「ちょっと、早くしなさいよ! 朝になっちゃうわよ!」
アスカが焦れたように言った。
「分かったよ」
僕は百円玉を入れて、ボタンを押した。
一発で取ると言ったけど、実際はそんなに上手くはいかないだろう。だいたい一回で取れるようなものじゃないんだ。
あんなこと言わなければ良かったな――と思いつつも、固唾を呑んでクレーンの行方を見守った。
僕が期待した通りにツメがケースに引っかかり、持ち上げて、移動して、落とし穴まであと少し……。
……というところで握力が突然弱まったみたいに、ガクッとフィギュアの箱がずり落ちそうになった。
「あっ!」
僕とアスカは同時に声を出した。
やっぱり一回では取れないか――と、新しく百円玉を用意しようとした、そのときだった。うず高く積み重ねられた熊のぬいぐるみの一つが、
何の前触れもなく転がり落ちてきた。そして、落ちそうになった箱のちょうど下に入り、そのおかげで箱は持ちこたえて落とし穴に無事落ちた。
僕とアスカは声もなく、しばらく顔を見合わせていた。何だこれは――。何としても僕に景品を取らせようという、誰かの見えない手の計らいのようだった。
「ツイてるわね」
アスカが景品を取り出した。
「……みたいだね」
これはツイてるというのだろうか? 僕は首をひねったけど、アスカの喜ぶ様子を見ているうちにどうでもよくなってきた。
別にいいじゃないか、彼女が欲しかった景品を取ったのだから。仮に誰かの仕業としても悪い結果ではないのだから、大人しく受け入れるべきだ。
「これ、なんでケースに何も書いてないんだろう。おかしくない?」
僕は箱を覗きこんだ。筐体の外から見たとおり、やっぱり何も書いてない。
「さあ? きっと特別のフィギュアなのよ」
そうかな、とそのフィギュアに目をやる。近くで見るとそれは禍々しくて不気味な雰囲気を醸し出していた。
――何だか気色悪いな。
アスカの上機嫌な顔を見るとそうも言えず、僕は胸に何かがつかえてるような気分を抱えて立ち尽くしていた。
その日の夕食の席で、僕は気になっていたことを訊く気になった。
「ねぇ、母さん。エヴァって何のこと?」
「突然なに、シンジ」
母さんは茶碗に伸ばした手を止めた。
「いや、ちょっと……。学校で転校生に言われて」
渚カヲルは今の段階では友達とは言えなかったけど、取りあえずはそう表現しておいた。
「エヴァは順調とか何とか。ちょっと変わったヤツなんだ」
「あら、そうなの? ともかく、友達が増えるのはいいことね。……そうね、エヴァって……イブのことじゃないかしら」
「アダムとイブのイブ?」
「そうよ。確かイブが英語読みで、エヴァがラテン語読みね」
「読み方が違うだけで、同じなんだ」
「シーザーとカエサルみたいなものだな」と、父さんが口を挟んだ。
アダムとイブか。そう言われても依然として渚カヲルの言いたいことは分からなかった。
いったい誰が順調なんだ? いや、きっとたいした意味はなかったのだろう。
本当に知りたいのなら本人に訊けばいいだけの話だけど、こちらから話しかけるのは躊躇われた。また訳の分からない話を聞かされるのはご免だ。
この話は、ここまでにしよう。
ごちそうさま、と言って僕は立ち上がり、食器を台所の流しに片付けた。
僕は湯船に浸かりながら今日のことを反芻していた。楽しく過ごせた一日だった。最後のクレーンゲームはのぞいて、だけど。
ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
――今日はひょっとして、俗に言うデートだったのではないだろうか。
「バカな。そんなこと考えてるなんて知られたらアスカに殺されちゃうよ」
そう呟いたものの、僕が選んだ服を着たアスカの姿を想像していた。脳裏にはアスカの肩甲骨のラインがはっきりと浮かんでいる。
これ以上はないと思えるほど滑らかで美しい曲線。あの完璧な曲線にそって指をすべらせてみたいと僕は思った。それからアスカのうなじにも。それから――。
僕は頭のてっぺんまで湯の中に沈んで、息が続かなくなるまでじっとしていた。我慢できなくなると水面から顔を上げて大きく息を吸った。
これじゃアスカにスケベ大王と言われても仕方ない。
……それにしても、僕はなぜあの赤いワンピースを選んだのだろう。いや、アスカに赤が似合うというのは本心からの言葉だ。
おかしいのは即座に選べたことだ。自分で言うのも何だけど、何かにつけてあれこれ悩むのが僕の性格、その僕がスパッと決めたのは珍しい。
やはり露出が多いせいだろうか? 正直言ってその要素がないとは断言できないけど、それだけじゃない。何かあるような気がする。何かが……。
それにアスカが欲しがったあの奇妙なフィギュア。不気味な形をしたロボット。
あれは……良くない。
たかが人形に自分でも馬鹿げていると思うけど、その想いは消せなかった。
あれを持っていると不幸な目に遭うとか。……まさか。その手のオカルトは僕は信じない性質なのに。
まぁ、だからといってどうなるものでもない。まさかアスカに捨てろとは言えないし。本格的におかしい奴と思われるだろう。
色々考えているうちに、すっかりのぼせてしまったようだ。
最後にシャワーを「水」にして頭からかぶり、浴室を出た。
頭は冷やせたけど、中身まで冷やせたかは自信がなかった。
12'.
シンジは私が両手に持った服を前にして、固まっている。
――ったく、何でそんなに考えてんのよ。直感で言いなさい、直感で!
シンジはさんざん迷った末に、赤のワンピースを指差した。
「どちらかといえば、こっちがいいと思うな」
「何で?」と私は言った。てっきりブラウスのほうを選ぶと思っていた。だけどこちらを選んだってことは……。
「分かった! こっちのほうが露出が多いからでしょ!」
私がひと睨みすると、シンジは慌てて否定しにかかった。こっちが思うとおりに行動するのが可愛いと言えなくもない。
「違うよ! 何というか……」シンジは口ごもった。「アスカには赤が似合うと思って……」
「ふーん」
私は手元の服をじっと見つめた。赤が似合う……。ついさっきまでは特には感じなかったけど、シンジが言うとおり、
確かに私は赤という色が相応しい気がしてきた。
「じゃあ、こっちにするわ。それにしても何で私に赤が似合うなんて思ったの? 情熱的なところかしら?」
「気の強いところ、かな」
私はシンジのお尻を蹴っ飛ばした。
私は湯船に肩までつかって、今日のことを思い出していた。
「赤、ね……」
おかしなコトもあるものだ。だいたい色なんて急に好きになったりするようなものじゃない。
別に嫌いでもなかったけど、シンジの言葉で、昔のことを突然思い出したように赤が好きになっていた。
ひょっとして……。
シンジに言われたから?
「まっさか」
そんなバカップルみたいな行動を私が取るわけない。そもそもカップルですらないのに。
でも、今日は他人から見たら完全に付き合ってるように思うだろう。
そういう誤解を招く行動は控えたほうがいいのだろうか?
