ss創作スレ

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「シンジ君、ATフィールド展開、レイの救出急いで!」
「はい!」 トウジを助けられなかった、アスカもあんなことになって……もう二度と、
あんな思いするのは御免だ、絶対助ける。
  ATフィールドを展開した初号機に気づいた使徒が、初号機に向かって細長い身体の
末端を矢のように突進してきた。
「碇くん!?」すでに使徒と接触し、零号機を侵食されていたレイには、自分の心に侵入
してきた使徒の思考が見えていた。初号機とも融合しようとしている。
 間一髪、初号機は使徒の突撃をかわし、使徒はエヴァの射出装置を粉々にした。
すぐさま向きを変え、再び突進してきた使途を初号機は両手で捕らえたが、
それは使徒の目的を妨げたことにはならなかった、使徒を掴んだ両手からじわじわと
蛭のように侵入して初号機と融合すると同時に、シンジの両手にも太い血管のような腫れが
網の目のように広がり、痛いようなくすぐったいような感覚をシンジに与えた。
「なんなだよっコレ!どうすればっ…」不気味に腫れ上がる自分の腕を引きつった目で
睨み付ける。
「シンジ君、プラグナイフで応戦して!」
 ミサトに指示され、気を取り直したシンジはプログナイフを巨大な蚯蚓のような使徒の
身体に突き刺した、赤い血が白く輝く身体から吹き出し、細長い体躯をのたうたせた。
「!!?」シンジは、はっきりと誰かの悲鳴を聞いた、しかしそれは耳で聞いたものでは
なく、頭に直接響いたようだった。「クソッ、なんなんだよ!使徒、コイツなのか!?」
感情だけではなく、微かだが痛みも伝わってくるように感じた。

“イタイ… クルシイ…”最初、音ではない声だったが、それが聞き覚えのある声のように
聞こえてきた。“イタイヨ… イカリクン…”その声が誰のものであるか察した時、シンジの
手の腫れはいくつもの小さな人の頭や体の形に変形した。「綾波っ!?」
 初号機に掴まれていた使徒の身体の端が突然とレイの上半身の形を成し、初号機に
迫った。「これは…私の心、碇くんと一緒になりたい…」自分の心を侵した使途が、
内に秘めた欲望を体現させようとしているのだと、レイは悟った。レイの姿をした使徒が
初号機の顔に抱きつく。

“苦しい… 寂しい… 悲しい… 私を独りにしないで…”自分のものでない感情が、
はっきりと怒涛のようにシンジの脳裏に流れ込んできた。

 レイの目から涙が溢れた、それはさっきのように寂しさのせいではなかった、十数年間
彼女を怯えさせていた心の空洞が満ていくような感覚を覚え、その悦楽に再び意識が
遠のいた。

“どう?碇くんとひとつになる感覚は?”もうひとりの自分、自分の姿をしたヒトがレイに話かける。
“気持ちいいでしょう。嬉しいでしょう。”
「ダメっ…こんなのは、違うわ…やめてっ…!」拒みがたい幸福な気持ちに心がすべて支配されそう
になったが、寸でのところで彼女は抵抗した。「あなたは私じゃないわ、勝手なことはしないで!」
“何が違うと言うの?これはあなたの望んでいることよ。碇くんとひとつになりたい、自分だけのもの
にしたい。私が手伝ってあげるわ。”
「ダメ、碇くんを巻き込んではダメっ…!」
“そう、なら私とひとつになるしかないわね。”

「ATフィールド反転、一気に侵食されます!」マヤが零号機の状態の急変を告げた。
「使徒を押さえ込むつもり!?」マヤの肩越しにステータスグラフを見ていたリツコが呟いた。
 初号機の顔に張り付いていた使徒が後ろから引っ張られるようにして剥がれ、
使徒の身体は零号機の身体に吸い込まれていった。

「綾波?」レイの姿をした使徒が初号機から離れる刹那、シンジは不穏なものを感じ取った。
「フィールド限界、これ以上はコアが維持できません!」マヤが告げたのは零号機の身体が
崩壊することを意味していた。
「レイ!機体は棄てて逃げて!!」ミサトは命令というより、必死の願うように叫んだ。

「だめ、私がいなくなったらATフィールドが消えてしまう、だから…だめ…」
レイはエントリープラグ内の端末から、初号機の自爆コードを打ち込み、レバーを引いた。

「レイ、死ぬ気!?」ミサトは愕然とした表情で呟いた。

「綾波!やめろぉっ!!」同じくレイの行動を悟ったシンジは、初号機でレイのもとに駆け寄ろう
とした、しかしもう一機のエヴァ、弐号機が初号機の脚にしがみついてそれを阻止した。
「なにするんだ!放せよっ!!」弐号機を引きずり、振りほどこうとしながらもシンジはレイのほう
へ向かった。
「よせ、行ってどうする気なんだい?あの使徒を倒すにはこうするしかないだろう、それに、
これは彼女自身が望んだことだ、君も感じただろう?」カヲルの言うことは確かだった、
銃器も刃物も効かない、触れるだけで身体に侵入してくる使徒を殲滅する方法は他に考え付かない。
「でも、こんなのって…!」シンジは使徒を介して流れ込んできたレイの悲痛な感情を思い返した。
「やっと、やっとあいつの気持ちが分ったのに…それなのにこんなのって…!」

「コアが潰れます!臨界突破!!」モニターが示すままに、マヤが初号機の最期を告げる。

「最後に…もう一度、あの手に触れたかった…」使徒を完全に取り込み朦朧とする意識の中、
シンジと出会ってからの短い日々を去来し幻を見た。

目が潰れるような眩い光と、N2兵器のような熱エネルギーが第三新東京市を包み、
レイを乗せたエヴァ初号機は消滅した。