目が覚めたら横に初号機が寝てたスレ

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784ひとりあそび・245:05/01/27 13:13:51 ID:???
目の前が真っ暗になった。
「カヲル君…?」
呟いた。何度呼んでも、もう声は戻らなかった。
一気に恐慌が襲った。動こうとして、立ちすくんだ。
身体はすぐにも飛び出したいのに、死者の言葉がそれを押しとどめている。
彼と初号機がここにとどまれば、エヴァシリーズの攻勢を防げる。
それは嘘でも気休めでもない。今は、理屈でなく、そう信じられた。
対岸でエヴァたちが翼を広げ始める。
必死で自分をなだめようとした。ここにいなきゃならない。使徒たちは、逃げずにここに
とどまってくれた。彼らを置いていくなんてできない。
今はここを離れられない。身勝手に飛び出すより、ここでのことを考えなきゃならない。
それに死者たちは、自分のことくらい自分で守れる。繰り返し、そう言い聞かせようとした。
だけど。
でも、だったらなんで、こんなに怖くてたまらないんだろう。
ふいに、エヴァシリーズの赤い獰猛な口が頭の中いっぱいに広がった。
息が止まった。
ATフィールドの破壊。物理的取り込み。ばらばらに引きちぎられた弐号機。
声もなく硬直した彼の前に、初号機が立った。
何も意識できないまま見つめ返した。それから、そのまま視線をスライドさせた。
使徒たちが周りを取り囲んでいた。自分が相当ひどい顔をしているらしいことを、それで
やっと自覚した。
それでも、足は動かなかった。
と、人型使徒が歩いてきて、長い腕を持ち上げ、狭い手のひらで彼の頭を掴んだ。
785ひとりあそび・246:05/01/27 13:14:34 ID:???
硬く尖った指が頭を捕まえ、軽く締めつける。
そしてそのまま、使徒は、彼の頭を、エヴァシリーズが飛び去った方に向けさせた。続いて
他の使徒たちがそろそろと輪を解いて、同じ方向へ道をあけた。
呆然と視線を返す。そのとき、いきなり頭の中でアスカの声が怒鳴った。
あぁもう、さっさと行きなさいよ、この馬鹿!!
心臓が止まるかと思った。
彼は思いきり身をすくませ、気づいて空を睨んだ。翼使徒だ。
でも、引っぱたかれるより、ずっと効いた。
人型使徒は手を放すと、ちょっと彼を見下ろした。後ろから使徒たちが覗き込む。対岸、
高い岸壁の数箇所に影使徒の黒白球が現れ、蜘蛛使徒と一緒に跳ねる。翼使徒の感触が
水中の使徒たちの騒ぎをひとまとめに映してみせ、一瞬からかうような揺らぎを伝えて、消えた。
最後にほんの少しだけ、ある風景が脳裏に差し込まれた。知っている場所だった。
何だかわからないもので胸がいっぱいになった。
隣で、いきなり初号機が身を屈めた。のびたままの目玉使徒を掴む。そのまま二、三秒力を
込めたかと思うと、初号機は使徒の身体を思いきり真上に放り上げた。周りに積もった雪が
ぶわっと弾け飛び、小さな塊になってばらばらと降ってくる。
その幕を切り払って、初号機の背中で巨大な光の翼が開いた。
彼は息を呑み、それからもう一度使徒たちを振り返った。
一瞬、言葉に迷った。
ありがとう。ごめん。そのどっちも、この場にはふさわしくない気がした。
少し考えて、彼は口を開いた。
「…行ってきます」
初号機が軽く身を屈める。肩を掴むと、光の翼の一枚一枚が燃え上がるように震え、瞬間、
彼を抱えた初号機は一直線に谷間の空へ舞い上がった。
加速する視界の底に、再び池の周囲に散開していく使徒たちが映り、すぐに白く光る稜線に
さえぎられて見えなくなった。目玉使徒の落とす影が一瞬目の端を通り過ぎる。
彼は強く前を見据えた。
初号機は光芒を散らし、まっしぐらに今朝の高層ビル跡へと向かった。

  〜ブレイクその3〜

盛り上がり目の第三弾でした。
正直、長かったと思います。読んでくれた方、大変お疲れさまでした。
ここから、一応クライマックスに行きます。

…突然ですが、ここでお知らせです。
この続きが、分量的にこのスレに入りきらなくなりました
(エンディング含めてあと55KBちょい。プ)
馬鹿でヘタレなりにがんばったはいいんですががんばりすぎたんですね。
まさに馬鹿です。

