) 22:39:12 ID:???
やるべき事が増えると逆に投下スピードが上がるのはダメ人間の証か。
逃避エネルギーで投下
464 :
逆行25:2008/06/17(火) 22:40:17 ID:???
「ちょ、ちょっと待ってよ、綾波!」
シンジがレイに追いついたのは、学校を出てしばらく経ってからのことだった。
本当は、学校の中ですぐに話しかけたいと思っていたのだが、
久し振りに学校に出てきたシンジにケンスケやトウジが寄ってきていて、
ついそのタイミングを逃してしまっていた。
「碇くん。……なに?」
しばらく振りに話をしたというのに、あいさつの言葉も何もない。
それは分かっていたはずなのに、シンジはつい動揺して口ごもってしまう。
「あ、その、僕、体調が良くなって、学校とか、行けるようになったから…」
「知っているわ。見たもの」
レイの返事は冷ややかだった。そして実際、その通りではある。
トウジたちに囲まれてにぎやかに快復の報告をしている時も、
シンジはちらちらとレイの様子を見ていた。
幾度か目が合ったりもしたのだが、レイはその目に何の表情も映してはいなかった。
(ようやく学校に出て来たんだから、「元気になってよかったね」、
くらい言ってくれてもいいのに)
無論、レイがそんなことを口にするような性格ではないことはシンジも承知している。
だからそれはシンジの身勝手な押しつけだと理解しているのだが、
それでもこうしてはっきり冷たい態度を取られると、何だかへこんでしまう。
「それだけ?」
「え? あ、あの…」
彫像のように表情を動かさずに、淡々とレイは言った。
「それを伝えるためだけに、わざわざ追いかけてきたの?」
どこか責められているような気がして、シンジは鼻白む。
でも、そこで引き下がりはしなかった。
「……実は、綾波に訊きたいことがあるんだ」
465 :
逆行26:2008/06/17(火) 22:40:56 ID:???
軽く息を吸ってから、切り出した。
「学校に、ミサトさんが来た日のことなんだけど…」
「……」
沈黙。だが、その沈黙を、シンジは話の続きを待っているためだと解釈した。
言葉を続ける。
「その時、綾波、僕に何か言わなかった?」
「なにか、って?」
シンジはきちんと返答があったことに内心ほっとしながら、
「その、たぶん、三文字くらいの言葉で、人の名前みたいな…」
「知らないわ」
レイの言葉は迷いがなく、そして、そっけなかった。
「そ、そっか…」
シンジとしては、そう言うしかない。
同時に、アスカへと続く道が途絶えたことに、心の底ではほっとしていた。
考えてみれば、レイがアスカの名前を知っているはずなんてないし、
それ以上に、それをシンジに伝える必然性などどこにもない。
(たぶん、レイが何か全然違うことを言ったのを、
アスカのことを気にしていた僕が、聞き間違えたんだ)
あの言葉は、無意識の罪悪感に責められていたシンジの幻聴。
シンジの中で、そういう方向に決着が付きそうになった頃、
「……おぼえてないの、本当に」
レイが、重ねて言った。
シンジが今まで黙っていたのを、レイの言葉の真偽を量りかねていたせい、
と考えたのかもしれない。
「あ、うん。綾波を疑ってるワケじゃないから。ただ…」
シンジはそこで、言葉に詰まる。
466 :
逆行27:2008/06/17(火) 22:41:28 ID:???
「……ただ?」
めずらしく、レイが先を促してきた。
「え? あ、その、ただ……。ただ……、なんだろうね?」
自分でも分からなくなって首を傾げ、
それでシンジは話を終わりにしたつもりだった。
しかし、
「……大切なの? そんなに、その人が」
レイが、今度はシンジに質問をする。
「わ、分からないよ。だって、綾波が何て言ったのかも、よく分からないのに…」
そう言って言葉をにごしても、レイの追及は止まらない。
「なら、なぜそんなに気にしているの?」
振り返ったレイに正面から視線を合わせられて、シンジは思わずたじろいだ。
「…………」
レイの無言が、雄弁にレイの要求を伝えていた。
いつもの無感動な赤い瞳に、シンジはなぜか射るような圧力を感じた。
「あ、あの…」
何か言わなくては、と思って口を開いて、
「その、だから、その…」
結局何も言えず、押し黙ってしまった。
レイに質問をしているはずが、いつのまにか、
シンジが責められているような雰囲気になっていた。
「…ごめんなさい」
しかし、先に視線を逸らしたのはレイの方だった。
レイは何もなかったかのように前に向き直って、
「……わすれて」
小さく発せられたその言葉に、シンジはうなずくしかなかった。
467 :
逆行28:2008/06/17(火) 22:42:00 ID:???
長く続く沈黙に間が持たなくなったシンジは、
もう一度勇気を振り絞ってレイに話しかけた。
「あ、あのさ。もう一つ、変なこと訊くけど、いい?」
「………」
また、無言。シンジはひるんだが、
「綾波は、その、タイムトラベルとか、信じる?
未来にいた人が、突然過去に帰ってくる、とか」
「……信じないわ。時計の針は、元にはもどせないもの」
「そ、そっか。それは、そうだよね…」
それだけで会話は途切れて、それきり、
シンジは言葉をかける機会を失ってしまった。
そして、NERVの本部に入る直前で、
「……覆水、盆に帰らず」
「え?」
あいかわらず表情の読めない顔で、レイはシンジに向き直り、
「でも、器に水を入れなおすことなら、できるかもしれないわね」
それだけ言うと、すぐに先に進んでいく。
「ここからは別々ね。それじゃ、また明日。碇くん」
「あ、うん。さよなら、綾波…」
レイは振り返らずに歩き去り……。
残された形になったシンジは、首を傾げた。
「……一体、何が言いたかったんだろ」
468 :
逆行29:2008/06/17(火) 22:42:33 ID:???
「それで、センセはあのあと、綾波とちゃんと話できたんか?」
「え? な、何の話だよ…」
レイと話をした次の日。
そんな風にトウジにからまれて、シンジは思わず動揺した。
「なにって、あんなぁ。ワイらが気づかんとでも思っとったんか?」
「授業中も休み時間中も、ずっとチラチラ見てたじゃないか」
そんなにバレバレだったのか、とシンジは真っ赤になった。
「そ、そんな、僕、そんなに綾波のことばっかり…」
しかし、
「いや、ちゃうちゃう。そっちやのうて、」
「綾波だよ。シンジのこと、ときどき見てただろ?」
「え?」
シンジは首を傾げた。
「でも、そんな素振りは少しも…。
昨日だって、何度も目は合ったのに、別に、何も…」
シンジの言葉に、トウジとケンスケが顔を見合わせて、
「はぁー」とため息をついた。
「これだからセンセはなぁ」
「碇、お前ってほんと女心がわかってないなぁ…」
女っ気のないトウジとケンスケにそんなことを言われ、
「お、女心って…!」
さすがのシンジも少しイラッときた。
469 :
逆行30:2008/06/17(火) 22:43:16 ID:???
だが、そんなシンジを軽くあしらうように、
「目が合うたってことは、向こうもこっちを見てた、っちゅうことやろ?」
「あの綾波が他人を気にするなんて、前代未聞だぜ?」
そんなことを言われて、シンジも少し、その気になる。
「そ、そうなのかな…? でも、だったら何であんな、冷たかったんだろ」
そこで、トウジとケンスケはまた顔を見合わせ、
「そりゃ、センセがとんちんかんなこと言うたからやろ」
「碇は女心がわからないからなぁー」
「だから、女心とか…!」
いきり立つシンジを見てケンスケはひとしきり笑った後、
「…でも、綾波としては一番に自分に声をかけてほしかったんじゃないかな?」
「え?」
「せやな。綾波がずっとセンセのこと見とったんは、そういうことかもしれんなぁ」
「トウジまで……。でも、そんなワケないよ。
もし話があるんなら、こっちに来て言うだろうし…」
そんなシンジの言葉に、二人はやれやれとばかりに首を振り、
「だって、相手はあの綾波だぜ? あの綾波がわざわざこっちに来て、
『元気になって良かったわね』なんて言いに来ると思うか?」
「そりゃ、思わないけど…」
「だから、ずっと待ってたんだよ。シンジが気づいてくれるのを」
「そうかなぁ…?」
シンジはいまだ半信半疑で首を傾げる。しかし、
(でも、それが本当だとしたら悪いことしちゃったなぁ…)
根がお人好しなシンジは、ついそんなことを思う程度には説得されていた。
470 :
逆行31:2008/06/17(火) 22:51:59 ID:???
「ほら、わかったなら後は実践あるのみ、だぞ」
それを見て取ったケンスケは、シンジの背中を押す。
「な、何をしろって言うんだよ」
「これからせっかくの昼休みやぞ。もちろん屋上に連れ出して告白や!」
「こ、告白ぅ!? な、なんでいきなり…」
「綾波に謝るんだろ? なら、とにかく二人きりにならなきゃな」
「ちょ、ちょっと待って。それ、何かおかしい…」
無責任なことを言う二人に押し出され、あれよあれよという間に、
シンジはレイの前までやって来てしまった。
「あ、綾波、その……」
「なに?」
見上げる絶対零度の視線。それだけでシンジは腰が引けてしまうが、
『ほら、行け! そのままゴーや!』
『早く言え!』
背後からの無言のプレッシャーを受け、
「あ、あの、今から用事があるならいいんだけど…」
「ないわ」
「そ、そうなんだ。だったら、その、なんていうか…」
「………」
ごくり、と唾を飲み下し、
「今日は、いい天気だね?」
そうシンジが言った途端、
ガラガラガシャーン!
と背後で椅子や机のひっくり返る古典的な音がした。
(やっぱりダメだ。いきなり屋上に誘うなんて、僕には無理だよ)
絶望したシンジがどうやって話を終わらせようかと考え始めた時、
「そうね。いっしょに屋上へ行きましょう、碇くん」
そう言って、レイが立ち上がった。
471 :
逆行32:2008/06/17(火) 22:52:39 ID:???
狐につままれたような思いで、シンジはレイと屋上に登る。
屋上へ着くと、レイは迷わず人のいない方へ歩き出し、
手すりの近く、屋上の端までやってきた。
シンジはまだ状況がよく分からない。
とりあえず綾波の意図を聞こうと思い、
「あの、綾波? どうして、ここに…」
「…用件は、なに?」
さえぎられて、逆にそう訊かれた。
どうやら、シンジが何か教室では言いにくい用事を伝えようとしていたのだと、
レイは考えたようだった。
(別に、誤解じゃ、ないけど…)
何を話せばいいんだろうか。シンジは色々と考えるが、名案が浮かばない。
結局ストレートにいこうと心を決めて、
「綾波。その、昨日はゴメン」
深く、頭を下げた。
「……どうして、あやまるの?」
「よく分からないけど、昨日、綾波を怒らせちゃったみたいだから。
自分では、よく分からないんだけど、僕はそういうの、全然ダメらしくて、
だから知らない内に綾波を傷つけてたのかもって思って、だから…」
シンジは必死に言葉を紡いでいくが、
「なにが悪いのかわからないのなら、あやまらないほうがいいわ」
それは不機嫌そうなレイの言葉でさえぎられた。
「……ゴメン」
今度こそ完璧に、そう言うしかなかった。
二人の間に、沈黙が落ちる。
472 :
逆行33:2008/06/17(火) 22:53:29 ID:???
次の言葉が浮かばない。
沈黙が無慈悲に時間を削っていく。
レイは今にも「もう用がないなら」などと言って、
立ち去りそうな雰囲気だった。
その徴候を示すように、レイの髪がかすかに揺れて、その口が、
「あの! ……隣、いいかな?」
それを阻止するためだけに、シンジは声を張り上げた。
返事を待たず、レイの顔を見れないまま、その横に並ぶ。
そのまま手すりに腕を預けて、街を見下ろした。
まだ活気の見える第3新東京市は、シンジの心の拠り所の一つだった。
(……呆れて、帰っちゃったかな?)
シンジは気になってちらりと横を見た。
レイは、シンジと同じように手すりに身を乗り出して、街を見ていた。
「…あ」
「なに?」
振り返ったレイの言葉に、慌てて首を振る。
「…そう」
戻るレイの視線。シンジはほっと息をつく。
何も話をしていないのに、当面、レイがここを立ち去る気配はなかった。
――何だか、自分の存在を少しだけ肯定された気がして、嬉しくなる。
473 :
逆行34:2008/06/18(水) 00:42:54 ID:???
街を見ている振りをしながら、シンジはこっそり、
レイと自分の距離を測る。
……たったの五十センチ。
それは、勇気を出して一歩を踏み出せば、
すぐに届く距離に見えた。
(……綾波)
おずおずと、手を伸ばす。
何をしたいワケでもない。
ただ、気づいてくれれば。
「――?」
だが、伸ばしかけた手の向こう。
レイの横顔に、いくつかの面影が、重なる。
それは、血にまみれながらシンジを送り出したミサトの姿であり、
それは、初号機をかばって自爆をするレイの姿でもあり、
それは、この世界に来る時にシンジの消した、アスカの姿でもあった。
――伸ばしかけた手を、下ろす。
シンジはもう一度レイに目をやった。
レイとシンジの間の五十センチは、果てしなく遠くなっていた。
474 :
逆行35:2008/06/18(水) 00:43:46 ID:???
こんなに近くにいるはずなのに、レイはシンジと別の場所を見て、
違う物を感じている。
未来から戻ってきて、何でも分かっているような気になっていたのに、
不意にレイのことが分からなくなる。
いや、分かっているなんて思っていたことが、とんでもない誤解だったのだと、
ようやく気づいた。
「碇くんといると、わからなくなる」
だから、そう声をかけられて、シンジは自分の心が読まれたような気がして、
飛び上がりそうになった。
「わ、分からなくなるって、何が?」
必死で動揺を鎮めて、訊く。
「自分が…」
答えは、シンジの想像していたどんな物とも違っていて、
でもなぜか、シンジは自分の心が落ち着いていくのを感じた。
自然と、話し始める。
「僕も、分からないよ。自分のことも、それに、他人のことも…」
「……そう」
「知りたいと思って近づいても、分かったと思った瞬間に間違ってるって気づくんだ」
「…そう」
言葉からは、感情は読み取れない。だからシンジは、レイに尋ねた。
「綾波は? 綾波は、どう?」
「…わたしは、知りたいとは思わない」
「なぜ?」
「だって、そこにあるのが空っぽだとわかったら、もう、動けなくなってしまうもの」
レイの言葉の本当の意味は、シンジには分からない。
だが、とても悲しい言葉だと、そう感じた。
475 :
逆行36:2008/06/18(水) 00:44:20 ID:???
それがレイの本心であるならば、それにシンジが口を挟めることなんてない。
そう分かっていて、それでも尚抑えきれない何かが、シンジに口を開かせた。
「でも、それでもやっぱり、知りたいって、そう思ったりはしないの?」
長い、沈黙。そして、
「わからないわ」
その声は、風に消えるほど、小さかった。
「碇くんといると、わからなくなる」
気がつくと、二人の視線が合っていた。
「ほんとうは、知りたいのかもしれない」
逃げたがる体を懸命に押さえつけて、シンジはレイと目を合わせ続けた。
「おしえて、くれる?」
片手で手すりをぎゅっと握り締めたまま、レイが手を伸ばしてくる。
「綾、波…」
その優しい赤い瞳の奥に、シンジは初めて揺らぎを見た気がした。
それは、たぶんずっと前からそこにあったもので、でも、
この瞬間になるまで、シンジがずっと見つけられなかったものだった。
「…うん。僕もよく、分かってないけど、でも……」
シンジの手も、レイを迎え入れるようにそっと伸ばされる。
五十センチの距離は……お互いから手を伸ばせば、半分になる。
そんな簡単で当たり前のことを、シンジは初めて理解した。
「「……ぁ」」
二人の声と、呼吸が重なる。
シンジの手と、レイの手が出会って、指先が触れ合っていた。
476 :
逆行37:2008/06/18(水) 00:48:27 ID:???
奇妙な光景。
二人は息を詰め、真剣な表情で、指先を合わせる。
そして、一度、二度、三度、と。
かすかに、指の先が触れ、また離れ、触れる。
指先に感じるわずかな熱と、こそばゆさ。
それが、お互いに、お互いの存在を強く感じさせる。
二人は指先で会話して、まるで計ったような、
ぴったりのタイミングで、指を、絡ませる。
指と指が交差して、しっかりと合わさり、
やがて、手の平が触れ合う。
密着する、手と手。
手の平を通して互いの脈動が伝わる。
再び、シンジとレイの、視線が絡む。
二人は、じっと見つめ合い……
――だが、そこまでだった。
ゆっくりと息を吐き、どちらからともなく、指を外した。
477 :
逆行38:2008/06/18(水) 00:49:04 ID:???
漂う、どこか余所余所しい空気。
もう目を合わせることすら出来ない。
そんな雰囲気を打ち払うように、シンジはもう一度、
手を差し出した。
そして、
「……約束、しようよ」
そっと、小指を突き出す。
「…なにを?」
やはり、シンジとは微妙に視線を逸らしたままで、
レイがシンジを見る。
「今はまだ、ダメでも、その次か、そのまた次か、いつかは……。
その、自分でも何を言ってるかよく分からないけど、だから、あの、
とにかく、次があるようにって、それで、きっと…」
言葉をさえぎるように、レイが小指を差し出した。
「いつか、きっと…」
小さく、本当に小さく微笑んだレイの口から、そんな言葉が漏れる。
そして、シンジもそれに応えるように、
「うん。いつか…」
――シンジの小指とレイの小指が、結ばれる。
それもまた、触れ合い。
拙く、臆病な、だけど二人の精一杯の重なりだった。
478 :
逆行39:2008/06/18(水) 00:50:22 ID:???
ちなみに、その陰で。
「全然動かへんなぁ。あの二人…」
「ここからじゃ、何をしゃべってるかも分からないしね」
「もう、だからのぞきなんてやめようって言ったのに」
「そんなこと言って、イインチョ一番乗り気やったやんか」
「わ、私は、あんたたちが余計なことしないように…」
「お、動きがあったぞ!」
「なんや、何しとるんや?」
「指を、からめて…?」
「指きりしてるんじゃないか、あれ」
「なんやセンセも綾波も、初々しいなぁ」
「正に青春! まっさかり!」
「いいなぁ…」
「………」
「………」
「………」
「私たち、何やってるんだろ」
「そやなぁ。何やっとるんかなぁ…」
「なんかオレたち、バカみたいだよな」
新たな三バカトリオの誕生だった。
479 :
6:2008/06/18(水) 00:55:36 ID:???
以上。
初めて連投規制に遭ったよ。ちょっとビビッた。
いや〜、おもしろい!続きが気になる(笑)
乙です!
6さんの小説はプロレベルだな、でも俺はまだ前作のアスカを引きずってる…あのラストはLASと言えるのか…?
まぁだから今のに期待してるんだが
前作じゃなくてプロローグだろ?
483 :
6:2008/06/22(日) 00:56:27 ID:???
アスカ来日編が無駄に長くなったので、分割する事を思い立つ。
……だってほら、連投規制も怖いしね。
投下。
484 :
逆行40:2008/06/22(日) 00:57:44 ID:???
国連軍の空母『オーバー・ザ・レインボウ』に向かうヘリの中。
騒ぐケンスケやトウジを他所に、シンジは自分の荷物を抱え、
ずっと一人で黙り込んでいた。
シンジが抱えた荷物。その中には、シンジのプラグスーツが入っている。
出掛けにミサトが渡してくれたものだ。
――その時の会話を思い出す。
「はいこれ、シンちゃんのプラグスーツ。ちゃんと自分で持っててね」
「プラグスーツですか? でも、初号機は本部に置いていくんじゃ…」
「うーん。ま、そうなんだけどね。備えあれば、って言うじゃない?
……向こうにも、エヴァがないワケじゃないしね」
それ以上食い下がるのも不自然だと思い、何も言わなかったが、
シンジは内心、納得出来ない物を感じていた。
(弐号機を受け取りに行くだけなのに、
僕のプラグスーツが必要になるはずがない。
ミサトさんは、これから起こることを知ってる?)
ご機嫌で話をするミサトを盗み見る。
その姿を見る限り、まるでいつも通りで何の気負いも感じさせない。
(僕の考えすぎかな? でも……)
前の世界ではシンジもアスカのプラグスーツを着て、
一緒に弐号機に乗り込んだ。
でも、それはイレギュラーな事態だったはずで、
普通に考えればアスカが弐号機で出ることまでは想像しても、
シンジが一緒に乗ることなんて考えもしないだろう。
(それとも、僕が弐号機に乗ることを期待されてる?
それこそまさかだ。そんなことをするメリットが何もない)
485 :
逆行41:2008/06/22(日) 00:58:23 ID:???
そこまで考えて、シンジは口元を荷物の陰に隠しながら、
ふっと自嘲気味に笑った。
(ウソだ。そんなこと、本当はどうでもいいんだ)
全てが欺瞞だった。
シンジがめずらしくそんなことに思考をめぐらせているのは、
深刻ぶって何かを考えている振りでもしていないと、
途端に押し寄せる不安に潰されてしまうと分かっているからだった。
漠然と、ヘリの向かう先を見る。
――この向こうに、アスカがいる。
それを考えてしまえば、他の心配ごとなど途端に重みをなくす。
その代わり、押し潰されそうなほど大きな想いに、胸が苦しくなる。
(逃げ出したい、今すぐ。ここから飛び降りてでも…)
そんな物騒なことを思うが、今更シンジにそんなことが許されるはずもない。
逃げずにアスカに、自分の罪に向き合うこと。
それはシンジが自分に定めた罰だ。
そして、その瞬間は刻一刻と迫ってきている。
(一体僕は、どんな顔をしてアスカに会えばいい?)
考えるだけで、シンジの胸は悲鳴をあげる。
だが、それを忌避する一方で、
ひたすらその瞬間を待ち望んでいる自分がいるのも、
また事実だった。
486 :
逆行42:2008/06/22(日) 00:59:02 ID:???
――再会は、あっけなく果たされた。
「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、
セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」
ミサトの紹介を、上の空で聞く。
何日か振りに見たアスカは、シンジの記憶にある彼女の姿そのものだった。
豪奢な髪に、気の強さのにじみ出る瞳。
すらっと伸びた長い足に、その上で風にあおられて持ち上げるスカート…。
「っと。あっぶないわねぇ。これだから船の上は…」
しかし今回のアスカは、抜け目なく片手でスカートを押さえた。
(ああっ! ちょっと残念!)
などと、シンジに考える余裕があるはずはない。
ただ、理由も分からず湧き上がりそうになる涙を抑えるので、精一杯だった。
(やっぱり、アスカは僕にとって特別なんだ…)
それが、シンジのよく知る『あの』アスカではなかったとしても。
かつてシンジが初めて会った時と変わらない、自信にあふれ、
エネルギーの塊といった彼女の仕種一つ一つが、シンジの目を釘づけにする。
(――?)
不意に、ミサトと話しているはずのアスカの目が、
こちらを向いたような気がして、びくっとする。
(ちょっと、じっと見すぎてたかな。とにかく今は、不自然じゃないように、
最初の時と変わらないように、振る舞わないと…)
そう思って、自然な動作を試みるのだが、それでもやはり、
アスカはミサトと話しながらも、時々シンジを意識しているように感じた。
「それにしてもあなたが来てくれるのは助かるわ。弐号機の戦力、期待してるわよ」
そのミサトの台詞は、おそらくアスカの自尊心を満足させる心地良い言葉。
しかし、アスカは獰猛な笑みを浮かべ、
「でも、アタシが来たらイヤだと思ってる奴もいるんじゃないの?
……ね? サードチルドレン?」
その指が、ピシリ、とシンジを指し示した。
487 :
逆行43:2008/06/22(日) 01:01:17 ID:???
「…え?」
思わず固まってしまうシンジ。
しかしアスカはそんなことは斟酌せず、不躾にシンジを指差しながら、
「ねぇミサト。コイツがサードチルドレンの碇シンジ、でしょ?」
「あらぁ、よく分かったわね、アスカ。そうよ。この子がサードチルドレン、
エヴァ初号機のパイロットの碇シンジ君よ」
ミサトの紹介にアスカは、ふん、と鼻を鳴らして、
「そりゃ知ってるわよ。コイツ、この世界じゃ有名なんだって?
初陣でたまったま使徒を倒して調子に乗ってるへなちょこパイロット。
この前、加持さんから聞いたわ」
「加持ぃ?」
加持と聞いて、途端に顔をしかめるミサト。
だが、アスカは当然ながら全く気にも留めず、シンジの前まで歩み寄る。
「いーい、サードチルドレン!
アタシがいない場所でちょーっとばかし使徒を倒したからって、
いい気になってるんじゃないわよ!
本当はアタシの方が、エヴァの操縦も、シンクロ率もずっと上なんだから!」
「……ぇ、と」
久し振りのアスカの勢いに圧倒され、シンジは何も言葉を返せない。
その代わりのように、ミサトが出てきて含み笑いをする。
「ふふ。シンクロ率だったらこっちのシンジ君だって負けてないわよー。
一瞬だけど、今のアスカの記録にあと五ポイントくらいの所まで迫ってたんだから。
一ヶ月前のアスカの記録だったら抜かされていたわねぇ」
その言葉に、初めてアスカの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「ウソッ! そんなの聞いてないわよ!?」
「そりゃ、最新のデータだからね。まだそっちに届いてなくても無理ないわ」
「そ、そういうことじゃなくて! でもなくて、やっぱりそういうことなんだけど」
ずいぶん混乱した様子を見せて、なぜかシンジをギリッとにらむ。
「アンタ、ちょっと顔貸しなさい!」
488 :
逆行44:2008/06/22(日) 01:02:01 ID:???
