7THDRAGON/セブンスドラゴンでエロパロ 第六帝竜
1 :
名無しさん@ピンキー:
2 :
名無しさん@ピンキー:2013/04/13(土) 21:02:59.89 ID:HlbasP4Q
発売記念
5 :
名無しさん@ピンキー:2013/04/25(木) 19:53:51.80 ID:un9OFKRM
イクラクンの耳さわさわしてぇ
ずーっと規制中で全然書き込めないんだけど、
ウィキに直接投稿するしかないかな…●を導入すべきなのか?
なんか金出してにちゃんってのも癪なんだが
というわけで、ウィキに投稿しといた。
2020のゴスロリちゃん。ハード目だから注意。
wikiの空腹ルシェシリーズをスレ番毎に整理しました。
シリーズのタイトルとしては『外伝』で合ってるのかな?
261さん達が帰ってくる日を待ってます
>>7 遅れながらGJ!
リーダーとミイナ、エメルの絡みももっと見れたら、それはとっても嬉しいなって
2020時代と無印時代って、やっぱり竜の知能値も違うのかな?
ニアラさまもフォーマルハウトも片言混じってるし、帝竜は台詞まったく無いし…
ここって無印の話でもおk?
おkでしょ
それはそうと5スレ目までに載ってたSSを全て保管庫にまとめることができました
うpロダごと死んでて回収できなかった『駆け出しローグの日記 ネバンにて』だけが心残りですが
保管庫更新乙ー
俺も過去ログはとってあったけど、ロダの方は未確認だったわ……
書き手さん本人が戻ってきてくれるのが一番早いんだがなぁ。他の連載中だった人たちも。
そして新規の人も来てくれるとなおいいんだがなぁ……
人いなさそうだし、ひっそりと投下してみる。
・2021時代
・導入部分、エロ無し
・侍♂・(福山声)×ルシェ♀(竹達声)を予定
・上記が無理な人は『知られざる13班』をNGお願いします
14 :
知られざる13班:2013/05/07(火) 00:01:31.27 ID:Go0NtMyW
――ムラクモ13班――
西暦2021年、日本においてその名を知らない人間はほとんどいない。
東京を中心に各地を侵攻したドラゴン達を、一匹残らず殲滅してみせた人類の希望。
子供たちはその武勇伝に目を輝かせ、13班に助けられた者たちはただただ感謝の言葉を述べる。
そんな、英雄と言っても過言ではない13班ではあるが……
「ええい、鬱陶しい!」
現在の構成員が、侍の青年ひとりだけであるということは、一部を除いてあまり知られていない。
僅か1年で再来した無数のドラゴンと魔物を屠っているのも、彼一人だけだと言われても、一般市民はそれを信じることはできないだろう。
「……ふん、その程度か、ドラゴン。俺一人にも勝てぬようでは……ぐっ……」
その唯一の英雄が数匹のドラゴンを切り伏せる度に、瀕死の状態に陥っているなど、さらに信じられないはずだ。
「……一度帰還して、立て直すか」
死ぬつもりはなく、しかし幾度となく死の淵に立つ青年――レオンはかつての13班のリーダーであった。
かつての彼の仲間は――もうこの世にはいない。
昨年の戦役の元凶であった真竜ニアラとの死闘で、彼らはその命を散らせ……
唯一生き延びたレオンもまた重い後遺症が残り、それでもなおこうして再び竜を屠り、新たに現れた真竜の首を狙っているのだ。
※ ※ ※ ※ ※
「俺、いつか絶対13班に入ってみせます!」
「ふん、無理な話だ。貴様が俺の領域に達することなど、未来永劫不可能なのだからな」
「おいレオン、お前また一人で狩りに行ってたのか? あんまり無茶すんなよな」
「誰に言っている? 力無き者を同行させたところで足手まといなだけだ。俺に余計な遺体回収をさせろというのか?」
「確かに俺たちじゃあせいぜい魔物の駆除が精一杯だが……
ほら、最近はS級の力を持った新人ムラクモが何人か13班に志願しているっていうし。
この前すれ違った奴は色々すごかったぞ。なんでも歌って踊れて戦える、ちょっとうるさいアイドル――」
「必要ない」
「お、噂の13班を発見! どうだい、戦力増強にこのスーパースターである僕を――」
「帰れ」
疲労を全く感じさせない足取りで、レオンは拠点である国会議事堂を歩く。
かけられる声は早々に切り捨て、向かうのは自室。
人で溢れかえるこの議事堂において、唯一気を張らずに済む場所だ。
15 :
知られざる13班:2013/05/07(火) 00:02:23.93 ID:SHbiFjS0
「ふぅ……」
部屋に入り、扉を閉めると同時に大きく息を吐き出す。
やっと一人きりになれたと、全身に込めていた力も抜く。
「まだ……本調子には程遠いな……」
押し寄せるは、尋常ではない疲労感。
任務に復帰して以来、こういったことは日常茶飯事であったが、未だ慣れることはできないでいた。
真竜との戦いで負ったダメージは思いのほか深刻であり、今出せる力は当時の半分以下だろう。
その病み上がりの身体で、単独で雑魚はおろか帝竜まで相手どらなければならない。
かつて戦った叫帝竜と同じように、手負いであった晶帝竜にとどめを刺すのさえ一苦労した。
そんな苦労も知らず、人々は帝竜が倒れたことを喜び、『13班なら大丈夫だ』と期待を寄せる。
それを裏切るわけにもいかず、人々の前では常に気を張り、傲慢なほどに己の力を誇示する。
連日これでは、心身共にくたびれて当然である。
「弁当は……今日は無いか」
部屋の左隅に設置されたテーブルをみやるが、特にめぼしいものはない。
ムラクモの仲間からの差し入れは密かな楽しみであったが、なければないで礼を言いに行く手間も無い。
そう考えたレオンは、一気に重たくなった身体で最終目標地点へと向かった。
ふっかふか……というわけでもないのだが、何故かやすらぎ眠れる寝台へと。
「少し仮眠をとったら、いい加減にあの砂漠のドラゴンを殲滅せねばなら……ん!?」
ふとんをめくりあげた瞬間、レオンの動きはぴたりと止まってしまった。
「すぅ……すぅ……」
そこには、すでに先客がいたのだ。
穏やかな寝息をたてて眠る、白銀髪の少女が。
完全に無防備であり、短いスカートからは柔らかそうな脚やら、さらにその奥地までもが覗き……
「す、すまん! 部屋を間違えた!」
程なくして、掴んでいたふとんを放り投げ、レオンは凄まじい勢いで少女の部屋を飛び出した。
かつて奥義を会得するために戦った兎以上に、文字通り脱兎の如く、なりふり構わずに、だ。
その様子に、近くを通りかかった作業班の面々が何事かと驚いているが、それを気にかける余裕もない。
(お、俺としたことが、部屋を間違えるとは……!
いくら疲れていたとはいえ、なんという体たらくだ! 俺は一体、どこの部屋と間違えた?
フロアの右隅……という点においては問題ない。ということは、階層を間違えたのか!?
信じられん……どこまで抜けているのだ俺は……ん?)
頭を抱え、飛び出した部屋の扉にかかったプレートを見てみる。
【ムラクモ13班本部 許可のない者の立ち入りを禁ずる】
間違いなく自室だった。
16 :
知られざる13班:2013/05/07(火) 00:03:23.84 ID:Go0NtMyW
「貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然飛び出してきたかと思えば、今度はそれ以上の速さで、叫びながら部屋に突入。
レオンの奇怪な行動に、作業班の面々は頭にさらに疑問符を浮かべるが、彼らの疑問に答えてくれる者は誰もいない。
本人に聞くのが一番手っ取り早いが、修羅のような形相且つ、帯剣した彼に迂闊に近づいて貫付けされてはたまったものではない。
今見たことは忘れようと、作業班はそれぞれの仕事に戻る。
そんな作業班の優しさなぞ知る由もなく、レオンはずかずかと寝台に近寄っていた。
「むにゅ……」
「く……」
そこには相も変わらず少女が気持ちよさそうに眠りこけていた。
悪意など微塵も感じ取れず、ともすれば子供のようなその寝顔は、思わず起こすのを躊躇ってしまうほどである。
とはいえ、レオンが部屋を間違えたわけでもなく、事実少女が眠るこの場所こそがレオンの寝床なわけで。
僅かに良心が痛んだが、きつい戦闘から帰還した身体はもっと痛んでいる。
ここで休まねば、自分は倒れてしまう。風呂を沸かそうにも燃料は底をついている。
もし、この場に第三者がいたならば、きっとこう言うだろう。
『大人しく別のところで寝ろ。3つ用意してあるんだから』と。
本来三人一組で行動することを想定されている13班。
建築班の計らいで、その居室にも当然3つの寝台と、僅かながら各人用のテリトリーも確保されている。
……のだが。
生憎とこの青年は、枕などが変わると寝付けなくなる面倒な体質だったのである。
「ええい、何者だ貴様は!?
俺の崇高なる休息を妨害するとは、大した度胸だな!?」
「ふみゅ!?」
心を鬼にし、『起こす』と決めたレオンの行動は早い。
抜刀時のような力強さで、マットレスを鷲掴み。
居合時のような素早さで、それを一気に引き抜く。
かつて披露したテーブルクロス引き芸を応用した、神業である。
当然、突然そんなことをされた少女はたまったものではない。
寝心地は布地から一気に骨組みの冷えた金属へ、しかも枕まで奪われて後頭部を強打。
彼女はなんとも最悪な目覚めを迎える結果となった。
「いつつ……な、なんなんですかぁ、一体!?」
「なんだとはこっちの台詞だ!
この部屋に入ってもいいのは、弁当の差し入れか緊急事態の時だけだ!
だというのに、弁当は無し! 暢気に眠り込んでいた貴様が緊急の要件を抱えてるとは思えん!
とっとと――っ」
「あ、お弁当ですか? すぐに支度しますね!」
「な、おい貴様!?」
頭をさすりながら起き上がった少女は、起きるなりすぐに表情を変えて調理場へと駆けていく。
あまりの会話の噛み合わなさにレオンは頭をおさえ、少女を止める機会をも失ってしまった。
実のところ、会話の噛み合わなさ以上に、少女の頭部にあった――獣の耳に目を奪われたことの方が大きかったのだが。
(あの耳は……)
勝手に部屋の調理器具まで使い、本格的に弁当の作成にとりかかった少女はもはや止められない。
一瞬の隙から追い出すチャンスを無くしたレオンは、仕方なくその少女の後ろ姿を眺めることにした。
※ ※ ※ ※ ※
17 :
知られざる13班:2013/05/07(火) 00:04:02.00 ID:Go0NtMyW
「でひまひたー!」
「味見で舌を火傷する馬鹿がどこにいるというのだ……いや、目の前にいたか。
とにかく、だ。これを食べたらすぐに俺の部屋から――!?」
この食料難の時代に、用意された食事を廃棄するほどレオンは馬鹿ではない。
さっさとたいらげて、さっさとこの謎の少女を追い出そうと考えていたのだが、彼はテーブルから立ち上がることができなくなってしまった。
(う、美味い……だとぉ……!?)
