◆◆◆ DARK SIDE OF NEON GENESIS ◆◆◆

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3最後の錬金術師、碇ユイ

*最後の錬金術師、碇ユイ/Yui : The Last and Ultimate Alchemist.

 まず、エヴァのオープニングから話を始めよう。
 開巻直後、雫とその波紋の広がりのような映像のあとに現れる「企画・原作 GAINAX」のクレジットのバックに、
エリ巻きに包まれたような鳥のような物体が銀河の向こうに消えていく。その後に続く<セフィロトの樹>については
謎本や各サイトでも頻繁に取り上げられているが、この物体に関する論説は極端に少ない。実はあれこそ<四態の天使>
あるいはヘブライ語の「知識」「仲裁者」を意味するケルーブcherubを語源とするケルビムと呼ばれる智天使であり、
錬金術の象徴なのである。<四態の天使>は時代と場所により、様々な変種が見られるが、ユダヤ教神秘主義カバラに
おいては聖書を表す車輪の上に乗っている。また、時代が進みキリスト教神秘主義においては新約と旧約双方を象徴する
二つの車輪の上に立っている。西洋神秘主義体系の象徴である<タロット・カード>の大アルカナ14番目、「節制」
temperanceに描かれているとの説もある。このオカルト・シンボルを巻頭に置いたことこそ、この作品全般を通じて錬金術の
影響下にあるものとの推測を立てても、あながち的外れではないだろう。また、このケルビムはエヴァ七不思議のひとつ、
謎の第二使徒である可能性が高い。
4最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 00:52 ID:???
 錬金術とは黄金以外の物質から、それを造り出す作業の総称であると一般には思われている。これは、わが国でもブームとなった
ファンタジー小説『ハリーポッターと賢者の石』と、その映画化により多少は知られるようになった。その原作中にもあるが、この
作業に用いる化金石、あるいは<賢者の石>と呼ばれる錬金術の秘伝は卑金属を黄金に変えるばかりでなく、不老長寿の妙薬ともなる
のである。これらを特に「万能薬」<パナケイア>と呼ぶ。「万能薬」にはその所有者の姿形を変えたり、消したりする能力を与える。
のみならず、天使達との会話や、宙を飛ぶことさえ可能にするという。
5最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 00:56 ID:???
 宮崎駿の『天空の城ラピュタ』に登場する「飛行石」ラピスlapisこそ、その本質は
この<賢者の石>であり、錬金術の真髄でもあるのだが、宮崎本人がそれを意識していたか
どうかは不明である。また、作中に登場するレトロ・デザインのロボット(これ自体は宮崎が
担当したルパン三世『さらば、愛しきルパン』と同様、米国アニメ、SUPERMAN の1エピソード、
"MECHANICAL MONSTER"に登場するロボットの引用だが)がエヴァにおける使徒と同じく、
天使の役割を担っていたことにお気付きだろうか。天使も軍団を結成しているのである。また、
天空から落下して半壊したロボットは明らかに堕天使のアナロジーであり、人間に知恵と同時に
災厄をもたらすのは劇中で暴れまわる通りの展開である。こうした点に触れた論考がほとんど
ないのは残念だ。さらに現在、連載中の藤田和日郎『からくりサーカス』は錬金術のアイデアが
満載されたコミックである。特にこの作品は中世以降、錬金術に付加された<アルカエスト>
(万物を溶かし、無に還す酸化薬)や<ホムンクルス>(人工的に創造された人間)のアイデアが
作中のいたるところにちりばめられている。作中の「生命の水」(アクア・ウイタエ)こそ、本来
アルコールに溶かした「賢者の石」であり、古代より「霊薬」<エリキサ>と呼ばれた存在である。
また、これは先年公開されたスパイク・ジョーンズ監督作品『マルコビッチの穴』と同様、
シンボルとしてのピグマリオ、意識の転送などエヴァとの共通点が多い。
「意識」「魂」「自我」などエヴァでは自明の事として、あえてその厳格な定義を行っている事例は
皆無に等しいが、このスレッドではいずれこうした概念について徹底的な論考を試みるつもりである。
6最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 00:59 ID:???
 ところで錬金術の本質はそうした物質的なものばかりでないことに注意したい。
ここでは、以下にS.ユタン『錬金術』、F.S.テイラー『錬金術師』、澤井繁男
『魔術と錬金術』、M.P.ホール『錬金術』、C.G.ユング『心理学と錬金術』他を
参考に、錬金術とは何か、について考えてみよう。その思索的追求が新世紀の暗黒面、
特に碇ユイの行動原理の謎に迫れるものと思うからである。

