落ち着いてLRS小説を投下するスレ6

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1名無しが氏んでも代わりはいるもの
このスレはLRS(レイ×シンジ)小説を投稿するスレです。
他のキャラとの恋愛を絡めた話を書きたいのなら、相応しいスレに投下しましょう。

前スレ
落ち着いてLRS小説を投下するスレ5
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/eva/1164097545/

過去ログ

落ち着いてLRS小説を投下するスレ
http://comic5.2ch.net/test/read.cgi/eva/1083495097/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ2
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1110013621/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ3
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1146477583/
落ち着いてLRS小説を投下するスレ4
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1155597854

関連スレ

【恋愛投下】世界の中心で愛を叫んだけもの 第三章
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/eva/1167408006/
2名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/21(日) 00:46:55 ID:???
>>1
3前スレ963:2007/10/21(日) 11:22:02 ID:???
>>1、乙

前スレ977も締めの投下乙!
リクエストに答えてくれて感謝しています
4名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/21(日) 22:11:11 ID:???
条件しぼったんですか。
ま、前スレのラストがああだったし。

5名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/21(日) 22:56:18 ID:???
>1 条件
多少の寛容さは有っても良いと思うけど・・・
比較的反発有ったみたいだし、しょうがないのかな?

まあ前スレの投稿さんは乙でした。俺は楽しめたよ。
6前スレ593 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/21(日) 23:51:32 ID:???
条件を絞るのも悪くないと思います。
問題があるなら別のスレを立てればいいだけです。

というわけで、私のも反発というか問題が無かった訳ではないし、もはやスレ違いなので投下を中止します。
長すぎるっていうこともあったし。
7名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 00:05:08 ID:???
あんまスレ乱立させるのもなんだけど、ここはLRS小説を投下するスレだしな。
だけど前スレの977氏みたいなのは何処に該当するんだ?LRASかね?
8名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 00:07:14 ID:???
>>6
んー? リツコが出張りすぎとか言われたことー?
あんなんいいんじゃね?

まー593が熱意醒めたんならしょーがないけど
ここまで楽しめたから、とりあえず乙でした
9名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 00:18:08 ID:???
>>6
え、もう投下しないの?
オレは593の作品は楽しめたからちょっと残念だな。
またこのスレに該当するやつで投下したかったらしてな。
お疲れ様。

オレも書いてみるかな……
10 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/22(月) 00:23:43 ID:???
>>8-9
ありがとです。
まあ、あれは脇に置いといて、ちょっと別のものを考えてみます。

早速ですが、この設定ならこのスレ向き。
シンジとレイしか居ないエヴァを考えてみようかと……
第三新東京市に到着した碇シンジは、さっそく連絡を取るために携帯電話を取り出した。

何故ここに来たのか、実のところはよく判っていない。
来た理由は一通の手紙。内容は「来て」の一言。
そして到着後に電話するようにという簡単なメモだけが書かれてあった。
そんな手紙一通でホイホイやってくるのもどうか、と普通なら考えるところだが、
しかしシンジには拒否することが出来なかった。
その差出人こそ、両親が他界してから自分の養育費を支払っている当の相手であったのだから。

電話を掛けようとした瞬間に、自分のことをジッと見ている少女の存在に気が付いた。
「ん……うわっ」

ばさばさばさっ

近くで急に沢山の鳩が飛び立ち、驚かされるシンジ。
フンなど引っかけられていないだろうかと自分の身体を点検しながら、再び自分を見つめていた少女を捜す。
が、その姿は無い。
「……?」
まあいい、とりあえず電話だ、と気持ちを切り替えて携帯を持ち直したその瞬間、
「うわぁっ!」
再び驚かされるシンジ。
先程の少女が、すぐ隣に急に現れたのだ。
「……電話。」
その少女はボソリと呟く。

「え?」
「電話……して。」
「え、あ、はい。」 トゥルルルルル……
ぴんぽろぱんぽろぱん……ピッ 「はい、綾波です。」
「あ、ああ、成る程。あなたが綾波さんだったんですか……って、あなたが!?」
それを聞いて少女はうなづく。

シンジの掛けた電話で少女の携帯電話が鳴った。ということは、本人証明のために掛けさせたのだ。
などと説明している場合ではない。シンジが驚くのも無理はなかった。
その目の前の、どうみても同年代の少女が自分を養っていたということになるからだ。
……いや、代理人ということも考えられないか?

シンジは尋ねる。
「あの、綾波っていうことは綾波レイさんの娘さんとか?」
「いえ、綾波レイは私。綾波は私以外に誰もいない……」

ぼそぼそと小声で説明する少女。そんな彼女を不思議そうな顔で見つめるシンジ。
しかし、そこで疑問に思っている場合ではない。
更なる(誰もが知ってる)事態の急変はすぐ間近に迫っているのだ。
13 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/22(月) 00:27:44 ID:???
とりあえず、ここまでですー
14名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 00:48:42 ID:???
とりあえず乙
これって登場人物がこのふたりだけってことか?
15名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 01:07:41 ID:???

俺は8だが、熱意さめたかー?なんて言ってゴメンよ
しかし◆LRvRIPAn.sは出だしは面白いの書くな
16名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 04:07:56 ID:???
熱心な投下人がいてくれるのはいい事だよな
続きwktk
17名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 17:04:29 ID:???
ふと思ったんだが、レイ以外の女性キャラが出張っていてスレの趣旨から少しズレているけど
LRS小説であることには間違いないという作品は、LRS小説まとめサイト用アップローダーに
うpするというのはどうだろうか?

http://lrs.s282.xrea.com/up/upload.html


18名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 20:26:33 ID:???
>>17
一応、>>1に紹介されてる恋愛雑居スレがあるけどね。
しかし、使い物になるかどうか。
19名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/22(月) 20:31:17 ID:???
>>前スレ593
もう投下しないのか…
久しぶりに完結するちゃんとした話が読めると期待してたんだが…
よかったら、全部書ききって、うpろだにでもあげてくれないか?
「私に着いてきて。すぐ現れるから。」
「え、ど、どこへ?あの、何が?あの、君はその……」

もうシンジは何から尋ねて良いやら判らない。
が、そんな混乱し続ける彼の手を、レイと名乗る少女は無理から引っ張っていく。
「こっち。」
「あ、ああ……」

話が変わるようだが、やはり男というのはしょうがない生き物である。
こんな訳の判らない状況にあっても、シンジは自分の手を握る少女の肌の柔らかさにドキドキする。
よく見るとあんがい可愛い顔をしている。ちょっと無愛想なのがあれだけど。
同年代のようで、現地のモノらしい学校の制服姿だ。
しかし蒼い髪なんて初めて見た。しかも目の色が赤……ま、それはどうでもいいとして。

と、しょうのないシンジが人物観察を続けている内に、何やら遠くから物凄い轟音が聞こえて来た。
なんだろうと振り返る。だんだんこちらに近づいてくる様子だが。

 ずしぃぃぃん……ずしぃぃぃん……ずしぃぃぃん……
 
それに加えて、ワーッキャーッという悲鳴まで。
何事だ?と驚くシンジの隣で、レイはぼそり。
「あ、警報わすれた。」
そう言ったが早いか、シンジの周囲にそびえ立つビルをなぎ倒して現れたもの!

   ばきばきばきっ!!
      ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜っ!!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんだありゃぁぁぁぁぁっ!!」
突然現れた白黒のコンストラストの巨人を見て、ひっくり返りそうになりながらシンジは叫ぶ。

それをレイは迷子になった子犬を見つけたように指をさし、説明する。
「という訳で、あれが使徒サキエル。」
「い、いや、あの、綾波さん?いきなり、という訳とか言われても。」
「とりあえず、時間を稼ぐ。(ぴっ)警報発令。第三新東京市、戦闘形態に移行。」
レイが自分の携帯を取り出してそう命じた瞬間、

 うぅぅぅぅぅぅぅぅ〜っ
 ……ごごごごごごごごごごごっ!!
 
サイレンが鳴り出し、周囲のビルが一斉に動き出す。
その有様を見てシンジは驚愕。
「な、な、な、な……」
「この第三新東京市は、あの使徒を迎え撃つために建造したの。でも、ビルしまうの、ちょっと遅かった。」
ちょっとどころではなく十分遅すぎる。もうビルのあらかたは壊されつつある。
この状態では死傷者の数は半端ではないだろう。
ていうか、あんな怪物を迎え撃つなら都市なんて建造しなければいいのに。

レイは携帯をかけ直して更に命ずる。
「戦略自衛隊、厚木と入間の全部隊出動。」
「……は!?」
シンジはもう何が何だか判らない。
どうみても同年代の少女が国家権力たる戦自に命令しているのだ。
何者だ?とか疑問に思っている場合ではない。
いったい自分はどこの不思議の国に紛れ込んでしまったのか。そう悩むのが適切だ。

そしてシンジを見つめるレイ。
「それから、碇君にはあれを倒して貰うから。」
今度は君に命じる、というわけだ。

「あ、あの……綾波さん?う、嘘でしょ?」
「嘘じゃない。こっち。」
「え、あの」
「あ、待って。」
「はい?」
  ずしぃぃぃぃぃぃぃぃぃん……

「ひっ……!!」
シンジは腰を抜かしてへたり込む。
無理もない、目の前に巨大なビルのカケラが落下してきたのだから。

もうシンジは発狂寸前だ。
「あ、あ、あ、あ……」
「立てない?」
「い、いや、あの……」
「おんぶ。」

そういってレイはシンジの目の前で背中を向けてしゃがみこんだ。
「早く。」
そう言われて、仕方なくおずおずと手を伸ばすシンジ。
そんなシンジをレイは背負って少しよろめきながらも立ち上がる。
「あの、綾波……さん……?」
「大丈夫。しっかり掴まってて。」
そういって、レイはゆっくりと歩き出した。

シンジは、なんだか情けないような気持ちを味わいながらも、
レイの背中の暖かさのお陰で少しづつ冷静さを取り戻しつつある。
同年代の、しかも異性であるレイが肌を触れることも厭わずに、自分を背負って歩くその姿。
それは優しさというよりも、気迫のようなものをシンジには感じられて仕方がない。
自分にあの使徒を倒させる、そのためには何でもするという執念を。

その背後では大暴れする使徒サキエル。
そして彼女に命じられるままに出撃した戦自の戦闘ヘリ部隊による、死にもの狂いの戦闘が展開されていた。
未だ聞こえてくる人々の悲鳴、壊されていく建造物。

それらを目の当たりにしたシンジは賢明に心を引き締めようとした。
混乱している場合ではない。
何が何だか判らなくとも、僕は何かをやらなければならない。
そう心に言い聞かせようとシンジが身を震わせていた、その時。

そんなシンジに、レイがそっと優しく囁いた。
「着くまで寝ていて。必ず、私があなたを守るから……」
25 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/22(月) 23:51:59 ID:???
とりあえず、ここまでですー

前スレのあれの続きを要望していただけるのは非情に光栄です。
私も中途半端はいけないと思っています。
気の向き加減になっちゃいますが、あっちを書いたりこっちを書いたりしてみようと思います。
26 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/22(月) 23:55:29 ID:???
○ 非常 もしくは 誠に
× 非情
27名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/23(火) 00:23:50 ID:???
「あ、警報わすれた。」
ちょwww
28名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/23(火) 00:40:23 ID:???
(゜゜)新風の予感!
ばっしゃーんっ!!

「ぶ、ぶ、ごぼごぼっ……ぶっはぁっ!!」

いきなり水槽に叩き落とされたシンジは、あやうく溺れかける寸前でようやく目を覚ました。
そうか、自分は眠ってしまったんだ、と我に返りながら自分に伸ばされた棒を掴む。
その棒を差し出した者。それは、さっき出会った綾波レイ。

「目、さめた?」
「え、あ、はい、さめてます!起きてますってば!」
そう言いながらも水槽から這い上がったシンジに、少し堅めのタオルを手渡すレイ。

それで顔や頭を拭きながら、シンジは少し愚痴を言う。
「な、なにもこんな起こし方をしなくても。」
「ごめんなさい。薬を嗅いでもらったから、なかなか起こせなくて……こっち。」
そんなふうに謝りながらレイはシンジを薄暗い空間の中へ案内していく。
そこは地下だろうか。窓明かりがまったくなく、点々と小さな電灯が点されているだけの場所だった。
しかし、天井がやたらと高い。

シンジは尋ねる。
「ここは……どこなの?」
「秘密基地。判りやすく言うと。」
「秘密基地ぃ?」
「世間ではあまり知られていないから。ここはエヴァを建造、メンテナンスするための施設。」
そういいながらレイは壁のスイッチをぱちんと入れる。
すると、がしゃんがしゃんがしゃん……という騒々しい音がして巨大なライトが次々と点灯された。
そしてシンジの目の前に現れた物。
それは金属で出来ているらしい巨大で仰々しい人型の顔。

「ロボット?きょ、巨大ロボット!?」
「そう。正確に言うと、特殊な有機生命体を電気的に制御可能とするために改造されたもの。
 正式名称は最終決戦用人型兵器、エヴァンゲリオン。」
「……それでエヴァっていうのか。」
「そう、これに乗ってあなたは使徒と戦ったの。」
「で、でも、こんなの初めて見るし、操縦なんて出来る訳が……あれ?戦ったって、僕が?」
「そう、あの使徒は殲滅されたわ。お疲れ様。」
「……はあ。」
出会った頃から、レイの話はそんな訳の分からないことばかりだ。
シンジはもう困惑するのも飽き飽きした様子である。

シンジの居る所は巨大な水槽の縁で、そこにエヴァンゲリオンは首元まで水に浸けられて安置されている。
その水槽を見てシンジはゾクッと身を震わせた。
こんな深いところに自分を叩き落としたのか、と。
レイはシンジを案内しながら説明を続ける。
「一応、操縦方法があるのだけれど、初めて見る碇君にいきなり覚えろというのは無理。
 だから薬で更に眠って貰って、操縦席に押し込んだの。」
「……でも、眠ってちゃ何にも出来る訳が」
「大丈夫。案の定、エヴァは使徒に攻撃されて頭に来たのか、怒って勝手に倒してくれたから。」
「それじゃ生きてるの?これ。」
「さっきも言ったけど、これはロボットじゃなくて特殊な有機生命体。
 生命体だけど魂がない。だからパイロットが魂となることでようやく動ける。」
「あ、ああ、成る程……」
そんな理屈が通っているような通っていないようなレイの説明で、無理矢理にシンジは理解した。
とりあえず、納得できることは少しずつでも納得するしかないようだ、という面持ちで。

そして、二人は薄暗い廊下を歩いていくと、シンジとレイの鈍い足音が響くばかり。
そして少し高いところにある埃だらけの蛍光灯がチカチカと明滅する他は、何の物音も聞こえてこない。

シンジは尋ねる。
「あの……他には誰もいないの?」
「いうなれば私以外には、ここには誰もいない。」
「いうなれば……?」
「あそこ。今日からあそこに泊まって。お風呂も沸かしているから。」
そう言って、レイはある扉を指さして示した。

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その扉の向こうは家庭的な和室になっていた。
六畳ぐらいの広さで、中にはちゃぶ台に食器棚や電気ポットにお茶のセット一式、
そして今どき珍しいブラウン管のカラーテレビなどが所狭しと置かれている。
そして、ガラス戸で隔てられた向こうの台所には古びた冷蔵庫。
その冷蔵庫、シールの跡などがあちこちにあって、ずいぶん使い込まれているのが判る。

「ご飯の用意をするから、お風呂に入ってきて。」
レイはそう言ってシンジに新しいタオルを手渡し、指をさして風呂場を示す。

「あの……服が濡れちゃって。」
「洗濯機に放り込んでおいて。洗うから。」
「でも、着替え……」
「気にしなくて良いから。」
「……」

しょうがなく風呂場へと向かうシンジを見送り、レイはカチャカチャとご飯茶碗と箸をちゃぶ台に並べる。
一組目、二組目、三組目、そして4組目、更に……
その時、物凄い悲鳴とともにシンジが飛び出してきた。

「なああああああああああああああああああああっ!!」
大慌てのシンジに、レイは真顔で問いかける。
「どうしたの。」
「あ、あ、あ、あの、あの、」
「落ち着いて。」
「お、落ち着いてったって、あれは、あれは……」

そんなふうにあたふたするシンジの後ろをフラリと通りすがる者。

それは、綾波レイの姿そのものであった。
シンジは一瞬、何か勘違いをしたのかとキョロキョロと見渡したが、
しかし自分を案内してきた制服姿のレイは、先程と変わらず目の前にいる。
そのもう一人の「レイ」、彼女は間違いなくシンジと入れ替わりで風呂から上がり、
タオル一枚を引っかけただけの素っ裸同然の姿で、恥ずかしげもなく制服のレイの隣にペタリと座った。

シンジはこの有様に驚愕して、何か尋ねようにもなかなか言葉がまとまらない。
「こ、こ、これは……」
「碇君、落ち着いて。あなた、彼が恥ずかしがるから何か着て。」
「そ、そ、そういうことじゃなくて……」
「ああ、ご免なさい。おでこの数字が消えてる。ほら、もう一回書くから。」

そしてレイはサインペンを取り出し、「レイ」のおでこにキュキュっと数字の「3」を書く。
「これで見分けがつくわね。」
「そういうことじゃなくて、あの……何でもう一人の君が……」
「私のクローン。人手が足りないから作ったの。
 あなたの知らないところで、科学技術はずっと進んでいるの。
 このクローンの技術こそ、はエヴァの開発に絶対不可欠だった。」
「あ、あ、ああ……そうなのか……」
困惑続きのシンジもようやく呼吸が整ってきた様子である。
その表情は既に憔悴しきっては居たが。
ふと、レイは何を思ったのか。シンジに向かって「3」と書かれた裸の「レイ」をぐいっと突き出す。
「よかったら、使う?」
「え……使うって、あの……」
「使う?」

そのレイはどういう意味で言ってるのか、その意味が判ったのかどうか判らないがシンジは慌てて断った。
「い、いや、あの……遠慮しとく。」
「そう……」
なにか残念だったのだろうか。そう言ってレイは少し目を伏せた。

「綾波、その……それで、さっきは『いうなれば』って言ってたのか。」
「そういうこと。私と私の複製以外には、この秘密基地には誰もない。」
「そ、それじゃあのエヴァとかいうロボットも君達だけで?」
「そう……それより前を隠した方が。」
「あ……」
素っ裸のシンジは赤面しながら、慌てて風呂場へと戻っていった。

その風呂場、そこは公衆浴場並の広さでゆったりと身体を伸ばして浸かることが出来た。
そこで身体を温めながら、ようやくシンジは人心地を着いた気分になる。

シンジは湯船に浸かりながら考える。
エヴァのこと、そしてこの秘密基地、街に現れた「使徒」、そして綾波レイと、その複製。
もう何が何だかさっぱり判らない。しかも、その使徒を僕が倒した?眠っている状態で?

またしても訳の分からない状態に陥りそうな頭を、
いったんザブンと湯に沈めてから顔をバシャバシャと洗った。

そうやって、シンジが気持ちを落ち着けようとしていた所へ、外からレイの声がする。
「ごめんなさい。作業が終わった子たちがお風呂に入るから。
 さあ、みんな。彼の邪魔をしないようにね。」

え……と、何を言われたのか判らない状態でシンジは驚く。
そしてガラガラガラッと磨りガラスの扉が開かれ、どやどやとなだれ込むように入ってきたのは、
4番から10番までの数字がおでこに書かれたレイ、レイ、綾波レイの群れ……

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

36 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/24(水) 23:15:07 ID:???
とりあえずここまでですー
37名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/24(水) 23:38:30 ID:???
(いい意味で)笑わせてくれるぜ
38名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/24(水) 23:47:00 ID:???
すげえ斬新w
「おんぶ。」 に萌え
39名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/25(木) 00:20:37 ID:???
おでこに数字w
想像するとすげーシュールな気がするwww
40名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/25(木) 01:18:53 ID:???
綾波レイ、それはシュールレアリスム。
こんな環境でも順応できそうなのが人間の凄いところである。
41名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/25(木) 02:31:43 ID:???
何人いるんだろ?
208とか209とか居たらスゴイなw
気が付くと、シンジは先程の居間に寝かされていた。
目を開ければ、和室向けの電灯が淡い光を放っている木製柄の天井が見える。
それはシンジにとって知らない天井……などと言っている場合ではない。
流石に気がとがめたのか、レイはシンジに謝る。
「ごめんなさい。驚かせてばかりで。」
まことにもって、驚かせすぎである。

シンジが起きあがって見てみると、その六畳一間の部屋に合計9名のレイがギッシリと並んでいた。
皆それぞれに着ているものは違っていたが、Tシャツとかカッターシャツとかを裸の上に着ただけらしく、
うっかり見てはならないものを見てしまいそうで、まったく気が抜けない状況である。
そんな彼女たちのおでこに、風呂場で消えたらしい数字を書き直しているのが制服姿のレイ。
その彼女にシンジは尋ねる。
「えーと……ということは君がオリジナル?」
「そう。見分けが付かなくなるからピアスを付けたの。似合う?」
「そうか、耳を見て区別をつければいいんだね。」
「……似合う?」
「あ、ああ、ゴメン。似合うよ、綾波。」

それにしても、こうして全く同じ顔の少女が並んでいるのは実にシュールな光景だ。
まだ彼女たちの可愛らしさが助けとなって、悪夢に陥ることを免れてはいたのだが。
しかし、全員ニコリともしないのはおろか、まったくの無表情。
本当に大量コピーしただけようにそっくりな「レイ達」であった。
そこまできてシンジは、ようやく自分が全裸にタオル一枚の状態であることに気が付いた。
聞けば、大量のレイを見て風呂場で気絶したらしかったのだ。
それはそうだろう。すでにクローンの存在を聞かされていたものの、あんな光景を見せられてはたまらない。
しかし、なんだか頭がフラフラする。
それも無理は無い話で、倒れた直接の原因は精神的ショックだけではなく
大量の少女の裸を目の当たりにした事で、鼻血による大量出血したのが原因だったのだから。
慌てて股間を隠しなおすシンジにオリジナルのレイは言う。
「だから、気にしなくて良いから。」
「あの……僕の服は?」
「洗濯中。気になるなら、この子達も裸に。」
「ま、待ってよ。それになんの意味が……」
レイは、みんな一緒に裸になって何をしようと考えているのか。
どうにもレイの人格が少し疑わしくなってきたが、しかし今更ながら逃げられない。
とりあえずシンジは、Tシャツとトレパンのようなものを借りて人心地つくことができた。

「さあ、晩ご飯にしましょう。」
そのオリジナルの一言を聞いて、コピー達はシンジが寝ていた空間にちゃぶ台を運び込む。
そして炊飯器がパカッと開けられ、次々と茶碗につがれていくご飯。

ご飯が並べられ、9人のレイと一緒にグルリとちゃぶ台を取り囲んだシンジは、
なんだかルーレットの当たりになったような気分である。
準備が整い、レイ達は合掌した手に箸を構えて「いただきます」のポーズをとった。
「……あの。」
ここで流石のシンジも尋ねざるを得なかった。

「何?」
「ご飯だけ?」
「そう、晩のご飯。」
そう答えるオリジナルのレイに呼応して、全員同時に頷くレイのコピー達。

「あの、ご馳走になる身で悪いんだけど……他には何も?」
「塩。」
そう言って、レイは水色の蓋の小瓶をちゃぶ台の上にコトン。

シンジは目を丸くした。
「あの……綾波、塩って。」
「うん、味塩。」
「いや、だから、あの……」
「只の塩じゃない。味塩の成分はグリタミン酸ナトリウムだから、昆布と同じ旨み成分の……」
「いや、そういうことじゃなくて、その……」

何を言って良いのか判らなくなってるシンジの茶碗に、オリジナルのレイはパラパラと塩を振りかける。
それをみんな待っていたのだろう。次々と味塩を回し合うコピー達。
「さ、みんな食べましょう。」
シンジはしょうがなく、レイ達と一緒にモクモクとご飯を食べ続けた。
なんだか喉を突っ返そうになりながら、なんとか最後の一口を飲み込んだシンジ。
僕はいじめられているのだろうかと考えてしまいそうになるのだが、
しかしレイ達も同じように同じ物を食べているのだ。
これがここの生活だ、と言わんばかりに。
「おかわりは?」と尋ねられてが、シンジは首を振って拒否をする。
それは仕方がないだろう。飽食の生活の中で、白ご飯を塩だけで食べ続けられるものではない。

さて食事が終わった。あとは寝るだけだ。
「みんな、休む準備を。私はお風呂に入るから。」
といって立ち上がるオリジナルの一言で、シンジはコピー達にぐいっと両脇を引っ張られて立たされる。
何事かとキョロキョロしていると、コピー達は一度は運び込んだちゃぶ台をもう一度そとに運び出し、
そして押し入れから布団を出して引き始めた。
六畳間に敷き布団三組がギッシリと敷かれて、毛布が適当に広げられる。
そしてポンポンと置かれる枕代わりのクッション達。

「あ、あの、まさか皆いっしょにここで寝るの?」
うん、とピッタリ同時にうなずくレイ9人。
そのまま無言でシンジをほとんど押し倒すようにして寝かしつける。
「ちょ、ちょっと……」
だが、コピーのレイ達は無言でシンジと共に横たわり、部屋の電気を消してしまった。
もしかしたら、クローンには言葉を話す機能が損なわれているのだろうか。
だが、シンジにはそんなことを考察している場合ではないはず。
六畳間、いや動かせない家具のお陰でもっと狭い。そこに9名なのだ。
「ぶふっ……いや、ちょっと、あの!」
レイ達は遠慮無くシンジと共に身体を寄り添い合う。
もう寄り添うどころか身体を絡めなければ、とても横になることなど出来ないのだ。
レイの身体の感触をもろに感じてしまい、性欲真っ盛りの中学生シンジは悲鳴を上げて逃げようとする。
だが、どこにそんな逃げ場があるというのか。

そういえば電話ボックスに何人はいることが試すとか、以前にバラエティ番組で有ったような気がする。
いやシンジ、そんな余計なことを考えている場合ではない。
そういう場合は笑いを取るために、後からこれでもかというダメ押しが……ほら、やってきた。

がらがらがら……
「良いお湯だった。それじゃ皆、お休みなさい。」
そして無理から布団に潜りこもうとするオリジナルレイが、更にシンジを圧殺する。
シンジはなんとか腕や何かで支えて、身体の下手な部分が触れないように頑張っていたが、
更に逃げようとしたのが裏目に出て、レイ達と後ろから前からの状態に陥り……

「ご、ごめん!僕、外で寝る!」
遂に我慢の限界突破。
レイ達の頭を踏みそうになりながら、シンジはつま先立ちで居間を飛び出していった。
翌朝。

廊下で体育座りで座って寝ていたシンジ。
だが目を覚ましてみると毛布が一枚かけられていることに気が付いた。
そしてシンジは肩に重みを感じる。
なんだろうと思って見てみると、レイの一人がもたれかかって寝息を立てていた。
そして、そのレイのおでこには数字の「3」。
気を使ってオリジナルが置いていったのだろうか。毛布と一緒に身体を温める抱き枕がわりとして。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

「さあ、朝ご飯にしましょう。」
オリジナル・レイの先導でちゃぶ台に茶碗が並べられる。
そう、朝のご飯である。ちゃぶ台の上には白飯の茶碗と箸しかない。
「あの……朝はご飯だけ?」
そう尋ねたシンジに、オリジナルは無言で首を横に振って否定する。
そして冷蔵庫から取り出した物。
「綾波、あの……これは……」
「キャベツ。」
そう、半玉のキャベツであった。
いやわざわざ尋ねなくても見れば判る。
しかし、昨日の塩に比べれば、調味料でないだけでもマシだと思うのだが。
「あの……これで、ご飯を食べるの?」
一斉にうなずくレイ達。そしてシンジをジッと見つめる。
彼が最初に取るのを待っているのだろう、
シンジはどうすればいいのか判らないままキャベツを一枚はがすと、
レイ達はそこから時計回りでキャベツをまわし合い、一枚ずつはがしていく。

その様子を見て、流石のシンジもたまりかねたのだろう。
こんな申し出をした。
「綾波、その……野菜炒め、作ろうか。肉抜きでよければ。」
「うん、お肉きらい。」
そういってオリジナルは自分のレタスをシンジに渡し、コピー達もそれに習う。

シンジは溜息混じりに使ったことが無さそうな包丁やフライパンを探し当てる。
どうやら僕に出来ることがありそうだと、考えながら。
49 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/25(木) 23:59:07 ID:???
とりあえず、ここまでですー
50名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/26(金) 01:43:55 ID:???
乙!
なんかすげーやwww
読んでてすげーシュール。
51名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/26(金) 02:25:44 ID:???
おつおつ
キャベツがレタスになってるw
52名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/26(金) 22:21:28 ID:???
おもしろいんだけど、この描写だけ続くとダレてくるかも・・・
けちつけてゴメン。期待の現われという事で。
53名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/26(金) 23:46:10 ID:???
もし三人目が自分からシンジのとこに来てたのなら俺は三人目を応援せざるを得ない
54名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/27(土) 12:54:25 ID:???
シンジはおれを怒らせた。
昨日の夕飯がマジで塩とご飯だったオレを怒らせた
さて朝食が終わり、レイ達はさっそく仕事場へと向かう。

そのレイ達の動きを見れば、一列に並んで歩く様からレミングスを連想したり、
先頭のオリジナルの命令に従い作業を行う、いうなればピクミンを連想する方もいるだろう。
しかし作業を終えて何もすることが無くなると、
その場で立ちつくして呆然とするコピー達の有様を見る限り、
エイジオブエンパイヤというゲームがもっとも的を得ているような気がする。
まあ、そんな元ネタのゲームが判らなければ意味のない例え話はさておいて。

ようするにコピー達では能力的に人間と同じというわけにはいかないらしく、
結局はオリジナルのレイがコピー達の管理に奔走しながら、自分自身も作業に追われる始末。
とても、コピーのお陰で手が足りているとは言い難く、レイ一人が作業しているのに等しい状態である。

それはともかく、レイ達が作業に向かった先を見てシンジは驚いた。
初号機とは別に、もう一台のエヴァが存在したのだ。
「これは零号機。初号機より以前に製造された、いわばプロトタイプ。」
と、レイは解説する。

「これを現在は改良中。それが終われば、初号機と共に戦える。」
「でもさ、綾波。パイロットは?」
「私が乗る。あなた一人に戦わせやしない。それに、どんな使徒が来るのか判らない。
 戦力増強をしておくことに、こしたことはない。」

その零号機は初号機とほぼ同じ大きさで、初号機の仰々しい顔とは違ってシンプルな一つ目である。
プロトタイプと言うことであまり作りに凝らなかったのだろう。
だがその他の基本的な構造は大体は同じようだ。

コピー達と共にボルトをせっせと締め続けるレイに、合間を見てシンジは尋ねる。
「こうしてエヴァの整備をして、さらにパイロットもするというの?」
「勿論。エヴァが動いている時に、同時に整備をすることは出来ないから大丈夫。」
「でも、それでは大変だよ。使徒が沢山やってきたら休む暇も……」

その時、レイは作業の手を止めて、何かを思い浮かべるかのように中空を見上げた。
そして語り始める。
「それは大正時代のこと……」
「大正?」

「そう。ある戦闘集団の中に機械工学に長けた技術者が加わっていたの。
 その人は戦いにおける能力は低いけど、それでも戦闘に参加しつつ兵器の開発とメンテナンスをこなし、
 仲間の命を守るために懸命に励んでいた。」
「……」
「私にはその人の笑顔が一番かがやいて見えた。その戦闘集団の名は帝国……」
「綾波。それ、フィクションだよ?」
「うん、好きなの。香蘭が。」
大まじめな顔でコクリと頷くレイ。シンジはかろうじてその元ネタを知っていたようだ。
「碇君、今日はのんびりしてて。」
そう綾波に促されて、シンジは居間へと戻った。
確かにレイ達の作業を眺めていてもしょうがない。
しかし部屋に戻ってみても退屈だ。テレビはあるけど、その時間は大した番組はやってない。
ふと思い立ち、冷蔵庫を開いてみたのだが禄な材料が入ってない。
とりあえず見つけたのはキュウリが10本。ということは……

そこに、レイ達がぞろぞろと帰ってきた。
「そろそろお昼ご飯にするから。おかずはそれ。」
案の定である。今度はキュウリだけでご飯を食べろというのだ。
ご飯がつがれて、その横にキュウリが添えられた食卓はシンプルで実に美しい。
しかし、箸も取らずにそれを眺めている訳にもいかない。

幸い、基本的な調味料が揃っている。さあ、シンジの出番だ。
シンジはまだ封の切られていない酢の蓋を開けて三杯酢をこしらえ、
薄切りにしたキュウリをそれに漬け込んだ。

「美味しいわ、碇君。」
シンジは喜ぶべきである。
例え、顔色一つ替えずに漏らした褒め言葉であったとしても。
しかし、こんな食生活ではダメだと考えるシンジ。
そんな彼を無理もないと言って良いのか、贅沢だと叱るべきか。
シンジはレイ達に食後のお茶をつぎながら尋ねる。
「あのさ、綾波。買い物に行きたいんだけど近くに店とかある?」
「買い物?」
「うん、服とか大して持って来てないし。あとさ、今日の夕飯は僕がいろいろ作ってあげるよ。」
「そう。お金はあるの?」
「えーと、少しだけなら。」
「待ってて。(携帯電話をピッ)もしもし、お金を届けて。」
「え……?」

誰かにお金を無心する、というのはそれほど不思議な話ではない。
しかし、くれと言えば貰えると信じて疑わないようなレイの頼み方が気になって仕方がないのだが。
それはともかく、シンジはレイに連れられて地上へと昇ったのだが、今度は地上の有様に唖然とした。

「あの、綾波……何も、無いんだけど……」
「昨日の戦闘で壊しちゃったみたいね。」

その通りに地上は瓦礫の山と化していた。
いや、建物が全く残っていないわけではないけど、よく見ると半分しかなかったり根元だけだったり。
それどころか、まったく人の気配が無いのだ。みな逃げ去ったのか、それとも戦いに巻き込まれたのか。
シンジが来たときは車も電車も走っていて、十分活気のある街だったのに。
それがこの有様である。いったい初号機はどれだけ大暴れしたというのだろう。
ある時、レイは空を指さす。
やってきたのは一機のヘリコプター。どうやら戦自のものらしい。
そして何かパラシュート付きの荷物を投下して、そのまま着陸せずに行ってしまう。
シンジとレイがその荷物に駆け寄り開いてみれば、数億もあろうかという札束がギッシリ。
「さあ、碇君。それで買い物を……」
「どこで?」
「……」
「……」

仕方なく、レイ達と十人がかりでその札束の山を地下に持ち帰る。
そしてシンジは悟る。物の価値は人の間に生まれる空想である、ということを。
大切そうに持ち帰る札束が、この陸の孤島では単なるゴミの山でしかない。

流石のレイもとぼけてばかりいる訳にもいかない。
ノートパソコンを持ってきて、シンジがネットショッピング出来る環境を用意してくれた。
支払いは気にしなくて良いから何でも欲しい物を注文しろ、またヘリが届けるから、と。

シンジは夕飯のメニューを考えながら、夢中で注文内容をリストアップしたのだが……
ここで当然ながら疑問が浮かぶ。そして、それをそのままにしておく訳にはいかなくなった。
「ねえ、綾波。聞いても良いかな。」
「何?」
「綾波は一体、何者なの?」

確かにもっともな疑問である。自分と同い年ぐらいで、シンジの小さな頃から養育費を支払い、
自衛隊の指揮権を保有していて、現金でも何でも欲しい物が届けられ、
この街で使徒を迎え撃つために一人で待機し、クローン技術をも手にしてエヴァの管理を司り……
それもたった一人で。

レイは姿勢を正して答える。
「私は……実をいうと人間ではないの。」
「ええ!?」
「あなたに判るような言葉で言うと宇宙人。全宇宙に広がる情報統合思念体……
 それは肉体を持たない超高度な知性を持つ情報生命体。
 それらより、あなたを観測するために送り込まれたヒューマノイドインターフェース。それが私……」
 
しかし、シンジは冷静にツッコミを入れた。
「綾波。それ、嘘でしょ。」
「うん、嘘。」

シンジが元ネタを知っていたかどうかは定かではないが、彼の好奇心を打ち砕くことには成功したらしい。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

さあ、お待ちかねの夕食である。
シンジが自信満々に作り上げたのは、大根と豆腐の田楽に味噌だれを添えた物ときんぴらゴボウ。
さらにほうれん草のお浸しにワカメのシンプルなお吸い物。
肉が嫌いと言っていたレイを思ってのメニューだ。
しかし流石にシンジには物足りないので、自分には茹でたソーセージを数本そえた。

「美味しいわ、碇君。」
昼食の時と同じく無表情なお褒めの言葉だ。喜べ、シンジ。
実際、レイ達は献立に不満な様子もなく料理を全て平らげている。
そのことだけでも収穫があったと心で唱えながら、シンジはレイ達と共に後片付けをする。

しかし、シンジにとって最大の不安材料がもうすぐやってくる。
昨夜と同様、再びこの部屋にすし詰めで寝ることを要求されてはたまらない。
が、レイ達が寝る準備をするのを見て驚いた。敷かれた布団は一組だけ。

流石にシンジは疑問に思った。
「あの、綾波?今日はみんな一緒じゃないの?」
「うん、夜は碇君にこの部屋をゆずる。私はこの子達の大部屋で寝るから。」
「大部屋って……それじゃ昨日のは?」
「あなたの歓迎のためのサービス。男の人はハーレムが好きだと思って。」
「……はあ?」

とんでもないことをレイは淡々とした顔で言い続ける。
「でも、あなたは好きじゃないみたいだから今日は一人で寝て。」
「……」

そして今日はきっちり入れ替わりで風呂に入り、
オリジナルはコピー達を引き連れて部屋を出ようとするが……

レイは気を変えたのか、急に振り向いてシンジに告げる。
「やっぱり一人だけ置いてく。気が向いたら使って。」
「あ、あのねぇ、綾波。僕がそんなことをすると思う?」
「して貰わなければ困るの。一緒に生活をしている私を血迷って襲わないように。」
「あ、ああ……そういう意味なんだね……」

思わずシンジは大きな溜息。かなりショックだったようである。
それはコピーを身代わりに置くレイの人格に対してか、あるいは振られたような気分を味わったためだろうか。
しかし、コピーなら自由にしても良いというレイの人格を疑いたくなるところだが。

「昨日は3番と一緒だったから、情が移るのもマズイので今日は4番。明日は5番……」
そんなことを言いながら布団に枕をもう一つポンと置き、改めてレイは部屋を出て行く。
そして布団の隣で正座で待つ「4番」。

シンジは何かに失望した様子で、4番が「ふつつかものですが」とか言い出さないうちに、
もう一組の布団を敷いてそちらで寝てしまった。
63 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/28(日) 22:51:57 ID:???
あんまり進展なくてすんません。
とりあえず、ここまでですー
64名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/28(日) 23:58:26 ID:???
乙!
期待してる
65名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 00:47:22 ID:???
傑作だw 続きを楽しみにしてます
66名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 01:32:24 ID:???
ワロタw
このシュール感がいいわwww
67名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 02:50:45 ID:???
元ネタは理解したw
コピーに情が移るはマズイのか・・・

68名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 11:07:40 ID:???
なんなんだよ、襲わなくちゃ困るってwww
69名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 22:20:17 ID:???
気が回りすぎですってw
70名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 23:50:09 ID:???
女だけどレイ萌(・∀・)
さて、使徒戦である。
といっても、その話は省略してもいいくらいあっさりしたものであった。

あれからシンジは、数日間の訓練を経てようやくエヴァを思い通りに動かすことをマスターする。
エヴァの操縦席はエントリープラグという筒型のカプセルで、エヴァの脊髄にあたる箇所に埋め込まれる。
全身の神経をエヴァと接続しているから、身体を動かすイメージをするだけで操縦が可能であるという。
しかし、そのカプセル内はLCLという液体が満たされ、そこに浸からなければならないのには閉口した。

操縦席にいるシンジに、レイはモニタを通して解説する。
「そのLCLが全ての神経を接続する役割を果たす。だから液化して身体を包む必要があった。」
「そうなんだ。でも息苦しくないのが不思議だね。酸素を含んでいるからかな。」
「LCLの正体、それはエヴァの血だから。」
「う……」
シンジは思わず胃袋の中身をLCLにばらまくところであった。

で、出撃。
新たに現れた使徒は長い胴体が蛇のようでもあり、カサカサと動き続ける胸部の触手が虫のようでもあり。
そう書くと何だか気持ち悪い生き物のように聞こえるが、チャームポイントのつぶらな瞳が実に愛らしい。
とはいえ、使徒である。倒さなければ倒される。
シンジはビシバシと繰り出す使徒の鞭のような触手をなんとかかいくぐり、相手を見事にひっくり返して踏みつけにする。
きゅーきゅーと藻掻く使徒の弱点、赤いコアを見つけてプログナイフで打ち砕きゲームセット。
実に簡単に勝負はついた。
帰還したシンジをレイ達は拍手喝采で出迎える。
しかし、あいかわらずの無表情。お愛想で良いから笑えと言いたい。

「あっさり勝ててよかったよ。思ったより簡単に倒せるんだね。」
などというシンジにオリジナルのレイは言う。
「エヴァがあるからこそ簡単に倒せたの。エヴァの力でATフィールドを中和しているから。」
「ATフィールド?」
「そう、絶対不可侵と言われる防御壁。それがあるから使徒は殲滅できないと思われた。
 いま現在、それを突破する方法は一つだけ。エヴァの放つATフィールドで中和すること。」

それを聞いたシンジは少し眉をしかめて尋ねる。
「それじゃ……エヴァっていうのは、まさか……」
「使徒。」
「……ええ!?」
シンジがそんなレイのあっさりした返答に驚いていた時のこと。

  ぴんぽろぱんぽろぴんぽろぱんぽろ……

レイの携帯電話の着信音だ。
「はい、綾波です……え?テレビを見ろ?」

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-
シンジがシャワーを浴びて居間にもどると、すでに9人のレイがテレビの前にずらりと並んでいた。
その真ん中が空いていて座布団が敷かれている。
シンジは説明を受けるまでもなくそこに座った。
ていうか、全てのレイがテレビに釘付けで、シンジに声を掛けようとはしないからだ。
居並んだシンジとレイ、まさしく記念写真を撮らなきゃ勿体ないとかいう解説は自重するとして、
シンジは既に始まっているレポーターの熱いアナウンスに聞き入った。

『素晴らしい!動いております!歩いております!日本のロボット工学はここまで来ました!
 これぞ我々の敵、使徒を倒すべく開発された最終兵器「ジェットアローン」なのです!』

「へええ!あの使徒を僕達だけで戦うものとてっきり思っていたよ。心強いね、綾波?」
映像を見たシンジは、そんな無邪気な感想を述べる。
しかし、レイの口から出たのは、少しトゲのあるこんな言葉であった。
「今更なんのつもりか……いや、彼らの思惑はなんとなく判る。」

シンジはキョトンとした顔でレイに振り返った。
「あ、綾波?その……どういうことなの?」
「もともと使徒を相手に戦わなければならないと、彼らに言ったのは私。
 しかし彼らはおびえて、全ての役目を私に押しつけた。
 あのセカンドインパクトの後だから無理もない、と言ってもいいけど。」
シンジは重ねて尋ねる。
「彼らって……誰?」
「国連。」
「こ、こく……」
「最初の使徒がもたらしたセカンドインパクト。
 それが人口の半分を失われるに至った大災害だけど、それは結果的に使徒の失敗に終わったの。
 彼らの使命を果たすため再び後続の使徒が現れる。それに備えなければならないと私は主張した。」
「私はって、あの……」
「そのセカンドインパクトの後に残された使徒アダムの遺骸。それの甦らせて対抗するプロジェクトを起ち上げた。
 でも、誰もが尻込みして参加しようとしなかった。
 そうするしかない、ということを理論上の証明をして見せても。
 しかし、人口の半分を失わせるほどの使徒の力に対抗することなど無理ではないか、と彼らは恐れた。」
「……」
「私は、次に使徒が訪れるのは日本だと告げた。それで仕方なく日本はしぶしぶ援助をすることを承諾した。
 それに続いて国連所属の代表国も援助を表明したのだけれど。」

その説明を聞きながらシンジはテレビを見ていたが、あることに気付く。
「あのジェットアローンのパーツ、どっかで見たような気がしたけど、まさか……」
「その通り。エヴァに使われいるものと同じ装甲のようね。」
「ええ!?」
「何も私だけの力でエヴァを作り上げた訳じゃない。様々な設計はしたけど、部品各種は重機産業に発注した。
 エヴァの技術の多くは情報をオープンにしている。そうせざるを得なかった。」
しかし、レイはジェットアローンを否定する。
「でも、あれでは使徒には勝てない。核融合炉を使ったリアクターでは危険すぎる。
 それに人的制御ではない無人のロボットの動きでは足元をすくわれる……」

そのレイの否定論を、アナウンサーは聞いていたかのように反論する。
『リアクターを危険視する意見もありますが大丈夫、何重にもガードが施されていて万全の対策が取られています。
 さあ、ご覧下さい。まさに格闘家のようなこの動き。
 無数のセンサーとスーパーコンピュータMAGIの制御によって、人間以上の戦闘能力を誇り……』

「スーパーコンピュータMAGI……それも私が設計して発注した筈なのに。
 いや、それでも使徒は倒せない。使徒には絶対不可侵の……」

『しかし、まだまだ未解決の問題もあります。使徒には強固なATフィールドという防御手段があるのです。
 それについては様々な武器が考案されていますが、まずはこれです!
 戦自研により開発された陽電子砲を実用化したポジトロンライフルです!』
 
「それも私が発注した物……彼らはどこまで私の物を盗むつもりか……」

その時であった。
再びレイの携帯電話が鳴り響いたのだ。レイはそれに対して、むっつりとした口調で返答する。
「見たわ。だから何?」

レイは黙って電話の主の話を聞いていたが、ろくな返答もせずにピッと通話を打ち切る。
そしてゴトンとちゃぶ台の上に電話を放り投げた。
無表情なレイにしては珍しい、怒りを表す感嘆符であった。

シンジは恐る恐る尋ねてみる。
「……綾波、どうしたというの。」
「次の使徒が来たら黙って見ていろ、と言ってきた。私が手にした援助の利権が欲しくなったようね。
 それで自分達で戦う気になったみたい。」
「あのさ。一緒に戦ってくれる、とは考えられないのかな。」
「だと本当に良いのだけど、そうではない。殲滅が自分達で可能なら、ここから立ち退いて貰う、とも言ってきた。」
「……」

「彼らは誰かを、市民を守るという意識で動いている訳ではない。
 私に追従しなかったのは、使徒と戦って勝つという重責から逃れたいため。
 そして碇君は使徒と戦い、方法が有れば倒せることを世間に知らしめた。
 その上でジェットアローンが発表された。
 方法さえ揃えれば倒せるなら、自分達で倒した方が良い。
 各国の援助を元手に使徒を倒せるほどの実力が得られる。
 こんな素晴らしいことは無い。」

流石のシンジも、レイの言うことに少し引いた。
国連や日本政府はそこまで腹黒くはないだろう、と。
だが、レイは更に覚めた口調で話し続ける。

「全ては国民を守るため、などと言っているがそれには嘘がある。
 私はこの地を街ではなく要塞にすべきと主張したけど、その意見は通らなかった。
 それで仕方なく人に住ませる都市として建造した。それは何故か。
 要塞だと費用がかかるだけ。都市なら企業や住人からフィードバックが期待できる。」
「……」
「もし被害者が出ても国として費用をさきやすい。すでにこの騒ぎだし。
 あるいは、戦争下において住民を守れる都市を造るためのモデルとするためか。
 考えられることはいろいろある。彼らは誰かを守るために戦うという意識は無い。全ては自分達のため。」

そんなことを言うレイだが、最初に警報の発令を忘れたことはまだまだ記憶に新しい。
それに遠慮無く自衛隊の投入を命じたのも彼女だ。
彼女こそ人の命を軽視していると見えなくもない。

それはともかく、シンジにはまだまだ聞きたいことがあるのだが、まずはこれを聞かずにはいれなかった。
「綾波、君は……君は本当に何者なの?その、14年もの前のセカンドインパクトのことを……」
「時が来たら話す。彼らが何をしようと関係ない。使徒に勝つためには、ためらいは厳禁。
 使徒が来たら即座にエヴァで倒す。いい?」

シンジは黙って頷く他はなかった。
無表情なレイに何故か気迫を感じて、「もう権利なんてゆずってやればいい」と言い出せなかったのだ。
78 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/30(火) 00:09:03 ID:???
とりあえず、ここまでですー
79名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/30(火) 00:21:10 ID:???
乙!

おもろいが……口調のためか、
綾波が微妙にハレのちグゥのグゥっぽく思える。

どちらかというとハルヒの長門なんだろうけど
ハルヒよく知らないので判らん。
80名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/30(火) 01:33:08 ID:???
オツ
きゅーきゅー藻掻くシャムシエルがかわいいw
81名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/30(火) 07:46:16 ID:???
乙です!
82名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/30(火) 14:19:42 ID:???
次はラーラーと歌ってくれるラミエルかwww
83名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/31(水) 00:40:55 ID:???
今日は投下なしかな?
「使徒ラミエル……よりにもよって、ここであれが来るなんて……」
珍しく、言葉を詰まらせるようなレイの口調。

シンジはモニタに映る正四面体の使徒の姿を見ながら、レイに尋ねる。
「綾波、あれを知ってるの?」
「簡単には倒せない。前回のシャムシエルなどとは格が違いすぎる。」

そのレイの答えになっていない答えが余計に気になる。
まるで使徒を知っているどころか、戦ったことがあるかのよう。
が、とりあえず出撃しなければならないだろう。
「綾波。とにかく着替えてくるね。」
「……」
そう言って駆け出すシンジの後ろ姿を見送るレイであったが、
その直後に、レイとそのコピー達は円陣を組んで頭を寄せた。
さしずめ綾波会議というべきか、これも珍しい光景だ。

そしてシンジが帰ってきた頃には、オリジナルのレイもプラグスーツに着替えていた。
「綾波も出るの?」
「今回は私だけが出撃するわ。あなたはここで待機してて。」
「でも……」
「あれを相手に近接戦闘は通用しないわ。絶対の防御と長距離攻撃を誇る使徒、それがラミエル。
 接近してATフィールドを中和しつつ近接戦闘をするのは無理がある。」
「それじゃ、どうするの。」
「槍を使うわ。遠方からATフィールドを突破して使徒を倒せる武器はそれだけよ。」
「……槍?」
「あなたは出撃準備のまま待機してて。私の失敗した場合はその時に考える。」

そう言いながら手首にあるスイッチをカチリと押すと、シュッと身につけたスーツが引きしまる。
それはエヴァとの神経接続を補助するために作られたもので、
シンジもまた色違いの同じ物を着用していた。
そしてレイは緊張の出撃前のにも関わらず、むしろ優しい口調でシンジに言う。

「大丈夫、私が必ずあなたを守るから。」
「……綾波、失敗しても必ず帰ってきてね。」
そう言うシンジにコクリと頷いて、レイはエヴァの操縦席となるエントリープラグに乗り込んだ。

そして零号機は『槍』と称した巨大な串のような物を手にして、地上へと射出されていく。
その様子をモニタで見守るシンジとレイのコピー達。
地上にたどり着いたレイの零号機が槍を投擲体勢を取ろうとした、その時。
『早い!』
何がどうしたのか、何が早いのか。モニタを通してレイの驚愕が伝わってきた。

「綾波、どうしたの!?うわッ!」
使徒から目も眩むような閃光が放たれ、そしてモニタが真っ白になる。
  ピガッッッ!!
                  キュドドドドドドドドドドドドドッ!!

