1 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:
2 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/11(木) 17:08:55 ID:3g6Msfoq
俺のエロさにお前が抜いた
', ヽ、
ヾ ヽ、___
入ノ:.:.>-ニヽ
,イ:.:::::::.:/ ̄ ̄ニヽ、
ト、_,ィ‐==-:.:.:.::\
iト、___/::∧:.:.:.:.:.:.:.:| 汁はこれで拭いとき
Lr−--t-'-tテ-、:.::|
| i/ニヽ,j| / { ヽj
∧∧} リ〃 `-'__ヽ,:.∧∧イィィミ
≦ ヾー-‐'´:.:.∠ ≧
≦ ≧:.:.:.:.:.:.:.:.:Z ≧ __
, ヘ、 _ < ≧ー―≦ 入 _ ≦、 ,イ ヽ、
// / ≦_ ____Z ンww>wwwwミww∠ ヽイ ヽ、 \
// , ' <ニ) /ヽ==il o i|/ ミ r=ヽ、 ヽ, ',
// iイi _ ,/<二) {//:.:.:::|| l| ミニニヽ、|l i| i |
| l |l //し/ / L_」:.:.:.ノ|l o l| ミ |:.:.:.ヾ、 l|−-|_!
 ̄ |iリ:.:.:.:.:しし'⌒  ̄ ̄`ー-‐'l ミ |:.:.:.:.:.:}} リ
i|:.:.:.:.ミ リゝwwwwwwwwwwwwヾ ノ:.:.:.:.:.:.:i| /
愛だな。
再始動だな
乙
>>1超乙!
朝に「迎え火」続き更新しました
前スレ更新連絡したら止まっちゃったんで一応こちらでも書いておきます
今後エロ分入ったら私の方はサイト持ちなので纏めに直うp後こちらに連絡で行きます
アスカsideもプロット的に後半入ってるんでシンジsideはこちらに投下で
長くなってダレ気味で申し訳無いorz
>>1 乙。
俺も再建しようと思ったが、連続は無理でね。
今回の依頼荒らしのおかげで大分常駐減ったが、全再建目指そう。
9 :
キョーコ:2007/10/12(金) 11:43:16 ID:???
ho フー!
ho
迎え火稲荷町
Blogもたまに見てるぞがんがれ迎え火(゚ω゚)ニャンポコー
13 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/20(土) 21:15:17 ID:5D/ys607
あげ
煮詰まったんで保守代わりの補完話別スレ投下後サイト保管しますた。
亀で申し訳ないorz
15 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/23(火) 06:59:19 ID:qu3540QW
あたしそんなに速くされたら…あんっ…ダメっ(///
んっ…シンジってばこんな時だけ積極的になるなんて生意気よ…んっ…(///
あっ…そこはダメっ…はぁっ…音恥ずかしいから辞めなさいよバカシンジ…んあっ!(///
シンジ…指二本もダメっ…そんな…反則…あ…イ…(///
シンジ「アスカっ!このまま中で出すよっ!」
18 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/10/29(月) 21:21:25 ID:MRZzkAcP
ア
!!
アスカ「あぁっ、ひゃん…な、中はらめぇぇ」
保守
早く続き書いてよ迎え火
ho
手放した意識を取り戻した時、アタシは湯船の中でアイツに抱きかかえられていた。
歪んで映る世界を受け入れる事に戸惑う事しか出来ないアタシ。
アイツの望みを受け入れたアタシ。
受け入れる事で「女」だという事に気付かされたアタシ。
それを認めてしまったアタシと、認めたくないアタシ。
快楽に流されるままのアタシと、必死に抗うアタシと、冷やかに観察して状況を理解しているアタシ。
濁った湯の色が、幾つにも分かれた今のアタシの心を映し出した様に見える。
第一、アタシは何故悲しいんだろう?
布団の上で溢した涙は嘘じゃないのに、その悲しみは何処から?
解らない……自分の事の筈なのに。
自問自答していても仕方が無いのは解っているけれど、どうしても止められない。
改めて整理してみる。
サードインパクトは起きてしまったという事。
アタシの記憶は量産機との戦闘で、槍に全身を貫かれてから途切れているという事。
途切れてから目覚める迄の間にサードインパクトがあったという事。
どうやら生きている人間はアタシ達2人だけだという事。
あれだけ憎悪し嫌悪感を抱いたアイツの側に居る事が、何故か苦痛ではなくなった事。
アイツがサードインパクトを起こしてしまったと主張しているという事。
サードインパクトの最中にあった出来事もその裏に隠されている事も、アイツは知っていると主張しているという事。
高フィードバックの影響が体に残されているかも知れないという事。
槍に貫かれた感触と痛みが残っているにも拘らず、アタシの体には傷が残っていなかったという事。
そして、アイツがアタシを「女」にした最初の「男」だという事―――――。
アタシ自身、サードインパクト前後で自分が変化した……いや、変質の方が正しいという事を自覚している。
自覚していながらも、自分自身ではその変質に至る原因の見当が付かない。
なれば、その原因を解く鍵がサードインパクトにあると考えるのが自然だ。
アイツはそのサードインパクトで何が起こったか、その前後での世界の違いに気付いている……?
気付いているからこそ、今が「地獄」だと言ったのだろうか?
そもそも「一緒に」堕ちて欲しいと望んだ事と、体を重ねる事には何の意味があるのか?
どちらにしても全ての疑問はサードインパクトに集約している。
そして、どれだけアタシが考えを廻らせようが、結局は全てを知っている筈のアイツに縋るしか知る術は無いという事だ。
そんな堂々巡りの思考を妨げるかの様に、水滴が落ちる音が聞こえた。
上に昇った湯気が天井で冷やされ液体に戻り、濁った湯の上に落ち波紋を広げる。
アタシはその広がる様をぼんやりと眺めていた。
ポトポトと不規則に落ちる水音が、少しずつアタシの思考を現実に引き戻していく。
ああ……そう言えばこの状況って、無防備もいい所だ。
アイツは海岸でアタシの首を絞めた。
まだ意識もはっきりと取り戻していない、気を失ったまま寝そべっているだけのアタシの首を。
アタシがアイツに憎悪を抱いた様に、アイツもアタシに憎悪を抱いたのだろうか?
何故、絞め続けていた手の力を途中で緩め、アタシを抱きしめ泣き崩れたんだろう?
アタシを憎んでいるのなら、首を絞めた事も説明が付くのに。
中庭でアタシを組み敷き、体を重ねた事にしたって、憎しみで辱めを与えたとすれば説明が付くのに。
胎内にアイツを受け入れたまま意識を手放したアタシの首を、そのまま絞めて殺す事だって出来た筈。
今だってそう。
はしたなく乱れた女の力では男の力に抵抗出来る訳がない。
再び意識を手放したアタシを殺す事なんて、華奢なアイツの力でさえ容易い筈なのに。
それなのに、何故アタシを抱きかかえて湯船に浸かっているんだろう……?
自分自身の事すら満足に解らない上に、アイツの行動の不可解さがアタシの心に圧し掛かる。
思えば、アイツは出会い頭から不可解な奴だった。
一体、アイツは何がしたいの?
アタシをどうしようというの?
アタシの首を絞めておいて、その後も無防備なアタシを目にしていながら、何のリアクションも起こさない。
いや、そんな、まさか――――――?!
でも、もしも、アイツの意図が今脳裏に過ぎった事だとしたら……そんな……そんな事……。
温かい筈の湯が、氷水の様に感じた。
考えたくはない……考えたくはないが、可能性としてはありえない事ではない。
もしもアタシの考えの通りなら、アタシは只の道化。
それでも尚、アタシはアイツに縋るしか無いのだ。
背筋に悪寒が走るが、他に選択肢は無い。
道化なら道化らしく、だ。
推測したアタシもアタシだが、アイツの残酷さには心底ゾッとする。
体が強張り、冷や汗が流れた気がした。
湯の中に居ながら凍える様な寒気がするなんて。
実際に寒い訳じゃない。
体は確かに湯で温められているのだから。
でも、アタシの推測はそれを吹き飛ばす威力を持っていた。
体の芯が温まる気がしない。
どれだけ長い時間湯に浸かっていたとしても、氷水に浸かっている様な錯覚がする。
体と心は別物だとはよく言ったもの。
しかし湯だという事には変わりはなく、冷たく感じたのも只の錯覚に過ぎない。
アタシ達は随分長い間湯に浸かっていたのだろう。
視線の箸に飛び込んできたアイツの腕は、温められ紅が差した肌をしていたのだから。
黄色人種のアイツの肌でさえ、薄暗い灯りの中でもはっきりと目に見えて判る程の色だ
アタシの白色人種の血が強い肌は更に紅くなっているだろう。
「……そろそろ上がるよ?」
「ぅ・・・…ん、判ったわ……」
アイツはアタシを湯船から抱き上げ、脱衣所迄運んでいく。
ひんやりとした空気がそこには満たされていて、肌に触れると相当長い間湯船に居た事を感じた。
アタシを床に下し、戸棚のアメニティを取りに行くアイツの濡れた足音が聞こえる。
俯いたまま、アタシは顔を上げてアイツの顔を見ることが出来なかった。
アイツがアタシの体の水気を全て拭き取り、髪を梳き、洗面台に置かれていたドライヤーで髪を乾かす間、ずっと。
そして、部屋に戻る時に再び抱き上げられた時、漸くアタシは気付いた。
部屋を出る前に目にした、アタシとアイツの足首を繋いでいた浴衣の帯が、そのままにされていた事を。
アタシ達の関係も、世界と共に歪み続けている事を。
とりあえず小休止パート投下。
亀ですまんかった(;´Д`)
>>22 続き書いたおヾ(゚ω゚)ノ゛
リアルタイムで乙!
wktkが止まらないw
ものすごく乙&GJ!
乙
おつ
乙!!!!1111!!!
34 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/08(木) 12:19:47 ID:VWY14dky
ageアッパーぁっ!!
アスカとシンジの立場逆じゃないか?
36 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/08(木) 15:19:53 ID:ybYCM+jS
極悪シンジ最高
GJGJ
>>36 激しく同意。
迎え火読んで自分がMなことに気付いた(*´Д`)
LASネタスレがどのスレを指しているのかワカラン
レスを見落としてるだけかな
うはw有り得ないボケをしてしまったwww恥ずかしい
素早い返信ありがとう。続き楽しみにしてるよがんがれ〜
41 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/13(火) 06:21:35 ID:lR9EYRYG
病室にて
いいんちょ「きゃ!何するの碇君!?」
シンジ「声をだすとトウジに気付かれるよ?」
保守〜
43 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/11/22(木) 00:13:44 ID:l0iaa7sC
保守
エロパートはエロパロ投下でいいんだよな?
うn
投下街
えー……またもや規制でp2からですorz
本日アスカ様生誕日ですので、すぺさる企画でサイトに後日談1本うpしますた。
一応内容はアレですんで投下は無しで(・∀・)ニラニラ
対になる話は先日リンクさせて頂いているサイト様に差し上げましたので
興味がありましたら、そちらの方もどぞ。
また近々本編の方うpしますんで宜しくお願い致します(*- -)(*_ _)ペコリ
おお、リアルタイムGJ!
最高でした、堪能させていただきました。
お疲れ様です。
乙です
変態シンジ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
迎え火はまだかいのう
職人は来ないのかのう
朝から2重規制でp2も不具合使用出来ずorz
携帯からお邪魔します
迎え火14話収録しました。
後おまけで後日談もリンク追加。
終盤に突入し暫く鬱々とした展開ですが、後日談でお口直しでもどぞw
もう暫く「迎え火」にお付き合い下さいませ。
Epilogueはこちらに投下出来ると思います。
そろそろラストスパートブースト点火で行きますので、また投下の際は良しなに(*-
-)(*_ _)ペコリ
>>51 来ましたよー(´・ω・`) ノシ
迎え火乙
乙
これって夫婦スレとかに投下されたのみたいなハッピーエンドになんのか?
アスカはトイレどうしてんだろう …なんて
>>56 トイレの外に、帯を足に結んだままのシンジが……
キモいな
待ち
60 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2007/12/23(日) 06:16:57 ID:0Pi29I4E
☆ゅ
保守
保守
前スレの「イルシオン」はやはりこめどころだったか
>>66 米が第二サイトの掲示板でそれらしき事を言うとった
68 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/01/20(日) 14:58:26 ID:MSv5Af/O
あげ
「あ、あ、アンタねぇ!それ以上近寄ってみなさいよ!!殲滅してやるんだから!!」
「僕は…いや、僕もオトコなんだよアスカ…アスカじゃなきゃダメなんだ…もう辛いんだ、我慢するのが」
「ち、ちょっと!!(コイツ本気の目してる…)」
無言で距離を縮めるシンジ
「アスカー!!!」
「きゃぁぁぁぁあ!!!!」
シンジが体目当てじゃなくマジなら抱かれても良いと思いつつも、シンジの真意が分からず困惑したまま
半端な抵抗で犯されるアスカってシチュが一番萌える。スタレイのセリフ使えるし
「きゃぁ!!何よバカシンジ!!」
「ご、ごめん!こんなに飛ぶなんて思ってなかったから…」
小学校の時に作った水鉄砲で遊んでいた二人でした
最新話更新しますた。
アレな内容なんでご注意を。
>>72 ワロタ、GJ
迎え火キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
北北北北東西南北白發中━━━(゚∀゚)━━━!!!
まとめ保管庫を勝手に作ってしまった者です。
まずお伺いを立てずに先走ったことをお詫びします。
各作品の作者様で転載の可不可をお伺い出来ませんでしょうか?
スレ住人の方がよろしければこちらで、またはサイトのメルフォでご連絡いただければと思います。
転載許可を頂ける場合で無タイトル・無記名の作品やスレ番、レス番が不明の作品は内容を簡単に併記して頂ければこちらでお探しします。
ご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします。
サイトURL
ttp://las.nobody.jp/ ※現在は転載許可の降りたもの以外削除してあります。
尚、各スレへお伺いする書き込みを致しておりますのでマルチ投稿になってしまいますがご容赦下さい。
きゃぁスレの職人さんてほとんど音信不通になっちゃったな
それもこれもすべて自治厨が悪い
迎え火氏生きてるか
アスカ「きゃぁ!何よバカシンジ!やめ、やっ…!」
シンジ「アスカはプライドが高いからね…こっちの方が『効く』かな…?」
アスカ「…っ!?そ、そこっ、お尻の…っ!?」
日頃のわがままにキレたシンジくんに逆襲され
『後ろ』を開発されてしまうアスカさん。
…という同人誌を読んで赤面し完全に硬直するアスカさん。
そのアスカさんの後ろに現れるもう一人のアスカさん。
「そう、こんな世界もありえるのよ」
そんな補完計画。
街
襠
待ち
急上昇!
保守あげ
ボカチカにしてやんよ
∧_∧
( ・ω・)=つ≡つ
(っ ≡つ=つ
./ ) ババババ
( / ̄∪
oh
88 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/03/17(月) 15:54:37 ID:Av6TKuhN
スレタイからwktkするぜ
「きゃぁ!!何よバカシンジ!!」
「あぅ…ご、ゴメンよアスカ!!」
「 !! 何よこれぇ〜!!」
「…最低だ…俺って…」
アスカの服に醤油のシミを作ってしまったシンジ
_, ,_
( ・∀・)投下をただただ待つ日々ヨネ…
( つ旦O
と__)__)
ヨwネwノww
出張乙www
待ち
町
迎え火大丈夫かな……(´;ω;`)
ホシュー
シュ〜
97 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/30(水) 00:52:45 ID:0+ZlJY/Q
あ
保守
ほ
保守
迎え火のサイト消えちゃったょ…(´;ω;`)
>>101 ダウンローダーアタック複数の為一時アクセス規制中('A`)
悪質な物と国外以外の規制解除作業中なんでもうちょっとお待ち下さいまし
何かオカシイと思ったら生存確認ブログ参照でヨロ
>>103 ブログにも書いてますが昨日の夜からbotとダウンローダー以外の日本語環境だけ解除しました
PCから見れなかった場合は言語環境確認してからもう一度アクセスでお願いします
生存確認先は目欄でヨロ
大変お騒がせしました(;´Д`)
まだ見れない(´;ω;`)ブワッ
俺はいつから国外に住んでることになってたんだろう…
まー投下スレ見ればいいか…
>>105 コンパネ>地域と言語のオプション>地域オプション:日本語
で、UserAgentさえjaになってりゃ国内からならおkです
それでもダメなら原因調べて対処しますんで、目欄のブログへ非公開で連絡ヨロです
ご迷惑お掛けしました('A`)
105だけどIEで見れた∩( ・ω・)∩
Operaだと見れない…。・゚・(ノД`)・゚・。ウエエェェン
相性だと思って諦める…
>>106 ∧,,∧
( ・ω・) <色々と乙です
/ っ旦 サッ
しー-J
途切れた意識が繋がったと確信した時。
アタシの周囲には、アタシの知らない気配があった。
ただそれは複数なのか、それとも一人なのかは曖昧ではっきりとは判らない。
けれどその気配はアタシにとって、不愉快で仕方ない物でしかなかった。
その気配を確かめようと瞼を開いた……筈だったのに。
目の前に居るのは誰……?!
アタシの目に飛び込んできた物。
アタシの耳に飛び込んできた声。
それが何か認識した瞬間、全身の毛穴という毛穴が開き、ドロドロと脂汗が噴き出した。
一体何の冗談だろうかと、夢である事を願ったりもした。
けれどもアタシにとって、これは紛れも無い現実なのだろう。
何故ならば、アタシはアイツの腕の中に居るのを感じていたから。
体の感覚では確かにアタシはアイツの腕の中で、肌に触れる布の感触もある。
けれども周りを見渡す限り、アタシの周囲には誰も居ない。
アイツも居ない。
それと同時に目の前に映る物は、蜃気楼の様にゆらゆらと揺らめいている。
蜃気楼の様に揺らめく影。
違う、アタシの目の前に何かのフィルターが掛かっている感じ。
何処の遠景だろうかと思ったが、その距離は目と鼻の先の様にも見える。
輪郭を曖昧にしては、再び元に戻るという事を繰り返していた。
ただ蜃気楼と違う所は、何処かの室内らしき場所の人影であるという事。
もし蜃気楼ならば、映し出されている物が室内である筈がない。
それ以前に何もかも現実味が薄い。
かと言って、それが夢かと言う訳ではない。
眺めている内に目が状況に慣れたのか、次第にはっきりと姿が浮かび上がっていく。
浮かび上がるに連れて、アタシとの距離は縮まり、気付けはアタシの目の前には――――アタシが居る。
アタシが、二人?!
ありえない!
目の前に居るアタシは、アイツの瞳に映っていた姿とは全く違っていた。
髪は艶を失くし、瞳の生気も消え失せ鶏がらの様に痩せ細っている。
薄くあばらが浮き出た胴、質量を大幅に減らした乳房、厚みも無く骨だけが存在を主張する角張った腰。
肌は全体的に乾燥し、ひび割れ小さな血の塊がへばり付いた唇。
棒切れがぶら下がっている様な手足は、まるで出来の悪い蝋人形。
そんな姿のアタシが視線を宙に向け、壊れた薄い笑みを浮かべていた。
Doppelganger
もう一人の自分が居るという事。
アタシの母国では有名な怪奇現象。
纏う気配を通り越し、自らと同じくする者だと本能が告げる者。
そしてその姿は、決して現在の自分の姿とは一致しない。
医学的には脳腫瘍の所為だとか、精神病の一種だとか言われている症例。
けれど一番有名なのは、もう一人の自分を見た者は死期が近いと言われる伝説……。
その荒んだ姿は、アタシの死期は近いとでも言うのだろうか。
アタシは量産機との闘いでの過剰なフィードバックを受けている。
目に見えなくともその影響で命を縮めていてもおかしくはない。
その上掛かる火の粉を振り払うとは言え、相当な数の戦自の兵士を倒している筈。
そう、アタシは大量殺人を起こした人殺しだ。
Doppelgangerが現れるなんて、殺戮者のアタシには相応しい!
多分、アタシはもう直ぐ死ぬんだろう。
アイツの望みを叶えてやれない事。
それだけが心残りだが、既に迎えの死神は来ているのだ。
――――お別れみたい……ゴメンネ。
アタシは心の中でアタシを包むアイツに別れと謝罪を告げ、もう一人のアタシに向かい手を伸ばす。
宙に向けられていた瞳がアタシを捉えた。
棒切れの様にぶら下がっていた手が持ち上がり、アタシに向かって伸ばされる。
互いに向けて伸ばした手が触れたと思った瞬間、目の前に居た筈のアタシの姿が融けた様に消え失せる。
視界にノイズが掛かり、眩暈がする。
そして――――何処か遠くで、何かが爆ぜる様な音が聞こえた。
また、だ。
また揺らめく影と不愉快な気配。
視界のノイズが薄らいだと思ったら、耳に入る音は何かの電子音。
薄らいだノイズの向こう側に見えた物には見覚えがある。
ここは……医療部の病室?
部屋の中央に一つだけあるベッドの周囲には、幾つもの機械が置いてある。
滴下調整の機械が付けられた点滴。
大きめの液晶画面が付いた機械は心電図モニターか。
多少は肌の荒れも薄れ、点滴のお陰で骨ぎすになるのは免れているけれど……。
でもアレは、ベッドの上で眠っているのは間違いなくアタシだ。
そう意識した途端、また眩暈がアタシを襲う。
でも何故だろう?
意識ははっきりしているのに、体の感覚はとても曖昧。
曖昧と言っても、以前の実験で裸のままプラグにエントリーした様な物ではない。
麻痺している訳でもない。
ふわふわと水の中に浮かんでいる様な、重力を感じられない状態に近い。
それでいて何故かまだ、アイツの腕の中に居る感覚がしている。
確かにアタシは死神の手を取った筈なのに。
視界に映る物は病室、なのにアタシはまだアイツの腕の中に居るという事?
でも……夢を見ている様な感じはしない。
頭の芯は寧ろ冴えている位だ。
揺れる視界。
天井は下で、床は右……あれ、どうだったっけ?
ああ、体ごと揺れているんだ。
――――体ごと?
誰?!
誰かがアタシの体に触れている……?
これは、アタシの体を力任せに揺さ振っている……?
何かがおかしい。
アイツの腕の中に居る感覚がするのに、誰かに体を揺さ振られている感覚。
声が聞こえる……この声は……何故?!
違う。
そんな筈は無い。
だって、だって、アイツは――――そんな、アタシ、こんな事知らない!
嘘、ウソ、うそ!
こんな事ある筈がない!
頬を伝い首筋を流れる感触……これは涙?
まだ揺さ振られる。
何時まで続くの?
ほんの僅かな間の事の筈なのに、異様な程長く揺さ振られていると感じる。
そして眩暈に加え、奇妙な酩酊感を覚えた。
まさか……ベッドで眠るアタシと感覚を共有している……?!
点滴の中身は栄養剤なんかじゃない、精神安定剤と睡眠薬をブレンドした物だ。
それもかなり強力な。
このまま感覚を共有していたら、例え意識があっても思考力は落ちていきそう。
不意に揺さ振りが止まった……何故か微妙に肌寒い気がする……。
また、目の前にノイズが走る。
ヘッドホンを被せられたかの様に、頭の中へ直接響いてくる物音。
足音、金属音、衣擦れの音……呼吸音。
一体、何が起こっていると言うの?
体は動かない。
シーツに刻まれた皺と病室の壁であろう、目の前一面に白く歪む影が映る。
影が大きく揺れる。
揺れる影を見つけ続けている内に、薬の影響なのか段々と意識が薄れそうになる。
眩暈と薬で引っ掻き回される意識を、アタシは必死に繋ぎ止めようとした。
けれど、無駄だった。
『……サイテー ダ オレ ッテ』
嗅ぎ慣れた感じの血腥い臭いと頭に飛び込んできた呟きを最後に、また意識は途切れて――――。
再び意識が繋がる。
鼻に付いた血腥さは消える事無く、全身に纏わり付くのは湿り気を帯びた空気。
乾いた金属音……規則的に鳴っているのが聞こえる。
眩暈は波の様に強弱が付き、その度に目の前にノイズが走る。
酩酊感はまだ残っている。
眩暈も、ノイズも、酩酊感も、金属音に合わせているかの様に増しては引いていく。
目の前は薄暗い。
薄暗い中、何かが動いているのが映った。
何だろうと焦点を合わそうとするが、中々上手く合わない。
そんな事を繰り返している内に、話し声が耳に飛び込んで来た。
……え?!
『ダンダン ネ こつ ガ ツカメテ キタ ノヨ ダカラ ねー?』
何なの、これ……!
『タブン ネ ジブン ガ ココ ニ イル コト ヲ カクニン スル タメ ニ コウイウ コト スル ノ』
嘘……二人居るのは、アタシだけじゃないの……?
