JR特定区間・運賃格差問題:県損害、年1300万円 新制度必要の指摘も /埼玉
JR運賃が首都圏などで割安になる「電車特定区間」が県内では神奈川県などに比べ短
く設定されている問題で、県はJR東日本にたびたび格差是正を求めてきたが、JR側に応
じる気配はなく、是正の見通しは立っていない。この問題は7日閉会した県議会6月定例
会の中でも改めて取り上げられ、県が年間1300万円以上の損害を受けているとの試算
も飛び出した。「県民が割高な運賃を支払っている」と県関係者は憤るが、特定区間制度
は以前の通勤圏に基づいたもので、通勤圏が飛躍的に広がった現況に合わせた新制度
が必要という指摘もある。【秋本裕子】
JR東日本によると、電車特定区間は旧国鉄時代の84年に設定。以前の国鉄運賃は全
国一律だったが、度重なる値上げで私鉄と競合する大都市圏で競争力が弱まり、首都圏と
大阪圏で割安な区間を設け、87年の民営化後も引き継がれた。
通常区間では最低運賃が140円に対し、特定区間では130円。さらに距離に応じて決
まる運賃も安くなる。しかし、神奈川県の特定区間は、東京−久里浜(横須賀線、横須賀
市)間の70・4キロなのに対し、埼玉県は東京−大宮(京浜東北線など)間の30・3キロと
短い。このため、運賃は久里浜−東京間(1210円)に比べ、ほぼ同距離の籠原(高崎線、
熊谷市)−東京間(71・3キロ)は1280円と70円高くなっている。
格差は積み重なると更に拡大する。この問題を県議会で取り上げた吉田弘県議(自民)
によると、東京から県内を経て北に延びる路線で東京−久里浜間と距離がほぼ同じ区間
は、東京−籠原間と、宇都宮線東京−古河(茨城県古河市)間。両区間内の各駅から県庁
最寄りの浦和駅まで通勤する県と県警の職員数(計約1600人)をもとに、現在支払って
いる通勤定期代と特定区間が延長された場合の差額を計算すると、少なくとも年間約13
23万円余分に支払っていることになるという。吉田議員は「県はJRから不当な差別を受
け、理不尽な経済的損失をこうむっている」と反発。「県民は税金で不当な負担をし、民間
企業も従業員に余分な交通費を支払っている」と指摘する。
埼玉県では、01年からたびたびJR東日本に運賃格差の是正を求め、今年4月も要望し
たばかり。04年8月には上田清司知事が同社本社を訪れ、直訴している。05年には、県
が特定区間を籠原駅などまで延長した場合の同社の年間減収額は12億8400万円で年
間収益の0・07%に過ぎないと独自に試算し、「経営努力で十分補てんできる金額」と指
摘した。県交通政策課は「05年度の1日の平均乗車数は、籠原駅が1万4182人で久里
浜駅の6901人の倍以上。乗車数が多い方が運賃が安くなるはずだ」とも主張する。
だが、JR東日本は「拡大すれば他路線の運賃にも影響を与える」と見直しには否定的
で、「列車の増発など、サービス向上で還元する」と繰り返す。上田知事はさきの6月議会
では「毎年同じ回答しかいただけないのは残念。今後は沿線市町村で構成する協議会に
問題提起して粘り強く交渉していく」と述べた。
亜細亜大の佐藤信之講師(交通政策論)は「埼玉県は人口が増えており、特に中途半端
に思える」と指摘するが、「そもそも都市構造自体が国鉄時代と変わっており、特定区間は
時代にそぐわない。JRは首都圏全体で運賃を安くすることを検討した方がいい」と、現行
制度のままでの特定区間延長には懐疑的だ。
毎日新聞 2006年7月9日