1 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:
加持とミサトの大学時代の話を書くスレです。
〜200レス位まで 二人の出会いと同棲までの話
〜900レス位まで 同棲生活の話
900レス〜 別れの話
パラレルワールドって事で、
同じエピソードをいくつのパターンで書いてもOK
(誰かに先に出会いのエピソードを書かれていても、違う出会いの仕方を書いて可)
ミサト視点、加持視点、第三者視点。どれでも可
同じ話を加持視点とミサト視点から書いても可
果たして、ちゃんと二人が別れるところまでスレが続くのか?!
別れられなかったとしたら、それは2chねらーの意思?あるいはエヴァの・・・。
2 :
ミサト:2005/12/07(水) 00:47:55 ID:ZpbnTBNx
セックスしまくりますた
妊娠しても降ろしまくりました
朝ギシアン
昼ギシアン
夜ギシアン
このスレは伸びない
7 :
1:2005/12/07(水) 13:30:48 ID:???
お、結構レスが付いてるね。いまだに>>1のままだったらどうしようかと思ったよ。
やっぱ、LAS,LRSに比べて人気ないのかな?加持とミサトは。
そのうち私も話がまとまったら書く予定です。
「加持君との出会い」
大学の入学式の帰り道、沢山のクラブやサークルが新入生を勧誘していた。
私の手にどんどんとチラシが渡される。
「今夜、新入生歓迎飲み会でーす。来てくださーい」
って呼びかけているマッチョな男の団体もいる。
私は上京してきたばかりで、都会は怖いって分かっているからそんな誘いには乗らない。
変な人に誘われないように化粧もしないし、露出の高い格好もしない。靴はスニーカーだ。
大学ですもん、クラブ活動なんて馬鹿みたい。
そう思って大学の校門を出ようとしたら、
「どうも〜、考古学サークルでーす。良かったら連絡ください。」
校門まで数歩のところでチラシを持ったむさい男に前に立ちはだかれた。
ヘルメットを被って、熱いのにつなぎを着て、無精ひげを生やしたその男は
笑顔で私の手をとって、チラシを握らせた。
「いりません。入る気ありませんから」
「これは、俺の個人的な連絡先です。ってか、考古学サークルはメンバー俺一人です。困ったらいつでも電話をどうぞ・・」
「は?絶対にしません」
「都会で一人は大変だよー。きっと困るから、ね。」
このままだと帰れそうにないので仕方なく、そのチラシをもらって家に帰った。
チラシには
加持リョウジ Tel.090−○○○ー××××
と書いてあった。ゴミ箱に即効で捨てた。
日曜日の朝、頭痛とのどの痛みと伴って目覚める。
どうやら風邪をひいたみたい。熱を測ると39.2度だった。
上京や入学式で疲れが溜まっていたからなあ・・・。
はあ、トイレに行くのも体がだるくて結構つらいな・・・。
うーん、どうしようかな?病院はやってないし、学校もやってないし、・・・あ、薬局いけば良いか。
でも、どこにあるんだ?薬局なんて。
引っ越してきたばかりで電話帳もない。地図も・・。困ったなあ。
あ、加持さん・・・。あの人の連絡先だけあるな。
ゴミ箱から加持さんの連絡先を拾い上げて、私は考えた。
しかし、この体で男の人を呼ぶのは危険すぎる。抵抗しても力が出ないし、助けも呼べないだろう。
そうだ、とりあえず、彼から薬局の位置だけ教えてもらえば良いじゃない。
私はナイス・アイデアとばかりに加持さんに電話した。
「もしもし、加持です。」
「すいません、昨日考古学サークルの勧誘を受けた葛城と申しますが」
「やあ、電話ありがとう。君が第一号だ」
「いえ、違うんです。入部じゃなく・・・。すいません、風邪をひいてしまって、薬局の場所を教えて欲しくて」
「あ、そうなの?家どこ?薬局まで送るよ」
そんな誘いにホイホイと乗らないわよ、馬鹿。
「いえ、いいんです。場所さえ分かれば一人で行けますから。」
「そうか・・・えっと、住んでるところに一番近い門は?」
「東門です」
「東門かー。薬局は西門か南門の近くにしかないなぁ。」
「あ、そこでいいです。」
「両方とも道をはさんで向かいにあるよ。気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
電話を切ってから私は着替え、財布を持ってアパートを後にした。
じりじりと照りつける太陽によりいっそう体力は蝕まれる。頭や手足は熱いのに、背筋はゾクゾクする。
私は肩で呼吸をしながらだるい体を大学に向かわせた。ここから東門まで徒歩10分位だ。
やっとの思い出東門までたどり着くと、そこには加持さんが壁によりかかって立っていた。
「君かい?葛城さんは」
どこから見ても病人な私は声を掛けられる。
「はい、すいません、突然の電話。ゴホッ、ゴホッ」
「大分、辛そうだなあ。薬局まで付き添うよ」
「いえ、結構です。これ以上迷惑を掛けられませんから」
本当は薬局に行った後、家まで送るってことになって、家に上がるつもりなんだわ、この人。そうはいくもんですか。
「そうかい?歩くのもやっとそうだけど」
「大丈夫です」
私は加持さんの差し伸べてくれた手を払いのけ、南門へ向かった。
だるい、寒い、呼吸がつらい。つらくて壁伝いに歩く。
と、そのとき、加持さんが私の左腕をもち、柔道の一本背負いのように私を背中に被いた。
「きゃあ!何するんですか?」
「やっぱり、付き添うよ。ズボンで良かったな〜。ミニスカだったら丸見えだしな」
加持さんにおんぶをされて私は暴れた。このままだとヤバイ!とって食われる。こんなモサイ男に、嫌だ。
「いいです、降ろしてください。歩けますから」
「別れた後で、倒れられたり死なれたほうが、よっぽど迷惑なんだよ」
加持さんに吐き捨てられるように言われた私は、暴れるのをやめた。
広い背中、お父さんみたいだ。そう思うと涙が出てきた。
道行く人の注目を集めている恥ずかしさもあって、私は加持さんの背中に顔をうずめた。
「おいおい、汗臭いぞ」
「恥ずかしくて顔が上げられないんです」
「はは、そうか・・・」
加持さんの汗の匂いに包まれながら私はお父さんを思い出していた。
「葛城さん、着いたよ。おーい、君!」
体を揺すられてハッと目を覚ますと、そこは薬局だった。
「気持ちよく眠っているところ悪いんだが、薬は自分で選ばないとな。アレルギーとか使えないものがあるし」
「ああ、すいません。ありがとうございました」
私は薬局のクーラーに当てられて体をガクガク震わせながら薬を購入した。
帰りもおんぶしてもらっちゃった。
「東門まででいいです」
「遠慮するなよ」
「いえ、本当に・・・」
「・・・君さあ、昔、男性関係で何かあった?」
「え?!別に何もありませんけど」
「なら良いんだが、入学式もそう思ったけど、わざと自分を地味に見せてない?
化粧しない、スカートはかない、ヒールはかない。それって、なにか嫌なことがあったからかなと、思ってね」
「いえ、特に思いつきません。勉強に集中したいから。恋愛なんて邪魔だから」
「なら、いいんだが」
本当はあった。高校時代にレイプされかけたことが。幸い、他の人が助けてくれたけど。
それ以来、男は皆信用できない。男に誘われる自分も嫌いだ。
「本当にここでいいの?」
「はい、ありがとうございました。後日、お礼しますので」
「いや、いいよ。元気になってくれることが一番のお礼さ。じゃあな!」
私たちは手を振って別れた。
往復1時間の道のりを加持さんは私を背負って歩いてくれたんだ。
迷惑掛けたなあ・・・。でも、男だもの。分からないわ。下心があったに違いない。
後日、お礼を渡して、それっきりよ。それでおしまい。
ああ、今月はちょっと厳しそう・・・。食費減らすか。
以上でーす。
糞
>>15 折角書いてくれた人にそれはないだろう。って、荒らしはスルーが良いか・・・
俺は頼んだ覚えは無いからね。
感じたままに感想を言うさ。
糞
この一言に尽きるね。
以上。
まあ、あれと比べるとね
>17逝って吉田(^д^)gmプギャー
っていうか、この話に出てくるキャラは誰よ?
名前がなかったら誰かわかんねーよ
大学に入学して一ヶ月ほどたった。
大学にも馴染み、友人もちらほらとでき始めた。
そんなある日、コトコに合コンに誘われる。
「お金も着ていく服もないから」
と断ると、
「お金はあっちもちだし、服は私貸すわ。帰りに寄って。どうしても人数いなくて困ってんのよー。お願い」
と頼み込まれ、一次会だけという事で渋々オッケーする。
コトコのアパートに行くと、玄関には花が飾られ、棚には化粧品や香水などが置いてあって、
私の部屋とあまりにも違って驚いた。
服を借りて着替える。淡いピンクのワンピースだ。
「こんなにいいものを借りてもいいの?」
「いいの。後で返してくれればね。こっちの方こそ頼んじゃって悪いわね」
二人で着替え終わっると、コトコはメイクを始めた。
「はい、どうぞ使って」
「え?いらないわよ」
「いいから。ミサトは自分を可愛く見せるやり方がわからないだけ。元は良いんだからね、さ、こっち来て」
コトコは慣れた作業で私にメイクをしてくれた。
そして、合コン会場へ。初めての経験で緊張する。
スカートなんて、高校卒業式以来だわ・・・。
会場に行くと、残りの人たちはもう着いていた。
そこで、私は意外な人を目にすることとなる。
か、加持さん・・・?!
キモヲタが一生懸命に考えた感動的な出会いなんでしょ。
平日の昼間に何やってんだか・・・。
>>21 すまん。この話はミサト目線ね。台詞にも名前付けるわ。今度から
>>22の続き
私が加持さんを見て固まっていることに周りの皆はすぐに気がついた。
コトコ「なに?ミサト、知り合い?」
男A「加持、知り合い?」
加持「うーん、こんな可愛いお嬢さんなら忘れるはずがないんだが。失礼、どこかでお会いしましたか?」
加持さんは全く気がついていない様子だった。すこしがっかり。
ミサト「あの、この前、風邪のときにお世話になりました。葛城です」
加持「ええ?!葛城さんって・・・。いやあ、気がつかなかったな。上手く化けたねえ」
その言葉はメイクが上手くいっていると褒めてくれているのか?それとも素顔は見れたもんじゃないと言っているのか?
コトコ「なんだ、知り合いだったの。二人とも、今日は盛り上がってねー」
私の心はお構いなしに乾杯が始まり、合コンはスタートした。
女A「好きな女性のタイプはなんですかー?」
男B「男のどんなしぐさに惹かれますかー?」
くだらない質問が飛び交う。合コンってつまらないなあ。話すことがないので酒が進むわ。
私にとっての初めての合コンはひたすらおいしいお酒を胃袋に流しこむことだった。
一次会が済んで、約束どおりに家路につく。
皆と別れて暫くすると、加持さんに風邪の時のお礼を渡していないことに気がついた。
いつ会っても渡せるようにバッグに入れておいたのに、あーあ、私ってうっかり者だわ。
引き返そうか・・・いや、また、構内であえるでしょう。
そう前向きになって歩いていると後ろから足音がする。振り返るとそこにはさっきの合コンの出席者だった。
男A「ミサトちゃん。今日の合コンどうだった?楽しかった?」
楽しいわけがないだろう。
ミサト「ええ、まあ・・・」
男は私のすぐ隣に足並みをそろえてきた。
男A「夜道は危ないから、送りにきたんだ。ミサトちゃん可愛いから」
酒臭い息を吐きながら男は話す。この人の名前なんて全く覚えていなかった。
男A「加持とずいぶん親しそうだったけど、どういう仲なの?やっぱ、やっちゃった?」
こいつは、何故唐突にこんなに下品な事を聞いてくるんだろうか?酔ってるから許されるとか思っていない?
ミサト「はあ?変なこと聞かないでよ。仲良くなんてないです」
男A「そうか〜、その言葉を聞いて安心しちゃったな。加持は手が早いから・・・」
そうか、やっぱり加持さんはナンパな性格なんだわ。あの時は危なかった。
男A「ねえ、今付き合ってる人いるの?」
ミサト「いません」
男A「好きな人は?」
ミサト「いません」
男A「そっかー、良かった。ねえ、ミサトちゃん」
ミサト「なんですか?・・・うっ・・・」
・・・キスされた。最悪だ。なんなのこいつ、好きな人がいないからって誰でも良いとでも思っているのか?
このままじゃヤバイ。逃げなきゃ。でも、どうやって?こんな人通りの少ない夜道で叫んだところで・・・。
私が焦っていると遠くから私を呼ぶ声がした
加持「葛城さーん。君の電話番号聞くの忘れてた。教えてくれる?」
加持さんは電話番号を聞くために一生懸命走って来たのか?ご苦労様。
しかし、加持さんは私と男が一緒だということを確認すると、
加持「あれ?おじゃまだった?退散するよ。すまなかった」
と言って、今来た道を帰ろうとする。
ちょっと、待ってよ、加持さん。あなたに去られると私はもう駄目なのよ。この男に変なことされちゃうんだから!
そう叫びたい気持ちを抑えながら、私は加持さんを追いかけて走り、思いっきりコケタ。
いったー、ヒールなんて履いたからだわ。うわ、膝から血が出てる。
しかし、怪我が功を奏したのか加持さんは
加持「うお、大丈夫?葛城さん?」
と言って戻って来てくれた。しかし、すぐさま男も駆けつけ
男A「うわ、こりゃ痛いだろ?家まで送っていくよ」
あんたそう言って私の家で何をする気だよ!嫌だ、こんなやつとは早く離れたい。
加持「そうだな、頼んだぞ」
ちょっと、加持さんまで同意しないでよ。もう、どうすればいいの?この男とは二人きりにはなりたくない!
でも、加持さんも危険だし・・・。ああもう!この男よりはマシだわ。
また家の近くでまけばいいのよ、風邪の時みたく。
加持さんはナンパだから深追いはしなさそうだし・・・。
私の頭はより安全性の高い方法を考えていた。そして、加持さんがその場を去ろうとしたその時
ミサト「この怪我は加持さんの責任よ!あんた、責任持って私を送りなさい!」
命令口調だったさ。もう、必死だったもの。空気が変わったのを感じたわ。
男A「いや、ミサトちゃん、僕が・・・」
ミサト「いいえ!怪我をさせた本人が責任を取るべきよ!そうじゃないと困るもの!」
私は加持さんの袖を捕まえて放さなかった。放すもんですか。放したら終わりだもの。
加持さんは驚いて私の目をじっと見ていた。ちょっとなみだ目だったのに気がついたみたいだった。
加持「分かった。俺の責任だ。ちゃんと手当てするよ。」
と言って私の肩を担いだ。
加持「今回おんぶは無理だなあ。スカートだし・・・。じゃあ、俺責任取るから、皆にそう言っておいてくれ」
男A「・・・・・ああ、わかった」
私たちは夜道をゆっくりと歩き出した。
24よ、そういう意味じゃないだろ。
名前だけ同じで別のキャラになってるってこと。
とりあえず「」の前に名前を書くのは止めとけ、ウザイだけだ。
暫く、無言のまま歩いた。
私は、自分の唇を奪われたことと、加持さんがやっぱりナンパな人だったことと、
これからどうやって加持さんをまこうかと言う事で考えをめぐらしていた。
加持「風邪、あれからすぐに治った?」
ミサト「はい、あの時はありがとうございました」
加持「そうか、それは良かった」
ミサト「・・・」
話題がない。何を話せば良いのか分からない。また沈黙が続く
加持「そんなきれいな格好、することあるんだな」
ミサト「これは、コトコが今回のために貸してくれたんです。私の服じゃありません」
加持「そうだったのか。化粧もかい?」
ミサト「はい」
加持「きれいになるもんだなあ。本当、気がつかなかったよ。時々こんな格好しても良いんじゃない?もてるぜ」
ミサト「今回だけです。もう、二度としません」
この格好のせいであの男にキスされたんだわ。もう二度とするもんか。
加持「もったいない・・・。可愛いのに。君、良いもの持ってるよ。磨けばいい女になる」
これがこの人のテクニックなのだろう。この話術で何人の女性を口説き落としたのだろうか。私はそうはいかない。
ミサト「誰にでも言ってますね。言い慣れてます」
加持「あは、ばれちゃったか」
やっぱり・・・。気を抜いちゃ駄目なんだわ。隙を見せたら駄目だ。
ま さ に 野 糞 !!
>>28 あ、そうなの?じゃあはずすわ。
キャラが違うのは、出会ったばかりでわざとです。これから「加持君」「葛城」って呼ぶようになるし、気心も知れてくる。
>>29続き
私は忘れていたものに気がついた。
「あ、そうだ。この前のお礼・・・。遅くなってすいませんでした」
「気持ちだけでいいのに」
「いえ、迷惑掛けましたから」
「ありがとう。大事にするよ」
加持さんはポケットにお礼をしまった。
「あの、加持さんって手が早いんですか?」
「ん?あいつそんなこと言ってた?まいったな・・・」
「上手そうですね。女性を口説くのが」
「まあ、そういうことが得意な性分でね。天性というか」
「そうですか・・・」
何故この人はこんな素直に自分の不利になることでも認めるんだろうか?
「楽しかった?合コン」
「もう二度といきません」
「そうか・・・」
話題を振られても話が続かない。加持さんが気を使ってくれているのは分かる。でも、私は気が抜けない。
そうこうしているうちに家の近くまで来てしまった。ここら辺でまかないとヤバイ。焦っていると
「葛城さん。人間はよい人と悪い人がいる。だが、完全な悪は稀にしかいない」
唐突に加持さんは語り始めた
「男を皆、悪だと思わないで欲しい。君の過去に何があったか知らないけどね」
何この人?自分は良い人だと言いたい訳?それに私の価値観を分かった風に・・・
「私から見たあなたは悪よ。ナンパで、女を口説くのが上手で、優しい顔して下心があって」
もう最後だから伝えたいことをはっきりと言ってやる。お礼も渡したことだし。
「送ってくれたことには感謝します。でも、私はあなたを信用していません。
今だって、住所を知られたら困ると思ってます。どうやって、あなたをまこうか考えています」
私の心を知って、加持さんはがっかりするだろうか?それとも後ちょっとだったのに悔しいのだろうか?
「はは、用心がいいなあ。まじめな女性もそそるねぇ」
加持さんは笑顔だった。何故?自分を侮辱されたのよ。なぜ笑っていられるの?
「君の気持ちは分かったよ。では、まかれるとするか・・・。じゃあな」
そう言って、加持さんは暗闇の中に去って行った。
何だか、拍子抜け。顔色一つ変えないんだもの。つかめない男・・・。
以上です。酷評が多いなあ。真摯に受け止めます。
呼び名だけでキャラを決めているようです。
どうしようもねぇな・・・。
これでおしまいだったらウケル
早く200レスまで言ってほしい俺がいる。
「昨日はありがとうね。助かったわ」
合コンの次の日、コトコにお礼を言われた。
「いいえ、楽しかったし、夕食代浮いたし」
私は社交辞令で返す。
「ねえ、昨日、加持君と一緒に帰ったんだって?その後どうなったの?」
「別に、家の近くで別れたけど・・・」
「なあにー?つまんない。二人で消えたからロマンスなんてあったのかと・・・」
「怪我させられたから責任を取って送ってもらっただけよ。誰があんな軟派野郎と・・・」
「そうなんだ〜。一番加持君がかっこよかったわよね、あの中じゃ。他はもう駄目駄目・・・二次会の後文句言いながら3人で帰ったわよ」
コトコはため息をついて首を横に振った。
「楽しそうに話してたじゃん」
「あれは場を盛り上げるためにねー。はあ、今回の合コンも空振りだわ」
こいつ、一体何回合コンをしているんだろう?大学に何しに来たわけ?
「もうね、二次会は男共豹変よ。”加持は女たらしだ”とか”加持の経験は3桁いってる”とか言い始めて。
・・・全く、入学してたった一ヶ月でそんな分かるわけないのにね。
加持君の評判を落として自分たちを持ち上げるために嘘ついてるのよ。ばっかみたい」
「ははは・・・」
コトコ、結構強気なところがあるんだ。確かにたった一ヶ月で人のことを分かるなんて無理だわ。
「ねえ、でもさ、あっちは先輩でしょ?何年もの付き合いなんじゃないの?」
「え?一年よ。私たちと同じ、入学してから一ヶ月の」
「ええ?!」
そうか、だから、コトコは加持さんを加持君と呼んでいたんだ。
ってことは、あの人新入生なのにあんなところでサークル勧誘なんてしていたわけ?おかしくない?
「加持さんは、留年でもしたの?」
「え?ぴかぴかの入学生だけど。ああ、先輩だと思って加持君のことを"さん"付けで呼んでたのね」
「ええ」
「加持君でいいんじゃない?学年一緒だし」
「そうね・・・」
なんだか腑に落ちないが、コトコの言葉に納得してしまう私。
一体加持君は何故入学式にあんなところで勧誘なんてしていたのだろう?
「あーあ、加持君かっこよかったな〜。どうやって知り合ったのよ?ミサト」
「入学式にサークル勧誘してた」
「は?新入生が入学式でサークル勧誘?人違いなんじゃない?」
「そうよね、人違いね。」
コトコに詮索されるのは嫌なのでその話題は適当にあわせて切り上げることにした。
それにしても、あの加持って男、秘密がありそう。
・・・ま、どうでもいいけどね、奴の秘密なんて
自 己 陶 酔 !!
今日も朝から暑い。
今日は午前中休講なんだけど、クーラーのない部屋にいるのは辛いので出る。
他の学科の講義の一番後ろに紛れ込んでそこで寝るすることにした。
あー、クーラー快適ぃ。正に文明の利器よね。
講義室の一番後ろで机に突っ伏して寝ていると、
「やあ、葛城じゃないか」
と声を掛けられた。でも、無視。だって、昨日は夜遅かったんだもん。
「あれ?人違いかな?おーいい、葛城さん・・・」
肩を揺すられる。んっもう、私は眠いのよ。眠らせて。
「よだれ、垂れてるぜ。」
はっ!?私としたことが・・・。
ガバッと上体を上げると、笑顔の加持君がそこにいた。
「ふっ、冗談だ」
こいつ・・・!
「王子様のキスより早く起きたな、多分」
「うるさいわね、ここには眠りに来たんだから邪魔しないでよ」
先生に見つからないようにひそひそと話す。
ちっ、ヨリにもよって加持君の学科の講義だったなんて、これからはちゃんと調べてから紛れ込まなきゃ。
「なんでここにいるのさ。」
「午前中休講なのよ。でも、どこも暑いでしょ。ここが一番天国なの」
「あれ?葛城さんちクーラー無いの?」
「当たり前でしょ?貧乏なんだからそんなこと言ってられないのよ。
ただでさえ東京の大学に一人暮らしでお金かかってるんだから」
「苦学生だなあ。見た目も、中身も」
「うるさいわね、あんたみたいに遊びに大学に来てるわけじゃないのよ」
話しているうちにみるみる目が覚めていく。ああ、これじゃ眠れないわ。
「あんた、サークル活動してるからてっきり上級生だと思ったら、タメじゃないのよ。騙してくれたわね」
「ああ、それで敬語からそんな口調になってたんだ。勝手に葛城が勘違いしてたんだろ?」
「呼び捨てにしないでよ」
「いいじゃん、タメだし」
「うっ・・・。はあ〜」
ああいえばこういう。一体何なのよこの男。言い合っても無駄だと気づき、私は肩を落とした。
「ねえ、講義聴く気が無いなら、出て行ってくれない?」
私たちのひとつ前に座っている人から注意が飛んだ。ひそひそ話しているつもりだったが、周囲に迷惑を掛けていたようだ。
「ああ、すまんな。・・・いくぞ、葛城」
「は?!」
私は加持君に腕をつかまれてそのまま講義室を出た。
「
「ちょっとぉ!あんたが来なければ私はクーラーのきいた講義室で今でも寝ていられたのよ!」
喫煙室で一服している加持君に私は怒鳴った。
「折角の休講、折角のクーラー私の至福の時だったのにぃ!」
私の怒りっぷりに動じもせず、加持君はタバコを吸っている。
「まあ怒るな、葛城、美人が台無しだぞ」
「これを怒らずにいられますかー!?全く・・・」
「怒らせついでにどうだ?一緒にどこかおいしいものでも。勿論俺のおごりで」
「はあ?!あんた、餌で私を釣ろうってぇーの?さすが女たらしの加持君ね」
「ひどいなあ、誰がそんなこと言ってたの?デートはしても、女を泣かしたことは一度も無いぜ。
そうだ、あそこ知ってる?大学近くの有名な甘味処。あそこの練乳しらたま金時カキ氷は絶品だぞ」
「知らないわよ、そんなところ」
「じゃあ、決まり。行こう!上手いぞ〜!高いけどな」
「ん?ちょっと加持君?!」
なにやら成立しない会話で彼の思い通りに甘味処に連れて行かれた。
その甘味処は学生の間で有名らしい。行ってみると店内には大学生らし人たちが沢山いた。
「すごい・・・みんな来てるんだ」
「有名だよ?ここ。シロップだけのカキ氷は安いし」
加持君は笑顔で私に話しかける。まるで勝利の笑みのように見える。
「こ、こんな事で私は買収されませんから。割り勘で食べましょう」
微力ながら抵抗してみる。
「いいって、俺が悪いんだし。こんな事で機嫌をとろうなんて思っちゃいないさ」
なんだ、そうかとホッとしたら笑みがこぼれてしまった。加持君はニヤニヤしている。丸め込まれているわよね、私・・・。
「ミサトじゃなーい!あ、加持君も一緒?ふーーーーーーん」
聞きなれた声がして声の方を向くとコトコがいた。
「や、この前は楽しい集まりをどうもありがとう」
挨拶する加持君。コトコは明らかに私たちのことを勘ぐっているようだ。
「加持君とは構内で偶然会って、休講で暇だからここに来てる。それだけよ。それだけ」
「ふーん、そうなの・・・」
そんな説明をしても疑いが晴れるわけが無い。
「あ、コトコも一緒にどう?」
「・・・お邪魔じゃない?」
「いえ、俺は全然構わないよ。混んでるし、少しでもテーブルを有効活用したほうがいい」
「そう?じゃあ、そうするわ」
そんな経緯で私たち3人は席に着いた。
「練乳白玉金時カキ氷を二つと・・・コトコちゃんは?」
「私もそれ一つ。食べたかったのよね、コレ」
「そんなにおいしいの?この練乳何たら・・って」
「うん。有名よ。ちょっと高いけど。練乳のトロ〜リと、白玉のモチモチと小豆のホクホクと、氷のシャクシャク。
そして、混ざり合ったときの甘さ!コレに出会えてよかったって思うわ」
「そ、・・・そう」
「いやあ、コトコちゃんは表現力が豊かだねえ。このカキ氷の魅力を上手く言い表している」
「ふふ、ありがとう。加持君」
二人の乗りについていけずに少し孤立感・・。
練乳〜カキ氷が来ても二人の会話は弾んでいた。
「加持君、ミサトって見るからに奥手って感じでしょ?男には無愛想だけど、女同士だと結構面白いのよ」
「へえ、それは意外だな。もっと葛城のことが知りたくなった」
「馬鹿なこと言わないでよ。教えることなんて何も無いわ」
「ね、無愛想」
「確かに」
気を使って私の話題が出てくるが、軽く交わしてカキ氷を味わう。確かにおいしいわ、コレ。
「お勘定、俺払っとくから」
「本当?ありがとう。加持君!」
「あ、割り勘で良いってば・・」
私の言葉は届かずに、加持君は3人分のカキ氷代を払って店を出る。
「あー、おいしかった。ご馳走様。加持君」
「女性の笑顔が見れるなら、こんなことお安い御用さ」
この二人、お似合いのカップルじゃないだろうか?
「あ、葛城、連絡先。この前聞き逃した」
「嫌よ」
「あ、私が教えたげる」
「やめてよ、コトコ。変な電話が来ちゃうから」
「困ったときしかかけないからさ〜」
「困ったときにかけられたほうが困ります」
「ふ、自分はかけてきたくせに」
「あああ、あれは入学したばかりで誰も知り合いがいなくて・・・」
「ふーん、そうなんだあ」
「違うのよ、コトコ。あの時は加持君しか頼る人がいなくて・・・」
「もしも連絡を取り合えなかったら。俺と葛城はもう、二度と会えないかもしれないぜ・・・」
「いいけど?」
「俺が良くない!折角偶然会えたんだからさ〜。お願い」
「仲いいのね、お二人さん。いいじゃない、電話番号くらい。住所聞くわけじゃないし。話すだけだし」
コトコが加持君側についた・・・。
「そうそう、話すだけだし。家に押しかけるわけじゃないし。クーラーの無い家になんて・・・」
「うわあ、それマジ?辛いわ〜」
「もう、教えれば良いんでしょ?その代わり、困ったときしかかけてこないでよ」
「へーへー」
私は加持君に電話番号のメモを渡した。
そして、午後の講義のためにコトコと二人で講義室へ向かった。
ここのところ、レポートを書くために生活が乱れていた。
朝8時に起きて、食パンのみを食べて学校へいく。
で、お昼は学食で適当に食べて、夕食はコンビニで適当に買って食べる。
深夜2時までレポートを書いて、夜食を食べて眠る。
かれこれ1週間こんな感じだった。
「期待してるぞ、葛城博士の娘さん」
なんて講師にはプレッシャーをかけられる始末。いやんなっちゃう。
でも、そんな生活とは今日の提出でおさらばだった。
私は無事に期限通りレポートを提出してルンルン気分で部屋に帰ってきた。
ここのところ缶詰状態だったため、かなり部屋の空気がよどんでいる。
これから思いっきり掃除よ!洗濯よ!食器洗いよ!
テンションをそのままに、勢いよく窓を開け、風を通す。
さあて、なにから取り掛かろうか?・・・・・・やっぱ、食器かな?一週間洗ってないし。ハハ・・・
コンビニのレトルト食品を盛って食していただけなのに、結構汚れた食器は溜まっていた。
まずは、ざっと水洗い〜っと・・・
ん? んん?! うは! うわあああああああああああああ!
私は悲鳴を上げ、シンクから飛びのいた。
ウネウネ ニョロニョロ モゾモゾ ピチピチ
何あの大群?!
呆然。思考停止。夢なの?これは
暫く腰を抜かして動けずにいた私のところに
プルルルルル
と電話が鳴った。
私はゆっくりと立ち上がり、シンクへの最大距離を保ちながら電話に向かい、受話器をとった。
「もしもし、ミサト?レポート終わったお祝いに夕食どこか行かない?」
「コトコぉ・・・・。」
地獄で仏とはこのことだ。
「変な虫がいる。・・・助けて」
「は?どんな虫?ゴキブリ?クモ?」
「変なの。見たことも無い。どうしよう〜〜〜!退治してよお!」
「そんなこといわれても私、虫嫌いだし、無理ー!」
「私、もう生きていけない。どこか遠くへ行くわ・・・」
「ちょっと、ミサト変なこと言わないでよ。あ、殺虫剤持ってないの?」
「ない」
「じゃあ、買っていくから待っててよね」
「うん。ありがとう」
電話はそこで終わった。
このときほど友情に感謝したことは無い。友達っていいなぁ・・・。
10分ほどして呼び出し音が鳴った。
出て行くと、コトコがいた。そして、、、
「よ!ここが葛城のうちかあ〜」
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「ごめ〜ん、ミサト。私たちだけじゃ心細いから、連れてきちゃった。エヘ」
「虫なら任せな」
「任せな。じゃなーいい。殺虫剤だけで十分よ。なんとかなるわ。だから、加持君は入ってこないで」
「冷たいなあ。葛城。」
「もう、そこにいてよ。まったく、女の子の部屋に簡単に入れると思ったら大間違いよ!」
私は加持君を外で待機させ、コトコと台所へ向かった。
「きゃああああああああああ!なにこれ!こんなの無理!殺虫剤かけた途端に暴れてこっち来たらどうするのよ!」
「大丈夫よ、きっと・・・・」
「じゃあ、ミサトがかけなさいよ。ほら」
「うん、行くわよ!」
しゅーーーーーーー。
モゾモゾモゾモゾ! ウネウネウネウネ! ピチピチピッチピッチ!
「きゃあああああああ!動きが早くなってルー!」
「スピードがアップーーーー!」
私たちは悲鳴を上げながら玄関へ飛び出した。
「よ、終わった?おつかれさん」
加持君はタバコを吸いながら私たちを笑顔で迎えた。
「お願いです。あの虫をどうにかしてください。加持さん、いえ、加持様〜〜!」
私たちは真っ青になりながら加持様にお願いをした。
「ご婦人の頼みとあらば、しょうがないな・・・」
加持君はニヒルに笑いながら私の家に入って行った。
「うお、何だよ、この匂い。殺虫剤だけじゃないだろ?うわ、洗濯物の山!紙も半端じゃなくちらかって・・・。
本当にここに住んでたのか?信じられん。クーラーないしな・・・」
加持君の減らず口も我慢して聞き流した。あの虫を退治してもらわなければ私の今後は無い。
「おお!こりゃすごいな〜。虫もそうだが、食生活が見え隠れするねえ〜。この台所」
加持君は虫を見てもそんなに驚かなかった。
「熱湯って、出るか?葛城。多分幼虫だから殺虫剤ではすぐ死なないな。熱湯かけよう」
私はガス栓を開け、湯沸かし器の温度を最高に回した。
「さて、ごめんな。こうしなきゃここの家主さんは生きていけないそうだからな・・・」
加持君はそう言って熱湯を虫たちにかけた。
「多分全部死んだけど・・・・集めて捨てられないよな?葛城。ビニールくれ」
私はうなずいてビニール袋を手渡す。
コトコは二度と虫を見たくないとの事で部屋の外で待機している。
「全く、この気温でクーラーも無いのに洗物放置したらどうなるか、分かるもんだけどねえ・・・。」
加持君は文句を言いながら虫たちをビニール越しに掴み、ゴミ袋へ入れた。
「はい、終わり。でも、このぶんだと、洗濯物とか、紙の下とかいてもおかしくないぜ。」
「ううう、いやだ・・・・」
「自分で蒔いた種だろ?自分で刈らなきゃな」
「ううう、耐えられない」
「・・・もし、また出たら俺が刈ってやろうか?」
「ホント?!」
「・・・その代わり、高くつくぜ」
なんだか加持君が怪しい目をしている。
「う、それも嫌」
「贅沢だな。まあ、この前もらったお礼、大分高そうだったから只にしとくか」
「・・・ありがとう」
加持君に一歩譲られてなんだか複雑な気分。
「そのかわり、今度は俺だけ呼べよ。コトコちゃんは無しだ。彼女に悪いがな」
私は加持君の近づいてくる顔をよけ、コトコの待つ玄関へと足早に向かった。
そして、二人にお礼を言い、レポート終了のお祝いをしにレストランへと向かった。
心の中でもう虫が出ないことを願いながら。
今日も暑い。講義が休講になったのでコトコたちに海に誘われるが、上手く(?)断った。
私は体の事情で水着が着れない。胸元や腹部を出すことが出来ないの。
そんなわけでお昼は一人で学食へ。
と、そこに金髪の冷たい雰囲気の美人に目を引かれる。
あの人確か有名な、赤木とかいう私と同じ博士の子供だったはず。
一人で昼食をとっている彼女に俄然興味が湧いたので隣に座ってみる。
「となり良い?」
「どうぞ・・・」
「あたし、葛城ミサトって言うの。あなたと同じ親が博士の・・・」
「葛城 ミサト?」
「そ、よろしくねん」
「フッ、よろしく」
お、微笑んだ!なかなか良い人そうじゃない。
「お互い大変よね。親が頭いいと。全く、子供も頭がいいとは限らないのにさ」
「そうね。他の生徒から遠巻きにされるし」
「遠巻きにされるのは、・・・その金髪のせいなんじゃ?」
「何ですって?」
「うわ!ごめん。好きでしてるんだから口出しすることじゃないわよね・・・」
「あはははは!私にそんなこと言ったの、あなたが初めて。そうよね。あはは」
あー、驚いた。怒るかと思ったわ・・。良かった。
そのご、私たちは自分のことや親のことを話し合ってあっというまにお昼は過ぎた。
また、連絡を取り合おうということになり、連絡先を交換してその日は別れた。
今日は土曜日。
レポートが終わってからはじめての週末。思いっきり休むぞ!と思ったが
いかんせん、洗濯物と部屋の掃除がまだだった・・・。
洗濯物は夏場だけあって(いつも夏だが)無事に日中で乾いたけど、
掃除は暑くて体力を使うので日が暮れてからはじめることにした。
夜は涼しくてはかどるはかどる・・・。
快適な環境で掃除を続ける。と、部屋に散らばった紙類を一箇所にまとめる作業の途中だった。
コロン・・・っと何かが落ちた。
ん?なにこ・・・・れええええええええええええええええ!
この前の虫のふた周りもあろうかというでかい幼虫だった。まるまると太っている。
一体何を食べてこんなに大きくなったのよもう!!
私は怒りを感じながらも部屋からゆっくりと出た。
電話を手にする。
ピ・ポ・パ・ポ・・・
「もしもし?」
「あ、リツコー?!ごめんね急に。あのさ、部屋に虫が出ちゃったのよねえ・・・」
「あら、良かったわね」
「良くないわよ。私一人じゃ退治できないんだから」
「虫がいない野菜は農薬がいっぱいで帰って危ないそうよ。住まいもそれと同じこと。
虫がいなくなってしまったら人間もおしまいね。だから、虫がいるということは喜ぶべきことなの」
「・・・」
話がかみ合っていないし、リツコに虫退治を頼もうという計画は駄目か・・・。
私は諦めて電話を切った。
はあ〜〜〜、やっぱり出たか・・・。どうしよう。
今度は俺だけ呼べよ。・・・か。
加持君に頼むしかない。でも、ちょっと危険な様子がするなあ。コトコも無理だし・・・。
やっぱ、一匹だけだし自分で何とかしよう・・・。
決意をして部屋に戻る。と・・・。ん?あれ?奴はどこへ行った?
さっきまでいた場所に虫は見当たらなかった。ってことは・・・この部屋のどこかに隠れているって事?!
はあああああ。こんなところで寝る勇気なんて無い。
仕方が無い、加持君に探してもらおう。(一応護身様にナイフをテーブルに出しとくか)
私は加持君の電話番号を押した。
「へーいい」
「加持君。あのね・・・」
「虫が出たんだろ?」
「・・・うん」
「だろうと思ったよ。すぐ行く。」
短い会話の後、電話はあっちから切れた。
数分後、車の音がして、加持君が到着。部屋に通す。
「うはー、この前から全然片付いて無いじゃん。今まで何してたんだよ?」
「いろいろあってやっと今日取り掛かったのよ・・・。」
言われることは予想していた。でも、言われるとやっぱ、気分悪いわ。
「で、虫さんは?」
「行方不明」
「は?!探すことから始めるわけ?この散乱した部屋を?はあ、葛城いいい・・・」
あ、呆れられてる私って・・・。
「ごめん・・・。探しているうちに踏み潰したら私、生きていけないからさ・・・」
「うーん、今日は遅いし、明日の朝から初めよう。」
時計は午後拾壱時をまわっている。
「うう、悪いけど、今お願い。この部屋で寝る勇気無いもの・・・」
「そんなこといわれてもなあ・・・。」
「寝返りして虫つぶしたらと思うと・・・。」
そうよね、無理言っちゃってるわよね、私・・・。
「今まで平気だったんだろ?」
「見なかったから平気だったのよ。いたと分かれば話は別」
「うーん、どうせなら部屋ごと燻製剤で虫殺そうかと思ってたんだけど・・・。あ、俺の部屋来る?」
「は?!」
なんだとー!?
「必要なもの持って、俺の部屋に泊まればいい。で、朝から掃除して燻製剤炊いて・・・一日がかりだろうなあ」
なんだかニヤニヤとしながら加持君は話している。
「嫌よ!」
「じゃあ、明日、出直しまーす(ニヤリ)」
なんて意地悪な笑い顔だ!くそう。
「分かったわよ。そのかわり!私に指一本触れないで!」
「分かってるよ。葛城は男が嫌いなこと」
ちょっと御幣があるけど、まあ極端に思われたって別にいいわ。
「俺、舌で待ってるから」
ニンマリしながら加持君は部屋を出て行った。
私は着替えと、洗面用具と、ナイフを持って加持君の車に乗った。
>>61 舌→下です。
大学をはさんで全く反対方向に加持君の住処はあった。
車を使うと大学から10分ほどだけど、歩くと結構かかりそうだ。
「着いたぜ。ここの304号室だ。俺、車入れてくるから。入ってて」
加持君は私を下ろした後、部屋の鍵を渡した。
こんな無用心でいいのかしら?いくら学科まで知っているとはいえ、
数回しかあったことの無い私に鍵を渡すなんて・・・。
そんなのとこエレベーターで考え、加持君の部屋を開け、中に入る。
はあ〜、涼しい!幸せ。
クーラーの冷気が私を包んでくれた。
明かりをつけるとクリーム色の壁が優しく私を迎える。
玄関から部屋の中が見える。きれいに整頓された部屋。家具やインテリアは黒で統一されている。
広そうな部屋。うちとは大違いだ。
私と違って奨学金なんてもらってないだろうな・・・。
少し悲しくなる。肩を落としていると
「あがってて良かったのに」
加持君が帰ってきた。
「そんな、家主がいないのに上がるなんて・・・」
「ふ、案外遠慮があるんだな・・」
なによ、その言い方。私に遠慮が無かったときなんてあった?
「ま、あがって」
「はい、お邪魔します・・・」
部屋に通される。おお!広いし、2部屋もある。
「すごい・・・」
「学生にしちゃ贅沢だよな。あ、その点、生活は贅沢しちゃいないよ?毎日自炊だ」
「じ、自炊・・・」
ヤバイ。私はここにきてから自炊なんてこと全く・・・。
「もう、こんな時間か。寝るか」
「うん・・・。でも、いいのかな?泊まらせてもらって、その上、明日も・・・」
「?いいよ別に。楽しいから」
「楽しい?」
「ああ、虫を殺して欲しいなんて言われたこと無かったし、明日は
あの汚い・・・もとい、古いアパートから何が出てくるか楽しみだ。ふふ」
「あ、っそう・・・・」
まるで少年が探検をする前のように加持君は笑った。引け目を感じて私って、馬鹿みたい。
そのご、畳の部屋に二人で布団を敷いて寝た。思いっきり距離を置いて。
「葛城ぃ、そっち行ってもいい?」
「殺されたいの?」
「冗談だよ」
「分かってるわよ。冗談じゃなかったら殺してるわ」
「葛城は怖いねぇ。でも、それが魅力だ。まじめさと強さ。・・・俺には無いものだな」
「そんなこといっても何もでないわよ」
「分かってますよ」
電気を消しても暫く会話が続いた。
「なあ、葛城」
「ん?なに」
「君って、セカンドインパクトの時に南極にいたんだって?」
「ああ、そうよ。誰から聞いたの?そんなこと」
「誰からだったかなあ?人づてでね・・・」
「そう。ま、別に隠すことでもないからいいけどね」
「あの時何を見た?葛城」
「何って?」
「隕石の衝突が原因じゃないだろ?セカンドインパクトは」
加持君の声が鋭くとがっていくのを私は感じていた。
「さあ、覚えてないわ。あの時父をなくしたショックで記憶が混乱しているの。」
「そうか、・・・気の毒だったな。親父さん」
「もう過去のことよ。振り返らなくてもいいわ」
「もしも、真実を知っているのなら話して欲しい。あれは隕石の衝突なんかじゃないからな」
加持君は私から聞きだしてどうするつもりだろうか?
あの、羽の生えた巨人のことを聞いたらどうするつもりなのだろうか?
「あなたは、それを聞きたくて私に・・・?」
「いや、・・・体目当てさ」
「ふ、ごまかさないで。もう寝ましょう」
「ああ、そうだな・・・・おやすみ」
「おやすみなさい」
それから長い間。私たちは会話をしなかった。
もう、加持君は寝たのだろう。そう思い、ウトウト眠り始めたその時だった。
「葛城」
突然呼ばれて体をビクッとしてしまった。
「明日の朝ごはん作ってくれない?あ、ご飯はタイマーで勝手に炊けるから」
唐突に加持君はそう言った。
「え?いいけど・・・」
本当は良くない。ご飯ってどうやって作ればいいの?でも、泊めてもらっているから断れない。
「味噌汁だけでいいから」
なんだ、お味噌汁だけね。良かった。
「お安い御用よ」
「よろしく」
「うん」
それを最後に私たちは眠りについた。
そして、朝が来て、私はお味噌汁を作りに冷蔵庫を開けた。
豊富な食料が詰まっていて感動した。何を使ってもいいらしい。
わかめと豆腐と大根のお味噌汁でいっか。
まだ眠っている加持君をそのままに料理に取り掛かる。
朝ご飯が出来た。加持君を起こしにいく。
「加持くーん。ご飯できたよ。ねえってば」
呼びかけてもなかなか起きない。
「加持君!冷めちゃうんだけど!」
体を揺すりにかかる。
「う〜ん」
お、もう少しで起きそう。
「加持君ってば!」
ガバッ!といきなり起きる加持君。そして、私を抱きしめそのまま布団へ倒す。
「きゃああ!なにするの!」
「葛城ぃ、・・・やろうぜ」
くそ、油断した。抵抗するけど力では敵わない。
「いやだ、やめて!やめてよ!いやあああああああ!」
もう泣きが入る。
怖い!コレだから男は嫌だ。力で女をねじ伏せようとするんだ!最低だ!
恐ろしい記憶がフラッシュバックする。
「ふ、冗談だ。ごめんな」
加持君はそう言ってあっさりと私から手を放し、笑った。
私は笑えなかった。ホッとしたら涙が出てくる。
「あなたを、一瞬でも信じた私が馬鹿だった・・・」
布団に顔をうずめて泣いた。
「ごめん、葛城。驚かそうと思っただけなんだ・・・」
「こんな悪質なやり方ですること無いじゃない。もうあなたを信じない・・・」
こんな男に泣かされるのが悔しくて、どんどん涙が出てきた。
「ごめん」
加持君は私を抱きしめた。でも、それは私にとって逆効果だ。体がこわばる。
「や・・・!やめて」
体を放そうとする。でも逃れられなかった。
「落ち着け。・・・俺が悪かったよ。ごめん。はあ・・・これでまた葛城に嫌われたな。近づけたと思ったのに」
身から出たさびだ。そんなこと私の知ったことじゃない。はっきり言って今抱きしめられていることも迷惑だ。
でも、加持君は抱きしめ続けた。私の頭を撫でながら。
「朝ごはん食うか・・・」
暫くじっとしていたが、加持君からキッチンへ立つ。
「味噌汁ありがとう」
加持君はそう言って納豆、のり、シャケの瓶詰めを食卓に並べる。
「いただきまーす」
私たちの朝食が始まった。お味噌汁を一口飲む
「う・・・まずい。なんで?」
「・・・葛城、何使った?」
「大根、わかめ、豆腐、味噌だけど」
「・・・何だし?」
「だし?そんなの使ってないわよ」
「・・・味噌汁作ったこと無かったんだな。頼んだ俺が馬鹿だった」
「う・・・」
結局、お味噌汁はだしを加えて作り直しになった。
「順番は逆だけど、まあ、飲める味になったな」
「ごめんね」
「いいよ。確認しなかった俺が悪かったんだから」
朝食を済ませ、私たちは葛城家へ戻った。
6畳間に散乱しているプリントや本を分類して片付けていく。
「すごいな。女の部屋とは思えない」
「分かってるわよ、そんなこと。自分でもヤバイレベルだったことくらい」
会話をしながら比較的楽しく掃除は進んでいた。が・・・、
私があるプリントを持ち上げたときだった。あの虫が下から出てきたのだ。
「きゃあ!加持君!いた!この虫よ!」
「ん?おお!コレはでかい。・・・よく育ったなあ、お前・・・」
加持君は優しく虫に話しかけ、ちりとりで虫をすくった。
「ここよりも、外で強く生きな」
加持君は窓から虫を投げた。虫はすぐそばの茂みに落ちて行った。
「あまり殺さないほうがいいだろ?あの虫のためにも、自分たちの気持ちの上でも。
ま、これから燻製しちゃうんだけどな。ハハ」
加持君の優しさが少し見えた気がした。
2人がかりで午前中に掃除が終わった。
「よーし、始めるぞ」
シュボ
燻製剤に火をつけ、私たちは部屋の外へ。
「何時間?終わるまで」
「えっと、2時間で消えるって書いてある」
「よし、その間デートだ!久しぶりだな。俺、はりきっちゃうぞ!」
「は?!」
「海に行って、ご飯食べて、買い物だな。ほんと、久しぶりだな。ご婦人とデートなんて」
「何言ってんのよ。私、一人で時間つぶすわ」
「昨日泊まらせてあげたのは誰でしたっけ?」
「う・・・。ありがとうございました」
「掃除を手伝って、虫を追い出してあげたのは誰でしたっけ?」
「・・・・ありがとうございました」
「感謝してるなら、今日一日付き合ってくれてもいいだろ?今日だけだから。な?」
加持君の顔が近づく、ちょっと、近すぎ。
「分かったわよ、もう。今日だけだからね」
「よし、決まり〜。さ、乗った乗った」
私は加持君の車に乗せられた。
最初に連れて行かれたのはブティックだった。
「これなんか似合うと思うぜ。あ、でも、色はブルーがいいかな?」
「あの、加持君・・・」
「なんだ?」
「なんで服選んでるの?私、は全く買う気無いんですけど」
「俺に買う気が存分にあるんですけど」
「・・・お金そんなに持ってないんですけど」
「俺、結構、持って来たんですけど」
「プッ」
やり取りが面白くて思わず笑ってしまった。
「これ、試着してみなよ」
「うん・・・」
試着室へ向かう。
着替えの途中、私は胸の傷が見えないかを注意深く確かめた。
よし、この服は大丈夫そう。カーテンを開ける
「うん。似合ってるよ。コレにしよう」
「うん・・」
なんだか照れる。男の人に服選んでもらうのは生まれて初めてだ。
「このまま来ていきますので・・」
「かしこまりました」
店から出てくるなり
「よし、次は化粧だな。カウンセリング行けば只で出来るぞ」
と言われ、私はカウンセリングを受けることになった。
賞味40分かかると言われ。
「じゃ、俺ちょっと外をぶらついてるから」
加持君は外へ行ってしまった。
40分が経って、私の顔はきれいに仕上がった。うーん、やっぱり、化粧したほうが良いのかしら?
「ただいま〜」
気の抜けた声で加持君が帰ってくる。
「お、いいね。きれいになった。このルージュいくらですか?」
「ちょっと、加持君・・・」
「きれいにしてもらったんだから、買わなきゃ失礼だろ?時々つけて学校いきなよ」
加持君はルージュを買って、そのまま私に渡した。
「なんで、こんなことしてくれるの?」
「ん?体目当てって昨日言わなかった?」
「・・・・・・・」
「冗談冗談。ただの気まぐれさ」
嘘なのか本当なのか分からないギリギリの発言に私は混乱する。
加持君って不思議な人だなあ。
それから、海へ行って、食事をして、楽しい時間を過ごし、私たちは帰ってきた。
窓を開けて換気をする。幸い、虫の死骸が床に転がっているなんて事態は無かった。
「本当にこの二日間ありがとう。なんと御礼をしたらいいか・・・」
「いや、こっちこそ、葛城といて楽しかったよ。味噌汁はまずかったけどな」
「う・・・・ごめん」
「自炊したことないだろ?結婚できないぜ、そんなだと」
「う・・・余計なお世話よ」
「結婚以前にコンビニ無くなったら生きていけないだろ?もっと生活力をつけたほうがいい」
「分かったわよ、もう」
別れ際に説教なんて聞きたくない。私はそっぽを向いた。
「なあ、葛城・・・・。俺たち付き合わない?」
「・・・嫌よ」
「そう言うだろうと思った。予想しててもいざ言われると傷つくな・・・」
「私と付き合いたいから、この二日間優しくしてくれたわけ?」
「・・・正直言うと、それもあるな」
「私からセカンドインパクトのことを聞きだしたいから付き合うわけ?」
「それはない」
「嘘・・・」
「嘘じゃないさ。それに、聞かれても言いたくなければ言わなければいい。そんな頭は持ってるだろ?」
「ええ、持ってるわ。だから私は誰にも言わなかった。そして、あなたに言う気も無いわ。これからも誰にも言わない」
「葛城は強いな。一人でも生きて行ける」
「ええ、生きていけるわ。虫さえいなければね・・・」
「また虫が出ることを願うよ」
「私は出ないことを願うわ」
「じゃあ、またな」
「ええ、ありがとう。感謝してる」
加持君の足が玄関へ向かう。
乙です
がんばって。
乙。
何か色々言われてたけど、これはこれで新鮮でいいと思うよ?
がんばってみて。
イヤだと思ったヤツは見なきゃ済む話だろ。
>>76,77 ありがとう。この話のあまりの酷さにもう、誰も呼んでないと思ったよ・・・。
>>75 の続き
「気をつけてね」
玄関開けたそのときだった。
加持君が私の腕を引っ張る。そして、私は加持君の胸に飛び込む形となって・・・
「ごめん。こんなことしたらまた葛城に距離を置かれることは分かっている。でも、」
「よく分かってるんじゃない」
「ああ、もっと自分を抑えなきゃだな・・・」
すぐに加持君は私を解放し、こちらを振り返らずに去っていた。
加持君は悪い人じゃない。
だけど・・・まだ、信用できない。
もしも、彼に心や体を開いてすぐに捨てられたら・・・。
臆病な私に少し嫌気がした。
コトコに最近彼氏が出来た。そのせいか、朝の遅刻や、出席を取らない講義の欠席が目立つ。
お昼もどこかへ行くことが多く、私はそのたびに一人で学食へ・・・。
人って恋人が出来ると変わるんだなあと実感。
今日も一人で学食へ。すると、リツコに偶然出会ったのでそのまま一緒に食事。
「この前の虫、どうなったの?」
うわ、食事時に思い出させないでよ。
「ああ、外に逃がしたわ」
「あら、ずいぶん優しいわね。電話の様子では殺してしまったのかと思った」
「ん、まあ、助っ人が来てくれてね。その人にお任せしたわ」
「そう、良かったわね。優しい人で」
そんな会話を皮切りに、リツコといろいろなことを話す。
彼女は将来お母さんの仕事を継ぐ予定らしい。志が決まっていてうらやましいな。
会話がはんずんでいるときに一人の女性が私たちの正面に座った。
「ねえ、葛城ミサトってどちら?」
「私だけど・・・」
「ふーん」
まじまじと見つめられる。ふわふわしたワンピースが似合うお嬢様系の人で、化粧もばっちりしている。
ちょっと強気そうな顔。私はちょっと友達になりたくないかも・・・。
「・・・よかったぁ、こんな地味な人で・・・」
何こいつ。初対面でいきなり、失礼な奴だ。むっとした顔になる。
「あなた、いきなり来て、自分を名乗りもせず、失礼じゃない?」
リツコが私の思っていることを代弁してくれた。
「ああ、私、加持リョウジの恋人よ」
な、なにぃ!あの女たらし!私とこの女に二股かけようとしてたのか!
「リョウジが気になってる人がいるって言うもんだから名前を聞き出して探していたわけ。
でも良かったこんな人で。安心しちゃった」
「・・・・・」
絶句。呆れてなにもいえないわ。この女もそうだけど加持君も・・・。
「人の彼氏に腕時計なんて勝手に送らないでよね!気に入って毎日つけちゃって、困ってるの。
あーあ、良い迷惑よ。本当。」
「ふっ、良い迷惑なのはこっちよ・・・」
リツコが全く動じずに話しはじめる。
「人が楽しい食事をしているのに邪魔してくれちゃって。TPOって言葉しってるかしら?お嬢ちゃん」
「知ってるわよ!そんなことくらい」
「ちょっとぉ、リツコ・・・・」
うわぁ、目立っちゃってるよ、私たち・・・・。
「加持って男がどういう人か知らないけど。私が男なら、こんな場所もわきまえずに喧嘩打ってくる女より
ミサトを選ぶわね」
リツコはコーヒーを一口のみ、余裕の表情。
「なんですって!?」
彼女はヒートアップ。
「あなた、必死に彼にしがみついてるみたいだけど、それじゃ逃げられるのも時間の問題ね。
ちっとも魅力的じゃないもの。あなた」
「さっき会ったばかりのあんたに何が分かるのよ!」
「あなたこそ、会ったばかりなのにミサとの何が分かるのかしら?」
「う・・・」
勝敗は目に見えていた。リツコは余裕だった。冷静だった。冷淡だった。
「とにかく、もうリョウジとは会わないでよね!この女狐」
捨て台詞を吐きながら彼女は去って行った。
「何、今の?」「さあ?」「コワー」
周囲は多少ざわついていたが、すぐにいつもの楽しい食堂に戻って行った。
「リツコォ・・・ありがと」
「どういたしまして。でも、あなたのためにしたことじゃないわよ。自分の気分が害されたから遊んでみただけ。
面白いように吠えたわね、彼女。フフッ」
リツコは冷淡に笑みを浮かべた。
リツコを敵に回すと怖い相手だとその時気がついた。
リっちゃんカッコヨサス(´∀`)
俺結構好きだよ、これ。
諸手挙げて褒めるわけじゃないけど、色々想像できて楽しい。
作者乙。
その勢いでガンガン投下してくれ!暇なんで(藁
昼休みから帰るとコトコが来ていた。
「ハロー、ミサト」
「ハローじゃ無いわよ、彼氏にどれだけ時間を費やしてるんだか・・・」
「ごめーん、付き合い始めが一番楽しいって言うじゃない。燃えるし・・・」
「あっそ」
「そういうミサトは加持君と進展あった?」
「は?無いわよあんな奴となんて。女たらしだし」
「えー?加持君って結構ミサトに一途って感じだけどなあ」
「まさか!さっきも学食で彼女に絡まれたし」
「彼女って、加持君の?」
「そうよ」
「それは無いと思うけど・・・」
「なんで?」
「だって、加持君、合コンのとき只の人数あわせで来ただけだったもの。
だから、一次会でミサトと帰っちゃったし、女の子の誰の連絡先も聞かなかったし・・・。
そのわりに加持君あの容姿でしょ?合コンで一番人気だったの。
それで、他の男の子が嫉妬して、”加持は女たらし”とか嘘言っちゃってさ・・・」
「そうだったの・・・。あ、でも、コトコと連絡取り合ってたじゃない。虫のとき」
「ああ、連絡先は教えてくれたのよ。聞きには来なかったけど」
「ふうん・・」
「だから、彼、ああ見えてかなり硬派なのよ。そんな彼が二股ねえ・・・。
確認したら?加持君に直接」
「は?いいわよ、そんな・・・」
「でも、そのまま真実を知らないまま誤解されてるんじゃ、加持君可愛そうだと思う」
「・・・・・うん」
「ま、電話してみなさいよ!知ってる?連絡先」
「ええ」
「決まり!報告待ってるわ」
話が終わる丁度との時、講師が教室に入ってきた
部屋に帰ってすぐ、加持君に電話をした。
プルルルル ガチャ
「もしもし?」
「葛城です」
「やあ、どうした?」
「今日、あなたの彼女だと言う人から声をかけられたわ」
「え?だ、誰?」
「名前は言わなかった。でも、時計のことを言ってた」
「時計ねえ・・・・。あ、レイコちゃんかな?」
「誰でもいいけど、どういうこと?彼女がいたのに私に声をかけたわけ?」
「身に覚えが無いことだけど。葛城は気になるの?俺に恋人がいるかどうか」
「茶化さないで。ずいぶん余裕なのね」
「余裕じゃないさ。ただ、振られたのに、葛城の気に止まっていることが嬉しいんでね」
「・・・真実が知りたいだけよ。振ったことには変わりないわ」
「そうか・・・。多分、レイコちゃんにこの前、この腕時計どこで買ったのかと聞かれて、
貰い物だと答えたら誰からか知りたがるから、君の学科と名前を言った。それが元だと思う」
「そう、分かったわ」
「信用して無いだろ?」
「ええ」
「なんで?男だから?」
「ええ、そうよ、あなたが男だから」
「差別だな。何があったんだ?君の過去に」
「そんなことどうでもいいじゃない」
「信用しないなら、本人を交えて話すしかないだろう。疑われたまま、さようならは、こっちが嫌だからな」
「・・・あのコを交えて話すのか・・・」
「気が進まない?」
「そうね、噛み付かれそう・・・」
「フッ、臆病だな。案外」
「いいわ、本人を交えて話しましょう」
「明日の6時に東門で」
「オッケー。じゃあね」
「ああ・・・」
ガチャ
次の日の夕方、東門へ行くと加持君とあの女はもう来ていた。
「待たせたわね」
「いや、こっちが早く着すぎたのさ」
一応礼をする。彼女は私の姿を見るなり、案の定(?)噛み付いてきた。
「ちょっと、なんであなたがここにいるわけ?リョウジ、待ち合わせってこの人?」
「そうさ」
「あなた、この前リョウジに二度と会わないでって言いましたよね?なんで待ち合わせしてるんですか?」
「まあまあ、レイコちゃん。俺たちは真実を知りたいだけだからさ・・・」
「真実?・・・二人で図ったわね!!」
「図った。って・・・・」
二の句が告げない。
「どうしてあんなことしたのさ?レイコちゃん。君も傷つくのに・・・」
「・・・・・・・・・・・・リョウジが好きになる女ってどんな人か知りたくて。
それで、どんな美人かと思って、探し当てたら、・・・私がこんな地味な人に負けたなんて」
「レイコちゃん・・・・」
「私の方が何倍も可愛いでしょ?毎日化粧して、服装に気を使って、笑顔も絶やさないし、
なのに、こんなすっぴんでジーパンの人に負けるなんて・・・。」
彼女の顔がどんどん暗くなっていく。哀れにも思える。
「すまんな、俺、女の趣味悪いんだわ。自分でもなんで好きか分からないときがある。
冷たくされても、そっぽ向かれても、好きなんだ。変だろ?」
「・・・・・・・・私、帰る。」
とぼとぼと歩き出す彼女。
「ありがとう、レイコちゃん」
加持君はそう言葉をかけた。
「な?俺のほうが正しかっただろ?」
彼女が見えなくなってから、加持君は笑顔で言った。
「・・・・・・・・ごめんね」
「いいよ。別に。疑いが晴れて良かった」
「うん」
二人で行き先も告げず、歩き出す。どこへ行くのかな?加持君に任せよう。
暫く歩いてから加持君は口を開いた。
「葛城、教えてくれない?君が男性嫌いになった過去のこと」
「・・・・・・・・・言いたくない」
「・・・・・・・そうか」
また沈黙。歩き続ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・高校時代にね」
「・・・・・・・・・うん」
「好きだった人がいて、告白したの」
「うん」
「そしたら、返事を昼休みに水泳部の部室でするって言われてね。言われたとおりに言ったわ」
「うん」
「彼からの返事を聞くことなく、すぐに押し倒されて、キスされて・・・・。スカートの中に手を入れられて」
「・・・酷いな」
「でも、午後の水泳の準備をしに来ていた先生に気づかれて部室を開けられて、そこで終わり」
「そうか、良かった」
「でも、その時の彼の言い分は ”葛城さんが誘ったんです” だった。
それから暫くの間、彼は ”葛城が誘ってきたのに抵抗して騒ぐから先生に見つかった” って、
クラスメイトに言って、さも真実のようにそれが広まって・・・」
「・・・辛かったな・・・」
「男の人なんて、信じられない。平気で嘘をつく。やりたいだけの動物だわ」
「俺も?」
「・・・・・・完全には信じてない」
「そうか、でも、教えてくれてありがとう。言うのに勇気がいったろ?」
「ええ。なんで言いたくなったのかしら、不思議ね。フフ」
自分でも滑稽に思える。どうして言わないと決心したことを加持君に言ってしまったのか。
信用してるから? 分からないわ。
「私と付き合いたいのなら。キスも、抱擁も、セックスもしないで。加持君にはそれが出来る?」
「・・・・・・・・多分、出来ないな」
「正直者ね」
「こんなことに嘘ついてどうする?シングルならまだしも、付き合っていて、一緒に過ごして
ずっと手を出さないなんて無理だ。努力してもそのうち、耐えられなくなって、襲うか別れるかだな」
「そう・・・」
「・・・付き合わないほうがいいのかもな、俺たちは」
「そうね」
「あの事件が無かったら、付き合ってた?」
「・・・・分からないわ」
「そうか・・・・」
また暫く沈黙が続く。どうやら、遠回りをして私のアパートに向かっている様だ。
「傷つくのが怖いの。臆病者なのよ。いい年して、心や体を開くのが怖い。裏切られるのが。怖い」
「俺は裏切る気は無いよ。ただ、結果として裏切ることはあるかもしれないな」
「それも、嫌」
「贅沢だな。でも、それも魅力だ。完璧を求めるのは、いいことだ」
「とにかく、今は付き合えないわ」
「分かったよ」
「じゃあね」
「じゃあ」
丁度アパートに着き、私たちは別れた。
「話しすぎたわね。
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部屋に入ってから、私の心はゆれ動いていた。
私、加持君に惹かれている。むしろ、好き。でも、・・・・・・彼は私を傷つけない?そんな保証は無い。
臆病者!・・・・・臆病者よ。いいわ、一生独身で。 ホントにいいの?・・・・・・・いいわ。
加持君。あなたに近づきたいけど、怖い。
キスしてみたい。抱きしめて欲しい。それ以上も・・・・・・・でも、怖い。
そうして、考えをめぐらしているうちにいつの間にか眠りに落ちてしまった。
今日もコトコは彼氏とお昼を楽しんでいる。
私は一人で学食へ・・・・・・・・・いたいた、リツコ。
「隣、いい?」
「ええ、どうぞ。・・・・・・あの後、加持とかいう男とどうなったの?」
ギクリ
「べつにぃ。何も無いわよ」
「そう、あのコ彼女なんかじゃないでしょ?」
「は?なんで分かるの?」
「分かるわ。彼女だったらお昼休みにわざわざここまで来ないでしょ?彼氏と一緒に食べるもの」
す、鋭い・・・・・・・・。
「フッ、無様ね。男を追いかけてうそまでついて騒いで」
「傷つくのが怖いのよ。・・・だから、嘘をつくんだと思うわ」
「傷なんて出来ても自然に癒える。傷つくのが怖いのは、出来た傷を癒す自信が無いって事ね」
「・・・・・・・・」
「でも、癒えないと思っていた大きくて深い傷もいずれ癒える日が来る。・・・生きていればね」
リツコの言葉を聞きながら、私の胸の傷はズキンズキンと脈打っていた。
「本当に癒える日が来るの?」
「ええ、ただし、生きていればね」
セカンドインパクトの傷も、高校時代の傷も癒える日が来るのかしら?
