続き
「ワシはぴんぴんしとる。それでええやないか」
「でも、殺すところだった」
「それでええのや。もう少しでワシが人殺しになるところやったんや。ワシは嬉しかったで?こういう時に死ぬ気で止めてくれるのが、ほんまもんの友達や。ワシはええ友達を持った。ほんま」
「トウジ…ありがとう‥‥」
「おう、シンジもありがとな。――男が泣くなや」
鈴原がシンジを許したら、シンジが泣き出してしまったわ。
シンジったら、昨日から泣いてばかりね。私も少しだけ、じーんときたけど。
本当の友達か‥‥
少なくとも、今の私には居ないわね。
別に欲しいとも思っていなかったけど、そんなふうに言える友達が一人くらいは欲しいかな。あの二人を見ていたら、そう思えてきたわ。
でも、私に友達を作る自信が無いのよね。ファーストはあんなだし、やっぱり無理かも。
シンジを鈴原に会わせて良かったわ。
お見舞いの途中から、シンジが笑顔を見せるようになったの。
これでシンジは大丈夫ね。本当に世話がかかるんだから。
一応、ミサトと鈴原にも感謝しておくわ。
102 :
98:04/09/27 13:41:25 ID:???
>>98 ジュン氏って誰?
読みたい時にてきとーに検索して読んでるだけだから、作者の名前とかあまり知らないんですよ。
そのジュン氏が有名で人気ある人でも、作中で何故加持がアスカちゃんと呼ぶようになったのかが
説明されていなければ私的には納得出来ないです。
二次創作で本編中の関係、設定を崩すのであればそれなりの説明くらい無いとね。
>>何処かの793氏
いつも乙っす。
私個人の意見でひとつ言うべきかなーと思っていた事があります。
ってのは、語尾の「わ」が多すぎてちょっと読むテンポが悪くなってる感じがするんです。
他の人はどうなのかわかりませんが、俺はなんとなく気にかかっちゃうんすよ。
まぁ、私一人だけの意見かも知れませんが。
103 :
89:04/09/27 13:42:06 ID:???
↑うげっ 名前間違えた。 89っす。
すみません。
104 :
QA:04/09/27 18:04:48 ID:???
今度の使徒は文句無しに強敵だったわ。
「シンジ君、しっかり使徒のATフィールドを打ち消してるの!?」
「やってるよ!」
弐号機と初号機の二機で出撃したのだけど、使徒に大きなダメージを与えられなかったわ。
ふざけたことに、あの使徒はATフィールドを破られても、通常兵器の攻撃が無効だったのよ。
私たちは有効な手段が見つからないまま、使徒の強力な攻撃から逃げるしかなかったわ。
「初号機、右足の膝から下を切断!身動きが取れません!」
やっぱり、いつまでも逃げ切れるわけが無いわ。
シンジがのろまだから、初号機の右足を失くしちゃったのよ。
「シンジ!!」
使徒がシンジに止めを刺そうと、腕らしきものを振りかざすのが見えたわ。
私は無我夢中で使徒に突進したの。
「このっ!!このぉっ!!」
私は使徒に馬乗りになり、渾身の力で何度も殴りつけたわ。
でも、使徒の分厚い体には傷一つ付かなかった。
次の瞬間、使徒の体内が光るのが見えたの。
「うそ?」
「アスカあああっ!!」
気づいた時には遅かったわ。
私の視界が真っ白に包まれたの。
最後に、シンジが私を呼ぶ声を聞きながら、私の意識は途絶えた。
106 :
793:04/09/27 21:01:50 ID:???
>102
一人称で書くのは不慣れでしたので、全てを語り口調で書いていたのですが、これで良いのか私も分からないんです。
語尾の「わ」はできるだけ減らしてみようと思いますが、今から作風を変えるのも少しまずいと思いますので、すみませんが少し我慢をお願いします。
「天国かな‥‥」
私は生きているのが信じられなかった。
目に入る景色をぼんやりと眺めていた。
しばらく眺めていて、その景色は病室の天井だと分かった。
動こうとしたけど、全身が痛くて動けそうになかったわ。
私の傍に誰か居るみたいだったけど、首を回すのも面倒だったから、確認しなかったわ。
「アスカ‥‥良かった。もう駄目かと思ったよぉ‥‥」
傍に居たのはシンジだった。
横からシンジの声が聞こえたと思ったら、寝ている私に抱きついてきたのよ。
シンジは私の胸ですすり泣いていたわ。この前の私もこうだったのかな……
体の痛みも手伝って、私は冷静に今の状況を見ていたの。
「ぐ……い、痛いって。馬鹿シンジ…」
「ご、ごめん!」
あまりにシンジが強く抱きしめるから、私は痛みを我慢できなかったのよ。
私が痛みを口にしたら、シンジは慌てて飛び退いていた。シンジらしいわね。
私は痛みが治まってから、シンジに使徒の事を尋ねたの。
「使徒はシンジが倒したの?」
「倒したのは私よ」
続く
続き
だけど、返事はファーストからのものだったの。
気が付かなかったけど、最初からファーストもこの部屋に居たのね。
ファーストがあの使徒を倒したらしいけど、私には信じられなかった。
ファーストは凍結されていた筈よ。それに、あの使徒をファーストが倒せるとは思えないわ。
「ファーストが?パイロットを凍結されてたんでしょ?」
「弐号機が沈黙した時点で、凍結は解除されたわ」
「でも、どうやって倒したのよ」
「普通に倒したわ」
「普通にって…」
ファーストは普通に倒したとか言っているけど、あの使徒は普通じゃなかったのよ?
「シンジは見てたんでしょ?どうだったの?」
「なんていうか…普通に殴り倒していたよ。一撃でコアを砕いていたけど……」
「マジなの?」
「うん…」
シンジに聞いたら、コアへの強打で倒したらしい。シンジが嘘をつくとも思えないから本当らしい。
この時の私は、ファーストのラッキーパンチが当たった程度にしか考えていなかった。
続く
続き
使徒の脅威が過ぎたら、今度は自分の体が心配になってきたの。
「それより、アタシの体はどうなってるの?」
「そ、それは、すぐ良くなるから、大丈夫だよ」
私が自分の容態を尋ねたら、シンジは取り繕うように「大丈夫」を連呼したわ。余計に不安になるわよ。
容態を詳しく尋ねたら、ファーストが答えてくれたの。
「大丈夫じゃ分からないわよ。具体的にどうなのか教えてよ」
「その痛みはエヴァのフィードバックによるものよ。弐号機は全身を損傷したから、弐号機パイロットの全身の神経に影響したの」
弐号機の全体が破損したから、私の全身も痛いのね。
そうだ、弐号機はどうなったのだろう。
「弐号機はどうなったの?」
「弐号機は装甲も含めて大部分が大破したわ。時間は掛かるけど、修復はできるそうよ」
弐号機もどうにか無事みたい。かなり危なかったみたいだけど。
守ってくれた弐号機には感謝しないとね。
「アタシはどれくらいで動けるようになるの?」
「フィードバックによるものだから、傷の度合いが目に見えないわ。正確な予測は無理よ」
「そうだったわ。まぁ、この感じなら、全治二、三週間ってところかな」
参ったわね。命は助かったけど、一週間は動けそうにないわ。
これも全部、シンジを助けたせいよ。シンジに責任を取らせてやる。
一日中、私は病室の天井を見ている。
だって、痛くて寝返りも打てないんだもの。
「シンジ、お水をちょうだい」
「うん」
私の世話はシンジがしてくれている。シンジのおかげでこうなったのだから、そんなのは当然よ。
だから、私は遠慮なくシンジに頼み事をする。シンジの右足の具合なんて関係ないわ。
「シンジ、雑誌を買ってきて」
「うん」
「シンジ、雑誌を見せて」
「うん」
「シンジ、何か歌ってみて」
「え?歌?えーと…」
「冗談よ」
それでも、シンジは私の頼みを嬉しそうに聞いてくれる。シンジが嬉しそうに見えるのは、見間違いじゃないと思う。
私は気になって聞いてみたの。
続く
続き