以前占領したスレがあるので、続きはそこに書き込みます。
お手数をおかけして申し訳ありませんが、まだ読んでくれるという方、
とりあえずこちらへ飛んでください。
 http://comic5.2ch.net/test/read.cgi/eva/1062077897/174
本当にすみません。
このスレを破棄する前に、もう少しレス返しておきます。

>ほしゅにんさん@10〜1月
レスを拝見するといろいろ大変なこともあったようなのに、ずっと
保守し通してくれて、本当にありがとうございました。
長い間お礼どころか何のリアクションもしなくてごめんなさい。
その分、書けるだけ書こうというつもりで、10月終わり以来突っ走ってきました。
もし、ほんの少しでも、保守してみたかいがあったかな、と思っていただければ、
それ以上の喜びはありません。
前の一年空けも含めて、ほんとに長い間、ごめんなさい。
そして、心の底から、ありがとうございました。

>679さん
ときどきいろんなスレで見かけてました。書き込んでくれて、ありがとうございます。

>684さん
age保守、ありがとうです。せっかく書き込んでくれたのに遅くなって本当にごめんなさい。
とりあえず馬鹿や生意気言えるくらいには、元気です。

>686さん
…結局、七ヶ月経ってしまいました。
気にしていただいてすみません。一応、もう少しで完結です。
もしまたここに来てくださることがあったら、どうか見てやってください。
>687さん
身に余る感想、本当にありがとうございます。
結局さらに時間が経ってしまいましたが、終わらせることができました。
少しでもご期待に沿える内容になっていれば嬉しいです。

>690さん
sage保守、ありがとうございました。書き込んでくださったこと、ほんとにありがたいです。

>697 
(゚∀゚)オハヨウ!
>698さん
オハヨウ(゚∀゚)ゴザイマス
>699
オヤ…ス…   
           ヽ(`Д´)ノ

>700さん
700ゲトーおめでとうございます。ユイさんは、もうちょい先で出てきます。

>703さん(>705さんと同じ方でしょうか?)
(゚∀゚)カオ…?
…いや、EOEの綾波の顔大発生、怖かったじゃないですか。
たぶんそれで199みたいな感じに。
ともあれ、書き込んでくれてありがとうです。
>709さん
全開保守ありがとうございました。このAA、一行なのにほんとによくできてますよね。

>710さん
書き込みありがとうございます。この冬、自分は幸い風邪は引きませんでしたが、
早くも増加中の花粉がハナをつついてます。
エヴァの素体ってアレルギーとかあるんでしょうか。大きさ的に対策が大変そうですが。

>711さん
すんごくかわいい保守、ありがとうございます。
とりあえず自分だったらつねられても怒らないです。長く空けてごめんなさい。

>715、>724 63さん
お久しぶりです。このスレの最初の頃から見ていただいて、本当に感謝します。
あと少しで、完結です。

>716さん
わざわざ、ありがとうございます。
入れ替わったらスレの存在は知ってました。盛り上がってるようだし、終わったら
是非覗きに行こう!と思ってはいたんですが、そちらが先に1000行っちゃいましたね。
某所で「神の出来だった」と書いてあったので、一回読んでみたかったです。
随分遅くなってしまいましたが、スレ完走と完結、おめでとうございます。
790これで最後です:05/01/27 14:18:18 ID:???
>717さん
どうなんでしょうね。というか、初めてスレ名見たときはぎょっとしました。

>730さん
ずっと待っていただいて本当に申し訳なく、嬉しいです。
やっと続きができました。もし機会があれば、読んでみてやってください。


本当に、今まで書き込んでくれた方、来てくれた方には感謝の言葉もありません。
このスレがここまで続いたのも、完結できるのも、全て皆さんのおかげです。
声をかけてくれる人がいなければ、たぶん最初の一ヶ月程度で逃げていたと思います。
もう何度も繰り返しになりますが、ここを訪れた全ての人に、心から感謝を。
ありがとうございます。

さて、では上で述べたスレにていよいよ完結です。
長くてもううんざりかもしれませんが、それでも、もしよろしければ、最後までお付き合いください。


このあとは…1000取り…?
あんまり容量ありませんが、残りはどうぞご自由にお使いください。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!
今から読んできます!!
ここもうだれもこないのかな
こういうのを見ると、まだアングラという言葉があったころの
インターネットを思い出すな。

