>316
GJでした。
投下します。
桜が咲き乱れる季節。
マキは高校の制服を身に着けていた。
受験戦争を乗り切ったのだ。
第一志望校は十分合格圏内だったため、特別心配することもなかったが…。
「(あとはトシヤが無事にここに受かるかどうか、よね)」
「向田さん」
「あら、紅保君」
紅保ユウイチも同じ高校に受かっていた。
なので、ユリコとの約束通りユウイチの周囲に女の影がないか監視を続けなければならなかった。
トシヤもまた中学三年に進級し、高校の進学問題が見え始めてきていた。
「(姉さんはきっと、寂しいから同じ高校に入ってほしいのだろうけど…)」
「トシヤ君、この後お姉さんの入学祝いを買いに行かない?私も兄さんの―――」
「(果たしてそれは姉さんの為になるのかな…)」
「トシヤ君?」
「あっ、ユリコちゃん。ゴメン聞いてなかった」
「―――お姉さんのこと考えてたんでしょ?」
心を読まれて、トシヤは驚いた。
「わかりやすいね♪」
「………」
「お姉さんもトシヤ君が心配なのよ」
「うーん、僕としては過ぎると思ってるんだよね…」
「なんで?」
「まぁ、色々あって…」
それは元日のことに遡る。
柚谷ミコトの家で寝てしまったトシヤは日が昇ってからようやく帰宅した。
マキは随分心配した様子でトシヤを抱きしめて安堵していた。
そのことをトシヤ自身、姉に迷惑を掛けた申し訳なさと、家族愛を感じて嬉しくなった。
またもう一つ、以前のように自分に情欲を抱いているのだろうかと不安にも思っていた。
しかし、トシヤもまた、マキには柚谷ミコトの事を内緒にしていた。
それはミコトからのお願いでもあったのだが、トシヤ自身も隠れた恋愛に妙な背徳感とスリルを味わってもいた。
「ぎくしゃくしているなら入学祝いでも買ってあげれば落ち着くかもよ」
「…そうだね、うん、それがいい。どこで買おうか?」
入学式を終えたマキは早々に帰宅していた。
最近はトシヤの留守中に部屋に忍び込んでは女の気配を探っていた。
元旦の朝に帰宅したトシヤからは女の臭いがしたのだ、放ってはおけない。
「(トシヤに近づく女…。ユリコもあてにならないわね…)」
ユリコとの話し合いで監視は校内に限定していた。
放課後や休日にしつこくつきまとうのは不自然になるし、逆に監視対象であるマキにとってのユウイチや、ユリコにとってのトシヤに変に意識されても困るからだ。
「(いや、でもユリコにとっても私が監視を止めるのはマイナスなはず。
自分の仕事はしっかりこなすだろう…。ということはやはり、学校の外の人間…)」
やはりここは直接尾行するしかないだろうか…?
そう考え始めてもいた。
「ふう、やっぱり部屋にはなさそうね…。となると怪しいのは携帯…」
どうやって覗き見るか?
―――正直、気は引けた。
愛するトシヤのためとはいえ、携帯を盗み見するなど…。
「これでいいの?」
「うん、マキ姉さんに似合うと思う」
雑貨屋にて、トシヤは小さな装飾が施されたネックレスを選んだ。
面が空洞になった立方体の飾りが鎖に通されているだけのものだ。
「なんか大人っぽいね…」
「高校生になったし、いい感じになりそう」
値段は―――
「どうしよう…」
「少し貸そうか?」
「いや…でもなぁ…うーん―――ゴメン、貸して」
「かならず返してね♪」
「…ありがとう」
支払を済ませ、店から出る二人。
「じゃあ、私も兄さんへのプレゼント(腕時計)買えたし、早速渡したいから帰るわ」
「うん、本当にありがとうね」
「まぁ、少しづつ返してくれればいいから」
「…努力します」
「じゃあね♪」
「うん、さよなら」
それぞれの家路につく二人。
だが―――
「トシヤ君」
「あ!ミコト先輩」
「どう、この制服」
柚谷ミコトと出会ったトシヤ。
彼女もまた高校進学していた。
真新しい制服をトシヤに見せつける。
「凄く似合ってますよ」
「クスっ、ありがとう。トシヤ君も三年生だね」
「そうですね、なんか寂しい気もします」
「卒業式で泣く生徒も多いからね、その一年はあっという間さ」
「ミコト先輩もやっぱり寂しかったですか?」
「いや、私の場合はそんなことはないよ、トシヤ君がいるから…」
「え?!」
「クスっ、驚いた?」
「―――純情な男の心を弄ばないで下さいよ」
「クスクスっ、ゴメンね。所でその袋は?」
ミコトはトシヤが持っていた薄いビニール袋を指した。
「あぁ、これは姉への進学祝いです」
「なるほど…、お姉さんにはあげるのに、私には何も無しか…」
「!!―――いや、そんなつもりじゃ」
「いいんだよ…まだ知り合って日が浅いしね…」
「あ、あの!今度でよければ埋め合わせをさせてほしいんですが…」
「本当かい?―――嬉しいよ、ありがとう。じゃあ、丸一日デートに付き合ってもらおうか」
「え?!」
今までは数時間程度遊んでいただけだった二人。
トシヤは―――
「はい!!是非!!」
二つ返事で答えた。
「クスっ。じゃあまたメールするよ」
トシヤの部屋を散らかしてしまったマキは片付けに追われていた。
「これで、最後…」
積まれていた漫画雑誌を全て元通りの位置に戻す。
ベッド下に隠されていた定番の“モノ”は嫉妬で狂いそうになり、破り捨てようとしたが、
ガサ入れがバレてしまうと嫌われるので泣く泣く見逃した。
ガチャ!!