「なんや、まるで不良の呼び出しやなぁ…」
今までアスカたちのやりとりについていけていなかったトウジが、
初めて発言し、
「うっさい! そこのアホ面二人!」
それを聞きとがめたアスカから手ひどい罵倒を浴びる。
「あ、アホづらやてぇ!」
「俺、何にも言ってないのに…」
いきりたつトウジや思わぬとばっちりに涙目になるケンスケを無視し、
アスカはシンジの前に立つとその手首をがっちりとつかんだ。
「ミサト! コイツ借りてくわよ!」
そのまま、ドスドスとシンジを引き連れて船内に入ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。あんまり勝手な行動は…」
「心配しなくても、アタシの弐号機の様子を見てくるだけよ。
ミサトはこれから艦長にあいさつしたり、
色々やんなきゃいけないことあるんでしょ。
その間、アタシたちはなぁんにもすることないじゃない」
「そりゃ、そうだけど…」
「大丈夫よ。その時間をせいっぜい有効に使って、
エヴァのパイロット同士、親睦を深めることにするわ」
アスカの見た者の心を寒くするような笑顔に、
ミサトは困ったような顔をしていたが、やがて折れた。
「分かったわ。くれぐれも変な所には迷い込まないようにね。
……それと、シンジ君は繊細だからちょっとは手加減してあげて」
ミサトから色よい返事を引き出したアスカは満面に肉食獣の笑みを浮かべると、
「もちろん、善処するわ」
とご機嫌に言い放つと、シンジを連れてドアの向こうに消えていった。
「変わってないわねぇ、あの子」「すっげえ、強烈な女…」「碇、大丈夫かいなぁ」
後にはのん気な感想を漏らすミサトと、呆然とするケンスケとトウジが残された。
489 :
逆行45:2008/06/22(日) 01:03:17 ID:???
「あ、あの、良かったのかな。ミサトさんたち、置いてきちゃって…」
二人きりになると、シンジはおずおずとアスカにそう切り出した。
「アンタ、バカァ? きちんと許可取ってきたじゃないの」
「そ、それはそうだけど、でも、もうちょっと一緒にいた方が…」
シンジとしては、前回と微妙に違うこの展開に違和感を隠せない。
出来る限り前回と同じ行動を取れるよう、
人の動きを調整していきたいという気持ちがあるのだが、
「いーのよ。どうせミサトはすぐ、アタシたちどころじゃなくなるんだから」
「それって、どういうこと?」
首を傾げるシンジに、アスカはめんどうくさそうに説明する。
「んー。アタシとドイツから一緒に来た加持って人が、ミサトの古い知り合いでね。
だから、……って、何でアタシがそんなことわざわざ説明しなくちゃいけないのよ!」
「ごめん…」
怒鳴られて思わず謝るが、にも関わらずアスカの眉が急角度で上がる。
「アンタそれ、本気で悪いと思ってるの?」
「う、ごめん」
「だからっ! このっ! 条件反射で謝るんじゃないわよ!」
「ごめ……、何でもない。気をつけるよ」
アスカの厳しい視線に、シンジは何とか三度目のゴメンを踏み止まった。
ようやくアスカは「よろしい」という顔をして、前に進み始める。
490 :
逆行46:2008/06/22(日) 01:05:31 ID:???
「……ねぇ、アンタ」
「な、なに?」
先ほどのやりとりが云々、というより、
アスカに対する負い目からやはりおずおずと返事をするシンジ。
そんなシンジの態度を、アスカは軽蔑のこもった目で一瞥しながら、
「アンタ、碇シンジとか言ったっけ? アンタじゃ人が多い時呼びにくいから、
これからはシンジ、って呼ぶことにするわ」
「う、うん…」
前を歩くアスカに分からないくらいに、シンジの顔が喜びに紅潮する。
「それじゃ、僕は…」
「ああ。アタシの名前ね。……そうね。これから一緒に戦う仲間になるんだし、
アタシのことは気軽に『惣流さん』って呼んでくれればいいわ」
「そ、惣流さん…?」
一転、狐につままれたような顔になるシンジ。
「何よ! 不満なワケ? アンタがどうしてもっていうなら、
ラングレーさんでもいいけど、それってやっぱり何か…」
「わ、分かったよ。惣流さんって呼ぶから」
怪しい雲行きの会話に、シンジは慌てて追従した。
「最初から素直にそう言ってればいいのよ…」
という小声の呟きは聞こえなかった振りをする。
やがて、
「そうね。この辺りまで来れば、もういいかしらね」
そう言って、アスカは立ち止まった。
491 :
逆行47:2008/06/22(日) 01:06:27 ID:???
「もういい、って。どういう意味?
僕たち、弐号機のところに行こうとしてるんじゃ…」
目をきょとんとさせるシンジに、
アスカはあからさまな侮蔑の表情を浮かべた。
「…シンジって、やっぱりバカね」
「へ?」
「弐号機は別の艦に積んでるんだから、
この中いくら歩き回ったって着けるはずないじゃない」
「………そ、そっか。言われてみれば、その通りだ」
自分はそこまで舞い上がっていたのか、と密かに反省する。
「ここに来たのはね。アンタにちょっと訊きたいことがあったからよ」
「……それはいいけど。でも、あんまり機密に関わるようなことは」
「別に、そんな難しい質問はしないわ。
どうしても答えられない質問には答えなくてもいいし」
「それなら、構わないけど…」
前回の世界になかった展開に、シンジは困惑する。
アスカに前回とは違う何かがあることは確かだった。
(素直に考えれば、この世界にやってきてからの僕の行動が、
アスカに特別な影響を与えたってことだけど…)
内心、首をひねる。
そんな他人に大きな影響を与えるようなことは、した覚えがない。
(……だけど、風が吹けば桶屋が儲かるって言うし、
僕の何気ない変化が回りまわってアスカに届いた、
って可能性はあるかな?)
そんなことをシンジが考えていると、思い惑うシンジを正面に見据えて、
アスカが探るような目でシンジをのぞき込む。
「その前に、アンタが後生大事に抱えてるその荷物は何?
ずっと気になってたんだけど」
492 :
逆行48:2008/06/22(日) 01:07:39 ID:???
よくよく見れば、アスカの視線はシンジではなく、
シンジが抱えたバッグに注がれていた。
「え? あ、これは、僕のプラグスーツだよ」
「プラグスーツぅ? アンタの初号機は海の向こう、
日本のNERVの本部にあるんでしょ?
どーしてスーツだけ持ってきてんのよ!?」
詰問されて、シンジは頭をかく。
「ぼ、僕にもよく分からないよ。ただ、出発前にミサトさんが、
何があるか分からないから、念のために持っていけって」
「ふぅーん。ミサトがねぇ…」
アスカの両目が一瞬だけ光って、すぐ元に戻る。
そして、逆にあからさまなほどに何気ない風に、
「アタシ、しばらくミサトとも会ってなかったのよね。
ねぇ。ミサト、最近何か、変わったことあった?」
「え? か、変わったこと、って?」
繰り出された質問に、シンジは口ごもった。
「別に、何でもいいわよ。急に髪型を変えたとか、性格が変わったとか、
行き先も告げずに外出するようになったとか。とにかく、何かないワケ?」
「う、うぅーん。そんなこと言われても…」
シンジはアスカの意図を読めずに頭を悩ますばかりだ。
それでも素直に考えて、
「あ、でも…」
「でも?」
「何だか、前より僕に優しくなったかもしれない」
口に出してしまってから、下らないことを言ってしまったと後悔した。
たぶんアスカが欲しい情報は、こういうことではないだろう。
そう、思ったのだが。
「……それって、いつから?」
アスカは意外に真剣な表情で、そう訊いてきた。
493 :
逆行49:2008/06/22(日) 01:09:14 ID:???
もしかして、この答えで当たりだったのかな、なんて思いつつ、
シンジは記憶のひだを探る。
「えっと、ヤシマ作戦のすぐ後だから、確か…」
「待って。そのヤシマ作戦ってのは、第伍使徒との戦闘のことでしょ」
「そうだけど…?」
「だったらいいわ。それについては資料を見たから。日付も覚えてる」
「資料を見た、って?」
予想外の言葉に、シンジは思わず訊き返すが、
「ドイツにいる内に調べたって言ってんのよ。あったま悪いわねぇ」
辛辣な言葉のおまけつきで答えを返される。
「どうせ僕は、アスカに比べたらバカだよ…」
その言い種に少しいじけながらも、シンジはようやく、
数々の疑問の解答を見つけた気がしていた。
それが正確に、一体何によって引き起こされたのかは分からないが、
アスカは前回のアスカと違って、日本での使徒の戦いに興味を持ち、
独自に資料に当たっていたのだ。
(……そっか。だから、僕の顔や名前を知ってたんだ)
それを納得すると同時に、なぜか少しだけ、寂しいとも感じてしまう。
しかし、その感情の正体を突き詰める前に、
「まあその話はとりあえずいいわ。
……アタシが訊きたいのは、もっと違うことよ」
アスカが真剣な目をして、今度こそシンジ本人をじっと見つめてくる。
494 :
逆行50:2008/06/22(日) 01:11:38 ID:???
「シンジ。アンタ、アタシに迫るくらいのシンクロ率を出したって、
本当なの? それって絶対間違いないワケ?」
「う、うん。だと、思うけど…」
勢いに押されるように、シンジはうなずかされた。
だがそんなシンジの消極的な態度が、逆にアスカの逆鱗に触れた。
「だと思うぅ? なぁんでそこではっきり言わないのよ!
自分のことでしょ!」
激昂するアスカから、シンジは顔を逸らした。
「……でも、僕だって自分の記録を直接見たワケじゃないし。
ミサトさんは僕が今までの記録を更新したって教えてくれたけど、
それがアスカと比べてどうかなんて、僕は知らないよ」
吐き捨てるようにシンジの口から吐き出される言葉。
そこにシンジの鬱屈した思いを嗅ぎ取ったのか、
アスカは一度だけ、かすかに怯えたように肩をすくませた。
だが、そんな様子を見せたのも一瞬、
「ま、理屈は分かんなくもないわ。アタシも同じようなもんだしね。
……ただし!」
アスカは自分の手をシンジに伸ばして、その頬を思い切りつかみ上げた。
「いは! いひゃひゃひゃ! ……い、いきなり何するんだよ!」
突然頬に走った痛みに、シンジは一時、アスカに対する負い目も遠慮も忘れ、
必死でその手を振り払った。
だが、そんなことをされてさえ、アスカの態度は不遜なままで、
「さっきアンタ、どさくさまぎれにアタシのこと『アスカ』って呼んだでしょ。
もー! 見てよここ、アンタのせいで鳥肌立っちゃったじゃない!」
「し、知らないよ、そんなの…」
傍若無人の見本みたいなアスカの態度に、
シンジはボソボソと文句を言うくらいしか出来ない。
『アスカ』という呼び方が体の芯にまで染みついていることに気づき、
内心ビクビクしている、というのもあった。
495 :
逆行51:2008/06/22(日) 01:17:47 ID:???
「それじゃ、もう一つ質問ね。アンタのシンクロ率の記録更新したのは、
ミサトの態度が変わった後? それとも前?」
「え? 何でそんな…」
「大事なことなのよ。答えて!」
アスカの剣幕に、シンジは多少の反発を覚えつつ、素直に答えてしまう。
「後、だけど、それが一体…」
だが、アスカはシンジの疑問になど興味を持っていないようで、
「やっぱり後、か。……なら、分岐はアタシが来た後に起こってるはず。
これで並行宇宙って線は薄くなったかもしれないわね」
後半の問いかけは完全に無視、前半だけをオウム返しに呟いて、
おまけにシンジにはワケの分からないことを、ぼそっと口にした。
そして、それだけではあきたらず、
「シンジ。やっぱりミサト、他に何か変わったことないの?
アンタに何かおかしなことさせたり、隠しごとをしてるみたいだったりとかさぁ」
妙に作ったような声で、さらにシンジから何かを聞き出そうとする。
だが、そろそろシンジも限界だった。
アスカの言葉をさえぎって、逆に質問する。
「僕も気になるんだけど、さっきから、どうしてミサトさんのことばっかり、
これじゃまるで、ミサトさんを…」
口にしている途中で、シンジの頭に閃くものがあった。
「もしかして、ミサトさんが何かズルしてるんじゃないかって、
そう疑ってるの?」
その指摘に、アスカは少しだけ目を見開いて、
「へーぇ。とぼけた顔してる割にはなかなか勘が鋭いじゃない。
言い方はともかく、そういうことよ。だってそうでもなかったら、
アンタみたいに冴えないヤツがいきなりそんなシンクロ率出せるはずないでしょ」
そう、あっさりと言ってのける。
その言葉が耳に入った途端、
「じょ、冗談じゃないよ!」
アスカ相手だというのに、シンジは堪え切れずに叫び声をあげていた。
496 :
6:2008/06/22(日) 01:19:48 ID:???
以上。
何か区切りは微妙だが、次辺りまたやられそうなので、ここまで。
続きは近い内に。
リアルタイムGJ
相変わらずいい仕事!
マジでSUGEEEEEE!!!
何者ですかあんた!?
そんなにすごいかw
すげえと思うよ
俺はこんなの書けないもん
この文量を一人でしこしこ書き溜めてたのは凄いな
そういう意味じゃねえwww
503 :
35:2008/06/22(日) 21:50:28 ID:???
それでは投下します。
ラストはペンペーン
504 :
35:2008/06/22(日) 21:52:09 ID:???
「ペンペン……」
ミサト嬢は微かにそう呟きながら、おずおずと私の体を抱き寄せた。
正直、ここがどういう場所なのか私にはよく判らない。
だが、おぼろげながら理解できる。ここは恐らく病に冒されたニンゲンを治療する場所だ。
白衣を着た大人のニンゲン達が数名、お嬢を見ながら書類片手に話をしている。
その様子から、お嬢の病症について議論しているのだと理解できる。
いや、お嬢が病んでいることなど自分の目で見れば判る。
かつて私と遊んでいたときの目の輝きはどこに隠してしまったのだろう。
さて、少し挨拶が遅れた。我が輩は――などというベタな書き出しは止めておこう。名前もちゃんとある。
私の名はペンペン。ペンギンという種族の最後の生き残りである。
大勢の仲間達とともに博士に飼われ育てられた、その最後の一匹。
しかし生き残ったとはいえ、もはやペンギン族の繁栄はこれまでである。
子孫繁栄という全生物の共通目的を果たすには、つがいが無ければ叶わない。
最後の一匹となれば、もはや性別の違いすら意味をなさなくなってしまったのだから。
だからといって、一族の滅亡を嘆いて過ごすか、残りの余生を楽しみながら死ぬのか、
私はそんな悠長なことをしている場合ではない。大恩ある博士の一人娘、ミサト嬢が病んでいるのだ。
このまま見過ごしては、彼女とともに私を生かしてくれた博士に申し訳がない。
思えば、あれはまさしく大惨事であった。
ニンゲン共から漏れ聞いた話ではセカンドなんとかと言うらしいが、まあ名前などどうでもよい。
お嬢と共に押し込められた妙な筒。そこから顔を覗かせた我々は、信じられない光景に出くわした。
地上、天をも揺るがす巨人の咆哮。その光景を私は死んでも、たとえ生まれ変わっても忘れることはないだろう。
ましてや幼いお嬢の心では、あんなものを見た後に平常でいられるはずがない。
ともかく、こうしてお嬢を託されたからには、私は博士に誓う。
必ずやミサト嬢の病んだ心と体を癒やし、子を産み育ててニンゲン一族の繁栄に貢献する立派な女に育ててみせる。
505 :
35:2008/06/22(日) 21:53:23 ID:???
「それじゃ行ってくるね、ペンペン。おとなしく待ってるのよ。」
そして、ミサト嬢と二人の生活が始まった。
お嬢は徐々に回復を遂げ、そして明るく元気に学校へと通い始める。
一見では健やかな生活を送っているかに思えるが、
いざ夜になれば苦しげな顔で机に向かい、一心不乱で勉学に励んでいる様子がうかがえる。
その様子、何かに頑張っているのは誠に結構だが……
何かにとりつかれている。そのように私は感じてならない。何より、その暗い表情が気になるのだ。
「やったよペンペン!私、大学に受かったの!」
ある日のこと、お嬢はそう言いながら私の体を高々と抱き上げた。
なんといっても私はペンギン。いつも人間の言葉を解読するのに苦労させられる。
なんだかよく判らないが、大学という難しい学問をする場所に行けるようになったらしい。
そして、ひとしきり喜んだ後のお嬢の言葉。
「まだまだ、これからよ。ペンペン、私が必ず使徒を倒してみせるからね。」
と、やっぱり机に向かって難しい顔をする。
どうやら目標があるらしいのだが、よく判らん。何を倒すって?
いや、なんとなく理解した。お嬢の望みは復讐だな?
ばかばかしい。そんなことをして何になる。
やはりミサト嬢は病んでいるのだ。あの父親の命を奪った大惨事から立ち直っていないのだ。
復讐だか何だか知らないが、そんな意味のないことを私は許すわけにはいかない。
大恩ある博士のためとはいえ、お嬢に戦いに向かわせるなど決して私は許さない。
しかし、しかしだ。私に何が出来るだろう?
口がきけなければ説教も出来ない。彼女の周囲でパタパタと羽根を動かすだけ。
506 :
35:2008/06/22(日) 21:54:40 ID:???
そうしていると、「ん?ペンペン、お腹が空いたの?」と彼女は立ち上がり、気絶しそうな酷いエサを私にくれる。
いや、エサの味などどうでもいい。そうでは無いのだ、お嬢。
嗚呼、もどかしい。
博士よ、なぜ口もきけない私にお嬢を託したのだ。
「ちょっとダメよ……ペンペンが見てる……」
「いいじゃないか。これが男と女の有るべき姿というものだ。」
だが、不意に望ましい光明が差し込んできた。
ある時、彼女は男を連れ込んだのだ。
加持とかいう名前だが、まあそれはどうでもいいだろう。
そして酒を飲んで笑いあい、昼も夜も布団でゴロゴロとむつみ合う。
この男、判っているではないか。
オスがメスに子を産ませる。それこそまさしく男女の有るべき姿。
きっとこの男がお嬢をそのように仕向けたのだろう。
どうすることも出来なかった自分のふがいなさに恥ずべきところではあるのだが、
しかしミサト嬢が幸せになればそれでいいのだ。自分の名誉などゴミ同然。
この上は身を引いて、男の力によってお嬢が立派なメスへと成長するのを暖かく見守ることにしよう……
はて、おかしい。お嬢が孕まない。
何故だろう。延々一週間に渡りむつみ合っていたというのに。
男が種無しなのか、それとも、お嬢の体は病んでいるのか。
いや、後者だとは思いたくない。きっと男が種無しなのだ。そうだ、そうに違いない。
そしてある時、男はお嬢と何やら激しい言い合いをした挙げ句に姿を見せなくなった。
当然だろう。男はお嬢を立派な女にしそこねたのだ。
あの役立たずめ、私もケリの一つでも入れてやりたいところだ。
507 :
35:2008/06/22(日) 21:55:41 ID:???
「さあ、ペンペン引っ越しよ。行き先はドイツ!」
それ以来、お嬢は転々と住処を代え、私は変わらずそれに付き従う。
何とか言う仕事に就いたお嬢は、更に住処で過ごす時間が少なくなってきた。
あまり家に引きこもるのは決して良いことではない。
外を出歩き、世間の男共に色香を振りまくのは女として大切なことだ。
だが、お嬢はいつも一人。
遅い時間に帰ってきたと思えば、やはり難しい顔で机に向かう。
人間の繁殖期、産卵期などペンギンの私にはよく判らないのだが、
しかしこのままでは出産の契機を逃してしまうのは明白である。
もどかしい。もどかしくて仕方がない。
そして最後と住処となる場所へと引っ越しを終えた、その数日後のことである。
「おじゃまします。」
「シンジ君、ここはあなたのウチなのよ?」
「……ただいま。」
「おかえりなさい♪」
お嬢が新しいオスを連れてきたのだが……いや待て、お嬢。少し若すぎないか?
詳しくは判らないが、まだ子供の世代であることに間違いない。
ははあ、さてはお嬢。成人男子を捕まえることが叶わず、子供から手なずけるつもりなのか。
やはり、そうだった。
ミサト嬢のはしゃぎっぷりは、これまでに無いものである。
無茶なくらいにビールを飲み干し、少年の体をゆさぶってまで盛り立てようと必死である。
お嬢よ、焦るではない。暖めずに孵る卵など、蛙や蛇のそれでしかない。
それに見よ。お嬢、見たであろう?今だ少年の体は未成熟ではないか。
508 :
35:2008/06/22(日) 21:57:10 ID:???
夜になってもぼんやりと天井を眺めたきりで、夜這いの一つも仕掛けようとはしない。
やれやれ、性欲まで未成熟ではないか。
これではお嬢に種付けするなど何年後の話となるか知れたものではない。
「今朝の食事当番、誰でしたっけ?」
「くっ……」
「なんでミサトさんが今だに一人なのか、判ったような気がします。」
少年、何を言っている。働くのが男の勤めではないか。
まあ普段の仕事ぶりに免じて許してやらないこともないが。
ここに来て以来、お嬢の仕込みのお陰なのか少年はまめに働くようになる。
掃除をする、風呂を沸かす、炊事に洗濯、そして私に投げてよこすエサも質の良いものになってきた。
なんだかんだ言っても流石はオス、実に良い仕事をする。
お嬢の調理したものでは、よく口にした瞬間に意識を失ったものだ。
少年のお陰で私の生活はバラ色に化したといっても過言ではない。
だが、我が身の心配など私はしていない。お嬢、私はあなたが心配なのだ。
良く出来た少年ではあるのだが、しかし若すぎる故の不安がある。
「アンタ、まだ居たの?ミサトはアタシと暮らすの。ま、実力を考えれば当然よね。」
やがて、その不安が見事に的中してしまった。別の若いメスが住み着いてしまったのだ。
言っていることがどうにも噛み合わないが、いちいち少年に絡みつく挑発的なその態度。
少年目当てで乗り込んできたことがよくわかる。
露骨なセックスアピールだ。このままでは少年の種を全て搾り取られてしまうぞ、お嬢。
だが、お嬢はそんな二人を笑ってみている。
むしろ仲良くしろと説教までしている。はて、どういうことだ?
509 :
35:2008/06/22(日) 21:58:16 ID:???
更にその少女だけではなく、同年代らしい連中もぞろぞろとやってくる。
このままではお嬢をほったらかしで、オスメスのつがいが幾つも出来てしまうだろう。
判らない。お嬢、いったい何を考えている。
……いや、判る。
そうだ。もはや自ら子孫の繁栄に貢献できない私だからこそ、お嬢の意図が理解できる。
お嬢は若い者達のつがいが出来るのを楽しみにしているのだ。
つまり、私がお嬢を見守る気持ちとまったく同じ。
新たな若い世代の手引きをして、産めよ増えよと子孫繁栄に貢献することがお嬢の望みなのだ。
もはや、病んだ自分では無理だと考えたのだろうか。実に泣かせる話ではないか。
いや、お嬢よ。あきらめるのはまだ早い。
病んだ心はともかく、体はいたって健康な成人女性なのだ。
どうか私のためだと思って、素直に我が身の幸福を望んで欲しい。
だが、お嬢は楽しげに彼らを招きよせる。
そして大勢で笑い、飯を食い、ミサト嬢は大酒を飲む。
若い世代ばかりではない。お嬢と同年代、年寄りもやってくる。
あきれたことに以前の男、加持という奴までやってきた。
畜生、今度こそケリを入れてやる。
だが、ミサト嬢はそんな彼らを笑って迎える。
ペンギンの身である私でも判る。お嬢は心底から楽しげに笑っている。
それで幸せならそれで良い、と私はお嬢の考えを認めてやりたい。
だが、お嬢よ。笑顔の合間にみせる、その苦悶に満ちた顔はなんだ。
そして、お嬢がつぶやくいつもの台詞。
「使徒は必ず私が倒す。セカンドインパクトの二の舞はさせない。」
510 :
35:2008/06/22(日) 21:59:29 ID:???
お嬢よ、まだそんなことを言っているのか。
それでは何も変わらないではないか。だから私は心が病んでいると言いたいのだ。
生き物とは生きるために必死に生きる者をいう。何かを倒すために生まれてくる者など居ない。
このままではその病、自分だけの問題ではなくなってしまうぞ。
「ミサトもイヤ、シンジもイヤ……自分が一番イヤァッ!!
もうイヤッ!我慢できないッ!!」
案の定だ。年若い少女に見事に感染してしまったようだ。
もともと大声でわめき散らす血気盛んな性格だったが、もはやまともな状態ではない。
そして、今日もまた詰まらぬことで少年に噛みついてくる。
「アンタでしょ!このカーペットを汚したの!」
「アスカ、先週もそれで怒ってたじゃないか。もういい加減にしてよ。」
「ウルサイッ!ミサト?いい加減ムカツクから取り替えてよ、これ!」
「アスカ!もう、どうでもいいって言ったの自分じゃないか!」
これら全てはお嬢、あなたの病が原因なのだ。
ミサト嬢の病が、既にこの少年少女にまで伝染し始めている。
あなたがそのことを悟らなければ、この若い二人は必ずダメになってしまうぞ。
やがて少女は何処かに行ったまま帰ってこなくなる。
少年はうつろな目つきで寝室に横たわる。
お嬢はあいもかわらず自室で難しい顔をする。
私には何も出来ない。
出来るのは彼らの心配だけだ。
このままではいけないことは判っている。
しかし、どうしようもないのだ。
511 :
35:2008/06/22(日) 22:00:44 ID:???