「まっさか」
私は同じ台詞を繰り返した。私ともあろうものが他人の目を気にして行動するなんて、ありえないことだ。
何だかよく分からなくなってきた。きっと湯船につかり過ぎたせいだ。
私は最後にシャワーを一浴びして、浴室を出た。
転校生きた!!!!!!!!
雰囲気的にまだまだ起承転結の「承」あたりかな?
楽しみにしてるよ。
709 :
680:2008/08/23(土) 15:21:41 ID:???
第参話
『太陽と海と貴方に愛を〜アスカの行動〜』
Eパート
男達がシンジに襲いかかって来るのだが、それを軽くいなしながら、アタシの元へ近付いて来る。
アタシの元へ辿り着くと、アイツは、アタシの水着のトップが剥ぎ取られている事に気付き自ら来ていたTシャツを脱ぎアタシに手渡した。
そして、アタシはシンジが昔と違う事に気付いた。
大分前に見たアイツの上半身と、今のアイツの上半身の違い。
それは、今の方は無駄な肉が無く、筋肉のベールをうっすらとまとっている感じだった。
そして、アイツはアタシの目から涙を優しく拭いながら、アタシの頬の腫れに気が付いたのだった…
アイツの手がワナワナと震えている。
そして、アイツはボソリと呟いた。
「僕の大切な人を傷付けた…僕は…僕は…そいつを絶対に許さない」
そして、アイツは立ち上がり、ソイツ達を睨みつけた。
それに怯んだのか、さっきまでナンパ男達は少しあとずさった。
シンジが殺気を込めて一歩づつ歩み、ナンパ男達の元へ向かい、攻撃を仕掛けた。
710 :
680:2008/08/23(土) 15:43:45 ID:???
第参話
『太陽と海と貴方に愛を〜アスカの行動〜』
Fパート
シンジがアタシの為に怒っている…。
今まで見た事も無い顔だった…
それが、嬉しかったけど、でも、それ以上はしてはいけない。
それは、浜辺に横たわっている数人の男達(全員気絶させられてる)
シンジが全て薙ぎ倒していったからだ。
残ってる男は後一人、でも、そいつは、アタシの頬を殴った男…。
いくら、シンジが強くなっても、アタシを殴った男が何かをやってるのは間違いないからだ…
男が笑っている
「いやぁ〜、強いね君は♪でも、あんまり調子のってんと怪我するよ?」
すかさずシンジも言い返す。
「お前がアスカを殴ったんだね?お前だけは絶対に許さない!!」
男はなおもニヤケながら近付いて来る。
お互いの間合いに入ったのだろう、男が素早く右正拳をいれる。
シンジがそれに合わせて、正拳を左手でいなしながら右裏拳を男に叩き入れた。
自分の力+他人の力が加わるカウンターはかなり効き目があった。
男はあっけなく尻餅をついた…そして、シンジがトドメと言わんばかりに、渾身の拳を入れようとした時
「やめてぇーーー!!」アタシは思いっきり叫んだ。
あんな男をかばうつもりは毛頭無いのだけど、アイツの優しい手をあんなヤツの為に汚させたくなかった。
アタシの叫び声を聴いてピクリと動きを止めて、アタシの方に振り向いた。
その隙に男は逃げ出した。
それを見てもシンジは追い掛けようとはせずにアタシの方を見ていた
あー
単なる好き嫌いだけど、俺あんまシンジの性格・キャラが変わっちゃうLASすきじゃねーや・・・
転校生ガンバ!
性格変わるとシンジって感じがしない・・・
暴力とか振るっちゃダメだよ
スパシンとLASって相性悪いよな
まだ僕口調なだけいいけどね。俺シンジはキツいし
しかしエヴァに乗って暴走するシンジはカッコイいのに、生身のシンジが暴走すると、ツラく見えるのは何故だろう…?
715 :
680:2008/08/23(土) 22:18:04 ID:???
第参話
『太陽と海と貴方に愛を〜アスカの行動〜』
Gパート
アレから(前話参照)暫くたって、アタシとシンジが波打ちきわに座っている。
アタシはとりあえず、お礼の言葉を口にする
「……アリガト…」
あんまり感謝の言葉をした覚えの無いアタシには、これが精一杯だった。
そんなアタシを見ながらシンジは
「うん…」
とだけ言った。
アタシは照れ隠しのつもりで疑問に思った事をぶつけてみる事にした。
「アンタ…何でそんなになったの?」
素朴な疑問だけど、気になったのは確か何故強くなったのか?
シンジは静かに語り出した。
「あの時さ…僕は守りたい物を守れなかった…僕は変わろうと思ったんだ…臆病で弱虫な自分を変えて、大切な人を守ろうとね。」
右手を見つめながら、開いては閉じてを繰り返しながらシンジがそう言った。
アタシは正直に思った事を聴いてみた。
「そっか…その大切な人って誰なのよ?」
一番聞きたい疑問で、一番聞きたく無い疑問をアタシはあえてしてみた。
「………アスカ…」
シンジがポツリとこぼした一言だった。
それが、アタシには嬉しい一言だった。
アタシは思わず涙を溢しながらアイツに抱きついた。
716 :
680:2008/08/23(土) 22:35:39 ID:???
第参話
『太陽と海と貴方に愛を〜アスカの行動〜』
Hパート
今のアタシの顔は真っ赤になってるんだろうなぁ…と思いながら
「…お礼、ちゃんとしてなかったわよね?」
シンジの胸に顔を埋めながら、アタシは言った。
「お・おお礼ならいいよ…」
シンジも照れてるのか、うまく喋れてないようだ
それでも、アタシは続ける
「アンタが良くても、アタシがしたいって言ってんだから、アンタは素直に受けとんなさいよ!」
少し強めな言葉だけど、アタシらしくするなら、これくらいが丁度だから…
「わ…わかったよ。」アタシ強気は、まだシンジに通用するみたいね
「それじゃ、目をつむっててよ!!」
シンジは正直に目をつむった。
『chu-』
「これで、仮は返したわよ♪」
あの日から二度目のキスはなんだかしょっぱかったけど、今のは最高のキスだと思った。
太陽がアタシ達、二人照らしてくれてる
『太陽と海と貴方に愛を』
第壱部 完
>>714 >しかしエヴァに乗って暴走するシンジはカッコイいのに、
そか?
まぁ、LASなんて妄想なんだから、よりリアルな夢を見たいんだよ。
第一部も終わったようだが、暴走せんでも(せん方が)綺麗に収まっただろに。
うむ、俺もエヴァに乗って必死に戦ってるシンジは好きだ
スパシンの生身の暴力とはまた違う、色々と
ともあれ職人さんは乙です
常にマンセーはできなくて申し訳ないですが、
そーいうのも糧にしてまた頑張ってくれると凄くありがたいス
文体がケータイ小説なのはどうにかならんか
>>720 同意
申し訳ないけど鳥肌たったよw
でもLASでは臆病で弱気なシンジくんでいて欲しいんだよなぁ・・・
アスカがレイプされてもなんか止めにいけなくてごめん的な・・・
注文の多い読者ですいません。職人さんGJです。
転校生ガンバ!
