この物語には「俺設定・俺解釈」が充満しています。ご注意ください。
エヴァ+鋼鉄のガールフレンド1+綾波育成計画が主な構成要素です。
この物語は私のHPに収録される事を前提にしています。
やっと第壱話をお届けできますです。
次回は10月後半の予定ですが、パソコンが壊れたら何もできません。
今も故障寸前です。
では、どうぞ。
『ひまわり』第壱話「出逢い」
「ひまわり」
第壱話「出逢い」
僕は見た。
夏の陽射しの中で微笑む少女を。
白いサマードレスに白いサンダル、そして向日葵の飾りが付いた麦わら帽子。
芦ノ湖が見える、小高い丘にある公園で見た光景を、僕は一生忘れないだろう。
いや、この夏体験した事全てを、決して忘れないだろう。
一学期の終業式が終わると、少年は芦ノ湖の探索に出かけた。
街から逃げ出そうとして彷徨った時は、景色を楽しむ気持ちの余裕は無かった。
でも、今は違う。
使徒との戦いやエヴァにはまだ慣れないけれど、友達(らしきもの)も出来たし、
夏休みの計画もある。第3新東京市からあまり離れなければ、多少の遠出も許可
されそうだ。
友達とのキャンプの予定も組んでおり、その下見をしているところなのだ。
自転車で旧箱根樹木園にある別荘地を抜け、白竜神社を過ぎた辺りで、目の前を
ゆっくりと何かが横切って行く。
地面に落ちてなおも風に煽られている物、それは古びた麦わら帽子だった。
「ごめんなさーい。それ、私のですぅ〜」
前方にある、小山を切り開いて作られたのであろう公園に、手すりから身を乗り
出す様にして叫んでいる少女の人影が見える。
自転車を止めてその麦わら帽子を拾い上げる少年。
よく見れば「それ」はかなり年季の入った代物で、あちこちが傷み、色褪せている。
辺りを見渡し、階段を見つけた少年が小走りで駆け上がっていく。
階段の上からは、少女が足元を気にしながら降りてくる。
「ありがとう!ボロボロだけど、大切な帽子なの。本当にありがとう」
少年から帽子を受け取ると、少女は何度もお礼を言い頭を下げた。
そしてやさしく帽子を撫でると、王冠を戴く様に、そっと頭に載せる。
少女の服装は、その帽子だけが不釣合いであった。
赤茶けた、少しクセっ毛のショートヘアに、白いサマードレスと白いサンダル。
露になった手足はひどく白い。
麦わら帽子がまっさらのものであれば、間違いなく「どこかのお嬢様」なのだ。
「やってきた初日に、ドジっちゃったぁ」
少女はチロリと舌を出してにっこり笑う。
「…引越し、してきたの?」
「ううん。夏休みの間、ここで療養するの。あっちをぶらぶら、こっちでぶらぶら」
へへっ、と自嘲気味に笑い、少女は手すりに身体を預けて足をバタバタさせる。
「…ごめん」
「どうして謝るの?」
不思議そうな顔をして少女が振り返える。
「…わからない。いや、僕は、夏休みの遊びの準備でここにいるから…だから」
「だから?」
「なんか、悪いな、って」
少し考え事をしていた少女が、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「じゃ、夏休みの間、友達になって一緒に遊んで!」
「い、いいけど、女の子が面白いと思う事って、知らないよ」
「いいの。それに、いつもって訳じゃないの。都合のいい時でいいから」
「う、うん、それなら、いいよ」
「きゃは♪さっそくお友達ができちゃった。嬉しいっ」
「こっちに、友達、いないの?」
「はじめての街だから…。キミが最初の友達ってわけ」
少女はまた、へへっ、と笑った。
今度の笑いは、先程とは異なりやや照れ笑いだ。
「あーーーーーっ!私、また失敗しちゃったぁ!」
「ど、どうしたの?」
「自己紹介がまだだったわ。私、マナ。霧島マナって言うの。キミは?」
「シ、シンジ。碇シンジ」
青い空、白い雲、緑なす山、ぎらつく太陽、照り返しの眩い水面。
原色の風景の中で、二人は出逢った。
夏休みとはいうものの、使徒襲来によって遅れた授業の補習がある。
成績不振の者はさらに日程がキツイ。
シンジ達も、三日程度補習を受けねばならない。
「くぁ〜〜ッ!そんでお友達になったっちゅうんかい。…ホンマに運のえェやっちゃ」
学校で昨日の出来事をトウジ達に報告すると、予想通りのリアクションがあった。
…自慢している訳ではない。
夏休みに先約のあるトウジ達に知らせておかねば、スケジュールが立たないのだ。
