b-14
「ごめん。
・・・泣いたりして」
「いいえ」
「変、だよね。
・・・突然。
なんか、知ってる人に似てたから」
「誰?」
「・・・友達」
「そう」
「聞かないの?」
「なにを?」
「・・・わからない。
でも、僕の・・・こととか」
b-15
とりとめもなく、彼は話し続ける。
学校のこと。
転校する前。
友人の話。
家でのこと。
知り合った人々。
悲しいこと。
戦いのゆくえ。
濡れた手は乾き、風が髪を揺らす。
震えはもう感じない。
それでも。
差し込む日差しより、隣り合った肩のほうが温かい気がした。
b-16
「こんなふうに話したの、初めてなんだ。
・・・どうしてかな。
あ、えっと、名前。
ええと、君のじゃなくて、僕の・・・」
「知ってるわ。
碇シンジ。
・・・碇君」
「うん」
はにかんで俯く少年の、耳が赤い。
「ごめん。
僕、名前とか覚えるの苦手で。
同じ学校だったんだよね?
ごめん、覚えてなくて。
あの、今度は忘れないから!
だから、あの・・・。
名前、教えてほしいんだ」
b-17
名前。
私の名前。
「どうして?」
「どうしてって・・・。
呼びたいから。
・・・・名前で、呼びたい」
私を、呼ぶ声。
碇君が、求めた。
だから、ここに。
ガフの部屋にあった、魂は一つ。
器は違っても、彼の声に応えたのは私。
『綾波レイ』とは、名のれない。
それは、この器の名前ではないから。
浮かんだのは、目覚めたときに傍らにいた医師のネームプレート。
優しく手を握り、励ましてくれた人。
彼女の名前は、
「・・・霧島」
b-18
「きりしま、さん?」
「そう」
「きりしま、えっと・・・」
「真名」
「マナさん」
「そう」
名づけは、言霊。
継承される『綾波レイ』という呪縛。
それから解放されたことを、感じる。
彼の声が心地よく響く。
新しい名が、真実の名になるように。
意味を、重ねる。
「もう一度。
名前を呼んで、碇君」
ジャンジャンジャンジャンジャンジャン〜
私はアスカ
EVA弐号機のパイロット
EVAに乗るのが私にとっての誇りなの・・・っていうんじゃな〜い・・・
でも・・・あんたの代わりにEVAに乗るパイロットは・・・
何百人といますから!!残念!!
俺はアスカ大好き俺は綾波大好き
やっぱ一番すきなのは、可愛い可愛い幼少アスカっていうんじゃな〜い・・・
でも・・あんたみたいなのが小学生誘拐したりするんですから!!残念!!
俺は開成俺は荒らしの開成
エヴァ板ってろくなヤツいねーなっていうんじゃな〜い
でも・・・あんたのやってる行為は・・・ニート以下ですから!!残念!!
拙者・・・来週晴れてさいたま市民になりますから・・・・
切腹!!
1
一声。
頭上高くで鳴いた鳥の声に驚き、シンジは空を見上げた。
秋の風はここ数日の暗雲を払い、透き通る空は高みまで青い。
「鷹?」
ためらいがちな声は聞くものもいない空気に溶ける。
シンジは一度、小首を傾げると、頭上を仰ぎ鳥を探した。
手をかざし日差しを遮らねばならないほど、外は光にあふれている。
シンジの機嫌はよかった。
久しぶりの自由。
そして、青空。
肌をさす冷たい空気さえも、彼の浮き立つ心を醒ましたりはしない。
運悪く些細な罪で捕まり、脱獄不可能と謳われたネルフの牢獄に囚われたのは二ヶ月前。
弁護してくれる者もいない孤児同然のシンジは、そのままその牢獄で一生を終えるか、貴族の慰みに吊るし首の見世物になるしかない運命だった。
そう、シンジがただの少年だったならば。
2
しかし、シンジは現在こうして外の空気を吸い、大腕を振ってとは言えないが自由を謳歌している。
それを可能にしたのは、満足に盗みも出来ないシンジのただ一つの特技ゆえだ。
彼は一見すると、取り立てて優れたところなど何一つ無いかに見える。
けれども唯一つだけ、シンジは他者より優れたところがあった。
彼の、持つ能力。
それは、空間認識力である。
どのような場所にあろうとも、己のいる場所を感知できる力。