 以下に錬金術の目的を個別に挙げてみよう。

 1:物質の組成に関する基本的知識の蓄積。
 2:実際的応用(その主要目的は金属変性と黄金、および万能薬の製造)
 3:西洋神秘主義の中核である『ヘルメス哲学』の追求。
 4:前三者の統合。『大秘法』<アルス・マグナ>の完成。
7最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 01:04 ID:???
 1:に関しては特に言うべきことはない。英語の化学、chemistryが、錬金術を意味するアラビア語の
アルケミアから直接派生したものであることを知るだけで充分だ。(ALはアラビア語の定冠詞であり、
英語のTHEに相当する。アルコールという一般名称はこの薬品がアラビア起源であり、錬金術とも密接な
関係があることを物語っている。蒸留技術はアラビア人達の発明によるものであり、アルコールはワイン
を蒸留して得られたものだ。また、アルカリという言葉も物質の性質を表す重要なアラビア語だ。酢酸、
硫酸、硝酸などの酸性物質は錬金術師達が鉱物を溶解、混合させる過程で副次的に発見されたものである)
つまり錬金術は化学の母であり、自然哲学から物理学へと続く学問の祖父なのだ。その究極の目的は科学と
同じく人間と世界を知ること。すなわちミクロ・コスモスとマクロ・コスモスの統一概念の完成である。
 
 2:については既に述べた通りである。
 3:は多少の説明を要するだろう。特に<グノーシス主義>と並んで新世紀の暗黒面を読み解く
キータームとしては最重要概念であると思うからである。
8最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 01:15 ID:???
 錬金術師達は自分達を好んで哲学者と称していた。これはアレクサンドロス大王の時代、東洋と西洋の文化、
宗教、知識が融合したヘレニズム時代にエジプトで編纂された『ヘルメス文書』が元になっている。これは当時の
公用語であるギリシア語が用いられ、占星術、魔術、錬金術、哲学、形而上学など広範囲に渡る知識の集大成であった。
ヘルメス神はローマにおいては商人、法律家そして盗人の守護神であったが、ヘレニズム時代には言語と学問の神、
隠された神秘の知恵と知識を司る神、メルクリウス(Mercury=水星、水銀)となり、さらにエジプトへ伝わると、
その地における神々の書記役であり、大魔術師であり、神々の知識を伝えるための文字(アルファベット)を発明し
たとされるトート神と結びつき、トート・ヘルメスまたは<ヘルメス・トリスメギストス>(三重に偉大なヘルメス)
と言われる神になった。スケールの点で格段の差があるが言ってみれば、わが国の菅原道真のような存在であろうか。
9最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 01:19 ID:???
 彼は、この世界の全ての謎を記した四十二巻の魔法書を残したといわれ、この存在こそが後の『ヘルメス文書』や
キリスト教暴徒襲撃によるアレクサンドリア図書館炎上の際に密かに持ち出され、ロマ(ジプシー)により、
『タロット・カード』(正確な発音はタロ・カード)として広まる<トートの書>であるとの伝説が生まれている。
東洋の一大象徴体系が易経ならば、西欧の一大象徴体系こそ、このタロット・カードである。そもそもカードという
形態そのものの起源が、このタロットなのだが、これに関しては新世紀の暗黒面を読み解くためにも、場を改めて
論じる必要があるだろう。キリスト教の浸透と共に、こうした異教思想、異端哲学は弾圧され消滅したはずだったが、
ルネサンスの到来と共に突如蘇る。姓名不詳の一修道士がフィレンチェの権力者コジモ.ド.メディチに『ヘルメス文書』
のギリシャ語写本を献呈したことがきっかけだ。コジモはそれをマルシリオ.フィノーチに翻訳を命じた。フィノーチの
ラテン語訳による「ヘルメス選書」は1471年に出版されたが、これをきっかけとしてヘルメスは秘教主としての地位を
確立し、西欧の知識階級に様々な形で浸透することになる。
10最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 01:31 ID:???
 「ヘルメス文書は、ほとんど聖書と同等、時には聖書と完全に同等のものとみなされるようになった」(シューメーカー)
 
