thirdchildren -霧亥-

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1名無しが氏んでも代わりはいるもの
セントラルドグマで・・・

リツコ 「…だから壊すの。憎いから…」

霧亥が無言で突然、リツコの方に銃を向ける
ミサトとリツコの驚いたような顔

キュィィィィィィィィィィィィ・・・・・

ミサト「待って!」

ドン!

ミサト「何てことするの!」
霧亥「あれは使徒だ。」
破壊された、水槽がアップで映る。

log.23@END
2 ◆SRONIN/KRM :2005/09/23(金) 13:13:12 ID:???
2
続きはあるの?
3名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 13:13:32 ID:???
またBLAME!か
4名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 15:50:39 ID:???
おまえは>>3分かっていっているのか?
5名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 17:07:07 ID:???
私/我々セーフガードは排除する
6名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 17:38:57 ID:???

             ,、-‐‐-、,
          ,、‐"~     ~ヽ、,
        ,-"           ゙ヽ、
       ./゙               ゙ヽ、
      ./                  ヽ
     ./          ,、、,_        ゙i,
    /       ,、-‐":::;;;;::~ヽ、       i
    i     ,、-'ニ-'"~~ | ~~゙''ヾニ、,,    i i   ナントイウ
    i i  ,、‐ニ‐~     |      ゙ヾミ;、、 i i   コトヲ
    i ゙! /r"      i .|  i      ii;  ゙!.!
    i .i  i|       | .|  !      ii  i !
    ヽ|  i|     ''ー十 | .十''"     ii  レ
     '|  '! ____ 、 ゙ | ゙  ,,    ii  i
     i  i-=エ・Zゞヾヽ    彡〒。テュ-!  ,i
     l  |             ̄ ̄ .i|  .i
     .i  i               ,i゙  .i
     .i  .i,              ,i;゙  .i
      i   i;:,     i、,_ ,、    ,、i;゙  i
      i   i;;;'ヽ,   、`ニ、、   /i;゙  .i
      i   ゙i;i,  ヽ、  `二~  ./  i;i   i
      i   ゙i;    ヽ、  /   i;   i
     i    i      ヽ'´     i;   i
     .ノ    i,      _      i;   :i
    ./     .i   ,、-" `゙ヽ、,   i;   .i、
   ノ      .i ,、‐゙      ヽ,  i,   .ヽ
  ノ       i/         \ii;    ヽ,
7名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 17:44:07 ID:???
また基底現実か
8名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 17:48:51 ID:???
このスレは不必要な単発スレですレスが>>10まで行かなければ
dat落ちするのでみなさん書き込みを控えてください。 NERV
9名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 17:51:56 ID:???
またレベル9か
10名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 18:10:16 ID:???
重 力 子 放 射 線 射 出 装 置 は 、 A T F を 貫 け る の か ?
11名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/23(金) 18:23:25 ID:???
また見知らぬ、構造体か
12名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 14:34:07 ID:9Z/wrERf
また0と1だけで話すスレか。
13名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 15:06:54 ID:???
>>12
無理だからwwwww



と、釣られてみる
14名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 16:58:39 ID:???
0100 0111 0011 1101 0000 0010
0011 1100 1100 1010 1111 0101
0111 1111 0010 0001 0011 0010
0010 0010 0110 0101 0011 1100
15名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 20:31:13 ID:2W8tQ+xX

    /\___/ヽ   ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<      .::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ
16名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 20:39:21 ID:???
何処かで放置されたBLAME!とエヴァの小説を見た記憶がある。
だが、それを証明する手段は何処にも無い…
17名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/24(土) 23:33:30 ID:???
嘘だ嘘だ嘘だ! サナカンが偽装セーフガードだなんて……、そんなの嘘だ!

事実よ、受けとめなさい。
18名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/25(日) 13:11:06 ID:???
http://www2.nkansai.ne.jp/users/coreall/toukou/title.htm

重力子放射線射出装置が出てる・・・。
19LOG 1・使徒、襲来:2005/09/26(月) 10:49:31 ID:???
迫りくる何者かに応戦しつつ、後退してくるJSSDF(戦略自衛隊)のVTOL。
画面外から異様な音。地響きに似たそれは、明らかに足音である。
超構造体(メガストラクチャー)の稜線の向こうからゆっくりと姿を現す巨大な怪物。
一瞬、目を奪われる、霧亥。
その表情が、一気に険しくなる。
すばやく懐から銃を抜き、怪物を狙う霧亥。銃のチャージ音(2秒くらい)
ガギンッと射出される、重力子放射線。周囲の空間をわずかに歪ませながら伸びる細い光線である(T光処理)
頭部らしきものを貫通され、動きを止める怪物。
一呼吸ほどの間をおいて、周辺に滞空していたVTOLが次々に大破、爆散する。
その破片が霧亥の方まで降ってくる。
立ちつくしたまま、停止した怪物を凝視している霧亥。
あわやという瞬間、霧亥の前に間一髪滑り込んでくる、アルピーヌ・ルノー改。
運転席のドアがバンと開く。ハンドルを握っているのはサングラスをかけた女(ミサト)
ミサト(明るい声で)「ごめん、お待たせ」
無言でミサトを見る(視認する)霧亥。
その向こうで、ゆっくりと倒れていく怪物の巨体。ズズゥンと地響き。堆積層からもうもうと土煙が舞い上がる。
振り返って、唖然とするミサト。


第一次直上会戦・終
*唖然とするミサトさんはシボパンチ目撃時の捨蔵とおやじさんの顔でよろしくおながいします。
20log2 見知らぬ、天井:2005/09/27(火) 12:02:10 ID:???
実は殲滅されていなかった使徒(コア残ってたから)
N2地雷とかはすっ飛ばしてミサトと霧亥はネルフ本部に到着

.リツコ「霧亥君」
 霧亥(無言)
.リツコ「あなたが乗るのよ」

無言でエントリープラグに向かう霧亥
.ミサト(…早っ?!)

なんだかんだでエヴァ発進
途中まで本編通りやられる初号機
自分で応戦しようとエントリープラグの非常脱出ハッチをガチャガチャいじってる霧亥
しかしそこで初号機暴走
中で振り回される霧亥

気がつくと使徒殲滅
自爆時の爆発でも傷一つついてない都市の超構造体

モニタ回復し、頭部装甲のとれた初号機と目が合う霧亥
絞られる初号機の視線
無言でプラグを手動排出し、なおもガン見してくる初号機の頭めがけて銃を構える霧亥
あわやという瞬間駆けつけて彼をはったおす回収班の皆さん
救助員「おいっ!なんてことを!」
  霧亥「あれは使徒だ」

事後の一時的混乱という名目で病院送りに処される霧亥(見知らぬ天井)

まもなく、サードチルドレンに対し作戦部・技術部の連名で
「プラグへの武器の持ち込み厳禁」とのお達しが下った
21名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/27(火) 16:20:26 ID:???
霧亥そのものか!いいなそれ(w
22log2 B-part 1/4:2005/09/28(水) 12:25:42 ID:???
退院許可の下りた霧亥を、病院エリアの正面ロビーで葛城ミサトが待っていた。
彼女に付き添われて、本部の人間から、この第三新東京市での住居について通達を受ける。葛城は
一人で住むのかといぶかっていた。
その後、エレベーターホール(300階層分直通)にて、彼をここに呼んだ男と遭遇した。特に言うべきことも
見当たらないので無視する。するとなぜか、葛城が自分の居住スペースでの同居を主張しだした。
というかそう決定して一人で各手続きを済ませていた。またあの蓄電式軽車両に乗せられる。
「すまないけど、ちょっち、寄り道するから」
「どこだ」
「うふ、い・い・ト・コ・ロ♪」
23log2 B-part 2/4:2005/09/28(水) 12:27:02 ID:???
連れてこられた高台からは、階層内の第三新東京市のある区画が一望できた。街の規模の割に
建造物の数が少なく、層も低い。遥か上をふさぐ超構造体の発光部はそろそろ照度を落とし始め、
階層全体が薄光に包まれている。
隣に立つ葛城が、手首の刻時器を確認し、顔を上げた。
「時間だわ」
その直後、区画全域に旧式の単音警報が鳴り渡った。
霧亥は無言で目を凝らした。各ブロックの最低部がいっせいに稼動し、下面の超構造体内部から
次々と人工の高層構造物がせり上がってくる。超構造体内部空洞であるジオフロントの天井部に
格納されていた可動区画が、その姿を現そうとしているのだった。
「…都市が生えている」
呟くと葛城は微笑した。
「これが、対使徒戦用要塞都市、第三新東京市。わたしたちの街よ」
最後の稼動構造物がロックされ、立ちつくす霧亥の前に、巨大構造物の林立する大都市が広がっていた。
葛城が言った。
「そして、あなたが守った街」
24log2 B-part 3/4:2005/09/28(水) 12:27:51 ID:???
葛城の個人居住スペースは街の外周部にある集合住宅の一室だった。
「霧亥君の荷物はもう届いてると思うから。実は、あたしもこの街に引っ越してきたばっかりでねー」
饒舌に喋りながら電動扉を開くと、葛城は先に中に入って振り返った。
同様の行動を期待されているようなので、霧亥は無言で後に続こうとした。すると葛城は怖い顔を作った。
「ちょおーっと待った。その前に、何か言うことは?」
霧亥は少し考えて答えた。
「入ってもいいか」
葛城は大げさに肩を落としてみせ、辛抱強く言った。
「霧亥君? ここはあなたの家なのよ」
理解不能の言動に霧亥は困惑した。
葛城は数秒待ってそれを察したのか、自分も困ったような苦笑を浮かべた。
「…そっか、知らないのね。
 いい? 自分の家に帰るときは、“ただいま”よ」
霧亥は葛城の顔を注視し、入口の敷居を見下ろして、慎重にそれをまたいだ。もう一度葛城を見る。
「…ただいま」
葛城は笑顔になった。
「おかえりなさい」
背後で扉が閉じ、外部の暗闇を閉め出した。
25log2 B-part 4/4:2005/09/28(水) 12:30:12 ID:???
その後、葛城の個人所有物(主に嗜好飲料の空容器)で雑然とした居住室で食事をし、風呂に入り
(葛城と同居する第二種遺伝子改変生物と遭遇。途中で銃を取り上げられたため大事には至らず)
葛城があなたの部屋よと主張する一室で就寝した。
暗い天井を見ているうちに昨夜の戦闘の記憶が鮮明によみがえってきた。
「エヴァ」
声に出した。あれは人間が造り出した道具で、資格のある者が動かす。だがやはり使徒と同種のものだ。
起き上がろうとしたが、葛城が部屋の前に立つ気配がしたのでやめた。
「一つ、言い忘れてたけど」
葛城は背を向けた霧亥に話しかけた。
「あなたは人に認められる立派なことをしたのよ。胸を張っていいわ。
 おやすみ、霧亥君」
霧亥は黙っていた。
葛城は最後に、もうひとこと理解不能な語句を告げて立ち去った。
「がんばってね」
扉が閉じられ、廊下から洩れる明かりが消えた。霧亥は脳の随意領域の活性を落とし、意識を遮断した。
かくして第三新東京市での、定住という初の活動形態が始まった。


霧亥の場合、第四話で家出してそのままどっかに探索に出ちゃうに乾人10000人
26名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/29(木) 10:56:20 ID:???
>>霧亥の場合、第四話で家出してそのままどっかに探索に出ちゃうに乾人10000人

同意www
27log3 鳴らない、電話:2005/09/29(木) 13:08:38 ID:???
使徒襲来より300時間
壱中に通いだしたもののその特異な言動で周囲から浮きまくる霧亥
おまけにパイロットだとばれてトウジに中庭に呼び出される

やり場のない怒りをこめて殴り倒すつもりが即効で返り討ちにされるトウジ
悪気は全然ない霧亥
 霧亥「なぜ俺を襲おうとした」
 トウジ「…殴らないかんからや。殴っとかな、気が済まへんのや!」
.ケンスケ「こいつの妹さん、こないだの騒ぎで怪我しちゃってさ。…ま、そういうこと」
沈黙する霧亥
自力で立ち上がり一度も目を合わせずに去っていくトウジ 後を追うケンスケ
残されて黙考する霧亥

ふと振り返るとそばに立っている綾波
接近を察知できなかったことに内心動揺する霧亥(網膜表示はまだ読めない)
 霧亥「なんだ」
 綾波「非常召集。先、行くから」
走り去る綾波
28log3 鳴らない、電話:2005/09/29(木) 13:09:25 ID:???
戦闘形態に移行した市街部に降りる使徒
 ミサト『ATフィールド展開。目標視認と同時に、パレットの一斉射。いいわね』
対地戦装備で発進する初号機
ATフィールド展開、と思いきや猛ダッシュで使徒から離れ始める
騒然となる発令所

シェルターの男子便所で相談中のトウジとケンスケ
.ケンスケ「一度だけでも見たいんだよ。なあ頼むよ、ハッチ開けるの手伝ってくれよ」
 トウジ「アホぬかせ。叱られるに決まっとるやないか
.ケンスケ「トウジだってこのままじゃ済まされないだろ」
 トウジ「何がや」
.ケンスケ「あの転校生だよ。今、上で戦ってるんだぜ、あいつ」
 トウジ「……」
.ケンスケ「どうせ俺たちはこの階層から出られないんだ。超構造体がある限り、どこにも逃げられやしない。
     同じ死ぬなら、見てからがいい」
 トウジ「死ぬぅ? 何言っとんのや。そのためにネルフがおるんやないか」
.ケンスケ「そのネルフの決戦兵器って何だよ? あの転校生のロボットじゃないか。
     あいつが俺たちを守ってるんだ。自分の目で見とかなきゃ、トウジも納得いかないんじゃないのか」
 トウジ「…しゃあないな。お前、ほんまに自分の欲望に素直なやっちゃな」
.ケンスケ「へへ」
29log3 鳴らない、電話:2005/09/29(木) 13:10:19 ID:???
なおも全力で市外へ逃走中の初号機
途中で使徒の光のムチの足首を掴まれ、投げ飛ばされる
アンビリカルケーブル切断で内部電源スタート

非常ハッチから抜け出して市郊外にある古代の廃棄構造物を登るトウジとケンスケ
その目の前に初号機が降ってくる
絶叫する二人

壊れた小型建設者と廃層を押し潰して地面に激突する初号機
  ミサト『初号機のダメージは?!』
 伊吹『パルス異常なし、行けます!』
指の間で震えているトウジとケンスケと見つけ、初号機を動かせなくなる霧亥
ミサトの即断で二人はエントリープラグの中へ
光のムチを掴み、使徒を押し戻す初号機
刻々と減っていく内部電源の残り時間

  ミサト『今よ! 退却路はB-17、“山”の東側にある回収ゲートに向かって!』
.ケンスケ「?! なんで後退しないんだ」
 トウジ「おい、転校生! 逃げろ言うてるで?!」
 霧亥「……」
30log3 鳴らない、電話:2005/09/29(木) 13:11:07 ID:???
プログナイフを装備し、構造物の斜面を滑走して使徒に突進する初号機
接触寸前で使徒のムチが胴体を貫く
どよめく発令所
無言で痛みを噛み殺し、使徒を睨みつける霧亥
初号機は一瞬動きを止めるものの、渾身の力でコアにナイフを突き立てる
亀裂から白熱する火花を散らすコア
なおも力を込め続ける初号機
もはや無言のミサト
やがて、パシッと音をたてて使徒のコアが割れる
薄れ始めた超構造体の光の中、同時に活動を停止する初号機と使徒

.ケンスケ「勝った…のか?」
 トウジ「…なんで、逃げんかったんや」
 霧亥「……」
 トウジ「答えんかい!」
.ケンスケ「トウジ!」
 霧亥「こちらが退けばあいつは街に戻る」
 トウジ「…何やて?」

しばらくしてエントリープラグをこじ開け、三人を救出する回収班
言葉を交わす間もなく霧亥から引き離されるトウジとケンスケ
31log3 鳴らない、電話:2005/09/29(木) 13:12:54 ID:???
階層天井部の補助貯水槽の一つが老朽化で決壊し、雨の降り続いている第三新東京市
 トウジ「もう三日か」
.ケンスケ「俺たちが、こってりと叱られてから?」
 トウジ「あの転校生が来んようになってからや」
溜息ついて何かを取り出すケンスケ
.ケンスケ「トウジは不器用なくせに、素直じゃないからね。あの後にでも、何かひとこと言っておけば
     三日も悶々とせずに済んだのに。ほら、転校生の電話番号」
鼻先に突き出された紙切れを見つめるトウジ

校舎裏口にある公衆電話の前に立っているトウジ
メモを頼りに番号を押しかけるが、途中で受話器を下ろして立ち去る
強まる外の雨脚


log3.終 続いたらスゴイ
32名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/29(木) 13:18:40 ID:???
追加
きっと第壱中学校は五百階建てくらいの九龍城チックな学園都市
*重力(ry装置をぶっ放す超絶美人教師はおりません
33名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/09/30(金) 01:18:09 ID:???
「文句ある?」
「いいえ、全然大丈夫です。」

は見れないのか…。
34log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:44:13 ID:???
使徒殲滅より100時間
本部での訓練には出るもののぱったり学校へ行かなくなった霧亥
ついでにミサトと口をきかないことすでに90時間超
天井部の漏水修理 遅々として進まず

その朝 いつも通り一応声をかけようとして彼の不在に気づくミサト
机の上にネルフのIDとミサトが買い与えた携帯
銃だけがなくなっている
ほとんど物のない部屋に一人立ちつくすミサト
雨は降り続いている
35log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:47:36 ID:???
killy log:day 1
 04:00 ミサト及びペンペンの睡眠レベルを確認したのち家を出る
 04:15 駅に到着 が始発すら動いておらずしばし立ち往生
 06:00 通勤ラッシュにもみくちゃにされる
 10:00 この時点でようやくこの軌道が環状線だということに気づく 降車
 〜13:00 市内を探索 *
 17:00 一路市外目指して外周構造物を踏破中
 20:00 夜行性小型珪素生命と遭遇 戦闘
     .銃を使わなかったため少々手間取る
 22:00 市当局による天井部漏水修理ひとまず完了 雨がやむ
 23:00 野営

*この間無銭飲食・軽騒擾等で計12件の騒ぎを起こすも逃亡
36log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:48:37 ID:???
本部でレイの定期検診をするリツコに付き合っているミサト
 .ミサト「…彼、もう戻らないかもしれない」
 リツコ「あら、ずいぶん弱気になったじゃない」
 .ミサト「この前の戦闘の後に、ちょっちね…」
回想するミサト

  ミサト「なぜ命令を無視したの」
 .霧亥(無言)
  ミサト「あなたの作戦指揮官は私よ。作戦行動時は私の指示に従ってもらわないと困るの」
 .霧亥(無言)
  ミサト「今後はこういうことのないようにお願いするわ」
 .霧亥(無言)
  ミサト「…ちょっとあんた、さっきから黙ってばっかで、ほんとに聞いてんの?!」
 初めて顔を上げる霧亥
 .霧亥「使徒は殲滅した」
 思わず怒りをあらわにするミサト
  ミサト「…ッ、」
37log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:50:42 ID:???

昨日までの降水で珍しく澄み渡っている階層の大気
透過率が高いのでかなり強く感じられる超構造体からの降光
影の濃い古代構造物の合間を歩く霧亥
遠方を動いていく建設者の群れ 市警備部がなんとか再現した識別信号により市街周辺には近づかない
遺棄された遺跡の一角に建設者が運んできたらしい古い住居の一部が埋め込んである
逆さまにはまったドアに手をかける霧亥
中はリビングらしき一室 なかば塵に還った家具の残骸が点在している
ミサトの家を思い出して?少しの間足を止めている霧亥

 .ミサト「怒鳴りつけちゃったのよね、思わず」
 リツコ「何て?」
 .ミサト「あんたそういうことしか言えないの、って」
 リツコ「……」
 .ミサト「ここを離れた方が、彼にとってはいいのかもしれない。無理してたもの」
 リツコ「そうね。でも、パイロットは必要よ」

貴重な養分と水を逃がさないよう密閉された棚畑の合間を行く霧亥
技術局の手で改良された小型建設者が合成植物の生育状況を見回っている
畑を抜けるとまた高層構造物の隆起
頂上に登ると、霧になった雨の名残を透かして狭い平盤の向こうに第三新東京市が見える
知らずに市街の近くに戻ってきていたことに気づく霧亥
無言できびすを返す
38log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:53:03 ID:???
夕刻 無人の遺跡内で訓練ごっこをしているケンスケ
構造物の谷間を歩いていく人影に目をとめる
 ケンスケ「あれって…転校生か?」
大声で霧亥を呼び止めるケンスケ

焚火を囲むケンスケと霧亥
 .ケンスケ「トウジの奴さ。反省してた。妹に説教されたんだってさ。
      小学二年生に、説教されるなっての。な」
  霧亥(無言)
 .ケンスケ「…夜はいいよな。あのうるさい建設者が休止してくれるから。
      別に、直接人間に何かするってわけでもないから、文句も言えないんだけどね」
  霧亥「葛城が、都市が再成長期に入ったのだと言っていた」
 .ケンスケ「ふうん、葛城さんね。…まったくうらやましいよなぁ、あんなきれいなお姉さんと同居できて、
      エヴァンゲリオンを操縦できて。あー、俺も一度でいいから、思いのままにエヴァンゲリオンを
      操ってみたいっ!」
  霧亥「俺はそのために来たんじゃない」
 .ケンスケ「…そっか。けど、そんなの別にいいんじゃないか?」
  霧亥「…?」
 .ケンスケ「何のために来たのか、とかさ。
      ここに来て、実際、今、どうなのかっていうのだって、あるだろ」
  霧亥「……」
 .ケンスケ「飯、食うだろ?」
  霧亥「…ああ」
39log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:54:15 ID:???

  霧亥「いつもこんなことしてるのか」
 .ケンスケ「ん? ああ、まあね」
  霧亥「都市を放棄し、放浪生活になった場合のための訓練なのか」
 .ケンスケ「まさか。定住形態が定着して、何十世代になると思ってるんだよ。
      ずっと昔の時代ならともかく、街から追い出されたら、今の俺たちは生きてけないよ」

  霧亥(無言で銃を取り出す)
 .ケンスケ(無言でテントの外を窺う)
霧亥と目で合図を交わして勢いよくテントの偏光外膜を破り、立ちすくむケンスケ
早朝の薄明の中、テントを包囲するネルフ保安部の黒服s
  黒服「サードチルドレンだね」
身構えかけ、丸腰のケンスケに目をやって黙って銃を下ろす霧亥
  黒服「ネルフ保安条項第七の適用により、君を連行する。いいね」
  霧亥(無言)
手にモデルガンをぶら下げ、連行される霧亥を見守るケンスケ

拘留された霧亥のもとを訪れるミサト
どちらも口を開こうとしない
長い沈黙の後、立ち去るミサト
その日のうちに決定されるサードチルドレンの抹消
40log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:55:03 ID:???
 トウジ「それでお前、黙って見とっただけかい?!」
.ケンスケ「仕方ないだろ。向こうはネルフの保安部。プロだよ、プロ」
 トウジ「んなもん関係あるかい! 何もせんと、お前マタンキついとんのか?!」
(女子1「やぁだ」 女子2「フケツ」 女子3「ヘンタイ」)
.ケンスケ「勝てないケンカする奴は馬鹿なの。マタンキは関係ないの」

市郊外 長距離軌道車輌湯本駅
黒塗りの公用車から下ろされる霧亥 黒服の一人が市内での強制発砲停止装置の付けられた銃を返す
無言で政府専用口に向かう一行を、トウジの声が呼び止める
振り返る霧亥
 黒服「おい」
 霧亥「すぐ戻る」
発車時刻を確かめ、身を引く黒服
41log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:55:57 ID:???
 霧亥「なんだ」
 トウジ「……」
.ケンスケ「おい、トウジ?」
 トウジ「う、うるさいわい。
     …転校生、この前は知らずに責めたりして悪かった。もいっぺんワシのこと殴れ」
 霧亥「……」
.ケンスケ「こういう恥ずかしいヤツなんだよ。それですっきりするなら、殴ってみれば?」
しばし二人を見つめる霧亥 ふいに目を逸らす
 霧亥「…悪いが、できない」
言い返そうとするトウジを制止するケンスケ
初めて表情らしきものを見せている霧亥
 霧亥「殴られなければならないのは俺だ」
沈黙する二人

黒服が歩み寄り、再び連行されていく霧亥
思わず後を追うトウジとケンスケ
狭い政府専用通路の角を曲がって消える一行
と、黒服が何人か格闘しつつ押し返されてくる かなり本気で制圧しようとする黒服たち
その合間から一瞬だけ霧亥の顔が覗き、二人をほとんど睨みつけるように見つめる
が、すぐに黒服たちに押し戻されて消える
立ちつくす二人
42log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:57:10 ID:???
ホームに特異な姿を見せている政府専用車輌
駅の外でそれを見ているトウジとケンスケ

第三新東京市に来たときと同じ最低限の荷物のみを持ってホームに立っている霧亥
ふいにミサトの声が蘇る
(あんた、そういうこと以外に何か言えないのッ?!)
顔を上げる霧亥

発車を知らせる耳障りな電子音を聞くトウジとケンスケ
突然、街の方からアルピーヌ・ルノー改がタイヤを軋らせて突進してくる
急停止した車から降り立つミサト が、すでに車輌は動き出している
増速していく軌道車輌を言葉もなく見つめるミサト

ふと顔を上げるミサト
気づいて振り返ると、ホームに佇んでいる霧亥の姿が目に飛び込んでくる
混乱しきった表情の霧亥
長い沈黙の後、何とか先に口を開く
「…ただいま」
しっかりと視線を受け止めた後、ゆっくりと表情をほころばせるミサト
「…おかえりなさい」
動かない二人 単調に響き始める次の車輌の入線案内
43log 4. 雨、逃げ出した後:2005/09/30(金) 14:58:04 ID:???
すでに長雨の痕跡もなく常態に戻った第三新東京市
相変わらず物の少ない霧亥の部屋
机の上に何か古い部品を置く霧亥
 ミサト「それ、何?」
.霧亥「街の外で拾った。他にもいろいろあった」
 ミサト「そう。
    …じゃ、今度の休み、車で行ってみよっか」
.霧亥「ああ」


log 4. 終
なげーな
>33 あんな格好で脅されたら根府川先生卒倒確定 …たぶん
44log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:04:40 ID:???
仮設屋泡体に覆われた先日の使徒を見上げる霧亥とミサト
停止した使徒の周囲に生備させた足場の上から声をかけるリツコ
  リツコ「ほんと理想的なサンプル。助かるわ、霧亥君」
 霧亥(無言)
  .ミサト「で、その理想的なサンプルから、何かわかったわけ?」
分析端末群の前に移動する一行
  .ミサト「解析不能って、つまりワケわかんないってこと?」
  リツコ「使徒は我々のような有機生命体、つまり炭素基系の種とは異なり、炭素と最外殻電子数の同じ
     珪素を基本とした分子構造からできているの。でも見て」
  .ミサト「どれどれ?
     何これ、私たちの遺伝子配列じゃない」
画面見ようとして押しのけられる霧亥
  リツコ「感染による変異は現在わかっている限りの範囲で修正してあるわ。
     そしてこれが、今回得られたサンプルから作成したもの」
45log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:05:28 ID:???
ようやく画面を覗きこむ霧亥
表示されている二つのほとんど同一の図表
  リツコ「構成素材、そして感染の有無の違いはあっても、両者は酷似しているのよ。99.89%ね」
  .ミサト「! それって…」
  リツコ「そう。エヴァと同じ。
     使徒が建設者と同じ古代のテクノロジーの産物だっていう説、あながち間違いとは
     言えないかもしれないわね」
ふいに霧亥を見るリツコ
  リツコ「古代の技術といえば、あなたのその銃もね」
黙って見返す霧亥
  .ミサト「重力子放射線射出装置。
     わたしたちにも、その技術だけはどうしても再現できなかったのよね」
46log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:07:19 ID:???
  .ミサト「霧亥君も銃のことはよく知らないらしいし、結局、事実は闇の中か」
  リツコ「せめて統治局との交信記録でも残っていれば、少しは違うんでしょうけど」
視線を逸らすリツコ 追求がやんだのを察し警戒を解く霧亥

背後から人声
使徒の視察に訪れたらしい碇と冬月が見える
手袋をまとめ持った手を背中に回す碇 手のひらの変色に気づく霧亥
  .ミサト「どしたの? お父さんの方をじーっと見ちゃって」
 霧亥「火傷をしている」
  .ミサト「ほんとだ。…リツコ、何か知ってる? 司令の手の火傷のこと」
若干間をおいて正面から霧亥を見るリツコ
  リツコ「あなたがここに来る前、零号機の起動実験があったことは知ってるわね」
なぜ見られるのかわからない霧亥
 霧亥「…ああ」
  .ミサト「確か、零号機が暴走したのよね?」
  リツコ「ええ。そのとき、パイロットが中に閉じ込められてね」
 霧亥「綾波レイか」
47log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:08:07 ID:???
  リツコ「碇司令が、彼女を助け出したの。過熱したハッチを素手でこじ開けてね。
     手のひらの火傷は、そのときのものよ」
無言で碇を見つめる霧亥
つい先日まで身体のどこかしらに包帯をしていたレイの姿が浮かぶ

 トウジ「そないいうたら、一年のとき転校してきてから、ずーっと友達いてないな」
.ケンスケ「何か、近寄りがたいんだよ。俺たちとは違うっていうか」
 トウジ「ほんまは性格悪いんとちゃうか?」
.ケンスケ「けど何でまた。霧亥の方がよく知ってるんじゃないのか? 同じパイロットなんだし」
 霧亥「…ほとんど口をきいたことがない」

  リツコ「いい子よ、とても。碇司令に似て、とても不器用だけど」
 霧亥「不器用」
  リツコ「そう。生きることが」

ケイジ内で初号機に搭乗している霧亥
今のところ神経接続以外にエヴァとのアクセス経路はなく何も調べられずにいる
向こうに見える固定冷却中の零号機
傍にプラグ周りを自己調整しているレイの姿
目をとめる霧亥 自動で望遠モードに切り替わるエヴァの視覚
拡大され狭くなったサイトの外から碇が現れる
はずむような足取りで降りてきて自分から碇に話しかけるレイ
笑顔で答える碇
無意識に身を乗り出している霧亥 我に返り、シートに背を預ける
元に戻るプラグモニタ
48log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:09:12 ID:???
リツコに託された更新IDを手に旧居住区の前に立つ霧亥
ジオフロント開口部を覆う第三新東京市の建造当時の施設 今は住人もなく放置されている
数時間後、レイ名義で登録された部屋に到達
躊躇なく中へ踏み込む霧亥
全く生活感のない室内 発掘された記憶媒体から積極的に古い時代の様相を再現、
模倣している現市街やミサトの部屋とは対照的
ID置いて帰ろうとして破損した眼鏡を見つける霧亥
回収財ではなくこの階層で作られたものらしい
手にとって眺めていると、廊下に人の気配
身構えて振り向く霧亥
49log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:10:02 ID:???
浴室から出てきたばかりのレイが立っている
碇の眼鏡を持っている霧亥を見て顔色を変え、足早につめよってくるなり手を伸ばす
反射的に防ごうと手を上げる霧亥 眼鏡が手を離れ、落下する
受け止めようとするレイと前に出ようとした霧亥がぶつかり、バランスを崩す
一緒に床に倒れる二人
どちらも無言で何秒か過ぎる
  .レイ「どいてくれる」
黙って起き上がる霧亥
立ち上がって制服を身につけ始めるレイ
お互い背を向けている二人
 霧亥「IDが更新された。赤木博士から預かっている」
返答がない
 霧亥「おい」
振り返ると、ちょうど玄関扉が音をたてて閉まる
若干険しい表情になってレイの後を追う霧亥
室内からは眼鏡が消えている
50log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:12:27 ID:???
本部ゲート前でリーダーにIDを通すレイ
エラー表示
追いついてきた霧亥が横から更新IDを通し、カードを差し出す
 霧亥「認証システムが変更されている」
無言でカードを取り、歩み去るレイ

セントラルドグマ内降下走路
  .レイ「なぜついてくるの」
 霧亥「再搭乗に不安はないのか」
  .レイ「あなたはあるの」
 霧亥「いや」
  .レイ「信じられないの、お父さんの仕事が」
 霧亥「俺はここに呼ばれただけだ」
振り返るレイ
走路の段を一つ登り、正対した霧亥を平手打ちする
背を向けて降りていくレイ
51log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:17:17 ID:???
零号機再起動実験
エントリープラグ内のレイ
視線の先には操縦インテリアに掛けられた碇の眼鏡

 伊吹「…ボーダーラインクリア。零号機、起動しました」
  .レイ『了解。引き続き、機体連動実験に入ります』
実験管制室に居並ぶ碇、冬月、リツコ
外の通路から見守っているミサト 
送信端末を抜いて振り返る冬月
 冬月「…碇。未確認飛行物体がこちらに接近中だ」
一瞥して指示を下す碇
   碇「実験中断。ただちに第一種戦闘配置に移れ」
 冬月「零号機は? このまま使わんのか」
   碇「まだ戦闘には耐えん。初号機は」
  リツコ「380秒で準備できます」
   碇「出撃だ」
起動終了され、暗闇の落ちるエントリープラグ
レイの吐き出した息が、わずかな泡の列になって立ち昇る

発進準備の進むケイジ
プラグスーツのまま、発進口へ移送されていく初号機を見ているレイ
52log.5 レイ、心の向こうに:2005/10/03(月) 14:21:31 ID:???
未踏査の平盤の彼方から接近してくる使徒
目標の市街侵入と同時に発進する初号機

 青葉「目標内部に、高エネルギー反応!
     円周部を加速、集束していきます!」
  .ミサト「何ですって?!」
都市構造物の上面に出る初号機
正面に使徒
  .ミサト「だめ、よけて!」
顔を向ける霧亥
瞬間、使徒から放たれた荷粒子線が初号機の胸部を直撃する
熔融する装甲 LCLが沸騰する
絶叫するミサト
  .ミサト「霧亥君!!」


log.5 終
霧亥じゃなくドモチェフスキーだったらこの話どうなるんだろうか
53名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/03(月) 14:42:14 ID:???
重力子放射線射出装置をおいそれと使えないだろうしイコの扱いに困らないか?
ん?トウジとケンスケの立ち位置を……いや、何でもない。すまなかった。

それはそうと、乙。使徒はポスト大嚢王(漢字が適正か照合できない)かな…?(笑
54log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:44:19 ID:???
初号機の緊急回収より2時間
使徒は第三新東京市主構造体上 座標0へ侵入
直径17.5mのブレードで直下の本部へ向け掘削中
本部主電脳により予想到達時刻が算出される

それを受け 同日 葛城作戦部長は難攻不落の目標に対し
一点突破による攻略を提唱 承認される
以後 作戦部主導のもと使徒殲滅へと動き出すネルフ

JSSDF技研局より試作自走陽電子砲を徴発 これを超長距離射撃銃として改装
また都市下層部より発掘された特殊プレートを加工 使徒の砲撃に対する盾として使用
いずれも重力子放射線、あるいは超構造体には及ばないながらも
現時点における最も有効な対抗手段として接収を承認される
作戦決行座標は市郊外 通称“双子山”山頂に決定
 日向「使徒との距離、砲撃の方向等を考慮すると、確かにここがベストですね。
     しかしATフィールドの貫通に必要な総エネルギー量は最低でも一億八千キロワット、
     それだけの大電力を、一体どこから集めるんです?」
  .ミサト「そのために、ここを作戦地点に選んだのよ」
55log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:45:20 ID:???
同刻 双子山重層構造体深部
 伊吹「何ですか、これは」
  リツコ「都市の補助電源。ジオフロントの初期の調査時に発見されたんだけど、
     耐圧盤から外したとたんに、急激な化学反応を起こそうとしてね。
     下手に扱えば大爆発は免れないけど、逆に短時間に莫大な電力を供給するには
     うってつけというわけ。もちろん、それに耐える伝導設備があってこそだけど」

 青葉「それに関しては、すでに第二東京サイドの承諾を取りつけてあります。
     他都市との主要交通手段の一部を失うのは、やはり相当な痛手ですが」
 冬月「軌道車輌の超剛体架線か。もともと車輌の運行・動力維持のために超電導覆装された
     素材でもあり、大規模な通電にも短時間なら耐えられるか」
 青葉「軌道の解体と再設置は、5時間後には完了の予定です」
56log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:46:42 ID:???
 日向「全ての作業は順調に進行中。明朝日付変更には間に合います」
  .ミサト「了解。
     以後、本作戦をヤシマ作戦と呼称します」

作戦細部の最後の詰めを行う作戦部
臨戦態勢で各機材の改装ならびに最終調整を続ける技術部
作戦責任者として指揮を執るミサト 近傍都市連結体の関連各省庁との折衝に追われる冬月
沈黙のうちに全てを見守る碇

 日向「初号機パイロットの意識が戻ったようです」
  .ミサト「そう。では、作戦は予定通りに」
57log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:47:28 ID:???
病室で目覚める霧亥
傍にいるレイ
おもむろに手帳を取り出し作戦スケジュールを伝えるが、反応がない
目を向けるレイ
とっくに寝台から降りてスキンスーツを身に着けている霧亥
  .レイ「どこに行くの」
 霧亥「エヴァではあの使徒を撃退できない」
銃を確認し、懐にしまう霧亥
  .レイ「今のあなたにも、無理だわ」
振り向く霧亥
すでに立ち上がっているレイ
  .レイ「じゃ、葛城一尉と赤木博士が、ケイジで待っているから」
病室のドアが閉まる
立ちつくす霧亥 再び銃を取り出し、無言で見つめる
58log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:48:15 ID:???
市郊外 市立第壱中学校 夕景
屋上の手すりに鈴なりになっている生徒たち
 トウジ「ほんまにこの時間でええんか?」
.ケンスケ「パパのデータこっそり見たんだ。間違いないって」
突然、打ち捨てられているはずの廃棄構造体の一部が低いとどろきとともに稼動する
目をみはる生徒たち
 トウジ「山が…動きよる」
.ケンスケ「エヴァンゲリオンだ…!」
廃墟の下部から出現する初号機と零号機
歩き出す両機を生徒たちの歓声が見送る
59log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:49:45 ID:???
双子山仮設基地 深夜
  .ミサト「これより、本作戦での二人の担当を伝えます。
     霧亥君は初号機で砲手を担当。レイは零号機で、防御を担当して」
  リツコ「これは、霧亥君と初号機のシンクロ率の方が高いからよ。今回の作戦では
     より精度の高いオペレーションが必要なの」
投光機のライトを浴びて長く伸びている四人の影
  リツコ「陽電子は地球の自転、磁場の影響を受け、直進しません。
     その誤差を修正するのを、忘れないでね。正確に、弧は一点のみを貫くのよ」
 霧亥「敵が先に砲撃してきた場合は」
  .ミサト「そのときは、レイの盾に守ってもらうしかないわね」
沈黙する霧亥
  リツコ「大丈夫。あなたはマニュアル通りにやればいいの。あとは機械がやってくれるわ」
  .レイ「…わたしは」
レイの方を見る三人
  .レイ「わたしは、初号機を守ればいいのね」
逆光で見えないレイの顔
頷くミサト
  .レイ「わかりました」
レイの方を見ている霧亥
60log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:50:32 ID:???
作戦発動直前 深更
万が一を考え全ての通電を一時停止された第三新東京市を眺めている霧亥とレイ
唐突に口を開く霧亥
 霧亥「なぜこれに乗っている」
  .レイ「…絆だから」
 霧亥「それは何だ」
  .レイ「わからない。前に、古いハードコピーで見つけた言葉」
 霧亥「…何だと思う」
  .レイ「つながり。人と人の間にあるもの」
 霧亥「あの男との?」
  .レイ「みんなとの」
 霧亥「それが必要なのか」
  .レイ「わたしには、他に何もないもの」
立ち上がるレイ
  .レイ「時間だわ。行きましょ」
見上げる霧亥
  .レイ「さよなら」

日付変更時刻
ヤシマ作戦 発動
61log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:52:20 ID:???
多重監視下のもとで限定アクセスされ、膨大な電力を開放しはじめる補助電源
瞬時に跳ね上がった電圧に耐えて伝導を続ける軌道 漏れ出した高温が平盤を溶かす
強制集束装置が始動 最大稼動する銃身冷却機の列
銃身内部で加速度的に高まっていく陽電子のエネルギー
射撃体勢に入る初号機

指揮車輌に響く警告音
 日向「目標内部に、高エネルギー反応!」
  .ミサト「気づかれた?! 第一射、まだなの?!」
 伊吹「あとわずかです!」
  .ミサト「構わないわ、このまま行って!」

硬滑平盤を挟んで同時に荷粒子線を放つ初号機と使徒
二線は干渉によって軌道を歪められるものの、それぞれ対岸に着弾する
衝撃に揺れる仮設基地
  .ミサト「ミスった?!」
 日向「銃身冷却開始! 再準備急げ!」
即時再集束を開始する使徒
 伊吹「第二射、来ます!」
  .ミサト「何ですって?!」
初号機を襲う閃光
62log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:53:09 ID:???
一瞬目を閉じかける霧亥 すぐに瞠目する
初号機の前で盾を構えている零号機
周囲を流れ去る灼熱の光
盾が融け始める
照準画面を食い入るように睨む霧亥
盾の端が曲がり出し、零号機がわずかに押される
最終補正が完了する
使徒を見据える霧亥
一気に操縦桿を引く
発射

平盤の上の暗闇を一瞬で駆け抜け、使徒を貫通する陽電子線

炎上しつつ倒れていく使徒
作戦成功に沸く指揮車輌

呆然としている霧亥
と、すぐ脇に零号機が倒れる
はっとする霧亥
63log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:54:23 ID:???
くすぶる構造体の陰に停止している初号機と零号機
装甲表面が融けて流れかけている
強制排出したエントリープラグの非常脱出ハッチをこじ開けようとする霧亥
過熱したプラグ表面が両手を焼いている
開放されるハッチ
流れ出す高温のLCLの中に踏み込む霧亥
ぐったりしているレイ
うっすらと目を開く
  .レイ「…?!」
意識を取り戻して、目の前にいる人物をはっきり識別するレイ
わずかな表情の変化を見て取り身を離す霧亥
身体を起こそうとするレイ
 霧亥「じっとしてろ。すぐ回収班が到着する」
  .レイ「……」
もう一度レイに向き直る霧亥
 霧亥「なんだ」
64log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:55:10 ID:???
  .レイ「なぜ助けてくれたの」
 霧亥「お前が生存しているからだ」
黙って見つめるレイ 少し考えて付け加える霧亥
 霧亥「お前は正しかった。使徒はエヴァによって撃退された。
     俺たちは生き残っている」
目を伏せるレイ
  .レイ「…ごめんなさい」
 霧亥「なぜ謝る」
  .レイ「こういうとき、どんな顔したらいいかわからないの」

山の下方から向かってくる回収班のライト
背を向けて立ち上がる霧亥
 霧亥「お前はどういう顔をされたことがある」
顔を上げるレイ
脳裏に去来する暴走事故の記憶 開いたハッチの向こうで苦しげな微笑を浮かべる碇の顔
65log 6. 決戦、第三新東京市:2005/10/04(火) 14:56:04 ID:???
振り返ってふと目をみはる霧亥
 霧亥「お前」
静かに顔を向けるレイ
  .レイ「何?」
 霧亥「今…」
口ごもる霧亥
レイは落ち着いて頷く
  .レイ「…ええ」
かすかに目を見開き、もう一度、今度は霧亥に向かって微笑むレイ


log6.終
うる覚えな台詞は突っ込み無用でおながいします

>53 使徒のバック…実はまだ明確に決まってなかったりして
とりあえず漢字は合ってると思う
イコの位置付けは無理にあてはめたりせず臨機応変てことで ドモの実弾系の銃とか好きだったな
66名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/04(火) 17:14:50 ID:???
更新乙!短く状況の描写だけを繰り返すのはわかり易くてイイ!
主人公がドモチェフスキーだったら葛藤も無くポジティブに使徒を倒そうとするような(w
タブリスがプセルの役割を果すのか……お、それはそれで?