普段は道に迷わないという程度にしか使われることの無い能力である。
だが、これが脱出不可能といわれたネルフの地下迷宮を、抜け出す役に立ったのだ。
左右どころか上下すら見失いかねない複雑な廃棄ダクトを使い、このやせっぽっちの少年は脱獄を果たした。
3
脱獄不可の牢獄を誇り、罪人に厳しい処置をとることが有名な規律都市「第三東京市」
シンジはそこから逃げ出したただ一人の罪人となった。
数にも入らぬこそ泥だが、それでも逃げられたとあっては都市の面目が保てない。
彼にはすでに追っ手がかけられいる。
そのことはシンジも理解していた。
だからこそ、こうしてなれない山道を歩いている。
彼は、第三東京市からの逃亡を選択したのだ。
シンジの生まれは第三東京市であり、彼はそこから今まで一度も出たことが無い。
だが、そこに留まれば確実にその命が奪われてしまうことがわかっていた。
幸いにも、第三東京市は外部の都市とひどく仲が悪かった。
第三東京市を支配しているネルフは、さらに嫌われているとさえ言える。
別の街に入ってしまえば、多くは他都市のネルフの介入にいい顔はしないだろう。
セカンドインパクトを、各々の裁断で乗り越えた都市は独立独歩の気風が染みており、競争意識も強い。
下町に逃げ込んでしまえば、孤児一人など到底見つかることはない。
4
踏み出した足元で枯れ草が乾いた音を立て、シンジは軽く身を竦めた。
行くなら南がいいかもしれない。
体に巻きつけた外套は薄く、この先の寒さをしのぐには心もとなかった。
再び、鳥の声が聞こえた。
今度は、近い木の梢から。
「うわっ、綺麗な鳥。
・・・やっぱり鷹、かなぁ?」
シンジの上げた感嘆の声に、再びその鳥は空に舞い上がった。
梢を蹴り翼を広げ、風を掴み優雅に滑空する。
鳥は小柄だった。
巣立ちしたばかりの若鷹だろうか。
秋の日差しを受け、羽が金色に光る。
5
金色に光る羽を持つ鷹などシンジは初めて見た。
詳しいことはわからないが、鷹狩中の鷹ではないようだ。
山道とはいえ、こんなに都市近くでは鷹狩用の獲物などいるはずもない。
鷹を放って運動させるにしても、もっとそれに適した場所があるだろう。
三たび、鷹が声を上げる。
美しい鳥。
あの鷹を捕まえて売れば、けっこうなお金になりそうだった。
鷹は青い空を背に、秋の日を受けて光り輝く。
手遊びに作った弓を持ち上げかけ、シンジは一つため息を吐くと、それを下ろした。
シンジは弓が得意だということはない。
あのような綺麗な鳥を、傷一つつけずに落とすことなど出来ないこともわかっていた。
シンジは別段鳥が好きだというわけではないが、空を舞うあの鳥を傷つけるのは本意ではないような気がした。
・・・あんなに、きれいなのだから。
シンジは元通りに弓を肩にかけると、再び歩き出した。
6
背後から羽ばたきの音が聞こえる。
慌てて首をすくめたその頭上をかすめ、一声鳴くと、鷹はシンジの視線の先で旋回した。
緩やかな弧を描いて飛び、シンジの側から離れていこうとしない。
「人懐こいんだ。
誰かに飼われてるのかなぁ。
…おいで、射たりしないから」
シンジは左腕をかかげてみた。
鷹がとまってくれるなどとは思わない。
冗談のつもりの行為だったが、あの金色の鷹と触れ合うことを望む気持も僅かにあった。
「っう、わぁ!」
だから、鷹が翼を体に引き寄せ急降下してきたとき、シンジは思わず声を上げ目を閉じた。
7
鷹の羽が作る風が頬を叩き、左腕に痛みと重みを感じる。
そして、あたたかさも。
おそるおそる目を開いたシンジの左腕には、ちょこんととまった鷹がいた。
「…ぁ」
感嘆は声にならない。
彼の腕に舞い降りてきたのは、いままでに見たこともないほど美しい生き物だった。
シンジは知らなかったが、くちばしの付け根に黄色が残るその鷹はまだ成鳥ではない。
そのため一般の鷹よりやや小ぶりで、シンジの腕にも負担にならない重さとなっている。
また、シンジの目を奪ったあの陽光を弾いていた羽毛は、普通の鷹と違い茶色ではなく金褐色だ。