「ミサトさん、アスカ、今度は深窓のお嬢様か…。世の中、不公平だよなぁ」
ケンスケが、ビデオカメラをいじくりながらボヤく。
「こうなったら善は急げ、や。家庭訪問しよやないか!」
「ま、待ってよ!そんなの無理だよ。第一、失礼じゃないか」
「アホぅ。手土産持って、お友達が家に行くンのどこが失礼や?」
「だって、お父さんやお母さんに会ったら、どう挨拶すれば…?」
「普通で良いんだよ。やましいことは無いんだからさ」
「あ。ワシぃ、金あらへん。お土産、どないしょお」
「…ネルフ菜園にご協力願いましょう」
指先でメガネを押し上げながら、ケンスケが提案する。
ネルフ菜園…加持リョウジがジオフロントにおいて、趣味で作っている家庭菜園の俗称だ。
「と言う訳なんです、加持さん。…少しスイカを分けてもらえませんか?」
「そりゃあ構わないが…。やるな、シンジ君」
菜園の草取りをしながらリョウジが笑う。
「そ、そんなんじゃありません。トウジ達が面白がってるだけですから…」
「ま、いいさ。車を出すから乗って行くかい?」
スイカの品定めをしながら、リョウジが意外な提案をする。
「神様仏様リョウジ様〜!やな。頼りになるわぁ」
「ナニ、俺も見てみたいだけさ。…お。こいつがよさそうだ」
手際よく蔓を切ると、今度はトマトやキュウリを選び出す。
「好き嫌いがあるかも知れないからな。これはおまけだ」
リョウジはそれらを袋に詰めながら汗を拭いた。
リョウジの運転するプリウスが、湖畔の別荘地に停車したのはそれから30分後だった。
教えられた住所には、表札の無い洋風の建物があった。
「…ホンマにここでエェんか、シンジ?」
「電話で教えられたとおりの場所だけど…」
「チャイム鳴らしてみたら?」
ぴんぽーん ぴんぽーん
はぁーい、という声が中で聞こえたかと思うといきなりドアが開いた。
「いらっしゃい、シンジ君!…あれ?」
「…友達も、ついて来ちゃった、けど…ごめん」
なんだか言い訳にもなっていない事を言うシンジだが。
「うわァ!また友達が増えちゃう。やったァ!」
マナの方では大歓迎みたいだ。
「友達の友達はみんな友達だ!みんなで作ろう、友達のWA!」
マナが両手を挙げ、頭の上で輪っかを作っている。
「アレ?知らないの?これ」
「…いや、知ってるけど…」
「じゃあ、友達のWA!」
「…WA」
「オジョーサマっちゅうのは、ワカランなぁ」
「身近にいないタイプだな」
トウジとケンスケがヒソヒソ話をしていると奥から声がかかる。
「マナ?お客さんがいらっしゃったのなら、早く中にお通ししてね」
「ハイ、ママ。ではでは皆様、お入りください」
そういうとマナは深々とお辞儀をした。
「加持と申します。突然押しかけて申し訳ありません。つまらない物ですがお受け取り
ください。手作り野菜ですが、お口に合えば幸いです」
リョウジがマナの母親に「大人の挨拶」をしている。
一方、子供達はリビングでにぎやかに会話を楽しんでいる。
ミサオと名乗った母親は35歳位だろうか。ボーイッシュと言ってもよいほどに短く切った
黒髪と、細身の体型が印象深い。おそらく、身のこなしもキビキビとしているだろう。
「素直で良いお嬢さんですね」
「ありがとうございます。ですが私共は、あの間のびしたところが心配で…」
口元を隠して笑うと、リョウジに席を勧めて中座した。
「荷物の整理もまだできていませんので、こんな物しかお出しできませんが」
そう言って、ミサオがジュースとクッキーを持ってくる。
「いい別荘ですねぇ」
リョウジがまんざらお世辞とも思えぬ口調でミサオに話しかける。
「借り物ですのよ。この子が病気になってから、夏はあちこちしていますの。
でもなかなか良い場所がなくって」
「湖畔に佇む洋館。テラスは湖の上に張り出し、眺めは最高。観光船が通るの
も眺められる。後ろには箱根山、前に三国峠。第3新東京市中心地まで約8km、
近からず遠からず。…対岸まで500mってのも便利ですね」
「あらあら。知人に頼んでみましょうか?」
「安月給の身の上では、夢のまた夢ですよ」
肩をすくめるリョウジ。
「ネルフってそんなにお給料少ないんですの?」
「…よく勤務先が解りましたね」
鼻をかみながらリョウジが驚いた顔をしてみせる。
「第3新東京市に住む方達は、ほとんどがネルフ関係のお仕事だと主人が」
「言われてみれば確かに。…テラスから景色を見せてもらってもかまいませんか?」
