加持君ってさー、結局仲間売ったヘタレなんだよね

このエントリーをはてなブックマークに追加
俺は1を監視している特務機関ネルフ特殊監察部所属の加持リョウジだ。
ネルフが何を目的に1を見張るよう命じたのかはわからない。
俺が受けた命令は、可能な手段を尽くして1を監視せよ、だけ。いつものことだ。

「またか・・・。」
俺はPCのモニターを見て、ため息をついた。また1が駄スレを立てたのだ。
1のPCに潜り込んだトロイによって全てが監視者に筒抜けとも知らずに・・・まったく無邪気なものだ。

キーボードを叩く音と、「ヒヒヒヒヒ・・・」という1の不気味な笑い声が聞こえる。
俺が1の監視を始めてからもう随分経つが毎日この調子だった。

彼は知っているのだろうか、元来明るかった母親がすっかり近所との付き合いを絶っていることを。
妹が学校で、兄弟の話題が出るたびに顔をこわばらせて席を立つことを。

この類のことは考えない方がいいことはよくわかっているが、1の陰鬱な日常を毎日監視しながら
ついついこんなことに思いをやるのが、俺自身の日常となりつつあった。

と、そのとき1を呼ぶ年老いた女の声がマイクに入ってきた。1の母親だ。
マイクの限界か、それとも1に怯えているためか少々聞こえにくいが、どうやら1を家族そろっての食卓に誘っているらしい。
無駄なことだ。俺にもはっきりそうわかるのに・・・そうさせるのはそれでもやはり家族だからだろうか。
1の返答はない。代わりに何かを叩く音、何かが倒れ壊れる音。
厚いカーテンに阻まれ中の様子を覗くことはできないが、その様子は手に取るようにわかる。
だが母親も、一階にいるであろう父親も1を責めることはない。一番怯えているのは1であることを知っているからだ。
そして1自身の悲鳴ともつかぬ奇声、隣室からは妹の泣き叫ぶ声・・・。

これ以上は聞くまでもない、俺はやりきれない思いで盗聴器を切った。