「シンジはアタシの世話が好き?」
「どうして、そんな事を聞くのさ」
「だって、シンジが楽しそうだから」
シンジが嬉しそうにしていると私が言ったら、シンジは気まずそうな顔をしたわ。余計なところで気を遣うんだから。
「ごめん。アスカが大変な時に、いけないよね……」
「そんなんじゃないわ。私が聞きたいのは、私の世話の何が嬉しいのかよ」
何が嬉しいのか尋ねたら、シンジはごにょごにょと答えたわ。
「それは…僕がアスカの役に立てるから。アスカが僕を必要としてくれるから…」
「そ、そう。アタシも嬉しいわ」
聞くんじゃなかったわ。
私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてた筈よ。
おまけに、全身が痛むせいで、シーツを被って顔を隠すこともできなかったわ。
続く
続き
私は我侭を言い放題だったけど、この後にシンジの逆襲があるとは思わなかった。
「アスカ、ご飯を持ってきたよ」
「それじゃ、ファースト、お願い」
食事はファーストに食べさせてもらっていたの。ファーストも私の病室に居座っているのよ。
「アスカ、あーん」
「なんの真似よ」
なのに、今回はシンジが食べさせようとしたのよ。
「アスカも嬉しいって言ってくれたから、僕が全部やるよ」
「アンタ、馬鹿?」
「はい、あーん」
「ちょっと、んむ?」
シンジの奴、私が動けないのをいい事に、口元に食事を突きつけてきたのよ。
結局、一口目を食べた私は、最後までシンジに食べさせられたわ。う〜、恥ずかしすぎる。
「弐号機パイロット、排泄物の処理は私がするから」
「アンタは黙ってなさい!」
こいつらに世話をさせると、余計に疲れるわ。
早く体を治さないとね。
どうにか体が動くようになり、私は前回の使徒の戦闘記録を調べようとしたの。
「ミサト、この前の使徒との戦闘記録を見せて欲しいんだけど」
「わたしもアスカに聞きたい事があるの。一緒に見てくれない?」
「いいわよ」
ミサトに頼んだら、一緒に見る事で承諾してくれた。
「何これ……本当にファーストがやったの?」
私は映像記録を見て言葉を失くした。
モニターの零号機が使徒を滅多打ちにしていたのよ。
倒されているのが使徒だと分かっていても、虐殺にしか見えなかったわ。
「パイロットはレイよ。それより、こっちを見てよ」
「……ありえないわ!」
私はミサトがモニターに表示した記録を見て驚きの声を上げた。
そこには、戦闘中のファーストのシンクロ率が表示されていたわ。だけど、その数値が異常に高かったのよ。
「このデータはすでに消されているわ。わたしはレイの凍結と、このデータが関係あると見てるの。最近、レイと親しいアスカなら、何かレイから聞いてないかと思って」
「何も聞いてないわ。ファーストが自分の事を話す所なんて、見たことが無いもの」
「それじゃ、何か気づいたことは?」
「それも無理よ。ファーストは普段は表に感情を出さないもの」
「そっか……」
続く
続き
ミサトはファーストの事を調べているみたい。
良く考えたら、私もファーストの事を何も知らないのよね。
最近はファーストと居る事が多いから、あまり気にしてなかったわ。
私が人より知っている事は、ファーストの夜の顔くらいかな。夜は素直でかわいいんだから。
……こんなのじゃ駄目ね。
それで、ファーストに変化の原因を聞いてみることにしたの。
「この前の戦闘記録を見たわ。あれは以前のファーストと違うわ。何をしたの?」
「何もしてないわ。ただ、分かっただけ」
「何が分かったの?」
「私は私。死んだら碇君を感じられなくなる事よ」
「そんなの、当たり前でしょ?」
「そうね…」
ファーストは答えてくれたのだけど、意味がさっぱりだったわ。
「私は私」なんて、自分以外の自分なんてあるはずが無い。死んだら何も感じられないのも当然よ。
だけど、その後の憂いに満ちた顔は何だったのだろう。
私なら使徒を圧倒できて喜ぶのにな。
私は汚された。
「嫌ぁ!見ないで!アタシに入ってこないで!」
シンジも汚された。
「やめろ!僕から出てけ!もう忘れたいんだ!」
使徒の攻撃で汚された。
使徒は遥か上空から、私とシンジを覗いていた。
私とシンジは攻撃に耐えるだけだった。
「シンジ…」
「アスカ!」
私とシンジはエヴァに乗っているのも忘れて抱き合ったの。
少しでもシンジを感じたくて、力強く抱きしめたわ。
「レイ、槍を使え」
「はい」
攻撃が止んだ時には、恥ずかしくて初号機を蹴り飛ばしてしまったけど。
使徒はファーストが倒したみたい。
続く
続き
私とシンジは病院で念入りな検査をさせられたわ。
検査が終わって、シンジと自宅に帰ったのは夜遅くだった。
ミサトは後始末に追われて、ネルフにお泊りだったの。
「アタシ、汚されちゃった‥‥」
「僕もだ‥‥」
使徒の攻撃を思い出したら、無性にシンジが恋しく思えたの。
だから、私はシンジを強く抱きしめた。
「お願い。忘れさせて…」
傷の舐め合いなんて、以前は最低の行為だと思っていた。
でも、弱い部分を見せられる相手が居て良かった。シンジが居て良かった。今はこう思うことができる。
私も変わったのかもしれない。
ひょっとしてエロいのキターッ!
のか?
いや、エロくなんなくても全然OKなんだが、
こんなところで続きとなると、どうなるかますます気になってくるじゃねーか。
これまで以上に次回が非常に楽しみでつ。
面白い!
お気に入りスレが1つ増えたよ。
「綾波っ!」
「駄目…来ないで」
零号機が使徒に取り付かれた。
最初から、あの使徒は零号機を執拗に追い掛け回した。
「嫌だ!綾波を助けるんだ!」
「来ては駄目…碇君と一つになりたがってる」
「そんなの知るもんか!」
ファーストは助けに来るなと言ったのに、シンジは助けに向かった。
「初号機も使徒に侵食されました!」
あの馬鹿、助けに行って自分も同じ目に会っているのよ。
零号機と初号機が繋がって、ファーストとシンジは苦痛から解放されたみたい。
二人は恍惚とした表情を浮かべていたわ。
「これが…綾波の心‥‥」
「碇君が…私に入ってくる‥‥」
何か知らないけど、まずい状況に変わりはないわ。
使徒は零号機と初号機に繋がって動きを止めていた。
その隙を突いて、私は使徒を両断した。
「エヴァ二機への使徒の侵食が止まりました。使徒の活動は停止した模様です」
とりあえず、これで使徒の動きは止まったわ。
続く
続き
使徒を倒した私たちはネルフに帰還した。
そこで見た光景に、私は驚きを隠せなかった。
「綾波‥‥ごめんよ。何も気づいてあげられなくて‥‥」
「そう…知ってしまったのね‥‥」
私が弐号機から降りて最初に見たのは、シンジがファーストを抱いているところだった。
シンジは泣きながらファーストを抱きしめていたの。
あのシンジが人前で抱き合うなんて、私には信じられなかったわ。
「嫌いになんてならないから…綾波のこと、ずっと好きだから‥‥」
「変ね…どこも痛くないのに、涙が止まらないの」
「いいんだ…それで、いいんだよ‥‥」
ファーストが普通に泣いているところなんて初めて見たわ。
分かっていたけど、私は耐えられなかった。
私は逃げるようにシャワールームへ向かった。
私は落ち着くまでシャワーを浴びていたの。
シャワーのお湯で分からなかったけど、私は泣いていたのかもしれない。
でも、大丈夫。こうなる予感はしてたから。
きっと、大丈夫。
一人称の地の文が話し言葉、女の子言葉なのって好きじゃない。
なら読むな
793氏の文体、好きだな
今、私の機嫌はこれ以上無い程に悪い。
「どうして、アタシの弐号機を使うのよ!」
「仕方ないでしょ。試作機の零号機と初号機を使っても、今後の役に立たないんだから」
なぜなら、私の弐号機が他人に使われそうだから。
