「チョッコレイト、チョッコレイト」
ファーストが歌いだした。低い声だ。唇の端に、ショコラーデがついてる。
チョコレイトは♪
「……モリナガ」
「……ちょっと、なによそれ」
「モリナガ」
「今食べているのは、明治のチョコレートで、その歌は、明治チョコレートのCMソングよ」
また小さな声で、モリナガ、と呟くと、この最近髪の毛の伸び始めた少女は、指のまたの間のショコラーデを、舐めた。
ふざけてるわけ? せっかく買ってきたのに、メイジより、モリナガの方がいいんだ?! バーカバーカ!!
私の罵り声に応えるように、その吸い込まれるような瞳がそっと私の鼻先に寄った。
「溶けて、どろどろになる、はずだったのに」
「何が!? 」
この問いには答えないで、ファーストパイロット、綾波レイは自分の手のひらを眺めた。自分の指紋にこびりついた、ショコラーデの跡を探しているようだった。
「そ、そりゃ、どろどろにもなるわよ。手の中で温めてたら」
「手の中で温めてたら、何もかも無くなっちゃった」
また理解不可能なことを言って、彼女はにこりと笑った。それは脳の中がぐらぐらするような、笑顔だ。
どろどろに溶ける。
それは心地いいことだろうか? 何もかも混ざって、一つになって。それはとてもとても気持ちよくて、とてもとても、とても恐ろしい。ぞっとしたから、あえて笑い飛ばした。
「あんたがいて、私がいて、シンジがいて、ミサトがいて、その他大勢がいてこその、世界よ! それだけで過去と未来はごっちゃ混ぜだわ!! それでいいの」
それで沢山。
そう言ったら、私にもっと近い場所で、知ってる、と声がした。
鼓膜を通してではなくて、唇を通して、音が震える。
「チョコレート、ついてる」
彼女の赤い舌が、私の唇から、ショコラーデを舐めとった。
これからまた、私はどろとろに溶けていく。
知ってる。
強引なくらいの強さで、舌を吸われて、腰がひくひく浮いてしまう。んんん、んんん、と鼻で呼吸する。苦しくなって、息継ぎをする。
ああ、吸って。キスして。キスして。キスするからキスするからキスするから。
もっともっとするから。
あ。
ショコラーデの、味がする。
(了