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私はショックだった。
シンジ君が怒るのも無理はない。嫌われても当然だと思っていた。
「彼なら許してくれるかもしれない」
そんな都合の良い考えが頭にあったのかもしれない。
だから、面と向かって彼に言われた事が、とてもショックだったのだ。
逃げ出したかった。
目の前の現実から目をそらしたかった。
いっそこのまま彼を見捨てて、一人で暮せたらどんなに楽だろう・・・
そして気が付いた。自分の愚かさに。
「彼のため」 そう思って、記憶を失った彼と暮らす事を決意したのに。
結局自分の事しか考えてなかったのだ。
「こうしていれば、自分の犯した罪が軽くなるかもしれない」と。
なんて自分勝手な女なんだろう。
これでは、あの時と同じではないか。
「人類の平和のため」と言いながら、自分の復讐のために子供たちをエヴァに乗せていた、あの時と。
「ミサトの大バカ」
そう呟いて決心した。 何があっても、絶対に逃げない。
今度こそ、碇シンジという1人の少年のためにがんばろう。
彼が振り回す枕に打たれながら、彼に近づき抱きしめた。
「気がすむまで殴りなさい。 私はそれだけの事を、あなたたちにしたんだから。
だけど私は、もう逃げないわよ。
シンちゃんが立派な大人になるまで、わたしがきっちり面倒見るから。
シンちゃんに嫌われたって、私は見捨てないから。
それだけは覚えといて。」
「ミサトさんなんて、大嫌いだ。」
そう言った彼は、私の腕の中で泣いていた。