その味は、凄まじい衝撃だった。
確かに、材料はそれなりにいいモノを使っているはずだ。
各地の特選品というわけではないが、入手難易度を考えれば一流の食材と言って相違ない。
一般市民や自衛隊ですら、食事のほとんどはレトルトや缶詰の類なのだから。
問題なのは、この食材を使って自分がかつて料理した時と、あまりにも味が違いすぎることだ。
自分が作った時は、全て一流の食材だからと油断したのも大きかったが、出来上がったのは……
●
こんな感じのブツだった。もう少し後ろが尖がれば、魔物と見間違えるレベルの代物だった。
それがどうして、こんな立派な料理に化けるのだろうか?
「……おい、この料理……まだあるか?」
「んー、まだありますけど……これ以上食べるとお弁当に詰める分が無くなっちゃいますよ?」
「構わん。元から弁当を持っていくつもりではなかったからな」
「そうですかー。なら、お夕飯ってことにしちゃいます? すぐに追加のおかずも作りますから」
「そうだな。さすがにこうも戦い詰めだと腹も……って違う!」
危うく当初の目的を忘れかけ、出された味見分の料理を完食すると同時にレオンは正気に戻った。
「大丈夫です! お塩と砂糖を間違えるような初歩的なミスはしてませんよ!」
「そこじゃない! くそ、何故こうも俺の思い通りに会話が進まんのだ……!
貴様、一体何者なのだ。この俺の部屋に不法侵入した以上、ただでは済まさんぞ!」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたねぇ。私の名前はクランといいましてー――」
「そうか。では問おうクランとやら。見たところ君はルシェのようだが、ならば来る部屋を間違えている。エメルの部屋は――」
「エメル総長より直々に、本日づけでムラクモ13班に所属することになりましたー!
というわけですので、以後よろしくお願いします! でも、13班の部屋はここだと思ったんだけどなぁ……」
「なん……だと……!?」
間の抜けた声と、苦虫を噛み潰した表情から生み出される苦悶の声。
全く異なる声が漏れると同時に、レオンは刀を持って再び部屋を飛び出した。
向かう先は、ムラクモ本部――総長エメルの場所だ。
とりあえずここまで。何か問題がありましたら、ご指摘のほどよろしくお願いします
19 :
名無しさん@ピンキー:2013/05/07(火) 22:47:45.07 ID:GNvamRRt
>>11 乙 ネバンにては俺も読み損ねてたんだよね
ここで後の展開においての重要なフラグが立ってるっぽいから残念でならない
>>18 書いてくれる人がいるだけでありがたい
続き待ってるよ
NG安定
>>11 更新乙!
ローグ日記を全て回収できなかったのは残念だけど、仕方がないか……
ところで、第5帝竜の終わりのほうにPTSSの人のSS二本が別ロダにあがってるようだが
それも回収して保管庫にいれておくべきかね?
>>18 乙!
このスレの作品の多くに言えることだが、エロよりもストーリーの続きの方が気になるぜ
ただ、固有名ある時は最初に書いてくれると助かるかな。ルシェ子の職業も抜けてるっぽいし
テスト
復活してる……だと……
エロパロ板から離れていたせいで気づきませんでした、復活おめでとうございます。
「駆け出しローグの日記 ネバンにて」を書いたものです。
該当のデータはこちらの手元からも失われておりまして、
つまりその……冥福を祈ってやってください。
ちなみにネバンにてはざっくり言えば
「千人砲ですっかりどん底の空気になってしまったネバンプレスで、
志願者の一人の遺書を見つけた主人公のカエラちゃんが遺書を書くとは
どういうことか、命をかけるとはどういうことなのかを仲間に相談して回った末
自分なりの結論を出してサクリファイス習得を決める」という話です。
記憶はあるので書き直せないこともないですが、幕間色の強い話なので
書き直すほどのこともないかなと……
それよりも未完作品のほうが気がかりでした。
あと一月半くらいはPCにもろくすっぽ触れない環境なのですが、それが終わったら
また新しいのを書くので読んでいただけたらそれはとても嬉しいです。
Oh…スゲー良さそうな話なのに勿体無い……。
新しい作品楽しみに待っとるよ。
>>24 ローグ日記シリーズ大好きでした
ネバンにて読みたかったから残念ー
次の作品も待ってます!
ふわふわ系女の子のモルちゃんとモルモルしたい。
ほ
ホッシュ
投下します
31 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
・セブンスドラゴン2020−U終盤
・エロなし
・NGは「左側の部屋で」
0,
2021年、東京。人と竜との戦いが続く世界。
人類の拠点たる国会議事堂の地下2階にある、政府の特殊機関『ムラクモ』の居住区。
そこにある、人類の刃たる『ムラクモ13班』のマイルーム。……の、同じ並びにある一室。
通称『左側の部屋』。
そこに、今は失われた種族の2人がいた。
32 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
1,
「……」
「……」
室内で、2人は無言だった。
ひとりは女。
少女と言っていい年頃に見える、白いふわふわした獣耳をもつルシェ族の女が、
部屋に備え付けられたベッドに腰掛けて虚空を眺めていた。
もうひとりは男。
少年と言っていい年頃に見える、浅黒い肌と尖った耳を持つルシェ族の男が、
ベッドから見える位置にあるテーブルについて何かの資料を読んでいた。
ルシェの女が口を開いた。
「ねえ、ミツツグ」
ミツツグと呼ばれたルシェの男が応えた。
「なんだ?」
ルシェの女が言った。
「今日のご飯、なにかな」
「……」
ちょっと考えて、ルシェの男は答えた。
「これまでの経験から、缶詰と水の可能性が高いんじゃないかと思う」
「そうだね」
「……」
「……」
ルシェの男が口を開いた。
「なあ、アユム」
アユムと呼ばれたルシェの女が応えた。
「なに?」
ルシェの男が言った。
「今日の夕食は何時って言っていたかな」
「……」
少し記憶を遡って、ルシェの女が答えた。
「17:30だったと思うよ」
「そうか」
「……」
「……」
しばらくして、ルシェの女が口を開いた。
「ねえ、ミツツグ」
ルシェの男が答えた。
「なんだ?」
「わたしたち、13班だよね?」
33 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
2,
ルシェの男は答える。
「そうだな」
「なんでわたしたち、やることがないんだろう」
ルシェの女の問いに、ルシェの男はやはりよく考えてから答えた。
「俺たちは、創られた……生まれてからあまり長い時間が経っていない」
「うん」
「同じムラクモの先生に引率してもらわないと、ちゃんと行動できるか自信がない」
「うん」
「13班は予備員を含めて11人いるけど、そのうち9人は作戦行動に出ている」
「うん」
「残り2人である俺たちに引率がつけられない」
「うん」
「だからだと思う」
「あー」
ルシェの女は納得しかけたが、納得はしなかった。
「できるよ? ちゃんと行動」
「できるか?」
「……」
「……」
「できないかも」
ルシェの女は納得した。
「モトコ、また教えてくれないかな」
少し間を置いて、ルシェの女が言った。
モトコとは13班の一員である。
彼女は潜在的な身体能力がまったく普通ではない普通の女子学生だったが、一年前にムラクモ採用試験に呼び出されて以降
数奇な運命に導かれてドラゴンと戦う道へと踏み入り、立ち塞がる竜を斬って斬って斬り続けた挙句
ついには真竜の頭蓋をも貫いて地球から追い払う最後の一手を決めたというエース中のエースである。
さらに言うと一年後の今大戦でも最初から活躍し続け、帝竜を屠り、多くの命を救い、
そして連れ去られかけた最も特別な少女をアメリカの特殊部隊から取り戻し、その特殊部隊と一緒に議事堂に帰還して、
『あの……サクラバ兄妹との戦いでムキになりすぎちゃって何箇所か大事な腱が切れちゃった……』
と報告して彼女に人類の希望を託す関係者一同を未曾有の大パニックに陥れた張本人でもある。
議事堂襲撃の際、13班の同僚達は生存の不安よりも
絶対戦えない体で出撃したがる彼女をなだめるのに苦労しなければならなかった。
そんな彼女は療養中、新しく13班に入った2人の教育係として自分の技術を教え、あるいは一緒に技術の習得に励んだ。
現在では完全には体は元に戻らなかったものの、快復した彼女は戦闘スタイルをアイドルに転向、
丹田法で鍛えた発声と開発班の超技術メガホンを組み合わせ、並みいる敵の脳天をぶち抜く人間音響兵器と化している。
34 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
ベッドに体を投げ出し、ベッドの下をごそごそやりながらルシェの女が言った。
「モトコに刀の使い方を教えてもらうの、楽しかった」
鞘に納まった日本刀を引っ張り出し、膝に乗せたルシェの女は
お気に入りのぬいぐるみをそうしたようにリラックスして耳をぴこぴこさせた。
ルシェの男が言う。
「モトコがアユムに教えてる間、俺は一人でさびしかったな」
「モトコがミツツグと研究区に呼ばれて、能力開発してる間はわたしがさびしかったよ?」
「一緒に来てたのに?」
「モトコともミツツグともおしゃべりできないから……」
「そうだな」
ルシェの男は頷いた。
「俺もアユムとモトコが練習してる間さびしかった」
「でしょ?」
「そうだった」
「……」
「……」
ルシェの女が言った。
「今は2人でいるけど」
「ああ」
「誰にも呼ばれないと、まだちょっとさびしいね」
「俺もそう思う」
3,
「スキルの練習、しようかな」
ルシェの女が言った。
「……」
アイドルのスキル開発の資料に目を戻していたルシェの男は、
日本刀を持ってベッドからぴょんと降りたルシェの女の方を見た。
「スキルの練習をしておけば、呼ばれたらすぐみんなの役に立てるよね?」
「そうだな」
ルシェの女の言葉に、ルシェの男も少し乗り気になってメガホンを手に取った。
「こうやって……」
「……」
「……」
ルシェの女は日本刀を持った手を腰に当て、構えを取り、そして室内では
武器の抜刀が厳禁であることを思い出した。
ルシェの女は練習するのをやめた。
「………………」
ルシェの女の耳が力なくうなだれた。
35 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
ルシェの男は構えるのをやめたルシェの女を不思議そうに見たが、
すぐにその理由に気付いた。
「……」
気まずかったのでルシェの男は自分も練習するのをやめにしようと思った。
思ったが、ルシェの男の目にふと部屋においてある観葉植物の植木鉢が目に入った。
「……」
なんとなく、ただなんとなく、ルシェの男は
腕をぐるぐると回してその観葉植物に人差し指を向けた。
次の瞬間、突撃グルーヴに操られたルシェの女が観葉植物を真っ二つに斬り飛ばした。
4,
「なにかして、みんなの役に立ちたいね」
飛んできた研究員にしばらくの間日本刀を没収されることになったルシェの女が言った。
「そうだな」
頭にたんこぶを作ったルシェの男が応えた。
ルシェの2人は少しの間考えた。
ルシェの男が言った。
「お弁当を作るのはどうだろう」
「お弁当?」
「働いたあと、おいしいものが食べられると嬉しい」
「そうだね」
「きっと喜んでもらえる」
「うん、役に立てるね」
控えめに表情を輝かせたルシェの女が、ルシェの男に聞いた。
「料理の材料、ある?」
「……」
ルシェの男は少し考えて、言った。
「無い。アユムはあるか?」
「……」
聞き返されてルシェの女は少し考えた。
「これ、できるかな……」
そう言ってルシェの女は『手作り弁当』を出した。
何かのために研究員がルシェの女に持たせていたものだった。
「……」
ルシェの男は差し出されたそれを見た。
それは料理の材料にするのではなく、そのまま仲間に差し入れすべきものだった。
ルシェの男は言った。
「食べ物だから、たぶんできるとおもう」