 これは現代にまで直接連なるオカルティズムの根源である。つまり、錬金術とはヘルメス哲学追求の一手段に他ならず、
それを通じて深遠な自然に関する知識を獲得でき、究極の真理へ到達できると彼ら錬金術師達は考えているのだ。

「わが黄金は卑俗な黄金に非ず」
 錬金術の達人<アデプト>は例外なく実際の黄金製造が到達点ではなく、通過点に過ぎないことを強調している。
では、彼らの最終目的はなんであったのか。
11最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/25 01:36 ID:???
 その究極の形が4:<アルス・マグナ>の完成である。これは『大秘法』あるいは『王者の技』とも呼ばれ、
中世より秘伝中の秘伝とされているものである。その内容は極めて不可思議で、捉えどころがないように思えるが、
突き詰めれば、それは超人への進化と宇宙との同一化である。これは神秘主義における神と自己との同一化、
『神的合一』<ウニオミスティカ>と呼ばれる概念と同じものである。すなわち脱魂による超意識との同一視で
あるが、それは同時に肉体からの離脱であり、呪わしい運命からの解放、幻影としての存在を真の価値あるものへと
変化させ、永久不変の存在へと昇華させることであり、仏教における『解脱』と同一概念である。より正確に言えば
錬金術はミクロ・コスモスたる人間の内部でマクロ・コスモスたる神的パワーを発生、進化させる必要条件を整える術を
指示するのである。ただし、この際特に強調されるべきは物質的作業と神秘的作業は並行して行われるべきものである
という点である。この両者は類似平衡、相互補完の関係にあり、物質的作業の工程は霊的作業の過程に厳密に対応する。
そして、その逆もまた真である。
横長すぎ
見にくい
13あぼーん:あぼーん
あぼーん
14あぼーん:あぼーん
あぼーん
いや、面白いよ。
何か漫画版ナウシカを思い出した。
16あぼーん:あぼーん
あぼーん
17最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:09 ID:???
 こうした錬金術の工程が錬金術師自身の精神的、心理的過程を象徴していることを指摘したのが、精神分析の始祖、
ジグムンド・フロイトの一番弟子であり、のちに袂を分かつことになったカール・グスタフ・ユングである。
彼は意識と無意識が混然一体となった状態を「メルクリウスの蛇」あるいは己自身の尾を呑みこみ、環状となった蛇
『ウロボロス』の存在を錬金術の『第一質料』<プリマ・マテリア>と関連付けた。このウロボロス=第一質料は、
すでにプラトンの『ティマイオス』に述べられている概念であり、万物に共通でありながら全ての形
ある物に変貌する。同時に種子、混沌、宇宙、世界、絶対、時間等の総体であり、限りなく変化を続けるが、
その本質は変わらずなにひとつ消滅することはない。ヘラクレイトスの「万物は流転する」つまり物質は「ある」
のではなく「なる」。ライプニッツにおけるモナド論の先取りとも言える概念であり、のちの物理学の基本である
『エネルギー保存則』やエネルギーと物質は等価であるとしたアインシュタインの相対性理論、さらにはクォークの
存在にも共通する考え方だ。
18最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:12 ID:???
 ユングは錬金術師たちの心理状態と変容物質あるいは秘密物質<アルカヌム>、すなわち物質内部に閉じ込められている
霊的存在<ヌース>との間には無意識の同一性が存在すると考えた。多くの錬金術に関する書物は共通した特徴を持っている。
第一に錬金術は一定の過程を経て、その作業<オプス>を進めること。第二に奇妙な矛盾が生じてくること。第三に作業の
最後に必ず理想とする物質が生じることである。ユングの注意を喚起したのは錬金術の金属変性過程が個人の心理的発達の
過程と酷似していることだった。彼はそれを「個性化」と呼んでいるが、わが国では専門家の間でもこの訳語はかなり誤解
されて使われているようである。
19最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:14 ID:???
ユングによれば『第一質料』は古代よりの「自然」「肉体」「物質」といった<ピュシス>が<ヌース>と分かち難く
結びついたものであるとした。これはグノーシス主義神話の錬金術的発展といえる。その象徴が両性具有の存在
<ヘルマプロディートス>である。精神と肉体、意識と無意識、物質と霊、男性原理と女性原理など「対立する概念」
が一体となり未分化の状態、それこそがウロボロス的状態であるが、これが分化、発展して最終的には再び『超越機能』
が働き神秘的結合に至る。その象徴が両性具有でありながら<ヘルマプロディースト>とは全く異なる、進化した
<アンドロギノス>であり、これが錬金術過程における最終到達点と考えた。この点に関しては渚カヲルと綾波レイに
おいて再び考察することになるだろう。
20最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:17 ID:???