「惣流さん、ごめんね。僕のために我慢してよ」
「アンタのためなんて、尚更にごめんよ!」
しかも、使うのが本当に他人のフィフスチルドレンなのよ。
フィフスチルドレン渚カヲル――そう、フィフスチルドレンが、なんの前触れも無しにやってきたのよ。
実験とはいえ、見ず知らずの他人を弐号機に乗せるなんて、我慢ならないわ。
「後でお礼をするからさぁ」
「絶対に駄目!」
このフィフスチルドレン、見た目はレイに似ているのよ。赤い瞳に真っ白な髪なの。
でも、性格は正反対なのよ。いつもへらへらと笑っていて、誰にでも馴れ馴れしいの。
シンジは誰にでもいい顔をするから、こいつに付き纏われているわ。
「アスカの我侭は通用しないわ。渚君、実験を始めるわよ」
結局は弐号機を使って実験されたの。
このままでは、私の腹の虫が収まらないわ。
続く
続き
「フィフス、お礼をしてもらうわ」
「覚えていたのかい?」
「当然よ。お礼は食事をご馳走になるわ」
「お安い御用さ」
それで、私はフィフスに食事を奢らせたの。
「お安い御用」なんてぬかしたから、値の張るレストランに連れて行ったわ。
「いいお店だね」
フィフスの奴、お店を見ても顔色一つ変えなかったわ。案外、こういう場に慣れているのかも。
シンジなら、間違いなく挙動不審に陥るわね。
今の服装を考えると、お店に入るのが躊躇われたけど、ここまで来て私が引くわけには行かないわ。
私たちは注文をそつなくこなして、食事を始めたの。
私は無言で食事を進めたかったのだけど、フィフスが次から次へと話し掛けてくるのよ。
「惣流さんはシンジ君と暮らしているんだよね?」
「ええ」
「シンジ君は本当に優しくて、エヴァのパイロットに見えないね」
「ただのお人好しよ」
「そうかなぁ、みんなに好かれているみたいだけど」
「表向きの顔がいいだけよ」
「惣流さんは普段のシンジ君を知っているのかい?」
「もちろんよ。普段のシンジは馬鹿でまぬけで我侭で情けない男よ」
続く
続き
しかも、フィフスの話はシンジの事ばかりだったわ。一緒に食事までしている私の事は、一切聞いてこなかったのよ。
私の事を詮索されるよりはましだけど、少し失礼ね。
「ふふ、惣流さんはシンジ君が好きなんだね」
「な…どうして、そうなるのよ!」
フィフスがとんでもない事を言うから、大声を上げちゃったじゃない。こんな所で恥ずかしいったら。
私がシンジを好きだなんて、今は考えたくもないわ。
「隠さなくてもいいよ。僕もシンジ君が好きだから」
「もしかして、さっきの「好き」は「普通に好き」ってことなの?」
「どうだろうね。僕はどちらでも構わないけど」
フィフスはシンジが好きなんだそうよ。本気かどうかは知らないけど。
なんか、こいつと話すのもあほらしくなってきたわ。
「アタシ、もう帰るわ」
「まだ半分も食べてないよ?」
「よかったら、あげるわ」
私は食事もそこそこに、早々と帰宅したわ。
続く
続き
「ただいまー」
「おかえり、アスカ。夕飯の用意ができてるよ」
帰宅したら、シンジが食事の用意をして待っていたの。
「シャワーの後で食べるわ」
「それじゃ、その間に温め直すね」
少しだけど食べてきたから、食べなくてもよかったのだけど、なぜか食べないのが惜しく思えたのよ。
「うん。今日のご飯は傑作だ」
「どこがよ。これなんか、火の通しすぎよ」
「温め直したからだよ!」
「はいはい」
シンジの料理がレストランに到底及ばないのは当然だけど、どこか安心できる味なのよね。
もしかしたら、これが家庭の味なのかもしれないわね。
それは、私がネルフから帰宅する最中に起こった。
日が沈んで暗くなった夜道を、私は一人で歩いていた。
街灯もまばらな人通りの少ない道を歩いていると、前方の街灯の下に人影が見えた。
人影は立ち止まっていて、こちらを見ているようだった。
私は気味が悪くて、歩く足を速める。
その街灯に差し掛かった時、私は溜め息を漏らした。
「……アンタ、こんな所で何をしているのよ」
「君を待っていたんだ」
その人影はフィフスだったのよ。こんな所で待ち伏せなんて、悪趣味にも程があるわ。
私はフィフスに用件を尋ねたの。
「驚かさないでよ。それで、何か用なの?」
「用件はね……君が邪魔なんだ」
「邪魔はアンタよ!」
そうしたら、フィフスが私を邪魔者扱いしたのよ。
私は条件反射的にフィフスを張り倒したわ。
「何よ、これ!?」
「君は直情的だね」
続く
続き
張り倒そうとしたのだけど、私の手はフィフスに届く前に止まったわ。それも、何も無い空間で手が止まったの。
私はエヴァに乗っている時の感覚を思い出したわ。
「まさか、ATフィールド!!」
「君たちリリンは、そう呼んでいるね」
間違いない。これはATフィールドよ。
私は目の前の人物が使徒である事と、私に絶対的な死が訪れようとしている事を理解させられた。
「そうやっておとなしくしていれば、君もかわいいのに。最後に言い残す事はあるかい?」
「どうして、使徒が人の姿をしているのよ」
フィフスが最後の一言を許してくれたから、私はなぜ人の姿なのか尋ねた。
「簡単な事だよ。リリンも使徒も生まれが同じだからさ。君たちリリンも、心の壁たるATフィールドを持ち合わせているんだよ」
そうしたら、私たち人間も使徒と同じだと言ったわ。
分からない事だらけだけど、もう考える時間は無さそうね。
フィフスが私を殺そうと、手をかざしたの。
「もう一度、シンジに会いたかったな‥‥」
私が最後に考えていたのはシンジのことだった。
シンジの顔を思い出そうとしても、細かな所までは思い浮かばなかったのよ。
もっと良く見ておくべきだったと、今更ながら後悔した。
続く
続き
死を覚悟して目を閉じた時、私の前に人影が立ちはだかったの。
「弐号機パイロット、私から離れないで」
「ファースト?」
私は信じられなかった。こんな所にファーストが飛び出してくるなんて。
「綾波さん、少し席を外してくれないかな。僕は惣流さんに用事があるんだけど」
「席を外すのはあなたよ。今なら見なかった事にしてあげるわ」
「もう遅いよ。力を使ってしまったからね」
私はファーストに危険を知らせようとしたわ。
「ファースト、逃げて!こいつは使徒よ!」
「知ってるわ」
でも、ファーストはフィフスと睨み合ったまま、動こうとしなかったの。
「仕方が無いな。強引に行くよ」
しばらくして、私は恐ろしい光景を目にした。
フィフスとファーストの間に、ありえない光の模様が見えたの。あれはATフィールドが何かにぶつかってできる物よ。
続く
続き
「なぜ、君はリリンの味方をするんだい?」
「私は人が好きだから」
「君は面白い事を言うね。僕は君に興味が湧いたよ」
フィフスの言葉を最後に、ATフィールドは消滅した。
後には、二つに分かれたフィフスの体が転がっていたわ。
「ファーストがやったの?」
「そうよ」
あのフィフスをファーストが倒したのよ。普通の人間が使徒を倒せる筈がないわ。
「アンタも使徒なの?」
私は間違いである事を祈って、ファーストに使徒なのか確認したの。
ファーストは見るからに苦しそうな表情をしたわ。
「そうかもしれない…私は作られた人なの。人ではない人。それが私なの」
「それ…シンジは…」
続く
続き
ファーストは自分が人間ではないと言ったわ。
私はシンジも知っているのか尋ねようとして、この前の光景を思い出した。ケージで抱き合う二人の言葉を思い出したの。
「あの時……この前の戦闘で、シンジも知ったのね?」
「ええ。碇君は私を受け入れてくれたの。とても嬉しかった‥‥」
やっぱり、この前の使徒の時に、シンジはファーストの事を知ったのよ。
シンジも知っていると聞いて、私は不謹慎にも安堵したわ。あの時の言葉が完全に否定されたわけではないけど。