『ばっか ミタイ タダ サビシイ オトナ ガ ナグサメアッテル ダッケジャナイ ノ』
――――今のは何?!
勝手に口が動いただなんて……また、アタシがもう一人居て……感覚を共有してる……?
ノイズの合間に目に映るのは何?
揺ら揺らと何かが揺れているのが見える……シーソーみたいに。
『カラダ ダケデモ、ヒツヨウ ト サレテル モノ ネ』
体だけ?
『ジブン ガ モトメラレテル カンジ ガシテ ウレシイ ノヨ』
どういう事なの?
一体何を言っているの?
『いーじー ニ ジブン ニモ カチ ガ アルンダッテ オモエル モノ ネ ソレ ッテ』
アイツの腕の力が強まる感覚がする。
そして、徐々に眩暈が薄れると、次第に焦点が一致していく……。
背筋が凍る思いがした。
『コレ ガ コンナ コト シテルノガ みさとサン?』
『ソウヨ コレ モ ワタシ』
一体アレはどういう事なの?!
悪夢、だ。
あんな姿なんて見たくなかった。
そういう関係だって解っていたけど、やっぱり見たくなかった。
何でアイツは平然と見ていられるの?
見られているのに何も感じないの?
『オタガイ ニ トケアウ ココロ ガ ウツシダス ***クン ノ シラナイ ワタシ』
心が溶ける?!
固形物でもないのに溶けるなんて、そんな事ある訳ないじゃない!
『ホントウ ノ コト ハ ケッコウ イタミ ヲ トモナウ モノ ヨ ソレ ニ タエナキャ ね』
こんな痛み、知りたくなんかない!
こんな事、耐えたくなんかない!
『アーア ワタシ モ オトナ ニ ナッタラ みさと ミタイナ コト スルノカ ナァ』
やめて、もうやめて……ッ!
オートマータの様に言葉を紡ぐアタシの体。
アタシの意思は一つも反映されない。
手を動かす事も、視線を逸らす事も、声を出す事も。
ただ一方的に目を開かされ、延々と見たくない物を見せられる。
目の前の出来事を脳が処理し切れず、酷い頭痛がする。
頭痛と共に僅かに残っていた酩酊感が増し――――。
粘つく様な不快な気配。
重苦しい金属音。
揺れる体。
延々と繰り返す眩暈とノイズと酩酊感。
その度に体はアイツの腕の中に居る事を再確認させられる。
それなのに目に映る物は何もかも一方的で、悪夢の様なフィルムを見せ付けられている感じで。
何度も殴られた様に頭痛が激しくなる。
頭の中にアタシの知らないアタシが居る。
覚えの無い事の筈なのに、脳に記憶が堆積していく。
『ナニカ ヤク ニ タチタインダ! ズット イッショ ニ イタインダ!』
アタシを求めて近付いて来るのは、誰?
『ジャア ナニ モ シナイデ モウ ソバ ニ コナイデ』
誰に向かって言っているの?
『アンタ ワタシ ヲ キズ ツケル ダケ ダモノ』
誰に傷つけられるの?
『あすか タスケテ ヨ あすか ジャナキャ だめ ナンダ』
誰がアタシを呼んでいるの?
違う、呼ばれたのはもう一人のアタシ。
『うそ ネ』
何故決め付けるの?!
あんなに助けを求めているのに!
『アンタ ダレ デモ イイ ンデショ。
みさと モ ふぁーすと モ コワイ カラ オトウサン ト オカアサン モ コワイ カラ
ワタシ ニ ニゲテル ダケ ジャナイ ノ』
何故責めるの?!
『ほんと ニ タニン ヲ スキ ニ ナッタ コト ナイ ノヨ』
そんな淋しい事言いたくないッ!
『ジブン シカ ココ ニ イナイ ノヨ』
そんな事ないッ!
『ソノ ジブン モ スキ ダッテ カンジタ コト ナイ ノヨ』
そんな哀しい事言いたくないッ!
『アワレ ネ』
そんな突き放す事言いたくないッ!
『タスケテ ヨ! ネェ ダレカ オネガイ ダカラ ボク ヲ タスケテ! ボク ヲ ヒトリ ニ シナイデ!
ボク ヲ ミステナイデ! ボク ヲ コロサナイデッ!』
駄目ッ!
それ以上、何も言いたくないッ!
『……いや』
――――止めて……ッ!
パチン、とパズルのピースが嵌る。
堆積した記憶が数式の様に組み立てられていく。
Doppelgangerが何を意味するのか。
気付いた時にはもう、遅かった。
もう一人のアタシに向かって伸ばされた手が齎す首を絞められた感触は、アタシの意識を霞ませる。
アタシは気力を振り絞り、霞んでいこうとする意識を踏み止まらせた。
首に掛けられた握力が不意に軽くなる。
その隙を突いたのか、アイツの腕の感触がまるで錘の様に――――。
ふわふわと水に浮かぶ様な曖昧な体の感覚が、一気に引き摺られるかの如く重さを得る。
高みから奈落に突き落とされる感覚。
最後にアタシの目の中に飛び込んできたのは――――。
やり場の無い恐怖と後悔と怒りが、アタシの全てを塗り潰した。
もう一人のアタシのやつれた姿が次第に血に塗れ、全身は傷痕だらけになっていく。
傷痕の付いていない部分は内出血の跡で埋め尽くされ、爪先から頭の天辺迄血腥いゲルでデコレーションされて……。
アタシを見据えて笑みを浮かべ、変化していくその姿は……。
あの髪……あの目……やっぱりそうだ、あれは間違いなく……。
そうよね、アタシは、道化ですらない。
――――パンドラの函の底には、絶望しか入っていなかった。
丸々4ヶ月振り…orz
遅筆ですまんです('A`)
後ちょっとだから頑張る
おっつ!
乙です
気付くの遅れた…
GJです!
今後の展開がものすごく気になりますが、マイペースでどうぞ〜
楽しみ待っております
GJ!
保守
保守
保守あげ
>>118 すぅげええええええ!これはもえた、GJ!!
早く続き読みたい
電車ネタとか無理かしら?
前にカップルが漏れの前の席に座ってて、女側の前にはタオルケットがかけてあり、男が時折そのタオルケットの中に手を入れて女に指をかがせたり、耳元で囁いてたりしてた(マジで)
その時の女の顔が妙にいやらしくて……
似たようなシチュでなんかかけないかなぁ
きゅんきゅん
132 :
蒼龍:2008/08/16(土) 20:27:31 ID:0RfFMp+v
何これ?全然シンジについて語ってないじゃない!
職人復帰マチ
>>134 マスかけってことじゃないのwwwwwww
アスカ「見て見てシンジ!バックロールエントリー!」
シンジ「バックインサート!」
アスカ「何すんのよバカシンジ!エッチ!ヘンタイ!チカン!もー信じらんなーい!」
ガギエル戦
アスカ「変なコト考えないでよ!!」
シンジ「何が?!」
アスカ「とにかく、考えを集中させ…ってドコに集中させてんのよ!!エッチ!!バカ!!ヘンタイ!!」
エ ヴ ァ 板 良 ス レ 保守党
街保守
きゃぁ!!何よバカシンジ!!やめ…や…あんっ
あたしそんなに激しくされたら…あんっ…ダメっ
あんた凄い…どこでこんなこと覚えたのはぅん…っ
シンジ…二穴同時なんてもダメっ…そんな…反則…あ…イ…
保守
あたしそんなに速くされたら…あんっ…ダメっ(///
んっ…シンジってばこんな時だけ積極的になるなんて生意気よ…んっ…(///
あっ…そこはダメっ…はぁっ…音恥ずかしいから辞めなさいよバカシンジ…んあっ!(///
シンジ…指二本もダメっ…そんな…反則…あ…イ…(///
シンジ「アスカっ!このまま中で出すよっ!」
アスカ「あぁっ、ひゃん…な、中はらめぇぇ」
アイツは海岸でアタシの首を絞めた。
まだ意識もはっきりと取り戻していない、気を失ったまま寝そべっているだけのアタシの首を。
女の力では男の力に抵抗出来る訳がない。
きゃあ!!何よバカシンジ!!
職人さん街
待ち
シンジはああ見えて怪力だよな
アスカはシンジが細いからと侮ってるが、シンジがあの怪力でアスカを押し倒したりして、
アスカ「きゃぁ!何よバカシンジ!」ってうろたえて、
ああ、シンジも男なんだ、男の力って凄いんだ…って怯えたりびっくりしたりするのがいい
さらにシンジが本気なら抱かれるのは良いけどただの体目当てなら嫌
でも気持ちが確かめられないままシンジの力強さはどんどん増して・・・
ってのも加えて欲しい
いつも馬鹿にしてるシンジなのに、ああ、シンジ、あんたもやっぱり男なのね、
力では女の私はどうしたって適わないわ…
あああん、そんなことしないで…きゃぁん!
みたいのがいい
アスカが貞アスカの場合・・・
シンジをアスカを押し倒すも、下から「なにすんのよバカシンジ!」とすかさず三角締めの体制にはいる。
そしてアスカのオマンマンが目の前にきたシンジは首を締められながらもショートパンツ越しに大事な部分を擦る。
するとアスカの力が抜けてきてしまい「あぅ…力が…ちょっとバカシンジ…やめっ…や…あんた後でコロ…ひゃっ…ッッ…っあぁん!!」
訂正
シンジを→シンジが
それでもなお優しくショートパンツ越しに圧力を小刻みに加えるシンジ
アスカも必死に内股に力を入れようとするのだが力が入らない
「あぁ…ダメ…バカシンジ…やめてっ…だ…だめだって…ひゃっ…ッッ…っあぁ〜!!」
アスカが諦めたように長い息を吐くと同時に、下半身の緊張がスーーーっと抜けていくのが分かる。
そしてアスカの股間に顔を寄せているシンジに向かって恥ずかしい音が空気の動きとともに伝わる
ぷす〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、ぷぴぴぴぴっ
「はうっ!」シンジの意識がその瞬間吹っ飛び、見開かれた目が白目にぐりんと変わる
「・・・・・・ゴメン、ずっと便秘してて・・・あ、でも!シンジが悪いんだからねっ!自業自得よ!!こら!起きなさいバカシンジ!!」
アニメイトのさ、ボイスカセットで、
アスカがシンジに「あんた、やっぱりホモだったのね!」って言ってたじゃん
あれのあとにさ、シンジが「僕がホモじゃないって証拠を見せてやるよアスカ
とか言って、アスカに…
で、アスカはシンジの思わぬ男らしさに「きゃあ!何よ馬鹿シンジ…あん」
みたいになっちゃうのがいい
>>152 意識を取り戻したシンジくん。仕返しとばかりに煽ってみる。
「アスカ、一体ナニを食べたらこんなになるの?」
「うっさいうっさいうっさぁいっ!!毎朝快便のアンタなんかにあたしの悩み
なんか解るわけないじゃないのよおぉ!!何時まであたしの股間に鼻を・・・」
「どんな匂いでも好きなアスカから出たモノだから慣れとかないとね」
「ばばばば、バカぁっ!!でも、オナラはゴメンね・・・そしてありがと///」
そしてシンジはアスカに聞かせるつもりでもなくふと言葉を漏らす
「・・・・・ガスだけじゃなくゲルも出てるんだけど」
あけおめことよろでございます
>>147-149のネタにテラ萌えたー(*´Д`)
取り敢えずそのネタ流れで導入部分だけうpしますた
本編書かずに何やってんだって話ですがorz
今年こそ本編終わらせるぜ
おめでとうノシ
いやぁ本編もwktkしながら待っとりますが、番外編なんかも中々良いですなぁ
159 :
アスカさん:2009/01/16(金) 12:45:22 ID:???
シンジってチビでガリで男らしさのカケラもない奴だと思ってたのに…!
ああ、私、男を甘く見てたわ
バカシンジに征服されるなんて
くやしい…っ
うーん、このスレはキモチワルイね
気持ち悪いというかキモチワルイ
お待たせし過ぎ申し訳ないorz
先程続きうpしますたー。
相変わらずエロ入なので背後に注意してくださいまし。
>>161 GJ
相変わらずの激ヱロでつね
全力で乙です
163 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/01/20(火) 12:37:57 ID:SRPIro0/
ほ
投下町
>>157の続きうpしますたー
とりあえず前振りは完了って事でヨロ
保守
wktk
迎え街
あげ
「きゃぁ!!何よバカシンジ!!」
「ご、ごめんよ!アスカのおっぱいが触ってくれって言うから…」
GJ!!
待ち
あげ
まただ。
またふわふわと水の中に浮かぶ様な感覚。
そして、今度は沈んでいく感覚。
脳裏に様々な光景が浮かび上がる。
アレは……誰?
あ、アイツの姿が見える。
薄暗い部屋……手にしているのは懐中電灯かしら?
壁のパネルを操作している……。
部屋が明るくなった。
周囲を見回すと、幾つかの事務机が並んでいる。
アイツ、机の上に乗って天井を……あぁ、電灯を調べてるのか。
何処の部屋なんだろう?
灯りが消える……アイツの姿も消える。
今度は……TV?
アタシ達が寝ている部屋と似ている。
アイツ、TVを調べてるんだ……砂嵐しか映ってない。
TVの電源が切れた。
画面にアイツの顔が映りこんでるけど……その後ろに誰か居る……?
アイツと同じ学生服姿みたいだ。
足だけしか見えないけど、男なのは判る。
何だ、アタシ達だけじゃなかったんだ。
他の部屋にも人、居るって事じゃない。
どうしてアイツ、他に人は居ないなんて言ったんだろう?
TVの画面に映ってるアイツの顔、凄く怒ってるの?
……声、聞こえないな。
喧嘩でもしてるのかしら……後ろの人の方を向いたから表情は判んないわね。
でも、直前に映ってた顔は睨んでた?
あ、またTVに顔が映りこんだ……あれ?
アイツ、泣いてるの……?
馬鹿じゃないの?
中学生にもなって男の癖に泣かされるなんて。
ほーんと、アイツったら馬鹿……あれ?
名前何だっけ?
馬鹿……馬鹿……やっぱり名前が出て来ない……。
あ。
足が。
何だ、やっぱりアタシ何かの中に落ちちゃってたのね。
そのまま底に座り込んじゃったけど、周囲は真っ暗で何も見えない。
誰も……居ない……。
何の音も、声も聞こえない。
とりあえず……じっとしていよう……。
体を横たえて目を閉じる。
暫くするとポトリ、と顔に水滴が落ちた。
その冷たさに意識が浮き上がる。
――アナタ ハ ナニ ヲ ノゾム ノ ?
最後に頭の中に響いた声を思い出した。
「――はっ?!」
瞬時に頭に血が戻る。
「誰? 今アタシに問いかけたのは? 声を掛けたのは……誰?」
アタシは誰か判らない相手に向かい問いかけた。
しかし、応えが返ってくる事等あろう筈が無い。
だが、予想に反し応えは返って来た。
――目覚めて、弐号機パイロット。
その声は……ファースト?!
「アンタ……っ、つぅ……」
慌てて飛び起きると痛みが左目周辺に走った。
槍に貫かれた場所だ。
やはり、傷は残っていたのだ。
それをアイツは……アタシを憐れんで……。
惣流 アスカ=ラングレーとあろう者が情けない。
すると、傍から聞こえて来たのはアタシの知らない男の声。
「無理しない方が良い。肉体は損傷を受けていなくとも、魂の方はまだ傷が塞がったばかりなのだから」
「……アンタ、誰? それにここ、何処よ?」
アタシは知らない男に易々と裸を見せる程安い女ではない。
……今迄の話なら。
だが、この声の男は何か事情を知っている様だ。
「ここは夢と現実の狭間……夢の終わりは現実の始まり。現実の終わりもまた、夢の始まりだね」
アタシはその声の方に顔を向けた。
すると、ファーストの横にはアタシに声を掛けたらしき男が立っていた。
そしてアタシの傍らには、ファーストが目を潤ませてアタシを心配そうな目付きで覗きながら座り込んでいる。
これは、一体何事なのだろうか?
だが、アタシの躰はまだアイツの腕の中に居る感覚がする……。
また、何かがおかしい気がする。
「良かった……このまま意識を取り戻さなければ、大変な事になる所だったわ」
ファーストがアタシの顔を覗き込んだ。
「……もう充分大変な事になってる気がするんだけど? それよりここは何処? 知っているのなら早く答えて。
アタシとアイツしか人は居ないし、戦車は転がってるし。それに何、芦ノ湖の水の有様は!
水が変に赤くなってるし……それに、アタシは……」
――アイツに、犯された。
あいつ自身を受け入れたとは言え、その事実は変わらない。
「判っているわ。でもそれは、私達の責任」
そう言って、ファーストは目を伏せ、涙を見せた。
よく見ると、彼女の頬には幾筋かの涙の後があった。
ファーストが謝った?!
自分達の責任だってどういう事だろう?
「何がよ?! やらかしたのはアイツの方よ! 何でアンタが自分の責任だなんて言うのよ!」
アタシは頭痛に顔を顰めながら、ファーストに掴み掛かる勢いで体を起こした。
どうしても彼女のいう事には納得がいかない。
今のこの現状を招いたのはアイツではないのか?
「貴女、彼から何も聞いていないの?」
「何をよっ!」
「……サードインパクト、即ちA.T.フィールド……他者と自己を隔たる心の壁の開放」
サードインパクト……A.T.フィールドの開放?
そう言えばアイツ、妙な事を言っていた。
サードインパクトは自分が起こしたとか何とか。
「アイツが……起こしたとか言ってた……って奴? そんな、あんなのアイツの与太話でしょ?!
まさかアンタ迄同じ事言うんじゃないでしょうね?」
ファーストはアタシをジッと見つめる。
ファーストの横に立っている男もまた、アタシに視線を移し沈黙を保っている。
「な……何よ……ホントに、アイツが起こしたの?」
「正確には少し違うけれど、最終的に起爆剤となったのは間違いの無い事よ。
私達もまた、彼の手によって起こされる事を望んだ。本来、起こそうとした者の手から離れて、全てを彼に託したわ」
「そして世界は、全ての命は原初の姿となり、その魂は融けて一つの大きな生命体、神と呼ばれる者となった……筈だった。
イレギュラーが発生しなければね」
起爆剤?
原初の姿?
一つに融けた神と呼ばれる者?
解らない……聞き覚えの無い事ばかり。
ただ、ファーストとこの男は、アイツが言っている事と同じ事を言っているのは間違いない。
アイツは人が融けてL.C.L.になった所を見たとは言っていた。
起爆剤は、アイツが自分が起こしたと主張している事の事だろう。
原初の姿というのが今一ややこしい気もするが、恐らくは人間がL.C.L.に変わったという事だろうか。
そう仮定すれば、アイツのこの二人の話は一致する。
けれど、一つに融けた神と呼ばれる者というのが解らない。
「……アンタ達は全て知っているのね? アイツが知っている真実を」
「全てではないけれど、何故サードインパクトが起きたのかは答えられるよ。僕も、彼女もその為に生まれたのだからね。
でも……彼が今のこの世界を選択した動機は推測でしか判らない」
「ファースト、アンタもそうなの?」
「……私が知っているのは、多分半分だけ。サードインパクトは二種類あって、その内の一つなら答えられる。
でも結局起こったのは、第三の選択を選んだ彼によるサードインパクトだった」
その第三の選択とやらが、アタシが知りたい真実という事だろう。
「そう。じゃあ、アタシがどれ位知っているかは判る?」
「……見ていたからね」
そう言って、もう一人の男は虚空に視線を戻した。
「そう……」
――最低!
あんな浅ましい姿迄見られていたなんて……!
「勿論、何もかも……よね?」
「ええ」
「まぁ、ずっと一緒に居たんだから仕方ないわ」
「……見てはいけない事なのは解っていたの。 御免なさい、弐号機パイロット。でも私達は……」
「いいのよ。理由があるんでしょ?」
「私も、彼……フィフスチルドレンも、彼に全てを託した以上、最後迄見届ける義務があるから」
ファーストは済まなさそうな顔をした。
余り表情を変える所を見た事が無かったが、彼女が人並みの表情を表した事に驚いた。
アタシは設定された事を忠実に繰り返すオートマータの様な印象しか持ち合わせていなかった。
それは裏を返せば、アタシにも同じ事が言えるのだけれど。
勿論、ここ最近の事を含めてだ。
アタシは真実を知りたいが為に、アイツの言うがまま為すがままに躰を開いた……。
それ以前にも、死んだママは人形をアタシだと思い込んで自殺したという事実がある。
アタシはママに認めて貰いたいが為に、周囲の大人の言う事を全て聞き、全ての課題を完璧にこなすという事をしていた。
そうして優秀だと周囲に認めさせる事によって、2nd.Childrenとなった。
それもまた、オートマータと変わらないと言える。
――何だ、ファーストもアタシと同じだったんだ。
理由は知らないが、彼女にもアタシにそう印象させるだけの何かがあった。
そしてサードインパクトによってそれから解放された。
多分、そういう事なのだろう。
「話を元に戻して良いかい?」
フィフスと呼ばれた男がアタシ達の意識を元の流れに引き戻した。
「良いわ。でも、アタシはアンタ達の口から知りたいとは思わない。悪いわね」
そう、アタシはあくまでアイツの口から知りたいのだ。
それがアタシ達の間に交わされた契約。
だが――。
「そう言うと思ったよ」
話を元に戻したいと言った割に、しれっとした顔でフィフスは話を流す。
「……フィフスチルドレン、冗談を言っている場合ではないわ」
ファーストがフィフスを咎めた。
「何でもいいわよ。とにかく話を進めて」
「そうだね。イレギュラーが起きなければ、と言ったのは覚えているかい?」
「ええ」
イレギュラー……アイツが起こしたサードインパクトの事ではないの?
しかしフィフスの口ぶりからすると、どうやら違う様だ。
「実は少なからず、君にも関係していてね。その原因がどうやら僕の様なんだ」
「はぁ? 何よそれ。言っとくけど、アタシは何も知らないわよ?」
アタシはサードインパクトが起きる前に意識が途切れている。
「うん、実はその後に問題が起きてね。それともう一つ、僕は君に謝らなくてはいけない」
フィフスはそう言って、表情を曇らせた。
しかしアタシはフィフスとは今が初対面だ。
関係の無い人間にアタシは何かされたのだろうか?
「実は、量産機に積み込まれていたダミープラグのパターン……いや、コアとなるクローンの元になったのは僕でね」
「何ですって?! クローン?!」
「うん、プログラミングされていたとは言え……」
「ちょっと待って! 今アンタ、クローンって言ったわね?」
「ああ、言ったね」
「……ファースト、アンタとフィフスは同じなの?」
アイツは妙な事を言っていた。
ファーストは、アイツの母親のクローンで、ダミープラグのコアだった。
だから怖かった、と。
アタシはファーストに問いかけた。
アタシの予想が当たらなければ良いのだが、それは無駄な考えだと思う。
「ええ。生まれに多少の差異はあるけれど、本質に違いは無いと思うわ。貴女……そう、彼から聞いたのね」
「まぁね。アンタのその姿……アイツの母親を映したのだとしたら、司令が特別気にかけるのも無理無かったって訳か。
そりゃぁ……アイツには言えないわね」
死んだ母親が、記憶が無いとは言えクローンとして存在しているなんて。
倫理的に作製も研究も禁止されている筈の物が、存在している事が明るみになると問題だ。
アタシはアイツの事を思うと、苦さを噛み締めるしかなかった。
だが、ファーストはとんでもない事を言い出した。
「いいえ、あの人は……司令も彼もけして私自身を見ようとはしなかったわ。私にいつも誰かを重ねていた。
そして、私は道具。記憶すら、道具の一つでしかない。だから私は最後の時、司令を拒否したの」
「嘘……」
アイツなんかあれだけアタシの事なんかよりも見ていた癖に。
それなのに、ファーストを見ていた訳ではなかっただなんて……そんな事ってある?!
「本当よ。始めは理由等解らなかった。でも、今なら解る……多分私の体の元となった、彼の母親。司令にとっては奥さんね。
会いたいと、傍に居たいと思う人に心を寄せてしまうのは、人として仕方のない事。ましてや私の姿は本人そのもの。
思い人のその姿を重ねてしまうのは当然の事だわ」
「何平気そうな顔で言ってるのよ! もっと悲しいとか、辛いとか、そういう事は言えなかったの?」
アタシなら悲しい。
ママが人形にアタシを重ねて見ているのを知っているもの。
とてもじゃないが平常心では居られない。
本人の前では平気な顔をしていたとしても、何処かで感情をぶつけてしまいそうだ。
大体アタシ自身、高みを目指して自らを優秀だと誇示する事でしか、感情を消化する事しか出来なかったのだから。
全てが終わった今なら、それがよく解る。
「……悲しいとか、辛いとか、経験した事の無い事はどういう顔をして良いか解らなかったの。
ただ、嬉しい時には笑えば良いと、彼が教えてくれた事しか知らなかった。勿論、何を言って良いのかもよく判らなかった。
私が悲しい、辛い、淋しいという事を知ったのは……第十六使徒との戦闘中の事で、つい最近なの」
「ファースト……アンタ、相当な馬鹿だわ。感情は、人が人たる事に誇りを持って主張出来る事、人である証よ!
