「・・・・・・・・・」
「過去は消せない。だからこそ、それを白状して、受け止められる人物と付き合っていくべきだと思わない?」
余裕で持論を話すこの男に、私は気持ちがいらだっていた。
見回りの時間は過ぎている。でも、私たちは部屋から出なかった。
「・・・余計なお世話ね。いずれ知ることになっていたとはいえ、それを加持君本人からじゃなくて
あなたみたいな人から聞かされるなんて・・・不愉快だわ!
それに、そんな話聞いたって、私は別れる気持ちにはならないわよ?」
本当は気持ちが揺れている。こんな過去を持つ加持君と、これからも付き合っていける自信なんて無い。
でも、ここはそう言わなければ、そうしなければ、相手の思う壺にはまってしまう気がして・・・。
「・・・・・・・・別れろなんて言わないよ?事実を知ったうえで、葛城さんが決めれば良いことじゃない?」
「じゃあなぜ?!」
「言ったろ?不憫なんだよ、君が。加持に良い様に2年以上も利用されてるから」
「利用されてなんていない!」
「いるさ。加持の心が本当に求めているのは君じゃない。・・・あの時死んだ彼女さ。
高校時代の加持は体を女で満たしていたが、心までは満たせなかった。だから誰とも続かなかった。
君とは心が満たされているから、今まで続いている。
そして、心が満たされている理由は只一つ。君があの女に似ているからだ」
「違う!」
「まあ、体も良さそうだけどね・・・。一つ聞くけど、君は加持のどこがいいの?顔?
顔だったら、それは否定はしないさ、確かにあいつ、かっこいいものな」
「違うわ」
「じゃあ、何?」
「優しいからよ・・・」
「・・・・・・・ぷっ。優しいから?優しいから抱かれたのか?あいつに」
「・・・そういう言い方止めてくれる?」
「間違いじゃないだろ?大学生で付き合ってるのに抱かれていないとでも?」
「・・・・・・・・」
「葛城さんを不愉快にさせてばかりで悪いけど、優しいだけの理由で抱かれるのなら、誰でも君の事を抱けちゃうな。
あ、俺は無理か。優しくないから、今。・・・そろそろ次の巡回当番に交代の時間だね、じゃあね・・・」
一人でべらべらと勝手に話し、大岩君は当直室から出て行った。
乙です
「何よ、一方的に・・・。そんな話、信じないわよ」
当直室に一人取り残されて、私はつぶやく。
そして、次の当番と交代し、私はベッドに入った。
とっかえひっかえ 20人は付き合ってた 性欲の盛りだし
君はマサミに似ているから続いている 優しくて抱かれるのなら、誰でも君を抱ける
ぐるぐるぐる・・・・・
眠ろうと努力はするが、大岩君の言葉が頭を回る。
加持君は私のことを利用しているの?
それは私も同じでしょう?私は加持君を体と心を満たすために利用しているもの。
加持君は私のことを本当に好きではないの?本当はマサミが好きなの?
それは私も同じでしょう?私は加持君を通して父を見ているんだもの。
加持君の恋人は私じゃなくてもいいの?
それは私も同じでしょう?優しくしてくれるなら誰でも良いんだもの。
加持君への問いかけの答えがそっくり私に返ってくることに気づき、そうでない答えを探す。
ぐるぐるぐる ぐるぐるぐる
私は結局この後一睡も出来なかった。
「それじゃあ、解散しまーす。皆さんお疲れ様でした」
「おつかれ〜」
「ばいば〜い」
昼にはキャンプが終わり、私たちは第3東京市へと戻り、解散となった。
大岩君とはあれっきり、顔は合わせたが話していない。
私は今朝の事で疲労していることを大岩君に悟られたくなかったので、勤めて明るく振舞っていた。
解散となって疲れきった体と心を自転車で運びながら家路を目指す。
ジリジリと正午の日光が私の体を灼いて、いっそう体力を奪っていった。
もう・・・勘弁よ・・・・こんなきつい仕打ち・・・。
こうなると何もかもが敵に見える。
キャンプも、大岩君も、強い日差しも、汗臭い体も、加持君の過去も、そして自分も・・・。
全てから・・・逃げ出したいわね・・・。でも・・・、
私には希望があった。この過酷な状況は加持君の待っている部屋に帰れば全て解決するはずだという。
クーラーの聞いた部屋がまず私を日差しと体力の消耗から解放し、
シャワーを浴びれば汗臭さとはおさらば。
そして、キャンプであった最低なことを加持君に吐露し、
加持君に抱きしめられて、愛を確かめるのよ・・・。
だから・・・早く着いてぇ〜〜〜!
