でも、出来なかった。
今度は眠る事も怖いんだ。
眠ろうとすると寒さが際立って、一層一人だという事を思い知らされて、寂しさで胸が張り裂けそうになった。
と言って誰も居ない地上に戻る事も怖い。
たとえ一人だとしても、皆が融けているL.C.L.の中に居る方が幾分マシだと思えた。
その時だと思う。
静かに凪いでいたL.C.L.が荒れたのは。
水底を掻き回す様に渦が起こった。
勿論底に居た僕はそれに巻き込まれた。
僕はもう動きたくなかったから、何とかして底に残ろうとした。
けれど渦はどんどん大きくなって、その速さも増していった。
ぐるぐると回る流れに流されて気が遠くなる。
その時、視界の端に何か光る物が見えた。
――幽、霊?
違う。
まさかあれは……カヲル君?
どうしてカヲル君がここに居るんだろう……?
L.C.L.の流れに乗って近付いて来る。
カヲル君は渦の外側の前に来ると、渦に手を突っ込み僕の手を取り僕を渦から引きずり出した。
――僕を、助けてくれたのか?
僕が不思議に思っていると、カヲル君は僕の顔を覗き込んだ。
あけおめございます(*- -)(*_ _)ペコリ
漸く上手く纏まってきたのでシンジside開始。
とりあえず約三分の一だけ先にw
今回分の続きはさるさん回避しながら今日中に投下予定。
まったりペースですがことよろ。
「シンジ君、どうしてこんな所に戻って来たんだい?」
「どうしてって……」
「君はこの海から出て行った筈だよ。それがどうしてまたこんな所に居るんだい?」
僕は砂浜での事を話した。
「……誰も、戻って来ないんだ。カヲル君の言う通りに会いたい人を思い浮かべたけど、会えなかったんだ」
「ふうん?」
カヲル君は周囲を見回した。
「でも、ここには君が会いたいと思った人は全員居るよ」
「けど、誰も戻ってなんて居なかったよ。探しても誰も居ない。寒くて、寂しいだけだった」
僕も周囲を見回してみたけれど、誰の姿も見えなかったし気配も感じなかった。
「でも皆君の周囲に居るよ。本当に何も感じない?」
「感じない」
「本当に?」
「うん」
僕が答えるとカヲル君は少し困った顔で言った。
「おかしいな、皆ここに居るのに。シンジ君、本当に会いたいって思ったのかい?」
――どういう事?
一瞬何を言われたのか解らなかった。
「カヲル君……何を言っているの……?」
カヲル君は更に追い討ちを掛けてきた。
「もしかして君は……誰にも会いたくなかったんじゃないのかい?」
「そんなっ、そんな事無いよ!」
「でも誰一人戻って来なかったんだろう?」
「……それは……そうだけど」
「なら会いたくないと思ってたのかも知れないじゃないか。本当に会いたいと思っていたのなら、皆戻って来ている筈だよ」
「――!」
カヲル君の言う通りだ……。
一人は寒い、寂しい、怖いと思っていながら死ぬ事を選び、最後にはこの海の底で眠り続ける事を望んだ。
結局それは出来なかったけれど、僕は心の何処かで、一人で居る事を望んでいるのかも知れない。
「そうかも知れない……」
「やっぱり」
「……でも、一人は嫌だ」
「本当に?」
カヲル君が僕の顔を覗き込む。
目が合った。
赤い眼が僕を射抜く。
僕はその視線から一瞬逃れようとしてしまいそうになったけれど、踏み止まってその眼を見つめ返した。
「うん……だって、自分の事が判らなくなるから。全部融けてしまって判らなくなるのと余り変わらないから。
だから一人は嫌だよ」
「成程、ね」
カヲル君は腕を組み暫く何かを考えていた。
そして僕に言った。
「じゃあ後は、シンジ君が無理矢理連れて行くしか方法は無いね」
「え? 無理矢理?」
「そう。このままじゃ何時まで経っても誰も戻って来ないよ。だって誰も自分の姿を思い出さないんだから」
「だからって……そんな……」
僕が皆をL.C.L.に変えちゃったのに、戻せって事?