いったい何が起こったのかシンジにはさっぱり判らない。
しかしモニタの真横にある零号機の状態を表す画面を見れば、
機体の胸部、ちょうど綾波が居るはずである所が赤く点灯ではないか。

シンジは訳が判らないものの、大慌てで側にいるコピー達にむかって叫んだ。
「戻して!零号機を戻して!早く!」
コピー達は即座に端末を叩いて操作する。
幸い零号機は射出用のエレベーターから一歩も動いてはいなかった。

零号機が格納庫に到着すると、コピー達の操作でエントリープラグがイジェクトされる。
その元へシンジは誰よりも早く駆けつけた。しかし、プラグがイジェクトされたものの、ハッチが開かない。
シンジは手動のハンドルに触れようとするが、しかし。
「あ、あ、あつッ!!」
そのハンドル、使徒の閃光により高温で熱せられていたのだ。
後ろに駆けつけたコピーの一人が制止しようとしたが、シンジはそれを乱暴に振り払った。
再びハンドルを握ると、本気で手の肉がじゅうじゅうと音を立てて焼かれていく。
しかしシンジは覚悟を決めて絶対に離すまいと腕に力を込めた。

「ぐ、ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおあああああああああああああッ!!」
シンジはそんな恐ろしいほどの呻き声を上げながらも、遂にハンドルを回しきりハッチを開いた。
「綾波!大丈夫!?綾波ッ!!」
そう叫びながらプラグ内をシンジは覗き込む。

プラグ内にはぐったりとしたレイが顔を伏せている。
が、ようやく顔を上げてシンジの顔を見ると、コクリと微かに頷きかけた。

シンジはレイが無事な様子を見て気が抜けたか、あるいはハッチを開くために全ての気力を使い果たしたのだろう。
そのまま崩れ落ちるように倒れてしまった。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

「う〜ん……う〜ん……」
居間に敷かれた布団の中でシンジは呻き声を上げていた。
シンジとレイ、これではどちらが戦闘に敗れて負傷したのか判らない。
その布団の周りには7番から10番までのレイのコピー達が並んで座り、看病に当たっていた。
シンジは高熱を出しているらしい。そのおでこには古典的な氷嚢がぶら下げられている。

そこにオリジナルのレイがやってきたのを見て、シンジは何故か謝る。
レイの方は怪我も何もなかったらしくピンピンしていた。
「ああ、綾波……ごめんね。何もしてない僕がこんな……」
「いい。さっきはありがとう。」
「あの、綾波……使徒は……?」
「今だ健在。それについて政府の関係者がこの基地に来ているの。話をしてくるから。」
「あ……」

シンジはそっけなく立ち去ろうとするレイを、思わず呼び止めようとした。
「何?」
「いや……なんでもない……」
「そう、それじゃ。」

流石にレイのあまりの素っ気なさぶりに何か言いたかったのだろうか。
しかし、レイは一目だけの見舞いをしただけであっさりと部屋を出て行った。
それを切なく見送るシンジ。
そんな彼の氷嚢を取り替えたり、焼けただれた手の包帯と取り替えたりと、
シンジの側に張り付いているコピー達はせっせと看病に励んでいた。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

そのままシンジが寝ていると外から何かガヤガヤという声が聞こえてくる。
政府関係者というか軍人だろうか。その口調からかなり怖面の連中らしいことが判る。
しかし、話している内容まではシンジには聞き取ることが出来ないようだ。
だが、もう一つ聞こえてくる妙な音。
シンジが寝ている天井の上から、カリカリカリカリ……

シンジがその音を気にしていた丁度その時、そこにレイのコピー達が担架を持ってやってきた。
どうやらシンジを移動させるつもりらしい。
レイ数人がかりで担ぎ上げられ、シンジは居間の外へと担ぎ出されていく。

そうして担ぎ出された場所はエヴァの格納庫。
油やら何やらで汚れた床の上にシートを広げて新しい布団が惹かれていた。
そこに寝かされながらシンジはオリジナルのレイを見つけたが、なんだか沈んだ表情でうつむいている。
そういえば、政府の関係者とかいう連中の姿が見えない。
もう帰ったのだろうか。

レイはボソリとシンジに話す。
「あのジェットアローンを出撃させるらしいの。」
「……そうなんだ。」
「あなたを一番安全な場所、エヴァに乗せて脱出して貰おうと思った。
 けど……それも出来なくなった。」
「何故?」
「あのポジトロンライフルのエネルギーとするために電力を全て徴収するというの。
 日本中の全ての電力を集めるらしい。この基地の電力も例外ではない。」
「そんな……でも、エヴァが無ければ使徒は……」
「彼らは失敗しないから問題ないと主張している。
 交渉はしてみたけれど、ここは核融合炉を使った独自の発電を行っている。
 だからここの強力な電力に手を付けない訳にはいかない。作戦場所から一番ちかい発電源だし。」
「……」
「国の名において命じられたらどうしようもない。私は国の名において援助を受けてきたのだから。」

レイはシンジの枕元に座り、吸い飲みでジュースを飲ませてやりながら話し続ける。
「彼らが失敗すれば全て終わり。もはや、成功することを期待するしかない。」
「でも、彼らが成功したら僕達は……」
「そう、立ち退きを要求される。でも、それだけは避けるように交渉するつもり。」

ガリガリガリガリガリガリ……

シンジが居間で聞いていた音。それがだんだん大きくなってきている。
「綾波……あの音は何?」
「使徒。」
「え?」
「ここは幾重にも防壁が張られているけど、あの使徒ラミエルがそれを食い破りつつある。
 それがここに到達すれば全ては終わる。」

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ……
その時、レイはラジオのスイッチをカチリといれる。
どうやら、使徒殲滅の作戦内容が全て放送されているらしい。

『さあ、いよいよ作戦決行となりました。あれ以来、使徒は動きを見せていません。
 おや?配電線にミスがあったようです。司令部より10分の作戦決行時間の延長が……』

シンジはそれを聞いて目を丸くした。
「ちょっと……そんな悠長なことをしてたら、使徒の侵入に間に合わなく……」
「ここの侵入なんてどうでもいいのかもしれない。彼らにとっては。」

ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!

使徒が防御壁を破ろうとする音が更に大きくなりつつある。
シンジ達の居る場所へと近づきつつあるのだ。

「あ、綾波……あの……」
「大丈夫。多分……MAGIと陽電子砲、私の設計通りに造られているのなら。」

そんなふうに余裕で構えるレイ。あるいは、それは開き直りか。

ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!
ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!
この轟音、間違いなく最後の隔壁が破られつつある。
もう駄目か。
ジェットアローンの攻撃は間に合わないのか。
あるいは既に失敗したのか。

シンジは、もはやこれまでかと、顔をしかめる。
そんな思いからギュッと握りしめた彼の拳を、
コピーの一人がそっと両手で包み込んだ。
再び新しい包帯をまき直すために。
93 ◆LRvRIPAn.s :2007/10/31(水) 01:07:13 ID:???
とりあえず、ここまでですー
94名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/31(水) 01:23:40 ID:???
乙です!
95名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/31(水) 01:26:53 ID:???
なかなか空気をつくってくれるじゃないの。続きに大いに期待。
しかしこの状況の話でもコピー達の地の文にはシュールな笑いを感じてしまう・・・ もはや虜か・・・w
96名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/31(水) 02:29:14 ID:???
おつ〜
新ラミエルじゃないみたいやね
97名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/31(水) 23:08:04 ID:???
wktk
 しゅ〜ん…………

「え?」
急に音が止み、どうしたのかとシンジは困惑する。
そしてオリジナルのレイは即座に立ち上がり、様子を見に駆け出した。
「あの……綾波、危ないから……」
そう言いながらシンジは身体を起こそうとするが、発熱のために身体が言うことをきかない。
両脇からコピー二人に支えられてようやく立ち上がった、その時である。

『やりました!使徒は完全に活動停止し、殲滅は完遂しました!
 成功です!我々の開発したポジトロンライフルが見事に使徒のATフィールドを打ち破ったのです!』

ラジオから聞こえてくる驚喜のアナウンサーの声。
もう間違いないだろう。ジェットアローンが使徒殲滅に成功したのだ。

だが、それはレイへの援助が打ち切られ、立ち退きを要求されることを意味していた。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

シンジはコピー二人の支えで、オリジナルが向かった方へゆっくりと歩いていく。
行き着いた先はシンジがさっきまで寝ていた六畳間。
シンジはその有様を見て驚愕した。
天井が丸ごと無くなっていたのだ。
どうやら、丁度そこが使徒の侵入ポイントだったらしい。
天井にぽっかりと丸い穴が開けられ、遙か彼方の夜空まで綺麗に見渡すことが出来る状態だ。
しかし、壊された時の破片が一欠片も残っていない。
使徒は吸い上げながら掘削したのか、それとも熱で焼却してしまったのか。

オリジナルのレイはそこにいた。天井から差し込む月明かりに照らされながら。
そして携帯電話を耳に当てて何やら話し込んでいる。
その相手はシンジには知るよしもないが、間違いなく話の内容は自分達の今後についてだろう。

とりあえずシンジは改めてそこの布団に寝かされたが、しかし部屋の明かりが失われている。
月明かりだけでは心許ないために、シンジは何か明かりを持ってくるように頼んでいた時、
ようやくレイは電話を切ってシンジに向き直った。

「私達が立ち退く必要は無くなった。ただし……」
レイは相変わらずの無表情ながら、憔悴しきった様子で説明する。
「ただし、日本政府は今後の援助は行わない。自分達で殲滅が可能となり、私達は必要なくなったから。
 立ち退くつもりがないなら、私達の安全は保証できない。戦闘に巻き込まれても関知しない、と。」
「綾波……それじゃ……」
「ここの電力の供給や作戦の協力と引き替えに援助を要求したけど、それも駄目だった。
 今後、エヴァのメンテナンスに必要な費用の援助や資材の搬入は無い。
 これでは、私達はいずれやってくる使徒と戦い続けることが出来なくなる。」
レイはシンジの寝ている隣りにペタリと座り込んで話を続ける。
「彼らが出来るという援助は只一つ。ここの立ち退きと、その後の生活保障の費用だけ。
 でも、それは出来ない。私達はここで戦い続けなければならないのに。」
「……どうして?彼らに任せてしまっては駄目なの?」

そう問いかけたシンジだが、しかしレイは何も答えない。
かたくなに自分が使徒に勝つことに執着しているのか、それとも何か事情があるのか。

しかし、レイはシンジの問いかけには答えず、上を見上げてつぶやいた。
「ここで寝るのは良くない。やはり別の部屋で寝て貰うわ。コピー達の大部屋が無事だから……」
「いや、今日はここが良いよ。こんな天井で寝るのは初めてだから。」
ポッカリと空いた天井の穴。そこに丁度さしかかっている月を眺めながら、シンジはそう答えた。

普通に考えれば、その天井の窓から新たな使徒が侵入を果たす危険を感じられる。
しかし、レイはそれを言わなかった。
そしていつも通りにコピーを一人おいて自分の寝床に去っていく。
今日の当番は5番だった。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

シンジはしばらく朦朧としながら寝付くことが出来ずにいた。
隣で横になっているコピーもまた入眠せずにいる。
そして時折、コピーが熱を測ったり氷嚢を取り替えたりするため起き上がる。
そんな看病を受けながら、シンジはしきりと考えていた。
綾波レイの失策について。

明らかに組織力不足である。
コピーをどれだけ引き連れていたとしても所詮は一人。
どれほどの資金力や技術力を保有していたとしても、所詮は一人である。
エヴァの製造とメンテナンスだけではなく、政治的な交渉まで一人で行っていては追いつくはずはない。
しかし、それだけでエヴァを作り上げて使徒と戦う力を得るに至ったのは実に驚異であるが、
しかしここまでだ。そう考えざるを得ない。

人手さえあれば金や力は幾らでも沸いてくる。
金や力があっても、それらを使う手が足りなければ意味がない。
そして巨大な組織の力で、その金と力をも奪われつつある。
まあ……実のところは、その金と力は巨大な組織を利用して得ていたのではあるのだが。

その巨大な組織、国連や日本政府を冷たい目で見つめていたレイ。
その組織の中に一人でも良い、レイにとって信頼できる者が居たら違ってきただろう。
そうした者が居なかったというよりも、あるいはレイが心を開かなかったためだろうか。
レイはその組織を、いうなれば人類を背に向けて戦っていたに等しい。
彼女が共に戦うことを選んだのはシンジ一人だけ。無力な14歳の少年ただ一人。
レイとシンジ。ただ二人だけで使徒と戦い続けるなど、初めから無理が有りすぎる。
レイはいったい何のために戦っているのだろう。
レイは何を相手に戦っているのだろう。
日本が、国連が戦いたいと言うなら、任せておけばいいのではないか。
何故、かたくなに自分の手で戦うことにこだわっているのだろう……

そこまで考えていたシンジは、思わず歌を口ずさみ始めた。
「♪貧しさに……負けた?……いえ……世間に……負けた……」

隣で寝ているコピーは、それを聞いて起き上がる。
しかし、何か命じられたわけではない、と判断したのだろう。
シンジの歌声を聞きながら、再び自分の布団に戻り天井の月を見上げた。

これから先、もはや資金の援助も断たれて資材や生活用品の発注も出来なくなるだろう。
世間に負われて只二人で貧しい生活を強いられる。
そんなところから、シンジはそんな歌を連想したのだろうか。
そして今度は一変して、陽気なメロディーで歌い始めたシンジ。

「♪ちゃららったったったったったー♪ちゃららったったったっらったー
 ♪ちゃららったったったっらららー♪ちゃららっちゃっちゃっちゃっちゃー」
 
シンジの突然のはっちゃけぶりに、今度は跳ね起きて驚くコピー。
もはやシンジは高熱で精神が侵され始めたのではないか、と。
そのメロディー、文字で書いただけでは判りにくいが実はチャップリンの映画の挿入歌だったのである。
それはモダンタイムズという映画で、貧しい男女が身を寄せ合って共に暮らし始めるという話。
しかし運良くレストランでの仕事にありつき、そこで主役のチャップリンが客に披露した歌がそれである。
そしてその映画の顛末というのは、結局その二人は人々から負われて逃げていくハメになるのだが、
しかし最後のシーンでチャップリンが何て言っていただろう。それが上手く思い出せない。
その台詞ひとつで、不幸な顛末をハッピーエンドに変えてしまったかのような……

コピーがシンジの脇の下に体温計を挟もうとした時、シンジはようやくそのラストを思い出した。
「そうだよ、綾波。こんなときは笑えばいいんだ。」

今日の当番、コピー5号はキョトンとした顔でシンジを覗き込む。
しかし、ようやく彼の命令を理解したらしい。
忠実なコピーは命令に従い、シンジに優しく微笑みかけたのだが……
既にシンジは目を閉じて眠ってしまい、その笑顔を見ることは出来なかった。

すーすーと寝息を立てるシンジをコピーはそのまま見守り続ける。
天井の崩れた和室六畳間に差し込む、蒼く美しい月明かりの下で。
104 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/01(木) 22:26:10 ID:???
とりあえず、ここまでですー
105名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/01(木) 22:36:06 ID:???
乙。
アンタのそのはっちゃけぶりが面白いわw
106名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/01(木) 22:44:42 ID:???
キタキタ\(≧▽≦)丿
107名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/01(木) 22:56:47 ID:???
だんだんこのペースにハマってく
108名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/02(金) 00:39:23 ID:???
乙です
がんばって下さい!
109名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/02(金) 01:47:32 ID:???
おつおつ
部屋が使途直下に近すぎw
「うわぁっ!……ああ、おはよう……今日も朝から怖いね、君は。」

あれから一週間ほど過ぎた頃。
シンジは穴の空いた六畳間ではなく、エヴァの格納庫で寝泊まりをしていた。
彼が驚いているのは、すぐそこで初号機の巨大な怖面が見おろしていたからである。
もうこの基地の防壁が破られて巨大な穴が空いている状態、
何かあればすぐにでも初号機に飛び乗れるように、という用心であった。

シンジが起床すると、隣りで寝ていた当番のコピーもすぐ起きて洗顔を済ませ、朝食の粥を炊き始める。
添い寝当番の後は、そのまま家事当番という訳だ。更に洗濯物を抱えて奔走するなど大忙しの有様である。
オリジナルのレイは大部屋から残りのコピー全員を引き連れ、シンジに朝の挨拶を済ませる。
そして朝食後はエヴァのメンテナンスを開始。
シンジはといえば取り立ててすることはなく、当番のコピーを手伝うために大部屋の掃除へと向った

しかし最近はそんな忙しさが無くなりつつある。
もう機材の搬入がなく、エヴァに対して出来ることが無くなってしまったのだ。
あれこれとエヴァのテストを行い改良をしようにも、それを行う材料が無ければ意味がない。
することがなくて呆然と座り込んでいるコピー達をほっといて、ひたすらノートパソコンに向かうオリジナル。
エヴァの改良案でも考えているらしく、機材がなければ着手できない設計書を書き貯めては溜息をついていた。
まさに取引先を失い、仕事が無くて暇をもてあます零細企業のような状態である。
幸い電力源は保有しているし、水の備蓄はたっぷりある。
当分は何の収入が無くても生活は出来るだろう。
しかし、問題なのは食事である。幸いにも米と塩だけは大量に備蓄しているが、それだけだ。
シンジは生鮮食料だけではなく保存食や日持ちする材料を購入しておくべきだったと後悔するが、
しかし、そんな後悔は先に立たない。節約のために塩で粥ばかりすする毎日である。
もはやネットからの注文システムは止められているし、地上の街も消失している。
もはや、シンジとレイの基地は正しく陸の孤島と化してしまった。

さて、シンジは何をしているのか?というと、主に暇を持てあましているコピー達と過ごしていた。
言われるがままに何でも言うことを聞くコピー達。
家事当番とその手伝いに当たる数名を除いて、することもなく大部屋で点々と座っている彼女たちを見て、
何か人間らしいことを教えたりすることが出来ないかとシンジは考えたのだ。
おいで、と呼びかけると、コピー達はいそいそとシンジの前に集まってくる。
無表情ながらも基本的にレイは美少女である。その可愛い有様を見てシンジは大いに張り切った。

とりあえず遊んでみようとトランプを取り出したシンジ。しかし、これは失敗だった。
ババ抜きのルールを簡単に説明するとテキパキとこなしていく彼女達の性能は流石だが、
ゲームと言うより作業をこなしているようにしか見えず、
コピー達はトランプのソート技術を完璧にマスターしてゲーム終了。
二枚ペアに揃えて、ご丁寧にも番号順に並べたカードの束にジョーカーを添えて提出されたとき、
シンジはとてつもない空しさを覚えて、コピー達と楽しく遊ぶことは完全に諦めてしまった。
だが、シンジはめげない。今度は奥の手、チェロを引っ張り出してきた。
生活用品を注文する傍らで、ちゃっかりそんなものまで遠慮無く取り寄せていた訳である。
演奏するから聞いてみて、と言うと、コピー達はシンジの前に横一列に整列してペタリと正座で座る。
そんなに構えられては誰だって緊張する。シンジはまたしても止めときゃよかったと後悔するが、
しかし演奏を始めるとコピー達は目を閉じて頭をゆらゆらさせながら聞き入っている。
どうやら効果があるかもしれない。コピー達の揺らぎが完全に同期しているのが気になるけど。

シンジが一曲だけ演奏を終えると、コピー達の他に真後ろから拍手が聞こえてきた。
どうやらオリジナルのレイも演奏を聴いていたらしい。

「そんな特技があるとは知らなかった。音楽はいいわね。」
「い、いやあ、まだまだ下手くそだよ。あんまり演奏できる曲も少ないし。」
「ネットから楽譜が入手できるかもしれない。それで練習すれば良いと思う。時間もあるし……」
「そうだね。で、どうなったの?」
「うん……」
どうやら何かの結果待ちだったらしい。しかし、レイの表情は暗い。

「EU圏は駄目になった。なぜなら、国連艦隊の手によって発見された敵を殲滅したらしい。」
「本当に?」
「戦艦2隻を捨てる結果になったらしいけど。
 しかし、ますます使徒の殲滅にエヴァが必須ではないことが世間に広まりつつある。
 もう国連が私のいうことを聞く理由がない。」
レイは在住している日本を見限り、世界各国に働きかけをしていたらしい。しかし結果は前述の通り。
それ以後も、言うなれば「朗報」が次々と入ってくる。

『浅間山火口で孵化を始めようとしていた使徒の捕獲に試みるも失敗。ただし殲滅に成功。』
『巨大なクモ型の使徒が発生。旧第三新東京市跡地を目指して移動中であったが、
 これをポジトロンライフルで狙撃し殲滅に成功。しかし、その体液により被害は甚大。』
『大気圏外に巨大な使徒が発生。日本の関東平野を目指して落下中。
 これを日米共同で開発した陽電子砲搭載の新鋭戦闘機で、これを撃破。』

それをレイは解説する。
「まぐれとか言うつもりはない。彼らはちゃんと実力で殲滅している。
 ただし、その実力は主に破壊力であり、これまでの勝因は単に運が良かっただけ。」
「運?」
「まず使徒ガギエル。
 戦艦2隻でコアをゼロ距離射撃が出来たのは、たまたま使徒が食らい付いてくれたから。
 浅間山火口の使徒サンダルフォンも同様。
 捕獲を試みた調査艇を飲み込んだのは良いけど、それに送り込まれていた冷気で自滅。
 使徒マトリエルは……それは無防備な姿で溶解液を運んでいた使徒の方が間抜けだったというしかない。
 天空から飛来した使徒サハクィエルについては、見事だと思う。
 ただ、命中精度はかなり低かったようだし、よくぞ戦闘機で保有できるエネルギーで倒せたものだと思うけど。」
「……」
レイは少しだけ眉をしかめながら話を続ける。
「勿論、運の良さも実力の内。このまま彼らが倒し続けることが出来るなら、それに越したことはない。
 ただし、もし彼らが失敗したら最後の砦は補給の断たれた私達だけ。
 補給だけが問題じゃない。私は順々に使徒を倒していき、戦闘の経験が積まれていくことを期待していた。
 いきなり実戦に突入して、果たして私達が満足に戦えるかどうか。」

しかし、シンジは楽天家であるようだ。
「でもさ、綾波。使徒が来て戦うとなれば、いわゆる彼らと共同で戦うことになる。
 戦力としては十分じゃないかな。」
「だと良いけど。でも、使徒の方もこれまでの二の舞は踏まないはず。
 次からはピンポイントでここに来ると思う。碇君、心構えをしておいて。」
「……判ったよ。可能な範囲で訓練をしようよ、綾波。」

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

レイがそんな話をしたのが早いか、すぐその夜のことであった。

「ん……むにゃ……あ、綾波……?」
シンジは目を覚ますと、レイとそのコピー達に完全に取り囲まれていた。
そして一斉に手を伸ばして、バリバリとシンジの服を引きちぎり始めたではないか。

「ちょ、ちょっと、何するの!や、止めてよ!」
そうシンジが叫ぶが、しかし彼が完全に丸裸になるまで止めようとはしない。
そして引き裂かれた服を一箇所に積み上げて、ガスバーナーで燃やそうとする。
しかしその服からチラチラと赤い光を放ち、どうやらそれが防いでいるらしくなかなか着火できそうにない。
「あ、あの光はまさか……」
驚愕するシンジにレイは答える。
「ATフィールドね。あなたの服に取り付いたらしい。危ないところだった。」
「ええ!?」
「さあ、プラグスーツに着替えて、エヴァに乗って。使徒を駆除しなくては。」
そう言いながら丸裸で股間を隠すシンジにレイはスーツを手渡す。
その側でコピーの一人が放射能検知器のようなものでシンジの身体をなぞっていく。
身体に取り付いてやしないかと調べているのだろう。

さて、使徒の駆除、もとい殲滅の開始である。
「その壁も全部はがしてしまって。ああ、その床も構わないからどんどん破いて。」
あらゆるところに使徒が感染しているらしく、シンジはレイに指示を受けながら、基地を片っ端から壊していく。
やはりあの穴からだろうか。例の六畳間もまとめてぶち壊すハメになってしまった。
そして一定量の鉄くずやら何やらをエヴァ射出用エレベーターに積み上げる。
「とりあえずそれを地上に持って行って。私も零号機で残りを持って行くから。」
そう指示されるままに、シンジは初号機で地上に向かった。

なんだか年末の大掃除でもしている気分だが油断は出来ない。
気を抜くと使徒に初号機のATフィールドを突破されて、初号機に感染してしまうからだ。
エヴァ用のゴム手袋や割烹着が必要だな、とかシンジは考えながら地下基地の残骸を積み上げていると、
零号機が残りの残骸をもって地上にやってきた。
そしてアンビリカルケーブルを伸ばして残骸に当てて放電を開始。
零号機はATフィールドを中和し、初号機はATフィールドで身を守りながら殲滅を担当。
溶接をしているようにも見えるが、まるでエヴァ2体で焚き火をしているかのような光景だ。
レイが殲滅完了を宣言した後も、まだ赤々と燃え続ける基地の残骸をエヴァ2体で体育座りで眺めていた。

レイは通信モニタ越しでシンジに話しかける。
『基地はなんとか機能できるけど……かなり悲惨な状態よ。
 お風呂場とかも壊しちゃったから、これからの生活が大変……』
「そうなんだ。まあ、仕方ないよ。」
『ごめんなさい……これから先の生活、もっと辛い思いをさせるかも……』
「まあ、なんとかなるよ。コンロとか大部屋の台所にもあったから料理も出来るし、
 それにシャワールームも別にあるから。」
そんなふうに、しみじみと話す二人。

『……碇君。』
「え?」
『もう聞かないの?なぜ、自分を呼んだのか、そして私が何者なのか……』
「うーんと、そうだね……」
『ここから、逃げたいと思わないの……?』
それを聞いたシンジは両手を頭の後ろに回して、うーんと伸びをしながら考えた。
そしてレイに笑って答える。

「どうでもいいよ。こうして綾波達と生活しているのが楽しいし。」
『……楽しい?苦しい生活をしながら、使徒との戦いを待ち続けるのが?』
「うん。君に会うまで僕は独りぼっちだったし。」
『……』
「何故だか判らないけど、僕と一緒に生活して戦ってくれるのが嬉しくてさ。
 その理由とか聞いちゃうと全部こわれちゃいそうな気がして。アハハ……」
『そう……』
「……」

そんなふうにポツリポツリと話をしながら、残骸が燃え尽きるのを眺めている二人。
気が付くと、すでに夜が明けていた。東の空から太陽が昇り始めている。
「徹夜の作業になっちゃったね。そろそろ戻る?」
『待って……あれは?』
「え?」

レイが、というより零号機が指さした先、何かがこちらにやって来る。
「あれは……ジープ?戦自のかな。」
そうシンジが答えた通り、それは戦自の陸戦隊らしい男達を乗せたジープだった。
そしてエヴァから一定の距離を置いたところで停車し、一人の男が降りてこちらに向かってくる。
どうやら交渉役を買って出た代表のようだ。
見た目、隊長クラスにも見えなくもないが、しかし誰かからの使いにしてはラフな雰囲気でもある。

『碇君、少し通信を切るわ。待ってて。』
「え?」
シンジは何かを聞き返そうとしたが、もうすでに通信モニタはプツッと切れてしまった。

なんのために切ったのか。
普通に考えて通信を切る理由はただ一つ。別の相手と通信をするためだ。

それが終わったのだろう。しばらくして、レイとの通信が再開する。
『お待たせ……私が彼らと話してみる。碇君は射出エレベーターの位置に初号機を移動させて待機。』
「うん、判ったよ。でも……」
『あまり心配は無いと思う。使徒の反応は検出されていないし。でも、念のために油断しないで。いい?』
「うん……」

不安げに頷くシンジを見ながら、エントリープラグをイジェクトさせるレイ。
そしてLCLを勢いよく噴出させながら出てきた彼女の腰には、一丁の拳銃が釣り下げられていた。
とりあえず、ここまでですー
120名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/03(土) 00:27:00 ID:???
>>119
今日も投下お疲れ様ですー
121名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/03(土) 02:53:03 ID:???
おつぅ
122名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/03(土) 15:42:16 ID:???
この話は愛せる・・・
123名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/03(土) 20:34:18 ID:???
シンジとレイしか居ないエヴァ全部読んだ

投下マダ〜
124名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/04(日) 19:26:57 ID:???
投下町
レイはゆっくりと歩いて、その自衛隊員に近づいていく。
その隊員は流石にプロである。レイを見て、腰につるされた「警戒」のサインに気が付いたらしい。
手のひらで制して「待て」の合図をしてから、自分の武装をジープに投げ込み、
改めてレイの方に歩み寄り正式な敬礼を取る。
とにかく、紳士的に接しようとしていることを示したいようだ。

シンジはコックピットからその様子を眺めていたが、どんな話をしているのかサッパリ判らない。
ずいぶん時間を掛けている。10分、いや15分は過ぎただろうか。
次にレイや自衛隊員はどう動くのか。まさか、レイが腰の銃を抜くような展開が?
しかし、仮にそうなったとしてもシンジは初号機に乗ったまま。
イザとなれば自分が暴れれば済む話だ。

……なんていう心配は無用だったらしい。
レイがこちらの方を見て手招きをしている。降りてこいという合図だ。
シンジがあたふたと地上に降り立ち二人の元にやってくると、
その隊員は、レイは例外としても14歳の子供にすぎない彼にまでキッチリと敬礼をした。
そして、その隊員は後ろを振り向いてOKのサインを送っている。

シンジは小声でレイに囁く。
「綾波、大丈夫……なの?」
「大丈夫と思うわ。どうやら、彼らは軍の命令ではなく個人的に私達に会いに来たみたい。」
「僕達に、個人的に?」
「そう。この隊員達は私のことを知っていて、なんの支援も受けられない私達の状態が心配だと言っている。
 それで支援物資を送りたいと。」
「……そうなんだ。」
「一応、日本国政府には問い合わせたの。
 この人達の行動は政府や軍の命令ではない。我々が下したのは命令ではなく許可。
 政府は私達に援助を行うつもりはないけど、禁止を発令している訳ではない。
 個人的に支援したいなら、それを止める理由はない、と。」
「成る程……」

そんな話をしていると、遠方から数台のトラックやジープの増援がやってきた。
そして、それらから下ろされた物資は大半が保存の利く缶詰や食料ばかり。
中には米や生鮮食料、そしてジュースや酒、寝袋や燃料といった非常用品まで混じっている。
問題はその量からしてレイの配下には多数の部下が居ると思っているらしい。
とどめには、大鍋を取り出して火を焚く準備を始めている。
なんと、この場でカレーを作ってくれるというのだ。

物資の運搬後に作り始めて、今夜には出来上がるから他の仲間も呼んでこい、と隊員達は言うが、
しかしレイは、私達二人だけしかいないと答える他はなかった。
とてもコピー達を見せるわけにはいかないからだ。
それを聞いた隊員達は変な顔をしたが、しかし彼らは問いつめようとはしなかった。
そしてレイを見張り役に残して、シンジはエヴァを使って支援物資の運搬を開始。
使徒殲滅が本領の筈が荷物運びをしていると考えると、初号機はさぞ泣いていることだろう。
ま、それはそれとして、その後は彼らの作るカレーが出来上がるまで一眠り。
そんなことをしているうちに、既に時刻は夕暮れに差し掛かっていた。
搬入した物資の整理はコピー達に任せてシンジが地上に戻ると、物凄く良い匂いが漂ってくる。
自衛隊員の作るカレーがいよいよ出来上がるらしいのだ。
お暇な方は是非とも自衛隊カレーをキーワードに動画などを検索していただきたい。
大鍋と聞いただけでも期待が出来るというのに、その豪快さは男の中の男の料理。
その造る様を見るだけで絶対に旨くない筈はないと決めつけてしまうのが不思議な話だ。

実際、シンジは大満足だったらしい。
涙を流さんばかり、というとオーバーなのだが、これまで米と塩ばかりで生活してきた彼である。
肉はもちろん野菜や強い香辛料など、すっかり身体が忘れかけたものばかりを味わったシンジは、
周囲で隊員達が笑ってみているのも気にせず、ほとんどトランス状態に陥るほどに夢中で食べ続けた。
無理もないだろう。育ち盛りの年代の彼が、あまりにも過酷な生活を続けてきたのだから。

しかしシンジは、これまでの生活を意外と過酷に感じてなかったことにも気付く。
はたして、それは何故だろう。
様々な運命の変転、謎だらけの自分の状況、使徒の襲来を待ち続ける日々に夢中で我を忘れていたか。
あるいは、綾波レイの存在のおかげか。
ふと気が付いて、隣にいるレイを振り返る。
「綾波……平気?」
「何が?」
「そのカレー、肉入りだよ?」
「うん……平気……」

そういって二回目のお代わりを貰いに立ち上がるレイを、シンジは呆然と見送っていた。
確か、肉は嫌いといった筈である。
そのレイが大量の肉が入っている筈のカレーを、ゆっくりと味わって食べている。
とてもお義理で口に運んで、無理矢理のみこんでいるようには決して見えなかった。

しかしそのカレー、100人分よりもっと多いだろうか。こっちは二人しかいない。
その大量をカレーをどうやって始末をつける?と悩んでいたのも束の間のこと。
後から後からやってきた自衛隊員の連中のお陰で、その心配は不要となった。
流石は国防戦力の彼らである。無謀と思われた大鍋カレーがみるみるうちに空っぽになってしまった。

そして宴も果てて、最後には記念撮影まで求められてパーティーは無事終了。
流石は軍隊、後片付けをテキパキと済ませて帰って行った。
そんな彼らを見送りながらシンジは言う。

「綾波は……多分、判ってると思うけど。」
「何?」
「私的に援助っていうのは嘘だと思う。私的であれだけの物資は援助できないんじゃないかな。」
「……」
「なんだかさ、メシ抜きを子供に宣告しておいて、
 後でおにぎりを持って行けって母親にこっそり命じる頑固親父みたいで。」
「そうかもしれないわね……でも、違うかも知れない。自分で言うのもなんだけど……」
「え?」
「私、何故か彼らに人気があるみたい……何かの折に私のことを知ったみたいね。」

それを聞いたシンジは吹き出して笑い始めた。
「アハハ、隊員さん達に写真を見せて貰ったよ。綾波の姿を隠し撮りしてたらしくってさ。」
「何度か戦自の基地に出入りすることがあったから、その時みたいね。
 指揮権を得るために各部隊の将校との挨拶回り。
 でもね……あの人達、最初に私が投入を命じた厚木と入間の部隊の生き残りなの。」
「え……?」

そしてレイは表情を少し曇らせながら話を続ける。
「その彼らが私に会いに来たというのを聞いて複雑な気持ちだった。
 私は彼らに対して死ねと命じたに等しい相手の筈なのに。
 しかし彼らは仲間を失った恨み辛みなんていう気持ちはこれっぽっちも抱いていない。
 しかも、彼らはこんなものを私にくれた。」
そして取り出した一枚の紙切れ。そこには電話番号のようなものが書かれてある。
「これで自分達に直に命令してくれというの。融通の利かない政府なんかほっといて。
 軍隊を抜けて、基地から兵器をぶんどって必ず参戦するから、と。」
「……」
「何故そこまで?と聞いたら……やっぱり自分では言いにくいけど、みんな私のファンだから、と。
 自分達で兵器を開発して戦おうとする私のファンだから、と言ってくれた。」
「……」

シンジは少し考えていたが、やがて笑みを浮かべながらこう答えた。
「判るよ、その人達の気持ち。国とかいう大きな物のためより、誰かのために戦って死ねたら最高じゃないか。」
「……」
「人が命をかけたいと思う気持ちって、そういうものだと思う。国を守りたいという大義も根本はそれだと思う。
 僕がここに止まりたいって思うのは、それと同じ気持ちだと思う。」
「……ありがとう、碇君。」

そしてレイはシンジの正面に立ち、改めてシンジの目を見据えた。
「碇君。なぜ、あなたをここに呼んだのか。それを教えたいと思うの。」
「え……?」
「ここで使徒と戦っているのは、何も世界を守るためとか、サードインパクトの勃発を防ぐためとか、
 実を言うとそんな理由とはまったく違うの。使徒がやってくる理由も違う。」

「それじゃ……何のために?」
「あなた。」
「え?」

「使徒はあなたを消すために、あなたを目指して襲来している。
 ここにあなたを呼んだのは、『この場所に使徒が来る』ためではなく、『碇君をこの場所で守る』ため。
 実を言えば、私は人類を守るため、なんてそんなつもりは全く無かったの。
 私はあなたを守るために。それだけのために、こうして戦ってきたの。
 ここからあなたが移動すれば、使徒は必ずあなたを追いかけてくる。
 それが、あなたをここに招いた理由。
 たとえ誰からの援助も無くなったとしても、立ち退きを要求されても、私があなたをつれて逃げることは出来ない。
 私は人類の資材を全て投じても、他の全ての人達の命を犠牲にしても、あなた一人の命を守るために。」
132 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/04(日) 23:04:26 ID:???
とりあえず、ここまでですー
133名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 00:01:02 ID:???
おおなんか話の核心きたぞー
今回はシンジの素朴な語りがいいね・・・
毎回楽しませてもらってます
134名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 01:56:07 ID:???
おつ
コピー達を公にできないとなると、結末時が心配だわ
135名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 03:36:50 ID:???
面白い
136名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 22:01:52 ID:???
コピーにもカレーを食わせてやってくれぇぇぇ(泣)
塩とご飯だけなんてあんまりだよぉ。

でもGJ!おもろいわ。
137名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 22:43:54 ID:???
おつです
GJです
シンジは目眩にも似た感覚を味わいながら、レイに聞き返した。
「そ、それじゃ……サードインパクトが起きるというのは……」
「いえ、セカンドと同じぐらいの大惨事が起きると思うわ。それ以上かも……」
「それじゃ……どうしてそれを隠していたの?」
「このことを世間に知らせる訳にはいかないの。
 どんなことがあるか判らない。例え、碇君だけに伝えたとしても、どんな経緯で知られるか判らない。
 仮に知られたら、使徒の襲来を防ぐにはあなたを消せばいい、という誤解を招く。」
「それじゃ……それじゃ……」

しばらく言葉に詰まってしまったシンジだが、深呼吸をしてから思い切って尋ねた。
「それじゃ……それじゃ、僕は何なの?」
「それは……」

今度はレイの方が覚悟を決める番であった。
しばらく沈黙していたレイ。そして意を決して口を開いた、その時。

 ♪ぴんぽろぱんぽろぴんぽろぱんぽろ……

レイの携帯電話の着信音である。
その電話を受けたレイは目を丸くした。
「私達がこうして会話しちゃいけないって、あれほど……
 そう……そうね、判ったわ。」
そんなレイを、シンジはかえって心配顔になってを見つめる。
レイは伏し目がちに、そのシンジの無言の問いかけに答えた。
「ごめんなさい……さっきの質問には……」
「いや、いいよ。なんだか……物凄く怖いビックリ箱を開いてしまうところだったかもね。アハハ……」
そんなふうに寛大に笑ってくれるシンジに、レイは感謝する他はなかった。

さて、ボロボロになってしまった地下基地に二人が戻ると、
コピー達が物を言わずジッと立ちつくして待っていた。
地下の薄暗さのお陰か、なんだか今の彼女達が恐ろしくも見えてしまう。
普段は、無表情ながらも愛嬌を感じて仕方がない同じ姿のコピー達。
しかし今は一変して、同じ姿さながらの不気味さが際だっているかのような……

そんな彼女達を見て思わずゾクリとするシンジに、
「シャワールームが無事だから、それを使って休む準備をして。」
と促すレイ。
シンジは勧められた通りに下の階層にあるシャワールームに向かった。
レイと、そのコピー達を後にして。

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それ以後、シンジの様子が微妙な状態となってしまった。
じっと座って何かを考えていることが多くなりつつあるようだ。
かといって自分の世界に引きこもってばかりいる訳でもない。
レイ達と共に食事を取り、エヴァの訓練や家事全般の手伝いも休むことなくこなして、普段通りには見えるのだが。

ある時、オリジナルのレイがシンジの所にやってきた。
「碇君、大丈夫?この前の話が気になっているようにも見えるけど。」
「ああ、そりゃショックだったよ。それは当然。」
「あんな話をしてご免なさい。」
「いや、いいよ。僕は大丈夫だから。」
「それで、いろいろと隠していたことがあるけど、有る程度のことを知って貰おうと思ったの。」
「え?」
「来てくれる?」
と、レイは誘いかける。
シンジは否応なしに、レイの後に続いた。

そして、やってきたのは初めて見る部屋だ。
なんだか、何かの研究室にも見える。薄汚れていて、ずいぶん使い込まれていることが判る。
スチール製の本棚には難しいタイトルの本がズラリと並び、
机には幾台ものパソコンが積み上げられ、それらは全て稼働していた。
どうやらそれらが、この基地の制御などを司っているらしい。

そして、レイがシンジに手渡したのは一枚の写真。
研究者らしい白衣を着た男女の姿。女性はパイプ椅子に座り、その側にはメガネを掛けた男が立っている。
「それ、あなたのご両親。」
「……ええ!?」
シンジは驚愕する。ということは、自分の両親の姿を見るのは初めてだったらしい。

「綾波、君は……僕の両親のことを知ってるの?」
「うん。あなたは何も知らないのね……それでは赤木ナオコ博士のことも?」
「いや、知らない。それは……誰?」

レイは写真を食い入るように見つめるシンジに、ゆっくりと話し始める。
「かつて、あなたのご両親や赤木博士は共同でバイオテクノロジーの研究を続けていた。
 その研究、究極の目的はクローン技術に基づく新機軸の医学療法を開発するため。」
「クローン技術……」
「その研究の果てに、とてつもない怪物が副産物として完成してしまった。
 超絶的な力と自己修復機能を兼ね備えた究極の生命体。それが……」
「使徒、というわけか。」
「そう。それを見た者が考えることは二通り。すぐにでもそれを処分しなければならないという考えと、もう一つ。
 科学、政治、様々な面で発達し尽くした現代人間社会で、世界制覇を成し遂げるにはうってつけの……」
「せ、世界征服ぅ!?」
「その野望を持つに至った赤木博士を阻止するために、あなたのお父さんはあえて使徒と同等能力のエヴァを開発。
 しかし、初戦で敗れたあなたのご両親は、唯一の息子であるあなたに託すしか他になかった。
 なぜなら、あなたのお父さんの頑なな設計思想で、自らの遺伝子をエヴァを起動する鍵としてしまったのだから。
 けど、そのことを赤木博士に知られてしまうことになる。そして私はあなたの保護を……」
そこで、シンジは写真をレイに突き返して一言。
「あのさ……これ、僕と綾波のコラ写真じゃないの?」
「あ、ばれた?徹夜で作ったのに……」
「……」
「……」

「それじゃ、今の僕の両親の話は?」
「嘘。」
「……」
「……」

さて、シンジはどんな態度をとるだろうか。
と、不安になったのも束の間である。シンジは大いに笑い出した。

「アハハハハハ……やっぱり?なーんか、話が出来すぎてると思った。」
「やりすぎて、あなたを怒らせたかと思ったわ。」
「いや、なんか面白かったよ。それにさ……僕、本当に自分の親のことは知らなかったから。
 もしかしたら、木の股や脇の下から生まれてきた親なしっ子じゃないかと思ってたぐらいに知らないんだよ。」
「そう……」
「なんかさ。綾波に筋書きを立ててくれたお陰で、やっと自分にも親が居るような気になってきたよ。
 この写真もらっていい?」
そう言って、大切そうにシンジは写真を眺め続けていた。
はてさて、シンジは寛大なのか楽天家なのか、あるいは全てにおいてどうでもいいのか。
そのいずれであろうと、シンジが明るく振る舞っていてくれることは、レイにとって実に助かることなのだ。
過去がどうであったかよりも、これからどうするかが重要な時。
判らない、見えない世界の情勢よりも、目の前の現実をどうするか。
二人は、それらを相手に立ち向かわなければならないのである。

とはいっても、シンジの心情に何も影響しない筈はなく、明るい彼の表情も空元気に見えなくもない。
原因であるシンジが消される懸念よりも、シンジ自身が首を括りかねない、という心配もあるからだ。
何かを心の奥底で考え込んで、悩みの種を育ててなければいいのだが。

しかし、
「みんな、おいでー」
とチェロを片手にシンジは呼びかけ、そんな彼の元へあたふたと集まるコピー達。
森の動物たちを相手に演奏会を開く「セロ弾きのゴーシュ」さながらである。
そうして彼女達に音楽を聴かせてやることで、自分自身の心の安定を図っているのだろう。

だが、そんな彼らに追い打ちを掛けるような事態が巻き起こるのも、この世の必然なのかもしれない。

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ここは自衛隊の駐屯地。
使徒の来襲、その他の危機に備えて多くの隊員達が寝泊まりする場所。
隊員達は音楽を聴いたり雑誌を片手にしながらくつろいでいる。
その傍らにはレイの素っ気ない横顔の写真が一枚。
もうすっかり彼らのアイドルとなっているのだろう。
TVに登場する造られた存在よりも、自然に降ってわいたような彼女の存在に注目する方が面白いに違いない。

その危機感のない空気、もはや彼らは使徒の襲来を楽観視しているようである。
最初の使徒の襲来で出撃し、多くの犠牲者を出す結果となった。
しかし今では使徒に対抗しうるジェットアローンが開発され、既に量産体制に入っている。
最近、現れた使徒に対しても2機のジェットアローンが出動し無事に殲滅完了。
弱点であるコアを二つ持っている厄介な相手であったが、
スーパーコンピュータMAGIの制御により2点同時攻撃が見事に成功。
もはや彼らにとって使徒というものは、出てくれば潰せばいいだけの害虫のような存在であった。

そんな彼らの足元に蠢く白く細長い影。
蛇のようにも見える。しかし、螺旋状の身体をした奇妙な……

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「使徒!?」
オリジナルのレイに叩き起こされたシンジは、あたふたとプラグスーツにその場で着替えている。
彼女の目の前なのだが、もはや気にしては居られない。
後ろを向いてではあるが、遠慮無く全裸になって袖を通しながらレイに問いかけた。
「だんだんと巨大化しながらこちらに向かっている。
 既にジェットアローンがこちらに向けて発進したみたいだけど、あなたも初号機で待機していて。
 そこが、あなたを守るためには一番安全な場所だから。」
「わ、判ったよ、綾波。」

そう返事して初号機へと駆け出すシンジ。
それを見送りながらレイはノートパソコンに映るレーダーを見据えた。
それに映る使徒のマークが徐々にこちらに迫りつつあることが見て取れる。

地下基地からうかがえる情報はそれだけだ。
ただし、エヴァを地上に挙げればそれを通して使徒の様子も観察することが出来る。
レイは迷った。あまり頼り切ることは出来ないが、できれば無人兵器であるジェットアローンに先手を打って欲しい。
だが、共同戦線を張ることは出来ない。こういうときに外交政略的な問題がもどかしくて仕方がない。
しかし、ジェットアローンの到着が遅い。
もし、エヴァを出すより先に使徒が到着すれば、下手をすると将棋で言う穴熊囲いの焼き討ちにされてしまいかねない。
ならば、結論は一つ。
躊躇無く初号機を出撃させるしかない。

レイはエントリープラグ内のシンジを呼び出す。
「碇君。出撃、いい?」
『判った。出して、綾波。』
「続けて、零号機で出るから。すぐにジェットアローンも到着する。
 戦闘になってもATフィールド最大で防御に徹して、自分で使徒を倒そうと考えないで。」
『判ったよ。気をつけるから。』

そうして、地上へと射出される初号機。それを見送るレイ。
レイは政府に対して決してムキになっている訳ではない、エヴァが使徒を倒す必要は実は言うと全くない。
自分の手で倒したいなどと考えている訳ではないし、彼らが戦果を誇りたいなら幾らでも譲るつもりでいる。
シンジを守ることができるなら。

やがて、初号機のモニタを通して、何か巨大なものが山をも越えてこちらにやって来るのが見て取れた。
それを遠巻きに取り囲む戦自の攻撃ヘリ群。だが、なぜだろう。
一機のヘリも攻撃を仕掛けようとはしない。どうして良いか判らず、狼狽しているかのように。
レイはもどかしく思った。初号機から送られる映像が小さすぎて判らない。

『綾波……あれは……まさか……そんな……』
「……碇君、どうしたの?
 いや、待って。私も出るから、決して碇君は動かないで。」
『こ、来ないで!綾波は見ちゃいけない!』
「……え!?」

だが、シンジのその拒絶でレイは察しが付いた。
そういえば、残りの使徒の中に浸食するタイプが居たはずだ、と。
147 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/05(月) 23:10:54 ID:???
とりあえず、ここまでですー
148名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/05(月) 23:24:26 ID:???
乙!
なんだかこの話のシンジは明るいなぁ。
救われるよ。
149名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/06(火) 02:11:57 ID:???
おつおつ
ここまでJAが活躍したものを見たことない
150名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/06(火) 07:02:59 ID:???
面白いな
151名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/06(火) 07:13:53 ID:???
あげてしもうた
スマソ
現れた使徒について、既にレイには察しが付いていた。
子宮を司る天使、アルミサエル。
性的な意味ではなく、胎児を守るという神聖な役目を果たすと語り継がれた天使の一人。
果たしてその伝承は嘘偽りで、まさかこれが真の姿なのだろうか。
どう見てもそれは「冒涜」以外の何者でもない。

『あ、あ、あ、あ……』
初号機から通信を介してシンジの嗚咽が聞こえてくる。
無理もない、気の弱い者なら一瞬で発狂しかねない光景である。
もはやレイの見るモニタにも、その姿がハッキリと捉えられていた。

それは、無形であった。
一定の形に止まらぬ形、蛇のように身体をうねらせたかと思えば、時には泥人形のように崩れ落ちる。
その身体を構成しているもの。それは紛れもなく人間の身体であった。
そしてその者達は誰なのか、その人々が身につけている衣服ですぐに判った。
使徒アルミサエルは大勢の隊員が集まっている戦自の駐屯地を駆けめぐり、
人間の身体を繋ぎ合わせてこね合わせた、そのおぞましい姿でここまで辿り着いてきたのである。
そう……レイとシンジの元に訪れ、温かい援助をしてくれた自衛隊員の彼らに相違なかったのだ。

モニタを見据えるオリジナルのレイも驚愕し、絶句する。
動けない。どうしていいか判らない。あれを攻撃しろ、などとシンジにはとても言えない。
何故なら、その使徒に取り込まれた人々の蠢いている様が見て取れたから。
「あれは……私達を攻撃しようなどと考えていない。倒せるものなら倒してみろと……
 アルミサエルは自らを犠牲にして、私達そのものの心に浸食するつもりなのか……」
思わず、そんなことをつぶやくレイ。
だが、ショックを受けてばかりはいられない。
シンジの初号機に物理浸食されては全てが終わりだ。
この上はシンジを下がらせて、零号機を出撃させて……と、考えていた矢先である。

レイは突然なりだした携帯電話を開いて、そして答えた。
「何ですって!?……判ったわ。今すぐにお願い。
 構わない、エヴァならそれにも耐えられる……碇君!ATフィールドを全開!」
レイは電話の相手に答えながら、シンジに命じる。

『う……あ、あの……AT……?』
「しっかりして!ここにN2爆雷が投下される!早く!」
『わ、わかったよ……ATフィールド、全開……』

そして取り囲んでいた攻撃ヘリの部隊も一斉にその場から避難し、
その遙か上空で数機の攻撃機が風の如く飛び去っていった、その時!

    ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
凄まじい轟音、そして巨大なキノコ雲が立ち上がり、辺り一帯が真昼のように照らされる。
レイの地下基地はガタガタと振動し、あちこちで壁が崩れて鉄骨が落下した。
しかし、防壁のかなりの部分を壊してしまったとはいえ作りは頑丈である。
そこにいるレイ達はどうにか無事であった。

そして地上では、N2爆雷の投下によって燃え上がる使徒の姿があった。
そう、使徒に取り込まれてしまった隊員達は全て焼き尽くされてしまったのだ。
果たして、日本国政府がとったその「処置」は残虐というべきか、それとも英断ともいうべきか。
ただ、これだけは言えることがある。
とても、レイやシンジにはあの使徒を攻撃できるものでは無い、ということを。

やがて爆炎が引いて、三方から姿を現した者。それは三機のジェットアローンであった。
どうやら、N2爆雷による焼却を待って前線に投入されたらしい。
その寸胴のボディに黒光りする装甲の機体。
それは初めて目にするデザインで、新たに開発された最新型であるようだ。

自らの鎧を剥がされて、露わとなった使徒アルミサエルの姿。
螺旋の形状を持った蛇のような細長い身体で、彷徨うように獲物を求めて飛び回っている。
しかしジェットアローンは正確にそれを捉えていた。MAGIコンピュータの補助があるのだろう。
自らに搭載したリアクターのエネルギーより、高出力のポジトロンライフルによって三方から狙撃する。
完璧であった。
これが大量の人質を身にまとった使徒に対する、情け容赦ない政府の見事な殲滅作戦であった。
レイは何とも言えない気持ちで、使徒が殲滅される様を見ていた。
これこそが、時として無慈悲にも悪魔にもなれる人間達の生きる力なのか。
しかしレイは彼らに対して怒りの思いを向けることは、彼女の複雑な思いが許さなかった。
人間と同様に使徒も、大自然もまたこの残酷な有り様こそが、それらの真の姿であるのだから。

ふと、コピーの一人の異変に気が付いて、オリジナルのレイが振り返る。
その無表情さは変わらないが、ポロポロと涙を流しているではないか。
そんな彼女に対してオリジナルのレイは厳しく、しかし優しい口調でたしなめる。
「顔を洗ってきて。零号機で発進しなければならない。泣いていても使徒は容赦してくれない。」

何故なら、レイが見ているレーダーには新たな使徒の存在が示されていたのだから。
どのようなことが起こったとしても、生きるために戦い続けなければならない。
碇シンジを守るために。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

そして瓦礫の山をかき分けるようにして零号機が地上に射出された。
初号機はあまり動いていなかった。すぐ斜め前に両腕をブラリとさせたまま突っ立っている。
エントリープラグに搭乗しているレイはすぐにシンジを呼び出した。

「碇君……大丈夫?すぐに新たな使徒がやってくるわ。」
『……』
「……碇君?」
『聞こえてるよッ!』

通信モニタから音割れして聞こえてくる、シンジには珍しい怒髪天を衝くような一喝。
正にシンジは誰彼無く怒りの思いをぶちまけたいような、そんな状態だ。
あんなことの後では無理もない。
普段はまるで歌のお兄さんの様に、もとい「チェロのお兄さん」として過ごしている優しい性格の彼。
オリジナルのレイのくだらないネタ話にも笑って請け合う彼なのだ。
その健全で健康な彼があんな有様を見て動じずにいられる筈もない。

「碇君、落ち着いて。日本政府のとった処置は……」
『判ってる。判ってるよ。言われなくても……』
「……」
『……あれだね?あれが、次の敵なんだね?』

そのシンジの一言を聞いて、レイはハッとなって見上げた。
空中から飛来する巨体、それを見たレイは恐怖する。

「使徒ゼルエル……ま、まって!碇君ッ!!」
『……うおおおおああああああああああッッ!!』
突進する初号機。それを制止しようとするレイ。
しかし、レイはその間際にあることに気付く。
レーダーには使徒の姿を示す光点が二つ映っているではないか。

「碇君!これは罠だわ、さがって!」
しかし、もうシンジの耳には聞こえていない。
レイの制止を振り切り、シンジは力の象徴たる恐るべき使徒ゼルエルの元へと駆けだした。
それに続いて、三機のジェットアローンの対応も素早かった。
すぐにポジトロンライフルを構え直して新たな敵を狙撃する。

しかし、レイには判っていた。そんなものが通用するはずはないことを。
例えATフィールドを突破する力があっても、ポジトロンライフルなどで倒せる敵では無いことを。

そして、レイはこうなることを予測していた。ジェットアローンでは歯が立たない使徒が現れることを。
何もレイが使徒の詳細を知っていたからではない。
これまでの戦闘の経緯で使徒達が何も考えず、そして準備もせずに来る訳がないではないか。

ジェットアローンの狙撃は正確だったが、あっさりとポジトロンライフルが放つ閃光ははじき返された。
そして使徒は反撃に出る。胸部にある不気味な顔の目が輝き、それの口が開かれ、そして、

  キュァァァアアアアアアッッ……
                              ズドドドドドドドドドッッ!!!
使徒の放つ高エネルギーの閃光、その一撃でジェットアローンの一機はあっけなく消失する。
もう終わりである。ATフィールドに匹敵するような防御手段が何もないジェットアローンには、
これまでのように戦闘で先の先を取らなければ、決して勝ち目など無いのだ。

だが、残りの機体はボヤボヤしてはいなかった。
一機目が吹き飛び、巻き上がる爆炎の中から姿を現したもう一機。
仲間の死をこれっぽっちも構ってやしない、正に無人兵器が故の極めて効率的な行動であった。
どうやら、使徒の方は先程の閃光を再び放つのに時間が必要とみえる。
その隙が二機目の狙い目。使徒ゼルエルの弱点を模索し、ライフルの引き金を引こうとしたその瞬間。

 サクッ……

閃光の放つ代わりに使徒が放った攻撃手段。
それは使徒の二本の腕のようなものが伸び、
カミソリのような切れ味でジェットアローンの両腕を切り飛ばしたのだ。
そして、もう容赦はしないと三機目が動き出す前に、再び閃光が放たれる。
一機目と同様に、三機目は一瞬にして消失した。

しかし、まだだ。ジェットアローンが全て戦闘不能となった、その瞬間だった。
まるでジェットアローンと示し合わせたかのように、使徒ゼルエルに襲いかかる者。
それはエヴァ初号機であった。
初号機はライフルのような物を所持していたが、シンジはそれに頼ることを全く考えていなかった。
手にはプログナイフ一本だけ。
飛びかかり、使徒を斬りつけ、八つ裂きにしなければ気が済まない、とでも言うかのように、
初号機は雄叫びを騰げかねない猛烈な勢いで、使徒ゼルエルの背後から飛びかかる。

しかし、いきなり戦意を失ったかのように、シュッと上空へとゼルエルは浮上する。
間を外されて、初号機は急停止して使徒を見上げた。
いったい何をするつもりか。しかし、こうなっては何らかの飛び道具がなければ使徒を倒せない。
エヴァに空を飛ぶ装備など用意されていなかったのだ。

エントリープラグ内のシンジは、思わず肩で息をしながら上空を見上げる。
目に入るのは、ぽっかりと浮かぶ使徒ゼルエル。
そして、その付近に同じく浮遊している物がある。
丸く、そして縞模様でデザインされた不気味な月。あれは……

『碇君!逃げてッ!』
絶叫するレイ。既に零号機は手近な焼け残ったビルへとよじ登っている。
「え……?」と、急に素に戻るシンジ。しかし、もう遅かった。

「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

その次の瞬間、地上は一瞬にして漆黒の闇と化し、初号機は永劫の暗闇の中へと飲み込まれていった。
夜の象徴たる使徒レリエルが生み出した、どこまでもどこまでも深い闇の世界へ。
160 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/07(水) 00:25:40 ID:???
とりあえず、ここまでですー
161名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/07(水) 01:57:41 ID:???
オツ〜
隊員・・・
162名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/07(水) 14:44:36 ID:???
>>160
シンジの鬱憤晴らしにゼルエルが八つ裂きにされるかと思ったらレリエルも一緒とは…
残るはバルディエルとアラエルそしてタブリスか…
163名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/07(水) 20:36:27 ID:???
量産機も
164名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/10(土) 01:47:58 ID:???
最近来ないなぁ
投下まだ?
165 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/10(土) 02:01:46 ID:???
携帯からです。
すんません。eonet規制に巻き添え喰らって投下できないですorz
166名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/10(土) 09:19:08 ID:???
災難だな
167名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/13(火) 07:35:52 ID:???
いつ投下できる?
168携帯から ◆LRvRIPAn.s :2007/11/14(水) 01:42:34 ID:???
>>167
とりあえず規制解除待ちしてますが、いつ解除されるか判らんのです。
169名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/14(水) 04:12:10 ID:???
気長に待ってます
「碇君……」
初号機が使徒レリエルの手に落ちるのを目の当たりにしたレイは、力なく彼の名を呟いた。

かろうじて零号機は無事であった。
ビルの残骸によじ登り、どうにか地表の影に触れることを免れたのだ。
しかし2体の使徒を相手に、しかも限られた足場でどうにか立っているだけの零号機で、
どうやって立ち向かえと言うのか。

そして、使徒ゼルエルは零号機に考える暇など与えない。
勝ち誇るのも時間の無駄と言いたげに、速攻で零号機に放たれる必殺の閃光。
しかし、パキンッ!!と零号機のATフィールドがそれを弾きかえし、かろうじて使徒の攻撃を凌いだ。
エヴァはジェットアローンとは違う。使徒と同等の能力を持つことを目指した機体である。
プロトタイプの改良型とはいえ、零号機はたやすく一撃で倒されるほどヤワではない。

しかし、エヴァはATフィールドの守りを持つ反面、有効な攻撃手段を欠いている。
むろん、使徒のATフィールドを中和するというエヴァならではの能力を持ちうるが、
それは近接戦闘を前提とした戦い方。
零号機の能力と装備では貧弱で、加えて中空に浮かぶ使徒達が相手ではどうしようもない。

レイは覚悟を決めて、手にしたライフルのようなものを手放した。
それはポジトロンライフルに比べてはるかに威力は低く、もはや無意味な長物であるからだ。

唯一、効果を与えられるとすれば只一つ。
ここまで背負ってきた『ロンギヌスの槍』、それを使徒に対して投擲すること。
零号機に出来ることは、それしかない。
そして使徒の攻撃の合間を縫って、零号機は槍を構えて投擲体勢に入ろうとしている。

しかし、狙いはゼルエルではなかった。
レイの零号機が狙った先、それは中空に浮かぶ使徒レリエルの不気味な球体であった。
自分の手で使徒を倒すのではなく、初号機を救出してシンジに全ての可能性を賭けようというのだ。
逆に言えば、この戦いで生き残ったとしても、シンジが助からなければ彼女にとって意味がないのだから。

「……これを投げることが出来るのは一度きり。これを外せば二度目はない。
 何の効果もなければ、もう終わり……全ては……」
祈るようにつぶやくレイ。しかし、彼女にためらいはなかった。
狭い足場から転落して、使徒レリエルの闇に落ちることも恐れずに思い切った助走を付ける。
使徒に捕らわれた初号機が無事であることを、シンジが生きていることを、その全てを信じて。

「……碇君ッ!!」

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

シンジの、そして初号機の居場所。それは、とてつもなく広大な虚無空間であった。
「ここは……ここは何処?……なにがどうなってるの……?」
使徒レリエルに捕らえられ、そしてうろたえるシンジ。
必死で初号機の計器を探る。しかし、何も判らない。何も掴めない。
判るはずもない。初号機の様々なレーダーには何も映らず、センサーには何の反応も無いのだ。

そしてシンジは焦り出す。
「こ、ここはどこなの?いったい、何がどうなってるの?……綾波?綾波!?
 返事をしてよ!聞こえてるんでしょ?どうして、何も言ってくれないの?」

シンジは通信モニタを必死で操作するが、しかし何も聞こえてこない。
そして焦りが混乱へと変わる。

「ねぇ!ねぇってば!
 返事をしてよ!また冗談なんだろ?嘘なんだろ?
 もうふざけるのは止めてよ!返事をしてよ!
 ねぇ、どこにいったの!聞こえてないの?ここはどこなの!誰か教えてよ!
 誰でもいい、使徒でも良い、なんでもいい!
 ここは嫌だ!一人は嫌だ!誰か僕に答えてよ!
 返事をしてよ!
 誰かッ!!


 ……誰か……返事をしてよ……誰……か……」
そんな大騒ぎの末に。
ようやく気がすんだのか、シンジは気落ちしたような声でつぶやく。
「こんな時は……そうだ、生命維持モードにしなくちゃ……」
そしてシンジがそのモードに切り替えようと端末を開いた、その時である。

【応答要求 受諾】

そんなメッセージが端末のコンソールに表示されているのを見て、シンジは驚いた。
どうやら、シンジがコンソールを目にするだいぶ前から、様々なメッセージのログが流れていたらしいのだ。
シンジは画面をスクロールさせて先頭から読み返す。

/logon guest
 ** welcome to eva system ver.2.234
/sysmap *
 - eva01.system
  + eva01.system.control
  + eva01.system.body
  + eva01.system.enagy ……

何が表示されているのかシンジにはさっぱり判らない。しかしおぼろげながら理解できる。
明らかにその様子からして、何者かが初号機のシステムに外部から割り込もうとしているのだ。
コンソールのメッセージ群は更に続く。
/connect eva01.system.control.pilot.shinji
 ** em011213 palameter error
/info pilot.shinji
 (your type is guest/infomation level 0)
 pilot name : shinji ikari [碇 シンジ]
 age : 14
 type : humanoid
 sex : male
 language : japanese

/easychat -lang jpn -to shinji

>僕に答えてよ、返事をしてよ、誰か
balthasar ->【応答要求 受諾】
balthasar ->【機体名称:ジェットアローン タイプ3 ver3.2982】
balthasar ->【搭載コンピュータ:MAGI-System ver4.125 codename : balthasar】
>_

「ジェットアローン……バルタザール……?」
そこまでメッセージを読んだシンジは、ようやく気付く。
目の前のスクリーンに映っている、両腕を使徒に奪われたジェットアローンが浮かんでいる姿を。
つい先程までは何もなかったはずが、何時の間にそんなものが初号機の元に追いすがってきたのだろうか。
シンジが理解していないことも含むが、現状はこういうことである。

使徒レリエルに取り込まれた初号機とジェットアローン。
そして、シンジがパニックに落ち入っている間に、ジェットアローンに搭載されたMAGIコンピュータの一つ、
バルタザールがエヴァ初号機の内部システムに潜入を果たす。
そしてエヴァの構成情報を解析し、全ての操作を統括しているキーワード「shinji」へと行き着くが、
電子的なアクセスは不可能と知る。

更なる調査の結果、「shinji」は生身の人間であることを知り得たバルタザールは、
自然言語に基づくチャット方式で「shinji」にアクセスする試みを開始。
そこにシンジの狼狽ぶりが音声入力され、それに対してバルタザールは名乗りを上げた……
とまあ、そんなところだろうか。

シンジは首を傾げる。ジェットアローンにMAGIコンピュータが搭載されていることが信じられないらしい。
「でも、スーパーコンピュータMAGIの設計書を見せて貰ったけど、すっごく大きかったはずじゃ……」
だが、相手はシンジの質問をスルーして、まったく違うことをコンソール画面上で言い始める。

balthasar ->quit
/info eva01.enagy.*
  - eva01.enagy
   - eva01.enagy.outside_cable ** not found
   - eva01.enagy.inside_buttery 13107/32768 ( nomal mode rimit 2'13'' )
/easychat -lang jpn -to shinji
balthasar ->【緊急】
balthasar ->【要求:ジェットアローン内部電源からの電力供給】
balthasar ->【電源仕様:JIS32687-a21 下位互換にて対応可】

「え……?あ、ああ、そうか。電源を貸してくれるの?」
とシンジが問いかけるのが早いか、ジェットアローンの背中からケーブルのような物がパシュッと飛び出した。
それをシンジは捉えて、初号機の背中にあるコネクト部分に手探りで接続する。
すると、操縦席の傍らにあるバッテリー表示が無制限へと切り替わった。
流石はリアクター搭載のジェットアローン、本体だけでなくエヴァの動力をまかなうことも可能であるらしい。

「すっかり忘れてたよ、バッテリーのこと。
 生命維持モードにしてなかったから、もう少しで稼働停止するところだった。ありがとう。」
シンジは、人格を持つ相手に話しているかのように礼を言う。が、バルタザールの方は構っている暇は無いらしい。
シンジに対して次の要求を開始した。

balthasar ->【緊急】
balthasar ->【要求:ポジトロンライフルの回収、および射撃準備】

回収?と首を傾げるシンジだが、初号機の目の前にジェットアローンと同様に一丁のライフルが漂ってくるではないか。
どうやらそれは、腕を飛ばされたジェットアローンの装備していたものらしく、
まだ右腕がライフルの引き金に引っかかっている。
「射撃準備って……あの……」
balthasar ->【要求:敵生体「使徒」の任意のポイントに対する照準設定、および射撃】
balthasar ->【ポジトロンライフル射撃可能回数:1回(推定)】

「って、どこなの?どこに向かって撃てというの?」

balthasar ->【要求:敵生体「使徒」の任意のポイントに対する照準設定、および射撃】

「……いや、同じことを繰り返されても困るよ。
 あと一発しか撃てないんでしょ?任意のポイントって、まさか当てずっぽうで撃てってことかな。
 最後の一発をそんなふうに使っていいの?せめて、コンピュータの君が決めてくれた方が……」

balthasar ->【攻撃目標算定結果:】
balthasar ->【 当機体の現在位置:「使徒」内部(推定)】
balthasar ->【 -> 攻撃ポイント:## zero divide error // 】
balthasar ->【*状況解析処理に障害発生、具体案算出手順の強制終了。行動可能な全案の比較検証を開始】
balthasar ->【 -> 攻撃ポイント暫定決議案:】
balthasar ->【  案1:状況変化の発生まで待機 -> 危険因子発生の可能性:## zero divide error //】
balthasar ->【  案2:当機バルタザールによる無作為の照準決定 -> 「使徒」殲滅の可能性 0.03233%】
balthasar ->【  案3:pilot(shinji)による無作為の照準決定 -> 「使徒」殲滅の可能性 0.03233% + α】
balthasar ->【交渉手段:算出中】
「アルファって……ゼロじゃないけど、ましって訳か。どうして?」
balthasar ->【pilot(shinji) -> type:humanoid -> α(不確定因子の意)->不明の仮想値】
balthasar ->【交渉手段:算出中】

「不確定因子ね。そのアルファ、マイナスってことも考えられるんだけどな……」
そんなことを言いながら苦笑いするシンジ。だが、笑顔の力は偉大である。
混乱しかけていた彼であったが、少し落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
だが、次に表示されたメッセージに、シンジは目を丸くした。

balthasar ->【交渉手段:算出完了】
balthasar ->【あなたを、信じている】

コンピュータに意味が判るはずもないメッセージを見て、シンジは大いに笑った。
「アハハハ、判ったよ。信じてくれるのは良いけど、もし失敗しても恨みっこなしだからね?」
179 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/14(水) 07:39:43 ID:???
とりあえず、ここまでですー
180名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/14(水) 12:51:26 ID:???
おつ
181名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/14(水) 16:04:46 ID:???
本編の『バルタザール』ってナオコの母としての人格を移植した部分だそうだが
このSSだと設計者がレイだから、母親としてのレイの人格を移植されているのだろうか?
182 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/14(水) 23:45:27 ID:???
>>181
移植されてる人格は決めてないです。レイはあくまでも設計しかしてないです。
183名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/15(木) 20:39:56 ID:???
184名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/15(木) 21:47:14 ID:???
AI萌え属性発動中。
185名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/16(金) 20:22:03 ID:???
マダー?(°Д°)

 スカァァッッ!!!

「ああ……ッ!!」
零号機が投げた「ロンギヌスの槍」、
それは使徒レリエルの球体が幻であったかのように、ものの見事にすり抜けていった。

「しまった……では、あの球体は影なの?そして地上の闇がむしろ本体……」
狭いビルの残骸の上であったため、零号機は投擲した時の勢いで地上へドサリと転落する。
そしてレイの心もまた失意に陥るが、しかしそんな暇などある筈もない。
零号機の元に、使徒ゼルエルの巨体が迫りつつあるのだ。

「……クッ!!」
零号機は必死で立ち上がり、使徒ゼルエルの攻撃を避ける。
禍々しい口中から放たれる閃光、そして二の腕の鋭い刃先を二転、三転して零号機は必死で逃れる。
だが、ATフィールドを再び展開する暇も無く、避けきれずに左腕がバッサリと切り落とされた。
「アアッ!!」
神経接続により伝わった激痛で、思わず悲鳴を上げて腕を押さえるレイ。
もはやこれまでだ。パイロット自身もダメージを受けすぎて、もう次の攻撃は避けられないだろう。

だが切羽詰まった情況のためか、レイはすぐ目の前のことに気が付いていない。
地上の影が既に無くなっていることに。
-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

シンジは精神を研ぎ澄ます。
ジェットアローンことバルタザールから託されたポジトロンライフルの一撃。
その一撃で、全てが決まる。全てが、終わってしまう。

だが、シンジは冷静だった。これまでになく冷静だった。
信じることだ、全ての雑念を捨て、自分なら出来る、自分なら可能だと、真に自分に言い聞かせ続けていた。
バルタザールが「信じてくれた」自分の力、自分がまだ見ぬ不確定要素。
それが情況を打開する唯一の力だと、それ以外に方法はないと、バルタザールは覚悟を決めたのだ。
そして、レイもきっと信じているだろう。自分が生きていることを、そして自分が生還することを。

時は成った。
シンジはライフルを構えて、発射に備える。
そして待つ。

……何を?

その時だった。

『碇君ッ!!』
「そこッ!!」
シンジはまっすぐ頭上へとライフルを掲げ、そして引き金を引いた。
そして、放たれた陽電子の閃光はまっすぐに貫く。

レイの「槍」が生み出した空間のひずみを。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

ピシッ……ペキッ……パキッ……

使徒レリエルの「影」、中空に浮かんだ不気味な月が身震いを始め、更にはヒビが入り始める。
そこから輝かしい閃光が漏れてくる。間違いなく、それこそがポジトロンライフルの放った光であった。

レイはそれに気が付き、あわやこれまでという状況であるにも関わらず、ハッとなって振り返った。
何故なら、真っ先に使徒ゼルエルがその様子に驚いているからだ。
まさか、とでも思っているのか。その成り行きが予想外であったのか。

そして、レリエルの月から何かが突き出す!

   ドカァッッ!!
   
               ギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ……

それこそは、紛れもなく初号機の二の腕であった。
しかも、である。
その腕がレリエルの球体の裂け目を押し広げ、そこからおびただしい鮮血が吹き出し、
その苦痛に耐えかねたのか、凄まじい悲鳴が辺り一帯に響き渡ったではないか。

そして、更に残酷にもグイグイと裂け目を押し広げ、遂に姿を現した初号機の顔、
それを固定されている筈の、顎の拘束具がバキリとはじけ飛び、すさまじい雄叫びを騰げて吠え猛る!

  ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!!

「しょ、初号機が……」
絶句するレイ。
使徒レリエルから生還した奇跡を喜ぶ暇もなく、その初号機の有様に驚愕している。
「ま、まさか……暴走……初号機が……」

初号機は更に両腕を押し広げて使徒レリエルを粉々に砕き、
そして遂に奇跡の生還を遂げて、凄まじい轟音と猛々しい咆哮と共に地上に降り立つ!

  ズシィィィィィィイイイイインンッ!!!
   
   ウォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!
そして初号機はギロリと使徒ゼルエルを睨みつける。
「あ……綾波!無事か、綾波ッ!!」
シンジの叫び声。だが、レイには容易に返答できない。
彼の生還に感激しているから?いや、実はそうではなかった。

(碇君が意識を保ったまま?ありえない。あの初号機、間違いなく暴走状態に陥っている。
 あの使徒レリエルの内部で何が起こったの?これは、もしや……)

「綾波ッ!……う、う、うう……うおおおおおあああああああああああッッ!!」
シンジがレイを呼びかける声が、次第に絶叫へ、そして狂気へとと変わりつつある。

(暴走しているのは初号機ではない。初号機は共振しているだけ。
 ……そう、碇君そのものが暴走、いや……覚醒している!?)

神の如き鋭さを見せて、見事な狙撃で生還を遂げたシンジの様子が何故これほどまでに?
だがよく見れば、腕を切り飛ばされて倒れている零号機と、トドメを刺そうとする使徒ゼルエル。
まさに今の現状、まるで最愛の彼女が暴行を加えられようとしている所に、彼氏が通りかかったかのような。
例え話がおかしい?しかし、実際そうなのだ。
なんと使徒ゼルエルはカタカタを震え上がっている。もし彼に話すことができるなら、こんな一言を発しただろう。
(やばい……)

確かにヤバイ。非常にマズイ。逃げろ、ゼルエル。
191 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/16(金) 23:44:40 ID:???
とりあえず、ここまでですー
192名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/17(土) 01:02:41 ID:???
おっちゅ
193名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/17(土) 01:19:25 ID:???
おつおつぅ
194名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/17(土) 01:43:06 ID:???
いい展開
195名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/18(日) 12:49:33 ID:???
まだ〜
196名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/18(日) 22:57:23 ID:???
eonet規制?
「あの……碇君、落ち着いて、ね?今の初号機なら確実にゼルエルなんて倒せ……」
ゼルエルだけでなくレイも怖がっている。何かにおびえて、慌ててシンジをなだめようとする。
ここは思い切って好きなだけ暴れさせればいいものを。

そして使徒ゼルエルもまたカタカタと震えている。
あのジェットアローン最新型三機を瞬殺したゼルエルが。

「き、きさ、貴様……貴様は……」
シンジは怒りで震えながら呻き声を上げ、レイはなだめようと必死である。
「だ、だめよ……いけない、これ以上は……」
『貴様……貴様は…………キサマァァァァァァアアアアッッ!!』

なんと、初号機はシンジと共振しているのか、言葉を発して叫んだではないか。

その一喝に思わずビクリとするゼルエル。そして、ぴゅーっと空高く逃げようとする。
だが、
『痴れ者ッ!同じ手が通用すると思うかッ!!』
なんと初号機はゼルエルより遙かに高く跳躍して、強烈なかかと落としを喰らわせる!

 バシィィィッ!!

             ズドドドドドッ!!
ゼルエルは地面に叩き付けられ、その側にヒラリと着地する初号機。
だが、ゼルエルはボヤボヤしていない。口を開いて例の閃光を初号機に向けて発するが、
『ハッ!そんなもの!』
初号機は右腕の一振りでバシッとそれを弾き飛ばす。
いや、「そんなもの」どころではない。
弾かれて遙か彼方に着弾した閃光は、山一つを軽く吹き飛ばす程の威力があったのだ。

使徒ゼルエルの渾身の一撃を軽くいなした初号機は、さあ使徒に襲いかかるか、と思いきや。
初号機はゆっくりと後ろを振り返り、彼の背に接続されたケーブルと一緒にぶら下がって来ていたジェットアローンを見た。
可哀想に、ジェットアローンは跳んだり跳ねたりの初号機に振り回されて、もはやボロボロに成りつつあった。
初号機は背中に腕を回してケーブルを引き抜き、更に使徒に向かって言い放つ。

『5分……俺の攻撃を5分のあいだ耐え凌いだら貴様の勝ちだ。立てッ!!』
もはやレイは言葉を失う。あそこに居るのは誰?
(ええ!?碇君とのシンクロ率は下がっていく?……89%……74%……64%……あれは初号機の人格?)
もしや、初号機の暴走によりシンジが取り込まれようとしているのか。

もはや逃げ場はないと覚悟を決めて立ち上がる使徒ゼルエル。
自ら5分のタイムリミットを宣告したにもかかわらず、初号機はそれを静かにゆったりと見守っている。

その挙げ句に、初号機はニヤリと笑ってこう言った。
『……喰ってやる。』
ヒッ……という悲鳴が聞こえてきそうなほどに、ビクリと震え上がる使徒ゼルエル。
だから、もういいから逃げろゼルエル。

そして遂に初号機の拳が、唸り声を上げてゼルエルに殺到する!!

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

  ッ……おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらァッ!!!!!』

 ベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキッ!!

使徒ゼルエルはボコボコに叩きのめされる。
ゼルエルは力の象徴?いったいその伝承は何の意味があったのか。ふがいもなく初号機にされるがまま。
なんだか、使徒ゼルエルがATフィールドを巡らせて守ろうとしたかに見えたが、どうやらそれは気のせいだったらしい。
初号機の連打をまともに食らい、いったいどんな姿であったか忘れてしまうほどに形まで歪み始めている。

さんざん殴りつけて気が済んだか、初号機は連打を止めた。
まさに完全なる初号機の勝利。いや勝利というか、虐待、虐殺である。
が、使徒の反応は消えては居なかった。完全にボロボロにされた身体をピクピクと振るわせている。
初号機に絶命するギリギリのところで寸止めされたのか?いや、これが使徒が持ちうるS2機関の効力だろう。
いっそのこと即死できれば良かったのに。
そんな使徒をグワシと掴んでゆっくりと持ち上げ、初号機はニタァ……と嫌らしいまでの笑みを浮かべる。
ああ、なんということだろう。初号機は、まだ息のある使徒ゼルエルを生きながら喰うつもりなのだ。
もう使徒ゼルエルが可哀想で仕方がない。
涙が流せるものなら、ゼルエルは泣いて「まず殺してくれ」と懇願するだろうに。

 がぶりっ……
             ガツッ……ガツガツッ……ガツガツッ……

「あ、あ、あ、あ……」
その初号機のおぞましい有様に、レイはもはや思考停止の状態である。
レイも気の毒だ。こんな光景を見た後では、もはやどれほど心を込めて作ったカレーでも、彼女は口にすることはないだろう。
その傍らでシンジと初号機のシンクロ率を示すメーターがカタカタと上がり続ける。
……いや、下がり続けている?

 マイナス120%……マイナス180%……マイナス260%……

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

その一方で。

地下に居るレイ達もまた、モニタを通してその情況を見ていた。
(シンクロ値がマイナス?ありえない。もはや暴走状態の初号機は計測不能と言うことか。)
そう考えながら、レイ達の一人が髪をかき上げる仕草をする。
そしてチラリと見えた耳には、小さなピアスが光っていた。

(いや……もしこれが正しい数値だとすれば、次に起こることは何だ?)

そして、シンクロ値がマイナス400%を示した、その時。

『うぉぉおおおおぉおおおぉおぉぉおおおおおおおおあああああああああああっっ!!』

雄叫びを上げ、使徒を喰らい尽くした激情のままに叫ぶ初号機。
そして次の瞬間、ありえない光景が展開された。

 がしゃん……がしゃんがしゃん……

「こ、拘束具が……」
地下のレイも、零号機に搭乗しているレイも驚愕した。
突然に甲冑を着ていた中身の騎士が消えてしまったかのように、固定されていた初号機の装甲が崩れ落ちたのだ。

そして、中空に浮かび、残っているもの。
赤くぼんやりと輝く赤い球。使徒の持つ赤いコアと全く同じそれ。
それこそが初号機の持っていたコアそのものであった。
「使徒ゼルエルの持つS2機関……それを捕食によって取り込んだ初号機。
 あれこそ、過去に砕かれたアダムのコア。それが復活した今……そして、あの球体こそまさしく……」

そうつぶやく地下のオリジナルのレイ。
だが、零号機のレイはあまりの展開に言葉を失ったままだ。

その球体はゆっくりと降下を始めて地面にほど近いところまで来た時に、すうっと姿を消し始める。
そして、その後に残されたもの。

そこから、ぽてり、と地面に落ちたのは全裸のシンジであった。

オリジナルのレイは考察する。
(行き過ぎたシンクロ値のマイナス、それが巻き起こす現象……エヴァとパイロットの逆転現象。
 碇君は初号機を自らの内に取り込んでしまった、という訳か……成る程。)

そして、彼女は零号機に向かって指示を下した。
「機体の外に出て、碇君を回収。そして速やかに地下に帰投。
 大丈夫、ジェットアローンの崩壊による炉心融解やメルトダウンのような事象は起こっていない。」
203 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/18(日) 23:53:02 ID:???
とりあえず、ここまでですー
204名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/19(月) 03:12:34 ID:???
奇想天外な展開だな!乙!
205名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/19(月) 19:34:45 ID:???
これは!
スゲー!
GJとしか言いようがない!!
206名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/19(月) 20:30:56 ID:???
おつ
207名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/19(月) 21:34:51 ID:???
初号機が喰われた;
208名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/20(火) 19:29:45 ID:???
ワクワク
209名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/22(木) 07:19:38 ID:???
まだ〜?
【pilot-shinji……不確定要素……解析不能……制御不可能……怖い……恐ろしい……】

後に残された機体「バルタザール」のモニタには、そんな言葉がループされるばかり。
軍の技術者が駆けつけた時には、もはやバルタザールは「廃人」と化していた。
可哀想に、もう使い物にならないだろう。
最新型の人格移植OSであるスーパーコンピュータMAGI。
それを技術の向上により丸ごと搭載したジェットアローン。
例え人類が滅んでも自らの意思で稼働し続ける、これぞ日本が産んだ究極兵器。
しかし、常識外れの戦いを目の当たりにした「彼」は、とてつもない「精神的な」ダメージを受け、
これをもって使徒殲滅の舞台から退場することとなる。

その代わりとして、エヴァに全てすがりつこうという訳なのか。
レイの元に政府の関係者が訪れ、これまでのことを水に流して援助を受けてくれと頭を下げた。
レイはどうしようかと悩んだが、しかしシンジを守るために現状の地下基地では心許ない。
ここは遠慮無く、下心がありそうな政府の差し伸べた手を受け入れることにした。

レイの注文通りに超絶的な人海戦術が展開されて、あっというまに地下の基地が修復される。
本当にレイは遠慮していなかった。修復に使われる資材よりも人件費が数倍かかっただろう。
流石に政府は悲鳴を上げたが、レイは「今すぐに使徒が来たらどうする?」の一言でねじ伏せる。
ものの三日ほどで、基地は完全な形に戻された。あの六畳一間も大浴場も。
只一つレイが不満を感じたのは、ノスタルジックな家具やテレビが最新型に変わってしまったこと。
彼女にはかなり思い入れがあったのだろう。
そして、シンジや他のコピー達は?
それは勿論、基地の修繕作業中は注意深く隠されていた。
人体の完全なコピーを作ることは倫理上の問題が多すぎる故に、
あんなクローン集団を世間の目に晒す訳にもいかなかったからだ。

あれ以来、シンジは寝込みっぱなしである。
その彼をせっせと付きっきりで看病するコピー達。ていうか、それ意外にやることなど何もなかったのだが。

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基地の修復が終わり、塗料もやっと乾いてレイ達は業務再開。
後に残された零号機ただ一機の整備に取りかかる。
しかし、本当に「今すぐに使徒がやってくる可能性」を無視することが出来ない現状、
切り飛ばされた左腕を手間暇かけて修理することは出来なかった。
そんな大がかりなことをしている間に使徒が来て、動かしたくても動かすことが出来ない情況になっては困るからだ。

そんな忙しい日々が幾らか続いた、ある時。
オリジナルのレイは作業の合間を見て、いつもの「シンジ詣で」に向かう。
作業の忙しさに甘えて、コピー達に看病を任せっきりだったのだが……

シンジが寝ているはずの六畳間を見て、慌ててコピー達に問いかける。彼の姿が無いのだ。
「碇君は?」
だが、看病に当たっていた数名の彼女達は無言で首を横に振る。
恐らくシンジが勝手に出歩くのを、彼の望むがままに無言で見送ったのだろう。
コピー達の無感動、無表情さ、そして過度の従順さに、今更ながらに腹を立ててオリジナルのレイは叱責した。
「なっ……知らないでは済まされないんだ!早く探せ!」

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その頃、シンジは地上に出てフラフラとさまよい歩いていた。

完全に体調が戻っていないらしい。時折、呻き声を上げながら地面にへたり込む。
「う……うう……う……」
なんというか、まるで二日酔いで気分が優れないサラリーマンのようだ。
それも仕方がない。暴走する初号機という強烈なものを飲み込んでしまったのだから。

もはや、まともな思考も出来ない状態であるらしい。
セカンドインパクトの影響により、秋と冬を失った日本。
その真夏の太陽に照らされながら、シンジは虚ろな目つきで徘徊し続けていた。
そして何度目の嘔吐だろうか。地面にうつむいて呻いていたその時。

「ここに居たの?ずいぶん、探したわよ。」
後ろから声がする。
振り返れば、レイが立っていた。いつもと変わらぬ制服姿で蒼い髪、紅い目の彼女がそこに居た。
「う……ああ……」
「大丈夫?早く帰って休まないと。」
「あ、ありがとう……綾波……」

女の力は偉大である。彼女の声を聞いて気持ちが和らいだのだろうか。
レイの一言で意識も正気もおぼろげながら取り戻しつつあるようだ。

「さ、立てる?」
「う、うん……」

そうして、どうにかシンジは立ち上がり、地下への出入り口を目指して歩き出した。
その出入り口はそれほど判りにくいものではなく、瓦礫と化した街であるからこそ遠目からでも判りやすい状態にあった。
まだまだ意識が完全ではないシンジでも迷子になる心配はないようだ。

だが、そんな普通ではない状態のシンジを導こうとはせず、何故か少し後ろから着いていく。
どうにも暗くジットリとした目で彼を見守りながら。

-=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=- -=-

そして地下にエレベーターが到着し、シンジが先頭に立って外に出た瞬間。
コピー達により両脇からガシッと掴まれて、大急ぎでその場から引き離されてしまった。
「な……ちょ、ちょっと……」
シンジは驚いて出迎えたコピー集団の先頭に立つレイを見た。
その相手、よく見れば耳にオリジナルを示すピアスが光っている。

シンジは慌ただしく後ろに着いてきたレイと出迎えたレイを見比べた。
てっきり自分を外へ探しに来たレイがオリジナルだと思いこんでいたのだ。
「あ、あれ?君は……」
「ようやく気が付いたの?ヴァーカ!」

後ろから来たレイもエレベーターから下りて、オリジナルに付き従っているコピー達を見渡した。
「アンタ……ずいぶんと、えげつないことやってんのねェ。
 おでこに数字?しかもそれ、マジックで書いてんの?アタシの方が全然マシじゃないの。」

シンジはようやく頭の回転が戻ってきたのか。その二人のレイを見比べながら問いかけた。
「い、いったい誰なの?その……綾波のコピーの一人?」
「そういうこと。ねぇ?こいつらと一緒にいて、一人たりないってことの気が付かなかったの?
 そのコピー達の数字をご覧なさいな。3から始まってるはずよ。」
「え?ああ……そ、そういえば……」
「アンタ、なァんにも考えてないのねェ……あんた、バ(ピーッ)?」

しかし、何故かオリジナルは妙なことを言いながら怒り出す。
「……止めろ。その言い回しだけは止めろ!ここに居られなくなるぞ!」
そんなオリジナルの憤慨を無視して、新参のレイはシンジに向かって胸元をグイッと開いた。
見れば、その胸の中心には「02」という刻印が付けられている。

「弐人目の綾波レイって訳よ……よくもまぁこのアタシを量産型みたいな扱いをしてくれたわねぇ、オリジナルさん?」
「だから、その言い回しは止めろと言っている!」

そんな二人を呆然と見守るシンジ。
「綾波……君が何を言ってるのか判らないんだけど……」
216 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/22(木) 22:04:21 ID:???
とりあえず、ここまでですー
217名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/23(金) 04:22:18 ID:???
乙です。
最初のころから読ませていただいてますが、最近レイがレイの姿をした別物のように
感じています。今回でてきたレイ02がアスカのようなしゃべりになっているのも残念です。
レイだけではキャラとして動かし辛いかも知れませんが、レイだけしか出ないというss
でしたので残念です。
218 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/23(金) 06:28:16 ID:???
>>217
嗚呼、やっぱりダメでしたか。それでは投下はここまでにします。
スレ条件うんぬんではなく、自分で条件を付けておきながら、
自分でそれを破ってしまっては、やはりダメですね。

ていうか、もう3回目あたりから出来心で、
このオチに向けて進めてしまったので、もはや修正不可能です。
大変、失礼しました。
219名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/23(金) 10:44:52 ID:???
>>217
>レイ02がアスカのようなしゃべり
何かの伏線だと思っていたんだが…

>>218
別にいいじゃないか
ここまで来て止めちゃうだなんてあまりにもがっかりだ 、以前の作品も楽しみに読んでたんだぜ
>>17のアップローダーにでもいいから投下しとくれ
220217:2007/11/23(金) 20:01:25 ID:???
ただ残念に感じただけですので、投下を中止することはないと思います。
あと、どのような落ちになるかも気になりますし、最後にLRSになれば問題
ないと思います。
221217:2007/11/23(金) 20:03:53 ID:???
あと以前の作品も読んでいたので、それも楽しみにしてます。
222 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/24(土) 00:20:14 ID:???
いや、お恥ずかしい限りで、アスカ人格は伏線などという大したモノではなく、
シンジとレイ、二人だけという条件を逸脱したジョークの一つだったのですが、
大して面白くなかったようです。いや、お恥ずかしい。

重ねて申し上げると、実は言うと初めから(というか3回目あたりから)条件から外れる気マンマンで、
それは面白いとか面白くないとかは別にして、実にモラルに反する行為でした。
それでも思い切って進めてみて、もし良い評価が得られなかったら即座に中止するつもりでした。
と、いう理由からの投下中止の宣言でした。ご免なさい。

しかし、ここで投げるのも無責任。
>>217様に重ねてレスを頂いたこともあり、それに甘えて続けて見ようと思います。

しかし、もはや二人だけとは言えない有様ですが……
新参のレイは、ゆっくりと歩きながらオリジナルのレイに近づいていく。
胸元に「02」と刻印された「弐人目」、もとい「二人目」のレイは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言う。
「ほー?アンタ、ずいぶんと怖い顔するようになったじゃない?
 あのボソボソッとしか喋らないネクラなアンタが。あの碇シンジを守るために、それだけ必死な訳かしら?」

オリジナルのレイは問いただす。
「これまで、どこをほっつき歩いていたかと思えば……それで?私に復讐しに来たのか。
 自分のアイデンティティを確立するため?」
「ま、そんなところね。カレシの目の前でアンタを八つ裂きにするのも面白いかなァって。」
そう言いながら「二人目」はカチカチとカッターナイフの刃を伸ばす。

「だから、その表現は……まあいい。」
そう言って、パキンとオリジナルが指を鳴らすと、コピー達は4人掛かりでシンジを担ぎ上げて、その場から駆け出した。
「ちょ、ちょっと!降ろしてよ!綾波!?綾波ッ!!」

シンジは叫ぶが、コピー達は今度ばかりはそれに逆らい、安全な場所へ待避するために走り続ける。
そしてオリジナルは無言で別のコピーから俗に言う「バールのようなもの」を受け取りながら「二人目」を睨む。
「私を倒すのは簡単ではないぞ?」

だが、「二人目」は余裕の表情でカッターナイフをプラプラさせながらニヤリと笑う。
「さて、どうかしら……シュッ!」
と、身を転じて凄まじい鋭さでオリジナルに襲いかかる!
「クッ……!」
どうにか紙一重で鋭い刃先をかわしたオリジナル。だが、シュパッと着ていた制服が切り裂かれる。
しかし、負けてはいられない。バールを「二人目」に向けて振り回すが、しかし相手もさる者。
まともに受け止めようとはせずスルスルとかわし切る。余裕の笑みを浮かべながら。
だが、攻勢に転じたオリジナルのバールの間合いには、容易には近づけない。
しかし。

「せいっ!!」
あり得ない方向から蹴りを繰り出す「二人目」。まるでカポエラのような器用な足技がオリジナルを襲う。

  バキッ……

流石のオリジナルも一撃を喰らってよろめいた。
「や、やるな……しかし!」
すぐさま、身を立て直してバールを繰り出すが、
だが「二人目」は軽やかな体術で真後ろに飛び跳ね、間合いから逃れてしまう。

だが、そうと見てオリジナルがカチャリと取り出した物。それは黒光りする拳銃だった。
「なッ!?」
驚く「二人目」だが、オリジナルは遠慮はしない。容赦なく引き金を引こうとしたのだが……

「させないっ!」
そう言ったが早いか、「二人目」のカッターナイフが銃を持っていた手を切りつけた。
思わず銃を取り落とすオリジナル。
(馬鹿な、この間合いで?)

そして気付く。「二人目」の本性を。
「貴様、使徒だな……バルディエル?」

それを聞いた「二人目」、もとい、レイに取り憑いた「バルディエル」はヘラヘラと笑った。
「あらァ?ばれちゃったのね。察しの良いこと。」
もう隠す必要もないと言うように、保っていた自らの身体を一気に崩し始める。
なんと両腕、両脚がニュルニュルとタコのそれのように伸び始めたではないか。
つまり、その自在に伸びる身体を繰り出して相手の攻撃を封じたのだ。

オリジナルのレイは思わず眉をしかめた。
「気色の悪い……海賊王にでもなる気?」
「なに、よく判らないネタを言ってんのよ。」
「つまり、不用意に作った最初のクローン体にこれ幸いと取り付いたと言う訳か。」
「そーいうこと。知っていたからね……あんたの身体なら使徒のレーダーに引っかからないことを。
 ねぇ、使徒リリスちゃん?」

ここでオリジナルは疑問に思い、尋ねる。
「ならば何故、地上で碇シンジに出会ったときに手を出さなかったのか。」
「冗談じゃないわよ。あの使徒アダムを本気で相手できると思う?」
バルディエルたる「二人目」は、フラフラと漂うように手足を伸ばしながら答える。

「この前、ゼルエル相手に目覚めちゃったし。取りあえず、アンタの息の根を止めておこうと思ってね。
 こうしてタイマン勝負をしたがると思ってたわ。アンタを殺して、アンタに成りすまして隙をうかがう。」
「成る程……良い作戦だが言ったはず。私を倒すのは簡単ではない、と……」
そう言いながら、オリジナルのレイはチラリを後ろを向いて目測する。
零号機までの順路と、その距離を。

そして、身を翻してダッシュを開始。
むろん、バルディエルはそれを追いかける。
「させないわよ!」
そう言いながら壁や天井に飛びついてカサカサと駆け回る。
その姿、もはや人間では無い。まるで獣や虫か何かのようだ。
その勢いでオリジナルのレイに追いつくのも時間の問題か?と思いきや。

「ふんっ!!」
オリジナルは気合い一発、どんっ!!という凄まじい力の放出とともに、目の前の壁を破壊した!

  ズドドドーンッッ!!
  
せっかく直したばかりの壁に巨大な穴が開かれ、オリジナルはそこから大きく跳躍して広い空間へと踊り出す。
そこは巨大なエヴァの倉庫。そして零号機は目前である。
オリジナルのレイも、バルディエルに呼応するかのように人間離れした能力を見せ始めていた。
その広大な空間へと一気に跳躍して、ヒラリと零号機の足下へと降り立つ。

しかし、「二人目」の足の方が一枚上手だった。
「はい、ご愁傷様。」
そう言ってバルディエルもまた蚤のような跳躍力で、オリジナルと零号機の間に着地する。
「このでくの坊に乗り込まれては堪らないからね。覚悟を決めて、アタシと勝負なさい!」

そう言うバルディエルに対して、オリジナルが何かを言おうとした、その時。
「……綾波!……綾波っ!!」
後ろの遙かに高い所から声がする。
シンジだ。コピー達の制止を振り切って、追いついて来たのだ。
倉庫の高い壁の足場に出てきたシンジは手すりから身を乗り出して叫んでいる。

オリジナルはチラリと振り返って見上げた。
が、次の瞬間。目を閉じてバッ!と手を広げて念を凝らす。

「ああッ!!」
目の前に展開された事象に、シンジは思わず声を上げた。
オリジナルのレイから輝かしい閃光が放たれ、それが消えたその場には、
巨大な球状のドームのようなものが発生し、完全にそこに居た彼女達を包み込んでしまったのだ。
そして、そのドームの中。

「結界?やるわね。でも、どういう意味があるのかしら。
 アタシの増援の可能性?このアタシを逃がさないため?碇シンジの介入を止めるため?」
バルディエルはプラプラとカッターナイフをぶらつかせながら、そう言った。

オリジナルは、そんなバルディエルを睨み付ける。
そして彼女の身体の周囲にも又、もう一つの球体が現れ始める。
それこそ正しく、ATフィールドの輝き。

「言ったはず。私を倒すのは簡単ではないと……このガード、破ってみるか?」
「そんなこと造作もないわよ。アンタこそ、そんな防壁だけでどうやってアタシを倒すのかしら。」
「心配は要らない。ちゃんと決め手は用意してある。」
「あらそ?それは楽しみだけど、もはや見ることは無さそうね。」

バルディエルは改めてカッターナイフを構え直す。
そして、なんとそのナイフが光を放ち、みるみると形を変え始めたではないか。

驚くオリジナル。
「それは、ロンギヌスの……!?」
「そうよ!アンタが放り投げたこれを拝借させて貰ったわ。」
ナイフはグングンとその形を変じて、毒々しい悪魔の槍へと変化する!
「これが突破できないものが何もないことぐらい、アンタが一番よく知ってるはずよ!
 アンタの防壁がどれほど硬かろうとね!」
そして、『槍』を構え直して、一気にオリジナルに向かって突進する。

   ズカァァァァァッ!!!

オリジナルのATフィールド、それを一気に突破して彼女の腹部を真っ直ぐに貫いた!

見事に命中、と言うべきだったが……
しかし、バルディエルは顔を歪める。
「ワザと受け止めた!?バカな……」

バルディエルが驚いている隙に、オリジナルはグイグイと『槍』を自らの手で食い込ませ、
そして相手の身体を両腕で捉える。
「捕まえた。」
「クッ……なんのつもり?!」
「馬鹿はあなた。ここを刺したって私は死なない。
 それに結界の意味を尋ねていたが、それは……」

その時だった。
               ガシッ!!
「ああっ……馬鹿な!なぜ、このでくの坊が……」
実は、零号機は結界の中に居た。
それが動き出して「オリジナル」と「バルディエル」の身体をまとめて握りしめたのだ。

「ちょッと!……アンタが乗ってないのに動くわけ……」
「私がこれに乗って動かしたことなど一度も無い。もっと私達をよく観察すべきだったな。
 私は、あなたを生み出したオリジナルではない。多分、私はあなたの次に作られた三人目。」
「アンタ……アンタは……」

ワナワナと震える「バルディエル」。
それを見た、これまで「オリジナル」を名乗っていた「三人目」のレイ。
今度は彼女がニヤリと笑う。
「結界の意味。それは、碇シンジにこの戦いを見せないため。
 この戦いの末に残るもの。それは私とあなたの肉塊が一つと、零号機に乗ったオリジナルの綾波レイ只一人。
 全てはアダムとリリス、その二人のために。その二人がその他全ての使徒に完全なる勝利を遂げるため。」
「アンタ……タブリスね?この裏切り者め、わざわざ犠牲になってまで我らが父に背くつもりなの?」

「ようやく気付いたか。しかし、この策略はお前を騙すためではない。
 私は初めから消えなければならなかった。貴様同様、殲滅されなければならない運命にあったのだ。
 ならば、初めから居ない方が良い。だからこそ、こうしてリリスと同じ肉体に潜り込んだという訳だ。
 そうでもしなければ、あの碇シンジは私が消えることに納得しないだろうからね。
 これまでの苦労も、ついに華開く時が来たというものだ。さあ、やるのだリリス!我々を消してしまってくれ!」
231 ◆LRvRIPAn.s :2007/11/24(土) 00:33:55 ID:???
とりあえず、ここまでですー
232名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/25(日) 02:56:39 ID:???
おつ
233名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/25(日) 03:46:49 ID:???
毎度ながら乙。
うひょ、三人目タブリスだったのか。
234名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/28(水) 17:26:30 ID:???
マダ〜?
235名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/29(木) 07:00:04 ID:???
最近来ないな
236 ◆LRvRIPAn.s :2007/12/02(日) 00:34:47 ID:???
えーと、すみません。
とりあえず最後まで作ったのですが、やっぱり自分の巣穴にぜんぶ置いておくことにしました。
またeonetが規制されちゃってるしw
続きを読みたいという方がおられたらご参照ください。

http://www28.atwiki.jp/ripa_ns/

それでは皆さん、お粗末様でした。
237名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/05(水) 00:49:00 ID:???
>>236
乙。面白かったよ。
綾波がどうしてああいう言葉遣いなのか謎が解けたw
238名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/05(水) 02:08:15 ID:???
毎度乙です!
239名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/05(水) 02:12:44 ID:???
でもこれLRSなのか? タイトルもそうだけどな内容もなんか釈然としない
240名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/07(金) 00:44:37 ID:???
面白かったです!^^

長編お疲れ様でしたっ!!
241名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/10(月) 00:15:11 ID:???
>>239
充分LRSじゃない?
描写はベタベタ甘甘じゃないけど、物語背景は間違いなくLRSだと思う

とにかく、完結おつかれさまでした。楽しませてもらいましたよ
242携帯から ◆LRvRIPAn.s :2007/12/12(水) 09:53:36 ID:???
いや、>>239さんの仰る通りでタイトルに嘘のある内容にしてしまいました。
トリッキーなことをしようとして、外してしまった感じですwいやはや、失礼しました。
で、プロバイダのeonet規制がかなり厳しいものとなり、私の投下もここまでとなりそうです。
では皆さん、読んでいただいてありがとう御座いました。
スレ汚し失礼しました。

243名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/23(日) 21:13:59 ID:???
ほす
244名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/24(月) 00:42:27 ID:???
クリスマス小説まだー?
245名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/26(水) 20:35:08 ID:Kur6zUD5
正月小説まだー?
246名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/26(水) 21:21:12 ID:???
>>244 もうクリスマス終わるけど、ちょっとだけ。

レイの公団住宅(?)にて。
サンタの衣装を着込んだシンジ。レイの部屋に突入する覚悟完了。
(衣装オッケー、ひげオッケー、プレゼントオッケー、よし行くぞ!)
がちゃっ 「……め、メリークリスマース!!」
(うわ、綾波めっちゃ白けた顔してるし。ま、負けるなシンジ。勇気だ。勇気を持ってバカに徹するんだ。)

「……誰?」
「さあ、良い子にしてたかなっ!サンタのおじさんがプレゼントを持ってやってきたぞっ!!」
「誰?」
「だ、誰って……サンタクロース……知らない?」
「ああ、あのクリスマスの日にプレゼントを届ける……」
「そ、そうなんだ。だから、プレゼントを」
「それじゃこれ、届けてくれない?」
「へ?あ、あの〜」
「あなたの仕事でしょ?」
がちゃん。 ←追い出された。

(う、うう、渡しそびれた。なんだこれ?)
シンジが押しつけられた物、
それはそこそこ綺麗な包装されていて、クリスマスカードが添えてあった。
そこに書かれた宛名は勿論……
(ば、ばれてた?) 

をわり。

247名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/27(木) 03:35:06 ID:???
>>246
乙です
とりあえず普通に起きてる綾波さんカワユスwww
続きを期待したいところだけど我慢しときます
248名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/27(木) 07:32:32 ID:???
>>245

ごーん ごーん ごーん ……

俺も仕事したまま年越しか。
ま、稼げるから良いが……あれ?

あの子、こんな日に来たよ。
俺のラーメン、喰ってくれるのは嬉しいけど。

「おじさん、ニンニクラーメン……」
「チャーシュー抜きね?あいよ!」

そして、この子もか?
どう見ても中学生ぐらいだし、大晦日ぐらい一緒に過ごす家族も居ないのか。
なんとも不憫な……ん?また、中学生かよ。

「ああ、綾波!やっぱりここに居たんだね。おじさん!僕にも……」

不憫ってほどでも、なさそうだな。
ごちそうさま……って俺が言ってどうするよ、ったく。

をわり。
249名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:06:59 ID:???

 いつもは人通りも少なく閑散とした商店街も今日一日だけは人で賑わう都心部の繁華街に姿を変える。
 葉を落とし寒空に揺れる街路樹は赤、青、黄色と色鮮やかなイルミネーションに彩られ、軒並みに連なる店は営業時間が過ぎようとも無機質なシャッターを下ろそうとせず、歩道に柔らかな光を投げ掛けている。
 そして何より街に温かい雰囲気をもたらしているのは街の至る所から聞こえる楽しげな会話だろう。
 想い人に贈られた声は街中を流れる軽快なX'masソングに乗って、擦れ違う足音もどこかリズミカルなものに変えていく。
 そう、今日はクリスマスイブ。
 聖なる夜に想い届く事を夢見て愛を確かめ合う恋人同士に、一つのケーキを囲み一時の団欒を過ごす家族、世界中の人が一年で一番待ち望み一年で一番幸せを感じる大切な日。

 コートの襟を立て足許だけ見て歩く僕にも、道行く人達にとって今日が特別な日である事は嫌でもわかった。忙しく動いていた僕の靴先に壁から剥がれた一枚の広告が触れる。
 その中に描かれていたのは満面の笑みを浮かべ子供達にプレゼントを配るサンタクロース。

250名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:08:31 ID:???


