@月@日 曇り のち 雨
授業中に、碇君に相田ケンスケが、しきりとなにか交渉を持ちかけているようだ。
個別端末のダイレクト回線を使っていたが、私は赤木博士に教わった優先回路へ
のアクセスをタメしている途中だったので気付く。
(クラスの女子の間では、授業中に性体験の討論が盛んなことも興味深かった。)
ログをたどっていると、相田ケンスケはかなり用心深い性格らしく、固有名詞は
ダイレクト回線ですら使用していない。符丁らしい、私の知識にない単語が、
一定の法則によって使われている。
しばらく見ていると、どうやら交渉が終了した模様。教師が板書している最中に、
紙包みが碇君から投げられる。中身は硬貨らしい。対価は即時、現金で受領。
やはり、彼の計画性と慎重さは、一般中学生の水準を逸脱していると見て良い。
表示されていたフォルダにアクセスしてみるが、すでに中身は空だった。
ダウンロード専用フォルダで、規定のパスコードでアクセス直後、初期化されるようだ。
気になる。
今までにないほど、興味をそそられたので、優先回路経由でMAGIにアクセスした。
休止部分をほんの一部だけ、無断借用することとする。いくつかの種類で痕跡を
たどった結果、ダウンロードフォルダを管理していた会社の中の、個人用パソコン内部に
同名のフォルダを見つけてアクセスができた。
(管理人による、小規模な電子記録横領と言うことなのだろう)
内容は、予想もしていなかったことに、私の画像だった。
夏期体操服をはじめとして、水泳用着衣、制服着用での階段歩行時、プラグスーツ
着用時など。多重パスコードがかかっていたフォルダは、身体測定時のもののようだ。
知識欲が満たされ、私は僅かな満足感とともに授業の内容に戻った。
私が集めていたような画像が、対価として貨幣と等価のものだと初めて学習した。
この法則に興味があるため、明日より、匿名で、同様のシステムを構築し、顧客を
募集してみることとする。
相田ケンスケは、人物ごとに個別フォルダを作成して、アクセス数によって回線の
優先順位も変更されるようにしていた。このシステムも複製し、使用させてもらうこととする。
情報の流通範囲内は、まず、小規模ネットワークということで、クラス女子間のみ。
どのような結果となるだろうか。
Д月∀日 雷雨 のち快晴
匿名のダウンロード専用フォルダ、E−18・・・碇君の画像・・・・へのアクセス過多で、
回線が一時ダウン。予想外の事態に、自分の作戦結果試算能力の未熟を反省する。
情報は厳重に統制し、クラス女子内部にのみアクセス権限を与えたのだが、
架空名義の口座の入金はすでに7桁の数字を示し、軍用回線を流用したはずの
5つの予備を持つ専用回線が飽和状態になるとは予測できていなかった。
クラスの女子全員の購入及びアクセスはともかく、「2ch.net」からのアクセスが
その数百倍の数量を示している。設置していた要望欄のところに「神降臨」等の神話関係の
単語が多数有り、天使を模した絵文字なども見受けられた。これもなにかの暗号かと
思ったが、コード照合しても回答は無し。人類補完計画の関連も捨てきれず、ログは保存しておく。
ごく僅かではあるが、代理サーバーを多数経由しているアクセスがあることに気付く。
またMAGIの休止部分を立ち上げ、ログを追跡する。
かなりの時間を要した。国連加盟国のほとんどをそれぞれ経由した上で、数十回にわたる
異種の変換と復元を繰り返した上でのアクセスだった。「キール・ローレンツ」となっていたが
真偽は不明。
また別のものでは、アクセスのログが、一部分のみの起動とはいえ、MAGIを経由しても
痕跡すら割り出せないような、非常に精密な消し方をされていたものがあった。
仕方がないので、ダウンロードに要した時間(本当に、一瞬で終わっていた)をもとに、
それだけの回線速度を持っている地域・設備を検索してリストアップしてみた。
これは意外なほど簡単に見つかった。ネルフ施設内、技術開発部の責任者のみが
