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530:03/05/31 09:31 ID:???
わかりました。
ほかにFF投下スレってあったか?
今から投稿する作品は以前第弐に投下したものですが、
重大なミスがあることを今頃気づきました。
そこでそのミスを修正、かつ改定を施した完成版をこちらに投稿します。
こちらには読者さんが多いようなので、感想をいただけるとうれしいです。
8年目のクラス会
1
「ほんとにそんな約束したかなあ。おれ、ぜんぜんおぼえてないぜ。」
教室に入ってくるなり、そう叫んだのは、ムサシ君に違いない。
8年前のムサシ君は、クラス一の甘えん坊で、いつも先生の後ばかり追いかけていた。
それが、今ではすらりと背が伸びて、真っ黒に焼けている。
「いいから、いいから。ええと、霧島さんの隣ね。」
相田君に肩をたたかれて、ムサシ君は輪になって座っている子供たちを見まわした。
「これ、ふじ組の子供?見覚えないなあ。」
首を振りながら、それでも迷うことなく、霧島さんの横に腰を下ろした。
幼稚園の椅子は小さくて、背の高いムサシ君には、座りずらそうだった。
「山岸さんたち、そろそろ手分けしてジュースやお菓子、配ってください。」
相田君の声に、山岸さんや浅利君が立ち上がって、教室の隅のダンボール箱を開け始める。
「ああ、僕も手伝うよ。」
城南学院の制服を着た渚君も加わった。
「ねえ、ねえ渚君て、城南に入学したのねえ。かっこいいなあ。」
惣流さんが洞木さんにささやいている。
惣流さんも、白百合女子中学のセーラー服を着ていた。
惣流さんは昔とあまり変わってないようだ。
幼稚園のころもおしゃべりで、誰とでも仲良くなったし、すぐにけんかした。
「ジュースとコーラ、どっちがいいですか。コーラのいい人、手を上げてくださーい。」
浅利君がどなっている。
「あなた、どっちにするの?」
惣流さんがまた洞木さんに話しかけた。
「そうね、私はジュース。」
洞木さんは小声で答える。
「じゃああたしはコーラもらおっと。人と同じじゃあつまらないもの。」
惣流さんは、立ち上がって手を振った。
「ここコーラとジュース。ヒカリがジュースで、あたしがコーラよ。」
「はいはい。コーラ1本にジュース1本。」
浅利君が両手に抱え込んだ缶の中から、コーラとジュースを抜き出した。
「あなた、浅利ケイタ君でしょ。浅利君はどこの中学?」
「僕?僕は壱中。」
「壱中って、公立の第壱中学?私立は?」
浅利君がにやっと笑った。
「付属と城南受けて、どっちもすべっちゃった。」
「残念ねえ。浅利君って幼稚園のころ、いつも先生にほめられていたじゃない。
「はは、むかし秀才、いま落ちこぼれ。きみは、アーちゃんだろ。惣流アスカ・・・
へえ、白百合かあ。あそこ、難しいんだよねえ。」
「まぐれよ。だって、うちの学校から5人受験して、パスしたのは、
一番成績悪かったあたし一人だもの。受験って、運よねえ。」
しゃべりながら、惣流さんは、ちらりちらりとまわりのこの反応をうかがっている。
白百合女子中学に入学したのを自慢したくてたまらないらしい。
浅利君は、目を細めて惣流さんの顔をながめている。
その目に幼稚園時代の面影が残っていた。
教室の向こうで拍手が起こった。葛城ミサト先生が到着したのだ。
「ごめーん。ちょーっち保護者の方と話してて。遅れちゃった。」
先生はいくぶん上気した顔で、教室に集まった子供たちを、ひとりづつながめまわした。
「みんな、大きくなって・・・先生、うれしいわ。」
ほとんどの子が、8年ぶりの再会だった。
「先生は、ちっとも大きくならないねえ。」
ムサシ君がまぜっかえした。
「まあ、あなた、ムッ君でしょう。」
先生に見つめられて、ムサシ君は、照れくさそうに頭を掻いた。
2
ネルフ幼稚園ふじ組のクラス会を計画したのは、相田君たち、
幼稚園の近所に住んでいる子供たちだ。
8年前、ふじ組の子供たちは、卒園後8年たったらまた会いましょうと、
約束したのだそうだ。
相田君たちはこの約束を思い出して、今日の会を開いた。
「ふじ組は、全部で30人いたんですが、案内状が戻ってきた人が10人くらいいました。