「何がクリスマスだよ……」

 僕は苦々しくそう呟いた。さっきまではこの絵の子供達のようにクリスマス特有の雰囲気に酔いしれ、浮かれていた自分が恨めしい。
 道を行く人達が胸に描くような幸せを僕は願ってはいけないのだろうか。

『ごめんなさい。仕事が長引いて今日は帰れそうにもない』

 数時間前、デートコースを携帯で確認していた僕のもとに一通のメールが届いた。差し出し人は僕の待ち人、彼女から。
 いつもなら責任感が強いのは昔からだよなと笑みが雫れるのだが、今日はわけが違った。簡潔に要件のみを記した彼女らしい文面が余計僕の苛立ちに拍車を駆ける。
 慣れないフランス料理のお店を予約し、彼女が喜んでくれそうなプレゼントも用意した。
 彼女がこういう行事に関心が薄いのはわかっていたが、今年は彼女と出会って十年目のクリスマス。
 記念すべきこの日に一世一代の告白をしようと、数ヵ月も前から心に決めていただけに僕のショックは大きかった。
 いつもならすぐに返すメールもそのままに、その後何度か掛かってきた電話にも出なかった。
 彼女の悲しげな表情が一瞬だけ僕の脳裏をよぎったが、僕は悪くない。悪いのは彼女じゃないか――。


251名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:10:00 ID:???


 いつの間にか耳に纏わりつく甘ったるいメロディも何処かに消え僕は一人になっていた。僕の足取りはぶつけようのない苛立ちからか、無意識のうちに早まっていたみたいだ。
 賑やいだ商店街から伸びる国道から外れ、社宅に続く人通り少ない道を僕は歩く。出迎えてくれる人がいるわけでもないのに家路を急ぐなんて馬鹿らしい。
 そんな事を思いながら僕は歩く速度を緩め、足を止めた。何気なく仰いだ空には銀色の月がぽっかりと浮かんでいる。

――真っ暗な道でも二人で行けば何か見付かるかもしれない。

 そういえば少年の頃、そんな約束を彼女と交わしたことがあった。あの時見上げた月もこの月と同じように黒塗りの空から柔らかな光を僕に投げ掛けていた。
 子供心に神秘的だと思った輝き一つとってもあの時と何一つ変わりはしない。ただ違うことと言えば彼女が隣りにいるかいないかの違いだけで。
 無機質な鞄を握る掌が急に冷えていった気がして、僕は顔の前で手を合わせるとそっと息を吹き込んだ。
 一瞬だけ温もりが掌全体に広がるが、視界に立ち込めた白い息が消えるにつれて急速に熱も失われていく。
 どこで道を間違えたのだろう。あの時の約束を頼りにここまで来たというのに、ここに彼女はいない。

「……僕の独りよがりだったのかな」

 そう呟いて少し笑ってみる。上手く笑えないのはきっと寒さのせいだ。微かに残る熱を逃がさないように空っぽの掌を強く握り締めると僕はまた歩き始めた。


252名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:11:27 ID:???



 ジジッと点滅を繰り返す街灯に照らされ、古ぼけた社宅が浮かび上がる。
 会社では馬鹿な冗談ばかり飛ばしている後輩の部屋も、生真面目で仕事の話しかしない先輩の部屋も、今日はどの部屋からも温かな光が洩れていた。
 階段を昇っている時に楽しげな笑い声が聞こえた気もしたが、ポケットの中の鍵がチャリチャリ鳴る音と聞き間違えたのだろう。
 僕が帰るのは温もりを無くした暗く寒い部屋。クリスマスに相応しい料理が用意されているわけでもなければ、クリスマスらしい装飾が施されているわけでもない。
 せめて彼女がいてくれれば良かったのに。

「……だよな」

 賑やかで楽しそうだった一階や二階と違い、僕以外に入居者のいない三階はひっそりと静まり返っていた。
 突き当たりにある部屋を目指して僕は薄暗い廊下を歩く。虚しく響く靴音を聞きながら、僕はぼんやりと昔を思い返していた。
 この社宅にどこか似た雰囲気を持つ部屋で、帰ろうとした僕の背に向けて寂しいと小さく雫した彼女。思えば泣いている彼女を見たのはあの時が初めてだった。
 絶対に彼女を一人にさせない。腕の中で嗚咽を洩らす彼女の背中を撫ぜながら、幼な心にそう誓ったのもあの時だった。
 涙で濡れた彼女の顔が浮かぶ。それなのに僕は何をやっているのだろう。
 クリスマスにこんな寂しい気持ちを味わうのは僕だけでいい。今更、全てを償えるとは思わないが、せめて一言でも彼女に謝らないと。
 僕はポケットから携帯を取り出し、冷えた指先で彼女のダイヤルを回した。


253名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:14:39 ID:???

―――PiPiPi-PiPiPi―


 受話器から聞こえるコール音に合わせて、廊下に無機質な電子音が響き渡る。

「……えっ?」

 僕は携帯を慌てて耳から離し、音のする方に目を向けた。黒い闇に伸びる廊下の先、非常口を表す緑色の光の下。突き当たりの僕の部屋の前には小さく縮こまる黒い影があった。

「あ、綾波?」

 膝を抱えながら僕の家のドアに寄りかかり、携帯の画面をじっと見詰めている彼女。
 液晶から洩れる微かな光に照らされて、浮かび上がる水色の髪は見間違えようがない。彼女は僕に気付いたのか顔をあげた。

「……碇君」

「綾波、どうしてここに。仕事はどうしたんだよ」

 僕は彼女に駆け寄ると、まだ現実を上手く処理出来ていない頭でふと浮かんだ疑問をそのまま口にする。彼女はそんな僕を頭から足先まで一瞥するとぽつりと呟いた。


254名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:16:12 ID:???


「仕事はやめた……」

「えっ? ど、どうしてさ」

「碇君と連絡とれなかったから。事故にでもあったのかと心配で仕事が手につかなかった……」

 それぐらいの事で仕事をやめたって? 確かに彼女が一つの目的のために全てを投げ打つ性格であることは僕が一番よく知っている。でもここは生死を賭けた戦場でも彼女を縛る規律があるわけでもない。返す言葉も見付からず呆然としていた僕に向かって彼女は、

「だけど良かった。碇君に何ともなくて」

 そう続けると小さく微笑んだ。



255名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:16:43 ID:???


「……碇君、痛い……」

 気が付けば僕は彼女を抱き締めていた。抱き寄せる時に初めて触れた彼女の指先が、酷く冷えきっていた事実が僕の胸に深く突き刺さる。
 いつ帰るかもわからない僕を、この寒空の下でずっと待ち続けていたのだからそれも当然だろう。
 腕の中で彼女の苦しそうな声が聞こえるが、僕は構わず彼女を抱く腕に力を込めた。彼女が愛しくて愛しくて仕方がなかった。
 こうする事で少しでも彼女の心と身体を温められたら、少しでも彼女に自分の想いが届いてくれたら、そんな事を思いながら只々彼女を抱き締める。
 しばらくもぞもぞ動いていた彼女だったが、観念したのかおずおずと僕の背中に手を回すと小さく吐息を雫した。



256名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:17:42 ID:???


「でも良かったの? 仕事やめて。綾波、今の職場結構気に入っていたじゃないか」

「……大丈夫だと思う。赤木博士には仕事に集中出来ない人はいらないと言われたし、碇所長にも私の正しい就職先は他にあると言われたから」

「……どういうこと?」

「わからない。碇君に会えば紹介してくれるはずと言っていた」

 その彼女の一言で全身から力が抜けていくような気がした。
 僕が今日という日のために何度も宝石店に足を運んでいたことも、今日という日を決戦の舞台に選んでいたことも全部、父さんは知っていたんだ。
 それなら最初から彼女を帰してくれれば良かったのに。
 僕は大きく溜め息を吐くと空を仰いだ。さっきまで肌寒く感じていた風も彼女が隣りにいてくれるせいか、妙に心地よく感じる。
 そんな僕を小首を傾げ不思議そうに見詰めていた彼女と向き合うと、軽く咳払いをして言葉を贈る。

257名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:18:46 ID:???


「綾波、君にクリスマスプレゼントがあるんだ」

「……私、碇君にあげれるものない」

「いいんだ。綾波の返事を貰えるのが僕にとっての最高のプレゼントだから」


 僕の家から見える名も知らない木の先に、いつの間にか空の中腹まで昇った月が掛かる。商店街の中心の綺麗に彩られた大きなモミの木と比べたら、飾り付けも何もない質素なツリー。
 でも彼女と一緒に見上げるだけで、それは最高のクリスマスツリーに姿を変える。彼女と過ごすクリスマス、それが僕にとっての最高のクリスマス。そして――。


「……碇君。私、嬉しい……」


――この言葉が僕にとっての最高のプレゼント。


 どこか遠くの方で鈴の音が聞こえたような気がした。





258名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:40:18 ID:???
スレ汚し失礼致しました
少し遅くなりましたが、X'mas小説です
ネタはありきたりかもしれませんが、読んで頂けると幸いです
では、よいお年を……
259名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/28(金) 02:51:53 ID:???
>>248
年越しソバならぬ年越しラーメンですか
ほのぼのしていて良かったです
とりあえず、乙ですー
260携帯から打つのしんどい……:2007/12/28(金) 04:35:39 ID:???
「お正月から墓参り……何してんだろ、僕は。」
母、ユイの墓の前に立つシンジ。
母のことは何も覚えていない。一緒に過ごした記憶もない。
お節料理の味も、初詣に行ったことも。
「お年玉とか一度で良いから貰ってみたかったな。あはは……あれ?」
振り返ると、そこにレイが立っていた。

「あ、綾波……どうしたの?こんなところまで来て……」
「此処だと聞いたから。」

何故だろう。これがお年玉がわりかな、などと考えてしまうシンジであったが、
苦笑いで立ち上がり、レイに誘いかけた。
「えーと……初詣、行く?」
「うん……」

をわり。
261名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/01(火) 01:55:49 ID:XppRknrk
「綾波〜。砂糖って買い置きは……」
「この前買って来たわ。流しの下にあるはず」
「……あった。ありがとう、綾波」

毎晩二人きりの夕食を取るようになって、早三か月。今日も僕は腕をふるう。美味しい料理なら僕にもできるから。
……だけど、何か違和感があるのは何故だろうか。幸せなのは確かなんだけど。

「……碇君?どうかした?」

手が止まった僕を見て、不思議そうにこちらを見る。だけど別段何がどうした訳でもない僕は、苦笑いぎみに微笑むしかない。

「何でもないよ。綾波」

……何かそこにもチクリと言う違和感。そう、と呟いて本に目を戻す綾波。腑に落ちないけれども、焦がす訳にはいかないからそれから意識を切り離す。

―――――――――

「ごちそうさま」
「お粗末様」

結婚当初に決めたルールだった。挨拶はきちんとする。これだけ。

「綾波、今日のは美味しかった?」
「……ええ」
「ありがとうね」

いつも通りの素っ気なく聞こえる二文字も、僕にとっては最高の褒め言葉だ。
262名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/01(火) 01:59:18 ID:XppRknrk
充実感が体を満たした所で、綺麗になった二人分の食器を持って台所へ向かう。

「……碇君」
「何?」

振り向いたら少し深刻そうな表情。食器を洗いながら聞くような話ではないと思った僕は、水を止める。

「……やっぱり、変?」
「……?何が?」

向かいの椅子に腰掛け、紅い瞳を覗き込む。……迷うように揺れていた。

「……アスカは、変だって」
「…………何が?」

珍しく言い淀む。僕は未だ何の話か察す事は出来なかった。ただたまにチクリとするのみで。

「……呼び方」
「呼び方?」

ええ、と頷いて少し顔をあげる。

「夫婦にもなって、姓も変わったのに、碇君、綾波と呼び合うのは、変だって言われた」
「…………そう」

先程の違和感の正体が分かったような気がした。確かに……そうかも知れない。

263名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/01(火) 02:03:13 ID:XppRknrk
「碇君も……他の呼び方の方が良いと思う?」
「……僕は……」

小さな事ですら迷うのは僕の悪い癖だと思う。どもっていると、小さいながら確かな強い意思を持った声が響く。

「私は、このままがいい」
「……え?」
「私が好きになったのは……碇君。それはこれまでも、これからも、絶対に変わらない……だから……呼び方も変える必要もないもの……」
「……そうだね。僕も、好きになったのは綾波だ。そして、これからもそれは変わらない。……だったら、呼び方にこだわる必要もない……のかな?……そんな些細なことなんか……」

小さく笑って頷く綾波を見て、僕もようやく違和感が取れる。
好きであれば、多分些細なんだ。そんなこと。

「……これからも、ずっと好きだよ、綾波」
「……私も。碇君」

違和感すらも心地よさに変えた所で、僕は目の前の恋しい人に改めて誓いのキスをしたのだった。
264名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/01(火) 02:06:03 ID:XppRknrk
どうも。新年記念と言う事で投稿させていただきました。
新年、に一切掠っていないのは仕様です。
LRSの皆様へのささやかなお年玉にでもなれば幸いです。
では失礼します。
265名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/01(火) 04:49:04 ID:???
乙!
266名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/04(金) 23:50:48 ID:???
ありがたや
267名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 19:49:28 ID:???
ほしゅ
268名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:52:28 ID:???
冬という厳しい寒さが襲いかかる季節が過ぎ去ろうとする今日この頃。すでに寒
波は通り過ぎたらしく、最近ではめっきり暖かくなってきている。だが、朝目が
覚めた時に未だに布団の中に潜り込んでいたい。という思いは未だに健在である


今日も日が昇り始め、すでに時は夜から朝へと移り変わろうとしていた。日差し
が窓から差し込んでくる。最近買いに行ったカーテンがその役目を果たす努力は
しているものの、隙間からは防ぎきれずに日差しは入ってくるのだった。

「……ま、ぶし…。」

その明るい日差しは容赦なくシンジの顔へと突き刺さる。暖かいとは言っても、
こうも眩しくては眠りには到底つけないのだ。

ふと隣に目をやると、一緒に寝ていたはずのレイがいない。そうしてシンジは昨
晩の事を思い出す。すでに数回彼女とは事に至っているのだが、どうもこの目覚
めの瞬間、特にこうやって思い出す瞬間は慣れない。たぶん一生慣れる事なんて
ないんだろうな。とシンジは思った。

「……碇くん、起きた?」

269名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:53:40 ID:???
いつの間にドアを開けていたのだろう。まったく気づくことができなかった。こ
うしたレイの気配の絶ち具合は未だに健在のもので、昔の名残みたいなものらし
い。
レイは、どうやらシンジよりもかなり早くに目が覚めていたようで、カーテンと
一緒に買いに行ったエプロン──僕が選んだものである──をつけている。と、
なると洗濯物でも片づけていたのだろう。シンジは自分の傍らに置いてある目覚
まし時計を手にとって、今の時間を見た。

──今は十一時を少し過ぎたところである。

「あっちゃー……。寝坊しちゃったかな」

「碇くん、気持ちよさそうに寝てたから……。でも、起きたのなら布団を干した
いの」

やはりレイは家事をしていたようで、布団を干すためにシンジが起きているかど
うかを確認しにきたらしい。ちなみに、洗濯はレイ、掃除は二人で、料理はシン
ジと担当が決まっている。何故か理由はわからないが、料理の腕だけはレイはあ
まり芳しくないのだ。そこで、シンジが料理担当。彼は元々趣味みたいなものだ
ったからそう代わりはないらしいが。

270名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:54:10 ID:???
「あぁごめん。今どくよ。何か手伝うことあるかな?」

「……今は何もないわ。昨日は疲れただろうし、ゆっくりしてて」

そう言うと、レイはパタパタと小走りで布団を抱えてベランダの方へと行ってし
まった。

シンジはというと、取り残されてしまったのでやることもなく、かといってもう
一度寝ようにも布団がない状態だったので、リビングでゆっくりすることにした



リビングには少しこだわりを持っている。なるべく二人がゆっくりと過ごせるよ
うな広めのスペースで、家具などは最小限に抑える。これが二人の決めたこと。
家族関係が希薄だった彼らは、家族とのふれあいにとても気を使うようにしてい
た。

「とは言っても、まだ『同棲』だもんな……」

そう、二人はまだ恋人であって夫婦ではない。シンジはそれとなく意識して、彼
女の呼び名を『綾波』から『レイ』へと変えることにした。しかし、肝心のレイ
はと言うと依然『碇くん』のままである。

271名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:54:38 ID:???
「はぁ……。やっぱりまだ無理なのかな」

リビングにはソファは置いてなく、フローリングにカーペットを敷いただけ。だ
が、それなりに高級のものを選んだので質感はばっちりフカフカである。そのフ
カフカなカーペットに身を預ける。横になって寝転がっていれば、何かこの曖昧
な関係を打破できるような画期的なアイディアが思いつくかもしれない。

「……ねむい」

しかし、先ほど起床したばかりのシンジにそれほどの思考力は備わっておらず、
考えようとすればするほど眠気という敵が活性化するのである。
「だめだ……。寝る…」

正直なところ、手持ちぶさただったシンジはそのまま睡魔の誘惑に破れ、眠りの
世界に誘われることを選択した。

◇◇◇◇◇


272名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:55:23 ID:???
「……あら」

洗濯をやり終え、レイがリビングへとやってくるとそこには愛しい彼が横たわっ
ていた。最初は倒れたのではないかと心配になったが、顔をのぞき込んでみると
どうやら寝ているようだったので一安心。お気に入りのエプロンを外し、シンジ
へとゆっくり近寄る。こんな時は昔にネルフで訓練した気配遮断が役に立つな。
とレイは実感していた。

「すぅ……すぅ……」

規則正しく繰り返される呼吸。それに合わせるように上下する体。このままでは
頭が痛いだろう。そう思ったので、レイはシンジの頭を自分の膝に乗せることに
した。いわゆる膝枕。誰もが憧れるあの光景である。

そっと頭を膝に乗せる。シンジの黒髪はいつ見ても綺麗で、絹のよう。昔に比べ
れば成長したものの、やはり未だに中性的な顔立ち。少し弱気な部分も未だに顕
在している。そんなシンジの髪をそっと手で梳いてみる。

「ふふ……」

273名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:55:46 ID:???
幸せだ。レイは心からそう思った。考えたことのなかったこんな日常。見たこと
もなかった夢。目的など持てなかった人生。しかし、今はそのすべてがそろって
いると言っても過言ではないかもしれない。そう思った。

シンジが今何を悩んでいるかも実はレイは気づいていた。周りから見ればとても
些細なこと、けれども自分たちからしてみればそれはとても大きな事。そんな事
を彼は気にしていた。

「……シンジ君。そう、シンジ君」

愛しい彼の名前を囁いてみる。シンジが自分の名前を呼んでくれるのは嬉しい。
今でもドキドキするくらいに。ただ、自分が呼ぶ分にはまだ恥ずかしさの方が勝
ってしまうのだ。だから、未だに彼を名前で呼ぶことが出来ないのである。

「今度こそ、呼んでみせるから。……目が覚めたら聞いてね」

シンジはまだ目が覚めそうにはない。たまたま近くにタオルケットがあったので
シンジにかける。それと同時にレイにも程良い睡魔が襲いかかってきた。

「ふぁ……」

昨晩のこともあるし、少し疲れが溜まっているのかもしれない。

気持ちよさそうに寝ているシンジを見て、たまにはこういうのもいいかもしれな
い。そう思ったので、レイはその眠気に身を委ねることにした。




274名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/16(水) 21:56:54 ID:???
とりあえず前に書いたやつを投下してみた。
長くなってしまって申し訳ない。
275名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/17(木) 02:06:44 ID:???
GJ ほのぼの系いいね
276名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/20(日) 18:32:19 ID:???
保守
277名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/21(月) 14:46:36 ID:???
職人期待
278名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/24(木) 07:34:18 ID:???
保守
279名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/02/03(日) 17:09:53 ID:???
死守
280名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/02/16(土) 23:48:59 ID:???
続きない?
281名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/02/24(日) 20:29:52 ID:???
ほしゅ
282名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/02(日) 22:23:19 ID:???
保守
283名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/07(金) 16:44:11 ID:???
夜、レイの部屋にて、シンジは選択をせまられていた。

「泊まってく………?」

このレイの一言が原因だった。
ここに至るまでの経緯をさかのぼると、それはこの日の昼の出来事から始まる。

「綾波、お弁当とか食べてるとこ見たことないけど、昼はいつもどうしてるの?」
「昼は…いつも、食べてないから。」
「え…昼もちゃんと食べた方がいいよ!朝や夜はどうしてるの?」
「朝は、栄養補助の錠剤と、パン一枚食べたわ。夜もそんな感じ…。」
「ええ!?そんなの不健康だよ!ずっとそんな食生活だったの!?」
「でも、必要な栄養は取ってるもの。」
「栄養だけじゃダメだよ!ちゃんと物を食べて、噛んで消化して栄養にするのが一番なんだから。」
「そう…?」
「そうだよ!それに、そんなんじゃおいしくもないし、楽しくもないでしょ?」
「楽しい…?わからない。食事でそういうの、考えたことも無かったから…。」
「えーと…じゃあさ、今日綾波の家に行ってもいいかな?もしよかったら晩御飯作りたいんだけ…ど……」

レイの食生活に驚くあまり、勢いで喋ってたシンジは途中で気づいた。
自分から女子の部屋に積極的に入ろうとしてることに。そして晩飯を作るには、必然的に夜までお邪魔することに。
その事実がシンジに抵抗を思い出させ、その勢いを失速させた。

「あ、いや…もし綾波がよかったら…なんだけ…ど…。」
「……………………………いいの?」
「も、もちろんだよ!じゃあ学校終わったら、お邪魔するね。」
「………わかった。」
284名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/07(金) 16:45:09 ID:???
レイにOKを貰ったことでシンジは少し浮ついた気分だった。
というのも、シンジはヤシマ以来、レイを無意識のうちに気にかけてる部分があったからだ。

「(何作ろうかな…綾波、どんなのが好きなんだろう…やっぱり本人に聞いた方がいいかな…)」

午後の授業も上の空で、シンジはこの後の予定に思いをめぐらせていた。
そして放課後…

「あ、綾波!材料、家に無いよね?綾波の食べたい物もあるだろうし、帰りに一緒に買っていかない?」
「ええ、いいわ。」
「ところでさ、綾波って好きなものとか嫌いなものとかある?」
「好きなものは別に…。でも、肉は嫌い。」
「そうなんだ、じゃあサラダとかスパゲッティみたいなものがいいかな…肉を使わないっていうと結構難しいかも…」
「……………ごめんなさい。」
「え!?いや、違っ、そういう意味で言ったんじゃないよ!肉なしでも色々作れるし、そんな謝ることないよ!」

今までこんな風に人に気にかけてもらったことの無いレイは、シンジの行動が不可解に感じられる一方で、
自分が人に手間をかけさせてしまっているという漠然とした申し訳なさも感じていた。
そして買い物を済ませた二人はレイのマンションに着く。

「上がって。」
「お邪魔します…。」

シンジが前回訪ねたときと違い、今回は個人的な用でレイの家を訪ねたことが、前回には無い緊張を生んでいた
285名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/07(金) 16:46:30 ID:???
「(綾波の部屋…相変わらずだな…)」

前と変わらない殺風景な部屋に複雑な気分を抱きながらも、シンジは台所で食事の用意をする。
使われた形跡はほとんど無いが、一応料理道具一式は揃っているのが幸いだった。

「じゃあ、台所使わせてもらうね。」
「何か手伝えることある?」
「いや、大丈夫だよ。適当に時間つぶして待ってて。」
「そう…。」

一言返事をすると、レイはベッドに腰掛けて読書を始めた。
そんなレイを尻目に着々と準備を進めるシンジ。
日が暮れる頃には料理も出来上がり、机の上には前菜のサラダとトマトソースをメインとしたスパゲッティが並んでいた。

「いい匂い……。」
「口に合えばいいけど…じゃあ、食べようか。いただきます。」
「……いただきます。」

内心、レイの反応に対して期待と不安で緊張していたシンジは、黙々と料理を食べるレイの言葉を待ちきれず自分から切り出した。

「どう…かな?おいしい?」
「………おいしい…すごく…。」
「ホントに!?よかったぁ〜…」

286名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/07(金) 16:51:43 ID:???
安堵の息を漏らしたシンジは、それを口火に色々な話題を口にした。後から考えれば、シンジ自身も驚くくらい自分から積極的に話かけた。
しかしそのほとんどが、レイが相槌を打つ形で終わり、レイが文として喋るのはシンジが質問を投げかけた時くらいだった。

「あ…碇君…口に…」
「え?」
「ソースが…」

レイはそう言うと、ポケットからティッシュを取り出し、シンジの口元を拭った。

「あ…ありがとう。」
「いい。……碇君、今日はすごくおしゃべりみたい…。」

口を拭いてもらったという恥じらいと、普段の自分とは明らかに違う態度への指摘に、
シンジは思わず顔をうつむかせ、萎縮してしまった。

「あ…ごめん、うるさかった…かな?」
「ううん………………楽しい…。」

思いもかけないその一言にシンジの胸は高鳴り、顔を上げ、思わず笑みがこぼれた。

「本当!?よかった…綾波がそう言ってくれて嬉しいよ…!」

シンジの喜びようを見て、レイはずっと不可解に思っていた疑問を口にした。

「碇君…どうしてこんなことしてくれるの?私には…お礼を返せるようなことも…なにもできないのに…。」
287名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 00:12:19 ID:???
これで終わり?
続きが読みたいです……
288名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 02:07:21 ID:???
「そんな…お礼なんていらないよ。ただ、綾波、いつも一人で…寂しそうだったから…。」
「寂し…そう…?」
「うん。僕も…ここに来るまでは…何も無かった…。でも、学校のみんなやネルフの人たち、そして綾波に会えて…わかってきた気がするんだ。
 少しずつだけど…僕の居場所が。だから、一人の辛さや寂しさはよくわかるんだ。もし綾波が今そんな立場なら、その…僕なんかでも…
 綾波の…支えになれたらなって……思ったんだ…。」
「………………………………………。」

沈黙を守り、真っ直ぐにシンジの目を見て話を聞いていたレイは深い葛藤と思考の中にいた。

(私を必要としてくれる人…碇指令…私を見てくれてる人………違う。私を必要としてくれるのは、私が道具だから…。
 私を見ているようで、他の誰かを見ている……。それでよかった…それが私のいる理由…役目が終われば消えるだけの存在…。
 誰も私を見ることも無く……誰も…………………………違う。碇君は…違う。彼は…私を見てくれた…。何も無い私を……。
 あの時、碇君がなぜ泣いてたのか……今はわかる気がする………。)

「あ、綾波ッ!?」
「え……っ?」

シンジもレイも同時に驚いた。レイの目から涙がこぼれていたからだ。
思わずレイの隣に駆け寄るシンジ。

「これが……なみ…だ…?私が…泣いてるの…?」
「ご、ごめん!僕、何か変なこと言っちゃったかな!?もしそうなら謝るよ…」
「ううん………違うの……わからないけど…………………暖かい……。」
「綾波………………えっ?」

シンジは一瞬、自分に加えられた重みに気づかなかった。一呼吸置いてから、レイがシンジの胸に寄りかかっているのだと気づいた。

「綾……波………?」
「ごめんなさい………少しだけ…こうしててもいい?」
「うん……。」
289名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 02:37:47 ID:???
きごちなく、そしてゆっくりと、レイを包むように背中に手をまわすシンジ。

(暖かい……私……嬉しい……これが…そう……。)

どれほど時間が経ったのか、少し名残惜しそうに体を離す二人。

「料理、冷めちゃったね。」

面と向かうことに気恥ずかしさを感じたシンジは、照れ隠しに軽い話題をふった。

「いいの。食べましょう。」
「そうだね。」

テーブルの前に座りなおした二人は最初と打って変わり、黙々と料理を口に運んだ。
しかし、その二人の空気も最初と変わり、よそよそしさや張り詰めた感じは一切消えていた。

「ごちそうさま。食器、片付けるね。」
「私も手伝いたい。」
「あ……うん。」

料理の作り初めと同じく、座ってるように言うつもりだったシンジだが、思わずレイの発言に頷いてしまった。
シンジが皿を洗い、レイがそれを拭く。そんな作業を淡々とこなし、それが済んだ時、シンジの今日の目的は終わった。
290名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 02:51:18 ID:???
食器をすべて吹き終わっても、次の行動に移らずただ横に並んで沈黙している二人。
もう時間も遅い。次の行動とは、お互い別れを告げ、シンジは家に帰ること…それだけだった。
しかし、シンジがその場を去ることへの抵抗が二人の中に生まれていた。
静寂の中で、外の雑音が耳に入る。シンジはふと窓に目をやると、外はどしゃ降りの雨だった。

「うわぁ…すごい雨だ…いつから降ってたんだろ、気づかなかったな。」

傘も役に立たなそうだ、ミサトさんに迎えにきてもらおうか、でもミサトさんは家にいるだろうか…
この事態へのそんな漠然とした対策考えていると、レイがそこに一言提案を加えた。



「泊まってく………?」

291283〜:2008/03/08(土) 02:57:42 ID:???
以上で、いったん区切りをつけときます。
ここからやっと>>283の冒頭に繋がる感じです。予想以上に途中経過が長くなってしまいました…。
そして遅筆で申し訳ないです…。
一応この話は序のヤシマの後、少ししてからを想定して描いてみてます。
なんとか明日中には最後まで書くつもりなので、よかったらお付き合いください。
では、失礼しました。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
292名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 03:20:56 ID:???
GJ
293名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 11:58:21 ID:???
つづき待ってるお〜
294291:2008/03/08(土) 19:44:36 ID:???
今日中に続きを書きたかったんですが、ちょっと忙しくて書けませんでした…申し分けないです。
しかも明日から4日ほど家を開けるので、続きはその後になってしまいました…。
なので今日中に終わらせたかったのですが、待っていた方々には非常に申し訳ありません。
こんなに日にちをあけても読んでくれる方がいたら、そのときはおねがいします。
295名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/08(土) 19:47:30 ID:???
いつまでも待ってるさ
296名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/12(水) 19:21:09 ID:???
保守age
297名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/15(土) 03:24:40 ID:???
ほす
298名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/17(月) 07:45:22 ID:???
既に4日以上経った件
299294:2008/03/17(月) 10:35:01 ID:???
予告も守れず音沙汰無しで重ね重ね本当に申し訳ありません。
予想以上に仕事が忙しくなってしまって…。

今回の例もあるし、次の投下の見当もつかないので、いつ次の投下は未定になってしまいました…。

待っていてくれた方には本当に申し訳ないです。
でも一度書いた以上、最後まで終わらせるので、もし読んでくれるのならそのときはよろしくお願いします。
300名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/17(月) 14:25:28 ID:???
待ってるお
301名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/17(月) 18:02:18 ID:???
待ってるのに・・・
302名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 15:10:13 ID:???
>>290続き

レイからの予想外の提案に、シンジは思わず目を見開いた。

「え……と、泊まるって…僕が…綾波の部屋…に…?」

動揺しながらもなんとか聞き返すと、レイは無言でコクりと頷いた。

「この雨では、碇くんが濡れてしまうから。」

確かに、傘をさしてもこの雨では役に立たないのは一目瞭然だった。

「でも…ミサトさんに車で迎えに来て貰えるから大丈夫だよ!」
「葛城二佐、前回の使徒戦の処理で、今日は泊まり込みらしいわ。」
「え…そ、そうなの?」

ミサトは夕飯時の前にシンジへ自宅に留守電を入れていたが、
夕方には既にレイの家に上がっていたシンジはそれを知らなかった。
一方でレイは、リツコと会話した際の
『事後処理がまだまだ立て込んでてね…私とミサトも、今日は帰れそうもないわ。』
という、独り言に近い愚痴を覚えていた。
303名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 15:10:48 ID:???
「だから、泊まっていった方がいい…。」
「で、でもそれはまずいよ!!」
「……どうして?」
「どうしてって……綾波は女の子なんだから、二人きりで泊まるなんて…やっぱりダメだよ…。」
「……それが、なぜダメなの?」
「なぜって……僕が綾波に何かしたらどうするの?」

「…………………何か、するの?」

「し、しないよ!絶対に!!」
「じゃあ、問題無いわ。」
「え……うん、まあ…そうだけ…ど…。」

頑なに拒否するシンジと、その理由がわからないレイ。
何の問題が無いことをお互いに確認できても尚、やはりシンジには異性の部屋に泊まることへの抵抗が残っていた。
シンジが思い悩んでいると、先にレイが口を開いた。
304名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 15:34:02 ID:???
投下キタ――――――

305名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 15:57:29 ID:???

「………………帰ってしまうの?」

一見いつもの無表情のレイ。
しかしその台詞と無表情の裏には、帰って欲しくないという想いが見え隠れしているのがシンジにもわかった。

「い、いや…………………じゃあ…泊まらせてもらおうかな…。」
306名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 17:02:43 ID:???
今日のところは以上です。
今回は暇を見つけては携帯から打ってたので、遅筆&誤字脱字などが目立つかもしれませんが、ご容赦下さい。

次も、暇を見つけては携帯で書くつもりなので、投下はいつごろになるかは未定になってしまいます…。
でも今回ほど間があくようなことは無いと思います。

待っていてくれた方、申し訳ありませんでした。
また読んでくれたらありがたいです。
307名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 18:22:07 ID:???
こっちこそありがたい
308名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/18(火) 20:59:09 ID:???
gj!です。こういうの好き。レイが本編っぽいし、何気に執着が見える。
309名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/19(水) 21:42:10 ID:???
キター!毎度乙です!
310名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/19(水) 21:43:43 ID:???
お泊まり展開wktk
311名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 01:22:47 ID:???
短編で
312名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 01:23:09 ID:???

「冷たい風、温かい肌」

 国語の教科書に書いてある俳句とか詩とかには、冬という季節の寒い中に暖かいものに触れたり、熱い
ものを飲んだり食べたりすることがどれだけ感動することか書いてあるものが多い。暑い時にアイスキャンディー
をかじる様なものか、と想像してはみるけど、いつも冷たいものを食べているような気がする。
 昔、季節の移り変わりというのがあったそうだ。いつもそこらじゅうでセミが鳴いているけど、セカンドインパクトの
前はそれは一年のうちの、ほんの2、3ヶ月の間だけだったそうだ。その後で秋という季節が訪れて、セミはみんな
死んだらしい。木の葉っぱは茶色くなったり黄色くなったりする。そして少しづつ寒くなり、葉が全部落ちた頃に
冬になる。雪というものが降る。
 なんてことが教科書に書いてあっても、それがどういうものだか僕に分かるはずがない。ミサトさんに聞いたら
 「ど〜せ私は20世紀生まれですよーだ!!」
といって、夕食も食べずにずっと飲んだくれていた。オペレーターの人たちに聞いてみても、
 「ちょっと口では表現できないな」
というばかりだ。

 ヤシマ作戦で九死に一生を得て以来、綾波と少し仲良くなった…と、思う。誰とも話さないから、誰とも
仲良くなりたがらないと前は思っていた。あの時彼女の笑顔を見て、もしかしたら普通なのかもしれないと
少し思うようになった。それ以来学校とかで話しかけるようにしてはいるけど、
 「そう」
とか
 「そうなの」
とかしか答えてくれない。トウジやケンスケには、それが付き合っているようにしか見えないそうだ。
 「一年の時に転校してきて以来、誰とも話さへんし、話しかけられても無視してばっかだったしなー。反応する
 ってことは、センセに気があるっちゅうことで間違いないやろ」
委員長に至っては
 「碇君は綾波さんと付き合ってるんだから、私なんかに話しかけたりしちゃダメよ。ああいう娘って意外と
 嫉妬深いんだから。碇君どころか私まで逆恨みされるかもしれないし。くれぐれも、大切にしてあげなさいよ。
 これは学級委員としてのお願い」
一体何を考えているんだろう。
313名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 01:23:34 ID:???
 朝から冷たく速い風が吹いていた。空を埋め尽くした雲の色は濃い。空気も湿っぽい匂いがする。
 「雨降るかも知れないから、傘忘れないで下さいね」
 「ジオフロントだから問題ないわよん」
 「ああ、そうでした…僕のほうこそ、忘れないようにしないと」
 「いい旦那さんになれるわよ。碇司令も、昔はこうだったのかしら」
 「…ひどいことをいうんですね」
 「…ゴメン、マジでゴメン」
 折り畳みを一本鞄に入れて学校まで歩く。ミサトさんがそんなこというから、父さんのことを思い出した。
いつもは忘れようと努力してるのに。
 …綾波が笑顔を見せたのは、僕だけだと勘違いしてた。父さんとも笑いながら話してたのに。
 二人とも僕のことなんかどうでもよくて、勝手に僕だけが舞い上がってたんだ。

 昼休み。たまに綾波の机まで行くこともある。いつも錠剤とかカロリーメイトとか、マシな時でもパンだけしか
食べていない綾波に弁当のおかずを分ける。最初は見向きもしなかったけど、ここ2,3日は一口か二口食べて
くれることもある。それで、僕に気があるかもって、仲良くしてくれるかもしれないって、勘違いしてたんだ。
それで今日はケンスケの机にいって、エヴァのこととか色々話しながら食事した。こういうのも楽しいかもしれ
ない。トウジも一緒で、あれこれ話が盛り上がる。
 …僕は馬鹿だ。それでも未練があって綾波のほうを見てしまった。いつもと同じように黙々とパンを食べている。
やっぱり、綾波にとっては僕がいようがいまいが、関係ないんだ。
 「センセ、今日は綾波とは食事せえへんのか?」
 「ふぇっ!?」
 ちらっと綾波の方を見た。自分が話題に上がっても、別に動じたそぶりはない。
 「い、いや…。綾波と僕とは、別にそういうんじゃないから」
その事実を改めて直視するのが痛かった。
 「そうやったんかい?」
 「パイロット同士の友情、ってヤツだろ。お前は色々と勘繰り過ぎなんだよ」
 「ふん、納得できんのう」
 「ホントに、そんな想像してるようなんじゃないから」
食事を終えた綾波が立ち上がって歩き出した。僕のいる机の前を通り過ぎた。表情はいつもどおり。
314名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 01:24:01 ID:???
 5時間目の途中から、朝予想したとおり雨が降り出した。帰るころにはドシャ降りになっていた。傘を広げ
ながら出ようとしたら、不意に心拍数が上がった。
 綾波がすれ違った。
 傘も持たずに。
 「傘持ってないの?」
 「持ってきたわ。誰かに取られたみたい」
 「だったら、止むまで待ってればいいのに」
 「1430(ヒトヨンサンマル)から零号機の試験なの。今すぐいかないと間に合わないわ」
 「だからって…まだ体も治りきってないんだろ?無茶しちゃいけないよ」
 「碇司令が怒るわ。…どうして私の事気にするの?」
 「え!?だ、だって…それは」
 
 「私とは、 別 に そ う い う ん じ ゃ な い ん で し ょ 」

 そういうと綾波は、大雨の中をずぶ濡れになりながら歩いていった。僕はその姿を見て、即座に駆け出していた。
 「綾波、これ!」
 「え…碇君?」
 「体調悪くしたら、シンクロ率に響くよ」
そんなことを言いたかった訳じゃない。でも何が言いたいか分からなくて、変なことをいった。
 強引に傘を握らせると、僕は駆け出した。泥が跳ねてズボンを汚すのも構わず、ただそこから遠ざかりたかった。
315名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 01:24:18 ID:???
 気が付いたら、人気のない公園の東屋にいた。雨脚は弱まってきてるけど、相変わらず強い。鞄をベンチの横に
乗せて、僕は固まったように座っていた。空の色も僕も憂鬱だ。体は濡れて冷え切っている。
 不意に、後ろから声がした。
 「…碇、君…」
 「どうしたんだよ…さっさとネルフに行けよ、父さんが怒るんだろ!」
 僕の言うことを無視して、綾波は僕に近づいた。突然、僕の手をとる。
 「碇君の手、冷たい。あの時はとても温かかったのに」
 「えっ?あ、あの時って…?」
言ってからヤシマ作戦の時のことを思い出した。絶望的な挑戦のあと、やっと掴んだささやかな温もり。
 「あ、あのちょっと…!」
 気が付いたら、綾波は僕の横に座って、もたれかかっていた。肩と腕に感じる体温が変に気持ちよかった。
 「体調を悪くしたら、シンクロ率に響くわ。…もう少し、このまま」
 「う、うん…」
 この世で一番大切で貴重な宝物を預かっているような、誇らしくて心細い気持ちになる。綾波は目を伏せたまま
僕の肩に頭を乗せている。
 
 彼女の華奢な肩がとても淋しそうで、腕を回したくなった。
 
 暴走する心臓に振り回されながら迷った。意を決して腕を動かす。何もない。綾波が立ち上がった。
 「上がったわ。行きましょう」
 そういうと何事も無かったかのように東屋をでて、公園を横切りだした。
 「遅れちゃったね。父さんに怒られない?」
 「構わないわ」

 振り向いた彼女の顔は、ちょっとだけ笑っていたような気がする。
 僕はついさっきまで確かに感じていた温もりを思い出して、これが冬に感じる暖かさの良さなのか、と理解できた
気がした。 
316名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 01:51:29 ID:???


お茶、ここに置いとくから

つ旦
317名無し曹長 ◆BiueBUQBNg :2008/03/20(木) 02:45:58 ID:???
        ~~旦⊂(´∀` ) オチャドモー

                  <つ◎` ) オチャウマー


一応、時期的には「序」の直後ってことで
318名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 08:23:21 ID:???


やっぱ序をイメージして作るってのはいいね
色々と期待に胸膨らませられる時期だし
319名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 19:01:28 ID:???
いいね、いいね
最近スレが活性化してきたみたいで嬉しいわ
320名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 21:49:53 ID:???
>>305続き

「そう。」

一瞬垣間見えたレイの感情が嘘だったかのように思えるほど、その答えは淡々としたものだった。
台所で向き合っていた二人に、しばしの沈黙が訪れる。
今レイに垣間見た感情はなんだったのか、自分の思い違いだったのか、そんな疑問がシンジの中を駆け巡っていると、
先にレイが口を開いた。

「シャワー。」
「え?」
「浴びてくる。」
「あ…うん、そうだね!い、いってらっしゃい!」

レイの一言で我に帰ったシンジは、自分の置かれた立場を思い出し、若干取り乱した。
そんなシンジを尻目に、脱衣所へと姿を消すレイ。
そのレイの冷静な行動に、更に胸の鼓動が高鳴るシンジ。
否応なしにあの時の出来事が思い出され、胸の鼓動は高鳴るばかりだった。

「(お、落ち着け…思い出しちゃダメだ…ッ!!)」
必死に記憶を押し戻そうとする中、脱衣所から衣擦れの音が、続いてシャワーの水音が聞こえてくる。
無意識のうちに唾を飲み込むシンジ。

「(何を考えてるんだ僕は…そ、想像しちゃダメだッ!!)」

台所を離れ、腰掛けようとするが椅子は見当たらず、ベッドに腰掛けるしかなかった。

「(ここに座ってるのはまずいかな…でも床に座るのも変だし…。)」
321名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 21:51:53 ID:???
普段なら特に気にしないそんな些細なことも、今は神経質に気にしてしまうシンジ。

時間を忘れ、立ちながら悶々と様々な思考を巡らせていると、後ろからシャッと脱衣所のカーテンが開く音が鳴る。
シンジは思わず強いデジャヴを感じた。
そしてふと、レイはあの時と同じく何も着ていないのではないかという考えが浮かぶ。
そんな考えに捕われたシンジは、振り返ることができずにいた。
322名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/20(木) 22:59:49 ID:???
投下GJ

つ囲 練乳蜂蜜ワッフルドゾー
323名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/21(金) 00:07:11 ID:???
>>322 囲⊂(´∀` )ドモー ちょっと短かったんでもうすこしだけ…。 >>321続き

ずっと背を向けて立っているシンジを不思議に思い、顔を覗き込むレイ。
急にレイが視界に入り、驚いたシンジは目をそらそうとするが、
レイのその姿はしっかりとシャツを着ていることにすぐ気がついた。

「碇君、どうしたの?」
「い、いや、なんでもないんだ。ごめん、そんなことないよね!ハハハ…ハハ……。」
「?」

あのときは、勝手にシンジが勝手に部屋にあがり、それを知らずレイが出てきたのだ。
外に人がいるとわかっているのに、わざわざ裸体を晒すほどレイは非常識ではなかった。
そんな当たり前のことすらわからず、勝手なイメージで一人焦っていた自分をシンジは恥じた。

324名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/21(金) 00:07:54 ID:???
「碇君も入る?」
「ううん、僕はいいや。」
「そう?じゃあ、寝ましょう。」
「え、もう?綾波、いつもこんな時間に寝てるの?」

時刻は九字にさしかかろうかというところ。寝るには若干早い時間だった。

「いつもは…もう少し本を読んだりしてるけど、大体このくらい。」

レイの就寝の早さに感心しながらも、シンジは少し安堵していた。
今から二人だけで時間をつぶすとなると、一体何をして、何を話せばいいか見当がつかなかったからだ。
しかしその安堵もつかの間、次の問題に気づく。

「ところで綾波、布団とかもう一式あるかな?使わせて貰えると嬉しいんだけど…。」
「布団は…無い。ベッドがひとつだけ。」
325名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/21(金) 00:13:34 ID:???
ktkr

326名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/21(金) 00:20:20 ID:???
まさかと思っていた予感が的中した。

「えッ!?じゃ、じゃあ僕は…どこに寝ればいいかな?」

見たところ、別室もソファーも、つまり寝床となるような場所が見当たらなかった。

「ベッドに。」
「あ、綾波は…?」
「私も、一緒に。」

またもシンジの予感が的中した。

「だ、ダメだよ!!それはダメだ!!」
「……………どうして?」
「だって……それなら、座布団の上で寝るよ。」

台所での問答と似たような会話を繰り返す二人。
さっきよりもハードルの高いレイの申し出に、今度は更に拒否を示すシンジ。
しかも、レイが服を着ていることに安堵したシンジだったが、冷静になれば、レイが着ているのは
下着の上にシャツ一枚という理性をくすぐるのに十分すぎる格好であるのに今更シンジは気づいた。
そんなシンジの考えなど露知らず、またもやシンジの頑なな態度を疑問に思うレイ。
既に問題が無いことがわかっていながら、再びレイの申し出をシンジが断ろうとうる理由は、
レイの中ではひとつしか思い当たらなかった。

「………………………………………私と一緒じゃ……………イヤ?」
327名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/21(金) 00:36:32 ID:???
ああ、くそぅ
いいところで区切ってある…

投下GJ
328名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/23(日) 01:31:32 ID:???
待ち遠しい
329名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/24(月) 12:59:26 ID:???
>>326続き

「そ、そんなことないよ!!」
「じゃあ…………どうして…?」

シンジは自分の取った態度を後悔していた。
レイの言葉と無表情の裏に、寂しさや悲しさといった感情が見え隠れしていたからだ。
冷静になって自分のセリフや態度を思い返せば、レイにそんな思いを抱かせてしまうのは当然だった。
自分が傷つけられる事以上に人を傷つけることを苦とし、一人の寂しさを人一倍知っているシンジ。
自分は一人では無いこと、そしてそれはレイも一緒だということを分かり合うためにここに来たのに、
自分の言葉がレイに寂しさを与えてしまったことをシンジは強く後悔していた。
申し訳なさから顔をうつむかせるシンジ。少し間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。

「どうして…だろうね…。ごめん…僕が間違ってたんだ。本当にごめん…。」

相手を傷つけてしまうことに比べれば、自分が拘ってた恥じらいなど、とても些末なことだと思えてきた。

「イヤなんかじゃないよ。隣で寝ても…いいかな?一緒に。」
「………うん。」

レイからの申し出を、敢えて自分からも尋ねるシンジ。
できるだけ一緒にいたいという想いは自分も同じだということを、レイにわかって欲しいがための発言だった。

「じゃあ、寝ましょう。」

それだけ言うと、電気を消して早々にベッドに入り込むレイ。
例のごとく淡々と行動するレイとは対照的に、シンジは一人その場に立ちつくしていた。
330名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/24(月) 13:00:47 ID:???
「碇君、寝ないの?」

いつまでも立っているシンジを不思議に思い、レイが先に口を開いた。

「い、いや!寝るよ。じゃ、じゃあ…おじゃま…します。」

些末なこととは思えど、やはり恥じらいからくる緊張は隠せないシンジ。
ぎこちない動作でゆっくりと、レイのいるベッドに入り込んだ。
窓からの月明かりが2人を照らしている。
2人は丁度向かい合う形でベッドの中に収まっていた。
気恥ずかしさから、寝返りをうって逆を向こうとするシンジ。
しかしその行動は、そっとシンジの手を握ってきたレイによって止められた。

「あ…綾波……?」
「碇君の手…あったかい……。あの時と…同じ。」

月明かりに照らされたレイは静かに微笑んでいた。
その可憐で、母性的で、神秘的な微笑みにシンジは思わず見とれた。

「うん…僕も…暖かいよ…。」

手を取り合い、そっと寄り添う2人。
一緒にいたいと願う恋しさと愛しさをお互いの胸に抱き、
一人では無いという暖かさに包まれながら2人は静かに眠りについた。


オワリ
331名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/24(月) 13:25:51 ID:???
332名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/25(火) 00:11:30 ID:???
投下GJ
333名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/25(火) 00:43:41 ID:???
予想外に長くなってしまいましたが、一応これでおわりです。
長々と待たせてしまいながらも、ここまで付き合ってくれた方々、ありがとうございました。
こうしたほうが読みやすいとか、こう工夫したほうがいい等のアドバイスがあれば是非お願いします。
それも踏まえて、もしよければこれからも投下させてもらえたらと思います。
では、失礼しました。
334名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/25(火) 07:25:55 ID:???
ああ、もつかれさま
335名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/25(火) 09:08:06 ID:???
乙かレイ!ぎこちない感じの二人が実にいい味出してましたね。良いまとまりのある作品だったと思います。
336名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/26(水) 10:55:40 ID:???
待ってるよ

ところで、このスレってどんくらいの人間が見てるんだ?
俺の予想じゃ、俺も含めて3、4人ってとこ?
もっと見る側も増えれば書く側も増える気がするけど…
まああんま増えすぎても荒れる可能性でてくるから今のマターリもいいか
337名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/26(水) 11:40:33 ID:???
>>336
<●><●>
338名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/26(水) 12:51:01 ID:???
マターリと過疎の違いについて
339名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/26(水) 12:55:46 ID:???
やっぱ先に職人さんだよな
職人さんがくれば人も増える
そんで過疎解消

そんでsageとスルーを徹底すればマターリも維持できるなきっと
340名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/26(水) 21:05:38 ID:???
>>339
同意
341名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/27(木) 17:55:16 ID:???
放課後

「碇君、そろそろネルフに…、」
「あ、ごめん綾波!今日、委員長とちょっと用事が残ってるから、先行っててくれる?」
「……………そう。」

最近、シンジとレイが一緒にいる時間は少なくなってきていた。
昼食を一緒にしたり、放課後ネルフに共に向かうこと(主にシンジから誘って)も多々あったが、
このごろそれがめっきりと少なくなってきていた。
というのも、学校の行事が近いため、責務におわれていたヒカリの仕事を
成り行きで行事が終わるまで手伝う約束をしてしまったからだった。

「………………………………。」

最初のうちは校門でシンジを待っていたレイだったが、ヒカリとシンジが二人で放課後まで仕事をしている姿をただ思い浮かべ、
二人で途中まで下校する姿を度々見るうちに、レイは校門で待つことをやめた。

一方で、二人は今日もシンジの時間ギリギリまで作業をし、二人で途中まで下校していた。

「碇君、ごめんね、いつも付き合わせちゃって……。」
「ううん、いいよ。委員長、いつも忙しそうだし、僕なんかで何か手伝えることあったらなんでも言ってよ!」
「ありがとう!でも…いいの?」
「え…何が?」
「綾波さんのこと。ちょっと前まで校門で碇君のこと待ってたのに、最近見なくなって…。」
「あ…うん、そうだね…。でも、ネルフではいつもと変わらないし、大丈夫だよ。」
「本当にそう?」
「うん……たぶん…。」
342名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/27(木) 17:55:45 ID:???
ヒカリに改めて問い詰められ、最近の自分とレイをシンジは振り返ってみた。
確かに、あまり多くなかったレイとの会話が特に少なくなっていた。
ヤシマ以降は段々と話すようになってきたのに、まるで振り出しに戻ったかのようだった。
会えば話せるようになったと言っても、話しをする機会が減ったのなら、そうなるのは必然だった。

「あの…碇君、綾波さんと付き合ってるの?」
「うーん……え?え!?僕と、綾波が!?ちがっ!!僕達は…別にそんなんじゃ!!」

思いふけっている時に唐突かつ予想外な質問をされ、シンジは目に見えて狼狽した。

「だって…よく二人一緒にいるじゃない?綾波さんがあんな風に人と話すの初めて見たし、碇君もなんだか嬉しそうだったし…。」
「いや…うん、まぁ…そうだけど…。」

照れくささを感じながらも、まわりからそう言われて悪い気はしなかった。
レイとの会話が増え、親密になりつつあることに無意識のうちに喜びを感じていたのもまた事実だったからだ。

「碇君…これからも綾波さんと接してあげてね?色々手伝わせちゃった私が言うのもなんだけど…もう忙しいのも終わりだから。」
「うん、もちろんだよ。」
「でもよかったぁ、綾波さんに碇君みたいな人ができて。私、綾波さんがずっと一人なの気にしてたんだ。
 だけど、なかなか碇君みたいにうまくいかなくて…。私も、これから碇君みたいに接してみるね!」

「ありがとう、綾波もきっと喜ぶよ!」

つづく
343名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/27(木) 20:54:29 ID:???
つづき