それを知らない、判らないなんて……簡単に言う物ではないわ! だからアンタは人形だって……アタシは……」
――ファースト、アンタも辛かったのね。
けれど、その辛さを上手く表現出来なかった……。
アタシと一緒だったのか、ファーストも。
……ちょっと待て。
何、道具だというこの主張……これって、アイツも同じ様な事を言ってなかったかしら?
まぁ、いい。
感じる違和感は話が進めば判る。
「じゃあ、元に話を戻すよ」
フィフスが口を開く。
「僕は誰の遺伝子が元になっているのかは判らないけど、でも生まれさせられた目的は良く似た物だね。
僕はゼーレという保管計画を推し進めた国連の上位組織によって造られたんだ。
尤も僕自身は、南極のアダムに人間の遺伝子を接触させて製造されたクローンの元となった本体、と言えるんだけれど」
「……何、それ」
「コアに関しては簡単に言えば、ファーストの場合は正確にはクローンではないけれど、僕はクローンなんだ」
「それで?」
若干だが、アイツのいう事とは違うのか……。
けれどアタシが知りたい真実とはまた別の枝から派生した真実、と言える事をこの二人は言いたいのね。
理解出来た。
「ファーストは初号機のコアから碇ユイのサルベージを行い、失敗した時にコアから現れた碇ユイの抜け殻と思われる子供」
「サルベージは何十回と行われたそうよ。その度に私の体はコアから現れた……初回の一人以外は魂の無い状態で」
「僕にしても、エヴァを操るダミープラグの製造の為に何人ものクローンが作られたけど、クローンには魂は宿らなかったんだ。
そしてゼーレも、碇司令も、それは僕達の魂が人ではなく使徒だからだと、最終的には結論付けた」
それって……この二人は自分達が人ではなく、使徒だと主張している様な物だという事じゃないの。
人型の使徒なんて聞いた事無いし、普通ならあり得ない事だわ。
でも、この二人の事だから……またそれにも理由があるとでも言うんでしょうね。
ここは大人しく、全て聞く方が得策だろう。
アタシは沈黙を保つ事で理解した事を表した。
「……話が早くて助かる。問題はここからでね」
「なる程ね。まずそこ迄説明しない事には話にならない、という事か」
「ええ。人以外のクローニングとは明らかに結果が違うもの」
「そうね。理論上では人にクローニングを行った場合、双子や三つ子が生まれる様な物でなければおかしいものね」
二十世紀末に、羊や牛で行われたオリジナルの遺伝子からのクローニング研究。
その結果予想では育成環境で性格は違った物になるが、存在その物は双子や三つ子と変わらないと位置づけた筈。
テロメアの劣化はまた別の話だ。
「で、ここからが本題なんだ。実は僕は既に一度死んでいてね」
「はぁ?」
すると何、コイツは幽霊って訳?!
「と言うか、本来ならこの姿の体は死んでいると言った方が正しいかな?」
「私も……サードインパクトの時に普通なら消滅している筈なの」
「アンタ達、頭でも打ったの? 死んだ人間が生き返れる訳ないじゃないの」
「普通ならばそうよ。でも、私達は二人とも人ではないから。私の魂はリリス、彼の魂はアダムとそれぞれ呼ばれていた物」
「アダムですって? それって……」
「そう、南極の白き月に眠っていたアダムの魂が僕の正体。アダムから造られたエヴァ、あれも実は僕の体のクローンなのさ」
そういう事か。
つまり、フィフスの体はエヴァの形をした物と人間の形をした物の二種類あるという事。
「って事はさ、ファーストも同じ様な者って事な訳?」
「ええ。第三新東京市は箱根の黒き月の真上に建設されたわ。そこで建造された初号機と零号機は黒き月のリリスのクローン。
だからリリスの魂を持つ私は、初号機ともシンクロが出来た。 フィフスも同じよ。
弐号機とはコアを交換せずにシンクロ出来たのはその為なの。魂と体、元々一つの物だもの」
「それは初耳ね。 フィフスがアタシの弐号機に乗ったっていうのは、アタシがネルフに出頭しなくなってから?」
「ええ」
という事は、アタシはこのフィフスの体とシンクロしてたって事か……。
なら重要なのはここから先って事ね。
……うん、覚悟は出来た。
どんな事でも受け入れてみせるわ。
アイツを受け入れた事に比べたら、大した事じゃないもの。
「コアの中にアタシのママが居たのは知ってるわ。戦自とやり合った時に気付いたから。
ママを通してアタシはアンタのクローンとシンクロしていた、そうよね?」
「そうだね。そしてそのシンクロ率は100%を超えたと思われる、って所かな?」
「やっぱりね。で、それが関係ある訳?」
「まぁ、多少は……と言った所だね。関係ないとは言い切れないけれど、関係あるとも言い切れない微妙な所さ」
「そう。でも、本当の本題はここからよね?」
「ええ。問題が起きたのは彼の方なのだけれど、それが貴女に影響を起こしてしまったみたいなの」
ファーストが、心底困ったという顔をアタシに向けた。
「実は、アダムのクローンは他にも存在していて……司令がそれを持っていたのよ」
いつも外さずに付けていた白手袋。
あの中に隠し持っていたと、ファーストは言った。
幼生は成人男性の掌に納まる位の大きさしかなかったかららしい。
「そして、死んだ筈の僕は何故かその幼生に魂が宿っていてね。最後の審判の時に復活していたのさ」
「へぇ……それって生き返ったって事じゃない。喜ぶ事はあれ、困る事は無いんじゃないの?」
「ところが大有りでね」
ふぅ、と彼は溜息を付き、視線をアタシからファーストに移した。
「その先は、私が説明するわ」
ファーストは言葉を慎重に選びながら、アタシに向かってイレギュラーとやらを話始めた。
「私は死んでも代わりがいた……それは文字通りで、初号機のコアからサルベージされた体が幾体もあったからなの。
詳しい事が省くけれど、私は第十六使徒との戦闘で本当は死んでいるから、この体は三人目。
貴女が良く知っている綾波レイは二人目よ。黒き月で生まれた私の場合は、魂が次の体に移動する。
でも、白き月はセカンドインパクトで消滅したから、新しく使徒が生まれる事は無い。
だから実質フィフスチルドレンが最後の使徒……魂は行き場を失くしたまま消滅する筈だと思われていた」
「それが、幼生とは言えクローンに宿った。僕も驚いたよ、この姿でまた姿を現すとは思っていなかったからね」
「それがイレギュラー? 大した事じゃないんじゃないの、それだと?」
死んだ筈が生き返った……常識で考えると儲け物よね。
「ところがそこで話は終わらないんだ」
「最後の審判の時、私は碇司令からアダムの幼生を奪った」
「何ですって?!」
あのファーストが、司令に逆らった……?
司令が死ねと命じれば、命令に従い死ぬとまで言い切った彼女が、裏切ったという事?
随分と話が穏やかじゃないわね。
「僕の魂を内封したままのソレを、司令は彼女の体の中に埋め込んだ。それを切欠に僕は自我を取り戻した。
体が幼生迄退化させられていた為に、実質眠りに付いていた様な物だったのさ」
「それで?」
「そして私は彼の願いを叶えた……貴女の死を目の当たりにしてショックを受けた彼は、世界の全てを無に帰す事を選んだの。
司令の手にあったアダムの幼生を奪ったのは、奪う事でアダムと一体化し、願いを叶える力を得る事が出来るからよ」
「……アタシ、死んだの?」
「量産機の攻撃を受けた時、高シンクロだったのが仇になって……フィードバックが現実化してしまったから」
アタシの記憶が途切れているのは、それが原因か。
どんな事でも受け入れてみせると思ったけど、流石にこれはショックね。
「そう……ありがと、話してくれて」
「ところがまだ話は終わっていないんだ」
フィフスがその先を、顔を顰めて話し始めた。
「L.C.Lがエントりープラグに満たされていたお陰で、最後の審判の時迄魂は無事だった様でね。
かろうじて生命活動はギリギリで続いていたのさ。そして、他の人間と同じ様に君も融け、世界は一つの生命体となった……。
ここ迄なら予定されていた通りなんだけれどね。ここでイレギュラーが起きた」
「ダミープラグのコアも、元はと言えば人間の体を元に作られている。同じ様に融けたのよ……」
あぁ、そうか。
ファーストの体はアイツの母親を元にサルベージされたから、人間の遺伝子が混じってるわね。
フィフスの体も、人間の遺伝子が混ざってるとか言ってたし。
でもイレギュラーという事は、そこで何かがあったという事よね。
「融けたのはともかくとして、融けた時の状態が不味かったのさ。復活した僕と同期した事によって融けたからね。
そしてその時に量産機のダミーに入力されていた命令が元凶なんだ。弐号機を破壊し、君を殺せと命じられていた」
「アタシを?」
「彼の身近に居る人間だったからね。まぁ……チルドレンとして選ばれた時から、君の自我は破壊させる予定だったけれど」
「どう言う事よ、それ?!」
「ゼーレの人類補完計画では、弐号機を依代として発動させる予定だった。その為にはパイロットの自我は邪魔だったのさ。
本来ならば、彼の立場に居たのは君だったと言う事だね。これがそもそも本来のイレギュラー」
……頭が痛い。
この口ぶりでは一体幾つイレギュラーがあるんだろう?
アタシが、依代……と言う事は……?
「ドイツ支部は、アタシをその為に日本に派遣した。そういう事かしら?」
「……そうね。でも司令は私を依代にしようとして、チルドレンとして登録したの。補完計画を発動させる為の道具として」
「そして、ゼーレとやらの思惑通り……予想された範囲でのイレギュラーで計画は発動されたと言う事?」
「ええ、発動に関しては」
「でもアンタ達の言うイレギュラーは、ゼーレも司令も予想していなかった事なのね?」
「そうなるわ。その為に、貴女にはとても大きな負担を背負わせる事になってしまった……」
ファーストは目を伏せ、静かに涙を流した。
同情?
違う、これは……本当に悲しんでいる涙……。
「ファースト……アンタ、アタシの事を本当に悲しいと思ってくれているのね……」
「ええ。貴女が背負う負担、それが本当のイレギュラーなの……だから……」
「補完計画が発動された時、ダミーのコアも融けたという所迄は話したね?」
涙で言葉を詰まらせたファーストの代わりにフィフスが言葉を継いだ。
「ええ」
「彼は、補完の中心になり、世界中の人々の魂に触れた。勿論、コアとも……」
「待って! コアは魂が宿らなかったクローンを元に作られているんでしょ? おかしいじゃないの!」
確かに二人とも、クローンには魂は宿らなかったと言った。
だから例え人と同じ様に融けたとしても……体がL.C.L.に変わるだけで、魂が融ける筈が無い!
「そう、だからイレギュラーだと言った。コアに入力された命令、それがどうやら僕が同期した事で自我と認識された様でね。
彼はその命令を深層心理に刷り込んでしまったのさ……そして、もう一つ、大変な事をしてしまった」
「もう一つ……?」
――来るなら来てみなさい。
今迄の説明だけでも充分過ぎる程、アタシはショックを受けた。
――さぁ、フィフス……次は何?
アタシの目を見た彼は、ゆっくりと続きを口にした。
「コアの命令は思った以上に強力でね……本来正常に行われる筈の物を妨げる事で命令の実行を完了させた。
だから、君に対する補完は正常には行われていない。君の記憶が途切れているのは、その所為だ」
「何……それ……」
アタシに対する補完は正常には行われていないですって?
「弐号機パイロット……補完が行われた事は覚えている?」
ファーストの問いに、アタシは最近の記憶を掘り起こす事で答えた。
そう言えば、もう一人のアタシが居た記憶を思い出す。
実際にあった事だと判るが、アタシ自身の実感は無かった。
そして、所々が途切れていたのも思い出した。
もしかして……あれが……?
「ファースト……アタシ、誰を拒否したの?」
二人の顔色が変わる。
「御免なさい、私達……とんでもない物を貴女に背負わせてしまった……!」
感情を露にしない風な印象だったファーストが、その場に泣き崩れた。
フィフスの表情は苦虫を噛み潰した様だ。
「そういう事か――! 初めて神を呪いたくなった気分だよ」
「何よ、アンタ達……自分勝手に自己完結しないでよ!」
気分が悪い。
この二人は結局何が言いたいのだろう?
アタシに起こったイレギュラーって、一体何なのよ?
「ああっ、もうっ! とっととズバリその物を言えば良いじゃないのよ!」
アタシはイラつきを抑え切れなかった。
フィフスは如何にもという口振りで、重い口を開いた。
「……ダミーのコアが同期した事によって、僕は君に対して、尋常じゃない殺意と破壊衝動を抱いている。
尤も、それは本体が僕である以上、理性で何とか抑える事は出来ているがね。
今迄はコアが融けた事によって彼の深層心理に影響が出たと思っていたが……間違いだった様だ。」
「どういう事よ?」
「彼は補完に拠って、使徒と人が理解し合える可能性に賭けたのさ。その事で、僕とファーストとも融け合った。
それは解るかい?」
「ええ」
全ての人が融け合い、中心となったアイツはその全てを受け入れようとしたという認識で良いのよね?
けれど、そこに何があると言うの?
どうも、この男がいう事は腑に落ちない事が多すぎる。
「彼の深層心理に影響を与えてしまったのは、どうやら僕と融け合ったからの様だ。
彼もまた、僕と同じ様に君に殺意と破壊衝動を抱いている。それも僕とは比べ物にならないレベルで」
「……だから、アタシの首を絞めたのね」
それで合点がいった。
あの海岸での首を絞めた行為は、補完の影響が強く出ていたからという事だろう。
でも……アタシはまだ生きている。
それについてはどうなっているのだろう?
「普通ならば、それで終わりなんだろうね。でも、彼はまず君を、君の記憶を文字通り無意識に喰った。そして……」
フィフスの言葉を継いで、ファーストが涙声で言葉を続けた。
「いいえ、彼が殺したかったのは、弐号機パイロットの体ではない。体を殺せば、永遠に解り合えなくなるのを彼は知っている」
「そうだね。多分、彼が殺したかったのは……いや、これ以上は止めておこう」
「ちょっと! 何肝心な所で黙るのよ! 解らないままじゃ気持ち悪いじゃないの!」
ああ、そうだ。
気持ち悪い。
アタシがあの海岸で感じたのは、気持ち悪いという感情。
それはきっと、アタシの記憶が一致していないからだ。
この二人の言葉をそっくりそのまま鵜呑みにすれば、魂と体は別々に考えなければならない物。
そして、アタシの記憶が欠けている事によって、アタシの体は本来あるべき物を失った為に、その不一致に嫌悪感を抱いた。
けして、アイツの事が気持ち悪いと感じた訳ではなかったのだ。
しかしこれはあくまでアタシ自身によるアタシに対する推測でしかない。
ならば、真実は何処に……?
やはりアイツが全てを握っているという事だ。
これ以上、この二人から話を聞いても何も掴めないだろう。
アタシが知りたい真実は、アイツの口から知るべき事だもの。
「……まぁ、いいわ。アンタ達が口を閉ざすという事は、アイツの口から直接聞く方が良いって事よね」
「ええ。でも……」
「解ってるわよ。アタシはこれから、アイツが無意識に放つ殺意を受け止め続けなければならない。そういう事でしょ?」
「済まないね。僕達にはどうする事も出来ない。ただ、あの時起きた事を伝える事しか……」
「大丈夫よ、きっと。アタシ、あの時決めたの。アイツを全て受け入れてみせるって」
そう、アタシは自分自身に誓った。
「弐号機パイロット……」
「アンタ達に言われなくたって、アタシ、アイツの事全部受け止めてみせるわ。それが今のアタシに出来る全てだから」
「……君を見ていたら、彼の選択が間違っていなかった事を実感するね」
「アイツの選択なんて、どうでも良いわ……ただ、出来る事をするだけの事よ。生きる事を諦めない為に」
そう、アタシがアイツに躰を開いたのだって、その時アイツに対して出来る唯一の事だったからだわ。
「それが、貴女の強さなのね」
「強さかどうか判んないけど、アタシは最後まで諦めずにベストを尽くす事を信条にしているの」
「そうか……なら、僕達はここで君の無事を祈る事としよう。もう、休みたまえ。君が傷ついているのは確かなのだから」
「弐号機パイロット、これから貴女は苦しみと痛みを味わう事になるわ。でも、それを乗り越えた先に真実はある。
だから……負けないで……私達が出来なかった分迄、生きて。そして彼を……お願い……お願いだから……」
二人の朱紅い瞳が光りアタシの瞳を射抜いた途端、意識が混濁していく……。
――やってくれたわね。
でも、不快ではない。
アタシはそのまま、二人が齎した眠りに全てを委ねた。
目が覚めればきっと、何かが解る。
そんな予感がした。
結局少しだけ眠っていたみたいだ。
あの二人の事は、きっと夢だったんだろう。
もう他の人の気配もしないし、声も音もしない。
他にも誰か居ないか呼んでみようとしたけれど、アタシの声も闇に吸い込まれるみたい。
何も、本当に何も聞こえない。
それが判った途端、突き刺すような痛みを感じた。
痛い。
肌が、刺す様に痛い。
誰か居る……?
でも、他の人の気配はしない。
ただ肌がチクチクと痛む。
アタシは痛みから逃れようとその場を離れた。
後少しだけどさるさん来るので残りは午後にでも
長くて御免なさいorz
乙乙乙!!!相変わらず素晴らしい
逃げる。
逃げる、逃げる。
逃げる、逃げる、逃げる。
でも痛みは追って来る。
痛い。
腕を掴まれる。
やっぱり、誰か居るんだ!
痛い、痛い。
腕を捻り上げられ、地に叩きつけられる。
頭を押さえつけられ、脇腹に咬み付かれる。
嫌!
止めて!
誰か、誰か助けて!
助けを乞うけれど、誰も来ない……。
ひたすらアタシは痛みから逃げようと、振り切ろうと、全身でもがき続ける。
けれども誰も助けてくれない。
そうだ!
誰もあてになんか出来ないんだ。
あの時だってアタシは一人で出撃したじゃない。
――馬鹿***なんか当てに出来ないんだから!
でも痛い。
苦しい。
体が、躰が、引き裂かれる――!
許さない。
アタシを傷つけた奴なんか許さない。
殺してやる。
アタシに痛みを与えた奴なんか殺してやる。
でも助けて。
痛いのは嫌。
苦しいのは嫌。
許さないゆるさないユルサナイ。
殺してやるころしてやるコロシテヤル。
助けてたすけてタスケテ。
ユルサナイコロシテヤルタスケテユルサナイコロシテヤルタスケテユルサナイコロシテヤルタスケテタスケテタス――ッ!
もう、もう戦うのは嫌!
痛いのも嫌!
死ぬのも嫌!
一人は嫌……ッ!
――アナタ ハ ナニ ヲ ノゾム ノ ?
助けて……助けてっ!
「――助けてよ、シンジ……っ!」
不意に闇が掃われ体中の痛みは失せ、アタシは光を感じた。
『ナニ モ ワカッテナイ クセ ニ ワタシ ノ ソバ ニ コナイデ!』
何を……判っていないと言うのだろう?
『……ワカッテルヨ』
『ワカッテ ナイワヨ、ばかっ!』
アタシ……拒否してる。
『あんた ワタシ ノ コト ワカッテル ツモリ ナノ ?!』
何故……こんなにアタシの知らないアタシは怒りをぶつけているのかしら?
『スクッテヤレル ト オモッテンノ ? ソレコソ ごうまん ナ オモイアガリ ヨッ ! ワカル ハズ ナイワッ!!』
ええ、そうね。
でも……気持ちを思い量る事は出来る。
問題は、それをどう表すか。
アタシは多分、 人の温もりを知らなかった。
『ワカル ハズ ナイヨ』
アイツも……シンジも知らなかったのね、きっと。
『あすか ハ ナンニモ イワナイ モノ』
気持ちを伝えるのは、何も言葉だけじゃない……。
手に、躰に触れる事も必要。
『ナニ モ イワナイ、ナニ モ ハナサナイ クセ ニ、ワカッテクレ ダナンテ、 ムリ ダヨ !!』
補完している時のアタシ達は、きっとそれにすら気付いていなかったんだわ。
言葉が全てだと思っていたのね。
あぁ……喰われたという記憶が、感情が、アタシの中で少しずつ、蘇っていく……!
――イカリ クン ハ ワカロウ ト シタノ ?
ファースト……そう、貴女も、知って欲しかったのね。
それだけの事なのに……何て悲しい事なの……
『ワカロウ ト シタ』
もうこの時には、アイツ……世界の全てに責められていると感じて……。
でも一番責めていたのはアタシだったのね。
『ばーか、シッテンノヨ、アンタ ガ ワタシ ヲ おかず ニ シテルコト』
……多分、これは病室での事ね。
あの血生臭い臭いは精液。
何かが切欠でアタシの躰を見て、そして……馬鹿ね、アタシったら……。
『イツモ ミタク ヤッテ ミナサイ ヨ。ココ デ ミテテ アゲル カラ』
もっと……素直になれば良かった……。
『アンタ ガ ゼンブ ワタシ ノ モノ ニ ナラナイ ナラ アタシ ナニ モ イラナイ』
全部、全部、裏返しの事しか言えなかったのね……。
『ドウシテ アンタ ガ イル ノヨ ―― !』
アタシの心の奥底に居たのは、加持さんとママだけだと思っていた。
加持さんはアタシを初めて、年相応の女の子としての扱いをしてくれたから。
時にはアタシを諭し、時にはアタシを励ましてくれた。
そして、死んでしまったママにはもう会えない。
でもその分、会いたいという気持ちがあるのも事実だった。
そして、二人とも、抱き締めて欲しいと願っても、そうはしてくれない人だという事も解っていた。
それなのに――。
「ナニ モ シテ クレナイ ! ダキシメテ モ クレナイ クセ ニ ! ドウシテ アンタ ガ ソコ ニ イル ノヨ ―― !!」
アタシは、あの暇潰しと称した苦いキスがトラウマになりかけていたのね。
触れて欲しい、抱きしめて欲しい、淋しさを受け止めて欲しい――。
それが適わず、アイツの心が既にファーストに向けられていると思い込んで――。
アイツの、シンジの言う通りだわ。
何も言わなければ、何も解らないもの。
それでもこの時のアタシは、ただ触れるだけで良いから、淋しい心を量って欲しかったのね。
それはそれだけ心の奥に、シンジの存在が刻まれていたという事だわ。
それなのに、アタシはシンジを拒否してしまった。
アタシだって悪いのに、全てシンジの所為にして。
幾らダミーのプログラムが深層心理に刻み込まれてしまったとは言え、それを抜いてもアタシに憎しみを抱いても仕方ないわ。
だから、アタシのアイツへの憎しみを喰ってしまった。
そうすれば、アタシがアイツを責める事は無いもの。
でも、同じ様にアタシの心の奥……それも一番奥底に僅かにあった、シンジへのアタシの気持ちも喰ってしまった……。
アンタは何処かでその事に気付いたのね。
アタシの心を喰ってしまった事で、アタシは記憶を失くし、アイツの名前すら呼べなくなってしまった事を。
そして、そんなアタシに絶望して……破壊衝動に従いアタシを犯した――。
それも全部、アタシがシンジを否定するだけでなく、拒絶してしまったから……。
アタシ、馬鹿ね。
本当は好きなのに、意地張っちゃって……。
アタシの方が馬鹿アスカだわ。
でも、アタシはもう気付いた。
アイツの名前も、アタシの気持ちも。
勿論、まだ憎しみはある。
アタシに加持さんの死を伝えた事だって、そう。
いとも容易くシンクロ率を抜き去り、アタシの存在意義の根底を崩してしまった事もそう。
それでも、アタシをチルドレンとしてではなく、同年代の等身大の女の子として見てくれた。
Childrenとして存在し続ける為に醜い取り繕ったアタシを見ても、それでもアタシを女の子として扱ってくれた。
そして、自分の身を省みずに、アタシの命を助けてくれた――。
だからきっと、その分愛しさを感じる分だけ憎しみを覚えたんだわ。
でももう、大丈夫。
アタシは気付いたのだから。
アイツを、シンジの全てを何もかも受け入れる事が出来る……!
そう悟った瞬間、アタシの意識は光に包まれた。
意外と出かける迄に時間があったので全部投下〜
他の作品含めての仕込みネタ部分7割解禁
見比べながら目を通して頂けると楽しめるかと思います
@書いてる間に投下始めて2年を過ぎていたのに気付きました(・ω・`;)
乙です!