そこに純白の羽毛が雪のように散らばっている。
翼の先の風きり羽に浮かぶ濃い金の斑も繊細で、その造りの一つ一つがまるで芸術作品だ。
そして、何よりもシンジの声を奪ったのは、その鷹の瞳だった。
見上げる空の最も深いところを映したかのような、天上の青。
8
シンジのやせた腕に食い込む鷹の鋭い爪の痛みさえも、その青い瞳を覗き込めば問題にすら思えない。
そう思わせるほどに美しい生き物が、自分の腕の上にいる。
驚きと喜びに、シンジの鼓動は早鐘を打つ。
鷹は怯えた様子もなく、覗き込んだシンジの前髪をくちばしで軽く引っ張る。
甘えたその仕草は人馴れしており、笑みを誘う愛らしさがある。
もしもこの鷹が主人からはぐれた鳥ならば、少しの間なら一緒にいられるかもしれない。
明日をも知れない逃亡者の身では鳥を飼うことなど出来ないが、せめてこの山道を歩く間くらいは…。
鷹に魅せられたシンジが、うっとりとその小さな背を撫でた時、風に乗って人の声が聞こえてきた。
「・・カ、アスカ。
どこ?……アスカ!」
大きな声ではない。
それどころか、感情を殺したかのような抑揚のない声音。
しかし、その声は秋風よりもたやすくシンジの胸のうちに滑り込んだ。
どこか記憶の底をかき乱すような、不思議な痛みを伴って。
9
シンジが目を凝らし声の主を探せば、腕の鷹が「ピィ」と鳴いて街道の向こうへと首を巡らせる。
「…ぁ、おまえのご主人様?
そっか、じゃぁ、またね」
その動きを見たシンジは、落胆を隠せない声で鷹に向かい呟いた。
彼らが別れを惜しむ間もなく、一人と一羽の前には黒い騎影が現れる。
シンジが逃げる隙も与えず、足早に近づいてきた馬は巨躯だった。
いっそ青く見えるほどに艶やかな、深い黒毛の馬。
馬上の主は外套の頭巾を下ろしている為、顔はわからない。
だが、馬が大きいせいか、乗り手はずいぶんと小柄に見える。
「ここに、いたの」
馬上からおちた震えるような声が、シンジの胸に響く。
女にしては低く、男にしては高い声。
長旅に汚れた、元は白かったであろう外套から、腕が差し伸べられるさまが見える。
「アスカ」
鷹を呼ぶその声は、まるでセイレーンの唄声。
誘惑の呪唄にも似たそれに、シンジの体は知らず震える。
10
馬上の主が何者なのかはわからないが、馬の腹帯に括られた槍を見る限り只者ではない。
ネルフという都市の警備隊に追われる身である以上、シンジが警戒しなければいけない相手は多い。
馬に乗り武器を操るなら、『騎士』か『傭兵』の類だ。
本来なら回れ右して、すぐさま逃げ出すべきなのだろう。
しかしシンジは、その頭巾のしたから僅かにのぞいた薄い唇が動くさまから眼が離せない。
こぼれる声が、もっと聞きたい。
もっと!
「どうして、アスカ?
…心配、させないで」
体重を感じさせない動きで馬上から滑り降り、革の篭手を巻いた腕をあげる。
翻った外套のしたのしつらえは騎士の服装。
だが、その華奢さは?
見ることだけで精一杯のシンジは、縫いとめられたかのように動けない。
そして、ここで初めて「アスカ」がとまる相手が人間だと気づいたかのように、その人は顔を上げた。
ふわりと頭巾が背に落ち、隠されていた顔があらわになる。
シンジに向い、ひたりと据えられた、真紅の宝玉。
その時、世界が動きを止めたような気がした。
11
「ごめんなさい。アスカが、迷惑をかけたのね」
息をすることさえも忘れた、数瞬の沈黙。
冷たい空気を震わせる声が、シンジに覚醒を促す。
「えっ。あ、えっと、平気。
迷惑なんて…。
あの、すごく、綺麗な鷹だね。
これ、君の?」
極上のルビーを思わせるその瞳を、いつまでも眺めていたいという気持ちを振り切り、
シンジはぎこちない笑みを浮かべる。
彼の腕にとまったままでいた鷹は、彼の言葉に不満を示すかのように小さく鳴いた。
くちばしに銜えていた黒髪を強く引かれ、シンジはあわてて鷹に意識を移す。
「あ、痛っ、ごめん、お前を無視したわけじゃないんだ。
だから、ごめんって。
髪が、好きなのかな?
