風が耳元で咆哮する。
冷たい大気の塊が次々とぶつかってくるのをこらえ、目をこじ開ける。
白い地平。青空。
雪の白と廃墟の灰黒が混ざり合った地表から、幾つもの翼あるヒトの影が舞い上がってくる。
その手に黒い巨大な武器があるのを、彼は鈍い痛みとともに見てとった。
槍。
さっき飛び立ったエヴァたちは、あれを取り戻しにいったのだ。
「…ぶつかって、抜けられる?」
彼は初号機の頭の近くに身を乗り出し、訊いた。回避していくのはそう難しくないだろうけど、
あれを、あのまま池の使徒たちのところに行かせるわけにはいかない。
初号機は無言で身構え、一気に増速した。
空が開く。高速で背後に飛び去りながら、風の流れが瞬間的に硬度を増す。
こちらの意図を察したエヴァシリーズが黒い武器を構え、複数方向から矢のように初号機を目指す。
ATフィールド全開。
光の翼が白刃のようにひるがえり、初号機とエヴァシリーズは真正面からぶつかった。
一瞬の均衡。
すさまじい拮抗、四方から押し潰される感じ、そして、大空の中心で何かが破れた。
圧迫感が霧散する。
白と黒の巨大な翼の群れが次々に力を失い、ふいにばらばらと下に消えた。
ATフィールドを砕かれたエヴァシリーズが壊れた人形のように失速し、墜落していく。
元通りフィールドをおさめた初号機はその真ん中を突っ切っていった。槍の形をとる暇もなかった
黒い武器が、巨大な銀の刃面をきらめかせて周囲を落下する。それもすぐに後方に遠ざかった。
彼は振り返らなかった。
頭の中で、池にいたエヴァシリーズの数を反芻する。じかに池まで降りてきたのが一体。斜面を
降りてこようとしていたのが三体。上で初号機を足止めし続け、最後に飛び立っていったのが
今突破した四体。確実にこの先にいるのはあと一体だ。
前方に無残に崩壊したビル跡が見えた。
「…あそこだ」
視界が斜めに傾く。風を裂いて、彼と初号機はいっさんに下方の廃墟へと舞い降りていった。