だとしたら・・・・・・私は。
「ご馳走様。お先ね」
「うん」
リツコは席を立って行った。
午後の講義を受けていると。
ドッ、バァアアアアアアアアアアン!
どこからか轟音が響いた。
「なに?」「爆発?」「え?!どこ?」ザワザワザワザワ
窓辺に人が集まる。
「うわー、煙出てるよ」「なに?実験事故?」「あそこ何学部?」ザワザワザワザワ
「ミサト、あそこって・・・」
「ん?何?コトコ」
「あそこ、加持君のいる校舎じゃない?」
「えっ?!」
一気に血の気が引く。窓に張り付く。
くっ、ここからじゃ良く見えない。
私は爆発のあった校舎に向かって走り出した。
「タダイマ、ニシダイイチコウシャデ、バクハツガアリマシタ。
ニジサイガイノオソレガアリマスノデ、セイトハチカヅカナイヨウニ」
校内放送が鳴り響く。かなり大きな爆発のようだ。
加持君、私、私・・・・・・・・!
私は走りながら、セカンドインパクトの時の記憶と今が被ることを感じていた。
西第一校舎に着くと、そこにはすでに人だかりが出来ていた。
大学職員が近づかないようにと必死に叫び、生徒を足止めしていた。
爆発は3階で起こったようだ。窓から煙が出ている。
加持君・・・・・・。校舎内にいるのかしら?
玄関からは怪我人が次々と出てくる。みんな軽症のようだ。歩いて会話をしている。
加持君、どこにいるの?加持君?
「リョウジがまだ中にいるの!誰か助けて!」
多くの人の会話の中で彼女の叫び声だけが私の耳にクリアに届いた。
なんですって!!加持君はまだ中にいるの?
大丈夫、そのうち自力で出てくるわ・・・。
そう願って、出てくる人々を見ていたけれど、、まばらになっても加持君は一向に出てこない。
あの時と同じだ・・・私はお父さんが死ぬのを遠くから見ていた。
姿は見えなかったけど、死ぬときの事象を遠くから眺めていた。
そして、加持君も、そうなってしまうの?。
悲しさと無力さがこみ上げてくる。
ふと、校舎脇にある水道に目がいく。
お父さん。私と加持君を守って・・・・・・・!
私は水道の蛇口を一気に開き、大量の水を体に浴びて、校舎の中に飛び込んだ。
「うわ、熱気がここまで来てる・・・・。加持くーん!加持くーん!どこーー!?」
加持君を呼ぶが、返事はない。
私は一階の廊下を奥まで走り、2階へ上がった。
「加持君!」
いた!2階上がってすぐの廊下を壁伝いに加持君は歩いていた。左肩を負傷している。
「加持君!」
「葛城?・・・・・・そんなわけないよな。神様も粋なことをする。」
「馬鹿、神様なんてこの世にいないわ。現実よ」
「・・・そうか、現実か・・・どうりで体はきついな」
加持君の右肩を担ぎ、私たちはある行き出した。すごい熱気で頭がボーッとする。
爆発箇所はこの場所の丁度真上らへんだ。
「はあはあ、よかった、文系の校舎で。理系だったら変な薬品に引火して爆発の連続になってたかも・・・」
「はあはあ、でも、ここにある紙の量は半端じゃないんだぜ・・・」
「そっか、よく燃えるものがあるのね。それはそれで危険か・・」
一階への階段を下る。暑い、重い、呼吸が苦しい。
「なんで来たんだ?危険なのに」
「もう、大切な人が死ぬのを眺めているのは嫌なのよ」
「大切な人?」
「父が死ぬときはただ、眺めていたわ・・・」
「そうか・・・」
一階の長い廊下をあるく。熱気は少しマシだが、それでも、焼けるように暑い。
「葛城、賭けをしよう」
「こんなときに何?」
「二人で生きて出られたら俺たちは付き合う」
「・・・・・生きて出られたらね」
「本当に?」
「その代わり、セックスはしないわよ。当分」
「キスとかはいいんだ?」
「んっもう、それはその時の気分しだい」
「よし!がんばるぞ」
私たちの会話は出口が近づくにつれてどんどんあほらしくなっていった。
「多分、すぐ救急車行きだな。淋しくなるよ」
「すぐ会えるわ。・・・・あまり、会いたくないけど」
「なんだよ、さっきの賭けのことは忘れないぞ。絶対」
「分かってるわよ・・・」
二人で玄関を出る。ホッとして、その場に倒れこむ。
歓声と拍手が起こる。そして、そのまま私たちは別々に救急車で大学病院へ運ばれて行った。
乙です
いいね。
病院には2日間入院した。私は熱中症の診断がくだり、点滴とクーリングを受けた。
コトコとリツコが私の学校においておいた荷物を届けにお見舞いに来てくれ、
私の無謀さと勇気を賞賛してくれた。
退院の当日、大学の学務と警察が来た。
爆発した教室に火気が全く無く、未だ爆発の原因がわからないとのことで
放火やテロの可能性が高いから、一応の事情聴取を取りに来たのだという。
警察官の態度から、私は多分、容疑者にあがっていないことが分かった。
学部や連絡先、当日の行動を大まかに聞いただけで警察は去って行った。
学務はこれから校舎内の捜査や、校舎の改築、セキュリティの強化の関係で
夏休みが一週間早くなったことを告げに来た。そのかわり、当たり前だが一週間早く終わるという。
そんなわけで、私は遠回りをして立ち入り禁止になっている大学の外周を通って家に帰った。
2日間あけていただけあって、部屋を開けた途端、よどんだ空気が私を迎えてくれた。
「うわー、変なにおい。また虫が湧いていたりして・・・」
腐り始めた中身を見ないようにゴミ袋を結ぶ。窓を開けて空気を通すと匂いは少しマシになった。
あれ?留守電?
「7月○日午前10時12分です。
葛城?生きてるか?俺は今日退院した。生きてたら連絡くれ。ピー」
加持君だ。昨日の午前中にはもう退院してたんだ。体力あるなあ。
「7月○日午後2時15分です。
葛城?まだ帰ってないのか?生きてたら連絡くれ。ピー」
やだ、同じ日の午後にも電話してる。
「7月×日午前9時2分です。
葛城?大丈夫か?生きてるよんな?まだ退院できないのかな?重症なのかな?俺のせいで・・・。ピー」
相当、心配してくれているらしい。必死さが伝わってくる。その必死さがおかしくて思わず、笑ってしまった。
すぐに加持君に電話をかける。
「もしもし?」
「葛城です。何度もお電話いただいたようで」
「ああ、退院したの?よかったな」
「大分、心配をおかけしまして・・・クスクス」
「違うよ、約束を守りたくなくて逃げたのかと思ってさ・・・」
分かりやすい嘘だわね・・・・。
「今、帰ってきたとこ」
「そうか、なんともない?」
「ええ」
「よかった・・・・」
「加持君は?」
「肩を何針か縫っただけ。抜糸で行って、なんとも無かったらそれで終わり」
「そう、良かった」
「夏休みに早く入ったんだってな。帰郷するの?」
「いいえ、帰るところなんて無いもの」
「俺と同じか。・・・これから俺のところへ来ないか?迎えに行く」
「うーん、いいけど、部屋の掃除をしないとね」
「また、虫湧いたのか?」
「違うわよ!2日間も帰ってなかったら汚くなって、その上今日もそっちに行ったら地獄絵図よ」
「掃除にどれくらいかかりそう?」
「2時間くらいは欲しいな」
「じゃあ、2時間後に」
「ええ」
ガチャ。
電話を切って、私は高鳴る胸を自覚した。ドキドキドキドキ・・・・
加持君の声を聞いたら安心した。それと同時に愛しくて、胸がはちきれそう・・・。
コトコの言ってること、分かる気がする。恋の始まりってこういうことか。
自分をちゃんと保たないと、全てを投げ打ってしまいそうになる。危険・・・・
さて、掃除するか!
きっかり2時間後に加持君は到着した。
「退院おめでとう、葛城」
「加持君こそ、おめでとう。」
笑顔で顔をあわせる。夕日が部屋の中に差し込んでいた。
「荷物持った?」
「え?荷物?」
「言い忘れてたかな?今夜、泊まらない?って」
「聞いてません」
「そうか、じゃあ、今夜泊まらない?」
「・・・・・・・・・」
「嫌か?」
嫌じゃない。けど、恋人になっていきなり相手の家に泊まるなんて、危険な気がする・・・。
「・・・・・・考えさせて」
「じゃあ、一応持ってきなよ。歯ブラシとか、下着とか」
下着っ!?・・・やはり危険だ。念を押しておこう
「多分泊まらないと思うけど、一応ね」
「ああ・・・・」
それから前回訪れたときのように加持君の車に乗って鍵をもらって玄関に入る。
「はあー、涼しい!クーラーのために来てる!」
「おいおい、それは酷いな。さ、入って」
リビングに通される。と、そこにはプレゼントの箱が・・・・一つや二つじゃない、10個くらいある
「はい、コレ葛城にプレゼント」
「コレって・・・・・・全部?」
「もちろん!」
「なんで?誕生日でもないわよ」
「んー・・・・・退院祝い?」
「退院祝いって!?私、加持君に何もお祝い持ってきてないのに」
「俺の退院祝いはここにいるじゃん」
・・・・・・・・口が上手いなあ。
「こんなにもらえないわよ。一体何をこんなに沢山買ったの?」
「服と、靴と、バッグと、化粧品と、アクセサリーと、あとなんだっけな?」
「一度に買いすぎよー!もったいない」
「しょうがないだろ?買いたかったんだから。受け取ってくれなかったらそれこそ、もったいないよ」
「うん・・・・」
「開けてみな。俺のセンスだから葛城の好みとはズレてるけどな」
「いいの?・・・・・ありがとう」
私はプレゼントを一つ一つ丁寧に開けていった。箱や包装紙がもったいないなあなんて貧乏くさいことを考えながら。
「どれも、素敵!でも、似合う自信がない・・・・」
「何言ってるのさ。似合うよ、葛城なら・・・」
加持君の顔が近づいてくる。これって、もしかして・・・
「か、加持君?!」
「好きだよ・・・・葛城」
ああ、駄目だ。怖い!
私は思わず顔を背けてしまった。
「・・・早すぎたかな?」
加持君は少し悲しそうに笑い、それ以上私の唇を追っては来なかった。
それから私たちは加持君の作った夕食を食べ、外国のコメディービデオを見た。
気づくと夜10時をまわっている。
「そろそろお風呂行く?」
なんだか、嫌な雰囲気。やはり泊まることになってしまうんだろうか?いや、帰ろう
「加持君、私ね、」
「大丈夫、覗きはしないさ。楽しみは後に取っておく主義でね。さ、入院中はノンビリお風呂なんて入れなかったろ?」
「うん」
「ゆっくり行っておいで」
「・・・・・・・・うん」
加持君の押しにまける形でお風呂に向かってしまう私。
泊まっても、何もしなければいいのよ。大丈夫。・・・・・なぜ?加持君のこと、好きなのに。
何故、怖いんだろう?こういうときに加持君を信頼していない事を自覚してしまう。
私は脱衣所で鏡に映った自分を見た。胸から腹部にかけてのざっくりと大きな傷が嫌でも目に入る。
コレを見たら加持君はどう思うかな? 傷物の女を引いてしまった。とか思うかしら?
まだ、体を開く時期じゃないわね。・・・・・・・・・・じゃあ、いつならいいの?
・・・・・・・分からない。このまま開けずに別れるかも。
そんな気持ちでどうするの?
・・・・・・・・・分からない。加持君を好きだけど、怖い。嫌われるのが、怖い。
私がお風呂からあがると、すぐに交代で加持君はお風呂に入った。
加持君がお風呂から出てくるのをテレビを見ながら、不安と期待で待っている。
まさに、心、ここにあらず。の状態だ。
「ふー、風呂は生き返るねえ・・・」
加持君がピンク色の顔で出てきた。冷蔵庫からビールを取り出して、飲む。
「葛城もいる?」
「ううん。私は麦茶でいいわ」
「風呂上りのビールを知らないのか。うまいぜ。親父っぽいけどな。ハハ」
健康的な笑顔を見せて、加持君はビールをほぼ一気に飲み干した。
「布団は、くっつけてもいいよな?葛城」
「・・・・・・・ご自由に」
この前とは違う。この前は思いっきり離して寝たもの。
恋人になったとたんに隣り合って寝るなんて、そんないきなり変わっちゃってもいいの〜〜?!
「電気消すよ」
「うん・・・」
私たちは隣り合った布団に横になった。
「葛城、もっとこっちに来なよ」
「うん・・・・」
私は加持君から離れた布団の端に背中を向けて寝ていた。でも、加持君から声がかかり、布団の中央へ
「ありがとう」
「な?!」
今度は加持君が体を動かしてこっちに来る。背中を加持君に抱かれるカタチになる。
「こっち向かない?」
「・・・・・・」
「嫌か。・・・ならいいよ、このままで」
加持君はそのまま私を背中から抱きしめながら。動かなくなった。
寝たのかな?
と加持君の方を向く。加持君は目を開けて私を見つめていた!
「こっち向く気になった?」
「いやあ!」
私は加持君を払いのけ、再び布団の端へ
「・・・・・・そうか、おやすみ」
加持君は静かにそう言って、あっちを向いてしまった。
加持君、もしかして傷ついてる?
そうよね、恋人だと思ったら拒絶されるんだもの。
加持君は私のことを優先に考えてくれている。私が嫌だといえば無理やりしない。
こんな人、過去にはいなかった・・・。
なんだか、加持君の背中が淋しそうに見えて、どう表現するともできない気持ちになった。
私は静かに加持君のそばへ行く。
加持君は気づいているのだろう。しかし、こちらを向こうとはしない。
今度は私が加持君の背中を抱いた。
「・・・・・・加持君、ごめん。今日はありがとう」
「いや、焦りすぎなんだよ、俺が。葛城の過去のことを考えれば、もっと時間をかけるべきなのさ」
「私が臆病なせいなの・・・」
私は加持君の背中をぎゅっと抱きしめた。
「抱きしめられるのは駄目なのに、抱きしめるのはいいんだな?」
「ええ、そうね。不思議だけど」
「そっち向いても、抱きしめてくれる?」
「ええ、いいわ・・・」
「ん、じゃあ、向くよ」
加持君がこっちを向き、そのまま体を私に預けてくる。
私は加持君の顔を胸にうずめる形で抱きしめた。
「ぷはぁ!」
数秒後に加持君は胸から顔を離した。
「葛城、ちょっと顔押し付けすぎ・・・。窒息しかかった」
「ごっ、ごめん!」
私ったら、力加減を知らなかったんだわ。まずいことをした。
「いいよ、ありがとう」
そう言って微笑む加持君。とても素敵。思わず引き寄せられそう・・・。
「ん?葛城どうした?葛城っ、んっ!」
ハッ!
気がついたときには私は加持君の唇を奪っていた。
「あ!ごめん、加持君・・・」
どう言い訳をしたらいいんだろうか?予告もなしにこんなことしちゃって。
恥ずかしくて顔をあわせられない。
「一瞬理性が飛んだというか、自分じゃなくなって・・・」
「キスしたい気分だったんだろ?」
「・・・・・うん」
加持君は少し驚いた様子だったが、怒るどころか、むしろ嬉しそうだった。
「もう一回しない?今度はもっと長く」
「うん・・・・」
私たちは見つめあい、もう一度キスをした。加持君の呼吸がすぐそばに感じられた。
時間にして数十秒。どちらからとも無く唇を離す。
「キスってこんなに素敵なものだったんだ」
「あれ?キスしたことなかった?」
「ううん、あるわ。でも、いつも相手から一方的にされたって感じ。今回見たいなのは初めて」
「そうか、毎回こんな素敵なキスができると、いいよな」
「うん・・・・・。ねえ、」
「ん?」
「もう一回してもいい?」
「いいよ。俺はいつでもいい。何度でもどうぞ」
それから、数回私たちはキスをした。何度しても優しくて、嬉しくて、気持ちのいいキスだった。
マジで他にやることないの?
「はあはあ、そろそろ寝よう」
加持君は息を荒げて言った。
「私、目が冴えちゃった」
「・・・俺も眠くないんだが、寝ないとヤバイんだ」
「明日早いの?」
「いや、そうじゃなくて、・・・このままじゃエスカレートするからさ」
「エスカレート?」
「その・・・キスだけじゃ済まなくなるってこと。一応これでも抑えてるんだ、だから・・・」
「あ、そうなの。わかったわ」
理由を聞いた途端に察することが出来ていない自分が恥ずかしくなった。
抱きしめていた手を解き、二人とも仰向けになる。
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
加持君の手が私に触れ、繋いできた。私は一瞬たじろいだけど、それに応じた。
目を閉じる。眠れ、眠れ、と自分に暗示をかける。
あ、ウトウトしてきた。眠りそう・・・
深夜3時まで書き込んで、明日の昼ごろに起き出してまた書き始めるのか?
こいつの生活習慣はまさにニートって感じだな。
「なあ、葛城」
加持君の言葉に現実世界に戻される。
「何?」
「変なこと聞くけど、葛城って、その・・・」
「何?」
「処女?」
「そ、そんなことどうでもいいじゃない!なに聞くのかと思えば、そんなこと?!」
「どうでも良くはないさ。初めては良くも悪くも記憶に残るからな。・・・痛がるし」
「それってなんだか、自分は処女ともヤリましたって言ってるみたいね・・・」
「あは、そんな風に聞こえた?参ったなあ」
「加持君は初めてのとき、どうだったの?」
「付き合い始めたばかりなのに、聞くなよ、そんなこと」
「そう。・・・別れたとき辛かった?」
「まあ、それなりにな。でも、立ち直ったさ。時間はかかったけど」
「男の子も純粋なんだ」
「さあね?皆がそうとは限らないよ。喜んで風俗に童貞捨ててく奴もいるよ。それは女も同じだと思うけど」
「そうなの。知らなかったわ、そんなこと」
「これからいろいろ見えてくるさ。世の中のいいことも、嫌なことも」
「・・・加持君のいいとこも嫌なとこも」
「フッ、そうだ。そのうち見えてくる」
「嫌なことだけに目を瞑ること、出来ないのかしら?自分に都合のいいところだけを見たい」
「それは、無理だな。嫌でも見えるさ」
「・・・辛いわね」
「それでも好きになってもらいたいんだ。自分のことを。・・・わがままだけどな」
「それは私も同じね・・・」
「お互いに溜め込むのは良くない。もしも嫌なことが見えたら嫌だと言ってくれ。そのほうが後々いいから」
「ええ、分かったわ。お互いにね」
「上手くいくよ、きっと、俺たち。初日からこんなに話せたんだ」
「そうなることを私も願ってるわ」
「・・・おやすみ」
「おやすみ」
それからほど無く私たちは眠りに落ちた。
会話だけかよ
馬鹿丸出し
投稿時間だけ抜き出したらえらいことになりそうだな
ヒキ豚のヲチスレかよ。
あまり突くとイジケちゃうから程ほどに。
次の日、加持君は肩の傷の消毒を私に頼んできた。
幹部のガーゼを取ると、まだ痛々しい傷が姿を現す。
「うわ、ホチキスで留めてある・・・」
「葛城もそう思った?俺もだ。ステプラーとか言うらしい。今は糸じゃないんだな」
幹部を消毒液を浸した綿球で拭き、新たなガーゼをかぶせ、固定して終わり。簡単だ。
「俺、きれいな体だったのに、傷物になっちまったな・・・ハハ」
ズキン
私の胸の傷が痛んだ。私は気持ちを悟られないように笑顔で返すのが精一杯だった。
夏休みの間、私は自分の部屋と加持君の部屋をほぼ毎日往復した。
最初は加持君の車で移動していたけれど、
ガソリン代がかかるのと環境のことを考えて二人で自転車を購入。
時々自転車を郊外までとばして自然の中で遊んだりもした。
夏やすみが終わる頃、私は加持君のキスと抱擁をなんとか受け入れられるまで成長していた。
そして夏休みがあけ、講義室で久しぶりにコトコに会った。
「ミサト、変わったわね・・・。メイクしてスカートはいてる」
「あはは、心境の変化で・・・ね」
「加持君ね!?」
「あはは・・・」
やはり、見抜かれたか・・・
「いいわねー、仲が良くてうらやましい」
「そんな、コトコだって、」
「別れたわよ」
「え?!」
コトコは夏休み中に彼氏と別れていた。
原因は彼の浮気。コトコが帰郷中に他の女性と関係を持っていたらしい。
「まったく、とんだ貧乏くじ引いたわよ!ロマンチックなこと言ってくれたり、
プレゼントも何かと買ってくれたりしていい人だと思ってたのに。あーあ、騙された」
う、なんだか、加持君も当てはまるような・・・。
「いい、ミサト、もう手遅れかもしれないけど、簡単に体を許しちゃ駄目よ、
男なんて体目当てでいくらでも嘘つくんだから〜〜〜!」
コトコは怒りと悲しみの混じった顔で私に訴えた。それは彼女の心の傷が癒えていないことを表していた。
そういうわけで、今日はコトコと一緒に学食へ行く。私は席を探し、いつもどおりに
「リツコ、ここ空いてる?」
リツコの隣へ。
「同じ学部のコトコよ。コトコ、このコがリツコ」
「ああ、知ってる。確か赤木博士の娘さんよね?」
「そうよ。よろしくね」
「こちらこそよろしく」
私が踏んだとおり、二人の愛称はなかなか良く、3人で楽しいお昼を食べることが出来た。
「そういえば、あの爆発。結局原因なんだったの?」
「さあ?大学側から何も聞いて無いけど・・・」
「人的なものかもよ?セキュリティーがあがったとはいえ、油断は出来ないわ」
「やだー、こわーい」
「未確認の物体は触らないで届け出たり、自分で身を守らなきゃね。
誰かさんみたいに人を助けにわざわざ危険に近づくひともいるけれど・・・」
リツコは冷たく笑った。
「う・・・あの時は必死で周りが見えなかったのよ」
「案外、情熱的よね、ミサトって。火事場の馬鹿力タイプ」
コトコ、その言葉は褒めているの?けなしているの?
「今日も楽しかったわ。ごちそうさま。お先」
リツコは席を立つ。
「はーい、まったね〜」
私たちは笑顔で手を振った。
「見るからに、頭よさそうね。リツコって」
「そう?」
私たちは話を続ける。
「ねえ、ミサト。加持君とどこまで行ったの?」
コトコは声を潜めて聞いて来た。
「どこまでって・・・・・・キスまでよ」
「うはあ、まだそこ?」
「まだって・・・、付き合って一ヶ月よ?私たち」
「でも、大学生よ?私たち」
「そんなの関係あるの?」
「あるわよ!もう、お子様じゃないって事。」
「コトコはどれくらいだったの?」
「嫌なこと思い出させてくれるじゃない。・・・・・一週間よ」
「一週間?!早すぎない?」
「みんなそんなもんよ。大学生は。・・・・加持君よく我慢できるわねえ。感心するわ」
「う、我慢してると思う?やっぱり」
「当たり前でしょ?ミサトがもともと男嫌いだったこともあるから理解してるとは思うけど
あんまりじらしてると他の女に持っていかれるわよ。誘惑されたらふらふらと・・・」
私はその言葉を聞いてレイコという女のことを思い出し、少し焦った。
「心配になるようなこといわないでよ〜!」
「ま、早く済ませて、報告してね」
コトコはそう言って笑顔でウィンクした。どうやら、体験談が聞きたいだけのようだ。
全く、焦らせてくれちゃって。いいのよ、私たちは私たちのペースがあるんだから・・・。
食事を終えて私たちは教室へ戻った。
講義が終わって自転車に乗ろうと自転車置き場へ行くと
「あれ?ミサトちゃん?」
この前の合コンの男に会った。いきなりキスしてきたあの失礼な奴だ。
「どうも・・・」
自転車の鍵をさっさとといて、自転車を走らせようとすると、
「ミサトちゃん、加持と付き合ってるんだって?」
と、声をかけ、止められた。
「ええ、そうよ」
強気に答える。
だから、あなたにはもう近づいてきて欲しくない。私は加持君の彼女なのだから。
「もう、Hしちゃったの?どうだった?」
相変わらずデリカシーの無い男だ。私は腹を立てて、
「なんでそんなこと聞くの?関係ないでしょ?!」
とすこし怒鳴り気味に答えた。
「だって、加持に聞いても言わないからさ。どんなあえぎ声をあげるかとか、どこが感じるのかとか」
馬鹿、加持君が言うわけ無いでしょ?したこと無いんだから。
「俺、君のあえぎ声が聞きたいな・・・加持とやったんなら、俺とも、いいだろ?」
肩に回された手の甲を私は思いっきりつねり上げた。
「いてぇ!なんだよ、冗談だよ。わかってないなあ」
「分かってないのはあんたでしょ?!もう二度と私に声を掛けないで。セクハラで告訴するわよ!」
私は男に向かって声を荒げ、すぐさま自転車を発進させた。
乙です
がんばって。
ヒキ豚はホント暇なんだなぁ・・・。
部屋に帰ると、加持君から留守電が入っていた。
部屋で一緒に映画のビデオを見る誘いだった。
私は加持君に電話をかけ、これから行くことを伝えると、すぐに着替えをバッグに詰めて自転車で出発した。
加持君の部屋で夕食を取った後、二人でビデオを見る。
死んだ恋人が幽霊となって彼女のもとへ現れ、
再会した二人は燃えるように愛し合うというストーリーだった。
感動したけれど、ラブシーンがロマンチックながらも露骨で、見ていて恥ずかしくなった。
見終わった後、加持君は抱きしめてキスをしてきた。
二人で映画の雰囲気に影響されている・・・。こりゃ確信犯だわね。
そう思いながらもキスに応じる。ソファに押し倒されて。きつく抱きしめられる。
あ、駄目だ。たらだがこわばる。
「・・・上になる?」
「うん・・・」
加持君はすぐに察してくれて体制を変えてくれた。
この一ヶ月で私たちがわかったことは、私が押し倒される形でキスをされることが一番駄目だということだった。
それは、あの忌まわしい記憶を呼び起こす。それでも、何度かトライして短い時間なら大丈夫になった。
逆に、私が加持君を押し倒してキスをしたり抱きしめるのは大丈夫だということが分かったので
今のように私が耐えられないと判断すると、すぐに私が上になることにしている。
今日は映画の影響が大きくて、私たちは何回キスをしてもしたりない様子だった。
「なあ、葛城」
「ん?」
「・・・・大人のキスしてもいい?」
「大人のキス?」
「ああ、映画であの二人もしてただろ?あんな感じの・・」
映画を思いおこす。そういえば口をパクパクさせて少し深いキスをしてたっけ・・・。
「いいよ」
「じゃ、するよ」
「うん・・・・・・・・!」
加持君の舌が入ってきた!驚いて口を離す。
「何コレ!コレが大人のキス?」
「・・・・・上手く伝わってなかったようだな、ごめん。嫌?なら止めよう」
「ううん。びっくりしただけ。大丈夫」
突然のディープキスで驚いたけれど、嫌ではなかった。でも、これってどうすればいいの?
「上手く出来ないと思うけど・・・」
「大丈夫。好きなように動かせばいいんだ」
そして、加持君の舌が入ってきた。普通のキスよりも舌が入って動く分、呼吸のタイミングがつかめない。
「はあ!ちょっと、息苦しい。なんか、加持君の舌噛んじゃいそう」
私はすぐに口を離してしまった。
「いいよ、自分のリズムで呼吸して。鼻でも口でもいいから・・・」
加持君、何だか呼吸が荒い。そして、すぐにまたキスをしてくる。
「んっ・・・・・あ。はあっ」
「んっ・・・・ふう、ああっ」
二人とも自然に呼吸が荒くなってしまう。何だか、気分が高揚してくる。
加持君が舌をゆっくりと引き抜くと、それに誘われて私の舌が加持君の中に入る。
駄目、なんでこんなに興奮するの?キスだけなのに
暫くのあいだ、夢中でキスをし続け、加持君は私の肩を掴んで、そっと唇を引き離した。
私の舌が加持君の中から引きずり出され、唾液が一筋、加持君の口の端に落ちる。
「あ、ごめん!汚い」
「ん?ああ」
加持君はすぐに口の端を指でぬぐって私の唾液を口に含んだ。
「こんな事で汚いなんて言ってたら、次へは勧めないな」
冗談交じりにそう言って、二人で笑う。
「お風呂、入ってきなよ」
「うん・・・」
私と加持君はしっかりと見つめあい、私はお風呂に向かった。
脱衣所で服を脱ぎながら、私はコトコに言われたことを思い出していた。
「一ヶ月でしないのは遅いのか・・」
今日は映画のことも、ディープキスのこともあって、とても興奮している。
このまま今夜、繋がってもいいかもしれない・・・。
服を脱ぎ終わると、鏡に映った自分と傷をまじまじと見つめる。
「この傷を見て、加持君から手を引かれたら・・・その時はその時ね」
その時は加持君を諦めよう。傷物の女を抱くほうが可愛そうだ。
私はお風呂場の扉を開けた。
お風呂から上がると、交代で加持君がお風呂へ向かった。
ズボンのポケットの中身をテーブルに置いていった。
ポトッ
テーブルに置かれた中から何かが落ちた。拾いに行く。
「パスケース?」
加持君、電車もバスも普段乗らないのに。
不思議に思って拾い上げると、パスケースには一枚の写真が入っていた。
「これは・・・・・!」
学生服の加持君だった。多分高校時代の写真だろう。
隣には、加持と腕を組んで笑っている一人の女性。
私に似てる・・・・。この人誰?加持君の昔の彼女なの?なんでこんなに私に似ているの?
嫌な予感がした。加持君が私に向ける愛情に疑いがかかる。
私はパスケースを片手に加持君が来るのを待った。
そして、お風呂から上がった加持君の目の前にパスケースを突きつける。加持君の表情が曇った。
「・・・人のものを盗み見るような人には見えなかったけどな、葛城は」
「さっきテーブルから落ちたのを拾ったのよ」
「そうか・・・」
「話してくれない?あなたの過去を。そして、この人のことを」
「長くなるぞ」
「構わないわ」
「そうか、じゃあ、座って・・・」
私たちはソファに座った。
ソファに座って加持君は暫く考え込んだ後、口を開いた。
「この人の名前はマサミ。俺の高校時代の恋人だ。・・・そして、俺の初体験の相手」
この人が・・・加持君の始めての相手なの?それで、忘れられないってわけか・・・。
思わず嫌悪感が顔に出てしまう。
「大丈夫?葛城」
「ええ、続けて」
「高校一年の時に付き合ってた。つきあって3ヶ月の時かな?お互い初めてで
なかなか上手くいかなくて、俺は焦って痛がる彼女に無理やり入れてしまって・・・。
それでも、彼女のおかげで仲が揺らぐこと無く、付き合っていけた。
そして、付き合って半年すぎたあの日、セカンドインパクトが起きたんだ。
マサミは家族で伊豆へ旅行に行っていて、それっきり一家全員行方不明。未だ生死は分からない」
駄スレage
「大学の合格発表で葛城の姿を見たとき、マサミが生きていたのだと思った。
それで、入学式の後でサークルの勧誘と称して声を掛けたのさ。でも、別人だった。
それでも俺は諦め切れなかった。葛城の名前を頼りに学科を特定して、その合コンに参加した。
参加メンバーから葛城の情報が得られるんじゃないかと思ってね。
葛城本人が参加したのは予定外だったな。チャンスだと思って連絡先を聞いたけど、
葛城はガードが強くて無理だった。
でも、おかげでコトコちゃんと言う協力者ができた」
コトコもグルだったわけね・・・・。そして、私はまんまとはめられたわけか・・・。
フツフツと怒りが湧いてきた。私はソファから立ち上がり、声を荒げて言った。
「あなたが好きなのは私じゃない!私を通してマサミを愛しているのよ!
デートも、プレゼントも、キスも、本当は私としたかったんじゃない。マサミとしたかったんじゃない!」
加持君は神妙な顔で私を見つめるだけだった。
否定、しないのね・・・・・・・・・・・。
「私、帰る」
怒りに任せて玄関へと向かう。
「おい、こんな時間に危ないぞ!それにパジャマのままじゃないか」
加持君は私の腕を引いて止める。
「放して!」
私も負けずに自分の体を玄関へと進める。
ブチブチッ
相反する力でパジャマのボタンがとんだ。
「!!!!!!!!」
私の上半身が露になる。
き、傷を見られた・・・・・・・・。駄目だ、もう限界。
私の目から一筋の涙がこぼれ、私はそのままその場へ脱力し、座り込んだ。
思考停止。
頭がボーッとする。
「葛城?葛城?」
加持君の呼びかけにも無反応。答える気力が無かった。
加持君は私を抱き上げ、ソファに座らせた。
「布団敷くから、待ってて」
「・・・・・・・・・・」
加持君の過去を知っただけではなく、傷も見られた。最悪だ。
「ちょっとでかいけど、これ、パジャマ駄目になったから」
加持君にTシャツを渡されるが、動く気が起きない。
ソファに座り、加持君が布団を敷くのを眺めていた。
「葛城?ほら、着て。おなか冷やすぞ」
「・・・・・・・・」
「仕方が無いな・・・」
加持君は手取り足取り、私のパジャマを脱がせ、Tシャツを着せてくれた。
その間、胸も傷も全て見られているが、そんなことはどうでもいい。
「寝るか・・・。よいしょっと」
加持君に抱き上げられて、布団に寝せてもらう。
「葛城、ごめんな。でも、好きになったきっかけはマサミに似ていたからだけど、それだけじゃない。
葛城のことを知れば知るほど好きになる。だから、今は葛城ミサトが好きなんだ」
そんな加持君の言い訳にも私は何も言えなかった。感じることも億劫だった。
「葛城、好きだよ・・・」
そう言って加持君は私にキスをしたけれど、何も感じなかった。
布団の中で手を繋いでこられたけれど、つながれるままだった。拒否するのも面倒くさかった。
何も考えられなかった。頭が靄で覆われていて、全てどうでもいい気持ちになっていた。
私はすぐに眠りに落ちた。
朝、加持君に起こされる。
キッチンへ行くとすでに朝食の準備が出来ていた。
無言で朝食を食べる。
「葛城、今日は何限まであるの?」
「4限」
「いいな、早くて。俺なんて6限だぜ。日が暮れちゃうよ」
「そう・・・」
朝食は二口しかのどを通らなかった。
身支度を済ませて二人で玄関を出る。
朝起きてすぐに部屋を飛び出すとか、別れ話をするとか、そんなことをする気力が無かったので、
加持君に言われるままに動いた。
「今夜もうちに来ないか?」
「・・・・・・・嫌」
「そうか・・・、じゃ、お互いに勉強がんばろう」
二人で自転車で登校して校門で別れる。傍から見れば上手くいてるカップルのようだ。
「おはよう、ミサト」
「おはよう」
「どうしたの?元気ないけど」
「体の調子が悪くてね・・・。大丈夫よ、そんなに心配しないで。ただ、今日は静かに過ごしたいかな」
作り笑いでコトコに答える。本当は加持君との仲介をしたコトコのことを少し恨んでいる。
お昼休みはいつもどおりにコトコと学食へ。そして、いつもどおりにリツコの隣に座る。
「なあに?その顔。人形みたい」
「具合悪くてね・・・。いいの気にしないで」
今日はほとんどコトコとリツコの聞き役に回った。
ご飯はほとんど手付かずで、2人に心配される。
「午後の講義?休んだら?」
「大丈夫よ。朝から状態変わって無いもの」
「そう・・・」
コトコに早退を進められるが断り、午後の授業を聞いて部屋に帰った。
部屋に戻るとホッと気が抜けて、涙がとめどなくあふれ出てきた。
私は部屋に横になった。顔の下にタオルを引いて涙を吸収させるが、1枚じゃ足りない。
ティッシュもどんどん無くなる。もったいない・・・。
私は声を上げて泣いた。
リツコの言っていたことは嘘だ。
生きていても心の傷も、体の傷も全く癒えない。かえって深く、痛くなっている。
私はこれからもこんな辛い思いをして生きていかなくていけないの?なんど傷つけばいいの?
・・・・・・・もう、死のうか?
そんな思いが胸をよぎったが、そんな気力も起きず、私は泣きつかれて眠ってしまった。
プルルルルル プルルルル プル・・・・・・・
電話の音で起こされた。どれくらい寝ていたのだろうか?もう日が暮れている。
受話器をとると加持君だった。
「これからそっちに行くよ」
「嫌、来ないで。来ても開けないわよ」
「扉があくまで居るから」
そう言われて電話を切られる。
加持君が私を追ってくれることを嬉しく思ってしまい自分がいて、ますます嫌な気持ちになる。
程なくして玄関のチャイムが鳴った。
覗き穴から加持君であることを確認する。開けるべきか、開けないべきか・・・
高鳴る胸の鼓動。加持君は私のことを好きじゃないのに・・・・・・・・・・・・・
それでも迷う。
私は、・・・私は、加持君のことが好きなんだ。だから迷うんだわ。
でも、開ければ相手の思う壺。どうすれば・・・
しかし、扉の向こうの加持君の姿が愛しくて、ついに私は鍵を開けてしまった。
乙
がんがれ
玄関の扉が開くと同時に私は加持君に背を向けて走り出し、部屋の窓際に立った。
顔をあわせないように窓の外を見る。
明かりの無い部屋で月光が部屋を青く照らしている。
「お腹空いてないか?ご飯買ってきた」
「別に空いていないわ」
「そうか」
加持君はビニール袋をちゃぶ台の上に置いた。
「ずいぶん泣いたんだな」
加持君は部屋に散らかっているティッシュを拾い集め、ゴミ箱に捨てていく。
「私、セカンドインパクトで死ねば良かった。父の恩恵で生き残ったけど、生きていても辛いだけ。
死ねば良かったんだわ、あの時・・・」
「そんなこと言うもんじゃないぞ。生きているのなら幸せになる権利がある。今は辛くても、いつか」
「あなたのせいじゃない!あなたのせいで私、傷ついているのよ!
何故こんなに傷つかなければならないの?!体の傷だけでも辛いのに・・・」
私は振り向き、加持君と顔をあわせ、叫んだ。
「この前コトコに言われたわ。まだキスまでしかしていないのか?って、
それも加持君が仕組んだのよね?コトコを使って私に吹聴させて、次へ持っていこうって魂胆だったのね?」
「それは違う。俺がコトコちゃんに協力してもらったのは虫退治の件だけだ」
「そんな言葉、信じられないわ。私は今、あなたを信頼していないもの」
「葛城・・・」
「マサミのそっくりさんと付き合ってみてどうだったぁ?!さぞ楽しかったでしょうね。
地味な女が自分の影響でメイクしたり、おしゃれしたり変わって行くのを見て、内心大笑いだったんじゃないの?」
「それは違う、」
「そうよね、私みたいに不細工で無愛想な女が普通、男の人に惚れられる無いもの。
裏があるって気づくのが普通よね。私、舞い上がって分からなかったわ」
「もういい」
「でも、残念だったわね、あなたは傷物の女を掴んでしまったのよ。あの時、傷を見て抱く気も失せたでしょうね!」
「もういい、やめろ」
叫びながら、私は加持君に抱きしめてもらいたい衝動に駆られていた。
私の心身ともに疲れきった体を加持君に抱きしめてもらいたかった。でも、そんなこと言えなかった。
言ったら私は彼を許したことになる。こんなに傷つけられても自分はまだ加持君に愛されたいと思っている。
自分のその気持ちが許せなかった。
抱きしめて欲しいと言った瞬間、私は自分の弱い気持ちに負けてしまう。
そう思っていたから、言えなかった。
その代わりとして私の口から出た言葉は
「別れるって言いなさいよ・・・」
彼に対する別れの言葉の要求だった。
「・・・・・・・・」
加持君は無言だった。
「別れるって言いなさいよ!私からは言えないから・・・」
そう、私からは言えない。
私は加持君のことが好きだから。こんなに傷つけられても加持君のことが好きだから。
自分から別れることが出来ない。臆病者だから・・・。
「加持君が好き!でも、これからどうやって付き合っていけばいいか分からない。
だから、早く私を振りなさいよぉ!」
こらえているのに涙が流れる。足の力が抜け、膝がガクガクする。ああ、立っていられない・・・。
私は壁にもたれかかりながらズルズルと床に座り込んだ。
静かに泣きたいのに、嗚咽が漏れてしまう。子供みたいな泣き方だ。恥ずかしい。
「葛城、ごめん。俺には別れの言葉は言えない」
加持君は私の顔を覗き込み、目を合わせてそう言った。
「いくじなし!」
ののしるけれど、泣いていて迫力に欠ける。
「葛城を見て、時々マサミを思い出す事がある。でも、葛城をマサミを全く同じだと思ったことは無い。
これからも、マサミを思い出すことはあるとおもう。それは自分ではどうしようも無いことだ」
「・・・・・・・・・」
こんなときでも加持君は正直だ。気を使ってでも行動不可能なことは言わない。
「でも、そんな俺のことを好きでいて欲しい」
「・・・・・・・わがまま」
「ああ、わがままさ。でも、それが俺の本心だ。・・・好きだよ、葛城・・・」
加持君が私を抱きしめる。私の体の力が抜ける。心も力が抜けて、今まで言わないでこらえていたものが一気に出てしまう。
「わあああああああん!加持君の馬鹿!馬鹿!なんで私をこんな辛い目にあわせるのよ!
好きなのに何で傷つけるのよ!加持君なんて嫌い!大嫌い!大ッ嫌いなんだからぁ!」
子供みたいな台詞を泣きながら叫ぶ。
「嫌い?・・・俺のこと嫌いなのか?」
「嫌いよぉ・・・・・・大嫌い・・・・・・」
抱きしめられて、心地よくて幸せな気分とは裏腹に、嫌いという言葉が出てしまう。
これは只の恨み言だということを加持君は気がついていた。
「嫌いか・・・・。なら、思いっきり歯を立てろ」
そう言って、加持君は私に強引にキスをしてきた。
「ううっ・・・」
歯を立てることなんて出来なかった。
加持君は私をそのまま押し倒し、
「いいのか?抵抗しなきゃ。また、されるぜ」
そして、またキス。
体の上から抱きしめられてキスされるのは私の一番苦手な体制だ。高校時代の嫌な過去を思い出す。
でも、今回は大丈夫だった。荒々しいキスの連続。なのに、体も強張らず、言葉での抵抗もしない。
私は加持君の抱擁とキスを受け入れた。
そうしながら、私は、加持君に体を開く準備が出来ていることを自覚していた。
これ書いてる奴、マジで気色悪いな。
乙です。それと151さん…そげんな事書きにここ見に来よるんじゃったら、見るの止めたらどうでっしゃろうか(´・ω・`)?
キスは回数を増やすたびにエスカレートして行った。
次第にディープキスになっていく。二人とももう夢中だった。
「はあはあ、葛城。嫌ならそう言ってくれ。そうじゃないと俺は・・・」
「いいよ」
「えっ?!」
「このまま続けて。加持君となら私・・・・・。ううん、加持君じゃなきゃ嫌だ」
「葛城っ!」
加持君は私のシャツのボタンに手をかけた。
ボタンをはずしながらキスは首筋、肩、胸元へと降りていく。
ボタンを全部はずし終え、私のブラをつけたままの上半身が月光に照らされる。
胸から腹部にかけての大きな傷も姿を表した。
「痛々しいな・・・。辛かっただろう?」
「セカンドインパクトのときの傷なの。あの時は生きる延びるのに夢中だったから、痛みは覚えてない」
「そうか・・・」
加持君は私の傷に舌を這わせる。
「傷物を引いたなんて、思っちゃいないさ。傷も含めた葛城が好きなんだからな」
「ありがとう・・・」
私は加持君の肩に手をかけた。軽く抱きしめるカタチになる。
「んあっ!」
わき腹を舐められると、くすぐったさと同時に全身がしびれるような感覚が沸き起こり、思わず声を上げてしまった。
「ここ、感じるの?」
「ああっ!」
加持君はもう一度同じところを舐める。そして、そこに口を当ててきつく吸い上げた。
「・・・キスマーク、つけちゃった」
「やめてよ、恥ずかしいから」
「見えないところだ。いいだろ?」
加持君の愛撫は続く。私は何箇所かにキスマークをつけられ、何度も声をあげてしまった。
そして、ブラに手がかかる。
昨日の騒動で見られたとはいえ、やはり恥ずかしい。
加持君の手が私の胸をブラから解放したけれど、私は彼に見えないように自分の腕で胸を隠してしまった。
すると、加持君は私の両手首を掴み、ゆっくりと両サイドへ開いた。
私の胸が露わになる。恥ずかしくて加持君と目を合わせられない。視線を伏せる。
「葛城・・・・・・・・・・・。ごめん。俺には無理だ」
加持君は私を暫くじっと見つめた後、そう言った。
「どうしたの?」
「・・・・・・・やはり、マサミとかぶってしまう。思い出してしまうんだ。・・・こんな気持ちで葛城のことを抱けない」
加持君は苦悩の表情で私にそう告げた。
「そう、分かったわ」
加持君が私の上から退く。私は状態を起こしてシャツのボタンを留めた。
それから私たちは加持君の買ってきた夕食を食べ、加持君はそのあとすぐに帰って行った。
それから一週間。
私たちは会わなかった。
毎日電話をして、会話の終わりに会いたいことを伝えるけれど、加持君が拒否して会うことが出来なかった。
「会ってしまうと、勢いで抱いてしまう可能性がある。それを避けたい」
というのが加持君の主張だった。
私は納得しながらも、自分のこの気持ちをどう扱えばよいか分からずに悩んでいた。
155 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/17(土) 22:02:03 ID:OXlQtSLb
乙です!
先気になりすぎます!
悩みながらも私の大学校内の生活は変わらなかった。
コトコと一緒に講義を受け、リツコと3人で昼食を食べる。そんなリズムがすでに出来上がっていた。
ある日の昼食のことだった。
「リツコって、今まで恋愛したことあるの?」
コトコがそんなことを言い出した。
「もちろん、あるわよ」
「えー!?聞きたい!どんな人がタイプなの?」
確かに、リツコは男どころか私たち以外の友人の影も見えない。彼女の好みのタイプには興味がある。
「さあ?その時々で全然違ったタイプの人を好きになるから、タイプは自分でも分からないわね」
「そうかー。許容範囲が広いのね」
「コトコ、そういうことじゃあ、ないと思うけど・・・」
「そういうコトコはどうなの?恋愛」
「ああ、私はねえ・・・・・。この前、失恋したばかりよ。ねっ、ミサト」
「あ、うん」
「そうなの、悪いこと聞いちゃったわね」
「いいのいいの、もう立ち直ってるんだから。次の恋を探索中!」
「立ち直り早いんだから、この子は・・・」
「何が原因だったの?立ち直っているのなら教えてよ」
リツコの突っ込んだ質問が入る。
「う・・・。相手の浮気よ。もう、最悪。私が帰郷中に元カノとしてたのよ。それで、別れたわ」
「ふうん・・・」
「あーあ、嫌なこと思い出しちゃった!違う話題、違う話題・・・」
「私だったら、そのことも含めて愛するわ」
「へ?」
「もしもその人のことが本当に好きだったらよ。浮気をしていることも含めて愛すると思う」
「・・・そんなこと無理よ」
「感情論ではね。でも、理論上では可能だわ。もっとも、博愛主義の精神を持っていなければ出来ないことだけれど」
「私は自分だけを見てくれなければ嫌なの・・・」
「そういう愛しかたもあるわ。私が言いたいのは、どれが正しいとか間違っていることではなくて、
そういう考えもあるということよ。理論上の話だから、私もいざとなったら駄目だろうけど・・・」
私はリツコの話を聞いて、解決の糸口が見えた気がした。
講義が終わり、一人で食事をした後、加持君に電話をかける。
「もしもし?」
「葛城です。加持君、今なにしてる?」
「何って、夕食食べて、くつろいでるけど」
「あすまでにやっておかなきゃいけないことは?」
「特になし」
「これから行くから」
「来てもらっても鍵、開けないぞ」
「いいわ、あくまで待つから」
私は泊まる道具を持って加持君のもとへ自転車を走らせた。
加持君の部屋の前まで来て呼び出し音を鳴らす。
ガチャ
「はい」
「私よ」
「・・・・・・帰って欲しい」
「じゃあ、開くまでここにいるわ」
私はあらかじめ用意した新聞紙を下に引き、その上に座り込んだ。
30分ほどしただろうか?
玄関の鍵が開いた。
玄関を開けると困った表情の加持君がいた。
「お風呂、借りるわよ」
私はそう言って風呂場へ向かう。
「いきなりなんだよ、それ」
「お布団敷いといて。余裕無いのよ、今」
そう言って私は脱衣所のドアを閉めた。
お風呂から上がってパジャマに着替え、私は加持君のそばへ行く。
「葛城、悪いけど、んっ!」
加持君の言葉をさえぎって口をふさぐ。
加持君はすぐに私の肩を持って唇を引き離す。
「葛城、言っただろ?俺は純粋な気持ちで君を抱く事ができない」
「ええ、知ってるわ。だから会いに来たの」
「どういうことだ?」
「私をマサミの思い出ごと抱いて。マサミを思い出しながら私を抱いて欲しいの」
「何言ってるんだ?!そんなことしたら、葛城はもっと傷つくことになるんだぞ」
驚き、声を荒げる加持君。私は対照的に平然としていた。
、
「私、分かったの。加持君が私をどう見ようと関係ないってことに。
私は加持君が好きなの。マサミを忘れられない、私にマサミを投影している
そんな加持君も含めて全てが好きなの。
笑った顔も怒った顔も好きなように、たとえマサミを通しでも私を見つめてくれる加持君が好き」
「葛城・・・」
「加持君はそんな考えをする私のこと嫌い?」
「いいや、好きさ。でも・・・その考えが正しいの分からない」
「加持君は私と一つになりたくない?」
「いいや、なりたいさ。とても・・・」
もうそれ以上の問答は必要なかった。
私は困惑している加持君にキスをして、彼を布団に誘った。
加持君を布団に寝せ、上に乗る。
「葛城?」
驚く加持君にキスをして、加持君の着ているTシャツを脱がせた。
「ハハ、あんまり筋肉付いて無いんだよな・・・。恥ずかしい」
加持君は照れ笑いを浮かべた。抵抗はしなかった。
私はこの間、加持君から自分が受けたように首筋、肩、胸とキスをしていく。
「んはっ!」
加持君の声が漏れる。
「ここが感じるの?」
「・・・そうみたいだな」
私は加持君から教わった愛し方しか知らなかった。
だから、加持君がしたことをまねることしかできない。
それでも、夢中で加持君を愛撫し続けた。
ん?なにか硬いものがお腹に当たる・・・・・・・・・・。
「!!!」
これって・・・・もしかして。
気づいたとたんに自分が赤面するのが分かった。
「あの、葛城、そんなにマジマジと見つめられるとこっちが恥ずかしいだけど・・・」
私は思わず布団を飛び出して、ソファの上に足を抱えて小さく座った。
膝に顔をうずめて横目で加持君を見る。
「仕方が無いだろ?体が反応してんだから」
加持君は困ったように笑い、こちらにきて、リビングの電気を消した。
暗くなり、月光が部屋を青く照らしだす。
「勢いに任せて、積極的になったのはいいけど、怖気づきましたか・・・?」
意地悪く聞かれる。
「ふん!」
「ふう、・・・可愛いねえ、葛城は」
加持君はため息をついて私を抱き上げ、布団に戻した。
キモス…
「いいのか?本当に。初めては一回しか無いんだぞ」
「いいわ。私は加持君と経験したいんだから」
「多分、痛いぞ・・・」
「分かってるわよ、そんなこと」
「そうか、ならいい」
加持君は私にキスをして、パジャマのボタンをはずす。
全てはずして上半身が露わになると、この前のように愛撫をはじめた。
「んあっ!・・・・・ああっ!」
感じて声が漏れる。加持君は胸を優しく揉み、敏感な部分を吸ってきた。
「ああっ!!」
一段と強い快感が私を襲う。私の心臓は早く打っている。興奮と快感とが私を支配し始めた。
加持君は胸に置いた手をそのままに、今度は背中に唇を這わせてきた。
ゾクゾクとした快感が背中を上る。
私は体をビクビクと痙攣させながらシーツを掴んで耐えた。
「感じやすいんだな。葛城は」
加持君の言葉が私を責める。
「そんなこと知らないわよ。・・はあっ!」
強がるけれど、どう考えても私の立場は弱い。すぐに快感を与えられて声が漏れてしまう。
一通り上体への愛撫が終わると、加持君は私のズボンを脱がせる。
私は足先から丁寧に舐め上げられていく。
途中、ビクビクと反応して思わず加持君を蹴ってしまいそうになる。
足が終わると、加持君は下着を脱がせ、
月明かりの下、私は一糸まとわぬ姿となった。
その姿を見てから、加持君はキスをしてくる。
キスをしながら私たちは固く抱きしめあう。
私の下腹部に加持君の硬いものがあたると私の期待と興奮はますます増してくる。
(なんか、書いてて恥ずかしくなってきたw)
164 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/17(土) 23:40:11 ID:OXlQtSLb
最高
じゃ、書かなきゃいいじゃん。
適当にボカして終わらせればぁ?
>>165 大丈夫。恥ずかしいけど、書きたいから。
加持君はキスしながら手のひら全体で私の下腹部の茂みを触る。
そして、その手を口元に持っていき、息を吸う。
「ん、いい匂いだ・・・」
そこでまた火がついたようにキスをする。
その後で、加持君は私の下のほうへ移動する。
「葛城、ここは敏感な場所だから、痛かったり不快だったら、すぐに言ってくれ」
「うん、分かった」
そういわれて、加持君の誘導に応じて私は足を開いた。
加持君に敏感な突起を責められる。
「きやあっ!」
「刺激、強すぎた?」
「・・・みたい」
「そうか・・・・コレくらいは?」
「大丈夫。・・・・んっ、はあっ」
優しく舐められると快感の波が私を襲った。腰が自然に動いてしまう。
「指、入れるよ」
「うん・・」
加持君は右手の中指を口に含んでから、私の入り口に押し当てた。
スルリ
案外簡単に指が入る。
「痛くない?」
「全然」
「そうか。動かすよ」
加持君の指が私の中をかき回す。痛く無かったが、気持ちよくも無かった。
ドラマやビデオできもちいいと喘ぐのは演技なんだろうか?全然気持ちよくない。
今までとはうって変わって快感のない刺激に私の頭は冷静になった。
「大丈夫?」
「うん。あの、気持ちもよくないんだけど・・・・」
「ああ、初めてはそんなものだと思う」
そうなのか。初めてはそんなものなのか
「濡れてるし、一本で余裕だから、二本入れるよ」
「うん」
加持君は人差し指と中指を口に含んで、私の中に入れた。押し広げられる感覚が分かる。
「あ、ちょっとキツイかも・・・」
「そうだな。結構、締まってる。この分だと入るかな?」
そういって、加持君は指を私の中で動かした。押し広げられる感覚が体に伝わる。
これ以上太いのは痛そうだ・・・。
「葛城、そろそろいくぞ」
「うん・・・」
私の体も加持君の体も準備できていた。加持君は避妊の道具をはめた。
「本当にいいのか?痛いぞ」
「ええ、覚悟は出来てるわ」
私たちは抱きしめあって、キスをした。
加持君が私の中に押し入ってくる。
「ううっ!」
痛い!!裂けそうだ。苦痛の表情が抑えられない。歯を食いしばる。腰が引ける。
「きついな・・・。濡れてるけど、やっぱり初めてだから・・・」
そう言って、加持君は進めるのを止めた。
まだ少ししか入っていない。
「痛いだろ?やめようか?」
「いや・・・・。やめないで」
「まだチャンスはあるぞ」
「嫌よ、今じゃなきゃ嫌」
加持君の優しさを私は振り払った。折角自分の気持ちにけりをつけてここまで来たのに、
ここでやめたらまた振り出しに戻ってしまうだろう。私はそれば嫌だった。
「・・・・・じゃ、続けるよ」
加持君は根負けして私の中を進んだ。
「くっ・・・・ああっ!」
痛い!裂けてしまうかもしれない。体に力が入る。
「葛城、力抜いて。息はいて・・・」
「はああああ!」
言われるままに息を吐くと、力が抜けて少し受け入れやすくなるのを感じる。
骨盤がギシギシと開くのが分かった。
「全部、入ったよ・・・・」
加持君から報告を受け、嬉しくて私は泣いた。
「泣くほど痛かったのか。ごめん」
「ううん。違うわ。嬉しいの」
「・・・・・・・そうか」
加持君は私を優しく抱きしめ、キスをしてくれた。
暫く私たちは繋がったまま抱き合った。
「腰動かさないの?」
「いいのか?動かしたら、痛いぞ。きっと」
「いいわよ、別に。このままじゃ加持君全然気持ちよくないでしょ?」
「そうか・・・。葛城は強いな」
加持君が腰を動かす。
「うっ!」
痛い!摩擦ですれる感じの痛さだ。でも、ゆっくり動いてくれるので耐えられないほどではない。
加持君の動きを受け入れる。
「葛城、締まりすぎだ・・・。ヤバイ」
程なくして加持君は果てた。ハアハアと早い息をして私にもたれかかってくる。
そんな加持君が愛しくて、抱きしめキスをした。
すぐに加持君が私の中から引き出される。
「いやあ、久しぶりだったのと、葛城の狭さのせいで、秒殺だったな。ハハ」
加持君は笑いながら冗談を言い、後片付けをした。
「ありがとう。加持君」
「こちらこそ。ありがとう」
私たちは見つめ合ってキスをし、裸のまま眠りに落ちた。
加持君の胸の中は暖かくて、とてもいい夢を見た。
いつの間にか、私たちを照らしていた月光が日光になるまで私たちは眠り続けた。
乙です(*´Д`)=з
ええ話や
キモヲタがPCの前でハァハァしながらキーボード弄ってる姿はかなり悲惨
もはや親からも見放され、誰にも注意されない状態なんだろう
なんか嫌なことでもあったのかね。
ニートで引篭もってるから現実逃避でFF書いてるんじゃない?
嫌なこと=現実って感じなんだろ
つまり、173=175がここにレスしているのは現実逃避なのだね。早く現実に戻りなさい。
「うん・・・・。今何時・・・?」
前夜の疲れがまだ残っているのに太陽の光で起こされた。
「ああああ!もう10時!?壱限聞き逃した・・・」
「ん?おはよう。どした?」
「加持君!目覚ましかけ忘れてる・・・」
「あれ?!本当だ。昨日は夢中だったからな。ハハ」
「ああ、今まで無遅刻無欠席だったのに・・・ハア」
「俺もだよ・・・・ハア」
壱限に行きそびれただけなのに、落ち込んでしまって。いきなり今日大学へ行く気が無くなった。
「もう、今日は学校行かない!」
「そうか・・・。じゃあ俺も行かない」
「いいの?」
「全然痛くないね。今まで全出席だからな」
「そう」
そういうわけで、今日は二人で欠席を決めた。
それがいけなかった。たった一日と思っての欠席が一日では済まなかったのだ。
その日から私たちは加持君の家でゴロゴロする生活になってしまう。
布団は敷いたままで、二人でイチャイチャして過ごした後、セックス。
一眠りして、食事をして、テレビを見て、セックス。
疲れて眠って起きると昼前。そして、欠席を決める。
そんな生活が3日続いた。
私はまだ快感を得るには程遠かったが、最近知ったばかりの加持君との深い関係の虜になっていた。
加持君もまた、少し淋しくなると私にスキンシップを求めてきて、私が快く応じると嬉しそうにするのだった。
時々、マサミを思い出している様子にも見えたが、私はさほど気にならなかった。
私は3日間加持君の家に篭りっぱなしだったが、
着替えが無いことと、開けてきた部屋が気になり、
一旦自分の部屋に帰った。
留守電が入っている。
「9月○日 午後12時4分です。
もしもし?コトコだけど、3日も休んでどうしたの?何かあったの?
心配です。連絡ください。ピー」
「9月○日 午後15時30分です。
もしもし、リツコです。最近食堂でコトコしか見かけないけど。どうしたの?