8年前の住所録を使ったので、引っ越した人もいると思います。
出欠の返事があったのが19人で、そのうち、今日来るといった人が12人です。
あと、新庄君と安岡さんがくることになってるんですが・・・」
長々とした相田君の挨拶に、みんなは退屈し始めていた。
そして、懐かしい教室の中をながめまわしている。
8年前、この部屋で歌を歌ったり、絵を描いたのが夢のようだ。
確か灰色だった壁の色は、今は薄い緑に塗り替えられていた。
ただ、天井のゾウやキリンの絵は、昔のままだし、教室の隅においてある、
組み立て式の滑り台は、ぼくらが使ったものらしい。
やっと相田君の挨拶が終わり、葛城先生が立ち上がった。
「ほーんと、何から話したらいいか・・・
幼稚園に勤めるようになって9年になるけど、
クラス会をやったのはみんながはじめてよ。
だからすごーく感激しちゃって・・・立派に成長したみんなに会えて、
こんなにうれしいことはないわ。」
先生が、ハンカチを目に当てた。
ふいに女の子の声がした。霧島さんだった。
「先生、失礼ですけど、独身ですか?」
葛城先生の耳がピクリと動く。そして声のしたほうを睨みながら答えた。
「そうよ。悪かったわね。」
「あの、先生は今おいくつでっしゃろ?」
鈴原君だ。
「確か30歳だと思ったけど。」
渚君だ。二人ともなんてことを・・・
ああ、葛城先生のこめかみに血管か浮いてる。やばい。
「失礼ね!私はまだ29よ!!」
霧島さんの質問をきっかけに、みんながてんでに話し出したので、相田君が急いで立ち上がった。
「ええ、それでは自己紹介に移りまーす。まず、山岸さんから順番にお願いします。」
相田君に指名されて、ロングヘアの女の子が立ち上がった。
「山岸マユミです。じつはわたし、8年前に約束したこと、すっかり忘れてたんです。
2月ころ相田君や霧島さんと会って話しているうちに、
なんとなくそんな約束をしてたのを思い出して・・・
でも、今日は皆さんに会えて、ほんとによかったと思いました。」
山岸さんがお辞儀して座るのを待っていたように、向かい側の惣流さんが尋ねた。
「マユミ、どこの学校なの?」
「あの、付属に通っています。」
男子も女子も、へえっ、という顔つきになった。
付属というのはむろん国立大学の付属中学で、市内一のエリート校だ。
幼稚園のころの山岸さんは、目立たない子だった。
今日だって、紺色のスカートに白いブラウスという、地味な格好をしている。
次に、黒いジャージを着た男の子が立ち上がって関西弁でしゃべりだした。
「えー、わしは鈴原トウジや。幼稚園卒園した後、大阪にいっとった。
去年第3新東京市に戻ってきたんや。ケンスケらとは去年から付き合いあったんやが、
今日は久しぶりに見る顔が多くてほんま懐かしいわ。今は壱中に通っとる。」
その次は霧島さんだった。
「相田君や浅利君や山岸さんたちと一緒に、今日の会のお手伝いをさせていただきました。
皆さん、いい学校に進学されているんで、ちょっと恥ずかしいんですが、
中学は、公立の、第壱中学に通っています。
あ、名前は霧島マナでーす。」
「だいじょうぶ。いくら名門幼稚園を出たって、
だめなやつはいっぱいいるんだから、恥ずかしがることはないよ。」
ムサシ君が、しゃべりながら立ち上がると、ぺこんと頭を下げた。
「僕も山岸さんと一緒に付属小学校に通っていましたが、8年の間に落ち目になり、
ついに私立の三流中学に通うはめになった、ムサシ・リー・ストラスバーグであります。
幼稚園のころはムッ君と呼ばれて、みなさんにかわいがられていました。」
「ムッ君、私立ってどこだい?僕のところ?」
紺色の制服を着込んだ渚君が、身を乗り出す。
「とんでもない、城南みたいなエリートさんの学校じゃありませんよ。」
ムサシ君は、とうとう自分の入学した学校名を口にしなかった。
ムサシ君の言ったように、ネルフ幼稚園は、市内でも指折りの有名幼稚園だった。
難しい私立小学校にも、たくさん合格者を出している。
このクラス会だって、言ってみればエリートの集まりみたいなものだ。
だけど、自分の学校の自慢をしあうだけで、このクラス会が終わるわけはない。
誰かが、きっと、あのときのことを口にするに違いない。