「止めてよ、ミサトさん!」
「……ごめんなさい。」
ある時、少年の寝室に赴いたお嬢。
少年の手引きをするつもりだったのか、今更ながらに生物の本領に目覚めたのか。
だが、差し出した手を払われた様子が見て取れた。
無理もない。少年も病み始めている。
あの少女が姿を消してからというもの、うつろな目で天井を見てばかり。
お嬢は判っていない。あなたも少年も病根の排除が必要なのだ。
「ペンペン、おいで。」
その失敗を慰めて欲しいのか、久方ぶりのお声掛かりだ。
正直、側によって慰めてやりたいのだが私も拒否をせざるを得なかった。
これが私に出来る精一杯の意思表示。しかし、これでは私の気持ちが通じる訳がない。
畜生、どうすればいいのだ。なぜ、私には何も出来ないのだ。
やがて、少年も帰ってこなくなってしまった。
住処にはお嬢と私、二人だけ。
もはや、これまでなのか。
「ペンペン……私、保護者失格ね。」
力なく、そのようにつぶやくお嬢。
確かに、あなたが原因だと思う。しかし、あなたの罪ではない。
だが、そんな簡単な言葉ですら私はあなたに伝えることが出来ないのだ。
512 :
35:2008/06/22(日) 22:01:38 ID:???
「ここが街外れでよかった。あなたが巻き込まれずにすんだから。でも、次の保証は無い。」
ん?お嬢、何の話だ。
「だから、明日からは洞木さんちでお世話になるのよ。しばらくお別れね、ペンペン。」
お別れ?
いや待て、私はお嬢から離れるつもりはないぞ。
お嬢、頼むから私の話を聞いて……畜生、聞こえないんだった。
いや、何でも良い。とにかく、イヤだという意思表示を……
「ん、ペンペン。お腹すいたの?えーと、確か干物が残って……」
だから、そんなことは誰も言ってないって!
何故だ!
何故、私はペンギンなのだ!
- 続く -
513 :
35:2008/06/22(日) 22:02:54 ID:???
長いので続きはまた今度投げますー
何故だ!
何故、気になるところで!
なんというヒキ
次の規制が来る迄に続きを…!
516 :
35:2008/06/23(月) 07:38:33 ID:???
つづきー
517 :
35:2008/06/23(月) 07:39:37 ID:???
「それじゃ、ペンペンをよろしくね。」
「はい、判りました。葛城さん……」
ん……?
「それじゃいこうか。ノゾミ?いつまでも覗き込んでないで、こっちに貸して。」
「アハハ、ペンペンっていうの?可愛いね、おねーちゃん。」
「ヒカリもノゾミも、しっかり面倒見るのよ?私は知らないからね。」
し、しまった。すっかり寝てしまった。むむ、なんだこの檻は?
お嬢は寝ている隙に私をこんなものに閉じこめたのか。
まさか……私を無理矢理に遠ざけるため?
「よし、それじゃ行くよ?二人とも早く車に乗りなさい。」
「はーい!ねね、お姉ちゃん。疎開ってさ、どこに行くの。」
「ん、聞いてないの?ドイツだってさ。」
「えー!私、パスポートなんて持ってない……」
冗談ではない。海を隔てた外国ではないか。
そんなところまで連れて行かれては、間違いなくお嬢には二度と会うことが出来ないだろう。
これではお嬢が一人きりになってしまう。
私はお嬢を一人にする訳にはいかないのだ!
「そ、そんな暴れちゃダメだよ。落ち着いてよペンペン。」
「ちょっとぉ!うるさいよ、その子。」
いや待て、落ち着け自分。
今、車という乗り物に乗せられている。
無理に檻から抜け出しても、逃げのびるなど無理な話だ。
518 :
35:2008/06/23(月) 07:41:03 ID:???
落ち着け……落ち着け……
「ほら、おとなしくなった。ね、ペンペンは良い子だよ?お姉ちゃん。」
「ふん……」
よしよし、この調子だ。
無理を通せば道理が通らぬ。落ち着け、自分。
「こんど出るのが最後の便だってさ。どうなっちゃうんだろうね、第三新東京は。」
「そうね……でもね、碇くん達が負けちゃったら、日本はおろか世界中だって……」
「そっか。その子、あそこにまだ残るんだよね……あの鈴原って子は?」
「病院から直接、空港に向かうんだって。会えるかな……」
確か、私の檻の側で話している子は見覚えがある。
以前、お嬢の住処に訪れて私を抱き上げていた子がそうだ。
でも聞き慣れない声でないと、言っていることがよく判らない。
「よし、着いたよ。ほら、その檻を貸して。重いでしょ?」
「ううん、大丈夫よ。よいしょっと……」
「ん……ちょっと、なに?あっちの空。」
「……え?」
着いたか?着いたようだな。
さあ、ここからだ。あの飛行機とか言うものに乗せられてしまっては、もう逃げ出すことは不可能だ。
そして四方を見渡し、あるものを探す。もし近くに無ければお仕舞いだ。
ニンゲンの足は速い。地上を走っていたのでは、すぐに追いつかれてしまう。
「あれは……何?」
「ヘリ……いや戦闘機?何あれ、戦争が始まっちゃうの?」
519 :
35:2008/06/23(月) 07:42:06 ID:???
あった!よし、あそこへ逃げ込むんだ!
彼女達が気を取られている今のスキに、あそこを目指して一気に駆け抜ける!
ガタンッ!
「きゃっ!」
「ちょ、ちょっと、ペンペンが逃げたよっ!」
「ど、どこに行こうというの?待ちなさい!」
その私がめざしているもの。
それは河だ。地上では勝ち目はないが、水の中に入ればもうこっちのものだ。
「お願い、ペンペン待って!」
「誰か止めて!あそこに飛び込んだら……」
口々に叫びながら追いかけてくる少女達。
すまない、迷惑をかけるが何としてもミサト嬢の元に戻らなければならんのだ。
それが、私に課せられた宿命なのだ。
えい!
どっぽーん!!
泳ぐのは久しぶりだ。泳ぐ場所といえば、お嬢の住処で風呂につかるぐらいなものだ。
久々に動かしたお陰で、全身の筋肉がメリメリを音を立てている。
泳げ。泳ぐのだ、ペンペン。
なんとしてでも、お嬢の元にたどり着くのだ。
そして……そして、お嬢に平手の一発でも喰らわしてやる。
私を二度と離すな、と。
520 :
35:2008/06/23(月) 07:43:20 ID:???
私は無我夢中で泳ぎ続けたが、頭上がなにやら騒々しい。
水上では信じられないような爆音が響き渡っている。何かが起こっているのだ。
そして、息継ぎのために水面に顔を出してみれば驚いた。
地上はまさに火の海と化して居るではないか。
だが、構っている暇はない。水面下なら安全だ。
早く、早くお嬢の元に戻るのだ……
……
そして、ようやくたどり着いた。
どこをどう泳ぎ、どうやってここまで来たのか判らない。
マンションの外を見渡せば、地上はまさに火の海の地獄。
それはすぐにでも、このお嬢の住処にまで及ぶだろう。
私が部屋に入ると、お嬢がそこに立っていた。
ただぼうぜんと、部屋を見渡している。
そして、私はお嬢に声をかけた。
「お嬢。」
「……嘘、ペンペン?」
信じられない。
私がお嬢と会話をしている。
これはいったいどういう奇跡なのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。
私の必死の思いが通じたのだ。それでいい。
ならば、自分の思いを伝えるのみだ。
521 :
35:2008/06/23(月) 07:44:39 ID:???
「お嬢、逃げよう。早く全てを捨てて逃げるのだ。」
「お嬢って私のこと?ペンペン、あなたはずっと私をそう呼んでいたの?」
お嬢は笑って私のほうを振り返った。
それは、なんだか寂しげな、あるいは懐かしむような笑顔だった。
「そうだ。お父上から授かったあなたをそう呼んでいた。
いや、そんなことはどうでもいい。逃げるのだ。全てを捨てて、やり直そう。」
「引っ越すの?ペンペン……♪机、本箱〜掃除したてのサッシの窓に〜」
私をからかっているのか?それはお嬢が引っ越しの折に好んで歌っていた歌だ。
私はカッとなって、つい大声をあげた。
「お嬢!」
「ごめんなさい。そうね……こことも、もうお別れね……」
「そうだ。お嬢、もう一度やりなおせばいい。
あなたは病んでいたのだ。あなたの病が、あの少年少女を陥れたのだ。
だが、お嬢は悪くない。その病が悪いのだ。ならば、病んだ心と体を癒せばいい。」
「病んでいた……この私が?そうね、そうだったのかも知れないわね。
本当に、悪いことをしたわね。シンジ君とアスカには。」
そして、お嬢は床にしゃがみ込み、少年が汚したというカーペットを眺める。
「そうね。アスカの言うとおりにさっさと取り替えておけばよかったわね。
あの子、つまらないことばかりでシンちゃんと喧嘩ばかりしていたな。
もう少し私が気を配ってあげれたら……」
「お嬢、済んだことはもういい。新しい世界に赴くのだ。
そして、これまでの仇討ちなどという妄執を捨てて、いい男を見つけて子を産み育てるのだ。
今からでも遅くはない。それがあなたの幸福であり、生きるものの勤めなのだ。」
522 :
35:2008/06/23(月) 07:46:03 ID:???
必死の私の思いを理解しているのか、いないのか。
ミサト嬢は、私の言葉をただ笑って聞いている……ん?
お嬢、怪我をしているのか?体から血が流れ出しているではないか。
お嬢はその場にしゃがみ込んで、何かを思い浮かべるように天井を見上げて語り始める。
「子供を産み、家庭を育む幸せ、か。ウフフ、なんだか父親にお説教されてるみたいね。
ペンペン、人間はね。とても複雑な生き物なの。
単純に側にいるオスとメスが引っ付いて、子供を産んだり出来るものじゃない。
こんなカーペットのシミ一つで、男と女の溝をさらに深めてしまう。」
「……?」
「知ってる?NERVのマーク。あれはアダムとイブが身につけたというイチジクの葉なの。
つまり、知性を身につけたが故に生まれた恥じらいとプライド。
それが男と女の間に大きな壁を作ってしまった。
加持君……彼と純粋に愛し合えたあの頃が懐かしい。
自分の心の中にある障壁さえなければ、あのまま彼と一緒に居られただろうに。」
「その……お嬢、言っている意味が判らないが。」
「碇司令はあの葉こそ、知性を身につけた人類の勝利の証だと言っていた。でも、私はそうは思わない。
あれこそ、人間の欠けた自我の象徴……いや、違うわね。
あのイチジクの葉に阻まれ、男と女が補い合うことが出来なくなっちゃったのよ。
それを使徒の力を利用して補う、人類補完計画……ちゃんちゃらおかしいわね。
互いに手を取り合う現実の努力を捨てて、学校を爆破したがる子供のような計画だわ。
ペンペン、仇討ちとはよく言ったものね。その仇討ちの空しさを今、私は味わっているわ。
そんな計画に私は荷担していたなんて……」
延々と語るミサト嬢だが、正直いって何が何だかサッパリ判らない。
こうして長台詞を聞いている時間はない。なぜか、そう思った。
そして急き立てようと口を挟む。
523 :
35:2008/06/23(月) 07:48:24 ID:???
「そ、その、お嬢。やはり、言っている意味が判らないのだが……」
「人間が愚かで、あなたが正しい。それだけよ。
人間はあなたがいう病に冒された、繁栄の意味を取り違えた生物。」
恐らく怪我のせいであろう。
そう私を慰めるかのように語るお嬢の顔から、血の気が引き始めている。
そういえば、何かがおかしい。
私はどうやってここにたどり着いたのだ。
ここは地上から遙かに高いところの筈。
だが、エレベーターに乗った記憶も、階段をよじ登った記憶もない。
しかも、玄関の重い鉄の扉など私の力で開けられる筈もない。
「お嬢、どうしたのだ!怪我をしているのではないのか!」
「ウフフ……ねえ、ペンペン?
私ね、シンちゃんとはキスの続きを約束したの。
そうね……シンちゃんの子供を産んじゃうのも悪くないな。
シンちゃんなら何でも許してあげられたのに……
残念ね。これでは、もう約束を果たせない。
あとは、アスカに任せるわ……」
「お嬢!早く逃げよう!このままではお嬢は!」
「ペンペン、あの二人をよろしくね……
ねえ、加持君……これで良かったわよね……」
「……お嬢ッ!!」
- 続く -
524 :
35:2008/06/23(月) 07:49:10 ID:???
つづくー
525 :
35:2008/06/23(月) 14:46:09 ID:???
つづきー
526 :
35:2008/06/23(月) 14:47:13 ID:???
そして――
私はミサト嬢の体が炎に包まれ凄まじい爆音と共に吹き飛ぶのを、遙か天空の彼方から見下ろしていた。
そうか、私はすでに死んでいたのか。
なぜ、そうと判ったのかと言えば……すぐ隣に博士の姿があったから。
私は博士と共に、お嬢の最後を見届けたのだ。
私と博士だけではなく、幾万の魂が十字となって舞い上がっていく。
なんとも美しい光景だ。その全ての人の顔は何故か幸福に満ちている。
これで良かったという訳か?
いや……良い筈はない。生きてこそ生物の本分である筈なのに……
博士、すまない。
私は誓いを果たせなかった。すまない、博士。
だが、博士は黙って地上を見下ろしている。
誰も居なくなり、もはや地獄絵図のような廃墟と化したニンゲンの街を。
いったい、何が起こったというのだろう。
ああ、そうか。
これがお嬢が言っていた人類補完計画なのか。
確か、学校を爆破したがる子供のような、と称していた。
その焼け跡を我々は見下ろしているのだ。
これで満足なのか?これで計画は成功したと言うのだろうか、ニンゲン共よ……
……ん、お嬢?
気がつくと、博士の傍らにミサト嬢が浮かんでいた。
そして私の方をジッと見つめて、地上の方を指し示す。
527 :
35:2008/06/23(月) 14:48:29 ID:???
(あの二人をよろしくね、ペンペン)
お嬢が示した海岸沿い。
そこに、二人の少年少女が横たわっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「シンジ……立って。」
「……」
「立ってよ!行きましょう?ここにジッとしていてもどうにもならないわ。
ほら、首を絞めたことなんか怒ってないから!」
「……」
「ねえ、シンジ!抱きしめてキスの一つでもすればいい?」
「……」
シンジと呼ばれた少年は動かない。
その彼を立たせようとする少女は、間違いなく共にミサト嬢の元で暮らしていた彼女だ。
膝を抱えてうずくまる少年の側に立ち、どうにか奮い立たせようとしているらしい。
しかし、少年は動かない。
さあ、どうする?
「……」
「……」
少し怒り出したように見えた少女であったが、
大声を出すのを止めて、軽く溜息をついてから少年の側に座った。
そうだ。それでいい。何でも良いから側を離れてはいけない。
528 :
35:2008/06/23(月) 14:49:44 ID:???
どうやら彼女に取り憑いていた病は癒えているようだが、完全にどうかは判らない。
怒るのを止めたのは、仕方がないと諦めたのか、
それとも少年をいたわしいと感じたのか。
しかし、こうしているのも良くないな。
そろそろ、再会の挨拶でもするとしよう。
「……あれ?ねえ、シンジ。見てよ、あれ。」
私が水面から姿を現すと、少女はめざとく見つけて少年に指し示す。
「ペンペン……?」
やっと、少年の声が聞けた。
まるで、あの時の幼いミサト嬢のようだ。
「アハハ、アンタ生きてたの!?信じらんない!」
「ペンペン……無事だったなんて。でも、おかしいな。委員長に預けられたって……」
「ここまで泳いで来たんじゃないの?」
「えー!?だって、疎開先はドイツだって……」
少しずつ、笑顔を取り戻す二人。本当に久しぶりの笑顔だ。
この二人が出会ってから、ほんのしばらくの間しか見ることの出来なかった本物の笑顔だ。
「うーん、でもこれから食料が大変ね。シンジ、どうする?」
「どうすると言ったって、こんな有様じゃ……」
「確かに酷い有様ね。こんなところで生きていけって言うつもりかしら。」
「アスカ、誰に怒っているのさ……あ、ちょっと見てよ!ペンペンが魚を捕ってきたよ!
凄いや!これアジだよ!アジ!」
「あんな海で泳いでたのを食べるっていうの?気持ちわるぅ!」
「そんなぁ、せっかくペンペンが……」
529 :
35:2008/06/23(月) 14:51:17 ID:???
さっそく口喧嘩のような掛け合いを始める二人。
やれやれ、この調子が思いやられる。また、病に冒されなければいいのだが。
お嬢。
正直、今の私に何が出来るか判らない。
これまで同様、私には二人のための力にはなれないだろう。
私は最後に残った、ただ一匹のペンギンでしかないのだから。
しかし、お嬢は私に託した。博士の時とは違い、正式に私に託したのだ。
ならば、私は誓う。
何も出来ない私だが、せめて私は彼らを見守り続けることにしよう。
せめて、彼らが育む新たな生命を見届けるその日まで。
願わくば、その日まで残り少ない寿命が尽きないことを、
そして願わくば、我が身がニンゲン共の繁栄の礎の、その欠片とならんことを。
「ねえ、シンジ?ペンペンって……美味しいのかな?」
「ちょっ……あ、アスカぁ!」
ど、どうか……お嬢、そして博士も共に見守っていて欲しい。
いや、守ってくれ。
西暦2015年、吉日。
ペンペン
- 完 -
(うむ。ペンペンの背中に搭載したS2機関は正常に稼働しているようだ。ペンペンはあと100年は戦える!)
(ま、マジっすか?お父さんっ!)
530 :
35:2008/06/23(月) 14:55:21 ID:???
おわりっすー
というわけで、私の書かせていただいたシリーズはペンペンで締めたいと思いますー
読んでくださった方々、ホントにありがとー
またなんか思いついたらスレの保守に貢献したいと思いますー
ではまたー
マジで良い仕事だったよ……。・゚・(ノ∀`)・゚・。
お疲れ様でした、次回作お待ちしてます
誰だよwww
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533 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/24(火) 00:05:10 ID:oHlWlu8H
>>532 俺が見てる糞スレが表示されないのはどういう訳だw
534 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/24(火) 07:18:56 ID:ayT6Hm9z
スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン
ゲンドウ「…クッ!思ったよりいいぞ冬月…」
冬月「よし!大分滑りがよくなってきたな碇!」
スパンスパンスパンスパンスパンスパンスパン!
続く
ペンペンかっこいいお(´・ω・`)
538 :
6:2008/06/25(水) 21:06:50 ID:???
なんか綾波との握手イベントに引っ張られて、アスカにも
特に必要のないイベント入れてたらまた文章量と作業時間が…。
35の全キャラ制覇の偉業に拍手を送りつつ、一刻も早い復帰を願って、投下。
539 :
逆行52:2008/06/25(水) 21:07:55 ID:???
今まで考えてはいなかったが、この前のシンジのシンクロ率は、
この段階では不自然なほど高かったのかもしれない。
だがそれは、シンジが未来から戻って来た人間であるせいで、
ミサトとは無関係だとシンジは知っていた。
かといって、真実を打ち明けることは出来ない。
あまりに荒唐無稽な話で信じられはしないだろうし、
それに、シンジ自身意識していない所で、
『自分のしたことをアスカに知られるくらいなら、死んだ方がマシだ』、
というほどの強い想いを抱いていた。
しかし、
「そんな理由で、ミサトさんを疑うなんて、おかしいよ!」
だからといってミサトに罪をなすりつけるようなことも出来なかった。
「ミサトさんは、そりゃずぼらでいい加減なところもあるけど、
信用出来る人だよ。第一、ミサトさんが僕に隠しごと、なん、て…」
シンジの言葉が止まる。それを見て、アスカは逆に身を乗り出した。
「あるのね、心当たり! それを話して! 絶対、誰にも言わないから!」
「だ、だけど…」
躊躇する。それは、ミサトを売るのと同じ行為に思えた。
「もー! いいから、はやく言っちゃいなさいよ!
……アタシは別にミサトをどうこうしようなんて思ってないわよ。
ただ、本当のことを知りたいだけなんだから」
そう訴えかけるアスカの目は、シンジの想像よりずっと真摯だった。
そして、シンジの知るアスカという少女は、身勝手で驕慢で短気ではあっても、
こういう時に人を騙すような人間ではなかった。
「……わ、分かった。話すよ。話せばいいんだろ」
アスカの瞳の圧力に屈するように、とうとうシンジは折れた。
キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!!
541 :
逆行53:2008/06/25(水) 21:09:09 ID:???
「その、ヤシマ作戦のすぐ後、僕は倒れて入院することになったんだけど…」
一度心を決めてしまうと、シンジの口はなめらかに動いた。
シンジだって、内心ではこのことを誰かに相談したいと思っていたのだ。
「気がつくと、寝ている僕の傍でリツコさんとミサトさんが話をしてたんだ。
でも、僕が起きてからミサトさんに尋ねたらそんな話はしてないって……」
アスカはめずらしく殊勝な態度でじっとシンジの話を聞いていたが、
「ふぅん。だけどそれ、アンタがただ寝ぼけてただけって可能性はないの?」
そう指摘される。それは、シンジがずっと考えていたことでもあった。
「そこが、分からないんだ。でも、その時のミサトさんたちの会話で、
『僕の症状はただの体調不良だ』って言ってたけど、それは間違ってなかったよ」
しかし、アスカはそれでも眉をひそめた。
「具体的な症状を当てたっていうなら分かるけど、体調不良じゃ弱いわよ。
他に、同じようなことはなかったの?」
その質問に、シンジは首をひねる。
「……どうだろう。考えたこと、なかったな。
でも、何だか最近、ミサトさんとリツコさんの夢をよく見るんだ」
「…へえー」
アスカの気のない合いの手。しかし、シンジは気づかずに、
「起きてもだいたい覚えてないんだけど、いつも二人で僕の話をしてるみたいでさ。
リツコさんはいつも通りちょっと冷たいんだけど、ミサトさんはいつもより優しくて、
なんていうか、お母さん、みたいな感じで……あ、あれ?」
シンジはそこでようやく、アスカが自分を、
まるで犯罪者を見るような冷め切った目つきで見ているのに気づいた。
「……ヘンタイ。マザコン。年増好き」
「ち、違うよ! そんなんじゃなくて…!」
「あーあぁ! ホンット、マジメに聞いてて損したわ!
噂に聞いてたサードチルドレンがこんなヘンタイだったなんて、幻滅ぅ!」
「…ん、な! よ、よく言うよ! 僕をジャマだと思ってたのは、そっちだろ!
最初っから、期待なんてしてなかったくせに!」
売り言葉に買い言葉。それはよりにもよってアスカにそういう誤解をされてしまったシンジの、
苦し紛れのごまかしだった。
しかし、その言葉を聞いて、アスカの瞳の熱が目に見えて変化する。
542 :
逆行54:2008/06/25(水) 21:10:46 ID:???
「な、なんだよ…。僕は、本当のことを言っただけだろ。
何か、言いたいことがあるんなら…」
それに気圧されて、シンジはわざとつっかかるような口調でそう尋ねる。
しかし、アスカは言い返すこともなく、ただふいっと視線を逸らした。
「何でもないわよ」
どこかあきらめのにじんだ、思わせぶりな仕種。
シンジはどうしてもそれが気になって、
「そ、それで、何でもないってことはないだろ。
もう、だからこっち向けったら…!」
アスカを振り向かせようとその腕に手をかけて……。
「触らないで!」
脳を叩く、悲鳴のようなアスカの声。
気づいたら、シンジはいつのまにかアスカから二メートルほど、
吹き飛ばされて壁に頭をぶつけていた。
何をされたのか全く分からなかったが、それは不思議には思わない。
一体何を習っているのか、肉弾戦において、
アスカがシンジよりもずっと強いのは身にしみて分かっていることだった。
それよりも、突然の過剰な拒絶にシンジの頭に血が昇った。
「いきなり何す…ん……」
しかし、とっさに放った怒声は、尻つぼみに小さくなる。
その声の、向かう先。そこにいる、傲岸に、
胸を反らして立っていなければいけないはずの少女は、
「……あ、アス、カ?」
両腕で自分の体を守るようにして、小さく震えていた。
543 :
逆行55:2008/06/25(水) 21:11:27 ID:???
「アスカ! 大丈夫?!」
頭の中が空っぽになり、シンジはアスカに駆け寄るが、
「やめて…」
か細い声に縫い止められ、あと一歩の所で動きを止めた。
「アスカ、一体、どうしたんだよ? 急に、こんな…」
その代わり、言葉で歩み寄る。そう、試みる。
しばらく、返答はなかった。
だがやがて、蚊の鳴くような小さな声で、
「……こわいの」
震える唇から、思いもかけない、言葉が漏れた。
「昔、アンタみたいなヤツに、すごく、ひどいこと言われて……。
それ以来、ダメなのよ。名前呼ばれたり、体に、触られたりするの」
アスカの弱々しい態度も、放たれた言葉も、とても信じられない。
だが、アスカのその表情が、それが真実だと語っていた。
「ほ、本当にごめん。僕、まさか、そんなの…」
かける言葉が見つからなかった。
しかし、アスカは緩慢に首を振る。
「いいわよ。アンタは、何も知らないんだから…」
「でも……」
「アタシが気にしてないって言うんだから、それでいいのよ。
……ほら、いいからこっち、来なさい」
近寄ってもいいのか、それを不安がる足取りで、
シンジはおそるおそる、アスカに近づいていく。
「あのね、シンジ…」
手を伸ばせば触れられるほど近くに来たシンジに、
アスカははかなげで弱々しい顔を見せると、
「――ッ?!」
完全に油断していたシンジの頬をつかんで右手で思い切り吊り上げた。
544 :
逆行56:2008/06/25(水) 21:12:17 ID:???