シンジに受け入れられて、私ができないわけがない。私もファーストを受け入れることにしたの。
「ファーストが何だっていいじゃない。大事なのは心よ。あれだけ感じ合えたんだもの。私はファーストのことが今でも好きよ」
「ありがとう‥‥私も弐号機パイロットが好きかもしれない」
「そうね……もっと人間らしく呼び合いましょ。アンタを「レイ」って呼ぶから、アンタもアタシを「アスカ」って呼ぶのよ」
「わかったわ」
ついでに、ファーストとは名前で呼び合うようにしたわ。やっぱり、人は名前で呼び合うものよね。
それにしても、シンジが話してくれなかったことには腹が立つ。後でお説教しなきゃ。
私は少し前から鳴っていた非常召集のベルに気づいた。私はベルを止めて、ネルフの誰かが来るのを待ったわ。
続く
続き
私とレイはネルフに戻って、ミサトに報告をさせられたの。当然、シンジも呼び出されていたわ。
「それじゃ、フィフスチルドレンが使徒だったのね?」
「そうよ」
「どうやって倒したの?」
「倒してないわ。あいつが勝手に自滅したのよ」
私はフィフスが自ら命を絶ったことにしたわ。似たようなものだったから、これでいいでしょ。
「カヲル君が使徒だったなんて、嘘だよね?」
「嘘じゃないわ。アタシは殺されかけたのよ?」
「そんな‥‥」
お人好しのシンジは、フィフスが使徒だと信じられないようね。
少しは私の心配をしなさいよ。
カヲル君しんじゃった・・・
私たちチルドレンは第三新東京市に閉じ込められている。
理由は敵が迫っているから。
敵といっても、今度の敵は使徒ではない。相手は日本の軍隊よ。
どうして、こんな事態に陥ったのか、私には分からないけど、敵が攻め込もうとしているのは確かよ。
エヴァで人に認めてもらおうなどと考えるのは夢物語なのだと、私は思い知らされた。
今、第三新東京市は完全に包囲されている。
加持さんが情報をくれたおかげで、相手の奇襲だけは防げたのよ。
それで、私たちネルフは威嚇の為に、エヴァを見張りに立てているの。
絶えず三機のエヴァが交代で見張りをしているから、相手も簡単には攻め込めないわ。
今はシンジと見張りに就いているの。
「シンジ、覚悟はできてるんでしょうね」
「……」
「アタシたちがしっかりしないと、みんな死ぬのよ?」
「……分かってるよ」
私はシンジが心配なの。
もし、眼前に展開されている部隊が突撃してきたら、エヴァで蟻の群れを踏み潰すようにして迎え撃たなければいけないのよ。
蟻でもできそうに無いシンジが、迷わずにできるかが心配だわ。
続く
続き
だけど、私の心配は杞憂に終わったわ。
「アスカ、何か来る!」
「あれは……エヴァ量産機!?」
なぜなら、業を煮やした相手さん方が、エヴァ量産機を投入してきたからよ。エヴァにはエヴァというわけね。
ここからは、戦闘と呼ぶにはあまりにも醜い戦いだった。まだ、使徒を相手にしたほうが、いくらかきれいな戦いができると思えたわ。
「こいつら、どうして起き上がってくるのよ!」
量産機は倒れても再生して起き上がってくるのよ。まるで、映画のゾンビみたいに。
「綾波、よけて!」
「きゃあっ!!」
「綾波っ!!」
「槍のコピーか!?」
しかも、量産機の使う武器にATフィールドが通用しないのよ。
無敵の強さを誇っていた零号機が、全ての槍を受けて動きを止めたわ。
続く
続き
量産機も醜かったけど、極めつけは初号機よ。
「初号機、活動を再開しました!」
「ありえないわ!電源は切れているのよ!?」
私が量産機に囲まれて、もう駄目かと思った時、活動停止の初号機がまたもや暴走したのよ。
助けてもらった私が言うのもあれだけど、今回の暴走はとても直視できたものではなかったわ。
「エヴァを食べているの?」
初号機は倒した量産機を食べていたのよ。初号機が口でぼりぼりとね。思い出すだけで吐き気がするわ。
その後も初号機の動きは常軌を逸していた。武器を持たない筈なのに、離れた敵を八つ裂きにしていた。
「敵部隊、撤退を開始しました」
量産機を失った敵の部隊は、早々と撤退を始めたわ。
初号機が雄叫びを上げる中、私は病院に運ばれた。
また私は病室で寝ている。
「静かだな‥‥」
この病室には私しか居ない。
以前の入院よりも体の調子はいいのだけど、気分は優れない。
多分、あいつが居ないから。シンジが居ないから。認めたくないけど……
「シンジの奴、お見舞いくらいは来なさいよ」
不意に私は独り言を始めるの。
病室が静か過ぎて耐えられないから。不安に耐えられないから。
「シンジはレイのお見舞いかな‥‥」
あの戦いでシンジがどうなったのか、私は知らない。でも、私は考えないようにしている。
もうすでに、シンジが私に会いに来ないのがおかしいから。
「アスカ、体の具合はどう?」
続く
続き
最初に私のお見舞いに来たのはミサトだったの。
私は真っ先にシンジの事を尋ねたわ。
「シンジはどうしたのよ。もしかして、シンジも入院しているの?」
「え…ええ。シンジ君も別室で入院中よ」
そうしたら、シンジも入院していると教えてくれたわ。
それで、シンジの容態を尋ねたのだけど、その答えを聞き、私は脱力して卒倒しかけた。
「シンジはどうなの?大丈夫なの?」
「……なんとも言えないわ」
「それって……やばいって事なの!?」
ミサトの答えだと、シンジは生死の境をさまよっている事になる。
私は正気で居られず、ミサトの腕に掴みかかった。そして、シンジに会わせるように頼んだの。
「シンジはどこよ!今すぐに会わせなさいよ!」
「ごめんね…できないのよ‥‥」
「できないって何よ!一目でいいから、会わせなさいよ!」
「ごめんね‥‥」
ミサトはシンジに会わせられないと言った。
だから、何度も私は声を荒げて頼んだ。
だけど、ミサトは私に腕を引っ張られながら、何度も謝るだけだった。
めちゃくちゃいいところで止まったな・・・
期待してます
ミサトのお見舞いの後、私は病室を飛び出した。ミサトが見ている間は、私を病室の外へ出させてくれなかったから。
私は体が痛むのも忘れて、発令所に向かった。そこでシンジの情報を聞き出すために。
「アスカちゃん、もう大丈夫なの?」
「アタシは平気よ。それより、シンジはどうなってるのよ」
シンジの情報はすぐに聞き出せたわ。
発令所に居る日向さんと青葉さんが教えてくれたのよ。
「聞いてないの?」
「ええ」
二人は少し見合ってから、私に教えてくれた。
「シンジ君はまだ初号機の中さ」
「出られなくなったんだ」
「どうしてよ」
「初号機に取り込まれてしまったんだよ」
「シンクロ率400%以上の代償がこれさ」
続く
続き
シンジは初号機から出られないと言っていた。初号機に取り込まれたと言っていた。
でも、私には何の事だか理解できなかった。
「それで、シンジはどうなってるのよ」
「プラグスーツだけを残して消えてしまったよ」
「これがエントリープラグの中さ」
私は初号機のエントリープラグ内の映像を見た。
そこにシンジの姿は無い。あるのは、薄っぺらなプラグスーツだけだった。
私は二人の言いたい事が分かり始めた。
でも、私は現実を認めたくなくて、ヒステリーを起こしたようにわめき散らした。
「取り込まれた?何を言ってるのよ!人を馬鹿にするのもいい加減にして!!」
「アスカちゃん、落ち着いて」
「シンジ君は救出できるから」
「今、サルベージの準備を進めているところなんだよ」
シンジが助かると聞いて、私は発令所を後にした。
続く
続き
私はシンジを捜そうと思い、初号機のケージを目指した。
シンジが消えたなんて、そんな事実を簡単には受け入れられなかった。
「レイ…」
ケージの初号機の前にはレイが居た。レイは初号機のコアの前で、膝を抱えて座っているの。