と、ぼくは確信していた。
3
10人の子供たちは、次々と自己紹介をしていく。
とうとう綾波さんの番になった。
綾波さんは、ゆっくりと立って、紅い瞳で教室の中を眺め回す。
「綾波レイです。私の家は、袋町にあるので、園のバスで通っていました。
バスの中で歌を歌ったのが楽しい思い出です。中学は女学院に入学できました。」
浅利君が、大きな声を上げた。
「レイちゃんおぼえてるかい。僕がラブレター上げたの。」
綾波さんは、あいまいな顔で微笑む。
綾波さんは、もう忘れてるかもしれないが、ぼくはちゃんとおぼえている。
手をつないだ男の子と女の子の絵の横に、
‘‘綾波レイちゃん、ぼくのおよめさんになってください。けいくんより。‘‘
と、書いてあった。けいくんというのが、浅利ケイタ君の愛称だ。
けいくんが書くと、ふじ組の男の子は、こぞってラブレターを書いてレイちゃんに渡した。
もちろん、ぼくも書いた。でも、とうとう渡せなかった。
あのころの綾波さんは、なんていうか、お姫様みたいだった。
ふじ組の男の子も女の子も、綾波さんの言うことなら、何でもきいた。
鈴原君も、レイちゃんだけは、けっしていじめなかった。
「そうよねえ、綾波さんって、すごく人気あったわよねえ。」
隣に座っていた霧島さんが何度もうなずいた。
「綾波さんってふじ組にいた?あたしおぼえてないわよ。」
惣流さんが機嫌の悪そうな声をあげる。
「あら、そう。私はあなたのこと、よくおぼえてる。
いつだったか、傘を忘れて泣いていたから、貸してあげたじゃない。」
「あたしが・・・?へえ、そう。あたし幼稚園のとき、泣いたことなかったんだけど。」
「うそこくなや、自分、しょっちゅうぴーぴー泣いとったやんけ。」
鈴原君が冷やかした。
「ぜーんぜん記憶にありません。あんたがおもらししたのはおぼえてるけどね。」
惣流さんが、やりかえした。
「わし、おもらしなんてやってへんで。おもらしの常習犯は、えーと、なんやったっけ、そうや、シンジ、シンジや。」
鈴原君は、小さくうなずきながら叫んだ。
「ああ、亡くなった子だね。碇シンジ・・・」
渚君が答える。
「え、あの子死んだの?」
ムサシ君だった。
「そうだよ、お葬式にみんなで行ったじゃないか。そうでしたよね、先生。」
渚君が、葛城先生のほうを振り返った。
「ええ、碇シンジ君は、病気で亡くなったわ。
豆まき会の少し前だから、1月じゃなかったかしら。」
渚君はムサシ君を見て、
「不人情だねえ。ムサシ君。
クラスの人が亡くなっていたことぐらいおぼえていてもいいんじゃないのかい?」
ムサシ君は、まだ思い出せない様子だった。
「そんなことあったか?シンジってやつがいたのはおぼえてるぜ。
なんていうのか、陰気なやつだったよな。そいで、とにかくおもらしをするんだ。
みんな、おしっこくさいって、あいつのこと嫌がってたよなあ。」
部屋の空気が水あめのようにねっとりしてきたと感じたのは、ぼくの錯覚だろうか。
「すいません。自己紹介、早く済ませて、乾杯したいんですけど・・・」
相田君が遠慮がちに言った。
4
乾杯がすむと、ミサト先生を囲んで幼稚園時代のアルバムを見ることになった。
みんなは先生の周りに集まって、床に座る。
「これはふじ組になって最初の遠足ね。お城に行ったのよねえ。」
先生が広げたアルバムを、子供たちは首を伸ばして覗き込む。
そういえば、幼稚園のころ、こんな風にして絵本を読んでもらっていた。
石垣をバックに、水色のスモック姿の子供たちが並んでいた。
「あー、これわしや。」
鈴原君が両手でVサインを作って座っている中央の子を指差す。
「はは、幼稚園のツッパリってとこかな。」
浅利君が言うと、鈴原君も、ほんまや、といって笑った。
「いやあ、あたし目をつぶってる。」
惣流さんが声を上げた。
「そのときも泣いてたのね。」
綾波さんが言う。惣流さんが、無言で綾波さんをにらんだ。
「ああ、この子だね。碇シンジ君は・・・」
渚君の声で、24の瞳が、制服の腕の先に集中した。
画面の端っこに、帽子をあみだにかぶった男の子が立っていた。
「なんだか、怒ってるみたい。」
洞木さんが、ささやく様につぶやく。
「あいつ、いつもこんな顔してたよ。
