ガンダムヒロインズ MARK ]X

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128名無しさん@ピンキー:2014/05/01(木) 23:21:19.55 ID:adXMWqQY
メカ設定画があったら楽しいだろうな。
129フェニックステイルの輩:2014/05/01(木) 23:37:06.35 ID:vK+C81uR
今までフェニックステイルに出てきたメカでオリジナルなのは、
ドッツィ・タールネン専用ザクUとイーデン・モタルドゥ専用リックドム、
それにヌーベルジムUぐらいという地味な品ぞろえですが……よろしいんでしょうか(汗)
130名無しさん@ピンキー:2014/05/02(金) 00:27:24.94 ID:KxDBwCyx
そういうのだからこそイイ!と言いたい。
地味なバリエーション機、どこが?って言うようなカスタム機、微妙なオリジナルカラー、そう言うのがソソル!
ユニコでもMSVでおっさんを釣ろうとしてたでしょ?
アレはアレでスタンダードモデルはいねーのかよwって感じだったけど。
131名無しさん@ピンキー:2014/05/06(火) 11:48:32.72 ID:1vGjfNma
確かに新型とか専用機とかよりバリエーション機の方が「それっぽい」よね。
シャアだって専用機ではなくて専用カスタム機だったのが「ガンダムっぽさ」だったのになあ。
「個人専用機種」ってのは萎えるわ。
132フェニックステイル投下準備:2014/05/06(火) 15:18:51.74 ID:Um2cgCRl
意外にただの量産機とその地味な改修機にも需要があるようで、スレの懐の深さを感じます。
逆にヒロイン格のアイネやマコトの機体が、特に改造されているわけでもないただのジムU、
というのはスレ的にどうなのだろうかと気になったりもしますが……。
カラーリングの設定はちょっと盲点でした。
文字媒体ではありますが、今後は塗装についてももう少し考えてみます。