そう言いながらリョウジは、タバコを取り出している。部屋には灰皿が無い。
それはミサオに喫煙の習慣が無いことを意味する。
ミサオが灰皿の代わりになる物を探そうとするのを、携帯用灰皿を見せて外に出る。
湖からの風が心地よい。
リョウジはジッポを取り出すと、タバコに火を点けてゆっくりと辺りを見回す。
テラスの右手には小さな階段があり、直接、湖に降りられるようだ。
そこにはシートに覆われた一艘のボートがロープでつながれている。
よく見れば小型のエンジンも取り付けられており、船遊びには十分な代物だ。
リョウジは小さく肩をすくめると、まだ半分程しか吸っていないタバコを携帯用
灰皿に押し込みリビングに戻った。
「いやはや、祭りの花火大会が楽しみな環境ですね」
リョウジの口が、実に滑らかに動く。
「お祭り、あるんですか?」
マナが興味深げに質問する。
「ああ。夏越し祭りが土曜日だったな。他にもあちこちである。…行って見るかい?」
リョウジの言葉にマナの目がきらきらと輝く。
「行きたい!」
「シンジ君、どうだい?みんなで出かけてみちゃあ」
「えっ、…そ、それは、大丈夫、かな?」
「なんやセンセー、惣流の事心配しとんのかいな。しょーもないナ」
「この対決は興味深いなぁ」
「よしゃ!決まりや。オモロなってきたでぇ」
「お邪魔じゃあないのかしら?」
「何言うとんですか。ワシ…僕達の方が楽しみになってきましたワ。あんじょう案内しまっせー」
「よろしくお願いね。お友達が早速できて、嬉しいですわ」
「ま、よい夏休みになるといいですね。ではそろそろ引き上げるとしますか」
そう言ってリョウジは立ち上がった。
時計は5時を回っていた。
マナとミサオが、揃って玄関まで見送りに出てきた。
リョウジが思い出したように振り返り、マナに向かって話す。
「湖畔の明け方は冷え込む。身体を冷やさないようにな」
車を玄関まで回してくる途中、リョウジの目が一瞬ガレージに注がれる。
「オフロード・バイクですか。意外に活動的でいらっしゃる」
「主人の趣味ですの。乗せられたこともありますけれど、大変でしたわ」
「ははは。かなりのじゃじゃ馬なんですねぇ…あ、いや、バイクが、ですよ」
じゃあ、と挨拶をしてリョウジは車を発進させた。
第3新東京市でシンジ達を降ろすと、リョウジは再びネルフ本部へ戻り、仕事部屋に鍵を
かけるとパソコンの電源を入れた。
情報は、伝達する過程でさまざまに変質する。
特に悪意を持って情報を伝達しようとする者が居た場合…。
「加持さんが!人妻に!鼻の下を!伸ばしてるぅ〜ッ!?」
教室でアスカが素っ頓狂な声を上げている。
「娘に似て、そらもうべっぴんさんなお母ちゃんやったなァ」
トウジが意地悪い笑いを浮かべながら、アスカに昨日の報告をしている。
「シンジ!今日は私も行くからね」
「えっ?今日はケンスケと新湯本へ…」
「いい?行・く・の・よ!」
「ひひひひひ。しばらくはネタに困らんわ」
「人が悪いな、トウジ」
ケンスケがトウジをやんわりと嗜めるが、顔はやはり笑っている。
「アスカ。私も行っていい?」
突然、ヒカリが会話に加わってきた。
「そらエェわ。オマエもあの子を見習ぅたら、少しは女らしゅうなれるはずや」
「…鈴原、あんたねぇ」
「馬鹿だね、トウジも」
ケンスケの呟きは、途端に始まったトウジとヒカリの口喧嘩でかき消された。
ぴん、ぽーん
「はーい、いらっしゃーい♪…あら?」
「…ごめん。また、友達が、ついて来ちゃった」
玄関前でシンジがすまなそうに頭を掻く。
シンジ達は総勢7名、今日は三尉が運転手を務めた。
リョウジが仕事を理由に運転手を断ったのだ。
ネルフのマークが入ったバンを見た瞬間、アスカがあからさまに不満を漏らしたが無視さ
れ、大層、機嫌が悪い。
「今日は女の子もいるのね。うれしい!」
無邪気に喜ぶマナに、アスカが近づく。
「初めまして。碇君のクラスメイトの惣流・アスカ・ラングレーです。よ・ろ・し・く」
「うわぁ、きれい。シンジ君の彼女、かなぁ?」
マナがシンジの方をちらりと見る。
「ち、違うよ」
「違うわよッ!」
アスカとシンジが同時に叫ぶ。
「ひっひっひっ。期待通りの展開やな」
「霧島さん、初めまして。私、洞木ヒカリって言います。突然お邪魔してごめんなさい。
…この子は綾波レイさん」
「洞木さんに、綾波さん。よろしくね」
顔をじっと見て、名前を復唱するマナ。