コトコも心配してたわよ。ピー」
二人とも心配性なんだから。明日はちゃんと大学行くわよ。
でも、心配かけてごめんね。連絡するか・・・。
私はコトコとリツコに電話をかけ、心配をかけたことを詫び、明日は大学に行くと約束した。
そして、着替えを持ち、部屋のごみをゴミ捨て場に移動させて加持君の部屋へ戻った。
私が加持君の部屋に戻ると、加持君は私にすぐに抱きついてキスをしてきた。
「はあ、俺も子供だな。寂しさを自分の中で抑えることが出来ない」
「友達から心配する電話が入っていたわ。明日は大学へ行く約束しちゃった。明日は行かないと・・・」
「そうだな。最近、堕落しすぎだ。今までちゃんとしてたのに」
「禁断の味を知っちゃったからね・・・」
「そう言われると、嬉しいよ・・・」
私たちはまたキスをして、食事をして、お風呂に入った後、セックスをして眠りに落ちた。
「ああ、またこんな時間?」
時計の針は11時を刺している。また寝過ごした。
「行くのやめるわ・・・」
「そうか・・・」
加持君は嬉しそうだった。そして、また私たちは愛し合った。
この時、私たちは本当に堕落していた。
「ねえ」
「ん?」
「しよう・・・」
「ここでゴロゴロしだしてもう一週間だぞ?この前から友人に会うって言ってなかったっけ?」
「ああ、リツコとコトコね・・・。いいわ、いつでも会えるから。ねえ、それよりも、コツがつかめてきたの」
学校を休んで一週間がたつ頃には私から誘うようになっていた。
繋がる快感を覚えてきたから。自分からどうすれば気持ちいいか、コツもつかめてきていた。
加持君は私が誘うとすぐに応じてくれた。私も加持君もお互いが自分を必要としてくれているのが嬉しかった。
もう、大学のことなどどうでも良かった。
あんなにまじめに授業に打ち込んでいたのに、何故こうなったかは自分でも分からない。
セックスには魔力があるとしか言えない。人を堕落させる魔力が・・・。
親は泣いてるぞ
情けないとは思わないのかな
そんな感覚は麻痺しちゃってるとか
将来どうする気なんだろ
しかし、現実に引き戻される時が来た。
生理が来たのだ。
私は自分が妊娠していないことが分かってホッとした。
避妊をしていてもそれは100%ではない。
やはり、セックスをしている以上、常にその可能性は私たちに付きまとう。
今、妊娠を希望していない私にとって、妊娠は不安材料だ。
生理が来た事でその不安がなくなったのだけど、困ったことに私の生理痛は重い。
腹痛に腰痛。頭痛にイライラ。
薬を飲んでも体は本調子にならない。
特に、私にとって今まで心地よかった加持君の部屋がホルモンの変化のせいで窮屈に感じるようになった。
ここにずっと篭りっきりでいたくない。外に出て気分転換がしたい!
その欲求が湧いてくる。
今日、私たちはまたお昼に起きてしまったけれど、
いつものようにここでゴロゴロするのは出来なかった。
加持君を連れて大学へ行く。
大学へ行くと丁度お昼時。私たちは学食へ向かった。
そこにはリツコがいた。
「ミサト!あなた今まで何していたの?」
「ごめーん、リツコ」
驚いて立ち上がるリツコ。平謝りの私。
「どれだけ心配していたと思うのよ!・・・誰?その人」
「あ、私の彼氏。実はこの一週間。この人と一緒にゴロゴロしてて・・・」
「どうもー、はじめまして。加持リョウジです」
「・・・・あきれた。心配して損したわ」
「ごめーん!大丈夫。これからはちゃんと大学来るから。許して!ねっ」
「はあ〜、全く、私だったらありえないわ。彼氏と一週間もゴロゴロなんて・・・」
リツコはがっくりと肩を落とした。
「確か、赤木リツコさんだよね?有名な」
「そうよ?それがなにか?」
「そうか、葛城と友達かぁ。それは良かった。よろしくな、リッちゃん!」
「・・・・・・そのリッちゃんっての、止めてくれる?リョウちゃん」
「ん!新鮮だ!その呼び方」
「・・・・・・・・・・・」
「クス」
二人のやりとりがおかしくて私は笑ってしまった。
どうやらこの二人も愛称が良さそうだ。
「もう、呼び方なんてどうでもいいわ・・・。ミサト!これからはちゃんと大学に来るのよ!学食で待ってるから」
「はーい、ごめんね、リツコ」
私はリツコに深々とおじぎをして、彼女を見送った。
リツコの喝のおかげで、私たちはまた、いつもどおりに大学へと通うことになった。
お前はいつ現実に引き戻されるのか
こんなキモイレス並べてたって社会復帰できないぞ
なんだか、私のプライベートを勘違いしている人がいるようですが。
主婦です。だから、昼間も書き込めます。
きっとこれから「家事はどうした?!手抜きしやがって」とか「こんな妻持ってだんなカワイソウ」とか書かれるんだろうなw
プッ、図星突かれ過ぎて反論せずにはいられないってか
いくら現実が悲惨過ぎるからってそこまで現実逃避するなよ
職人さん、続きよろしこ。
職人さん乙です!それと187もいい加減にしちゃりぃ?(´∀`)見てて五月蝿いっちゃね…(´∀`;)
キモヲタヒッキーの自慰FFって感じだな。
不自然な会話に、不自然な展開。
もう少し時間かけて文章見直した方がいいんじゃない?
あれあれ、どうしたのヒキ豚?
お前のキモレスを皆が待ってるぞ
早く俺達を笑わせてくれよ
マジレスすると>191藻前の人格をうたがうっちゃね…(´、⊃`)人を冷やかすこととかしかできない能無しの貴様こそが周りにもヒかれてる真性ヒキ豚やと思うね…。いや豚とも呼べんわなw豚さんがカワイソスwママンのおっぱいでもしゃぶってろや〈`∀ヽ´〉gm
お、そろそろ来る頃かな?
事前に連絡を入れるなんて律儀なヤツだ
いっとくけど俺書いとる人とは別人だっちゃよ(´∀`;)
私は講義を終えて、重い体を引きずりながら自室に帰ってきた。
生理3日目。相変わらず生理痛が私を襲う。お昼の薬がもう切れかかっているのだ。
加持君はまだ講義中。
多分、今夜も部屋に誘われるんだろうけど、
この体調の悪さで自転車をこぐのはきつい・・・。
はあ、全く何なのよ毎月毎月。昔はこんなじゃなかったのに。
布団を敷いて横になり、一休みをする。
プルルルルル・・・
2時間ほどして電話が鳴った。多分加持君だ。
「もしもし?」
「あ、今、講義終わったから」
「そう」
「これから来ない?」
「行っても、出来ないわよ。残念ながら、生理だから・・・」
「フッ、出来なくて残念なのは葛城の方だろ?」
加持君に鼻で笑われる。
「う、うるさいわね!違うわよ」
本当は図星。でも、肯定したくない。
「一緒にいられるだけで俺は全然構わない」
「行きたいんだけどね、体がついていかないのよ・・・」
「生理痛?薬は?」
「うん。飲んだけど、切れてる。もうすぐ夕食だから次、飲めるけど」
「夕食そっちに行くよ。何食べたい?」
「ありがとう」
私は加持君に夕食の買出しを頼み、部屋の鍵を開けた。
扉が開き、加持君が入ってくる。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
重い体を上げ、夕食を一口食べてすぐに薬を飲む。
聞き始めるのにあと30分位か、長いな・・・。
「葛城、コレ」
加持君から小さい紙袋を渡される。
「ん?何?」
開けてみると、中には
「鍵?」
「そう、俺の部屋の鍵」
「・・・・・どういうこと?」
「俺が講義で遅くなってるときは勝手に開けて入っててよ」
「いいの?」
「もちろん。大学挟んで全く逆にあるだろ?俺たちの部屋。
だから、一旦ここで俺を待つのは大変だと思ってね。今日なんか特に」
「うん、ありがとう。もらっておくわ」
「よし、行くか!」
加持君は立ち上がる。まだ、薬は効いていない。
「ちょっとまってよ、まだ・・・」
「寝てていいよ。俺が荷物積むから。車で来たんだ。今」
加持君は前から計画していたのだろうか?用意周到さが見える。
私の着替えや勉強道具を車に積んで、
私の体が楽になるのを待ってから私たちは車に乗り込んだ。
そして、今夜から私たちの同棲生活が始まる。
一体どんな生活になるのか。
それはまた暫く後に・・・・
満を持してヒキ豚登場
いやぁ、分かり易いタイミングだこと
ヒッキーヒッキー言われるから、お昼の投稿は辞めちゃったのかな?
どうせもうバレてるんだから無駄なのに
呼んでくれた皆さんありがとうございました。
最初は批判されて書くのをためらった時期もありましたが、
もうすでに私の頭の中では二人の出会いから付き合うきっかけ、
初体験、同棲までの流れが出来てしまっていて、急いで書き込まずにいられませんでした。
アニメとのつじつまを考えながら物語を想像するのって楽しいですね。
私の頭は今のところここでネタ切れです。
また面白い話を考えたら書き込みに来ますので読んでください。
では〜
乙です♪
つか、糞スレ放置して逃げんなよ
削除依頼出して来い
乙〜また書いてくれよ〜
うん、荒削りだけど良かったよ。
ミサト視点だから女性かなとは思った。
あと、嵐はスルーがお約束ですから。
気にせずに。乙。
起伏の無い展開で、書いてる本人しか楽しめない内容だね。
急いで書いたせいか全体的に手抜きが目立つ。
書きながら投稿するのではなく、一段落ごとに纏めて投稿するようにした方がよいよ。
ワードか何かに書いて、コピペで貼り付けるとか。
その方が見直しができてミスが少なくなる。
きっちり200に収めている辺り、プロットはしっかり出来ているようなので惜しいと思った。
出会い編、完結おめでとう。
乙でした。
ヒキ豚晒しage
この2人好きです。頑張って書いてください
ざっと読んだけど新鮮でおもしろいです。嵐は人格カス以下なので、気にせずに頑張ってください
加持君と一緒に暮らし始めて一週間が経った。
「今夜、バイトでちょっと遅くなる。夕食はご飯と味噌汁だけ用意しといて。
おかずは持って帰るから」
今朝、加持君はそう言って私と別れた。
加持君は夏休みの間も時々、バイトが不定期に入り、
そのたびに2〜3時間ほど家を留守にしたことがある。
単発でバイトは入るらしく、その都度、日払いのお給料を貰って帰ってきた。
私は夏休みの間だけのバイトなのかと思っていたが、
夏休みが終わって大分経つのに、まだ時々バイトをしている。
「一体なんのバイト?」
一度、そう聞いたことがあるけど、
「んー、一言では言い表せないなぁ。ま、そのうち分かるよ」
と加持君は濁しただけだった。
バイトは平日も休日も昼夜もお構いなし。
前日に依頼が来ることもある。
それでも、加持君は電話が来ると断らずに依頼された時間に出て行くのだった。
学校が始まってからは大体、講義が終わってすぐだったり、朝早くにバイトは入っていた。
一体なんのバイトだろうか?
私の想像力が働く。
飲食店や家庭教師みたいな学生がする一般的なバイトじゃなさそう。
だとすると、夜の・・・・・・?そんなわけないか、昼が一番依頼が多いんだし。
もしかして、昼の奥様相手?!
・・・それが一番可能性が高い気がする。
夫が仕事で忙しい。そんな淋しい奥様から昼間に呼び出されて相手をし、
時々、休日や夜も相手をし、学校が始まってからは、講義の後や早朝・・・・。
確かに加持君は見た目がなかなかいいし、奥様も満足されるに違いない。
そんなことって・・・!?
なーんて、あるはず無いわね。
あーあ、馬鹿なことに頭つかっちゃった。
私は夕食のお味噌汁を作りながらそんな馬鹿な想像を楽しんでいた。
加持君と一緒に住み始めてから、私の料理の腕はグングン(?)と上達している。
今じゃ、かつおだしも、昆布だしも、煮干しだしも取れるようになった。
ご飯も炊けるし、簡単な料理も作れる。
ま、加持君と一緒に作っているんだけどね・・・・。
ガチャガチャ
玄関の鍵が開く音がする。
加持君が帰って来た!
嬉しくて胸の鼓動が高鳴る。
一緒に暮らしているとはいえ、離れている間はやはり寂しい。
加持君よりも早く帰ってきてしまうと
どうやって時間をつぶそうか考えて過ごさなくてはならない。
こんなときは加持君に精神的依存していることを自覚する。
私は加持君がいなければ駄目なんだ。
「ただいまー」
「お帰り」
玄関に迎えに行き、加持君に抱きついてキスをする。
「手洗いくらい待ってくれよ・・・今日は特に汚いんだから」
加持君は私を抱き返さずに、洗面所に向かった。
「ごめん。って、・・・・・何これ?」
玄関には段ボール箱が置いてあった。引越しに使うくらい大きい。
「ああ、バイトの成果。見てみてよ」
「うん?」
ダンボールを開く。
「何コレ!?すごい!」
「立派だろ?」
中には沢山の野菜が入っていた。
トマト、かぼちゃ、きゅうり、レタス、ジャガイモ、ニンジン、ピーマン、とうもろこし。etc・・・
「農学部の実験野菜の収穫だったんだ、今日。余ったの貰ってきた」
「そうだったの・・・」
「みずまきとか、雑草取りとか、虫取りとか、まあ、いろいろやったんだ。
農学部が世話できないときの畑の世話役。それが今までの俺のバイトさ」
なんだ、奥様の慰み役や闇のバイトじゃなかったのか・・・。
ホッとする私。
「でも、一言で言い表せないって言ってなかった?」
「ああ、だって、バイトはコレだけじゃないからな」
「え?」
「医学部の人体実験のバイト、芸術学科のモデルのバイト、
工学部のデータ入力に、文学部の更正に・・・」
「そんなにやってるの?!」
「ほとんど単発でね。でも、この農学部のバイトは珍しく長期だったんだ。
そして、今日は収穫の喜びを知る。農学部に入っとけばよかったな〜」
加持君は満足そうに笑った。
「ってことで、これで夕食つくろうよ」
「うん」
二人でエプロンを付けてキッチンに立つ。
私はサラダを作りにかかった。レタスを手に取り、葉を一枚はぐ。
パシッ
取れたてのみずみずしいレタスは弾けながら玉からはがれた。
「あ、そうそう、その野菜さ」
「うん?」
レタスを水の張ったボールに入れる。その調子で2枚、3枚、4枚・・・
「無農薬栽培実験の野菜だから」
ボールにレタスの葉とは違う、細く、小さい緑色の物体が浮かぶ。
「もしかしたら、虫が」
「きゃあああああああああああああああああああああ!」
私は悲鳴をあげてキッチンから一歩下がり、加持君にしがみついた。
「やっぱり、いた?」
「言うのが遅いわよ!」
「はは、ごめん」
加持君は笑いながら私の頭を撫でた。
「笑い事じゃないわよ!」
この馬鹿加持がぁ・・。
そんなわけで、今日の夕食はご飯と味噌汁以外はすべて加持君が作った。
私はレタスを一枚一枚確認しながらサラダを食べた。
乙〜
ウンコ乙
いいよ〜いいよ〜
どうでもいいよ〜
ただ今、単位取得の試験&レポート提出期間の真っ最中。
私と加持君は毎日レポートを書いたり、勉強したりと学生らしい日々を送っていた。
私たちは違う学科なので二人で協力し合ってお勉強。
なんてことできるはずも無く、無言で黙々と自分の課題をこなす日々。
一緒の空間にいるのに疎外感を感じる。
ご飯も最近コンビニでちょっと手抜き気味。
加持君と付き合う前は、私にとってコンビニは普通の食生活だったのに
一旦ランクが上がると、コンビニは嫌になってしまっている。
ああ、加持君とおいしい手料理を作って食べ、その後はめくるめく快楽に溺れたいっっ!
なーんて贅沢者なの、私って。
そんな禁欲生活の日々も明日で終わり。
明日の夜には欲望が果たせると思うと、わくわくする。
何食べようかな?どんなことしようかな?うふふ
妄想にふけっていると、
「あ、葛城。そういえば・・・」
「何?」
「明日の夜、クラスで試験終了の打ち上げがあって、遅くなるから」
私の期待を打ち破る加持君の言葉がかかる。
「あ、っそ・・・・」
本当は行かないで欲しいし、ずっと一緒にいて欲しいけど、
なんだかそう言ってすがりつくのも癇に障るので私は了承した。
私は妄想していた自分が馬鹿らしくなり、再び勉強に精を出した。
次の日。加持君の帰りは本当に遅かった。
深夜0時まではなんとか起きていたんだけど、
私は連日の勉強とレポートの疲れが溜まっていたので
テレビを見ながらソファでいつの間にか眠ってしまった。
朝日を浴びて目覚めると、私の上に毛布が掛けてあり、
隣の部屋では加持君が雑魚寝していた。
自分で布団を敷けないほど酔って帰ってきたんだわ。
全く、そんなになるまで飲まなきゃいいのに。
普段はしっかりとしている加持君の意外な一面にあきれるやら、可愛いやら・・・。
私は布団を敷いて加持君を一旦起こしにかかる。
「加持くーん。布団敷いたよ!」
「うーん・・・」
寝返りをうつ加持君の体はまだお酒の匂いが抜けていない。
「一体何時まで飲んでたのよ!?この酔っ払い」
「うーん?帰ってきたのは4時かなあ?」
「そんなに飲んでたの?あっきれた〜」
「久々だったもので、つい・・・」
加持君はおぼつかない体で布団に移動し、再びすぐに眠りに落ちた。
私はそんな加持君をそのままに
一人、朝ごはんを買いにコンビニまで自転車を走らせるのだった。
お昼になってやっと加持君が目覚めた。
大きな酒臭いあくびをしてソファの私の隣に座る。
「うー、あったま痛い・・・」
「馬鹿加持」
「そりゃ酷い言われようだな。ちょっと羽目を外しただけなのに」
「馬鹿よ。大馬鹿」
「なんだよ。何怒ってるのさ?」
「別に・・・・・・」
本当は昨日、加持君と一緒にご飯を作って食べ、そのあとは一緒に布団に入りたかった。
なんて事を言ったら、加持君は自分が愛されているんだと感じていい気になるだろう。
自分をこんなに淋しい思いにさせている加持君に腹が立っていたから、
その言葉は言わなかった。
「久しぶりだなあ。こんなに二日酔いなの」
「なんでそんなに飲まされたわけ?」
「いやあ、女の子たちに勧められてね・・・。
断ると泣きそうな目で俺を見るんだよ。だからついつい・・・」
カッチーン!
こいつ、私が昨日どんな思いで待っていたか想像できないのだろうか?
只でさえ淋しい思いをさせて、しかも女がらみであの時間まで飲んだなんて・・・。
私は完全に頭にきてしまい、その日一日加持君とは口を聞かないことに決めた。
そして、その勢いで今夜もまた、加持君と繋がることは出来なかった。
週が開けて月曜日。
私はいつものようにコトコとリツコと共に食堂でご飯を食べていた。
そこへ
「いたいた、葛城ミサトさん。クス」
「へー、彼女があの葛城さん?クス」
なにやらいやらしい笑いを浮かべ、二人組みの女が私に声をかけてきた。
一人は、以前にあったことのある。レイコだった。
「葛城さん。コレ、この前の飲み会の写真なんだけどぉ。
リョウジに渡してくれないかしら?」
笑顔で私に封筒を差し出すレイコ。横でクスクスと笑っている友人。
なにやら嫌な感じを受けたが、受け取る。
「じゃあね。クスクス」「バイバイ。クスクス」
勝ち誇ったような笑いをしながら彼女たちは去って行った。
「あのコ、この前の・・・」
リツコも嫌悪感を顔に出す。
ん?写真を入れている封筒の封があいている。いいのかな?見ちゃうぞ。
こ、コレは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうしたの?ミサト。うわ!なにこれ!」
コトコが私よりも先に声をあげた。
中には加持君とキスしている女の写真が5枚も入っていた。
それぞれ違う相手だ。その中にはレイコもいる。
加持君の顔は真っ赤で、かなり酔っていたのがとれる。
酔った勢いで加持君は同じ学科の人とキスをしたのだろうか?
「ミサトぉ・・・」
「大丈夫よ。大丈夫・・・」
気丈に振舞おうとするけれど、笑顔は作れなかった。
「多分彼女たち、罠にはめたのね加持君を。まったく、浅はかな・・・」
リツコがため息をつく。
「お酒飲ませて、キスして、証拠を撮ってミサトに突きつけるか・・・。
意図が分かりやすいわね。ミサト!こんなことに負けちゃ駄目よ!」
コトコが意気込む。
「飲んでいたとはいえ、キスしたことには変わりないわ」
加持君に対して否定的な考えが自分の口をつく。
「ミサトがそれを許容できるかどうかね」
許容?そんなことできるわけが無い。何を言っているの?リツコ。
「分からないわ・・・」
泣きそうになるのをこらえて、うつむく。そして、無言。
二人はなにやら話題を変えて楽しそうに話し始めるが、加わる余裕が無い。
結局私は写真を見たときから一口も端が進まず、一言も話さず、
二人が食べ終わるのを待って食堂を後にした。
「ミサト、あんなのに負けては駄目!加持君のことを好きなんでしょう?」
「うん・・・。でも、写真以上のことをしているかもしれないし・・・分からないわ」
「ミサト・・・」
コトコが勇気付けてくれるが、私には全く効果が無かった。
午後の講義は上の空。
加持君とレイコがキスしてから何をしたのか?考えがめぐる。
その考えは私を壊すのに十分な要素だった。
つか、コレ何?
同姓同名の別人のお話っぽいけど
私の中に蛇がいる。嫉妬に狂った蛇がいる。
部屋に帰ったらどうやって加持君を責めようか?
加持君が言い訳をしたり嘘をついたらどのタイミングであの証拠を突きつけようか?
講義が終わり、そんなことばかりを考えて加持君の部屋へと向かう。
「ただいまー」
「おかえりー」
加持君が夕食の準備しながら笑顔で迎えてくれる。
笑顔でいられるのも今のうちよ。とあざ笑う自分がいる。
好きなのに許せない自分がいる。
トコトン攻め倒したい自分がいる。
そんな蛇の牙は我慢することなく
すぐさま加持君に突き立てられた。
「加持君、この前の飲み会のときの話なんだけど」
「唐突だなあ。何だ?」
「何があったか話してくれる?」
「・・・・誰かから何か聞いたのか?」
加持君の表情が変わる。覚えているのね、しっかりと。
「今は私が質問しているのよ。答えて。」
「葛城が悲しがるから言わないでおこうと思ったんだけど・・・。
飲み会に参加した何人かに・・・・・・キスをされた。」
加持君はあっさりと吐いた。
なに?もう勝負は終わり?言い訳とか、ごまかしとかないわけ?
あまりにあっさりしているので、あっけにとられる。
「正直者ね」
「どうせ、ばれてるんだろ?女の子たちに言われて」
「ええ、ばれてるわ。こんな証拠まで出してきて!」
私は写真を床に叩き落した。
二度と見たくない写真が床に散らばる。
加持君はソレを拾い上げて、一枚一枚に目を通し、
「まさか撮られているとは思わなかったな・・・」
と、うつむいて静かにつぶやく。
「何がどうなってこうなったか、説明してもらいましょうか?」
私は加持君が簡単に吐いたのに拍子抜けしながらも、加持君を責めた。
「・・・酔ってて、抵抗できなかったんだ」
「抵抗できなかったって、相手は女よ!?何か出来たはずだわ」
「いや、本当に駄目だったんだ・・・。
なんで葛城と付き合ったのか?私は好きだったのにって言われて。
飲んでくれなきゃ私の気がすまないって飲まされて。
酔いがまわって、意識がトロトロしているときにキスされた。
勿論、驚いてすぐに起きたし、言葉では抵抗した。でも、何人かに押さえられて・・・」
「・・・・そう。酔っていたから、仕方が無かったのね?」
「ああ、・・・酔っていたんだ」
「よく分かったわ」
加持君から謝罪の言葉は無い。言い訳だけだと言うことが良く分かった。
「私、これから飲みに行って来る」
私は一旦置いたかばんを持ち、玄関へと向かった。
「葛城、ごはんは?」
「酔ってれば何をされても許されるのね?よく分かったわ」
「葛城、待て!」
加持君が鍋から手を放して、こちらに向かって来たが、
そんなことお構い無しに私は部屋を出て、自転車に飛び乗った。
私は自転車で大学の周辺を回った後、
コンビニでお弁当とビール缶1ダースを買って自分の部屋を開けた。
彼へのあてつけに他の男を酔って引っ掛けようと意気込んで飛び出したは良いが、
そんな勇気あるはずも無い。
はああ、我ながら情け無い・・・・・・・。
がっくりと肩を落としてちゃぶ台に買ってきたものを置き、一人の晩酌が始まった。
「苦い・・・・」
ほとんど初めてのビール。味は苦くておいしいとはいえない。
でも、その苦いビールが喉を通るとスッとした爽快感に変わる。
「これは私の今の気持ちだわ。苦々しい気持ち。
でも、飲み込むと爽快感に変わる・・・」
ビールのおいしさってこういうところにあるのか。
新たな発見だ。
コンビニの弁当を開ける。
「はあ、最近加持君の手料理食べて無いなあ・・・」
ため息が喉をつく。
まあまあおいしいお弁当をチマチマ食べながら、ビールは進んだ。
1本、2本、3本。
ラジオが私の今日の相棒。
ビールがまわって来た。なかなか良い気分。
「あははははは!」
ラジオのトークに過剰なまでにシンクロする。
酔うってこういうものなんだ。自分の感性が研ぎ澄まされていくを感じた。
プルルルルルルル
いい気分で酔っていたのに、電話が鳴る。
「はーい」
ご機嫌で出る。
「葛城?そこにいるのか?」
加持君だった。一気にテンションが下がる。
「なによ?あんた、よくもしゃあしゃあと電話してきて来れるわね」
「良かった。どこにいったのか心配だったんだ。」
「心配?何言ってるの?あんたの心配なんて、私がした心配に比べればどうってこと無いわ」
「そうか・・・」
私は電話をかけてきたことに少し嬉かったが、それでも加持君を許せなかった。
すこし不安にさせてやろうという気が働く。
「私〜、今、男の人引っ掛けてきたの。で、その人と一緒に飲んでるってわけ」
「男の人って誰?」
「さあ?知らない。あったばかりだから」
フフ、男と聞いて声が変わったわね。もっと不安にさせてやる。
「とにかく、その人と一緒に飲んでるの。多分このまま一晩一緒にいるわ。
酔ってれば何してもいいんだものねぇ〜。フフ」
「おい、葛城、変な冗談はよせ」
明らかに焦っている雰囲気が取れる。
「じゃあね、もう電話してこないで」
私は加持君の返事を待たずに電話を切った。
フフ、いい気味よ。さーて、飲むか。
ビールはまだまだある。私は次のビールを開けた。
4本、5本、6本・・・。
「ヴっ・・・・・・」
6本目のビールを飲んでいる途中で気持ちが悪くなった。
トイレへ駆け込む。
「オエ〜〜〜!」
しまった、ペースが速すぎた。
先ほどまでのいい気分が一転する。
苦しい。苦い。臭い。気持ち悪い。
もう最悪な気分だ。
トイレで何回か嘔吐していると、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
もう、こんなときに誰?
一旦トイレから立ち上がり、フラフラになりながら玄関を開ける。
「よう!」
「うっ・・・・・」
加持君だった。開ける前に確認すればよかった。
ますます最悪な気分。
加持君は何も聞かずに靴を脱ぎ、部屋に上がる。
「一緒の男はどこ?」
ズカズカと部屋に入る。
「上がって良いとは言ってないわよ」
「なんだ、葛城の冗談か。良かった」
私が一人なのを確認して安堵の表情を浮かべる。
「ヴ・・・」
また吐き気が襲ってきた。トイレへ向かう。
「ウォエ〜〜〜〜!」
もう胃の中は空っぽでほとんど出ないのに、私の体は出そうと必死だ。
苦しい・・・・。酔いもまわって頭がボーッする。
「はい、コレ」
加持君が水を差し出した。
「・・・いらない」
受け取りたくない。受け取ったら負けだ。
「胃を洗わないと危険だぜ。体が出したがってるし」
優しさなのだろうか?大きなお世話だ。受け取らない。
「何でここに来たのよ?」
「水を飲んだら答えるよ」
そう言って加持君は私の口にコップを押し付けた。
ゴクン・・・。
ゴクンゴクン。
一口飲むと、次々と喉が求める。
私は結局コップ一杯を飲み干した。
「オエ〜〜〜!」
すぐさま胃が水を戻してくる。加持君が背中をさすってくれた。
「はい」
加持君はすぐに2杯目の水をコップに汲み、私の口に押し当てた。
ゴクンゴクン・・・・。
4〜5回飲んでは吐くを繰り返し、私の胃はやっとスッキリした。
「ありがとう。吐き気無くなった」
それと同時に酔いも醒めちゃったけど。
私はトイレから出て、キッチンでうがいをし、晩酌をしていた席へ戻った。
加持君はちゃぶ台を挟んで正面に座った。
「一人で飲んでつぶれるなんて、一体どんな飲み方したんだ?
たった一時間半でビール6本は早すぎだ」
苦笑する加持君に私はカチンと来る。
「あなたには関係ないでしょ。何で来たのよ」
「関係あるだろ?俺が原因で飛び出していったんだ。
恋人が飛び出して行ったら探して迎えに行く。当たり前だ」
「・・・・・・・」
「ついでに、恋人のやけ酒の面倒もみる。当たり前だ」
加持君に頭を撫でられる。子ども扱いされた様で納得がいかない。
「偉そうに言わないで。この浮気者」
「浮気じゃないだろ?一方的にされたんだ。俺も被害者さ」
「じゃあ、私が傷いてるのは筋違いってことね?他人に嘲笑されて、あんな写真渡されて・・・。
それでも、傷つく私がおかしいって言うのね?!」
感情的になってしまい、声を荒げる。
「それは俺が話さなかったのが悪い。
あんなカタチで葛城に知られてしまったのは悪かったと思っている。ごめん」
加持君は深々と頭を下げた。
「キス以上はしたの?」
「してない」
「嘘」
「嘘じゃないよ。信じてくれ」
「・・・・・・」
一番信頼を置けるはずの加持君を完全に信じることが出来ない。
その理由は分からなかった。
プルルルルル
沈黙を破るように電話が鳴った。
「もしもし?」
「ミサト?加持君の件、調べてみたの」
リツコからだった。
「一緒に写真に写っている男の子に見覚えがあって、探りを入れたの。
あの時の状況を話してくれたわ。黒幕はあのレイコとかいう子よ。
あの子が加持君をはめるつもりで飲み会を主催したらしいわ」
「本当?」
「ええ、彼、口止めされてたらしいけど、ちょっと脅したらすぐに口を割ったわ。
目的はコトコが踏んだとおり、写真を撮ってミサトに突きつけるため。
それで別れを誘発させようとしていたらしいわ。だから、加持君はシロよ。安心して」
ホッと肩の力が抜けるのが分かった。
「ありがとうリツコ」
「どういたしまして。なんなら私がレイコにお灸をすえておきましょうか?」
「それはいいわ。後は私が自分で何とかする」
「そうね、あまり表ざたになると良くないしね。じゃあ、そういうことだから」
リツコはハキハキと口早に話、電話を切った。
「・・・ありがとう、リッちゃん」
加持君もその電話を隣で聞いていた。そして安堵の表情を浮かべる。
「疑ってごめんなさい・・・」
私は加持君の右胸に頭を軽く押し付けた。
加持君は右腕を私の背中に回し、軽く抱き寄せる。
「・・・疑われるようなことしたのは俺だからな。こっちこそごめん。
もう、二度と飲みには行かないよ。行っても葛城同伴だ」
「そうして・・・」
安心したのと、悲しいのとが混ざった複雑な気持ちで彼の胸に身をゆだねる。
暫くして加持君が私の肩を掴み、ゆっくりと私を引き離し、
「うちで飲みなおす?それとも一晩離れて過ごす?俺、夕食まだなんだけど」
と聞いてきた。
「離れたら他の女と何するか分からないから一緒に過ごすわ」
私は釘を刺して、加持君と共に彼の部屋に向かった。
久しぶりの加持君の手料理は肉じゃが。ほっぺが落ちるほどおいしかった。
今回の件で言いたいことは沢山あったけど、それは布団の中で言えばいいと思っていたので
切り出さなかった。加持君もあえて話題を振らなかった。
いつもどおりにお風呂に入り、電気を消して布団に入る。
そして、手を繋ぐ。
これは日課みたいになっているけれど、最近はテストやレポートで疲れていて話すまもなく寝てしまっていた。
ちゃんと話そうという姿勢で臨むのは久しぶりだった。
「葛城、言いたいことあるだろ?沢山」
最初に切り出したのは加持君のほうだった。
「そんなには無いわよ」
「そうか、なんでも言ってくれ。俺が全て悪いんだから」
「そうね、何から言ってやろうかしら?フフ」
「少し怖いな。でも、自分の蒔いた種だ。ちゃんと受け止めるよ」
「最初はやっぱ、コレね。私以外とキスするなんて、最低」
「そうだよな、ごめん。もう飲まないよ。ホントに抵抗できなくなるもんだな」
「テストが終わったその日に私を置いて飲みに行くなんて、しかも朝方帰ってくるなんて。
なんて人なの?!折角、二人でノンビリ過ごせると思ってたのに、
・・・それを察して欲しかった」
「そうだったのか。鈍感だったな。すまない」
「そんなとこかな?」
「あれ?もう終わりかい?もっとあると思ったのに」
「だから言ったでしょ?そんなに無いわよって」
本当はある。でも、言ってあげない。ずっと淋しかったなんて、抱いて欲しいなんて。
「そうか」
「そうよ」
「じゃあ、寝ようか?」
「・・・・・・・・」
駄目だ、加持君は鈍感だった。今夜こそと期待していたのに。私は返事が出来ない。
「嫌かい?」
「・・・良いわよ。寝ましょ」
私は言いたかったけれど、プライドや察して欲しい気持ちがあって言い出せない。
「なんだか、淋しいな」
加持君がそうつぶやいた。
加持君も同じ気持ちなんだ。淋しいと思っていたんだ。そうなんだ・・・
「私も淋しい・・・」
私は加持君の方を向き、目を見つめた。加持君も同じようにこっちを見る。
何も言わずに唇を合わせる。
「淋しいのは無くなったかい?」
「少しね。加持君は?」
「ああ、少し良いみたいだ。でも、まだ淋しい」
「私も淋しい・・・」
「どうすればいい?」
「抱きしめて、キスして、奥まで入ってきて」
「了解。・・・10日ぶりくらいかな?」
「そうね。その間ずっと淋しかった」
「そうか、ごめん」
そうして私たちは久しぶりに繋がることが出来た。
乙〜
246 :
???:2005/12/28(水) 21:24:13 ID:???
お疲れ様です(・∪・)>楽しみに見てますっ
提出したレポートが返ってきた。
というか返された。
「コレじゃ駄目だよ、葛城君。もう一度だ。期待しているよ、葛城博士の娘さん」
「はい・・・」
もっとも、厳しくて有名な教科のレポートだったのでクラスメイトの半数は返されたんだけど、
それにしても、あの講師は何を勘違いしているのだろうか?
親が優秀だからといって子供もそうだとは限らないのに・・・。
「はあ・・・」
レポートを返されなかったコトコの隣でため息をつく。
「コトコって、意外と出来るんだ・・・」
「そんなこと無いわよ。たまたまよ。先輩のお手本もあったし」
「お手本?」
「そう。先輩のレポートを借りて、どういうタイプだと受け取ってもらえるか分析してから書いたわ」
「そうだったの、要領いいのね」
「まっね、そうしないと留年しちゃう、私だったら。テヘ」
そういってコトコははにかむ様に笑った。
私も愛想笑いを返す。
自力の努力がコトコの要領に負けたのは正直言って癪に障った。
でも、コレは事実。私とコトコのレポートには優劣の差が付いている。
多分、もう優はもらえないわ。コトコには可能性があるんだろけど。
そう思うと悔しかった。
今日は二人とも同じ時限であがりなので、私たちは加持君のいる校舎の玄関前で待ちあわせをした。
あの爆発事件から早4ヶ月。何年も前のことのように思える。
爆発した教室には今もまだビニールが被せられていた。
「よお」
飄々とした感じで加持君は現れる。
今日は嫌な思いをしたのに思わず顔がほころぶ。
「今日、レポート突っ返されちゃった」
「へえ、そりゃ厳しいな」
「もう、今週末までに再提出。寝れるかしら?」
「出来る限りは協力するよ。家事とか・・・」
「ありがとう」
優しい加持君の言葉にレポート作成への意欲が湧き上がってくるのが分かる。
さっきまで、単位落としてもいいか。なんて思っていたのに、
加持君に支えられるのならばレポートをがんばろう。という気になっていた。
「あら、加持くーん」
二人で自転車置き場へと向かう途中、一人のボーイッシュな背の高い女性に声をかけられた。
「よお、お久しぶり」
「お久しぶりね。・・・はじめまして」
その女性はニッコリと私に優しい笑顔を投げかけた。
「はじめまして」
こちらも笑顔を返す。
「加持君の彼女?」
「そ、俺の彼女」
「そうなの。いつの間にできたのよー、知らなかったわ」
「つい最近さ。会わないから近況報告もおろそかになる」
「確かにね。あ、丁度良かった、モデル募集してるわよ。今度はラフ。彼女どうなの?」
女性は私をじっと見た。
「だってさ、どうだ?葛城」
「え?・・・ラフってなに?」
「ヌードよ。ヌードモデル」
「ヌード!?無理無理!絶対無理!」
私は思いっきり首を横に振った。
「なんだ、加持君が大丈夫だから、彼女も同じなのかと思ったのにぃ。
いいプロポーションしてるのに残念」
口悔しそうに私をみる女性に私は引いてしまう。
それに女性の言葉から、加持君はヌードモデルをしたことがあるってことがとれる。
一気に気分が悪くなる。
「俺と葛城を一緒にするなよ。自分と違うから好きになるってこともある」
「ねえ、葛城って、もしかして・・・」
ああ、またか。もう慣れている。
「父はここの博士でした」
「ああ、やっぱり?!そうなんだ、葛城博士の娘が加持君の彼女だなんて人のつながりって不思議ね」
私はこの女性の会話から、この人にとって自分は所有格でしかないんだということに気が付いた。
葛城博士 の 娘
加持君 の 彼女
私は私なのに、この女性にとって私は誰かの付属物になっているんだということ。
そしてそれは、この大学にいる人のほとんどが私に関して抱いている呼び方なんだということに
私は今日、この時点で気が付いた。
本当はもっと前にうすうすと気が付いてはいてけれど、
明確に自覚として感じたのは、この女性が所有格の表現を何度も使ってくれたからだった。
「じゃあね」
「ああ、また・・」
その女性は最後まで私の名前を聞かなかった。
葛城博士の娘が加持君の彼女であることを分かった事でもう満足だったんだろう。
部屋に帰ってからすぐさま私はレポートに取り掛かる。
加持君は夕食の準備に取り掛かる。
「今日から提出日までの3日間は俺に家事を任せてくれ」
そんな加持君の優しい言葉が私にレポートへの情熱をかきたてた。
加持君の期待に答えなきゃ。加持君の優しさを無駄にしないようにがんばらなくちゃ。
私はレポート作成に躍起になっていた。
「先に寝てて。もうちょっと頑張るから」
「それじゃ、お言葉に甘えるとするよ。おやすみ」
「おやすみ」
加持君は私にキスをして隣の部屋へ行った。
深夜1時半を回った頃。
「ううっ・・・・・・。んんっ・・・・」
隣から加持君の苦しそうな声が聞こえた。
加持君を起こさないようにこっちの部屋の電気を消してから、隣の部屋へと続くふすまを開ける。
加持君はうなされていた。
体調が悪いのか?それとも悪夢をみているのか?
折角眠っているのに・・・。と、起こすのを躊躇したが、あまりに苦しそうなので、やはり起こすことに決める。
「加持君?大丈夫?加持君?」
仰向けで唸っている加持君の肩に手をかけて揺さぶる。
パチッ
加持君の目は案外たやすく開いた。すこしびっくりする。
「・・・・・・・・」
加持君は私を凝視した。
「なっ、なに・・・?」
私がそうつぶやいた次の瞬間、抱きしめられる。
「よかった!よかった・・・・」
加持君は今にも泣きそうな声で私を抱きしめる。
「加持君?」
まだ夢を見ているのだろうか?体調が悪いわけではない様だわ。少しホッとする。
「よかった、マサミ。無事でよかった」
加持君のその言葉に私は凍りついた。
「・・・・・・・・・・ZZZZzzzzzzzzz」
加持君は安心したのだろう。マサミ(私)を抱きしめたまま安らかな寝息をたて始めた。
私はこの瞬間、また新たな自分の所有格を発見した。
これもうすうす気が付いていた。でも確信したのは初めてだった。
そう私は
葛城博士 の 娘
であり
加持君 の 彼女
であり
マサミ の 身代わり
なのだ・・・・・・・・・・・・・・。
朝、ワープロの前で目覚める。レポート書いたまま寝てしまったようだ。
加持君はもう朝ごはんをつくってくれていた。
「おはよう・・」
「おはよう」
眠い。
加持君の笑顔に笑顔で答えられないくらい私は疲れていた。
昨夜はあの後、自分が何も考えられないようにすぐさまレポートに向かった。
ひたすらワープロに向かった。
何か考えたら、どうにかなりそうで怖かったから。
「今日、バイトがあるから遅くなる」
「そう・・・ヌードモデル?」
「プッ、違うよ。動物の餌やり。そんなこと気にしてたのか」
「別に・・・」
噴出す加持君。まったく、人の気も知らないで能天気なんだから。
「ヌードモデルは一度だけあったな。でも二人っきりで・・・なんて色気のあることじゃないぜ。
10人くらいの学生に囲まれて、先生にポーズを指定されて、あとはひたすら停止。
結構、筋肉使うんだ。まあ、その甲斐もあって給料は普通のモデルの3割り増しだけどな」
誤解の無いように。って感じだろうか?
加持君は朝食を食べながらヌードモデルを務めたときの状況を詳しく話してくれた。
「あ、勿論、もう誘われてもしないよ。あれは自分がフリーだったから出来たことだ」
「そう・・・。でも、加持君はやるかどうか聞いてきたじゃない」
「あれは、断ることが前提。冗談だよ。しないだろ?俺以外に裸を見せるなんてことは」
「・・・・・・」
「するのか?!」
突然、焦ったように声を上げて加持君は私に問いかける。
「しないわよ。もう、驚かさないで」
その言葉を聞いてホッとする加持君。
ああ、私、愛されているんだわ。加持君に・・・。
本当に?
加持君は私じゃなくて私の中のマサミの思い出を愛しているんじゃないの?
でも、それは良いって事で自分で結論つけたじゃない。
そうね、着けたわ。マサミを通してでも私を好きでいてくれる加持君が好きって・・・。
ちゃんと自分で決めたことなのよ・・・・。
でも・・・・・・。
でも、あの時は良かったけれど、今は何だかそれが空しい。
自分で決めてことなのに?
そうよ、自分で決めたことなのに。
今はそれが嫌なの・・・・。
今日も大学から帰るとすぐさまレポートに取り掛かった。
加持君はバイトで遅くなるものね。さっさと集中できるときに進めなきゃ。
夕暮れの部屋の中、クーラーをつけずに窓を開けてワープロに向かう。
快適だと眠くなってしまうから。
ある程度のストレスがあったほうが仕事ははかどる。
今夜仕上げて、明日提出すればこんな生活も終わる。頑張ろう。
7時をまわった頃、加持君は返ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「作る時間無いから買ってきたよ。おかず。ご飯炊けてる?」
「うん」
「よし、夕食にしよう」
まるで主夫を迎える小説家のようだ。家事を全て夫が担当している。
ああ、時間が無い。
ご飯を食べると、すぐにお風呂に入り、髪の毛を乾かすこともせずに再びワープロへ。
「昨日から大変そうだなあ」
「それも今夜までよ。ごめんね、迷惑かけて」
「いや、大変なときはお互い様さ。俺が大変なときはよろしく」
「ええ、もちろんよ」
加持君は快い表情を向け、私のレポートの邪魔をしないように静かに本を読み出した。
同じ部屋にいて違うことしている。
付き合い始めのときは体のどこかしらに触れていて、同じことをしていないと気がすまなかったのに、
今は少しくらい離れていても平気。
これはなぜかしら?信頼?
少しくらい離れても相手と自分の関係は変わらないんだという信頼関係が出来ているのかしら?
・・・そんなこと考えるよりもレポート書かなきゃ。
私は再びレポートへ意識を集中した。
レポートの再提出は間に合った。昨日もほぼ徹夜。さすがに体がきついわ。
「ご苦労さん。葛城博士の娘さん」
提出時にまたそれを言われた。どうやら嫌味で使っているらしい。
父となにかあったのかしら?・・・そんなことはどうでもいいわ。
提出できたんだし、部屋に帰って寝よう。
私は部屋に帰るなり、布団を敷いて眠った。
久しぶりに眠れるー!
至福の時だった。でも、そんなときに限って夢見が悪かったりするのよね。
セカンドインパクトの夢だった。
私をカプセルに入れて微笑んだ父の最後の姿。
そして場面がすぐに変わって
私に微笑む加持君。
「マサミ・・・」と私に呼びかけ、抱きしめる。
違う!
私はあなたの娘でも、あなたの彼女でも、マサミの身代わりでもない!
私は私よーーーーーーーーーーーーーーー!!!
私は私。誰でも無いわ。
一時的に所有格になっているだけ。
私は私。父の血統も、加持君との関係も、誰かさんの思い出も関係ないわ。
私は私。私は私なの。
誰のものでも、どこの所属でも関係ない。
私は私。他の人との関係なんて関係ないわ。
なのに、何故!?
何故、私が一番そこにこだわっているの?
私は誰のものでも無い。私は私。
なのに何故?
何故、私はそれにこだわっているの?
「葛城!葛城!」
ハッ!
加持君に揺り動かされて目が覚める。
加持君の心配そうな顔が目の前にあった。
大学から返ってきたまんまの格好で眠ったんだけど、
汗でぐっしょり濡れている。クーラー付いてたのに。
「だいじょうぶか?うなされてたぞ」
「ああ、ごめん。変な夢見てた。起こしてくれてありがとう」
「そうか、良かった」
外はもう暗かった。ご飯とお味噌汁の匂いがする。今、何時?
時計を見るともう7時をまわっていた。
「ああ、レポート終わったのにまた加持君にご飯作らせちゃった・・・」
「いいよ。・・・さっきまで気持ち良さそうに寝てたのにいきなり唸り出すもんだからびっくりしたよ」
落ち込む私に加持君はいつもどおり優しく声をかけてくれたのだった。
「何か、考え事してる?」
「ん?別に・・・」
夜の布団で加持君が私に聞いてくる。
さっきの答えは嘘。本当は考え事をしている。
でも言えるわけ無いわ。言ったら加持君傷つくもの。
加持君は私を抱いているのか?それともマサミの思い出を抱いているのか?
最初に繋がるときはそれでも良いと思ってた。
加持君が私を抱きながらマサミを思い出してくれても構わないと・・・。
でも、今は違っている。
自分が決断したのに、自分勝手な私・・・。
最初のうちはただ、繋がっていれば良かった。
それだけで幸せだったのに、体を重ねるごとに
快感を味わいたい。もっと快感を味わいたい。
私だけを見て欲しい。過去の女なんて思い出して欲しくない。
どんどん欲が増えていく。
私って、強欲なのね。改めて自覚したわ。
「全然感じてないみたいだ。・・・濡れないし」
「そう?でも大丈夫よ。いれて」
「まだ濡れてないのに?」
「構わないわ」
口や表情では加持君の前戯に集中し、感じているように見せることは出来ても、
体までは演技できなかったか・・・。私もまだまだね。
「駄目だよ。そのままいれたら体を痛める」
「いいの、いれて。いれて欲しいの」
「・・・駄目だ。今夜はやめよう」
本当は入りたがっていることは加持君の体を見ればすぐに分かる。
それでも加持君はちゃんと理性でそれを抑えることが出来ていた。
大人ね、加持君て・・・。それに比べて私は・・・
私は今日繋がることを諦めて私の隣に仰向けに寝た加持君の上にまたがった。
「葛城?・・・・や、やめ・・・・・」
抵抗する言葉になんて聞く耳持たないわ。
私は加持君を握り締めて、まだ乾いた自分の中に差し込んだ。
グッ・・・ズブ・・・ズブ
痛い!・・・でも嬉しい。
思い出すなあ、初めて加持君と繋がったときのこと。
加持君の全てを愛して、全てを受け入れて。快感は無かったけれど、とても嬉かった。
いつの間にか痛みを感じなくなって、入れた瞬間から気持ちよくなってしまってたのね。
快感を感じ出すともっともっと感じたくなって、自分からねだって・・・。
でも、私は今みたいに痛みを感じながら加持君に貫かれるほうが好き。
加持君によって処女喪失をしたときのことを思い出すもの。
私は加持君の静止も聞かずに体を進める。
加持君は私の腰を掴んで止めようとするが、私の全体重をかけた押しには成す術も無かった。
はああ、全部入ったわ・・・。
私は満足そうに困惑している加持君を見下ろす。
騎上位なんて初めてだからどうやって動けばよいのか良く分からないけど、多分、こうよね?
私はスクワットの姿勢になり、体を上下に動かし始めた。
「止めろ、葛城。・・・くッ、やめるんだ、まだ、つけていないだろ?」
痛い・・・痛い・・・・。
濡れていない私の中で加持君が浅くなったり深くなったりを繰り返す。
摩擦の強さに痛みを感じながら、なお私は動き続けた。
少しずつ体がなれて気持ちよくなってくる。
「葛城っ、やめるんだ・・・。このままだと、・・・妊娠するぞ」
「良いわよ、妊娠したって」
「葛城?」
「おろせば良いじゃない」
私は平然と恐ろしいことを言ってのけた。
このときの私の顔はきっと相当残忍なものだったろうと思う。
加持君の表情が恐ろしいものを見るかのようだったから・・・。
自分を傷つけたかった。先のことなど、どうでも良かった。
体を傷つけ、心を傷つけたかった。
私は私じゃないんだ。
私は所有格。
葛城博士の娘。加持君の彼女。
そして、マサミの身代わり。
こんな状況で自分のことを大切になんて思えるはずがない。
大切になんてしなくても良いんだわ。
私は私じゃないもの。
私は加持君の昔の彼女の身代わりなんだもの。
加持君は私を見てくれていないもの。
もう少しよ。もう少しで加持君が私を汚してくれるわ。
見て、加持君とても気持ち良さそうだもの。
目がとろんとして、ハアハア息が上がってきてる。
もう少しで加持君自身から出る濃厚な液体で、
私は心も体も傷ついて、汚れることが出来るわ。
私は足が疲れるのもお構い無しで動き続けた。
そう、もう少しだった。もう少しで目的が達成できると思ったのに・・・。
加持君はいきなり上体を起こし、私の肩と腰に手を添えて、私を押し倒した。
さっきと全く逆の体位になり、加持君が上、私が下になる。
ズルン
その体位を取ったすぐ後に、加持君は私の中から自分を引き出してしまった。
何故?気持ちよかったでしょ?何故引き出してしまうの?
不思議に思って加持君の顔を見ると、彼はとても険しい表情をしている。
ちょっと、これはキモイかも
「葛城、らしくないぞ。命を軽視するなんて・・・」
加持君は怒っている様だった。
興奮が冷めやらぬ様子なのに、すぐさまトランクスとシャツを着る。
「何があったんだ?葛城。またレポートを返されたのか?」
「違うわ。受け取ってもらえたもの」
「そうか。じゃあ、何があった?何故やけを起こしている?」
「やけなんて起こしていない」
「起こしているだろ?痛い思いをしてまで入れてくるなんて。
しかも生で。俺は嫌だね、そんなセックス」
加持君に冷たく言い払われる。
あなたのせいよ。あなたがマサミを忘れられないからいけないのよ。
あなたが寝言でマサミの名前を呼ぶのがいけないのよ・・・。
そう言って攻め立てたかったけれど、それを承知で私は加持君と付き合ったのだし、
加持君の無意識の行動に対して不満を言っても、加持君に直せるわけが無い。
私は口をつぐんだ。
謹賀新年
「何があったんだ?葛城」
「・・・・・・・・・・・」
「ハア、・・・理由がいえないならそれでもいい。だがな、葛城、
自分の気持ちをぶち当てるためのセックスはしないほうがいい。
相手が傷つくし、何よりも自分が傷つく・・・」
「・・・・・・・・」
「もう寝よう。服、着たほうがいいぞ」
加持君は強い口調でそう私を諭し、服を着て隣の部屋へといってしまった。
一人裸で残される私。
・・・惨めだ。
孤独だ・・・・。
恋人と同棲しているのに、すぐそばに加持君はいるのに・・・。
苦々しい気分のまま私は服を身にまとい、加持君のいるリビングを通って台所へ向う。
「ビール、貰うわよ」
「ああ・・」
私は缶ビールを開ける。
ゴクリ ゴクリ ゴクリ・・・・
苦い。でも飲み込むとソレが爽快感に変わる。
コレは私の気持ち。飲み込むとスッキリする。
おいしい。こんなときのビールってなんておいしいの!
私はすぐに一本目を飲み干し、次を開けた。
2本目もすぐに胃の中へと入る。
次・・・。
3本目を開けたとき、加持君が私の心理状況を把握したのか、私からビールを取り上げた。
「ペースが速すぎるぞ、次はビールに当たるのか?」
「・・・・・」
うるさいわね!あんたが悪いんでしょ?!この気持ちはあなたのせいよ!
あなたさえいなければ私はこんな思いをしなくて済んだのに・・。
これ以上私をいじめないでよ!
そう叫びそうになるが、その時もう一人の自分がつぶやいた。
でも、コレは私が自分で選んだ道なのよ。
こうなることはうすうす気が付いていたはず。でも、ソレを承知で私自身が選んだことなのよ。
私はその言葉に本音の叫びを飲み込んだ。
強い気持ちを飲み込んだので、思わず歯を食いしばり、口元がゆがんでしまった。
いけない。コレもごまかさなければ・・・。
すぐに意識して口角を上げ、笑顔らしきものを作った。
「そうね、もう寝ましょう・・・」
「ああ、もう寝よう・・・」
こんな作り笑いを加持君が見抜かないはずが無い。
しかし、そこは加持君だった。
加持君は騙された振りをしてくれ、笑顔を返した。
>>270 開けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
そして、私たちはいつもどおりに布団に横になった。
加持君が手を繋いでくる。
いつもは安心できる握手が、今夜はそこから自分の考えを読み取られそうで苦痛だった。
暫くの沈黙の末、加持君は口を開く。
「なあ、葛城」
「ん?」
「今、どんな気分?」
「・・・・別に」
「別に。って答えになって無いぞ」
「別には別によ」
「そうか・・・。なあ、俺に何かできることは無いか?」
「何?」
「嫌な気分なんだろ?今。何があったか知らないけど」
「そうね、嫌な気分かもね」
「その嫌な気分を解消するために俺に出来ることは?」
「・・・・・・・セックス」
我ながらあほな答えだ。ついさっき嫌だといわれたことを要求してしまう。
勿論、すぐに加持君は否定する。
「それはさっき嫌だって言ったろ?お互いに傷つく」
「そう・・・」
「他に、ないのか?」
「無いわ」
本当はあるのかもしれないけれど、思いつかない。
そして、加持君に対しての怒りも多少あった。
だから、こんなぶっきらぼうな答え方になってしまう。
「そうか・・・。無力だな」
加持君は淋しそうにつぶやいた。
違うわ。加持君が無力なんじゃない。私が無力なのよ。自分の問題を自分で昇華できないから。
そう言いたかったけど、言えなかった。
自分が傷つきたくなかったから。
いえ、加持君を傷つけたくなかったから・・・。
今日はもう寝よう。明日なら何かが変わるはずだわ。
そう思って目を閉じると、加持君からまた質問が来た。
「なあ、葛城。・・・葛城が今、精神不安定なのって、俺のせいか?」
「ち、違うわよ」
否定するが、無意識に繋いだ手を握り締めてしまう。
ヤバイ、ばれた!
「・・・やっぱり、そうか」
「・・・」
「もうしないよ、ヌードモデルなんて」
「?!ち、違うわよ!そんなんじゃないわ!」
加持君から思いもよらぬ答えが来て、私は思わず加持君の方へ身を乗り出して否定した。
ハッ
目が合う。暫く見詰め合ったまま沈黙。
怖い。まるで見透かされているよう。でも、ここで目をそらせば、なおさら心のうちがばれるだろう。
私は加持君をじっと見つめた。
「じゃあ、何だい?」
「・・・私のこと好き?」
「好きじゃなかったらこんな長い時間一緒にはいられないさ」
「私のどこが好き?」
マサミに似ているところ?
「簡単には言えないな」
「そう」
つまり、どうとでもとれってことね。
私は目をそらし、仰向けになった。
勇気を出して聞いたのに・・・。
私は少しの絶望感と、悲しみと、怒りと、どうでも良い気持ちになった。
しかし、加持君の話はそれだけではなかった。
「昼間の活発で明るい葛城も魅力的だ。友人と楽しく過ごしている様子が会話の中から取れるときは
俺も楽しい。でも、ソレよりも俺が好きなのは、夜、布団の上で過ごしているときだな」
「それって、つまり・・・セックス?」
「はは、葛城はそのことしか頭に無いのか?」
「ち、違うわよ!布団の上とか言うから・・・」
顔が赤くなるのが自分で分かる。恥ずかしい。
「そうだな・・・その時も好きさ。誘うときは強気なのに事が始まると途端に弱気になるところとか」
「なって無いわよ。弱気になんて」
「なってるだろ?いつも俺に気持ち良いかどうか不安そうに何度も確認してくるじゃないか」
「それは・・・。とにかく、なってないの!」
子供のようにムキになってしまった。ますます恥ずかしい。
「まあ、それは置いておいて。今みたいにさ、布団でこうやって話し合う時の葛城が一番好きだ」
「・・・・?どういうこと?」
「とてもナーバスな時があるだろ?今みたいに。
そんな葛城を見れるのは俺だけだと思うと、心の底から嬉しいし、愛しいと思うね」
「・・・よく分からないんだけど?」
「良いのさ、分からなかったらそれで。・・・これで葛城の質問には答えたぞ。いいかい?」
いまいちピンと来なかったが、そういうことらしい。
「うん・・・」
私は返事をした。
「葛城は、俺のどこが好き?」
今度は同じ質問を加持君にされる。
私は暫く考えた末
「・・・・・・分からないわ」
と答えた。ただ、漠然と加持君が好きだということに気が付く。
「そうか」
「怒った?」
「・・・いや」
「悲しい?」
「少しな・・・。でも、いいよ、一緒にいてくれるから」
「欲が無いのね」
「欲は地位も名誉もある大人が持つものだ。この場合は、夢や希望。と言って欲しいね」
「どうちがうの?」
「夢や希望は自分で掴むものだ。欲は、人を縛り付けて掴むものさ・・・」
「そうなの・・・」
「そりゃ、もっと愛されたいと思うさ。でも、それで葛城を縛る必要は無い。
こんな俺と一緒にいてくれるんだ。今のままで十分愛されてる」
「そう・・・」
「葛城は違うの?・・・違うみたいだな」
「私は・・・欲張りだわ」
加持君の謙虚な考え方に自分がどれだけ強欲なのかを自覚した。
みっともなくて、涙が出てくる。
加持君は泣いている私を静かにだきしめる。そして、無言。
その優しさに私は、本音を話そうという勇気が湧いた。
「私は父が嫌いだったの。でも周りの人はほとんど、いつも私を父とセットで呼ぶ。”葛城博士の娘さん”って。
・・・・加持君と恋人になったら、加持君を先に知っている人は”加持君の彼女”と私を呼ぶ。
・・・・その所有格の呼び方が私の心に、いつもいつも、引っかかっていたわ。
そしてあるとき、ある事がきっかけで自分が死んだ人の身代わりであることを知ったの。
それが嫌で嫌でたまらなくて。心が離れている気がして、体だけでも深く繋がりたくてあんなことを・・・ごめんなさい」
一気に話した後、流れ出る涙をそのままシャツに染み込ませながら、私は加持君の胸で泣いた。
加持君は無言だった。ただ、私の肩や背中を撫でていた。
「でも、分かったわ。私も希望を持って生きていく。いつか加持君が私だけを見つめてくれることを」
「・・・今も見つめているよ。葛城だけを見つめてる」
「嘘よ。あなたの心の中にはマサミが残ってる。そして、時々私を抱きながら彼女を思い出しているわ。
表情を見れば分かるもの」
「そうか・・・」
「私も、今のままで十分愛されていると思う。こうやって一緒にいてくれるんだもの。
それ以上は希望だわ。自分で掴み取るしかないの」
「そうか・・・」
「だから、これからも一緒にいて。・・・ああ、コレは欲ね・・・。あなたを縛り付けちゃってる」
「いや、縛り付けられてなんかいないさ。俺も一緒にいたいから」
「加持君」
「ん?」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
それから私たちはキスをして、抱きしめあったまま眠った。
朝、目覚ましがなり、目を覚ますと。
私の脚下には何故か加持君の腹部があった。
暑苦しくて加持君を蹴ったらしい。ごめん、加持君。
GJ!!
今日は加持君は夕方からバイトで夕食は私が作ることになった。
ずっと和食が続いているので、そろそろ違う料理を食べたくなってきたわ。
食材は沢山あるけれど、虫がいると嫌なので葉っぱ物は勘弁。
ってことで、作るとすれば、やっぱ・・・カレー?
大学の帰りにカレー粉をお肉を買いこみ、帰宅。
カレーなんて作ったこと無いけど、野菜を煮てカレー粉だけよね。簡単簡単。
そんなわけで早速料理に取り掛かる。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、牛肉、ピーマン、トマト、オクラ、ブロッコリー、サツマイモ
コレだけ野菜を入れれば栄養たっぷりね。
あとは、煮るだけ・・・。っと、それじゃあ手作りじゃないわ。工夫しなくちゃ。
隠し味、隠し味。
とりあえず調味料を少しずつ入れてみるか。
砂糖、塩、こしょう、にんにく、しょうが、わさび、からし、ごま、乾燥こんぶ、干ししいたけ、ひじき、ラー油
お酢、オリーブオイル、ごま油、パセリ、バジル、ローズマリー、タイム、っと、あとは・・・ああ、これこれ
味噌。
お味はどうかなー?
ん!おいしい!
いけるわコレ!加持君も喜ぶわ、きっと。
早く帰ってこないかなー?
私は自分の初めて作ったカレーのできが結構良いので
ルンルン気分で加持君のお帰りを待った。
夜7時半を回って、私のおなかがグーグーと良い音を立てている時に加持君は帰って来た。
「ただいま」
「おかえりー!」
「ずいぶんご機嫌だなあ」
「今日の夕食が結構おいしく出来たのよん♪」
「そうか、それは楽しみだ。この匂いはカレーかな?」
「ピンポーン!」
「そうか、楽しみだ。すぐ行くよ」
加持君は手を洗い、すぐに食卓に着いた。
「いただきまーす!」
「いただきまーす」
二人同時にパクリ。
「うん!おいしー!」
「うん、うまいな。どうやったの?このコク、この風味」
「えっと、こしょうとラー油と・・・あと忘れちゃった」
「おいおい、今度からメモっておけよ。偶然の産物か。再現不能とは惜しいな・・・」
「ごめん。勘で入れてたから、いろんな物をちょっとずつ・・・。
ま、ここにあるものばかりだからまた似たようなものが作れるわよ」
「そうか、そりゃあ良かった。お代わりもらうよ・・・」
私たちはそれぞれ2杯ずつカレーを食べた。
ふー、お腹いっぱい。
私って料理の才能あるかもね。またカレー作ろうっと。
「あ、そうだ。ちょっと待ってて」
加持君は食事が終わったらすぐに席を立ち、玄関に向かった。
「これ、開けてみてよ・・・」
「ん?なあに?」
「そーっと少しだけ開けて覗いて。あと、小声で話して」
「うん?」
加持君は玄関からダンボールを持ってきた。
また野菜かしら?