広いネットの海の片隅の出来事。
世間一般の人が知ることもなく埋もれていくスレ・・・・
こんにちは。
約半月ぶりに戻ってきました。
いろいろありました。

とりあえず、ぼちぼちこのスレを埋めていこうと思います。

先にお断り
>421->424の方ごめんなさい
795埋め:05/02/15 14:09:42 ID:???
力なく振り上げられた片手が腕にぶつかり、鈍い音がした。
大した衝撃ではなかったが、ぐらついた手の中から容器が飛び出し、
つかまえようとする指をすり抜けて砂地に弾んだ。
布で巻かれた腕が、その手前でぱたりと落下した。

かれは少し困惑して、白い砂の上に転がった容器を眺めた。

黒ずんだ容器は、まばゆい陽光をはね返す砂床に浅く埋もれている。
影と強い反射がちっぽけな輪郭をくっきりと切り取っている。数秒のうちに、
わずかな液体の残りはすばやく砂地の奥に吸い込まれて消えた。
流跡が乾いてしまうと、それは百年前からそこにあるのと変わらなくなった。
かれはぐるりと頭の向きを変えた。
すぐ傍ら、かれの落とす影に覆われて、白い顔はぴくりとも動こうとしない。
緊張はとうに霧散し、残された片目の瞳孔がゆっくりと収縮していく。
一瞬だけ現れた生気は再び深い混濁の底に隠れてしまった。

それでも、刺激を与えればまた反応は返ってくるとわかっていた。
生きる気もないだろうが、別に死にたい訳でもないのだ。
まだ命はあるのだから。

かれはもう一度頭をめぐらした。

生命の水の入っていた容器は空っぽになって砂の上に転がっている。

持っているものの中で、唯一危害なく刺激を与えられそうなのはあれしかなかった。
残りは他人に使うには不穏当か、さもなければ錆びて朽ちていた。
ぎらつく砂浜を見回しても近くに適当な代用品は見つかりそうになかった。

かれは無言で困惑した。
半分破損した頭蓋甲の陰で、濡れた大きな目がまばたきを繰り返した。
797埋め:05/02/15 14:12:15 ID:???

その間にも、太陽は容赦なく天頂へ昇りつめようとしていた。

濃く短くなった影の中で、彼女はあいかわらず残された片目を見開いている。
とりあえず、放っておくとこのまま衰弱する。

かれは動く気配のない彼女を見つめ、立ち上がった。
身体のあちこちで、脆くなった装甲が厭な音をたてて軋んだり壊れたりした。

最初は持ち上げてどこかへ運ぼうとしてみた。
が、動く意志のないはずの身体は微妙に力をこめて抵抗し、それを拒絶した。
そのたびに、かれは動きを止めて彼女を見下ろした。が、口も、目の奥も、
うつろに閉ざされたまま応えようとしなかった。
十回近い根くらべののち、かれはこの試みを放棄した。

仕方ないので、何か日よけになるものを探してくることにした。

吟味の結果、かれは水から突き出たひん曲がった電柱の一本によじ登り、
そこに残った大きな看板をもぎ取ることに決めた。
798埋め:05/02/15 14:13:19 ID:???
工具もなしに看板を外すのはかなり厄介だった。肩のナイフを使おうとしたが、
とっくに鞘ごと砕けて意味を失っていた。
払い落とすと、ナイフのかけらは赤い水面に幾つもの波紋を広げた。

数分程度の格闘の末、突然錆びたボルトが折れた。
急に抵抗がなくなり、勢いあまったかれと看板は頭から真下の水面に落下した。
派手な水音が響いた。

びしょ濡れの看板をかついで戻ると、彼女はまだ同じ姿勢で寝ていた。
かれの足音にも反応はしなかったが、看板を傾けたひょうしに
水滴の列が顔のすぐ傍に穴をうがち、その音と感触に、こわばった瞼が
かすかにひくついた。
かれは少し彼女を見やり、それからちょうどその上に影が落ちるように、
慎重に看板を砂に突き立てた。
わずかに砂埃が舞い上がった。
799埋め:05/02/15 14:14:40 ID:???
注意深く向きや角度を調整したのち、彼女の上半身は再び影に覆われた。
が、同時に一枚ではそれが限度だということがわかった。
かれは一人頷き、次のがらくたを探しに出かけた。

やがて、横たわった彼女を覆う不揃いな日陰ができあがった。

最後のひとつを立てるとき、彼女の目が最初の看板を凝視しているのに気づいた。
脇に屈み込むと、乾いてささくれだったペンキの上に、汚れてかすれた
「…産婦人科」の文字が見えたが、理解できないかれには何の感興ももたらさなかった。
視線を向けると、彼女はほとんど顔を動かさずに非常に厭そうな表情をしていた。