『普通、料理として完成しているものは更に調理したりはしない』
という知識を、ルシェの2人は持ち合わせていなかった。
ルシェの2人は『弁当』を調理して弁当を作ることにした。
36 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
調理台の前に並んで、そしてルシェの男は言った。
「お弁当はおいしい」
「おいしいね」
「そして回復する」
「回復?」
ルシェの女が聞き返した。
「戦闘中に使うと、3人の体力が回復するらしい」
「どうして?」
「……」
ルシェの男は少し考えて、言った。
「おいしいと力がわく」
「そうだね」
「だから回復する」
「そうだね」
「……」
「……」
「どうしてお弁当は1つなのに3人の体力が回復するのかな」
「……」
「あと戦いながらご飯食べられるかな」
「……」
ルシェの男は煙が出そうになるほどよく考えて、言った。
「1人でお弁当を食べる嬉しさを1とする」
「うん」
「アユムと2人で食べると、2倍くらい嬉しいから2になる」
「うん」
「1つのお弁当を2人で食べると、半分しか食べられないから嬉しさが半分になる」
「うん」
「2倍の半分だから1になる。1つのお弁当を2人で食べると2人とも1嬉しい」
「うん」
「3人で食べると3人とも1嬉しい。3人とも回復する」
「そっか」
ルシェの女は納得した。
「あと」
「うん」
「人がお弁当を食べているのを邪魔するのは、いけないと思う」
「怖かった」
「怖かったな……」
ルシェの2人は何かを思い出して同意しあった。
「だから、お弁当を食べているときは攻撃されないと思う」
「戦いが止まるね」
ルシェの女は納得した。
37 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
ルシェの女が言った。
「じゃあ、料理しよう」
「うん」
「……」
「……」
「料理のしかた、わかる?」
「……」
ルシェの男は少し考えた。
「『しおやき』は知ってる」
「そっか」
「アユムは?」
ルシェの女は少し思い出した。
「『からあげ』ならしってるよ」
「そうか」
「この材料をからあげとしおやきにすればいいんだね」
「そうだな」
ルシェの2人は料理をした。
ダークマターが出来た。
5,
「なにかして、みんなの役に立ちたいね」
食べ物を粗末にした罰として頭にたんこぶを作ったルシェの女が言った。
「そうだな」
普通食べてはいけないものを食べたことによる腹痛からようやく復帰したルシェの男が言った。
目を伏し、頭を傾げ、ルシェの女が言った。
「じりじりする……」
「……」
「どうして、こんなにみんなの役に立ちたいんだろう」
手を組み、深く物思いに沈んで、ルシェの男が呟いた。
「血……」
「え?」
「誰かが、何かしろと言ってる気がする」
「誰か……」
「体の、中で」
ルシェの男が続ける。
「頭の、中で……」
目を閉じ、耳を伏せて、ルシェの女が言った。
「……わたしにも、感じる」
「感じる?」
「体の中を、めぐってる。頭の中にも」
「ああ」
「これが、ルシェの血?」
今は失われた種族の遺伝子を受け継いだ女が、言った。
「そうかもしれないと、思った」
今は失われた民の血を引き継いだ男が、応えた。
38 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
「モトコが言ってた。ルシェという種族のこと。俺たちを創った人が……エメルが言っていたって」
「わたしもマリナから聞いた。マリナは、エメルと会ったことがあるって」
ルシェ族。
かつて存在した海洋帝国にルーツを発する、今は失われた民。
その最大の特徴は、鉱物の声を聞くことが出来る耳でも、優れた頭脳と身体能力を併せ持つことでもない。
その最大の特徴は、地球に存在する命を繋ぐために種の未来を捨てた、その精神性。
他の命を繋ぐために自らの犠牲をいとわない。
その精神性を、ルシェ族は遺伝子に刻み込まれた特性として持っていた。
マリナ。
ルシェの女王の記憶を引き継ぐ、もう一人のルシェの少女。
実のところ13班の2人は、マリナに会う機会はあまりない。
それでも13班の2人にとって姉のような、守ってあげなければならないような、
不思議な血の繋がりを感じる相手でもある。そして、創られた命であると言うことも共通している。
そして、エメル。
アメリカで、そして日本で、ドラゴンを滅するために全ての智恵と技術を振るった科学者。
彼女の憎悪は、竜の力を持って竜を破壊する人類がドラゴンに打ち勝つための牙を生み出した。
また彼女の憎悪は、生命の禁忌に触れる研究で命を『創った』。
しかしその結果としてマリナや2人はこの世に存在し、また憎悪で出来ているはずの彼女が遺した
憎悪以外の何かは、マリナに、そして13班に受け継がれている。
そしてエメルがいなくなった後に、2人は目覚めた。
「ルシェの血が言ってるんだ」
ルシェの男は呟いた。
「自分の近くに居る命を守れって」
「わたしにも、聞こえる」
ルシェの男は続けた。
「この血の声を……そして、エメルの意思を引き継ぐ。それが、俺の生まれた意味」
「……」
「そのために、生きているんだと思う。この気持ちは、生きる理由を教えているんだと思う」
「そうかな?」
ルシェの女が言った。
「それは、きっと、ちがう」
「そうか」
「そう。だって、マリナも、ミロクも、ミイナも、何かのために生きているわけじゃない」
ルシェの男の脳裏に、よく笑い、よく喋り、よく熱を出し、自分達より
背が小さいのにお兄さん、お姉さんのように自分達に接する2人の姿が浮かんだ。
39 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
ルシェの女が続けた。
「オリハルコンを作るため。ナビをするため。そのために、生まれた。そのための力がある」
「うん」
「その力を使って助けたい仲間がいるから、使ってるんだと思う」
「うん」
「そのために生きてるから、って、その力を使ってるんじゃないと思う」
「うん」
ルシェの男が言った。
「そうだな」
ルシェの女が言った。
「生きてることに、理由なんてない。生まれたから生きてるだけ。それだけで、すごく嬉しい」
「そうか……」
「うまく言えないけど」
「いや、わかる」
ルシェの男が言った。
「何かしたいと思うのは、生きてるからなんだ。せっかく生きている、この気持ちを、未来に繋ぎたいんだ」
「……そっか」
ルシェの女は言った。
「やっと、言葉になった。わたしにもわかった」
「うん」
「ねえ、ミツツグ」
「なんだ?」
「わたし、ルシェの血の声を、大切にしてあげたい」
「……うん」
「ルシェは、命を残すために、一回は消えちゃった。でも、もう一度この星に戻ってこれた」
「ああ」
「せっかく戻ってこれた、この、ルシェの心……ルシェの誇りを、わたしは受け継いであげたい」
「……俺も、そう思う」
ルシェの男は同意した。
「ルシェの思いと、俺の思いは、同じだ」
「うん」
「自分の思いを未来に繋ぎたい。自分が大事に思うことができた大切なものを、未来に残したい」
「わたしの思いも、ルシェの思いと同じ」
ルシェの女も続けた。
「わたしは、戦う力をもらって生まれてきた。戦えないみんなのかわりに、戦える力」
「ああ」
「だから、戦いたい。戦えないみんなに、わたし達は負けないってつたえたい」
「ああ」
「……できるよね」
「できる、絶対に」
確かめ合うように、2人は声を合わせる。
「みんなの命と、思いを守る。この名前にかけて、きっと『希望を繋いで』みせる」
光継という名を自分につけた男が言った。
「わたしも……みんなの願いを形にしてみせる。みんながくれたこの名前にかけて、『絶対にくじけない』」
歩という名を仲間に貰った女が言った。
ルシェの2人はお互いをまっすぐに見て、言った。
「これが、『わたし達の意志』なんだね」
「これが、『俺たちの意志』なんだな」
40 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
6,
「……なあ、アユム」
ルシェの男が口を開いた。
「なに?」
「13班は、仲間だよな?」
「仲間だよ」
「……」
少し沈黙して、ルシェの男がまた言った。
「ムラクモのみんなも、議事堂のみんなも、日本もアメリカも……みんな、仲間だよな?」
「仲間だよ?」
「みんなを守って、みんなの未来を繋ぐことができれば、『俺の意志』は貫けたことになるよな……?」
「……」
ルシェの女は、ルシェの男を見て、柔らかな声で言った。
「どうしたの」
「……」
「どうしたの、ミツツグ」
ルシェの男は静かに語り始めた。
「ドラゴンを追い払えば、この星は未来へ残る」
「うん、そうだね」
「マリナも、モトコも、ミロクとミイナも、人間の希望と歴史を、繋ぐことができる」
「うん」
「だけど」
ルシェの男は言った。
「ルシェは、繋がらない」
ルシェの女は言った。
「どうして?」
「数が少なすぎる」
現在、地球に3人しかいない種族の男が続けた。
「生き物には、種を存続させるために必要な絶対数がある」
「うん」
「俺たちは、3人しかいない」
「うん」
「どうしても、足りない」
ルシェの女は、小刻みに相槌を打ちながら、ルシェの男の話に耳を傾けていた。
「ルシェは、人間との間に子供を作れない」
「……うん」
「ルシェは、人間に混じって、一緒に命を繋ぐことができない」
「…………うん」
「ルシェは、俺たちと一緒に、もう一度消える」
「………………」
未来の閉ざされた種族の男が、そう言って黙った。
41 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
「……」
「……」
「……じゃあ」
未来を閉ざされているはずの種族の女が、口を開いた。
「わたしと作る? ……子供」
「……」
ルシェの男は、ぽかんとしてルシェの女を見つめ、しばしの間沈黙した。
「ええと……」
ルシェの男は言葉を選びながら、説明しようとして口を開いた。
「存続に必要な数とかは、そういう問題じゃなくて」
「うん」
「ええと」
「でも」
ルシェの女は、言った。
「子供ができたら、その子がいる間、ルシェは続くよ」
「……」
「子供を作らなかったら、それで終わり」
「……そうかもしれない」
ルシェの男は考えながら言った。
「『ルシェを残す意志』がなければ、ルシェは残らない」
「うん」
「『ルシェを残す意志』があれば、なにか、いい方法が見つかるかも……」
「そうだよ」
「そうか」
「そんなかんじのこと、言いたかったんだよ」
「そうか」
テーブルを挟んで向かい合うルシェの2人は、お互いを見た。
「それで……」
「ああ」
「どうする?」
「……」
ルシェの男は、よく考えて、言った。
「……今、戦わないといけない俺たちは、子供を作るのが難しいと思う」
「あ」
ルシェの女は今気付いたように声を上げた。
「そっか」
「ああ」
「そっか……」
「ああ」
二度同じやり取りが繰り返された。
42 :
左側の部屋で:2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:J1Xfy4ER
「じゃあ」
「うん」
「ドラゴンを追い払ったら、どうする?」
「……」
「……」
ルシェの2人は向かい合ってしばらく考え、やがて同時に首を傾げた。
「どうしようか」
「どうしようか」
7,
『左側の部屋』のドアの前で、アメリカの特殊部隊の現リーダーの女が言った。
「あいつらなんて話を……っていうかなんでここに? 部屋に入れない……」
〈終〉
投下完了。ものすごく遅れてごめんなさい。
未完結作品については現在大規模に編集を行っています。
才能の限界を感じまして……SSらしいテンポのいい感じに直したいです。
そのため短編をひとつ投下してお茶を濁させていただきました。
本当に申し訳ありません。もうしばしお待ちください。
44 :
名無しさん@ピンキー:2013/08/16(金) NY:AN:NY.AN ID:8skKJZBU
ほしゅ
ほしゅっ
折角エロパロスレ復活したのに...