そんな、無理だよ!
どうやって変えちゃったのか判らないのに、それを戻すなんて出来ないよ。
「随分難しい顔をしているけれど、結構簡単なんだよ? だって君が会いたい人を思い浮かべるだけで良いんだから」
「でもさっきは誰も戻って来なかったんだよ? さっきだって僕、会いたい人を一杯思い浮かべたのに。
それを出来なかったのは僕の所為だって言ったのはカヲル君じゃないか」
「だから、さ。さっきはシンジ君の願いに皆反応しなかったけれど、今度は違うよ? 無理矢理思い出させるんだからね。
思い出させて、この海から連れ出すんだ。そうすればもう一人じゃないよ」
「連れ……出す……」
「そう。一番会いたい人をここから連れて行く事が出来るんだよ」
それはとても魅力的な誘惑だと思った。
確実に一人じゃなくなるって事なんだから。
躊躇はしたけれど、ほんの一瞬の事だった。
考えるまでもなく僕は承諾の言葉を口にしていた。
「……解った。やって、みるよ」
一番会いたい人。
母さん……違う。
母さんにはエヴァの中でさよならを言った。
綾波……違う。
綾波はこの海の中に居るだろうけど、融けてはいなかった。
カヲル君……違う。
カヲル君は目の前に居る。
ミサトさん……生きてるんだろうか。
エレベーター前で別れたあの時、何故か血の臭いがした。
僕は、誰に会いたいんだろう――?
「シンジ君、会いたい人は決まったかい?」
僕が深い思考に陥ろうとした時、カヲル君が僕に問い掛けた。
その時、僕は見てしまった。
カヲル君の口元が薄く歪み、舌なめずりしているのを。
そしてそれを見て、僕は思い出してしまった。
忌まわしい啼き声。
垂れ落ちる血、肉。
勝利の雄叫びを上げながら、槍を手に空を舞う量産機。
それだけじゃない。
何機かの口には弐号機の残骸が銜えられていた。
それを見て舌なめずりしていた量産機の姿も。
「ア……アスカ……」
そうだ、弐号機にはアスカが乗っていた。
アスカは一人で九体も相手にしてたんだ。
僕が逃げたから。
僕が初号機に乗れていれば、二人で相手していたのかも知れない。
けれど僕は何もかも嫌になって、逃げてしまった。
だから一人で相手せざるを得なかったって事だ。
そして、負けちゃった。
それだけじゃない。
アスカがシンクロしたまま、弐号機は量産機に喰われちゃったんだ。
僕はそれを見て――。
嫌だ。
いやだ。
イヤダ。
アスカにもう会えないなんて。
アスカが死んじゃったなんて、嘘だ。
だって、アスカは……。
「アスカ、それが会いたい人の名前かい?」
「え――?」
「僕が聞いたら、君はそう答えたんだよ?」
「あ、いや……その……」
「何だ、違うのかい?」
僕は直ぐには答えられなかった。
だってアスカは僕を嫌ってる、憎んでる。
意識が融け合っている時、ひしひしとそれを感じた。
僕がアスカに助けを求めたから。
僕がアスカに酷い事をしたから。
「……アスカは、きっと嫌がるよ。だって僕の事嫌ってるもの」
「そうなのかい?」
「きっと、そうなんだ。僕、アスカに一杯酷い事言ったんだ。だから、アスカは僕を憎んでる」
アスカが元々僕をどう思っていたのかは知らない。
けど、そんなに悪い関係じゃなかったと思う。
でも僕はアスカに酷い事をしたんだろう。
実際、アスカに酷い事も言った。
だから、アスカは僕を憎んでる筈だ。
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、その人に会いたい訳じゃないんだね?」
僕は首を振った。
「そんな事、ないよ。会いたくない訳じゃない。ただ、怖いんだ」
「何が怖いんだい?」