お疲れ様です。
すごく読み応えありました。
なんだか最初から読み直したくなりました。
乙
アスカの心理描写が上手くいな
超GJ!
続きをwktkして待ってます
続きが早く読みたいです!
ほしゅ
208 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/06/22(月) 08:40:42 ID:vh3evYAX
きゃあなによばかしんじ!ゴムはずれてんじゃない!
また、だ。
ポトリ、と冷たい雫がアタシの顔に落ちた。
ゆっくりと、霧靄が晴れる様に、意識がクリアになっていく。
「……スカ……アスカぁ……」
アタシの名前を呼ぶ声。
少しだけ、涙が混じっている声。
アタシを呼んでいるのは……だあれ?
泣いているのは……だあれ?
思考が鮮明になっていく。
――あぁ……ずっと、アタシの為に流していてくれたのね。
アタシは目に飛び込む物を、その指と掌に触れたものを確かめた。
「……シン、ジ……? シンジ……?」
「! アスカ……? 本当に、アスカなの……? 僕の事……呼んで……ッ……」
少しだけざらついた肌。
産毛の様に、薄く生えた髭……。
軽く痩せこけた頬に、色濃い下瞼の隈は、疲れが表れた証拠だろう。
涙に覆われた目は、朱紅く染まっている。
「やだ……アンタ、何日休んでないのよ……」
「だって……アスカ……目を覚ましてくれなくって……」
ポツポツと小さな雫が、シンジの瞳から零れ落ちる……。
「心臓が動いてたのなら……呼吸があったなら……生きてるんだから、心配しなくてもいいでしょう?」
アタシは気絶して、そのまま眠りに落ちていただけなのだから。
正確には、気絶したのを利用して眠らされていた、だけど。
「それでも何にも反応が無くて……目は虚ろだし……どんなに触れても、声一つ上げてくれなかったから……」
シンジは泣き出してしまった。
そして、アタシを腕の中に収めると、息が出来なくなるかと思う程、きつく、きつく、アタシの躰を抱き締める。
それだけじゃない。
アタシ達二人の躰には、いつかシンジが引っ張った、互いの足首を繋げていた浴衣の帯が何重にも巻き付いていた。
「始めは嬉しかったんだ……やっと、手に入ったと思って……でも……何も言ってくれないから、直ぐに淋しくなって……」
「それで泣いていたの?」
「うん……」
「どうして……そんな事思ったの……?」
やっと、やっと真実が聞ける……!
ファーストとフィフスが言っていた、アタシの中のアイツに対する憎悪と記憶を無意識に喰った理由に繋がる何かが。
「……大した事じゃないし、アスカには詰まらない事だよ」
「それでも良いわ……話したくなったら話して? アタシ、シンジの事、何でも良いから聞きたい……」
アタシは、動きにくくなった躰から腕を伸ばし、シンジの躰を抱き締め、頭を彼の首筋に埋めた。
汗と、精液と、唾液と、アタシの蜜で酷い臭いだったが、それもまた、アタシ達を繋ぐ物という感じがして心地良かった。
チラチラと目の端に映るアタシの肌には、シンジが付けたキスマークの痕が至る所に付いていたのが見える。
シンジは、本当にアタシの躰と心の全てを喰い尽くそうとしていたのかも知れない。
アタシの憎しみと記憶を喰った事から考えると、何となくそんな気がした。
量産機の弐号機への破壊衝動とアタシへの殺意はそれ程強い物で、シンジはアタシと弐号機をダブらせたのだろうか。
アタシ達はそのまま、汗と精液と蜜でドロドロになった布団の残骸に倒れ込んだ。
巻き付いた浴衣の帯の所為で動きにくかったが、逆にアタシにはシンジとアタシを離してくれない事で安心出来た。
その日はそのまま、眠りに付いた。
アタシは何度もシンジの頬や首筋にキスを落とし、シンジはアタシの躰に触れては、アタシの躰中に歯を立てた。
いつか見た恐怖映画のドラキュラの様に。
そして、付いた歯型を指先と舌先でなぞったりしていた。
アタシはなぞられる度、躰の奥が融けていくのを感じた。
けして心地良かった訳ではない。
ただ、アタシの身を口にしたくなる程、アタシを破壊したくなるのかと思うと、悲しみと空しさが頑なだったアタシの心を融かす。
そんな事を繰り返している内に、アタシもシンジもいつの間にか眠りに付いていた。
目を覚ますと、やはり雨はずっと降り続けていた。
アタシは眠り続けていたシンジとアタシの躰から浴衣の帯を外すと、押入れから新しい布団を取り出し、部屋の隅に置いた。
そして、シンジを起こして言った。
「シャワー浴びよう?」
と、一言だけを。
最初はきょとんとしていたシンジも、何を言ったのか理解をすると、満面の笑みを浮かべた。
そしてアタシを抱き上げると、いつかの様に温泉へと連れて行ってくれた。
今度は互いの足首を繋ぐ帯は無い。
多分、アタシがシンジという名前を思い出した事が、大きな影響を与えてくれているのだと思う。
あの時と今との違いは、それ位しか思い浮かばない。
今度もシンジはアタシに気遣いを掛けながら、アタシの全身を丁寧に手で洗い流してくれた。
指の一本一本、髪の一房一房迄、丁寧に丁寧に洗い流してくれた。
前日彼が付けた歯型に影響しない様に、それはもう丁寧に。
そして、あの時とは違い、口元に本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。
アタシは、それが少し嬉しかった。
何故ならあの時の彼は、研ぎ澄まされた刃物の様に、触れると血を流してしまいそうな雰囲気をしていたからだ。
でも、今はそんな事はない。
この町が、ネルフがこんな事になる前の様に、何処か掴みきれないけれど、穏やかで柔らかな雰囲気を湛えた笑みだった。
それ程迄、アタシが名前を思い出した事が、シンジにとっては重要な事だったんだろう。
そして逆に、量産機と搭載されていたダミーのコアの影響は凄まじい物だったって事だ。
多分、シンジはアタシが量産機に倒され、陵辱された所を見ている。
その視覚的効果と、フィフスが同期する事によって融けたダミーのプログラムの相乗効果……。
考えるだけでも恐ろしい。
影響されるままにアタシの首を絞め、アタシを犯し続けたのだから、その深層心理に巣食った根の深さを思い知らされる。
これからのアタシがすべき事は、シンジをプログラムの呪縛から解き放つ事だわ。
でも……アタシに出来るだろうか……?
確かにアタシはシンジの全てを受け入れる事が出来る。
でも、受け入れるには……やはりアタシはシンジに対する憎しみを昇華しないとダメな気がする。
その為には、やはり真実を知る事から始めなければ。
これは、その為の第一歩って事ね。
「ありがとう、シンジ。今度はアタシが手伝うわ」
「えっ? いいよ、自分で出来るよ」
「気にしないの! 今迄アタシがして貰ってばかりだったんだもの。だから、ね?」
無理やり押し切った。
でも、背中だけしか流させて貰えなかった。
ちょっと残念。
髭は綺麗に剃られていた。
それからまたシンジはアタシを部屋まで抱きかかえてくれた。
そして、箪笥の奥から使われていない浴衣を二着出し、一着をアタシに着せてくれた。
もう一着はシンジが身に付けた。
「……次は、この部屋を片付けるの。いいわよね?」
「そうだね……布団、ドロドロになっちゃったし」
とりあえず避難袋から残りの中身を取り出し、部屋の中に散らばったゴミを詰め込んだ。
そして、汚れた布団やシーツと一緒に廊下に纏めて放り出し、まだ雨が降り続ける窓を開けた。
精液と良く似た、それでいて何処か薄まった様な血腥さが漂ってくる。
それでも、澱んでいた部屋の空気よりは数倍マシだ。
洗面所に掛けてあったタオルを水で絞り、シンジは畳を全て拭いた。
そしてアタシ達は新しく、部屋の隅に置いてあった布団を敷き直した。
少し息を付くと、今度は地下室にある従業員用のランドリーへと向かった。
何でもホテルの中を調べている間に見つけたそうだ。
洗剤も残っていたし、乾燥機も付いているらしい。
ランドリーに向かう途中、勝手口を見つけたのでそこにごみを捨てた。
そして、抱えた洗濯物を綺麗に洗った。
布団を洗うのは流石に無理だったので、また温泉に行って湯船に放り込んで洗おうと話し合った。
洗って乾燥機に掛けたシーツや浴衣やタオルは、懐かしい太陽の香りがしたような気がした。
実際はただの乾燥機の熱で温まった洗剤の香りだけど、そう思える程アタシ達は血腥い臭いに慣れきっていたみたい。
アタシ達は部屋に戻らず、乾いたシーツに二人で長い間包まって、二人でくっ付いてた。
そして、何をする訳でもなく、ただ二人で時が流れるのを楽しんだ。
そうしている内に乾燥機の温かみが冷たくなったので、部屋に戻る事にした。
部屋に戻るとシーツを新しく敷いた布団に掛け、また二人でくっ付いたまま横になった。
何かを示し合わして話をした訳でもない。
ただ、極自然に、アタシはシンジの腕の中に納まった。
そしてつるりとした彼の顎に指を滑らせる。
――やっぱり、コイツはこうでなきゃ。
何故か、そう思った。
多分、このままこの様な生活が続くのであれば、薄れ行く事となる記憶を確認したかったのだと思う。
そして今度は、シンジはアタシの全身に軽く歯を立て、前日に付いた歯型に自らの指と舌を滑らせた。
アタシもまた、そうするシンジに逆らわなかった。
ただ、アタシの肌に歯を立てる彼の固めの黒髪に指を絡め、頭を撫で続けた。
そうする事が必要だと思った。
そのままうとうとと、アタシ達は浅い眠りを繰り返した。
そして目を覚ますと、シンジはアタシを抱き締め、今度は全身に唇を落とし、キスマークの雨を降らせた。
最大の愛情表現と敵対表現を繰り返している……?
シンジがアタシに対して何らかの感情を向けているのは確かで……アタシには意味は解らないけれど。
それを無理やり掘り返す様な真似はしたくない。
これもまた、シンジにとって意味がある事なのだろうだから。
それに気付いたアタシは、抵抗しない為か顔を覗き込みながら歯を立てるシンジに笑みを浮かべ、彼の頬と髪を撫で続けた。
そして、彼がアタシの躰にキスマークを降らせる時は、しがみ付く勢いで抱き付き、敵対心が無い事を全身で示し続けた。
会話は無くとも、互いの気持ちを確かめるならそれだけで充分だった。
そして何度かそんな事を繰り返した後、シンジは呟いた。
「アスカは……僕が怖くないの?」
「どうして?」
アタシは問い返した。
「だって……アスカに一杯酷い事したもの……。今だって、一杯傷付けてる……」
「そんな事無いわ。アンタがしたい様にしていいのよ。アタシなら大丈夫だから……ね?」
実際、アタシの躰はキスマークの内出血と歯型で傷だらけだった。
けれど、ずっと痕に残る程の物じゃないので大した事はない。
シンジの中に絡みついた量産機の呪縛を解こうとするのなら安い物だ、とアタシは思う。
アタシはシンジを胸に抱き締め、癖の強い固めの髪を優しく撫でた。
「約束したでしょう? 一緒に地獄に堕ちてあげるって」
そう、約束。
雨の降り続く中庭で、真実を知りたいと言ったアタシに、一緒に堕ちて欲しいとシンジは懇願したのだから。
アタシの知りたい真実は、それ程過酷で、おぞましい物を含んでいるという事だ。
でなければ、あの時のアタシは躰を差し出したりしなかっただろう。
今は……何よりもシンジの受けた苦しみを受け止めたいと思う。
真実を知りたいからじゃなく、アタシはシンジが愛おしいと思うから。
「だから、心配しなくていいのよ。シンジ、アンタの好きな様にしていいの」
愛おしいと思うからこそ、苦しみも、喜びも、全て一緒に受け止めたいのだから。
だから、アタシは再びシンジに躰を差し出す。
それがアタシのシンジへのせめてもの罪滅ぼしだ。
アタシが記憶を失くした事でシンジが味わった絶望は、比べる事が出来る事等無かった気がするから。
「アタシの躰も心も、何もかも……シンジ、貴方が好きにしていいのよ」
そう言って、アタシはシンジに笑いかける。
「でも、命だけはアタシの物。でないと、一緒に地獄に堕ちてあげられないもの。その代わり他は全部シンジにあげるわ」
時が止まった気がした。
シンジは大きく目を見開いて、涙をポロポロとアタシの胸に落とした。
アタシと同い年にはとても思えなかった。
本当に、本当に、小さな幼い子供に見えた。
「アス、カ……アスカ……アスカ、アスカ、アスカ……っ、ぅっ、ぅわああああああぁあぁあっっ!」
アタシの胸に縋り付き、シンジが泣いた。
それはもう大声で。
今迄何かを堪えていたのが、堰を切った様な勢いで、大粒の涙を流して。
アタシは今迄、シンジがあからさまに感情を露にする所等見た事が無かった。
例外があるとすれば、アタシに加持さんの死を告げた時と、最近漸く思い出した補完中の出来事位だろう。
最初に会った時は、女々しい所がある様で、それでいて戦闘の最中に軽くアドバイスを飛ばす、掴み所のない奴だと思ってた。
一緒に暮らし始めた時は生意気なのに、人の顔色ばかり伺ってる奴という印象が強くって、自分自身を持ってない風に見えた。
そして仲が拗れて行く切欠は、やはり暇潰しの苦さしか残らなかったキスとシンクロ率が逆になってしまった時だったと思う。
それからのシンジは、ずっと陰気な雰囲気を纏っていて、覇気が無くて、感情を捨ててしまったかの様にアタシには見えた。
そして、ファーストと顔を合わせた時だけ、柔らかな笑みを見せているのを知ったアタシは、心に嫉妬の炎を点してしまった。
傍に居てもアタシの存在が居ない風になっていくミサトの部屋をアタシが後にしたのも、多分それが原因だろう。
でも……それがシンジの感情を薄くさせていった原因の一つだったとしたら、アタシはとんでもない事をしてしまった事になる。
「泣かなくて良いのよ? アンタは充分やったわ……だから、アタシの事は気にしなくていいの、ね?」
アタシは泣きじゃくるシンジを、柔らかく抱き止め、子供を諭す様に髪を撫でた。
「アスカぁ……アスカぁ……」
「泣かないで……アタシはココに、シンジの傍に居るから。ずっと……ずっと傍に居るわ……」
そうする事でしか、アタシはアタシの罪をシンジに償う事が出来ない。
シンジは、自分の泣きじゃくる声を子守唄にして、その内眠ってしまった。
アタシはシンジの髪を撫で、今迄の事を思い返す。
――後悔、してる?
――いいえ、する必要が無いもの。
アタシは自分自身に問いかける。
予想していなかった事とは言え、最終的な結果としては、貞操をシンジに捧げた事は間違いではないと思う。
多分、アタシが全てを捧げなければ、アタシの記憶は永遠に戻らなかっただろう。
もし、あの時だけでなく、中庭でもシンジを拒否していたら……?
恐らくはもっと酷い事になっていたに違いない。
アタシはシンジを憎み続けていただろうし、シンジもまた、拒否したアタシを憎んでいたと思う。
今度こそアタシの意志と関係無く、シンジは内に絡みついた殺意と破壊衝動を剥き出して、アタシを殺していた筈だ。
もしくは、アタシの気が狂う迄犯し続けたかのどちらかだろう。
廃人となり精神が破壊される事もまた、殺人と言えるから。
そして真実は永遠に闇に封じられたまま……ファーストとフィフスの願いもまた、消え去っていたに違いない。
――でも……もし全てが元に戻ったとしても、ドイツには戻れないわね。
貞操観念と純血主義の強いドイツ系アメリカ人の父親の事だ、アタシとシンジの関係を知ったら赦さないだろう。
良くて、シンジと引き離されるだけ、最悪アタシは一歩も家から出る事は赦されない。
そして、ドイツに強制送還なのは間違いない。
だってアタシは、自分の気持ちに気付いてしまったから、ドイツには戻りたくなんてないもの。
尤も……窓の外を見ていると、そんな日が来るとも思えないけれど。
――今は、ただ二人で生きていられる様に祈るしか出来ないのね。
胸に感じるシンジの呼吸と、その寝顔を見て、窓の外の空を見上げた……。
紅い川が星空に流れ、三日月に川が橋を架けていたのが見えた。
最初に海岸で気付いてから、どれだけ経ったのだろうか?
そんな事迄気に掛ける余裕が出来るという事は、随分と落ち着いたのかも知れない。
それは多分、良い事なのだろうと思いながら、シンジの寝息を子守唄にしてその日は眠りに付いた。
翌日、目を覚ますと少しだけ月が満ちていた。
それ以外は何も変わらず。
アタシの胸に抱かれたまま、シンジも眠っている。
安心した様に、安らかな寝顔だ。
そう言えば何時の事だったか、魘されるシンジを胸に抱き止めて眠った事があった。
やはり心臓の音は安心感をくれるという事なのだろうか。
アタシの心臓の音が役に立つ、素直嬉しいと思う。
「ぅ……ん……ア……スカ……?」
シンジが目を覚ました。
「なぁに、シンジ?」
アタシはシンジに笑みを向け、シンジの髪と頬を撫でる。
「アタシはここに居るわ。このまま眠っていてもいいのよ?」
「うん……判った……アスカって、凄く暖かいんだね……何だか安心する……」
「そうなの? ……アタシ、暖かいんだ」
「うん……お母さんって、こんな感じなのかな?」
「さぁ……判らないわ。でも、心臓の音を聴くと落ち着くでしょう?」
「うん」
「アタシはお母さんにはなれないけれど、アンタを落ち着かせてあげられる事は出来るわ。だから今は、ゆっくりしていいのよ」
「……ありがと、アスカ」
シンジはアタシの乳房に頬擦りをすると、またうつらうつらと眠り始めた。
アタシはその時思った。
多分、母親の記憶が薄いのではないかと。
そして、子供の頃から安心して眠るという事等、殆ど無かったのではないかと。
それだけじゃない。
量産機の影響は、シンジから安らかな眠りを奪っていたのかも知れない。
思えばあの泣きじゃくりながら眠っていたシンジは、夢で何かを見ていたのだろう。
ダミープラグはネルフで研究されていた……使徒に侵食された参号機との戦闘で使われたと聞いている。
その研究が何らかの形で、ゼーレとやらに渡ったか……もしくはゼーレがネルフに研究させていたか。
どちらにしても、恐ろしい物を作り出したゼーレとネルフ。
シンジが知った真実は、それに関係しているのだと思った。
でなければ、ファーストのクローンがコアになっているプログラムの存在等、一介のパイロットが知る筈も無い。
――シンジは、その真実を抱えたまま戦ってきた?
だとしたら、上層部はとんでもない負担を強いていた事になる。
ファーストは司令の道具として、アタシはドイツ支部とゼーレの道具として2nd.Childrenとしてパイロット登録された。
ファーストとフィフスは確かそう言っていた。
ならば、シンジにも3rd.Childrenとして登録されるだけの何かの役割があったという事なんだろうか?
アタシ達パイロットは、補完計画の為の司令の道具だった……それは間違いないとシンジは言っていた。
とすると、フィフスはダミープラグのプログラムの為に生み出された……?
ネルフは、ゼーレは、国連は何を考えて、何をしていたというの?
あの二人は司令ともゼーレとも違う、第三の選択を選んだと言っていた。
それは……もしかしたら、何かを知ったから選んだ……とも言える?
――まさか、ね?
アタシは頭に浮かんだその考えを振り払った。
とにかく、シンジが目を覚まし、話す気にならない事には始まらない。
今は眠ろう。
激しく交わった為のダメージを回復させる事の方が先だ。
アタシは愛おしい人の頭を撫でながら眠りに付いた。
その後もシンジがうとうととアタシの胸の中で眠るのは変わらず。
アタシもシンジを抱いて眠る事の幸せに浸っていた。
幸せで仕方なくて、それだけで胸が一杯で、水を喉に通すのがやっとの状態。
我ながら、幸せな性格だなと思う。
でも、幸せの基本形は、愛しい人を腕の中に抱く事や愛しい人の腕の中に居られる事だと、アタシは思う。
そして、アタシの躰に残されたシンジの歯型とキスマークの内出血の痕が薄れ始める頃、今度は部屋の中で。
部屋の壁に凭れシーツに包まれながら、アタシとシンジは外を眺める事が多くなった。
シンジは何時顔を見ても、嬉しそうにしていた。
アタシもそれが嬉しくて仕方なくて、彼の頬に何度も意味も無くキスを落とした。
そうする度に顔を真っ赤にして照れる彼の姿が、何だか照れ臭くて、それでも嬉しくて、アタシは幸せだった。
でも、いつかは終わりが来る。
それもまたアタシは理解していた。
そうして何回か空を見上げると、徐々に月が満ち半月になった頃。
やっとシンジは口を開いた。
とうとう来たのだ。
アタシが知りたいと懇願した真実を知る時が。
「……初めてネルフに来た時、父さんが言ったんだ。僕は予備のパイロットだって」
元々選ばれる予定が無かったって事かしら?
でもそんな事が何に関係して来る訳?
「だから僕は要らない子供なんだって、再確認した気がしたんだ」
要らない子供…・・・アタシと同じ…・・・?
「でも、必要だから呼んだって聞いたから、要らない子供じゃなかったって思える気がしたから……エヴァに乗る事にしたんだ。
要らない子供だから、僕は父さんに捨てられたと思ってたし、誰かに必要とされた事も無かった。
必要だからって聞いただけで嬉しかったのも確かなんだ。流されるまま乗ってたけど、確かに僕の居場所だと思ったから。
けど、必要とされたのはチルドレンで、パイロットとしての僕なだけで、そうじゃない僕は必要とされてなかったんだ」
ショックを通り越して、アタシが唖然とするしかなかった。
アタシがチルドレンに選ばれた時と一緒じゃないの。
ママはアタシを見てくれなくなった……アタシの代わりに人形を抱きしめて。
良い子にしてれいば、またアタシを見てくれるって思ってた。
だから、アタシは血を吐く思いで良い子になろうとした。
それはアタシにとって、優秀な成績を取る事でもあった。
そうすれば、またアタシを見てくれる、昔のママに戻ってくれるって信じてた。
そして、周りの人もアタシの事を見てくれるって思ってた。
けれど、ママはアタシの目の前で天井からぶら下がっていた。
アタシが子供らしい部分を切り捨てて、一人で生きると決め、パパや義理のママを居なかった者としたのはその頃だ。
けど、結局アタシは切り捨てられた。
シンクロ出来なければ、チルドレンたる資格と能力が無ければ、道具ですらないって思い知らされた。
そこからアタシの記憶は、弐号機の中で目覚めるまで途切れてる。
その時のアタシの憎しみは、アタシを見捨てた司令ではなく、アタシよりもシンクロ率が低いファーストに向けられた。
そして、アタシを助けてくれなかったシンジにも、その憎しみは向けられた。
でもそれは、シンクロ率というフィルターを通してしか、あたしは人間を評価しなかったから……。
「それに気付けなくて……アスカに酷い事した。パイロットじゃない僕に価値なんか無いって、自分で勝手にそう思い込んで。
パイロット以外の僕を自分で否定しちゃってたから、周りのみんなもきっとそうなんだって勝手に思い込んでたんだ。
ネルフが全てじゃない……ネルフってフィルターを通してしか、周りを見てなかっただけなのにね」
馬鹿だ。
アタシ、今迄何を見て来たんだろう。
コイツは、シンジは、アタシだ。
アタシはシンクロ率=優秀な成績を残すという事をフィルターにして、全てを判断していた。
それをパイロットを必要とするネルフというフィルターに置き換えれば、アタシと全く一緒だ――!
「……何言ってるんだろう、僕。とにかく、僕は要らない人間だって思い込んでたんだ……自分の事嫌いだしね。
だからアスカの事……見てる様で見てない事に気付いた。一緒に暮らしてたのに、ただ居るだけとしか認識してなかった。
僕に無いモノを全部持ってる……明るくて、強くて、前向きで……みんなに好かれててさ……全部正反対だ。
だから、仕返しのつもりだったんだ。加持さんが死んじゃった事を伝えたのは」
だから、あの時のシンジは……感情を剥き出していた?
何て事だろう……お互い、無い物強請りをしていただけだったなんて!