ダンボールを少しあけ、中を覗き込む。
「うわ、なにこれ?」
「バイトで貰ったんだ。あまり驚かさないで。只でさえ暗いところから光が差し込んで驚いてるから」
「うん。・・・かわいいわね」
「だろ?飼おうと思うんだけど、いい?」
「ええ、もちろんよ。・・・何食べるの?」
「野菜と穀物。野菜くずで十分だ」
「そう、よろしくね。うふふ」
私はダンボールを閉め、部屋の片隅に置いた。
再び二人で食卓に着く。
「名前、葛城が決めてよ」
「いいの?じゃあ・・・・ハムちゃん」
「あ、安直だなあ・・・まあいいか。じゃあ、ハムちゃんで。
明日、ゲージとか必要なもの買って帰ろう。」
「うん。なんか、楽しみ。ペットなんて全然飼ってなかったから、あ、飼育の本も買ってね」
「了解」
それから私たちはお風呂に入って上がると、すぐに電気を消して、ハムちゃんを観察した。
ガリガリとダンボールの底でつめを研いだり、かじったりしている。
そのしぐさの可愛いことったら・・・。なんであんなにセカセカと動くんだろうか。
食べ物はカレーで使った残りの野菜くず。ニンジンを少しかじったかな?
小さいのでそんなに食べないんだろうけど、もっと食べて欲しいなあ。
いろんなことを考えながらハムちゃんに見入ってしまう。
「そろそろ、寝ない?」
「うん・・・もうちょっと」
「俺、もう眠いよ〜」
「今何時?」
と、時計を見るともう0時!お風呂上りは8時だったのに、そんなに時間が過ぎていたのか・・・。
もう、寝ようっと・・・。
私はあくびをしている加持君に声をかけて布団に入った。
乙です
いつもどおり、手を繋ぐ。
「本当、かわいいね、ハムちゃんって。加持君のバイトっていろいろ貰えていいなあ」
「・・・あまり物ばかりさ」
「私たちの大学にはハムちゃんみたいなかわいい友達がいるのね。
机上の講義ばかりで気が付かなかったわ」
「友達か・・・」
「ハムちゃんってあれでしょ?最近してた餌やりのバイトの」
「ああ、そうさ」
「あ、やっぱりぃ?加持君はバイトのたびに可愛い動物たちと触れ合うのか、心が和みそう。うらやましいな」
「そうでもないぞ。どのゲージの動物にはどの餌をどれくらい上げるか決まってるから、
いちいち確認しながら与えなくちゃならない。結構大変だよ」
「そうなのか。やっぱ、健康管理は大切だものね」
「・・・・葛城、なんか勘違いして無い?」
「・・・なによ?」
「俺が餌をやってたのは、実験用の動物だよ」
「実験用?・・・それって!?」
私はようやく気が付いて、加持君の顔を見る。加持君は静かに感情を殺した目で私を見つめた。
「・・・・動物実験さ」
加持君が私の手をギュッと握り締めた。
「俺のやってたバイトっていうのは、どの動物にどれだけの化学薬品や環境ホルモンを与えると、
どこで健康を害するかっていう、実験動物の餌やりさ・・・」
「・・・・・・・・・・」
「もちろん、それも研究の一環だから、普段は研究室の学生がするんだけどな、ときどき出来ない時がある。
そんなときに俺が代わって餌をやっていた。・・・毒入りの餌をね。
もちろん、最初は気が付かなかったさ、ただの餌やりだと思ってた。
そのうち解剖や実験に使われてしまう命だけど、それまでしっかりと慈しんであげようなんて思ってた。
でも、そこの生き物たちは生きていること自体が実験だったんだ・・・。
食べてどんな変化があるか、子供を作ってどんな変化があるか。年をとったらどんな変化があるかってね・・・。
そして、ハムちゃんも、漏れずにそこの一員だった・・・」
「ハムちゃんも長い間毒を食べていたのね・・・」
「そうだ。・・・そして、子供を何千匹と作らされた。・・・種主だったんだ」
「そんな実験が?」
「そう、研究室の一人から聞いたよ、ハムちゃんを貰い受けるときに。
・・・もっとも、欲しいと言ったのは俺のほうだったが・・・。
母体が薬品などに暴露されると子供に影響があるのは周知の事実だ。
では、父型。つまり精子には薬品の影響は無いのか?あるとしたら確率はどれほどあるか?
その実験にハムちゃんは使われていたのさ・・・。
そしてある日、使い物にならなくなった。多分、老化が原因。メスを見ても発情しない。
そうなったら種主だから致命的だな。すぐにお払い箱さ・・・。
昨日、いつもどおりに餌をあげに言ったら、ハムちゃんだけには餌をやらなくて良いといわれた。
理由を聞くと、明日、安楽死の予定だと言われたのさ・・・」
「・・・・・・・・」
「ハムちゃん一匹を助けたところで動物実験がなくなるわけじゃない。
今まで餌をやっていた動物が次にはゲージごと空っぽなんてこともあった。
そのときは動物たちを見殺しにしていたのに、今、気まぐれでハムちゃんを助けてしまうのか?
一匹だから助けるのか?これが10匹だったら飼えないだろ、見殺しにしていただろ?
俺なりに迷ったさ。それに助けたとしても老体だ。いつ死ぬかは分からない。
どうせ死ぬんだから餌代やらゲージやらを考えると安楽死のほうが安いんじゃないか?
とまで考えた。でも、・・・・俺はハムちゃんを、ハムちゃんの最期を引き受ける事で
なんだか罪が償えるような気がして・・・・」
「そうだったの・・・」
驚愕の事実を聞いて、私は加持君にかける言葉が見つからなかった。
だた、相槌をうっていることしか出来なかった。
「葛城。・・・俺のこの手は、汚れている。
直接手を下していなくとも、俺は動物たちの命を奪った。
毒入りの餌だと知った後も、俺は動物たちに餌を与え続けたんだ・・・。この手で」
苦悩する加持君は私に許しを請うように見えた。
私は繋いでいる加持君の手を私の口元へ持って行く。
そして、加持君の手の甲に強く噛み付いた。
「っく・・・」
痛みで加持君の口元がゆがむ。
5秒ほど噛み続けて口を外すと、加持君の手の甲には私の歯型がくっきりと付いていた。
手加減して噛んだので出血は無い。
今度はその噛み後を舌でなぞる。噛み跡がしっかりと感じられる。
加持君は突然の仕打ちなのにも関わらず、怒ることは無かった。
私のしたことの意図が分からないようだ。不思議そうに私の動作をじっと見つめている。
「汚れた手って結構うまいじゃない」
「葛城・・・?」
「私の手も味見してみて。多分同じ味がするわよ」
そう言って、加持君の口元に自分の手を差し出す。
加持君は私の差し出した手の甲に口付けをした。
「私も加持君のバイトのお影でこの生活をしているわ、加持君と同罪よ。
いえ、・・・私だけじゃない。人類全てが同罪よ。
動物実験で得た恩恵によって、こうして生活しているのだから・・・」
「・・・・・・・」
「動物を実験に使った研究者も、処理した人も、私たちも、そして
この世界の一端が動物実験で成り立っていることに気が付いていない人も、罪は同じだわ。
自らの手を直接汚していないだけ。私たちは知らないうちに罪を犯しているの」
「人は生まれながらにして罪びとなのか・・・」
「そういうことになるわ・・・。でもそれが生きているということなのよ」
「そうか、ありがとう葛城。・・・救われたよ」
「それは良かったわ・・・」
加持君は少し悲しい顔をしながらも、安堵に満ちた表情をした。
そして、また私たちは眠りに付いた。
翌朝
「い、いてっ。・・・やめろよぉ、葛城ぃ・・・むにゃむにゃ。い、いてっ。痛いってぇ・・・むにゃむにゃ」
「ん、なにぃ?ふわぁ〜」
加持君の訴えが遠くで聞こえた。
私、また加持君を蹴ってたかしら?ふわあ〜、眠いなあ・・・。
眠気眼をこすりながら起き上がると、私はちゃんと加持君の隣に寝ていた。
加持君、夢でも見たのかな?っとお、何?!加持君のあごに何か物体が!
ん?んんんん?!
すばやく目をこする。
「きゃあ!ハムちゃん!」
加持君のあごにはハムちゃんがしがみついて、ひげの一本を引き抜こうと必死になっていた。
捕まえようと手を伸ばすと
キーーーーー!
い、威嚇された・・・。怖い。
「加持君!加持君!起きてよ、加持君ってばー!」
ひげを抜かれそうな痛みでも起きない加持君を急いで起こしにかかる。
「んー?なんだよ痛いよさっきから」
「私じゃないわよ!ハムちゃん!」
「ん?ハムちゃん?!あれ?お前なんでここにいるの?」
ようやく目を覚ました加持君はハムちゃんを慣れた手つきであごから取り、
昨夜入っていたダンボールへ・・・。
「ハムちゃんのパワーを舐めてたな、俺たち・・・」
「うわあ、すごい穴・・・」
ハムちゃんは一晩でダンボールにテニスボール大の穴を開けていた。
おじいちゃんとは思えないほどのパワーね。
「他に箱あったっけ?」
「入れてもまた脱出されちゃうわよ?きっと」
「その前にゲージ買って来るさ」
「講義は?」
「ん〜〜〜?今日の講義はっと・・・、おお!
出席取らない講義が3つも!これはおいしい。休まなきゃ損だな」
「じゃあ、私も付き合うわ。今日は一時限しかないのよねえ・・・」
「じゃあ、ご飯食べて繰り出すか!」
「ラジャー!」
私たちは朝食を食べて支度をし、ハムちゃんを入れた箱(3重)を自転車のかごに入れて出発した。
お店に着くころには箱の第2層まで侵食されていて、間一髪でハムちゃんを逃すことなくゲージに収容できた。
部屋に帰ってくるとすぐにハムちゃんのお部屋作りに取り掛かり、午前中で全ての作業を終了。
午後からはゲージの中でちょろちょろと動くハムちゃんをじっと観察していた。
途中で発情した加持君に誘われるが、
「もうちょっとぉ、待っててねん」
「いや、もう自分で出してきます・・・はあ」
と、散々待たせたうえ、呆れられた。
ずっと見ていても飽きないなあ、なんて可愛いのだろう。
早くなつかないかなあ?手のりにならないかなあ?
そんなことを考えていて結局、夕食の時間まで観察していた。
加持君はその間テレビを見たり、本を読んだり。ため息をついたりしていた。
乙です
がんばって。
300万個
wktk
「葛城、週末暇?」
「うん、特に予定は無いけど・・・」
「じゃあ、どこか飲みに行かないか?今月、バイトの給料が結構多かったんだ」
「ほんとー!!? 行く行くぅ!」
そんなわけで、私は今、加持君と飲み屋に来ている。
「おねいさーん!ビールもう一本!」
「おいおい、飲みすぎだろ?いくらなんでも・・・」
「そう?全然、酔って無いわよ〜〜〜〜おーっほっほっほ」
「葛城って、本当よく飲むよなあ。つまみも食べずに・・・」
「つまみ食べたら太るじゃんかよぉ〜〜!いいの、これで」
「全く・・・。楽しいけど、介抱は全部俺だからなあ・・・飲みすぎるなよ」
「は?なんか言った?グビグビッ」
「・・・・・。飲みすぎるなっていったんだよ!」
「はーい、はいはい、分かってまっすよぉ〜ん。うふん」
「なんだよ、その最後の色気は・・・」
「加持君を誘ってるのぉ〜〜。ここで、しよ!?」
「あほかーーーー!」
「冗談よ、冗談。あはははは」
「はあ〜〜〜」
「う・・・きぼぢわるい(きもちわるい)・・・トイレ」
「へいへい、行ってらっしゃい・・・」
調子に乗って飲みすぎた私はトイレで吐いた。
幸せ気分から一気に最悪な気分へと戻される。
ああ、吐くのならつまみ食べときゃよかった・・・。後悔。
5,6回吐いた後で少し気分がスッキリした。席へと戻る。
「大丈夫か?」
「うん・・・。もう飲めない」
「そのほうが良いな・・・。はい」
用意周到な加持君がウーロン茶を差し出す。
「いってきます・・・」
「へいへい」
ウーロン茶を飲み干したところですぐに次の吐き気が襲ってきた。
私は加持君に手を振ってトイレに再び入った。
また嘔吐を5,6回。また少し酔いが取れてスッキリとする。
「ただいま〜〜・・・」
「おかえり」
ヘロヘロになって席に戻ってきた私を、加持君はタバコを一服しながら迎える。
お勘定はもう済んでいた。
加持君は私の限界を悟って、帰る準備をしていてくれたようだ。
「よし、帰るか・・・。親父さん、おいしい酒をありがとう。また来るよ」
「はいよー!まいどー!」
「あはは、どうもぉ〜〜」
加持君に肩を引かれて店を出た。まだ、お酒が回っている。
道中では勿論、気持ち悪くなってしまった。
「きもちわるい・・・」
「え?困ったなぁ・・・」
「もう、吐くっ!」
「え?!おいおい!マジかよ・・・」
加持君が私の肩を放したすぐ後で道端にうずくまりまた吐いてしまった。
私の背中をさする加持君。
「どう?落ち着いた?」
「うん・・・」
「もう、吐かなそう?」
「多分・・・」
「気持ち悪くなったらすぐに言うんだぞ」
そう言って、加持君は私の腕を取り、背中を通して自分の肩に乗せた。
そのまま勢いで私を背中に乗せる。・・・おんぶだ。
「うふふ、はずかしい〜。おんぶされちゃってるぅ〜」
「道端で吐いたのは恥ずかしくないのかよっ?」
「それも恥ずかしいけどぉ〜、これもはずかしいもんっ!」
私は酔っ払いの気分に浸っていた。テンションが高くなる。
加持君の背中に顔をうずめた。汗の匂い。タバコの匂い。加持君のにおい・・・。
ゆらゆらと心地の良い振動がいつしか私を眠りの世界へと・・・・はならなかった。
「気持ち悪い・・・」
「ええ!?待てよ!まだ吐くな!」
「う・・・・・・・」
「おいおい!・・・・・ほら、良いぞ、好きなところで吐け」
加持君におろしてもらい、道端で吐く。もう、胃液しか出ない・・・。
そんなこんなでようやく加持君の部屋までたどり着いた。
「ほら、もう寝ろよ」
加持君は布団を敷いてくれた。
眠い、気持ち悪い・・・・。それよりもあっつい!
私は汗でべったりとくっついた服を脱ぎ捨てた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はっくしゅん!」
寒さで目が覚めた。うー、背筋がゾクゾクする・・・。
今何時〜〜?まだ7時か・・・・。
ん?何この格好!?
昨日は、酔っ払って吐いて、加持君におんぶされて、帰ってきて、熱いから服脱いで。
まで覚えている・・・・。そのあと何があったの?
記憶をたどるがそんなこと覚えているはずが無い。
それにしても、なんだ?この格好は・・・・。
私はパジャマの下だけちゃんと穿き、上半身は真っ裸という奇妙な格好だった。
横にはいつもどおりTシャツに短パンの寝格好の加持君が寝ている。
「あの〜、加持くーん」
昨日のこともあり、優しく話しかけるが、起きるはずがない。
とにかく寒いわ。パジャマの上、パジャマの上っと・・・、ありゃ?すぐそこに置いてある。
一旦着たのに脱いだのかな?まあいいわ、とにかく着て・・・うー寒い。
風邪引いちゃったかな?体がだるくて熱っぽいみたい・・・。
酔ったところをレイプされたんですか?
リビングに行くとハムちゃんがゲージに取り付けてある回し車を回していた。
暫く、寒気も忘れてハムちゃんに魅入られる。
かわいいなあ。くるくるくるくると、よく動くわね。
あ、ひまわりの種、食べるな?
ひまわりの種をハムちゃんに手渡ししようとするが
キーーーーーーーーーーー!
威嚇された。
ああ、まだ慣れて無いんだな・・・。こりゃ手乗りは無理か・・・。
おっと、こんなことよりも、体温計、体温計っと・・・あった!
私は体温計を腋下に挟んだ。
ピピピピッ
体温計測終了の合図が鳴る。さてと、何度だ?
げっ!38.5℃もある。どうりで体がだるいはずだわ。
暖かくして休まなきゃ・・・。
私は荷物から着るものを探したが、自前のものは半そでやノースリーブばかりで全然保温できるようなものじゃなかった。
仕方がないので布団に戻って毛布を二重に被った。
うう、寒い、だるい、気持ち悪い(昨日の酒で胃が荒れているらしい)。
休日なのに最悪ねー。クーラーが付いていないだけマシか・・・。
体をガタガタと震わせながら加持君の体温を頼りに傍へと寄る。
暫くすると毛布が暖かくなってきた。
相変わらず体はだるいけど、寒さは少しマシね。このまま眠れそう・・・。
程なくして私は意識を失った。
「うーん、うーん・・・」
これは紛れも無く私の唸り声。
先ほど眠りに付いてから30分後。
私は今トロトロとした意識の中で熱にうなされている状態になっていた。
体の節々が痛くなってきた。思ったよりも風邪が重いのね。
苦しみながらも案外私は冷静だった。脳がやられているのかもしれない。
死ぬのかな?このまま。
加持君には迷惑かけるかもしれないけど、このままトロトロと意識を失って死ねるのなら楽なほうね。
「うーん、うーん・・・・」
死を受け入れる覚悟をしたにも関わらず、私の体は声を上げていた。
こらえきれずに声が出てしまうのだ。苦しいよお、だるいよお、誰か助けて・・・。
意識半分のまま、私は声を上げ続けた。
「葛城?」
私の唸り声は案の定、加持君を起こしてしまった。
「ごめんね、加持君。起こす気はなかったんだけど、どうしても声が出てしまって・・・うう」
「葛城、どうしたんだ一体?!熱があるんじゃないのか?」
「38.5℃だった・・・」
「どうして具合が悪くなったらすぐに俺を起こさなかったんだ?!」
「昨日も迷惑かけたのに、今日もなんて・・・かっこ悪いし」
「・・・馬鹿やろう・・・」
加持君は真剣な顔で私を叱り、すぐさまリビングへ行き、ふすまをしめてしまった。
見捨てられた? まさかね、加持君が私を見捨てるわけ無いもの。
私は加持君を怒らせたことよりも、彼が何かしてくれるのではないかという期待の方が大きかった。
コレは信頼? いいえ、甘えね。私は加持君に甘えているんだわ。
だからほら、加持君を起こしてしまったという罪悪感よりも、
加持君に何かしてもらいたいという気持ちのほうが強いもの・・・。
期待通り、加持君は数分で戻ってきた。手には何か袋のようなものを持っている。
「寒いんだろ?コレに入って」
「何コレ?」
「寝袋さ」
「寝袋!?嫌よ、ますますかっこ悪い」
「具合が悪いときにかっこは二の次だろ?それに、昨日の道端でげろの方が絶対かっこ悪いし・・・フッ」
「ぎゃー!変なこと思い出させないでよ!馬鹿」
「馬鹿はどっちか、この中でしっかりと考えるんだな」
加持君は有無を言わさずに私を毛布ごと寝袋の中に押し込んだ。そして、すぐにキッチンへと向かった。
寝袋の効果で私の体はすぐに温まってきた。
今までガクガクと震えていたのに、今はそれが治まっていた。
すごいわ、寝袋って・・・。
暖かくなって、体が少し楽になると途端に眠気が襲ってくる。
私は安心感と幸せ気分で眠りに付いた。
ガラッ
眠りといっても浅かったのでふすまが開く音ですぐに目が覚めた。時計を見ると20分ほど眠っていたみたいだ。
「葛城、ご飯出来たぞ。起きれるか?」
加持君がお盆にホワホワを暖かな湯気の立っているどんぶりを乗せてそばへ来る。
「おいしそ〜〜♪」
「酒飲みで風邪引きの朝ごはんにぴったりだろ?消化もいいし」
「うん。いただきまーす!」
ズルズルズル・・・
私は加持君の作ってくれた半熟卵の乗った月見うどんをすすった。
かつおだしの効いたとてもおいしい汁は私の空っぽの胃袋に浸透する。
「うーん、おいしい! 幸せ。 加持君、愛してるぅ」
「そりゃどうも。ずいぶん安っぽい愛の告白だなあ・・・」
「うふふ。ズルズルズル」
「ズルズルズル・・・」
加持君も私の隣でうどんをすする。
ハムちゃんは回し車を回していたが、私たちのうどんを食べる音に興味を持ったらしい。
休んで可愛い顔をこっちに向けている。
家族3人の朝ごはん。という感じがした。
「ごちそうさまー!あー、体が軽くなったみたい!力が湧くわ」
「そりゃ良かった。あとはゆっくりと休むんだな」
「ねえ、そういえばさあ。・・・私、今朝変な格好で寝てたんだけど・・・なんでか知ってる?」
「ああ、下だけ着てただろ? ・・・・・フッ。いやあ、昨日は激しかったなあ」
「!?」
「上に乗って腰降って・・・すんごい乱れようだったよ」
「嘘!?」
思わず赤面してしまう。そんなこと記憶が無いわよ。本当なの?!
そんな私の慌てる様子を見て、加持君はニヤニヤを笑っている。
「なーんてな。冗談だ・・・」
「もーーー!驚かさないでよ! 記憶に無いから焦ったじゃない」
「すまんな。少し驚かせたかっただけだ。・・・真実を話すとだな。
家に帰ってきて、暑い。と叫んで服を全部脱ぎ、そのまま布団に倒れこんだんだ。
俺がパジャマを着せようとすると、暑いから着ない。の一点張り。なんとかズボンははかせたが、
上は、暑いから嫌だ。と断固拒否。で、俺も疲れてて眠かったのでそのままにしておいたのさ」
「そうだったの・・・」
「で、この有様ですねー。葛城ミサトさん」
「う・・・」
私は何も言えなかった。昨日の夜から今まで散々迷惑をかけていたから。
自分が情けない・・。
私はがっくりと肩を落とした。
「ありがとう加持君。感謝してる・・・」
「コレに懲りてのみ過ぎないようになってくれれば俺はいいよ。
でも、どうせ飲むんだろうな〜葛城のことだし」
「う・・・飲み過ぎないように以後気をつけます」
「はい、そうしてくださいな。・・・早く休めよ」
加持君は私の言葉を軽く流して食器を洗いに台所へと向かった。
私は体が温まり、気分も良くなったので眠りに落ちた。
で、目が覚めたら夕方だった。熱はもう下がっていた。
加持君、本当にありがとう。
乙
317 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/16(月) 00:40:18 ID:1u7YVfyC
乙
318 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/16(月) 06:55:04 ID:7kmauW/d
神だな。
ある日の昼食。いつもどおりにコトコと学食へ。
そこでいつもどおりにリツコと合流し・・・
「よお!久しぶり、お二人さん」
「あー、加持君!久しぶり」
「お久しぶりね・・・加持君」
「はあ・・・。なんであんたがここにいるのよ?」
「次の合同講義を一緒に受けようと思ってね。
それで、葛城のいるであろうここに来たわけだ」
いつもとは違って、加持君が同席した・・・。
「今日はいい昼飯だなあ〜、コトコちゃんにリッちゃんがいて。
美人と一緒に食べると食事がおいしくなるよ」
「やだー、加持君ったらお上手ねー」
「そんなことないよ、コトコちゃん。真実さ・・・フッ」
「はいはいはいはい・・・分かったから、その口閉じなさいよ」
「あれ?何でミサトは不機嫌なわけ?」
「さあ?朝出かけるときはなんとも無かったけど・・・なあ、葛城?」
「ちょっと・・・!」
「出かけるときって・・・んん?」
コトコがあることに気づく。
リツコも気づいているようだが、表情を変えずにオムライスを口に運んでいた。
「あれ?言ってなかったの?葛城」
「言うわけ無いでしょ。もう、黙ってなさいよ」
「出かけるときって・・・朝も一緒に過ごしてたの?」
「う・・・」
「って、ことはさ・・・」
「二人は同棲してるって事ね」
コトコが答えを言う前にリツコが回答をさっさと口に出した。
「ピンポーン♪すごいよ!リッちゃん」
「ピンポーンじゃないわよ!もう、そういうことばらさないでよ」
「えええええええええええ!?そうなの?いつから?そんなことミサトは一言も私に言って無いじゃないの!」
コトコの声は学食に響き渡った。
恥ずかしくて顔を下に向ける私。
平然とオムライスを口に運ぶリツコ。
加持君はコーヒーを飲みながら微笑を絶やさない。
「ちょっと、なんでそんな重要なこと私に言わないの!?すごいじゃない、それって」
「う・・・なんというか・・・。まあ、恥ずかしくて・・・」
私はコトコに攻められて、作り笑顔をしながらしどろもどろに答える。
リツコとコトコに同棲のことを話さなかった理由は恥ずかしい以外に二つある。
失恋して数ヶ月のコトコに気を使って話さなかったことと、
同棲していると知られると自分のイメージが悪くなるかもしれないと思ったからだ。
同棲している=みだらな行為を毎晩している。
そういうイメージで私を見られるのが嫌だったから、私は誰にも話していなかった。
なのに・・・
「今更、恥ずかしがることじゃないだろ?」
「恥ずかしいわよ! あー、もうだから口閉じろって言ったのよ。余計なこと話すんだから・・・」
「まあまあ、・・・良いことじゃない。お付き合いが順調って事で。ねえ?リツコ」
「ええ、そうね。最初はお互いを堕落させるカップルかと思っていたけれどね・・・」
「あはは・・・リツコぉ、それ耳が痛い・・・」
「そう?良いじゃない、今はしっかりと大学に来てるんだし」
「そうそう、良いこと言うね、リッちゃん」
「そんなことよりもあなた達。そろそろピッチ早めないと、合同講義に間に合わないわよ」
「うは!そうだった。ありがとう、リツコ」
丁度、食事を終わらせたリツコに発破をかけられ、
私とコトコと加持君はそれから一言も話さずに昼食を平らげた。
「どこだっけ?講義室」
「第4校舎の大講義室よ。早く行かないと後ろの席埋まっちゃう」
「ひゃー、走るの?お腹痛くなっちゃうよ」
「おんぶしようか?葛城」
「ひゅー、あつーい!」
「なんで、ここでそういうこと言うのよ!全くもう!」
「はは、冗談だよ、冗談」
軽く口喧嘩をしながら、私たちは講義室へ入った。
走ったおかげか、講義室の前半分は埋まっていない。
講義室の左端のやや後ろに私たちは陣取った。
「あれ?加持君、ミサトの隣に座らないの?」
「来るときの口喧嘩聞いたろ?それで隣座っちゃったら俺、噛み付かれちゃうよ・・・」
「ふん!」
「ほら、フグになってるだろ・・・。いや、ハリセンボンか。触ったらきっと血まみれさ。
それに、俺は折角だからいつもと違った雰囲気を味わいたいね。両手に華いいね、これ」
そう言って加持君はリツコとコトコの間に座った。
向かって左からコトコ、加持君、リツコ、私の席順になっている。
あー、勝手に言ってろ!講義が終わって帰ったら只じゃおかないわよ、この馬鹿加持!
私はますます腹が立って、リツコの隣でほっぺを最大限に膨らませた。
「それにしても、大学になってまでこの講義を聞くとは・・・。耳にタコよねー」
「ほんと、ほんと・・・」
「仕方が無いじゃない、文部省のカリキュラムに入っちゃってるんだから。
それに、このメンバーの中じゃミサトと加持君が一番身近でしょう?この問題」
「な・・・そりゃそうだけど・・・」
「大丈夫だよ。、ちゃんと避妊してるし。な、葛城」
「ちょっと!・・・だ、だ、だからそういうことをここで話すなって言ってるのよ!」
「あ、先生来たわよ・・・」
「・・・・・・・・」
講師が講義室に現れると、講義室がシンと静まった。
それにしても、全く、なんてデリカシーの無い男なんだろうか?!
部屋で一緒にいるときは何かと気づかいができているのに、大学で会うと全く別人のようだ。
まあ、私だってプライベートと公の場では多少違いがあるかもしれないけれど、加持君ほどじゃあないと思う。
それに、プライベートのほうが気を使うなんて、普通は逆なんじゃない?
加持君と付き合って半年。しかし、未だ加持君のパーソナリティはつかみきれていない・・・。
合同講義に現れた講師は60代後半のおじさんだった。
この大学の職員ではなく、この講義のために国から派遣されている。
セカンドインパクトの数年後、中学、高校、大学の学生に半年に一回。この合同講義が必修とされた。
その内容は、柔らかく言うと家族計画。
つまり、学生の私たちに避妊をしろということだ。
そんなことはセカンドインパクト前にも学校で教えられていたと思うけれど、
今は、その教育の背景が全く違う。
セカンドインパクト後、親を亡くした孤児たちが溢れ、ほとんどが政府管轄の収容所に入れられた。
しかし、本来、孤児だけが入る収容所の前に捨て子をする親が急増。
生まれたばかりの赤ちゃんや幼児のみならず、
10代後半の青年たちも親の指示で収容所に自ら入って行った。
大人たちだけでも生き延びていくのに精一杯の時代だったから無理も無い。
しかし、そのことで只でさえ復興に大部分を持っていかれた日本経済を
収容所の運用資金が圧迫する結果となり、政府は打開策を迫られた。
そこで政府が考え付いた策は
「子供を産むには経済的審査を要する」
ということだった。
つまり、子供を産んで育てていけるお金を持っている人にのみ、出産を許可する。ということだ。
そして、その審査を通らなかった親は有無を言わさず中絶される・・・。
生命倫理の観点から多くの批評を得ながらも、
他に代わる案が無いとして、日本政府はこの法案を通した。
そして、中・高・大の教育カリキュラムにこの講義が取り入れられ、
「お金の無い人は子供を作ると、即刻中絶。そうならないために避妊を徹底するように」
というメッセージを繰り返し送っている。
とは言っても、このままだと少子化一直線なわけで、
復興が進んできたので近年には法案が代わる予定らしい。
とにかく、私たち学生には今、子供を産む権限など全く無いわけで、
出来ちゃったら有無を言わさずに中絶させられる。
自分が傷つかないためにも避妊は必要だわね・・・。
乙です。待っておりました。
「ふわ〜、すばらしい講義だったわね」
「ミサト、講義が終わると同時に起きれるその特技、ぜひとも教えて頂戴」
あまりに退屈な講義だったので、途中から意識が無かった。
起きると途端にリツコに嫌味を言われる。
「あのう・・・こっちはその特技が無いようよ。ミサト・・・」
「ん?コラー!加持君!起きなさい!!」
コトコに呼ばれてそっちを向くと、加持君がコトコに寄りかかりながら眠っていた。
なるほど、私の隣に座らなかった訳だ。チャンスとばかりにコトコに密着している。
私は加持君の耳を思いっきり引っ張り、コトコから引き離した。
「いてぇ!なんだー?!」
「全くもう!油断もすきも無いんだから!」
「あれ?講義、終わったのか?」
「おはよう、加持君」
「ああ、おはよう。寝起きに美人か。こりゃいいね・・・」
「いいね。じゃないわよ!このタコーー!」
「いてえな。・・・まだフグなわけ?こんな彼女持つんだったら、
リッちゃんかコトコちゃんと付き合えばよかったよ・・・」
「むーーー!」
「うわ、逆効果よ、加持君」
「ありゃ?だめか・・。冗談だよ、冗談。まじめだな、葛城は」
「痴話喧嘩はいいから、さっさと帰りましょう。絆は愛の巣で強め合って欲しいわ」
ヒートアップする私たちをリツコは軽くあしらった。
合同講義の後、学生は全くのオフとなる。
半年に一度のラッキーデーなのだ。この時間を有効に活用しない手はない。
講義室は蜘蛛の子を散らすよう学生が退室し、すでにガランとなっていた。
「じゃあね〜」
「また明日」
「ばいばーい」
「またなー」
私たちもそそくさと帰り支度をして家路を急いだ。
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帰り道、いつもよりも早い夕立に襲われて、私と加持君はずぶ濡れになってしまった。
一年中夏だから雨に打たれても凍えるということは無いんだけど、
さすがに濡れたままだと風邪を引く。
部屋に帰ってすぐ、脱衣所で体を拭く。
「どうする葛城?シャワー浴びる?」
「そうねぇ、どうしようかなぁ?」
「この前風邪引いたばっかりだし、浴びたほうが良いと思うけど・・・」
「じゃあ、そうしようか」
「うん、そうしたほうがいい」
加持君はお風呂の給湯のスイッチを入れた。
濡れて体に張り付く服。透ける体、髪の毛から滴る雫・・・・。
う・・・なんて色気があるの〜〜〜!
私はいつもと違った加持君の姿に見とれていた。
加持君も体を拭きながら私を見つめている。
「先に浴びなよ・・・」
そう言って、加持君は私から目をそらし、脱衣所から外に出ようとした。
グッ
私は加持君の去りぎわに右手首を掴んだ。
振り返る加持君。もう一度こちらに来て私に正面から向きなおす。
目と目が暫く向き合う。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ザーーーーーーーーーーーーーーーーー
シャワーの音と夕立の音が私たちの吐息を消した。
キス キス キス。 キスの嵐。
フレンチなキスからディープなキスまで、順不動に勝手気ままにキスをする。
体に張り付いた服を脱ぎ捨て、二人一緒に抱きしめながらシャワーを浴びる。
唇を離す度にシャワーが口の中に入ってくる。それが唾液と交じり合い、相手の口へ。
しかし、口に入ってきたものを飲み込まずにそのまま口の端から流れさせる。
それが一層興奮を沸き立たせた。
お互いの体でお互いを洗い、お互いの手がお互いを擦った。
濡れた髪から滴る雫は腰や足へと刺激を増加していく。
冷えていた体はすぐに温かくなり、火照るまで時間はかからなかった。
紅潮する頬。潤んだ瞳。荒い吐息。動く舌。探る指。
今までに無い興奮が二人を包む。
快感で腰の力が抜けていき、私は加持君にしがみついた。
加持君は私をしっかりと抱きとめる。
「大丈夫?」
「うん・・・・」
これが私たちがシャワーを浴び始めてから始めての会話。
それまでずっと無言で夢中でお互いを求め合っていた。
もう、我慢できない。
腰が抜けるまでの快感を与えられてしまっている私は加持君におねだりした。
「ねえ、入れて・・・」
「ここで?」
「うん・・・駄目?」
「さっきの講義を聞いていなかったのかい?」
「聞いてたわ、でも・・・もう入れて欲しいの」
「じゃあ、もう出ようか。ちゃんと付けてしたほうが気持ちが楽だ」
「いや・・・今入れて」
「はは、駄目だ。後で後悔するのは目に見えているからな」
「あんっ・・・もう、意地悪」
乙
意地悪な加持君は私を体から離し、タオルを取って私に渡した。
個々で体を拭く。
その時間でかなり興奮が冷めてしまった。
しかし、同時に頭も冴える。
勢いで入れなくて良かった・・・。
私は加持君の言うとおり、後で後悔することを思い直していた。
私の気持ちが冷めてしまっていることを加持君は承知していた。
「おいで・・・」
体を拭き終わるとタオルを置き、私の手を取ってソファへと誘導する。
すぐ横でハムちゃんが回し車を回していた。
私をソファに後ろ向きに膝立ちにして、背もたれに掴まらせる。
そして、そのまま続きが始まった。
布団の上でしかしたことの無かった行為。しかもこんな体勢で・・・。
新しい刺激が私を興奮させる。
カラカラカラカラ・・・・・・。
ハムちゃんの回し車を回す音と私の喘ぎ声が奇妙なハーモニーを奏でた。
「あんっ、ハムちゃんに見られてる・・・」
「はは、ハムちゃんはもうおじいちゃんだから、もう発情しないよ・・・。
ま、見られていることに変わりは無いか」
加持君の言葉が私の羞恥心をくすぐり、快感は増した。
そして、そのまま後ろから挿入される。
「ああっ!何?後ろからぁ?」
「そうだよ。嫌?」
「ううんっ。嫌じゃないけど・・・・んあ!あまりやったこと無いから・・・」
「それが良いんじゃない。こういうシチュエーションしてみたいんだ今。葛城は?」
「んんっ! はあ・・・・良いけどぉ・・・。ちょっち、怖い・・・」
「怖いの?何が怖い?」
「んあ! し、刺激が・・・・強くて」
「痛いの?」
「違うわ。違う・・・ん!」
「気持ち良いの?」
「はあはあ、・・・加持君は?気持ち良い?」
「ああ・・・気持ち良いよ」
「本当に?」
「本当さ・・・」
「それは良かったわ・・・・・ああんっ!」
「大学にいるときはあんなに強気なのに、こういうとき弱気なんだよな。葛城は」
「それはお互い様でしょう?大学ではあんなに軽いのに・・・・・」
「そうだな、お互い様か・・・」
「もうやめてよ、リツコ達の前であんなこと言うの・・・ああっ!」
「あんなことって?」
「私たちのプライベートよ」
「嫌なの?」
「嫌よ。まるで自慢しているみたいで・・・」
「そうか、じゃあ控えるよ・・・」
「そうして・・・んっ!」
後ろから攻められながら、私にいつもと違った変化が起こっていた。
腰がひくつき、体が熱く、喘ぎ声がお腹の底から出ている。
それに加えて興奮が尋常じゃない。
これ以上すると頭がおかしくなってしまいそう。
「ねえ、もうやめて・・・」
「痛い?」
「違うけど・・・・・ああっ!頭が変になりそうで・・」
「イキそうってこと?」
「はあはあ、知らないわよ、そんなの。イッタことないから」
「そうなの?自分でしても?」
「・・・・・・無いわよ。とにかくやめてえっ!」
「・・・やめないよ。このまま続ける」
「ええっ!嫌よ、やめてえっ!ああっ!」
「葛城自身も知らない葛城の姿に会えるんだ。こんなチャンスを逃しはしないさ・・・」
「嫌あ!はあはあ・・・・・もう、頭が変になるぅ・・・」
私の懇願は加持君に受け入れられなかった。
それどころか加持君は一層激しく私を攻め立てる。
逃れようと試みるけど、腰を押さえつけられて出来ない。
「もうだめ。やめてえ・・・」
「いいよ、イっても・・・」
「ああ、駄目!はあはあ・・・・・ヤバイってば〜〜〜!」
「うん、いいね。最高だ・・・」
「いやあああああああああああああああ!」
私は思いっきり叫んで頭の中が真っ白になった。
背中はのけぞったまま硬直し、下半身が規則的に痙攣する。
口はだらしなく開いたまま、唾液があごを伝う。
加持君の入っているところから私の体液がソファへポタポタと音を立てて落ちた。
私の急激な変化を感じ取ってから、加持君は動きを止めた。
やっと解放される・・・。そう思うと同時に
私の体、どうなっちゃったの?コレがイクということなの?
不安が心を襲う。
「はあはあはあはあ・・・」
「良かったよ葛城・・・。こんな葛城を見られるなんて、俺は幸せ者だ」
「なに言ってんのよ・・・。はあはあ・・」
加持君はぐったりと脱力した私を後ろから抱きかかえて、ゆっくりとソファへ座らせた。
隣に加持君も座る。二人とも汗で体がしっとりとしている。
「イッタんじゃ無いの?」
「だから、イッタ事が無いから分からないって・・・」
「そうか・・・じゃあ・・・」
加持君は立ち上がり、私の足を持ち上げて正常位で再び私の中に入れた。
動かすと治まりかけていた腰のひくつきがすぐに復活し、耐えられないほど強い快感が私を襲う。
加持君を包んでいる私の組織が充血しているのが分かった。
「駄目!体が変なの!」
私は加持君から逃れた。腰がヒクヒクとしている。
怖い・・・・。私の体どうなっちゃったんだろう。
不安が顔に出てしまう。
「やっぱり、イッタんだ・・・。大丈夫だよ、心配ない。
その体の反応は気持ちよさが極まったからだ」
私の不安を察して加持君は私を抱きしめた。
「怖いの。自分の体が自分の意と関係なく動いたのが。自分でコントロールできないのが・・・」
「そうか、ごめん。ちょっと自分勝手だったな・・・。チャンスだと思ったんだ、葛城の新たな面が見れるってね」
「私の体、どうなっちゃうの?」
「ん?どうもならないさ。・・・イキやすくなるかもしれないけどな」
「そうなの・・・」
「気持ちよくなかった?」
「気持ちよかったわ。それで、頭が真っ白になって・・・・。でもイッタ後は全然。体が痙攣しただけ」
「男の射精と同じだな。イってしまうと冷める。・・・もうイキたくないかい?」
「そうね・・・。怖いもの」
「分かった。もう無理にはしないよ。ちょっと惜しいけどな・・・」
「みんな、ああなるの?」
「さあな・・・。その質問に答えられるまで経験して無いし」
「じゃあ、私がイッタと何で分かるの?」
「・・・・ソレを聞くのは野暮ってもんだ」
他の女をイカせたことがあるから。でしょうね・・・きっと。
嫉妬が私の中に芽生え、渦巻いた。
加持君は何人の女の人と経験をしているのだろう?
そして、何人をイカせた事があるんだろう?
知りたいけれど、知ったらきっと後悔する。心の平穏が保てなくなるだろうから・・・。
ふと、考えが頭をよぎる。
私にとって男性は加持君しかいないけれど、加持君にとって私は何人かの女性の一人なんだ。
私は加持君にとって単なる通過点に過ぎないのではないか?
数ある女性の一人に過ぎないんじゃないか?
そう思うとどんどんと不安が増してきた。
耐えられなくなり、加持君を抱きしめ、つぶやく。
「私を捨てないで・・・」
父が母を捨てたように、私を捨てないで、加持君。
「どうしたの突然?何か冷たく当たっちゃった?俺」
「ううん。違うの・・・・。いいの、忘れて」
「忘れろって言われてもなあ・・・。捨てないよ、こんなに魅力的な女性なんだ。捨てられるはずないだろ?」
「魅力なんて無いわ」
「あるさ。俺と付き合うまで処女だったってことが信じられないくらいだ」
「処女じゃなかったらどうだった?」
「・・・処女じゃなくたって大切にしてるさ。
俺が言いたいのは魅力的で他の男が放って置かなかったはずなのに
一番初めに俺のところに来てくれたのが不思議だっていうことだ。すごい幸運、信じられない」
「そう・・・」
「何?説得力無かった?言いなよ、何が不安なのか」
「ううん、よく分かった」
「相変わらず、肝心なところは話そうとしないんだな。
・・・まあいいさ、無理強いしても嘘が出るだけだ。深追いはしないよ」
「お見通しなのね」
「全部は見通してはいないよ。でも、いくつか嘘だと分かるときがある。そのときは少し辛いな」
「加持君嘘は?私、全然分からない」
「存在自体が嘘だからな、俺は」
「茶化さないで」
「はは、葛城に嘘はついていないはずだ、意識の上では。無意識は分からないけどな・・・」
「そう・・」
「相変わらずナーバスになるな、こういう時・・・。でも、こういう葛城は嫌いじゃない。
むしろ好きさ。良い顔してる、魅力的でゾクゾクするね・・・」
「・・もういいわ。加持君の思い通りに悩ましい顔ばかりしてたく無いから、もう止めた!」
「そうか・・・残念だな」
私はソファから元気良く立ち上がり、服を着た。
加持君も服を着て、話題は夕食は何を食べるか?に変わっていた。
乙カレー(´∀`)
オッテュ
もうすぐクリスマス。っとその前に今日は私の誕生日。
今の日本は12月なのに夏真っ盛り。今日も連日暑いわ〜〜。
講義を終えて汗だくになって部屋へと帰る。
今日から19歳。大学に入ってからいろいろとあったなあ。急に大人になった感じ。
加持君はどんなプレゼントを用意してくれてるのかな?楽しみ。フッフ。
「ただいまー。・・・・・・・・・・・・・。あれ?加持君帰ってないのか」
夕日の差し込む部屋には明かりがついていない。
今日は誕生日を祝おうって言ってくれてたのに・・・。
どこかへ買い物しに行ってるのかもね。まあ、いいか、そのうち帰るでしょう。
リビングへ行くといつもと同じ、ハムちゃんがカラカラと音を立てて回し車を回していた。
ひまわりの種っと・・・・・また威嚇されちゃうかな?
ハムちゃんが来てから、私は毎日ひまわりの種を手渡ししようと試みるが、毎日威嚇されて降られていた。
「はーい、ハムちゃん。大好きな種ですよ〜〜」
どうせ今回も威嚇されておしまいか・・・。でもいいわ、愛情が示せれば。
っと、おおおお!なに?受け取ってくれるの?
以外なことに、ハムちゃんは私からひまわりの種を受け取った!
「きゃーーーーーーー!かわいいわねぇ、ハムちゃん」
やっと慣れてくれた!嬉しいなあ。継続は力なり。これから毎日手渡しか・・・むふふ。
それで、最終的には手乗りにしてー、一緒にお風呂に入ったり、眠ったり〜〜。
いろいろと野望は膨らむ。が・・・・・・・・・・・
パタッ
「・・・ハムちゃん?」
ハムちゃんは私からひまわりの種を受け取ったそのままの体勢で横に倒れてしまった!
「ハムちゃん?!」
ハムちゃんは横に倒れたそのままの体勢から動こうとしない。
息はハアハアと早く、苦しそうに見える。
口と目は半開き。瞳に輝きは無い。
ああ、こんなときどうすれば良いの?!
パニックになる私。
加持君なんでこういうときにいないのよー!早く帰ってきて!
苦しそうなハムちゃんの前で何もすることが出来ず動けない。
そうだった、ハムちゃんはもう余命少ないんだった。
ただ可愛がっているだけじゃ駄目だったんだ・・・・・。
病気の時の対応の仕方を学んだり、獣医探したりしておくべきだった・・・。
後悔が私を襲う。何も出来ずに惨めな私。
ハムちゃん・・・・・・・・・・・・。お願い、元気になって。
祈るような気持ちで横たわるハムちゃんを見つめ続けた。
「ただいまー」
「加持君!」
加持君の帰りはそれから15分後だった。
しかし、私には一時間以上に感じられた。
「どうしたの?電気もつけずに」
「ハムちゃんが!ハムちゃんが!」
「ん?・・・・・・・・・・どうしたの?」
「分からないの。さっきまで回し車を回していたんだけど、突然横になって倒れて・・・」
「そうか・・・・・・」
加持君は水入れをハムちゃんの口元に持って行った。
しかし、ハムちゃんは水を飲もうとはしない。
ハアハアと荒く息をするだけだった。
加持君はそのことを確認すると、ゲージをあけた。
そして、弱りきって動くことの出来ないハムちゃんを両手で丁寧にすくいあげ、
「ほら葛城、手を出して・・・」
私の両手のひらへと置いた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
小さくて暖かい体が、早く脈打っているのがわかった。
意識が朦朧としているのだろう、いつも威嚇して自分に触れられるのを拒んでいたのに、
今回は全く無抵抗だった。表情一つ変えずに私たちの手のひらに鎮座する。
加持君はハムちゃんの頭と背中を右手の人差し指でそっと撫でた。
「ハムちゃん、君は精一杯生きた。いろいろと大変な人生だったね・・・」
「ハムちゃん・・・・・・・グスッ」
「短い時間だったけど、俺たちと一緒にいてくれてありがとう。楽しかったよ」
「ハムちゃ〜ん・・・・・グスグス」
「葛城・・・・・・・。話しておきたいこと無いのかい?多分、最期だよ、もう・・・」
「ハムちゃん・・・・・・グズ。・・・・ここに来てくれてありがとう。私たちと一緒にいてくれてありがとう。
かわいい顔を毎日見せてくれてありがとう・・・。ありがとう、ハムちゃん・・・・・」
「ありがとう、ハムちゃん・・・」
だんだんとハムちゃんの呼吸が、脈が弱くなっていくのを肌で感じた。
涙で目の前が曇ったが、ハムちゃんの最期を、
命の尽きるその時を見逃さないように、何度も瞬きをして涙を落とした。
チーーー。
ハムちゃんは弱弱しい声をあげて、体が一旦痙攣したかと思うと、
すぐにグッタリとなってそのまま息を引き取った。
「ハムちゃ〜〜〜ん。・・・ハムちゃ〜〜ん!ううう・・・・・」
「ハムちゃん・・・」
私はだんだんと冷たくなっていくハムちゃんを見つめ、泣き続けた。
「ハムちゃん、出会ってまだ2ヶ月ちょっとだよ?なのにもう逝っちゃうの?早すぎるよ・・・」
「ごめん、葛城をこんな辛い目にあわせてしまって・・・・・・」
「ううう、ハムちゃん・・・・・・・・」
「全て俺のせいだ。自分が楽になりたいと思ってハムちゃんを引き取って、
でも、最期は葛城を巻き込んで・・・・・。すまない」
「・・・・。何を言うの?ハムちゃんが死んだのは加持君のせいじゃないし、
私がこうして泣いているのも加持君のせいじゃない。
全て自分の責任だと思うなんて、只の思いあがりよ・・・・」
「そうか・・・・・」
「・・・私は良いと思ってる。こうしてハムちゃんの最期を看取ることが出来て。
でも、加持君の言い方はまるで、ハムちゃんが死ぬことも、私が看取ることも悪いことのようじゃない。
お願いだから、そんな風に思わないで・・・・・・」
「そうだな、すまない・・・」
加持君の自虐的な言葉が私の癇に障ったので、思わずきつい言葉を返してしまった。
ああ、これじゃ駄目。私が言いたいのはこんなことじゃないわ。私が言いたいのは・・・
「・・・・・・セカンドインパクトではあんなに人が死んで、私の両親も死んで、
もう死は慣れっこになっていると思ったわ。でも、やっぱり悲しいのね・・・」
「そうだな・・・」
「これから先も死は付きまとうのね。大切な誰かが死ぬかもしれないし、・・・自分が真っ先に死ぬかもしれない」
「・・・・・・・」
「ハムちゃんに出会わせてくれてありがとう、加持君」
私の涙はいつしか乾いていた。笑顔を加持君に向ける。
驚いたように目を見開く加持君。
「葛城・・・。そんな・・・・・」
「命は長さじゃないってハムちゃんは私に教えてくれたもの。
たった2ヶ月ちょっとでも、ハムちゃんは私と加持君に素敵な思い出を作ってくれた。
ハムちゃんもこっちに来てからはノンビリ過ごせていたみたいだし・・・。
全然なつかなかったけど、それでも私は可愛いと思えたし、愛してた。
私は会えてよかったと思う。・・・自己満足っぽいけどね」
「・・・・・そうだな、俺もハムちゃんを連れてきて良かったと思ってる。
生身のペットを飼うことは人生において貴重な経験だと思うね。
バーチャルペットとは生と死のリアルさが全然違うからな・・・」
「ありがとう、ハムちゃん」
「ありがとう、ハムちゃん」
私達はハムちゃんにお礼の言葉を言い、ハムちゃんの体をゲージへと戻した。
「お墓どこにするの?」
「ああ、ハムちゃんを引き取ったときにもう決めてる」
「あ、そうなの?どこ?」
「今、持ってくるから、待ってて」
そう言って加持君は部屋を出て行った。
「持ってくる・・・・・・・?」
棺おけか何かだろうか?ピンと来ないまま加持君の帰りを待った。
数分で加持君は戻ってきた。手に植木鉢を持って。
「・・・・・・・どういうこと?」
「ハムちゃんのお墓だよ。ここにハムちゃんを埋めて、ハムちゃんの大好きだったひまわりを植えようよ」
「ええ?!そ、そんなことを考えていたの?」
「ああ。自然の法則さ。死んで植物の栄養となる・・・」
「罰が当たらない?そんなことして」
「どこかの土の中に埋めたって結局、同じだよ。バクテリアが分解して、有機肥料となって・・・」
「・・・それもそうか・・・」
「どうせ栄養になるんならさ、そこらの雑草の栄養になるよりも、
大好きだったひまわりの栄養になったほうが良いと思って・・・どうだい?」
「頭のよさに惚れ惚れします・・・」
「あはは、そりゃどうも・・・。じゃあ、埋めようか?」
「うん・・・・・・」
加持君が穴を掘り、私がハムちゃんを穴に置いた。
二人で手で土をかける。
姿が見えなくなるにつれ、また涙が湧いてくる。
「うう・・・・・ハムちゃん・・・」
「グスッ・・・」
隣から鼻をすする音が聞こえて顔を上げると、加持君も泣いていた。
「ハムちゃん、ごめんよ。俺のせいでこんな・・・・ごめんよ・・・」
「ハムちゃん、ありがとう・・・・」
二人で最期にハムちゃんの顔に土をかけて、ひまわりの種を一粒植え、埋葬は終了した。
( ´;ω;`)ブワッ
埋葬が終わってから私はすぐに手を洗いに行ったが、加持君はまだ泣いていた。
少年のように小さくなって下を向き、涙も鼻水も流したまま、声を押し殺して加持君は泣いていた。
私は少年の顔をハンカチで拭き、抱きしめ、頭を撫でた。
「ううう、グスッ・・・・。不甲斐ない・・・」
「たくさん泣いてもいいよ・・・・。だって、悲しいんだもの。・・・泣くのは当たり前よ」
「うう、ありがとう・・・・・・・グスッグスッ」
抱きしめた直後は体を震わせて、全身で泣いていた彼も、
暫くすると心が落ち着いてきたのか、静かになった。
「・・・ありがとう、もう大丈夫だ。今日は誕生日だったな・・・」
加持君は顔を上げて微笑むと、手を洗いに行った。
「さて、まずはケーキだっ!」
「なにこれーーーーーーーーー!?」
加持君は帰ってくるなり、長方形の大きな箱をテーブルに置いた。
「はい、開けて開けて〜〜」
「いいの?行くわよ・・・」
パカ
「うわーーーーー!すごい!これどうしたの?オーダーメイド?たっかそ〜〜!」
出てきたのは二つの半円形が隣り合ったカタチのケーキだった。
チョコや金粉、飴細工で綺麗にデコレートされている。
「すごいだろ?驚いてもらえて嬉しいよ」
「すごい!どうやって注文したのこれ?ん?・・・・メリー・クリスマス・・・?」
「ありゃ?そんなこと書いてあった?参ったなあ・・・ハハハ」
「どういうこと?加持君・・・・・」
「さあ?ケーキ屋さんが間違ったのかな?」
乙です
最初のほう糞糞いわれてるがなにが糞なのかわからない
とぼけているが明らかに表情がおかしい。何かを隠している様だ。
「加持君・・・何か隠してるわね?」
「いや、何も・・・」
「私に始めての嘘を付くのかしら?」
「・・・・・・・・」
「さあ、言いなさい。怒らないから。ネ!?」
私は加持君に引きつった笑顔を見せた。
すると、加持君はあっさりと吐いた。
「・・・・・・・・・・・・・実は、今日、パティシエ科でクリスマスケーキの学内コンクールがあって、
審査終わった後の作品は競売にかけられるから、競り落として・・・・・来ました」
「ふうん。そういうこと。で?いくらだったの?」
「・・・・・・・・・・・・・1000円」
「安!これで1000円って、普通ありえない・・・」
「だよなぁ〜〜」
「どうりで個性的なはずだわ・・・」
「一応作品の説明があるけど、読む?」
「うん。・・・・・・・何々?二つのドーム型のスポンジケーキで女性の乳房を、
チョコと飴細工で高級ブラジャーを表しています・・、ブラジャーを外すと、中にはピンク色の・・・
乳・・首・・に見立てた・・・・って何よこれ!思いっきりそっち路線じゃない!なんでこんなの買ったのよ!」
「いやあ、葛城のに似ていたのでつい・・・・」
「んもう!何考えてるのよ!全く・・・・・・」
「ユーモアがあると思ったんだけどなあ・・・。おいしそうだったし」
「はあ・・・。加持君のユーモアと行動力に脱帽だわ。恥ずかしげもなくこんなケーキ買ってくるなんて」
「まあ、その場の勢いで・・・。取り合えずローソクローソク」
ケーキの周りを囲むように円形に、細いローソクが立てられ、火が灯された。
「ハッピ、バースディ、トゥー、ユー。ハッピ、バースディ、トゥー、ユー。
ハッピ、バースデイ、ディア、ミサトちゃーん。 ハッピ、バースディ、トゥー、ユー♪」
「フーーーーー」
「誕生日、おめでとう」
「・・・ありがとう。なんか照れるわ」
ハムちゃんの深刻な展開から一変。
ワロタW
誕生日を祝ってもらったのなんて何年ぶりだろうか?
それも今年は初めて、恋人に祝ってもらえた。
ジンとした感動に思わず心が熱くなった。
「葛城の誕生日=ハムちゃんの命日か・・・。こりゃ忘れられないな」
「そうねー。一生の思い出だわ。悲しみも喜びも一気に経験しちゃったし、
それに、・・・加持君の泣き顔、初めて見ちゃったしぃ」
「う・・・・・・・・忘れてください。恥ずかしいから」
「いえ、無理です。忘れられません。男のくせにぃ、泣いちゃって。フフフ」
「参ったな〜〜」
「リツコにばらしちゃおいかなあ?」
「調子に乗るなよ。俺もばらすぞ、いろんなこと。・・・イッちゃったこととか」
「うわー、卑劣!」
「どっちがだよ・・・」
私たちは楽しい(?)会話を繰り広げながら、意外とおいしいケーキを食べ、
ワインとデパ地下グルメで乾杯した。
明日が休みの為、宴は深夜まで及んだ。
満腹になるとワインだけ飲みながらレンタルのDVDを見た。
二人とも酔っ払ってまじめには見ていなかったけど、アメリカのラブコメだった。
時々、理解不能なアメリカンジョークに置いてけぼりをくったが、
加持君は酔ってテンションが高く、エキストラの笑い声の入っているところで一緒に
「HA〜HAHA!」
と、英語調に笑っていた。
DVDも見終わり、そろそろ私が眠くなってきた時には
加持君がすでに酔いつぶれ、私の膝枕で眠っていた。
とりあえず、加持君の頭をどかして布団を敷きに行く。
全く、人には飲みすぎるなって言っておいて・・・・。
「加持君、布団敷いたから、こっちで寝なよ」
加持君に呼びかけるが、無反応。
ゆすってみるが、無反応。
軽く頬を叩いてみるが、ちょっと痛そうな表情をするだけ。
「なんで、こんなになるまで飲むのよ〜〜〜。く〜〜〜重い!」
結局、加持君の両腕を持って寝室へ引きずって行くこととなった。
布団に平行の位置まで持ってきてから転がす。
ゴロン
「う、う〜〜ん・・・むにゃむにゃ・・・」
「こんな手荒い扱い受けてるんだから、起きろよ、もう〜〜〜」
一仕事終えて、私も布団に横になる。
まあ、お互い様か・・・。私もこの前、散々迷惑かけたからなあ・・・。
そう考えると憎めない。
ふー、いろいろあったな、今日は・・・。あっふ、眠い・・・・。
私もウトウトし始めた。
「ハムちゃ〜〜ん・・・むにゃむにゃ」
あら、加持君ハムちゃんの夢見てるのか・・・。
「ハムちゃーん、ごめんよ。ごめ・・・ん。・・・・むにゃむにゃ」
まだ謝ってる。相当、罪の意識が強いのね・・・。
前に私が加持君だけの罪じゃないって言ったのにさ。
まあ、仕方が無いか、死を目の前にしたんだし・・・。
加持君を見ると、うっすらと涙がにじんでいるようだった。
背中を丸め、涙をにじませて眠る少年の姿。
私もこんな時期があったっけ・・・。
心が弱っていて、誰かに抱きしめ、慰めて欲かった。そんな時期が・・・・。
私は小さくなっている加持君をそっと抱きしめ、頭を撫でた。
加持君はそれを感じ取ったのか取らなかったのか、分からないけれど、
スースーと寝息を立てて深い眠りに落ちていった。
おってゅ
私もここで小説書きます!
よろしく!
テスト
「はあ?合コン〜〜?!」
「そうなの、お願い、ミサト。ネッ?」
「あのねえ、コトコぉ。ご存知かと思うけど、私・・・」
「加持君でしょう?大丈夫よ、友人同士の飲み会って言っておけば」
「そんなこと言われても・・・」
「一次会だけで良いからさっ、一人どうしても必要なのよ〜〜〜」
「だけどねぇ・・・」
「一次会済んだら自転車でささっと帰っちゃえば良いのよ、そんなに遅くならないし。ネッ。
私のクリスマスがかかってるのよ〜〜〜。これを逃したら私、一人でジングルベルよ?
ミサトは良いわよ、二人のイブ確定なんだから。その幸せを分けると思って・・・。ネッ、お願い」
「うーん・・・。仕方が無いわねぇ、一次会だけよ?それ終わったら自転車でささっと帰るから、私」
「ありがとう!感謝してる〜〜。じゃあ、待ち合わせ場所と時間なんだけどね・・・」
クリスマスを間近に控えたある日、
コトコに合コンの数あわせで参加するお願いを引き受けた。
日にちは冬休み(セカンドインパクト前の風習が残っている)前日の夜6時からとなっている。
加持君には勿論、友人の飲み会だと言う事で話をあわせてもらうことになった。
ちょっと良心が痛むけれど、まあ一次会だけだし、9時ごろには解放されるだろうしね・・・。
コトコのために一肌脱ぐかあ!
新展開!?