「い、いはっ!! いひゃひゃひゃい!」
途端に、アスカの顔に笑みが戻る。
とびっきりの、殺気さえこもった笑みが。
「バッッッッッッッカじゃないの!?
アンタに似たヤツにひどいことされた?
……ハッ! そんなことあるワケないでしょ!
アンタみたいなのに何か言われたら、
三秒もかけずにノックアウトしてやるわよ!」
その間もアスカの手はすごい力でシンジの頬を引っ張っており、
「ひふ! ひふ! ひふあっふ!」
シンジは必死で近くの壁をタップしてギブアップを宣言するのだが、
アスカは全く気づいた様子もない。
いや、気づいていてあえて無視しているのか。
「それよりアンタ、またアタシのこと、
名前で呼んだでしょ。それも、三回も!」
アスカはシンジがもがく様を楽しそうに見ながらそんなことを言うが、
シンジにはアスカの言葉に答える余裕はない。
ただ必死に爪先立ちになって、
頬の痛みを軽減させるべく健気な努力を続けている。
「アンタがアタシを名前で呼ぶなんて、百万年は早いのよ!
分かった? 分かったら、返事!」
「ひゃ、ひゃい…」
シンジのくぐもった声に、一応は満足して、
「よろしい」
ようやく、シンジは解放された。
545 :
逆行57:2008/06/25(水) 21:13:03 ID:???
「うげぇ。きたなーい! もうヤダ、サイアクぅ!」
そんなことを言いながら、シンジの唾液のついた右手をハンカチでぬぐうアスカを、
シンジは左頬を押さえて、すっかり涙目になった両眼でじっと見ていた。
「なによ? その目は何か言いたい目ね」
それを見咎めて、アスカがシンジをじろっとにらむ。
「え? あ、いや、……何でもないよ」
シンジはすぐに目を逸らすが、遅かった。
「なによ! アンタ男でしょ。
言いたいことがあるなら、はっきり言ってみなさいよ」
シンジの目が何度か泳ぎ、それでもアスカが視線を外さないのを見て取ると、
ついに観念して口を開いた。
「その、もう大丈夫みたいだから、良かったな、って…」
「大丈夫って何が…、!!」
わずかに遅れて言葉の意味に気づいたアスカの頬が、
怒りと羞恥に彩られて瞬間的に朱に染まる。
激情に駆られて何か言おうと口を開いたようだったが、
そこからは何も言葉は出てこない。
おそらく、シンジに自分の虚勢を見破られ、
あまつさえ気を遣われたことが許せないのだろう。
ただやり場のない思いにアスカの口はパクパクと動き、
屈辱に拳がギュッと握られた。
その気配を察したシンジは、ついいたたまれなくなって、
とにかくアスカの弁護に回る。
「い、いや、そのっ…。人それぞれ、苦手なものってあるだろうし、
僕だってほら、怖いものとかたくさんあるし…」
シンジはアスカの機嫌を直すべく、精一杯のフォローをしたつもりだったが、
「ムカツク! 気に入らない!」
アスカはすっかりへそを曲げていた。
「なんでさっ!?」
理不尽なその状況に、シンジはもう叫ぶしかなかった。
546 :
逆行58:2008/06/25(水) 21:13:52 ID:???
騒ぐシンジから、顔半分だけ目線をずらして、
「シンジは、さっきアタシに気を遣ったからアタシの手を振り解いたり、
触ったりしなかったんでしょ。
それって、アンタに同情されたってことじゃない」
「それは……」
シンジは一瞬言葉に詰まるが、これは今、
自分が口にしておかなければならないことだと、すぐに思い直した。
「君はプライドが高いから、そういうの嫌かもしれないけど。
でも、同情されるのって、当たり前のことだと思う。
誰にも弱みを見せないように生きようとしても、疲れるだけだよ」
そんなシンジの言葉に、しかしアスカは顔の角度をさらに逸らす。
「……そんなの、アタシだって分かってるわよ。
ただ、アンタに弱みを見せた自分が許せないだけ」
それきり、唇を噛んでうつむいてしまった。
(これは、処置なしだよ…)
シンジは心の中だけでこっそり、ため息をついた。
なんとなく、アスカと二人、廃墟で暮らしていた時のことを思い出す。
あの時も、アスカが起こす数々の理不尽に、シンジは翻弄されていた。
場所も環境もまるで違うが、状況だけは今とそっくりだった。
(……でも、このアスカは、僕とあの日々を過ごしたアスカとは、違う)
それを思い出して、シンジは気を締め直す。
『あの』アスカと同じように目の前の少女と付き合うのは、
どこか後ろめたい気がした。
(今目の前にいるのは、あの『アスカ』じゃなくて、『惣流』なんだ。
そういう切り替えをしよう…)
そう心に決め、シンジはアスカから物理的にも距離を取ろうと足を動かしかけて、
(……え?)
そんなシンジの葛藤を突き破って粉砕してさらにせせら笑うみたいに、
至近距離、まさにシンジの目の前に、アスカの腕が伸ばされた。
547 :
6:2008/06/25(水) 21:15:05 ID:???
とりあえず以上。
以降もまあ小刻みにやってくつもり。
うう・・・もうちょっと読みたかった・・・
気になるとこで切るなあw
乙!
GJ
わがままだけど、気がねなく思い切り読みたいw
お、なんかいい感じに痛いエピソードが……と思ったら(´Д`)
551 :
35:2008/06/28(土) 20:36:04 ID:???
>>538 6さん、ありがとう。
とはいうものの、全キャラ制覇したのか、というとそうでもなかったり。
しかし、重要キャラとはいえカヲル君は思いつかないw
あれ出したら暗くなるし、話のタイミング的になんというか。
で、お蔵入りしようかと思ってたバカ話があるんで、スレ保守に置いときます。
んでは、投下開始。
552 :
35:2008/06/28(土) 20:36:42 ID:???
「ふわあああああ……」
シンジは体を大きく伸ばす。
さわやかな朝だ。葛城家の居間に差し込む朝日がなんとも心地良い。
ベランダのガラス戸を通して外を見れば、そこは晴天の空の下に広がる第三新東京市。
その中に太陽の光を浴びてそびえ立つエヴァンゲリオン初号機の姿もまた、実に神々しい限りである。
「あれって……エヴァだよな。しかも、初号機?」
シンジはようやく、見ている光景がおかしいことに気がついたようである。
「……あれれ、僕はまだ夢を見ているのかな?」
と、シンジが頭をかけば、初号機もまた頭をかく。
もう一度、両腕を高く上げて体を伸ばせば初号機もそれに習う。
「あははははは、やっぱりこれは夢だな。よーし……しぇーっ!!」
はい、初号機も一緒に片足をあげて、しぇーっ
流石はシンジ、ユーアーナンバーワン。実に見事な遠隔シンクロ。
「シンジ君、それ以上動くな!」
突然に、シンジはガシッと羽交い締めされた。
「加持さん!?」
「やはり、初号機の挙動不審は君が原因か!これ以上動くな!
君の寝相のお陰で第三新東京市の街一つが崩壊したんだ!」
「……えええええええ!?」
「成る程、これで初号機の行動が全て説明できるわ。」
と、加持の後から現れたのは白衣姿のリツコ。
「搬送用のリフトを自分で操作して地上にあがり、右往左往したあげく地面にごろ寝。
それらの行動は、全てシンジ君がマンションに帰りエレベーターで部屋に戻る動作だったのね。
流石は加持君、そうと気付かない私はうかつだった。」
553 :
35:2008/06/28(土) 20:37:55 ID:???
正直、NERV本部のリフトがエヴァ本体からも操作可能だったとは知らなかったが、
事実、初号機が地上に居るのだからしょうがない、ということにして欲しい。
「リ、リツコさん!それじゃ僕はどうすれば……」
「とりあえず、その状態から動かないで。早急に調べるわ。」
「無茶苦茶ですよ!足ぐらいおろさせてください!」
確かにこれ以上に無茶な話があるものか。しぇーのポーズが長時間もつ筈は無い。
「現地の部隊に確認を取るわ。周りの地面を全て撤去してからよ。その後にシンジ君の体を全て固定。」
「はい!」
と、リツコに返答するのは、ようやく追いついてきたオペレーターの三人衆。
「よし……オーケー、シンジ君。足をおろして……立位安定、これからシンジ君の体を固定。
添え木をするから動かないで。」
「あ、青葉さん!縛られて立ちっぱなしって無茶苦茶ですよ!」
「大丈夫、初号機並に拘束具を装着するから。」
と、付け加えたのは青葉と並んでシンジの体をぐるぐる巻きにする日向。
そこに真打ち登場である。
「寝かせてあげたら?動かなきゃ問題ないでしょ?」
と、助け船を出したのは髪ボサボサの起き抜けアスカ。
「この調子じゃお風呂は沸かして……ないわよね。ほんっとにバカシンジって、どこまではた迷惑なのかしら。
ほらミサト!大騒ぎしてんだから起きなさいよ!すぐにアタシが弐号機で出るから!」
と、歯ブラシを咥えつつミサトの部屋を開けて怒鳴り散らす。
ようやく寝ぼけ眼で「ふえ……?」という顔で出てきたミサトに、アスカは更にたたみ掛ける。
「シャワーする時間は貰うわよ。アタシが弐号機で出て、初号機を担いで本部に下ろすわ。
あんなでっかいモノ、同じエヴァじゃなきゃ搬送するの大変だし時間がかかるし。
いいわね、加持さんに赤木博士?」
と、ミサト顔負けでその場にいるNERVスタッフを叱咤するアスカは流石である。
554 :
35:2008/06/28(土) 20:39:13 ID:???
確かに地上に出しっぱなしより、本部で拘束でも調査でもなんでもしたほうが良い。
やむなく頷きあう加持とリツコ。
緊急時の故、適当な私服で身支度をすませたアスカにヘリが手配され、早々に本部に直行。
そしてようやく目を覚まして制服姿に身なりを整えたミサトがキリリと再登場。
「みんなご苦労様。それでは弐号機により初号機を搬送、零号機は使徒を警戒して本部に待機。いいわね?」
「今頃でてきて、いいわね、じゃないわよミサト。ビール片手で指示を出さないでくれる?」
「たはは、一本だけお願い。ね、リツコ♪」
「ダメって言ったって飲むんでしょ……回線借りてるけど、もっと早いの引きなさいよ。」
「ちょっとぉ、ここから本格的にMAGIを操作するなんて想定してないわよ。それにしても……
ゴメンねシンちゃん。私たちがシンクロシンクロって言いすぎたから、こんな有様になっちゃって……」
確かに酷い有様である。包帯ぐるぐる巻きでミイラのようなシンジの姿を悲しげにのぞき込むミサト。
目だけがパチクリと動いているが、もはや返事すら出来ない状態である。
「弐号機、リフトオフ。これより初号機の搬送を開始します。ん、ありがと。」
ノートPCを抱えて絨毯の上にぺたりと座り込んで発令するマヤは、差し出されたポテチをパリッ。
ビール片手のミサトもまた、手持ちのPCからボイスチャット機能を駆使してアスカに指示する。
「アスカ、周囲の住居に注意してね。一応、使徒の襲来に警戒して……まず無いと思うけど。」
「パターン青!来ます!」
「へ!?」
初号機を抱き上げた弐号機の背中に強烈なライダーキック!
頭の輪っかと背中の羽根も輝かしい大天使ガブリエルの登場だ。
「ガブリエルぅ!?またなんで、そんな天使様が……」
「使徒イコール天使よ。いつか姿を現すと思っていたわ、四大天使の一人。」
素っ頓狂な顔をしたミサトに、リツコは淡々と解説して殲滅作戦開始を進言する。
「ミサト、使徒が来たからには殲滅するわよ?」
「でもいいの?あんなコテコテの天使様を倒しちゃったら、イエズス協会の抗議が……あ。」
555 :
35:2008/06/28(土) 20:40:43 ID:???
心配ご無用。舞台はガブリエルの独壇場であった。
頭をふりふり立ち上がろうとする弐号機の体に組み付き、ブレーンバスター……
いや、掟破りの脳天逆落としだ。これはキツイぞ。
さらに両足を抱えてジャイアントスイング。もはや弐号機・アスカは遙か彼方の浅間山。
大天使様はノリノリでガッツポーズ。やったぜ強いぞ僕らの天使ガブリエル様。
流石のミサトも溜息混じり。
「さっすが大天使様ね……」
「感心してないで次の指示を出してよ作戦部長さん!零号機の準備は?」
「それが、パイロットがまだ到着していない模様です。」
と、リツコに返答するのは眉をしかめた日向。しかし、その背後から。
「零号機では太刀打ち出来ん。今すぐシンジの拘束を解いて初号機で倒せ。」
びぃんと響く低い声。NERV総司令たる碇ゲンドウ、そして冬月副司令がそこに居た。
「司令!?それに副司令まで!」
驚く面々を尻目にゲンドウは食卓のテーブルに座り、口元に両手を組み合わせるいつものポーズ。
「司令塔の機能が全てここに来ているのだ。私がここに来る方が早い。」
と、つぶやくゲンドウの側に冬月は立つ。椅子が空いて居るんだから、たまには座ればいいのに。
「碇、分が悪いぞ。今のシンジ君の遠隔操作では勝ち目など無い。」
「仕方あるまい。シンジ、立て。そして戦え。そこのテレビで初号機をモニタせよ。」
「了解、父さん!」
そして拘束を解かれたシンジは勇んで立ち上がろうとする。
しかし、それを黙って見ているガブリエル様ではない。
させまいと初号機を蹴り転がし、更にフライングボディアタック。
執拗に責め立てる天使様に対して為す術もない。そして更に困ったことがある。
「シンジ君!今はうつぶせよ!早く同じポーズを取って。」
「え、あ、はい!えーと……」
「ああ、ダメ!足を取られたわ!転げ回ってもがくのよ!」
556 :
35:2008/06/28(土) 20:41:53 ID:???
こんな難しい操縦はない。
シンジの動きは初号機に反映されるが、どうやら初号機の状況はシンジに反映される訳では無いらしい。
これは進行方向の向きが変わるラジコンより難しい操作だ。
ようやく立ち上がった初号機。そしてシンジは片手チョップを繰り出す。
「えい!」
がしんっ!
「シンジ君、ガードされたわ!あああ、真後ろに倒れるわよ!受け身をとって!」
シンジはチョップを振り抜ける。しかし初号機はチョップを止められ、そのまま振り下ろしたポーズで後ろに転倒。
また、立ち上がるところからやり直し。
「ミサトさぁん!訳わかんないですよ、こんなんでどうやって戦えっていうんですか!」
「零号機の出撃準備はまだか?」
と、リツコが差し出す煎餅をつまみながら尋ねるゲンドウ。
だが、冬月はお昼のそうめんを茹でながら首を振った。
「ダメだ。零号機はともかく、パイロットが行方不明。」
「レイ、何を考えている……待て、冬月。俺は蕎麦がいい。」
「ちょ、ちょっと!僕の台所を探り回らないでよ、冬月さんに父さんも!」
と、怒るシンジは立派である。もはや葛城家の食卓は自分のものだと自負しているようだ。
ミサトはシンジをなだめつつ新たな指示を下す。
「シンジ君、とにかく距離を取って。日向君?ライフルの用意をお願い。」
「はっ!」
ロングキルで勝負という訳だ。だが大天使ガブリエルたるもの、それを許す筈がない。
初号機への攻撃は更に苛烈を極める。
がきっ!めりめりめり……
557 :
35:2008/06/28(土) 20:43:16 ID:???
「シンジ君!逆エビ固めよ!はやく振りほどかないと!」
「くぅぅぅっ!!」
と、もがくシンジだが、なかなか上手くいかないようだ。
こうなれば零号機の出撃がなければ勝ち目はないだろう。
しかし、レイからの連絡はまだ、無い。
「く、くく……てぇぃっ!!」
ばっきーん!!
どうにかガブリエルの関節技を外した初号機は、相手を蹴り飛ばして横転しながら距離を取る。
上手いぞシンジ。その場所は、まさしく排出されたポジトロンライフルの位置とピタリ。
マンション側は、ライフルに見立てた布団叩きを日向がシンジに捧げ持つ。
しかし、そこにガブリエルが飛びかかる。これでは初号機はライフルを手にすることすら叶わない。
さて、その頃。
マンションの一階にレイが立っていた。
何故か、NERV本部には向かおうとはせずに。
そして、ふぅ、と深呼吸をしてから、エレベーターのボタンをぽちっ
「本部のリフトが動き出しました!ぜ、零号機が動いていますっ!」
「レイが着いたのね?」
「いえ、本部からの連絡はまだ……」
地上に排出される零号機。
だが、それは奇妙な動作をする。いくらか歩いたかと思えば、右手を挙げてドアノブをひねるような……
「レイ!?」
558 :
35:2008/06/28(土) 20:44:35 ID:???
レイが葛城家の部屋に到着した。
一同は騒然とする。レイもまた、シンジ同様に遠隔操作を行っているのだ。
そして、レイは一言。
「青葉さん、その辺に立って。」
「え?こうかな……うわ、ちょっと!」
ばきっ……!
レイ、青葉にパンチラもまぶしい16文ドロップキック!
そして地上に出た零号機もまた、ガブリエルに見事な跳び蹴りを入れていた。
そして、シンジの側に寄りそうレイ。零号機もまた、初号機の側に。
「碇君、とどめを。」
と、日向から布団叩きを受け取り、シンジに構えさせる。
「……ありがとう、綾波。」
シンジとレイ、初号機と零号機。
その二組がまったく同じくライフルを構えるその姿。
嗚呼、美しい。美しいではないか、皆の衆。
思わずふるえるシンジの右手。しかし、それをレイがピタリと止める。
「碇君、チャンスは一度きり。」
「うん……いくよ、綾波!」
そして、立ち上がろうとする大天使ガブリエルにポジトロンライフルが放たれる!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁシンジ……この人ら、いつまでおんねん?」
559 :
35:2008/06/28(土) 20:46:34 ID:???
トランプ片手で愚痴るトウジは、シンジの持ち札に手を伸ばす。
「さあ?父さんが妙に気に入っちゃってさ。」
と、カードを並べ替えるシンジ同様、第三新東京市の町中で胡座をかいて座る初号機。
その側で足を崩して座る零号機もまた、初号機のためにカードを捧げ持つポーズを取っている。
きっと市民は指さして笑っているだろう。ああ、今はババ抜きの最中なんだな、と。
「その親父さんは?」
「僕の部屋。」
現在、シンジの部屋は暗幕が引かれ、臨時の総司令執務室と化していた。
「何のつもりだ。妙に態度がでかいぞ!碇ゲンドウ!」
「いやあ、なんでもありませんよ。さあ、審議の続きを。」
そこでは、小さなホログラフによる電子会議の真っ最中。
部屋が小さい故に、フィギアサイズで表示されるゼーレの面々。
どうやら、それらを見下して会議をすることに気に入った様子。困った父親である。
総司令が動かなければ、配下の面々も同様である。
あれ以来、テーブルに幾つものノートパソコンを並べてMAGIを操作する三人衆。
シンジ達とトランプに興じるケンスケは、その有様のためにゲームどころではないらしい。
「へええええええ、これがMAGIの画面なんですか!
ね、ね、青葉さん!エヴァの発進シーケンスとか録音して良いです?」
「ちょっと、ダメだよ!機密なんだから……こら、カメラを下ろして!」
なら、さっさと本部に帰れ。
「葛城さん、パターン青です!使徒襲来!」
「今度は何が来たの、日向君!ウリエル?ミカエル?」
「あれは大天使ラファエルです。見てください、ビルをキャンバスに見立てて絵を描いてます!」
「……それって、ラファエル違いじゃないの?ねえ、リツコ。殲滅……する?」
「そーねぇ……害は無いし。それにしても流石ねぇ。天使様の絵、実に見事だわ。」
「ホントですね、センパイ。21世紀にして新作が見られるなんてステキ。」
560 :
35:2008/06/28(土) 20:47:56 ID:???
「二人とも、なに呑気なこと言ってるのよ。ん、どうかしましたか?副司令。」
「政府からの連絡だ。ビルに芸術的価値が付くまでやらせておけ、だそうだ。」
「……背広組ってこれだから。とりあえず、発進準備だけしておいて。アスカ?」
「すでに発進してる二人にやらせておきなさいよッ!」
と、返事するアスカは不機嫌真っ盛り。
「なによ、まったく……この間だって、アタシ一人だけ浅間山にぶっ飛ばされてバカみたい……」
「アスカ、アスカ、機嫌なおしてさ。私も一緒に本部まで送るから行こうよ、ね……」
と、なだめるヒカリだが、自分だけ遠隔操作できないことが不満らしい。
アスカのしかめっ面はなかなか収まらないのも、まあ無理はないだろう。
さて、第三新東京市の郊外では、今日も畑の世話に勤しむ加持の姿があった。
ひときわ大きなスイカをポンポン叩いて選び出す。マンションに差し入れしようというのだろう。
そして立ち上がった彼と同様、見上げればようやく重い腰を起こす初号機と零号機の姿があった。
いよいよ、大天使ラファエルが絵を描き上げたらしい。
さあ、殲滅作戦が始まるぞ。
その光景に、加持は思わずつぶやいた。
「いやはや、なんといいますか。今日も第三新東京市は平和ですなぁ……」
(完)
今回のゲストは、ネルフ本部とエヴァ3体。
561 :
35:2008/06/28(土) 20:51:22 ID:???
以上っすー
お馬鹿な話でごめんなさーい
LASな人もアスカの扱いひどくてごめんなさーい
キックくらわされる青葉wwwww
乙を忘れてたw
564 :
6:2008/06/29(日) 01:58:52 ID:???
>>551 早合点して適当な事を…スマン。
昨日今日とちょっと頑張ってみたりして、アスカ来日編が大体完成。
ただ結構勢いで書いたので、途中冗長だったり、設定が適当だったり、
その他色々問題ありかも。でも直す気力がないのでこのまま投下する。
覚悟しろよ、長いぜ?
565 :
逆行59:2008/06/29(日) 01:59:26 ID:???
「…………」
一秒ごとに存在感を増す、目の前に伸ばされたアスカの腕。
それなのに、張本人のアスカからは何の説明もない。
困惑したシンジが、「何、これ?」という意味を込めて視線を送っても、
アスカは他所を向いて知らない振りを決め込んだ。
仕方なく、口を開く。
「これ、一体どういう…」
「さわって」
アスカはシンジを見ないまま、簡潔な言葉で、シンジの疑問を塗り替えた。
「え? さわ…、え?」
「だから、アタシの腕、触ってもいいわよ、って言ってるのよ!」
「……なんで?」
そこでようやくアスカはシンジを見た。
「アンタの誤解を解くために決まってるでしょ! ほら、早く!」
アスカの怒りに燃えた熱いまなざしに、ようやく事情を悟る。
触られるのが怖い、という弱みをウソにするために、
わざわざシンジに腕を触らせようと言うのだ。
(僕に弱みを見られたのが、そんなに悔しいのかなぁ…)
そう考えながら、シンジは途方に暮れていた。
(触れ、って言われても……)
ちら、と上目遣いにアスカの様子を確認する。
シンジには興味ありません、と言いたげに明後日の方向に目を向けているが、
意識しまいとしていることで逆に意識しているのがまる分かりだった。
だが、その頑なな態度を見る限りでも、シンジが説得したところで、
とても退くようには思えない。
それどころかさらに意固地になる可能性の方が高そうだった。
566 :
逆行60:2008/06/29(日) 01:59:56 ID:???
(こうなったら仕方ないや。適当にやって、すぐに終わらそう。
最初にアスカの腕を解いた時は大丈夫だったんだから、
同じように一瞬だけ触って離せば…)
シンジはそんな風に打算するが、
「……言っとくけど、一瞬だけ触って終わりとか、
服の上から触って終わり、なんて中途半端は許さないわよ」
その前にアスカに釘を刺された。
(わざわざ自分の首を締めるようなこと、言わなきゃいいのに)
シンジはそう思うのだが、それこそプライドの問題なのだろう。
(……やるしか、ないのかな)
日常の中で偶然、というのならともかく、一度意識してしまうと、
ただ腕に触れるだけの行為でもシンジはずいぶんと気後れしてしまう。
触れ合う、という意味ではレイの時と似ているように思えるが、
その実、その内容は天と地ほどの開きがある。
レイの時とは違い、シンジが一方的にアスカに触れなければならない。
これは気の弱いシンジにとってはかなりのプレッシャーになる。
また、状況の複雑さ。アスカが何を望んでいるのか分からないこと。
相手がシンジと複雑な縁のあるアスカだというのも大きい。
そして、シンジをためらわせるレイとの一番の違い。
(……なんだよ。無理、しちゃってさ)
本人が気づいているかどうか知らないが、
差し出された腕はわずかに震えているのだ。
「早くしなさいよ! こうやってるのも腕が疲れるんだからね!」
「…分かったよ」
アスカの手が震えているのは、ずっと伸ばしていて腕が疲れているから。
そういうことにして、シンジは覚悟を決めた。
567 :
逆行61:2008/06/29(日) 02:01:59 ID:???