レイも病室を抜け出してきたみたい。包帯姿が痛々しさを際立たせていた。
レイは私が隣に来ても、初号機から少しも視線を動かさなかった。
「レイ、何をしてるの?」
「碇君を見ているの」
レイに何をしているのか尋ねたら、シンジを見ていると答えたの。レイは初号機を見たままで……
「本当だったんだ‥‥」
私は体中の力が抜けるのを感じた。そして、レイの隣にお尻を着いたの。
私とレイは黙って初号機を眺めている。
いつまでも、初号機を眺めていた。
「馬鹿‥‥シンジの馬鹿ぁ‥‥」
私は初号機の前で泣き続けている。
私の手にはシンジのプラグスーツが握られている。
そうよ。シンジの救出は失敗に終わったのよ。
いつから泣いているのかも忘れたわ。
そうしたら、レイが初号機のコアの前で服を脱ぎ始めたの。
「レイ、何をしているの?」
「碇君の所へ行くの」
「何をする気?」
「さよなら」
レイがお別れを言った後、私の目の前で消えた。レイはコアに触れた瞬間に消滅したの。
「嘘でしょ!?何をしたのよ!アンタまで消えてどうするのよ!アタシも連れてってよ‥‥」
私はコアに駆け寄って、何度も呼び掛けた。
どれだけコアを叩いても、当然のように返事はなかった。
続く
続き
私が泣き崩れていると、不意にコアの辺りから物音が聞こえたの。
「シンジ!」
私は幻を見ているのかと思った。
なんと、コアの前にシンジが裸で倒れていたのよ。
「レイなの?」
シンジに重なるようにして女の子も倒れていたけど、レイではなかったの。
すぐに二人は病院に運ばれた。もちろん、私も同伴したわ。
今、私はシンジの病室で付き添いをしてるの。
隣のベッドには、エヴァから一緒に出てきた女の子が寝ている。
でも、ここにレイは居ない。
レイはどこに行ったのよ。最後の言葉が気にかかるわ。
もしかして、本当にお別れなの?そんなの許さないから。
それにしても、この女の子はレイに似ているのよね。シンジにも似ているような気もするけど……
私は病室でシンジの目覚めを待っている。
隣で眠っていた女の子は、少し前に意識を取り戻したの。
その女の子は意識を取り戻すなり、眠るシンジに駆け寄って手を握っているわ。
見ず知らずの女がシンジの手を握っているのよ?当然、私は気に食わなかったわ。だけど、私が間に入れるような雰囲気ではなかったの。
でも、それもシンジが目を覚ますまでのことよ。
「ん……あ、量産機は?ここは?」
「よかった!碇君、目を覚ましたのね。会いたかった‥‥」
「なっ!?」
あの女、シンジが目を覚ますと真っ先に抱きついたのよ。
「あ、綾波!?じゃないの!?」
「忘れてしまったの?あれだけ愛し合ったのに‥‥」
性格がちょっと変だけど、私は気づいたわ。
「ちょっと、レイ!離れなさいよ!」
「え?やっぱり、綾波なの?」
「そうよ。でも、放さないわ」
「離れろっての!」
あの女は綾波レイだったのよ。髪と瞳の色が普通の日本人になってたから気づかなかったの。心配して損したわ。
私たちが病室で騒いでいたら、司令と副指令が血相を変えて飛び込んできた。
続く
続き
「何をしている!」
「ユイ君から離れなさい」
事情が飲み込めなかったけど、司令と副指令に逆らうのは得策ではないわ。私はレイから手を離したの。レイの馬鹿は、これ見よがしにシンジと抱き合っていたけどね。後で覚えてなさいよ。
だけど、この後の司令と副指令の態度には本当に驚いたわ。
「ユイ、良く帰ってきてくれた」
「ユイ君なのだろう?お願いだ。そうだと言ってくれ」
あの司令と副指令が、レイみたいな小娘に涙を流して語りかけたのよ?そりゃ、驚くわよ。
それ以上に、レイの言葉に驚いたけどね。
「あなた、冬月先生、私は帰ってきてしまいました。やはり、人は他人のいない空間では幸せになれないようです。エヴァの中でシンジと一つになって分かりました。私は他人を求めていたのだと‥‥」
「それが分かっただけでも、良かったではないか」
「そうだぞ。ユイ君」
レイが別人のように話していたのよ。
なんか話が飛躍しすぎて、私は思考する事も忘れていたんだけど、次のレイの言葉で驚きを実感したわ。
「それと、私は碇ユイですけど、同時に綾波レイでもありますから。その事を肝に銘じておいてください。碇司令、それと、副指令」
「まさか…」
「全部、知っていると言うのか!?」
「もちろんですよ。綾波レイ…いえ、私が生まれた理由もね」
続く
続き
どうやら、レイは二つの人格を擁しているらしいのよ。後で聞いて驚いたんだけど、その人格がね……
それにしても、司令と副指令が青ざめているところなんて初めて見たわ。よほど、ユイって人が大事だったようね。
みんなが驚いて静まり返っていたけど、シンジが我慢できずにレイに本人か確認したの。
「あ、綾波じゃないの?」
「碇君、私は綾波レイよ?なんなら、今から碇君との思い出の全てを話しましょうか?」
「い、いや、後で聞くよ…」
レイの奴、何かにつけてシンジに抱きつくのよね。今度は前とは違う意味で苦労しそうだわ。
抱き合う二人を見て、司令と副指令は力無く病室を去ったわ。
「レイ、いつまでも抱き合ってないで、説明しなさいよ」
「もう、涙の再会なんだから、好きにさせてよ」
「涙の再会なんて、とっくにぶち壊しよ。いいから、説明して」
「しょうがないわね」
私はレイに説明を求めたわ。だって、異常な事が多すぎるんですもの。
「私がエヴァのコアに消えたのをアスカも見たわね?」
「ええ」
「それは、私も碇君と一つになろうと思ってした事なの」
「それで?その体はどうしたの?」
「今、説明するから。……それは、初号機には碇君以外にもう一人、碇ユイが閉じ込められていたからよ」
「碇ユイ?」
「それは後で説明するとして――じつは、エヴァの中での事はあまり覚えてないの。気が付いたら、ベッドの上で私が碇ユイになってたわ。あの中で、碇君に触れたいと思っていたような気がするけど……」
続く
続き
レイの説明によると、初号機の中にはシンジ以外にも「碇ユイ」という人が居て、その人と重なっちゃったらしい。相変わらず、ふざけてるわね。
あと、「碇ユイ」って人だけど、この人も凄いのよね……
「僕のお母さんも「ユイ」って名前だ…」
「シンジ、覚えていてくれたの?お母さん、嬉しいわ」
「お母さん!?」
「馬鹿な事を言ってんじゃないわよ。どこに同い年のママが居るのよ。それより、さっさとシンジから離れなさいよ!」
「嘘じゃないわ。肉体年齢は綾波レイに合わせられたみたいだけど」
後で調べて分かったけど、「碇ユイ」は本当にシンジのママだったのよ。
信じられないわ。だって、見た感じの年齢は私たちと変わらないのよ?というか、髪と瞳の色を変えたら、まんまレイと同じよ。
「お、お母さんなの?」
「そうよ」
「それじゃ、綾波は?」
「それも私よ」
シンジなんか目に見えて混乱してたわ。無理もないわね。
これからレイはどうするのだろう。私たちの関係も終わりかな……
これを機に、シンジに告白でもしようかしら。
最近のレイには、ほとほと疲れさせられる。
「碇君、あーん」
「い、いいよ。自分で食べるから」
「あーん!」
「あーん…」
以前のレイもシンジにべったりだったけど、自分から行動を起こすようなことは無かったわ。
今のレイは新婚夫婦もびっくりの甘えようね。当然、犠牲者はシンジよ。
レイはシンジの部屋に押しかけて、シンジの世話の何から何までしているわ。
「アンタたち、時と場所を選びなさいよ」
先日の日本軍とエヴァ量産機の侵攻を受けて、私たちチルドレンはネルフに待機を余儀なくされているの。
食事はネルフの共同食堂を使っているんだけど、二人の馬鹿のおかげで食事が億劫なのよね。
「あーん」
「レイ!聞いてるの!?」
