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 新世紀 エヴァンゲリオン のぞむものども

  第壱話「まずは、絶望から」

00

 介在があった。

01
 LCLの海。

 幻の綾波。

 白い十字架。

 包帯を巻いたアスカ。

 気持ち悪い、と言われた途端に


 先生の家に僕はいた。
5602:03/06/24 12:56 ID:???

 毎夜、悲鳴とともに目がさめる。
 過去の悪夢にうなされ起きる。
 体は寝汗にまみれている。

 期日が迫ってくる。

 僕はどうするべきなのだろうか?
 僕はどうしたいのか?
 
 悪夢の最後はきまってLCLの海にうかぶ綾波と
 砂浜によこたわるアスカだった。

 僕はいまここにいる。
 なら、綾波とアスカはいったい、いまどこにいるのだろう。

 まだあそこにいるのではないか。
 そう考えるとふるえがとまらなかった。
 
 僕はどうするべきなのだろうか?
 僕はどうしたいのか?

 おぼろげながら答えはでていた。
5703:03/06/24 12:57 ID:???

 玄関で音がした。
 郵便配達だろう。
 何を届けにきたのかは知っている。

5804:03/06/24 12:58 ID:???

 碇シンジは第三新東京市駅、その構内で目を皿のようにして周囲を見回していた。
 彼はひとしきりそのままの姿勢でうつむいていた。これから何がおこるのかを彼は知っていた。
 やがて彼は顔ををあげると、ひとまずの達成感とそれに比例して付随する罪悪感に胸を焦がしつつ
駅から一歩を踏み出した。あのときは綾波を見た、と昔のことを思い出しつつ前を

 そこに綾波レイがいた。

 目が止まる。足が止まる。音が消える。だがまばたきを終えるとレイの姿も消えていた。
 碇シンジは走りだした。すぐにたどりついたがそこには痕跡らしきものは何ひとつとしてなかった。
 綾波、とシンジはつぶやいた。その顔はなにゆえか晴れやかですらあった。
 確信を得た者に特有の迷わぬ空気を放ちつつ碇シンジは歩みを再開した。

 ジオフロントへと通じる検問で呼び止められた。当然である。碇シンジは中学生であった。彼は
なにも言わずにIDカードを守衛へ渡した。
5905:03/06/24 12:59 ID:???

「迎えをよこすと伝えてくれ」
 そう告げると冬月コウゾウは回線を切ってふりむいた。
「碇、サードチルドレンが到着したぞ。予定より早いが今となっては僥倖だ」
 その声は決して大きくはなかったが、使徒襲来を数時間後にひかえ喧騒にみちた発令所を沈黙
させるには十分以上の効果があった。
 碇とよばれた男はみじろぎもせずに、白衣に身をつつみ髪をハニーブロンドに染めた女性へ視線を
向けると、赤木博士は準備を、命令した。ネルフの司令官は言葉のすくない男だった。赤木リツコは
答礼するなり助手をともない発令所を後にした。
 冬月副指令はあたりを見まわし長髪の部下に目をとめたが頼もうとしたところで声と手があがった。
 作戦部長の葛城ミサトだった。
6006:03/06/24 12:59 ID:???

 赤木リツコは先ほどから自分の感受性を刺激するこの違和感は何なのだろうと考えていた。
 サードチルドレン、碇シンジが無事到着した、それはいい。彼を出迎えたミサトが道に迷った、
それもいい。仕方がないので自分がケイジに二人を案内している、それもまあいい。
 違和感の原因は碇シンジがあまりにも周囲に無反応と思える事にあった。なにしろ、軽い挨拶を
したが最後、碇シンジは無言でついてくるがままだった。ミサトに小声で聞いた話だと彼にとっては
驚くべきジオフロントの情景に対しても何の感想もなかったそうだ。
 なんとかうちとけようと彼女が冗談を飛ばしていたが笑いもしない。シンジも一応うなづいては
見せるのだがそれ以上のものは見せなかった。可哀想なのでたまに合いの手を入れたがそれも関心を
引いたとは思えなかった。これはリツコにとって不満だった。なによこの子。
 静かな子供だとは聞いていたがそれだけにとどまらないものも感じていた。
 少しかんがえて赤木リツコはようやく違和感の正体に思い至った。

 質問をしないだけではない。

 この子はあたりを見渡さない。
6107:03/06/24 13:00 ID:???

 目の前で繰り広げられた問答ともいえない会話の解釈に葛城ミサトは頭を働かせていた。
 ケイジに到着した一行。巨人の前に立ちつくすシンジ(この時はじめてミサトはシンジの顔に感情を見た)。
 説明をはじめるリツコ。そこにあらわれた碇司令。下された命令。出撃。自分は抗弁した。当然だ、無茶だった。
サードチルドレンは今きたばかりなのだった。彼はまだ何もしらないのだ。ところが、「いいんです」碇シンジは
こともなげに言ったのだった。「僕が戦います」それを止めるすべはなかった。
 彼女はシンジが初号機を前にして顔にうかべていたものを思い出す。それは今なお彼の顔に貼りついていた。
それは決意だった。
6208:03/06/24 13:01 ID:???