日よけが完成すると、かれは熱い砂の上に腰を下ろした。
800埋め:05/02/15 14:15:46 ID:???
日は天頂を過ぎ、日陰は少しずつ移ろっていった。
そのたびにかれは起き上がり、手を伸ばして日よけの傾きや重なりを調整した。
傍らで、彼女は頑なに動こうとしなかった。

透明度を増した影が砂浜に長く伸びる頃、かれは立ち上がった。

夕映えの優しい光の中、彼女を覆うがらくたの壁を取りのけ、
また次に必要になっても使えるように、近くに重ねて積んでおいた。
それから、赤い波打ち際に沿って歩き出した。
彼女は何も言わなかった。

いつしか満天の星が頭上を覆った。
801埋め:05/02/15 14:16:55 ID:???

昨夜より少し欠けた月が昇る頃、かれは半水没したビル群の合間に分け入り、
そのひとつの前で立ち止まった。

崩れ落ち、薄汚れた壁の隙間に、一人の少年がうずくまるように倒れていた。
傍に屈み込むと、かすかに目を開いた。
けれどかれのことは判別できないようだった。

かれは振り返って月明かりの浜辺を眺めた。
乱れた足跡が、遠い砂浜からここの廃墟までよろよろと続いていた。
その脇にかれ自身の残した新しい足跡が並んでいる。
かれは少しばかりの感慨とともに、その情けない逃亡の痕跡を見つめた。

少年は残してきた少女と同じく動こうとしなかった。
ただし、こちらは単に体力が尽きて動けないだけのようだった。
かれは彼の力の抜けた手足を掴み、ぐったりした身体を背負って立ち上がった。
彼は抵抗せずされるがままになっていた。
歩き出すと、さほどたたないうちにかれの背中でうとうとし始めた。

空の月が少しずつ明るさを増していった。

ずり下がってくる彼の身体をときどきゆすり上げながら、かれは黙々と歩いた。
802埋め:05/02/15 14:22:29 ID:???
何度目かに、彼は疲れきった浅い眠りの中から、お母さん?と呟いた。
かれはうなだれていた頭を起こした。
それはかれではなく、もうここにはいない他人の名前だ。

首を振ろうとしたが、彼の頭の重みが肩にかかってうまくいかなかった。
次に頭甲の角で夜空の果てを示そうとしたが、古い角は根本から折れて
何の意味もなさなくなっていた。

答えられないでいるうちに、彼は再び疲弊したまどろみの中に戻ってしまった。

かれは足を止めかけたが、結局また歩き出した。
意識のない身体の重みが頼りなく背中で揺れ続けた。

少女のいる浜辺に帰り着いた。

風がだいぶ冷たくなっていた。
高まる波音の中、さえぎるもののない砂の上で、彼女は弱った身体の欲求のまま
眠るともなく眠っているようだった。

かれは少し考え、少年を背負ったまま彼女の傍らに膝をついた。
白い砂は昼間の日差しの名残を含んでほのかに温かい。それでも、夜明けまでには
それもすっかり冷えきってしまうだろう。
803埋め:05/02/15 14:24:12 ID:???
かれはとりあえず彼を下ろし、静かに彼女の隣に横たえた。
それから、何か寒さをしのぐ手立てを探しに、月光の降る浜辺を歩いていった。


ふいに彼女の目が開いた。
眼球が意外なほどの機敏さで真横に動き、隣に寝ている彼の姿を捉えた。
続いてぎこちなく首が回され、頭が同じ方を向いた。

半ば包帯で覆われた顔が、疲弊した表情筋にあたう限りの強さでしかめられた。

乾いた唇が開き、かすれた声が何かを呟いて、また閉じた。
彼女はまた時間をかけて顔を元の向きに戻した。

再び、動くものはたゆみなく寄せる波だけになった。

皓々と照る月が彼らを見下ろしていた。
なかなか埋まりません。
あと15KBくらい。


選択肢:
  1.続ければ
  2.何か別のやれや
  3.ていうか消えろクズが

(いたら)先着一名様。2の場合何かお題くれると嬉しいです。
突然戻ってきて失礼すみませんでした。ひとまず落ちます。
80563:05/02/15 21:10:55 ID:???
1で 

『ひとりあそび』にアスカも居た場合ですか?
こんにちは。
63さん、お久しぶりです。また見つけてくださってありがとう。

一応「ひとりあそび」の傍流とかではなく、埋めついでに、
以前他の方が保守代わりに書いてくださった>421-424に
勝手に続けてみたものです。なので使徒や死者はいません。
でも自分が書いていったら、結局ひとりあそびみたいなものに
なってしまうんでしょうね。

では、お言葉に甘えてちょっと続けてみます。
807埋め:05/02/16 12:39:51 ID:???