アタシも、シンジも、ただ一番必要として欲しい人から必要とされていなかっただけ。
そして、アタシはその人を振り向かせる為に、能力以上の努力をして……。
シンジは逆に一人で放り出されて……。
気付けば、アタシは泣いていた。
忘れていた筈の、悲しみの涙を。
「アスカ……?」
「気にしないで、続けて」
「え? あ、あぁ……うん、判った」
淡々としたシンジの声に、アタシの心は張り裂けそうだった。
何も見ていなかったのはアタシも同じだったから。
「だから、僕はアスカが羨ましくて……でも、アスカには届かなくて……だって、僕は加持さんみたいになれないもの。
加持さんみたいに、アスカが淋しい思いをしていても、慰めたりする力なんてないもの。
それに、アスカは僕が傍に居ても加持さんの事しか見てない。それは綾波だって一緒だ。綾波は父さんの事しか見てない。
父さんが居れば、それで良いんだ……だから、僕は綾波が怖かった。父さんの事は覚えているのに、僕の事は知らない。
アスカだって、どんなに僕が話そうと近づいても、加持さんばかり見て……離れていくだけだったもの」
アタシ、シンジの気持ちに気付かなかったなんて最低!
でも……シンジも最低。
アタシが取り乱す事を知っていて、わざと加持さんの死を伝えたのだから。
アタシ達、最低だけど、抱えていた物は似ている。
だから、余計に憎かったのね……同属嫌悪だわ。
「僕がアスカのシンクロ率を抜いた時もね、これで父さんは褒めてくれるかなって、ちょっとだけど考えた。
でもそんな事は全然無くて……アスカには嫌味言われた。そりゃそうだよね。僕みたいな落ちこぼれが抜いたんだもの。
それからかな? アスカが段々、別の人みたいに見えてきたのは」
「別の人?」
「うん。だって、僕の事シンジって呼んでくれなくなったもの。作ったご飯だって食べてくれなくなった。
家に居ても、顔すら見せてくれなくなって……最後には帰ってきてくれなくなった。……淋しかったよ、僕」
何て事をしていたのかしら。
アタシ、シンジにシンクロ率を抜かれていくのが悔しくて、また追い抜こうとしても下がっていくばかりで……。
最期にはアタシの居場所を盗られたと思い込んで……。
でも実際は、アタシの方が壁を作っていただけだったのね。
そして何て馬鹿な事をしたのよ……。
幼い頃から追い求めた物は直ぐ近くにあったのに、自らそれを手放そうとしていただなんて!
周囲を傷付けて、自分を傷付けて、結局最後に残った物は何も無い。
「御免なさい……御免なさい、シンジ。アタシもアンタの事、何も見てなかった……!
アタシ、アンタの事……シンクロ率ってフィルターでしか、評価しようとしなかった。
それに、アタシの居場所を奪っていくのかって……アタシ、凄く憎んでた……ううん、今も憎んでるかも知れない」
「そんな! 悪いのは全部僕だ! 何とかしようとすれば何とか出来たのに、僕は何もしなかった!
それに僕、最低なんだ……だって、だって僕――」
「ううん、最低なのはアタシ! 鈴原の事だって知っていたのに、ギリギリ迄アタシ、隠してた!」
そう、参号機のテストパイロットは鈴原トウジだと、アタシはひょんな事から知った。
本来なら、友人であるシンジには真っ先に伝えるべきだったのに。
アタシはシンクロ率を追い抜いていくシンジへの嫉妬で、戦闘が始まるギリギリ迄伝えようとしなかった。
「でも、アスカは伝えようとしてくれたじゃないか。僕がした事はもっと最低だよ……」
「……気付いて、くれたの?」
「うん。でも、ミサトさんは違った。戦闘が終わって、トウジが救助される時迄、何も言わなかった。
理由、知った時はゾッとしたよ。ああ、父さんより酷いや、って」
そう言ったシンジの目は、またどろりと濁っていた。
――このままじゃ、ダメ!
アタシは心に溜まった澱みを全て吐き出させようと、アタシの身に危険が及ぶのを承知でシンジに問いかけた。
「ミサトが、どうかしたの?」
ギロリと濁った視線を、アタシに向けたシンジはポツポツと話し始めた。
「ミサトさんはね、家では僕達の事は淋しさを紛らわす道具として見てなかった」
ええ、それは聞いた。
淋しさを紛らわせるのなら、相手が加持さんでも、ペンペンでも、シンジでもアタシでも、誰でも良かったと。
「他にもあるの? 司令より酷いってどういう事か、知っているの……?」
「あのね、ミサトさんはね……」
濁った目を空に向け、シンジは心底嫌悪した声を漏らした。
「パイロットとしての僕達は、使い捨てても良かったんだって。セカンドインパクトで死んだお父さんの敵が取れるなら」
――何ですって?!
耳を疑った。
けれどもシンジが言っている事が嘘とは思えない。
「ねえ……それ、何処で知ったの? ミサトに、直接聞いたの?」
アタシは恐る恐る、尋ねた。
すると返って来た答えは、もっとゾッとする物だったと同時に、ファーストとフィフスの言葉が真実だった事を証明した。
「補完中は、全ての人の心の中が視えたり、聞こえて来たりするんだ。だから、ミサトさんの心が視えたんだよ。
凄く、父さんやゼーレの事憎んでた。セカンドインパクトを起こしたのはゼーレだって。
それから父さんはその事知っていて、ミサトさんに隠してただけじゃなくって、現場に居たのに逃げたんだって。
副指令の心が視えた時、色々判ったんだ。だから、ミサトさんは使徒の事もエヴァの事もお父さんの敵だって思ってた」
――聖書には、アダムの肋骨から造られしイヴとあるものね。
つまり、ミサトはセカンドインパクトの真実を知る為に、ネルフに入ったという事?
「それで……? 使徒を倒す為なら、アタシ達を使い捨てにしても良いって?」
「そうだよ。最終的にアスカを切り捨てたのも、父さんの命令だけじゃない。ミサトさんが、使えないからって捨てたんだ」
「アタシだと、使徒を倒せないから……? エヴァを動かす事も出来ないから……?」
「うん。それが第十五使徒戦。でも、その後僕がエヴァに乗るのを拒否して、綾波も父さんと一緒に行方不明になった。
だから、戦自と戦う時はアスカに頼るしかなかったんだ、本当は。エヴァの中が安全だからってだけじゃない……」
「その判断は、誰がしたの?」
「ミサトさん」
補完中、ミサトの心を覗き見た事で、彼女の心が病んでいるのは知っていた。
けれど、ここ迄病んでいたとは思わなかった。
それ以前に、アタシはドイツ支部とゼーレだけでなく、この日本でも道具でしかなかった事に絶望した。
ファーストは、最初から自分が司令の道具だと認識していた。
フィフスもそう、ゼーレとドイツ支部の道具なのだと言っていた。
でもシンジは、アタシとファーストの予備として呼ばれ、扱われる事を最初から知っていた。
そして、補完が起きた事で、上層部の心を覗き見た事で、その後も道具として扱われていた事に絶望したんだ……。
「それが……全てなの?」
多分違う。
アタシに酷い事をしたって言っていたし、フィフスが言葉を濁した部分はまだ、口にも出していない筈だ。
それでも、念の為にアタシは聞いた。
「ううん。一部だけだよ。他の人の事も色々視えたけど、下らない位自分の事しか考えてなかった。
僕達子供の事なんて、どうでも良かったのしか視えなかった。それでも、僕のした事よりはずっとマシだったけどね」
そう言って、シンジは視線を床に落とした。
「サードインパクトを起こした……って事?」
アタシが問うと、シンジは床から視線をアタシに戻し、顔を歪めた。
「それもある。でも、もっと酷い事をした……。それに比べたら、サードインパクトなんて大した事じゃない」
大した事じゃない?
それ以上の事だなんて、他に何か……あった?
「アタシ……の事、以外で?」
「うん……でも、他にもあるよ。僕は、大事な友達を、この手で、初号機で握り潰して殺した」
「……え?」
言葉が出なかった。
自分の友達を手で握り潰すなんて――!
アタシなら、兵士として訓練を受けたアタシなら……まだ出来るかもしれない。
でもシンジは素人で、子供で、只の中学生だ。
それなのに、友人を殺させるなんて、正気の沙汰じゃない!
「……ねえ、もしかして、その命令も」
「うん、ミサトさんだった。生きる意志を放棄したから、使徒だから、殺さなきゃダメだって。でも……カヲル君は友達だったんだ!
僕の事を、初めて好きだって言ってくれた、大事な友達だったんだよ! それなのに、使徒は全部殺さなきゃダメだって……」
血を吐く様な告白。
これで解った。
シンジは、今迄……他人に好意を寄せられた事も無ければ、好意からの善意を受けた事も無い。
ただひたすら、一人で無気力に生きてきた。
誰かに必要とされたいのに、必要とされず、放置に近い状態で養育された。
その壁を始めて破ったのが、カヲルと呼ばれる使徒だったって事だ。
そして、アタシの予想が間違いでなければ――。
「ねえ、シンジ……その使徒だって言われたカヲルって友達は、人の姿をしていたの?」
「うん、そうだよ」
――やはり、そうなのね。
ファーストと一緒にアタシの前に現れたフィフスチルドレンが、恐らくカヲルだ。
アタシに本題以外はどうでもいいと話さなかった訳が解った気がする。
アタシに与えられるショックも高いと見ていたんだわ、きっと。
「その後だよ……アスカが見つかったって報告を教えて貰ったのは」
既に、ファーストは記憶を失くして三人目とやらになっていた。
アタシは自我崩壊を起こして入院。
ミサトは復讐の鬼と化して、パイロットを使い捨て。
シンジが発狂しなかったのが不思議な位ね。
「シンジ……ミサトの事、憎んでる?」
「……判らない。もう、何も解らないし、解りたくもない」
当たり前よね。
一度にそれだけの事が起こって……訓練を受けたアタシでもどうしていいか判らないもの。
「ただ、解ってるのは……僕はもうとっくに気が狂ってる」
「そんなっ! アンタは正常よ! 誰だって、同じ事があれば、正気を保つ事は出来ないわ。シンジ、貴方は強い……。
訓練を受けて育ったアタシでさえ、正気を保っていられるか判らないもの。それでも貴方は正気を保ってる」
「いいや、それは嘘だね」
「どうしてそんな事が言えるの?」
「だって……アスカ、君と弐号機の状態を見て、僕が何を願ったか判る?」
「……それは、だって!」
「全ての『死』だよ。人間だけじゃない、生きている物全て、要らないから死ねって」
4円
言葉が出なかった。
アタシが陵辱される様を見て、そこまで絶望するなんて!
いいえ、そこまで絶望する様に仕向けられるなんて!
多分、フィフスを殺したのはミサトの思惑じゃない。
ゼーレとドイツ支部がそう仕向けたんだわ。
ドイツ支部に一時所属していたミサトの事を、上層部だけじゃなくゼーレやドイツ支部が把握していてもおかしくない。
ミサトがそう命令する様、仕向けた上でギリギリの精神状態を保つ様にお膳立てされたんだわ。
補完計画を実行する為に。
道具として、実行する為にファーストの予備として司令が用意したChildren、それがシンジ。
皮肉にも、ゼーレとドイツ支部の道具であるアタシの予備としての働きもしてしまったけれど。
多分、アタシのこの性格も、幾らかはドイツ支部の意向が反映されているのでしょうね。
フィフスの言葉通りなら、自我崩壊がし易い様に。
もしかしたら、ママがぶら下がっていた所を見る様に仕向けられていた事も考えられる。
効率良く、確実に……ドイツ支部ならそういう事を考えていても納得出来る。
だって、アタシにとっては確実にトラウマになったし、人格形成要素の一部になったのは間違いないもの。
だとしたらアタシは……何処までシンジに酷い事をしてきたのかしら……。
まだ、アタシが道具として使われていたら、少しはマシだった?
いいえ……多分結果は同じでしょうけど、少なくとも自我崩壊さえしなければ、もう少しマシな結果になったかも知れない。
アタシは、どれだけ償えば良いのだろう……?
躰を、心を差し出すだけでは、きっと足りない……。
「それを綾波が適えてくれたんだ……A.T.フィールドを開放してくれた。そうして僕は、全ての人の心の中を知った」
「……それが、サードインパクト?」
「そう。そして、全ての人の心を融かして、一つになった……筈だった」
――だった。そう、それが……。
「でも、一つになったら僕が居ないんだ。僕は僕の事が判らなくなった。アスカも、綾波も、トウジも居るのが判ったのに。
でも僕は何処にも居ない。そしたら急に怖くなった……だって、誰も僕の事が判らないんじゃ、僕が居ないのと同じだもの」
――あの二人が口を濁した、第三の選択の結果、なのね。
「それで、僕は僕の居る世界を望んだ。綾波は、母さんはまた、僕の願いを適えてくれた。
もう半分体が融けて、僕の体から生えている状態だったのに、それでも最後の力で僕の願いを適えてくれた」
「カヲルは……何処に?」
「カヲル君はもう、綾波の中で完全に融けていたよ。父さんが綾波の体の中へ融かしたんだ」
アタシが窓ガラス越しに見たファーストの幻……きっとそれがその状態だったんだわ。
「シンジ、ファーストは貴方の母親だったって言っていたわね。でも、貴方のお母様は亡くなられたんじゃないの?」
「母さんは初号機のコアの中にずっと居たよ。エントリープラグの中で融けた僕を元に戻してくれたのは、母さんだ」
「どういう事?!」
既に、シンジは母親がコアの中に居る事を知っていた……?
「それだけじゃない。使徒の影の中に落ちた時だって、助けてくれたのは母さんだった。僕、記憶を忘れていたんだよ。
母さんが実験でコアの中に融ける時、僕、ネルフの中で見てたんだ。サードインパクトで気付いた」
「……じゃあ、アタシのママが弐号機のコアに居る事も」
「リツコさんと父さんと副指令の記憶を見て知った。魂の一部だけ、コアに残ったままサルベージされたんだって。
だから……アスカの母さんは……」
「そう……記憶を見た事で知ったのね。アタシのママがアタシを認識しなくなって、人形をアタシと勘違いして……」
「うん……御免」
「気にしなくていいわ。寧ろ、知ってくれて、教えてくれて有難うって思うもの。そう、だったの……」
シンジはきっと、全ての人のA.T.フィールドの境界を失くす事で世界中の人の記憶を垣間見たんだわ。
それでも他人への恐怖を拭う事が出来なかった……という事なのでしょうね。
「でも、アタシの記憶は見ては居ないのね?」
「うん。アスカの気配は感じた。でも、アスカの記憶は見えなかった」
「そう」
多分それが、アタシがシンジを拒否したという絶対なる証拠となる事なんでしょうね。
「でも……まだアタシ、もっと酷い事をしたって事、説明して貰ってないわ。何をしたの?」
「言って……良いの?」
「言ったでしょう? 一緒に地獄に落ちてあげるって。でもその代わり、アタシには真実を教えてって」
「……言ったら、きっとアスカは僕を軽蔑する」
「しないわ」
「するよ、絶対」
「しないわよ。アタシの名に、惣流 アスカ=ラングレーの名に誓って、シンジ、貴方を軽蔑なんてしない。
最期迄、貴方を信じるわ。そして、アタシの躰も心も命も、全て貴方に捧げる。それがアタシの誠意よ」
「アスカ……」
「どう? これでもまだ、話してくれないの? 貴方が話してくれるなら、アタシの何もかもをあげる。
アタシにとって、貴方の知る真実はそれだけの価値があるのよ」
アタシはシンジの瞳を真っ直ぐ見据えて言った。
だって本当の事だもの。
そしてアタシはシンジが愛おしく感じる。
だから、苦しみも悲しみも分かち合うんだと決めたのよ。
まだ憎しみは残っているけれど、それはきっと時とアタシの知りえない真実が解決してくれると、アタシは信じる。
アタシは、シンジの瞳から自分の瞳を逸らす事は無かった。
するとシンジは諦めた様に溜息を付き、少しずつ話始めた。
「最初は、乱暴だし、性格だってキツいし、きっと僕とは気が合わないだろうと思ってたんだ。
それに外見は、僕と釣り合わないのは確実だったしね」
「アンタも言うわね。でも……そんな事言うのは日本だけよ。アタシはクォータでドイツ人の血が濃いけど、所詮は混血児だもの」
「それでも、アスカは綺麗で、明るくて、みんなに好かれてて……僕とは正反対で……」
「言ってたわね、羨ましかったって」
「うん。だから、仲良くなれればいいなって、漠然と思ってた」
「そうなの……」
「だから、学校のクラスのみんなと違って、一緒に住んでるって事が少しだけ、僕にとっては優越感を感じる事でもあった。
それから、アスカは口も悪いけど、色々構ってくれた。ご飯のおかずの事とか、お風呂の温度の事とか、洗濯物の事とか。
それが一番嬉しかったかな。だって、今迄僕をそんなに構ってくれた人なんて、本当に居なかったから」
――そんなの、只の我侭じゃないの。おかずだって味が合わないとか、湯が熱いとか、下着に触るなとか、無茶ばっかり。
アタシにとっては子供染みた気の惹き方をしていただけだわ……。
でもシンジにとっては、そういう人との触れ合いその物が、欠けていた。
いいえ、欠ける様に育てられたといった所かしら?
「そう……そんなに嬉しかった?」
「うん。だって、美人で可愛い女の子がそう言って構ってくれるんだよ? 男としては最高じゃないかな?」
「うふふ……アンタも学校の男達と変わんなかった訳ね?」
「……酷いな。僕だって男なんだよ?」
「そうね……アタシの事、命を賭けて守ってくれたものね。今なら言える。とても、嬉しかった……有難う、シンジ」
「あ……いや、それはその……」
頬を紅に染めて照れる彼が、とても愛おしく感じた。
身を張って、マグマの中から助けてくれたんだもの。
多分、アタシが愛おしいという感情を感じたのは、その時だわ。
でもそれはちっぽけなプライドに覆い隠されて……ううん、そう仕向けられたのね。
アタシ達、本当に何もかも監視されていて……自由だと思っていた事すら自由じゃなかった。
「あの時は言えなくて御免なさい。もっと早く言えれば……」
「そんな! あの時の僕は、そんな事言って貰える様な価値なんて無かったよ」
アタシ達の間を沈黙が包む。
アタシはシンジの胸に顔を埋めた。
急に恥ずかしくなったのもある。
でも、この先の事を知るのが少し怖くて、シンジの腕の中ならその恐怖も少し和らぐんじゃないかと思ったから。
「今は、こうさせて……こうしていると安心するから。どんな事でも、受け入れられる気がするの。ダメかしら?」
「……僕で、いいの?」
「貴方じゃないと、ダメなのよ。……他に誰も居ないけど。でも、他の人とは考えられないわ……」
「解った……」
それからポツリポツリと話す内容は、女性なら嫌悪を覚えても仕方の無い事だった。
でも、生理現象だものね。
それにアタシも無神経だった。
尤も無神経なのはミサトにも言える事だけれど。
「やっぱり、触れたいと思う事もあった。風呂上りのアスカが近くを通ると、とても良い匂いがして……。
たまに洗濯物の中にアスカの物が混じっている時なんか、地獄だったよ。耐えるだけで精一杯だった」
「じゃあ、今は? アタシに触れているだけじゃないわ」
「ん……時々、現実なのかなって思うよ。でも、アスカは本当に僕の傍に居るから……嬉しいけど、ちょっと辛い」
「どうして?」
「君がそれを聞く? 今だって耐えるのが精一杯なのに」
「ふふっ、冗談よ。でも、無理しなくても……アタシはもう……」
そう、アタシ達は既に躰の関係がある。
今更という感じは否めない。
「そういう意味じゃなくて、いつか、アスカを壊すだけじゃなくて……殺してしまいそうで……それが怖いんだ」
「……海岸での事ね」
アタシは寒気がして、シンジにしがみ付いた。
「それもある。けど……中庭での事も、一歩間違えば……アスカを殺す所だった」
そう言って、シンジはアタシの首に手をやった。
このまま、首を絞められる……?
それでも良かった。
この破壊衝動と殺意は目的を達してしまえば、収まる類の物なのは目に見ずとも明らかだ。
「誰も居なくなって……アスカが病院で眠ったまま、目を覚ましてくれない。僕は、アスカに縋る事しか出来なくて……」
「アタシ、貴方の記憶、見たのを思い出したわ……ショックだったけど、あれじゃあ仕方ないわよね」
「! 知ってたの? 軽蔑していいよ。だって僕は……」
「人間だもの、仕方がないわ。ああなったら、誰だって同じ様な事になってたと思う。だから、気にする必要は無いのよ」
「……アスカ」
「でも、思わずしちゃったって事は……綺麗だと思ってくれたの? 痩せぎすで傷だらけで、ちっとも女の子らしくない躰なのに」
「アっ、アスカは、綺麗だよ! 今だって……我慢してる……」
そう言ってアタシを抱き締めたシンジの下腹部は、僅かに膨らみを増していた。
「有難う……」
訓練ばかりでちっとも女の子らしい事等した事のないドイツ時代。
それだけじゃない。
アタシはママが死んだ所と、父と義理の母がママが死ぬ前から情事に耽る所を見てしまっていた。
それ故に、女性というファクターを忌み嫌い、自分が持つ女性の部分はただの武器だと思っていた。
寧ろ、武器としても煩わしい物だとしか考えていなかった。
周囲のドイツ人の男も、混血のアタシなんて女だという扱いはしていなかった筈だ。
万が一、女性だと扱ったとしても、体の良い遊び相手としてとして見ていたと思う。
それ程、ドイツ人の純潔と純血に対する考えは特別視されていて、混血の人間でましてや東洋人等論外なのだ。
それでも第二次世界大戦での同盟国だった為か、日本人の血を引く事はアタシのドイツ人の中での扱いをマシにしていた。
そんなアタシの躰を見て、シンジは欲情したという。
アタシは多分この時、女性で良かったと思い始めたのかも知れない。
何故か不思議だけれど、純粋にアタシを女性として見てくれていた事が判って嬉しかった。
まぁ、想いを寄せる相手からなのだから、当然の気持ちなのだとは思うのだけれど。
それを差っ引いても、女性として認められた事が嬉しかった。
「でもどうして? アタシを殺してしまいそうで怖いの?」
シンジの顔が引き攣った。
――ああ、遂に来たんだ。
やっと、やっと本質に近づいたという事実が、アタシの体を緊張させる。
「……忘れられないんだ、量産機が銜えていた弐号機の姿が。弐号機にアスカが重なって、量産機に僕が重なって……。
そして、眠る度に夢を見るんだ。量産機の様に、アスカを傷付けて、殺す夢……」
あぁ……フィフスが言っていた深層心理へのダミープログラムの刷り込みとはこれの事なのか。
アタシは、ファーストの涙の意味を知った。
アタシは、シンジの押さえ様の無い殺意を受け止め続けなければならないと言われた意味を知った。
「それで、好きな様にすれば良いのにって、カヲル君が言うんだ。我慢する必要は無いのにって。
だって、僕が最後に望んだのは、僕が僕で居られる世界だから、僕を僕として認識させてくれるのはアスカだから……。
そのアスカは僕の物なのだから、好きにしても良い筈だろう? って、僕に言うんだ」
そのカヲルは多分、ダミープログラムを刷り込まれたフィフスのクローンだ。
「僕は嫌だって、言うんだ。だって、僕が一番最後に望んだのは確かに、僕が僕で居られる世界だよ。
僕が僕である事を認識させてくれるアスカだよ。でも、そのアスカを思う様にしていいなんて、そんなの間違ってる!
そう言って僕はカヲル君を拒むしか出来ないんだ。でも、それも辛いんだ! だって……」
「そうね、カヲルが初めて貴方に無償の好意を向けてくれた人だから……そうでしょう?」
「でも、確かに僕の中に、アスカを思い通りに、好きにしたいって思いもあるんだ。自由に出来たら、どんなにいいだろうって!
アスカに触れて、アスカの中に捻じ込んで、好きなだけぶちまける事が出来たら、どんなに気持ちいいだろうって……!
でもそんな事を考えてしまう自分も嫌で……けど、その考えはどんどん止まらなくなっていく……!
アスカの傍に居るだけで、アスカの気配がするだけで、もう気が狂いそうだった。いいや、もう狂ってたんだ!