雑談の後、シンジはヒカリと別れ、ネルフへと向かった。
そしてシンクロテストが終わった後・・・

「あ、綾波。お疲れ様。これから帰りだよね?一緒に帰ろうよ。」

更衣室の前で佇んでいたレイに声をかけるシンジ。
シンクロテストの後に一緒に帰るのは慣例となりつつあったが、今回は様子が違った。

「…………………………………。」

シンジの呼びかけに応えず、無言で俯いたまま佇んでいるレイ。

「あの…綾波?」

再度呼びかけるが、やはり無言のレイ。少し間をおいて、小さくレイは頷いた。

「あ、じゃあ…帰ろうか。」

話し掛ければ少なくとも一言は返事をしていたレイだったが、今までとは違うレイの反応にシンジは困惑した。
帰路の途中話し掛けてもせいぜい「そう。」「ええ。」といった一言返事しかされず、シンジは口篭もるしかなかった。
会話がほぼ完全に途絶えた状態のまま二人の帰路の分岐点に着く。

「じゃあ、綾波、また明日…。」

レイの今夜の態度に思い当たる節がなく、困惑したままレイに別れを告げ、レイに背を向けるシンジ。
そこで唐突に、背中に少しの重みと温もりを感じた。
344名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/27(木) 21:07:10 ID:???
「え……?」

首だけ振り返らせると、そこにはシンジの肩に両手を乗せ、体ごとぴったりと寄り添うレイの姿があった。

「あ…綾波…?」
「ごめんなさい……少しだけ……こうさせて…。」

レイの唐突な行動に、さっきまでとは別の意味で困惑するシンジ。
背中から伝わるレイの温もりと感触に鼓動は高鳴るばかりだった。
しばらくしてからそっとシンジの背中から離れるレイ。
背中の暖かさに若干未練を残しながらもシンジはレイに振り返り、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

「綾波…今日はどうしたの?なんだか…そっけなかったけど…。僕が何かしたなら謝るよ。よかったら教えてくれないかな…?」
「……ううん…碇君は…なにも…。」
345名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 01:15:03 ID:???
「じゃあ…何かあったの?」
「わからない……わからないけど……なぜか…イヤだった…。」
「イヤって…なにが?」

今まで抱いたことのない自分の気持ちに自覚が持てず、言葉にうまく表現できないレイ。
レイは俯いたまま、おそらく自分の気持ちの原因となっていることを口にした。

「洞木さんと碇君が……ずっと……一緒にいることが……。」
「え……?あ………。」

その時シンジはヒカリとの会話を思い出した。自分の楽観的な考えに自己嫌悪した。
レイが自分の感情を言葉にすることや態度にすることが不得手なのは重々にわかっていたハズなのに、
自分が気づくべきレイのささいな行動や態度の変化を見逃していたことに今更気づいた。
それは、レイと親密になりつつあったが故に生まれた安心感から来る一時の盲目だった。

「ご、ごめん綾波!!」
「どうして碇君が謝るの?碇君は何も悪くないのに…。」

レイの言い分ももっともだった。
二人は付き合ってるわけでもなければ、昼食や下校を毎回一緒にする約束をしたわけでもなく、
ならば自由な時間をシンジの自由に、しかも人助けに使うのであれば、誰にもそれを悪く言う筋合いはなかった。
レイもそれをわかっていたからこそずっと胸にしまい続け、聞かれたからこそためらいながらも答えたのだった。
346名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 01:16:12 ID:???
いや…でも、やっぱりごめん!」

レイと自分は似た立場だと思っていたからこそ、レイの気持ちにも気づくべきだったとシンジは反省した。
人との繋がりができたときの喜びと、それを失うかもしれないという不安。
レイにそんな不安を抱かせてしまったのではないかと、シンジは思い至った。
しかし、シンジの考えは間違いではなかったが、問題はそれだけでは無いということに本人はまだ気づいてなかった…。

「最近、綾波となかなか話せなかったよね…。
 最近忙しかったけど、でも…綾波との……綾波が前に言ってた絆は、無くなることは無いよ。その…僕との…。」

これが今のシンジに言える精一杯の言葉だった。
これはレイの気持ちを完全に払拭するのに最適な言葉では無かったが、
レイ自身にはこのシンジの言葉が十分に励みとなり、喜びとなった。

「……………うん。」
「それに、やっと手伝いが落ち着いたんだ。次からは、また一緒にネルフに行こうよ。」
「ええ。」
「じゃあ、また明日。」
「あの……碇君。」

帰ろうとするシンジを再び止めるレイ。
シンジの言葉に喜びを感じながらも、まだどこか、
自分でもわからない払拭できない気持ちが残ってるが故の反射的な行動だった。
347名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 01:17:49 ID:???
「もう一度だけ……いい?」
「え…いいって、何が?」
「さっきの。」
「さっきのって……あ……。」

さっきのレイの行動に思い当たり、思わず赤面するシンジ。
改めて頼まれると非常に照れくさくもあり、しかし断るという選択肢は無かった。

「い、いいよ…。」

動揺しながら一言だけ述べると、レイは無言でシンジの目の前に一歩近づき、そっと背中に手をまわした。
さっきとは違い、正面からの抱擁だった。
一気に心拍数があがるシンジ。

「……………碇君の匂いがする…。」

そのレイの一言に、更に心拍数が上がる。

「そ…そうかな…?」

自分も背中に手をまわすべきか…そんなことをしていいのか…などと、熱くなった頭で必死に思考を巡らせているうちに、
レイはさっきと同じくそっとシンジから離れた。

「……また、明日。」

それだけ言うと、レイはくるりと振り返り、帰路についた。
そしてその足取りは、いたって軽いものだった。
348名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 09:59:33 ID:???
あなたは最高です
349名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 10:04:51 ID:???
ヤキモチ妬くレイは凄く可愛いと思うんだ
委員長ええ子や…
350名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 12:53:27 ID:???
>>347つづき

〜翌日〜

シンジは今朝も早くから学校に登校していた。ヒカリの仕事を手伝うためだ。

「委員長、おはよう。」
「あ、おはよう碇君!手伝ってもらうのも今朝で最後だから、頑張ろうね!」

朝の挨拶を終え、机を向かい合わせて作業を始める二人。
黙々と作業するなかで、ヒカリが口を開いた。

「碇君と綾波さん、昨日ネルフだったよね?綾波さん、何か変わったとこなかった?」
「え?あー…うん…あった…かな。」

昨日の一連の会話と行動を思い出し、申し訳なさと気恥ずかしさの入り混じった複雑な気分になるシンジ。

「綾波さん、何か言ってた?」
「えーと…僕と委員長がずっと一緒なのが…イヤ…かなって。」
351名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 12:54:09 ID:???
率直に答えたシンジだったが、これではヒカリにまで責任を感じさせると考え、慌ててフォローを入れた。

「あ!でも委員長は何も悪くないよ!忙しいからってないがしろにしてた僕が悪いんだ…。」
「あ〜…やっぱり。綾波さん、碇君にヤキモチ妬いてたのね。」
「え……ヤキ……モチ?」

ヒカリの予想外な一言に、一瞬なんのことかわからなかったシンジ。

「綾波が…僕に…?」
「うん、そう。」
「そんな!そんなことないよ!!きっと…。」
「碇君……それ、本気?」

レイのストレートな言葉を聞いてもなお、ヤキモチという考えに思い至らないシンジにヒカリは呆れた。
しかしその鈍感さもまたシンジらしさなのだと、ヒカリは思い直した。

「だって…綾波が、僕になんて…。」
「あ〜もう!碇君、今日のお昼と放課後はどうするの?」
「え?昼はトウジ達とご飯食べて、一緒に帰るつもりだけど…。」
「綾波さんと一緒にいてあげて!」
352名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 12:54:38 ID:???
シンジの中には綾波と過ごす選択肢もあったが、昨夜の気恥ずかしさがタッチの差でその選択肢を選ばせなかった。
そして今までに見たことの無いヒカリの勢いのある発言に、シンジは尻込みした。

「は、はい!」
「綾波さんだって女の子なんだから…碇君はどうなの?綾波さんと一緒じゃ、イヤ?」
「そ、そんなことないよ!僕だって、出来たら…綾波と……。」
「じゃあ、決まりね!碇君のお手伝いもこれまでだから、頑張ってね!今まで手伝ってくれてありがとう!」

さっきまでの、憤りすらも感じるようなヒカリの態度とは打って変わり、急にニコヤカになるヒカリにシンジは困惑した。
しかし、ヒカリがレイのことを、そしてシンジのことを親身に考えてくれていることは十分に伝わっていた。

「ううん、こちらこそありがとう。また何か手伝えることがあったら言ってよ!」
353名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 12:55:49 ID:???
〜昼休み〜

「お〜い、シンジ!!一緒に飯食わへんか?」
「あ、ご、ごめん!ちょっと今日は…。」
「なんや、まぁだ委員長のこと手伝っとるんか?物好きなやっちゃな〜。」

トウジ達からの誘いを断ると、レイの隣にかけつけ、二人に聞こえないようレイに話し掛けた。

「あの…綾波、よかったら一緒にお昼食べない?久々に…。」

シンジは相変わらずヒカリの手伝いを、そうでなければトウジ達と一緒に過ごすと思っていたレイは、
シンジからの誘いは思いがけないものだった。

「うん…碇君がよければ…。」
「よかったぁ。あ…じゃあ…もしよかったら、屋上で食べないかな?」
「別に、かまわない。」

今までに教室でレイと一緒に昼食をとることは無いわけではなかったが、
トウジ達からの誘いを断ってまでという積極性がそこに加わり、体裁のために人目を避けたいがための提案だった。
そして屋上にて柵に背中をもたらせ、地面に腰を下ろす二人。
354名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 12:56:16 ID:???
「良い天気だね…。じゃ、じゃあ食べよっか。」

まるで二人が付き合ってるかのごときシチュエーションに、緊張を隠せないシンジ。
この現場を見られたら、周りに誤解され、茶化されるのは目に見えていた。

「碇君、どうして私と一緒に…?」
「え…どうしてって?」
「久しぶりにゆっくりできる昼休みなのに、鈴原君達と一緒でなくていいの?」
「いいんだ。僕も…僕は…その………綾波と、一緒に居たかったから。」

ヒカリからの後押しがあったとはいえ、やはり言葉にするのはためらわれたシンジ。
勇気を振り絞って発した言葉に、自分の顔が熱くなるのを実感していた。

「……………うん、私も。」

更に顔の熱があがるシンジ。動悸が早くなり、嬉しさがこみ上げてくるのがわかった。
この青空の下で、レイとシンジの絆は特別なものになりつつあった…。

オワリ
355名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/28(金) 22:31:38 ID:???
なんと言う良作品。この作品は間違いなくgj。
ホント、良い感じっす。嫉妬の対象に素直に人の心配をしてくれるヒカリにしたのはすごい慧眼だったと思います。
356名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/29(土) 06:46:46 ID:???
灯火∩( ・ω・)∩ ばんじゃーい
357名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/29(土) 19:45:24 ID:???
レスと賞賛の言葉、ありがとうございます。
物凄く今後の励みとやる気に繋がります。
長くなってしまいましたが、まだまだ粗のある文を最後までよんでくれてありがたいです。
もしよければ、またネタが出来次第投下させてもらいますね。
358名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/29(土) 23:55:40 ID:???
ちょっと短編で・・・

夜、シンジは自室にて携帯を片手にベッドに横になっていた。
随時パイロットやネルフ間で連絡を取れるよう、ネルフから支給されたものだった。

「(そういえば……課題の期限、明日までってプリントに書いてあったけど、綾波ちゃんと読んだかな…。
  プリント届けたの、ケンスケだったから、ポストに入れただけ…だったとしたら読んでないかも…心配だ。)」

思い立ったシンジは携帯でメールを打ち始めた。
メールの機能はあまり活用したことがなく、特にレイに送るのは初めての経験だった。
なんとか自分の心配の旨をつたない操作でメールに打ち込むと、すぐさま送信した。

「よし…と。…………………………メールって…ただ返信待つとなると妙に緊張するな…。」

メールのやり取りに慣れてないがための初々しい緊張だった。
更に、相手が同年代の異性となると、シンジの年齢を考えればそれが特に顕著に表れるのも仕方のないことだった。

「(どっか…失礼なこと書いちゃわなかったかな…そもそも余計なお世話だったかな……。)」

時間がたつにつれ、不安は募り、だんだんと神経質なことまで気にし始めるシンジ。
メール送信から五分ほど経ったところでメールが帰ってきた。

「!!(来た!!え〜と…)」

【大丈夫。ちゃんと読んだ。既に鞄の中に入れてるから。】

レイらしく、端的で、文末に丸を忘れない文面。
シンジも顔文字等はまず使わないが、その文面にそっけなさというよりもレイらしさを感じ、シンジは自然と顔がゆるんでいた。

【ならよかった!ごめんね、わざわざメールして。じゃあ、また明日学校で。おやすみ!】
359名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/29(土) 23:56:31 ID:???
すぐに返信をすると、また五分ほど間を置いて今度は電話がかかってきた。

『はい、碇ですけど。』
『碇君?私…。』
『あ、綾波?わざわざ電話してきてどうしたの?』
『…………が………ったの。』
『え…何?ごめん、よく聞こえなかったな…。もう一回言ってくれる?』

呟くようなレイの声は、電話越しのシンジに届かなかった。
数秒ほどの間を置いて再びレイが喋りだす。

『……ううん。なんでも無い。……おやすみなさい。』
『? うん、おやすみ!』

プチッ

「綾波…なんだったんだろう…。でも…綾波におやすみなさいって言われるの…なんだか新鮮だな。」

最後のやり取りに不可解さを感じながらも、さほど気にせずベッドに横になるシンジ。
寝る前に聞いたレイの声を思い出しながら、携帯を枕元に起き、シンジは安らかに眠りについた。
一方、レイのマンションでは……。

「(碇君の声が……聞きたかったの……。)」

そんな想いから電話をかけたレイ。

「また…明日。」

一言、既に切れた携帯に呟くと、レイはベッドに横になった。
枕元に携帯を添えたまま、レイは安らかに眠りについた。
360名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/30(日) 09:49:53 ID:???
短編投下乙!
同じ職人さんか?
361名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/30(日) 09:54:57 ID:???
レイ可愛いな
362名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/30(日) 14:46:12 ID:???
>>360
そです

ホントは今日レイの誕生日小説書きたかったんですが、ちょっと時間の都合により難しそうです…。
誰か他の職人さん書いてくれないかな…。
363名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 15:19:15 ID:???
「そういえば、綾波の誕生日っていつなの?」

ある日レイと一緒に下校していたシンジはふとレイに聞いてみた。

「一応…3月30日…らしいわ。」
「あれ、今日何日だっけ?」
「31日。」
「え!?綾波の誕生日、昨日だったの!?言ってくれればよかったのに…。」
「どうして?」

自分の誕生日が公称のためのものなのか、それとも本当に自分が誕生した日のものなのか、それすら曖昧なレイ。
レイにとって誕生日というものに意味はない。ただ自分が生まれた理由や目的だけが重要だった。
少なくとも今までは…。

「だって、知ってたらみんなでお祝いしたりもできたのに…。」
「別にいいの。そういうの、あまり好きじゃないから…。」
「あ…そうなんだ。実は…僕もそういうの苦手だったんだ。前までは…。」

自分がネルフに来る前のころ、来て間もないころを思い出すシンジ。
自分に自信も価値も居場所も何も見出せなく、それ故自分が祝われても誉められても実感が持てなかった。
しかしエヴァに乗ることで、正確にはそれをきっかけに多くの人と触れ合ってきたことで、シンジは確かに変わりつつあった。
364名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 15:19:57 ID:???
「でも…やっぱり…嬉しいよ、そういうの。今まで気づかなかったけど…。」
「………そう。でも、私にはわからない……。」
「…………………………。」

一言、どこか寂しさを漂わせながらレイは呟いた。
隣を歩きながら、そんなレイをじっと見つめ、考え込むように黙り込むシンジ。
会話が途切れたまま、分かれ道に着いた。

「私、こっちだから。また明日。」
「あ…うん、またね。」

それだけ会話を交わすと、レイは自分のマンションのほうへゆっくりと歩いていった。
その後姿をしばし眺め、シンジはある決心をしたかのように自宅へ走り出した。
365名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 15:20:54 ID:???
〜夜、レイのマンションにて〜

コンコン
レイの部屋のドアをノックする音が響く。

「あのー…碇だけど、綾波、いる?」

少ししてから、ガチャリとドアが開いた。
対面した二人の姿はどちらもまだ制服だった。
そしてシンジの手には袋が握られていた。

「碇君、どうしたの?」
「あ、夜分にごめんね。どうしてもこれを渡したくて。その……上がってもいいかな?」
「…ええ。」
「じゃあ、お邪魔します。」

部屋に上がると、レイに卓を出してもらい、その上に袋から出した箱を置くシンジ。
そして恒例のセリフと共にその箱を広げた。

「ハッピーバースデー綾波!おめでとう!!」

そこには、綺麗に飾り付けされた小さ目のショートケーキのホールがあった。
366名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 15:21:32 ID:???
「え…………。」

あまりに予想外の展開に、言葉を忘れ、思わず目を丸くしてその場に立ち尽くすレイ。

「今日綾波とわかれてからすぐに材料買って作ったんだ。時間がどうしても間に合わない部分もあったから、
 全部手作りってわけにはいかなかったけど…できるとこは一応全部僕が作ったんだ。
 あんまりよくできなかったとこもあるけど……。」

しばらくケーキを見つめて黙っていたレイだが、少ししてから口を開いた。

「どうして…?どうして私に…こんなことしてくれるの?」

今までに一度も誕生日を祝ってもらったことのないレイ。
祝われる必要性も感じなく、これからもそんなことは無いだろうと思っていたレイにとって、
シンジの行動は思いがけないものだった。
367名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 15:22:38 ID:???
「どうしてって……。えーと…誕生日を祝うってさ、その人が生まれてきたことを祝うことだから…かな。」

誕生日を祝うという当たり前の行為。なぜか?と、改めて聞かれると言葉につまるシンジだったが、
自分の今の気持ちと照らし合わせて考えればその答えはひとつしかなかった。

「つまり…その……僕は、綾波が生まれて……居てくれたことが、すごく嬉しかったんだ。
 だからどうしても、綾波の誕生日を祝わせてもらいたかったんだ…。迷惑……だったかな?」

シンジはこのとき、ふとヤシマ作戦のことを思い出していた。
レイが生きていたことで涙を流して喜んだことを。
そしてその時のことを思い出したのは、レイも同じだった。


〔笑えばいいと思うよ……。〕


「………………ううん、嬉しい………すごく。ありがとう…。」

そう答えたレイの表情は、あのときと同じく微笑んでいた。
「綾波レイ」という存在を望み、喜んでくれる人が傍にいること。
それを教えてくれたことが、レイにとって最初で最高のプレゼントだった。
レイがここにいる理由は、レイの中で確かに変わりつつあった。

オワリ
368名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/31(月) 21:52:33 ID:???
もう何て言うかな…綾波が好きで好きで仕方なくてね
369名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/01(火) 00:19:22 ID:???
エイプリルフールネタに期待
370名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/03(木) 20:08:47 ID:???
投下待ちage
371名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/03(木) 20:22:45 ID:???
糞スレあげんな糞カプ厨ども
372名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/03(木) 20:55:23 ID:???
しばらくは投下しないほうがいいな
373名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:33:03 ID:???


 地平線の彼方、何処までも広がる紅い海。浜辺に打ち寄せた波が砂を浚って寂しげな音色を奏でるだけで、今や世界に溢れていた生命の息遣いは空の片隅にすら見当たらない。
 人類補完計画、心の欠けた部分を補い完全な存在に昇華しようと、驕った人類が行き着いた先にあったのは後悔も絶望も何もかも失われた空虚な世界だった。
 残されたのは計画の一端を担い世界を崩壊に導いた少年と、計画の過程で心も身体も壊された少女。

 呆然と海を眺めていた少年がおぼつかぬ足取りで浜辺に横たわる少女のもとに向かう。しばらくの間、少年は覗き込むように彼女の顔を眺めていたが、少女の虚ろな瞳は空を彷徨うばかりで少年を捉える事はなかった。
 ふと少年が顔をあげる。寂しさと悲しみが入り混じった複雑な表情を浮かべ、口の中で何かを呟いた。
 ただ少年も波の音が耳に届くだけで誰からもその答えを得られない事に気付いたのだろう。再び元の無表情に戻ると少女に馬乗りになり少女の細い首を絞め始めた。
 その様子を海の上から、世界と同じ色を湛えた瞳で見詰める少女の姿があったことは誰も知らない。少年の唇から洩れた嗚咽に垂れ下がっていた少女の掌が応える。
 少年の頬を伝う涙が砂浜に落ちたのを合図に、海に浮かぶその姿は遠い夏に見た陽炎のようにゆらりと揺らめき――。

「……気持ち悪い」

 吹き抜ける風に掻き消されていった。


374名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:34:35 ID:???


 レイの意識を覚醒に導く聞き慣れた音。使徒の襲来を告げる警報がネルフの長い廊下に響き渡った。ハッとなり目を開くと、緊張の面持ちで配備場所へ向かう職員が幾人もレイの前を通り過ぎていく。
 どうやら休憩所でシンジを待つうちに訓練の疲れからか、少し眠っていたみたいだ。
 使徒殲滅こそがチルドレンに科せられた任務であり、レイが信じる自身の存在意義。未だ待ち合わせ場所に来ないシンジの事は気になったが、優先すべき事柄は決まっている。レイは急いで発令所に向かおうと足下の鞄に手を伸ばした。

「……え?」

 が、ここで在るはずの物が無い事に気付く。立ち上がりベンチの下を覗いて見ても鞄は影も形も見当たらない。緊急の連絡が入る携帯電話は愚か、身分証明のために常備が義務付けられているIDカードも全てあの中だ。
 レイの表情が心なしか曇る。鞄の置いた場所を思い出そうと必死に記憶を辿っていくも、脳裏に霧が掛かったかのように手掛りとなりそうな物は何一つ見えて来ない。
 そればかりか、自分がシンジを待っていた理由、先程まで行っていたはずの訓練内容、ましてや今日の日付すら思い出せないのは何故だろう。

「……う」

 レイの頭に鈍い衝撃が走る。余りの激痛に座り込みそうになるが、壁に寄り掛かり何とか事なきを得た。フラッシュバック。そう呼ぶのが適切かもしれない。痛みが走り抜けた瞬間、奇妙な映像が脳裏を寄切った。
 レイは軽く開いた唇から荒い息を小刻みに洩らしながら、先の映像を思い返す。
 血と表しても違和感ない程紅く染まった海に、空に届く程巨大な身躯に白い羽根を生やした人型の使徒、そして幾本もの槍で両手両足を貫かれ、宙に磔となった初号機の姿。

375名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:42:03 ID:???

 シンジの断末魔が聞こえたような気がして、急に嘔吐感が込み上げてきた。胃液が逆流し、口内に不快な酸味が広がっていく。壁に手を付き、波が引くまでどうにか耐えようとしていたレイだったが、ついに堪えきれずしゃがみ込んでしまう。そんな時だった。

「そこで何をしてるの」

 突然、背後から掛けられた声。口を押さえながら後ろを振り向くと、そこには白衣に身を包んだリツコが立っていた。その様子はいつもと変わらないように見えたが、強められた語尾に鋭く細められた眼光は、今の状況が切羽詰まったものである事を切実に物語っていた。
 恐らく使徒襲来を告げる警報が発令されたにも関わらず、未だレイが休憩所で無駄な時間を過ごしていた事を咎めているのだろう。

「申し訳ありません。すぐに発令所へ向かいます」

 体調管理は自身の責任。身体に起きた異変を口に出さず、レイは軽く頭を下げると、廊下を塞ぐように立つリツコの横を通り抜けようとした。

376名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:42:37 ID:???

 が、何処かリツコの様子がおかしい。視界の片隅に入り込んだリツコの横顔が目に見えて青冷めていることに気付き、レイは足を止めた。

「どうかしましたか?」

「……貴方は誰かしら?」

 リツコはレイと顔を合わすことなく、そう呟いた。

「ファーストチルドレン、綾波レイです」

 模範解答を読み上げるか如く、さも当然のようにレイは答えを返した。ここで初めてリツコの視線がレイを捉える。何かと照らし合わせるように爪先から頭までレイを眺め、リツコは感情を表に出すことなく言葉を続けた。

「……レイは起動実験における怪我で今も尚病院に収容されているわ」

 白衣の内側から取り出した小型の拳銃を突き付けると、リツコは再び同じ問いをレイに投げ掛けた。

「もう一度聞くわ。貴方は、誰?」


377名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:44:01 ID:???


 海面に盛大な水飛沫ともに異形の生物が現れた。その姿を人型と形容出来るのであれば、漆黒の肉体から伸びる長い手足を用した二足歩行によるものではないだろうか。
 ただ頭部には本来人にあるべき物はなく、その代わり胸部に鳥を思わす仮面のような装飾を身に付けている。そして決定的な違いといえば、仮面の真下で鈍い輝きを放つ紅い光球。
 生物が全身を露にした直後、海岸に配備された湾岸戦車隊の砲撃がその身体目掛け降り注いだ。激しい衝撃音を伴い爆煙が巻き上がる。一撃で象をも容易く仕留める砲弾の集中砲火。並大抵の生物、いや地球上に存在する如なる生物でもこれに耐え得る事は不可能と言えよう。
 しかし晴れた煙の下から現れたのは、砲撃をものともせず悠々と歩を進める生物の姿だった。
 尚も戦車は砲撃を続けていたが、生物の仮面の目部分から放たれた光線によって、まるで玩具のように片っ端から吹き飛ばされていく。
 その様子が大きく映し出されたモニターを眺める二人の男。背の高い初老の男が隣りに座る男に話し掛ける。

「15年振りだな」

「……ああ、間違いない使徒だ」

 話し掛けられた男は感情の籠らない声で言葉を返した。色の付いた眼鏡と顔の前で組まれた手のせいでその表情からは声色以上に感情が読み取れない。
 後方では自軍の誇る戦力が全く通用しない事に憤慨した政府高官が、受話器向こうの下士官を怒鳴りつけているが、二人は全く気にもとめず正面のモニターを見詰めている。そんな時、男のもとに一本の通信が入った。

378名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:45:46 ID:???

「……赤木博士か」

「司令、問題が発生致しました」

「時間が無い。簡潔に言いたまえ」

「……それが不審者、いえ綾波レイと名乗る人物が現れまして」

 処理は任せる、そう命じようとした男だったが、綾波レイという名を聞き、喉まで出かけたその言葉を飲み込んだ。
 綾波レイはネルフにとって最重要機密事項。経歴はもちろんの事、彼女に関する情報は全て消去されており、外部に洩れる可能性は万が一にも有り得ない。その上彼女が担う役目は男を含む上層部の数人を除いては、ネルフ職員ですら知らないものだった。男は言葉を返す。

「話を続けてくれ」

「はい、対象は綾波レイと非常に酷似しております。私の見る限りでは容姿、性格ともにオリジナルとの相違は見受けられません。まさか例のシステムが……」

 男は黙って聞いていたが、手元のモニターを操作し、リツコ達の現在位置に設置されたカメラに映像を切り換える。携帯片手に銃を構えたリツコと抵抗もせずに立ち尽くすレイの姿が映し出された。男の知るレイと何ら違いは見当たらない。

379名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:50:47 ID:???

「使えそうなのか?」

「えっ、どういう意味でしょうか?」

「そのままだ。それが操縦者として使えるか否か聞いている」

「パーソナルデータまで酷似していれば起動に何ら支障は無いと思われますが……」

 束ねた指の隙間から僅かに覗いた男の唇が醜く歪む。

「そうか。初号機にそれを乗せろ」

「しかし素性すらわからな……」

「構わん。予備が届くまでの時間を稼げればそれでいい。壊れた人形よりは役に立つだろう」

「……わかりました」

380名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 22:52:04 ID:???

 銃を下ろし何やら言葉を掛けたリツコに無言で頷くレイの様子に確信めいたものを覚えながら、男は静かに顔の前で手を組み直した。
 リツコに先導されレイが画面から消えていく。それを見届けたところで、二人のやりとりを黙って聞いていたもう一人の男が口を開いた。

「分化した魂かね?」

「ああ、恐らくな」

「だが老人達が黙っていないのではないか?」

「問題ない。いざとなれば処分すれば済む事だ」

 男は表情も変えずにそう言い放つと正面に視線を戻した。いつしかモニター内の戦闘は止んでいた。海は以前の落ち着きを取り戻し、鳴り響いていた轟音も今は聞こえず世界は静寂に包まれている。ただそこには戦いの爪痕が刻まれているだけで異形の生物の姿はない。
 辛うじて原型を留めた戦車の残骸が海から吹き込む潮風に晒され、煙と火の粉を巻き上げる。そしてその黒い線が流れていく方角には、地割れを伴う巨大な足跡が第三新東京市に向けて伸びていた。

381名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 23:00:43 ID:???
とりあえずここまで
レイ逆行って一度書いてみたかったんですね
矛盾があるかもしれませんが、FFだと思って流してくれると有難いです
1日書けても500文字なんで投下は一週間に一度ペースになりそうですね
では完結までよろしくお願いします
382名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/05(土) 23:07:22 ID:???
乙です
一週間に一回だろうが投下してくれるだけでありがたい
完結まで頑張って下さい
レイ逆行ものは俺もあまり読んだ事がないので楽しみです
383名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/06(日) 01:06:19 ID:???
文体が読みやすく期待しています。
ただ、改行をもう少し増やしていただけるとより読みやすくなるかと思います。
差し出がましい発言失礼しました。
384名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/06(日) 23:20:27 ID:???
>>382
>>383
レスありがとうございます

>>382
一話はもうほとんど書き上がってますので、もしかしたら一週間掛らずに投下出来るかもしれません
レイが一人で逆行するシリアス系が読みたいなと思って探すも見付からず、自分で書くに至りました

>>383
改行ですか……
実はいつも以上にしたつもりだったんですが、まだ少なかったですかね?
改行数制限があるので反映できないかもしれませんが、読みやすくなるよう頑張ってみます
385名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/07(月) 09:05:34 ID:???
投下乙です。レイがどういう状態で元に戻ったのかワクテカしてます。シンジへの思いに目覚めた状態なのか、まだ気になる仲間どまりなのか。元気な状態でいるレイの所為でシンジの選択がどうなるのかなど興味が尽きません。
386名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/08(火) 21:15:02 ID:???
これじゃまだよくわからん
投下まち
387名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/09(水) 10:23:47 ID:???
ここってイタモノもいいの?
ゲンレイ前提とか近親相姦設定とか死別ものとか。
388名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/09(水) 10:42:43 ID:???
>>387
>他のキャラとの恋愛を絡めた話を書きたいのなら、相応しいスレに
って>>1あるだろ
近親云々はともかくゲンレイ、カヲレイ要素を含むのはNG
まあイタモノもLRSの意味を考えればこのスレに投下するのはどうかと思うな
読者を選ぶ作品(内容的な意味で)はサイトなり、イタモノ限定のスレを立ててやって欲しいというのが正直な気持ちだわ
389名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/11(金) 13:46:10 ID:???
僭越ながら、職人さん達の投下の繋ぎに短編を投下…

「包丁の握り方はこうで、左手の指は丸めて…」
「こう?」
「そうそう、上手だね」

シンジのマンションの台所にてレイはシンジに料理を習っていた。
ここに至る経緯は

「綾波も自炊できるようになったほうがいいよ。安くつくし、栄養もしっかり取れるし。
 もしよかったら、僕が教えようか?」

「じゃあ…お願いするわ」

シンジのこの提案がきっかけだった。
そしてレイに料理を教えるべく、道具や食材が既に揃ってるシンジのマンションに来たのだった。

「あ…それじゃちょっとうまく切れないね。包丁の引き方はこんな感じで…」
「あ……」

レイの背中から覆い被さるようにレイの右手に自分の右手を、左手に自分の左手を添え、
実際にレイに正しい所作を動かさせてみるシンジ。
普段のシンジなら躊躇うような接触も、料理を真剣に教えようと集中してる今のシンジには気にならなかった。

「真っ直ぐ縦に入れて、そして手前に引くように……って、綾波?あの…綾波も手を動かしてくれないと…」
「…………………あ……ごめんなさい」
390名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/11(金) 13:46:38 ID:???
集中力するシンジとは対照的に、集中力が散漫になるレイ。
手を動かすのも忘れ、動かしてもドギマギとぎこちない動きにしかならなかった。

「(鼓動が……早くなる……頬が熱い……なぜ?でも……心地良い……)」
「じゃあ、もう一回一人でやって見て。」
「あ……うん」

体を離したシンジにどこか名残惜しさを感じながらも、レイは作業に戻った。
しかし胸の高鳴りは収まらず、集中力は散漫のままだった。

「つッ!」
「あ、綾波!大丈夫!?」

見ると、レイの指先から血が流れていた。

「貸して!」
「……ッ!?」

咄嗟にレイの手を引き寄せるシンジ。
次の瞬間、シンジはレイの指を口に含んだ。

「あ………あの……碇君……」

シンジの行動にうろたえるレイ。
391名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/11(金) 13:47:26 ID:???
「絆創膏取ってくる!」

少ししてから口を離すと、シンジは救急箱を取りに部屋の奥へと向かった。
台所に戻ると、レイはシンジに背を向け、傷口を押さえ、うつむいていた。

「綾波、お待たせ!傷口見せて」

しかしシンジの言葉に反応せず、背を向け続けるレイ。

「あの…綾波?」

そんなレイの態度を不思議に思っていたシンジは、いきなり我に返ったように謝り始めた。

「あッ!ご、ごめん綾波!いきなりあんなことして……で、でも怪我したときはああするのが一番だし…
 咄嗟のことだったから…つい…あの、本当にごめん!」

「違うの…怒ってない。」

「ほ、本当?」

相変わらずシンジに背を向け続けるレイ。
しかしレイの顔は、正面から見ると耳まで赤くなっていた。
392名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/11(金) 13:48:05 ID:???
「(胸が…鳴りやまない……碇君のほう、まともに見れない…どうして?)」

「あの…じゃあ、治療しなきゃだから…傷口見せてくれる…かな?」

気まずさから尻込みしながらもなんとか治療を申し出るシンジ。
そんなシンジに応え、レイは振り向いて手を差し出すが、依然俯いたままでその表情はシンジから見えなかった。

「あ、ありがとう…」

処置を終えた2人は料理に戻るが、2人の動きはぎこちなく、レイはどこか上の空だった。
そして出来た料理の食事も終え、帰宅するレイを見送るべく玄関へ向かうシンジ。

「碇君、今日はありがとう」
「ううん、こんなのでよかったらいつでも教えるよ!僕に教えられることがあったら遠慮無く言ってよ」
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」

別れを告げ、ドアが閉まってもその場に佇み続け、絆創膏が巻かれた自分の指先を見つめるレイ。

「(ありがとう……感謝の言葉……)」

レイは傷口にそっと口づけると、足取り軽く帰路についた…。
393名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/11(金) 21:32:11 ID:???
>>389
GJ
何気ない日常のワンシーンってのがいいわ
繋ぎとは言わず、もっとバシバシ書いてくれると嬉しいな

俺も週明けには続きを投下できるよう頑張るわw
394名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 04:45:19 ID:???
>>393
レスありがとうございます
長編は書いたことないんで、短編をこれからもチマチマ投下していきますね
そちらも投下頑張って下さい、楽しみにしてます
395名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:55:18 ID:???
「私は三人目だもの」

白さだけが際立つネルフ内の病院で、レイはただその事実だけをシンジに突きつけた。

「ど、どういう事だよ綾波!!」

シンジも口ではそう反論するものの、どこかぼんやりとそれは本当の事なんだろうな。と納得していた。
あの爆発──しかも爆発の中心は紛れもなくレイ本人の乗っていた零号機だということをシンジはミサトの口から聞かされていた。
あの爆発の中心にいたならば、どれだけエヴァの装甲が優れていたとしても助からないだろう事は理解していた。
だからこそ、彼女が生きていてくれたことが嬉しかったのに──

「いずれわかると思うわ。言葉の通りよ」

レイは初めてシンジと出会った時のような冷たい口調で言う。
もしもこれが初めての出会いだったのなら、シンジも深くは追求せずにいただろう。
だが違う。彼の中にはレイと培ってきた思い出が少なからずあったから。

「だからそれがどういう事かわからないよ!!」

さらに口調を強めて問い詰める。それはどこか懇願のように見えて。
声を荒げて、肩で息をするようなシンジを見たレイは、その気迫に少し押されたのか呆れたように息をついてポツポツと話し始めた。

396名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:56:33 ID:???
「……私には沢山のスペアの身体があるわ。指じゃあ数えられないくらい」

──始められた説明は

「私がどれだけ酷い傷でも出撃していたのはその為。私には替えがあるもの」

──まるで、出来の悪い戯曲のようで

「魂はこれ一つだけれど、それは傷つかないし壊れない」

──それでもシンジの前に立つのは『現実』

「ならばそこにあるのは完全な生命。ならば私は死を恐れる必要はない」

──こんな悲しい物語を持つ、今にも消えてしまいそうな少女を

「するとほら、死を恐れない人間はいるかしら?それ以前に、身体のスペアがある人間は?」

──このままにしておくことができるだろうか

「だから私は、人ではないの。もう、私に構わないで」

397名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:57:00 ID:???
最後にそう告げると、レイは再び廊下を歩き始めた。
歩く姿はとてもゆっくりしたものに見える。
しかし、その姿にはこれ以上言うことはない。という意思表示も含まれているように見えて、他の追随を許そうとしなかった。

「違う!!」

それでもシンジは叫んだ。ここで見送ってしまったら、二度と会えなくなる──
本当の意味で彼女に会うことが出来なくなる気がして。
そんなシンジの心の叫びが少しでも届いたのか、はたまた完膚なきまでに叩きのめそうとしたのか。
いずれにせよ、レイはシンジの声を聞いて歩みを止めた。

再びかち合う目線。
レイの目線は相変わらず冷たいままだったが、シンジにはもうさほど気にはならなかった。

「……何が違うの」

目線と同様、相変わらず口調は冷たい。
その厳しさはいかなる物をも砕いていきそうな、そんな強さをも含んでいる。

だが、その声はわずかに震えていた。

398名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:57:34 ID:???
「君はさっき、自分は人じゃないと言った」

──確かにそう言った

「ならなんで君は今にも泣きそうなんだ」

──まるで懺悔をするかのように

「綾波は僕とは違う、アスカともトウジともケンスケとも委員長とも違う!!」

──何の罪を償う?君にはそんな罪は端から持ち合わせていないのに

「ミサトさんみたいにずぼらじゃないしリツコさんみたいに冷たくない」

──生まれなければよかった物なんてのはない

「それは誰だってそうなんだ!!周りと全く同じ人間なんていない!!綾波が少し特殊なだけで、全く違うことではないんだ!!」

──世界中の全ては、祝福されるために生まれるのだから

「綾波は、君はちゃんと自分を持ってるんだ。自分を持って、それを貫いて生きてる。」

──だから君もそんなに自分を蔑まないでほしい

「僕が僕であるように、君は君だ。もし世界中のみんなが君を人以外の何かと言っても、僕は君を人だと自信を持って言い続けるよ」

──そうでないと、君に惚れこんでしまっている自分が滑稽に見えるじゃないか。

399名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:58:10 ID:???
廊下には静寂。
それ以外の何物もない。
シンジは荒ぶっていた呼吸をゆっくりと整え、心を落ち着けた。
感情に流されてはしまったが、それは間違いじゃなかったと思う。
時にはそれに身を任すことも必要だ。かつて母が、それに近いことを言っていたように。

ツッとレイの頬に涙が流れる。
それは本人も無意識の内に出ていたようで、それを拭おうともしなかった。
ただただこぼれ落ちていく涙。レイはそれを見たことがあった。
今の自分は知らないはずなのに、何故それを懐かしく感じるのか。

見かねたシンジがそっと頬に手をやり、涙を拭った。暖かい手、伝わる体温。
差し伸べられたその手にレイ自身の手を重ねて静かに目を閉じながら言う。

「あなた、あたたかいのね。このあたたかさも、懐かしい気がする」

ふっと風が廊下を吹き抜けた気がした。それと同時にシンジは思い出す。
以前にレイが中庭で言ったことを。

『もう一度、触れてもいい?』

この戦いに全てけりが付いたら、綾波に聞いてみよう。
五度目に触れたときは、今触れているこの時はどんな感じがした?と。
400名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/12(土) 18:58:55 ID:???
改行しまくりのせいでかなりのレスを使ってしまった。
と、言うわけでこれで終わりです。
401380の続き:2008/04/14(月) 00:39:54 ID:???

「主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート」

「A10神経接続異常なし。初期コンタクト全て問題なし」

「双方向回線開きます」

 エントリープラグ内でレイはコントロールレバーを握り締め、無言で時が過ぎるのを待っていた。表情には感情の色こそ見られないが、疑問や不安を一寸たりとも抱く事のなかった以前とは違い、その胸中は嵐に見舞われた離島のように終始ざわめいていた。
 まあ無理もない。自分の管理を手掛けた人間に己の存在を否定され、その上自分がもう一人存在すると告げられては致し方ないことだろう。
 まだその要因がわかれば対処の仕様もあったが、未だレイは要因どころか自分の置かれた状況すらも把握しきれていなかった。

「……の匂いがしない」

 そんな呟きが何気無しにレイの口から洩れる。幸いにもリツコ達はモニターに集中していたためか、その台詞が彼女達の耳に届く事はなかった。
 初号機への搭乗命令。この事がレイに状況の把握を困難にさせていた。初号機を起動可能なのはサードチルドレンの碇シンジだけにも関わらず、シンクロ率が劣る上に一度初号機に拒絶された自分を使うのは理に適わない。
 そうせざるを得ないのはシンジが搭乗を拒否したのか、もしくはそれ以前にシンジ自体が搭乗不可能な状態にあるのか。
 いや、機体互換試験の時に触れたシンジと何かを共有するような感覚が、今は全く無いのがすでに答えなのかもしれなかった。

「余計な事は考えないで!」

 リツコの声が思考の海に沈んでいたレイの意識を現実へと引き戻す。その声につられるように顔を上げると、自分を見詰める男の姿がモニターを通してレイの目に映った。
 そうだ。難しく考える必要はない。置かれた状況がどうあれ、自分は黙って与えられた使命に従えば今までのように上手くいく。レイは自分にそう言い聞かせると、目を閉じ初号機とのシンクロに全神経を傾けた。

「シンクロ率62.3%、誤差0.5%以内。いけます」

「そうね。……エヴァンゲリオン、発進!」


402名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/14(月) 00:42:07 ID:???


 初号機は地上に射出されたのとほぼ同時に、肩口からブログレシッブナイフを取り出し身構えた。
 発令所に向かうことなく直接格納庫へ連行されたため、レイは使徒各々が持つ特性は愚か、使徒の形状すら知らなかった。情報が少ない状態で迂濶に動くのは危険過ぎる。その上今回は単機迎撃なだけに尚更だった。
 慎重な面持ちで周囲を伺っていたレイの耳に突如として轟音が鳴り響く。瞬時に音の方向に視線を定めると、崩れゆく山の合間から戦闘機を数機従えた異形の生物が姿を現した。


「何やってるの、早く距離を詰めなさい! 通常の火機では足止めにもならないわ!」

 動こうとしないレイに業を煮やしたリツコから通信が入る。戦闘機は巡航ミサイルで応戦するも、リツコの言葉通り使徒の体表に傷一つ負わすことすら出来ず、一機、また一機と打ち落とされていき、最後の一機が初号機の足元付近に墜落するが、それでもレイは動かない。
 いや、動けなかったと表した方が正しいのかもしれない。想定を越える事態。未知の生物である使徒を相手にする以上、それは致し方ない事であり、レイも如何なる状況にも対応出来るよう十分な教育を受けていた。しかし何事にも限度がある。
 目前の標的が過去に相見えた使徒であった事までは、想定を越えるも対処可能な事態であったが、問題はその使徒の存在とレイ自身が置かれた状況の因果関係にあった。
 初号機パイロットの突然の不在、起動実験を失敗した他の自分の存在、そして過去に対峙経験のある使徒の出現。それらが結び付きレイに導き出させた答えは、レイ自身が過去に戻ってしまったというもの。
 有り得ない。レイは浮かんだ考えを即時に切り捨てようとするが、頭の片隅に引っ掛かった疑惑はレイの心に思考の根を張り巡らし、確実に初号機の動きを鈍らせた。

403名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/14(月) 00:43:31 ID:???


「避けて!」

 リツコの声がレイに届くのとほぼ同時に、使徒の右手から放たれた光のパイルが初号機を襲った。とっさに身体をよじり致命傷は避けたが、完全に受け流すことは出来ずに、胸部を霞めたパイルは初号機の左肩に深々と突き刺さる。

「……くっ」

 きつく結ばれたレイの唇から小さな声が洩れた。使徒は尚も攻撃の手を緩める事なく一気に距離を詰め、密着状態から残った左手で初号機の顔を狙う。
 再び閃光が走る。顔の前で構えたナイフが弾かれたが、使徒の二撃目は初号機を捉える事なく空を裂いただけで終わった。
 ただレイもやられてばかりではない。攻撃を外し前傾姿勢になった使徒の一瞬の隙をレイは見逃さなかった。
 辛うじて動く右手で使徒の左手を払い除けると、腹部を蹴り上げ使徒ごと無理矢理パイルを引き抜く。そして地響きを立て後方のビルに倒れ込んだ使徒に間髪を入れず襲い掛かった。
 レイの狙いは使徒の胸部にある紅球。いかなる損傷も驚異的な回復力で修復してしまう使徒に有効な攻撃手段は、コアと呼ばれるこの箇所の破壊であることをレイは今までの戦いより学んでいた。
 初号機は起き上がり掛けた使徒を再び仰向けに押し倒すと、コア目掛けナイフを振り下ろした。

 が、確かな手応えの代わりに伝わってきたのは金属同士がぶつかったような手の痺れと、それに伴う甲高い衝撃音。いつの間に現れたのか、全てを拒む赤い壁が初号機と使徒を隔てるようにして鈍い輝きを放っていた。

404名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/14(月) 00:48:10 ID:???
とりあえず予定の一週間が経ちましたので生存証明も兼ねて投下しました
本当は一話の最後まで投下するつもりだったんですが、予想以上に長くなり……
いつになったらシンジ出てくるんだろorz
展開が遅くてすいません
405名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/14(月) 06:54:22 ID:???
乙!これからがたのしみっす
406名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/14(月) 20:32:30 ID:???
待ち
407名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/18(金) 07:52:12 ID:???
投下町
408名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/20(日) 23:49:19 ID:???
すいません
404ですが、小説の入った携帯が壊れてしまったので投下は修理が終わる一週間後になりそうです……
申し訳ありません
409名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/21(月) 07:35:38 ID:???
まあいいさ
410名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/21(月) 08:30:56 ID:???
頑張れ
突然音信不通だけは勘弁な
411名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/23(水) 17:58:56 ID:???
日曜日まだかな・・・
412名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 00:06:35 ID:???
DVD発売記念上げ
413名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 02:29:26 ID:???
DVD発売記念下げ
414名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 10:05:21 ID:???
そして投下待ち
415名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:26:37 ID:???
「お邪魔します。綾波、具合どう?」

レイはここ数日、風邪で体調を崩し、家で寝込んでいた。
そんなレイのもとへシンジはできる限り見舞いに来ていたのだった。

「まだ少し、熱があるみたい…。」

ベッドに横たわったままシンジのほうを向き、レイは静かに答える。

「でも、顔色も最初より大分良くなったね。もう少しできっとよくなるよ。」
「うん。」

シンジは寝たきりのレイにプリントを届けたり、薬や氷枕などの身の回りのことを世話し、
晩ご飯を作るのがここ数日の日課となっていた。

「薬と水はここに置いておくね。あと、お粥も作っておいたよ。風邪に効くらしいから、ネギも入れておいたんだ。」
「ありがとう………。」

普段からミサトの家で家事をこなしてるシンジは実に手際がよく、気も利いていた。
しかし家事に手際のいいシンジでも、レイとの会話に努めようとしたが、如何せん会話のほうはなかなかうまくいかなかった。

「じゃあ、今日はこの辺で帰るよ。綾波、早くよくなるといいね。」
「うん…碇君のおかげで、大分楽になったから…。」
416名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:27:07 ID:???
バタンと戸を閉め、シンジは帰路についた。
そんなシンジの背を、罪悪感で見送るレイ。
なぜなら、レイは嘘をついていたからだった。
本当は、熱はとうに下がり、体調も普段と変わらないくらいまで回復していたのだ。

「(私……どうして…こんなことを…。碇君に、迷惑をかけてしまってるのに…。)」

何度となく繰り返した自問の末、レイはひとつの答えにいきついた。

「(きっと…碇君に来て欲しいから…もっと傍にいて欲しいから……。碇君が帰ると、いつも苦しくなる…。
  これが、寂しい…ということ?)」

今までに抱いたことのない感情に戸惑うレイ。
罪悪感を感じながらも、シンジのやさしさがそんな自分の寂しさを紛らわしてることを知り、つい甘えてしまう。
それは、レイが初めて抱いた「わがまま」だった。

「(もう少しだけ…少しだけ…このままで…。)」

いけないとわかりつつも、どうしても甘えに身を委ねてしまっていた。

〜〜そして翌日〜〜
417名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:27:28 ID:???
今日も下校時刻を過ぎたころ、綾波のマンションに来訪するシンジ。
しかし、シンジは意図せず、レイの持った初めてのわがままを打ち砕く提案をしてしまう。

「綾波、もう大分顔色がよくなったね。もう熱もないと思うから、体温計で計ってみなよ。」

そういって体温計を差し出すシンジ。

「え………。」

予想外の展開に、虚をつかれるレイ。このままでは風邪が既に治っていることがバレる。
そうなれば、きっともうシンジはレイのところに来てくれない。優しくしてくれることもない。
そう考えたレイは、思わず苦し紛れにその場を取り繕うとした。

「ダメ…。まだ、熱があるから…。」
「そうなの?でも、それにしたってどのくらい熱があるのか知っといたほうがいいし、やっぱり計ろうよ。」

風邪を引いてるのにこまめに体温を測らない道理は無く、やはりごまかしきれない。
レイはおずおずと体温計を受け取ると、やはり正直に言うべきか、それともなんとか取り繕うか、そんな思索を巡らせていた。

「じゃあ、僕は台所で洗い物してるから、終わったら教えて。」

そう言ってベッドの傍らから立ち去るシンジ。
シンジの目が消えたところで、なんとか体温計をごまかそうとするレイ。
素直に測ったところで平熱にしかならず、なんとか熱のある温度を表示させようと思い至ったのが、指による摩擦だった。
しかし、それだけの温度を表示させるのはなかなか難しく、体温計をこするのに没頭するレイ。

「綾波……………なにしてるの?」
「……ッ!?」
418名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:27:54 ID:???
体温計をこすることに没頭し、まわりが見えなくなっていたレイは、突然かけられたシンジの声に取り乱した。
シンジは台所から水と薬を運んできたのだった。

「碇君……違うの……これは……その………。」

シンジを納得させられる言い訳を考えつけるはずもなく、俯いて口篭もるレイ。
その姿は、悪事が母親にバレた時に怯える子供のようだった。
シンジの優しさに甘え、好意を裏切ってしまった。きっと軽蔑されるだろう。
そんなことさえ頭に浮かび、レイは急速に罪悪感と不安に苛まれていった。

「綾波…もう熱、無いんでしょ?」

シンジの言葉にビクッと体を震わせ、ゆっくりと俯いたまま頷いた。

「碇君……ごめんなさい…その…私……
「よかったぁ〜、綾波が良くなって!これで安心したよ。」

聞こえるか聞こえないか程度の声で、途切れ途切れに謝罪を述べようとしてるとこを、シンジの明るい声が遮った。

「え…………?」

思いがけないシンジのセリフに、思わずキョトンとするレイ。

「風邪にしては長いから心配してたんだ。病院にいったほうがいいのかなって…。
 でも、なんで治ってない振りしてたの?そんなことまでして…。」
419名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:28:43 ID:???
トウジが仮病のために保健室で体温計をこすってるのを見てたシンジは、その意味を知っていた。
しかし、そんな行為をレイがやってみたという意外な事実に、多少は驚きを隠せないでいた。

「……………………………碇君に…優しくしてもらいたかったから……。」

沈黙の後、ポツリとレイはつぶやいた。それを機に、次々と自分の旨を白状する。

「碇君、優しくて…いつもお見舞いにきてくれて…だから、つい…甘えてしまって……。
 でも、治ったら碇君はもう来てくれない……それが…寂しく…て……。」

ポツリポツリと言葉を紡ぐレイ。最後のほうは思わず泣き出してしまうのではないかという声色だった。

「本当に……ごめんなさい……。」

それだけ言い終わると、レイはシンジの目線から逃れるように布団を顔まで引き上げた。

「なんだ、そんなことだったら言ってくれればよかったのに。綾波さえよければいつでもまた来るよ!
 一人暮らしじゃ寂しいだろうし…その…これからも度々お邪魔して…いいかな?」
420名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:29:07 ID:???
「…うん。ありがとう…。」
「それに…実は、僕は嬉しかったんだ。その…綾波の部屋にお邪魔する機会が増えて。」
「本当…?」
「うん、でも綾波が体調悪いのに不謹慎だってずっと思ってたんだ…ごめん…。」
「ううん………そんなことない。私も…嬉しかったから。」

胸の内を明かしあい、素直な気持ちで語り合う二人。
日も沈みかけたころ、一通り雑務を終わらせたシンジは玄関へと向かった。

「じゃあ、綾波、また明日。今度は学校でね。」
「うん…また明日。ありがとう…。」

シンジの背中を見送るレイに罪悪感はもはや無く、その表情は静かに微笑んでいた。
421名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:30:18 ID:???
予想以上に長くなってしまった割に、身の無い話でスミマセン。
こんな文章でも読んでくれたら幸いです。
こうしたら読みやすいと、こうしたほうがいいなどのアドバイスがあったら是非お願いします。
422名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:47:38 ID:???
ええ話やないか

こういった小さな積み重ね(今回のね)が大きな悲劇をひっくり返すようなSSが好きでよく読んでました
423名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 23:57:50 ID:???
>>421
本編のレイはもっとクールなイメージを感じるから、その差異を感じて仕方がない。
まーSSをどう作るかは作者の自由だから問題無し。
読みやすいし判りやすい。予想外の展開は無いけど、そのぶん安心。
424名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/27(日) 00:07:03 ID:???
指摘と感想ありがとうございます。
今後の作品の参考にさせてもらいます。
425名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/27(日) 03:21:53 ID:???
内容はいいが綾波は「うん。」 よりも「そうね。」とかの方が多い希ガス
426名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/27(日) 03:28:55 ID:???
今日は>>408に期待して寝よう
427名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/27(日) 15:37:18 ID:???
性格改変されてても相応の理由付けが書かれてれば違和感ないけどな。
数年後の話だとか。

本編のサイドエピソードだと確かに違和感ある。
428名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/28(月) 16:17:33 ID:???
>>426
あんまりプレッシャーかけないでくれw
帰り際携帯を取りに行くから夜手直しして明日の朝、もしくは明日の夜になると思われ
429名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/28(月) 18:25:16 ID:???
じゃあそれまで寝てる

投下したら起こしてね…
    
         _,,..,,,,_ . _
        ./ ,' 3 /   ヽ--、
        l   /        ヽ、
       /`'ー/_____/
        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
430なんとなく転載:2008/04/28(月) 19:34:54 ID:???
「ただいま……」
と、シンジが買い物袋を下げて帰ってきた団地の一室。
殺風景なその部屋は脱ぎ捨てられた制服や下着が散乱していた。レイのものだ。
バスルームからかすかに水音が聞こえてくる。先に帰ってシャワーを浴びているようだ。
シンジはやれやれとつぶやきながら下着を摘んで洗濯カゴに放り込み、制服はハンガーに引っ掛ける。

そうしているとレイが体を拭きながらバスルームから現れた。
お帰りとも言わず、シンジが居ることも気にもとめるようでもなく。
シンジはタオル一枚のレイから注意深く目をそらしながら声をかけた。
「あ、あの、パスタを茹でようと思うんだけど、どうかな?」
「……うん。」
レイは適当な返事をしながら窓の側により、夜空を見上げる。

そしてシンジが鍋を取り出して料理に取り掛かっていると、レイはいきなり部屋の明かりをパチンと消した。
「ちょ、ちょっと!何を……」
抗議しようと振り向いたシンジが見たものは、月明かりに照らされた美しいレイの裸身であった。
またしても直視できずにシンジは慌てて目をそらす。
そうするにはあまりにも惜しい、美しい光景ではあるのだが。

レイはシンジの憤慨にも気付かず、あるいはシンジを誘うようでもなく……
ただただ月夜を楽しむばかりであった。
431403の続き:2008/04/30(水) 03:37:32 ID:???