そういや、みんながお遊戯していても、あの子だけ、教室で絵を描いていたな。
どうしてだろ。」
相田君が、誰ともなく言った。
「シンジ君は、心臓が悪かったのよ。
お葬式の後、お母さんにうかがったけど、遅かれ早かれ、ああなっただろうって。」
しゃべりながら、先生はページをめくった。
「あっ、これ七夕祭りじゃない。みんなどんな願い事書いたのかなあ?」
大きな笹竹のまわりを子供たちがとりまいている写真だった。
「ああ、シンジ君も短冊持ってる。」
また誰かがその名を口にした。
子供の群れから少しはなれたところに、やせた男の子が赤い短冊を持ってしゃがんでいた。
「あいつ、なに書いたんだろう。体が丈夫になるようにってお願いしたのかな。」
浅利君の声は沈んでいた。
「もしかしたら、おもらししませんようにって、書いたのかもよ。」
惣流さんが笑いながら言ったけど、誰も笑わなかった。
「あの子のお葬式怖かったわ。」
山岸さんが、ぼそっと言った。
「お父さんがね、私たちのこと、怒ってるみたいだった。」
「なんでや。あいつのこと、いつもいじめとったからか?」
鈴原君が、ちょっと気色ばんで質問する。
「知らないわ。でも、ずっとにらんでたもの。わたし、早く帰りたかった。」
「そんなことないやろ。誰もあいつに恨まれるようなこと、しとらんやろが。」
鈴原君が、忙しく部屋の中を見回した。しかし誰も答えなかった。
「さ、みんな。シンジ君のことはそれぐらいにして、次の写真みないこと。」
先生が幼稚園のころのような口調で促す。
次のページは、水遊びの写真だった。
ビニール製の簡易プールの中央に水着の女の子がポーズをとって笑っている。
周りの男の子たちは、船やじょうろで遊んでいた。死んだ子の姿は見当たらなかった。
「うわあ、アスカちゃんじゃないの。ポーズ決まってるう〜」
霧島さんが陽気な声を上げる。
「ねえ、惣流さんて、幼稚園のころから、おっぱい大きかったの。」
「そうじゃないわよ。セパレーツだから大きく見えるのよ。ねえ、そうでしょ。」
女の子たちが口々にしゃべりだすと、男子も勢いづいた。
「あのころは、みんなへっちゃらでヌードになってたなあ。」
相田君がにやにやして言うと、渚君も笑って答える。
「そういえばぼく、女の子にパンツ脱がされたことあったよ。」
「あら、脱がされたのは、男の子ばかりじゃないわよ。」
山岸さんが、にこりともしないで答えたから、部屋中で笑い声がはじけた。
5
「あの子のパンツも脱がしたよなあ。おれ、なにもかも思い出しちゃったよ。
パンツだけじゃない、上着も何もかも脱がして裸にしたんだ。あれ、寒い日だったなあ。
あそこの洗い場へ連れて行って、水をじゃあじゃあかけたよな。」
それがムサシ君のつぶやく声だとわかったのは、笑い声が静まったころだ。
ムサシ君は、窓の外を見つめていた。
「あの日は、そんなに寒くなかったわ。それに仕方なかったのよ。
おもらしたから、みんなで体を洗ってあげたんだもの。」
霧島さんがゆっくりと反論した。
「うそ、寒かったわ。シンジ君、青くなって震えてたもの。
あたし、やめて、やめてって、何回も止めたのに。」
惣流さんの言葉は、途中で鈴原君にさえぎられた。
「へえ、そないなことあったんか。わし、忘れとった。」
そのとたん、ムサシ君の鋭い声がした。
「とぼけるなよ。お前が最初にいったんじゃないか。
シンジ君を裸にして水ぶっかけようって。」
「ちゃうわ、わしやない。
誰やったか忘れたけど、碇がおもらしして、臭いから水で洗おう言い出したんや。
自分かて面白がって水かけとったやろ。」
「ああ、おれもかけたさ。
おれ、あのころ根性なくてさあ、お前の言いなりだったもんなあ。
お前が水かけないと、殴るって脅かしたから、おれ、シンジ君の頭から水かけたんだ。」
いつの間にか鈴原君もムサシ君も立ち上がって、にらみ合っていた。
「ま、待ってくれよ。」
相田君が、二人の間に割り込む。
「お前たち、どうかしてるぞ。いいか、あの日のことは、俺もよく覚えてるさ。
あの朝、碇が幼稚園に来て、すぐおもらししたんだよ。
まだ、先生がいなかったから、教室にいた子が相談して体を洗ってやったんだ。
な、みんな、そうだっただろ?