だって僕はアスカにもう会えない事に絶望して、人の死を望んだのに、アスカに会いたくて、身勝手にアスカを呼び戻した。
これの何処が狂ってないなんて言える? 言える訳ないよね?」
アタシは、否定も肯定も出来なかった。
だってそれは、それだけシンジはアタシの存在を強く思ってくれたって事だから。
そして、何でも願いを適えてあげると全てを差し出した、ファーストの思いを受け取らなかったって事だから。
アタシは、ファーストが涙を流した意味を知った。
人の想いというのは、こうも残酷なのかという事を知った。
それでも人と使徒が解り合える可能性に掛けたと言った、フィフスの望みを知った。
シンジが顔を歪めて、アタシを不思議そうな顔で見た。
アタシの予想が正しければ……ファーストも、フィフスもなんて残酷な選択をしたんでしょうね。
全てはシンジの選択次第。
アタシは最終的には補完計画の実行の為にシンジへ捧げられた生贄として、量産機に差し出された。
そして今は、計画が破綻した後のシンジの為の生贄として存在している。
全てを元に戻す為とは言え、アタシにシンジの破壊衝動と殺意を受け止めろとしか言えなかったファーストが可哀想だと思った。
だって、考えてもみたら、自分の恋敵に想い人を託すしかないんだもの。
――御免なさい、でも感謝するわ。何も出来ないと思っていたアタシに、役目を与えてくれて。
自分の気持ちが判断出来なくなる迄、大人達に精神をボロボロにされたシンジを何とかしなければ。
――でも、シンジは譲れない。アタシは、シンジが好き。だから……。
うん、覚悟は出来た。
シンジがどの様な選択をしても、アタシは受け入れられる、受け入れてみせる。
――だから二人共、覗き見に関しては赦してあげる。
「答えて、シンジ。アタシ、何もかも貴方に従うから」
「何を? 何を答えろって言うの? これ以上答え様なんて無いよ!」
「そんな事無いわ。貴方にはまだ幾つか選択肢が残っているもの。
ここでアタシと共に今迄の様にセックスに溺れ続けて、そのまま人の世を終わりを迎えるか。
もしくはアタシを犯し続けて、気の狂った人形の様な呆けたアタシを手に入れるか。
それともここでアタシを殺して、もし誰かが戻って来たとしても誰の目にも触れない様に独り占めにするか。
アタシは貴方に従う。だから、好きなのを選んで頂戴。今直ぐじゃなくても良いから」
正解は恐らく、この中には無い。
ファーストもフィフスも、人と使徒が理解し合える可能性に掛けたと言った。
だから、何時の日か人は全て戻って来る筈だ。
アタシに言わせれば、これこそが最後の審判。
――お願いだから、アタシと一緒に生きると言って……!
アタシは一縷の望みを、彼の、シンジの選択に賭けた。
「僕には……選べないよ……だって、アスカを殺すなんて出来ないもの……ッ!
それに、アスカをこれ以上傷付けるなんて、したくない。僕には無理だ……」
「今じゃなくてもいいのよ。ただ、サードインパクトはまだ終わっていない。それを言いたいのよ、アタシは」
「……終わってない?」
「だって、おかしいじゃない。本当に終わったのなら、誰か他の人が戻って来ていてもおかしくないでしょう?
それなのに、シンジ……貴方はカヲルの夢しか見ていない。なら、終わっていないと考えるのが当然でしょう?」
「……でも、僕にはそんな資格なんて無いよ。身勝手な願いで皆を死なせて、また身勝手に生き返させろって事でしょ?
そんなの出来っこないよ。僕には……無理だ……考えたくもない……」
シンジはそう呟くと、頭を抱えて蹲ってしまった。
アタシは、彼を頭ごと抱きかかえ、その髪を撫でた。
「なら、別にしなくていいわ。貴方が終わらせたいか、終わらせたくないか……それだけの事よ。
でも一つだけ、約束して。無気力に生き続けるのも良いけれど、同じ生きるならアタシの為に生きて」
「……えっ?」
アタシの言葉に、シンジは顔を上げた。
「アタシの為に生きて、シンジ。貴方がこの世界を地獄だと感じるのなら、アタシは一緒に最期迄堕ちてあげると約束するわ。
貴方はアタシに真実を教えてくれたもの。アタシは、その事実を知る事だけで生きていける。
でも、無気力に生きるだけの貴方を放っておける程、アタシは無慈悲でもないし強くもないわ……。
だからアタシの傍に居て欲しい。ううん、アタシが貴方の傍に居たいの。いけないかしら……?」
「そんな……っ! アスカは別に僕に付き合わなくても良いんだよ?! だって、こうしてここに居るのだって、僕の我侭だ!
それにこれ以上僕の傍に居たら……僕は、必ずアスカを傷付ける……。そんなの、もう嫌だ……嫌だよ、アスカぁ……」
シンジはポロポロと涙を零した。
アタシを犯し続けた事は、歓喜でもあると同時に苦行でもあったに違いない。
でもそれはシンジの所為じゃない。
全て、フィフスのクローンにプログラミングしたゼーレとドイツ支部が悪いのだから。
「大丈夫よ……そんな事でアタシは傷ついたりしない。今だって、こうして生きているもの。心配する事なんて無いわ」
アタシはシンジを抱き締めた。
「シンジ、アタシが生きている限り、アタシは貴方の傍を離れない。ずっと、ずっと、一緒に居るわ」
「どうして……? 僕、あんなに酷い事ばかり、アスカにしてきたのに。一杯、一杯、アスカを傷付けたのに……ッ!
それなのにどうして? どうしてアスカはそんなに僕に優しくしてくれるの?」
アタシの胸に縋り付いて、シンジは涙を流しながらアタシに問う。
――そんなの、決まってるじゃない。
「……答えなんて、解り切った事じゃない」
「解らないよ……からかってるの、アスカ?」
本当に、フィフス以外の人の好意を受けた事が無いんだと思うと、アタシは悲しくて……涙で目の前が見えなかった。
そして、そう仕向けた大人達が、何て哀れなのだろうと思った。
準備に準備を重ねて仕掛けた補完計画が、子供の純粋な願い一つで破綻してしまったのだから。
「……からかってなんて居ないわ。アタシは凄く真面目よ?」
「?」
「アタシは、この惣流 アスカ=ラングレーは、貴方が、碇 シンジの事が好きだって事!」
「えっ?! ええっ?! そんな、子供でも解る嘘なんて言わないでよ! アスカが僕なんて好きになる筈無いじゃないか!」
「でも、本当なんだもの。アタシは、シンジが好き。この気持ちは嘘なんかじゃないわ」
彼の頬に両手を沿え、額同士をくっ付けた。
思わず苦笑してしまう。
「アンタって、本当に馬鹿ね……人が人を好きになるのに、理由なんて要らないのよ。アタシは、シンジが好き。ご不満かしら?」
「そんな……不満だなんて……ただ、僕……信じられなくて……」
「嘘じゃないわ……信じてなんて言わないけど、でも覚えていて欲しいの。シンジ、貴方の事、本当に愛してる」
「嘘でしょ……?」
「嘘じゃないって言ってるじゃない。確かにアタシの中には、まだ貴方を憎む気持ちが残ってる。でもね、それ以上に好きなの。
だから、ずっと傍に居たい。貴方がアタシを必要としなくなる迄でも良い。傍に居させて?」
――馬鹿ね、ホントに。
シンジはアタシの言葉に瞳を白黒とさせて、顔も何だか赤くなったり青くなったりで忙しそうにしていた。
でもアタシの瞳からは一度も逸らしたりはしなかった。
「本当に……傍に居てくれる?」
「ええ」
「何処にも行かない?」
「勿論よ」
「僕を、捨てたりしない?」
「アタシの方が貴方に捨てられるんじゃないかと思うと、生きた心地がしない位、貴方が好きよ。だから……」
シンジはアタシを抱き締めて、言った。
「僕、もう何も解らないし、解りたくもない。きっとまた、沢山アスカを傷付けるよ。殺そうとするかも知れない……。
今だって、アスカの事……」
「判ってる。でもそれはシンジの所為じゃないじゃない。だからアタシは良いわ。何もかも、どんな事も受け止めてあげる」
「っ……アスカ……アスカぁ……」
アタシを抱き締めアタシの胸に顔を埋めたまま、シンジは涙を流し続けた。
被せられた罪。
造り上げられた傷。
もし、それが無ければアタシ達はもっと早く傷付かずに触れ合える事が出来た筈。
けれど、それがあったからこそアタシ達は廻り合う事が出来たのだから。
――でもシンジ、もうそれを償うのは終わりにしましょう。
アタシ達はやっと、互いの気持ちを伝え合う為のキスを交わす事が出来た。
今回は前回以上に長いのでエロ抜き部分だけ先行投下〜
続きはエロいので日付変更と同時ににでもサイトにうpりますー
劇場で公開待ちの間に見てやろうって人は背後に注意なので
保護シートなり用意する様おながいしますorz
とりあえず、やっと予告通りの微糖っぽいLAS書けますた(*´Д`)スキーリ
泣いても笑っても@1回でアスカside、ラストです
気合入れて頑張りますので、あと少しだけ見守って下さいます様お願い申し上げます
乙すぎる。続きが楽しみだー!
映画をすぐに観に行けない
状態でへこんでいましたが
これ読んで復活!頑張れ
織月さん、マジGJっす!
覚醒シンジくんのお陰でドSシンジ様が大活躍なわけだが…
249 :
アスカ:2009/07/02(木) 18:06:41 ID:???
あたしよりママであるあのえこひいきがいいって言うの!?
この変態マザコン!!
シンジはレイと加持に夢中
いや〜、却って二次創作のネタが増えたって喜ぶ向きもあったんだね。
あれで系統が一本のみのカプ話だと新劇全終了後には、どっちかが全滅して
エヴァFF壊滅かと心配してたんだが、バイタリティ溢れる人たちがいるなら安心。
アスカをこらしめてやってください
エヴァ板良スレ保守党
保守
すごい、このスレまだまだ現役だったのね
四年くらい前に書いてたの続き考えて見ようかな
>>255 お待ちしてますがローカルルールが変わったんでorz
>>1を熟読の程をお願い致します
>>255 そういうのすごく待ってますからお願いします
260 :
259:2009/07/14(火) 23:53:47 ID:???
すみません
あげてしまいましたorz
261 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/07/15(水) 00:01:12 ID:GBQ8QJFg
糞スレage
今月中に何とか終わらせようと思ってたら、早ければ週明けにも投下出来そうです
泣いても笑ってもこれでアスカsideはこれでおしまい、御免なさい
どうしても削れないエピがあったので尺としては2話公開?
皆様のお陰で10万Hitまで頑張る事が出来ましたので
お礼の気持ちとして記念SSやら連載中の物を少し弄ってから、シンジsideに移りたいと思います
取り敢えずご報告迄
頑張って!
頑張れ!待ってます!
いいねえ
先ほど2話公開分のうちの1話うpしましたー
今日中に残り全部投下しますー
そしてそれから数日経ったその夜は、初めての闇夜らしい闇夜だった。
淡く光を放っていた朱赤い星の帯が、とうとう消えたのだ。
「……消えた、ね」
「ええ……星一つ無い空なんて、久々だわ」
「雨も、止んだ?」
「うん、止んでるみたい……」
アタシ達は闇夜にも構わず、このホテルに着いて以来袖を通してなかった服を着て、湖に向かった。
シンジは学生服、アタシはプラグスーツにヘッドセット。
本当に、久し振りだった。
シンジはまだ完全に体力が回復しておらず歩くのがやっとのアタシの手を取り、避難セットの中の懐中電灯を片手に。
アタシはシンジの手を頼りに、足元が覚束無いまま。
何とか湖に辿り付いた時には、何日振りか判らない程見ていなかった、朝日が水平線から顔を出していた。
「見て……太陽が……」
「うん、昇って行くね……」
お墓はアタシ達が倒れていた場所よりも少しだけ離れていた。
確かに五人分ある。
アタシの分だけが何故か倒され、ミサトの墓にはミサトがいつも良く着けていたペンダントヘッドがくっ付けられていた。
アタシは、アタシの墓を除けようとしているシンジを手伝った。
すると、脳裏にぼんやりとその墓が何故倒されているのかが思い浮かんだ。
そっか……アタシ、湖に辿り付いた時にアタシのお墓があるのに腹が立って、蹴り倒しちゃったんだ。
「シンジ……」
「ん?」
「これ、蹴り倒したのアタシみたい」
「ええぇっ?!」
「アタシは生きてるのに、お墓立てたシンジに腹が立って、蹴り倒して、文句言ってやろうって待ってる間に……」
「気を失って波打ち際で倒れちゃったの?」
「そうみたい。触れたら、その時の事思い出しちゃった。やっぱり……シンジの事凄く憎んでた……」
二人共、思わず手が止まる。
「仕方ないさ……勝手にお墓立てちゃったし、それ迄アスカの事無視しまくってたんだし」
「それで、怖くなって……?」
「それもある……けど、身勝手に連れて来ちゃって、申し訳なくて、楽にしてあげたいってのが一番強かったと思う」
「それでも、首絞めは最後迄、出来なかった?」
「うん……アスカが頬に触れてくれて……僕はやっと、アスカが僕を認めてくれた事に気付いたから。
僕の身勝手を認めてくれた、それがあの頬に触れてくれた事だった」
「アタシは、その身勝手さで失った物がある事に気付いてしまった……。それが気持ち悪かったんだわ……。
でもそのお陰で、アタシは本当に失ってはいけない物に気付いたわ。そして、取り戻した。だから、今があるのよ」
二人で湖の向こうに横たわるレイの体を見つめた。
「あの子が……レイが、教えてくれたの。人は一人では生きていけないって」
「僕も、カヲル君が独りよがりで身勝手に何かを求めても、何も得られる事は無いって教えてくれた。そしてもう一つあるんだ。」
「何を、知ったの?」
アタシはシンジを見つめる。
遠くのレイを見つめる彼の横顔は、少しだけ、大人びて見えた。
「僕がここに今居られるのは、アスカ、君が居たからだよ」
「アタシ?」
「どんなに真っ暗で何も見えない場所でも、君は輝いて見えた。融けてしまっては何も判らなくなるけど、君だけは違ったから。
間違ってるって、全力で拒否して、僕の進むべき先を示してくれた。僕をここで迎えてくれたのは、君だよ」
「嘘……」
「本当だよ。僕は君の気配がする方へと必死で進んだ。そしたら、ここに居た。気付いたら、君もここに居たんだ……。
それこそ、闇を照らす迎え火の様にね」
「それなら逆だわ。アタシがここに辿り着いた時には、もうあのお墓があったもの。ここに先に来たのはシンジだわ」
「どちらでもいいじゃないか。ただ、君が僕を迎えてくれた迎え火だったのには違いないんだから」
そう言って、シンジはアタシに笑いかけてくれた。
――迎え火? アタシ……が……?
でも、アタシは何もしていない。
「そんな! アタシ、ホントに何もしていないわ。買い被りよ」
「でも、事実さ。もし君が居なかったら、本当に人間は滅んでた。僕は、そう思う」
シンジはアタシの手を取り、アタシを立ち上がらせるとそう言った。
そして、こうも言った。
「アスカ、もし良かったらなんだけど……僕に付いて来てくれないかな? ジオフロントの奥に入りたいんだ。
あそこが全ての始まりだから。父さんにしても、僕にしてもね。だからけじめを付けたいんだけど……。
君さえ良ければ、それに立ち会って欲しい。……駄目、かな?」
レイが言っていた、全ての始まりの場所。
やはり、シンジは次の行き先にそこを選んだ。
ジオフロントには私も行きたかったのだから、勿論、異存は無い。
「良いわ。連れてってくれるんでしょ?」
アタシはまだ、完全に回復した訳ではない。
でも、最初にこの湖を後にした時に比べれば、かなりマシにはなっているだろう。
「勿論! まだ、全部歩くには厳しいからね。何とか方法を考えないと……」
「じゃあ、さっさとお墓を何とかしちゃいましょ!」
「そうだね」
アタシ達は全ての人が戻る可能性が高い事を知っている。
もし、本人が戻って来た時にお墓なんか見たら気を悪くするだろう。
それに、シンジはミサトの形見だというペンダントは、やはり持っておきたいと言うのだ。
正直、少し嫉妬はある。
けれど、理由があっての事なのだろうと思えば、強く反対も出来ない。
憎しみもあるのだろうけど、それ以上に二人を繋ぐ何かがあるのも確かだろうから。
レイとカヲルはアタシ達が生存を確認して居る事だし、ね。
司令は……多分、シンジが死んだとは信じたくないと思っているのだと思う。
アタシも、生きていて欲しいと思う。
だって、シンジが知っている限りでは唯一の血縁だから。
……レイの事は、レイが戻って来るまで内緒だ。
二人の驚く顔が、今から少し楽しみでもある。
ミサトの事は、帰ってきたら考えれば良いと思った。
シンジは憎んでいるかも知れないけど、アタシは感謝の気持ちの方が大きいから。
ミサトが一緒に住もうって言ってくれなかったら、アタシのこの気持ちは多分生まれなかった。
だから、ペンダントがどういう経緯でシンジに渡ったのかは判らないけど、全て彼に任せようと思う。
お墓を倒し、名前の刻まれた木を横にした後、汚れた手や服を赤いままの湖の水で洗い流した。
何時の日かここへアタシとシンジが戻って来た様に、人々が戻って来るのだろうと思う。
そして、アタシはふと、しておいた方が良いと思っていた事をする為に、シンジに聞いてみた。
「ねえ……もう、弐号機は無いのよね?」
「多分、ね。それがどうしたの?」
「だってシンジ、あの水の中にママが居るって言ってたから」
「あぁ……うん、居た。アスカの傍でアスカを守ってたのを感じたよ」
「じゃあ今も、ママはあの中に居るのね?」
「うん……居ると思う」
ならば、もう使わないこれはママに返さなくちゃ。
――一つはアタシ、一つはママに。半分こ、ね。
アタシとママを繋ぐ物として、片方のヘッドセットを外すと、アタシは湖に投げ込んだ。
「アスカっ?!」
「ん、もうエヴァが無ければ使わないじゃない。それに、これはママが十年前の実験の時に使っていた物なの。
だから、ママに返すだけ。でも、半分だけ思い出として……ね。それにママに、守ってくれて有難うって言いたかったの。
残った片方は、アタシが持つ……この湖に、ママが眠っているのなら、それが一番良い事だと思うのよ」
「……そう。アスカがそう決めたのなら、僕に異存は無いよ」
「じゃあ、戻りましょう? まだあのホテルからでも、ジオフロント迄結構距離があるんでしょ? 準備しなくちゃ」
「うん、そうだね。戻ろうか、アスカ」
始めにあのホテルに向かった時よりは早かったけれど、それでもやっぱりアタシの足は上手く進まなかった。
その為か、ホテルに戻った頃には既にもう昼を過ぎていた。
「あ……! 空の色が……」
「ええ……青味を増してるわ……元に戻ろうとしているのね」
それでも、空は太陽の光のお陰で、赤みが差した色から青味が戻って来ているのを見ると、確実に世界は前進している。
アタシ達がした最後の選択は無駄じゃなかったと思った。
このまま、人が戻って来れば……それはまた、別の問題か。
融けてしまった人が元に戻る迄、どれだけの時間が掛かるかは判らない。
こうして今戻っている私達が、異常なだけかもしれない。
それでも、時間は廻り、世界は確実に前に進み、元に戻ろうとしているのは確か。
ただ、元に戻るのがアタシ達が生きている間なのか、そうでないのかは判らないだけの話だ。
――レイ達次第、かも知れないのね。
つい先日別れたばかりのレイが、どうしているのか気になった。
きっと、赤い海の中をフィフス……カヲルと一緒に旅をしているのだろうと思う。
世界に人を取り戻す数が増えれば、きっと空もそれだけ早く元に戻るのかも知れない。
部屋に戻り、取り敢えず布団を廊下に放り出した。
汗や、精液や蜜でどろどろになった物は、もう使えない。
結局先に洗おうとした布団も、使う事は出来なかった。
廃棄処分……後で燃やさなければいけないだろう。
浴衣とシーツは何とか洗濯機で洗う事が出来る。
他の部屋から避難セットを掻き集め、中身を入れ替えて、なるべく軽い保存食と詰め替える。
二人で持てる重さには限界があるからだ。
アタシは多分、殆ど持てない。
傷は無かったけれど、筋力はかなり落ちていた為だ。
車があれば、もっと楽なのだが無きに近いのだから仕方ない。
軽トラックがあったのだが、殆どガソリンが残っていないし、ボロボロになった道を走るにはかなり危険だったのだ。
となれば、もう一つ残されていた自転車しかない。
荷物を荷台に載せて、走る。
結局それしか方法は無かった。
無いよりはマシ、そう割り切る。
アタシの足は補助として、売店の売り物として残されていた杖を使う事にした。
後はタオルやブランケットの様な軽い荷物は、アタシが乗る自転車で運ぶ事にするみたいだ。
それなら、アタシの筋力の弱い足でも、余り負担にならずに済む。
本来なら用意する必要も無いのだろうが、アタシの足の速さから野宿の可能性も考えて用意したみたい。
シンジは本当に、アタシの事を考えてくれている。
涙が出る程嬉しい、と言うか実際にシンジの居ない所では泣いてしまった。
アタシ、本当に涙脆くなっちゃったな……。
シンジが色々建物の中を駆けずり回って用意している間、アタシは外の駐車場だった所で、ゴミや布団を燃やしていた。
炎の色を見て、思い出すのは、やはりシンジへと向けられていた憎しみの心……。
それと、自分が余りにも不器用過ぎたという事。
それも今となっては、良い思い出になるのだろうか……。
どちらにしろ、アタシはその憎しみを乗り越えた。
方法はかなり、乱暴だったかも知れないけれど、アタシは憎しみを昇華させて、愛情と安らぎを手に入れる事が出来た。
そして、今がある。
「アスカぁ? そっちの進み具合はどうだい?」
シンジが処分する物を手に、アタシの様子を見に来てくれた。
「うん、順調なんじゃないかしら? 後は布団が燃え尽きてしまえばお終いかな」
「そう。こっちも良い物を見つけたんだ。ほら、来て。こっちこっち」
連れて行かれた物置の一番隅。
自転車の荷台の部分に車輪が二つ付いた大きな木製の荷台が付いている。
「これなら、少し多めに荷物も載せれるし、アスカも一緒に乗せてあげられるよ」
「これ……三輪車?」
「いや、リアカーって言うんだ。セカンドインパクトが起きて暫くの間、燃料不足の時代に流行ったそうだよ。
僕も先生の所で家事を手伝いする時に何度か使ってたんだ。
先生の家はお風呂を沸かすのに、まだ枯葉や薪を使ってたからね。山から芝や薪を運ぶのに使ったんだよ」
「そう……よく見つかったわね……これ、すごくレトロな乗り物なんでしょう?」
「多分、昔の物が残ってたんだろうね。助かったよ……これなら、アスカに無理をさせないで済むから」
「シンジ、有難う……」
随分と建物の中を探し回ったのだろう、シンジの顔も服も汚れていて真っ黒になっていた。
「じゃあ、洗って乾かして……乾いたら荷物を載せて出発しよう」
「ええ、そうね」
詰め込めるだけ詰め込んだ軽めの保存食に、ミネラルウォーターのペットボトル。
冷えた時の備えに何枚かの浴衣とブランケット。
リアカーの荷台の底にはアタシへの衝撃を和らげる為に布団と枕を載せる事になった。
夜は、そのまま布団に潜り込んでしまえば、寝袋も要らないだろうという事だ。
それらを一つ一つ、ロビーに運んで数が揃っているか確認する。
途中で道がマシになった所で車を拾えれば、積み替えれば良い。
出発は、板で出来たリアカーの荷台が完全に乾いてから。
でないと敷き詰めた布団が湿気てしまう。
毎日晴れる訳でない天気だから、まだ数日はかかる筈だ。
「……これで、全部かな?」
「そうみたいね」
「じゃあ、後は出発までなるべく体を休めておこう。この山の向こうだってのは判るんだけど、ね。
どれだけ掛かるか今は判らないから、休んでおくに越した事は無いよ」
「そう、ね。体力は温存させておいた方が良いものね」
アタシ達は、今迄使っていた部屋とは別の部屋で休む事にした。
「ねぇ、シンジ? 貴方にとってここで過ごした日々は、長かった? それとも短かった?」
アタシは思い切って、ここ数日頭の中を離れなかった事を聞いてみた。
「うーん……ここ数日は早い気がしたけど、後は判んないな。カレンダー見てる訳じゃなかったし」
「アタシは……とても長かったわ……」
率直に、アタシは感じた事を言ってみた。
正直、シンジに一方的に抱かれた事は、どれだけ続くのだろうと思う程、アタシには長かった。
辛くなかったと言えば嘘になるが、アタシの躰を差し出す事で、全てが判るのならと思えば安い物だったとも言える。
そして、アタシは失くしたと思っていた記憶が戻る事で、思いを遂げる事も出来た。
「でもお陰で、シンジ、貴方に思いを告げる事が出来た……」
「アスカ……」
「だから、もう終わっちゃうの? って感じる事もある。 正直に話せばね」
「別に、二人で過ごすのが終わる訳じゃないんだよ? これからだって、ずっと一緒に居られるんだから」
「うん、そうなんだけど……そういう事じゃないの」
一息息を吸い込み、心を落ち着かせてアタシは言葉にした。
「何故だろう、まだ夢を見ているんじゃないかって感覚と、もう夢は終わったという感覚が混ざっていて……。
今この瞬間がまだ夢の中じゃないかって、だから時間の感覚がおかしいんじゃないかって、思う事もあるの」
そう、まだ夢と現実の狭間に居るんじゃないかって、そう思える程リアルな夢……。
「何故かって言われると、貴方にアタシの想いが届くだなんて、アタシ思っても見なかった位、アタシと貴方は憎み合ってたから。
シンジは怒るかも知れないけど、アタシがどれだけ思いを伝えようとしても、そっぽ向いてばかり……。
アタシが傍に居るのに、他の人の事しか頭に無くて、アタシ本当に悲しかった。それを忘れようとして、憎んでた所もあるの」
「……御免。僕はどれだけ責められても……」
「まだ話は終わっていないわ。でもね、そう思うアタシの心が、補完を止めたって言うじゃない」
「あ……うん、そうだ、そうなんだよ」
「アタシ、どうしてなのかまだ、シンジの言葉で聞いてないなって思い出した。 だから、まだ夢か現実か、判らなくなってる。
そういう事に気付いちゃったの。ねえ、シンジ、何故? 何故、アタシだったの?」
そう……錯乱したシンジの言葉で、大体は感付いている。
でも、肝心のシンジの言葉では、アタシは答えを聞いていないのだ。
「ここに居る時間も、そう長くは無いわ……その前に、貴方の言葉で聞いておきたいの。
何故、『手に入れたのに』なんて思ったの? アタシ、それも不思議だったの……何故そんな事を言ったのか、知りたいの」
「……そう言えば、そんな事言ったっけ……でも、何故なんだろう?」
「アタシの事、手に入れたかったの?」
「……判らないや。正確に言えば、判らない事が解らない……でも、補完中に君が居ない事で、気付いた事はあるんだ。
融け合って、自分が居ない状態、判らない状態は違うと思う。強いて言えばそれしか言えない……」
そう頭の中の記憶から搾り出す様に言葉を選ぶ、その姿が嘘を言っていない証拠だと思った。
けれど、判らないってどうして?
