旧世紀エヴァンゲリオン(後編)
洞窟の正門から見て山の反対側にそれはあった。裏門からは歩いてすぐの場所にあった。
シンジは何ひとつ思いどおりにならない現実に怒りを覚えつつ肩まで温泉につかっていた。
そのとき温泉にいたのはシンジだけではなかった。先客に鹿の親子がいた。そして
カエデ、サツキ、アオイの三人がいた。彼女たちはシンジに流し目をくれた。湯の熱さを
楽しんでいたシンジが無視していたら、三人の行動は次第に大胆になっていった。
彼女たちはシンジに近づいてきた。両方からシンジのそれが掴まれた。シンジは即座に屹立した。
「やっぱり、シンジくん溜まっているわね」「わたしたちなら……いいわよ」
カエデとサツキがアオイを持ち上げて尻をシンジに向けさせた。両側から扉が開かれた。
シンジはアオイに挿入しながら前にもこんなことがあったなと思い出した。シンジが
初めて女を犯したときのことだった。相手はミサトだった。一人で獲物を狩った日の
夜に誘われたのだった。シンジは見よう見まねでミサトに挿入した。あれはよかったな、
とシンジは思い出した。ミサトの内部は極上でありシンジを楽しませてくれた。何度も
精を絞り出したあとで部屋に入ってきたリョウジに歯が折れるほど殴られたのにはまいったけど。
彼らの社会は首雄集中婚だった。族長の意思は絶対であり、全ての女性はまず族長のものだった。
もっとも族長にも体力の限界はある。ゲンドウの場合はユイ、リツコ、レイを独占して現在は
それで手一杯だった。たまに他の女も抱いたが長続きはしない。ただし、他の男がユイ、リツコ、
そしてレイに手を出すことは許さなかった。
他の男たちもそれに準じていた。リョウジはミサトだけは独占しており、ゲンドウを除く他の
男たちには手を出させなかった。一度マコトが薪を拾っているミサトを樹に押し付けて強姦した。
リョウジは彼を思い切り強く殴りつけ、マコトはそれ以来視力が極端に落ちた。
またマヤたち四人をめぐってマコトとシゲルは日々争いを続けていた。シンジは
ヒカリを独占していた。
そして女性たちに男を選ぶ権利がないわけではなかった。というよりむしろ選ぶ
権限は主に女性側にあった。早い話が強い男でなければ子孫は残せなかった。男たちは
族長を除いては自分の部屋というものを持っていなかった。それは女性たちとその子供の
ものだった。男たちは強くなければ寝るところすらなかった。女たちは強い男に媚を売り、
男たちは強さを証明するべく日々を重ねていた。
シンジはアオイの胎内へ大量に射精した。サツキを見る。彼女の目は期待に潤んでいた。
温泉の淵に手をつかせるとシンジはずぶりと突き刺した。
とは言うものの彼らの社会に問題がないわけではなかった。
例えばレイは初潮以後たびたび男たちに襲われていた。まずはゲンドウの目を盗んだ
リョウジに犯された。強姦は彼らの掟でも犯罪と言ってよかった。ゲンドウはリョウジの
右の耳を引きちぎった。左の耳はすでに無かった。かつてリョウジがリツコを強姦した際に
やはりゲンドウから引きちぎられたのだった。次は鼻をもぐと言われていた。それ以後
リョウジはおとなしくなった。
トウジは大胆だった。彼は族長の部屋に忍び込んでレイをさらった。ゲンドウは裏山で
満足して眠りこけているトウジのかかとを踏み砕いた。それ以来トウジは片足を引きずっている。
ケンスケの視力が低いのも同じような理由だった。彼は穴を空けた木の葉を蔓で頭に縛っていた。
あばらで済んだシンジは幸運と言えた。他のものよりいくらか賢明なマコトとシゲルは
レイには手を出さなかった。
無論レイが大人しくしていたわけではない。むしろ毎回あらん限りの力で抵抗した。
しかし男に倒されると女の力ではかなわなかった。挿入されると力が抜けるのだった。
シンジはそのときカエデを串刺しにして動いていた。湯がちゃぷちゃぷと音を立てる。
シンジは視界の端で鹿の親子が急いで湯からあがって立ち去るのを見た。
ゲンドウがやってきた。ヒカリをともなっていた。
「やっているなシンジ」
ゲンドウはざぶりと温泉につかった。そしてヒカリを自分の上に座らせた。
湯の中で体を動かす。ヒカリがうめいた。
ネルフの一族には他の一族とは決定的に違う点があった。
他の一族を構成するのは皆族長の子供か孫、あるいは過去の族長の子孫だった。つまり皆血族であった。
ネルフは違う。ゲンドウの家族以外は皆流れ者ばかりだった。ネルフは血族社会ではなかった。
それだけにゲンドウは今後を危惧していたのだった。ゆえにゲンドウはあせっていた。
自分の男子が育たないからだった。シンジはいたがゲンドウは彼が気に食わなかった。
シンジ以外にも、ユイ、リツコ、ミサト、マヤ、カエデ、サツキ、アオイ、コダマ、と
八人の女にそれぞれ男子を産ませたが全員早世した。一族の掟として女が自分以外の
種による男子を産んだ場合、即座に殺していた。ゲンドウは顔を見るとそれが誰の子なのか