>実弾系の銃とか好きだったな
そうだなー。ブロンと戦う時、回避行動を取らずに零距離で乱射しあうのには燃えた。
重力子放射線射出装置が無い時の霧亥が使っていた二挺の銃も良い味出してるよね。

67log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:49:34 ID:???
使徒襲来の事後処理を終え常態に戻ったネルフ本部
長い影の落ちる広大な総司令執務室
即頭部に外部端子を繋ぎどこかと通話中の碇
 声『…では、シナリオ通りに』
通話を切り端子を抜く碇
68log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:50:33 ID:???
葛城の個人居住室 朝
並んでそれぞれの食卓につく霧亥とペンペン
チン!とトースターから吐き出されるこんがり焼けた焼成済発酵グルテン塊
専用皿に置かれる焦げ目のついた遠赤加熱処理済魚×2
椅子を引いて座る霧亥 皿の前にスタンバイするペンペン
同時に食べ始める二者

ガラッとミサトの寝室の引き戸が開く
寝癖頭でぼりぼり腹を掻きながら登場する下着同然の格好のミサト
  .ミサト「おふぁよ〜」
食事を中断され非難の眼差を向ける二者
大あくびで答えるミサト
というか気にしてすらいない

勢いよく開封されるいつもの嗜好性アルコール飲料
豪快に首をのけぞらせ一気にいくミサト
  .ミサト「んぐんぐんぐんぐッ、ぷっはぁ〜ッ! くぅーっ、朝一番はやっぱコレよねぇ」
 霧亥「コーヒーじゃないのか」
む、と睨みつけるミサト
  .ミサト「日本人はね、昔から朝はご飯と味噌汁、それにお酒って決まってんの!
     発掘された資料でもちゃ〜んとそう証明されてんのよ?」
69log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:51:22 ID:???
 霧亥「俺たちはニホンジンじゃない」
  .ミサト「(聞いてない)大体誰よ、霧亥君にそんなこと教えたの。あ、リツコでしょ」
 霧亥「ああ。この間帰り際に言っていった」
  .ミサト「この前? …ふん、うちの特製カレーが口に合わなかったからって、
     何も霧亥君に言うことないじゃない。…そうよ、霧亥君もだめよ?
     いつも食べたり食べなかったりで、ちゃんと食事摂ろうとしないんだから。
     朝ごはんってのはね、今日一日を乗り切るための大切なもんなのよ? だいたい…」
すでに席を立っている霧亥
同じくそそくさと立ち去ろうとし、ミサトにわしっと首ねっこを押さえられるペンペン

 霧亥「…今日、本当に来るのか?」
  .ミサト「ん? 当ったり前でしょ、保護者参観なんだから。
     だいじょーぶ、心配しないでいいわよ。気合入れていくから」
ちょっと振り向く霧亥
 霧亥「ああ」
すぐに食器の片付けに戻る
特に何かの意図がこめられた動作ではないのは承知しているが、微笑するミサト
  .ミサト「もうばっちりキメて行ったげるからね」
70log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:53:15 ID:???
壱中 休み時間
 トウジ「おい霧亥、ほんまに来るんか?」
 霧亥「ああ」
.ケンスケ「これで来なかったら、さんざん前宣伝した俺たちっていい笑いもんだよな」
 トウジ「んなもんお前が勝手にやったんやないか。…ん、どないしたんや?」
窓の方を振り返る霧亥
遠くから響いてくる派手なタイヤの軋音
 トウジ「! おいでなすったで!」
我先に席を蹴るトウジとケンスケ
引っぱっていかれる霧亥

華麗なコーナーリングで駐車場に滑り込み、急停止するアルピーヌ・ルノー改
磨き上げられたドアが開き、世にも麗しい脚が現れる
サングラス片手に颯爽と降り立つミサト
どよめく男子一同
 男子1「すっげー」 男子2「誰だよあれ?!」 男子3「霧亥の保護者じゃねーの?」
 男子4「何、霧亥ってあんな美人に保護されてんの?!」
超得意顔のトウジとケンスケ
ケンスケの構えるカメラに思いっきりVサインするミサト
  ヒカリ「…馬鹿みたい」
教卓周りでケーベツの眼差を向ける女子一同 自分の席で頬杖ついているレイ
71log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:54:25 ID:???
 トウジ「やっぱええな〜、ミサトさんは!
     ああいう人がカノジョやったらなぁ〜…お?」
一人席に戻っている霧亥
 トウジ「…なんや、タンパクなやっちゃなぁ」
.ケンスケ「ま、あいつらしいんじゃないの」
 トウジ「案外照れてるだけやったりしてな」
興奮さめやらぬ男子一同を眺めるケンスケ
.ケンスケ「にしても、当然のごとく霧亥って呼び捨てにするようになったなぁ。
     クラスの連中」
 トウジ「そりゃしゃあないわ。碇って呼んでも全然反応せんし」
.ケンスケ「やっぱ、なんかあるのかなぁ」
 トウジ「何がや」
.ケンスケ「親御さんとだよ。いや、ひょっとするとそもそもないのかもな、そういうの」
 トウジ「お前そら、ワシらの立ち入るモンダイやないやろ」
.ケンスケ「まあね。けど、他の階層から来たって噂もあるからさ」
 トウジ「そらそうやろ。第二東京だってここから4階層は上やし」
.ケンスケ「俺が言ってるのはそっちじゃないよ。あらゆる通過の意志を拒む超構造体で隔てられた、
     “別の”階層からってこと」
72log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:55:19 ID:???
 トウジ「別の階層ォ? …何言うとんのや。もしほんまにそないなもんがあったとしても、
     どうやって行くっちゅうねん。無理やろ、無理」
.ケンスケ「…そこなんだよなぁ」
 トウジ「なんや、考えてなかったんかい」
.ケンスケ「どっちにしろ、この階層で生まれ育ったにしては物を知らなすぎるだろ。
     俺たちの種族が今の生活形態になって、どのくらい経つと思うんだよ」
 トウジ「んな奴なら他にもおるやん。綾波とか。お前、考えすぎやって」
.ケンスケ「くー…そんなもんかぁ」
 トウジ「そうや。今モンダイなのは、あいつがどっから来たかやない!
     なんであいつが、ミサトさんと一緒に暮らしてるかってことの方や!!
     …おい霧亥!」
いきなり呼ばれてめんくらう霧亥
顔を上げると仁王立ちでこちらを指さすトウジと眼鏡を光らせたケンスケ
トウジ+ケンスケ「階層の平和はお前に任せた! せや(だ)からミサトさんはワシ(俺)らに任せい(ろ)!」
完全に混乱する霧亥
その様子を見て、それぞれに笑い出すトウジとケンスケ
73log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:56:17 ID:???
ネルフ本部 定例のハーモニクス試験
LCLで満たされたプラグで手足を伸ばし半ば目を閉じている霧亥
狭い空間に漂う血の臭い

  リツコ「そう、セカンドインパクトの原因は都市機能の暴走ではないの。
     我々は15年前、ここと同じく超構造体に臨接していた“南極”において
     初の使徒と呼称される物体を発見した。でも調査中に原因不明の爆発が起こり、
     “南極”は周囲の数十階層とともに失われたの。そこに住んでいた人たちごとね。
     それが、この階層の居住可能区域と人口を半減させたセカンドインパクトの正体」
セントラルドグマ 中央走路上
珍しく口を挟まず脇を流れていくドグマの構造を見つめているミサト
一瞥し、リツコに視線を戻す霧亥
  リツコ「つまり、襲来する使徒を倒し、予想され得るサードインパクトを未然に防ぐ。
     これが我々ネルフの本当の使命というわけ」
言葉を切ってミサトに目をやるリツコ
  リツコ「ところであれ、予定通り明日、やるそうよ」
初めて二人に視線を向けるミサト
  .ミサト「…わかったわ」
74log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:57:12 ID:???
再び葛城の個人居住室 朝
チン!とトースターから吐き出されるこんがり焼けた焼成済発酵グルテン塊
専用皿に置かれる焦げ目のついた遠赤加熱処理済魚×2
椅子を引いて座る霧亥 皿の前にスタンバイするペンペン
同時に食べ始める二者

ガラッとミサトの寝室の引き戸が開く
完璧に身じまいを整え、ネルフの士官用正装で立っているミサト
  .ミサト「おはよう」
食事の存在すら忘れて硬直する二者

  .ミサト「今日は旧東京まで行ってくるわ。遅くなると思うから夕食はなんか出張って。
     明朝には戻るわ。じゃ」
手早く玄関を出るミサト 扉が閉まる 
呆然と見送る二者
少しして我に返り、未だ自失しているペンペンを抱え上げて冷蔵室へ運び入れる霧亥
75log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:58:00 ID:???
第三新東京市より11階層 東京跡地
大威力爆弾の投下による変形球状クレーターである 遠く内壁に取りついて修復中の建設者群
ネルフの専用VTOLから眼下の光景を眺めているミサト
  .ミサト「これがかつての階層最大居住区のひとつ、花の都と呼ばれた東京とはね。
     …ところで今回のこれ、JSSDFは絡んでるの?」
  リツコ「戦略自衛隊? いえ、介入は認められずよ」
  .ミサト「どおりで好き勝手やってるわけか」

拍手に包まれる対使徒兵器『JA』完成記念披露会場
演壇で誇らしげに解説を行う日本重化学工業共同体開発代表・時田シロウ
質問に立つが体よく揶揄の的にされるリツコ
 時田「…ではこういうことですか? ネルフの技術と、人の心が、あなた方のあの怪物を
     制御するとでも?」
  リツコ「ええ、その通りですわ」
76log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 15:58:59 ID:???
 時田「そうでしょうとも。すでに、これまでの戦闘と度重なる暴走事故の後始末で、
     周辺居住区は電力資源を含めさまざまな面での協力を強いられ、都市連は莫大な
     追加予算を迫られ、某区域では3000人を超す餓死者を出そうとしている。良かったですねえ、
     ネルフが超法規的に保護されていて。あなた方はそのツケを払わずに済むわけだ」
めんどくさそうに聞いているミサト
  .ミサト「…リツコ? よしなさいよ、大人げない」
毅然と反駁するリツコ
  リツコ「何と仰られようと、我が方の決戦兵器以外に、あの敵性体は倒せません」
 時田「…ATフィールドですか? それも時間の問題に過ぎません。
     いつまでもネルフの時代ではありませんよ」
聞こえよがしな嘲笑の渦が会場を席巻する
テーブルの上で震えるリツコの拳

試運転披露を前に控室に戻っているミサトとリツコ
  .ミサト「…大体なんで民間がATフィールドのことまで知ってんのよ?!
     諜報部は何やってたのかしら」
  リツコ「極秘情報がだだ漏れね」
  .ミサト「ったく、どうせウチの利権にあぶれた奴らの嫌がらせでしょ?!
     ハ・ラ・立・つ・わ・ねもうッ! このっこのっ」
正装のままロッカーをガシガシ蹴りつけるミサト
  リツコ「よしなさい、大人げない」
ライターの炎にあぶられ焼け焦げていくJAの披露会用パンフレット
おそろしく冷たい微笑を浮かべるリツコ
  リツコ「自分を自慢し、誉めてもらおうとしている。…大した男じゃないわ」
77log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:00:03 ID:???
特設展望室にて試運転を開始するJA 
管制からの信号に従って制御棒を解放、遠隔操作のもと着実に歩みを進めていく
他の列席者とともに、それなりに感心しつつ双眼鏡を覗いているミサト
一人離れているリツコ 視線は一貫してJAからそむけれている

突然、JAが制御不能に陥る
あらゆる停止努力も空しく、披露会場ごと踏みつけて歩み去っていくJA
呆然と立ちつくす時田
その前に立ちはだかり、最後の手段である、全制御プログラムの削除を要請するミサト
憤然となる時田
 時田「全プログラムのデリートコードは最高機密だ。私の一存では教えられない!」
動じないミサト
  .ミサト「自然停止の可能性は?」
 社員「確率は0.02%、まさに奇跡です」
  .ミサト「奇跡を待つより捨て身の努力よ。パスワードを教えなさい」
 時田「私一人の判断では無理だ!」
  .ミサト「では許可をもらいなさい。今すぐ!」

首相官邸、内務省と次々に連絡をとる時田
傍目にもたらい回しにされているのがわかる 冷めた目で見守るミサト
ようやく通話を切る時田
 時田「…今から通達が届く。書類は正式なものだ」
  .ミサト「…それじゃ間に合わないわ。
     わかりました。今よりこの件を特務機関ネルフの管轄とし、以降は
     私の独断で行動します。悪しからず」
言葉もない時田
と、管制席の社員が防火用斧で制御端末を叩き壊す
78log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:01:20 ID:???
 社員「ここからの信号が途絶えると、ハッチが手動で開くようになります。
     気をつけてください。中は既に汚染物質が充満しているはずです」
  .ミサト「わかったわ」
きびすを返すミサト その背中に、時田の声が投げかけられる
 時田「希望…」
  .ミサト「え?」
 時田「…プログラム削除の、パスワードだ」
  .ミサト「…ありがとう」

壁にもたれているリツコ
  リツコ「無駄よ、おやめなさい。第一、どうやって止めるつもり」
振り返って、にっこりするミサト
  .ミサト「人の手で、直接」
ロッカーから現れる放射能防護服
79log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:02:22 ID:???
専用大型輸送機にて旧東京へ移送される初号機(F型装備)
狭い機内スペースで膝つきあわせているミサトと霧亥
  .ミサト「目標はJA。数分以内に炉心融解の可能性があります。
     被害を抑えるため、目標をこれ以上人口密集区域に近づけるわけにはいきません。
     霧亥君は降下と同時に目標に追走。私を側面に取りつけたら、以降はできるだけ
     目標を足止めして」
 霧亥「あれに乗り込むのか?」
  .ミサト「ええ、そうよ」
 霧亥「…自殺行為だ」
  .ミサト「他に方法がないの」
沈黙する霧亥 少し語調をやわらげるミサト
  .ミサト「ま、奇跡でも起こんない限り、無茶な状況だってのはわかってるけどね。
     やれることやっとかないと、あとで気持ち悪いでしょ」
ミサトの顔を見つめる霧亥
操縦席の日向より目標視認の報告が入る

クレーター周壁を走る輸送機より切り離される初号機
目標後方に着地、即時追走を開始する
手の上で前方に目を凝らすミサト
JAを捕獲するものの、予想以上の力にほとんど引きずられる初号機
  .ミサト『構わないわ。やって!』
何とかハッチの傍にミサトを乗せる初号機
再びJAがもがき、手を滑らせて側面を転がり落ちるミサト 危うくタラップを掴んで這い上がる
プラグ内で小さく息をつく霧亥
大きくVサインをしてみせ、ハッチから内部にもぐりこむミサト
それを見届けてから猛然とJAを押さえ込む初号機
80log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:03:37 ID:???
JA内部 すでにかなりの高温に達している
緊急用端末を見つけ起動させるミサト パスコードを打ち込む
甲高いビープ音 JAはコードを拒絶する
息を呑むミサト

正面からJAを押し返す構えの初号機 膠着状態
内部からは未だ何の動きもない
プラグ内操作パネルのプラグ排出キーを見る霧亥 手を伸ばしかける
そのとき再びJAが出力を上げ、大きく押される初号機
操縦に専念することを余儀なくされる霧亥
無言でミサトの消えたハッチを睨む

  .ミサト『…こうなったら、直接やるしかないわね』
さらに温度の上がる中央制御室
制御棒の列に肩を当て、自力で押し戻そうと力をこめるミサト
ごくわずかずつじりじりと動いていく制御棒
炉心温度上昇の勢いに比べ、その速度はあまりにも遅い

JAの機体の各所から汚染された高圧蒸気が噴き出し始める

管制席 監視端末が炉心温度がメルトダウン発動領域に達したことを伝える
瞑目する時田

歯を食いしばりJAを見据える霧亥
81log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:04:29 ID:???
突然、端末モニタに映し出されていたエラー表示が消える
機能回復し自動的に制御棒を引き戻すJA
正常に戻る制御室
呆然とそのさまを見守るミサト

抵抗をやめ、停止するJA
機体を放し傍に立つ初号機

歓声に包まれる管制席
ただひたすら立ちつくす時田
82log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:05:33 ID:???
 霧亥『…葛城。返事をしろ。葛城』
中央制御室の床になかばのびているミサト
霧亥の声にかすかながら切迫した調子を聞き取り、微笑する
  .ミサト「ん…生きてるわよ。もう最っ低だけどねー…」
 霧亥『…そうか』
  .ミサト「…悪かったわねー、無事で」
 霧亥『そうは言っていない』
  .ミサト「わかってるって。冗談よ、冗談」
明らかに不機嫌そうに黙る霧亥 再び微笑するミサト
少しして再び霧亥の声
 霧亥『葛城』
  .ミサト「んー?」
 霧亥『奇跡は起きたな』
  .ミサト「……」
 霧亥『まもなく救助班が到着する。動けるか』
  .ミサト「…ん」
厳しい表情になっているミサト
  .ミサト(…奇跡は用意されていたのよ。誰かにね)


ネルフ本部 長い影の落ちる総司令執務室
諜報部らしき黒服と並んで報告を行うリツコ
  リツコ「…初号機の洗浄は完了しました。汚染の心配はありません。
     葛城一尉の行動以外は、全てシナリオ通りです」
   碇「ご苦労」
83log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:06:21 ID:???

三度葛城の居住室 朝
チン!とトースターから吐き出されるこんがり焼けた焼成済発酵グルテン塊
専用皿に置かれる焦げ目のついた遠赤加熱処理済魚×2
椅子を引いて座る霧亥 皿の前にスタンバイするペンペン
同時に食べ始める二者

ガラッとミサトの寝室の引き戸が開く
寝癖頭でぼりぼり腹を掻きながら登場する下着同然の格好のミサト
  .ミサト「おっふぁよ〜」
沈黙する二者の傍を大あくびで通り過ぎて冷蔵庫へ
本日は食卓にすらつかず、その場で一気飲み
  .ミサト「んぐんぐんぐんぐッ、ぷっはぁ〜ッ! くぅ〜っ!
     …さぁて、次は朝シャン朝シャン♪ ブラとパンツはどこかいな〜、っと」
しげしげと見つめたのち、食事を再開するペンペン
無言で通学準備を始める霧亥
玄関のチャイムが鳴る

玄関扉を開けたとたんトウジとケンスケの大音量の挨拶を喰らう霧亥
すでに霧亥には関心のない二人
トウジ+ケンスケ「では、ミサトさん、行ってまいります!!」
片腕だけ突き出してひらひら手を振るミサト
  .ミサト「(やたら甘い声)行ってらっしゃい」
感涙にむせぶトウジとケンスケ
一人さっさと部屋を出る霧亥
84log.7 人の造りしもの:2005/10/06(木) 16:11:40 ID:???
通学路の三人
超構造体からの降光がいつもの広大な重層都市を照らす
余韻にひたりまくっているトウジ
 トウジ「やっぱええなぁ〜、ミサトさんは!
     あれでネルフの作戦部長やいうのがまたすごい! く〜ッ」
.ケンスケ「一緒に暮らしてる当人は、全然そのありがたみを感じてないみたいだけどね」
 霧亥「そうか」
おや、と見返すケンスケ 目を逸らす霧亥
 霧亥「…感謝はしている」
目を丸くして立ち止まるトウジとケンスケ
歩みを止めず足早に先へ行く霧亥
慌てて後を追う二人
 トウジ「…なんや、今のは」
.ケンスケ「さあね。ま、家族ってことだろ、あいつなりに」
 トウジ「…なんや腹立ってきたわい。
     くう…おい霧亥、今日の昼飯はお前のおごりや! 待たんかいこの!」
ますます足を早める霧亥を追いかけていく二人
輝度を増していく超構造体の光


log.7 終
長いな
>66 せっかく短くてわかりやすいって言ってくれたのにすまん
確かにドモだったら何の躊躇もなく(プセル以外)使徒を蹴散らすんだろうな
で 毎回派手に大怪我してイコやシボを心配させると
セーフガード系武器では霧亥がプセル撃ったショットガンみたいのがかっこよかった

あと遅くなったが、もし読んでくれてたら 十周年おめでとうです
85名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/06(木) 19:20:55 ID:???
互いにおめでとう。プセルがカヲルに置き換えられると考えれば…うむ。(?

あれから1/10世紀が経つ
エヴァ板の外の何処かから運ばれてくるコピート&ペースト
スレッドの群れ
かつて節操無く伸びていたスレッドはついにread.cgiで取り囲まれた

結局 私は閉鎖騒動に合う事は出来なかった
厨房は新たな2ちゃんねるへの適応を達成させ住人とは異なる客として姿を変えた
彼らは今も様々なスレに寄生して遊び続けている

エヴァンゲリオンの漫画も10年前に始った
もう1年以上コンビニで少年エースを見かけていない

世界は成長を続けている
86log.8 アスカ、来日(前):2005/10/11(火) 14:07:03 ID:???
階層容積の九割以上を占める広大な無人区域
わずかに人の進出した部分もセカンドインパクト後の混乱のさなかに廃棄され失われた
既に人の手による諸施設は停止し建設者によってその痕跡もろとも造り変えられつつある

廃棄領域 無作為に成長する都市構造物の大空隙を渡る第7浮甲艦隊
船団の中央近くを航行する輸送艦の上には厳重に密封梱包された巨大な荷物
指揮艦らしき航洞母艦めがけ降下するネルフの長距離輸送機
艦橋上に立ち、それを見守っている小さな人影 衣服と長い髪が風になびく

輸送機から航母の上甲板に降り立つミサトと霧亥、トウジ、ケンスケ
四方上下には広大な空間の果てに見渡す限りそびえる都市の大構造 超構造体の露出さえ散見される
戦闘機の主走路に足がつくなり奇声をあげてカメラを振り回すケンスケ
未体験の空洞領域とそこに生じる大気の循環=風にひたすら目をみはる霧亥
 トウジ「ほんなら今日は、ほんまにミサトさんとデートっすか?!」
  .ミサト「いつも同じ“山”の中じゃ息苦しいと思ってね。
     だから今日はこうして、豪華なお船で“太平洋”をクルージングよ」
 霧亥「船」
.ケンスケ「ああ船だよ船、航母5、戦艦7、大艦隊だ! くはぁ〜ッすっごいすっごいすっごいッ」
 霧亥「……」
 トウジ「つくづくシアワセなやっちゃなぁ。
     …まあシアワセなんはワシも同じやけどな。ミサトさぁ〜ん!」
 霧亥「……」
87log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:07:55 ID:???
 トウジ「見てくださいこの帽子! 今日のこの日のために…ああっ?!」
突風がトウジの帽子をさらう
軽やかに甲板を転がっていく帽子 世にも情けない声をあげて追っかけるトウジ
帽子はとある人物の足にぶつかって止まる
が、足は思いっきり靴底で帽子を踏んづけ、踏みにじる
愕然とするトウジ
その頭上で勝気な少女の声
  .アスカ「ヘロゥ、ミサト。元気してた?」
  .ミサト「ま、ね。あなたも背、伸びたじゃない」
  .アスカ「他のところもちゃーんと女らしくなってるわよ」
必死に帽子を靴の下から引っぱり出そうと奮闘するトウジ びくともしない足
片手を腰に当てて立つ、足の主こと不敵な笑みを浮かべた少女
視線を向ける霧亥
  .ミサト「紹介するわ。エヴァ弐号機専属操縦者、セカンドチルドレン。
     惣流・アスカ・ラングレーよ」
刹那、第二の突風が甲板を襲う
あられもない高度まで舞い上がる少女の衣服
別の意味で愕然とするトウジ

上甲板に響き渡る平手打ちの音×3

揃って腫れ上がった片頬を並べた男子三名
 トウジ「い、い、いきなり何さらすんやワレ!!」
眉ひとつ動かさず見返すアスカ
88log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:08:58 ID:???
  .アスカ「見物料よ。安いもんでしょ」
苦笑するほかないミサト
カメラごとぶっ叩かれて惨めな顔のケンスケ 回避できなかったことに内心動揺している霧亥
 トウジ「何やと?! そないなもんこっちも見せたるわい!」
ものすごい勢いでやり返すトウジ
ものすごい悲鳴をあげるアスカ
  .アスカ「ッ何すんのよこのヘンタイ!!」
航母上にこだまする追加の一発

  .アスカ「…で、噂のサードチルドレンはどれ?
     まさか今の…」
嫌そうに脇を見るアスカ 両頬にくっきり手の痕つけて小さくなっているトウジ
首を振るミサト
  .ミサト「この子よ。碇霧亥君」
とたんに霧亥の正面に出、両手を腰に当ててすぐ前まで顔を突き出すアスカ
視線を返す霧亥
  .アスカ「ふぅん。冴えないわね」
微妙に表情を変える霧亥
その様子に小さく含み笑いを洩らすミサト
89log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:09:45 ID:???
航母艦橋操舵室 艦長・副艦長と会見する一同
厭味と当てこすりをさんざん浴びせられた挙句、荷物の即時受け渡しを拒否されてヒクつくミサト
 艦長「エヴァ弐号機とそのパイロットは我々が責任を持って輸送しておる。口出しは無用だ」
重要人物である自分を十分に意識し、言葉はなくとも誇らしげに胸を張っているアスカ
  .ミサト「では、いつ引き渡しを?」
 副長「新横須賀に陸揚げしてからになります」
 艦長「“海”の上は我々の管轄下だ。黙って従ってもらおう」
引き渡し書類のファイルを閉じて意味ありげに微笑するミサト
  .ミサト「…わかりました。
     ただし有事の際は、我々ネルフの行動が最優先となることをお忘れなく」
 トウジ「…カッコええ〜!」
熱烈なアコガレの視線を向けるトウジ カメラ片手に踊り回っているケンスケ
ふと振り向く霧亥
   声「相変わらず、勇ましいな」
  .アスカ「加持先輩!」
全身で動揺するミサト
恐る恐る振り返った先にはなれなれしく片手を上げる男の姿
 加持「や、お久しぶり」
傍目にも脱力というか虚脱するミサト
90log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:10:32 ID:???
加持を加え、艦内食堂で軽食がてら歓談する一同
加持は何かと水を向けるが、霧亥はあまり反応してこない
が、ミサトと同居している件から加持がとてつもない事実を暴露し、座がパニックに陥る
意味を理解しない霧亥
若干困ったような苦笑いを浮かべる加持
 加持「時に、君の所持しているという武器のことなんだが。
     ちょっと、見せてもらってもいいかな」
両手で頭抱えて突っ伏しているミサトを瞥見する霧亥
少し躊躇してから銃を差し出す
受け取って仔細に改める加持 わずかに奇妙な熱情めいたものを見せる
無言で注視している霧亥
銃を返す加持
 加持「…なるほどね。確かに重力子放射線射出装置だ。しかしなぜ第一種臨界不測兵器が…
     君、どこでこれを?」
やや加持に気圧されつつ、首を振る霧亥 一瞬沈思する加持
すぐに元の表情に戻り目を向ける
 加持「ま、それはともかく。これからも、葛城をよろしくな。霧亥君」
何かに気を取られているような霧亥
 霧亥「…ああ」
91log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:11:19 ID:???
艦橋外で並んで遠い都市の連続構造を見ている加持とアスカ
 加持「どうだ、碇霧亥君は」
  .アスカ「つまんない子。あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて、幻滅」
 加持「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は40を軽く越えてるぞ」
  .アスカ「うそ?!」
無防備に驚くアスカ

艦内を移動中のミサト、霧亥、トウジ、ケンスケ
 トウジ「しっかし、いけすかん艦長やったなぁ」
  .ミサト「プライドの高い人なのよ。都市連経由の要請だから、本国も断れなかったんだろうし」
唐突に走路の先に立ちはだかるアスカ
  .アスカ「サードチルドレン!」
顔を上げる霧亥
  .アスカ「ちょっと付き合って」
92log.8 アスカ、来日:2005/10/11(火) 14:12:13 ID:???
輸送艦上 何重にも浸透展覆された梱包隔壁の内部
冷却液に半分ほど浸かって伏臥姿勢で固定されているエヴァ弐号機
…の背面装甲上に誇らしげに立ち上がっているアスカ
冷却液面に渡された仮設浮橋から見上げている霧亥
 霧亥「…赤いな」
  .アスカ「違うのはカラーリングだけじゃないわ。
     所詮、零号機と初号機は訓練用のプロトタイプとテストタイプ。
     でもこの弐号機は違うわ。これこそが、実戦用に配備された、
     本物のエヴァンゲリオンなのよ。制式タイプのね」
突如、艦が震動する
隔壁外に素早く顔を向ける霧亥
  .アスカ「圧縮衝撃波…爆発が近いわ。
     まずいわ、そろそろ電叢帯に入るじゃない」

外に飛び出す二人
後方の艦が炎上、墜落していく
一瞬そこから離れる巨影が見えるが、突然周囲を覆った大量のケーブル群に遮られる
甲板の手すりを掴み目を見開く霧亥
複雑に交錯し下方ほど密度を増す電纜とその保護索の集合体 叢群中に幾つも見られる結束点から
直径3m前後の導索が立ち上がり遙か頭上の構造物の列めざして伸びている
ゆるやかに入り組んで独自の周期でうねるケーブルの草原 叢面すれすれを速度を上げて航行する艦隊
深部から再び何かが襲い、別の艦が轟音とともに大破、沈んでいく
遠像を捉え険しい表情になる霧亥
 霧亥「使徒だ」
  .アスカ「あれが?! 本物の?!」
唐突に身を引いてひそかに笑みを洩らすアスカ
  .アスカ「…チャ〜ンス」
93log.8 アスカ、来日(後):2005/10/12(水) 14:13:24 ID:???
↑の直後からアク禁喰らってた ジークdion
おかげで全部まとめられたからいいか
そんなわけで以下続き


回避行動をとる艦隊
総力を挙げての反撃も空しく次々と轟沈していく艦 が、想定される機動力の割に敵の攻撃頻度は鈍い
  .ミサト「変ね。まるで何かを捜してるみたい。
     …まさか、弐号機を?」

船室で単独通話している加持
 加持「…こんなタイミングで使徒襲来とは、ちょっと話が違うんじゃないですか」
   碇『そのための弐号機だ。予備のパイロットも追加してある。
     最悪の場合、君だけでも退避したまえ』
分離式偏光膜の隙間から黒煙の立ち昇る電叢帯を一瞥する加持
 加持「そうさせてもらいますよ」

依然手もなく沈められていく浮甲艦隊
航母のブリッジに集まっているネルフ組 外では未だ有効打撃を与えられぬまま激しさを増す艦隊の攻勢
 トウジ「…やっぱ、エヴァやないと無理やな」
艦長にものすごい目で睨みつけられてちぢみあがるトウジ
どこかからの報告を聞き、目を剥く副長
 副長「…何だと?!
     艦長、エヴァ弐号機が発進態勢に入っているそうです!」
 艦長「何っ?!」
窓に寄る一同
94log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:14:39 ID:???
輸送艦の上でもがいている梱包隔壁 下端がバリッと艦から剥がれる
唯一の直通通話回線を争奪するミサトと艦長
  .ミサト「よくやったわアスカ!」
 艦長「いかん! パイロット、命令だ! ただちに弐号機を戻せ!」
  .ミサト「ぬぁに言ってんのよ、このままじゃ埒が明かないでしょ!」
 艦長「貴様こそ何を抜かすか! いかんと言ったらいかんっ!」
 .アスカ『まあ見てなさい、ミサト。あんなの私一人ですぐ片づけてあげるから。
     サードチルドレンなんかに頼らなくてもね』
  .ミサト「霧亥君もそこにいるの?!」
 霧亥『ああ』
一瞬作戦指揮官の顔になるミサト
  .ミサト(試せる…か)
  .ミサト「アスカッ! 出して!」
 副長「…しかし、正気ですか? 弐号機はB型装備のままですが」
同時にはっとするミサトと艦長
95log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:16:57 ID:???
満員状態のエントリープラグ
思考言語の件で若干の混乱が生じるものの、弐号機を単独起動させるアスカ
 .アスカ「さ、あたしの華麗な操縦テクニック、見せてあげるわ!」
相当の強度を備える隔壁を難なく破り、剥ぎとった梱包膜ごと艦体を蹴る弐号機
長い弧を描いて跳躍し、並走していた艦に勢いよく着艦する
大きく揺さぶられる艦 身をたわめ、再び飛び出す弐号機
飛翔の途中でバサッと隔壁膜が手放され、その姿が都市の無数の灯を背景に浮き上がる
鮮やかに空を切る真紅の巨躯
叢界に立ち並ぶ導索の列が次々と背後に飛び去る 結束点や中継部に閃く青い電光
余裕で操縦するアスカの脇で目をみはっている霧亥
横目でそれを認めて笑みを大きくし、次の艦めがけさらに高く弐号機を跳躍させるアスカ

退避準備に追われる航母上
広くあけられた主走路上に轟音とともに着艦する弐号機
衝撃で艦がかしぎ、ちょうど脇を通過した導索にぶち当たって艦側面の戦洞機格納房が一つ持っていかれる
破砕された硬装壁ともども回収不能な電叢帯の深みへ落下していく米軍精鋭機
ありうべかざる悲劇に滂沱の涙を流すケンスケ
プログナイフを装備し前面に構える弐号機
艦後方から電叢群を分けて迫る使徒
魚尾状の後部で叢波を打ち、艦上の弐号機めがけ突っ込む
衝撃に揺れる航母 甲板上で使徒を全身で受け止めている弐号機
が、次の衝撃で体勢を崩し、使徒ともども電叢の波間に落下する
しばらくは使徒の背にしがみついているものの密度を増す電叢の中でロスト 深度につれ電離され荒れ狂う大気
同じ電気擾乱中をやすやすと回頭し、再び弐号機に迫る使徒
 霧亥「来るぞ」
 .アスカ「わかってるわよ。 …?! なんで動かないのよ?!」
96log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:18:04 ID:???
 霧亥「この機体はB型装備のままだ」
 .アスカ「じゃあ自力では航洞できないわけ?! っもう、どうすんのよ!」
 霧亥「…なぜ俺なんだ」
 .アスカ「決まってんじゃない! 何とかしなさいよ、サードチルドレンのくせに!」
 霧亥「……」
眼前の叢茎壁を割って現れる使徒 大きく開くびっしり牙の並んだ口
 .アスカ「…口ぃ?!」
 霧亥「使徒だからな」
衝撃とともに捕食される弐号機

使徒とアンビリカルケーブルに蹂躙された航母の飛行甲板 整然と並んでいた戦洞機の列も数機を残すのみ
あまりの惨状に打ちひしがれているケンスケ
と、いきなり気を取り直してがばっとカメラを構える
   ケンスケ「ああーっ!!」
可動甲板下からせり出してくる最新型高速戦洞機
 外部音声『葛城!』
     .ミサト「! 加持ぃ!」
期待感満々で窓にはりつくミサト
    加持『届け物があるんで、俺、先に行くわ!」
     .ミサト「…は?!」
あっさり離昇する戦洞機 加持の声が響く
    加持『じゃ、あとはよろしくなー! 葛城一尉!』
快速で離脱していく機影
あっけにとられて見送るトウジとケンスケ
    .トウジ「…逃げおった」
声もなく引きつるミサト
97log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:19:05 ID:???
未だ使徒の口腔に捕らえられている弐号機
弐号機のアンビリカルケーブルでつながれた形で艦隊周囲を回遊する使徒
 .トウジ「…こら、まるで釣りやな」
閃くミサト
  .ミサト「釣り…? そう、釣りだわ!
     艦長!」
 艦長「?! 何かね」
完全にネルフ作戦指揮官の顔になっているミサト
  .ミサト「ご協力を、お願いします」

ミサトより提案される、無人戦艦二隻による零距離射撃
フルリバースを開始するアンビリカルケーブル
再び激しく揺さぶられるエントリープラグ
  .ミサト『二人も聞いたわね? 沈降中の戦艦二隻がそこに到達する前に、使徒の口を開いて脱出して!』
アスカの前に乗り出して操縦桿を掴んでいる霧亥
 霧亥「了解」
 .アスカ「ちょっと、あんた! 勝手に人の弐号機触らないでよ!」
アスカを一瞥する霧亥
 霧亥「時間がない」
それきり前方のみを見据える ぽかぽか彼の頭を叩いていた手を止め、真顔になるアスカ
 .アスカ「…仕方ないわね。
     こうなったら、最後の手段よ」
操縦桿を引き出して高機動モードに切り替え、一緒にインダクションレバーを握る二人
98log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:19:59 ID:???
アンビリカルケーブルを軸線とし一直線に降下していく無人戦艦
最大出力の防磁殻の下から全砲身が引き出され、艦正面に向けられる

 .アスカ「いい? 使徒の口をこじ開けることだけに専念するのよ。
     ヘンなこと考えないでよ」
狭いプラグ内で半ば折り重なる形になっている二人 が、霧亥の反応ははかばかしくない
 霧亥「なんだ」
 .アスカ「…いいから、考えを集中させるのよ!」

すぐ後ろまで迫っている戦艦二隻 既に斉射態勢
ケーブルに引き戻される弐号機の両側を飛び過ぎる巨大な叢茎と電気嵐の渦
依然びくともしない使徒の大顎
薄明るい口腔の奥に光るコアを認める霧亥とアスカ 同時に睨みつける
二人の視線が重なる
一気に跳ね上がるシンクロ値

臨界に達し頭部装甲に隠された四つの眼を見開く弐号機

すさまじい膂力で引き開けられる使徒の両顎
相前後して突っ込む二隻の戦艦
砕かれて弐号機の周囲に舞う帯電した使徒の牙
ミサトの号令一下、全砲口が火を噴く
連続する震動とともに内部から膨れ上がる使徒の巨体
拮抗の一瞬後、炸裂

電叢群を押し分けて広がる巨大な爆発光
一斉に同心円状にうねる叢波 上下に揺さぶられて軋む導索の間を残存艦がすり抜けていく
断線したケーブルをパージし、見事航母甲板に着艦する弐号機
ほぼ同時に内部電源が切れる
動力停止し人形のように甲板に倒れる弐号機
99log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:21:20 ID:???
第三新東京市より百数十km
空隙区域と都市連続体の境に位置する開口構造“新横須賀”
損傷した浮甲艦が次々に入港している
軽車輌で桟橋を走るミサトとリツコ
  リツコ「また派手にやったものね。太平洋艦隊の半数は損壊、しかも陸戦装備の弐号機に
     パイロットの二人乗りとはね」
  .ミサト「仕方なかったのよ…赤木博士としては文句ないでしょ、貴重なデータも取れたし」
レポートに目を落とすリツコ
ふと改まった表情になる
  リツコ「…ミサト、これは本当に貴重だわ。シンクロ最大値の記録更新じゃない。
     案外、相性いいのかもしれないわね。あの二人」
助手席に引っくり返ったままのミサト
  .ミサト「たったの七秒間じゃ、火事場の馬鹿力にもなんないわよ」
  リツコ「それに、これは…? いえ、まさかね」
  .ミサト「んー? どしたの?」
  リツコ「こっちの話よ。…起動直後の、思考言語切り替えの影響かしら。エヴァの言語基体が、しかも
     プラグ側から直接干渉されるはずはないもの」
  .ミサト「何よ、一人で言ってないで…おっと?!」
急停車する車輌
100名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/12(水) 14:22:53 ID:???
俺もだ、同志よ。
ジークdion
101log.8 アスカ、来日:2005/10/12(水) 14:24:21 ID:???
駆け寄ってミサトの前に身を乗り出すアスカ
  アスカ「ねえ、加持さんは?!」
ぶすっと答えるミサト
  .ミサト「先にトンズラ。ったく、あの馬ぁ鹿は」
アスカに続いて架橋を降りてくる霧亥 弐号機用の予備のプラグスーツのまま
目ざとく発見して目を剥くトウジ+速攻カメラを向けるケンスケ
 .トウジ「ペ、ペ、ペアルック…!!」
..ケンスケ「イヤ〜ンな感じ」
状況を理解しない霧亥 一応自分の身体を見下ろすが特に感想はない
さらにその格好のままで元の服と銃を捜しに行こうとするのを、総出で止めにかかる一同

 加持「…いやはや、波乱に満ちた船旅でしたよ。
     やはりこいつが原因ですか? 碇司令」
第三新東京市 ネルフ本部総司令執務室
デスク上に置かれた厳重に密封硬装された重ケース
碇、冬月の見守る中、ケースを開放する加持
 加持「硬化ベークライトで固めてますが、生きてます。間違いなくね。
     …人類補完計画の要ですね」
最高硬度まで凍結され透明化した方形の樹脂塊中に浮かぶ、明らかにヒトのそれに似た異様な形態の胚
謎めいた笑みを浮かべる碇
   碇「ああ。
     最初の“人間”、アダムだよ」


log.8 終
>85 毎回乙
プセル→カヲルでの話、面白そうならここでやってみてもいいんじゃないかな
こっちは邪魔しないようにするから
102名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/12(水) 21:26:09 ID:???
このスレDion多いな。私もだよ(笑
103名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/16(日) 02:39:24 ID:???
捕手
104log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:03:28 ID:???
旧伊東沖遭遇戦より数日
いつものように登校する霧亥、トウジ、ケンスケ
三者三様ながらいずれも上の空というか少なからず浮かぬ表情
その原因が彼らの背後から登場する
 .アスカ「ヘロゥ、あんたたち! Guten Morgen♪」
嫌々振り向く三人
長い髪を華やかに揺らし、軽快な足取りで歩み寄ってくる壱中制服姿のアスカ
 .アスカ「朝っぱらからなーに辛気臭いツラ並べてんのよ。このあたしが声かけてんのよ?
     ちったぁ嬉しそうな顔しなさいよ。特にあんた!」
トウジ+ケンスケを押しのけ、霧亥の顔に指を突きつけるアスカ
若干のけぞる霧亥
通路の真ん中に立ち止まった一行の周囲に登校中の生徒たちが人だかりを作り始める
少し目を細め、自信たっぷりに微笑んでみせるアスカ
 .アスカ「…別にいいのよ、遠慮なんかしなくったって」
穏当ならざる距離におのおの色めきたつトウジ+ケンスケ
ふっと憐れむような目つきになるアスカ
くるりと身をひるがえし、衆人環視の状況を意識してか身振りが少々派手になる
 .アスカ「何たってあんた、あたしの見事な操縦を直接その目で見てるんだから。
     エヴァのパイロットだってことはもう皆知ってるんだし、存分にあの感動を語って
     構わないのよ? ま、わざわざ吹聴しなくても、すぐに知れ渡ることだとは思うけど。
     多少の言葉足らずには目をつぶってあげるから」
緘黙する三人
105log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:05:07 ID:???
反応の鈍い霧亥に眉を上げるアスカ 他二名のげっそりした顔などはなから眼中にない
 .アスカ「ったくもう、ちょっとは何か言ったらどうなのよ。いつもこの調子なのかしら」
 .トウジ「…そらまあ、霧亥やからな」
呟くトウジ 微妙に憮然とする霧亥
 .アスカ「まあいいわ。で、ここにいるんでしょ、もう一人」
 霧亥「誰だ」
最大級の呆れ顔になるアスカ
 .アスカ「あんた馬鹿ぁ?! ファーストチルドレンに決まってんでしょ!」
 霧亥「…綾波なら向こうだ」
きっと通路の先を睨むアスカ

中庭のでハードコピーを広げているレイ
脇から伸びた影に光を遮られ、目を上げる
野次馬を従え、光電池壇の上に立ちはだかっているアスカ
 .アスカ「ヘロゥ? あなたがアヤナミ・レイね。プロトタイプのパイロット」
  .レイ「…そうよ」
 .アスカ「あたし、アスカ。惣流・アスカ・ラングレー。エヴァ弐号機の専属パイロット、
     セカンドチルドレンよ。仲良くしましょ」
ハードコピーに視線を戻すレイ
  .レイ「どうして?」
 .アスカ「その方が都合がいいからよ。いろいろとね」
顔も上げないレイ
  .レイ「命令があれば、そうするわ」
一瞬ぽかんとするアスカ すぐ表情を繕う
 .アスカ「…変わった子ね」
さっきの通路から傍観している三人
..ケンスケ「そりゃ、ま、綾波だからね」
 .トウジ「エヴァのパイロットって、変わりもんが選ばれるんとちゃうか」
同時に霧亥を見る二人 
レイの方を一瞥し、さっさと歩き出す霧亥
106log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:05:57 ID:???
その容姿と快活さ・物怖じのなさにより転校数日にして校内の花形になるアスカ
休み時間には無意味に教室周りに人が増え、学校の個人端末には朝夕を問わず大量のラブメール
学校全体を席巻するアスカ人気に正直食傷気味のトウジ
盗撮スナップの驚異的売り上げに喜びつつも同じく傍観的なケンスケ
..ケンスケ「猫も杓子も、アスカ、アスカ、かぁ」
 .トウジ「写真にあの性格はあらへんからな」
..ケンスケ「そうは言っても、見事に眉目秀麗、頭脳明晰、スポーツ万能。絵に描いたような優等生だもんなぁ」
 .トウジ「最後のは当たってへんで。あんなやかましい優等生がおるかい」
..ケンスケ「エヴァの操縦もあの通りだしなぁ。大丈夫なのか? 霧亥の奴」
 .トウジ「案外、もう尻に敷かれとるんとちゃうか」
107log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:07:03 ID:???
思わず通信画面を凝視する霧亥
 .アスカ「レディファーストよ! 決まってんじゃない。しっかり援護してよ!」
その言葉と同時に勢いよく飛び出していく弐号機
“相模湾”沿岸防衛作戦 
空隙に向かって都市構造物の末端が幾つも突出している その沖合より接近する人型の使徒
初号機は即座に援護射撃に入るが、弐号機がどんどん前に出てしまうため有効位置を確保できない
弐号機もせっかく先制したものの後続援護がないせいで敵前孤立状態
 .アスカ「ほら、もたもたしない! ちがーう、再射撃の前にフィールド中和でしょ?!」
 霧亥「…今やっている」
 .アスカ「もうっあたしが先に着いちゃうとこだったじゃない! なんてグズなのよあんたは!」
ぎりぎりの状態で攻撃態勢に突入する弐号機
ATフィールド中和のタイミングに合わせ気合一閃、一気にソニックグレイブを振り下ろす
見事頭から一刀両断される使徒
真っ二つにされた巨体がだらりと両側に倒れる 通信回線に溢れる感嘆の声
得意げに顎をそらすアスカ
 .アスカ「どう、サードチルドレン。戦いは常に無駄なく、美しくよ」
ふいに緊張を取り戻す霧亥
 霧亥「まだだ」
 .アスカ「え?」
再度身構えた初号機をいぶかしげに振り返る弐号機
その背後で使徒が外被を脱ぎ捨て、二体に分裂する
指揮車輌内で通信機を握りしめるミサト
  .ミサト「なんてインチキ…!」
108log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:08:48 ID:???
空隙へ突き出された二本の脚
構造物突端にさかさまになって引っかかっている弐号機の姿
 伊吹『…本日、午前11時12分。
     エヴァ弐号機は分離した目標甲の攻撃により、旧熱海沖10kmにて活動停止』
ネルフ本部作戦室 正面のスクリーンに弐号機が大写しになっている
 伊吹『同15分、初号機は沿岸内陸2kmの地点で、同じく活動停止』
切り替わるスクリーン
入り組んだ構造物の隙間に詰め込まれ、同様に両脚だけ突き出している初号機
 伊吹『同17分、単独で脱出したサードチルドレンにより、目標を重力子放射線にて攻撃。
     構成物質の27%の消却に成功。
     周囲1kmに渡り、被害甚大。作戦部行動不能のため、都市連軍に事態の収拾を要請』
再び画面転換 大きく空白部分の増えた周辺地形図
身体の一部を貫通されて停止している使徒二体と、その手前の廃墟にひっくり返った作戦部指揮車輌
続いて惨憺たる風景の中、派遣された都市連軍とともに決死の面持ちでエヴァ両機に向かう回収班の勇姿
再設定に成功した古い建設者を総動員して行うそのさまは珍妙な前衛オブジェの展設工事そのものである
 伊吹『…この件に関する、E計画担当者のコメント』
  リツコ『ブザマね』
作戦室の最前列に座らされている霧亥とアスカ
渋面の冬月
 冬月「…まったく、恥ばかりかかせおって」
 青葉「エヴァの回収および修復の追加予算、何とか通りました。都市連にまた一つ借りを作りましたね」
嘆息する冬月
沈黙に耐えかね、タオル落として立ち上がるアスカ
109log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:09:37 ID:???
 .アスカ「っもう何考えてんのよ! あんたのせいで、せっかくの日本でのデビュー戦がめちゃくちゃじゃない!」
 霧亥「飛び出したのはお前だ」
 .アスカ「人のせいにするわけ?! あんたがちゃんとバックアップしないからこんなことになるんでしょ!」
 霧亥「俺は使徒を止めた」
 .アスカ「何よ! そんなの…」
 冬月「足止めにすぎんよ」
顔を上げる二人
厳しい表情で二人を見下ろしている冬月
 .アスカ「…やったんじゃないの?」
 冬月「完全に停止してはおらん。再度侵攻は、時間の問題だな」
 青葉「MAGIの分析報告より判断すると、目標の活動再開は約160時間後と思われます」
改めて霧亥を見据える冬月
 冬月「今は周辺部への被害の方が問題だよ。
     大体、エントリープラグにあの武器を持ち込むのは厳禁ではなかったのかね」
目を逸らす霧亥 叱責そっちのけでひそかに溜飲を下げるアスカ
全然反省の色のない二人に、大いに嘆息する冬月
 冬月「…もういい」
青葉とともに立ち去る冬月
110log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:10:25 ID:???
不満顔を隠そうとしないアスカ 隣に座った加持にあたる
 .アスカ「もう、どうしてみんなすぐに怒るの?!」
 加持「大人は恥をかきたくないのさ」
作戦室を見回している霧亥に気づく加持
 加持「どうした? 葛城なら、ここにはいないぞ。責任者は責任取るためにいるからな。
     今頃は被害報告と請求書の山に埋もれてるんじゃないか?」
何でもないように言う加持 その脇からしきりに棘のある視線をよこすアスカ
 霧亥「…ドイツに戻らないのか」
 加持「俺か? 正式に辞令が届いてね、こっちに居続けだ」
 .アスカ「そーいうこと」
わが意を得たりという感じで加持の腕に抱きつくアスカ
大人の顔で、人好きのする笑みを霧亥に向ける加持
 加持「これでまた、葛城やリッちゃんともつるめる訳だ。改めて、よろしくな。霧亥君」
わずかに眉をひそめる霧亥
111log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:11:50 ID:???
いつも通りミサトの個人居住室に帰宅する霧亥
いつも通りにダイニングとリビングを通過し今日は姿の見えないペンペンを0.4秒ぐらい捜し
いつも通り自分の部屋の襖を開く
目の前に、部屋じゅうに積み上げられた見覚えのない荷物の山
硬直する霧亥
 霧亥「…?!」
 .アスカ「あら、まだいたの」
かなり本気モードで振り向く霧亥
ジュース缶片手に廊下に出てくるアスカ 懐に手を入れかけた霧亥に呆れ顔になる
 .アスカ「ったく、ほんとに物騒なヤツね。ミサトもなんでそれを没収しないのかしら?
     …あんた、今日からお払い箱よ」
意味が掴めずアスカの顔を凝視する霧亥
 .アスカ「ミサトはあたしと暮らすの。ま、パイロットとしての資質を考慮すれば当然の選択ね。
     ほんとは加持さんと一緒が良かったんだけど」
喋りながら、はみ出た荷物を無造作に部屋に蹴りこむアスカ
ふいに廊下の隅を振り返る霧亥 今朝まで部屋にあった数少ない私物が放り出されている
無言でそちらに向かう霧亥
横目でその後ろ姿を追うアスカ 微妙に力のこもった注視
  .ミサト「あら、早速うまくやってるみたいじゃない、二人とも」
それぞれの表情で振り返る二人
112log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:13:21 ID:???
威勢よく音をたててビール缶を置くミサト
  .ミサト「先の戦闘における目標の行動パターンを分析した結果、あの使徒は二体で一体。
      つまり殲滅するには、分離したコアを二つ同時に攻撃する必要があるとわかったわ。
      それには、こちらもエヴァ二機のタイミングを完全に合わせて挑むのがベストなの。すなわち
      今作戦では、パイロットであるあなたたちの協調、完璧なユニゾンが不可欠となります」
あからさまにやる気のない顔で隣の霧亥をちらちら見ているアスカ
アスカの存在など気にも留めていない様子で次の言葉を待っている霧亥
 .アスカ「…そんなの、無茶に決まってるじゃない」
不平には取り合わず一枚のディスクを取り出すミサト
  .ミサト「そこで、無茶を可能にする方法。
      この曲に合わせた攻撃パターンを、今日から徹底的に覚え込んでもらいます。昼夜兼行でね」
一瞬の間ののちガタッと席を立つアスカ
 .アスカ「ちょっと、この部屋に泊まり込んでってこと?! 断固拒否、絶対にイヤよ!
      男女七歳にして同衾せず、ってね!」
全く動じないミサト
  .ミサト「使徒は現在自己修復中。再度侵攻は六日後、時間がないの」
状況改善の余地がないことを悟り情けない顔になるアスカ
とどめをさすミサト
  .ミサト「明日からは学校も休んでもらうわ。それが嫌なら、二人でユニゾンを完成させるのよ。
      六日後までに。一秒でも早く」
相変わらず黙っている霧亥
心底嫌そうに彼を睨みつけ、ぷいっとそっぽを向くアスカ
113log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:14:15 ID:???
ユニゾン合宿三日目
自主休校状態の二人を見舞いに来たトウジとケンスケ、ヒカリに状況が露顕
ひとしきりの混乱ののち、事態は訓練中の二人を肴に歓談する方向へ収束する
 .ヒカリ「…それで、ユニゾンはうまくいってるんですか?」
無言で二人を示すミサト
沈黙する一同
と、アスカのヘッドセットが音をたててカーペットに投げつけられる
怒髪天を衝く勢いのアスカと、未だに「音楽に合わせる」の観念が理解しきれず混乱状態の霧亥
 .アスカ「うまくいかなくて当ったり前よ! このグズに合わせてレベル下げるなんて、どだい無理な話なのよ!」
  .ミサト「なら、やめる?」
挑発的に視線を返すアスカ
 .アスカ「他に人、いないんでしょ」
目を伏せるミサト
  .ミサト「…レイ」
  .レイ「はい」
  .ミサト「やってみて」
  .レイ「はい」
立ち上がり投げ捨てられたヘッドセットを拾うレイ
とまどうアスカの脇を通り過ぎて霧亥の脇へ 一瞥し、無言で位置につく霧亥
音楽がスタートする
 一同「…おお〜」
言葉もなく取り残されているアスカ ふいに身をひるがえす
 .アスカ「ッ、もうイヤ!」
気づいて目を上げる霧亥
114log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:15:44 ID:???
ナマの修羅場を高みの見物と決め込むトウジとケンスケ
..ケンスケ「こりゃまた、何とも」
 .トウジ「鬼の目ェにも涙やな」
みるみる目をつり上げるヒカリ
 .ヒカリ「…い〜か〜り〜くぅ〜ん!!」
わなわなと拳を震わせるヒカリに不審げな目を向ける霧亥
 .ヒカリ「追いかけて!!」
怒鳴りつけるヒカリ 反射的に身を引く霧亥
 .ヒカリ「女の子泣かせたのよ! 責任取りなさいよ!!」
さらにヒートアップするヒカリの剣幕に、素直に従う霧亥

コンビニの飲料棚の前にうずくまっているアスカ
背後に立った霧亥の気配を察し、表情を固くする
 .アスカ「…何も言わないで!」
無言で見下ろす霧亥
膝を抱く両腕に力をこめ、いっそう眉をきつく寄せるアスカ
 .アスカ「…わかってるわ。わたしはエヴァに乗るしかないのよ」
115log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:17:05 ID:???
 .アスカ「…こうなったら、やるしかないわ」
長い無言の彷徨の果てに街中の展望台にいる二人
腹を決めたように喋り始めたアスカ
 .アスカ「何としても決戦当日までにユニゾンを完成させて、ミサトやレイを見返してやるのよ」
 霧亥「…見返す」
 .アスカ「あんた、ほんとに馬鹿?! ナメられたまんまで終われるわけないでしょ!
     傷つけられたプライドは、十倍にして返すのよ!」
買い込んだサンドイッチを荒っぽく頬張るアスカ
黙って見つめる霧亥
ふと真顔になり、目を逸らすアスカ
 .アスカ「…あんた、この階層の外から来たんでしょ。ほんとはここなんか及びもつかない広い場所で、
     この階層しか知らないあたしたちには、想像もできないような経験しながら生きてきたんでしょ。
     でなきゃ、エヴァを降りて一人で使徒に向かっていくなんてできないもの」
わずかに目を伏せる霧亥
 .アスカ「でも、あたしたちにはこの階層が世界なのよ。
     だから使徒は必ず倒すわ。ここを守るためにね。そうしなきゃ生きていけないのよ。
     『外』を知ってるあんたから見れば、お笑いぐさかもしれないけど」
 霧亥「それは違う」
きっと振り向くアスカ
 霧亥「俺は使徒を倒せない。ここには、エヴァとお前たちが必要だ」
顔をそむけている霧亥
その表情から、彼なりの真剣さらしきものを読み取るアスカ
目つきがやわらぐ
 .アスカ「…何よ。あんた、普通に喋れるんじゃない」
目を上げる霧亥
勝気な表情を取り戻し、不屈の闘志をこめて正面から鮮やかな微笑を突きつけるアスカ
 .アスカ「やるわよ、今から。絶対に間に合わせてみせるわ」
視線を返す霧亥
 霧亥「ああ」
116log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:19:20 ID:???
同日より、以前の不和が嘘のように意を一つにして訓練に取り組む二人
数々の生活中の(および性格上の)衝突をものともせず徐々に完成へと近づくユニゾン
それさえも一経過とし無慈悲に迫りくる目標活動再開刻限
そして、第三新東京市は決戦前夜を迎える

ネルフ本部 喫茶スペースで息抜き中のミサトとリツコ
比較的余裕のリツコに対しミサトはいまいち浮かない表情
  リツコ「どうしたの、何か悩み事?」
  .ミサト「ま、ね…」
  リツコ「仕事? …それとも、男?」
からかうようなリツコを見つめ返すミサト ややあって答える
  .ミサト「…、両方」
手もとの書類に目を戻し、微笑を含ませるリツコ
  リツコ「…まだ好きなのかしら?」
思いっきりコーヒーにむせるミサト
  .ミサト「だッ誰があんなヤツと! やめてよね、リツコも。…いくら若気の至りとはいえ、
     あんな奴と付き合ってたなんて、わが人生最大の汚点だわ」
コーヒーを拭くだけの割には妙に強く唇をこすっているミサトの手 目をとめるものの、言及しないリツコ
  リツコ「私が言ったのは、加持君がよ。そうやって過剰に反応する辺り、案外図星なのかしら」
  .ミサト「よしてってば、もう」
  リツコ「でもほんと、気持ちがあるなら素直になった方がいいわよ。お互いもう子供じゃないんだし」
  .ミサト「〜、ご忠告はありがたく聞いておくわ。
     …さぁって、仕事仕事。明日は決戦だもんね」

洗い髪をタオルで拭きながら浴室を出てくるアスカ
 .アスカ「ミサトは?」
 霧亥「本部だ。今日は戻らない」
 .アスカ「そ。…じゃ、今夜は二人っきりってことね」
微妙な変化を感じ取って顔を上げる霧亥
117log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:21:02 ID:???
妙に平然と自分の布団を抱え上げ、隣室に運ぶアスカ
片足がつっと持ち上がり、小気味いい音をたてて引き戸を閉める
鼻先で閉じられた引き戸を見つめる霧亥
と、いきなり戸が向こう側から引き開けられる
 .アスカ「ここは決して崩れることのないジェリコの壁!」
気圧される霧亥
 .アスカ「一歩でもこの線を越えたら死刑よ。子供は夜更かししないで寝なさい!」
再び勢いよく閉められる引き戸
しばし引き戸の向こうを注視し、背を向けて自分の布団にもぐりこむ霧亥
やがて双方の部屋の明かりが消える

闇の中で目を開ける霧亥
若干の間ののち、また目を閉じる
その直後ガラッと引き戸を開けて現れるアスカ 寝ぼけた足取りでトイレへ向かう気配
動かない霧亥
突然、再び目を見開く
同時にすぐ後ろにどさりと身体を投げ出すアスカ
少しして寝息が聞こえてくる 
緊張を解く霧亥 彼女が完全に寝入ったのを把握し、自分も目をつむろうとしてふと身体の向きを変える 
とたんに硬直する
すぐ目の前に、何も知らず眠っているアスカの顔
数秒間身動きもせず息を呑んでいる霧亥
ふいに表情を変える
眠ったままのアスカのまぶたの端に涙がにじんでいる
 .アスカ「…マ、マ…」
目を凝らしかけてやめる霧亥 布団を抜け出して壁際に下がり、うずくまって目を閉じる
かすかに何事か呟き一人寝返りをうつアスカ
118log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:21:53 ID:???
決戦当日
既に十分な輝度に達している超構造体の降光
廃棄区域を越え、第三新東京市へと踏み込んでくる自己修復した使徒

ジオフロント ネルフ本部
既に発進準備が整い射出口基部に配置されている初号機および弐号機
  .ミサト『…二人とも、準備はいいわね。目標接触と同時にATフィールド中和。あとは訓練通りに』
通信回線から聞こえるミサトの声
 .アスカ「いい、キリイ。最初からフル稼働、最大戦速で行くわよ」
 霧亥「ああ。内部電源終了までの62秒でケリをつける」

発令所 各階に詰めている作戦部の面々
中央に立つミサト 両脇に控えるリツコ、加持 正面のオペレータ三人 最上階から厳しい視線を向ける冬月
口を開くミサト
  .ミサト「外電源、パージ!」
同時に宙に飛ぶエヴァ二機のアンビリカルケーブル 内部電源カウントが始まる
はかりしれぬ集中をこめ号令を下すミサト
  .ミサト「…発進」

天地を閉ざす超構造体の間に湧き起こる楽音
119log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:23:45 ID:???
平行して都市最上層を抜け、そのまま階層の高みまで射出されるエヴァ両機
完全に同調した動作で肩パイロンから圧縮硬索を取り出し、同時に使徒の両側めがけて投げつける
硬索が構造体に突き立った瞬間、その間に発生した電磁膜が使徒の巨体を両断する
即座に分離し二体になる使徒
全く同じタイミングでその正面に着地するエヴァ両機 直後、側面の兵装構造体が開く
銃器を抜き取り見事な対称展開を見せつつ射撃を開始する両機
弾体の雨をかわし閃光を放つ使徒二体
着弾 次々に襲う閃光を完璧に相互シンクロした連続後転で流麗に回避する両機
同時に踏み下ろした可動部が沈み込み、使徒との間に装甲防護板が滑り出る 再び銃撃を加える両機
予想外の跳躍力で肉迫し、防護板を一息に切り裂く使徒
指示を飛ばすミサト 降り注ぐ援護射撃
弾幕に暫時後退する使徒 即座に距離を詰め一気に攻め込むエヴァ二機
わずかな狂いもないユニゾン攻撃で分離体を圧倒する
形態変化し再び合体しようと接触する分離体
融合する使徒の体表の上で近づいていく二つのコア
最高潮に達する音楽
同時に構造表面を蹴る両機
使徒の頭上高く躍り上がり、真っ逆さまに使徒の胸部を目指して降下する
コンマ一秒のずれもなく二つのコアを直撃する両機の渾身の蹴り
止まらぬ勢いのまま市外周の廃棄構造物を削りつつさらに外へ突進していく使徒とエヴァ両機
圧潰する二つのコア
そして音楽の途絶えた後に、使徒殲滅のすさまじい爆発が市街全域を揺るがす
120log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:25:00 ID:???
余韻の消えていく第三新東京市
爆発の余光がおさまり、発令所主モニターに爆心地の様子が映し出される
我先に身を乗り出す人々
が、クレーター中心には、引っくり返って不様に折り重なっている初号機と弐号機の姿
すでに先刻までの雄姿はかけらもない
何となく厭な空気の漂いだす発令所

停止した初号機から這い出す霧亥
傍らの非常通話設備が耳障りな呼び出し音をたてる
若干苛立った顔で通話機を取る霧亥
とたんにアスカの怒鳴り声が飛び出してくる
 .アスカ『なんてことすんのよこの馬鹿っ! せっかくやったのに、これじゃ台無しじゃない!』
顔をしかめ弐号機の方を見る霧亥 排出されたプラグの辺りに仁王立ちしているアスカの姿
 霧亥「…目標は殲滅した」
通話機を置こうとする霧亥 すぐさま音量倍増の怒声が追いかけてくる
 .アスカ『そんなの最低条件に決まってるじゃない! いかにスマートに勝利するかってとこが重要だったのに、
      これじゃなんのために訓練したのかわかんないわ! ほんっと何もかもあんたのせいよ、この
      馬鹿、グズ、ノロマ! 信じらんない!』
だんだん表情が険しくなってくる霧亥
 .アスカ『あーあ、デビュー戦に引き続き、雪辱戦までこんな奴に足引っぱられるなんて…ほんと最悪だわ。
      こんなことなら、無茶を承知であたし一人でやった方がよっぽどマシだったわよ!』
 霧亥「一機では無理だった」
 .アスカ『あーそう、良かったわねぇおかげで脇役やらずに済んで。何よ、もしかしてこないだ援護しかできなかったの
      まだ根に持ってるワケ?! しつっこいわね男のくせに!』
121log.9 瞬間、心、重ねて:2005/10/17(月) 11:25:59 ID:???
 霧亥「そんなことは言っていない」
 .アスカ『ふん、どうだか。今のもあたしだけ目立つのがイヤで、わざと外したんじゃないの?!』
 霧亥「黙れ」
 .アスカ『はん、何よ、やる気?! 大体ゆうべだって、遅くまで寝ないで何やってたのよ』
 霧亥「何もしていない。寝ぼけて勝手に場所を取ったのはお前だ」
 .アスカ『えええ〜〜ッ?! じゃあ寝てる隙に何かしたのね?! したんでしょこのヘンタイ!!』
 霧亥「だから何も…」
 .アスカ『もうっエッチ馬鹿スケベヘンタイ信じらんないッ!!』

発令所 緘黙しているミサト
背後で言葉を交わす数名
  リツコ「…彼、例のあの武器は持っていないのよね」
 加持「ちゃんと確認して、作戦部で預かってもらってるよ」
  リツコ「ならとりあえず、これ以上の被害は出ずに済むわね…」
 加持「大げさだな、赤木博士も。…それにどのみち、これ以上の被害なんて出しようがないさ」
外部スピーカーに直結した音声回線により平盤の果てまで響き渡っている二人の口喧嘩
内外より届く笑い声
固まっているミサト
額を押さえる冬月
 冬月「…また、恥をかかせおって」


log.9 終
戦闘場面とかもうかなりの部分がうる覚えだ
ていうかアスカ相手にドキドキしたり口喧嘩する霧亥なんて正直想像つかないんだが

>100、>102 dion広告に栄光あれ
>103 サンクス
122名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/17(月) 12:13:34 ID:???