「貴方、自分の気持ちが判らないけど、アタシと一緒に居たいって言ったのよ? それでも判らないの?」
「うん、判らない。どうしてだろうね? 普通は判る物なの、アスカ?」
「うーん……アタシじゃない他の人でも、同じ事を思う?」
「あ、それは思わない。だって、アスカじゃないもの」
「でも、アタシだと判らないの?」
「うん……どうしてだろうね?」
真剣な顔をして頭を傾げているシンジを見ていると、何だか悲しくなった。
「何か、思い出せる様な事とかは無いの?」
アタシは食い下がって聞いてみた。
すると、何かを思い出した様にシンジは呟いた。
「……もしかして……でも、まさか……」
「何? 何か心当たりでも思い出した?」
するとシンジは、神妙な顔で言った。
「僕ね……もし、アスカが僕の思い通りになるのなら、一つだけして欲しい事があったんだ」
して欲しい事……?
「……まだ、アタシ何か足りないの? セックスだけじゃ、足りない……?」
これ以上アタシにシンジに捧げられる様な物は無い。
もしまだ足りない物があったとして、アタシに出来ない事だったらどうしよう……。
「そんな、泣きそうな顔しないでよ。もう、叶ってるんだから」
「え……っ?」
目尻から零れそうになっていた涙を、シンジは拭ってくれた。
「僕、名前を呼んで欲しかった……誰よりもアスカに。心当たりがあるとすればそれだけだと思う」
「名前……?」
「うん……だって、シンクロ率抜いた頃から、アスカ……僕の名前ちゃんと呼んでくれなくなったから」
思い当たる節は……あった。
たとえ呼んでも、悪意が混ざっていた。
殆ど呼ばなくなったのも、事実だ。
何故なら、顔を合わせなくなったから……。
「補完中、アスカだけ、僕の名前を呼んでくれなかった……だから、僕……保管中でさえ、アスカを殺そうとした……」
覚えてる。
あの首絞めは、アタシが名前を呼ばなかった事で、シンジを否定したからだったのね……。
「御免……ね……やっぱり、アタシ……」
憎まれても仕方なかったって事か。
まさか……それだけの為に……アタシの憎しみを……?
「でも、もう良いんだ。アスカは、僕の名前を呼んでくれるもの。だから、僕、嬉しいんだ。
それに、アスカが僕の名前を呼ばなかったのって、僕が間違ってるって事、教えてくれてたからって解ったから。
だから、もう、良いんだ。」
「シンジ……御免ね……」
ポロポロと零れ落ちる涙。
アタシ、やっぱりとんでもない事してた。
「でも、戻って来てからはアスカと一緒に居ても、ちっとも名前呼んでくれなかったから、僕、アスカを思い通りにしたくて……。
それで、カヲル君の言う通りにしちゃった……だから、僕の方が悪いんだ。御免ね、アスカ……」
シンジは、言葉無く涙を流すアタシの涙を拭う。
本当は、アタシの方が悪い筈なのに。
だから、余計に涙が止まらなかった。
それでもシンジは、アタシの髪を撫でながら、アタシを抱き締めてくれた。
「まだ自分の気持ちは判らないけど、アスカと一緒に居たいと思うのって、それが理由だと思うんだ。
だからアスカ、泣かないで。僕も、アスカと一緒に居たいから……ね、アスカ……」
シンジはその夜、ずっとアタシを抱き締めたままで居てくれた。
それだけじゃない。
ジオフロントへ出発する迄の数日間、部屋に戻るとすぐ、アタシを抱き締めてくれた。
と言うより、準備をする時以外はずっと、って感じ。
アタシはそれだけ、泣きそうな顔になってたみたいだった。
確かに、不安だったから。
上手く力の入らない右手。
杖が無いとふら付く両足。
足手纏いになりはしないかと、不安で仕方なかった。
そうならない為に、シンジが物置から探し出してくれたレトロなリアカーがあるとは言え、だ。
炎症を起こしている訳ではない。
痛みも無い。
やはり、レイとカヲルが言った通り、アタシの魂とやらに傷が残っているのだろう。
あの時感じた左目の痛みは引いていたし、視力にも特に問題は無かったからだ。
エヴァでの戦闘は、フィードバックが高ければそれだけ、肉体以外にもダメージが出るのかも知れない。
いいや、あの二人はバラバラになった魂を繋ぎ合わせたと言っていた。
量産機との戦闘が特別だったのかも知れない。
魂とやらの傷が癒える迄は、まだまだ時間が掛かるのだろう。
そんな状態で出発するのに、足手纏いにはならないかと、素直に訊ねてみた。
「大丈夫だよ。心配無いってば。地図だと直線距離で二十kmも無いんだから」
シンジはそう一言だけ言ってくれた。
シンジが言うのならそうなのだろうと、少し落ち着いた。
――駄目だなぁ、アタシ。
すっかり、シンジが居ないと何も出来ない人間になってしまったみたいだ。
一人で考えて、一人で生きるなんて言っていたのが嘘の様。
今ではもう、シンジに頼りっ放し。
弱くなったのかな?
そんな事を食事の休憩時にシンジに話すと、大笑いされた。
「アスカは、今迄人に頼る事をしなかっただけだよ。これからはどんどん頼って良いんだよ? 僕もその方が嬉しいよ。
もっと肩の力を抜いてって、いつか言ったでしょう? それって、こういう事だったんだよ。
アスカはもっと僕に頼って良い、と言うか、頼るべきだよ。そんな体で何でも出来る訳じゃないじゃないか。
これからは二人で、力を合わせてやっていこう? あの時のユニゾンみたいに」
「……うん、有難う。でも慣れてないから、間違ってたら遠慮なく注意してね」
これからは二人で。
少し肩の力を抜けば良い。
そう言ってくれた事が嬉しい。
何処まで出来るか判らないけれど、少しずつ出来る様になりたい、ならなければ。
そして……木製の荷台は乾いた。
後は、空に太陽の光が射す日を待つばかりになった。
それはもう近い筈だ。
それが判ると、荷台に布団を敷き荷物を載せる。
風に水分が混ざるという事も無かったから、後は空の動きを注意していれば良い。
後は二人で空を見上げながら、出発する日を待つだけ。
空を見て、キスをして、緩やかに流れる時にアタシ達は身を任せた。
そして、再び月が満ちた日の翌朝、太陽が空を照らした。
これ以上無い、出発するには良い天気だ。
まだ空の色はそれ程青さは無い。
けれど、充分だろう……いずれ、空も元に戻る兆しはあるのだから。
「じゃあ、取り敢えず自転車を先に道路に下ろしてくるね」
「ええ」
公道とホテルを繋ぐ脇道は、アタシを乗せて自転車部分を運転するには少し角度が急だった。
だから、先にリアカーを公道に下ろす事にした。
シンジがアタシを連れに戻って来た所で、改めてホテルを眺めた。
「……こんなに長い間、居るとは思わなかったね」
「ええ。それに……色んな事があった」
「うん。でも……あれで良かったんだと思う。あのまま何も無ければ、僕達は何もお互いの事、知らなかった。
知ろうともしなかった。すれ違いばかりで、憎み合ったままで……」
「そうかも知れないわね。殺し合いになってても、おかしくなかったと思わない?」
「うん、思う。でも、少しだけ前に進めば、そうじゃなかった。それが嬉しいよ」
走馬灯の様に、このホテルであった事が思い浮かんだ。
すれ違いの繰り返しでアタシはシンジに犯されたけれど、結局はそれすらもすれ違いで……。
少し勇気を出してみたら、アタシの胸の中に残ったのは、愛という、深く、大きくて大切な感情だった。
これからきっと、幾つもの困難があると思う。
でも、愛しい人が居る今、繋がれている手を信じていれば、きっと何とかなると思う。
だからアタシは、胸の中の感情を大切にして、愛しい人を信じて、これから生きていく。
赤い海から戻って来る人達を待ちながら、戦自との戦闘で殺してしまった人達を弔いながら。
それが、アタシがしなければいけない事なんだと思う。
そして、レイが戻って来るのを待つの。
うん、良い考えね。
「そろそろ、行こうか?」
「そうね」
アタシは杖を支えに公道まで下りようと、歩みを進めたが、バランスを崩してシンジに抱き止められてしまった。
「やっぱり無理だよ……少し角度が大きくない?」
「でも……少しは歩かないとリハビリになんないじゃない! いーから、歩くの!」
「駄目だよ、怪我でもしたらどうするんだい?」
「大丈夫だってば! プラグスーツ着てるのよ? 下手な服より丈夫なんだから、転んでも怪我なんてしないって」
「やっぱり駄目!」
「大丈夫! んもう、シンジったら心配し過ぎ!」
「……もう、言い出したら聞かないんだから……そうだ!」
いきなり視界が上に上がる。
え?
アタシ、また抱き上げられてる?
それだけじゃなくて、ちょ、ちょっと!
「きゃあああぁぁっ!! 何よ、バカシンジ! やめ……や……あんっ、転ぶってば! 危ないのはアンタよ! 駄目ぇぇっっ!」
シンジはアタシを抱き上げたまま、公道迄走り始めた。
そして、一気に坂を下り終えると、アタシをリアカーの荷台に座らせた。
「んもう! 危ないじゃないの!」
「大丈夫だったじゃないか。さ、行くよ。落ちない様に縁にしっかり掴まってて、ね?」
妙な所で強引なんだから……ま、良いか。
今回は許してあげよう。
道はまだ長いんだし……ね。
「解ったわよ……じゃ、出発進行!」
アタシ達は、長い人生のスタートラインを、共に切る。
未来が明るいか暗いかは判らないけど、多分、二人なら生きていける。
――もし、互いに道に迷ったとしても、繋いだ手を信じていれば、互いの心を信じていれば、何とかなるよね?
その時、鳥の羽ばたきと鳴き声が、ふと聴こえた気がした。
――なら、大丈夫。
――世界は明るい方向へきっと廻ってる筈。
――多分、アタシ達は幸せになれる筈だわ。
アタシは、そう信じる事で、目の前の愛しい人に運命の全てを任せた。
『迎え火』、終了でございます。
約二年と二ヵ月半、読んで下さった住人の皆様方、本当にどうも有難う御座いました。
途中、体調を崩したりスランプに見舞われたりと間が空いておりますが、
見捨てないで根気良くお待ち頂けた事には感謝してもし切れません。
アスカが語り部のお話は、ここでお終いです。
この先や別視点になるシンジが語り部のお話は、少しお休みしてからまた、始めたいと思います。
シンジ視点のお話の投下が始まる迄は、他の作品投下や保守でスレ落ち防止、お願い致しますねw
今迄書き溜めた拙作を含めてのまともな後書きは、また後日落ち着いてから保管庫サイトにてうpしたいと思います。
取り敢えずはご挨拶まで。
今迄本当に読んで下さって有難う御座いました。
長い間お疲れ様でした。
ゆっくり充電してから続きお待ちしてます。
ただのエロじゃない緻密なお話とても楽しかったです。
お疲れ様でした!
シンジ視点の話も楽しみです。
ああ、あれの続きだったのね
GJです!
乙!
乙
保守
これ良いね
感動したわ
ホントにGJでした(泣)
早くまとめスレに載ってまた続きがみたいです><b
ほす
296 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/04(火) 16:22:03 ID:u3Ydkkju
黒光!
297 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/08/04(火) 22:49:51 ID:LXCNeU3A
エ ヴァ板良 スレ保守党
保守
保守
さへな
始めて この板に来て
始めて 読まさして頂きました
世の中にはまだまだ知らないエヴァが
有るのだと思うと 嬉しく想います
住人の方で まとめサイトのLINKを
貼って頂けると幸いです
本当に作者様 有り難うございました
>>302 おすLASスレのデータベース2から辿れ
エヴァ板良スレ保守党
( T(ェ)T)<僕はピラフ一味に熊に姿を変えられた碇シンジですクマ
保守
まち
エヴァ板良スレ保守党
保守
ほ
☆
星
飛
雄
馬
エヴァパイロット養成ギプス
318 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/10/20(火) 01:56:26 ID:zKbKZZ9P
餡束可(あんたばか)
中国明代、栄蕃帝の治世の時代。
菓子屋祢琉麩(ねるふ)の丁稚に清 慈(しん じ)という者がいた。
彼は非常に愚鈍で仕事の効率が悪かった。
特に菓子の原料の餡を運ぶ際、いつも一個一個運んで大変時間がかかっていた。
祢琉麩の先輩奉公娘の阿 州華(あ すか)はこれを非常に苦々しく思っており、
ことあるごとに「餡束可!」(餡は束にして持ち運ぶことが出来るという意)と叱り付けていたと言う。
現在某アニメにて赤い髪の少女がしばしば主人公の少年を「あんたバカァ!」と怒鳴りつけているが、
この故事と関係があるかは定かではない。
民明書房刊「セカンドチルドレン―脅威と胸囲の全貌―」より
319 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2009/10/22(木) 00:12:49 ID:9Eo/sr6H
なんだその副題はw
>>318 > 民明書房刊「セカンドチルドレン―脅威と胸囲の全貌―」より
これ他のとこも是非抜粋してくれw
>>318 ふいてしまった〜
魁○塾を思い出した。
サードチルドレンの副題はなんになるんだか
保守
捕手
ポリンキー♪
捕手
☆
エヴァ板良スレ保守党
地の底に大きく口を開けた真っ暗な穴。
僕と父さんを繋ぐ因果の根がここから伸びている。
血に塗れた両の手で、僕は全ての責任を背負わなければならない。
僕が僕で在る為に、彼女が彼女で在る為に。
僕は、もう逃げない。
「――行くのかい?」
「うん。人は多分、一人では生きていけない生き物だから。僕も一人は寂しいから。だから、皆に会いたい」
「なら、出来るだけ沢山の人を思い浮かべるといい。そうすれば、自分の姿を思い出した人を連れて行く事が出来るよ」
僕はカヲル君の言葉に従い、心の中に会いたい人を思い浮かべた。
思い付くだけ、一杯、一杯、知っている人を片っ端から。
ミサトさん、加持さん、日向さん、青葉さん、マヤさん、リツコさん、副司令。
綾波、アスカ、トウジ、ケンスケ、委員長、ペンペン。
そして……父さん。
でも、周囲には誰の気配も見付けられなかった。
もうみんな、L.C.L.の中で融けてしまっていて自分の事が判らないのかも知れない。
その先はただ呆然と、打ち寄せるL.C.L.の波に身を任せている事しか出来なかった。
そして流れ着いた先は白い砂浜。
見上げた空には朱紅い輪が浮かんでいる。
星は僅かに気配を残すだけ。
振り返ると、真っ二つに割れた綾波の大きな頭部と、石の様に硬直している量産機。
そこに命の気配は無い。
周囲を見渡すと、道路標識からそこは芦ノ湖の湖岸という事が判った。
道路の上には潰れた戦車が転がっていた。
打ち寄せる波。
L.C.L.と化した水。
波の音が融けてしまった皆の鼓動の様に感じる。
――これから、僕は……。
取り敢えず握り締めていたミサトさんのペンダントをポケットに突っ込み、湖岸から道路へと出られる場所を探す事にした。
ここでぼんやりとしていても始まらない。
何処かに誰かが戻って来ているかも知れない。
踏み締める度にざくざくと鳴る砂。
手に取るとそれは何かの結晶の様だった。
見た目に反してとても脆い。
指先で潰すとサラサラとした粉になる。
粉はまるで灰の様に軽かった。
――もしかして……そんな馬鹿な事って……。
嫌な考えを振り切って僕は歩き続けた。
そうして判った事は、戦自と量産機の攻撃で芦ノ湖が海と繋がってしまっていたという事。
そして水は海から流れて芦ノ湖へと入ってきているという事。
戦車やジープの残骸が幾つかあっただけで、生きている人には会えなかったという事。
それから導き出された答は――。
僕は、皆の骨の上に立っている。
僕は砂浜に残る自分の足跡を辿り、元の場所へと戻る事にした。
海をずっと眺めていても虚しいだけだ。
虚無感でだるい体を引き摺る様にして、芦ノ湖の湖岸へと戻る。
足跡が始まった場所を過ぎても歩き続けた。
傾いた道路標識に沿って。
風が凪いでいるのか、周囲は静かだ。
響くのは僕の呼吸音と足音と波の音だけ。
その三つを音楽の代わりに、僕は歩き続けた。
そのまま暫く進むと白い砂は消え、湖岸は普通の砂に戻っていた。
そして第三という文字が書かれた標識が見える頃、僕は一つ、する事を決めた。
水は相変わらず赤いL.C.L.のまま、湖岸には何処からか流木が打ち寄せられていた。
それは大小様々だけど僕が抱え切れない大きさの物は無かった。
取り敢えず杖の様な太さの手に余る位の物を手に取ると、それをスコップ代わりに地面を掘った。
そうやって出来た穴に、片っ端から流木を突っ込んだ。
そう、墓だ。
僕は漠然と、皆にはもう会えないと思ったんだ。
だから穴を掘り、流木を突っ込んで穴を埋め、形ばかりの墓標を立てた。
そうする事で僕は、胸を埋め尽くす虚無感を誤魔化した。
けど、所詮それは自分を騙しているだけだ。
直ぐに虚しさは全身を被い尽す。
もう誰にも会えないんだ、と思うと胸が痛かった。
痛みを起爆剤に僕は穴を掘り、流木を立て続けた。
気付いたら、周囲は流木の墓標で埋まっていた。
墓標に囲まれて、僕は無為に波を眺めて過ごした。
手を後手に付き、足を伸ばして。
廃棄され放置している縫い包みの様に、ポツンと砂浜に取り残されたままで。
だって人は皆L.C.L.の中に居るんだから、そうじゃない僕はその中から弾き出された異分子だ。
その状況がとても遣り切れなかった。
思わず手に砂を握り締めた。
すると砂の中から錆びた古釘が出て来た。
多分こいつも何処かから流れて来たんだろう。
僕はその釘で墓標に名前を刻む事にした。
そうすれば、少なくとも皆を覚えていた僕という存在が居た記録になる。
でも、僕を覚えていてくれる人は、居ない。
背筋が寒い。
人の気配がしない事がこんなに寒々しいなんて思っても見なかった。
「……っ……うぅ……くそう……っ……」
泣きながら文字を彫った。
もう会えないんだという事が身に沁みる。
けれどこうする事でしか、僕は皆が居たという事を遺す事が出来ない。
それが悔しくて、情けなかった。
それでも僕は一心不乱になって、墓標に名前を刻み付けた。
多分、そうする事で僕は自分を保っていたんだと思う。
最後にその辺に落ちていた石を使い、ミサトさんの墓標にミサトさんから受け取ったペンダントを古釘で打ち付けた。
これでもう、僕に出来る事は無くなったと思った。
そう考えたら、少しだけ心が軽くなった。
でも寒くて、寂しいのは変わらない。
こうして待っていても、誰かが戻って来るとは思えなかった。
空は相変わらず暗いままで、時間の感覚が狂いそうだ。
朱紅い帯が消える気配も無い。
僕以外の誰かが居る世界、僕以外誰も居ない世界。
そのどちらもただ苦しいだけだなんて。
その苦しみは僕への罰なんだろう。
僕は他人が怖くて、自分が嫌いだったから、皆死ねばいいと願ってしまった。
だから、僕は一人だけでこの星に取り残されたんだろうと思った。
そんな状態でずっと待ち続けるなんて、僕には出来ない。
誰も戻って来ないのに待ち続けるなんて。
こんなに一人が怖いだなんて、思いもしなかった。
この町に来る迄は、エヴァに乗る迄は一人が当たり前だったのに。
一人で居る事なんて平気だったのに。
なのに、今は怖い。
寒い。
御免なさい、母さん。
御免なさい、綾波。
御免なさい、カヲル君。
僕には、耐えられない。
僕は立ち上がり、波打ち際へと進んだ。
そして、どうせ何も出来なくて死ぬのなら皆の居る海の中で死にたいと思った。
迷わなかった。
僕は泳げないから、溺れるのも簡単だろう。
そのまま一気に沖へ歩いた。
水位が膝、腰、胸、と上がっていく。
不思議と怖くなかった。
多分、楽になれるという思いが強かったのだと思う。
そして首を過ぎ、鼻を越え、終に海は僕の体を呑み込んだ。
――ああ、やっとだ。
その時の僕は真剣にそう思い込んでいたんだ。
けれど何時まで経っても水圧は体に掛かって来ない。
ただ静かに沈んでいくだけ。
苦しくも何ともない。
そう、エヴァに乗っている時の様なんだ。
結局、海に身を投げても無駄だったって事だと思う。
その内僕の体は底に沈んでしまった。
僕はそれでも良いと思った。
そのまま眠り続けて、夢を見る。
逃げだと解っていても、戻らない人達を待ち続けるよりはずっと良い。
眠っている内に死ぬ事が出来たら、それはそれで儲け物だ。
でも、出来なかった。
今度は眠る事も怖いんだ。
眠ろうとすると寒さが際立って、一層一人だという事を思い知らされて、寂しさで胸が張り裂けそうになった。
と言って誰も居ない地上に戻る事も怖い。
たとえ一人だとしても、皆が融けているL.C.L.の中に居る方が幾分マシだと思えた。
その時だと思う。
静かに凪いでいたL.C.L.が荒れたのは。
水底を掻き回す様に渦が起こった。
勿論底に居た僕はそれに巻き込まれた。
僕はもう動きたくなかったから、何とかして底に残ろうとした。
けれど渦はどんどん大きくなって、その速さも増していった。
ぐるぐると回る流れに流されて気が遠くなる。
その時、視界の端に何か光る物が見えた。
――幽、霊?
違う。
まさかあれは……カヲル君?
どうしてカヲル君がここに居るんだろう……?
L.C.L.の流れに乗って近付いて来る。
カヲル君は渦の外側の前に来ると、渦に手を突っ込み僕の手を取り僕を渦から引きずり出した。
――僕を、助けてくれたのか?
僕が不思議に思っていると、カヲル君は僕の顔を覗き込んだ。
あけおめございます(*- -)(*_ _)ペコリ
漸く上手く纏まってきたのでシンジside開始。
とりあえず約三分の一だけ先にw
今回分の続きはさるさん回避しながら今日中に投下予定。
まったりペースですがことよろ。
「シンジ君、どうしてこんな所に戻って来たんだい?」
「どうしてって……」
「君はこの海から出て行った筈だよ。それがどうしてまたこんな所に居るんだい?」
僕は砂浜での事を話した。
「……誰も、戻って来ないんだ。カヲル君の言う通りに会いたい人を思い浮かべたけど、会えなかったんだ」
「ふうん?」
カヲル君は周囲を見回した。
「でも、ここには君が会いたいと思った人は全員居るよ」
「けど、誰も戻ってなんて居なかったよ。探しても誰も居ない。寒くて、寂しいだけだった」
僕も周囲を見回してみたけれど、誰の姿も見えなかったし気配も感じなかった。
「でも皆君の周囲に居るよ。本当に何も感じない?」
「感じない」
「本当に?」
「うん」
僕が答えるとカヲル君は少し困った顔で言った。
「おかしいな、皆ここに居るのに。シンジ君、本当に会いたいって思ったのかい?」
――どういう事?