乙であります。
「加持君。私、明日コトコたちと飲み会があるから、夕食いらないわ」
加持君へは合コンの前日に報告した。
日にちが迫っているほど追求されず、ボロが出ないと思ったからだ。
「あ、そうなの?忘年会?」
「うん、まあ・・・ね」
「じゃ、俺も行くよ」
「え?!・・・良いわよ、来なくて」
「そんな学科限定のかしこまった忘年会なの?友人同士で飲むだけじゃないのか?」
「うん・・・かしこまった、忘年会かな?」
「そうか〜。でもお前が飲みすぎたら誰が介抱する訳?」
「飲み過ぎないわよ」
「いや、前科があるからな。コトコちゃんたちに両肩担がれて帰ってくる姿が見えるようだよ・・・」
「大丈夫よ、一次会が終わったら自転車でさっさと帰ってくるから・・・」
「そうか〜?じゃあ、気をつけてな。飲酒運転で事故るなよ」
「うん、大丈夫・・・」
私の演技が上手かったからか、加持君はまんまと騙された。
これで明日は、友情のための只酒・・・基い、合コンに挑めるわ。
「ああっ!駄目、イキそうっ!もう、やめて」
「うん?もう駄目かい?」
加持君が腰の動きを止める。
「うん・・・・・・・駄目、怖い」
「そうか、分かったよ・・・」
加持君が私の体から引き出された。
一度、達することを覚えた私の体は、あの日から加持君の予想通りにイキ易くなってしまっていた。
あれ以来、私はイキそうになる度に加持君に中止を懇願するようになっていた。
加持君も理性的に私の願いに応じてくれている。
加持君が後始末を終え、布団に横になる。
私から手を繋ぐ。
「まだ怖いの?」
「ええ・・・・・怖いわ。自分が自分でなくなるようで」
「そうか、怖がりだな、葛城は」
「ごめんね、加持君。加持君もあの日以来一度も私の中でイッてない・・・」
「ん?気にするなよ。俺は自分でどうにでもできるしさ」
「・・・でも満足出来てないでしょ?」
「俺、一人だけ満足したって、楽しく無いよ。・・・そんなの一人でするのと一緒さ。
二人で楽しくするのがセックスってもんだろ?違うかい?」
「そうだけど・・・」
「言っとくが、葛城が思っているほど俺はフラストレーション溜まって無いよ。
イかなくたって、十分気持ちが良いし、満足できてる。
・・・葛城だってそうだろ?イってないけど満足してるだろう?そういうもんさ。
男はイカなければ満足できないなんて思っていたら、お互いイカせることだけが目的になってしまう。
そんなのつまらないね。イク事だけが目的なら、一人でしたほうが手軽で早い。・・・回数もこなせるしな」
「そうね・・・」
加持君は天井を見ながら持論を私に話してくれた。
その横顔に、私は彼の思いやりを感じた。
私は安心して眠りに落ちた。
日が変わって、合コン当日。
講義が6時近くまであったので、終わってそのまま合コン会場へコトコたち4人と繰り出した。
会場はおしゃれなダイニング風の飲み屋。
私たちが到着すると相手方はもう席についていた。専門学校生達とのことだった。
「こんばんわー。始めまして、今夜はよろしくね」
コトコが幹事として最初に挨拶をする。
と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、相手方に一人、見覚えのある顔が・・・。
「もしかして、君、葛城さん?!」
「・・・・・こんばんわ、長谷川君」
そこに座っていたのは、高校時代に私が・・・レイプされそうになったあの彼だった。
私は全身の血の気が引いた。
何故、私はこうも合コンでの再会率が高いのだろうか?加持君の時だってそうだ・・・。
「いやあ、奇遇だなあ。どうしたの?もうすぐクリスマスだもんな。葛城も狙ってるんだ?」
「・・・・・・・違うわよ」
「嘘だあ!だって、この時期の合コンだぜ?狙ってないわけ無いよなあ?」
「あのねえ、私はコトコに頼まれてー・・・・!」
「ちょっと待ったあ!・・・・・・・乾杯がまだよ。まずは乾杯して、自己紹介と行きましょう。ネ」
私の台詞はコトコに遮られた。
その後、すぐにコトコに耳打ちされる。
「ちょっとミサト。彼氏もちで人数あわせで来たなんてなんて言ったら、
場がしらけちゃうからさ、上手くごまかしといてよ・・・」
「そんなこと言ってもコトコぉ・・・」
「ね?お願い、一次会だけで良いからさ・・・」
「んっもう、一次会ですぐに帰るからね」
「分かってるって、じゃ、お願いね」
これも友情のためだと自分に言い聞かせて、愛想良く振舞うことにした。
はあ、早く時間がたたないかしら・・・。
一次会は3時間あった。その間、私の隣には長谷川君が陣取っていた・・・。
「いやあ、きれいになったなあ葛城さん。高校卒業してから一年たってないのに変わったねー。
大学で何かあったの?さ、もう一杯」
「別に何も無いわよ・・・グビグビ。そういう長谷川君こそどうなのかしら?もてそうだけど」
「俺は付き合っても長続きしないんだよね〜。で、クリスマス一人で過ごすの嫌だからこうして参加してる」
「ふーん」
「あ、でも、今度は長く付き合えそうな気がするんだ。・・・運命って奴かな?」
どうやら、長谷川君は私狙いのようだ。
最初のうちはそっけない態度をとろうとしたけれど、ふと、私にある考えが浮かんだ。
一次会で私が散々気がありそうな振りをしておいて、
一次会が終わった途端に彼氏がいることを打ち明けそのまま消える。
きっと、長谷川君は逃した魚は大きいと悔やむだろう。
しかも、女性人には長谷川君の高校時代の悪事を暴露しておいて誰ともカップルになれないように仕組んでおく。
これで長年トラウマになっていた私の気が少しは晴れるんじゃないかしら?
よし!この方法でいこう!
私はトイレでコトコたちに長谷川君の悪事を暴露し、一次会が終わるその時を待った。
380 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/26(木) 06:03:08 ID:pfvGfolB
あげ
テスト
「一次会はお開きでーす」
「はーい」
ようやく一次会が終わり、私はさっさと自転車に向かった。
「あれ?葛城さん、帰るの?」
「ええ」
「そうか、じゃあ俺も・・・」
長谷川君は予想通りにしっかりと私に釣られてきた。
「そう・・・。じゃあねん、ミサト〜〜」
「じゃあねん、コトコ〜〜」
私とコトコは目で合図をして、二手に分かれた。
一応、気がある振りをして長谷川君と暫く歩く。
しかし、コトコたちが見えなくなると私は早速、態度を翻した。
「私、彼が部屋で待ってるから、これで・・・」
私は冷たく言い放ち、自転車に颯爽と乗り込み、発進させる。
ふふふ、さらば、長谷川君!
ところがだ・・・。長谷川君は私が漕ぎ出そうとしたところで自転車の荷台をしっかりと掴んだのだ。
発進できずに自転車はバランスを崩す。私は倒れてたまるかと足を付いた。
「何するのよ?!」
「へー、彼氏がいるのに合コンに参加とは、大したもんだなあ」
「何がよ?」
「だって、彼氏と別れる前に次のターゲットを探しに参加したんでしょ?案外、葛城さんって貪欲・・・」
「何言ってるのよ!私はコトコに頼まれて仕方なく参加したの。勘違いしないで」
「友人の頼みだとしても、クリスマス前の合コンにいそいそとなんて出かけねーよ、ふつー。
本当は狙ってたんだろ?男を。彼氏とマンネリとかで」
「そんなわけないでしょう?!まーったく、あなたってどうしてそういう考えしか出来ないの?!」
「彼氏とのセックスは満足?」
「・・・あのねえ、そんなこと聞いてどうするの?例え不満だとしてもあなたとだけはまっぴらよ!」
「俺の家と、青姦どっちがいい?」
「・・・・・何考えてるのよ?はあ・・・ばっかじゃない?とにかく私は彼のところへ帰るから。じゃあね」
会話が全く成立していないので私は呆れ、再び自転車に乗ろうとした。
しかし、またしても長谷川君によって阻まれることとなる。
彼は私の膝と肩を支点にして私を軽々と抱き上げてしまった。
自転車は支えをなくして道端に転がる。
「そうか・・・・・青姦か・・・」
「ちょっと!何するのよ、おろして!」
私は手足をジタバタと動かして長谷川君から逃れようとするが、
彼の腕の中にすっぽりと納まってしまい逃れられない。
長谷川君の厚い胸板と強そうな肩は私がいくらもがいてもびくともしなかった。
ああ、そうだった、彼はバタフライの選手だったっけ・・・。
高校時代の思い出が甦る。
告白の返事を貰うあの瞬間まで、私は長谷川君のことが好きだったんだわ。
放課後、水泳部でバタフライを泳いでいる長谷川君を、私はほぼ毎日、見ながら帰ってたんだ・・・。
それは青春の甘い思い出だった。あの日、押し倒されるときまでは・・・。
最悪ね。今は大嫌いな相手なのに、好きだった頃のバタフライが未だに脳裏に焼きついているなんて・・・。
私はそんなことを考えながらも抵抗をし続けた。
長谷川君はそのまま近くの横断歩道を渡って向かいにある物静かな公園へと進む。
やばいわ・・・・このままじゃ本当に青姦されるかも・・・・・・・・。
「ねえ、長谷川君。冗談よね?さっき言ってたこと」
「さっき言ってたことって?・・・・冗談なんて言った覚えは無いけど」
「私も言ったはずよ、あなたとはまっぴらだって。・・・だから放してっ!」
抵抗を強めるが、長谷川君の腕が緩むことは無かった。
公園のベンチにゆっくりと下ろされ、そのまま押し倒される。
「あなたって、最低ね。一度ならず二度も私を押し倒すなんて」
「葛城さんは分かってないなあ。男の恋愛って言うのは体から入るんだよ。
だからあの時も今も、こうして葛城さんと恋愛を始めようとしてるじゃない」
「うっく!」
長谷川君は自分の理論を言うやいなや、私にキスをしてきた。
顔を横に振って逃れようとするが力で抗えない。
数秒ほどのキスの後、長谷川君は私の口を手で塞ぎ、こう言った。
「大丈夫だよコンドームあるし、俺上手いから何度でもイカせてあげる・・・」
そのまま私の首筋に下を這わせる。
怖い!
その時私は初めて長谷川君が本気だということを実感し、恐怖を感じた。
そして、人間とはこういう時に一気に沢山の思考をするものだ。
こいつは最低だ!一生恨んでやる!と長谷川君をののしる私。
私がバカだ。わざわざ自分から危険な目に会いに来たようなもんだ。と反省する私。
コンドームがあるから妊娠や病気のリスクは少ないか・・・。とホッとする私。
加持君、ごめんね。嘘ついて合コンに参加して。その上こんなことになっちゃって。
次に会うとき、加持君にどんな顔して合えば良いのかな?何を言えば良いのかな?
会わないほうが良いのかな?でも、会わないと返って感づかれちゃうか・・・。
と、加持君に対して話しかける私。
沢山の私が同時に私の中に存在し、それぞれがそれぞれの立場で思考していた。
もうだめね、このままおとなしく応じて事が済むのをじっと耐えるか・・・。と、もう諦めている私。
私は抵抗するのをやめて、目を閉じ体の力を抜いた。
長谷川君はソレを感じ取ったのか、私を力で押さえ込む手を緩めた。
「はい、そこまで」
長谷川君と違う男の声を聞き、私は閉じていた目を見開いた。
街灯に照らされて二人の人影が長谷川君の背後に浮かんでいる。
長谷川君は私が諦めたのを感じ取って手を緩めたのではなかった。
二人の青年の一人に左肩を掴まれて振り向いたからだったのだ。
助かった・・・・・。一気に肩の力が抜ける。
長谷川君は立ち上がり、青年たちと向かい合った。
私も解放されて立ち上がる。
青年たちは私と同じくらいの年で、めがねをかけた真面目そうな人と、
髪の毛を肩まで伸ばした軽そうな長髪の人だった。
普段から仲良しなのだろうか?この二人がつるんでいるのが想像付かない。
「何だ?お前らは・・・」
「通りすがりの者ですが・・・」
「そうそう。・・・言っておきますが、道挟んで向かいのコンビニから丸見えですよ?ここ。
彼女を無理やりここまでつれてきた一部始終をばっちり見てました、僕達。ネッ、青葉君」
「ああ、見てた」
「無理やり?・・・それは違うなあ。この子が俺を誘ったんだよ。だから、こうして彼女を喜ばせるために・・・」
「何言ってるのよ!嘘つかないで!」
「嘘だと言ってますけど・・・?」
「嘘ついてるのはそっちさ。こいつは彼氏がいるにもかかわらず、
それでは飽き足りなくて、男をあさりに合コンに参加したんだ」
「それは数合わせだって言ったでしょう?!」
「違うね、本当は心の底では他の男を追い求めてる。チャンスがあれば他の男に乗り換えようとしているんだよ。
だから参加したんだ。そうだろ?」
「違うわ!」
「まあまあ、・・・とにかく、こんなところで事に及んでも丸見えですよ。公然わいせつ罪だ」
「その通り。そのうえ、嫌がってる相手を無理やり・・・だったとしたら強姦未遂。
そうなったら俺たちは目撃者として通報もできる」
「なんだとぉ!」
「殴ったら傷害罪になっちゃいますよ?」
「さっきから言ってるだろ?!この女が淫乱なのがそもそもの原因だと!」
「その言葉は取りようによっては侮辱罪」
「ああ、言い忘れてた。あなたの言動は全て、ある場所に内蔵された小型カメラに納められてますから。
証拠としていつでも警察に差し出せますよ」
「・・・けっ!俺は嘘は言っていない。この女が誘ったんだ!
・・・だが、もうやる気も失せたよ、リスクを負ってまで抱きたい女じゃないしな。
そんな価値、葛城さんには元々無いからさ。高校時代から」
長谷川君はそうはき捨てて去っていった。
「大丈夫ですか?」
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったら言いか・・・」
「なあに、礼には及びませんよ。僕達そこのコンビニでバイトしてるんです」
めがねの青年はあの向かいのコンビニを指差した。
「丁度バイトが終わって二人で帰る時にあなたたちを見まして・・・。
カップルの喧嘩とも取れたんですが、万が一のことがあったら嫌だしってことで、
二人で後をつけました。そしたら案の定・・・。いやあ、つけといてよかった」
「そうなんですか・・・」
「ガタイのいい男だったので殴り合いになったら部が悪いと思い、法律の話を持ち出しました」
「小型カメラの話にまんまと騙されてくれて良かったよねー・・・」
「ああ、ホントにな・・」
「「え?じゃあ持って無いんですか?カメラ」
「ええ、持ってません」
「ええ?!」
「第一買えないしな、学生のバイト代じゃあ・・・」
「・・・・・・・危ないことするのねえ・・・・」
「いざとなったらバイト先に逃げ込みますよ。それで強盗だー!とか何とか言って・・・」
「ははは、それいいな」
驚いている私とは対照的に二人は笑っていた。
どうやら見かけよりもずっと肝が据わっている人たちらしい。特にめがねの方・・・。
「あ、すいません長々とお話しちゃって。家どこですか?送りますよ」
「え?大丈夫です・・・」
「でも、夜遅いし、一難去ってまた一難なーんてことも考えられますし・・・」
「いえ、本当に大丈夫です。自転車ですから」
「自転車?どこに?」
「あの、コンビニの前の・・・」
私が指を指す方向に二人の顔が動く。
コンビニの前の道端に先ほどに騒動で横に倒れている自転車があった。
スイカの出番だと思ったんだけどなorz
でもGJ
がんばれよ マコト
「ああ、そうでしたね・・・。でも、自転車もさっきみたいに止められる可能性も・・・」
「ちょっと、日向君・・・」
「ん?何?」
長髪の人がめがねの人に耳打ちする。
めがねの人はその耳打ちで感づいたようだった。
「ああ、そうですよね、すいません。僕たちもあなたにとっては初対面の怪しい人ですもんね・・・」
「俺が言ったことをそのまま言うなよ!」
「あ、ごめん。青葉君・・・」
「クス・・・・・じゃあ、そこのコンビニまでお願いします。そこで彼に電話して迎えに来てもらいますから」
「彼?!彼氏・・・いるんですか?」
「はい」
「さっきそのようなことをあの男も言っていたよ、日向君」
「聞き逃してたよ、そんなことー」
ガックリと肩を落とすめがねの人。それを勇気付けるかのように長髪の人は肩を軽く2回叩く。
そして、私は親切な二人の青年にコンビニの前まで送り届けられた。
>>392さんの想像してたスイカの使い方が気になる・・・。
「じゃあ、僕たちはこれで・・・」
「はい、ありがとうございました」
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「日向君・・・」
「葛城ミサトです」
「日向マコトです」
「青葉シゲルです」
「もしも、ココの前を通ることがあったら是非お立ち寄りください。
不定期のバイトなので会えるかどうか分からないけど・・・」
「はい、そうします」
「行くよー日向君」
「はーい、待ってよ!じゃあ、さようなら!」
私は離れていく二人にバイバイと手を振った。
二人の姿が見えなくなると加持君に電話をかける。
加持君が到着するまでの間、コンビニの店内を見て回ることとした。
スイカ兄さんもエエがマコっちゃんもエエなぁヽ(´∀`*)ノ
>>395 スイカってそういうことね・・・。
てっきりスイカを投げつけて撃退とかかと思ったよw
セカンドインパクトが起こってから一時的に食糧難や日用品の不足はあったが、
それはもうはるか昔のことに思えるほど今はマーケットが復旧している。
ここのコンビニも20世紀となんら変わり無い品揃えだ。
私は雑誌を見て暇をつぶすことにした。
ある女性向けファッション雑誌を手にする。
パラパラパラ・・・
10代前半向けって感じね。私にはこんなファッション無理だわ・・・。
などと考えながらページを流す。
と・・・・・・・。あるページに目が止まった。
袋とじになっていて、タイトルは
「マグロ女はもう卒業! 彼をイカせる あの手この技」
・・・・・・・・・そういえば私、マグロかも?
思い起こせば、加持君と初めてしたときから今まで私はずっと受身だった。
加持君にリードされるままで満足していたし、やり方知らなかったし。
なんと言っても、自分からするなんて・・・どう思われるだろうか?と不安だった。
いくらなんでもキモヲタの妄想すぎると思います
でも、今は状況が違う。
加持君はあの日以来一度もセックスでイッていない。
私がイキ易くなったのもあるけれど、もしかしてマンネリもあるんじゃないかしら?
飽きられてる?私・・・・・・・・・。
一気に焦りと不安が私を襲う。
このままじゃいけないわ!
このままじゃ私、加持君に捨てられちゃう!
急いでページをめくろうとするが、めくれない。
そうだった、袋とじだった・・・。
ああん、っもう!なんで肝心なところが袋とじになってんのよ!
買うしかないの?買うしかないのね?
買うしかないわ・・・・・!
私はすぐさまこの雑誌を購入した。
雑誌を買ってからまもなく加持君は到着した。
加持君の顔を見た途端、私の今まで知らないうちに張り詰めていた緊張の糸が切れた。
ボロボロと涙が流れる。
私は店を出てすぐに加持君の懐に飛び込んだ。
「おいおい、どうしたの?泣き上戸か?・・・ってか、コトコちゃんたちは?」
「ううっ、ぐすぐす・・・ひっく」
「・・・葛城が酔っ払ってコトコちゃんたちじゃ扱いきれなくなって、俺を呼んだんじゃないの?」
「ひっく ひっく・・・」
「泣いてちゃ分からないだろう?・・・・もしかしてコトコちゃんと喧嘩したの?」
私は頭を横に振った。
「じゃあ、何?」
「・・・・・・・・グスッ。なんでもない」
「なんでもない。って言われてもなあ・・・・・・。ま、いいか帰ろう」
「うん・・・・・グスッ」
私たちは自転車に乗って家路を急いだ。
401 :
sage:2006/01/28(土) 00:33:56 ID:???
いつも楽しく拝見させてもらってます♪
やっぱり加持さんとミサトは別れてしまうんでしょうか(;_;)
出来れば何とかもめながらもハッピーエンドにしてもらいたいんですけど^^;
でもこのスレ自体がハッピーエンドで終わろうっていうので始まってないので、
最後は別れて終わるのかな・・・はぁ・・・(@_@)
これからも楽しみにしてます!
なんか、ハッピーエンドにならないって知ってても見ちゃう所が
スターウォーズ エピソード3と消費者心理が似てる。
どんな悲劇が訪れるんだろう?っていう・・・・。
俺達ってそう考えると残酷(な天使のテーゼ)。
>>401 別れられないとしたらそれは
>>1にあるとおり、2chねらーの意思ということになりますね。
私が別れる話を書いても、そのあとで誰かがヨリを戻す話を書くかも知れませんし・・・。
帰る途中も私はずっと泣いていた。
止め処なく流れる涙をそのままに泣いていた。
あの時、あの二人が助けに来なかったら・・・。ということを想像しての恐怖と、
加持君に会えて心の底から安心したのと、
こんなことになってしまった自分の行動の浅はかさと、
加持君に対しての申し訳のなさ。
それらの考えがぐるぐると順を変えながら、私の頭の中を回っていた。
加持君はそれを横目で確認しながらも、泣いている理由を聞いてはこなかった。
ただ、黙って自転車をこぐだけだった。
加持君が鍵を開け、部屋に入る頃には私の気分が落ち着き、涙は止まっていた。
「ただいまー」
「おかえり」
「シャワー浴びるわね・・・」
帰るなりすぐに風呂場へと向かう。
早くあいつの匂いを消たかったから。
シャワーを浴びながら私は悩んでいた。
今日のことを加持君に言うべきか、言わざるべきか・・・。
多分、加持君は何か大きなことが私の身に起こったことに感づいているはずだわ。
でも、それを正直に言ったほうが良いのかしら?・・・・・・・・言わないほうがいいわね。
自分の彼女がレイプされそうになっただなんて、聞いたらショックを受けるだろうし。
だとしたら、泣いている理由、何にしようかしら?
・・・・・コトコ。・・・コトコと喧嘩。やっぱ、一旦否定したけれどこれにしよう。
コトコに酔って絡んじゃって、怒らせた。で、とても落ち込んでいる。
これでいくわ。大丈夫、加持君の性格からして深追いはしないはず。
したとしても、コトコと口裏を合わせれば大丈夫よ。元はといえばコトコが私を巻き込んだんだもの。
協力しないわけが無いわ。
私は自分の中である程度作戦を組み立ててから、シャワーを止めた。
涙の理由を聞かれなければ、いつもどおりにくだらない話で眠りに付けば良いわ・・・。
「ふー、さっぱりした。やっぱ、汗をかいたらシャワーよねん」
私は出来るだけ明るい表情で加持君の前に出て行った。
「泣いたカラスがもう笑った。か・・・」
加持君は明るい私を見て安心したようだ。皮肉が口を付いて出ている。
よし、大丈夫だ。深追いはされないみたい。ココで話題を変えて・・・。
「加持君何してたの?私がいない間に変なこと、してなかったでしょうねえ?」
加持君にぐっと近付いて、質問を浴びせる。
これで、話題は加持君のことになるはずだった。
「・・・・・・・・・・・・」
ん?何?なに固まっちゃってるのよ?
加持君は笑顔から一転、眉間にしわを寄せながら私の首筋を凝視している。
ん?何か付いてるの?
首筋を触るが、何も触れない。
「何?どうかした?」
「・・・・・・・・・・葛城、首・・・・」
加持君は固まったままその言葉をいうのが精一杯と言った様子。
何?何があったの?
私は洗面所に向かい、鏡を見た。
・・・・・・・・・!!!!!!
これはっ・・・・・・・・・!
私の左首筋にくっきりとキスマークが付いていた。
あの時、長谷川君に付けられたんだ!首筋を舐められただけじゃなかったのか!
私も驚きのあまり固まってしまう。
が、すぐに加持君にどう説明しようかと脳をフル回転させた。
酔っ払って机の角にぶつけた。がいいかしら?
コトコにふざけて付けられた。がいいかしら?
ああ、もう!いいアイデアが浮かばない!どうすればいいの?どうすれば・・・・。
脳をいくら回転させても加持君が納得する説明は出てこない。
焦る私。
そこへ、加持君がやってきた。
冷や汗がドッと流れる。シャワーで流したばかりの私の背筋が再び汗でぬれた。
407 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/29(日) 03:57:21 ID:An78Izt0
+ ∧_∧ +
+ (0゚・∀・)ワクワク
(0゚∪ ∪ テカテカ
+/ヽと_)_)_/ヽ+
(0゙ ・ ∀ ・)
(0゙ ∪ ∪ +
と_______)_____)
すまん、ageてしまった
鏡を通して見つめ合う私たち。
出来るだけ平静を装い微笑むが、笑顔が引きつる。
「加持君、これはね・・・・」
「・・・アブにでも刺された?」
私が言うよりも先に加持君が答えを出した。
助かった!
「そ、そうなのよ!もう、でっかいアブでさあ!まだ痛むわ。イテテ・・・」
「・・・・・・・・・・・そうか」
私が話を合わせると、加持君は納得していない顔でそうつぶやいた。
まただ・・・・・・・・!
また加持君は騙された振りをしてくれている。
そして、私はまた嘘をついた・・・。
合コンに行った事を隠すためについた嘘が、また嘘を呼ぶ。
嘘の連鎖。
私は何故こうも嘘をつき続けるのだろう。つかなくてもいい嘘まで付いてしまうのだろう。
「なーんてね、嘘よ。真実を話すわ・・・・・」
私はそんな自分が嫌になった。
騙された振りをしてくれる加持君の優しさを利用して、嘘に嘘を重ねる自分が。
そして、ありのままの真実を加持君に話そうと決めた。
私はソファに腰をかける。
加持君も後を追って私の隣に座った。
「まずは、そうね・・・・・・・。今日は、コトコたちとの忘年会なんかじゃなかったわ。
本当はコトコ主催の合コンの数合わせで参加してきたの。嘘付いてごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
加持君はうつむいたまま、何も言わない。
私はかまわず話を続けた。
「そこで、高校時代の同級生に再会してね、思い出話で盛り上がっちゃって・・・。
で、一次会が終わって帰るときに一緒に帰ることになったの」
「・・・・・・・・・」
「それでね、途中までは良い人だったんだけど、いきなり態度が豹変して・・・」
私は真実を話すつもりだったが、やはり加持君のショックを考えて、多少、脚色していた。
同じ人に二度も押し倒されたなんて、しかも自分から仕掛けてだなんて聞いたら、あまりにも辛いと思ったから。
「公園で押し倒されちゃった・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「でもっ!すぐに通りすがりの人が来て助けてくれたのよ!
だから、・・・・・キスされたけど、そこまでで済んだの。それが、このキスマークの真実」
どうかしら?うまく説明できたかしら?
加持君の顔を見ると、加持君は依然、険しい顔のままうつむいていた。
「ねえ、もしかして疑ってる?・・・・・・本当よ!信じて」
「フウ・・・・・・・・・。そうか、よく分かったよ」
加持君はため息をつく。私に対して諦めの表情を浮かべる。
「分かっていないわ!嘘だと思ってるでしょう?本当なのよ!」
「いや、・・・・・・よく分かったよ」
「嘘!?信じてないわ」
私を信じて!
そう思って必死に訴えるけれど、返ってそれが疑わしい態度になってしまう。
ああ、もう!どうすればいいのよ!何か証拠でもあれば・・・・・・・。
ハッ!あの青年たちがいるじゃない!
「そうだ!助けてくれた人がいるわ!その人が証人よ!
加持君が迎えに来てくれたコンビニでバイトしてるって言ってたわ。
ねえ、その人たちに証言してもらって・・・」
「もういい!よく分かったと言ってるだろう?!」
ガツン!
加持君は立ち上がって後ろを向き、壁を殴った。
驚きのあまり、体がビクッと震える。
「葛城、・・・・・・もうその話はしないでくれ。よく分かったから、もう・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
加持君は私の顔を見ず、うつむいたまま言った。
初めて見せた加持君の怒りに、私は驚きと恐怖で動けなかった。
「もう、寝よう・・・・・・」
加持君は布団を敷きに部屋を移る。
私は一言も発せず、一動も出来ぬままその様子を見ていた。
「葛城?・・・寝ないのか?・・・・・・・おいで・・・」
「う、うん・・・・」
布団を敷き終わると、加持君は私を布団に誘う。
怒りは治まったようだった。
今まで固まっていた私は少し安心して誘われるままに布団へと入った。
布団に入った突端、加持君は私にキスをしてきた。
深く、・・・深く、舌が私の中に入ってくる。
何度も絡み撮られ、吸い付かれ、丹念に私を味わう。
「んっ・・・・・はあ・・・・・・ううん・・・・・はあはあ」
少々息苦しいが、絶えられないほどではない。キスの合間に息を吸う。
加持君・・・・・・許してくれたんだわ。
激しいキスを受け入れながら、私は加持君が許してくれたことが嬉かった。
そのまま抱きしめあう。
加持君の胸の中は居心地がとても良い。いつもの体臭に心が安らいだ。
いつもどおり優しく、加持君は私を快感へといざなう。
加持君を受け入れて、私は今ある幸せに酔いしれた。
「はあっ!・・・・・・・もう駄目。・・・・・・・イキそうっ・・・・・!」
「はあはあ・・・・・」
「加持君・・・・・もうイキそうだってばぁ・・・・・・・ああっ!」
「・・・・・・・・・・・」
「加持君?・・・・・・・・ああっ!・・・・・・もう駄目、やめてよ」
「・・・・・・・・・・」
その時、私は初めて加持君の様子がおかしいことに気づいた。
しかし、気づいたところで加持君を止めることは出来なかった。
「ああーーーーーーーー!いやーーーーーーーーーー!」
ビクン ・・・・・・・・・ビクン ビクン
体が硬直して背中が反り返る。腰が痙攣を繰り返す。
私は加持君の背中に必死にしがみつきながら、耐えた。
「・・・・・・・・・っ、ハアハアハアハア・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
やっと痙攣が治まってきて息が出来るようになる。
全身から汗が吹き出た。
乙です。加持さんテラカッコヨス(;´Д`)ハァハァ
私の体が落ち着いてきた頃、加持君は再び動き始めた。
「い、いやっ!やめて!まだ体がっ!・・・・・・はあっつ!!」
腰はすぐにヒクヒクと軽く痙攣し出す。
加持君の顔を見るけれど、加持君は下を向いたまま私と目を合わそうとしない。
ひたすら腰を動かし続ける。
「もう駄目っ!!!!!!!」
2度目の絶頂はすぐにやってきた。先ほどよりも、もっと激しい私の体の反応。
口の端から唾液を垂らし、目は半開き。
加持君にしがみついた爪は加持君の背中を削った。
加持君、私のこと許してなんていなかったんだ・・・。
絶望が私を包む。
加持君は私の体の反応が治まって来ると、ゆっくりと私の中から出た。
解放された・・・・・・。
絶望にいながらも安堵感が漂う。
私はもう入れられないように、手で自分をガードし、横向きに体を丸めた。
「ハアハアハアハア・・・・」
「ハアハア・・・」
二人とも息が上がっていた。暫く何も動かず、呼吸に専念した。
加持君は座ったまま、体を横向きに固めた私を見下ろしていた。
まるで私を支配しているかのように・・・。
二人の呼吸が整ってきたところで、加持君が再び私の腰に手を伸ばす。
「もう、やめてっ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・駄目だ」
私は加持君が入れられないようにきつく足を閉じ、手でガードした。
しかし、それも微々たる抵抗だった。
加持君は私のとっている体制をそのままに、体を簡単に転がしてうつ伏せにさせ、後ろから入れる。
「ああっ!・・・・・・ハアハアハア・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
私の腰はまた意思とは関係なく動き出す。
そのままの体制で3回、4回、5回・・・。
いとも簡単に私の体は絶頂を迎えた。
もう快感などなかった。
加持君によって与えられる物理的刺激に、私の肉の壁がヒクヒクと反応するだけだった。
5回目の絶頂を迎えると、私の上半身はグッタリとしていて、荒い呼吸を繰り返すだけとなった。
下半身だけが別の生き物のようにビクンビクンと波打っている。
酸欠なのか、過呼吸なのか、頭がぼうっとして意識も曖昧だ。
目を開けているのも辛い。私は目を閉じて耐えた。
加持君も体力を大分消耗している様だ。再び私の体から退き出る。
「もう、許して・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
懇願する私をあまりに弱弱しく思ったのか、
それとも体力の限界が来たのか分からないが、加持君は後始末をし始めた。
きっと、これで終わりだ。やっと解放される。
私は精神的と肉多的な疲れもあり、すぐにウトウトとし始めた。
加持君はそんな私を見て、一言。
「もう、葛城じゃイカないよ・・・・・・」
と、つぶやいた。
一気に目が覚める。
悔しいのと、悲しいのとで涙が一気に溢れ出した。
「うっく・・・・・・ひっく・・・・・グス」
「・・・・・・・・・・おやすみ」
泣いている私をそのままに、加持君は私に背を向けて布団の端に横になった。
これが、加持君の怒り・・・・・・・。
冷酷で冷淡な加持君の怒りは私の心を突き刺し、引き裂く。
そして、これはきっと、嘘をつきすぎた私への罰。
真実を伝えても決して信じてもらえない。そこまで私の信用は落ちてしまっているんだ。
私は加持君の傍へ体を引きずりながら寄っていった。
また組み敷かれるかもしれない。今度は殴られるかもしれない。
そんな恐怖もあったけれど、それでも私は加持君に触れたかった。
加持君の背中を抱く。
加持君は制止したままだった。ピクリとも動かない。
起きているのか。寝ているのかさえも分からない。呼吸だけが感じられた。
「ごめん、加持君。でも、本当よ・・・・・・・本当なの」
返事は返ってこなかった。
私は加持君の背を抱いたまま眠りに落ちた。
次の朝、目覚めると、加持君の姿はなかった。
今日から冬休みなのに・・・・・バイトとかも聞いてない。どこ行ったのかしら?
ガランとした部屋に裸のまま一人立ち尽くす。
朝ごはんの用意もされていないし、食べた痕跡もない。いつも食べているのに・・・。
まだ怒っているのかしら?・・・・・・多分そうよね。
でも、ココが加持君の部屋だって事が救いだわ。加持君は必ずココへ帰ってくるもの。
そう考えると少し気が軽くなった。
とりあえず服を着てテレビをつける。
今日も暑くなるらしい。洗濯でもするか・・・。一人で気ままに家事をするのも悪く無いわね。
私はトーストとコーヒーという簡単な朝ごはんを食べ、ノンビリと家事にとりかかった。
「はあ・・・・・・・・まだ帰ってこない・・・」
家事を終え、テレビを見ながらボーッと過ごす。あくびが出た。
時計はすでに1時を指していた。
一体何しているの?連絡もよこさないで。
お腹がグーグーと鳴り出す。
一人分で料理するのも面倒だしなあ・・・・・・。久しぶりにコンビニ弁当でも食べるか・・・。
そういえば、昨日の日向君と青葉君はバイトしてるかしら?そこ、行ってみようかな。
私は思い立ったらすぐに起き上がった。
部屋の戸締りをして、財布を持ち、昨日のコンビニ目指して自転車を発進させた。
コンビニに着いて入ろうとしたところで日向君に遭遇した。
「あれ?葛城さんじゃないですかぁ!こんな早くに再会するとは思ってもみませんでした。
お買い物ですか?」
「ええ、昼食を買いに・・・。昨日はありがとう」
日向君は私を見た途端に嬉しそうに話しかてきた。
私も笑顔で答える。
「そうですか、僕は今、丁度バイトが終わったんです。お昼は彼氏と一緒じゃないんですか?」
「ええ、今日は一人で食べます」
「じゃあ!・・・・・・・・僕と食べませんか?・・・・・・いやぁ、あの、いやなら」
「ええ、ぜひお願いします」
「本当に!?やった!」
私が承諾すると日向君は飛び跳ねて喜んだ。
私はお昼ごはんを購入すると、日向君と行動を共にした。
「向かいの公園は・・・・・・・やっぱ嫌ですよねぇ?昨日のこともあるし」
「いえ、大丈夫よ。もう立ち直ってるから」
「そうですか、お強いですね。じゃあ、その公園で・・・・・・」
「ええ」
日向君と共に公園のベンチに腰掛けてご飯を食べる。
日向君は男性なのに不思議と会話が弾んだ。
「そうですか、東大のねえ・・・・・・・。実は僕もなんですよ」
「へー、そうなの。一年生?」
「はい。あ、でも・・・・・・ぼく飛び級なのでまだ17歳ですけど」
「へえ、すごいじゃない」
「はは、得意分野を極めたらそうなったって感じですか・・・。あ、青葉君もそうです。学科がちがうけど」
「あの、長髪君も?ああ見えて頭いいのねえ・・・」
「ははは、それは葛城さんも同じでしょう?イケイケに見えて東大生・・・」
「そう?そんなに派手じゃないと思うけど」
「オーラですかね?人をひきつける力があるんですよ、きっと」
「ははは、そうだと良いけどねえ・・・・」
「彼氏は幸せ者だなあ。こんな素敵な彼女がいて」
「・・・・・そうでも無いわよ。喧嘩中だし」
「喧嘩?!・・・・・・・もしかして昨日のことですか?」
「ええ、そうよぉ」
本当は辛くて思い出したくないことなのに、強がってなんとも無い風に話してしまう。
「ひどいなあ。葛城さんは被害者なのに」
「これ見てよ。・・・・・・・・・物的証拠」
「うわ!あいつ、そんなところにキスマークなんてつけてやがったのか!?」
「そうなのよ〜〜!それでさあ、彼には信じてもらえなくって・・・・・」
「でも、それでも僕は恋人の言うことを信じますよ。・・・・・信じたいし」
「普段からつまらない嘘をつきすぎてたのね。だから、肝心なところで信じてもらえない。自業自得よ」
「そうかな?・・・・・・・でも、僕は信じますよ、葛城さんの言うことなら何でも」
「そう、・・・それはありがとう」
日向君はまっすぐな視線を私に向けた。
彼はまだ純粋だわ。男女間の嫉妬や猜疑心やそんな経験がまだ未熟なのね・・・。
これからどんどん男と女の経験を積んでいくことになるのか・・・忠告は、・・・しないほうが親切か。
「ありがとう。楽しいお昼だったわ。もっとお話したいけど、ちょっち、用があってね・・・」
私はこれ以上、自分の心に日向君が踏み入ってくることを裂ける為、別れることにした。
日向君が意図的に入り込もうとしているのではない。
彼と話していると、自然にその純粋さや無謀さに自分の心が影響を受けすぎてしまうと感じたからだ。
そうなると、今の自我が攻撃されてしまう。それは裂けたかった。
「そうですか、僕も楽しかったです。もしもまた会うことがあったら、よろしくお願いします」
従順な青年は私を引き止めることをせず、私との別れをすんなりと受け入れた。
日向君は多分、私に好意を持っている。しかし、別れを惜しむ素振りは見せ無い。
「ええ、こちらこそよろしく」
私はそんな日向君の態度が不思議だったが、自分のことで精一杯だったので、深く考えないことにした。
そして、お互いに笑顔で手を振り別れた。
部屋に帰るが、まだ加持君は帰って来ていなかった。
はあ・・・・・・・・・・・どこ行ったのよ、もう。
ソファに座り、テレビをつける。
ワイドショーを流しながら、雑誌を昨日買ってきた事を思い出し、手に取った。
袋とじの部分・・・・・・・・・。はあ、もう読む気が失せてるわ。
体よりも前に気持ちがもう通じて無いんだもの。その問題が先だわ。
「葛城じゃイカないよ。か・・・・・・・・・」
ショックだったなあ、あの言葉。
・・・・・・・やっぱり、読もう。
私は、思いなおして袋とじを開けた。
おおっ!こんなイラスト良いわけぇ?!
中には手や、口や、胸を使った喜ばせ方がイラスト込みで具体的に書いてあった。
「今の若い子って、進んでるのねえ・・・」
おばさんみたいな感想が口をついた。
ガチャリ
呼んでいる途中で、玄関が開く音がした。
私は急いで雑誌を閉じ、他の雑誌に紛れ込ませた。
「おかえりー、どこいってたのー?」
「・・・・・・・ただいま」
勤めて明るく話しかけるが、加持君は固い表情のまま小さな声で答えた。
う・・・・・・・そんな態度でいられたら、何も話せないじゃないのよ。
話題を探して目が泳ぐ。しばしの沈黙。
先に口を開いたのは加持君だった。
「葛城・・・・・・・・・・」
「なあに?」
「もう、終わりにしよう。俺たち・・・」
「えっ?!」
私は驚き、加持君の顔をじっと見た。加持君は目をあわそうとはしなかった。
マコっちゃんGJヽ(`∀´*)ノ
乙です。
よよよっ(゜д゜)
とうとう別れか…
加持さんはミサトを信じられないの(TOT)
二人が別れるなんてヤダ〜(ノ−”−)ノ〜┻━┻
かなしい……(。・_・。)
でも続きキボン
乙です
過ちに気づいて包んでくれる加持きぼん。
乙です(´;ω;`)ブワッ
「どうし・・・て?」
私は加持君の両肩を掴み、目を見つめた。
私の全身が交感神経の働きで総毛だっている。心拍数が上がり、胸が苦しい。
「すまない・・・・・」
加持君は未だに私と目を合わそうとはせず、うつむいていた。
「もう、あんな嘘つかないから!合コンなんて頼まれてもいかないから!」
「・・・・・・そうじゃないんだ」
「じゃあなに?・・・・はっ!浮気してると思ってるのね?このキスマークのせいなのね?」
「違うよ。・・・・それは葛城の言葉を信じている」
「じゃあなによ?・・・・・・・イカないから?私ではもうイカないからなの?!」
「違う。・・・・・昨日はごめん。気が立っていて、わざと葛城を傷つける言葉を言いたかったんだ。
でも、それが原因じゃない・・・」
「じゃあ、なんなのよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
必死に話しかける私とは対照的に、加持君は口を閉ざしている。
納得がいかないわ。私が考えられる原因は全て出尽くした。
一体何が、加持君に別れを切り出させたのか?
どうせ別れるとしても、それだけは知りたい!
私は何度も問いただしたが、加持君は何も言わない。
私はじっと口をつぐむ加持君にだんだんと痺れを切らし始めていた。自然と苛立ってくる。
「・・・・・・・目ぇ、合わせなさいよ。男らしく、目を合わせて・・・ちゃんと原因話しなさいよ!」
数分後、私は加持君を攻め立てていた。
逃げる加持君をそのまま逃がすのはあまりにも口惜しかったから・・・。
掴んだ肩をゆする。必死で目を合わせようとする。
でも、目が合わない。加持君は私の目を見てくれない・・・・・・。
苛立ちが悲しみへと変わる。
「ううっ・・・・何考えてるのよぉ・・・・・ばかぁ・・・・・グスッ・・・・ちゃんと目を見て話しなさいよぉ・・・・・」
私は加持君にすがりつきながら泣き始めていた。
斜陽が私たちを照らしていた。
「すまない・・・・。葛城。」
「謝られても嬉しく無いわ・・・・・。ちゃんと理由を話して」
「ふう・・・・・・・言わなきゃ駄目か?」
「駄目よ・・・・。このままじゃ納得できないものぅ。グスッ」
「そうか・・・・・・」
私の幾度と無い呼びかけが功を奏して、加持君はやっと口を開く。
立ったまま、加持君にしがみついたまま、私は加持君の話しを聞いた。
「・・・・・・・・昨日、・・・・・・葛城の首の印を見つけたとき、俺の中で一瞬にして怒りが沸き起こった。
そりゃあ、真っ先に浮気を疑ったさ。・・・・・・合コンだったと聞いたとき尚更ね。
でも、葛城の証言を・・・男に襲われて付けられた。ということを信じることにした。
葛城は被害者だ。かわいそうに、怖かったろう・・・・。そう思うことにしたんだ。
でも、いざ葛城を抱くとさ、・・・・・やっぱり、抑えきれずに自分の中に感情がわきあがってきた。
それは、なんともいえないどす黒い感情でね。
嫉妬や、猜疑心や、怒りや・・・・・。そんなのが混ざり合ったようなものさ。
そして、その大部分は独占欲だった。
葛城を誰にも渡したくない。誰も葛城に触れさせたくない。ってね・・・・・・。
葛城にキスをしながら、・・・・・この唇をさっき誰かに奪われたのか・・・。と考えると、このうえなく腹ただしくなった。
そして、今までになく、葛城の体を求めた。・・・・・・・あの時は辛かっただろう?ごめんな」
「ううん。・・・・・大丈夫よ」
その時、やっと加持君はこちらを向き、目があった。
悲しく、苦悩に満ちた瞳・・・・・・・。
私なんかよりも、もっともっと加持君は傷つき、苦しんでいるみたいだった。
加持君は話し続ける。
「そして終わったとき、グッタリとしている葛城を見ても、それでも怒りが治まらなくて、あんな言葉を吐いた。
葛城が泣いても、良い気味だ。・・・とさえ思った。
たとえ不可抗力でも、他の男に体の一部を許したんだからな。傷ついても当然さ。ってね・・・。
しかし一晩明けて、昨夜自分がしたことを振り返ると、恐ろしくなった。
すさまじい独占欲に支配されていた自分。こんなどす黒い感情を自分の中に感じたのは初めてだ。
そして、何よりも葛城を傷つけた・・・。
だから、もう・・・・・・終わりにしよう。これ以上は・・・葛城を傷つけるだけだ」
「そう・・・・・・よく分かったわ」
「すまない・・・・・・・」
私たちは見つめ合ったまま暫く動けずにいた。
別れたくない・・・。でも、そんな理由を聞いたら、別れざるを得ないじゃない。
だって、私にはどうすることも出来ないことだもの。加持君自身の心の問題なんだもの・・・。
「荷物・・・まとめるわね」
私は自分から行動を起こした。
自分から踏ん切りをつけなければならないと思ったから。
「手伝うよ」
「いいわよ。優しくしないで・・・」
「そうか・・・」
「全く、勝手な言い分よね、自分の醜いところが見えちゃったから別れるなんて・・・」
私は荷物をまとめながら、最後とばかりに文句を沢山言ってやった。
「俺の嫌な部分も好きになってくれ。なーんて言っておいてさ、
自分自身で嫌な部分に気が付いたら別れを切り出すなんて・・・本当、勝手よ。
感情をぶち当てるセックスはしないほうが良い。なーんて言っておいてさ、自分がぶち当ててるんじゃない!」
私の文句は加持君の耳にしっかりと入っているはずだけど、加持君は無言だった。
私と言い争いをする時間も、もったいないってわけ?
なんだか、早く出て行け。というメッセージにも取れる。
なによ!人の気も知らないで・・・。
そうなると私の文句は自然ととヒートアップしていく。
「昨日は散々私の体をもてあそんでくれて、どうもありがとう。おかげで腰痛よ・・・。
そのくせイケないだなんて加持君、病気なんじゃない?EDってやつ。診察してもらったらぁ?
私は別れるから良いけど、次の彼女に悪いじゃない?加持君がイクまで付き合ってたら腰痛めるわよ」
「ああ、そうだな・・・。病院行っておくよ」
なによ!上手に嫌味をかわしたつもり?可愛くないわ〜〜〜!
もっと、言ってやりたかったけれど、荷物がまとめ終わってしまった。
冬休みに入る前に、とっくに教科書は自分の部屋へ運んでしまっていたので、
衣類と日用品だけでバック2つ分にしかならなかった。
嫌よ・・・・・別れたくない。
泣いてすがり付こうか?怒ってへそを曲げようか?
どうすれば、別れなくて済む?
私は思案した。ある一つの方法が浮かぶ。
これしかないか・・・・・・・・・・。
「私ね、昨日助けてもらった青年二人のうち、一人ととても仲良くなったの・・・」
ごめんね、日向君。あなたのこと、使わせてもらうわよ。
「飛び級で東大に入学したエリートで、とても素直で可愛い男性だったわ。
その人に私、アプローチを受けているの・・・」
私は加持君の独占欲に賭けてみることにしたのだ。
私を誰にも渡したくない。その思いが今も加持君にあるのならば・・・。
でも、加持君は普段は理性で感情を抑えられる人だ。理性が勝つかもしれない・・・。
ええい、どっちにしろ、別れる可能性のほうが高いんだ!
どうせなら、加持君の心を少し抉り取ってやろうじゃない!
「多分・・・私、ここを出たらそのままの足でその人の所へ行くわ。
そして、彼の告白を受けるつもり。そのまま、私は彼と付き合うことになると思う・・・」
嘘だと見抜かれたって構わないわ。どうせ別れるんだから・・・。
私はテーブルの上にここの部屋の合鍵を置いた。
引き止めないの?
私はもうここには未練は無い。といった様子でさっさと玄関へと向かう。
引き止めてくれないの?
加持君は黙ったまま、私の後をついてきた。
靴を履く。
引き止めてよ。
かばんを一つは肩に掛け、もう一つは左手に持つ。
引き止めてよ、加持君・・・。
玄関の鍵を解き、扉を開ける。
引き止めてよ!・・・・・加持君。
玄関を一歩出て、振り向く。
「じゃあね、さようなら」
「ああ・・・元気で・・・」
「そちらこそ・・・元気でね」
「ああ・・・・じゃあ、さようなら」
「さようなら・・・」
お互いに微笑む。
バタン
玄関の扉が閉まった。内側で鍵を掛ける音がする。
賭けは私の負け・・・ね。
加持君を引きとめようと必死だった自分の行動を思い起こすと、滑稽で笑いがこみ上げてきた。
「うふ・・・・・・・うふふふ・・・・・・・グスッ・・・・・」
同時に涙もこみ上げてくる。
二度と自分では開けることの出来ない扉の前で、私は泣いた。
しかし、ずっとこのまま未練たらしくココに立ち尽くすわけにも行かない。
私はすぐに涙を拭き、自転車置き場へと向かう。
出来るだけゆっくりと歩く・・・・・・。
加持君がもう一度、あの扉から出て来ないかと期待しながら。
階段も一歩一歩踏みしめながら降りる・・・。
もう、加持君の部屋の扉は見えない。
あーあ、やっぱり駄目かあ・・・。バカね私、今のこの行動も滑稽だわ。
後ろ髪を引かれる思いってこういうことを言うのね。勉強になったわ。
外はもう日が暮れて宵闇となっていた。
自分の自転車にたどり着く。
っと・・・・・・・・・。あれ?あれ?
鍵が無い!?どういうこと?
自転車の鍵がかばんのいつもの場所から見当たらない。
他の場所も探すが、思い当たるところは全て見当たらなかった。
もしかして、加持君の部屋に置いてきちゃった〜〜?!
暫く途方にくれる。
うーん、・・・・・・・・戻るか?
降りてきた階段の方を向く。
・・・・・・・・・止めておこう。あまりにも滑稽だわ。
歩いて帰るかぁ。・・・・・・・荷物がちょっと重いけど・・・・。
ううっ、ダイエットダイエット・・・。ってか、筋トレだわ。こりゃあ・・・・。
私は自転車を置いて歩くことを決心した。
家路へと足を踏み出したその時、
「おーい!葛城!」
加持君の声が背後から聞こえる。
加持君!?引きとめに来てくれたの?
嬉しくて振り返るが、世の中そんなに上手くはいかない。
「鍵〜〜」
「・・・・・あ、ありがとう」
加持君は私の忘れて言った自転車の鍵を届けにココまで走って来てくれたのだった。
そうよね、そんなもんよね、世の中って・・・。
私は全く期待せず、自転車の鍵を受け取るために右手を差し出した。
加持君が手のひらに鍵を置く。
しかし、一目見て、ソレが自転車の鍵ではないことが分かった。
「加持君、これって・・・?!」
私の質問は加持君の抱擁で遮られた。
きつくきつく私を抱きしめる。
「葛城、俺が悪かった・・・・・・・・。勝手なお願いだが、戻ってきてくれっ・・・・・・・」
内側から搾り出すような涙声。
こりゃあ相当、精神的に参ってるわね・・・。
「勝手ね・・・・・・・本当にあなたって勝手よ・・・」
私は部屋の合鍵を握り締め、加持君を抱きしめ返した。
私は迷ったあげく、加持君には私の精神的フォローが必要だと判断したので、帰ることにした。
なんてね・・・迷ってなんていない。すぐに決断したわ。
精神的フォローが必要なのはお互い様。私もこの二日間で相当、精神的にきてるもの。
「かばん、持ってよね。結構重いんだから」
「ああ、勿論さ・・・」
私は加持君にかばんを持たせ、すこし間抜けだが、部屋へとトンボ返りした。
鍵を開け、先に荷物を持って加持君が入る。
私は加持君の部屋に一歩入り、懐かしいのと、嬉しいのとで、この気持ちをなんと表現しようか正直困った。
全てを総括すると、我が家に帰って来た・・・。そんな気がして、
私は玄関で暫く立ち尽くした後にこう言った。
「・・・・・た、ただいま」
加持君は私を迎え入れ、こう言った。
「お帰りなさい」
このまま別れてしまうかとハラハラしました><
よかったーーーー(TOT)
なんじゃそりゃ…
よかったwwwwwwwwwwwwまだ続くwwwwww神がんがれwwwwwww
(´;∀;`)ホントヨカッター
あ、安心したぁ……(`;ω´;)今後も期待!
顔文字ずれてるしorz
加持さんも以前キス事件があったんだから、
気持ちはわかるけどそこまで怒らなくても…(^^;;
>>1 に
>>900からが別れの話って書いてあるのに、400前後で別れるわけなかろう・・・。
それから私たちは一緒にご飯を作って食べ、別々でお風呂に入り、テレビを見てから布団を敷いた。
いつもとなんら変わりの無い生活。昨日からのゴタゴタが嘘のようだった。
しかし、冬休みのせいもあって、勉強のストレスから解放され、夜遅くまで起きれいられる・・・。
布団に横になると、すぐに加持君がこちらに寄ってきた。
「腰・・・痛い?」
「ええ、腰って言うか、下半身のどこもかしこもズキズキ、ヒリヒリ、ズッシリと痛いわね」
「やっぱ・・・昨日の俺のせい?」
「それ以外のどこに原因があるのよ?」
「・・・・・・・・ごめん」
「・・・加持君は大丈夫なの?腰」
「絶好調です・・・」
「信じられない・・・、あんなに動いたのに・・・」
「攻めるほうは、自分のペースで出来るからな・・・」
加持君は明らかに私を誘っている。
でも、多分無理だわ、この腰じゃあ・・・。
はっ!そうだ、あの雑誌!
私は昨日買った雑誌の内容を思い出していた。
ほんの少し見ただけだし、うろ覚えだけど、何とかなるか・・・。
加持君に喜んでもらいたいし・・・なにより自分が加持君をイカせる事で満足したい。
本音は自己満足したいだけなのかもしれない。
でも、このまま受身のセックスじゃあ、どっちにしろ良く無いわ・・・。
私は思い立つやいなや、加持君の上に乗ってキスをした。
キスをしたまま、加持君の来ているTシャツを捲り上げる。
すると加持君は察してくれ、流れそのままに、Tシャツを自分で脱いでくれた。
私は間髪を要れずに加持君の短パンを脱がしにかかった。
「どうしたの?やけに積極的だな」
「・・・・・・・」
問いかけには恥ずかしくて答えられない。短パンを黙々と脱がす。
加持君は途中で私の手を遮り、短パンとトランクスに手をかけて一気に脱いだ。
一糸まとわぬ加持君の裸体。
それとは対照的にボタンをきっちりとはめてパジャマを着ている私。
いつもとは違ったシチュエーションに加持君の体はもう興奮していた。
(;´Д`)Д`)Д`)Д`)つ、続き早く読みたいッス…
私は無言で加持君を掴む。
う・・・硬い・・。こんなに硬かったっけ?
これが体の一部なのかと疑うほどの硬さ。骨も無いのに・・・、人の体って不思議。
私はそんな状態の加持君を見て、興奮するというよりも、
イカせなければ。という義務感が先に立っていた。
手に力が篭る。
えっと、確か、雑誌では・・・。
私は加持君の硬く暖かいソレを口にくわえた。
「葛城・・・どこで覚えたの?そんなこと。・・・・・・まさか、昨日の浮気相手?」
「ぶはっ!」
思いもしない言葉がかけられた。
私は驚いてむせ返り、口を放した。
「ん、なに言ってんのよう!まだ疑ってたの?」
「いや、いきなりそんなことし出すからさ。誰に教えてもらったんだろうって・・・」
「そんなに疑うなら、あのコンビニの店員、日向君と青葉君に聞きなさいよ!証人なんだから・・・」
「でも、その二人が・・・相手ってこともあるだろう?」
「はあ・・・・・。じゃあ、コトコの証言も当てにしたら?コトコたちと別れた時刻と、
日向&青葉のバイトのシフト表でも照らし合わせたらどうなのよ?!」
「そうだな。そこまで言うならやはり、シロか・・・」
「全く、疑り深いのね・・・。イヤンなっちゃう・・・」
私は再び加持君を口に含んだ。
「なあ・・・」
すると、すぐにまた声を掛けられる。私はまた口を放すことを余儀なくされた。
「何?・・・・全然、出来ないんですけど、やりたいことが」
「ごめん。・・・じゃあさ、なんでこんなことするんだい?どこで覚えたの?こんなこと・・・」
「なんでって?やりたいから・・・よ」
「やりたいから?」
「そうよ。・・・・こういうこと、やりたくなっちゃったの」
「誰かに発破でも掛けられた?・・・まだしてないの? みたいに。そうじゃなきゃ不自然だ、いきなりこんなこと・・・」
「違うわよ。・・・本当に自分からよ。自然にそう思ったの。まあ、きっかけは雑誌なんだけどね」
「雑誌?」
「そうよ、女性も積極的になったほうが良いって書いてあったわ」
「そんな雑誌があるんだ」
「普通のファッション誌の数ページだけよ。特集みたいに・・・」
「なるほどねえ・・・」
そんな会話をやり取りしていくうちに、加持君はだんだんと硬さを失ってしまった。
私は不安と焦りで早く加持君を刺激したくなった。
とりあえず、まだ硬いうちにと思い、持っているその手を上下させてみる。
「いてっ!」
「あ・・・」
加持君の叫びに驚いて手を放す。
「引っ張りすぎ」
「ごめん・・・」
すでに柔らかくなっているソレは足側に向かって頭を垂れた。
ああ、また今日も駄目なんだ・・・。
絶望感が私を包む。
もう、葛城じゃイカないよ・・・
昨日の加持君の言葉が頭の中を巡った。
怒っていたからわざと私に投げかけた言葉。
でも、それが本音のように今の私には感じられる。
彼氏をイカせられない私。
これから先もずっと・・・?そうかもしれない。
半ば、妄想じみた心の声は、まるで私が女として失格であるかのように責めたてる。
すっかり自信喪失した私は、加持君を刺激するのを止め、膝を抱えて座った。
こらえているのに涙が頬を伝う。それをパジャマの腕の部分でぬぐった。
「どうしたの?」
「ううっ・・・・」
加持君をイカせられないから。なんて言えるわけが無い。
「なんでもない・・・」
「なんでもないわけ無いだろう?泣いてるのに」
「なんでもないってば・・・」
「でも・・・」
言えるわけ無いのよ、そんなこと。わかってよ・・・。
理由を言わずにただ、泣き続ける私に加持君は困惑しているようだった。
加持君は起き上がり、私の傍に寄り添い、肩や頭を無言で暫くさすしながら言った。
「また、何も言わないんだな・・・。信用されて無いんだ」
「そんなこと・・・無いわよ。グスッ」
「じゃあ、言ってくれないか?」
「・・・きっと笑うわよ?」
そして、きっと飽きれるだろう。
「え、そうなの?・・・いいよ話して。笑う準備しとくから」
「別に無理に笑わなくてもいいわよ」
「じゃあ、真剣な顔しとく」
加持君の柔軟な、何を言われても平気だ。という態度で迫られると、
私は何を話しても受け止めてもらえる様な安心感を覚えた。
どうせ、一度壊れかけた仲だ。構わないか・・・。
そんな考えも後押しして、私は一転、告白することにした。
感情の高ぶりもあって、一気に話す。
「加持君のことをイカせたくて・・・それで、恥ずかしいのにがんばってみたのに・・・・グスッ
なのに、浮気とか、どこで知ったとか、話そらしてさ・・・・グス。
だから、恥ずかしくてもがんばったのにぃ〜・・・。しぼんじゃったよぉー!」
我ながら恥ずかしい限りの告白だ。悲しいのに、深刻な問題なのに、その様子はまるで駄々をこねている子供。
私は告白をしてからすぐに顔を膝に押し当てた。加持君の反応が怖い・・・。
しかし、意外にも加持君は笑わず、真剣だった。
「そうだったのか・・・。がんばってくれたんだ・・・」
「・・・・・・・・・」
駄目、やっぱりバカみたいな理由で泣いてるわ、私って。
恥ずかしくて顔が上げられない。
固まったままの私の左手首を加持君が掴んだ。
そのまま、私の手は加持君に導かれて・・・。
「・・・・・・葛城、分かる?」
「・・・・・・・。・・・・・・・なんで、戻ってるの?」
「葛城のことを可愛くて、愛しいと思ったからさ」
「・・・・こんなすぐに戻るものなの?」
「ああ、まだ若いから。なーんてな、言ってるこっちのほうが恥ずかしいよ」
「そう・・・」
私は嬉しくて思わず口元が笑ってしまったが、顔を押し当てているおかげで加持君には見えない。
「もう、中断させないから、続きをしてくれないか?」
「・・・・・・・・・」
「駄目かい?」
「・・・・・・・イカせる自信が無い」
「そりゃまあ、最初だからな。でも言ったろ?二人で楽しくするのがセックスだ。って・・・。
セックスは決してイカせあうことじゃない」
「でも!・・・私は・・・イカせたいの・・・」
「そうか・・・、じゃあこうしないか?序盤は俺も少し手伝う。それで、イキそうになったら葛城に全てを任せる。どうだい?」
「ええ、いいわ・・・」
「言っておくが、それで確実にイクわけじゃない。イカなくても、落ち込むな」
「・・・・・・・分からないわ」
「なら、やめとく?」
「・・・・・・。・・・・やるわ」
「そうこなくっちゃ」
加持君はすぐさま横になり自分に手を添えて刺激しだした。私は加持君を咥えた。
「お願いだから、歯は立てないでくれよ。後は好きにしてもいい」
加持君の呼びかけに咥えたまま頷いて答える。
最初は恥ずかしかったが、次第にその感情は無くなり、
自ら舐めたり、吸ったり、咥えたり、いろんな方法で加持君を味わった。
次第に、加持君は熱を帯び、膨張していく。
口は少しきつめに吸いながら、上下させると良いようだ。そうすると腰が浮くように動く。
「はあはあ、バトンタッチだ・・・。そのまま続けて・・・」
加持君は手を離し、全ては私にゆだねられた。
加持君のリズムをそのままに手で刺激を与える。
引渡しは上手くいったようだ、萎える様子が無い。
そのまま、2〜3分経過したときだった。
「はあはあはあ・・・、ああっ!もう出るよっ・・・・」
加持君が小さく叫んだすぐ後に、私の口の中に生暖かい液体が放たれた。
ビクン ビクン ビクン・・・
何度と無く波打つ体。・・・次第に波は弱まっていく。
加持君の痙攣が治まった時、私はやっとその味が確認できた。
苦くて、生臭くて、気持ちの悪い味・・・。
私は加持君から口を離すと、少し頭を移動させ、おなかの上に出した。
「うおっ!何すんだよ。ティシュティッシュ・・・」
「きもちわるい・・・」
「おいしゅうございます、ご主人様。だろ?」
「は?何それ?」
「いや・・・なんでもない」
意味不明な加持君の言葉を深くは考えず、私はそのまま口を漱ぎに洗面所へと向かった。
何度も嗽をするが、それでもあの生臭さは暫く落ちなかった。
こんなに不味いんだ・・・。みんな良くやってるなあ・・・。
雑誌を鵜呑みにしている私は、皆がこんなことをしているとすでに錯覚していた。
不味い顔を隠さずに加持君の元へと戻る。
加持君はすでに後始末をして、横になっていた。
私も隣に横になり、加持君の腕枕に頭を乗せる。
「気持ちよかったよ、葛城。ありがとう」
「そう、よかったわ」
「自信回復した?」
「うん・・・。ありがとう」
「それはよかった」
「うん・・・」
見つめあい、キスをする。
「本当、昨日・今日といろいろあったな」
「そうね・・・」
「お疲れさん」
「ふふ、お疲れ様」
「さて、寝るか・・・」
「ええ、おやすみなさい」
「このまま、抱きしめてて良い?」
「うん・・・。抱きしめてて」
「ま、眠ったらすぐに、この腕から抜け出で俺にパンチを食らわすんだけどな・・・」
「嫌なら離れて寝るわよ」
「いや、・・・このままこのまま・・・な?」
「うん・・・」
加持君は私をきつく抱きしめ、私も加持君の方へ身を寄せた。
心地の良い倦怠感と満足感で、そのまま二人で溶け合っていくんじゃないかと思うほどだった。
そのまま私はトロトロと眠りに溶けていった。
乙です。
一転して平和なふいんきになりましたなあ…
クリスマス、お正月と加持君と共に過ごした。
恋人と年を越すことになるなんて、入学時には想像も付かなかったことだけど、
でも、実際私は加持君といつも一緒にいる。
幸せすぎて怖い。
この言葉の意味が初めて実感として感じられた。
そんなこんなで二人でまったり、ノンビリと過ごした冬休みは終わり・・・。
今日からまた大学へ通う日々が始まった。
コトコと会うのはあの合コン依頼、そういえば彼氏できたのかしら・・・?
