45
来年になっても終わらなかったらただのバカ
確かに
続きが楽しみ
ラミエル・レリエルの複合砲撃が消滅したことにより、大神殿近傍他の一部を除き、京都戦域は自動的に
ネルフ本部を擁するジオフロント及びノンシップ『ポウル・ウスル・ムアディブ』の制空下に入った。
二大空中要塞とも呼ぶべき両者はともに10kmを優に越える有効射程圏を持つ。ジオフロントは赤い狭湾に没した
旧長岡京上空、ポウル・ウスル・ムアディブは旧桂川・鴨川合流点付近に当たる艦船遡上限界点に停泊中の
オーヴァー・ザ・レインボーの直上右翼にそれぞれ位置を固定し、今や複数のエヴァの戦場と化した京都市街の
事実上の攻略側本陣となっている。その上空支援のもとに、ネルフ+トライデント、そしてネオ戦自陸戦機動隊と
連携するトライラックス本隊は、既に五条通以南を完全に制圧下においていた。状況が敵エヴァ及び使徒との
大規模戦闘に移行した現在、エヴァ以外の戦力はいったん京都駅付近まで後退し、慌しい補給を受けたのち
敵大戦力の集中する大神殿正面を避けた迂回ルートでの進攻に移っている。
「旧京都御苑まで直線距離にして残り3.5km。そして、人工進化研究所があると思われる北山山麓までは7km。
…かつての第三新東京市と同スケールの戦場なのだな、ここは」
ノンシップが落とす巨大な影を抜けて、グレーのK-1ゲリオンが反重力飛行していく。盆地を囲む山並の前面は
度重なる熱波と衝撃に灼かれ、強い日差しの下に累々と赤茶けた姿を晒している。確保され無人となった街区は
硝煙をあげる瓦礫の堆積に変わり、黒焦げの木立の間に、露出した地下装甲が溶けた鏡のように覗く。
グレーのK-1ゲリオンはくすぶり続ける廃墟の連なりを越え、ラミエルの直撃を喰らってぽっかり開けた
街の空隙を覗き込んだ。崩落した建材の折り重なる下に、全身に煤塵を浴びた赤いK-1ゲリオンが何かを
強く抱きしめるようにうずくまっていた。グレーのK-1ゲリオンは音もなくその場に降下した。
「シヴァ少尉?」
規定周波で呼びかけると、赤いK-1ゲリオンは緩慢に頭をもたげ、間近に立つ友軍機を視認した。
「…『ユミール』…フウイ・ノ・レイ、様。
…砲撃は、終わったんですね。あたしは…命令違反で懲罰ですか」
ビルの残骸の中から機体が立ち上がる。溶けて歪んだ鉄骨が音をたてて地面に没した。機体の操縦は
まだしっかりしているが、機の両腕は力なく垂らされ、パイロットの放心をさらけ出している。
グレーのK-1ゲリオンは頭を巡らし、巨大なクレーターとなった彼方の旧京都大学跡を見やった。シヴァ機は
あそこで行われていた局地戦闘から離脱した後、猛砲撃の下を単機でここまで逃げのびてきたらしかった。
フウイ・ノ・レイ機は再び背後を振り返った。母艦であるノンシップまで、強行突破できない距離ではない。
そのまま少し間があいた。熱風が舞い上がり、シヴァ機に厚く積もった灰を吹きなびかせた。
「…そうではない。
ただ…戦闘のさなかに何を見、何を体験したにせよ、我々はトライラックスのパイロットであって
個人ではない。そなたと二人だけとは言え、今は私の指示に従ってもらわねばならないぞ」
シヴァ機は黒煙のたなびく京都を見渡した。炎天下に遠く友軍の銃砲声が響く。
南の戦闘はほぼ終息し、攻略側の進撃も統制のとれたものになりつつある。が、全てがではない。
「戻るぞ、少尉。我々の次の目標はあれだ」
機の灰色の腕が指さす先には、生々しい深紅の影に包囲されたトライラックスエヴァたちがいた。
駐日艦隊とともに離反した新型三体と、本隊の僚機たちが急ごしらえの舞台で勇壮に対峙している。
その異常な劇場性に、赤いK-1ゲリオンは一瞬躊躇した。
「彼女らに助勢して速やかに新型機を制圧、彼女たちともども回収し、本隊に戻す。
教団や『E』計画の意向はどうあれ、これは現実の戦闘なのだ。彼らを見世物にするわけにはいかぬ。
行くぞ、シヴァ少尉」
グレーのK-1ゲリオンは濃い影を残して浮揚し、シヴァ機を振り返った。機はその場に立ちすくんでいた。
「どうした?!」
「…申し訳ありません、フウイ・ノ・レイ様。
約束…いえ、どうしても行かなければならないところがあるんです。少しだけど、関わってしまったから。
必ず戻ります。だからそれまでは、…K-1ゲリオン『ハヌマーン』、いま少し、独自に行動します」
赤いK-1ゲリオンは眼光の戻った頭を上げ、フウイ・ノ・レイ機を見据えた。両腕が自身の上体を守るように
緩く胸の前でたわめられている。そして機は唐突に離陸し、制止の間もなく一気に増速して飛び去っていった。
機体の巻き起こした風に黒く白く灰塵が舞った。
「よせ! …シヴァ少尉、敵機との接触は禁じられているのだぞ! わかっているのか!」
上官機の叱声は空しく回線の空電に呑まれた。赤いエヴァは振り向くことなくまばゆい空に消えた。
すぐに後を追おうとして、フウイ・ノ・レイ機はふいに宙で身をこわばらせた。
鋭く振り返る。何の前触れもなく、戦域は次のステージへ移行していた。
「…あれは」
攻略サイドの共有通信系に動揺が走る。
臨戦態勢に移行した初号機らの前、そして大神殿地上建築へ援護砲撃を加えようとしていたノンシップの正面に、
かつて死海文書に記されることのなかった、イレギュラーたる二体の使徒が出現していた。
恒例の保守
あれから四年たった保守
hoshu
hoshu
ほす
hoshu!