>なんか止めにいけなくてごめん的な
それはそれでどーかと思うがw
>アスカがレイプされてもなんか止めにいけなくてごめん的な・・・
最後に順番を待ってたりw
氏ね
普段は気弱だけど、いざという時はカッコイイのが好き
順番を上げるために戦うんでつねw
>>713 LAS系統のスパシン断罪厨御用達の唯我独尊ってのがあるぞ。
無名の人とタヌキのはちょっと違うと思うがな。でもその二人を
カムイや霜月梓あたりと一緒には出来ないか。
蒸し暑さが続く夜
少年は“ナイフ”を持って少女の部屋の前に立っていた。
『ギラリ』
と妖しい光るナイフ
「今日も…無理だったか…」
少年は少女の部屋を後にする
一方、少女の部屋では、ベッドの中で“カッターナイフ”の刃を、月明かりにギラつかせ握りしめていた。
少年の気配が消えると共に少女はカッターナイフの刃を収め眠りに着いた
「意気地無し…」
の一言を残して。
『憎愛ENDの果てに』
Act 1
朝、少年は眼を覚まし朝食の支度をしていた。
次に眼を覚ました少女が朝のシャワーを浴びに行く。
その間に少年と少女の保護者の女が眼を覚まし、少年が作った朝食を食べていた。
そして、シャワーから上がった少女が朝食をとり、少年も続いて朝食をとった。
お互いに朝食を済まし、それぞれが学校へ行く支度をする
しかし、少年の鞄の中には例の“ナイフ”が入っていて、少女のスカートのポケットの中には“カッターナイフ”が入っている。
728の作品にはグロイシーンが含まれてます。
730 :
728:2008/08/24(日) 19:56:10 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
Act 2
少年と少女は、端から見れば互いに仲良さそうに登校しているように見えるが
実際の所は、互いが互いに牽制しあっていた。
だが、牽制の理由は相手が隙を見せた時に狙えるようになのだが
少女はやがて友人である“おさげの少女”に出会い共に学校へ向かって行った。
一方、残された少年も学校へ向かっている。
途中で少年の友達である“ジャージの少年”と“メガネの少年”と合流し一緒に学校へ向かって行った。
少年は学校に辿り着くと自分の席に鞄を置き、辺りを見回した。
すると、少年の視線の先に“蒼銀の髪の少女”を見つけ話かけに行った。
それを見つめる少女の存在に気付かずに…
この時に少年は愚かにも隙を見せていた。
少女は「チャ〜ンス…」と誰にも聞こえないくらいに呟いて少年に近付いて行った。
731 :
728:2008/08/24(日) 20:39:15 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
Act 3
なおも少年は少女の気配に気付かずに“蒼銀の少女”と話していた。
少女はワザと少年にぶつかった。
少女とぶつかった少年は、突然の痛みに顔を歪ませながら床に膝を着いた。
少年の脇腹には“カッターナイフ”が突き刺さっていた
ポタポタと床に落ちる鮮血にクラスの皆は静まりかえっていた。
少女は少年を刺した時に感じた肉の感触に恍惚の笑みを浮かべトリップしていた。
少年は飛びそうになる意識を振り絞り必死に這いながら自分の机に向かって行った。
自分の机に辿りつくと鞄の中から“ナイフ”を取りだし、霞む眼で力の限り少女に向かって投げつけた。
少女は飛んで来る“ナイフ”に気付きとっさに避けて、後ろの掲示板に突き刺さった。
だが、間一髪避けたと思われたが、首にカスって首筋から鮮血が吹き出し、その場に倒れふしてしまった。
その光景に教室は騒然となり、パニック状態に陥っていた。
その中で“蒼銀の少女”は冷静に、ある所に電話をしていた。
それから、少しして救急車がやってきた
732 :
728:2008/08/24(日) 21:11:16 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
Act 4
少年が眼を覚ましたのは病院だった。
少年は生きていた自分に呆れるように呟いた
「まだ、生きていたのか…」
そんな時、部屋をノックする音がし、少年の保護者である女が入って来た。
女は少年のベッドの前まで来ると、簡易式のパイプイスに腰掛けて静かな口調で喋りかけた。
「貴方達がした事…わかってるわよね?」
少年は小さく
「はい…」
と、だけ答えた。
次に少年が女に語りかけた。
「あの…アスカは、どうなったんですか?」
それに女は答えた
「アスカなら、シンジ君の目覚める3日前に退院したわ」
その答えに少年は
「そうですか…」
とだけ答えた。
そして、女は冷たく言葉を発した。
「シンジ君のした事は許される事じゃないわ。
それに、貴方が此処に居ても居場所はきっと無いわ。
だから、貴方は退院したら元居た場所に帰りなさい。
そして、4年間頭を冷やして貴方の誕生日になったら、この場所に来なさい。」
と言って紙切れを少年に渡した。
「はい…」
と言って紙切れを受け取った。
それから、数ヶ月して少年は退院して、元居た場所へ帰って行った。
733 :
728:2008/08/24(日) 21:48:51 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
Act 5
あの事件から4年の月日が経ち、少年は青年になっていた。
そして、自分の誕生日の日に青年はある所に向かっていた。
青年の眼には決意の意思がこもっていた。
その頃
少女は女になっていた。
そして、女はドイツに返されていて、今日、日本に戻る約束になっていた。
あの頃の傷が跡になり、それを擦りながら飛行機乗って窓を眺めていた。
そして、女はポツリと呟いた。
「アイツ…来てるかな?」
そろそろ、飛行機は日本のある空港に着陸した。
青年はロビーで待っていた。
今の青年の手には“ナイフ”ではなく、“小さな箱”が握りしめられていた。
そして、青年は
「そろそろだね」
と、呟きながらゲートに向かって歩き出した。
そして、青年と女は4年越しの再開を果たし青年は握りしめていた箱を女に渡した。
「久しぶりだね。あれから、僕は僕なりに考えて、この結論に行き着いたんだ…良かったら、コレを受け取ってくれないかな?」
と、頬を朱くそめながら
女は
「アタシも、アンタと同じ想いだったと思う…でも、シンジが良かったら、アタシはコレを貰うわ」