そうっと、手をアスカの腕に近づける。
直前で、一度だけためらって、
「じゃあ、触るよ」
そう宣言してから、ちょん、と腕を指でつつく。
「……っ!」
一瞬だけの接触だったが、アスカの動揺はその刹那の表情から透けて見えた。
シンジはつい手を止めて、その顔を心配そうに眺めていると、
視線に気づいたアスカに思いっきりにらまれる。
「何やってんのよ! こんなの触った内に入らないって言ってるでしょ!」
「わ、分かってるよ」
まさにやむを得ず、シンジは再びその手をアスカに伸ばしていく。
確かめるように指先でトン、と白い腕に触れ、その面積を少しずつ増やしていく。
やがて、アスカの細い腕を包むように、シンジは手の平を完全に密着させた。
最初は冷たいだけに感じたアスカの腕から、じんわりと体温が伝わってくる。
アスカの表情を盗み見る。どこか顔色が悪く、青ざめている気がした。
その顔を見て、アスカには悪いとは思いつつも、
「こ、これでいいかな。確かにもう、触っても大丈夫みたいだし。
僕の勘違いだったよ、うん」
さすがに気が済んだだろう、と思い、シンジは手を放そうとするが、
「…ダ、メよ。全然平気だって言ってるでしょ。
ここでやめたんじゃ、まるでアタシが怖がってるみたいじゃない」
悲愴感すら漂う声に、続行を余儀なくされる。
(と、とにかく、アスカに負担をかけないように、出来るだけ、優しく…)
手の平を半ば浮かせて、触れるか触れないかくらいのタッチで、
シンジは手をすうっとすべらせる。途端、
「や、ちょっ…!」
アスカが慌てたような声を出し、
「な、何…?」
やはり慌ててシンジが手を止める。
568 :
逆行62:2008/06/29(日) 02:02:56 ID:???
アスカはハッとなってすぐに平静を取り繕って、
「な、何でもないわよ!」
「…??」
ごまかすように怒鳴ってくるが、
シンジにはアスカの態度がどうにも飲み込めない。
さっきより、顔には赤みが差してきたようには見えるのだが。
「つ、続けるよ?」
無言でうなずきを返すアスカの許可を取ってから、
もう一度、同じように手を動かす。
「――っ」
フルル、と今度はアスカの体が震えた気がした。
気にはなるがもう目を合わせるのは怖いので、
目線を下に落とし、シンジは無言で手の動きを続ける。
腕をなでる度、アスカの腕から微妙な振動が伝わって、
それがシンジをどこか落ち着かない気分にさせる。
(……あれ?)
違和感を覚えてアスカの足元を見ると、シンジの手が動くのに合わせ、
アスカの踵が浮いたり戻ったりを繰り返しているのが分かった。
(なんか、やっぱりマズイんじゃ……)
おそるおそる、シンジは顔を上げる。
――ギュッ、と唇を噛み締めたアスカが、涙目でシンジをにらんでいた。
(も、もしかして、潮時を読み間違えた…?)
そんな予感にシンジは、
「だ、大丈夫? もうこのくらいで…」
と、焦って中止を進言するが、
「だ、だからこんなの何でもないって言ってるでしょ!
いいから続けなさいよ!」
しかし、意固地になっているのか、アスカはまだ折れない。
「う、うん…」
シンジは完全に引き際を見失い、ただうなずくしかなかった。
569 :
逆行63:2008/06/29(日) 02:04:30 ID:???
シンジにとって、拷問のような時間が続く。
(――どうしよう。どうしたらいいんだ?)
目が合うとたぶん怒鳴られるので、こっそりと、アスカの表情を確かめる。
……アスカは見るからに限界だった。
血の気の失せていた顔は、今度は危ないくらいに赤みがかっている。
「ね、ねぇ。やっぱり…」
「な、なんにも感じてないわよ! だから、黙って、…んっ」
リクエストに応え、シンジが手を動かし始めると、
アスカは何かをこらえるようにきゅっと眉根を寄せた。
言いようのない危機感は募っていく。だが、
(こうなったらもう、アスカにとことん付き合うしかないか。
もしアスカが倒れたりしたら、誰か人を呼んでくればいいや)
もはやどうにもならない状況に後押しされて、
シンジはいささか後ろ向きな覚悟を決めた。
不思議な物で、開き直ったことでシンジもこの状況に慣れてきて、
少しだけ、アスカの吸いつくような肌の感触を楽しむ余裕が出来ていた。
「アスカって肌、綺麗だね」
なんて言葉が自然と口から漏れる。
「…ぇ?」
相当驚いたのか、無防備な声で息を飲むアスカの腕の内側を、
さっきよりもほんの少し大胆になぞった時、
「……ひぅ!」
はっきり分かるほど、アスカの腕がぴくっと跳ねて、
アスカは弾かれたように腕を引いた。
「アスカッ?」
そして、アスカの異変に、思わず声をかけたシンジの頭に、
ゴン!
鈍い音と一緒に、火花が散った。
570 :
逆行64:2008/06/29(日) 02:06:25 ID:???
「な、何すんだよ!」
殴られた頭を押さえながら、シンジが抗議するが、
顔を真っ赤にしたアスカの剣幕はそれ以上だった。
今日一番の大声で反駁してくる。
「さ、触り方がスケベなのよ! このエロシンジ!
それに、アタシの呼び方も直ってない!」
「え、えぇっ…?」
言われた通りにしただけなのに、殴られた上に怒鳴られて、
シンジはもはや怒るより先に驚いてアスカをマジマジと見つめた。
「……もしかして本当に、つらかった?
ご、ごめん。もしそうなんだったら、僕がもっと早くに…」
「ち、違うわよ! ……いや、あ、でも、シンジがいけないのよ!
手、変なとこにばっかり動かすし、肌がどうとか、
いきなりキモチワルイこと言ったりするから…」
何だか色々と言っているが、表情などを見る限り、
どうやら腕を触られる気恥ずかしさに耐え切れなくなっただけらしい。
ようやく合点したシンジは、安堵感から脱力すると共に、憤慨した。
「照れ隠しにいちいち暴力振るうのやめてよ!
ただでさえアス…惣流は馬鹿力なのに…!」
『アスカ』と口にしようとした途中でにらまれて、シンジは慌てて言い直す。
名前に『さん』をつけなかったのは、シンジのせめてもの抵抗だった。
「アンタの物覚えが悪いのがいけないんでしょ。アタシのせいじゃないわよ」
そう言って、アスカはツン、という擬音が聞こえてきそうな態度で横を向くが、
「な、なんだよ、人のせいにしてさ!
腕触られるのが恥ずかしくなって逃げたのは、そっちの方じゃないか!」
シンジの言葉に、すさまじい勢いで顔を戻す。
「恥ずかし…! は、恥ずかしい真似したのは、シンジでしょ!」
571 :
逆行65:2008/06/29(日) 02:10:21 ID:???
身に覚えのない弾劾に、シンジは当然反論した。
「惣流の言う通りにしただけだろ! どこが恥ずかしいって言うのさ!」
「どこって、そりゃ、アタシの腕を、いやらしく、その……」
めずらしくアスカは口ごもり、その言葉はゴニョゴニョと縮こまって、
だんだんに小さくなっていき、
「ど、どうでもいいでしょ、そんなこと!」
最後には大声を出すことでごまかした。
しかし、そんな言葉で今のシンジが納得するはずもない。
すぐに大声でアスカにつっかかっていく。
「ズルイよ! 人のことは責めるくせに、自分が都合悪くなると逃げるなんて!」
「そ、そんなことないわよ!」
シンジに合わせてアスカも怒鳴り返すのだが、
いつもと違いどうにも形勢不利は否めない。
「だったら、腕を触るのがどうして恥ずかしいのか、言ってみてよ!」
そう言われ、瞬間的にアスカの顔がきゅぅっと真っ赤に染まり、
「ば、バカ! そ、その話はもう蒸し返すなって言ってるの!
それくらい察しなさいよ! さっきちょっとだけ見直したのに、
やっぱりシンジって気が利かないのね!」
「そ…! そんなのはっきり言われないと、分かるワケないだろ!」
「日本人の身上は察しと思いやりなんでしょ! ……というか、
アンタは鈍感なのか気が利くのか、そのくらいはっきりしてよね!
優柔不断な性格だけじゃなくて、性格まで優柔不断だなんて、サイテー!!」
「せ、性格が優柔不断って、なんだよそれ!」
「どっちつかずなのかどうかもどっちつかずな性格ってことよ!」
もはや子供の口ゲンカと化した二人の言い争いは、だんだんと白熱していく。
それに従い、それまでは一応抑えていた声の音量も、際限なく大きくなって、
「バカシンジのくせに!!」「大体アスカはっ!!」
そのボルテージが最高潮に達した時、上からシンジの物でもアスカの物でも、
いや、既知の誰の物でもない怒鳴り声が聞こえ、
「「―――!!」」
シンジとアスカは同時に硬直した。
572 :
逆行66:2008/06/29(日) 02:14:28 ID:???
(この船の人? きっと僕らがあんまり騒ぎすぎたから怒ってるんだ…)
状況を理解したシンジが背筋を凍らせる。
(一応乗船許可はもらってるんだし、出て行って謝った方がいい?
でも、ここが通行の許可されてるブロックか分からないし、
下手なことをしたら…)
シンジの頭を色々な想像が巡って考えがまとまらない。一方で、
「マズッ! 逃げるわよ!」
さすが、と言うべきか、アスカの決断は早かった。
いまだ硬直しているシンジの手を取ると、すぐに小走りで通路を駆け出す。
「に、逃げるって、どこに…」
「どこだっていいわよ! とにかくココじゃない所!」
小声でそう叫び返しながら、既にアスカの目は忙しなく逃げ場を探っている。
途中、一度だけ横道に入り、後はずっと同じ方向へ。
ほとんど振り向きもせず、ひたすらに進む。
「いい? このまま反対側の通路まで行って階段を見つけたら、
アタシたちは何も悪いことしてません、って顔して上に戻るのよ」
「で、でも、あんなに騒いだのに……」
「顔まで見られたワケじゃないし、あそこにいた奴らはこっちまで来ないわよ。
もしそんなのがいたとしても、開き直って堂々としてればいいわ!
シラを切り通せばこっちの勝ちよ!」
「そんな、無茶な……」
「無理を通せば道理が引っ込むのよ。要は気合よ、気合。
とにかく、日本でのデビュー戦の前に国連軍につかまってお説教、
なんて、冗談じゃないわよ」
最後にちらりと顔をのぞかせた本音に、シンジがこっそりため息をつく。
それを聞き咎めたアスカが振り向いて、また険悪な雰囲気になりかけるが、
その前に、シンジが「ふふ」と吹き出した。
573 :
逆行67:2008/06/29(日) 02:23:52 ID:???
思わず気勢をそがれ、きょとんとするアスカに、シンジはまた笑った。
それを見て、アスカはむっと口をとがらせる。
「何で笑ってんのよ」
シンジは何とか込み上げる笑いを抑えて、告げた。
「何だか僕、誰かとこんなに素直に怒鳴り合ったの、
久し振りなような気がするんだ。……ちょっと、楽しかった」
意外なシンジの告白にアスカはしばらく目をぱちくりとさせていたが、
「ケンカすんのが楽しいなんて、アンタってほんとおかしなヤツね」
そう捨て台詞みたいなことを言って、すぐに目をそらしてしまった。
「なんだよ、それ」
(アスカだって、さっきは結構、楽しそうだったくせに)
そう思うが、シンジは口には出さない。
そんな態度も含めて、アスカを受け入れられるような気分に、
今はなっていたからだった。
いや、それどころか、今はどう抑えようとしても、
つい口から笑みがこぼれてしまう。
シンジが楽しいと感じているのは、誰かと怒鳴り合ったのが久し振り、
というだけではない。
アスカと他愛ない口ゲンカをしていると、
一番楽しかった時に戻ったような気分になってしまうからだった。
(あんな風に子供みたいに騒いだのも、こうやって逃げてるのも、
結果的にはよかったのかな。
……人に触られるのが怖いっていうのも、少しは治ったみたいだし)
そこまで考えて、でも気づいたらまた大騒ぎするんだろうなぁ、
とシンジは想像して含み笑いをする。
結局のところ、シンジの一番のご機嫌の元は、シンジの目線の先にある。
――その、視線の行方。
伸ばされたシンジの左手は、アスカの右手にしっかりと握られていた。
wktk
連投規制くらった?続きが読みたい…
576 :
逆行68:2008/06/29(日) 02:47:28 ID:???
「……ここまで来れば、大丈夫かしらね」
シンジとアスカは誰にも見咎められることなく、
口論をしていた場所から離れることが出来た。
今度こそ、予定通りに弐号機の元へ向かうことにする。
「アンタのせいで、余計な手間を取っちゃったじゃない」
というアスカの愚痴は聞き流し、シンジは歩きながら、
ずっと頭にひっかかっていたことを訊いた。
「あそこに行ったのは、僕に質問したかったからなんだよね?
結局、惣流は僕から何が聞きたかったの?」
「……エヴァパイロット周辺の状況よ。アタシも行くことになるんだから、
気になるのは当然でしょ」
「…そっか」
答えるまでの間の長さから、シンジはそれがウソだと分かったが、
それを指摘はしなかった。
アスカとしても、そのことにどこか罪悪感を持っているのか、
シンジが訊いてもいないのに、先を続ける。
「途中で色々あって、充分に話を聞けたとは言えないけどね。
でもまぁ、なんとなく分かったわよ、そっちの状況。
ネコも杓子もミサトミサト、ってね」
(そういうのとは、何か違うような…)
こっそりと、シンジはそんなことを思うが、
「……つまり異変の中心は、ミサトにあるってことか」
「え?」
小声でそう呟いたアスカの声が急に真面目になった気がして、
思わず声を漏らした。
577 :
逆行69:2008/06/29(日) 02:49:14 ID:???
しかし、アスカは気づかない。
めずらしく自分の思考に没頭したように、一人で言葉を続ける。
「でもおかしいわ。変化の起点がアタシだとしたら、
ドイツのアタシとミサトをつなぐ線が見えない。
それとも、波紋のように波及した変化がミサトにも届いただけ?」
それからも、アスカはシンジをまるでいないもののように、独り言を続ける。
「カオス的な変化の波に、人の意志がどれくらい…」などと言い始めたところで、
シンジはとうとう口を挟んだ。
「あの、アス…惣流?」
「なによ?」
不機嫌そうな声にシンジは少し鼻白みながら、言葉を選んで話を続けた。
「い、いや、何か悩んでるみたいだから。その、何を考えてるのかな、って」
アスカは一瞬、あからさまにめんどくさそうな顔をシンジに向けて、
「ドイツで蝶が羽ばたくと、日本のミサトの勘が鋭くなるか、って話よ」
おざなりなことを言うと、またブツブツと何かを呟き続けた。
「あるいは、そもそも不確定性原理の発見された現代において、
単純な因果関係だけで世界の変化を説明しようとすること自体、
既にナンセンスってこと?」
アスカの独り言を聞きながら、シンジはなんとなく、
(そういえば、アスカって大学出てるんだよな…)
と考える。
逆に言えば、それくらいしか思いつくことがなかった。
「確定された未来のサンプルがあったって、
それもせいぜいただのテストケース止まり。
ラプラスの魔物だってさじを投げるような世界を、
アタシ一人が少し考えたくらいで見通せるはずない、か」
独り言の内容は、既にシンジにはさっぱりだった。
ただ、分かるのは、
(考えごとするんだったら、自分一人の時にすればいいのに)
ということだけだ。
578 :
逆行70:2008/06/29(日) 02:50:25 ID:???
そんなシンジの考えを知って知らずか、
アスカはシンジのことを全く見もしないで、
そのくせギリギリ聞こえるくらいに小さく声に出して、
「あーぁ。確かに大学では『理論は実践してこそ価値がある』、
なんて言われてはいたけど。
まさかこんな理論を実地で検証することになるなんて…」
あいかわらずの意味不明な呟きを続ける。
ついに堪え切れずに、シンジは再びアスカに声をかけた。
「ねぇ! さっきから、惣流は何を言ってるんだよ。
自分一人で納得してないで、ちゃんと僕にも説明してよ!」
その言葉に、ようやくアスカはシンジの方を向く。そして、
「何だか知らない内に、世界がSFじみてきたわね、って言ってるのよ。
……エヴァとか使徒だけで、こっちは手一杯だってのに…」
てっきりまた無視されるかと思っていたシンジには意外ではあったが、
一応説明するつもりはあるようだった。
(そっか。僕に聞こえるところで話してたってことは、
僕に相談したいって気持ちがあるからなのかも。
……アスカ、素直じゃないからなぁ)
そう思い至ると、自然と口元も緩んでくる。
「何よ、その悟っちゃいました、みたいな目。感じ悪ぅ」
アスカはそんなシンジの様子を不気味そうに見ていたが、
不意にふっと表情を消すと、
「……ねぇシンジ。アンタはタイムマシンとか信じる?」
いきなり突拍子もない話を始めた。
ひゃっほー(^_^)b
580 :
逆行71:2008/06/29(日) 03:02:45 ID:???
「…え?」
まさか、自分のことに勘づいているはずなどないとシンジは思うのだが、
驚きにのどがひりついて、何かひっかかったような声しか出ない。
その態度を、どう受け止めたのか、
「タイムマシンよタイムマシン。不幸な結末を迎えた未来を変えるため、
未来の科学者が誰かを過去に送り込む。SFの定番でしょ」
その言葉に、今度こそ息が止まった。偶然なのか、それとも故意なのか。
アスカの言った状況は、今のシンジの状況とだいぶ似通っているように思った。
「な、何よ、その顔は! タイムマシンなんてバカらしいって思ってんの?
だったら口に出してはっきり言えばいいじゃない! それをそうやって……」
アスカにそんなことを言われ、シンジはようやく自分の不審な態度に気づいた。
慌てて弁解する。
「ち、違うんだ! なんていうか、その……。こっ、この前、
ちょうど綾波に同じようなことを訊いたばっかりだったから…」
声が裏返った上に、墓穴を掘った。
わざわざ時間移動に関心を持っていたことを自分から明かしてしまった。
『何でアンタ、そんなこと人に訊こうと思ったの?
まさか、アンタ本当に未来から……』
などという最悪の展開が、シンジの脳裏に浮かぶ。
しかし、
「ファーストに!? アンタ、何でそんな大事なこと早く言わないのよ!」
アスカの言葉は、全く予想外だった。
「だ、大事って、一体どうし…」
「それで!? ファーストは何て言ってたの?」
興奮した様子で、シンジの襟元をつかんで、ぐいぐいと揺する。
「わ、わわ、ちょっと…」
シンジは耐え切れず、アスカの手首をつかんで押し留めようとする。
その指がアスカの肌をするっとなでて、それから何とか手首をつかまえた。
「……ぁ」
あまり力を込めてもいないのに、それだけでアスカの動きが止まった。
581 :
逆行72:2008/06/29(日) 03:04:26 ID:???
アスカは口を驚きの形に開けたまま、硬直している。
「ご、ごめん…!」
シンジは慌てて手を放す。
またトラウマがよみがえったのかと、そう思ったのだが。
「そういうんじゃ、ないわよ…」
唇をとがらせ、あからさまに視線を逸らしながら、
アスカはまるでシンジの心を読んだかのように答える。
それを契機に、ちょうど以前腕に触れていた時に似た、
居心地の悪い空気がその場を急速に支配していく。
「そ、そういえば、綾波の話だったよね…っ!
あ、綾波っていうのは、零号機のパイロットの名前で…」
「知ってるわ。……綾波レイ。ファーストチルドレンね」
「そ、そういえば色々調べたって言ってたよね。
だったら、知ってても当然か。あはははは…はは…」
必死でつないだ言葉も上滑りして、シンジはあきらめて顔を伏せた。
だが、その状況を作ったのがアスカなら、
「アンタさ。ファーストとは…、零号機のパイロットとは、親しいの?」
助け舟を出したのもアスカだった。
いや、それが助け舟と言えるかどうか。
その言葉には、どこかふてくされたような、すねた響きがあった。
「あ、うん! 同じエヴァに乗る仲間だし、仲良くしたいと思ってるんだ」
だがシンジは食いついた。会話をつなごうと、いつもより早口で言葉を紡ぐ。
しかし、アスカはそんなことを訊いているんじゃない、とばかりに首を振って、
「アンタたちってさ。付き合ったりしてるワケ?」
「え、付き合っ……えぇっ!?」
大声を出すシンジを、アスカは冷たい目で見た。
「静かにしてよ。また逃げ出すなんて冗談じゃないわよ」
アスカは周りを見回しながら、冷淡な口調で注意をする。
「う、うん。ごめん…」
その静かな態度にかすかな違和感を覚えながら、シンジは素直に謝った。
582 :
逆行73:2008/06/29(日) 03:05:30 ID:???
「だけど、僕と綾波はそういう関係じゃないよ。
そもそも、どうしてそんなこと…」
シンジは当然の疑問をぶつけてくるが、
「別に。ただ、ファーストが自分から話をするのは司令とアンタだけだとか、
そういう感じの噂が色々入ってきてたから気になっただけ」
「そ、そうなんだ…」
その情報の出どころが気になるところだが、尋ねるのも怖いのでやめた。
その代わり、
「あ、あのさ。アスカは僕と綾波のことが気になってるんだよね。
それは、やっぱり僕らがパイロットだから? それとも…」
勇気を振り絞って、そう訊いてみたのだが、
「特に興味なんてないわ。言ったでしょ。そういう噂があったから、聞いてみただけ。
お互い優等生同士、せいぜい仲良くやったらいいんじゃない?」
あっさりとかわされる。
だが、シンジはその態度にやはり不自然な感じを覚えた。
つい『アスカ』と名前を呼んでしまったのに、気づいている様子もない。
よく見ると、表情豊かなはずのアスカの顔は、今は能面のように無表情。
おまけに少し顔を青ざめさせているようにも見えた。
「もしかして、まだ何か悩んでるの?」
シンジの問いかけに、アスカは数秒ほど、答えるのをためらい、
「悩み、ね。まぁ、そう言えなくもないわね」
結局そんな風に、意味深な言葉を返した。
「もし、僕で力になれることだったら…」
続く言葉に、アスカはまた少し考えて、うなずいた。
「分かったわ。本当はアタシだってこんなこと言いたかないんだけど、
隠してもいつかは分かることだもの。今、はっきりと伝えておく」
「…うん」
シンジはごくりとつばを飲み込んだ。
583 :
逆行74:2008/06/29(日) 03:06:25 ID:???
アスカはシンジの視線に耐えかねたように視線を逸らし、
そのまま居心地悪そうに、唇を動かす。
「…ったの」
しかし、その声はか細すぎてシンジの耳には届かなかった。
「な、何? 聞こえないよ?」
アスカはシンジをちらりと見て、
「だから、…ったのよ」
もう一度口にするのだが、やはり肝心なところが聞き取れない。
「ご、ごめん。もうちょっと大きな声で…」
シンジが言うと、アスカはとうとうしっかり顔を上げて、叫ぶ。
「だから、道に迷ったの!」
その言葉が、シンジの脳に染み渡るまで、一秒、二秒、三秒…
「ええええええぇえぇぇぇえ!」
空母の通路に、シンジの情けない絶叫が響き渡った。
584 :
逆行75:2008/06/29(日) 03:07:52 ID:???
「もう、完っ全に予定が狂っちゃったじゃない! こんなことなら、
加持さんたちとゆっくりお茶してた方がずっと有意義だったわよ!」
「それは、自業自得だと思うけど…」
憤懣やる方ない、といった様子のアスカの後ろで、シンジがぼそっと呟くと、
「今何か言った? シンジ?!」
アスカが耳ざとく振り向いた。
「な、何でもないよ。それより、もう少しなんだから、急ごうよ」
シンジの言葉に渋々アスカは前に向き直り、心なしか走りの速度を上げる。
シンジも置いていかれないように足に力を込め、顔を見なくても分かる、
アスカの不満そうな赤い背中を追いかけた。
――あれから。
道に迷ったと言っても、ここは人跡未踏の秘境でも迷いの森でも何でもない。
そして、アスカは歳の割に話術が巧みで語学に堪能で、おまけに美少女だ。
道を聞けば大体の人が快く教えてくれたし、
実際にそれで弐号機のある船まではすぐに辿り着けた。
なのに船に着いた途端、アスカは弐号機の所へまっすぐは向かわず、
どこからか小さな荷物を持ってきて、
「シンジ! アタシちょっと着替えるから、そこで見張っといて!」
一方的に言い捨てると、階段の陰でごそごそとやり始め、
次に姿を現わした時にはなぜかプラグスーツを着込んでいた。
「アンタも! ほら、早く着替えなさいよ! 置いてくわよ!」
そう言って、シンジもムリヤリにプラグスーツに着替えさせ、
「な、何でプラグスーツなんか…」
着替えたシンジがようやく息をついて質問をすると、
「この服を着てれば、誰だってアタシたちが特別な人間だって分かるでしょ!」
と、なにやら頭に血が昇った様子で答えてくれた。
どうやら二人目に道を尋ねた男に、
『お前達は誰だ。どうして子供がこの船に乗っているんだ』
などとしつこく訊かれたことが、相当頭に来ているようだった。
585 :
逆行76:2008/06/29(日) 03:09:12 ID:???