一瞬何を言われたのか解らなかった。
「カヲル君……何を言っているの……?」
カヲル君は更に追い討ちを掛けてきた。
「もしかして君は……誰にも会いたくなかったんじゃないのかい?」
「そんなっ、そんな事無いよ!」
「でも誰一人戻って来なかったんだろう?」
「……それは……そうだけど」
「なら会いたくないと思ってたのかも知れないじゃないか。本当に会いたいと思っていたのなら、皆戻って来ている筈だよ」
「――!」
カヲル君の言う通りだ……。
一人は寒い、寂しい、怖いと思っていながら死ぬ事を選び、最後にはこの海の底で眠り続ける事を望んだ。
結局それは出来なかったけれど、僕は心の何処かで、一人で居る事を望んでいるのかも知れない。
「そうかも知れない……」
「やっぱり」
「……でも、一人は嫌だ」
「本当に?」
カヲル君が僕の顔を覗き込む。
目が合った。
赤い眼が僕を射抜く。
僕はその視線から一瞬逃れようとしてしまいそうになったけれど、踏み止まってその眼を見つめ返した。
「うん……だって、自分の事が判らなくなるから。全部融けてしまって判らなくなるのと余り変わらないから。
だから一人は嫌だよ」
「成程、ね」
カヲル君は腕を組み暫く何かを考えていた。
そして僕に言った。
「じゃあ後は、シンジ君が無理矢理連れて行くしか方法は無いね」
「え? 無理矢理?」
「そう。このままじゃ何時まで経っても誰も戻って来ないよ。だって誰も自分の姿を思い出さないんだから」
「だからって……そんな……」
僕が皆をL.C.L.に変えちゃったのに、戻せって事?
そんな、無理だよ!
どうやって変えちゃったのか判らないのに、それを戻すなんて出来ないよ。
「随分難しい顔をしているけれど、結構簡単なんだよ? だって君が会いたい人を思い浮かべるだけで良いんだから」
「でもさっきは誰も戻って来なかったんだよ? さっきだって僕、会いたい人を一杯思い浮かべたのに。
それを出来なかったのは僕の所為だって言ったのはカヲル君じゃないか」
「だから、さ。さっきはシンジ君の願いに皆反応しなかったけれど、今度は違うよ? 無理矢理思い出させるんだからね。
思い出させて、この海から連れ出すんだ。そうすればもう一人じゃないよ」
「連れ……出す……」
「そう。一番会いたい人をここから連れて行く事が出来るんだよ」
それはとても魅力的な誘惑だと思った。
確実に一人じゃなくなるって事なんだから。
躊躇はしたけれど、ほんの一瞬の事だった。
考えるまでもなく僕は承諾の言葉を口にしていた。
「……解った。やって、みるよ」
一番会いたい人。
母さん……違う。
母さんにはエヴァの中でさよならを言った。
綾波……違う。
綾波はこの海の中に居るだろうけど、融けてはいなかった。
カヲル君……違う。
カヲル君は目の前に居る。
ミサトさん……生きてるんだろうか。
エレベーター前で別れたあの時、何故か血の臭いがした。
僕は、誰に会いたいんだろう――?
「シンジ君、会いたい人は決まったかい?」
僕が深い思考に陥ろうとした時、カヲル君が僕に問い掛けた。
その時、僕は見てしまった。
カヲル君の口元が薄く歪み、舌なめずりしているのを。
そしてそれを見て、僕は思い出してしまった。
忌まわしい啼き声。
垂れ落ちる血、肉。
勝利の雄叫びを上げながら、槍を手に空を舞う量産機。
それだけじゃない。
何機かの口には弐号機の残骸が銜えられていた。
それを見て舌なめずりしていた量産機の姿も。
「ア……アスカ……」
そうだ、弐号機にはアスカが乗っていた。
アスカは一人で九体も相手にしてたんだ。
僕が逃げたから。
僕が初号機に乗れていれば、二人で相手していたのかも知れない。
けれど僕は何もかも嫌になって、逃げてしまった。
だから一人で相手せざるを得なかったって事だ。
そして、負けちゃった。
それだけじゃない。
アスカがシンクロしたまま、弐号機は量産機に喰われちゃったんだ。
僕はそれを見て――。
嫌だ。
いやだ。
イヤダ。
アスカにもう会えないなんて。
アスカが死んじゃったなんて、嘘だ。
だって、アスカは……。
「アスカ、それが会いたい人の名前かい?」
「え――?」
「僕が聞いたら、君はそう答えたんだよ?」
「あ、いや……その……」
「何だ、違うのかい?」
僕は直ぐには答えられなかった。
だってアスカは僕を嫌ってる、憎んでる。
意識が融け合っている時、ひしひしとそれを感じた。
僕がアスカに助けを求めたから。
僕がアスカに酷い事をしたから。
「……アスカは、きっと嫌がるよ。だって僕の事嫌ってるもの」
「そうなのかい?」
「きっと、そうなんだ。僕、アスカに一杯酷い事言ったんだ。だから、アスカは僕を憎んでる」
アスカが元々僕をどう思っていたのかは知らない。
けど、そんなに悪い関係じゃなかったと思う。
でも僕はアスカに酷い事をしたんだろう。
実際、アスカに酷い事も言った。
だから、アスカは僕を憎んでる筈だ。
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、その人に会いたい訳じゃないんだね?」
僕は首を振った。
「そんな事、ないよ。会いたくない訳じゃない。ただ、怖いんだ」
「何が怖いんだい?」
「何だろう……?でも、多分、思い知らされるのが怖いのかも知れない」
もしアスカに会えたとしても、僕はアスカに嫌われている事を、憎まれている事を、改めて突き付けられる筈だ。
そう考えてしまうと、何の為に戻って来たのか判らなくなる。
でも、僕は皆にもう一度会いたいと思った。
その気持ちは本当だけれど、怖いのも事実だ。
「何をだい?」
「解り合えない事が当たり前だという事」
解り合おうと努力する事は出来るけど、本当に何もかも解り合うなんて無理だ。
僕はそれを知っていて戻って来た。
けど、それを改めて突き付けられる事は、やっぱり怖い。
僕がアスカの事を解ろうとしたとしても、解り合える保障なんて何処にも無い。
ましてやアスカは僕を憎んでる。
アスカが僕を解ろうとしてくれる事なんてありえない、ある訳が無い。
「じゃあ諦めるかい?」
カヲル君が僕に再び問う。
また僕は首を振った。
「……なら、どうすれば良いんだろうね?」
カヲル君はそう言って、水面を見上げた。
暗い中に、一点だけきらりと光る何かが見えた。
「多分、ここの何処かに居るアスカを、連れて行けば良いんだ。だって僕はアスカに会いたいと思ってるんだもの」
「それがシンジ君の答なんだね」
「うん」
「でもこれはシンジ君だけが思ってる事かも知れないよ? その人はシンジ君に会いたくないと思ってるかも知れない」
「それでも、会いたいんだ」
「随分と傲慢なんだね」
「そうかも知れない」
きらりと光る何かが揺ら揺らと揺れている。
よく見るとそれは渦が光を乱反射させているのだと判った。
光は小さくなったと思えば、今度は眼が痛みを覚える程光ったりしながら、ゆっくりと渦を纏って下りて来る。
「あれは何?」
「多分、無理矢理ここから連れ出そうとしているから、嫌がってるのかも知れない」
「そうなんだ?」
「ここは曖昧で脆弱な代わりに、苦しみが無い。夢と望みが適えられるからね。その代わりに自分の姿を思い出せなくなる」
「自分の姿を思い出したくないの?」
「……余分な物がくっ付いてる」
カヲル君は顔を顰めると渦の中に手を突っ込み、光を中から引き摺り出した。
光はカヲル君の手の中で暴れる様に光の強さを変えた。
しかしそれを抑え込む様にカヲル君は光を手で握り潰す。
じたばたと暴れていたそれは、暫く時間が経つと漸く大人しくカヲル君の手の中に収まった。
「ねぇ、シンジ君? もう一度聞くよ?」
「何を?」
「君は会いたい人をここから連れて行く事が出来る。でもそれは、限り無くその人から拒絶される可能性が高い事だ。
夢と望みが適えられた世界から、無理矢理引き剥がすんだからね。それでも君は、その人に会いたいと思うかい?」
「……ここは気持ち良いけれど、自分が判らなくなる。それって自分が居ないのと同じ事だよね?
だったら僕は、苦しくても自分が居るのが判る世界を選ぶよ」
「それはとても独り善がりで傲慢な考えだよ?」
「自分が居なくなって、最後に何も無くなってしまうよりは、ずっと良い。僕は、アスカに会いたい」
躊躇い無く口からするりと言葉が出た。
それは、一人で居る恐怖と比べた今の僕の嘘偽りの無い気持ちだった。
「でもその人は、シンジ君が知っているままだとは限らないよ? 無理矢理連れて行く事になるから、何かが欠けているかも」
アスカがアスカじゃない?
どういう意味だろう?
欠けているって……?
「アスカに何かあったの?」
「何か起こるかも知れないって事さ」
「え……っ?」
「シンジ君の理想が反映されているかも知れない。それでも良いのかい?」
「どういう事?」
僕の理想?
何の事を言っているの?
カヲル君は、何を言いたいの?
どうして僕に聞くの?
「その人を構成している何かをこの海に残してしまうかも知れないんだ。引き剥がす事で大きな負担を掛けるからね。
それだけじゃない。融けてしまっている物を集めなければならない。そしてそれを元に戻すのは君の役目だ」
「それって……」
「戻って来たとしても、融けてしまう前と同じ人物とは言えない事もありうるって事さ」
「……でもそうしないと、戻って来ないんだよね?」
「そうだね」
カヲル君は僕の顔を覗き込んできた。
「それでも君は、その人に会いたいかい?」
アスカがアスカじゃなくなるかも知れない。
それが何を表すか解らない僕じゃない。
それでも僕は、怖かった。
一人になるという事が。
それに、母さんは言ってた。
幸せになるチャンスは何処にでもある、って。
太陽と月と地球がある限り、生きていける、って
そして、僕の幸せは何か判らないけれど、一人で生きていく事が幸せだとは思えない事だけははっきりしていた。
だから僕は会いたいと思う。
それがエゴだとしても、僕はアスカに会いたい。
アスカに会う事で、僕は僕の幸せを掴みたい。
「……会いたい。我侭だって事は解ってる。でも一人のままじゃ、僕は幸せになれない。僕は幸せになりたいんだ」
「それで良いんだね?」
「たとえ傷付いても、それはそれで良い。結果的に死んじゃったとしても、一人のままよりは幸せだった、って言えるから」
僕はアスカの事を思い浮かべた。
明るくて強気で、皆が憧れる位綺麗で頭が良くて、僕なんか比べ物にならない位エヴァの操縦が上手くって。
でも時々意地悪で、時々少しだけ優しくなる。
それでいて僕の持っていないものを沢山持っていて、最も理解に苦しむ女の子。
それが僕のアスカのイメージだった。
その時だった。
上から流れ星の様にキラキラと光が降って来たのは。
それはとても綺麗だったから、僕は手を伸ばして触れようとした。
でも、まるで逃げる様にするすると僕の手をすり抜けていく。
何度手を伸ばしても、僕はその光を手にする事は出来なかった。
「どうやら、シンジ君には触れられたくないみたいだね」
「え?」
「あそこを見てご覧よ」
カヲル君が水底を指差した。
光が堆く積もっていた。
そしてその周囲を、渦がまた囲んでいた。
「多分、あれが君の会いたい人の欠片達だよ。これは多分その一部だろうね」
そう言ってカヲル君は握り締めていた光を僕の手に乗せた。
「欠片?」
カヲル君が僕の手に乗せてくれたアスカの一部だという光は、カヲル君の手の中にある時以上に僕の手の中で暴れた。
――イヤ。
――アナタ ト ダケ ハ シンデモ イヤ。
意識が融け合っている時に聞こえたアスカの声を思い出した。
「……は、はは……やっぱり、やっぱりアスカは僕が嫌いなんだ……」
僕は暴れる光を力一杯握り締めた。
水底の光を囲む渦が、その速さを増す。
「どうやら戻りたくないみたいだね。君が会いたい人は弐号機パイロットかい?」
「そう、だけど……どうしてそんな事を?」
カヲル君が渦を睨んでいた。
「あそこから弐号機の気配がする」
「もしかして、弐号機のコアに居た人?」
「そうだと思う」
「だったら多分、初号機と同じ様にアスカのお母さんが居たんだと思う。それがどうかしたの?」
カヲル君の眼が厳しい光を帯びていく。
「周囲を全て拒絶して、完全に融ける事が出来ずに不安定になって消えそうなんだ。弐号機はそれを辛うじて引き留めてる」
「それって……」
アスカはお母さんと一緒に居るから、消えずに居るって事?
だとしたら……僕が連れて行こうとしたら……。
「アスカは……消えちゃうかも知れないって事……?」
「そうなるね。でも、このままの状態で居たとしてもその内消えてしまうと思う。弐号機は傷付いてるからね」
「量産機に負けちゃったから……?」
「シンジ君、どうする? 弐号機から引き剥がすと不安定になって消えてしまう。そのままにしておいても何れは消える。
それを防ぐには無理矢理連れて行くしかない。けれど不安定な状態では、完全に元に戻るとは言い切れない」
酷いや。
君は僕がどうするか知っていて、そんな事を言うんだね。
そんなの、決まってるじゃないか。
「やっぱり、僕はアスカを連れて行くよ。もう会えなくなるなんて、考えたくない。会えなくなる事は怖いもの。
知っている人が居なくなるって、凄く嫌なんだ」
僕は渦の中へと足を踏み入れた。
湖底に沈んでいた石や砂が舞い上がり、僕に容赦無くぶつかって来る。
前が上手く見えない。
それでも僕は一歩一歩、慎重に前に進み渦の中心へと近付いた。
実際の時間は多分一瞬の事だったと思う。
でも僕にとってはとても長い時間に思えた。
渦の中心に手を伸ばし、堆く積もった光の塊に触れた。
――キライ。
――キライ、キライ。
――アタシ ニ フレナイデ ソバ ニ コナイデ。
――アタシ ハ ヒトリ デ イキル ノ。
――ミンナ キライ ダイッキライ。
刺々しい声が聞こえた。
冷たくて、寂しいイメージがした。
触れた指が、刺す様に痛い。
――ママ。
――アタシ ママ ガ イッショ ナラ シアワセ。
――ママ ズット イッショ ヨ。
――ママ。
お母さんを呼ぶ声が聞こえる。
アスカも会えたんだ。
温かくて、嬉しそうなイメージ。
そうか、アスカは今こうしているのが幸せなんだね。
でも、御免。
僕は僕の幸せを諦めたくない。
僕は聞こえる声を無視して、光の塊を打ち崩した。
光が宙を舞う。
舞い上がって、暗く沈んだ水底を明るく満たした。
やがて一つの形を映し出す。
渦が嘘の様に静まり、満たされていた光は霧の様に消えてしまった。
幽かに名残として、水の中にアスカの姿を映す。
触れると壊れそうな位、その姿は弱々しかった。
何処に視線を合わせているのか判らないその瞳は、まるで硝子玉の様に無機質だ。
ふわふわと浮き沈み、揺ら揺らと陽炎の様にその姿は揺らめく。
一向に安定しなかった。
「アスカっ!」
僕は浮かぶアスカに手を伸ばした。
しかし後一歩の所で届かない。
逃げていく。
「……アスカ、そんなに僕が嫌いなの?」
返事は無い。
けれど、焦点の合わない瞳が雄弁に語っている様に見えた。
カヲル君が浮かぶアスカを見上げて言った。
「これで、姿だけは思い出したね。ここから先は僕達の仕事だ」
後ろに誰か居る。
振り向いたそこには、綾波が光の欠片で膝の上と両手を一杯にして佇んでいた。
「碇君、貴方の手の中の物を渡して」
僕は握り締めたままにしていたアスカの欠片を綾波に渡した。
「それは何?」
「弐号機パイロットの魂、心。そういった物の欠片を集めた物。それを一つ一つ繋ぎ合わせるの」
綾波は欠片を一つ一つ手に取ると、パズルの様に繋ぎ合わせた。
「弐号機パイロットはとても傷付いてしまったの。体も、心もバラバラになってしまった。だから繋ぎ合わせるの
でも、これで全部かどうかは判らない。集める事が出来るだけ集めたけれど」
綾波が持っているアスカの欠片は、僕が触れた時に感じたそのままの形状をしていた。
沢山の棘が表面を覆っている。
たまに棘が無い物があっても、それはとても鋭利な刃物の様になっていたり、今にも割れそうな薄い板の様だった。
皹が入っている物もあった。
そしてどれもが、寿命が切れ掛けの電球の様に、何処か煤けた様な暗い光を放っていた。
「高シンクロのままロンギヌスの槍に貫かれたんだ。そしてその後量産機に喰われた為に、魂が砕けてしまったんだよ」
また、上から光る物が降って来た。
その光がアスカの欠片に触れると、欠片は眩い光を放ち始める。
「弐号機の魂が、弐号機パイロットを守ろうとしているの。砕けて消えそうになるのを、必死に繋ぎ止めている」
綾波の手をよく見ると、小さな擦り傷や切り傷が付いていた。
一つ一つはどうって事もなく痛みも感じない程度だけれど、それらが大量にあると痛み出す筈。
僕は居た堪れなくなり、手伝おうと綾波の膝の上の欠片に手を出そうとした。
「触らないで。碇君が触れると、弐号機パイロットは激しく反発してしまう。欠片が崩れてしまうかも知れない。
触ってはダメ」
「でも――!」
「碇君は弐号機パイロットが心を取り戻せる様に祈っていて。それだけで良い。だって、これは碇君の願いだから。
私達は碇君の、ヒトの希望。だから、碇君の願いを適えたいの。碇君は祈るだけで良い」
綾波は僕の手を激しく拒否した。
彼女の手に血が滲んでいく。
その度に光る欠片が他の欠片と繋がり、綾波の膝元には小さな光の粒が零れていた。
「弐号機の魂が役目を終えたんだ。後は静かに眠るだけ……」
「アスカのお母さんも……僕の母さんみたいに、アスカをずっと守っていたんだね」
「親は子を守ろうとする心があるからね」
「でも僕は、無理矢理それを引き剥がしちゃった……」
「そうしなければ、弐号機の魂も弐号機パイロットも共倒れになっていた。結果的には良かったと思うよ。
弐号機の魂は、ずっとずっと、傷付いた弐号機パイロットを守ってきた。その力を磨り減らしながら、ね。
だからもう、無理をするのは終わりにしなくちゃいけないんだよ。でなければ、彼女は永遠に眠る事が出来ないから」
カヲル君は光の粒を手で掬うと、一つに纏めて固まりにしてしまった。
そして、その固まりをアスカの手に持たせた。
「これは弐号機の魂の記憶。彼女が幸せだった頃の想いが沢山詰まってる。
弐号機パイロットが幸せだと感じた記憶を思い出せる様に。僕達からの餞だよ」
「有難う……カヲル君、綾波」
光に照らされたアスカの顔に、少しだけ血の気が戻り、口元に笑みが浮かんだ様な気がした。
「……出来たわ」
綾波が両手を傷だらけにしながら、アスカの欠片を繋ぎ終えた。
それはとても小さくて、幾つもの小さな棘と刃で包まれていた。
そして、今にも壊れそうな程脆く見えた。
「アスカは、一杯傷付いてたのかな?」
「判らないわ」
綾波が繋ぎ合わせた固まりをアスカに近づけると、固まりはアスカの中に吸い込まれてしまった。
そしてアスカはそのまま何処かに消えてしまった。
多分、本来の姿に戻った為に、他の人と同じ様にL.C.L.に還ったのだと思う。
「これで器と魂が揃った。後は碇君が願うだけ。弐号機パイロットに会いたい、と」
「うん」
「でもこれだけは忘れないで。たとえ会えたとしても、碇君を受け入れてくれるかどうかは判らない。
そして本当に元の弐号機パイロットが戻って来るという確証も無い。
確かなのは、この海から引き剥がしたという事実が残るという事だけ」
「解ったよ」
「なら、もうどうすれば良いか判るよね?」
僕は大きく頷くと、水底から足を離した。
水底から離れるに連れてカヲル君と綾波の姿が揺らめいていく、小さくなっていく。
僕の体は本来の浮力を取り戻したみたいだった。
揺らめくL.C.L.の流れが、僕を水面へと舞い上げる。
見上げると水面が輝いていた。
僕はひたすらその輝きに手を伸ばした。
だけど、僕の手には中々届かなかった。
手を伸ばしても、伸ばしても、水面には中々届かなかった。
戻らなきゃいけないのに。
アスカに会わなきゃいけないのに。
そう思う心が益々僕を焦らせる。
そして焦れば焦る程、L.C.L.が全身に絡み付いた。
手に、足に、錘の様にL.C.L.が絡んでいく。
とても全身が重い。
雁字搦めになりそうで、息が詰まりそうだ。
眼が霞む。
上手く前が見えない。
L.C.L.の赤がどんどん色を失っていく。
頭が、重い。
――後少しなのに。
届きそうで届かない。
何か厚い壁でもあるかの様だ。
それでも僕は手を伸ばし続けた。
ただ、アスカに会いたい、という一心で。
勿論、僕のエゴだって事は解ってる。
お母さんと一緒で幸せそうにしていたアスカを、お母さんから引き剥がした。
今だって、融けていれば苦しむ事はない海の中から、無理矢理引き摺り出そうとしてる。
恐らく、僕のした事、しようとしている事は間違っているんだろう。
それでも僕は、諦める訳にはいかなかった。
永遠に一人だという苦しみよりも、誰かに傷付けられる苦しみを選んだんだから。
自分でも身勝手だと思う。
けれど、恐怖を覚えた事に拠って人は一人では生きていけないって事を身に沁みて感じた。
多分、その時から僕は我侭に成ったのかも知れない。
槍に刺された鳩尾と掌がやけに痛む。
ぐらり、と酷く眩暈がした。
――キライ。
アスカの声だ。
――キライ キライ ダイッキライ。
刺々しい感情が僕を攻撃する。
僕が水面に、光に近付こうとすればする程、呪いの様に声が頭に響く。
そしてプツン、とその声が途切れた時、僕の手は漸く水面の上へと突き出した。
僕は重い体を引き摺り海から這い出すと、砂浜に倒れこみながら、肺一杯に空気を吸い込んだ。
ごろり、と体を転がし、仰向けになって空を見上げると、大きな月が僕を見下ろしている。
呼吸を整えようと横になったまま月を見上げている内に、何故か涙が止まらなくなった。
会いたい。
ただ無性に、アスカに会いたかった。
投下終了。
続きはまたその内にでも。
シンジ視点ですか
乙であります。
希望はもう織月女史だけだね
まちまち
「きゃぁ!!しんじ君のエッチ!」
おままごとをしている時、ぐうぜんしんじ君の手があすかちゃんのお尻に当たってしまいました。
「あはは、ごめ…いたっ!も〜、ぶたないでよ〜」
続きは別スレで。
まち
エヴァ板良スレ保守党
エヴァ板良スレ保守党
寒い保守
エヴァ板良スレ保守党
エヴァ板糞スレ埋め党
370 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2010/03/24(水) 21:38:57 ID:e0INps3K
保守
きゃぁ!!何よバカシンジ!!やめ…や…あんっ
ほ
きゃぁ!!何よバカシンジ!!やめ…や…あんっ
スレタイが可愛いなw
がんがれ迎え火(゚ω゚)ニャンポコー
378 :
アスカ:2010/06/02(水) 03:41:17 ID:???
あんなものブラブラさせて家のなか歩くなんって…
シンジ「アスカっ!このまま中で出すよっ!」
やめ…や…あんっ
アスカ「……や、やめて」
シンジ「ん?なんだ?ちいせー声じゃ聞こえねーよ!!」
アスカ「…やめて…入れるのだけは…やめて」
シンジ「人にお願いする時はどういった言葉遣いをするんだよ!!!」
アスカ「や、やめて下さい…お願いします」
シンジ「バーカ、もうおせーんだよ」
アスカ「な…や、やめて…やめ…
いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
なんか違う
アスカ「何よバカシンジ!!やめ…や…」
384 :
きゃあ!:2010/06/10(木) 13:35:43 ID:???
あんたって正真正銘の変態ね!バカシンジ!!
たうのhidden lecrifurは迎え火の劣化コピーの魂のこもっていない最低FF
たうは盗作電波自演荒らしの四重苦の高CQ、これ豆ね
みんな気をつけてね