保守代わりに投下してみる
・セブンスドラゴンの世界。ドラゴンいなくなって10年後設定。
・ネタバレ、独自設定、独自解釈あり。
・眼鏡メイジ(グラスト)×ルシェ侍(ナムナ)。他にも出てきます。
・名前はちびキャラ準拠。でもこれじゃない感がひどい。
・全体的に好き勝手やってる。
上記が無理な方は「なれそめ」をNGでお願いします。
47 :
46:2013/09/19(木) 08:10:09.35 ID:peBbtABs
大事なことを書き忘れてた!
エロなしです。エロはありません。
48 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:15:50.18 ID:peBbtABs
ナムナはグラストが苦手であった。正直に言うならば、かなり苦手であった。
別に、ルシェでないからという理由なき理由で嫌悪しているわけではない。
ギルドのメンバーはルシェもルシェ以外も含まれていたし、メンバー同士もお互いを大切な仲間として信頼し合っている。
だからといって性格が嫌いというわけでもない。嘘つけ、と突っ込まれるだろうがこれは本当である。
グラストという人物を一言で表すならば"秀才"だ。
齢18という若さで炎属性と無属性二種の魔法を巧みに操るだけの技量を持ち、かといってそれに驕ることはせず日々修練を重ね、
他者へ接する際は柔らかい物腰と丁寧な姿勢を保ち、常に穏やかで、大声を上げる姿など戦闘中以外では見たことが無い。
豊富な知識を有しているからか本人の性格か、偏見や固定観念に囚われることもなく、老若男女二つ名外見関係無しに人と接する。
当然、チーム内外問わず、年齢性別種族も問わず、色々なところから引っ張りだこである。まさに人気者であった。
ここまでの話を聞くと、多くの人が首をかしげるだろう。いったいどこにグラストを苦手とする要素があるのかと。
どちらかというと、完璧な彼を妬んでいるのではとか、負け犬の遠吠えだとかも言いたくなるであろう。もっともな意見である。
だが、残念ながら、苦手とする理由はそれなりにあるのだ。
ナムナとて、初めて会った時から苦手意識を持っていたわけではない。むしろ、第一印象は割と良いものであった。
前述した通り、グラストは穏やかな人間である。
自他共に認めるほど男勝りで、良く言えば元気の良い、悪く言えばじゃじゃ馬と形容されるほどに女らしさの欠片もないナムナ相手でさえ、紳士的な対応を崩さなかった。
大柄で、尚且つサムライという職業の自身に対してそのような対応を取るものは少数だったので、それなりに感じていた緊張が和らいでホッとしたのと同時に、
丁寧な人間なのだと好感も持てた。仲良くやれそうだと安心した。……のだが。
一つ。思い返してみれば初期のほうから、グラストはナムナと距離を取っている。
最初のうちは違和感など感じていなかった。無視をされているでもないし、少し人見知りをするのだろうかとか、まぁ気のせいかと流していた。
しかし、チームを組んで1ヶ月も経ったのに、直接話をした回数が両手の指で足りた時、流石にこれは不自然だと思った。
加えて、その数回とてまともな話をしたとは言い難く、せいぜい、今日は良い天気だのこの料理は美味しいだの、当たり障りのないやり取りを二言三言交わした程度なのだ。
他の面々とのやり取りを見ていても、明らかに自身との差は感じられた。ナムナよりも遅く知り合ったハルカラ相手でさえ、ほんの数時間も経たないうちに喜びのハグを交わす仲である。
どう考えても自分一人との距離感があり過ぎだ。
二つ。まともにナムナの目を見ようとしない。大体目を逸らす。もしくはそっぽを向いたまま。
貴重な会話の時でさえ、ナムナがグラストの目をまっすぐ見たことはあまりないのだ。思い返してみれば、最初の時でさえそうであった。
とにかくひたすらに、目を逸らすそっぽを向くナムナの目を見ようとしない。
ナムナ自身は相手の目を見て話すことを好んでいるが、世の中にはそうでない人がいることも理解している。
決して無理強いしようとか、目が合わないヤツは碌でもないとか思っているわけではないのだが、
他の人と話をしているときは普通に相手の顔を見ている姿を見てしまうと、どうしても思うところがある。
些細なことかもしれないが、それでも積もっていけば中々気になるものである。
49 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:19:04.77 ID:peBbtABs
三つ。ナムナを避ける。取り合えず避ける。本当に避ける。
これも最初のうちはあまり気にしていなかったが、グラストは、ナムナとの接触をひたすらに避けるのである。
話を早々に切り上げられたり、誰かと話していてもナムナが声をかけた途端さっさとその場を離れたり、
本を読んだりしていてもナムナが近付くとすぐにどこかへ行ってしまったりと、どんなに能天気に考えても避けられているとしか思えないのだ。
それでもめげずに関わろうとしてみたのだけれど、ナムナが声をかけたことで、
グラストとあまり話せなかった…と落ち込んでいる声を聞くことが増えてしまってからは、それ以上強引にいくこともはばかられるようになった。
流石に耐え切れなくなって、何度か、腹立たせるようなことをしてしまったのかと、
もし不満があるようであれば言ってくれと直球をぶつけてみたりもしたのだが、
なにもない不満など無い仲間として信頼している、の一点張りで、とりつくしまもないのだ。
嫌いだとか、ここが腹立つとか、気に食わないとか。
直接伝えてくれればナムナもやりようがあるのだけれど、
なにもないと言われるばかりであんな行動をとられては、もう、どうすればいいのかも分からない。お手上げだ。
結局、ナムナのほうも自然とグラストを避けるようになり、今となっては挨拶と戦闘時のやりとりのみが主な接点である。
ハントマンとしても人としても、中々出会えないであろう良い人物であるだけに、
薄っぺらい関わりしか出来ないことが寂しいところであった。
50 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:21:47.25 ID:peBbtABs
「……なるほど」
ナムナが説明を終えると、静かに聞いていたケイトは呆れ交じりの溜め息をついた。
現在、ギルド"クラフター"のギルドハウスにはナムナとケイトの二人しかいない。
クエストだのなんだので全員出払っているのだ。
残された二人はいつも通り軽く手合わせをしていたのだが、ケイト曰く普段のキレの良さが無いとのことで
早々に切り上げられ、ナムナの自室で相談をしていたのである。相談内容は、もちろん、グラストのことだ。
「最初のうちは、気のせいかとも思ってたんだけどさ。さすがに三か月もこのままだと…ちょっと、ね」
「そうだな。ナムナがそう思うのも無理はない」
「……やっぱり、あたいが嫌なことしちゃったのかな」
「そうとは限らないと思うが」
「ええー…?」
どういうこっちゃ、と口をへの字にしたナムナだが、ケイトは落ち着いたままだ。
「私の予想が合っているかは不明だが…グラストを見ていると、負の理由でナムナを避けているようには思えないんだ」
「どういうことだい?」
「相手のことを嫌っていなくとも、相手との関わりを避けてしまう場面は存在するからな」
「グラストのはそれだってこと?」
「確信は持てないが」
慎重な言葉とは裏腹に、ケイトの顔は妙な自信に満ちている。
しかしながら、彼女が何の意図を持ってそういうのかは分からない。思わず首を傾げてしまう。
「あまり心配するな。メンバー同士がぎくしゃくするのは避けたいし、
そうでなくともナムナは大切な友人だ。出来得る限り協力するよ」
「……ん、ありがとね」
そう言って微笑んだケイトの笑顔に、僅かばかり、心が軽くなった。
51 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:23:55.46 ID:peBbtABs
それが、三日ほど前の話。そして現在。
「というわけだから、ナムナ、グラスト。二人で行ってきてくれ」
「……えっ?」
ナムナは、ケイトに頼った自分自身を全力で殴りたい気分になっていた。
事の次第はケイトが引き受けてきたとあるクエストである。
依頼主は姫と付き人の二人組。曰く、トドワ山岳を超えたいんだけど二人じゃ不安だから護衛を、とのこと。
その内容自体は全く問題ない。戦慣れしていない人間が護衛を雇うのはよくある話だ。しかし。しかしだ。
思いっきり避けられてる相手と(姫と付き人はいるとはいえ)二人っきりで仕事してこいって…!