私は息を切らしながらパンパンに膨らんだリュックを背負い、自転車を精一杯こいだ。
ふう・・・、疲れた。
無事に住んでいる場所にたどり着いて自転車を停め、一息つく。この頃にはもう心が軽い。
あと少しで加持君に会える・・・。
たった2泊、2晩の別れ。それでも私は淋しかった。永いことあっていなかったような錯覚に陥る。
だからこそ、この再会できる幸せ。これはなに事にも変えようが無いわね。
階段を上がって部屋の前に着き、合鍵を鍵穴に入れた。
ガチャガチャ ギイー
玄関の扉が開く。
冷たい風が私を包む。
最高だわ!この瞬間!
私は歓喜に撃ち震えた。
「ただいま〜・・・・?」
加持君の返事が無い。
寝てるの?また、夜更かししたのかな?
全く、しょうがないわね。昼には帰るって言ってあったのに・・・。
私は半ば呆れながら靴を脱いぐ。
ん・・・?誰か来てるの?
玄関には見覚えの無い靴が2足あった。
一足は白いスニーカー。もう一足は黒いヒールのあるサンダルだった。
これって・・・女物よね?両方とも。
まさかっ?!
私はリュックを玄関脇に放り投げて急いで部屋の中に入った。
昼間なのに部屋は暗かった。カーテンが閉じたままになっている。
リビングのテーブルにはビールやワインが並んで酒盛りの跡があった。
ソファには加持君が寝ていた。
そして、隣の寝室の布団には・・・・・・・・・・・・。
ああ、・・・・やっぱり・・・ね。
玄関の靴を見たときにはもう女が居るって分かっていたから、驚きはしない。
で、女は誰かも大体予想はついていた。
加持君が親しい女性。そして、飲みたがっていた女性。
そう、リツコとマヤが二人並んで仲良さそうにそこに眠っていた。
乙
752 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/13(木) 12:37:21 ID:B9Zu/xm9
乙です!!!
読ませてもらいました。本編ではフタリの登場は少ないのにここまで話が広がってすごいです。
継続は力なり。まさに力になってますね。ガンバレ
WKTK
そんなことは無いと頭では分かっている。けれど・・・。
この3人がお酒を飲んで、一晩中何も無かった。
その確立のほうが高いと分かっている。けれど・・・。
私はその光景を見たときに一気に頭に血が上った。
冷静な私ならば、3人が起きるのを待ってから、私が居ることに気が付いて驚く3人に
嫌味の一つでも投げかけて済む訳だが、今日はタイミングが悪かった。
今朝の大岩君の話がまだ頭に残っている。
私は怒りに任せて、熟睡している加持君の上に馬乗りになり、胸倉を掴み上げた。
「・・・・・・う?!」
突然自分自身にかかった急激なストレスに、驚いて加持君が目を覚ます。
間髪入れずに私は加持君の顔に自分の顔をぐっと近づけて叫んだ。
「あんたねえ!!私が留守なのを良いことに、女連れ込んでるんじゃないわよ!!!!」
「なっ・・?!・・・お帰り、葛城」
加持君は寝ぼけ眼で私を認識し、笑顔を見せた。
しかし、その笑顔は私にとっては逆上を促進する結果となった。
私が会えない辛さの中に居た時に、加持君はリツコとマヤに声をかけていたこと。
私が嫌な時間を過ごしていた時に、加持君は楽しい時間を過ごしてたこと。
そして、私がこんなに怒りを露わにしているのに加持君は余裕の笑顔を見せていること。
全てが気に入らなかった。
「あんたは女がいなけりゃ生きていけないの?!あんたはなんで他の女に軽く声をかけられるの?!