さて、連休最終日になりましたが、フェニックステイル第十五話を投下します。
今回はほぼ説明回です。特に注意事項はありません。まともなエロ場面もありません……

Pixivに個人保管庫があります。
ご興味がおありの方は、小説タグ「フェニックステイル」で検索してみてください。
もしくはジムUとかサラミス改とかでも出ます。
133フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:19:25.39 ID:Um2cgCRl
 巡洋艦トラキア、MS隊小会議室。その正面スクリーンに、いくつものMSが宇宙を背にして浮かび上がる。
 戦闘中のもの、何事もなく暗礁宙域を通り過ぎて行く様の粗い望遠、そして撃破され、捕獲されたもの――そのいずれもが型式は異なれど、かつてのジオン公国軍が運用した機体だ。
「《ルスラン・フリート》。サイド4宙域のこの一隅に巣食って活発に活動するジオン残党の連中は、今まで得られた情報を総合する限り、自らについてそう名乗っているものと考えられる。
 最近接触のあった《大ジオン仏道》や《キャリホルニヤの悪夢》についても、この《ルスラン・フリート》に所属している公算が極めて高い。言わば総元締めと見ていいだろう」
 トラキア艦長リドリー・フランクス大尉が、MS会議室にMS隊の主力――MSパイロット全員と整備班の一部を集めて始めた教育はまず、今のトラキアが直面している二つの敵、すなわちジオン残党とエゥーゴに関して触れるものだった。
「このルスラン・フリートの特色の一つが、確認されている主力艦船の少なさだ。これだけ活発に動いていながらムサイ級巡洋艦はおろか、パプア級やパゾク級といった支援艦の類すら、今までほとんど確認されていない。
 MS母艦としてはジッコ級突撃艇などの小型戦闘艇や、せいぜい民間貨物船の改修型を用いる場合がほとんどと言っていいだろう。
 従って、連中の拠点があると見られる暗礁宙域から長距離での作戦能力は著しく制限されている。余所の宙域で悪さをしているかどうかはよく分からん。
 一丁前にフリートなんぞと名乗ってはいるが、その艦隊戦力はきわめて限定的ということだ」
「……大ジオン仏道もドッツィ・タールネンも、襲撃の際に母艦は尻尾を見せなかった。まともな戦闘艦がないから母艦はひたすら後ろに隠れて、MSだけを極端に突出させた運用をせざるを得ないってことか……」
 リドリーの説明を聞きながら、会議室の後列席についたアイネは今までの経験に照らしてひとり納得し、頷く。
 彼女が巡洋艦アバリスで初の部隊配置を迎えてから、まだ四日も経っていない。そのときから今まで、まともに知る機会もその余裕も与えられなかった『敵』に関する情報に、アイネは貪欲に食いついていた。
「だからといって、連中を馬鹿にすることは出来ない。というのは少なくともMS戦力に関しては、非常に潤沢な物量を抱えているものと推測されるからだ。
 現時点までに得られた情報を総合して本艦で行ったルスラン・フリートの戦力見積もりでは、最低でもこうなる」
 一面をジオンMSの映像で埋めていたスクリーンが閃き、今度はいくつものグラフが現れる。
 ここ最近で発生した宙域内でのジオン残党MS確認情報、襲撃事案などで確認された機種と機数の合計が資料として示され、その最後には各種情報資料から推計されるというルスラン・フリートのMS機数があった。
「さ、三十機……!? こんなにいるの!?」
「これ、ゲリラ戦じゃなく真正面からぶつかってきたとしても、うちの戦隊より優勢なんじゃねっスか……」
「ろくな母艦がねェから、戦力の機動運用も集中運用も出来ない。それだけが救いってとこだな」
 今度はアイネからだけでなく、傍らのロブやガルノフからも呻きが漏れた。シュンが顎に手をやりながら呟く。
「でも、変ですよね……。ジオン残党って言ってみれば結局、終戦時に共和国へ復帰せずに雲隠れした公国軍部隊のなれの果てでしょう?
 ろくな補給もないまま今まで連邦軍に掃討され続けてきたはずなのに、ここまで大きな戦力が未だにひとかたまりで生き残っているのって……おかしくないですか?」
「ルスラン・フリート――というより、本宙域のジオン残党組織に顕著な戦力の拡大が見られはじめたのは、ここ二年ほどの話だ」
 シュンの疑問を受けるようにして、リドリーが話し始めた。同時にスクリーン上のグラフ群が、時系列別の活動状況報告にフォーカスする。
134フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:19:59.48 ID:Um2cgCRl
「デラーズ紛争後に草創期のティターンズが中心となって積極的に展開した一連の掃討戦が収束に向かい、大打撃を受けた宇宙のジオン残党どもが鳴りを潜めた頃になってから、奴らは時代の流れに逆らうようにしてその勢いを増してきた。
 原因は分からん。ティターンズなどの圧迫によって、宇宙で生き残っていた残党勢力が、この旧ルウムという地球圏最大の暗礁宙域の一角に集結してきたのか。
 あるいは何らかの強力なスポンサーからの支援がこの近辺で得られるようになったから、ここを拠点に盛り返してきたのか。曖昧な可能性だけならいくつも存在するが、確かなことは三つだ。
 一つは、我々の正面に存在するジオン残党勢力は、どうやらこの地球圏でも最大級の勢力を誇っているらしい、ということ。
 もう一つは、この宙域を担当する我々の戦隊は、その戦力に対処するには力不足だということ。
 そして最後の一つは、《エゥーゴ》はそんなルスラン・フリートの戦力を狙い、同盟を目論んでここにやってきた、ということだ」
「……《エゥーゴ》!」
 その組織名を耳にして、若いパイロットたちはみな前のめりの姿勢になった。
 A.E.U.G.――エゥーゴ。反地球連邦組織を名乗るこの非合法武装集団がいったい何者なのか。連邦軍からの通り一遍の説明の他には、曖昧な噂でしか聞かないその正体を求めて、皆が表情に真剣さを増す。
「……正直なところ。この俺自身も昨日あの《ジャカルタ》に出くわすまで、奴らについて深く知っていたわけではなかった。
 地球連邦政府の宇宙政策に不満を持つ連邦軍部隊を唆して正規の指揮系統から離脱させ、弱体化し孤立したジオン残党組織に潤沢な補給を与え、また一般市民にも訓練を施して、自軍の戦力に組み込んできた連中。
 エゥーゴの第一線にいるのはそういう手合いだが、その背後関係には謎が多い。月の巨大軍需産業が絡んでいるという話もある……その関係か、今や月の連邦軍はほとんどがエゥーゴに近いそうだ」
「アナハイムか……」
「万年低重力の腰抜け野郎どもが、武器商人風情に金玉抜かれやがって」
 戦艦ジャカルタは悪びれもせずに環月方面軍所属を名乗った。新鋭戦艦を中核にした装備優良部隊を、ああも堂々と動かせる――月の連邦軍に食い込んだというエゥーゴの細胞は、よほど深い部分まで組織を蚕食しているものと思われた。
「だが無論、月の企業体だけがエゥーゴの背後にあるすべてではない。かつてのジオン公国と異なり、明確な国家としてのかたちを持たない、反地球連邦というイデオロギーの元に結束した雑多な勢力の集合体……それが、エゥーゴということのようだ」
「なぁんだ艦長。そいつぁつまり、ただの烏合の衆ってことじゃねっスか」
「足並み揃うわけがねぇ……月の低重力野郎に、死にかけジオンの落ち武者上がりに、そこらの適当な素人デビューの寄せ集め? この前は奇襲だったから不覚を取ったみたいだが、この俺が怪我を治して戦隊も準備を整えてぶつかれば、次は一発で粉々に蹴散らしてやれるぜ」
「頼もしいな、ガルノフ。だが、このデータを見てもまだそう言えるか?」
 画面が再び切り替わり、戦艦ジャカルタとその艦載機の画像、映像を映し出す。同時に昨日観測された、そのデータも。
「奴らの装備はご覧の通りだ。新型戦艦《アイリッシュ》級、そしてよく分からんジムU改修型、それにジム系らしい新型とリックドムに似た新型。装備の質、量ともに充実している。そして、搭乗員の練度も……そうだな?」
 リドリーの視線がマコト、シュン、アイネの三人をなめる。エゥーゴMS隊と直接渡り合ったその三人の返した無言が、リドリーからの問いかけに対するもっとも雄弁な返答となった。
135フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:20:35.76 ID:Um2cgCRl
「今回の接触で確認された、エゥーゴのMSは三機種。いずれも連邦軍のデータにはない機体だ。マコト。特にこの、ジャカルタのMS隊長……ベリヤ・ロストフ大尉だったか。彼の機体について、説明を頼む」
「はっ。MS隊各機とトラキアに残った映像記録から、この機体の特性を分析しました」
 正面に出たマコトは一瞬ウェンディと目配せを交わすと、淡々と説明を開始した。
「一見した機体形状はリックドムの流れを汲むようにも見えますが、この機体はジムUやガルバルディβのような既存機種の改修型ではなく、またハイザックのように冒険を避けた手堅い新型機でもありません。
 最新技術をいくつも大胆に盛り込んで一から新規に設計された、きわめて野心的な機体だと思われます」
「根拠は?」