ああ、もう、引っぱらないでよ。
…アスカ、ごめんね」
12
慰めに軽く背を撫でたシンジの指に、鷹は満足したかのように体を震わせる。
青い目を細めたその様子は、親鳥に甘える雛のようだった。
シンジと鷹の仲のよい仕草に、紅玉が驚きに見開かれる。
「…珍しい………。
貴方は、アスカが怖くはないの?」
「えっ、なんで?」
「アスカは、人に慣れないわ。
それに、人もアスカを怖がる。
…不用意に触れれば、肉を噛み千切られるもの」
「うそ…?」
覗き込むシンジに応えるように小首をかしげた鷹が、くちばしをくわっと開く。
そして、ぴくんと跳ねたシンジを小ばかにするようにクゥと鳴くと、彼の髪を挟んだ。
そのまま、いたずらするようにシンジの髪をくわえて遊んでいる。
先ほど同様、鷹の遊ぶ姿は幼げで愛らしく、とても無邪気に見える。
口を開けられたときは驚いたが、シンジには言われるように危険な鳥には思えない。
13
「アスカ、行きましょう。
この人にも用事があるわ。
…わたし達にも」
戯れる鷹とシンジをしばらく沈黙で見守った後、その人は静かに声をおとす。
鷹に向かい、人に話すように話しかけることも奇異だったが、
その冷たく抑制された声音にシンジの顔が強張る。
シンジは追われる身だ。
この道の先にあるのは「第三新東京市」
何者ともわからぬ彼らだが、シンジと出会ったことを市の警備隊に連絡されれば、
今度こそ彼の命はない。
「…あっ」
彼の人にかけられた言葉を聞き分けたように、シンジの腕を鷹が離れる。
それがまるで己の幸運に見放されたかのようにシンジには思え、
物理的な痛みを伴って訴えかける。
僅かなふれあいであったにしろ、そのぬくもりを失うのは「寂しい」と。
羽ばたき一つで腕を移った鷹を右腕にとまらせ、再び紅玉がシンジを映す。
14
「アスカを、…ありがとう。
迷惑、かけてごめんなさい。
…さよなら」
あっさりと馬へ向く、華奢な背中。
片腕で体を支え、驚くほどの軽いしぐさで馬上に乗り上げると、
振り返る気配すらなくその人は去っていく。
「…っ、待って!」
木立を抜けるその姿に、シンジは考えるよりも先に声が出ていた。
馬上の影を転がるようにして追いかける。
シンジは警備隊に追われる身。
慣れた町を出ることも、命には代えられない。
それはシンジにもわかっている。
けれどそこには、言いようのない寂しさがあった。
孤児であるシンジには、暖かい思い出などは縁がない。
しかし慣れたねぐらも、冷たい人々も、物心ついたときからシンジの傍らにあったものだ。
それをすべて捨てなければならない。
心の奥に伏せておくはずだった想いが、鷹とのふれあいで解けてしまった。
これ以上、独りの道行きには耐えられない。
あぼーん
ダメ
15
外套が翻り、鷹の主が振り返る。
しかし彼らは、シンジの呼び声に答えたわけではなかった。
鷹の発する、甲高い警戒音。
シンジの耳にも、数騎の騎馬が全速力でこっちに向かって来る音が聞き取れた。
木立に見え隠れする騎手は、第三東京市警の備隊の印を染め抜いた軍衣を着ており、
馬にも同じ模様がついた馬外套を着せている。
白地に濃い紅の無花果の葉。
彼らはネルフ直属の部隊でもある。
「に、逃げなきゃ…」
声は出たけれど、足が動かない。
追っ手に捕まってしまえば、シンジの命などないも同然だ。
縺れる足をどうにか運び、隠れる場所を探すように視線を動かす。
「貴方も、………追われているの?」
いつの間に近くにきたのだろうか?