懲りずに保守
hosu
まだ保守
今日も保守
515 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/11/18(土) 16:31:11 ID:TxIwoXMA
なにこの良スレ
二ヶ月経っちゃったけど保守
保守
京都大跡のクレーター中央大亀裂、そのさらに地中深部。
便利屋スズキのエヴァ伍号機と第三使徒サキエルの戦闘は、地中へ続く縦穴周辺を大きく破壊しながら
激しさを増していた。使徒の白い仮面の頭部には亀裂が走り、対する伍号機は機甲化腕の破損度が限界を超えて
露出した内部機構が空転している。エヴァ本体も消耗にS2機関が追いつかず、徐々に動作が鈍ってきていた。
鳴動する空洞の薄闇の中で、両者は重苦しい間をおいて激突し、退き、再び激しくぶつかり合った。
「…損傷度警告がうるさいな。まほろさん、伍号機はまだ保ちそうか?」
「増設機構系統はそろそろ物理的に限界です。右腕部分はまだ動きますが、予備電力はもう底をついています。
今はS2機関からのエネルギー流用で補っていますが、仲立ちとなる時田変換機構の処理限界まで、約3分です」
「そろそろ決着をつけるか、…しかしその時田機構というネーミングは何だ? 時田社長のことか?」
「はあ、日重工本社の人事部長さんの命名らしいのですが」
「…まあどうでもいいな。周辺地形再確認、残る全動力をパイルバンカーに集中。この一撃で勝負に出るぞ」
「はい! シリンダー内液体火薬充填完了。発射後7.5秒で残量の強制再装填と主ユニット緊急切除準備よし」
「了解。…さていい加減に終わらせるか!」
使徒がひびわれた顔を振り向け、伍号機の機甲化腕が最後の唸りをあげる。
動力停止寸前の機構群が寸分も狂わぬ制御演算で最大限の出力を引き出され、スズキの操縦と一体化する。
両者が体重移動するだけで脆い瓦礫の足場は崩壊する。伍号機は神業のような機体制動で一気に距離を詰めた。
倍する使徒の巨躯から長大な腕が振り出される。伍号機は寸前でそれを流したが、使徒はその勢いのままに
大きく縦穴の反対側へ移った。間合いが狂う。同時に頭上で新たな崩落が始まった。一瞬注意を割かれた
伍号機を、向き直った使徒の光のパイルが襲った。
白熱した光の槍が縦穴周壁に激突して装甲層を融かし、堆積土壌を消し飛ばす。
と、もう一振りの槍が土煙の渦を割った。
瞬間燃焼させた液体火薬で極限まで加速された合金杭の貫突。猛烈な排気炎をまとったパイルバンカー尖端は
使徒の外胸骨と強靭な体組織の層を貫き、コアの奥深く食い入っていた。
吹き払われた埃幕の内から、使徒に半身組み付いた伍号機が姿を現す。背甲の増設バーニアは最後の加速で
伝導部ごと焼き切れていた。
伍号機はその体勢のままさらに右腕に力を込めた。破砕する部品が舞う中、コアの亀裂が音をたてて広がる。
使徒が異様な絶叫を放つ。暗色の体組織が変化し、突き立った金属杭を呑み込んで球形を取る。
「やはり自爆する気か! まほろさん!」
「はいっ!」
緊急コードを受けて、伍号機の右腕機甲化部位全体に仕込まれた爆裂ボルトが一斉に発火し、エヴァ本体から
パイルバンカーを物理切除する。瞬間、シリンダー内の残余火薬が引火して使徒もろとも巨大な火球と化した。
ATフィールド中和状態の伍号機を爆心の極熱が直撃する。同じ爆風が、埋まりかけていた縦穴を開いた。
「…くっ! まほろさん、使徒は!」
「コアの消滅を確認しました…! 補助電力ゼロ、切り離しには成功しましたがしばらく行動不能です!」
「活動限界か?! 下にはランドマスター隊がいるんだぞ、…くそっ、動け動いてくれッ!」
轟音。衝撃が縦穴を上下方向に駆け抜ける。不安定な瓦礫の累壁が決壊し大質量の滝となって空間を埋める。
その混乱のさなかを、停止した伍号機は一直線に闇の底へ落下していった。
地下道を吹き降りてきた熱風と震動は、一分ほどでおさまった。
竜型エヴァの長躯の陰に退避していたランドマスター隊の二車両は、転落する瓦礫の量が落ち着くのを
さらに数分待ってから進行再開した。竜エヴァは爆風の原因を探りたがるでもなく、静かに一行に従い、
足場が危うい箇所では先に回って誘導する。
「確かに味方、ですね。我々を認識してるとしか思えない」
「この地下の縦穴、こいつがここまで開けたんでしょ? それで道案内まで?」
「問題はこの道がどこまで続いてるか…曹長、相変わらず深部のレーダー像は駄目か?」
「白紙状態です。道なりに進むか、偵察を出すかでもしないと…おい、上等兵、勝手に動くなよ」
「地上の本隊、およびエヴァ伍号機との通信も不調のままであります」
「…このまま進もう。さっきの使徒が目標施設の防衛だとしたら、このエヴァはそこにたどり着いた
上で、使徒に押し返されてきた。必ず行けるはずだ」
「了解…ん、エヴァが…?」
ふいに竜エヴァが前方を睨み、隊を守るように低く身を下げた。
「あ…進路上に動体を多数感知! 全て同種の物体のようであります!」
「全員、装備確認。…落ち着け、ミソラ少尉。多数とはどの程度だ?」
「それが…多すぎて把握できないのであります!」
前方、地下傾洞の先で闇が膨れ上がり、ほどけて押し寄せてくる。黒い津波はすぐにライトの輪の中へ到達した。
使徒蟲。ミミズ程度から、人の腕の太さを優に越えるものまで、無数の同形の蟲が大群となってうごめき流れていく。
隊に緊張が走ったが、竜エヴァはさほど警戒する様子もなく身を起こした。
よく見ると蟲群はこの地下道を登っているのではなく、岩壁や装甲層の隙間へ潜り込んでいくのだった。たまに
はぐれ蟲が竜エヴァの脚や車両に突き当たっては引き返す。
一行はしばらく大移動の様相を見守っていた。
蟲の流れは止まる様子もない。やがて竜エヴァが蟲群の上に無造作に足を踏み出し、隊も続いた。
「出迎えではないようだ。だが、これだけの量が地下にいたとは」
「教団の中枢が近い、ってことかもしれませんね。にしても、一体どこに向かってるのかしら。
方向からして地下の、別のどこかってこと…?」
「詮索は後だ、少尉。…しかしこれが、残り時間が少ないという意味でなければいいが。急ごう」
さてと保守
保守
馬鹿?