この、エッチ!バカ!変態!痴漢!スケこまし!!男の風上にも置けない奴ね!!」
「おいおい・・・そんなに怒るなよ。コレにはちゃんとした経緯が・・・」
「経緯なんて知らないわよ、バカ!どうせあんたは私が居ない隙に次の女をキープしようとか、
そんなこと考えてるんでしょ?!分かってるのよ?あんたが女漁りしてたこと!」
「は、何の話だ?葛城。第一、葛城の居ない間に他の女に手を出すんなら、
こんな鉢合わせしそうな時間まで置いておくはずが・・」
「う、うるさいうるさい!!とにかく、あんたはそういう男だってことよ!今度ばかりは愛想が尽きたわ」
「本当、誤解だってば、葛城。それに何をそんなに感情的になってるんだ?」
「あんたが悪いのよ!自分の胸に聞いてみるのね!!」
本当はこんな事でここまで怒るのはお門違いだって、自分でも分かってる。頭では・・・。
でも、心が。それを許さないのよ・・・・。
最近このスレにはまってます
初カキコですが
Gjです!!!!
乙マンコ
「う・・ん?なんですか?あ、葛城さん。お帰りなさい・・・ひっ!」
あまりの騒ぎにマヤが目覚めてしまった。
そして、加持君の上に馬乗りになってる私を見て一言。
「不潔・・・」
「ち、違うのよマヤ。コレはね・・・」
私はマヤの軽蔑のまなざしに耐え切れず、慌てて加持君の上から降りた。
「ふう・・・重かった。おはよう、マヤちゃん。誤解しないでね、不潔なことは何もして無いから、俺達」
「はあ、そうですか・・・」
納得しているような声を出しつつ、頬を引きつらせるマヤ。誤解は解けていない様だ。
助かったという表情の加持君を見て、私はますます腹の虫が納まらない。
「とにかくあんたねえ、私がいないからって女の子2人と夜を明かすなんて、して良いと思ってるの?!」
「はあ・・・、おはよう。あら、ミサト帰ってたの?お帰り」
>「不潔・・・」
ワロタ
「・・・・・・・・ただいま」
ちっ、リツコも目覚めてしまったか・・・。なんだか不利な状況ね。
「どうしたの?さっきからガミガミガミガミ・・・・」
「う、いや。なんでもないわ」
「リッちゃんたちと飲んでたから、葛城、妬いちゃってさ」
「あら?そう。痴話げんか?」
「ちっ、違うわよ!」
何、言ってるのよ、加持君!私の怒りはそんな些細なことじゃないわよ。
「そうなんだよ。本当、嫉妬深くてさ。ちょっと女の子と仲良くしただけで、こうやって怒っちゃって」
ムカッ!
加持君のその言葉に私は激昂した。
パシン!
とっさに加持君の左頬に平手打ちをくらわせる。
乙です
痛いな。何怒ってんの葛城。いや、頑張って。
763 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/15(土) 04:47:23 ID:hLSgF1r6
職人さん、おつです。
いっきに読んでしまいこの時間です^^;
続き楽しみにしてます〜
乙
まち
「いっ、いてーなー!何すんだよ?!」
私の平手打ちを喰らって、加持君は怒りの声を上げた。
少しやりすぎたか?・・・でも、そんなことで今の私がたじろぐはずが無い。
「それはこっちの台詞でしょう?私が居ない間に何してたのよ?!」
「何しててもいいだろ!?」
「何よ!」
「何だよ!」
「まあまあ、お二人とも・・・」
たまらずマヤが仲裁に入る。
「ミサト、勘違いしないで。私たちは・・・」
リツコも身の潔白を説明をしようと口を開けた。その時だった
「リッちゃん!」
リツコの口を加持君の一声が止めた。
「・・・・いいよ。黙っとけ」
「・・・・・・・・・・。でも・・・」
「いいから、何も言わないでくれ!」
加持君に凄まれて、何も言えずに困った表情をするリツコとマヤ。
加持君は誰も口を開かない状態を確認するかのように、タバコを一本取り出して火をつけた。
長く細い煙がタバコの先から立ち上る。
加持君は深く深く呼吸をしながら、煙を肺に送り込んだ。
フー。とため息に混じりながら煙が肺から出て行く。
その一連の行為は、加持君が必死に冷静さを取り戻そうとしているかのようだった。
加持君は一呼吸をすると、私の方に厳しい顔を向けてこう言い放った。
「葛城、・・・ここから出て行け」
冗談でしょ?!