「……あれはA.T.フィールド。やはり使徒も持っていたのね」

 そうリツコは苦々しそうに吐き棄てた。正面モニターに映し出された状況は芳しくない。
 数秒前までは優位に戦いを進めていた初号機だったが、使徒のA.T.フィールドに渾身の一撃を防がれたのを皮切りに、徐々に押し返され今では完全に防戦一方となっていた。
 初号機もパイルを織り混ぜた使徒の攻撃をどうにか捌いていたが、一撃を貰うのは時間の問題だろう。

 今までの突き一辺倒の攻撃から一転、縦に振り降ろされたパイルが初号機の胸部を霞め取る。
 リツコは小さく舌打ちをすると、損傷の状態を確認するため、手元のモニターを覗き込んだ。
 戦況を暗転させたのはA.T.フィールドの存在。けして自分達の手掛けた初号機の性能が相手に劣っていたわけではない。一時は完全に使徒を追い詰め、A.T.フィールドさえ発動されなければ殲滅も見えていた。
 だが何故初号機はA.T.フィールドを展開出来ないのだろうか。理論の上では初号機も同じように使用可能であり、使い方次第では現状を打破することも不可能ではなかった。その事が余計リツコを苛立たせる。
432名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:38:08 ID:???

 そう、考えられる要因は一つ。リツコの脳裏にレイと名乗った少女の姿が浮かぶ。
 シンクロ率、操縦技術、どちらを取ってもオリジナルより優れていたため、司令の搭乗命令を受け入れざるを得なかったが、今初号機を操るのは素性不明の少女、言わば完全なイレギュラー。
 今の戦いを見る限りでは使徒がA.Tフィールドを使う以上、こちらもA.Tフィールドをもって対抗せねば勝ち目はない。
 最悪の状況に陥る前に、多少リスクを背負おうともA.T.フィールドの展開が可能と思われるオリジナルを出撃させるのが最善の策と、リツコは考えた。

「目標の攻撃射程圏外まで距離を取りなさい! 一時退却よ!」

 リツコは初号機内のレイに指示を出すと、横目で男の様子を伺った。発令所全体を見渡せる場所に位置する司令席で眉一つ動かすことなく、正面モニターに視線を注ぐ男。
 無言ということは恐らく自分の対応にミスはないのだろう。そう判断し、リツコはマヤに退路の確保を求める。

「マヤ、初号機の回収を急いで」

「はい、わかりました! ルート192から回収……あっ!」

 だが次の瞬間だった。使徒の瞳に怪しげな光が宿る。
433名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:38:49 ID:???

 仮面周囲の筋肉が収縮するのに呼応し、輝きを増した光は二筋の閃光に形を変え、初号機の頭部を捉えた。
 一瞬、世界が静止する。対峙したまま微動だにしない使徒と初号機。
 ただ、抜けるような青空に閃光が吸い込まれていったのを見届けたあと、初号機だけが大きく揺らめき、糸の切れた操り人形のように瓦礫の中に崩れ落ちた。


434名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:39:24 ID:???


 気が付くとレイは紅い世界にいた。紅い地平線から打ち寄せる波に足首まで浸かり、紅い空から吹き込む風に身を晒し、茫然と立ち尽くす。
 ここは何処なのか。抱いて当然の疑問が頭を占める前にレイは奇妙な即視感を覚えた。休憩所で感じた僅かながら顔を覗かした記憶の先端に触れるような弱いものではなく、埋もれた記憶そのものに目に映った光景が重なり、自分はここにいると呼び掛けてくる程の強いもの。
 しかしこの世界を知っている事に気付いたとしても、先ほど同様この世界と自分の関連性までは頭に霧が掛かったかのように何も思い出せない。
 周囲に視線を巡らせてみようと、血を彷彿させる赤色が地平線の遥か先まで広がるだけで、手掛りとなるような物は恐らく何も見付からないだろう。
 ところが海から浜辺に視線を移した時、砂の合間で見え隠れしている赤がレイの目に入る。この世界特有の深紅、人の心にじっとりと染み込んでいくような重苦しい赤色ではなく、人の心を惹き付けて離さない色鮮やかな赤色。

435名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:40:04 ID:???

 そのイメージにかつての同僚の姿が重なり、近くに向かい上に乗った砂を掃うと、偶然かそれは彼女の象徴とも言えるプラグスーツだった。

「……何故ここに?」

 そんな疑問がレイの口から雫れた。背後では海に還る波が陸地を名残惜しむように砂を浚い、悲しげな音色を奏でている。
 レイの問いもやがてそれらの音に紛れ、言葉としての意味を失っていくように思えたが、突然呟きの余韻だけを残して世界の音が止んだ。

「……覚えてないんだ」

 静まり返った世界に声が響く。ハッとなり振り返るとそこにはいつの間に現れたのか、小さな女の子が立っていた。
 蒼い髪に紅い瞳、自分をそのまま小さくしたような少女の容貌を見て、レイは無意識のうちに顔を強張らせたが、すぐに抑揚のない声で言葉を返す。

「あなた、誰?」

「私? 知ってるでしょ?」

 少女はクスクス笑いながらレイの顔を見上げると言葉を続けた。

「私はあなた、あなたは私」

「違……」

「違わない」

 否定しようと口を開いたレイの言葉を遮り、少女は強い口調で言い切った。
436名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:41:30 ID:???

 少女の口許から笑みが消える。それが引き鉄となったのか。唐突に目の前の少女に変化が訪れた。
 目を大きく見開いたかと思うと、レイを射抜くその瞳は世界同様深紅に塗り潰され鈍い輝きを放ち始める。まるで使徒の核を顔に突き付けられたような錯覚に陥り、レイは動揺からか息を洩らすことも出来ない。
 少女はそんなレイを嘲笑うかのようにさらに形を変えていく。レイの腰ほどまでしかなかった背丈はレイを遥かに上回り、ただでさえ白かった肌は色素が抜け落ち不気味な白さを釀し出す。
 そして大きく仰け反ると背中から均翅目を思わす数対の羽が雫れ、その先端がレイの頬に触れた。

「あなたは私だったもの。リリンが私から奪った魂の欠片があなた」

 少女だったものは鼻と鼻が触れ合う距離まで顔を近付けるとそう囁いた。耳まで裂けた唇が三日月のように歪む。

「……全て思い出させてあげる」

 世界が暗転する。

437名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:42:10 ID:???


 男の望み。

 創造主への造反。

 男がレイの腹部に掌を押し当てている。徐々に自分の身体に沈み込んでいく手首をレイは無感動な目で見詰めていた。
 男の唇が動く。声はない。無に還るという実感が占めるだけで他の感情が生じる隙間はレイの心の何処にもなかった。
 だが突如頭に誰かの悲鳴が響く。ふと視線を下ろせば先を無くした手首を押さえ、地面に蹲る男の姿がレイの目に映った。
 苦悶に顔を歪めながら男が何かを言ったようだが、音のないレイの世界では必死な男の姿も、空気を求めて喘ぐ滑稽な姿にしか見えなかった。
 悲鳴を追うようにして今度は誰かの呼ぶ声が聞こえる。声の方に目を向けると、そこには磔になった白い巨人がレイを見下ろしていた。
 レイは男を一瞥すると踵を返し、引き寄せられるように白い巨人向けて足を踏み出した。

「レイ、待ってくれ!」

 初めて耳に届いた男の声は悲痛な叫び。だがレイは振り返ることなく口の中で何かを呟くと、白い巨人に吸い込まれていった。


 暗転。

438名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:43:06 ID:???


 補完計画の発動。

 壊された少年の自我。

 異形の徒が青空を背に初号機を取り巻いている。ただ周りを徘徊しているだけではない。
 その手に握られた二又の紅い槍は初号機の両掌を貫き、初号機を宙に縫い付けていた。空に展開された幾何学模様と相極まり、その姿は十字架に架けられたメシアを連想させる。
 下層に広がる雲が割れた。その合間から姿を現したのは白い巨人。まるで蝶が羽化する時のように大きく反らしていた身体が、徐々に正しい傾きを取り戻すにつれ、その顔が露わになっていく。

「……あ、綾波……」

 少年の呟きに応えるように、初号機を取り囲んでいた異形の徒の顔が白い巨人、もとい綾波レイの顔へと形を変えた。
 少年の絶叫。巨人の落ち窪んだ目の奥で紅い瞳に鈍い光が宿る。
 異形の徒が剥き出しになった自らのコアに槍を突き刺し始めた中、少年を乗せた初号機に巨人の手が伸び、再び少年の絶叫が世界に響き渡った。


暗転。


439名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 03:48:39 ID:???
色々あって4000文字でギブアップしましたorz
もう少しでサキ戦(一話)終了します
明日早いんでおやすみなさい
440名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 07:45:37 ID:???
おおおお、
投下GJ
441名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 22:39:43 ID:???
gj
改行増やしてくれるとありがたいな
442名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 23:26:49 ID:???
だいたい ID:??? のところで改行するようにすると見やすいと思います
列で言うと40列ぐらい
443名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 00:04:11 ID:???
ブラウザを最大化せず読みやすい大きさにすればいいんじゃね?
444名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 03:55:21 ID:???
>>440
サンクス

>>441
まだ改行少ないですか
いつも以上に改行したつもりだったんですがorz
次こそは限界目指して頑張ります

>>442
どういうことですか?
文章途中で改行するってことでしょうか?
445名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 07:29:05 ID:???
句読点での改行ってことじゃね?
あと文章そのものの簡素化とか?
446名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 15:55:51 ID:???
>>445
文章の簡略化とかやったら誰も読まないだろ
携帯小説(笑)ぐらいじゃないか、文章簡略化してるのは……

「ごめんなさい、こういう時どんな顔すればいいのかわからないの」
とレイは言った。
「笑えばいいと思うよ」
とシンジは返した。
レイはシンジに微笑んだ。
ヤシマ作戦はこれにて幕を閉じた。

感動できねぇwww
447名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 16:00:56 ID:???
GJ
とりあえず完結してくれることを願います。
448名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 18:24:38 ID:???
>>446
そういうことじゃなくてさ…
なんつーんだろ?
句切れを良くするってことと同義だと思う
まあアドバイスをするスレじゃないからさ、この辺にしとこうや
それに内容についてはどうこう言いたいわけじゃないし
449名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 19:16:58 ID:???
>>448
別に小説スレなんだし問題ないと思うけど
区切れは人それぞれ感じ方が違うから何とも言えないよ
『少し考えるように首を傾げた後、ぎこちなく微笑んだ』
『少し考えるように首を傾げる。そしてぎこちなく微笑んだ』
一文でまとめた最初の方がいいか、二文に分けた二番目の方がいいか判断するのは難しいと思う
450名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/01(木) 19:38:32 ID:???
英文だと二文の方がいいんだけどな
451名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/02(金) 00:07:03 ID:???
うわぁぁぁぁぁぁぁ!
もうダメだ!
禁断症状が…。
はっ早く次を頼む!
452名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/02(金) 00:27:22 ID:???
本編再構成とか異世界ものの大作長編はスレ投下には向いてない気がする。

余計なお世話かもしれないが。
453名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/02(金) 10:50:04 ID:???
別にいいんでない?
HP作って作るのもダルイし、停滞してるLRSサイトに投下とかしても人こないだろうし
不定期連載って形でスレにFF投下は昔から定番じゃないか
454名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/02(金) 11:00:27 ID:???
凄いスレが伸びてるから投下ktkrと思って覗いたら……orz
書き込んだヤツはGW中に一作品投下しろよなw
455名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/02(金) 11:47:44 ID:???
>>442の言いたいことは多分だけど、
「読みやすい幅の右端を作ってくれ」ってことだと思う。
携帯だと短い幅で折り返してくれて読みやすいけど、
ブラウザだとウィンドウ右端まで表示されて読みにくいこともある。

もっとも、PCで読む側が適当なテキストエディタにコピペすれば
勝手に折り返してくれるようになってそれで済む問題w
あるいはウィンドウを小さくすればおk、かな。
とりあえず続きをwktkして待ってる。
456名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/07(水) 13:15:09 ID:???
投下待ち
457名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/07(水) 13:16:26 ID:???
そしてageてみる
458初投稿(汗:2008/05/07(水) 22:33:11 ID:???


ふっ、と目が覚めた。左腕が痛む。指先の感覚がない。窓の外は
まだ暗い。何時ぐらいなんだろうか。ここからでは壁の時計は
暗くてよく見えない。携帯はテーブルの充電器の上だ。時間が
分からないのは何となく不安だが、起き上がるには躊躇がある。

耳を澄ますと、左腕の辺りから微かな寝息が聞こえる。彼女は
目覚めている時も眠っている時も静かで、時々居るのか居ないのか
分からないことがある。だが今は左腕の痛みが、彼女が確かに
そこに居ることを教えてくれていた。こうして眠るのが好きだ、と
以前彼女は言っていた。僕の体温と体臭を感じながら寝ると
気持ちが落ち着くと言ってくれた。だから僕は、意地でも彼女の
眠りを妨げたくはない。しかし、それはそれとして、今の時刻は
なるべくなら知りたい。

あと何時間こうしていればいいんだろう。「腕枕は痛い」なんて
学校でもネルフでも教わらなかったな。。。【了】
459名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/07(水) 23:46:19 ID:???
>>458
おお、GJ!
添い寝ってシチュがかなり好きな俺にはありがたい
短い中にも趣旨がまとまってるのが良いと思いました
460名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/07(水) 23:50:04 ID:???
>>458
何故か長門が浮かんだ俺はLRS失格orz
どこかに髪の毛の色を入れて欲しかったw
461名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 13:26:15 ID:???
ありがとう
ただいま続編執筆中です。
462名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:39:11 ID:???
>>458続き


また、目が覚めた。結局また寝てしまったみたいだ。もう明るい。
そうして開けた僕の目の前に広がるは、水色。全てが水色の波。
そして温かいものが、僕の唇に触れる。それが何かはすぐにわかった。
もう何百回も僕の唇に触れたもの。彼女の唇だ。
頭が混乱した。胸がドキドキした。まるで初めて彼女にキスした時
みたいだ。キスなら昨夜もしたのに。

長い長いキスのあと、彼女はようやく唇を離した。彼女の顔が
遠ざかり、やがて目と目が合う。
「……!」
彼女は明らかに動揺している。僕が起きているのに気付かなかった
のかな。こっちだって動揺しまくりだ。
463名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:40:45 ID:???


「…ごめんなさい。わたし…」
「あっあの綾波、シャワー浴びて来たら?」
「…もう浴びた」
「じゃ、じゃあ僕が浴びるよ。その間に朝食作っといてくれない?」
「…わかった」
なんとかその場を繕ってバスルームに飛び込む。彼女は相変わらず
料理はさっぱりだが、最近は、お泊りの翌朝の朝食だけは作る。
パンをトースターに入れたり、カップスープにお湯を注いだり
ぐらいなら彼女にも出来るから。今は、彼女に簡単な料理ぐらいは
作れるように仕込む計画を立てている。

シャワーを浴びながら冷静さを取り戻すと、なぜこんなに動揺する
のか情けなくなった。恋人にキスされてうろたえるなんておかしい
だろう普通。彼女のことだから「…わたしとキスするのはいや?」
なんて言い出しかねない。彼女に、キスしてくれて嬉しいと
言わなきゃ。そう決意してバスルームを出た。
464名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:42:26 ID:???


キッチンに入って驚いた。彼女が目玉焼きを焼いていたのだ。
「これ、綾波が作ったの?」
「…うん」
「ありがとう!嬉しいよ!」
「……」
黄身が崩れて、おまけに少々焦げ気味だったけど、紛れも無く
彼女の初めての手料理だ。
「すごいや。いつ覚えたの?」
「…碇君が作るのを見ていたから」
「おいしい!おいしいよ綾波」
「……碇君が喜んでくれると、わたしも嬉しい」

朝食を終えてコーヒーを飲んでいると、後片付けを終えた彼女が
隣に座って、ぽつりと切り出す。
465名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:44:00 ID:???


「…さっきのこと…」
「さっきって?」
「………眠ってる碇君にキスしたこと」
忘れてた。目玉焼きで舞い上がってた。
「あっ、あれね。いいんだよどんどんキスしてくれて」
「…でも碇君、驚いてた…」
「だって、綾波からキスしてくるなんて、多分初めてじゃない?」
「…目が覚めて、シャワーを浴びたの。バスルームから出たら
碇君、まだ眠ってて…だから、碇君の寝顔をずっと見ていた」
「えっ、僕の寝顔?参ったなぁ…変な顔してなかった?」
「……とてもかわいかったから。だからずっと見ていたの」
寝顔がカワイイと言われて、二十代の男はどう反応すべきだろう。
こんな時、どんな顔していいか分からないのは僕になってしまった。
466名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:45:45 ID:???



「…そのうち、碇君にキスしたくなったの。碇君が驚くかも知れない
と思ったんだけど……でも、とてもキスしたくなったの。だから
キスしたの。…ごめんなさい」
「僕にキスしていいのは綾波だけだ。綾波にキスしていいのも
僕だけだ。だから、キスしたくなったらいつでもしていい。僕も
綾波に突然キスしちゃうからさ」
「…なら、今して」
僕は彼女を抱き寄せて、朝の彼女のキスに負けないくらい
長い長いキスをした。
やがて唇を離すと、彼女は今まで見たことがないほどの、最高の
笑顔を浮かべて言った。
「…碇君で、よかった。わたしにキスしてくれる人が、碇君で」
その笑顔を見た瞬間、炎のようなものが全身を貫いた。今か?
今なのか?碇シンジ、今なのか!?……もちろん今だ!
「綾波、僕と結婚してくれないか」
「…碇君、わたし、うれしい…」
そして、その笑顔は、永久に僕のものになった。
467名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/08(木) 19:50:02 ID:???
以上です。>>460さんの「髪の毛の色」にヒントを得て、
また1レスにおさまる短編を書こうと思ったら、えらく
長くなっちゃいました。以上お目汚しまで。
468名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/09(金) 19:24:19 ID:???
>>467
2レス目辺りで早くも死んだw
まさにこんな時どんな顔したらいいのかわからないwww
これだけ甘いと読んでる方が恥ずかしいんだが、また読みたくなるのもまた事実
次は糖質控え目、ちょっぴり大人なアールグレイでよろしくお願いします
469名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/09(金) 19:29:22 ID:???
>>439ですが、ここ数日忙しくて続きがまだ書けてないです
色々とアドバイスがあったんで参考にしてまた投下します
ただ小説を書くのは携帯でうってるので、文章途中で折り返し云々は恐らく無理なのでその辺りはご了承願います
土日頑張って、遅くても15日までは一話終わらして二話に突入する予定です
470名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/09(金) 20:17:45 ID:???
>>468
評価THXです。レイさんの場合、普通の私生活が想像できない
キャラなんで、どうしてもベタベタになっちゃいます。
またよろしく。
471名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/10(土) 11:57:23 ID:???
>>470
ベタベタ歓迎
ガムシロップ1g一気飲みぐらい胸焼けしそうなのを頼む
472ベタ甘注意!:2008/05/14(水) 16:18:38 ID:???
>>466続き


「…碇君、まだ寝てるの…?」

シャワーを浴び、バスルームを出たわたしの目に入ったのは、
わたしが抜け出した時と同じ姿で横たわる碇君。こんな時の
答えはもう知っている。「目覚めるまで待つ」
わたしはベッドの傍らで、碇君を見つめる。

かつてわたしは空虚な世界にいた。色彩のない真っ白な世界。
ずっとそこにいた。幸福も不幸も感じなかった。それが何か
さえ分からなかった。
そこに碇君が現れた。碇君の笑顔が、わたしの世界を掻き
乱した。それからわたしは碇君に関心を抱いた。
笑う碇君。泣く碇君。怒る碇君。色々な碇君に出会うたびに
心を乱された。その感情がわたしの中に入って来て、わたしの
中に「心」が生まれた。そして空虚な世界から引き出され、
この騒々しい世界に放り出された。
やがて、不思議な感情が生まれた。碇君の顔をもっと見たい、
碇君の声をもっと聞きたい、という感情。それからわたしは
碇君をずっと見ていた。そして、あの時…

碇君と彼女が話していた。あの赤い髪の少女。それを見ていた
わたしの中に、またもう一つ、知らない感情が生まれた。
碇君、彼女に笑顔を見せないで。あなたの心を与えないで。
あなたの心はわたしだけに注いで。
でも、どうすればいいか分からなかった。ただ、彼女と話す
碇君をずっと見つめていた。そして、不思議そうな顔の碇君に
言った。あなたは、ずるい。
473名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/14(水) 16:20:22 ID:???
あなたはわたしの中に、こんな感情を投げ込んでおいて
知らないふりをする。わたしは、あなたの顔をずっと見て
いたい。あなたの声をずっと聞いていたい。なのにあなたは
わたしに遠くから微笑むだけ。わたしは、近づいてくれない
あなたを見て苦しむだけ。あなたは、ずるい。

後で、あれは「愛の告白」だと言われた。わたしには、これが
愛なのか分からない。ただ、わたしの心を言葉にしただけ。

それから碇君は、ずっとわたしのそばにいてくれるように
なった。昼も、夜も、わたし達は一緒に過ごした。初めて
唇を重ねたとき、碇君の気持ちがわたしの中に流れ込んできた。
初めて躯を重ねたとき、碇君のいのちがわたしの中に流れ込んで
きた。碇君にキスされるたび、碇君に抱かれるたび、わたしは
ヒトになっていく。

わたしは造られたモノ。別々の魂と肉体が、一つの試験管に
投げ込まれ、わたしが生まれた。わたしの躯はただの入れ物。
でも碇君が、わたしの中の「心」を呼び覚まし、わたしの中に
「いのち」を注ぎ込んだ。碇君に抱かれるたび、わたしのこの
躯は「代わりのあるモノ」から「唯一のもの」に変わっていく。

ゆうべも碇君に抱かれた。碇君の息遣い、碇君の唇、碇君の
指先。全てをありありと思い出せる。全てがわたしの躯に
刻印されている。その刻印が増えるたび、わたしはヒトになる。

眠っている碇君をもう一度見た。その指先を。その唇を。
わたしの頭からつま先まで、その唇が触れていない場所は
ない。その指先が触れていない場所はない。愛おしい。わたしの
躯の全てに触れてくれる、その唇が愛おしい。

わたしは身を乗り出し、愛おしいその唇に、わたしの唇を重ねた…
474名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/14(水) 22:08:08 ID:???
投下GJ!!
プラトニックなのが多いLRSものには珍しく、こういうのもいいね
475名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/15(木) 03:37:47 ID:???
>>474
評価THXです。彼女なら、エロいこともサラっと語るんだろうな
と思って書いてみました。またよろしくです。
476名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/15(木) 11:58:11 ID:???
照れることなく性を語る綾波さん(・∀・)イイ!
477名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/16(金) 00:06:08 ID:jWhHqqe1
http://pyrenees.k-free.net/

綾波マジかわいいよ!
478名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/16(金) 07:33:44 ID:???
>>473
いいね。綾波は純粋だから、性的な事を語ってもいやらしくならない。
479名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/16(金) 20:17:08 ID:???
綾波は純粋そうに見えて実は邪心の塊ですよ
480名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/19(月) 00:52:11 ID:???
>>469
いつまでも待ってるお

  '⌒⌒ヽ       
  ′从 从)    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ヽゝ- -ν  < zzz…(投下したら起こして…)
   ゚し-J゚     \______


481名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/24(土) 20:37:07 ID:???
待ち
482ベタ甘注意!:2008/05/25(日) 18:45:58 ID:???
投下ないから>>473続き


「綾波、僕と結婚してくれないか」
碇君がそう言った。結婚…知識としては知っている。一組の男女が、
互いに相手だけを伴侶とする契約を交わすこと。碇君と結婚…

わたしにその資格があるだろうか。わたしはヒトになったのだろうか。
何もできないわたしが、碇君を幸せにできるだろうか。

自分がヒトになったのかはわからない。わかっていることは、わたしは
碇君の愛を食べる生き物になった、ということ。
もう、あの空虚な世界には戻れない。寂しくて死んでしまうだろう。
碇君の愛を全身に浴びなければ生きられない。そんな生き物に、
わたしはなってしまった。かつて知らなかった愛を、わたしは
知ってしまった。碇君に愛される心の喜びと、碇君に抱かれる
躯の悦びを知ってしまった。もう、碇君のいない世界には生きら
れないわたしになってしまった。
483名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/25(日) 18:46:48 ID:???


でも、わたしには何もできない。こうして、碇君を想うこと以外
何もできない。碇君がくれる愛の代わりに、わたしは碇君に、何を
あげられるのだろう。わたしには、わからない。

「碇君、わたし…何もできないから」
「綾波、僕には君が必要なんだ。君無しではいられないんだ」

…そうか。碇君も、わたしと一緒。愛無しでは生きられないのね。
それなら、この想いを碇君に注ごう。この愛を、碇君の全身に
浴びせよう。それで碇君が生きられるなら、碇君が生き続ける限り、
毎日愛を与えよう。結婚という方法で、それが可能なら、わたしは
碇君と結婚しよう。

「…碇君、わたし、嬉しい」
484名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/25(日) 19:50:29 ID:???
GJ
投下乙
485名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 21:42:12 ID:???
投下まってます
486名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:28:44 ID:???
>>483続き
1.
ピンポーン
夫が帰って来た。わたしは極上の笑顔で出迎える。
「お帰りなさい、シンジさん」
「ただいま、綾な…っとと、レイ」
「もう。いつになったらちゃんと呼んでくれるの?」
「ごめんごめん、怒らないで」
すねたふりをすると、彼は慌ててご機嫌を取りにくる。怒ってなんか
いないけど、彼がわたしに構ってくれるのが楽しい。
「さあ、夕ご飯にしましょ」
今日のメニューは、鰹の叩き、若竹煮、ウドのきんぴら、アサリの
お吸い物。特にウドのきんぴらは自信作よ。
「わあ美味しそう。いただきます」
よほどお腹が減っているのか、子供みたいにかぶりつく彼。
「美味しい!美味しいよ綾…レイ」
「こら」
彼のほっぺをツンツンしてやった。頭をかく彼。こんな何でもない
やり取りがとても嬉しい。わたしは今、とても幸せ。

食後に、彼の好きなアールグレイをいれてあげる。
「ありがとう。レイも座りなよ」
彼の隣に座って、たわいのない話をする。今日会社で何があったとか、
プリンターの紙が切れてるの、なら僕が会社帰りに買ってくる、とか。
「そうそう、今日、鯛をまるごと一尾買ったの。明日は片身を刺身、
もう片身を塩焼きにして、頭とアラで潮汁にしましょう」
「ほんと?じゃあ明日も早く帰って来るよ」
彼がわたしの腰に手を回す。わたしは、彼の手に自分の手を重ねる。
これが「今夜はOK」のサイン。途端に彼はウキウキし始める。現金な
人ね…
487名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:30:05 ID:???
やがて昔の友達の話になる。鈴原君と洞木さんのところはもう二人目が
生まれたとか、セカンドはいつまで独身なのかとか。
「そういえばほら、アスカとトウジとケンスケと洞木と、みんなで
公園に行ったじゃない。あの時トウジと洞木がさ…」

あ、まただ。
わたしを包んでいた幸福感は嘘のように消えた。あとに残ったのは
心のささくれ。わたしはそこには行っていない。そこに行ったのは
前のわたし。

わたし、三人目だから。

わたしの知らないわたしの話を一生懸命にする彼。彼が楽しそうに
話せば話すほど、彼との距離が遠ざかる気がする。

「どうしたの、レイ」
不思議そうな顔の彼。わたしは慌てて作り笑顔を浮かべて
「なんでもない。片付けてくるわ」
と空の紅茶カップを取り上げて、キッチンへ行く。わたしはまた
新しい感情を学んだ。心の中と違う表情を作ると、胸が苦しい。
昔だったら、平気で言えただろう。「碇君、それ、わたしじゃない」
と。でも、今のわたしには、もう言えない。あの頃と違って
今のわたしには、失いたくないものがいっぱいあるから。
蛇口をひねりながら考える。前のわたしと今のわたしは同じなの?
今のわたしは誰?
わたしの知らないわたしを語る彼が、知らない人に見えた。
488名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:31:26 ID:???
「レイ…」
彼が求めてきた。わたしにキスし、そのまま首筋に唇を這わせる。
何か、違う。あれほど愛しかった彼の唇がよそよそしく感じ、あれほど
熱く感じた彼の指先は冷たかった。彼が変わったの?それとも、わたし?
彼がわたしに覆いかぶさる。そして…
「…いやっ!」

わたしは彼を、両手で押しのけてしまった。なぜそうしたのか
自分でもわからない。
「…どうしたの。痛かった?」
「…違うの。ごめんなさい…」
「さっきからおかしいよレイ。何か言いたいことがあるんじゃない?
隠さずに言ってよ。僕に悪いところがあるなら直すからさ」
どうしよう。言ってしまっていいのだろうか。でも言わないと
心が破裂しそう。
「あの…さっきの鈴原君達の話…あれ、わたしじゃない。あそこに
いたのは、前のわたし」
茫然とする彼。彼のそんな表情は見たくなかった。
「ごめん綾波!僕はそんなつもりで…」
うろたえる彼。彼をそんな風にさせたくはなかった。でも、心が苦しい。
わたしは誰なの?彼が愛してるのは誰なの?もう何もわからない。
「綾波、僕は、今ここにいる君が」
彼が、わたしを抱きしめてキスしようとする。わたしは顔をそむけて
キスを拒んだ。
「…ごめんなさい。今日は、勘弁して…」
489名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:33:06 ID:???
2.
「で?なんであたしのところに相談に来るわけシンジ?」
「だって、綾波のことを知ってる友人なんて、アスカしか思い付かな
かったんだよ。その、二人目とか三人目とかさ」
「うーん、これは直接本人に聞いてみるしかないわね。あんたん家に
行きましょ今から」
「ええ!?まずくない?」
「なら最初からあたしに相談しなきゃいいでしょ!行くわよ!」

ピンポーン
「……どなた?」
「オッス!久しぶりねファースト」
「…セカンドなの」
「あんたの亭主が泣き付いてきたのよ。『奥さんを怒らせちゃった
から、なだめてくれ』ってね」
「…怒ってはいないわ…」
「と言いながら、昔の無表情に戻っちゃってるじゃない。今日は
あんたの亭主に手は出さないから、あたしに訳を話しなさい!」
「…」
「シンジ、あんたがいると話しにくいから、ちょっと外を一回りして
来なさい!一時間は帰って来ちゃダメよ」

・一時間後
ピンポーン
「はい、お帰り!」
「…アスカ。綾波は?」
「落ち込んじゃってるから、代わりにあたしがお出迎えよ。あんた、
二人目と三人目を取り違えたんですって?このバカチンが!」
「…ごめん」
490名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:34:46 ID:???
「こっち来て座んなさい。今ファーストと話したけど、問題はそう
単純じゃないわね。もちろんバカシンジの間違いが最大の原因だけど
ファーストの心の問題もあるわね。アイデンティティクライシスってやつ?」
「…どういうこと?」
「まあ、うんと要約して言えば、ファーストも人間になってきたって
ことよね。人形は『自分は何者か』なんて悩まないから」
「…で、どうすればいいのアスカ?」
「それについて、今ファーストを説得してたところ。ズバッと言えば、
あんたら別居しなさい!」
「イヤだよ!僕は綾波と離れるなんてイヤだ!」
「…ねぇシンジ、あんたらには冷却期間が必要なの。一人になって
自分を見つめ直す時間が、今のファーストには必要なの。今二人で
顔を付き合わせてたら、ますますこじれるわよ」
「…でも」
「シンジ。本当なら『自分は何者か』なんて悩みは思春期のうちに
済ませておかなきゃいけないの。あたしらは、それが使徒戦役と
重なったからあんなことになっちゃったけどね。だけど、あの頃の
ファーストは白紙。赤ん坊みたいなもんだったから、今からそれを
やらなきゃいけないの。わかってあげて」
「……」
「さあ、そうと決まったら荷造りよ!ファースト、とりあえず
二、三日分の着替えや身の回りのものをまとめて鞄に詰めなさい!」
「…」
「仕方ないわねぇ。あたしがやったげる。シンジ、ファーストの
タンスはどこ?」
「待ってよアスカ。綾波をどこに連れてくの?」
「あそこがいいわ。402号室」
491名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:37:17 ID:???
3.
セカンドは、わたしを強引に引っ張って、あの部屋に連れてきた。
見慣れた、でも懐かしさを感じないあの部屋に。ここはあの時の
まま。わたしがここを出て彼と一緒に暮らし始めた、その時のまま。
「何これ、あんたがいた時そのままじゃん。あんた、シンジのとこに
何も持って行かなかったの?」
「…捨てて惜しいものは、何もなかったから」
「ちょっと埃がひどいけど、ベッドのシーツを裏返せば一晩ぐらいは
凌げるでしょ。必要なものがあったらあたしに電話して。あんたん家
から取って来てあげる」
「…セカンド、あの」
「いい、ファースト。これは、夫婦間の問題というよりあんた自身の
問題なの。ここで一人で考えて、何をどうしたいか決めなさい。じゃ」
…行ってしまった。考えろと言われても、頭がごちゃごちゃして
もう何が何だかわからない。とりあえず寝る準備をした方がよさそう。
眠れないと思うけど…
鞄を開けてみた。何これ、下着ばかりじゃない。セカンドがタンスの
中のものを適当に詰め込んだのね。黒いものが一枚出て来た。彼の
靴下の片方だけ。なぜこんなものが紛れ込んでいるの?その靴下を
見ていると、彼を思い出した。急に涙が溢れた。わたしはベッドに
突っ伏して、泣いて泣いて、泣き尽くした。

4.
目が覚めた。眠ってしまったらしい。これが泣き寝入りか。今は…
朝の八時か。普段なら、彼を会社に送り出したしたあと、朝食の
後片付けをしている時間。彼はちゃんと朝食をとったかしら。
遅刻しないように出掛けたかしら。
492名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:39:03 ID:???
改めて部屋を見回す。今見ると、殺風景な部屋。まるで牢獄。
かつてここで暮らしていて、彼と出会った。そしてここを出て、彼と
暮らし始めた。こことは違う、毎日が驚きと喜びに溢れた生活。
もう、あの頃には戻れないのかしら。
そして、二人目のことを思い出した。彼が初めて出会った『綾波レイ』。
彼を守って死んだ人。わたしの知らない彼を知っている人。わたしは
彼のために死ねるだろうか。そういえば、彼女もここで暮らした
はず。彼女はここで何を考えたのだろう。
…いいえ、きっと彼女もわたしと一緒。彼の笑顔に惹かれて、感情を
覚えたに違いない。百人の『綾波レイ』がいても、百人とも彼に
惹かれるはず。なんだ、結局わたし達は同じなの?わたしは、百人の
『綾波レイ』の代表?
彼の笑顔を思い出した。そう、わたしがここを出たのは、彼の笑顔を
ずっと見ていたかったから。
ゆうべセカンドが言った。「何をしたいのか決めろ」って。今のわたしは
何をしたいの?やっぱり彼の顔を見ていたい。彼の声を聞いていたい。
わたしのごちゃごちゃした考えは、グルッと一周して、結局スタート
地点に戻ってしまった。
もう、わたしが誰でもいい。彼が愛するのが誰でもいい。わたしは
彼のそばにいたい。空虚なこの部屋にはいたくない。帰ろう。わたしと
彼の部屋に帰ろう。あそこがわたしの居場所。あそこがわたしの故郷。
493名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/27(火) 23:39:46 ID:???
鞄を提げて402号室を出た。階段を下りて、表に出る直前。一階の
階段に誰かが座っている。壁に寄り掛かって眠っている。
「…碇…君?」
その呼び名が自然に出た。あの頃の呼び名が。彼が目を開けた。
「…あ、綾波!ごめん、アスカには、絶対顔を見せるなって言われて
たんだけど、心配で…」
不安げな彼。なんだ、不安だったのは二人とも一緒。相手を求める
気持ちも、きっと一緒。だからわたしは、心からの、極上の笑顔を
浮かべて言った。
「碇君、おうちに帰ろ?」
彼はわたしを抱きしめて、子供みたいに泣き出した。
【終わり】
494名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 00:06:32 ID:???
ええ話やなぁ

GJですた
495名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 00:13:57 ID:???
なんかね、微妙。
496名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 00:21:16 ID:???
俺もいまいちだった。文章力は悪くないんだけど、レイの造形が好みじゃない。なんかカマトトいうか
年齢不相応いうか。
497名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 03:49:48 ID:???
カマトトいいよカマトト
もっと書いてください
498名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 04:17:01 ID:???
つか綾波における年齢相応とは何か、三行で述べよ。単なる
無口な女になるんでね?
499名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 07:46:27 ID:???

うん。GJだ
500名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 11:17:25 ID:???
> 「碇君、おうちに帰ろ?」

すまんここで勃起した
 髪をそっと撫でてみる。
「……何?」
 疑問が遅れてやって来る。僕はそれを受け流す。
 綾波の、透き通るように蒼い髪をまた撫でる。
 人形のように白い彼女の頬に、明りが灯るように赤い色が刺した。
 可愛いと思った。
 愛しいと思った。
 言葉にせず、ただ髪を梳いていた。
「……碇君」
 見た目からすれば、口付けには遠いような行為だけど、
 心と心を触れ合わせてるような時間が流れている気がする。
 他人の心なんて、本当の意味で理解なんて出来ないはずなのに、そう思う、
 そう感じる。
「ねぇ、綾波」
 指の隙間を潜っていく彼女の髪、木漏れ日のように掌から零れていくけど、
 何度もすくいあげた、何度も確かめた、髪の感触とか、そういう意味じゃなくて、
「綾波は――」
 彼女にこうして、許されるという自分を。
 幸せを。

 彼女の髪に触れるのは、月の光と僕の指。
502名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/31(土) 00:15:25 ID:???
投下GJ投下GJ投下GJ
         投下GJ
         投下GJ
投下GJ投下GJ投下GJ
投下GJ
投下GJ     投下GJ
投下GJ投下GJ投下GJ
503名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/06(金) 02:51:44 ID:???
ちょっと実験。BGM付き。
ttp://jp.youtube.com/watch?v=ZIHSFpLXXX4


顔に光が差した。僕は目を覚ました。隣にいるはずの彼女がいない。
目をやると、窓辺に彼女は立っていた。外は満月。その煌々たる
月明かりを全身に浴びて、彼女は月に見入っていた。僕のベッド
から抜け出したままの、一糸纏わぬ姿で。
彼女は月が好きだ。夜、月に見入る姿を見たのは初めてではない。
彼女はいつも無心に、いつまででも月を眺めている。なぜそんなに
月に惹かれるんだろう。彼女には、僕の知らないことがたくさんある。
だけど、彼女には月が似合う。ひそやかで清洌な面差しには、蒼白い
月の光が相応しい。
僕は、月明かりに縁取られた彼女の後ろ姿に見入っていた。

初めて彼女を抱いた時、その華奢なことに驚いた。その肩の細さに、
硝子細工、なんて言葉も頭に浮かんだ。でも、彼女と暮らし始めて
二年。彼女は少しずつ、女の躯になっていく。細かった肩は丸くなり、
腰は美しい曲線を描くようになった。
彼女がこちらを振り返る。目と目が会った。
「…ごめんなさい、起こしてしまった?」
「いや、君の邪魔はしたくなかった。君が月を見ていたから、僕は
君を見ていたんだ」
「…私を見て、どうするの?」
「美しいから」
「…意地悪。私はこの躯が嫌い。醜いから」
「僕は君の躯が好きだな。きれいだから」
「…嘘」
「嘘じゃない。君は美しい。僕は君の、素直できれいな心と美しい躯に
惹かれて、離れられない。だから君も、自分の躯を愛して。お願い」
僕は立ち上がり、彼女の躯を抱きしめた。
504名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/06(金) 07:39:06 ID:???
うん、投下乙

GJ
505名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 16:00:55 ID:???
>>503
音楽もSSに似合っていい感じ。GJ!
506名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 18:34:36 ID:???
ありがとう。もともと、この曲が綾波のイメージだと思って、曲に合わせて
SSを考えた。また何か考える。
507名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 18:48:14 ID:???
すまん、ニ曲入りだったな。このSSは一曲目のイメージ。クールなレイさんかな。
ニ曲目でラブリーなレイさんも書きたいなあ。
アルバムタイトル「UNDERCURRENT」(底流、深層海流)もなんか綾波ぽい
508名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 00:15:59 ID:???
>>469
509名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/12(木) 03:21:40 ID:???
すまん、懲りずに書いたBGM付きSS第二弾。痛甘になってしまった。
曲は「愚かなり我が心」
ttp://jp.youtube.com/watch?v=eFRsgGF80To


今日、彼の葬儀が終わった。発病から三ヶ月。あっという間の出来事
だった。夕食後、お腹が痛いといって戻し、私が呼んだ救急車で運び
込まれた病院で、若年性胃癌と告げられた。既に末期で手の施しようが
なく、三ヶ月の闘病の後、亡くなった。お医者様が言うには、早くから
自覚症状があったはずだと。私は気付いてあげられなかった。彼はまだ
24歳だった。
病床で、彼は「ごめん」を繰り返し、その度に私は本気で怒った。あなた
は悪くない。なぜ謝るのと。若いから病状の進行も早く、日に日に
彼は痩せ衰えていった。そして、私の目にも、彼はもう長くないと
思え始めた頃から、私は彼に毎日言った。あなたと過ごした十年間、
私は本当に幸せだったと。あなたと会えて嬉しかったと。その度に
彼はまた「ごめん」と言った。そのうち昏睡状態になり、彼は息を
引き取った。

葬儀も終わり、二人の部屋に残されたのは、私と骨壷。碇くんは、
こんなに小さな箱の中にいる。それを見つめる私の心に、なぜか
悲しみは湧かない。そこにあるのは、空虚さ。
自分の中がからっぽになった気がする。私の唯一の寄る辺、唯一の
居場所だった人はもういない。
510名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/12(木) 03:24:15 ID:???
でも、私は泣かない。泣いてはいけない。私の中に、新しい生命が
宿っているから。唯一の救いは、彼が逝く前に、そのことを告げられた
こと。彼は私のお腹を撫でようとしたが、もう腕が上がらなかった。
だから私は彼のやせ細った手を取って、私のお腹を撫でさせた。
この子はたぶん、彼の発病前、最後に抱かれた時の子。最後に彼は
最高の置き土産を置いていってくれた。
だから私は、泣くわけにはいかない。私がこの子の寄る辺、この子の
居場所にならなければいけないから。

彼の机を整理していたら、きれいにラッピングされた小箱が出てきた。
引き出しの一番奥に、隠すように押し込まれていた。誰へのプレゼント
なのか、開けるのが怖かった。私じゃない人へのプレゼントだったら?
もう逝ってしまった彼を憎むなんてイヤだった。

数日の躊躇のあと、結局私はその小箱を開けた。置いておいても、気に
なるばかりだったから。
出てきたのは、きれいなコサージュ。
…思い出した。誰かの結婚式に列席した時、私はコサージュを持って
いなかった。結局、アクセサリー女王の弐号機パイロットに頼み込んで
コサージュを借りたっけ。だから彼は、私にこれを贈るつもりだったの
かしら。添えられた小さなカードを見て、私は可笑しくなった。
511名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/12(木) 03:25:00 ID:???
『from S.I.to R.A.』
私はとっくにR.A.じゃなくてR.I.…碇レイなのに。
彼は時々、私を「綾波」と呼んで、その度に私は拗ねて見せた。
結局最後まで間違いっぱなし。
声を出して笑ったつもりなのに、手にしたコサージュに、ポタリと熱い
雫が落ちた。私は、バカだ。
もう逝ってしまった彼を疑い、疑心暗鬼に陥るなんて。泣くまいと
誓ったのに、大粒の涙が溢れて止まらない。私にはもう、拗ねて見せる
人がいない。困り笑顔でなだめてくれる人がいない。私はコサージュを
胸に抱いて、声を出して泣いた。

ひとしきり泣くと、心が鎮まった。ごめんなさい、私の赤ちゃん。
ママが泣いていたら、あなたも悲しくなるものね。もう、泣かない。
あなたが大きくなったら話してあげる。あなたのパパが、どんなに
素敵な人だったか。どんなに優しい人だったか。どんなに料理が上手
だったか。どんなに皆に信頼されたか。どんなにママを愛してくれたか。
だから、心配しないでおいでなさい。パパとママが守った、この世界へ。
【終】
512名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/13(金) 22:12:14 ID:???
あう…悲しい…………投下乙
513名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/15(日) 08:53:58 ID:???
叩かれるかもだが、やはり綾波さんには薄幸がよく似合う。
514名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/15(日) 15:53:10 ID:???
本編があれだからなあ
515名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/15(日) 19:56:50 ID:???
仕方ない。綾波の属性は「純粋」「健気」だから。そういうキャラは
不幸になるのがドラマの定番。
しかしビル・エヴァンスはいいな。内省的なのが綾波に合うのかな。
516名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/16(月) 09:31:15 ID:???
ありがとう。この曲を聞いて「…私、バカね」とつぶやく綾波さんのイメージが
湧いて、最初に書いたのはラブラブSSだったが物足りない。この曲に合うのは
喜びでなく悲しみだと気付いて書き直した。またよろしく。
517名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/16(月) 20:20:25 ID:???
しつこく三発目。悲しいのは書いてる本人も凹むので、今度はハッピー。
ttp://jp.youtube.com/watch?v=dH3GSrCmzC8


目が覚めた。何時かしら。六時か。起きなきゃ。
いつも通り、彼を起こさないようにそっとベッドを降りる。寝室を出て、
シャワーに直行。昔ほどではないけれど、相変わらず朝は苦手。朝はまず
シャワーを浴びて体を温めないと目が覚めない。
最近彼も疲れ気味みたい。係長に昇進できそうだなんて張り切っていたけど、
あまり忙しくなって一緒に過ごす時間が減るのはいや。仕方のないことだと
分かってはいるんだけど。
真面目で誠実なのが彼のいいところだし、だから皆に信頼され、愛される。
でも会社や世間に彼を取られるのはいや。私の分も、ちゃんと残しておいて
欲しい。
でもこれ、矛盾してるかな。私が彼を好きになったのも、結局はそこ。この
人は誠実で、私を裏切らない、ずっと傍にいてくれる人だと思ったから
心を許した。だけど、誠実な人は会社でも引っ張り凧みたい。一緒の時間が
少しずつ減っていく。どうしたらいいのかしら。
一緒の時間が減るなら、単位時間当たりの密度を高めるべきね。ずっと彼に
くっついて、猫みたいにじゃれつこうかしら。

シャワーを浴びて、身支度したら朝食の準備。いつもはトーストに目玉焼きか
ご飯とお味噌汁かだけど、今日は目先を変えてアメリカ風ブレックファースト
で行こうと決めていた。パンケーキに焼きベーコンとスクランブルエッグを
添えて、メープルシロップを掛けて戴く。サラダもアメリカ風にコールスロー
にして、飲み物はコーヒー、ミルク、オレンジジュースと三種類揃える。
なにしろ彼は、こと料理に関してだけはうるさい人だから、こちらも工夫を
しなきゃ。
518名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/16(月) 20:21:41 ID:???
「…おはよー綾波」
「おはよう、碇くん」
「あれ、今日の朝食、いつもと違う?」
「顔洗ってらっしゃい。顔を洗わない人はご飯抜きよ」
慌てて洗面所に飛んで行く彼。私の前では、あの頃と少しも変わらない。

「「いただきます!」」
パンケーキにむしゃぶりつく彼。さあどうだ。
「…美味しい!美味しいよ綾波!…ホントに料理が上手くなったなぁ」
「えっへん。まいったか」
「まいりました。…でも綾波って努力家だよね。結婚当初は、どうなること
かと心配だったけど」
「人は成長するものよ。私も成長する。だって私はヒトになったんだもの」
「…綾波」
彼は私の手を握って、私の目を見つめる。いい雰囲気。でも、残念だけど
タイムリミットよ。
「碇くん。そろそろ支度しないと遅刻じゃない?」
「えっ?あっ、いけね!」
彼は慌てて残りの朝食を掻き込んで、そそくさとテーブルを立つ。私もついて
いって、支度を手伝う。この人が慌てるとろくな結果にならないので、私が
チェックしてあげないと。初号機のサポートは私の得意分野だもの。
「…じゃ、行って来るよ綾波。今日は早く帰れそうだから」
「碇くん、忘れ物」
キョトンとする彼。この忘れ物はノーヒントよ、碇くん。
「…あっ、そうか」
慌てて私を抱き寄せ、お出かけのキス。『挨拶とキスはきちんとしよう』
これが結婚の時の約束だもの。
「じゃ、行って来る」
「行ってらっしゃい、碇くん」
519名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/16(月) 20:23:30 ID:???
彼が出勤したあと、朝食の片付け。そのあとはお洗濯。これが私の、毎日
変わらないスケジュール。洗濯機を回したらお掃除ね。
そういえば、結婚式の時に弐号機パイロットが言ったっけ。
「あんた、こんな退屈な男と結婚したら、すぐ飽きるわよ」
棘の混じった言葉に、私はにっこり笑って答えたっけ。
「私、退屈な男が好きなの」
あれは、半分はセカンドのイヤミへのお返しだけど、半分は本音。
私はもう、刺激も波乱もいらない。そんなものは、あの頃にいやというほど
体験した。今の私が望むのは、昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
あの頃はどんなに求めても得られなかった「普通の一日」が、今はたやすく
手に入る。だから私は、この平凡な一日がたまらなく愛おしい。そして、
私に平凡な一日を与えてくれる人が、たまらなく恋しい。
だから、その人のために料理をして、洗濯して、掃除する。あの頃は盾で
彼を守ったけど、今は盾の代わりにフライパンや掃除機で彼を守る。だって、
二人で作ったこの家が私たちの世界。私たちの唯一の居場所だもの。

洗濯物を干し、掃除も一段落。ちょっと休憩してお茶にしましょう。今日は
ちょっと贅沢して、プリンスオブウェールズ。
紅茶を飲んで一息。今日は二時間ぐらいお昼寝できそう。
あれは、もうすぐ大学四年になる春休みのこと。彼が私に『就職はどう
するの?』と聞いた。私は少し腹が立って『私、三食昼寝付きがいい』って
答えたっけ。しばらくキョトンとしていた彼は、やがて顔を真っ赤にして、
『…じゃあ、卒業したら結婚しようか』って、やっと言ってくれた。ずっと
待っていたのに、気付くのが遅すぎ。あとで彼は『君が三食昼寝付きなんて
言葉を知ってるとは思わなかった』なんて言うから、『私がいつまでも世間
知らずのお人形さんだと思ってるの?』って言ってやったら、彼はぎょっと
していたっけ。だけど、やっぱり私には会社勤めなんて無理。知らない人に
会うのも苦手だし、朝は弱いし、無理に早起きした分を昼寝で補わないと
体がつらい。世間という厄介な敵と戦うのはエースの初号機パイロットに
お任せして、サポートに徹するのが零号機には向いてるのね。
520名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/16(月) 20:24:29 ID:???