「何だろう……?でも、多分、思い知らされるのが怖いのかも知れない」
もしアスカに会えたとしても、僕はアスカに嫌われている事を、憎まれている事を、改めて突き付けられる筈だ。
そう考えてしまうと、何の為に戻って来たのか判らなくなる。
でも、僕は皆にもう一度会いたいと思った。
その気持ちは本当だけれど、怖いのも事実だ。
「何をだい?」
「解り合えない事が当たり前だという事」
解り合おうと努力する事は出来るけど、本当に何もかも解り合うなんて無理だ。
僕はそれを知っていて戻って来た。
けど、それを改めて突き付けられる事は、やっぱり怖い。
僕がアスカの事を解ろうとしたとしても、解り合える保障なんて何処にも無い。
ましてやアスカは僕を憎んでる。
アスカが僕を解ろうとしてくれる事なんてありえない、ある訳が無い。
「じゃあ諦めるかい?」
カヲル君が僕に再び問う。
また僕は首を振った。
「……なら、どうすれば良いんだろうね?」
カヲル君はそう言って、水面を見上げた。
暗い中に、一点だけきらりと光る何かが見えた。
「多分、ここの何処かに居るアスカを、連れて行けば良いんだ。だって僕はアスカに会いたいと思ってるんだもの」
「それがシンジ君の答なんだね」
「うん」
「でもこれはシンジ君だけが思ってる事かも知れないよ? その人はシンジ君に会いたくないと思ってるかも知れない」
「それでも、会いたいんだ」
「随分と傲慢なんだね」
「そうかも知れない」
きらりと光る何かが揺ら揺らと揺れている。
よく見るとそれは渦が光を乱反射させているのだと判った。
光は小さくなったと思えば、今度は眼が痛みを覚える程光ったりしながら、ゆっくりと渦を纏って下りて来る。
「あれは何?」
「多分、無理矢理ここから連れ出そうとしているから、嫌がってるのかも知れない」
「そうなんだ?」
「ここは曖昧で脆弱な代わりに、苦しみが無い。夢と望みが適えられるからね。その代わりに自分の姿を思い出せなくなる」
「自分の姿を思い出したくないの?」
「……余分な物がくっ付いてる」
カヲル君は顔を顰めると渦の中に手を突っ込み、光を中から引き摺り出した。
光はカヲル君の手の中で暴れる様に光の強さを変えた。
しかしそれを抑え込む様にカヲル君は光を手で握り潰す。
じたばたと暴れていたそれは、暫く時間が経つと漸く大人しくカヲル君の手の中に収まった。
「ねぇ、シンジ君? もう一度聞くよ?」
「何を?」
「君は会いたい人をここから連れて行く事が出来る。でもそれは、限り無くその人から拒絶される可能性が高い事だ。
夢と望みが適えられた世界から、無理矢理引き剥がすんだからね。それでも君は、その人に会いたいと思うかい?」
「……ここは気持ち良いけれど、自分が判らなくなる。それって自分が居ないのと同じ事だよね?
だったら僕は、苦しくても自分が居るのが判る世界を選ぶよ」
「それはとても独り善がりで傲慢な考えだよ?」
「自分が居なくなって、最後に何も無くなってしまうよりは、ずっと良い。僕は、アスカに会いたい」
躊躇い無く口からするりと言葉が出た。
それは、一人で居る恐怖と比べた今の僕の嘘偽りの無い気持ちだった。
「でもその人は、シンジ君が知っているままだとは限らないよ? 無理矢理連れて行く事になるから、何かが欠けているかも」
アスカがアスカじゃない?
どういう意味だろう?
欠けているって……?
「アスカに何かあったの?」
「何か起こるかも知れないって事さ」
「え……っ?」
「シンジ君の理想が反映されているかも知れない。それでも良いのかい?」
「どういう事?」
僕の理想?
何の事を言っているの?
カヲル君は、何を言いたいの?
どうして僕に聞くの?