「まず、コクピットの配置です。従来型MSの大半は、コクピットを機体中央――胴体部に設けるのが通例でした。ですが光学及び赤外線画像記録を分析する限り、当機のコクピットハッチは胴体部に確認できません。おそらく、頭部に存在するものと思われます。
 おそらく広角式と思われる頭部のモノアイセンサーは、稼働レールを持たない固定式のようです。この仕様変更によって頭部にコクピット分の容積を稼いだのでしょう。
 もともとリックドム級の重MSですが、そうして胴体部のスペースに余裕を得た分、加えてさらに大型の高出力ジェネレータを搭載している可能性が高いということです」
「この、背中の大物については?」
「『バインダー』でしょう。MSの宇宙機としての主推進機関となるバックパックへさらに、それ自体が推進力を持つAMBAC肢を追加したようなものです。
 ハイザックの放熱フィンなどとはまったくの別物です。扱いは難しいはずですが、使いこなせば、極めて高度な機動性、運動性を実現するはずです。実際にあのわずかな時間でさえ、挙動の軽さが目につきました。
 ……いずれにせよ武装の使用や戦闘機動までは見られなかったため、本格的な戦闘力については未知数の部分が大きすぎます。が、この機体については、警戒しすぎてもしすぎるということはないでしょう。新機軸の技術が多すぎるのです……まるで『ガンダム』のように」
「……『ガンダム』?」
 ざわめきが漏れた。
 エゥーゴの背後には、月の軍需企業体――おそらくはアナハイム・エレクトロニクスが存在する。それが事実ならばエゥーゴは、この地球圏で最高峰のMS開発技術を握っているということになる。
 確か戦後の一時期、アナハイムが主導でガンダムタイプMSのトライアルを行っていたというまことしやかな噂が流れたこともあった。
 ならばそのアナハイムが背後についているエゥーゴは、ガンダムに相当する最新技術で作り上げたMSを装備していたとしてもおかしくないのではないか。
 自分が付け加えた一言が場の部下たちに動揺を広げたところを見て、マコトは淡々と言い添えた。
「ガンダムだろうが何だろうが、MSだ。そのパイロットが全員アムロ・レイというわけではないし、弾を食えば墜ちる。戦場では過小評価も過大評価も害悪でしかない。そこを忘れるな。
 当機の分析結果は、次回の訓練から仮想敵機として反映させていく」
「分かった、マコト。また分析結果に続報があれば頼む。さて」
 MS隊長から場を引き継ぎ、部下たちの表情を俯瞰しながら艦長が再び正面に出る。
「戦慣れした古参兵が揃っているうえ、物量も馬鹿にならないジオン残党ルスラン・フリート。最新装備を十分に揃えたエゥーゴ。この二つが今、俺たちの目と鼻の先で手を組もうとしているわけだ。
 よって戦隊司令部は事態の深刻さを認識し、新たな手を打った」
136フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:21:32.94 ID:Um2cgCRl
「新たな手……?」
「《エゥーゴ》掃討のため、《ティターンズ》の部隊がコンペイトウから本宙域に派遣される。合流後、ティターンズ主導で新たな任務部隊が編成されることになるだろう。本艦はそこに組み込まれる」
「…………」
「あの……クソ野郎どもの下に付け、ってことっすか……」
 途端にしん、と沈黙が降り、エゥーゴに対するものに勝るとも劣らないティターンズへの嫌悪感が部下たちの顔に現れるのを見ても、あくまでリドリーは平静を通した。
「同時に、本艦の目的地も変更となった。《P-04》だ」
「うげっ」
「ああ……」
「マジかっ、……やっと上陸できると思ったら、あんなクソ田舎かよっ!?」
「? P-04?」
 悲嘆していっせいに肩を落とす僚友たちの中、アイネだけがそのコードネームらしき地名を理解できずにきょとんと首を傾げる。
「初めての者もいるな。サイド4宙域再開発拠点《P-04》。これが我々の当座の目的地だ」
 次にモニターへ映し出されたのは、宇宙に浮かぶ巨大な岩塊。その岩肌と周囲の宙域にはいくつもの明かりが浮かび、人間活動の存在を教えている。
 中心に埋め込まれたシリンダーは、疑似重力を生み出す巨大な居住区だろう。
「《P-04》は宙域掃海と廃棄コロニー再生事業の前進拠点となるべく、暗礁宙域近傍の資源衛星を改装した軍・公・民の寄り合い所帯だ。
 本艦はここに寄港してMSを含む補給物資の受領を受け、新たに編成される《エゥーゴ》討伐部隊の指揮下に入る」
 同時に出された三次元の宙域図を見て、アイネは同僚たちの反応に納得する。ルウム戦役のおびただしい名残ゆえ、魔の宙域だの辺境だのと好き勝手に呼ばわられるL1宙域の中でも、さらに暗礁宙域に接して位置している。
「そしてP-04は救援した貨物船《リバティ115》の目的地でもある。よって本艦はこれよりP-04まで、護衛を兼ねてリバティ115に同行する。では諸君に改めて、ここから当分の道中をともにすることになった《VWASS》の諸君らを紹介しよう」
「……う゛ぃわす? 同行??」
「班長、入りたまえ」
 話へついていけずに目を瞬かせたアイネをよそに、インターホンを介したリドリーの呼びかけで扉が開いた。
「失礼します」
 どこかで聞いた声だなとアイネが思う間もなく、連邦軍制式の――トラキア隊が使っているものより一世代古い、一年戦争型の黄色いパイロットスーツを着た中年の男と、好奇の視線できょろきょろと周りを見渡す、少年のような風貌の少女の二人が入ってくる。
 リドリーは咳払いして、会議室の正面を二人に譲った。
「では班長、自己紹介を頼む」
「はっ、艦長殿。ヴィックウェリントンエアロスペースセキュリティーズ――VWASS第104航宙警備班長、テッド・バートン予備曹長です」
「同班員、アシュリー・スコット予備上等兵です!」
 短髪の男が堂々と名乗りを上げれば、緩いくせっ毛のショートカットを揺らして元気良く少女も続く。
「ああ、この人たち……」
 軍人らしい基本教練で正面に立った二人がそこまで言い切ると、ようやくアイネも彼らの正体に思い至った。
「さっき《リバティ115》に付いてた、民間警備会社の……」
「巡洋艦トラキアの現役MSパイロット諸官らの勇敢な支援に、VWASS航宙警備班長として深く感謝申し上げます。こちらのスコットがボールごと捕獲された際、ザクUを撃破してくださったパイロットの方は――」
「え?」
「彼女です、バートン班長」
 不意に自分へ向かってきた話に目を丸くするアイネへ、それまで沈黙を保っていたマコトが不意に水を向けた。
137フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:22:12.63 ID:Um2cgCRl
「――こちらの女性が……!」
「は、はいっ……。あ、アイネ・クライネ伍長です!」
 慌てふためいて起立するアイネにバートンは相好を崩し、力強い笑みを浮かべてくる。傍らの少女も大きな瞳を見開いてアイネを見ている。
「クライネ伍長、実に素晴らしい剣閃でした。トラキア隊は若い方でも、高い練度をお持ちのようだ」
「じ、自分はただ、夢中だっただけです……。あ、ありがとうございます……」
 不思議な面映ゆさに頬を染めながら、バートンを直視しきれずにアイネは俯いた。
 同時にバートンの小脇から、じっとこちらを見ている少女のことも意識する。まるで小動物のようにアイネを一心に見つめている彼女は、アシュリー・スコット予備上等兵と言ったか。
 アイネがドッツィ・タールネンの機体から斬り離して救ったボールのパイロットが、彼女だったということらしい。
「それではバートン班長、席に着いてくれ」
「はっ」
 バートンとスコットは連邦軍式にリドリーへ敬礼すると、席へ向かった。
 頼みのマコトは正面脇に位置を取っており、ガルノフやシュンには近寄りがたく、ロブにも微妙に遠慮して、ウェンディからは本気涙目で逃げてきたアイネは今、一人でぽつんと離れている。
 そのアイネの隣に、スコットが勢いよく飛び込んできた。にっこりと微笑まれたので、とりあえずアイネも愛想笑いを返す。適切な距離感が掴めなかった。
「VWASSは地球連邦政府の認可を受け、連邦軍の払い下げ装備を取得して宇宙での警備業務を請け負う民間企業だ。バートン班長のように実任務に当たる人員は、地球連邦軍の予備役軍人でもある。
 マコト以下のMS隊は特に、VWASSの諸君との連携を密にするように。
 ジオン残党ルスラン・フリートの活動がますます活発化し、さらにエゥーゴの侵入までもが確認された。宙域の緊張は高まり、もはや予断を許さない。この状況下で、諸君らの協働一致を期待する――以上!」
「気をつけェ!」
 マコトが号令し、会議室の全員が一斉に起立して艦長との敬礼を交わす。続けてマコトが全員に達した。
「MS隊も解散とする。事後は所定通り各個に行動。別れ」
 ルスラン・フリート、エゥーゴ、ティターンズ、任務部隊、P-04、VWASS。
 自分を取り巻く環境の激変を感じながら、やはりあのエゥーゴとの戦いが運命の転機だったことを痛感して、アイネはそっと天井を仰いだ。
 同時に、傍らに立つボーイッシュな少女――アシュリー・スコットからの視線に気づく。
「クライネ伍長殿! 先ほどは救援、本当にありがとうございました!」