疑問を頭に浮かべながら教室へ入る。
コトコはいつもの席にいた。
「おはよう、コトコ。久しぶり」
「おはよう!久しぶりね〜、元気だった?」
「うん」
コトコは相変わらず元気な笑顔を私に向けた。
あの日のことは黙っていよう、コトコに罪は無いのだから。
私はそう心に決めていた。
「あれ・・・?ミサト」
「うん?」
「こう言っちゃ、失礼なんだけど・・・なんか、顔丸くない?」
「へ?!」
思いがけない一言が私の耳に届く。
「うそ?!私、太った?」
「・・・・・なんとなくよ、なんとなく・・・」
そういえば、冬休み中はほとんど外に出ることもなく、
クリスマス、お正月とご馳走三昧だった・・・。
そう思い返すと太る要素は沢山あった。
ケーキ、シャンパン、ターキー、ワイン、ピザ、カクテル、おもち、日本酒、おせち、ビール・・・。
どれを食べたから太ったの?!・・・・って、全部か。
そういえばなんとなく、服もきついような・・・。足腰も重いような・・・。
やっぱり太ったの私?!そういえば半年くらい体重計に乗ってない。
一体今何キロよ?ああああああ、早く家に帰って計りたいいい!
「ミサトー、・・・ミサトってば!」
「はっ!」
コトコは何度か私に話しかけてくれたみたいだったが、私は全く気づかずに思考の渦にはまっていた。
肩をゆすられて我に返る。
「ああ、ごめんごめん、なにー?」
「彼氏、できたの、私!」
「わお!おめでとー!あの合コンの?」
「うん。あの後、二次会で良い雰囲気になってね、携帯聞いてぇ〜、電話してぇ〜、デートしてぇ〜・・・」
「やったじゃない!」
これで、コトコに気兼ねなく加持君とのことを話せるってもんだわ。
「でね、あの時ミサトに持って行ってもらった、長谷川君がね」
「うん・・・」
一気にテンションが下がる。長谷川・・・思い出したくない。
そういえばコトコの彼の友人になってしまうのか、あいつは。
「また、ミサトに会いたいって言ってるらしいんだけど・・・」
「は?何考えてるのよあいつ?!」
「さあ・・・?」
本当に何を考えているんだ?あいつといい、・・・それを平気で伝えてくる、コトコといい。
私はさっきの発言も合わせてコトコに対して少し不機嫌になった。
「私はもう会う気は一切無いと伝えておいてもらえる?」
「うん、分かった」
「あと、もう合コンは参加しないから。まあ、コトコももう彼氏が出来たから関係ないか」
「オッケー。・・・・もしかして、迷惑だった?」
「・・・ちょっち。ね・・・」
怒りながらも、きっぱりとはコトコに伝えることが出来ない。
そこに臆病な自分が見え隠れするのを感じて、自分がまた少し嫌いになった。
お昼休み、いつものようにコトコと学食へいき、
いつもの様にリツコを探す。
ま、探すまでもなくあの目立つ金髪は見つかるんだけどね・・・。
「あ、いたいた!リツコー・・・って」
「お久しぶり、お二人とも」
「よお!久しぶり、コトコちゃん」
リツコを見つけて声を掛けるが、今日はいつもと違って、
リツコと向かい合うようにあの男が座っていた。
「なーんであんたがここにいるのよ?!」
「お昼をとりにココにきたらリッちゃんがいたんでね、口説いていたのさ」
「まあ、そんなこと言って、後が怖いわよ、加持君」
「どうでもいいけど、あっち行ってなさいよ」
「まあ、妬いてるの??ミサト」
「だーれが、妬くもんですかっ!こんな奴のために・・・」
「相変わらずね、あんたたち・・・」
うだうだと文句を良いながら私は席に付いた。
加持君に会えるのは嬉しいんだけど、コトコやリツコと一緒に会うと自分のリズムが崩されてしまう。
なので、できるだけ学内では会いたくないというのが本音だ。
「あら?ミサトあなた・・・少し太った?」
冷静沈着なリツコの言葉が的を得る。
「やっぱりリツコもそう思う?!」
コトコが便乗する。
「そうかあ?毎日一緒だったから気づかなかったけどな」
「ひゅー、あつーい」
「だー!そういうこと言わないでよ!ばか」
「何か俺、変なこと言った?」
駄目だ、またこのパターン。
そして、反論するのにまた墓穴を掘ってしまうパターン。
私はだんまりを決め込んだ。
今朝、義理の祖母が亡くなりまして、これからお通夜に告別式と、バタバタいたします。
なので、この続きは週末以降となる予定です。
皆様、すいませんがしばしお待ちください。
乙です
心からご冥福をお祈り申し上げます。またがんばってください。
ご冥福をお祈りします。
私はいつも更新されてるかなってチェックしてるので、
理由がわからず何日も更新が止まってると心配ですが、
事情が事情なので…。
大変ですが頑張ってください!
ほんっとに毎日楽しみにしてるので落ち着いたら戻ってくる日を楽しみにしてます。
481 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/06(月) 23:39:25 ID:rgynL35s
乙であります。
そして、ご冥福をお祈りいたします。
落ち着きましたらまた投下がんがって下さい。
483 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/09(木) 05:01:23 ID:JjhEDo+N
age
484 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/10(金) 08:36:39 ID:M8VlNUfh
age
心からご冥福をお祈り申し上げます。
無理はなさらないで下さい。
辛いかもしれませんが、挫けないで下さい
ただ今帰りました。
夫が会社を休めたのは嬉しいですが、子連れで 新潟(直江津)ー京都間 電車移動は辛かったです。
途中、風で電車が止まっちゃって、7時間かかったよ・・・。
まあ、祖母を送り出せて良かったですが・・・疲れた〜〜〜!
ってわけで、続きます。
しかし、黙っている私をコトコは怒っていると勘違いしたらしい。すかさずフォローが入る。
「まあ、ミサトは細すぎなんだから少しくらい太ったって・・・。ねえ?」
「そうかしら?細いかしら?」
「リツコッ!」
「見たところ標準ってところね。健康的で良いじゃない」
「そっ、そうそう、健康的って感じで良いじゃない。ねえ?加持君」
「そうそう、健康的で良いじゃない。なあ?葛城」
「・・・・・・そうね」
リツコはともかく、加持君とコトコは明らかに気を使っているのが分かる。
それに気づいて私は気分が悪くなった。
でも、ここで雰囲気を壊すのは良くないか・・・。
本当は今すぐにでも体重計に乗ってどれだけ増えているか確かめたい!
そんな焦る気持ちを抑え私は余裕の振りをした。、
「まあ、今夜から気長に調整するわ」
「そう、無理しないでね」
「じゃあ、今夜からおかわり無しだな、葛城」
「おかわりしてたの?ミサトって」
「ああ、夜にものすごく食べるよ、葛城は」
「ちょっと!なに暴露してるのよ、加持君!」
とうとう最後まで加持君に調子を崩されながら私は昼食を終えた。
今日の講義は加持君と同じ時限で終わった。一緒に部屋に帰る。
早く、体重を計りたい!
私はかれこれ半年以上体重計には乗っていない。
加持君との生活でそんなこと考えている余裕がなかったから。
・・・計らなくても良いとも思ってたし。
「加持くーん、体重計どこ?」
「おっ、早速計るんだな。さあて、どれだけ肥えてるか・・・」
加持君はニヤニヤしながら体重計をクローゼットから出す。
そんなところに置いてあったのか。てっきりここには体重計が無いのかと思ってた。
加持君は体重計を洗面所の床に置き、メモリを0に合わせた。
「よし!さあ、乗って」
「うん・・・って、あっち行ってなさいよ!」
「なんだよ?いいじゃん、見ても」
「駄目!あんた、またリツコ達に暴露するでしょう?」
「しねーよ」
「するわよ!今日だって私がどれだけ恥ずかしい思いしたと思ってるのよ!とにかくだーめ!」
私は加持君を洗面所から追い出した。
服を脱いで下着だけになり、体重計に乗る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ?!」
下着を取って素っ裸でもう一度乗る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ?やっぱり?!」
増えてる・・・・・・・・・。
5kgも増えてる・・・・・・・・。
いつ増えたのよ?こんなに。
数々の記憶が私の脳裏を巡る。
誕生日、クリスマス、お正月・・・・・。それだけじゃあない。
毎日出されるおいしい料理にご飯がすすむ。おかわりが日常になっていた。
これはやばいわ・・・。早急に手を打たないと。
私は今から、ダイエットを始める決心をした。
おかえりなさい!投下乙です♪
遠征乙です!そしてお帰りなさいヽ(´∀`*)ノシ
大変でしたね。おつでした。
また始まったんですね(^O^)
ずっと待ってました!投下よろしく☆
おかえりなさいませ。そして乙であります(;`・ω・´)ゞ
これからも投下期待しております。
長旅?乙です。神は新潟在住でしたか
これからも子育て&投下がんがって下さい。そしてご冥福をお祈りします
私のつたない書き物を待っていてくれる人がいるなんて・・・。(感涙)
最初の頃とは全然違う書き込みに嬉しさ増大ですね。
>>494神だなんてやめてください。髪くらいにしておいてください。では、つづき・・・。
「よお、どうだった?」
洗面所から出てくるなりニヤけ顔の加持君から詮索が入った。
「べ、べつにぃ・・・」
私は全然動じていないように答えた。加持君の詮索は続く。
「何キロ?・・・増えたの」
「・・・・・・・・2キロくらい」
「お、そんなに増えて無いじゃん。2キロなんて、おかわりしなきゃすぐすぐ」
「そうね・・・」
はあ、またやっちゃったよ。
こんなときにもつまらん嘘ついちゃってさー、・・・私ってなんて見栄っ張りなんだろう・・・・。
「2キロでも、リツコ達には絶対に言わないでよ!・・・体重量ってることも!」
「へーへー。なんで体重量ったことも隠さなきゃいかんのか、俺には理解に苦しむがな」
「いいのよあんたは、理解しなくても。とにかく言わないでいてくれれば・・・」
「分かりましたよ・・。さて、ご飯つくるかぁ・・・」
私のあまりの剣幕に加持君は”全く女心は分からん”といった反応だった。
二人で台所に立つ。
野菜を洗うのはいつも加持君の役目。なぜならば虫がいるからだ。
そして、きれいになった野菜を切るのは私。
最初のうちは形も厚さもばらばらに切っていたけれど、さすがに慣れると均等に切れるようになってきた。
初期の頃はひたすら切り刻んで具の全てがみじん切りなんてこともあったなあ。懐かしい。
そんなこんなでいつもの通りにご飯のしたくはすすむ。
ご飯の炊ける匂いがしてきて、鍋はぐつぐつとおいしそうな音を立てている。
私の中の食欲がおなかの底から沸きあがってきた。
うー、でも我慢我慢。なぜなら私はダイエット中・・・。
自分自身に言い聞かせ、つまみ食いを食い止める。
夕食は、ご飯に鯵のフライ。牛肉と野菜のトマト煮。サラダ。
とてもおいしそうだけど、体重のことを考えたら食べるわけにはいかない。
私はサラダだけを器に盛った。
「葛城、まさか・・・サラダだけ食べる気か?」
「そうよ」
「うへぇ・・・」
信じられない。という加持君の顔。
私はその反応が予測出来ていたので、平然とした態度でいた。
「あのさ、葛城・・・」
「いただきまーす」
「・・・・・・・」
加持君の言葉をさえぎり、サラダに箸をつける。
私のあまりにも平然とした態度に加持君は言葉を失っていた。
私は夕食を食べながら嫌な気分だった。
体重が増えたことも、そのことをコトコとリツコの二人から指摘されたことも、
加持君に昼休みに割り込まれて、会話の調子を狂わされたことも。
そして今、加持君がサラダだけを食べている私を心配そうに見ていることも・・・。
ふんっ!余計な心配しないでよね。私はこうするって決めたんだから。
体重が元に戻るまでこうするって、決めたのよ。
私は加持君が何も言い出せないような雰囲気を出した。
そして、加持君は雰囲気を読み取り、何も話さずにいてくれる。
大学にいるときもこんなだったら良いのに、
なんで大学だとあんなに鈍感になるのかしら?
私は不思議に思いながらもサラダのみを食べ続けた。
「ごちそうさま・・・」
「ほんとにそれだけか?」
「ええ、そうよ」
「体、壊すぞ」
「大丈夫よ。やせたらすぐに元に戻すわ」
「で、また太ったらこうして無理にやせる」
「・・・太らないわよ二度と」
「それは分からないね。元に戻したらきっとまた太る」
「嫌なこと言わないでくれる?やる気が失せるんだけど」
「そんなやり方するんだったら、やる気が失せるほうがまだマシだね」
「うるさいわね!あなた他人でしょ?!ほっといてよ!」
私は加持君の知った風な口の聞き方が気に入らなくて、
今までの嫌な気分と共に吐き出すかのように怒鳴ってしまった。
目が合い、数秒の沈黙。
にらむ私に加持君は冷たい目を合わせていた。
体が動かない。視線が逸らせない・・・。
まるで蛇ににらまれた蛙。その蛙のように私は加持君から目を離すことができなかった。
怖い・・・。
加持君の目から感じ取れるのは怒りでも、悲しみでもない。
いうなれば、絶望。
これ以上私に何を言っても無駄だ。という突き放すかの様な諦めを彼から感じた。
捨てられるの?私・・・。
こんなダイエットの事が別れ話に発展する可能性は極めて低いのに、私は何故かそう思った。
怖い。怖い。捨てられる?捨てないで、私を捨てないで・・・。
「風呂、どっち先に入る?」
「え?ああ・・・・お先にどうぞ」
「うん。じゃあそうするよ」
加持君は私の心を感じ取ったのか、自分から視線をはずし話題を変えた。
救われた・・・。別れ話じゃなくて良かった・・・。
そんな話に発展するはずが無いのに何故かそう思ってしまう。
やはり一度別れそうになったからなのだろうか?
いや、もっと記憶の奥深くから来る恐怖の様な気がする。けれど・・・けれど、その記憶をたどるのが怖い。
思い出したら、折角今、楽しい生活を送っている自分が崩壊しそうで・・・。
そう、楽しい生活が・・・。楽しい・・・?
セカンドインパクトで沢山の死人の上に築き上げた今の生活が、楽しいって・・・?
何を言ってるの、私は・・・。
私は一人、リビングで頭を抱えてしまった。久しぶりに胸の傷がジクジクと痛んだ。
乙です
オカエリナサλ。
乙です。
次の日の朝、私は体重計に乗って歓喜した!
体重が1kgも減ってるっ・・・!やったわ!
このままで行くと、あと4日で目標達成ね。案外簡単じゃない、ダイエットって。うふふ。
おなかをグーグー鳴らしながら私は朝食を味噌汁だけ取り、大学へ出発した。
昼休み
今日の講義は午前中で終わり。コトコは彼の元へとさっさと向かった。
私はいつも通りに食堂へ。サラダとスープだけをトレイに載せて空いている席を探す。
サラダだけにしようと思ってたけど、お腹が空き過ぎてスープを追加してしまった。
やせるまではリツコと食べないほうが良いわね・・・っと、リツコ発見。やばいやばい。
リツコに気づかれないように遠くの席に着こうとしたが、
「お、葛城。リッちゃんならあっちにいるぜ」
何たる偶然。迷惑な同居人に背後から声をかけられてしまった。
「ちょっと、今日は違う場所で・・・」
「おーい、リッちゃん!今行くからー!」
「・・・・・・・ばか加持」
リツコは加持君の声に気づき、こちらに手を振ってくる。
・・・・・・・・・・私も手を振り替えした。
しょうがないからリツコの席に二人で向かう。
「いい?リツコに余計なこと話したら・・・」
「へーへー、分かってますよ。ダイエットして無いってことにするんだろ?
・・・でも、そのメニューじゃバレバレだけどな」
「うるさいわね!良いのよあんたは何も言わなきゃ・・・。はあい、リツコ隣あいてるぅ?」
「・・・・二重人格」
「なんか言った?」
「いや・・・」
リツコの正面に私、隣に加持君が座る。
リツコの好物オムライスセットが目の前にぃ〜〜〜!ごくり・・・。
私は付き合いで座ったことを後悔した。
リツコは勿論、私のトレイに乗った食べ物の変化にすぐに気が付いた。
「あら?ミサト、ダイエット?」
「ん・・・ちょっちね・・・へへ」
「やはり、増えてたの?体重」
「いやぁ、乗ってないけど、体重計なんて・・・。まあ、なんとなく健康な食事がしたくなっただけよ。うん」
「それが健康的な食事ねえ・・・。加持君、どうなの?一緒に住んでて」
リツコが加持君に振る。
加持君、お願いだから変なこといわないでよ〜〜〜!
私は表情に出さないまでも、内心ハラハラとしていた。
「ん?・・・まあ、良いんじゃない?葛城の決めたことなんだから。俺が言ってもどうせ聞かないし」
「まあ、他人事みたい」
「そう、俺は他人だよ。俺は葛城の保護者でも管理者でも無い。
・・・只の恋人さ、淋しい心と体を埋めあうだけのね・・・」
「ふふ、案外冷たいのね、加持君って」
「そうかい?個人を尊重しているだけだよ。葛城の体のことだ、
葛城自身に任せるよ。俺の口出すことじゃあない」
「それもそうね・・・」
加持君の話の思わぬ展開に、私は心を射抜かれたような気がした。
心を射抜かれる。とは決して恋に落ちるときのソレではない。
私の心に思いもよらない所から、矢がグサリと突き刺さり、突き抜けて言ったような感覚。
そして、心に直径ほんの数ミリの穴が開いている感じ。
それは決して致命傷には至らないけれども、しかし確実に傷跡を残す。
加持君は他人。他人なんだ・・・。
リツコの手間でそう言ったのかもしれない。
私はそう思う事で自分を慰めた。
「私、午後から講義無いのよねー。そんなわけでおっ先〜〜!」
「あら、そうなの?じゃあね」
「洗濯物、頼んだぞ〜〜」
「分かってるわよ!なんで言うのよ、もう・・・。じゃあね」
サラダとスープを平らげて、私は二人よりも早く席を立った。
食器を片付けて後ろを振り返ると、リツコと加持君が親しげに話しているのが見えた。
私は自転車に乗り込み、家路を急いだ。
これからやることがある・・・。
洗濯物もそうだけど、他にやることが・・・。
太陽がギンギラに輝いている時間帯に自転車をこぐのは体力的にきついわ・・・。はあはあ
私は息を切らしながら部屋に着いた。
さすがに昨日から野菜しかとっていないせいもあって、バテるわね・・・。
ベランダに干してある加持君が言っていた洗濯物はもう乾いていた。部屋に取り込み、床に一まとめに置いた。
さあて・・・もう一がんばりするかあ!
私はTシャツと短パンに着替え、髪をポニーテールに束ねた。
靴は通学でいつも履いているスニーカーがそのまま履ける。
私は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップ1杯一気にのみ干して、すぐに部屋を出た。
どこを走ろうかなあ?・・・・ま、そこら辺で良いでしょ。
コースはとりあえず周辺をグルリと一周することにした。余裕があるなら2週すればいいものね。
私は太陽の高く日中で一番暑い時間帯にジョギングに出かけた。
「はあはあ ぜえぜえ はあはあ ああ もうだ・め・・・・はあはあはあ」
走り始めて10分。私はもう息が切れて歩き出していた。
高校の時から走っていない体は思ったよりも体力が落ちているのね・・・。
軽くショックを受けながらも私は想定したコースの半分のみを走り、後は歩いて帰宅した。
帰宅したとたんに玄関に座り込んで一休み。
「はあはあ・・・・だるいわ、体・・・」
心臓がドクドクと早く打っている。多分脱水・・・?水、飲まなきゃ・・・。あ、でもその前に体重・・・。
私は洗面所で体重を量る。
うーん、変化無しか・・・。まあ、お昼に食べたしねえ・・・。ああ、お腹すいた。
心臓の動きが治まり始め、私は冷蔵庫から再び麦茶を取り出して、コップ一杯飲んだ。
喉を冷たい麦茶が通って一気に体温が下がる。
ふー、生き返る・・・。やっぱ少しハードすぎたかな?反省反省・・・。
私はクーラーを点け、リビングのソファに横になって体が楽になるのを待った。
はあ、体だるい。お腹すいた。疲れた・・・。って、そんな考えじゃいけないわ!
あと、4日よ。それで元に戻るわ。それまでの辛抱よ、がんばれミサト!
私はジョギングでギブアップした自分に喝を入れた。
加持君が帰宅して、また二人で夕食の準備がはじまった。
もう、作っている途中からお腹がグーグー鳴ってしまっている。
それを聞いて加持君は横目で私を見た。
「今夜は・・・ちゃんと食べたら?」
加持君の優しい言葉が悪魔の誘惑に聞こえる。思わず頷きそうになってしまうのを堪えた。
「・・・加持君は他人なんでしょ?いいの、構わないで」
「・・・・・・・。ああ、お昼のことか?」
「・・・・・・・・」
「あれじゃ駄目だったかい?葛城が何も言うなって言うから、当たり障りの無いこと言ったんだけど」
「・・・・・・別に」
「何だよ、別にって。・・・駄目だった?」
「いいえ、・・・・良かったわ」
「それは光栄。俺も考えなしに話しているわけじゃないって分かったろ?これでも考えてる」
「そうね・・・」
「本当は心配してるんだぜ?これでも。・・・葛城が聞かないだけで」
「聞いてるわよ」
「聞いて無いさ。最初から聞く耳持たずって感じだ。・・・とにかく、今夜は食べたほうがいい。後が怖いぞ」
「いいのよ、あと少しで目標達成なんだから」
「あと少しって、どれくらい?」
「4キロよ」
「え?昨日は2キロって言ってたじゃないか!」
「はっ・・・・!」
しまった!野菜を切ることに気が行っていて忘れていた・・・。
嘘がばれる。これほど気まずい時は無い。
私は言い訳することも謝罪することも出来ず、無言で野菜を切ることに集中した。
加持君も無言になった。怒っているのだろうか?少し心配になる。
「葛城・・・・」
「・・・・・・・・」
沈黙を破ったのは加持君だった。何を言われるかどきどきする。
「あと4キロもやせなきゃいけないのなら、尚更きちんと食べたほうが良い。でないと、続かないぞ」
「・・・・・・大丈夫よ」
「ほら、聞く耳がない」
「だって、もう1キロ減ったもの。この調子だと4日で達成よ」
「それが続かないんだよ4日もなんて」
「もう、大丈夫だって!あなた私の精神力を見くびってるわ。4日なんてなんてこと無いわ」
「はあ・・・分かってないな。もういいよ、分かった。葛城の良いようにすればいい。後悔しても知らないぞ」
加持君はさじを投げたように言った。
そして私は今夜も野菜のみを食べ、お腹を鳴らしながら就寝した。
「う・・・・・・・お腹すいた・・・。今何時?」
目覚まし時計のライトをつける。
時刻は2時半。草木も眠る丑三つ時ってやつね。
空腹で目が覚めたのなんて、初めてだわ。セカンドインパクトの直後でもこんなことなかった。
まあ、私は当時日本にはいなかったんだけどね・・・。
セカンドインパクト直後、私は救命カプセルに乗って氷の解けた南氷洋を漂っていた。
そして、数時間後に南極目指して駆けつけた”あの組織”収容されたんだわ。
そこでは鉄格子の3〜4畳ほどの部屋があって、最低限の食事、風呂、衣服が保障されていた。
私は父をなくした事と体に受けた傷のショックで口が利けなくなっていたのだけれど、
それでも、毎日カウンセラーと名乗る人たちが日替わりでやってきて、私から当時の話を聞きだそうと必死だった。
南極で何があったのか?何を見たのか?何を聞いたのか?生き残りは私だけなのか?
私は全く話せなかったのに、毎日毎日彼らは何かを話そうと必死だった。
失語症だと診断されてからぱったりと来なくなったけれど・・・。
そして2年が経ち、言葉を発することが出来るようになったとき。
あの男が私の前に現れたの・・・・・・・。冷たい目をしたあの男が。
あの男は言ったわ。
「葛城ミサト君。・・・君があの日、南極で何を見たかは知らないが。
そのことは誰にも口外しないほうが良い。もしも誰かに言ったら・・・身の破滅ですよ?」
怖かった。・・・・・・とても怖かった。
私は自分のためにあの日のことを誰にも言わないと決心したわ。
そして、何故自分だけがこんな目に会うのか?これは全て父のせいではないか?
と、再び記憶の中の父を責めた。・・・・・・・っと、なんでこんなこと思い出してるんだろう?
おなかが減って死にそうよ〜。麦茶麦茶・・・。
私は冷蔵庫を開けた。
麦茶を取ろうと手を伸ばす・・・、ごくり。
目の高さに丁度、今夜の残り物があった。
ロールキャベツ 茹でたとうもろこし 冷奴 ししゃものフライ
私は麦茶は取らず、冷蔵庫にある残り物を片っ端から口に入れた。
おいしい・・・・おいしいっ!
たった一日食べなかっただけなのに、私の体は飢餓状態にあったのだ。
一口食べると次から次へと体が欲する。
ラップを剥ぎ取り、手づかみで口に押し込む。
おいしい!おいしいよ!
只でさえコンビニよりもおいしい加持君の手料理。冷蔵庫で冷えていても格別だった。
冷やご飯も構わず詰め込む。
途中で喉につかえそうになり、麦茶を容器から直接口に流し込んだ。
ぐちゃぐちゃ べちゃべちゃ もぐもぐ ぼりぼり ごくごく はぐはぐ ずるずる
止まらない!止まらないよう!
私は残り物が無くなるまで一心不乱に食べ続けた。
ピザでも食ってろデブ
乙です。いつも見てます。がんがれ
乙カレです!ファソになりまつた。加持さんテラカッコヨス(´Д`)
やっぱり二人は別れてしまうんでつか…(´;ω;`)個人的にはハッピーエンドキボンヌ…
ガンガレ!
はっ!
「あ、どうしよう・・・」
残り物を全て平らげ、我に返ると、あまりに壮絶な現状で呆然とした。
開きっぱなしの冷蔵庫。
破かれて床に散らばったラップ。
空っぽの器。
汚れた手と口。
食べ散らかされた食べ物。
パンパンに膨れたお腹。
「食べちゃった。・・・こんなにいっぱい・・・。」
すぐに満腹感が後悔に変わる。
今、体重何キロなんだろう?
私はその場でパジャマを脱ぎ捨て、洗面所へと向かった。
体重計に乗る。
増えてる・・・。1.5キロも増えてる・・・。これじゃあ、今までの努力が水の泡だわ・・・。
私は絶望感にとらわれた。
なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ・・・。
すっかり目は冴え、私は体重を減らすことと、加持君に冷蔵庫の減ってしまった中身の言い訳を考えていた。
私の胃の中に1.5kgもの食べ物があるんだわ、今。
今のうちなら、取り出せるかもしれない・・・。
私は食べたものを全て吐き出すことにした。
麦茶を容器ごとトイレに持ち込む。
大丈夫よ・・・。飲みすぎて何度も吐いてるじゃない。そんなに苦しいことじゃないわ。
そう自分に言い聞かせ、手を喉の奥に突っ込んだ。
「う・・・・・うげ・・・・・・うげぇ・・・・・・・・うげええええええ!」
苦しい!痛い!苦い!すっぱい!
酒に酔って吐くのとは違って、脳が正常な分だけ苦しみは倍増だった。
物理的な刺激による嘔吐なので、食道が痙攣したように震え、痛みが走る。
胃から逆流した食物の味もしっかりと感じる。
吐き気が無いのに無理やり吐くという行為はこんなに辛いことなんだ・・・。
>>514 なら見るなよ。
だいたい匿名だからって誰かわからないと思ってそういうレスするんだろ。
調べればわかるのに。アホか。
作者さん、頑張れ!
519さん大丈夫よ 514今に見る影もないほどデブデブになるんだから
作家さんがんがれ!でもダイエット失敗で破局ってオチはやだなぁ(´・ω・`)
でも、でも、吐かなきゃ。辛くても吐かなきゃ。そうしないと痩せないのよ!
私は喉の奥に手を突っ込み続けた。
ある程度吐けたかなと思うところで、一度手を引っ込める。
そうすると、私の体は他に吐く理由がないので、嘔吐の波がすぐに治まった。
「はあはあ、もう一息よ・・・」
脂汗を額ににじませながら、私は持ってきた麦茶を一気に飲んだ。
すぐに胃が膨れ、満腹感がでる。
そしてまた喉に手。
ぐぼぁ! ぐぼぁ!
ほとんど水分のみ溜まっている状態になった私の胃は、吐きなれたのか、すぐに嘔吐を開始した。
今度はそんなに辛くはなかった。胃液が麦茶で希釈されているせいだろうか、噴水のように出る。
嘔吐物の中に食べ物が見当たらなくなり、私は吐くのを止めた。
コンコン
「葛城?大丈夫か?」
胃の内容物を全て吐ききり、達成感を感じている私の耳に、加持君の声が突き刺さった。
ヤバイ・・・・・・・。何で起きてるのよ、もう!
「うん、・・・大丈夫よ」
「そうか、吐いてるような声がしたけど?」
「ちょっち気持ち悪くてね。・・・でも大丈夫。吐いたらスッキリしたわ」
「そうか、それは良かった・・・」
「だから、気にしないでもう寝て・・・」
お願い、早く去って。
「いや、その・・・俺もトイレに用があるんだけど」
「ああ、そうなの?じゃあ今出るわ」
ますますヤバイわ・・・。
私は加持君に感づかれないように出来るだけ平然と返事をした。
が・・・・・・・・・・・。どうしよう?
今の私は下着一枚で麦茶をトイレに持ち込み、吐いていた状態だ。
麦茶と嘔吐は何とか言い訳できるとして、・・・下着なのはどうする?
良い理由が思いつかない。焦る。
ガチャ
私が考えていると、突然加持君がドアを開けた。
くっ・・・・・・。
目と目が合う。加持君は私の姿をじっと見つめた。
「あ、ごめん、どうぞ・・・」
私は目を逸らし、麦茶のボトルを片手に、そそくさとトイレから出た。
しかし、加持君はトイレに入ると思いきや、入らず、
その場を去ろうとする私の両肩を後ろから掴んだ。
「だから言っただろ?続かないって・・・」
やっぱり、バレてたか・・・。そうよね、台所の痕跡で一目瞭然だもの。
私はがっくりと肩を落とした。
「台所、片付けてくる・・・」
「俺も手伝うよ」
「いい、自分でしたことだから・・・」
私は肩を落としたまま台所に向かった。
床に散乱する物を片付け、雑巾をかける。
その作業中に自分のしたことがあまりにも愚かで、恥ずかしくなった。
そして、加持君の忠告を聞かなかった私が、彼の予想通りの行動を起こしたのが悔しかった。
涙がにじみ出てくる・・・・・・・・・・これは悔し涙だ。
泣きながら掃除をする。その姿も惨めで、また泣けた・・・。
その間、加持君はというと、本当にトイレに行って用を足していた。
私が片付け終わった頃に加持君もトイレから帰って来た。
「葛城、俺の専攻を知ってるか?」
加持君は私の元に来るや否や、唐突に話題を振った。
「知ってるわよ。・・・心理学でしょ?」
「そう、心理学。俺の専攻はその中でも思春期の心の問題について。
・・・・・・今の葛城は俺が専攻で学んだとおり、典型的な摂食障害の行動をしている」
摂食障害ですって!?・・・・何を言うのよ。私がそんな病気のわけが無いじゃない。
「そんな・・・・・・・おおげさよ、たった一回で」
「まあ、医師じゃないから診断名はつけられないけどな。でも、行動は典型的だ」
「・・・違うわ。だって、たった一回よ?たった一回食べて吐いただけで摂食障害?そんなわけ無い!」
私は力強く否定した。
「過食と嘔吐を何度も繰り返すなら分かるわよ?
でも、たった一回食べて吐いただけで摂食障害だなんて、加持君大げさすぎるわ」
加持さん文系だっだのか!ミサトは?
「・・・そうかもしれないな。でも、このままじゃ葛城は確実に体を壊す。心だって・・・」
「大丈夫よ!痩せたら元に戻るわ。目標体重だって決まってるし、
ガリガリになるまで痩せようとなんて思ってない!」
思わず声が大きくなる。
「しかし、そのやり方は異常だぞ!?二日でギブアップする様なやり方が4日も5日も続くわけが無いだろ?!」
「・・・・・・・・・・」
加持君も私に感化されてヒートアップする。
何時にも無い加持君の大声に驚いて、私は言葉を失った。
加持君はため息をついて自分を冷まし、落ち着いて話し出す。
「・・・痩せ願望から摂食障害になる女性が患者の大部分を占めている。葛城もきっかけが同じだ。
そして、隠れて食べてはトイレで吐く。・・・これはもう典型的だよ」
「嘘よ・・・」
「嘘じゃない。だから葛城、もうこんなことは止めろ。言ったじゃないか、やる気が失せたほうがまだマシだと・・・」
「でも、私・・・・・・・痩せなきゃ。痩せなきゃ・・・」
>>526 それは後ほど出てきます。多分・・・。
私は加持君の言葉を頭では理解してはいるものの、心が納得することを拒否していた。
私の行動が異常であることは頭では分かっている。
しかし、心はそれでも続けろというメッセージを叩き出していた。
グルルル
その時、丁度タイミングよく私のお腹が鳴った。加持君の表情が緩む。
私は恥ずかしさで顔をふせた。
「・・・これが葛城の体からのメッセージだ。俺も聞いたぞ」
「・・・・・・・・・」
「まだ、続ける気?あんなこと」
「・・・・・・・」
私は顔を伏せたまま、コクリと頷いた。
実を言うとちょっと意地になっていたと思う。
「はあ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
加持君はため息をついた。
私がまだ続けるという答えを出した事で呆れたのだろう。
自分でもおかしいとは分かっている。でも、痩せなきゃと心は言っているんだもの・・・。
数秒の沈黙。
次の瞬間、私は加持君に肩と膝を支点に抱き上げられた!
「きゃ・・・・・」
あまりに突然の事で、小さな悲鳴を上げてしまう。
俗に言うお姫様抱っこを加持君にされたまま、私は固まった。
「全然、軽いじゃないか。・・・・・・やせる必要ないよ、葛城は」
加持君は私を見つめ、微笑んだ。
「・・・・・・・・・加持君」
「何?」
「・・・腕がプルプル震えてる」
「あは、バレタ?」
「うん・・・・」
私が指摘すると、加持君はすぐに私を降ろした。
「ふう・・・俺の筋肉を増やすほうが先だな。もっと長く抱いていられるには」
「全然観点がずれてると思うけど・・・」
「ん?ああ、そうか?」
「・・・私は加持君に長く抱かれたいために痩せるんじゃないんです」
「じゃあ、なんで痩せるんです?」
「・・・・・・・・増えたから、高校時代よりも」
「そうか、増えたからか・・・」
「そう」
「それだけじゃあないだろ?」
「・・・・・・太ったら自分のことが嫌いになったから」
「太ったら自分のことが嫌いになった?・・・そうか、痩せている自分なら愛せるんだ」
「・・・・・・・うん、そんな気がする」
「俺は、太っている今の葛城も愛してるけどな」
「・・・・・・・くさい台詞ね」
「ふっ、そうだな、くさい台詞だ。喜ぶと思ったけど、・・・そうでもないか?」
「そんな優しい言葉を信じてたら、このままブクブクいくわよ。いいの?それでも」
「・・・過激なダイエットするよりもマシだな、その方が。心は救われるから」
「そう・・・」
「葛城、見てくれだけに囚われるな。確かに見てくれは大事だが、あまり囚われると自己崩壊おこすぞ。
若くてスリムな自分を望んでも、加齢は進む。誰だって年老いて体型が崩れていくものさ。
だから・・・・・いや、なんでもない」
「ん?なによ?」
「・・・・・・・・・・だから、葛城をトータルで見てくれる人と一緒になるんだ。それが幸せへの近道さ」
「・・・。いつから幸福論になったわけ?」
「・・・・・・・鈍感」
「は?」
「いや、なんでもない・・・。とにかく、痩せたきゃ焦らずゆっくりとしたほうがいい。何度も言うが、体と心を壊すぞ」
「そうねえ・・・」
「言ったろ?おかわり無しだって。それだけでもきっと痩せていく」
真剣な加持君の眼差しはあんな後のこともあって、とても説得力があった。
おかわり無しだけで痩せるのなら、確かに悪い条件じゃないか。・・・吐くのも辛いし。
私はやっと、自分の考えを改めようと思った。
「まあ、確かにここのところ異常だったわね」
「そう、異常だった」
「本当に痩せるの?おかわり無しで」
「あと、おやつと酒もな」
「うは、条件が増えてる!」
「でも、それだけだ。今までのサラダのみと比べたら、健康的だと思うけど。リッちゃんたちにもばれないし」
「うん・・・」
「明日の朝はしっかりと食べてもらうからな。ふわあ〜」
「ふわあ〜」
「寝るか・・・」
気が抜けて、二人同時にあくびが出た。
私たちは3時半に再び布団に入った。
乙です
このペースだと別れるには数スレかかりそうですね。楽しみ楽しみ。
乙〜
それから数ヶ月が過ぎた。
私は加持君の言った通りに過ごし、それでも数回過食と嘔吐をしたけれど、なんとか体重を5キロ減らすことが出来た。
体重が元に戻ってホッと一安心した頃には、すでに私たちは大学2年に上がっていた。
大学2年、6月末。
夏休みを目前に控えたある日の講義開始直前、教室へ学務の人が入ってきた。
「えーと、葛城ミサトさんはいますか?」
「・・・・・・・・はい」
学務は入ってくるなり私を名指しした。返事をすると、こちらのほうへ寄ってくる。
「いきなりで悪いのですが、今日の午後6時に工学部の第3講義室へ行ってください」
「・・・はい、あの、何の呼び出しでしょうか?」
「午後6時に工学部の第3講義室ですよ。お願いしますね」
学務は私の耳元でボソボソと話すと、こちらの質問には答えず、すぐに立ち去って行った。
一体なんの呼び出しだろう?何か悪いことでもしたかしら?
それに何で工学部?行ったこと無いわよ工学部へなんて・・・。
学務の人の様子が変だったので、少し不安になる。
行かないでおこうか?・・・でも大学からの呼び出しだからなあ、とても大事なことかもしれないし。
うーん、・・・まあ、行ってみるか。
私は悩んだ末、結局呼び出された場所へ行くことにした。
そうは言っても、工学部の校舎なんて初めてで、迷ってしまった・・・。
早めに出てきたから6時には間に合うけど、こりゃあ人に聞くしかないか。
「すいません。あの第3講義室へ行きたいんだけど・・・」
すぐそこを歩いていた人のよさそうな女の子に声をかける。
「ああ、そこなら私もこれから行きますので、ご一緒しましょう」
その女の子は可愛い笑顔を見せ、私を第3講義室まで導いてくれた。
「工学部は初めてですか?」
「ええ、今朝いきなり学務から呼び出し喰らっちゃって、ほんと参っちゃったわ・・・」
「あ、おんなじですね私と。もしかして6時?」
「ええ、そう・・あなたも?」
「はい、いきなり来いだなんて、ちょっと困りましたけど・・・」
「人の都合はお構い無しか・・・女性に嫌われるタイプね」
「あはは、・・・さあ、付きましたよ。第3講義室です」
女の子がドアを開けると、そこは案外狭かった。
「講義室なのに狭いのね・・・ここ」
「ええ、一応教壇はありますが、長机だし、ゼミにしか使われていないみたいです」
「もしかして呼び出されたのは、私たち二人だけ?」
「さあ?・・・大体何の用件か全く話されていませんから予想もつきませんね」
「あなたも聞かされていないの?」
「はい・・・」
「そう・・・一体なんなのかしらね?」
まじめでしっかりとした受け答えをする彼女と自分の共通点は分からなかったが、
只一つ、怒られるとか注意されるとか、そういった類の呼び出しでは無いみたいで、私はホッとした。
二人で向かい合っていすに座る。
時間まで後5分ほどある。
その時、二人分の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
主催者か?それとも参加者か?私の中に緊張が走る。
ガチャ
ドアが開いた。そこには・・・
「あ なたたち・・・」
「あ・・・」
「葛城ミサトさん!」
入ってきたのはあの時私を助けてくれた、二人。
青葉シゲル君と日向マコト君だった。
「奇遇ですね!どうしてここに?!」
「お知り合いですか?」
「うん、ちょっちね・・・」
「葛城さんたち、もしかして学務に呼び出されました?」
「ええ、そうよ」
「お!同じですね!僕もです!」
「そうですか。・・・何の用事だか聞いてます?」
「ううん、なにも。あ、この間はありがとう」
「いえ、そんな気になさらないでください」
「そうですよ!気にしないでください!女性を守るのが男の仕事ですから!」
「日向君、声が大きいよ」
「あ、ごめん青葉君。嬉しいからついはりきっちゃって・・・」
「ふふっ」
この前と似たような二人のやり取りに私の中の緊張がほぐれる。
しかし、日向君&青葉君にも呼び出しの用件が話されていないので、謎はそのままだった。
二人はそのまま、まるで漫才の様なやり取りを続けていた。
と、その時、再び、こちらへ近づく足音。
青葉君&日向君はその音に気づくと会話をとめた。
静寂が皆を包む。
次こそは、ホストかしら・・・?
ガチャ
ドアが開いた。そこにいたのは・・・!
「ん?・・・・・・よお!葛城、お前も呼び出しか?」
「加持君!?」
「お、お知り合いですかっ!?葛城さん!」
「うん、ちょっちね・・・」
「おいおい、ちょっちはないだろ?最愛の人に向かって」
「ちょっと、加持君!」
「さ、最愛の人お!!!こ、この人が葛城ミサトさんのぉ!?」
「ああ、そうだよ。恋人だ」
「ちょっと、加持君!」
「あー、・・・そーですかっ。・・・がくっ・・・」
「おいおい、日向君。そのリアクション、分かりやす過ぎるよ。・・・大丈夫?」
「ううううううう、話しかけないでよ青葉君。ぼくは大丈夫だから・・・・・」
「あらあら、・・・どういうことだ?葛城」
「・・・この前、助けてくれた人たちよ」
「この前って?」
「・・・クリスマス直前の・・・」
「ああ、お前が俺に嘘付いて合コン行ってた日な」
「っく!・・・・・・・・そうよ、その時の」
「証人か」
「・・・・・・そうよ」
「あのー、私にはさっぱり皆さんの関係が分からないのですが・・・」
「あー、いいよいいよ分からなくて、・・・君は只、俺だけを見ていればそれで良い」
「ちょっと、加持君!」
コツコツコツ・・・
皆を巻き込んでの混乱した会話を、こちらに向かってくるヒールの靴音が止めた。
今度こそ、・・・黒幕?
皆に緊張が走る。
ガチャ
ドアが開く。現れたのは・・・
「先輩っ!」
「・・・りっちゃん」
「赤木さん・・・」
「リツコ?」
「赤木リツコさん!」
「・・・・・・・・なによ?あんた達」
時間丁度に現れたのはリツコだった。
リツコはグルリと見渡して一つだけ空いている席に着く。
これで第3講義室の椅子は埋まった。
あとの席は教壇にあるもののみ。次こそは私たちを呼び出した張本人のお出ましだ。
なんだか新展開な予感
wktk
ドキドキするな
てか加持さんが入ってきたときの日向君ww
マコっちゃんテラカワユス(´・ω・`)
「全く、ヤんなるわね、用件言わずに呼び出しだなんて・・・」
「先輩も聞いてないんですか?何のことだか」
「ええ。”私たち生徒にも予定があるから、こんないきなりは困る”って、学務に乗り込んで訴えたのに、
誰も何のことだか分からず・・・。呼び出し人も不明よ。だからギリギリに来てやったわけ」
「おかしいな。誰が招集をかけたかも分からないなんて」
「変ですよね・・・。それにこのメンバー」
「つながりがあるようで、全員に共通するつながりは見当たらない・・・」
「只一つ、赤木リツコを知っていた。ってこと、ぐらいですかね?」
「・・・・私はあなたのこと知らないわよ」
「申し送れました。日向マコトです。以後お見知りおきを・・・」
「リッちゃんは有名人だから知らない奴なんていないさ。だから共通点にはなりえない」
「・・・なんで私が有名なのよ?」
「決まってるじゃない。お母さんの名前とその髪の色よ」
「ああ、そう・・・」
「我が工学部だけではなく、学内全域で有名なんですか。すごいですね、赤木さん」
「見てくれで有名なのは心外だけどね」
「実力も伴ってますからね先輩は。我が工学部の期待の新生ですものね」
「ほー、そりゃすごいな」
コツコツコツ・・・
「しっ!・・・・・主のお出ましよ・・・」
5分ほど雑談をして場の雰囲気が和みかけていたその時、こちらに近づいてくる足音がした。
最初に気が付いたのはリツコ。彼女の呼びかけで全員が口を閉ざした。
ガチャ
扉が開く。
そして白髪交じりの初老の男性が部屋に入ってきた。
「諸君、集まってくれてありがとう。
学生証を机の上に出してください。出席を取ります・・・」
謎の呼び出しをした黒幕。・・・にしてはあまりにも普通の人物に
私を含め、その場にいた全員が期待を裏切られたような安堵感の表情を浮かべた。
その男性の言われたとおりに机学生証をの上に置く。
「工学部 機械工学科 2年 青葉シゲル君」
「はい」
「工学部 電子工学科 2年 日向マコト君」
「あ、はい」
「工学部 生体工学科 1年 伊吹マヤ君」
「はい・・・」
「工学部 生体工学科 2年 赤木リツコ君」
「はい」
「人文学部 心理学科 思春期発達心理学専攻 2年 加持リョウジ君」
「へーい」
「教育学部 中学基礎学科 2年 葛城ミサト君」
「・・・・はい」
その男性は名簿を読み上げ、返事があるとその生徒から学生証を受け取り、
念入りに写真と顔を照らし合わせていた。かなりの徹底振りだ。
その様子はまるで、他の学生が混じっていて話を聞かれると困るみたいだった。
「よし、全員いるな。・・・私はゲヒルン研究所、副所長の冬月といいます」
ゲヒルン!?ゲヒルンですって!・・・・・・・・。
その言葉を聞いたとき、私にあの時の記憶が甦った。
恐怖に体が震え、冷や汗がドッと出る。
「率直に言おう。諸君、私たちと共に人類の新たな1ページを作らないかね?」
「・・・は?」
冬月副所長の突然の言葉にあっけに取られる皆。
その中でも加持君が率直に疑問の言葉を上げた。
私は冷や汗をかきながら、震えていることを誰かに気づかれないよう、じっと耐えていた。
ゲヒルン・・・・どういうこと?私を追ってきたの?ここまで・・・
セカンドインパクトの後に私を収容した組織。・・・それがゲヒルン研究所。
そして、そこの所長は私に「セカンドインパクトで見たことを口外したら身の破滅だ」とあの時言った。
誰にも言って無いわよ私。なのに、何故・・・?
身の毛が総立ちし、暑いはずの体感が薄ら寒く感じた。
wktk
wktk o(・∀・)o
投下待ち 川・⊇・)
冬月副所長はあっけに取られている皆を気にせず語り始めた。
「詳しくは言えないが、我がゲヒルン研究所は人類の存続を賭けた巨大プロジェクトの一角を担っている。
そのメンバーに、それぞれの分野において現在、日本のトップにいる君たちが欲しい。
・・・君たちは今後就職活動をせず、卒業後すぐに我がゲヒルンへ入隊して欲しいのだ。
施設の3分の2は出来上がっていると言ってもよい。君達が卒業する時期には全て出来ているだろう。
後はそれを指揮し、動かす人物が必要だ。若くて頭が冴える人物・・・そう、君たちがね」
副所長が話し終えると、講義室はシンと静まった。
数分間の静寂。それを最初に破ったのは青葉君だった。
「大体のお話は分かりました。しかし、果たしてそれは俺達がやりがいを感じられる職務なのですか?
それに、卒業したての若造がいきなり指揮して動かすだなんて、責任が重すぎませんか?」
「やりがいか・・・ここでは世界でも最新鋭の技術と人材がそろっている。それを扱えるのは悪い話では無いと思うがな。
それに、現場を指揮すると言っても、総指揮は所長が取ることになっている。
君たちはその補佐にすぎんが、・・・それでもスーパーコンピューターを直に扱うのは君たちだ。
それなりの責任とやりがいのある仕事だと思うがね・・・」
「あの、私も質問があるのですが・・・」
「何だね?伊吹マヤ君」
「はい。そんなに大した質問ではないのですが、なぜ2年生の先輩方に混じって1年の私が?
それに、生体工学科は赤木先輩がいるのではないですか?」
「ああ、それは生体工学がゲヒルンの中枢を担っているからだ。
そこで、生体工学の分野は2人選出された。
何故1年生で選ばれたのかというと、2年生にはもう君を上回る能力を持つ人物がいなかったからだ。
東大の生体工学のトップは赤木リツコ君。次が君だからだよ・・・」
「そんな、私・・・そんなに優秀じゃないです・・・」
伊吹さんは褒められると、頬を赤らめて下を向いてしまった。
次の発言者はリツコだった。
「なかなか良いお話ではあるのですが、私は母の仕事を継ぐ決心をすでにしておりますので、
残念ですが・・・」
「ああ、それなら問題は無いよ、赤木リツコ君。君のお母さんは我がゲヒルンにいる」
「ええっ!・・・」
リツコが驚きの声を上げ、それをきっかけに工学部の学生がざわめきだった。
「赤城博士ってアメリカにいるんじゃなかったの?」
「うん、確かそう聞いた」
「どういうこと?嘘なんじゃ・・・」
「そんなことありえません!私は母に手紙を書いています。そして返事もアメリカからちゃんと・・・」
「・・・・・・・・・そうか、これは非公開だったか・・・。うっかりしていたな」
副所長は表情一つ変えずにそう言った。それは、まるでわざと言った様子だった。
「公式発表とは違う出来事が起こっている。ということですね?冬月副所長」
加持君がここぞとばかりに口を開く。
その口元は不敵な笑みをこぼし、まるで副所長に挑んでいるかのようだった。
「ああ、そうだな。世の中には隠しておいた方が良いこともある。そういうことだ・・・」
副所長も心を読まれないようにしているのか、表情を変えることなく淡々と答えた。
「まあとにかく、これで赤木君のゲヒルン入隊を断る理由が無くなったな。
すまないが諸君、他の生徒にはこのことは言わないでおいてくれ。赤木博士の名誉のために・・・」
「そんな、母さん・・・。どういうことよ・・・」
リツコはショックを隠せないようだった。眉をひそめ、険しい顔をしている。
間髪をいれずに加持君が質問を始めた。
「はーい、質問。・・・工学部の人達はスーパーコンピューターの扱いがメインなんですか?」
「それだけではない。・・・だが、今のところそれ以上は言えないな・・・」
「なるほどね・・・。しかし、それならどうして俺と、ここにいる葛城ミサトが選ばれているんです?
パソコンもしかり、機械なんて趣味程度でしかいじったことの無い、バリバリの文系ですぜ、二人とも。
世界最新鋭のゲヒルンで役に立つとは思えませんが・・・」
「・・・組織というものは機械を正しく動かせればそれで良いという訳ではない。
それを扱う人の心が一番重要だということだ。・・・それを君たち二人にはやってもらう」
「ふうん・・・・・機械はそちらの4人が扱い。心は俺ら二人が扱う。って訳ですか・・・」
「まあ、そういうことだな・・・」
「しかし、俺達の専門は大人じゃない。中学生、思春期といった10代のお子様向けだ。
人選を間違っちゃいませんか?大人分野の学科の奴らと・・・」
「いや、これで良いのだ。だが・・・」
「今の所シークレットなんですね?」
「・・・・そうだ・・・」
違う・・・私がトップですって?そんなことありえないわ。だって、レポート再提出だったし・・。
他の人たちはそうかもしれないけれど、私は違うのよ。
私はただ、セカンドインパクトの目撃者だったから、口止めでゲヒルンに選ばれただけなんだわ。
大学にいて所在が分かるうちに組織に取り込もうって魂胆なんだわ・・・。
そんなの嫌!逃げてやる。・・・・・・逃げられるの?多分無理ね。
私は一生囚われたままなの?ゲヒルンから・・・・そして父から。
「他に質問は無いかね?・・・・・・・察しているだろうがこのことは誰にも口外しないように。
まあ、言ったところで妬まれるだけだろうがね、このご時世に就職活動を免れるのだから・・・」
副所長は質問が出ないことを確認すると、講義室を去っていった。
講義室に残った私たちは、それから暫く話し合った。
乙
先が気になるね〜
早く続きを
早く続きを
中毒症状が…っ gdあa.djせdt0pdpetad@ふじこっ.dt0fjm
すっかりこの板の依存症に…(´・ω・`)
「・・・いやあ、人類の存続。だなんてあまりにもスケールが大きすぎて何も言えなかった・・・。
しかし今の話、本当ですかね?ゲヒルン研究所だなんて聞いたことありませんよ、僕は」
「俺もです。それにあの話は謎が多すぎて、肝心の詳しい職務については全く触れていなかった。
良い話を持ってきては、就職活動を阻止する。って魂胆じゃないですか?本当のところは・・・」
「確かにそうですね。只でさえ就職難なのに、そのうえ優秀な学生が自分と同じところを志願したら困る。
そんな人間が年配のあの人を送り込んだ・・・。私にはその可能性が高そうに思えますが・・・」
「その割には、文系の俺達にも話を持ってきている。全く分野が違うのに・・・おかしく無いかい?」
「・・・・・・・それはそうですけど・・・」
「・・・・・・・ゲヒルンは虚偽の施設じゃあないわ」
「えっ?!・・・・」
皆の視線が私に集中した。
言うべきか、言わざるべきか・・・。
私は迷った挙句、この人たちになら言える・・・。そう思った。
加持君、リツコ、青葉君、日向君、伊吹さん。
さまざまのシーンで私はこの人たちから助けられている。そして、きっとこれからも・・・。
私は何故かそんな予感がしたのだ。
「私は昔、あの施設にいたの。・・・・・・セカンドインパクト直後から2年半もね・・・」
私は決心してもなお重い口を開く。
しかし、ゲヒルンのことはともかく、光の巨人の話まで話せるはずが無い。
”話したら身の破滅”
それは多分、私一人の破滅ではなく、聞いた人にも破滅をもたらすという意味だ。
今、ここにいる人たちにそんな重荷を背負わせるわけにはいかない。
私はもう一人じゃないもの。だから・・・ゲヒルンのことだけを話そう。
「セカンドインパクトの直後に、南氷洋を漂っていた私を拾い上げて、保護してくれた施設。
それがゲヒルンよ。・・・だから、ゲヒルンは実在するわ」
「・・・・・そうだったのか。それで、ゲヒルンは何をしていた?どんな組織だったんだ?」
「・・・・・・私は施設の一部しか行動できなかったけれど、沢山の研究者や技術者が出入りしているようだったわ。
その他は何も・・・。何をしているかは分からない」
「そうか・・・」
皆は思った程情報が得られなかったので、落胆した表情を見せる。
「まあ、これでゲヒルンが実在していることが分かりました。それだけでも俺は・・・・安心しました」
「そうですね、葛城さんを救出してくれたんですから、悪い施設では無いようですね」
「そうそう、それに、赤木博士もいるし。あっ・・・・すいません・・・」
「・・・・・・・リッちゃん、お母さんには今日のこと話すのかい?」
「勿論、話すわよ。・・・実の娘を欺いてまで何をしているか気になるもの。連絡は手紙になるけれどね」
「そういえば、何でいまどき手紙なんです?電話とかメールとか便利な手段は他にもあるじゃないですか」
「電話は電波が届かないのよ。それくらい深い地下で働いているの、母は。
メールは・・・・・外部とのネットワークが繋がっていないから無理だって言ってたわ」
「ネットが繋がっていない?!どういうことです?」
「さあね?・・・でも、そういうことよ。外部との接触は手紙のみ。そんな状況下で
母はスーパーコンピューターの開発を続けている。・・・・娘をアメリカにいると欺きながらね」
リツコは寂しそうに笑った。そのなんとも悲しげな表情に皆が何も言い出せず、
講義室は再びシンと静まった。
静寂を破ったのは加持君だった。
「さて、俺にとっちゃリッちゃんのお母さんがいたとしても、ゲヒルンはまだ怪しい機関だが・・・。
大体、セカンドインパクトのあったあの日、南氷洋に日本の研究機関がいただなんて、怪しいだろ?」
「そうですか?」
「そうだよ。世界最新鋭の研究機関が何で南極にいるんだ?って話さ。
コンピューターを開発している機関が南極で何を・・・ペンギンの研究か?・・・不自然だろ」
「そうですね・・・」
「でも、そんなことを言ったら、葛城さんは一体何故、南極にいたんですか?」
伊吹マヤの純粋な質問が私の心をえぐった。
なぜ私は父に付いて南極にいたのか。・・・当時の記憶が甦る。
(お母さん、離婚したのになんで私は葛城のままなの?私、お母さんの姓がいい)
(いいのよミサト、このままで。葛城の姓を名乗る事であなたはお父さんとの絆があるのだから)
(・・・・・・・・絆なんていらないわ!あんな人との絆なんて・・・・)
(そんなこと言わないでミサト・・・。お母さんを困らせないで)
(一緒に住んでいるのはお母さんなのに、なんで私は葛城なのよ!おかしいわ!おかしいわよ!)
(ミサト!駄目よ葛城を捨てるなんて!お母さん許さないから!
・・・あなたは葛城のままでいいの。それがお父さんとの絆だから・・・。変えてはいけないわ)
(おかあさん・・・・・)
(ミサト、あなたはこれからお父さんについて南極へ行くのよ)
(嫌よ!嫌!なんで今までほったらかしにしていたのに、今更私を迎えに来るの?行きたくない!)
(ミサト!そんなこと言わないで・・・。さ、行ってらっしゃい。
大丈夫よ、南極は寒いけれど、お父さんの部下達がいろいろと助けてくれるわ)
(嫌よ!お母さん!・・・なんで離婚したのに、私はお父さんに会わなきゃいけないの?
お母さんもどうしてお父さんの所に私を行かせるの?・・・私はお母さんのなんなの?お父さんのなんなの?)
(行こう、ミサト。私の研究の成果を見せてあげるよ)
(別にお父さんの研究なんて見たくないわよ、そんなもの・・・)
(ミサト・・・・・・お前がいなければ駄目なんだ。お前がいなければ、私の研究成果を皆に見せられないんだ)
(・・・どういうことよ?)
(今は知らなくても良い。そのうち分かる)
(行ってらっしゃい、ミサト)
(さあ、行くぞ、ミサト)
(嫌よ!嫌だってば・・・・・イヤーーーーー!)
お父さん、お母さん。あなた達にとって私はなんなの?私は・・・・・・誰?
甦る記憶の渦は上昇と下降を繰り返し、私の心をかき乱していた。
何も言えない・・・・・。心の底が深すぎて、こんなこと言えないわ。
それが私の答えだった。
私は皆をグルリと見渡した。答えを待っている様子が受け取れる。
私は言える範囲で答えようとは思ったが、しかし、言葉が出なかった。
またもや、沈黙が訪れる。
「葛城は、・・・・・・・・あの日に親父さんを亡くしている。そのことには触れないでいて欲しい」
私の様子を察して、加持君が助け舟を出してくれた。
「そうだったんですか・・・。すいません、私、無神経に・・・」
「いえ、良いのよ。もう昔のことだから、いいかげん立ち直らなきゃ・・・・ね」
私は無理にだが微笑んだ。悲しい顔をするときっとこの伊吹さんは罪の意識を持ってしまうだろうから・・・。
「・・・・・・・・・。葛城の話は置いておいて、とにかく、俺にとってゲヒルンは怪しいってことさ。
そして、俺達はその怪しいゲヒルンに学務を通じて集められた。・・・・・・・と言うことは。だ・・・」
「大学も一枚噛んでいる・・・。ってことですか?」
「ご名答。さすがだね、青葉君」
「どうも・・・。だとすると、俺達はゲヒルンに入るしかないのでしょうか?職務の詳細も知らされていないのに・・・」
「・・・俺が思うに多分、ゲヒルンに呼び出されるのはこれ一回きりではないはずだ。
彼らが本当に俺らを欲しいと思っているのなら、今回のように眉唾な話のみでは引っ張れないからな」
「なるほど・・・・だとすると、これからも何回か突然呼び出されてしまうんですか・・・。
参ったなあ、バイトどうしよ?青葉君」
「・・・・・・・。今の時点ではまだ答えを急ぐ必要は無い。ということですか?」
「そういうことだ。リッちゃんのお母さんから情報も入るし、これから俺なりにも調べる。
それから自分で決めても遅くはない・・・・・」
加持君の見解に異論を唱えるものはいなかった。
「そうね・・・。もう遅いわ、出ましょう」
リツコの一声で皆が時計を見る。
7時半・・・。大分遅くなってしまった。
気が付くと空腹だった。早くご飯が食べたい衝動にかられる。
他の皆もそうだったらしい。誰からともなくお腹が鳴る。
「じゃあ、またね・・」
リツコはさっさと帰り支度をして部屋を出て行ってしまった。
それを皮切りに、皆が帰りの準備に追われる。
「じゃあ、またー」
「さようなら・・・」
「次があればよろしくお願いします・・・」
「よし、帰るか、葛城・・・」
「うん・・・」
最後に講義室を出たのは私たちだった。
暗くなった廊下を非常灯頼りに歩く。
乙です
頑張って。
続きをお願いします
いくつかの研究室と非常灯が点いているだけの、ほとんどが暗闇の校舎は
昼間とは全く違う空気をかもし出していた。
話すと声が思った以上に響いてしまう。
いつの間にか私たちは小声で話すようになっていた。
「あれ?・・・・・こっちだっけ?」
「おいおい、反対だろ?相変わらず方向音痴だな。よく呼び出された場所までたどり着いたもんだ」
「あ、あれは伊吹さんが案内してくれたから・・・」
「あ、そうなの?・・・校舎内で人に道聞いたわけ?」
「・・・・そうよ・・・。いいじゃない別に、迷ったほうが道を早く覚えるのよ」
「そういう、もんかねえ・・・?」
校舎の階段を二人で降りる。3階、2階、・・・。
2階と1階の踊り場で、私の先を歩いていた加持君はピタリと足を止めた。
「・・・?加持くっ・・・・・・・・!」
不思議に思って話しかけると加持君は唐突に私の両腕を掴み、唇を自分の唇で塞いだ。
ちょっと、なにするのよ!加持君。いきなりそんな気分になっちゃたわけ?!
一応抵抗するが、両手と口は加持君に抑え込まれたままだ。
冗談じゃないわよこんなところで・・・。人が少ないって言っても、研究室の明かりがいくつか点いてるじゃないのよ。
絶対ばれる!勘弁してよ〜〜。
私はそんなことを考えながらも頭の片隅で、
夜の校舎のシチュエーションも悪くないか・・・。
なんていう不埒なことも思っていた。
抵抗を止めてみる。
「・・・・・・?」
私が抵抗をやめても加持君は固まったままだった。
両腕と口を押さえ込んだまま、解放しようとはしない。キスがエスカレートすることも無かった。
ただ、私たちが固まった事で周囲の音が良く聞こえた。
そして、ある会話が耳に入り、私は加持君の行動の意図をそこで初めて気づくこととなる。
その会話は多分、2階からのものだった。2階の階段付近の部屋で話しているのだろう。
小声ながらも内容は踊り場まで筒抜けである。
「ええ、そう・・・。明日からセキュリティを・・・。生徒には気づかれないように。
パニックになり、講義が中断してしまうので・・・。
ええ、ついさっき、研究室に戻ったら置いてあったのです。
・・・分かりません。前回もあったんでしょうか?