「度々お邪魔して申し訳ありません…」
今日は三尉が、大人代表として挨拶をしている。
リビングは、昨日にも増してにぎやかだった。
マナは、男女問わず対応が同じだった。
それぞれが話すことに熱心に聞き入り、驚き、笑った。
ここまで反応が良いと、話す方も楽しい。
ついいろいろなネタを披露してしまう。
学校での出来事、家庭での事、流行っている遊び、そしてエヴァの事…。
ミサトのマンション。
「調子狂っちゃうな、あの子」
アスカがマナの感想を話している。
「あそこまで無邪気だと、リキむのが馬鹿らしいったらありゃしない」
「でェ?噂の若奥様はどうだった?」
ミサトがビール片手に肝心な話を聞きだそうとする。
「大丈夫。あのタイプは加持さんの好きになるタイプじゃないわ…ってなぜそれを!」
「ミサトイヤーは地獄耳♪」
「悪魔の力って訳?あ〜イヤだイヤだ。まさかずっと監視してるんじゃないでしょうね」
「職務上の秘密に関してはお答えできません」
「…それって、僕達の間にも、秘密にしなきゃならない事がある、ってことですか?」
「どうかしらね。誰にも言えない秘密って、あるんじゃないかしら」
シンジの顔色を見ながらミサトが続ける。
「たとえばシンちゃんが、その霧島さんを好きになったとして、それをここで話したら
シンちゃんの事が好きなアスカは大ショックよね?」
「ちょっとミサト!何バカな例え話をしてんのよッ!」
「と、この様に日常は混乱し、平和は持続され得ないのよねぇ」
「ミサトが混乱させてるんでしょうが!」
「ミサトさん、答えになっていないんじゃあ…?」
「ムダよシンジ。すっかり酔っ払っちゃってるもの、保護者サマは!」
「ひひひ。これしきのビールで、ミサト様は酔ったりしませーん」
「もういい!お風呂入って、寝る!」
テーブルをバン!と叩いてアスカが立ち上がり、さっさと風呂場に向かう。
「シンちゃん」
「なんですか、ミサトさん」
「霧島さん、浴衣持ってるのかしら」
「持ってきていない、って言ってました」
「そう。じゃあ、レイとアスカの分と一緒に買ってこなくちゃ」
「ありがとうございます。うわぁ、やったぁ」
「明後日は花盛りよ、シンジ君」
「こんばんは。葛城ミサトと申します。」
次の日の夕方、ミサトは用意した浴衣を持って霧島家を訪ねた。
気に入った絵柄を選んでもらい、すそ直しまでするつもりだったが、ミサオが恐縮して固
辞した。
「重ね重ねありがとうございます。よい街でよいお友達に恵まれ、娘にも良い夏休みにな
りそうです」
「好きでやっていることですからお気遣いは無用です。それより、お嬢さんは?」
「少し具合が悪いものですから、早めにベッドに入りました」
「そうですか…。噂の美少女にお会いしたかったのですが、残念です」
「明日の夏祭りにはぜひ行きたい、と申しますので今夜は大事を取っただけです。ご安心
ください」
「解りました。では明日を楽しみにしています。失礼いたしました」
浴衣を渡すと、簡単な挨拶を済ませてミサトは帰路につく。
「シンジ君、ちゃんと渡して来といたからね。明日をお楽しみにィ。イヒヒヒヒ」
「ミサト!金魚の絵柄は私ンだからね!」
「判ってるわよォ。ほーら、ちゃんとキープしてるから。じゃアスカ、手直ししょっか」
そういうとミサトはアスカを部屋に連れて行き、サイズをチェックし始めた。
その夜トイレに起きたシンジは、ミサトの部屋から灯りがもれているのを見つけた。
「ミサトさん、まだ起きてるんですか?」
ドアの外から声をかけて見る。
「チョッチ、ね。慣れない事は時間がかかるわ。…あ痛ッ」
「大丈夫、ですか?」
「へーひへーひ。ほへほひひんひゃんほほへはふひゃ」
針で突いた指を、口に咥えながら喋っているのだろうが、なぜかシンジには意味が通じる。
「じゃ、寝ます。…ミサトさん、ありがとうございます」
「は〜い、っと♪」
「おかあさん、か。僕の母さんも、縫い物とか、したのかな?……」
シンジは、ほとんど記憶に無い母のイメージを、頭の中であれこれ考えているうちに眠り
に落ちていた。
次の日。
青い空に入道雲がそそり立つ、夏の景色。
子供達は祭りの気配に敏感になり、大人たちは祭りの準備に夢中になる。
「使徒」と言う、訳のわからない異物が「日常的に」現れている現在、人々のストレスは
潜在的に高まっている。
そこに、祭りである。
盛り上がらぬわけが無い。
シンジ達の補習は今日でお終いである。