「私は、ただ夢中だっただけだよ。あなたを本当に助けたのは、ハヤカワ准尉。准尉がリックドムからの奇襲を捌いてカウンターを決めていなければ、私の突撃だって成功しなかったもの」
「ハヤカワ准尉殿……あの美人の隊長殿でありますね! トラキアMS隊には美と強さを兼ね備えた女性がこんなにいらっしゃるのですね! 感激であります! 憧れます!」
「えっ? 美、美と強さ、って……わ、私も??」
 あまりにまっすぐに届いてくる賞賛に、アイネは思わずふらつきそうになりながら少女を見返す。彼女の瞳に邪気はなく、どうやら本心からそう言ってくれているのだと直感的に分かってしまって、アイネは赤面しながらどうしようもなくうろたえた。
 ――私なんかのことを、そんな風に思ってもらえるなんて……。
 自分の未熟さに照らして分不相応に思う気持ちと、救った年下の少女の存在を感じて得た暖かな感情がない交ぜになって、アイネの胸中に渦を巻いた。
「あ、ありがとう……」
138フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:22:45.64 ID:Um2cgCRl
「ところで、伍長殿」
「ん? 何かな?」
 アシュリーの視線が、アイネの目線から少し下がった。
 興味津々の幼い瞳が自分と、そして会議室前方で残務処理するマコトの胸の間をしきりに行き来していることに気づいて、アイネは笑顔をわずかに強ばらせる。
 ああ、オチが読めたような気がする。
「一流パイロットたる女性には、やはり立派なバストが不可欠なのでありますか? 准尉殿も伍長殿も、素晴らしくご立派なものをお持ちのようで――」
 二人に比べればずっと慎ましやかな自分の胸の膨らみの存在を、ぴったりとしたパイロットスーツ越しに確かめるように両手で包み、アシュリーはささやかな脂肪を捏ねるようにしながら切なげにアイネを見つめる。
「これが貧弱な自分とお二人の、差……、なのでありましょうか!?」
「そっ、それは……たぶん、全然、まったく何も関係ないと、思うよ……」
「ふぎゅっ!?」
 そんなアシュリーの脳天へ唐突に拳骨が落ちて、少女はそのまま頭を押さえてうずくまる。
「何をやっとるかこの阿呆! どうしてもトラキアに来たいジムUのパイロットに会いたいって言うから連れてきてやったと思ったらこれか、さっきの戦闘で頭でも打ったか!? また精密検査をやり直すぞ!!」
「はっ、班長ぅぅ……後生ッスからどうか、どうかそれだけはお許しをぉ……あ、班長! 班長も自分の胸がばいんばいんのたゆんたゆーんなないすばでーに育った方が、強そうだと思っていただけ――ぱぎゅっ!!」
 有無も言わせぬ二発目の拳骨が、今度こそアシュリーを完全に沈黙させる。疲れ切った声でバートンが言った。
「……どうも、クライネ伍長。うちの馬鹿がご迷惑をおかけしました」
「あ、いえ……そんな、私は別に……」
「では、のちほど格納庫で……」
 頭頂部からプスプスと煙が出ているようにも見える少女の襟を引きずって、心底恥ずかしそうに会議室から退場していくバートン班長を見送りながら、どこも大変なんだなぁ……とアイネは思った。
「ああ、もう……。とにかく行きますよ、カーペンター伍長」
「えっ?」
 アイネはとりあえず、ニヤニヤしながら一部始終を黙って見ていたガルノフとロブを眼光一睨みだけで下がらせると、ものすごく気まずそうに目線を逸らしていたシュンを捕まえながら会議室を出た。
 格納庫へ向かうリフトグリップを掴みながら、後ろのシュンへ向かって呼びかける。
「25をもう一回調整します。手伝ってください」
「それは、構わないけど……クライネ伍長。僕の方からも条件がある」
 意を決したような声に追われて、アイネは思わず振り向く。そこには混じりけのない、真剣そのものの眼差しがあった。
「? 条件?」
「クライネ伍長。僕と、付き合ってくれ」
「…………。……えっ」
139フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:23:15.30 ID:Um2cgCRl
 ガン、カツン、カン、と、細かな衝突音がひっきりなしに艦内へ響く。
 エゥーゴ戦艦ジャカルタの艦橋は先のトラキア隊との接触時とも異なる、異様な緊張感に包まれていた。
 ジャカルタはいま暗礁宙域の深い部分へ、ゆっくりと、しかし確実に進行しつつある。そして進行するほどに宙域のデブリは密度を増して、戦艦ジャカルタの真新しい装甲板に細かな傷を刻んでいくのだった。
 艦の前方宙域には、飛び交うスラスターの火光が見える。MS隊が常時前方に展開して、艦の行く手を遮るデブリを排除しているのだ。
 万一の事態に備えて対空火器にも実員が配され、主砲も万全で待機してはいるが、まだこれまでのところ、そこまで派手にデブリを破壊しなければならないような状況には陥っていない。
 そう済むようにこの宙域での操艦を采配してきた艦長席に座る老練の船乗り、デミトリ・スワロフ中佐はしごく泰然としたものだったが、操舵士やレーダー手以下の艦橋要員の表情は鬼気迫るものだった。
「どういう神経してんだ、本当……こんなところに何年も潜んでやってるなんて、信じられねえよな……」
「並みの大型艦が通れるようなところじゃないだろ……MSや突撃艇だってどうか、ってとこだぜ――うわ!?」
 MS隊の前衛をすり抜けたか、一メートル近い大きさのデブリが艦橋めがけて飛び込んでくる。迎撃も間に合わずに艦橋ガラスへ衝突したが、大した被害を与えることもなくデブリは粉々に砕け散った。
「MS隊ィ! 前方監視、ちゃんとやってんのかァ!?」
『07。やっておりますわ。ただ、少々濃くなって参りましたの。こういうときに限ってマインさんがおられないのは残念ですわね』
「ハフナー少尉はまだ検査入院中だ。今日のところはシェンノート少尉の仕事にかかってるんです。よろしく頼みますよ……」
『はいな。紅茶の用意をお願いいたしますわね』
 今日もヌーベルジムUでデブリ警戒任務に当たるリアンナ・シェンノート少尉からの報告が入って、通信手はほっと息をつく。だが普段なら一服の清涼剤となっていただろう美少女との通信を終えても、艦橋に垂れ込める重苦しい空気は消えることがなかった。
「お、おい……今の……」
「あ、ああ……」
「……人、……だったよな……」
「…………」
 隣同士の二人が言葉を交わしたきり、それきり黙り込む。
 L1宙域。ルウム戦役の名残。この宙域で命を奪われた二十億の死者は、八年の時を経てなお彷徨い続けているのだ。
「なんてとこだよ。薄気味悪い――」
「この経路で、本当に来ますかね、連中……」
『必ず来ますよ』
 自信に満ちた呟きが不意に割り込んできて、クルーたちはぎょっと視線を交わす。発信源はジャカルタのMSカタパルト甲板へ武装して出たまま、じっと動かないリックディアス。
 ジャカルタMS隊長、ベリヤ・ロストフ大尉の機体だ。
140フェニックステイル第十五話:2014/05/06(火) 15:25:41.15 ID:RUh4Vmm8
『タールネン少佐のMS隊をあの貨物船の襲撃位置まで輸送した彼らの母艦は、一部始終を観測していたはずです。彼らは見ていますよ、我々を。その戦力を整えながら、今、この瞬間にもね。
 ……一瞬の油断が命取りになります。実のある交渉へ繋げるためにも、彼らへ隙を見せない操艦をここから先もよろしくお願いしますよ』
「君に言われるまでもないな。索敵、そろそろ頃合いだぞ。彼らが動くならこの辺りだ――あらゆる兆候を見落とすな」
「…………」
 艦長からの注意喚起にレーダー手は静かに息を呑み、緊張感を増した表情で再び索敵に没頭した。
 その両目が不意に見開かれる。
「――レーダーに感! 七時にMS……五機を確認!」
『10よりジャカルタ、十二時にMS――中隊規模!』
『こちら04、三時下方にもMS、少なくとも六機以上!』
「なんだこれ、一斉に出てきたのか……囲まれてる!?」
「所属不明機より、通信入ります! ……なんだ……何を言っているんだ、こいつら……!?」
 宙域を漂う暗礁に身を隠しながら寄せてきた、ザクUが、リックドムが、ドラッツェが――そしてゲルググが、戦艦ジャカルタとそのMS隊を押し包むように姿を現す。
『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏』
『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏』
「エレイン信女、フローラ信女。汝らゆめゆめ用心せよ。修羅道の気配あり。数で圧するフリート主力との合同なれど、相手の力はまっこと恐るべし。ゆめゆめ油断してはならぬ」
『御意!』
 ひたすら念仏を唱え続けていた少女たちの声が、そのときだけは男の命に唱和する。
 ゲルググのコクピットで大ジオン仏道を率いる男、ゲオルグ居士の澄み切った瞳が全天周モニターを通して、エゥーゴ戦艦のカタパルト甲板で向き直ってきた重MSの固定式モノアイとぶつかり合う。
「刻、来たれり――か」
141名無しさん@ピンキー:2014/05/06(火) 15:27:23.27 ID:1vGjfNma
つC
142フェニックステイル第十五話おわり:2014/05/06(火) 15:31:58.87 ID:Um2cgCRl
今回は以上です。