 「ヒトはこの星でしか生きられません。でも、エヴァは無限に生きていられます。
その中に宿るヒトの心と共に。たとえ50億年たって、この地球も、月も、太陽すら
なくしても残りますわ。たった一人でも生きていけたら…」(劇場版「THE END OF EVANGERION」)

 「錬金術師の研究領域は太陽系を出ることがない。時として星座のことに触れることは
あっても、それはただ単に空における太陽と惑星の相対位置を特定するだけである。
この点は充分注意する必要がある」(ランベール)
21最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:19 ID:???
 いかに専門外であろうとも、科学者であるユイがビッグバン以降の最新宇宙論を知らないはずはない。
本来なら、こう言うべきではないだろうか。「星が輝かなくなり、形あるものが全て消え、宇宙に素粒子の
冷たい靄だけが残る状態であっても」いわゆる『宇宙の熱的死』、<エントロピー極大の状態>である。
にもかかわらずユイの言葉は多くの謎を含んでいる。ユイは科学者である以上に詩人なのだろうか。
断じて否である。あの言葉こそユイの隠された錬金術師的本質が無意識のうちに表徴されたものであると
見るのが妥当だ。これは単なるこじつけではない。我々は歴史上、最も傑出した科学者でありながら、
その本質は魔術師であり、同時に錬金術師、占星術師でもあった、ある人物を知っている。他でもない
アイザック・ニュートンである。
22最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:22 ID:???
 ニュートンが残したおびただしい数の未公表草稿、論稿の大半を再収集し、ニュートン研究に新たな
一頁を書き加えたのはケインズである。1920年代に発生した大恐慌に対し、大規模な公共投資を実行し
恒常インフレ政策による景気刺激策をニューディール政策として提案し、現代経済学いわゆるケインズ
経済学を確立した、あのジョン・メイナード・ケインズである。ケインズはニュートンのメモを綿密に
調べ、そのほとんどが金属変性と黄金製造に関するものであることを知り、ひとつの結論に達した。

 「ニュートンは理性の時代を生きた天才科学者などではなく、中世の暗黒時代を生き延びた
最後の錬金術師である」
23最後の錬金術師、碇ユイ:03/10/26 01:26 ID:???
 ニュートンのもうひとつの顔、占星術師に関しては万有引力の法則、太陽と惑星同士の相互作用による軌道計算であり、
これに関しては改めて言うまでもないだろう。事実、近代占星術はニュートンと、その力学の応用による海王星、冥王星の
発見と共に完成されたと言っていい。これはパソコンが普及する1970年代迄、本格占星術を行うには高等数学を学ぶか、
グリニッジ標準時を基準とした正確な暦(ラファエルの天文暦)を入手する以外になかった点が証明している。
さらに同時代、最大のライバルであったライプニッツと微積分の先陣争いを行った際、ライプニッツがニュートンに宛てた
書簡では、いかにも科学者らしい抑制の利いた、明快な文章であるのに対し、ニュートンからライプニッツに宛てた返信では、
時に激情のほとばしりが見られ、暗号が使用されている。これこそ魔術師の本質である孤高の証だろう。実際、新世紀の
暗黒面を知るには、こうしたオカルトと科学の境界を跨ぐ発想が必要であることは論を待たない。
 そして、そのニュートン哲学の象徴が、あの<ラプラスの魔>である。全ての事象に対して決定論的解釈を
可能とする至高の存在、それこそが新世紀の暗黒面における『死海文書』の記述とも一致するはずだが、
この点については後日、仔細に検討しよう。
24ケペル博士:03/10/26 01:39 ID:???
>>4の最後に追加
「すなわちATフィールドである」
50%も解らんが読んでますよ。
だから横長すぎだって
半分で改行しろ
続きキボンage
>>12>>26
おでん?
29あぼーん:あぼーん
あぼーん
30あぼーん:あぼーん
あぼーん
31あぼーん:あぼーん
あぼーん
32ケペル博士:03/11/03 19:36 ID:???
>>19訂正
誤)<ヘルマプロディースト>
正)<ヘルマプロディートス>
33ケペル博士:03/11/03 19:37 ID:???