心の中で悲鳴を上げたナムナの一方で、グラストも困った顔をしていた。
「…お言葉ですが、ケイト。護衛というのであれば、もう少し人数が必要ではありませんか?」
「問題ない。どうやら、それなりに腕に覚えはあるお方のようでな。二人、と指定してきたのはあちらだ」
「……そうですか」
「ちょ、ちょっと待っておくれよ。それなら、ケイトとケビンとか、グラストとハルカラとかのがいいんじゃないのかい?」
このまま押し切られては非常に気まずい。
そう思って、ナイトとヒーラーの堅実コンビや、メイジとファイターの高火力コンビを提案してみたナムナだったが。
「あちらはローグとプリンセスだ。回復はできるから、連携がとりやすいサムライと、
もう一人は知識が豊富な人物をと希望されている。私たちのギルドに、グラスト以上に物を知っている人間はいないだろう」
「……分かったよ」
よどみなくすらすらと答えられ、結局、了承することになってしまった。
52 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:25:27.06 ID:peBbtABs
「えーと…プリンセスとローグの二人組、だっけか?」
「はい。待ち合わせ場所はここで合っているはずなのですが…」
二日後、ナムナとグラストはミロスの正門前にいた。
依頼主であるローグ、プリンセスの二人を待っているのだ。
「準備もあるだろうしな。のんびり待ってようか」
「そうですね」
待っているのだが、気まずい。
普段に比べたら驚くほどの言葉を交わしているとはいえ、先ほどから、
ナムナが話しかけてグラストが一言二言答えるという形式は変わっていない。
視線も合わないし。今も通りに目を向けたままだし。目を合わせるのすら嫌ってのかこの野郎。
ここのところ、ずっと抱え続けている不安や不満が限界に近付いているのを感じて、ナムナは長めに息をはいた。
自分がグラストと良い関係を作れていないことと、今回のクエストは関係無い。
私情に駆られて妙なポカをしないように、と心の中で気合を入れていたところで、
「…あ。あの人たちのようですね」
通りの向こうから仕事の依頼者たちがやって来た。
53 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:28:39.24 ID:peBbtABs
プリンセスのルシェの少女はモモメノ、ローグの青年はヤックと名乗った。
今回の山越えの目的は、二人の故郷であるトドワ山岳の麓の村へ里帰り、らしい。
「へえ、じゃ、あんたたちは幼馴染ってやつなのかい?」
「ああ。どっかのギルドに入ることも考えたんだけど、どーも二人旅に慣れちまってさ」
「で、ちょっと厳しい時はこうやってハントマンを雇ってるのか。それはそれで楽しそうだねぇ」
「…うん…」
ナムナの言葉に、ヤックとモモメノは顔を見合わせて楽しそうに笑った。
濃い青の長い髪を二つに縛って紫色のドレスを着たモモメノと、淡い桃色の髪以外は黒一色な服を着たヤックの組み合わせを見た時は、
自分の胃の安否が不安になったナムナだったが、彼女の心配は――少なくとも依頼人二人に対しては――杞憂であった。
二人とも、戦闘面では四人で行動するなら全く問題が無い技量を持っているし、今まで接してきた感じでは人好きのする正直な人間だ。
特にヤックは気さくで話しやすく、どことなく馬が合う感じがする。モモメノも、内気ではあるようだが懸命に頑張っているのが伝わってくる。
うん。やっぱり外見だけで人を判断するのはよくない。
「もう少し休憩を取ったら先へ進みましょうか。この調子だと、今日中に山頂辺りまで行けるかもしれません」
「おうよ。モモメノ、絶景見るためにがんばろうなー」
「うん。がんばる…」
にこにこと笑顔を交わす二人を見ていると、なんだか微笑ましい気分が伝染してきて、知らずのうちにナムナの頬も緩んでいた。
ふと視線をずらすと、グラストも同じように優しい笑顔で二人を見つめている。
こっちの方が本当の姿なんだよなぁ、と何とも言えない気分で眺めていると、ナムナの視線に気づいたのかこちらを見て、
「っ……!」
何故か顔を赤らめる。
反応が不思議で首をかしげたら、何やら一層赤くなって、視線を逸らしかけて、ハッとなって、もう一度ナムナと視線を合わせ、
「…そ、ろそろ、さきに、進みましょう、か」
ひじょーにぎこちない様子ではあるものの、恥ずかしそうに笑いかけてきた。
「…そうだね。そうしようか」
そんなグラストの様子に、何故か、不思議と、どことなく、
今までナムナの中にたまっていたもやもやが晴れていって、自然と笑顔を返せたのだった。
54 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:34:07.80 ID:peBbtABs
もう少しで山頂、という所で一行は野宿の準備を始めた。
日が落ちきるにはまだ時間があったが、暗くなる前に寝床を確保するのは基本中の基本だ。
「いやー、野宿の準備とかするとさ、やっぱ、ハントマン! って感じがあるよなー」
「安全な場所で寝れるに越したことはないけどね」
「そりゃオレだって寝袋よりはベッドが好きだぞ?でもこう、なんつーか…こう…」
「あはは、いいよいいよ。あんたの言いたいこともなんとなく分かるよ」
「おっ、やっぱりそうか!」
軽口を叩きながら手を動かす。
「…ナムナたちは、なんで、ハントマンになったの…?」
「んー…あたいは、もっと強いヤツと戦いたかったからだね。国も落ち着いたから良い機会だと思ってさ」
「おお、さすが、豪気だな! おまえはどうなんだ?」
「私ですか?…そうですね…自分の持つ知識を、誰かのために使えたらと思ったのもありますが…」
グラストらしい理由だ、と思いながら耳を傾けていると、少し間を置いて恥ずかしげな声が聞こえてきた。
「…色々なものをこの身で体験したい、というのが一番の理由です。あまり胸を張っては言えませんけれど」
「……どうして? すてきなのに」
「はは、ありがとうございます。…あなた方は、どうしてハントマンに?」
グラストの問いに、ヤックとモモメノは楽しそうに顔を見合わせる。本当に仲が良い。
「ありがちなんだけどさ、オレたちは"英雄"に憧れてハントマンになったんだ」
「ああ、なるほど」
「よく分かるよ。あたいも、あの人たちのこと尊敬してる」
「…うん。すごいよね」
ハントマンの間で"英雄"といえば、十年前の竜災害の時に全ての国の先頭に立って戦い、
七の帝竜と真竜を倒してエデンを救ったギルドのことだ。
直接会って話したことは無いが、ハントマンにとって、"英雄王ドリス=アゴート"と彼に導かれた"英雄"たちは、
絶対的な憧れの的であり、同時に、いつか追いつき追い越してやると思う目標でもある。
ヤックたちが彼らに憧れてハントマンになったというのも納得だ。
「実はさ、オレたち、会ったことがあるんだ」
「え?……会ったって、まさか、"英雄"に!?」
思わず大声を出すと、ヤックとモモメノはにこりと笑って頷いた。なんということだ。
「もう何年も前のことなんだけどさ。モモメノのお袋さんの病気を治すために、ゼンダ竹林で採れる特別な薬草が必要だった。
でも、村の人間じゃ、あそこのマモノには敵いっこない。あわや泣き寝入りかって時に現れたのが…」
「…"英雄"だったと?」
未だ驚きを隠せない様子のグラストに、再び二人の動きが同期する。
「つっても、そん時は必死で、どこの誰とか考えてなかったんだけどな。
お袋さんが元気になったあとに教えてもらって、そりゃあたまげたもんだよ」
「へえぇ…!」
「わたし、お礼言えなかったから…いつか会えたら、ちゃんとお礼しようって」
「…なるほど。それで、ハントマンになったんですね」
「そーゆーこと。今はまだ弱いけど、もっともっと強くなって、いつか絶対礼を言うんだ。それが、オレたちの目標!」
「うん…!」
それから、ナムナたち四人は"英雄"話に花を咲かせた。
どんなメンバーだったのか、どのような武器を使っていたのか、メンバーの職業はなんだったのか、など。
ヤックとモモメノの記憶も曖昧ではあったが、グラストとナムナの好奇心を満たし、想像力を働かせるには十分だった。
55 :
なれそめ:2013/09/19(木) 08:34:38.94 ID:peBbtABs
今になって、あの時の自分たちは興奮しすぎていたかもしれない、とナムナは思う。
一応安全な一角を確保したとはいえ、ナムナたちがいたのは街中ではなく、
いつどこから敵が飛び出してくるか分からないフィールドだ。慎重になってなりすぎることはなかったのに。
一言で言うと、不意を打たれたのだ。
日が落ちきる前に食事をしてしまおうと四人が僅かに離れたところを襲われた。
敵の気配を感じて振り返るのと、マッドライオンがナムナを弾き飛ばしたのはほとんど同時だった。
反射的に腕で体を庇ったのと、攻撃に合わせて地面を蹴ったおかげで腕の傷こそ大したことはなかったが、
「っ、ナムナさんっ!」
「うわぁぁぁああああっ!?」
そこまで広くない登山道から、暗い山の中へと転げ落ちる羽目になってしまった。
ここまで!
長い上に見辛くて申し訳ありません。精進します。
何か問題がありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
>>56 期待してる
頑張ってラストまで書いてくれ!