わかった。娘は何人か生き残っているがレイ以外はまだまだ小さかった。最近アオイの
産んだ子供は女の子だった。それゆえ来月には産まれるレイの子には期待していた。
そして次の子供を孕ませようとして最近はヒカリに執着していたのだった。
「センセ、気をつけてな」トウジが忠告した。族長に殺されないように、と言っているのだった。
ゲンドウとシンジ、そしてリョウジの三人は狩りに出ていた。
夜だった。危険だった。だがゲンドウの夜目は一族の誰よりも強力だった。シンジは
愛用の二叉の石槍を使うこともなくゲンドウが石斧で猪を仕留めるのを目撃した。
リョウジも何もすることはなかった。
ゲンドウがムラサキの腹を蹴り上げた。ムラサキがゲンドウの指示に従わなかった
からだった。あと少しで獲物を獲り逃がすところだった。狼はキャンと鳴いて転がった。
「しつけがなっとらんぞ」
シンジがうめいた。不穏な空気が周囲を満たした。リョウジがとりなそうとしたが
火に油をそそぐばかりだった。
だがゲンドウの期待する方向には進まなかった。
それに気付いたのはシンジが最初だった。洞窟のある場所からかがり火の輝きが
見えたのだった。獲物を放り投げ三人が戻ると皆広間に終結していた。
ユイとリツコとレイはいなかった。奥にある族長の部屋から悲鳴が聞こえてくる。
レイの子供が産まれようとしているのだった。早産だった。
悲鳴が止み。産声が上がった。ユイが赤子を抱いて広間に出た。
「男の子でした。レイは無事です。」
ゲンドウが祝杯をあげるべく酒壺を手にとった。そして赤子の顔を見る。
表情が激変した。ゲンドウがシンジを見た。そして空いた片手が斧に伸びた。
広間の全員が怯えた。またか。またなのか。しかし誰が。
シンジには即座にわかった。自分の子だということに。
シンジは槍を手に取って立ち上がり宣言した。
「族長は誰だ」
それは古来より伝わる挑戦の言葉だった。この洞窟でそれが聴こえるのは十四年ぶりのことだった。
ゲンドウは振り返った。そして右手に持った石の斧を振り上げた。シンジを含め
周囲の目が集中する。誘いだった。ゲンドウは左腕に持ったままの酒壺を囲炉裏に
投げた。唐突に光が消滅する。広間は暗闇に包まれた。一瞬の間すら置かずにゲンドウが
動いた。シンジは殆ど感覚で槍を投げた。情報は空気の流れだけだった。二叉の槍は
相対速度の助けもありゲンドウの胸元にシンジから三歩の距離で突き刺さった。だが
慣性のついたゲンドウは止まらない。シンジの横を通り過ぎ壁に激突して倒れる。
そこに狼が飛びついて首筋を噛みあげた。頚骨のばきりと折れる音がシンジにも聞こえる。
ムラサキはよくやってくれている、シンジはそう思った。子供の頃から友に育った相棒であった。
ユイが燃える水に火を灯し明かりをつけた。すべては終わっていた。
レイは泣いていた。嗚咽を上げていた。レイは無理に上体を起こそうとしてシンジに手を伸ばした。
「あなただけ、あなただけなの。もうほかのひとはいや。もうほかのひとはいやなの」
シンジは泣き続けるレイを抱きしめた。
「君だけではない。だがこれからの君は僕だけのものだ。ずっとだ」
レイは泣きながらうなずいた。
全員がシンジに注目していた。一族の勢力地図が変えられようとしていた。
シンジがどれだけの女を選ぶかだった。シンジは迷うことなくまずユイに手を伸ばした。
脇からあふれるほどたっぷりと射精してユイから引き抜く。次はリツコだった。
リツコの白い毛皮をはぎとり尻をぴしゃりと叩いてから挿入する。リツコがぐぅと
うめいた。リツコに射精し終えたシンジはまったく萎えぬものを晒したまま赤い毛皮の
上からミサトの乳をつかんで四つん這いにさせた。行為が終了すると流石にシンジは
萎えていた。リョウジが立ち上がった。この機会を待っていたのだった。
「族長は」リョウジは新しい族長の光る目を見た。「あなたです」リョウジは腰を下ろした。
シンジのそれはすでに復活していた。マヤを引き倒す。シンジは先端をあてがった。
間髪入れずにずるりと入り込んだシンジが子宮をごつりと突いた。
「ちょっとまったセンセ。ひょっとして」トウジが疑問を出した。
「全員僕のものにするよ」マヤが歓喜の叫び声を上げた。
「そりゃあんまりやで」他の男たちも不満そうだった。
「明日、ゼーレの一族を襲って女をさらう。僕は手を出さない。みんなで
好きにわけたらいい。足りないときは他の一族も襲う」シンジは宣言した。
全員が沈黙した。ゲンドウでもやらないようなことだった。つまるところシンジは
ゲンドウを遥かに越える独占欲と自制心の両方を持っていたのだった。それこそが
勝利の鍵だった。その意味においてシンジはまさしくゲンドウの息子だった。そして
これは停滞していた彼らの種族、その営みに投じられた最初の衝撃であった。
※注 250万年後、ゲンドウの骨は箱根から発掘された。系統樹の常識を超えて進化し、ふつりと
消えた彼らは箱根原人または福音原人、学術的にはホモ・エヴァンゲリオンと呼ばれている。
おわり