その時、見上げるほどの馬の背から、シンジがもう一度聞きたいと願っていた声が落とされた。
16
「あの街で、何をしたの」
追っ手の姿が迫っているのに、その声は静かで落ち着いていた。
冬の近い木立の中には、身を隠せる場所などない。
シンジの足では騎馬の警備兵から逃げることは絶望的だった。
これが最後ならば。
この人と、話をしたい。
シンジの上げた視線の先で、その人は彼の答えを待っている。
真っ直ぐに見詰めて来る視線。
それは今までシンジの人生の中で、一度として与えられたことのないようなものだった。
話す相手を「人」として認める対等な視線。
シンジはその「目」の前で、自分が落ち着いていくのを感じていた。
彼の言葉を待つように、鷹も静かに留まっている。
「牢から抜け出したんだ」
「ただの牢獄破りなら、ここまで追手はかからないわ。
でも、………貴方が抜け出したのが、あの地下牢獄なら別。
あの牢獄は重罪を犯した者しか入れられない」
17
冷たい声は、シンジの心を凍らせる。
蔑まれることも、虐げられることにも慣れているはずなのに、彼女の侮蔑の言葉に震えがはしる。
今までのシンジなら、俯きその痛みをやり過ごしてきただろう。
しかし、シンジは声を上げた。
意識する前に言葉が口から飛び出した。
「僕はスリだ。
生きるための方法なんて、他に知らない!
でも人殺しはしない!
僕より弱い人からも取らない!
盗んだのはお金持ちと、意地悪な教会の人からだけだ!
皆に恵みを与えると言っているくせに、自分達ばかり贅沢してるやつから取ってやったんだ!」
一息に言い切ったせいで、シンジの息が弾む。
言い終えた後、なんで自分は言い訳してるのだろうかと可笑しくなる。
彼のその自嘲の笑みに、鷹が小さくチィと鳴く。
「貴方は。…義賊?」
シンジの言い分を黙って聞いていた人が、穏やかに問いかけてくる。
「まさか。
そんなんじゃないよ。僕はただの泥棒だよ」
18
相手の声に、シンジは自分の粋がった言葉がいまさらながらに恥ずかしくなる。
この綺麗な人の前で、自分はどんなにか矮小な存在だろう。
けれどそれでも、シンジの中にはシンジなりのプライドがあった。
どうしようもない人間の屑だとは、思われたくない。
そうは思うものの、他人に意見するなどシンジにとっては生まれて初めてのことだ。
シンジの視線は左右に彷徨い、先ほどの強い口調で自分の意見を訴えた姿とは正反対の、
どこかいたたまれない様子で身を縮める。
そんな少年の様子に、彼女はさらに声をやわらげた。
「……そう。そんな貴方だからこそ、アスカは。
………彼女は貴方の腕で、翼を休めたのね」
声に宿ったものは微笑だった。
シンジは惚けたように、彼女の唇に浮かんだ笑みを見つめた。
―――しかし、その会話の間に、騎馬の追っ手は二人に近づいてきていた。
19
騎馬の一団は、シンジたちの前に立ちふさがると居丈高に声を張り上げた。
「その男を出しなさい! 庇うようなら貴方も同罪です!」
「その男はこともあろうか、ネルフの大司教様から柘榴石のロザリオを盗んだ大罪人だぞ!」
次々と浴びせかけられる声に対し、シンジは怯え竦んでいる。
そのシンジをしばし見てから、彼女はゆっくりと騎士たちのほうへ振り返った。
そして深くかぶっていた外套の頭巾を背におとす。
淡い水色の髪が、秋の空に映えた。
「日向二尉、青葉二尉。
私の顔を忘れましたか?」
現われた彼女の顔と静かな声に、叫んでいた二人の騎士が目を見張る。
眼鏡をかけたほうの騎士が、思わずと言うように呟いた。
「………綾波、レイ………」
シンジもまた驚いていた。
彼女が警備隊と知り合いだったなんて。
20
逃げなくては。
例え足が動かなくても。
空転するシンジの頭の中では、ただ彼女の名前が繰り返されている。
それでも僅かづつだが震える足を引きずるように後ずさりを始めたシンジだったが、
次に聞こえた言葉に足を止めた。
「帰って、碇大司教に伝えなさい。
綾波レイが『復讐のために』帰ってきたと」
激しい語調に険しい声。
あまりのその剣幕に、シンジは下がった足を戻して、そろそろとレイの近くに移動し顔を見上げた。
刃のような眼差しと、きつく結ばれた唇。
「碇大司教」
彼女が見据えているのは、目前の騎士たちではないだろう。
その司教との間に何があったのかシンジには到底分からないけれど、「復讐」とは穏やかでない。
今までシンジに見せていた姿とは違う、新たなレイの一面。
シンジは、怖い人間が嫌いだった。
弱者に八つ当たりする人間は多く、彼もまた幾度もそのような人間に傷つけられてきた。
しかし彼女の見せた厳しさは、シンジに恐怖を齎さなかった。