一瞬そう思ったが、加持君の表情からひどく本気だと言うことが分かる。
どうやら、加持君は堪忍袋の緒が切れたらしい。
「い、言われなくたって出て行くわよ!こんなところ!!」
本当は出て行きたくなんて無い。
今すぐにでも加持君に謝って許してもらいたかった。
しかし、リツコとマヤの手前、そんな恥ずかしいことが出来るはずもなく・・・。
売り言葉に買い言葉とはこういうことか・・・。今、初めて理解できた。
「ミサト!」
「葛城さん!」
「いいよ、ほおっておけ」
私は3人3様の言葉を背中に聞きながら、パンパンに膨れたリュックを背中に担ぎ、
キャンプの服装そのままに、スニーカーをはいて、玄関から飛び出した。
おお!!嬉
乙です
部屋から一歩出るとそこは灼熱地獄だった。
暑い・・・。
その上、私は加持君とやりあった事でますます体力を消耗していた。
重い体とリュックを引きずって自転車までたどり着く。
行く場所は・・・一箇所しかないか。
私は半月ぶりの我がボロアパートに向かって自転車をこぎ始めた。
自転車を漕いでいる途中でお腹の虫が音を立てた。
あー、お腹減った。昼ごはん、どうしよっかなあ・・・?
コンビニでも行って冷やしうどんでも買うかあ〜。
あ!そうだ、そうだ〜、うふふ。
私はそこであることを考え付き、自転車の進む向きを変えた。
私が向かった先は、あの、日向&青葉君のバイト先のコンビニだった。
もしかしたら、どちらかがレジに入ってるかもしれないし、
入ってなくてもシフト見せてもらえば暇な時間が分かるしね。
そして、加持君がリツコ&マヤと飲んだように、
私だってえええ!日向&青葉と飲んでやるんだからっ!!
私は意気込んでコンビニの中に入った。
771 :
Alice:2006/04/19(水) 00:03:26 ID:???
あっという間にここまで…ぉつです
乙
「いらっしゃいま・・・葛城さ〜ん!」
「いらっしゃいませ」
「はあ〜い」
私の希望通り、コンビニのレジには日向君と青葉君が入っていた。
午後1時をまわったコンビニは昼休みの会社員が引いており、良い具合に空いている。
笑顔を輝かせる日向君。本当に分かりやすいリアクションだ。
私は冷やしうどんとビールをかごに入れて日向君のレジに持っていった。
「お久しぶりですね!一体どうしたんですか?その格好」
「ああ、実習でキャンプに行ってたのよん。で、いま帰って来たところ」
「そうなんですか。大変でしたねえ・・・」
「ん、まあ、ちょっち疲れたかな・・・。ところで、バイト何時まで?」
「夕方5時までです」
「そう・・・。ねえ、その後何か予定入ってる?」
「えっ!?・・・入ってませんけど」
「そっ、良かった。青葉君は?」
「今のところは何も・・・」
よしよし、好都合じゃない。
「じゃあ、今夜一緒に飲まない?お二人さん」
私は予定通り、二人を誘った。
「えっ?!良いんですかああ!」
日向君の歓喜の声が響き渡った。
驚いて店内の客はこちらを見る。
「ちょっと、日向君・・・」
「あ、すいません。つい・・・」
「青葉君は?」
「ええ、喜んで・・・」
「じゃあ決まり!5時になったらまた来るから〜」
「は〜い」
私はお金を払い、店を出た。
次回
初
め
ての3P
776 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/21(金) 04:30:18 ID:CbplThL1
自分の部屋に帰ると、まず最初に全ての窓を開けた。
物置と化している部屋は掃除もほとんどしていないからホコリがたまっていた。
そして、布巾を濡らしてちゃぶ台を拭き、昼食を取る。
最初にビールを飲んで、冷やしうどんをすすった。
ん〜、なかなか会うわね、ビールとうどん。
ズルズル ゴクゴク・・・
空腹の胃袋にビールとうどんが納まったところで、一休み。
私はホコリのたまっている床にゴロンと寝そべった。
部屋を通る風は外の熱せられた空気を運んでくる。
それは汗臭くホコリにまみれた自分を、より一層不快にさせてくれるのだった。
コレは私が望んだことなのよ。
汗とホコリにまみれて、暑さの中、孤独に部屋で一人、寝そべる自分。
コレは身から出た錆なの、だから受け入れるしかない。
コレは加持君の過去を聞いて感情的になってしまった自分自身が招いた人災なのよ。
私が全て・・・悪いの?