大神殿地下、錯綜する分岐空洞列。
ヒトへの使徒能力移植実験の初期被験体となり、以後も教団の虜囚として無期限の重労働を強いられた
“失敗例”たちが自らの未来を賭け一斉蜂起してから、既に一昼夜余りが経つ。
叛乱は制圧された。実行したのは彼らを累積結果として完成された使徒化兵力・改造騎士団の、更に
その中から選りすぐられた精鋭班である。事実上ヒトと大差ない身体条件と、密かに盗み蓄えていた
限られた通常武器しか持たない叛乱勢は一方的に殺戮され、逃げのびた集団は捕らえられた。掃討中に
空洞列を揺るがした戦闘衝撃により、複数地点で大規模な落盤が起こり、死体の群れを潰砕した。
「すっかり片付いたね。上もそろそろ頃合いだし、よくやってくれたよ」
鎮圧を終えた騎士たちが拝跪する。司教第参次席は楽しげにその前を過ぎ、まだ息のある叛乱首謀者の
薄汚れた顔を覗き込んで笑った。
「君たちを焚きつけた…救世主の使者、だったかな? あれはエヴァ・フェット。金で動く傭兵だよ。
決戦に備えて、ここの破壊工作に潜り込んでたのさ。今は脱出して、上の街。君たちを置いてね」
見捨てられた者たちの指導者は、半ば血に塞がれた目を上げ、司教を睨み据えた。
「構…わぬ。…あの方は…我々に、希望を見せてくれた。あの方が去っても、我々は決して屈さぬぞ…!」
「そう? それは楽しみだね。何しろ、この後は君たちの番だからね」
微笑し、司教が向き直った先にはこれも無力化され捕らえられた侵入者たちがいた。癇の強い女軍人が
青い晶質の腕で甲冑の男の側頭部を掴んでいる。血の塊が滴った。隣の屈強な大男の足下には、同じく
ぐったりした若い女が一人うずくまっていた。司教は身を屈め、目を合わせた。
「残念ながら、再会だね。そちらの彼も。こんなに早いとは思わなかったけれど」
「一応、まだ生きてます。強化外骨格の反応も今は低調だけど、健在ですわ。ご命令通りに」
青くきらめくラミエルの女は焦れたように身体を揺らす。大男は頑丈な両腕を組み、あくびを洩らした。
「せっかく、この俺の装甲の限界を試せるかと思ったんだがな。…で、どうします。こいつらの始末は」
司教は漠然と頭上を指した。
「すぐわかるよ。…遅れて悪かったね。勝手に出て勝手に崩された同類を拾ってくる必要があってさ。
まあ、おかげでここの正確な座標が掴めた。本当にちょうどいい場所で終わらせてくれたよ。
…ん、ここの他にも戦闘中の箇所があるのかい? これは…そうか、彼らには別に上がってもらうよ」
畏まる騎士たちを見回し、司教はふいに大きく口元を引き歪めた。一瞬歯列を剥いた大顎の印象が重なる。
「さてと。鎮圧任務は完了、君たちにはもっと派手な見せ場を与えるよ。こいつらと一緒にね」
「この出来損ないの屑どもと…? どういうことですか、司教様?」
甲冑の男の首を掴んだまま女軍人が問うた。と、男が顔をねじ上げた。大量の吐血が岩盤に弾ける。
ん、と目をやる大男の下で、若い女がはっとしたように表情を取り戻した。
「…ハガクレカクゴさん! 生きてんの?! 動いちゃ駄目よ、今は!」
ほとんど瀕死の重傷を負った男、いや少年の眼光は、だが激痛にかすみながらも鋭かった。
「……メンチ、さん…すまぬ。だが…この、凄まじい邪念…貴様、この人たちに…何をする気だ…?」
「次の出し物さ。あと8秒程度でラミエルが倒れるからね」
司教は愉快そうに視線を投げ、そして頭上を仰いだ。数秒後、地上からの激震が岩窟の天蓋を揺るがした。
初めて騎士たちの間に動揺が走る。
司教は派手な含み笑いを洩らした。瞬間、司教の背後に開いた空間隙から不定形の奔騰が飛び出した。
岩窟全体に白い生物粘性の組織が滴り始める。同時に岩盤のあらゆる亀裂から無数の使徒蟲が溢れ出し、
包囲された騎士と捕虜たちの上に、微細な胞子が濃密な霧となって立ちこめていく。それらは異物に接触すると
即座に爆発的な侵食を開始し、生体屍体を問わず取り込みながら、中央に蠢く渦動めがけて集束していった。
恐慌が場を呑んだ。無力な抵抗と叫喚が折り重なる網状菌膜の下に消える。黒々と密度を増す蟲の奔流の底で、
使徒能力ごと解体されながら、女が悲鳴をあげた。
「これは…使徒、バルディエル…?! 私たちまで?! …司教様?!」
宙に佇み、司教は今や嘲笑を隠そうともしなかった。
「生きてく意味もない生なんだろう? 存続する価値もない世界なんだろう? 自分でそう願ったんだろう?