「その人を構成している何かをこの海に残してしまうかも知れないんだ。引き剥がす事で大きな負担を掛けるからね。
それだけじゃない。融けてしまっている物を集めなければならない。そしてそれを元に戻すのは君の役目だ」
「それって……」
「戻って来たとしても、融けてしまう前と同じ人物とは言えない事もありうるって事さ」
「……でもそうしないと、戻って来ないんだよね?」
「そうだね」
カヲル君は僕の顔を覗き込んできた。
「それでも君は、その人に会いたいかい?」
アスカがアスカじゃなくなるかも知れない。
それが何を表すか解らない僕じゃない。
それでも僕は、怖かった。
一人になるという事が。
それに、母さんは言ってた。
幸せになるチャンスは何処にでもある、って。
太陽と月と地球がある限り、生きていける、って
そして、僕の幸せは何か判らないけれど、一人で生きていく事が幸せだとは思えない事だけははっきりしていた。
だから僕は会いたいと思う。
それがエゴだとしても、僕はアスカに会いたい。
アスカに会う事で、僕は僕の幸せを掴みたい。
「……会いたい。我侭だって事は解ってる。でも一人のままじゃ、僕は幸せになれない。僕は幸せになりたいんだ」
「それで良いんだね?」
「たとえ傷付いても、それはそれで良い。結果的に死んじゃったとしても、一人のままよりは幸せだった、って言えるから」
僕はアスカの事を思い浮かべた。
明るくて強気で、皆が憧れる位綺麗で頭が良くて、僕なんか比べ物にならない位エヴァの操縦が上手くって。
でも時々意地悪で、時々少しだけ優しくなる。
それでいて僕の持っていないものを沢山持っていて、最も理解に苦しむ女の子。
それが僕のアスカのイメージだった。
その時だった。
上から流れ星の様にキラキラと光が降って来たのは。
それはとても綺麗だったから、僕は手を伸ばして触れようとした。
でも、まるで逃げる様にするすると僕の手をすり抜けていく。
何度手を伸ばしても、僕はその光を手にする事は出来なかった。
「どうやら、シンジ君には触れられたくないみたいだね」
「え?」
「あそこを見てご覧よ」
カヲル君が水底を指差した。
光が堆く積もっていた。
そしてその周囲を、渦がまた囲んでいた。
「多分、あれが君の会いたい人の欠片達だよ。これは多分その一部だろうね」
そう言ってカヲル君は握り締めていた光を僕の手に乗せた。
「欠片?」
カヲル君が僕の手に乗せてくれたアスカの一部だという光は、カヲル君の手の中にある時以上に僕の手の中で暴れた。
――イヤ。
――アナタ ト ダケ ハ シンデモ イヤ。
意識が融け合っている時に聞こえたアスカの声を思い出した。
「……は、はは……やっぱり、やっぱりアスカは僕が嫌いなんだ……」
僕は暴れる光を力一杯握り締めた。
水底の光を囲む渦が、その速さを増す。
「どうやら戻りたくないみたいだね。君が会いたい人は弐号機パイロットかい?」
「そう、だけど……どうしてそんな事を?」
カヲル君が渦を睨んでいた。
「あそこから弐号機の気配がする」
「もしかして、弐号機のコアに居た人?」
「そうだと思う」
「だったら多分、初号機と同じ様にアスカのお母さんが居たんだと思う。それがどうかしたの?」
カヲル君の眼が厳しい光を帯びていく。
「周囲を全て拒絶して、完全に融ける事が出来ずに不安定になって消えそうなんだ。弐号機はそれを辛うじて引き留めてる」
「それって……」
アスカはお母さんと一緒に居るから、消えずに居るって事?