しかし、今回もしも予告どおりに爆発すればかなり事件性が・・・・・。
はい、よろしく頼みます。ココだけではなく、全校舎を対称にしたほうが良いでしょうね」
私がその会話に気づいて加持君と目を合わせると、
加持君は静かに私の唇と両手腕を解放した。
私たちは申し合わせたかのように息をひそめ、無言のまま足音を消して歩き出す。
工学部の校舎を出て初めて一息ついたが、私たちはその後も大学の門を出るまでは無言のままだった。
大学の門を出てすぐに加持君は口を開いた。
「・・・・・・・夕食、何か買って帰る?」
「・・・・・・・うん」
加持君はさっきの話題には触れようとしない。
私は加持君の見解を聞きたくてうずうずしたが、部屋に帰るまで話さない方が良いと
もう一人の私がブレーキをかけた。
574 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/28(火) 14:39:41 ID:uZ+2kZSq
乙です
頑張って。
お疲れ様です☆
続き楽しみにしてますッ♪♪
wktk(・∀・*)
「ねえ、・・・・・さっきの階段での会話・・・。あれ何だとおもう?」
部屋に帰り、コンビニで買ったご飯を食べながら、私はやっと話題を振った。
加持君はそんなことは忘れていたというような態度で答える。
「ああ・・・・・・なんだろうな?狂言の可能性もあるし、なんとも言えないな」
「狂言じゃなかったら・・・・・・?もし、またあの時みたいに爆発が起きたら・・・・・。皆に知らせなきゃ!」
「よせ!」
私が立ち上がって電話をかけようとするのを、加持君がひき止めた。
「爆発してからじゃ遅いのよ?!こんどは死人が出るかもしれないじゃない!
せめてリツコ達には・・・」
「よせ!・・・・・聞いたろ?大学のセキュリティは上がっている。大学に任せておけ」
「でもっ!」
「それを言って、パニックが起こって・・・でも狂言でした。だったらどうする?俺達が捕まるぞ」
「う・・・・・・・」
「大丈夫だ、大学に任せておけ。みすみす同じ事を起こすわけないさ・・・・」
加持君に説得され、私は受話器を置いた。
再び食卓に着く。加持君はすぐに話題を変えた。
本当は加持君自身も心配なはず。しかし、そんな素振りは見せない。
そしていつもの様にお風呂、布団・・・
とはいかず、加持君はいつも私が飲みすぎる為に平日は禁止にしているビールを
今夜に限って勧めてきた。明日は二人とも一時限から講義が入っているのに・・・だ。
私は何だか怪しいと思いながらも、大好物を勧められるままに飲み続けた。
そしてそのまま酔っ払ってリビングに倒れこんだ私を、加持君は抱き上げて布団へと運ぶ。
明日は・・・・休日じゃないわ。ちゃんと大学に行かなきゃ・・・・・・。ムニャムニャ・・・・
目覚まし時計は・・・・・・・・加持君のことだから、ちゃんとかけててくれるわよ・・・ね?
「ふわあ〜・・・・・・・むにゃむにゃ」
「・・・・・・・・・・おやすみ、葛城」
加持君のお休みのキスを受け入れたのを最後に、私は夢の世界へと意識が飛んでいった。
朝、目覚めると隣には加持君は隣にまだ寝ていた。
いつも大体、加持君が先に起きているので寝過ごしていないことに安心する。
昨日の酒が残っているのか、少し頭が重いわ。でも、大学にはいけるわね・・・。
さて、今何時・・・?え?えええええ?もう12時?!
時計を見ていきなり目が覚める。
「加持君!加持君!もうお昼よ!起きてええ!」
私は気持ちよさそうに寝ている加持君をたたき起こした。
「ん・・・・・・・?何?」
「何じゃないわよ!もうお昼よ!ああ、講義逃したのなんて久しぶりだわ!ヤバイわよ、このままだと」
「ん、ああ・・・・・そうか?休まないの?もう昼だし」
「そう言って前は1週間も休んじゃったじゃない!そういうわけにはいかないのよ!」
焦る私とは正反対に加持君はゆっくりと起き上がる。
いつもの目覚まし、ならなかったのかしら?
昨日からの不思議な偶然に、私は今日遅刻することをまるで図られていたかのような錯覚に陥ってしまう。
私が大急ぎで顔を洗ってリビングに帰ると加持君は優雅にテレビを見ていた。
「葛城・・・・・今日はもうココに居ろ。どこにも行かないほうが良い・・・・・」
「何言ってるのよ、午後からは出るわよ、わ・た・・・・・し・・・・」
加持君の冗談を軽く流すつもりで答えた私の目にテレビ画面が入る。
『緊急ニュース!東京大学でまたもや爆発』
テレビ画面には煙をもうもうと上げる校舎が映し出されていた。
ワクワクテカテカ(・∀・)
乙です
頑張って。
キター(゜∀゜)(゜∀゜)ー
「加持・・・・・・君・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
これは私たちには予想できた事態。
しかし、私達は誰にもそのことを伝えていなかった。
リツコに言っていれば・・・・・・・・。後悔が湧き上がる。
リツコが何かをしてくれるはずも無いし、他の人に言ったから爆発を防げるわけでもないが、
なにか他に出来たのではないか?
「昼間まで寝ていて良かったな・・・」
神妙な顔をする私の横で、加持君は平然とした顔でそう言った。
加持君は犠牲者のことが心配にならないのだろうか?私は驚いて加持君を見る。
加持君はあくびをして、洗面所へと向かった。
何かおかしい。
私が気づいたのはその時だった。
平然とした態度も、昨日私にお酒を勧めたのも、目覚ましを止めておいたのも、偶然が重なりすぎてはいないか?
もしかして・・・・・・・・まさかね。
一つの推論が頭をよぎったが、私はソレをすぐにかき消した。
加持君は洗面所で顔を洗い、ヒゲを沿っていた。どうやらこれから出かけるらしい。
あっ!私も大学に行かなくちゃ・・・・・。コトコやリツコが心配だし。
私も洗面所へと向かい、加持君の隣で顔を洗い、メイクを始める。
「葛城、どこか行くのか?」
「ええ、大学にね。友達が心配だし」
「・・・・・・・・今日はどこへも行くな。ここに居ろ」
「え?」
「ここから絶対に一歩も外へ出るな。分かったか?」
「・・・・・・・・・」
加持君、いつもと違う。こんな命令口調の加持君は今まで知らない。
だが、私は承諾の返事をしなかった。
「加持君はどこへいくの?」
「・・・・・・・バイトだ」
「・・・・大学の?」
「ああ」
「・・・・・・・・あなたも今日は外へ出ないで」
「それは出来ないな・・・」
「何故?」
「それは言えないな。あ、でも女がいるとかそういうわけじゃないぞ。ハハ」
加持君は冗談交じりに話し、空気を和ませようとしていたが、そんな事で私が誤魔化されるはずは無い。
でも、きっと、口は割らないわね、その様子じゃ・・・・・・・。
私はメイクを断念して洗面所を譲った。
リビングで自分の荷物を整理する振りをして、先日青葉君から貰ったものを探す。
えっと、確かこのチャックの中・・・・。あった!これだ。
これを、どうするんだっけ・・・・・・・・?
青葉君から教わった使い方を思い出す。
青葉君から譲り置けたものとは、小型の音声送信機だった。・・・・・悪く言えば盗聴器。
工学部の青葉君がラジオを分解してこれを作るのは朝飯前だった。
新たな伏線の予感ww 職人さんイイ(・∀・)
「試作品なので精度は保障しません。お遊び程度に使っていただければ・・・。
あ、でも一応、法律違反なので、ばれても俺の名前は出さないでくださいね」
「ええ、分かったわ。ありがとう・・・」
数日前、偶然キャンパスで青葉君に会った私は、
立ち話がてら冗談で、浮気調査用の盗聴器を作れないかと言った。すると、
「ああ、ありますよ。えっと・・・・・・はいこれ」
青葉君は自分のリュックから直径1センチ程度の円柱形の金属を取り出した。
それが送信機で、片手に持てるトランシーバー型の受信機とセットで私に手渡す。
私はそんなものを作っていたことと、いつも持ち歩いていたことに驚いたが、
青葉君は平然としていた。天才って怖い・・・。
「まさか、只じゃないわよね・・・?」
「もう新しいものを作ってしまったのでいらないんですよね。捨てるよりはリサイクルって事で・・・
あ、でもそれはもう他の人にはあげないでくださいよ?公になると厄介だから・・・」
「ええ・・・・・そうよね」
「捨てる時も、そのままじゃなくてぶっ壊してから捨ててください。
そうすれば一見、壊れたラジオですから、一般にはばれないと思います」
「分かったわ」
「それじゃあ・・・」
「うん、ありがとー!」
「どういたしましてー!」
青葉君はすぐさま自転車に乗り込み、走り去って行く。
私がお礼を叫ぶと彼も挨拶を叫んで返した。
その時はどうせ使うことなんて無いと思っていたけれど、・・・まさかこんなに早く使う日が来るとはね。
私は送信機に息を吹きかけて、受信機から聞こえることを確認した。
あとはこれを加持君の身につけるだけだ。
私は受信機をかばんに隠し、送信機を手に持って加持君の元へ近づいた。
内偵(?)ミサトさんwwハァハァ(*´Д`)=з
加持君は着替えの最中だった。
ヒゲをきれいに剃ってあったが、それ以外は普段の格好だ。
私は加持君を心配する振りをして抱きしめる。
「・・・・・・・あんなことがあったすぐ後だから心配だわ。気をつけてね」
私は抱きしめて背後に回した手から、ズボンの後ろのポケットへ送信機を滑り込ませる。
「ああ、必ず帰ってくるよ。だから心配するな」
加持君はポケットに気づかず私に別れの挨拶をする。
心配するな。という表情はとても固かった。
加持君は再び私に部屋から出るなと念を押し、玄関に立った。
私はキスをして、加持君を送り出す。
加持君のポケットに入っている送信機と共に・・・。
加持君が玄関の扉を閉めると、私はすぐにかばんから受信機を取り出した。
電源を入れると、かなり大きな雑音が耳を突き刺す。
ガタン! ガーがー ガタン! クーゴグーゴ・・・
うわっと!・・・ボリュームボリューム・・・
慌ててボリュームを下げる。どうやら自転車に乗っている雑音のようだ。
後ろのポケットに入れたのは少し間違いだったか・・・?
これじゃあ雑音だけで声が拾えないかも。
心配になるが、まあ試作品だし仕方が無い。過剰な期待はかけないでおこう。
大学までは自転車で15分ほどかかる。それまで性能は分からないか・・・。
私は暫く、受信機から聞こえる雑音をBGMに消音にしたテレビを見ていた。
どうやら爆発はまたもや人文学部の校舎で、死者は出ていないらしい。
爆発の規模も画面から推測すると窓2つ分ってところか。
前回よりは小さいみたいだ。大学のセキュリティを上げたかいがあるってもん・・かしら?
それにしても犯人の目的って何なのか?同じ校舎を2度も。
これじゃあ来年の受験生の減少は否めないわね・・・。
加持君・・・・・・・。まさかね。
再び推論が頭をよぎるが、私はすぐにかき消した。
勝手に自分で結論を出してしまって、最愛の加持君を追求するなんてまだ早い。
これから聞くことが出来るであろう会話を聞いてからで良いじゃない。
私は自分に言い聞かせて受信機から人の声が聞こえる荷を待った。
キー ガチャン ヒタヒタヒタ・・・
どうやら加持君は大学についたようだ。
自転車をおり、歩き始めた事が聞き取れる。
扉を開けて・・・階段を上がって・・・また歩いて・・・扉を開けて・・・
性能はかなり良いようだ。生活音が良く分かる。これだと会話もばっちりか?
私はテレビを消し、受信機から流れる音に集中した。
ヒタヒタヒタ・・・・シーン
靴音が止まった。目的地に着いたようだ。それから暫く無音になった。
これから誰と会うのだろうか?何をするのだろうか?
私は浮気という線も視野に入れながら事実を受け止める覚悟をする。
ガラガラ・・・・
約10分後。扉を開ける音が聞こえた。
誰か来たようだ!
「よお・・・・・・遅かったじゃないか」
加持君がなれなれしく挨拶をする。どうやら顔見知りのようだ。
やったわ、青葉君!しっかり聞こえるわ。あなたって天才よ!
私は静かにガッツポーズを決めた。
ドキドキ…
「あんな騒ぎの後だから怖気づいたかと思ったら、ちゃんと時間通りに来るとはね・・・。マメね、ぼうや」
「女性にはね。他はズボラさ・・・」
受信機から聞こえるのは凛とした女性の声だった。
年上だろうか?言葉使いの端々に熟女の色気が見え隠れする。
会話は案外リラックスした感じで行われていた。
「で、そっちの要求ってなんだっけ?」
「あら、聞いてないの?・・・それとも、覚えてないのかしら」
「さあてね・・・。聞いたかもしれないが、忘れたな」
「そう・・・。そう言いながらちゃんとその左手に提示してるじゃない。私が欲しいもの」
「あっ、ホントにこれで良かったの?・・・マグレだけど。良かったな」
「大人を茶化すんじゃないのよ、ぼうや。私にあなたが撃てないと勘違いしてるんじゃない?」
「そりゃ、どうも・・・女は怖いね」
撃つ。ですって?・・・加持君、もしかして銃口を向けられているの?
音声だけでは状況がすべて把握できていないが、
会話から加持君の置かれている立場を察して背筋がゾクッと寒くなった。
「さあ、ソレをこっちに渡しなさい」
「・・・はい、どうぞ」
「ありがとう。・・・でも、こんなに簡単にこれを手放すはずが無いわよね、あなたが」
「・・・・・・・」
「コピー取ってるでしょう?それはどこ?」
「・・・言えないな。ある人に渡してあるんでね、俺が死んだらすぐにネット上に流すように。って・・・」
「それは誰?」
「言ったらどうするのさ?・・・そのこも殺すのかい?」
「組織のためにはそれも必要ね」
「ふっ・・・・そうか。でも、あなたはきっと彼女を殺せない。俺はそう確信して彼女にソレを託したんだ。
大丈夫、心配しなくてもファイルは簡単には開けないようにしてあるさ。
パスが必要でね、そのパスを知ってるのは俺の最愛の人。コピーを渡した彼女には
もしも俺が死んだら、俺の最愛の人からパスを聞き出すようにって言ってある」
「いろいろと細工してくれたのね。でも、悪いけどこっちが優勢よ。あなたの命以上の物を私たちは握っているわ」
「・・・なんだい?それは」
「葛城ミサト!聞こえる?青葉君から貰った盗聴器は性能がかなり良い様ね。
あなたの体に仕込んだ盗聴器からも、こちらの会話がちゃんと聞こえてるわよ!」
女の勝ち誇ったような甲高い声が受信機を通して私の耳を突き刺す。
私の体中からドッと冷や汗が流れ落ちた。
私の体に盗聴器・・・?!
私は慌てて服を脱ぎ始めた。
どこに盗聴器が仕掛けられているというの?いつ付けられたの?
下着姿になって、着ていた服を良く見るが、ソレらしきものは全く付いてはいない。
じゃあ下着なの?私はブラを取り、丹念に見るがどこにもソレらしきものは無かった。
下も脱ぎ、調べる。駄目、分からない。どこ?
私は全身を両手でくまなく触り、違和感のある場所は無いか調べた。すると・・・。
ドクン ドクン・・・・・・・・
心臓の鼓動が高鳴った。冷や汗が増して出る。
ここなの・・・・?
私は自分の胸の傷に指をゆっくりと這わせた。
「・・・・・・・・・・どういうことだ?」
「そういうことよ。そして、はいこれ。これが彼女の体に仕込んである盗聴器の受信機。
私たちの会話が聞こえるでしょう?心臓の鼓動音と呼吸音が邪魔だけどね」
「・・・・・・・・・・・」
「驚いて声も出ないようね。・・・・彼女も驚いてるわ。心臓の鼓動が早いもの。呼吸も・・・。
まるで、あなたたちが始めてのsexした時みたいね」
「貴様・・・!」
「あなた、彼女に浮気を
>>599 すいません、途中で書き込んでしまいました。最後の一行からつづきます。
「あなた、彼女に浮気を疑られていたのよ。それで、今日こうして盗聴器を仕掛けられちゃったってわけ。
信用されて無いのね、ぼうや、かわいそうに・・・」
「っく・・・・・・・」
悔しそうな加持君の声。それを逆なでするかのように女は話し続ける。
「あなただって、葛城ミサト自身のことを本気で好きじゃないでしょう?
昔の恋人の面影があることと、セカンドインパクトの秘密を握っていたこと。
まあ、それだけでぼうやには付き合うに充分すぎる魅力ね」
「違う!」
「違わないわ。自分にとって得になりそうな人物と付き合うのは普通のことよ。
貧乏だって、料理が作れなくたって、レポートのために部屋をごみ溜めにしたって、
セカンドインパクトの鍵を握る人物ですもの。大切にしなきゃね。
それに一緒に住んでいれば自然と愛着がわくわ。他の男に取られたくないと思うようにもなるわよ」
「違う!・・・・・それは違う!!」
声を荒げる加持君。女は対照的に冷静だった。
「なにか話したら?葛城さん。あなたの体に仕込まれた盗聴器が、ちゃんと声を拾って
この受信機を通してぼうやにも聞こえるから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
女の話しかけに私はこたえることが出来なかった。怖くて何も話せない。
心臓はドクドクと未だ早く打っている。
あの女はゲヒルンの一員だ。そうでなければ私のここに盗聴器など仕掛けられるはずが無い。
セカンドインパクトの時、ゲヒルンは私を救助し、私は収容された病院で傷の治療をされた。
傷は胸骨の一部が削れるほど深かったので、私は全身麻酔下で縫合を受ける事となる。
多分その時、傷口の縫合と共に私の体内には・・・。
そうよね、口止めだけで私を野放しにするはずが無いもの。
ずっと聞かれていたんだ、光の巨人を口にしないか。
加持君とのロマンスの時も・・・・。
なんじゃぁっ
このネ申展開はっ…!
職人さん毎度毎度GJです(´∀`)
GJが止まりません三 ヽ( ^^)ノ
乙です
む。波瀾万丈ですね。
「さて、ここで交渉のやりなおしよ。新たなカードが増えたものね」
女は勝ち誇ったように一方的に話を進める。
「ぼうやが持っていたフロッピーのコピーが誰の手に渡されているかを白状すること。
そして、ぼうやと葛城博士の娘がゲヒルンに入隊すること。
これ以上大学を駆けずり回ってセカンドインパクトのことを探らないこと。
これがこちらからの要求よ。この条件をのんでくれるのなら
私たちはぼうやの命をこれ以上狙わないし、
ゲヒルン入隊後に葛城ミサトの体内から盗聴器を摘出してあげる」
「こちらのカードの方が一枚多いようだけど?」
「あら、あなたが知りたがっているセカンドインパクトの真実は
ゲヒルンに入隊すれば嫌でも聞かされるわ。これでこちらのカードも3枚ね。
どう?悪い条件じゃないと思うけど」
「・・・確かにそうだな」
「さあ、コピーを誰に渡したの?言いなさい」
「その前に・・・、ゲヒルンはどういう組織か説明してもらおうか。
そちらさんは本当に俺を必要としているのかい?
工学部の奴らにまぎれて俺を確保する意味があるのか?葛城も含めて・・・」
「カードが増えたけれど、まあこれはサービスね。副所長も言っていた事だから・・・。
あなたと葛城ミサトには人の心を扱ってもらいます。
ゲヒルンでこれからどうしても必要となる重要人物の心を・・・」
「いまいち、腑に落ちないね、中学生のお嬢さんを優しくエスコートするわけじゃないだろうし。
・・・まあ入隊すれば分かることか」
「そういうことよ。それから、もう一つ、あなたたちに有益な情報を教えておくわ。
ゲヒルンに入隊すれば国際公務員の称号がもらえます」
「国際公務員だって!?」
「そうよ、驚いたでしょう?私たちのしていることは国際機密に関する事で、
一般人に詳細は述べられません。しかし、その任務は人類を救う重大なプロジェクトの
一端を担っているの。だから、職員は皆その扱いとなります。・・・どう?入りたくなってきた?」
「少しな・・・。だが、あんたら怪しすぎるぜ、大学を爆破したり、葛城の体に盗聴器を仕込んだり。
良い大人がやることじゃ、ない」
「つべこべ言わずに吐きなさい!誰に渡したの?」
女が声を荒げた。
「・・・・・・」
「言えない様ならここでジ・エンドよ。私はあなたを撃って、私の仲間は葛城ミサトを確保。
そしてパスワードを聞きにやってきた持ち主を射殺。・・・これで全て丸く収まるわ」
「っく・・!」
「甘いわねぼうや。心を扱うものはこの際一人でも構わないのよ・・・」
高らかに笑う女。
やばい!このままじゃ加持君は撃たれる!
「やめて!」
私は叫んだ。
そして、私の叫び声は、同時に受信機からも聞こえたのだった。
「ふふっ・・・ようやくとらわれたお姫様の登場ね。あなたが叫ばなかったら
私は引き金を引いていたわよ。良かったわね、ぼうや・・・」
「・・・お願い、もう止めて。私、ゲヒルンに入隊します。・・・だから、加持君を撃たないで」
私は素性の分からない声のみの女に対して必死に懇願していた。
「ですってよ。どうするの?ぼうや」
「葛城、・・・・・迷惑かけてすまない。だが、こういう正義もあるんだ。
大丈夫だ、こいつにコピーの持ち主は殺せない。だから・・・俺は命をかけてこの真実を」
「嫌よ!嫌!加持君がいなきゃ私は駄目なの。死んだら許さないんだから!」
「葛城・・・」
「流石は私たちの見込んだお姫様ね。口は堅いし、交渉は早いし。・・・ぼうやとは大違い」
「葛城、俺の話を聞くんだ。今、ここで屈したらきっと俺は一生後悔する。
真実を隠して、人の目を騙して生きていくなんて、都合の言い事は俺には出来ないんだよ」
「だからってここで死ぬの?そんなの勝手よ!何の相談もなしに独りで決めて・・・。
私を愛してるんじゃなかったの?!」
「愛しているよ。今でもずっと・・・・・」
「じゃあ、あっちの条件を飲んで」
「葛城!」
「あなたが死んだら私はまた独り。そんなの嫌!一緒にいる幸せを感じさせておいて
今度は独りになれだなんて、そんなの・・・・・・・・出会わなかったほうがマシだわ!」
「葛城・・・・・・」
確かに私はゲヒルンから非人道的な処置をされた。
プライバシーの全く無い生活をこれからも続けなくてはならないだろう。
でも、私はゲヒルンに命を助けられた存在でもあるのだ。
ゲヒルンは私の感謝すべき存在でもある・・・。
「いい?私たちが真実を隠すのには理由があるわ。・・・公表してしまったら混乱を招くからよ。
普通では信じられないことがセカンドインパクトの原因よ。ソレを一般人が知ったら
世界は再び混沌とするでしょう。だから私たちは博識のある一部の人にしか漏らせないの。
決して自分たちだけの理由からではないわ。・・・ソレを理解して頂戴」
「・・・・・・・・・分かったよ。コピーの持ち主を言う」
加持君の決断に私はホッと胸をなでおろした。
「・・・・・・やっとそう来たのね。文系と話すのには根気が要るのね」
「持ち主は・・・・・・・あんたの愛娘だよ」
「なんですって!・・・・・・どこまでも用意周到なのね、ぼうや」
「そうだ。一応、汗水たらして得た情報なんでね。失うのは惜しいさ」
「親子を手玉に取るなんて。大物になるわ」
「で、どうするのさ?取り返すのか、あんたが・・・。今までアメリカにいると騙していたのに」
「勿論よ、私がリツコに会いに行くわ。そして、久しぶりに親子の会話をね・・・」
「ふっ、リッちゃんのことになったら表情が変わったな。母親の顔になった」
「当たり前でしょう。悪い?」
「いや・・・」
「おうちに帰ってお姫様にお礼を言うのね。命を救われた。
数年後に会えるのを楽しみにしているわ・・・」
「俺はその時が来ないことを祈っているよ」
「大丈夫よ、その時になったら、あなたはやる気で胸を躍らせているだろうから・・・」
「さて、どうだろうね・・・」
「気をつけて帰るのよ」
「やれやれ、さっきまで俺の命を狙っていた人とは思えないな・・・」
ガラガラガラ・・・ ヒタヒタヒタ
加持君が教室を出た音がした。私は緊張の糸が切れ、へたり込んだ。
「葛城、聞いてるんだろ?帰ったら、俺に盗聴器を仕込んだことをみっちり尋問してやるからな」
すぐに受信機から加持君の怒りを含んだ声が聞こえた。
「違うのよ、加持君!浮気を疑って仕掛けたんじゃ・・・」
私は言いかけて、この声が加持君には届いていないことに気づく。
どんな顔して帰ってくるのだろうか?
なんだか怖いけれど、生きて帰ってくるのは嬉しい。とても複雑な気分。
私は部屋でじっと加持君が帰ってくるのを待った。
グレート乙
ますます依存症になりそうです(´∀`*)
どうしてくれるっっ!(笑)
ガチャン ギーコギーコ・・・
加持君が自転車に乗ったようね。
私はまだ盗聴器の電源を入れている。あっちの行動が手に取るように予想されるからなんだか楽しい。
これは癖になりそう・・・。
「葛城。もしもまだ盗聴しているんだったら、電源を切れ。さもないと、後でひどいぜ」
加持君はそんな私の気持ちなぞお見通しだったようだ。釘を刺される。
はいはい、分かったわよ〜〜。
私はどうせ電源を入れていてもばれないと思いながらも、言われるままに電源を切った。
30分ほどして玄関の鍵をあける音がした。
思ったよりも遅かったじゃない、待ちくたびれたわ。
加持君にどんなに攻められるんだろうという緊張感もほとんど解けてしまっている。
私はそれでも死にそうな目に会った勇者との再会をいち早く出来るように、玄関へとお出迎えに行った。
「おかえりなさーい」
「・・・・ただいま」
私が出迎えると加持君はむすっとした表情のまま挨拶を返した。
あは、やっぱり怒ってる・・・。
30分という時間でも加持君の怒りは冷めなかったか・・・。
私は覚悟を決めてソファに座った。
加持君は疲労した様子で私の隣にドカッと腰を下ろし、すぐに不満を話し始めた。
「全く、俺の交渉をしっかりと阻害しやがってっ・・・!」
「・・・・・・・・・ごめん」
「葛城が割り込まなかったら、もっと収穫があったかもしれないんだぜ?
それを、自分で勝手に交渉始めて・・・。俺の今までの努力はなんだったんだよ!」
「・・・・ごめん」
そこまで一気に不満をぶちまけると、気が済んだのだろうか、加持君はトーンを変えた。
「ふう・・・・・。葛城の体に盗聴器だって?・・・聞いてるんだろうな?この会話」
「多分・・・・」
「おい、ゲヒルンのお偉いさん方。少女の体に盗聴器を仕掛けるなんて、酷いは思わないかい?
はっきり言って、人の道を外れている。人類を救うプロジェクトを進めている組織なら、
人の為になる行為というのが何なのか、もう一度考え直す必要があるな。
俺が入隊するまでに、そこの軌道修正がなされていることを願うよ・・・。
それから、俺と葛城の二人きりでいる時は盗聴器の電源を切っていて欲しい。
なんの目的で葛城に盗聴器をつけたのか分からないが、俺が何かを聞いたとしても
どうせゲヒルンに入り、あんたらの仲間になるのだから構わないだろう?
分かっていることだと思うが、葛城は俺にしか見せない顔や、二人きりでしか話せない話がある。
他の人が聞いていると思ったら、俺達は普段の会話ですら本音で話せないんだ。
今までの俺達の関係を崩さないでくれ。頼む・・・」
どこまで相手が真剣に聞いてくれているのか不確定なのにもかかわらず、
加持君は真剣に私の傷に向かって話していた。
そんな加持君を見ていると、私は胸が熱くなってしまう。
私は愛されているんだ。加持君は私を守ろうと必死なんだ。
そう感じて私は、目頭が熱くなった。
「さて、これで、電源は切れたな・・・」
「そんなすぐに切ってくれるわけが無いと思うけど・・・」
「いや、いいんだ。電源は切れている。そう思うんだ」
「うん・・・・」
「と、言うわけで葛城・・・。俺に盗聴器を仕掛けた経緯を話してもらおうか?」
「へ?」
加持君の顔が違った意味で真剣になる。
「浮気調査が何だってぇ?」
「いや、違うのよ加持君!最近、青葉君に会ってね、それで自作のいいものあげるって言うから
貰ったの。だから浮気を疑ったんじゃないのよ!」
「ほーう?それじゃあ、俺になんで突けた訳?」
「いや、性能はどうかと・・・思いましてぇ・・・」
「性能なんて人につけなくても調べられるだろ?!」
「あは・・・、そうですよねえ?」
「やっぱり、俺を探ろうとしていたんだな?」
「う・・・・加持君が怪しい行動取るから悪いのよ。爆発直後にバイトだなんて・・・。心配で、付けたの・・・」
「かっ・・・葛城ー!」
「ごめんなさーい!」
殴られる!と思ったが、そんなことはなかった。
加持君にきつくきつく抱きしめられる。
「・・・・?加持君、苦しいよ・・・」
「葛城・・・・・ありがとう」
「ん?・・・・・・どういたしまして?」
「ぷっ、わかってない」
「わ、分からないわよ。いきなり、ありがとう。だなんて・・・」
「命拾いしたからさ。・・・盗聴器と君のおかげで」
「・・・・・さっきは怒ってたくせに・・・・・」
「まあな・・・、手柄を持っていかれた気がしたからさ。・・・気が立ってた、ごめん」
「大事な交渉に口出して、ごめんなさいねぇ〜」
「う・・・かわいくない。謝ってるのに」
「ふふっ」
乙!
感じる、加持君の温もり。血の通った生きている体温。
さっきまで、一歩間違ったら死んでいた状況にいたなんて信じられない。
私たちは抱きしめあい、ゆっくりとお互いを確かめ合うようにキスをした。
「・・・・・・・・加持君?」
「ん?なに?」
「どうして、こうなるのかなあ?」
「ん?何か不自然?」
「うん。不自然」
「そうかあ?・・・いつもと同じジャン。抱きしめあって、キスして、・・・って流れ」
「そういう意味じゃなくてぇ〜。そういう気分になるのが不自然なのよっ!」
私は上に乗っている加持君を跳ね除ける。
みぞおちに膝蹴りが入って、加持君は仕方なく上体を起こした。
「生きて帰って来たからには、やっぱり生きてる!っていう実感を感じたくてね・・・。駄目か?」
「駄目」
「いつなら、オッケー?」
「い、いつならって問題じゃないのよ・・・」
「なに?気分的なもの?」
「そうよ・・・」
だって、きっとまだ盗聴されているに決まっているもの。
頼まれてそんな簡単に電源を切るわけが無いじゃない。
「盗聴器か・・・・?」
「・・・・・・・・ええ」
加持君も引っかかっていたのだろう。私の心境は簡単に見破られた。
「言ったろ?電源は切れている。そう思うんだ」
「そんな簡単に思えるわけ無いじゃない。多分切ってないわよ、あの組織ことだから・・・」
そうよ、そんな簡単に電源を切れるのなら体に埋め込むなんて手段とるはずが無い。
乙です
なるほど。がんばって。
「良いんだ、実際に切れていようがいまいが、それを実証する手立ては無い。
だから切れていると思ってこれから生活するんだ」
「無理よ!全部聞かれてたのよ、今まで。二人っきりの時間なんて無かったのよ、本当は・・・」
「いや、あったさ。二人で何も話さずに過ごした時間が。睡眠を入れればそっちの方が多いくらいだ」
「・・・・」
「大丈夫だ、電源は切ってある。今は俺達二人だけの時間だ。そう思うんだ・・・」
加持君はそう言って私にキスをし、服を逃がせにかかる。
首筋に息を吹きかけられて思わず声が漏れた。
「やっ、やっぱり嫌だ・・・」
「恥ずかしいの?聞かれてても構わないさ、聞かせてやれよ、葛城の良い声を・・・」
「嫌よ、そんなの・・・」
「じゃあ、声を出さないんだな」
「そんなの無理っ・・・・くう・・・あ・・・やめてよ」
抵抗するが加持君は引かなかった。どんどん攻めて来る。
「もうその気になったから止まらないよ」
「嫌よ、駄目。止めて・・・」
私は全身に力を入れて体を強張らせた。
力を抜くと声が漏れてしまうので気が抜けない。
加持君は攻めていた手を一時休めた。
そしてガチガチに固まっている私を優しく抱き寄せ、頭を撫でて言った。
「大丈夫だ、電源は切ってある。・・・誰も聞いてはいないさ。
だから俺だけを見ていろ、葛城。他は何も考えるな」
「そんな・・・」
「しっ、黙って。俺だけを見ているんだ、他のことはどうでもいい。
今、重要なのは俺達の関係だ。俺はこうして生きて葛城の元に帰って来た。
心配かけたな。だが、もう安心して良いんだ・・・」
「・・・・・・・」
加持君は私の頭を撫で続ける。そう、まるで子供をなだめるように。
その優しい仕草に少しずつ私の体は柔らかさを取り戻していった。
「そうだ、安心して良いんだ・・・。電源は切ってある。俺だけを見ているんだ・・・」
繰り返し繰り返し、加持君はその台詞を呪文のように唱える。
私は暗示にかかってしまい、だんだんと体から力が抜けていった。
私がリラックスするのを見計らって加持君は続きを開始する。
「っくっは・・・・あ・・・いや・・・」
「大丈夫だ。安心して。俺だけを見て・・・」
「ああっ・・・くふう・・・・・」
「そうそう、良い子だ・・・」
「ああっ!・・・・・・・はあっ・・・・」
私はついに、加持君の誘導に身をゆだねてしまった。
心の片隅に不安はあるが、体が快感を思い出すにつれて、なんだかどうでも良くなってくる。
そのまま、優しくて甘い加持君の誘導に応じながら、私の心は平穏を取り戻していく。
大丈夫よ。誰も聞いていないわ。これからだって大丈夫・・・。
「大丈夫よね?きっと・・・」
「ああ、そうだ、大丈夫だ・・・」
「これからも・・・・ずっと・・・?」
「ああ、これからもずっとだ・・・」
「ずっと・・・あなたとなら大丈夫・・・?」
「ああ、ずっといつまでも・・・俺と一緒に・・・」
「んああっ!・・・」
いつもよりも感じるのは緊張が解けたせい?
それから私は夢中で加持君の腕の中に身をゆだねた。
二人の吐息が混ざり合う。
私は熱にうなされているように、夢と現の間を行ったり着たり・・・。
盗聴器のことなど考えぬようにして、加持君に全てを任せた。
900になって欲しくなさす(○。ノД`。)
最初は駄スレだと思っていたが…
次まだー?
おはマグ!
631 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/12(日) 19:51:52 ID:ivmYXm7l
すげーよ 職人さん
むぎさんは子育て真っ最中だけど感想送ってあげたら?
日記も公開してるぞ。
htp://homepage3.nifty.com/~dollasea/
634 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/13(月) 05:12:43 ID:vjXLbgz+
昨日の夜からずっと読んでたら気づけば、もうこんな時間!俺の睡眠返せ!wつーか一部職人様の体験談入ってない?気のせいか・・・
リアルでいいよな(´∀`)
>>634 体験談は・・・ハムちゃんの死の話くらいしかありません。ってことにしておきます。
ハムちゃんの話も加持&ミサト風に脚色してありますし、自分の体験とはまるで違いますが。
では次のお話・・・。
「うーん、先月は6日でしょう?そうなると、遅れても15日には来てるはずなんだけどなあ・・・」
私は今、カレンダーとにらめっこをしている。
もう、分かる人は分かるわよね。
そう、月経。
今月の生理が遅れているのだ。
どれくらい遅れているかというと・・・2週間もよ。
そろそろ覚悟を決めて産婦人科を受診するかどうか、悩むところだわ。
旧世紀には薬局で妊娠検査薬を買って、自分で妊娠判定が出来たのだけれど、
今の時代は違う。
前にも特別授業であったように、現在の日本では「子供を産むのには経済的審査」が必要。
出来ちゃったから産む。なんて単純なわけには行かない。
だから、政府は妊娠検査薬なるものを一般販売することを中止した。
そっか…職人様もつらい思いをしたのですね(つД`)∴
横レススマソorz
検査薬を一般人が使って判定出来ると、闇で産む人が増えるので、それを阻止する目的らしい。
なので、妊娠を疑ったらまずは受診し、もしも妊娠していて、かつ経済的に産めない人は
その日のうちに中絶の予約をする。という流れになっている。
産めそうな人は所得を役所に提出。そして出産許可書をもらわないと、出産は出来ない。
勿論、未婚、学生、無職の人は、所得を役所に・・・。なんてことはしないで即に中絶が決定されるのだ。
今の私がもしも妊娠していたら、・・・確実に中絶コースだわね。
「はあ・・・・」
自分の置かれている現実にため息が出てしまった。
もしも、そんな法律がなくて、旧世紀のままだったとしたら、産んだ?
もう一人の私が問いかけた。
・・・・・・・多分、産まないわね。
どちらにせよ私は妊娠を希望してはいないんだわ。
「はあ・・・・・・」
中絶の理由を法律のせいにして逃げてしまっている自分に気が付いて、またため息が出た。
期待アゲ
とりあえずは、受診か・・・。何時なら午前中の講義空いてるかなあ?
私は講義の予定表を取り出し、予定を確認した。
うーん、来週まで無理か。
まあ、来週までに生理が来るかもしれないし、そう急ぐことでも無いわね。
避妊はちゃんとしていたから、ただの不順だと思うけど・・・。
でも、100%の避妊なんてありえない。
そう考えると、不安が増した。
はあ・・・ついに来たか、こういう心配をする時が。
今まで順調すぎたもんなあ、生理が。
私の生理は重いけれど、大体30日で周期はちゃんとしている。
乱れても前後5日ってところか。こんなに遅れたことなんて、はっきり言って無いわね。
だからこそ、今回はただ事じゃない気がして・・・。
あー、嫌だ!妊娠してたらどうしよう?!
有無を言わさず中絶だわ、学生だし。
・・・手術って痛いのかしら?加持君にどう伝えようか?
私は頭を抱え込んだ。
ガチャガチャ
私が悩んでいると、玄関の鍵を開ける音がした。
加持君が帰って来た!
・・・やっぱり、パートナーとして言うべきよね?生理が遅れてるって・・・。
私は覚悟を決めて加持君を玄関へ迎えに行った。
「ただいまー」
「おかえりー・・・・・・・って?」
「お邪魔します・・・」
「リツコ!?」
「やあ、帰りに校内で会ってね。ナンパしてしまったよ、今夜飲まないか?って・・・」
加持君が笑顔でリツコを招き入れる。
なに?聞いて無いわよ、リツコが来るなんてっ!
私は驚いて一瞬その場に立ち尽くした。
私の伝えたい事は今夜、加持君には言えないみたい・・・。
泣きながら一気に読みました
643 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/16(木) 08:12:35 ID:0l61Nj39
職人さん乙
次まだ??
マターリ待ちます(´∀`)
「へー、ここが二人の愛の巣ねえ。思ったよりもさっぱりしてるじゃない」
部屋をグルリと見回してリツコが感想を述べる。
「そうかい?ささ、奥へ奥へ・・・」
加持君はリツコをソファへと連れて行った。
加持君の手にはコンビニ袋いっぱいにビールとチューハイ、それにおつまみが詰まっていた。
「一応つまみ買ってきたけど、最初は晩酌から始めたいねえ。葛城、今日の晩御飯は?」
「・・・・・カレー」
「おっ、いいね。リッちゃんも食べるだろ?」
「良いのかしら?」
「ええ、大丈夫、沢山あるわ。ビールに合うか分からないけど・・・」
「じゃあ、頂くわ」
「結構旨いぜ、葛城のカレー」
「まあ、楽しみね」
二人は早速、買ってきたお酒を机に並べ始めた。あまったものは冷蔵庫に入れる。
私はカレーを3人分盛り、机に並べる。
「じゃあ、食おうぜ」
「うん。いただきまーす」
「いただきます」
パク
うん。いつも通りにおいしく出来てる。私も慣れたものね。
まあ、一人だとカレーしか作れないけど・・・。
「うん、やっぱり旨い。上達したなあ、葛城」
「やだあ、ありがと」
「・・・・・・・・」
「どしたの?リッちゃん」
「・・・・・・・何というか個性的な味ね。このカレー」
リツコは私たちとは違って顔をしかめていた。
恐る恐る、感想を聞く。
「口に合わなかった・・・?」
「ん、まあね・・・。コンビニの味に慣れすぎちゃってるみたい」
「そう・・・」
気を使いながらも、リツコははっきりと口に合わないことを示唆した。
おいしいと言ってくれるかと思ったのに・・・。がっかり・・・。
「まあ、二人がおいしいなら良いんじゃない?味覚が合うって大切よ」
「ま、そうだな」
結局リツコは一口食べたのみで、その後カレーには手をつけなかった。
加持君はおかわりしたのに・・・。
好みの違いってこんなに差があるものなのね。ちょっとびっくり。
649 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/16(木) 22:17:14 ID:1VQ4IuP4
あげ
乙です
加持も味覚音痴なのか。
それから私たちは乾杯をして、宴会が始まった。
「ぐびぐびぐび・・・。ぷはー!くうう、うまーーい」
「ミサト、もう一本空けたの?」
「おっそろしいだろ?葛城の飲みっぷり。すぐに潰れるけどな」
「あら、そうなの?短距離ランナー?」
「そうそう。俺達はマラソンで行こうか・・・」
「そうね、いろいろとお話したいし」
「リッちゃんは酔ったらどうなるの?」
「さあね?酔うほど飲んだこと無いから」
「そうか、じゃあ酔わせてみたいな。どんなに乱れるか、見てみたい・・・」
「まあ、ミサトの前よ?」
「構わないさ・・・」
「くっ、コラーーー!あんた何リツコ口説いてるのよ!リツコもなに?拒否しなさいよ!」
ん?なんか良い雰囲気。おもしろくない!
私は思わず嫉妬してしまい、声を荒げた。
「はは、冗談だよ。分かってないなあ、葛城は」
「ぷっ、可愛いわねミサト。嫉妬しちゃって・・・」
「なっ・・・なによお・・・」
二人は申し合わせたように笑う。
それが私にはますます気に食わなかった。
ムカムカムカ・・・・。
こんな気分の時は酒が進むわっ!
私はそのまま2本目のビールを一気に空けた。
3本目を開けようとした時、加持君が私からビールを取り上げる。
「ちょっと、まだ飲み足りないわよ?」
「ペース落とせ。お客さんがいるのに吐くつもりか?」
「うっ・・・・・・分かったわよ。ふんっ」
加持君に諭されて、私はむすっとしながらビールを手放す。
その様子をリツコはニコニコと微笑みながら見つめていた。
「何が面白いのよ・・・リツコ」
「ん?ああ、ごめん。なんだか二人を見てるとほのぼのしちゃってね・・・。
大学ではなんだか険悪で、うまく言ってるのかちょっと心配だったけど、
家ではちゃんと仲よさそうで、安心したのよ」
「なっ・・・・・違うわよ別に仲良くなんて・・・ないわよ」
「ちゃんと加持君がミサトのこと心配してくれてるじゃない。いいわねそういうのって」
「・・・・・・・・・・」
私は思わず下を向いて黙ってしまった。
確かに私と加持君は大学だと周りの目を気にして多少は演技している。
でも、改めてそれをリツコに指摘されると、とても恥ずかしい・・・。
「いやあ、流石はリッちゃん、よく見てるね。まあ、結構これでも気が合うってことさ」
「うふふ、そうみたいね・・・。二人がうまく行くことを願ってるわ」
「それは、ありがとう」
「式には呼んでね」
「はっ・・?!な、なに言ってるのよ、リツコ」
「そ、そうだよ、気が早すぎるよ、リッちゃん。いくらなんでも・・・」
「うふふふふふふふ。良いじゃない、もう婚約しちゃいなさいよ〜」
「本当に、何言うのよリツコ。・・・・もしかして、もう酔っちゃってる・・・?」
「ええっ?まだ乾杯したばっかりだぜ?」
私はリツコが手にしているチュウハイを確認した。
「まだ半分くらいしか飲んでいないけど・・・。でも、もう顔が紅いような・・・」
「・・・・・・・・リッちゃん、お酒飲むのこれで何回目?」
「ん?はじめてよぉ。誰も誘ってくれなかったから、今まで〜。
だってぇ、私はあの赤木ナオコの娘で、髪も金髪に染めちゃってるしぃ〜。
そりゃあ、とっつきにくいのはご承知の上ですからあ〜」
「・・・・・・弱い、弱すぎるわ、リツコ・・・・・」
「マジかよ・・・。下戸?」
私たちは顔を見合わた。加持君も私と同様に”あちゃ〜”という顔をしている。
そして、私はすぐさまリツコの手に持っているチュウハイを麦茶に摩り替えた。
乙です
下戸リッちゃん。
まち
しかし、麦茶を飲み始めたからといって、すぐに酔いが冷めるはずがなかった。
「本当、安心したわ。二人がなかよくってぇ〜。うらやましいわあ」
「リツコ、あのねぇ・・」
「ねえ、ミサト。加持君の胸ってどうなの?」
「は?!・・・・・・」
「加持君の胸よぉ、男の人の胸ってどんな感じなの?」
「なっ・・・何言ってるのよ、リツコ」
「そうだよ、リッちゃん。葛城のを聞くのなら兎も角、俺の胸なんて聞いてどうするのさ?
Aカップも無いし、固いし、面白く無いぞ?」
リツコの突然の質問に戸惑う私達。しかし、酔ったリツコはお構いなしだった。
「あったかい?広い?女に抱かれるのとはどう違うのかしら?」
「どう違うって、リツコ、いい加減にしなさいよ・・・」
「無理を承知でお願いがあるの。・・・私、加持君に抱きしめた貰いたい」
「リツコ!?」
「リッちゃん?!」
二人とも思わず声が大きくなった。
リツコ、酔ってるからって、言って良いことと悪いことがあるわよ。
一気に嫉妬で胸が熱くなった。
そんなお願い、飲めるはずが無い。相手がリツコであろうともだ・・・。
しかし、リツコは話し続ける。
「私ね、父親の顔を覚えていないの。物心の付かないうちに両親が離婚して、
それからは母と二人きり・・・。だから、私は父のぬくもりを知らない」
リツコは次第に悲しげに影のある表情に変わる。
「母には沢山抱きしめてもらったわ。でも、父に抱きしめられて育った記憶は無い。
だから、一度で良いから男の人に抱きしめられる感覚が知りたい。
・・・・それなら恋人を作れば良いのだけれど、それも怖いの」
そして、一筋の涙。
そんなリツコに私と加持君は同情してしまっていた。
「お願い、今夜だけ。・・・一度だけ、加持君に抱きしめて欲しいの。
酔った勢いもあるわ。だから・・・今しか頼めないわ、こんなこと」
リツコの酔いはもう冷めてしまっているようにも見える。
同情したとはいえ、私はまだ彼女のお願いを飲むには迷いがあった。
しかし、加持君はもう女の涙に毒されてしまっていた。
「葛城、・・・どうする?」
加持君は私から了解を貰おうと問いかけてきた。
私はまだ嫌だった。
でも・・・・・・ここで嫌だと言ったらリツコと加持君にどう思われる?
心の狭い女だと思われるに違いないし、二人は私に期待を裏切られたように思うだろう。
自分の本音と、二人への外面との間のジレンマに一瞬苦しんだ。
だが、私の出した結論は、加持君に嫌われたくないということだった。
「どうぞ・・・」
加持君は私の了解を得ると、ゆっくりとリツコを引き寄せ抱きしめる。
やっぱり嫌だ・・・。
二人が寄り添っている姿を見て私は許可を出したことをすぐに後悔した。
「ありがとう・・・。広くて暖かいのね・・・」
リツコはそう言って満足そうに目を閉じて微笑んだ。
くー、早く離れなさいよ!加持君も内心うれしいんじゃないの?私以外の女を抱けて。
なかなか抱きしめた腕を放そうとしない加持君に私はギリギリと奥歯を鳴らした。
「人は誰も二面性を持っている。リッちゃんも漏れずにその一員だったわけだ・・・」
加持はそうつぶやいてリツコを体から放した。
リツコはまだ満足そうに目を閉じて微笑んでいた。
「・・・・・・リッちゃん寝ちゃったな」
加持君の声で私は初めてリツコが眠ってしまっていたことに気づいた。
加持君の胸に抱かれて何を思ったのだろうか。
寝てしまうほどにリラックス出来たのね、きっと。
加持君の胸に父性を感じて・・・。
父性?!
私はハッと気づいた。
加持君の胸に父性を感じていたのは・・・・・・・リツコだけなの?
背筋がゾクッと嫌な気分に覆われる。
・・・・・違うわ、私は違う。私は父のことなんて大嫌いだし、加持君に父性なんて求めてはいない。
私が加持君に求めているのは、愛情よ。恋人としての深い愛情。
リツコとは違うわ。
「布団敷くわね・・・」
私は自分の嫌な気分を振り払うかのように、自分から行動を起こした。
布団が敷けると、加持君はリツコを抱き上げて布団の上にゆっくりと寝せた。
リツコが起きることなく静かに眠り続ける様子を見て、私は息を付く。
「参ったわね・・・リツコが酔うと、こうなるとは・・・」
私たちはソファへ座る。これから飲みなおしだ。
「ホントにな・・・。でも、俺達との飲みが最初で良かった。
もしも合コンだったら、多分お持ち帰りされちまってるだろうな」
「なっ、何てこと言うのよ」
「こういうタイプはそうなんだ。普段はクールにきめてるが酔うと簡単に隙が出来る。
で、男はソコに漬け込む・・・。後で厳しく言っておかないと、リッちゃんいつかはめられるぜ」
「まさか、考えずぎよぉ・・・」
「果たして考えすぎかな?体目当てなら、まだ可愛いが、厄介なのは・・・
彼女の才能目当てで近づく男がいるってことだ」
「才能目当て?」
「そう。リッちゃんの頭脳。それを利用するために酔わせて体を先に頂く。
すると、リッちゃんは男性経験が無いだろうから、もう骨抜きさ、きっと」
「あとは・・・その頭脳を自分の為に使わせる・・・」
「そう、そうならないためにも厳しく言っておかなきゃならない」
「そう・・・」
リツコがどうなったって他人だからどうでもいいじゃない、とも思ったが、
加持君の手前そういうことが出来なかった。
乙です
冷めた友情?伏線
>>664 いえ、書いちゃってもいいのかな?ここまでの伏線は
加持に父性を見ていたと気が付くミサト(別れの予兆)。と
将来、リツコがゲンドウに良いように扱われちゃう予兆。です。
それから私たちは盛り上がることもできず、すぐに飲むのをやめ、後片付けに入った。
食器を二人で洗う。
「俺、今夜ソファーで寝るわ。葛城はリッちゃんの隣で・・・」
「うん・・・」
「なあ、葛城」
「うん?」
「さっき、嫉妬で押しつぶされそうな顔、してただろ?」
「なっ・・・・・・・して無いわよ、別に」
「そっかあ?いざ、許可したところでいたたまれなくなって、早く放れろとか思ってたんじゃないか?」
図星を突かれて私は言葉を失った。
「・・・・・やっぱりな」
「良いのよ別に、良い事したんだから。リツコも満足そうに寝たし」
「そうだな・・・リッちゃんが目つぶってて良かったよ。
もしも葛城の顔見たら、恐ろしさで自分から飛びのいただろうな。
それくらいすげえ顔してた、・・・葛城は」
私をからかうように加持君は話す。
人の気を知っておいてわざとリツコを抱きしめたの?
私はそうかと思うと、なんだかムカムカとしてきた。
「怒ったな・・・顔に出てる」
「悪い?」
「別に悪くは無いよ。表情が豊かでよろしい」
「く〜〜〜〜!」
何なのよ加持君!私をわざと怒らせたくて話しているの?不愉快だわ、とても!
私は奥歯に力を込めて怒りを腹の底へと沈め、貝になった。
もうこれ以上加持君にからかわれるのは嫌だったから。
「ありゃ、もっと、怒っちゃったか・・・」
「・・・・・・・・・・」
当たり前でしょう?!
「でも、うれしかったよ。葛城が怒ってくれて・・・。嫉妬してくれてさ」
「・・・・・・・・」
は?何言ってるんだか・・・。
嬉しそうな加持君に、まだ怒り冷め遣らぬ私は無言で答えた。
そこで食器洗いが終了する。
加持君は手を拭くとすぐに腕を私の腰に絡ませた。
そして私たちは至近距離で顔を見合わせる。
「なっ!・・・なによ?」
「怒ってるんだろ?リッちゃんと俺に対して・・・」
「そうよ・・・。だから何?」
「ごめん・・・」
「あ、謝れば良いってもんじゃ・・・ないのよ」
「じゃあ、どうすれば・・・?ああ、俺の胸はこうして葛城にお返しするよ」
そのまま加持君の懐に囲われる。
リツコの言っていた、広くて暖かい胸が私を心地よく圧迫した。
私はそれで自分の怒りが引いていくのを感じた。だが、全てとまでは行かなかった。
「こんな事で丸く収まるとでも思ってるの?」
「じゃ、・・・唇は?」
加持君は私を一旦体から放し、私の目を見つめた。
漆黒の情熱を秘めた瞳が私の瞳を捕らえる。しばらく、にらみ合ったように私たちは数秒間見つめあった。
「ごめん、葛城。許してくれ・・・」
それから、加持君は降参したかのように瞼を閉じ、私に近づいてくる。
唇と唇が触れた。
降参させられたのは私だ・・・。私はその時に悟った。
一粒涙が流れ始めると、後から後から流れてくる。
悔しい悔しい・・・・嬉しい。
私は加持君のキスを受け入れながら、
自分の怒りが全て喜びに摩り替わっていくのを感じた。
「さて・・・寝るとするか」
「そうね・・・」
加持君は私の涙が引くのを待ってからそう言って、掛け物を手に持ち、ソファに寝転んだ。
リツコは横になって寝息を立てている。
私は電気を消し、リツコの隣の布団に寝る。
私は暗闇の中、加持君と他愛も無い会話をしながら、伝えたいことを切り出すタイミングを探っていた。
「リツコ、何時に起きるかしら?」
「9時前に寝ちゃったからなあ・・・。5時前か?そりゃ勘弁だ、折角の休日なのに」
「そうよね、もっと長く寝てもらわないと・・・。でも、早く起きそう。うふふ」
「あっふ・・・良い感じに眠気が差してきたよ」
「私も・・・」
今だ。現実と夢の狭間。それは一番、本音を感じることが容易なタイミング・・・。
「ねえ、加持君・・・。私、妊娠したみたいなの」
私は眠りに落ちる寸前の加持君にそう告げた。
すっごくwktkしてまつ(・∀・)
乙です
興味深いね。
乙
「・・・・・そうか・・・・」
加持君は少しの沈黙の後、一言そう言った。
暗闇で表情は察することができなかったが、口調から驚いた様子はとれ無い。
「意外ね。もっと驚くかと思ったけど・・・」
「避妊していたとはいえ、そういう可能性のある行為をしていたんだ。
今更、別に不自然だとは思わないよ」
「そう・・・。来週に受診するわ。加持君に内緒で全て済ましても良かったけれど、
一応パートナーだから、言っておいたほうが良いと思って」
「そりゃ、どうも。・・・で、どうするの?」
「どうするって・・・?」
私は加持君の意外な一言に眉をひそめた。
「もしも出来てたら、どうするの?」
「どうするって・・・決まってるじゃない。今の法律、知ってるでしょ?」
「ああ、知ってるさ。でも、逃げ道は・・・ある」
「何よ・・・。どういうこと?」
「どうって・・・わかるだろう?」
私はドキリ・・・とした。
これは私の倫理観を加持君に元に曝け出さないといけない事態になるかもしれない。
そう予感して、嫌な汗が背筋を濡らした。
「加持君・・・まさか、私に産めと言うことなの?」
「・・・駄目かい?」
加持君は平然と言葉を返す。
「駄目よ、駄目!今の法律分かってるでしょう?産めるわけ無いじゃない」
「だが、それには逃げ道がある」
「何よ?どうするのよ?」
「所得があれば良いんだろ?・・・役所に虚偽の書類を提出する」
「な、何言ってるのよ!法律違反じゃない、それ。嫌よ、そんなこと」
「しかし、そうしなければ子供は死ぬぞ」
死。・・・やはり、そうだ。加持君は何よりも命を重んじる人間なんだ。
私は改めてそう確信した。そして、私はそうでは無いということも・・・。
だが、ソレを加持君に悟られてはならない。きっと愛想を付かされてしまう。
何とかして悟られずに子供を諦める方向に持っていかなくては・・・。
「そのうちお腹が大きくなって、他の人にばれるわよ?もしそうなったらアウトだわ。
それに産んだとしてどうやって育てるの?お金は?」
「大学は休学。お金は俺のバイト代と、・・・足りなくなったら親戚から借りるよ」
「そんなうまく行くわけ無いじゃない。・・・・・加持君は良いわよ、どうせ産まないんだし。
育てるのだってほとんど私でしょう?」
「俺も一緒に休学でも構わないさ。いや、退学でも良い。そして、働きながら一緒に育てるよ」
「大学辞めるの?!なんで?学びたいんじゃないの?」
「状況が変わったからさ。子供の命と自分の学業、天秤にかけたら重さは歴然だろ?
大学はいつでも入れるから、ある程度お金と時間に余裕が出来たら復学でも良いし」
「そんな、私は嫌よ!」
「なんで?」
「産むにはまだ早すぎるわ」
「じゃあ、いつならいいわけ?」
「・・・・そりゃ、就職してから」
「あと2年か・・・。そのたった2年の差でこの子の命は失われてしまうのか?そりゃ納得できないな」
「でも、多いじゃない、そういう人。あと数年遅かったら産むことが出来るかもしれないのに
今は学生だったり、収入が無くて産めないって人・・・」
「ああ、そうかもしれないな。でも、俺達は違う。産んで育てられる可能性が見えているからな。
そんなことで命を粗末にはしないさ」
「・・・・・・・・・・・」
駄目だ・・・。頑として聞かない・・・。どうすればいいのよ・・・。
私は自分の倫理観に触れない程度での言い訳を探していた。
だが、そこで加持君が確信をつく。
「葛城は・・・産むたく無いんだな?」
「・・・・・・・・・・・・・。ええ、そうよ」
「何故?法律違反だからか?それとも、育てられないと思うから?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だんまりか・・・。またそういう雰囲気になっちゃったのか。残念だな」
呆れたように加持君はつぶやく。
「言えよ、葛城。いつまでもそんなだと、俺達の関係が発展しない」
「言ったら、きっと幻滅するわよ?」
「・・・幻滅されるのが、怖いのかい?」
「さあね?」
「可愛くないな・・・」
「別に可愛いと思って欲しく無いわよ」
「じゃあ、言うんだ」
「言っても言わなくても、私は産まないわ。産む気も無い。結果は同じよ。・・・だから言わない」
「なんだよ、それ・・・」
「そういうことよ・・・」
うまく逃げ切れたか?
私は加持君の次の言葉を待った。
「・・・葛城。セカンドインパクトであれだけ沢山の人が死んだだろ?
その時に、人が死ぬのはもうこりごりだと思わなかったか?」
「・・・・・・・・・・」
「俺は思ったよ。・・・それ以来、救える命は救おうと心に決めた。
葛城のお腹にいる子供は救える命だ。だから、俺は救いたいと思っている。
法律?収入?学業?立場?なんだそりゃ?命が一番大切だろう?・・・って思うのさ、俺は」
「・・・・・・・・・」
「葛城、君はどうだい?君の中で、その赤ん坊の命よりも大切なものはなんだい?」
「・・・・・・・・・・私も、命は大切だと思ってる。でも、・・・産めないのよ」
「それは何故だ・・・?」
「言うんだ、葛城」
重圧のかかった加持君の声が私の耳を覆う。
ああ、駄目だ。酒がまだ抜け切っていない。
私もリツコと同じで酔っているんだわ。
酔わなきゃ、こんなこと、きっと言わないのに・・・・。
「でも、私は、・・・・・・この葛城の血筋を絶やしたいのよ。私限りで・・・・」
私の声が暗闇を媒介にして加持君の耳に届いた。
乙です
今より輝かんとする光を奪う事は誰にも許されない、か。加持は、そうだな。確かにね。
「どういうことだそれは?!」
「・・・・・・・・そういうことよ。それにまだ妊娠が確定していないのに、話し合っても無駄よ。
寝ましょう、加持君。もう遅いわ・・・」
「待てよ、葛城!逃げるのか?!」
「うーん、なぁにぃ?騒々しいわね・・・」
リツコがゴロンと寝返りを打ち、つぶやいた。
その一言で私たちは一気に冷静になった。
私達は自分たちの会話があまりにもヒートアップして、リツコの存在を暫し忘れてしまっていたのだ。
どこまで会話を聞かれていたのだろうか?
少し気にかかるが、リツコの様子からはたった今、夢の世界から連れ戻された様に思えた。
「なんでもないわ、リツコ。起こしちゃってごめんね・・・」
「ううん、こっちこそ・・・勝手に寝ちゃってた・・・ふわあ・・・」
「まだ夜明けはには早いわ、寝ましょう・・・。お休みリツコ。加持君」
助かった。
いくら加持君でもリツコの手前、あんな話を続けられるほどデリカシーは欠落していないはず。
明日、リツコが帰った後に加持君に問い詰められても、酔ってて覚えていないとシラを切ればよいわ。
後は、自分一人で病院へ行って、もしも妊娠していたらそのまま手続きを終えれば良い。
今の法律では女性一人でも堕胎は可能のはずだし、大丈夫よ・・・。
「う・・・ん。おやすみぃ・・・」
トロトロの声を出し、リツコは再び眠りに付こうとしていた。
私もあくびをして安心して目を閉じた。
が、その時だった・・・・・・・・・。加持君が口を開いた。
「リッちゃん。・・・お母さんに連絡って取れるかい?」
「うん?・・・・取れるけどぉ・・・ふわあ・・・」
「よし。それじゃあ、明日の朝、俺にその連絡先教えてくれよ。就職の事でちょっとな・・・」
「うん・・・・まあ仕事先なら・・・良いと思うわ・・・」
「ありがとう。お休み・・・リッちゃん、葛城」
加持君、何をする気なの?
かつて自分の命をかけるほどの賭けをした相手に連絡を取るなんて・・・。
私は胸騒ぎを覚えたが、考えても加持君の意図は分からないので、そのまま眠りに落ちた。
乙です
そうきましたか。ワクワク。
こないだ自分の命を安売りしようとした加持が
命の尊さを語るのは疑問かも
自分と他人は違うでしょ
次の日の朝。
「・・・サトは・・・べ無くてもいいの?」
「ああ・・・あいつは・・・つもこんなさ・・・」
「そうなの。意外ね、食事を男性が進んで作るなんて」
「そうか?まあ、普通なんて俺にはどういうことか分からないからな・・・」
加持君とリツコの親しげな会話が聞こえる・・・。
ふわぁ・・・今何時よぉ・・・・?