>>66
今更ですが……
アイネたちが不死身なのは、MS戦とエロ場面をシームレスに繋ぐための舞台装置であると同時に、ストーリーの中核にもなっています。
でも、そのことを知っているのはマコトやベリヤなどごく限られた人間のみ。それがここからどう転がっていくのか、気楽に見ていただければと思います。

需要の有無は分かりませんが、第十三話とαみたいながっつりしたエロはしばらくお休みです。
もう数話の間はぬるエロ混じりの平常進行、ときどきMS戦、みたいな構成になるかと思いますが、お付き合いくだされば幸いです。
143名無しさん@ピンキー:2014/05/06(火) 15:37:38.72 ID:Um2cgCRl
>>141
支援ありがとうございました〜。
貧乳娘も逐次増強中ですが、どんな塩梅ですかね。
144名無しさん@ピンキー:2014/05/06(火) 18:12:14.68 ID:p+ee2XG+
GJ!
145名無しさん@ピンキー:2014/05/10(土) 13:05:09.65 ID:vcCX+FVj
個人的にはチチナシはデッドウェイト
巨乳こそ真理
あくまで個人的にはだけど
146フェニックステイルの輩:2014/05/10(土) 14:09:07.42 ID:uDnKeQhX
爆 アイネ
巨 マイン、マコト
美 リアンナ
普 ウェンディ
貧 アシュリー、シエル

現在のおっぱい戦力図はこんな感じです。
私も巨乳好きですけど、話と描写を作るうえではある程度バラケていたほうがいいですね。
ウェンディとリアンナの濡れ場がさらっとスルーされたまま、話は続いていきます……

VOEを読み返してみると、フォウの胸のサイズが意外に可変だったりしたことに驚いたりします。
147名無しさん@ピンキー:2014/05/11(日) 06:58:08.94 ID:mE/4Wj8c
チチナシなのにデッドウェイトとはこれいかに
148名無しさん@ピンキー:2014/05/12(月) 13:47:01.92 ID:LD/Gjazh
このスレは巨乳派に無血占領されたのか……
149名無しさん@ピンキー:2014/05/12(月) 19:46:03.90 ID:KkJ9yQZ9
キッカもお姉ちゃんもおんなじ女だろ
150名無しさん@ピンキー:2014/05/12(月) 20:28:37.75 ID:G6vojWxC
じゅーりょくの無い方がおっぱいよく育つのかね…
151名無しさん@ピンキー:2014/05/12(月) 21:04:50.49 ID:tWuyP46+
ぷりんぷりんのメロン乳でパイロットスーツの胸をぱんぱんに膨らませたきれいなお姉ちゃんたちが宙を行き交うMS格納庫って胸熱?
152名無しさん@ピンキー:2014/05/14(水) 01:39:08.46 ID:29KU6Tco
胸厚…じゃなくて胸圧…でもなくて胸ある…ちっがーう…胸熱。

パイロットスーツは共用品なので胸の大きい人が着るとどうしてもぱつんぱつんになるとか。
(配属されてすぐなので合うスーツが準備されてないとか)


ネネカ隊とシュラク隊のレズバトル見てみたいなぁ…。
153フェニックステイルの輩:2014/05/14(水) 06:26:37.30 ID:esVbkEyW
パイロットスーツの生地の伸縮性ってどのぐらいのものなんだろう
154フェニックステイルの輩:2014/05/14(水) 06:35:47.75 ID:RrPHOSRx
あ、雑談なのに名前を消してませんでした……

アイネのキャラデザ画がちょっとずつ出来上がってきました。
155名無しさん@ピンキー:2014/05/14(水) 06:38:11.38 ID:0t0cvzbC
募集したのって集まってるの?
156フェニックステイルの輩:2014/05/14(水) 07:07:19.84 ID:MlCNMmo7
はい。ご応募いただいた方とやりとりさせていただいています。
アイネはびっくりするほどエロかわいいですよ!
157名無しさん@ピンキー:2014/05/14(水) 08:08:52.23 ID:0t0cvzbC
すごく楽しみw
ありがとう!
158名無しさん@ピンキー:2014/05/28(水) 12:44:55.59 ID:Tyud8cUR
過疎
159フェニックステイルの輩:2014/06/21(土) 10:34:56.83 ID:NlNsnAa8
拙作ヒロイン・アイネの設定画を、Pixivにて公開させていただきました。

全年齢版(パイロットスーツ、連邦軍制服、表情集)とR-18版(スポブラ、裸身)に分けて投稿しています。
全年齢版の方はPixivアカウントの無い方にもご覧いただけるはずです。

全年齢版 ttp://www.pixiv.net/report/illust/?id=44214507

R-18版  ttp://www.pixiv.net/report/illust/?id=44214590

それではまた近いうち、本編の投下に参ります。
160フェニックステイルの輩:2014/06/21(土) 10:39:33.06 ID:NlNsnAa8
申し訳ありません、↑のアドレスは誤りでした。
正しくは、

全年齢版 ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44214590

R-18版  ttp://www.pixiv.net/report/illust/?id=44214590

です。お騒がせいたしました。

それではまた近いうち、本編の投下に参ります。
161フェニックステイルの輩:2014/06/21(土) 10:40:50.27 ID:NlNsnAa8
たびたび申し訳ありません。

R-18版のURLは

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44214590

でした。
失礼いたしました……。
162名無しさん@ピンキー:2014/06/21(土) 19:08:25.77 ID:Il/r2QvI
GJ!
163フェニックステイルの輩:2014/06/23(月) 11:29:23.04 ID:IyK/WyzO
>>157
どうでしょう?
イメージと合っていましたか?