違う!
私が悪いんじゃない!加持君が悪いのよ!
私がこんな不快な思いをしているのは、全て加持君のせいじゃないか!
過去に女を沢山弄んだのも、私を部屋から追い出したのも、
全ては加持君の蒔いた種じゃないか・・・。
なのに、・・・私が、私だけ痛い目にあってる。
世の中の不条理に怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。
そして、私は泣きながら笑った。
もう疲れた・・・、疲れちゃったよ・・・。
体も、心も、疲れちゃった。
こんな思いもう、嫌だよ。
付き合ってるのに、恋人なのに、何度も体を重ねているのに。
それなのに、何でこんな気持ちにならなくちゃいけないの?
加持君のせいだよ、何もかも。
それなのに、私ばかりが傷ついてる。それって、不公平じゃないか。
・・・・・・・付き合わなけりゃ良かった。
グルグルグル
負の思考のスパイラルに巻き込まれながら
私はそのまま眠りについた。
乙です
恋はその人の美しい側面と醜い側面を見せる。あの頃はままごとみたいなものだった。
乙
781 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/23(日) 19:50:57 ID:8hCoF5Ym
(お母さん、なんで泣いてるの?)
(なんでもないわ。・・・ちょっとね)
(またお父さんの事で泣いてるの?)
(・・・いいの。大丈夫よ)
(私、お父さん嫌い。いつもお母さんを泣かせてばかりだもん。
悪いのはお父さんなのに、なんで泣くのはお母さんなの?不公平じゃない!)
(そうね、不公平ね。・・・でも、良いのよ。お母さんはミサトが良い子でいることが一番嬉しいんだから)
(そうなの?)
(ええ、そうよ。だから、ミサト、いつまでも素直で優しい、良い子で居てね)
(うん!分かった。私はお母さんのことを泣かせるようなことしないよ。良い子でいる)
(ありがとう・・・ミサト)
(お母さん、離婚するの?)
(・・・・・・聞いていたの?)
(ちょっちね・・・。良いじゃない、離婚しなさいよ、あんな奴・・・)
(ミサト!お父さんにあんな奴だなんて言わないのよ)
(あんな奴じゃない!いつも私とお母さんを放って置いてさ・・・。早く離婚しなさいよ、お母さん)
(そんな簡単なものじゃないのよ、離婚すると言っても・・・)
(分かってるわよぉ。でも、私は離婚に賛成だから。早くあんな奴と縁を切りたいわ)
(ミサト、母さんを頼む・・・)
(お・・・とう・・さん?)
ハッ!!
目を覚ますと、夕方の4時をまわっていた。
やばい、5時に約束だったっけ!
私は急いで起き上がり、部屋の掃除にとりかかった。
それにしても、嫌な夢見たなあ・・・。まあ、コレが初めてじゃないけどさ・・・。
立て続けに3本も、その上、両親関連だなんて、夢見が悪すぎるわ・・・。
ほとんど使っていなかった部屋は片付ける必要がなく、床のホコリを取り除くだけでほぼ完了した。
夕日が赤く部屋を染め、風は日中とは違って涼しさを運んできていた。
掃除が終わるとシャワーを浴びて、ホコリと汗にまみれた体を洗い清めた。
不快指数が一気に下がる。
ふー、良い気持ちぃ〜。風呂は命の洗濯ね〜♪
ご機嫌になって、鼻歌も飛び出した。
これからぴっちぴちの若い男と飲むのかあ。初めてよね、こんなことって。
二人とも好青年だし、楽しくなりそうっ!
「んふんふ〜♪ はあー、さっぱりした!」
私はご機嫌のままシャワーを終えて、そのテンションのまま下着を着けて、
上にはキャミソールとGパンを着た。
薄く化粧もしてっと・・・。今日の私、きれい?きれいよねえ、うん。
自画自賛をしてますますご機嫌になる。
よしっと!それじゃあ、二人を迎えにいきますか〜♪
私は部屋に鍵をかけ、自転車に乗り込んだ。
お酒とつまみは、二人のバイトしているコンビニで買おう。
飲み会の場所は、私の部屋にしよう。
それが、貧乏学生の賢い生き方ね。
・・・・・・いままで加持君に頼ってたから、そういう工夫は出てこなかったけどさっ・・・。
う、少しテンションが下がっちゃった・・・。こりゃいかん、いかん!