と言って小さな箱を受け取った。
あの頃の少年と少女には思いの感情が幼すぎた為に、お互いを傷付けるしか無かった。
そして、命を手に入れて自分の物にするという考えしか思いつかなったのだが、4年間の期間が彼等を大人にして、もう一つの結論をだした。
それは、お互いに結ばれる事だった。
憎しみでは無く、愛に気付き、子供の頃に終わりを告げて、その果てに向かって行った。
完
734 :
728:2008/08/24(日) 22:28:09 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
おまけ、その1
そこには、ロケットの蓋をあけて、そこに映る写真を眺める男性の姿があった。
それから、少ししてドアをノックする音がしたので、音のする方に向いた。
ドアの向こうから
「支度が整いましたので、おいで下さい。」
と言われたので、ドアを開けて廊下に出ていった。
そして、真紅のドレスに身を包む女性を見つめ
「綺麗だ…」
と、言葉をこぼした。
女性はベール越しに
「ありがと♪」
と答えた。
今日は二人の結婚式の日だった。
二人はお馴染の結婚式のテーマと共に入場し、ゆっくりとヴァージン・ロードを歩いて行く。
男性は緊張している様子で、方や女性の方は堂々としている。
そして、神父の前に辿りつき、神父がお決まりの“誓いの言葉”をするのだが…
ちょっとした事件が起きてしまうのだった。
神父が
「汝は健やかなる時も、また、病める時も死が二人を分かつまで妻とする事を誓いますか?」
「ハ・ハ…ハハイ」
あまりに緊張してしまった為に、どもってしまったのだった。
そして、男性を女性に移すと、女性はプルプルと震えている…かなり怒っているようだ…
735 :
728:2008/08/24(日) 22:57:39 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
おまけ、その2
男性の額からサーっと血の引く音がしていた。
辺りからは、クスクスと笑いを堪える声が聴こえてきたが
神父は構わずに続けた
「えーっと…コホン。
汝、健やかなる時も、また、病める時も、死が二人を分かつまで夫とする事を誓いますか?」
彼女は、ハッキリと答えた
「誓わないわ!!」
彼女の言葉で辺りは静まりかえった。
神父はオロオロして、新郎は、さっきのせいだと深く落ち込んで居た
それでも彼女は胸を張り左手は腰に当て、右その人差し指は神父に向けて
「なぁ〜にが、死が二人を分かつまでよ!!死んでからもシンジはアタシの夫よ!!それに…アンタも、どもってんじゃないわよ!!」神父をまくしたてながら、ついでに新郎のダメ出しをする所が彼女らしかった。
だれかしらが笑い、それに釣られるように笑いがこだまし爆笑の渦に巻き込まれていた。
この笑いが沈静化するまで数十分かかったらしい。
そして、気を取り直しして神父の言葉が初めから再開される
「汝、健やかなる時も、また、病める時も、また、死が二人を分かっても、妻とする事を誓いますか?」
今度は
「ハイッ!」
新郎は噛まずに言えて満足そうにしている。
続い
736 :
728:2008/08/24(日) 23:13:13 ID:???
『憎愛ENDの果てに』
おまけ、その3
続いて
「汝、健やかなる時も、また、病める時も、また、死が二人を分かっても夫とする事を誓いますか?」
新婦は答えた
「そんなの、あったり前じゃないの!!」
何処までも彼女らしさに、また、教会が笑いに包まれた。
神父は天を仰ぎ額に手を乗せて
「ジーザス…」
と、一言もらして首を振った
またもや、沈静化させるのに数十分の時間を要したのだった…
そして
メインである
“指輪の交換”をして
“誓いのキス”をするべく、新郎は新婦のベールを捲り二人は“誓いのキス”を交した。
包まれる暖かい拍手に見送られながら教会から出て、新婦の瞳の色と同じ雲一つ無い蒼空に向かってブーケを放り投げた。
二人の愛が永遠に続きますようにと祈りを込めて。
今度こそ本当に『完』
『憎愛ENDの果てに』の、おまけ・その2と3が途中で文章が切れた事を深くお詫び申し上げます。
乙!
転
校
生頑張れ
保守!
保守
期待してるよ
保守
743 :
680:2008/09/10(水) 00:23:14 ID:???
第弐部
シンジの決意〜君の為に強くなる〜
第壱話
全てが終わった世界
そして
全てが始まろうとする世界の中で僕は居る
誰も守れなかった自分に嫌気を感じながら僕は思った
せめて隣に居る人を守れるくらいに、僕は強くなりたいと…
それから僕は毎朝、走り込むようになった。
それしか僕には思い付かなかったトレーニング方法だったから
あの時から何日が過ぎたか解らないけど、僕と君の二人だけの世界が変わろうとしていた
それは、今日も僕が走り込んでいた時の事だった
いつものように浜辺を走っていると、波打ち際に男性が一人打ち上げられていた。
その男性は、僕が良く知っている人物である『加持 リョウジ』であった
続き期待
745 :
680:2008/09/11(木) 22:50:53 ID:???
シンジの決意〜君の為に強くなる〜
第弐話
僕は急いで加持さんの元へと駆け寄ってみたが、気を失っているらしく反応はなかった
僕は加持さんに肩を貸す形で家に帰って行った
日頃のトレーニングのお陰か、途中でバテる事もなく家にたどり着いた
僕は早速ソファーの上に加持さんを寝かせ、濡れタオルを頭に乗せた
それと同じくして、アスカが居間に姿を現した
「おはよ…って!!加持さんじゃないの!どうして…」
アスカは寝起きの事もあってか状況を把握していなかった
「あっ…朝、散歩してたら偶然倒れてる所に出くわして…そ、それで家に連れて帰ったんだ」
僕は敢えてトレーニングの途中で、とは言わなかった
>>745 乙
ってかなんで職人の方はLASSSではシンジをマッチョにさせたがるの??
こんな弱いぼくだけど頑張ってアスカを守るよじゃないのか・・・
まあ人それぞれじゃない?
パイロットが格闘訓練してるとか本編じゃ見たことないけど、SSならけっこうあるしな
>>746 >シンジの決意〜君の為に強くなる〜
ってタイトルで強くならなかったら詐欺だw
マッチョとは限らんだろうよ
test
アスカの日記が…落ちてる orz
上がったの間違いじゃないのか?