「ただいまー」
帰ってきた!
直ぐにトシヤの部屋から出て何気なく自分の部屋へ、そして―――
「ただいま、マキ姉さん」
「お帰り、トシヤ」
トシヤはそのままマキの部屋へやってきた。
帰宅すると行われる定番のことだった。
「マキ姉さん、これ入学祝い」
「え?!」
トシヤは先ほど買ったネックレスをマキへ手渡した。
予想していなかったマキは面食らった顔だ。
「これは…」
袋からネックレスを取り出すマキ。
「―――素敵、ありがとう、トシヤ…」
「…いつも世話になってりからね」
「…グス、あ、りがと」
不意に泣き出したマキ。
今度はトシヤが驚いた。
「マキ姉さん?!」
「大事に、するから…」
マキは自分が恥ずかしくなった。
トシヤはこんなにも思ってくれているのに、自分は疑ってばかりだ。
「トシヤ、つけて?」
「え?…うん…」
そう言って後ろを向くマキ。
姉とはいえ、やはり女性。
トシヤはドギマギしていた。
「(ここか…?)」
「うん、ありがとう。わぁ…」
首に飾られたネックレスはマキにとって、もっとも大事な物になった。
そのマキがあまりに魅力的なため、気を紛らわすために部屋を見渡すトシヤ。
「(あの制服…)」
そこにはマキの高校の制服が―――
「(ミコト先輩と同じ高校だ…)」
「トシヤ君、私は悲しいよ、私より姉を優先するなんて…」
柚谷ミコトはリビングにへたり込んでいた。
周囲の品の良かったインテリアはどれもグシャグシャに壊されていた。
テーブルは中央にはめ込まれていたガラスが粉々に、ソファは包丁で切り裂かれて
綿が飛び出ていた。
全てミコトがやったことだった。
「クスっ、クスクスクス…」
その中心で泣きながら笑う彼女はさながら悪鬼羅刹のようであった―――
投下終了です。
乙
ぐっじょぶです!
乙です
過疎り過ぎだろ
もう駄目ねこのスレ
331 :
名無しさん@ピンキー:2014/04/15(火) 20:25:25.94 ID:PDH17gyn
キモ姉党
332 :
名無しさん@ピンキー:2014/04/15(火) 21:27:48.07 ID:+tXvYfoE
過疎ってるなぁ
ってことでage!
はて?
この板の中で流行っているスレってあったかの?
ソレ言うたらアカンて
投下します。
某所の喫茶店。
昼下がりに来店したマキとユリコは、勉強会を開いていた。
中学生のユリコが高校生のマキに教わっているのだ。
―――というのは名目で、実際はお互いの監視対象の報告だった。
テーブルには参考書やノートが広がり、一見そんな話をしているようには見えなかった。
「あなたのお兄さんは問題ないわね。逆に周りの娘達は気になっているみたいだけど、
お兄さんは私のことを含めて眼中にないみたい」
「当然です。色々“努力”してますから」
どんな努力だ…とマキは心中で毒づいた。
実際にユリコの兄、ユウイチは次第にシスコンと化しているようだった。
会話するといつも妹についての自慢が含まれるからだ…。
「それでこちらはトシヤ君なんですが…」
「どうも最近怪しいのよ」
「以前に言っていた女の臭い…ですか」
「本当に学校内で何もないの?」
「はい、何も。恐らく学校の外での事なんでしょう」
“外”のことはお互いに監視しないことになっている。
「勘違い…ではなさそうですね」
「証拠もないけどね、でも―――わかるのよ。トシヤに近づく雌がいる…!」
ユリコはそう呟くマキを見て、微笑ましく思った。
やはり彼女は自分と同じ種類の人間なのだ、と。
「―――お姉さんは、パンドラの箱をご存知ですか?」
「開けてはいけない宝箱、だったかしら?」
「はい、元々は神話からで、神が地上に様々な厄災をもたらすために箱につめて
一人の女に持たせたそうです。ある日、女は好奇心に負けて箱を開けてしまい…」
「へぇ、そうなの。でもその話が一体…」
「私は、来年の自分の誕生日をXデーにしています、その日に行動するつもりです」
「―――お兄さんに思いを伝えるのね」
「兄さんの返答は関係ありません。YESだろうと、NOだろうと、
必ずこの思いを成就させます」
「凄いわね…」
「で、お姉さんのXデーはいつなんですか?」
「っ!」
「思うだけでは、一歩も進みませんよ」
「…」
「―――私達の、この思いもパンドラの箱と同じ…とは思いませんか?」
「そうね…」
「怖がっていたって、結果はわかりません。行動しないよりしたほうがいいです」
「ありがとう、まさかあなたに説教されるとはね」
「それはどういう意味ですか?」
そんな二人の会話に聞き耳をたてる者が一人―――
数日後、世間はGWに入り、快晴もあいまって各地で人が多く出歩いていた。
そしてこの日、トシヤはミコトとのデートだった。
待ち合わせ時間より早めにきていしまい、挙動不審に携帯を弄っている。