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..(.・.)~ヽ\     i:l/-''゙(.・.ノノ |::| l::::|l:::|  !
= '"~  ゙' ヽ    i´|   ̄=  l::| |:::|.|::|      オレノザツノウガッ・・・
           〃       ||.|::::| |:| 
      丶            |/::::| |l    
                   /::/|:l  
                J /゙''ー=|、  
       、__,〃      /::::::::::::::::\ 
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 ヽ    =ニニニゞ    /::::::::::::::::::::::::::::::::::\ 
   ヽ    ー‐    /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ 
    ヽ       /
123名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/18(火) 10:11:26 ID:???
超構造体から作者に向けて、乙。

そういうわけで
その日
作者に向けて
謝辞が送信された。

124名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/21(金) 23:18:10 ID:???
保守しとくか
125名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/22(土) 16:37:34 ID:???
今日も楽しく保守
126名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/24(月) 00:48:27 ID:???
べ、べつにこのスレのことなんて、なっなんとも思って無いんだからっ
127名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/24(月) 01:51:18 ID:???
ツンデレ乙。しかしいいな、こういうのは。
128名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/25(火) 11:22:17 ID:???
このスレ期待ほしゅ
129名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/28(金) 16:16:06 ID:???
保守
130名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/10/31(月) 17:29:50 ID:???
ほしゅ〜
131名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/01(火) 13:16:23 ID:???
>122 AAサンクス この顔いいよな
>123 謝辞サンクス それ、元は何だっけ?
>124->130 ほんとにありがとう
いきなり半月も空けてごめん
言い訳はしないでおく
それでは遅くなったけど、続き↓
132log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:17:17 ID:???
使徒襲来より200時間超
市街部で久しぶりに加持と一緒の買い物を満喫しているアスカ
 加持「へえ、修学旅行って、沖縄に行くか」
 .アスカ「そ! メニューには、スキューバダイビングも入ってんの! だ・か・ら、次はここね!」
 加持「ここ…って、水着売り場じゃないか。…おい、アスカ?!」
 .アスカ「じゃ〜ん! これなんてどう?」
 加持「〜、それはアスカにはまだ早すぎるんじゃないか?」
 .アスカ「え〜、加持さんおっくれてるぅ! いまどきこんなの当ったり前よ?」
 加持「やれやれ。いまどき、ね…」
 .アスカ「そうだ、加持さんたちは、修学旅行どこ行ったの?」
 加持「ん? ああ、俺らのときは、そういうのなかったんだ」
 .アスカ「どうして?」
 加持「セカンドインパクトでね」

  リツコ「このご時勢に、修学旅行とはね。私たちの頃には想像もできなかったわ」
  .ミサト「こんなご時勢だからこそ、遊べるときに遊んでおきたいんでしょ。
     幸い上の使徒も片付いて、第三新東京市の防衛機能も旧に復したことだし」
  リツコ「でも、パイロットには常に待機命令が課されてるのよ」
平静なリツコを見やり、んー、と口の端を歪めるミサト
133log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:19:05 ID:???
 .アスカ「えええ〜〜〜ッ?! 修学旅行に行けないィ?!」
ミサトの個人居住区 ダイニング
両手をテーブルに叩きつけ立ち上がっているアスカ
  .ミサト「そうよ。パイロットは使徒襲来に備え、第三新東京市にて戦闘待機」
 .アスカ「待機、待機、待機…ったく、いっつも待機ばっか! たまには敵の本拠地を突き止めて
     攻めていったらどうなのよ!」
  .ミサト「それができれば、ね…」
形勢不利とみて隣の霧亥に矛先を転じるアスカ
 .アスカ「もう、あんたも何か言ったらどうなのよ!」
 霧亥「なぜだ」
 .アスカ「なんでって、修学旅行駄目になって、悔しくないの?!」
 霧亥「こうなる気はしてた」
天井を仰ぐアスカ
自分で勝手に煎れた緑茶(食料庫から発掘)をすすって顔をしかめる霧亥
 .アスカ「諦めてた、ってわけ…?
     はッ、どいつもこいつも…現状への疑問すら抱かないなんて、どうかしてるわ!
     飼い馴らされた男なんてサイテーよ!」
 霧亥「…? それは何だ」
どさっと椅子に倒れこむアスカ
しばらく真顔で彼女を注視し、目を逸らす霧亥
まんざらでもなさそうな顔で二人を眺めるミサト 表情を切り替える
134log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:19:56 ID:???
  .ミサト「それより二人とも、これをチャンスと考えなきゃ。
     みんなが遊んでる間に少しでも勉強の遅れを取り戻さないと」
微妙に凍る二人
二人の学業データが収められたディスクをひらひら振ってみせるミサト
  .ミサト「言わなければバレないと思ったら大間違いよ。
     ウチの諜報部にかかれば、あんたたちのテストの結果ぐらい筒抜けなんだから」
先に立ち直るアスカ
 .アスカ「はん、旧態依然とした減点式の試験なんかナンセンス! 下らなすぎて、やる気なんか出やしないわ」
  .ミサト「郷に入っては郷に従え、よ。せっかくこっちの学校に編入したんだから。
     …霧亥君もよ?」
少々怖い目をしてみせるミサト しぶしぶ頷く霧亥
思いっきり顔をしかめ横目で彼を睨むアスカ
135log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:20:44 ID:???
プールサイドで学習用端末を開いている霧亥 明らかに不機嫌な顔
反対に上機嫌で水着姿を披露するアスカ
 .アスカ「じゃ〜ん! どう、キリイ?」
手に提げたダイバーズジャケットとスキューバ用タンクに不審そうな目を向ける霧亥
両手を腰に当て、胸をそらすアスカ
 .アスカ「オキナワ行けないんだから、ここで潜るの!
     ふん、どうせオキナワだって、要はちょーっと大きいだけのただの有用水循環槽なんだし、
     ここと大して変わりゃしないわ。それを、紫外線照射機構やら大型環境装置やらで、いろいろ
     大げさに飾り立ててるってだけの話よ。…で、あんたは何やってるのよ?」
 霧亥「宿題」
呆れ顔になるアスカ
 .アスカ「ったく素直ね、あんたも。にしてもこのふっるくさい表示形式、何とかなんないのかしら?
     いまどき文字情報、しかもキーボードで物理入力なんて、超懐古趣味にもほどがあるわ。
     どれどれ…あ〜あ、こんなの、圧縮して直接外挿しちゃえばすぐなのに」
霧亥を半分おしのけて画面を睨むアスカ
 .アスカ「…ま、情報の再配列も後脳処理もろくにできないような輩には、これくらいでちょうどいっか。
     知ってるでしょ? あたしたちって技術水準高いですって顔してるけど、実際は自分の身体機能も
     満足に把握できてないヤツがほとんどなのよ。医療設備や工学施設も、発掘される昔の機械には
     到底かなわないレベルだし。…だから、あたしみたいなのが貴重になってくるわけだけど」
数式だけ瞥見してキーボードに指を走らせるアスカ あっさり解かれる問題
アスカを見る霧亥
136log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:21:32 ID:???
 霧亥「…なぜ、テストのときにそれをやらなかった」
 .アスカ「テスト? ああ、何が書いてあるのかわかんなかったのよ。向こうの大学じゃ日本語取ってなかったし」
 霧亥「大学」
 .アスカ「そ。去年、卒業したの。…だいたい、あたしたちが本当に優秀だってんなら、今ごろ端末遺伝子を
     自力で合成して、ネットにアクセスしてるわよ。そうでしょ?」
答えずに再び端末の課題に戻る霧亥
なぜか行こうとしないアスカ
 .アスカ「ねえ、これはなんて読むの?」
 霧亥「熱膨張」
 .アスカ「ねつぼうちょう? 幼稚なことやってんのねー。要は、物ってのは温めれば膨らんで大きくなるし、
     冷やせば縮んで小さくなるのよ。
     …あたしの場合、胸だけ温めれば、少しはオッパイが大きくなるのかしら?」
軽く両胸を押さえ、からかうような目つきで霧亥を見下ろすアスカ
既に聞いてない霧亥 憮然とするアスカ
水音が響く
泳ぎ終えたレイが水から上がり、荷物の置いてあるデッキチェアの方に歩いていく
アスカがふと見ると霧亥はその姿を目で追っている
さらに面白くなさそうな顔になり、唐突に離れていくアスカ
プールの向こう側でタオルを取り出し髪を拭いているレイ
 .アスカ「見て見て、キリイ!」
振り返る霧亥
いつのまにかスキューバスタイルでプールの縁につかまっているアスカ
 .アスカ「バックロールエントリー!」
得意げな声とともに、丸めた背中からざぼんと水に没するアスカの姿
無言で目を逸らす霧亥
137log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:22:39 ID:???
第三新東京市より1300km 超構造体大褶曲部“浅間山”中洞炉観測所
四世代ほど前、複数の大型建設者により超構造体上に増設された内径1kmの熔鉱炉 周辺に散在する
老朽材や機能停止した構造物を融解し、再利用可能なペースト状に成形して外部へ送り出している
組成が複雑すぎるためその製品は人には利用できず、都市連合体の干渉は炉の観測のみにとどまっている
観測所中央管制室のミサトと日向
正面モニターには炉内の熔解金属中を降下する無人観測機からの映像
観測機は既に安全深度を超過 観測所員の再三の警告にも耳を貸さず降下を続けさせるミサト
深度を告げる音声のみが管制室に響く
ふいに緊張する日向
 日向「…葛城さん!」
  .ミサト「見つけたわね。分析、急いで」
 日向「はい。データ送信を開始します」
直後、モニターの画像が途切れる 鳴り渡る甲高い警告音
 所員「…安全深度プラス150。観測機、圧壊しました」
所員らの視線など気にとめず、日向の肩に置いた手に力をこめるミサト
  .ミサト「…解析は?!」
 日向「ギリギリで間に合いましたよ。
     …パターン青。間違いありません、使徒です」
138log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:23:27 ID:???
 .アスカ「…これが、使徒?」
ネルフ本部作戦室 閉鎖された観測所からのデータが床面に実スケールで投影されている
胎児めいた巨大な物体の映像を見下ろしている霧亥、レイ、アスカ
床スクリーン対面に立つミサトとリツコ、伊吹
  リツコ「そうよ。正確にはまだ成体になっていない、サナギのような状態のね」
  .ミサト「今回は、中洞炉深部にひそむこの目標の捕獲が作戦の主眼となります。
     目標を生きたまま、可能な限り原型をとどめた状態で回収すること。ただし失敗した場合には、
     即時、使徒殲滅を最優先とします」
  リツコ「使徒が確認された深度は高温高圧。極限状況と言っても過言ではありません。
     よって、局地戦に用意されたD型装備で潜ることになるわ」
  .ミサト「作戦の性格上、かなりの危険が予想されるけど…志願者は、いる?」
黙っている霧亥
と、横のアスカが元気よく手を挙げる
 .アスカ「はいっ、はーい! あたしが潜る!」
かすかに顔を上げる霧亥 アスカを一瞥する
  .ミサト「ではアスカ、弐号機で担当して。
     霧亥君と初号機は、同じく現地にてバックアップを務めてもらうわ」
  .レイ「あたしは」
  リツコ「レイと零号機は、本部で待機ということになるわ」
 伊吹「プロトタイプの零号機には、実戦向けの装備は想定外なのよ」
優越感たっぷりにレイを見やるアスカ
 .アスカ「残念ねー? 温泉、行けなくて」
答えないレイ
139log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:24:33 ID:???
エヴァのケイジ ロッカールームから出てくるアスカ
 .アスカ「…耐熱仕様のプラグスーツったって、いつものと特に変わらないじゃない」
  リツコ「右手のスイッチを押してみて」
 .アスカ「? これ?
     ……ッて、何よこれぇえええ?!」
あっというまに球状に膨れ上がるプラグスーツ
巨大な風船から、これも見事に太くなった両手足を突き出した格好になるアスカ
さすがにあっけに取られて注目する霧亥とレイ ぶんむくれるアスカ
追い討ちをかけるリツコ
  リツコ「で、弐号機はこれよ」
アスカと同様の何とも丸っこい形状の装甲に全身を覆われた弐号機 固定されていないため
太短い手足を投げ出す格好で壁を背に座り込んでいる
 .アスカ「……これが…あたしの…弐号機…?」
もはや二の句も告げないアスカ
  リツコ「局地戦仕様D型装備。耐熱耐圧耐核防護服。中洞炉内の超高温高圧にも耐えられるわ」
ようやく立ち直って目をつり上げるアスカ
 .アスカ「イヤよ! あたし、降りる! こんなのはこのキリイの方がお似合いよ!」
指さされて顔を向ける霧亥
 加持「それは残念だな。せっかくアスカの勇姿が見れると思ったのに」
振り向くアスカ 通路の手すりにもたれている加持が目に入る
悲鳴をあげてロッカールームに逃げこむアスカ
 .アスカ「でもっ、こんなだっさい姿で加持さんの前に出る勇気なんてないわ!」
横からレイが手を挙げる
  .レイ「わたしが弐号機で出るわ」
きっとなって詰め寄るアスカ レイの腕を掴んで下ろさせる
 .アスカ「あなたには私の弐号機にさわってほしくないの、悪いけど!
     …仕方ないわね。この優等生が出るくらいなら、自分でやるわ」
やるせなげに丸っこい弐号機を見上げるアスカ
 .アスカ「…カッコ悪いけど、ガマンしてね」
140log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:25:27 ID:???
浅間山構造体中腹 中洞炉最上部
火口外周の一端に配置された14式自走架橋搬送機 下面に移送用のレールがついた
巨大なアームが熔鉱炉の上に伸びている
周辺構造物に取り付けられた十数本の超硬ワイヤと金属杭が、移送アームの突端を固定している 
通常車輌の十倍以上はある架橋機の後部からは冷却材循環用の巨大な耐熱パイプの束
パイプ列の先、レールの起点に降下用装具とともに固定作業中の弐号機
架橋機横で待機する初号機(B型装備)
プラグ内でひたすら作戦準備の進行を見守っているしかない霧亥
 .アスカ『なーにぼけっとしてんのよ、キリイ』
通信画面が開き、そこから余裕の笑みをよこすアスカ
 .アスカ『ま、無理もないけど。何しろ今回はD-17が発令されてるんだもの』
目を向ける霧亥
 霧亥「ネルフの特令か」
 .アスカ『そ。使徒殲滅及びそれに準ずる状況において、ネルフに認められてる特別権限の一つ。
     簡単に言えば、これの発令下では、ネルフの行動と指揮権が全てに優先されるのよ。今回は、
     都市連や関係各機関の全面的な協力態勢のもとに、作戦を遂行できるってわけ』
特殊プラグスーツ姿で窮屈そうながらも、得意げな顔を隠さないアスカ
ふと視線を移す霧亥
浅間山上数kmを横切る軌道に機影 徐々に減速し、中洞炉直上で停止する戦闘用高速重車輌
 .アスカ『…あれは?』
 霧亥「都市連軍だ」
141log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:26:38 ID:???
 .アスカ『都市連が? 何しに来たのよ』
  リツコ『N2鋼弾の射出準備よ。状況に応じて、いつでも投入できるようにね』
後方に目を向ける霧亥
支援車輌に並んだ仮設作業場で機器を調整するリツコと伊吹の姿が小さく見えている
 .アスカ『なんだ、手伝ってくれるのね』
  リツコ『いえ、後始末よ。我々が失敗した場合のね』
 伊吹『作戦が失敗した場合、使徒をN2爆弾で熱処理するの。私たちごとね』
絶句するアスカ 険しい表情になる霧亥
 霧亥「…その命令を出したのは誰だ」
  リツコ『碇司令よ』
黙り込む霧亥

ネルフ本部 総司令執務室
 冬月「いいのか? D-17を発令とは、少々大袈裟すぎないかね」
  碇「構わんよ。生きた使徒のサンプル、その重要性は委員会も十分承知している。
     彼らも自分たちが生き残ることを最優先に考えている。そのための手間は惜しむまい」
 冬月「…生命そのものを、人の手で作り変えても、か」
  碇「彼らはそれこそがヒトの新生だと考えている。それだけのことだよ」
冬月の眉間に刻まれた筋がいっそう深くなる
黙して執務に戻る碇
142log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:27:29 ID:???
アーム下面のレール伝いに熔鉱炉直上へ滑っていくレーザー発振装置
潜行ポイントで停止し、探査用レーザーを真下の熔液に撃ち込む
 日向「進路クリア。弐号機、潜行位置へ」
続いて同じくアーム下を移送されてくる弐号機 両手には目標捕獲用の電磁繭発生フレーム
  .ミサト「アスカ、いいわね?」
 .アスカ『いつでもいいわ』
  .ミサト「大丈夫、すぐに済むわ。…では、作戦開始」
背中から機体各部に繋がった支持ケーブル及び冷却材循環パイプの太い束を後ろに引きながら、
まばゆく沸き返る熔液に向かって降下していく弐号機
 .アスカ『…うっわー、熱そう』
 日向「弐号機、熔液面に到達します」
初号機のモニタを通して弐号機を見守っている霧亥 ふいにアスカの声
 .アスカ『見て見て、キリイ!』
 霧亥「…?」
 .アスカ『ジャイアントストロングエントリー!』
太短い両脚を前後に開いた姿勢で熔液に接触、没していく弐号機
無言で小さく息をつく霧亥
143log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:28:25 ID:???
熔液中を一定速度で下降していく弐号機
可視光・赤外ともに視界はほぼゼロ 超高温の熔解液が帯びる電磁効果のためレーダー類も低感度
 伊吹『弐号機、目標との接触予想深度に到達』
  .ミサト『アスカ、何か見える?』
フィルタで光度調整された赤黒い視界を見回すアスカ 周辺走査にも反応はない
 .アスカ「…何もいないわ。本当にここなの?」
  リツコ『ミサト、予想より熔液の対流が早いわ。観測時点からさらに深い位置に流されたのかもしれない』
  .ミサト『もっと下にいるってこと? …アスカ、もう少し深度を下げてみるわ。いいわね』
 .アスカ「わかったわ」
再び潜行を開始する弐号機
刻々と増していく深度数値 突然、何かが破損する音がプラグに伝わる
かすかに唇を噛むアスカ
 日向『…第二循環パイプに、亀裂発生』
  リツコ『ただちに冷却材の循環を停止。他のでまだまかなえるわ』
機能停止する二番パイプ まもなく破損箇所が圧潰し、ちぎれたパイプが弐号機を離れて落下する
沈むパイプを無言で見つめるアスカ と、その一部が弐号機の側面に接触する
 日向『弐号機、プログナイフ喪失!』
さらに表情を引き締めるアスカ
  .ミサト『問題ないわ、アスカ。まずは目標の捕獲が最優先よ』
 .アスカ「わかってるわ」
144log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:29:13 ID:???
継続される潜行
安全深度を越え、さらに限界深度が迫る
いっこうに潜行停止命令を下さないミサト
たまりかねて口を開く日向
 日向「…今度は人が乗ってるんですよ!」
  .ミサト「作戦責任者は私です。降下、続けて」
信じがたいものを見る目でミサトを見上げる日向
 .アスカ『あたしなら平気よ。弐号機もまだまだ行けそう。このまま続けるわ』
わずかに表情を変え画面に寄るミサト
  .ミサト「きっとうまくいくわ。もう少し、頑張って」
回線の彼方から届く明るいアスカの声
 .アスカ『りょーかい、大丈夫よ。…にしても、これじゃプラグスーツって言うよりサウナスーツね。
     さっさと終わらせて、シャワー浴びたい』
  .ミサト「近くにいい温泉があるわ。終わったら行きましょ」
会話にかぶさるように鳴り響く警告音 限界深度到達の表示 振り返る日向
 日向「…葛城さん!」
 .アスカ『待って!』
弐号機の視覚が何かを捉える
145log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:30:47 ID:???
 .アスカ「…いた!」
高密度の熔液中に浮かぶ黒っぽい楕円状の使徒のサナギ
速度を落とし慎重に接近する弐号機
捕獲器のフレームを展開、使徒の位置に合わせて構える
 .アスカ「…軸線合わせ終了。目標捕獲位置へ」
楕円形のサナギがすっぽり収まる形で捕獲器の直方体の枠組みをかぶせる弐号機
 .アスカ「電磁膜、展開!」
ビュンと一瞬でサナギを包み込む直方体形の電磁繭
グリーン表示とともに画面のサナギの映像に被る『CAPTURED』の文字
 .アスカ「…捕獲完了。これより、浮上を開始します」
回線の向こうから伝わる人々の安堵の気配 わずかに表情の晴れるアスカの顔
捕獲器ごと浮上を始める弐号機
 霧亥『惣流』
ほんの少し目を見開くアスカ
 霧亥『さすがだな』
 .アスカ「…当然よ。このくらい、あたし一人で十分に決まってるじゃない」
横目で通信画面を見やり、いつもの余裕たっぷりな顔をするアスカ
 .アスカ「ま、あんたは出番なくて、残念だったわね」
 霧亥『…ああ』
ふふんと笑うアスカ プラグの中で軽く手足を伸ばす
 霧亥『…惣流!』
 .アスカ「何よ? …?! これって…!」
146log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:31:46 ID:???
楕円形の外殻の内部で何かが急速にうごめき始める
わずかに集音機が拾う、引き伸ばされた低音の呻き 赤ん坊の泣き声に似ている
瞬時にアスカの表情が引き締まる
  リツコ『…まずいわ。羽化を始めたのよ』
  .ミサト『アスカ、ただちに捕獲器を破棄! 作戦を変更、浮上を続けつつ、目標を殲滅して!』
 .アスカ「了解!」
捕獲器を切り離す弐号機
沈んでいく捕獲器の内部から、電磁膜をやすやすと破って突出する腕のような物体
躍り出る使徒の成体
弐号機を視認、一気に速度を上げ泳ぐように迫る
 .アスカ「…バラスト排出!」
腰部バラストを切り離し急速に浮き上がる弐号機 すぐ下を高速で通過する使徒
そのまま高密度の熔液の中へ消える
 .アスカ「まっずい、目標を一時喪失! 今のうちに…」
空を掴む弐号機のマニュピレータ
 .アスカ「?! そっか、ナイフはさっき落としちゃったんだわ!」
147log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:32:44 ID:???
中洞炉火口から、渾身の力でプログナイフを投げ込む初号機
一直線に輝く液面に没するナイフ

  .ミサト『アスカ、今初号機のナイフを送ったわ! 受け取って!』
 .アスカ「了解…っ、! 来た!」
走査不能の熔液の彼方から急速に接近する使徒 ナイフを求めマニュピレータを上に伸ばす弐号機
 .アスカ「もう、早くー!」
間一髪到達したナイフを捕まえ、鞘を払う弐号機 直後、使徒がのしかかる
激しく揺さぶられるエントリープラグ
二重になった口蓋から牙の列を剥き出し、耐圧装甲服の頭部に噛みつく使徒
  リツコ『…この状況下で、口を開くなんて! 信じられない構造だわ』
 .アスカ「…くッ、こんのぉっ!!」
ナイフを振り上げ使徒の体表に突き立てる弐号機 火花が散るものの刃は跳ね返される
さらに覆いかぶさる使徒
振り払えないまま浮上を続ける弐号機
 .アスカ「こんなの、どうやって倒せってのよ!」
  リツコ『…これだけの高温高圧の状況に耐えてるのよ。何か弱点があるはずだわ』
ふいに顔を上げるアスカ すぐ上に並んでいる冷却用パイプの列
 .アスカ「そうだわ!」
 霧亥『…熱膨張か』
勝気な表情を取り戻すアスカ
148log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:34:08 ID:???
自らパイプの一本をむしり取って使徒の口に押し込む弐号機
 .アスカ「冷却パイプの圧力を三番に集中して! 早く!」
一気に使徒の体内に噴出する冷却剤
周囲の高温に晒され、爆発的に体積膨張する 内部からの増圧に耐え切れず決壊する使徒の身体 
力を失い、弐号機を放す使徒
たちまち高密度の金属熔液がその巨体を崩壊させていく
 .アスカ「…やった!」
  .ミサト『よっしゃ、良くやったわアスカ!』
最後の瞬間、離れていく使徒の前腕の先が循環パイプをかすめる
大きく傷つけられるパイプ列 冷却材の循環が中断する
装甲がひしがれ、軋む音
外部圧力に負けて陥没し始める弐号機の防護服
空っぽの表情で上を仰ぐアスカ
かろうじて繋がった最後の冷却パイプがみるみる劣化しちぎれていく
 .アスカ「……せっかくやったのに」
ぽつんと呟くアスカ
 .アスカ「…何よ、ここまでなの」
ぶつんと途切れるパイプ
浮力を失い沈み始める弐号機
沈み込む重力の感覚がアスカを捕らえる

そのとき、がくんと弐号機の沈降が止まる

顔を上げるアスカ
すぐ上、暗い熔液中に人影
B型装備のままちぎれたパイプの端を掴んで弐号機を支えている初号機
わずかに口を開くアスカ やがて少しだけ笑う
 .アスカ「…馬鹿、無理しちゃって」
149log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:35:51 ID:???
中洞炉より12km “浅間山”から漏れる排熱を利用した小規模な温泉郷
小型の輸送車輌ががたがた揺れながら宿泊施設の一つに向かっていく
荷物を抱えて車輌を降りる配送員 人気のない施設入口には『ネルフ御一行様』の文字
他の面々が出払っているため仕方なく荷物を受け取る霧亥
差出人は加持になっている
とりあえず開封すると、中からペンペンの頭が飛び出す よく見ると冷蔵配達扱いである
期待感むき出しできょろきょろ周りを見回すペンペンを抱え上げ、箱から出す霧亥
 霧亥「風呂なら向こうだ」
すっとんでいくペンペン

貸切状態の広い露天温泉を満喫するアスカとミサト
塀一つ隔てた男湯からペンペンのはしゃぐ声が届いてくる
  .ミサト「しまった、ボディソープなくなっちゃった」
 .アスカ「キリイの借りれば? 隣にいるんでしょ」
  .ミサト「じゃ、そうしよっか。
      …霧亥くーん、悪いけど、ボディソープ投げてくれない?」
若干の間ののち、塀の向こうから前触れもなく飛んでくる洗浄剤の容器
背中を直撃されるアスカ
 .アスカ「ッ、ちょっとどこ投げてんのよ!」
  .ミサト「アスカが油断してるからよー。…ほーら、これでどうだ!」
 .アスカ「きゃあ、何すんのよ?! もうっ泡が目に入るじゃない!」
たちまち夢中になってふざけだす二人
二人の笑い声に、ペンペンが湯を跳ねかす音と満足げな鳴き声が重なる
150log.10 マグマダイバー:2005/11/01(火) 13:40:52 ID:???
湯の中で手足を伸ばしている霧亥
無言で目を閉じている
湯に浮いてついーとその鼻先を滑っていくペンペン
いつのまにか静かになっている向こう側
  .ミサト「…ん?
      ああ、これ。…セカンドインパクトのときに、ちょっち、ね」
沈黙の中からかすかに伝わるミサトの声
ちょっと目を開け、また閉じて湯に身を沈める霧亥
アスカの声が続く
 .アスカ「…知ってるんでしょ、みんな。私のことも」
  .ミサト「ま、ね。
      過ぎたことだもの。お互い、昔を思い出すこともないわ」
静まり返った温泉に夕闇が降りる


log.10 終
実を言うとマグマについては逃げますた
だってレベル9でも召喚しない限り都市構造体にマグマなんて出現しそうにないし
今後もこの調子でだらだら続けるだけだと思うので、あまり期待はしない方がいいと思う
でも保守はすげーうれしかった ありがとう
151123:2005/11/01(火) 14:35:08 ID:???
ネットスフィアエンジニアっていうBLAME!の後の世界を描いた作品。現在、1話のみ。>作者

ともかく乙。
152名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/01(火) 14:47:11 ID:???
よくやった、作者
153名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/04(金) 15:28:40 ID:???
統治局とかはどうなってるの?>>作者
154log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:38:26 ID:???
ダイニングの共有端末に放置された電子単信を見つけるミサト
壱中からの三者面談の日程通知である
中学生二人を呼ぼうと口を開いて、ふと動きを止めるミサト
単信の『進路相談』の文字にしばし視線を預ける
黙笑するミサト 表情を改めてちょっと真面目な声で霧亥とアスカを呼ぶ

遮音折扉を引き開け、公共直信房に入る霧亥
音声通話器と外部端子接続口を一瞥し、結局ミサトにもらったコピーシリンダを取り出す
乱雑に置かれた住居帳の類を押しのけて対応スロットに差し込む
通話器を取り上げる霧亥
本部オペレータの指示に従って身分照合を行い、碇宛にデータ送信を要請する
若干の間ののち受信準備完了の信号を送ってくる回線
シリンダの内容が転写されたのを確かめ、装置から抜き取ろうとしてけげんな顔をする霧亥 
モニタには送信失敗の表示が出ている
再び通話器を取る霧亥 ネルフ本部を呼び出すが応答がない
回線は本部側から一方的に切断されている
険しい表情になる霧亥 
多少手荒く通話器を置き、通信房を出ていく
155log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:39:20 ID:???
下校し本部へ向かう霧亥、レイ、アスカ
アスカにせっつかれて面談通知の一件の顛末を話す霧亥
呆れ顔で嘆息するアスカ
 .アスカ「それは碇司令、本当に忙しかったんじゃないの? 個人回線じゃないんだし」
無言の霧亥
落ち着いた様子で霧亥のやや後ろを歩いているレイ 何となく取り残された気になるアスカ
きっと顔を上げ、レイを追い越して霧亥の横に並ぶ
 .アスカ「そういえばミサト、なんで碇司令にも知らせろなんて言ったのかしら?
     学校のことやなんかは全部ミサトの担当になってるんでしょ。…もしかして、あんたと
     司令の冷えきった親子関係を心配しての、老婆心ってヤツ? ったく、お節介なんだから」
ちらっとアスカを見る霧亥
鞄を提げたまま両手を頭の後ろで組むアスカ
 .アスカ「気になるんなら、あとでもう一回試してみれば。回線の不調だったかもしれないじゃない」
 霧亥「いや」
口をつぐむアスカ 霧亥の顔は前方に向けられている
 霧亥「二度も煩わす必要はない」
目を細めて霧亥を見やるアスカ
 .アスカ「…あーあ、拗ねちゃってもう。ほんと子供ね」
憮然として振り返る霧亥 知らん顔するアスカ
何も言わず二人を見ているレイ
156log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:40:35 ID:???
本部正面ゲート
IDの不認識から始まり、どうやら本格的に本部と連絡不能であることを知る三人
というよりやがて本部施設全体が動力停止していることが判明する
 霧亥「ここの電源は?」
 .アスカ「上の街と一緒よ。でも超構造体内部だってこともあるし、外部から隔離されても機能するよう、
     供給路は完全に独立した系として設計されてるはずだわ。電源は正・副・予備の三系統、
     それが全部同時に落ちるなんて、考えられないわ」
  .レイ「なら、ブレーカーは落ちたというより、落とされたと考えるのが自然ね」
 .アスカ「事故じゃなくて、人為的なものってこと…?」
レイを見る霧亥
 霧亥「どうすればいい」
  .レイ「とにかく、本部に行きましょ」
いち早く広げていた緊急時行動マニュアルをしまい、立ち上がるレイ
割り込むアスカ
 .アスカ「いいわ。じゃ、行動を始める前に、グループのリーダーを決めましょう。
     で、当然あたしがリーダー。文句ないわね?」
両手を腰に当て、霧亥の顔を覗き込んむようにして宣言するアスカ
背後からレイの声
  .レイ「こっちの第七ゲートから中に入れるわ」
あからさまに勢いを失うアスカの顔
特に反応を返さず、レイの方に向かう霧亥
157log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:42:00 ID:???
現時点で唯一機能する第七ゲートこと手動開閉扉の前に立つ三人
先の不名誉を撤回すべく、大いに霧亥をけしかけるアスカ なにげに隣で待っているレイ
微妙に仏頂面になりつつぐりぐりと開閉レバーを回す霧亥
かくして地下へ踏み込む三人
が、すぐに方向を失う
どこまで進んでも剥き出しの構造材とパイプだらけの狭い通路 当然案内も標識もなし
 .アスカ「…もう、これじゃちゃんとした都市空間になってるだけ、街の外の方がまだマシね。
     建設者じゃなくて人の手が造った方がごちゃごちゃなんて、どうかしてるわ」
苛々と大股に進むアスカ 急に立ち止まる
 霧亥「なんだ」
 .アスカ「…座標策定素子の調子が悪いのよ。現在位置がうまく把握できないわ」
  .レイ「本部のサポートがなくなってるだけよ」
 .アスカ「本部? …まさか、MAGIシステムまで停まってるってこと?」
  .レイ「いえ、恐らくシステムは健在よ。情報撹乱のために、ダミープログラムを走らせているんだわ」
 .アスカ「…そっか、復旧ルートから本部施設の構造が推測される場合を考慮してるのね。
     つまり、予測される敵の目的はここの機能麻痺じゃなくて、内部構造の把握」
  .レイ「システムが完全に回復するまでは、通常通りの支援は望めないと考えられるわ」
 .アスカ「自力でジオフロントまでたどり着くしかないってことか…」
振り返るアスカ 真っ暗な天井を見上げている霧亥
 .アスカ「もう、あんたさっきからテキトーに周り見てるばっかじゃない。ボケッとしてる暇があるなら
     さっさと有望そうなルートを捜しなさいよね」
霧亥の視線の先を仰ぎ、アスカに向き直るレイ
  .レイ「黙って」
158log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:43:08 ID:???
 .アスカ「何よ、優等生!」
いきりたつアスカ 動じないレイ
  .レイ「人の声よ」
同時に頭上を見上げる二人
層をなす鋼梁の隙間からかすかに届いてくる声
 .アスカ「…日向さんだわ!」
回収してもらおうと声を張り上げるアスカ ふいに表情が変わる
次第に明確になる日向の声
 日向『…徒、接近中! 
     現在、使徒、接近中! 現在…』
車輌の外部スピーカーから流れているらしい声はたちまち遠ざかっていく
 .アスカ「使徒?!」
  .レイ「…急がないと」
無言で懐中の銃を掴む霧亥 気づいて速攻で後頭部をはたくアスカ
 .アスカ「何考えてんのよこの馬鹿! 本部まで穴開ければいいってもんじゃないでしょ?!」
おとなしく銃を離す霧亥
二人から視線を逸らし、周囲を眺めるレイ
  .レイ「仕方ないわ、近道しましょ」
敏感に反応するアスカ
 .アスカ「リーダーは私よ、口を出さないで! …で、近道ってどこ?」
結構すんなりレイの先導を受け入れるアスカ
後に続きつつ、不可解そうに両者を見比べている霧亥
159log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:44:12 ID:???
レイを先頭に、地下空間を縦横に貫く整備用通孔を匍匐前進する三人
 .アスカ「…近道ったって、もっとマシなルートはないワケ?」
返事はない 諦めて前進に専念するアスカ
しばらくして唐突に呟く霧亥
 霧亥「…使徒か」
けげんそうに振り返るアスカ
 霧亥「なぜ襲ってくるんだと思う」
 .アスカ「何よ、いきなり」
 霧亥「なぜネルフはエヴァを使い、迎撃するんだ」
 .アスカ「…一体どうしたってのよ? 訳わかんない連中が攻めてきてんのよ、
     降りかかる火の粉は、払いのけるのが当ったり前じゃない。
     それに、前も言ったでしょ。あたしたちはこの階層で生きてくしかないんだから、
     ここを死守する以外ないのよ。外に出る方法でもあれば別だけどね」
再び元のような通路に出る三人 レイに続いてさっさと横穴を抜け出すアスカ
黙り込んでいる霧亥
振り向いて彼を見つめるレイ すぐに歩き出す
160log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:45:00 ID:???
通廊は幅や高さを変えつつ闇の奥へ伸びる
どこまでも静寂 劣化した循環パイプ群や古い隔壁の傍を通り過ぎる三人
深度が増すにつれ、今は使われていない旧型の施設や打ち捨てられた装置が目につき始める
第三新東京市建設当時のものとおぼしい 辺りは一様に分厚い塵埃や錆に覆われている
電磁波濃度の変化を感じて頭上を仰ぐアスカ
 .アスカ「超構造体内部に入ったわ。ここまでは順調ってことね」
進むに従ってそれまでの人工空間とは明らかに様子の異なる構造が増えてくる 素材も外の都市構造に近い
 霧亥「ここは」
  .レイ「人の手が入る前の、古い層よ」
単一素材で構成された巨大で均質な壁面や用途もわからない構造物の列を眺める霧亥
いずれも人の建造した部分には見られない精確さで造られている
ここにも層をなす塵と埃
 .アスカ「ジオフロントの堆積層に入ったのよ。この辺りに人が住み着く何世紀も前からあったらしいわ。
     超古代の記録や遺物がいろいろ発掘されるからって、何世代か回収作業を続けてるうちに
     居住区みたいになっていったわけ。実際に今ある街が建設されたのは、つい一世代前のことだけど」
少し行ったところで通路が分岐している
左右の道を慎重にすかし見るアスカ
 .アスカ「…、右ね」
  .レイ「私は左だと思うわ」
161log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:45:52 ID:???
すかさずレイを振り返るアスカ 脇の霧亥に視線を移す
 .アスカ「キリイはどっちだと思うのよ」
顔を上げる霧亥
その視線がレイの方に行くのを見て取り、途中で遮るアスカ
 .アスカ「っもう、私がリーダーなんだから、黙ってついてくりゃいいのよ!」
返事を待たずに右の道に踏み込んでいくアスカ 仕方なくついていく二人
次第に登り坂になる通廊
アスカが背後の二人の視線を意識しはじめたころ、行く手に光が見える
突き当たりの扉の上部にともった標識灯の明かりである
得意げに振り返るアスカ
 .アスカ「ほら、やっぱりあそこが出口よ」
肯定も否定もしない霧亥とレイ 非常口らしき扉に駆け寄り、思いっきり蹴り開けるアスカ
とたんに眼前を貫く衝撃と地響き
扉の前に引っくり返って人気のない街角を見上げるアスカ
巨大な黒い節足が通りの舗装材を砕いてめり込み、再び空中に持ち上げられる
続いて兵装構造体の合間に現れる、多数の目玉模様が描かれた逆さまの半楕円体
停止した第三新東京市を行く蜘蛛状の使徒
跳ね起きるなり全力でシェルターの扉を閉ざすアスカ
安堵の息をついて顔を上げ、二人の無言の視線に気づいて微妙に顔をこわばらせる
若干の間をおいて一言
 .アスカ「…使徒を肉眼で確認。これで、急がなきゃいけないのがわかったでしょ?」
黙ってきびすを返す二人
162log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:47:12 ID:???
三叉路の前で立ち止まっている三人 既に方角の見当もつかない
すっと前に出るレイ
  .レイ「こっちよ」
わずかな躊躇ののち、きつく唇を引き結んで後を追うアスカ 二人に従う霧亥
しばらく黙々と歩く三人
先を行くレイの背中を注視している霧亥
 .アスカ「…あんた、碇司令のお気に入りなんですってね」
一方的にレイに話しかけだすアスカ
答えないレイ
 .アスカ「さすが、頼りにされてる優等生は違うわねー。いっつも澄まし顔でいられるしさぁ」
 霧亥「やめろ」
霧亥を無視して、足早にレイに追いつくアスカ 強く肩を掴んで振り返らせる
黙って見つめ返すレイ
激昂を抑えた険しい目で彼女を見据えるアスカ
 .アスカ「…あんた、ちょっとひいきにされてるからって、なめんじゃないわよ!」
静かにアスカの手を外すレイ
  .レイ「なめてなんかいないわ」
間に入ろうとする霧亥を目で制止するレイ 立ち止まる霧亥
  .レイ「それに、ひいきもされてない。自分でわかるもの」
無言でレイを睨みつけるアスカ
背を向け、何事もなかったように歩き出すレイ
再び歩き始める三人
163log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 10:52:56 ID:???
余剰構造材と硬化隔壁で塞がれている通路の前で立ちつくす三人
前後を見渡しているうち、ふいに表情を硬くするアスカ
 .アスカ「…知覚システムが利かない。何かに妨害されてる」
少し先で障害物の状態を見ているレイ
  .レイ「遮蔽されてるんだと思うわ。ここは壁が厚いから」
ふいに表情を変え、弾かれたように背後を振り返る霧亥
動きを止めるレイ
暗闇の奥に複数の動体の気配
続いて、これも複数の重量物が床に落下する音 塵埃が舞い上がる
 .アスカ「何?!」
 霧亥「下がってろ」
粉塵の幕が晴れ、身を屈めている三体の駆除系SGが現れる
異様な形態に言葉を失うアスカ
一瞬目をみはる霧亥 すぐに鋭い目で駆除系を見据える
と、レイが意外なほどの嫌悪をあらわにして傍の鉄パイプを拾い上げ、駆除系に投げつける
駆除系の頭部に当たって跳ね返り、床に転がるパイプ
殺気を帯びる駆除系
その場から動かないレイ
彼女めがけどっと走り出す駆除系
瞬時に銃を抜き放ち、前に出る霧亥
閃光
重い銃声とともに、突っ込んでくる駆除系ごと空間を貫いて闇の奥に消える弾体
次の瞬間、周辺を揺るがして一帯の通廊が破壊される
爆風の余波から身を庇う三人
やがて震動がおさまる 耳障りな金属音をたてて倒れる駆除系三体の残骸
銃を下ろす霧亥
二人を振り返り、行き止まりの壁に視線を移す 今の衝撃で通風孔の外覆に亀裂ができている
ようやく言葉を取り戻すアスカ
 .アスカ「…何? 一体、何なのよ…今の」
164log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:09:08 ID:???
立ちすくんでいるレイに気づくアスカ 少し顔色が悪い
と、霧亥の不在に顔を上げる 見回すと、障害物伝いにダクト目指して壁をよじ登っていく霧亥の姿
 .アスカ「…何してんのよ!」
 霧亥「本部に向かう」
ぽかんとするアスカ
少しだけ振り向いて見下ろす霧亥
 霧亥「使徒が上の街にいる。侵攻は時間の問題だ」
 .アスカ「それはそうだけど…
     …ッ、ちょっと待ちなさいよ! あたしが最初に行くわ!」
猛然と障害物の山を登り越え、霧亥を押しのけて先に通風孔に潜り込むアスカ
若干憮然とする霧亥
レイが登ってくるのを見、黙ってアスカの後に続く