『I miss you』
そのフレーズが心に響く
「…貴方が、居ないと、寂しいの…か…」
そうね、神様だけが知ってるアタシの本当の気持ち。
…アイツは絶対絶対ぜーーっったいに!!気付いてないんだわ!だってトロいし!鈍いし、鈍感だし…
「…寂しいの、か…」
携帯が鳴る。飛び付いて着信を受けると、久し振りのシンジの声。
「あ、アスカ。元気?ちゃんとご飯食べてる?お風呂は…」
「…何よアンタ!まるで口煩い姑みたいにポンポン言うんじゃないわよ!」
嬉しい。嬉しくて涙が出そうになるのを必死で堪えてるから、ついぶっきらぼうな声になる。
「今休憩なんだ。少しでも話しようと思って…あ、はい!ごめんアスカ、ちょっと待ってて」
でも、もう限界だった
「…神様だけが、知っている…『I miss you…』」
ぽつりとそのフレーズを歌ってしまう。暫くの沈黙。そして気付いた。さっきからシンジの仕事の話が止まっていた事に
「…あ、あ…」
「…アスカ」
「ち、違うわよ!かかか勘違いしないでよね〜さっきCMで聞いたからつつつい口ずさんだだけなんだから!違うわよ!違う!違うったら!!」
「…アスカ、ちょっと待ってて」
シンジが走り出す靴の音が聞こえる。
わくわくてかてか
終わりです
走ってる靴の音が次第にゆっくりになって、やがて止まった。
「ふう…ここなら、いいかな…?ごめんアスカ。お待たせ。あの、さ、笑わないで、ね?」
「…何よ?」
「聞いてて、くれる、かな?」
「何よ?早くしなさいよ」
「携帯から、耳を離さないでね?」
初めて聞いた、シンジの歌う声
大好きだから、ずっと
何にも心配要らないよ
My ダーリン Stay Gold
無邪気に笑って下さいな…
「…どう…かな?」
「…ダーリンの発音が違うし、アタシはダーリンじゃないわよ…」
「僕、あんまり上手くないから、あの、ごめん…あれ?アスカ?」
…寂しいのと嬉しいのと、ぐちゃぐちゃになって、訳分かんなくなって、電話口でわんわん泣いた
「もうすぐ戻るから、待っててね。帰ったら、休み取るから、一緒に何処か行こう?」
「…うん…」
「必ず帰るから。ちゃんと、えっと、あの、アスカの所に帰るからね」
「…うん…」
「それが2人のナレソメ?」
「そうだよ」
「ふうん。普段お母さん、あんなにお父さんを殴ってるのに」
「あれは「照れ隠し」だよ」
「あっバカシンジ!!何ばらしてるのよ!?」
仲良し両親を見て、将来自分もこんな夫婦になりたいと思う子供でしたとさ。
ごめん。ウタダの歌嫌いな人がいるかもなのにネタに使うし、一番最初が書き込めて無い上によくあるオチ、とどめは携帯厨なので空気読まずに投下してしまったorz
万死に値するな
吊ってくる
…シンジに会えない。
「ごめんアスカ。どうしても抜けられなくて。この埋め合わせはきっとするから」
「…別に?平気よアタシは。それよりアンタの方が寂しいんじゃないの?寂しくて泣いちゃったりしてね〜?」
「な、僕は大丈夫だよ!じゃ、行って来る!」
そう言ってアイツは飛行機で1ヶ月の出張。アタシは独りぼっち。でも平気。寂しくなんて無い。
だって好きな物食べられるし、好きなテレビ見られるし、好きな時間にお風呂入れるし、むしろ居ない方が清々していいわ!
「…嘘」
この部屋って、こんなに広かった?
「…嘘」
何もする気になれなくて、ずっとソファに凭れ掛かってるのは何故?
「…嘘」
外は真夏なのに、冷房点けて無いのに、どうしてこんなに寒いの?
「…嘘、ばっかり…」
点けっ放しのテレビから声が聞こえる。
私の声が、聞こえてますか
深夜1時の、Heart station
チューニング不要のダイヤル 秘密のHz
…ああはいはい只でさえ辛気臭いのに、そんなしんみりした曲なんか聞きたくないわよ。
でも消そうとした時に聞こえたフレーズがアタシの手を止めた。
神様だけが知っている 『I miss you』
「…貴方が、居ないと、寂しいの…?」
がむばれ、がむばれ!
>>705 13.
家を出ると、数メートル先にアスカがいた。ほとんど同時に家を出たらしい。
「アスカ」と、声をかけると、アスカはパッと振り返った。その仕草は、何回見ても少しドキリとする。
「どう? 自信はある?」
今日は期末テストの日なのだ。
「べっつに〜〜」
アスカは大げさな素振りで手を広げてみせた。
「言ったでしょ? 私はドイツで大学卒業してるんだから、中学レベルのテストなんざどーでもいいの」
「そうだったね」
僕は頷いたけど、せっかく一緒に漢字の勉強をしたのだから、アスカにはいい点を取ってもらいたい。それが人情というものだろうと思う。
「まっ、でも、せっかくあんたみたいなボンクラが無い知恵を絞って教えたんだから、それなりに頑張るわよ」
僕は少し笑って、「ありがとう、アスカ」と言った。
「何であんたが礼を言うのよ、バカッ」
アスカは少し顔を赤らめた――ように僕には見えた。ケンスケなら、きっと希望的観測と言うだろう。
教室に入ると、みんな難しい顔をしているのが目に入った。まぁ、テストの日に笑顔の人もそうはいないと思うけど。
「よっ、調子はどないや、センセ」
トウジが頭の後ろで組んでいた腕をほどいて、僕に向かってひらひら手を振ってみせた。傍目には余裕のポーズだけど、単に諦めてるだけだと分かる。
「まぁまぁ……かな」
「お前がうらやましいわ。わしもそないな台詞、言えたらなあ」
トウジがため息をついた。
「別に、そんなに自信があるわけじゃないよ。そうだ、トウジも分からないところを委員長に教えてもらえばいいのに」
トウジはギクリと身体を強張らせた。
「ヘ、ヘンなこといわんでくれや。そないなことになったら堪らんわ。だいたいあいつに……」
「待ちたまえ、ワトソン君!」と、ケンスケが眼鏡を指で押し上げつつ会話に加わってきた。
「今の碇シンジ君の台詞には重要なヒントが隠されている!」
「ワトソンって俺か」
トウジがぽかんとした顔で言った。
「そうだよ、君。君以外に誰がいるのかね? さて、今、碇シンジ君は"トウジも"と言った。"も"というのは二つの可能性がある。
一つ目は委員長に意味がかかっている。つまり、碇シンジ君は委員長から勉強を教えてもらっているという意味だ。
しかしこの可能性はない。なぜなら委員長はワトソン君に手取り足取り教えているからね」
「ぶっ」トウジは咳き込みはじめた。「お前、何を……」
「二つ目は"教えてもらう"に意味がかかっている。トウジも僕みたいに教えてもらえば?ということだ。
この場合、問題は、誰に教えてもらっているのかということなのだが……」
ケンスケの眼鏡がキラリと光る。
僕は慌ててケンスケの台詞を遮ろうとした。しかし、熱の入ったケンスケは聞こうとしなかった。
「ケンスケ、うしろ……」
「そう! 勘の鋭い諸君ならもう分かっておられるだろう! 碇シンジは、そ……いてっ!」
「碇シンジは、じゃないでしょ! さっさと席に着きなさい!」
葛城先生からゲンコツを頭にもらったケンスケは、「はーい」と呟くと、しょんぼりと自分の席に帰っていった。
危ないところだった。思わず冷や汗をかいてしまった。
しかしケンスケのやつ、どうやって気がついたのだろう?
あとでケンスケに口外しないよう言い含めておかなければいけない。何らかの代償が必要になるだろうけど……。
午後のテストがはじまるまで十五分程度あるのを確認して、僕は席を立った。今のうちにトイレに行っておこうと思ったのだ。
周囲を見ると、中にはすでに諦めている人もいるものの、だいたいは真面目に勉強を――最後の悪あがきと言ったほうがいいかな?――している。
僕はドアを開けて、廊下に出た。
すこし歩いて、そして――立ちすくんだ。
言葉では説明できない、途方もなく不吉な予感に全身が包まれたのだ。得体の知れない爬虫類系の生き物に首筋を舐められたような感触だった。
眩暈がした。口の中がからからに渇いていた。
「な、なんだ……。なんだこれ」
身体がこれ以上進むのを拒んでいた。その場にへたり込まないように、壁に手をつかなくてはならなかった。
一瞬、迷った。このまま進むか、教室に戻るか。理性で考えれば馬鹿げた話だ。なんでトイレに行くのに不吉な予感がするんだ?