「トシヤ君、ゴメン待たせちゃった?」
「あ、いや大丈夫です」
「とりあえず、お昼にしようか」
「は、はい」
二人は街中でのデートを予定していた。
ミコトのおススメのイタ飯屋に赴く。
「雰囲気がいいですね」
「味だって保証するよ」
いわゆるカントリー風の店内であり、陽気な音楽もまた癒しの効果を与えていた。
「さて、どれにする?」
「そうですねぇ…」
メニューを見た直後から、トシヤは混乱していた。
値段が異様に高いのだ。
マキにあげたネックレスでさえ、予算オーバーだった。
その上、この支出は中学生のトシヤには致命的である。
「(そういえばミコト先輩って親が資産家なんだっけ…)」
「トシヤ君?」
「―――は、い…」
「大丈夫かい?」
「値段以外は…」
「…すまない、無理言って付き合わせて。君の懐を考えてなかった」
「はは…いいですよ。僕はお冷だけで、ミコト先輩は遠慮しないで下さい…」
「お詫びとして、ここは私が奢ろう」
「いや!それは!!」
「私としてはデートに付き合ってくれたことだけで満足だ。だから奢らせてくれ」
「…はい」
ミコトの進学祝いとしてのデートなのに、これでは面目が潰れてしまった―――
トシヤはそう考え落ち込んでいた。
そんな彼を見てミコトは微かに笑みを浮かべた。
「さぁ、何でも頼んでくれ。どれも本当に美味しいから」
昼食を終えて街を歩き、服屋、雑貨屋、ゲームセンター、本屋、
カラオケ、と巡り気が付けば西日が色濃くなる時間になっていた。
夕焼けに照らされたビル群が一日の終わりを告げているかのようだ。
「ふう、今日はありがとう、楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ。お昼の代金はいずれ返しますよ」
「クス、そうだね…、じゃあ代わりに今日の晩御飯をご馳走してくれないかな♪」
「はい―――え?」
カチッ!
ボオォォォ…
コンロから火が勢いよく燃え上がり、乗せられたフライパンを温める。
手際よく油を引き、野菜が投入される。
さらに塩コショウも入れ、ヘラで炒められていた。
「ご馳走ってこういうことだったんですね」
調理しているのはトシヤだった。
ミコトのマンションの台所でその腕を奮っていた。
「ええ、トシヤ君の手料理なんてなかなか食べられないだろうからね」
「大げさですよ、僕だってしっかりした料理なんか作れませんよ。せいぜい野菜炒めぐらいとかそんなもんですね…」
マキが引っ越してくる前はトシヤが調理をしており、自分の食う分を自分で
賄っていた。
「はい、どうぞ」
大皿に盛りつけられた野菜炒めがテーブルに置かれた。
他には、炊き立ての御飯、インスタントの味噌汁、箸休めの漬物といった没個性的な
献立である。
「じゃあいただきます」
ミコトはまず御飯から食べ始めた。
湯気だった米が箸に掬われ、そのまま口の中へ…。
次に野菜炒め。
仕上げにソースで味付けられており、御飯と共に口の中で咀嚼される。
味噌汁や漬物も等間隔で食べて―――
「―――美味しいわ、本当に美味しい…」
「そう言ってくれると作った甲斐があります」
ミコトは本当に美味しいと感じていた。
生まれて以来、こういった食事はしたことがなかった…。
外食か、コンビニでの惣菜が主だった。
テーブルを囲んでの食事もほとんど無かった。
両親は多忙で、あまりミコトを気に掛けなかったのだ。
そのうちに彼らはミコトに生活費だけ渡すと、彼女に近寄らなくなった。
二人共、夫婦生活が破たんしており、それぞれに愛人を作っては好き放題やっているのだ。
―――それは現在進行形で続いていた。
「そういえばミコト先輩、部屋を模様替えしたんで?」
「え?!あぁ、そうね。なんか飽きてきていたからね」
実際は先日、嫉妬まかせに部屋の物に八つ当たりしたからだ。
トシヤが来る日までにはすっかり片付けていたが。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした。―――あの、そろそろ時間も遅いようなんで皿洗いしたら
帰らせて…」
「待って、今日は…泊まっていって…」
「いや、でも…」
元旦のマキの様子を思い出し、トシヤは帰宅を決意していた。
これ以上、無用な心配は掛けたくなかった。
だが…
「お願い…、私、トシヤ君のことが好きなのよ」
「?!!」
突然ミコトから告白されたトシヤ。
もしや、という考えはあったが、自惚れだろうとも思っていた。
「あの…姉が心配していると思うんで…」
「―――トシヤ君はお姉さんにいつまで甘えているのかな?」
「えっ?」
「きっと、お姉さんも自立してほしいに決まっているよ。そうしないと
今度はお姉さん自身が人生を謳歌できない」
「!!!」
甘え…?