さっきの整備通孔よりも狭いダクト内部を這っていく三人
それとなく最後尾のレイを気にしているアスカ
風がないことに気づくレイ
 .アスカ「空調が止まってるのよ。たぶん施設の生命維持機構自体が、今は満足に機能してないんだわ」
  .レイ「生き残っている電力があれば、全てMAGIとセントラルドグマの維持に回されているはずよ」
 .アスカ「わずかでも供給経路が残ってれば、の話でしょ。
     …ほんとはどうなってるんだか。発令所に着いても、何も動いてないんじゃないの」
申し合わせたように黙りこくり、耳を澄ます三人
しんと静まり返っている広大なダクトの迷路
壁のすぐ向こうには本部を維持するさまざまな機械類があるはずだが、作動音は聞き取れない
会話も途絶え、ひたすら先へ進む三人
のしかかる暗闇と静寂
 .アスカ「…襲ってきたのかしら、私たちを。さっきの」
165log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:09:59 ID:???
 .アスカ「あれは偶然? 単に堆積層にいて、私たちと遭遇しただけ? …それとも、何かの攻撃?
     ひょっとして本部全体に、同じようなのが同時に侵入してたら」
沈黙しているレイと霧亥
 .アスカ「…あれって、使徒と何か関係あるの? 珪素基系ってことは、使徒と同じなんじゃないの」
 霧亥「黙れ」
 .アスカ「何よ、何もかも知ってるみたいな顔して」
 霧亥「そうじゃない。何か聞こえる」
 .アスカ「え?」
 霧亥「その角の向こうだ」
反射的に駆除系を想起して身構えるアスカ 意を決して進んでいく
次第に近づいてくる複数の物音
 .アスカ「何? 人の声…?」
 霧亥「おい、待て!」
 .アスカ「何よ? …ッ、きゃああっ?!」
床が抜ける
一緒になって落下するアスカと霧亥 下は見覚えのある床面である
一拍おいて隣に着地するレイ
眼前には、突然現れた三人にあっけにとられているリツコと伊吹
やがて顔をほころばせるリツコ
  リツコ「…あんたたち…!」
166log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:10:47 ID:???
起き上がり、周囲の光景に目をみはるアスカと霧亥
設備が何も動かないケイジで、既に発進態勢が完了しつつあるエヴァ三機
暗いケイジのあちこちに汗を流して動いている人々の姿 壁を隔てた発令所の床には、上の街で
接収したとおぼしき選挙車輌の拡声器片手に上の状況を報告する日向の姿
立ち上がる霧亥
 霧亥「エヴァは」
  リツコ「スタンバイ、できてるわよ」
 霧亥「…どうやって」
微笑するリツコ
  リツコ「人の手でね。司令のアイディアよ」
気づいて頭上の足場を仰ぐ霧亥 ロープで吊り下げた停止信号プラグをどけようと、整備員や
発令所スタッフらとともに奮闘している碇が見える
  リツコ「司令はね、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」
不思議に穏やかな表情を見せているリツコ
何も言わず、碇を見上げる霧亥
167log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:11:41 ID:???
パイロットを得て手動操作及び非常用ディーゼル(発掘模造品)で挿入されるエントリープラグ
エヴァ三機の両肩に取りつけられる非常用大型電池
少々荒っぽい手段(油圧パイプの物理的切断)も交え固定解除される拘束具
  リツコ「発進準備、完了しました」
頷いて眼鏡を押し上げる碇
   碇「…よし。各機実力で拘束具を強制除去。発進しろ」
動き出すエヴァ三機
真っ暗なケイジ内に音と振動が甦る
拘束具を自力で押しのけ、外部に踏み出す各機
  リツコ「…行けるわ。発進!」
リツコの勇壮な一声を受けてのしのしと匍匐前進を始める三機
 .アスカ「…あああ、かっこわるぅい…」
プラグ内で嘆息するアスカ
  .レイ『縦穴に出るわよ』
168log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:12:38 ID:???
やけくそな勢いで突き当たりの壁を蹴破る弐号機の脚
壁の先は上の街まで貫通するシャフトの一つである
周壁に両手両脚を突っぱり、地道によじ登り始めるエヴァ三機
 .アスカ「…ああ、またしてもかっこわるぅい……ん?」
上から下へ、エヴァの視界を赤っぽい光の線のようなものが通過する
レイの切迫した声が飛ぶ
  .レイ『…だめ、よけて!』
瞬間、弐号機の手に焼けるような感覚が走る 反射的に手を引っ込めるアスカ 
支点を失ってバランスを崩す弐号機
シャフト内を落下、真下の零号機を直撃する 一緒になって落ちる二機
さらに下で顔を上げる初号機 目の前に落下してくる二機のエヴァ
間一髪、両手脚を踏んばる初号機
立て続けに激突する二機
ひとかたまりになって縦坑をずり落ち始める三機
初号機の両手の装甲がシャフト内壁に火花を散らしてめり込み、なんとか滑落は止まる
169log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:13:36 ID:???
最初の横穴に戻っている三機
使い果たされた非常用電池を肩から外し、縦坑の底に放る
その後を追って使徒の分泌液がひとしきり滝を作る
一様にシャフト出口を見上げるエヴァ三機
  .レイ「…目標は、強力な溶解液で本部に直接侵攻を図る気ね」
 霧亥『どうする』
 .アスカ『決まってんじゃない、やっつけんのよ!』
アスカを一瞥する通信画面の霧亥 若干苛立った顔
 霧亥『…そうじゃない。方法は』
唯一の武器であるパレットライフルは先の衝撃で縦穴の底に落としている 内部電源は残り180秒弱
画面の中で表情を引きしめるアスカ
 .アスカ『…作戦は、あるわ。
     ここにとどまる機体がディフェンス。目標のATフィールドを中和、同時に溶解液から
     オフェンスを守る。バックアップは下降。落ちたライフルを拾ってオフェンスに渡す。
     そしてオフェンスは、ライフルの一斉射にて目標を撃破』
シャフトの内径や壁の状態をざっと確かめ、画面に顔を向けるレイ
  .レイ「いいわ。ディフェンスは私が」
 .アスカ『おあいにくさま。それはあたしの役割よ』
かすかに目を見開くレイ
通信画面には不敵な笑みを浮かべるアスカの横顔
 .アスカ『一番危ないとこはリーダーの担当。
     それに、キリイにこないだの借りを返しとかないと、気持ち悪くてしょうがないのよ。
     …キリイはオフェンス。優等生は、バックアップに回って』
一瞬の沈黙ののち頷く霧亥 通信ウィンドウが閉じる
アスカを見つめ、小さく頭を動かすレイ
  .レイ「…わかったわ」
170log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:14:33 ID:???
 .アスカ『じゃ、行くわよ。…Gehen!』
アスカの一声を合図にシャフトへ飛び出す弐号機
穴をふさぐ形で大きく広げた両手脚を周壁に突っぱり、シャフトを見下ろす
直後、大量の溶解液がその上になだれ落ちる
瞬時に煙に包まれる装甲 激しい腐食音があがる
続いて縦坑を飛び降りる零号機
着地する寸前、背面に仕込まれた液体燃料で逆噴射をかける 一瞬照らし出されるシャフトの底
落ちたライフルを見つけて掴み取る零号機
弐号機のやや下方に仰臥姿勢で身体を固定する初号機
上体をひねってシャフトの底に腕を伸ばす
 霧亥「…綾波!」
即座にライフルを投げ上げる零号機
息の合ったタイミングで受け止め、シャフトの先に銃口を振り向ける初号機
 霧亥「惣流、よけろ!」
機敏に飛びのく弐号機
激しい銃撃音とともにライフルの一斉射がシャフトを貫通し、使徒の体中心にめり込む
数秒で撃ちつくされる全弾
静寂が落ちる
やがて、使徒の巨体が穴の外周部に激突する衝撃がかすかにシャフトの中に響く
銃を放し、落ちかかる弐号機を受け止める初号機
 .アスカ『…これで、借りは返したわよ』
かすかに表情を変える霧亥 その顔に険しさはない
ふと下方に視線を移す
縦坑の底で頭上を仰いでいる零号機の姿
171log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:19:08 ID:???
市外周部 廃棄構造物上層
プラグスーツのまま、眼下に広がる第三新東京市を眺めている三人
いまだ市の停電は回復していない 逆に周辺の都市構造は普段より遙か遠くまではっきりと見渡せる
斜面に腰を下ろし平盤の彼方を見つめている霧亥
隣で両腕を枕に寝転がったアスカが、組んで小さく揺すっていた足を止める
顔を向ける霧亥
街の一角にともった灯りがみるみる市全体に広がり、普段通りの眺望を回復する
 .アスカ「…ほら、やっぱこの方が落ち着くわ」
満足げな声のアスカ
  .レイ「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」
 .アスカ「てっつがくぅ。そういうことも言うのね、あんた」
街から目を上げ、レイを見つめる霧亥
アスカを挟んだ反対側に坐っているレイ
揃えた膝の上で軽く両手を組み合わせている 眼差の先には無数の輝点をちりばめた第三新東京市
視線を戻す霧亥
 霧亥「…都市は闇を認識しない」
172log.11 静止した闇の中で:2005/11/10(木) 11:23:44 ID:???
横顔を向けたままのレイ
 霧亥「だから、使徒は人を攻めてくるのか」
目をつぶり、なんとなく楽しそうにしているアスカ
 .アスカ「あんた馬鹿ぁ? そんなの、わっかるわけないじゃん」
再び黙って街を眺める三人


  リツコ「……あなたたち、一体何してるのかしら?」
  .ミサト「え?! いや、何って、見ての通りよ。エレベーターに閉じ込められたのよ、こいつと!
     いつまで経っても復旧しないから、加持に肩車させて上のハッチ開けようとしてて、そしたら…」
  リツコ「…エレベーターが急に動き出して、二人して床に倒れたの?」
  .ミサト「そう、その通りよ。さっすがリツコ、にしてもなんでハッチがロックされてたのかしら。
     …ん? ちょっとリツコ、何よその目は」
 加持「信じてもらえてないみたいだな」
  .ミサト「え…ちょっと、本当に他に何もなかったんだってば、ねえ、リツコ! …」
  リツコ「…全くもう。霧亥君やアスカには、言わないでおいた方がいいわね、これ」
 伊吹「…そうですね」

log.11 終
果たしてこのペースで26まで行けるんだろうか
>151 NSEか…存在は知ってるけどちゃんと読んだことなかった サンクス!
>152 ありがとう
>153 実はあまり考えてない それもあって?今回は少しやってみたけど意味不明かも
173名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/10(木) 15:18:12 ID:???
第3新東京市=塊都
みたいな認識でおk?
174名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/11(金) 03:01:04 ID:???
(今の自動車保険って実は高いのかな・・・)
 見っ直そう 見直そう♪(そんぽー♪)
 自動車保険を見直そう サァ 見積もりだ
 (⌒) .(⌒)   (⌒) .(⌒)   (⌒) .(⌒)
 ( ´・●・)つ ( ´・●・)つ ( ´・●・)つ
 ( 二つ    ( 二つ    ( 二つ
  \./ /、    \./ /、    \./ /、
    ∪`J      ∪`J      ∪`J

 \\ シャバダバダバダバダバダバー    //
  \\ シャバダバダバダバダバダバー //
   (⌒) .(⌒)   (⌒) .(⌒)   (⌒) .(⌒)
   ( ´・д・.】)   ( ´・д・.】)  ( ´・∀・.】)<あ、もしもし見積もりの件なんですが
   (     ノ  (     ノ  (     ノ
 ♪電話ピポパポ そんぽ2ne
175名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/14(月) 17:08:51 ID:???
またアク禁だった・・・・
ジークdion
176123:2005/11/14(月) 19:31:16 ID:???
同士よ。ジークDion。
177名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/19(土) 00:55:41 ID:???
ジークdion!
178log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:30:51 ID:???

超構造体半内部空洞“南極”調査観測基地

大部分を吹き飛ばされた研究施設に打ちつける強風
突き出した肋材が震動している 彼方に散乱する強化隔壁の残骸
中央に剥き出しになった空洞開口部
荒れ狂う熱風 さまざまな物質が再凝固した靄が空洞内から周囲へ激しく吹きなびいている

開口部を背に白っぽい塵の堆積の上を歩いていく人影
両腕に抱えられ、力なく揺れている小さな身体
地鳴りとともに徐々に増していく風
空洞深奥からの余光

敷地の端にある緊急脱出設備の前にたどり着く人影
うなだれた頭は既に持ち上がる力を失っている
震える手で外部出力端子を引き出し、射出機構に繋ぐ 唯一破壊されなかった脱出カプセルが開く
人影はもう一人を抱き上げ、カプセルの内部に横たえる
179log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:31:28 ID:???
血が滴り、カプセルに横たわった一人のまぶたの下に落ちる
意識を取り戻して人影を見上げる少女
交わる視線
「…お父さん…?」
外部ポートがピッと信号音を発し、カプセルが密閉される
射出茎洞の中に吸い込まれるカプセル 人影の緩慢な息遣い 作動する機械 警報 発射音
細い高架離脱軌道を矢のように遠ざかるカプセルを見守っている人影
やがて力つきて崩れ落ちる
その上に、圧倒的な光の奔流がゆっくりと押し寄せる

孤絶した都市空間を縦貫してそびえる巨大な光芒

破損した軌道から投げ出され、遙か下の階層に転がっているカプセル
ハッチが開く
膨満した緩衝泡材の中から這い出る少女 スーツの胸から腹部にかけて血で染まっている
上方の荒れ狂う闇を裂いて輝く二柱の光 周囲一帯に満ちる可聴域外の執拗な囁き
痛みをこらえながら頭上の光を見つめる少女
遠い風に揺れている白い十字形のペンダント
180log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:32:40 ID:???

134196時間後

姿見に映る自分を見つめているミサト
胸の大きな傷痕
窓外に閃く超構造体の遠放電
化粧台の上に古い十字形のペンダントが置かれている


使徒襲来より数百時間
天井貯水槽の整備ミスにより久々の降水に見舞われている第三新東京市
ミサトの個人居住区 霧亥が探し出してきたタオルを受け取るトウジとケンスケ
 トウジ「すまんなぁ、霧亥。雨宿りさせてもろて」
.ケンスケ「ミサトさんは?」
 霧亥「まだ自室だ。昨日は寝ていないらしい」
 トウジ「ほんなら、ミサトさんを起こさんよう、静かにしてようや」
揃って人差し指を口に当て、“しーっ”のポーズをする二人
そこへ乱入する甲高い叫び
 アスカ「ああ〜〜っ、あんたたち一体何しに来たのよ?!」
カーテンの陰から男子三人を睨みつけているアスカ
揃って厭な顔をするトウジとケンスケ
 霧亥「雨宿りだ」
 .アスカ「はん、どうだか。私目当てなんじゃないの?!
     …今から着替えるんだから、見たらコロスわよ」
ぴしゃっと閉められるカーテン
181log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:33:19 ID:???
憤然と握りこぶしを突き出すトウジ
 トウジ「ッッだぁれがお前なんかの着替えてるとこ覗くっちゅうねん!!」
.ケンスケ「自意識過剰ってヤツだね」
振り返る霧亥
身支度を終えたミサトが立っている
普段とは違う雰囲気に、とっさに気をつけの姿勢になるトウジとケンスケ
.ケンスケ「…あ、あっこれは、ミサトさん」
 トウジ「お、おじゃましとりますっ」
すぐに気さくな表情を取り戻すミサト
  .ミサト「…あら、二人ともいらっしゃい。
     霧亥君、おかえりなさい。今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね」
ミサトの顔を見ながら頷く霧亥
ミサトはカーテンの向こう、アスカがいる辺りに顔を向けている
  .ミサト「アスカも、わかってるわね?」
 .アスカ「…はぁーい」
不機嫌そうに返事するアスカ
ふと眼鏡の位置を直すケンスケ 突然大声を上げて最敬礼
.ケンスケ「っこのたびは、ご昇進、おめでとうございますッ!!」
すかさず一緒に頭を下げるトウジ
 トウジ「お、おめでとうございますー」
182log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:33:54 ID:???
苦笑するミサト
  .ミサト「…ありがとう。
     それじゃ、行ってくるわね」
玄関先までついていってにこにこミサトを見送るトウジとケンスケ
不可解そうな顔の霧亥
 霧亥「葛城がどうかしたのか」
信じがたいものを見る目になるケンスケ
.ケンスケ「ミサトさんの襟章だよ、襟章!
     線が二本になってた。一尉から、三佐に昇進したんだ!」
難しい顔で腕組みしてふんふん頷いてみせるトウジ
自分専用タオルで髪を拭きふき、ペンペンと一緒に顔を出すアスカ
 .アスカ「へぇ、知らなかった」
大いに嘆いてみせるケンスケ
.ケンスケ「ああ〜っ、何という無自覚、無関心!
     考えてもみろよ。あの若さでネルフ作戦指揮官の大役をこなし、おまけに中学生二人を
     預かるなんて大変なことだぞ! 君たちに人間らしい思いやりというものはないのだろうかっ」
 トウジ「ワシらだけやな、人の心持っとんのは」
楽しそうな二人から顔を逸らす霧亥
玄関に転がっている四人分の濡れた靴
183log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:34:30 ID:???
ネルフ本部 第二ハーモニクス実験場管制室
テストを受ける三人をモニタしているリツコ、伊吹ほか技術局員たち 後方で見守るミサト
 伊吹「0番、2番、ともに限界。汚染範囲ギリギリです」
  リツコ「1番はまだ余裕があるわね。プラグ深度をあと0.02下げてみて」
 伊吹「はい」
 局員「1番、汚染域に隣接します」
  リツコ「それでこのシンクロ率? …これを、単なる機能的な結果と見るべきなのかしら」
 局員「彼の物理脳、もしくは記載データの構造に理由があるということですか?
     確かに、まさにエヴァに乗るために設計されたような子供だとも言えますね」
  .ミサト「本人にそのつもりがなくてもね」
振り返る技術局の面々
硬い表情で試験プラグを見つめているミサト
  .ミサト「きっと、彼には意味がないのよ」
視線を戻すリツコ
  リツコ「…お疲れさま。三人とも、上がっていいわよ」
プラグハッチが上にスライドする
目を開き、少しの間そのまま動かずにいる霧亥
184log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:35:31 ID:???
  リツコ「霧亥君、良くやったわ。前回より8も向上よ」
無言で目を逸らす霧亥
横でつんと顎を上げるアスカ 余裕の表情
 .アスカ「でも、私より50も低いじゃん?
     ま、私と違って、エヴァに乗ってからまだ日が浅いんだし、しょうがないわね」
  リツコ「あら、十日で8よ。大したものだわ」
若干苛立ったように顔を上げる霧亥
 霧亥「それだけか」
気を呑まれたようなリツコとアスカ
再び目を逸らす霧亥
 霧亥「…何もなければ帰る」
  リツコ「…、ええ。お疲れさま」
無言で背を向け、足早に管制室を出ていく霧亥
一様に黙り込んで見送る一同
185log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:36:04 ID:???
帰路 ミサトの車に同乗しているアスカ
カーラジオで面白そうな番組を探しつつ文句百連発
 .アスカ「なぁーによあの態度、感じ悪いの! ちょっといい結果出たからって、調子乗っちゃってさ」
苦笑しているミサト
  .ミサト「別に、そういうわけじゃないのよ、彼」
きっと振り向くアスカ
 .アスカ「何よ、ミサトまで! あーあ、みんなしてあのキリイの味方ばーっかするんだから。
     突然現れたサードチルドレン、初の実戦で見事使徒を殲滅して階層を救い、以後の作戦でも
     着実に戦果をあげている、ね。まぁそうよねー、実績があるんだもの、ジッセキが」
少しばかり憂鬱そうに外を眺めやるアスカ
 .アスカ「…だからって、あんな無愛想な真似しなくてもいいじゃない。いっつも興味なさそうな顔して。
     褒められたときぐらい、ちょっとは笑ってみせるべきなのよ」
運転しながらちらっとアスカを見るミサト
  .ミサト「そういえばね。テストの前に、霧亥君、私に訊いてきたわ」
 .アスカ「何を?」
  .ミサト「ショウシンってなんだ、ですって」
盛大な呆れ顔になるアスカ
 .アスカ「はぁ? …あいつ、一般人レベルの常識すらないわけ?」
心底不可解そうに訊いてきた霧亥を思い出し、微笑しているミサト
つまらなそうな顔に戻るアスカ
 .アスカ「で? なんて答えたの」
186log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:36:59 ID:???
  .ミサト「普通に説明したわよ。けどあの子、褒められる、評価されるっていうことの意味を、
     まだよくわかってないのかもね」
黙っているアスカ
  .ミサト「わっけわかんなそうな顔してたもの。
     で、その次には、昇進して嬉しいのかって訊かれたわ。けっこう真面目に」
 .アスカ「なんで、そんなことまで人に訊くのよ…?」
  .ミサト「訊きたかったのよ。…あんまり真剣な顔で訊いてくるから、こっちもちょっと
     真面目に答えちゃったわ」
 .アスカ「なんて?」
  .ミサト「正直、そうでもなかった、ってね。
     …んー、アスカは気に喰わないか。こういう答えは」
答えないアスカ
無言で運転するミサト カーラジオから女性DJの声が低く車内に流れている
  .ミサト「…ま、だから彼、褒められても嬉しくもなんともないんじゃないかって思ったんだけどね」
窓に頭をくっつけて外を見ているアスカ
さりげなくその横顔を一瞥し、また前を向くミサト
 .アスカ「…そこが気に入らないのよ」
目を戻すミサト
窓の外のどこか遠くを睨んでいるアスカ
 .アスカ「そうやって、勝手に一人でどっか行っちゃいそうなところが」
187log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:37:34 ID:???
ミサトの個人居住区 数日後
ケンスケの音頭で急遽開催されたミサトの昇進祝賀パーティー
一応お祝いの乾杯から始まるものの、結局いつもの調子でわいわいやっている面々
レイはいない(誘ったわよ!というアスカの反論つき)
同席はしているが終始黙っている霧亥
それとなく声をかけるミサト
  .ミサト「…まだ、駄目? こういうの」
 霧亥「…別に」
  .ミサト「そう? …無理、しなくてもいいのよ」
 霧亥「いや。皆、喜んでいるだけだ。別に厭じゃない」
  .ミサト「…そっか」
なんとなく微笑んで、ビール缶に口をつけるミサト
一口だけ飲んだジュースのコップを所在なげにカーペットに置く霧亥
 霧亥「葛城こそ、まだ嬉しくないのか」
少し目を見開くミサト 困ったように笑う
  .ミサト「…全然、ってわけじゃないわよ。少しは嬉しいわ。
     でもそれだけが、ここにいる理由じゃないから」
目を上げる霧亥
 霧亥「なら、なぜだ」
188log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:48:20 ID:???
半分空っぽになったビール缶をぱちゃぱちゃ振っているミサト
  .ミサト「…さぁてね。昔のことなんか忘れちゃった」
ミサトを注視する霧亥 目を逸らし、再びコップを取り上げる
視線だけそっと向けるミサト
そこへ遅れていた加持がリツコ同伴で登場 騒然となる一同
ぶんむくれるミサト+アスカ
 加持「いや、この度はおめでとうございます、葛城三佐。
     …なんてな。これで、前みたいにタメ口きけなくなったな」
  .ミサト「何言ってんのよ、バーカ」
仏頂面でビールをあおるミサト
全然こたえてない加持
 加持「にしても、この時期に司令と副司令が揃って本部を空けるとはね。
     これも、留守を任せた葛城を信頼しての決断かな」
初めて反応する霧亥
 霧亥「…いないのか」
  リツコ「ええ。碇司令は今、南極よ」
189log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:49:12 ID:???
“南極”跡地
巨大空隙を航洞する大型艦
広い甲板全体を占めて、厳重に梱包された長い棒状の物体が堅く縛りつけられている
展望室から周囲を眺める碇と冬月
累々と連なる融けた構造材と、補修もされず放置されている端が見えないほどの大空洞
見渡す限り、一切の都市機能が活動を停止している 建設者の姿もない
 冬月「…いかなる意志の介在も許されない死の世界、いや、都市の終焉の姿、南極。
     まるで地獄だな」
   碇「だが、我々はここに立っている。それも生きたまま」
 冬月「テクノロジーによって守られているからな」
   碇「技術は人の力だよ」
碇に厳しい眼差を据える冬月
 冬月「その傲慢が十五年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。
     その結果がこのありさまだ。与えられた罰にしては、あまりに大きすぎる」
死んだ都市空間を見つめている碇
   碇「だが原罪の汚れなき、浄化された世界だ」
 冬月「…俺は罪にまみれても、人の生きている世界を望むよ」
艦橋より通信
 音声『ネルフ本部より入電。
     “インド洋”第14区域、第78無人観測体周回軌道に、使徒、発見』
ネルフ統率者の顔に戻る二人
190log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:51:09 ID:???
 日向「二分前に、突然現れました。
     …走査体が到着。目標を映像で確認、主モニターに回します」
画面いっぱいに映し出される巨大な使徒の姿
どよめく発令所
  .ミサト「…常識をおたまうわね」
 青葉「走査体、目標に接近。サーチを開始します」
使徒の前後から近づく遠隔走査体
使徒の手前で唐突に圧潰 映像が途切れる
 オペレータ『走査体、二体ともに破壊されました。目標は依然健在』
  リツコ「恐らくATフィールドだわ。新しい使い方ね」
  .ミサト「またもうかつに近寄れない、か…
     しかし、いかにATフィールドがあるとはいえ、あのサイズでは、とてもこことの間にある
     都市構造体を通り抜けられはしないわ。どうやって攻めてくるつもりかしら」
数秒後、警報
 オペレータ『第13警戒ラインより緊急通信! “大島”沖合200kmの地点にて、使徒と思われる
     物体を確認とのことです!』
 伊吹「受信データ確認。分析結果は、インド洋の使徒のものと同一のパターンを示しています!」
  .ミサト「どういうこと?! 目標が動いたの?!」
 日向「いえ、目標の座標に変化は認められず!」
 青葉「無人観測体よりの更新データを受信…、?! 目標の質量が、わずかに減少しています」
 伊吹「MAGIによる、出現物体の再分析終了。物体の出現座標の周辺に、空間変動の痕跡が見られます」
  リツコ「なんてこと…自分の身体の一部を、直接送り込んできたんだわ」
  .ミサト「つまり、テレポートってこと?
     けど、物理空間における転送は、古代においてすら、技術的に未完成だったはずじゃ…」
  リツコ「きっとそれが、ここではなく大島沖に出現した理由だわ。
     特定座標への正確な転送は、使徒自身にもできないのよ。…今のところはね」
厳しい表情になるミサト
191log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:52:43 ID:???
数十分後 作戦室
照明を落とされた室内に投影されている数枚の画像
最初の一枚を除き、いずれも都市構造体上の巨大なクレーターが映っている
  .ミサト「…大した威力だわ。さっすがATフィールド」
 伊吹「転送直後のコンマ数秒で、出現座標と思われる地点の周囲数mの空間がATフィールドに
     押しのけられる形で圧縮されています。爆発の大半は、その急激な空間崩壊によるものです」
  リツコ「…重力子放射線に近い効果ね」
一瞬リツコを見るミサト
  リツコ「とりあえず初弾は“太平洋”に大外れ。でもその後は、確実に誤差を修正してきてるわ」
 日向「12分前を最後に、使徒は一切の消息を絶っています。現在、付近の探査体を総動員して
     捜索を続けていますが、有力な報告は得られていません」
大きく口の端をひねってみせるミサト
  .ミサト「…来るわね、たぶん」
  リツコ「次はここに、本体ごとね」
同じく笑みを返すリツコ
  .ミサト「そのときは、第三の超構造体内部亀裂の誕生かしら?」
  リツコ「プレート部分は残ったまま、上の人工構造物だけがきれいになくなるわ。本部ごとね」
表情を引き締めるミサト
  .ミサト「南極の碇司令との連絡は?」
 青葉「これまでの攻撃による空間擾乱のため、通信は未だ回復していません」
  リツコ「どうするの? 今の責任者はあなたよ」
ミサトに集中する視線
暫時黙考し、決然と顔を上げるミサト
  .ミサト「日本政府ならびに関係各方面に通達。ネルフ特別権限における、非常宣言D-17。
     半径100km以内の全住民、およびD級勤務員までのネルフ関係者を、すみやかに退避させて。
     避難が済みしだい、第三新東京市は戦闘態勢へ移行。エヴァ全機で使徒を迎撃します」
ただちに配置につくスタッフたち
あわただしく動き始める本部
192log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:53:17 ID:???
自衛隊の支援を受け、街をあげた大がかりな疎開が行われる第三新東京市
全線下り表示の主要幹線 乗客超過で臨時運行を増発する各軌道車輌
やがて退避が完了し、街から人の姿が消える

通常業務の大半を中断し、がらんとした本部
レストルームのミサトとリツコ
  リツコ「本気で使徒を迎え討つつもり? 成功する確率は、1%もないのよ」
熱源感知式の蛇口から流れている水の音
ぱちんとコンパクトを閉じるミサト 横顔は気負いのない笑みをたたえている
  .ミサト「ゼロではないわ。エヴァに賭けるだけよ」
表情を硬くするリツコ
  リツコ「あなたの勝手な判断で、エヴァを三機とも失うかもしれないのよ。
     わかっているの、葛城三佐」
水の流れが止まる
洗面台の排水口に吸い込まれ、音をたてて消える水
見つめるともなく自分の鏡像に目を向けているミサト
  .ミサト「…やれるだけのことはやっときたいの。
     使徒殲滅は私の仕事です」
視線を緩めないリツコ
  リツコ「仕事? 笑わせるわね。
     自分のためでしょ。あなたの使徒への復讐は」
193log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:54:02 ID:???
目の前に頼りなく広げられた手のひら
 .アスカ「手で…」
自信なげに指が半ば握られ、またおずおずと開く
 .アスカ「…受け止めるゥ?」
振り下ろされる手
両拳を握り締め、正面に立つミサトを睨みつけるアスカ
  .ミサト「そうよ。
     最後の転送の直前、使徒は必ず階層のどこかに出現するわ。転送そのものにも
     少なくない時間がかかる。そこで、最終観測データをもとにMAGIで出現座標を予測し、
     エヴァ三機をその地点へ配置。ATフィールドを最大出力で集中して、目標を
     転送前の空間へ押し戻します」
人のいなくなった本部別館で作戦説明を受ける霧亥、レイ、アスカ
透明硬材で張られた床を透かして広大なジオフロントと中央に建つ本部施設が一望される
  .ミサト「これまでの行動パターンから判断して、使徒は出現時の障害となる大質量構造物が大半を占める
     ジオフロントではなく、第三新東京市もしくはその上空に出現、そこから改めて本部へ
     攻撃を仕掛けてくると予想できるわ。それが、転送そのものを防ぐ手段を持たない私たちの、
     唯一の、そして最後のチャンスよ」
毅然とした表情のミサト
  .ミサト「使徒のATフィールドを防げなければ、それが引き起こす空間変動が全てを押し潰すわ。
     恐らく超構造体を除き、半径50km圏内の全てが、跡形もなく消滅することになる」
 .アスカ「…要は、同じATフィールドで転送を強制的に中断してやれってことでしょ。それも、
     使徒が起こす空間崩壊の余波も一緒に」
  .ミサト「エヴァ三機のATフィールドを合わせれば、不可能ではないわ」
目元を険しくして口をつぐむアスカ
194log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:55:06 ID:???
終始表情を変えないレイ
  .レイ「目標が予測を外れ、構造体の内部に出現した場合は」
  .ミサト「そのときはアウトね」
目を逸らすことなく答えるミサト
 霧亥「機体が衝撃に耐えられなかったら」
  .ミサト「そのときもアウト」
平然と言いきるミサト 眉を寄せる霧亥
 .アスカ「…勝算は?」
  .ミサト「神のみぞ知る、と言うところかしらね」
視線を逃がすアスカ
 .アスカ「これで上手くいったら、まさに奇跡ね」
  .ミサト「奇跡ってのは、自分の手で起こして、初めて価値が出るものよ」
 .アスカ「…つまり、何とかしてみせろってこと」
見据えられ、若干語調を緩めるミサト
  .ミサト「…すまないわね。でも他に方法がないの。この作戦は」
大きく前に出るアスカ
 .アスカ「作戦と言えるの?! これが?!」
ふっと苦い笑いを浮かべるミサト
  .ミサト「ほんと、言えないわね。…だから、厭なら拒否できるわ」
並んで立つ三人を順々に見つめるミサト
  .ミサト「…三人とも、いいのね」
無言の三人
  .ミサト「規則だと遺書を書くことになってるけど、どうする?」
ふんと顎を上げるアスカ
 .アスカ「私はいいわ。そんなつもりないもの」
  .レイ「私もいい。必要、ないもの」
二人を見、ミサトに向かって無言で首を振る霧亥
  .ミサト「わかったわ。
     …そうだ、うまくいったら、皆にステーキおごってあげるから」
195log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:55:54 ID:???
にわかに顔を輝かせるアスカ
 .アスカ「え、ほんと?!」
  .ミサト「約束するわ」
 霧亥「…楽しみだな」
 .アスカ「もう、絶対よ? 忘れないでよね!」
  .ミサト「ふふ、期待してて」
笑顔を返し、歩み去っていくミサト
その背後で真顔に戻るアスカ
 .アスカ「…ご馳走と言えばステーキで決まりか。
     いまどきの子供が、単純な復元調理菜なんかで満足すると思ってんのかしら。
     あーあ、これだからセカンドインパクト世代って、貧乏臭いのよねー」
抗議の目を向ける霧亥 敏感に気づいて睨むアスカ
 .アスカ「何よ、あんただって乗ったくせに。
     何が『楽しみだな』よ。慣れないお愛想なんかしちゃって」
 霧亥「黙れ」
 .アスカ「あーはいはい。さってと、どうせ連れてってもらえるんならいいとこ選ばなきゃ。
     ど・こ・に・し・よ・う・か・なーっ、と」
どこからともなく『第三新東京グルメマップ』なる冊子を取り出してページをめくるアスカ
若干愕然として見守る霧亥
反応を返さないレイ アスカが声をかける
 .アスカ「あんたも、今度は来るのよ。昇進パーティーには来なかったんだし」
  .レイ「私、行かない」
明らかにむっとするアスカ 先に口を開く霧亥
 霧亥「どうしてだ」
ちょっと顔をうつむけているレイ
  .レイ「…肉、嫌いだもの」
196log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:56:52 ID:???
階層全域に散った観測体群より、目標捕捉の報が入る
一気に緊張を増す発令所
  .ミサト「これが三分前の映像?」
 日向「はい。ただちに都市連軍が急行、N2航空爆雷により攻撃を行いましたが、効果なしです」
  .ミサト「目標は未だ動かないままなのね」
 日向「そうです。最終転送態勢に入ったと見て、ほぼ間違いありませんね」
  .ミサト「…向こうも準備完了ってことか。急がなきゃね」

  .ミサト「で、現時点までの全データをもとに、MAGIが算出した目標の予想到達範囲が…」
発令所 直前ミーティング
第三新東京市周辺の概略図が大きくスクリーンに表示されている
  .ミサト「…これよ」
言葉と同時に大半が真っ赤に染まるマップ
げっそりした顔になるアスカ
 .アスカ「…こんなの、どうやって防ぐってのよ」
  .ミサト「そこで、エヴァ三機をこの三箇所に配置。MAGIの誘導のもと、エヴァ三機で直接
     目標出現位置に向かってもらいます」
エヴァ三機の持ち場を示す三つの円が大きくマップに被る
  .レイ「この配置の根拠は?」
  .ミサト「勘よ」
目を剥くアスカ
 .アスカ「…カン?」
妙に精悍な顔で振り向くミサト
  .ミサト「そ。女のカン」
さらに虚脱するアスカ
 .アスカ「…何たるアバウト、ますます奇跡ってのが遠くなってく気がするわ。
     ねえキリイ、ミサトのカンってそんなにすごいわけ?」
 霧亥「…当たったところを見たことがない」
 .アスカ「…げ」
197log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 12:57:38 ID:???
ケイジに向かう三人
枠組みだけの作業用昇降機が人気のない闇を降下していく
 .アスカ「…エヴァに乗る理由?
     決まってるじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ。外に行けない以上、
     せめてこの階層全域に、私がいるってことを知らしめないとね」
黙っている霧亥
 .アスカ「あの子には訊かないの?」
目でレイを示すアスカ
 霧亥「前に聞いた」
 .アスカ「…あっそ。仲のおよろしいことで」
反応しない霧亥
顔を正面に向け、横目で霧亥を見るアスカ
 .アスカ「ねえ。あんたは、なんで乗ってるのよ」
 霧亥「…知らない」
 .アスカ「ええ? 何よそれ、考えたこともないってわけ? ばっかじゃないの」
答えない霧亥
しばらく視線を据えているアスカ
やがて暗闇が開け、ケイジに並ぶエヴァ三機が眼前にそびえ立つ
198log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:05:17 ID:???
作戦発動直前
全ての準備を終え位置についている各員
市内各初期地点に配置され待機するエヴァ三機
発令所主画面に大きく映し出されているプラグ内の三人
見上げるミサト、リツコ
  リツコ「転送が始まったら、空間歪曲の増大による情報ノイズのため、目標の観測は不可能になるわ」
イヤフォンを耳に余裕の表情でシートに身体を預けているアスカ
 伊吹「よって転送開始後は、MAGIの座標予測は空間変動の実測値をもとにした概算になります」
目を閉じてじっと待っているレイ 静かに張りつめた顔
  .ミサト「そこから先は、自分たちで判断してもらうことになるわ。
     …大丈夫。あなたたちに、全て任せるわ」
半ば伏せていた顔を上げ、短い一瞥を返す画面の霧亥
その顔からは何の表情も見て取れない
空席の目立つ発令所 周囲のわずかなスタッフに視線を向けるミサト
  .ミサト「みんなも、もう退避して。ここは私一人でいいから」
 青葉「いえ、これも仕事ですから」
 日向「子供たちだけ、危ない目に会わせられないっすよ」
かすかに微笑むミサト
  .ミサト「あの子たちなら大丈夫。…たとえ機体が大破しても、ATフィールドがあの子たちを守るわ。
     エヴァの中が、一番安全なのよ」
199log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:06:12 ID:???
 日向『第一から第八までの観測体群全てが、目標よりの強力なATフィールド展開を確認!』
スタート位置にひざまずき、両手をついている初号機
わずかに身体を動かし、操縦桿を握り直す霧亥
 伊吹『第三新東京市、及び周辺区画全域に渡って、空間の微弱な予兆振動を感知!』
左右に開いている零号機・弐号機との通信画面 視界隅で点滅を続けている誘導ウインドウ
無言で視線を交わす三人
 青葉『目標の位相数値、急激に変動を開始! …転送が始まります!』
初号機が身を沈める
一斉にパージされるエヴァ三機のアンビリカルケーブル
直後、全力で飛び出す三機

  .ミサト「私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったの。
     母や私、家族のことなど構ってくれなかった。周りは繊細な人だと言ったけど、
     本当は、現実から…私たち家族という現実から、逃げていただけだったわ」

兵装構造体の合間を駆け抜ける弐号機
車輌一つない大通りを幾つも通過し、廃棄された重層居住区の手前で一気に路面を踏みきる
都市構造体表面に亀裂が生じるほどの大跳躍
ジャンプの頂点で両脚を引き寄せ、降下地点を見据える初号機
衝撃とともに接地する機体 すぐにまた巨大な足が床面を蹴る
着地と再跳躍を繰り返し、市外へ伸びる軌道を次々と飛び越えていく零号機
お互いの姿はまだ確認できない
200log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:07:32 ID:???
  .ミサト「父のことは嫌いだった。母はいつも泣いてばかりいたもの。
     結局父の身勝手は変わらなかったけれど、母が出ていったときは、さすがに自業自得だと笑ったわ。
     だけど最後は、私の身代わりになって、死んだの。…セカンドインパクトのときにね」

 日向『全ての観測体が、走査範囲から目標を喪失していきます!』
 青葉『目標、転送の最終段階へ突入!』
 伊吹『第三新東京市の空間変動値、計測不能へ! 目標、再実体化を開始します!』
街の直上、空間の一点に歪みが生まれる
最後の疾走に入る初号機
視認不能なまでに加速する機体の後方数百mに渡って激しい大気乱流が生じ、街を震動させる
増幅する空間の中心に現れる光点
にわかに起きる振動 みるみるうちに膨れ上がり形を整えていく光の塊
圧縮され不気味な唸りをあげ始める空間

  .ミサト「…私にはわからなくなったわ。自分が父を憎んでいたのか、好きだったのか。
     ただ、セカンドインパクトを起こした使徒を倒す。
     そのためにネルフに入ったわ」
201log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:08:10 ID:???
表層構造材そのものを脚部装甲で削り、蹴散らしながら急減速する初号機
見上げる眼前に迫る、使徒の形をとりつつある烈光
凶暴な光を真正面から見据える霧亥
ATフィールドを解放する初号機 周囲の構造物がなだれをうって崩壊、飛散する
不安定に接続された空間を押し分け展開しようとする使徒のATフィールド
全身で受け止める初号機
軋む機体
激しい拮抗に耐えきれず、足下の構造体の一部が陥没する
姿勢を崩し、一気に押し返される初号機
  .レイ「弐号機、フィールド全開!」
 .アスカ「やってるわよッ!」
相前後して駆けつけ、両脇につく零号機と弐号機
三機のATフィールドが合わさる
空間を打ち据える新たな閃光と衝撃 半ば実体化した使徒の動きが止まる
均衡の一瞬をついて使徒のATフィールドをこじ開ける零号機
わずかに開いた亀裂から、渾身の力でコアにプログナイフを打ち込む弐号機
瞬時に逆流する空間変動
まばゆい光が炸裂し、全てを呑み込んで閉じる
数秒の観測的空白
やがて幾重にもたなびく塵雲の中から、一部を球面上に削り取られた廃墟が徐々に姿を現す
クレーター中心に立ちつくしている三機のエヴァ
202log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:09:46 ID:???
ミサトの前に立っている霧亥、レイ、アスカ 心なしか得意げ
泣き笑いのような顔をしているミサト
コンソールを見つめていた日向が、ふいに肩の力を抜く
 日向「…太平洋第7辺縁区域にて、局所的空間崩壊による振動を確認。
     無人区画の一部が広範囲で破壊されたようですが、各都市への直接的な被害はありません」
 伊吹「第三新東京市周辺の空間計測値、全て通常の数値に戻りました」
緊張の解けた笑顔になって振り返る伊吹
同じく振り返りかけ、ふと真面目な顔に戻る青葉
 青葉「…空間擾乱、階層全域で終息。南極の碇司令から通信が入っています」
  .ミサト「お繋ぎして」
表情を改め、コンソール上に開いた通信画面に向き直るミサト
  .ミサト「…申し訳ありません。私の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。
     責任は全て、私にあります」
艦内カメラのものとおぼしき画像の中から冷厳な視線を返す碇 脇に立つ冬月
   碇『いや。よくやった、葛城三佐』
 冬月『使徒殲滅がエヴァの使命だ。その程度の損害は予測のうちだよ』
  .ミサト「ありがとうございます」
心なしか晴れるミサトの声音
指揮官たちのやりとりを聞くともなく聞いている霧亥
   碇『ところで、初号機のパイロットはいるか』
反射的に振り向く霧亥
画面の碇と視線がぶつかり、一瞬動きを失う
ごくわずか表情を緩めているようにも見える碇
   碇『話は聞いた。よくやってくれたな。霧亥』
すぐミサトへ視線を移す碇
   碇『…では、後は任せる』
  .ミサト「はい」
閉じられる通信画面
スタッフに次の指示を下そうとして、ふと霧亥に目をやるミサト
ミサトを見もせず、じっと宙を見つめている霧亥
203log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:10:25 ID:???
数時間後
避難先から街に戻ってくる人々でごった返している第三新東京市
ようやく空いてきた環状線に乗り込むミサトとパイロット三人
給料日前なミサトをさんざん脅しつつ、アスカが一行を連れてきたのは某こだわりラーメン屋台
狭い長椅子に並んでそれぞれラーメンをすする四人
まだ何か考え込んでいるような霧亥
 霧亥「…葛城」
  .ミサト「ん?」
 霧亥「さっきのは…なんだ?」
箸を止めて、険しい顔をしている霧亥を見るミサト
ふっと笑顔になる
  .ミサト「…そっか。
     褒められたのよ、霧亥君。碇司令にね」
さらに眉間のしわを深くする霧亥
 霧亥「…父親ってなんだ」
ちょっと目を見開くミサト けっこう真剣な顔で答えを待っているらしい霧亥
おどけたように首をかしげてみせるミサト
204log.12 奇跡の価値は:2005/11/22(火) 13:17:45 ID:???
  .ミサト「…それは私にもわからないわ。
     私が知ってるのは、私の父だけだもの。その答えは、霧亥君が自分で見つけるしかないわね」
小さく微笑してラーメン攻略に戻るミサト 向こう側からひょいとアスカが顔を出す
 .アスカ「あんた、もしかして嬉しいわけ?
     なんか嘘みたいなの。あんたみたいな無感動殺風景男がねー…ま、でもいっか。
     そうだ、どうせなら、それをエヴァに乗る理由にしちゃえば?」
若干憮然とした視線を返す霧亥
が、何も反駁しない
しげしげと眺めるミサトの横で、一心にラーメンをすすっているレイ
ちょっと眉根を寄せるアスカ
 .アスカ「…何よ、冗談よ。
     で、どうなの? 嬉しくないの」
難しい顔をしたまま目を逸らす霧亥
 霧亥「…わからない」
あまりに深刻そうな渋面に、次々と笑い出すミサトとアスカ
その向こうでさりげなく替え玉を注文するレイ
混乱しきった表情で一同を睨み、微妙に憤懣をこめてラーメン及び箸と格闘し始める霧亥


log.12 終
遅くなってほんとすまん
しかも途中、連投規制×2 何やってんのかわかんなくなってきた
次回はチルドレン出番ないし少しは短くなるかも …ていうかそんなのどうやって書くんだ?
読んでくれた人、レスくれた人、いつもながらサンクス
反応があるからこのネタもどきも続けてられるんだと思う ありがたいです
>173 たぶん ただ塊都っていうのもかなり謎な場所だよね 技術力とか
>175-177 毎回サンクス。ジークdion!
205名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/22(火) 20:04:44 ID:???
ほんと、規制が酷かったよな。
206123:2005/11/22(火) 21:15:11 ID:???
週末の規制には、慣れてきた…慣れたくなかったけど。
207名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/11/25(金) 23:49:11 ID:???
なんかしばらくこのスレ離れてたけど、けっこー話しが進んでるな
作者乙。
208log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:37:46 ID:???
使徒襲来より数百時間
常態に復したネルフ本部発令所にて行われる、主電脳MAGIの定期検診
引き出された筐体の周囲で、リツコを中心にAIの基幹領域を手際よく精査していく技術局の面々
まもなく自己診断モードに移行する主電脳 とどこおりなく検診が完了する
作業を終えた局員たちをねぎらい、見送るリツコ
ふっと笑顔がとぎれる
  リツコ「異常なし、か。…母さんは今日も元気ね」
開かれたままの作業画面 通常モードのMAGIを表す図像が明滅している
膨大な処理項目を三体の超高速電脳がめまぐるしく同時検討し、審議し、決定を下していく
主電脳のもと平常通りの活動を継続する本部施設

シミュレーションプラグ実験に参加するパイロット三名
全裸にされた上に14回もボディクリーニングを受けさせられ、開始前にして既にかなり意気沈滞
 .アスカ「プラグスーツの補助なしでったって、何もこんなカッコでさせることないじゃない」
脊髄両側や腕に並ぶ剥き出しの外部端子挿入口をしきりに気にするアスカ
  リツコ『技術は日々進歩してるのよ。我々も、使徒と戦う以外に何もしないというわけにはいかないの』
スーツも銃もなしで落ち着けない霧亥
少しも動じていないレイを見る 特に理由もなく想起される彼女の部屋の光景
  リツコ『では三人とも、その姿のままこの部屋を抜けてプラグに入ってもらうわ』
やけくそ気味にクリーニングルームの監視カメラを睨むアスカ
 .アスカ「…もう、ちゃんとプラグ内の映像、切っといてよね!」
209log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:38:33 ID:???
本部地下実験場 プリブノーボックス
巨大な維持漿液槽内に並ぶ頭部のない素体の上半身三基 頚部および胴体の途切れ目からは
太いパイプ群と情報取得用電索の束が生え出ている エヴァと同じ位置にエントリープラグ挿入口
分厚い透明硬材で隔てられた管制室から液槽中を見渡すリツコとミサト
何列もの制御コンソールについた技術局員たち
 局員「エントリープラグ、模擬体に挿入」
 伊吹「零番、模擬体経由で零号機と接続します」
 局員「零号機にATフィールドの発生を確認」
 局員「続いて、一番、二番も各機と接続」
頷いて視線を上げるリツコ
  リツコ「どう、三人とも」
中央画面に映し出されるプラグ内の三人 身体部分にはフィルタが被せられている
  .レイ『…なにか変』
 霧亥『ああ。いつもと違う』
 .アスカ『感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりしてて、他はぼやけた感じ』
技術者の目で各コンソールの表示を見て取るリツコ
  リツコ「レイ、右腕を動かす動作をイメージしてみて」
  .レイ『はい』
インダクションレバーを握るレイ
模擬体の右腕がかすかに動く
コンソールに出力され始める膨大な動作情報
 伊吹「データをMAGIに転送。分析を開始します」
210log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:39:19 ID:???
中央画面にMAGIからのウィンドウが開き、大量の分析データが高速で流れ落ちていく
素直に感嘆するミサト
  .ミサト「おお〜、はっやい早い! MAGIサマサマだわ」
  リツコ「第一回の実験のとき、二十日もかかってたのが嘘みたいね」
 局員「実験は約三時間で終了する予定です」
  .ミサト「また、守ってくれそうね。今週末の定例報告には間に合わせるって、約束」
微笑するリツコ
画像が切り替わり、三電脳の模式図が明滅を始める
  .ミサト「…にしても、同じ電算単位が三つもあって、混乱しないのかしら」
  リツコ「同じじゃないわ。異なる三つの高次電脳による審議制…作った人間の性格が窺えるわね」
  .ミサト「性格って、作ったのはあんたじゃないの」
  リツコ「私は基礎理論を発展させただけ。システムの設計と基本構想は、母さんよ」
  .ミサト「そういえば、聞いたことないわね、リツコがそういう話するの。…ね、教えてよ、
     MAGIの開発秘話とか、ジオフロント建設当初の出来事とか。堆積層の発掘工事で、
     統治局との第二の交信の痕跡が発見されたのも、その頃の話なんでしょ?」
  リツコ「その話も、知ってるのは私じゃないわ。母さんと、今は碇司令や、副司令かしらね。
     …第一、自分の話はしない主義なの。聞かれてもいないのにべらべら喋る誰かさんとは違って」
  .ミサト「…わーるかったわね、お喋りで」
大いに顔を引きつらせるミサト
と、コンソールの一つが警報音を発する
緊張の走る管制室
211log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:40:05 ID:???
発令所 変質した生体壁の一部をコンソール画面に拡大表示する青葉
 青葉「ここです。B棟の第87蛋白壁ですね」
 日向「侵食だろ? 温度と伝導率が若干変化してます。無菌施設の劣化はよくあるんです、最近」
 冬月「セントラルドグマへの影響はないんだな」
 青葉「ええ。…しかし、これで今月に入ってもう三回か。ずさんですよ、B棟の工事は」
 冬月「あそこは、使徒が襲来してからの建造箇所だからな」
 日向「工期が60日近く圧縮されてますからね。みんな疲れてるんですよ」
苦笑いする冬月
 冬月「ともかく、すぐに処置しておけ。…碇がうるさいからな」

発令所からの通話を受ける伊吹
  リツコ「また生体建材の劣化?」
 伊吹「いえ、侵食だそうです。B棟の地下、第87蛋白壁」
  .ミサト「…けっこう近いじゃない」
  リツコ「ここへの直接的な影響は?」
 伊吹「今のところ、ありません」
  リツコ「では続けて。この実験はおいそれと中断するわけにはいかないの。
     碇司令もうるさいし」
ほんの少し唇の端を吊り上げるリツコ
212log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:41:26 ID:???
模擬体・シミュレーションプラグ内の霧亥
定期的に与えられる指示に従う以外、被験者側にはすることがない
居心地悪そうに顔をしかめて身じろぎする霧亥
と、急に管制室からの指示が途絶する
待つこと数分、突如くぐもった振動が襲う
弾かれたように上体を起こす霧亥 すばやく横を向く
湧き起こる気泡の幕
揺れ騒ぐ漿液を透かして、根元から吹き飛んで漂うレイの模擬体の右腕が大きく視界をよぎる
露出した筋にも骨にも微細な光点の群れが息づくように明滅している
凝眸する霧亥
直後、前触れもなくプラグが射出される
一切の情報が遮断され暗転する各モニタ
孤立したプラグ内でひたすら揺れに翻弄される霧亥

動力停止し波間に漂うシミュレーションプラグ
ハッチをこじ開けて外に出る霧亥 本部施設外、ジオフロントの予備遊水槽の一つである
近くに同じく浮き沈みしているレイ・アスカのプラグ
数秒黙考し、水に飛び込む霧亥