>>162
ありがとうございます〜

いまいち不人気な感じのアイネですが、これでテコ入れになってくれると嬉しいです。
164157:2014/06/23(月) 22:42:36.00 ID:chic59/r
>>163
正直、勝手なイメージはもっとリアル寄りの外人さんな感じだったけど、
予想外に幼い感じのアイネちゃんもかわいいです!
今後、SSが投下されたらこのかわいらしいアイネちゃんが浮かぶと思います!
165フェニックステイル投下準備:2014/07/06(日) 17:58:06.70 ID:M8+6Ouj6
>>164
返信遅れました……ありがとうございます!
もっとアダルトな感じのリアル外人寄り…そんなイメージのアイネ像もあったのですね。勉強になりました。
アイネが18でマコトでもせいぜい23と、気づけば女性キャラは小娘ばかりしかいない拙作ですが、近いうちにはもっとちゃんとした大人の女性も出そうと思っております。
滅多に感想のいただけない拙作なので、お答えいただき非常に嬉しかったです。

さて、次以降フェニックステイルを投下します。
今回の注意事項は特にありません。
残念ながらエロなし、MS戦のみです。
166フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 17:59:32.30 ID:M8+6Ouj6
 貨物船《リバティ115》を先導するように、デブリ密度の増した宙域を行くサラミス改級巡洋艦トラキアのMSカタパルトから、二機のMSが射出された。
 機種はいずれも地球連邦軍の量産機、RGM-79RジムU。二機とも左手にはシールドを備え、片方は右手にハイパーバズーカを、もう片方はビームライフルを装備している。
 ビームライフルを装備したジムUがトラキアのすぐ前方で制動を掛けて足を止める一方で、ハイパーバズーカを持ち、腰回りに予備弾倉を装備したジムUはそのまま加速を続け、距離を開いていく。
『再度、本訓練の状況を徹底する』
 右手にビームスプレーガンを携え、トラキアのカタパルト甲板に残っていたジムUから、落ち着いた女の声で通信が入った。
『23は赤部隊となり、トラキアを仮想敵艦として対艦攻撃を実施。25は青部隊となり、トラキア直掩機としてその攻撃を阻止する。22は全般統制と全周警戒、事故対応を兼務。
 本訓練は艦対空戦闘訓練も兼ねるため、トラキアの主砲、対空機銃の一部も状況に参加する。ただしトラキアは戦術運動を行わず現航路を維持し、火力戦闘のみ展開するものとする。
 青部隊の目的は23の撃墜、もしくは撃破判定獲得による対艦攻撃の阻止。赤部隊の目的はトラキアへの対艦攻撃による大破ないし撃沈判定の獲得。いずれかの発生をもって、状況終了とする』
「了解」
『了解!』
 これより一時、かりそめの敵となる少年の声が通信回線越しに聞こえて、ジムU25を操る少女――アイネは表情を引き締める。
 アイネがアバリス隊への着任早々、哨戒任務の途中でいきなり命じられた部隊全力での戦闘訓練とは異なり、今回の訓練に直接参加するのはシュンの23とアイネの25だけだ。
 マコトの22がトラキアの甲板上に出て訓練中の敵襲に備えつつ訓練全般を統制しているから、アバリス隊全滅の二の轍を踏むことはないだろう。
 アイネは先行したシュンの機体が消えた宙域を睨み、戦意を固める。一対一。必ず勝利してみせる。
『状況開始!』
 マコトの凛とした号令を最後に少年の機体との通信が断たれ、それが決戦の引き金となった。
167フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:02:24.42 ID:M8+6Ouj6
 四機中三機の艦載機を艦外へ送り出したトラキア格納庫には、入れ違いにVWASSの半壊したジムとボール五機が機体を収めていた。残ったジムUとジムの傍らにMSに比べれば小型といえ、さすがに五機ものボールが林立していれば迫力がある。
 与圧を終えたトラキア格納庫内では、これからボール隊の被害と損耗状況の細部確認に続いて、トラキアMS整備班による修理と整備、補給作業が予定されていた。
 MSに比べて簡素な運用設備しかない船舶でも安定して運用できることがボールの強みではあるが、さすがに本格的な戦闘に投入された後では相応の整備を必要とする。そのためにはトラキアの与圧されたMS格納庫はうってつけだ。
 所用の物資に伴う出費は後でVWASSに要求できるし、むしろそうして新しいコネを開拓しておいた方が今後、連邦軍正規の補給より当てになってくる可能性もある。
 加えて脅威度の高い宙域へ近づく前に手持ちの戦力を少しでも増強しておきたい、という艦長の思惑あっての措置だった。
 しかし今そのMS格納庫では艦外映像を映すモニタの前に、ちょっとした人だかりが出来つつある。
 もちろん格納庫内から艦外の状況を把握する程度の機能しか期待されていない代物だが、観衆はめいめい好き勝手な感想を漏らしながら、暗礁宙域に舞う噴進炎の光条を見つめていた。
「それにしてもシュンの野郎、アイネちゃんに決闘申し込むたぁな」
「あいつもいつの間にか言うようになったよな。実戦くぐって度胸が付いたのかね?」
「おっ……そろそろ始まる感じ?」
 そんな整備兵たちの後ろに、彼らを率いる若い娘――ウェンディ・アーデル曹長が楽しそうに足を止めると、整備調整のために同行していたVWASSのテッド・バートン班長とアシュリー・スコットも一緒になって覗き込んだ。
「アーデル曹長、何が始まるんです?」
「ウチのMS隊の模擬戦訓練です。伍長クラスの若手同士が、やるって言って聞かなくて。それをマコトが許可したんで、みんな昨日の今日だってのにこの盛り上がりなんですよ」
「――ちょっとみんな!? 何やってるんですか!」
 だがそのとき格納庫全体に、空中から若い娘の声が響きわたった。中破したVWASSのジムへ付き、損害状況を把握していたメガネで童顔の女性整備兵だ。
「げっ、エイムズ軍曹……」
「何だよ、マリエル? 一緒に観ようぜぇ」
 ジムU23――イベル・ガルノフ軍曹からシュン・カーペンター伍長に乗り手を変えた機体の機付長、マリエル・エイムズ軍曹。
 彼女は二筋に分けた焦げ茶のお下げ髪を振り回しながら、幼い顔立ちを気むずかしげにしかめて、メガネの奥から眼光鋭く叫んでのける。
「だから決闘じゃなく、ただの模擬戦訓練です! だいたいみんな何やってるんですか! VWASS機の整備作業だって前倒しで進めていかないと、いつまで経っても終わらないんですよ!」
「いやー、だってさぁ……シュンとアイネちゃんの決闘なんだぜ? どうやったって気になっちゃうでしょ、これ」
「そんなの聞いてませんっ!」
 年上の男性整備兵も、マリエルの一睨みで簡単に沈黙させられてしまう。
 まだ年若い整備兵ながらも任務への実直さと機材への確かな観察眼を基に実績を積み重ね、整備班においてウェンディに次ぐポジションを実力で勝ち取りつつあるマリエルには、MS格納庫内の誰もが無視しきれない発言力がある。
 だがマリエルがそうして支配しかけた格納庫内の空気は、一瞬にして鶴の一声でひっくり返された。
「ようし、あたしが許可するッ! MS整備班は今から別命あるまで全体休憩〜!!」
「んなあっ!?」
「うひゃほーーーう!!」
 格納庫全体に凛と響いたウェンディの叫びが、部下たる整備班員たちから地鳴りのような反響を引き出した。
「見たい奴はモニター前へ集まれ! 冷えてる飲み物もってこい! 箱ごとな箱ごと! みんなで観戦しようぜぇ!」
 整備班長のお墨付きを得て、一気に生き生きと動き出した整備兵たちの流れに逆らうように、マリエルはウェンディへ詰め寄った。
「あ、アーデル曹長……!? な、なに考えてるんですかっ!?」
「え? いや、あの戦闘から今まで整備班はフル稼働でさ、結構シフトもキツキツだったでしょ? ここらで大きめに息抜きしないと、皆もう保たなくなっちゃうんだよね。
 身体的だけじゃなくて、精神的にさ。こんな疲れた状態で他に気を取られながら作業しても、能率上がんないじゃん? 気分転換だよ〜」
「…………!」
「まあ人間みんながみんな、マリエルみたいにいつまでも頑張り続けられるわけじゃないってことだよ」
168フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:03:20.77 ID:M8+6Ouj6
 ポン、と小柄な彼女の肩に手を置きながら隣を抜けて、ウェンディは壁際の通信端末の受話器を取った。画面には彼女らの頭上、カタパルト甲板上に立つジムU22機上のMS隊長が映っている。
「んふふ……。ってことで、マコト! いつでも始めちゃっていいよ!」
『整備班の余興のためにやる訓練ではないんだが』
 呆れ気味に言ってのける彼女の口調にも、ウェンディはすっかり慣れている。馬耳東風と受け流し、楽しげに尋ねる。
「で、あの二人、勝負に何を賭けてるの?」
『いや特に何も。少なくとも、私は聞いていない』
「……えええええ〜〜〜?」
 途端にウェンディの表情が失望に染まった。駄々っ子のように文句を垂れ流しはじめる。
「なんだよー、せっかくの勝負なんだぞー! 推進材にしたって演習弾にしたって、実機訓練なんてタダで出来るもんじゃないんだぞー! せっかくなんだから、せめて当事者同士は何かいいもん賭けろよぉ! 盛り上がんないでしょーがー!」
『だから格納庫を盛り上げるために企画した訓練ではない。あくまで練度の把握と向上が目的だ』
 大人げなくじたばたと手足を振り回すウェンディへ機上のマコトが釘を刺し、あくまで淡々と二人の訓練開始を見守る。
「……そうだ! アイネちゃんの処女と、シュンの童貞を賭けさせよう。シュンが勝ったらアイネちゃんの処女をいただいちゃえて、アイネちゃんが勝ったらシュンの童貞を食べちゃえるってことでどう?」
 何の脈絡もなく通信が切れた。
 ウェンディは無言でひたすらボタン連打で呼び出しを繰り返したが、マコトは全く応じず、やむなくウェンディが手元のキーボードで文字メッセージを送ると、ようやくマコトが冷たい瞳のままで回線を復帰させた。
「ああ、もう……。はいはい、真面目な話をすればいいんでしょ。エゥーゴの緑ジムUの件ね。
 あれから例のリックドムもどきと一緒に、こっちの動きも分析してみてたけど……これってウチのジムUどころか、ハイザックよりいい動きしてるよね。動きのキレも出力も、すべてが一段上の性能って感じ」
 素直に感心したように言うウェンディが出した携帯端末は、シュンのジムU23を襲ったエゥーゴ機の躍る肉食獣のような機動の記録分析動画を映している。
「シールドの打突技だけでシュンの23を部隊から切り離しながら半殺しにしてのけたパイロットの腕もたいしたもんだと思うけど、機体性能の方もかなりキてるわ。よくこんなのに勝てたよねぇ。
 アイネちゃんって格闘戦ならマコトはともかく、その他のボンクラ連中からは頭一つ抜けてるんじゃないの?」
『当然の結果だろうな。修羅場をくぐった数が違う。彼女は『本物』の死線を知っている』
