変調マンション戦線(上)「陰の在庫」疑心暗鬼――値引きの連鎖を警戒。
2004/04/01, 日本経済新聞 朝刊, 13ページ, 有, 1310文字
首都圏を中心に大量供給が続くマンション分譲。業界大手は今年度も販売を拡大
する構えだ。ただ、好調一色に見えた市場に変調の兆しが広がっている。一部物件
で顕著になってきた販売不振、土地・建設コストの上昇などだ。ブームの陰に隠れ
た実相を探る。
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「三井が“島”を買い取った」。昨年末、三井不動産を主幹事とする企業集団が
東京・港のJR品川駅東口近くの埋め立て地「芝浦アイランド」の取得を決めた時、
驚きが走った。
同駅東口エリアではすでにリクルートコスモス、ゴールドクレストなどが計千二
百戸を販売している。住友不動産も総戸数二千戸超の大型物件を建設中だ。そこに
三井不動産が分譲と賃貸合わせて約二千八百戸のマンションを近く着工する。
「このエリアの供給戸数はこれで一万戸の大台に乗る」。各社の販売担当者は苦笑
いを浮かべる。
マンション各社は今年も強気の供給計画を組む。不動産経済研究所(東京・新宿)
は二〇〇四年の供給量は全国で前年比一割増の約十七万戸になると予測する。大京
が今月、仙台市に地上二十二階建て物件を着工するなどタワー型物件が地方にも飛
び火する気配だ。
うち半分を占める首都圏での販売予想は同二%増の八万五千戸。六年連続で八万
戸以上の高水準を保つ見通しだ。とりわけ東京都心の人気は過熱気味。三菱地所も
三十日、JR東京駅前の丸の内地区の第二期再開発で賃貸マンションを設ける構想
を打ち出した。
野村不動産の高井基次副社長は「まだしばらくは団塊ジュニアの一次取得のほか、
シニア層が郊外の一戸建てから都心に住み替える需要も見込める」という。
しかし、激戦地の販売の最前線では確実に変化の予兆が表れている。
工場跡地に超高層物件の建設が相次いだ東京・大田の下丸子。二〇〇一年から
計約三千戸を発売。初期の販売こそ即日完売となるほど好調だったが、温泉付き
など話題を集めた物件は、昨夏に全戸完成したのにまだ一割が売れ残ったままだ。
新規物件の売り方にも異変が起きている。都内の激戦地、東京・品川の天王洲。
昨春販売を始めた五百戸規模の高層マンションは、客足の鈍さから売り出し後す
ぐに価格を全面的に引き下げて販売を軌道に乗せた。
値引き幅が千万円単位になる過激な売価設定も現れ始めた。「これほどの値引き
があちこちから聞こえてくるのは初めて」。あるマンション大手の経営者は嘆く。
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在庫水準の見えにくさが先行き不透明感を増幅する。販売時期を第一期、第二期
などに細かく「期分け」して長期間で販売する手法が常態化した結果、業界内です
ら「本当の在庫水準がわからない」。首都圏在庫は危険水域の一万戸以下とされる
が「期分け販売の先送り分を含めると実態は二万戸以上」(マンション中堅業者)
といった疑心暗鬼が広がりつつある。
値引き販売が加速するのは必至で、市況の先行きが経営者の大きな関心事になり
始めた。「周囲の物件も下げざるを得ない市況下落の連鎖」(西丸誠・日本綜合地
所社長)への警戒感がつのる。
マンション中堅、ジョイント・コーポレーションの東海林義信社長は「市況の先
行きを占う上で、ここ半年から一年間の在庫販売のしかたがカギを握る」と見る。