プラグ外壁を叩いているらしい断続的な振動に目を上げるレイ
内部からコンシールを解除する LCLが排出され、ついでスライドハッチが開く
ハッチ外縁越しに腕を伸ばし、無言でレイを助け起こす霧亥
前後して本部の方に目を向ける二人
213log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:42:16 ID:???
  .レイ「…使徒ね」
 霧亥「ああ」
手を離し、ざぶんと水中に戻る霧亥
身を乗り出すレイ ふいに顔をしかめ、右腕を見る 肩から下の神経がまだショック状態
 霧亥「本部に戻る。お前はそこにいろ」
言い残して泳ぎ出す霧亥
動かないレイ ハッチ外周部に掴まり、アスカのプラグの方へ近づいていく霧亥を見送る
数秒後、宙をつんざくアスカの甲高い悲鳴
 .アスカ「イヤぁああ、なんてカッコしてんのよこのヘンタイ!! あっち行って!!」
 霧亥「武器は持っていない」
 .アスカ「ちーがーう! そうじゃないってば…きゃあ、もうこっち寄らないでよこの馬鹿ッ!!」
音をたてて閉ざされるハッチ 中から憤然とロックがかけられる
取り残され、ふとレイの視線に気づく霧亥
若干険しい顔で彼女のプラグの傍に戻ってくる
黙って見下ろすレイ
 霧亥「…あいつも残るらしい」
  .レイ「そうね」
顔をしかめる霧亥
 霧亥「…、何かまずかったのか?」
ちょっと目を伏せるレイ 顔を上げ、右腕を庇いながらプラグ内に潜り込む
中で何かいじっている気配
突然プラグの突端が弾け、自動イジェクト用の大小のパラシュートが波間に溢れ出る
  .レイ「それ、被って」
指された小降下傘を引っぱり寄せる霧亥
再び顔を出すレイ
  .レイ「本部施設に到着したら、行動する前に何か着た方がいいわ」
レイの顔から自分の身体に視線を移す霧亥 おとなしくパラシュートを切り離して岸を目指す
後ろ姿を見送るレイ
やがて静かにプラグの中に戻り、操縦席に身体を預けて目を閉じる
214log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:42:58 ID:???
第87蛋白壁より経路上の生体部品を汚染して侵入、模擬体を占拠する極微型使徒
即時模擬体ごと破棄されるプリブノーボックス
鳴り響く汚染警報 施設全域で隔壁が緊急閉鎖され、下級勤務員の退避が行われる
 冬月「…場所がまずいぞ」
   碇「ああ。アダムに近すぎる」
声をあげる碇
   碇「警報を止めろ」
 日向「えっ? しかし…」
   碇「誤報だ。探知機のミスだ。委員会にもそう報告しろ」
 青葉「りょ、了解」
解除されるアラート 静寂の戻る発令所
眉間に深い溝を刻む冬月
 冬月「…しかし、本部内深くに侵入した使徒に対し、パイロットとエヴァなしでどう攻める?」

セントラルドグマ深部
どことも知れない内部通路から這い出る加持
ふと頭上を仰ぐ
暗闇の先に、活発な生命活動を示して明滅するおびただしい微光の帯
 加持「…使徒侵入、か。やれやれ、仕事どころじゃなくなったな」
呟いてまた別のシャフトへ潜り込む加持

無人となった本部通廊 随所で隔壁が降り、施設を分断している
こじ開けられたロッカールームの前に放置されているパラシュート 周辺に点々と水溜まり
スーツと銃を回収する霧亥
施設深部、閉鎖されたプリブノーボックスの方向を見据える
215log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:43:45 ID:???
ボックスから退避してきた面々が合流した発令所
使徒の生物的性質、環境への弱点を特定し間接的干渉を試みる冬月、リツコら
だが使徒は異常なまでの順応速度で全ての攻撃を克服、かえってそれらを積極的に取り込み
爆発的に汚染域を拡大していく
時を同じくして、未確認の発信源から攻撃を受け始める本部下位電脳群
 日向「こんなときに…! Dモードで対応…、くそっ、早い!」
 青葉「防壁を解凍します。擬似エントリー、レベルBで構築」
 日向「擬似エントリーを展開…回避されました!」
 青葉「防壁を展開…、防壁を突破されました!」
 日向「…こりゃ、人間ワザじゃないぞ」
 青葉「逆探に成功、この施設内です。B棟の…地下…?!
     ッ、プリブノーボックスです!」
慄然とする一同
発令所主画面に映し出されているプリブノーボックス実験槽
漂う模擬体表層の光点群が変動し、みるみるうちに電子回路を形成していく
と、次々と途切れる映像 同時に分析端末群からの反応も途絶える
 伊吹「使徒、ボックス周辺の施設機能を掌握! 監視システムを停止されました!」
 日向「…8桁、12桁、…Dワードクリア! 保安部のメインバンクに侵入されました!」
 青葉「メインバンクを読んでます…まずい、このコードは…
     …MAGIに侵入する気です!」
絶句する冬月
言葉を挟むこともできず、リツコを振り返るミサト
ただ宙のどこか一点を凝視しているリツコ
216log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:44:30 ID:???
手動解除され、あるいはロックを破壊された隔壁の列を背後にプリブノーボックス前に立つ霧亥
正面に固く封鎖されたボックス進入扉
後方の隔壁のうち機能するものを再び手動制御で降ろし、ボックスに向き直る霧亥
銃を構える
密閉された空間に高まっていく充填ノイズ
発射直前、いきなり扉が内部から吹っ飛ぶ
なだれを打って溢れ出す保護漿体
押し寄せる液塊にさらわれ、隔壁に叩きつけられる霧亥 すぐに顔を上げる
逆巻く漿液の内部から突き出される巨大な腕
浸水した管制室 割れた監視窓の奥に輝く高次電脳回路をまとった模擬体が見える
その手前から、使徒の微光に覆われた残り二体の模擬体が身を乗り出す
通路の天井近くまで達した漿液に揺さぶられながら、二体を睨む霧亥

次々に突破されていく主防御機構 制圧され沈黙する下位電脳群
さらに演算速度を上げMAGI本体に迫る使徒
目元を険しくする碇
   碇「…電源を落とせ」
 青葉「はい!」
椅子を蹴ってコンソール両脇に屈み込む青葉、日向 停止キーを差し込んで視線を交わす
 青葉「カウント、どうぞ!」
 日向「用意…、3、2、1!」
同時にキーを回す二人
一拍おいて顔を上げる 何の変化も起きない発令所
 日向「ッ、電源が切れません!」
跳ね起きて席につく二人
217log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:46:19 ID:???
半ば崩れ落ちた管制室に取りつき、通廊めがけて腕を振り下ろす模擬体
巨大な拳が轟音をあげて天井にめり込む
液面が大きく盛り上がり、抗う間もなく液中に引きずり込まれる霧亥
管制室の計器類にかすかに照らされた実験槽内 ちぎれた固定具の残骸がすぐ傍をかすめていく
回転する身体を立て直そうとする霧亥
上方に通廊の明かり その前に頭部のない巨影が立ちふさがり、再び腕が突き出される
掴みかかる指をかわす霧亥 が、押しのけられた漿液が腕の通過した跡へ一斉に逆流する
乱流に直撃される霧亥
一気に実験槽の底近くまで突き落とされる
荒れ狂う漿体に翻弄されながら銃を握り締める
振り向けられる銃口
閃光
射線上の漿液を円筒状に押し分けて模擬体を貫く重力子放射線
わずかな間の後、上下にちぎれた両模擬体ごと実験槽の壁一面が次々に爆発する
大きく開いた穴からどっと流れ出ていく漿体

濡れた床面に投げ出され、激しく咳き込む霧亥
乱暴に口元をぬぐって顔を上げる
固定具で吊り下げられた形で壁に残っている最後の模擬体
よろめいて立ち上がる霧亥
近くに転がっている、最初に感染した模擬体右腕を撃つ
発現したATフィールドごと貫通される腕 後ろの壁の一部が破れて爆炎が残骸を巻き込む
残った模擬体に向き直る霧亥
と、模擬体下部が激しくのたうち、ふいに爆発的に膨張する
床面にぶち当たる肥大組織 表面が泡立ち、大量の芽状突起から別構造が形成されていく
みるみるうちに形を整え立ち上がる異様な人型
高硬度の外殻と鋭い棘状の突起で構成された体躯 巨大な顎 長い腕の先で鉤爪が床を引っかく
模擬体本体から離れ、金属的な耳障りな足音とともに霧亥を取り囲む人型の群れ
無言で銃を構える霧亥
218log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:51:51 ID:???
大きく映示されているMAGIの活動模式図像
せわしなく明滅していた周縁の輝線が途切れ、使徒からの入力を示すラインがシステムを侵食し始める
オペレータたちの懸命の応戦も空しく、ついに使徒に占拠される第一主電脳
 伊吹「メルキオール、使徒にリプログラムされました!」
真っ赤に変わって点灯する『MAGI 1・MELCHIOR』の表示
 音声『人工知能により 本部施設の自律自爆が 提議されました』
思わず後方の主電脳筐体を振り返るミサト
瞬時に『否決』の結論を出す残り二基の主電脳 多数決制により自爆提議は却下される
使徒からのデータ出力が変わる
 日向「…今度は、メルキオールがバルタザールをハッキングしています!」
総力を挙げて第二主電脳を制圧にかかる第一主電脳
みるみるうちに侵されていく第二主電脳
初めて表情を乱すリツコ

あちこちに穴が開き黒煙をあげている実験槽床面 折り重なった人型の残骸
銃を握り締め荒い息をついている霧亥
腕に残った人型の手を払い落とし、模擬体を仰ぐ
と、再びその下端が活性化する
激しい形成音とともに、前に倍加する大群が新たに構成されていく
息を呑む霧亥 こわばった顔に焦りの色が浮かぶ
早くも霧亥を視認し攻撃態勢を取り始める群れ
なんとか銃口をかかげる霧亥
最終段階に入る形成 最前列の十数体が走り出そうと身構え、ふいに動きを止める
目をみはる霧亥
後方でにわかに活動の鈍化する模擬体活性部
形成途中のまま、その場に凍りついている人型
呆然と停止した群れを見回す霧亥
219log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:53:33 ID:???
キーボードから離れるリツコの指
大幅に演算速度を落とされているMAGIと周辺システム
同調して使徒の侵攻も速度制限される
わずかに切迫感が緩和される発令所
小さく息をつくリツコ
 伊吹「…サブシステムの一部、再起動に成功。下位電脳の87%が回復します」
  .ミサト「使徒に掌握された、ボックス周辺のシステムは?」
 伊吹「未だ、応答がありません。目標が完全にMAGIとリンクしていれば、模擬体に侵入した部分も
     同時に活動を制限できているはずですが…」
  .ミサト「そう上手くは行かない、か…」
  リツコ「高望みはしないで。これは時間稼ぎに過ぎないわ」
振り返るミサト
視線を向けようとしないリツコ

すぐに一時的硬直を脱し、活動を再開する模擬体
再び動き出す人型の大群 見失った霧亥を求めて周囲を見回す と、一斉に実験槽の一点を振り返る
空間に満ちている重力子放射線射出装置のかすかなノイズ
群れの中央に立つ霧亥
まっすぐに模擬体に据えられた銃口
銃後部に最後の充填表示がともる
全周から襲いかかろうとする群れ
瞬間、発射された重力子放射線が模擬体を撃ち抜く
背後の槽壁ごと圧潰し弾け飛ぶ模擬体組織
爆風が群がる人型を吹き飛ばす
消却されていく模擬体を見据える霧亥
220log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:54:08 ID:???
発令所にまで届く爆発の震動
  .ミサト「今度は何なの?!」
 青葉「生き残った監視端末からデータ算出、プリブノーボックスでの爆発です!」
 冬月「目標が動いたのか?!」
 伊吹「! ボックス近傍区画の監視システム、回復します」
主画面に開いたウインドウに映し出される、大破した実験場
たちこめる塵灰の渦の合間、ぼろぼろに損傷した模擬体の一部が見える
既に使徒の本体である光点群の活動は認められない
 冬月「…重力子放射線だな」
  .ミサト「霧亥君が…? けど…」
MAGIの状態模式図に目を凝らすミサト
進行は鈍いながらも、第一主電脳よりの攻撃は止まっていない
  .ミサト「使徒本体が既に殲滅されているのなら、なぜ…?」
  リツコ「…殲滅されたのは物理的な部分だけよ。
     恐らく本体が破壊される寸前、使徒は自らの一部を情報化し、純粋なデータ体として
     MAGIシステム内部に退避したのだと考えられるわ」
  .ミサト「…そんなことが…?!」
第一主電脳及び第二主電脳の一部が赤く変わった図像を見上げる一同
審議モードを示す図像の下方で明滅している『自爆提議 否決』の文字
 冬月「いずれにせよ、MAGI内部の侵攻を阻止しない限り、本部施設の自爆は避けられんか。
     今の状態で、どのくらい持つ」
 青葉「使徒のこれまでの演算速度からみて、せいぜい二時間でしょうね」
リツコを見る碇
   碇「…MAGIが、敵に回るとはな」
黙っているリツコ
221log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:54:48 ID:???
作戦室にて討議される使徒への対策
残存する模擬体のデータより、個体進化とも言える使徒の特質が浮上する
  リツコ「使徒はつねに自己を変化させ、あらゆる状況に対応可能な形態を模索しています。
     それによって、この短期間に知能回路の形成にまで至る、爆発的な進化を遂げたのだと
     考えられます。それはデータ体となった今も変わっていません」
  .ミサト「しかし、今の使徒は情報体、MAGI内部に存在するデータ流そのものだわ。
     …死なばもろとも。MAGIと心中してもらうしかないわね。
     MAGIシステムの物理的破棄を提案します」
きっと振り返るリツコ
  リツコ「何を言ってるの。MAGIの破棄は、本部のそれと同義なのよ」
  .ミサト「では、作戦部から正式に要請するわ」
  リツコ「拒否します。技術部が解決すべき問題です」
口調を荒げるミサト
  .ミサト「なぁに意地張ってんのよ!」
目を逸らすリツコ
  リツコ「…私のミスから始まったことなのよ」
一瞬言葉を失うミサト 声のトーンが落ちる
  .ミサト「…あなたはいつもそう。何でも自分一人で抱え込んで、他人を当てにしないのね」
顔を上げるリツコ
  リツコ「使徒が進化し続けるのなら、手はあります」
 冬月「進化の促進かね」
   碇「進化の終着点は自滅。死そのものだ」
  リツコ「はい。唯一残っているカスパーから、進化促進プログラムを使徒に送り込みます。
     進化を加速すれば、死を回避するためMAGIとの共生を選ぶかもしれません。ですが…」
リツコの視線を受けて口を開く伊吹
 伊吹「そのためには、こちらも使徒に対し防壁を開放することになります」
222log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:55:59 ID:???
非情ともとれる冷徹さでリツコを見据える碇
   碇「カスパーが速いか、使徒が速いか、勝負だな」
目を逸らさずに碇の視線を受けるリツコ
見守るミサト
  .ミサト「…やれるの?」
  リツコ「約束は守るわ」

外部筐体を引き出し、第三主電脳の内部で作業するリツコ
パイプ類のひしめく本体内部 切り外された防護殻の中から、本体の中枢である生体電脳が露出している
生体電脳に直接作業端末を繋いでプログラミングに没頭するリツコ
脇に座り込んでその姿を眺めているミサト
狭い通孔内に機器類の作動音が充満している 外の通孔傍では電索を引き込んで補助作業を進める伊吹
  リツコ「人格移植OSって、知ってる?」
  .ミサト「個人の人格をデータ移植する、第五世代生体電脳の特徴とも言える情報技術。エヴァの操縦にも
     使われてる技術よね」
  リツコ「そう。MAGIはその第一号らしいわ」
  .ミサト「じゃあ、お母さんの人格が…?」
  リツコ「ええ」
柔らかい微笑を浮かべるミサト
  .ミサト「そっか。お母さんを守りたかったんだ、リツコ」
  リツコ「いえ、別にそれが理由じゃないわ。あの人のこと、そこまで好きじゃなかったもの」
機械の重低音を裂いて響く警報
はっとなる二人
通孔入り口を振り返るミサト
  .ミサト「…始まったの?!」
223log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:57:13 ID:???
主画面に映示されたMAGIの模式図上で、第二主電脳の全領域が赤く変わる
 日向「来た…!」
 青葉「バルタザール、使徒に乗っ取られました!」
第一主電脳に続いて真っ赤にともる『MAGI 2・BALTHASAR』の表示
 音声『人工知能により 自律自爆が決議されました』
一様に主画面を仰ぐ人々
 音声『起爆装置は 三基一致後 0.2秒で起動されます
     自爆範囲は 超構造体内部深度 -570 -290 0 エリアです 特例514発動のため
     該当区画の全勤務員は 速やかに施設外へ退避してください』
続いて第三主電脳を侵し始める使徒の占拠領域
 冬月「押されてるぞ!」
通孔口から中を振り返るミサト
  .ミサト「リツコ、急いで!」
目も上げないリツコ 集中しきって表情の失せた顔を照らす端末画面の反映
  リツコ「大丈夫。まだ一秒近く余裕があるわ」
  .ミサト「一秒って…!」
  リツコ「ゼロはマイナスじゃないわ。いつだって、残るのは最後まで諦めない者なのよ」
見開いた両目に言葉にならない幾つもの感情を浮かべ、ただ口をつぐむミサト
主画面 止めようもなく拡大していく侵食領域
 青葉「カスパー、あと18秒で乗っ取られます!」
 日向「使徒、さらにシステム深部に浸透! …うっ?! なんなんだこれは!」
突然、極度の変動を示す発令所の電磁場
主コンソール周辺の床面が次々と円形に陥没し、不規則に帯電し始める
陥没孔の上数十cmの宙に結集する放電
 青葉「MAGIより、これまでとは全く違う出力! 識別不能の膨大な情報インパルスです!」
 日向「床素材の分子構造が変化していきます…!」
224log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 11:57:57 ID:???
青白い放電が極限に達する
瞬間、弾けるように床面から突出しすさまじい速度で形成されていく異様な人の形
剥き出しの強化骨格を連結する球形の外殻 随所から突き出した棘上構造 不定数の小さな眼窩
鼻に相当する部分はなく、直接巨大な口が開いている
全く異質な外見にもかかわらず、ふいにそこに既知の面影を見出して目をみはるミサト
  .ミサト「…これは…いえ、まさか…!」
形成を終え、エヴァに酷似した動作で頭部をもたげる人型
動くこともできずに凝視する人々
そのとき、一番端の人型が逆さまに宙に舞い、床に叩きつけられる
一斉に視線を向ける人型の列
もがく人型を全身で床に押さえ込み、顔を上げる霧亥
 霧亥「逃げろ!!」
声と同時に動き出す人型の群れ
ばらばらと席を蹴り、非常口めがけ走り出す人々
彼らを追って突進する群れの前に立ちふさがる霧亥 一気に押し寄せる人型
 冬月「碇!」
一人総司令席から階下を見下ろしている碇
第三主電脳筐体の中で、同じく動こうとしないリツコ
一瞬顔を上げかけるものの、すぐに作業に戻る伊吹
交錯する悲鳴の上にMAGIの電子音声が響く
 音声『自律自爆発動まで あと8 7 6 …』
絶叫するミサト
  .ミサト「…リツコ!」
225log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 12:00:24 ID:???
コンソール傍に残っていた一体が下のミサトに気づき、すぐ前に飛び降りてくる
とっさに伊吹を庇うものの立ちすくむミサト
筐体内からリツコの鋭い声が飛ぶ
  リツコ「マヤ!」
 伊吹「行けます!」
階上からミサトの姿を認め、組み付いてくる人型を押し返そうとする霧亥
 音声『… 4 3 …』
飛びかかろうと上体を沈める人型
  リツコ「…押して!」
同時にENTERを押すリツコと伊吹の指

 音声『… 1 』

極限の静寂が全てを圧する

主画面の隅で一点、明滅している最後の第三主電脳非汚染領域
次の瞬間、その光が一気に拡大する
ほとんど瞬時に掃討される赤い汚染領域
 音声『…人工知能により 自律自爆が 解除されました』
顔を上げる霧亥
活動停止し、うつろな音をたてて倒れる人型の群れ
一拍遅れて、発令所に歓声が湧き上がる
226log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 12:02:15 ID:???
システムの回復が一段落し、ようやく一息ついているリツコ
コーヒーカップを両手に歩み寄るミサト
  リツコ「上は?」
  .ミサト「幸い、ほとんど被害はないわ。何人かが逃げるときに軽傷を負ったくらい。
     霧亥君と、あなたの行動が早かったおかげね。…おつかれさま」
カップを受け取ってゆっくり一口飲むリツコ ちょっと目を見開く
  リツコ「…ミサトの淹れたコーヒーがこんなに美味いと思ったの、初めてだわ」
無言で笑顔を引きつらせるミサト
  リツコ「もう齢ね。徹夜がこたえるなんて」
  .ミサト「また、約束守ってくれたわね」
疲れた顔にどこか満足そうな笑みを浮かべるリツコ
機械の作動音に顔を上げる 調整を終えた第三主電脳の筐体が格納されていく
  リツコ「…死ぬ前の晩、母さんが言ってたわ。
     MAGIは三人の自分なんだって。科学者としての自分、母親としての自分、
     女としての自分。実はプログラムを微妙に変えてあるのよ。私は母親には
     なれそうもないから、母親としてのあの人はわからないけれど、科学者としては
     尊敬もしていた。でも、女としては憎んですらいたわ」
語りながら、少し放心しているようなリツコ
優しい目になるミサト
  .ミサト「…今日はお喋りじゃない」
  リツコ「たまにはね」
ミサトを見つけて降りてくる霧亥 固定郭の内部へ沈んでいく筐体を一瞥する
階上では停止した人型の回収作業が続いている
227log.13 使徒、侵入:2005/12/07(水) 12:06:21 ID:???
  リツコ「…カスパーにはね、女としての人格が移植されてたの。
     最後まで女でいることを守ったのね。ほんと、母さんらしいわ」
瞑目して立ち上がるリツコ
歩き出す三人の背後で、重い振動とともに再固定される第三主電脳


  .ミサト「ところで霧亥君、どうして危険を承知で本部施設に戻ってきたの? 外は安全だったんだから、
     救助班が到着するまで、プラグの中で待ってても良かったのに。…そうだ、アスカとレイは?
     …? どしたの、急にそんなに焦った顔して」
  リツコ「…どうやら、少し急いであげた方がいいみたいね」

 .アスカ「…もう、救助呼びに行くだけのことに、いつまでかかってんのよ、あの馬鹿は!
     こんなカッコじゃ、どこにも出らんないじゃない! 早く誰か助けてぇ…」


log.13 終
やっと書けた。毎回遅くてほんとごめん >読んでくれた人
>205-206 乙…
実は先日プロバイダが変わったので同志って言えなくなった スマソ
dionよ永遠なれ
>207 ありがとう
228log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:11:58 ID:???
実験模擬体暴走事故より数十時間

ネルフ本部 総司令執務室
隣接する遠隔会議房から出てくる碇 眼鏡越しに軽く眉間を揉む
デスク傍に立っている冬月
無言で席につき、彼が渡す決済待ちの書類に目を通し始める碇
 冬月「老人たちはご立腹だな」
   碇「積極的に追求するだけの証拠は存在しない。先の事件は、実験中に起きた
     偶発的事故だ。彼らもそう処理するほかあるまい」
 冬月「だから、わざわざ臨時会議まで召集してお前に当たったのだろうよ」
   碇「所詮、他にすることもない連中だ」
 冬月「だが…今、彼らの機嫌を損ねるのはまずいぞ」
   碇「問題ない。我々が今の位置を追われる可能性は存在しない。ネルフの
     実行権限縮小もない。使徒が、この階層に襲来する限り」
 冬月「全ては裏死海文書の記述通りに進んでいる、か」
   碇「ゼーレのシナリオは未だ健在だよ。彼らがそう完成した通りに」
229log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:12:39 ID:???
発令所 主管制階
完全に修復された床面を眺めている青葉と日向
 日向「結局、あっという間か。もう跡も残ってないよ」
 青葉「他はともかく、ここだからな。余裕があるうちに、優先的に直しとこうってことだろう」
 日向「分析しようにも、何の痕跡もないんじゃなぁ。MAGIの方も、正式に稼動継続許可が
     降りたんだろ?」
 青葉「ああ。全て、元通りってことだ。とりあえずはな」

本部第四予備電算室
現在は使用されていない旧端末の前に坐る加持
 加持「…で、回収された問題の物体は、一体残らず完全破棄か。
     技術局にすら調査させず、最優先で厳重に密封され、迅速に本部外に出されている。
     行先は浅間山かな。…またも事実は闇の中、って訳だ。MAGI本体の電脳記憶と同様」
230log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:24:07 ID:???

(これは何)
(階層 みんなが生きている場所)
(超構造体 みんなを守っているもの)
(エヴァ)
(これはどこ)
(ジオフロント)
(これはどこ)
(第三新東京市)
(これはどこ)
(都市)
(これはどこ)
(……)
(これは何)
(……)
(この物体は何)
(わたしは)
(…わたしにあるものは)
(命、心 心の容れ物、エントリープラグ)
(それは、魂の座)

本部地下第十二実験場
第一回機体相互換実験
巨大な実験場の壁面に固定されている初号機
管制室の各計器が機体の起動成功を表示する
  リツコ「どう、レイ。久しぶりの初号機は」
正面画面内 軽く操縦桿を掴んで宙を見つめているレイ
231log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:25:37 ID:???
同第八実験場
エヴァ弐号機第八十七次機体連動試験
退屈なルーティンをこなしつつ、プラグ内回線で互換実験の様子を傍観するアスカ
 .アスカ「…何よ、つまんないの。
     あんたね、初の貴重な実験なんだから、何がしかの反応くらい示しなさいよ」
通信画面内 操縦桿を固く掴んで前方を向いている霧亥
思いきり顔をしかめるアスカ
 .アスカ「ったくもう、気持ち悪いわね。
     さっきのファーストと変わんないじゃない。二人揃っておんなじような顔しちゃってさ。
     エヴァの中の、お互いの微弱電磁効果の痕跡でも嗅いでるわけ? ヘンタイじゃないの。
     大体プラグは毎回静電洗浄されるんだから、何も残ってるわけないじゃない」
反応しない霧亥
リツコの叱声が割り込む
  リツコ『アスカ、ノイズが混じるから邪魔しないで』
 .アスカ「はぁい! わかってるわよ」
乱暴に零号機との回線を閉じるアスカ
ふと真顔になる
 .アスカ「…ところで、あたしは参加しなくてもいいの。あの二人の相互換実験」
通信画面内で苦笑しているミサトの顔
  .ミサト『どうせアスカは弐号機以外、乗る気ないでしょ』
ちょっと上を仰ぐアスカ
 .アスカ「ま、それもそうか」
232log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:26:14 ID:???
  .ミサト「…確かに、弐号機の互換性、利かないわね」
第十二実験場管制室
リツコや伊吹らの後方で実験に立ち会うミサト
固定された零号機から視線を移す
斜め前方に、プラグスーツ姿のまま監視窓の前に立っているレイ 零号機を見つめている
  リツコ「やはり初号機ほどのシンクロ率は出ないわね」
 伊吹「しかし、シンクロ値、ハーモニクスともに安定しています。パーソナルデータも、
     共通する部分が多いですからね」
  リツコ「そうね。…これで例のあれ、行けるわね」
 伊吹「…ダミーシステム、ですか? 先輩の前ですけど、私はあまり」
  リツコ「潔癖症はね、辛いわよ。人の間で生きていくのが」
嫌悪の表情でリツコを見上げる伊吹
  リツコ「汚れた、と感じたときわかるわ。それが」
と、全ての計器が警報を発する
  .ミサト「何なの!」
プラグ内 片手で強く頭を押さえている霧亥 表情は見えない
シンクログラフが急激に乱れ始める
  リツコ「プラグ側からの汚染?!」
 伊吹「いえ、エヴァからの逆流です!」
233log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:26:46 ID:???
  .ミサト「パイロットは!」
 伊吹「プラグ内部、モニター不能。パイロット、応答ありません!」
  リツコ「実験中止。ただちに零号機の起動を中断して」
 伊吹「…駄目です、停止信号を受け付けません! 制御不能です!」
固定具を引きちぎり実験場内にさまよい出る零号機
歩きかけては止まり、痙攣するような動作で自分の頭部を掴む
発火音 管制室からの遠隔操作で外部電力供給装置のロックが外れ、巨大なコンセントが床に落下する
 伊吹「…零号機、内部電源に切り替わりました。
     活動限界まで残り15秒。13、12、…」
苦悶する零号機
管制室によろめき寄り、拳を振り上げる
監視窓にめり込む拳
不器用に二度、三度と繰り返される殴打
窓の超硬素材に亀裂が走り、内側で破片が飛び散る
打ちつけられる衝撃の正面に立つレイ
  .ミサト「レイ! 下がって! …下がりなさい!」
佇んだまま、微細な亀裂で濁った窓の向こうをじっと見ているレイ
その肩を掴んで窓から引き離すミサト
零号機は窓から離れ、壁に頭部を激しく打ちつけ始める
何度目かに頭を振り上げたところで活動限界
壁面によりかかるようにして停止する零号機
234log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:28:01 ID:???
数時間後
互いに厳しい目を据え正対するミサトとリツコ
  .ミサト「零号機の暴走事故の原因、判明したの」
  リツコ「いえ、決定的なところはまだよ」
  .ミサト「パイロットへの、後遺症の心配はないのね」
  リツコ「ええ。意識が戻りしだい、再検査をする必要はあるけど」
  .ミサト「零号機は?」
  リツコ「パイロットをレイに戻して、起動および機体連動の再試験を行うことになるわ」
  .ミサト「…そう。
     可及的速やかにお願いするわ。仕事に支障が出ないうちにね。赤木博士」
  リツコ「ええ、わかっているわ。葛城三佐」
足早に去っていくミサト
一人佇んでいるリツコ
  リツコ(…零号機が殴りたかったのは、私だわ。間違いなく)

葛城の個人居住区
個室でベッドに寝転がっているアスカ
 .アスカ「…じゃ、今日は帰んないのね。…うん。わかってるってば。
     子供じゃないんだから心配しなくていいわ、ミサト。じゃ」
通話器を投げ出すアスカ
勢いよく仰向けになって天井を睨む
 .アスカ(ミサトや加持さんは教えてくれない。キリイは、知りもしない)
 .アスカ「…ファーストって、どんな子なの」
235log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:28:38 ID:???
総司令執務室
棋譜本を片手に将棋板と向き合っている冬月
どこかからの報告を聞いている碇を横目で見やる
通話を終える碇
 冬月「零号機、あのまま使うのかね」
   碇「ああ。レイでの再起動は無事成功している」
駒を詰める冬月 冴えた音が響く
 冬月「例のサンプルの処理は」
   碇「確認済みだ。全て消却した。レイへの影響はない」
目を上げる冬月
 冬月「ロンギヌスの槍は」
   碇「問題ない。作業はレイが行っている」
 冬月(…レイにこだわりすぎだな)
デスクに両肘をつき手を組んでいる碇
   碇「全ては、我々のシナリオ通りだよ」
236log.14 ゼーレ、魂の座:2005/12/14(水) 11:29:12 ID:???
同刻

ドグマ深部
巨大な槍を手に暗闇の中へ進んでいく零号機
操縦席 決然と前方を見据えているレイ

本部付属施設
病室のベッドに起き上がっている霧亥
広げた手を注視している
顔を上げ、ベッド、床、天井、窓の向こうの光景と次々に視線を移す
やがて手を下ろし、放心の表情で宙を見据える霧亥
静まり返っている病室
 霧亥「…表示の意味がわかるようになった」


log.14 終
237123:2005/12/15(木) 00:51:46 ID:???
メガストラクチャーの向こう側から乙。徐々にキてますね霧亥。
やがては禁圧解除とかしないかな…w

そういえば消えたと思ってたバイオメガを部屋から発掘できて超嬉しかった。ぃぇぃ。
あのロングライフル(と形容するにしては射程と威力がハンパない)萌え。
238名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/19(月) 15:14:00 ID:Wjy39Fuw
あげておく
239log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:19:22 ID:???
第三新東京市より22階層 第14小居住区“京都”
がらんとした屋内に佇む軽装の加持
埃まみれの窓越しに、超構造体からの強い降光に晒される路地裏が覗く
施錠されていない入り口のドアノブが軋る
振り返る加持
ごく細く開かれている扉
懐の拳銃を掴んで脇の壁に張りつく加持 ややあって肩の緊張を緩める
 加持「…あんたか」
扉下に腰を下ろし、足元にまとわりつく野良猫を構っている女
銃を離す加持
   女「エヴァの操縦適格者を選出するマルドゥック機関。出資していた108の企業のうち、
     107がダミーだったよ」
 加持「で、ここが108個目ってわけか」
女の抱えた荷物を一瞥する加持 糧食の包みの陰に覗いている書面
   女「役員名簿だ」
 加持「必要なさそうだ。知ってる名前ばかりだよ」
名簿の先頭にある碇の名を見つめる加持
   女「お前の仕事はネルフの内偵だ。サードチルドレンの調査は職務外だぞ」
 加持「ま、どうも、性分でね」
立ち上がる女
扉の奥に消える加持
240log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:20:37 ID:???
第三新東京市近傍 都市連機関専用軌道を走行する車輌
分厚い耐衝撃材の嵌った窓孔越しに外を眺めている冬月
使徒殲滅時の巨大クレーターと、その内斜面に取り付いて都市構造物を補修する建設者の群れ
車内に顔を戻す冬月
 冬月「今朝の臨時会議、なんだったのかね」
反対側の窓に顔を向けている碇
   碇「いつもの催促だ。十年一日の突き上げだよ」
 冬月「先の、E計画の遅延は片付いたんだろう」
   碇「ああ。既に参号機と四号機が米国で完成している」
 冬月「アダム計画はどうなんだ」
   碇「順調だ。2%も遅れていない。…老人たちは何が不満なのだ」
小さく笑う冬月
 冬月「肝心の、人類補完計画が遅れてる」
渋面を作る碇
 冬月「他はお前を呼び出す口実に過ぎんよ。彼らの本当の懸念はそれだけだ」
   碇「…使徒は今も襲来している。その撃退なくして計画の完遂はあり得ない。
     それを承知していながら、わざわざ口を挟む理由がどこにある」
 冬月「理由などあるまい。連中のご執心だよ。この『絶望的状況下』における、
     唯一の希望だそうだからな。我々人類の」
   碇「……」
 冬月「今さら、後戻りはできんよ。彼らにしても、我々にしても」
   碇「わかっている。…人間には、時間がない」
沈黙の落ちる車内
 冬月「…時に、あの男はどうするのかね。このまま黙って探り回られる訳にもいかんだろう」
   碇「今はいい。当分泳がせておく」
 冬月「しかし、要らぬ情報を流されるのも厄介だぞ」
   碇「問題ない」
少し顔をしかめ、碇に目を向ける冬月
   碇「手は打ってある。対処を急ぐべき件でもあるまい」
窓外を流れる風景を見ている碇
241log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:22:55 ID:???
市立第壱中学校
清掃時間 広い校内のそこかしこに喧騒が溢れている
廊下の隅で立ち話するアスカとヒカリ
 .アスカ「…ええ? デートぉ?!」
  .ヒカリ「コダマお姉ちゃんの知り合いなんだけど、どうしても、って頼まれちゃって。
     お願いっ、一日でいいから、付き合ってあげてくれないかなぁ」
 .アスカ「んー…ま、他ならぬヒカリの頼みだし、断るわけにもいかないか。
     しょうがない、行くわ」
  .ヒカリ「ほんと?! ありがと、アスカ! 助かったわ」
教室内で箒チャンバラに興じているトウジとケンスケ
渋々付き合っている霧亥
ときどき転じられる視線の先にはレイがいる
白い手が簡易合成槽から引き上げた清掃巾を絞る 指の間から断続的に落ちる液滴
 トウジ「…真面目にやらんかい!」
スパーンといい音をたてて霧亥の頭を直撃する箒
若干顔をしかめて振り返る霧亥
憤然としているトウジ
 トウジ「さっきからちっとも返事せんやないか! それだけやない、ここんとこ、
     いくら霧亥や言うてもボケッとしすぎや! 男ならもっとしゃきっとせんかい!」
頭を押さえ、黙って目を逸らす霧亥
半分呆れ顔で笑うケンスケ ちょっと真顔になる
.ケンスケ「ま、確かに最近、傍から見てても様子おかしいかもな。なあ、何かあったのか?
     授業中もそれ以外も、ずっと上の空じゃないか」
ケンスケを見る霧亥 ふと視線がその背後に動く
つられて振り返るケンスケ
同じく目を向け、ぎょっと目をみはるトウジ
教室入り口に怒りの形相で仁王立ちしているヒカリ
  ヒカリ「真面目にやるのは掃除でしょ…!」
無言で清掃作業に戻る三人
242log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:24:28 ID:???
本部第七実験場管制室
パイロット三人のハーモニクス試験に立ち会っているミサト
  .ミサト「…ねえ、こないだのサンプル、どうなった?」
伊吹の手元を覗き込んでいるリツコ
  リツコ「ああ、あれね」
  .ミサト「あれから、何かわかったの?」
  リツコ「少しはね。詳しいところはまだ、何とも言えないわ」
  .ミサト「何とも、ね。所詮あたしたちの科学じゃ、まだまだ使徒の謎には迫れないか。
     でも、あれはこれまでのサンプルとは全く違うわ。情報体となった使徒から、直接
     再形成された構造物。あれが使徒の、本当の姿かもしれない」
  リツコ「単に使徒が、あの状況下で最も適当な形態として選んだだけかもしれないわ」
視線を向けるミサト
コンソール画面を注視しているリツコ
  リツコ「憶測は禁物よ。使徒について、我々にわかっている事実はまだほんのわずかだもの。
     …ところで明日、何着ていく?」
  .ミサト「明日? …ああ、結婚式ね」
顔をしかめるミサト
  .ミサト「このご時世によくやるわよ、ほんと。んーと、ピンクのスーツはキヨミんときに着たし、
     紺のドレスはコトコんとき着たし…」
  リツコ「オレンジのは?」
  .ミサト「ああ、あれはちょっち、事情があって…」
  リツコ「太ったのね」
  .ミサト「〜ッ、そうよ。
     この際、新調するしかないかぁ…また出費になるけどねー…」
  リツコ「ご祝儀も、こう続くと馬鹿にならないわね」
  .ミサト「ったく、どいつもこいつも三十路が近いからって焦りやがって」
  リツコ「お互い最後の一人には、なりたくないわね。
     …三人とも、上がっていいわよ」
243log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:25:37 ID:???
本部エレベーター内の霧亥とレイ
お互い離れた隅に立ち、相手を見ない
刻々と変化していく階数表示
 霧亥「…明日、あの男に会う」
答えないレイ
 霧亥「何を話せばいいと思う」
  .レイ「それが訊きたくて、昼間からわたしのこと見てたの」
常と変わらない佇まいで答えるレイ だがその語調は質問でも肯定でもない
少し目を伏せる霧亥
 霧亥「…今日、掃除してたな。学校で」
  .レイ「…決まりだもの」
 霧亥「自分の住む場所以外で、建造物を手入れしてる人間は見たことない」
  .レイ「……」
 霧亥「お前はここの住人なんだな」
かすかに顔を上げるレイ
壁の下の方を見ている霧亥
短い沈黙
  .レイ「…何を言うのよ」
244名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/21(水) 12:30:02 ID:???
葛城の個人居住区 数時間後
帰宅し自室で着替えるミサト
半分閉じられた襖を隔てて、居間でペンペンと一緒に寝転がっているアスカ
霧亥の姿はない
 .アスカ「ねえ、ドレス、ほんとに買ってきたの?」
  .ミサト「ま、ね。後で見せてあげるわ。アスカも、明日はデートだっけ?」
 .アスカ「そ。親友からの頼みで仕方なく、ね。
     …あ、そうだ、あれ貸してよ。ラベンダーの香水」
  .ミサト「駄目」
 .アスカ「ええ〜、いいじゃない、ちょっとぐらい」
  .ミサト「子供のするもんじゃないわ」
 .アスカ「何よ、二言目には子供扱いして。そういう説教臭い台詞は、あたしじゃなくて
     あの馬鹿キリイに言ってよね。…そういえば、あいつは? 明日」
  .ミサト「彼も出かけるそうよ」
 .アスカ「じゃ、明日は三人ともいないんだ」
  .ミサト「そう。すまないけど、たぶん遅くなるから、夜は適当に食べちゃってて」
 .アスカ「はーい」
245log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:35:08 ID:???
自室のベッドで横になっている霧亥
ミサトの声がして、引き戸が開けられる
顔を向ける霧亥
回転した視界に入り込むミサトの姿 その周囲に重なる身体情報図像と多岐にわたる分析表示群
視線を据えたまま、何も言わない霧亥
感染痕跡を示すデータ列の向こうで厳しい目をしているミサトの顔
  .ミサト「まだ、そうやってるつもり」
黙っている霧亥
  .ミサト「この間の相互換実験…何があったか私にはわからないけど、だからって
     いつまでもそうして部屋にこもってばかりいるわけにはいかないのよ。
     アスカだってちゃんと勘づいてるわ」
廊下から暗い部屋の中に伸びているミサトの影
  .ミサト「関わるのをやめようとしたって、他人はいなくなりはしないわ。自分から
     一歩を踏み出さなければ、何も変わらないのよ」
 霧亥「…わかってる」
  .ミサト「これからわかるのよ。最初の一歩だけじゃなく、次の一歩を続けていくことが、
     何よりも大切なんだ、って」
顔をそむける霧亥
背後に、まだ部屋の戸口に立っているミサトの気配
  .ミサト「とにかく、明日は胸を張って行きなさい。
     久しぶりにお父さんと会うんだから」
戸が閉じられる 廊下を遠ざかっていく足音
じっとしている霧亥
居間からかすかに届く楽しげな雰囲気 新しいドレスを広げるミサトとアスカの笑い声
目を閉じる霧亥
246log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:37:27 ID:???
葛城の個人居住区 翌日
  .ミサト「それじゃあ」
 .アスカ「行って」
 霧亥「…きます」
玄関先で小首をかしげて見送るペンペン
電動扉が閉じる

つつがなく進行する結婚披露宴
一緒のテーブルで友人の晴れ姿を見ているミサト、リツコ
いい加減遅れて登場する加持 二人の揶揄に頭をかきながら席につく
手を伸ばし、だらしなく締められたネクタイをきちんと直すミサト
笑って二人を眺めるリツコ

颯爽と公共区画を歩くアスカ
すっかり舞い上がり、彼女を喜ばせようと一心に話しかけてくるデート相手
周囲からの羨望の視線 賞賛のささやき
華やかな笑顔を見せるアスカ

第41区画セカンドインパクト罹災者記念墓地
広大な磨耗平盤に整然と並ぶ墓標の列
簡素な碑の前に立つ霧亥と碇
長い沈黙
   碇「初めてか。ここに来るのは」
 霧亥「ああ」
   碇「この全ての人々が永遠に失われた。復元する手立てはもうない」
 霧亥「情報記録はないのか」
   碇「何も残っていない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」
広漠たる空間を吹き渡る風
247log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:38:38 ID:???
   碇「…結局、私は間に合うことができなかった。
     だが最後の悲劇が訪れるにはまだ間がある。それを食い止めるための砦がネルフだ。
     私はその確認をするためにここに来ている」
足元を流れ過ぎる塵埃
 霧亥「…なぜ、俺を呼んだ」
   碇「他の人間には無理だからだ。
     私を含め、誰一人として世界再建の要にはなれない。お前もその点は同じだが、
     お前に関しては、それはそれだけのことだ。我々とは違う」
黙り込む霧亥
墓地を後にする二人
風と塵埃を巻き上げ、区画の外れに降下するネルフのVTOL
窓越しにこちらを見ているレイの顔
 霧亥「…おい!」
振り返る碇
墓標群を背に立っている霧亥
 霧亥「俺は碇シンジじゃない」
眼鏡の反射ではっきりしない碇の表情 拡大表示されたその両目を凝視する霧亥
わずかに逸れる視線
   碇「わかっている」
無言で背を向け、歩き出す霧亥
   碇「霧亥」
足を止める霧亥
まださっきの場所でこちらを見ている碇
   碇「機能の再構築は済んだようだな」
衝動的に向き直る霧亥
視線だけを返し、機に乗り込む碇
再び歩き出す霧亥を残して離昇していくVTOL
248log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:40:37 ID:???
 .アスカ「たっだいま〜。あーあ、しっかり夕飯までおごらせるつもりが、当てが外れたわ。
     ほんっとツマンナイ子なんだもの。あんまり退屈だから、新型の探査体打ち上げの列に
     並んでる間に置いてきちゃった。ねえ、キリイ?」
居間に入ってくるアスカ
誰もいない室内を目にして立ち止まる
 .アスカ「…何よ。いないならいないで、連絡ぐらい入れときなさいよ」
テーブルの上に簡単な食事の支度
置き書きの類はない
静まり返ったダイニングにしばらく佇んでいるアスカ

披露宴の後、バーで飲み直しているリツコと加持
  リツコ「ミサト、いい加減飲み過ぎね」
 加持「自分でも歯止めが利かないのさ。はしゃぐ自分を抑えようとして、また飲んでる」
  リツコ「さすがに一緒に暮らしてた人の言うことには重みがあるわね」
 加持「…あれは、一緒に暮らしてたなんてもんじゃないよ。ままごとみたいなものさ。
     さて、鬼のいぬ間に、だな」
リツコの方に小さな猫の置物を滑らせる加持 受け取って意味ありげな視線を送るリツコ
  リツコ「京都、何しに行ってきたの」
 加持「あれ? 松代だよ、その土産」
  リツコ「ごまかしても無駄。あまり深追いすると火傷するわよ。これは友人としての忠告」
 加持「真摯に聞いとくよ。…どうせ火傷するなら、君との火遊びがいいな」
  .ミサト「花火でも買ってきませうか」
席を外していたミサトが戻ってくる それぞれに顔を向ける二人
  .ミサト「ほんっと変わんないわね、そのお軽いトコ」
 加持「変わってるよ。生きるってことは、変わるってことさ」
視線を交わす二人を見つめているリツコ
  リツコ「ホメオスタシスとトランジスタシスね」
  .ミサト「何? それ」
  リツコ「今を維持しようとする力と変えようとする力。その矛盾する二つの性質を
     同時に共有してるのが、生き物なのよ。…さて、そろそろ帰らなきゃ。仕事山積みだわ」
  .ミサト「え…、そう?」
  リツコ「ええ。じゃ、また明日」
249log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:41:24 ID:???
 霧亥「…ただいま」
ダイニングを通り抜け、居間に入ってくる霧亥
ペンペンと一緒に背を向けて寝転がっているアスカ 漫然と雑誌をめくっている
一瞥し、自室へ向かおうとする霧亥
 .アスカ「待ちなさいよ」
 霧亥「…なんだ」
 .アスカ「どこ行ってたのよ、こんな遅くまで」
 霧亥「…別に」
一瞬頁を繰る手の動きが止まる
 .アスカ「…あっそ。
     食事、先に済ませちゃったわ。食べたいんなら自分で勝手にやって」
 霧亥「いや。いい」
振り返るアスカ
既に霧亥の姿はない

深更 人気のない街路を行くミサトと加持
森閑とした重層都市の底を歩いていく二人
ふいに立ち止まるミサト 振り返る加持
静かな夜道に弾ける激昂
歩み寄る加持 激した言葉を自分へ放ち続けるミサト
一歩踏み出す加持
唐突に二人の影が重なる
加持の背中へ回されかけ、けれど抱きしめることなく下ろされるミサトの両腕
250log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:42:11 ID:???
騒がしい気配が近づき、玄関の扉が開く
介抱しているらしい加持の声とミサトの呻き声
顔を出し、すっかり酔い潰れたミサトの惨憺たる有様に沈黙するアスカと霧亥
大騒ぎのあげくミサトを自室に寝かしつける三人
 加持「いやー、助かった。そこまで来てんのに、道で寝るって聞かなくてさ」
 .アスカ「しょうがないわね、ミサトは。明日も仕事だってのに。
     そうだ、せっかくだから加持さんも泊まっていけば? 部屋はあるし」
 加持「おいおい、この恰好で本部に行くわけにいかないだろ」
 .アスカ「え〜、大丈夫よ。ねぇ、加持さんってばぁ」
甘えたしぐさで加持の腕に抱きつき、ふと立ち止まるアスカ
手をすり抜けていく加持の腕
 加持「はは、また明日な。じゃ、葛城のこと頼んだぞ」
 霧亥「ああ」
玄関扉が閉まる
振り返る霧亥
怖いような顔で廊下に立ちつくしているアスカ
 霧亥「…どうした」
 .アスカ「…、別に」
くるりと身をひるがえして自室に駆け込むアスカ
ベッドに身体を投げ出す
 .アスカ(…ラベンダーの、香りがした)
251log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:43:55 ID:???
壱中 翌朝
出席を取る教師の単調な声
頬杖をつくアスカ
 教師「綾波…、綾波は、また休みか?」
窓の外を眺めている霧亥

セントラルドグマ大深度地下
広大な円形の一室の天井全体を占める、物理脳を思わせる有機的な構造物
部屋の中央に立つ碇
構造物中心から床に伸びている細長い円筒形の液槽
まぶたを開き、LCLの中で微笑むレイ
微笑を返す碇

ターミナルドグマ
区画CL3 LCL製造施設
警備装置に認証カードを通そうとした加持の手が、ふいに止まる
後頭部に押し当てられた銃口
背後に立つミサト
黙笑する加持
  .ミサト「これがあなたの本当の仕事。それともアルバイトかしら」
252log.15 嘘と沈黙:2005/12/21(水) 12:49:36 ID:???
 加持「…どっちかな」
  .ミサト「昨日のお礼にチャラにするわ。でもこのまま続けてると、…死ぬわ」
 加持「碇司令ならとっくに知ってるよ。まだ行けるさ」
  .ミサト「ネルフを、甘く見ないで」
固く押し付けられる銃口
 加持「葛城に隠し事をしてたのは謝るよ。だが司令とリッちゃんも、君に隠し事をしてる。
     それがこれさ」
一気にカードを通す加持
多重安全装置が解除される重い連続音
ミサトの目の前に開かれていく広大な空間
微光を放つLCLの水面の向こうにそびえる磔刑の巨人
白く特徴のない胴部は腰の下で途切れ、末端からごく小さな脚が幾組も突き出している
胴部中央に打ち込まれた巨大な槍
のっぺりした赤い十字架の表面を伝って下方の貯蔵槽へ流れ落ちるLCL
我知らず銃を下ろすミサト
  .ミサト「…これは…エヴァ? …いえ、違う」
一閃する南極の記憶
  .ミサト「…、まさか…!」
 加持「15年前、セカンドインパクトを起こしたアダム。その復元体がここにある」
  .ミサト「アダム…? あの、第一ネット端末遺伝子が…?!」
巨人を見据える二人
  .ミサト「ネルフ…確かに私が考えていたほど、甘くはないわね」


log.15 終
駄目だもう全然台詞覚えてない
DEATHのフィルムブック編集者は神 ていうか摩砂雪さんが神なんだね
>237 読んでくれてサンクス あれってレールガンか何かじゃなかったっけ? 9JO周辺を遥かに越える津波の輪燃え
>238 ヽ(`Д´)ノ でもサンクス
253名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/21(水) 12:58:59 ID:???
ずっと言い忘れたけど第拾話で発令されたのってD-17じゃないよね
あれAのいくつだっけ?51?
とりあえず突っ込まないでくれた優しい人々に感謝します
254名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/22(木) 14:13:54 ID:???
全然ネタスレっぽくないな
つまんね
255名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/28(水) 08:21:18 ID:???
保守
256名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/28(水) 22:02:35 ID:???
257名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/12/29(木) 14:46:49 ID:???
A-801はEOEすよ?
258名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/06(金) 10:10:58 ID:???
test
259名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/14(土) 16:16:34 ID:???
捕手
260名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/14(土) 22:17:38 ID:krW7ZsWN
シシシ…期待してageさせてもらうぜ…
261名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/14(土) 22:27:13 ID:MpGe0C9x
全部見てないが、同じ職人として頑張って欲しいッス
262名無しはたぶん三人目だから…:2006/01/20(金) 02:27:45 ID:tJ/9YueE
ホシャゲ
263名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/20(金) 08:34:18 ID:???
圧縮があったな。
264名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/25(水) 09:42:37 ID:???
五週間経過

保守してくれた方々、ありがとうございました
心から感謝します
>254
君もありがとう けっこうマジで
全然反論できない

続くかどうかはわからないが再開↓
265log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 09:51:31 ID:???
戦闘形態の第三新東京市
無音の市街で各個待機するエヴァ三機
隔絶されたエントリープラグ
発令所からの指令と状況伝達が変調音声で響く
直上に輝く超構造体の遠光
 青葉『西区の住民避難、完了まであと十分』
 日向『目標は依然、パターンオレンジのままです』
  .ミサト『三人とも、わかってるわね。
     住民の退避が完了するまで戦闘は避けて。距離を保ったまま、目標を監視』
人影のない中央市街
上空に浮かぶ黒白縞の図形の描かれた巨大な球体
球体の市内侵入に合わせ、兵装構造体の陰を移動する各機
街の各所に濃い影が溜まっている
266log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 09:53:46 ID:???
29時間前
葛城の個人居住区 ダイニング
勢いよく遮蔽カーテンを押し開けるアスカ
 .アスカ「あっつーいッ!!
     何考えてんのよこの馬鹿、シャワーで火傷するとこだったじゃない!」
コーヒーカップ片手に顔を上げるミサト
無言で目を向ける霧亥
 .アスカ「ったく何度言ってもわかんないんだから! それから、シャンプーなくなってるから、
     新しいの買っといてって言ったでしょ!」
 霧亥「…帰りに行っておく」
 .アスカ「それだけ?! あんたね、一言ぐらい言い訳するとか、なんか言い返したらどうなのよ!
     いっくら人のことに興味ないからって、無関心にもほどがあるわ!」
黙って食器の片付けに戻る霧亥
バスタオル姿で憤然と人差し指を突きつけるアスカ
 .アスカ「ほら、また避ける! 消極的拒絶っていうか、そういう態度を取り続けることで、
     他人と関わりたくない自分を既成事実化してるだけじゃない! おまけに、それが
     周りにも暗黙の了解を強いてるってことに無自覚な時点で、十倍タチ悪いわ!」
  .ミサト「まぁまぁ、霧亥君だって悪気があるワケじゃないんだし」
 .アスカ「甘いっ! ミサト、最近キリイに甘すぎるわよ!
     自分が保護者の前に監督者だってこと、忘れてるんじゃないの?! …うまく加持さんと
     よりが戻せたからって、他人に自分のシアワセ、押し付けないでよね!」
  .ミサト「ちょっとちょっと、いくらなんでもそれはないわよ」
ミサトの個人回線から発信音 自動的に録音モードへ
 加持『や、先日はどうも。いい店見つけたんだ、今晩どう? じゃ』
半笑いで固まるミサト
みるみる吊り上がるアスカの両目
 .アスカ「はッ、所詮どいつもこいつも同じ穴のムジナ! 偽善的ィ、反吐が出るわッ!!」
音高く叩きつけられるカーテン
267log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 09:56:56 ID:???