シンジの着替えが終わると、
アスカは今までの遅れを取り戻そうとするかのように、
弐号機の元へと急いだ。
それは時間を無駄にしたことに苛立っているせいなのか、
それとも考えごとをしていたからとはいえ、
自分が道に迷ったのが許せないからなのか。
どちらにせよ、シンジは何も言わずにアスカに従った。
それはアスカの強引さに負けただけではなく、
(使徒が来る前に、弐号機のところに辿り着いておかなくちゃ…)
という思いからだ。シンジの体感でも、
以前より弐号機のところに着くのが遅れているのを感じていた。
――だが、プラスの材料もある。
(プラグスーツを着ているから、すぐにエヴァに乗れる)
使徒を発見してからプラグスーツに着替え、それから出撃では、
どうしても時間をロスしてしまう。
そういう意味ではアスカのワガママも、
結果的には使徒殲滅を有利にしてくれたと言える。
(僕もアスカも、前よりシンクロ率は高い。
今度の使徒のコアがどこにあるかも知ってる。
負ける要素はない。……ない、はずだ。
だから少しでも早くエヴァに乗って、
使徒が攻撃を本格化させる前に、叩く!)
今まで過去を変えたいなんて思ったことはなかった。しかし、
(被害が少なくなるんなら、その方がいいに決まってるよ)
そんな単純な真理が、シンジの足に力を与えてくれていた。
そして、
「着いたわ、ここよ!」
アスカの言葉に、シンジは足を止めた。
586 :
逆行77:2008/06/29(日) 03:10:22 ID:???
弐号機のところにやってきてからは、
シンジにとってなじみのある展開と光景が広がる。
弐号機の頭部に仁王立ちしたアスカが、
シンジに弐号機がいかに優れているか、その説明をしていた。
当然それは二度目なので、適当に聞き流す。
(アスカってほんとこういうの好きだよな。
そんなとこに立ったらパンツ見えるんじゃないかとか、
そういうことは気にしないのかなぁ…)
ぼんやりと考えるのは、その程度のことだ。
――だがそれも、シンジたちを襲った激しい揺れで終わりを迎える。
「……水中衝撃波! 爆発が近いわ!」
待ち構えていたように、アスカが叫んだ。
揺れが収まるとすぐ、二人同時に弾かれたように外に向かう。
「なんなのよもう! まだ、全然説明してないのにぃ…!」
「アスカのは、説明っていうより自慢じゃないかな…?」
「何か言った?!」
「何でもないよ!!」
叫び、叫び返しながらも、シンジたちは外に出る。
そこには、攻撃を受け、沈んでいく船が見えた。
「やっぱり……使徒の攻撃?」
シンジの呟きに、アスカが答える。
「へぇ。弐号機での実戦のチャンス、ってワケね」
シンジは驚いた振りをして、
「そんなぁ! ミサトさんの許可もないのに…?」
「そんな物、勝った後にもらえばいいのよ!」
まるで与えられた役をこなすように、遅延なく二人の会話が続く。
そして、
「さあ、行くわよ」
「へ?」
「アンタも、来るのよ!」
という運びに相成ったのだった。
587 :
逆行78:2008/06/29(日) 03:13:02 ID:???
(……エヴァンゲリオン弐号機。
そういえば前の世界でも、この時くらいしか入ったことなかったっけ)
そんなことを考えながら、前回と同じように、
シンジも弐号機に乗り込んだ。
そうして、シンジがアスカの後ろに陣取ったのを確認すると、
「アンタはなんっにもしなくていいわ。
ジャマはもちろん、余計な手出しも無用だから」
アスカがそう釘を刺してくる。
それも、概ね前回と同じだ。
しかし、今のシンジはやってくる使徒の手ごわさを知っている。
今の弐号機に、水中戦が不可能なことも。
「で、でも、あんな使徒を一人で倒すなんて」
それは、シンジの経験に基づく言葉だったが、
「一人じゃ、ないわよ…」
答えるのは、小さな呟き。
そしてシンジに、疑問を抱かせるヒマさえ与えずに、
「思考言語、日本語をベーシックに。
それじゃ、行くわよ!」
剣呑な輝きを、その目に宿して、
「エヴァ弐号機、起動!!」
アスカは迷いない声でそう叫ぶ。
赤い巨人の目に、光が灯った。
今回はプラグスーツだからパンチラはないね(笑)
そのくらいはいつの間にかエントリープラグ内にプラグスーツが漂ってたのに比べればどってことない
589 :
逆行79:2008/06/29(日) 03:16:08 ID:???
起動した弐号機は戦艦を踏み台に跳躍し、オーバー・ザ・レインボウへと移動。
同艦甲板上にて使徒を迎撃、目標に対しプログナイフで応戦し、コアを露出させることに成功。
その後、生き残った戦艦二隻による零距離射撃にてこれを殲滅。
――太平洋艦隊の力を借りたとはいえ、内部電源が切れるまでの三十六秒で片をつけた。
「す、すごい…」
出撃を終え、静止した弐号機のエントリープラグの中。
一番の特等席で弐号機の機動を見たシンジはそう呟くしかなかった。
以前の世界でたくさんの戦闘を経験したシンジから見ても、
今回の弐号機の動きは神がかっていた。
昔の絶好調だった時のシンジでも、これほどうまくエヴァを乗りこなし、
これほど的確に使徒を倒すことは不可能だっただろう。
「すごいよアス…惣流! 惣流がエヴァの操縦がうまいって聞いてたけど、
これほどだとは思わなかったよ! ねえ惣流! どうやったらこんな風に…」
シンジの大声に、操縦席のアスカが不敵な笑みで振り向く。
「うっさいわねぇ。これくらい当然でしょ、当然。
この程度で騒がれたらこれから先、アタシの鼓膜が持たないわよ」
「う、うん、ごめん。でも、ほんとにすごいよ、惣流」
一応謝ったが、シンジに見せたアスカの顔は、見るからに誇らしそうだった。
それを見て、自然とシンジの顔もほころぶ。
――しかし、顔を前に戻し、シンジから表情を隠した途端、
アスカの笑顔は萎れ、険しい顔つきに取って代わった。
「アタシは、こんなことを望んでたワケじゃ……」
シンジにも聞こえない声で、アスカは呟く。
それから弐号機の外に出るまで、アスカは操縦席に座ったまま、
何かにじっと耐えるように顔をうつむかせていた。
590 :
6:2008/06/29(日) 03:19:29 ID:???
>>588 うっかりしてた。書いた後で設定変えたせいだな。広い心で見逃してくれ。
続きはまだあるんだが、次投下するにはたぶん四時まで待たなきゃならんから、ここまでで。
おやすみなさい。
まったく気にならないから平気
それにしてもGJ!乙!
続きを楽しみにしとくよ
乙!
規制でもくらって投下出来ないのかな?
594 :
学園:2008/07/04(金) 20:05:48 ID:???
朝…
少年は目覚ましの音と共に、目を覚ました
かつて少年を起こしてくれた少女は居ない
あれから半年が過ぎようとしていた
少年『碇シンジ』は顔を洗い、軽く朝食を済ませて学校に向かうのだった
595 :
学園:2008/07/04(金) 20:14:22 ID:???
シンジの通う学校は『第三新東京市』の外れにあり閑静な山間にあった
名前は『第一高等学校』と言った
シンジは学校に着くと、あれから変わる事の無い日常を過ごす事にした
変わった事は、幼なじみの少女と一緒に登校しなくなり、会話さえもしなくなったくらいだった
発端は半年前までに遡る事になる…
少年は自分の席に着き、あの日の事を思い出していた
596 :
学園:2008/07/04(金) 20:34:46 ID:???
半年前のあの日
いつも、互いの両親が仕事の都合で遅いので夕食はシンジ一人で作り、幼なじみと共に食べていた
変わる事が無いと思ってた
いつも続く風景だと思っていたのに…
変化は突然にやって来た
少女の一言によって…
『ねぇ〜…シンジ…』
抑揚の無い声で話し掛ける少女
『どうしたの?』
とりあえず聞き返すシンジ
『私ね…憧れてた先輩に告白されたの…』
戸惑い気味に喋る少女
シンジは知っていた。
幼なじみの少女が異性からモテている事を…
でも、シンジは知らなかった…
少女がシンジに対する想い
と
シンジが少女に対する気持ちに…
597 :
学園:2008/07/04(金) 20:35:37 ID:???
気が付けば、一人にならなかったかも知れないのに…
シンジは気付かないから余計な事を言ってしまった
『良かったじゃないか!!アスカの思いが通じたんじゃないか』
不意に心の何処かが(チクリ)と痛んだ…
シンジの余計な一言はアスカを不機嫌にさせた…
それまで、普通の夕食だったのだが…
アスカは手を止めて、箸を乱雑にテーブルにたたき付けて帰っていった
『……バカ…』
聞き取れないくらいの小さな呟きと共に…
シンジは、その日を境に一人になった…
598 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/05(土) 16:30:05 ID:TbnJHpIE
句点が無いのは演出かな?
乙。
続きよ、来たれ
600 :
学園:2008/07/05(土) 20:52:16 ID:???
それから数日が経ち、アスカと先輩が付き合う事になった…
シンジの胸が、また(チクリ)と痛んだのだが、その痛みの理由はわからなかった…
そして、現在に至るのだった
周りも最初の内はアスカの彼氏がシンジじゃないのに驚いたが、時間が過ぎる間に、何時もと変わらなくなっていった
601 :
学園:2008/07/05(土) 21:06:36 ID:???
シンジがフリー(本人達にとっては『幼なじみだから』最初から否定していた)だと知るや否や
何人かの女子がシンジに告白したりラブレターを貰ったりしていたのだが
シンジは律義に全て『柔らかく拒否』していた
(ちなみに、シンジ自信も何故、拒否したかは判っていない)
それも手伝ってか、シンジの周りには誰も居ないのだった
しかも、シンジの友人のケンスケやトウジは別の学校へ(自分達が、シンジの学力にあった学校は無理だった為)進学したから、現在はアスカ以外の知り合いは皆無だった
リアルタイムで書いてるのか?
603 :
学園:2008/07/05(土) 21:15:53 ID:???
>>601 ラブレターを貰ったりしていた…×
ラブレターを渡ししたりしていた…○
間違えた…
Σ( ̄□ ̄;)
そして、才能のNASAに泣ける…OrZ
ヘボでは有りますけど温かく見守って下さいm(_ _)m
604 :
6:2008/07/06(日) 00:53:10 ID:???
今、大丈夫だよな。
ちょっと時間がないのだが、とりあえず来日編の残りを投下させてもらう。
605 :
逆行80:2008/07/06(日) 00:54:04 ID:???
船から伸びたタラップを降りてすぐ、シンジは辺りを見回した。
「アスカ、どこ行ったんだろ」
鮮やかな手並みで使徒を撃破してから、弐号機の再収容作業やミサトへの報告、
着替えなどを済ませた後、アスカは「絶対ついてこないでよ!」、
と言い残して一人で甲板に出て行ってしまった。
そのせいで、シンジは弐号機を降りてからまだ一度もアスカと話をしていない。
新横須賀港に着いた今がアスカと話すチャンスだと思ったのだが……。
「アスカだって行く当てがあるはずないし、ここに知り合いもいないと思うんだけど」
それでもなかなか見つからない。
色々な場所を見て回って、視線をもう一度ミサトたちの方に戻した時、
(あ、あれは、もしかして…)
何のことはない。アスカはミサトの近くに戻ってきていた。
二人を、というかアスカを警戒して遠巻きに見守るトウジとケンスケを一顧だにせず、
あくまでマイペースにミサトと話をしているようだ。
「そういえばミサト。加持さんは?」
「加持? あいつはどっか行っちゃったわよ。さっきの戦闘のどさくさでね。
大方逃げる算段でもしてたんでしょうけど……。全く、あれから顔も出しゃしないわ」
「やだ、それって大丈夫なの? もしかして戦闘に巻き込まれてたり……」
しかし、アスカの心配をミサトは鼻で笑い、
「残念だけど、あのバカはこの程度でくたばるようなタマじゃないわよ。
今ごろ一人だけ別ルートで本部にでも行ってんじゃないの?」
「そう? ならいいけど……」
あいかわらず、アスカも加持さんのこととなると普通の女の子みたいになるんだな、と、
シンジは失礼なことを考えながら、話が一段落したのを見計らって近づいていく。
先にシンジに気づいたのはミサトだった。
シンジの雰囲気から何かを感じたのか、あるいはただのお節介か、
「二人ともー! クルージングデートは楽しかったー?」
能天気な声をあげて、トウジとケンスケの方へ寄っていく。
「最っっっ高です!」「わ、ワイも、ミサトさんといっしょならどこでも…」
こちらも能天気な二人の声を背に、シンジはミサトと入れ替わるようにアスカの前に立った。
606 :
逆行81:2008/07/06(日) 00:54:31 ID:???
アスカはシンジと目が合うと、さりげなく、でも確実に目を逸らした。
それを悲しく思いながら、シンジは努めて明るい声でアスカに声をかける。
「そ、惣流…」
だが、呼びかける声はどうしようもなくぎこちない。
まだアスカのことを『惣流』と呼ぶのに慣れていないからだ。
(でも、これから少しずつ、慣れていかなきゃ…)
それこそが、『この』アスカの存在をシンジが認め、
『あの』アスカとは違う、新しい関係を築き上げるのに必要なことだと、
シンジは直感的に考えていた。
だから、そんな思いを込めて、
「あの、惣流」
もう一度、そうアスカに呼びかける。
それでも、アスカは無言のまま。
「あれから、すぐにいなくなっちゃうから、惣流のこと、結構探したんだ」
やはりアスカは何も言わない。
「だから、その、惣流……」
言葉が途切れた。
本当に、アスカの不機嫌の理由がシンジには見当もつかない。
エヴァに乗っていた時は使徒を見事に倒してみせて、
その時はむしろ機嫌がよさそうだった。
その後、一人で甲板に出たのは、何か嫌なことがあったからかもしれないが、
さっきミサトと話をしていた時は、少なくとも普通に見えた。
(……僕のせい、なのかもしれない)
それ以外に、思い当たることが何もなかった。
そんな思いがシンジの言葉をすくませ、唇を縫い止める。
絶対にシンジと目を合わせようとしない、アスカを見ているのがつらい。
どうしても口を開こうとしない、アスカの前に立っているのがつらい。
なのに、シンジの足はなぜか動かず、唇はまだ、未練がましく言葉を紡ぐ。
「黙ってたら、何も分からないよ。頼むから、何か答えてよ、惣流……」
607 :
逆行82:2008/07/06(日) 00:55:04 ID:???
その訴えるようなシンジの言葉に、アスカの肩がぴくりと動く。
そして、
「…もう、やめて」
シンジと向き合って、初めて口を開いたアスカの言葉は、それだった。
まるで、傷つけられているのは自分だというように、痛みを湛えた眼差しで、
「アンタが、何も悪くないのは分かってる。
何も知らないシンジには、何の罪もない。
悪いのは、全部アタシだわ。それは分かってるの」
放たれるのは、むしろ沈鬱と言えるような言葉。
だがその陰に、あふれ出しそうな激情を押し込めているのは、
シンジにもはっきりと分かった。
「そ、惣流…?」
そのシンジの言葉は、アスカへの気遣いから出た物だ。
「――っ!!」
しかしアスカは、まるで手酷い罵倒の言葉を投げかけられたように、
体をすくませ、胸の前に置いた拳を握り締め、
渦巻く万感の想いを込めるように、悲痛な叫びを放つ。
「だけど、ダメなのよ! 耐えられないの! どうしても、無理なの!
――だから、お願い。
その声で、その顔で、アタシのこと、そんな風に呼ばないで…!」
そこまで言い切った後、アスカはもう一秒たりともここにいたくはない、
というほど勢いで、シンジの前から走り去る。
「あ、アスカッ? ちょっと、どこ行くのよ!?」
というミサトの動揺した声を聞きながら、シンジは一歩も動けない。
名前を呼ぶことも、手を差し伸べることも、出来なかった。
608 :
逆行83:2008/07/06(日) 00:55:31 ID:???
(……なんで)
何でいつも、うまくいかないんだろう、とシンジは思う。
アスカとだって、普通に付き合っていければ、
それで満足だったのに。
今も、昔も、ワケの分からないすれ違いばかりで……。
(アスカ、泣いてたな…)
あのアスカが人前で涙を見せるのだから、
きっと相当なことがあったんだろう。
事情は全く分からない。
けれど、その原因が、シンジにあるというのなら、
(僕はもう、アスカに会わない方がいい…?)
自分で出した結論に、思わず膝から崩れそうになる。
込み上げる何かに、シンジが潰れそうになった時、
「……?」
背後に、人の気配。
そして、聞き覚えのある声が、
「女の子を泣かしたまま、というのは感心しないな、碇シンジ君」
シンジをまるで弾かれたように振り向かせる。
そこには、当然、
「加持さん!」
かつて、ずいぶん昔に死に別れたはずの男が、
おどけた仕種で立っていた。
609 :
逆行84:2008/07/06(日) 00:56:05 ID:???
我に返り、シンジは自分がいきなり大声をあげたことを恥じ入って、
声のトーンを戻して尋ねる。
「あの、でも、どうしてここに?
先にNERVに、父さんのところに行ったんだとばかり…」
「いや、ほんの気まぐれでね。強いて理由をあげるなら、
噂のサードチルドレンに軽く挨拶でも、と思ったのさ」
「僕に…?」
目を丸くするシンジ。
「しかし驚いたな。俺の名前もいつの間にか有名になったもんだ。
……俺の事は、葛城から?」
「あ、いえ、その、……アスカから、聞きました」
内心しまったと思いながら、シンジは何とかごまかした。
他に気を取られていた時にいきなり声をかけられたため、
シンジは加持と初対面だということをすっかり忘れ、
つい加持の名前を呼んでしまったのだ。
しかし、その弁解の言葉も新しい波紋を生み出した。
「なるほど、アスカ、ね。会って半日も経たない内に、
彼女をもう名前で呼ぶなんて、君もなかなか隅に置けないな」
「そ、それは……。本当は、惣流って呼ぶように言われてるんですけど」
シンジの困った顔を見て、加持は破顔した。
「いや、すまない。困らせてしまったかい? ただの冗談さ。
アスカも、ドイツにいた頃から君の事をとても気にかけていたようだからね。
そういう事になっていても意外でも何でもない」
そういうことというのが何なのか、シンジには多少ひっかかる物があったが、
それ以上にその前の一言が気にかかった。
「アスカ…、惣流が、僕のこと、気にしていたんですか?」
610 :
逆行85:2008/07/06(日) 00:56:31 ID:???
「何だ。アスカからは何も聞いてないのか?」
加持はそう前置きした後、
「結構最近になってからだったな。
アスカがしきりに日本の情報を欲しがるようになったんだよ。
中でもどうやら一番気になっているのが、
君と、ファーストチルドレン、綾波レイの事でね」
「綾波の…?」
そういえば、とシンジは、以前に綾波の話をした時、
アスカが異様な食いつきを見せていたのを思い出す。
「気になるのは同じエヴァのパイロットだからかとも思ったんだが、
どうもそうとも言い切れないようだったよ」
「どういうことですか?」
加持は大げさな仕種で両手を広げて見せた。
「情報の範囲が広かったからさ。つまりはエヴァや使徒との戦いの事だけじゃなく、
過去の生活環境や、私生活についても何でも知りたがった。
いつ君の隠し撮り写真を要求されるか、俺は気が気じゃなかったくらいさ」
「そんなの…」
シンジは混乱する。
一体何がアスカにそうさせたのか、シンジには分からない。
「何で、何でアスカは、そんなこと…」
「そこまでは知らないな。俺は訊かなかった。
それ以上は、興味本位で踏み込んでいい領域だとは思わなかったからね。
気になるのなら、それは君が直接尋ねるべきだ」
肝心なところで突き放され、呆然とするシンジに、
「……悪いが、質問はここまでにしよう。
それより、君には他にやるべき事があるんじゃないか?」
加持は大げさな身振りの陰に、鋭い光を隠して、言った。
611 :
逆行86:2008/07/06(日) 00:57:46 ID:???
「それは、僕にアスカをなぐさめてこいって、そういうことですか…?」
「………」
無言の肯定。
確かに、シンジだって出来るならそうしたいとは思う。だが、
「む、無理ですよ、僕じゃ。
大体、アスカがああなったのだって、僕が原因かもしれないのに……。
…そうだ、加持さん! 加持さんが行ってきてください。
加持さんだったら、アスカだって…!」
そう、シンジは言うのだが、
「俺は行かない。行く理由がないからな」
加持は躊躇なく拒否した。
「そんな……」
立ち尽くすシンジの前で、加持はシンジが焦れるほどゆっくりとタバコに火をつけて、
「ただ泣かせた事に罪悪感を感じているだけなら、放っておけばいい。
一時間もすれば、内面はともかく、上辺はつくろって現われるさ。
それで、とりあえずは元通りだ」
「だけど、そんなの…」
「慰める事は、誰にでも出来る」
加持は、シンジの言葉をさえぎって、
「だが、もし仮に、原因が君にあるのなら……。
慰める事は誰にでも出来ても、解決する事が出来るのは君だけだ。
……俺の言っている事は、間違っているかい?」
火のついたタバコを一度も口に運ばないまま、真摯な瞳をシンジに向けた。
そこから逃げるようにうつむいてみても、その目と言葉から、
シンジは逃れられなかった。
気を収めるように、深呼吸。
それから顔をあげて、告げる。
「…いえ。行ってきます」
そのまま、シンジは加持の脇を通り抜けた。
「あぁ、頑張ってこい」
加持は片手をあげ、今度こそタバコを口に運んだ。
612 :
逆行87:2008/07/06(日) 00:59:37 ID:???
加持の見守る中、シンジはアスカの走り去った方に走って消えていく。
「……しっかりな、シンジ君」
そう加持が呟いた時、背後から誰かが近づいてくる気配に、
加持は振り返らずに声をかけた。
「あれが碇シンジ君か。素直そうな、いい子じゃないか」
その言葉に、加持の後ろまでやってきていたミサトの仏頂面が、
さらに不機嫌に歪む。
「そう? あー見えて結構屈折してるとこもあんのよ。
ま、昨日今日会ったばっかのあんたには分かんないでしょーけどね」
「いや、それこそが素直さの証だよ。自分の弱さを人にさらけ出せるなんてね。
……羨ましい生き方ではあるが、腹芸は出来ないタイプだろうな」
そこで、タバコを口に運ぶと同時に、
「だからこそ、最初のあの態度は気になるが……、さて」
小声でそうひとりごちる。
だがそれを聞きつけたのか、
「何が気になるってぇ? あんた、シンちゃんに下手に手ぇ出したらどうなるか…」
とおどろおどろしく迫るミサトに、
「おいおい、地獄耳だなぁ」
ぽろり、とつい本音が漏れた。
もちろんそれは加持らしくない失言で、
「地獄耳で悪かったわねぇ! 大体あんたは昔からそうやって人のことひっかき回して…」
加持の耳元でエキサイトしたミサトがわめくが、加持は途中から聞いていなかった。
どこまでもケンカ腰のミサトに、まともに相手をするのは難しいと既にあきらめて、
「やれやれ。……とにかく俺は、彼の健闘を祈るよ」
くれぐれも君はこうならないようにな、と思いを込めたのかどうなのか、
加持は怒れるミサトから巧妙に視線を逸らし、
シンジが走り去った方をまぶしそうに見つめるのだった。
613 :
逆行88:2008/07/06(日) 01:00:05 ID:???
「待てよ、碇!」
後ろから呼び止める声に、シンジは振り向く。
そこに息を切らせて立っていたのは、ケンスケだった。
「なぁ、碇。あいつを、あの惣流とかいう女を追いかけていくつもりなのか?」
息を切らせながら、シンジに追いついたケンスケが最初にした口にした言葉はそれだった。
「……そう、だけど?」
予想もしないケンスケの行動に、シンジは戸惑いを隠せない。
大好きなはずの戦艦や、ミサトの傍を離れてまで、シンジを追いかけてきたのだ。
けれど、ケンスケがそれだけのことをする理由がシンジには思いつかない。
「なぁ、何でお前が行かなくちゃいけないんだ?」
次の言葉を聞いても、それは同じだった。
むしろ、その気持ちは大きくなるばかりだ。
だが、ケンスケの表情は真剣かつ険しく、
ミサトたちと話していたさっきまでの能天気なはしゃぎっぷりは、
半分くらい演技だったのではないかと思わせるほどだった。
戸惑うシンジの態度を煮え切らなく感じたのだろう、ケンスケが声を荒げる。
「惣流なんて、今日会ったばかりの人間じゃないか!
それなのに、碇が必死になって探すほどの価値があるのかよ!」
「それは……」
そうではない。彼女と会ったのは、初めてであっても、初めてではない。
だが、シンジはそれを説明する言葉を持たなかった。
「……ごめん。でも、やっぱり僕が行かなくちゃいけないんだ」
結局、それだけを言うに留める。
そして、相手に言葉を継ぐ時間を与えないため、
「それよりも、ケンスケこそどうしたんだよ? いきなりこんなことを言い出して…」
そう反問した。
狙い通り、と言えるのか。ケンスケは黙り込む。
だがそれはシンジにとって居心地の悪い沈黙で、やがてケンスケが決然とシンジを見た時、
なぜかシンジはその問いを投げかけたことを後悔した。
614 :
逆行89:2008/07/06(日) 01:06:20 ID:???
「なぁ、碇。エヴァのパイロットって、やっぱりオレたちとはちがうのか?」
沈黙をはさんでケンスケが放った言葉は、そんな物だった。
「…え?」
意味の取れない質問に、シンジは身構えていたのに間抜けな声をあげてしまった。
さすがに説明不足を感じたのか、ケンスケは言葉を足す。
「だから、エヴァのパイロットはNERVの研究所で改造手術を受けてるとか、
何も持ってないように見えて、実は極秘で開発された軍の秘密兵器を持ってるとか…」
「…へ?」
シンジの口から、さっき以上に間の抜けた声が出た。
今度こそ、掛け値なしに意味が分からなかった。
ただ、ケンスケが苛立った表情をしてるのを見て、ようやく気を取り直して答える。
「何を言ってるのかよく分からないけど、僕らはエヴァに乗っていない時はただの民間人と同じだよ」
実際、ケンスケだってエヴァのパイロット候補だと、あの『海』からの知識で知っている。
「僕がトウジに殴られたの、見てたろ。拳銃とかだって持たされてないし、
生身のままだったら、高校生にだって勝てないよ。
……まあ、アスカなら何とかなるかもしれないけど」
そんな当然のことを、告げた。
しかし、ケンスケはその言葉に表情を緩めるでもなく、
「それ、信じていいんだよな?