今夜のお祭りを考えると授業どころではないのだが、宿題を増やされてはたまらないので
おとなしくがんばった。
最後に根府川先生の回顧録が五分程あったが、誰も聞いてはいなかった。
チャイムと共に教室を飛び出し、夜、行動を共にする者達が簡単な打ち合わせをしている。
「シンジィ。今夜はどないすんねん」
トウジが予定を聞いてくる。
「ミサトさん達が霧島さんを向かえに行くから、6時頃に桃源台で待ち合わせなんだ」
「ホナ、ミサトさん家で時間潰しでも」
「アスカと綾波の着付けがあるから、ダメだって」
「アスカが浴衣を着るんか!?こーれはエェ事を聞いたナ。あのキックは封印きゃ?」
「つまらない事を考えると、ミサトさんに嫌われるよ?ミサトさん、気合入ってるから」
昨夜のことを話すシンジ。
「ほーーー!そらまたびっくりやなぁ。いやー、ミサトさんもやっぱり女性なんやなァ」
「そうだね、見直しちゃった」
「よしゃ。ワシは8時頃までアスカをからこうてから帰るワ。うまいたこ焼き屋も探さん
ならんし」
「ケンスケは?」
「特に予定がないから、シンジ達を観察するよ」
「ほな、結末はメールででも教えたってや」
「判った。じゃ、6時に桃源台で」
「喜べぇ男子共ッ!綺麗な花が咲き乱れているぞォーーッ!」
集合場所の桃源台に着くなり、ミサトが大声でシンジ達を煽る。
リョウジとミサトが、アスカ、レイ、マナ、それにヒカリまで連れてやってきた。。
「なんでイインチョまでおるんや?しかもバケとるやないか!」
「なぁんですってェ、鈴原ッ!」
「へへーんだ。そんなカッコしとっても、元が変わらん限り女らしゅうはなれへんのや」
「ヒカリ、バカは相手にしてもムダよ」
「離してアスカ!一発殴らなきゃ気が済まないッッッ!」
早速、賑やかな雰囲気となり、お祭りムードが盛り上がる。
「あれ?加持さんは帰るんですか?」
「あのヴァカは仕事が残ってるんだって。普段から仕事をサボってるバチだわバチ!」
シンジの問いにミサトがはき捨てる様に答える。
騒がしい多数を放ったらかして、見つめ合う男女が一組。
「どうして私を見ているの」
「あーイヤ、似合ってるな、と思って」
「変じゃ、無い?」
「着るモノひとつで、雰囲気が変わるんだなぁ」
「…動きにくい」
「それで暴れちゃ大変だ」
チッ、と舌打ちをしてミサトがツカツカと歩み寄り、三尉の耳を引っ張る。
「今夜は集団行動なんだからねッ!あからさまにヘラヘラしない!」
「あのヒトも意外に…」
「困った一面があるのかもな…」
トウジとケンスケがひそひそ話をしている。
「さ!とっととお参りを済ませて、お祭りを楽しむわよ!…ったく、まさかコヤツまで役
に立たないとは…。飲んでやる、絶―っ対飲んでやる!」
ミサトは「お守り役」を買って出た事を後悔し始めていた。
第三新東京市の建設に伴い、神社などが移転を余儀なくされた時に地元とのトラブルは存
在した。が、合祀の前例は歴史上にもあり、「町ごとの移転」では反対のしようもなかった。
新しい町並み・新しい社殿。
それでも人々の素朴な信仰は根付き、引き継がれていく。
お参りを済ませると、一同は夜店の立ち並ぶ通りへ舞い戻った。
「たこ焼きや。美味そぉなたこ焼き屋を探さなアカン!」
そう言うとトウジは、脱兎の如く走り出す。
三尉とレイは既に射的に興じている。
「…では我々も縁日を楽しみましょおかねぇ…」
ミサトがそれを見ながら陰気につぶやく。
こんな時代でも、祭りは賑やかだ。
金魚すくい、くじ引き、型抜き、輪投げ、お面、綿菓子、焼きイカ、あんず飴、焼きとう
もろこし…あああ懐かしい。
老若男女がごった返すこの空間は、何とも言えない活気に満ち溢れている。
その人混みの中を、シンジ達が露店を冷やかしながら歩く。
アクセサリーを並べた露店の前でマナが急に立ち止まり、見入っている。
「どうしたの?」
「…ひまわりだぁ」
そう言ってマナが指差す先に、キーホルダーのひまわりがぶら下がっている。
黄色い花びらに囲まれたタネの部分にはスマイルバッジの様な顔が描かれ、植木鉢から
真っ直ぐに伸びた茎と左右に開かれた葉っぱが、さらにひまわりを擬人化している。
「?そう、だね」
マナが、何故こんな物に強い関心を示すのか解らないシンジは、曖昧な返事しかできない。
「欲しいなぁ…」
「はい、いらっしゃい。1個500円だよ」
「たっかーい!300円にまけて」