だからフォースインパクトを望んだんじゃなかったのかい?
舞台下の騒動は終わりだよ。君たちは一足先に一つになるのさ。この、哀れにも名前のない使徒と一緒にね」
行き当たる全ての有機体を取り込んでいく使徒の中心で、再び空間が裂け、もう一体の使徒が出現する。
人々の恐慌に新たな恐怖の色が増した。生体侵食に加え、精神を暴き記憶を喰らう苦悶が拡大感染していく。
<覚悟! 覚悟、意識を集中しろ! わずかでも己の意志を見失えば、精神を使徒に取り込まれるぞ!>
「…承知…!」
重い身体で抗いながら、葉隠覚悟はバルディエルの奔流で鎧いつつある使徒を見据えた。騎士も叛徒も蟲群も、
打ち捨てられた銃も潰れた死体も瓦礫も崩落した岩盤も、侵食に呑まれた他フロアのわずかな生存者までもが、
長い突起部を垂れた黒い異相の使徒へ強制癒合されていく。
かろうじて探り当てたメンチの手を強く握りしめ、覚悟は司教の声を聞いた。
「さあいいよ、第弐。奈落から上げてくれ」
直後、トライラックス爆破工作隊の仕掛けた全N2爆弾が、精確に爆破方向を制御されて一斉に炸裂した。
京都地上部、旧御苑。京都中央を守るラミエル・レリエルの消滅、及び他区域での戦況安定を確認した攻略側が、
いよいよ教団本拠への突入準備に移行したときだった。
大神殿を包囲警戒していた初号機らが突然臨戦態勢に移行した。同時に、使徒殲滅時にも微塵も揺るがなかった
大神殿地上建築が底深い震動を発した。地下からの増圧に、装甲された地表全体が不気味な音をたてて軋む。
「…N2か。全隊後退」「突入中止! 全部隊、いったん安全位置まで退避。どうやらお次が来るみたいよ」
「地下深部より、大質量物体が浮上中! …分析パターン、青!」「次の使徒?! 残るは、第十三使徒のみか?」
「いや、バルディエルだけじゃない。他に二つ…だが、使徒だ。これは…まさか、…碇司令!」
「確認した。全機、備えろ。レイ、出現と同時に出力最大で走査。…恐らく奴の、使徒を使った仕掛けの総仕上げだ」
「後方、ノンシップ前方に空間変動! 座標確定、こちらにも巨大物体が出現します!」
「後ろを狙った…?!」「大丈夫、後衛は我々でカバーするわ。ミサト、そっち、しばらく預けるわよ」
攻撃側が態勢を切り替えた直後、大神殿が開いた。
地下各所に設置されたN2が咆哮し、装甲最上層までが瞬時に熔解して白熱の融体と化した。地底空隙へなだれ落ちる
緞帳めいた金属流の中から、異様な生物的鳴動とともに大神殿そのものが隆起し、変容し、現れる巨体に合一していく。
エヴァ全機から、ついで共同通信系全体を、強烈な嫌悪と悲愴が走った。
京都中央に、具象化された人の悪夢が立ち上がる。
死海文書のイレギュラーとされた使徒の体表に、かつては信徒たちの通った柱廊や聖所や彫像群が、蠢く使徒蟲の
渦とともに癒着している。複合体を維持しているのはバルディエルの侵食性粘菌組織。そして縫い込められているのは、
裏切られた絶望と融合の恐怖に顔を歪めた、京都の人々だった。
彼らの記憶と内面を喰らい、蟲群の大量の使徒因子を吸収し、黒い使徒は更に変容を続ける。ヒトと使徒の混在する、
生きてざわめき続ける地獄。そこにはただ死ではないというだけの生しかなかった。
「…なんて、ことを」
「…碇司令。この分析結果が正しければ」「…わかっている。…全機、迎撃用意」「!」「…父さんッ!」
「我々がイヤだと言えば止まってくれる相手か。違うだろう。少なくとも今は敵だ。…今はな。味方を守れ」
「く…トライデント両機、高機動戦闘用意。御苑と後方、二使徒が動き出すわ。挟撃される前に、友軍を誘導します。
…全部隊へ。再度、戦闘配置」「…、了解…!」
重い動作で、けれど次々にエヴァ各機が構えていく。
そして聳え立つ阿鼻叫喚が、その内の人々なる未曾有の恐怖の命ずるままに、行動を開始した。同じ人間たちへと。
529 :
愛読者:2006/12/19(火) 17:40:23 ID:???
取り合えずage
次は来年の1月くらい?