「んもう、怒鳴らなくてもいいじゃない。アスカもする?」
「な…なんで、アタシもやるのよ!」
「だって、アスカも碇君が好きなんでしょ?」
「く……」
レイが所構わずシンジに甘えるものだから、おちおちと食事もしていられないわ。
ただでさえ、レイの性格と見た目の豹変で注目を集めるのに、このあつあつぶりよ?ネルフの職員で、この光景を知らない者はいないわ。
ちなみに、レイは「綾波レイ」としてネルフに扱われている。髪は染めて瞳の色はコンタクトをしていることになっているの。真実を知る者は少ないみたいね。
続く
続き
今日は違う意味でレイに疲れさせられたわ。
「アスカ、今度はいつするの?」
「するって何を?」
「意地悪しないで。あれよ。エッチな事よ」
レイから誘ってきたのよ。色々な意味で驚かされたわ。
「アンタ、自分が何を言ってるのか、分かってるの?」
私は二人の事を考えると、簡単には応じられなかったわ。
でも、レイは懸命になって懇願してきたの。
「分かってるわ。けど、どうしようもならないの。私の中の綾波レイが止まらないのよ」
「後悔するかもしれないわよ」
「後悔したっていいわ。私には碇君しかないもの」
「仕方がないわね…」
だけど、レイはレイのままなんだなって気づいたら、不安なんて小さな物に思えたのよ。
私はレイの頼みに応じる事にした。
シンジはレイとしたことで吹っ切れたみたい。最近、レイとの付き合いがぎこちなかったけど、自然に振舞えるようになったわ。
私はどこかほっとしたかな。レイに変わりないって確認できたから。
でも、これで更なる深みに落ちたような気がする。
今日は疲れたから、考えるのをよそう……
後書き
ここまでお付き合いしていただき、本当にありがとうございます。
一段落ついたのと、これ以上はだらだらと書く事になりそうなので、とりあえずは終わりにしておきます。
ユイを絡ませたのは、ネルフ側の問題を解決するのに使えそうだと考えたからです。
純粋にレイが好きな方には、不快な思いをさせたかもしれません。ここで謝罪します。
ちなみに、このレイはリナレイではありません。大人のユイと淡白なレイが単純に合わさったものです。
それと、最後まで書けたこのスレと、ここの住人の皆様には感謝の念でいっぱいです。
それでは、また機会があったらお会いしましょう。
お疲れさまでした。残念ですが。
とても素敵なお話で、いつも楽しみにしていました。
>152
おつかれさま。ぜひとも推敲清書して、どっかにまとめてください(笑)。掲示板に留めておくのもったいないし。
アスカ同意の下で、
レイ+ユイ(いずれもシンジの母親に値する存在)が、シンジとエッチしまくってるって事・・・?
乙
Z
保守
159 :
春琴:04/10/18 19:06:27 ID:???
1
シンジの目はいつも、あたしのことを綺麗だと言っていてくれたから。
「会いたくないの」
そう言って、アスカはプイと横を向いた。
病室という場所はどこも同じにおいがする。
葛城ミサトが僅かに顔をしかめたのは、アスカの返答によるものではなく、不意に鼻についた消毒薬の匂いの為だった。
彼女は部下であり同居人でもあるアスカの我儘には慣れており、すでに隔意を憶える様な事もない。
自分がここへ来るのは初めてだが、毎日通っているという少年からも報告は受けていた。
この病室の前まで来ながら、彼が一度としてこの部屋に入ることを許されずに、帰っているということも。
部屋の印象は全体的に白く、その清潔なリネンはアスカの赤い髪を鮮やかに浮かび上がらせてはいる。たが、大きなベットに映るそれは、どこか寂しげな赤い花を思わせた。
細い肩の上で髪を揺らし、わずらわしげに打ち振れば、その包帯の巻かれた顔が顕になる。
「でも、せっかくシンジ君が来てくれたのよ」
「いいって言ってるでしょ!」
160 :
春琴:04/10/18 19:07:37 ID:???
2
綺麗な花束は彼女の気を紛らわせるため。
甘い菓子。
色とりどりのフルーツ。
手のひらに乗るほどの、かわいらしい人形たち。
少女向けの小説などは、あの少年がどのような顔をして買ってきてくれたのかと思うと、アスカの言うままに無碍に突き帰すこともためらわれる。
「いいじゃないの、少しぐらい会って上げても。
シンジ君、毎日来てくれてるんでしょう?」
「しつこいわね!
会いたくないって…」
荒げられた声がわななく唇から紡ぎだされ、隠されずに残った青い瞳には苛立ちよりも不安が色濃い。
一人にして欲しいと言いながらも心細げにため息を吐かれれば、早々に帰ることも出来なかった。
気づまりな沈黙を打開する術もなく、ただ視線を見舞いの品へやっていたミサトは、控えめなノックに急いで扉を開ける。
客が少年なら、いっそ既成事実をと思ってのことだったが、あいにくと扉の向こうから顔を出したのはアスカの唯一といってもいい友人だった。
161 :
春琴:04/10/18 19:08:23 ID:???
3
「アスカ。
あの、はいってもいいですか?」
おずおずと述べられた入室の許可に、部屋の主の言も待たずミサトは彼女を部屋へと招き入れる。
「入って、入って。
アスカも退屈してるのよ。
時間の許す限り居てやってね。
…アスカ、私はお邪魔にならないように帰るから。
何か必要なものがあったら、次に持ってくるけど。
何かいるものあるかしら?」
体のよい生贄と思ったわけではないが、洞木ヒカリのタイミングはミサトが辞するのにちょうど良かった。
ミサトには仕事があり、長居は出来ないと云う理由もある。
また、「子供のことは子供同士のほうが分かりやすいかもしれない」、「アスカが望んだ物を持って来るという理由があれば、次回シンジを入れる言い訳にもなる」などと、計算にもならないようなことを考えていた。
162 :
春琴:04/10/18 19:09:07 ID:???
4
ミサトが慌しく去っていくと、ヒカリはアスカの枕元に椅子を寄せて座った。
「アスカ、どう?」
「どう…って、別に」
「あの、これお見舞いなんだけど…」
ヒカリは見舞いに持ってきた小さな花束を手に、迷っていた。
窓際に置かれた色とりどりの品々に、気後れを感じる。
「凄いわね。
こんなに、たくさん。
私のお花なんて…。
…アスカ、これ全部、碇君からなんでしょ?
碇君、毎日お見舞いに来てるって。
あのね、アスカ。
アスカがどうして碇君に会わないのか、私わからない。
だって、碇君あんなにアスカのこと…」
「やめて!」
163 :
春琴:04/10/18 19:10:01 ID:???
5
「会いたくないの。
いいえ、会えない。
会えないわ…」
アスカが首を振れば、長い髪は揺れて、緩やかに彼女の肩を打つ。
「こんなかっこ、見られたくないの」
その包帯が巻かれた顔を隠すように俯いて、アスカはこぼした。
ヒカリが漸く聞き取れるほどの、独り言のような小さな声だった。
「そんなこと…。
そんなこと、碇君は気にしないと思う」
ヒカリの慰めも、アスカの耳には届いていない。
シンジに会うことへの恐怖が、アスカの心を占めていた。
164 :
春琴:04/10/18 19:11:00 ID:???
6
自分自身を誇ること。
その誇りを支えに己を鼓舞することは、アスカのアイデンティティといってもいい。
エヴァのパイロットであること。
14歳にして大学を卒業したことなどは、アスカが勝ち取ってきたものだった。
弛まぬ努力と、忍耐の結果だ。
アスカはそのことを誇っていたし、支えにもしていた。
しかし、それはシンジにとっては何の意味も持たない。
あるいは、「何の価値も持ってもらえない」と言い換えたほうが正しいのか。
165 :
春琴:04/10/18 19:12:37 ID:???