かれが戻ってくると、あれだけ無反応だった少女が起き上がっていた。

意識のない少年の横で、彼女は不機嫌な顔で膝を抱えていた。
ときどき彼の顔を盗み見る。
最初は目の動きだけで一瞥する程度だったのが、そのうち慣れてきたのか
次第に目をとめている時間が長くなり、しまいには顔ごと彼の方に向けて
じっと見下ろすようになった。
それでも触れてみる勇気はまだないようだった。

しばらく待ってみたものの、それ以上変化は望めそうにないので、
かれは気配を隠すのをやめて二人のもとへ近づいていった。

振り返った彼女は、憎しみと懇願の入り混じった飢えたような目をしていた。
歩み寄ってきたのがかれだとわかるとその眼差はいっそうきつくなった。
808埋め:05/02/16 12:42:13 ID:???

かれは彼女の横を通り過ぎ、夕方片付けたがらくたのところへ行った。
彼女がずっと睨みつけているのはわかっていたが、別に何をするつもりでも
ないことも承知していたので、特に注意は払わなかった。

日よけを作るのに使ったがらくたは全部でひと抱えほどもあった。
一度に持ち上げると、かれでも少しよろめいた。
軽くたたらを踏んだところで、急に足首を掴まれた。
腕の中でがらくたが一斉に波立った。
かれは無言で両脚をふんばり、数秒の奮闘の末にバランスを取り戻すと、
執拗に足首を捕まえている手を見下ろした。

彼女が底なしに暗い目でかれを見据えていた。
809埋め:05/02/16 12:43:34 ID:???

かれは大きく剥き出された白目の部分と、真っ黒な穴のような瞳を見つめた。
三分の一ほど布に包まれた額を乱れた髪がまばらに覆い、その下の皮膚に
白く縦筋が浮いている。
黙っていると、足を掴む指にぎりっと力がこもった。

彼女は刃で刺すようにやつれた顔を歪め、低いはっきりした声で言った。
「最低」

たえまない波音に重なって、彼女の荒い息遣いが押し寄せてきた。

かれは無言で困窮した。

とりあえずこれでは動けないので、かれは掴まれた足を動かさないように
気をつかいながらがらくたを降ろし、そのままひざまずいて彼女の顔を覗き込んだ。

彼女はふいに頼りない表情になり、かれの足首から指をもぎ離した。
810埋め:05/02/16 12:53:55 ID:???

間近で見ると、彼女も彼と同じく体力の限界なのがはっきり見てとれた。
かれは自由になった身を起こし、疲労と怯えですくんだ彼女の身体を
抱えるようにしてまた砂に横たわらせた。

少年は昏々と眠り続けていた。
すぐ傍で起きた騒ぎにすら、全く気づいていないようだった。
或いは単に、何か起きていることに気づいてしまいたくないのかもしれなかった。

それでも、意識を失い続けることで、彼が多少なりとも救われたようには見えなかった。
浅い呼吸を繰り返す彼は、覚めない悪夢にうなされ続ける老いた子供の顔をしていた。

かれはその彼をしばし見つめ、少し頭を傾けた。
それから、彼女の方を向いた。
811埋め:05/02/16 12:55:49 ID:???

彼女の片目は相変わらず張り裂けそうに見開かれていた。
見ていても、眠りそうになかった。

かれは少し考え、こっちを凝視し続ける彼女の頭に手を伸ばし、軽く撫でた。
彼女は一瞬身をすくませたが、結局避けなかった。
もう一度触れると、こわばった顔から少しだけ緊張が消え、やがてかすかに歪んだ。

その顔で、彼女はもう一度呟いた。
「…最低」
かれは答えなかった。
それっきり彼女は口をつぐんだ。

かれは彼女が気を失うように眠りに落ちるまで、小さな丸い頭を撫で続けた。

月はそろそろ沈もうとしている。
背後で、赤い波が繰り返し寄せていた。
今回はここまでです。
一時間半もかけて3KB弱。笑えません。
63さん申し訳ないです。


 選択肢:こいつらこれからどうするよ?
   1.とりあえずイ`
   2.唐突に初号機が家出
   3.むしろシンジ逃亡
   4.つか初号機なんでここにいんの?
   5.いや、この際弐号機登場
813昔保守してた者:05/02/16 18:37:02 ID:???
5で!
5だな。
おはようございます。
>813さん、>814さん、来てくださってありがとう。
嬉しい限りです。

では、5でちょっとやってみます。
816埋め:05/02/17 12:01:04 ID:???