あの子の心臓が悪いって知ってたら、あんな無茶しなかったと思うな。」
2,3人の子が、あわてたように大きくうなずいて見せた。
「そうじゃなかったわ。」
女の子の声がした。
低くて小さい声だったけど、みんなはじかれたように、声のほうを見た。
洞木ヒカリさんだった。洞木さんは、いやいやするように激しく首を振った。
「そうじゃなかったでしょ。あれ、お仕置きだったはずよ。
シンジ君が、あんまりおもらしするから、みんなでお仕置きするんだって・・・
ええ、私も水かけたわ。シンジ君、がちがちふるえてたわ。
そいで、ごめんなさーい、もうしませんから、許してくださーいって・・・
でも誰もやめなかった。水がすごく冷たくて、手が痛いくらいだったわ。
シンジ君、次の日から幼稚園に来なくなって・・・それで、死んだのよ。」
洞木さんは、そこまでしゃべると泣き伏してしまった。
渚君が青い顔をし、立ち上がった。
「洞木さんの言うことを聞いていたら、
まるでぼくらが、シンジ君を殺したみたいじゃないか。」
渚君は、いらいらと部屋の中を見回していたが、やがて先生を振り返った。
「先生は真相をご存知なんでしょう。話してくれませんか。」
「真相も何も・・・シンジ君は、さっきも話したとおり、心臓の病気があったの。
あなたたちがそんないたずらをしたの、ちっとも知らなかったけど、
それとこれとは関係ないと思うわ。
さ、もうこんな話はおしまいにしましょう。せっかく8年ぶりに会ったんですもの。相田君、次はなにかして遊ぶんじゃないの。」
先生がアルバムをパタンと閉じたとき、惣流さんが口を開いた。
「あたし、すっかり思い出した。この中で、誰が1番悪いかってことよ。」
惣流さんは立って、子供たちの顔を1人1人眺め回す。
「あの日、1番最初にお仕置きのこと言ったの、あなたじゃなかったかしら。」
惣流さんの右手がさっと伸びて、綾波さんの整った顔を指差した。
「綾波さん、あなたがみんなに命令したのよ。確かこんなふうに言ったわ。
困ったシンジ君ねえ。またおもらししてる。
みんなでお仕置きをしたほうがいいんじゃない・・・って。
そうしたら、渚君がどんなお仕置きをするのって訊いたのよ。
あなた、にこにこ笑いながら答えたわ。水をかけて洗いましょうって。
綾波さんが言ったことだもの。
浅利君も鈴原君も、すぐに賛成して、シンジ君を無理やり裸にして、
表の洗い場に連れて行ったわ。」
「でたらめいうな!」
浅利君が、すごい剣幕でどなったけれど、惣流さんはやめなかった。
「でたらめ?だって、あなたが服を脱がしてたの、あたし覚えてるもの。
それから、山岸さん、あなたはバケツ持ってきたわよねえ。」
「おい、お前だけいい子になるなや。自分かて、あいつがぶるぶる震えるのが面白いって、水かけとったで。お前も共犯やいうこと忘れんなや。」
鈴原君の声は、かすれていた。
惣流さんは、じっと綾波さんをにらみつけている。
「さあ、綾波さん、あたしのしゃべったこと、うそがあるかしら。」
クラスメートの目が、自然に綾波レイさんに吸い寄せられる。
ピンクのカーディガンを羽織った綾波さんは、横座りに床に座ったまま、
ゆっくりと惣流さんにうなずき返した。
「あなたのおっしゃるとおりよ。だって、わたし、碇君のこと大嫌いだったもの。
でも、碇君のことを嫌っていたのは、わたしだけじゃないわ。
先生、先生も碇君のこと、いやだったんでしょう。」
綾波さんが先生のほうに視線を移した。
「先生だって、あの朝、わたしたちが碇君を裸にして水をかけたの、知ってましたよね。
教室の窓から、ずっと見てらっしゃったの、わたし知ってたんです。