hoshu
test
新たに出現した使徒とエヴァ各機が対峙する大神殿跡から南へ約7km。ノンシップ『ポウル・ウスル・
ムアディブ』は、その直下の空母オーヴァー・ザ・レインボーとともに、突如もう一体の使徒の襲撃に
晒されることとなった。単独狩猟性の昆虫を思わせる流線型の使徒は、御苑の一体と同じく全身に無数の
使徒蟲を絡みつかせている。その因子から体現された複数の使徒能力が、元来の俊敏さに加えて全身を
大威力武装と化し、単体ながら攻撃は熾烈を極めた。更に、掃討はエヴァや巨大兵装以外の部隊にも
無差別に及び、周辺の攻略側進入経路、補給線はたちまち分断された。艦体を盾に敵火線を引き受けた
オーヴァー・ザ・レインボー、機体限界超過で展開したネオエヴァ二機、そして撃墜の危険を顧みず
戦域上の超低空飛行を敢行した飛行船エンタープライズの虚数回路障壁により、かろうじて防衛線後退に
成功したものの、トライラックス本隊を中心とする攻略側主力部隊は全面的な撤退を迫られつつあった。
御苑の目標牽制に戦力を割かれたジオフロントよりの弾幕は高機動する使徒に届かず、急遽用意された
ノンシップの主砲狙撃は、確実に目標ATフィールドを貫きながらも、本体には有効打を与えずに終わった。
その後両者により数度試みられた反撃とその結果分析を経て、目標の事実上の無限活動、即ち不死身に
近い状態が確認された。目標使徒は活動中枢にして唯一の弱点であるコアを体外に分離しており、それを
見つけ出さない限り本体は倒せない。だが、もはや通常兵力の展開が不可能な今、戦域のどこにあるかも
わからないコアの位置特定など絶望的な話だった。
トライラックス本隊は即座に残る全エヴァの投入を決定。ノンシップ及び地上部隊をATフィールドで
防衛しつつ、K-1ゲリオン全機で目標を包囲し、その攻撃を一定範囲に抑え込む作戦に出た。御苑の一体が
N2の火球の下から現れた以上、戦域内を広域爆撃する程度ではコア消滅は望むべくもない。唯一の頼みは、
現状で最高の統合処理能力を備える本部MAGIの分析と判断である。長期戦が覚悟された。
京都南部。“Longinus”によるK-1ゲリオン四機及び次世代機群の包囲、もしくは演出劇は続いている。
単身彼らのもとに急行しようとしていたフウイ・ノ・レイ機に、新たな使徒出現に対応して本隊からの
帰還命令が入った。攻撃量で勝る使徒を抑えるには一機でも多くのエヴァが要る。だが行動中の全機が
本陣まで後退しては、包囲された小隊は御苑の使徒の攻撃範囲内に孤立することになる。
躊躇するフウイ機に、母艦からの直信が繋がった。
「フウイ、戻るのだ。地下神殿を目前にした今、後方を崩される訳にはいかん」
「ギーガー様…?! しかし、それではキラたちが取り残されてしまいます。単独行動の私ならば…」
「いや、お前はエヴァの指揮を任せられるただ一人の人間だ。ただちに母艦に戻り、隊を支えてくれ」
「…?! まさか…いけません、グランドマスター自ら出撃されるおつもりですか?!」
「今でなければ駄目なのだ。彼女たちへは責任がある。それを果たしたいのだよ」
槍の動きを注視していたフウイ機は、ふいに鋭い動作で母艦の方角を振り返った。
「…、無礼を承知で申し上げます。バンダロングの件はギーガー様の責ではありませぬ。非は全て、
彼女たちを弄んだ委員会にあるのです。あなた様がなすべきは、ネルフとともに、全ての元凶たる
委員会を追いつめ、この戦いを終わらせることではないのですか!」
翳り始めた夏空を仰ぐ灰色のK-1ゲリオンの後方、ノンシップの蜃気楼めいた巨体は戦火に覆われている。
前面、御苑では人の知覚では直視不能なほどの苦悶と嘆きが使徒となって蠢き、苦闘する初号機らを
追いつめている。まがまがしいだけの武装として再現された使徒たちの可能性が、戦域を蹂躙していく。
「…すまぬな、フウイ。全員を生きて帰す。それがノヴァたちへのせめてもの手向けだ。…頼む」
一瞬彫像のように宙に立ちつくした後、フウイ機は迷わず機首を巡らせた。全速で母艦へ向け転進する。
重力場の変化が一帯の廃墟を打ち、崩れかかる焼け跡を使徒の光線が消し飛ばした。機は光弾の雨を抜ける。
「…この局面で指揮権委譲など、私は御免被りますぞ!」
「心配致すな。すぐに戻る。しばらく、頼むぞ」
急減速した灰色の機体がノンシップ外殻に滑着する。同時にもう一体のK-1ゲリオンが、戦場へ発進した。
いつものように保守
保守
>>532-533 おっ、いよいよギーガーも出陣か。
ギーガーってガーゴイルに比べると
ヘタレな雑魚悪役っていう印象があるけど、
この物語の中では結構キャラ立ちがいいよな。
test
旧大神殿地下構造深部。暗闇に閉ざされた大空洞の底で、スモーウォーカーが激突を繰り返す。
スモーカー大佐率いるスモーウォーカー隊は、クローリー・ヒナ・バーベムの操る精神鎖の乱舞と
ミゾロギの分身使徒群の猛襲を前に敢闘を続けていた。導入第二世代として養成されたK-1ゲリオン隊に
対し、第一世代のスモーウォーカー隊員たちには技能修練期間と呼べるものはなかった。機体自体も
量産体制の確立と操縦汎用性を優先に開発されたため、後に改良を重ねたものの、近接格闘戦能のみが
整備されている。それは対峙するヒナとミゾロギの機も同様だが、彼らには異能と使徒能力があった。
「孤立、敵増援の可能性大、しかも現在位置不詳。乱闘やってる余裕はねえ。直接頭を叩くしかねぇな」
