830 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:
時は2020年。
街に人は戻り、もうすっかり豊かな暮らしをしている。
世界中に穏やかな時間が流れていた。
そんな中、私は今日も、大切な同居人である彼。碇シンジの寝顔を見に彼の部屋へと入った。
何をする訳でもない。
ただ、彼を見守るために。
使徒との戦いが終わって5年。
彼にとってこの5年は決して良いものではなかった。
むしろ、悪すぎるほどであったと思う。
世界に人々が戻り始めた頃、彼は疲れきっていた。
少なくとも、私にはそう思えた。
彼は毎日悪夢にうなされ、見る見るやつれていった。
そして、ある日突然パニックを起こし、突如気を失った。
目を覚ました彼は、全ての記憶を無くし、私たちのこともキレイに忘れ去っていた。
リツコによると、「精神の不安定さから来る、一時的な記憶喪失」だそうだ。
どうすることもできない。
ただ彼の心に、一刻でも早く平穏が訪れるのを祈るだけだった。
アスカはそんなシンジ君の姿に耐え切れず、ドイツへと戻って行った。
私は、、、
私は彼を見守ることを決心した。
病院に入れることを勧められもしたが、私は逃げたくなかった。
何よりも彼から。
彼をこのような状態にまで追い込んだのは、他でもない私であると思っているから。
彼の記憶が戻るまでは、保護者としてしっかりと面倒を見ると誓った。