何故だか私は生きていた。
シンジ君とキスをして。
私の想いを押し付けて。
無理矢理、戦場に送りだして。
意識が遠のいていていくのを感じて、
プツンッ、と意識が途絶えて。
確かに私はあの時、死んだはずだった。
はずなのに……………………………
はずなのに、何故だか私は今…………
「葛城、俺と結婚してくれないか?」
一年くらい前に、何故だかひょっこりと帰って来た加持君にプロポーズされていた。
再会した時は、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、ただただ抱き締めて、涙を流した。
私の涙を拭いながら、加持君は、
『心配、かけたな。』
なんて、余りに軽く言ったので。
『馬鹿…………。』
なんて言ってやったけど、その時の私は笑顔だったと思う。
だって、死んだと思ってた好きな人が帰ってきたんだから当たり前だ。
けど、その笑顔はすぐに消えた。
それからは、加持君とは関係を持たなかったし。
デートらしい事もしなかった。
そんな状態なのに、プロポーズしてくれた加持君は凄く勇気がいったのだと思う。
けど、私は……………
「………ごめん。」
その想いには、答えられない。
「………シンジ君か?」
「ごめんね、加持君。」
死んだはずの、私も加持君もリツコも元気なのに。
『……………………………。』
私が生き還って3日目に発見されたシンジ君は、何も言わなかった。
目を閉じていた。
真っ白な部屋で沢山の管に繋がれて、
生きているのでは無くて
生かされていた。
『シンちゃん、起きて。シンちゃん?起きてよー。シンちゃん?シンちゃん、シンちゃん、シンちゃん!!』
何度呼んでも、起きなかった。
だから段々と声は大きくなっていった。
『ミサト……、静かにしなさい……。病院よ。』
リツコが私をたしなめる。
『だって、シンジ君、起きない………。』
私は、シンジ君の顔を私の胸にうずめる。
こうすれば、
(ちょっと!!ミサトさん、やめて下さい!!)
って、真っ赤になるはずなのに。
『……………………………。』
シンジ君は何も言わない、真っ赤にならない。
『ミサト!!!やめなさい!!!』
リツコが私の腕を開いて、シンジ君をベッドに優しく寝かせる。
『リツコ!!!取らないでよ!!』
シンジ君を取りあげられた様な感覚になって、リツコに理不尽な怒りを向ける。
『リツコ!!シンジ君を返して!!!』
『ミサト、静かにしなさい。起きちゃうわよ。』
リツコはそう言って、シンジ君の頬を優しく撫でていた。
『………ごめん、リツコ。』
それを見て、やっと私はリツコに対する理不尽な怒りが消えていった。
『ねえ、何で、私達生きてるの?』
リツコの背中に話かける。
『きっと、シンジ君が望んだからよ。』
リツコはシンジ君の顔を見たままで答える。
『シンジ君が?』
リツコは自分の知ってる事全てを話してくれた。
レイの事。
きっと、サードインパクトは起きた事。
シンジ君が依り代となった事。
『だから、アスカのお母さんも戻ってきたっていうの?』
『多分ね。』
『リツコにしては、きっととか、多分が多いわね。』
『話を聞いただけで、体験して無いもの。』
司令に殺されたからね。
と、リツコは付け加えて煙草に火をつけようとしたが、シンジ君の顔を見てやめていた。
『今更、私が何をしても偽善よね?』
そんなのは、
『私も同じ。けど、シンジ君を助けて。お願い、リツコ。』
『出来る事はするわ。』
冷たい口調だったけど、シンジ君の頬を撫でる手は優しかった。
『ほんと、今更ね。』
『そうね。』
私達は苦笑した。
プルルルルル………
「ちょっち、ごめんね。」
加持君に断り、携帯に出る。
「もしもし。」
『ミサト。シンジ君の意識、戻ったわよ。』
「すぐ行く。」
それだけ言って、すぐに携帯を切る。
「ごめんね加持君。私、行かなくちゃ。」
「そうか。」
引き止めないのは、加持君の優しさで。そんな加持君を好きになって良かったとあらためて思う。
だからこそ私は、
「さよなら、加持君。」
きっぱりと、別れを告げる。
「シンジ君に負けちまったな。」
加持君は苦笑して。
「あら、シンちゃんに勝てるとでも思ってたの?」
私は一年振りくらいに笑えて。
「まさか。早く行ってやれ、葛城。」
「ありがと。」
色んな意味を込めたお礼を言って、私はお気に入りの車に乗り込む。
「じゃあね。」
「ああ。」
とても好きだった人との別れは、思った程辛くなくて。
加持君には悪いけど、今はそれより。
「シンジ君……。」
嫌われてるとしても、
拒絶されるとしても、
罵られるとしても、
ただただ
「声、聞けるかな……。」
声が聞きたかった。