「ああ。よりによってお前となんざ面白くもねぇが、俺もそっくり同じ考えだぜ、部隊長さんよ」
「へっ、百戦錬磨の伝説の傭兵様と同意見たぁ心強ぇな。あいつらが踏ん張ってるうちに仕掛けるぜ。
変な思考ノイズ出して邪魔するんじゃねぇぞ。スティンガー、ちっとばかし頼むぜ!」
紫のスモーカー機は巻き上がる土埃の渦を裂いて飛び出し、一気にヒナ機を目指した。半非在の鎖が
一斉に向きを変え、襲いかかる。スモーカー機は鈍重な外観とは裏腹な機敏さで鎖の奔流を遡り、
立ち塞がる分身使徒をはねのけ、幾本かの鎖に機体を絡めとられながら、全力でヒナ機に突っ込んだ。
硬質の軋りをあげて巻きつく鎖の渦の中で、二機が拮抗する。
「大佐…!」「大佐!」「ヒナ嬢様! くそ、お前ら、僕ちゃんを離せ! …エヴァごと潰されるんだぞ?!」
「馬鹿、機体がばらばらになっちまうぞ! それに他の奴らは!」「…うるせえ! 少し黙ってろ!」
全鎖束が実体化し、装甲を射抜き、じかに素体を貫通する。うち一本はエントリープラグをかすめた。
それでも退かない指揮官機の気迫に、初めて、銀色のスモーウォーカーは怯んだ。
「…こんなはずはないわ。あなたは苦境に耐えられる男ではないはずよ。いつだって弱くて、無様なはず」
「ああ。俺は何もできねえ男だよ。何をやっても駄目で、見栄ばっかりで…自分で厭になるぜ」
「なら…いえ、そう、では罰してやるわ。…あなたなど、わたくしに縛られて喘いでるのがお似合いよ。
また痛めつけてあげようかしら。昔のように、惨めに許しを乞うまで!」
「そうだ。…俺は何もわかっちゃいなかった。お前がなぜ周りの人間全員を見下して毅然としてたのか、
なぜ近づいてくる男を虜にしちゃ次々弄んで捨ててったのか。なんであんなに攻撃的だったのか。
そのお前が、どうして俺みたいな何の取り得もない男とだけ、短い間だったにしろ、続いたのか」
密接した鎖がさらに輪を引き絞る。機体内部で何かが破損する音が連続し、プラグが軋んだ。
「おいッ! スモーカー!」「お前らぁ! 潰すぞ、ほんとに潰すぞ! 嬢様…ぐっ?!」「あんたね…
今、大事なとこだって…わかんない? わかんないなら黙ってるのよ、坊や…!」
「すまねえな、お前ら…そうさ、俺はずっとこういう下らねぇ奴だった。不恰好で無能な自己中野郎。
野心も想像力もゼロ。…絶対にお前を追い抜かない、脅かさない男。永遠にお前に服従するだけのな」
「何を言ってるの、スモーカー君? 命乞いなら、もっとマシな思い出話を…」
突然スモーカー機は渾身の力を爆発させた。一気にヒナ機の抵抗を押し切り、鎖ごと岩壁に叩きつける。
「黙って聞けッ! これが最初で最後でもいいから、俺の話を聞いてみやがれ!」
両機が激突した衝撃が、戦闘の喧騒に満ちた闇を一瞬切り裂いた。擱座寸前の機も、脚の折れた
分身使徒も、狂ったように暴れていた異形のエヴァも、全てが動きを止めて中央を向いた。
鎖を内外から総身に喰い入らせた紫のスモーウォーカーは、銀の同型機をまっすぐに押さえ込んだ。
「…お前は、傷ついてたんだ。ずっと昔っから。俺や他の連中と出会う遙か前に、傷つけられてた。
尋常な傷じゃねえ。お前を見てりゃわかるよ。それがお前から、人生ってやつを奪っちまったんだ。
後悔してるぜ、出合ったのが俺みたいな阿呆だったこと。お前をわかってやれなかったことを。
だが俺はもう、女王様の寵愛に有頂天になって、そのくせ陰じゃ蔑んで安心する腐れ野郎じゃねえ」
力士を真似て成形された不細工な手が、装甲ごと鎖に砕かれながら、ヒナ機の頭部の真横に突き立った。
「俺にはこの出来の悪い部下たちがいる。妙に付き合いのいいオカマ野郎の知り合いもいる。
それから腐れ縁が過ぎて、とうとう同じエントリープラグにまで入っちまった馬鹿な奴もいるよ。
だから今は、お前と対決することもできるさ」
銀色のスモーウォーカーは、激昂か動揺かに大きく身を震わせた。背後の岩盤に深い亀裂が走る。
「いいえ、できないわ! あなたはこの鎖に縛られているの! このわたくしが縛りつけているの!
あなたは永遠にわたくしの奴隷、這いつくばって喜ぶ下僕でなければならないの!」
鎖の群れが鋼の蛇のように激しくのたうち、敵機の首筋を幾重にも締めつけた。機はただ受け止めた。
「…すまねぇな、ヒナ」
そして紫のスモーウォーカーは具現化した憎悪の鎖を引きちぎり、蹴散らし、最大限の力を込めて
開ききった手のひらを、一直線に相手機のコアに打ち込んだ。
重く低い衝撃が岩窟を駆けた。銀の機体は一瞬身を浮かせ、ふいに生気のない人型と化して崩れ落ちた。
まといつく鎖の消えた躯体を、全身の装甲を割られたスモーカー機は淡々と地面に横たえた。
その眼前に、ミゾロギ機が立ちはだかった。サンダルフォンの鉤爪が鋭く宙を切った。背後で、隊の
最後の一機が分身使徒を組み伏せたまま地響きをたてて倒れ、完全に沈黙した。
「…お前…お前、お前! よくもヒナ嬢様を傷つけたな! 僕ちゃんの嬢様を!」
「ああ。だが『お前の』じゃあねえよ。…許せねぇなら、来な」
「何だとぉッ!」
満身創痍のスモーウォーカーは、猛然と突進してきた使徒化エヴァを全身で止めた。使徒の腕が揺らぎ、
敵機に組みついた左腕の大半が十余の細片に切り刻まれて落下した。
「ふん、力押しじゃ僕ちゃんは倒せないぞ! それしか取り得がないエヴァなのに、残念だったな!」