「うーん、困ったなぁ。彼氏、買ってあげなよ」
「うぁ、い、いや、僕、あの」
「2個で800円なら買う!」
マナがさらに値切る。
「…しょうがないなぁ。まぁいいや!はい、2個で800円!」
「あはッ♪やったぁ」
巾着袋から財布を取り出すマナ。
「お釣りの弐百万両!お嬢ちゃん、良い奥さんになるよ」
「ありがと。…ハイ、シンジ君、プレゼント」
マナがひとつをシンジに差し出す。
「えっ?僕の、なの?」
「うん。ペアペア」
「ペアペア…」
キーホルダーを手にして赤面するシンジ。
「ほォー!やるやないかシンジィ!おい惣流!こっちでシンジがラブラブやぞ!?」
突然、トウジが大声を出す。
「…うッさいわね!バカシンジが誰とイチャつこうが、関係ないわよッ!」
そう叫んで、プイと横を向くアスカ。
「ひひひひひ。怒っとる怒っとる。からかい甲斐のあるやっちゃ」
「ミサトさん、ワシ用事がありますよってに、これで失礼しますワ。ほな!」
「あら、そうなの?じゃあ気をつけて帰ってねぇ。バイバイぃ〜」
ビール片手に、少し機嫌の治ったミサトが小さく手を振る。
「…鈴原、美味しいたこ焼き、見つかった?」
ヒカリが尋ねる。
「アカン!どれも今ひとつや」
「あたし、美味しいお店、知ってる」
「ホンマか!?頼む、教えてくれぃ!」
「入り組んだ場所だから、口ではちょっと…。案内してあげる」
「うおおおおお!助かるわぁ」
「…じゃあアスカ、また明日」
そう言って、ヒカリはトウジと共に街に消えて行く。
「ヒカリ、やるわね…」
「まったく、どうしちゃったんだろうねぇ?」
いつの間にかケンスケが、アスカの横で腕組みをして見送っている。
「アンタまだ居たの?」
「当然だろ?トウジに今夜の報告しなくちゃいけないんだからさ」
「私は見世物じゃあないわよッ!」
「別にアスカの事だけじゃないだろ?たとえば、ほら」
ケンスケが指差す方を見るアスカ。
シンジとマナが仲良く金魚すくいをしている。
「あの二人の行動を逐一報告するとか、ね」
「むーーーッ!」
アスカが途端にふくれっ面になっていく。
夜道を歩いているトウジとヒカリ。
お祭りに出かけているのだろう、人通りは少ない。
「…でね、外側はカリッとしていて中身はふんわり柔らか。タコも大きいし、何よりソー
スが鈴原好みだと思う」
「ふぅん、なるほど。そら期待できるなぁ」
ヒカリがその店のたこ焼きについて説明している。
誰かの好みの味を探したり作ったりする、という行動の裏にある感情を、トウジはまだ
理解できていない。
「あそこよ」
閉店したスーパーの横にある、プレハブ建ての店だ。
看板には「大阪名物・ジャンボたこ焼き・たこ八」とある。
ソースの香りが鼻粘膜を刺激して、食欲を刺激する。
よほどの満腹でもなければ、ついつい食べてしまう魔力がたこ焼きにはある。
二つ注文すると、主が手際よくたこ焼きをひっくり返しながらパックに詰めていく。
「まいど。800円です」
店の前を離れると、トウジは急いで試食を始める。
「…美味い!こらァアタリや。イインチョ、おおきに」
「好みに合う?」
「バッチリや。これならコナツも納得するやろ」
「コナツ?」
「妹や。せっかくの祭りや言うのに、外出でけへんからな。見舞いついでに持って行っ
たるんや」
「そっか。じゃ、あたし、これで帰るね」
「アホゥ!祭りの晩に、女一人で歩かせられるかい。送ってくワ。家、どこやったかいな?」
「元湯場」
「あちゃー。…しゃあない。イインチョ、見舞いに付き合わへんか?」
第3新東京市・中央病院。
「えぇか?ここでのワシの行動はみんなには秘密やで」
「いいけど…どうして?」
「なんや恥ずかしいからな」
「解った」
トウジがドアのブザーを鳴らしてドアを開ける。
「コナツぅ!美味いたこ焼き、見つけて来たでェ」
「ホンマ、おニィ?」
ベッドを少しギャッジアップさせて本を読んでいた三つ編みの少女が顔を上げる。
右のおでこから頬にかけてガーゼで覆われている。
そこに傷があるのだろう。
「おぅ。このねーちゃんが教えてくれたんや。お礼言うとき」
「…びっくりやわ。おニィが女のヒト連れて来た…彼女なん?」
「アホゥ!なんちゅう恐ろしい事を言うねん。クラスのイインチョや」
「おニィうるさい。夜やし静かにせな」
「鈴原君の同級生で、洞木ヒカリって言います。初めまして」
ヒカリがくすくす笑いながら挨拶をする。
