エヴァバブルの崩壊

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ちょっと「黒ノ咆哮」続き候補割り込み
100黒ノ咆哮・POST・<1/2>:03/12/19 18:58 ID:2TmB9j32
しばらくの間、僕は暗いプラグの中で軽い自失状態に陥っていた。
何も考えられなかった。
咆哮の余韻が、いつまでも脳裏を駆け巡っている気がしていた。
動けるようになるのを待って、僕はごく機械的に身体を起こし、プラグをイジェクトした。
転げるようにしてエヴァの外に出る。
日差しに灼けた地面はひどく乾いていた。
一歩踏み出すたびに、重く濡れたローブが脚に絡みつく。ふと見下ろした身体は、
内臓や組織片を垂れ流してこそいないものの、再生がまるで間に合っていなかった。
右腕と右胸部は、量産機と同じく欠損した。
復元はできない。僕の右腕だったものは、別のカタチを得てまだ生き続けているからだ。
同一の存在が、同じ場所で同時に複数個並存することはできない。あれを生かすという
選択をしたことで、僕は右腕を失った。
そう、あれは文字通り僕の“右腕”だった。少なくとも僕にとっては。
そしてそれが僕の独りよがりに過ぎないということも、あれはちゃんと教えていってくれた。
僕は僕であり、他者と完全にひとつになることは、永久に不可能なのだと。
「…何を、していたんだろうね」
呟いて、苦笑する。
表層意識は傷つきたがっていても、「光」を構成する幾層もの下位意識は変わらず活動している。
消えつつある同調を利用してあの竜のデータを洗い、人工進化研究所を守る第三使徒へ送る。
同所に侵入を試みる幾つかの集団の配置・戦力も同じく。意識の一部は量産機の再生プロセス
最効率化に全力を挙げ、更に別の一角は京都全域の戦況把握と情報分析を繰り返す。
考える余地はない。僕は敵だ。
敵でいるしかない。
でも、そのことで迷う必要もまた、どこにもないのだ。
僕は少し笑い、ぐいと顔を上げて、巨大な彫像のように眼前にそびえる黒いエヴァを見上げた。
まだ生きている筈だ。
深く息を吸い込み、僕は声を叩きつけた。
「聞こえているだろう?
 …僕は、君を見損なったよ」
101黒ノ咆哮・POST<2/2>:03/12/19 18:59 ID:2TmB9j32
沈黙するエヴァの、四つの目を備えた顔面は濃い影に覆われて見えない。
「…君ともう一度会えるのを、本当は心待ちにしていた。見つけたときは嬉しかった。
 君なら必ず強くなってここに来ると思っていたから」
僕は精一杯声を張り上げる。
「でもあれはどういうことだい?
 君があのエヴァに逃がした個体、僕が彼女に気づかないとでも思っていたのか?
 トライラックスエヴァのほとんどは非能力者の搭乗する機体だ。精神障壁もない
 電子システムを載せている以上、僕には見えるんだよ。君の妨害が外れた瞬間からね」
右脇腹の裂傷がふさがらない。厭な汗が首筋を伝う。
確かめる気もしないが、相当ひどい顔をしているだろう。切迫感を出すにはいいかもしれない。
とにかく、出血だけでも止めないとろくに動き回れない。
「君は知るよしもないだろうけど、僕はある経路から彼女を既に知っている。
 その正体も大体予想がつくよ。彼女が、君にエヴァとの契約を可能にした張本人なんだろう?
 …そのこと自体はどうでもいい。君の力が厳密には君だけのものじゃないことも、
 君が彼女を連れてきたことも別に構わない。複数で来られても問題ないしね。
 でも君は」
一瞬、喉にこみ上げる血にむせた。
生暖かい塊を吐き捨てるついでに、少し時間を稼ぎ、慎重に言葉を選ぶ。
「君は彼女を、『光』が及ばない自分のエヴァの中に隠していた。
 あそこまで早く形勢不利にならなかったら、ずっと隠し通すつもりでいたんじゃないのか?
 君の意図は知らない。だけど彼女が君の能力の鍵である以上、僕はこう推察せざるを得ないよ。
 君は自分の能力にまだ不安があり、それを補うために、ひそかに彼女を同行させたのだとね」
エヴァの中に、かすかな感情の昂りが感じられた気がした。
あと少し。僕はエヴァを見据え、怒声を投げつけた。
「屈辱だよ。君は、そんな状態でこの僕と再戦するつもりだったのか?
 …でも、良かったじゃないか。とんだアクシデントで僕は力の大半を殺がれて、このザマだ。
 君にはもう一度再戦のチャンスができたってことだよ。
 もしまだ真剣にここにいる気があるのなら」
言い放つ。
「エヴァを降りろ。その力を一切使わずに、僕と戦え」