58 :
名無しさん@ピンキー:2013/09/20(金) 11:42:46.86 ID:4TXzPu/D
>>56 続きが気になるー
たまには無印を思い出すのもいいよね
テスト
よしいけた。
46です。反応いただきありがとうございました。
続きができたので投下します。長い…ですが…。
・セブンスドラゴンの世界。10年後設定。
・眼鏡メイジ(グラスト)×ルシェ侍(ナムナ)
・独自設定、ネタバレあり。エロ無し。エロ無し。
・名前だけはちびキャラ準拠。名前"だけ"。
・相変わらず好き勝手やってる。
以上が難しい方は、「続・なれそめ」をNGでお願いします。
61 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:15:59.56 ID:8tSq62uA
グラストは、ナムナが好きであった。正直に言うならば、今すぐにでも求婚したいくらいに好きであった。
それならとっとと落としにかかりなよ、何うだうだと恥ずかしがってナムナを悩ませてるんだよ
バカなのアホなのヘタレなの? というのはケビンの言葉だ。グラスト自身も心底同感である。我ながら情けないにもほどがある。
分かってはいるのだが、情けないとも思っているのだが、言い訳を許してほしい。
普段の姿から誤解されやすいが、グラストは、内向的な性格である。
幼いころから、多くの人に囲まれるよりは一人静かに書物の項をめくっている方が好きであった。
人付き合いそのものが嫌いというわけではない。が、人と関わるとなるとどうも尻込みしてしまって、
ある程度打ち解けた相手でないとひどく緊張してしまうのだ。
敬語を使うのだって、初対面の相手に不快感を与えることがないよう自分なりに工夫した結果だ。
それが習慣として身に付いてしまって、親しい相手にも自然と敬語になってしまうのは予想外の付属結果だったけれども。
それともう一つ。
上記した理由とも関係があるだろうが、グラストは、生まれてこのかた恋愛というものから非常に縁遠かった。
学者である親元に居た時も、もっと勉強したいとプレロマに行った時も、多くの書物や先輩方の話に夢中で、
いわゆる若者らしい、"イロコイザタ"というヤツを体験したことは一切ないのだ。
お前は優秀だけど色気がない、という言葉を貰った回数は、両手両足の指を全部足してもまだ足りない。
初めてナムナに会ったときは、それはもう、驚いた。
こんなに美しい人が存在するのかと、以前アイゼンの書物で読んだ"天女"とはこの人のことを指すのではないかと、本気でそう思った。呼吸すら忘れていた。
凛とした声で自己紹介をされ、快活な笑顔を向けられた時は、もう、なにをどうすればよいのかまったく分からなかった。
それなりに蓄えてきたと自負していたはずの知識など、彼女の微笑み一つにすらなんの対応策も与えてくれなかった。
訳の分からない混乱に呑み込まれたグラストであったが、同時に、ナムナのことをもっと知りたい、とも思った。
こんなに強い興味だの執着だのを一人の人間に対して持ったのは初めてだった。
62 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:17:37.13 ID:8tSq62uA
とはいえ、性格上、自分からナムナに関わることなど不可能だと分かりきっていた。
彼女と一緒にいると原因不明の混乱が襲ってきて、頭の中が真っ白になって、妙なことを口走りそうで恐ろしくもあった。
そこで、とりあえず、他の人と接しているのを観察してみた。
学問の基本は観ることである、というのが恩師の言葉であり、グラスト自身の座右の銘でもあったためだ。
……今考えると、人に対してもそれをするのは、やめた方が良かったような気もするが。
ともかく。一週間ほど観察した結果、ナムナはとても尊敬できる人だということが分かった。
男勝りとかじゃじゃ馬とか。散々なことを言われることが多い彼女は、明るく快活で元気が良いのと同時に、
とても繊細で心の優しい人であった。
同じハントマンの連中と豪快なやり取りをする一方で、困った顔をしている人がいたらすぐに声をかけ、
彼女に出来ることで協力する。
行軍中は、明るい笑顔でメンバーの士気を高める傍ら、密やかに咲いている小さな花に頬を綻ばせる。
どんなに酷い揶揄だろうと笑顔で受け止めて笑い話にしてしまう――きっと、自覚していようが無自覚だろうが
それを分かっているから、皆遠慮なしに関わるのだろう――ほど懐が深いのに、
影では自身の体躯や性格について悩んだり落ち込んだりもしている。
そんな彼女を自然と目で追ってしまうようになるまでにさほど時間はかからず、力になりたいと思うのにさほど時間はかからず、
普通に話せるようになるのは――いったいいつになるだろうか。
長くなってしまったが、つまり、だ。
グラストは、ケビンの言葉を借りるならば
「一目惚れして性格知るにつれてより惹かれちゃって、意識しすぎてまともに目線すら合わせられなくなっちゃったんでしょ?ほんとなんなんだよ君」
という状態にあるのだ。
そんな想い人が、目の前でマッドレオに襲われ、道を踏み外し、夜の闇に覆われていく山の中に落ちていってしまった。
なにもできずつっ立ったままのグラストの目の前で。
どうやら自分は、バカでアホでヘタレな上に、最低最悪なクソ野郎だったらしい。
何で私を襲ってくれなかったマッドレオ。
63 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:18:53.43 ID:8tSq62uA
頭の端の妙に冷静な部分でそんなことを呟きながら呪文を紡ぐ。
右手の中心にマナを凝縮し、炎の塊に変換させていく。炎属性の魔法の基本、フレイムだ。
「ナムナ…ナムナっ…!」
「お、おちつけモモメノ! このままじゃオレたちも…!」
「でもっ、ナムナがっ!」
今にも泣きそうなモモメノと彼女を守ろうとするヤックにマッドレオが目線を向けた。刹那。
「――消えろ」
この時のグラストの姿を、後にヤックとモモメノはこう語る。
「死神の方がまだ可愛げがあると思った」
「…グラストだけは、怒らせたらダメ、だとおもう…」
掌ほどの大きさの火球はマッドレオに触れた途端に爆発し、一瞬で大きな炎のうねりとなって獣の王者を呑み込んだ。
断末魔を上げる時間すら許されず僅かな燃えカスになったそれには頓着せずに、グラストはナムナが滑り落ちた箇所を覗き込む。
深い緑と山肌が見えるばかりで、鮮やかな金色や青色は見つけられなかった。
即座に振りかえり、未だ呆けたままのヤックとモモメノに目を向ける。
「…誠に申し訳ありませんが、今回の依頼、途中放棄という形にしていただけますか」
「へ?……ああ! そりゃもちろんだ! 当たり前だそんなの!」
「グラスト、行こう?」
必死に駆け寄って来る二人に好ましさを感じつつ、今すぐにでも駈け出しそうなところを押し止める。
ついでに、念のためにと持っていたエクスポータを手渡した。
「お二人は、これを使って離脱してください。夜のトドワ山岳はより危険です。日が落ちきる前に、どうか」
「はあっ!? なに言ってんだよグラスト!? じゃあ、ナムナはどうすんだよ!? おまえ一人で助けに行くつもりか!?」
「依頼を受けた者として、依頼主を必要以上の危険に合わせるわけには参りません」
「おまっ…頭いいと思ってたけど訂正する! おまえはバカだ!筋金入りのバカだ!!」
「グラストっ…!」
思いっきり掴みかかってきたヤックを引きはがし、非難の色を滲ますモモメノの瞳を見つめ返す。
64 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:19:49.66 ID:8tSq62uA
「…その上で、あなた方に、お願いがあります。どうか、我々のギルドのメンバーに、この状況のことを伝えていただけないでしょうか?」
「……え?」
「彼女をこのまま放っておくわけにはいきません。が、私と、ここから落ちた彼女の二人だけでは、
自力で脱出することも難しいと思うのです。救助が必要ですが、そのためには、誰かがこの現状を伝えなくてはなりません」
聞きとれる範囲の早口でまくしたてると、二人は同時に目を瞬かせる。こんな時でさえ息ぴったりだ。
「早い話が、あなたたちには救助の人を呼んできてほしいのです。
私が手紙を書きますから、それを"クラフター"の誰かに渡してください」
かなりざっくり説明し、過去最速でペンを走らせた羊皮紙をモモメノの手に握らせると、ようやく二人の表情が輝いた。
自然と緩んだ頬はそのままに、二人の頭を数度撫でる。きっと、彼女であれば、こうするはずだ。
「っ、分かった! すぐに呼んできてやるからな!」
「ぜったい、怪我しないでね…? ナムナも、グラストも、死なないでね…?」
手紙をぎゅうと握りしめたモモメノに微笑んで、ヤックには頷きを返す。
グラストとナムナの荷物を肩にかけ、出力を絞ったフレイムを杖の先に起こせば準備は完了だ。
「…では、そちらはお願いします」
もう一度だけ笑ってみせ、中々に急な斜面へと飛び込んだ。
65 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:20:48.44 ID:8tSq62uA
岩や木の根、時には斜面に生えている木の幹そのものを足場にしながら、出来る限りの速度で斜面を駆け降りる。念のため周囲に視線を走らせながら進んでいるが、見えるのは緑と茶色と灰色だけだ。
グラストが見た時にはもうナムナの姿は見えなかったのだから、おそらく、受け身を使いながらも
一直線に落ちていったのだろう。斜面がなだらかになれば、見つけられるはずだ。
合流して、安全な寝床を確保できさえすれば、なんの問題もない。……もっとも、彼女が生きていればの話だが。
「っ……!」
最悪の可能性が頭をよぎって思わず奥歯を噛みしめた。
今は彼女を見つけるだけを考えろ、と自分に言い聞かせ、足元の岩を蹴って加速する。
体感は数十分、実際は数十秒程度の急斜面下りを終え、ひとまずたどり着いたなだらかな場所で辺りを見回すも、ナムナの姿は見当たらない。
耳を澄ませてみたが、聞こえるのは、グラスト自身の荒い呼吸音と、アナサキやナイトホークの鳴き声、
それから水が流れる音だけだ。近くに川があるのかもしれない。
「っ…ナムナさーん!」
大声で叫んでみても答える声はない。
空を見上げると、木々の隙間から見える夕焼けはいよいよ濃紺に染まってきて、否が応でも焦りが増した。
「ナムナさん、グラストです! 聞こえますか!?」
ひとまず水音のする方向に向かって進みながら、もう一度声を張り上げる。
モンスターの居る場所で大声を上げるなど自殺行為に等しいが、そんなことを気にしている余裕は今のグラストにはない。
「くそっ…ナムナさーん!!」
再三名を呼んでみても、帰って来るのは自然が起こす物音だけだ。
いったいどこにいるのか、生きているのか、無事なのか、怪我をしているのか。
もしかしたら、聞こえていても返事が出来ない状態なのか。
考えれば考えるほどに堪えきれなくなって、地面を蹴って駈け出した。
周りを見回しても、目に入るのは、緑、茶、灰色。鮮やかな金色は、見つけられない。
急に視界が開けて思わずたたらを踏んだ。ゆるやかに流れ行く川が行く手をふさいでいる。
反対側だったのか、もしくはあの場では止まりきれず――
「くそっ!」
即座に踵を返したグラストだったが、
「あれ、グラスト?」
探し求めていた人の声が聞こえて、つんのめりつつも再び振り返る。
彼の目に、片足を川に差し込んだまま、きょとんとしてこちらを見るナムナの姿が飛び込んできた。
66 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:22:17.21 ID:8tSq62uA
「ナムナさんっ!」