自分は甘えていたのか?
マキ姉さんは、自分を気に掛けていてくれた…、だがいつまでそうなのか?
普通の姉弟らしく過ごていこうと思っていた。
だが、最近の姉さんを見ていると―――。
もし、自分に恋人が出来たら、姉さんも安心するのだろうか。
姉さんは晴れて高校生になれたんだ、姉さんには姉さんの人生を…。
「じゃあ、メールだけしておきます」
「…うん」
トシヤが背を向けて携帯を取り出しているとき、ミコトは笑いを堪えきれなかった。
彼女はある確信を持っていた。
向田マキと向田トシヤはただならぬ関係にある、と。
そして、姉であるマキが一線を踏み切れないでいることを先日の喫茶店で知った。
トシヤのことは中学入学当初から目を付けていた。
俗にいう一目惚れであった。
そして、トシヤについて調べていく内にその好意が強まっていった。
ミコトはいわゆるストーカーであった。
無味乾燥とした自らの人生が初めて色づいたのだ。
“彼”は渡さない―――
メールを打つトシヤの背中に近づき…
「ふう、終わりました、よ?」
抱きしめた。
「トシヤ君…」
色っぽい声で耳元で囁く。
「―――!」
トシヤも限界だった。
さっきミコトは夕食に媚薬を混ぜたのだ。
それは、自分の分を含めて。
明かりを落とした一室。
マナーモードにしたトシヤの携帯が虚しく光り輝いていた。
着信、メール受信は頻繁に行われていたが、それを取るべき持ち主は
そこにいなかった―――
投下終了です。
完結させられるかわかりませんが、読んでくれる人がいるかぎり
頑張ります。
ぐっじょぶです!
乙
ちょっと前まで賑わってたのになぁ…
確かに全盛期は勢い凄かったんだけどな
各メディア見てもヤンデレキモウト系のブームが去った感じ
346 :
名無しさん@ピンキー:2014/05/23(金) 10:57:09.04 ID:XcCNVzLe
保守
ウィクロスというアニメの姉が良いキモ姉だった
暇な人がいたらぜひ見てほしい
お久しぶりです、皆さん。
大分間が空きましたが、前回の続きを投下します。
>>341 おお、ミコトが行動に出ましたね。
一線を越えたようにも受け取れますが……。
ともあれ、次回を楽しみに待っています。
ある夜のこと、パーティーに参加していた清次は、ふと何の気なしに辺りを見回した。
すると、相客の中には見知った顔があった。
「忠希さんもいらっしゃったんですね」
声をかけると、相手も気づいて言葉を返してきた。
「やあ、清次くん。久しぶりだね」
その男は、年の割に艶やかな黒髪を保っている。
「変わったことはあるかい?」
「ええ、大過ありません」
と、逡巡を秘めつつ答えた。
「そちらこそ、どうなんですか」
と尋ねられ、待ってましたとばかりに話し始める。
「ああ、この間、孫が生まれてなあ」
そう言いながら、胸元から2枚の写真を取り出す。
「ほら、こっちが由貴乃の子で……、この子が和奈くんの……、……」
聞きながら、ふとひとつの考えが清次の中に浮かぶ。
「……な、可愛いだろう」
だから、それをそのままに口にした。
「忠希さん。今、幸せですか?」
言われた彼は、きょとんとした表情を浮かべながらも、ラ・パリスの真理とばかりに、即座に答えた。
「ああ、幸せだよ」
問うた彼もまた解せずに、問いを重ねた。
「どうしてですか?」
「どうしてって、幸せでない道理がないだろう?」
穏やかに返した忠希に、彼はさらに疑問を投げかけようとした。
(いや、やめとこう)
しかし、その考えを口の端に上らせずにおいた。
(今の俺に、それを口にする資格はないからな……)
彼の脳裡には、昔日の自分が浮かび上がってきた……。
* * * * *
とある朝の八雲家の食堂。
雇われている料理人の食事を食べるのが清次だけなのは変わりないが、今日は少し違うことがある。
普段、この食堂では朝酒を許されていない。
「朝から酒臭いのは御免蒙る」という家族の、特に聖理奈や美月の主張によるものだ。
それはごく当たり前の言い分なのだろうが、「朝シャン」の好きな彼にとってはひどく理不尽な仕打ちのように思えたのである。
しかし、今日は違った。
前の晩、メイドが居室に居た彼の元を訪れた。
「清次様、明日は朝に酒類を供しても構わないと、聖理奈様と美月様が仰せです」
知らせを聞いた彼は、どうした風の吹き回しかと思いつつも、朝酒を飲めることを素直に嬉しく感じた。
この僥倖に気を良くして、彼はクリュッグを開栓した。
ソムリエがコルクを抜くと、ポン、という軽妙な音が鳴った。
その様子を機嫌良さそうに見つめる彼を、美月がテーブルの向こうで見ていた。
いつもは、三陽と一緒に食事を取り、終われば直ぐにその場を去る。
それが、今日は何をするでもなく、一人で座っているのである。
不審に思っていてもおかしくないところだが、今日の彼は一切のことを気にしなかった。
それほど、この酒に心を奪われていた。
琥珀の液体が注がれ、炭酸の弾けるのが聞こえた。
(この音……! 心が洗われるようだよ)