ルンルン〜♪今日はこれから良い男と飲み会〜♪
私は自転車を漕ぎながら、わざと楽しい気分に自分を奮い立たせた。
コンビニの前に着いたのは4時50分だった。
ゼエハア ゼエハア・・・
気分に乗せて自転車を漕いでたから、少し息切れがするわね・・・。年だわ、もう・・・。
私が店に入ると、日向&青葉君は昼間と変わらずレジに居た。
「あ、葛城さん!」
「どうも〜。お酒とおつまみここで買ったのでも良いかなあ?」
「もちろんですよ!葛城さんと飲めるなら、何飲んだって食べたって、僕は構いませんから」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ん、じゃあ、適当に買っておくわ」
「はい、ごゆっくり〜」
日向君のキラキラとした瞳を背後に感じながら、私は店内を歩く。
お酒は・・・全部ビールでいっか。
つまみは・・・するめとスナック菓子でいっか。
あっと!夕食も兼ねてるから、スナックだけじゃやばいわよねえ。何か食事っぽいもの・・・。
レトルトの雑炊があるわね、コレが最後の占めで買っておこう。
あとは〜、餃子!これは欠かせないわね。にんにくの醤油づけも!
から揚げに、ソーセージに、肉じゃがに・・・、お金足りるかしら?
割り勘は・・・私が年上だから出来ないわね。
・・・まてよ?でも学年は一緒よ?だとすると、立場も同じ?割り勘オッケー?
んんんんん?
私は財布の心配をしながらも、割り勘にしようかどうしようか、考えていた。
割り勘だったら、まあまあ食事っぽいのは買えるわね。
でも、駄目なら、おにぎりで・・・。それも駄目よねぇ。困ったわ・・・。
その前に、もうこんなにかごに入ってる。もう買わなくても良いんじゃない?3人だけだし。
あ、でも、男の子だからもっと食べるかも。・・・男の子って、どれくらい食べるのかしら?
んんんんん?
私が考えながら立ち止まっていると、
「お待たせしました、葛城さん」
「はっ!・・・ああ、青葉君」
いつの間にか5時をまわって二人のバイト時間が終わっていたのだ、
普段着に着替えた青葉君に後ろから声をかけられた。
「どうしましたか?」
「ああ、おつまみ、何が良いかと思って。
・・・お菓子だけじゃ、お腹にたまらないだろうし、でも買いすぎても無駄になるし、
それに予算も・・・」
「ああ、大丈夫ですよ、適当に買っても。足りなくなったら後で買い足しするとか、余ったらお持ち帰りとか・・・」
「なるほど・・・」
「それに、お邪魔させてもらうから、部屋代として葛城さんはタダで、俺達で割り勘でも・・・」
「いえ!それは駄目よ。私、飲むから・・・」
「そうですか?なら3人で割り勘で」
「あ、それで良いの?」
「ええ、全部葛城さんに負担をかけるのは良くないと思いますし・・・」
「そう、ありがとう・・・」
良かった、割り勘ならお金は十分足りるわ・・・。
私は胸を撫で下ろした。
「お待たせしました〜」
「あ、日向君。気にしないで、私も買い物でいろいろと迷ってたから・・・」
「あ、そうなんですか?適当で良いのに、足りなかったら買いに行くし、余ったら皆で分ければ・・・」
「ぷっ」
「ん?何ですか?」
「・・・それと同じようなことを俺が言ったんだ。さっき」
「ああ、そうなんだ。参ったなあ・・・。それにお酒とおつまみ代は僕達で折半で・・・」
「ぷっ」
「・・・それも俺がさっき言った・・・」
「・・・なんだよもう・・・」
「これくらいで十分じゃないですか?お酒も・・・。俺チュウハイ買っても良いですかね?」
「あ、どうぞ・・・」
「僕もカクテル飲みたいな〜」
二人はそれぞれチュウハイとカクテルをかごに入れた。
ビール飲まないんだ?意外だわ・・・。
私は驚いたけれど、それを極力顔には出さず、買い物をレジに持って行った。
その場で割り勘をして会計を済ませ、店を出ると、私たちは3台の自転車に乗り込んだ。