兵装施設側壁にはりついて球体の動静を窺う初号機
  .ミサト『レイ、援護位置へは?』
  .レイ『あと四百です』
  .ミサト『アスカ?』
 .アスカ『もう、そんなに早く行けるわけないでしょ!』
専用周波帯を渡る交信
初号機の視覚を通して目標を追視する霧亥
プラグ内部動作機構のかすかな唸り 可聴域外で長く波打つ都市の背景電磁放射
  .ミサト『霧亥君、現状維持よ。まだ動かないで』

15時間前
ネルフ本部 パイロット用ロッカールーム
妙に明るい声で一人芝居しているアスカ
 .アスカ「…んじゃない、最近のキリイ? ついにこの私を抜いて、シンクロ率ナンバー1!
     相変わらず不景気そうな顔してるけど、案外、内心じゃ喜んでたりして? してるわよねー、
     そうよねー、何しろ文句なしのトップだもの。でもでも、ここまであっさり抜かれちゃうと、
     正直ちょーっとクヤシいわよね。んー、ま、これからは使徒殲滅はあいつに任せて、
     あんたとあたしもラクできるってことかしら? ほーんと、エヴァがなければ無理、なんて
     言ってたくせして、晴れてそのエヴァとも相性バッチリ、どっこも問題ないわけだしさぁ。
     それに万が一エヴァがやられてももう安心、何しろ、あの重力子放射線射出装置で
     一人で戦闘続行可能! 強い、強すぎる! ああっ、無敵のキリイ様ぁ〜」
先に着替えを終えて立ち去るレイ
  .レイ「さよなら」
扉の閉まる音
ポーズとったまま取り残されるアスカ
きつく唇を噛み、ロッカーに拳を叩き込む
268log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 09:58:15 ID:???

プラグ正面モニタに実距離表示された球体の光学映像
映像の周囲に展開する網膜表示群と各種解析帯
  .ミサト『…大丈夫、霧亥君?』
ミサトの声に、わずかに凝視を解く霧亥の目
両手が軽く開かれて操縦桿を握り直す
  .ミサト『目標に未だ変化は見られず、よ。慌てないで行きましょ』
球体が建造物の反対側に入り、監視位置を変える初号機
隙のない動作

24分前
 日向「分析パターン、オレンジ。使徒との断定はまだ不可能です」
 青葉「得られる情報が少なすぎますからね。未だ、光学映像以外のデータは取得できません」
  リツコ「あるいは、そもそも分析可能な実体ではないのかもしれないわね」
  .ミサト「MAGIシステムの見解は?」
 伊吹「MAGIは、判断を保留しています」
  .ミサト「…うかつに手出しできない、か」
エヴァ各機からの通信画像に向き直るミサト
  .ミサト「聞いての通りよ。全住民の退避が完了し次第、目標に対し一機が先行。残り二機は
     その援護、および万一に備えてバックアップに回ってもらうわ。
     で、先行する一機だけど…」
 .アスカ『はーい先生、そういう大役はキリイ君がいいと思いまーす!』
元気よくミサトを遮るアスカ
眉をひそめる霧亥
 .アスカ『正体不明の敵に接近する危険な任務。これはもう、成績優秀・勇猛果敢、シンクロ率
     ナンバー1の殿方の役目でしょ? それとも、実戦はまだ自信ない?』
269log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 09:59:31 ID:???
喋り続けるアスカを一瞥し、再び正面を向く霧亥
 霧亥『…黙ってろ』
 .アスカ『?! 何よ!』
 霧亥『葛城、後衛二機の配置は決まってるのか』
唐突に振られてめんくらうミサト
  .ミサト「え…? あ、ええ、大体は」
 霧亥『こっちに送れ』
 .アスカ『〜ッ、ちょっと、無視してんじゃないわよ!』
振り返る霧亥
正視されて一瞬言葉につまるアスカ
 霧亥『惣流は後ろだ。状況が変化した場合、お前が一番対処が速い』
 .アスカ『……』
 霧亥『綾波、目標がシェルター集中区域に近い。退避の遅い地区を背に展開しろ』
  .レイ『わかったわ』
ミサトに向き直る霧亥
 霧亥『それでいいか、葛城』
  .ミサト「え…って、霧亥君? ねえ、ちょっと…」
真顔で頷く霧亥
 霧亥『先行する』
唖然とするミサトの前で、勝手に行動開始する画面の初号機
 .アスカ『…何よ、専横的態度! 弐号機、バックアップ』
  .レイ『零号機も、バックアップに回ります』
次々と続く二機
開いた口のふさがらないミサト
  .ミサト「…、あの子たち、勝手に」
  リツコ「ずいぶんはりきってるじゃない、霧亥君」
  .ミサト「駄目よ。あれじゃ今日は特に危なっかしいわ。…後で叱ってやらなきゃ」
面白そうな視線を向けるリツコ
  リツコ「…あなた、いい保母さんになれるわよ」
270log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:00:57 ID:???
隔絶されたエントリープラグ
ほとんど変動のない状況を伝える発令所からの電子化音声
弐号機と零号機が展開中とおぼしき方向を一瞥する霧亥
 青葉『…全住民の退避完了。各区シェルターの密閉を確認』
 日向『目標は未だ速度を保ち、市街中心部へ向け侵攻中』
  .ミサト『霧亥君、聞こえてる? 後衛がまだ予定位置に到達してないわ。手出ししないで』
LCLに満ちる微弱電磁場の揺らぎ
網膜表示に変化は認められない
  .ミサト『霧亥君?』
わずかに操縦桿を握りしめる霧亥の手
突然初号機が遮蔽物の陰から飛び出し、上空の球体へ連続して発砲する
回線を走り抜ける動揺
  .ミサト『…霧亥君!』
銃弾は球体を突き抜け、ついで球体そのものが消滅する
直後、初号機の影が瞬間的に膨張して非物質化 本体の脚を呑み込み始める
即座に足下へ発砲する初号機
弾は影の表面に接触すると同時に失速、音もなく内部に沈む
みるみる影に呑まれていく初号機
  .ミサト『どうなってるのッ!』
 青葉『接触点より、ATフィールドの発生を検知!』
 日向『目標の分析パターンが変化! オレンジから青に変わっていきます!』
  .ミサト『霧亥君?! 霧亥君、返事して!
     …レイ、アスカ、ただちに目標地点に急行、初号機を救出! 急いで!』
  .レイ『了解』
 .アスカ『了解ッ!』
プラグ内に反響する人々の声
影の境界面が初号機の頭部に達し、全ての外部信号が途絶する
孤立するプラグ
271log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:02:33 ID:???
 .アスカ「…あの馬鹿、模試だけ満点とったって何にもならないじゃない!」
初号機被襲地点
街路に生じた真っ黒い円の中へアンビリカルケーブルが際限なく引き込まれていく
到着したものの、とっさに立ちすくむ弐号機
頭上には再出現した球体
反射的に見上げ、はっとして自分の足元を見下ろす弐号機
 .アスカ「影?!」
飛びのいた直後、弐号機のいた地点に黒い円が開く
一気に拡大する黒い影の領域 範囲内の兵装施設が次々と平面下に沈み始める
慌てて手近な構造体によじ登る弐号機
頂上にたどり着いて呆然とするアスカ
 .アスカ「…街が」
広大な無光平面にその大半を覆われた第三新東京市 無力に傾いて半没した構造体群
影の境界ぎりぎりの地点に立ちつくしている零号機
上空より全市を睥睨する球体
感情を押し殺したミサトの声が一時撤退を命じる
272log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:04:40 ID:???

夕刻 影の外に佇立する零号機と弐号機
付近に引き上げられた先端のないアンビリカルケーブル
空しく続く初号機の捜索 市内外の走査に飛び立っていく探査体群
市内を見渡す高台に立つアスカ
 .アスカ「独断専行、作戦無視。あ〜あ、何が『黙ってろ』よ。言わんこっちゃないわ。
     ちょっと認められたからって、いい気になってはりきっちゃって。そのあげく、
     単機特攻、あっさり敵の罠にはまるんじゃ、まさにお話にもなんないってヤツ?
     ま、自業自得ね」
黒い影の領域を睨んだきり一言も発しないミサト
突然、アスカの正面に立ちふさがるレイ
口をつぐむアスカ
  .レイ「…あなたは、人に認められるためにエヴァに乗ってるの」
いつになく険しい表情のレイ
睨み返すアスカ
 .アスカ「違うわ。認めてもらうんじゃない、認めさせてやるためよ!
     適応拒否のキリイやあんたには、わかんないだろうけど!」
  .ミサト「やめなさい、二人とも」
振り返る二人
  .ミサト「…確かに独断専行としか言いようがないわ。
     だから、帰ってきたら叱ってあげなきゃ」
273log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:05:35 ID:???
荒漠たる空間に擱座している初号機
一面に広がる不定物質の起伏 遠方に断崖に似た構造塊の群れ
周囲には無残に潰され、破壊しつくされた巨大な残骸が折り重なっている
一体の頭部に深く突き立ったプログナイフ
分厚い塵埃の層の上、点々と初号機から離れていく足跡の列
上方を見上げている霧亥
渦巻く靄の向こうに天井はなく一面の白 光源の類は識別できない
振り返り、再び歩き出す霧亥
やがて断崖の陰に初号機が見えなくなる
274log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:08:27 ID:???

第三新東京市 深夜
大型投光機の強烈な光の下、主要スタッフを前に説明しているリツコ
  リツコ「…目標は球体の影。厚さ数ナノメートルの極薄の空間を内向きのATフィールドで支え、
     本体はその内側にひそんでいるの。影を通過した先は、ディラックの海と呼ばれる
     虚数空間を経て、恐らくは別の宇宙に繋がっていると考えられるわ」
走り書きの記号と模式図で埋まった簡易スクリーン
  リツコ「本体への回路は普段は閉じられていて、その影のみがあの球体となって見えているの。
     実体はないわ。目標に干渉できるのは、虚像が消え、虚数回路が開くわずかな間だけよ」
顔をそむけたまま呟くアスカ
 .アスカ「…そんなの、どうしようもないじゃん」
硬い表情のミサト
  .ミサト「初号機の生命維持システムは?」
  リツコ「霧亥君がむやみに初号機を動かさず、おとなしく生命維持モードで待っているなら、
     理論上は16時間程度までもつわ」
  .ミサト「その後は?」
答えないリツコ
押し黙るミサト
両肘を抱いて視線を逸らすアスカ 一人、遠景の球体を見つめているレイ
275log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:09:16 ID:???

構造塊深部
真っ暗に閉ざされた亀裂の奥に佇む霧亥
前方の床面に横たわる人型 損傷が激しい
無意識に懐に手をやりかけて下ろし、歩み寄る霧亥
人型の彫像のような頭部にわずかに活性が戻り、目が見上げる
額の標章を見つめる霧亥
 霧亥「…統治局」
目を伏せる代理構成体
276log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:10:41 ID:???

  .ミサト「…初号機の、強制サルベージ?」
  リツコ「ええ。
     現存する全てのN2鋼弾を、一斉に目標に投下。同時に残るエヴァ二機がATフィールドを展開、
     爆発のエネルギーを集束することで、目標本体にごく短時間だけ干渉し、初号機を強制的に
     サルベージするの。もちろん機体は大破するでしょうけど、初号機を完全に失うことだけは
     避けられるわ」
冷徹な語調のリツコ
ただその顔を凝視することしかできないミサト
  .ミサト「大破って、…それじゃ、中のパイロットが」
目をみはり、静かに激昂するミサト
  リツコ「…大丈夫。霧亥君は必ずサルベージするわ。初号機とともに、最優先でね」
  .ミサト「…!」
ミサトの手のひらがリツコに飛ぶ
数秒睨み合う二人
頬を押さえ、先に目を逸らすリツコ
  リツコ「…ミサト、私を信じて」
無言のミサト
きっと顔を上げるリツコ
  リツコ「…今作戦は技術部の全面主導のもとに行います。当然零号機、弐号機の指揮権も
     こちらに移ることになるから、そのつもりで」
きびすを返し、足音高く去っていくリツコ
動かないミサト
  .ミサト(…渡された資料は一部に過ぎないわ。リツコは私の知らない以上の何かを知ってる。
     エヴァ、そして、ネルフが人間扱いしようとしない、サードチルドレンについても)
277log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:12:21 ID:???

   霧亥「ここで何が起きている」
 構成体「…我々は閉鎖階層内部とコンタクトするために、強制干渉体に秘匿構造を挿入した」
彼方で断続的に響く轟音
周囲を見回している霧亥 暗がりの奥にかすかに見分けられる有機的な構造
 構成体「内挿構造は独立して発動し、干渉体の階層内への実体化と同時に私が生成された。
      だが、複数の防護処理にもかかわらず干渉体内部機構がこれを検出し、攻撃用連続体を
      起動した。今は先ほどの君との戦闘のためにこちらを見失っているが、あくまで
      一時的な状態にすぎないだろう」
浅い呼吸を繰り返す代理構成体
断崖の切れ目に覗く空白の広がりを見上げる霧亥
   霧亥「ここはまだ使徒の内部か? どうすれば出られる」
 構成体「この空間は干渉体が不安定ながら接続に成功した場所であり、干渉体そのものではない。
      だが干渉体と同様の機能を持つ君の複製体なら、本体と何らかの接触を行うことによって
      恐らくは脱出することも可能だ」
若干困惑顔になって後方を振り返る霧亥
   霧亥「…もう動かない」
 構成体「それは問題ない。あの複製体は、既にある程度君との互換性を確立している」
見下ろす霧亥
半濁した目で静かな視線を向ける代理構成体
 構成体「もうあまり時間がない。現在までにセーフガードによる周辺区域の奪還は成功していない。
      外部侵攻が開始される前に現行の階層内システムの進行を止められなければ、過去に
      ただ一度行われ、階層を閉鎖した接続が、ネット端末遺伝子を持つ人間によるものだったのか
      どうかを確かめることすらできなくなるだろう」
再び遠く地響きが起こり、次第に近づいてくる
鋭く顔を上げる霧亥
 構成体「…まもなく干渉体内部機構がこの座標を特定する。…ただちにここを離れ、
      初号機を確保することを勧告する」
振り向く霧亥
既に生気もなく宙を見つめている代理構成体
無言で背を向け、歩き出す霧亥
278log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:13:55 ID:???

仮設指揮拠 深更
作戦説明を受け、搭乗機へ向かうアスカとレイ
双方無言のまま仮設昇降機の前まで来る
そのまま零号機へ向かおうとするレイ
 .アスカ「ねえ」
振り返るレイ
投光機の明かりの外を見ているアスカ
 .アスカ「落ちたのがあいつじゃなかったら、どうなってたと思う?」
立ち止まるレイ 少し目を伏せる
  .レイ「…エヴァを失うことはできないわ」
横顔を向けたまま、少し厳しい目つきになるアスカ
 .アスカ「そうじゃないわ。
     もしあんたか私だったら、恐らく回収時の生死は、問題にされなかったはずよ」
固く両腕を掴んでいるアスカの手
指に力がこもる
 .アスカ「…でもあいつは違う。あいつは、救出されるのよ。エヴァと一緒に」
見つめているレイ
 .アスカ「…どうして…!」
吐き捨てるように呟くアスカ
レイの視線がふっと流れる
  .レイ「救出するわけじゃないわ」
振り向くアスカ
背を向けているレイ
  .レイ「そういうことを、考えなくて済むだけよ」
279log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:14:59 ID:???

構造塊外端の暗い峡谷が切れる
澱んだ風の渦 電光をはらんで荒れ狂う外の靄
舞い上がる塵埃の幕が遥か頭上の知覚処理的空白を隠す
立ち止まる霧亥
谷の外を埋める異様な巨躯の群れ
いずれも使徒と類似した形態 霧亥の姿を認めてゆっくりと頭部を向ける
背後で構造塊の一角が吹き飛ぶ
崩落する破片の中から現れるもう一体の攻撃体 片手に掴んだ代理構成体を一息に握りつぶす
かすかに目元を険しくする霧亥
地響きが再開する 不穏な有機音の連続
一斉に動き出す攻撃体群

第三新東京市 払暁
市の全周に展開された都市連軍重爆撃隊
都市の上部を横切る軌道に列をなしている戦闘車輌 いずれも射出態勢
影に覆われた街の外縁に立つ零号機と弐号機
空間に満ちる交信の電子ノイズ
仮設指揮拠より全市を見渡すリツコ 背後に立つミサト
  リツコ「…時間だわ。
     始めましょう。霧亥君が無事でいる可能性が、まだあるうちに」
280log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:16:21 ID:???

複数の腕が振り下ろされる
堆積物質を噴き上げて破裂する床面
頭を庇って転がる霧亥 その姿が土煙の中に見えなくなる
目標を見失って辺り一帯に無意味な攻撃を始める攻撃体群
埃幕に紛れて身を起こし、波打つ平原を走り出す霧亥
と、目の前に連続して太い突起が突き出す
一瞬の静止 表面が大きく泡立ち、無数の人型が生成されていく
焦りの色を浮かべるものの、すぐに柱群を避けて走り出す霧亥
形成完了した大群が次々に追撃に入る
揺れ動く地面 尖った細長い手がすぐ後ろまで迫る
瞬間、衝撃とともに背後の空間が横殴りに一掃される
振り返る霧亥
割れる靄の渦 薙ぎ倒された群れを踏みしめ、頭をもたげる初号機
眼光が霧亥を捉える
声もなく見つめ返す霧亥

オペレータ『全機、投下位置』
オペレータ『エヴァ零号機、および弐号機、ATフィールド展開準備よし』
   リツコ「了解」
黙して見守っているミサト
そのとき、市主要構造体全体が大きく震動する
281log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:17:39 ID:???
  .アスカ『何なの?!』
オペレータ『目標全域で、同様の内部衝撃を確認!』
オペレータ『各車輌、現状を報告せよ。投下命令は下っていない』
   リツコ『どういうことなの?! …まだ何もしていないのよ!』
大きく乱れる交信群
全作戦員の注視する前で、軋みをあげて影の面を縦横に割っていく長大な亀裂
上空の球体が黒濁し、内側から突き破られる
激しく宙に噴き出す使徒の血
   .ミサト『…まさか、初号機が?』
   リツコ『あり得ないわ。初号機のエネルギーはゼロなのよ!』
響き渡る咆哮
おびただしい血しぶきの中から使徒の身体を破り姿を現す初号機
みるまに真っ赤に染まる黒球 影の面に弾け散る大量の血の雨
戦慄する人々
めりめりと球体を引き裂き、地響きとともに都市に着地する初号機
すさまじい畏怖が総員を支配する
一人、無言で初号機を見つめるレイ
  .アスカ『…私、あんなのに乗ってるの…?』
炯々たる眼光を放ち佇立している初号機

  リツコ「…なんてものを、…なんてものを再現してしまったの、私たちは」
立ちつくしているリツコ
醒めた目でその後ろ姿を見ているミサト
  .ミサト(…初号機が、単なる第一復元端末遺伝子の再現なんかじゃないことはわかる。
     だけど、ネルフは使徒を全て倒した後、エヴァをどうするつもりだというの…?)
282log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:19:00 ID:???

数十分後
再固定された初号機から引き出されているプラグ
強制パージされるハッチ
排出されるLCLの水溜まりを踏んで駆け寄ってくるミサト
身を起こし、プラグの外に降りる霧亥
言葉もなく向かい合うミサト
大小の傷で覆われたスーツや顔に手を伸ばし、触れる代わりに、唐突に全身で抱きしめる
嗚咽するミサトを困惑顔で見つめる霧亥
そっぽを向いているアスカ
 .アスカ「…叱るんじゃなかったの?」

同所 数時間後
洗浄処理を受ける初号機を見守る碇とリツコ
  リツコ「…私は今日ほど、このエヴァを怖いと思ったことはありません」
無言の碇
  リツコ「もしかすると、エヴァは私たちを憎んですらいるのかもしれません。
     …霧亥君やレイが我々の秘密を知ったら、許してくれないでしょうね」
283log.16 死に至る病、そして:2006/01/25(水) 10:20:22 ID:???

同刻
病室に一歩入って、立ち止まるレイ
既にベッドから出て身支度を整えている霧亥
  .レイ「…まだ寝ていた方がいいわ」
 霧亥「別にどこも悪くない」
銃を取り上げ、懐にしまう霧亥
黙って佇んでいるレイ
視線に気づいて振り返る霧亥 注視に近い一瞥を残して背を向けるレイ
  .レイ「…今日は休んで。あとは私たちで処理するわ」
少し顔をしかめる霧亥 後を追おうとする
 霧亥「おい」
  .レイ「もう、あまり時間はないわ」
立ち止まる霧亥
振り返ることなく病室を出ていくレイ
扉が開き、向こうにぎょっとした顔になったアスカが見える
レイを通してすぐさま通路の死角に引っ込むアスカ
しばらくそっちに目を向けている霧亥
やがて視線を逸らす
反応がないのをいぶかってこっそり室内を覗き込むアスカ
少し待って軽く眉をひそめ、きびすを返す
佇んだまま、何もない病室の一点を凝視している霧亥
視線の先にはケイジに固定された初号機がある


log.16 終
284名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/01/25(水) 12:06:32 ID:???
キタキタキタキタ───────☆
霧亥!霧亥!霧亥!
285123:2006/01/28(土) 17:37:36 ID:???
乙!
286log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:15:05 ID:???

審問廷に立つミサト
   声「まず、この場に初号機パイロットではなく、君がいる理由を述べたまえ」
  .ミサト「はい。
     初号機のパイロットは現在、先の戦闘における情報的・心理的混乱の影響下にあり、
     審問には不適当な状態であると判断しました。代理人として、私がお答えします」
   声「では聞こう、代理人・葛城三佐。
     先の第十二使徒襲来においては、使徒が我々人間に対し、直接的なコンタクトを試みたと
     考えられるのではないかね?」
  .ミサト「初号機の戦闘記録からは、そのような形跡は読み取れません」
   声「今回の接触には、使徒がエヴァを自ら取り込もうとするという全く新しい側面が認められた。
     この傾向が、今後予想されうる第十三使徒以降の襲来においても継続される可能性は?」
  .ミサト「これまでのところ、使徒の組織的連携は否定されています」
   声「使徒の出現に先立ち、階層内に何らかの情報的擾乱、もしくは主要ハードウェアにおける
     機能活性の変動は見られなかったかね?」
  .ミサト「現在の我々の探査地図はいまだ不完全であり、階層全域の詳細な構造を観測、把握するには
     至っていません。また、都市構造体のハードウェアについては未だ双方向アクセスは確立
     されておらず、その機能の全容はおろか、正確な数や所在すら不明なのが現状です」
   声「では、使徒の残存構造から抽出した情報に、背後に何らかの組織の介在を示唆する部分は?」
  .ミサト「…それは、どういうことでしょうか?」
   声「君の質問は認められていない」
  .ミサト「はい」
   声「以上だ。下がりたまえ」
  .ミサト「はい」
287log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:17:24 ID:???
ネルフ本部主作戦室
一様に険しい顔を揃えた発令所スタッフ
中央の碇
   碇「残されたのは、この遠隔探査体からの映像だけか」
 青葉「はい。他は全て、第二支部とともに消滅しています」
床面に投影された巨大な実験施設の光学遠像
大量の電源ケーブルが引かれ、増設軌道が集まっている
 伊吹「まもなく問題の場面です。…あと3秒、2、1、コンタクト」
一面ノイズに変わる映像
2秒ほどで回復する
施設のあった場所に真っ黒に口を開けた縦穴 周辺設備は跡形もなく吹き飛んでいる
嘆息を洩らす冬月
 青葉「支部施設を含め、半径4kmが完全に消滅。構造体に深さ約20kmのほぼ垂直な穴が開いています」
腕を組み、軽く顎に触れるミサト
隣で口を開く加持
 加持「…北米大平盤のネルフ第二支部と言えば、確か米国が強引に主導権を握ったところだっけ?」
  .ミサト「ええ。弐号機に続く制式型になる、エヴァ参号機と四号機を建造、保持してたわ」
 伊吹「スケジュールから見て、恐らく四号機へのS2機関搭載実験が行われていたと考えられます」
288log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:18:19 ID:???
  .ミサト「S2機関って、…ドイツで再現に成功したっていう、あの?」
  リツコ「そう、使徒の動力源とされる、半永久機関。
     でも再現が完璧だったのかどうかは、四号機と一緒に闇の中ね。夢は潰えたわ」
  .ミサト「よくわかんないものを無理して使うからよ」
 日向「推測される事故の原因は、設計段階の欠陥から人為的操作まで、およそ一万八千通りです」
再び溜め息をつく冬月
   碇「…原因の特定は、まず無理だな」
 冬月「問題は、四号機とともに建造された参号機だ。米国は都市連調査団の受け入れと引き換えに、
     参号機をここへ転属させることを主張している。恐らく数日中には、正式に決定が下るだろう」
  .ミサト「…危ないもんはウチに押し付けようって腹が見え見えね」
 加持「無理もないさ。あんな事故を起こされて、おまけに第二支部も消滅してしまった今となっては、
     エヴァを国内に擁することは明白なリスクでこそあれ、利点とはとても言えないからな」
 冬月「誰も自分の居住領域で、人類の命運を賭けた戦いなどしてほしくないということだよ」
 加持「しかし…ここに配備されるとして、パイロットはどうするんです? 確か、マルドゥックの
     報告書によるフォースチルドレン以降の適格者は、まだ見つかってないという話ですが」
さりげなく碇を一瞥する加持
微妙に表情を硬くする冬月とリツコ それとなくその変化を見て取るミサト
無表情に話を切り上げる碇
   碇「その件は急ぎ対処する。
     …第二支部の事故については、当分情報は伏せておいてもらう。参号機の到着、および
     それ以降の起動実験等に関しては追って通達する。以上だ」
289log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:19:12 ID:???

第三新東京市外縁部総合医療区 特別治療施設
無言で入院棟を歩くトウジ
通いなれた複雑な内部経路を過ぎ、目的の個室の前に立つ
ごく短い間そのまま佇んでいるトウジ
やがて扉を開け、あけっぴろげな笑顔で室内に歩み入っていく
290log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:20:30 ID:???
第壱中学校 一限目開始前の短い空き時間
後ろからつつかれて振り返る霧亥
 .トウジ「…霧亥、すまん、また宿題写させてくれ! この通りや!」
片手を上げて拝む真似をするトウジ
黙って学習用端末から外部端子を引っぱり出し、机の陰で渡す霧亥
もう一度片手を顔の前に立てて端子を受け取るトウジ いそいそと自分の端末に繋ぐ
ケンスケの席に目をやる霧亥
 霧亥「相田は?」
 .トウジ「ん? ああ、あいつは今日は自主休校や。新横須賀まで戦艦の追っかけやと。
     …よっしゃ、これで全部や。悪いなぁ霧亥、ほんまに助かったで」
 霧亥「…正答率は当てにならないぞ」
 .トウジ「そんなんワシも同じやからええんやって。さ、適当に何個か違う答えも書いといて、と。
     これでバレへん。完璧や、完璧」
微妙に呆れている霧亥
 霧亥「完璧がいいなら、次から惣流の解答にしろ」
目を剥くトウジ
 .トウジ「アッホ、あんなんにモノ頼めるかい! 一度やったら最後、どんな目に合わされるか…」
 .アスカ「…聞こえたわよ、あんたたち」
教室の反対側から恐ろしい視線を送りつけるアスカ
同時に何ともいえない顔になる二人
 .トウジ「…ほれ見ぃ、なんちゅう地獄耳や」
アスカの眉が思いっきりはね上がったところで、教師が入ってくる
なかなか静まらない教室にいつも通りヒカリの号令が響く
空っぽのレイの席を一瞥する霧亥
291log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:22:34 ID:???
旧プリブノーボックス管制室に立つ碇とリツコ
周辺の床に散らばる監視窓の残骸 割れた壁は凝泡材で粗く補修されている
  リツコ「最近のシンクロテストの傾向を分析したところ、サードチルドレンと初号機の
     組み合わせに関してのみ、ある明確なパターンが検出されました。
     言語基体、あるいは構成データのフォーマット変換には至っていませんが、初号機の
     基幹パラメータの幾つかが継続的に変更されています。ただし外部からの操作ないし
     該当する情報的干渉の痕跡は、一切認められていません」
前方に立つ碇の背中を見つめるリツコ
破壊された実験槽跡を眺めている碇
  リツコ「変更のパターンから推測される限りでは、目的は脳神経接続における不鮮明部分の同定と
     解消、より適切な接続相の模索。つまり、一種の内部調整と思われます。あるいは
     自律的な作用なのかもしれません」
   碇「サードチルドレンとの機能互換性を高めるべく、エヴァ自身が自らを再設定している。
     そういうことだな」
  リツコ「はい。これが当人の最近の変化と同期したものかどうかは不明です。しかし、一連の
     書き換えが、全て先の機体相互換実験の後に起きていることは事実です。…先の第十二
     使徒との接触以降、この傾向はさらに加速しています」
振り返り、先に立って歩き出す碇
   碇「サードチルドレンは不測要素だ。我々に可能なのは事実の追認でしかない。
     これまで通り、監視は継続する」
  リツコ「…レイと同じく、ですか」
無言の碇
292log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:26:43 ID:???
壱中 放課後
ざわつく教室内をひとしきり見回し、こっそり鞄を抱え上げるトウジ
 .トウジ「ほな、鬼に見つからんうちにワシは消えるで」
 霧亥「もう見つかってる」
 .トウジ「…何やて?」
視線で背後を示す霧亥
ぎくりと背中を固くし、心底苦手そうな顔で振り返るトウジ
学級日誌抱えて怖い顔で立ちはだかっているヒカリ
  .ヒカリ「鈴原、昨日も掃除さぼったでしょ! 黙って帰ろうったって駄目なんだから」
 .トウジ「…それぐらいええやんか、委員長」
  .ヒカリ「駄目に決まってるでしょう! それから、これ!」
 .トウジ「なんやねん、このプリント」
  .ヒカリ「綾波さん、ここのところずっと休んでるでしょ。鈴原、今週週番なんだから、
     帰りに綾波さんちに届けてあげなさいよ。絶対よ!」
嫌そうに視線を逃がすトウジに厳命し、ついでに隣の霧亥を睨みつけるヒカリ
  .ヒカリ「碇君も、何も考えずに毎日宿題写させてあげるの、よしなさいよね!」
同じく目を逸らす霧亥
不甲斐ない男子二名にきつい一瞥をくれ、怒ったようにきびすを返すヒカリ
 トウジ「くあー…とんだ災難や。ほんま鬼イインチョやな」
しばらくヒカリの背中を目で追っている霧亥 トウジを振り返る
 霧亥「…代わるか」
鞄に押し込もうとしていたプリントと、どうやら本気らしい霧亥を見比べるトウジ
ややあって破顔する
 .トウジ「…なんや、別に気ぃ使わんでええで。
     当番は当番やし…ん? そや、霧亥は綾波んち行ったことあるんやったか」
 霧亥「ああ」
しばし考えるトウジ
 .トウジ「そんなら、災難ついでに付き合ってもろてもええか?」
廊下から二人のやりとりを見ているヒカリ
教室を出ていく集団に交じって歩きながら、ヒカリの様子に気づくアスカ
293log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:27:49 ID:???
ネルフ本部 技術局地下開発施設
闇の中に吊り下げられたエントリープラグを眺める碇とリツコ
後端部分が赤く色別され、横腹には識別標とともに『Rei 01』の文字が刻まれている
  リツコ「これが、ダミープラグです。システム的には、まだ完全とは言えませんが」
   碇「…通常のプラグと同様の経路を通じて、エヴァに擬似信号を送り込む。信号を受け取った
     エヴァはパイロットが乗っていると錯覚し、起動する」
  リツコ「はい。ですが、我々の情報的本質、人をその個人たらしめる不変量の定量化は不可能でした。
     所詮は思考の真似事をするだけの、ただの機械です」
   碇「構わん。…エヴァが、問題なく動けばいい」

   碇「参号機の起動実験までに、実装は間に合うのか」
  リツコ「理論的には問題ありませんが、実動作にはまだかなりの不安が残っています。
     ダミープラグ単体での起動が成功する確率はほとんどありません。参号機に関しては
     ダミーではなく、現行の候補者の中から…」
   碇「…四人目を選ぶ、か」
  リツコ「一人、早急に“コア”の準備が可能な候補者がいます」
沈黙している碇
視線の先に直立する細長いLCL槽
広大な円形の部屋 頭上の巨大構造物が発する息づかいに似た低音の拍動
微光を放つLCLの中に漂うレイ
目を開いて碇を見つけ、かすかに微笑む
   碇「…任せる。だがダミーシステムの完成も引き続き急がせろ」
若干強い語調に眉を寄せるリツコ
   碇「レイ、上がっていいぞ。…食事にしよう」
碇の背中を見つめているリツコ
294log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:31:30 ID:???
旧居住区 レイの部屋
鍵のかかっていない扉を勝手に開けて中を覗き込む霧亥
後ろからやや及び腰でそれに倣うトウジ
 .トウジ「…なあ、出直さへんか? 留守みたいやないか」
 霧亥「知っている」
 .トウジ「知ってるて…ちょっ、こら、待たんかい霧亥!」
躊躇なく上がり込む霧亥を追いかけ、部屋に入るトウジ
室内のあまりの荒廃に愕然とする
 .トウジ「…ほんまにこないなとこに住んどるんか…?」
 霧亥「ああ」
プリントを簡易寝台の上に置き、周辺に散らかった包帯類を見回す霧亥
立ったまま落ち着かなげにしているトウジ 振り返って目を剥く
キッチンで発見した指定袋片手にゴミを拾い集めている霧亥
大いに慌てるトウジ
 .トウジ「〜ッッおい霧亥、そない勝手にさわって、怒られても知らんで!」
 霧亥「別に手伝えとは言ってない」
 .トウジ「あ、当たり前や! 掃除なんて、男のすることやない!」
無意味に力強く腕組みしてそっぽを向くトウジ
しばらくしてこっそり目を戻す
片付けを終え、キッチンで湯を沸かす霧亥 ほとんど使用形跡のない食器棚を物色している
やや顔つきを緩めるトウジ
 .トウジ「…ほんま、変わったなぁ」
ちょっと振り向く霧亥
295log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:33:44 ID:???
 .トウジ「霧亥や。初めて会ったときは、正直近寄るのも御免や思うとったけどな。
     自前の武器も持っとるし、ここで何世代ものほほんと定住してきたワシらとは
     全然違う生き方してきたわけやろ。…いくらパイロットや言うても、いざとなったら
     一人でこの街見捨てて逃げるんとちゃうんかて勘ぐっとったわ。人に守ってもらわんと
     あかんような連中のために、自分から何かするようにも見えへんかったし」
一脚だけある椅子にまたがり、背もたれに両腕を乗っけているトウジ
 .トウジ「ま、要するに余裕なんやろな、そないなことは」
答える代わりに玄関の方を振り向く霧亥
一拍遅れて扉が開く
闖入者二名を認めてわずかに表情を変えるレイ
慌てて立ち上がり、椅子の脚にけつまづくトウジ
  .レイ「…なに」
視線でプリントの束を示す霧亥
 霧亥「溜まってた連絡事項だ」
 .トウジ「い、委員長に頼まれたんや。…あ、いや、頼まれたのはワシやけどな」
片付いた床と湯気をあげ始めるケトルに目をとめるレイ
シンクの上に未開封の紅茶葉が置かれている
霧亥の腕掴んで下がらせるトウジ
 .トウジ「ワ、ワシは止めたんやで。せやけど、こいつが勝手にな…」
 霧亥「…重要そうなものはいじってない」
 .トウジ「んなもんわからんやないか。お前な、人の部屋なんやで、人の」
ちらりと視線を向け、言い合う二人の傍を通り過ぎて室内に入るレイ
思わず道を空ける恰好になる二人
296log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:35:09 ID:???
 .トウジ「…ほ、ほな、勝手に上がり込んですまん。ワシらは退散するよって、ゆっくり休み」
憮然とする霧亥を引きずって玄関に向かうトウジ
鞄を下ろして振り返るレイ
扉の閉まる音
加熱器を止め、靴を脱ぎ捨ててうつぶせにベッドに倒れ込むレイ
少しして頭を起こし、身体ごと横向きになって室内を見つめる
起き上がるレイ
キッチンに立ち、使い捨てのカップを探し出して試行錯誤しつつ紅茶を淹れる
入るのを待つ間にもう一度室内を振り返る
少し細められたレイの目 ものうげに視線が流れる
  .レイ(…わたしの、部屋)

ネルフ本部 参号機の配備にともない打ち合わせをするミサトとリツコ
  .ミサト「起動実験の日取りは決まったの?」
  リツコ「ええ。当初の予定通り、万一の事態を考慮して松代で行うわ」
  .ミサト「…ま、確かにいきなり本部で行うような愚は冒せないか。
     それはいいとして、パイロットは? フォースチルドレンが見つかったの?」
  リツコ「ええ。ごく最近ね」
  .ミサト「随分手回しがいいじゃない」
  リツコ「もともとある程度の最終候補者は決まってたのよ。その中から、最も可能性の高いと
     思われる人間を選んだだけよ」
  .ミサト「そう。何にせよ、作戦部としてはありがたい話ね」
視線を合わせることなく会話する二人
  .ミサト「で、その問題の適格者は?」
個人端末の画面をミサトに向けるリツコ
  リツコ「この子よ」
一瞬言葉を失うミサト 完全に虚をつかれた表情で画面を凝視する
  .ミサト「…よりにもよって、この子なの?」
297log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:36:14 ID:???
壱中 翌日
昼休みに入りざわついている教室
週番の仕事をやり忘れてヒカリに小言を食らっているトウジ
扉が開き、さっき出ていった教師が再び顔を見せる
 教師「鈴原、鈴原トウジはいるか? 至急校長室まで来なさい」
ぽかんとした顔になるトウジとヒカリ
  .ヒカリ「また何かやったの? 鈴原」
 .トウジ「いや…全然心当たりないわ」
心底見当がつかない様子で頭をかくトウジ
急に不安そうになるヒカリ 心配の色を覗かせてトウジを窺う
気づかずに霧亥の方を振り返るトウジ
 .トウジ「しゃあないな、行ってくるか。…おい霧亥、なんや呼び出されてもうたから、昼飯は
     ワシ抜きでええわ。ケンスケにも言うといてくれるか」
 霧亥「ああ」
さっぱりわけがわからないという顔で教室を出ていくトウジ
入れ違いに戻ってくるケンスケ
.ケンスケ「さーて、飯メシ、っと。…あれ、トウジは?」
佇んだまま、トウジの消えた戸口をいつまでも見つめているヒカリ
298log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:37:49 ID:???
数時間後
本部で定期シンクロテストを受けるパイロット三人
先の戦闘以来久しぶりに霧亥を抜き、シンクロ率首位の座に返り咲くアスカ
快挙を賞賛する周囲 得意満面で霧亥にいろいろ言いまくるアスカ あまり反応しない霧亥
いつも通り孤立を保っているレイ
解散してからも、取り戻した自信を確かめるように、何度も一人小さく頷くアスカ

本部 別階
休憩スペースで加持と行き会う伊吹
 加持「や、マヤちゃん、久しぶり。君も休憩?」
 伊吹「いえ、これから先輩と、松代の実験の準備についてミーティングです」
 加持「つれないなぁ。たまにはどう、お茶でも」
困ったような笑みを浮かべて身を引く伊吹
 伊吹「…そんなこと言って、葛城さんに怒られますよ?」
 加持「葛城は関係ないさ。一度君とはゆっくり話がしてみたくてね」
  .ミサト「あら、そう」
ぎくりと振り向く加持
かなり穏やかならぬ雰囲気で立っているミサト
 伊吹「…あの、じゃ、私はミーティングがありますから」
笑顔でそそくさと立ち去る伊吹
彼女が遠ざかるのを待って表情を改める二人
299log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:42:33 ID:???
 加持「…なんだ、こんなとこで。ひょっとして今の、けっこうマジだったとか?」
  .ミサト「ふざけないで。…マルドゥック機関、何か掴んでるんでしょ。フォースチルドレンが
     こうまで迅速に選出された理由は何?」
少し鋭い目をする加持
 加持「俺に頼るとは君らしくないな」
ひるまず見返すミサト
  .ミサト「なりふり構ってらんないのよ、最近」
真顔になってミサトの肩を掴む加持 自販機の側面に押しつけて顔を寄せる
 加持「…マルドゥック機関なるものは存在しない。背後で操ってるのは、ネルフそのものだ」
  .ミサト「ネルフ…碇司令が?」
 加持「そうだ。コード134を調べてみろ」
  .ミサト「134…霧亥君のクラスメートを?」
 加持「第四次選抜の最終候補者は、全てあのクラスの子供たちだ」
無言で瞠目するミサト
何事もなかったかのように身体を離す加持 自販機から飲料缶を二つ取り出し、片方を差し出す
 加持「さてと、用が済んだところで、ちょっと付き合わないか?」
  .ミサト「…悪いけど、仕事残ってるから」
受け取らずに立ち去るミサト
反対側の通路から現れる霧亥 遠ざかるミサトを見、加持に不審の眼差を向ける
苦笑いして缶を振ってみせる加持
 加持「よ。…どうだ、一緒にお茶でも」
300log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:44:58 ID:???
壱中 放課後
人気のない教室で一人、食べそびれた昼食を摂るトウジ
静まり返った校舎に射す超構造体の残照
ふと振り返るトウジ
戸口に立っているヒカリ
顔を戻し、再び食べ始めるトウジ
 .トウジ「…なんや、委員長かいな」
  .ヒカリ「鈴原、…お昼の呼び出し、何だったの?」
 .トウジ「…なんでもあらへん。これ食ったらすぐ帰るさかい」
  .ヒカリ「帰るついでに、教室のゴミ、捨てといてよね。鈴原、今週週番なんだから」
 トウジ「わかっとる」
少しの間迷っているヒカリ 視線は向けないまま、思いきったように口を開く
  .ヒカリ「…鈴原って、お昼、いつも購買部だよね」
 .トウジ「そやけど、それがどないしたんや」
  .ヒカリ「私んち、三人きょうだいでね、お弁当、いつも私が作るんだ。…だから、
     こう見えても、けっこう、料理得意だったりするのよ」
顔を上げるトウジ
教室の向こう隅を見ながら話し続けているヒカリ
  .ヒカリ「それで…三人分って、量が半端でしょ。いつもお弁当のおかず、余っちゃうんだ」
 .トウジ「…そら、もったいない話やな」
振り返るヒカリ
ヒカリを見ているトウジ
 .トウジ「残飯処理やったら、いつでも引き受けるで」
  .ヒカリ「…、うん」
はにかんだような笑顔になるヒカリ
ぎこちなく笑顔を返すトウジ ヒカリの笑みが広がる
  .ヒカリ「…じゃ、ゴミ捨て、忘れないでね」
 .トウジ「おお」
くるりと身をひるがえすヒカリ 小走りに廊下を遠ざかっていく足音
暗くなる天井を見上げているトウジ
301log.17 四人目の適格者:2006/02/02(木) 11:47:00 ID:???
加持のオフィスの前に立つアスカ
軽く深呼吸して気合を入れ、とっておきの人なつこい笑顔で扉を開ける
 .アスカ「加〜持さん! ねえ、何してるの?」
デスクの端末に向かっている加持の背中
 加持「アスカか? 今忙しいんだ、後にしてくれ」
一瞬唇を噛み、けれどすぐに屈託なさを取り戻すアスカ
 .アスカ「ええ〜、ここのところずうっとそれじゃない! いいでしょ、ちょっとぐらい!」
後ろから加持に飛びつくアスカ
 加持「あっこら、ほんとによせって…おい、アスカ!」
 .アスカ「どれどれ、何のお仕事? 
     何これ…4th? あたしたちの新しい仲間ね…、?!」
顔をこわばらせるアスカ
 .アスカ「…どういうことよ、これ…?!」

校舎裏 廃物処理装置の前に立つトウジ
投げ込んだゴミが分解される細かい振動音が響く
夕闇の降りる中、いつまでも処理装置の動作表示を見つめているトウジ


log.17 終
>284 >285 ありがとう
302名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/07(火) 01:56:01 ID:???
禁圧解除、あるのかな…?
GJ
303123:2006/02/08(水) 15:49:01 ID:???
トウジ…どうなるんだ……お疲れ様!次も気長に待ってるよ!
この板には俺の好きな職人さんがイッパイだぜ!
304log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 12:57:05 ID:???
階層の大構造を貫く都市連第五主幹軌道を疾走する大型重輸送車輌
増設された専用拘束骸殻で車体外に固定されたエヴァ参号機 
個縛部はいずれも起爆装置を兼ね、後部に搭載された緊急処理用のN2鋼弾に直結している
第三新東京市近傍めがけ加速する重車輌
巨大な都市構造体の間を電光が閃く

ミサトの個人居住区 朝
それぞれ出立の準備を終えて玄関先に立つミサトと霧亥
アスカの姿はない
  .ミサト「…じゃ、明日まで松代に出張だから。夜には加持が泊まりに来るし、いざってときには
     向こうと連絡もつくから、心配ないと思うけど。あさってには戻るわ」
頷いて目を逸らす霧亥
なんとなく見とがめるミサト
ごく軽く唇を噛みしめ、それから笑顔になる
  .ミサト「大丈夫よ。実験自体はMAGI2号の完全管制で行われるし、リツコだっているんだから。
     ちゃ〜んと参号機を起動させて、こっちに無事持って帰ってくるわよ」
 霧亥「…ああ」
まっすぐミサトを見上げ、身を返して先に出ていく霧亥
見送るミサト
扉が閉まると同時に表情が微妙に自分一人の時の顔へ変わる
  .ミサト「…結局訊かなかったか、誰が乗るのか、って。ま、あの子らしいのかもね」
  .ミサト(それとも、訊く必要がなかった…まさかね)
305log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 12:58:33 ID:???
壱中 朝礼前
定刻ぎりぎりに教室に姿を見せるアスカ
霧亥、そしてトウジにひどく真剣かつ敵意むき出しの視線を向け、無言で席につく
声をかけられないクラスメートら
異様な雰囲気を承知した上で傍観するケンスケと、ひたすら心配顔で見守るヒカリ

第三新東京市より松代へ向かう技術部専用車輌
  .ミサト「…参号機、大丈夫なんでしょうね」
  リツコ「心配なら立ち会う必要はないわよ。機材も人も充分に揃ってるもの」
  .ミサト「…、そういう意味じゃないわよ」
  リツコ「多少のリスクがあろうと、戦力増強は急務よ。それはわかってるでしょ」
  .ミサト「ええ。…エヴァを三機も独占か。その気になれば、階層を丸ごと破壊できるわね」
  リツコ「私たちがエヴァを使うのは、生き残るためよ。
     …それより、霧亥君には話したの。参号機のパイロットのこと」
返事がない
技術報告から目を上げるリツコ
装甲窓から輝度を増す超構造体発光軸を見ているミサト
  .ミサト「ん…戻ってからね」
  リツコ「遅くなればなるほど、よけいに話しにくくなるだけよ」
  .ミサト「わかってる」
小さく息をついて視線を戻すリツコ
それぞれの思考に沈む二人
306log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 12:59:35 ID:???
  .レイ「鈴原君」
昼休み 校舎屋上の手すりにもたれているトウジ
背後に立つ気配にわずかに顔を上げる
 .トウジ「なんや、綾波か。霧亥やったら、ここにはおらんで」
黙って後方に立っているレイ
姿勢を変えないトウジ
二人の視線の先に広がる第三新東京市の眺望
 .トウジ「…知っとんのやろ、全部。惣流のヤツも、なんやもう知っとるみたいやしな」
  .レイ「…うん」
 .トウジ「知らんのは、霧亥だけか」
答えないレイ
どこか達観したような顔をふっとほころばせるトウジ
 .トウジ「お前が人の心配とは珍しなぁ」
  .レイ「…そう?」
 .トウジ「ワシのことやない。お前が心配しとるのは、霧亥や」
短い間
  .レイ「…そうかもしれない」
小さく笑みを浮かべているトウジ
 .トウジ「そや」
遠い階下の窓越しに、二人のやりとりを見ているヒカリの姿