実際に彼の心が少しでも浄化されたことがあるかは疑問だが。
ともあれ、それに合わせて、トリュフ入りスクランブルエッグを出させた。
自ら指定したそのシャンパンを口にし、スクランブルエッグを一匙掬う。
使われている卵は、フランスから輸入してきた「クレヴクール」という品種のもの。
英語だと「broken heart」、日本語だと「耐え難い悲しみ」とか「断腸の思い」とかいうような意味の名前だが、フランスはノルマンディにある小さな町の名前から取られたものである。
その味を、匙は口の中へと運んだ。
(やはりこのマリアージュは文化的に黄金の組み合わせだな)
教科書通りの食べ合わせを好む彼にとって、食べる時も「文化」というものは常に頭の片隅に存在するものだった。
だからこそのシャンパンとスクランブルエッグなのである。
グラスを乾した彼が、二杯目を注ぐよう下知すると、そのソムリエはクーペグラスに注ごうとした。
慌ててそれを止めようとする。
「おい、クーペは使うな。気が抜けやすいんだから」
それに対して、ごく冷静にその理由の説明がなされた。
「もうすぐ、もう一人のお方がお着きになります。その方のご指図です」
「もう一人?」
向かいに座っていた美月がそれに口を差し挟んできた。
「今日、来客がお見えになるの。
朝食に間に合うそうだから、もうお越しになるんじゃないかしら」
エクスペリアが鳴り出し、彼女は自分のそれを取り出す。
「私よ、……ええ、ええ、……そう、もう来たのね……」
手短に会話を済ませ、通話を切る。
「門番から連絡が入ったわ。すでに門を入ったそうよ。
もう間もなくこちらに着くって」
「間もなくって、どのくらいだ」
その時、部屋の外から使用人が彼らに報告してきた。
「お客様がお見えです」
「ほら、噂をすれば影でしょう?」
軽い美月の声と逆に、清次はやや威圧的にも聞こえる調子でその使用人に下知した。
「お入りいただけ」
その彼の声色のごとく厳めしい扉がゆっくりと開く。
そこには、酔いが醒めるほどに、美しい造形を持ち合わせている女がいた。
「この方は?」
純粋な怪訝から、清次は美月に訊ねた。
「晩餐の際に紹介するわ」
「今はまだ、ということか」
「お楽しみに」
そういうと、彼女はフィンガースナップで音を鳴らし、清次の隣に椅子を用意させた。
「俺の隣か」
さらに胡乱気な目で傍らを見る。
「ご迷惑でしたか」
そこに座りつつ、彼女は淑やかに声を掛けた。
「いや、まあ、構いませんがね」
そう言っている間にソムリエは二客のグラスにクリュッグを注ぎ終えていた。
「クーペグラスはシャンパンタワーを作るときには役に立つんですがねえ」
「あら、もう一つ有用な場面がありますわ」
そう言って面前にグラスを差し出す。
彼女に合わせて、彼もまた差し出した。
「ほう、それは何ですか」
そう聞かれて、グラス同士を触れ合わせ、軽く音を立てる。
「君の瞳に乾杯」
一拍置いて、素の声に戻る。
「ハンフリー・ボガートになれること、です」
さすがに、清次もそれには失笑した。
「男女逆でしょう、あなた」
「それでは、あなたが仰ってくださるのですか」
「いえいえあなたはイングリッド・バーグマンのように美しいかもしれませんが、私はそうはいきませんよ」
「そんなことありませんわ、とってもダンディなお方です」
「そうだとしても、リックとイルザほどに近しい間柄でもない」
全く彼の食指が動かなかったことを認め、彼女は目配せをする。
上手くかわしたと安堵した彼は、そんなことよりも、と話を転換した。
「あなたもいかがですか」
と、スクランブルエッグの皿を彼女に出させる。
「ありがとうございます」
「シャンパンもそうですが、この卵もフランスから取り寄せて、届いたばかりのものなんですよ」
「まあ、私もフランスからの便で帰ってきたばかりなんです」
「ほう、向こうに住んでいらっしゃったんですか?」
「いえ、スイスです。
ジュネーブには成田への直行便がありませんので、トランジットでシャルル・ド・ゴール空港に寄ったんです」
「ああ、そういうことでしたか」
それを聞きつつ、
(この鶏卵と一緒に空輸されてきたわけか)
とやや不躾なことを頭に浮かべながらも、朝食は滞りなく終わった。
食事が終わると、彼は自室に戻った。
今朝方届いたばかりの書類に目を通し、決済を施していく。
1時間半か2時間がたった頃、ある程度を片付けた彼は一旦部屋から外へ出た。
蛇のように口の中で舌を打ち鳴らし、執事を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「今日はハルだ」
これだけで、意図することは完全に伝わった。
「畏まりました、連れて参ります」
頭を下げ、主の前から引き下がる。
程なく現れたのは、まだ若いメイドであった。
「ただいま参りました、清次様」
彼女に対し、言葉を交わす前に抱きついて、接吻を仕掛ける。
キスを交わしながら、服をはだけさせ、もどかしげにブラジャーを下ろし、それを放り投げ、露わになった乳房を弄ぶ。