「…ああ。だが舐めちゃいけねぇぜ。パワー型ってことはつまり、S2機関の出力もそれなりでな」
「それがどうした! いくら動きを止められても、サンダルフォンの装甲はお前には破れないんだ!」
「誰も外から破るなんて言ってねぇよ。バケツ頭、覚悟はいいな」「何…お前ら、何を考えてる?!」
「だからな、パワー型ってのは、臨界突破するまでコアを過充填するのも速いんだよ! …喰らいな!」
スモーウォーカーは自ら胸部装甲を引きちぎり、まばゆく発光するコアを掴み取って、真正面の使徒の
大顎の奥深く、上腕が埋没するまで押し込んだ。直後、使徒の上体全体が内側からいびつに膨張した。
光が一閃する。
だが予測された衝撃はなく、闇の戻った岩窟中央で、使徒の融合部位及び頭部を失ったミゾロギ機が
ゆっくりと傾いて倒れた。コア炸裂のエネルギーを吸収した使徒の頭甲は自身のコアごと消滅していた。
スモーカー機は洞窟の反対端まで吹っ飛ばされていた。コアを失った背部からプラグが突出している。
「…ヘイフリックの限界どころじゃねぇな」「当たり前だろ。万一回収できても解体してスリグの餌だ」
「ミゾロギの奴は?」「その辺のどっかだろ。軍の共通非常コードで、プラグは射出してやったからな」
「親切な奴だよ、ったく」「どっちがだ」「何?」「お前、エヴァの力って奴で何かしたんじゃねぇのか。
…普通なら、あの融合した使徒と一緒に奴も吹っ飛んでるはずだろ。ついでに俺もな」
「馬ー鹿。フウイ・ノ・レイ様か、ネルフの連中ならともかく、俺にそんな器用な真似ができるか。
…あん時はただ、無我夢中だっただけよ」「けっ、違えねぇ。…しかし、これでスモーウォーカー
部隊も終わりだな。肝心のエヴァが全滅じゃあな」「ま、派手な引退試合だったじゃねぇか。
良くやったってことにしようや」「ちょっとぉ! 二人して寛いでないでよ。こっちは律儀に
負傷者回収してんだから、もう」「…ほらな。どいつもこいつも、しぶとく生きてやがるぜ」
遙か頭上からかすかに震動が響く。動くもののほとんどない地下洞は再び静まり返っている。
暗闇の底に人影が立ち上がる。
人々は気づかない。ただ一人、エヴァ・フェットだけが本能的に振り返った。
クローリー・ヒナ・バーベムは、激戦の前と少しも変わらない艶やかさで佇み、彼らを見つめていた。
立ち上がろうとするスモーカー大佐を、エヴァ・フェットは無言で制し、ヘルメットの装甲を下ろした。
ヒナは微笑んだ。
「おい、バケツ頭?!」「…下がってろ。…どうやら、これからが本番らしいぜ」
「どうやらあなただけはわかってくれそうね。…スモーカー君、あなたはわたくしをわかったつもりで
いたようだけど、本当のわたくしは、そんな葛藤などとっくに超越したところにいるのよ」
「…やめろ。何だかわからねぇが、…やめろ」
「なぜ? わたくしも、今のわたくしを見せてあげるだけよ。彼へのお返しにね。いいでしょう?」
いつのまにかヒナの両手に白い華奢な羽根が握られていた。ヒナは裂けた黒いプラグスーツの胸元から
更にもう一枚の羽根を取り出すと、三枚を重ね合わせ、彼らに目を据えたまま陶然と口づけた。
「…止せっ!」
瞬間、羽根は嵐となって膨張し、生きた塊となり、癒合して白い異形の使徒と化した。巨大な両翼が
ヒナを包み、その巨躯がじかにヒナの身体に沈み込んでいく。白く吹き荒れる羽根の渦が静まった時、
そこには零号機に似た黒いエヴァがいた。鎖の鳴る音。エヴァ・フェットが無意識に一歩あとずさった。
鮮やかな真紅の単眼を見開き、“オルタナティヴ”は嫣然と囁いた。
「あー・りぃっ」
K-1ゲリオン小隊孤立地点。使徒の猛撃が降り注ぐ中、トライラックスエヴァ陣の
全周でいっときは影に徹していた槍の包囲壁が、突如活性化した。振り仰ぐ
各機の頭上、三方から噴き上がった深紅の尖影が長弧を描き、宙の一点を射る。
生々しい貫通音が地上に届く。四肢の各部を串刺しにされたその姿を視認した瞬間、
K-1ゲリオン四機の間に動揺が走った。廃墟の三箇所で審判たちが嗤う。
「…ここで新たに喰いモノ志願者の飛び入りか。まさに予測もつかない展開だ」
「いや、騎兵隊だろ? 一応。結果はこの通りだが」「拍手くらいするか。潰す前に」
上空で不完全な磔刑に処されているのは、地上のと同型のK-1ゲリオン一体だった。
反重力装置は全力で稼動しているが、槍の捕縛は微動だにしない。逆に機体に
貫入した尖端が無数に枝分かれし、装甲と生体組織を音をたてて侵食していく。
「ギーガー様…!」「! 何するの、キラ!」「馬鹿、私たちが動いたりしたら逆効果よ!」
「じゃあ何もしないって訳?!」「私だってイヤよ。…でも熱くなる前に周りを見て」
「え…?」
同化型エヴァ三機の様子が一変していた。不規則な痙攣が機体の自由を奪い、徐々に
統一された別の動きへ変わろうとしている。それを阻むように輪を締めつける、半非在の鎖。
「何…あれ…?!」「艦隊戦、見てたでしょ。あいつらも鎖で縛られてるクチってこと」
「じゃなくてなんで今更、大使の支配に抵抗すんのよ、それもエヴァが! …って、まさか」
獲物を射止めていた槍の動きが変わった。
「偶発的な暴走じゃないとすると、関係者か。一度に喰わなくて正解だったな」
「これは…なるほど、だから我々に単機で突っ込んできたと。…これだから“実戦”はいい」
「さてと、んじゃそろそろその“外装”を外してくれるか? それとも剥がしてやろうか」