それで、碇君が、あんまり泣くものだから、先生教室から出てきて、
わたしにおっしゃいました。
レイちゃん、もう、それぐらいで勘弁してあげなさい。
わたし先生に言われて、みんなを止めたんです。
それからバスタオルを持ってきて、碇君の体を拭いてあげました。
もし、あのことで碇君が死んだのなら、先生、先生も、わたしたちと同じですよね。」
綾波さんは、話し終わると、白い歯を見せて笑った。
幼稚園のころと少しも変わらない、おひめさまのような笑顔だった。
6
夕日が白いモルタルの壁を赤く染めている。
教室から吐き出されてきた子供たちの顔は、どれもこれも、どんよりとくすんでいた。
みんなは、ちらりと庭の隅の洗い場を眺め、それから足早に門のほうに急ぐ。
少し遅れて相田君たちがジュースの空き缶を詰めた段ボール箱を抱えて出てきた。
「相田よう。」
滑り台の陰に立っていたムサシ君が、近寄ってきた。
「8年前クラス会やろうって約束したこと、誰が思い出したんだ?」
「うん?うん・・・みんなで話してたら、なんとなく思い出したのさ。なあ。」
相田君が、山岸さんや浅利君を振り返った。
「そうなの。ほんと最初に思い出したの、誰だったかしら。だけど、いやね。
こんなクラス会、もう、ぜったいしないわ。」
霧島さんが深いため息をついた。
「こんなはずじゃなかったけどな。ゲームしたり、歌を歌ったり、
楽しくやるはずだったんだ。
そういえば、安岡も新庄も、とうとう来なかったな。」
「おれも、ここにくるまで、そんな約束したかなあって、考えてたんだけど、
みんなと話してるうちに思い出したよ。確か卒園式のころ約束したよなあ。
8年たったら、ここで会おうって・・・。」
ムサシ君は、自分自身に言い聞かせるふうで、なんどもうなずいた。
それから相田君の肩をぽんとたたいて歩き出した。
10人の子供と、1人の先生は、それぞれの世界に戻っていく。
しかし、みんなの心の奥に、ぼくは生き続けているのだ。
ぼくは決してみんなを恨んではいない。ただ、みんながぼくのことを忘れないように、
ぼくにしたことを、ちゃんとおぼえて置いてもらいたいだけだ。
8年たてば、あの子達は、また約束のことを思い出して、ここに集まってくるだろう。
そして、ぼく、碇シンジのことを話し合う。
生き続ける限り、ぼくのことを忘れないために。それが、みんなとぼくの約束なのだから。
了
興味深いけど……暗い。読んでてウトゥだよ。
お互いのやったこと指摘して終わり。曖昧なままで誤魔化しって
のはエヴァ的かも(藁
つーかエヴァでやる意味無いじゃん。
>>562 まあまあ。
>>560 勘違いだとあれなんだが、相田=シンジでいいんだよな?
死んだって所からなんとなくそんなかんじはしていたんだが。
おもろかった。
これを契機に職人さん帰ってこないかなぁ。て言うか帰ってきて。
1
プカ〜プカ〜プカ〜
普通の生徒ならまだ授業を受けてる時間だろうか?
誰も居ない学校の屋上で誰かが片膝を立てて座り込んでいる。
さらっ艶やかな短い黒髪に女性と間違えられそうな繊細な顔立ち、口にはタバコが咥えられておりモクモクと風に煙が流されていく。
学生服のシャツをズボンから出してラフな格好をしている。
口にはタバコが咥えられていて風に靡く様にフワフワと流れている。
S−DATのイヤホンを耳にしてまるで外界を遮断している様にも見える。
誰も居ない空間で目をつぶって気持ちよさそうに紫煙を吐き出す。
プカリ・・・プカリ・・・
セブンスターの煙がフワフワと空に舞い上がる。
誰も自分に干渉する事の無い一時、これほど幸せな事があるだろうか?
