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彼が記憶を失ってからの日々は、とても辛いものだった。
同じ屋根の下で暮していても、私を見る彼の目は、怯えているようだった。
そんな彼を見て、
「セカンドインパクトの後の私、失語症だった頃の私は、あんな感じだったのだろう」と、ふと感じた。
ただベットの上で、丸くなって座っているだけ。
私が仕事に行っている間も、ずっとあのままでいるに違いない。
たまに車に乗せて出かけても、何の反応も示さない。
何かを感じているのかもわからない。
ただうつろな目をして立っているだけ。
彼は生きているのだろうかとさえ、考えてしまう。
「あああああああああああああーーーーーーーーー!!!!!!!」
そんな日々が1年ほど続いたある夜、私は彼の叫び声で目が覚めた。
飛び起きて彼の部屋に行ってみると、パニックに陥っている彼がいた。
その身体に、びっしょりと汗をかいて。
「シンジくんっ!!」
そう叫んで近づくと、彼は枕を振り回して拒絶した。
「ボクに近づくな!! ミサトさんなんて嫌いだ!! リツコさんも嫌いだ!! 父さんだって嫌いだ!!
みんなでボクをいじめた!! ぼくばっかりに嫌な仕事をさせたんだ!!
みんな、みんな嫌いだ!!! 大嫌いだぁーーーー!!!!!」