おそらくその理由は、シンジの見上げたレイの表情の中にあった痛みのせいだろう。
それは巧妙に隠されていたけれど、同じ痛みを知るシンジにはわかってしまった。
彼女も誰かによって傷つけられた、被害者であることが。
21
シンジの見守る中、レイに名を呼ばれた二人の騎士達も沈痛な面持ちで顔を見合わせている。
少しして、意を決したように眼鏡の騎士は馬を少し前に進ませると、ひそめた声で言った。
「綾波レイ様。
ファースト・チルドレンと呼ばれていたほどの貴方が………。
どうして大司教様と袂を分かつことになったのか、私達にはわかりません。
………あれほど司教様とご懇意になされていたのに。
まして、惣流家の姫君を連れて出奔されるなど。
あの方は。
あの方は、『異端者』です」
もう一人の長髪の騎士も、馬を進ませて言葉を続ける。
「あの異端者を連れ帰れば「罪は問わない」と大司教様はおっしゃっています。
どうかネルフにお戻りください」
二人の騎士の言葉に、色の白いレイの顔がさらに青ざめたようにシンジは感じた。
「異端者………。
アスカが異端ならば、私もまた異端。
彼女をよく知っている貴方達が、何故そのように言うのか、私にはわからない。
貴方達は本当に、彼女を異端者だと思っているの?」
レイの声は真冬の氷よりも冷たく響く。
22
レイに問われ、二人の騎士は苦渋に顔を歪ませている。
眼鏡の騎士が何か言うように口を開きかけたが、もう一人の騎士が小突いて止めた。
「言うな。言えばお前も異端とみなされる」
「…お許しください。我々にはこの選択しかなかったのです」
それから騎士達はぐっと唇をかみしめると、表情を改めた。
「貴女ほどの方は、この先も現れることはないかもしれません。
エヴァの称号を得られたのは、今も貴女一人。
ロンギヌスの槍さえも、貴女を選ばれた。
……今の貴女は、あの異端者の魔法にかかっているのです。
大司教様が魔法を解いてくださいます。どうかお戻りください。
貴女のお帰りを待つ者は、今も大勢居ります。
そして、大司教様からは………。
貴女様を見つけたら、連れ帰るよう申しつけられています。
どのような手を使っても…と」
「………どのような手。
そこまで私を言っておきながら、どうやって捕らえるつもりですか」
彼らの答えはなかった。
幾つもの鞘鳴りの音を立てて、剣が引き抜かれる。
―――役に立ちそうにない設定資料―――
ロンギヌスの槍
・罪人ロンギヌスの遺品
・キリストを殺し深い後悔に苛まれたロンギヌスの残留思念によって、
死を渇望する者に刃を向ける性質を持つ。
碇ゲンドウ (旧姓 六文儀)
・枢機卿 大司教と呼ばれている。
・女教皇【碇ユイ】と密かに愛し合い、シンジが生まれる。
・しかし、ユイは死亡。シンジは行方不明に。
・死を望むも、神の教え(自殺するとユイの所に逝けない)
で自殺できないゲンドウはロンギヌスの槍を手に入れようと企む。
アスカ
・惣流家の娘にして、ロンギヌスの槍の正当な後継者。
・槍を手に入れようとするゲンドウに求婚される。
レイ
・ロンギヌスの槍の使い手にして、アスカの幼馴染の女性騎士。
・ユイの縁者。
246 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/03/27(日) 01:46:12 ID:6P2AfS7z
このスレでは学校生活に関わる、身近なことから、
先輩後輩・友人・教師等との人間関係、学業・進路、部活・課外活動等までについての
悩みを持つ人の、総合相談スレッドです。
注:このスレタイにある「鬱」は、憂鬱を指し、鬱病とは別物です
僕らは皆生きている〜♪
生きているけど
>>1は氏ね
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│あ、どうもスイマセン、
>>1がお騒がせしました・・・
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/⌒\ っ /\
/'⌒'ヽ \ っ/\ |
(●.●) )/ |: | すぐ連れて逝きますんで・・・
>冊/ ./ |: /
/⌒ ミミ \ 〆
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|√7ミ |::| ト、 |
|:/ V_ハ |
/| i | ∧|∧
и .i N /⌒ ヽ)
>>1 λヘ、| i .NV | | |
V\W ( 、 ∪
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∪∪
ゲゲゲ
糞スレ
低能
もう一度あなたを抱き締めたい
寝る子は育つ。