クローン人間は温泉ペンギンの夢を見るか?

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573ひまつぶし
ツインテールの少女が[ぽてち]と表記された袋に中を確かめずに手を入れる。
当たりが無いのにすぐ気づいて、目の前の記事から手へ視線を動かす。
ばさばさっと振って見ても見た通りの空の状態から変わらない。
指に付いた粉を親指から舐め取りながらふっと、思い出したかの様にもう一人の方に振り向いた。
特に視線を感じたわけではない。
少女が振り向いた時、少年は静かに自分の手元のコミック誌を読んでいた。
「……………あ、何?」
自分に向けられた視線に気づいて、少年は自由な片手でコードを引っ張りイヤホンを外した。
恐る恐るとも取れる控えめな声はドラマの静かな間に上手く重なって、少女の耳まで飛ぶ。
無意識に行われる瞬きがなければ、少年は少女より先に目をそらしていただろう。
そのほんの一瞬に他人との距離を取り孤独な事に安心するのだ、痛がりだから。
一方少女は返答に困るまでもなく少年に対する声を持ち合わせていない。
用があって見たわけでないし、喋るための口は指に付いた粉を取るのに忙しかった。