 「きみらが初陣で壊した初号機の修理代、国がひとつ傾くよ」
 「予算については一考しよう」
34最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:40 ID:???
 ここでゼーレとユイとの関係について考えるべきだろう。第弐拾壱話『ネルフ、誕生』の冬月の回想場面から明らかなように
ユイのバックにはゼーレが存在していた。ゼーレがユイと共に『ヘルメス哲学』を追求していれば当然なんらかの形で黄金製造、
不老不死へと進んでいるわけで、これによりゼーレ/ネルフの豊富な資金源が明らかになる。同時にクローン人間製造、および
ゼーレのメンバー自身の人体改造の謎も。つまり彼らゼーレのメンバーが数世紀から十数世紀に渡り進めた「錬金術作業」
<オプス>は黄金製造にまでは達したが、万能薬<パナケイア>にまで至ることはなかった、少なくとも完全な形では。
そのため一部を人体改造に頼らざるを得なかったのである。
35最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:43 ID:???
 同様の設定は1978年の劇場版『ルパン三世/ルパン vs 複製人間(クローン)』にもうかがえる。この作品にも「賢者の石」が登場するが、
さらに巻頭において、もう一人のルパンが処刑されていて、劇中活躍する主人公のどちらがオリジナル、クローンかが不明となっている。
主人公は自己のアイデンティティを再確認する必要に迫られる。これは綾波レイの直接的ヒントとなったものだろう。そのルパンの敵役
マモーはクローン人間として一万年の時を生き永らえつつ、歴史の節目々々にその影を落としている。しかし、コピーを繰り返すと次第に
ぼやけてくるように、クローン技術にも限界があった。ここにもゼーレの存在と共に、肉体は複数あっても魂はひとつという新世紀の
暗黒面との類似性が認められる。
36最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:44 ID:???
 次に碇ユイが学生時代に専攻していた生物工学と冬月の形而上生物学の関係を考察してみよう。
実際の学問である生物工学と架空の形而上生物学、この両者の関係こそがユイの思想的背景と
その行動原理を解く直接的手がかりだ。形而上生物学がその名の通り、神話や伝説上の生物を
研究対象にしたものであるならば、生物工学との接点はなにか。それは当然、学生だったユイの
レポート(おそらく卒論)に記述されているはずだ。推測の域を出ないが、それは最初の生命に
関するものであったはずだ。
37最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:47 ID:???
 生命は自然発生しない。ルイ・パストゥールが明確に定義した生物学の大前提は、それゆえ最大の疑問を
われわれに投げかけている。つまり最初の生命はどこで、どのようにして生まれ、いかにしてこの地球上で
発展したのか。これに関しては未だ議論百出の段階であり、極論すれば現代の最先端科学はノーベル賞を
受賞したミラーの実験から一歩も出ていないとさえ言える。1950年初頭に学生であったスタンレー・ミラーと、
その師であったハロルド・ユーリーはソ連の学者オパーリンが唱えていた「化学的進化による生命の発生」に
おける原始スープ説(まさしくLCLの原点だ)を実験により確認した。パイプでつながれた二つのフラスコの
中に水と原始地球の大気と思われるメタン、アンモニア、水素などの混合気体を封入し、雷に見立てた放電を
数日間繰り返した。その結果、水溶液中にさまざまな有機化合物、特に生命体に必須なアミノ酸を発見した。
これを受けて『前生命学』と呼ばれる学問がスタートした。しかし現在においては、この研究が直接、生命誕生へ
結びつくとの考えは大方否定されている。
38最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:50 ID:???
 実際、こうした研究は鉄やリン、カルシウムなどを適量混ぜ合わせ、適温に保ったままミキサーに数万年、
数億年かけ続ければ、ある日突然そこから人間が跳び出してくると信じるようなものである。こうした点を
再度、別な視点から取り上げたのが80年代から90年代にかけて隆盛を誇った<ニュー・エイジ・サイエンス>
または<ニュー・サイエンス>と呼ばれる一連の動向である。NHKでも番組として放送されたL・ワトソン『生命潮流』、
F・カプラ『タオ自然学』、A・ケストラー『ホロン革命』、J・E・ラヴロック『地球生命圏』(地球自体が
一個の生命体であるとする、<ガイア仮説>などは耳にしたことがあると思う)。上記の著作の中には明らかに
庵野秀明がエヴァの直接的ヒントにしたものが含まれている。従来、エヴァを語る訳知り顔の識者、評論家には
こうした視点が決定的に欠けている。ほとんどが、そのスタイルにこだわりポストモダンか中途半端な精神分析的
批評に止まっているのはエヴァという作品自体にとって、極めて不幸な状況だと言える。こうした中には物質の中に
こそ意志が存在し、その意志により生命が誕生したという大胆な発想も生まれている。このような新たな思想的、
哲学的潮流はトランス・パーソナル心理学などと共に新世紀の暗黒面を語るために必要不可欠の要素であろう。