私は重い体を起こした。
まだ、酒が残っているのか、頭と腰が重い。それに、軽いけれど頭痛と吐き気、腹痛まで・・・やだなぁ。
「おはよう、ミサト。朝ごはん、先に頂いてるわ」
「おはよう、無理すんなよ、葛城。いつも飲んだ次の日は遅くまで寝てるじゃないか」
「うん・・・平気よ。おはよう・・・」
私は寝起きで髪はぼさぼさ、肌はガビガビの、とても人には見せられない顔をしながら二人に挨拶をした。
すぐに洗面所へと向かう。
そして、顔を洗いながら後ろで加持君とリツコの楽しそうな会話を聞いて少し、嫉妬。
何とか見られる顔になったことを鏡で確認し、二人のいる食卓へ座った。
「ごめんなさいね。昨日は、止まる予定じゃなかったのに・・・」
「んあ、いいのいいの。どうせ二人で過ごしていてもマンネリなんだし」
「なんだよそれ、もうマンネリかよ、俺達」
「そうでしょ?だって、週末することといえば、お酒に映画に買い物に・・・あとなんかしてたっけ?」
「今のところはな。金と暇があればもっと他のことも出来るさ」
「でも無いでしょう?」
「う・・・無いな、確かに・・・」
「ふふっ、良いじゃない。こんなつまらなくて永遠とも思える二人きりの時間が
そのうちかけがえの無い宝物になるわよ。きっとね」
「良い事言うね!リッちゃん」
「フォローしなくてもいいのに・・・」
私は妊娠の心配や、昨夜のリツコの行動のことなど、
まるで幻夢の事のように、この朝の会話を堪能していた。
あれは酒が見せた幻。きっとそうなんだ・・・。そう思うことにした。
「じゃあ、長居してその上、朝ごはんも頂いちゃって、どうもありがとう。また、大学でね・・・」
「うん・・・また・・・」
「また飲みにおいでよ、・・・今度はマヤちゃんも連れて・・・」
「・・・・・。青葉君と、日向君も連れて来てね」
「彼ら未成年だろ?!」
「伊吹さんだってそうよ!?何よ、女ばっかり誘ってさ!」
「まあまあ・・・・。ふふっ、また今度ね・・・」
「あ、は〜い。まったねー」
「じゃあな」
重い体を引きずって、私は加持君と二人で玄関先からリツコを送り出した。
「ふう・・・・・・・」
「どうしたの?具合、悪い?」
「うん、ちょっち・・・ね。多分二日酔い。そんなに飲んでないと思うんだけど・・・」
扉を閉めてからようやくソファに座って一息つく。
そんな私の状態を加持君は心配そうに見つめた。
加持君はグラスに水を汲んで、私に差し出す。
私は受け取り、一口飲んだ。
「・・・・・・・もう酒は飲むなよ?大事な体だ・・・」
リツコが去って、素に戻った加持君の一言が私に重くのしかかった。
やはり、昨日のことは夢ではなかったのね・・・・。
加持君は本気で私に子供を産ませる気なんだ。私は望んでいないのに。
母親になることなんて、望んではいないのに・・・。
そう思うと体の調子はますます悪くなるようだった。
「午後から出かける。安静にしてろよ」
加持君はソファに横になった私にそう告げた。
昨夜の眠りに就く前の会話が思い出される。
「リツコのお母さんに会いに行くの?」
「そうだ」
「私も行く・・・」
「駄目だ」
「嫌。私も行く」
例え加持君とリツコの母親が二人きりで会っても、もう命の危険は無いだろう。
でも、加持君のしようとしていることが何なのか不明確だ。
私はそれがとても気がかりだった。
頑として付いていくと聞かない私に加持君は
「じゃあ、午後までちゃんと体を休めていたらな。・・・それから、交渉に口を出すなよ」
と条件をつけて承諾した。
その言葉を聞いて、私は再び加持君を連れて布団に横になった。
それは私が休んでいる時に逃げないようにするためと、その胸に安らぎを得るためだった。
乙です
いい加持ですね。
「はっ!・・・・・・加持君・・・・?」
目を覚まして私は焦った。
眠る気はなかったのだけれど、いつの間にか眠ってしまったいた。
そして今、加持君は私の隣にはもういなかった。
時計を見ると既に午後2時を回っている。
加持君・・・まさか、ひとりで行ったの?
嫌な不安が心を覆う。
私はまだクリアにならない頭を抑えながら起き上がった。
まだ頭が痛い・・・。あんなに寝たのに。
今日はいつもと調子がおかしいわ。いつもなら二日酔いでも昼には抜けているはず・・・。
私はすぐに、リビングのテーブルに置手紙があるのに気が付いた。
”気持ちよさそうに寝ているから、やはり一人で行くよ。
嘘付いてすまない。でも、心配することはない。安心して待っててくれ”
なによ、自分勝手に・・・!
私は怒りに任せてその手紙を握りつぶした。
「う・・・・・・・・。痛い」
いきなり私を強い痛みが襲った。
これは・・・。朝には軽く感じられた腹痛と、腰痛が強まっているの?
私は痛みで立っていられなくなり、その場に座り込んでしまった。
十数秒後、痛みのピークが過ぎてようやく立ち上がると、私はトイレに向かった。
何か変なものでも食べたかしら・・・?思い当たらないわ、体も冷やしていないし・・・。
トイレに入ったところでまた腹痛が波の様に襲ってきた。
トイレに座り、じっと波が過ぎるのを待つ。
おかしい・・・・・おかしいわ。加持君、早く帰ってこないかしら?
あまりの痛みに不安になってしまい、加持君への怒りはもう消えていた。
代わりに心細さから加持君を求めてしまう。
加持君、早く帰って来て・・・。
私は痛みが去るのと同時に祈った。
「ふう・・・。一体何なのよ?」
私は自分の体と加持君の行動、両方に対しての理解できないイライラを思わず口にした。
「こんなこと、私は全然望んじゃいないのよ。なのになんで・・・?」
自分の体も加持君も今は統制できない位置にある。それがとても嫌だった。
私は痛みが去るとすぐさま立ち上がって、用を足そうとズボンと下着を下ろした。
また何時、痛みが襲ってくるか分からないわ。
出来ることは出来るうちにしておかなくては・・・。
少し焦る。・・・・・・・赤い?
目に飛び込んできたのは深紅だった。ドキン・・・・心臓が一瞬飛び跳ねた。
私は用を足しながらその深紅をまじまじと見つめていた。
出血は下着を越え、ズボンの一部も汚していた。
生理なの?それとも・・・
「りゅう・・・ざ・・・ん?」
私はあえて恐ろしいことを口にしていた。
用が終わると、私はそのままズボンと下着を洗面所に脱ぎ捨てて、
替えの下着にナプキンをつけ、穿いた。
かなり迅速に行ったつもりだったが、替えのズボンをはく前に痛みが私を攻めだした。
またその場でしゃがみこんで耐える。
生理なら良い。でも、流産だったら?
私は痛みと不安で押しつぶされそうになっていた。
その時、もう一人の自分が心で囁く。
好都合。
どっちにしても好都合よ。
だって私は産むことなんて望んではいないんだもの。
産んだとしても私に子供が育てられるとでも?・・・それは無理ね。
今まで私の両親の関係や、自分に向けられる愛情に、常に疑問を持っていた私が、
子供を産んだだけで無条件に愛せるとでも思うの?
無理な話よね。だって、子供の愛し方を知らないんだもの。
たとえ加持君がどんなに愛情深い人だったとしても、子供は愛情不足で育つわね。
父さん、母さん。・・・あなたたちをずっと恨んでる。
研究ばかりで私と母さんを大切にしなかった父さんも、
離婚したのに、父さんと完全に関係が切れるのを恐れて、私に葛城を名乗らせた母さんも。
あなたたちにとって私ってなんだったの?
二人の交渉のための駒だったんじゃないの?
父さんは「母さんを頼む」って言って死んでいったけどさ、
セカンドインパクトであの時、母さんもほぼ同時に死んでたのよね。
最期は仲良く・・・ってやつかしら。あなた達らしいわ。
私の気持ちになってみなさいよ!
好き勝手に自分の希望を押し付けて、迷惑だったわいつも。
そして、死してなお、こうやって私を苦しめる。本当、親として失格よね・・・。
だから、私は産まないの。
葛城の血なんて私限りで絶やしてやるんだから・・・。
私は痛みにうなされながら、怒りの矛先を死んだ両親に向けていた。
そうしているうちに、痛みのピークが過ぎていくのを予感して、私は一息ついた。
ガチャガチャ
痛みがまだ抜け切らないうちに、玄関の鍵を開ける音がした。
加持君が帰って来た!
私は気丈に振舞いたかったが、いかんせん、立ち上がれるほど痛みは引かない。
「ただいまー」
「・・・・・おかえり・・・」
私は下半身下着で洗面所に倒れたまま、加持君を迎えた。
「どしたんだ?!葛城!」
加持君は私の姿を見ると、驚いてすぐさま私に飛びついた。
「・・・・・どこ行ってたのよ、バカ・・・。私を一人にしてさ・・・」
「すまない、葛城。体の調子悪そうだったし、寝ていたところを起こすのも悪いと思って・・・」
「で、あんたがそう判断して起こした行動の結果が・・・これよ」
「すまない・・・・。どうしたんだ?言ってくれ」
「・・・2時過ぎに起きて、すぐに腹痛。そして下からの出血・・・。生理かもしれないし・・・」
私が言いかけたところで、加持君はすぐさま電話の受話器を取った。
どこかに電話をかける。
「もしもし?状況が変わったから、今すぐ受診する。手配を頼みますよ・・・博士」
加持君はそういうと電話を切り、車の準備をするために下へといった。
私はというと、痛みが引いたきたので替えのズボンを穿き、加持君の迎えを待つ。
そして2分後、息を切らしながら走って戻ってきた加持君と共に部屋を出た。
「葛城、背中に乗れ」
「えっ?・・・・・・歩けるわよ」
「いいから、乗るんだ。途中で歩けなくなるかもしれないだろ?」
玄関を出てすぐに加持君は私に背を向けてしゃがんだ。
痛みは今のところ治まっている。
私は最初断ったが、加持君がそうしてもと引かないので結局、背負われることになった。
うおーーーーー続きが気になる
一気にここまで読んでしまった
朝までにあげなきゃいけない仕事があったのにテラヤバスwwwwwww
もう朝だよwwww
加持君の背中は汗でしっとりと濡れていた。
タバコのにおいと汗の匂いが鼻をつく。
広い背中、・・・・・お父さんみたい・・・。
加持君の背中が父に似ていると最初に感じたのは何時だった?・・・思い出せない。
お父さんに最後に背負われたのは何時だった?・・・思い出せない。
なのに、何故、似ていると私の脳は判断しているの?
・・・わからない。でも、確かに加持君の背中は父の様な気がするの。
いいえ、背中だけじゃない。胸も、声も、怒った時の顔も・・・加持君は似ている!
私はそんなことを考えながら背負われていた。
車に乗り込むと、すぐに痛みの波がやってきた。
私はシートベルトを締めて、助手席でうずくまる。
「大丈夫か?!、車出すぞ?」
「・・・・うん・・・・・・」
加持君はすぐさま車を発進させ、かなり速いスピードを出しながら大学病院に向かった。
道中で痛みは引いてきた。うずくまる体制を解く。
加持君はそんな私の変化に気が付いて、話しかけてきた。
「さっきはすまなかった。だが、赤木博士はこちらの条件を飲んでくれた。
だから、安心してくれ・・・」
「・・・なんの話をしに言ったの?・・・私の話?」
「そうだ。もしも、妊娠していたら産みたいと、伝えてきた」
「なんてこと!・・・・プライバシーって言葉、知ってるわよね?盗聴されてるから意味無いだろうけど・・・」
「それも話したよ。盗聴してるから言いたいことはわかるだろう?って。
そしたら、もしも盗聴をしていて、状況は分かったとしても、要求までは分からない。
と言われた。・・・ごもっとも、だよな」
「そう・・・」
「ま、そういうことさ。自分勝手ですまないが、・・・・・子供は諦めないでくれ」
「・・・・・・・闇出産なんて、嫌よ」
「いや、闇じゃない。あの法律の正規の逃げ道、発見したんだ」
「正規の逃げ道?・・・なによ、それ」
「たとえ胎児の両親が経済的・社会的に出産が不可能な場合でも、
経済的・社会的に育児が可能とされる養父母が児の引取りを希望した場合、
例外として出産を認める。・・・それがこの法律の逃げ道だ。
特別講義では語られないから知らない人も多いだろうな。・・・それも政府の思惑かもしれないが」
「・・・・それじゃあ?」
「ああ、承諾してくれたよ。リッちゃんのお母さんが。・・・俺達の子供の養母になることを」
「そんな・・・」
「まあ、養母と言っても、書類上のみの話で育てるのは俺達だけどな」
「・・・・・・・」
「どうだい?葛城、希望の光、見えてきただろ?」
「でも、私は・・・・・産みたくない。育てる自身、無いもの・・・・」
「・・・大丈夫、育てる自信が無いのは誰だってそうさ。
セカンドインパクト前でも中絶は日本で年間、数万件はあった。
そして、中絶の理由のほとんどは今と代わらない、経済的・社会的な理由からだ。
あの法律が施行されなかったとしても、セカンドインパクトが起こらなかったとしても、
いずれにせよ、今の俺達の立場ではこの子を中絶する可能性が・・・あったんだよ」
「そうよ、法律うんぬんの話じゃないわ・・・。産んで育てる自信が無いから、だから産みたくないのよ」
「そして、自信なんて物は後からついてくるものだ」
「そんなことない!」
「いや、そうだ。・・・今、子供を育てている親たちが100%明るい未来を信じていると思うかい?
日本では復興がある程度完了し、育てていくには不自由ない環境だが、
海外に目を向ければ、状況のあまりの悲惨さに、明日はわが身と思ってしまうだろう。
今は良くても、子供が成人するまでの約20年間、
ずっと平和で安定した生活を営めるなんて、誰も思っちゃいないさ」
「じゃあ、なんで子供を産むの?」
「さあな・・・。他の人は分からない。だが、」
「加持君は・・・?」
「・・・。希望なんだよ、子供は」
「希望?」
「何者にも変えがたい存在を、・・・希望を俺は望んでいるということさ」
「あなたが何を言ってるか、よく分からないわ。加持君」
「・・・・・・。遺言だよ」
「・・・・・ますます分からない」
「ハハッ、今は分からなくてもいいさ。・・・着いたぞ、早く受診しよう」
704 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/28(火) 20:36:38 ID:tbjDsBW9
加持uzeeeeeeeeeeeeeeee
車から降りると、再び痛みが襲ってきた。
立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。
加持君は私に背中を差し出した。
今度は素直に加持君の背中に乗った。
私は早足で歩く加持君の背中に揺られながら、あまりの痛みにシャツを握り締めた。
休日の午後というだけあって、大学病院の外来は人一人いなくてガランとしていた。
玄関脇の案内図を見て、産婦人科外来へと向かう。
「あ・・・痛み、引いてきた。歩けるかも・・・」
「もう少しだからそのまま背負っていくよ」
「そんな、重いでしょう?」
「大丈夫。ほら、もう着いた・・・。突然手配してもらってすいません、博士」
産婦人科外来の廊下には白衣に身を包んで二人の人物がたっていた。
一人はリツコに良く似た女性。もう一人は優しそうな男性の産婦人科医だった。
私は加持君に下ろしてもらい、二人に頭を下げた。
「全く何なのよ、ぼうや。いきなり受診だなんて・・・」
「すいません。腹痛と出血があったので、ただ事じゃないと思いましてね・・・」
加持君はご立腹のリツコのお母さんに平謝りだった。
医師はリツコのお母さんとは対照的に嫌な顔一つしていなかった。
「診察室へどうぞ・・・」
医師に招かれ、診察室へと向かう。医師がドアを開けて、くぐるその時だった。
「先生!・・・もしも、妊娠していたら、子供は助けてください。養父母のめどはありますから」
加持君が医師に対して必死な顔で叫んだ。
「・・・・・わかっております」
医師は静かに返事をして、ドアを入っていった。
十数分後。
私は診察を終え、左前腕に痛み止めの点滴を刺されて、診察室から出てきた。
待合室の椅子に祈るような体制で座っていた加持君は
私と医師が診察室から出てくるのを察すると、すぐに立ち上がってこちらに近づいてきた。
リツコのお母さんの姿は既に無かった。
医師は接近した加持君と目を合わせてから一呼吸をおくと、静かに病名を告げた。
「・・・・・・・・月経困難症です」
「・・・・・・・・え?」
「妊娠はしていませんでした。・・・痛がり様が半端ではなかったので、
一応内膜症などを疑ったのですが、異常は特にありません。
痛み止めを処方しておきますので、それ飲んで様子を見てください」
「・・・・・・はあ、そうですかぁ。・・・どうもありがとうございました」
医師の言葉を聞いて加持君は一気に拍子抜けした様子だった。
「では、私はこれで・・・」
「ありがとうございました」
私と加持君は去っていく医師に深々と礼をした。
医師の姿が見えなくなってから、私たちは同時に頭を上げた。
加持君の顔が引きつっている。
「か〜つ〜ら〜ぎ〜〜〜。毎月起こってることなんだから分かるようなもんだろ?」
「あはは、ごめん・・・。いつも生理痛が始まった時点ですぐに薬飲むもんだから、
こうなるまでほっといたこと無かったのよ・・・」
「・・・・・・どんだけ重いんだよ、葛城の生理痛。異常な苦しみ方だったぞ、本当」
「すごく痛かったわよ、実際。・・・これが流産か?と思うくらい・・・」
「博士になんて報告すりゃいいんだよ?・・・・恥ずかしい」
「そういや、リツコのお母さん、なんでいないの?」
「研究が乗りに乗ってるから、早く戻りたいんだとよ。だからほら、養父母届けのサインだけしてもらった」
「へーこれがねえ・・・。ね、年収4000万円?!」
「・・・・・・すごいよな。俺達もそれだけ貰えりゃいいけど・・・」
「ねえ、養父の欄。碇ゲンドウ・・・って誰?夫婦じゃなくても養父母が出来るの?」
「ゲヒルンの所長だとよ。政府に対してネームバリューがあるから、
夫婦じゃなくても受理されるって、博士言ってたぜ」
「へえ、そうなんだ・・・」
「ま、これももう紙切れになっちまったけどな・・・。はあ・・・俺の努力って一体・・・」
「・・・ごめん」
ガックリと肩を落とす加持君に、私は謝るしか出来なかった。
でも、ホッとしたわ。妊娠、してなくて良かった・・・。
落ち込んでいる加持君にそんなこと言えないけれど、私の本音はそうだった。
点滴はすぐに済み、トボトボと大学病院の廊下を二人で歩く。
家路に着くまでに、加持君は途中でため息を何度も吐いていた。
乙です
なかなか波瀾万丈ですね。
職人タン、ハァハァ
最初はなんだと思っていたが
なかなか面白い
ここ来るの日課になってます。
続き頑張ってください
ミサトが加持を「いい加減なヤツ」と思うに至るまでの展開が読めない。
今のキャラって、本編で留守電にメッセージを入れた加持のキャラだけで、
ミサトが嫌がってたキャラとはつながらないなぁ。
でも、この職人さんの話は引き込まれるので、今後の展開に期待します。
おつ
乙
まち
またーり街
まち
町
>>713 お前が変な書き込みするから、職人さんが続き書けなくなったんじゃねぇか?!
まぁまぁマターリ待とうよ、職人さんも考えてるんだよ
等価町
「じゃ、行ってくるわね」
大学3年のある日の早朝。
私はリュックサックを担いで水筒を持ち、Gパンとトレーナー姿で玄関の扉を開けた。
「へーいい、お気をつけて・・・」
加持君は私を笑顔で送り出す。
私は必修科目である、夏の中学合宿に出発するところだった。
夏の中学合宿。それは我が中学基礎学科のメインイベントである。
リアルの中学生を相手に、私達中学基礎学科の学生が
日程、行き先、交通手段、キャンプの内容、会計。
その全てを計画し実行するという、まさに中学生相手に力量が試されるイベントだ。
もちろん、計画が自由に立てられるからといって、
合宿費を使って日帰りで中学生とカラオケして来ました。
なーんて事態にならないように、いくつか決まりごとがある。
その決まりごとをクリアして、なおかつ中学生に楽しい思い出を作ってもらうこと。
それがこの合宿の目的であり、目標になっている。
もちろん、全くの白紙から計画するのは厳しいため、
我が学科には代々伝わる合宿記録があり、それを手がかりに計画を立てるんだけど・・・。
やっぱり、前年度と似ている計画だと、プライドの高い学生は気に入らないらしく、
計画の個性化に結構時間を割くことになる。
私の学年は4ヶ月かけてこの合宿の計画を立てて準備してきた。
あまり授業には熱心で無い私もこの合宿の大切さは知っているから、
気合を入れざるを得ないわけで・・・!
私は部屋に加持君を一人残して玄関を閉め、2泊3日の合宿に出発した。
行き先は飛騨の山だ!
中学生40人に大学生20人の団体はバスを貸しきって合宿地へと向かった。
次回
乱
交
パーティー
ミサト先生w
いいですねぇwktk
合宿の内容はどこかで聞いたことがあるようなことばかりだった。
川で魚つりをしたり、キャンプ場でカレーライスを作ったり、オリエンテーリングに、肝試し
木やどんぐりを使っての工芸品作り、地元の人による自然の移り変わりの講義。
中学生のパワーに圧倒されながら、忙しくも楽しいキャンプは終わりに近づいていった。
2日目の夜はおなじみのキャンプファイアー。
ファイアーを囲んで皆が輪になり、歌って踊って、その後は自由時間となった。
キャンプ場から出ないことを約束して、生徒と先生(私たち大学生のこと)が入り混じって自由に過ごす。
同性で作った中学生集団が好みの先生を誘い入れて、そこで語り合うという形が多いが、
中には中学生男女二人きりで青春してるところや、(皆の目が届くところだから変なことは出来ない)
生徒が恋心を抱いた先生を誘って二人きりのところ(勿論これも変なことは出来ない)もある。
基本的に生徒との自由時間なので、生徒に誘われない寂しい先生は監視役に徹する約束だ。
(そう、変なことが行われないように)
コトコはキャンプ初日から生徒たちと上手くコミュニケーションが取れていて、
自由時間になったらすぐに生徒の集団に誘われて行ってしまった。
私はそんなに話が上手いわけじゃないから・・・監視役になりそうな予感がするわね。
ま、それも私が望んだことか・・・。
出会いがあれば別れがある。
どんなに親しくなっても明日の昼にはもう中学生たちとはお別れだ。
このキャンプで出会った生徒との個人的な連絡先の交換はご法度になっている。
先生と生徒の関係を超える可能性があることや、個人情報が悪用される可能性を考慮しての法度だ。
だから、キャンプが終わったら意図的に会うことは出来ない。
偶然の再会を願うだけ・・・。
そんな終わりが分かっている人間関係なら、最初から親しくしないほうがマシだわ。
私はそう思ったから、あえて親しい生徒は作らなかった。
我ながら冷めている考えだと思うけれど、
でも、コレが私の本音なのだから仕方が無いわね・・・。
そんなことを考えながら、私は自由時間を過ごしている個々の集団をぼんやりと眺めていた。
「葛城先生!」
後ろから私を呼ぶ声がして、私は驚いて振り向いた。
だって、私に声をかけてくる生徒なんていないと思ったから・・・。
「なあに?ええっと・・・」
「洞木です。洞木コダマ。葛城先生が良かったらですけど、自由時間一緒に過ごしませんか?」
「ええ、良いわよ・・・」
「良かったあ」
ハキハキと優等生じみた口調の洞木さんに誘われて、私達は空いているスペースに座った。
おかしいわね、私はこの子と話したことなんて一度も無いはずだけど・・・。
不思議に思いながら、洞木さんから話し出すのを待った。
「キャンプの最初から、葛城先生って美人で頼りになりそうな人だなあって、ちょっと憧れてました。
だから、自由時間に何かお話できれば良いなと思いまして・・・声をかけたんです」
「そうなの。ありがとう」
ふうん、そうなんだ。なかなか見る目があるじゃない、この子。
私は嬉しくて笑顔を返した。
洞木さんはすぐに自分のことをペラペラと話し出した。
「私、3人姉妹の長女なんです。妹はノゾミとヒカリ。ヒカリなんてセカンドインパクトの後に生まれたので
まだ小さいんですよ」
「へえ、あの混乱期に子供を生むなんて、・・・お母様は勇気のある選択をしたのね」
「はい・・・。父はセカンドインパクトのときに亡くなりました。
それから数ヵ月後に母はヒカリの妊娠に気づいたのだそうです。だから産んだのだと・・・、
ヒカリは父の忘れ形見だと。私とノゾミは母から聞いて育ちました。
只でさえ当時は食糧難の時代でしたから、”ヒカリがいなければご飯をもう少し多く食べられたのに”
なんて酷いことを子供心に考えたことも正直ありましたけど・・・」
「無理も無いわ。あの当時は皆が生きるので精一杯だったんだもの・・・」
「・・・今はヒカリが生まれてきてくれて良かったと思っています。
あの小さく生まれて、食べ物が満足になかったためにずっと痩せていて病気がちだったヒカリが、
いつも泣いて母の懐にしがみついていたヒカリが、
今では大きく成長して元気に笑顔で小学校へ行っている。
そのことを考えると人の生命力ってすごいなあって・・・思うんです」
「そうよね・・・生命ってすごいわよね・・・」
私はいつの間にか洞木さんの話に夢中になっていた。
この年齢の子供たちは大人と違って、社会的なことを考えずに自分を曝け出せる。
それがこの子たちの危ないところでもあるし、強みなのだわ、きっと。
参ったわね・・・。親しい生徒を作らないようにしたかったのだけれど、
どうやら、心が動かされてしまった様だわ・・・。
私はクールに徹し切れていない自分に呆れていた。
自由時間はあっというまに過ぎ、後は宿泊施設に戻って就寝の予定だ。
「葛城先生、話を聞いてくれてありがとうございました」
「はーい、有意義な最後の夜をありがとう」
洞木さんは丁寧にペコリと頭を下げ、宿泊所に入っていった。
私は洞木さんの後姿が見えなくなるまで見送っていた。
さて、就寝時間になったからと言って、私たちが寝れるわけではない。
子供たちが悪さをしないように、見回りの時間が順番にめぐってくる。
起きてひそひそ話をしていたり、夜中にこっそりおやつを食べる位はまだ良いが、
問題は年頃の男女が一つ屋根の下に寝ているということだ。
ここは子供たちにとって親公認のお泊り会みたいなものだ。
普段はどこかへ泊まりとなると口うるさくチェックする親も、
先生同伴(本当は先生じゃないけど)のキャンプとなると、注意も緩む。
そんな中で間違いがあってはならないのである。
というか、間違いがもしもあったら・・・・私ら全員退学ものだわ。
なので、15分毎に見回りを計画して、念入りに行うことになった。
え?そこまで頻回じゃなくても良いのにって?
あまい!
今の世の中、中学生だからと言って油断してはいけないわ。
去年なんて。
あれ?ベッドに人が二人?・・・・。こらーー!離れなさーい!
って事態があったんだから。
これが最後まで行っていたらと思うとああ、怖い・・・。
そんなわけで、私たちは2グループに分かれて、
1日目の夜と2日目の夜でそれぞれ10人ずつ、順番を決めてペアで巡回することになった。
私は2日目の4時〜6時の当番になっている。
乙です
がんばって。
葛城先生の私生活は ベッドで一緒どころじゃないのにい
ま 楽しく読ませてもらってます
乙
736 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/09(日) 18:28:12 ID:yrsAUuWi
おつ
前の当番から起こされて当直室に入り、コーヒーを一杯飲む。
1〜2分後には巡回のパートナー、大岩君がやってきた。
同じ教室で2年以上講義を聞いているのに、話したことは全く無い相手だ。
これから2時間、彼と共にどうやって過ごせばよいのやら・・・。ちょっと困る。
「葛城さん。よろしくー」
「よろしく、大岩君・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
二人で挨拶を交わした後、案の定、沈黙が続いた。
当直室にはテレビが置いてあるので、沈黙に耐えられなくなった大岩君はテレビをつけ、
リモコンでテレビのチャンネルをコロコロ変えて過ごしていた。
こんな早朝は起きている生徒なんていないわよ。
そう思いながらも、15分毎に巡回は、律儀に行われた。
話題が何も無いものだから、当直室が重苦しく、巡回が逆に安息の時間となっていた。
5時をまわったところで、大岩君が始めて話題を振ってきた。
「葛城さんてさ」
「ん?なに?」
「付き合ってる人いるの?」
振ったと思ったらその話題かぁ。
ちょっとがっかりだけど、確かに話題ってソレくらいしかないかもね。
「・・・・・・まあ、一応ね」
「ふうん。・・・付き合って長いんだ?」
「・・・2年ちょっと」
「お、結構続いてるね。・・・将来のことは考えてるの?」
「うーん、そういうの面倒くさいから・・・」
「そうかあ、考えてはいないんだ」
「まあ、ね・・・」
本当は最近少し、意識してはいる。
卒業しても同じ職場、同じ心を扱う仕事。そこまで既に決定しているし、離れずにいられそうなことは嬉しい。
しかし、半ば詮索されているような話の展開に私は少し口のガードを固くした。
「そういう大岩君は?」
こういうときは相手をしゃべらせるに限る。上手く意識がそれる事を願う。
「俺は今のところフリー。いろいろ付き合ったけど、将来を約束するまでの間柄には至らなかったよ」
「ふうん。・・・なんで?」
「お互いにずっと好きでいられる確証が無かったから・・・。って言うと聞こえが良いけど、
まあ、浮気かな?お互いの。まだ若いからねえ」
「あっそ・・・」
「あ、今なんか呆れただろ?軽蔑した目になったよ、一瞬」
「そう?意識してなかったけど」
「葛城さんは無いの?今まで浮気しようと思ったこと」
「無いわね」
「嘘だよ。あっただろ?深い関係までは行かなかったけれど、なんとなく他の男に目がいくとか、ちょっと気になるとか」
「うーん、記憶に無いわね」
「そっか、真面目なんだ。彼氏とも長いし」
「さあね?あいつとは腐れ縁みたいなもんだから・・・」
「あいつってさ・・・加持リョウジだろ?」
「そうだけど・・・」
何で大岩君が加持君の名前を?
思わず顔を見る。
大岩君はニヤリと勝ち誇った嫌な表情で私と目を合わせた。
「巡回の時間だ・・・。続きはその後で・・・」
そう言って大岩君は懐中電灯を持ち、当直室を出て行く。
私も嫌な予感がしながら自分の順回路に行った。
巡回から帰ると、大岩君はすでに帰室してテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。
私は椅子に腰掛けると、大岩君が口を開いた。
「彼ってハンサムだよねえ。いかにも女の子にもてそうだ」
「・・・・コトコから聞いたの?私や加持君のこと」
「いいや、コトコちゃんとは直接そのことでは話してはいないよ。
ただ、加持と葛城さんが付き合ってることは自然と耳に入ってきていたさ。
一応、葛城さんは有名人だから、博士の娘さんとしてね・・・」
「そう・・・」
「意外だよな、あいつと2年以上も付き合っていられるなんて。
・・・よっぽど葛城さんに手放したくない何かがあるのかな?」
「・・・・・どういうことよ?」
大岩君はさっきから含んだような言い方している。これは何か企みがありそうだ、用心しないと。
私はにらみつけるように大岩君を見た。
「あ、そういえば葛城さんって、加持の最初の彼女に似てるよね。マサミとか言ったっけ?
セカンドインパクトで行方不明になった・・・」
「なっ!・・・なんでそれを知ってるのよ?」
「あ、加持から聞いてたんだ?それじゃ全然衝撃が足りなかったね、残念だなあ」
「なによそれ?からかってるの?!」
私は感情的になって少し声が大きくなった。
しかし、私の怒りなどお構い無しに、大岩君はニヤニヤと微笑みながら話し続けた。
「・・・俺さ、高校時代に加持と3年間同じクラスだったんだ。知りたくない?加持の高校時代」
そりゃあ、知りたいわよ。でも、こんな風に話を振ってくる場合はよくない情報の方が多い。
「別に・・・」
「なんだ、知りたくないんだ?クールだね、葛城さんって。でも、知っておいたほうが良いよ」
「いいわよ、別に知りたくないから」
「いや、俺は話しておきたいね。・・・これは忠告だよ、葛城さんに悪意があってのことじゃない。
何も知らずに加持と付き合い続ける君があまりにも不憫だからさ。
本当に良かったよ、こうしてじっくりと話す機会ができて」
「・・・・・・・・」
私が言葉を返さずにいると、大岩君は勝手に話し出した。
本当に聞きたくないのなら部屋を出るなりすれば良いのに、その時の私はそれが出来なかった。
「セカンドインパクトの後。俺達の高校も一時的に混乱はしたけどさ、まあ、標高の高いところだったし、
犠牲者も少なかったのよ。ただ、加持の彼女みたいに旅行に行って行方不明の生徒とか
身内が死んだって生徒はいたな・・・。だから授業の再開も早くてさ、3ヶ月くらいで普段どおりだった。
彼女が死んで・・・っと、行方不明になってから加持は随分落ち込んでてさ、失語症かよ?って位
何も話さない無口な時期が暫くあったな」
「俺は別に加持と親しかったわけじゃないが、当時恋人を亡くしたのはクラスで只一人、加持だけだったから
周りからその話は耳に入ってきていたし、クラスの皆もさ、ソッとしておいてやったのよ。
ところがさ、2年生になった時に加持は変わったんだ。
もともとハンサムだったから、昔から女子に声をかけられていたんだとは思うけど、
それが顕著になったって言うか・・・。まあ、とっかえひっかえってやつだな。
今日はあのコとデート、明日はあのコとデート。今はこのコと付き合ってて、数ヶ月で違うコに・・・みたいな。
加持とは親しくなんて無かったんだけどさ、それでも耳に入ってくるのよ、あいつの噂が・・・。
立ち直ったのは良い事だろうけど、俺は感心しなかったね、ああいうのは。
結局、卒業まで続いたね、加持の女遊びは。俺が記憶にあるだけでも20人は付き合ってると思うよ。
その彼女たち全員と体の関係があったかは分からないが・・・、まあ高校生だし、性欲の盛りだしね・・・」
やっぱりね・・・。良くない情報だったわ。
なんで、そんな嫌な情報をわざと私に話すのだろうか?
とても嬉しそうに話す大岩君を私は途中からずっとにらみつけていた。
「・・・・・・おっかねえ顔。怒ってるね、葛城さん。でも、事実さ、加持は高校時代そういう奴だったんだ。
そして、わざわざ俺が君を怒らせながらも話している理由はね・・・君が不憫だからだよ。
加持は大学に入ってから、死んだ彼女に似ている葛城さんを見て、改心したんだとは思うけどさ、
それであいつの過去がきれいになるわけじゃない。そうだろ?」
「・・・・・・・・・」
「過去は消せない。だからこそ、それを白状して、受け止められる人物と付き合っていくべきだと思わない?」
余裕で持論を話すこの男に、私は気持ちがいらだっていた。
見回りの時間は過ぎている。でも、私たちは部屋から出なかった。
「・・・余計なお世話ね。いずれ知ることになっていたとはいえ、それを加持君本人からじゃなくて
あなたみたいな人から聞かされるなんて・・・不愉快だわ!
それに、そんな話聞いたって、私は別れる気持ちにはならないわよ?」
本当は気持ちが揺れている。こんな過去を持つ加持君と、これからも付き合っていける自信なんて無い。
でも、ここはそう言わなければ、そうしなければ、相手の思う壺にはまってしまう気がして・・・。
「・・・・・・・・別れろなんて言わないよ?事実を知ったうえで、葛城さんが決めれば良いことじゃない?」
「じゃあなぜ?!」
「言ったろ?不憫なんだよ、君が。加持に良い様に2年以上も利用されてるから」
「利用されてなんていない!」
「いるさ。加持の心が本当に求めているのは君じゃない。・・・あの時死んだ彼女さ。
高校時代の加持は体を女で満たしていたが、心までは満たせなかった。だから誰とも続かなかった。
君とは心が満たされているから、今まで続いている。
そして、心が満たされている理由は只一つ。君があの女に似ているからだ」
「違う!」
「まあ、体も良さそうだけどね・・・。一つ聞くけど、君は加持のどこがいいの?顔?
顔だったら、それは否定はしないさ、確かにあいつ、かっこいいものな」
「違うわ」
「じゃあ、何?」
「優しいからよ・・・」
「・・・・・・・ぷっ。優しいから?優しいから抱かれたのか?あいつに」
「・・・そういう言い方止めてくれる?」
「間違いじゃないだろ?大学生で付き合ってるのに抱かれていないとでも?」
「・・・・・・・・」
「葛城さんを不愉快にさせてばかりで悪いけど、優しいだけの理由で抱かれるのなら、誰でも君の事を抱けちゃうな。
あ、俺は無理か。優しくないから、今。・・・そろそろ次の巡回当番に交代の時間だね、じゃあね・・・」
一人でべらべらと勝手に話し、大岩君は当直室から出て行った。
乙です
「何よ、一方的に・・・。そんな話、信じないわよ」
当直室に一人取り残されて、私はつぶやく。
そして、次の当番と交代し、私はベッドに入った。
とっかえひっかえ 20人は付き合ってた 性欲の盛りだし
君はマサミに似ているから続いている 優しくて抱かれるのなら、誰でも君を抱ける
ぐるぐるぐる・・・・・
眠ろうと努力はするが、大岩君の言葉が頭を回る。
加持君は私のことを利用しているの?
それは私も同じでしょう?私は加持君を体と心を満たすために利用しているもの。
加持君は私のことを本当に好きではないの?本当はマサミが好きなの?
それは私も同じでしょう?私は加持君を通して父を見ているんだもの。
加持君の恋人は私じゃなくてもいいの?
それは私も同じでしょう?優しくしてくれるなら誰でも良いんだもの。
加持君への問いかけの答えがそっくり私に返ってくることに気づき、そうでない答えを探す。
ぐるぐるぐる ぐるぐるぐる
私は結局この後一睡も出来なかった。
「それじゃあ、解散しまーす。皆さんお疲れ様でした」
「おつかれ〜」
「ばいば〜い」
昼にはキャンプが終わり、私たちは第3東京市へと戻り、解散となった。
大岩君とはあれっきり、顔は合わせたが話していない。
私は今朝の事で疲労していることを大岩君に悟られたくなかったので、勤めて明るく振舞っていた。
解散となって疲れきった体と心を自転車で運びながら家路を目指す。
ジリジリと正午の日光が私の体を灼いて、いっそう体力を奪っていった。
もう・・・勘弁よ・・・・こんなきつい仕打ち・・・。
こうなると何もかもが敵に見える。
キャンプも、大岩君も、強い日差しも、汗臭い体も、加持君の過去も、そして自分も・・・。
全てから・・・逃げ出したいわね・・・。でも・・・、
私には希望があった。この過酷な状況は加持君の待っている部屋に帰れば全て解決するはずだという。
クーラーの聞いた部屋がまず私を日差しと体力の消耗から解放し、
シャワーを浴びれば汗臭さとはおさらば。
そして、キャンプであった最低なことを加持君に吐露し、
加持君に抱きしめられて、愛を確かめるのよ・・・。
だから・・・早く着いてぇ〜〜〜!
私は息を切らしながらパンパンに膨らんだリュックを背負い、自転車を精一杯こいだ。
ふう・・・、疲れた。
無事に住んでいる場所にたどり着いて自転車を停め、一息つく。この頃にはもう心が軽い。
あと少しで加持君に会える・・・。
たった2泊、2晩の別れ。それでも私は淋しかった。永いことあっていなかったような錯覚に陥る。
だからこそ、この再会できる幸せ。これはなに事にも変えようが無いわね。
階段を上がって部屋の前に着き、合鍵を鍵穴に入れた。
ガチャガチャ ギイー
玄関の扉が開く。
冷たい風が私を包む。
最高だわ!この瞬間!
私は歓喜に撃ち震えた。
「ただいま〜・・・・?」
加持君の返事が無い。
寝てるの?また、夜更かししたのかな?
全く、しょうがないわね。昼には帰るって言ってあったのに・・・。
私は半ば呆れながら靴を脱いぐ。
ん・・・?誰か来てるの?
玄関には見覚えの無い靴が2足あった。
一足は白いスニーカー。もう一足は黒いヒールのあるサンダルだった。
これって・・・女物よね?両方とも。
まさかっ?!
私はリュックを玄関脇に放り投げて急いで部屋の中に入った。
昼間なのに部屋は暗かった。カーテンが閉じたままになっている。
リビングのテーブルにはビールやワインが並んで酒盛りの跡があった。
ソファには加持君が寝ていた。
そして、隣の寝室の布団には・・・・・・・・・・・・。
ああ、・・・・やっぱり・・・ね。
玄関の靴を見たときにはもう女が居るって分かっていたから、驚きはしない。
で、女は誰かも大体予想はついていた。
加持君が親しい女性。そして、飲みたがっていた女性。
そう、リツコとマヤが二人並んで仲良さそうにそこに眠っていた。
乙
752 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/13(木) 12:37:21 ID:B9Zu/xm9
乙です!!!
読ませてもらいました。本編ではフタリの登場は少ないのにここまで話が広がってすごいです。
継続は力なり。まさに力になってますね。ガンバレ
WKTK
そんなことは無いと頭では分かっている。けれど・・・。
この3人がお酒を飲んで、一晩中何も無かった。
その確立のほうが高いと分かっている。けれど・・・。
私はその光景を見たときに一気に頭に血が上った。
冷静な私ならば、3人が起きるのを待ってから、私が居ることに気が付いて驚く3人に
嫌味の一つでも投げかけて済む訳だが、今日はタイミングが悪かった。
今朝の大岩君の話がまだ頭に残っている。
私は怒りに任せて、熟睡している加持君の上に馬乗りになり、胸倉を掴み上げた。
「・・・・・・う?!」
突然自分自身にかかった急激なストレスに、驚いて加持君が目を覚ます。
間髪入れずに私は加持君の顔に自分の顔をぐっと近づけて叫んだ。
「あんたねえ!!私が留守なのを良いことに、女連れ込んでるんじゃないわよ!!!!」
「なっ・・?!・・・お帰り、葛城」
加持君は寝ぼけ眼で私を認識し、笑顔を見せた。
しかし、その笑顔は私にとっては逆上を促進する結果となった。
私が会えない辛さの中に居た時に、加持君はリツコとマヤに声をかけていたこと。
私が嫌な時間を過ごしていた時に、加持君は楽しい時間を過ごしてたこと。
そして、私がこんなに怒りを露わにしているのに加持君は余裕の笑顔を見せていること。
全てが気に入らなかった。
「あんたは女がいなけりゃ生きていけないの?!あんたはなんで他の女に軽く声をかけられるの?!
この、エッチ!バカ!変態!痴漢!スケこまし!!男の風上にも置けない奴ね!!」
「おいおい・・・そんなに怒るなよ。コレにはちゃんとした経緯が・・・」
「経緯なんて知らないわよ、バカ!どうせあんたは私が居ない隙に次の女をキープしようとか、
そんなこと考えてるんでしょ?!分かってるのよ?あんたが女漁りしてたこと!」
「は、何の話だ?葛城。第一、葛城の居ない間に他の女に手を出すんなら、
こんな鉢合わせしそうな時間まで置いておくはずが・・」
「う、うるさいうるさい!!とにかく、あんたはそういう男だってことよ!今度ばかりは愛想が尽きたわ」
「本当、誤解だってば、葛城。それに何をそんなに感情的になってるんだ?」
「あんたが悪いのよ!自分の胸に聞いてみるのね!!」
本当はこんな事でここまで怒るのはお門違いだって、自分でも分かってる。頭では・・・。
でも、心が。それを許さないのよ・・・・。
最近このスレにはまってます
初カキコですが
Gjです!!!!
乙マンコ
「う・・ん?なんですか?あ、葛城さん。お帰りなさい・・・ひっ!」
あまりの騒ぎにマヤが目覚めてしまった。
そして、加持君の上に馬乗りになってる私を見て一言。
「不潔・・・」
「ち、違うのよマヤ。コレはね・・・」
私はマヤの軽蔑のまなざしに耐え切れず、慌てて加持君の上から降りた。
「ふう・・・重かった。おはよう、マヤちゃん。誤解しないでね、不潔なことは何もして無いから、俺達」
「はあ、そうですか・・・」
納得しているような声を出しつつ、頬を引きつらせるマヤ。誤解は解けていない様だ。
助かったという表情の加持君を見て、私はますます腹の虫が納まらない。
「とにかくあんたねえ、私がいないからって女の子2人と夜を明かすなんて、して良いと思ってるの?!」
「はあ・・・、おはよう。あら、ミサト帰ってたの?お帰り」
>「不潔・・・」
ワロタ
「・・・・・・・・ただいま」
ちっ、リツコも目覚めてしまったか・・・。なんだか不利な状況ね。
「どうしたの?さっきからガミガミガミガミ・・・・」
「う、いや。なんでもないわ」
「リッちゃんたちと飲んでたから、葛城、妬いちゃってさ」
「あら?そう。痴話げんか?」
「ちっ、違うわよ!」
何、言ってるのよ、加持君!私の怒りはそんな些細なことじゃないわよ。
「そうなんだよ。本当、嫉妬深くてさ。ちょっと女の子と仲良くしただけで、こうやって怒っちゃって」
ムカッ!
加持君のその言葉に私は激昂した。
パシン!
とっさに加持君の左頬に平手打ちをくらわせる。
乙です
痛いな。何怒ってんの葛城。いや、頑張って。
763 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/15(土) 04:47:23 ID:hLSgF1r6
職人さん、おつです。
いっきに読んでしまいこの時間です^^;
続き楽しみにしてます〜
乙
まち
「いっ、いてーなー!何すんだよ?!」
私の平手打ちを喰らって、加持君は怒りの声を上げた。
少しやりすぎたか?・・・でも、そんなことで今の私がたじろぐはずが無い。
「それはこっちの台詞でしょう?私が居ない間に何してたのよ?!」
「何しててもいいだろ!?」
「何よ!」
「何だよ!」
「まあまあ、お二人とも・・・」
たまらずマヤが仲裁に入る。
「ミサト、勘違いしないで。私たちは・・・」
リツコも身の潔白を説明をしようと口を開けた。その時だった
「リッちゃん!」
リツコの口を加持君の一声が止めた。
「・・・・いいよ。黙っとけ」
「・・・・・・・・・・。でも・・・」
「いいから、何も言わないでくれ!」
加持君に凄まれて、何も言えずに困った表情をするリツコとマヤ。
加持君は誰も口を開かない状態を確認するかのように、タバコを一本取り出して火をつけた。
長く細い煙がタバコの先から立ち上る。
加持君は深く深く呼吸をしながら、煙を肺に送り込んだ。
フー。とため息に混じりながら煙が肺から出て行く。
その一連の行為は、加持君が必死に冷静さを取り戻そうとしているかのようだった。
加持君は一呼吸をすると、私の方に厳しい顔を向けてこう言い放った。
「葛城、・・・ここから出て行け」
冗談でしょ?!
一瞬そう思ったが、加持君の表情からひどく本気だと言うことが分かる。
どうやら、加持君は堪忍袋の緒が切れたらしい。
「い、言われなくたって出て行くわよ!こんなところ!!」
本当は出て行きたくなんて無い。
今すぐにでも加持君に謝って許してもらいたかった。
しかし、リツコとマヤの手前、そんな恥ずかしいことが出来るはずもなく・・・。
売り言葉に買い言葉とはこういうことか・・・。今、初めて理解できた。
「ミサト!」
「葛城さん!」
「いいよ、ほおっておけ」
私は3人3様の言葉を背中に聞きながら、パンパンに膨れたリュックを背中に担ぎ、
キャンプの服装そのままに、スニーカーをはいて、玄関から飛び出した。
おお!!嬉
乙です
部屋から一歩出るとそこは灼熱地獄だった。
暑い・・・。
その上、私は加持君とやりあった事でますます体力を消耗していた。
重い体とリュックを引きずって自転車までたどり着く。
行く場所は・・・一箇所しかないか。
私は半月ぶりの我がボロアパートに向かって自転車をこぎ始めた。
自転車を漕いでいる途中でお腹の虫が音を立てた。
あー、お腹減った。昼ごはん、どうしよっかなあ・・・?
コンビニでも行って冷やしうどんでも買うかあ〜。
あ!そうだ、そうだ〜、うふふ。
私はそこであることを考え付き、自転車の進む向きを変えた。
私が向かった先は、あの、日向&青葉君のバイト先のコンビニだった。
もしかしたら、どちらかがレジに入ってるかもしれないし、
入ってなくてもシフト見せてもらえば暇な時間が分かるしね。
そして、加持君がリツコ&マヤと飲んだように、
私だってえええ!日向&青葉と飲んでやるんだからっ!!
私は意気込んでコンビニの中に入った。
771 :
Alice:2006/04/19(水) 00:03:26 ID:???
あっという間にここまで…ぉつです
乙
「いらっしゃいま・・・葛城さ〜ん!」
「いらっしゃいませ」
「はあ〜い」
私の希望通り、コンビニのレジには日向君と青葉君が入っていた。
午後1時をまわったコンビニは昼休みの会社員が引いており、良い具合に空いている。
笑顔を輝かせる日向君。本当に分かりやすいリアクションだ。
私は冷やしうどんとビールをかごに入れて日向君のレジに持っていった。
「お久しぶりですね!一体どうしたんですか?その格好」
「ああ、実習でキャンプに行ってたのよん。で、いま帰って来たところ」
「そうなんですか。大変でしたねえ・・・」
「ん、まあ、ちょっち疲れたかな・・・。ところで、バイト何時まで?」
「夕方5時までです」
「そう・・・。ねえ、その後何か予定入ってる?」
「えっ!?・・・入ってませんけど」
「そっ、良かった。青葉君は?」
「今のところは何も・・・」
よしよし、好都合じゃない。
「じゃあ、今夜一緒に飲まない?お二人さん」
私は予定通り、二人を誘った。
「えっ?!良いんですかああ!」
日向君の歓喜の声が響き渡った。
驚いて店内の客はこちらを見る。
「ちょっと、日向君・・・」
「あ、すいません。つい・・・」
「青葉君は?」
「ええ、喜んで・・・」
「じゃあ決まり!5時になったらまた来るから〜」
「は〜い」
私はお金を払い、店を出た。
次回
初
め
ての3P
776 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/21(金) 04:30:18 ID:CbplThL1
自分の部屋に帰ると、まず最初に全ての窓を開けた。
物置と化している部屋は掃除もほとんどしていないからホコリがたまっていた。
そして、布巾を濡らしてちゃぶ台を拭き、昼食を取る。
最初にビールを飲んで、冷やしうどんをすすった。
ん〜、なかなか会うわね、ビールとうどん。
ズルズル ゴクゴク・・・
空腹の胃袋にビールとうどんが納まったところで、一休み。
私はホコリのたまっている床にゴロンと寝そべった。
部屋を通る風は外の熱せられた空気を運んでくる。
それは汗臭くホコリにまみれた自分を、より一層不快にさせてくれるのだった。
コレは私が望んだことなのよ。
汗とホコリにまみれて、暑さの中、孤独に部屋で一人、寝そべる自分。
コレは身から出た錆なの、だから受け入れるしかない。
コレは加持君の過去を聞いて感情的になってしまった自分自身が招いた人災なのよ。
私が全て・・・悪いの?
違う!
私が悪いんじゃない!加持君が悪いのよ!
私がこんな不快な思いをしているのは、全て加持君のせいじゃないか!
過去に女を沢山弄んだのも、私を部屋から追い出したのも、
全ては加持君の蒔いた種じゃないか・・・。
なのに、・・・私が、私だけ痛い目にあってる。
世の中の不条理に怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。
そして、私は泣きながら笑った。
もう疲れた・・・、疲れちゃったよ・・・。
体も、心も、疲れちゃった。
こんな思いもう、嫌だよ。
付き合ってるのに、恋人なのに、何度も体を重ねているのに。
それなのに、何でこんな気持ちにならなくちゃいけないの?
加持君のせいだよ、何もかも。
それなのに、私ばかりが傷ついてる。それって、不公平じゃないか。
・・・・・・・付き合わなけりゃ良かった。
グルグルグル
負の思考のスパイラルに巻き込まれながら
私はそのまま眠りについた。
乙です
恋はその人の美しい側面と醜い側面を見せる。あの頃はままごとみたいなものだった。
乙
781 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/23(日) 19:50:57 ID:8hCoF5Ym
(お母さん、なんで泣いてるの?)
(なんでもないわ。・・・ちょっとね)
(またお父さんの事で泣いてるの?)
(・・・いいの。大丈夫よ)
(私、お父さん嫌い。いつもお母さんを泣かせてばかりだもん。
悪いのはお父さんなのに、なんで泣くのはお母さんなの?不公平じゃない!)
(そうね、不公平ね。・・・でも、良いのよ。お母さんはミサトが良い子でいることが一番嬉しいんだから)
(そうなの?)
(ええ、そうよ。だから、ミサト、いつまでも素直で優しい、良い子で居てね)
(うん!分かった。私はお母さんのことを泣かせるようなことしないよ。良い子でいる)
(ありがとう・・・ミサト)
(お母さん、離婚するの?)
(・・・・・・聞いていたの?)
(ちょっちね・・・。良いじゃない、離婚しなさいよ、あんな奴・・・)
(ミサト!お父さんにあんな奴だなんて言わないのよ)
(あんな奴じゃない!いつも私とお母さんを放って置いてさ・・・。早く離婚しなさいよ、お母さん)
(そんな簡単なものじゃないのよ、離婚すると言っても・・・)
(分かってるわよぉ。でも、私は離婚に賛成だから。早くあんな奴と縁を切りたいわ)
(ミサト、母さんを頼む・・・)
(お・・・とう・・さん?)
ハッ!!
目を覚ますと、夕方の4時をまわっていた。
やばい、5時に約束だったっけ!
私は急いで起き上がり、部屋の掃除にとりかかった。
それにしても、嫌な夢見たなあ・・・。まあ、コレが初めてじゃないけどさ・・・。
立て続けに3本も、その上、両親関連だなんて、夢見が悪すぎるわ・・・。
ほとんど使っていなかった部屋は片付ける必要がなく、床のホコリを取り除くだけでほぼ完了した。
夕日が赤く部屋を染め、風は日中とは違って涼しさを運んできていた。
掃除が終わるとシャワーを浴びて、ホコリと汗にまみれた体を洗い清めた。
不快指数が一気に下がる。
ふー、良い気持ちぃ〜。風呂は命の洗濯ね〜♪
ご機嫌になって、鼻歌も飛び出した。
これからぴっちぴちの若い男と飲むのかあ。初めてよね、こんなことって。
二人とも好青年だし、楽しくなりそうっ!
「んふんふ〜♪ はあー、さっぱりした!」
私はご機嫌のままシャワーを終えて、そのテンションのまま下着を着けて、
上にはキャミソールとGパンを着た。
薄く化粧もしてっと・・・。今日の私、きれい?きれいよねえ、うん。
自画自賛をしてますますご機嫌になる。
よしっと!それじゃあ、二人を迎えにいきますか〜♪
私は部屋に鍵をかけ、自転車に乗り込んだ。
お酒とつまみは、二人のバイトしているコンビニで買おう。
飲み会の場所は、私の部屋にしよう。
それが、貧乏学生の賢い生き方ね。
・・・・・・いままで加持君に頼ってたから、そういう工夫は出てこなかったけどさっ・・・。
う、少しテンションが下がっちゃった・・・。こりゃいかん、いかん!
ルンルン〜♪今日はこれから良い男と飲み会〜♪
私は自転車を漕ぎながら、わざと楽しい気分に自分を奮い立たせた。
コンビニの前に着いたのは4時50分だった。
ゼエハア ゼエハア・・・
気分に乗せて自転車を漕いでたから、少し息切れがするわね・・・。年だわ、もう・・・。
私が店に入ると、日向&青葉君は昼間と変わらずレジに居た。
「あ、葛城さん!」
「どうも〜。お酒とおつまみここで買ったのでも良いかなあ?」
「もちろんですよ!葛城さんと飲めるなら、何飲んだって食べたって、僕は構いませんから」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ん、じゃあ、適当に買っておくわ」
「はい、ごゆっくり〜」
日向君のキラキラとした瞳を背後に感じながら、私は店内を歩く。
お酒は・・・全部ビールでいっか。
つまみは・・・するめとスナック菓子でいっか。
あっと!夕食も兼ねてるから、スナックだけじゃやばいわよねえ。何か食事っぽいもの・・・。
レトルトの雑炊があるわね、コレが最後の占めで買っておこう。
あとは〜、餃子!これは欠かせないわね。にんにくの醤油づけも!
から揚げに、ソーセージに、肉じゃがに・・・、お金足りるかしら?
割り勘は・・・私が年上だから出来ないわね。
・・・まてよ?でも学年は一緒よ?だとすると、立場も同じ?割り勘オッケー?
んんんんん?
私は財布の心配をしながらも、割り勘にしようかどうしようか、考えていた。
割り勘だったら、まあまあ食事っぽいのは買えるわね。
でも、駄目なら、おにぎりで・・・。それも駄目よねぇ。困ったわ・・・。
その前に、もうこんなにかごに入ってる。もう買わなくても良いんじゃない?3人だけだし。
あ、でも、男の子だからもっと食べるかも。・・・男の子って、どれくらい食べるのかしら?
んんんんん?
私が考えながら立ち止まっていると、
「お待たせしました、葛城さん」
「はっ!・・・ああ、青葉君」
いつの間にか5時をまわって二人のバイト時間が終わっていたのだ、
普段着に着替えた青葉君に後ろから声をかけられた。
「どうしましたか?」
「ああ、おつまみ、何が良いかと思って。
・・・お菓子だけじゃ、お腹にたまらないだろうし、でも買いすぎても無駄になるし、
それに予算も・・・」
「ああ、大丈夫ですよ、適当に買っても。足りなくなったら後で買い足しするとか、余ったらお持ち帰りとか・・・」
「なるほど・・・」
「それに、お邪魔させてもらうから、部屋代として葛城さんはタダで、俺達で割り勘でも・・・」
「いえ!それは駄目よ。私、飲むから・・・」
「そうですか?なら3人で割り勘で」
「あ、それで良いの?」
「ええ、全部葛城さんに負担をかけるのは良くないと思いますし・・・」
「そう、ありがとう・・・」
良かった、割り勘ならお金は十分足りるわ・・・。
私は胸を撫で下ろした。
「お待たせしました〜」
「あ、日向君。気にしないで、私も買い物でいろいろと迷ってたから・・・」
「あ、そうなんですか?適当で良いのに、足りなかったら買いに行くし、余ったら皆で分ければ・・・」
「ぷっ」
「ん?何ですか?」
「・・・それと同じようなことを俺が言ったんだ。さっき」
「ああ、そうなんだ。参ったなあ・・・。それにお酒とおつまみ代は僕達で折半で・・・」
「ぷっ」
「・・・それも俺がさっき言った・・・」
「・・・なんだよもう・・・」
「これくらいで十分じゃないですか?お酒も・・・。俺チュウハイ買っても良いですかね?」
「あ、どうぞ・・・」
「僕もカクテル飲みたいな〜」
二人はそれぞれチュウハイとカクテルをかごに入れた。
ビール飲まないんだ?意外だわ・・・。
私は驚いたけれど、それを極力顔には出さず、買い物をレジに持って行った。
その場で割り勘をして会計を済ませ、店を出ると、私たちは3台の自転車に乗り込んだ。
「さて、それじゃあ、行きますか〜!」
「は〜い!」
「らじゃ〜!」
そして、3人で私のアパートへと漕ぎ出した。
乙
「はい、上がって上がって〜」
「お邪魔しマース(×2)」
部屋に帰ると、留守電のメッセージボタンが点滅していた。
・・・どうせ、加持君かリツコでしょうよ。
今メッセージを二人に聞かれると興ざめする可能性が十分あるのでそのまま放置。
窓を開けて扇風機をまわし、ちゃぶ台にお酒とつまみを出す。
小さなちゃぶ台なので、3人で座ると少し狭いくらいになった。
それぞれが好きなお酒を持ち、口を開ける。
「それじゃあ・・・、かんぱーい!」
「かんぱーい!(×2)」
3人で缶を軽く打ち合って、宴会は開始した。
「んぐんぐんぐ・・・・ぷはーーー!くーーー!やっぱこれよねえ!」
私はビール一缶を一気に飲み干す。
喉を苦い味が通った後の炭酸の爽快感。コレがたまらなくおいしい。
日向君と青葉君はというと、そんな私を少し驚いたように見てお酒を一口飲んだ後、
すぐにご飯ものを食べにかかった。
もくもくもく・・・黙々・・・
バイトでお腹が減っていたのだろう、ひたすら食べ続ける二人。
お酒なんてお茶と同じで喉を潤せばよいといった感じだ。
そんな二人の食いっぷりに私は、少年のあどけなさを感じた。
「沢山食べてね」
思わず寮母さんのような言葉をかけてしまう。
「はい。・・・すいませんお腹が空いているもんで・・・」
私に見られて恥ずかしかったのか、青葉君が頬を赤らめながらこちらを向く。
なんだか可愛いなあ。
「あはっ、いいのいいの〜、気にしないで。トークは後ですれば良いんだから」
「はい。じゃあ、遠慮なく・・・」
黙々・・・もくもくもく
私は2本目のビールをチビチビと飲みながら、二人の箸が休まるのを待った。
最初に箸を置いたのは日向君だった。
「ふー、食った食った。ごちそうさま〜。あれ?葛城さん、おつまみ食べないんですか?」
「ああ、いいのいいの〜。二人の食いっぷり見てたら満腹になっちゃって・・・」
「そうか、だからそんなに細いんですね。でも、胃壊しますよ?アルコールオンリーじゃ」
「ええ、そうね・・・。じゃあ・・・」
私はあぶりするめを口に運んだ。
「飲み会なんて久しぶりだなあ。今日はお誘いありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、急な誘いで来てくれてありがとう。普段はあまり飲まないの?」
「入学したては結構合コンとか声がかかってたんですけどね〜。3年になった今じゃめっきり・・・。
一緒に飲む相手がいなけりゃ、飲む気も起こりませんし・・・」
「そうなの。・・・青葉君と飲んだら?バイト帰りに」
「ああ、そんな時も何度かあったよねえ?」
「うん。・・・でも、何ていうか・・・お酒を飲んでも飲まなくても、たいして会話が変わらないから・・・」
「そうそう。飲んでも飲まなくても変わらないから飲むのは止めたんです。お酒高いし・・・」
「なるほどねえ〜。確かにいるわね、酔っても変わらない人って」
「葛城さんは、酔うと変わるんですか?」
「ん?・・・ふふ、さあねえ?ベロベロになった時はもう記憶無いから・・・」
「うはあ!ベロベロに酔わせてみたいなあ!」
「その発言、ちょっと犯罪チックだよ、日向君」
「そうかなあ・・・?」
それから私たちは普段テレビは何を見ているとか、今どんな勉強をしているとか、
ゲヒルンに入ったらどんな生活にるだろうか。といった会話をした。
「葛城さんは、もうゲヒルン行きを決められたんですよねえ?」
「ええ」
「何ですか?入職を決めた決定打は」
「ん、まあ、それはいろいろとあって・・・。・・・決定打はやっぱり・・・就職難から逃れられるから。かなぁ?」
私は酔ってはいたが、自分の体に盗聴器が埋め込まれているからとか、
加持君の命をかけての選択だったということはしっかりと話さなかった。