ネルフ松代実験場
予定時刻より遅れに遅れて到着する参号機輸送車輌
分岐軌道前に仁王立ちしているミサト かなり顔がひくついている
後方の技術部専用車から顔を出しているリツコ
巨大な慣性を引きずって停止する輸送車輌
  .ミサト「…あたしをここまで待たせたオトコは初めてね」
N2との接続が切れ、地響きとともに拘束架ごと軌道外へ下ろされる参号機
厳重に固定された頭部 両眼窩は暗い
307log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:00:47 ID:???
壱中 午後の授業時間
生徒数が減り閉鎖された教室が無人の廊下に並んでいる
講堂に続く渡り廊下の柱の陰に一人腰を下ろしているトウジ
視界の端に中庭のはずれが見えている
頭上遙かに輝く超構造体の光
さしのべた手を返し、影になった手のひらを見上げているトウジ
見つめたまま拳を握る
 .トウジ「…ほな、行くか」

壱中 放課後
刻限になるなりヒカリと一緒にさっさと教室を出ていくアスカ
帰り支度をする霧亥の傍に立ち寄るケンスケ
.ケンスケ「…結局、戻ってこなかったな。トウジのヤツ」
後ろの空席を振り返る霧亥
.ケンスケ「昨日も呼び出されてたし、なんかあったのかな。霧亥、お前知らないか?」
 霧亥「いや」
後ろ向きに机によりかかるケンスケ
.ケンスケ「今日、変だったよなぁ、あいつ」
 霧亥「そうか?」
ちょっと目を向けるケンスケ 仕方ないなという顔で笑う
.ケンスケ「…ま、霧亥だからな。そういうのにはニブくてもしょうがないか」
顔をしかめる霧亥にゴメンゴメンと片手を上げてみせるケンスケ
.ケンスケ「な、ところでエヴァ参号機が日本に来てるって話、ほんとなのか?」
 霧亥「ああ」
.ケンスケ「もったいない話だよなぁ。参号機はパイロットじゃなくて、思考機械で動かすんだって?
     ああ〜、俺を指名してくれれば喜んでパイロットになるっていうのに、ったく」
真顔になってケンスケを見る霧亥
頭を抱えて悔しがっているケンスケ 少しの間注視し、目を逸らす霧亥
308log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:02:37 ID:???
夕方 市内展望台のベンチに並んですわっているアスカとヒカリ
 .アスカ「相談って、鈴原のコトでしょ」
  .ヒカリ「…、わかる?」
 .アスカ「見え見えよ。で、どうしたいの。ヒカリはさ」
  .ヒカリ「え? わ、私、そういうのまだ、よくわからないし…どうしたらいいかなんて、全然…」
気弱にうつむくヒカリに、横からぐいっと膝を寄せるアスカ
 .アスカ「何言ってるのよ、行動あるのみよ! 自分の気持ちはわかってるんでしょ?」
真顔で訊かれてみるみる頬を染めるヒカリ
軽く溜め息ついて微笑むアスカ 顎の先で眼前の街の夕景を示す
 .アスカ「…明日、何がどうなるかなんて、わかんない世の中なんだから。
     自分の正直な気持ちぐらい、伝えといたって損はないと思うわ。好きならなおさらね」
赤い顔で夕暮れの街を見つめるヒカリ 少しして振り返る
  .ヒカリ「…アスカにはいないの? 伝えたい人」
 .アスカ「へ? って、なんでいきなり私に振るのよ?!」
ちょっとにこっとするヒカリ
  .ヒカリ「やっぱり、あの加持さんっていう人?」
素早い動作で再び街の方を向くアスカ
 .アスカ「…、まーね」
少し諦念のにじんだ笑顔で街を見つめるヒカリ
  .ヒカリ「いいなぁ、アスカは。なんでもできて、ネルフのパイロットで、素敵な憧れの人がいて。
     私なんか何のとりえもないし…男子には、イインチョーなんて呼ばれてる」
 .アスカ「ヒカリにはヒカリのいいところがあるわよ。鈴原だって、きっと気づくって」
  .ヒカリ「そうかなぁ…」
大きく頷いてみせるアスカ
 .アスカ「そ! 
     お弁当、作るとこまでは行ったんでしょ? 渡すまであと一歩じゃない。
     あとはその最後の一歩を、迷わず踏み出すだけよ」
ほんのり染まった顔でこくんと頷くヒカリ
  .ヒカリ「…うん。ありがと、アスカ」
とびきりの笑顔を返すアスカ
薄れゆく超構造体の光の下、無数の灯をともし始める街
309log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:03:43 ID:???
ミサトの個人居住区 夜
カーペットじゅうに散らかした雑誌を前に寝そべっているアスカ
キッチンに、飲み物を取りにきたらしい霧亥の足音
無反応に雑誌の頁をめくるアスカ
ふと顔をきつくしかめる
 .アスカ「…キリイ?」
立ち止まったとおぼしき気配
 .アスカ「あんた、気にならないの。参号機、誰が乗るのか」
 霧亥「知ってるのか」
唇をこわばらせるアスカ
 .アスカ「…、知らない」
 霧亥「俺は知らない」
 .アスカ「…そ。相変わらずの無関心、自分に関係ないことには、一切興味なしってわけね」
髪を拭きながら現れる加持
 加持「いやー、いい湯だった。…どうしたんだ、二人とも。
     ケンカでもしたのか? しょうがないな。葛城がいないといつもこうなのか」
アスカの指が頁の端を強く掴む
 .アスカ「せっかく加持さんと夜を過ごすんですもの、私だってニコニコ笑っていたいわよ。
     …でも、今日は駄目なの。できないの」
寝転がって背を向けているアスカ 尖って動かない両肩
傍らに立つ霧亥を見、穏やかな目で少し笑う加持
 加持「…もう寝よう。こういうときは、寝ちまうのが一番だ」

深夜
居間に敷いた布団にお互い背を向けて横たわっている加持と霧亥
 加持「眠らないのか?」
無言の霧亥
同じく黙って返事を待つ加持
 霧亥「あの男は、ここで何をしてるんだ」
310log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:05:02 ID:???
黙笑する加持
 加持「こりゃまた唐突だな。どうして俺なんかに訊くんだ」
 霧亥「…調べてる」
 加持「調べてるのは君の方だろ。葛城がぼやいてたぞ、この頃ふらっと出かけちゃいなくなって、
     かろうじて現在座標の特定しかできないって。一体何を探してるんだ」
沈黙している霧亥
 加持「…答えたくないか。だが、いつまでも好きに歩き回っちゃいられないぞ。葛城の心配だけで
     済むうちにやめといた方がいいんじゃないのか」
 霧亥「…それはできない」
 加持「そうか。ま、あまり無茶しないようにな」
闇の中で加持を振り返る霧亥
少しして同じく身体の向きを変える加持
どこか覚悟のようなものを底に湛えた顔の周囲に表示された感染痕跡の明らかな遺伝子配列表
目を逸らし、再び寝返りをうつ霧亥
 加持「この階層に純正のネット端末遺伝子が存在しないことは、もううすうすわかってるんだろ」
瞠目し、素早く上体を起こす霧亥
元通り背中を向けている加持の姿 抑制した声が届く
 加持「ただの人間がセーフガードの武器なんか携帯して、しかも使えたりするわけがない。
     問題は君がどうやって来たかだ。ネットスフィア側からの転送なら死海文書の記述に
     重大な誤りがあることになるし、物理的に階層に侵入したのなら、それは俺たち全員に
     とって明白な危機だ。できれば、手遅れにならないうちに聞かせてほしいんだが」
少し長い沈黙
 霧亥「…外部侵攻は早まらない」
 加持「信じていいのかな」
 霧亥「ああ」
無言の数秒
布団にもぐりこんで暗い天井を見上げる霧亥
再び声だけが届く
 加持「ありがとう」
311log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:09:20 ID:???
壱中 翌日
欠席しているレイ
昨日よりさらに不機嫌な顔で黙っているアスカ
表には出さないものの、どことなく苛立ちを抑えているようなケンスケ
何度も教室の戸口を振り返りっては溜め息をつくヒカリ

昼休み
思い思いのグループを作って昼食をとり始める生徒たち
誘いに来たアスカを、席についたまま迎えるヒカリ
  .ヒカリ「…鈴原、今日、休みみたいだね」
 .アスカ「…、そうね」
ぎこちなく答え、机の上に置かれた包みに目を止めるアスカ
トウジの席を見つめているヒカリ
  .ヒカリ「…お弁当。鈴原、男の子だから、多めに作ってみたんだけど」
少し辛そうな顔で弁当包みを持ち上げてみせるヒカリ
  .ヒカリ「今日も、渡せなくなっちゃった。…食べる?」

オペレータ「主任、フォースチルドレンが到着しました」
  .リツコ「了解。…では、起動実験は第二案通りに」
オペレータ「了解」
   ミサト「…乗せるのね、結局」
  .リツコ「まだシステムは完全じゃないもの。
     でも危険を冒すのは、子供たちだけじゃないわ。我々全員がそうなのよ」
   ミサト「わかってるわ。皆が、ね」
  .リツコ「…そうよ」
  .リツコ(…しかし碇司令は、ここまで来てなお、参号機の起動をパイロットとダミーの二系統で
     進める方針を捨てていなかった。いえ、むしろダミーシステム単体での起動を望んでいた。
     …知っている、というの。この実験で起こることを)
312log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:10:43 ID:???
校舎屋上
手すりを背に座り込み、放心したような顔で階層の大天井を仰いでいるケンスケ
.ケンスケ「…今頃、誰か乗ってんのかなぁ」
振り返る霧亥
.ケンスケ「参号機だよ。参号機」
全身で脱力しているケンスケ
.ケンスケ「トウジのヤツかなぁ…今日、休みだし」
無言で腰を下ろしている霧亥
.ケンスケ「何言ってんだろーな、俺。な、霧亥。
     …けど、やっぱり、乗ってんじゃないのかなぁ。誰か、さ」
昼休みの終わりまで黙っている二人

オペレータ『エントリー、スタート』
オペレータ『エントリープラグ挿入。固定完了』
オペレータ『シンクロ開始。ハーモニクス、全て正常位置』
オペレータ『神経接続をフェイズ2へ移行。双方向回線、開きます』
オペレータ『ボーダーラインまで、あと3.1、1.5、0.8、0.3…』
オペレータ「! 機体内部に、高温エネルギー反応!」
   ミサト「何ですって?!」
  .リツコ「実験中断。ただちに神経接続を切って、強制終了」
オペレータ「駄目です、停止信号を受けつけません!」
オペレータ『パルス逆流! 参号機、拘束具を破壊、自律出力で動き始めます!』
オペレータ「実験場内に、ATフィールドの発生を確認!」
   ミサト「参号機が?! いえ…まさか」
警報とともにパターン青を示す計測画面
  .リツコ「使徒…?!」
参号機の咆哮とともに光に呑まれる実験場
313log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:12:28 ID:???
 霧亥「松代で事故?」
 .アスカ『現地一帯の通信が途絶してるから、詳しいことはわからないわ。
     ただ、正体不明の何かがこっちに向かってるわ。だから出撃するの、あたしたちがね』
 霧亥「…葛城はいない」
  .レイ『葛城三佐や赤木博士の消息は不明よ。今は碇司令が、直接指揮を執ってるわ』
わずかに表情を変える霧亥

 青葉「正体不明の移動物体は、依然松代から本所に向け侵攻を続けています」
 日向「目標を映像で確認。主モニターに回します」
主画面に映し出される遺棄平盤の風景
最高輝度の半分程度まで薄れた超構造体の光が一帯を照らしている
連なる構造物の陰から目標が姿を現す
どよめく発令所
 日向「あれは…?!」
 青葉「エ…エヴァ、参号機…しかし、分析パターンは青を示しています」
 冬月「…やはりこれか」
   碇「ああ」
最上階の碇を振り仰ぐオペレータら
常よりもむしろ無表情に言い渡す碇
   碇「参号機は現時刻をもって破棄。以後、目標を第十三使徒と識別する。
     予定通り野辺山で戦線を展開しろ」
314log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:13:57 ID:???
 日向『…目標、11時方向より接近中。迎撃準備』
古い建造物を盾に待ち構える弐号機
付近に散布された小型探査体からの情報を総動員し、飛び出すタイミングを計るアスカ
姿を現した参号機を目にして息を呑む
 .アスカ「…使徒に、乗っ取られたってこと…?」
   碇『弐号機。目標には武器は装備されていない。できるだけ引きつけ、初号機とともに
     接近戦にて目標を制圧しろ』
碇に直接指示されて少なからず緊張するアスカ ふと眉をひそめる
 .アスカ「…制圧? 殲滅じゃないの?」
後方モニタを一瞥するアスカ 遮蔽物伝いに初号機の表示標が近づいてくる
   碇『零号機、目標が10まで接近したら射撃を開始。前衛二機との接触まで足止めしろ』
  .レイ『了解』
かすかに口元を歪めるアスカ
斜め後ろにつく初号機の姿を肉眼で確認し、軽く操縦席に坐り直す

初号機、弐号機の背後で遮蔽物越しにライフルを構える零号機
視界に入ってきた参号機に狙いをつけるレイ
徐々に接近してくる目標
操縦桿を握りしめるレイの両手
  .レイ(…乗っているわ、彼)
315log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:15:38 ID:???
 日向「目標は依然同速度で迎撃座標へ接近中。あと30で接触します」
足取りを速めるでもなく歩き続ける参号機
主モニターの映像が切り替わり、上半身が拡大表示される
 伊吹「目標、遠隔制御有効域に入りました」
 冬月「最大出力で走査を開始。エントリープラグの強制射出を試みろ」
 伊吹「了解。参号機へ、射出信号を送信」
参号機に変化は表れない
 伊吹「…信号拒絶。システム、作動しません」
   碇「内部の状態は」
 青葉「エヴァ側からの信号は、全て途絶しています」
顔の前で組んだ両手にわずかに力を込める碇
 日向「目標、迎撃座標まであと20」
   碇「…各機へ、作戦目的を通達する。
     目標を可及的速やかに威力制圧。エントリープラグを可能な限り無傷で回収しろ。
     パイロットの救出を最優先とする」

両目を見開く霧亥
 霧亥「…人が乗ってるのか」
斜め前方の廃墟で身を起こす弐号機
 .アスカ『あんたほんとに知らないの?! 参号機にはね…』
 日向『目標、接触まで10。全機、作戦開始』
 .アスカ『…!』
一方的に通信を切るアスカ
 霧亥「…おい!」
   碇『初号機、何をしている。攻撃開始だ』
弾かれたように正面を向く霧亥
316log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:17:06 ID:???
後方から参号機めがけ降り注ぐ零号機の援護射撃
参号機周辺に着弾 それまでの緩慢な動きが嘘のような機敏さで顔を上げる参号機
同時に全速で待機位置から飛び出す弐号機
やや遅れて初号機が両者と直交する形で後に続く
瞬時に接触、中和されるATフィールド
痙攣的な動作でいきなり身を沈める参号機 弾幕の下から一気に飛び出し、弐号機に肉迫する
 .アスカ『?!』
参号機の手が弐号機の喉に喰い込み、そのまま全力で宙にさらって足下に叩きつける
大音響とともに床材にめり込む弐号機
その上に屈み込み、さらに拳を振り上げる参号機
瞬間、真横から突っ込んできた初号機に身体ごと弾き飛ばされる
折り重なって廃棄層の側面に激突する両機 地響きをあげて崩れ始める周辺の建造物
組み合いながら構造体深部へ突き進んでいく両機
 日向『弐号機、活動停止! パイロットは脱出、ただちに救助班を向かわせます』
超構造体の隆起にぶち当たって止まる両機
横向きに押さえ込んだ参号機の背部に目を凝らす霧亥
装甲に覆われたエントリープラグ挿入口
周辺に重なる透視図像と分析結果
表情を失う霧亥
 霧亥「…鈴原」
隙をついて初号機を力任せにはねのける参号機 後方の零号機の姿を認める
機体全体が床から浮き上がるような動きで真上に跳ね上がる
宙を掴む初号機の手
とっさにライフルを前面に構えた零号機に全身で突っ込み、ATフィールドを破って押し倒す参号機
押さえつけた手が形状変化し、無数に微細分岐して零号機の左肩から内部に潜り込んでいく
317log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:18:18 ID:???
 伊吹『目標、零号機左腕から神経系に侵入! 生体部品が侵されていきます!』
   碇『左腕切断。遠隔点火で目標との物理的接触を絶て』
 冬月『碇、待て。パイロットとの神経接続がまだ切られていないんだぞ!』
   碇『手遅れになる。切断だ』
 伊吹『…、はい』
抑えた衝撃音と同時に根本から吹き飛ぶ零号機の左腕
直後、背後から参号機を引き剥がして反対側に投げ飛ばす初号機
そのまま活動停止する零号機
 伊吹『…零号機、中破。左腕喪失。パイロットが負傷』
再び激しく格闘しながら零号機から離れる初号機と参号機
何度かぶつかり合った後、距離をとって対峙する
零号機と接触した手を起点に、既に異様な形態へと変容しつつある参号機
黒光りする棘状の突起が装甲を覆って絡みつき、左腕から全身へと範囲を広げていく
 霧亥「…本部」
   碇『なんだ』
 霧亥「最優先事項はまだパイロットの救出なんだな」
   碇『そうだ』
手早く操縦席の身体固定具を解除する霧亥
 霧亥「参号機は?」
   碇『奪回は不可能だ。破壊しろ』
 冬月『…何をするつもりだ? 初号機パイロット!』
通信回線が閉じられる
318log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:23:22 ID:???
 日向「駄目です、既に回線をロックされています!」
 伊吹「! 初号機、プラグの内部固定を解除!」
 冬月「…外に出る気なのか?!」
再び全速で参号機へと突っ込んでいく初号機
手動イジェクトされ、背部から突き出すエントリープラグ ハッチが開く
初号機は接触ぎりぎりで参号機の脇を通過し、そのまま速度を変えずに遠ざかっていく
 青葉「初号機、プラグからのホールド命令を実行中。目標から離れていきます」
大きく振り向き、急に動きを乱す参号機
背部装甲にとりついている霧亥
挿入口を保護する装甲の下に腕を差し込み、全身でこじ開けようとする
 冬月「自力でパイロットを救出するつもりか。だが、どうやってエヴァを押さえる?」
 日向「参号機、さらに形状変化! 突起部分が動いています!」
機体を這い登ってきた棘状物体が増殖速度を上げ、霧亥に襲いかかる
振り向く霧亥
閃光
次々に重力子放射線に撃ち抜かれ、ちぎれる黒い棘
猛然と暴れ出す参号機
 冬月「あれを持ち込んでいたのか」
 日向「参号機、さらに形状変化を加速! このままではサードチルドレンが…!」
   碇「……初号機に停止信号を送信。
     強制終了後、エントリープラグを再挿入。ダミーで再起動をかけろ」
 伊吹「?! ですが、ダミーシステムには問題も多く、赤木博士の指示もなく…」
   碇「他に初号機を動かす手段はない。急げ!」
 伊吹「は、はい!」
崩れた建造物に突っ込んで停止している初号機
再挿入されるエントリープラグ 背部装甲が閉じる
参号機の揺れに振り回されながら、ふいに初号機の方向を凝視する霧亥
 青葉「…システム、モードFで起動完了。制御コード設定、遠隔管制で主行動を限定」
 伊吹「感情素子の一部が不鮮明。モニターできません」
   碇「構わん。システム始動、制圧開始」
活動再開する初号機
319log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:24:31 ID:???
数を増す棘状突起の撃退に追われ、プラグを解放できない霧亥
影が落ちる 頭上を覆う参号機の手
プラグ固定装甲の端を掴み、巨大な手のひらを睨む霧亥
突然、もう一つの手が現れ、参号機の腕を掴む
振り仰ぐ霧亥
眼前にそびえる初号機の頭部
掴みかかる参号機に全身で組みつく初号機 一時的な膠着状態に陥る両機
素早く黒い棘の集団に向き直り、一気に突起を撃ち落としていく霧亥

 日向「システム正常。さらにゲインが上がります!」
 青葉「…?! 行動固定システムの一部に、異常発生。制御回路が機能停止していきます」
 伊吹「擬似感情領域より、異常な出力上昇を確認! 阻止できません!」
 日向「ダミー、制限コードを拒絶! ダミー主構造へ強制介入…追随不能! …振り切られるぞ!」

突如動きを変え、参号機を突き倒す初号機
轟音 床面が陥没し、構造材深くにめり込むほどの力
揺さぶられて参号機の背面を滑落する霧亥 危うく装甲の端を掴んで踏みとどまる
伏臥した参号機の背中を押さえつけ、無理やり背面装甲を剥がそうとする初号機
即座に反応して攻撃を開始する棘状突起群
苛立ったように手をもぎ放し、棘に覆われた部分に掴みかかる初号機
次第に攻撃と装甲排除の区別がなくなり、やがて、見境なく参号機の各部を解体し始める
320log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:25:22 ID:???
散乱する装甲片
夕闇の平盤に流れ出す体液
投げ捨てられた体組織の断片が建造物から垂れ下がる
かろうじてエントリープラグ挿入口まで這い上がる霧亥
既に固定装甲が剥がれ、プラグ後端部が露出している
到達の寸前、初号機の腕が霧亥のすぐ傍らを通過して伸びる
周辺のパーツを砕き剥き出しのプラグを掴み出す初号機の手
亀裂の走る音
 霧亥「…!!」
初号機の頭部に銃口を振り向ける霧亥
一瞬、両者の視線がぶつかる
引き金を引く霧亥

静寂

 霧亥「…?!」
銃を凝視し、続けて何度も引き金を絞る霧亥
反応しない重力子放射線射出装置
同じく、凍りついたように活動停止している初号機
周辺一帯に広がった参号機の血と体組織
立ちつくす霧亥


沈黙に閉ざされた発令所
完全に圧倒されているスタッフら
固く顔を覆っている伊吹
 青葉「…エヴァ…い、いえ、目標、完全に沈黙」
答える声はない
321log.18 命の選択を:2006/02/11(土) 13:27:25 ID:???
松代実験場跡
赤十字を着けた救援隊が生存者の捜索に奔走している
仮設救急所で意識を取り戻すミサト
傍らに屈み込んでいる加持
  .ミサト「加持…リツコ、は…?」
 加持「心配ない。君よりは軽傷だ」
  .ミサト「エヴァ…参号機は?」
 加持「使徒、として処理されたそうだ」
瞠目し、無言で顔をそむけるミサト
 加持「どうした」
  .ミサト「…私、霧亥君に何も話してない」
かすれた声で呟くミサト
首を振る加持
 加持「大丈夫だ。参号機のエントリープラグは、外殻以外ほぼ無傷で回収されたよ。
     初号機によってね」
ゆっくりと頭を戻し、加持を見つめるミサト
  .ミサト「…でも?」
上体を起こす加持
 加持「問題なのは、恐らくサードチルドレンの方だ」

野辺山作戦地点
宵闇の中にひざまずいている初号機
足下に参号機回収班の活動する明かりが広がっている
強制排出されたエントリープラグの傍に立って回収作業を見ている霧亥
少しひしゃげたプラグが光の輪の中に置かれている
救助班がプラグ外殻を切り外し、意識のないトウジを運び出す
頭を垂れた初号機とともにその光景を見つめている霧亥


log.18 終
>302 ごめん次回
>303 ありがとう 頑張るよ
322123:2006/02/14(火) 01:15:50 ID:xtGfjuy7
大きなお世話だと思いつつも、圧縮が怖いので念のためにageさせてもらうぜ。
323名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/15(水) 02:03:54 ID:???
独特の雰囲気がなんとも…
GJ
324log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:36:22 ID:???
野辺山迎撃戦より2時間
ジオフロント ネルフ本部エヴァ格納廠
全ての電源を空にされた上で再固定された初号機
光のない眼窩の見下ろす整備橋を行き来する担当廠員たち
作業房の前に置かれたエントリープラグの筐体
内部の神経接続補助装置や複数の記録媒体は全て持ち去られている

   碇「…エヴァを、人の手から失う訳にはいかない」
 冬月「だが彼がいなければ、パイロットは助けられなかった。参号機、そしてダミー投入を断行した
     初号機を止められたかどうかすら、あの状況下ではおぼつかなかった」
   碇「最終的に初号機を動かしたのがダミー単体ではないことが問題なのだ。ダミーに入力されて
     いたのは単純な攻撃体系に過ぎん。参号機を解体し、エントリープラグを取り出そうとした
     一連の行動は、部分的にせよサードチルドレンとの同調の結果現れたものだ。それでは意味がない」
 冬月「お前はあれが、単なるダミーの暴走ではないというのか?
     …ではなおさら、彼の器能は貴重だろう。今さら他の人間など考えられんぞ」
   碇「状況は死海文書の記述通りに進行している。ここで新たな使徒を作り出すことはできない」
 冬月「…新たな使徒か。だが、それを言うなら、零号機はどうなる」

野辺山迎撃戦より3時間
本部医療施設内特別病室
真っ白なベッドの上で薄目を開くトウジ
ぼんやりと天井を見つめ、脇に伸びた点滴の管から傍らの人の顔に目を移す
珍しく表情のある顔でトウジを見ている霧亥
325log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:37:49 ID:???
何か言おうとするが声が出ないトウジ
 .トウジ(……なんや…何が、どないなったんやろ…どこやろ、ここ…妹の病院か…
     なんで、霧亥がおるんや…)
力が入らずに再び目を閉じかけるトウジ
立ち上がる霧亥
もう一度目を開けようとするトウジ
 霧亥「鈴原」
以前見たのと似た表情で見下ろしている霧亥
 霧亥「いつか俺を殴れ」
かすかに口を開くトウジ
開いた扉の方へ歩み去る霧亥
何とか頭を回し、病室の外に黒服の保安職員が立っているのに気づくトウジ
真っ白な視界で音もなく扉が閉じる
再び鎮静剤のもたらす無意識の中へ沈み込んでいくトウジ

 冬月「例の、重力子放射線射出装置のことはどうなんだ。あれこそ予想外の出来事だろう」
   碇「初号機は階層の主要構造にアクセスする手段を発見しつつある。その派生事象に過ぎんよ」
 冬月「統治局が介入できない今、階層内部に限っては、ネットスフィアそれ自体の影響をも凌ぐか…
     だが、この状況そのものが終わりを迎えてしまえば、それも意味がなくなるんだぞ」
   碇「だからこそ、これ以上サードチルドレンとの接触を進行させる訳にはいかないのだ。
     初号機だけは人の手に残さなければならない。来たるべき出立の日のために」
 冬月「…人間には時間がない、かね。俺は、ときどき疑いたくなるよ。あの老人たちとお前と、
     どちらが本当の意味での、人類への叛逆者なのだろうとね」

迎撃戦より7時間
技術局主解析施設
MAGIに直結した大量の解析機械群の間に立つリツコ
  リツコ「…この結果で、本当に間違いないのね」
326log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:38:36 ID:???
 局員「はい。考え得る全てのテストを、最低97回再施行しています。誤出力の可能性は
     現実的にあり得ません」
  リツコ「では、これが事実という訳だわ。たとえ結果の方が、現実として受け入れ難くてもね」
解析設備に繋がれた初号機のエントリープラグ内部機器類
主画面に複層表示されている累積動作記録と最新のシステム概観模式像
無言のまま、初号機の現在の情報的構造を見つめるリツコ
不安げに顔を上げる専任局員ら
 局員「主任…」
  リツコ「…MAGIの主記憶のみを確保したら、ただちにそれ以外の全解析記録を破棄。
     初号機の内部記憶装置からも、調査に関する一切の記録を削除するのを忘れないで」
 局員「…了解」
  リツコ(…初号機は我々の設定した全ての制限を超え、レイとは異なる存在へ変わりつつある。
     その理由はやはり、あのサードチルドレンにあるというの。初号機が、繰り返される神経接続を
     通じ、自らその情報構造を取り込む過程で復導された記録の痕跡に間違いがないというなら、
     この階層の建造以前から存在している、彼に)

 冬月「それで、ダミーシステム、今後はどうする。開発を続ける以外にないのはわかるが、
     あれがパイロットの、いや、人の代用にならないことは、今回の実働で証明されたはずだ。
     情報的な複製だけでは、人間は再現できない。器のみを再現しても人間にはならないのと
     同じだ。たとえエヴァが動いたところで、所詮は断片の寄せ集めに過ぎん」
   碇「…レイは違う」
 冬月「彼女は、我々が創り出したものではないからな」
   碇「だが、我々と無関係でもない」
 冬月「…碇。なぜ、彼女を残さない」
   碇「彼女は既に個性と人格を備えている。単なる機能の延長として失われるべきではない」
 冬月「彼女もまた、一人の住人には違いないか。…なあ、気がついているのか? レイの話になると、
     碇、お前はときどきサードチルドレンと同じことを言うぞ」
327log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:39:26 ID:???
迎撃戦より15時間
野辺山作戦座標跡
頭蓋上部を治療展体で覆われ、片腕を固定した姿で荒れ果てた平盤に立つミサト
隣にやってきて立ち止まるリツコ 同じく額に代謝調整癒膜を着けている
  リツコ「いいの、もう動いて」
  .ミサト「仕事ができれば問題ないわ。休んでられる状況じゃないし」
厳しい視線を眼前の光景に据えているミサト
  リツコ「…そうね」
二人の前にそびえ立つ元は参号機だった巨塊
周辺は体液に汚れた装甲板の破片で埋めつくされている
  リツコ「問題は、むしろエヴァではないの。聞いてると思うけど」
  .ミサト「ええ。…今度という今度は」

 .アスカ「…駄目かもしれないわね。厳重注意じゃ済まないわよ、あの馬鹿」
同刻 保護漿で満たされた生育槽で修復中の零号機・弐号機を見守るレイとアスカ
まだ麻痺状態の左腕を肩から吊っているレイ
あちこちに軽傷を負っているアスカ
二人とも、数分後に予定されている機体再調整作業への参加のためプラグスーツ姿
 .アスカ「作戦終了後に呼び出されたっきり、完全に音信不通じゃない。
     中に閉じ込められたパイロットを救助するためとはいえ、上にさんざん禁止された
     重力子放射線射出装置をあれだけ振り回したんじゃ、駄目ね。どうしようもないわ」
黙って視線を宙に預けているレイ
ちらりと目をやり、壁にもたれて軽く両脚を交差させるアスカ
 .アスカ「ま、問題の銃が機能しないんじゃ、今さら連行しても意味ない気もするけど」
  .レイ「今は?」
 .アスカ「勾留扱いったって、どうせあいつ、長時間待機くらいにしか思ってないでしょ。
     今頃、お気楽に夢でも見てるんじゃないの」
  .レイ「夢?」
 .アスカ「そ。…あんた、見たことないの」
328log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:41:05 ID:???

 保安部員「出たまえ、碇霧亥君。総司令がお会いになる」

真っ白なベッドの上で薄目を開くトウジ
ぼんやりと天井を見つめ、脇に伸びた点滴の管から傍らの人の顔に目を移す
珍しく心配そうな顔でトウジを見ているヒカリ
 .トウジ(…なんや…夢でも、見とったんか…)
野辺山迎撃戦より34時間
膝の上でぎゅっと手を握りしめているヒカリ 見上げるトウジ
 .トウジ「…なんで、委員長がおるんや」
慌てるヒカリ
  .ヒカリ「え…?! だって、す、鈴原、昨日も休んでたし、今日になって急に、ネルフの人から
     学校に連絡があって、それで、私が代表として、様子を見てくるって決まって…
     …だ、だから、今日は委員長として、公務で来たのよ。それ以外の、何でもないのよ」
ちょっと笑うトウジ
 .トウジ「…わかっとる」
うつむくヒカリ
トウジは病室の扉のある辺りを見ている
 .トウジ「…なんや、霧亥がおったような気がしたけどな。
     どのぐらい寝とったんやろ、ワシ」
  .ヒカリ「事故から、丸一日くらい…面会は、私が初めてだって聞いたけど」
 .トウジ「そっか…」
329log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:42:54 ID:???
 .トウジ「…すまんなぁ、委員長。弁当、ちゃんと受け取れへんで」
  .ヒカリ「…ううん。あのね、この後もう少し検査があるから、今はここでお弁当食べさせちゃ
     いけないんだって。…あ、でも、それが済んだら退院だって。身体には、異常ないし」
顎を曲げて自分の身体を見下ろすトウジ
無事くっついている手足に軽く力を入れてみて、安心したように大げさに息を吐く
ヒカリの表情がやっと少しほぐれる
 .トウジ「もうしばらくは病院暮らしちゅうことか。ま、しゃあないな」
  .ヒカリ「うん…そういえば、妹さんも、ここに転院したんだってね」
ふっと宙を見る目つきになるトウジ
急に黙り込んだトウジに不安を覚えながらも、じっと待っているヒカリ
 .トウジ「…なぁ、外のことって、考えたことあるか」
  .ヒカリ「え?」
 .トウジ「…いや、なんでもない。…それより、委員長を見込んで、頼みがある」
  .ヒカリ「な、何?」
少し照れくさそうに笑いかけるトウジ
 .トウジ「妹に、ワシはまだ行けんけど何ともあらへんて、知らせてくれるか。
     …お礼言うわけやないけど、ワシも今度は弁当の約束、守るさかい」
ぎこちない沈黙のあと、柔らかい眼差になってそっと微笑むヒカリ
  .ヒカリ「…うん」

 碇「私だ。サードチルドレンは抹消。初号機はレイを基底に、ダミーを予備に回せ」
330log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:43:42 ID:???
セントラルドグマ通廊で行き会うミサトとリツコ
お互いの顔を認め、無言で立ち止まる
沈黙を破るミサト
  .ミサト「どういうことなの」
  リツコ「通達された通りよ」
  .ミサト「私は彼と顔も合わせてないわ。今さら重力子放射線射出装置の危険性? ふざけないで」
  リツコ「それが看過できないレベルにまで達したの」
  .ミサト「それ以上の説明は必要とされない、ってこと」
  リツコ「あなたも覚悟はしてたはずでしょう」
頑なに両目に力を込めるミサト
視線を逸らし、歩き出すリツコ
  リツコ「サードチルドレンは今日、第三新東京市を離れるわ。
     …午後の最初の政府専用列車。話をするなら、たぶんそれが最後の機会よ」
振り返るミサト
遠ざかっていくヒールの音

 音声『メッセージを再生します』
.ケンスケ『霧亥か。この街を離れるんだってな。…なんでだよ。なんで今さら出てくんだよ。
     俺はお前に憧れてたんだ。俺もお前みたいに、何にも閉じ込められてない『外』へ…
     エヴァに乗るのなんてその次で良かったんだよ。…お前っていう『外』の証拠がいれば、
     何もできなくたって…なのに、…くそっ、トウジの奴までエヴァに乗ったっていうのに。
     なんでだよ、どうして俺だけなんだよ。俺は』
 音声『この通話は盗聴されています。機密保持のため、回線を切らせて頂きます。
     ご協力ありがとうございました』
331log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:44:49 ID:???
第三新東京市郊外 長距離軌道車輌湯本駅
雑嚢一つを提げ、封鎖されたホームに立つ霧亥
案内板に数分先の入線時刻が表示されている
ふと顔を上げ、市外に広がる都市の大構造の果てに鋭い視線を向ける霧亥

本部と市表層を繋ぐ直通軌道施設構内を走るミサト
胸元で固定された腕の上に揺れる白い十字形のペンダント
  .ミサト(…何も言わなかった。
     シンクロ率の伸びが止まってアスカに抜かれたときも。参号機の急な配属を知ったときも。
     エヴァに乗るとき、またあの銃を持ち込むようになったことも)
専用認証機にカードを通す手つきももどかしく走り抜けるミサト
  .ミサト(保護者気取りで審問に出て、鈴原君のことを隠して、それで勝手に彼を守ったつもりでいた。
     わかってなかったのは、私の方だわ)
発車直前の連絡車輌に駆け込むミサト 背後ぎりぎりで扉が閉まる
直後、突然軌道全体が動力停止する
一拍おいて赤い非常灯で照らされる茎洞内
はっと窓の外を見上げるミサト
その上に、耳慣れた警報が鳴り響きはじめる

耳障りな音をたてて切り替わるホームの案内表示
全ての運行予定が中止され、最寄りのシェルターへの経路図に変わる
遠く音量を増していく単音警報
彼方の一点を凝視する霧亥
 霧亥「…使徒」
332log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:46:22 ID:???
 青葉「目標は強羅絶対防衛線を突破、依然本所に向けて侵攻中」
 伊吹「迎撃に出動した都市連軍は、既に半数が壊滅状態です」
複数の防衛線を強断し第三新東京市近傍に侵攻する巨大な使徒
わずか一撃で軒並み沈黙する迎撃設備
市街前で停止する使徒
骸骨に似た頭部がわずかに仰向き、口腔内でバギンと何かが展開する
かすかなノイズとともに大顎の奥で輝きを増していく光芒
 日向「! 待ってください、目標座標近傍に重力密度の異常変動を観測! 周辺電磁相が変化、
     目標内部に高エネルギーが集束していきます!」
 冬月「第十使徒のような、何らかのATフィールドの応用なのか?!」
 伊吹「いえ、先とは全く別の出力です! …?! MAGIの主データベースに、類似パターンを発見。
     …そんな、…これって」
青ざめる伊吹 肩越しに非情なまでの冷静さで続けるリツコ
  リツコ「…第一種、臨界不測兵器」
 冬月「何だと…?!」

超構造体上、市街上層を貫通する重力子放射線

一瞬にして消滅する射線上の全実体
続けざまに襲う大衝撃 激震する市主要構造体
人工物が一掃された市内へ無表情に侵入していく使徒
 日向「第18装甲板まで一気に融解ッ!!」
 青葉「駄目です! あと一撃で、全ての装甲が突破されます!」
絶望的な緊迫に覆われた発令所
駆け込んでくるミサト
  .ミサト「地上迎撃は間に合わないわ。弐号機をジオフロント内に配置、アスカには、
     使徒が姿を現す瞬間を狙わせて。零号機は?」
 伊吹「既に、ATフィールド中和座標に配置されていますが…」
333log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:47:10 ID:???
  リツコ「左腕の復元がまだなのよ」
  .ミサト「…戦闘は無理ね」
   碇「レイは初号機で出せ。ダミープラグを補助に回し、ただちに起動準備」
  リツコ「はい」
 日向「目標、市陥入部から侵入を開始! ここを目指しています!」
主画面内、熔融する市構造体内部へ巨体を沈めていく使徒を強く睨むミサト
厳しい面持ちで総員に檄を飛ばす
  .ミサト「…迎撃準備、急いで!」

ホームに立ちつくし街の惨状を凝視している霧亥
取り出した銃を見つめる
網膜に映される「操作不能」の表示
険しい顔で固く口元を引き結び、ホームから軌道へ飛び降りる霧亥
噴塵のあがる街に背を向け、市外へ延びる長距離軌道に沿って一人歩き始める
遠く連続する震動

ジオフロント内 迎撃座標
周囲の堆積隆に手当たり次第に突き立てられた大量の武器弾薬
ライフルを前面に構え、身じろぎもせずジオフロント天井部を睨む弐号機
超構造体内部亀裂開口部を覆う都市構造体底部が使徒の強硬な通過に揺さぶられている
突然、その一角が轟音とともに吹き飛ぶ
エントリープラグ内部 軽く息をつめるアスカ
 アスカ「…来たわね。キリイなんかいなくったって、あんなの私一人でお茶の子さいさいよ」
巻き上がる塵埃の幕の向こうから巨体を現す使徒
334log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:54:51 ID:???
視認と同時に引き金を引くアスカ
弾けるような機銃音とともに、接近する使徒へ一直線に吸い込まれていく弾群
着弾 決壊した天井部に響く爆発音
速度をゆるめることなく迫る使徒
 アスカ「次ッ!!」
全弾撃ち尽くしたライフルを放り、脇の二挺を引き抜く弐号機
再び凄まじい掃射音と、空の弾倉が叩かれる乾いた音 投げ捨てられる銃身
曳光を残して飛び去るロケット弾
一瞬辺りを照らし出す爆発光 堆積層を繰り返し揺さぶる振動
なおも侵攻を続ける使徒
 アスカ「ATフィールドは、中和してあるはずなのに…!」
次第に焦りの色を強めるアスカ
 アスカ「…なんで、やられないのよぉっ!!」

 伊吹『パーソナルデータの書き換え終了。パイロット、エントリースタート』
初号機のプラグ内に坐るレイ 外部からの信号に従って電化し、接続相を形成していくLCL
唐突にその全作用が停止する
顔色を変えて口元を押さえるレイ
エントリープラグに満ちる言語化以前の擬似思考 可聴域外の執拗な囁き
どこか凄惨な目で吐気をこらえるレイ
  レイ(…駄目なのね、もう)

徐々に下りになる斜面を歩く霧亥
規則的な構造の間を、都市間長距離軌道はやや湾曲しながら平盤の彼方へ延びていく
時折足元を揺さぶるかすかな震動
無言で歩き続ける霧亥
しばらくして、唐突に足を止める
軌道脇に広がる遺棄施設の中から笑顔を返す加持
 加持「…よ。やっぱり、こっちに来たな」
335log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:55:39 ID:???
ひたすら撃ちまくる弐号機を歯牙にもかけず侵攻し続ける使徒
唐突にその動きが止まる
一時的に射撃をやめ、目を凝らすアスカ
使徒の起伏に乏しい巨体の両脇から折りたたまれた何かがなだれ落ち、ゆらりと持ち上がる
 .アスカ「…え?」
瞬間、展開された薄い黒体が弐号機の両肩を貫通する
銃を握ったままの両腕を難なく跳ね上げ、こともなげに離れる黒い帯
一拍遅れて、弐号機の両腕の付け根から大量の体液が噴き出す
プラグ内で必死に苦鳴を噛み殺すアスカ
 日向『弐号機、大破! 戦闘不能です!』
  .ミサト『アスカ! ただちに弐号機を回収、パイロット救出! 初号機はまだなの?!』
 伊吹『初号機、同調を拒絶! システムをダミーに切り替え、再起動に入ります』
 青葉『目標、本部に向かい侵攻を再開!』
血に染まった黒体を収容し、再び動き出す使徒
両肩を押さえて震えていたアスカが、屈辱に歪んだ顔を上げる
  .ミサト『…?! アスカ、何する気! 下がりなさい!』
両腕を喪失した身体で使徒めがけて走り出す弐号機
 .アスカ「…こんちくしょぉおおおおッ!!」
頭部を向ける使徒
  .ミサト『…ッ、全神経接続をカット急いで!!』
一閃する黒体
宙に舞う弐号機の頭部
その場で活動停止する弐号機 何もなかったかのようにその脇を通過していく使徒の巨体
  .ミサト『アスカは!』
 日向『無事です、生きてます!』
暗転したプラグ 深くうつむき、両腕で固く自分を抱きしめているアスカ
とめどなくLCLに溶ける悔し涙
336log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:57:09 ID:???
一瞬とまどうもののすぐに険しい表情に戻る霧亥
 霧亥「…ここで何をしてる」
動じない加持
 加持「それはこっちの台詞だよ。何してるんだ、こんなところで」
目を逸らす霧亥
 霧亥「…俺はもうエヴァには乗れない」
ふっと表情を緩める加持
 加持「そうか。
     …バイトが公になったんでね、戦闘配置に俺の居場所はなくなった。以来ここで暇を潰してる」
加持の背後に広がる廃墟の内部に目を凝らす霧亥
破損して再生できない古い情報媒体や、用途も知れない古代遺物の数々が雑然と並べられている
 加持「過ぎた時代の記念碑って奴さ。ここにあるのは、一度は発掘されながら、超古代の解明には
     役立たないってことで捨てられたものばっかりだ。だが、何も伝えてない訳じゃない。
     こっちが読み取れないだけだ。さしずめ、存在はするが、永久に機能しない記憶装置だな」
遺物の山を見回す加持
 加持「これは全て人の手が作り、人に使われてきたものだ。そういうのが好きでね。
     葛城の胸の中もいいが、死ぬときはやっぱりここがいいからな」
眉をひそめる霧亥
穏やかに張りつめた表情で頷いてみせる加持
 加持「そうだ。俺たちは今、かつてなく死に近い状況にいる。
     使徒がジオフロントの地下に眠るアダムと接触すれば、この階層は全て滅びると言われている。
     サードインパクトでね。それを止められるのは、使徒と同じ力を持つ、エヴァンゲリオンだけだ。
     …もっとも君には、今さら言う必要のないことかもしれないが」
自分に向けられた加持の目を睨み返す霧亥
視線を据えたまま、構造体表層の一角を指す加持
 加持「そっちがジオフロントの方向だ。俺には無理だが、君の目と知覚なら、今あそこで
     何が起こってるかわかるだろう」
言われるまま構造体の奥を注視する霧亥
その目が見開かれる
337log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:58:00 ID:???
頭部を両腕を失いオブジェと化している弐号機
使徒に向かい空しく降り注ぐ砲火
新たな機動音 隻腕にN2を抱えジオフロントに上がる零号機
  .ミサト『ライフルも持たずに…?! レイ、命令は目標の足止めよ、何してるの?!』
 冬月『…馬鹿な、自爆するつもりか』
走り出す零号機
   碇『…レイ!』
振り返る使徒
瞬時に展開された強大なATフィールドが周辺施設もろとも堆積層を裂断する
  .レイ(私が死んでも何もなくならないもの)
舞い上がる建造物の破片の中で接触する両者
  .レイ「…ATフィールド全開」
N2を掴んだ零号機の手がフィールドをこじ開け、使徒のコアに近づけていく
到達寸前、瞬時に白い防護殻で覆われるコア
目を見開くレイ
光が炸裂する

衝撃と強力な電磁擾乱を抜ける発令所
回復する主画面
  .ミサト「…レイは」
焦土と化した表層部 立ちつくしたまま活動停止している零号機
正面に使徒のシルエット
閃く動影 頭部から両断され、倒れる零号機
  リツコ「…なんてこと」
もはや表情もない碇
   碇「初号機はまだなのか」
無情に響くエラー音
 伊吹「…駄目です。初号機、ダミーを拒絶。起動しません」
 冬月「ダミーを…レイを、受け入れないのか」
両手を卓上に置いて立ち上がる碇
   碇「冬月。…少し、頼む」
338log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 09:59:32 ID:???
遠い震動が平盤を揺さぶって響く
無言で立ちつくす霧亥
厳しい顔で見据える加持
 加持「俺にはここで待つことしかできない。だが君には、君にならできる、君にしかできないことが
     あるはずだ。重力子放射線射出装置のあるなしなんか関係ない、君がここでできることが。
     誰も君に強要はしない。統治局も、碇司令も、葛城でさえ、君に無理強いはしない。
     自分で考え、自分で決めろ。自分が今、何をすべきなのか…ま、後悔のないようにな」
短いが集中しきった沈黙の後、顔を上げる霧亥
精悍な目で笑い、脇の古い非常扉を苦労して引っぱり開ける加持
構造体深部へ続く古い軌道と小型移送台が現れる 電源が生きていることを示す標示灯の明滅
 加持「ケイジ直下への直通ルートだ。骨董品なんで最高速度だとちと危ないが、確実に着くよ」
雑嚢を足元に落とし、移送台に乗り込む霧亥
手伝って制御盤の操作を済ませ、安全線まで下がる加持
その笑みを見つめる霧亥
錆屑を散らして射出される移送台

零号機から離れ、本部施設に向き直る使徒
眼窩が閃光を放つ
本部を直撃する衝撃
多重装甲がこっぱみじんに弾け散り、地下施設への縦坑が露呈する
  .ミサト「まずい、メインシャフトが丸見えだわ!」
 日向「目標、施設内へ侵入! セントラルドグマへ降下を開始します!」

数秒で極小の光点になって遠ざかる入口
移送機は未だ人の手の及ばない堆積層深部の闇を疾走する
数えようもない年月澱んでいた古い空気が咆哮し瞬間的に後方へ飛び去っていく
正面を見据えている霧亥
339log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:00:36 ID:???
格納廠
自ら管制室に立つ碇 側頭部や上体各部から伸びた接続端子がコンソールに繋がれている
空しく繰り返される初号機起動作業
目に流れ込む汗を拭うこともせずシステム制御に没頭する碇
光の戻らない初号機の眼窩
突然、下方の整備用口の一つがくぐもった音をたてて吹っ飛ぶ
散乱する破片の雨の下から歩み出る霧亥 側壁に激突して潰れている移送台
殴られたような顔で我に返る碇
碇の姿を認め、まっすぐに見上げる霧亥
次第に近くなってくる震動と反響音
表情をねじ伏せる碇
   碇「…なぜここにいる」
頭上の情勢を一瞥し、無言で初号機に向かう霧亥
   碇「待て!」
立ち止まる霧亥
いつになく絶望と激情をあらわにしながらも、冷厳な目と語調を崩さない碇
   碇「この階層はお前を必要としていない。残ってもらう理由はない」
碇を見据え、身体ごと向き直る霧亥
対峙する両者
沈黙を破る霧亥
 霧亥「…俺はサードチルドレンだ」
再びの衝撃に格納廠全体が低く鳴動する
340log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:01:25 ID:???
 青葉「緊急防御機構、作動しません! 内部システムの19%が沈黙! 予備回路、応答なし!」
 日向「目標、セントラルドグマ内に侵入! 第一層通過、なおも降下中!」
顔をこわばらせるミサト
  .ミサト「…ここに来るわ。総員ただちに退避! 逃げて!」
大きく乱れて暗転する主画面
立体映像が消え、投影壁をぶち破って使徒が巨体を現す
逃げることもできずにその威容を見上げる人々
蒼白な顔で使徒と正対するミサト 手が無意識にペンダントの十字架を握りしめる
烈光をはらむ使徒の眼窩
瞬間、発令所側面構造ごと初号機が使徒に突進し、渾身の力で突き飛ばす
轟音とともに側壁に突っ込む両者 がらがらと落ちかかる構造材
目をみはるミサト
  .ミサト「…初号機」
全身で使徒に組みついていく初号機
  .ミサト「…霧亥君?」
障害となる全てを破壊しながら、初号機は使徒を格納廠へ押し戻していく
振り上げた腕を使徒の光線が貫通する
中途から切断され、大量の体液をまき散らして壁に当たる腕
その下に立っている碇
血を浴びた顔でまばたきもせず初号機を見据えている
暴れる使徒を射出口へ押し込む初号機
 霧亥『葛城ッ!!』
即座に応えるミサト
  .ミサト「五番射出、急いで!!」
轟音とともに発射される移送台
悲鳴に似た甲高い音をあげる射送シャフト 全力で使徒を押さえ込んでいる初号機
信号が上昇していくのを見届け、表層部へ向かう作戦スタッフたち
341log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:03:24 ID:???
構造部を抜け、超構造体内部亀裂の洞腔高く舞い上がる初号機と使徒
初号機を上に地響きをあげて表層部に激突する
使徒を組み伏せ、残った片手でその体表を破ろうと力を込める初号機
突然その動きが停止する
目を見開く霧亥
暗転するプラグ わずかに表示された内部電源ゼロの文字
活動限界を知らせる長い警告音
動きを再開する使徒
薄い黒体の先端で初号機の頭部を掴み、そのまま持ち上げて凄まじい力で本部施設の残骸に叩きつける
陥没した廃墟に大きく沈み込む初号機
光線を放つ使徒
無残に弾ける胸部装甲

本部外、非常用脱出口からジオフロント表層に出る一同
見る影もない本部施設と、そこに半ば横たわる初号機の姿
目をみはるミサト
剥き出しの素体胸部に光る使徒と同じ暗赤色のコア
  .ミサト「…あれは…!」
黒体の先を硬化させて巨大な二本のブレードを形成し、交互にコアを強打する使徒
なすがまま揺さぶられる初号機

非常灯の薄明かりに浮かぶエントリープラグ
断続する外からの振動がプラグ外殻に亀裂を伸ばしていく
頭を押さえて上体を起こす霧亥
ゼロの並んだ残余電力表示を見、機能しない操縦桿を睨む
言葉のない激情に険しく細められた両目
無言で固定具を引き剥がし、操縦席から身体をもぎ離す霧亥
342log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:04:35 ID:???
いつまでも傷つかないコアに苛立ったように、唐突に攻撃を止める使徒
声もなく見守るミサトら
持ち出した端末の前に屈み込んでいる伊吹
 伊吹「! 初号機、プラグを排出します」
 日向「外に出ただって?!」
 青葉「じかに、使徒に反撃するつもりなのか?」
  リツコ「無理だわ。彼の銃は、我々が総力をあげても機能回復できなかったのよ」
ひたすら彼方の初号機を凝視しているミサト

使徒を前に、露出したコアの真上に滑り降りる霧亥
集中と消耗に白く引き締まった顔
正面にこちらを視認したらしい使徒
構わず背を向け、腰部から接続線の束を引き出して手早くコア周辺に繋いでいく霧亥
N2の熱が引きつつある堆積層表層を眼下に、コアと焼け爛れた素体組織を踏みしめて銃を構える
骸骨に似た無表情な頭部を向ける使徒
静寂の一秒
銃口を据えたまま微動だにしない霧亥
そのとき、背後の何かが変化する
カチリというごく小さな感触
同時に背後を中心に空間を覆いつくす圧倒的な存在の気配
そして、かすかなノイズが宙を満たし始める
343log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:05:37 ID:???
吸い寄せられるように目を凝らすミサト
見咎めるリツコを手で制する
  .ミサト「待って。…聞こえるわ」
つられるように黙る一同 と、すぐにはっとして耳を澄ます
荒廃したジオフロントに高まっていく特徴的なノイズ

増幅していく充填ノイズが極限に達する
引き金を引く霧亥
白熱する輝線が一瞬顕現したATフィールドを撓め、貫通して使徒の巨体に吸い込まれる
反動で初号機の胸郭に叩きつけられる霧亥
着弾点で小規模な爆発 すぐに黒い原組織が周囲から湧き出して跡形もなく損傷を修復する
全くダメージを受けた様子のない使徒
脇の黒体の一つが跳ね上がり、霧亥めがけて一閃する
かろうじて頭を起こす霧亥
到達の寸前、凄まじい衝撃が眼前を通過しブレードを阻む
背後全体から響き始める長く低い唸り声
霧亥の目がわずかに険しさを増す
炯々たる眼光を放ち片手で使徒のブレードを掴み止めている初号機
もう一方の手で本部の残骸を掴み、ゆっくりと頭をもたげる
344log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:06:32 ID:???
後退しようとして果たせず、やや恐慌気味に残る黒体を突き出す使徒
同じ手で苦もなく一撃を止める初号機
まとめ持った黒体をあっさり握り潰し、それごと力任せに使徒を引き寄せる
轟音とともに本部施設にぶち当たる使徒 上体を起こし、その巨体を一気に蹴り飛ばす初号機
ちぎれた黒体をなびかせて吹っ飛ぶ使徒 巨体が堆積層の隆起に突っ込む
息を呑む霧亥 初号機の手と、形態変化を始めた周辺の素体組織がその身体を支え守っている
機能停止した黒体を振り払い不安定に起き直る使徒
バギンと引き開けられる大顎
異様な光をはらむコア これまでにない強力な充填ノイズが響き始める
両目を見開く霧亥
視界中央に拡大表示される使徒口腔奥の射出装置
大量の警告とともに表示される「禁圧解除」の文字を見つめる霧亥
と、急に足元を見下ろす
接続線で繋がれたまま、応えるように暗く輝き出している初号機のコア
一瞬それを凝視し、無言で再び銃口を振り向ける霧亥
瞬間、銃の外装が一斉に開放される

畏怖に打たれたまま見守る一同
 青葉「あの銃で、使徒の砲に対抗する気なのか…?!」
 日向「だが、観測できる限りじゃ出力は負けてないぞ」
 伊吹「初号機の全システム活性、なおも上昇。安定するどころか、さらに加速しています」
端末の画面に息を呑む伊吹
 伊吹「これは…信じられません、初号機とパイロットのシンクロ率が、400%を越えています!」
我を忘れたように呟くリツコ
  リツコ「…やはり目覚めたのね。彼女が」
洩らされた言葉を聞きとがめるミサト
345log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:07:26 ID:???
光を増すコアの上にひざまずき、両腕を固定して銃を構えている霧亥
全身を駆け巡る電磁擾乱 強制集束されるエネルギーが放電の靄となって周囲を荒れ狂う
同じまばゆい電磁嵐をまとって直立する使徒
充填完了の瞬間、一瞬で展開され宙で激突する二つのATフィールド
ほぼ同時に発射される二つの重力子放射線
巨大な光芒と光弾が接触し、干渉し合い、そして光弾が巨光を切り裂いて突き抜ける
構造物の陰に飛び込んで頭部を庇うミサトら

階層の遙か彼方まで一直線に伸びる重力子放射線

電離した大気の流動がジオフロント全域を席巻し、やがて静まる
上体を丸ごと消し飛ばされた使徒がゆっくりと傾いていく
よろめいて立ち上がる人々
使徒の残骸が遠く地響きをあげる
 青葉「…も、目標、完全に沈黙。内部活動…ゼロです」
  .ミサト「初号機は…?」
相次いで振り返る一同
射撃の反動で本部施設に深くめり込んでいる初号機
胸部は形状変化した素体で固くふさがれている
ふいに両眼窩に光が戻り、頭部が持ち上がる
自力で立ち上がる初号機
装甲の隙間から、胸部と同様に変質した素体組織が線状に伸び出し、全身を覆っていく
内圧で次々と弾け飛ぶ装甲板
  リツコ「…拘束具が」
346log.19 男の戦い:2006/02/20(月) 10:11:41 ID:???
 日向「拘束具?」
  リツコ「そうよ。あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが抑え込むための拘束具なのよ。
     その呪縛が今自らの力で解かれようとしている。
     私たちにはもう、エヴァを止めることはできないわ」
魅せられたように語るリツコを見つめるミサト
振りきるように初号機に目を戻す
無数に枝分かれし増殖していく組織束の中で新たな自己形態を整えていく初号機
ざわめき続ける人の形が上方を仰ぎ、咆哮する

かろうじて崩れ残った本部施設最上部
総司令執務室の窓から初号機を見つめる碇と冬月
確信と苦悶のないまざった表情を見せている冬月
 冬月「…始まったな」
半身を重く血に染めたまま佇んでいる碇
   碇「…ああ。全てはこれからだ」
高く長くいつまでも尾を引いて響き渡る咆哮


log.19 終
そんなわけでえらくショボイ禁圧解除でした
>322 ありがとう sageても保守はできるから大丈夫だよ
>323 嬉しかったよサンクス
347名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/02/24(金) 03:12:30 ID:???
禁圧解除きた!!
ヤバい!!
348名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/04(土) 13:31:50 ID:???
保守
349log.20 心のかたち 人のかたち:Aパート:2006/03/09(木) 11:40:00 ID:???