それとも、身体の調子が悪くなったのだろうか?
僕は決めた。
――止めておこう。次の科目が終われば行けばいいだけの話だし、だいたいそんなに差し迫ってるわけじゃないんだ。
教室に戻ると、さっきの妙な感触は嘘のように消えてしまった。消えてしまうと途端に恥ずかしくなってきた。
今の奇妙な行動を誰かに見られたのではないかと、ついきょろきょろと周りを見てしまった。
ふとアスカと目が合った。アスカはすぐに目を逸らせて、隣の子とお喋りをはじめた。
僕を見てた? 何をしてるのかと不審に思われたのかも知れない。
やっぱりトイレに行っておくべきだったかな、と後悔していると、
「はじめるぞ。さ、教科書をしまうんだ。人間諦めが肝心だぞ!」と、加持先生が教師にあるまじきことを言いながら教室に入ってきた。
いずれにせよ、もう遅い。僕はため息をついて、テストの準備をはじめた。
13’.
学校まであとニ、三分というところだった。今日はテストの日で、私たちの話題もそのことについてだった。
いったん会話が途切れたあと、シンジが遠慮がちに、「その、前からちょっと気になってたんだけどさ」と切り出した。
「ん。なによ」
「え、と……。アスカって、左目をつむる癖、あるよね」
「はぁ? そんなクセなんて、ないわよ」
いったい何を言い出すのかと、シンジを睨みつける。
「いや、あるよ。自分では気付いてないだけさ」
シンジは頑固に主張した。こいつは、たまに何かを思い出したように頑固になるのよね。
私はぱちぱちと瞬きした。
「そんなこと言われたの、はじめてなんだけど」
「そう? おかしいなぁ。結構目立つクセなんだけど」
私は反論しようとして口を開きかけた。
そのとき、ふいに――。
左目の視界がぼやけた。まるで目薬を差したときのように、世界が曖昧になった。
私は左目を押さえて立ち止まった。あえて言えば少し熱をもっているような感じだったけど、痛みはない。
「ど、どうしたの、アスカ?」
シンジが動揺して私の顔を覗き込んだ。
「……どうもしないわよ」
私は目を押さえていた手をすぐに離し、その手でシンジのお腹にパンチを打つフリをした。
実際、左目の視界はすぐに回復したのだ。本当にぼやけたのかどうか怪しく思えてきたほど一瞬の出来事だった。
「やめてよ、心配したじゃないか」
シンジがほっとした顔で言った。
「あんたがヘンなこと言うからでしょ!」
シンジはヘンなことじゃ……と途中まで言って口を濁した。後悔している様子だった。
「昔怪我したとかじゃないよね……?」
「ないわよ。何でそんなに気にするのよ」
「いや、何となく……」
シンジは口ごもっている。私は肩をすくめた。ヘンなやつ、と私は思った。
シンジにはどうもしないと言ったけど、私の心には不安が渦巻いていた。漠然とした不安。
左目をつむるクセがある? ママにもパパにも言われたことがない。しかし、シンジはやけに確信があるような口調だった。
一瞬だけど、視界がぼやけた。あれは何だったんだろう? 私の目は実は悪いのだろうか?
私は思い切って、ヒカリに訊いてみることにした。
「ね、ヒカリ。ヘンなこと訊くようだけど、私って左目をつむるクセとかある?」
「え――!?」
ヒカリの驚く様子に、逆にこっちが驚いた。
「何でそんなこと訊くの?」
「いや、シンジに言われたから」
「碇君に――」
ヒカリは呟くと、うつむいた。
「ヒカリ――?」
「そんなクセ、ないよ。碇君の、見間違いじゃないかな」
ヒカリは顔を上げると、笑顔でそう言った。その笑顔が、なぜ強張って見えるのだろう?
「そう? ならいいんだけど」
私はほっとしたけど、どこかに不安な気持ちもあった。
その不安は、昼休みに的中した。
お弁当を食べ終わるとヒカリはすぐに教科書を広げはじめた。まったく、真面目なコね。
私は試験勉強なんか今さらする気になれない。
とはいえヒカリの邪魔をするわけにもいかず、この雰囲気に耐えらなくなった私は、外に出てぶらぶらすることにした。
「どこ行くの、アスカ?」
「んー、ちょっとお手洗い」
ヒカリは何か言いたそうな顔で私を見たけど、結局何も言わなかった。
廊下にはほとんど誰もいなかった。きっとみんな教科書でも見ているのだろう。
凡人はタイヘンよね、と呟こうとした、そのときだった。
目の前の景色が、まるで映画の特殊効果のように、激しく歪みはじめた。
「なっ、なによこれ……」
私はよろめきながらトイレに駆け込んだ。幸い、誰もいない。洗面台に手をついて激しく呻く。
左目に痛みが走っている。激痛だった。
呻きながら鏡を見ると、私が物凄い表情で私を睨んでいた。
「畜生」と、私は言った。
「あいつら……」
"あいつら"が誰とも分からずに口をついて出た。
「殺してやる」
「殺してやる」
「殺してやる」
「ちくしょう」
「ちくしょう」
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」
髪の毛の先端から足のつま先まで、混じりけの無い、ある純粋な感情に私は満たされた。
純粋な感情――吐き気を催すような憎しみに。私はいわば憎悪の結晶と化したのだった。
私はちくしょうと叫んで、鏡を思い切り殴りつけた。鈍い音を立てて鏡が割れた。鏡の破片の中には、目を押さえて
鬼のような形相をした私が私を睨みつけていた。
右手から血が流れ出し、鋭い痛みが走る。いや、痛いなんてもんじゃない。痛さを通り越して、炎にあぶられているように熱い。
私はよろめきながらトイレを出た。
廊下に出ると、私の姿を見た生徒の口から驚きの声が上がる。
「ちょっとあなた、手、怪我してるわよ!?」
「黙れ」
私はその生徒を突き飛ばし、廊下をふらふらと歩いていく。
目が痛い。とてつもない痛みだった。
手が熱い。信じられない熱さだった。
この痛みを、熱さを、どうにかしなければ。
そのとき、私は気がついた。痛いとか熱いとかじゃない。これは、憎悪。左目と右手に憎悪が固まって、それを痛いとか熱いとか感じてる。
いや、どっちでもいい。そんなことは。
どうにかしなければ。
どうにかしなければ、私は。
誰か。
誰か――。
「あ……?」
誰かがいる。馴染みのある姿。あれは、
「シンジ……」
私は廊下の向こうにシンジを認め、思い切り叫んだ。
「シンジ!」
「あ……アスカ!?」
シンジは一瞬立ちすくみ、それからこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと、いったいどうしたの? 手から血が……」
驚き、慌てているシンジに向かって私は両手を伸ばし――
その細い喉を掴んで思い切り締め上げた。
「ア……アス……なに……」
シンジは驚愕の表情を浮かべて私の手首を掴んだ。
「目が、痛いの」と、私は言った。
「手が、痛いの」と、私は言った。
「この痛みは、誰のせいなの?」と、私は呟いた。
「あんたのせいよ」と、私は呟いた。
「肝心なときにあんたがいなかったせいよ」私は、言葉を吐き出した。
「シンジ。あんたがいなくなれば、この痛みもなくなるのよ!」私は、内臓を吐き出すように、言葉を吐き出した。
シンジの目が大きく見開かれた。それからふっと力を抜いて、何か私に言った。
何と言ったのか、私の耳には届かなかった。
何でもいい、そんなことは。
早く、シンジを――。
誰かが、悲鳴を上げている。甲高い、女の声。
誰よ? うるさいわね。
今、手が離せないんだから。
もうちょっと力を込めれば――。
だけど、女の悲鳴が邪魔になって、集中できない。
うるさい。
まるで耳元で聞かされているみたい。
うるさい、うるさい、うるさい!