「ど、どうしたんだい? そんなに慌てて」
らしくないねぇ、なんてのほほんと笑う彼女に、色々と言いたかったはずのことは全部飛んで行ってしまう。
こんな状況だっていうのに、どうしてここまで呑気というか、おおらかというか、胆が据わっているというか……。
張り詰めていた緊張の糸が優しく解されていって、グラストは知らぬうちに柔らかい苦笑を浮かべていた。
よたよたと彼女の隣に座り込む。
「…なんでもないです。お怪我はありませんか?」
「あー…実は、ちょっと足首ひねっちゃってさ。まぁ、そんなに大したことは…」
「失礼します」
ナムナの"ちょっと"や"大したことない"は信用できない。
言い終える前に水の中に入れられていた足を覗き込む。
右足首は酷く腫れ、青紫どころか黒に近い色に変色していた。これのどこが"ちょっと"なのか小一時間ほど問い詰めたい。
「…とりあえず、食べてください。僅かでしょうが、痛みが引くと思います」
「え? い、いいよそんなの。あたいなら大丈夫さ。怪我にも慣れてるし…」
「お願いですから」
半ば強引にパロの実を口の中に押し込んだ。
もっと良い物を使いたいのだが、主な回復薬はヤックとモモメノの荷物に入れられたままなのだ。
そんなことすらも確認する余裕が無かったあの時の自分に、呆れると同時に最大火力のフレイムをぶつけてやりたくなる。
足首の色は、微妙に青紫に近付いたような気もしなくもないが、それでもまだ酷い傷のままだ。
かといって、今ここで全てのパロの実を消費しては、万が一の時に取り返しのつかないことになるかもしれない。
仕方ないと溜め息をついて、もう一つだけナムナの口に押し込んでから残りを手渡す。
「痛みがひどくなったら食べてください」
「だ、だけどさ…」
「それと、ひとまずの応急処置をしておきたいので少しよろしいですか?」
「……うん」
強引だとは思ったものの、空はもう月と星の時間が始まっている。
とにかく急いで安全に休める場所を探さなければならないのだ。
薬草と太めの枝と臨時の包帯で足首を固定する。
グラストが自身のハンカチを引き裂いた時は物言いたげになったナムナも、痛み故か大人しくしていたためすぐに終えることが出来た。
それから、二つの革袋に水を汲み、やたら遠慮するナムナにマントを着せ半ば強引に背負って歩き回ること数分。
幸いなことに、数人程度ならゆったりと休めそうなほら穴を見つけることが出来た。
マモノの気配もないし、ここなら雨が降っても安心だ。
67 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 19:23:37.19 ID:8tSq62uA
ナムナが休めるスペースを確保してから枝を集めて火を起こし、その上に金網と水を入れた金属鍋を置いてお湯を沸かす。
大分遅くなってしまったけれど、一応は安全な場所で夕食にありつけるのは有り難い。
「ヤックさんとモモメノさんのお二人ですが」
「うんっ!」
一番気にしているであろう二人の名を出すと、予想通り、ぴんと耳を立てて身を乗り出してきた。
「エクスポータを渡して、ギルドに手紙を届けてもらうよう頼みました。
平原の敵程度なら危険はないでしょうから、おそらく、ここよりも安全な場所で休めていると思います」
「…そうかい。…よかった…」
心底安堵した様子のナムナに笑みをこぼしつつ、ラビの燻製肉を一口大の大きさに切り取って鍋の中に入れる。
「手紙には、私たちがいるであろうおおまかな場所も書いておきました。
手紙を受け取り次第こちらへ向かってくれるでしょうし、万が一があったとしても、イグジットを使えば脱出することは出来ます。
もちろん、怪我が良くなったらの話ですが」
「分かった。あたいは大人しく治療に専念するよ」
「お願いします」
ある程度煮立ったところで、穀物を油だの芋だのなんだので固めたものも鍋の中に入れる。
そのまま食べることもできなくはないが、こうしてスープに入れてふやかした方が美味しいのだ。
単品だと、ハルカラ曰く「お肉の味がついてない骨をかじってるみたいな味」がするのである。
香ばしい良い香りが漂って来たところで塩を入れて味を整える。もう少し火を通せば完成、というところで、
「……グラスト、本当にすまない」
不意に、ナムナが頭を下げた。
それはこちらの台詞だ、と言おうとしたグラストだが、顔を上げた彼女の瞳が存外弱々しく揺れていて思わず口を閉じてしまう。
「あたいが油断したばっかりに、仕事も失敗して、あんたまで危険なことに巻き込んでしまった。
おまけに足なんて怪我して…お荷物以外のなんでもないじゃないか。迷惑ばかりかけて……本当に、どうやって詫びればいいか……」
唇を噛んで俯くナムナに、なんと返事をしたものかと眉根を下げてしまう。
迷惑などではないし、そもそも、こんな状況になってしまった責任はグラストにもある。
だが、それを言ったとしても、責任感の強い彼女は自分だけを責めてしまうだろう。そんなことは望んでいない。
どうしたものかとぐるぐる頭を回していると、ふと、中々卑怯な手を思いついた。
一瞬躊躇するが、下手に慰めるよりは幾分かマシだろうと自分を納得させる。
「…実を言うと、私もあなたに謝りたいことがあります」
「……へ?」
そんな返事は予想していなかったのだろう。きょとんと首を傾げるナムナを見つめ返す。
「あなたに、今まで、大変失礼な態度を取ってきてしまいました。本当に申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げるとナムナは目に見えて動揺した。このタイミングでそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
グラストも、こんな、自分が絶対的に優位な状況で言いたくはなかったが。
68 :
続・なれそめ:2013/09/21(土) 20:07:13.20 ID:8tSq62uA
連投規制に引っ掛かってしまいました。申し訳ありません…!
wikiに直接投下してみます。…できるだろうか。
投下完了しました。拙い編集にもほどがありますが…。
注意と本文だけしかできなかったので、詳しい方がおられましたら、
その他諸々の編集方法をお教えいただけるとありがたいです。申し訳ありません。
それと、前回の最後に「マッドライオンがナムナを〜」とありますが、
「マッドレオがナムナを〜」の誤りです。ライオンて何だライオンて。
重ね重ね申し訳ありません。お目汚し失礼いたしました。
乙!
保守代わりに小ネタです。百合要素ありますのでご注意ください
Q.理想のタイプは?
グラストとナムナの場合
「理想のタイプ、ですか。……意思が強くて、私には無いものを沢山持っている方、ですね。
恋愛感情云々も大切だとは思いますが、なにより、人として尊敬できる方が理想です」
「グラストらしいね。あんたの"いい人"もきっとすごい人なんだろうな。
なんたって、あんたに尊敬されなきゃいけないんだからさ」
「…どうでしょう。…では、その、ナムナはどうなんです?」
「そうだねぇ…やっぱ、強いヤツがいいな。あたいと同じかそれ以上くらいの。
あとは…うーん…あまりこだわりはないけど、優しすぎて妙になよっとしてるのとか、
考えてばっかで動かないのとかはあんまり。友人ならともかく、恋人とかじゃあ疲れそうだ」
「……そう、ですね……」
ケイトとケビンの場合
「…ナムナのてんねん! こうかはばつぐんだ!」
「…悪気はないんだろうが、な…」
「まだまだ時間はかかりそうだね。……時にケイト」
「どうした」
「理想のタイプは?」
「特にこだわりは無いよ。そういうお前はどうなんだ」
「ケイト以外の人」
「だろうな」
「…………」
「どうした、怖い顔をして」
「……今夜行くから」
「お前も飽きないなぁ。私みたいなのを相手にしてなにが楽しいんだ」
「うるさい。……今日こそ好きって言わせてやる……!」
「いい加減諦めたらどうだ? お前なら、誰を落とすのも造作もないだろうに」
「うっさい!」
ハルカラとモモメノの場合
「モモメノ、理想のタイプは?」
「…理想のタイプ…? どうしたの…?」
「ギルドハウスでみんなが盛り上がっていたんだ。ね、教えておくれよ。参考にするからさ」
「…明るくて、元気で、やさしいひと…が、いいな」
「そっかー…うん、確かにそういう人はすてきだよね。よし、頑張るよ!」
「……うん。…あの、ハルカラ、は…?」
「ぼく? モモメノがいいな」
「……あの。あの、ね。たぶん、こういうのって、そうじゃないとおもう、んだけど……」
「えー? だって、理想のタイプって、こういう恋人がほしいなーって人のことだろう?」
「た、たぶん…」
「じゃあ間違ってないよ。ぼくの理想のタイプはモモメノさ!」
「…ぅ…あの…えっと…えっと…その…」
「うん?」
「……ありがとう、ございます……」
「へへっ、どういたしまして!」
・ヤックの場合
「…なんでこのギルドってこんなに面倒なヤツが多いんだー…?
つーか、オレのことなんて気にすんなよモモメノ…。ハルカラがああいうヤツだから良かったけど…。
……あーっ! どっかに”いい人”でも落ちてねーかなぁ!」
乙
アオイちゃんとデス子がエロいことするSSと
アオイちゃんとフード男がエロいことするSS
お前らだったらどっちがいいよ
>>72 どちらかを選べと申すか…?!
アオイちゃんとデス子でお願いします
保守
需要どころか人がいるか分からんから聞きたいんだけど、2020・2020‐Uで
・サムライ♂(お調子者)とアイドル♀(生真面目)
・サイキック♂(犬属性)とルシェ♀(冷静)
・デストロ♀(単純バカボクっ娘)とサムライ♀(隠れ乙女)
のどれかで見たいのある? 駄文で良ければ書いてみようかと思うんだが
じゃあサイキルシェみたいです
77 :
名無しさん@ピンキー:2014/02/13(木) 09:17:33.80 ID:BGULytKl
>>76 承知した
時間かかると思うんで気長に待っててくれると助かる
デス子とアオイちゃんがイチャイチャするSSがいつまでたっても来ないので自分で書いた
あんまりエロくないけどよかったら見てくれ
*
――深いところにいる。深いところだ。とても、深いところ。
「……こ……が、今……の実……体か……ら。ず……と、若……みたいだ……れど」
――声が聞こえる。私のずっと上から、響いてくる。細かくは、聞き取れない。
「親………………の代わ……に……なんて、……と……な……ですね」
――聞き取れないのは、遠くにいるせいではない。痛みはないのに、頭を酷く打ち付けたかのようで、思考がすぐ霧散する。
「……ぁ、この…………実験で、…………変……るわ」「…………れば、…………すが」
――視覚が復活した。水の中に浸されていた私は、「一番上」に引き上げられる。
「では、始めましょうか」
朦朧としていた私の意識に、その言葉は烙印のように焼き付いて、そして私は、
最初に、自分の荒い吐息が聞こえてきた。とにかく、冷えた空気を吸い込みたかった。
過剰に供給された酸素が血液に送られる。こめかみの蠢きが皮膚の感覚で分かる。刺すような痛みが脳髄を貫き、私は押し殺したような呻き声を上げた。
細めた目で枕元の時計を見る。午前二時。蛍光色の冷光を放つ短針と長針は、私の意識を少しだけ落ち着かせた。仲間たちの静かな寝息に、甲高い耳鳴りが覆い被さる。
深く息を吸いながら、手探りで枕元を探す。ペットボトルと精神安定剤を手に取り、錠剤を噛み砕いて精製水で飲み下す。
こんなドラッグじみたもの、「正義の味方」の13班には似つかわしくない。でも、これがないと私は、まともに拳を振るえやしない。
「……これで、六回目、か」
小さな声で、呟いた。
ムラクモに所属し、竜と戦うようになってから四ヶ月。月に一、二回の周期で、悪夢に魘されている。