一通り上半身を愛撫すると、今度は下半身に取り掛かり始めた。
穿いていた、フリルで縁取られ、繻子で出来ている、上と揃いの薄いピンク色のショーツを引き裂く。
彼女も慣れたもので、黙ってこれを受け入れている。
隠すものがなくなった陰部を弄って、自分を受け入れるための用意をさせる。
壁に手をつかせ、背後から挿入する。
後ろ櫓である。
「ふん……、ふん……、ふん……」
「あぁ……、あぁ……、あぁっ……」
言葉をほとんど交わさず、二人の抑えがちな喘ぎ声だけが室内に聞こえている。
そうしていると、彼のブラックベリーが鳴り出した。
「エマニエル夫人」、会社からである。
「ちょっとこのまま出るぞ」
「はい、あ、あっ、どう、ぞ……」
繋がったまま、彼は電話に出た。
「清次だ」
『酉田です』
「どうした」
『2、3のご報告があります。
まずはTS細胞の臨床について』
「おお、それよそれよ」
と、待っていたかのように相槌を打つ。
「林口はどうなってる」
『何とか独法に潜り込ませて捨て扶持をあてがうことができました』
「そうか、食い詰めてあることないこと喋られたら困った事態になってただろうが、大丈夫そうか?」
『ええ、上手く落ち着いています』
「そういや一時はKBS(関東放送)の『サタデーヤーパン』のレギュラーになるとか言う話があったが、どうしてそんな馬鹿な話が浮上したんだ?」
『D(ディレクター)やP(プロデューサー)が馬鹿だからでしょう。言うまでもないことですよ』
「馬鹿でもチョンでも、な」
『辛辣ですね』
電話越しの苦笑にすげなく返す。
「事実だからな。
たく、一度伊藤(KBS会長)をとっちめてやる」
『林口はマスコミのいいオモチャになっちゃいましたからねえ』
「幹細胞の研究では何であんな変な奴が出てくるんだ? 韓国の白教授といい」
『カネになるからですよ』
「それはわかってるが」
『あと、競争の著しい分野ですからね。功を焦ったのもあるでしょう』
「そんなとこか」
『それはそうと』
と、声のトーンが変わる。
『自研(じけん)の阿左美博士が発表した論文が報道されてますが』
自然科学研究所(自研)の阿左美春歌博士が再生誘発性実効的多能(TROP)細胞を発見した、というニュースが、このところ世間を賑わわせていた。
「ああ、凄いニュースだよな」
『実はあれも捏造です』
「はー、春歌(しゅんか)ちゃんは女林口だったか」
阿左美という巷間持て囃されている女科学者をあまり気に入っていなかった清次は、蔑称含みで「はるか」という彼女の名前を「しゅんか」と読んでいた(「春歌」(しゅんか)とは卑猥な歌のことである)。
『もっと悪質ですよ。国から研究費をガメたんですから』
「そりゃジケンに行き着くな」
事件(じけん)と自研(じけん)を引っ掛けた冗句を発する。
「それで? 林口の時みたいに薬の有効性の論文を書いてるとか?」
『いえ、今回は八雲製薬は本当にノータッチです』
「欺き博士が吐いてる嘘はその細胞の件だけか」
博士の苗字の「阿左美」(アザミ)という苗字を「欺き」(アザムキ)と捩る。
『今のところ、そのようですね』
「じゃあ、どこが?」
『ZS細胞(接合子性幹細胞)の絡みでイギリスが糸を引いてるようです』
「受精卵を破壊するのか、とか散々批判されてたからな。
英国系のメーカーは相当ZSにぶっこんでたみたいだし、何とかして川中教授のTS細胞を潰したいわけだ」
『TROP細胞ならぬトラップ細胞だったというわけです』
「だが、その鉄砲玉にメンヘラ女を使うとは、ブリ公どもも相当焼きが回ってるみたいだな」
『そんなにおかしいんですか、彼女は?』
「ったりめーだ、自分の作った新型細胞にSW細胞なんて命名しようとするんだぞ」
『SW?』
意味を解しかねている。
「スノーホワイトの略、だそうだ」
『ふっ、ふふ』
その意味を教えられ、失笑が聞こえてきた。
「白雪姫に見立てているのは細胞のことか、それとも自分自身のことか……。
まあ何にせよ病気だよ」
『そうですか』
酉田は、安堵を声色に出す。
『ですが、ご安心ください。
私の知る限り彼女が吊るし上げられてもウチには飛び火しません』
「私の知る限り?」
引っ掛かった部分の言葉をリピートする。
それに対して返ってきた答えは、予想外の角度からのもの――だが、普段の彼の行いを考えればそれが想起されるのは至当かもしれない――だった。
『清次様の褥のことまでは私も完全には把握しかねますので』
その答えに、清次は笑い出してしまった。
「リケジョだか歴女だか知らんが、あんな勘違い女に手を出さなきゃいけないほど不自由してないぞ」
『またそういう発言を』
呆れているようでもあり、軽くからかっているような口調でもある。
「これでもポリティカリー・コレクトなんだぞ。
盲(メクラ)は目の不自由な人、聾(ツンボ)は耳の不自由な人と言い換えるだろ。
なら、もてない男は女に不自由な人、だ」
『とうとう障害扱いですか』
「理系の男は女に耐性がなかったりするから、竹井(自研での阿左美の上司)みたくミソつける。