「…いや、そちらに手間は取らせぬよ」
瞬間、はりつけられていたエヴァが己を解放した。槍の先端が力の流入を察知し、瞬時に
侵食網ごと地上へ退く。貫入痕の残ったK-1ゲリオンの装甲が砕けて剥落していく。
擬装下から現れた黒い異形のエヴァは、生々しい光沢を放つ体躯を宙に伸ばし、一気に
地上へ降り立った。素体の天然の装甲が侵食部位を覆い、みるみる復元していく。
深紅の刃幕が払われ、三つの姿が機の正面に姿を現して丁重かつ大仰に一礼する。
量産型試作壱号機は、己から生まれたエヴァたちを背に、ぬめる漆黒の頭部をもたげた。
「では、我が方のエヴァを回収させてもらうとしようか。無論、力づくでな」
制圧区域から一転、使徒によって焦土となりゆく京都南部を、異様なマシンが駆ける。
運転者はなぜか寝そべるような姿勢で操縦装置にしがみつき、その上マシンと同次元の
奇抜な強化スーツに身を固めている。その脇に無理やり乗り込んでいるのは、彼より
更に派手ないでたちを誇る、二人の女怪人。そして一人だけ場違いにまともな恰好の
眼鏡の少女が、無謀すぎる状況にも顔色一つ変えず黒髪をなびかせている。
とりあえず一行中最も動転しているのは、特撮顔負けの超駆動を披露中の運転者らしかった。
「なんで俺なんすか! いや俺は仕方ないとして、なんで山岸まで連れてくるんです!」
「そりゃあやっぱり、本人が直接行くのがベストだからよ。今やミサトちゃんのブレーンまで
こなしてるマユミちゃんなら、向こうに行った後も、必ずあの子の助けになるしね」
「あの使徒の感触は、かつて直接それを体験した者にしか、本当にはわからないわ。
マユミちゃんだけが知るそれと、あの子の強い心を合わせれば、必ずコアを見つけられる。
たとえ聖母や委員会が妨害してきたとしても、能力者の思念を完全に遮ることは難しいわ」
「理屈は了解してますけど、それ以前にどうやってフウイ元大使に接触するんです。
さっきの通信だとエヴァで指揮とってるみたいだし、…しかもあの猛砲火の中なんすよ?!」
「あら、もちろん正面から突っ込むに決まってるじゃない。マユミちゃん、絶叫マシン平気よね?」
「はい。…構いません。わたしが碇君の助けになれるの、このくらいですから」「…マジっすか…」
「ほらほら、男なんだからしゃっきりする! …で、例の分析結果、ほんとなの?」
「ええ。なぜ彼らが失敗作でありながら意志を失わず、使徒もどきになることもなかったのか。
融合への恐怖が使徒を覆っているのは、拒絶する心がまだあるからだわ。でもレイちゃん
一人ではあれだけの人数を傷つけずに解放することはできない。もちろんシンジやあの人にも」
「強制離断すとき、その衝撃を受け止める何か、あるいは誰かがいない限り…か。
…ほんっと、いつもながら、事態は絶望的ね。今までずっとそうだったけど、最終決戦だけに、
さすがに今回は極めつけだわ。…あたしだって、正直この先からは逃げたいくらいよ。
でも、もうちょい踏ん張らないとね。こぉんな昔を思い出す状況なんだから。ねえ、『Y』?」
「ふふ、そうね、『K』。最後まで行きましょう。…あら、そろそろ離陸しないと間に合わないわ」
「離陸って何すか?!」「それはもちろん、空を飛ぶのよ。OK、じゃ行くわよ♪」「ええええ?!」
突然の爆音とともに、マシンは文字通り空へ発進した。虚数空間障壁やら次元歪曲回路やら、
その他得体の知れない超装備と防御システムが勝手に展開し、なぜか速度まで倍増する。
運転者の絶叫を残し、亜音速に達したマシンは迷わず使徒の弾幕の中心、ノンシップ『ポウル・
ウスル・ムアディブ』に向かって、想像を絶する機動で突入していった。
そんなわけでここで敗北です
今までこのスレにいた/見に来た/書き込んだ全ての人に感謝を
それからもういないゲームマスターに心からの喝采を
あの二年半余、そしてこの八ヶ月、最高に面白かったです
ここまででPREラストバトルの序盤整備くらいまでの筈
この後はネルフ側反攻、提案者氏遂に表舞台に登場、ギーガー+K-1隊の栄光、
VSオルタナティヴでエヴァ・フェット覚醒、ジオフロントとレッドノア、そして司教戦を経て
委員会浮上へ…とかなんとか妄想はしまくったけどどう圧縮しても入らない
なのでこのスレはここで終わりです
>>464 5KB程度しか残せなくて申し訳ないです
まだどこかで見てたら、でこの残量で可能なら、〆を落としてください
本当にお世話になりました ありがとう
(BGM「F-2」スタート)
戦塵の京都に続く死闘。襲いくる悪意の中、それでも人々は抗い続ける。
精神侵食型使徒に呑まれた人々の苦悶の前に立ち尽くすシンジ。その彼を、阿鼻叫喚の
さなかからもう一人の少年が叱咤する。恐れと覚悟。発動する、零式防衛術、最大の発揮。
そして舞台に上る、もう一つの悪意の具現。
地下で戦闘を繰り広げていたランドマスター隊、便利屋スズキ、そしてエヴァ・フェットらは、
急転する流れの中でしだいに同じ場所に集っていく。暴走を始める使徒蟲の群れ。
奇躍する超機人。やがて立ちはだかる、綾波姉妹の忘れられたもう一人の同胞。
次々に味方機が擱座していく中、地表は一掃され、チルドレンの前に遂に司教たちが姿を現す。
シンジを待ち焦がれていた、最大の「敵」を伴って。
「サードインパクトはこんな世界ですた第壱部・京都決戦・序盤決着」
またどこかで会えたら、その時はもちろん、サービスサービスぅ!