機密だから、ウソついてるわけじゃないよな?」
不可解な言動を続ける。その態度に、シンジも少し焦れてきた。
「当たり前だろ。ケンスケは一体何を疑ってるんだよ」
少し声を荒げてしまうが、そんなシンジの様子に、
ケンスケもようやく納得したらしい。
緊張を緩めて、照れ隠しみたいな笑顔を見せながら、
「いや、悪かったよ碇。お前を疑ってるわけじゃないんだ。
……だけど、気をつけた方がいいぜ」
心持ちうつむかせた顔に、鈍く光を跳ね返すメガネを神経質に持ち上げて、
「あの惣流って女、たぶん普通の人間じゃない」
シンジの背中をざらつかせるようなことを、はっきりと告げた。
615 :
逆行90:2008/07/06(日) 01:12:13 ID:???
(ケンスケは、何であんなことを言ったんだろう…)
シンジはアスカを求めて港をさまよいながら、ケンスケの言葉を思い出す。
結局ケンスケはあれ以上詳しいことは話してはくれなかったし、
シンジも訊かなかった。
というより、訊いてもたぶん教えてはくれなかっただろう。
そういう雰囲気だった。
(でもやっぱり、気にならないって言ったら嘘になる。あの情報の出どころはどこだろう。
まず考えられる理由は、ミサトさんか加持さん辺りから話を聞いたってことだけど)
ありそうにない話ではあるが、ない、とは言い切れない。
二人とも仕事には真面目だとシンジは思っているが、
ミサトにはあれで迂闊なところはあるし、考えたくはないが、
加持が何かの意図を持って情報をリークした可能性だってある。
(だけど、何かしっくりこない。それに、それが正しかったとして、
そもそも、ケンスケが疑ってることって何?
――アスカには、一体どんな秘密があるんだろう?)
その疑問に行き着く。
……そうなると、シンジは考えずにはいられないのだ。
初陣のはずのアスカが見せた、前の世界でのシンジやアスカ以上の鮮やかな操縦技術。
そして、アスカはシンジのシンクロ率の上昇を知って、
ミサトがシンジに何か特別なことをしたのではないかと疑っていた。
(それは、もしかするとアスカが同じようなことをされたから、っていうのは考えすぎかな?
エヴァの適性を上げるために、人体改造だとか、特別な催眠処理だとかを受けた、なんて)
しかし、シンジはそこで考えるのをやめた。
答えの出ないことを考える無益さを知ったワケではなく、
それ以上考えるのが、怖くなったのだ。
(今のアスカは、僕の知っているアスカとは、違うのかもしれない)
そんな考えが、頭をよぎる。しかし、
(だから、なんだっていうんだ。僕は、アスカから逃げないって決めたんだ。
アスカがどんな人間であろうと、僕はアスカを探す)
そう決めて、また走り出す。
616 :
逆行91:2008/07/06(日) 01:13:51 ID:???
だが、シンジは心の底では気づいていた。
(いつのまにか、僕は自分の誓いを盾にしてる。
そうやって、アスカに向き合うことに理由を作ろうとしているんだ)
昔、アスカを消してしまったという罪、そしてそれを償うという罰は、
シンジにとって、アスカと向き合うための免罪符に代わっていた。
(……僕は、どこまでも卑怯だ)
それでも、今のシンジはそれにすがって行動するしかない。
無言でアスカの姿を求めて港を走る。
――これだけ広い場所で、お互いに土地鑑があるワケでもない。
アスカが本気で逃げたいとか隠れたいと思えば、
見つけることは不可能に近い。
それどころか、アスカが途中で一度横に曲がってしまうだけで、
捜索範囲は限りなく広がる。
だからシンジは、それはもうあきらめていた。
探すのは、アスカが走り去った方向だけ。
その上、必死で探さないと見つからないような奥まった場所も避ける。
それよりも、パッと見ただけでは見つからず、
でも探しに来た人は見つけられるくらいの場所だけを調べた。
(これで見つからなかったら、僕に出来ることはもうない)
そう割り切っているはずなのに、シンジの中で不安がどんどんと満ちていく。
(アスカ……。本当に、どこにいるんだよ…)
捜索の距離が伸びれば伸びるほど、アスカを見つけられる確率は下がっていく。
もしアスカが誰かに追いかけてきて欲しいと思っているなら、
そんなに遠くにいくはずがないからだ。
そして、シンジがふくらむ不安に押し潰されそうになった頃、
ある倉庫の陰を覗き込んで、
「……あ」
シンジは、思わず声を漏らした。
驚きと、それ以上の安堵の声。
そこにはアスカが、倉庫の壁に背中を預けるようにして立っていた。
617 :
逆行92:2008/07/06(日) 01:15:14 ID:???
「その…」
声をかけようとして、自分が彼女を呼ぶ名を持たないことに気づく。
前のように『アスカ』と呼べばいいのか、それとも今は『惣流』と呼ぶべきなのか。
(僕は、そこから始めなきゃいけないのか。
……いや、たぶん、これが一番大切なことなんだ)
意を決して、シンジはアスカに歩み寄っていく。
あと二、三歩のところまで近寄っても、
アスカはシンジの方に顔を向けようとしなかった。
それは小さくシンジの胸を傷つけ、わずかに足をすくませたが、
それでもシンジは逃げはしなかった。
「……き、訊きたいことがあるんだ」
そう、何とか震える声を絞り出す。
「…なによ」
アスカはシンジを見ないままで、そう言葉を返す。
ひるみそうになる口に、力を込めて、
「僕は、君のことを何て呼べばいい?」
アスカに、尋ねる。
「なに、それ…?」
不機嫌が形を取ったみたいな、アスカの声。
だが、シンジはもう止まらなかった。
「事情は、全然分からないけど。でも、僕が君を傷つけてることくらいは、
僕にだって分かるよ。だから……」
「だから、僕は君の名前を呼ばない方がいいのかな、とでも言うつもり?」
先回りした答えは、しかし不正解だ。
「ち、違うよ! ……ただ、
ただ、僕がどっちの呼び方で君を呼んでも、君を傷つけるなら、
僕は君が選んだ方で名前を呼びたいって、そう思って…」
「アンタ……」
アスカの顔に、静かな驚きが広がった。
618 :
逆行93:2008/07/06(日) 01:17:29 ID:???
しかし、その表情の変化はすぐにつくろわれる。
アスカは、シンジから逃げるように顔を逸らした。
「……アンタは、卑怯よ。
どうせ自分じゃ選べないからって、アタシにそんなの押しつけて……。
決められないわよ。そんなの、アタシだって…」
「……惣流」
しかし、シンジはアスカを遮って、小さくその名を口にした。
「っ!!」
その言葉に、アスカは今度こそハッとして、顔をあげる。
「君が、本当に選べないって言うなら、僕は君のことを惣流って呼ぶよ」
「……そう、りゅう」
オウム返しに、アスカが呆然とそう呟く。
――たとえ伝わらなくても、それはシンジの決意の表れだった。
『あのアスカ』とは違う、『惣流』という新しい人格として、今のアスカを受け入れる。
そんなシンジの選択の結果が、その一言には込められている。
「べ、別にいいわよ。アンタがそう決めたなら、アタシは、それで…」
そうやって、アスカは選択を拒もうとするが、
「でも、僕は君に選んで欲しいんだ」
シンジはそれを許さなかった。
「頼むよ、アスカ…」
ほとんど祈るように懇願する。
シンジには、アスカにとってこれがどんな意味を持つのか分からない。
取るに足らないことなのかもしれないし、辛い選択を強いているのかもしれない。
だが、退くという選択肢だけは今のシンジにはなかった。
……沈黙。
そして、ふっと、アスカの顔から強張りが消えた。
「分かったわよ」
そこで初めて、アスカはシンジに振り向いて、
「アスカ、でいいわ。……アンタから惣流なんて呼ばれたら、うっとうしいもの」
驚くほど穏やかに、微笑んだのだった。
619 :
逆行94:2008/07/06(日) 01:19:42 ID:???
「そ、そっか。じゃ、じゃあ、アスカ…」
その笑顔に顔が赤くなるのを必死でごまかそうとしながら、
シンジはそうアスカの名を呼んだ。
ますます照れくさくなって、最後の方は声が小さくなる。
「なんで顔赤くしてんのよ、……やらしいわねぇ」
「や、やらしくはないだろっ!」
アスカの不審な目つきにシンジは必死で抗弁するが、
「…ほら」
どもるシンジに、アスカの手が差し伸べられた。
「え…?」
「え、じゃないわよ。……ほら」
もう一度、アスカがシンジを促す。
そこでようやく、アスカがシンジに握手を求めているのだと気づいた。
「……う、うん」
そっと、差し出されたアスカの手を握る。
するとアスカのやわらかな手に、確かな力が込められて、
どんどん込められて、さらに込められて……。
「あ、あれ? ね、ねぇアスカ?
こ、これ、痛い。すごく、痛いんだけど…」
つながれた手の向こう、しおらしかったアスカの顔が、
その時を境に獰猛に歪む。
それを目にして、シンジはなぜか、
とてつもない既視感と、ひどく嫌な予感を覚えた。
620 :
逆行95:2008/07/06(日) 01:21:17 ID:???
再び見たアスカの顔は、まるで地獄の獄吏か、
もしくはストレートに、悪魔のそれだった。
「アタシがちょーっと調子悪かったからって、
ずいぶん生意気な口利いてたじゃないの?」
シンジの動揺が心底楽しくて仕方ないという顔で、
アスカは手にどんどんと力を込めていく。
情けないことに、握力ではシンジは完全にアスカに負けていた。
「うわ! アスカ、いた、いたいって!」
シンジはそんな悲鳴をあげながら、
(でも、これでこそアスカだよな)
と、本人が聞いたら怒り狂いそうなことを思う。
そして、そうやって少しだけ表情を緩めようものなら、
「なぁに気持ち悪い顔してんのよ、ボケシンジ!」
今度は整った口から言葉の暴力が飛び出してシンジを襲う。
しかしそれで、ひとまず気が晴れたのか、
「ほら、さっさと行くわよ! 潮風って髪に悪いんだから!」
アスカは握ったままのシンジの手を引いて、元いた方へ走っていく。
「わ、ちょっ、待ってよ! 待ってってば! アスカ、走るの速すぎ…!」
「もう、なんだってアンタはそんなにとろいのよ! ノロマシンジ!」
「ノロマ…!? ぼ、僕はそんなにのろくはないよ!
アスカが無駄に急ぎすぎてるんだよ!」
そうして、シンジとアスカはにぎやかにその場を後にする。
しっかりと、その手をつないだままで……。
――こうして、シンジとアスカの邂逅は、ようやくひとまずの幕切れを迎えたのだった。
621 :
逆行96:2008/07/06(日) 02:01:47 ID:???
『……セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー、ね』
『あら、あなたもやっぱり気になるの?』
『ひゃわっ! ……リツコ! いるならいるって言いなさいよ!』
『……はぁ。あなたは相変わらずね、ミサト。
そもそも私がここにいないなんて事、あるはずないでしょう?』
『そりゃそうだけどねぇ。人に話しかけるならそれなりの作法ってもんが…』
『分かったわよ。次は精々丁寧に話しかける事にするわ。……それで?』
『それで、って、あんたが話を振ってきたんでしょうが……。
アスカのことよ。さっきの口振りじゃ、あんたも気になってるんでしょ?』
『そうね、気になっているというか……。
正直あそこまであからさまに秘密を抱えているのも珍しいわよ。
気にするな、というのが無理ね』
『あー。あの子、シンちゃんしかいないと思って無警戒にベラベラしゃべってたものねぇ』
『壁に耳あり障子に目あり、とはよく言った物だわ。
……それでも、私達の存在に気づけ、というのは少し酷かしら』
『だけど案の定というか、シンちゃんは何も気づいてないって所がどうもやるせないわよね』
『あら、その為に私達がいる、とも言えるのよ。名誉な事じゃない』
『そーかしら。あたしにはシンジ君がそんなことを考えていたとはとても思えないけどね』
『でも、レーゾンデートル、存在理由は必要よ。特に、私達みたいな存在にとっては。
……例え、それが後付けだったとしてもね』
『はいはい。口じゃあリツコ先生には勝てませんよ。
それより、今はアスカのことを話しましょう。
あの子がシンちゃんと同じだっていうのは間違いないんでしょ?』
『……それは、どうかしらね』
『リツコ?』
『初めは、私もそう考えていたのよ。でも、それだけでは色々と説明がつかない』
『どういうことよ?』
622 :
逆行97:2008/07/06(日) 02:02:19 ID:???
『あの子には、不自然な所が多過ぎるという事よ。
その内の幾つかは、シンジ君と同じだからという理由だけでは説明が出来ないわ』
『…そう。アスカのシンクロ率と操縦技術ね』
『それだけ、という訳でもないけれどね。
でも、あのシンクロ率と操縦テクニックは確かに異常だわ。
人の限界を超えている』
『まるで、エヴァと完全に同化した時のよう?』
『……あるいは、同化ではなく、同調か。
動きにエヴァの意志を感じなかったから、感覚としては後者に近いと思うけれど。
とにかく、通常の訓練の結果ではないのは確かだと思うわ』
『アスカには、わたしたちの知らない何かがある、か。
シンジ君の読みはどうなの? 人体実験とか、そういうヤツは』
『そういう動きがあれば、『私』には感知出来ると思うけど。
でもシンジ君を跳ね飛ばした時の顛末を見ると、あながち否定も出来ないわね』
『ん、と? 跳ね飛ばした、って何だったかしら?』
『あなた、最初にシンジ君が彼女に触ろうとした時どうなったか、見ていなかったの?』
『あー! そういや派手にやられてたわねぇ、シンちゃん。男として、あれはどうなのかしら…』
『……呆れた。あれは、どちらかというとあなたの担当だと思っていたのだけれど』
『んなこと言われても、実際何されたのか見えなかったんだからしょうがないでしょぉ!
シンちゃん自体が目で追えなかった物を、あたしに見てろって言う方が筋違いなのよ!
それとも、シンちゃんがやられるのを黙って見てたのを怒ってるワケ?
いくら監視と護衛があたしの役目ったって、あの状況を対処するなんて出来っこないわよ!』
『そういう意味じゃないのだけれど。……まあ、いいわ』
『……あたしがよくないわよ。煮え切らないわね』
『とりあえず、シンジ君を目にして情報を集めていけば、アスカの秘密はいずれ分かるでしょう』
『結局、いつものように、見るだけが仕事、ってワケね』
『その見る仕事を放棄したナマケモノさんもいるようだけれどね』
『うっさい! もう行くわよ! おやすみ、リツコ、シンジ君』
『ええ。おやすみなさい、ミサト、シンジ君』
623 :
逆行98:2008/07/06(日) 02:03:23 ID:???
「それじゃ、ミサトさん。行ってきます」
前日の疲れを感じさせない口調で、いつものようにシンジは家を出ようとする。
――なぜか、今朝の目覚めはいつにないほど快適だったのだ。
まるで寝ている間に一番の懸案が解決したような、
そんな清々しい気分でシンジは目を覚まし、爽やかな気分を引きずったまま、
鼻歌交じりで学校へ行こうとしたのだが、
「あ、シンちゃん学校? ちょっと待って」
そう言って、今日に限ってはめずらしく、ミサトが玄関までやってきた。
「あのね、シンちゃん。昨日会ったセカンドチルドレンのことだけど…」
「セカンド…? アスカがどうかしたんですか?」
外に出ようとしてたシンジだが、アスカのことともなればやはり反応が違う。
すぐにミサトの方を振り返った。
「ん? そう、その、アスカだけどね…」
その機敏な反応に少し驚きながら、ミサトは何かを言いかけ、
「……今日、何かびっくりするようなことが起きるかもねぇー」
結局そんな風にお茶を濁して、愉快そうに含み笑いをした。
「…? じゃ、行ってきます」
そうして、シンジは狐につままれたような表情で、
学校に向かうことになったのだが……。
「ミサトさんには悪いけど、今日何が起こるかなんて、考えるまでもないんだよな」
机に頬杖をつきながら、シンジはそう呟いた。
「ん? なんやセンセ? 何か言うたか?」
「ううん。何でもないよ」
呟きを聞きつけたトウジにそう返しながら、シンジはひとりごちる。
(あれはあれで、衝撃的な登場だったからなぁ…)
624 :
逆行99:2008/07/06(日) 02:05:04 ID:???
ドイツからの帰国子女、という触れ込みで、シンジたちと同じクラスにやってきたアスカ。
『惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!』
――非の打ちどころのない完璧な笑顔、ひるがえる長い髪。
あの光景は、忘れようと思ってもなかなか忘れられない。
「にしてもほーんま、いけ好かん女やったなぁ」
アスカのことを思い出して、能天気に話すトウジに、
「ああ。オレはもう二度と、関わりたくないよ」
どこか歯切れ悪く、そう返すケンスケ。
やはりケンスケはアスカに対して何か含むところがあるようだが、
その件について、トウジは無関係らしいことも分かった。
(でも、これからアスカがクラスメイトになるって知ったら、
どうするんだろう。あんまり険悪にならないといいけど…)
心配性のシンジは、ついそんなことまで考えてしまう。
そんなシンジの様子には気づいた様子もなく、
「のう碇。碇はこれからもあの女と会ったりせないかんのやろ?
こればっかりはセンセに同情せな…」
トウジがしきりに話しかけてくるが、
「あ、来たみたいだ」
扉の前に誰かが立つ気配を察してシンジがそう言うと、トウジも慌てて席に戻る。
それを横目に、シンジも騒動に備え心の準備を整える。
――しかし。
「……え?」
その扉を開けてやってきたのは、いつもの教師だけだった。
「ど、どうして…?!」
呆然としたシンジは、状況も忘れて思わず立ち上がっていた。
「…碇?」「どうしたんや、センセぇ?」
ケンスケやトウジの心配そうな声を聞いても、
シンジはすぐに返事が出来なかった。
――その日。結局最後まで、アスカは学校に現われなかった。
625 :
逆行100:2008/07/06(日) 02:06:50 ID:???
「ね、ねぇ綾波! アスカが、セカンドチルドレンがここに来るって話、聞いてない?」
放課後、ついに耐え切れず、シンジはレイにそう尋ねてみたが、
「本部に、セカンドチルドレンが来るという話は聞いているわ。
でも、それだけ。それ以上のことは知らないし、聞きたいとも思わない」
その答えは、シンジの期待に添うような物ではなかった。シンジはあからさまに落胆し、
そのせいかレイの言葉に潜んでいた自己主張の欠片を見逃した。
だがレイは自分でそれを自覚していたのか、
「本部に行けば、きっと会えるわ。……いっしょに来る?」
めずらしくぶっきらぼうながらフォローを入れるが、
「いや、いいよ。今日はリツコさんも来なくていいって言ってたし、
そんなことであそこに行くのはよくない気がするから」
シンジは首を横に振った。それを見届けて、
「そう。……なら、わたしは行くわ」
「あ、うん。ごめん、引き止めちゃって…」
シンジのその謝罪には何もコメントしないまま、
「さよなら、碇くん」
レイはきびすを返すと歩き去っていく。
その背中を追いかけるように、
「さ、さよなら、綾波。また明日」
シンジはそう言葉をかける。
レイは一瞬、戸惑ったように足を止め、結局一度振り返って、
「…そうね。また、明日」
そう軽くあいさつをしてから再び歩き始めた。
「うん。また、明日…」
遠ざかる背中を見つめながら、シンジは口の中で、もう一度そう呟いた。
ただ、レイが振り返ってあいさつを返してくれたというだけのことなのに、
なぜかシンジの心には暖かい物が灯った気がした。
「なんや、いい感じやな、あの二人」「あぁ、くそう! オレも青春したいなぁ…!」
そんなシンジを心持ち暖かめの視線で見守る二人がいたことを、シンジはもちろん知らない。
626 :
逆行101:2008/07/06(日) 02:07:50 ID:???
なぜか少し他所他所しい態度のトウジとケンスケと別れ、シンジは一人帰路についた。
(アスカ、何で学校に来なかったんだろう)
うつむいて歩きながら、シンジはずっと考え続ける。
(朝のミサトさんの思わせぶりな態度からすると、
あの時点でアスカが学校に来ることになっていたのは間違いないんだ。
……だけど来なかった。
それって、学校よりも大事な用がアスカに出来たから?)
しかし、シンジは首を振る。
(この時期に、きっとそれはない。
前回の時は、アスカは普通に学校に来れたんだから…。
だったら、やっぱり……)
自分が原因か、と思ってしまう。
(やっぱり昨日の今日で気まずくて……。
いや、アスカに限ってそんなことないか。
だけどアスカなら学校とかクラスを変えてくれって言ったかもしれなくて……。
ああ、でも、エヴァのパイロット候補者はあそこに集められるはずだし…)
悶々と悩みながら、シンジはいつのまにか家の前まで着いていた。
「……はぁ」
とため息をつきながら扉を開ける。
「ただいまぁ。…って、誰もいないか」
そう言いながら、靴を脱ぎ、
「……あ、…え?」
目の前に広がるダンボールの森に、足が止まる。
そして、その混乱に拍車をかけるように、
「おっそーい! アンタ、学校からここまで帰って来んのにいつまでかかってんのよ!」
あまりに聞き慣れた怒声が、シンジの耳を打った。
627 :
逆行102:2008/07/06(日) 02:09:44 ID:???
シンジの前に腕を組んで仁王立ちしているのは、当然ながら彼女、
惣流・アスカ・ラングレーだった。
「な、なん、で…」
驚きでろくに言葉も出ないシンジを見つめ、
アスカの目が、すうっと細くなる。
「ははぁ。さては、優等生とやましいことして遊んでたんでしょ。
ぼーっとした顔して、やることはやってんだから…」
その言葉に、シンジの呪縛が解けた。
「し、してないよ! 綾波とはちょっと、話をしてただけで…!」
そう必死に反駁するのだが、
「うっわ! 本当にファーストといたの?!
信じられない! 不っ潔ぅ!」
どこかノリノリで、アスカはシンジを罵倒する。
思わず頭がクラクラとしかけるシンジだが、何とか持ち直し、
「そ、それよりアスカ、なんでここに…」
とりあえず、それだけは口に出来た。
「はぁ? アンタ、この部屋の様子見てもまだ分かんないワケぇ?」
すると、シンジの前でふんぞり返ったアスカは、ポン、と胸をたたいて、
「アタシ、ミサトに頼んで今日からここに住まわせてもらうことになったから」
シンジの想像通りの、そして全く想定外の言葉を告げる。
628 :
逆行103:2008/07/06(日) 02:11:31 ID:???
(まさか、出掛けにミサトさんが言ってた『びっくりするようなこと』って、
アスカが転校してくることじゃなくて、引っ越してくることの方?
今日、転校してこなかったのも、学校より引っ越しを優先したからって考えれば…)
つじつまは、不思議と合ってしまうような気がするのだが、
(だ、だけど、この時点でいきなりアスカがここに来るなんて……。
あんな風に、色々ごたごたがあった後だし、
まだ、一緒にユニゾン訓練もやってないのに…)
突然の急展開に、全く動くことも出来ないでいるシンジに、
「まあ、本当はアンタを追ん出してミサトと二人で住もうと思ってたんだけど、
パイロットはまとまって住んでた方が都合がいいってミサトが言うから、
しかたなぁーく、アンタとも一緒に住んであげるわ」
一方的にそう宣言。
それでも棒立ちのシンジに、さらにアスカが厳しい現実を知らせる。
「ああ、そうそう。アンタの荷物、隣の物置…じゃなかった、
アンタの『新しい部屋』に運んどいてやったわよ。感謝しなさいよね」
「あぁっ!」
シンジは思わず悲痛な声をあげた。
もはや、直接見るまでもない。
脳裏に、ダンボールにごちゃっと詰め込まれたシンジの私物の光景が広がる。
それを「ふふーん」と満足そうに眺めながら、
アスカは最後に、天使のような、悪魔のような笑顔でにこやかに、
「これからよろしくね、……シ、ン、ジ♪」
波乱の幕開けを、高らかに宣言したのだった。
629 :
6:2008/07/06(日) 02:15:23 ID:???
以上。アスカ来日編はこれで終わり。
次の日常パートでキャラの謎(というほどでもないっつうかバレバレだが)も大体解けて、
物語的にも一段落かな。
まあ、次の週末までには、きっと…。
乙!GJ!う〜む、俺の予想の上を行くなあ!
ミサトとリツコの謎の予想がまだつかない(笑)
ほんとに続きが楽しみだ!
乙!
毎回楽しみにしてるぜ!
632 :
学園:2008/07/07(月) 12:37:49 ID:???
>>601 序章
今日、一日の授業が全て終わり、いつものように一人帰路につくシンジだった
帰り道…シンジは帰りのホームルームの時に先生が話していた『明日、転校生がやって来る』事を思い出していた…
シンジは『転校生』と言う言葉に、中学2年の時、一時だけ居た転校生の事を思い出していた
>>632 もっと書いてから投下しろよw レス残量が減るじゃないかw
このスレも残りを気にする程になったのだなぁ
としみじみ思ふ
山岸マユミ?