「兄がいつもご迷惑をおかけしています。鈴原コナツと申します。兄共々よろしくお願い
致します。たこ焼きありがとうございます。えと、それから…」
はきはきとしゃべっているが、どこかたどたどしいのは年齢のせいだ。
いや、この年齢でここまでできれば立派なものだ。
「口だけは達者やからな。かなわんワ」
トウジがたこ焼きをコナツに渡しながら、ヒカリに向かって苦笑いして見せる。
「えぇ匂いや。食べてえぇかな?」
「オマエのために買ぉて来たんや。冷めんうちに食べてまえ」
いただきます、と手を合わせてから、コナツがひとつ口に入れる。
「美味し!ありがとう、ヒカリねーちゃん」
コナツが全部食べ終わるまで3分とかからなかった。
「なぁおニィ。屋上で花火見ぃへん?」
「こんな時間に屋上に出てえぇんか?」
「みんな、見るて言うとった」
「よしゃ。準備しよか」
トウジが車椅子をベッドに近づける。
いつもはベッド横に置かれているが、トウジ達が座るのに邪魔なので移動させていたのだ。
顔の傷のほかに、左膝にも大怪我をしていて長距離はまだ歩けないのだ。
左足には装具がつけられており、動きが制限されている。
「手伝おうか?」
「大丈夫や。これくらいなら一人でできる…よいしょ」
コナツが立ち上がり車椅子に座ると、固定された左足が伸びたまま前方に突き出ている。
よく見れば車椅子も普通の物ではなく、動かない左足を支える様に受け皿がついている。
こうしないと、長時間座っているのが負担になるのだ。
ナースステーションに顔を出して許可をもらうと屋上に向かう。
病院の屋上、そこはある意味もっとも危険な場所だ。
病院に入院している人々は、回復することに希望を持って治療にあたる。
だが、不治の病と宣告された場合、その精神的苦痛は他人には計り知れない。
最悪の場合、自ら命を絶つ場合もある。
そして、その最後の場所が「屋上」である例は少なくない。
そのため、高いフェンスなどで囲まれているか、出入り禁止となる。
だが今夜は、ビルの谷間からのささやかな花火見物を楽しむ人達が集まっている。
「おニィ、ノド乾いたなぁ」
「ンなもん早ぉ言わんかい」
そう言いながらも自販機のある階下まで走るトウジ。
「ヒカリねーちゃん、よぉおニィの好きな味が分かったなぁ」
「うん、なんとなく」
「おニィの、どこが好きなん?」
コナツの鋭い指摘に一瞬戸惑いながらも、正直に答えるヒカリ。
「優しいところ。…鈴原って、優しいんだよ」
「うん、知ってる。でもなんやうれしいなぁ。おニィのえぇトコ解ってくれる人がおって」
「買ぉて来たでぇ。コナツ、どれがえぇ?」
「ヒカリねーちゃん、どれにする?」
「…オマエ等、ナニ急に仲良ぉなっとんや。ナニ話しとった?」
「おニィの悪口」
「イインチョー、頼むでホンマ。こいつの前じゃワシ、えぇ兄ちゃんしとんのやで」
「うそうそ。言ってないって」
「始まった!」
ビルの谷間に、ひょろひょろと光の筋が上がり、ぱあっ、と開いていく。
ひゅるるる どん! ぱら ぱらぱらぱら
距離が離れているので、光と音がずれている。
「ああ、やっぱキレイやなぁ」
「うん…」
しばらく三人は黙って花火を見つめていた。
「来年は、ちゃんとお祭りに行こうな」
コナツがトウジの手を握りながらつぶやく。
「おぅ。も少し歩けるようになっとけよ」
「うん。ヒカリねーちゃんも一緒に行こうな?」
「うん、行こうね」
「約束や。はい指切り指切り…おニィも指出して。ヒカリねーちゃんも」
渋い顔のトウジが、ヒカリと小指を絡める。
三人が輪になって指切りをする。
「ゆーびきーり げーんまーん ウーソつーいたーら はーりせーんぼーんのーます…」
三人に小さな約束が生まれた。
花火が終わると、辺りには静けさが戻ってきた。
ヒカリの門限もあるので、トウジが見舞いを切り上げる。
別れ際、コナツがそっとヒカリに耳打ちする。
「また来てな。おニィの話しような?」
「うん。また来るね」
今年の夏休みは、良い夏休みになりそうだ、そんな予感が芽生えていた。
「たまやー!」
桃源台の花火会場。
あちこちで喚声があがっている。
早川の河口・トウゴ淵辺りが打ち上げ場所だ。
シンジ達は遊覧船乗り場近くに陣取っている。
「きれいだね…」
ぽつり、とマナが言葉を発する。
「うん…」
「また、みんなで見たいな」
シンジはどきりとした。
身体が弱いことは、初対面の時に聞いている。容態は良くないのだろうか?