内容は、よく覚えていない。ただ、強烈な印象の悪夢ということだけはわかる。両の掌に、嫌な汗がいつもじっとりと滲んでいる。
最初に医務室を訪れた時は、PTSD――心的外傷後ストレス障害と診断された。戦場に立つ兵士がよくかかると、聞いたことがあった。
今まで数え切れないほど死地に赴き、そしてその倍は殺されかけてきた。無理もないと、自分でも納得していた。
その日から周りの人は心配してくれたし、事実私が実地に赴く頻度は少なくなっていた。規則上三人で一チームを組むため、五人構成の13班は待機するメンバーが二人出る。
しかしそうやって休みを増やしても、未だ症状は収まらない。仲間が負ってくる傷の数は、日に日に増えているように思える。
この病は恐らく、竜との戦いが終わるまで続くだろう。中途半端な療養に意味はない。そしてこれ以上、迷惑をかけることはできない。
次にあの悪夢を見たなら、私は治ったことにするつもりにしている。どうせ心の弱さが生む幻影に過ぎないのだ。今の私は、甘えているだけに過ぎない。そう割り切ったのが、つい昨日。
ただ、一つ――このまま無かったことにするには、引っかかるものがあった。はっきりとは言えないが、一つ。
私が見ているのは、「竜を殺す夢」でも「竜に殺される夢」でもないような気がするのだ。
そう、例えばそれは、もっと無機質でもっと冷酷でもっと凄惨で、しかしどこか既視感のある――ここまで考えて、私は強く歯ぎしりした。
頭痛がまたぶり返してくる。これ以上思い出せない。思い出すことを脳が拒んでいた。これ以上考えても、仕方ない。私はやむなく、もう一度横になった。
「…………うー、ん……」
しかしこのジアゼパムという抗不安薬は、使い始めてすぐ即効性がないことに気付いていた。効果が出るのはおよそ十五分後と説明されていたが、どうも私は薬に強いのかもしれない。
あれだけ凄惨な夢――内容は全く覚えていないが――を見せられれば、すぐに眠れるはずもない。夢を思い出して怖がることはないけど、どうしても聴覚は周囲を探ろうとしてしまう。
戦闘職の人間として、無理もないのかもしれない。けれど埃が降り積もる音すら聞き入れようとする――実際に聞こえそうになる私は、やはり精神疾患なのだろう。
薄手の掛け布団に潜り込んでも、やはり眠れない。三十分は起きていることになりそうだ。明日は四ツ谷で生存者の捜索を行うのに、こんな時間に起きてしまっては仕方ない。
――思い切って、私は布団から出ることにした。なるべく音を立てないようにしてベッドから降りる。しばらくこの階を歩き回って、眠くなったら帰ってこよう。少し体を動かしたほうが、きっとより深い眠りに就けるはずだ。
ドアノブをゆっくりと回し、静かに扉を開いて閉めた。目前の窓ガラス越しに夜景を眺めた。明かり一つ無い世界が広がっている。フロワロの花弁が舞い散っている。竜が生み出した歪な構造物が見える。――遥か向こうに、海が見える。
黒い空に光る星が綺麗だった。静かに凪ぐ海が綺麗だった。皮肉だった。竜が東京に降り立たなければ、こんな夜景を見ることは叶わなかっただろう。
けれど、願わくば。私はこんな景色を、私の病が落ち着いてから、今はまだいないけれども、私の大切な人と眺めたいと、思った。
また、溜息を吐く。薬を飲むようになってから、憂鬱な気分になることが多い。だが、甘えに過ぎないのだ。これも。きっと。
吐いた分だけ空気を吸い込む。前を向くと、フロア中央の廊下を挟んで向こう側にある部屋から、微かに光が漏れ出ていることに気付く。
10班の自室だ。眠れていないのは、私一人ではないようだ。どうせ寝るなら、一人より二人の方がいい。「彼女」もきっと、そうだろう。
私は散策の予定を取りやめ、光が漏れている扉をノックした。
*
中央のテーブルに座っていたのは、一人の女性――というには、少し幼すぎる。優しげな顔立ちの彼女は、どちらかと言えば少女に近い。私たちを先輩と呼んで慕ってくれるのだから、尚更そんな気がする。
雨瀬アオイ。現時点において、ムラクモ10班唯一の班員。体力と瞬発性と射撃の腕、そして根性においてムラクモで右に出るものはいないだろう。彼女に助けられたことも、何度もある。
性格は素直で、それでいて芯が通っていて――恐らく、私の知る限り、ムラクモで唯一総長の頬をはたいた人間。
――私は、彼女と仲がいいとよく言われる。私も彼女をよく知っているつもりだが、彼女は私のことを知っているのだろうか。
「……こんな夜遅くに、ごめん。こんばんは、アオイちゃん」
「いえ、ちょっと私も不安でしたし、嬉しいです。こんばんは、センパイ」
微笑んだ彼女は、テーブルの脇に自らの得物――8インチのマテバ・オートリボルバーと、50AEのデザートイーグルを置いていた。今しがたメンテナンスを終えたところのようだ。
眠れない時に銃を整備するのは、彼女のクセになっているらしい。眠れない時に、私が少し体を動かすのと同じだろう。自らの命を預かるものを、邪険に扱うことは出来ない。
「……急に、起きちゃって。よく分からないけど。参っちゃう」
「私も、ずっと眠れなくて……こういう時、ありますよね」
よく分からない、というのは無論嘘だ。とっくのとうに理由なんて知っている――そして彼女も、知っているはず。
明日に訪れるかもしれない自らの死、あるいは同志の死、友人の死。どんな蛮勇の戦士でも、恐れないわけがなかった。仲間を失いたくないのは、あの総長でも同じはずだ。
部屋を見渡す。がらんとした部屋。今は彼女だけが使っている部屋。ガトウの遺品は、すでに片付けられていた。
「アオイちゃんも、か……みんな、そうなのかな」「そうですよ、きっと」
「……そっか。そう、だよね」
彼女は、また微笑んだ。心からの、屈託のない笑みだった。私は、そんな風に笑えているかどうか、分からない。
私ぐらい、あるいはそれ以上に辛いはずなのに、どうしてここまで気丈に振る舞えるのだろうか。分からない。私には、分からない――けれども。
「そうだ。アオイちゃん、お茶飲む? 丁度、ハーブティーが作れるから」
「ハーブティー、ですか? でも、アレって……」
「大丈夫大丈夫、気にしないで。意外と簡単だよ」
そんな彼女からいつも元気を貰っているのは私だから、こんな時にはお返しがしたい、と思った。
椅子から立ち上がって、備え付けの小さなシンクから二人分のティーカップとヤカンを取り出す。ヤカンの中に、ポケットから出した二つの小瓶をおおよそ三対一で注ぎ入れる。
右手に持っているのは内服型応急薬で、愛称は「メディス」。原料によって回復の度合いが違い、「イチ」とか「ニ」とかいう言い回しで区別する。今持っているのは「イチ」だ。
左手に持っているのは同じく内服型治療薬の「ソルマネル」。こっちは単純な負傷には効果が薄いけれど、火傷や凍傷、軽い鬱状態の回復に使える万能薬。
混ぜると効果が打ち消されてしまうから、戦闘中にこの二つを混ぜても仕方ないけど、単純な嗜好品として味わうならこういう飲み方がいい。おいしくなる。
液体の入ったヤカンを、火の付いたコンロにかけてしばらく待つ。沸騰して三分ほど待つと薬剤特有の苦味が飛んで、原料の味が感じられるようになる。
適当なところで火を止めて、ゆっくりとカップに注ぎ入れる。湯気と一緒に、使われていたハーブの薫りが漂ってくる。
フリーマーケットでは一杯三千円は下らないハーブティーも、こんな簡単な手順で作れてしまうのだった。――ヤカンは一個しかないから、カップが温められないのはご愛嬌だ。
「……はい、どうぞ。お口に合うと、いいんだけれど」
「わ、ありがとうございます……! ……合います合います、すっごく美味しいです! 本当に簡単な手順で、作れるんですね」
「そういうこと。普通にハーブティーを買うよりずっと安上がりだし、アオイちゃんも作ってみるといいよ。チョコバーにも、合うと思うから」
簡単に作ったハーブティーだけれども、彼女はとても感動してくれた。夜中だっていうのに、チョコバーまで食べ始めている。……あまり太られてほしくないけれど、彼女なら大丈夫だろう。
彼女が喜んでくれると、私も嬉しくなる。勿論作ったお弁当が仲間たちに好評でも嬉しくなるけれども、彼女の喜びからは何か別のあたたかいものを感じる。
ゆっくりと自分の椅子を動かして、彼女の隣に座る。きょとん、とした表情で見つめてくる彼女と、手を重ねる。
「……ねぇ、アオイちゃん。
今夜、一緒に寝ても、いいかな」
自分でも思ってもみないことを、私は言った。――無神経すぎるんじゃないかとか、そんなことは思いもしなかった。
なぜそんな気分になったかは、分からない。だけれど、私は唐突にそうしたくなった。理由なんて、それでいいような気がした。
彼女はしばらく呆気にとられていたようだったけれど、すぐに微笑んでこう言った。
「……はい! よろしくお願いしますっ!」
ちょっとズレた返事だった。だけど、私は彼女がそう言ってくれるだけで、不思議で嬉しい気分になる。
そう、例えばそれは、もっと甘酸っぱくてもっと情熱的でもっと繊細で、そして今まで経験したことのない。そんな、不思議な気分なのだった。
深夜のお茶会を開いた私たちは、その後に歯を磨いて、同じベッドに入って寝た。
自分一人で寝るよりも、ずっと早く眠ることができた。今まで背負ってきた心の重荷のようなものを、一旦すべて下ろせたのかもしれない。
本当にものの数分で寝てしまったけど、私より先に眠った彼女は手を繋ぎながら寝てくれた。安らかな寝息と寝顔が私のすぐそばで見えると、また私は不思議な気分になることができた。
数ヶ月後。
彼女は、
こんなところです。駄文すみませんです。あと、
>>79の名前欄、正確には(2/6)です。
一応、続編も書こうかと思っています。こんなので良かったら晒しますので、というより良くなくても晒したいので、よろしくお願いします。
お目汚し失礼しました。
久々に乙
期待
>>84 亀だが全力でGJと言わせてくれ
続きも待ってるよ
保守
保守代わりに小ネタです。いい加減エロを書きたいんですけどエロのえの字もないですすみません
「ふっ…ん…グラストぉ…」
「はい。どうしましたか、ナムナ?」
「うぁっ…さ、さっきから…っ…入口ばっか…ちゃんと、奥もやっておくれよぉ…」
「ええ、分かっています。ですが、できるだけ丁寧にやりたいんです。嫌ですか?」
「…嫌じゃ…ない、けど…このかっこ、恥ずかし…んっ、ふぁぁっ…」
「おっと。…すみません、痛かったですか?」
「だいじょ、ぶ…気持ちいい…んぁ」
「それはよかった。では、これはいかがでしょう」
「くぅっ!? ぁ…や、そこぉ…!」
「ナムナ、動かないでください。貴女を傷つけてしまっては大変です」
「そ…んなこと、いったってぇ…ふゃあっ」
「っと…すみません。少し刺激が強すぎたんですね。…これならどうでしょうか」
「ぁ…にゃ…これ、好きぃ…」
「よかった。奥に進みますから、必要であれば私の服を掴んでいてください」
「ぅ…分かっ、ふわぁっ!? ぐ、グラストっ、ちょっ…いきなりすぎるよぉ!」
「えっ? す、すみません。急ぎすぎましたか?」
「…もう…敏感なんだから、優しくしてって言っただろ」
「も、申し訳ありません。こうしたことには不慣れで…」
「ん…まぁ、初めてにしちゃ、上手だとは思うけどさ」
「そう、でしょうか」
「…あー…ほら、そんなにしょんぼりしない! 痛かったわけじゃないし、大丈夫だって!」
「は、はい…」
「だーかーら、しゅんとしない! 落ち込む暇があるなら、もう一度挑戦した方が早いだろ?」
「…そうですね。では、ナムナ、改めてお願いします」
「よし。 ……優しくしてくれな?」
「はい!」
「…………」
「…………」
「……ねえ、ケイト」
「……なんだ、ケビン」
「あの二人、なにやってんの」
「見れば分かるだろう。耳そうじ兼毛繕いだ」
「ソファで、膝枕で、ねぇ。……なんであれだけイチャついといて告白すらしてないのあの二人」
「…………私にも、分からないものくらいある」