「シュンには勝ち目ないってこと?」
『そうとも限らない。私があえて最も経験の浅い彼にハイパーバズーカを預けている理由を、本当に理解していてくれるなら、あるいは……な』
「ふーん。……おっ。始まった?」
『そうらしい。ウェンディ、また後で頼む』
 モニターを囲む整備兵たちが上げる歓声に、ウェンディは通信を切りながら自身をそちらへ泳がせた。
169フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:05:24.05 ID:M8+6Ouj6
「…………」
 全周囲を油断なく警戒しながら、アイネのジムU25は暗礁宙域内を航行していた。
「思ったより、デブリの密度が濃いな……。過度の加速は禁物。訓練中の事故で機体大破なんて、シャレにもならないよ……」
 冷静に自分を戒めながら、しかしアイネは同時に自らの狩りの獲物となる少年のことを思って不敵に笑った。
「さあ、カーペンター伍長。どう出てくるのかな?」
『僕と、付き合ってくれ』――最初は何を言われているのかまったく分からなかったが、よく聞いてみれば何のことはない、単なる実機模擬戦訓練の申し出だった。
 毒気を抜かれたようにアイネがそれを承諾した後、聞けばハヤカワ准尉への上申や関係各方面への調整も、彼が主体となってやってくれたらしい。熱心なことだ。
 だが、悪い気はしない。正規のMSパイロットとしてまっとうに扱ってもらえる、そして実戦に即した訓練が出来る。それは素直に有り難いことだとアイネは思う。
 対等のライバルが存在することも、また。
「――!」
 そろそろか、と思っていたアイネの直感を裏付けるように、油断なく索敵していた彼女の視界をスラスターの火光が遠く横切る。
 破壊されたまま漂流する無数の融合炉からミノフスキー粒子が垂れ流され続ける暗礁宙域では、レーダーの効力はきわめて限定的にしか期待できない。
 アイネは即座にメインカメラを向けて望遠を掛け、慎重に航路を取りながら接近していく。目指す機影はすぐに捉えた。
「へえ。ほんとにハイパーバズーカで私と戦うつもりなんだ」
 ハイパーバズーカの長砲身とシールドを油断なく構えながらデブリ群を背にして飛ぶシュンのジムU23を見つけて、アイネは不敵な笑みを浮かべた。
 ハイパーバズーカはMS戦にも高度に対応した火器だ。ジェネレータへ負担を掛けることもなく、うまく弾種を使い分ければ、多様な局面に対応できる。
 榴弾や榴散弾を『置いて』敵の動きを牽制したところへ、狙い澄ました本命の徹甲榴弾を叩き込んでトドメ、などという運びも夢ではない。
 だが一対一ならば、ビームライフルの有利は動かない。
 ビームライフル普及後の連邦軍MS隊におけるハイパーバズーカの位置づけは、あくまでも支援火器の域を出ない。運用そのものを廃止した部隊すら少なくないほどだ。
 確かに実弾火器はジェネレーターへの負担を掛けないが、とにかく砲身が長くて砲弾も重い。どう頑張っても身軽には戦えない代物なのだ。
 弾速が違う、精度が違う、射程が違う、取り回しが違う。そしてMSがシールド以外でビームを受ければ、ほぼ確実に貫通される。
 要は総合的に見て同一機種の一対一で戦うならば、ビームライフル装備のアイネに不利な要素はほぼ無いということだ。むろん技術や条件次第では覆しうる程度の差ではあるが、アイネはまったく負ける気がなかった。
 目標は視認できていても、まだ必中を期せる距離ではない。何とかして、もう少し距離を詰めなければ――だがシュンはビームライフルの有効射程外から、早々に戦いの火蓋を切った。
「……榴散弾!」
 砲口炎が閃き、縮射演習弾――砲の口径よりずっと小さな弾体が小さな砲口炎に蹴飛ばされ、初速だけは実弾に遜色ない勢いで射出される。
 そして演習用の低出力レーザーを前方へと円錐状にまき散らしながら、回避機動するアイネの脇をすり抜けていった。
 レーザーで模擬的に再現された榴散弾の破片の傘がジムU25の機体各所に設けられたセンサーに拾われ、機体の制御系に被弾の状況を付与する。
 幸い回避運動への入りが早かったため損害判定はほぼ無かったが、シュンは矢継ぎ早に榴散弾を放ってきた。
「へえ、さっそく戦訓復習の時間ってわけですか!」
『キャリホルニヤの悪夢』率いるリックドムが仕掛けてきた大胆な火力戦に影響されたか、シュンの発砲間隔は短い。初弾による制圧効果を確認する前に、ハイパーバズーカが次弾装填と照準を完了するが早いか速射してくる。
170フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:07:05.31 ID:M8+6Ouj6
「でもカーペンター伍長、残念……これ、レーザー模擬戦なんですよねっ!」
 果敢なバレルロールを打って左右に弾けるレーザーの雨を突き抜けながら、アイネは力強く微笑んでシュンのジムU23を見据えた。
 前回の実戦でリックドムが撃ち込んできたのは当然実弾だったから、炸裂したその破片と爆炎が壁となって視界を遮り、ジオン残党は二機のMSをその掩護下で突撃させることが出来ていた。
 だが今回のシュンには突撃を買って出てくれる友軍機も、それどころか実弾なら発生しているはずの爆発もない。アイネは視界を遮られることも、爆圧に機体を揺らされることもない。
 縮射演習弾が発するレーザーは機体のセンサーを反応させて損耗の状況を付与してくれるが、それだけだ。他には何の効果もない。それは軍という組織が実戦ではないものを実戦に見立てて訓練しようとするとき、そこに生じる誤差のひとつだった。
 アイネは回避機動と前面に押し立てたシールドで、飛来してくる榴散弾の破片――という想定になっている、レーザー光線――をことごとく防御し、さらにビームライフルの銃口を23へ向けた。
 肉薄するアイネにビームライフルの有効射程はすでに割られて、彼我の間隔は中距離から近距離へと移行しつつある。
 だがシュン機は宙域に漂う大型のデブリを盾にしながら機動することで、アイネから直接の射線を取らせない。そして自分からはアイネ機の取り得る予想進路上へと砲弾を間接的に『置き』にかかっていた。
「ちょこまかと動くっ! カーペンター伍長、バズーカ背負ってなかなかやるじゃないですか……!」
 デブリの少ない清浄な宙域ならまだしも、すでに《P-04》に近づいた宙域に漂うデブリは相当な濃度に達して、MSの機動を制限している。
 シュンはすでに弾種を榴散弾ではなく、より爆発威力の大きい榴弾に切り換えて応戦していた。弾体に内蔵される炸薬量は榴弾の方がずっと大きく、それを反映して演習弾が発するレーザー出力も高まっている。
 直撃弾は言うまでもなく致命的であり、至近弾でもかなりの打撃効果になる。四肢をいくつか持って行かれてもおかしくない。
 シュンは付近のデブリ浮遊状況からアイネの予想接近経路を割り出し、そこへ先行して榴弾を撃ち込んでいくことで、アイネの肉薄を阻止しながら機体に損耗を蓄積させ、機動を鈍らせたところへ直撃弾を送り込もうと狙っているのだ。
 ビームライフルなどと異なり、直線弾道で即座に直撃させる必要のないバズーカだから出来る戦術だった。
 シュンはデブリの背後を選んで巧みに射点を取りながら、時にアイネの前進を阻み、時に近弾を浴びせては、ダメージを一方的に蓄積させていく。
「くっ、また……っ! でも、――行ける!」
 一見して完全に押されていながら、しかしアイネにはもう一つ、勝負どころの当てがあった。
 大型の砲弾を扱うハイパーバズーカは、撃ちまくってしまえばすぐに弾倉交換が必要となる。
 MSの機体構造は完全な人体の模倣ではないから、バズーカ砲尾の弾倉を背中へ回した左手で交換するのもお手のものだが、少なくともその弾倉交換の時間には戦闘能力の死角が生じる。
 先のリックドムは二門のジャイアント・バズを装備していたうえ、機体各所に増設されたミサイルランチャーで再装填時の隙を補っていた。
 だが、単に武装を持ち替えただけの標準型ジムUに過ぎないシュン機では、そうやって再装填の隙を補える武装は頭部60ミリバルカン砲しかない。
「あと、一発……!」
 機体に損害付与を積み重ねられながらも、肝心の戦闘能力は維持したまま確実に距離を詰めてシュンへとにじり寄っていたアイネは、シュンの弾数を数えていた。
 そして弾倉に残る最後の一発をシュンが放って撃ち尽くした瞬間、アイネは一気に飛び出して急加速で接近した。
「さあ、これでおしまいっ!」
 細かなデブリが機体とシールドを乱打するのも構わず、最短距離を突進する。すぐに射線を取ってビームライフルを構えた。
 至近距離だ。ビームライフルの速射を叩き込めばシールドもろとも機体を撃ち抜き、撃墜判定をもぎ取れる。
171フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:07:59.94 ID:M8+6Ouj6
 だが彼女はそこで、シュン機が左手に握っているものが予備弾倉ではなかったことに気づく。
「……あっ」
 ハヤカワ准尉が前回の戦闘で、ジオン残党とエゥーゴのMS隊を手玉に取ってのけた短銃身ビーム砲――ビームスプレーガンが、23の掌中にあった。
 それを一気に構えるや、シュンは連射モードでスプレーガンを放った。
 近距離ならば収束の粗さも出力の低さも問題にならない。低出力、低収束であるがゆえの低負荷が可能とする圧倒的な手数が、嵐のように連続した弾着となってアイネ機を襲う。
 これまで防御の要として機能してきたシールドがひとたまりもなく大破判定を受け、そのままコクピットをかばった左腕にまで損害付与が及ぶ。姿勢制御に異常が生じ、運動性が低下する。
 アイネもほとんど同時にビームライフルの速射を叩き返していたが、先行して生じた機体の損害が精確な射撃のための挙動を妨害し、またシュンは打ちはじめの早さと、スプレーガンゆえの手数の多さで彼女を完全に圧倒していた。
 この至近距離での威力は、ビームライフルもスプレーガンも大差ないのだ。
 それでもビームライフルの数発がジムU23に少なからぬ打撃を与えたものの致命傷にまでは至らず、その間にアイネの25はシュンの猛反撃にコクピットと融合炉への損害を付与されて――機体大破、状況終了の警告表示が全天周モニターに出現した。
 前方至近のシュン機がようやく、ビームスプレーガンの銃口を上げてアイネ機から照準を外す。その動作を見届けた瞬間、アイネは近距離赤外線通信を開き、激情のままに喚いていた。
「か、隠し武器なんてっ!! 卑怯です、カーペンター伍長!」
『卑怯、か……否定はしない。アーデル曹長に調整をかけて、ハヤカワ准尉のスプレーガン改の予備を模擬戦仕様で出してもらったんだ。そして予備弾倉に偽装して、ここまで隠し持ってきた』
「そうまでして……そうまでして、私に勝ちたかったんですか!?」
『そうだ』
「……っ」
 はっきりとシュンに即答されて、アイネは思わず口ごもる。
『前の戦闘で、君の戦いと、君の強さを見せつけられて……どうしようもなく、心が焦った。君との力の差に、自分の無力を思い知らされた』