636 :
学園:2008/07/09(水) 07:52:58 ID:???
>>632 序章
誰も居ない部屋…
夕日の光が窓から差し込み、部屋を茜色に染める。
シンジは自室からチェロを持ち出し、リビングの椅子に腰掛けながら、ゆっくりと弾き始めた。
チェロの旋律が茜色に染まる部屋と自分の欠けた心を満たし、色々と駆け巡る思い…演奏に集中すればいくらか紛らわされる
どれくらい演奏していたのだろうか…
茜色の部屋は、いつしか夕闇が迫り、薄暗くなっていた。
チェロを自室に戻し、夜ご飯の支度をする…これが、変わる事の無いと思われる日常なのだと言う実感しながら…
序章…終わり
頼むからもう少しまとめて投下してくれ…
クソ重い動画を一生懸命細切れに見てるときの気分になる
638 :
35:2008/07/09(水) 22:04:39 ID:???
書いてみたので貼ってみますー
舞台はEOE後ですー
「ひっ……」
「……アスカ?」
「シンジ!?来ないで!」
思わず漏らしたうめき声、うっかりシンジに聞かれてしまった。眠っているはずだと思ったのに。
心配顔のシンジを追い返して改めて鏡を見返すが、やはり映っているのはわななく自分の顔。そして――
私は震える手を押さえながら、ボロボロの包帯をゆっくりと丁寧に巻き付けた。
うっかりほどけたりしないように。そして、まるで過去の亡霊を封印するかのように。
ここは、第三新東京市の瓦礫の下。
私達はただ、二人だけ。
あのサードインパクトを経て、ただ二人だけの生活が始まったのだ。
そして、翌朝。
「シンジ、足下に気をつけて。」
「……うん。」
「疲れた?もうすぐ着くから頑張って、シンジ。」
瓦礫を踏みしめて歩きながら、ぼそり、ぼそりと紡ぐ会話。
シンジはあれ以来……そう、私の首を絞めて以来、まるで感情を失ったかのように呆然としている。
一種の精神病だろうか。それとも、私の機嫌を損ねないように自分の感情を殺しているのだろうか。
シンジは、私のことをどんなふうに見ているのだろう。
かんしゃく持ちの我が儘女?それとも、単なる同僚のパイロット?
思えばエヴァに乗っていた頃、私はシンジにずいぶん辛くあたっていたからね。
そんな私でも、今の彼にとって全てのはず。
なぜなら、二人きりなのだから。
そして、それは私にとってもそうだ。
「アスカの方こそ……その、片眼だし……」
「ありがと、平気。」
そろそろシンジを休ませよう。あれ以来、ロクな物を食べていないのだから。
「着いたわ。」
「ここ?」
「そう、そのはず。」
私達が到着したのは、やはり何処とも変わらない瓦礫の山。
しかし私の記憶が間違いなければ、ここが巨大なシェルターの入り口のはず。
水、食べ物、最低限の生活用品も揃っているだろう。
そこに入ることが出来れば、当面の生活は安定する。
「……アスカ、大丈夫?」
「う、ううん、平気。」
「そう……?」
シンジは私の様子に不安げな顔をする。
少し体にふらつきを覚えて、思わずこめかみに手を添えていたのだ。
だって仕方が無いじゃない。私だってロクな物、食べてない。
私は以前に掘り出したペットボトルからグビリと一口だけ水を飲む。
そして取って置きのキャンディーと一緒にシンジに回した。
「シンジも一口だけ飲んで。少し休んだら取りかかるわよ。」
つかの間の休息を終えて、私達は瓦礫の山に取り付いた。
シンジも私も汗だくでテコの棒を握りしめ、崩れた岩を一つ一つ取りのける。
そして見え始めたNERVのマーク。
正解だ。間違いなくここが入り口だ。
シンジがそれを見てぼそり。
「ネルフ……」
「ね?もう少しだから頑張って。」
何か思うところがあるのだろう。
シンジは胸から下げたミサトの十字架を握りしめていた。
「あ……」
私は思わず、落胆の声を漏らしてしまった。
ようやう入り口らしい物が見え始めたと同時に、そこが巨大が岩盤で塞がれていることが判ったのだ。
岩盤、というか正確に言えば崩れたビルの壁なんだけど、いったい何トンぐらいあるのだろう。
とても私達の力で取りのけられるものではない。
「……」
そして、沈黙。
いや、このくらいでめげてはいけない。
「えー……っと。」
「アスカ?」
辺りを見渡す私を心配そうに見るシンジ。
いいから待ってなさい。私が何とかするから。
「よし、あそこ。」
と、私は真上のビルを見上げた。もうボロボロで壁面が崩れてジャングルジムのようになっている。
そこに駆け上がろうとして、ふと足を止めた。ちょうど良いものがある。
あれはなんていうんだったかな、工事現場で使われる2輪の手押し車のような物。
「どうするの?アスカ。」
「ふふん、見ておきなさいよ。私の学歴は伊達じゃない!」
少し空元気を出しながら、手押し車をガラガラと押していく。
これだけではダメだ。何か良い物は……よし、あの石像。
良い調子だ。アドベンチャーゲームのように必要な物がどんどん揃っていく。
でも、どうやって上の階まで持ってあがろう……階段、か。
「シンジ、さあ頑張って上の階まで持ってあがるのよ。」
石像を乗せた手押し車を押しながら、ジリジリと階段を登っていく。
車がついてるから良いようなものの、とてつもない重量だ。
「シンジ、もし手が滑ったらそのまま落としちゃいなさい。怪我すると……」
「だ、大丈夫だよ……」
今も、そしてこれまでも、シンジは大した愚痴も言わず頑張ってくれている。
素直なのは良いけれど、まるで無心に私の言うことを聞く人形のようだ。
私を恐れているのか、それとも気力を失っているだけなのか。
そして、崩れた壁から二人して岩盤を見下ろした。
「アスカ……ここから、落とすの?」
「うーんとね、いやちょっと待って。ちゃんと計算するから。」
と、目算で距離を測りながら小石を手にして壁に数式とグラフを描いてみる。
えーと、どうなるのかな。物理は基礎しかやってなかったことが悔やまれる。
時速いくらで助走をつけて、そして描かれる放物線、そして地面との衝突スピード……
「シンジ、ごめん。あともう2階上まで運ぶわ。」
いよいよ、である。
準備完了。踏切線を引いて十分に走るコースを確認する。
上手くいくだろうか。緊張で顔がこわばっているのが自分でも判る。
シンジは重労働のため、内壁にもたれてへたり込んだまま、一言。
「アスカ、その……別に失敗しても……」
何を言ってるの。もうアンタはグロッキーじゃないの。
二度目は無い。そう思った方が良い。
再びこれをここまで運ぶ体力はシンジにも私にも無い。
「いいから休んでて。入り口が出来たら、ここまで食べ物を持ってきたげる。」
自信たっぷりに言い返した。
空元気じゃない。私の計算に間違いは……無い!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
そして、見事に失敗した。
いや、狙いは的中。私が落とした石像は見事に脳天から岩盤に直撃。
岩盤、というか正確に言えば崩れたビルの壁。
鉄筋コンクリートの目の細かい鉄線が入った、ビルの壁。
石像の衝撃だけで鉄線を打ち破れる筈がなく、コンクリの部分を砕いただけに終わってしまった。
「……ああ。」
思わず嘆息してしまった。流石に堪えた。
いや、私がおろかだった。岩盤をよく見れば、どういう素材かぐらいすぐ判るじゃない。
シンジにも自分の体にも過酷な労働をさせてしまったのに、これでは完全に無駄骨だ。
「アスカ……」
私の酷い仕打ちにもかかわらず、シンジはむしろ気の毒そうに私を見る。
しかし、とても空元気を出せる状況ではない。
シンジに対する罪悪感、そして自分に対する嫌悪感。
思わず私もシンジのように壁にもたれてへたり込む。
その私の様子にあたふたと駆け寄るシンジ……慌てないでね。転ぶわよ?
「ごめんね、シンジ。このまま休もう。ほら……」
私は最後のキャンディーをシンジの口に押し込んだ。
それから、私はいつの間にか眠ってしまっていた。あれから何時間たったのだろう。
いや、もしかしたら気を失っていたのかな。なかなか目が開かない……ん?
ぴとっ
つ、冷たい!
「シンジ!?」
今は既に夜だった。
崩れたビルの壁から差し込む月明かりに照らされながら、シンジは私をのぞき込んでいた。
そして、私に押しつけたらしいミネラルウォーターのペットボトルを手にしている。
しかも、それは真新しい。
「やっと入れたよ、アスカ。」
「え……ええええええええっ!?」
私は思わずガバッと跳ね起きて、ビルの階下まで駆け下りた。
シェルターの入り口は様変わりしていた。
瓦礫の山は完全に整備されて、入り口の周りは綺麗に掃き清められたような状態だ。
そして、ひび割れたアスファルトから地面が掘り起こされている。
そして岩盤と入り口の間には、這い蹲ればどうにか入れるほどの穴。
そうか、シンジは側面から掘り進んで入り口を突破したのね?
見れば、どこからか見つけてきたらしいシャベルが立てかけられている。
そして泥だらけの、キズだらけのシンジの両手。
シンジは一発勝負の私とは違い、地道な努力で解決に導いたのだ。
「バカ……なんで起こしてくれなかったのよ。一人で苦労したような顔してるんじゃ……」
そんな私の悪態を、シンジは笑って聞いていた。
ああ、シンジの笑顔だ。
本当に久しぶりの本物の笑顔、憔悴しきってはいるが少しはにかんだ……
「シンジ、ごめん……ごめんね……シンジ、ごめん……」
私は堪えきれずに取り繕いをかなぐり捨てて、シンジに抱きついていた。
泣くことだけは、どうにか堪えたつもり……の、はず。
それから私達はシェルターの中に入った。
そこは大規模な避難所で数百人でも収容することが可能らしい。
そして、誰も居ない。私達、二人だけ。
しかし、喜んでばかりは居られない。
空腹続きの胃袋を痛めつけないように、少しばかりのレトルトスープで食事を済ませる。
しかしシャワーだけは貴重であろう水をたっぷり使って体を清めた。
「シンジ、怪我は?手を見せて。」
「うん……あつっ」
「しみる?ごめんね。」
そして互いに体を点検、とはいっても私はプラグスーツだから大した怪我もない。
そして、しっかり休息を取ろう。数日はゴロ寝しちゃってもいいかな。
これから大変なんだから。たった二人で生きていくんだから。
「アスカ、その……目は……」
「シンジ、これは自分で見るわ。」
「でも……」
「ごめんね。アタシ、女の子よ?見せたくない。」
「……」
そしてシンジが眠ったのを確認してから、再び一人で鏡に向かう。
うっかりシンジがのぞき込んだりしないように、洗面所の鍵まで閉めて。
そしてゆっくり顔の包帯を解き始めた。
(蒼い目……)
私の右目。
紛れもなく、蒼い瞳であった。
そう、これはファーストの、紛れもなく綾波レイの目だ。
(ファースト……あんた、私に取り憑いたというの?それは何故……)
- 続く? -
647 :
35:2008/07/09(水) 22:13:47 ID:???
終わりー
続けられるかどうかわかんないー
ちょwww
なぜそこで終わりにするwww
649 :
学園:2008/07/09(水) 22:23:10 ID:???
>>636 変わらない日常と化した今…
そこに、少しだけ変わった事が起きた。
床に就きながら、中々眠れない夜…
(僕は、アスカの事を只の幼なじみとしか思っていた筈なのに…何故…何故アスカの事を思うと胸が痛くなるのだろう?それに、僕じゃ、アスカと釣り合わないし…それに、アスカには…)
思考のループに陥っていた…だから、僕はループ状態となった思考のベクトルを違う方向へ持って行く事にした。
(転校生か…)中学の時の事を思い出していた。(アスカが居て、トウジが居て、ケンスケが居て、そして転校生の綾波が居て…アスカとは仲が悪かったり、良かったり…対等だったんだよね?色んな意味で…)不意におかしくなって、僕は笑っていた
そして、いつの間にか寝ていたらしい。
目を覚ました時には、時計は『7時50分』を指していた。急がないと遅刻してしまう。シンジは手早く顔を洗い、急いで制服に着替えて家を後にした
僕は始業のチャイム寸前で教室に入る事が出来た。僕にとっては、約半年ぶりのギリギリの登校となった、半年前と違うのは隣に居た人が居ないくらいだったけど…
チャイムが鳴り先生が入って来てHRが始まった。そして、ここから変わらない日常が変化する事になるのだった
『転校生』の登場によって
第一章〜変化ーAパート〜
651 :
学園:2008/07/11(金) 01:27:29 ID:???
>>649 第一章〜変化ーBパート〜
先生に入るように言われ、教室内に招かれる少女。黒板に名前を書き振り向き様に『綾波レイです♪よろしく↑』と、名前を言って、簡単な自己紹介をしようとした時に、少女は、ある一点を見つめたまま固まってしまった…
彼女の良く知る人の一人『碇シンジ』の姿が、そこに有ったからだった。
レイは自己紹介をするのを忘れて
『シンジーッ!!』と叫んでしまった。
一方、シンジもレイが、教室に入って来た時から固まってしまっていた…
レイに名前を呼ばれて、一瞬、肩をビクッとさせ狼狽ていたが、ぎこちない笑みをレイに向けた
先生も状況が状況なだけに、狼狽ていたのだが、レイとシンジが知り合いであり、尚且つ、シンジの隣の席が調度(作者の都合により)空いていたので
『綾波と碇は知り合いみたいだし、調度、席も空いてるから、そこに座りなさい』
と促した。
レイは先生に促されるままに、シンジの隣の席に着席し、満面の笑みでウィングしながら
『お久しぶり♪そして、これからよろしくね♪碇くん☆』
と、言った
一方、シンジも
『ぼ、僕の方こそ、よ…よろしく…』
と、頬を若干、朱く染めて答えた。
Cパートに続く
携帯から投下してんの?
もう少し書きためてからにしてほしいんだが
続きモノを短い上に単発でポツンと投下されてもねえ
653 :
学園:2008/07/11(金) 06:58:11 ID:???
携帯から投下してます
やっぱ、書かない方が良いのかな…?
書かない事にします
スレ汚しごめんなさい…
いやいや、単なる要望だからそんなに気にしなくていい
携帯からならしょうがない
だから携帯かって聞いただけよ
まあ、せっかく投下しかけなんだから最後まで書いてくれよ
ただ短いんで感想をレスしにくいのはわかってくれ
ストーリーもなかなか把握出来ないからレスがないからって書く気をなくさないでくれな
つうか携帯でも書き溜める事くらい出来るだろ
メール使うなりして
まあまあ、せっかく投下してくれてるんだ
のんびり待とうぜ
メールを保存する方法がわからないのか?容量がないのか?
659 :
35:2008/07/11(金) 16:20:37 ID:???
660 :
35:2008/07/11(金) 16:21:33 ID:???
夢を見た。
けして、悪夢ではなかった。
私は素っ裸で、同じく裸のシンジの手を引いてバシャバシャと水場を駆け回っていた。
シンジは恥ずかしいのか顔を耳まで赤く染めていて、これではどっちが女の子なのか判らない。
そんなシンジに、私はおかまいなしに水を浴びせて抱きついて、さらに組み付いて押し倒す。
でも、セックスをしていた訳ではない。そんな男と女の情緒は欠片もなかった。
子供に返ったかのように、まるで子猫か子犬がじゃれ合うように、笑い転げながら抱き合う二人。
体まで子供に返っていたような気がする。肌の触れ合いに性をまるで感じることもなく……
でも、ある瞬間。
すっと二人の動きが止まり、互いに視線が絡み合う。
二人が、男と女に戻った瞬間だった。
「……シンジ?」
そして――
そして、私は目を覚ました。
思わず仰向けのまま、ふうっと溜息をつく。
続きを見れなくて残念?そうね……
以前の私なら強く否定しただろうけど。
「起きたの、シンジ。もっと寝てなさいよ。」
「……うん、アスカおはよう。何やってるの?」
「どこに何があるのか調べないとね。えーと……」
その巨大なシェルターは、最大収容が300人。
食料の備蓄は1年分。つまり私達二人が150年、ここで生活できる事になる。
水は循環して再利用できる機構まで備わっていて、雨水からも補給が可能。
動力源は小型の原子炉……メルトダウンしたら大変だけど。
医療器具、幼児や老人向けの介護用品にその他の生活用具、さらに娯楽品まで揃っている。
いたれりつくせりって奴ね。ここでサードインパクトの被害を逃れるつもりだったのかな。
「アスカ、あの……」
「ん、どうしたの。何これ、服?」
ああ、そうか。私はずっとプラグスーツを着たきりだったからね。
シンジは既に、最初の制服姿からTシャツ短パン姿に着替えている。
受け取って広げてみれば、それは一着のサマードレスだった。
そんなものまで用意されているのか。
「フフ、シンジ。これを私に着て欲しいのね?」
「えーと、その……」
「なに照れてんのよ。待ってなさい。」
と、私はドレスを手にして適当な一室に入り込んだ。
「どお?」
「う、うん……似合うよ、アスカ。」
「でもねぇ、シンジ。ノーブラノーパンでこれを着ろ、だなんてアンタもエッチねぇ。」
「え……?」
「プラグスーツの下は全裸だったことぐらい知ってるでしょ……見たい?」
と、チラリとドレスの裾をめくり、ついでに胸の突起が浮き出ているのを判ってて見せつける。
少し頬を染めてうつむくシンジ。まるで処女の恥じらいだ。
変わったわね、シンジ。以前は私に相当な跳ねっ返りぶりを見せていたのに。
でも、なんだか心地良い。こんなふうに女のプライドを感じられるのも悪い気はしない。
これでは子供が出来るのも時間の問題、か。
そんな訳にもいかないわね。出産、育児だなんて大変なことになる。
下着と一緒に体の線が出ない服を探そう。無闇にシンジを刺激するのも……ね?
「さーて今日はおもっきり贅沢しようよ、シンジ!」
私達は備蓄の食糧の中から極めて生鮮食料に近い物をどっさり引きずり出した。
真空パックのジャガイモ、にんじん、タマネギ、お肉。今夜は野菜ゴロゴロのビーフカレー。
「あ、あの、アスカ、そんなに分厚く皮をむいたらジャガイモ無くなっちゃう……」
「いーの!なんなら、もう1パック開けちゃえ、ほら!」
「そ、そんなに……あの、鍋に入りきらないよ?」
「ああ?そんなちっちゃい鍋で作るつもり?カレーは大鍋って決まってるでしょーが!」
二人で笑い転げながら作ったカレーは最高に美味しかった。
アスパラやトマトの缶詰もパカパカ開けて、たっぷりのサラダを添えて。
当面はこのカレーで食事を済ませよう。
そして、このカレーが無くなったら、私達の本当の生活が始まるのだ。
「シンジ。私達の目標は、私達の手でもう一度、このカレーを作ること。」
「……それって、材料から作るって意味?」
「そうよ。この惑星が全て荒野と化した今、時代は農業!」
自分で言ってて鬱になりそう……
これからスキクワ担いで泥だらけの生活を始めるの?私は。
100年の食料を眺めながら?最悪……
でも、そうせずには居られない。
何故って、男と女が二人でいれば子供が出来てしまうのは自然の摂理。
その子供達に今ある食料を食いつぶせって言える?
そんなこと、言える訳がない。目の前にいるシンジにも言えやしない。
アクティブが信条のこの私、怠惰な生活なんてまっぴらゴメンよ。
でも、やっぱり鬱になりそう……
食事の後片付けを適当に済ませてシンジの寝息を聞いてから、
さっそく地図などを広げて農地の物色を始める。
幸い、農業に関するノウハウは巨大シェルターに据え置きのパソコンの中にたっぷりとある。
本当に至れり尽くせりね、ここ。なんて生活保障の効いたサバイバルなのかしら。
実を言うと、私はこのシェルターの存在は前々から知っていた。
入り口の場所も把握していたぐらいだし。
もし使徒との戦いが惑星規模まで及んだ場合、文明が無に帰することも想定されていた。
となれば、こうした用意が絶対不可欠。
また、この箱船に乗る権利を所持していることが、NERV職員の原動力にもなっていた。
名付けられた名前は、もちろん「ノア」。
適当な農地に当たりを付けて水源なども確認しなきゃ。
果たして、それらが残っているのかどうか。となれば最初の仕事は下見から。
そのために必要な移動手段、ジープなどの駐車場を確認してから今日のお仕事は終わり。
アスカ、今日もお疲れ様。
頑張ってるよね、私。
私は何で頑張ってるのかな。
そうね……
そう、私はシンジが好きなんだ。
シンジが好きな私の人生のために、私は頑張ってるんだ。
シンジを心おきなく愛するために、私は頑張ってるんだ。
でも、何故?
もはや、男がシンジだけだから?
いったい、シンジの何が好きなのよ。
なんだか腑抜けになってしまった、あのシンジを?
再び、鏡と向き合う私。
顔の包帯を解いて、昨夜同様にファーストの目を召還する。
やはり見間違いじゃない。間違いなく右の蒼い瞳はファーストのそれ。
「……やっぱり、アンタの仕業?」
静かに語りかけているつもり。
でも、何だか恨みを込めていたような気もする。
「アンタ、シンジのこと好きだったでしょ。
私、知ってるんだから。
シンジもね、アンタのこと好きだったのよ?
でも、知ってたでしょ?アンタのことだからね。」
「アンタ、そのために化けて来たの?
アイツと一緒になりたいために?
ねえ、なんとかいいなさいよ。」
鏡の中の私、鏡の中のファーストは何も答えない。
私をジッと睨んだまま、恨みがましい顔つきで。
「私?さあ、どうだったかしら。
シンジと一緒に住んでて、
時にはキスなんかしちゃったけど、
でも最後には、顔を見れば胸ぐらを掴み合うような二人だった。
アンタ達は違ってたもんね。
まるで小鳥の羽根で抱き合うような、指が触れ合っただけで恥じらうような……」
ピタリ、と鏡に手を当てる。
見えているのは私の、ファーストの蒼い目だけ。
「今の私がシンジのことを好きなのは、もしかしてアンタのお陰?
そうね。もしシンジのことが嫌いなら、アイツの頭をでっかい岩でつぶしていたかも。
クビを締めてくれたお礼にね。
何故、そのことを恨んでないの?私は。
何故、嬉しそうに楽しそうにシンジと一緒にいるの?私は。
シェルターに一人こもって、悠々自適な生活してりゃいいじゃない。
そうよ。アンタがそうさせないようにしてるのよ。
私の右目に取り憑いてしまったアンタが私を……」
やれやれ。もう、よそう。
今の私がシンジのことを好きなら、それはそれで良いじゃない。
「さーて、しゅっぱーつ!」
「あの、アスカ……運転、出来るの?」
「まっかせなさい!大卒の私に不可能はない!」
「で、でもダメだよ。片目じゃ距離感が……」
翌朝。
私はジープに乗って外界の視察に出発した。
少しばかりの食料と地図にコンパス、そしてシンジを助手席に乗っけて。
駐車場側の入り口も、私達が潜り込んだところと同様にふさがっていたのだけど、
今度は難なく突破に成功。内側からボタンを押すだけで力強く瓦礫をはじき飛ばしてくれた。
「ねえ、シンジ。」
「……え?」
「その……気分はどう?」
「うん、悪くないよ。」
「そう……」
私はその時、シンジに何を聞こうとしたのだろう。
何故か怖くて、それを思い出すことすら出来ない私であった。
- 続く? -
667 :
35:2008/07/11(金) 16:29:57 ID:???
続けてみたー
果てさて結末はどうなるのか、
私が一番わかりませーんw
>>667 GJ
さて、続きが気になるがそろそろ容量が500KB
昨日スレ立てしちゃったんで自分は立てるの_
次スレのテンプレ案だけ置いていくんで、立てれる人ヨロ
前スレ
★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/eva/1211668489/ LASでもヤンデレでもLAO何でもおk
設定を変えるのもおk(その場合は最初に説明してほしい)
他のアニメのキャラを出すのもおk
短編だろうと長編だろうとおk
他スレに書き込んだ後ここにマルチするのもおk
もう何でもおk
こんな自由なスレッドが欲しかった
だから作った 反省はしていない
669 :
35:2008/07/11(金) 19:33:15 ID:???
あれ……
Σ(゚Д゚lll)アッーーーーーーーーーーーーーーー!!
目の色、蒼だなんて書いてしまった。紅とでも書くべきだったのに。
ああああああ……一回、吊ってきます。
申し訳ないです。今から読む人、脳内変換おながいしますorz
そのテンプレ使うのに抵抗があるなあ
立てたヤツが書いたもんだろ?
スレ立てはやってみてもいいがそのテンプレでは嫌だ
投下する作品のジャンルを問いません。
短編、長編、LRSにLAS、エロ、パロ、シリアスなんでもどうぞ。
ただし、書き始めた以上は責任を持って完結を目指しましょう。
でないと、読み手の人がイーッてなります。
スレ違いと指摘する人がスレ違い。
趣味の違う作品は華麗にスルー。
このスレで叩く理由はあり得ません。
ただし、ここはエヴァ板なので他の作品とのコラボは非推奨。
乗せても良いけど、理解されずに誰もレスを付けないかも。
前スレ
★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/eva/1211668489/ ↑
こんなんで、どうでしょ。
エロは駄目じゃね?板的に
ん、わかった
ちなみにもう容量上限に近いの?立てるの早い気もするんだが…
エロやるならうpろだに上げるか、Pinkの該当スレ投下してから誘導だな