 日向「拘束具?」
  リツコ「そう、あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが抑え込むための拘束具なのよ。
     その呪縛が今自らの力で解かれていく。私たちにはもう、エヴァを止めることはできないわ」
熔明するジオフロント
活動停止し、白煙を噴きながら急速に劣化しつつある使徒の残骸
本部外郭からさまよい出る初号機
素体とその周囲から湧き出す硬質の繊維状組織が速やかに全身を包み込んでいく
次々と剥落する装甲板
先に復元された片腕は完全に変容を終え、以前とは全く異なるフォルムと質感を見せている
自己成形し接合される未知のパーツ群 歪んだ頭部装甲の奥でまばたく精巧な眼球
その焦点が絞られる
 伊吹「初号機、階層の主構造体へ接続。排除プログラムの発動、ありません」
 青葉「情報の流入にともなう物理的変化を観測…素体内部で、何かが生成されてるようです」
  リツコ「…S2機関を、直接ダウンロードしているというの」
複雑な組織に覆われた胸部表層が再び変形し、後退する索体の奥からコアの半球が露出する
黒赤色の球体内に渦巻く高密度のエネルギー
コアを中心に全身に広がっていく青い帯電の燐光
上方に向かい咆哮する初号機
立ちつくしているミサト

 加持「初号機の覚醒と解放。こいつはゼーレが黙っちゃいませんな。
     これもシナリオのうちですか? 碇司令」

唐突に音響と映像が静止し、闇に消える
350log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:40:53 ID:???

DAY 1

 声「都市構造体との接続と再閉鎖、まさかこのような手段で実現するとはな」
 声「しかし、あまりにも局所的だよ。あくまであの使徒の外部干渉経路を断ったにすぎん」
 声「未だ我々の隔絶状態は続いている」
 声「だが、初号機が階層の主要ハードウェアとのアクセス機能を得たのは確かだ」
 声「その結果としての、S2機関…階層主電力供給線常時受信装置の、内部作出か。
    五分から無限とは突飛な話だ」
 声「我々は代理構成体を欲しているのではない。それも破局を予定された増設システムの代理など」
 声「システムへの介入手段は必要だ。だが主導権は我々の手の内でなければならない」
 声「我々以外のユーザーを許してはいかん」
 声「この修正、容易ではないぞ。我々がどれほどの時間と資源を失ったのか想像もつかんよ」
 声「こうなったのも、あの男の首に鈴をつけておかなかったのが問題ではないのか」
 声「鈴はつけたさ。鳴らなかっただけだ」
 声「では、今度は鈴に動いてもらおう」
351log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:41:40 ID:???
 加持「…いやはや、まさに予定外の結末でしたね。
     それとも、あなたがたは初めからこうなると予測してたんですか? もちろん
     彼が戻ってくることも含めて、ですが」
再建中の本部最上階 総司令執務室
執務席で両手を組んでいる碇と傍らに立つ冬月
広いデスクの斜め向かいから彼らと対する加持
彼の装う軽薄さに嫌悪の念を隠さない冬月
   碇「初号機の回収には成功した。重要なのは階層内システムへの干渉経路が開けたことだ」
 冬月「回収できる限りの初号機の内部記録は、変換後のシステム概要を含め、既に委員会へ提出してある。
     今後は委員会の指示を仰ぎつつ、補完計画をより迅速に推進していくことになるだろう」
   碇「初号機は委員会の別命あるまで凍結。厳重拘束の上、全システムを不活性に保っている。
     いずれにせよ、現在までに一切の活動は見られていない。問題はない」
 加持「あくまで初号機は人の手のうちにある、と仰るわけですか。…しかし」
やや真顔になる加持
 加持「…“ご子息”を取り込まれたままですが」

地下格納廠
変質した素体の上から絶縁材で封印され、厳重に固定された初号機の前に立つミサトと日向
  .ミサト「…ケイジに拘束。大丈夫なんでしょうね」
 日向「現在、素体内部には、観測可能ないかなるエネルギーも化学的反応も皆無です。
     S2機関は完全に活動を停止しています」
  .ミサト「にもかかわらず、この初号機は動いたわ。それも三度も」
過去の暴走の光景を思い起こすミサト
 日向「うかつに手を出すと何が起こるかわからない。葛城さんと同じですね」
厳しい表情のミサトを窺いつつ軽口を叩いてみる日向
沈黙
 日向「…すいません」
352log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:43:29 ID:???
零号機・弐号機の修復状況を視察するリツコと伊吹、青葉
 伊吹「…両機の損傷は、ヘイフリックの限界を超過しています」
 青葉「パーツのほとんどを新規で補ったとしても、再就役までにはかなりの調整が必要ですね」
  リツコ「半壊した本部施設の再建を含めて、時間がかかるわね。全てが元に戻るには」
閉鎖された発令所跡を通る三人
通廊や走路の大半も破壊され、施設の半分以上が機能停止している
  リツコ「…で、これが当面使用することになる、予備の第二発令所」
まだ照明の繋がれていない広大な人工空間を見渡す三人
 伊吹「…椅子はきついし、センサーは固いし、使いづらいんですよね、ここ」
 青葉「見慣れた第一発令所と、構造的には同じはずなんですが」
  リツコ「贅沢は言っていられないわ。埃を払って、午後には仕事を始めましょう」
 伊吹「MAGIはなくとも、ですか」
353log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:44:17 ID:???
病室で目を開くレイ
全身が治療装置で覆われている
  レイ「…まだ生きてる」
医療計器の控えめな信号音 点滴の規則的な滴り
横たわったまま視線だけ動かすレイ
人気のない白い室内
その遙か向こうに、何重にも強制停止装置で活動を封じられた初号機の姿

ミサトの個人居住室
個室でベッドにつっぷしているアスカ
 アスカ「…もう、何度もしつこいわね! あの女が無事だったってのはわかったから、ミサトも
    そんなことでいちいち連絡してこないでよ!」
投げつけられる通話器
部屋じゅうにめちゃくちゃに投げ散らされている小物類
 アスカ(…この私が負けたなんて。エヴァに乗ることで負けたなんて)
顔を埋めた枕の両端をぎゅっと掴むアスカ
 アスカ(エヴァに乗ってたのに、何も…何もできなかったなんて)
フラッシュバックする両腕裂断と活動停止の感覚
 アスカ(…ここじゃもう、何もできないんだわ。この私は)
強く枕を抱きしめるアスカ
 アスカ(……ここから出たい。出たい。出たい…!)
354log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:45:31 ID:???
DAY 2

閑職の暇を盗み、保安諜報部の端末経由で都市連結体の主データバンクに潜り続ける加持
これまで階層内に定住してきた人々の膨大な記録が、大半は未整理のまま保存されている
初期の記録は大量の履歴の間に断片となって埋没している
碇の名前と『アダム』をキーに、周到に接続ポイントを変えつつ情報採掘を続ける加持

大画面に映し出されている初号機の物理的・情報的解析像
大きく変容したそれらの中に、搭乗者の痕跡を示す要素はない
憔悴した顔のミサト
  .ミサト「これって…これじゃ、…霧亥君がどこにもいないじゃない」
  リツコ「そう。これがシンクロ率400%の正体」
再開された技術部主解析施設
既存データとは完全に異なる構成へ変化した初号機の情報構造を示すリツコ
  リツコ「ここが階層の主要ハードウェアと接合している部分。今は本体同様、一時的に機能を休止してるわ」
並示される以前のシステム概観像
  リツコ「初号機を構成していた全ての情報は、かなり強引なやり方でフォーマットを変更されているの。
     結果、都市の主要構造体へのアクセス能を獲得し、自らS2機関を内部生成した。その原因が、
     すなわちサードチルドレンとのシンクロ、いえ、直接的データ接続」
異様な画像とリツコの顔を交互に見比べるミサト
  .ミサト「…霧亥君が、初号機を丸ごと書き換えたって言うわけなの…?」
  リツコ「いえ、実行したのは初号機よ。彼はそれが進行するのを禁止しなかっただけ」
355log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:49:02 ID:???
聞きとがめるミサト
  .ミサト「“進行”? …それじゃ、これはもっとずっと前から起きてたことだっていうの?」
答えないリツコ
  .ミサト「…知ってたのね。最初から、全て」
  リツコ「…全てじゃないわ」
硬い表情のミサト
  リツコ「見て。現在の初号機のシステムには、我々の技術では何なのか突き止めることすらできない
     領域が幾つも存在するの。変質した素体についても、全てを把握できている訳ではないわ。
     恐らく霧亥君を構成していた物質と情報は、観測可能な形を失ってこれら不確定領域に取り込まれ、
     彼の個性そのものも、そのどこかに保存されていると推測できるわ」
  .ミサト「…霧亥君は、初号機を構成するデータの海に呑み込まれてるってこと?」
  リツコ「ええ。その証拠に」
物理解析像の一部を拡大表示するリツコ
コア付近 硬化した素体組織の奥に埋没している重力子放射線射出装置
  リツコ「彼本人と最も緊密な関係にあるこの銃が、こうして原形のまま素体内部に存在しているわ。
     もっとも今は、初号機と同じく一切の反応を示さないけれど」
 伊吹「素体外殻は素粒子レベルで変化し、現在の硬度は超構造体の数十%に相当しています」
  .ミサト「…物理的干渉は不可能か」
耐えるように目を閉じるミサト
  .ミサト「状況は理解したわ。けど、なぜなの。なぜ霧亥君が取り込まれる必要があるの」
冷徹な視線を返すリツコ
  リツコ「彼は何も知らなかったわけじゃないわ。再び初号機に乗ったのは、彼自身の意志よ」
弾かれたように睨むミサト
  .ミサト「これも誰かの意志だって言うの?」
  リツコ「あるいは、エヴァの」
室内に響く平手打ちの音
目を逸らしているスタッフたち
怒鳴るミサト
  .ミサト「何ふざけたこと言ってんのよ! あんたが作ったんでしょ! 何とかしなさいよッ!!」
356log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:49:54 ID:???
DAY 3

装甲を取り去られ、剥き出しの素体を白っぽい封印帯で隙間なく縛られた初号機
機能停止したまま見開かれている巨大な眼球
拘束具の上から円環腕状に増設された大量の遮蔽装置
整備梁上で静かに明滅している観測装置のモニター列
ほとんど変化しない数値群 唯一微細な流動を続けている階層構造体の背景電磁放射

  .ミサト「…霧亥君のサルベージ計画?」
  リツコ「そう。こちらから初号機に接続して、不確定領域に散在する彼の情報を回収、再体系化するの。
     霧亥君を彼自身たらしめる、彼個有の情報格子と言うべきものへのアクセスに成功し、それを
     再活性化させることができれば、彼を個体としての活動形態に戻せるわ」
 伊吹「つまり、サルベージとは、物理身体を再構成し、個性を定着させる作業です」
  .ミサト「…そんなことできるの?」
  リツコ「MAGIのサポートがあればね。初号機のシステムも、完全に我々の手の及ばないところまで
     変化してしまったわけではないもの。許可が下りしだい、すぐに始めるわ」
357log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:50:49 ID:???
市郊外 古代構造物の中腹に造られた公共スペース
眼下の街には目もくれず、ベンチに腰かけて遙かな階層天井部を仰いでいるアスカ
降り注ぐ超構造体の光
近づく足音 機敏に警戒の目を向けるアスカ
一瞬表情がよみがえるものの、すぐに元の倦怠の顔に戻ってそつなく視線を外す
ベンチの端に腰を下ろし、変わり果てた街を眺めるトウジ
長い間黙っている二人
 トウジ「…退院してから、初めてや。知った顔に会うたんは」
答えないアスカ
 トウジ「…途中、見たわ。綾波は…生きとるんか」
答えないアスカ
 トウジ「…ま、その顔見ればわかるか。…とりあえず、お互い無事で良かった、てとこか」
 アスカ「…あんた、なんで学校に戻んないのよ」
振り向くトウジ
 アスカ「無事だったんなら、さっさとフツーの日常に戻んなさいよ。ヒカリを心配させてないで」
ちょっと笑うトウジ
 トウジ「戻れたら、ええんやけどな」
鼻で笑うアスカ
 アスカ「戻らない、んでしょ。
    自分のちっぽけな一生を揺るがした大事件の余韻に、まだまだ浸ってたいってわけ?
    いかにもオトコのコらしい、吐き気がするくらい甘ったれた発想よね」
 トウジ「そら…ま、結局のところ、そんなもんなんやろな。惣流は平気なんやろし」
 アスカ「何がよ」
 トウジ「エヴァに乗る、乗った、ちゅうことや」
改めてトウジを見るアスカ
両膝に肘をついて上体を乗り出しているトウジ 少し面痩せした感じの横顔
358log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:51:46 ID:???
 トウジ「…エヴァに乗って、自分が何か変わった思うこと、ないか」
目を逸らし、座面の端を掴んで両脚を投げ出すアスカ
 アスカ「エヴァとシンクロすることで、操縦者の脳に何らかの致命的な不可逆変化が起きるなんて報告は
    一度もないわ。そりゃ、対応する神経結線はちょっとは変わってるだろうけど、それは個体が
    環境の変化に対して起こす通常の順応作用と大差ないレベルよ。
    あたしたちの脳も、そこに記載された情報も、周囲の状況の変動に応じて日々変わってんの。
    エヴァに乗るのだってしょせんはその範囲内よ。そんなのいちいち気にしてどうすんのよ」
敷石に目を落として破顔するトウジ
 トウジ「大した奴やなぁ、惣流は」
 アスカ「当ったり前でしょ」
頭上を睨むアスカ 軽く背を反らしてそのまま動きを止める
 アスカ「…だから、高望みしてもしょうがないのよ。その必要もないわ」
 トウジ「考えるだけ無駄や、て言いたいんか」
 アスカ「そ。自分で行けなきゃ、ないのと変わらないもの」
 トウジ「せやけど、お前さっきからずっと上見とるやないか。ワシが来る前もそうやったろ」
 アスカ「…そのぐらいわかってるわよ」
 トウジ「そうか」
しばらく沈黙する二人
 トウジ「…学校、どないなっとる」
 アスカ「別に、変わってないんじゃない。校舎は被害区域のずっと外だったわけだし」
ややあって顔を上げるトウジ
 トウジ「なんや、お前も行っとらんのかいな」
359log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:52:33 ID:???
 アスカ「うるさいわね。あんたみたいなサボリとは違うわよ」
 トウジ「ま、そうやな。惣流は現役パイロットやからな、ワシと違うて」
押し黙るアスカ
特に突っ込まないトウジ
 トウジ「しかし、これからどないなるんやろな。
    まだ来るんやろ、使徒。政府や都市連はなんも言ってこんけど、ネルフは基地直しとるし」
 アスカ「あたしにわかるわけないでしょ。こっちがやってるのは迎撃なんだから」
 トウジ「なんや、えらい受身な話やな」
 アスカ「文句あるなら、使徒が出現する瞬間を特定してみなさいよ。広域防衛線に引っかかるより先にね」
 トウジ「んなもん個人でできるわけないやろ。最新型の探査体何千と飛ばしても見つからへんのに」
もう一度小馬鹿にするように鼻を鳴らすアスカ
 アスカ「だったら、黙って避難訓練してればいいの。さっさと戻んなさいよ、学校」
 トウジ「…そやな。ほんまに」
大きく破壊された眺望を黙って見つめる二人
各居住区では人々の他都市への疎開が続いている
 トウジ「なぁ、ワシはもうネルフの人間やないわけやけど、一つ聞かせてんか」
 アスカ「何よ」
ちょっと言いよどむトウジ
 トウジ「…霧亥の奴、今、どないしとるんや。あの後、初号機が出たんやろ」
答えないアスカ
360log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:53:54 ID:???
DAY 5

堆積層の闇に立つ碇と冬月
無数の通路を満たす濃い電磁波に顔をしかめる冬月
 冬月「結局、今回の件で、はからずもお前の主張の一部が実証されたことになったか。
     サードチルドレンのサルベージが成功すれば、残りもほぼ、証明されるな」
側頭部に繋いだ直結端末でMAGI内の監視記録を確認している碇
   碇「サードチルドレンでの成功では不足だ。ごく特殊な例だけでは実証とは言えんよ」
 冬月「しかし、可能性までは否定できんだろう。我々の計画は大きく前進したわけだ」
無表情のままの碇を一瞥する冬月
 冬月「…なんにせよ、今後ゼーレは露骨に干渉してくるだろうな。先の戦闘において超構造体には
     大きな損傷はなかったとはいえ、死海文書に記された使徒の名は残り少ない。
     時間がないぞ。我々には」
   碇「…わかっている」
外部端子を抜き、しっかりした口調で答える碇
暫時その顔を見る冬月
きびすを返し、霧亥の探索経路を後にする二人
361log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:54:44 ID:???
DAY 10

再建中のネルフ本部
稼動再開された走路の終点間際で顔を上げるミサト
階上で片手を上げている加持
わずかに表情を変えかけ、結局黙って加持に並ぶミサト 歩き出す二人
 加持「どう、調子は」
  .ミサト「ま、ね。今は仕事があるし。修復、再開可能な兵装施設を把握し直して、最低でも
     エヴァ各機の再就役までには、新たな迎撃態勢を形にしとかなきゃならないわ」
 加持「忙しくしてるわけだ」
  .ミサト「それで助かってるってとこね。正直」
 加持「皆そんなもんさ。今は特にね」
口を結んでうつむくミサト
 加持「エヴァのことはリッちゃんを信じて任せるしかないさ。
     君にできるのは、いつ彼ら全員が復帰してもいいように万全の備えをしとくことだ」
軽く背中を叩く加持の手 一瞬だけ目を閉じるミサト
  .ミサト「アスカ、ここんとこちゃんと学校に行ってるみたい」
 加持「そうか。良かったじゃないか」
  .ミサト「一時はどうなるかと思ったわ。あのまま閉じこもっちゃうんじゃないかって」
 加持「それはないさ。アスカなりに、一人で考える時間が必要だったんだよ。
     今回の襲来、これまでと、そしてこれからについて、だな」
  .ミサト「これから、か。…確かにね」
呟いて、毅然とした眼差を取り戻すミサト 寸時視線をとどめる加持
少し先で分岐している通路
去りがてにやや硬い顔で振り返るミサトへ、ただ頷いてみせる加持
別々の方向へ歩み去っていく二人
362log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:56:13 ID:???
DAY 26

大幅に生徒数の減った壱中
移動教室の帰り、クラスメートらのざわめきからやや距離をおいて歩くレイ
振り返って、急に立ち止まるケンスケ
 トウジ「なんや、忘れもんか?」
.ケンスケ「ん…ま、そんなとこかな」
 トウジ「そか。じゃ、先行っとるで」
.ケンスケ「悪い」
雑談する生徒たちをやり過ごし、意を決したようにレイに近づくケンスケ
目を向けるレイ
  .レイ「…なに」
生徒たちを振り返るケンスケ アスカがヒカリとお喋りしながら角を曲がっていくのを慎重に見送る
.ケンスケ「いきなりで悪い。けど、綾波以外、訊ける相手がいなくて、さ」
いぶかしげに眉を寄せるレイ
理由のない居心地の悪さをさりげなく隠しつつ、一息に切り出すケンスケ
.ケンスケ「…霧亥の奴、どうなったんだ?」
返事をしないレイ
.ケンスケ「あいつ、戻ってきて初号機に乗ったんだろ。みんな、うすうす知ってるよ。
    だけど、それならなんで俺たちの前に出てこないんだ? 回収された初号機には
    凍結命令まで出されてるっていうじゃないか。戦闘が終わって、もう一ヶ月になるのに。
    パパのデータあさってもそれ以上はわからないんだ。…頼む。知ってるなら教えてくれ。
    俺は、どうしても知らなくちゃならないんだ」
言い終えてレイを窺い、一瞬その目に射すくめられたようになるケンスケ
黙って歩き出すレイ
  .レイ「…今は、まだ何も言えないわ」
取り残されるケンスケ
363log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:57:22 ID:???
DAY 30

技術部拡張施設
巨大な実験設備群を前に計器の最終調整を行うリツコと伊吹
 伊吹「MAGIがあるとはいえ、よく一ヶ月でまとまりましたね、サルベージ計画の概要」
  リツコ「一から作ったわけじゃないわ。昔、似たような状況があって、そのとき行われた計画を
     もとにしたものよ」
 伊吹「エヴァの開発中に、そんなことがあったんですか…」
  リツコ「私はまだいなかったし、母さんも直接関わってなかったけど、当時のデータは残っててね」
 伊吹「それで、そのときの結果はどうだったんですか?」
沈黙するリツコ
364log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/09(木) 11:59:22 ID:???
数時間後
装甲を戻され、増設拘束具の周囲から大量の解析機と干渉装置を繋がれた初号機
数十基の観測装置が内部の変化と反応の全てをリアルタイムで監視している
制御房で配置についたオペレータら
後方に立つリツコと、その隣で巨大な実験モニタを見守るミサト
 青葉「誘導信号、固定完了。パルス変動値、問題なし」
 日向「強制干渉装置、全て異常なし。全準備作業、完了しました」
 伊吹「接続を開始します」
初号機のプラグ挿入口に、設備群の集中接続腕が重い接合音とともに打ち込まれる
画面いっぱいに展開される大量の表示や構造概略図
それらを読み取りつつ指示を下していくリツコ コンソール操作に入るオペレータら
めまぐるしく変動する表示群を無言で見つめるミサト
高まっていく電磁ノイズ

本部内 同刻
通路を行くレイの前に立ちふさがるアスカ
黙って見つめ返すレイ
きつい目をしているアスカ
 アスカ「…ちょっと、つきあって」


log.19 続
レスくれた方ありがとうございました
365名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/10(金) 12:43:18 ID:???
GJ! 引き方が良いね。次が気になるよ。
366名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/17(金) 01:58:03 ID:eHDbohqe
圧縮が来るんで上げさせてもらうぜ。
367名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/03/19(日) 16:51:50 ID:???
ほほほ
368log.20 心のかたち 人のかたち:Bパート:2006/03/26(日) 11:55:49 ID:???

(///背後で閉ざされる超構造体)
(/闇 
 沈滞した空気 静寂 閉所感覚 網膜上に周辺構造材の組成分析結果(理解せず)
 外部回線の一部受信不能を知らせる警告表示(理解せず)
 /両足の接床感 手の中の銃 損傷度 修復を始めるスキンスーツ
 /真っ暗な床面 あらゆる電磁効果の欠落ないし極低分布 停止状態で経年劣化した構造物
 //前方に光 旧型建設者の個体状態識別信号を感知(理解せず)機能する構造体の存在(理解せず)
 /超構造体通過 遮蔽感の解消
 階層主構造部に進入 旧様式の構造体の連続 経路探索/経過/経過/経過//
  /動影:有機体
  銃口を向ける
  男
  :網膜走査不拒否:虹彩に感染痕跡(理解せず)遺伝子型系統分岐極小(理解せず)
   ::「君が霧亥か」)
369log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 11:56:45 ID:???

:::
 (見当識長期喪失)
 (身体感覚欠漏)(自己診断機能不応答)
(接触)
 (界面機構再起動)
 (再構築単位不足)(実動作再現不能)(言語機能緊急整備)
(再接触)
  :誰だ?
(仮象:見開かれた巨大な双眸)
  :エヴァ初号機
(肯定)
  :ここは何だ? 俺は今どうなっている?
(無言)
(座標伝達)
  :そこにお前がいるのか?
(肯定)(接触中断)
(強制転送)
::

構造物とも有機体ともとれる連続体の内部にいる霧亥
見渡す周囲は主観的無限の広がりを見せている
音声の欠落 空間の奥行と距離感の不在
微妙な身体感覚の異常に気づく霧亥
持ち上げた手に物理的重量はなく、周囲の状況は感覚器を介すことなく直接認識されている
自覚した瞬間、擬似実体化されていた網膜表示が消える
無意識に懐に手をやる霧亥
手は空を掴む
消えた銃の反応を求めて周囲を見回す霧亥 ふとある方向を見つめる
/
370log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 11:57:50 ID:???

DAY 30

 伊吹「接続を開始します」
 青葉「全内部システム再開。初号機主制御機構の再起動を確認。予備回路、全て正常」
 日向「第一次接合完了。物理計算領域におけるデータ喪失の形跡は認められず」
 伊吹「パターン個定誘導パルス、プラス0.03に修正」
 日向「第二予備界に接触。経路形成。データ接合、問題なし。続いて第三予備界へ」
 青葉「初号機の全構造階梯を遡上、主仮想界領域に到達。送信回路を確保」
 伊吹「誘導信号パルス、再設定完了。出力70%、発信方向は全方位にセット」
 青葉「全経路クリア。送信開始」

/
わずかに目を見開き、仮想領域の概念的地平を見据える霧亥
/
371log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 11:58:36 ID:???

/「あなたが乗るのよ」
/「がんばってね」
/「…殴らないかんのや。殴っとかな、気が済まへんのや!」
/「今の居住形態が定着して、何十世代になると思ってるんだよ。ずっと昔ならともかく、
  この階層から追い出されたら、今の俺たちは生きてけないよ」
/「つながり。人と人の間にあるもの」
/「決まってんじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ。
  外に出ていけない以上、せめてこの階層には、私がいるってことを知らしめないとね」
/「結局、私は間に合うことができなかった。だが最後の悲劇が訪れるにはまだ間がある。
  それを食い止めるための砦がネルフだ」
/「…ま、後悔のないようにな」
372log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 11:59:27 ID:???
技術部拡張実験施設
たえず移り変わる画面の反映に照らし出されている人々の顔
身体の各部から伸びる外部端子でコンソールと繋がり、集中操作するオペレータら
 日向「パルス浸透。初号機の全サブシステムで機能活性上昇を確認」
 青葉「反応検出。やはり、相当に断片化されてますね。対象領域の推定最大範囲を再修正」
 伊吹「誘導パルス、システムを貫通。不確定領域からの拒絶、今のところありません。
     反応座標を固定。パターンの同定抽出作業に入ります」
 日向「システムの全階梯に渡って、階層主要構造体との接合部を再走査。現在、機能している
     部位は確認できません。階層ハードウェアとの接続は切断されたままのようです」
明滅する記号流の中に身を乗り出すリツコ
  リツコ「接合部の状態だけは常にチェックを怠らないで。万が一そこが崩れたら、全て終わりだわ」
 伊吹「了解」
顔を上げ、かすかに不安の表情を見せるミサト

格納廠
整備用通路の一つに佇み、実験設備に繋がれた初号機を見下ろしているレイとアスカ
すでに装甲が戻され、変質した素体は窺えない
コアだけが剥き出しのまま大量の観測機器と電纜の束に囲まれている
通路の手すりを掴んでじっと初号機を見つめているアスカ
少し離れてその横顔を見ているレイ
サルベージ作業の進展は遮蔽場に阻まれ、初号機脇に増設された拡張実験施設の外には伝わってこない
機械類の発する重低音と電磁ノイズに覆われた実験施設に目を向けるレイ
 アスカ「…あんた、エヴァって何だと思う」
振り返るレイ
つきつめたような目をしているアスカ
373log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:00:42 ID:???
/
存在しない地平の向こうを凝視している霧亥
少しの間無言で佇んでいるが、やがて顔をそむけ、きびすを返す
踏み出す足
/の下で床面の様相が変わる
周囲に広がる別の主観的無限領域
眼前にそびえ立つ奇怪な構造物の群れ 歪んだ大構造が不安定に連結しながら遙か遠方へ続く
微速成長する風景の中へ歩き出す霧亥
/

 伊吹「…3004から3072番、反応消失。
     変です。一度同定されたデータが、追跡範囲から消えていきます」
 青葉「パルス出力増加…駄目です、反応、回復しません」
 日向「消失領域、拡大していきます。さらに走査範囲を拡張。再捕捉を試みます」
  リツコ「どういうこと? …個々の構成要素の挙動をMAGIに上げて、再計算」
 伊吹「試算完了。誤作動ではありません。エヴァのシステム、もしくはパターンそのものが、
     誘導パルスによる再体系化を拒絶しているとしか…でも、そんなこと起きるはずは」
にわかに緊張の漂い始める制御房
呟くリツコ
  リツコ「…なぜ? 帰りたくないの、霧亥君」
374log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:02:40 ID:???
/
うねる構造体の合間に刻まれた長大な階段を登る霧亥
足を止めかけるが、振り返らずに先へ進む
少し先で階段が二方向に分岐している 立ち止まり、ふと目を見開く霧亥
擬似知覚認識の外に再接触の感触
(疑問)
  :まだ帰れない
(肯定)
少し険しい表情になる霧亥
  :お前が帰さない
(無言)
仮想的な気配の方に顔を向ける霧亥
  :どっちに行けばいい?
視覚閾下に方向の表示
一方の道を選び、登攀を再開する霧亥
刻々と変化を続ける連続体
/

 アスカ「…人類の作り出した、究極の汎用人型決戦兵器。使徒に対抗するための、最後の切り札。
    知らないのよ。それ以上のことは、何も」
独り言のように話すアスカ
 アスカ「別に、それでも問題ないんだけど。しょせんパイロットは使徒殲滅の実行単位だもの。
    …今まで、ずっとそれでやってきたわけだし。何も知らなくても、操縦方法さえわかってれば
    エヴァには乗れるわ。重要なのはそのことの方だもの」
  レイ「…それを言いたくて、ここにきたの」
顔を上げるアスカ
表情に乏しい顔でまっすぐアスカを見ているレイ
一瞬ひるみ、すぐにきっと見つめ返すアスカ ややあって視線を逸らす
眼下に人工物の重層に取り巻かれた初号機
 アスカ「…別に。
    ただ、あいつがどうなるにしろ、見ておくべきだと思ったのよ。
    お互い、あれに乗ってるんだから」
375log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:07:39 ID:???
/
数十階層にも達する交差構造物の下を行く霧亥
頭上を仰ぐ
構造体に呑み込まれるようにして、以前倒した使徒の群れが見える
目元を険しくする霧亥
(提示:敵)
  :誰の敵だ?
(返答:人間)
(提示:不可逆進行)
  :どうすれば止められる?
(無言)
初号機の外部経験不活性保存体から目を逸らし、先へ進む霧亥
連続体と半ば融合した形で凍結されている使徒たちの不活性記録
/

 青葉「主仮想領域を含む一部に、不鮮明箇所が増大。周辺部からのデータ流入を確認」
 日向「不確定領域を中心に応答のないシステムが増加しています。モニター可能限界まで
     後退した区画は、推測される全体構造のうち、すでに3%を越えてます」
閉塞した房内に閃く画面群の反映
高出力で稼動する機器類の分厚い唸り
伊吹の肩ごしにリツコがコンソールを覗き込む
  リツコ「…検出された反応パターンが不確定領域内部に達していないのは、不幸中の幸いね。
     多少反応を見失っても、最終的なデータ喪失がない限り、個性の再誘導はまだ可能だわ」
 伊吹「ただ、初号機の主仮想領域における時系システムは、基底現実より大幅に加速されています。
     無事にサルベージできたとしても、記憶や人格の混乱の調整にかなりの期間が必要になります」
 青葉「内部の主観時間では、何年、あるいは何世紀経過しているかわかりませんからね」
376log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:10:32 ID:???
補助端子を繋いで作業をモニターしているミサト
色のない顔 声だけが強い
  .ミサト「システム全体の減速は? 物理計算領域は、完全にこっちの管制下で走ってるんでしょ」
  リツコ「…できないのよ。これ以上はね」
両目を見開き、リツコを振り向くミサト
  リツコ「初号機の情報構造は今も変化し続けているわ。不確定領域の増加によって、我々の手の及ぶ
     範囲はどんどん縮小しているの。初号機が今日まで全面的に機能を凍結され、全システムを
     不活性状態におかれていたのはそのためよ」
顔を上げずに続けるリツコ
  リツコ「実際、今回のサルベージ計画には、かなり反対の声もあったそうよ。
     システムを再開することで初号機が完全に我々の制御下を離れる可能性を危惧したの。初号機が
     単なる接続点ではなく、階層の追加ハードウェアそのものになってしまうとしたら、そのときは
     我々には二度と手が届かなくなるわ」
追いつめられたような目でモニター群を見上げるミサト
画面内で着実に増えていく不鮮明領域
  .ミサト「…それでも、計画の実行許可が下りたのはなぜ?」
無表情に記号流を見つめているリツコ
  リツコ「さあね。ただ、この程度の接触も試せないようなら、我々はすでに無力だということだわ」
言葉を失うミサト
わずかにためらってから、もう一度口を開くリツコ
  リツコ「…もし、MAGIの上部管制と主制御機構にわずかでも機能的な異常が見られたら、その時点で
     システムを強制終了。全ての外部接続を完全閉鎖し、初号機を再凍結するわ。たとえ、パルスへの
     反応がまだ完全に消失していなくてもね。この実験を行う、それが絶対条件よ」
顔を歪め、唇を噛むミサト
黙って模式像の変転を見つめる二人
しだいに緊張を増していくオペレータらの語調
377log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:11:23 ID:???
//
連続体のほぼ中央部にたどり着く霧亥
複雑に分岐・融合した構造物の間に埋め込まれたような状態で直立している初号機の素体
その様子は格納廠に拘束されているさまと酷似している
/コアの傍らに立つ霧亥
外部端子を引き出そうとしてやめ、無言でコアに手を触れる
/
/空間認識の消失 身体感覚欠漏
/接触
 :……キリイ?
/仮象:見開かれたまま無限遠を見つめる巨大な眼球
 :キリイ
  :なぜここに連れてきた?
/(一時空白)
/

///
 /
 複数の顔
 大掛かりな実験機械の群れ:相互に接続された大量のハードウェア:大電力の集中
 /中央に固定された巨大な人型
 /疲弊した人々の顔
  :「合成遺伝子から完全に感染創を取り除くことは不可能だ」
  :「我々にはネットと正常なアクセスを果たすことはできない」
378log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:12:11 ID:???
  :「珪素生物とセーフガードの襲撃を逃れ、生きのびる手段は一つしかない」
  :「これが最後の接触になる」
  :「だが、階層閉鎖後、我々がどれだけ生きていられるかは全く予測できない」
  :「技術と社会の回復には長い時間が必要になるだろう」
  :「我々に、東亜重工のような道を選ぶ判断力があれば、あるいは」
  :「いずれにせよもう時間はない」
 /
  :「接続を開始する」
 /

 /////
 /
 /「失われた時代を復活させる最大の鍵だ。これ以上のチャンスは存在しない」
  「だが、近づいただけでも何が起こるかわからないんだぞ」
  「防御処置は万全だ。これだけの資源と時間を投資した以上、中止は不可能だよ」
 /「なぜここにいる?」
  「知りたいからです」
  「君はもう知っているのではないのかね」
 /「手遅れだ、碇。槍を物理接続した段階で実験は自動制御に移行した。
   合成体を止める方法はない」
 //「…では、我々はなぜここにいるのだ」
379log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:13:34 ID:???
 /
 /「緊急事態。全勤務員はただちに空洞外へ退避せよ。繰り返す」
 /「侵攻は、施設内全域で同時に起きています!」
 /「これが内部空洞が形成された理由なのか…? いや、この程度で済むはずが」
 /「?!」「なんだ今のは!」「主任! 合成体が!」
 /「…何千世代も改造を重ねておきながら、ATフィールドだけが太古のまま保たれているものか」
 /「合成体の物理消却だ。少しでもいい、被害を最小限に食い止めろ!」
 /「起爆システムを直結」
 /「ハネを広げている! 超構造体上に出るぞ!」
 ///
 /(記録中断)

 /
 /「もう一つ空洞がある。そこで答えを見つけることができるだろう」
 ///「危険すぎる。階層システムの実行単位だぞ。たとえ、現時点で人間を排斥しないとしても」
 /「違う」
 /「代理構成体だ」
 /
 /
380log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:14:22 ID:???
並んで初号機を見下ろしているレイとアスカ
長い沈黙
 アスカ「…戻ってくると思う?」
答えないレイ
 アスカ「…戻るとか、帰るってどういうことか、わかってないんじゃないの。あいつ」
ちょっと目を向けるレイ
 アスカ「馬鹿みたい。ミサトに、今まで何十回も『お帰り』って言われてたくせに」
自分の手に視線を落とすレイ
旧居住区の自分の部屋のさまを思い出す
  レイ「…知らないわけじゃないと思うわ」
黙っているアスカ

/
絡み合う構造物
初号機の横顔の傍らに立つ霧亥
素体の各部に残る装甲はすでに数世紀を経たように古びて褪色している
見開いたまま無限遠を見つめている巨大な双眸
初号機を中心に、多次元方向へ成長していく構造体を眺める霧亥
再び初号機に触れ、頭を垂れる
/接触
 :キリイ
  :この階層には、ネット端末遺伝子はもう存在しないんだな?
/肯定
  :ならなぜお前は階層に接続している?
/返答:混乱した情報複合体
 :キリイ
 :ワレワレニハトメラレナイ
  :なぜだ?
/記録検索
 ::「我々はログだ」
顔を上げる霧亥
/
381log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:16:03 ID:???
モニタ群の半数近くを占める不確定領域像
ほとんどの会話の絶えた制御房内
目を閉じ、懸命に接続線を維持するオペレータら
集束していく表示を読み取って押し黙るリツコ
 伊吹「…反応パターン、67%が散逸。これ以上は、再構築基盤格子が維持できません」
 日向「不確定領域の最外縁が、予測追跡範囲に到達します。…接触。パルス、崩壊開始」
 青葉「誘導パルスの意味消失を確認。…同定データ、パターン解体に入ります」
沈黙に覆われる房内
誰一人動かない中、衝かれたように前に出るミサト
  .ミサト「どういうことなの? 意味消失? パターン解体って、一体何なのよ」
簡潔に答えるリツコ
  リツコ「個性の情報格子が形を失ったの」
向き合う二人
怯えた目でリツコを凝視するミサト
  リツコ「つまり、失敗」
  .ミサト「…え?」


無言で初号機を見つめているレイとアスカ

/
巨大な眼球で無限遠を見つめている初号機
/

警報が房内を引き裂く
 青葉「素体内に、急激な物理的変動を確認!」
 日向「初号機本体から、膨大な量の電気インパルスが送り出されています!」
 伊吹「! 階層への接合回路、再起動!」
382log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:19:41 ID:???
  リツコ「ただちに全システムを強制終了。外部から接続を遮断して!」
 伊吹「駄目です、対応領域が次々に閉鎖していきます!」
 日向「データ移動、さらに拡大! せき止められません!」
 青葉「初号機、階層に再接続。…人格データが階層ハードウェアへ流出します!」
大きく痙攣する初号機素体
コア周辺の組織が爆発的に形状変化し、突出部分が形態破綻して剥がれ落ちる
観測装置群に埋まった整備橋梁に落下する無機質な黒塊
全てのデータ断片を見失い空白になった画面群
鋭く息を吸い込むミサト
ぱらぱらと降り注ぐ組織片に混じって何かがコア付近から離れ、橋梁面にはね返る
無傷で転がっている重力子放射線射出装置
声にならない叫びをあげるミサト

/
:「もし我々以外にも都市に生きている人がいて、」
:「いつかその人が、この閉鎖階層を訪れることがあったら」
:「そして、我々もそれまで生きのびることができていたなら」
:「そのときには我々の行動にも意味があったと言えるかもしれない」
//

/

「……人一人…人ひとり助けられないで、何が技術よ。
 …霧亥君を返して…!」
嗚咽 銃を抱きしめて泣きじゃくるミサト
整備橋梁面に弾ける涙の粒
背後で有機的な異音
顔を上げ、振り向くミサト
組織塊が殻のように剥離し、劣化・崩壊する組織片の間に霧亥がうつぶせに横たわっている
無言で目をみはり、大きく上体を起こすミサト
383log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:21:17 ID:???
数時間後
アルピーヌ・ルノー改の助手席に坐るリツコ
何かを考え続けているかのように、ずっと黙って運転しているミサト
ふっと顔を上げる
気づいて目をやるリツコ
  .ミサト「…結局、神様の力みたいなものまで、利用しちゃうのね」
軽く顔をしかめるリツコ
  リツコ「何の力ですって?」
  .ミサト「ずーっと昔の言葉。…うまく言えないけど、…決して偶然だけとは思えない、って状況、
     体験したことない?」
  リツコ「…それは、少しはね」
  .ミサト「じゃ、そういうことよ。たぶんね」
正面を向いたまま街の夜景にまっすぐに視線を預けているミサト
その横顔を見つめるリツコ
やがて小さく笑う
  リツコ「…神様なんかじゃないわ。あなたの力よ、きっと」
  .ミサト「え?」
歩道に寄るアルピーヌ・ルノー改
降り立つリツコ
  .ミサト「ほんとにここでいいの? なんなら、もっと近くまで送れるけど」
  リツコ「いいわ。…それより、時間あるならちょっと飲みに行かない?」
  .ミサト「…んー、今日はちょっち、先約」
  リツコ「そう。それじゃ、また明日」
  .ミサト「お疲れさま」
ゆっくり走り去っていく車影
見送って、自嘲するような後ろめたいような複雑な表情で少し苦笑するリツコ
384log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:22:45 ID:???

 霧亥「…なんだ」
身支度を終え、やや困惑ぎみに病室入り口を振り返る霧亥
かなり不機嫌そうに唇を引き結び、少し顎を反らして突っ立っているアスカ
斜め後ろに、普段とあまり変わらない表情のレイ
さらに後ろで居心地悪そうにしているトウジとケンスケ
 .アスカ「…もういいわけ?」
思いきり機嫌の悪い口調で訊くアスカ
混乱しつつ頷く霧亥
 霧亥「ああ。どこにも異常はない」
かすかにふん、と息を吐いたきり態度を変える気配すらないアスカ
黙っているレイ
その目を見つめる霧亥
いきなり大げさな溜め息をつくアスカ
 .アスカ「もう、何よ。わざわざちゃんと許可とって見にきてやったのに、何ともない?
     あー、なんかすっごく損した気分。こんな奴おいてさっさと帰ろうかしら」
慌てて割り込むトウジ
 .トウジ「なんや、その態度はないやろ。無事やわかったんやからええやないか。
     だいたいお前、ここ来るまで霧亥が霧亥がってうるさく言うとりよったくせに」
385log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:24:51 ID:???
いきりたつアスカ
 .アスカ「何よ、あんたこそどういう態度なのよ! あんたがいちいちあたしに聞いてくるから、
     あんたたちにまで訪問許可取って連れてきてあげたんでしょ! そのあたしに相応の
     感謝ってもんはないわけ?! それからファースト! なんでこいつまで連れてきたのよ!」
レイを睨みつつ顎でケンスケを示すアスカ
両者の間に入るケンスケ
.ケンスケ「ま、ま、そんなに大きい声出すことないって。別にいいだろ? こうして首尾よく面会まで
     できたんだしさ。俺はまあ、トウジのおまけってことで」
 .トウジ「そら、ワシももう部外者やし、一人も二人も大して手間は変わらんしな。ほんまはお前、
     自分が苦労したっちゅう顔したいだけやないんか?」
.ケンスケ「言えてるかもな。実際、手続きやってくれたのはほとんど綾波の方だし」
 .アスカ「っもう、何なのよあんたたち! 急に前みたいに結託しだして!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ始める三人
無言で彼らを眺め、戻された銃を確かめて懐にしまう霧亥
大騒ぎの脇をすり抜けて近づくレイ
少しよけて場所を空ける霧亥
隣に立つレイ
 霧亥「…何かあったのか?」
本気で困惑しているらしい霧亥をちょっと眺めるレイ
  .レイ「別に、何もないわ」
レイの顔を見、再びにぎやかな三人を眺めて、さらに眉間にしわを寄せる霧亥
まもなく、到着した警備員に揃って病室からつまみ出される面会者一同
386log.20 心のかたち 人のかたち:2006/03/26(日) 12:28:10 ID:???
「…煙草、まだ吸ってたのか」
「こういうことの後だけね。だから、知ってるのは加持君だけよ」
「そいつは光栄だな」
「…で、人類補完計画、どこまで進んでるの。委員会とアダム…碇司令の本当の目的は何?」
「…やれやれ、そっちの話か」
「ただでは済むわけないでしょ、こんなことして」
「ご婦人方に利用されるのは光栄だが、はずれだよ。何も知らないってのが正直なとこさ」
「嘘ついても無駄よ。こっちだって何も掴んでないわけじゃ…、
 …ちょっと、こういうことで…ごまかさないでよ、…」
密度を増す沈黙
体臭 せわしない気配の連続
加持の腕が伸びて小さな何かをサイドテーブルに置く
上体をかがめるミサト
加持の表情にふと目をとめる
「…これで、最後かもしれない」
「え?」


log.20 終
>365-367
ありがとう この三つのレスがあったからたぶん続けられた
心から感謝します
387名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/04/02(日) 12:11:55 ID:???
情けなく自己保守
もういいか
388冷血フースーヤ ◆Etq65eJh4c
いや?そんな事は無いぜ。何せバイオメガが連載再開らしいしなぁ。関係ないか。
ただここ最近のスレ乱立でエヴァ板自体に少し近寄りがたかった。(俺の気に入ってたスレも落ちた。)
危険領域じゃないから静観してたんだ。最後まで期待している…そんなROMは俺だけじゃない。
作者のモチベーションが続くのなら次も見たい。モノを書くのは大変だけどね。