なぜ他人の顔色を伺ったりしなきゃいけないのか?吐き気がする。
極少数の例外はあるが今まで独りで居る幸せな時間を阻害した奴には
それ相応の制裁を加えてきた。
他人を傷つけるのも傷つけられるのも煩わしい。特に傷つけられるのはゴメン、慣れる事はない。
今まで傷つく前にそういう要因を排除してきた。気持ち悪い物は全て視界から排除してきた。
傷つけるより傷ついた方が良いなんて嘘っぱちだ。
この世の中には大きく分けて踏み付けにする者と踏み台にされる者しか居ないのだから。
>>564 ちがうべ、
>>渚君の声で、24の瞳が、制服の腕の先に集中した。
ってあるから、このクラス会にはシンジも参加してるんだろ?
メンバーは、レイ、アスカ、カヲル、トウジ、ケンスケ、ヒカリ、
マナ、ムサシ、ケイタ、マユミ、ミサトで11人だろ。
1人足りないじゃん
つまりこのクラス会には幽霊(?)シンジも・・・・・
((;゚Д゚)ガクガクブルブル
2
それと同くして誰も居ないはずの屋上に向かう人影が一つ。
カツカツと屋上に続く階段を上っていく。
短く切った髪を立てた黒髪でキリッとした男らしい顔つき、
黒いジャージに身を包み右手には大きな弁当箱を持っている。
躊躇う事無く屋上に続く扉を開ける。
ガシャン・・・
早めに飯でも食ってそのまま昼寝でもしようかと思って屋上まで来ると
フェンスにもたれ掛かったシンジが居た。
眠るように目を閉じてヤニを気持ち良さそうに吹かしながらS−DATを聞いている。
軽い瞑想状態とでも言うのだろうか?こういう時は放って置くのが一番だ。
俺はコイツを親友達だと思っているが俺もコイツも馴れ合うのは嫌いだ。
こいつは自然な気持ちの良い距離で付き合えるので心地良い。
「ああトウジか」
シンジが目を開けそのままの姿勢でボソッと言った。
3
「音楽聴きながらヤニかいな?ええ身分やのぉ」
冗談っぽくシンジに話しかけた。学校だというのに堂々としたものだ。
俺もコイツと同様良く喧嘩をするがヤニは吸わない様にしてる。
ずっと前吸っている所を妹に見られて
「健康に悪いんだから吸っちゃダメ!!ヤニ臭い兄ちゃんなんか嫌!」
なんて言われた。目に入れても痛くない妹を心配させるのは望むところではない。
嫌といわれたのが何よりグサっと来た、シスコンというか親の心境だろうか?
前に俺に因縁つけて妹に手を出そうとした奴らが居た。そいつらを全員半殺しにしてやった。
その噂を聞いたのか、それ以来俺の妹に危害を加えられる事は無かった。
だがそれよりこの目の前にいるこの男が問題だ。前家に来た時俺と妹にある材料で飯を作ってくれた事があった。
人付き合いが嫌いで無愛想なシンジも女子供には優しいらしくニコニコしながら
「どう?おいしいかなぁ?」
なんて言いやがる。男に耐性のない妹はコロッとシンジに惚れてしまったらしい。
惚れたと言っても憧れとかそんな程度だろうが・・・
「はにゃ〜ん、シンジさんを連れてきて」と五月蝿い。兄としては非常に心配だ。
そして今ここに居ないケンスケという男が居る。この男はある意味シンジより危険だ。
しきりに妹に会わせろ会わせろと言って家まで来ようとする。はっきり言って変態の類だ。
長い付き合いの親友だがそれだけは絶対譲らない。
コイツも本気でないのだろうが、
それでも普段の行いが行いなので信用に足るということは無い。
煩わしいなどと言って俺達は親友だろう。妹の事意外は・・・
>>566 なっ………そ、そうか。誤読スマソ。
ってそうであったならコワー((((;TДT)))
>>569 たぶんそうだね。
そこ、改訂前は22の瞳になってたから。
で、参加予定は12人で結局2人来なかったってことから
実際にいたのは子供10人+ミサトの11人。
>>568 新作キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
イガイって誤変換する人多いね。
でも何か好きな文体でつよ。>ロクデナシ氏
「8年目のクラス会」面白かった。
すごい短い話なのにものすごい内容が濃い。
12人のキャラに無駄な人物がいなくて、しかも一人一人書き分けが出来てる。
短編のお手本のような作品だとおもた
死人?がクラス会に参加してるっていう怪談のような話だけど
読み終わったあとには、切ないような物悲しいような不思議な読後感だった。
投稿野朗氏の文章力と構成力はすごいと思う。
保守点検整備指差し点呼安全確認。
寂れたな・・・。
エバオタ( ´;゚;ё;゚;)キモッ!!