39最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:52 ID:???
 ここで登場するのが「汎宇宙種子」である。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など一神教においては各生命体は
同時に創造されたことになっている。しかし、生命は全てひとつの存在から枝分かれして進化、発展したとする説もある。
もちろんダーウィンの『進化論』であるが、それとは別に同じような思想的、哲学的、宗教的概念がダーウィンより
はるか以前に存在したことは注目すべきだろう。
40最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:54 ID:???
 それが、アレクサンドリアでの初期グノーシス主義者バシレイデスである。<グノーシス主義>はキリスト教徒により
異端として、その信者もろともほぼ完全に歴史上から抹消された。そのため、1945年末エジプトで発見された
『ナグ・ハマディ文書』の存在が公表されるまで、キリスト教側からの報告しか残っていなかった。イタリアン・ホラー映画の
巨匠、ダリオ・アルジェントが脚本で参加した『デモンズ3』はこの北イタリアにおけるグノーシス主義の信仰集団
(おそらく実在したキリスト教異端のカタリ派)と、十字軍(アルビジョア十字軍)の一派である「チュートン騎士団」
虐殺の歴史と、それがもたらす現代の恐怖を描いている。
41最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:58 ID:???
 ヒッポリトスの『全異端反駁』によれば、バシレイデスの世界創造神話において、全ては<汎種子pansperma>と呼ばれる
概念から始まっている。この神話に関しては、いずれ<グノーシス主義>全体と共に詳述するとして、ここで問題なのは
<汎種子>だ。19世紀の終わり頃から「生命はどこから来たか?」という問いに対して、従来とは異なる見解が見られるように
なった。実に、この時まで空から落ちてくる石、つまり隕石は地球外からの物であると言う確信が得られなかったのである。
しかし、一旦戒めが解かれると科学者達は改めて生命が地球外から飛来したものではないかという疑問を持つようになった。
少なくとも生命を構成する物質は地球外起源であると。同時期に物理学者は光が圧力を生じることを実験により見出していた。
42最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 19:59 ID:???
 このふたつが組み合わさり「胚種公布説」「宇宙胚種説」あるいは「汎宇宙種子説」<パンスペルミアpanspermia>が復活した。
1860年代にドイツ人リヒターが再発見したこの説はスウェーデンの科学者アレニウスらにより、再び注目されるようになった。
アレニウスによれば地球に最も近い恒星であるケンタウルス座のアルファ星まで、胞子状の生命体であれば光の圧力を受けて、
およそ9000年で到達できると言うのだ。これは従来、地球上で生命が自然発生した場合に考えられる、あらゆるタイムスケールに
比較して、わずか数万分の一から数千万分の一という短時間である。
43最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 20:02 ID:???
 パンスペルミア説が主張するのは生命自体が宇宙を航行するだけではなく、生命とは永遠に持続するものであり、
仏教、ヒンドゥー教のように輪廻転生を繰り返すということだ。生命はその発生の起源を持たず、次々に移植されていく
存在であり、概念である。これをヒントにしたSFは数多い。米国のフィリップ・K・ディックの短編小説『自動工場』も
そうした作品のひとつだ。スクラップの回収を巡って、完全機械化された二大工場が対立から直接衝突へと発展する。
やがて一方が他方を圧倒するようになり、消滅は時間の問題となって来た。それを見届けようと対立のきっかけを作った
主人公の人間たちは、劣勢となった自動工場へ接近する。そこで見たものは能力を限界まで使用しての自動工場自身の
精巧なミニチュア生産であった。滅亡が間近に迫った機械たちは自分達のモデルを作り、それを次々にあらゆる角度で
発射し続けており、その一部は大気圏を抜けて宇宙空間へ達していた。機械自身による『補完計画』だろう。
44最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 20:04 ID:???
 先年、NASAが火星から飛来した隕石に生命の痕跡を認めたと発表して、かなりの話題になった。
また、最近の研究では彗星が生命の配送者でないかという説もある。彗星の核は岩石だが、その周囲は
生命にとって必要不可欠な水(氷)で包まれているからだ。これが太陽に接近してガスや水蒸気と共に
なんらかの生命の素を噴出させる。だが、残念なことにパンスペルミア説を裏付ける強力な物的証拠は
現在まで確認されていない。つまり依然として最初の生命がどこから来たのかは不明なのだ。しかし、
それはあくまでも現代科学における話である。われわれ新世紀の暗黒面を探る者にとっては別の方法、
別の答えがあるはずだ。そうでなければならない。
45最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 22:18 ID:???