冷たく静かな浜辺が明るくなる頃、人影は砂の上に立った。


少年は青い夜明けの薄明かりの中でびくりと目を開いた。
強い恐怖に襲われたような、見るだに痛々しい目覚め方だった。
視線だけで周囲を窺い、見守るかれの姿を認めた瞬間、その恐怖はくっきりした輪郭を得た。
彼は口の形だけで絶叫し、硬直した。
悲鳴になれなかった呼気が歯の間でかすれた音をたてた。

かれは無言で立ち上がり、狭い壕の外へ出ていった。

澄んだ陰影に浸された浜辺は静かだった。
日はまだ昇らない。浅い菫色の波がひっそりと白い砂に寄せ返していた。
817埋め:05/02/17 12:01:51 ID:???

少しして、かれは振り返った。
入り口のがらくた類を押しのけ、暗い壕から彼が憑かれたような足取りで出てくるところだった。
怯えたように泳ぐ目がつかのまかれを凝視し、すぐに逸れた。両手が落ち着かなげに軽く握られ、
また開くのを繰り返す。その動きも、やがて力つきたように止まった。

ふいに、彼は追い込まれた者のすばやさで振り向き、長い浜辺の彼方の一点を見つめた。
若干遅れてかれも同じ方を向いた。

白い砂の果てで赤黒い人影が音もなく揺らぎ、崩れ落ちた。

彼は息をつめるようにしてそちらへ歩き出した。
かれは一度壕の奥を振り返り、それから距離をおいて彼についていった。
繰り返し波の寄せる先で、二列になった足跡が浜の湾曲に沿って長く弧を描いた。
818埋め:05/02/17 12:02:53 ID:???

彼は影になった砂床に倒れ伏す人がたを見下ろした。
一度剥がされて不恰好に付け直された装甲の隙間から、生々しく癒着した傷痕が覗いている。
じくじくと滲み出した体液が白い砂に厭な色の染みを作った。
彼はぎくしゃくと屈み込み、人がたの腕を自分の肩に回して立ち上がらせようとした。
少し待ってみたが、彼は辛いのは隠さないまでも、かれに助力を求めようとはしなかった。
ぜいぜいと息をつきながら、彼は不器用に人がたを引きずってもと来た方へ歩き出した。
あとに続こうとしたかれはふと顔を上げた。

足跡の列の先から、ぼろ布と朝の風をケープのようにまといつけた少女が歩いてきていた。

数秒遅れて、彼が背を押しひしぐ重量の下から顔をもたげた。
その顔の脇で、人がたの四つの目のある頭部がだらんと傾き、歯列を剥き出した。
彼女は壊れた自動人形のように動きを止めた。
819埋め:05/02/17 12:05:50 ID:???

彼は真っ暗に閉ざされた目で彼女を一瞥し、すぐに顔を伏せて歩みを再開した。
彼と人がたが隣を通り過ぎる間、彼女は眉ひとつ動かさずに凍りついていた。
荒い呼吸と引きずる音は、長い時間をかけて彼女の背後に抜けた。

かれは立ち止まって彼女を見た。
布に覆われていない片目が、ほとんどわからないくらいゆっくりと見開かれていき、
それがとうとう限界に達した瞬間、彼女は甲高い絶叫を放った。
恐ろしい悲鳴はいつまでも続いた。
かれは駆け寄って彼女の頭を抱え、装甲のない部分に強く顔を押しつけた。悲鳴がくぐもり、
ふいに彼女の歯が喰い込んだ。かれはもう少ししっかりと彼女を支えて立ち続けた。
苦しがって噛む力が強くなり、やがて、ゆるめた腕の中から泣き声まじりの呼吸音が聞こえ始めた。
そのまま、彼女はかれにしがみついて子供のように泣いた。
足元に落ちた布きれがはためいた。

かれは遠ざかっていく彼と人がたのちっぽけな後ろ姿を眺めた。
820埋め:05/02/17 12:08:33 ID:???