7
アスカにとっては自慢になることも、シンジにはどうでもいいことらしかった。
エヴァのパイロットは強制された結果でしかなく…。
学業とて、赤点さえ取らなければ良いぐらいにしか思っていない。
アスカのことも表面は感心して見せるが、競おうともせず其れだけだ。
アスカは、シンジに無関心でいられることが何よりも辛かった。
アスカに残っているのは、あとは自分自身だけだった。
しかし、肢体を武器に誘おうにもシンジは子供過ぎた。
慌てるばかりで、アスカが望むような反応を引き出せたことはない。
まして同居人の葛城ミサトの熟成したそれに比べれば、アスカは己の体が魅力に足るものとは思えなかった。
シンジの気を惹きたいが、彼が関心を持ってくれそうなものを何一つ持っていない。
ライバルであるファースト・チルドレンがシンジと親しげに話す姿を見れば胸が痛んだ。
悲しみと苛立ちはアスカの言葉を自然ときついものに変える。
それがシンジを遠ざけることになると判っていながら、アスカはほかにどうすることも出来なかった。
166 :
春琴:04/10/18 19:13:49 ID:???
8
口下手なシンジは、あまり本心を語らない。
そのかわりに、嘘を吐くこともなかった。
そんなシンジが、たった一度だけアスカを褒めてくれたことがあった。
ただ一度、「アスカの目は海みたいな色で綺麗だね」と。
167 :
春琴:04/10/18 19:15:16 ID:???
9
美醜など皮一枚のことだと、アスカには判っていた。
美しさが優る時期を過ぎれば、それを留める術など無い。
アスカの実母は、幼心にもとても美しい女だと思えた人である。
アスカよりも淡い金の髪と、薄い色の瞳をした儚げな人だった。
狂気の淵を彷徨いながらも、その美貌には翳りはなかった。
しかし、そんな美しい女ですら、夫の心を繋ぎ止めることは出来なかったのだ。
父が二度目に選んだ女性を見たことが、美しさは価値に成り得ないのだと言う事をアスカに強く印象付けてしまったとしてもおかしくない。
その上、アスカは自分が美人だと思ってはいなかった。
移ろい易い、失うことが判っているものに縋ることほど、愚かしいことはない。
アスカの理性は、そう告げる。
168 :
春琴:04/10/18 19:16:21 ID:???
10
それでも…。
シンジがアスカに価値を置いて、それを認めてくれたのは、「アスカの目の綺麗さ」だけだった。
「青い目が綺麗だ」と、そう言ってくれたことがアスカの全てだった。
シンジの視線を感じアスカが振り向くと、彼はいつもアスカの顔を見ていた。
アスカが目を見開き甘く潤ませれば、シンジは眩しいものでも見たかのように目を細め、赤くなって俯く。
シンジは、アスカの「目」を好きでいてくれる。
その「目」が作り出す表情を、表情を作り出すアスカのこともきっと。
アスカは、口で甘えることなど出来ない。
態度に表すことも苦手だった。
だからこそ、その「目」で甘えた。
シンジが好きだといってくれた「目」が、少しでも彼を捕らえることが出来るようにと。
169 :
春琴:04/10/18 19:22:50 ID:???
>165
訂正
ミサトの熟成したそれ→ミサトの成熟したそれ
春琴抄にモチーフを借りてうまくまとめましたね
うまいなぁ
>170
×うまいなぁ
○切ない感じがいいなぁ
終わりでつか?
もちろん続くでしょ。
期待大
174 :
春琴:04/10/19 19:11:40 ID:???
11
寂しさを言葉に出来なくとも、視線を向ければシンジはアスカを待っていてくれた。
「ごめんなさい」が言い出せなくても、思いを込めて見つめればシンジは許してくれた。
感謝も好意も、言葉や態度であらわせない代わりに、アスカはその「目」でシンジに伝えていた。
シンジはいつだって、アスカの「目」を見つめてくれた。
…彼は、アスカの「目」を気に入っていたから。
アスカのシンジに対する解釈には、幾許かの誤解と思い込みがあった。
しかし、それを正してくれるものはいなかった。
アスカは、己の不安を素直に口にするには天邪鬼すぎた。
それに、アスカの「目」は口よりもはるかに雄弁だったが、その眼差しが注がれる相手はシンジに限られていたからだ。
175 :
春琴:04/10/19 19:13:30 ID:???
12
だから、今、アスカはシンジに会うことが怖い。
ヒカリのとりなしにも、俯いて首を振ることしか出来なかった。
「会えない…」
そう、小さく繰り返すばかりで。
「…うん、わかった。
ごめんね、アスカ。
でも、アスカが会いたくなったら言ってね。
このままずっと、会わないわけにもいかないでしょ?
碇君も、待ってると思うの。
だから、ね、アスカ…」
怒ることも呆れることもなく、ヒカリはアスカを思いやる。
ヒカリの優しさも、アスカには辛かった。
ヒカリは、アスカをいたたまれない気持ちにしたまま帰っていった。
176 :
春琴:04/10/19 19:21:26 ID:???
13
自分が、もしもヒカリのように家庭的で優しい子だったら…。
シンジはもっと違った形で、アスカを認めてくれたかもしれない。
人に素直にやさしく出来るヒカリが、羨ましい。
…そんなふうに考えてしまうことが、アスカは嫌だった。
己を卑下し、他人を羨むばかりの人間は汚い。
アスカがこんなことばかり考えていると知れば、シンジは嫌いになるかもしれない。
シンジに嫌われたくない。
一人きりになれば、アスカの思考は悪いほうへばかり進む。
シンジが心を配って揃えた品々も、落ち込むアスカの慰めにはならなかった。
177 :
春琴:04/10/19 19:22:52 ID:???
14
病院の廊下というものは、常に人の気配があっても騒がしいということはない。
けれどその日、アスカは自分の病室に近づいてくる、大きな足音を聞いた。
この病室は緊急病棟にあるわけではない。
ただの見舞い客が立てる音だとしたら、随分不躾な客だった。
アスカはドアに鍵が掛からないことを思い出し、軽くため息を吐く。
ドアを開く前から、それが誰であるか分かっていた。
「惣流、じゃまするでー」
ノックというものを知らない客は、ずけずけと室内に入ってくる。
何か投げつけてやろうかと思ったが、アスカはそれを諦めた。
手元にあるものはどれも、シンジがアスカのために選んでくれた品だったから。
178 :
春琴:04/10/19 19:28:27 ID:???
15
「あんなー、ええ加減にせんと、碇のこ、と」
挨拶もなしに本題に入ったのは、シンジの友人である鈴原トウジだった。
が、全てを言い終える前に、後ろから入ってきたヒカリに叩かれる。
「鈴原っ!
病院で走るなんて!!」
「委員長、いきなりどつかんといて」
「患者さんにぶつかったら、どうするつもり!
学校の廊下だって、何度言ったって…」
ヒカリはアスカにとって大切な友人だ。
彼女の美点を、アスカは幾つも数えることが出来る。
しかし、恋人の趣味だけは、どうしても理解することが出来なかった。
ヒカリが好きだと言う、この関西弁を喋る男は、アスカから見ると野蛮人にしか見えなかった。
179 :
春琴:04/10/19 19:29:13 ID:???
・・・続く
胸が痛くなりますね
切ないね。
182 :
春琴:04/10/21 17:33:32 ID:???
16
「仲がいいのはかまわないけど。
ここで漫才するなら帰って。
部屋に入って良いとは、言ってないわ」
二人の仲の良い姿を見て微笑ましいと思えるほど、今のアスカには余裕がなかった。
ベットの隅を見つめることで目を逸らし、出来るだけ冷たく言う。
ヒカリは大好きだが、今は駄目だった。
…見ていたくない。
怒らせてもいいから、早く帰って欲しかった。
「つんけんやなぁ」
「鈴原!
…アスカ、ごめんね。
今日は、あの、碇君のことで」
「シンジが怪我したんや!」
トウジの声に、アスカは一瞬大きく身を竦ませた。
183 :
春琴:04/10/21 17:34:07 ID:???
