923 :
姉弟04:
『大人のキスよ』
今朝の姉さんとのキスを思い出してた。
「はー……。」
ため息が出る。
姉さん、なんで僕にキスなんてしたんだろう?
しかも、あんな濃厚な。
また、からかっただけなのかな?
姉さん、僕の事からかうのが酒のつまみみたいな所があるし。
多分、そうなんだろうな。
まさか、姉さんまでが身内に一般的で無い感情を持たないだろうし。
「はー……」
けどさ、姉さん。
あんな事されると、僕の気持ちは膨れあがっちゃうよ。
「はー……。」
僕の気持ちは、どうしたら良いんだろう。
「はー……。」
それと、何だかあのキスが初めてじゃ無いような気がした。
そんな訳無いのに。
けど、もしかしたら姉さんも僕と同じ思いで。
僕とキスなんかをしたくて。
けど、僕等は姉弟だから、そんな訳にはいかなくて。
だけど姉さんは我慢出来なくて、
僕が寝てる時に
『大人のキスよ』って。
それを僕の唇が潜在意識的に覚えてて……
「はー……。」
そんな事有るわけ無いよね。
「こら、バカシンジ!!アタシみたいな美人が一緒にお昼ご飯食べてあげてるのに、何さっきから、ため息なんてついてるのよ!!」
くっつけた机の向かい側から、アスカのご飯つぶが飛んでくる。
924 :
姉弟04:2006/10/25(水) 18:39:19 ID:???
「美人って、誰だよ。」
美人ってのは、姉さんみたいな人を言うんだよ。
こんな事、人には聞かせれ無いけど。
「アタシよ、アタシ!!」
「アスカ…黙って。葛城君…何か、あったの?」
横にいる綾波が僕の顔についたアスカのご飯つぶを取りながら、心配してくれる。
「ありがと、何でも無いよ。」
ごめんね、綾波。
けど、姉さんに恋をして悩んでるんだ。
なんて、言える筈がない。
言ったら最期。
僕はこの街にいれなくなる。
「恋患いやな。」
「ぶっ!!!!」
僕は姉さんにしつけられた通りに、百回以上噛んだのりを包んだ卵焼きを吹き出してしまった。
もちろんアスカの方へ。
「アハハハハッ。」
アスカは笑ってる。
どうやら、アスカの弁当にまきちらされたソレには気付いていないようだ。
「恋患い?このバカシンジが?バッカじゃない!?」
アスカは笑いながらご飯をほうばり、
やっぱふりかけは、のりたまよね。って言ってた。
925 :
姉弟04:2006/10/25(水) 18:41:00 ID:???
「いや、シンジの顔を見ればわかるっちゅーねん。これは、悲しい恋をしてる顔や!!」
なんでトウジは自分の事に関してはダメダメなのに、他人の事には敏感なんだろう。
「葛城君………悲しい恋をしてるの?そう……悲しいのね。」
綾波は、
悲しい時は泣いても良いのよ。
と言って、僕の頭を胸に抱き抱えた。
「あ、綾波?」
「泣いても良いのよ……葛城君。」
綾波って、あったかいな。
良い匂いだし。
母親ってこんな感じなのかな。
「綾波……。」
僕は綾波の背中に腕を回した。
「葛城君………。私が忘れさせてあげる。一つになりましょ……それは、とても気持ち良い事なの…」
「ふ、ふ、不潔よー!!!!」
委員長が叫ぶ。
「こらバカシンジ!!その手をはなしなさい!!レイもよ!!」
アスカが僕と綾波を無理矢理離す。
「今日も平和だな。」
ケンスケは、カメラを回しながらそう呟き、
「そうだね。」
僕も心からそう思えた。
926 :
姉弟04:2006/10/25(水) 18:44:41 ID:???
キンコンカンコーン
チャイムの音をきっかけに、机を元に戻し皆それぞれの席に戻って行く。
「好きな人なんていないわよね?」
アスカがボソッと言う。
「え?………」
驚いた。
アスカの声?って疑問に思う程弱々しい声だったから。
「どうなのよ!?」
「……先生が来ちゃうよ。早く席につきなよ。」
悪いとは思うけど、ごまかす事にした。
本当の事なんて言える筈がないから。
「わ、分かってるわよ!!」
アスカはそう叫んで、くるっと回った。
「あ……………。」
その時、アスカの髪が舞い日に当たって赤っぽく見えた。
「あ、あ、あ、あ。」
それが何故か、紅い海を連想させた。
紅い海なんて見た事が無いのに。
紅い海なんてあるはず無いのに。
「シンジ?」
アスカが僕の方を振り向く。
「あ、アスカ、アスカ、髪が、髪が赤い、紅い。ごめん、怖いんだ。悲しいんだ。苦しいんだ。寂しいんだ。」
927 :
姉弟04:2006/10/25(水) 18:46:14 ID:???
前にもこんな事があった。
一年位前に入院してる時。
確か、交通事故にあって半年程意識が無かったらしい。
らしいと言うのは、その前後を良く覚えてないから。
意識を取り戻した時、アスカがお見舞いに来てくれた。
その時、アスカの赤茶色の髪を見た時も今と同じように紅い海を連想した。
医者が言うには、事故の時に流した血を見た時のトラウマらしい。
けど、それからは大丈夫だった。
「シ、シンジ、ごめんね、ごめんね。髪、染めるのサボってた。もう大丈夫だって思って。」
アスカが髪を黒く染めてくれたから。
「ごめんね、ごめんねシンジ。」
アスカが謝る必要なんて無いんだ、って言いたいのに言えなかった。
「うわぁーーーー!!!!!」
見た事も無い筈の紅い世界に恐怖して叫んだから。
「シンジ、シンジ、髪切るから、もう傷つけ無いから、いなくならないで、死なないでシンジ。」
アスカがハサミを取り出す。
止めなきゃいけないのに。
「紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅。紅い世界…嫌だ、嫌だ」
紅い海のイメージが頭の中に流れ込んで来て………………何故だか死にたくなる。
928 :
姉弟04:2006/10/25(水) 18:47:42 ID:???
「ごめんね、ごめんね、シンジ、シンジ―。」
アスカが長くて綺麗な髪を切ってる。
「葛城君…葛城君、大丈夫だから……大丈夫。」
綾波が抱き締めてくれる。
「葛城君、葛城君!!」
「シンジ!!どないしたんや!!」
「おい!!シンジ!!シンジ!!」
皆が心配してくれる。
「あー!!!!」
けど、恐怖は消えない。
「シンちゃん!!!」
来てくれた。
そう思った。
「姉さん………。」
姉さんの顔を見たら安心出来て、
僕は意識を手放し、やっと恐怖から逃れる事が出来た。