狭い壕の中には昨夜かれが集めてきたカーテンやぼろ布のたぐいが山になっていた。
彼はそこから適当に薄めの布地を引き出し、細く裂いて人がたの傷を縛っていった。人がたは
おとなしくされるままになっていた。時には、少し力の戻った身体を動かして作業を手伝った。
彼女は入り口近い場所に座り込み、しっかりとかれの腕を掴んでそれを睨んでいた。

ひっそりと明るんでいく戸外から絶え間ない波音が響いた。

そのうち、何かのひょうしに彼が顔をこちらに向けた。
その途端、彼女はぱっとかれに身体をくっつけ、彼を見据えたまま固く両腕をからめた。
彼の手の動きが止まった。

片方だけの彼女の目は昨夜のように救いなくぎらついていた。
一瞬、彼の顔を領していたつきつめた空虚の奥を、ふっと何かがよぎった。
けれどそれだけだった。

また無関心の殻の内に戻って作業を続ける彼の背に、砕けて尖った声が投げつけられた。
「…あんた、最低よ」

「アスカこそ」
彼は顔も上げずに応じた。それを最後に、壕の中の言葉は絶えた。

かれは困惑して人がたを見やった。
人がたも、かすかな困惑を込めて壕の向こうから視線を返した。
やがてがらくたで半ば覆った入り口から最初の陽光が射し、動かない彼女の上に陽だまりを作った。
今回はここまでです。
あと5KB強でこの厭すぎる空気は変わるでしょうか。

明日から三日ほど出かけるので、続きは今日の深夜か、
それが無理だったら来週の頭辺りになります。


 一応選択肢:もうあんま先ないじゃん、どうするよ?
   1.順当に修羅場突入
   2.むしろ初号機と弐号機が暴走
   3.LASとかは?
   4.もう学園アスカの夢オチでいいよ
   5.その他(ご自由にお書きください)
>>820
2でおねがいです
>>820
2で

☆って知ってる?
3がいいな…と言ってみる。
2か3で。
もしくは 5、量産機現る。とか・・・
うーん、俺も2か3がイイなぁ…
827埋め:05/02/23 01:15:31 ID:???

「代償行為ね」
彼女はいたぶるように言葉をぶつける。その目は割れたように暗い。
「弐号機のためじゃなくて、自分が、あのとき間に合わなかったからじゃない。
 わかってんのよ。あんた、私がいると思ったから、助けてもらえると思ったから、
 やっとエヴァに乗って出てこれたんでしょ。
 なのに何もできなかったし、してもらえなかったから。
 辛いのよね? 自分がかわいそうよね?
 それを全部そこの弐号機に押しつけて、一生懸命償うフリだけして、
 それで少しは気が晴れそうなわけ? 内罰自虐男」

人がたの少し濁った眼球がどろりと動き、彼の顔を窺う。

「人のこと言えるの? アスカ」
彼は頑なに視線を与えようとしない。その笑いは削げたように低い。
「アスカのそれだって、結局ただの当てつけじゃない。
 アスカさ、別に、そこにいるのが初号機だからすり寄ってるんじゃないでしょ。
 誰でもいいわけでもないよね。遠慮なんかしないで素直になれば?
 今度は僕が見ててあげるからさ」

彼女の指がかれの腕に喰い込み、装甲のない体表に緊密な痛みが沈む。
828埋め:05/02/23 01:16:18 ID:???

真昼の波音は少しぼやけたように膨れて熱気の底を渡る。
彼の、献身的というより強迫的な手当ては、日がかなり高くなってもまだ続いていた。
出口のないなぶり合い、或いはすがり合いも、だいぶ間遠になりつつ継続されていた。
人がたは困惑を通りこして倦み始めていた。かれは何度か状況の打開を試みようとしたが、
彼女の両手ががっちりと腕を抱え込んで行動どころか身動きもとれなかった。
加速度的に気温が上昇していく中、壕の狭苦しい薄闇はほとんど目に見えるくらいに
煮つまり、よどみ、呼吸もできないほどに凝固していった。

やがて人がたが切れた。

膿のにじむ腕が、何度目かに包帯を替えようとした彼の手を払って突き飛ばした。
かれが止める間もなかった。無防備だった彼は壕の反対側の壁に叩きつけられ、
背中からくずおれて咳き込んだ。
彼女が再び人形のように一切の動作をやめた。
かれは気をつけて片腕を抜き、そしてとがめようと振り返った途端、人がたの足の裏が
思いきりかれの下顎にめり込んだ。
頸骨がめきり、と音をたてた。
かれは切れることにした。

表に出ろ、ということでかれと人がたは猛然と壕を飛び出し、ついで硬直した。

しばらくして、いつまでも静かなことに疑念を抱いた二人が顔を出し、同様に凍りついた。
829埋め:05/02/23 01:18:41 ID:???