そうだ、決めた。午後は病院に行って来よう。狂ったことのない生理が、
一ヶ月ほど遅れてる。今日は朝から、何となくいいことがありそうな気が
してるの。今日なら、いい診断結果が聞ける気がする。
『いいことありそう』なんて、昔の私なら「不合理だわ」の一言で片付けた
だろうけど、今は違う。人間なんて、不合理と矛盾の塊だもの。理性と感情、
善と悪。対立したものを同時に含むのが人間。今の私は、自分もその人間の
一人だと、はっきり言える。だから私は、不合理を楽しむことにしたの。
刺激も波乱も嫌いだけど、いい意味での波乱ならもちろん大歓迎。今日は
その『いい波乱』が起きますように。祈りを込めて、お腹をさすった。
【終】
521名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/18(水) 17:21:49 ID:???
GJ!投下乙
522名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/24(火) 18:32:33 ID:???
投下おつです
523名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/28(土) 20:53:39 ID:???
干す
524名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:07:44 ID:???
もうBGMもあまり意味ないが惰性で
ttp://jp.youtube.com/watch?v=9HcqW-TDLMk


使徒戦役終了後、アスカはドイツに帰り、ミサトさんと二人暮らしに
なった。その頃からミサトさんの外泊が増え、加持さんとの結婚も
近いなと察した僕は『高校入学を機会に自立したい』と申し出た。
ミサトさんは「あんた、なに気ィ回してんのよ!」と照れ隠しみたいに
言ったけど、やがて「…ごめん、いま加持から結婚申し込まれてるの。
…気を使ってくれてありがとう」と白状した。一足早いおめでとうを
言って部屋に戻った僕は、早速端末で賃貸物件を検索してみた。
どんなところに住もうかな。一人だし、ワンルームでいいかな。
ふと綾波の顔が浮かんだ。彼女はいつまであの廃墟みたいな団地に
住むつもりだろう。戦役後、第三新東京市は要塞都市の面影も薄れ、
人口急増中だ。あの団地にも再開発計画が持ち上がっている。綾波も
いつまでもあそこには居られないはずだ。どうするつもりだろう。
いま僕は、週に二、三度は綾波の部屋にご飯を作りに行っている。
今度行った時にそれとなく聞いてみよう。というか、出来ることなら
綾波と一緒に住みたい。僕のいない時、彼女がどんな食生活をしているか、
とても心配だ。もちろんそれ以外にも期待することはある訳だけど。

翌日、僕は綾波の部屋に行った。二人で下校し、スーパーで買い物して
402号室に行き、夕飯を作って二人で食べた。そして
「デザートが食べたい」
「…馬鹿」
という、いつものやり取りのあと彼女を抱いた。
「綾波は甘酸っぱくてジューシーで、本当に果物みたいだね」
と言ったら頬をつねられた。
525名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:09:11 ID:???
終わったあとは腕枕して、彼女の髪を撫でる。彼女は気持ち良さそうに
目を閉じる。
「…僕さ、高校に行ったら、ミサトさんの所を出て自活しようと思う」
「…そう」
「…綾波と二人で暮らしたいなぁ…」
途端に彼女は目をパッチリ見開き、僕の顔をジーと覗き込む。
これは脈ありかも。
「綾波、二人で暮らさないか?」
「…うん。私も碇くんと暮らしたい」

好きな娘に「一緒に暮らしたい」と言われたら、頑張らなきゃ男じゃない。
僕は物件探しと平行して、各方面の調整に走った。まずはミサトさん。
「何あんた、自分がレイと暮らしたいから出てく訳?シンちゃんも中々
やるようになったわねん」と言いながらも「レイを幸せにしてやんな
さいよ」と応援してくれた。
次はリツコさん。「あら同棲?シンジ君も成長したわね」とあっさり了承。
さて難関は冬月先生。父さん亡きあとのNERV司令にして僕と綾波の保護者。
冬月先生の承諾なしに綾波とは住めない。ミサトさんに頼んでアポを取って
もらい、綾波を連れて司令室を訪ねた。
「…おお二人とも、久しぶりだな」
「お久しぶりです冬月先生。今日はお願いがあって参りました」
「何かね」
「僕は、今までミサトさんの所に居候していましたが、高校入学を機に
自活しようと思います」
「うむ」
「で、綾波の今住んでいる団地も再開発で取り壊しらしいんです。そこで、
この際綾波と二人で暮らしたいと思いまして、彼女にそう話したら同意して
くれました。で、冬月司令の許可を頂きに参りました」
526名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:10:48 ID:???
「ほう、同棲か。早過ぎはせんかね」
「…確かに世間一般では高校生で同棲は早いかもしれません。でも僕らには、
決して早いとは思いません」
「うーむ…葛城君はどう思うかね」
「私は構わないと思います。シンジ君はしっかりしてますし、何よりレイが
強く希望していますから。ねぇレイ?」
「…はい…ポッ」
「赤木君も賛成かね?」
「もちろんですわ。幸せになるのに早過ぎるなんてことはありませんもの」
「…そうか。女性陣が賛成なら、私は何も言わんよ。許可しよう」

こうして僕らは一緒に暮らすことになった。引っ越しの日、綾波はスポーツ
バッグ一つを下げてやって来た。彼女の引っ越しはそれで完了。僕だって
たいした荷物はなかったけど、彼女の私物の少なさは相変わらずだった。
引っ越しが午前中で終わってしまったので、午後は二人で日用品の買い出しに
行った。洗剤、トイレットペーパー、食器類…そうだ、鍋釜もない。山の
ような買物を抱えて家に戻ると、もう夕方だった。夕食は手早く野菜炒めで
済まし、彼女はお風呂に入った。僕は自室で荷物整理。
そう言えば、彼女の部屋には何もない。着替えしか持って来なかったんだ
から当然だけど。僕がいろいろ買ってあげないとダメかな。
「…碇くん、お風呂、空いた」
「うん、ありがとう」
彼女はパジャマ姿だった。風呂上がりに裸でうろうろしないで、と彼女に
言っておいたけど、ちゃんと約束を守ってくれてるみたい。
527名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:13:15 ID:???
風呂から上がって自室に戻ると、僕のベッドに綾波が座っていて、僕を見て
微笑んだ。
「…碇くん、もう、寝よ?」
「えっ、あの…あっ、よく考えたら、綾波の部屋には布団もベッドもない
よね!?明日買って来なきゃ!」
「…どうして?必要ないわ」
僕を見つめる彼女の目には少し不満の色が。
「じ、じゃあ、これからは毎日一緒に寝ようか」
「…うん」
彼女は極上の笑顔で頷いた。

結局、僕の部屋も綾波の部屋も、物置兼更衣室みたいになった。僕らは
カーペットを敷いて低いテーブルを置いただけのリビングで、二人でずっと
過ごすようになった。本を読むのも、勉強するのもそこ。僕のベッドは
シングルで狭いので、夜もリビングのカーペットの上に布団を敷いて寝る
ようになった。

最初の頃、テーブルの向かい側に座っていた綾波は、やがて僕の隣に座る
ようになり、さらに体をピッタリくっつけてくるようになった。僕も最初は
恥ずかしかったけど、離れて座ると彼女が不機嫌になるので、今は自分から
彼女にくっついて座るようになった。実際、そうやってお互いの存在を
感じながら過ごすと、とても心が落ち着く。彼女が本を読んだり僕が勉強
したりと別々のことをしていても、彼女と触れ合っていると安心する。顔を
上げなくても、勉強に集中しながらでも、綾波の存在を直接感じ取れる。

「いかり、くん?」
「なに、綾波」
「…私、お腹減った」
時計を見ると夜十時。今日は少し早目に夕食を取ったから、お腹がすくのも
無理はない。そういえば僕もちょっと腹が減った。
528名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:15:42 ID:???
「わかった、何か作るよ」
といっても、たいした食材はない。卵に葱にちりめんじゃこ。そうだ、冷や飯
が残ってるから、チャーハンにしよう。僕が料理を始めると、綾波が側に来て
僕の手元をじっと見つめる。
フライパンに油を熱くして刻み葱を投入。香りが出るまで炒めたら卵を投入。
さらにご飯を投入してほぐし、じゃこを投入。塩胡椒と中華調味料で味付け
して出来上がり!

「おいしい…」
綾波が嬉しそうにつぶやく。
「そう、よかった」
「碇くんて、やっぱりすごい…」
「誉め過ぎだよ」
「ううん、こんなおいしいものを、あっという間に作ってしまう碇くんは
すごい」

後片付けは、綾波が一人でやると言い出したので任せた。食器を洗い終えた
彼女は隣に座って、僕にもたれ掛かってくる。僕は彼女の肩に手を回した。
「…私、碇くんのご飯が毎日食べられて嬉しい。寝る時も、毎晩腕枕して
もらえて嬉しい。私、これからもずっと、碇くんのそばにいていい?」
「一生そばにいてよ」
「…いいの?」
「綾波に、そばにいて欲しいんだ。他の人じゃダメなんだ」
「…嬉しい」
529名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:17:02 ID:???
僕は綾波を抱き寄せてキスした。少し不安になって、彼女に確認した。
「あのさ、今の、プロポーズなんだけど」
「…私だって、それくらい分かる」
ちょっと膨れる彼女。
「じゃ、その、OKなの?」
「…もう少し、待って」
「待ってって…?」
「…私が、碇くんみたいに、おいしいご飯を作れるようになるまで。
碇くんが、私のご飯無しではいられなくなるまで。だって、悔しいもの…」
「悔しいって…」
「…だって私、もう碇くんのご飯無しではいられないもの。碇くんのご飯
しか食べられないもの。悔しいから、碇くんもそうしてやりたいの」
「…楽しみにしておくよ、綾波のご飯」
僕は彼女にもう一度キスをした。
【終わり】
530名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/02(水) 21:30:52 ID:???
ヾヽゝo゚ω゚oνノ゙投下乙
531名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/03(木) 11:38:44 ID:???
それくらい分かる綾波さんカワユス
532名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/07(月) 07:29:39 ID:???
保守
533名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/07(月) 16:55:42 ID:???
投下乙!
>「綾波は甘酸っぱくてジューシーで、本当に果物みたいだね」
なんかシンジがエロオヤジみたいな事言ってるw
534名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:36:06 ID:???
まだまだ続編。BGMは「昼も夜も」
ttp://jp.youtube.com/watch?v=FYcXb23J60Q


「…綾波と二人で暮らしたいなぁ…」
彼がぽつりと呟いた。彼の胸に頬を寄せ、彼の手が私の髪を撫でる。
至福のひと時に浸っていた私の耳に、彼の言葉は遠雷のように響いた。
彼と一緒に暮らす…私が何度も夢見たことを、彼は何でもない事のように
口にした。

全てが終わった後、彼は頻繁に私の部屋に来てくれるようになった。嬉し
かった。幾度目かの訪問の時、彼は私に口づけしてくれた。嬉しかった。
そして幾度目かの時、私は彼のものになった。嬉しかった。
でも、楽しい時はいつか終わる。夢のようなひと時を私に与えてくれた後、
彼は私が一番聞きたくない言葉を口にする。
「じゃ、帰るから」
その言葉を耳にするたび、私の胸に痛みが走る。あなたのいない時間は嫌い。
あなたのいない部屋は嫌い。彼のシャツの裾を握って離さず、困らせたりした。
「また来るからさ」
彼は一生懸命私をなだめてくれた。でも、あなたが次に来る時まで、私は
あなた無しで過ごさなければいけない。私をこうしたのはあなた。私の中で
あなたを求めて泣き叫ぶ『こころ』をくれたのはあなた。
あなたと一つになりたい。からだもこころも一つになりたい。それが私の望み。
なのにあなたは立ち去ってしまう。私に背中を向けて遠ざかるあなたが
憎らしくて、愛しくて、涙が零れた。
535名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:37:48 ID:???
「綾波、二人で暮らさないか」
二人で暮らす…もう、彼の背中を見送らなくていい。夜、彼と共に眠り、
朝、目覚めた時に彼がいる。
もう、あなたは帰らない。あなたの帰るところは私のそば。私があなたの
居場所。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
「…うん。私も碇くんと暮らしたい」
私達は二人で暮らすことになった。

引っ越しの前の晩、私は荷物を整理した。高校の制服と、彼とお揃いの
パジャマと、下着類と、文庫本が数冊。私の持ち物はバッグ一つに収まった。
この部屋で過ごすのも、今夜が最後。見慣れた部屋。でも愛着のない部屋。
碇くんが来るようになってから、少しは掃除や整頓にも気を使うように
なったけど、相変わらず寒々しい部屋。
私の居場所はここじゃない。私の居場所は碇くん。あなたの微笑みの見える
場所、あなたの声の聞こえる場所、あなたの指が届く場所、あなたの匂いが
する場所が、私の居場所。
明日、私はそこに行く。願わくは、そこにずっといられますように。
出来るならば、永久にいられますように。

翌朝、私は402号室を出た。たぶん私はもう、ここには二度と来ない。私は
自分の過去をこの部屋に置いて行く。欲しいのは未来。彼と二人で作る未来。

電車に乗って、私達の新居のマンションに着いた。もう、引越しのトラックが
荷卸しをしている。
「綾波、来たの」
「碇くん…」
「上がって。綾波の部屋はこっちだよ」
六畳の洋間。私は造り付けのクロークに制服を掛けた。それで私の
引っ越しは終わり。彼の部屋に行ってみる。
536名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:39:21 ID:???
「…終わったの?」
「うん、単身パックだし、荷物少ないから。少し早いけどお昼にして、
午後は買物に行こうか」
彼はバッグから包みを取り出す。中からはおにぎりが現れた。こんな時にも
お弁当なんて、いかにも彼らしい。
ペットボトルのお茶と、碇くんのおにぎり。おいしい。嬉しい。

午後は二人で買物に出た。全くの新生活だから、買うものはいっぱいある。
「とりあえず、当座必要なものだけにしようよ。後は必要な時に揃えれば」
「そうね」
洗剤、トイレットペーパー、ティッシュ、食器類、鍋やフライパン。
彼のショッピングカートはたちまちいっぱいになった。
「…食器や鍋は明日でいいんじゃないかしら」
「ダメ」
私の問いに彼は即答。
「…僕、決めたんだ。綾波と暮らせるようになったら、一日三食、全部僕が
作るって。…綾波に、きちんとした食生活をしてもらいたいから。綾波には
健康で長生きしてもらわなきゃいけないから」
「…ありがとう、碇くん」

大荷物を抱えて、私達は家に帰った。
「結構遅くなっちゃたね。すぐ夕飯の支度するから」
「私も手伝う」
「じゃあさ、モヤシの頭と尻尾を取ってくれない?手間はかかるけど、これを
やっとくと、味が違うんだよね」
「わかった」
私は一本ずつ、モヤシの頭と尻尾を手でちぎる。これが、彼との初めての
共同作業。ブチブチッ ポイ ブチブチッ ポイ
「…すごい。早いね綾波。手先が器用なの?」
「単純作業だもの」
「今度からモヤシは綾波にお任せだね」
私にできること、ひとつ見つけた。嬉しい。
537名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:41:19 ID:???
「綾波、汗かいたでしょ。先にシャワー浴びちゃってよ。あ、ついでにこれ、
バスルームに置いといて」
「わかった」
私は、渡されたシャンプーや石鹸を持ってバスルームに向かった。そうだ、
いけない。自分の部屋に戻って、替えの下着とパジャマを持ってきた。
碇くんとの約束『裸でうろうろしない』

シャワーを浴びる。今日は疲れた。でも、一日中ドキドキワクワクして
嬉しかった。今日から、碇くんと一緒。この家が、私の居場所。
『綾波には健康で長生きしてもらわなきゃ』
彼の言葉が蘇る。健康で長生きなんて、考えたこともなかった。でも、私は
昔の私じゃない。未来を造るって、たぶんこういう小さなことから少しづつ
始めること。
私、決めた。普通の女の子になろう。炊事や掃除や洗濯を覚えて、彼と二人で
普通に生きよう。たぶん彼も、それを望んでる。
碇くんと一緒にいたい。できるなら一生いたい。それが私の望み。

「碇くん、お風呂、空いた」
「うん、ありがとう」
彼がお風呂に入ったあと、私は彼のベッドに座る。初めての一日も、もうすぐ
終わり。私の夢見た未来の第一日。おにぎりを食べてモヤシをちぎった一日。
明日もこんなに楽しい日ならいいのに。
碇くん。優しい人。穏やかな人。何かに怯えている人。その怯えを取り除く
のは私。彼を包み、癒し、許すのは私。
私。空虚な女。なりたてのヒト。私に注ぎ、満たし、揺り動かすのは碇くん。
538名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:43:46 ID:???
彼がお風呂から上がってきた。キョトンとして私を見つめている。
「…碇くん、もう、寝よ?」
彼は、私の求めに慌て出す。
「綾波の部屋には布団もベッドもないよね!?明日買って来なきゃ」
なぜ?私の寝場所はあなたの隣。私の枕はあなたの胸。あなたの匂いが私の
毛布。あなたの鼓動が私の子守歌。
「…どうして?必要ないわ」
「じ、じゃあ、これからは毎日一緒に寝ようか」
「…うん」

「…碇くん…」
「なに、綾波」
「あの…」
「…する?」
分かってくれた。私から求めるのは初めて。
私と彼が溶け合い、混ざり、凝集する。碇くん。碇くん。碇くん。

私は天空に舞い上がり、深海底に沈み、やがて大洋を漂流した。目を開くと
碇くんの笑顔。
「綾波、イッちゃった?」
「…分からない。でも、そうかもしれない」
「よかった」
からだが重なる。こころが重なる。嬉しい。嬉しい。嬉しい。

私達はそうして日々を重ねて行った。日々を重ねるごとに、こころが寄り添う。
からだを重ねるごとに、こころが寄り添う。

別々だった、私のこころとからだ。彼と日々を重ねるごとに、別々だった
ものが溶け合い、一つになる。彼とからだを重ねるごとに、空虚なからだが
満たされ、空っぽのこころが充ちていく。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
539名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 02:45:15 ID:???
「一生そばにいてよ」
私が待ち望んだ言葉を、あなたは何気なく口にする。だけどもう少し待って。
あなたの求めるものは私。あなたの欲しいものは私。だけどあなたに必要な
私はまだいないから。
私の求めるものはあなた。私の欲しいものはあなた。私に必要なものはあなた。
あなたの胸でしか眠れない私。あなたのご飯しか食べられない私。あなたの
そばでしか生きられない私。だからあなたもそうしてやりたい。私の胸でしか
眠れないあなた。私のご飯しか食べられないあなた。私のそばでしか生きられ
ないあなたが、欲しい。
「楽しみにしておくよ、綾波のご飯」
また、私の未来が一つ増えた。碇くんが、私のご飯を待ち望む未来。増えて
いく未来が嬉しい。未来を与えてくれる人が愛しい。
私を抱きしめる彼の背中に、そっと手を回した。
【終わり】
540名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/08(火) 08:24:52 ID:???
投下乙
541名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/09(水) 14:30:45 ID:???
おにぎりが嬉しい綾波さんカワユス
542名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/10(木) 21:19:02 ID:???
モヤシ千切る綾波さんGJ
543名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/15(火) 12:24:48 ID:???
捕手
544名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 01:08:13 ID:???
まだ続編。BGMは「何度でも言って」
ttp://jp.youtube.com/watch?v=JFp6FxdcDv8


そういえば、僕は綾波に「好き」って言ってもらったっけ?突然湧く疑問。
確か告白した時は…僕が死ぬほどの勇気を振り絞って「綾波、好きだ!」って
叫んだら、彼女はニッコリ微笑んだっけ。イケるかなと思って抱きしめたら、
彼女も僕の背中に手を回してきた。これはOKかなと思ってキスしても抵抗
しなかった。
…って言われてないよ、好きって。
待てよ、初体験の時は…?お風呂上がりの彼女を抱きしめてキスしてベッド
に押し倒したら、彼女は僕の目を見てニッコリと…やっぱ言われてないじゃん!

まあ、彼女が僕を好きかというのもいまさらな話なんだけど。今は一緒に
住んでるし、あんなことやこんなこともしたし、現に今、宿題を終えてぼーっと
考え事してる僕の隣に綾波がいて、僕の肩にもたれて本を読んでいる。
誰が見ても、いやーんな感じだよね。
まあ冷静に判断すれば、あの「ニッコリ」が綾波の「YES」なんだろうけど。
それに、よく考えれば、彼女が「自分の気持ちを言葉で表現する」なんて
ところは見たことがない。僕だって、それが苦手なことでは人後に落ちないが、
自分の中に感情なんてものがあると自覚したばかりの綾波に、そんなことが
出来なくても少しも不思議じゃない。
それに「ニッコリがYES」という意味でなら、彼女は一日に何回も僕に
「好き」と言ってるんだと思う。今こうして、僕にぴとっとくっついてるのが
そうだし、ふと顔を上げると赤い瞳が僕をじっと見つめていることがある。
その瞳に向かって微笑み返すと、彼女はわずかに頬を染めて目を伏せたり
するんだけど、あれなんか一番わかりやすい「好き」だと思う。
でも、一度は言われたい。綾波の、鈴を振るような澄んだ声で「碇くん…好き」
なんて言われてみたい。まあ贅沢な悩みだと分かってはいるんだけど。
545名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 01:09:34 ID:???
綾波が文庫本に栞を挟んでパタンと閉じ、僕を見て言う。
「碇くん、もう、寝よ?」
「うん、そうだね」
二人でリビングのテーブルをよけ、そこに大判の布団を敷く。枕は僕のだけ。
一度彼女に「枕を買ってあげる」と言ったら、絶対零度の視線で睨まれた。
僕の腕枕以外で寝る気はないらしい。仕方ないので最近は一日ごとに僕と
彼女の寝る位置を左右入れ替えてもらってる。小顔な綾波だけど、人の頭は
それなりに重い。一晩中腕枕していたら腕がかなり痺れる。毎日同じ腕で
腕枕していたら、血行障害か何かになりそうだから。

「今日は、左腕」
そう言いながら布団に入ってくる綾波。僕の左側に寄り添い、左腕に頭を載せ
足を絡めてくる。これがいつもの就寝スタイル。
彼女は異様に寝付きがいい。布団に入って一分もしないうちに、スースーと
寝息をたて始める。おやすみ、綾波。

二人で暮らし始めて三ヶ月。いろんな発見があった。予想外だったのは、綾波が
積極的に家事に取り組んでくれること。402号室の惨状を知ってる僕としては
嬉しい驚きだった。まだまだ危なっかしいけど、彼女は一度聞いたことは忘れ
ないから、すぐに上達するだろう。
そういえば、昼休みに二人でお弁当していたら、クラスの女の子から「あら、
おいしそうなお弁当。綾波さん、お料理上手なのね」と言われた。僕は咄嗟に
「う、うん。そうなんだ」と話を合わせたけど、もちろん僕が作った弁当だ。
綾波はキョトンとして僕を見ていたけど、彼女なりに思う所があったらしい。
数日後「楽しいお弁当」なんて本を買い込んできた。今は、彼女が「お弁当、
私が作る」と言い出すのを待ってるところ。
彼女は「私、普通の女の子になりたいの」と言っていた。本当なら嬉しい。
僕はもう、NERVもエヴァも、リリスもアダムもうんざりだ。普通の女の子の綾波と
普通に付き合って、普通に結婚したい。それが僕の望み。
546名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 01:11:30 ID:???
もちろん、期待ハズレだったこともある。その筆頭はエッチ関係だ。
女の子と暮らす=エッチしまくり、という甘い考えはあっさり打ち砕かれた。
思ったほどさせてもらえない。今は何とか週一の線を守りたいと思ってるん
だけど、正直僕としてはそれでも足りない。せめて三日に一度、出来るなら
毎日というのが僕の希望なんだけどなぁ。
さらにいけないのは、このエッチ抜きの添い寝。女の子の甘〜い匂いを
たっぷり嗅がされ、ふにふにでぷにぷにの体が腕の中にあるのに何も出来ない。
まさに拷問。かといって彼女の安心しきった寝顔を見ると、ヘンなことも
出来ない。もう僕、溜まりすぎて爆発しそう。
といって自分で処理するチャンスもなかなかない。一緒に住み始めて以来、
実質的に24時間彼女と一緒だし。部屋はもちろん、学校でも、登下校も一緒。
彼女と離れるのは、体育とか男女別の授業の時だけ。昼休みも二人でお弁当だし。
それに、彼女は持ち物チェックが厳しい。僕の携帯を彼女が時々こっそり
チェックしてるのは知ってるし、机の引き出しや鞄もチェックしてるみたい。
だからエッチな本なんてとても買えない。いや、エッチ本どころか、普通の
漫画雑誌を置いといたら、アイドルの水着グラビアページだけ消え失せてた
ことがあった。定規を当ててカッターで切ったらしく、綺麗にスッパリと
消えていた。そういう時まで几帳面なのが、いかにも彼女らしいと思ったり、
水着すらダメかよ、と嘆息したり。
高校でも、入学初日から僕にくっ着いて離れず、たちまち公認カップル。クラス
メートの女の子と十秒以上会話すると、氷の視線が背中に突き刺さる。おかげで
女の子達は「綾波さんに悪いから」といって、僕に近寄らなくなってしまった。
だいたい僕がそんなにモテるわけないのに、彼女は神経を尖らせ過ぎ。これが
いわゆる「女房が 妬くほど亭主 モテはせず」ってやつ?
一度彼女にそう言ったら、怖い目付きで睨まれて「…碇くんはモテるもの」と
言われた。僕に惚れる物好きな女の子は君ぐらいだよ、と言ったら、その日
一日口をきいてもらえなかった。よほど腹が立ったのか、その後も拗ねた時には
「どうせ私、物好きだもの」と言うようになってしまった。
547名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 01:13:46 ID:???
まあ彼女が嫉妬深い、というのも、過去を考えれば仕方ない部分はある。
「何もない」彼女の初めての所有物が僕らしいから、失いたくないと躍起に
なるのも無理はない。僕自身、彼女と付き合い始めてから、いずれは彼女の
『ダークサイド』を見なきゃいけないことは覚悟していた。
ヒトの心には光と闇がある。「こころ」を持ったばかりの彼女にも、そうした
闇の部分が生じるはず。素直過ぎる彼女の中には、ひょっとしたら、とてつも
ない「闇」が生まれたりして、なんて思ってたけど、焼き餅とか彼氏の携帯
チェックとか、可愛いダークサイドでホッとした。
548名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 01:15:59 ID:???
翌朝目覚めると、隣に彼女がいない。キッチンから音がした。
「…おはよう、綾波」
「おはよう、碇くん」
「あれ、今朝の当番は僕じゃなかったっけ」
「…あの、碇くん。今日から私、お弁当作るから」
お弁当来たー!
「えー本当?綾波のお弁当、楽しみだなぁ」
「………」ポッ
やっぱり綾波は可愛い。彼女はいつもひたむきで一生懸命。今も、ひたむきに
「普通の女の子」に向かって突き進んでいるんだろう。
「…やっぱり僕、綾波が好きだ」
「…何を言うのよ」
真っ赤になる彼女。
「私も」
「え?」
「私も、碇くんが、好き」
またまた来たー!
「…初めてだね、綾波が『好き』って言ってくれたのは」
「え…初めて?」
やっぱり気付いてなかった。彼女的には何度も言ったつもりなんだろう。
「初めてだよ?はっきり言葉にして言ってくれたのは」
「あ…あの、ごめんなさい。私、言ってないなんて思ってなかった…」
「わかってる。笑顔が君の『好き』の表現だったもんね。でも、今度からは
言葉でも『好き』って言ってくれると嬉しいな」
「あの、碇くん」
「何?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き…」
「ど、どうしたの綾波!?」
「……あの、これ、今までの分の『好き』だから…」
やっぱり僕は、君が好きだよ、綾波。
549名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 07:28:29 ID:???
投下乙
550名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/17(木) 20:15:34 ID:???
>>544
551名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/21(月) 12:08:34 ID:???
イイ!
552名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/24(木) 07:32:37 ID:???
捕手
553名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/24(木) 18:37:18 ID:???
ハイテンションでヤりたい盛りのシメジと天然ヤンデレの綾波さん
554名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/24(木) 20:17:06 ID:???
それなんてエロゲ?
555名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/24(木) 22:02:32 ID:???
このシリーズのシンジはたまにキモオタ入っててドン引きさせてくれるな
レイも何故かリナレイ化することがあるし

それを除けばとても面白いんだけども
556名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/25(金) 02:25:03 ID:???
それじゃオマイがキモヲタじゃないみたいじゃないか
557名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/25(金) 04:36:21 ID:???
いいからスルーしろ

BGMの人は気にせず投下希望
558名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/30(水) 13:01:57 ID:???
保守
559名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 16:51:27 ID:???
まだ続編。BGMは「ガールズ・トーク」
ttp://jp.youtube.com/watch?v=7fpW1thGues


「ねぇ、綾波さんさぁ。碇君と、付き合い長いの?」
「…二年くらい」
「長いわね。中学の同級生?」
「…そうよ。中二の時、彼が転校して来たの」
「ふーん。で、付き合うきっかけは?」
「きっかけ…私が危ない目に会った時、彼が助けてくれたから」
「へー、かっこいい!碇君て、やる時はやるんだ」
「…そう。彼は、やる人だから」
「じゃあ綾波さん、碇君の勇敢なところが好きなんだ」
「…いいえ、それはただのきっかけ。碇くんは、外見でなく、私の心を
見てくれたから…」
「えーマジ!?ますますかっこいいじゃん!どんなふうに見てくれたの?」
「…私の、寂しい心を見てくれた。温かい笑顔で、私の心を満たしてくれた。
だから好きになったの」
「「「キャーッ!」」」
「綾波さんて、碇君にベタ惚れって感じだよねー」
「ベタ惚れ…よくわからない」
「えーだって、いつも碇君にくっついてるし、碇君ばかり見てるし、あたしらが
碇君に話し掛けると、凄い目で睨むし。碇君無しではいられないって感じよね」
「…そうね。碇くんがいるから私は生きられる…いいえ、碇くんのそばにいる
時だけ、私は生きているの」
「「「「キャーッ!!!!」」」」
560名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 16:55:42 ID:???
「それをベタ惚れって言うのよ!」
「…そう。私、碇くんにベタ惚れなのね…」
「綾波さん、碇君とどこまで行ってるの?もちろん最後まで?」
「最後?わからない…」
「あーもう、最後って言ったらあれよあれ…………セックス」
「やだチアキったらロコツー」
「セックス…ゆうべ、したわ」
「「「「エエエエエ!!!!」」」」
「マ、マ、マジでぇぇぇぇ」
「綾波さんたら、そこまで言っちゃうの!?」
「…なぜ?好きな人に求められるのは嬉しいこと。好きな人とひとつになるのは
素晴らしいこと。なぜ隠すの?」
「「「「キャァァァァ!!!!」」」」
「すごい…すご過ぎるわ綾波さんて。今度から『恋愛マイスター』と呼ばせて
もらうわ」
「じゃああたしは『師匠』って呼ぶ。綾波師匠、よろしく!」
「師匠…落語家みたいで、嫌…」

ガラガラ
「綾波、お待たせ〜。帰ろうよ」
「「「「碇く〜〜〜ん♪」」」」
「な、何みんな、どしたの?」
「今ねぇ、綾波さんとお話してたの。碇君のこと、いろいろ聞いちゃった」
「ええっ!?あ、綾波ぃ…」
「いいから碇君、綾波さんの隣に座って」
「う、うん…」
「碇くん♪」ピトッ
「「「「キャーッ!」」」」
561名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 16:59:37 ID:???
「えっ、な、何、みんな?」
「碇君が隣に来たら即密着。さすが綾波師匠ね」
「し、師匠って?」
「碇君さぁ、綾波さんのどこが好き?」
「……」ピクン
「ほらほら、綾波さん、反応が早いわよ」
「言っちゃいなさいよ碇君」
「いや、どこって…そう言われても…」
「いっぱいあり過ぎだったりして」
「綺麗だしね、綾波さん」
「綺麗とか、そういうんじゃなくて…一緒にいて、落ち着くところかな…」
「「「「キャーッ!!!!」」」」
「んー深い、深いわね」
「愛は上辺じゃないのね」
「…私も、落ち着くの。だから、碇くんと一緒にいたい。碇くんがいないと、
心が痛いから」
「あーもう、美男美女のカップルなのに、外見じゃなく心で繋がってるって
うらやまし過ぎる〜シクシク」
「やめてよ、僕は美男とかじゃないよ。綾波は綺麗だけどさ…」
「私、綺麗なんかじゃない」
「ねぇ、なんかあたし、今すっげームカついたんだけどぉ」
「あら奇遇ねぇ。あたしもよ。この二人に美男美女じゃないとか言われたら
あたしらなんか、立つ瀬無いわよねぇ」
「…だって本当だもの。私、この髪の色も瞳の色も嫌い。顔も体も全部嫌い」
「…綾波。そういうことはもう言わないって約束しただろう?僕は、君の髪も
瞳も好きだ。顔も体も全部好きだ。だから君は今のままでいいんだ」
「碇くん…」
「うっ、入り込めないわ」
「こ、これが噂の絶対領域ってヤツ?」
562名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:02:20 ID:???
「ねぇねぇ、二人は結婚するの?」
「するわ」
「「「「キャーッ!!!!」」」」
「い、碇君、プ、プ、プロポーズの言葉は?」
「なんでアンタが動揺してんのよ」
「プ、プロポーズというほどのもんじゃないけど『一生そばにいてよ』って…」
「「「「キャァァァァ!!!!」」」」
「『綾波、一生僕のそばにいてくれないか』」
「『嬉しい、碇くん。誓いのキスをしましょ』」
「ほらそこ、小芝居しない!」
「……」ジーッ
「なんか睨んでるよ、綾波さん」
「『というほどのもんじゃない』…ひどい。嬉しかったのに…」
「いや、綾波。もう一度、きちんとしたプロポーズをするから。ちゃんと
指輪を買ってさ」
「「「「キャーッ!!!!」」」」
「指輪…指輪…あたしも欲しい…」
「買えば?自分のお金で」
「…やめて、碇くん。私はもう、あなたの心を受け取ってしまったの。
だから、もうやめて。私の心はもう、あなたのものだから」
「「「「キャァァァ!!!!」」」」
「詩人ね!?詩人の魂なのね!?」
「し、師匠ぉ!綾波師匠!一生ついて行きます!」
「…駄目。私が一生を共にする人は、碇くんだから…」
「師匠〜、捨てないでぇ!」
「綾波レイ…恐ろしい人…もはやカリスマね」
563名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:05:20 ID:???
「ふふふ、こうなったら聞いちゃうわ…碇君、ゆうべ、綾波さんとラブラブ
だったんですって…?」
「あああ綾波、そういうことは人前で言っちゃ駄目って言ったろ!?」
「なぜ?好きな人とひとつになることが恥ずかしいの?私は碇くんが好き。
だから私は恥ずかしくはない。碇くんは、私が好きではないの?」
「い、いやそりゃもちろん好きだけど」
「そう、よかった」ニッコリ
「!…なに!?その天使の微笑みは…」
「ずるい!卑怯よ!クールビューティだと思わせておいて、その微笑みは
反則よ!凶器よ!」
「なんか綾波さんて、あたしらとは格が違うって感じよねぇ」
「恋愛道の覇者!って感じ?」
「…あたし、もうダメ…綾波師匠!離れたくない!一緒に暮らして!」
「離して」
「イヤ!もう離さない!あたしに師匠の恋愛パワーを注入して!」
「あーあ、チアキ、壊れちゃったよ」
「綾波さんたら、あたしらが言ったらクサ過ぎる台詞を、あの綺麗な顔で
真顔で言うんだもん。破壊力あり過ぎだっつーの」

ピンポン パンポン
『下校時刻になりました。校内の生徒は、速やかに下校して下さい…』
564名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:07:52 ID:???
「あーあ、こんな時間になっちゃった。あんたらが馬鹿騒ぎするから…」
「「「「お前が言うなチアキ!!!!」」」」
「遅くなっちゃったね。帰ろうよ綾波」
「うん」
「ごめんなさい綾波さん、碇君。あたしらの騒ぎの巻き添えにしちゃって」
「いや、楽しかったよ。ねぇ綾波」
「ええ」ニッコリ
「て、天使の微笑みが…」ポッ
「その笑顔は犯罪よ!顔面テロよ!」
「あ、あのさ。もしよかったらなんだけど、これからも綾波と仲良くして
やってくれないかな?」
「もちろんよ。さあ師匠、碇君の許可も出たから、二人で一緒に暮らしましょ!」
「チアキ、まだ壊れてんの?」
「…ごめんなさい。私、もう碇くんと二人で暮らしてるから…」
「「「「工エエエェェェエエエ工!!!!」」」」
「どど同棲中っすかぁぁぁぁ」
「何?この重苦しい敗北感はなんなの?あたし、負け犬?」
「師匠!なら三人で暮らしましょう!」
「嫌」
「…完敗だわ…」
「…碇くん、どうしたの?大丈夫?」
「…あっ綾波、ちょっとめまいが…」
「…いけないわ。早く帰って安静にしましょう」
565名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:10:28 ID:???
「じゃあさ、僕らはこっちだから」
「イヤー!師匠と離れたくない!」
「離して」
「チアキ、いい加減にしないと張り倒すよ」
「イヤー!カオリの鉄拳制裁はイヤー!」
「行きましょう、碇くん」
「うん。じゃ、また明日」ニコッ
「う…」ポッ
「さ、さすが綾波師匠の彼氏。碇君の微笑みも強力ね」
「…マズイ。あたしマズイわ。碇君て、あたしのタイプかもしんない」
「げーカオリ、綾波師匠を敵に回すわけ?」
「……無理よねーシクシク。綾波さん相手じゃ勝てる要素が一つもないし」
「蒼い髪と赤い瞳の神秘的な美人。透き通るように白い肌。スレンダー
なのに出るとこは出てるボディ。恋愛には一途でまっしぐら。最強だよね
綾波師匠ってば」
「ううう。でも碇君て、爽やかで嫌味がなくて、しかもあの無邪気な
微笑み…タイプなのよぉぉぉぉ!」
「修業あるのみね。天使の微笑みを身につけるしかないわ」
「こう?」ニッコリ
「…ダメ。あんたの微笑みには邪気がある」
「無理よぉぉ!どうせあたしは邪心の塊よぉ!」
566名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:12:15 ID:???
【翌朝】
「やあ、おはよう」
「…おはよう」
「ししょー!おはよー!」
「あ、あの碇君、おはよう…」
「…ねぇチアキ、どしたのカオリは。碇君を意識しまくりじゃん」
「んーなんか碇君がタイプらしいよ」
「そりゃ無理っしょ。綾波さんから取れるわけないって」
「後は結婚待ち、みたいなカップルだもんね。つか綾波師匠、
早くもカオリの邪心を察知してない?」
「なんか恐い顔してるね」
「あっ碇君の膝の上に座った。さすが師匠、いきなり飛び道具かぁ」
「カオリ、ガックシね。なんか、碇君も倒れそうな顔色だけど」
「碇君のこととなると、なりふり構わないもんね師匠。ああいう彼女って、
男の子的にはどうなんだろ」
「つーか碇君て、手間のかかる彼女の面倒を見るのが好き、みたいな感じ?」
「なるへそ。結局は相性かよ、みたいな?」
「綾波さんて、美人で一途でとっても素敵だけど、彼女にしたら
いろいろ面倒臭そうよね」
「それを面倒臭がらない碇君が相性いいわけね。恋愛に万能はない、ってかぁ」
「つーか、もうカオリがいなくなったのに、いつまで膝の上に
座ってんのかな綾波さん」
「でも幸せそう。いいなぁ師匠」
「彼氏と一緒にいることを素直に楽しめるって、やっぱ才能よね」
「あっ、先生来たよ」

『きりーつ、れい、ちゃくせきー……
【終わり】
567名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 17:34:33 ID:???
投下乙
568名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/03(日) 23:07:41 ID:???
gj
二人以外本編キャラが出てない所が非常に良い。
569名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/06(水) 22:07:03 ID:???
ほしゅ
570エヴァ板良スレ保守党:2008/08/09(土) 18:25:05 ID:???
エヴァ板良スレ保守党
571名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/09(土) 21:26:19 ID:???
572名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/12(火) 23:50:48 ID:???
保守
573名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 00:55:56 ID:???
そっと首筋に手を当てた。異様に熱かった。

「酷い熱ね」
「……そ、だろ…ね……」

彼は息も絶え絶え、と言う風に答えた。こういう時はクーラーはどう設定すればいいのだろうか。いっそ切った方が良いのか……。
かといって、いくらカレンダーで冬とはいえ、気温は半袖でもまだ暑いくらい。温度は高めに設定しておくくらいが丁度良いのだろうか。

「いつから?」
「……昨日から少し」

そんな風には見えなかったが、まぁ風邪の初期症状なんてそんなものか。

彼、碇シンジは、冬には冬らしく……風邪を引いた。もっとも『冬らしい』というのは文学での話だ。今、この国は常夏だ。
ここ数日は例年通りの温度でしかなかった。原因があるとすれば彼自身に問題があったはずだ。別に忙しい日程でもない。
574名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 00:56:41 ID:???
彼は普段はしっかりしているくせに、こういったところで随分と間抜けな真似をする。
……私が「間抜け」と言った訳ではなく、言ったのは彼の友人だが……おおむね同意する。

例えば、数学の問題で微分積分を完璧に合わせておいて最後の最後の小学生レベルの分数で計算ミスをするとか、そんな感じの『間抜けさ』だ。

「……思い当たるところがある?」
「……………まぁ、ね」

私は無言で首を傾げた。

「クーラーをガンガンに効かせてた」
「…………」

………………………何故?

「そ、それで布団にくるまってたら気持ちいいから、つい……」
「…………」

…………前述項目から『おおむね』を削除。『全面的に』に書き換え。
575名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 00:58:17 ID:???

彼には分からないように軽く溜息を付いて、洗面器と氷を取りに行った。彼の家のことは大体把握している。
マンションの隣の部屋なのだから当然と言えば当然だが。

少し時間が経ち、彼の顔もだいぶ苦しさから解放されたように見えた。

一世一代の大勝負……でもない。ただ少し冷静じゃない彼に、ちょっとした実験をしてみたくなった。

「こういうときってキスとかするもの?」
「…………うつるよ?」

彼の顔が赤くなったのか、別になっていないのか判別できなかった。ただ冷静に返されたことに少しだけ落胆した。
焦った顔が見てみたかったのだが……よく考えれば彼の焦った顔なんて別に四六時中見られる。
それでもせっかく前々から試してみたかった事柄、次はいつ試せるような状況になるだろうか。その未来は些か私が思ってるより遠いがする。
576名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 01:00:36 ID:???
そんな風に思いながら、改めて彼の顔をじっくりと見た。
何だか普段見ている表情に比べて小動物的というか、あえて言うなら少し子犬らしいというか、ぬいぐるみっぽいというか……単に子供らしいだけかも知れない。
でも彼のこんな顔を知っているのは多分私だけだ。その事が素直に嬉しいと思う。

普段の彼は、前に比べて随分と大人びた感じになった。授業中に、私の目の前の席で窓の外を眺めている様子に、たまに呑まれそうになる。
似たようなことを彼に言われたが、何となく嬉しい以外は何のことだかよく分からない。でも、彼に同じ様な事を言うと、彼は顔を赤くする。
私にはそれがたまらなく面白い。私が優位に立っていると言うことが、くすぐったくて心地良い。

もっともあまり大勢の前ではやる気にならない。やると私が照れるのもあるし、はっきりいって見せられる側にはうっとおしい事この上ないだけだろう。
まぁ遠慮がない人も多いが。私はそうではないから、ただ彼の前でだけで、そういうやりとりを出来ることを、楽しむ。

私の色々な髪型を知っているのは恐らく彼だけ。彼の色々な顔を知っているのも多分私だけ。

そういう事を少しずつ増やしていくことが、一番嬉しいこと。
577名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 01:02:09 ID:???
そういうわけで、『私が知っている彼』を増やすべく、私は遠慮なく携帯電話のカメラでその様子を納めようとした。

「何?」
「早く寝て」
「……早く?」

彼が目も開けるのも面倒臭いと言う風に、瞼を閉じたまま聞き返してきた。

「もう少し、子供っぽい碇くんを見ていたいから」
「…………そっち?」
「風邪も治る」
「……どっちがメイン?」
「両方」
「…………そう」

そう言うと彼は一回大きく深呼吸をして、すーすーと軽い寝音を立て始めた。
私もそのままそれに倣っても良かった。そう思える程度には疲れが溜まっていたらしい。

仕方ないので誘惑を振り切ってシャッター一回、隣にある自宅へ向かった。
578名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 01:09:07 ID:???
終わり。

何だか暴走気味で質低いか。まぁでもこれ以上いじっても変になりそうだしさっさと投下。
綾波がSっぽくてヤンデレの素質があるのは仕方ないと思う。自分だけか。
おまけに見事なまでの山無しオチ無し意味無し。ってかほのぼのってどうやって山とか入れるのか。

SSが長くなる症候群だったので短めにしてみた。感想を言ってくれても反映できるかは分からない。
579名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 02:47:21 ID:???
乙!!
580名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/15(金) 08:00:27 ID:???
あっさり風味で良い
581名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/16(土) 17:41:50 ID:???
なあ、合体しようぜ!総合スレと
582名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/16(土) 17:45:30 ID:???
おお、こっちも職人きてた、GJ!!
こんな二人もいい……
583名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/23(土) 12:03:39 ID:???
☆ゅ
584名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/24(日) 16:44:41 ID:???
LRS総合スレと合体して良いと思うんだ
585名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/24(日) 23:27:54 ID:???
こっち過疎りすぎw
586名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/28(木) 12:40:27 ID:???
合体しちゃ嫌だって香具師いる?
587名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/08/29(金) 04:37:02 ID:???
ワシはかまわんよ
588名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/01(月) 00:01:48 ID:???
問題ない
589名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/10(水) 09:00:53 ID:???
6スレも続いたんだし、もともとこれくらいの過疎は当たり前だったから別に合併することもないと思う。
590名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/10(水) 17:12:18 ID:???
別に保守的ならそれでいいんだけど
合併した方が総合スレの養分になるし…
591名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/13(土) 12:57:28 ID:???
なんだかダム建設に反対する住民と賛成する住民みたい
592名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/13(土) 14:29:11 ID:???
おれこれからは総合スレに投下するわ
593名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/16(火) 22:15:15 ID:???
では投下待ってるよ
594名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/28(日) 14:18:32 ID:???
うーむ…LRS本スレにSS投下しまくってる職人と喜んでる住人がいるけど
正直な話こっちでやってくれないかなと思う
まだ合併も決まったわけじゃないしこうしてスレ残ってるうちは住みわけしてくれねーかなぁ
雑談したい人の妨げにもなる訳だし合併するほどLRSは弱小じゃないだろう
あとエロはね、嫌な人は無視してとかそんな問題じゃないと思うわけだが
直前までエロより非エロがいいという雑談があったから空気も読んでくれるだろうと思った…
595名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/28(日) 19:01:16 ID:???
>エロより非エロがいいという雑談

全員が非エロ派ってわけでもないだろ
俺なんてエロでも問題ないし
雑談だってネタが無い故のことじゃないのか
596名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/28(日) 22:16:57 ID:???
全員がエロ派ってわけでもないだろ
エロネタは昔から否定派も多かったしなにより全年齢板という事を考えてほしい
そもそも総合スレは雑談が主ですが、何か?
597名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/29(月) 12:34:15 ID:???
全部読んでから文句を言う非エロ派
598名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/09/29(月) 18:04:14 ID:???
君のこと?そうなの?
599名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/12(日) 14:02:49 ID:???
保守
600名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/24(金) 13:41:05 ID:???
とりあえず保守だけはしておこうと思う
601名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/24(金) 23:24:24 ID:???
おっと上げなきゃ
602名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/07(金) 23:55:52 ID:???
ほす
603名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/11(火) 16:50:44 ID:???
hosyu
604名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/18(火) 08:36:45 ID:???
あげ
605名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/18(火) 11:25:48 ID:???
まとめサイトどこ?
606名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/18(火) 16:02:48 ID:???
607名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/19(水) 04:52:04 ID:???
エロパロ板にエロLRS投下したお(^ω^)
608名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/19(水) 16:00:05 ID:???
読んできた
投下乙です
609名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/19(水) 18:45:43 ID:???
乙です!
610名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/21(金) 05:26:30 ID:???
エロパロ板もう一本投下したお(^ω^)
611名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/21(金) 18:25:25 ID:???
おちかれ
612名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/21(金) 18:52:36 ID:???
今度のはLRSじゃないのね
613名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/21(金) 19:11:24 ID:???
そうか?初号機ちゃんて…
614名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/11/24(月) 18:59:33 ID:???
読んで来た
蒼い髪に赤い瞳の初号機ちゃんがカワユイ
615名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/04(木) 08:52:25 ID:???
綾波の憂鬱と初号機ちゃんって同じ作者なん?全然作風違うからわからなかったwww
連続してLRSが拝めてGJでした
616名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/04(木) 15:04:48 ID:???
同じだお(^ω^)
617名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/04(木) 17:47:16 ID:???
総合スレでの議論の結果、エヴァ板でのLRSFF投下は打ち切りとなりました。
長年のご愛顧まことにありがとうございました。
───────────────────────終了───────────────────────
618名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/04(木) 22:26:46 ID:???
投下まだー?
619名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/05(金) 09:45:08 ID:???
遅くなったけどエロパロ投下乙です
初号機ちゃん最高でしたwwバロスwww
620名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/11(木) 20:22:45 ID:???
サキエル役がトウジ
この発想は無かった
621名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/16(火) 23:52:49 ID:???
あげ
622名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/19(金) 08:15:17 ID:???
またエロLRS投下したお【^ω^】
623名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/19(金) 10:43:08 ID:???
投下乙
624名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/21(日) 11:18:55 ID:???
ぐぐぐぐっじょぶ!!
625名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/25(木) 01:29:57 ID:???
「綾波……?こんなところでどうしたの?」
常夏の日本は旧世紀とは全てが違っていた。
灼熱の太陽、アスファルトの上の陽炎、鳴り響く蝉の声。
今日は12月25日。クリスマス。既に避暑という意味を失った気候の
この国に夏休みという制度は消滅していたが、年末年始という区切りでの冬休みは残っていた。
終業式から2日たった今、コンビニでクラスメイトの姿を見かけたシンジは
学校教育から解放された時と場所での邂逅に普段とは違う不思議な感覚を覚え、
思わず声をかけていた。もっとも、普段からシンジがその少女と出会うのは学校だけではなかったが。
「碇君?」
「クリスマスの商品とか見てるんだ」
「……これ、普段とは違う、そう思って」
宗教的な行事も、資本主義国家では商業主義に毒されてしまうのか
レイが見ていた棚は赤や緑の原色的に包装された商品が大量に並んでいた。
ケーキ、お菓子、パーティグッズ、飾り、帽子などなど…。
「何で人は、2000年前の聖人の誕生日を、祝うのかしら。
本当にこの日が、聖人の生まれた日かもはっきりしていないのに…」
それは本当のキリスト教徒の話だろう、とシンジは大げさに考えすぎているレイに苦笑を返す。
「あはは、日本でのクリスマスって要するにお祭りだからね。イエス・キリストとかはあんまり関係ないと思うよ」
「お祭り……?どうして、お祭りなんてするの?」
「えっと、要するに楽しいからだと思うけど」
「楽しいの?」
「う、うん、まあ、大抵の人にとっては、多分」
「そう……なら」
「……なら?」
「私と一つにならない?それはとてもとても楽しいことなのよ?」
「ええッ!」
「お祭り、そう言った。テレビで聖夜は性夜。そう言ってた。さあ、2人だけで
2人だけの部屋ではやくお祭りをおっぱじめましょう」
「ちょ、ちょっとあやなみぃッ!」
クリスマスはお祭り、楽しければそれでいい。
日本人の感性に忠実に従って、シンジを引きずっていくレイ、そして引きずられていくシンジもある意味
楽しそうではあった。
626名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/25(木) 05:52:28 ID:???
ちょwww
627名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/28(日) 07:49:32 ID:SfiBTfgj
痴女レイいいね―!
628名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/28(日) 10:54:21 ID:???
ageないでね
629名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/28(日) 12:32:55 ID:???
>>625
お前途中で書くの面倒臭くなっただろw
630名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/28(日) 22:09:15 ID:???
寸止め乙。
631名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/12/29(月) 14:22:51 ID:???
>>625
シリアスか和み系かと思ったら急な展開に吹いたwwww