だとしたら……僕が連れて行こうとしたら……。
「アスカは……消えちゃうかも知れないって事……?」
「そうなるね。でも、このままの状態で居たとしてもその内消えてしまうと思う。弐号機は傷付いてるからね」
「量産機に負けちゃったから……?」
「シンジ君、どうする? 弐号機から引き剥がすと不安定になって消えてしまう。そのままにしておいても何れは消える。
それを防ぐには無理矢理連れて行くしかない。けれど不安定な状態では、完全に元に戻るとは言い切れない」
酷いや。
君は僕がどうするか知っていて、そんな事を言うんだね。
そんなの、決まってるじゃないか。
「やっぱり、僕はアスカを連れて行くよ。もう会えなくなるなんて、考えたくない。会えなくなる事は怖いもの。
知っている人が居なくなるって、凄く嫌なんだ」
僕は渦の中へと足を踏み入れた。
湖底に沈んでいた石や砂が舞い上がり、僕に容赦無くぶつかって来る。
前が上手く見えない。
それでも僕は一歩一歩、慎重に前に進み渦の中心へと近付いた。
実際の時間は多分一瞬の事だったと思う。
でも僕にとってはとても長い時間に思えた。
渦の中心に手を伸ばし、堆く積もった光の塊に触れた。
――キライ。
――キライ、キライ。
――アタシ ニ フレナイデ ソバ ニ コナイデ。
――アタシ ハ ヒトリ デ イキル ノ。
――ミンナ キライ ダイッキライ。
刺々しい声が聞こえた。
冷たくて、寂しいイメージがした。
触れた指が、刺す様に痛い。
――ママ。
――アタシ ママ ガ イッショ ナラ シアワセ。
――ママ ズット イッショ ヨ。
――ママ。
お母さんを呼ぶ声が聞こえる。
アスカも会えたんだ。
温かくて、嬉しそうなイメージ。
そうか、アスカは今こうしているのが幸せなんだね。
でも、御免。
僕は僕の幸せを諦めたくない。
僕は聞こえる声を無視して、光の塊を打ち崩した。
光が宙を舞う。
舞い上がって、暗く沈んだ水底を明るく満たした。
やがて一つの形を映し出す。
渦が嘘の様に静まり、満たされていた光は霧の様に消えてしまった。
幽かに名残として、水の中にアスカの姿を映す。
触れると壊れそうな位、その姿は弱々しかった。
何処に視線を合わせているのか判らないその瞳は、まるで硝子玉の様に無機質だ。
ふわふわと浮き沈み、揺ら揺らと陽炎の様にその姿は揺らめく。
一向に安定しなかった。
「アスカっ!」
僕は浮かぶアスカに手を伸ばした。
しかし後一歩の所で届かない。
逃げていく。
「……アスカ、そんなに僕が嫌いなの?」
返事は無い。
けれど、焦点の合わない瞳が雄弁に語っている様に見えた。
カヲル君が浮かぶアスカを見上げて言った。
「これで、姿だけは思い出したね。ここから先は僕達の仕事だ」
後ろに誰か居る。
振り向いたそこには、綾波が光の欠片で膝の上と両手を一杯にして佇んでいた。
「碇君、貴方の手の中の物を渡して」
僕は握り締めたままにしていたアスカの欠片を綾波に渡した。
「それは何?」
「弐号機パイロットの魂、心。そういった物の欠片を集めた物。それを一つ一つ繋ぎ合わせるの」
綾波は欠片を一つ一つ手に取ると、パズルの様に繋ぎ合わせた。
「弐号機パイロットはとても傷付いてしまったの。体も、心もバラバラになってしまった。だから繋ぎ合わせるの
でも、これで全部かどうかは判らない。集める事が出来るだけ集めたけれど」
綾波が持っているアスカの欠片は、僕が触れた時に感じたそのままの形状をしていた。
沢山の棘が表面を覆っている。
たまに棘が無い物があっても、それはとても鋭利な刃物の様になっていたり、今にも割れそうな薄い板の様だった。
皹が入っている物もあった。
そしてどれもが、寿命が切れ掛けの電球の様に、何処か煤けた様な暗い光を放っていた。