何でそんな声を上げるのよ!? 力が入らないじゃない!
うるさいと怒鳴ろうとしたけど、何故か声が出ない。
もうちょっとなんだから。
あと少しで――。
――あと少しで、何?
そのとき、私は気がついた。
悲鳴を上げているのは、私だった。
何をしているの、私は!?
慌てて手を離そうとしたけれど、貼りついたように動かない。
「何で、何でよ!」
何で離れないのよ!
私は悲鳴を上げた。絶叫した。
誰か――。
誰か、私を止めて!
私の手首を掴んでいたシンジの手が、支えを失ったようにだらりと垂れ下がった。
私は、もう一度、悲鳴を上げようとした。
と、突然、バチッという音と同時に全身に衝撃が走った。
身体から力が抜け、目の前が暗闇に包まれた。
私には聞こえなかったはずのシンジの言葉が、意識が無くなる直前の私の脳裏をかすめて、消えていった。
「これも計画のうちですか、副司令? それとも所長といったほうがいいのかしら」
「むろん計画外だ。修正がきくかどうか、頭の痛いところだよ。それから、ここでは校長で頼む」
「誰に聞かれても支障はないでしょうに」
「私にあるのだよ。あそこを思い出していかん」
「たまには思い出さないと、忘れてしまいますわよ。思い出は、人間が人間らしくあるための砦。最後のそれかどうかは知りませんけど。
――それにしてもシンジ君がああいうことを言ってしまうとは、ね。何とかなりませんでしたの?」
「彼以外は当然禁則事項にしていたのだがね。当の碇シンジでは手が出せんよ」
「ある意味、神様ですものね。ここではあなたが神様なのに」
意地の悪そうな笑い声が響いた。
シンジ? シンジの名前を聞いた途端、私の身体を恐怖が走り抜けた。これまで経験したことのないような種類の恐怖だった。
「笑いごとではないよ。君たちには喜劇であっても、我々にとっては未来がかかっているのだ」
私は必死に声を出そうとした。しかし、喉だけでなく、身体のどの部分も動かせそうにない。
頭もぼーっとしてうまく働かなかった。いったい何の話をしているの? それに、私は、何を――。
「で、どうなさいますの? もう――」
「まだ取り返しはつく。記憶を消すしかあるまい」
「科学とは便利なものですね。どこかのSF作家の台詞ではありませんが、ここまで発達すると魔法と見分けがつきませんわ」
「それでも、世界は救えんのだ。驚くことにね」
男の声に、苦いものが混じった。
「あら、そうでしたわね。皮肉のつもりはなかったんですが」
「ああ、分かっているよ」
私はどうにか目を開けて声のする方を見た。視界はぼやけていたけど、二人の男女が私を見つめているのは分かった。
「あら。目を覚ましましたわね。これも本来なら有り得ないことでは?」
「そうでもない。彼女もコントロールがきかない存在なのでね」
女のほうは何も答えず、私の枕元に歩み寄ると、まるで熱を測るように私の額に手を置いた。
「次に目を開けたときには、嫌な気分は消えているから安心しなさい」
手が下にずれて、私の目を塞いだ。
「眠るのは得意でしょう? 今までやってきたことですものね」
私は叫ぼうとした。
しかし、必死の努力もむなしく、私の意識は再び暗黒へと舞い戻っていった。
「おやすみなさい、アスカ」
これほど感情のこもっていない"おやすみなさい"を、私は聞いたことがない。
知らない場所だった。殺風景で白い部屋。カーテン。私はベッドに横になっている。
眠っていた? いや、そんなことはない。そもそも眠りに落ちた記憶がない。
「あ……」
私は呻いて、上半身を起こした。
「あら、お目覚め? 今起こそうと思ってたところなのよ」
にこやかに話しかけてきたのは、確か伊吹なんとかという保健室の先生だった。
「え、と……。私……?」
「どう? 眠気はとれた?」
先生は椅子から立ち上がると、私が寝ているベッドのところにやってきた。
「はい?」
私は目をぱちぱちとしばたたかせた。
「どうしても寝たいっていうから寝かしてあげたけど、今回だけですからね?」
伊吹先生は、いたずらした子供を軽く叱るような顔つきをした。
私……そんなこと言ったっけ? 全然記憶にない。
いや、違う……確かお昼休みになったら急に眠たくなって……。
そう、そうだ。それで先生に頼み込んで横になったんだった。思い出した。何でこんなことを忘れてしまうのだろう。
「あ、惣流さん。昼休みはあと10分しかないわよ! そろそろ教室に帰らないと」
時計を見て先生が言った。はーいと私は答えて保健室を出た。
まだ少し頭がぼやけている感じがする。
「あら、惣流さん。こんなところで油を売っている暇があるのかしら?」
保健室を出てすぐに、赤木先生とすれ違った。少しあきれた様な感じで言われてしまう。
「油なんか売ってません!」
私はそう言うと、教室向かって早足で歩き出した。ぺろりと舌を出す。
しょうがないじゃない、あんなに眠かったらどうしようもないっての。
ふと、右手を顔の前まで持ち上げて、まじまじと見つめた。いつもと同じ、傷一つない、キレイな手だった。
なぜ急に手を見たくなったのかは分からない。
教室に入る前に、私は後ろを振り返った。赤木先生が顔をそむけ、保健室に入っていくのが目に入る。
私が振り返るまで先生は私を見ていた。その目つきが私には気に入らなかった。
それはまるで――。
私は奇妙な考えを振り払うようにかぶりを振った。しかし、しつこい汚れのように頭に染み付いて離れない。
そう、それはまるで私を観察していたような目つきだった。
おー!
すげえ転校生!!
期待期待!!
