エヴァバブルの崩壊

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66氾濫する光・32
弐号機は即座に臨戦態勢を取った。力強い風が真下から吹き上げ、ふわりと空中の身体を支える。
その感触に、彼女はひやりとした。
この感じ。覚えている。現実よりも現実感のある、リアルすぎる風景と五感。
「…うそ」
仮想空間。部下たちを訓練していた頃、何百回も訪れた。「光」の備える高い空間認識能力と
精神同調機能を応用し、任意の相手に共有される、司教の脳が構築した疑似現実。
「嘘、嘘よ。なんでこんなモノ造れるのよ?!」
 だって、さっきは確かに…『光』の気配はどこにもなかった」
彼女の動揺を嘲るかのように、量産機は白い亀裂に似た笑みを剥き出す。
そう、それが違和感の正体だった。
司教の力が及ぶところならどこだろうと、同じ稀薄さで常に空間を満たしていたアラエルの『目』。
あれに見られているという、かすかだが執拗な感覚を、彼女は向かい合う司教から感じ取れなかった。
あのとき、確かに「光」は司教から欠落していた。
「でもこれは…まさか、なかったんじゃなくて、気づけなかった…?! この私が?!」
茫然と口にした時、目の前から量産機が消えた。
はっとして構え直す。今度は見えた。弐号機は自ら急上昇し、真上から突っ込んでくる
量産機とぎりぎりの間隔ですれ違った。双方の音速の壁がぶつかり合い、衝撃を相殺する。
溢れた余波は一瞬で空域に拡がり、彼方の雲の峰を跡形もなく吹き飛ばした。
彼女は絶句し、足下に遠ざかる巨大な残骸を見下ろした。ゆっくりと崩れていくそれも、
やはり目を疑うほどにリアルだった。
「本気で…やろうって訳なの」
そのときふいに、司教のあの静かな絶望の目が頭をかすめた。
弐号機は慣性のままにゆるやかに宙を突き進み、薄い層雲を抜ける。
ふと、彼女の口を小さな含み笑いが洩れた。笑いはすぐに大きくなり、彼女は天を振り仰いで
弾けるように明るい笑い声を放った。
「いいわ、上等よ。また勝手に自己完結して、一人で全部終わらせる気ね。
 …そう思い通りに動いてやるもんか。力ずくでその生意気なシナリオをぶち壊してやるわ!」
弐号機は猛然と加速し、長い弧を描いて進路を変えた。