でも和んだ。
632 【豚】 【1878円】 :2009/01/01(木) 10:00:39 ID:???
オマイラあけおめ
書きかけが五本ぐらい溜まってるが、どれもオチが思い付かないという有様だ
633 【大吉】 【1237円】 :2009/01/01(木) 20:58:27 ID:???
>>632
書きかけの量俺の方が多いなw
てかノリで書き始めてオチ思い付かずに足踏みのパターン大杉orz
634名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/02(金) 18:43:46 ID:???
問題ない。
ヤマなしオチなしイミなしの小説も、良いものだ。
635名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/02(金) 19:59:32 ID:???
それだとLSKスレになるが。。。
636名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/04(日) 17:10:33 ID:???
637名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/05(月) 15:00:56 ID:???
LSGスレでもいい
638 ◆WA.gERG/No :2009/01/12(月) 03:46:08 ID:???
塩保守
639名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/29(木) 18:50:27 ID:???
上げ
640名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/31(土) 21:00:02 ID:???
もうエロパロへの投下は無いの…?
641名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/31(土) 21:31:52 ID:???
エロって難しいんだよね(´・ω・`)
結局結末はセックスに決まってるからパターンが
642名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/14(土) 10:54:41 ID:???
バレンタイン投下待ち
643名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/25(水) 00:36:53 ID:???
職人街揚げ
644名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/25(水) 07:44:23 ID:???
干油
645名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 04:56:58 ID:???
僭越ながら投下します。時間設定はエヴァ2の使徒、襲来エンドの後の日常ってことで書いてみます。
戦自との戦闘に勝ち、三人目に二人目の記憶やら感情やらが戻ってる設定です。
----------------------------------------------------------------------------------

使徒達との戦闘も終わり、補完計画も破綻し、平和な日常が戻りつつあった。
しかし街への被害も大きく、チルドレンはまだネルフの施設での暮らしを余儀なくされていた。
そんな中、シンジはレイの異変に気がつく。

「綾波…目に隈ができてるけど、大丈夫?眠れないの?」
「ううん…大丈夫…」

しかしその様は明らかに大丈夫では無かった。
足取りはフラつくこともあり、昔から旺盛ではなかった食欲は更に減り、顔色も心なしか悪く感じた。
今までの戦闘が及ぼした被害の事後処理は大人達の仕事であり、長い間前線で戦ってきたチルドレンには平穏がやってきたにも関わらず、
レイの体調は消耗していく一方に見えた。しかし、それはシンジにも言えることだった。
精神崩壊から回復したアスカは最後の戦闘で負傷し、療養中。学校の友達はみな疎開先に散らばっている。
そして何より、一番の理解者であったミサトの死が大きな影響を与えていた。
与えられた自室に一人で籠もっていると、またカヲルを亡くした時の孤独感に襲われそうになる。
そんなシンジはレイの部屋を訪れた。
646名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 04:57:31 ID:???
「綾波…起きてる?」
「…ええ」
「入ってもいいかな?」
「……うん」

どの部屋も全く同じの、必要最低限の家具だけが用意されてる簡素なワンルーム。
そのベッドの上に二人は腰掛けていた。
何を話すわけでもなく、ただ沈黙が続く。
シンジが三人目に感じ、避けていた理由でもある「他人」らしさはいくらか和らいでいた。
しかし、まだ壁を恐れずにはいられない。
レイへと踏み込んだとき、自分が忘れられているような、やはり自分の知るレイはもういないという事実をつきつけられるような、
またあの他人との壁…距離感…孤独感を感じるのが恐くて、なかなか口を開けずにいた。

「……眠れないの」

そうしている内に、レイが口を開く。
そしてポツリポツリと自分のことを話し始める。
647名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 04:58:46 ID:???
「暗い中で…目を瞑っていると…思い出してしまう。私が…消えてしまう時のことを。
 一人で…寂しくて…一緒にいたくて……でも、伝わらなくて…。
 このまま目を瞑ると、もう目を覚まさない気がして…恐くて……眠れないの。」

自分の存在が消える日を待ち望んでいたレイ。
しかし生きる中で孤独を知り、人の温もりを知り、それ故死を恐れるようになった。
そんなレイを目の当たりにして、シンジのレイに対する臆病な気持ちは消えていた。
ここにいるのは、今まで一緒に過ごしてきたレイで、彼女もまた自分と同じであることを知ったから。

「僕もだよ、綾波。僕も…恐いことばかりだった。そして逃げてた…
 でももうやめたんだ。逃げた先に…良い事なんて何も無かったから。」

人を傷つけるのが恐い、傷つけられるのが恐い、嫌われるのが恐い、失うのが恐い。
だけど恐れてばかりじゃ、孤独しか残らない。その辛さを知ってる二人だからこそ、
求め合うお互いがかけがえのない大切なもので、儚くて、愛おしいものだとわかる。
だからこそお互いを守ろうと思える。ヤシマ作戦の二人のように。

「碇君の…傍にいたい」
「僕も、綾波の傍にいたい」

その晩、二人は寄り添って眠った。
久しく味わってなかった安らぎを感じながら…。
648名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 09:49:16 ID:???
投下乙
649名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 10:55:29 ID:???
乙!てかミサト死んだんだっけ?手繋ぎエンドに夢中で忘れてたわ
650>>646:2009/02/26(木) 14:03:01 ID:???
>>649
確か死んでました
ミサト助けたかった…

読んでくれてありがとうございます
久々に書いてたら予想外にシリアスになってしまった…こんなはずでは…
もしまだ読んでもらえるなら、次はニーズに合ったのが書いてみたいので、
読みたいネタやシチュエーションがあったらお願いします
651名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 15:54:53 ID:???
エヴァ2のエンド後ってのも珍しいシチュだよね

>>750
序のヤシマ直後が見たいっス!
652名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 15:56:25 ID:???
安価ミスorz
>>650
653名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/26(木) 17:43:33 ID:???
悲壮な感じがいいね。

エヴァ2は知らんけど3人目の記憶が戻るってどういう理屈なんだろな。
この辺の取り扱いがLRSの難しいところなのかと。
654名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 13:56:47 ID:???
「しっかしセンセも大変やなぁ」

いつものようにケンスケ、トウジ、シンジの三人で机を囲み昼食をとっていると、不意にトウジが口を開いた。

「ネルフに向かうも帰るんも、綾波と二人だけなんやろ?あないに無口で無表情で無愛想やと間ぁもたんやろ?」
「そんなことないよ。最近では綾波からも話しかけてくれるようになったし…」
「最近では…って最初は相槌しかなかったのか、碇?」

箸を止めずに口を開いたケンスケは、言葉とは裏腹に意外そうな顔をしていない。
むしろ、「やっぱりな」というニュアンスを感じる言葉だった。

「うへ〜、ワイやったら耐えられへんわ。よおそないに根気強く話かけられたもんやな。
 いっつも笑いも怒りもせんと、ボケる甲斐もないっちゅうもんや」
「うん…僕も初めてあった頃はそうだったけど、綾波だって怒ったり、笑ったりするよ」
「碇それ本当か!?見たことあるのか!?」

箸を止め、さっきとは打って変わってケンスケが驚きの声をあげた。
机に手をつき、身を乗り出してシンジに詰め寄る勢いだ。

「う、うん…あるけど…」
「どんな感じだったんだっ!?」
「な、なんでそんなに食いついてくるの?」
655名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 13:57:44 ID:???
シンジが驚くのも無理はない。それだけケンスケの勢いには鬼気迫るものがあった。

「碇は知らないかもしれないけど、綾波って人気あるんだよ。エヴァのパイロットだしあの非凡な容姿。
 でもほら…あんな性格だろ?みんな近寄りがたくって、ミステリアスな雰囲気だったんだけど
 そんな綾波が怒ったり笑ったりなんかしてるの見たって聞かされたら、そりゃ食いつくさ」

意外だった。しかしシンジが転校してきた時のあの周りの反応を思い返せば、レイにも同じような時期があっておかしくなかった。

「で、どうだったんだ?」
「な、なにが?」
「決まってるだろう。綾波が怒ったり笑ったりしてるの見て、どう感じた?」

自然とレイの笑顔が頭に思い出される。あのレイに怒りを露にされ、叩かれたのも衝撃的だったが、そんなのは慣れたことだった。
叩かれたりすることが…ではない。嫌われることに、慣れていた。それこそ、今まで自分で自分を嫌って生きてきたのだから。
だけど、あんな風に微笑みを向けられるのはいつ以来だろう…。
だからなのか、レイのあの微笑みは心に残り、嬉しくて、魅力的で、それ故…
656名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 13:58:20 ID:???
「綺麗……だった」

自然と口から漏れた言葉だったがすぐに我に返り、自分の言葉に赤面する。
正確には、レイの笑顔を思い出してほのかに赤くなっていた顔が更に赤くなった。
そんなシンジの姿を見て、二人に少なからず羨望と嫉妬の気持ちが湧き上がる。

「か〜〜〜〜!!!なんやなんや、惚気かい!!ええもんやのう!!」
「くっ……碇……次はカメラに取ってこいよ…」

シンジは聞かれた事に答えただけだったのだが、トウジにとってそんなのはお構いなしだったようだ。
ケンスケがなぜカメラにとってきて欲しいのかシンジは疑問だったが、主に売買目的なのは明らかだった。
657名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 13:58:45 ID:???
そして放課後になり、レイと共にネルフへ向かう。
しかしいつもの様子が違った。
今日はなぜだか、話しかけても相槌すら打ってくれず、ずっと黙って俯いてるだけだった。
その表情は伺うことができない。

「綾波…どうしたの?どこか具合でも悪いの?」

そう言って顔を覗き込もうとするが、顔を逸らされてしまう。
自分が何か悪いことでもしてしまったのかと不安に思っていると、不意にレイの声が聞こえた。

「…………れて、………りがとう」

「え?今なんて…」

「なんでもない」

そう残して少し足早になるレイの後ろ姿を見つめるシンジ。
思わず聞き返してしまったが、レイがなんと言ったかはわかった。

『綺麗って言ってくれて、ありがとう』

話を聞かれていたバツの悪さよりも、後ろから見てもわかるくらい耳まで顔を赤くしてるレイに
可愛らしさを感じる気持ちの方がずっと勝ってた。
こうやってまた新しい一面を見つけていくことで、少しずつ他人との壁が消えていくことを実感する。
それが嬉しくて、シンジはレイの後を小走りに追いかけた…。
658名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 18:03:44 ID:???
これはGJと言わざるを得ない
659名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/02/28(土) 19:29:52 ID:???
>>654
投下乙!リクに答えてくれてアリガトよ
660名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/02(月) 19:19:40 ID:???
ありがとうございます!
もし気に入って頂けたなら、また何かリクエストをください。
僭越ながら、次も書いてみようと思います。

あと、こうした方が読みやすいとか、キャラに違和感があるなどの忠告もあればお願いします。
誤字申し訳ないです…
661『旅立ち』:2009/03/20(金) 23:27:58 ID:???
全ては終わった。あの日、シンジは鬼神と化したアスカと共に、量産機を殲滅し
た。ドグマからアダムもリリスも消え、碇ゲンドウもおらず、ただ綾波レイが一
人ぽつんと立ち尽くすだけだった。レイはただ「……碇司令は、愛する人のとこ
ろに行ってしまったわ」と語るのみであった。
ゼーレは無理な量産機建造が祟って、経済破綻で空中分解。国連はNERVをエヴァ
管理のためひとまず存続させたが、エヴァは半永久的に凍結、NERVも段階的に縮
小される方針となった。

第三新東京市郊外の小さな墓地。市街地は零号機の自爆でほぼ潰滅してしまった
が、郊外のこの墓地は爆発を逃れてひっそりと佇んでいた。
真新しい墓標の前に立つひとりの少年。『TOUJI SUZUHARA 2001-2015』と書かれ
た墓標をじっと見つめていた。
「ごめん、トウジ。僕、そろそろ行かなきゃ」
少年は墓標に向かって話し掛けた。
「僕は……僕はトウジのことを絶対に忘れない。トウジのことを背負って、ずっ
と生きてくから……。だから、もうしばらく生きていていいかな、トウジ…」
きびすを返して立ち去ろうとした少年の足が止まり、肩が震えた。俯いた頬から
光るものがこぼれ落ちる。
「……ごめんトウジ。君の前では泣かないって決めてたけど、やっぱり無理だっ
たみたいだ……」
墓標に背を向けて、いつまでも立ち尽くす少年。その姿を、ただ光と風と雲だけ
が見ていた。
662『旅立ち』:2009/03/20(金) 23:29:42 ID:???


「もうここには居たくない。エヴァのことを知ってる人にも会いたくない」と言
い残してアスカはドイツに帰った。シンジの気持ちもアスカと変わらなかった。
「……ミサトさん、僕、先生のところに帰ります」
「……そう。止めても無駄でしょうね……」
「…ごめんなさい、ミサトさん。でも僕はもう、エヴァのことは見たくないし、
聞きたくもないんです」
「そうね。その方がいいかもしれないわ。なにもかも忘れて静かに暮らせたら、
どんなにいいかしら……」
「ごめんなさい、ミサトさん。僕だけ逃げ出して……」
「いいのよ。また会えるわよね、シンちゃん?」
「はい。ミサトさんは、いつまでも僕のお姉さんですから」
「シンちゃん……!」
シンジはミサトと抱き合って泣いた。僅かな間ながら家族として暮らした女性と
の別れであった。

唯一の心残りだった親友の墓参りを済ませた後、シンジは駅に向かった。バスに
揺られながら、この街で出会った人達を想った。
ここで知り合ったほとんどの人とは、もう二度と会うこともないだろう。アスカ、
トウジ、ケンスケ、ヒカリ、ゲンドウ、リツコ、加持……そして、レイ。
考えてみれば、レイとはずいぶん前に会えなくなっていたのだ。あの日、レイは
自爆した。そして、今のレイはシンジの知らない三人目。双子山で微笑んでくれ
たレイはもういない。
(トウジ……綾波……。僕がもう少ししっかりしていれば、守れたかもしれない
のに。二人とも生きていて、僕に笑ってくれたかもしれないのに)
悔いばかりが残る日々。もう取り戻せない日々の思い出がシンジを苦しめた。
663『旅立ち』:2009/03/20(金) 23:31:58 ID:???
『次は第三新東京駅、第三新東京駅でございます。お降りのお客様は忘れ物に…』
合成音声のアナウンスがシンジの思考を断ち切った。シンジはのろのろと立ち上
がり、ガラガラのバス内を降り口に向かった。

市街地は焼け野原になった第三新東京市だが、既に復興が始まっていて、駅はそ
れなりに混雑していた。切符を確かめたシンジは、未練を断ち切るように足を早
めた。
改札口に向かうシンジの目に、見慣れた制服が飛び込んだ。壱中の女子の制服を
着たその人はスポーツバッグを提げ、人待ち顔で改札口前の柱にもたれていた。
シャギーの入った蒼い髪、美しい紅い瞳の少女。綾波レイであった。
意外な人物の出現に、シンジの足が鈍った。ふと顔を上げてシンジを認めたレイ
は一瞬はっとした表情を浮かべ、次の瞬間瞳に決意を宿してシンジに歩み寄って
来た。
「いかり、くん」
「あ、綾波?こんなところでどうしたの」
「……碇くんこそ、どこへ行くの?」
「……ごめん。帰るんだ、元いたところに」
「…そう」
「綾波は、どこに行くのさ」
レイは戸惑ったように目を伏せた。
「あ、あの、綾波?」
「……………ていって」
「え?」
蚊の鳴くようなか細い声に、シンジは思わず聞き返す。頬を真っ赤に染めたレイ
は、必死の思いで声を上げる。
「連れて行って」
664『旅立ち』:2009/03/20(金) 23:33:13 ID:???
「ええ!?連れて行ってって、綾波……」
「……置いて行かないで。私も連れて行って」
レイの紅い瞳から、涙の雫がほとばしる。焦るシンジ。そんなシンジの胸に縋り
付くレイ。
「あ、綾波、どうして?僕のことは知らないんじゃないの?三人目の君は」
「……知らなかったわ。でも、前の私の記憶が蘇ってくるの。笑うあなたの記憶
。泣くあなたの記憶。紅茶の記憶。……あなたの手の記憶」
「綾波……」
「前の私が愛した人の記憶。その記憶を繰り返し見せられて、いつの間にか、三
人目の私もその人に恋していたの」
「……綾波!」
思わずレイの手を握るシンジ。握られた手を見つめて、レイが呟く。
「碇くんの手……やっぱり暖かい」
「……これは、何度目なのかな」
シンジの問いに、三人目のレイが微笑む。
「……今の私には、これが初めて。でも、初めてだけど、暖かい」
「これから、何度も握っていいかな」
「……握って、ほしい」
改札口の前で手を繋ぐ中学生のカップル。通り過ぎる人たちは、不思議そうな、
でも、どこか暖かい眼差しを二人に注いでいた。
【終わり】
665名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 03:15:50 ID:???
乙!
666名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 10:20:55 ID:???
タン塩氏乙
667名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 12:10:22 ID:???
乙です。
ただ、難点を言うなら、貞版でシンジがいたところは、先生じゃなくて伯父さん家です。
668名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 12:31:19 ID:???
あと渚さんの名前が出てこないのも…
669名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/03/21(土) 12:47:52 ID:???
貞エヴァならシ者は要らんだろ
670名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/09(木) 08:09:10 ID:???
職人降臨待ち
671名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:02:15 ID:???
「あ〜……暇やな」

いつもと変わりない学校での昼休みのことだった。
机に脚を乗せ、背もたれに体重をかけてイスを斜めに傾けて座りながら、トウジは実に退屈そうに呟いた。

「飯も食い終わったし、なんやおもろい事でも無いもんかのぉ〜…」
「じゃあ、大貧民でもどう…かな?トランプもあるし」

誰が持ってきたのか、もはやクラス内共有となってるトランプを手にしながらシンジが提案した。

「あかんあかん!んなチマチマしたややっこしい遊びなんかやってられるかい!!」
「そんなこと言って…。もしかしてトウジ、トランプできないんじゃないのか?」

そこでケンスケが挑発まがいなセリフを挟んだ。

「アホかぁ!!ワイかてそんくらいできるわい!!ただそんな遊びじゃ燃えないゆーとるんじゃ!」
「フフ…じゃあ、こうしたら少しは燃えるんじゃないかな…?」

シメたと言わんばかりに顔に意地悪そうな笑みを浮かべ、メガネを中指でクイッと押し上げるケンスケ。
メガネは光で反射し、その目を伺うことはできない。
672名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:03:44 ID:???
「罰ゲームだよ。これが加わるだけで単純な遊びでも劇的に熱くなれるんだ…」
「ば…罰ゲーム…?」
「ほ、ほう……面白そうやんけ。それで、なんにするんや?」

実に楽しそうに口を笑みで歪ませながら喋るケンスケに、シンジとトウジは得体の知れない不気味さを感じ、
その額には冷や汗が流れていた…。

「そうだね…いくつか過激なものも知ってるんだけど、ここはやはり中学生らしくこの程度で行こう。

 綾 波 の 脇 を 思 い っ き り く す ぐ っ て く る 
 
 最低でも10秒だ。」


メガネを光らせ不気味な笑みを浮かべたまま、ゲンドウと同じようなポーズでケンスケは静かに…しかし力強く提案した。

「な、なんや、その程度かい…っ!!」
「えぇええええ!?!?ちょ、ちょっと待ってよ!!」
673名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:05:18 ID:???
ほぼ対照的な反応を見せるシンジとトウジ。
トウジは若干拍子抜けしたような、安堵の表情をしていた。
普段からヒカリに対してちょっかいかけてるせいか、その手のイタズラにそこまで抵抗は無かった。
ただ、相手がレイともなると、そのリアクションが想像できない分多少の不安を感じていた。

対してシンジは目に見えて動揺していた。
その手のイタズラなど勿論今まで一度もしたことが無く、加えて相手がレイともなれば尚更だった。
ヤシマ以降、せっかくうち解けてきたのに、そんな真似でもしたら今の関係が台無しになってしまうかもしれない…
そんな不安すらよぎったシンジは、頑なにその罰ゲームを拒否した。

「無理だよ…そんなの出来るわけ無いよ!!第一、なんで綾波なのさ!?」

「そこが肝なんじゃないか。他の女子じゃそのリアクションはたかが知れてるだろ?
 あの綾波が怒るのか…大笑いするのか…それとももっと他の反応なのか…
 想像がつかないからこそやる価値があるし、気軽に出来る相手でもないからこそ罰ゲームになるんじゃないか。」
674名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:06:50 ID:???
「だって……だって綾波にも迷惑じゃないか…」

「大丈夫やって!軽い冗談やないか、そんなんで本気で怒る女子はおらんから安心せい」

「そうだよ。それに、こういうふざけ合いで仲が良くなることもあるんだぜ?
 もしシンジがやることになっても、良いきっかけじゃないか」

「そ、そう……かな?」

「そうやって!おし、決まりや!!ほなさっそく始めよか」

ケンスケの話術とトウジの強い押しで多少強引に大貧民が始まった。
そして十分後……

一位・ケンスケ 二位・トウジ 三位・シンジ

「(計 画 通 り !!)」

そこには邪悪な笑みを浮かべるケンスケと、机にうなだれるシンジの姿があった。
大貧民と言えど、対人戦とはすなわち心理戦。
負けた時のプレッシャーがデカければデカい程、手は縮こまる。勝負所を見送る。
その所を熟知したケンスケと、プレッシャーをあまり感じないトウジ、元から引っ込み思案のシンジ。
この結果はまさにケンスケの計画通りだった。
675名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:31:52 ID:???
「さて、シンジ。残念だったけどルールだ…。ちなみに、10秒は陰から計るからな。一秒でも早かったらやり直しだぞ」
「ほな、さっそく見せてもらうで!」
「う…うぅ……」

逃げちゃダメだ……そう自分に言い聞かせて、数分の葛藤の後シンジは席を立ち、ゆっくりとレイの席へと歩み寄った。
レイはイスに座り、本を読んでいる。
そんなレイの後ろから、シンジは両手をゆっくりとレイの脇に手を伸ばしながら近づく。端からみれば怪しい事この上なかった。

「あ、綾波!」
「なに?」

あともう少しの所で手を引っ込め、レイに話しかけるシンジ。
本を読むのを中断し、レイはシンジの方へと振り返った。

「あ、あの…ちょっといいかな?その…えっと……あ、屋上まで」
「別に…いいけど」

後ろからいきなりくすぐる事と、教室という他の生徒の面前でやる事への抵抗がシンジに場所を換えさせた。
しかし、屋上で二人きりになったとこで、自分のした事は間違いだったのではと後悔することになる。

「(ど……どうしよう……気まずい……お、落ち着け…落ち着け…!!)」
「………………………………」
676名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:33:27 ID:???
二人で向かい合い、沈黙が流れる。
目線が定まらず、手を握ったり開いたりするシンジ。それをじっと見つめてるレイ。
そんな二人を物陰から覗くトウジと、なぜかカメラを構えてるケンスケ。
数時間にも感じる数分が経った時、ついに動き出した。

「綾波……ごめんっ!!」

すかさずレイの脇へとシンジの手が滑り込む。
そしてわきわきとその指を蠢かし始めた。

「え…?きゃっ!?ぅ……ッ…んっ!!…ゃ…ん…なにっ!?……ぁ…はっ……やめっ!!」

聞けば間違いなく勘違いされるような声が漏れた。
反射的に身を屈め、脇を締めるレイ。普段無表情と言えど、やはり神経には逆らえない。
しかしその口から大きな笑い声が漏れることは無く、唇を強く閉じて声が漏れるのを必死に堪えていた。

「ぅんんっ……!!ぁは……離っ……し……ッ!!ぁんんん…はぁはっ…っ…!!手ッ……抜い……ッッ!!」

シンジの手から逃れようと、反射的に身悶えするレイ。シンジとレイには10秒という時間が気が遠くなるほど長く感じた。
677名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:34:35 ID:???
「(手…もう…離さなきゃ!!でも、10秒たったかな…?まだだったら…また…でも綾波が…!!)」

レイに振りほどかれたのか、それともシンジの手が緩んだのか、やっとシンジの手はレイから離れた。
それと同時に、レイは崩れ落ちるようにその場に座り込み、息を荒げた。

「ハァハァ…ハァ…ハァ………ハァ…」

女の子座りになり、制服は乱れ、頬は紅潮し、乱れた髪はしっとりとかいた汗で額やうなじにはりついていた。(貞エヴァ9巻扉絵参考)
その実に妖艶な姿にしばし目を奪われていたシンジだが、次第に自分のしたことへの認識が高まり、罪悪感が芽生え始めた。

「あ、その…ご、ごめん綾波っ!!これは…訳ありで…なんて言えばいいのか……」

罰ゲームでした…とは言えず、取り乱すシンジ。
トウジやケンスケの口ぶりからもっと気軽なものを想像していたが、実際にやってみるとこれは想像以上の大事な気がしてきた。
そんなシンジを尻目に、息を整えると、乱れた制服を直してゆっくりと立ち上がるレイ。
そしてシンジの元へと歩み寄ってきた。

「あ、綾波…ご、ごめっ!!」

このシチュエーションにいつぞやと近いものを感じ、身構える。
ビンタがくるかと思い目を瞑ったが、待っていたのは意外な感触だった。
678名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 06:35:59 ID:???
「あれ…?綾波、なにしてるの…?」
「…………………仕返し」

レイの両手はシンジの両脇へと差し込まれ、もぞもぞと指を動かしていた。
しかしその華奢で力のない指使いは、くすぐるというより撫でるようなもので、くすぐったいというよりこそばゆい程度だった。

「どう?」
「え、いや、どうって聞かれても…。綾波、怒ってないの?」
「別に、怒ってないわ。碇君に触れられて…悪い気はしなかった…から」

その一言で一気に赤くなる二人。
二人とも俯いたまま、また沈黙が訪れる。
そしてその沈黙を破るように、休み時間終了のチャイムが鳴る。

「あ、もう帰らなきゃ」
「ええ」

どこか気恥ずかしさを隠すように、そそくさと教室に向かう二人。
しかし教室に着くまでの間、二人の掌は確かに触れ合っていた。
679名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 14:06:41 ID:???
あれ?投下されてる
680名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/12(日) 22:04:26 ID:???
681名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/13(月) 09:24:41 ID:???
(・∀・)イイヨーイイヨー
682名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/14(火) 17:39:07 ID:???
俺も身悶えた
683名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/23(木) 12:13:47 ID:???
職人待ち
684名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/04/25(土) 22:51:51 ID:JjOTBYgS
三次創作で 復活させたい 連載中断作品

1. EVA

(1) 「のんびりとてとて」 の 「あなた、何様?」

(2) Seven Sisters氏の 『I wish』

(3) 「Night Talker」の「エゴイスト」

(4) 陸稲さんの 『貴方が傍に居て欲しい』


2. ONE 〜輝く季節へ〜

(1) Time~it can`t be back~

城島司を主人公にして、中学生時代の里村茜,柚木詩子を攻略する ss

ttp://takasaka.hp.infoseek.co.jp/timefront.htm
685名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/09(土) 21:04:45 ID:???
干す
686碇シンジ:2009/05/16(土) 23:19:38 ID:???
綾波、保守だよ
687名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:34:59 ID:???
コンコン

「綾波、起きてる?」

学校から帰る途中、スーパーの袋を携えたシンジはレイのマンションを訪れ、控えめ
にドアをノックした。
しかし返事はない。

「あの…ちょっとお邪魔するね」

ゆっくりと音を立てないようにドアを開け、シンジは玄関へと上がる。
そしてシャワー室の方へ耳を傾け、レイが入浴中ではないことを確認する。
前回のような鉢合わせを避けるためだ。
できるだけ物音を立てないよう静かに部屋の奥へと進むと、そこにはベッドで静かに
寝息をたてるレイの姿があった。
しかしその額は少し汗ばんでおり、表情もすこし辛そうに眉をしかめていた。

「綾波、大丈夫?」

勝手に女子の部屋にあがり、あまつさえ寝ているところを起こすことに多少の抵抗を
感じるシンジだったが、
それらを気にしていてはいつまでたっても今のレイとは接触できない故の行動だっ
た。
シンジは体調を崩して養生しているレイの見舞いに来たのだった。

「・・・ん・・・碇・・・くん?」

うっすらとおぼろげな目でシンジの方に顔を向けるレイ。
その様子からも、やはりレイが弱っている状態であるのは明らかだった。
688名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:36:26 ID:???
「ごめんね、勝手に上がって起こしちゃって。お見舞いに来たんだけど、調子はどう
?」

「うん…大丈夫。少し…良くなったから。」

と言っても、やはりその表情と口調は弱々しい。
そんなレイを見かねて、シンジはすかさず持っていた袋を漁り出す。

「あの、食欲はあるかな?果物とか買ってきたんだけど、食べれるなら食べた方がい
いよ」

「…ううん、ごめんなさい。食欲…ないの」

少し申し訳なさそうに首を横にふるレイ。
そんなレイを見て、シンジは更に何か自分にできることはないか…と、焦燥の念に駆
られた。

「あ、じ、じゃあお茶でも淹れるよ!せめて何か口に入れないとね」

そんなやり取りをする日々が何度か続いた。
シンジの涙ぐましい努力の甲斐もあってか、次第にレイも快調へと向かっていった。
そして何度目かの見舞いの日・・・

「綾波、もう大分顔色もよくなったね。食欲も出てきたみたいだし、安心したよ」

いつものようにベッドの傍らのイスに腰掛けるシンジと、上体を起こしてシンジと向
き合うレイ。

「僕、飲み物でも用意してるから、熱だけ計ってみなよ」
689名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:38:11 ID:???
そう言って体温計を手渡すと、シンジはすっかり勝手知ったる台所のほうへと向かっ
た。
レイは体温計を脇へ挟み、数分の後計り終えた自分の熱を確認してみる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「綾波、熱どうだった?」

体温計をじっと見つめてると、いつのまにか隣にいたシンジにレイは思わずビクッと
体を震わせた。

「ご、ごめん…驚かせちゃったかな?あの…紅茶淹れたから、はい」

「あ、ありがとう…」

レイは手渡された紅茶を受け取ると、カップに両手を添えながら、どこか子供っぽく
それを口にした。

「…おいしい」

「もう、大丈夫そう?」

「うん…でも、まだ熱があるみたい……」

シンジから目線をそらし、伏し目がちにレイは一言そう告げた。
その表情は曇り、なぜか申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している。

「そっか…じゃあ、明日また来るよ。あと、昨日の残りで申し訳ないけど、おかゆ温
め直しておいたんだけど、食べれる?」
690名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:40:18 ID:???
「ええ」

「よかった、じゃあ取ってくるね」

台所からおぼんに乗せたおかゆを取ってくると、シンジは再びベッドの傍らにあるイ
スへと腰掛けた。
湯気の立つおかゆは、簡易的な料理といえど十分に食欲をそそらせた。

「えっと…やっぱり、いつもみたいな感じで?」

「うん…お願い」

するとシンジは、おかゆをスプーンで掬うと、フーフーと息を吹きかけ丁度良い温度
に冷ますと、
それをゆっくりとレイの口元へと持って行った。
レイはそれを一口で口に入れるのではなく、小さく口を開けて半分ずつだけ口にする
のが、シンジはなんだかレイらしいと思っていた。
まだレイが体を起こすのも辛そうだった時は、多少の照れよりも労りの気持ちが勝
り、シンジからこの食べさせ方を申し出たのだった。
しかし、まるで恋人同士のようなこのやり取りにシンジはいつまでたっても慣れるこ
とができなかった。

「碇君、どうしてこんなに良くしてくれるの?」

食事を終え一息つくと、レイは唐突にこの疑問を投げかけた。

「え?・・・・・・うーん・・・・どうしてって言われると・・・」

予想外の質問に困ったような表情を浮かべ、暫し沈黙して物思いにふけるシンジ。
少し考えた後、自分でも今気づいたことのように、その旨を話し始めた。
691名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:44:25 ID:???
「やっぱり…困ったときはお互い様だし、なにより、この場合ちょっと不謹慎かもし
れないけど、
 嬉しかったんだと思う…誰かの役に立てる事が…誰かに必要とされる事が……」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

シンジの言葉を聞いて、レイは自分を振り返ってみる。
人が人を必要とし、必要とされること…その意味、それを望む理由……

「(私を必要とする人…碇指令……?私が必要とする人………)

 碇君は、どうなの?」

「え?」

またもや唐突に投げかけられた言葉に、シンジは一瞬なんのことかを把握しきれない
でいる。

「碇君にとって必要な人は………私は、碇君にとって必要なの?」

「当たり前じゃないか!」

思わず声が大きくなったことにレイも、シンジ自身も驚いた。
なぜそんなムキになって声をあげてしまったのか。
シンジ自身にもその理由はハッキリとわからなかった。
自然と、反射的に声が出てしまったのだ。
しかしレイはそのセリフに、無意識ながらも喜びを感じていた。
ヤシマの時、なぜシンジがあんなに必死に自分を心配してくれたのか、なぜ涙を流し
ていたのか、
その理由をまた少しその身に感じることができた気がしたから。
692名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:47:02 ID:???
「・・・・・・・・・・・・・」

レイは沈黙していたが、その表情は微かに微笑んでいた。

「あ…その…ごめん、大きな声だしちゃって………あれ?」

バツの悪さからか、目を泳がせていたシンジの目線がレイの枕元にある体温計へと止
まった。
その体温計を手に取り、まだ表示されているレイの体温を確認する。

「あ、それは……っ」

少し気が浮ついていたレイは遅ればせながらシンジの行動に気づいた。
と同時に、確か自分は体温計のリセットボタンを押し忘れていたことを思い出した
が、時既に遅かった。

「36.1度って…あれ?綾波、さっき熱があるって……」

「あの…ちがっ……それ…は…」

レイにしては珍しく、少なくともシンジの前では初めて取り乱す様子を見せた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

その場に、気まずさとも違った、重い空気の沈黙が流れた。
693名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 05:53:48 ID:???
ふと書き始めてみたんですが、予想より長くなってしまい、夜も明けてしまったので一旦くぎります
中途半端で申し訳ないです
需要があれば近々続きを書いて投下させてもらおうと思います
694名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 06:04:25 ID:???
待ってるお
695名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/26(火) 11:14:31 ID:???
需要ならあるお
待ってるお
696名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/27(水) 06:19:41 ID:???
(・∀・)イイヨーイイヨー
697名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/30(土) 03:41:47 ID:???
間を開けてしまい、しかもその割に書いてみれば残り短かったのが申し訳ないです
これなら最初に書ききってしまえばよかったですね…
>>692の続きです
------------------------------------------------------------

視線を落とし、シンジと目を合わせないようにするレイ。
その姿はまるで、イタズラが見つかり、叱られるのに怯える子供のようだ。
シンジは、レイがなんでそんな嘘をついたのか…今どんな気持ちでいるか…
聞くまでもなく既にわかっていた。

「……綾波」

決して咎める風ではなく、むしろ相手を安心させるように穏やかに声をかける。
そしてそっとレイの手に自分の手を重ねる。

「大丈夫だよ。こんなことしなくても、言ってくれればいつでも来るから」
698名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/30(土) 03:43:17 ID:???
そう言って、シンジはレイに優しく微笑んだ。
数秒の間を空けて、レイはおそるおそるシンジの顔へと視線をあげる。

「…本当?」

不安げな表情でそう呟く。
シンジはそんな嘘をつく人ではない…
そうわかっていながらも、レイはその言葉をもう一度聞きたかった。

「うん、もちろんだよ」

微笑みながらそう応えるシンジ。
レイは重ねるだけだったシンジの手をそっと握る。
その場には既に重い空気も不安げな表情もなく、優しい笑顔が二つあった。

碇君が来てくれるのが嬉しい。
碇君が帰ってしまうのが寂しい。
碇君ともっと一緒にいたい。
まだ、一緒にいたい…。

そう願いつつも、それを伝える言葉を知らないレイなりの、初めての我が儘だった。
699名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/30(土) 03:53:42 ID:???
乙乙乙
700名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/05/31(日) 22:49:57 ID:???
良スレですね!
どの職人さんも素晴らしい…
701名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/01(月) 19:36:46 ID:???
にやにやが止まらないw
702名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 01:42:06 ID:???
電気もつけず、月明かりだけが照らす部屋の中で、レイはベッドの上にシャツ一枚で
仰向けに寝そべりながらじっと携帯を見つめていた。
その携帯の電話帳に登録されているのは、「碇シンジ」のみ。
それもそのハズで、この携帯は連絡用にとネルフから至急された任務のための物と違い、
シンジに勧められて今日一緒に買いに行ったばかりのものだった。

「・・・・携帯なら、もう持ってるのに」

レイにとって携帯とは緊急の際にも連絡が取れるための物で、
エヴァパイロットとして欠かせないものであり、
それ以上でも以下でもなかった。
だから、別にもう一つの携帯を持つ事に何も意味を見いだせなかった。
しかし、シンジからの強い勧めと、ちょっとした好奇心も手伝って購入に至ったのだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

そして今、レイは相変わらずもう一つの携帯を持つことに意味を見出さない一方で、
何かを期待して待つかのように携帯を見つめ続けている。
もうどれだけの時間そうしていただろうか…
不安げにその表情を曇らせ始めたころ、携帯のコールが鳴り出した。

「・・・っ!!」

驚いたような表情を浮かべると、すぐに携帯を開く。
この携帯にかけてくる人間は一人しかいない。
誰が見てるわけでもないのに、レイは俯せの上体から起き上がり、ベッドに腰掛ける形で
心なしか姿勢を正したように座った。
703名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 01:43:50 ID:???
『・・・・もしもし?』
『あ、夜分にごめんね。今何してたの?』
『・・・・本を・・・読んでたの』

ずっと携帯を見ていた…とは言えず、咄嗟に口から出任せが漏れた。

『碇君は何をしていたの?』
『え!?あ、その・・・ぼ、僕も本を読んでたんだ!き、奇遇だね!』

そんな何気ない質問で、明らかに焦りを示すシンジ。
普通の人が聞けば本当に読書をしていたのか怪しいことこの上ない。
いや、実は本など読んでいなかったと考えて差し支えないだろう。

『どんな本?』

しかし、レイはそんなシンジの言葉を無邪気にも真に受け、怪しさから問い詰めるのではなく
純粋な好奇心からの疑問をシンジに投げかけた。
読書が唯一の趣味と言っても過言ではないレイに読書の話題で応えるのは墓穴だったようだ。

『えぇ!?え〜と・・・だから・・・○○○○って本だよ、今話題になってる』

咄嗟に最初に頭に浮かんだ本の名前を口にしたシンジ。
その本は今映画化されたことで話題になっている純恋愛小説だった。

『そう』
『・・・あ、あのさ、綾波』
『?』
『あの・・・今、あの本の映画やってるよね?
 よかったらでいいんだけど・・・今度の日曜、一緒に見に行かないかな?』
『え・・・』
704名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 01:45:07 ID:???
レイにとって、恐らくシンジにとっても予期しなかった誘いに戸惑う二人。
偶然か、今度の日曜はレイもシンジもネルフに行く予定も無い。

『それって・・・デート?』
『ち、ちがっ!?・・・・くも、ない・・・けど・・そ、そう・・・かな』

非常に歯切れが悪いがなんとか肯定の意志を見せるシンジ。
そもそも、レイの口からデートという単語が出たことが驚きの要因の一つだった。

『行きたい』
『本当!?えっと、待ち合わせの時間と場所は・・えと・・後でメールで送るよ!』
『そう、わかったわ』
『じゃあ、今日はこの辺で。あと、綾波・・・』
『?』

『おやすみ』
『・・・・・おやすみなさい』
705名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 01:47:25 ID:???
プツッ  ツーツーツーツー
通話が終わってからもそのまま携帯を耳に当て、
数秒の後名残惜しそうにゆっくりと耳から離した。
ベッドに腰掛けた状態のまま、通話の終わった携帯をじっと見つめる。
時間にすればせいぜい1分やそこらの会話だったが、
レイの心は先程と打って変わり満たされていた。
今なら、新しく携帯を買った意味がわかった気がする。
支給された携帯が鳴る時は、ネルフとの繋がりの表れ。
しかしこれが鳴る時は違う。

「(私と碇君との・・・新しい繋がり)」

寝支度を済ませると、どこか浮ついた気持ちのままベッドに入るレイ。
その胸には、大切そうに握られた新しい携帯があった。【つづく】
706名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 03:16:33 ID:???
続け!乙
707名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 05:36:05 ID:???
乙乙乙
708名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/06(土) 13:30:25 ID:???
709名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 02:36:48 ID:???
>>705続き

某日 日曜日 某駅にて
相も変わらず常夏の日差しが降り注ぐ中、軒下で涼をとるシンジの姿があった。
服装はポロシャツにジーンズというラフな格好。
まだ待ち合わせの時刻に達してないにも関わらず、そわそわと落ち着かない様子で
5分に一回は時計を確認している。
もう時間丁度になろうかという時に、不意に待ち人からの声が聞こえた。

「待った?」

声がした方へと顔を向けると、シンジは我が目を疑った。
オレンジ色のキャミソールに、ベージュ色のスカートという、
なんとも年相応の女の子らしい服装に身を包んだレイがいたのだ。
あまりに予想外かつ新鮮なレイの姿に、シンジは思わず魅入ってしまっていた。

「・・・・怒ってる?」

シンジの無言に不機嫌さを心配したレイは、不安そうにその表情を曇らせた。

「あ、ううん!!全然!僕が来たのが早すぎただけだから気にしないで!」
「そう。じゃぁ、いきましょう」
「そ、そうだね」

そして二人は駅のホームに向かう。
その道中、シンジはチラチラとレイのほうに視線を向けていた。
その視線に、さすがのレイも気がつく。
710名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 02:37:37 ID:???
「・・・・・なに?」
「あ、いや!ごめん!その・・・綾波も、そういう服着るんだなって思って」
「・・・・・・・・・変・・・かな?」
「そんなことないよ!!すごく、似合ってるよ」

その一言に、無言でうつむくレイ。
しかしその頬はほんのり赤くなっている。
そう言うシンジも、慣れない言葉を使ったことに照れを隠しきれないでいた。
お互い、照れを隠すようにたわいのない会話を繰り返しているうちに映画館に着く。
やはり恋愛メインの映画なだけあって、客層はカップルばかりであった。
自分たちも、はたから見ればこんなカップルに見えているのだろうか?
そんな考えが頭をよぎり、シンジはそわそわと落ち着かなかった。
一方で、同じ事が頭をよぎったのか、それとも映画館が珍しいのか、
レイはキョロキョロと周りを見渡している。
席に着くと、まもなく映画が始まった。
・・・・
・・・
・・

数時間の後、映画が終わると、そこには涙を流す客が後を絶たなかった。
映画の内容は、主人公の恋人が病に伏して倒れ、
死が二人を別つまでを描いた悲恋モノだったからだ。
しかしそんな中で、レイとシンジの目に涙は無かった。
その代わり、二人の手はお互いを繋ぎ止めるように結ばれている。
人影もまばらになったころ、二人は躊躇いながらも手を離すと、映画館を出て帰路についた。
夕焼けを背にする二人の間に会話は無い。
二人とも思い詰めたように無言で歩いていると、不意にシンジが口を開いた。
711名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 02:38:49 ID:???
「ねぇ、綾波。ちょっとそこの公園に寄っていかない?」
「ええ」

もう夕暮れのせいか、公園には人影は無く、二人はベンチに腰をかけた。
再び訪れた暫しの沈黙を今度はレイが破る。

「碇君は……エヴァに乗るのが怖い?」
「うん……やっぱり、怖いよ。もしかしたら、前よりも」

身の回りにいたカップルがみなそうしていたように、普通は見た映画の話題に触れる所を、
二人はなんの前置きも無くエヴァの、引いては今の自分達の立場について触れ始めた。
二人にとってあの映画の内容は決して人事ではないのだ。
いつ自分が、もしくは身近な人間が死ぬともわからない。
明日にも使徒が攻めてきて戦うかもしれない。
今日みたいな何気ない平和な一時はいつどんな形で崩れ去ってもおかしくない…
だからこそ、大切な人と居られる一時はかけがえのない大切な時間なんだと、
二人は改めて実感していたからだった。

「綾波は……綾波はどうなの?」
「……………今は……少し……怖い」

いつかと同じ質問をしたシンジに対し、返ってきたレイの答えは変わっていた。
その体は、少し震えている。
レイにとってゲンドウの命令に従うことに何の恐怖も躊躇も無かった。
しかし、今は……違う。
自分がいつか消えて失ってしまうのは余りにも怖いと思えるモノが、
既にレイには芽生えつつあったからだ。
712名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 02:40:18 ID:???
「大丈夫だよ…」
「え…」

一瞬、何をされたのかわからず戸惑うレイ。
シンジのぬくもりが伝わってくることで、レイは自分が抱きしめられている事に気づいた。

「僕が…守るから。みんなを…綾波を…」

堅い決意がもたらす武者震いなのか、それとも重圧がもたらす恐怖によるものなのか、
もしくはその両方なのか、シンジの体も小刻みに震えていた。

「うん……私も、守るから…」

そう言って、レイはシンジの背に手を回して抱きしめ返す。
どれだけの時間そうしていただろうか。
二人の震えは既に止まっている。
数秒にも、数分にも思える時間が経過したころ、二人はそっと体を離した。

「……帰ろうか」
「ええ」
713名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 02:41:34 ID:???
帰路に戻ると、やはり二人の間に会話は無かった。
しかしその表情はどこか満たされていた。
駅で電車を降り、最初の待ち合わせ場所へと着く。

「じゃあ、今日はありがとうね。また明日学校で」
「うん…また明日」

それだけ言葉を交わすと、二人はお互い背を向け、家路に着いた。
シンジはどこか後ろ髪を引かれる思いで歩いていると…

トゥルルルル
ピッ
『綾波?どうかしたの?』
『言い忘れてた事があったの』
『?なにかな?』
『碇君…おやすみなさい』
『…うん、おやすみ』

たったそれだけの携帯越しのやりとりだったが、
それだけで十分シンジは名残惜しさを吹っ切れた。
今夜はよく眠れそうだ…
そんな思いを、胸に秘めながら。
714名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 03:10:45 ID:???
初々しくていいわぁ〜
和んだ。素敵。
715名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 06:57:24 ID:???
おてゅ
716名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/10(水) 10:20:10 ID:???
乙乙乙乙乙
717名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/13(土) 12:01:55 ID:???
可愛いなぁ
718名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/13(土) 12:09:48 ID:???
物書きさんなの?クオリティ高い作品投下してくれるから嬉しいな
719名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 12:08:51 ID:???
読んで頂いてありがとうございます!
レイがドコモチラシみたいな服装を普通に持ってるのは不自然と思ったけど、
書くと長くなりすぎてダレると思って端折ったレイの服装に関するサイドストーリーがあったんですが、
よかったらそっちも書いてみていいですかね?

>>718
そんな大したもんじゃないですw
たまにこの投下スレに自己満で妄想を書かせてもらってるだけの輩です。
720名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/19(金) 16:28:09 ID:???
>>719
はっ早く投下してェェェ
721名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/20(土) 20:56:52 ID:???
>>719
投下待っとります!
722名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 04:34:49 ID:???
ある日の放課後、委員長…洞木ヒカリは驚きを隠せないでいた。
というのも、

「洞木さん、私に……服を…選んで欲しいの」

そんなセリフをレイの口から自分に投げかけられれば無理もない。
ヒカリは席で帰り支度をしていた手を止め、傍らに佇むレイを目を丸くして見ている。
レイのほうから声をかけてくるというだけでも珍しいのに、その内容がショッピングとなるとこれは正に一大事だ。

「………やっぱり…迷惑?」

あまりに予想外の出来事に面を食らってると、レイの口から不安げな言葉が漏れた。

「え!?あ、ううん!そんな事ないわよ!ただちょっとビックリしてただけ。
 でも、私なんかでいいの?」

ヒカリもやはり年頃の女の子なだけあってそれなりに服に気を遣っているが、
かといって人の服装を自信を持ってコーディネートできるだけの自負はなかった。
しかしレイにとってこんな事を頼めるのは、立場と性格も相まって今までで一番レイに話しかけてきたヒカリだけだった。

「…ええ。お願いできる?」
「うん、いいわよ!じゃあ、さっそく帰りに見て行きましょう」
723名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 04:35:55 ID:???
ヒカリもやはり年頃の女の子なだけあってそれなりに服に気を遣っているが、
かといって人の服装を自信を持ってコーディネートできるだけの自負はなかった。
しかしレイにとってこんな事を頼めるのは、立場と性格も相まって今までで一番レイに話しかけてきたヒカリだけだった。

「…ええ。お願いできる?」
「うん、いいわよ!じゃあ、さっそく帰りに見て行きましょう」

委員長という立場から、孤立しがちだったレイをなんとかクラスに馴染ませようと今まで何度かレイに
声をかけてきたが、そんなレイが自分の方から頼み事をしてきてくれた事がヒカリは嬉しかった。
そんな調子で、意気揚々とヒカリはレイと共にショップへと向かう。

「それにしても、急に服を選びたいだなんて…綾波さん、何かあったの?」

「…………別に、何も」

少しの間をあけて、一見無愛想ながらも頬を少し赤らめてそう答えるレイを見て、ヒカリは確信した。

「ふふふ…もしかして、デート?」

「えっ…?ち、ちがっ…」

「隠さなくてもいいじゃない!もしかして…碇くんと?」

なにやら楽しげにニヤニヤと図星をついてくるヒカリにレイは困惑する。
なんでわかってしまうのだろう…?と、レイは驚きを隠せなかったが端から見れば一目瞭然だった。
と同時に、確かに隠す理由は無いはずなのに、咄嗟にごまかそうとしてしまう自分に疑問も感じていた。
724名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 04:37:30 ID:???
「うん…。今度……映画を見に行こうって…」

観念したのか、レイは素直に白状する。
隠すことでは無いとわかってるハズなのに、やはり素直に話すと顔が熱くなるのを感じてしまう。
なぜこんな反応をしてしまうのか?
そもそも、なぜ一緒に映画を見に行くのに新しい服を買おうなんて思ったのか?
レイにとっては不可解なことだらけで、そんな自分に困惑していたが、
ヒカリのような同世代の女の子からすればなんの疑問の余地も無いのは明白だった。

「いいなぁ〜…はぁ…私も誘ってくれたらなぁ…」

レイの様子を見てうらやましく思ったのか、ヒカリもどこか遠い目でため息をついた。
その遠い目の先には既に特定の誰かを見ているようだったが、レイがそれを知るよしは無かった。
そうこうしているうちに、目的の店へと到着する。

「綾波さん、肌白くてキレイだし、こーいうの似合いそう」

そう言って差し出されたのは、白色のシンプルなワンピース。
さっそく試着室でそれを着てみるレイ。

「……どう?」

「うん、似合う似合う!でももう少し他の色もあった方がいいかなぁ…」

そうやって色々な服を試すこと数回。
最後に用意されたのは、オレンジ色のキャミソールとベージュのスカート。
例のごとくそれに着替えること数分後…。
725名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 04:40:02 ID:???
「似合う…かな?」

「わぁ、すごく可愛いわよ!女の子らしいし、綾波さんの白い肌や髪の色にもよく合うし、
 これにしたらどうかしら?」

「私も、これがいい」

最初は服の好みなど無かったレイだったが、ヒカリからの色んなアドバイスを聞いて
色々な服を選ぶ内に、レイにも服の趣味嗜好が芽生え始めていた。

「じゃあ決まりね!ところで綾波さん、よかったら下着も買わない?」

普段の体育の着替えの時や試着の手伝いの際に目にしたレイの下着は、
どれも飾り気一切無しのシンプルな下着ばかりだったが為のヒカリなりの気遣いだったのだが…

「あ!も、もちろん変な意味はないわよ!?中学生がそんなのダメなんだから!!
 しょ、勝負下着だなんてまだ早いわ…(ボソッ)」

もちろん実践したことは無いが、知識としてそんな風習を知っていたヒカリは
深読みされまいと咄嗟に真っ赤な顔でフォローを付け加えた。

「ショーブ下着って何?」

だが、そんなレイの素な反応にすっかり毒気を抜かれたヒカリは落ち着きを取り戻した。
726名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 04:41:48 ID:???
「し、知らないならいいのよ…やっぱり下着の話は無かったことにして。
 あ、間違っても碇くんに聞いちゃだめよ!?絶対だからね!」

「? わかったわ」

そうして買い物は終わり、二人は帰路に着いた。

「洞木さん、今日はありがとう」

「ううん、いいのよ!綾波さんも頑張ってきてね!じゃあ、また学校で」

そう言って二人は別れ、レイは自宅に着くとすぐにシャワーを浴び、シャツ一枚でベッドに倒れ込む。
(明日は碇くんとデート…)
そう考えると、どうしても胸が高鳴り、眠れそうになくなる。
新しい服をシンジに早く見せたい…似合ってると言ってくれるのか、それともイマイチと思われるのか…
そんな期待と不安に入り交じった気持ちでレイは前夜を過ごした。
そして当日…

「……変…かな…?」
「そんなことないよ!!すごく、似合ってるよ」

シンジのその言葉で、今までの不安も思い悩んだ時間も全て報われた気がする…
言葉にならない喜びを噛みしめながらうつむくレイの表情は、嬉しそうに微笑んでいた。
727名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 05:45:29 ID:???
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
乙乙乙
728名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 08:39:47 ID:???
( ´∀`)イイデスネーイイデスヨー

でも、ダチョウ的な雰囲気が漂ってるのはなぜ?
729名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 09:00:50 ID:???
上島「殺す気か〜っ!」
730名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 18:27:35 ID:???
良いLRSw
731名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/21(日) 18:29:37 ID:???
最後可愛い
732名無しが氏んでも代わりはいるもの
GJ
ケータイに関するストーリの方は無いのか