押し黙ったまま、時が流れる。
ゆらゆらと揺らめく水面に、花火が映り込んでいる。
沈黙に耐え切れないシンジが話題を探す。
「ね、ねぇ、どうして、そんなにヒマワリが好きなの?」
「なんかね、ほのぼの〜としてて、でもお日様に向かって胸を張って生きている、強い
一面もあるから。…おいしいし」
「食べられるの?」
「タネを食べるの。おいしいよ?子供のころ、ムサシやケイタとよく食べたなぁ…」
「…誰?」
「ん?…飼ってたハムスター。可愛かったよぉ。でも、死んじゃったんだ…」
シンジの視線が再び下を向く。
花火を打ち上げる音、炸裂する音、周りのざわめき。
祭りの喧騒から取り残されている錯覚がシンジを襲う。
「あーーっ!枝垂れ柳!」
マナが突然大声を出す。
その浮き沈みの激しさにシンジが驚いて顔を上げると、マグネシウムが燃えながら
すぅ、すぅ、と幾条ものなだらかな曲線を描いて降ってくる。
「…ったくバカシンジの奴、ナニやってんだか」
アンズ飴を舐めながら、アスカがシンジ達を見ている。
「そういう惣流こそナニやってんの。いいのか?シンジの奴、メロメロみたいだぜ」
こちらはイカ焼きを持ったケンスケである。
「シンジがメロメロだと、私に何か不都合でも有るワケ!?」
「素直じゃないねぇ」
「…アンタ、自分の心配したら?いつまでも『ミサトさーん』なんて言ってらんないわよ
だいたい、年いくつ違うのよ?」
「ミサトさんは永遠のアイドルだからね。年齢差については、同じ質問をそっくりお返し
するよ。惣流はどう答える?」
ミサトとケンスケの年齢差は、すなわちリョウジとアスカの年齢差でもある。
アスカの言葉は、日頃の言動を自ら否定しているのだ。
「…うッさいわね、あのバカップルだってがんばっているじゃない!」
レイと三尉を指差して、アスカが反論する。
「あの二人が、惣流の理想と希望かい?」
「くッ」
「理想の二人」とはとても言えない。
だが…当人達は幸せそうだ。
「私と加持さんなら、もっとスマートなんだから!」
やれやれという表情でアスカを見ると、ケンスケは天を仰ぐ。
「俺達としちゃあ、シンジと惣流の夫婦漫才を見るのは面白いんだがな。息ぴったりだし」
「他人のための恋愛じゃないし、息も合ってない!」
「ムキになるのは図星を衝かれたからだ、って言うぜ?」
「ちっがーーーうッ!」
「あ、いよいよ仕掛け花火みたいだぜ」
湖水の上に設置された土台から光が走り出す。
やがて光の線が文字と絵を描き、最後の花火へと続いていく。
芦ノ湖畔・霧島家の仮住まいの前に、一台の車が停車する。
ブレビス・09年式、やや年配向けの地味なセダンである。
車から降りたのは、40前の中肉中背の男だ。
赤外線キーで車のドアを閉めながら玄関前まで歩くと、迷わずチャイムを鳴らす。
突然、ライトが男を照らし、ついで誰何の声がする。
「霧島マナさんのお父様ですか?」
「だ、誰だ?」
後ろから急に声をかけられ、驚いて振り向く男性。
ブレビスの後ろに、いつの間にかリョウジのプリウスが止まっている。
どうやらバッテリー駆動で走って来たようだ。
「加持リョウジと申します。夜分に突然の訪問、失礼しました。ところで、鍵は無くされ
たのですか?」
「あ、ああ。家に忘れてきたらしい。…加持君と言ったな、何の用かね?」
「いえ、たいした用事じゃあありません。お嬢さんが、今日のお祭りに行けたか気になり
ましてね」
「…さぁ、どうかな?道中、携帯の電源は切っておいたから」
その時、玄関の扉が開いてミサオが顔をのぞかせる。
「ま、あなた。どうしたの?…あら、加持さんも」
「マナが祭りに行ったか気にされてわざわざ来られたらしい。ちゃんと行ったのかい?」
「ええ、葛城さんが向かえに来られて…」
「…だそうだ。安心してくれたまえ」
「そりゃー良かった」
「お急ぎでいらっしゃらないのでしたら、ここで花火でもご覧になりませんか?」
「いやぁすみませんねぇ。特等席だ」
ミサオの申し出に、躊躇せず応えるリョウジ。
テラスからは湖尻水門が見渡せたが、距離がやや遠いので花火が小さく見える。
だが、リョウジは満足そうに時々、おおぅ、などと喚声を挙げている。
「良ければ中で酒でもやりながら見ませんか?」
「生憎、車ですからね。ですが、お話には参加させて頂きましょう」
主人の言葉に、リョウジがリビングへと入っていく。
ミサトが酔っ払ったため、マナを送ってきたのは三尉とレイであった。
それをきっかけにリョウジも霧島家を後にする。
車の前で何やら話しているリョウジと三尉。
やがてそれぞれの車に乗り込み、霧島家の前から姿を消す…。
三尉とレイはまっすぐに自宅を目指したが、リョウジはそうしなかった。
リョウジの『仕事』は、これからなのだ。
次回「事件」に続く