アクセスできる、地上最高の処理速度と回線速度を保証されている演算機器・・・
つまり、MAGIからのアクセスだった。目標が解明できたのに、何故か、充実感より
徒労感が大きかった。博士に、碇君の寝姿を観察する嗜好があるとは知らなかった。
理由のない不快感に襲われ、発散行為として、ネルフのデータバンクの赤木博士の
欄に、「男子中学生の寝姿を観察する嗜好有り」と書き足しておいた。
ω月Σ日
これだけアクセスが集中しているにもかかわらず、当局が違法行為として
摘発に乗り出すそぶりさえ見られない。仮説としては、摘発より放置のメリットが
大きいか、司法関係を掌握している人物が指示しているかのいずれかと思われる。
続編を希望するメールで、私の匿名サーバーがやはりダウンした。このような反響
は予想していなかった。困惑する。
私の意思ではなく、非常に多数の顧客の希望に答えるため、新規に画像を用意する
必要に駆られている。重ねて私の意思ではないが、この状況を打破するため、遺憾ながら
碇君に協力を求めることとする。
現在までに蓄積された収益の一部を使用し、撮影機材の購入に行ってきた。
碇君が協力を拒むとは思わないが、予備措置を講じるため、業務用の印刷機器も
同時に購入する。碇君が購入していた私の画像を、すべて印画紙に印刷する。
予想以上に綺麗に印刷できたこと満足感を覚える。
手紙を添えて、指定場所に来てくれるように碇君に送ることにする。
「写真ノコトデ話シタイコトアリ。指定ノ場所ニ来ラレタシ、レイ」
少し簡潔すぎたかと反省する。
自分の意思を伝えるための手紙は、登校前に下駄箱に入れておくものだと、
クラスの女子に聞いていたため、その通りにする。隠密行動を要する作戦行動のようで、
若干の緊張と高揚感を自覚した。
そのまま、下駄箱を確認できる位置に座って、碇君の登校を待った。理由は不明ながら、
緊張感は去り、高揚感が上昇している。
碇君は、本日は一人で登校。下駄箱の中を確認すると、あわてた様子で、別の場所へ
向かっていく。その場であけることを予期していたため、追跡行動に移る。
向かった先は、屋上だった。私が到着したとき、碇君は、ちょうど内容を確認し終えた
ところのようだった。体調が不良なのか、顔の毛細血管が収縮した状態のようだ。
その半面、発汗は過多の状態。若干の痙攣もあるように視認できる。
手紙を取り落とし、碇君は激しく周囲を見回す。
当然、階段を上ってきた私と、碇君は視線があった。
碇君の顔とは対照的に、私は、自分の顔の毛細血管の血流の加速を自覚する。
手紙には、私の名前と私の希望を、忘れずに記載していたから、意思は伝わったと思う。
学級委員長の洞木さんから貸与された文庫本では、
「校舎内、もしくは屋上で、意思疎通のための文書を交換した未成年達の視線の交錯」
という、現在に類似した情景の記述があったが、確かに、記述と類似の状態になる。
少し不可解なのは、碇君の状態。私が近づくと、その分、無意識に距離を取ろうとするようだ。
おそらく、これは「はにかみ」という感情表現なのだろう。碇君らしいと思う。
私の希望を、碇君は快諾してくれた。やはり体調が悪いのか、碇君は発汗に次いで、
涙腺の具合も不調だったようだが、撮影には差し支えないので黙認する。
指定場所に向かい家庭が省略されたため、時間に余裕ができた。本日は、
シンクロテストの予定も入っていないため、そのまま、碇君とともに、撮影場所へ向かうこととする。
途中で、授業を受けていないことを思い出したが、重要な項目ではないのでこれも
黙認した。
撮影が終了し、アップロードが完了。
協力してくれた碇君に、感謝の言葉をかける。何故か、碇君はかけさってしまった。
碇君は「慎み深い」と表現される性格に違いない。
「ありがとう・・・・またね。」という、私の、短い言葉にも、過剰に反応してしまうぐらい。
私も、撮影と、それに付随する行為に身が入りすぎたのか、少し疲労感を感じたため、本日は睡眠とする。
「・・・おやすみなさい・・・・」
完