「何ですか、それ。だからって、単なる目先の勝ち負けだけにこだわるなんて……何でもいいから私に一回勝てばいいなんて、そういうの、底が浅いって思わないんですか」
 それでもなお言い返すアイネに、あくまで淡々とシュンは続けた。
『僕は僕の戦い方を見つけなければ、君といっしょに戦う資格をなくしてしまう。だからどうしても、まず一度……どんな手段を使ってでも、僕は君に勝ちたかった』
「それで勝って、……そうまでして私に勝って、どうするつもりだって言うんですか」
 通信小窓から、じっと真摯にアイネの瞳を見つめながら、シュンは最後まで言葉を連ねる。
『君とともに戦うために、今、僕はやっと自分を許せるようになったと思う。だから次は、今度は、きっと――これからは僕が、必ず君の背中を守る』
『…………』
 アイネはシュンを直視できなくなって、通信小窓から視線を外した。
 今の戦いが、もし実戦だったとしたら。
 敵のMSがどんな兵装を持っているかなんて、そんな情報は分からない。敵はエゥーゴの新型機かもしれないし、ジオン残党の改造機かもしれない。パイロットに強烈な個性があって、思いも寄らない戦術を採ってくるかもしれない。
 シュンがビームスプレーガンを隠し持ち、最後の切り札としてアイネにそれを使ってきたのは、実戦ならばごくごく普通にあり得ることだった。
 あれだけの実戦を経験して、それを学んだはずだったのに、自分はそうした事態を想定していなかった。詰めが甘すぎた。
 彼は、身をもってそれを自分に教えてくれた。それなのに自分は短慮に、彼を卑怯者などと罵ってしまった。
「……ごめん、なさい……」
『――クライネ伍長?』
 小さく零したその言葉が、少年の耳に届いたかどうか。
 いずれにせよアイネは次の瞬間には毅然と顔を上げて、未だに目線は合わせないまま、今度ははっきりと言い放った。
「覚悟しておいてください。次は絶対、負けませんから」
『…………。ああ!』
 それきり全天周モニターに映る暗礁宙域の光景を無言のまま、シールドの内側で頬を染めながらじいっと見つめて――だからそのときアイネはそれに気づいて、シュンも彼女の表情の変化から同じく気づいた。
172フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:09:33.43 ID:M8+6Ouj6
『……クライネ伍長、どうした?』
「今、……暗礁宙域の奥で……なにか……」
 言いながらアイネは訓練装置に付与された疑似損耗付与を解除し、機体の全機能を回復させていた。同時に火器管制系を操作し、ビームライフルの出力制限を一気に戦闘基準まで引き上げる。
 続けて何かが『見えた』ように思えた宙域を指定し、頭部メインセンサー群を向けて望遠を掛けた。
「高熱源反応感知……MSらしき所属不明機の接近を確認!」
 同時に火器照準用レーザーの照射を機体が検知し、アイネは即座に急旋回と急加速を掛けてその照準から逃れていた。
 予測される敵接近経路とジムU25の間にデブリを置いて身を隠すように小移動しながら、シュン機も同様に機動しているのをアイネは見た。
「23――カーペンター伍長、今の!」
『照準レーザーだった! ジオン残党――いや、エゥーゴか!?』
 隠れる場所に事欠かない暗礁宙域。デブリの海に紛れて潜み、獲物を待ち伏せていた地球連邦軍の敵対勢力が、今この瞬間に牙を剥いたのだ。
「21、22! ハヤカワ准尉! 現出した所属不明機からの敵対行動確認!」
『捕捉している。22急行中。23、25は現座標周辺にて警戒監視』
『敵が近すぎます! 准尉の到着まで、間に合わない……!』
「この……っ!」
 アイネはビームライフルの銃口を巡らせてその機影を捉えようとするが、高速で大胆に機動する目標は火器管制が照準を付ける直前になってデブリに隠れ、そのままデブリ群の陰を縫うように迂回しながらもなお接近してくる。
「速いっ!」
『なんて腕だ! 宙域内のデブリを、障害物として完全に使いこなしてる……!』
 重力の均衡によってあらゆる物体が吹き溜まる暗礁宙域とはいえ、それらのデブリは決して一カ所で静かに留まっているわけではない。寄る辺なく絶えず漂い、動き続けている漂流物だ。
 先の模擬戦ではシュンもデブリを利用してアイネとの戦闘に活用してみせたが、大胆に最短経路を選り抜いて迫るこの機体の動きはその速さも鋭さも、シュンやアイネの機動を圧倒的に上回っていた。
「!? 後ろにもう一機いる!?」
 しかもそのうえ二人が狙おうとした不明機の後方、別の方角からも照準レーザーが来て、慌てて回避機動を強要される。その照準はデブリの海を通しているとは思えないほどに精確で、その前方を来る不明機への照準が封じられてしまう。
「23、カーペンター伍長! 演習弾しかないバズと不慣れなスプレーガンじゃ無理です! 私が前衛で支えますから、なんとか准尉と合流してください!」
『いいや、どのみち近距離でしか射線が取れないここならスプレーガンでも同じだ! 言い合う暇も惜しい、二機で連携して死角をなくす!』
「カーペンター伍長……!」
 実弾の無いハイパーバズーカを捨てて、シュンの23が右手でビームスプレーガンを構え直す。アイネも覚悟を決めて背中を合わせ、二機一体で死角を消した。
 たった二機での全周防御陣形。油断なくシールドを構えながら、ビームライフルの照準を操作する。
 口の中がからからに乾く。相対距離が詰まったことで角速度が上がり、敵機の機動を実際以上に速く感じさせる。
173フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:10:32.61 ID:M8+6Ouj6
『……クライネ伍長、どうした?』
「今、……暗礁宙域の奥で……なにか……」
 言いながらアイネは訓練装置に付与された疑似損耗付与を解除し、機体の全機能を回復させていた。同時に火器管制系を操作し、ビームライフルの出力制限を一気に戦闘基準まで引き上げる。
 続けて何かが『見えた』ように思えた宙域を指定し、頭部メインセンサー群を向けて望遠を掛けた。
「高熱源反応感知……MSらしき所属不明機の接近を確認!」
 同時に火器照準用レーザーの照射を機体が検知し、アイネは即座に急旋回と急加速を掛けてその照準から逃れていた。
 予測される敵接近経路とジムU25の間にデブリを置いて身を隠すように小移動しながら、シュン機も同様に機動しているのをアイネは見た。
「23――カーペンター伍長、今の!」
『照準レーザーだった! ジオン残党――いや、エゥーゴか!?』
 隠れる場所に事欠かない暗礁宙域。デブリの海に紛れて潜み、獲物を待ち伏せていた地球連邦軍の敵対勢力が、今この瞬間に牙を剥いたのだ。
「21、22! ハヤカワ准尉! 現出した所属不明機からの敵対行動確認!」
『捕捉している。22急行中。23、25は現座標周辺にて警戒監視』
『敵が近すぎます! 准尉の到着まで、間に合わない……!』
「この……っ!」
 アイネはビームライフルの銃口を巡らせてその機影を捉えようとするが、高速で大胆に機動する目標は火器管制が照準を付ける直前になってデブリに隠れ、そのままデブリ群の陰を縫うように迂回しながらもなお接近してくる。
「速いっ!」
『なんて腕だ! 宙域内のデブリを、障害物として完全に使いこなしてる……!』
 重力の均衡によってあらゆる物体が吹き溜まる暗礁宙域とはいえ、それらのデブリは決して一カ所で静かに留まっているわけではない。寄る辺なく絶えず漂い、動き続けている漂流物だ。
 先の模擬戦ではシュンもデブリを利用してアイネとの戦闘に活用してみせたが、大胆に最短経路を選り抜いて迫るこの機体の動きはその速さも鋭さも、シュンやアイネの機動を圧倒的に上回っていた。
「!? 後ろにもう一機いる!?」
 しかもそのうえ二人が狙おうとした不明機の後方、別の方角からも照準レーザーが来て、慌てて回避機動を強要される。その照準はデブリの海を通しているとは思えないほどに精確で、その前方を来る不明機への照準が封じられてしまう。
「23、カーペンター伍長! 演習弾しかないバズと不慣れなスプレーガンじゃ無理です! 私が前衛で支えますから、なんとか准尉と合流してください!」
『いいや、どのみち近距離でしか射線が取れないここならスプレーガンでも同じだ! 言い合う暇も惜しい、二機で連携して死角をなくす!』
「カーペンター伍長……!」
 実弾の無いハイパーバズーカを捨てて、シュンの23が右手でビームスプレーガンを構え直す。アイネも覚悟を決めて背中を合わせ、二機一体で死角を消した。全周防御陣形。油断なくシールドを構えながら、ビームライフルの照準を操作する。
 口の中がからからに乾く。相対距離が詰まったことで角速度が上がり、敵機の機動を実際以上に速く感じさせる。
174フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:12:07.79 ID:M8+6Ouj6
申し訳ありません、>>173は同一内容の重複です。飛ばして読んでください。
175フェニックステイル第十六話:2014/07/06(日) 18:12:54.25 ID:M8+6Ouj6
 敵はいつ撃つ? こちらはいつ撃つ?
 跳ね回るように早鐘を打つ心臓を必死で押さえ込みながら、アイネはビームライフルの照準に、いよいよ中距離を割り込んできた目標への修正リードを与えて――
『23、25、撃つなよ!』
「准尉!?」
 そのとき不明機にも劣らぬ勢いでデブリを縫って突進してきたジムU22、マコトの機体がビームスプレーガンを構えて両者の間へ割り込む。
 22のその突出を脅威に感じたか、不明機は急旋回で軌道変更するもののさすがに減速し、今まで二人のジムUに掴ませていなかったその機影をようやくメインセンサーが捕捉する。型番を表示した。
「RGM-79GS、……ジム・コマンド?」
『ゲンさん、毎度ながらずいぶんなご挨拶ですね』
『うるせえよマコト。こんなときだけチャッチャと動きやがって。てめぇこそいい加減、模擬戦の度に弾くその下手クソな三味線やめろ。どうやったって本気でやらねえってんなら乳揉ませろ、乳』
 通信回線で下品に笑う男の声に、アイネは思わず眉をひそめる。
 同時に、不明機から識別信号が発信された。後方のもう一機――こちらはRGC-80、ジムキャノンだった――からも同様だ。
 ジム・コマンド空間戦仕様とマコトのジムU22は、ビームガンとスプレーガンの銃口を互いに油断なく向けあいながら、気の置けない間柄のように通信越しに笑ってのけた。
『P-04防空隊ゲンナー・ウェズリー少尉、巡洋艦トラキアMS隊と接触だ。案内する』
176フェニックステイル第十六話おわり:2014/07/06(日) 18:13:42.01 ID:M8+6Ouj6
今回は以上です。
このゴチャゴチャした戦闘描写、どれぐらい伝わってるんでしょうか。
177名無しさん@ピンキー
GJ!
私は別にゴチャゴチャしてるとは思いません。
文章だけで読者の脳内に戦闘をイメージさせているのだから、
すごい才能だと思います。
頑張ってください。