「高シンクロのままロンギヌスの槍に貫かれたんだ。そしてその後量産機に喰われた為に、魂が砕けてしまったんだよ」
また、上から光る物が降って来た。
その光がアスカの欠片に触れると、欠片は眩い光を放ち始める。
「弐号機の魂が、弐号機パイロットを守ろうとしているの。砕けて消えそうになるのを、必死に繋ぎ止めている」
綾波の手をよく見ると、小さな擦り傷や切り傷が付いていた。
一つ一つはどうって事もなく痛みも感じない程度だけれど、それらが大量にあると痛み出す筈。
僕は居た堪れなくなり、手伝おうと綾波の膝の上の欠片に手を出そうとした。
「触らないで。碇君が触れると、弐号機パイロットは激しく反発してしまう。欠片が崩れてしまうかも知れない。
触ってはダメ」
「でも――!」
「碇君は弐号機パイロットが心を取り戻せる様に祈っていて。それだけで良い。だって、これは碇君の願いだから。
私達は碇君の、ヒトの希望。だから、碇君の願いを適えたいの。碇君は祈るだけで良い」
綾波は僕の手を激しく拒否した。
彼女の手に血が滲んでいく。
その度に光る欠片が他の欠片と繋がり、綾波の膝元には小さな光の粒が零れていた。
「弐号機の魂が役目を終えたんだ。後は静かに眠るだけ……」
「アスカのお母さんも……僕の母さんみたいに、アスカをずっと守っていたんだね」
「親は子を守ろうとする心があるからね」
「でも僕は、無理矢理それを引き剥がしちゃった……」
「そうしなければ、弐号機の魂も弐号機パイロットも共倒れになっていた。結果的には良かったと思うよ。
弐号機の魂は、ずっとずっと、傷付いた弐号機パイロットを守ってきた。その力を磨り減らしながら、ね。
だからもう、無理をするのは終わりにしなくちゃいけないんだよ。でなければ、彼女は永遠に眠る事が出来ないから」
カヲル君は光の粒を手で掬うと、一つに纏めて固まりにしてしまった。
そして、その固まりをアスカの手に持たせた。
「これは弐号機の魂の記憶。彼女が幸せだった頃の想いが沢山詰まってる。
弐号機パイロットが幸せだと感じた記憶を思い出せる様に。僕達からの餞だよ」
「有難う……カヲル君、綾波」
光に照らされたアスカの顔に、少しだけ血の気が戻り、口元に笑みが浮かんだ様な気がした。
「……出来たわ」
綾波が両手を傷だらけにしながら、アスカの欠片を繋ぎ終えた。
それはとても小さくて、幾つもの小さな棘と刃で包まれていた。
そして、今にも壊れそうな程脆く見えた。
「アスカは、一杯傷付いてたのかな?」
「判らないわ」
綾波が繋ぎ合わせた固まりをアスカに近づけると、固まりはアスカの中に吸い込まれてしまった。
そしてアスカはそのまま何処かに消えてしまった。
多分、本来の姿に戻った為に、他の人と同じ様にL.C.L.に還ったのだと思う。
「これで器と魂が揃った。後は碇君が願うだけ。弐号機パイロットに会いたい、と」
「うん」
「でもこれだけは忘れないで。たとえ会えたとしても、碇君を受け入れてくれるかどうかは判らない。
そして本当に元の弐号機パイロットが戻って来るという確証も無い。
確かなのは、この海から引き剥がしたという事実が残るという事だけ」
「解ったよ」
「なら、もうどうすれば良いか判るよね?」
僕は大きく頷くと、水底から足を離した。
水底から離れるに連れてカヲル君と綾波の姿が揺らめいていく、小さくなっていく。
僕の体は本来の浮力を取り戻したみたいだった。
揺らめくL.C.L.の流れが、僕を水面へと舞い上げる。
見上げると水面が輝いていた。
僕はひたすらその輝きに手を伸ばした。
だけど、僕の手には中々届かなかった。
手を伸ばしても、伸ばしても、水面には中々届かなかった。
戻らなきゃいけないのに。
アスカに会わなきゃいけないのに。
そう思う心が益々僕を焦らせる。