それは立派な障害さ」
『美食家でも時にはジャンクフードを食べたくなるでしょう』
「俺にイカモノ食いの趣味なんかあるか?」
『並木メイともヤってたじゃないですか』
名前を出され、ベッドを共にした参院議員の面(ツラ)を思い出し、彼は苦笑した。
「メイちゃんは学生時代はミス京大になったぐらいの美人だったんだぞ、一緒にしてやるなよ。
まあ、過去形になってしまうのが悲しいところだが」
『それに、言動もネトウヨ的になってきて、ちょっとおかしくなってますし』
「ああ、そりゃ支持母体の関係よ」
『支持母体? あの女は(元)大蔵官僚でしょう。酒・塩・煙草・金融……、そのあたりが集票マシンじゃないんですか』
「それだけじゃない。
……三寶祈誓会って知ってるか?」
『知りませんね。何なんです、それ?』
「日蓮宗の信徒団体で、靖国参拝なんかにも肯定的な宗教右派だ。
信徒数は200万てとこだったかな?」
『本当ですか? 随分盛ってる気がしますが……』
「新興宗教なんてみんなそんなもんだ」
と一笑し、言葉を継いだ。
「それでもそいつらのお陰で当選してるのは間違いない。
資金も潤沢だし、信者かき集めて選挙ボランティアなんかも出してくれるし」
『はぁ〜。古女房みたいに甲斐甲斐しいんですねえ』
「言い得て妙だな」
と僅かに笑う。
「あそこは70年代から全国区の選挙ん時はずっと大蔵官僚を抱え込んでたからな」
『支持者向けのリップサービスってとこですか』
「その通り。議員稼業ってのも中々辛いもんだぜ、俺も今下準備に勤しんでるがよ」
『アメリカだけじゃなく、日本のことも忘れないでくださいよ』
「わかってるって、日本の政治家にもちゃんと献金を出す」
『いつも通りですか』
「額面は、とりあえず表も裏も変更なし」
『では、後で表の方に使う小切手を受け取りに参ります』
電話越しでは話している相手には見えないのだが、意を得たとばかりに清次は頷く。
「おう、それまでに書いておく。
それと、当面の間は裏で撒く金は法務じゃなくてMRから抜け」
『イケッタの訴訟が長引いたのは想定していませんでしたか』
「ああ、法務で金を作るのがキツくなってきた」
『そうですか。それでは失礼します』
「また後でな」
電話を切り、傍らにあったモンブランと社用の小切手帳を手にする。
そして、事も無げに交合している使用人に告げた。
「背中借りるぞ」
「え、あ、はいっ」
彼女の背中を台代わりにして、サラサラと小切手に金額を書き込んでゆく。
書きづらそうだが、構う様子はない。
その小切手が、政治家たちへとわたるのである。
ほどなくして書き終えた彼は、万年筆と小切手の束を置いて、彼女の腰、正確には脇腹の肉の部分、俗に言うラブハンドルを両手で掴んだ。
腰を打ちつけ、改めて抽送する体勢が整ったということである。
力を込めて腰をぶつけ合う。
「あ、あ、あ、あ、あっ、」
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
喘ぎもいつしか荒々しく獣じみたものになってきている。
そして、その時が来た。
「うっ!」
「あああっ!」
小便をするかのように身体を震わせ、精液を彼女の中に吐き出す。
そうなると、一気に身体から力が抜けた。
普段そうしているように、その日も、煙草を手繰り寄せる。
ゴロワーズ・カポラルだ。
その中の1本を取り出し、それに火をつけ、一吹かしする。
「ご苦労様。仕事に戻っていいぞ」
蘞辛い味わいが口腔に広がる。牧草地のような匂いが部屋中に立ち込める。
葉巻とは違った意味で強烈なその紫煙は、彼女に退出を促しているかのようである。
とはいえ、そのままの姿では戻れないから、ハルも一応の身繕いをした。
「失礼しました」
そういうと彼女はその場を後にした。
「さて、と……」
デスクに目をやると、彼が決裁した書類が載っていた。
戻ってチェアに座ると、机上のそれをトントンと整え、再確認を始めていた。
投下終了は宣言してくれ
乙
>357
GJでした。
風刺も効いててニヤニヤしながら読んでましたw
投下します。
―――午前6時。
5月の朝はまだ冷たさを残していた。
トシヤはこの時間になり、ようやく帰宅した。
朝帰りするのは2度目だ。
ただ今回は…。
「ただいま…」
家の中は静まりかえっていた。
トシヤはマキを探した。
「(マキ姉さんに言わなければ―――)」
彼女はすぐに見つかった。
リビングで膝を抱えてうずくまっていた。
風呂にも入っていないのだろうか、着の身着のままである。
傍には携帯が放り出されていた。
さっき確認したから分かる。
おびただしい数の着信があった。勿論マキから…。
「姉さん…」
何と声を掛ければいいか…。
その雰囲気だけでマキが異常な状態だとトシヤは感じた。
そして、もう一つの思い当たりも…。
彼女は、マキは、自分を諦めていなかったのだ。
トシヤはそれを悲しく思った。
同時に、心のどこかで嬉しさも感じていた。
嬉しさ?