 「簡単なんですよ、人を滅ぼすのは」
 「だからと言って、きみが被験者になることもあるまい」

 「それがユイさん最後の言葉でした。実験は失敗。
 イレギュラーな事件は、彼女をこの世から消し去ってしまいました」
46最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 22:20 ID:???
 なぜ碇ユイが被験者としてエヴァ初号機に搭乗し、そのまま戻らなかったか。
赤木ナオコの言葉にあるように本当にイレギュラーな事件であったのか。これは錬金術の作業<オプス>と
密接な関係があると思われる。錬金術師達は一定の作業を何百回、何千回と繰り返す。「黒化」<ニグレド>、
「白化」<アルベド>、「赤化」<ルベド>と段階を踏むが、特筆すべきは、これらの変化はいずれも全て
量子的飛躍によるものである点だ。つまりユングの言う物質と共に錬金術師達の精神の浄化、魂の純化、
霊的進化はアナログ的、連続的推移によらずデジタル的、階段的変化を遂げる。前述のニュートンによる
錬金術の実践も、その実験室の火が六週間に渡って燃え続け、蒸留を繰り返していたことが記録に残っている。
中途半端な錬金術師達はこの量子的飛躍を考えられず、変化を認められないまま自ら作業を放棄し、挫折する。
さらに錬金術師達は作業を始める日時を細かく指定している。これはバビロニア時代からの占星術の
影響が大きい。つまり春分点から作業を始め、夏至の日に作業を終了するのが理想的であるとされる。
47最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 22:21 ID:???
こうした同一作業の反復は物質と錬金術師の心理的状況を変化させるばかりでなく、そこになんらかの
外的要因が偶然働くことを期待されているようだ。その著書『魔術師達の朝』で現代オカルトブームを
一夜にして確立したルイ・ポーウェルはそれを宇宙的規模の異変と関連付けていることは極めて興味深い。
つまり太陽の表面爆発(フレア)による地磁気の乱れ、超新星爆発や中性子星など大質量の天体同士が
衝突する際に発生する大量のニュートリノ、重力波、GRB(ガンマ線バースト)等が<オプス>の最中に
起こり、物質と精神双方に量子的飛躍が発生することを期待する。ここでもマクロ・コスモスである宇宙と
ミクロ・コスモスたる人間の照応が明らかとなる。
48最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 22:23 ID:???
 ユイの言葉の端々からは、ある種のニヒリズムが感じられる。
全てを否定しつつ肯定し、肯定しつつ否定する。それこそが錬金術師の本質であろう。
妻であり、母となったユイの次の目標こそ、全生命体の素となることではなかったか。
そして、おそらくユイのことだ。全てを予測した上での起動実験だったに違いない。
49最後の錬金術師、碇ユイ:03/11/03 22:24 ID:???
 以上、見てきたように碇ユイはゼーレのメンバーと共に古(いにしえ)よりの『ヘルメス哲学』の探求者であり、
その究極の目的を遂げるべく最新科学とエヴァ初号機を用いて汎宇宙種子となった、というのが本考察における、
ひとつの結論である。