そして焦れば焦る程、L.C.L.が全身に絡み付いた。
手に、足に、錘の様にL.C.L.が絡んでいく。
とても全身が重い。
雁字搦めになりそうで、息が詰まりそうだ。
眼が霞む。
上手く前が見えない。
L.C.L.の赤がどんどん色を失っていく。
頭が、重い。
――後少しなのに。
届きそうで届かない。
何か厚い壁でもあるかの様だ。
それでも僕は手を伸ばし続けた。
ただ、アスカに会いたい、という一心で。
勿論、僕のエゴだって事は解ってる。
お母さんと一緒で幸せそうにしていたアスカを、お母さんから引き剥がした。
今だって、融けていれば苦しむ事はない海の中から、無理矢理引き摺り出そうとしてる。
恐らく、僕のした事、しようとしている事は間違っているんだろう。
それでも僕は、諦める訳にはいかなかった。
永遠に一人だという苦しみよりも、誰かに傷付けられる苦しみを選んだんだから。
自分でも身勝手だと思う。
けれど、恐怖を覚えた事に拠って人は一人では生きていけないって事を身に沁みて感じた。
多分、その時から僕は我侭に成ったのかも知れない。
槍に刺された鳩尾と掌がやけに痛む。
ぐらり、と酷く眩暈がした。
――キライ。
アスカの声だ。
――キライ キライ ダイッキライ。
刺々しい感情が僕を攻撃する。
僕が水面に、光に近付こうとすればする程、呪いの様に声が頭に響く。
そしてプツン、とその声が途切れた時、僕の手は漸く水面の上へと突き出した。
僕は重い体を引き摺り海から這い出すと、砂浜に倒れこみながら、肺一杯に空気を吸い込んだ。
ごろり、と体を転がし、仰向けになって空を見上げると、大きな月が僕を見下ろしている。
呼吸を整えようと横になったまま月を見上げている内に、何故か涙が止まらなくなった。
会いたい。
ただ無性に、アスカに会いたかった。
投下終了。
続きはまたその内にでも。
シンジ視点ですか
乙であります。
希望はもう織月女史だけだね
まちまち
「きゃぁ!!しんじ君のエッチ!」
おままごとをしている時、ぐうぜんしんじ君の手があすかちゃんのお尻に当たってしまいました。
「あはは、ごめ…いたっ!も〜、ぶたないでよ〜」
続きは別スレで。
まち
エヴァ板良スレ保守党
エヴァ板良スレ保守党
寒い保守
エヴァ板良スレ保守党
エヴァ板糞スレ埋め党
370 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/24(水) 21:38:57 ID:e0INps3K
保守
きゃぁ!!何よバカシンジ!!やめ…や…あんっ
ほ
きゃぁ!!何よバカシンジ!!やめ…や…あんっ
スレタイが可愛いなw
がんがれ迎え火(゚ω゚)ニャンポコー
378 :
アスカ:2010/06/02(水) 03:41:17 ID:???
あんなものブラブラさせて家のなか歩くなんって…
シンジ「アスカっ!このまま中で出すよっ!」
やめ…や…あんっ
アスカ「……や、やめて」
シンジ「ん?なんだ?ちいせー声じゃ聞こえねーよ!!」
アスカ「…やめて…入れるのだけは…やめて」
シンジ「人にお願いする時はどういった言葉遣いをするんだよ!!!」
アスカ「や、やめて下さい…お願いします」
シンジ「バーカ、もうおせーんだよ」
アスカ「な…や、やめて…やめ…
いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
なんか違う
アスカ「何よバカシンジ!!やめ…や…」
384 :
きゃあ!:2010/06/10(木) 13:35:43 ID:???
あんたって正真正銘の変態ね!バカシンジ!!
たうのhidden lecrifurは迎え火の劣化コピーの魂のこもっていない最低FF
たうは盗作電波自演荒らしの四重苦の高CQ、これ豆ね
みんな気をつけてね