17
「…ど…こを?」
尋ねる声が、自分のものではないかのように聞こえる。
振り向いたアスカの片方の「目」が、トウジを呆然と見つめる。
見えているはずの目であるのに、何も映っていないかのようだ。
「惣流のせいや。
シンジはなぁ、いっつも」
「鈴原、いいかげんにして!
碇君の怪我は、アスカに関係ないでしょ!
アスカのせいだなんて、言い方しないで!」
「そやかて、あいつがぼんやりしよったのは、
惣流のこと考えとったからやろ?」
「シンジは、どこ!!」
「下の医局や」
184 :
春琴:04/10/21 17:35:16 ID:???
18
ベットから滑り降りると、アスカは駆け出した。
この病院はネルフ直属であり、外来などの受付もあるが、基本は職員が利用している。
シンジはパイロットなので、アスカと同じく健康管理に関しては技術部が責任を負っていた。
医局には、彼ら専用の窓口があった。
その日ごろ通いなれた場所までの通路を、走るアスカはひどく遠く感じる。
肩で息を弾ませながら、アスカはドアを開けた。
背もたれのない診察用の黒い椅子に座り、シンジは医師の説明を聞いていた。
一つ二つうなずくと、顔を上げる。
その頭部に巻かれた白に、アスカは血の気が引くような気分を味わった。
シンジは、鼻から上を包帯に包まれた姿で座っていた。
185 :
春琴:04/10/21 17:36:16 ID:???
19
「…シ…ンジ」
かすれた声は、言葉として聞こえなかったかもしれない。
しかし、その声に少年は的確に反応した。
「アスカ?
アスカだよね。
どうしたの?もういいの?
あっ、医局に来たんだから、良いわけないよな。
どこか、痛い?」
ドアの前から動けずにいるアスカに、まるで見えているかのように話しかける。
声音も、隠されていない口元の表情も、いつもどうりのシンジとなんら変わることがない。
だが、そこに巻かれた白が、アスカの動きを止める。
「見られたくない」というアスカの願いを、それは叶えてくれるものだったのに。
186 :
春琴:04/10/21 17:37:01 ID:???
20
「鈴原、待って」
「あ〜、はいはい。
委員長、なんで惣流は怒らん?
ごっつう走っとるやん」
後ろから聞こえてきた会話に押されるように、アスカの足が動く。
躊躇いがちに踏み出したその動きに、気づいたシンジが椅子を立つ。
視界を半分失えば、距離感の違いにしばし戸惑う。
まして、両目の見えない状態のシンジは、当然のように躓いた。
体勢を崩したシンジを、支えるためにアスカは腕を伸ばす。
アスカから、シンジに触れるのは、初めてのことだった。
187 :
春琴:04/10/21 17:37:39 ID:???
・・・続く
うむー。
アスカかと思ったらシンジの方だったのか。
ネルフの科学力は世界一ィィィィィィー! な展開を
キボンしたいところであります。
大切な人を想う気持ちが込められているのを、ひしひしと感じます・・・
目をふさぐならシンジだと思ってはいたけど、故意じゃなくて事故なのか……続きを見たいです。
191 :
春琴:04/10/24 10:48:09 ID:???
21
アスカの手よりも、僅かに大きな手。
汗が引いて少し冷えたその手に、シンジの温もりが滲む。
その重なった手を解くことも出来ず、アスカはただ見つめた。
関節の形が、アスカの形とは違う。
アスカが他に知る誰の手とも、シンジの手は似ていない。
シンジの手、その肩、細い首、首にかかる黒い髪。
アスカは視線を上げていく。
今見えるのは、シンジの口元だけ。
それでも、包帯の下に隠された目も鼻も全て、よく知っている。
アスカは、それをはっきりと思い浮かべることが出来た。
シンジがアスカを見ていたのと同じ時間だけ、アスカもまたシンジを見ていた。
192 :
春琴:04/10/24 10:50:29 ID:???
22
「なんや、仲直りしたんか」
横から不意に掛かった言葉に驚き、アスカは手を引こうとした。
しかし、その手をシンジが握る。
強い力ではなかった。
アスカが払えば、簡単に振り解けるだろう。
手を離したほうがいい。
すぐ側で、ヒカリや鈴原が見ている。
シンジとしても視界を奪われた不安から、反射的にアスカの手を握ったに過ぎないだろう。
そう思いながらも、アスカは動くことが出来なかった。
手が重なった部分が、暖かい。
アスカばかりが、未練がましくこの手に縋っている。
…自分からは、離せない。
アスカに選べた方法は、一つだけだった。
193 :
春琴:04/10/24 10:51:56 ID:???
23
「離して」
「あ、うん、そうだね。
…でも、椅子まで」
アスカが意を決して言った言葉に、シンジはあっさり頷いた。
しばらくぶりに交わすシンジとの会話だというのに、アスカは心と裏腹の言葉を口にしている。
この、視線を合わせて本心を知ってもらうことも出来ない状態で。
「心配した」の一言さえ、言えない。
もどかしさに、アスカは泣き出したくなる。
いっそ泣いてしまえたら、楽だったろう。
だが、他人のいる前で泣くなどという醜態をさらすことは出来ない。
自分のプライドがそれを許さないことも、アスカにはよくわかっていた。
アスカの思考は乱れるばかりなのに、横に立つシンジの顔に変化はなかった。
アスカのそっけない言葉にも、特に何かを思っているようではない。
それが気持ちの温度差を表しているようで、アスカは辛かった。
194 :
春琴:04/10/24 10:53:09 ID:???
24
椅子までの距離は僅かだったが、二人の歩みはもどかしいほどに遅い。
アスカは考えを放棄し、腕に掛かるシンジの重みに意識を寄せた。
想いが伝わらなくとも、こうしてシンジはアスカを頼っている。
シンジが甘えてくれるのは、初めてかもしれない。
そう考えると、手を離すことがますます惜しくなる。
輪郭や形、温もりや重さ。
シンジのパーツの一つ一つを、確かめるようにアスカはたどった。
アスカの思いに応えるように、その手が強く握られる。
息をつめたアスカの前で、シンジは椅子に座るために屈んだ。
体勢が崩れたために力を入れただけだと判ったが、アスカの心音はいつもよりもやや早い。
椅子に着いても、シンジの手は離れなかった。
195 :
春琴:04/10/24 10:54:23 ID:???
25
「アスカ」
「何」
「アスカ、大丈夫?」
「別に。
それより、手」
握られたままの手が、熱い。
「いちゃついとるんかと思えば、それか。
シンジもいいかげん、ガツンと言ったらんかい。
惣流も、惣流や。
我儘ばかり言いよらんと、
たまにはシンジを心配したらどうや。
そのうちシンジにも、見捨てられるで」
「鈴原、言いすぎよ!
アスカだって…」
庇ってくれるヒカリの声が、遠い。
…シンジに、見捨てられる?
幾度も想像したことがあったが、他人に言い切られるのとでは衝撃が違う。
アスカは無意識に、シンジの手に爪を立てていた。
196 :
春琴:04/10/24 10:56:04 ID:???
26
「たいしたことないんだよ。
僕が、ぼけっとしてたから。
だから平気だって。
トウジも、大げさすぎるんだよ。
よくあることだろ。
心配するほどのことじゃないよ。
…アスカが知ったら「バカシンジ」って、
言われるんじゃないかな」
握り締めた手は変わらない。
アスカの耳に届く、シンジの声も。
「甘すぎや。
たまには灸でもすえんと、わからんのや」
「アスカはいつもやさしいよ」
「なんでそない…「鈴原!」」
「だって、わかるよ。
アスカの手、こんなに震えてる」
197 :
春琴:04/10/24 10:57:02 ID:???
・・・続く。
台風怖い。
もう、来るな。
二度と来るな。
乙。
ご無事で何よりでした。
なんか読んでるほうがもどかしくなるなあ。いい小説です。
200 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/11/03 09:26:01 ID:hYqGvW/D
続きよみたいです。楽しみです。