おっつ!続き期待
うおッ、こんな展開だったとは……
いままでよんでなかったけど、読み返してくるわ
GJ
続き町
転校生きてたのかGJ
いいねぇ…
>>773 14.
今日は期末テストの結果発表の日で、僕もケンスケもトウジもまぁまぁの成績だった。
トウジはかなりほっとした顔をしていた。何でも今度のテストの結果次第ではお小遣いが減らされる危機だったらしい。
「やっぱり委員長効果だな」
ケンスケが納得したようにうなずいた。
「だぁー! ちゃうわ!」
トウジが真っ赤になって否定する。
「お前は余計なこと言わんでええねん!」
へへっ、と笑うケンスケを、トウジが追い掛け回しはじめた。
僕はその様子を苦笑いして見つつも、アスカの結果が気になっていた。もしアスカが良い点を取れば、僕の即席家庭教師も終わるだろう。
もちろん、それでいいのだ。そのための家庭教師なんだし。
でも……。
「シンジ、駅前のゲーセンに行こうや」
"トムとジェリーごっこ"に飽きたらしく、トウジがケンスケにかけていたヘッドロックを解いて言った。うん、行こう、と僕は答えた。
寄り道したせいで、家に帰るころには時間は結構遅くなっていた。普段なら良い顔はされないけど、今日ぐらいは大目に見てくれるはずだ。
「あ、アスカ……」
偶然にも、ちょうと家に入ろうとするアスカとばったりと出くわした。何故かアスカと出くわすことが多いような気がするけど、気のせいだろうか?
アスカはよそ行きの服装をしていた。家族と一緒にどこかに出かけていたのかも知れない。
アスカは僕の姿を認めると、鼻に皺を寄せた。
「ったく、寝る前にあんたに会うなんて私もツイてないわね」
「そんなこと言わないでよ」僕は苦笑いした。「アスカ、どうだった? テスト」
アスカは下を向いて、「ダメだったわよ」と言った。腕を後ろで組み、脚を振り子のように振りながら、
「やっぱり日本語って難しいわね〜」
「……そう」
僕は肩を落とした。アスカの頭脳のほうは問題ないはずだ。やはり僕の教え方に問題があるのだろうか。
アスカの性格からして、僕のことをかなり罵るのではないかと身構えたけど、彼女はそんなことは何一つ言わず、咳払いして人差し指を僕につきつけた。
「あんたにはきっちり責任とってもらうからね。私のテストの点が良くなるまで、教えなさいよ」
「え? う、うん。分かったよ」
僕はうなずいた。心のどこかで良かったと思う自分に、罪悪感を感じながら。
「よし!」
アスカは満足そうにうなずくと、じゃあねと手を振って家に入っていった。
僕も踵を返すと、アスカの母親の姿が目に入った。やっぱり家族で出かけていたんだ。
「あ。どうも……」
何となく僕は慌ててしまった。大人に挨拶するのはどうも苦手だ。綺麗な人というのもあるのかも知れない。
「あら、シンジ君。いつもアスカがお世話になって」
「いえ、こちらの方こそ。その、アス……惣流さんに教えてもらっちゃって」
「そんな、とんでもない。この間のテストもすごく良かったのよ。シンジ君のおかげね」
「え……?」
僕はきょとんとした。点数が良かった?
「あら、アスカは言ってないのかしら?」
僕はもごもごと、ええ、聞いてますとか何とか言うと、挨拶もそこそこに退散した。
アスカの基準だと良くなかった、ということなのだろうか?
……まぁいいや、と僕は思った。テストの結果をどうとるかはアスカの自由だ。彼女がまだ勉強する必要があると思うのだから、その意思を尊重するべきだろう。
母さんに遅くなったのを詫びて食卓に着く。母さんが台所からテストはどうだったのと訊いてきた。
「そこそこかな。そうだ、アスカに責任とってもらうって言われちゃったよ」
僕の言葉を聞くと、たちまち母さんが血相を変えた。
「ちょ、ちょっと、シンジ。責任って……ど、どういうことかしら?」
「テストの結果の責任。僕が引き続いてアスカの家庭教師をやるってことだよ」
「ああ、そうなの。そうよね。そうに決まってるわね。いやだわ、私ったら……」
母さんは明らかにほっとした顔をして額の汗を拭った。そして、口元を手で隠してほほほと笑いながら台所に戻っていった。
いったい何だろう? 僕は首をひねった。母さんの反応の意味が分からない。風邪でも引いているのだろうか。
「どうした、シンジ。母さんの様子がおかしいみたいだが」
居間に入ってきた父さんが、台所をちらりと見て僕に訊いてきた。
「"アスカに責任とってもらうって言われた"って言っただけだよ」
父さんは遠い目で咳払いをした。
「責任……責任か。まぁ、男はいずれそういう時期が来るものだ。もちろん、シンジには早いが。俺も義父さんに会いに行くときは……」
「何言ってるの? 父さんも訳分からないこと言わないでよ」
僕は呆れて言った。母さんも父さんもどうかしているよ。
□
「ね」
「何?」
僕は顔を上げずに答えた。ちょうど難しい数学の問題を解いている最中だったからだ。
「ドイツの食事って言ったらシンジは何を連想する?」
「何、いきなり。……まぁ、ソーセージとか。あと、ザワークラウトだっけ? キャベツの酢漬け」
「あんたにしてはよく知ってる方ね。じゃあ飲み物は?」
僕は顔を上げた。何のアンケートなんだ?
「飲み物……。ビールじゃないかな。というか、ビールしか知らないけど、ドイツの有名な飲み物って」
「正解! ねぇ、シンジはビール飲んだことある?」
「ビール? ないよ。未成年だもの」
「えーっ、ないのォ!? まったく、あんたは見た目通りのお子ちゃまなのね」
アスカは呆れたように言った。
「何だよそれ」僕はむっとした。「アスカはあるのかよ」
「ばっかねー。あるに決まってるじゃん」アスカは勝ち誇った顔で宣言した。「この間までドイツに住んでたのよ」
「それが、何なんだよ。ビール飲んだから偉いの? 下らない。それこそガキっぽいよ」
「そういう台詞は飲んでから言うものよ」
アスカはほくそ笑みながら言った。すっかりお馴染みの、何か企んでいる顔だ。
「ま、あんたはお子ちゃまだから飲めないんでしょうけどね」
「バカだな。飲もうと思えば飲めるよ。ウィスキーとか日本酒とか、ああいう本格的なお酒はちょっとアレだけど、
ビールなんてアルコール度数も大したことないんだし。父さんだって水みたいに飲んでるよ」
「ふーん。そ」
アスカは急に立ち上がるとドタバタと足音高く部屋を出て行った。
「ちょっと、アスカ? どこ行くの?」
アスカはしばらくすると戻ってきた。手にはビールの缶が二本。
「じゃーん。飲もうと思えば飲めるって言ったわよね」
僕は呆気に取られた。
「アスカ、それ……」
「あ」しまったという顔でアスカは言った。「ツマミ、忘れた」