 さすがはサードチルドレンというべきかしら。赤木リツコはそう思った。
 軽い身体検査のあとプラグスーツを着せられてLCLの中に、今、碇シンジは放り込まれていた。どこまでも
彼は従順だった。しかしそれだけではないようにリツコには思われた。まただ。赤木リツコは再び違和感に
襲われていたのである。
「シンジくん。苦しいだろうけど我慢してね」ミサトが声をかける。シンジの返答は簡潔だった。
「なんともありません」
 その理由に気付くとリツコは鼻を鳴らした。まったく、この子は人を驚かせてくれる。間違いない。
あろうことか、碇シンジはくつろいでいるのだ。
6309:03/06/24 13:01 ID:???

 確かに彼はくつろいでいた。エントリープラグは彼の古巣であり魂の座はチルドレンの故郷だった。

「シンクロ率15.2パーセント」
「エヴァンゲリオン初号機、起動しました」

 うまくシンクロできなかった理由についてシンジは推測していた。もしかすると初号機は自分の異常を
感じたのではないだろうかと考えていた。
それにしても、とシンジは思った。これは予定外の事態だと。使徒殲滅は確実に遂行しなければならない。
それなのにこのシンクロ率は大きな不安要素だと感じた。自分の目的にとって。
6410:03/06/24 13:02 ID:???

「来たな」
 ネルフ副司令官の言葉にネルフ司令官は答えなかった。彼はなぜサードチルドレンが当初の予定を
繰りあげて第三新東京市へ早めに来たのかを考えていた。早めに来るのは使徒だけで十分だ。
6511:03/06/24 13:03 ID:???

「ミサトさん、なにか得物はありませんか」
 返事はあっけないものであった。
「シンジくん、悪いけどまだ武器はないのよ」
 すまなさそうな声で葛城ミサトはつづけた。
 本来なら左肩に近接戦闘用の武器であるプログレッシブナイフが装備されているはずだったが、
相次ぐ製作の遅延によりいまだ艤装されてはいなかった。
 右肩のニードル投射装置は完成していたが、肝心のニードルが装填されていなかった。
 来週になれば中距離戦闘用のバレットガンがとどくが、今ここになければ同じことだった。
 その他の追加装備に至っては影も形もなかった。
 つまるところは現時点におけるエヴァンゲリオン初号機の兵装は未完、文字通りの丸腰であった。
「シンジくん」葛城作戦部長はつぶやいた。「死なないでね」
6612:03/06/24 13:03 ID:???

 反撃を受けた初号機がビルを背に倒れるのを見て、葛城ミサトは自分に出来るのは声援くらいしか
残されていないことを知った。
 初号機を使徒の背後より接近させたまではよかった。動きはにぶい初号機だったが気付かれずに
そのまま使徒の足を持たせ、引き倒し、背に馬乗りにさせて打撃を加えるにいたって発令所の意気は頂点に達した。
 そこで使途の背中に顔がめりめりと出現し初号機とのあいだに光と爆発が生まれたのだった。
6713:03/06/24 13:04 ID:???

 いまや体勢は逆転、使徒は倒れた初号機に向かって左手を伸ばすや顔をつかみ、持ち上げた。
 使徒の手が白く光るのを赤木リツコは見た。そして同時に初号機の両腕が先ほどとは違った
素早い動作で使徒の左腕をつかみ、ひねりつぶすのを目撃した。
「初号機、異常ありません」
「シンクロ率、30.21パーセント。なおも上昇中」
 初号機はその両足で大地に君臨していた。赤木リツコは違和感の本当の理由がわかった。
6814:03/06/24 13:04 ID:???

「シンジくん、大丈夫なの」葛城ミサトは驚きつつ尋ねた。
「問題ありません」一瞬だけ間をおいてシンジは続けた。「何か指示はありますか」
 炎に照らされた初号機を見て葛城ミサトはようやく結論を出した。何でいままでこれがわからなかったのかと
呆れるくらいに単純な答えだった。碇シンジは最初から戦うつもりでここにやってきたに違いない。面白い。
ならば、やってやろうじゃないの。
「シンジくん、やつの右手に気をつけて。そしてやつの潰れた左手の外側から前に回りなさい」
「赤い球を狙うのよ」リツコだった。
「逃がしちゃだめ」彼女もミサトと同じ結論に達していたのだった。
6915:03/06/24 13:05 ID:???
 シンジはありがたくミサトとリツコの助言を聞いた。もとより彼は使徒を逃がすつもりなどなかった。
彼は勝たねばならなかった。今日の勝利を明日に繋いで目的を果たすと誓っていたのだった。彼は初号機と
一緒に使徒を手で牽制しつつその足を踏み出した。


 彼の望み。
 それは綾波レイだった。
 そして惣流アスカ・ラングレーだった。
 ふたりと再び出会うことだった。

 普通にしていたところでここにいるシンジには会えようはずもなかった。
 彼はいつ切れてもおかしくない蜘蛛の糸にも似た可能性に賭けていた。

 すなわち彼は、彼自身の主導権によるサードインパクトを望んでいた。

 もしその訳を訊かれたならば、たとえば彼はこう答えただろう。

「だってあんなさびしいところにアスカをひとりにしてはおけないから」

 要するに、彼は、彼の父親がそうであるのと同様に、ひそやかに狂っていたのである。



弐話につづく