バカな考えだ、トシヤは頭から追いやるようにした。
「ただいま、マキ姉さん」
「―――」
「メールでまた帰りが遅くなるって送信したよね」
「―――」
「実は…彼女が出来たんだ」
ビクッ!
かすかにマキは身体をふるわせた。
「その人の家に泊まってきたんだ」
「…」
「あの日に、普通の姉弟になるって約束してくれたけど、今のままじゃ無理みたいだね」
「…」
「僕には恋人が出来た。だからマキ姉さんも誰か恋人を作るべきだよ。
そうして年月が経てば、お互い間違っていたって気付くときも来るだろうからさ」
「…」
「まずはその一歩を始めたいんだ。マキ姉さんも同じ風にしてくれると嬉しい…」
「…」
「…また話し合おう」
そう言って、トシヤは自身の部屋に戻っていった。
マキは…。
昼頃になり、トシヤの携帯に着信があった。
ミコトからだ。
「もしもし、トシヤ君?」
「はい、ミコト先輩」
「先輩っていうのは、よして…」
「えと、ミコトさん…」
「うん」
「…用件はなんですか?」
「昼食でもどうかと思って」
「わかりました。すぐに行きます」
正直、ありがたかった。
マキと同じ屋根の下にいるのが、気まずかったからだ。
原因は自分なのだが、マキも問題がなかったとはいえないだろう。
そうトシヤは自己を正当化する言い訳をたてた。
ミコトのマンションに来るのも何だか慣れてきてしまった。
そう思いながらトシヤは入り口に向かった。
オートロックになっているため、インターホンからミコトを呼び出す。
「こんにちは、ミコトさん」
「ようこそ、トシヤ君。どうぞ」
程なくして、入り口が開いた。
デリバリーピザで腹を満たした後、今後についてミコトが提案してきた。
「お姉さんの自立を促すためにも、トシヤ君は家から離れるべきだよ」
「はぁ…でも一人暮らしするお金なんてありませんが…」
「何を言っているんだい?ここに住めばいいじゃないか」
「え?!」
「私一人で持て余していたことだし、お金だって心配はいらないよ」
「いや、流石にそれは…」
「遠慮することはないよ。ちょっと早いけどお互いのための同棲と思えばいい」
「?!!」
「これからは私も自炊の仕方を勉強しなければいけないな、ああ、生活用品も買ってこなければ…。ベッドは―――思い切ってダブルを―――」
彼女が、目の前の女が、何を言っているのかトシヤには分からなかった。
「ちょっと待って下さい!僕らはまだ付き合いたてじゃないですか!」
「だからこれから愛を深めていこうじゃないか」
「考えが飛躍していますよ、それに姉さんともちゃんと話し合っておきたいですし」
「以前、君たちを見かけたが…お姉さんの君を見る目は異常だったよ」
「え?」
「まるで、夫婦とでもいわんばかりに…ね。話し合いが出来る相手ではないよ」
「でも…それでも僕の姉なんです。とりあえず今日は失礼します。ご馳走様でした」
そう言って玄関に歩を進めたが…。
「?!」
トシヤは急に視界がグラついた。
「トシヤ君?疲れたのかい?」
「―――」
「しばらくここで休んでいくといいよ」
トシヤは恐怖を感じた。
心配する口調のミコトが―――笑っていたから―――
そして、そのまま意識を手放した。
遡ること、1時間前。
ミコトのマンションの入り口にユリコが立っていた。
トシヤを偶然見かけたので、後を尾行してきたのだ。
そのまま、マンションに入っていくトシヤを見ていた。
「―――もしかして、ここに?」
今回は少し短いですが投下終了です。
乙です
1レス短編投下します。
梅雨の時期になると多くの人がうんざりするけど…、私は違った。
だって―――
「ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん」
いつもお兄ちゃんは汗だくになりながら帰ってくる。
仕事がとても忙しいのだ。
「すごい湿気だな、窓開けるぞ」
「いつもごめんね…」
「ん、気にするな」
普通の人はエアコンを使い快適な室温、湿気にするのだろうけど、
私はエアコンが苦手で体調を崩してしまう…
「季節の変わり目は大変だからな」
「…うん」
というのは嘘だ。
エアコンなんてものを使ってこの空気を―――
私とお兄ちゃんの入り混じった空気を乱されるのは不快だった。
湿気の高いこの時期は特に私とお兄ちゃんが一つになっている感覚に浸れる…。
私はそれだけでオーガズムに達するのだ。
お兄ちゃんが帰宅してから、すでに5回はイッてる…。
涎が口元から垂れてないか心配だった…。
「あ、そうだ。今度彼女を招待することになったからさ。
お前にも紹介しておきたくてね」
そっちもゴメンね、お兄ちゃん。彼女さんはもうイナイノ。
でも私がずっといるから、―――イイヨネ?
投下終了です。
皆さん、熱中症にご注意を。
乙