風よけのがらくたの散乱した壕の入り口を取り巻くようにして、九体の翼つき人がたが
半円状に砂浜に並んでいた。
かれらは動きを止めたかれと人がたには目もくれず、二人の姿を認めるなり
耳まで裂けた大顎を嬉しそうに開いた。真っ赤にふちどられた唇が閃いて歯列を剥いた。

それなりの間をおいて、彼らはそれぞれに反応した。
人がたは極限の恐慌状態に陥って活動停止した。彼女は目尻が裂けるほど瞠目し、
朝の比ではない凄惨さで叫び始めた。彼の顔は、狂おしい沈黙に閉ざされたまま
他の誰より凄まじい恐怖に歪んだ。
かれはとっさの判断能力を失い、衝動のままに咆哮して列に突っ込んでいった。
群れは公園の鳩の一群のように飛び立ち、旋回して舞い戻り、また逃げては、妙な執拗さで
彼らの周囲にまとわりついた。

恐怖と混乱。条理の崩壊。
絵に描いたような下らない終劇だと、恐らく誰もがちらと考えた。

けれど困ったことに、世界はいっこうに終わってくれなかった。
830埋め:05/02/23 01:20:56 ID:???

絶え間なく波が騒いでいる。

かれは感覚の戻ってきた目を開き、半ば砂床に占められた視界を無言で検分した。
再び長くなった影が淡く染まる砂浜に伸びている。その根本をたどると、それぞれに
砂に横たわる二人の姿に行き着いた。少し離れて、同じく身じろぎひとつしない人がたが見えた。
かれはゆっくりと視野の焦点を合わせた。
夕日の色に溶け込むようにして、翼つきの集団が所在なげに周辺に佇んでいるのが識別できた。
静かに波音が迫り、両足に泡立つ冷たさが打ち寄せては引いていく。
他に動くものはなかった。かれはじっと横になったまま、消耗した身体の回復を辛抱強く待った。

ふいに、彼がむくりと身を起こした。
骨まで削られたような表情は変わらなかったが、ともかくも彼は自分の力で砂を掴み、
ふらつきながらそこに立ち上がった。
831埋め:05/02/23 01:23:07 ID:???

どうしようもなくつきつめられた目が周囲の人がたを見、海と彼方の白い巨大な顔を見、
横たわる彼女と彼女の人がたに一瞥を投げて、ふっと浅い笑いのようなものを宿した。

かれは起き上がって、彼を、それから彼女を見た。
彼女は仰向いた顔に目だけを見開いていた。凝固した視線の先には彼がいた。
人がたの群れが、落ち着かない様子でてんでに翼を開いたりたたみ直したりした。

削げた顔に今度こそ苦い笑みが浮かび、彼は振り返った。
全く救いのない笑いだったが、生気はあった。かれは立ち上がり、意識を取り戻した
人がたを助け起こした。


月の昇る頃、彼らは並んで浜辺に立っていた。
彼の隣には彼女がいる。
潮騒が高まり、次々と寄せくる波の背にきらきらと月光が映った。

唐突に彼の手が伸びて彼女の指先を掴んだ。
832埋め:05/02/23 01:24:51 ID:???

彼女は穴のような瞳孔を向けた。
かれと人がたが興味深く見守る前で、彼は距離をおいてうろつく翼つきの群れを目で示した。
彼女はただいぶかしげに顔をしかめた。

「…人間の世界が終わっちゃったから、こいつら、たぶんもうすることがないんだ。
 でもまだ生きてる。だから、僕らはこいつらを使って好きなことやろう。
 眠っても目が覚めるうちはずっと」

彼女は顔をそむけ、また海の方を見た。

「アスカ」
彼はもう一度呼んだ。

彼女は答えなかった。

その代わり、掴まれている手に力が戻り、軽くもがいて、彼の指に指を絡ませた。
うつろに目をみはる彼に、彼女は無表情な顔を向けた。
彼らの間で、二つの手はもう一度絡み合い、固く結び合った。

かれは隣に立つ人がたを促して目を逸らし、黙って水平線上にかかる月を眺めた。
おしまい。
来るのが随分遅くなってすみませんでした。
あと内容もごめんなさい。

先着一名様と書くのを忘れたので、とりあえず全部入れてみたら
こんなふうになりました。
いい加減な埋め方ですみません。
たぶん期待とかには全然沿えてないと思います。あと☆は知らないです。

容量がなくなったので、これでこのスレはおしまいです。
立ち寄ってくれた方、読んでくれた方、書き込んでくれた方、
そして長い間保守してくれた方、本当にお世話になりました。
ここで書かせていただいて本当に良かったです。
ありがとうございました。