「さて、それじゃあ、行きますか〜!」
「は〜い!」
「らじゃ〜!」
そして、3人で私のアパートへと漕ぎ出した。
乙
「はい、上がって上がって〜」
「お邪魔しマース(×2)」
部屋に帰ると、留守電のメッセージボタンが点滅していた。
・・・どうせ、加持君かリツコでしょうよ。
今メッセージを二人に聞かれると興ざめする可能性が十分あるのでそのまま放置。
窓を開けて扇風機をまわし、ちゃぶ台にお酒とつまみを出す。
小さなちゃぶ台なので、3人で座ると少し狭いくらいになった。
それぞれが好きなお酒を持ち、口を開ける。
「それじゃあ・・・、かんぱーい!」
「かんぱーい!(×2)」
3人で缶を軽く打ち合って、宴会は開始した。
「んぐんぐんぐ・・・・ぷはーーー!くーーー!やっぱこれよねえ!」
私はビール一缶を一気に飲み干す。
喉を苦い味が通った後の炭酸の爽快感。コレがたまらなくおいしい。
日向君と青葉君はというと、そんな私を少し驚いたように見てお酒を一口飲んだ後、
すぐにご飯ものを食べにかかった。
もくもくもく・・・黙々・・・
バイトでお腹が減っていたのだろう、ひたすら食べ続ける二人。
お酒なんてお茶と同じで喉を潤せばよいといった感じだ。
そんな二人の食いっぷりに私は、少年のあどけなさを感じた。
「沢山食べてね」
思わず寮母さんのような言葉をかけてしまう。
「はい。・・・すいませんお腹が空いているもんで・・・」
私に見られて恥ずかしかったのか、青葉君が頬を赤らめながらこちらを向く。
なんだか可愛いなあ。
「あはっ、いいのいいの〜、気にしないで。トークは後ですれば良いんだから」
「はい。じゃあ、遠慮なく・・・」
黙々・・・もくもくもく
私は2本目のビールをチビチビと飲みながら、二人の箸が休まるのを待った。
最初に箸を置いたのは日向君だった。
「ふー、食った食った。ごちそうさま〜。あれ?葛城さん、おつまみ食べないんですか?」
「ああ、いいのいいの〜。二人の食いっぷり見てたら満腹になっちゃって・・・」
「そうか、だからそんなに細いんですね。でも、胃壊しますよ?アルコールオンリーじゃ」
「ええ、そうね・・・。じゃあ・・・」
私はあぶりするめを口に運んだ。
「飲み会なんて久しぶりだなあ。今日はお誘いありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、急な誘いで来てくれてありがとう。普段はあまり飲まないの?」
「入学したては結構合コンとか声がかかってたんですけどね〜。3年になった今じゃめっきり・・・。
一緒に飲む相手がいなけりゃ、飲む気も起こりませんし・・・」
「そうなの。・・・青葉君と飲んだら?バイト帰りに」
「ああ、そんな時も何度かあったよねえ?」
「うん。・・・でも、何ていうか・・・お酒を飲んでも飲まなくても、たいして会話が変わらないから・・・」
「そうそう。飲んでも飲まなくても変わらないから飲むのは止めたんです。お酒高いし・・・」
「なるほどねえ〜。確かにいるわね、酔っても変わらない人って」
「葛城さんは、酔うと変わるんですか?」
「ん?・・・ふふ、さあねえ?ベロベロになった時はもう記憶無いから・・・」
「うはあ!ベロベロに酔わせてみたいなあ!」
「その発言、ちょっと犯罪チックだよ、日向君」
「そうかなあ・・・?」
それから私たちは普段テレビは何を見ているとか、今どんな勉強をしているとか、
ゲヒルンに入ったらどんな生活にるだろうか。といった会話をした。
「葛城さんは、もうゲヒルン行きを決められたんですよねえ?」
「ええ」
「何ですか?入職を決めた決定打は」
「ん、まあ、それはいろいろとあって・・・。・・・決定打はやっぱり・・・就職難から逃れられるから。かなぁ?」
私は酔ってはいたが、自分の体に盗聴器が埋め込まれているからとか、
加持君の命をかけての選択だったということはしっかりと話さなかった。